水野翠「プロデューサーさんの猫背を直したい」 (22)

水野翠「んです」

塩見周子「うん」

翠「という訳で、あの丸まっている猫ちゃんみたいなプロデューサーさんの背中にビンタをしようと思います」

周子「え?」



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翠「行きます」

周子「待って」

翠「なぜです。弓道部で猫背は処罰対象ですよ」

周子「いやいやいやいや、ここ弓道部じゃないからね!? 事務所だからね!?」

翠「ここは弓道部ですよ。たった今決めました」

周子「なんで!?」

翠「というのは冗談ですけど、周子さんも気になりませんか? プロデューサーさんの猫背」

周子「確かに気になるけどさ……猫背って荒治療までして直す必要ある?」

翠「姿勢という物は人を美しく見せます。先程も言いましたが、良い姿勢を求められる弓道で猫背はご法度です。ビシッと立ってる方と、グニャ~ってなってる方、どちらが良い印象を持ちますか?」

周子「んん……そりゃあ、ビシッと立ってる方が良いよ。グニャ~ってなってると違和感あるし」

翠「そうでしょう。プロデューサーさんがこのまま猫背だと、あそこの事務所のプロデューサーは猫背という印象を持たれてしまいます。私達の沽券に関わってくるかもしれないんですよ」

周子「なるほど……」

翠「という訳で、1発かましてきます」

周子「マジでやるの……」

翠「行きます」

翠「えい!」

スパァン!!!!!!

P「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!」

周子「わーお、フルスイング……」

P「翠イイイイイイてめええええええ痛ッてええええええええ!!!!!!!!」

翠「プロデューサーが猫背なのが悪いんですよ。私が入っていた部でも姿勢の悪い人はこうやって背中を叩かれていました」

周子「それで、プロデューサーの背中をぶっ叩いて何か効果はあるの?」

翠「ありません。私のストレス発散です」

周子「ないの!?」

P「つまり俺の背中は? 翠のストレス発散のためだけに? 叩かれたって言うのか?」

翠「そういう事になりますね」

P「どうしてそんな事するの」

翠「以前プロデューサーの大きな背中を見て、どうしても叩いてみたくなりまして。叩くチャンスをずっと窺っていました」

P「そんな理由で俺の背中を叩かないでくれ……」

翠「でもプロデューサーさん、猫背は治したほうがいいですよ。人と出会う時に姿勢が悪いと、印象まで悪くなってしまいますよ」

P「治したいのは山々なんだけどさ、何やっても治った気がしないんだよ」

周子「整骨院とかは?」

P「行く暇がないんだよ……」

翠「大丈夫ですよ。運動不足で体が凝り固まってるプロデューサーさんにもできる運動法がありますから」

P「運動不足は余計だよコノヤロー」

周子「それって効くやつ?」

翠「私はこれで弓道部入部から卒業まで7人の猫背を治しました」

P「んな通販雑誌の詐欺臭い購入者みたいな……」

周子「実績アリ?」

翠「使って効果があったものしか使いませんよ」

翠「まずは肩を揉みほぐしましょう」

P「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!」

周子「もしかしてプロデューサーの肩って相当凝ってる?」

翠「パソコン、スマートフォン、寝る時の姿勢、上司への平謝り。この現代社会、肩が凝る原因はいくらでもありますよ」

周子「そんなもんかね~。あたしらはレッスンとかライブで体動かすけど、プロデューサーはあんまり体動かさない仕事だし、そりゃ筋肉凝り固まってるよね……」

翠「それにプロデューサーさん、家帰ってもゲームばっかりでしょう。使われない筋肉なんて弦の切れた弓ですよ」

P「があああああああああ!!!!!!!!!!」

P「オオ……オオ……」

翠「いい感じにほぐれたみたいですね」

周子「次はどうするの?」

翠「プロデューサーさんの右手をまっすぐ伸ばしてください。少し肩を上げてくださいね。私は左手を持ちます」

周子「伸ばしたけど、ここからどうするの?」

翠「このまま30秒ほど維持します。本当は1分がいいんですけど、30秒でもいいでしょう」

周子「あれ? 右腕はそのままなのに左手はひっくり返ってるけど」

翠「これでいいんですよ」

周子「そろそろ30秒じゃない?」

翠「それでは、今度は右腕を逆方向にお願いします。先程の左腕と同じようにひっくり返してくださいね」

周子「また30秒?」

翠「そうですね」

周子「これ猫背に効くの?」

翠「猫背というより、背中の筋肉を解放する運動法ですね。姿勢が悪くなる原因は大体背中だったりしますから」

周子「しっかし、翠ちゃんよくこんなの知ってんね」

翠「部長として、姿勢の良くない部員をちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返していたので。色々と姿勢を直す方法を先生に教わりました」

翠「そろそろ30秒ですが、どうですか現場のプロデューサーさん?」

P「いや~なんかよくわからないんですけど、なんか肩の荷が下りたって感じですね」

周子「語彙力消えてる……」

P「いやマジで、重かった肩が凄い軽くなってるんだよ。肩上がらなかったのにこんなに上がるし」

周子「肩上がらなかったのは年のせいじゃないの?」

P「んな訳ねーだろ。俺まだ20台だぞ」

翠「これで肩の伸ばし方は解決ですね」

P「しかし翠、なんで俺の猫背を治そうと思ったんだ?」

翠「いいですかプロデューサーさん。猫背という物は人を弱弱しく見せてしまうものなのです。姿勢が悪いと印象まで悪く見えてしまいます。初見だと尚更です」

周子「あたしも番組のディレクターとかと会う時に、この人猫背だな~って思う事はあるけどさ、そこまで印象変わるもんなの?」

翠「私は姿勢第一の弓道の出身なので、周子さんの言うような猫背のディレクターさんとかを見ると、どうしても違和感を覚えてしまうのです。もちろん、仕事には毎回全力を出していますが」

P「ふ~む、アイドル達にも関わってくる問題なのか……」

翠「それにプロデューサーさんが猫背だと、相手のディレクターさんにも同じような悪印象を与えてしまう可能性があります。そうなると本当に私達の沽券に関わってしまうんですよ」

P「むう……それは流石に不味いな」

周子「まあ、猫背でぐにゃ~ってなってる人より、ビシっと背筋張ってる人の方が格好良いよね」

翠「猫背は癖ですから簡単に治る物ではありません。私も部員の姿勢を正すのには苦労させられました。まずは簡単に筋肉をほぐしたり、背筋を伸ばす事を意識しながらやっていきましょう」

みんなもやってみよう

①右腕をまっすぐに伸ばす

②左腕を裏返して(掌が上になるように)後ろに伸ばす

③30秒維持

④今度は逆に右腕を裏返して後ろに・左腕を元に戻して前に

⑤再び30秒維持

⑥これをできる範囲で繰り返す

私はこれで肩が軽くなりました

周子「プロデューサー」

P「何」

周子「翠ちゃんのビンタ気持ちよかった?」

P「おい!いきなり何を言い出すんだ」

周子「いや~いきなりプロデューサーにビンタ叩き込むからさあ、ちょっと気になって」

P「まあ、気持ちよくなかったと言えば嘘になるな」

周子「どんな感じ?」

P「弓道で鍛えられたガッシリとした手なんだけど、やっぱり女の子の手という柔らかさがあるんだ。例えるなら辛さの中にほんのりと甘みがあるカレーみたいな感じ」

周子「うわキッツ。それ翠ちゃんの前で朗読できる?」

P「できません」

周子「今の会話翠ちゃんに一字一句漏らさず伝えてきていい?」

P「やめてくださいお願いします」

周子「あ~あ~今の会話伝えたら翠ちゃん純真だからドン引きして傷ついちゃうだろ~な~」

P「どうしたら翠に伝えないでいただけますでしょうか周子先生」

周子「あたしにも一発ビンタさせて?」

P「……それだけ?」

周子「よっしゃ~!日頃のストレスをこの一発に込めるぞ~!」

P「いつでも来い!」

周子「えい!」

P「オオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」



周子「今のどうだった?」

P「そうだな……やはりふんわりとしていて、後味がさらさらと消えていくビンタだ。例えるなら口の中でさらさらと溶けていく菓子のような」

周子「あたしこの事務所やめていい?」

P「本当にごめんなさいどうかやめないでくださいお願いします」

おしまい ふとした瞬間に猫背は貴方に発生する 備えよう

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