骸骨剣士「……私はまだここに立っている」 (24)
─────── カタカタと、音を立てて。
< 「……おや」
< 「まぁだこんな丘に立ってたのかい」
音は絵本の中で語られる、骨が打ち鳴らされた物ではない。
鎖帷子、或いは胸当て、籠手や剣。
それらが鳴っているだけだ。
< 「なぁアンタ、一体何が目的なんだね?」
< 「あたしゃ心配なのさ、悪いやつじゃないけどアンタは『魔物』……いずれ冒険者に狩られちまう」
< 「何か未練があるのかい」
< 「それとも……」
骸骨剣士「理由は無い」
骸骨剣士「……私はまだここに立っている」
骨と、黒い障気だけで人の形をした異形。
それが私だ。
故に親切に話し掛けてきた近くの集落に住む、老婆には申し訳無い。
私はただそこに居たいだけなのだ。
────────── ・・・
骸骨剣士「……」
< シャリッ……シャリッ……
その日は剣を研いでいた。
愛用している剣は刃零れする事の無い、所謂『魔剣』だったが、私はその行為を日課にしていた。
何年か前に出会った旅人が剣の手入れを教えてくれたからだった。
骸骨剣士「……」
< シャリッ……シャリッ……ピタッ…
そんな、特別何かをしていた訳でもない日の、陽が真上から照らしていた時。
時折訪れる存在に私は気付いた。
< ガサガサァッ
男冒険者「やっと森を出たか? …………って……!?」
女冒険者「嘘、魔物……!」
人間の冒険者と呼ばれる者達。
私が居るこの丘に時折辿り着く存在が、彼等だった。
男冒険者「スケルトンか? お前は下がってろ」シャキ
女冒険者「気を付けてね、普通の魔物より装備が良いみたい」
骸骨剣士「……」
騒々しい。
稀に、私好みの静かな人間達もいるが大抵はこういった手合いが多いのだ。
私を口々に分析したつもりで声に出して、私に容易に刃を向けて来る。
骸骨剣士「実に、未熟」
男冒険者「ィヤァーーッ!!」バッ
男の冒険者が猛々しく直剣を振り上げて駆けてくる。
骸骨剣士「……スゥゥ」ギシッ
何の技術も無く剣を握るその姿に、思うことが無い訳でもない。
だが既に慣れてしまった。
こういう人間は命を奪う必要が無いと知ったからだ。
─────── パンッ!
男冒険者「なっ…… ッ< ドサッ!!
男冒険者(スケルトンが足払いを!? ……そうじゃねえ! 動きが見えなかったぞ!?)
骸骨剣士「剣を納めて去るなら追わない」
男冒険者「っ!?」
骸骨剣士「剣を納めろ、私は戦う気はない」
< 「早くしろ! 逃げろ逃げろぉっ!!」
< ドタドタドタ……ッ
骸骨剣士「……」
大抵は私が言葉を話すと驚き、去れと言えば踵を返して逃げ去る。
もう何度もこれを繰り返している。
とはいえ久方ぶりの冒険者の人間が来た。
そうなると、直ぐにでも他の冒険者がここへ訪れるだろう。
『昔』は無かったが、今ではギルドや猟団といった組織が国軍とは別にあるらしい。
骸骨剣士「……当分は騒がしくなるな」
砥石を丘の上に取りに行きながら、私は先の事を思う。
何十年かに一度、あるのだ。
私を討伐しようとする者達が次々と来る時期が。
────────── ・・・
チチチチ……チチチチッ……
骸骨剣士「……」
その日は私の肩に鳥がいた。
小鳥というには丸く太った鳥だ。
鮮やかな紅い羽根を持ったこの鳥は、何日かに一度私の肩に留まりに来る。
最初は懐いたのかと思ったが、どうも違うらしい。
骸骨剣士「飽きもせず、よく来るものだな」
チチチチ……
視線を感じるのだ。
鳥は私を見ていない、私の肩の上から見える荒野と森を見ているだけだ。
視線の主は何らかの術で鳥を通して私を見ているらしかった。
骸骨剣士「……」
既に数十年この関係である。
慣れた。
だが一つだけ気になるのは何故私を観察しているのだろうか。
────────── ・・・
……十日と、半日が経った。
いつからかと問われれば、それはつまり冒険者の男女が来てからだ。
いよいよその時が来たらしい。
骸骨剣士「……」カタカタッ
砥石や、これまでに得た道具の入った雑嚢を丘の上に置いてくる。
私は森の奥から漂ってきた気配を迎えるために、丘を下りていく。
殺気は感じられない。
様子を見ているのだろう。
静かな手合いは好きだ、特にこういった探り合いは。
カサッ >
骸骨剣士「……」
< フワァッ
カチャカチャ
骸骨剣士「……」
森の奥から視線を感じることは無い。
ある者は葉を意図的に私の傍に風に乗せて落とし。
またある者は、私の魔力を測るために魔術を施した花弁を散らし。
そして、ある者はもっと直接的に私を図ろうとする。
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