モバP「朋と過ごしたある一晩」 (24)
※一応閲覧注意
妄想が暴走してごめんなさい
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事務所を出ると既に雪は降り始めていた。
「うわー結構降ってるわね」
後ろから出てきた朋がぼやく。
「予報によればまだまだ序の口だってさ」
「えっマジ?」
「マジマジ」
そういうわけでさっさか帰らなければならない。
「ほら、帰るぞ」
「はーい」
少し大きめの傘をさすと、朋は当然のように横に陣取った。
「こらっ動かないの」
ついでにマフラーも繋がれた。
住まいのマンションは事務所からほど近い。
遠距離通勤を見かねたちひろさんが借りてくれたもので、1人だと少し広いが2人だとちょうどいい。
「晩ごはんは?」
意外に健啖家な同居人が訪ねてくる。
「鍋の具材を買ってある」
すると奴はへぇ、なんて声をあげて目を丸くした。
「やけに準備が良いじゃない、珍しい」
「一言余計だ」
「褒めてるのに」
「それなら素直に褒めてくれ」
そう返すと、朋は少し考える素振りを見せたあと、マフラーを引っ張って耳打ちしてきた。
「なでなでとハグ、どっちがいい?」
「両方」
「たっだいまー!」
「はい、おかえり」
家に着くなり朋は廊下を突っ切って行った。恐らくストーブの前を陣取ったと見える。
手洗いうがいを済ませ、居間に向かう。
「んあああああ~」
そこにはダラけにダラケきったアイドルが1匹。
「P~おかえり~」
「ただいま朋」
やっぱり、ただいまとおかえりが言える相手がいるのは良いことだ。
そんな風にほんわかしていると、朋がやけに神妙な顔をしていた。
「どうかしたのか?」
「こういう時って『おかえりなさい、ア・ナ・タ』とかの方が良いのかな」
それはまだ色々と早い。
一息ついたので、朋に風呂掃除を任せ、料理に取り掛ることにした。
料理といっても固形の鍋の素を砕いて鍋に溶かしてカット野菜と切った鶏肉を入れて煮込むだけのお手軽なものである。
このカット野菜、昨今の野菜の高騰も相まって、我が家では採用率が非常に高い。
頑張れカット野菜、不作に負けるなカット野菜。
居間に行くと風呂掃除が終わったのか、朋は窓の外を眺めていた。
「あ、もうご飯できた?」
こちらに顔を向ける。
「いや、もう少しかかるから、今のうちに風呂入って来ようと思って」
「んーでもまだ沸いてないわよ?」
「入ってれば沸くだろ」
「まあ、それは、そうなんだけど……」
やけに歯切れが悪い。
ひょっとしたら風邪かもしれない、心なしか顔も赤い気がする。
朋はしばらく、あーとか、うーとか言ってから
「た、たまには一緒に入りたいかなーって……」
爆弾を投下した。
「まあ爆弾と言ってもそんなに大それたことでもないか」
「誰に言ってんの?ほら器出して」
差し出した器を取って野菜をてんこ盛りにしてくれた。
一緒に入るにしても、風呂が沸いてないのは事実なので先にご飯を食べることになったのは自然な流れである。
決して朋との入浴の後に飯を食べる余裕がないと見越した訳ではない、決して。
「はい、どうぞ」
「あ、ああ、ありがとう」
上の空で器を受け取る。
「ふふっ変なP」
そう言って朋は自分の分に手をつける。
先ほどまでの恥じ入った表情などもはや皆無である。
あっちから誘って来たのにこれではこっちが恥ずかしいだけじゃないか。
是が非でも仕返ししなくては。
そう思い、おもむろに口を開く。
「なあ朋」
「ん?何?お肉欲しい?」
摘んだ鶏肉を差し出して来たのでありがたく頂戴する。
うん、適当なのに美味しい、やはり鍋の素は偉大だ。いやそうではない。
「珍しいじゃないか、一緒に入りたいなんて」
「あーまあ…」
箸を置いて頭を掻く朋。
「何かあった?」
「………雪が綺麗だったから?」
なんで疑問系なんだ。
「うーん何というか…」
言いながらこたつに潜ったと思ったらズリズリ進んでこっち側から出てきた。
背中を向けて寄っかかってくる。
上手く言えないんだけどね、と前置きして
「ぼんやり雪を見てたら、こんなに降ってても積もってもいずれは溶けて無くなっちゃうんだなって思うと何だか寂しくて、人恋しくなっちゃったというか……」
一呼吸ついて、言葉を紡ぐ。
「今のまんまでずっといられたら良いのになってそう思っちゃったの。事務所があって、アイドルの仲間達がいて、Pがいて、お仕事して、ライブをして、そういう日々が永遠に続けば良いなって……変かな?」
「変なもんか」
手を回し、優しく抱きしめる。
朋は暖かくて、柔らかくて、確かにここにいた。
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