側近「では、結婚しますか?」 (33)
青年「はい?」
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*
側近「人間というものは、親しくなると男女は契を結ぶらしいです」
青年「オレと……側近さんが?」
側近「はい。貴方なら退屈しなくて済みそうですからね」
青年「そんな玩具みたいに言われても……」
青年「そもそも、オレみたいな無能とで良いの?」
側近「何度も言いましたが、貴方はもう無能ではありませんよ」
青年「そう、かな」
側近「自信を持ってください。なんせ人族の国の騎士団長とやらに勝利したのですから」
側近「家畜の分際で、なかなかだと思いますよ」ニコ
青年「その性格じゃなければ即OKなんだけどなー」
*
側近「さぁ、冷めないうちに朝食をどうぞ」
青年「いただきます」スッ
青年 (なんかもう自然に飯食ってるけど)モグモグ
青年 (どうしてこうなったのか未だにわからない)
青年 (ちょっと記憶を整理するか)
青年 (あれは一ヶ月と少し前だったかな……)
側近「正確には一ヶ月と九日前ですね」
青年「あの、思考を読むのやめてくれません?」
側近「私に思考を読むなと言うのは、例えば貴方の顔を見て「無様だなぁ…」と嘲笑うのを止めろと言うのと同義ですよ?」
青年「そ、そっか…………ん?」
青年「結局悪口言われてるだけじゃん」
青年「はぁ……」
青年 (側近さんに構うとキリが無い。そっとしておこう)
青年 (えーと、あれは一ヶ月と九日前だったかな……)
側近「今更ですけど、一ヶ月以上も魔王城に図々しく居座る人間はなかなかいませんよね」
青年「あの、ホントに割り込んでくるのやめてくれません?」
側近「割り込むのをやめろと言うのは―――
青年「あーはいはい、わかりましたよ」
青年「割り込んでくるのはもう良いです。スルーしますので」
側近「は?私を無視するとは良い度胸ですね」ギロ
青年「て、適度にスルーするから……」
側近「全部拾いなさい」
青年「わかりましたよ!せめて考え事くらいさせて!」
側近「あれは一ヶ月と九日前でしたかね」
青年「オレの思考を先に言わないで」
青年 (一ヶ月と九日前……)
側近「九日前って中途半端だと思いません?もう一ヶ月前と言った方がスッキリするのでは?」
青年「どっちでもいいよ!先に進ませて!」
青年 (あれは一ヶ月前……)
*
青年『はぁ……』トボトボ
青年『王から直々に話があると通されてみれば―――
青年『まさか勇者に任命されるなんて……』
側近「随分と、ひ弱な勇者ですね」
青年「……うるさいな」ボソ
側近「後で生き埋め―――
青年「すいませんっした!」
青年『王城で盗み聞きをしてると、無能な民は切り捨てる……それが今回僕に回って来たらしい』
側近「体よく国から追い出された訳ですね」
側近「気になったのですが、一人称が『僕』ですか」
側近「おやおや、もしかして私達に少しでも威勢を見せようと意気がってます?」
青年「放っといてよ///」
青年『地図は貰ったけど』ゴソゴソ
_____________
| 山 |
|この辺 |
| ↓ 山 山|
| ○ |
| |
| 森 森 |
| 森 |
| |
| 国 |
|____________|
青年『このフザケてる様にしか見えない地図』
青年『適当過ぎてどうすればいいのか……』
ヒュゥゥゥ…!
青年『ん?』チラ
バヂィィッッ!!カコーン
青年『ほげぇぇっ!?!』ゴロロロッ
側近「ふふっ、鈍くさいですね」クスクス
青年「いやいや、これのせいで片腕が千切れ飛びましたからね?」
ダダダダダッ
側近『っと……』ズザザザッ
側近『おや…?変ですね、この辺に落ちた筈なのですが――― キョロキョロ
青年『』
側近『……』
側近『さて、缶を回収して帰りましょうか』
青年「うわ、見て見ぬフリとか最低だよ」
側近「貴方は地に転がっている小石を見て、助けようという意志が出ます?」
青年「いや……」
側近「つまり、そういう事です」
青年「さいですか」
ダダダダダッ
青年「さっきから走る速さが尋常じゃないよね」
『よっと……』ズザザザッ
側近『おや、魔王様』
青年「あ、あれ?オレ、倒れた所から記憶無いはずなんだけど……」
側近「だと思いましたので、私が引き継いで語りますね」
青年「そんなに割り込みたいのか……」
魔王『やっほー、遅いから様子見に来ちゃった―――お?』
青年『』
魔王『……』
側近『……』
魔王『お腹空いたんだったら、何か食べてくれば良かったのに……』
側近『いえ、私が食べようとした訳ではありません』
側近『どうやら魔王様がお蹴りになった缶が、この人間の右腕に直撃し千切れ飛んだ様です』
側近『その際の激痛で失神したのではないかと……』
魔王『ありゃりゃ、ボクのせいだね……』
側近『いいえ、この様な場に居るこの人間に非がありますよ』
青年「ひでぇなこれ。ただ歩いてただけなのに……」
側近「あれくらい避けてくださいよ」
青年「いきなり缶が視認出来ないスピードで迫ってくるなんて誰が予想できるんですか」
側近「貴方こそ、何故缶蹴りをしているという可能性を考えなかったんですか?」
青年「普通考えないでしょ!」
魔王『んー……とりあえず持って帰ろうか』
側近『魔王様にお任せします』
青年「やっぱり魔王様は優しいなぁ。それに比べて」チラ
側近「言っておきますけど、貴方が目覚めるまでの三日間、身辺の世話をしたのは私ですよ?」
青年「その件につきましては誠にありがとうございました」
*
青年「ごちそうさまでした」
側近「午後からは、稽古と言う名の調教ですので、いつもの場所に遅れないように」
青年「あれ?オレ、騎士団長を倒したじゃん」
側近「引き分けですけどね」
青年「いやいやー、完全に勝ってたって」
側近「何抜かしてるんですか、殺しますよ」
青年「側近さんの軽いビンタ食らうだけで数メートル吹っ飛ぶのは疲れるもん」
側近「リベンジなさらないんですか?」
青年「もういいよ、あれだけ出来たんだもの」
側近「そうですか…………ふんっ!」ズドッ
青年「ぐえっ」
側近「なら力づくで連れて行きますね」
*
―稽古場―
側近「さっ、どうぞ」ドサ
青年「良いんですか?本気を出しても」スク
青年「今のオレはそこら辺の人間を超越してますよ?」
側近「どうぞ。武器も使って構いませんよ」ポイッ
青年「……」スッ
青年「っ……りゃァッ!」ダッ
側近「遅い」ズバンッ
青年「」ゴロロロッ ドカ
青年「ほらね!」
側近「いえいえ、貴方は確かに人間を超越してるかもしれませんよ」
側近「私が手を払っても首から頭が飛びませんでしたので」
青年「そりゃぁ、魔導師さんが肉体を強化……もとい、勝手に改造されたから……」
側近「生ゴミを家畜に変えられる、魔王様の部下は優秀ですね」
青年「……そうだね」
青年「あの騎士団長と互角に打ち合えたのも、皆や側近さんのお陰だよ」
青年「ありがとう」
側近「貴方……消えるんですか?」
青年「思い残すことが無ければ」
側近「では私が消してあげますよ」
青年「せめて自然消滅させてくださいよ」
側近「まぁ、人間にしては根性がある方だと思います」
側近「それに免じて、今は見逃して上げましょう」
青年「……うん」
青年 (思えば、ここに来て色々なことがあったな……)
側近「ありましたねぇ」
青年「ナチュラルに入ってくるのやめてくれない?」
側近「なんやかんや、騎士団長を倒しましたよね」
青年「今鮮明に、その件についての思い出に浸ろうとしてたのに……」
*
青年『ここ、は……』ムク
側近『おや?起きましたか』チラ
青年『君は…?』
側近『貴方の命を握っている者です』
青年『物騒だね……』
青年『ここはどこなの…?』
側近『貴方の様な人族からは、‘‘魔王城’’と呼ばれている場所ですね』
青年『そうなんだ』
青年『ふぅ……』ボフ
側近『驚かないんですか?』
青年『驚愕よりも疲労の方が今は大きいよ……』
側近『そうですか』ペラ
青年『……』
青年『君が、看病してくれたの?』
側近『……』
側近『……私はここで、本を読んでいただけですよ』
青年『そっか』
ガラララッ
『やっほー、人間さんの具合はどう?』
『って、起きてるー!』
青年『誰です…?』
側近『この城の主ですよ』
青年『あぁ……え?』
魔王『おっと自己紹介がまだだったね』
魔王『ボクね、一応魔王をやってますっ』フンス
青年『えっと、助けて頂きありがとうございました』ペコ
魔王『あはは……ボクにも責任があるから気にしないで!』
魔王『具合はどう?』
青年『えっと……あれ、腕がくっついてる』
魔王『その様子だと大丈夫みたいだね』ニコ
青年『あ、はい……』
魔王『どうする?送ろうか?』
青年『どこへ、です…?』
魔王『どこへって、キミの住んでた所にだよ』
青年『あぁ……それでしたらお気遣い無く』
青年『ぼく―――いや、オレにはもう帰る場所はありませんから』
青年『それに、ここが魔王城でアナタが魔王であるなら、目的は達成したようなもんですし』
魔王『うん?良くわからないけど、帰るお家が無いの?』
青年『簡単に言えば』
魔王『そうなんだー、じゃあここに居なよ』
青年『ですから、煮るなり焼くなり―――ん?』
魔王『この城ね、一杯部屋余ってるからどこでも好きに使ってねー!』
青年『ちょ、あの―――
魔王『それよりお腹空いちゃった!側近、ご飯まだー?』
側近『今から取り掛かりますので、少々お時間を頂く事になりますが……』
魔王『おっけーおっけー!』
側近『では』スッ
ガラララッ…
青年『……』
魔王『~♪』ニコニコ
青年『何です…?』
魔王『キミ、ボク達を見ても何とも思わないんだね』
青年『え、あぁ……』
青年『……』ジー
魔王『ボクの角は珍味でも無ければ、美味しくもないよー?』
青年『何故わかったんですか……』
魔王『さっき居たの、側近って言うんだけどさ』
魔王『ボクや側近みたいな力のある魔族は、ある程度相手の思考を覗くことが出来るんだよー』
青年『まさか考えてることが筒抜けだったなんて……』
魔王『そそー。だからね、キミみたいな人間は珍しいよ』
魔王『だいたいの人間は、ボクの様な魔族を見ると、どんなに取り繕っても嫌悪感は必ず出ちゃうしわかっちゃうんだよね』
青年『あの、角が美味しそうとか思ってすんませんした……』
魔王『あはは、気にしないでっ』
魔王『そうだ!キミも一緒にご飯を食べようよ』
魔王『かれこれ三日は眠り続けてたみたいだし』
青年『え…?三日?』
魔王『うん』
青年『そんなに寝てたのか……』
魔王『側近にはお礼を言っときなよー?』
魔王『三日間、つきっきりで面倒を見てもらったんだからさ』ニッ
青年『やっぱり……。ありがとうござます』
魔王『じゃ、行こうかっ。歩ける?』
青年『多分……』ヨロヨロ
青年「ここから魔の三十日が始まったんだ……」
側近「面倒ですし飛ばしましょうよ」
青年「オレの努力を面倒、だと……」
側近「では、ダイジェストでお願いします」
青年 (ダイジェストっつてもなぁ……)
青年 (まずは修行を決意するまでのオレの葛藤を―――
側近『オレは無能なんだよ』
側近『だからオレを殴ってくれ!』
側近「そう言った貴方に私が喝を入れたんでしたよね」
青年「そこだけ抜粋すると変態みたいになるから!」
青年「まぁ、間違っては無いけどさ」
側近「結局、あの時に濁したのは何だったんです?」
青年「……オレが居た国ではね、齢十八を迎えると、兵士の試験を受けなければならないんだ」
青年「結果はお察しの通りだよ」
青年「見事に最下位だった」
側近「それは確かに無能ですねぇ」
青年「ちなみに最下位の者だけ、兵士になれない」
側近「ふむ……」
青年「兵士になれなかった者の末路を知ってます?」
側近「知りませんよ」
青年「……」
青年「ま、辛気臭い話はやめましょうか」
側近「ですが……貴方が苦労したということは、体を見ればわかりますよ」
青年「……うん」
側近「少し外に出ますか」
*
青年『何ですか、これは……』スッ
側近『ここに住まう以上、少しくらいは力をつけて頂かないと示しがつきません』
青年『住むとは一言も言って無いでしょう』
側近『なら何処へ行くのです?』
青年『オレは、もう長くないんだ……』
側近『何か病でも?』
青年『そうだな……。だから何処へだって行くさ。風の赴くままにな……』フッ
側近『あー……病は病でも、そっちの病でしたか』
側近『くだらないこと言ってないで、先ずは上体お越し一万回から行きましょうか』
青年『ゼロが二つほど多くない…?』
側近『おや?一万では足りないと。では百万―――
青年『一万で良いです!一万最高!』
*
青年『はぁ……はァ……』
青年『もう無理っす』
側近『寝言は死んでから言ってください。ほら』ゲシ
青年『悪魔だ……』
側近『悪魔ですが?』
青年『……』
青年『……』スースー
側近『どうし―――何寝てるんですか』ドス
青年『休憩!休息!』
側近『永遠に眠らせて差し上げましょうか?』
青年『それも良いかもしれない』
側近『だらしが無いですね。それでもオスですか』
青年『実は女の子なんです……』
側近『魔王様もメスということはご存知です?』
青年『うそ!?』
側近『本当です。お相手もまだ居ませんよ』
青年『っ…!な、ならオレにもチャンスが…!』
側近『ほぅ、貴方はソッチの方でしたか』
側近『メス同士でなんて、随分とまぁ……』
青年『オレ女だと思ってたけど男だった』
側近『都合の良い体ですねぇ?』
青年『側近さんって性格悪いですよね』
側近『私は天使の様な性格だと自負していますが』
青年『それで天使? 大道芸人になれますよ』ハハハ
側近『……』ドゴォッ!
青年『……』
側近『次は外しませんよ?』
青年『…………』
青年『外さないどころか思いっきり当たってるんですけど』
*
青年「……記憶の大半がふっ飛ばされたのしか無いのは何故だろう」
側近「自業自得ですね」
側近「そういえば……何故あの時、手を止めたのですか」
青年「あの時? あぁ、騎士団長との……」
*
青年『そろそろ一ヶ月くらい経ちますね』
側近『そうですね。では、試してみますか』
青年『何を?』
側近『貴方が居た国で一番強いお方は?』
青年『一番強い……騎士団長かなぁ?』
側近『では参りましょうか』ガシッ
青年『へ?』
*
ダダダダダッ
青年『あ、あの!ちょっ』
側近『何でしょう?』
青年『早い速い疾い!』
側近『そろそろ着きますかね』
青年『ま、前!まえまえ!門!!』
ダダダダダッ
『ん…?何だアレは』
『お、おい!止まれ!』
側近『すみません、通りますね』
バコーンッ
『嘘だろ……頑丈な門を破壊して行きやがった……』
青年『何で壊せるんですか』
側近『壊せるから、としか』
側近『王城は……アレですね』チラ
青年『まさか……』
ダダダダダッ
『な…?何奴!止まれ!』
側近『止まりません』ダンッ
バコーンッ
青年『兵士を蹴散らして行くとは……』
『な、何だお前は!』
側近『騎士団長と言うお方は何処です?』
『怪しい者に教え―――
側近『騎士団長の情報と命、どちらが大切ですか』スッ
『っ……に、二階の謁見の間に……』
側近『どうも』ドス
*
―謁見の間―
バーンッ
側近『如何にもな方を見つけましたね』
青年『う、うん……』
青年 (僕、死んだな)
『貴様ら……名を申せ』
側近『貴方に名乗る程落ちぶれてはいませんよ』
青年『それ意味わかんないから』
『……私は騎士団の長を務めている者だ』
側近『やはり貴方でしたか』
側近『この方が貴方に決闘を申し込みたいそうですよ』トン
王『黙って聞いておれば、決闘だと?』
王『ふん。騎士団長、この無礼者に手加減はするな』
団長『承知しました』
青年『団長……オレのこと、覚えていますか』
団長『……』
団長『知らんな』
カランカラン…
団長『見たところ、武器を持っていないように見える』
団長『私とて丸腰の相手を斬りたくは無いのでな』
青年『それはどうも』チャキ
団長『……行くぞッ』タッ
青年 (切り下げ…!)スッ
キィンッ
>身体の中心へ向けての切り下げを難なく弾く
青年『あ、れ…?』
青年 (何だ…?構えてから少し後に攻撃が来る……)
団長『ほぅ……マグレで弾くとは運が良いな』
団長『だが、次もそうは行かんぞ…!』ヒュン
青年 (中段の横薙ぎか)スッ
ギィンッ
団長『っ…!』
青年『やっぱり……』
団長『に、二度も弾くとは運が良い奴め……』
青年『……』
青年『……遅いな』ボソ
団長『なん、だと…?』ギロ
団長『手加減してやろうと思っていたが……』
団長『貴様は私が叩き斬ってやろうッ!』ブンッ
>左斜め下への切り下げを剣の腹で受け流す
青年『……っ』スッ
ギィンッ キィンッ
青年 (そうか……側近さんの攻撃は速すぎたからか……)
青年 (速すぎる故に、攻撃が着弾する箇所を初期動作から予想して受けていた……)
青年 (まぁそれも、側近さんには見切られてフェイクも混ぜられたりしてたけど……)
青年 (騎士団長は自信があるからか、予想通りの箇所にしか攻撃が来ない)
団長『くっ…!そ!』ブンッ
側近『何をしているのですか!空いた手を動かしなさい!』
青年『っ…!』
団長『おぉッッ!!』ヒュン
ガギィリリッ
>団長の全力の切り下げを剣で受け流す
青年『ここっ……だ!!』ブンッ
団長『なっ―――
>ガラ空きの脇腹へと左の拳を捩じ込ませる
団長『ぐっ…ぉ』ヨロ
青年 (取ったっ!!)
>団長の体勢が、ぐらっと崩れた
>この隙に剣を引き戻し振り下ろせば勝てる…!
青年『っぉぉッ…!!』ググッ
団長『っ……参った……』ボソ
青年『っえ…?』ピタ
団長『……ハハッ』
団長『相手に隙を見せるとは、甘いな』ニヤ
>どすっ と鈍い音が青年を貫く
青年『げほっ……ぉぇ……』ガク
団長『手こずらせやがって……』スッ
団長『これで……終わりだ!』ヒュン
パシッ
側近『確かに。勝負はつきました、終わりましょう』
団長『なん、だ貴様はッ!』ググッ
団長『私の剣から手を離せ…!』
側近『わかりました』バキッ
団長『ッ!?』
側近『聞きましたよ。貴方は己より力が劣っている者を蔑むのだと』
団長『ふん。そこから這い上がれない者など、この国には必要無い』
側近『人族に私がとやかく言いたくはありませんが……』
側近『力で蔑まれた者の気持ちを、貴方に身を持って教えて差し上げますよ』
>言葉と共に団長の体が壁に轟音を立て激突し、直前まで居た場には砕かれた鎧の破片が舞った
『な、んだ…?』
『あの団長が、こんなに簡単に……』
『て、手当を!直ぐに…!』
側近『殺してはいませんよ。多分ですけど』
側近『死んでもらっては、青年さんがリベンジ出来なくなりますからね』チラ
王『ひっ……』
側近『また近いうちに来るかもしれませんので、その時はよろしくお願いしますね』ニコ
王『っ……』コクコク
側近『では、お暇させて頂きましょうかね』グイッ
*
側近「なるほど。参った、ですか」
青年「そうそう。それでつい手が止まっちゃって」
側近「貴方は甘いですね」
青年「そうだなぁ……結局、側近さんが倒したみたいだし」
側近「あの決闘は、間違い無く貴方の勝ちですよ」
青年「はは……ありがとう」
青年「実はさ、勇者に任命された時、逃げ出すことも出来たんだ」
青年「でも、試験の日……団長に敗けて、周りから笑いものにされたのが悔しくて意地になってた」
青年「誰も見たことが無い魔王の顔を、笑ってた奴らよりも先に拝んでやるんだって」
側近「それであの時……」
青年「団長を見返すことが出来た、魔王様の顔も見れちゃったし……」
青年「正直、もう思い残すことは無いんだよね」
側近「貴方……消えるんですか?」
青年「思い残すことが無いからね」
側近「それは困りますね」
青年「おっ、側近さんが悲しんでくれるとは」
側近「私はこれから誰をからかって暇を潰せばよいのですか」
青年「違う暇潰しを見つけなよ……」
*
―寝室―
青年「ふぅ……今日は結構喋ったなぁ」
青年「明日、魔王さんが缶蹴りするとか言ってたけど強制参加なんだろうなー……」モゾモゾ
魔王『いっくよー!えーいっ!!』ズバンッッ
青年「みたいに缶があり得ないくらい飛んで行くのはどうにかして欲しい……」
側近「それは私も同感です。初めて気が合いましたね」
青年「なんで居るんですか」
側近「ふあぁ……眠いですね」モゾモゾ
青年「布団に入って来ないでくださいよ」
側近「良いじゃないですか。貴方が寝る面積が減るだけですよ」
青年「全く良く無いんですけど」
青年「……そのメイド服、脱がないんですか?」
側近「おやおや、ここでおっ始めようと?」
青年「構いませんよ?オレは」
側近「いつになく強気ですね」
側近「……」ゴソゴソ
青年「ちょ、えぇ!?何で脱いでるんですか!」
側近「貴方が脱げと……」
青年「着て!」
側近「いえ、着ませんよ。もう寝ますし」
青年「下着で寝ると風邪引きますよ?」
側近「風邪…?私を誰だと思っているのですか」
青年「性格が悪い―――
側近「……」ギュ
青年「……何ですか」
側近「寒くなったので」
青年「もうとっとと寝てくれません?」
側近「そうでふね……ふぁ……」
側近「で、決まりました?」
青年「なにが?」
側近「鳥頭すぎません?」
青年「眠くなったので寝ますねー」
側近「全くこのオスは……」
青年「……側近さんには、オレよりもっと似合う人が居るよ」
側近「勘違いしないでください。私は貴方に好意はありませんので」
青年「はえ!?」
側近「ただ……貴方が誰かの物になってしまうのは、こう……納得ができないだけです」
青年「側近さんだと、それが好意なのか怪しくはある……」
側近「私では貴方の伴侶は務まりませんか?」
青年「務まるとか、務まらないとかそういうのじゃ、多分無いと思うんだ」
側近「そうなのですね……私には良くわかりません」
青年「そもそも、何故オレなの?」
側近「最初に言いましたけど、退屈し無さそうだからですかね」
側近「……貴方に協力をしたのは、親近感が湧いたからです」
側近「私も似た様な境遇を経験しましたので」
青年「側近さんも虐められたりとか…?」
側近「いえ。力が強いが故、ですかね」
側近「虐めてこようものなら返り討ちですよ」
青年「あぁ……」
側近「同族でさえ私と余り関わらない様に避けますから……」
側近「貴方が恐怖心を抱かず接してくれたのは驚きました」
青年「そりゃぁ、敵わないのはわかりきってることだしね……」
青年「どうせなら開き直ろうかなと」
側近「そうでしたか」
青年「肩で揃えてある白銀に輝く髪、整ったスタイル、可愛げのある顔……」
青年「むしろ恐怖と言うより、美しいと思いますけどね」
側近「当たり前じゃないですか、私ですよ」
青年「あれ?ここは照れるところじゃ……」
側近「事実を言われて、何故照れるという表現をしなければならないのですか」
青年「あれれ……おかしいなぁ」
*
*
「っくしゅ……」
青年「ん…ぁ……朝か」モゾモゾ
青年「側近さん、おはようございます」
側近「……はぃ」ブルブル
青年「ど、どうしたんですか…?」
側近「ぃぇ……」
青年「だから言ったのに……」
青年「魔王さんには伝えておきます」
側近「すみません……」
側近「……」ジー
青年「……オレは今日も暇なんでここに居ますよ」
側近「では必死で私を笑わせてくださいね」
青年「とっとと寝てよ……」
側近「……」チラ
青年「はいはい、手くらい握りますよ」ギュ
*
―翌日―
魔王「側近、風邪は治ったー?」
側近「すみません、ご迷惑をお掛けしました」ペコ
魔王「良いのいいの!じゃっ、昨日できなかった缶蹴りしよっか!」
魔王「はいはーい!じゃ、皆集まったことだし始めるよー!」
青年「これ、魔王城に居る方ほとんど集まってません?」
側近「いつもはモノ好きしか集まらない筈なんですが……」
魔王「なんと!今日優勝すれば1等部屋を差し上げちゃいます!」
青年「なるほど……」
側近「ちなみに、私達が使っている部屋は1等部屋ですよ」
青年「マジですか」
魔王「鬼は……今日はいっぱいいるし三人にしよっか!」
魔王「うーんと先ずはボクでしょ……後は側近!それと青年くんねー!」
魔王「いっくよー!えーいっ!!」ズバコーンッッッ
>空に消えた缶と同時に、参加した魔族達が一斉に走り出し
>数秒後には魔王と側近、そして自分の三人だけになった
魔王「さてと、探しに行きますか!」
魔王「お二人さんは楽しんでねー」ウインク
側近「……どうやら気を遣って頂いたみたいですね」
側近「屋上にでも行きましょうか」
青年「……うん」
*
―屋上―
側近「やはりここは落ち着きますね」
青年「……そうだね」
青年「缶蹴りか……あの時当たらなければ、今は無かったんだなー」
青年「運が良いのやら悪いのやら……」
側近「私は、努力することも一つの才能だと思っていますよ」
側近「ですので、貴方は無能ではありません」
青年「…うん。 ありがとう」
青年「オレ、決めたよ」
側近「……」
青年「オレは……側近さんに相応しい男じゃ無いかもしれない」
青年「出会いだって、あんまりカッコ良く無かったし……」
青年「でも、それでも……」
青年「この先もずっと一緒に居たい」
側近「……ふふっ」
側近「では、結婚しますか?」
―終―
終わります
ありがとうございました
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