あずき「どうもー。桃井あずきですー」
文香「鷺沢文香です。初めての漫才で慣れませんが……どうか、よろしくお願いいたします……」
あずき「さあいよいよ始まるわけだけども、文香さん」
文香「あの……あずきさん、一ついいですか」
あずき「あれあれ? いきなりどうしたの?」
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文香「……お願いですから、もう帰らせてください」
あずき「たった今あいさつ終わったばかりだけど!?」
文香「や、やはり私がボケというのは……。……覚悟は決めてきたつもりだったのですが……すみません」
あずき「そんなこと言われても、今さら無理だよ。今日のために二人で練習してきたんだし、一緒に頑張ろうよ……!」
文香「代役に乃々さんを呼んでいますので、それでどうにか……」
あずき「ますます無理だよ!」
あずき「文香さん大丈夫!? その人選でどうにかできると思う方がおかしいから!」
文香「ですが、乃々さんはああ見えて『346プロのツッコミ師』の異名をほしいままにしているとか……」
あずき「ボケの代役にツッコミ呼んでどうするの!?」
あずき「それに乃々ちゃんがそんな異名持ってるなんてはじめて聞いたよ! 文香さん、まさか代わりたくて嘘言ってるんじゃないよね!?」
文香「嘘ですけど……」
あずき「あっさり認めないでよ!」
文香「じゃあ本当です」
あずき「返し方雑すぎでしょ!」
文香「ほら言ったでしょう? 私では、漫才なんて土台無理なんです」
あずき「この状況で、文香さんにそれ言う資格ないからね?」
文香「……とまぁ、こんな風にやっていけばいいんですね。頑張っていきましょう、あずきさん」
あずき「そういうボケだったんだ!? したたかすぎるよ!」
文香「もちろん、私はあずきさんとの漫才をきちんとやり通すつもりですよ。ボケ役を重荷に感じているのと、一刻も早く帰りたいのと、乃々さんをいざというときの代打に呼んでいるのは本当ですけどね」
あずき「それ絶対やる気なくしてるよね!?」
文香「鷺沢文香、がんばりますっ」
あずき「卯月ちゃんのマネしてごまかそうとしても、そうはいかないからね」
文香「ふーん、アンタが私の相方? ……まあ、悪くはないかな」
あずき「モノマネはもういいから! ごまかせてもいないし!」
あずき「気を取り直して……。……文香さん、ずばり、どういう風に話を広げていくのがいいんだろうね?」
文香「そうですね……。……ひとつ、時事ネタで攻めてみるのはいかがでしょうか」
あずき「へぇ、時事ネタ! でもどうして?」
文香「『諸行無常』の四字熟語が示すように、世間の様子は常に変化していくものです。移り変わりゆく世の中のことをその都度ネタにしていけば、話の種に困ることはないだろうと思われます」
あずき「お~。文香さん、流石だね」
文香「気に入っていただけたようで、何よりです。……ということで、ひとまずこの方向で行ってみましょうか?」
あずき「うん!」
あずき「それじゃあ文香さん、早速時事ネタいってみよー!」
文香「おまかせください! ……と、その前に」
あずき「うん?」
文香「時事ネタをこれから広げていく上で、ぜひとも注意してもらいたいことがあるのですが……」
あずき「えぇっ? 一体、何に気を付ければいいのさ?」
文香「『初対面で政治・宗教・野球の話はするな』という言葉、あずきさんはご存知ですか?」
あずき「ううん、知らない……。どういう意味?」
文香「思想や信条の違いから溝が生まれやすい話題は、安易に持ち出すべきではないという教訓ですね」
あずき「へぇ~」
文香「『タクシーの運転手とは~~の話をするな』などと言われることもあります。現代の慣用句のようなものですね」
あずき「ふむふむ。そういう風に言われると、確かに気を付けなくちゃって気持ちになるね」
文香「現に346プロでも『ウサミン・クラリス・姫川には近寄るな』なんてことが言われてますし……」
あずき「言われてないよ! ウチの事務所に変なイメージつけるのやめよう!?」
あずき「……ん、ちょっと待って? クラリスさんは宗教、友紀さんは野球とすぐに結びつくけど、菜々ちゃんと政治って関係あるの?」
文香「あるに決まってるじゃないですか。あずきさん、今の総理大臣の名前を言ってみてください」
あずき「安倍晋三さんでしょ? 名字の読みが一緒なだけだよね」
文香「それだけじゃないですよ! デビューCDで菜々さんが言ってたこと、覚えていらっしゃらないのですか?」
あずき「うーん。CDを聞いた記憶はあるけど、もうだいぶ前だから……」
文香「……仕方がないですね。今から私がその台詞を言うので、それで思い出してくださいね」
あずき「うん」
文香「それではいきますよ。……せー、の、」
文香「アベナミクス! ……なんちて♪」
あずき「…………」
文香「ちょっとちょっとどうして引くんです!!? 私は菜々さんのギャグを忠実に再現しただけなのに!」
あずき「思い出したけど、それCDの中でもスベってたよね? よく漫才で再現しようと思ったね」
文香「そこで冷静にならないでください! あわよくばと思ってたのに……あーもう!!」
あずき「ちょ、落ち着いて文香さん! なんか危ない感じになってるよ?」
文香「うふふふふ! ギャグだけじゃなくて、スベり具合まで忠実に再現してしまいましたよあっはっはっはっはっはうぇっ、うっ、ゴホッ! ゲホッ!!」
あずき「だから危ないって言ったのに! 慣れないことするから!」
文香「ふぅ……。こうなったら、ブログに恨み節でも綴ってストレス解消しますかね」
あずき「えぇ~何それ……。ていうか、文香さんブログやってたんだ……」
文香「タイトルは決めてありますよ。『一発ギャグスベった 安部菜々生きろ!!!』ってね」
あずき「ここで時事ネタ使ってくるの!?」
文香「待ってくださいあずきさん。このネタが出てきたのは2016年の2月ごろですし、時事ネタというには旬を過ぎてる感も否めな」
あずき「細かいことにうるさいね!」
あずき「それより『生きろ』ってなにさ。『生きろ』って」
文香「それはほら、元ネタ通りに死ねって書いたら菜々さんに悪いじゃないですか」
あずき「たった今言ったよね!? 直球で死ねって言っちゃったよね!!?」
文香「『オーディション落ちた 安部菜々生きろ!!!』」
あずき「気に入っちゃったの!?」
文香「まあ、『死ね』はよろしくないですよね。ネタとはいえ、このようにネガティブな言葉を連呼するのはどうかと思います」
あずき「急に真面目だね」
文香「真面目にもなります。先日、亜里沙さんから大きなお友達の教育についてお話を聞いたばかりですので……」
あずき「それ文香さんが思ってるのと絶対意味違うよ!? 気づいて!」
文香「時子さんにも、調教のしかたをご教授していただいて……」
あずき「『調教』って言い方に疑問を持とうよ!」
文香「『洗脳』と言った方がいいですかね?」
あずき「もっとダメだよ! どんな言語感覚してるの!?」
文香「洗脳といえば、宗教ですけど……」
あずき「変なこと言い出さないでよ! あずきたち後で色んな人に怒られちゃうよ!」
文香「まあ、怒られたときはプロデューサーさんが頭を下げてくださるので大丈夫だとは思いますが」
あずき「それ大丈夫じゃないよね!?」
文香「私たちは台本通りに喋っただけだと言い張りましょう」
あずき「責任転嫁に全力注ぎすぎでしょ! もっと平和なネタでボケてってば!」
文香「とにかくですね、あずきさん。また真面目な話になるんですけどね」
あずき「うん? どんな話なのさ」
文香「ほら、最近、宗教でもないのにアイドルや創作物のファンを『信者』と呼ぶことがあるそうじゃないですか」
あずき「信者かぁ。熱狂的なファンのことをそう呼んだりするみたいだね」
文香「ところがですね、この『信者』という呼称、対象を愛するあまりに他人への迷惑をかけるような人々を揶揄する意味でも使われるらしくて……」
あずき「う~ん……。あずきたちも縁遠い話題じゃないし、色々と辛い話だよね」
文香「そうなんですよ」
文香「モラリストを気取るわけではありませんが、そういった懸念が346プロにも及ぶようであればですね」
あずき「あずきたちが、ファンのみんなにマナーを呼びかけた方がいいってことかな?」
文香「はい。私たちが、信者の皆さんをしっかり調教していくべきかな、と」
あずき「ちょっと! 言い方! 言い方!」
文香「私たちが、信者の皆さんを洗脳していかないといけませんね」
あずき「そっちじゃないからーーーーーーー!!!!」
文香「というわけで、2017年の私の目標は、ファンの皆さんにも言うことを聞いてもらえるようなカリスマある存在になることです」
あずき「もはやどこにツッコめばいいのかわからないよ!」
文香「言い換えましょう。目標は、信者の皆さんを教化できるような神に等しい存在へ生まれ変わることです」
あずき「あずきそろそろついていけなくなるよ!?」
文香「これが流行りの『神ってる』ってやつですかね」
あずき「全然違うよ!」
文香「噂によると、とあるタヌキのキャラクターに三日三晩の間地獄を見せつけることで『神ってる』と言われるとか」
あずき「どれだけ偏ったウワサなの!?」
あずき「それよりどうするのさ文香さん! 安倍さん、信者、神ってる……さっき文香さんの言った口にしづらい話題、三つとも全部口にしちゃったよ!」
文香「政治・宗教・野球と三拍子揃って、まさにトリプルスリーですね」
あずき「うまくないから! 使い方も違うからー!!」
文香「私たちも、アイドルとして流行に乗っていきませんと……」
あずき「トリプルスリーは去年の流行語だよ!?」
文香「では、これから『流行からズレてる系アイドル』として一緒に売っていきましょうか」
あずき「イヤだよそんなの!! 売れるビジョンが見えないよ!」
あずき「それより文香さん、あずきたちこれからどうすればいいのさ……」
文香「はて、どういうことでしょう?」
あずき「だって、主に文香さんが自分で言った地雷をことごとく踏み抜いて……あずきたち、色々と大丈夫かな?」
文香「大丈夫でしょう。私には叔父の書店が、あずきちゃんは実家の呉服屋がありますし」
あずき「経済基盤の話じゃないよ!」
文香「関係者の皆さまへは、プロデューサーさんが頭を下げてくれますし」
あずき「その流れ二度目だよ! ……にしても、プロデューサーさんへのアタリがやけにきついね」
文香「あの方が、この漫才を企画した戦犯ですからね」
あずき「気持ちはわかるけどね? 流石にやめてあげようよ……」
文香「まあ、諸々の心配事は『秘書がやりました』などと言い訳して……」
あずき「秘書いないから! あずきたち当事者だから!!!」
文香「では、神のお導きだったということにしましょうか」
あずき「絶対無理でしょ! ていうか、また政治、宗教に傾きかけてるんだけど!?」
文香「神のお告げで……」
あずき「グリーンウェルか! ……ってこのネタ絶対分からない人の方が多いよ!」
文香「グリーンウェルというのは、かつて阪神タイガースに在籍していた外国人選手のことですね。実績はありましたが来日後から不真面目な態度をとり続け、怪我をきっかけに『神のお告げ』を理由に急遽引退・帰国したことが話題になりました」
あずき「解説しなくていいって!」
文香「政治・宗教・野球の流れは二度目ですね、あずきさん!」
あずき「どうして喜んでるの!? 危機感持とうよ!」
文香「ふふふ。これであの戦犯もただでは済まないでしょう……」
あずき「本当にアタリきついなぁー!」
あずき「もー! あずきは本気で心配してるのに、文香さんったら全然聞いてくれないんだから……」
文香「仕方ないですね……。こうなれば、あの言葉を使うしかありませんか」
あずき「あの言葉って?」
文香「これさえ使えば、どんな流れも無理やり打ち切って全てを終わらせることのできる最終兵器のようなものです」
あずき「なにそれつよそう」
文香「私たちのキャリアがこれ以上傷つかない内に、これを使ってドロンするのが得策ですので」
あずき「言い方古いね! 『ドロンする』なんて使ってる人見たことないよ!?」
文香「『流行からズレてる系アイドル』としてもですね」
あずき「だからその売り方はイヤだって!」
文香「とにかく、なるべく早いうちに終わらせてしまいましょう」
あずき「わ、わかったよ。でも一体どうすれば……」
文香「簡単です。『せーの』の合図で私が『あること』を言うので、あずきちゃんはそれに合わせてください。いいですか?」
あずき「……う、うん。なんだか分からないけど、がんばって合わせるね!」
文香「では、行きますよ。せーの……」
あずき「せー、の……」
文香「もうアンタとはやってられんわ」
あずき「こっちのセリフだよ!」
文香「どうも、ありがとうございました」
あずき「ありがとうございましたーっ」
というわけで終幕です。お付き合いくださったみなさま、ありがとうございました
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