ダイヤ「狐の嫁入り」 (294)



サァァァァァァァァァ…


ーー狐の嫁入り
夏も盛りのこの季節、雲が無いにもかかわらず滝の如く降り注ぎ洗濯物の乾燥を躊躇わせる傍迷惑な天気雨のことを言いますの。

僭越ながら言わせてもらいますわ狐さん方。 全く、どうしてあなたたちの気紛れな婚儀に私達人間がとばっちりを受けなければいけませんの?

恵みの雨だなんて有り難がるのは農業を営まれる方々だけで、今こうして学校へと歩みを進めるこの伝統と格式ある名家の長女、黒澤ダイヤにもたらせる恩恵は一つもありませんわ。

…大体、如何なる理由があって大切な挙式にて雨を降らせるといった愚行に走るのでしょう?「本日はお足元の悪い中…」といった決まり文句の省略に繋がるというのに…


ふふっ…冗談に決まっているでしょう?


天気雨の原理は実に単純…雨粒が地に到達し人々が雨を認識する前に雲が消え去るか、遥か遠くに浮遊するあのドス黒い積乱雲から飛来しているか…

よもやこの私が狐のまやかしなど本当に信じているとでも?馬鹿馬鹿しい。

…と、理屈をこねても雨は雨。
早く傘を差さないと…



グググッ…ボキッ!



ダイヤ「なっ…!?」



ザァァァァァァァァァァァァァァァァ



ダイヤ「全くこんな時に何故ですの!きっと善子さんの不運でも移ったんですわ!!」バチャバチャバチャ

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ザァァァァァァァァァァ


善子「へぇぇっくしょん!!」ブルブル


梨子「きゃっ!ちょっと善子ちゃんこっち向かないでよ!」


千歌「大丈夫善子ちゃん?」


善子「…フフン。どこの誰だか知らないけど、この堕天使ヨハネの非監視下にて間接的な攻撃を試みる悪しき者の存在を察知したわ。我が管轄外に住を成す全てのリトルデーモンよ。今すぐその不届き者を見つけ出し裁きの鉄槌を…」ブツブツ


果南「…まあ仕方ないかもね。ここ最近天気が安定しないし…さっきも突然の雨に逃げ遅れたの善子だけだったからね」


梨子「そうよ。ずっと自分の決めポーズに酔いしれて雨に打たれてるの気付かないんだもの…」フキフキ


花丸「でも善子ちゃんはいつも病気みたいなものだし風邪の一つで慌てる程でもないずら」


善子「ちょっとズラ丸!それどういう意味よ!?」


曜「まあまあ!それより、このまま雨が続くと来週の"歩楽祭"ちょっとマズいんじゃない?」


花丸「ふがくさい?」


善子「今更?浦の星女学院の文化祭のことよ」


花丸「成る程!マル、ずっと"とらくさい"だと思ってたずら」


善子「聞くは一時の恥云々ね」



曜「えっと…今日が8月3日だから歩楽祭は6日後の9日から10.11日の計3日間。私たちのステージも3日間あって、最終日には新曲も披露するよ。それまでにトレーニングと既存の曲のおさらいに加え新曲の練習をやらなきゃいけないからかなりハードだね」パラパラ


千歌「困ったなぁ…新曲も衣装も作って、あとは精一杯踊るだけなのに…せっかくの文化祭なんだからしっかりしたパフォーマンスを見てもらいたいよ!」


善子「はぁ…天の哀哭は当分終わりそうにないわね」


花丸「善子ちゃんは先に補修を終わらせないとね」


善子「ぎくぅっ!(何故それを!?)」


果南「まあ今日はただの天気雨だし、もうちょいで止むと思うよ?それまでは我慢我慢!」


千歌「ぶー。果南ちゃんは雨嫌いじゃないの?」


果南「うーん、確かに練習ができないのは辛いけど雨は嫌いじゃないかな。落ち着くし」


千歌「あー!蛙の面にしょんべんってやつか!」


果南「えっ」



千歌「普段海でビッショビッショに濡れてくる果南ちゃんは雨粒程度へっちゃら!ってことだよね!?」


果南「いやいや、それはダイビングスーツ着てるからだし…私だって制服着て雨の中突っ込むのは流石に嫌だよ」


千歌「えー!だって果南ちゃんはびしょ濡れの専売特許みたいなとこあるじゃん?今外に飛び出したらこう…ゲコゲコ!って!!」


果南「鳴かないよ!何専売特許って…ていうかカエルから離れてよ!なんかしょんべんかけられても喜びそうなニュアンスじゃん!」


千歌「それは違うよ!蛙は水に強いからしょんべんかけられたくらいじゃ動じないって意味なのに…果南ちゃんやっぱり!」


果南「千歌!!」クワッ


ワーワー
ギャーギャー


梨子「はぁ…また始まったよ暑苦しい…」


曜「まあまあ、千歌ちゃんは果南ちゃんいじりの専売特許みたいなものだし…」


花丸「練習までの暇つぶしにはもってこいずら」


ルビィ「……」


花丸「ルビィちゃん、さっきから元気無いけど大丈夫?」


ルビィ「う、うん…」



ダイヤ「さっきからスクールアイドルらしからぬ下劣な会話が聞こえてくるのですが!?」ガラガラガラ



ルビィ「!!」


果南「げっ!?ダイヤだ!」


ダイヤ「うぅ…」ビチャビチャ


千歌「うぇ!?なんでそんなにびしょ濡れなの?まさかダイヤさんもしょんべーー」


千歌「むぐぅっ!?」ジタバタ


梨子「千歌ちゃんこれ以上はダメ///」


鞠莉「ふふっダイヤったらお間抜けさんで壊れた傘持ってきちゃったみたいなの♪」スッ


ダイヤ「鞠莉さん。あなた傘を持って昇降口
に立っていたにもかかわらず何故助けに来てくれなかったのです?」ワナワナ


鞠莉「だって~あんなに凄い剣幕で一生懸命走ってるダイヤ見たことなかったからそりゃもうゴーゴーダイヤ!って応援したくなっちゃうじゃない♪」


ダイヤ「…」ブチッ


曜(あ、これはマズい)



ダイヤ「全くあなたという人h……


曜「ヨーソロー!!ほ、ほら見て!雨が弱くなってきてるよ!!」


ポツポツポツポツポツ…


ダイヤ「なっ…!?どうして私が着いた途端に…」ガクッ


鞠莉「アンラッキーね!かわいそうなダイヤ」ヨシヨシ


善子「じゃあ9人揃ったし練習を…」


ダイヤ「…」ギロッ


善子「ひっ(何よ私何かした!?)」


千歌「」チーン


梨子「と、とにかく屋上に行きましょう?」



キーンコーンカーンコーン

17:30分になりました。
まだ校舎に残っている生徒は
速やかに下校してください。


曜「よし、今日はここまで!」パンッ


善子「ふあぁ…終わったぁ」ヘナヘナヘナ


花丸「もうダメずらぁ…」ドサッ


梨子「はぁ…でもなんだかんだ言って段々良くなってきてるよね」ドサッ


千歌「うん!1週間もあれば最っ高に輝けるステージになりそうだよ!!」


ダイヤ「千歌さん。やる気があるのは構いませんが少しテンポが早めになっています。もっと周りに合わせるよう意識してください」


千歌「は、はい。すみません…」ドサッ


ダイヤ「それから…」


鞠莉「アディオスみんな!!マリーちょっと立て込んでるからもう帰るわね!」タッタッタッタッ


果南「あ、私も帰らないとだった!じゃあねまた明日!!」タッタッタッタッ


ダイヤ「あ…ちょっと鞠莉さん果南さん」


ダイヤ「はぁ全く、まだミーティングが残って…」


千歌「いっけない!!美渡ねえに呼ばれてたの忘れてた!!!」


ダイヤ「なっ…」



梨子「私もお母さんの手伝いしないと!」


曜「今日は久々にお父さんが帰ってくるんだった!」


善子「我が教徒達に堕天の言霊を与える刻が迫る…」


花丸「まーた生配信とやらをするの?」チラッ


善子「ギクッ!?」


花丸「じゃあマルも帰るずら。ルビィちゃん行こ?」


ルビィ「う、うん…」


ダイヤ「あなたたち…」ゴゴゴゴゴゴゴ


善子「ひっ」


千歌「うわ!ダイヤさんが怒った!!逃げろー!!」ドタバタ


花丸「ずらー!!」ドタバタ


曜「ヨーソロー!!」ドタバタ


梨子「ご、ごめんなさいダイヤさん!!」ドタバタ


善子「ちょっと待ちなさいよ!!」ドタバタ



シーン……


ダイヤ「全く!どいつもこいつも!!」プンスカ


ダイヤ「ふん!いいですわ。私もさっさと校舎の戸締りをして帰ーー」



ルビィ「お姉ちゃん!!」


ダイヤ「!!」


ダイヤ「ル…ルビィ!まだ残っていたんですの?」


ダイヤ「早く帰らないと花丸さん達に置いていかれーー」


ルビィ「あの!!!!」


ダイヤ「!?」


ルビィ「……」


ダイヤ「ルビィ?」



ヒュォォォォォ……


黄昏迫る 港町♪
津々浦々を 紅く染めん♪
眠りにつかん 風と波♪
静か穏やかの 安らぎ破り♪
顔を覗かせよ 妖百鬼♪
吹き荒れる 風と波 静寂よ沈め♪
ああ我ら強くあらん 全てに抗い♪
ああ我ら浦の星 ここに在り♪



ーーコホン。
【夕凪の梢(ゆうなぎのこずえ)】

我が浦の星女学院の校歌ですの。
一般的には【○○高校校歌】が主流ですが、
如何なる理由で聴く前から趣溢れるような曲
名を充てたのか首をかしげるところですわ。
こうして富士に体を向けて想いを捧げるよう
に歌うのが長きに渡る伝統ですの。



…今の学生で卒業までに校歌を暗唱でる方は
果たしてどのくらいいるのでしょう?
大半が気怠い朝礼を口パクでやり過ごす不届
き者に違いありませんわ。

でも私は違いますの。
こうして四階の最も見晴らしの良い場所から
富士のご尊顔を拝し、ノスタルジアな校歌を
口ずさむのもまた一興…
…私は三年生であり生徒会長であり一人の姉
でもあるが故、何かと損が降り注ぐ立場であ
ることは疾うに自覚していますわ。

ですが、高くそびえる富士の高嶺に比べれば
私の周りに吹き荒れる不条理などちっぽけな
もの。それもこのそよ風が洗い流してーー


ピタッ…


ダイヤ「止みましたわ」イラッ


ダイヤ「さ、さあ。私もそろそろ帰りましょう。これが最後の窓です」ガラガラガラガラ…




…ピタッ


あれは…なんでしょう?



今、にわかに信じがたい光景が瞳に映し出されていますわ。
何故ならアレはつい先程まで見晴らしていた時には存在しなかったのですから。
ほんの数秒…一瞬目を離した隙に普通ここまでの変貌を遂げるでしょうか?一体何が起こったのでしょう。 私、気になりますわ。

…ここは一つ頭をひねってみましょう。
考えられる原因は三つ。

まずは私の注意不足…と言ってもこれは真っ先に選択肢から除外されますわね。
いくら富士に目を向けていたとはいえ、この場所から見晴らす内浦の全体像は完璧にインプットされているのですから。
小さな一軒家のボヤ騒ぎすら瞬く間に発見した経験を持つこの眼が同じ場所からあんなにも目立つ異変に気付かぬはずがありませんもの。

次に、窓の反射による錯覚。



ガラガラガラガラ…


いえ、こうして一切のレンズを通さずとも私の瞳はあの非現実的な光景を脳に訴え続けています。


と、なると…


Aqoursメンバーによるイタズラとしか考えられませんわ。
ははーん。成る程。そう考えると全ての合点がいきますわ。
思えば今日の皆さんは何かおかしいと感じていたのです。
そうですかあなたたちでしたのね?



あの淡島神社にいくつも光っている謎の灯火の正体は。



傘が壊れていたのも、鞠莉さんが助けてくれなかったのも、廊下中に響く破廉恥な会話も全て皆さんのドッキリの一部。
そしてあれが仕上げの仕掛け。ミーティングを無視してまず飛び出したのは淡島組の鞠莉さんと果南さん。あの二人はこっそり水上バイクで登校していますから仕掛けの準備は容易…そして他の方が帰るフリをして出て行く中残ったルビィ。私に「あんなお願い」をしたのもあそこに誘い込むためのワナ。
戸締りを終え淡島神社に向かった私を驚かそうという目論見だったのでしょう。


…面白いですわ。
いいでしょう。行ってやりますわよ。
そしてドッキリを暴いてしっかりと私の威厳を知らしめる良い機会じゃありませんか!
タッタッタッタッタッ


…………
……


ザザーン…


ダイヤ「定期船は次で最後ですか。まあ、果南さんの首根っこ捕まえて…あまり乗り気ではありませんがあのバイクで陸まで送ってもらうとしましょうか」フフッ



ダイヤ「はぁ…はぁ…はぁ…」ザッザッザッ


ダイヤ(いつも思うのですが、どうしてあんな高い所に神社を設けたのでしょうか?ランニングコースならともかく、本来の目的を持ってお参りされる方々の足腰に優しくないにも程がありますわ…)ザッザッザッ


ツルッ…


ダイヤ「きゃっ!?」ドサッ


ダイヤ「いたた……」


ダイヤ「……」


ダイヤ(暗い…それに先程の雨も相まって非常に転びやすくなっていますわ…)


ダイヤ「…」ギロッ


チラチラチラ…


ダイヤ(暗くなるにつれ明るさが目立ちその存在感が増していく…誰かが気付いて警察にでも連絡されたら大変ですわ!急いで止めさせないと…!)



ザッザッザッザッ…


ダイヤ「はぁ…はぁ…やっと着きましたわ……」ザッ



シーン…



ダイヤ(灯りが消えている…)


ダイヤ(何故…)


ダイヤ(それにこの暑さ、そして連日の雨もあって纏わり付くように不快な空気…)


ダイヤ(いえ、それとは別に空気が重い…重過ぎる。ねっとりとした空気を掻き分け心臓をキュッと掴まれるような…)


ダイヤ(これは間違いなく恐怖)


ザッザッザッザッ…


ダイヤ(しかし何故?私は鞠莉さん達の企みを既に認識し、咎めるためにやってきましたわ。つまり、ここにいるのは私だけでなく…恐らくAqours全員。何も恐れることは無い。
まあ、一度は驚かされるでしょうがその後はいつもの調子で笑う鞠莉さん、千歌さん、善子さん…続いて謝る果南さん、梨子さん、曜さん、ルビィ…最後に私の反応など無頓着に流す花丸さんがゾロゾロと出てきて安堵の空気に包まれるはず…)


ダイヤ(なのに…足の震えが止まらない…)



ダイヤ(ここに来るべきでは無い)



ダイヤ(体中の細胞が警告している…今すぐ引き返せと)


ダイヤ(そういう類のものは一切信じていなかったのに…)


ダイヤ(しかし、仮に何かがあるとすればここにいる皆さんが危険に晒される…!今すぐ助けないと)グッ



ダイヤ「か、果南さん!鞠莉さん!いいえ、全員今すぐ出てきなさい!」ザッザッザッ


ダイヤ「あなたたちには呆れましたわ!こんな一歩間違えば警察沙汰になるような仕掛けをしてまで私を陥れるのですか!?」ザッザッザッ


ダイヤ「一体どういうおつもりですの?学校からも丸見えでしたよ!!」ザッザッザッ



ピタッ


ーーいえ、ちょっと待ってください。



そもそも何故、学校からあの灯りを見ることができるんですの?
確かにこうして日没を迎えたのならともかく、四階から眺めた時は淡島を含め夕陽が町全体を紅く照らしていましたわ。
そうですわ。あの程度の光なら簡単に掻き消されてしまう…
なのに私はその一つ一つを鮮明に捉え焼き付くように…って違いますわ!!
私が見た灯りは一つ二つじゃない!!!!!
少なくとも三十は越えていた…果南さんと鞠莉さん…いえ、八人でもあれら一つ一つを揺らすのは……



クォォォォォォォン…シャラララン…
クォォォォォォォォォォォォォン…シャラララン…



ダイヤ「!?!?」


ダイヤ「何ですのこの音は…!?」



クォォォォォォォォォォォォン…シャラララン…



ダイヤ「くっ……」フラッ



ダイヤ(何ですかこれは…意識が朦朧として…)ハァ…ハァ…



クォォォォォォォォォォォォン…シャラララン…



ダイヤ「はぁ…はぁ……」フラッ


ドサッ…


ダイヤ(み…耳だけじゃない…全身の細胞を支配していた恐怖一つ一つを餌に次々と襲いかかってくるような……)



ダイヤ「!!」



ダイヤ(あそこに落ちているのは…)ハァ…ハァ…



ダイヤ「くぅっ…」ズズズ…



クォォォォォォォォォォォォォン…シャラララン…



ダイヤ(一体どうなっているのです…?こんなこと絶対にありえませんわ…)ズズズ…



クォォォォォォォン…シャララララン…



ダイヤ(音が…もうすぐそばまで…)ズズズ…



ダイヤ(お願いですわ…届いて…)グググッ



ダイヤ(届いてください…!)グググッ



ガシッ


ダイヤ「!!」


ダイヤ「はぁ…はぁ…と、取れましたわ……」



グチュ…



ダイヤ「!?!?」



グチュグチュ…



ダイヤ「あ…あぁ……ぁぁぁ…」ドクドク



「……」


「……」ペロペロ



ダイヤ「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぐぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!!!!!」ドクドク



ダイヤ「い"だ"い"い"だ"い"い"だ"い"い"だ"い"い"だ"い"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"!!」ドクドクドク



グチュ…ズチュチュチュ……



ダイヤ「あ"…… 」ジワァ…



「……」ペロペロピチャピチャ



ダイヤ「…」



「……」



クオ"ォ"ォ"オ"ォォ"ォ"ォォォ"オオォォ……



警察「…質問はこれで以上です。また何か分かりましたらご連絡ください」


美渡「どうも…」スッ


千歌「……」


美渡「ほら千歌…行くよ…」スッ


千歌「……」コクッ



千歌「……」カツンカツン


…ほらあの子、黒澤家のお嬢さんと最後まで一緒にいた子の一人だそうよ…


…文化祭の練習で遅くまで一緒に残ってたみたい。可哀想よねぇ…突然行方不明になっちゃうなんて…妹さんもショックで寝込んじゃったんでしょ?…



千歌「……」カツンカツン



…あ、そういえばお嬢さん、日が暮れる前に淡島に向かうのを見た人がいたそうよ?何やら凄い慌ててるようだったって…


…でも不思議よねぇ。お友達の松浦さんと小原さん…だっけ?あのハーフの。あの子達の家にも行ってないって…



千歌「……」カツンカツン



…今漁師さん達と海上保安の人達と…あ、昨日帰ってきた渡辺さん達も必死に捜索してるんだって…


…でも、海に落ちちゃってたならもう…



千歌「……」ポロッ



ーーダイヤさんが…いなくなりました



【8月4日:黒澤ダイヤ失踪から1日】



ミーンミンミンミンミン…



千歌「……」


千歌「……」ゴロン


千歌「……」


千歌「……」


志満「千歌ちゃん…開けるね」ススス…


千歌「……」


志満「梨子ちゃんいらしてるけど、どうする?」


千歌「帰ってもらって…」


志満「……」


志満「うん、分かった…」ススッ


千歌「……」



志満「さて…」


ウゥ…ゥゥ……グズッ…


志満「!!」


志満「……」



梨子「はい…そうですか。分かりました…」


志満「ごめんなさいね…あ、それと窓から話しかけるのも…」


梨子「分かってます…」


志満「そう…じゃあね…」ピシャッ


梨子「……」


梨子「はぁ…」


しいたけ「くぅん…」


梨子「辛いわよね…」


しいたけ「……」


梨子「なんで…なんでダイヤさんが…」ジワッ


梨子「くっ…」ポロッ


花丸「梨子さん」


梨子「!!」


梨子「は、花丸ちゃん…?」ゴシゴシ



ザザーン…


花丸「……」


梨子「ここの砂浜、よく来るんだけど…なんだか現実じゃないみたい…こんなにあちこちに船が出てるなんて…」


花丸「多分あの中に曜さんもいるずら」


梨子「え?」


花丸「お父さんに泣いてすがりついて…一緒に船に乗るって聞かなかったみたいだよ」


梨子「そう…」


花丸「でも見てて許せないずら」


梨子「え?」


花丸「だって!まだダイヤさんが死んだって決まったワケじゃないのにこれだけ船を出してるってことは…」


梨子「やめて!」


花丸「え?」


梨子「死んだなんて言わないで!!!」


花丸「!!」


梨子「くぅっ…」ギュッ


花丸「ご、ごめんなさい…マルもそんなつもりじゃ…」


梨子「ううん…ごめん取り乱して…分かってる……」グスッ



花丸「……」


花丸「千歌さんは…」


梨子「ずっと落ち込んでるみたい…さっきも門前払いされちゃった…」


花丸「そうなんですか…」


梨子「他のみんなは…?私、怖くて携帯見れないの…」


花丸「警察の事情聴取が終わった後、それぞれ家に帰らされたみたい。ルビィちゃん以外は…警察の人曰く、ルビィちゃんは部屋から全く出られないみたい。ショックもそうだし色んな人が家に出入りしてて相当怯えてるみたい。マルが連絡しても出てくれないし…」


花丸「善子ちゃんは家にいてもしょうがないってこの後ここに来るみたい。梨子さんにも連絡したけど返ってこなくて心配してたずら」


梨子「そう…」


花丸「鞠莉さんと果南さんは音信不通…あの様子じゃ淡島からも出られないと思う…」


梨子「歩楽祭は?」


花丸「文化祭自体は予定通りやるみたい…こんな田舎の学校でも色んな企業や団体と提携してるから、ただでさえ廃校寸前なのに中止なんてできないって…」


梨子「残酷ね…」


花丸「マル達は無理だよね…仮に今日ダイヤさんが見つかっても当日踊れる程無神経じゃないずら。それに、こんなことがあったのにお客さんに楽しんでもらおうなんて…多分マル達も、お客さんもそれは無理だと思う」


梨子「うん…」


ヴヴヴヴヴヴ


花丸「?」ポチッ


LINE

堕天使ヨハネ:
バス寝過ごして学校来ちゃった



キーンコーンカーンコーン…


善子「おはよう…ズラ丸、梨子さん」


梨子「おはよう善子ちゃん」


花丸「学校入れるの?」


善子「職員室や部室の周りは警察関係者みたいな人が何人かいるけど、教室棟の方は多分大丈夫。裏口から入るわよ」



カツンカツンカツン…


花丸「事情聴取どうだった?善子ちゃん最後だったよね?」


善子「多分みんなと一緒よ…まず名前聞かれてダイヤさんとの関係と最後に会った時の様子と…アリバイ的なのの確認。疑われてるワケじゃないって分かってても…ちょっと堪えたかも」


梨子「みんなそうなのね…」


花丸「でも、あの後みんな真っ直ぐ家に帰ったんだよね?」


善子「ええ。果南さん鞠莉さんはバス停のところに止めてた水上バイクをすっ飛ばしてたわ。私達はみんなバスに乗ったでしょ?」


梨子「ルビィちゃんが少し遅れてたから運転手さんに待ってもらったんだよね…」


花丸「…」


梨子「?」


善子「ズラ丸?」


花丸「なんで…」


善子「?」




花丸「なんでダイヤさんは淡島へ向かったんだろう?」



梨子「え?」


善子「なんでって…ほ、ほら!あの後突然お説教始めそうだったから逃げた果南さんと鞠莉さんの家に殴り込みに…」


花丸「警察の人曰く、ダイヤさんが戸締りしてるのを先生が見かけたそうだよ。あの剣幕を維持するのなら、わざわざ丁寧に戸締り終えた後に行かないでそのまま追っかけるでしょ?それに最後の連絡船に乗ってまで向かう程固執する理由がないよ…正直昨日のAqoursもいつものノリだったし」


梨子「最終連絡船って18:40でしょ?流石に1時間も経てば怒りも治るよ…多分」


善子「確かに…」


花丸「でも、普通ダイヤさんが淡島に行く目的として考えられるのは、果南さんか鞠莉さんに会いに行くか、マル達と一緒にランニングに向かうか…のどっちかだよね?」


梨子「うん」


花丸「日没直前に向かったのを見たって証言があったみたいだけど、いくら足元が暗くても行き慣れてる果南さんや鞠莉さんの家に行くのに足を滑らせて海に落ちることは無いと思うずら」


花丸「それと、その時制服だったみたいだからランニングの線も薄い。それに真っ暗で湿ってるあの階段を登ろうなんて危険なことをするとは考えにくいよ」


善子「まさか…他の来場者に殺されて海に……」


花丸「それも無いずら」


善子「え…?」



花丸「淡島への交通手段は連絡船だけだから入場者数と退場者数が必ず一致するはず。鞠莉さんと果南さんのバイクのことは管理人さんが把握してるから大丈夫だとして…もし数が一致しなかったら警備員さんが徹底的に捜査するはずだよ。特に鞠莉さんちのこともあるから、もし退場者数が少なければ不審者を使用人総出で血眼になって探し回ると思う」


梨子「その日に来場した人は少なかったから直ぐに全員取り調べができたみたいだけど、疑わしい人はいなかったって…私が取り調べされてる時に他の刑事さんが言ってたわ」


善子「じゃあ島の裏側から別の水上バイクで侵入して犯行後に同じ手段で逃げたんじゃ…」


花丸「それも無いずら」


善子「どうして?」


花丸「昨日の夜は曜さんのお父さんが大きい船で沼津港へ帰ってきてたから多分周辺の警戒態勢は万全だったと思うよ。難しいことはよく分からないけど、進行中そういう小さなボートとか巻き込まないようにレーダーとかで周辺の海域を常に監視してるらしいし」


善子「成る程…じゃあ犯人が外部から侵入した可能性はゼロに近いわね」


梨子「…ってことは、ダイヤさんは鞠莉さんか果南さんに何の前触れもなく訪問しようとした?」


花丸「仮にそうだとすると戸締りを終えてからその要件を思い出した、或いは要件ができたことになるけど、余程重要な事とは言え最終連絡船に乗るくらいなら連絡して向こうから来てもらう方がダイヤさんにとってもいいと思わない?」


善子「ああ…それもそうね」


梨子「どういうこと?」


善子「そうなった場合、どちらかの家に行ってる間に連絡船は陸に戻っちゃうから必然的に水上バイクで陸まで送ってもらうことになるけど…」


花丸「ダイヤさん、あのバイクとっても苦手ずら」


梨子「へ、へぇ…」



善子「だから二人が目的ってワケでもなさそうね」


花丸「つまり、まとめるとこうだよ。
下校時刻の17:30、マル達はそそくさと下校。でもダイヤさんは残って着替えた後戸締りをして下校したのが大体18:00前くらい、それまでに何かしらの理由があって淡島に行かなければならない理由ができたのでダッシュで向かう。その時間に走ってるダイヤさんを見たって人がいるらしい。最終連絡船の出航時間18:40になんとか間に合い淡島に着いたダイヤさんは果南さんにも鞠莉さんにも会うこと無く日没の19:00頃完全に消息を断つ。でも海には落ちてないから島のどこかで今も助けを待っている可能性が高いずら」


善子 梨子「おぉ!!」


善子「ズラ丸…あなた中々やるわね…」


梨子「凄いよ花丸ちゃん!…ってことはダイヤさんが助けられるのも時間の問題だね!」


花丸「船が多くて不安だけど、最近の度重なる雨のせいで島内の捜索が危険だと判断されたからまずは海の捜索に重点を置いているんだと思う。島を本格的に探せばすぐに見つかるずら」ズズッ


善子「それじゃあルビィにも連絡を…」


花丸「ダメだよ…ルビィちゃん、いくら連絡しても返って来ないし家は捜査関係者ばっかでマル達が入れるような状況じゃない…」


善子「そんな…」


花丸「それに、それっぽい理論並べたとは言え所詮は仮説だし…根っこから違うかもしれない…」


梨子「まあでも…ダイヤさんの身の安全は分かったようなもので…」



「こらお前達!勝手に入ってきちゃダメだろ!!」



善子「ヤバい見つかった!!」ダッ


梨子「ちょ、ちょっと善子ちゃん!!」ダッ


花丸「ふ、二人とも…」



花丸「!!」


ヒュォォォォォォ…


花丸(あれ?あの窓だけ開いてる…他の窓は全部閉まってたのに)


花丸(なんでここ4階の角だけ…)



「こら国木田!!」ガシッ



花丸「ずら!?」


善子「ズラ丸!!」


梨子「花丸ちゃん!!」



善子 梨子 花丸「すみませんでした」


「辛いのは分かるけど…今警察が地元の方々にも協力していただいて必死に捜索してるから…信じて家で待っててくれ」


善子 梨子 花丸「はい…」



サァァァァァァァァァァァ…


「雨か…仕方ないな。先生の車に乗ってけ」



サァァァァァァァァァァァ…

チョロチョロチョロ…カコーン!!



花丸「雨…止まないね…」コトッ


善子「結局今日もまともな捜索が始まらないまま日が暮れちゃうじゃない」ズズッ


梨子「このままだとダイヤさんが…」ズズッ


花丸「ねえ、二人とも」ズズッ


善子 梨子「?」



花丸「淡島に忍び込んでみない?」


善子 梨子「はぁぁぁぁ!?!?!?」


善子「あなた何言ってるの!?」


梨子「そうだよ花丸ちゃん。さっき散々淡島とその周辺のセキュリティについて語ってたのにどうやって……こう言っちゃなんだけど、それは探偵ごっこにも度が過ぎると思う」


花丸「でもこのままじゃダイヤさん、また一晩中雨にさらされることになるよ…ダイヤさんが助かるならマル達が怒られるくらいどうってことないよ…」


梨子「でも…」


花丸「お願い…」


善子「……」


善子「分かったわ」


梨子「善子ちゃん!?」



善子「私もダイヤさんを助けたいもの。今は三人だけだけど…またみんなで九人揃ってAqoursの活動したいし……少しでも力になりたい」


梨子「……」


花丸「梨子さん…」


梨子「はぁ…分かったわ」


善子 花丸「梨子さん!!」


梨子「ただし、ダイヤさんは暗くなってきた時一人でいたことで今回のような事故にあったわ。私たちもミイラ取りがミイラにならないよう常に三人で固まって行動すること。いい?」


善子「分かってるわよ!」


花丸「それじゃあ21:00に連絡船乗り場に集合ずら!」



ヒュォォォォォォォォ…


梨子「雨止んでよかったわね」ヒソヒソ


花丸「警察の人ももういないずら」ヒソヒソ


梨子「お家の人は?」ヒソヒソ


花丸「大丈夫、ちゃんと梨子さんの家に泊まるって言ってきたから」ヒソヒソ


梨子「え」


善子「私も同じよ」ヒソヒソ


梨子「私今部屋で寝てることになってるんだけど…」ヒソヒソ


善子 花丸「……」


善子「ところでズラ丸、なんで21:00なのよ?」ヒソヒソ


梨子「ちょっと」


花丸「それは…」



ブロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ……



善子 梨子「!?」


善子「船のエンジン音!!」ヒソヒソ


梨子「どういうこと!?警察の人はもう帰ったし連絡船も無いのに…」ヒソヒソ


花丸「鞠莉さんちの船ずら」ヒソヒソ


梨子「え!?」


花丸「毎週火曜日、この時間はメンテナンスしてたクルージング用の船を島に運ぶんだよ」ヒソヒソ


善子「あなたよくそんなこと知ってるわね」ヒソヒソ


花丸「事故の影響で今日は無いかもって思ってたけど…よかった…」ヒソヒソ


花丸「いい?あそこに船が二隻あるでしょ?後ろの船が鞠莉さんちので、それを前の船でけん引するずら。だから運転手さんにバレないように鞠莉さんちの船に忍び込んでやり過ごすよ」サササッ


善子「了解…」サササッ


梨子「待って二人とも!」サササッ



梨子「…」ドキドキ


善子「ズラ丸もう少しそっちに詰めなさいよ」グイッ


花丸「これが限界ずら」ムギュッ


梨子「しっ誰か来た」


善子 花丸「……」ゴクリ



「…ったくおっかねぇなぁ…またあんな事件があったのに…こんな時間に淡島に船を出せだなんて…小原さんとこは年寄りをなーんだと思ってるずら」ヨボヨボ


善子「船の操縦士ね。この声…ヨボヨボのおじいちゃんみたいだしきっとバレないわよ」ヒソヒソ


梨子「またあんな事件…?どういう事?」ヒソヒソ


花丸「最近この辺で行方不明者が出た事件なんてあったっけ?」ヒソヒソ


善子「どうせボケてるのよ…ほら、ご飯食べたのに飯はまだか~?って聞く年寄りのテンプレボケよ」ヒソヒソ


花丸「だといいけど……」ヒソヒソ


梨子「よくはないけどね」ヒソヒソ



ブロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ ロ……



梨子(うわ…夜の淡島ってこんな感じなんだ…本当に真っ暗ね。明かり一つない…不気味過ぎる…)


梨子(こんなとこに掻き分け入ってくなんて…私たちも消されたりしないよね?)


梨子(でも、本当にダイヤさんがまだこの島のどこかにいるんだったら怖くて怖くてたまらないんじゃないかな…大丈夫かな…一日とは言え何も口に入れてないだろうし…)


ギュッ


梨子「!?」


善子「大丈夫よ。私は堕天使ヨハネ。この島に魔獣がいたとしてもすぐに従えてやるわ」


梨子「善子ちゃん…」


梨子「ふふっありがとう」ニコッ


花丸「……」


花丸(遠くでよく分かんないけど…あそこが鞠莉さんの部屋だったかな?明かりは付いてないみたい…)


花丸(……)


花丸(みんなどうしてるんだろう…)



ブロ ロ ロ ロ ロ……



善子「着いたわ」ヒソヒソ


梨子「あとは運転手さんだけど…」ヒソヒソ



「ありゃ?部品どこに積んだっけかな?」



花丸「一瞬でもいいから船から離れて…」ヒソヒソ



「あ~思い出した後ろの船に乗せたんだったわい」ヨボヨボ



善子 梨子 花丸「!?!?!?」


善子「ちょちょちょちょ…ちょっとちょっと!?こっち来たわよ!!」ヒソヒソ


花丸「しまった…足元にあるこの金属のことだ…」ヒソヒソ



「え~っと確か…」ヨボヨボ



梨子「ダメ…バレる……」ギュッ


善子「くっ…ここまでか…」ギュッ


花丸「……」ギュッ



「うぅぅその前にしょんべんだしょんべんだ漏っちまうわい」タッタッタッタッ



シーン…


善子「……」


梨子「……」


花丸「……」


善子 梨子 花丸「ほっ…」



リーンリーン
コロコロ…シャンシャン…


梨子(夜の淡島…凄い迫力ね…今まで緑黄緑に認識してた物が全部ドス黒くのしかかってくる気分…)


梨子「つ、着いたはいいけど…どこを探すの?こんなに広くて…それに真っ暗……」


花丸「島の周囲はもう見ただろうから、淡島神社の方に行ってみよう」


梨子(よりによって一番怖いところに…)


善子「安心しなさい。二人にこのヨハネの魔道具を貸すわ」スッ


梨子 花丸「じーっ…」


花丸「これは…」


梨子「何?」


善子「ロザリオよ。ロザリオ。魔術店で特別に仕入れた代物よ。安心しなさい。更にこのヨハネの魔力を込めてあるから持っているだけで下級魔獣は近づけなくなるわ」


花丸「いつもならガラクタ扱いなんだけど…」


梨子「藁にもすがる思いとはこのことね…」ギュッ


善子「さあ、行きましょう。目指すは淡島神社よ」ズカズカ


花丸「善子ちゃん危ないよ!」タッタッタッタッ


梨子「三人一緒じゃないと…」タッタッタッタッ



梨子「…」カツン…カツン…


花丸「…」カツン…カツン…


善子「…」カツン…カツン…


梨子「ね、ねえ…今どのくらい上った?」


善子「も、もうかなり上ったんじゃないかな?」


花丸「まだ半分も行ってないんじゃ…」


梨子(鳥居がどんどん遠ざかっていく…階段を一歩…また一歩進むたびにどんどん現実から遠のいていくような気がする…一体私たちはどこを目指しているんだろう)


梨子(もう二度とこんなとこでランニングなんてしたくない…)


ガサガサガサガサ…


善子 梨子 花丸「ひぃっ」ブルル


善子「何…」ガクガク


梨子「わ、分かんない…」ガクガク


ガサガサガサガサ!!


花丸「来る!…」ガクガク



シュルシュルシュルシュルシュルシュル…



善子 梨子 花丸「!!」


善子「へ…ヘビ……」ガクガク


花丸「しかも大きい…」ガクガク


梨子「お、落ち着いて…ただのヘビよ。殺人犯でも幽霊でもない…ゆっくり進みましょう?」


善子「そ、そうね…」カツン…カツン…


花丸「それもそうずら…」カツン…カツン…


梨子(この中で私が一番上なんだから…怖くてもしっかりしなくちゃ…)



カツン…カツン…カツン…


善子「ここを登ったらいよいよ神社だけど…」


梨子「ここまででダイヤさんはいなかったわよね?正直ほとんど見渡せてないけど…」


花丸「ということはこの上にダイヤさんが…」


善子「…せーので覗きましょう」


梨子「…」コクッ


花丸「…」ゴクリ


せーの!!



ダイヤ「ダズゲデ ダズゲデ ダズゲデ ダズゲデェ"ェ"ェ"ェ"ェ"ェ"」


ひいぃぃぃぃぃぃぃっ!!



曜「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」ガバッ


曜「……」


コチッ…コチッ…コチッ…コチッ…


曜「あ…あぁ……」


曜「ゆ…め…」ポロッ



朝、ダイヤさんのことを聞いて居ても立ってもいられなかった私は、お父さんに無理を言って捜索の船の一つに乗せてもらった…分かってた。
船に乗るってことはそう、海に浮かんでいるか沈んでいるダイヤさんを探すということ。
でも、ジッとなんかしてられない。
何か役に立ちたかった。
ごめんねダイヤさん。
見つけられなかったよ…


コンコン…


曜「は、はい!」ゴシゴシ


「曜、大丈夫か?」ガチャ


曜「う、うん。大丈夫だよ…」


「そうか…心配するな。何としてでも黒澤家のお嬢ちゃん、探し出して見せるから」


曜「……」


「あぁ、それと…お友達が来てるぞ」スッ


曜「へ?」


「……」ヒョコ


曜「!!」




千歌「ごめんね曜ちゃん…こんな遅くに…」



ザザーン…


曜「……っていう夢を見たんだ」


千歌「……」


曜「ダイヤさんは必死に助けを求めてた…喉が張り裂けるような声で…」


曜「そんな気持ちも知らないで私は海に出ちゃった…最低だよね……」


千歌「そんなことない」


曜「え?」


千歌「私はずっと家にいて何もしてなかった。美渡ねえ志満ねえ、それに梨子ちゃんも邪険にしちゃった…みんな辛いのは一緒なのに…」ポタポタ


曜「千歌ちゃん…」ギュッ


千歌「私ね…ダイヤさんが生きているって信じたい」ギュッ


曜「!!」


千歌「きっとまだどこかで助けを求めてる。私たちが見つけてくれるのをずっと待ってる。そんな気がする…だから諦めない」


曜「うん…私も」ギュッ


千歌「帰ったらみんなに謝らないと…」


曜「志満さんも美渡さんも…それに梨子ちゃんも、きっと分かってくれると思うよ」


千歌「うん…そうだよね!」



「また九人でやりたいねAqoursの活動…」



シーン…


善子「……」


梨子「……」


花丸「……」


善子「何も…いないわね…」


梨子「うん」コクッ


花丸「ぱっと見ダイヤさんも…いないね」


梨子「うん…」コクッ


梨子(神聖なはずの鳥居、絵馬、賽銭箱、拝殿…全てが不気味に見えるわ…こんな木が鬱蒼と茂る中に佇んでるんだから、昼はまだ不思議だなで済むかもしれないけど夜は恐怖以外の何物でもないわ。これが夜の神社…)


梨子(でもダイヤさんがいるとしたらここしかないわよね?他に行くあてが無いし…だとしたら何故?)


花丸「もしかしたら茂みに隠れているのかもしれない。もっとよく調べるずら」


善子「分かったわ…」


梨子「みんなはぐれないでね」



カツン…カツン…



善子 梨子 花丸「!?!?!?」



梨子「足音…」


善子「だ…誰か登ってくるわ…」



カツン…カツン…



花丸「誰にしろ見つかったらマズい…拝殿の裏側に隠れよう!」タッタッタッタッ


梨子「うん…!」タッタッタッタッ


善子「待って!」タッタッタッタッ



……
…………


カツン…カツン…


梨子「…」ドキドキ


花丸「…」ギュッ


善子「…」ゴクリ


ピタッ


善子「上がってきたわね…」


花丸「こ、こんな時間に誰だろう?」


梨子「警察は帰ったはずじゃ…」



カツン…カツン…


善子 梨子 花丸「!!」


花丸「は、拝殿に向かってるよ…」


梨子「大丈夫…さすがに裏までは…」




ピタッ…


善子「…?」


花丸「止まった?…」


梨子「…」ゴクリ


……
…………

カツン…カツン…


善子「やっと動き出したわね…」


花丸「またこっちに向かってる…」


梨子「バレないよね?本当にバレないよね?」



ピタッ…


梨子「?」


花丸「また止まった?」


善子「そうみたいね…」


……
…………


カツン…カツン…


梨子「また歩きだしたわ…」


善子「あぁもうじれったい…」


花丸「……」


ピタッ…


………
……………


善子「どういうこと?あれから十分くらい経つわよ」


花丸(あれから一向に動きが無い…というか、明らかに奇妙ずら。止まって歩いてを繰り返して…何かを探してるようでもないし一体何を……)


善子「ちょっと出て覗いてみる?」


梨子「待って、まだ油断はできないわ…」スッ



タッタッタッタッタッ…


善子 梨子 花丸「!?!?」


善子「また誰か登って来るわ…!」


花丸「しかも駆け足…」


梨子「今度は誰!?」



「はぁ…はぁ…見つけましたよお嬢様!」


「!!」


「旦那様も心配しておりました。部屋にお戻りください」


「ノー!イヤよ!!絶対にダイヤを探すんだから!!」


梨子「この声…鞠莉さん!?」


「お気持ちは大変よく分かりました。明日からは我々も協力して全力で捜索致します。ですので今日はお戻りください。まだ犯人がうろついている可能性があります」


「犯人…って、何でそんなこと言うのよ!!ダイヤが殺されたとでも言うの!?」


善子 梨子 花丸「!!」



「ダイヤは…ダイヤは殺されてなんてないの!!絶対にどこかで…うぅ…ごめんなさいダイヤ……」ボロボロ


「戻りましょう。お嬢様」



カツン…カツン…カツン…



善子「……」


梨子「……」


花丸「……」



梨子「行っちゃったね…」


善子「ええ、みんな考えてることは同じなのね」


花丸「うん。ダイヤさんのことが大好き。そして信じてる。それはみーんな同じずら」


梨子「鞠莉さんのためにも…絶対にダイヤさんを助けてみせましょう」


善子 「そうね!」


花丸「ずら!」




「お前達、ここで何をしている?」



善子 梨子 花丸「!?!?!?!?!?」


善子「ひっ…」


花丸(いつの間に後ろに…)


梨子(や、やっぱり犯人が…いた…)


善子「い…いやーー」


バッ


善子「うぐっ!?」


花丸「善子ちゃん!!」


梨子「もうダメ……」ジャラン…


梨子「……」


梨子「…って、あれ?」


花丸「あ!!」


「しーっ!」


善子「うぐっ!?」


梨子 花丸「か……」



「「果南さん!!」」


果南「はぁ…全くもう」ポリポリ



果南「ごめんね?驚かしたりして」コトッ


花丸「ありがとうございます」ズズッ


梨子「うぅぅ…えぐっ…怖かった…怖かったよぉぉ…」ズビッ


果南「よしよし頑張ったね…梨子」ナデナデ


果南「でも、こんな時間に何してたの」


善子「うっ…」


果南「私の家の前をこそこそ横切る影が三つもあったから…恐る恐る後をつけてみたらこれが落ちてた」チャリン


善子「あ!私のロザリオ!!」


果南「てっきり残り二人は千歌や曜かと思ったんだけど…まさか花丸と梨子だなんてね。残念だけど意外だったよ」


花丸「……」


梨子「……」


果南「どうやって忍び込んだかは聞かないでおいてあげる。でも…ダイヤが……くっ…
あんな…あんな事件があった後で女の子三人でこの暗闇を歩き回るなんて正気なの!!?」バンッ!


善子「それは…」


花丸「ごめんなさい…」


果南「もしまだ島の中に犯人がいたらどうするつもりだったの!?あんたたちも殺されてたかもしれないんだよ!?」


梨子「えっ?」バッ


果南「もうヤダよ…これ以上大切な人がいなくなるなんて……私……うぅ…」ポタポタ


花丸「果南さん」


果南「何?」グスッ


花丸「多分だけど、ダイヤさんは殺されてなんかないよ」


果南「え?」


果南「そ、それってどういうこと!?」ガタッ


花丸「実は…」



…………
……

果南「成る程…確かに、筋は通ってる」


梨子「それで、ダイヤさんはまだ淡島のどこかにいるんじゃないかって」


果南「そうだったんだね…私、てっきりダイヤが殺されたのかと思ってた…朝外に出て飛び込んで来たのは大量の警察関係者と大量の船と…島中に貼られた立ち入り禁止のテープ…最初は何が何だか分からなくて混乱してたけど、事情聴取に呼ばれて初めてダイヤのことを知った…最初は何を言ってるのか分からなかった…夢でも見てるんじゃないかって思ってたけど…嘘じゃないって分かると共に、あの状況を勝手に解釈して島で殺されて海に落とされたんじゃないかって……」


果南「勿論信じたくなかった…でも、その辺で話してる警察の人もみんなもうダメだとか…可哀想に…とか話してるし……」


花丸「果南さん…」


果南「でも、花丸の言う通り。確かに…今日は土砂崩れを気宇してほとんど島内の捜索が行われなかったみたい。それに、忍び込めるような人もいないから殺されてもない。パニックしてたから全然整理がつかなかったけど、ちょっと考えれば分かることだったね…」


果南「私バカだな…今日一日ダイヤのことで頭いっぱいだったのに…それ全部死んだこと前提で考えてたんだ…信じてなかったんだ……最低」


梨子「そんなことありません!果南さんは…」


果南「ううん。いいの…あの時すぐ帰ってダイヤの話を聞いていればこんなことには…」


善子「違う!!」



果南 梨子 花丸「!?!?」


善子「らしくないわ。誰のせいとかじゃないでしょ!!あんまりグチグチ言ってると天罰下すわよ!」


花丸「よ、善子ちゃん…」


善子「あの時確かにみんなふざけて帰ったりしたけど…誰もダイヤさんをこんな目に合わせようなんて考えてなかったでしょ!?だから違うの!!誰も悪くない!!」


ギュッ


善子「!!」


果南「ごめんね善子…ありがとう」ギュッ


梨子「果南さん…」


花丸「……」


善子「うぅ…」グズッ


果南「花丸も梨子も…ありがとう」


花丸「ずら!」


梨子「ええ、ダイヤさんを信じましょう!」


果南「うん!」


果南「さて…今日はもう遅いから…こっそりバイクで陸まで送ってあげる。もうダメだよ?こんなことしちゃ…」


善子「ふ、ふん!分かってるわよ!」ゴシゴシ


梨子「もう二度と来たくない…昼にも…」ビクビク


果南「あはは…」


花丸「さっきの鞠莉さんみたいに取っ捕まりたくないし…」


果南「え?」



梨子「じゃあ果南さん、よろしーー」



果南「ちょっと待って」


善子 梨子 花丸「??」


花丸「どうしたの?」


果南「本当に鞠莉に会ったの?」


善子「そ、そうよ…」


梨子「正確には、その鞠莉さんから隠れてたんだけどね…まさか鞠莉さんだなんて思わなかったし…」


花丸「果南さんは鞠莉さんに会わなかったの?」


果南「うん…どうして……」



梨子(確かに…普通にあの階段を登ってきたら二人は絶対遭遇するはず…)


梨子(じゃあ私たちが聞いたあの音と声はなんだったの?)


梨子「……」ゾワッ


花丸「……」


果南「さ、さあ、行こう」スッ


善子「そ、そうね…」スッ


花丸「夜遅くにお邪魔しました…」



梨子(何だろうこの胸騒ぎ……)


梨子(物凄く嫌な予感がする……)



ピピピピッ
ピピピピッ


梨子「う…うん……」ポチッ



梨子「ふわぁ……」ノビー


梨子「ん?」チラッ


花丸「くかー」スヤスヤ


善子「すぴー」グゥグゥ


梨子「……」


梨子「はぁ…そうだったわね…」


梨子「……」チラッ


梨子「千歌ちゃん…まだ落ちこんじゃってるのかな…」


梨子「…志満お姉さんに言われてたけど…やっぱり気になっちゃうよ」スッ


梨子「よし…覗いてみよう」ゴクリ



バサッ!!



梨子「!!!!!!!!!!」



千歌「梨子ちゃん!!おはよう!!!!」



梨子「ち…千歌ちゃん!?」


志満「ほら千歌ちゃん。また叫ぶと美渡ちゃんに怒られるわよ?」


千歌「えーだって朝の開口一番は梨子ちゃんちに叫ぶのが習慣で…」


美渡「バカ千歌ー!!うるさーい!!!」ドンガラガッシャン!


千歌「げっ…マズい!あ、あとでバス停でね梨子ちゃん!!」ダダダダダッ



梨子「…」ポカーン


花丸「うーん…何ぃ?」ゴシゴシ


善子「ふわぁ…朝からうるさいわねぇ…」ノソノソ


梨子「千歌ちゃんが……」


善子 花丸「?」


梨子「千歌ちゃんが…元気になった…」



【8月5日:黒澤ダイヤ失踪から2日】



プップー
イッテキマース!



千歌「えぇぇ!?三人でお泊まりしてたの!?」


梨子「う…うん。そうだけど…」


千歌「ずるーい!私にも言ってよー…」ショボン


梨子「いや…だって昨日は…」


千歌「もう!梨子ちゃんのいじわる~」


ワイワイ
ギャーギャー


善子「どういうこと?」


花丸「分からない…昨日はひどく落ち込んでたらしいけど…」


善子「それに…学校行こうだなんて…どうせ今日も開いてないわよ」


善子「全く…吹っ切れたのかしら…」


花丸「……」


善子「ズラ丸?」


花丸「海を見て」


善子「!!」


花丸「船が一隻も無い…」


善子「なんで…」


花丸「昨日はあんなにたくさんあったのに…」


善子「き、きっとアレよ…海にいないって分かって島の中の捜索に移ったんだわ」


花丸「だといいけど…」



キーンコーンカーンコーン…


梨子「学校が…」


善子「開いてる…」


花丸「ずら…」


千歌「もう…何してるの?早く行くよ!」ダダダダダッ


梨子「あ…ちょっと…」


梨子「行っちゃった…」


善子「もしかしてこれは…」


梨子「ん?」


花丸「全部夢だった」


梨子「!!」


花丸「やっぱそうだよ。昨日までの張り詰めた空気も警察関係者も全く無い。学校も普通に文化祭の準備が始まってるし…」


善子「これは間違いなくいつもの内浦…」


梨子「確かに……」


梨子「なんだそうだったんだ…長い悪夢だったんだ…」


梨子「!!」


梨子「と、いうことは!」


善子「ええ、屋上に向かうわよ!」


花丸「うん!!」



タッタッタッタッタッタッ…


バタン!


善子 梨子 花丸「ダイヤさん!!」



曜「あ!梨子ちゃん、善子ちゃん、花丸ちゃん!おはヨーソロー!!」


鞠莉「Oh~三人して遅刻デスカ?もっとパンクチュアリーに生活しなきゃダメですよ!」ビシッ


果南「ふふっ…さてはあの後夜更かししたな~?」


千歌「えっ!?あの後って何!?まさか果南ちゃんも途中まで一緒だったの!?」


果南「ふふふ…千歌にはなーいしょ!」


千歌「ええ果南ちゃ~ん!!」


ワイワイ
キャッキャッ


善子「本当に元通りね…」


花丸「う…うん。信じられないずら…」


梨子「ダイヤさんはまだいないみたいね…」



曜「さあ、全員揃ったしステップ合わせよう」パンッ


善子 梨子 花丸「!?!?」



果南「よーし、じゃあ最初は肩慣らーー」


梨子「ちょちょちょちょっと待って!!」


四人「?」


鞠莉「ホワッツ?」


曜「どうしたの梨子ちゃん?」


梨子「これで全員ってどういうこと!?ダイヤさんは!?」


千歌「梨子ちゃん?」


梨子「あれは全部夢だったんだよね?殺されてなんかないよね?ダイヤさんは生きてるんだよね?そうだよね!?」


千歌「梨子ちゃん」


梨子「千歌ちゃん!ダイヤさんは来るんだよね?歩楽祭のステージ一緒に踊るんだよね!?今日もその練…」


千歌「だから梨子ちゃん!!!」


梨子「!!」





千歌「ダイヤさんって……誰?」



梨子「え……」


善子「は……?」


花丸「誰って……」


花丸「黒澤ダイヤさんだよ!!浦の星女学院の生徒会長でAqoursのメンバーの!!黒髪パッツンで完璧主義者でいつもガミガミお説教するけど本当は優しくて温かくてそれにチョローー」


鞠莉「ンノー!!生徒会長はこの私よ!!」


花丸「!?」


花丸「じゃあ理事長は…」


鞠莉「それもこのマリーよ!私は理事長と生徒会長を兼ねている浦の星女学院の絶対的女王なのデース!」フンス


善子「あ…あなたたち一昨年まで三人でスクールアイドルやってたんでしょ!?」


果南「え?鞠莉と二人だったけど…」


善子「そんな…」


曜「さっきからどうしちゃったの三人とも?Aqoursはずっと七人でやってきたじゃん!」


花丸「七人…」


花丸「!!」


花丸「ルビィちゃん…一年生の黒澤ルビィちゃんは!?」



曜「ルビィちゃん…あぁ、あの黒澤家の女の子だっけ?」


花丸「そうだよ!ルビィちゃんとそのお姉ちゃんであるダイヤさんが加わって九人!Aqoursはずっと九人でやってきたずら!!」


果南「黒澤家に娘さんって二人もいたっけ?」


千歌「ううん。ルビィちゃんって子が一人だと思ったけど…かわいそうだよね。そのルビィちゃんも入学してから全然学校来れてないし…」


花丸「そんな…なんで…」


果南「あ、さては三人とも…あの後こっそりお酒飲んだでしょう?それでみんなで酔っ払ってるんじゃない?」


梨子「!!」


千歌「えぇぇぇぇぇ!?!?あの真面目な梨子ちゃんが…」


梨子「飲んでない!!」


鞠莉「ふむ…これはよくありませんね三人とも」


善子 梨子 花丸「!?」


鞠莉「確かにルビィは不登校だけれど…本人は頑張って来ようとしてるのデス!それを…ダイヤ?っていう架空のシスターを生み出して馬鹿にするなんて…怪談話のつもり?ホラーは好きですが、さすがにこれは関心できません!!」


梨子「…」ブチッ


千歌「ほら梨子ちゃん…ふざけるのもいい加減にーー」



梨子「ふざけてるのはあんたたちでしょうが!!!!!!!!!!!」



六人「!?!?!?」



花丸「梨子さん…」


善子「……」


梨子「うぅ…ぅぅ…う…ぐすっ……」ポタポタ


果南「梨子…」


鞠莉「……」


千歌「り…梨子ちゃん…」


曜「一体どうしちゃったの…?体調悪いなら保健室に…」


梨子「そうね…私の体調が悪いのよね。大切な大切なメンバーのことなんてそうやって知らないフリするのが当然よね。ええ、私がどうかしてたわ。いい。自分で保健室に行くから…さよなら」スッ



バタン!!!



千歌「梨子ちゃん!!」


鞠莉「ストップ千歌っち!」


千歌「で、でも…」


果南「梨子も、歩楽祭の様子は初めてで慣れてないから疲れちゃったのかもね…」


曜「うん…心配だけど、とりあえずそっとしておこう。後で保健室に行こ?ね?」


千歌「うん…」


鞠莉「お二人さんもイイですか?」


善子「何よ…良いワケなーー」


花丸「はい!もう大丈夫ずら!」



善子「ちょ、ちょっとズラ丸あんた…!」


花丸「今はとりあえず話を合わせて…」ヒソッ


善子「……」


善子「分かったわよ…」ヒソッ


善子「わ、悪かったわね!!この堕天使ヨハネが下級魔族のまやかしにかかるなんて…油断は禁物ね」フッ


鞠莉「イェア!いつも通りのヨハネデース!



曜「はぁ…じゃあ始めよう!」


果南「よし、じゃあ並んで!」


善子「あ…あの、ごめんなさい。私、まだ補修が残ってて…」


鞠莉「オーマイゴッド…」


果南「あちゃー忘れてたわ…」


曜「千歌ちゃんは大丈夫だっけ?」


千歌「も、もう終わったよ!」


善子「わ、悪いわね…ソレイユが天頂の刻を告げるまでには戻るわ!!」タッタッタッタッタッ


花丸「……」



曜「そ、それじゃあ始め!!」



梨子「……」

ーー
ーーーー


ダイヤ『これは今までの…スクールアイドルの努力と、町の人たちの善意があっての成功ですわ!!勘違いしないように!!』



ダイヤ『ぶっぶー!!ですわ!!!』



ダイヤ『残念ですけど……ただ、あなたたちのその気持ちは嬉しく思いますわ。お互い頑張りましょう?』



ダイヤ『お帰りなさい…よく頑張ったわね』


ーーーー
ーー


梨子「……」ポタポタ




花丸「ここに居たずらね…」スッ


梨子「は、花丸ちゃん…どうしてここに…」


花丸「マルは図書委員でもあるずら」



花丸「…千歌さん達、もう帰っちゃったよ。終わってから梨子さんを探してたんだけど」


梨子「そう…いいわよ別に…ダイヤさんのことを忘れちゃう人たちなんて…」


花丸「忘れたわけじゃないよ」


梨子「え…?」


花丸「だから、千歌さんたちはダイヤさんのことを忘れたわけじゃないんだよ」


梨子「それってどういう…」


善子「ダメよズラ丸!補修抜け出して職員室の色んな名簿調べたけど、どこにもダイヤさんの名前がないわ!」ガラガラガラ


梨子「善子ちゃん!」


花丸「やっぱり…間違いないずら」


善子「嘘でしょ?こんなことが現実に起きるなんて…まだ夢を見てるんじゃないかしら…」


花丸「さっき何度もほっぺたつねったずら」グイッ


善子「いでででででで」ジタバタ



梨子「ちょ、ちょっと待って!一体どういうこと!?」


花丸「梨子さん。今日調べていくつか分かったことがあるよ。にわかに信じがたいかもしれないけど、よく聞いてね。」


梨子「う、うん…」ゴクリ


花丸「まず…」




花丸「ダイヤさんは元々この世界に存在しなかったことになってるずら」



梨子「!?!?!?」


梨子「なにそれ…」


花丸「昨日、ダイヤさんが失踪したことで内浦はかつてないくらい物騒だったよね?あちこちを警察関係者が駆け回って、静かな海には大量の船が浮かんで…Aqoursのメンバーだけじゃなくて町の人みんな悲しんで不安がっていたよ」


花丸「でも今日になって、その事件がまるで嘘みたいにみんなが元の生活に戻っている。ダイヤさんだけが欠けたまま…」


善子「最初は私も戸惑ったわ。でも、こんな不謹慎で薄情なことを堂々とやってのける程無神経な人はいないでしょ?無論警察ぐるみなんて考えられないし」


梨子「うん…」


善子「で、さっきも言ったけど名簿確かめてもダイヤさんの名前がどこにもないの。それに先生に聞いたりもしたけど満場一致で黒澤ダイヤという人物の存在を否定されたわ」


善子「それからここ見て」パサッ


梨子「これは昨日の朝刊…」


花丸「図書室には学校創立時代からの新聞を毎日保存してあるんだよ」


善子「で、ここなんだけど昨日はダイヤさん失踪事件について書いてあったところが綺麗さっぱり白紙になってるわ。勿論元々白紙だったなんて思い違いはないわよ。だってこの記事がある真ん中の部分だけポッカリ空いてるなんて、あまりにも不自然なレイアウトじゃない?」


梨子「確かに変ね…」ゴクリ


花丸「それでね、今日みんなと話しててもう一つ奇妙だと思ったのが、確かにダイヤさんの存在は無かったことになってるんだけど、行方不明者がいたって認識はあるみたい」


梨子「それってどういうこと!?」



ーー
ーーーー

曜『はい!十五分休憩入れた後、新曲練に移ります!!』


千歌『ふぅ…』ドサッ


果南『はぁ暑い…』ドサッ


鞠莉『ふふっ果南は常に濡れてないと干からびて死んじゃうからね』クスクス


果南『もう~それどういう意味?』


千歌『成る程…やっぱり果南ちゃんはカエルだからしょんべーー』


果南『むっ』ギロッ


千歌『ひっ』


花丸『あの~?』


四人『??』


曜『どうしたの花丸ちゃん?』


花丸『最近、内浦で行方不明者が出たって話知らないずら?』


果南『またその話~?』


千歌『あ、でもそんな事件あったような気がする!』


花丸『!!』


鞠莉『イェース!誰だかは分かりませんがあのビッグスピーカーで流れたような気がします』


曜『あれは広報だね』


果南『うーんいたような…いなかったような…』


千歌『多分いつものお年寄りがウロウロしていなくなった!ってやつじゃないかな?』


曜『まさかそれがその…ダイヤって人?』


鞠莉『ダイヤおばあちゃんデース!!』


曜『キラキラネームって今に始まったことじゃないんだね』


花丸『……』

ーーーー
ーー



花丸「自治会や市役所に確認したけど、ここ数日内浦で行方不明者はいなかったみたい」


梨子「つまり、ダイヤさんの失踪が匿名の誰かがいなくなったって事実に書き換えられてるのね?」


花丸「その認識で間違いない無いと思う」


梨子「!!」


ーー
ーーーー

『…ったくおっかねぇなぁ…またあんな事件があったのに…こんな時間に淡島に船を出せだなんて…小原さんとこは年寄りをなーんだと思ってるずら』ヨボヨボ

ーーーー
ーー


梨子「ねえ、あの時の操縦士のおじいちゃん
が言ってた事件!また…ってことは、やっぱり過去にも同じように行方不明者が出た事件があったんじゃない!?」


善子 花丸「!!」


善子「成る程…不明者の存在だけは消え事件の存在だけは記憶になんとなく残るのね。なんとかしてその人に話聞けないの?」


花丸「いや…けん引は毎週火曜日だけだからそのおじいさんに会えるのはまた一週間後になっちゃうよ」


善子「くっ、一週間も待ってられないわ…」


花丸「あ、それなら!!」



チョロチョロチョロチョロ…カコーン!



善子 梨子「おじゃましまーす!」


花丸「ちょっと待っててね!適当にくつろいでるずら」タッタッタッタッタッ


善子「はぁ…」ドサッ


梨子「ごめんね今日は…」


善子「何謝ってんのよ。梨子さんが先に怒鳴ってなければ私、手出してたかもしれなかったわ」


梨子「ううん。そうじゃなくて…私が図書室でいじけてる時も必死に調べてくれてたんでしょ?」


善子「あ、あれはその…ほらアレよ!天界堕天条令第445条に従って…その…えっと……」


梨子「ん?」


善子「あああもう!!早く原因を突き止めてまた九人揃って踊りたいってことよ!!別に梨子さんが悲しんでる顔見たくないとか…そういうことじゃないんだからね!!」プイッ


梨子「ふふっ…ありがとう」ニコッ


善子「言わせないでよ恥ずかしい…」



花丸「お待たせ!!」


「どうもこんばんは…」


善子 梨子「こ、こんばんわ…」


花丸「マルのばあちゃんずら!」


「あぁ…確か昨日も来てくれてたずらねぇ…うちの花丸がお世話になっております」


梨子「いえいえそんな…」


花丸「ねえばあちゃん。昔、この辺で行方不明者が出たって事件知ってる?」


善子「……」ゴクリ


「あぁ知っとるよ…50年くらい前だったかねぇ。はっきりとは覚えとらんけど、確かちょうどあんたたちと同じくらいの子が忽然と姿を消してね?海女さんや警察さんが必死に探し回ったんだけど、結局死体すら出てこんかったよ…それからずっと内浦は神隠しが起きる神隠しが起きるって恐れられてたけど…結局その後は特に何も起きなかったからねぇ…次第にほとぼりが冷めていったよ…」


梨子「やっぱり…」


「それくらいかねぇ…他にも私みたいな老いぼれがちょくちょく迷子になることはあっても次の日には大体見つかるから…あ、ちょっと待ってなさい」スッ



善子「…これで、過去にも同じような事件があったことは間違いないわね」


梨子「でも、どうしてこんなに長い年月が経ってからまた事件が起きたんだろう?」


花丸「50年前って言うと…今が2018年だから1968年…浦の星女学院が開講してすぐだよ」


梨子「確か図書室に当時の新聞があるのよね?明日調べてみましょう」


「ほい。おまたせ」ドサッ



「当時のアルバムだよ。まだ浦の星女学院が開講したばっかりの頃の…何か参考になるかと思ってな?」


花丸「ありがとうばあちゃん!」



ペラペラ…


善子「うわ…すごい。全部白黒写真よ」


梨子「この年はちょうどカラーに移り変わる前くらいじゃなかったかな?」


花丸「ほとんどが漁の写真だね」


花丸「あ!」


善子「どうしたのズラ丸!?」


花丸「この集合写真見て!」


善子 梨子「!!」


梨子「ここだけぽっかり人が消えてる…」


善子「立ち位置的に不自然よね?ここに人が立たないって…」


花丸「あ!こっちにも!!」


善子「こ、これは…学校で撮ったやつじゃない!!」


梨子「まだ生徒が少なかったのね…1、2、3……20人しかいないわ」



梨子「そして明らかにおかしいのが真ん中。この先生の立ち方を見るに、この富士山の絵を左右から一緒に持ってるんだろうけど、もう片側に不自然に人がいない。つまりここに、50年前に失踪した人が立っていたんだよ」


花丸「ばあちゃん。分かる?」


「いんやぁ…全部分からんなぁ…ごめんな?力になれんくて…」


梨子「いえいえそんな…こんな貴重な資料を保管してくださっていて感謝しています」




善子「ところでさっきから気になってたんだけど、やけに富士山の絵が写ってる写真が多くない?」


梨子「ほんとだ…あっちにもこっちにも…この写真は何かの展覧会かな?」


「ああ、昔からこの内浦から眺めた富士を絵にして展覧会を開いたりしとってなぁ…学校の文化祭でも生徒が描いたものを飾ったりするのが伝統らしいなぁ…」


善子 花丸「あ」



梨子「どうしたの二人とも?」


善子「文化祭までに富士山の絵仕上げなきゃいけなかったの忘れてた…」


花丸「マルも…」


梨子「あら…確か一年生は全員だったわね…私も元美術部だし描こうとしてたんだけどね…」


「この富士山を描く文化はもっと昔、葛飾北斎さんが伝えたって言われておってな?この周辺を通った時にあまりの美しさに驚いてそういった習慣を残していき次第にそれが内浦の伝統となったずら…だからお前さんたち、宿題はちゃんとやらんと北斎さんのバチが当たるぞい」ニシシ


善子「ひいっ…」


花丸「ば、ばあちゃん…」


梨子「とにかく、ありがとうございます。参考になりました」


「構わんよ…あ、そう言えば最近も行方不明者が出たってのを聞いたような…あれ?ボケたかのぅ?」



善子「ダイヤさんは淡島で神隠しにあったってことね」


梨子「ええ。そんな非現実的なこと信じがたいけど…現状、そんなことも言ってられないしそう考えるのが妥当ね」


花丸「神隠し…ってことは淡島の神様が異世界にさらったってこと?」


善子「そうなるわね。これで海に落ちた可能性や島内で死んでる可能性がゼロになったってことよ」


梨子「でも、逆に言えば普通に淡島内を探してダイヤさんが見つかる可能性もゼロになったってことよね?」


善子「うっ…まあそうね…」


花丸「これからは淡島はもちろん、内浦周辺の歴史も調べてダイヤさん救出の手がかりになりそうな情報を集めるずら」


花丸「それから、今は昨日と違ってみんなが普通に生活してるよ。ダイヤさんの存在が完全に消えた今、マル達がこの世界にいないはずのダイヤさんのことばかり話してると異常に思われるし色々面倒だから、とりあえず現状の7人Aqoursのステージ練や富士山の絵の完成に重きを置いて、本命は裏で活動するずら」



梨子「ええ。何としてでもダイヤさんを助けましょう!」



オーッ!!




善子 梨子「おじゃましましたー」


花丸「また明日ずらー」


花丸「……」


花丸「さて、ダイヤさんの失踪以外で大きく変わったこと…これが鍵を握っているのかもしれないずら」スッ



ピーンポーン


「はい?どちらさま?」ガラガラガラ


花丸「夜分遅くにすみません。ルビィちゃんと同じクラスの国木田花丸と申します。あの…授業のノートを持ってきたんですけど…」


花丸(ルビィちゃんが不登校…ってのは聞いてたけどマルとの関係がどう改変されてるか全く分からないずら…一か八か……)



「まあ花丸ちゃん、いつもありがとうね。夏休みに入ってからは初めてかしら?ルビィ、とても会いたがってたから…ささ、上がってちょうだい」


花丸「はい、おじゃまします(ナイス、改変されたマル)」



花丸「……」ギシギシ


花丸(確かここがダイヤさんの部屋…物置になってるずら…)


ルビィ「花丸ちゃん」ヒョコ


花丸「ルビィちゃん!!」



ルビィ「スクールアイドルの活動…どう?」コトッ


花丸「!!」


花丸「た、楽しくやってるよ!文化祭でステージやるんだけど…ルビィちゃん見に来れる?」ズズッ…


ルビィ「……」


花丸「あ…ご、ごめん!別に無理に来てって言ってるわけじゃ…」


ルビィ「ううん。気にしてないよ…」


花丸「そう…」


花丸(困ったな…親しき仲にも礼儀ありと言うけれど、地雷がどこにあるか分からないずら)


ルビィ「あ、そうだ!花丸ちゃんに見せたいものがあるんだ!」ガサゴソ


花丸「見せたいもの?」


ルビィ「じゃん!」


花丸「!!」


ルビィ「えへへ…まだ描いてる途中なんだけど…どう?」


花丸「すごい!すごいよルビィちゃん!!ものすんごく上手ずら!!」


ルビィ「えへへ…それほどでも…///」


ルビィ「時々、お散歩がてら富士山の絵を描いてたんだよ。学校には行けないけど、せめてこの絵は文化祭で飾ってほしいなって…」


花丸「ルビィちゃん…」


花丸「そうだ!!」



ルビィ「?」


花丸「ねえルビィちゃん!明日から毎日富士山の絵を一緒に描かない?」


ルビィ「え!?いいの!?」


花丸「うん!マルはまだ全然できてないんだけど…できるならルビィちゃんと一緒に完成させたい!!」


ルビィ「ありがとう花丸ちゃん!頑張って完成させよう!!」


花丸「うん!じゃあ、今日はもう遅いからそろそろおいとまするずら。またLINEするね!」


ルビィ「え…」


花丸「?」




ルビィ「ルビィ…携帯持ってないよ?」



花丸「え!?」


花丸「そ、そうだっけ?」


ルビィ「う、うん…」


花丸(あれ?お揃いの携帯買ったのに…)


花丸「わ、分かったよ。ルビィちゃんの家に電話するね?」


ルビィ「ごめんね…お願い!」


花丸「じゃあまた明日、おやすみ」


ルビィ「おやすみ花丸ちゃん」


花丸「おじゃましましたー!」ガラガラガラ




花丸「よかった…学校に行けてないだけでルビィちゃんはルビィちゃんのままだ」ホッ


花丸「頑張ろう…がんばルビィずら」



ピピピピ
ピピピピ…


梨子「ううん…」ポチッ


梨子「…さて、起きなきゃ」ゴシゴシ



ザァァァァァァァァァァ…



梨子「この音…雨?」スッ


梨子「だとすると練習は無いのかな…」バサッ!



千歌 梨子「あ」バッタリ


千歌「お、おはよう梨子ちゃん…」


梨子「千歌ちゃん…」



【8月6日:黒澤ダイヤ失踪から3日】



プップー
ブ ロ ロ ロ…


梨子「昨日はごめんなさい!」バッ


千歌「い、いやそんな謝らないで!私の方こそごめんね…」


梨子「ううん。千歌ちゃん達は悪く無いの…私ちょっと疲れてたみたいで…」


千歌「もう大丈夫なの?」


梨子「ええ、学校着いたらみんなにも謝らないとね…」


千歌「無理しないでね梨子ちゃん?」


梨子「大丈夫よ!早くダンスの遅れをとり戻さないと…」



ーー花丸宅

ザァァァァァァァァァァ…


花丸「うん…ごめんね、こんな天気だし今日は…うん。また晴れたら…じゃあね」ガチャ


花丸「はぁ…」


花丸「せっかく約束したのに……」ガクッ



ーー部室

ザァァァァァァァァァァ…


果南「…でね、連絡船が終わって帰るバタ足がなくなった三人をこっそり陸まで送ったんだよ」


曜「出た!果南ちゃんジョーク!帰るバタ足!!」フフッ


果南「もう~曜ったら、出た!…って、私がいつもそんなこと言ってるみたいじゃん」


曜「ごめんごめん♪」


アハハハハ…



善子「……」


善子(あの日私たちは普通に果南さんの家に遊びに行っていたことになってる…ほんと、上手く改変されてるのね…ダイヤさんの事は省いた上で)



千歌「おっはー!!」ガラガラガラガラ


花丸「おはなまる!」


梨子「おはようございます…」


曜「あ!来た来た。おはヨーソロー!」ビシッ


果南「おはよー。足元の悪い中ご苦労さま」クスッ


梨子「あの…」


曜「あ、梨子ちゃん!気にしないで!」



梨子「へ?」


果南「私たちも梨子の気持ち分かってあげられなくて悪かったよ…昨日のことは忘れて、また今日から頑張ろう。ね?…と、言っても雨だけど」


梨子「ほんとにごめんなさい…」


千歌「一日経ったら仲直りだよ!」



鞠莉「グッモーニン!!」


善子「!!」


曜「鞠莉さん!おはヨーソロー!」ビシッ


果南「鞠莉、あいにくだけどこの雨じゃとても練習できそうにないよ。それに、みんなクラスの方の準備もあるだろうから今日は中止にしない?」


鞠莉「OK!じゃ、そうしましょう!果南、先に教室行ってるわ」ガラガラガラ


ピシャ…



六人「……」



花丸「顔出してから立ち去るまで十秒も無かったずら…」


千歌「やっぱ生徒会長兼理事長って秒刻みのスケジュールなのかな…」ゴクリ


果南「サバサバすべきところと、くよくよすべきところがごっちゃになってるのよねあの子」


曜「果南さんがそれ言う?」


梨子「……」


果南「大丈夫、鞠莉も怒ってなんかないから」


梨子「はい…」


千歌「あ、そういえば梨子ちゃんって富士山の絵描くんだよね?」


梨子「うん…でもこの雨じゃ見えないからな…今日はクラスの手伝いに行くよ」


千歌「じゃあさ、雨雲に隠れてる富士山描いて【隠遁 雲隠れの富士】ってのにしたらいいじゃん!忍者みたいでカッコいいし!!」


梨子「テーマが富士山なのに富士山がどこにも無い絵を提出するの?」


曜「はぁ…ほんとやな季節だなぁ…」ショボン


果南「当日何もなければいいけど…」


曜「うん…今のうちにてるてる坊主でも作ろうかな…」


善子「……」



ザァァァァァァァァァァ…



善子「……」カキカキ


花丸「……」ヌリヌリ


善子「……」ペタペタ


花丸「……」スラスラ


善子「いいわ。いい感じよ…漆黒に淀む富士が出来上がって行くわ。全く、我ながら絶景のスポットを見つけたわね…」ウヒヒ


花丸「見つけたのはマルずら」


花丸(まあ、一昨日一つだけ不自然に窓が開いてたこの棟の隅っちょをたまたま覚えてただけだけどね)


花丸「ていうか善子ちゃん、結局千歌ちゃんの案丸パクリしてるずら」


善子「何よ!ズラ丸だって描いてるじゃない!」


花丸「マルは富士山以外のところを描いてるずら。ルビィちゃんに遅れをとらないように少し進めておくんだよ」


善子「へぇ…ルビィに会ってきたのね。どうだった?」


花丸「みんなの知ってるルビィちゃんだったよ」


善子「そう…」


花丸「みんなは知らないけどね…」


善子「……」


善子「そうね…」



花丸「……」ヌリヌリ


善子「……」ペタペタ


花丸「善子ちゃん」ヌリヌリ


善子「何よ」ペタペタ


花丸「何か分かったの?」


善子「!!」


花丸「さっきもずっと黙ってたし、らしくないずら」


善子「わ、私だって己の沈黙に浸ることくらいあるわよ」


花丸「ふーん…」


善子「……」


善子「状況が状況でも、言ったらダメなことってあるのよ…」


花丸「……」


花丸「…分かった。聞かないでおくよ」


善子「ごめん…」


花丸(なんとなく分かったけどね…言いたいこと)


花丸(全く…善子ちゃんは優しすぎるよ…)



ザァァァァァァァァァァ…



千歌「お昼過ぎても」ドドン


曜「止む気配無し」ドドン


梨子「ほら、サボってないで…二人ともそっち抑えてて、ガムテープ張るから」ペリッ


千歌「雨よ~雨よ止め~」ナムナム


曜「体感天気予報よ~外れろ外れろ~予報だとこの後もずっと雨だけど奇跡的に外れろ~」ナムナム


ペタペタッ!


曜 千歌「ひうっ!?」


梨子「そっち、抑えてくれる?」ニコッ


曜 千歌「は、はい…」


梨子(ひと段落したらトイレ行くフリして図書室行こ)



ザァァァァァァァ…


梨子「うーん、ないなぁ…」ペラペラ


梨子「50年前のこの時期で不自然な空白になってる記事は…」ペラペラ


果南「あれ梨子?何してるの?」ヒョイ


梨子「ひいっ!?!?」ビクゥ


果南「あ、ごめん。驚かせる気はなかったんだけど…」


梨子「驚かせる気しかなかったですよね?」


果南「あはは…」


梨子(ここで例の話を持ち出すのはよくないな。ならば…)


梨子「富士山を描こうとしてたんですけど、雨ですし、そもそもどういう風に描いたらいいか分からなくて…昔の記事とか見れば何か参考になるんじゃないかなーって」


果南「……」


梨子(ちょっと苦しかったな…さすがに果南さんは騙せーー)


果南「成る程ね。だったら奥の倉庫に昔飾られてた絵の一部があったからそっちを見ればいいんじゃない?」


梨子「あ、ありがとうございます(あら?)」


果南「勉強熱心なのはいいけど、サボると千歌たちに怒られるぞ?」フフッ


梨子「そ、それは果南さんだって!」


果南「あ、そうだったそうだった。梨子、鞠莉知らない?さっきから姿が見えなくて探してたんだけど…」


梨子「鞠莉さんですか?いえ、見てませんけど…」


果南「はぁ…おかしいな。生徒会室にも理事長室にもいないし…」


梨子(まさか鞠莉さんまで…そんな……)



サァァァァァァァァ…


梨子「あれ?雲が晴れてるのにまだ雨が降ってる?」


果南「とにかく、見つけたらすぐ教えてね!」タッタッタッタッ…


梨子「……」


梨子「ほっ…」


梨子「いつもならダイヤさんが鞠莉さんを追っかけ回してるのにね…」ペラ


梨子「!!」


梨子「あった…50年前の8月4日の新聞…つまり前日の8月3日に起きた事件の記事…日にちまで私たちと同じなのね。ここがぽっかりと消えてる。しかもこの大きさ…新聞の一面を飾る程よ……」


梨子「他のもそうだけど…この時代はこういった事件が大きく取り上げられてるのね…」ペラ


梨子「そして、次の日以降は全く取り上げられてない。他の事件は捜査状況を逐一更新してるのに…」ペラペラ


梨子「ん?」


梨子「これは8月12日の記事…つまり8月11日の出来事ね。この写真、花丸ちゃんちで見た白黒写真と同じだ。学校の…」


梨子「成る程ね、これは歩学祭の写真だったんだわ。少ない人数でも当時なりの催し方があったのね」ペラ


梨子「あら?13日の記事にも学校の写真…」



梨子「…これは歩学祭を終えて翌日の12日に祝賀会をやったって記事ね。グラウンドでキャンプファイヤーなんて素敵ね。今に比べて平和だったのかしら?こういう小さな催しも記事にしてーー」




梨子「あれ?」


梨子「1、2、3……19人…」


梨子「減ってる。前の記事までは20人…失踪した子を入れると21人いるはずなのに…」


梨子「……」


梨子「新聞より当時の学校のアルバムないかな…」パタン


梨子「探してみよう…」スッ



サァァァァァァァァ…


善子「そんな…」


花丸「善子ちゃんは相変わらずマヌケずら」


善子「だって…まさか途中で雲が晴れるなんて思わないでしょ!?どうせ雨が降るならちゃんと雲かかっててよぉ…」グデッ


花丸「それはともかく、夕陽で景色が真っ赤になるのくらい想像できたでしょ?」



善子「い、いいわよ!残りは想像で描くから!!」



鞠莉「ハァイ!」


善子 花丸「!?!?」


鞠莉「どう?絵は進んでる?」


善子「……」ゴクリ…


花丸「ううん!途中まで描いてあとはルビィちゃんと一緒に描くずら!」


鞠莉「Oh!ルビィと会ったのデスね!」


花丸「うん!元気だったよ!ルビィちゃん、学校には来れないけど富士山の絵を文化祭に出したいって言ってたんだよ!!」


鞠莉「そうデースか…」


鞠莉「…昨日はごめんなさいね?私ったら酷いことを言ったわ。きっと梨子も悲しんでる…」


花丸「気にしないで。梨子さんも大丈夫だから!」


鞠莉「そう…」


花丸「鞠莉さんは何してたんですか?」


鞠莉「え?」


鞠莉「ふふっ。ただのおさんぽよ♪」


花丸「そうですか…」


鞠莉「じゃあね!」タッタッタッ



花丸「ふぅ……」


善子「……」ドキドキ


花丸「善子ちゃん?」


善子「……」ドキドキ


花丸「よーしーこーちゃん?」


善子「ひうっ!?」


花丸「まったく…」


善子「だ、だって…しょうがないじゃない」


花丸「はぁ……」スッ



ガラガラガラ!!



善子「!?」


善子「な、なによ急に窓全開にして!!」


花丸「しんみりしてても仕方ないずら!」


花丸「校歌斉唱!!」


善子「はぁ?」


花丸「校歌斉唱!ずら!!」


善子「わ、分かったわよ…」バッ



善子 花丸「スゥ……」


黄昏迫る 港町♪
津々浦々を 紅く染めん♪
眠りにつかん 風と波♪
静か穏やかの 安らぎ破り♪
顔を覗かせよ 妖百鬼♪


善子 花丸「吹き荒れーー」



果南「善子ー!花丸ー!」タッタッタッ


善子「よ、ヨハネよ!!」


花丸「果南さん!?」


果南「はぁ…はぁ…鞠莉を……鞠莉を見なかった?」


善子「鞠莉さんならついさっきそこの階段降りてったわよ」


果南「ありがとう!もう全然捕まんなくてさ…クラスの準備はサボるし…もう!!」タッタッタッタッ


善子「……」


花丸「……」


善子 花丸「恥ずかしい…」チーン


善子「やめよ。今日はもうやめにしましょう」


花丸「うん。じゃあ、図書室に行こう。多分梨子さんがいると思う!」



ーー図書室


梨子「くっ…届かない……」ググッ


梨子「もう少しで……」グググッ


パシッ!


梨子「取れた!」


ツルッ!


梨子「きゃああああああああ!!」ドンガラガッシャーン!



梨子「いたたたた…」


善子「アーメン…」ジャラ


花丸「ナンマンダブ ナンマンダブ…」ジャラ


梨子「見てないで助けて…」チーン



花丸「なるほど…」


梨子「やっぱり…8月12日以降今までいたおかっぱの女の子がどこにも写ってない」


善子「まさかもう一人神隠しにあった人がいるっていうの?」


花丸「それは違うと思うよ」


善子「どうして?」


花丸「ほら、もっと前のページ見て」パラパラ


善子「!!」


梨子「いるわね…おかっぱの子、あちこちに写ってるわ」


花丸「神隠しにあったのならほら、元々の存在がなかったことになるからここみたいに不自然な空白になるんだよ。でもこの子は違う。それまでは写真に写ってる。12日からはどこにもいないけどその子の分の不自然な空白もない」


善子「転校も考えにくいわね。一人一人の誕生日会までやってるみたいだし、お別れ会の写真が無いってのは…」


花丸「なんでこの子はいなくなったんだろう…」




梨子「ねえ…」



善子 花丸「?」


善子「どうしたの?」


梨子「見て…このおかっぱの子…アルバムの最初は空白のある位置から離れたところにいるのに、8月3日に近づくにつれてどんどん距離が縮まってる…」


善子 花丸「!!!」


梨子「そして事件の直前の写真は…どれも…どれも空白…つまり神隠しにあった子の真横にいるの…」


花丸「ホントだ…そして事件から11日までは中心を避けるように写ってる…」



善子「これって……」


梨子「ええ…考えたくはないけど……」


花丸「つまりこういうことずら」




花丸「このおかっぱの子が神隠しの主犯。3日の夜に実行し、12日に変わる前にその姿を消す」


梨子「そして同じ事件が起きている今…」


花丸「ダイヤさんを神隠ししたこの犯人がマルたちの近くに潜んでいる」



ガラガラガラ!!!


善子 梨子 花丸「!!!!」




よしみ「り、梨子ちゃん!」


梨子「よしみちゃん…それにいつきちゃんむつちゃん!」


いつき「びっくりしたよ…さっき図書室から凄い音が聞こえたから…大丈夫?」


梨子「え、ええ…まあ…」


むつ「それより梨子ちゃん、千歌と曜知らない?」


梨子「え?」


よしみ「梨子ちゃんが出て行ってしばらくしてあの二人、ジャージに着替えて雨の中ランニングに出かけてったんだけど帰って来ないの…あれから数時間は経つしもうすぐ下校時間なのに…」


梨子「!!」


花丸「それって…!」ガタン


善子「また神隠し…!?」バッ


いつき「今先生達が全力で探してる。私達も探そう!」



梨子「私のせいだ…」



善子 花丸「!!」


梨子「私が千歌ちゃん達の側にいてあげなかったから…だからこんなことに……」


善子「ち、違う!」


花丸「梨子さんのせいじゃ…」


梨子「どうしよう…どうしよう……」


ガシッ!


梨子「!?」


むつ「大丈夫!あの二人なら絶対無事だから!!」


梨子「むつちゃん…」


よしみ「きっと千歌も曜もどこかで梨子ちゃんのこと信じてるよ!」


いつき「だから梨子ちゃんも千歌と曜を…それから、自分のことを信じて!!」


花丸「そうずら!一番千歌さん曜さんの側にいたのは梨子さんなんだよ!」



梨子「みんな……ありがとう…私…」ジワッ


善子「時間がないわ。とにかく千歌さんの家に行ってみましょう!」



梨子「そんな……」


善子「まだ帰ってない…って…」


美渡「警察にも連絡した!志満ねえにも町の人に呼びかけてる!!」


善子「くっ…どういうことよ!神隠しが二度起きたってこと!?」


梨子「淡島よ…淡島にいるんだわ!」


美渡「とにかくここで待っててくれ!絶対一人になるなよ!行くぞしいたけ!!」ダッ!


しいたけ「わんわん!」ダッ!


花丸「…もしもし果南さん!淡島の様子はどう!?」


果南『もしもし!今みんなで島中を探してるよ!!』


花丸「鞠莉さんは!?」


果南『それが連絡取れないんだよ!こんな時に…』


花丸「そんな…」


果南『大丈夫、今淡島神社に向かってるところだから何か分かったらまた連絡する!それじゃ!』プツン


花丸「あっ…」


善子「やっぱり……」



梨子「千歌ちゃん…曜ちゃん…」ギュッ



千歌「ん……」


千歌「夜……」


千歌「ここは……」


千歌「淡島神社……」


千歌「そうだ私…曜ちゃんとランニングしてて…」


千歌「!!」


千歌「曜ちゃん!!」バッ


曜「うぅ……」


千歌「曜ちゃん!曜ちゃん起きて!!」


曜「う…ん…千歌……ちゃん?」


曜「はっ!?」


曜「こ、ここは…」


千歌「淡島神社だよ。私たちランニングしてて…」


曜「でもなんで拝殿の裏で寝てるんだろう…」




クォォォォォォォン…




曜 千歌「!?!?」



千歌「な…何今の鳴き声…」


曜「し…知らない……犬じゃないかな?」




クォォォ"ォォォォォ"ォ"ォン……




千歌「い、犬にしては変じゃない?」


曜「そんな…」


曜「!!」


曜「ち、千歌ちゃん…上…」


千歌「!!」


千歌「月が…真っ赤……」


曜「ぜ、絶対おかしい…おかしいよ……こんなとこ淡島じゃない……」ガクガク



クォォォ"ォォォォォ"ォ"ォン!!




千歌「な、なんだかさっきより近づいてる気がする…」ビクビク


曜「そ…そんな…気のせい…気のせいだよ」ブルブル




クォォ"ォ"ォ"ォォ"ォ"ォ"ォォ"ォ"ォォン"…



曜 千歌「!!?」



千歌「表側にいる…!?」ヒソヒソ


曜「お願い…あっち行って…」ギュッ


千歌「……」ゴクリ


曜「……」ドキドキ



クォォォォォォォン…



千歌「……」


曜「……」


千歌「行った…?」


曜「みたい…だね」


曜 千歌「ほっ…」



千歌「一体どうなってるの…」


曜「ほら、千歌ちゃんが休憩がてら拝殿の裏から富士山眺めたいって言ってさ、裏に回った時雨粒で光ってたこのロザリオ?に気付いて拾って…」


千歌「気が付いたらこうなってた…」


千歌「そうだ…!早く戻らないと!!」



曜「うん、またさっきの化け物がいつ来るか分かんないよ」


千歌「…」ドキドキ


ギュッ!


千歌「…!」


千歌「…曜ちゃん?」


曜「大丈夫、怖がらないで…この渡辺曜、千歌ちゃんを全力でお守りします」ビシッ


千歌「曜ちゃん…!」


曜「当たり前だよ!だって…」


千歌「?」


曜「だって千歌ちゃんのこと…」








曜「食 ベ チャ イ "ダ イ ク" ラ イ ダ ー イ ス" キ ダ ガラ」ゴキゴキ



千歌「あっ…ああ……」



曜「ク"ォォ"オ"ォォ"ォオ"ォォォォォ!!」ゴキゴキ!



千歌「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」タッタッタッタッタッタ



ベチョ!!!




千歌「ひっ!?地面が血で……」ビチャビチャ



曜「人間ガイ"ル"ゾォ"ォ"ォ"ォ"!!!」ゴキゴキ!



千歌「なんで…なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!?」タッタッタッタッタッタ



キュォォォ"ォ"ォォン… クォォォォォンォォ"ォォン
クォォォォォンォォ"ォォン…グォォ"ォォ"ォン…
グォォ"ォォ"ォン… キュォォォ"ォ"ォォン…
クォォォォォンォォ"ォォン ゴォ"ォ"ォォォォォ



千歌「早く早く!!早く!!!早く!!!早ぐ!!早ぐぅ"ぅ"ぅ"ぅ"ぅ"ぅ"!!!!!」タッタッタッタッタッタ



千歌「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ!!!!!」タッタッタッタッタッタ



千歌「!!」タッタッタッタッタッタ


千歌「海だぁぁ!!海ぃ"!!早ぐ!!!」タッタッタッタッタッタ


ギュ"ォ"ォォ"ォ"ォォ"ォォ"ォォ"ォ"ォ"ン"!!!!


千歌「ひいいいいいいいいいい!!!」タッタッタッタッタッタ



ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!




千歌「!!!!」



果南「千歌ぁぁぁ!!!」ザッパァ!



千歌「助げでぇ"え"え"え"え"!!!」ダダダダダダ!



美渡「ジャンプだぁぁ!!捕まれぇぇ!!!!」



千歌「」バッ…



ドンッ!ザパァァッ!!



美渡「よし!捕まえたぞ!頼んだ!!!」



果南「しっかり掴まっててください!!!」ブルルン!!!



ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!



…………
……


千歌「は…は……」


梨子「千歌ちゃん!!」


善子「目が覚めた!!」


花丸「大丈夫千歌さん!?」


千歌「うっ…うう……」


千歌「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」ギュッ


梨子「わっ!?」


千歌「怖かったよぉぉぉ怖かったよぉぉぉぉぉ!!!」ブワッ


梨子「もう…千歌ちゃんたら…」グスッ


よしみ「千歌!!」ガラガラガラ


いつき「大丈夫!?」


むつ「よかった…目が覚めた…」


千歌「みんなぁ…」グスッ


花丸「待っててね。今志満お姉さんが暖かい料理持ってきてくれるから」


善子「ほんとリトルデーモン騒がせなんだから…」


千歌「ふふっ…」グスッ


志満「おまたせ~!」


千歌「志満ねぇ!!」


志満「さあ、食べましょ?」


善子「何の料理かしら!」


花丸「わくわく!」


志満「ふふっ…慌てない慌てない♪」


志満「じゃん!」パカッ




千歌「え」



千歌「なに…これ……」



志満「何って…包丁じゃない」ペロッ



よしみ「……」


いつき「……」


むつ「……」


善子「……」


花丸「……」


梨子「……」



千歌「なんで…なんでぇ……」



志満「さア、今夜"の"夕飯に手ヲ"合"わぜデ」ゴキゴキ



千歌「あは……あはははは…」ポロッ



志満「イ ダダ ギ マズ!!!」ゴキゴキ


よしみ「グォ"ォォォ"ォォォオ"ォ"!!!」ゴキゴキ


いつき「ギォォオォォォ"オォォォ"ォ!!!」ゴキゴキ


むつ「ゴギョォ"ォォォ"ォォ"ォ"ォ"!!!!」ゴキゴキ


善子「グォォ"ォグォォ"ォォ"ォン…ォ"ォン!!!」ゴキゴキ


花丸「ギュ"ォ"ォォ"ォ"ォォ"ォォ"ォォ"ォ"」ゴキゴキ


梨子「ギィギャォ"ォォ"ォ"ォォ"ォ"ォォオ!」ゴキゴキ



グチュ……



パッ!


千歌「う…うぅ……」グッタリ


曜「はぁ……はぁ……」グッタリ



果南「いました!!こっちです!!!」


「おーい!いたぞー!!」


「急いで運ぶぞ!船用意しとけ!!」




…………
……


コチッ…コチッ…コチッ…


梨子「……」


善子「……」


花丸「……」


美渡「……」ガラガラ


善子 梨子 花丸「!!」


美渡「…もう大丈夫。さっきまでうなされてたけど今は熱も下がって静かに寝てる」


梨子「よかった…」ガクッ


花丸「ほっ…」


善子「もう…心配したんだから…」グスッ


志満「ごめんなさいね心配かけてしまって…」スッ


梨子「いえ…二人が無事で何よりです…」


志満「今日はもう遅いから二人とも送っていくね」


善子 花丸「ありがとうございます…」


志満「それから梨子ちゃん」


梨子「はい」


志満「悪いけど今晩は千歌ちゃんと曜ちゃんの側にいてくれる?」


梨子「ええ。もちろんです」


志満「ありがとう。お布団用意しておくね」スッ


善子「それじゃ…頼んだわよ」スッ


花丸「また明日ね、梨子さん」スッ


梨子「うん…」



千歌「すぅすぅ……」


曜「くーくー…」


梨子「……」


梨子「怖かったよね…でも、もう大丈夫だからね」ギュッ


梨子「?」


梨子「これは…」


梨子「!!」


梨子「善子ちゃんのロザリオ…なんで千歌ちゃんが…」


梨子「善子ちゃんのは果南さんが拾ってたし、花丸ちゃんは私がアルバムの山に潰されてた時に取り出してたのを見た…」


梨子「!!」


梨子「無い…ということはこれは私の……」


梨子「でもどうして千歌ちゃんがこれを…」


梨子「…こんなに汗まみれの手で握りしめて…相当怖い思いをしたのね……」


梨子「いいわ。それは千歌ちゃんが持ってて。私は側にいるから…」ギュッ


千歌「うぅ…」


梨子「!!」


梨子「千歌ちゃん!」



千歌「きつ…ね……狐が……」


梨子「!?!?」


梨子「狐…狐がどうかしたの!?」


千歌「………」スゥスゥ


梨子「……」


梨子「狐…どういうこと…」



ピピピピ
ピピピピッ


梨子「ん…」


梨子「ここは…そうだ、千歌ちゃんちに泊まったんだったわね…」ポチッ


梨子「げっ…もうお昼過ぎてるし…」


梨子「……」チラッ


千歌「……」スゥスゥ


曜「……」クゥクゥ


梨子「そもそもなんで二人が…」



善子「起きた…?」ススッ


梨子「善子ちゃん…!」



【8月7日:黒澤ダイヤ失踪から4日】



ザザーン…


ルビィ「え!中止!?」


花丸「9日と10日のステージはね…千歌さんと曜さんがちょっと体調悪くしちゃって…」ヌリヌリ


ルビィ「そうなんだ…」カキカキ


花丸「でも三日目は必ずやるよ!せっかく頑張ってきたんだもん!」


花丸「それに千歌さんと曜さんなら無理してでもやりたいって言うだろうし…」


ルビィ「花丸ちゃん」


花丸「ん?」


ルビィ「花丸ちゃんは、ステージやりたいの?」


花丸「え?」


ルビィ「花丸ちゃん…Aqoursのステージ、楽しみにしてる?心からやりたいって思ってる?」


花丸「そ…それは…」


花丸(思ってない…だって、ルビィちゃんもダイヤさんもいないんだよ?7人のAqoursなんてAqoursじゃない……そんなステージに立つ意味なんて…)


花丸「……」


ルビィ「はっ…!」



ルビィ「ご、ごめん花丸ちゃん!責めるつもりはなかったんだけど…なんか花丸ちゃん、スクールアイドルの話するときあまり楽しそうじゃないからさ…」


花丸「う、ううん!楽しみだよ!ただ、緊張しちゃって…大勢の人が見に来るし、マルそういうの慣れてないから…」


ルビィ「そうなんだ…」


花丸(ごめんねルビィちゃん…)


ルビィ「でも、すごいよ花丸ちゃんは」


花丸「え?」


ルビィ「だって花丸ちゃん、ずっと人の前に立つのが苦手だったのに…今はスクールアイドルになってみんなの前で歌って踊って…すごくキラキラしてる」


ルビィ「それに比べてルビィは学校にも行けない……」


花丸「ううん!そんなことないよ!そんなに自分を責めないで!マルがこうやって頑張れるのはルビィちゃんがいるからずら!」


ルビィ「ルビィが…?」


花丸「う、うん!辛いことや嫌なことがあっても練習が大変でも、毎日ルビィちゃんの家にノートを届けに行くとすっっごく元気になるんだよ!それが、マルの元気の源ずら!」


ルビィ「!!」


ルビィ「る…ルビィも!いつも一人ぼっち
で心細いけど、夕方花丸ちゃんが来てくれるのを毎日楽しみにしてたんだよ!今日はどんなお話してくれるんだろう。今日はどんな世界を見せてくれるんだろう!…って」


花丸「ルビィちゃん…」


ルビィ「えへへ…なんだかルビィ甘えてばっかだな…」





ルビィ「だって花丸ちゃん、ルビィのお姉ちゃんみたいだから…」



花丸「!?!?!?!?」


ルビィ「いつもありがとう。ルビィを支えてーー」


花丸「違う」


ルビィ「…え?」


花丸「マルはルビィちゃんのお姉ちゃんなんかじゃない」


ルビィ「花丸…ちゃん?」


花丸「!!」


花丸「ご、ごめん…なんでもないずら!」


ルビィ「う、うん…」


花丸「マル、そろそろ帰るね!梨子さんと約束があるし…」スッ


ルビィ「わ、分かった!バイバイ!練習頑張って!」


花丸「バイバイ!!」


ルビィ「明日、絵完成させようね!」


花丸「うん!」タッタッタッタッ…


花丸(本当にごめんね…ルビィちゃん…)



カァカァカァ…


しいたけ「わん!わんわん!!」


花丸「……」


花丸「夕方になっちゃったずら」


花丸「お、お邪魔しまーす」ガラガラガラガラ


志満「まあ、いらっしゃい」


花丸「千歌さんと曜さんは…」


志満「それが…まだ目が覚めないの…」


花丸「そうですか…」


志満「さっき果南ちゃんがお見舞いに来てくれたんだけど入れ違いだったわね…梨子ちゃんと善子ちゃん、二階にいるから上がって?」



?「すみません。本日予約していた者ですが…」ガラガラガラ…


志満「あら、いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました…」


花丸「!!!」


花丸「あなた達は……!!」


梨子「あ、花丸ちゃん来たんだね!」スッ


善子「もう。遅いわよズラ丸」スッ


善子 梨子「!!」


梨子「あ…あなた達は…」




聖良「お久しぶりです。Aqoursの桜内梨子さん、津島善子さん、国木田花丸さん」


理亞「げっ…」



聖良「まさかここが千歌さんのご自宅だったなんて…世界は狭いものですね」ズズッ


聖良「これが静岡の緑茶ですか…こんな美味しいお茶初めて飲みました」


花丸「でも、なんでSaint Snowのお二人がこんなところに?」


理亞「せっかくだからお盆前に何日か旅行に行こうと計画を企てていたんだけど、姉様がどうしても内浦に行きたいと聞かなかった」ズズッ


理亞「熱っ!?」ビクッ


聖良「いいじゃないか理亞。せっかくAqoursのみなさんとお会いできるのだから。それに、どうやら週末には浦の星女学院で文化祭もあるようだし」


理亞「ふん…本当は姉様の趣味の小汚い歴史書漁りが目的でしょ?そうでもなきゃこんなバスもロクに通ってないド田舎に来ようなんて言わないし」


善子「ド田舎?」イラッ


花丸「善子ちゃん抑えて」


梨子「え、えっと、歴史書漁りって?」


聖良「内浦に、私の敬愛する太宰治が1947年頃、【斜陽】という本の一部を執筆した際に宿泊していた旅館があるというのを聞いて…ここには当時の資料がいくつも置かれていると聞いて興味を持ったのです」


聖良「あ、でも勿論そっちはついでですよ。本当にAqoursの皆さんにお会いするのが第一目的だったんですから。文化祭でもステージを披露するのでしょう?楽しみにしていたんですよ」


理亞「どうだか…」ボソッ



聖良「ところでその千歌さんの姿が見えないのですが…」


梨子「……」


花丸「……」


善子「……」


聖良「…何かあったようですね。私達でよければ力になりますよ。どうぞお話をお聞かせください」ズズッ


梨子「実は…」


…………
……



聖良「成る程。神隠しですか…」


梨子「信じてもらえないかもしれませんが実際に起きていることなんです」


善子「それで千歌さんも曜さんもあんな風になったのよ…」


花丸「確認ですけど聖良さん。マル達Aqoursは何人グループずら?」


聖良「それは……」


善子「それは…?」


聖良「……」


善子 梨子 花丸「……」ゴクリ




聖良「7人です」



善子 梨子 花丸「あぁ…」ガクッ


梨子「そうよね…」


善子「分かってはいたけど…」


花丸「ずらぁ…」


理亞「バカバカしい。くだらないテレビの見過ぎよ」


善子「…」イラッ


聖良「まあまあ理亞。確かに、にわかに信じがたいことではあるよ。私の記憶ではAqoursに黒澤ダイヤ、及び黒澤ルビィという人物は存在しない。それに行方不明者が出たという事件も耳にしていない」


聖良「でもこの三人が嘘をついているとは思えない。非現実的とはいえ一応筋は通っている」


梨子「聖良さん…!」


善子「信じてくれるの!?」


花丸「頼もしいずら!!」



聖良「いえ、あなた方は『嘘をついている』のでは無く、『嘘を真実だと思い込んでいる』のです」



善子 梨子 花丸「!?!?」


善子「ちょ…ちょっとどういうことよ!?さっきまで信じてますよー話聞いてますよー力になりますよーって空気醸しといて…それであんたーー」バッ


花丸「善子ちゃん!落ち着いて!!」ググッ


善子「落ち着いてなんかいられないわよ散々バカにして!それに私はヨハネよ!!」ジタバタ


梨子「聖良さん…私たちは本当にーー」


聖良「よくそこまでのフィクションを創り上げたものですね。その創作意欲は評価します。ですがそれをフィクションに留めておかず域を越えて現実に持ち出すのはどうかと思いますよ?あなた達は傍から見たら異常者です」


梨子「そんな…」


聖良「そういった愚かな行為で他の誰かを驚かせたり傷つけたりしたんじゃないですか?間接的とは言え千歌さんと曜さんがああなったのもあなた達が原因なのでは?」


梨子「!!」


梨子「それは…」


聖良「思い当たる節があるようですね。恐らく他のAqoursメンバーもあなたたちのことを異常認識していますよ。口では大丈夫、気にしてないと言いつつも心の中では酷く軽蔑しています」


善子「こんの!!」ジタバタ


花丸「ダメ…善子ちゃん…」グッ


理亞「姉様、言い過ぎよ」


聖良「そんな状態でAqoursのステージは成り立つのですか?そういったチームワークの欠如が文化祭という公の舞台で恥をかく原因になるんですよ?他のメンバーの足を引っ張りたくないのなら目を覚ましてください。でないとまた東京で晒した醜態を繰り返すことになりますよ?
いいですか?Aqoursは7人です。7です。7。ラッキーセブン。黒澤なんとかいう姉妹など…そうだ。忘れてしまいなさい。最初っからいなかった。なんなら死ーー」


善子「いい加減にして!!」バッ


花丸「あっ!!善子ちゃーーー」



パチーン!!!



善子 花丸「!?!?」


理亞「なっ……」




梨子「……」


聖良「…梨子さん。この平手打ちはどちらですか?自分の思い通りにならないからと赤子のように駄々を捏ねた結果から生まれたものか、我に返り自らの虚言とそれを指摘された恥ずかしさを醜い怒りに還元して形にしたかそれとも…」


梨子「まだ言うかぁぁぁぁぁぁ!!!」ブンッ!



パシッ!



梨子「!?!?」



聖良「自分達の大切な…大切な仲間が忽然と姿を消し、ただでさえ不安と悲しみで胸が張り裂けそうだっていうのに、追い打ちをかけるように周りや肩を寄せ合う仲間も皆そのことを忘れてしまって完全に三人で孤立してしまい絶望的な運命に立たされるもなんとかして仲間を救いたい また九人で笑いたい泣きたい歌いたい踊りたい馬鹿やりたいたくさんたくさん思い出を作りたいそんな思いを胸に五里霧中を必死に…必死に手探りで進んでいるというありのままの事実を全否定されたことに対する…」スッ




聖良「本心からの怒りですか?」


梨子「なんで…」


聖良「だって…」




善子「うっ、うぅ…」ポロポロ


花丸「ぐずっ…ひっく……」ポタポタ




聖良「じゃなければ出ませんよ。そんな涙」



梨子「え…」ボロボロ



聖良「…試すようなことをして申し訳ありません。あなたたちの気持ちは痛い程分かりました」ギュッ


梨子「ぁぁ…」ボロボロ


聖良「叫んでも叫んでも誰にも声は届かなくて…下手したら助けたいはずの仲間を傷つけてしまうから、ずっと心の奥にその張り裂けそうな気持ちをしまい込んでいたんですよね。全く…本当に優しくて強くて…そして脆いのですね」


梨子「あぁぁ…」ボロボロ



聖良「人間は不幸のどん底に突き落とされ、ころげ廻りながらも、いつかしら一縷の希望の糸を手探りで探し当てているものだ」


聖良「…と、これは太宰治の名言の一つです」


聖良「自分で言うのもなんですが、今日ここでこうして再会できたのも何かの運。私たちも一縷の希望の糸となれるようその黒澤ダイヤさんの救出に全面協力させていただきます。だってAqoursは…」


善子「うっ、うぅぅ…」ポロポロ


花丸「ぐずっ…ひっく……」ポタポタ





聖良「9人で1つなんですから」ニコッ



梨子「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」ブワッ



理亞「はぁ…こんなところに5日間も…」ガクッ



…………
……


梨子「すみませんさっきは…ほっぺた大丈夫ですか?涙とかで服も汚しちゃって…その……」


聖良「気にしないでください」


理亞「…それで、その神隠しとやらの犯人がいるんでしょ?当てはあるの?」


善子「……」


花丸「ここに写ってるおかっぱの子で間違いないずら」


聖良「成る程この子が…確かにこの空白との距離の変化が奇妙ですね…」


聖良「どう?理亞。信じる気になった?」


理亞「…!」


理亞「まあ…確かにこの写真を見ればあながち嘘ってワケでもなさそうね」


善子「素直じゃないわね…」


聖良「とりあえず、状況を整理してみましょう。ペン、お借りしますね」



ーー
ーーーー


8月3日 ・黒澤ダイヤ失踪
8月4日 ・事件として扱われる
・三人が淡島に侵入
・鞠莉さんと思しき足音と声(?)
ーーーーーーー記憶操作ーーーーーーーー

8月5日 ・黒澤ダイヤの存在の抹消、
・黒澤ルビィ不登校化、
・上記に基づく記録改ざんが発覚
・50年前の神隠しについて知る

8月6日 ・神隠しが人に化けると知る
・高海千歌、渡部曜 一時行方不明
・淡島神社拝殿裏で発見


8月7日(現在)・上記二名、意識戻らず


8月9日 ・歩学祭(初日)

8月10日 ・歩学祭(二日目)

8月11日 ・歩学祭(最終日)
・神隠しが最後に姿を見せた日

ーーーー
ーー



聖良「まず、何故ダイヤさんが淡島へ向かいそして消えたのか?」


善子「これは淡島に異世界の扉があると考えるのが妥当ね」


聖良「そうですね。信じがたいですがおそらくそれは間違いないでしょう。ただ一つ気になったのが、ダイヤさんが淡島へ一人で向かったという点」


聖良「神隠しがいるのなら普通にさらってしまえばいい話。しかしダイヤさんは自らの意思で淡島へ向かったんですよね?」


善子「ええ。目撃情報や連絡船の船長曰くね」


聖良「こう考えるのはどうでしょう?ダイヤさんは元々淡島に向かうつもりなどなかった。しかし、偶然にも異世界の扉が開くスイッチがトリガーしてしまい同時にそれがダイヤさんが淡島へ行く引き金となった」


花丸「異世界の扉が開く誘発条件があるってことずらね」


聖良「はい。その証拠に50年前にはなかった事件が起きた」


聖良「第二、第三の被害者の出現」


善子「つまり、千歌さんと曜さんね」



聖良「そうです。話を聞いて、初めはランニング中に熱中症にでもあって、神社で休んだまま意識を失ったのかと思いました。しかし、雨で気温が下がった後で、あの活発な千歌さんと曜さんが、しかも二人同時に…考えにくいです…」


聖良「恐らくこれは神隠しにとって誤算だったはずです。さらうのは一人で十分なはずなのに、ダイヤさんに続き千歌さんと曜さんもたまたまその扉を開いてしまった…」


聖良「しかし、二人は消えませんでした。果南さん達により救助され確かにここにいます。本来なら今頃警察が駆け回って…明日には二人の存在も記憶も記録も綺麗さっぱり無くなっていたでしょう」


花丸「つまり異世界に行く条件が中途半端に達成されたってこと!?」


聖良「そうですね。だから失踪はしなかったものの二人はダメージを受けてしまった…」


聖良「ところで、淡島にはそういった噂が普段からあるのですか?それか悪霊を封印してある祠があるとか…」


花丸「淡島神社に祀られているのは弁天様だから、悪い霊ってことはないと思うずら」


聖良「成る程…ここはもっと調査する必要がありそうですね…」



梨子「狐…」



聖良「狐?」


梨子「千歌ちゃんがうなされてたんです。きつね…きつね…って…もしかしたら狐が関係あるかもしれない」


善子「ズラ丸。淡島神社に狐なんているの?」


花丸「ううん。イノシシが出たって話は聞いたことあるけど狐は無いよ…それに稲荷神社も無いし…」


聖良「狐…一応視野に入れておきましょうか」


聖良「次に、神隠しの犯人についてですが…そろそろマズいかもしれません」


梨子「え!?」


善子「どういうことよ!」


聖良「写真を見るにこのおかっぱの子は8月11日を最後に消えています。事件の起きた日時、状況変化がそのまま今回に反映されているを見るに、その犯人を見つけるタイムリミットは8月11日で間違いないと思います」


梨子「11日を越えたらダイヤさんはもう救えないってことですか!?」


聖良「おそらくですが…」


花丸「11日、文化祭の最終日だよ!」


聖良「文化祭は多くの人が集います。その神隠しが姿を見せる可能性が非常に高いです。当時もこれだけ写真に写っているのですから…」


善子「そこを見つけて捕らえようってワケね」


聖良「いえ、相手が人外なのは明白です。下手に刺激すると何が起こるか分かりません」



聖良「そこで一つ、私に考えがあります」



聖良「まず明日8日、私たちはもう少しこの辺りの歴史について調べ参考になりそうな情報を集めたい思います。梨子さんたちは文化祭前日なため準備に向かっていただき夜から調査に合流してください」


梨子「分かりました」


聖良「そして9日、10日…文化祭初日と二日目ですが、旅館での調査組と学校での張り込み役に別れたいと思います」


花丸「張り込み役?」


聖良「おそらく最終日以外は大丈夫かもしれませんが、一応文化祭に来た来場者をくまなくチェックして怪しい人物を逐一報告する担当はいた方がいいと思います」


聖良「最終日は全員総出で文化祭へ向かいます。また、淡島を訪れる不審者にも警戒しましょう」


善子 梨子 花丸「はい!」


花丸「マル達が不用意にこの話をして神隠しの耳にでも入ると厄介ずら。図書室の作業も諦めてこれからはここで作戦を練ろう」


梨子「うん。できるだけ千歌ちゃん達の側にいてあげたいし…」


善子「そうね…」


理亞「はぁ…」ゴロン


聖良「……」



花丸「じゃあ明日、いつも通り学校で!」タッタッタッ


梨子「うん!ばいばい!」タッタッタッ


善子「さよなら…」トボトボ



ヒュォォォォォォ…


善子「……」


聖良「善子さん」


善子「ひっ!?」


聖良「どうも」


善子「な、なんだ…驚かさないでよ」


聖良「申し訳ありません。そんなつもりは無かったんです」


善子「はぁ……」


善子「一体バス停まで何しに来ーー」




聖良「何か隠していませんか?」



善子「!?!?!?」


善子「そ、そんなワケ…」


聖良「目が嘘をついてます」


善子「はぁ!?」


聖良「それはとても大切なこと。今回の事件に大きく関わる…大切過ぎる故、二人には話すことができない。違いますか?」


善子「はぁ…あなたメンタリストにでもなったらどう?」


聖良「ふふっ。私はそういうのあまり興味ないんです」


聖良「でも、あなたたちには興味があります」


善子「!!」


聖良「まだバスまで時間ありますよね?よかったら聞かせてくれませんか?」


善子「……」


善子「分かったわ」



ピピピピ
ピピピピッ


梨子「……」ポチッ



【8月8日 黒澤ダイヤ失踪から5日】



「浦の星女学院前です」プシュー


梨子(千歌ちゃんも曜ちゃんも…まだ目が覚めない…)トボトボ



ブゥゥゥゥゥゥゥン!


梨子「?」


ザパァ!!


果南「ふぅっ…」カチャ


梨子「果南さん!」


果南「あ、梨子!おはよっ」



…………
……

果南「そう…まだ目が覚めないんだ…」


梨子「……」


果南「ステージも大切だけど、みんなの体が一番だからさ。もしかすると最終日も……ってことになるかもしれない」


梨子「はい…」


果南「まあ、あの二人なら仮に当日の朝に目が覚めても踊れそうだけどね」クスッ


梨子「あはは…」


梨子「?」


梨子「そういえば鞠莉さんは…?」


果南「ああ…鞠莉ね……」


梨子「?」


果南「ここんところすぐにいなくなるんだよ。学校に来てもすぐ消えちゃうし…最近は練習も無いから全然姿を見てなくてさ。千歌達を探した日だって連絡したのに返してくれないし家に行っても開けてくれない…どうしちゃったんだろうね」


梨子「!?」


ーー
ーーーー

花丸『果南さんは鞠莉さんに会わなかったの?』


果南『うん…どうして……』


梨子(確かに…普通にあの階段を登ってきたら二人は絶対遭遇するはず…)


梨子(じゃあ私たちが聞いたあの音と声はなんだったの?)

ーーーー
ーー


果南「まあ、どうせ明日の歩学祭で会うだろうし…その時はガツン!と言ってやるよ」クスッ


果南「じゃあ午後の練習で!天気次第だけど屋上に集合ね!」タッタッタッタッ


梨子「……」


梨子「まさか……」



果南「ワン!ツー!ワン!ツー!」パンパン


梨子「はあっ…はあっ」シュッシュッ


善子「くっ…」ブンブン


花丸「ずらぁ…」ヨロヨロ


果南「はい、今日はおしまい!」


善子 梨子 花丸「はぁ…」ドサッ


果南「…千歌と曜がああなって鞠莉も来なくて…やっぱ四人じゃ締まらないね…」


花丸(正確にはルビィちゃんとダイヤさんもなんだけどね)


善子「こんなんで当日大丈夫なの?」


果南「三人を信じるしかないよ…」


梨子「……」



カァ…カァ…カァ…


「ごめんなさいね。ルビィ、体調が悪いの…明日もちょっと…」


花丸「そうですか…お大事にと伝えてください。失礼します…」


ガラガラガラ…ピシャ


花丸「…はぁ。結局絵、間に合わなかったな…」


善子「ダメだったのね…」


梨子「大丈夫だよ。文化祭は三日あるし、明日ダメなら二日目に一緒に描いて最終日だけでも展示してもらえば…」


花丸「うん…」


善子「…っていうかズラ丸何よその大荷物」


花丸「聖良さんに頼まれた資料ずら」ヨロヨロ


善子「ふーん…」


善子「…なんか、最近毎日ドタバタしてたから今日はちょっとゆっくりできたわね」


梨子「うん…嵐の前の静けさじゃなければいいけど…」


花丸「明日からが本番だよ…とりあえず千歌ちゃんの家に行こう」



聖良「おかえりなさい」


理亞「疲れた……」グデッ


梨子「うわ…すごい資料の数……」


善子「これどうしたのよ…」


聖良「この旅館の美渡さん…でしたっけ?内浦中の資料館からありったけの資料を軽トラに積んで持ってきていただきました」


花丸「顔の広さ…恐るべしずら…」



聖良「コホン…皆さん、お掛けください。何点か分かったことがあります」


梨子「はい!」スッ


善子「……」ドキドキ


花丸「……」ゴクリ


聖良「まず、内浦のことについて詳しく調べたのですが…ここは富士山の絵を描く文化があるそうですね?」


花丸「うん!昔から展覧会をしたり、今も歩学祭で生徒の富士山の絵を飾る習慣があるずら」


聖良「それはいつ頃からだと思いますか?」


梨子「50年前の学校の写真には既に富士山の絵が写ってたわね」


花丸「うーん…確か北斎さんが伝えてったってばあちゃんが言ってたから明治よりもっと前かな?」


聖良「そこです」


花丸「え?」



聖良「その葛飾北斎についてです」



善子 梨子 花丸「!?」


善子「それと神隠しに何の関係があるのよ!」


聖良「皆さん、葛飾北斎と言えば何を思い浮かべますか?」


善子「え?えっと、昔の人?」


梨子「音ノ木坂の時、美術部で少し取り扱ったけど…浮世絵よね。ほら、波と富士山が一緒に写ってる有名な…」


花丸「神奈川沖浪裏(カナガワオキナミウラ)ずら」


梨子「そう!それそれ!」


聖良「北斎は富士山の絵を描く旅をしていました。江戸や山梨、そして静岡と…この辺りの美しい富士を厳選した作品…【富嶽三十六景】の創作にあたっていました」


聖良「北斎がこれを手掛けるため旅をしていた時代は1823年から約10年程…つまり、この内浦に富士山を描く文化が染み付いたのは約180年程前になります」


梨子「そんな前から…」


善子「じ、地獄の文化ね…」


聖良「さて、ここで私達は内浦のように北斎の影響で富士山を描く文化が染み付いた地域が他にないか調べてみました。すると…」


花丸「すると?」




聖良「無かったんです」



聖良「実際に富嶽三十六景が描かれた場所で真似て描く人は度々いるそうですが、北斎がこの文化を残していった地はここ、内浦だけなんです」


聖良「最初北斎は余程内浦から眺望する富士が好きで、みんなに描いてもらいたくてこの文化を残したと思ったのですがそれは違うと思いました」


善子「なんでよ?」


聖良「富嶽三十六景の中に、内浦から眺めた富士はないからです」


梨子「え?」


聖良「そんなに好きなら富嶽三十六景の中に内浦を入れるはずですよね?しかし北斎は入れなかった…」


花丸「内浦よりも他にもっといい場所が三十六箇所あったから?」


聖良「いえ、実は北斎の富嶽三十六景は三十六枚ではないんです」


善子 梨子 花丸「!?!?」


善子「三十六景なのに三十六じゃないの!?」


聖良「北斎は江戸に戻り富嶽三十六景を売ったのですが、余りにも売れたため追加で十作品…裏富士と呼ばれるものを描いたそうなんです」


梨子「じゃあ全部で四十六…ってことね」


聖良「はい。しかしその追加の十枚にも内浦の富士は無かった…」


聖良「花丸さん。毎年浦の星女学院の文化祭で行われる文化品展覧のリスト、持ってきてくださいましたか?」


花丸「とりあえず持ってこれるだけ…」ガサゴソ


花丸「ずらっ!」ドスン!!


理亞「!?」ビクッ



聖良「えーと…」ペラペラ


聖良「ありました…やはり、毎年北斎の絵が十点展示されているようですね」


梨子「やはり…って言いますと?」


聖良「これは別の時期に内浦の公民館で行われる北斎愛好会の資料です」ドスン!!


理亞「!?!?」ビクビクッ


聖良「こちらは贋作ですが、北斎のファンが十点の絵を評価し合い親睦を深める会で昔から行われています」


聖良「何か気付きませんか?」


花丸「あ!!飾られている十点が全く同じ絵だ!」


善子 梨子「!?」


聖良「そう、四十六作品の中から毎年毎年同じ十点を展覧しているのです。ずっと昔から。おかしいと思いません?なんでこの十点にこだわるのでしょうか?十枚それぞれの県や特徴はバラバラですし、しかも、特に有名な【凱風快晴】や【山下白雨】、先程挙げた【神奈川沖浪裏】もありません」


聖良「展覧会は贋作ですが、文化祭は本物です。その本物を執拗に…しかも神隠しのこの時期に送り付けてくるなんて奇妙です」


聖良「更に…これは偶然かもしれませんが、浦の星女学院の文化祭の名前は何でしたっけ?」


梨子「何って、歩学祭…ですよね?」


梨子「!!!」



梨子「!!!」


聖良「歩学祭…ふがくさい…富嶽祭……読みが全く一緒です。漢字は学校創立当時から歩学の方でしたが、富士山を意味する富嶽に学校らしさがある漢字が当てられたのがその名の由来だと思います」


善子「じゃあ内浦にある富士山にかかわる文化は…」


花丸「全部葛飾北斎によるものずら!?」


聖良「間違いないと思います」


聖良「私の仮説はこうです。内浦の富士を富嶽三十六景、及び追加の十景に加えなかったにも関わらずこの地に富士の文化を残したのは何故か?そこから毎年同じ絵が展覧されるのは何故か?そう、北斎は神隠しについて知ってしまった。それを口外すると呪い殺されるか自分も神隠しに遭うと思った北斎は、その詳細を暗号にして毎年内浦に送り続けることで、誰かに解いてもらおうと思っていた。そのため少しでも多くの人に富士に興味を持ってもらおうとこの文化を残した」


花丸「つまり、ミソは『神隠しはもっと前から起こっていた』ってことと、『その十点に隠された暗号を解けば神隠しの謎が解ける』ってことだね』


聖良「流石です、花丸さん」


善子「信じられないわ…嫌という程見てきた富士山の裏にそんな謎が隠されていたなんて…」


梨子「じゃあ…180年もの間誰も解けなかった…そもそもそのメッセージに気付かなかったってことよね。こんな有名な人なのに…きっと知ったらショックでしょうね」


聖良「なので、明日の歩学祭の張り込み役には展示されている十点を見て怪しい点があればそれを報告してください。恐らくその場で直ぐに解けるようなものではないでしょう」


聖良「分担は、私と梨子さんが残って解読にあたります」



梨子「聖良さん、よろしくお願いします」


聖良「梨子さんには千歌さん、曜さんの側にもいてもらいたいので…」


聖良「そして、花丸さん、善子さん…それから理亞には張り込みのため文化祭に行ってもらいます」


善子「よし!やってやるわよズラ丸!」


花丸「ずらっ!」


理亞「ふわぁ……張り込みね…」ノビー


理亞「え?」


聖良「特にターゲットからは目を離さないようお願いします」


梨子 花丸「え?」


理亞「ちょ、姉様!なんで私が…」


聖良「理亞もたまにはそういうところで肩の力抜いた方がいいからね」


理亞「そんな…」ガクッ


梨子「ちょ、ちょっと待ってください!!」



聖良「?」


梨子「ターゲットから目離すな…ってどういうことですか?」


善子「……」


花丸「善子…ちゃん?」


理亞「実は分かってるんじゃないの?誰が神隠しの犯人か」


梨子「そ、それは…」


善子「ごめん梨子さん、ズラ丸…疑っちゃダメって分かってても怪しい点が多すぎて…」


梨子「そうだけど…でも……」


花丸「……」


聖良「まだ怪しいってだけで犯人確定ではありません。ですが要警戒に越したことはありません。無論、例のおかっぱ頭が現れる可能性もありますから」


梨子「はい……」


花丸「分かったずら」


善子「任せて。何かしらの手がかり掴んでくるから」


梨子「…お願いね。私も頑張るから」


理亞「はぁ…面倒ごとが起きなければいいけど…」



ピピピピ
ピピピピ…


梨子「……」ポチッ


梨子「……」


梨子「ついに来たわね…」



【8月9日:黒澤ダイヤ失踪から6日】



花丸「じゃあ、行ってくるずら!」


善子「見てなさい…黙示録を我が手に収めてくるわ」


梨子「二人とも、お願いね!」


理亞「姉様、行ってきます…」シブシブ


聖良「楽しんでおいで」ニコッ


プップー
ブロロロロ…


しいたけ「ふわぁ……」ムニャムニャ



鞠莉「ただいまより第52回、歩学祭の開会をここに宣言します」


ヒュゥゥゥゥゥゥ…
パーン!パパーン!!


ワァァァァァァァァァァ!!!!



…………
……


理亞「はぁ…」


理亞「こういう賑やかなところは苦手なのに…」


花丸「おーい理亞さーん!!」タッタッタッタッ…


理亞「遅過ぎ」


善子「仕方ないでしょ。開会式長過ぎなのよ」


理亞「花丸だっけ?さっさと浮世絵のとこに案内して」


花丸「うん、行くずら」


善子「……」


善子(ダイヤさんがいなくなってあっという間の6日間だった…)


善子(この3日間は特に時間を大切にしないと…)



「いらっしゃいませー!ゆっくりご覧くださーい」


理亞「ふーん、これが富嶽三十六景…昨日資料で嫌という程見たけど実物は実物。中々迫力あるじゃん」


善子「ズラ丸、確か並びもずっとこの順番なのよね?」


花丸「うん。絶対に順番を変えたりしないっていうお約束があるらしいよ」

ーーーーーーーーーーーーーー

・青山圓座枩(あおやまえんざまつ)
・武州玉川(ぶしゅうたまがわ)
・相州江ノ島(そうしゅうえのしま)
・御厩河岸より両国橋夕陽見(おんまやがしよりりょうごくばしゆうひみ)
・信州諏訪湖(しんしゅうすわこ)
・駿州片倉茶園(すんしゅうかたくらちゃえん)
・登戸浦(のぼとのうら)
・身延川裏不二(みのぶかわうらふじ)
・礫川雪ノ旦(こいしかわゆきのあした)
・駿州大野新田(すんしゅうおおのしんでん)

ーーーーーーーーーーーーーー

理亞「本当にこの中に暗号が?」


善子「絵を見たって素人の私には全然分からないわ」


花丸「やっぱ、そういうのをかじってる聖良さんに送って解いてもらった方が早いずら」


善子「そうね」ピロリン


理亞「さあ、とっととターゲットを探そう」


花丸「さっき開会宣言が終わってからも体育館にいたから、まだそんな遠くに行ってはないと思うよ」


善子「……」


善子「本当にあの人なのかな…」


花丸「善子ちゃん…それは……」


理亞「今更何言ってるの。早くして」



パーンパパーン!


梨子(始まったみたいね…)



聖良「小原鞠莉」


梨子「……」


聖良「彼女は今年、50年ぶりにこの地に身を下ろした神隠し。間違いないでしょう」


梨子「はっきり言いますね」


聖良「考えてみてください。2年振りに海外から帰ってきたばかりの生徒がどうして生徒会長になれるのでしょう?」


梨子「それは…」


聖良「神隠しは化けた人間の記憶や記録を勝手に植えつけることで、何の違和感も無く人々の生活に溶け込んでいます。ですがどうしても矛盾してしまうこともある。違う角度から見つめないと…見つめようとしないと絶対に気付かないようなこともあります」


聖良「他にも小原鞠莉な怪しい点はたくさんあります。記憶操作が起こる前に皆さんが体験した淡島神社での出来事、学校に行っても常にどこかを徘徊しているところ、千歌さんと曜さんのピンチにーー」


梨子「やけに詳しいんですね」


聖良「はい。善子さんが胸の内を語ってくれましたからね」


梨子「善子ちゃんが!?」


聖良「ずっと彼女を疑っていたそうです。しかし同時にそんな自分を否定して常に葛藤の中にいたのです。仲間を疑うなんてできない、でも怪しい…と。それをあなたや花丸さんに話せずにいたことも悩んでいたそうです」


梨子「そうですか…」


梨子(善子ちゃん…優し過ぎるよ……)



ピロリン!



聖良「噂をすれば…善子さんから連絡です。展示されている富嶽三十六景の写真が送られてきました」


梨子「思ったより随分早いわね…」


聖良「理亞の性格ですから…とっとと済ませたかったのでしょう」


梨子「うわ…こんなにたくさん…」


聖良「成る程…やはりこの順番は絶対なのですね」

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

・青山圓座枩(あおやまえんざまつ)
・武州玉川(ぶしゅうたまがわ)
・相州江ノ島(そうしゅうえのしま)
・御厩河岸より両国橋夕陽見(おんまやがしよりりょうごくばしゆうひみ)
・信州諏訪湖(しんしゅうすわこ)
・駿州片倉茶園(すんしゅうかたくらちゃえん)
・登戸浦(のぼとのうら)
・身延川裏不二(みのぶかわうらふじ)
・礫川雪ノ旦(こいしかわゆきのあした)
・駿州大野新田(すんしゅうおおのしんでん)

ーーーーーーーーーーーーーーーーー


聖良「富士に統一性、共通性が無い…やはりこれは絵では無く名前にカラクリがありそうですね」


梨子「あ!聖良さんここ見てください!!」


聖良「ん?」


《1833年(天保4年)8月11日 十一人 萬》



梨子「何かの日付でしょうか…」


聖良「1833年…旅を終えた北斎が富嶽三十六景を売りだしていた頃…」


聖良「そしてこの8月11日という日付…偶然にしては出来過ぎている。やはり北斎は神隠しのことを知っていたに違いないですね」


聖良「で、最後の 十一人 萬 という謎の文字」


梨子「確か北斎は一人旅をしていたわけではないんですよね?」


聖良「そうですね。何人か付き人がいたそうですが…それが十一人であるかは分かりません」


梨子「日付は1833年8月11日から内浦に絵を送っていたことを表していて、十一人は旅の人数、萬は当時の印鑑か何かですかね?」


聖良「それかそんなの全く関係なしに全て暗号の可能性もあります。日付は数字なのに人数は漢数字で統一していないところが怪しいですからね」


聖良「漢数字の十一を含めて数字は10あります。絵の数も10。順番にこだわるということは絵の名前と、数字と同じ位置にある文字が呼応していると考えるのが妥当でしょう」


聖良「つまり、まずは1833年の1.8.3.3。1番目から4番目の絵の名前の1文字目、8文字目、3文字目を2つ抜き出すと…」


梨子「1つ目の絵は1文字目だから、青山…の『あ』!2つ目の絵は8文字目だから、…玉川の『わ』!3つ目と4つ目の絵は3文字目だから、それぞれ相州、御厩河岸の『し』と『ま』!」


梨子「あわしま!すごいです聖良さん!!」


聖良「このまま同じように当てはめていくと…」


聖良「あ・わ・し・ま・ゆ・く・の・み・こ・す」


梨子「……」


聖良「……」


梨子「そんな甘くはありませんでしたね」


聖良「ですね…考え直しましょう」



「茶道部寄って行きませんかー!!」

ザワザワ…

「2A映画やってまーす!!」

ザワザワ…

「昼から体育館でバンドやりまーす!!」



鞠莉「……」



理亞「見つけた」コソコソ


善子「出店には目もくれないで歩いてるわ」コソコソ


花丸「こんなに美味しいのに勿体無い」モグモグ


果南「金持ちに庶民の味は分からないのよ」モグモグ




理亞「いくつか手短に突っ込ませてもらう」


理亞「食うな!誰だ!お前も食うな!!」ビシッ

花丸「理亞さんもじゃがバター食べる?」モグモグ


理亞「いらない!」


果南「誰だなんて酷いなー。Aqoursの松浦果南だよ」モグモグ


理亞「あ、あぁ…」



果南「久しぶりだね!遠いのにワザワザ来てくれるなんて…もしかして暇してた?」モグモグ


理亞「…」イラッ


果南「あれ?お姉さんの方が見えないけど…もしかして迷子?」モグモグ


理亞「…」イライラッ


果南「あ、じゃがバター食べーー」


理亞「いらないって言ってるでしょ!!」ドカーン!


善子(何この恵まれし煽りの才能)


花丸(本人悪気はないんだけどなぁ…)


鞠莉「……」テクテク


理亞「動いた!」


果南「ははぁん。さては鞠莉に惚れたな?尾行をするためにわざわざ北海道からーー」


理亞「もう帰る」


花丸「ごめんなさい!」


善子「彼女、ワザとじゃないの。堕天使に誓うわ」


理亞「…ったく」


果南「ふふっ…実はね、私も鞠莉を追跡してたんだよ」



花丸「え!?」


善子「なんでよ?」


果南「最近の鞠莉、なんか怪しいしちょっと後をつけてみれば秘密が分かるんじゃないかって思っててね」


善子(成る程…願ったり叶ったりね)


花丸(頼もしいずら…多分鞠莉さんの追跡は果南さんが一番慣れてるはず)



理亞「分かった。だったら三人で後をつけて。じゃ」スッ


善子「ちょ、急にどうしたのよ!?」


理亞「私は迷子だから。姉様を探すのよ」ギロッ


果南「?」


花丸(あー完全にキレてる)


理亞「他に怪しい人物がいないか探しとくから…ターゲットは任せる。その人無理」ヒソヒソ


花丸「分かったずら」ヒソヒソ



善子「何よあの子」


果南「よ~し、こっそり追跡するとしましょうか…」


花丸(大丈夫かな~)



善子「……」


花丸「……」


果南「……」



鞠莉「……」ガチャ


果南「入っていったよ…」


善子「ズラ丸…これでどんな感じ?」


花丸「えっと、部室、化学準備室、音楽室、理事長室…そして生徒会室……」


善子「見事に模擬店の無い教室だけをウロウロしてるわね」


果南「もしかして…教室の順番に何か意味があるのかな…」


花丸「デジャヴずら」


果南「デジャヴ?」


花丸「いや、何でもないずら」



善子「頭文字だと《ぶ・か・お・り・せ》…違うわね」


花丸「最後の文字だと《つ・つ・つ・つ・つ》…ずら…」


善子「当たり前でしょ?全部『室』で終わるんだから…」


果南「階もめちゃくちゃだし何か法則はないのかな?」


果南「毎日こんな風に歩き回ってるなんて…一体どういうつもりよ……」


鞠莉「……」ガチャ


善子「出てきたわ!」コソッ



花丸「ん?」


果南「また階段に向かってるよ」コソッ


善子「はぁ…登ったり降りたり…こっちの身にもなってほしいわ」コソッ


果南「行こう」スッ


善子「はいはい、了解」スッ




花丸(鞠莉さんのほっぺた…遠くてよく見えなかったけど……)


善子「ズラ丸!」


花丸「あ、うん!」スッ




ーーあれは、涙の跡。



「チュロス売ってまーす!!!」


「家庭部、クッキー焼きました!!」



理亞「はぁ…ホント疲れる」


理亞「大体肩の力抜いてこいってどういう意味?こんな騒々しいところ疲労で逆に肩凝り固まるってのに」


理亞「明日は姉様に張り込みをーー」


「パンフレットどうぞー」パサッ


理亞「あ…どうも」スッ


理亞「うわ…どんだけド派手に作ってるのこれ。見苦しいイラストばっかりあしらってるせいで肝心の出店の案内が見にくすぎ」ペラッ


理亞「ん?」


理亞「最後のページのこれは?」


夕凪の梢

黄昏迫る 港町
津々浦々を 紅く染めん
眠りにつかん 風と波
静か穏やかの 安らぎ破り
顔を覗かせよ 妖百鬼
吹き荒れる 風と波 静寂よ沈め
ああ我ら強くあらん 全てに抗い
ああ我ら浦の星 ここに有り


理亞「…ああ、校歌か。さっき体育館から聞こえてきた歌と同じだ」


理亞「で、曲名が《夕凪の梢》ってどういうこと?普通は《◯◯高校校歌》でしょ。作曲者の名前も書いてないし…」


理亞「ん?」


理亞「えっと…『《夕凪の梢》は日本一高くそびえる富士に体を向けその想いを届けるよう元気よく歌うことで生徒達のーー』」


理亞「……」


理亞「いらない」クシャ



「17:30になりました。本日の模擬店は終了です。片付けをし、速やかに下校の準備に移ってください」


善子「はぁ…」


果南「結局、一日追いかけ回すだけで終わっちゃったね…」


花丸「とくに成果無しずら…」


善子「ホント分からないわ。おんなじ部屋を何度も何度も行ったり来たり…何がしたいのよ」


果南「鞠莉…どうして…」



理亞「ちょっと」


花丸「あ、理亞さん」


理亞「帰る。早く」クイッ


善子「先に帰ってればよかったじゃない…」


理亞「姉様にくどくど言われるの嫌だから」


善子「はぁ…めんどくさいわねぇ…」


果南「あれ?近くに泊まってるの?」


花丸「うん!千歌ちゃんのおうちーー」


花丸「ん!?」ガバッ


理亞「言わなくていいから」ググッ


果南「へえ、そうなんだ。だったら私もーー」


理亞「いい」


果南「?」


理亞「明日姉様を連れてくるので旅館には来ないでください」


果南「あ…」


花丸(あーあ…)


善子(完全に嫌われてるわね)


果南「じゃあみんな…また明日……」ショボン


花丸「さ、さよなら…」



プップー
ブロロロロロロ…


理亞「なんなのあの人!失礼にも程がある!!」


花丸「まあまあ、果南さんも悪気があったわけじゃ…」


善子「スカッとを通り越して少しかわいそうだったわ。見てて…」


理亞「絶対明日は行かない」プイッ


花丸「ずらぁ…」


理亞「…それで、何か分かったの?」


善子「…さっぱりよ。挙動は明らかにおかしかったけど尻尾は見せなかったわ」


花丸「やっぱり11日にならないとダメなのかな…」


理亞「私も、特に怪しい人は見かけなかった。大体あの写真に写ってたおかっぱ頭が現代にそのまま現れたらひと目でわかるでしょ」


善子「はぁ…何も分かんないまま一日が終わっちゃったじゃない…」


花丸「あとは帰って梨子さん達と暗号を解くしかないずら」


善子「そもそも暗号なの?あれ」


理亞「……」


善子「ちょっと、聞いてる?」



理亞「…ん?ああ、ごめん」


善子「何ぼーっとしてるのよ」


理亞「別に…富士山見てただけ」


善子「はぁ?」


理亞「常に景色に富士山があるあなたたちには分かってもらえないかもしれないけど、結構驚いたの。私たちがイメージする富士山って頭が白くて、そこから下が青っぽい山肌なんだけど…いざ本物を見てみたら雪も積もってないし夕陽に染まって真っ赤だし……」


善子「そんなの当然でしょ?夏の夕方なんだし」


理亞「そうね。でも驚いたの。山って言えば緑、アルプスって言えば白、富士山って言えば青と白ってイメージがあるでしょ?でも、そう言うのは実際に見てみないと本質が分からないんだなって…先入観で決めつけるのはよくない。そう思っただけ」


善子「やっぱよく分かんないわ、あなた」


理亞「別にいい、分かってもらわなくて」


善子「…」


理亞「…」


花丸「ず、ずらぁ…」



花丸「えっ!?全く分からなかった!?」


梨子「ごめんねみんな…」


聖良「すみません皆さん…文字は早々に違うと判断して絵の解読に移っていたのですがさっぱりで…」


理亞「姉さん私寝る…」ヨロヨロ


聖良「ああ、お疲れ様。楽しめたかい?」


理亞「…」ギロッ


聖良「そうか…楽しかったんだね?」


聖良「明日も行ーー」


理亞「いや」ゴロン


聖良「いやそう言わずに…」


理亞「姉様が行って」


聖良「もし明日も行ってくれたら北海道に帰る前に動物園に連れてってあげるけど…」


理亞「……」




理亞「本当?」


善子 梨子 花丸「!?!?!?」


聖良「ああ、本当だよ。上野動物園にしよう。パンダに会える」


理亞「分かった。明日も行く」


聖良「頼んだよ?理亞」



善子「成る程ね。よーく分かったわさっきの本質やら先入観やらの話」


理亞「……」スゥスゥ…



ーーーーーーーーーーーーーーーーー

1833年(天保4年)8月11日 十一人 萬

・青山圓座枩(あおやまえんざまつ)
・武州玉川(ぶしゅうたまがわ)
・相州江ノ島(そうしゅうえのしま)
・御厩河岸より両国橋夕陽見(おんまやがしよりりょうごくばしゆうひみ)
・信州諏訪湖(しんしゅうすわこ)
・駿州片倉茶園(すんしゅうかたくらちゃえん)
・登戸浦(のぼとのうら)
・身延川裏不二(みのぶかわうらふじ)
・礫川雪ノ旦(こいしかわゆきのあした)
・駿州大野新田(すんしゅうおおのしんでん)

ーーーーーーーーーーーーーーーーー


花丸「うーーーーん…」


聖良「やっぱり文字の方でしょうか?この数字と漢字が暗号で…」


梨子「私は絵を見ても分かんないから文字の方で解きます…」


善子「私も」



2時間後…



聖良「……」


梨子「やっぱ分かんない…」グデン


善子「魔力切れよ…」


花丸「うーーーーん…」


善子「ズラ丸、あんたも休んだら?」


花丸「富士山が一つ…富士山が二つ…」


善子「羊みたいに数えないで」


…………
……



花丸「富士山が三十五つ…富士山が三十六つ…」


梨子「結局最後までやるのね…」


花丸「富士山が三十七つ…富士山が三十八つ…」」


聖良「!!」



善子「あぁ、そういえば四十六ーー」


聖良「それです!!」ビシッ


花丸「ずら!?」


梨子「急にどうしたんですか!?」


聖良「私としたことが忘れていました。そうです。この絵は全部で四十六枚でした…」


聖良「つまり追加の十作である『裏富士』が紛れていたんです。この中で裏富士に当たるのは…『駿州片倉茶園』、『身延川裏不二』、『駿州大野新田』…この三作品だけ後ろから数字を数えてもう一度当てはめてみましょう」


梨子「そうすると…『あ・わ・し・ま・ゆ・か・の・じ・こ・ん』です」


聖良「これでも意味が成り立たない…」


花丸「うーんなんか納得いかないずら」


聖良「何がです?花丸さん」


花丸「この駿州…って静岡県のことだよね?それが裏富士って言われるのが心外ずら」


聖良「まあ追加の作品ですし仕方ありませんよ」


善子「多分ズラ丸が言いたいのはそういうことじゃないと思うわよ」


聖良「?」


梨子「どういうこと?」



花丸「我ら静岡県民の抱える永遠の確執…」


善子「そう、それは山梨県との領土問題!!」


聖良「?」


花丸「静岡県民は富士山を自分たちの県のものだと思ってて」


善子「逆に山梨県民は富士山を山梨県のものだと思ってるのよ」


花丸「それに静岡県民は山梨から見る富士のことを裏富士って言うし…」


善子「山梨県民は静岡から見る富士のことを裏富士って言うのよ」


梨子「へぇ…知らなかったわ」


聖良「成る程…確かに心外と言いたくなる気持ちも分かります。裏富士にはそう言った確執でお互いをーー」


聖良「……」


聖良「…成る程、そういうことですか」


善子「え?今のしょうもない話で何か閃いたの?」


聖良「しょうもなくなんてありません。北斎はちゃんともう一つの裏富士を理解していたんです」


聖良「道理でよそ者には分からないわけだ…」


梨子「どういうことですか?」



聖良「富嶽三十六景追加の十作品を裏富士と呼ぶのとは別に、ここ内浦…つまり静岡県の視点では山梨県の富士も裏富士と呼びます」


花丸「なるほど…つまりこの中にある山梨県の富士山…『信州諏訪湖』と『身延川裏不二』も数字を反対から数えるんだね!」


梨子「あれ?でも『身延川裏富士』って追加の十作品って意味で既に裏富士よね?」


聖良「裏の裏…つまりこれは表ってことです。前から数字を数えましょう」


善子「そうすると…

ーーーーーーーーーーーーーーー

1833年(天保4年)8月11日 十一人 萬

●裏富士

・青山圓座枩(【あ】おやまえんざまつ)
・武州玉川(ぶしゅうたまが【わ】)
・相州江ノ島(そう【し】ゅうえのしま)
・御厩河岸より両国橋夕陽見(おん【ま】やがしよりりょうごくばしゆうひみ)
●信州諏訪湖(しんしゅ【う】すわこ)
●駿州片倉茶園(すんしゅう【か】たくらちゃえん)
・登戸浦(のぼと【の】うら)
●●身延川裏不二(【み】のぶかわうらふじ)
・礫川雪ノ旦(【こ】いしかわゆきのあした)
●駿州大野新田(すんしゅうおおのしんで【ん】)


『あ・わ・し・ま・う・か・の・み・こ・ん』

になるわね…これでも意味が分からないわ…」



聖良「また行き止まりですね…」



ーー更に1時間後…


花丸「……」スヤスヤ


善子「ズラ丸脱落ね」


梨子「仕方ないよ、もうこんな遅いし…」


聖良「煮詰まりそうでしたがつい長引いてしまいましたね…視点を変えてみましょう」



聖良「日付とは別にあるこの漢字…やはりこれが鍵ではないでしょうか…」


【1833年(天保4年)8月11日 十一人 萬】


善子「そもそも最後の漢字が読めない…」


梨子「これは『よろづ』じゃなかったかしら?」


聖良「そうですね。しかし何故よろづなのでしょう…」


善子「今は昔…竹取の翁といふ者ありけり。野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり…」


梨子「それ、竹取物語だよね?」


善子「ええ。補習で覚えさせられたんだけど、確かよろづは『色んな使い方がある』って意味よね?」


梨子「…分かった!この漢字の『十一人 萬』はいくつかの使い方があるってことよ!」


聖良「そうだとすると、やはりこの十一の一つ目の使い方は11に置き換えての文字に当てはめる…というもので間違いなかったですね。他には…」


善子「確かよろづって、『萬』って漢字以外に『万』とも書くわよね?八百万(やおよろず)とも言うし…」


梨子「待って!だとしたら『十一人 万』になる!更に人という字ををにんべんに変換して漢字の一と合体させると『千』!!」




三人「十千万!!!!!!!!!!」



梨子「この旅館の名前!!!」


善子「灯台下暗しってこと!?信じられない…」


美渡「あれ?まだ起きてたの?」スススッ


聖良「…すみません。騒がしくしてしまったでしょうか?」


美渡「いいよ。今日は他にお客様いないし…」


美渡「…それに、何だかよく分かんないけど千歌達のために頑張ってくれてるんでしょ?ありがとう…」


梨子「美渡お姉さん…」


美渡「志満ねえもおんなじ気持ちだからさ。私や志満ねえにできることがあったら何でも言いつけて!」


梨子「ありがとうございます!」


聖良「…それではさっそくお聞きしたいのですが、こちらの旅館…十千万はいつから経営されていますか?」


美渡「チェックインは14:00からだけど…」


聖良「質問の仕方が悪かったですね、すみません。こちら十千万が創業を開始されたのは何年ですか?」


美渡「うーん…確か明治20年だから1887年だったと思うけど…」



聖良「北斎の時代と微妙に合わない…」


梨子「北斎はもう少し前ですよね?」


美渡「あ、でも実際は大正7年(1918)なんだけどね」


梨子「え!?」



聖良「どういうことですか!?」


美渡「十千万は元々、漁村の旅籠(はたご)として別の場所で経営してたんだけど、県道開通に合わせてここに移動して観光旅館を始めたんだよ。それが大正7年(1918)」


梨子「元々十千万があった場所はどこですか?」


美渡「ごめんそこまでは…」


聖良「……」


聖良「…では、当時の場所からこちらへ移転された時の物を保管している倉庫はありますか?」


志満「あら?ここにいたのね」


美渡「げっ」


梨子「志満お姉さん!」


志満「夜更かしして何のお話かしら?私も混ぜてほしいわ」


志満「夜の後片付け、明日は全部お願いね」ボソッ


美渡「ひっ」


梨子「あはは…」


美渡「そ、それでさっきの話の続きを…」


聖良「あ、そうでした。えっと…大正7年当時、元々の旅籠からこちら十千万に経営を移された際に持ち込まれた物を保管している倉庫があるかどうかなんですが…」


美渡「志満ねえ分かる?」


志満「うーんそうねぇ…先代の方々に聞いてみないと何とも言えないかな。多分分からないと思うけど…」


梨子「やっぱりそんな昔の物ーー」


志満「あ!!」


梨子 聖良「!!」



美渡「志満ねえ何か思い出したの!?」


志満「そうだわ…ふふっ、そうね。あの時は美渡ちゃん、まだ赤ちゃんで千歌ちゃんも生まれてなかったわね」


美渡「え?」


志満「平成9年(1997)に十千万の全館新装の工事をしてね?当時私はあちこちにビニールシートが張られた旅館の様子に驚いて旅館中を探検してたんだけど、その時一つだけ改築をしないでそのままにしてある部屋があったの。近くで大工さんが話してたのを聞いたんだけど、そこは昔の旅籠から移してきたものを保管してあるって言ってたわ」


聖良「これは…」


梨子「驚いたわ……」


美渡「ま…マジ?」


聖良「そ、その部屋はどこにあますか!?」


志満「ふふっ、その前に…」チラッ


善子「……」スヤスヤ


梨子「あ、善子ちゃんいつの間に…」


志満「三人共風邪引いちゃうと困るからとりあえず毛布を掛けてあげてから行きましょ?」パサッ


聖良「はぁ…理亞は着替えもしないで…」パサッ


聖良「ん?」


聖良(ポケットに何か…)クシャ


聖良(これは文化祭のパンフレット…ふふっ。なんだ、やっぱ楽しんでたじゃん)



梨子「ここが…」


美渡「《富嶽の間》…棟の隅っことは言え我が家にこんな部屋があったなんて全っ然知らなかった…」


聖良「名前からしてここで間違いないでしょう」


志満「開けるわね?」ガチャ


ギギギギギ…


梨子「ケホッ!?埃が凄い…」


聖良「窓が無くて真っ暗…外部から隠す必要があったってことでしょうか?」


美渡「懐中電灯持ってきて正解だったなこりゃ…」パチッ


志満「こんなに散らかってたのね…こんなガラクタの山から何を探せばいいのかしら?」


聖良「何か葛飾北斎に関係するものがあるかもしれません。それを探してください」ガタッ


聖良(北斎は十千万…いや、前の旅籠が創立するもっと前に暗号を作り絵と共にこの地へ送っていた…時系列がおかしいのは気になるけど…)


美渡「じゃあ追加の懐中電灯持ってくるよ」ガタッ


美渡「ん?」ガタガタッ



聖良(その謎も分かるかもしれない…)


志満「どうしたの?」


美渡「あれ、おかしいな…」ガタガタッ


美渡「ふんっ!!!!!!」グググググ…


美渡「ぷはぁ…!!」


美渡「……」


聖良「?」


志満「美渡…ちゃん?」


梨子「まさか…」


美渡「……」クルッ


美渡「閉じ込められちゃった…」


梨子「え…」



えええええええええええええぇぇぇぇぇぇ!?!?!?



ピロロロロロロ…
ピロロロロロロ…


理亞「う…朝……」モゾッ


理亞「あれ?」


理亞(毛布?)


花丸「くかー」スヤスヤ


善子「むにゃむにゃ…」


理亞「ちょっと」ツンツン


花丸「…ずら?」


理亞「ずら?じゃなくて、姉様は?」


花丸「あれ?いない…梨子さんも…まさか文化祭に行ったのかな?」


善子「…ん?」パチッ


理亞「まさか。荷物とかここに置きっ放しだし」


理亞「ん?」


ーーーーーーーーーーーーーーー


1833年(天保4年)8月11日 十一人 萬


・青山圓座枩(【あ】おやまえんざまつ)
・武州玉川(ぶしゅうたまが【わ】)
・相州江ノ島(そう【し】ゅうえのしま)
・御厩河岸より両国橋夕陽見(おん【ま】やがしよりりょうごくばしゆうひみ)
●信州諏訪湖(しんしゅ【う】すわこ)
●駿州片倉茶園(すんしゅう【か】たくらちゃえん)
・登戸浦(【の】ぼとのうら)
●●身延川裏不二(【み】のぶかわうらふじ)
・礫川雪ノ旦(【こ】いしかわゆきのあした)
●駿州大野新田(すんしゅうおおのしんで【ん】)


『あ・わ・し・ま・う・か・の・み・こ・ん』

ーーーーーーーーーーーーーーー



理亞「まさかこれが答え?意味が分からない」


理亞「……」


理亞(この散らかりよう…私が眠っても相当遅くまで頭ひねってたんだ)


花丸「結局答え出なかったのかな…」


善子「うーん…陽の光……体が溶ける…」ノビー


理亞「寝ぼけてないで早く支度して。もう…先に行ってるから」スッ


善子(何よ。動物園行きたいからって張り切っちゃって)


花丸「それにしても梨子さん達どこへ行ったんだろう…」


善子「ん?携帯が四つあるけど…」


花丸「ほんとだ…これが梨子さんと聖良さんのだから…あり得るとしたら志満お姉さんと美渡お姉さんずら」


善子「四人でどこかへ行ったってこと?」


花丸「何か分かったのかもしれないね」


善子「そうね…もう時間が無いわ。せめて今日中に異世界に行く方法と神隠しの正体を暴かないとね。じゃあ行きましょう。待たせるとうるさいから」スッ


花丸「ずら」スッ



「ふうっ…全く、美渡ねえも志満ねえもどこ行っちゃったのさ仕事放ったらかして。練習遅れちゃうってのに」プリプリ



善子 花丸「!?!?!?」


「ん…?」クルッ


「!!!」


花丸「あ…ああ……」


善子「嘘…でしょ……」




千歌「は…花丸ちゃん…それに善子ちゃん!?!?」


【8月10日:黒澤ダイヤ失踪から7日】



梨子「ん……」


パチッ!


梨子「うっ…眩しい…」


美渡「あ、ごめん…」


志満「おはよう梨子ちゃん…って言っても、何時か分からないんだけどね…」


梨子「そうだ…閉じ込められたんでしたね…」


聖良「本当に申し訳ありません…私が扉を閉めなければ…」


梨子「仕方ないですよ!昔からそのままで扉が老朽化するのも無理ないですし」


美渡「いや…私たちが定期的にこの部屋を掃除していればこんなことに…」


志満「とにかく…探しましょう?」





志満「あの後、聖良ちゃんが話してくれた事が全部本当ならもう時間が無いと思うわ」


梨子「……」


美渡「……」ゴクリ


聖良「そうですね」



千歌「………」


花丸「ごめんね突然こんなこと…」


善子「信じてもらえないかもしれないけど全部本当なの」


千歌「曜ちゃんは…」


花丸「まだ寝てるよ。でも千歌さんが目覚めたなら曜ちゃんも時期に起きてくるかも…」


千歌「そう…」


花丸「安心して?ずっとみんなで頑張って謎を解いてきたしそれにーー」



千歌「少し頭冷やしてくるね…」フラッ


花丸「!!」


善子「あ…待ってーー」


バッ!


善子「ちょっとズラ丸!!」


花丸「頭の整理がつかないのは当然だよ…しばらく放っておこう?」


善子「……」


善子「分かったわよ…」



…………
……


花丸「千歌さん」


千歌「……」


花丸「部屋入っても大丈夫ずら?」


善子「……」


千歌「うん…」


花丸「……」ススッ


千歌「私ね…?」


善子 花丸「!!」


千歌「最初梨子ちゃん達がそう言いだした時、怖かった。Aqoursで…七人で頑張っていこうねって、ずっとやってきたのに突然知らない人がAqoursだ!って言われて」


花丸「……」


千歌「梨子ちゃんも善子ちゃんも…それに花丸ちゃんも、そんな酷いこと言うような人じゃないし三人揃ってどうしちゃったんだろうって思った」


千歌「次の日に勘違いだったって言われて…一体何だったんだろうって思ったけど、それ以上にすっごく安心した。やっぱAqoursはAqoursで…それ以上でもそれ以下でも無いんだって……歩学祭も七人で最高のステージにしたいなって…」


千歌「でもランニングしてて気が付いたらこんな……」


花丸「千歌さん……」


千歌「やっぱ分かんない…分かんないよ!!!!神隠しだとか異世界だとか北斎だとか…こんなに日が経って文化祭が始まってて鞠莉さんが犯人で疑われてて曜ちゃんも眠ったままで…みんなどうしちゃったの!?Aqoursはどうなっちゃったの!!?なんでこんなバラバラになっちゃったの!?今まで頑張ってきたじゃん!!あんなに仲良かったじゃん!!なのに…なのになんで……」ボロボロ



花丸「千歌さん……」


善子「……」


千歌「…さっきの話が本当ならそのダイヤって人のせいだ…その人がみんなをバラバラにしたんだ…」


花丸「違うよ千歌さん!」


善子「そうよ!ダイヤさんはーー」


千歌「美渡ねえは…志満ねえはどこ?」


善子「!!」


善子「それは…分かんない……」


千歌「二人もそのダイヤって人がどこかにやっちゃったんでしょ?全部全部全部全部ダイヤが悪いんだよ!!!」


善子「違うって言ってるでしょ!!なんで分かってくれないのよ!!」ドン!


花丸「二人とも落ち着いて!!!」



理亞「散々待たせて!早く準備してって言ったのにこんなところで何やってるの!?黒澤ダイヤを救わなくていいワケ!?」ガラガラガラ!



千歌 善子 花丸「!?!?!?」


理亞「なっ…高海千歌……あなたどうして」


千歌「Saint Snowの理亞さん…どうしてここに……それに今ダイヤって…」


理亞「……」


理亞「はぁ…そういうことか。だから喧嘩してたのね。合点がいった」スッ


千歌「え…」


理亞「……」グイッ


千歌「り、理亞さん近ーー」



ギュッ…


千歌「!?!?」


善子 花丸「!?!?」


理亞「私だってあなたと同じ。何がなんだかさっぱり分からない。神隠しだなんだって…バカみたいよね?何言ってんだって話よね?何ワケわかんないことで必死になって涙垂らしてんだって思うわよね?せっかく楽しみにしてた旅行の行き先でこんなことが起きて正直フザケんじゃねぇよって気持ち」


善子「あなた何を…」


花丸「……」



理亞「ん」パサッ


千歌「これは…」


理亞「暗号のメモ。新しい紙。なのにこんなに書き殴ってボッロボロ」


千歌「……」


理亞「来て」グイッ


千歌「ちょっ…」




理亞「……」ズカズカ


千歌「理亞さん…どこへ…」


千歌「!!!」


理亞「その紙よりひどいのが何十枚ってある。ここの資料、全部姉様や桜内梨子、それにそこの二人が調べ尽くした。何でだと思う?」


千歌「え…こんな…」


理亞「ん」グイッ グイッ


花丸「痛っ!」グイッ


善子「ちょっと何すんのよ!?」グイッ


理亞「見て二人の手」


千歌「ボロボロ……」



善子「離して!」バッ


花丸「……」バッ


千歌「なんで…」


理亞「分からない?こんな何がなんだか分からないバカみたいな事に必死になってる理由」


理亞「あなたの大好きなAqoursのため」


千歌「!!!!」


理亞「記憶が無いんだから起こってることを分かろうとしたって無駄。そうでしょ?そこは私も同じ。でもあなたが悠長に眠ってる間私は近くでこの子達を見てた。Aqoursのために考えてAqoursのために泣いてAqoursのために必死になってAqoursのために仲間を疑った」


花丸「……」


善子「……」


千歌「みんな…」


理亞「私は友情とか愛情とかそんなの分からない。でもこの子達や姉様を見てて初めて感じた気持ち。多分それがそうなんだと思う…」


理亞「あなたが寝てる間にバラバラになったAqoursはあなたが寝てる間に元に戻ろうとしてきた。でもダメ。そんな時ついに目が覚めたAqoursのリーダー高海千歌。あなたならどうする?どう動き出す?」


千歌「……」


理亞「正直納得できないこともたくさんあると思う。それは仕方ない。理屈を全部分かってなんて言えない。でもこれだけは言える」


理亞「あなたが動き出さなきゃAqoursは一生バラバラのまま。仲間を信じて」


千歌「……」


善子「くっ…」ポロッ


花丸「千歌さん…」




千歌「夢を見たんです」


理亞「!!」



千歌「淡島神社で凄く怖い曜ちゃんに殺されそうになって命からがら旅館に戻ってきたらそこにいた皆も私を殺そうとしてくる。その瞬間淡島神社に戻ってまた殺されそうになる。それが何度も何度も繰り返されて……」


千歌「でも、少しずつ内容が変わっていくの。私を殺そうとしてた人が一人…また一人って私を守ってくれるようになる。そして最後はみんなが私を守ってくれるようになった…」


千歌「嬉しかった…嬉しかったけどダメだなぁって思った。なんで守られてばっかなんだろうって。なんでこんなに弱いんだろうって…」


千歌「…だから花丸ちゃんと善子ちゃんから話を聞いた時、Aqoursのために私が動かなきゃ…守らなきゃって思った。でも同時に、このまま鞠莉さんを疑って動いたらもう今までのAqoursじゃ無くなっちゃうんじゃないかって思った…」


千歌「だから受け入れられなくて…ごめんなさい。花丸ちゃんや善子ちゃん…それに梨子ちゃんや聖良さんがこんなにも頑張ってくれてたなんて全然知らなくて……私リーダー失格だ」


善子「そんなこと…!」


千歌「でも!!!」


善子「!!」


千歌「私も頑張りたい!私はバカだし頼りないし鞠莉さんを疑えないしダイヤさんってのが誰なのかも分からない…でも!みんなを信じたい助けたい!!みんなよりできることは限られるけど…Aqoursが元通りになるのならリーダーとして力になりたい!!」


花丸「マルもだよ…本当は鞠莉さんのこと疑いたくなんてない。本当にこのままでいいなんて思ってないずら。だからコソコソしないでちゃんと話し合うべきだと思う!」


善子「ええ、私もよ。こんなやり方じゃAqoursは元通りにならないから…そして絶対にダイヤさんを取り戻して千歌さんに本当のAqoursの素晴らしさを思い知らせてやるわ!」


花丸「あとルビィちゃんも!!」


千歌「絶対にAqoursを…いつもの生活を取り戻そう!」


オーッ!!


理亞「はぁ…ほんと分かんない。こういうの」


理亞「まあ、悪くはないかも…」ボソッ



ダダダダダダダダダダッ



理亞「ん?」


果南「千歌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」ダダダダダダダダダダッ


理亞「げっ…」


千歌「果南ちゃん!!」


果南「よかった…千歌……目が覚めたんだね……」ダキッ


千歌「うん…ごめんね心配かけて…」ギュッ


理亞「なんでいるのよ…」ボソッ


善子「私が呼んだのよ。悪い?」ボソッ


理亞「バカ」ボソッ


花丸「あはは…」



果南「…成る程ね、だからコソコソ鞠莉を追っかけてたのか」


果南「それにこの部屋の散らかりよう…じゃあ、ずっとそのダイヤって人を助けるために奮闘してたんだね」


花丸「ごめんなさい…」


善子「やっぱ怒ってる?この間言ったこと未だに引きずってて…でも冗談じゃないの。信じて…」


果南「……」


理亞「やめてよ?さっきみたいなクドクド面倒くさいの…」ボソッ


果南「はぁ…信じるよ」


善子 花丸 理亞「!!!」


果南「最初聞いた時は耳を疑ったけど…ここまで不可解なことが続くと流石に信じるしかなさそうだね…」


果南「それに、花丸達が言う本当のAqoursっていうの興味あるし」


千歌「果南ちゃん!!」


果南「何よりかわいい千歌達をこんな目に合わせたその神隠しが許せないから」


花丸「じゃあ…!!」


果南「協力するよ。私も千歌と一緒でなんにも分かんないからできることは限られるけどね」



千歌「わぁ…!!」


善子「よし!どんどんAqoursが元通りになっていくわ!!」


理亞「ほっ…」


善子「じゃあズラ丸、指揮お願い」


花丸「ずら!?」


善子「聖良さんがいなくなった今、一番頭がキレるのはズラ丸なんだから」


千歌「花丸ちゃん!」


果南「私たちもしっかりサポートするよ!」


理亞「私も一番まともだと思う」


花丸「…うん、分かった!」


花丸「…とりあえずやらなきゃいけない事は、梨子さん達を探す事、異世界に行く方法を突き止める事、鞠莉さんと直接話し合うこと、神隠しの正体を暴くこと」



善子「梨子さん達、本当に大丈夫なの?」


花丸「まず、机の上に四人の携帯があったから四人が一緒にいるということは間違いないずら」


花丸「…理亞さん、梨子さん達の靴あった?」


理亞「確かあった。姉様のも」


千歌「志満ねえと美渡ねえのもあったよ!」


花丸「なら大丈夫。聖良さんと梨子さんが連絡手段の携帯を置いて志満お姉さんと美渡お姉さんを連れて靴も履かずに淡島へ侵入するなんて考えられないずら」


花丸「それに、マル達に毛布がかけてあった。旅館で働く志満お姉さんだよ?もし遠くへ行こうものなら先にマル達を布団まで運ぶと思う。毛布で済ませたってことは、多分すぐに戻るつもりだったんじゃないかな?」


果南「じゃあどこに行ったんだろう?」


花丸「マルが寝るまでずっと一緒に北斎の暗号とにらめっこしてたから、あの後何か分かったんだと思う。それで美渡お姉さんや志満お姉さんを呼んで二人にしか分からないことを聞いたんじゃないかな?例えばこの旅館のこととか」


千歌「!!」


花丸「恐らく、それで梨子さんと聖良さんはそこに行く為に二人に案内してもらったんじゃないかな?そして何かしらの事故があって四人で閉じ込められちゃったんだと思う」


善子「つまり助けを待ってるってことよね?」


千歌「なら私が探す!!この旅館のこと知ってるのは私だけだから…絶対に助けたい!!」


花丸「任せたずら!」



花丸「それから曜さんの側にいてあげる人も必要だよ。千歌ちゃんより長く寝てる分もしかしたら重要な記憶を取り戻すかもしれないずら」


果南「それなら任せて!私が側にいるよ。私も分からない側の人間だし、曜が目覚めた時変に混乱させないように状況を説明する。それに旅館の仕事、ちょっとくらいなら分かるから千歌を手伝う!」


花丸「分かったよ!」


千歌「ありがとう果南ちゃん!」


花丸「じゃあまた昨日の張り込み組三人で文化祭へ向かおう!もし他に怪しい人がいたら絶対に逃さないようにするずら!」


善子「ええ、そのつもりよ!」


理亞「了解」


果南「鞠莉のこと、頼むね?」


花丸「任せるずら!」


花丸「明日がタイムリミットの11日。もう時間がない。必ず今日中に全てを成し遂げるずら!」


オォォォー!!!


理亞「…お、お~っ」


しいたけ「わんわん!!わん!!!」



ヒュー…パン!パパーン!!


「いらっしゃいませー」

ザワザワ…

「券お持ちの方こちらにお並びくださーい」

ザワザワ…



花丸「色々あってお昼過ぎになっちゃったずら…」


善子「色々あってよかったじゃない。本当に…」


花丸「うん」


花丸「本っ当によかったずら♪」


花丸「あ、ところで理亞さんはもう行った?」


善子「とっくにね」


花丸「できれば理亞さんが見つけてくれればマル達がこんなことしなくてもいいのにね…」


善子「あ!出てきた!」



鞠莉「……」テクテク



花丸「また昨日みたいに学校中を歩き回るはず。教室に入って行ったら突入して問い詰めるずら」


善子「まだ疑いが完全に晴れたわけじゃないしくれぐれも油断しないようにね…」



梨子「はぁ…見つからない…」ドサッ


聖良「明かりも一つで効率が悪いですね」


美渡「……」カチカチピカピカ


志満「美渡ちゃん眩しい」


美渡「はいすみません…」


美渡「……」


志満「……」


美渡「やっぱ扉にタックルして助けをーー」


聖良「ダメです。ただでさえ老朽化してるのにそんなことしたら壁や天井が崩れてきます。下手したら上の階がそのまま落ちてくるかもしれません」


美渡「はいすみません…」ショボン


美渡「…で、でもこのままじゃ助けを待つしかないってこと?」


聖良「理亞達が気付いて私たちの捜索を始めていればいいのですが…神隠しと勘違いしてパニックになっている可能性も十分にありえます」


美渡「神隠しなんてただの作り話だと思ってたのに…まさか内浦で本当に起こるなんてな……」


梨子「…本当に信じてくださって…協力してくださってありがとうございます。急にこんな現実離れしたワケ分からない話をされても困りますよね…」


美渡「いや?急にじゃないさ」


梨子「え?」


美渡「ここ最近ずっと遅くまでウチで頑張ってくれてたの知ってるからさ。大切な大切な千歌達のために必死になってる人を信じないなんてそりゃできないよ」


志満「そうねぇ。私達も千歌ちゃんの…いえみんなのお姉さんとして力になれればいいと思ってるわ」


梨子「美渡お姉さん…志満お姉さん…」ジワッ


美渡「その神隠しってのの首根っこ捕まえてしいたけに食わせてやる!」グッ


志満「しいたけをなんだと思ってるの?」



志満「…コホン、多分神隠しされたダイヤちゃんって女の子が戻ってくればみんなの記憶も元通りになるんじゃないかしら?本当の全員が揃ったAqoursのステージ、見てみたいわ」


梨子「本当にありがとうございます…」ポロッ


聖良「とにかく今は理亞達を信じて、私達は私達にできることをしましょう」


美渡「よし、懐中電灯の電池が切れる前にとっとと北斎の物を見つけちゃおう!」ガサガサ


志満「あ、そこの山は崩れーー」


美渡「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」ドンガラガッシャーン!


志満「まぁ…」


梨子「だ、大丈夫ですか!?」


美渡「助けて…」チーン


聖良「ん?あそこにある木箱……」


志満「とりあえず重いのをどかしましょう?梨子ちゃんそっち持ーー」


聖良「ちょっと失礼します!」ギュッ


梨子 志満「!?」


美渡「いだだだだだだ踏んでる踏んでる!!」ジタバタ


聖良「よし取れた!」


美渡「よしじゃない!!」




……


美渡「はぁ…助かった」


聖良「すみません、大丈夫ですか?」


美渡「しいたけが乗ってきた時より苦しかった…」


聖良「なっ…///」


梨子「と、とにかく箱を開けましょう!」


志満「この箱…他の物と違って全く埃を被ってないわ…それに木も装飾もしっかりしててかなり大事なものなんじゃない?」


美渡「これはかなり怪しいな」


聖良「恐らくこれが異世界への鍵を握ってるのは間違いないでしょう」


美渡「……」


志満「……」


梨子「……」ゴクリ


聖良「開けますよ?」



せーのっ!!



ガラガラガラガラ…


花丸「……」


善子「入ったわね」


花丸「化学準備室…この辺りは歩学祭で使われてないから周りに誰もいないずら」


善子「何かあっても助けは呼べない…ってワケね」


花丸「決めたように、あえて神隠しのことには触れずに明日のステージのことを話そう」スタスタ


善子「分かってるわよ」スタスタ


ピタッ…


花丸「開けるずら…」ドキドキ


善子「ええ」ドキドキ


花丸「も、もし鞠莉さんがーー」


善子「ズラ丸」


花丸「!!」


善子「信じるのよ」


花丸「……」


花丸「分かったずら!」バッ


ガラガラガラガラガラガラ!!


善子 花丸「!?!?」


花丸「あ…あれ?」


善子「いない…どういうこと?」


花丸「!!」


ヒュォォォォォォォ…


花丸「窓が開いてるずら…まさか飛び降りたんじゃ!」


善子「ここは1階よ!」



鞠莉「お久しブゥリデース」


善子 花丸「!?!?」クルッ



美渡「な…なんだ……?」


梨子「巻物……?」


志満「まぁ…中身はボロボロね…」


聖良「志満さん、破かないように開いてもらえますか?」


志満「ええ。慎重に…慎重に…」クルクル




聖良「!?!?!?!?!?!?」


梨子「この絵は…」


志満「随分汚れてて見にくいけど…何かの行列かしら?境内に向かって歩いているのを後ろから絵にしたみたいね」


美渡「あ!奥にちょびっと富士山が描いてある。あれ?でもこの場所どこかで見たような…」


聖良「淡島神社」


三人「!!」


美渡「そうだ!淡島神社の境内だ!!」


梨子「どうして淡島神社が…それにこの行列は…」


志満「あら?ここを見て!《葛飾北斎》の名前が書いてあるわ!!」


美渡 梨子「!!!」


梨子「なんで北斎の絵が…」


聖良「成る程…そういうことでしたか」



美渡「分かったのか!?」


聖良「はい。これが北斎の暗号が示していたものです」


梨子「え!?」


聖良「見てください、この行列。何かおかしいところはありませんか?」


美渡「…おかしいところ…いや、普通の行列のように見えるけど…みんな袴を着て笠を被ってるとか?」


梨子「真ん中の人だけ美しい着物を着てる…くらいですかね」


志満「耳…」


美渡 梨子「!?」


志満「よく見て…後ろ姿で見にくいけど、袴の人はみんな笠から耳が飛び出してるわ。その真ん中の人以外みんな頭から耳が生えてるの…」


美渡「なっ…!?」


梨子「これは人間じゃない!?」


聖良「狐です」


志満 梨子「狐!?」


梨子(やっぱり千歌ちゃんがうなされてた時のあれは…)



聖良「先程の北斎の暗号、《あ・わ・し・ま・う・か・の・み・こ・ん》…何かしっくりこないと思っていたんですが、もう一捻りあったんです」


聖良「漢数字の《十一》にあたる平仮名は最後の二文字《こん》。後ろにあった文字《萬》にならい、まだ他にも使い方があるとしたら……ここだけが漢数字である意味は?それは《こん》が漢字の音読みである事を示しているのではないでしょうか?」


梨子「つまり音読みに《こん》を持つ漢字…ってことですか?たくさんあると思いますけど…」


聖良「確かにそうですが、これが狐に関するものだとしたらすぐに説明が付きます。こうです!!」

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1833年(天保4年)8月11日 十一人 萬


・青山圓座枩(【あ】おやまえんざまつ)
・武州玉川(ぶしゅうたまが【わ】)
・相州江ノ島(そう【し】ゅうえのしま)
・御厩河岸より両国橋夕陽見(おん【ま】やがしよりりょうごくばしゆうひみ)
●信州諏訪湖(しんしゅ【う】すわこ)
●駿州片倉茶園(すんしゅう【か】たくらちゃえん)
・登戸浦(【の】ぼとのうら)
●●身延川裏不二(【み】のぶかわうらふじ)
・礫川雪ノ旦(【こ】いしかわゆきのあした)
●駿州大野新田(すんしゅうおおのしんで【ん】)


『あ・わ・し・ま・う・か・の・み・こ・ん』


こん=魂=たま、たましい


『アワ シマ ウ カ ノ ミ タマ』


『淡島宇迦之御魂神(あわしまうかのみたま)』

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聖良「葛飾北斎が何故この内浦に富士を描く文化を残し人々に興味を持ってもらおうとしたのか?何故内浦から江戸に帰った後売れ行きが良かったからだと別の理由で誤魔化して作品の名前にそぐわなくなってしまうにも関わらず追加の十作品、通称裏富士を描いたのか。何故歩学(富嶽)祭を毎年開催し同じ絵を送りつけるようになったのか?」


聖良「それは、この絵の存在を示す暗号を作る為。それが神隠しの正体だと知ってもらう為。誰かにその忌まわしき呪いを断ち切ってもらう為」


聖良「富嶽三十六景は三十六枚では無い。しかし四十六枚でも無い。約180年もの間、誰にも見つからなかった隠されし四十七枚目の作品…《淡島宇迦之御魂神(アワシマウカノミタマ)》
これが葛飾北斎の内浦に捧げた全て!!!」


梨子「……」


志満「……」


美渡「……」


美渡「…驚きで言葉も出ない」


梨子「このために北斎は……」


志満「…でも、宇迦之御魂神(ウカノミタマ)ってお稲荷さんだよね?淡島神社とは何も関係ないわ…」


美渡「あ、それに一番最後の《神》って漢字が余っちゃう…」


聖良「《神》に関しては正直はっきりとは言えません。しかし複数の可能性があります。まず、《神》という漢字の部分は発音しないので暗号から省いた可能性…」


聖良「次に、単に《神》という漢字が入るのを知らなかった可能性。富嶽三十六景の一つに《甲州石班澤(こうしゅうかじかざわ)》がありますが、《かじか》という字は《鰍》と書くので、北斎が間違えたとされています。つまり北斎が漢字に弱かった故に起きてしまった可能性です」


聖良「最後に、本来は伏見稲荷神社を始めとした各地で神聖な神として祀られている宇迦之御魂神が、何故か淡島神社に棲みつく悪霊となっていたため《神》という表記を抜いた可能性」


梨子「成る程…」


聖良「そして、その淡島神社と宇迦之御魂神の関連性の謎…これは最終的にこの旅館の謎とも結びつきます」


美渡「え?」


志満「どういうこと?」



ーーーー
ーー


「今日からたこ焼き200円に値下げするんでお願いします買ってください!」

ザワザワ…

「この後15:00から体育館で書道部による巨大書き初めショーやりまーす!」

ザワザワ…



「まいどありーっす!」


理亞「……」モグモグ


理亞「……」モグモグ


理亞「……」


理亞「……」


理亞「寂しい」


「あの~すみません」


理亞「!!」


「もしかしてSaint Snowの鹿角理亞さんですか?ですよね!!」


理亞「そうだけど」


「私、すっっごく好きなんです!よかったら握手してください!!」


理亞「う、うん…///」ギュッ


「わぁぁぁぁぁ/// 超嬉しい!まさかこんなところで会えるなんて思わなかったから…全国頑張ってください!ずっと応援してます!!」タッタッタッタッ


理亞「……」


理亞「……」


理亞「楽しい」



理亞「…コホン、そうじゃなかった」


理亞「…思ったけどこれ私いる?」


理亞「神隠し、どの道明日には学校に姿見せるんだろうしこんなとこフラフラしててもしょうがない」


理亞「小原鞠莉は国木田花丸と津島善子が追ったし家には高海千歌と松浦果南が姉様の捜索と渡辺曜の看病をしてるし…」


理亞「私にできることって何だろう」


理亞「黒澤ダイヤのいる異世界に行く方法…そんなの何を調べたらいいか分かんないし…」


理亞「ん?」


理亞「確か黒澤ダイヤには妹がいて…黒澤ルビィとか言ったっけ?」


理亞「引きこもってるとか言ってたけど…家にいるかな?」


理亞「……」


理亞「行こう」



ーーーー
ーー

聖良「仮に北斎が未来を見ていたとしたら?」


聖良「時代と照らし合わせてこう考えてみてはどうでしょう?北斎は昔…1823年頃から富嶽三十六景の作成に取り掛かるため、風景を探しに旅に出ました」


聖良「そして1830年8月11日、旅を終え江戸に戻る頃たまたま寄った内浦の淡島神社から見える富士を絵にしようと思い足を運んだところ、そこで見てしまった。あの絵の奇妙な行列風景を。しかしそれは近い未来に起こりうる悲劇の始まり。北斎はその幻となって表れた未来を見た」


聖良「その日泊まった宿で北斎は夢を見た。狐に呪い殺される夢を。その正体はあの神聖なお稲荷さん、宇迦之御魂神の変わり果てた姿だった」


聖良「北斎は淡島神社や夢で見たものを口外すると殺されると思い、その時の風景を絵にしてその旅館にこっそり預けた。その旅館の未来も知っていたから…そして、この地に様々な富士の文化を残すよう努めた後江戸に戻った」


聖良「そして裏富士の制作にとりかかった。何故なら既存の三十六枚では暗号が完成しないから。そして、三年後…あの暗号にあった1833年(天保4年)8月11日より毎年内浦に富士を送ることを始めた」


聖良「さて、北斎が亡くなってとっくにそんな文化も染みついていた1887年、北斎が泊まった旅館は旅籠となり繁盛するようになった。そんなドタバタに揉まれ北斎の預けた絵はいつしか倉庫の奥へ…」


聖良「更に時は過ぎ大正7年(1918)、当時の旅籠がここ三津浜に移転したのは。旅館は北斎が未来を見据え、暗号で示した通り《十千万》という名前になった。しかし既に北斎の渾身の一枚の存在を知る者は誰もおらず、私たちが今いるこの倉庫で長い眠りにつくことになった」


聖良「…さて、黒澤ダイヤさんが神隠しにあった現在は2018年。過去に神隠しがあったのは浦の星女学院創立2年目の1968年、十千万としての経営が始まったのが1918年。何か気付きませんか?」


梨子「あ!!50年サイクル!!!」



美渡「つまり1918年にも神隠しがあったってこと!?」


聖良「これだけでは1918年の神隠しを証明できません。たまたま50年サイクルになってるだけかもしれないので。しかし更に50年前の1868年のとある出来事が完全に証明してくれます」



梨子「1868年…前に花丸ちゃんが熱く語ってた気がします。確か神社とお寺がきっぱり別れて…」


梨子「!!」


美渡 志満 梨子「神仏分離令!!!」


聖良「これが全ての元凶。元々神道と仏教は共存するものとしてきましたが、神道から仏教を排除しようと1868年4月5日より本格的に始まった運動です」


聖良「そこで廃仏毀釈、つまり寺院、仏像、教典、仏具等の破壊が行われました。その動きは過激で、中には壊すことだけが目的の野蛮な輩も多くいたということです」


聖良「恐らく、そんな輩に多くの稲荷像が壊されたのではないでしょうか?もう一度北斎の《淡島宇迦之御魂神》を見てください」


美渡「あ!こことここ…鳥居の前に描いてあるの稲荷像だ!両方ともボロボロ…」


聖良「この運動で大量に出た稲荷像の破片を、当時居住者の居なかった淡島まで運び不法投棄し埋めたことで狐の怨念が密集、増幅したのでしょう。それに怒った狐達の最上位である《宇迦之御魂神》が狐の霊魂を従えこの忌まわしい事件に繋がったのでしょう」



聖良「北斎がどこまで分かっていたのかは正直分かりません。十千万として経営を始める1918年から悪夢が始まると予言していたのか?しかし絵にある壊れた稲荷像を見ると廃仏棄釈を予言していたとも考えられます」


聖良「しかし彼は自分の作品を暗号として未来に生きる私たちへ託してくださいました。今内浦にあるのどかな富士の文化は、彼による警告だったのです…」


梨子「……」


志満「……」


美渡「……」


美渡「…なんかさ、そう聞くとかわいそうな気もするよね。姿は見えないけど、今までずっと人々に拝められ愛されてきたと思っていたのに一部の馬鹿な人間が好き勝手に壊して棄ててったんだから…裏切られたんだからそりゃ怒っても仕方ないよね」


志満「でも、それが神隠しをして良い理由にはならないわ。罪のない幼気な女の子が連れ去られちゃったわけでしょ?」


梨子「確かに像を壊して捨てたことは悪い事ですが、それを恨んで仕返しするのも悪いことだと思います!現にダイヤさんや千歌ちゃんや曜ちゃんがこんなことになったのも…」


美渡「ま、まあ確かに…」



聖良「しかし困りました」


三人「?」


梨子「何がですか?」


聖良「神隠しの歴史や原因は分かりましたが、その異世界に行く方法は北斎も突き止めていなかったようです。廃仏毀釈が起き始めた1868年時点で彼はもう亡くなっているので仕方ないのですが…このままではダイヤさんを助けることはできません」



梨子「そんな…」


梨子「何か…何かあるはず……」


梨子「…あの、千歌ちゃんと曜ちゃんの事件があってから淡島を訪れている人はいますか?」


美渡「結構いると思う。勿論淡島神社にもね。特に立入禁止とかの騒ぎにはなってなかったと思うよ」


志満「特にこの3日間は混むと思うわ。歩学祭のついでに寄って行く人も多いだろうし…」


梨子「つまり…訪れた人がむやみやたらに異世界に引きずり込まれるってことは無さそうですね」


聖良「どうでしょう…明日はタイムリミットの11日です。何かが起きてもおかしくありません」


美渡「50年前はまだ淡島がリゾート開拓されてなくて人はいなかった。だとしたら今年は今までの神隠しとは違う。大勢の人が巻き込まれる可能性が大きい!!」


志満「どうしましょう…明日は書き入れ時だろうし営業中止なんてないでしょうね…」


梨子「そもそもこの話をしても誰も信じてくれないと思います…」


美渡「くっそ…どうしたら…」


聖良「つまり明日、淡島を訪れるはずの人々を自然と歩学祭に誘導し安全が確保されたところで私たちが異世界への道を開きダイヤさん救出に向かうのが最善ですね」


美渡「課題が一つ増えちゃったな…」


梨子「何か方法があるんですか!?」


聖良「淡島へ向かうはずの人々が思わず歩学祭に訪れたくなること…それは……」


梨子「それは……」


志満「……」


美渡「……」ゴクリ




聖良「Aqoursのステージです」



梨子「え!?」


聖良「正直望みは薄いです…千歌さん達が目覚めるかどうかも分かりませんし、鞠莉さんが《淡島宇迦之御魂神》の可能性も低くはありません…」


梨子「……」


聖良「ですが、これはAqoursにしかできないことです。μ'sを夢見て奇跡の産声を上げ、ひたすら上を目指し奮闘するも東京で大敗を喫する…しかしそこから…0から立ち直る驚異的な底力で再びのし上がって予備予選合格…太陽のように輝くために遠くに光る小さな星を目指す…タフで、貪欲で、猪突猛進で、最高なあなた達ならきっと奇跡を起こすはず」


梨子「聖良さん…どうしてそこまで…」


聖良「ふふっ…信じてます。Aqoursを…」


美渡「うん。あの子、昔からピンチの時は涙流して立ち上がって必ずひっくり返してきたからさ。姉の私なら分かる。あのバカ千歌なら絶対にやってくれる。なっ、志満ねえ?」


志満「ふふっ…そうね。破天荒なところ…誰に似たのかしら?」チラッ


美渡「なっ…なんでこっちを見る…?」ビクッ


聖良「ふふっ♪」


梨子「皆さん…」



ドン!ガタガタガタ…



四人「!!」


梨子「あ…」


志満「さあ…」


美渡「眠り姫のお目覚めかな?」ニシシ


聖良「奇跡の号令がかかりますよ」クスッ



ガラガラガラガラガラガラ!!



梨子「あぁ…」ポロッ



千歌「みんな!助けにきたよ!!」



梨子「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」ダッ


ギュッ!


千歌「のわっ!?」ステン


梨子「ちかちゃんちかちゃんちかちゃぁぁぁぁぁぁん!!!」ブワッ


千歌「もう…梨子ちゃんてば」ギュッ


志満「よかった…」グスン


美渡「うんうん…」ズビッ


聖良「助かりました。ありがとうございます。千歌さん」


千歌「うん!梨子ちゃん、美渡ねえ、志満ねえ、Saint Snowの鹿角聖良さん!心配かけてごめーーー」



ドクン…



千歌「!!!!!!!!!」


千歌「……」


志満「…?」


美渡「千歌…?」


聖良「…どうしたんですか?」



千歌「分かる…分かるの……」


聖良「分かるって何がですか!?」


千歌「ダイヤさんとルビィちゃん」


聖良 美渡 志満「!!!!!!!」



聖良「思い出したんですか!?全部分かるんですか!?」


千歌「Aqoursは全部で9人で…明日になったらダイヤさんが消えちゃうから…なんとかして取り戻さないと…」


美渡「えっと、これは…記憶がその、5日より前に戻ってるってこと!?」


志満「眠っている間に思い出したのね!」


聖良(ん?これは記憶操作が起きるの前の記憶戻っている…というよりーー)



ドサッ…


四人「!!!」


梨子「……」


千歌「梨子ちゃん!!」


聖良「どうしたんですか梨子さん!?」


梨子「う…うぅ……」


志満「とにかく、部屋まで運びましょう!」


美渡「分かった!」


千歌「梨子ちゃん…どうして…」


聖良(なんで梨子さんが…)


聖良(一体何が起きているんだ…)



ブロロロロロ…


理亞「来ちゃった」


理亞「黒澤家…ここね」


理亞「……」ドキドキ


理亞「…どうしよう。お邪魔する口実がない」


理亞「二人を連れて来ればよかったかな」


理亞「猫が迷い込んだとかなんとか適当な理由つけーー」


理亞「ん?」


理亞「扉が少し開いてる…」


ガラガラガラ…


理亞「ごめんくださーい」


シーン…


理亞「誰もいない」


理亞「……」ドキドキ


理亞「ここまで来たんだから引き返すワケにはいかない」スッ



ギシギシ…


理亞「…本当に広い屋敷。迷いそう」ギシギシ


ウゥッ…エッ…エグッ……グスッ……


理亞「!!」


理亞「泣き声…これが黒澤ルビィ?」


理亞「ていうかいるなら出てよ…」


……


理亞「あのー?」コンコン


グズ…ヒック……エェッ……


理亞「花丸…さんの友達の理亞と言います。入ってもよろしいですか?」


ウゥ…グズッ……エグッ


理亞「……」


理亞「……」イラッ


理亞「さっきからメソメソメソメソ…」ワナワナ


理亞「もう入るから!」ガラガラ!


理亞「!!!!!!」



理亞「ちょっと何よこれ…」


理亞「富士山の絵?ビリビリに破れてる…」


ルビィ「うぅ…グスッ……ヒック……」ポタポタ


理亞「あなたが黒澤ルビィ?もう、いつまで泣いてんのよ。それにこんな部屋中散らかして…やり過ぎ。一体どうしたっての?」


理亞「ん?」


理亞「この絵は…」パサッ


理亞「何これ…新しいの描いてたってこと?」



「ルビィちゃーん!!遅くなってごめんね!!!」ドタドタドタ


「待ちなさいよズラ丸!!!」ドタドタドタ



理亞「なっ!?」


善子 花丸「!!!」


花丸「理亞さん!!」


善子「何よこの部屋…まさかあなた…」


理亞「違う!私も今来たばっか!来てみたら鍵が開いてて声のする部屋に入ってみたら…」


ルビィ「うぅ…グスッ……ヒック……」ポタポタ



花丸「ルビィちゃんどうしたの!?」


善子「ルビィ!これズラ丸と描いてた絵でしょ?なんで破いたりなんかするのよ!」


理亞「こっちに完成した絵がもう一枚ある」ヒラッ


花丸「あ!」


善子「…ど、どういうことよ!」


理亞「はぁ…本当にこの子がAqoursのメンバーなの?」


ルビィ「うぅ…ぐすっ……うぇぇ……」ポタポタ


花丸「ルビィちゃん…完成させてたんだ……」


花丸「あれ?」


理亞「ん?」


善子「何?」


花丸「ルビィちゃんこの富士山…」パサッ





花丸「どこで描いたの?」



理亞「どこ…って、内浦でしょ」


善子「そんなことは分かってるでしょ」


花丸「これ…これ見て何か気付くことない?」


善子「気付くことって…高所から内浦全体と海を捉えてて…それから虹がかかってて、遠くに富士山が見えてるわ」


理亞「見れば分かるでしょ」


花丸「高所って…どこ?」


善子「えっと…学校の前の坂?発端丈山?長浜城跡?」


花丸「どこも違うよ…だって……」




花丸「この絵には…この絵には淡島がどこにも写ってない…」


善子 理亞「!?!?」


理亞「…ってことはまさかこの子」


善子「淡島神社から描いたの…?淡島に行ったの!?!?!?」


花丸「ルビィちゃん!!」



ルビィ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」


善子「ちょ、ちょっとルビィ!?」


理亞「いきなりどうしたの!!」


花丸「ルビィちゃん!!どういうこと!?」



ルビィ「お姉ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!ダイヤお姉ちゃぁぁぁん!!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」



善子 花丸 理亞「!?!?!?!?!?」



花丸「ダイヤ…ルビィちゃんの口からダイヤお姉ちゃんって……」


花丸「戻ったの!?記憶が戻ったのルビィちゃん!?」


善子「そうよルビィ!!あんたにはダイヤっていうお姉ちゃんがいるのよ!!」


理亞「黒澤ダイヤ…まさか本当に……」


ルビィ「うわぁぁぁぁぁごめんなさぁぁぁぁい!!!ルビィの…ルビィのせいで……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」


善子「どういうこと!?」


理亞「このままじゃ拉致があかない。姉様に連絡する」プルルルルル


花丸「ルビィ…ちゃん……」


理亞「お願い姉様……」プルルルルル


理亞「出て……」プルルルルル


理亞「無事でいて……」プルルルルル


ガチャ…


理亞「姉様!!!!!」



梨子「……」スゥスゥ


曜「……」クゥクゥ


果南「……」スヤスヤ


ルビィ「うゅ……」スヤスヤ



志満「今日は家にルビィちゃんしかいないらしいわ。親御さんと連絡して、良くなるまでここで寝かせとくことにしといたからもう安心してちょうだい」


千歌「果南ちゃんも、今日一日旅館の仕事してくれて疲れちゃったみたい。それにほら、あんなに散らかってた部屋がピカピカになってる」


志満「本当に面目無いわね…」


善子「ほっ…よかった……」


花丸「でも、千歌さんも…本当に目覚めてよかったです。それに記憶も…」


千歌「うん。心配かけてごめんね。とりあえず今分かってることは一式整理できてるよ」


志満「じゃあ、私と美渡ちゃんはまだ仕事があるから…後は頼むわね。千歌ちゃん、花丸ちゃん、善子ちゃん、聖良ちゃん」


三人「はい!」


千歌「うん!!」


志満「それに理亞ちゃんも?」


理亞「!!」


理亞「は、はいっ…」


ピシャッ…



花丸「……」


善子「……」


千歌「……」


理亞「……」


聖良「まずは皆さん、私の不注意でこのような形でご心配をおかけすることになり大変申し訳ありませんでした」


理亞「姉様!!」


千歌「そんな、謝らないでください…!」


聖良「花丸さんの冷静な推理と千歌さんの救助…そしてみなさんの信頼が無ければ今頃閉じ込められたままだったでしょう」


花丸「聖良さん…」


善子「そういうのはお互い様よ。謝るのもいいけど、作戦会議に移った方がいいんじゃない?もう時間がないわ」


聖良「!」


聖良「…ふふっそうですね」


聖良「では今日一日で非常に大きく動いた事が何点かあります。整理してみましょう」カキカキ



・北斎の謎の解明
・神隠し=狐の仕業だと判明
・千歌さん起床、記憶の復活(?)
・梨子さん意識喪失
・ルビィさん記憶復活(千歌さんとは別?)
富士山の絵を描くのに淡島を訪問(?)
・明日11日、淡島から観光客を避難させなければ非常に危険だという可能性の浮上



聖良「こんなところでしょう…」


花丸「北斎と十千万の謎は驚いたずら…まさか神仏分離が元凶だったなんて…」


善子「それに…ルビィもどうしちゃったのよ。急に記憶が戻るなんて…」


千歌「眠っちゃったから本当に戻ったかは分からないけど…ダイヤさんの名前を口にしたんだよね?」


理亞「ええ。お姉ちゃんお姉ちゃんって喚き散らしてわ」


花丸「それに、ルビィちゃんの描いた絵…」


善子「ええ。どう見ても淡島神社の拝殿裏から眺めた富士山よね。まさかルビィ…」


聖良「いえ、ルビィさんは淡島へ行っていないと思います」


四人「!?」


千歌「それってどういうことですか!?」


聖良「今日は歩学祭ということもあってか、日中旅館の前の道もかなりの人通りだったんですよね?」


千歌「はい、いっぱい通ってました。しいたけもびっくりしたのかさっきまでずっと吠えてて…」


花丸「美渡お姉さんが必死に寝かし付けてたずら」



聖良「失礼承知で言いますが…学校に行けないルビィさんがこんなに人の多い日に一人で淡島へ行けるでしょうか?」


花丸「確かに…近くのお店にマルと行く時も車が通るだけで背中に隠れるルビィちゃんだけど…」


聖良「それにこの絵をよく見てください。今日は丸一日、雲一つない快晴だったんですよね?」


花丸「そうだけど…」


花丸「あ!そうか!だからこの絵みたいに虹なんて出てなかったし雨雲もなかった!!」


善子「確かに…でも、この絵の具の乾き具合からして描いたのは今日で間違いないと思うけど…」


聖良「そうですね。つまりルビィさんは今日、淡島神社へ行かず家でこの絵を完成させたということになります」


聖良「ではこの絵はどうして描くことができたのでしょうか?…そうですね最近、虹が出たのはいつだか分かりますか?」


善子「虹…?そんな日あったかしら…?」


花丸「あった!!」


善子「!?」


千歌「そうだ…思い出した!あの日…ダイヤさんがいなくなった8月3日、ダイヤさんが練習に来る前、雨上がりに8人で淡島へランニングしに行った時…!!」


花丸「淡島神社に着いて休憩している時、境内の裏から虹が見えたずら!」


善子「あぁ、そうね。こんな感じだったわね…雨雲が裂けて海に陽が射してて…そこに浮かぶ綺麗な虹……」


千歌「それで学校帰ってきてダンス練してる時に天気雨になって善子ちゃんが風邪引いちゃって梨子ちゃんにくしゃみぶっかけたんだよね…もう随分昔の事のように感じるよ…」


聖良「間違いありませんね。ルビィさんはその時の情景を絵にしたのでしょう」



花丸「なんで元々の絵を破いてまでこれを描いたんだろう…記憶を取り戻したのと関係あるのかな」


聖良「何故ルビィさんは記憶を取り戻したのか…いえ、取り戻しかけたのか…という表現の方が正しいですかね。本人の意識が戻らないとなんとも言えないので…」


聖良「…8月3日に淡島神社で虹を見た時、ルビィさんはどんな反応をしていたか記憶にありますか?」


千歌「確か…すごく驚いていたと思います」


花丸「 驚いていた…というより喜んでいたずら。いや、もっと前…ランニングで淡島へ向かっている時もルンルンだったような…」


善子「成る程ね。そう言えば虹を見て何枚も写メ撮ってたわね。確かにこのヨハネのように美しい虹だったけど、子供じゃないんだから…って思ったわ」


千歌「えぇぇ!?私も大好きだよ虹。本当は写メ撮りたかったのに…」


花丸「中々お目にかかれないからね」



花丸「え…?」


聖良「その虹はルビィさんにとって喜ばしいものであっーー」


花丸「ちょっと待つずら!!」ガタッ!


聖良「!?」


千歌「花丸ちゃん!?」


善子「ど、どうしたのよ大きい声出して…」


花丸「善子ちゃん!今なんて…」


善子「そんな大きい声出してーー」


花丸「その前!!」


善子「え!?ヨハネのように美しい虹ーー」


花丸「その前だよ!!」


善子「なんなのよ…虹を見て何枚も写メ撮ってたのよ…」



花丸「写メ…間違いないよね?」


善子「ま…間違い無いけど…」


聖良「花丸さん、どういうことですか?」



花丸「ルビィちゃん、携帯持ってないって言ってた…」


善子「!?」


聖良「なっ…!?」


千歌「どういうこと!?」


花丸「5日…みんなの記憶が無くなった日の夜、マルのばあちゃんも混ぜてアルバム見たよね?あの後、ルビィちゃんの家に行って会った時そう言ってたずら…マルとお揃いのやつを買ったはずなのに……だから家の電話に連絡するしか……」


善子「なんでルビィの携帯が…そこまで改変されてるってこと?」


理亞「…そう言えばあなた、言ってたわよね?まだ事件で騒々しくなってた4日の朝、黒澤ルビィに連絡しても返ってこないって言ってたけど、あの時は持ってたの?」


花丸「いや…どうだろう…」


花丸「!!」


花丸「そうだ!3日、ルビィちゃんは淡島を降りてからずっと何か様子がおかしかった!悲しそうというか不安そうというか…それまでウキウキしてたのに…」


善子「帰りのバスも乗り遅れそうになってたわよね…何してたのかしら」



聖良「成る程…そういうことでしたか…」


千歌「聖良さん?」


善子「何か分かったの?」




聖良「全てが繋がりました。仮説ではありますが、恐らくこれで間違い無いと思います。心して聞いてください」



花丸「…」ゴクリ


聖良「8月3日、この時点でまだルビィさんは携帯を持っています。淡島神社で皆さんがランニングの休憩をする中、ルビィさんは嬉しそうに虹を撮っていました。何故か?」


聖良「恐らく、その写真をダイヤさんに見せたかったんじゃないでしょうか?」


花丸「!!」


聖良「その時ダイヤさんはまだ練習に参加していなかったんですよね?だとしたらその珍しい情景を是非写真に収め、後で大好きなお姉さんに見せたい…そう思ったんじゃないでしょうか」


聖良「そして何故降りてから悲しそうだったのか。それは淡島神社に携帯電話を置き忘れてしまったからです」


千歌「ルビィちゃん…そうだったの!?」


聖良「そう考えれば全てが繋がります。恐らく気の弱いルビィさんは言えなかったのでしょう。降りてからまた神社へ戻りたいなんて…」


聖良「そして部室に戻ってから再度雨が降ったことでその不安は増す。花丸さんとお揃いで買ったもの…それに防水とは言え濡れて壊れていないだろうか…写真は消えてないだろうか…そこで練習終わりに、勇気を振り絞ってダイヤさんに言ったのでしょう」


ーー
ーーーー


ルビィ『お姉ちゃん!!』


ダイヤ『!!』


ダイヤ『ル…ルビィ!まだ残っていたんですの?』


ダイヤ『早く帰らないと花丸さん達に置いていかれーー』


ルビィ『あの!!!!』


ダイヤ『!?』


ルビィ『……』


ダイヤ『ルビィ?』



ルビィ『今日、ランニングして淡島神社で休憩した時携帯置き忘れちゃった…どうしよう……』


ダイヤ『なっ…どうして練習中に携帯電話をーー』


ルビィ『ごめんなさい!!!』


ダイヤ『!?』


ルビィ『今日ね、淡島神社から虹が見えたんだよ。すっごく綺麗な虹…ルビィ、お姉ちゃんに見せたくて…喜ばせたくて写真撮ったんだけど置いてきちゃった…うぅ…どうしよう……』グズッ


ダイヤ『……』


ダイヤ『ルビィ』


ルビィ『うゆ?』


ポンッ


ルビィ『!?』


ダイヤ『ありがとうルビィ…お姉ちゃん、とっても嬉しいですわ』


ルビィ『お姉ちゃん…』グズッ


ダイヤ『でもルビィ、遠慮して皆さんの前で言わない必要なんてないんですのよ?そんなことで怒る人なんて誰もいないんですから…』


ルビィ『うん…』


ダイヤ『携帯は必ずお姉ちゃんが取ってきますわ。だからルビィは先に帰っていてください』


ルビィ『ごめんねお姉ちゃん…』


ダイヤ『帰ったら、写真のことたくさん話しましょ?』ニコッ


ーーーー
ーー



聖良「しかし願い叶わずダイヤさんは神隠しに遭ってしまった…これが4日にルビィさんと連絡が取れなかった理由です」


千歌「だからバスに遅れてきたんだ…」


善子「馬鹿、携帯のことぐらい言いなさいよ…」プルプル


聖良「そして、何故5日以降ルビィさんが携帯を持っていないことになっているのか」



聖良「それは、今ルビィさんの携帯が異世界にあるからです」


四人「!?!?」


聖良「ダイヤさんの存在が無かったことにされたように、ルビィさんの携帯も異世界に行ったことで無かったことにされたのです」


聖良「そして、これが重要なポイントです。ダイヤさんと共に消えたということは…」


花丸「ルビィちゃんの携帯はダイヤさんが持っている」


聖良「そういうことになります」


聖良「そして、今回何故ルビィさんの記憶が戻りかけているのか」


聖良「……」


千歌「聖良さん?」


聖良「これは良い知らせと悪い知らせになります」


善子「何よ…」


花丸「……」ゴクリ


理亞「……」


聖良「まず、良い知らせとして…ダイヤさんは生きています」



四人「!!!!」


聖良「向こうでダイヤさんはルビィさんの携帯を見て強く感情が高ぶったのではないでしょうか?その時ダイヤさんの気持ちがルビィさんの携帯を通し、次元を超えてルビィさんとリンクしたことでルビィさんは記憶が戻りかけているのです」


千歌「ダイヤさん…生きてる…」


花丸「よかった…無事なんだね……」


理亞「ほっ…」


善子「でも…悪い知らせって…」



聖良「…何故、ダイヤさんはルビィさんの携帯の写真を見て感情が高ぶったのでしょうか?」


善子「それは嬉しかったからじゃない?妹が自分のために撮ってくれた写真を見れて…」


聖良「嬉しかったから…それではルビィさんと気持ちがリンクしません」


聖良「逆はどうですか?ダイヤさんはルビィさんの携帯を開きその写真を見てこう思ったとしたら…」




聖良「なんで自分はルビィを信じてあげられなかったんだろう。ごめんねルビィ。ごめんね…」



花丸「!?」


千歌「ごめんねって…」


聖良「そう。ルビィさんがダイヤさんに対して抱いていた感情と同じです。二人は自責の念がリンクしたのです」


善子「でもどうして!ダイヤさんはルビィを信じて無かったって…」


聖良「ここからは完全に想像ですが…3日の練習終わり、ルビィさんがダイヤさんに例のお願いをした後、ダイヤさんは戸締りをしていました。その時に何かがあったのでしょう。ルビィさんの発言を一気に疑ってしまうような何かが…」


花丸「窓…」


聖良「?」


花丸「事件になってた4日の朝、マル達学校に忍び込んだんです。そしたら4階の一番隅の廊下の窓だけが開いていて…」


聖良「何か校舎の写真はありますか?」


千歌「梨子ちゃんが前に、初めてこの学校に来た時に音ノ木坂の友達に送るために撮った写メを何回か見せてくれたよ」



聖良「梨子さん失礼します…」ポチポチ


梨子「……」スゥスゥ


聖良「……」


聖良「ここですか。確かににここの窓からは富士山に街に…そして淡島がよく見えますね」



聖良「例えばですが、ダイヤさんが戸締りをしている時にこの窓から淡島神社で発光現象がありそれを目撃したとしましょう。直前まで皆さんにいじられていたというダイヤさんはこう思うはずです」


聖良「成る程…これは全部ドッキリだったのか。みんなの様子がおかしかったのも全てこの後淡島神社に来るであろう私を驚かすための前座。それでルビィはあんなことを言って私をおびき寄せようとしたのか。しかしあれではドッキリがバレバレだ。誰かが警察に連絡する前に止めに行かないと」


聖良「そしてダイヤさんは窓を閉めることも忘れて淡島へ向かった。しかし、そこに潜んでいたのはAqoursではなく神隠しの魔の手…」


聖良「こうしてダイヤさんは異世界に連れ去られた。そこで携帯の写真を見てルビィさんや皆さんを疑っていたことを強く後悔したのでしょう。その時にダイヤさんが見たルビィさんの写真が、ルビィさんの脳裏に伝わり衝動的にこの絵に描いた。そして記憶が戻りかけた…こういうことだったのです」


善子「そんな……」


千歌「ダイヤさん…ごめんなさい…」


花丸「マル達がダイヤさんを…」


理亞「……」


聖良「あなたたちは悪くありません。どの道ダイヤさんは淡島に向かっていたのですから…むしろ結果的にルビィさんの記憶を取り戻す機会になったのです」



聖良「問題点はそこではありません。あくまでダイヤさんの気持ちの受け取り方の話ですから……本当にマズいのはルビィさんの携帯の件、そして発光現象が《淡島宇迦之御魂神》により仕組まれていたことです」



善子 千歌 花丸「!?!?!?」


聖良「皆さん、淡島神社で虹を見た時惜しいことをしたなと思いませんでした?せっかく美しい虹があるのに携帯を持って来ていなかったこと…」


千歌「それはかなり…」


花丸「確かにちょっと勿体無いと思ったずら」


善子「でも、そんなの予測できないし、激しく動き回るのに携帯なんて持ちーー」


善子 千歌 花丸「あ!!!!!」


聖良「そうです、普通ランニングやダンス練で激しく動くと分かっているのに携帯をポケットに入れるようなことはしません」


聖良「しかしあの場でただ一人、ルビィさんは携帯を持っていました。それは何故か?《淡島宇迦之御魂神》にひっそり呟かれていたのでしょう。『雨が止んだから淡島の頂上に着いた頃には綺麗な虹が見えるかもね。後でダイヤに見せてあげたら?』と。それにまんまと乗ってしまったルビィさんは携帯を手に胸躍らせ淡島神社に向かったのでしょう。そして隙を見て携帯電話を奪い、恐らく賽銭箱の下にでも隠したのでしょう。気の弱いルビィさんなら言い出せないと分かっていたから。そして姉のダイヤさんに相談することも、そのダイヤさんがいつも戸締りをしていることも知っているような人物」


善子「……」


花丸「……」


千歌「……」


理亞「……」


聖良「悪い知らせはそう…残念ですが、やはり神隠しの犯人である《淡島宇迦之御魂神》はAqoursメンバーの誰かに化けていることになります」



善子「あのーー」


聖良「善子さん、花丸さん。今日学校であったことは後でゆっくり聞きます。あなた達が無事ここにいるということ、嬉しく思ってますよ…」


善子「……」


花丸「……」


千歌「信じたくなかったけど…」


聖良「申し訳ありません千歌さん。今は我慢してください。あなただけはみんなを信じてあげてください。明日のこともありますので…」


千歌「はい…」


善子「本当にライブをやるって言うの?」


聖良「はい。淡島から人を遠ざけるためです。美渡さんや志満さんにも協力を要請しました」


聖良「メンバーは千歌さん、花丸さん、善子さん、果南さん、鞠莉さん…そして梨子さんと曜さんの7人です。勿論、淡島宇迦之御魂神も含まれていますが…」


花丸「二人は目が覚めるのかな…」


聖良「それに関しては大丈夫です。恐らく、二人の目が覚める方法が分かりました」


千歌「えっ!じゃあ今すぐにでも!!」


聖良「千歌さん」



千歌「!!」


聖良「それももう少し待ってください」


千歌「……」


千歌「分かりました…」


聖良「最後に、私達が異世界に行く方法ですが…残念ながらこれはよく分かっていません」


善子「これよね…最大の問題は…」


花丸「ダイヤさんが失踪したのも、千歌さんと曜さんが意識を失ったのも日が暮れる時間だったけど何か関係あるのかな?」


聖良「黄昏時…ですか。確かに可能性はありますが、この時間に神社を訪れた人もいると思います。何か他にもあるのではないのでしょうか…」


千歌「つまり、最悪明日の夕方までに行く方法が見つかれば…」


聖良「条件が複雑ならチャンスは限られますが…そうする他ありません」



聖良「…それでは、明日の作戦会議に移ります」



ピピピピッ
ピピピピッ…


梨子「う、う~ん…」ポチッ


梨子「朝…?」


梨子「!!」


梨子「私、千歌ちゃんに助けてもらって…その後……」


梨子「あれ?でもどうして…この記憶は一体…」



果南「おはよう梨子」


梨子「!!」


果南「体調はどう?」


梨子「ええ…大丈夫です」


梨子「あれ!?」


果南「ん?」


果南「あぁ、曜なら…」



ガラガラガラ!!!


曜「おはヨーソロー!!」


梨子「よ…曜ちゃん…」


梨子「曜ちゃぁぁぁん!!!」ガバッ


曜「おわっ!?」ドサッ


果南「ちょ、ちょっと二人とも病み上がりなのにそんなドタバタ…」


美渡「うるさいぞバカ千歌ー!!」ドンガラガッシャーン


果南「あ」



美渡「!!」


曜「あ…お、おはようございます」


梨子「ひぅぅ…」ズビッ


美渡「そうか、目覚めたんだな…よかった!」ニシシ


志満「あら?」スッ


志満「まあ!曜ちゃん!!本当に目覚めたのね!もう大丈夫なの?」


曜「はい!心配おかけしました」


曜「大丈夫だよ梨子ちゃん。もう全部分かってるから」ボソッ


梨子「うん…」


千歌「う~ん…朝から何ぃ?美渡ねえ…」フラフラ


千歌「あ!!!」


曜「千歌ちゃん!おはヨーソロー!!」


千歌「曜ちゃん!!!」


曜「千歌ちゃん!!」ギュッ


花丸「うんうん」


善子「堕天の成り行きを見守るのも我の役目…」


理亞「なんだこれ」


聖良「あははは…」



千歌「コホン…」


千歌「みんな、今日はついに運命の日だよ!今までいっぱい辛いことがあったけどそれも今日でおしまい!絶対にダイヤさんを取り戻して…これから二度と同じ悲劇が起きないよう戦おう!!」バッ


梨子「…」バッ


曜「…」バッ


花丸「…」バッ


善子「…」バッ


果南「…」バッ


美渡「…」バッ


志満「…」バッ


聖良「…」バッ


理亞「…」バッ




千歌「Aqours!!」


全員「サーンシャイン!!!!!」バッ!



【8月11日:黒澤ダイヤ失踪から8日】



ヒュー…パーンパパーン!!


「ねえ、ポスター見た?今日の17時30分から屋上でAqoursとSaint Snowの合同ライブやるって!」


「マジ!?友達が昨日鹿角理亞さん見たって言ってたからまさかとは思ったけど…このためなんだね!」


「しかもサプライズ演出があるらしいよ!私超楽しみ!!」


「でも大丈夫かな?お昼に雨降るみたいだけど…」


ーーーー
ーー


千歌「17時30分から屋上で合同ライブやりまーす!!」ヒラヒラ


梨子「見に来てくださーい!!」ヒラヒラ


花丸「もしもし果南さん、淡島の様子はどう?」


果南『うん、計画通り遊覧船をいくつか貸してもらったよ。夕方になったらその時に淡島内にいるお客さんや従業員を船に乗せて周辺を観光するようにお願いした。これならチケット買ってるし営業妨害にはならないでしょ?多分。…それと、船の中のモニターでライブの様子が見られるようにしてもらった!』


花丸「ありがとう!!」


果南『Saint Snowは?』


花丸「例の演出のために美渡さんと志満さんが車で送っていったずら!」


果南『分かった。私もすぐに学校に向かうね』


花丸「うん!また後で!!」ガチャ



ーー屋上


善子「ワン!ツー!スリー!フォー!」パンパン


曜「はっはっ…」シュビドゥバ


善子「さすがね。こんなにブランクがあったのに完璧に踊れてるわ…」


曜「ほっ…」ドサッ


曜「懐かしいなこの屋上…」


善子「そうね…」


曜「今日でこの7人が集まるのも…」


善子「……」


善子「もう少しでみんなが来るわ。ステージ設営もやらなきゃだし頑張りましょ」


曜「うん…!」



ーーーー
ーー


千歌「すごい…まだお昼なのに全部配り終わった!」


梨子「うん!お客さん、いっぱい来そうだね!」


花丸「そろそろ練習へ向かおう!」


「千歌ー!!!」


千歌「あ!」


よしみ「頼まれてたスカイランタン、もうすぐ出来そうだよ!」


いつき「空いてる教室をいくつかスカイランタン製作体験教室にしてみたら物凄い人が集まってさ!仕事がない子や先生も協力してくれて…前回のPVの時よりたっくさんあるからね!」グッ


むつ「もう運び始めちゃっていいかな?」


千歌「みんな…」


梨子「ありがとう!出来たやつはもう運んじゃって!!」


むつ「分かったよ!」タッタッタッタッ


ギュッ!


千歌「!!」


よしみ「病み上がりなんだから無理しないでね!何かあったら私たちが全力でサポートするから!」


いつき「うんうん!」


千歌「ありがとう…本当にありがとう…」ギュッ


千歌「絶っっ対に成功させるからね!!」



パラパラパラ…


果南「ごめん遅くなって!」ガチャ


千歌「果南ちゃん!」


梨子「淡島の方は大丈夫ですか?」


果南「無事、スカイランタンも全部届いたよ」


花丸「良かったずら…」


曜「準備はほとんど出来たね」


果南「あとは雨が強くならなければいいけど…」


ガチャ…


全員「!!」


善子「あ!!」


鞠莉「ハァイ…お久しブゥリデース…」


曜「鞠莉さん…」


梨子「……」ゴクリ


果南「鞠莉…あんた今までどういうーー」


鞠莉「何も聞かないで!!!!」


果南「!?」


千歌「……」ビクッ


花丸「……」


鞠莉「ライブが終わったら話すから…だから今は何も聞かないで……」


果南「……」


果南「分かった…」


千歌「…じゃあ、全員揃ったし通して練習しよう!」



「17:00になりました。17:30より開催の《Aqours×Saint Snow スペシャル合同ライブ》を見学される方は屋上にお集まりください。また、本日淡島より特別に出航する遊覧船からもその映像をご覧になれます。尚、ライブの関係上、閉会式の開催が大変遅くなります他、生徒の多くが参加できない可能性を考慮し、本日、18:00から開催予定の閉会式は中止とし、明日の朝礼で行います。繰り返しますーー」


ザワザワ…

ザワザワザワ…


梨子「うわ…こんなにたくさん集まってる…」


善子「我が鼓動よ…如何なる理由で刻の波長に乱れが生じる?」ブツブツ


果南「大丈夫。深呼吸して?ライブも、この後の作戦もきっと成功するよ」


果南「…って、あれ?曜と花丸は?」


千歌「さっきトイレに行ったような…」


鞠莉「……」



ジョバァァァァァァァ…


花丸「ほっ…」ガチャ


曜「大丈夫?もうすぐ始まるよ」


花丸「うん!」


花丸「…それより、どう?」


曜「正直マズいね…このままだと…」



プルルルルルル!


花丸 曜「!!」


花丸 曜 「来た!」


曜「もしもし!」ガチャ


花丸「聖良さん!」


聖良『もしもし曜さん!…それに花丸さん!異世界に行く方が分かりました!!』


花丸「ずら!?」


曜「どうやって行くんですか!?」



聖良『理亞が持っていた歩学祭のパンフレットにこの学校の校歌が載っていました』

~夕凪の梢~

黄昏迫る 港町
津々浦々を 紅く染めん
眠りにつかん 風と波
静か穏やかの 安らぎ破り
顔を覗かせよ 妖百鬼
吹き荒れる 風と波 静寂よ沈め
ああ我ら強くあらん 全てに抗い
ああ我ら浦の星 ここに有り


曜「ああ、《夕凪の梢(ゆうなぎのこずえ)》ですね!それがどうかしたんですか?」


聖良『何故浦の星女学院の校歌なのに曲名が《夕凪の梢》なのか気になって調べてみたんです。すると、とんでもない事実が分かりました!』


聖良『これは元々校歌なんかじゃなかったんです!調べたらこの曲が存在する記述があるのは1868年以降…最初の神隠しが起きた年だったんです!』


曜「えっ!?」


花丸「なんでその年から…」


聖良『おそらくこれは神隠しと同時に生まれた曲…《淡島宇迦之御魂神》が異世界に生贄を引き込むために作った曲です。これをとある条件下で歌うと異世界の扉が開いてしまうのです!』


曜「その条件は!?」


聖良『曜さん、《夕凪(ゆうなぎ)》と《梢(こずえ)》の意味はなんですか?』


曜「えっと…夕凪は、海辺で夕方に風が吹いて無い状態のことです!海から陸の方向に向かって吹いてる風が、夜に逆向きになるまでの間しばらく無風になります!それが夕凪です!梢は…」


花丸「木の枝のことずら!!」


聖良『そうです。つまり《夕凪の梢》は夕方に風が止み、全く揺れてない木の枝のことを表しています』


聖良「…そして、この曲は富士山の方角に向かって歌うそうですね?」



聖良「富士山に身体を向けて歌った場合海、それから陸はどちらの方向になりますか?」


曜「えっと…左側に海、右側に陸になります」


聖良「それを踏まえたもう一度歌詞を見てください…


~夕凪の梢~

黄昏迫る 港町
津々浦々を 紅く染めん
眠りにつかん 風と波
静か穏やかの 安らぎ破り
顔を覗かせよ 妖百鬼
吹き荒れる 風と波 静寂よ沈め
ああ我ら強くあらん 全てに抗い
ああ我ら浦の星 ここに有り


この歌詞の中では一度風が止み、もう一度風が吹いています。
つまりその間…真ん中の4行目と5行目が《夕凪》の時間となります。
最初は海の方向…つまり左方向から風が吹くので一番左の文字《黄》《津》《眠》…
そして夕凪は無風なので真ん中の文字《の》、《よ》…
再び風が吹いた時は陸の方向…つまり右方向から風が吹くので一番右の文字《め》、《い》、《り》…
これらを繋げて読むと…』


曜 花丸「狐の嫁入り!!!!!」



聖良『仮に風が吹いた時の梢…つまり枝の揺れる向きにある文字が答えだとしたら最初は一番右の文字、真ん中はそのまま、最後は一番左と逆になるのですが、この歌詞はこの世界と対になる異世界を示しています。枝が無い位置に見えない何かがある…そういった認識でしょう。まあどの道答えは《狐の嫁入り》で正しいと思います」


聖良『つまり異世界に行くための条件は、1868年から50年毎の8月3日~8月11日であること、夕凪の時間であること、その時間にこの歌を歌うこと、そして…狐の嫁入り、つまりその日に天気雨が降っていること!!』



曜「じゃあ今日、まだチャンスはあるってことですね!」


聖良『はい。恐らく…ダイヤさんは放課後の戸締りの時間によくそれを歌っていたのでしょう。そして狐の嫁入りのあった8月3日の放課後の夕凪の時間も…まあ、《淡島宇迦之御魂神》はダイヤさんのそんな習慣も知っていたんでしょうけど』


曜「でも、私と千歌ちゃんが淡島神社で意識を失った日は…確かに日付も時間も天気雨も当てはまるけど、《夕凪の梢》は歌いませんでした!」


花丸「マルのせいだ…」


曜「え!?」


聖良『どういうことですか!?花丸さん!』


花丸「あの日の夕方…善子ちゃんと歌っちゃって…途中までだったけど、まさかこんなことになるなんて…ごめんなさい」


聖良『途中まで…成る程、だから二人はギリギリのところで助かったわけですね』


曜「…いいよ花丸ちゃん。気にしないで」


花丸「!!」


曜「過ぎちゃったことは仕方がないよ。それに私も千歌ちゃんも無事だからさ。今大事なのはその方法でダイヤさんを救うことだよ!」


花丸「うん…分かった…!」


聖良『曜さん、お得意の体感天気予報で夕凪が発生する時間を調べられますか!?』


曜「試してみます!!」ダッ


花丸「ずら!」ダッ



ガラガラガラガラ!


サァァァァァァァ……


曜「雲が無いのに雨が降ってる…」


花丸「狐の嫁入りの条件達成ずら…」


曜「……」スッ


ヒュォォォォォォ…


曜「……」


曜「……」


曜「18:10~18:30頃だと思います。短い…短過ぎる…普通はもっと長いんですが、なんだろう。空気が重い…」


聖良『その時間なら想定内です!私達が入れ替わるタイミング、18:00から体育館で閉会式が同時進行するはずです。式中のプログラム上校歌を歌うと思うので、それが夕凪の時間と被ーー』


曜「中止です」


聖良『え』


曜「閉会式はライブの関係で明日に延期になりました。そのタイミングでSaint Snowと入れ替わって私たちが淡島へ行っても異世界への扉は…」


聖良『そんな…では誰かが歌って残るというのは!?』


花丸「元々全員で行く作戦だったから、誰か一人でも残ったら《淡島宇迦之御魂神》に怪しまれるよ!」


曜『おわっ!?』


聖良『どうしました曜さん!?』


千歌「もう!こんなところで何してたの!」グイグイ


果南「ライブ始まっちゃうよ!!」グイグイ


花丸「ずらぁ!?」ズルズル


曜「すみません時間ですまた後で!」プツッ


聖良『ちょっと曜さん!?曜さん!!』


聖良『切れた……』



ザワザワ

ザワザワザワ…


「まもなくステージが始まります!今しばらくお待ちください!!」


サァァァァァァァァ…



千歌「……」


梨子「……」


曜「……」


花丸「……」


善子「……」


果南「……」


鞠莉「……」


千歌「辛かったね…」


梨子「うん…」


千歌「怖かったね…」


花丸「ずら…」


千歌「分かってほしかったよね…」


善子「ええ…」


千歌「分かってあげたかったよね…」


果南「うん…」


千歌「寂しかったよね…」


鞠莉「……」


千歌「諦めないって誓ったよね…」


曜「うん…覚えてるよ千歌ちゃん」



千歌「この8日間で色んなことがあった。大切な人がいなくなった。Aqoursが壊れかけた。ライブも一日だけになった」


千歌「でも、色んな苦労を乗り越えた。大切な人のために戦った。壊れてしまわずに元に戻ろうとした。そして、こうして一日だけのライブにみんなが集った」


千歌「行こう。みんなが待ってる。私たちAqoursをずっと支えて、応援してくれたみんなが…」バッ


梨子「…」バッ


曜「…」バッ


花丸「…」バッ


善子「…」バッ


果南「…」バッ


鞠莉「…」バッ


千歌「Aqours!!」


全員「サーンシャイン!!」バッ!



見ーたーことーなーい夢の軌道

追いかーけてぇぇぇ!!!



パァァァァァァン!!!


ワァァァァァァァァァァァ!!!




ーー遊覧船


「始まった!!」


「曜ちゃぁぁん!!」


「ヨハネ様に祈りを!!」



ーー
ーーーー


「……」



「ん……」



「ここは…」



「ああ……」



「そうでしたわ…私……」



「ルビィ…疑ってごめんなさい……」



「本当に…本当に美しい写真ですわ……」



「そしてみなさん…申し訳ありません…」



「……」



「…あれからどれくらい経ったのでしょう」



「ん?」



「!!」



「お腹の傷が…塞がってますわ……」



「それにこの模様は……」




シュボッ!シュボッ!シュボボッ!!



「!!!」


ーーーー
ーー



ワァァァァァァァァァァァ!!!



千歌「ありがとうございまぁぁす!!」


曜「さあ、続いて四曲目です!みなさん!お手持ちのスカイランタンの用意はいいですかー!!!!」


ワァァァァァァァァァァァ!!!


梨子「遊覧船でご覧の皆さんもよろしいですかー!!!!」フリフリ


ーー遊覧船


「梨子ちゃあああああん!!!」


「いつでもいいよぉぉ!!!」


「ヨハネ様に堕天の光を…」



千歌「それでは聴いてください。
《夢で夜空を照らしたい》」



ポワッ…チラチラ…


チラチラ…チラチラ…



ワァァァァァァァァァァァァァ!!!


「おおおお!すごい!!」


「綺麗…この間よりいっぱいある!!」


「ママ!私が飛ばしたやつ!!」


「あ!海の方からも飛んでる!!」



ーー
ーーーー


聖良『明日のライブの演出でスカイランタンを飛ばしてください』


千歌『スカイランタン!』


花丸『PVの時のずら』


善子『何でまた…』


聖良『ダイヤさんが連れ去られた時、淡島神社で発光現象…いえ、狐火が見えた可能性があります。もし明日のライブ中にでもそれが現れたら集まった一般の方がそれを見て不審に思うはずです』


千歌『じゃあスカイランタンで誤魔化すってことですね!』


聖良『今回は船の上からも飛ばしますからかなり効果的だと思います』


聖良『きっと、かなり盛り上がりますよ』キラッ


ーーーー
ーー



善子「~~♪(成る程…よく考えたわね)」


花丸「~~♪(そろそろ時間ずら)」



~♪


ワァァァァァァァァァァァァァ!!!


千歌「ありがとうございました!!!」


全員「ありがとうございました!!!」




「あ!見て!海の方!!」


「フェリーだ!あれ渡辺さんちのじゃない!?」


「こっちに来るよ!」


「すごい光ってる!何だろう!!」



『みなさん、ステージ上のモニターにご注目ください』



千歌「今だ!みんなはけて!」ササッ


全員「了解」ササッ



パッ!!


「あ!フェリーの上と中継が繋がってる!」


「甲板に誰か立ってるよ!!」


「Saint Snowだ!!」


ワァァァァァァァァァァァァァ!!!


デデッデデッデッデッデッデ…
デデッデデッデッデッデッデ…


聖良「最高だと 言われたいよ 真剣だよ!」


聖良 理亞「We gotta go!!」


ヒュ~~…ドーン!ドドーン!!



ーー学校前坂道


千歌「はぁ…はぁ…」タッタッタッタッタッ


曜(風が弱くなってる…もうすぐ時間だ)タッタッタッタッタッ


花丸「どうしよう!このままじゃ異世界に行けないよ!」タッタッタッタッタッ


梨子「でもとにかく淡島に行かないと!!」タッタッタッタッタッ


果南「ちょっと待って!鞠莉がいない!!」タッタッタッタッタッ


善子「あああもう!私が探してくる!!!」タッタッタッタッタッ


梨子「ちょっと善子ちゃん!!!」タッタッタッタッタッ

果南「くっ…仕方が無いよ時間がない!花丸!!私の水上バイクに乗って!」バッ


花丸「ずら!」バッ


曜「私、鞠莉さんのバイクを動かすよ!千歌ちゃん、梨子ちゃん狭いけど乗って!」バッ


千歌「うん!」バッ


梨子「お願い曜ちゃん!」バッ



果南「出発!」ブルルン!


曜「しっかり掴まってよ!」ブルルン!



ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!

ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!



ーー遊覧船


「いいぞぉぉぉ!!」


「せーの!!」


「「「聖良 Come on!!」」」



ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン……



「ん?何?」


「水上バイクだ!」


「こっちに来るわ!」


バビュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!


「「!?!?」」


ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン……


「何?今の…」


「ねえ、Aqoursが乗ってなかった?」


「バカ言え、ついさっきまで歌ってただろ!」


「見て!Saint Snowの新曲よ!」



ワァァァァァァァァァァァ!!!



ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン……



果南「よし!」ザッパーン!


曜「着いた!」ザッパーン!



千歌「作戦通り、私と梨子ちゃんと曜ちゃんが異世界に行く!善子ちゃんはいないから…花丸ちゃんと果南ちゃん!私たちが行った後、巻き込まれないようにしばらくしてから神社手前の椅子のところで待ってて!ダイヤさんを救出したらすぐ受け渡すからボートまで走って!!!」タッタッタッタッタッ…


果南「分かった!」


梨子「お願いね!!」タッタッタッタッタッ…


花丸「必ず生きて帰ってきてね!」


曜「任せて!ヨーソロー!!タッタッタッタッタッ…



シーン…


果南「……」


花丸「……」


果南「本当に大丈夫かな…」


花丸「…うん、狐火が見えたらすぐに向かうずら」


花丸(まずい…このままじゃ異世界に行けない)




梨子「はっ…はっ…はっ…」タッタッタッタッタッ…


千歌「本当に…本当に異世界に行けるのかな…」タッタッタッタッタッ


梨子「分からない…でも行くしか…」タッタッタッタッタッ


曜(まずい…善子ちゃんは歌のことを知らない…衣装のままだから携帯も無いしどうやって伝えれば…)タッタッタッタッタッ



ーー校庭の隅


ワァァァァァァァァ…


鞠莉「ふふっ…盛り上がってるわね」


タッタッタッタッタッ…


鞠莉「……」


善子「はぁ…はぁ…はぁ…」


鞠莉「ハァイ…ヨハネ。お疲れ様?」


善子「聞かせてもらうわ。昨日の続き」


鞠莉「ふふっ…」


善子「……」ゴクリ


善子(ん?)


善子(4階のあの窓…誰かがいる!)


善子(いや…もう1人!)



ーー淡島


果南「……」


花丸「……」


果南「まだ見えないね」


花丸「う、うん…」


果南「少し登っとく?」


花丸「そうするずら…」


タッタッタッタッタッタッタッタ…



ーー淡島神社


千歌「はぁ…はぁ…はぁ…」


梨子「着いた…着いたけど…」


千歌「何もない!!」


梨子「そんな…じゃあやっぱり…」



曜(くっ…ここまでか……)



花丸(どうしよう…もうダメずら……)






ルビィ「……」スゥッ…


ルビィ「黄昏迫る 港町♪」



ルビィ「津々浦々を 紅く染めん♪」


ルビィ「眠りにつかん 風と波♪」


ーー
ーーーー


ダイヤ『ああ!またアイス落としたりして!』


ルビィ『うゆゆ…』ポロポロ


ダイヤ『ほら、もう泣かないの!こっちあげるから食べなさい?』


ルビィ『うん…』


ーーーー
ーー


ルビィ「静か穏やかの 安らぎ破り♪」


ーー
ーーーー


ルビィ『ルビィは花陽ちゃんかな~♪』


ダイヤ『私は断然、エリーチカ!生徒会長でスクールアイドル!クールですわ♪』


ーーーー
ーー

ルビィ「顔を覗かせよ 妖百鬼♪」ポロッ


ーー
ーーーー


ダイヤ『お帰りなさい』


ルビィ『お姉…ちゃん?』


ルビィ『うっ…うぅ…』


ルビィ『うわぁぁぁぁぁぁん!!』ガバッ


ダイヤ『よく頑張ったわね』ギュッ


ーーーー
ーー

ルビィ「ふ…吹き荒れる…グスッ…風と波…静寂よ沈…め…」ポロポロ



ーー淡島神社


クォォォォォォォォォン…
シャララン…シャララン…


千歌 梨子 曜「!!!!!!」


千歌「この音!夢で聞いたのと一緒だ…!」


曜「うん!多分異世界に繋がりかけてる!」


梨子「みんな!茂みに飛び込んで!!」ガサッ


千歌「うん!」ガサッ



曜(誰かが…誰かが歌を歌っているんだ…)ガサッ



ーー教室棟4階窓


ルビィ「ああ…グスッ…我ら強く…ヒック…あらん…す、全てに…ううっ…抗い」ボロボロボロ


ーー
ーーーー

ダイヤ『携帯は必ずお姉ちゃんが取ってきますわ。だからルビィは先に帰っていてください』


ルビィ『ごめんねお姉ちゃん…』


ダイヤ『帰ったら、写真のことたくさん話しましょ?』ニコッ


ーーーー
ーー


ルビィ「うっ…うう……」ガクッ


ルビィ「お姉ちゃん…」ポタポタ


スッ…


ルビィ「!!」


?「大丈夫。あなたたら最後まで歌える。大好きなお姉ちゃんを助けるために一緒にここまで来た。違う?」


ルビィ「……」


ルビィ「うん…」スッ


ルビィ「……」ヨロヨロ


ルビィ「ああ…我ら浦の星……」ボロボロ


ルビィ「ここに…あ…り……」ボロボロ


ルビィ「うっ…うぅ……」ボロボロ



ルビィ「うわぁああああああああん……



ーー淡島神社


ボッ!ボッ!ボッ!


千歌 曜 梨子「!?!?!?」


ボッ!ボボッ!ボボボボッ!!


千歌「火だ…」ボソッ


曜「あんなにたくさん…」ボソッ


千歌「それに月が真っ赤だよ…」


曜「夢とおんなじだ…」


梨子「待って!何か階段を登ってくる…」ボソッ


クォォォォォォォォォン…
シャララン…シャララン…


梨子「狐の鳴き声と鈴の音…狐の嫁入りという名の生贄の儀式ね…そしてあの行列……北斎の絵によれば真ん中に一人だけ人間の女性がいた。おそらくそれが…」


クォ"ォォオオ"ォ"ォォォォン…

シャララン…シャララン…

ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…



千歌(ひぃっ……)コソコソ


曜(しっ…静かに千歌ちゃん)コソコソ



クォ"ォォオオ"ォ"ォォォォン…

シャララン…シャララン…

ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…



梨子(袴も…提灯も笠も下駄もみんなボロボロ…その下に見える肌は…どう見ても人間じゃない。狐。その狐が二足歩行で列を成して…歩いてる……)



クォ"ォォオオ"ォ"ォォォォン…

シャララン…シャララン…

ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…



梨子(ただ、確かに怖さは勿論あるんだけど…それ以上に…)


梨子(なんだか物悲しい…)


梨子(…って、ダメよ狐にほだされちゃ!)ブンブン


梨子(!!)


梨子(いた…あれだ。真ん中に大事そうに囲まれて歩いてる着物のあの人…)


梨子(狐のお面をしてるけど…間違いなくあの髪は……)


梨子(ダイヤさん!!)



ザッ…ザッ…ピタッ…



千歌 梨子 曜(!?!?)


千歌(止まった…)



『《ウカノミタマ》サマガミエナイ…』


『ギシキノジカンニアラワレナイ…』



曜(狐の言葉が分かる……)ボソッ


千歌(うん…)ボソッ



『!!!』


『ニンゲン!ニンゲンノニオイ!!』



千歌 梨子 曜(!?!?!?)ビクッ


『ニンゲン!ニンゲンダ!!』


『ニンゲンニンゲンニンゲンニンゲン!』


『ニクイニンゲンニンゲンニンゲンニンゲンニンゲンニンゲンニンゲンニンゲン!!』


『ユルサナイ…クイコロシテヤル…』


『グォ"ォォォ"ォ"ォ"ォオォ"ォ""ン』ゴキゴキ


『ギュォォ"ォ"ォォォ"ォ"ォ"オ"ォン"』ゴキゴキ


梨子(ひっ…)ガクガク


曜(殺される…)ガクガク



ガサッ!!


『!!!』


梨子 曜「!?!?!?!?!?」



千歌「ダイヤさんを返して!!!」



梨子(千歌ちゃん!!)


曜(こうなったら…)


ガサガサッ!!


曜「そうだ!ダイヤさんを返して!!」バッ


梨子「お願い!!!!」バッ


『ニンゲンダ!!!』


『ニンゲンダニンゲンダ!!!』



ダイヤ(!?)


ダイヤ(この声……まさか!!)


バサッ!


ダイヤ「千歌さん!梨子さん!曜さん!!」


千歌 梨子「ダイヤさん!!!」


曜「よかった…無事だった!!」


ダイヤ「逃げてください!あなた達も殺されてしまいます!!」



千歌 梨子 曜「嫌です!!!」


ダイヤ「!?」



ダイヤ「どうして…私はみなさんを疑った……故にこうして捕らわれーー」


梨子「ダイヤさん!!!!!!」


ダイヤ「!!!」


梨子「…元の世界ではダイヤさんの存在が無かったことになってます!ダイヤさんだけじゃない…今までこうしてさらわれた人はみんな忘れられてるんです!!それって…それって悲し過ぎます!!好きとか嫌いとか…よりもいなかったことになってるって悲し過ぎます!!!」


ダイヤ「梨子さん…」


曜「でも記憶を持っていた、思い出した私達はすぐに結束してダイヤさんを救いたい!って思いました!!みんな待ってるんです!!!誰も責めてなんかいません!!!ダイヤさんはみんなが必要としてます!!!」


ダイヤ「曜さん…」


千歌「ダイヤさん。富士山の写真…見ましたか?」


ダイヤ「!!!」


千歌「とっても美しいですよね。私も写真、撮りたかったなって思いました…でも、私は嬉しかった。だって、ここ淡島神社のてっぺんで8人でその美しさを共有できたから。でも満足してない…だってダイヤさんがいなかったから!!」


ダイヤ「千歌さん…」


千歌「ダイヤさん!戻ってきてください!!笑ったり、泣いたり、頑張ったり…そういうの全部Aqoursみんなで経験していきたい!誰か一人でも欠けたら嫌だ!!みんな…みんな待ってるんです大好きなんですダイヤさんのこと!!」


千歌「ルビィちゃんが悲しんでる!!」



ダイヤ「はっ!!!!」

……
…………


ルビィ『お姉ちゃん…ごめんなさい……』


ダイヤ『ルビィ…ごめんなさい……』


…………
……


ダイヤ「ああ…」ポロッ




『クイコロセ!!!』


『ニンゲンヲクイコロセ!!!』


『ニンゲンニンゲンニンゲンニンゲン!!』


『グォ"ォォォ"ォ"ォォ"!!!!』



?『我が神聖なる地にて長きに渡り住を成し、醜き邪念でその安寧を損ねる不届き者よ…』


千歌 梨子 曜『!?!?』


ダイヤ『!?!?』



??『消え去れ!!!!!』ズォォォォォォ!!!!



『グォ"ォォ"ォォ"ォ"ォ"!?!?』ズズズ


『カラダガトケル!?!?』ズズズ


『ニンゲンユルザナイユルザナイユルザナイィィィィィィ…』ズズズ


スゥゥゥゥ……



千歌「狐が……」


曜「全部消えた……」


梨子「今の声どこかで…」


ダイヤ「……」フラッ


ドサッ…


千歌 梨子 曜「ダイヤさん!!」ダッ


ダイヤ「うっ…うぅ……」


梨子「お腹…お腹を抑えてる!」


曜「ちょっと失礼します…我慢してください…」ゴソゴソ


千歌 梨子 曜「!!!」


千歌「何これ…狐の歯型と文字がいっぱい…」


梨子「多分狐の呪いよ…!」


曜「どうしよう…!」



?「はぁ…はぁ…」タッタッタッタッタッ


?「狐火が…狐火が見えた…」タッタッタッタッタッ


?「畜生…」タッタッタッタッタッ


…………
……


?「はぁ…はぁ…はぁ…」


?「早くあっちに行かなければ……」


?「!!!」


?「なんだこれは…!?」


?「き、狐火じゃない……」


?「ど、どういうことだ!?」



???「スカイランタンです」


?「!?!?」


???「ライブの演出で飛んできたんでしょうかねぇ?それとも…」


???「あなたを欺くために仕掛けてあったんでしょうかねぇ?そんなに必死に走って…」


?「どうして……」


???「8月3日、黒澤ルビィさんを言葉巧みに誘い携帯電話を持って来させ、神社に隠し、それを囮にして黒澤ダイヤさんを淡島神社へおびき寄せ神隠し。今日まで記憶を失ったフリをして何食わぬ顔でみなさんと接してきた…そうですよね?」







聖良「松浦果南さん…いえ、《淡島宇迦之御魂神》!!!」


果南「どうして貴様がここにいる!!!」



花丸「はぁ…はぁ…」タッタッタッ…


聖良「お疲れ様です花丸さん。道中で殺されなくてよかったです」


花丸「酷いずら…」


果南「どういうことだ!?何故貴様がここに!!」


聖良「中身が漏れてますよ。果南さんのまま冷静に話してください」


聖良「あそこのフェリーで踊っているのは美渡さんと志満さんです」


果南「なっ…!?」



ーーフェリー甲板


理亞(美渡)「はぁ…はぁ…本当にこんな変装でバレないんだよなこれ…?」フラフラ


聖良(志満)「はぁ…はぁ…大丈夫よ。モニターの方には今日事前に撮影した本物のSaint
Snowの合成映像を流してるから…お客さんはみんな中継してるって思い込んでるわ!」ヨロヨロ


理亞(美渡)「はぁ…はぁ…全く、一日で既存曲のダンス全部覚えろなんて無茶言って…」フラフラ


聖良(志満)「はぁ…はぁ…ふふっ。これも狐さんを化かし返すためなんだから我慢我慢!」ヨロヨロ




…………
……


聖良「正直、曜さんの電話を受けた時は《夕凪の梢》を歌う方法が無いと一瞬諦めかけましたが…理亞、そしてルビィさん…ナイスです」



ーー教室棟4階窓


ルビィ「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」ガバッ


理亞「よくやったわ。泣き虫なんて言ってごめんなさい。あなたは強い。本当によく頑張ったんだから…」ギュッ


理亞(分かるわ。姉を慕うその気持ち…)ギュッ…


理亞「ん?」


理亞「校庭の隅にいるのは…」



…………
……


果南「ふーん…じゃあ最初から私をハメるために行動してたんだ」


聖良「ええ、そうですよ。まあ、異世界に行く方法が分かったのはついさっきでしたからヒヤヒヤしましたが…逆にそれでよかったのですね。もし昨日の夜に分かっていたら机のメモに書いてしまっていましたから。朝一で起きて部屋を物色し推理状況を確認していたであろうあなたにバレていたのは間違い無いですからね」


果南「昨日、朝来て驚いたよ。まさかこんなに推理が進んでるなんて思わなかったからね。旅館の手伝いやら散らかった資料の整理したフリして物色してみれば…ったく、北斎のジジイ余計な事しやがって…誤算だった」


花丸「とにかくこの8日間は誤算だらけだったよね?」


果南「……」


花丸「8月3日の黄昏、ダイヤさんを異世界へ連れた。例え4日に警察の捜査が来ても分かるはずないし…強いて言えばルビィちゃんが携帯電話のことや果南さんがランニングに持っていくよう指示したことを漏らさないで欲しいと思っていたぐらい。幸いにもルビィちゃんはショックで事情聴取すら受けられない状態だったから無事5日になって皆の記憶から消え、11日は生贄の儀式…狐の嫁入りが今年も無事成功するだろうと思っていた」


聖良「最初の誤算は梨子さん、善子さん、そして花丸さんが淡島へ潜入したこと」



聖良「神隠しの直後、記憶操作前の4日の淡島は非常に『不安定』な状態でした。その状態で入り込めば何が起きるか分かりません。それを恐れたあなたは直ぐさま花丸さん達を呼び戻しました」


聖良「そしてそれがそのまま二つ目にして最大の誤算へ。三人の記憶が何故か消える事無く残ってしまったことです」


聖良「5日の朝、それはそれは驚き警戒したでしょう。しかし6日には皆勘違いだった、気のせいだった、疲れていたと口にしていたので大丈夫だろうと高を括ったのです。裏でダイヤさん救出のために必死に動いていたとも知らず」


花丸「果南さんはよく天気を気にしていたずら。異世界に行くための条件がたまたま揃ってしまうのを恐れていたから」


花丸「不幸にもその心配は形となってしまったずら。それは6日、天気雨(狐の嫁入り)の起きた日の夕方にマルと善子ちゃんが校歌を歌ったこと」


花丸「梨子さん曰く一人で図書室の新聞を調べていたら鞠莉さんを探してる果南さんが来て、天気雨に変わった直後に図書室を飛び出して行ったって」


花丸「それはマル達の校歌を察知したから。なんとか途中でやめさせることはできたけれどもう既に遅かった。新たなる誤算は…」



聖良「千歌さん、曜さんが異世界に入りかけた事」



聖良「無論あなたは行方不明と聞いて心当たりが無いはずがない。近所の人の捜索隊に加わり我先にと淡島神社へ向かうとそこには倒れている二人がいた。…二人は全く目を覚めませんでしたが、いつか目を覚まし、もし何かを見ていたとしてそれを口にするようなことがあれば…と酷く恐れました。なんなら異世界に行ってしまって狐にでも食われてた方がよかったんですかね」


聖良「次の日の7日、お見舞いという体で様子を見るため千歌さんの旅館を訪れたあなたとすれ違いで私と理亞は到着しました。もっと早くお会いしたかったです」クスッ


果南「……」


花丸「9日、文化祭初日。マル達が様子のおかしい鞠莉さんを追っかけてるのを見た時に思った。もしかしたらまだ事件を追っているのではないかと。でも、誰もが鞠莉さんに不信感を抱いていたのは明白…これだけでは何とも言えない。一応マル達に便乗して十千万に行こうとしたけど理亞さんに酷く嫌われたことでその機会を失っちゃったずら」


聖良「そして昨日、10日の朝…あなたは非常に焦ったでしょう。千歌さんが目覚め、密かに進められていた推理の現状を知り、更に私や梨子さんが忽然と姿を消したのですから。あなたは何が起きているか分からなかった。あと一日で全てが終わるという時…」


聖良「花丸さんの推理で私たちが神隠しにあったのでは無いと知ると、旅館に残ることを決めた。何故なら資料を物色できるし続いて目覚める可能性のある曜さんを見張ることができる良い機会だから」


聖良「そして極め付けは千歌さんの突然の記憶の復活。そして曜さんの記憶が復活した状態での起床…そしてこれに気付けなかったこと。そして異世界に行く方法は分からなかっただろうから大丈夫だろうと、先程までの演技に騙されたことです」


果南「けっ…厄介な奴等だ。ちょこまかうろちょろ…だが何故記憶が残ったり戻ったりした?」


花丸「善子ちゃんのロザリオずら」


果南「なっ!?」

花丸「最初にマル達がここに侵入した時善子ちゃんがこのロザリオを配ったずら」ジャラン


花丸「これは善子ちゃんが魔術店で特別に仕入れたものなんだけど、素材は野犬の牙。狐の天敵…」


花丸「不安定な淡島神社へ行っても被害が無かったのは、これがマル達の記憶を守ってくれたからなんだよ」


花丸「でも拝殿の裏で梨子さんはそれを落とした。そしてそのロザリオは千歌さんによって拾われ、眠っている間もずっと握りしめていた。だから少し時間はかかったけど千歌さんにかかった呪いが消え、幸いにも目を覚ますことができた」


聖良「ロザリオにそんな力があると確信したのは《富嶽の間》に閉じ込められた私達を千歌さんが救い出し、梨子さんが千歌さんに抱きついた時です。その瞬間、梨子さんは倒れ千歌さんの記憶が戻りました。千歌さんはロザリオの持ち主の梨子さんの記憶を得たのです。逆に梨子さんは、淡島神社でロザリオを落としてから果南さんの家に行くまで、不安定な瘴気に当てられれていました。その時のツケが千歌さんに働いたプラス作用とは逆のマイナス作用として遅れてやってきたのです」


果南「そんなこと言ったらその時、善子のロザリオは神社の途中の階段に落ちてた!そして私が拾った!つまりずっとロザリオを手にしてなかった善子はとっくに意識と記憶を失っているはず!」


花丸「善子ちゃんが持っていたのは一つじゃなかったずら」


果南「!?」


花丸「あのロザリオを大量に買い占めてジャラジャラ持ち歩いてた。果南さんが拾ったのはその一つずら」


聖良「その仕組みを理解した私達は昨日の夜、眠っている梨子さんと曜さんと…起きている千歌さん、花丸さん、善子さんがそれぞれロザリオを持ち輪になって手を繋いだのです。これで二人の意識と記憶の回復、更に二人にも現状や推理状況を把握してもらうべく念じたのです。梨子さんはともかく曜さんが今朝取り乱さなかったのはそのため。隣で眠っていたルビィさんの記憶変化はダイヤさんとの気持ちのリンクによるもの…それに、そもそも4日以降淡島に行っていないのでこの方法は効果がありません。そして、その隣で眠っていたあなたは…」


果南「犯人だからやる必要が無いと?」


聖良「ふふっ…その通りです」


果南「いつ私だって分かったわけ?」




花丸「おかしいと思う点はいくつもあったずら例えば6日の朝のこんな会話…


ーー
ーーーー


曜「はぁ…ほんとやな季節だなぁ…」ショボン


果南「当日何もなければいいけど…」


曜「うん…今のうちにてるてる坊主でも作ろうかな…」


ーーーー
ーー

なんで果南さんは『当日』なんて言い方をしたんだろうって。その時点ではまだ三日間開催するはずのAqoursステージだったのにこの言い方は変ずら。まるで11日に的を絞ったような…」


花丸「それからマルがルビィちゃんと絵を描いて十千万に戻ってきた時、いつもは大人しいしいたけが引っ切り無しに吠えていたずら。最初は直後に訪れたSaint Snowのお二人に吠えてたと思ったんだけど、本当は直前に訪れていた果南さんに吠えていたずら。昨日も人通りが多かったから驚いていたわけではなく、果南さんが朝来てから…ずっと旅館の中にいる得体の知れない何かに向かって吠えていた…美渡さん曰く向かってずっと旅館の方を向いていたって」


花丸「まあ他にもいくつか怪しいところはあったんだけど、全然気付けてなかったずら。何故なら鞠莉さんを犯人だと思い込んでいたから」


花丸「4日、ダイヤさんが淡島で消えたってのを聞いた時真っ先に思ったのは、果南さんか鞠莉さんは目撃しなかったのかな?ってことずら。船とかを見て色々推理をしたのもそうだけど、もっと確信に近づいたことがあった」


花丸「それはその日の朝学校に行った時に4階の窓が一箇所開いてたこと。その日教室棟は、捜査の関係で立ち入り禁止だったから窓の様子は昨日のダイヤさんの戸締りの様子がそのままになってたってずら。そこの窓から見える淡島は島の裏側。何にもない島の裏側を見て異常を察知できる場所なんててっぺんの淡島神社くらいしかないずら」



花丸「そしてその淡島神社に行くには島に降りてから左側を周る。つまり果南さんの家の前を通らなければいけない。だから、なんで夜にこっそり侵入した暗闇のマル達に気付いて、まだ陽が出ている時に通ったダイヤさんの存在に気付かなかったのかなと思ったずら」


花丸「でもそんなの、もしかしたらダイヤさんが右…鞠莉さんの家のある淡島ホテルの方を周って遠回りして神社に行ったかもしれないし、ダイヤさんに気付かなかったのも偶然かもしれない。だからはっきり言えなかったんだよ」


花丸「それに、淡島神社に侵入した時も果南さんが助けてくれたと思いこんでいた上、鞠莉さんの不可解な行動もあったし、次の日の鞠莉さんの冷たさ…更にその次の日からの不審な教室徘徊もあってか、果南さんを疑うことなんて微塵も無かったずら」


花丸「昨日、化学準備室で鞠莉さんを問い詰めるまでは」


果南「ふーん、やっぱ鞠莉…何か分かってんだ?」


花丸「いや、」


果南「?」


花丸「何も分かっていなかったずら」



ーー校庭隅


善子「あなたは昨日私とズラ丸にこう言った。『思い出せない。何も思い出せないの』って…」


鞠莉「イエス…」


鞠莉「……」


鞠莉「すっごく…すっごく辛かったわ。私って、なんて最低なんだろうって思った…こんなんじゃAqoursにいられないって…」


鞠莉「千歌と曜のピンチに駆けつけられなかったのも本当にごめんなさい。Aqoursが…いや、果南が怖かったの…」


鞠莉「だから本当は、今日のステージも出ていいのかなって思ったわ。みんなを不安がらせて、私自身も整理できてない気持ちでステージに立とうなんて…」


善子「……」



理亞「誤解は解けたの?徘徊金髪おばあちゃん」スッ


善子 鞠莉「!?!?」


鞠莉「ホワッツ!?…あなたどうしてここに…」


理亞「ああ。あなたも知らないんだ。そうだった。でも面倒くさいから後にして」


善子「ルビィ!」


ルビィ「すぅすぅ…」


理亞「安心して。疲れて寝ちゃっただけだから。この子はちゃんとやってくれた。今頃淡島では姉様達が…」


善子「そう…頑張ったわねルビィ…」


ルビィ「むにゃ…お姉ちゃん……うゆ…」スヤスヤ



花丸「善子ちゃんと一緒に鞠莉さんに問い詰めてたみたずら。そうしたら一言だけ…」


花丸「思い出せない…何も思い出せない…って」


果南「!!」


花丸「最初は、ダイヤさんの存在が記憶から抹消されてるからだと思ったけど…本当は果南さんもいなかったから…三年生がスクールアイドルをしていたという過去がそもそも記憶に無かったから…」


花丸「だから鞠莉さんは学校中をうろついていたずら。なんで私が生徒会長なんだろう。なんで私は日本に戻って来たんだろう。昔のスクールアイドルってなんだろう…あそこに行けば…いやあそこに行けば果南さんとスクールアイドルをしていたことやその他諸々の記憶が蘇るかもしれない…忘れているワケが無い。そう信じて何度も何度も…それが確信に変わるまでずっとマル達の元に来れなかった…一番辛かったと思う。無い記憶を信じてずっと抱えていた鞠莉さんは…」


果南「……」


果南「成る程ね」


果南「…何もしないで明日を迎えれば泣きも悲しみも傷つきもせず綺麗サッパリ忘れられたってのに…人間とは愚かだな」


聖良「バカはあなたです。150年もの間その魂を紡ぐため罪のない少女を犠牲にしたのです」


果南「人間は皆同じだ。己の欲望のままに創造し少しでも気に入らないと破壊を繰り返す。そんな身勝手な立ち振る舞いに我がシモベたちもこの地に捨てられたのだ。ただ50年前のこの人間は実に我ら狐に忠実でな?自らその身を器として捧げてくれた…」


聖良「50年前のこの人間…って」


聖良「!!」


花丸「まさか…果南さんって…」



果南「ああそうだ。50年前に我が連れ去ったのは1968年8月11日当時18歳だった松浦果南」



花丸「そんな…果南さんが50年前の犠牲者…」


聖良「つまりあの写真の空白が果南さん、おかっぱ頭が当時のあなた…つまり《淡島宇迦之御魂神》ってことですね」


果南「1868年。廃物毀釈で愚かな人間が多くの稲荷像を壊し、この島に捨てたことで我が子達の霊魂が集った。それまで人間を信じていた私は怒りに震え大社を飛び出した。我が子達を鎮めるためこの地に足を降ろすことにしたは良いが、ここは元々我の住む場所では無いが故、50年でその身が滅びてしまうことを知った」


果南「我は50年に一度、この地への扉として機能する呪いの曲をこの地へ放った。それが《夕凪の梢》。それは自然と人間に歌われるようになった。そして50年後の1918年。人の出入りの珍しいこの地に一つの旅館が建った。当時そこで働いていた一人のおかっぱの少女は新たなこの地に興味を持った。そして8月3日の夕方、天気雨の降った日。少女はとある丘から《夕凪の梢》を富士に向かって歌った。そして、扉を開いた少女は我が器に相応しいと思い泣き喚くのを横目に連れ去った。そして11日に《狐の嫁入り》儀式を行い我はその少女の姿となった」


聖良「酷い……」


果南「時は経ち50年後の1968年。我はその少女の姿で再びこちらの世界に現れた。すると例の丘に浦の星女学院という学び舎が建っていた。我はそこの生徒として潜り込んだ。そこで出会ったのは当時18歳の松浦果南。彼女は学び舎のリーダー的存在で周りからも慕われていた。気さくな彼女は我にも優しく次第に打ち解けていった」


果南「そして運命の日、私は彼女に面白い遊びがあると例の条件を全て達成させた後淡島へ誘い込み異世界へと連れた」



聖良「なんて残酷な…」


果南「しかし松浦果南は事情を知ると抗うこと無く我に身を委ねた」


花丸「どうして!!」


果南「松浦果南は優しかった。こうなったのは私達人間のせいだ。だからこの身は捧げる。でもどうかこれ以上犠牲を出すのはやめてほしい。私で終わりにしてほしい…と」


聖良「果南さん…」


花丸「じゃあどうして…どうして今年、果南さんが千歌さんや曜さんと幼馴染だという《設定》で…ダイビングショップの娘という《設定》で…Aqoursのメンバーという《設定》で!!こんな…こんなこと……」


花丸「あなたは約束をーー」


果南「約束?」


花丸「!!!」



果南「ひゃはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」



聖良 花丸「!?!?」


果南「そんなもの守るわけ無いだろう!?裏切るに決まっているだろう!?元々人間の裏切りにより我はこうなった!!!全て人間が悪いのだ!!!人間の言葉なんぞ信じるものか!?ひゃははははははははははははははははははははは!!!」


花丸「ひどい…ひどすぎる…」グッ


果南「さあお喋りは終わりだ!!!お前達を殺し我らの世界に忍び込んだ奴らも殺し我は黒澤ダイヤを新たな器とし再びーー」



果南「再び……」



果南「……」



聖良「再び…?どうするんですか?」



果南「どういうことだ…儀式の気配が…我が子達の気配が…しない!?」



聖良「千歌さん達がダイヤさんを救出したようです。あなたの器はもうありません」



果南「何を…」



ヒュォォォォォォォォ…



パラパラパラパラ…



果南「!?!?」



聖良「18:32。時間稼ぎがうまくいきましたね。夕凪の終わりです。つまりあなたはもう向こうの世界に行くことすらできない。終わりです」


果南「わ…我が身が……滅びていく……!?」パラパラパラパラ…


花丸「……」


聖良「……」


果南「そんな…こんな人間の……小癪なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」パラパラパラパラ…


果南「グォォ"ォォォォォ"ォ"ォォォ………」パラパラパラパラ…



サラサラ…
ヒュォォォォォォォォ…



花丸「……」


花丸「終わった…」


聖良「あっけない最後でしたね」


花丸「…やっぱりショックです。マルの知ってる果南さんが実は……」


聖良「仮に本物の松浦果南さんがこの時代の人間だったとしても、みなさんの知っているAqoursだったと思いますよ」


花丸「え?」


聖良「50年前の写真であの空白は常に輪の中心だった。みんなのお姉さん的存在で、傷付きやすく自らを犠牲にしてしまう程優しい…本当に優しい果南さんは、花丸さんの…いえ、みなさんの知っている果南さんそのものです」


花丸「確かに…そうだよね。果南さん…」


聖良「さあ、神社へ向かいましょう。千歌さん達が待っています」


花丸「うん…!」



ダイヤ「はぁ…はぁ…」ググッ


千歌「このままじゃダイヤさん死んじゃう!」


梨子「とにかく水上バイクまで運びましょう!」


曜「ダメだよ!こっちは異世界だから…」


千歌「じゃあどうしたら…」



スゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…



千歌 梨子 曜「!?!?!?」


曜「なっ…なに!?」


千歌「見て!月が戻ってるよ!!」


梨子「禍々しい空気が無くなってる…間違いない!」



千歌 梨子 曜「戻ってきたんだ!!」


ダイヤ「うっ…」スゥゥゥゥゥゥ…


千歌「ダイヤさん!」


曜「傷が無くなっていく…!」


梨子「…と言うことは聖良さん達、やってくれたのね…」



花丸「おーい!!」タッタッタッタッ


千歌「あ!花丸ちゃーん!!」


花丸「!!」


ダイヤ「は…花丸さん…」


花丸「ダイヤさん…」


花丸「う…うぅ……」


花丸「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」ガバッ



ダイヤ「ちょ、ちょっと花丸さん!?苦しいですわ!」


聖良「今はしばらくそうさせてあげてください。一番長く頑張っていた分、心に溜まっていたものも相当な物なんです」スッ


ダイヤ「あなたはSaint Snowの…どうしてここに!?」


聖良「ふふっ」


千歌「よかった…よかった…」ズビッ


曜「うん…終わったんだね…」グズッ


花丸「うぇぇぇダイヤさぁぁん…」スリスリ


梨子「……」


ダイヤ「そうですか…」


ダイヤ「花丸さん、千歌さん、曜さん、鹿角聖良さん…」


ダイヤ「そして梨子さん…」


梨子「……」ピクッ


ダイヤ「本当に、ありがとうございますわ」ニコッ


梨子「うっ…うぅ……」ポタポタ



梨子「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」



「ご来場の皆様にお知らせです。本日のライブは終了致しました。忘れ物の無いよう、先生方の指示に従って速やかに下校してください。先程連絡しました通り、閉会式はーー」



美渡「はぁ…お、終わった…」グデッ


志満「明日は筋肉で動けないかもね…」バタッ


美渡「でもまあ…みんな上手くやってくれた……よね?」


志満「ええ。ほら、あそこ見て」


美渡「!!」


美渡「淡島神社から何か飛んでる…」



美渡「スカイランタン!!!」


志満「そういうこと」ニコッ


美渡「はははっ…」


美渡「バカ千歌ー!!よくやったぞー!!!!」ゴロン


志満「ふふっ」ゴロン


志満(明日渡辺さんちにお礼しに行かないとね…ここまでやってもらったんだし…)



「坂道暗いので気をつけてお帰りくださーい」


ルビィ「すやすや…」


善子「ルビィ変わろっか?ずっとおぶってるでしょ?」


理亞「いい」


善子「あっそ」


理亞「……」


理亞「ありがとう」


善子「!!」


理亞「ありがとう。津島善子」


善子「え、ええ…」


善子「こ、こちらこそ…ありがとね?」


理亞「うん…」


鞠莉「……」


善子「あなたのバイク、勝手に使っちゃったと思う…ごめん」


鞠莉「ふふっ…いいわよ。だって…」


鞠莉「ダイヤのためでしょ?」ニコッ


善子「思い出したの…!?」


鞠莉「うーん…なんかよく覚えてない!色々!!」


理亞「はぁぁ!?!?」


理亞「あなた、私達がどれだけ苦労したか分かってるの!?!?」


善子「バカ!ルビィ起きちゃうでしょ!!」


理亞「うるさい!!」


善子「うるさいって何よ!」


善子 理亞「ぐぬぬぬぬぬぬ…」


善子 理亞「ふん!!」プイッ


鞠莉「ふふふっ」



ーー十千万


善子「あ…ああ……」


ダイヤ「善子さん。心配かけて申し訳ありません…そして、ありがとうございますわ」ニコッ


善子「うぅっ……」ボロボロ


鞠莉「ダイヤぁぁぁ!!」モギュッ


ダイヤ「ま、鞠莉さん!?」


鞠莉「なんだかすっごく久し振りな気がするわ~!!」スリスリ


ダイヤ「ちょ…ちょっと鞠莉さん…!」


ダイヤ「まあ、確かに…本当に久し振りですわ…」ギュッ


理亞「ん」グイッ


ダイヤ「!!!!」


ルビィ「うゆ……」スヤスヤ


ダイヤ「ル…ルビィ…」


理亞「私からは何も言わない。目が覚めたらゆっくり…ゆっくりお話してあげて」


ダイヤ「うっ…うぅ……」ボロボロ


ダイヤ「ありがとうございます…」ダキッ


ルビィ「えへへ…お姉ちゃん……」スヤスヤ


ダイヤ「!!!」


千歌「ダイヤさん、今日は泊まってく?」


ダイヤ「いえ、今夜はルビィと二人にさせてください」


梨子「本当に大丈夫ですか?」


ダイヤ「ええ。ご心配ありがとうございますわ…また明日、学校でお会いしましょう」


花丸「あ!マルも送ってく!」タッタッタッタッ



…………
……


曜「行っちゃったね」


千歌「そうだね」クスッ


千歌「よーし!じゃあみんな!!今夜はパーッとやるよ!!」ガラガラガラガラ


理亞「いや寝る」ズカズカ


千歌「えええ!?せっかくダイヤさんを助けたんだし!!」


曜「そうだよ!今夜くらい盛り上がろうよ!おじゃましまーす!」ズカズカ


鞠莉「シャイニー!!」ズカズカ


善子「どんだけ元気なのよ…もう魔力切れ……」


善子「あ!魔力で思い出した!!ヨハネのロザリオのこと感謝しなさいよ待ちなさい!!」タッタッタッタッタッ!



梨子「ふふふっ」


しいたけ「わん!わんわん!!」


梨子「しいたけ?」


しいたけ「グルルルルルル…」


梨子「どうしたの?」


梨子「!?」クルッ


聖良「……」


しいたけ「わん!わん!わんわん!!」



ザザーン…


梨子「お疲れ様です」


聖良「お疲れ様です。本当に」


梨子「聖良さん…それに理亞さんには大変お世話になりました」


聖良「いえ、ほんの気まぐれですよ…Aqoursのみなさんには感謝していますので」


梨子「そうですか…」


聖良「……」





梨子「動物園の約束、果たせそうにありませんね」



聖良「バレてたんですね」


梨子「だって聖良さん…作戦会議の中で一度も、私たちが異世界に行ってからの事を話さなかったじゃないですか。普通あんな危ないところに生身で突っ込もうなんて無鉄砲過ぎます。でも聖良さんの目は自身に満ち溢れていた。私を信じろって…そして」


梨子「助けてくれた」


聖良「……」



聖良「…いいんです。明日になれば忘れてしまっていますよ。理亞だけでなく、あなたたちも…」


聖良「鹿角聖良なんていなかった…実際そうです。今みなさんや世間がSaint Snowだと思い込んでいるものは元の『鹿角理亞』に戻る。今、理亞が姉だと思い込んでいる私はいなくなり元の一人っ子に戻る。果南さんと共に忘れられるのです」


梨子「そんな…どうして…」



聖良「見守っていましたから」


梨子「!?」



聖良「あなたたちの成長をずっと。見てきましたから。そんなあなた達が魔の手にかかるのが許せなかった。だから拝殿を破ってみようと思ったんです」


梨子「あ…じゃあ、4日に鞠莉さんが不可解な動きをしたのも、意識を失わなかったのも!!」


聖良「私です。私が拝殿を飛び出る時の霊波で時空が歪み、拝殿の前にいた鞠莉さんの時間と拝殿の裏にいたあなた達の時間に差が生じたために起きたんです。ほら、その後に鞠莉さんを探しにきた使用人にはそれが起き無かったでしょう?その二人は私の余波により無事だったのです。記憶以外は…」


梨子「……」


聖良「申し訳ありません。この件に関しては皆さんに黙っていました。正直あの時は《淡島宇迦之御魂神》の存在どころか誰が犯人かも分かっていなかったので、この現象について私も知らないフリをする必要がありました。もし梨子さん善子さん花丸さんの中に《淡島宇迦之御魂神》がいたとして、私の正体と現象の詳細を明かしていたら…ということもありまして」


聖良「結果的にこれが鞠莉さんを疑うきっかけとなってしまいました。これは私の致命的なミスです」


梨子「いえ、そんなこと…」


聖良「私は今から150年前に表れた得体の知れない悪霊に封じ込められずっと深い眠りについていました。しかし、今年になって闇の中にいる私に響く光があったんです」


聖良「それはあなた達です。あなた達の希望に満ち溢れた声が私の眠りを徐々に覚ましていったのです」


梨子「!!」



聖良「しかし、そんな伸びゆく若葉を刈り取ろうとする魔の手が迫っているのを感じました。だから何とかして助けてあげたいと思いました」


梨子「それで鹿角聖良という架空の人物の姿になってみんなに記憶を植えつけた…」


聖良「残酷でしたかね…本当に申し訳ありません。でも、どうか分かってください。私はあなた達を助けたかったんです。その為にあなた達を試したりもしましたが、叱咤激励のつもりだったんです」


梨子「聖良さん…」


聖良「私もみなさんとの調査で、深く眠っていた時に起きた様々な事件が次々浮き彫りになってきて、自分はとんでも無いことをしたのだ気付きました」


聖良「本来守るべきはずの私がいなくなったことで多くの人に不幸が降り注ぎ…そして忘れ、忘れられていく…」


聖良「…今回、それの罪滅ぼしが出来ただけで満足です。それではさようなら…」スッ



梨子「待って!!!!」



聖良「!!」


梨子「あなたは私達に抱えきれないくらい大きなものを残してくれました…」


梨子「記憶は無くなってしまうかもしれないけど…今日までにうんと強くなったAqoursはあなたがいてくれた証になります!!!」


聖良「梨子さん…」


梨子「理亞さんだって!!!」


聖良「!!」


聖良「…そうですね」


聖良「あの子は強くなりました…独りを好みずっと寂しくスクールアイドルをやっていましたから…あなた達の出会いと今日までの戦いで大きく変わったと思います」


梨子「聖良さんが残してくれたものも大きいと思いますよ」


聖良「だといいですね…ふふっ。しかし強くなった彼女はまたいずれ、あなた達の強敵となってステージに現れますよ。覚悟してくださいね」


梨子「楽しみにしてますよ…」


聖良「それでは私はこれで…またランニングに来てくださいね。いつでも待ってますから…」フッ


ヒュォォォォォォォォォォォォォ…


梨子「……」





梨子「ありがとうございます。淡島弁財天様…」



ーー3週間後


理亞『マリア、カナリア~?』


『『『カヅノリアぁぁぁ!!!』』』


理亞『スクールアイドルは~?』


『『『遊びじゃない!!!』』』


理亞『はーい!元気いっぱい鹿角理亞でーす!今日もみんなとダンスなう♪』


ワァァァァァァァァァァ!!!


『はい、というわけで今大注目のスクールアイドル鹿角理亞さんですがーー』



ポチッ


『先月、淡島で大量に掘り起こされた石像の破片ですが、本日は専門家のーー』


千歌「あぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


美渡「いつまでテレビ見てんの~?学校遅れるよ?」


千歌「志満ねえ!美渡ねえがチャンネル変えたぁぁ…」ジタバタ


志満「ふふっ。はいはい」


ピンポーン!



282

梨子「千歌ちゃーん。始業式遅れちゃうよー?」


千歌「げっ…マズい……」


美渡「そ~らみろ」


千歌「行ってきまーす!!」タッタッタッタッ


美渡「全く…」


ポツッ…


美渡「ん?」


サァァァァァァァァ…


美渡「げっ…雨だ!」


志満「あら…雲がかかってないのに…珍しいわねぇ」


美渡「それより千歌のやつ、傘持って行ってないよ!」ドタバタ!


志満「まあ、どうしましょう!もうバス行っちゃったわ!」ドタバタ!



サァァァァァァァ…


ダイヤ「……」バサッ


狐の嫁入り、 夏も盛りのこの季節、雲が無いにもかかわらず滝の如く降り注ぎ洗濯物の乾燥を躊躇わせる傍迷惑な天気雨のことを言いますの。


ーーただ、


バキッ!


ダイヤ「!?」


ルビィ「折りたたみ傘壊れちゃった…うゆ…」


ダイヤ「はぁ…」


ダイヤ「ほら、入りなさい」スッ


ルビィ「うん…ありがとうお姉ちゃん」ギュッ


ダイヤ「ええ」ギュッ


ダダダダダダダダダダッ


ダイヤ「?」


千歌「ダイヤさーん傘入れてー!!」ギュッ


ダイヤ「ち、千歌さん!?」


梨子「お邪魔しまーす!!」ギュッ


ダイヤ「梨子さんまで!ちょっと何をしてるのです!?そんなに入れるわけーー」


千歌「梨子ちゃんそっち詰めてよ!」グイグイ


梨子「左肩濡れちゃうよ!千歌ちゃんがそっち詰めてよ!!」グイグイ


ルビィ「ピギィィィィィィ!!」ギュウギュウ


ダイヤ「ふふっ…」



ーーただ、
ーー永遠に降り続いて欲しいとも思いますわ


終わり

最後まで読んでくださりありがとうございました。

おつ~面白かった
でもちょっと悲しいかなん……

同上 だいぶかなしい

凄そう

おつおつ
面白かった

久しぶりに出会った大作
ホラー部分はホントにゾクっとした

すごく面白かった
名作に出会えた幸せ

素晴らしい
地理と歴史の造詣の深さを感じさせますね
>>1さんは地元の人なのでしょうか…

面白かった

かなんちゃんぇ…


面白かった!

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