スイレン「デスノート?」 (24)

荒涼とした砂の世界がある。
その世界に暮らすのは、死神。
人間の生命を糧として、永遠の時を生きる異形の種族である。
その日、その死神はただひとり思索にふけっていた。

「毎日同じことの繰り返し…つまんねー」

異形の中の異形。
邪悪を目に見えるかたちで描き出したかのような魔の存在。
死神リュークである。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1484483145

「この世は…腐ってる…」

そう呟いたのは、海のように輝く水色の髪を持つ少女であった。
一人で席に座っており、ずっと下を向いている。
漁師風の涼しげな服装をしているので綺麗な白い肌がよく見えるのだが、肌の全てが白いというわけではない。
至る所に、打撲痕や切り傷が痛々しく浮かんでいる。

アローラ地方。
観光地として有名で、他の地方からの観光客が絶えない場所。
4つの島から成っていて、それぞれの島には守り神がいるとされている。
ここは守り神カプ・コケコの棲むメレメレ島にあるポケモンスクール。
才気に溢れたトレーナーたちが通う名門である。

カキ「スイレン、何をブツブツ言ってるんだ?」

マオ「やめなさいよ気持ち悪い!」ゲシッ

スイレン「うぐっ…!」


スイレンと呼ばれたその少女は、話しかけられると共に強く蹴られた。


マーマネ「みんなー!スイレン虐待DVD13巻できたよー!」

マオ「やったあ!さすがマーマネ!」

カキ「これを見ると全てのストレスが無くなるんだ」

島巡りを達成し、守り神に認められたカキ。
植物の扱いに長けている草タイプの専門家マオ。
著名な科学者たちに引けを取らない才能を持つ発明家マーマネ。
エーテル財団代表の娘であり、末は学者と言われるほどの知識を持つリーリエ。
いずれも輝かしい将来を約束された若き才能たちである。
そして

サトシ「アローラ!今日もよろしくなスイレン!」ドゴォ

スイレン「うぐぇ!?」

登校早々スイレンの腹を蹴り上げたのは、最近スクールに入学したサトシ。
オレンジリーグ名誉トレーナー、シンオウリーグスズラン大会ベスト4、カロスリーグ準優勝など、素晴らしい経歴を持つ実力者である。
トレーナーとしての実力はもちろん、トップアスリート並みの身体能力を持っており恐ろしく強い。
そのサトシの蹴りを受けたスイレンは、たまらず嘔吐した。

ククイ「アローラ!っておい!何をやってるんだ!」

ククイはアローラ地方で有名な「技の研究者」であり、同時に手練れのトレーナーでもある。
生徒たちには隠しているが、「ロイヤルマスク」というリングネームでロイヤルバトルの普及に尽力している。

スイレン「せ、せんせ…」ゴホッ

ククイ「床を汚しやがって!何考えてんだゲロが!」ドガッドガッ

スイレン「ごめんなさい!ごめんなさい!」

ククイ「校長がいないからってはしゃいでんのか!?お前の釣竿売って床代弁償しろや!」


これが、優秀なトレーナーたちが集まるアローラポケモンスクールの日常である。

放課後。
虚ろな目と、力のない足取りで家に向かうスイレンの心は、深い悲しみと怒りで満ちていた。
今日もまた殴られた。
以前まで口癖として使っていた「ウソです」が癪に障るからという理由で。
その口癖をやめても、いじめは無くならなかった。
そして、大事なものまで奪われた。
どうしてここまでされなければならないのだろうか。
しかしそうした感情など、夜には明日への不安と恐怖でかき消されてしまうのだ。

スイレン (ああ…)

スイレン (いっそ世界がひっくり返るくらいのことが起きてくれないかなあ…)

無力なスイレンにできることは、非日常の到来を望むことだけ。

スイレン「ただいま…」

ホウ・スイ「「お姉ちゃんおかえりー!」」

スイレン母「遅い!早くご飯作ってよ!」

スイレンの家族は妹二人と母親で、4人暮らしである。
父親は不倫の末に家を出て行ってしまった。
それからというもの、母親は人が変わってしまい、家事も子育ても放棄するようになった。

ホウ「お姉ちゃんその傷…また…」

スイ「大丈夫!?痛くないの…?」

スイレン「あっ…ああうん…これは…」

スイレン母「うっさいわねホウ!スイ!余計なこと言わなくていいの!」

いくら母親に怒鳴られようと、スイレンは気にしない。
母親の殴打などサトシたちの蹴りに比べれば痛くないし、何より家には妹たちがいる。
この家こそが、スイレンの心が休まる唯一の場所なのだ。

その夜、アローラの空に一つの穴が開いた。
ワームホールを思わせる形状。
神々しい光。
その穴を自分の目で見た者は、世界の終わりを思ったことだろう。
それはあながち間違いではない。
なぜなら、その穴は一冊のノートを落とすために開けられたからだ。
死神の力が宿る死のノート。
デスノートを。

また憂鬱な朝が来た。
リビングではいつも早起きな妹たちが、興味津々にテレビのニュースを見ている。
昨夜、ワームホールのようなものが観測されたと報道されている。
しかしスイレンは、謎の現象になど興味は無い。
スイレンはテキパキと朝食を作り、鈍い動作で授業の用意をして、玄関の扉を開けた。

スイレン「いってきます…」

この時のスイレンには知る由もない。
求め続けた非日常が、すぐ目の前に迫っていることなど。

スイレンはなんとなく寄り道をした。
通学路にあるビーチ。
かけがえのない思い出の場所だ。
スイレンはここでパートナーのアシマリと出会ったのだ。
アシマリはスカル団に暴行されていた。
そんなアシマリの姿を自分と重ねてしまい、すぐにアシマリを助けた。
だが、スイレンは少し後悔をしている。
もしかするとあの時アシマリを助けなければ、今もアシマリは。

いけない。
また意味のないことを考えてしまった。
スイレンは頭を横に何度か振り、必死に考えるのをやめた。
いや、やめざるを得なかった。
何かとつてもなく魅力的なものが、見えた気がしたのだ。

スイレンは立ち上がり、それをよく見るため歩き出した。
黒いノート。
拾い上げ、真ん中あたりのページを見てみたが、何の変哲もないノートだ。
だが、そのノートからは言葉では言い表せない魔翌力のようなものが滲み出ていた。
よく見ると、表紙に文字が書いてあることに気が付いた。

スイレン「デスノート?」

表紙をめくる。
白いインクのようなもので、何行にもわたって何かが書かれていた。

・このノートに名前を書かれた人間は死ぬ。
・書く人物の顔が頭に入っていないと効果はない。ゆえに同姓同名の人物に一遍に効果は得られない。
・名前の後に人間界単位で40秒以内に死因を書くと、その通りになる。
・死因を書かなければ全てが心臓麻痺となる。
・死因を書くと更に6分40秒、詳しい死の状況を記載する時間が与えられる。
・このノートは人間界の地に着いた時点から人間界の物となる。
・所有者はノートの元の持ち主である死神の姿や声を認知する事ができる。
・このノートを使った人間は天国にも地獄にも行けない。
・死因に心臓麻痺と書いた後、40秒以内に死亡時刻を書けば、心臓麻痺であっても死の時間を操れ、その時刻は名前を書いてからの40秒以内でも可能である。
・デスノートに触った人間には、そのノートの所有者でなくとも、元持ち主の死神の姿や声が認知できる。
・デスノートの所有者となった人間は、自分の残された寿命の半分と交換に、人間の顔を見るとその人間の名前と寿命の見える死神の眼球をもらう事ができる。
・書き入れる死の状況は、その人間が物理的に可能な事、その人間がやってもおかしくない範囲の行動でなければ実現しない。
・死神の目の取引をした者は、所有権を失うと、ノートの記憶と共に目の能力を失う。その際、半分になった余命は元には戻らない。
・所有権は自分のまま、人にデスノートを貸す事は可能である。又貸しも構わない。
・デスノートを借りた者の方に死神は憑いてこない。死神はあくまでも所有者に憑く。また、借りた者には死神の目の取引はできない。
・デスノートを貸している時に所有者が死んだ場合、所有権は、その時、手にしている者に移る。
・死神は特定の人間に好意を持ち、その人間の寿命を延ばす為にデスノートを使い、人間を[ピーーー]と死ぬ。
・人間界でデスノートを持った人間同士でも、相手のデスノートに触らなければ、相手に憑いている死神の姿や声は認知できない。
・デスノートの所有権を失った人間は自分がデスノートを使用した事等の記憶が一切なくなる。
しかし、ノートを持ってから失うまでの全ての記憶を喪失するのではなく、自分のしてきた行動はデスノートの所有者であった事が絡まない形で残る。
・二冊以上のデスノートの所有権を得た人間は、一冊の所有権を失うとその失ったノートに憑いていた死神の姿は認知できなくなり死神も離れるが、一冊でも所有している限り、関わった全てのデスノートの記憶は消えない。
・所有権をなくしたノートの所有権を得れば、そのノートに関する記憶が戻る。万が一、他にも関わったノートがあれば、関わった全てのノートに関する記憶が戻る。
・また、所有権を得なくとも、ノートに触れていれば、触れている間のみ記憶は戻る。

デスノートのルールであった。
一行目からして荒唐無稽な話である。
到底信じられるものではないが、矛盾点がどこにも見つからない。

スイレン「誰かのイタズラ…?でも…これ…」

そのノートを拾わずにはいられなかった。
スイレンは、カバンにデスノートを入れ、学校に向かった。

正確にはスイレンを基に作られた人形である。
しかしスイレンと瓜二つで、遠目にはスイレン本人にしか見えないほど精巧に作られていた。

スイレン「え…これ…」

リーリエ「おはようございますスイレンさん!」

スイレン「リーリエ…あの…この人形…」

リーリエ「それエーテル財団が作ったラブドールなんですよ!今度それを各地に設置しようと思うんです!」

リーリエ「観光客の方々にアローラサプライズ!です!」

スイレン「う…あ…」

スイレンはたまらず逃げ出した。
あんなものが量産され、さらにアローラ中に置かれるというのだ。
その未来を想像するだけで死にたくなる。
スイレンは、トイレで何度も嘔吐した。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom