紗枝「いつきはん、最近よー食べるなぁ。」 (41)

短めです。
よろしくお願いします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1475709870

暑さも過ぎ、すっかり涼しくなってきた秋の午後。

事務所でのんびりしていると、紗枝ちゃんがそんなことを言い出した。

いつき「えっ、そう?」

そう返しながら、テーブルに置いてあったおせんべいの詰め合わせ袋の封を開け、一枚頬張る。

あ、こののりせんおいしい。

紗枝「なんや、いつ見ても何かしら食べてはる思て。」

肇「確かに。今日もレッスン終わりにケバブ食べてましたね。」

給湯室からお茶を持ってきてくれた肇ちゃんがそう続ける。

いつき「そうかなー。そんなに食べてばっかりじゃないと思うんだけど……あ、ありがと。」

そう返しつつ、お茶を受け取る。

湯呑みは肇ちゃんのお手製だ。

この間オフで帰省した時に、私たちの分を作ってきてくれたらしい。

ちなみに、丸に紗の字が入っているのが紗枝ちゃんの。

來の字が入ってるのが聖來さんので、いの字が入っているのが私のだ。

なかなか渋いデザインが気に入ってて、愛用させてもらっている。

いつき「まぁでもほら。食欲の秋っていうくらいだし、いいじゃん。この時期おいしいもの多いしねー。」

そう言って、淹れてくれたお茶を啜る。

おせんべいにお茶。

シンプルだけど、鉄板の組み合わせ。

やっぱり日本人はこれだよね。

紗枝「でも、それだけ食べてそのスタイルやもんなぁ。……羨ましいわぁ。」

肇「いつきさん、お腹周りも引き締まってますもんね。」

いつき「まぁ、食べた分は身体を動かせばいいしね!」

答えつつ、次のおせんべいに手を伸ばす。

お、今度はわさびせんべい。

ツンとくる感じが癖になるね。

聖來「たっだいまー!」

わんこ「わん!」

ガチャッ!と勢いよく事務所のドアが開く。

わんこの散歩に出ていた聖來さんが帰ってきた。

いつき「おかえりなさーい。」

紗枝「おかえりやす~。わんこはんも、おかえりやす~。ん~♡」

紗枝ちゃんが出迎えつつ、わんこをわしゃわしゃ撫で回す。

実家では犬を飼わせてもらえなかった分、事務所でわんこに会えるのが嬉しいらしい。

わんこも気持ちよさそうに目を細めてされるがまま。

最近この2人(?)は仲がいい。

見ているこっちも和む。

肇「おかえりなさい。聖來さんもお茶、飲みますか?」

聖來「あ、うん。もらおうかな。」

肇「じゃあ淹れてきますね。」

いつき「あ、だったら急須に入れてきてー。私もおかわり飲みたい。」

肇「わかりましたー。」

そう言って、肇ちゃんはパタパタと再び給湯室へ。

……こっちも、しっぽが付いていたらぶんぶん振っているんじゃなかろうか。

まるでわんこが2匹いるみたい。

肇ちゃん、この間みんなで出掛けてから、随分と聖來さんに懐いてるなぁ。

聖來「で、いつきはまた食べてるの?」

いつき「えー、聖來さんもそういうこと言いますー?」

聖來さんからも指摘をされつつ、胡麻せんべいを齧る。

聖來「だってあなた最近食べてばっかりじゃない。聞いたよー?この間オフに自分のPさんと買い物出かけた時も、大盛りケバブ二つも食べたんだって?」

いつき「あ、あれは店のおっちゃんが……って違う!一つはPさんの分!いくら私でもPさんの前でそんなには食べないもん!」

紗枝「Pはんの前や無かったら食べるんやろか……」

いつき「そ、それは……運動した後はお腹空くし……。」

もじもじしつつもおせんべいに伸ばす手は止まらない。

カレーせんべい。

ピリッとした辛味がさらに食欲をそそる。

聖來「少しは気をつけなさいよ?大体、私もってことは他の人からも言われたってことじゃない。誰に?」

いつき「さっき紗枝ちゃんに……よー食べはるなーって。あ、でも、食べてる割にそのスタイルだから羨ましいなーって。」

聖來「……あのね、いつき。よく聞きなさい。」

いつき「な、なんですか……。」

急に真剣な表情になる聖來さん。

私も思わず、ザラメせんべいを持つ手に力が入る。

聖來「京都の人が言う事を、額面通り受け取っちゃダメよ。ちゃんと裏があるんだから。」

いつき「!?」

紗枝「せーらはん?」

聖來「紗枝ちゃんのそのセリフはね、『あんた食べ過ぎやろー』とか、『そんなに食べるからお腹出とるんやでー』って意味よ。」

いつき「そうなの?!」

紗枝「ちゃいますえ!?」

思わず、持っていた梅せんべいを落としそうになるショックだったけど、紗枝ちゃんは慌てて否定する。

いつき「もー、驚かさないでくださいよ……紗枝ちゃんはそんなこと言わないのわかってるけど。」

聖來「ごめんごめん。どっちかというと、思った事をズバズバ言っちゃうよね。」

ぺろっと舌を出しつつ、紗枝ちゃんの方を見る。

いつの間にかいじる対象が私から紗枝ちゃんへシフトしたらしい。

相変わらずお茶目な人だ。

紗枝「むー……せーらはん、あんましいけずなことばっかり言うてると、この子返さへんよ?」

そう言って、撫で回していたわんこを後ろからぎゅっと抱え込む紗枝ちゃん。

人質ならぬ犬質だ。

聖來「大丈夫よー。わんこだってちゃんと飼い主はわかってるもんねー。」

紗枝「せやろか?キミやて、いけずなご主人はいややんな~?」

ニッコリとわんこに笑いかける聖來さんと紗枝ちゃん。

わんこはキョロキョロと二人の顔を見比べて


紗枝ちゃんの顔に頬ずりした。

聖來「!?」

紗枝「や~ん♡ キミは正直えぇ子やね~♡今日は一緒にお風呂入ろなー♪」

聖來「ちょ、ちょっと?!わんこ!?わんこさ~ん?!」

いつの間にか立場が逆転した聖來さんが、大慌てでわんこに呼びかける。

聖來「また!?またあたしはわんこに裏切られるの!?」

紗枝「ほらー、キミも言うてやりぃ。『僕はいけずな人はいややー』って。」

聖來「わんこにはいけずしてないでしょー!」

それからはもう二人でわんこの気を引こうとてんやわんやだ。

大人しく、えびせんを食べつつ観戦していよう。

肇「聖來さん、お待たせしまし……いつきさん、あの人たち何やってるんですか?」

いつき「んー?あー、どっちが飼い主でshow?」

肇「なんですかそれ……」

いつき「さぁ?」

戻ってきた肇ちゃんに軽く状況説明。

隣に腰掛けた肇ちゃんは、苦笑しつつも楽しそうに眺めている。

普段よくいじられている肇ちゃんも、騒がしいのを見ているのは好きみたいだ。

いつき「あ、おせんべい、醤油とみそが残ってるけど、食べる?」

肇「じゃあみそで。……っていうか、もうそれだけしか残ってないんですか。食べ過ぎですよー。」

いつき「いやー、おいしくて止まらなくってねー。」

肇「まったく。…お茶のおかわりは?」

いつき「いただきまーす。」

いやー、肇ちゃんは気が利くねぇ。

いい同僚を持って幸せだなぁ。

そんなことを思いながら、2人でおせんべいをぽりぽりする。

いつの間にか、飼い主争いもすっかり収まって、じゃれ合いになっていた。

仲良きことは美しきことかな、ってね。

いつき「まぁ、今日も平和だねぇ。」

肇「そうですね。」

本当に、今日も平和だ。

さて、おせんべいも食べ終わったことだし、のんびり食休みでも……

と思ったところで、肇ちゃんに呼び止められた。

肇「ところでいつきさん。」

いつき「ん?どしたの肇ちゃん。」

肇「これ、どうしましょうか。」

困ったような笑顔でこちらを見る肇ちゃん。

彼女の手には、空になったおせんべいの袋。

その袋に付いていたメモを見て私は平和の終焉を悟った。

……ひとまず、摂取したカロリーのいくらかは消費できるだろう。

いつき「……買ってきます!」

肇「なるべく急いでくださいね!」

そう言い残すと私は、あとを肇ちゃんに託して、ポカンとする紗枝ちゃんと聖來さんを残して、全速力でスーパーを目指して走り出した。

メモにはこう書かれていた。

「このおせんべい、依田は芳乃のもの。勝手に食すべからず。もしも食したら……」

彼女が帰ってくるまでに、間に合わせないと。

以上になります。

とにかく運動好きのいつきちゃん。
消費カロリーすごそうだから、よく食べそう。


関連作はこちら。
よろしければこちらも読んでいただけると幸いです。


水木聖來「えっ?肇ちゃんウインク出来ないの?」

いつき「肇ちゃんの下着ってさぁ」


ありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom