真鍋いつき「初めて泣いた日」 (15)

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の続き、例によって短いです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1483017604

事務所への通り道、朝の公園。そこで見慣れたスポーツブランドの帽子を被った小柄な少女を見つける。

いつき「晴ちゃんおはよう!」

よく通る声の挨拶に対する返答はおはよう、ではなくゆるやかに飛んでくるサッカーボールと注意喚起だった。

晴「ごめん!ボールそっちに行った!」

いつき「おっと…はい、ボール。」

腿でボールを打ち上げ、ヘディングでボールを返すと、晴が駆け寄って来た。

晴「おーっ、いつきさん経験者?あ、おはよーっす。」

いつき「急に声かけてごめんね!サッカーは昔ちょっと助っ人でやってたんだ。」

晴「そうだったのかー。折角だし時間あったら一緒にサッカーやんねー?」

いつき「うん、いいよ。さっきリフティングの邪魔しちゃったし埋め合わせといっては何だけど。」

トレーニングがてら早めに家を出たので予定まで時間はある、断る理由もない。

最初は軽くパス交換から始め、ほどほどに体が温まってくると1on1。

晴はただただひた向きに、目を輝かせて。勝負の結果に一喜一憂しもう一度やろう、とせがんでくる。

その姿を見て「昔」の事を思い出しす。

両チーム同点で残り時間僅か、キーパーと一対一。

これ以上ないお膳立てを受け、エースストライカーがシュート。ボールがゴールネットを激しく揺らし、試合が決する。

「ありがとうございました!」

涙を堪える、嗚咽する、声を上げて大泣きするチームメイト達。

その中で自分は涙を流す事が出来なかった。

思いっきり体を動かして、自分のやれる事をやった満足感が負けた悔しさといったものを上回っていた。

それは自分があくまで助っ人という立場で部に思い入れが無いからなのか、他のチームメイトほど真剣ではなかったのか。

体を動かす事自体が好きであって自分は本当にサッカーを好きなのか。

どのスポーツをやっても人並み以上にこなせて楽しむ事が出来るが一流プレイヤーにはなれないし、これだ、というものに出会う事もない。

晴は違う。必死で、ひたむきで、間違いなくサッカーが大好きで。きっと勝って感涙する事も負けて悔し涙を流すことも出来る。

それが少し、羨ましいと感じた。

いつき「あ、もうこんな時間!そろそろ行くね。」

晴「オレもレッスンの時間だ…また相手してくれよ!」

勝負が白熱してすっかり時間を忘れていた。今日ばかりは絶対に遅刻する事は許されない。

今日は初の舞台。プロデューサーが取ってきてくれた、アイドルとしての第一歩。

会場に入り、衣装を手渡される。ライトグリーンの生地が目を引く、動きやすそうな衣装。

自分はアイドルになったんだ、という実感が沸いて来て体が熱くなる。

客席を見る。人が沢山いる。決して自分の為だけに来てくれた、とは思わないが緊張に胸が張り裂けそうになる。



それでも不思議と気分が高揚する。

今まで受けたレッスンがフラッシュバックする。

今すぐ踊りだしたい、という感情で満たされてゆく。

プログラムが進行し、遂に自分の出番が回ってきて幕が開く。

いつき「皆さん始めまして!私の名前は真鍋いつき、真鍋いつきですっ!」

歓声がビリビリと肌に伝わってきてこそばゆい。舞台のライトと客席のペンライトで視界が眩しい。

レッスンで学んだとおりに体が動く。何度も失敗を繰り返した箇所も歌える。緊張とダンスで高鳴る心臓の痛みも心地良い。

自分はきっと、心からアイドルを楽しんでいる。

いつき「皆さん初めまして!私の名前は真鍋いつき、真鍋いつきですっ!」

歓声がビリビリと肌に伝わってきてこそばゆい。舞台のライトと客席のペンライトで視界が眩しい。

レッスンで学んだとおりに体が動く。何度も失敗を繰り返した箇所も歌える。緊張とダンスで高鳴る心臓の痛みも心地良い。

自分はきっと、心からアイドルを楽しんでいる。

「ありがとうございました!」

思い切り歌って、踊って。初舞台はあっという間に過ぎ去った。

舞台から去る自分への拍手の感覚が耳からしばらく離れなかった。

「いいステージだった。お疲れ様。」

プロデューサーに労いの言葉と共にタオルとドリンクを手渡される。

なぜか声が出ない。ステージの感想も、感謝の言葉も伝えられない。

けれども、声の代わりに。目からは涙が零れ出ていた。

以上になります。いつき誕生日おめでとう!

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