まほ「一年前、か」
ダージリン「えぇ、黒森峰からみほさんが何故去らなければならなかったのか、と言い換えた方がよろしいかしら?」
まほ「.....」
ダージリン「もっと言えば、今回大洗の廃校が撤回されたことで、黒森峰の、そして西住流としての考えを知りたい、かしら?」
まほ「知ってどうする?」
ダージリン「こんなセリフをご存知かしら?『人は事実に合う論理的な説明を求めず、理論的な説明に合うように、事実のほうを知らず知らず曲げがちになる。』」
ダージリン「端的に言えば、答え合わせ、かしらね」
まほ「.....なるほどな」
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まほ「何をどう調べたかは知らないが、ダージリン、あなたのことだから概ね正解に辿り着いているだろう。結論から言おう」
まほ「みほは転校する必要はなかったし、大洗の廃校が撤回されたことで黒森峰も西住流も少し困ったことになった」
ダージリン「.....まず、みほさんが大洗に行くことになった経緯から伺ってもよろしいかしら?」
まほ「去年の決勝で何があったか、について齟齬は起きていないだろう。不幸な事故で川に転落した選手を助けるため、みほはフラッグ車を飛び出し、結果、黒森峰は試合に負けただけでなく、10連覇という偉業を逃してしまった」
まほ「全員、落胆した。勝てない試合ではなかった。いや、勝利が目前に見えている状況での敗北だったことが余計に悔しさを感じさせただろう。わたしも生まれて初めて自分の負けを認められないどころか、嗚咽を抑えきれなかった」
まほ「試合直後、泣きながらみほに詰め寄る三年生を見てもそれを止めることすらできなかったよ。あぁ、確かに三年の先輩方はみほに対して怒っていた」
まほ「だが、誰一人、みほのせいで負けたと考えなかった」
沙織「えぇっ?それっておかしくない?」
優花里「先輩方は最後の大会の勝利を逃したことに怒っていたんですよね?」
小梅「いえ、違うんです。そもそもそこがややこしいところなんですけど....」
小梅「先輩方は、負けたことに対して怒っていたのではなくて、わたしを助けに出たことに怒っていたんです」
沙織「なんで!?おかしいよ!!」
麻子「いや、おかしくはない。なるほど、そういうことか」
華「あの、どういう事でしょうか?」
麻子「なに、単純な話だ」
麻子「その先輩方は西住さんが救助に向かったことで、西住さん自身が命を危険に晒したことに怒ったんだろう?」
ダージリン「『明白な事実ほど誤られやすいことはない』」
まほ「二次災害のリスクを考えれば、とてもみほの行動を褒められはしなかった。皆同じ気持ちだったと思う。負けた悔しさが消えた後は、危ないことをするなという憤りが残っていたよ」
ダージリン「.....わたくしも、もし同じことをされれば叱責するでしょうね」
まほ「とにかく、わたし達は、みほの行動を叱っても、その結果を責めることはしなかった」
まほ「だが、悪いことに、チームにいなかったものはそうは思わなかった」
まほ「まず、大人達だ。学校の理事や経営に関わる人間はみほを責めた。敗戦の戦犯に仕立て上げたんだよ。自分が得られるはずだった栄光をフイにした怒りをぶつけたんだ」
まほ「これ自体は、簡単に抑えられた。わたし自身が直接大人達に自分達がどれほど恥ずかしいことをしているのかを教えてやった。西住流の名前まで持ち出してな」
まほ「しかし、だ。予想もしなかった場所から攻撃を受けることになった」
ダージリン「.....あなたのご学友ね」
まほ「.....あぁ、その通りだ」
まほ「戦車道に関しては全くの部外者であるはずの生徒からの誹謗中傷だよ」
まほ「三年生の愚痴が誤解されてわたしの同級生に広まったんだ。『三年生はみほが戦車から離れたせいで負けたことに怒っている』と」
まほ「最初は耳を疑った。次に三年生を問いただした。そして誤解が生まれていることに気づいて事態の収拾にかかった。だが遅かったよ」
まほ「大人達と一戦を交えたせいで、学校の雰囲気は殺伐としていた。生贄を見つけた生徒達はこぞってみほを責め立て、陰口を叩き、ありもしない噂を流した」
まほ「何もできない自分が情けなかった。不用意な発言でみほを追い詰めた先輩方が恨めしかった。仲間を守れない後輩がどんなに哀れに見えたか」
まほ「皆一言も喋らなくなっていた。みほが何か言われるたび、自分の事を言われているようでたまらなく怖かったのだと思う」
まほ「大義を得た人間の恐ろしさも見たよ。みほが戦車を降りた理由も知らず善人面をしてわたしの味方のふりをするんだ」
まほ「それが、一人二人ではなく、大勢だ。危うく人間不信になるところだったよ」
まほ「みほは、どうだったろう。わたしはその時のみほを見てやることができないほど追い詰められていた」
小梅「その時のみほさんは本当に見ていられないほどかわいそうで....うつむきがちで、憔悴しきっていました」
小梅「ただ、みほさんを責めているのはほとんど二年生の人達でしたから、一年生や三年生にみほさんを悪くいう人はいなかったんです。それでも、なんて声をかければいいかわからず、みんな腫れ物を扱うようになって、わたしも勇気が出ませんでした」
小梅「そうして、みほさんは黒森峰で完全に孤立しました」
小梅「いや、一人だけ、一人だけみほさんに普段と変わらず接していた人はいました。逸見さんです」
小梅「ただ、普段からあんな調子でしたから、側からみるとみほさんを責め立てる一人でしたね」
小梅「でも、逸見さんがそばにいる時は、みほさん少しだけ嬉しそうでした」
まほ「とにかく、みほには味方がいなかった。そんな状況でとどめを刺したのは、やはりわたしとお母様だと思う」
ダージリン「......」
まほ「あの試合の敗因、あれはみほがフラッグ車を離れたことでなく、あの場にいた全員が混乱して動けなかったことだ」
まほ「不測事態に対する弱さを思い知ったよ。だから、それを責めたつもりはなかった」
まほ「ただ、お母様の叱責、あれがなぁ」
しほ『西住流とは勝つことです』
まほ「今更だったのだろう。危険な事をしたこと、周囲の状況を確かめなかった事を叱るのは」
まほ「だからお母様は、西住流の教訓をみほに伝え、次同じ過ちを犯すなと言いたかったんだ」
まほ「結果として、みほは負けた事を責められているのだと思い込んだ」
まほ「ボタンのかけ違いに気づけないまま時は流れてしまった」
まほ「みほは戦車に乗れなくなっていた」
まほ「みほは戦車が好きだった。西住流のやり方に疑問を持っていても、戦車道で仲間と競い助け合う喜びを知っていた。それでも、みほは些細なすれ違いからもうどうすることもできないほど離れたところに行ってしまっていた」
まほ「みほが戦車道をやめたいと言った時はショックだったよ。わたしの気持ちもお母様の心配も、何も伝わっていないと感じるほどに」
まほ「お母様は結局、みほは一度戦車道を離れるべきだと判断したんだろう。それを受け入れることにした」
まほ「そして、とある計画を知り、利用する事を思いついた」
まほ「学園艦の統廃合計画だ」
まほ「みほが戦車道を離れるには、黒森峰から一度出る必要があった。.....最初は、黒森峰にそのまま残して徐々に回復を待つつもりだったようだけど」
まほ「お母様は統廃合計画の中で一年以内に廃校、廃艦となる船を探し、その中でさらに戦車道のない学校を探してみほに教えた」
まほ「それが大洗女子だ」
まほ「ただ、つくづくお母様はわたしやみほの気持ちを汲み取れなかったらしい。最初はわたしもみほを家から追い出すつもりなのだと思ったよ」
まほ「ところがそうじゃない。考えてみればおかしな話だったんだ。みほが大洗に通うことに決まった年にはその学校がなくなることが決まっていたんだから」
まほ「つまり、本来、みほの転校は一時的なものでほとぼりが冷めた頃に正当な理由で黒森峰に戻れるようにするための策だったんだ」
まほ「かくして、みほは大洗女子に入校し、今に至る。だな」
まほ「もっとも、みほが早々に復帰して戦車道を続けているばかりか、廃校の危機を救ってしまったのは想定外だった。ままならないものだな」
ダージリン「随分と嬉しそうね」
まほ「ある意味、みほがあのお母様に勝ったという事だからな。だからわたしは気兼ねなく大学選抜との試合に出て、こうしてその祝勝会に参加できているんだ」
ダージリン「あなた、もっと家に対して従順なのだと思っていたわ」
まほ「まさか。わたしだって年頃の女の子だ。反抗だってする」
まほ「まぁ、つまりわたしたちにとってみほは転校する必要はなかったし、黒森峰にとっては西住の名を冠する優秀な生徒を放出することになって困ったことになった」
ダージリン「あら、西住流として困っている理由が抜けているわよ」
まほ「あぁ、それ関しては」
まほ「そうだな、お母様の名誉のためにも秘匿することにしよう」
ダージリン「あら親不孝ね。寂しがっているんでしょう?」
まほ「まぁ、お母様が意地を張っているだけだからな。実際のところ西住流のメンツ自体は大洗がプラウダを破ったことで立ってしまったからな」
ダージリン「そうね、今年度の大会で大洗か黒森峰のどちらかがプラウダに直接勝つことができれば西住流の強さは揺るぎないものと証明されるもの」
アンチョビ「え?なんでだ?」
まほ「安斎、居たのか」
アンチョビ「アンチョビだ!お前ら喋ってばっかで飲み食いしてないだろう?ほらおかわりだ。で、なんでどっちかが勝てば西住流は強いってことになるんだ?西住流は姉の西住だけだろう?」
まほ「簡単な話だ。どちらかが勝てば、去年の敗北はトラブルによる不幸な事故だったと証明できるし、何よりみほが西住流とは違う戦い方をしているなんて知らない人間には分からない」
アンチョビ「そんなもんかなぁ」
まほ「証拠に去年騒いでた同級生は皆手のひらを返してみほを褒めてるよ」
アンチョビ「なんだそりゃ」
小梅「なので、黒森峰に帰ってきてください、とは言いません。黒森峰に遊びにきてください。今回来れなかった他の人もみんなみほさんに会いたがってましたから」
みほ「うん、約束する。みんなと一緒でもいいかな?」
優花里「わ、我々もですか?」
小梅「もちろんです!」
みほ「えっと、みんなはだめ、かな?」
沙織「ううん、大賛成!出会いとかあったりするかもだし!」
華「あの、黒森峰も女子校ですよ?」
麻子「あるわけないだろう」
みほ「あはは、みんな、ありがとう」
小梅「エリカさーん!みほさんオッケーだって!!」
エリカ「!!そ、そう、勝手にしなさいよ」
カチューシャ「よかったじゃないエリーシャ!」
ノンナ「よかったですね、エーリカ」
エリカ「う、うるさい!」
まほ「わたしの話せる一年前の出来事はこのくらいだな。答え合わせの結果はどうだった?」
ダージリン「えぇ、十分。知りたかった部分も知れたわ」
まほ「そうか」
アンチョビ「話が終わったなら、お前らもこっちにこい。宴は楽しまないと損だ!」
アンチョビ「......あぁ、そうだ。一つだけ」
まほ「どうした?」
アンチョビ「もしも一年前に戻れたとして、あの試合をやり直せるとしたらやり直したいか?」
まほ「そうだな」
まほ「想像に任せるよ。お前だって、今年の試合をやり直したくはないだろう?」
終わり
終わりです。HTML依頼出してきます
みほ転校までに何があったか、ふと思いついたのでシリアス風に。難しい話は苦手です。自分でもよく分からなくなってしまった
過去作ですが、みほが黒森峰を去った理由アナザー
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1475409318
蛇足でありますが、入れ忘れた私的な考察を追加で
審判団、運営は無能だったのか
試合当日は悪天候で視界も悪く足場も悪い状態であったと認識しています
小梅車が転落→みほが救助に飛び出す→フラッグ車撃破
までの時間が短く、審判団が状況を確認し試合中断を決心する前に決着がついたと考えられるので、あながち運営側が悪いとも言い切れなかったのではないでしょうか?
つまりあの状況でみほが取るべきだった行動は『速やかに運営側に状況を報告し試合中断を申し出、チームメイトに小梅救出の指示を出す』だったのではないかと。これが高校一年の15歳の少女にできるでしょうか?無理です
毎回悪役になる部外者
試合の結果を責めるのは、大抵部外者です。何故なら何故そうなったかを知らないから。
『あいつのせいで負けた』と言うチーム内の冗談を真に受けて騒ぐのは試合を見てもいないしルールも知らないやたら正義を振りかざす一般人です。『見事な投球でピンチを凌いだピッチャーを褒めず贔屓チームのバッターを責める晩酌中のおっさん』を悪化させたやつですね。ネットでもよく見ます。おめーだよおめー
このSSの通りのことがあったと仮定すると戦車道喫茶での秋山殿のみほをかばう発言って本当に「何も知らない奴が地雷ぶち抜いた」状態だったり。本人に悪意がないのがまた....
実際、黒森峰の同級生にもいたんじゃないかなと。論点がずれてしまってるんですよね
この考察は若干私情が入っています。なげぇ
黒森峰の他の選手は無能だったのか
実際、目の前で人が溺れた。しかも知り合い、と言う場合、思考が停止します。その上、リーダーのみほが突然戦車を飛び出せば誰もどうすべきかの判断が下せない。仮にあの場にまほがいた、もしくはエリカが指示を出せたとしても誰も動けないかと。従う従えないじゃなく、本当に動かないんですよ。硬直状態。
一方プラウダは敵戦車落ちた、なんか相手動かないチャンス撃っとけくらいの状態なんですよね。落ちたのは戦車で、選手じゃない、ように見えてます。ガンダムとかでザク倒すのに罪悪感感じてない主人公状態。人が見えてる黒森峰と見えないプラウダ。あれ?黒森峰詰んでた?
以上、喋る相手がいないので書き込んだチラシ裏でした。ガルパンはこう言う妄想しやすいから好き。
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