新人サンタ「先輩,発注ミスしました」先輩「またかい!」 (28)

先輩「今度は何や!? クッキー詰め合わせの桁間違えたんか!?」

新人「いえ,大トロの刺身です」

先輩「お,大トロ!?」

新人「しかも2桁間違えました」

先輩「」

新人「どうします,先輩?」

先輩「」

新人「先輩?」

先輩「……なんぼや」

新人「はい?」

先輩「損失はなんぼになったか訊いてんねん!」

新人「100パック取り寄せるつもりが10000パック取り寄せたので,ざっとこんなもんすね」ピピピッ

先輩「さ,3960万円……」

新人「返品しましょうか?」

先輩「できるかい! 生鮮食品やねんど! そもそもプレゼントに大トロってなんやねん!」

新人「マーケティングしたらクッキーより日本人に人気でした」

先輩「知るかい! うちはクリスマスの雰囲気を大事にしろ言うてんねん! 少しは考えんかいお前!」

新人「大丈夫っす,ちゃんと冷蔵庫に入れさせますんで」

先輩「かーッ! こいつ話が通じん! お前ホンマに学校出たんか!」

新人「これでも一応ビブラート国際大学出てます」フフン

先輩「どこやねんそれ!」

新人「そんなことよりどうします? 残りの大トロ9900パックは冷凍保存して,来年配りましょうか?」

先輩「そんな大型の冷凍庫,うちにないわい! だいたい来年9900人の子ども達に一年前の刺身とか!」

新人「ただの刺身じゃありません,大トロですよ」ニコ

先輩「うるさい! こうなったら転売や! 全国のスーパーに掛け合ってこい!」

新人「やれやれ……」

先輩「なにがやれやれやッ! さっさと行け!」ゲシッ





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老人サンタ「ふぉふぉふぉ,彼に随分と手厳しいね」

先輩「おじいちゃん,あいつホンマ使えんで! ソリの運転もヘッタクソや!」

老人「あ,ああ……まあね。練習に貸してあげたわしのソリ,ガードレールに擦られちゃったし……」ショボン

先輩「発注ミスしても謝りすらせんし! 『悔やむよりも,次同じ失敗をしないことが大切なんすよ,先輩』とか何様やねん! 月一でやりやがって!」

老人「でも彼,サンタとしての熱意はあると思うんじゃよ。この前も真剣な顔で遅くまで残業してたからね」

先輩「それ,あとで調べたらエッチなサイト見てただけやったわ」

老人「嘘……」

先輩「おまけにうちのパソコンで見やがって……! おかげでウイルスまみれや!」

老人「で,でもほら! 面接のとき子ども達に笑顔を届けたいんだって……!」

先輩「ま,まぁあいつなりに子どもが喜ぶにはどうしたらええか,真剣に考えてはいるみたいやけど……」

老人「ほら! それじゃよ! 最初は失敗ばかりかも知れん。じゃが『子ども達を喜ばせたい』という思いがあれば,いつかきっと立派なサンタになれるんじゃ」

先輩「……」

老人「ほら,お前が中学を卒業して初めてこの仕事についたときだって」

先輩「お,おじいちゃん! ///」

老人「あれはひどく不味い手作りクッキーじゃった! 到底子ども達には配れんほどのな。じゃが一生懸命作るお前さんを見て,わしは間違いなくこの子は良いサンタになると確信した」

先輩「……」

老人「彼も今は成長途中。教育係でイライラするのは分かるが,彼を信じてやりなさい」

先輩「……わかった」


***

12月24日

先輩「で,結局大トロはさばけたんかい?」シャンシャンシャン

新人「50パックほど余りましたけど,何とかなりました。残りは冷凍庫にぶち込んだんで,忘年会に皆で食べましょう」

先輩「……。まぁお前にしては上出来や。これまでのミスは忘れたる。それに今夜はサンタ業で一番楽しい夜やからな」

新人「え,打ち上げでキャバクラにでも行くんすか?」

先輩「誰が行くかい! 笑顔のお届けが楽しいんやろが!」

新人「もちろん楽しみっす」

先輩(ったくコイツは……!)

トナカイ「お嬢,今年も去年と同じルートでいいんでしょうか?」

先輩「あー,いくつかアパート建ったから変更になっとる。どこで曲がるかはこっちが言うわ」

トナカイ「へい」

先輩「ほんまトナちゃんは役に立つなぁ。毎年ありがとうな」ナデナデ

トナカイ「もったいないお言葉です」

新人「先輩,これエチケット袋っすか?」

先輩「だああああ! それはプレゼントの袋や! 何やお前,酔ったんか!」

新人「はい。トナカイって結構揺れるんすね。これもう車の方が良くないすか? その方が揺れないし速いし温かいし」

トナカイ「」シュン

先輩「そ,そんなことないで? サンタって言ったらやっぱり皆が期待するのはトナカイや! サンタの乗り物はトナちゃんにしか務まらんで!」

トナカイ「そ,そんな……///」

新人「そもそも誰も見てないし」

トナカイ「」シュン

先輩「もうお前黙って吐いとれ!」


***

トナカイ「着きやした」

先輩「おーし,まず一軒目や」

新人「ピッキングなら得意っす」

先輩「要らん要らん。煙突の無い家にはサンタ専用の隠し扉があんねん。建設会社とサンタは繋がっとるからな」

新人「いいこと聞きました」ニヤリ

先輩「なんやその悪そうな顔は。……ええか,悪用は厳禁やぞ」

新人「まさか」カカカ

先輩「ほんま不安や……」

新人「この家は自分がプレゼント選んだところっすね」ガサガサ

先輩「去年はうちが大きなぬいぐるみをプレゼントしたったんや。お礼の手紙がまたかわいらしくてなぁ。大喜びやったで///」

新人「今年もきっと大喜びっすね」

先輩「待てえ!」

新人「なんすか?」

先輩「キャンパスノート5枚組って! お前のセンスどないなっとんねん!」

新人「ドット入ってる方が良かったすかね?」

先輩「ああもう!」

先輩「まぁ今更プレゼント変更も出来んから仕方ない! 家ン中入るで!」ヨイショ

新人「隠し扉,屋根についてるんすね」ウンセ

先輩「子供部屋は大抵2階にあるからな。それに,やっぱり屋根から入る方が雰囲気でるやろ」

新人「屋根に上るのなんて久しぶりっす」

先輩「なんや,お前やんちゃ坊主やったんやな。叱られたろ?」

新人「ええ,去年酔ってアパートの屋根に上ったら大家さんに叱られました」

先輩「去年の話かい! お前なにしてんねん!」

新人「それより,もしかして全部の家に脚立かけて上るんですか? 夜が明けちゃいません?」

先輩「手分けすればなんとかなる。手順をよう見て,次から一人で上るんやど」ハァハァ

新人「もう息切れてるじゃないすか」

先輩「うるさい! まだうちは19や! これしきで息上がるかい!」フウ

新人「へー,まだ19なんだ」

先輩「何お前年下やからってちょっとため口訊いてんねん。先輩やねんぞ」

新人「分かってますって。さ,中に入りましょ」

先輩「ええと確か……あ,ここや。中に入るときはこのカードリーダーにサンタカードのバーコードかざすねん」ピッ ゴゴゴゴ

新人「いつもどっから入って来てるんだろうって思ってましたけど,こうなってたんすね。驚きです」

先輩「こんな大がかりなことしてプレゼントがノート5冊って方が驚きやけどな」

新人「驚いてくれますかね? ///」

先輩「そりゃ驚くわい。おい,何照れてんねん。褒めてへんぞ」

新人「さあて子ども部屋探さなくちゃ」スタン グキッ

先輩「物音立てるなよ?」スタン

新人「……」

先輩「おい,どないした?」

新人「先輩,あとは頼みます……」ウウウ

先輩「足挫いたんかい!」

新人「大丈夫,明日になったらピンピンしてると思います」イタタタ

先輩「我慢せえ。今日休んだらお前のサンタとしての沽券に関わるで」

新人「でもちゃんとプレゼントの発注はしましたし……」

先輩「ちゃんと出来てなかったから言うてんねん。ほれ,肩に掴まれ」

新人「ううう……後でなんか奢ってください……」ズルズル

先輩「うちが奢ってほしいわ。ったく……」


***

女の子「……」スピー

新人「よく寝てますね……」ケケケ

先輩「……かわいいなぁ。ほんなら初めてのプレゼント贈呈や。枕元にそっと置いたり」

新人「これでいっぱいお絵かきするんだぞぉ」ソッ

先輩「……」フフッ


***

先輩「どうやった?」シャンシャン

新人「なんかこう,温かいものが胸にこみ上げてきたっす」

先輩「よかったな」

新人「はい」

先輩「まぁどうせならお絵かき帳をプレゼントしたれって思ったけどな」

新人「すいません,自分まだ新人で教育が行き届いてないもんすから」

先輩「それ,教育係に向かって言うセリフやないで」コツン

トナカイ「お嬢,次,住宅街になりやす」

先輩「おーし,次からは自分一人や。くれぐれも家の人に見つかるんやないで?」

新人「見つかったらどうなるんすか?」

先輩「警察に突き出されんねん。万が一見つかったらサンタカード見せとき。少なくとも警察はそれで納得してくれる」

新人「でもそんなことしてたら残りのプレゼント配れないすね」

先輩「そうや。だから絶対見つかるんやないで? うちの仕事が2倍になるからな」

新人「了解っす」ビシッ

先輩「おし,いい返事や! 行ってこい!」


***

ダ,ダレダオマエハ!

サンタッス。ア,コレサンタカードッス。

カーサン! ハヤクケーサツヲヨベ! オレハコイツヲミハッテオク!

カンベンシテクダサイ,ジカンナインスヨコッチハ。


先輩「」


***

2時間後

新人「先輩,なんとか一軒配ってきました」

先輩「己はぁ~……!」ゴチン

新人「痛え! でも仕方ないすよ,警察は納得してくれたんすけど,家主への説明に時間かかっちゃって……」

先輩「やからあれ程見つかるなって言うたんや!」

新人「それに子どもが見てる前で確認のためにプレゼントまで開けさせられたんすよ。あり得なくないすか?」

先輩「もう何のワクワクもあれへんな。そもそも何でそんな簡単に見つかったんや」

新人「冷蔵庫に大トロ入れようとしたら,普通におっさんがリビングでテレビ見てて……」

先輩「そら見つかるわいアホ!」

新人「子ども大トロ見て愕然としてました」

先輩「当たり前や!」

新人「ってかこんなことで時間潰してる場合じゃないんすよ。早く俺の残りの分配らないと!」

先輩「もううちとトナちゃんで配ったわ! さっさとソリに乗れ! 次の街行くで!」ザッ

新人「……トナカイさん,さっきは車の方がいいとか言ってすんませんでした。そしてありがとうございます」ヨイショ

トナカイ「別にいいんすよ。毎年お嬢がばてたら自分が配ってますし」

先輩「こ,今年は大丈夫や! 体力つけたから!」シャンシャン

トナカイ「それより自分が配ったプレゼントの中にお茶漬けの素とかあったんですが良かったんでしょうか?」

先輩「」

新人「先輩,大丈夫です。永谷園ですから」ニコ

先輩「だから何やねん!」


***

先輩「今度は見つかるんやないぞ?」

新人「先輩,俺を誰だと思ってんすか。『悔やむよりも,次同じ失敗をしないことが大切なんすよ,先輩』が座右の銘の俺っすよ?」

先輩「何でうちに話しかける前提の座右の銘やねん。そしてお前はそれを言った翌月に同じミスをしたんや」

新人「まぁ大丈夫っす。さっさと配って,先輩がヒイヒイ言ってるのをソリから見てますから」

先輩「えっらそうに……! まぁ心意気だけは買うたる。頑張りい!」

新人「はい!」

先輩(ホンマに大丈夫かいな……)


***

先輩「ひぃ~キッツう! 太股と腕が痛い……」ウンセウンセ

先輩「あかん,こんなとこで弱音吐いとったらあのアホに笑われるわ」

先輩「あいつアホやけど体力だけはありそうやしな……。くっそ~負けてたまるかい!」

先輩「子ども達の笑顔があれば,うちは百人力やねん!」

先輩「頑張れうち! 負けるなうち! 戦え花の19歳!」フウフウ


***

先輩「なんとか配り終わったわ……」フラフラ

トナカイ「お嬢,今年は随分と早いですね」

先輩「あれ,あいつはまだ戻っとらんのかいな?」

トナカイ「ええ,まぁ今年が初めてなので仕方ないかと」

先輩「まぁそやけどな。それにしてもあんだけ大口叩いといて……」

トナカイ「……」

先輩「……何言うていじったろうかな?」プクク

トナカイ「お嬢」

先輩「わかっとる。ちゃんと配ってきたら,時間かかってても褒めたるわい。っていうかこういうときでもないと褒める機会ないからなアイツ」

トナカイ「大人になりやしたね,お嬢」

先輩「トナちゃん10歳のくせに何偉そうなこと言うてんねん」ペチン

トナカイ「人間で言ったら50越えのおっさんですよ。それに勤続年数ならお嬢より長いです」

先輩「そうやった,トナちゃんは一応先輩やった。すまんすまん」ナハハ


***

1時間後

先輩「……なぁ,流石に遅ない?」

トナカイ「そうですね……」

先輩「あり得へんけどやぞ? あり得へんことやけど,また見つかって捕まってるってことないやろな……」

トナカイ「だ,大丈夫だと思います。大トロは枕元に置くって言ってましたし……」

先輩「それが果たして大丈夫なんかは知らんけど……とりあえず様子だけでも見に行こか……」

トナカイ「そうですね……」シャンシャン


***

新人「」チーン

先輩「あッ!」

トナカイ「大丈夫ですか!?」

新人「」フルフル

先輩「お前こないなとこで倒れてどないしたんや! すっかり体も凍え切っとるやないか!」

トナカイ「お嬢,早く彼をソリに!」

先輩「分かった! 持ち上げるぞ!」ウーン

新人「」ドシャア

先輩「近くに緊急用のサンタ小屋は?」

トナカイ「ありやす。あそこに見える高層マンションに一部屋」

先輩「丁度良かったわ。おい,しっかりせえ! 少しの辛抱や!」シャンシャンシャンシャン


***

翌朝

新人「……あれ,ここは……?」ウーン

先輩「お,やっとお目覚めかい。大丈夫か?」

新人「え? うわ! 朝日! 嘘!? クリスマスイブは!?」ガバッ

先輩「もうとっくに終わったで」

新人「」

先輩「ったくお前の面倒見とったせいで,うちまで全部配れんかったんやからな」

新人「……嘘」

先輩「ホンマや」

新人「……嘘」ポロポロ

先輩「お,おいおい! 泣く奴があるかいな!」

新人「で,でも……子ども達に……プレゼントが……」シクシク

先輩「だ,大丈夫や! 残りはおじいちゃんが老体に鞭打って全部配ってくれたから!」

新人「あ,そうなんすか」ケロッ

先輩「何やお前,自分が配りたかったとか,自分が不甲斐ないとかないんか」

新人「全然ないっす。プレゼントが届けば俺は満足なんで」

先輩「……。まぁええわ。それより何で怪我したんや? 両足の骨がいっとったで」

新人「先輩がヒイヒイ言ってるとこ見てやろうと,慌てて脚立を降りてたんすけど……」

先輩「足滑らせて落ちたわけかいな。とんだ慌てん坊のサンタクロースがいたもんやな」

新人「面白いっすねそれ」

先輩「全然おもろないわアホ! お前結局配ったの3件だけやからな! 少しは反省せえ!」

新人「……はい」シュン

先輩「だいたいお前はしょっちゅうミスするし,仕事中にエロサイト見てるし,おっちょこちょいやし,生意気やし,頭おかしいし!」

新人「……すんません」

先輩「お前ほんまサンタに向いてないでッ! このドアホッ!」

新人「……」

先輩「……って言いたいとこやけど,サンタとしての素質は認めてやる。テレビ見てみい」ピッ

新人「……へ?」


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―――――

リポーター「皆はサンタさんから何を貰ったのかな?」

少年A「大トロ! 一度食べてみたかったから嬉しい!」

少女A「あたし大学ノート! お姉ちゃんが持ってるやつと同じの! かっこいくて好き!」

少年B「俺お茶漬けの素! いつも母ちゃんが体に悪いとか言って買ってくれないから,お正月はずっとお茶漬け食べる!」

少女B「ウクレレ……楽器始めたかったから頑張ってみる……///」

リポーター「このように今年のクリスマスは大盛況の模様です! サンタさん,お疲れ様です!」

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新人「……」

先輩「うちの業界ではお子様満足度が60%を超えたら,当たり年って言われてんねん」

先輩「でも今年は驚異の80%越えや。お前が選んだプレゼントに限って言えば100%。大したリサーチ力やでほんま」

新人「……///」

先輩「お前は間違いなく立派なサンタになるわい。今はまだ成長途中やけどな」

新人「……ありがとうございます///」

先輩「ほんならうちはもう行くで? しっかり休んで足治しい」

新人「はい」

先輩「……あ,言い忘れとったわ」

新人「?」

先輩「メリークリスマス!」

新人「め,メリークリスマス!」


***

翌日


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リポーター「集団食中毒事件が発生しました! 原因は枕元で温まった大トロです!」

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先輩「」

おしまい

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