【安価】比企谷「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」雪ノ下「その4よ」 (788)

【やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】の安価SSです

原作7巻までのネタバレあり

話は基本多数決の安価で進める


――安価時の注意事項――

・連続コメント禁止

・安価が出てその直下のレスから20分間レスがなければ連投許可

・『Aはどうする?』という安価にはちゃんと『AはBする』と書くこと

・連投違反や内容が不適切な場合は安価下



前スレ 【安価】比企谷「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」由比ヶ浜「その3!」

【安価】比企谷「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」由比ヶ浜「その3!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1368280790/)

別スレ 【やはり俺はどの学校でもぼっちである。】

やはり俺はどの学校でもぼっちである。 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1367336241/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1371210045


知人どころか誰とも遭遇することなく散歩から帰宅したのち、自室に戻って制服へと着替えを済ませる。

現在の時刻は6時30分。朝食には少し早いが……。


八幡はどうする? 以下より多数決

①朝食を作ると同時に今日の昼食を作る

②小町を起こしに行く

③誰かにメールする

先に3票集まった選択肢で先に進みます。

誰にメールする? 以下より多数決

①雪ノ下雪乃

②由比ヶ浜結衣

③平塚静

④戸塚彩加

4票集まった選択肢で先に進みます。


……メシ食う前に昨日の件を片付けるか。

机の上に置いてあるスマホを掴んで操作してメール作成画面を映し出す。

宛先に『雪ノ下雪乃』の名前が表示されたのを確認。

…………さて、本文はどうすっかな。


メールの本文は? 以下より多数決

①『おはようさん。今日も部活はあるんだよな?』

②『昨日の件で話があるから電話してもいいか』

③『始業前に話したいことがある。登校したら奉仕部の部室まで来てくれ』

4票集まった選択肢で先に進みます。


……こういうのは、ちゃんと面と向かって話したほうがいいよな。

スマホを操作して『始業前に話したいことがある。登校したら奉仕部の部室まで来てくれ』と入力して送信。


――これでもう後戻りは出来ない。


纏わりついてくる鎖を無理矢理引きちぎった。

現状から逃げ出さないと大口を叩いていた己はどこかへ消え失せた。

冷酷無情な社会と孤独に闘い続けた自身と決別して一歩を踏み出す。

今までの居場所はなくなるかもしれない。

心地よかったあの空間は、もう触れることすら叶わないかもしれない。

だがそれが、それこそが変わるということ。

なにかを得るためには、なにかを捨てなければならない。

みんながみんな幸せになれる世界なんて存在しない。

世界平和を実現しても、それは名も知らぬ誰かの犠牲で成り立っている。

勝者が存在すれば必ず敗者が存在するように。

輝く者と日陰者、天才と凡人、善人と悪人、正直者と偽善者、この世はすべて表裏一体だ。

彼が勝利の余韻に浸れば、彼は敗北の苦渋を啜る。

彼女が幸福のあまり笑みをもらせば、彼女は不幸のあまり唇を噛み締める。

そんな光景を見るのが嫌だから、他人と関わることを拒み続けた。


――だがそれはもうやめた。


なにを自惚れていたのだろうか。

自分自身が最初から所有している物はなにもなかった。

今自分が所持しているのは、偶然手元に回ってきただけの余り物。

それを誰にも渡さないようにと、みっともなく躍起になっていただけだ。

だからこその現状維持。

誰にも触れられないように距離を一定に保って、奪われないようにしていたんだ。

馬鹿馬鹿しい、本当に馬鹿馬鹿しいことだ。

そんな世界からのお情けで手に入れたものにいつまでも固執してどうするというのか。



――大切なものは、かけがえのないものは、己の意志で、この伸ばした手で、掴み取るものだ。



充電コードを引き抜いてスマホを仕舞い、鞄の紐を掴んで部屋の外へ。

キッチンに向かい、朝食を簡単に済ませて『今日は先に行く』と小町に書き残して家を出る。

スタンドを蹴り上げて自転車に跨る。

ハンドルを固く握り締め、ペダルを力強く漕いでひたすら前へ。

風を追い越すような勢いで両足を忙しなく動かして進む。


通学路で誰かと遭遇した? 以下より多数決

①由比ヶ浜結衣

②川崎沙希

③誰とも遭遇しなかった


4票集まった選択肢で先に進みます。


まだ時間帯が早いせいか、通学路に学生の姿はほとんど見られない。

入学式の日のようにサブレと散歩する由比ヶ浜の姿もなく学校に到着。

駐輪場に自転車を停め、施錠して鍵を引き抜く。

鍵の穴についたリングを指先に引っ掛けてくるくる回しながら教室へ向かう。

教室の自分の机に鞄を置いてスマホをポケットから取り出すと、メールが届いていた。


誰からのメール? 以下より多数決

①雪ノ下雪乃

②由比ヶ浜結衣

③平塚静

3票集まった選択肢で先に進みます。

雪乃からの返事かと思いきや、差出人は『平塚静』となっていた。

そのメールの件名は『無題』となっており、内容は開かなければ確認出来ない。

……開きたくねぇけど、返信しねぇと夏休みの悪夢の再来になるだろうし……。

俺は嫌々渋々メールを開くと、画面には


メールの内容とは? 以下より多数決

①『おはようございます比企谷くん。今日は雪ノ下さんが急な体調不良で休むそうです。なので本日の部活動は中止。由比ヶ浜さんには既に連絡済みなのでご安心下さい。それではまた学校でお会いしましょう』

②『おはようございます比企谷くん。もしかしたら既に聞き及んでいるかもしれませんが、昨夜雪ノ下さんと由比ヶ浜さんに一昨日の放課後の件についてメールでお伝えました。彼女たちが依頼を遂行するにあたって重要な事柄になると判断しての行動です。決して彼女たちに教えるように催促されたというわけではないのであしからず。それではまた学校でお会いしましょう』

4票集まった選択肢で先に進みます。


比企谷「……うわぁ」


思わずそんな声が洩れてしまうほどの長文メールだった。


『おはようございます比企谷くん。もしかしたら既に聞き及んでいるかもしれませんが、昨夜雪ノ下さんと由比ヶ浜さんに一昨日の放課後の件についてメールでお伝えました。彼女たちが依頼を遂行するにあたって重要な事柄になると判断しての行動です。決して彼女たちに教えるように催促されたというわけではないのであしからず。それではまた学校でお会いしましょう』


……あのさぁ、普段はあんな砕けた話し方なのになんでメールになるとこんな丁寧になるの?

ギャップ萌えでも狙ってんの? これじゃあ相手の心を惹きつけるどころかドン引きだよ。ドン引きです。

メールをそっと閉じて『消去』のパネルに触れる。削除削除っと。

鞄を机の脇に引っ掛け、職員室へ部室の鍵を取りに行く為に教室を出て行く。

すると突然目の前のドアから人が入ってきた。


教室内に入ってきたのは誰? 以下より多数決

①由比ヶ浜結衣

②三浦優美子

③戸塚彩加

④海老名姫菜

⑤葉山隼人

4票集まった選択肢で先に進みます。


葉山「おっと」

比企谷「っと、すまん」


危うくぶつかりそうになったのをなんとか回避する。

入れ替わりで教室に入ってきた人物は…………お前かよ。

目の前に立つのはクラスカーストのトップに君臨する葉山だった。

肩にエナメルバッグの紐を掛け、片手にはスパイクケースを持っている。

これから朝練なのか? まあそんなのどうでもいいけど。


葉山「すまんヒキタニくん、大丈夫だったか?」

比企谷「問題ねぇよ。俺のほうこそ悪かったな」


もしこれで俺が葉山とぶつかって近くに海老名さんがいたら流血沙汰になっていたところだ。主に海老名さんが。


葉山「いや、完全に俺の前方不注意だった。ごめんな」

比企谷「そうか。……んじゃ、俺今からちょっと用事があるから」


頭を軽く下げて平謝りする葉山の横を通り抜けて廊下に出る。


葉山「こんな朝早くから用事なんて、ヒキタニくんも大変だな」


背後から届いた葉山の声が耳朶を打つ。

その声に身体が反応してしまい、進もうとしていた両足の動きが止まる。


比企谷「……、サッカー部の部長であるお前ほどじゃねぇよ」

葉山「そうかな。でもヒキタニくんも、ここ数日は色々と苦労してるみたいだけど」

比企谷「……まぁ、そうだな。俺も文化祭以降はお前みたいに校内全体で名前や噂話が広まって大変だぜ」


まあ絶賛拡散中なのは悪評と名前だけで、俺がどんな生徒なのかは知られていないんですけどね。

ステルスヒッキーは誰にも認知されないのだ。

そのお陰で悪評が1人歩きを始めて『実行委員長を泣かせた比企谷は文化祭の準備期間から執拗に委員長へ嫌がらせをしていた』とかいうあらぬ尾ひれが付いていた。……絶対に許さんぞ、相模の取り巻きと戸部……!


葉山「……俺は、そういう意味で言ったんじゃないんだけどな」


復讐の炎を胸の内で燃え上がらせていると、葉山は苦笑混じりにそう呟いた。


比企谷「……。相模の件はお前が気にすることじゃねぇよ」

葉山「いや、そういう意味でもないんだ」

比企谷「あん?」

葉山「…………比企谷。君は、君は彼女のことを――」

比企谷「……、」

葉山「――……いや、やっぱりなんでもない。呼び止めて悪かった。これは俺が軽々しく話していいことじゃなかったな」

比企谷「……、そうかよ」

葉山「……それじゃあ、俺は今からサッカー部の朝練があるから。またねヒキタニくん」


葉山は爽やかにそう言い残し、エナメルバッグを教室に置いて去って行った。

今回はここまでです。

続くに続いてこの物語も4スレ目。今後とも宜しくお願い致します。

再開は明日の昼過ぎになります。

それでは今日はこの辺で失礼します。


葉山と別れたあと、職員室で部室の鍵を借りて奉仕部の部室がある特別棟の四階へ向かった。

施錠された扉を解錠して横へスライドし、無人の部室に足を踏み入れ普段の定位置に腰を降ろす。

雪乃が来るまでの暇を潰そうとポケットからスマホを取り出すと、再び誰かからメールが届いていた。


誰からのメール? 以下より多数決

①雪ノ下雪乃

②由比ヶ浜結衣

③k-saki1026@azweb.ne.jp

④比企谷小町

4票集まった選択肢で先に進みます。

↓4 小町からのメールの内容は?


メールの差出人は小町だった。


『今日どしたの?早く行くなんて珍しいね。』


ほっとけ。俺だって早く行くときだってある。

いつもは本気出してないだけだっての。……まあ本気だしても土下座と靴舐めぐらいしか出来ないけど。



↓4 なんと返す?


とりあえず普段のノリで指を走らせ文字を入力して送信。


『うっせ。それよりちゃんと朝飯食ったか?抜いて倒れるようなことにはなるなよ。あ、今の八幡的にポイント高い。』


その数分後、再び小町から返信。


『だいじょーぶ。塾の先生が「受験生がとるべきものは?――メシでしょ!」って言ってたからちゃんと食べてるよ。
 それよりお兄ちゃん、登下校は十分注意してよね。
 入学式の日みたいなことになるの、小町もういやだからね。あ、今の小町的にポイント高い!』


比企谷「……それを書かなきゃいいのになんで書くんだあのアホシスター……」


まあ俺も人のことは言えないんですけど。

『人のふり見て我がふり直せ』……でも他人を参考にして直した自分ってもう自分じゃないよな。

『己のふり見て我がふり直せ』の方がいいんじゃねぇの? 誰か俺の存在を記録に残してくれねぇかなぁ。

そんな益体もないことに脳細胞を使用していると


なにがあった? 以下より多数決

①扉が控え目に叩かれる

②またもやメールを受信

③電話がかかってくる

3票集まった選択肢で先に進みます。


そんな益体もないことに脳細胞を使用していると扉が控え目に叩かれる。

今この部室には俺しかいない。扉の向こう側にいる人間に返事が出来るのは俺だけだ。

緊張のせいか口内が急速に乾燥していく。

空唾を飲み込み、扉に向かって声を掛ける。


比企谷「どうぞ」


数瞬の間を置き、扉が控えめに開く。

するとそこには



誰がいた? 以下より多数決

①雪ノ下雪乃

②雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣


4票集まった選択肢で先に進みます。


「……、おはよう比企谷くん」

「……、おはようさん」


鞄を膝の前で持ちながら儚げに雪乃が佇んでいた。


「こんな朝早くに呼び出して悪かったな。まぁその……なんだ、そんなとこに突っ立ってないで座れよ」

「……ええ、そうさせてもらうわ」


やや俯きがちな雪乃は窓際の席に腰を落ち着かせると、部室内に沈黙が生まれる。

俺はその静寂を破るようにわざとらしく咳払いをして居住まいを正す。


「雪乃、今からお前に話したいことがある。……聞いてくれるか?」

「……聞く気がなければわざわざ足を運んだりなんてしないわ」


問い掛けに応える雪乃の表情は、垂れ下がった前髪に隠れて伺う事が出来ない。

普段は明瞭で透き通るような声音も、今は弱々しく微かに震えていた。


「そりゃそうだな。……んじゃ、えっとだな、まず昨日の件についてだ」

「……、」

「あの電話のあと、俺は寝る前に考えたんだ」

「これからお前たちとどうやって接するべきなのか、今後の俺は一体なにをすればいいのか」

「なにしろこんな事は初めてだから悩んで藻掻いて苦しんで、ああでもないこうでもないと苦悩した。思い詰め過ぎて夢の中でも必至に頭を抱えて難渋してた」

「ない知恵を絞っても打開策は見つからなくて、八方塞がりでもうなにをすればいいのかわからなくなった時、お前達の声が聞こえた」



『違うよ。待たないで、……こっちから行くの』

『あたしはヒッキーのことが好き。たぶんゆきのんが、ヒッキーのことを好きになるずっと前から』


『……でも、今はあなたを知っている』

『あなたが出来ないと言った人を愛する行為を、私が可能にしてみせる』


『本当に欲しい大切なものはすぐ近くにあるということを、君はよく覚えておきたまえ』



「由比ヶ浜に平塚先生、そして雪乃。……俺の、大切な居場所の住人の言葉が聞こえたんだ」

「私達の…………言葉?」

「ああ、三人の言葉が俺を一人では絶対に辿りつけない答えに導いてくれた」

「……、」

「……俺は意固地になってたんだ、変わることを恐れてた。なにかを得るためにはなにかを捨てなければならないことに気付いていたはずなのに、気付かないふりをしていた」

「でもそれは逃げだった。現状から逃げていたんだよ俺は。とっくの昔から俺は欺瞞で本心を偽っていたんだ」

「……ホント、馬鹿だよな俺って。あれだけ嘘や欺瞞が嫌いと嘯いていたのに、無意識の内に欺瞞に身を委ねてたんだから」



「…………だから」


皮膚を食い破らんばかりに唇を噛み締め、爪が肉に食い込むほど拳を固く握り締める。

これは戒めだ。もう二度と同じ過ちを繰り返すことのないように。

痛みと共に心の奥底へ楔を深々と打ち込む。


「欺瞞に頼るのはもう…………やめる。これからお前に告げることは、紛れも無い本心で、嘘偽りのない正真正銘、俺の本音だ」


この言葉を告げてしまえばもう戻れない。

後戻りなんて出来やしない。

時の流れは一方通行。

止めることも巻き戻すことも不可能。

ただ未来に進むことだけが許されている。

振り返るな。

前を見据えろ。

視線の先にいるのが。

羨望の瞳が捉える者こそが。




「雪ノ下雪乃、お前の事が好きだ。俺と付き合ってください」




――かけがえのない、唯一無二の存在。




雪ノ下「…………え、……あ」


目の前に座る雪乃は両眼を見開いて顔を上げていた。

桜色の唇は酸欠の魚のように忙しなく開閉を繰り返している

………………あー、言った、言ってやったぞこの野郎。

もう知らねぇ、あとは野となれ山となれ。

脳に直接薬を打ち込まれたんじゃないかって錯覚するほど頭がクラクラする。

羞恥心を燃料に体温が瞬く間に燃え上がり、顔全体が熱を帯びている。

今なら額に生肉を置けばこんがり焼けそうな熱量だ。

そしてほんの一瞬で焦げ肉Gになるレベル。火力高すぎだろ。


雪ノ下「…………ひ、ひひひ比企谷くん」

比企谷「……なんだよ」

雪ノ下「そ、……そり、そ、それはなんの冗談かしら。エイプリルフールはまだ先だと思うのだけれど」


言葉を噛みまくりながらも必至に冷静を保とうとする雪乃。

だが頬は真紅に染まり、視線はぶれまくりで普段の凛然とした態度は見る影も無い。

……まあお前のそういう所も好きなんだけどな。


比企谷「冗談なんかじゃねぇよ、さっき正真正銘俺の本音って言っただろうが」

雪ノ下「じょ、冗談も休み休み言いなさい比企谷くん。いきなりあなたに告白されて『はいそうですか、ではお付き合いましょう』という流れになるわけないでしょう?あなた、馬鹿なの?だいたい比企谷くんはここ数日私のゆ、……誘惑をことごとく反応も示さずにいたじゃない。それが今朝になって手のひら返しであなたから『付き合ってください』と申し出られても、私にも心の準備というものが必要なのよ。いえ、決して心の準備が出来ていれば素直に受け入れるというわけでもなくて。まあそれはともかくたしかに私は三日前の夜にあなたへ『あなたを落としてみせる』と大見得を切ったけれど、これでは立場が逆転しているわ。それに加えて私は三日前の夜に……って、ああダメね話がループしているわ。何を動揺しているのかしら私は、らしくないわね。そもそもあなたがいきなりこんなことを言うからいけないのよ、まったく比企谷くんのクセに生意気ね」

比企谷「………………。……おう、なんかすまん」


なんだか非常に申し訳ない気分で一杯である。


↓5 八幡はどうする?


雪ノ下「謝れば済む問題ではないわ。比企谷くん、何か誠意を見せなさい」

比企谷「誠意? んなこと言われても俺には土」

雪ノ下「土下座以外」

比企谷「ぐぬっ……」


俺の百八の特技の一つにして十八番の『土下座』と言い切る前に釘を刺されてしまった。

くっ、土下座が使用不可なら――


雪ノ下「それと、『靴舐め』とかいう悍ましい単語を口にしたら即刻通報するからそのつもりでいなさい」

比企谷「く、…………苦しくならない程度に抱きしめても宜しいでしょうか……?」

雪ノ下「……っ。……そ、それなら別に構わないわ」


……いいのかよ。いまいち判断基準がわからんぞ。

疑問を抱きながら椅子から立ち上がり、雪乃の座る椅子の背後に回る。


比企谷「……では僭越ながら」

雪ノ下「……、」


畏まった言葉で切り出し、雪乃の身体を優しく抱きしめる。

艶やかな黒髪から香る仄かな香りが鼻孔をくすぐる。

制服越しに伝わるぬくもりがさらに体温を上昇させていく。

心臓は早鐘を打ち鳴らし、呼吸も徐々に苦しくなる一方だ。

…………これはやばい。何か話しかけないと理性が吹き飛ぶ。


比企谷「…………なあ雪乃」

雪ノ下「ひゃうっ!?」

比企谷「おわっ!? す、すまん耳元だったな」


両肩を跳ね上げて可愛らしい悲鳴をあげる雪乃。

なにぶん椅子に座っている人間を抱きしめる姿勢となると、必然的に俺の顔が雪乃の肩の上に乗ることになってしまう。

耳元で急に話し掛けられれば、こんな反応をしてしまうのも致し方ない。


↓5 八幡はどうする?

↓5 なんと囁く?

由比ヶ浜でも平塚先生でも川なんとかさんでも戸塚でもなくお前が好きなんだ
お前を愛しているんだ

雪ノ下「……み、耳元で急に喋らないで頂戴。せめてなにか合図を」


耳まで真っ赤になった雪乃は俯きながらそう呟く。

合図ねぇ。合図って言ったら……やっぱアレしかねぇよな?

俺は抱きしめていた腕を離して雪乃の肩を軽く叩いた。


雪ノ下「? なにかし――っ」


叩かれた肩を確認する為に振り返った雪乃の頬に、俺は人差し指を突き立てる。

餅のように柔らかな頬に触れた指先は滑らかな肌を撫でて頬骨に触れる。


比企谷「合図は俺が雪乃の肩を叩くこと、でいいか?」

雪ノ下「……。……ええ、わかったわ」


雪乃は華が咲き誇るような微笑みを浮かべ、自身の頬骨に触れている俺の指先をがっしりと掴む。


比企谷「ん?」

雪ノ下「でもその前に、この目障りな指をへし折ってからでいいかしら?」


光彩の消えた瞳で俺を見詰める雪乃。

全身の熱が急速に冷め、血の気が一気に引いていく。


比企谷「……ちょ、雪乃さ――いでででででッ!?」


そしてギリギリと万力の様な力で圧迫され、人差し指の関節と骨が悲鳴を上げる。

アカン、雪乃さんそれはアカンて!? 折れるから冗談抜きで!?


雪ノ下「比企谷くん、私の身体に何の許可も無く触れないで頂戴」

比企谷「はいわかりましたすみませんでしただから解放してくれませんか今すぐに!?」

雪ノ下「それと許可無く私に触れた罰として……も、もう一度私を抱きしめなさい」

比企谷「了解しましたなんでもしますから離し――ッ」

雪ノ下「……まったく」


必至の懇願が聞き届いたのか、ようやく人差し指が自由を取り戻す。

ただ圧迫され過ぎて指先の感覚がないのが不安。でもまぁしばらくすれば元に戻るだろう。……戻るよね?


雪ノ下「……比企谷くん」


そんな不安など露ほども知らず、雪乃は振り返りながら俺を見つめてきた。

どうやらさっさと自分を抱きしめろという事らしい。

許可が下りれば何してもいいのかよ……、チョロいんだかチョロくないんだか判断に困るなおい。


比企谷「……暫しお待ちを」


恭しく言葉を述べて、再び雪乃の身体を包み込むように優しく抱きしめる。

そして肩を軽く叩いて、雪乃の耳元に口を寄せてそっと囁いた。



比企谷「……雪乃、俺は由比ヶ浜でも平塚先生でも川崎でも海老名さんでもなくお前が一番好きだ。愛してる」


もはや誰だ貴様。比企谷八幡の皮を被った江口拓也か。むしろ正解?

ごめんなさい、今日はここまでです。

それと>>133さんの安価は勝手に変更させて頂きました。ご了承ください。

再開は明日の20時過ぎですかね。もしかしたら遅くなるかもしれません。

では今回はこの辺で失礼します。

携帯から失礼します
私情により再開が遅れます
遅くても21時過ぎから再開出来ると思います
申し訳ございません


「……っ、…………比企谷くん」

「ん、どうした雪乃?」


至近距離から届く雪乃の声音が優しく耳朶を打つ。

この角度からでは横顔しか伺えないが、その柔らかそうな頬は、その形の良い耳は紅がさしている。

雪乃は緩やかな動作で首を後ろにまわす――って、待て待ておいおい顔がすぐ近くにあるんだからこれだと唇がふr



「怖気が走るからやめなさい」



…………………はい、ごめんなさい。

雪乃は流し目で絶対零度の眼差しを向けながら冷然と宣告すると、呆れるように小さく溜め息をひとつ零す。


「はぁ……」

「……、」

「…………比企谷くん」

「……、なんだよ」

「あなたは、…………本当に、私の事が好きなのかしら……?」

「……。……ったく、お前はどんだけ疑り深いんだよ」



「…………んなもん心の奥底から好きに決まってんだろうが。そもそも好きでもねぇやつにこんなことするかよ」



「…………そうね。……けれど、何度も執拗に確認するけれど、本当に私でいいの?由比ヶ浜さんではなく、この私で?」

「いいってさっきから言ってんだろ。俺は由比ヶ浜よりお前のことが好きなんだ」

「……私は優しさの欠片もないわよ?」

「俺が代わりに優しくしてやる」

「……私は辛辣な言葉しか言えないわよ?」

「恋人同士に遠慮や気遣いなんていらねぇだろ」

「…………私は自己中心的にしか行動出来ないわよ?」

「お前は人ごと世界を変えるんだろ、それくらいしてもらわねぇと困るっつーの」

「…………私は、こう見えて嫉妬深いわよ?」

「裏返せばそれだけ俺のことが好きってことだろ」


雪乃の髪をそっと撫で、腕全体で全身を包み込むように優しく抱きしめる。


「……安心しろ雪乃、俺はお前に嫉妬されるような状況は絶対に生み出さねぇから」


↓5 このあとはどうする?

【警告】作中の時間帯と場所をよく考えてください


「…………由比ヶ浜さんには、どう説明をするの?」


背後から回した腕に雪乃の指先が触れる。

一時は冷めてしまった熱が再び戻ってくる。

その熱を逃さぬように、決意を固めるように、俺は右拳を強く握り締める。


「……俺がなんとかする。だからお前が気にする必要はねぇよ」

「また随分と抽象的な返事ね……。具体的な案は考えていないの?」

「一応考えてあるのはあるんだが、それをやるとお前に迷惑がかかるから出来ねぇ」


考えと言ってもそんな大層なもんじゃない。ただ由比ヶ浜に「雪乃に告白した」と伝えるだけだ。

ただ何も対策もなしにそんなことをすれば、雪乃と由比ヶ浜の仲は険悪化してしまうことだろう。

……これはかなり身勝手な願いだが、雪乃と由比ヶ浜はこれからも良き親友同士であり続けてもらいたい。

雪乃と由比ヶ浜が巡り逢い、親交を深めあったのも何かの縁。

俺と由比ヶ浜の繋がりが途絶えてしまっても構わない。

けれど二人の友情が、二人の絆が壊れてしまうのは許容出来ない。


「……だから別の方法を考える為に、俺は今日学校をサボる」

「それで雪乃。お前に頼みがあるんだが……」


八幡の頼みとは? 以下より多数決

①「陽乃さんの連絡先を教えてくれないか」

②「俺の考えがまとまるまで、この件は誰にも話さないでくれ」

③「放課後に由比ヶ浜だけを奉仕部の部室に呼び出してくれないか」


5票集まった選択肢で先に進みます。

安価は3で行きますね。

それと今回はここまでです。

今回は再開が遅くなってしまい申し訳ございません。

次回もなんだか遅くなりそうなので、22時前後とだけ予告しておきます。


本日6月18日は由比ヶ浜結衣さんのお誕生日でございます。ガハマさんHappy Birthday!

あと原作の7・5巻が8月に発売されるそうです。

ゲームのシナリオ監修に円盤特典の小説に奉仕部(ぼっち)ラジオ収録参加にアニメ脚本に原作に仕事……。

ちょいと過酷すぎやしませんか? わたりん先生大丈夫ですかね、かなり心配です。


では今回はこの辺で失礼します。

それでは。


視点変更の希望がありますが、このあとで視点変更の安価(多数決)を出す予定です。

それと最近は意図的に台詞の前の名前を削っていますが、名前はあったほうがいいでしょうか?

ゲームは戸塚ルートや小町ルートがあるのか……。

まあなくても買いますけど。Vitaも一緒に買います。キャラソンも円盤も買います。 

バイト代を全てつぎ込んでやる……免許代なんて知るか!


遅くなりました。とりあえずもうしばらくは八幡さんの視点でお楽しみください。

急いで安価まで書いてくるのでしばしお待ちを……。


「放課後に由比ヶ浜だけを奉仕部の部室に呼び出してくれないか」

「……、」

「由比ヶ浜とは誰にも邪魔されずに話をつけたい。俺がこんな無茶なことを頼めるのは……お前しかいない」


抱きしめる力が無意識の内に強くなり、互いの身体の熱が混ざり合う。

制服越しに伝わる体温が、規則的な音を鳴らす脈拍が、全身へ静かに溶けていく。


「比企谷くん」

「……、」


雪のように白い指先が俺の腕を掴む。

振り向かずに前を見据えた雪乃の口角が綻ぶ。

そして雪乃は鷹揚に首を縦に動かして、


「却っ下」

「なっ」


まるであの日を再現するかのように、淡々とした声音で提案を拒否した。


「……そもそもあなた、学校をサボるなんて真似が許されると本気で考えているの?」

「……いや、サボるっつっても授業を抜けだして保健室で考えこむだけなんだが……」

「ふぅん、そう。まあたとえあなたが授業に出席していなくても、授業の進行には一切支障がないものね」

「だってあなたが指名されてもただ徒に時間を浪費するだけだもの。むしろあなたがいなくなって捗ると思うわ」

「それは俺が先生に指名されると挙動不審になって発言が出来ないって意味か。正解だよ、なんで授業中の俺の反応を知ってんだよ」


でも最近の俺は指名されないどころかちゃんと出席してるのに欠席扱いにされることも多数だぞ。

特に移動教室の時は八割の確率でそうなる。


「……前にも言ったでしょう?私はあなたのことをずっと見ていたもの。今までの行動パターンを鑑みれば容易に推測出来ることよ」

「…………、そうか」

「……っ、そ、そんなことよりも何か別の案を考えましょう。…………そうね、」


雪乃からの提案は? 以下より多数決

①雪乃が由比ヶ浜に比企谷から告白されたことを話す

②平塚先生に相談する

③陽乃に相談する

5票集まった選択肢で先に進みます。



「………………非常に癪だけれど、甚だ遺憾だけれど、大層不愉快で仕方がないのだけれど、この現状を打破する力を備えた人間に1人心当たりがあるの」

「……それって、陽乃さんのことか?」

「ええ。……けれど私は姉さんには文化祭で貸しが一つあるから、……その」

「強く頼むことが出来ない、ってか」

「……、」


俺の問い掛けに雪乃は首肯で応える。

陽乃さんは体力不足を除けばパーフェクトである雪乃をも凌ぐ完璧超人だ。

頭脳明晰、博学多才、あらゆる分野で圧倒的な才覚を発揮するのが雪ノ下陽乃という人間。

孤高を貫く雪乃とは正反対に交友関係の広い陽乃さんなら、こういった状況に対処する術を知っているかもしれない。

しかし雪乃には陽乃さんへの貸し借り云々の前に苦手意識があるようだし、かく言う俺もあの人は仮面に隠れて思惑や本音が読めないから可能な限り接触は避けたい存在だ。

それに加えて陽乃さんが時折覗かせる、すべてを見透かし見極めるような冷酷な瞳が俺には正直耐えられない。


……さて、どうしたもんかな。


八幡はどうする? 以下より多数決

①雪乃から携帯を借りて陽乃へ電話をかける

②朝のSHR開始10分前のチャイムが鳴り響く

5票集まった選択肢で先に進みます。

安価は1でいきますね。

短くてすみません。今日はここまでです。

次回も同じような時間から再開します。

それでは失礼します。


……でもまあ、遅かれ早かれ陽乃さんにはこの件を話さないといけない時が来るからな。

先延ばしにするくらいなら、さっさと片付けてしまうのが利口な選択か。


「雪乃、陽乃さんに電話をかけてくれねぇか?」

「待ちなさい比企谷くん、私はあくまで苦肉の策として姉さんに頼る方法を提示しただけよ。まだ別の策が」

「残念だけど、たぶんこれ以外に有効なアイデアはねぇよ。そもそもお前が最初から奥の手に頼るくらいだし、苦し紛れに別の策を練っても時間の無駄だ」

「…………比企谷くん、それは私への挑戦と受け取っていいのかしら」

「その昂揚した状態で冷静な判断が下せるなら思う存分に受け取ってもらいたい所だが、お前がそういった状況になると高確率で俺が貧乏クジを引く羽目になるからやめてくれ」

「……っ」

「……陽乃さんに電話、かけてくれるか?」

「……、少しだけ時間を頂戴」


観念したように俯きながらそう呟いた雪乃は俺の腕から抜け出し、ポケットから携帯電話を取り出した。

雪乃は掴んだ携帯電話に視線を落とし、口を一文字に結んで瞳を閉じる。

そして決心したように息を浅く吐いて電話をかける。


「姉さん、比企谷くんが姉さんに話したいことがあるそうよ」


雪乃が差し出してくる携帯電話を受け取り耳に当てる。


「もしもし」

『やっはろー♪どうしたのかな比企谷くん、こんな朝早くからお姉さんになんの用かな?』

「おはようございます陽乃さん。いえ、少し相談したいことがありまして」

『相談?ほうほう、比企谷くんがわたしに相談ねぇ……。それはわたしにしか頼めないことなのかな?』

「そう、ですね。これは陽乃さんにしか頼めないことです」

『………………雪乃ちゃんのことかな?』

「まあそんなところですね」

『そっか、ゆきのちゃんのことかぁ。…………ねぇ比企谷くん』

「はい、なんですか?」



『比企谷くん、雪乃ちゃんに告ったでしょ?』



陽乃からの爆弾発言、八幡はなんと返す? 以下より多数決

①「……そう思う根拠はなんですか?」

②「……告白しましたけど、それがなにか?」

③言い返そうとした直後、朝のSHR開始10分前のチャイムが鳴り響く

5票集まった選択肢で先に進みます。


「……そう思う根拠はなんですか?」

『ん?だってまず雪乃ちゃんからの電話で疑念の影が生まれるでしょ?それで電話をかけてきた雪乃ちゃんの声もなんだがいつもと調子が違う』

『加えて雪乃ちゃんの携帯を介して比企谷くんからの相談の持ちかけ。比企谷くんも比企谷くんで普段のひねくれ具合が鳴りを潜めてる。これだけの証拠があれば二人の間に何かがあったのは明白だよ』

『それに朝早くに相手を呼び出して告白するなんてことは、わたしが高校生の時に何度もあったからねぇ。……ま、わたしは常に告白される側だったけどね♪』


電話越しだというのに、陽乃さんが舌を小さく出して朗らかな笑みを浮かべるのが容易に想像つく。

てか人の機微に敏感過ぎるでしょう陽乃さん。ヘタしたら俺以上の観察眼持ってるんじゃねぇの?


「それは嫌味ですか」

『ううん、ただの報告で深い意味はないよ』

『それに雪乃ちゃんみたいな可愛い彼女が出来た比企谷くんにそんなことを言っても全然嫌味にならないでしょ』

「…………、告白はしましたけど、まだ雪乃から返事は貰ってませんよ」

『あれ、そうなの? てっきり雪乃ちゃんのことだから即座に……。……いや、雪乃ちゃんだから素直になれなくて……それにガハマちゃんもいるから……』


スピーカー越しに何やら1人でブツブツと考え事を呟く陽乃さん。

そして数十秒後、勝手に得心がいったのか俺の耳に柏手を打つ音が聞こえてくる。

おそらく携帯電話を握っている方の腕を軽く叩いたのだろう。


『ああ、そういうことね比企谷くん』


『つまり比企谷くんは、わたしにガハマちゃんの存在が邪魔だからどうにかして消してもらいたいわけだね』


「いやいや話が飛躍しすぎですよ陽乃さん。そもそもなんでそんな物騒な話になってるんです?」


なにこの人怖い。『邪魔者は消す』とかいう短絡的思考とか絶対前世は暴君か独裁者でしょ。


ごめんなさい、猛烈に眠いので今日はここまでです。

ちなみに視点変更の安価はチャイムが鳴ったあとに行う予定です。

では今回はこの辺で失礼します。


『あははは、ごめんごめん。流石に「消す」っていう表現は誇張し過ぎだったね』

『でもまあ流れ的には「比企谷くんが雪乃ちゃんに告白→けど雪乃ちゃんはガハマちゃんのことを気にかけて返事を渋る→それで比企谷くんはわたしに二人の空間を邪魔されないようにガハマちゃんを引き剥がす方法の相談をする→で、今に至る」こういう流れじゃないのかな?』

「……当たらずといえども遠からずってとこですかね」

『ふぅん……?……あ、まさかとは思うけど比企谷くん、雪乃ちゃんとガハマちゃんとの二股とか無謀なこと考えてたりしないよね?』

「ははは、陽乃さんは俺がそんな器用な真似が出来ると思いますか?」

『意外と出来そうだから返答に困るんだよね。だって比企谷くん、他人から認識されないことには定評があるでしょ?』

「それは暗に『比企谷くんは影が薄いから誰かと付き合ってもバレることがないもんね』って言いたいんですか」

『ううん、そうじゃなくて「比企谷くんは誰からも認識されないから、他人の評価なんて気にせずに堂々と二股三股をかけれる」だよ♪』

「どんだけクズ野郎なんですか俺……」

『おやおや、比企谷くんがクズなのは文化祭で広まった噂からいくらでも推測出来そうなことだと思うけど?』


『君が本質的にどういう人間なのかを知っている人物以外はね』


「……、」

『比企谷くん、そんなに思い詰める必要なんてないんじゃないかな。君のことを知っている人間なら、きっと君の気持ちを尊重してくれると思うよ?』

『それに安心して比企谷くん。もし比企谷くんが雪乃ちゃんやガハマちゃんに振られて玉砕しても、わたしが骨を拾ってあげるからさ♪』

「……、じゃあそうならないように精々頑張ります」

『うんうん、励めよ若人!それじゃあわたしはこれから大学に行かないといけないから、またね比企谷くん』

「……失礼しました」


携帯電話を耳元から離して画面を閉じる。

役割を果たした電子機器に視線を落としていると隣から雪乃が声を掛けてきた。


「……姉さんはなんて?」

「あんまり思い詰めないで話せばなんとかなるだどさ」

「そう」

「……、まあ俺ももう少し考えてみるわ。放課後まではまだ時間があるしな」

「……そうね、私も妙案が浮かべばあなたにメールで伝えるわ」

「すまん、助かる」

「気にしないで頂戴。あなたの問題は私達の問題でもあるもの」


優しげな、しかしどこか儚げな笑みを浮かべる雪乃に携帯電話を返却し、ふと時計を見ると朝のSHR開始10分前だった。


「……じゃあそろそろ帰るか、もうすぐ朝のSHRが始まっちまう」

「ええ、そうしましょう」


会話を切り上げ部室から出て行こうとすると、スピーカーから合成音声のチャイムが鳴り響く。

後ろ手で部室の扉を閉めて先を行く雪乃の背中を見つめながら、俺達はそれぞれの教室へと戻った。


誰の視点で話を進めますか? 以下より多数決


①比企谷八幡

②雪ノ下雪乃

③由比ヶ浜結衣


5票集まった選択肢で先に進みます。


※今の時間帯は人がいなそうなので、12時以降のコメントが有効票となります。


なんだか最近話の収集が着かなくなってきてるのは気のせいではないはず。

…………着地地点が見えない。


安価により視点が八幡からゆきのんへと変更になります。

それと安価の際に時間指定を上手に設定出来ずにすみませんでした。


もうしばらくの間お待ちください。


J組の教室で滞り無く朝のSHRが終わると、担任は出席簿を抱えて教室を後にする。

視界の端に捉えていた担任の後姿が確認できなくなると、私は机の中から地学の教科書とノートを取り出した。

1時限目の地学は特別棟にある地学室で行われるので、これから移動をしなければいけない。


「雪ノ下さん、おはようございます」


椅子から立ち上がった直後、声をかけられる。

音源の方を見るとそこには数人のクラスメイトが立っていた。


「あら、おはよう青葉さん」

「おはようございます雪ノ下さん、お荷物をお持ちしますね」

「いえ、大丈夫よ一之宮さん。自分の荷物は自分で運ぶわ」

「こ、これは差し出がましい真似をしてしまい申し訳ございませんっ!」

「一之宮さん、そんなに畏まらなくて大丈夫よ。顔を上げて」

「は、はい……」


……なぜかしら、唐突に青葉さんの瞳が何かを期待するように輝き出したわ。

頬から顔全体にかけて朱色が広がり始めているしこの症状は……。


「一之宮さん、もし体調が優れなければこれ以上は無理せずに、保健室で適切な処置を受けて休養をとることをお薦めするわ」

「……、」

「……一之宮さん?」

「――ハッ!?い、いえもう平気です!ご心配をお掛けしましたっ!」

「そう?ならそろそろ地学室へ向かいましょう。授業に遅刻してしまうわ」


その一言でクラスメイトはまるで私を誘導するかのように先行し、教室を出て地学室へ移動し始める。

急ぐ彼女らの後方をやや速い足取りで付いて行くと、なにやら前方から囁き合いが聞こえてくる。


「……なんだか本日の雪ノ下さん、普段と様子が違いませんか?」

「……そうですね。どことなく幸福感に満ち溢れているというか……」

「……私は放課後に教室を後にする時と似ている雰囲気を感じます……」

「……まさか、先日の一件のあの男子生徒が……?」

「……いえ、もしかしたら例のインカムでの話し相手では……?」

「……雪ノ下さんに忍び寄る影……。どう対処します?」

「……、とりあえず今は様子見でいきましょう。下手な行動は雪ノ下さんの気分を害する原因になりかねませんから」

「「「……了解っ!」」」


「(…………すべて丸聞こえなのだけれど)」


……しかし、可能な限り喜の感情は抑制しているつもりなのだけれど、あの会話を聞く限りでは隠しきれていないようね。

感情を抑えこまなければ自然と口元が緩んでしまう……っ。

…………本当に、比企谷くんには困ったものね。


↓5 このあとはどうする?


……まったく、本当に比企谷くんは……っ。

脳裏に焼き付いた数十分前の会話。


『雪ノ下雪乃、お前の事が好きだ。俺と付き合ってください』

『……雪乃、俺は由比ヶ浜でも平塚先生でも川崎でも海老名さんでもなくお前が一番好きだ。愛してる』

『…………んなもん心の奥底から好きに決まってんだろうが。そもそも好きでもねぇやつにこんなことするかよ』


あの時は気が動転して思い浮かんだ言葉を即座に吐き出してしまったけれど、もしも動揺せずに落ち着いていれば……。


『雪ノ下雪乃、お前の事が好きだ。俺と付き合ってください』

『……そう。……私も、あなたのことが好きよ。…………けれど、今はあなたの想いに応えることは出来ないの』

『……由比ヶ浜、か』

『ええ、だから返事はもう少しだけ待って頂戴。由比ヶ浜さんとの対立は、私自身の手で幕を閉じたいから』

『雪乃…………すまん。俺がお前たちの好意に気付かないふりをしてたからこんな……っ』

『それは人の機微に鈍感ではなく敏感なあなただから仕方のないことよ』

『けど……!」

『……比企谷くん。あなたのその目が見抜いた真実で救われた人間は沢山いるのだから、もっと胸を張りなさい』

『……、』

『もしそれが出来ないと言うのなら、……私が無理矢理あなたの上体を反らしてあげてもいいのよ?』

『ッ!? そ、それはどういう意』


「……さん、……下さん、……雪ノ下さん!」


「っ!?な、なにかし」


不意に耳朶を打つ大声に喚起されて意識を取り戻すと、私の目と鼻の先に広がるのは壁だった。

慌てて衝突を回避しようと試みるもその刹那、額に鈍痛が走る。


「……っぅ」

「だ、大丈夫ですか雪ノ下さん!?」


額を押さえて首を左右に振ると、慌ただしい足音と共に一之宮さんが駆け寄ってくる。


「怪我の具合は!?」

「へ、平気よ一之宮さん、少し壁にぶつけただけだか」

「自己判断は危険ですっ!とりあえずぶつけた箇所を診させてください。雪ノ下さんの美しい額に傷が残ったりしたら大変ですから!」

「……、」


意外と押しの強い一之宮さんに促されるまま、私は前髪を上げて額を見せる。

すると一之宮さんは一気に距離を詰めて食い入るように私の額を凝視する。

一之宮さんは顎に手を当て何度か首を縦に動かすと、少し距離を置いて静かに診断結果を告げた。


「軽い打ち身ですね。小さな氷嚢を当てていればすぐに痛みは引くと思います」

「そう、ありがとう一之宮さん」

「では早速保健室へ氷嚢を貰いに行きましょうか。……一刻も早く患部を冷やして雪ノ下さんを痛みから解放して差し上げなければ……っ!」

「そ、そこまでしなくても大丈夫よ一之宮さん。保健室には1人で向かうから、あなたは授業を受けて頂戴」

「そうですか……? 雪ノ下さんがそうおっしゃるなら……」


それから私は一之宮さんに地学の教師へ授業に遅刻する旨の伝言を頼み、特別棟一階の保健室へ向かった。


保健室には誰がいた? 以下より多数決

①比企谷八幡

②川崎沙希

③平塚静

④養護教諭のみ

5票集まった選択肢で先に進みます。


静寂に包まれた廊下を歩き、保健室の前へ到着する。

控えめに扉を叩いて扉を開くと、室内には養護教諭と猫背気味の男子生徒が会話をしていた。


「なんか風邪っぽいんですけど」

「おやおや、この前の風邪がぶり返したのかい?」

「かもしれないです」

「そうかい。それじゃあ奥のベッドで休むといい」

「はい、わかりまし……た」

「おや? どうかしたのかい?」

「……いや、なんでも」

「そう。以前ほどどんよりしていないようだから、すぐに治るといいねぇ」


養護教諭と会話をしていた猫背気味の男子生徒――いえ、比企谷くんはカーテンで仕切られた奥のベッドへ姿を消した。……本当に保健室でサボるつもりだったのね。


「さてさてごめんね待たせちゃって。あなたはどこの具合が悪いんだい?」

「はい。実はさきほど廊下を歩いていた際、前方不注意で壁に額をぶつけてしまって」

「おやおや、大丈夫かい?」

「多少痛みますが、日常生活に支障をきたすような怪我ではないです」

「そうかい、なら少し待っていてちょうだいね。いま氷嚢を作るから」


養護教諭は冷蔵庫から氷を取り出してポリ袋に詰め、水道水を加えて袋口を輪ゴムで縛り付けた。


「はい、お待たせ」

「ありがとうございます」


養護教諭から氷嚢を受け取り額に当てる。

ひんやりとした冷気の塊が私の体温と痛みを奪っていく。


「それであなたはどうする? ここで少し休んでいくかい?」


このあとはどうする? 以下より多数決

①休んでいく

②授業に戻る

③背後の扉が開く

4票集まった選択肢で先に進みます


「えっと、それでは少しだけ」

「そうかい、なら一番手前のベッドね」

「はい」


養護教諭に一番手前のベッドを勧められ、素直に従う。

カーテンで仕切られたベッドの上には、綺麗に折りたたまれたタオルケットが置かれていた。

枕の横に勉強道具を置き、靴を脱いでベッドに横になる。……ブレザー着用のままだと違和感があるわね。

身体を起こしてブレザーを脱ぎ、半分に折りたたんで勉強道具の上に置く。

それから再び横になり、タオルケットをかけて氷嚢を額に乗せる。


「(……この氷が全て溶けるか痛みが完全に引いたら授業に戻るとしましょう)」


視界の端にわずかに映るポリ袋を確認すると、カーテン越しに声がかけられる。


「休んでいるのにごめんねぇ」

「? はい、なんでしょうか?」

「今からわたしは所用で15分ほど保健室を留守にするから、急に具合が悪くなったら職員室に来てちょうだいね」

「そうですか、了解しました」

「静ちゃんとこの子も聞こえたかい?」

「……了解です」

「うんうん、それじゃあゆっくり休むんだよ」


養護教諭はそう優しく言い残して保健室を後にした。

扉がゆっくりと閉まる音を聞き届けると、たちまち室内は静寂に支配される。

静まり返る空間。普段とは異なる場所での沈黙。否が応でも全身に緊張が走る。


↓5 雪乃はどうする?


「……比企谷くん」

「……なんだ?」

「なにか面白い話をしなさい」

「無茶ぶりかつ命令系かよ……。仄暗い人生を歩んできた俺にそういうの期待しちゃうお前ってどうなの?黒歴史でも晒せばいいの?」

「黒歴史以外よ。いくら友達がいなかったあなたでも、なにか一つくらいはあるでしょう?」

「そりゃなくはねぇけど……。……仕方ねぇな、今回は誰にも聞かせたことのない話をしてやろう」

「へぇ、それは楽しみね。けれど比企谷くん、今のは『聞かせたことのない』ではなく『聞く相手がいない』の間違いじゃないかしら」

「き、聞く相手なら小町がいるから。あいつは俺の笑い話にいつも笑ってくれるんだからな」

「……失笑、もしくは嘲笑といったところかしら。退屈な話で小町さんの自由時間を削って失礼だと思わないの?」

「失礼なのは今のお前の言葉だよ。……まあいい、話始めるぞ」



「俺はある日の放課後、小腹が空いたので近くにコンビニに寄った」

「なにを食べるか悩んだ俺はとりあえず財布の中身を確認した。財布には小銭が200円ちょいでお札はない。この金額で買える物は限られていた」

「そして散々悩んだ挙句、俺はレジの隣に置いてあったファーストフード頼んだ」

「だが運悪く別のレジに並んでいた客が先に最後の一品を買ってしまい、商品が売り切れてしまった」

「しかし店員が『あと数分で新しい商品が出来上がる』と言ったので、俺はその商品が出来上がるのを雑誌を立ち読みしながら待った」

「その数分後、レジのある方向から威勢の良い声が店内に響き渡る。その声はどうやら俺を呼び出しているらしかった」

「『骨なしチキンのお客様ー!骨なしチキンのお客様ー!』と呼ぶ声が俺の耳に届く」

「俺の食べたかった商品は骨なしチキンだ。探し主は間違いなく俺だろう」

「なので立ち読みを終えてレジに向かうと、店員は『あ、骨なしチキンのお客様ですね!』と満面の笑顔でレジに立っていた」

「そしてなけなしの200円で骨なしチキンを購入して店を後にする」

「だが帰宅しながら骨なしチキンを食べ終えた後に店内での出来事を思い返すと、なんかすごい罵詈雑言を浴びせられたような気がする」

「ちなみにその時のおつりは53円だった。俺はもうその店には二度と行かないと密かに誓った」

「おしまい」



「…………比企谷くん、この話は他言無用よ。絶対に他の誰かに話してはいけないわ」

「おい待て今のそんなにつまなかったか?」

「ええ、想像を絶するつまらなさよ。あなたのさっきの話をもう一度聞くらいなら、財津くんの小説を読んでいた方がまだマシね」

「材木座より下、だと……ッ!?」

すみません、なんか上手く書けなくなってきました。キャラ崩壊ってレベルじゃねぇぞ……。

とりあえず今回はここまでです。再開は本日の午後になります。

それでは失礼します。

すみません、書く気力が皆無なので本日の更新はありません。
俺ぼっちも同様です。
心に穴が空いたような虚無感。
再開は来週中にはなんとか…。
嘘予告してしまい申し訳ございませんでした。
本日はこれにて失礼します。

アニメ11話のでれのんと嫉妬のんを見たら気力が回復しました。

明日からバイトなので、今日の内に少しでも進めたいと思います。

しばらくお待ちください。


「……冗談よ。本当は材木座くんより滑稽だったわ」

「おい、それは解釈次第で褒められてるとも馬鹿にされてるとも取れるんだが……」

「あら、私は素直に褒めたつもりなのだけれど」

「…………さいですか」


カーテンの向こう側で比企谷くんが寝返りを打つ音と共に、ベッドがギシギシという小さな悲鳴をあげた。

長年使用されてきた備品だからだろうか、自室にあるベッドと比べると反発力や弾力性は格段に劣っている。

これは同じ態勢を継続すると背中を痛めるかもしれないわね……。


雪乃はどうする? 以下より多数決

①由比ヶ浜の対応について話し合う

②八幡にメールを送る

③授業に戻る

④八幡が横になっているベッドへ突撃

4票集まった選択肢で先に進みます。


「……ところで比企谷くん、あれから何か妙案は浮かんだのかしら?」

「あれからってお前……、まだ1時間も経ってねぇんだけど。つーかそんな簡単に思いついたら苦労しねぇよ」

「そう。……なら比企谷くん、今から私と対話をしながら考えをまとめてみるのはどうかしら?」

「会話をしながら?」

「対話をしながら、よ。……比企谷くん、耳が不自由なあなたには直ちに耳垢の掃除が必要かしら」

「ただ聞き間違えただけだっての。それに掃除はこの前やったばかりだから必要ねぇよ」

「……そんで何?対話をしながら?ってか対話って会話と同じ意味じゃねぇの?」


声だけにも関わらず、比企谷くんの表情は容易に想像がつく。

今はおそらく眉根を寄せて怪訝な顔をしているのでしょうね。

頭を悩ませる比企谷くんに、私は親切に言葉の意味を簡単に説明する。


「比企谷くん、『対話』の意味は双方向かい合って話をすること。『会話』の意味は互いに話したり聞いたりして共通の話を進めることよ」

「ほぼ同じじゃねぇかよ」

「ええ、そうね。けれどほぼであって完全に一致ではないわ」

「……つまり何が言いたいんだよ?」

「私はあなたと対話がしたいの。…………言い換えれば、あなたの顔を見ながら会話をしたいのよ」

「……、」

「だから、あなたが寝ているベッドに移動してもいいかしら?」

「…………す、好きにしろ」

「そう、ならお言葉に甘えさせてもらうわね」


私は身体を起こしてベッドから降り、空間を遮るカーテンの奥へ移動する。


垂れ下がる幕の先には、こちらに背中を向けて横になる比企谷くんがいた。

比企谷くんの枕のすぐ側にはブレザーが綺麗に折り畳まれて置いてある。


「……脱いだブレザー、随分と綺麗に畳んでいるのね」

「ああ、適当に置くと皺になるかもしれねぇからな」

「そう」


私の呟きに比企谷くんは背中を向けたまま言葉を返す。

意外と几帳面な一面を発見した私は、スカートの裾を押さえながら静かにベッドへ腰を下ろした。


「……、」


するとまたもやベッドは耳障りな音を鳴らして室内に反響する。

……これは誰がこのベッドに乗っても鳴る音なのかもしれないけれど、そこはかとなく不愉快な気分になるわね……。

硬い感触が伝わるベッドを撫でながら、私は比企谷くんの背中を見詰める。


雪乃はどうする? 以下より多数決

①「比企谷くん、顔をこちらに向けて頂戴」

②「比企谷くん、あなたの目は後頭部についているのかしら?」

③八幡の背中を指先でなぞる。

④八幡の耳に優しく息を吹き掛ける

5票集まった選択肢で先に進みます。

夜中に更新すれば翌朝には安価が集まると思っていた時期が私にもありました。

集まるのが早すぎじゃないですかねぇ……。

なにやら全部見たいという無茶振りがあるようですが、その要望に頑張って応えてみようと思います。

ただバイトがキツイので更新は明日になりますのでご了承ください。

明日はようやく初日からの六連勤終わってバイト休みじゃんひゃっはー!
…あれ、でも明日月曜日じゃね?

昨日は更新出来ずに申し訳ございませんでした。
みっともなく言い訳をさせてもらいますと、マックのランチタイムは想像を絶するほと過酷かつ地獄でして…体力が底を尽きました。
頼むからBLTやハバネロをビッグマックを一緒に頼まないでください超めんどくさいんですよマジでいやほんと何度バックれそうになったことやら…

更新は今日が無理なら明日にやります。

それと安価は再安価をしてもよろしいでしょうか?

……起きている方いますかね? 

とりあえず疲れすぎて眠くないので久々の更新をしたいと思います。


↓3 雪乃はどうする?

こいつは自由安価?

手握って耳にふー

>>391さん 

自由にしました。

今は思考力やら想像力やら妄想力が低下しているのでみなさんの鶴の一声をお願いします


↓3 雪乃はどうする?

やはりさっきの書き込みはなしで

安価は>>393でいきます


右手で後頭部を支えるような姿勢で横向きになっている比企谷の背中を見ていると、連想されるのはペットショップで丸くなる猫。

ケージの隅に置かれた毛布の上に身体を縮めて眠るその姿は非常に可憐で、時折小刻みに動く尻尾は私の心を揺さぶり、覗く肉球は形容し難い独特の感覚を想起させ、それでいて愛くるしくあどけない顔が薄目でこちらの存在に気が付……思考が盛大に脱線してしまっているわね。

雑念を振り払うように頭を振りながら、私は比企谷くんの背中へ再び声をかける。


「比企谷くん」

「なんだ」

「こちらを向いて頂戴」

「……嫌だ」

「なぜ?」

「……なんとなく」

「ならなんとなくこちらを向きなさい。このままでは対話が出来無いわ」

「断固拒否する」

「……、」


さっきは「好きにしろ」と私に告げたはずなのだけれど、これは一体どういう了見かしら。

……もしかして、今の私は比企谷くんに試されている?

……。

私は比企谷くんの背後へ接近し、口を耳元へと近付ける。

片手と両膝をベッドに置いて三点で体重を支えながら、残った片手で比企谷くんの左手を握り締める。

その繋がりが簡単に解けてしまわぬように指と指を絡み合わせ、蝋燭に灯る火を消すように優しく息を吹き掛けた。

細めた唇の隙間から漏れ出した気体が比企谷くんの耳の穴を通過して体内に侵入し、その直後彼の全身が震え上がる。


「っ!? い、いいいきなりな、なにしてんだお前ッ!?」


慌てて振り返る比企谷くんの顔は斜陽より赤く染まり、視線は猛烈な勢いで渦を巻いていた。


「あなたが『好きにしろ』と言ったから私は好きにしたまでよ」

「それでもいきなり人の耳元に息を吹き掛ける奴があるか!?」

「仕方がないじゃない。そうしなければあなたは私を見てくれないのだから」

「見たくても見れねぇ時とかあんだよ……っ。察しろよマジで!」


ダメだ、やっぱり眠いのでもう寝ます。

続きは今日の夜ですかね。

それでは失礼します。


「残念だけれどそれは無理なお願いね。いくら私が完璧な存在であったとしても、人の心を読むことなんてそう簡単に出来るものではないもの」

「いやまぁそりゃそうなんだろうけどよ……」

「それにあなたはついさっき部室で私に同じようなことをしたじゃない」

「……あ、あれはお前がやれって言うから」

「私は抱きつくことは許可したけれど、耳元での囁きを許可した覚えはないわ」

「ぐぬっ……」


私の指摘を受けてバツが悪そうに伏し目がちになる比企谷くん。

本当にあれはいきなり…………あ、あああ愛してると囁かれて……し、心臓が止まるかと思ったわ……っ。



↓4 雪乃はどうする?(八幡でも可)


部室での出来事を思い出して心臓が高鳴るのを感じながら、私は繋いだ手に力を込める。

絡み合う指は私の体温より低くひんやりとしている。

けれどそれとは対照的に比企谷くんの顔は朱色に染まっていた。

今の状況を誇張して表現するなら、比企谷くんの頬に指先を近づけただけで火傷を負いそうね。


「……、」

「……、」


お互いの間に沈黙が生まれ、視線が交錯する。

私は目を逸らすことなく比企谷くんの双眸を見つめ続ける。

比企谷くんの瞳の中に映るのは、頬を桜色に染めて微笑みを浮かべる私。

彼我の距離は至極短く、吐息が顔にかかりそうなほど。

次第に二人を隔てる隙間は狭まり、それに比例して瞳に映る私の姿も拡大されてゆく。

ベッドから上体を起こした比企谷くんは首をやや斜めに傾けながら距離を詰めてくる。

一文字で結ばれていた口唇が僅かに開き、純白の歯が姿を現す。

私はそれを受け入れるように彼とは逆方向に首を斜めに傾けて



「――っ」

「それはまだおあずけよ比企谷くん」



間に滑り込ませるように人差し指を立てて、彼の上唇を押さえつける。



「……だから、今はこれで我慢して頂戴」



キスを拒まれ不服そうな表情を浮かべる比企谷くんの右頬に狙いを定めて、私は両眼を閉じながら唇を押し付けた。


そのあとは気恥ずかしくてロクに顔を合わせられず、視線をちらちらと比企谷くんに向けながら思い浮かんだ案を伝えて私は保健室を後にした。


「(…………まだ、まだダメよ。今は落ち着きなさい鎮まりなさい心を落ち着かせるの。慌てる必要はないのだから冷静沈着に凛然たる態度を心がけなさい雪ノ下雪乃……っ)」


早鐘を打つ心音を必至に抑えつけながら、素早く前へ繰り出す両足で廊下を突き進む。

そして地学室に到着した頃には額にうっすらと汗が滲み、呼吸はかなり乱れていた。

私は本当に体力がなさすぎるわね……。

来月は体育祭も控えているし、やはりもう少し体力をつけるべきかしら……。



このあとはどうする?

①昼休みまで時間を進める

②八幡に視点変更

③由比ヶ浜に視点変更


4票集まった選択肢で先に進みます


それから午前中の授業を終え、四時限目に受けた授業の教科書とノートを片付けた私はお弁当を手に取り教室を後にする。


↓3 雪乃はどこへ行く? 以下より選択

①奉仕部の部室

②屋上


教室を出て向かう先は特別棟の四階に位置する奉仕部の部室。

階段を登り人気のない廊下を進んで部室前に到着する。

扉を開いて普段の定位置に腰掛け、私はお弁当を机の上に置いた。


「(……さて、どうしようかしら)」


雪乃はどうする? 以下より多数決

①素早く昼食を済ませてしまう

②誰かが部室にやってくる

③『千葉県横断お悩み相談メール』を確認する


4票集まった選択肢で先に進みます


比企谷くんは報告書を提出するために生徒会室に出向いているはずだから、まだ部室には来ないでしょうね。


「(……比企谷くんが部室を訪れるまで昼食は我慢するべきかしら?けれど比企谷くんが必ず部室に訪れるという確証はないのだから……)」


拳に顎を乗せて思案すると、唐突に部室の扉が開く。

そこには


誰がいた? 以下より多数決

①由比ヶ浜結衣

②川崎沙希

③平塚静


4票集まった選択肢で先に進みます


「……、」

「……平塚先生?」


そこには黒色のスーツに白衣を羽織った平塚先生が立っていた。

平塚先生は腕を組みながら奉仕部の部室全体を見渡して私の存在に気が付く。


「おお、雪ノ下。いたのか」

「はい。前にも説明しましたけれど、私は普段この部室で昼食を取っていますので」

「そうか。……ふむ、ところで雪ノ下、比企谷を見かけなかったかね?」

「比企谷くん、ですか? いえ、今朝顔を合わせた以降は目撃していませんが……それがなにか問題でも?」

「問題……ではないが、少々厄介事があってだな」


平塚先生は渋面を浮かべながら苦々しく口を開く。


「先日の文化祭でとある記録雑務が撮影したカメラの写真フォルダが猫一色に染まっていたんだよ。どうやら仕事をサボって人や校内の風景を撮らずに動物を撮り続けた馬鹿がいてだな、その点を言及しないといけないんだ」


「……、」


…………物凄く心当たりのある話なのだけれど。


「ん?どうかしたかね雪ノ下?」

「いえ、別に」



↓4 雪乃はどうする?

いえーい>>1生きてるー?

>>452さん いえーい、半分死んでるぜー(遠い目)

テストやらバイトやらで遅くなりました、申し訳ございません。

とりあえず明日から日曜までバイトなんで今日のうちに少しだけ更新しておきます。

今週は地元の祭りの影響でお客さんが多そうだなぁ……。

もう暫くの間お待ちください。


「ああ、そういえば雪ノ下」

「はい。なんでしょうか」

「文化祭の二日目に君と比企谷が共に見回りをしていたそうじゃないか。その時の比企谷の様子でなにか不審な点はなかったかね?」

「不審な点ですか?……そうですね、まず比企谷くんはカメラを抱えた状態で女子中学生に話しかけていましたね。そして話しかけられた少女の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいました」

「(……おそらく比企谷の妹のことを話しているのだろうが、この説明を聞く限りでは比企谷は盗撮犯か少女誘拐犯のどちらかだな)」

「ふむ、続けたまえ」

「そのあと少女は隙を見て逃げ出しました。よほど比企谷くんに対して戦々恐々としていたのか、瞬く間に階段を駆け登って行きましたね」

「それから呆然と取り残されている比企谷くんと、当時各クラスの見回りをしていた私は運悪く視線が交錯してしまい、仕方なく甚だ遺憾ながら彼の元へ近づいていきました」

「私は比企谷くんに先程の状況の説明を求めると彼は『仕事だ』と答えました。けれどどこをどう見ても彼が仕事をしているようには到底見えなかったので、私は文実の副委員長として彼を監視下に置いて共に校内の見回りを行いました」

「そして見回りの最中、私が申請書類と異なる内容のクラスを摘発した際に、私は彼と共に無理矢理暗闇へと押し込まれました。抵抗する暇もなく私達は」

「ま、待ちたまえ雪ノ下!……な、なんだその羨まし――げふんげふん、けしからん内容の展示は?」

「三年B組の展示で名称がたしか……『トロッコロッコ』。内容は『内部の装飾とジオラマをゆっくりと進むトロッコに乗りながら観賞する』でしたが、実際は二年E組と同系統のアトラクションに変更されていました。その点につきましては追加の申請書類が提出されているはずですが……」

「追加の申請書類?私は受理した記憶はないのだが……」


腕を組んで僅かに首を傾げる平塚先生。……おかしいわね、私は確実に代表者へ勧告したのだけれど……。


「……もしかすると、厚木先生か別の文実に提出したのかもしれんな。ふむ、このあと職員室に戻ったら確認しておこう」

「まあそんなことよりも雪ノ下、話の続きを聞かせたまえ。その…………く、暗闇で何があった?」

「……、」


雪乃はどうする? 以下より多数決

①ありのままを説明

②説明を飛ばして『ペットどころ うーニャン うーワン』の辺りを説明

③部室に来訪者(再安価で人物決定)

3票集まった選択肢で先に進みます



「暗闇で何があったかと訊ねられましても……そうですね、『何もなかった』と答えればよろしいでしょうか?」

「ただ暗闇の中で押し込まれた手製のトロッコは窮屈で彼との身体接触がありましたが、それはお互いの肩が触れ合う程度でしたから問題ありません」

「そ、そうか」


私の話を聞いてなぜか安堵の表情を浮かべて胸を撫で下ろす平塚先生。

今の説明のどの部分に安心出来る要素があったのかしら……。

平塚先生の反応が腑に落ちないけれど、ひとまず私は説明を続行する。


「変更された展示の視察を終えたあと、三年B組のクラス代表に追加の申請書類を提出するように勧告した私は校内の見回りを再開しました」

「それから私がカメラを携えた彼に逐次指示を出しながら記録を残させていると、私達は三年E組の教室の前に辿り着きました」

「三年E組は『ペットどころ うーニャン うーワン』という名称の展示を行なっており、各家庭のペットである猫、犬、ウサギにハムスターといった様々な動物と触れ合うことが可能という内容でした」

「動物を利用した展示はここだけでしたので、先程平塚先生が仰っていた写真はこの場所での記録だと思われます」

「私は比企谷くんに記録雑務としての仕事をするように指示を出し、慣れない行為で疲労が蓄積された彼は渋々といった体で写真を取り続けました」

「文化祭二日目は終始私の監視下に置かれていましたが、それでも比企谷くんは最低限の仕事は熟していました。なので特にこれといった不審な点は確認されておりません」

「最初の部分の女子中学生も小町さんのことですから、赤の他人ではなく身内の人間なら多少の蟠りが生じる程度なら大きな問題にはならないはずです」


「……ふむ、そうか。長々と説明ご苦労だったな雪ノ下」

「いえ、どういたしまして」



このあとはどうする? 以下より多数決

①由比ヶ浜が部室にやってくる

②八幡からメールが届く

③別の誰かに視点変更(選択された際に再安価で人物を決定)

4票集まった選択肢で先に進みます


「では私は午後の授業の準備があるので失礼させてもらう」


そう言い残した平塚先生は踵を返して部室を後にした。……扉を開けたままの状態で。


「(これでは落ち着かないわね。……まったく、平塚先生はもう少し大人の女性として所作や心得を身につけてもらいたいのだけれど)」


溜息混じりに椅子から立ち上がり、私は部室の出入り口へと向かう。

扉の窪みに指を掛け、横にスライドさせて密室を作る。

だが確実に閉じたはずの扉は間髪をいれずにすぐさま開かれた。


「やっはろー!」

「あら、由比ヶ浜さん。こんにちは」


扉を開けて現れたのは由比ヶ浜さんだった。

由比ヶ浜さんは右手に沢山のキーホルダーが付いた携帯電話、左手にピンク色の小包を手にしていた。


「あ、ゆきのんやっはろー。ねぇねぇゆきのん、ヒッキー見かけなかった?さっきから探してるんだけど全然みつかんなくて……」

「比企谷くん?いえ、見かけていないわ。平塚先生も彼を探していたようだけれど、もしかして行方不明なのかしら」

「行方不明……なのかな。ヒッキー1時限目に具合が悪くなったとか言って保健室に行ったっきり帰ってこないんだよね……」

「(比企谷くんが行方不明……? これは一体どういうことなのかしら)」


雪乃はどうする? 以下より多数決

①由比ヶ浜と一緒に八幡を捜索しに行く

②由比ヶ浜と一緒に昼食を摂りながら詳しい話を訊く

③部室に来訪者(再安価で人物決定)

4票集まった選択肢で先に進みます


「由比ヶ浜さん、その話をもう少し詳しく聞かせてもらえるかしら」

「え? うん、わかった。えっとね、ヒッキーがいなくなったのは」


――と、由比ヶ浜さんが説明を始めた直後のことだった。



ぐぅぅ……。


「はうっ!?」


由比ヶ浜さんは可愛らしく鳴り響いた腹の音を隠そうと慌てて腹部を両手で押さえつけるも時已に遅し。

羞恥のせいか由比ヶ浜さんの顔が熟れた林檎の様に真っ赤に染まる。


「……、どうやら説明の前に腹拵えが必要みたいね」

「……ご、ごめんゆきのん。ヒッキーのことはお昼食べながらでもいいかな?」

「別に構わないわ。私もまだ昼食は食べていないから一緒に食べましょう」

「あ、ゆきのんもまだお昼食べてなかったんだ。…………じゃあ丁度いいかも」

「? 由比ヶ浜さん、一体何が丁度いいのかしら?」

「それはあとのお楽しみ! じゃあゆきのん、一緒にお昼食べよっ!」

「ゆ、由比ヶ浜さん、自分で歩けるから押さないで頂戴……っ」


由比ヶ浜さんに背中を強引に押されながら私は自分の席へ戻る。

そして由比ヶ浜さんは普段座っている椅子に腰を下ろした。

私はそれを確認するとお弁当箱を机の上に展開する。

由比ヶ浜さんもピンク色の小包の中から同色のお弁当箱と、可愛らしくラッピングされた透明の小袋を3個取り出した。

……透けて見える中身に禍々しく黒々とした固形物が確認出来るのだけれど……。


雪乃はどうする? 以下より多数決

①小袋はスルーして八幡のことを訊く

②小袋に疑問を投げ掛ける

③部室に来訪者(再安価で人物決定)

4票集まった選択肢で先に進みます


……とりあえず、今はアレには触れないのが得策ね。対策はあとで練ることにしましょう。

私は邪気を放つ食材の成れの果てを気に掛けながら、両手を合わせて小さく会釈をしてから料理に箸を伸ばす。



それから私は由比ヶ浜さんと軽い雑談(一方的に由比ヶ浜さんが話してくる)を織り交ぜながら料理に舌鼓を打つ。



そして昼食を半分消化した所で、私は由比ヶ浜さんに本題を尋ねた。



「それで由比ヶ浜さん、比企谷くんのことなのだけれど」

「ほえ、ヒッキー?ファッションの話なのになんで今ヒッキーの話が…………って、そうだったすっかり忘れてたッ!?」

「由比ヶ浜さん……」

「あぅ……。……え、えっとヒッキー!そうヒッキーのことだよねっ!?」

「ええ、そうよ。由比ヶ浜さんが知り得る限りでいいから、行方不明になる前の比企谷くんの行動を私に教えて頂戴」


慌てふためく由比ヶ浜さんの動きが可笑しくてつい口角が緩むのを感じながら、私は耳を澄ませる。


「う、うん、わかった。えっと……ヒッキーがいなくなったのは1限目の授業が始まる前でね、朝のSHRの時にはいたんだけどいつの間にかいなくなってたの」

「でも1限目が終わった辺りに教室へ戻ってきたんだけど、なぜかその時のヒッキーの顔がすごく真っ赤でさ」

「――っ」

「なんかヒッキーは保健室に行ってたみたいでね?最初は体調が悪化して早退するんだって思ったら違うらしくて……って、どうかしたのゆきのん?」

「ッ!? い、いえ、なんでもないわ。続けて頂戴」


あの時を思い出したら顔がもの凄く熱くなってきたのだけれど、紅潮なんてしていないわよね……?


「そう?……なんか顔赤いけど大丈夫?」


……っ、紅潮してるじゃない……っ!


「……へ、平気よ由比ヶ浜さん。いいから続けて」

「ならいいけど……。えっと、どこまで話したっけ?うーんと……あ、そうだそうだ」


「で、ヒッキーは2限と3限は普通に授業受けてて、3限の授業が終わったあとにね――」



3限の授業が終わったあとにあったこととは? 以下より多数決

①八幡に電話がかかってきた

②川崎が八幡に話しかけた

③戸塚と一緒に教室から出て行った

4票集まった選択肢で先に進みます。


「ヒッキーに電話がかかってきたの」

「比企谷くんに……電話?」

「うん。相手は誰だかわかんないけど、ヒッキーがスマホを耳に当てて喋ってたから間違いなく電話だよ」

「……、その時の比企谷くんの様子はどうだったのかしら」

「うーん、いつも通りかなぁ。猫背で気怠そうに話してたよ。距離があって会話までは聞き取れなかったけどね」

「それで4限は体育だから体操服に着替えてから男女別々になって授業受たの。で、授業終わって制服に着替えて教室に戻ったときにヒッキーの姿はなくて行方不明……って感じ」

「……由比ヶ浜さんの話を元に推理すると、3限目が終わった直後にかかってきた電話の主に呼び出されたと考えるのが妥当かしら」

「でもヒッキーに電話をかけるなんておかしくない?そもそもヒッキーの電話番号知ってる人ってそんなにいないんじゃないの?」

「由比ヶ浜さん、あなたたまにさらっと酷いこと言うわよね……」


まあ由比ヶ浜さんの言う通り、比企谷くんへ電話をする人間は必然的に絞られてくるのよね。

比企谷くんへ電話をかける人物に心当たりがあるとすれば、比企谷くんのご両親や小町さん。他には奉仕部の関係者だけれど……。


…………イレギュラーな事態を引き起こすのは決まって――


イレギュラーを引き起こす人間は?

①比企谷小町

②雪ノ下陽乃

③材木座義輝

3票集まった選択肢で先に進みます


……姉さんなのよね。

それに姉さんは今朝の電話で私と比企谷くんの事情を知っている。

だからその事に関して比企谷くんが呼び出されていたとしてもなんら不思議ではない。


……まったく、どうしたものかしら。


雪乃はどうする? 以下より多数決

①陽乃に電話をかける

②由比ヶ浜と一緒に八幡を捜索しに行く

③部室に来訪者(再安価で人物決定)

3票集まった選択肢で先に進みます

最近は更新が短くてすみませんでした。

とりあえず明日のバイトの時間が店長から労働基準法に引っかかるからとかなんとか言われて遅くなったので更新再開します。


……それよりこの話の着地点が見えないんですけど、『俺達のラブコメはこれからだエンド』じゃダメですかね……?


……あまり気は進まないけれど、姉さんに電話をかけて比企谷くんの失踪を知っているか確認してみるべきね。

私はブレザーのポケットから携帯電話を取り出して姉さんに電話をかける。


そして三回目のコール音の直後、私の鼓膜を揺らしたのは


『はいはーい、こちら雪ノ下陽乃でーす♪なになにどうしたの雪乃ちゃん?悩み事?それともお姉ちゃんの声が恋しくなっちゃったのかなぁ?』


能天気で溌剌とした胸焼けしそうなほど甘く不愉快な声音だった。


「……、」


私は僅かな苛立ちを覚えながら眉間に手を当て小さく溜め息をつく。

……姉さんの戯言に付き合うだけ時間の無駄だから、話は勝手に進めるとしましょう。


「……姉さん、前置きを省いて単刀直入に訊くけれど、そっちに比企谷くんはいるかしら」

『え、比企谷くん?』



↓直下判定 陽乃の元に八幡はいた? 

コンマ以下が偶数ならいる コンマ以下が奇数ならいない


『比企谷くんならわたしの隣にいるけど?』

「…………へぇ、そう」


学校を抜け出して人様の姉と密会をするなんて……、比企谷くんが戻ってきたら手痛いお仕置きが必要ね。


「……、ちなみに姉さんたちは今どこにいるのかしら」

『逆に雪乃ちゃんはわたしたちがどこにいると思う?』

「質問を質問で返さないで頂戴。……、姉さんと比企谷くんが一緒にいるということは姐さんたちの現在地は学校の敷地外であることは推測出来るけれど、それ以外の情報が皆無なのだから正確な位置など分かるはずがないでしょう」

『あー、それもそっか。んー、じゃあヒントをあげよう♪高い場所だよ、景色を一望できる場所』

「姉さんのクイズに興じている暇などないのだけれど……」

『あと近くに給水タンクがあるね。梯子もあるよ♪』

「……姉さん、人の話はちゃんと聞きなさい」


こうしている間にも比企谷くんへお灸を据える時間が刻一刻と減少しているというのに……。


『まぁまぁ、たまにはこういうのもいいでしょ雪乃ちゃん』

「……、」

『あ、そうそう、この問題は頭を柔らかくして考えてね♪直情的な雪乃ちゃんには少し難問だから」


いちいち癇に障る発言をして腹立たしいわね、まったく……。


↓4 陽乃と八幡がいる場所は? (見事正解した場合は番外編をちょこっと挟みます)

屋上だな

>>526さん 

見事正解なのでこのあと少し番外編を挟みます

番外編に登場してほしいキャラがいれば反映するので気軽に書き込んでください(ただしメール欄にはsage記入でお願いします)


それで本編の続き……といきたい所なんですが、今日の更新はありません

続きはバイトが休みの月曜日になります

それでは


「……姉さん、あまり私を見くびらないで頂戴」

『おやおや、なんだか随分と強気だね雪乃ちゃん。もしかしなくてももう答えが分かっちゃったのかな?』

「ええ、暇も持て余した人間と戯れる為に時間を割くのは惜しいけれど、私が答えなければ話は進みそうにないと判断したからよ」

『そっか。じゃあ雪乃ちゃん、答えをどうぞ♪』

「……、姉さんと比企谷くんがいるのは総武高校の屋上。そもそもいくら比企谷くんが存在感が希薄で影の薄い人間だとしても、誰にも見つからずに学校の敷地外に出るのは容易ではないわ」

『ふむふむ』

「だとすれば姉さんが総武高校を訪れて、比企谷くんを人目のつかない場所に呼び出したと推測するのが無難ね。そして姉さんの与えたヒントで景色を俯瞰出来る場所は総武高校内では屋上に限られる」

『……うん、おめでとう雪乃ちゃん大正解ー♪見事正解した雪乃ちゃんには「比企谷くんになんでも命令出来る権利」をプレゼントするね♪』

「そう。なら比企谷くんへ『可及的速やかに部室へ来るように』と伝えてもらえるかしら」


比企谷くんへ訊きたいことは山程あるけれど、まずは私と由比ヶ浜さんを心配させた罪を償ってもらわないと。


『はーい、了解したよ――ってこらこら比企谷くん、抜き足差し足忍び足でどこに逃げるつもりなのかなぁ?』

『ぐえっ。……い、いや、俺もそろそろ制服に着替えたいかなぁ……なんて。ほ、ほら俺って文学少年だから制服じゃないとなんか落ち着かないっていうか』

『またまたそんなデタラメ口にして。比企谷くん、口は災いの元なんだから気をつけないとダメだよ?』

『ちょ、陽乃さん離してください。ジャージが伸びちゃうじゃないですか――って、あ』

『あ』

「……姉さん?」


何かが裂けるような音が聞こえたのだけれど……。


『……あー、えっとごめんね雪乃ちゃん。ちゃんと比企谷くんには部室に向かうように命令しておくからさ』

「待ちなさい姉さん、なぜ私に謝る必要があるのかを説明しなさい」

『大丈夫、気にしないで雪乃ちゃん。うん、平気だから、ホントにホント。ま、またね雪乃ちゃん』

「姉さん待ちなさい。いえ待って頂戴、何があったのか説明しなさ――」


姉さんに状況説明を求めるも通話は一方的に切られてしまい、耳元では通話終了を知らせる機械音が淡々と流れる。


「……ゆ、ゆきのんどうしたの?」

「……いえ、比企谷くんの行方は判明したのだけれど、また新たな問題が生まれたみたいなのよ」

「え、ヒッキー見つかったの?」

「ええ、どうやら比企谷くんは学校の屋上にいるそうよ」

「屋上?でもなんで屋上になんか……」

「私も詳しい理由は分からないけれど、とりあえず比企谷くんの所在は判明したわ」

「詳細は比企谷くん本人の口から語ってもらうとして……」



これからどうする? 以下より多数決

①部室で大人しく待つ

②二人で屋上へ向かう

③視点変更(再安価で人物決定)

4票集まった選択肢で先に進みます。


「屋上へ向かうわよ、由比ヶ浜さん」


昼休みは残り半分だから、今から急いで屋上へ向かえば比企谷くんへ折檻する時間は十分に確保出来る。

……食後にあまり激しい運動はしたくはないのだけれど、少しでも長くお灸を据えるには走らないとダメよね。

覚悟を決めて椅子から立ち上がった私は迷いのない足取りで部室を後にする。


「ちょ、ちょっと待ってゆきのんあたしまだデザートの桃食べてないんだけど!?」


だが部室から足を踏み出した直後、背後から由比ヶ浜さんの切迫した叫び声が私の鼓膜を揺らす。

まったくもう、由比ヶ浜さんは……っ。


「……由比ヶ浜さん、30秒だけ待つからその間に食べて頂戴」

「時間少な過ぎないッ!? ……うぅ、もっと味わって食べたかったのに……」


そう泣き言を言いつつ一口サイズの桃をリスのように口内へ詰め込んだ由比ヶ浜さんと共に、私は息急き切りながら屋上へと向かった。

廊下を突き進み、階段を上り、いつの間にか先を行く由比ヶ浜さんに励まされながら屋上前の踊り場に到着。

乱れた呼吸をなんとか整え、屋上へと続く錆びついた扉を開くと――



そこにいたのは? 以下より多数決


①比企谷八幡

②比企谷八幡と雪ノ下陽乃

③比企谷八幡と雪ノ下陽乃と川崎沙希


4票集まった選択肢で先に進みます


ひっそりと比企谷八幡の生誕は祝われる


【キャンプ場】


鶴見「ね、八幡って何歳?」

八幡「あん?なんだよいきなり」

鶴見「なんでもいいでしょ。いいから、何歳なの?」

八幡「……16だよ」

鶴見「……ウソついてない?」

八幡「嘘じゃねぇよ。だいたい年齢誤魔化す意味がねぇだろ」

鶴見「それもそっか」

鶴見「(大学生じゃないんだ……)」

鶴見「……じゃあ、八幡は高校一年生?」

八幡「いや、二年だ」

鶴見「じゃあ遅いの?」

八幡「…………何が?」

鶴見「何がって、この流れだと八幡の誕生日のことしかないじゃん」

八幡「ああ、そういう意味な」

八幡「(……なんでイマドキの子供は主語を抜いて話すんだよ。あと『ヤバイ』とか『マジ~』とかで会話が通じるとかなんなのお前ら、もう暗号解読班にでもなってろよ)」

鶴見「で、いつなの?」

八幡「8月8日だ」

鶴見「ふぅん、そうなんだ…………って、明日じゃん」

八幡「は?…………あ、そういやそうだな」

八幡「(まぁ誕生日でもなにか特別なことが起こるわけじゃねぇけどな。てか年齢が増えたから『おめでとう』とかアホじゃねぇの?それを平塚先生に言ってみろよ、俺が血の海に沈むから)」

鶴見「……なら1日早いけど、誕生日おめでとう」

八幡「ッ!? お、おう、さんきゅ」

八幡「(……まさか小町以外に俺の誕生を祝ってくれる人間がいるとは――やっぱり小学生は最高だぜ!)」

鶴見「(……私も早く、大人に近づきたいなぁ)」





八幡さんの誕生日を素で忘れてましたごめんなさい

とりあえずようやくバイト地獄から解放されたので番外編を消化しました

本編の更新はもうしばらくお待ちください



「ちょっと陽乃さんどうすんですかコレ。俺このままだと歴戦の武道家みたいな格好で校内を歩かないといけなくなるんですけど?」

「だからさっきからごめんって言ってるじゃない。わたしもまさか破けるなんて思わなかった――って、あれ?雪乃ちゃん?」

「ッ!?」


そこには上半身を露わにした比企谷くんと、破れた布を掴んでこちらに手を振る姉さんの姿があった。


……電話越しから聞こえた音とこの現場から何があったかはある程度推測出来るけれど、とりあえず姉さんが邪魔ね。

私は小さく咳払いをして、障害の排除に取り掛かる。


「……比企谷くん、あなたにお話したいことがあります。少しお時間を頂いても宜しいですか?」

「なんで丁寧語なんだよ……。ってか待ってくれ雪乃、これにはマリアナ海溝より深い理由があってだな」


そう比企谷くんが説明をしようとすると、私の背後から由比ヶ浜さんが屋上へ姿を現した。


「あーもうヒッキーなんで屋上なんかに――って、な、ななななんでヒッキー裸なんだしッ!?」


上半身裸の比企谷くんを視界に捉えた由比ヶ浜さんは、顔を熟れた林檎のように紅く染めて激しく狼狽する。

初対面時は遊び慣れていると思っていたけれど、意外と由比ヶ浜さんって純情なのよね。

……人を見かけで判断してはいけないのはあながち間違いではないのかもしれないわね。


「あれま、ガハマちゃんも一緒?……ほほう、これは修羅場の予感……?」

「おいなんでお前までいるんだよ……。あと裸とか大声で叫ぶな、まだこれ上裸だから、全裸じゃねぇから。裸って言葉単体だと大抵の人間は全裸を連想しちゃうでしょうが、俺は露出狂じゃねぇからな」

「話長いし意味わかんないけどヒッキーが裸なのは変わんないからとりあえずなんか羽織ってッ!マジキモいから!!」

「キモいってお前……。つーかなんか羽織れって言われてもな……」

「……、」


↓4 上裸の八幡に対して雪乃どうする?

①自分のブレザーを貸す

②保健室に予備の体操服を取りに行く

③屋上に来訪者(再安価で人物指定)


「……比企谷くん、私のブレザーでよければ貸してあげるわ」

「ん? ……あー、そりゃ有難いけど今の俺、体育の後だからブレザーに汗の匂いが移っちまうぞ?」

「別に構わないわ。あなたの貧弱極まりない脆弱な上半身が私の視界から消える代価がそれなら安いものだもの」

「ひでぇ言われようだなオイ……」

「でも実際ヒッキーの腕ってひょろひょろだよね。隼人くんとかとべっちはもっとガッシリしてるよ?」

「おいこらそこ、俺はこれでも体力テストの握力では平均以上出してんだぞ。てかサッカー部と奉仕部で比較すんのがそもそも間違いだろうが」

「つべこべ言わずにいいから早く羽織りなさい」

「ぐぬっ」

「……あなたが風邪を引いたら困るのよ」

「――っ」


頬を僅かに赤らめた比企谷くんを他所に、私は前のボタンを外してブレザーを脱いだ。

そしてブレザーのポケットから携帯電話を取り出し、ブレザーを簡単に折り畳んで彼へ差し出した。

初めは渋面を浮かべていた比企谷くんだったが、私が真摯に彼の両眼を見据えると比企谷くんは軽い溜め息と共にブレザーを手に取りそれを羽織った。


「……悪いな」

「気にしないで頂戴。だってこれは由比ヶ浜さんと小町さんの為だもの」

「…………は?由比ヶ浜はまだ分かるが、なんで小町がここで出て来るんだよ」

「あら、あなたが自宅で風邪を引いたら困るのは一体誰なのかしら?」

「……? ……――っ、あー、そういうことかクソ……っ!」

「……ふふっ、あなたもまだまだね」


見事に引っ掛かった比企谷くんが可笑しくて、私は彼の顔を微笑を浮かべながら見た。

比企谷くんは気恥ずかしさを紛らわす為か自身の髪を乱雑に掻き始める。



「いやー、青春してるねぇ雪乃ちゃん。いいなー、わたしもそんな青春送ってみたかったなぁ」


そんな彼の隣で、姉さんはいつものあの完璧過ぎる笑顔で私達を見ていた。


「……姉さん、まだいたの?」

「うん。だってさっきの電話で雪乃ちゃんに『待ちなさい』って言われたからね♪」

「あれはそういう意味で言ったのではないのだけれど……」

「雪乃ちゃんがそういう意味で言ったつもりはなくても、わたしはそう解釈しちゃったの」

「言葉は自分本人が正しく使えたと思っていても、相手が間違った解釈をすればその言葉の意味は反転したりするんだよ?」

「だからね、わたしが思うに自分の意志を相手へ正確に伝えるのは、言葉じゃなくて行動だと思うの」

「……? 姉さん、あなたはさっきから一体何を言ってい」


「――――こういう風に、ね♪」



陽乃の次の行動は? 以下より多数決

①八幡の腕に抱きつく

②八幡を胸元で抱きしめる

③八幡の頬へキス


4票集まった選択肢で先に進みます

なんやかんやあって遅くなりました。
本編を再開します……が、個人的理由により視点を雪乃から八幡に変更します、ご了承下さい。



陽乃さんはウインク混じりにそう言って柔らかな唇を俺の頬へと押し付けた……ってファッ!?


「い、いきなり何するんですか陽乃さんッ!?」


俺は慌てて陽乃さんから距離を取り、素早く手の甲で頬を何度も拭う。

おいおいなんなんだいきなりキスするとか不意打ちにも程があるだろそのせいで声が裏返っちゃったじゃねぇかバカ野郎この野郎。

突拍子も無い出来事に動揺し耳まで熱を帯びているのを自覚しながら、俺は陽乃さんへ抗議の視線を向ける。


「ん?何するんだってキスだけど?……あ、ち・な・み・に、今のはわたしのファースト・キッスだよん♪」


しかし陽乃さんはそれを微塵も意に介さず、『きゃぴきゃぴ』という効果音が似合いそうな感じで受け流す。わぁ、殴りてぇこの笑顔。


だが実際の所、陽乃さんの美貌はそこらの女子が霞んで見えなくなるくらいに優れているので、美女にキスされるのが嬉しくないと言えば嘘になるのだが、今の俺にはそんなことを気にしている余裕はなかった。


「…………姉さん、今のはどういうつもりなのかしら」


……今は目の前にいる瞳のハイライトが消失した少女をどうにかするのが先決だ。

もうね、雪乃が陽乃さんへ放つ威圧感で肝が冷えるどころか凍結する勢いで体感温度が劇的に下がる下がる。

おかしいな、ここ屋外だよな?なんでこんなに寒々しいの?俺がちゃんと服来てないから?やっぱり雪乃のブレザーだけじゃきついかー(すっとぼけ)

早速現実逃避を始めた思考の隅で拾う姉妹の会話はこんな具合だ。



「どういうつもりもなにも、好きな子にキスするのに理由が必要?」

「……。姉さんは比企谷くんのことが好きなの?」

「うん、好きだよ、大好き。今まで接してきた男の子の中で一番好きかな♪」

「……だからキスをしたの?突然、何の前触れもなく、比企谷くんの同意も得ずに」

「そ、だって不意打ちじゃないと比企谷くん絶対に逃げるんだもん。それにわたしは好きな人を手にするのに手段は選ばないから♪」

「手段は選ぶべきだと思うのだけれど」

「甘い、甘いよ雪乃ちゃん。そんな手段を選ぶために後手に回ってたら絶対に取り返しがつかなくなるよ?」

「恋は先手必勝なの。後手必殺じゃない、先に手を出した方の勝ち。後出しなんて無意味だよ、特に比企谷くんの場合はね」

「……、」

「それに比企谷くんはこう見えて周りからの評価が高いのは知ってるよね? 雪乃ちゃんはもちろん静ちゃんもお気に入りだし、そこで放心してるガハマちゃんも比企谷くんのことが好きなんでしょ?」

「こんな混戦状態から抜け出すには『言葉』だけではとてもじゃないけど無理。『ペンは剣よりも強し』とリットンは書き残したけど、剣とペンが物理的にぶつかれば剣の圧勝だよね」

「……要領を得ないわね。一体姉さんは何が言いたいのかしら」


「んー、そうだね。至極簡単に言っちゃえば――比企谷くんを自分のモノにしたいなら、比企谷くんと既成事実を作ればいいってこと、かな♪」

すいません、やっぱり>>601はなかったことにしてください。
久しぶりに書いたのでキャラがブレて全然ダメなので一からやり直します。



それはなんの前触れもなく、唐突で突然だった。


「…………姉……さん……?」

「ん? どうしたの雪乃ちゃん?」

「……今、比企谷くんへ何をしたの?」

「何って、キスだけど? もしくは接吻? あー、あと口吸いとか口付け?」

「ごめんなさい、質問の仕方が悪かったわ。…………どうして比企谷くんへキスをしたの?」

「比企谷くんが好きだから」

「…………冗談でしょう?」

「それが冗談なんかじゃないんだよねぇ。わたしは一人の女として、比企谷くんのことが好きだよ」

「……だから、比企谷くんにキスをしたと」

「うん。比企谷くんはどんな言葉でもいつも巧みに切り返してくるからね。仮に私が『大好きだよ比企谷くん』とか言っても『それは大学のサークルでの罰ゲームかなんかですか?』とか言って本気にしなさそうだし。だから――」


姉さんはそこで言葉を区切ると、これみよがしに放心状態の比企谷くんの腕に抱き着いてこう言い放つ。


「捻くれ者には言葉で愛情表現するより、行動で示すのが有効なの。それにスキンシップは互いの親密度を高める手っ取り早い手段だし、これなら出遅れたわたしでも十分巻き返せるし♪」


「……それは、宣戦布告と受け取っていいのかしら」

「そうだね。雪乃ちゃんとガハマちゃんと静ちゃん……と、小町ちゃんもかな? あらら、こう改めてみると意外と比企谷くんはモテモテだね~」


姉さんは人差し指で比企谷くんの頬を突付くも一切反応がない。

そういえばさっきから由比ヶ浜さんが静かだけれど…………ああ、比企谷くんと同じ状態になっているわね。


「これで比企谷くんが真性の屑ならハーレムとか築いちゃうんだろうけど……、まあぼっちが複数の人間と付き合ってもうまくいくわけないか」

就職試験やらなんやらで更新停滞していました、すみません
今後も不定期ですが、完結目指して更新していこうと思います。よろしくお願いします



底冷えしそうな冷徹な瞳でそうつぶやいた姉さんは、比企谷くんから離れて軽く伸びをした。


「ん~。……さてと、とりあえずわたしの目的は果たしたからそろそろお暇しようかなぁ」


小さく欠伸を噛み殺しながら軽快な足取りで校舎内へと戻ろうとする姉さん。……私がそう簡単に逃がすと思っているの?


「あら、いくら姉さんといえどもうちの部員に手を出してタダで帰れると思っているのかしら」

「ん? 別に比企谷くんに手を出してもいいじゃない雪乃ちゃん。だって比企谷くんは誰のモノでもないでしょ?」

「誰のモノでもないけれど、彼は奉仕部の部員よ。部下に近づく危険は上司が責任を持って処理しなければいけないの」

「普通世間一般の上司は危険が迫ったら部下に責任を押し付けて保身に走るものだと思うけど?」

「お生憎様、私は普通や世間一般とやらからはかけ離れた存在なのよ。そもそも上に立つ人間が責務を全うしなければ、下の人間に示しがつかないじゃない」

「じゃあ何? 雪乃ちゃんの責務とやらは比企谷くんをあらゆる外敵から守ることなの?」

「ええ、そういうことになるわね。……それと、保護対象は比企谷くんだけではないわ、由比ヶ浜さんもよ」

「ふぅん……、そう。それは随分と――いや、この話は言わなくていいかな」

「……なにかしら姉さん。言いたいことがあるならはっきり言って頂戴」

「ううん、なんでもないよ」

「……、」

「もう、そんなに睨まないでよ雪乃ちゃん。ほらほら、コレあげるから機嫌直して? ね?」


不愉快なウインクを飛ばして姉さんが私に差し出したのは――



陽乃が差し出したのは? 以下より多数決

①東京ディスティニーランドのペアチケット

②恋愛映画のペアチケット

③先日なくした猫型のネックレス


先に4票集まった選択肢で先に進みます


不愉快なウインクを飛ばして姉さんが私に差し出したのは、東京ディスティニーランドのペアチケットだった。


「それに雪乃ちゃんはわたしをタダじゃ帰してくれないんだよね? ならこれはご機嫌取りと同時に通行料ってことで♪」


姉さんは私の手にチケットを置くと、鼻歌交じりに屋上を後にしようとする。


「ちょ、ちょっと待って頂戴姉さん。私は年間パスポートを持っているからこれは必要な――」


私は慌てて徐々に遠ざかる背中に手を伸ばすも、姉さんはそれを華麗に躱し、


「それじゃあ雪乃ちゃん、ばいばーい♪」


無邪気な笑顔を浮かべて校舎内へ戻って行った。


「……、」


そうして屋上には、私と放心状態の比企谷くんと由比ヶ浜さんが残された。

本当にあの姉は自由奔放というか傍若無人というか…………はぁ。

胸の内で深い溜息をついて姉さんに渡された二枚の紙に視線を落とす。

近いうちに東京ディスティニーランドには行きたいとは思っていたけれどこれは……。


「…………まったく、一体どうしたものかしらね」



嘆くように呟いた言葉は、一陣の風に吹かれて消えた。


久々に書いたからやはりどこかおかしい気が……。

ひとまず陽乃さんは戦略的撤退、このあと二人を引っ掻き回す……のか?


とりあえず話に一区切りが付いたんですが、視点はどうしましょうか。

今後の展開としてはそろそろ過去スレの安価(ディスティニーランド)を消化しようと考えているのですが……。


視点はどうする? 以下より多数決

①比企谷八幡

②雪ノ下雪乃

③由比ヶ浜結衣

④比企谷小町

4票集まったキャラに視点が移ります


【自宅】


「ふんふふ~ん♪ きょうの~ごはんは~オムライス~……いぇい♪」


小町は現在自宅のキッチンで夕飯の準備に取り掛かっているのであります!

お父さんとお母さんは今日も残業らしいけど、お兄ちゃんはそろそろ帰ってくる時間なんだよねー。

今日は確かチバテレビで犬夜叉やるんだっけ? 18時半からだけど間に合うのかなぁ。


『……たでーまー……』


とか考えてたら玄関からいつにも増してどんよりどよどよしたお兄ちゃんの声がするね。

なにか学校で嫌なことでも……って、それはいつものことか。

まぁなんでもいいや、とりあえず甲斐甲斐しくお出迎えしなきゃ! 小町は出来るオンナだからね!

握っていた包丁を置いて玄関へ猛ダッシュ!



……かーらーのー



「お兄ちゃんおかえりー!」

「……おー、小町ただ――ぐはっ!?」


抱き着きですよ抱き着き!

ふふふ……、これが妹の特権ってヤツですよ。雪乃さんや結衣さんには到底出来ないことだよね♪

お兄ちゃんの胸板辺りに頭をぐりぐり押し付けて――って、……ん? ……なんかお兄ちゃんから香水の匂いがする……?


「……き、帰宅するなりいきなりなんだよ小町、いてぇじゃねぇか」

「うん、だって結構本気でタックルしたもん」

「……あのな、もし俺が受け止めてなかったらどうするつもりだったんだお前は」

「お兄ちゃんはそんなことをする子じゃないって小町は信じてます! なんなら小町、命を懸けてもいいよ!」

「アホ、命を粗末にするんじゃありません」

「あいたっ」


……うぅ、お兄ちゃんに頭を叩かれた。 

でも優しくチョップされたからそこに愛を感じるよね! 小町もお兄ちゃんが大好き! あ、今の小町的にポイント高い!



香水の匂いがする八幡、小町はどうする? 以下より多数決


①とりあえずご飯にする

②誰かにメールをして八幡の学校での出来事を把握

③「お兄ちゃん、なんか香水臭いよ?」と直球勝負


4票集まった選択肢で先に進みます

そういやもう一つのスレの方はあと一週間程で落ちちゃうんじゃないか?


「いいか小町、お前は俺が死ぬまで絶対に何があっても死ぬんじゃねぇぞ。兄不幸は絶対に許さないからな」

「はいはい、大丈夫だよ。少なくとも小町はお兄ちゃんがお婿さんに行くまでずっとそばにいるからね」

「ほう……、つまりそれは俺がずっと家にいれば小町は嫁にいかないってことか? ……よし、もう俺ずっと家にいる、親の脛かじりで還暦迎えるからな」

「まーた目を腐らせながらそんなこと言ってー……。……まぁいいや、とりあえずお兄ちゃん、なんか香水臭いよ?」

「ッ!?」

「それにこの香水、つい最近嗅いだ匂いなんだよねー。どこで嗅いだんだっけかなぁー……」

「(……いかん、小町に今日の件がバレると色々と面倒な目に……っ!)」


↓1 嗅ぎ覚えのある香水、小町はこれを―― (コンマ判定) 
 
奇数 思い出す


偶数 思い出せない

今回はここまでで、続きは明日以降です。

>>641さん めちゃくちゃ短いですか、そっちもちょびっとだけ更新します。

では失礼します



「えーっと…………、」

「(思い出すな思い出すな思い出すな思い出すn)

「――あ! そうだ思い出したよお兄ちゃん! これ陽乃さんの使ってた香水でしょ!?」

「(どうして勉強の暗記物の成績は芳しくないのに、こういったどうでもいいことを覚えているんですかねぇウチの妹は……)」


そうだそうだ、この前の文化祭の打ち上げの時に嗅いだ匂いだよこれ! 

あの時陽乃さんに抱きしめられた感触は……ぐへへ……ってダメダメ、今はお兄ちゃんになんでお兄ちゃんの服から陽乃さんの香水の匂いがするのか問い詰めないと。


「お兄ちゃん、なんでお兄ちゃんの制服から陽乃さんの使ってる香水の匂いがするの?」

「それは……その、か、帰りに陽乃さんに偶然遭遇してだな! ほら小町もよく知る通り陽乃さんは抱き着きグセがあるだろ? それで陽乃さんに抱き着かれた時に服に匂いが移っちまったんだよ」

「ほほう……。ごみいちゃん、そんな見え透いた嘘で小町を騙せると本気で思ってるのかな?」


甘い、甘いよお兄ちゃん。そーすいーとだよ! そんな嘘に引っかかるのは結衣さんくらいだよ!


「な、なんのことか俺にはさっぱりわからねぇな」

「はぁ……。あのねお兄ちゃん、小町も伊達でお兄ちゃんの妹やってるわけじゃないんだよ?」

「俺的にはお前が義妹でも別に構わねぇ。実妹でも義妹でも、俺がお前を好きな事に変わりはない」

「ああうん今そういうのいいから。そうやって適当言って誤魔化そうとしても無駄だからね?」

「チッ……」

「うわー、堂々と舌打ちできるとか流石お兄ちゃん最低だなー」

「よせよせ褒めんな」

「お に い ちゃ ん ?」

「ゴ、ゴメンナサイ……」

「まったくもう……。……で、本当は何があったの?」

「……、」


小町の問い詰めにだんまりを決め込むお兄ちゃん。 よっぽど深刻なことがあったのかなぁ?

でもお兄ちゃんが話してくれないことには話は進まないし……あ、そうだ!


小町はどうする? 以下より多数決

①雪乃さんに連絡を取る

②結衣さんに連絡を取る

③陽乃さんに連絡を取る

④平塚先生に連絡を取る

あ、4票集まった選択肢で先に進みます


「もうっ、お兄ちゃんが話してくれないなら小町にだって考えがあるからねっ!」

「……、」


ビシっと小町が指を指して宣言するも、お兄ちゃんは変わらず無言のまま……とほほ。

むぅ……そんなに話をしたくないなら、小町はお兄ちゃんの周りの人から事情聴取しちゃうもんね!

うーん、とりあえず雪乃さんに聞いてみようかな。

ケータイ取り出しポパピプペ~っと♪ 


FROM  雪乃さん
TITLE nontitle

雪乃さんこんばんは(^^♪
少しウチの愚兄の件でお伺いしたいことがあるんですけど
いまお時間大丈夫ですか( ・ω・)?



――うん、こんなところかな?


「お兄ちゃん、いま小町は雪乃さんにメールを送りました。この行為がどういう意味かわからないお兄ちゃんじゃないよね?」

「……、」

「さぁさぁお兄ちゃん、もう大人しく白状した方がスッキリすると思うよ? 遅かれ早かれ小町にはバレることに――って、ちょっとお兄ちゃん!?」

「……、」


まさかのスルーでシカトっ!? なんかいつの間にか靴脱いでリビングに向かってるし!


「うわーん待ってよお兄ちゃーんっ! せめて何か反応示してよーっ!?」


お兄ちゃんが脱ぎ散らかした靴をキレイに並べて小町もリビングに戻りました! やっぱり小町は出来るオンナだね♪




それから小町は夕食の準備に戻って、お兄ちゃんは一度部屋で部屋着に着替えてソファに寝そべりながら犬夜叉を見始めました。

ソファの肘掛けに頭を載せてテレビを見てる姿はお父さんそっくり。

最近お父さんの生え際が後退し始めてるから将来のお兄ちゃんの頭皮が若干心配だなぁ……。


「お兄ちゃん、ごはん出来たよー」

「……おう」


小町の呼びかけにダルそうに返事をしながらお兄ちゃんは席に着いた。

小町はちゃちゃっとオムライスを皿に乗っけてテーブルに並べて椅子に着席。もちろん席はお兄ちゃんの正面だよ正面っ!

お兄ちゃんはテレビの方に顔を向けながら、軽く手を合わせて「いただきます」と言って小町の愛情たっぷりのオムライスをパクリと一口。


「……、」


……あ、お兄ちゃんの右眉がほんのちょっと上がった。今日のお味もなかなか好評みたいで小町は一安心だよ♪

小町も「いただきます」をしてオムライスを口に含む。……うんうん、我ながら良い出来だね惚れ惚れしちゃうっ!


オムライスを掬っては食べ掬っては食べを繰り返していると、不意にお兄ちゃんが立ち上がった。


「……、小町」

「ほぇ? なになにどしたのお兄ちゃん?」


いつになく真剣な表情のお兄ちゃん。もしかしてようやく話す気になったのかな?


「……あー、その、実は……だな、今日」


↓1 コンマ判定 八幡の告げる事とは?

1~3 「…………ゆ、雪乃に告白した」

4~6 「…………は、陽乃さんに……キ、……キスされた」

7~9 小町の携帯の着信音が鳴り響く

0もしくはゾロ目 比企谷家に来訪者


「……あー、その、実は……だな、今日」


<アザレアヲ-サカセテ-


「あ、ごめんお兄ちゃん小町のケータイ鳴ってるからちょっとストップ」

「……、」

「えっとこの番号は……」


↓4 誰からの着信?


「およ? 雪乃さんだ」


雪乃さんがメールじゃなくて電話で折り返すなんて珍しいなぁ。

……ごみいちゃん、学校で本当になにやらかしたんだろ?

まぁとりあえず電話に出ないと。


「もしもーし、こちら小町でーす♪」

『こんばんは小町さん、雪ノ下よ』

「こんばんは雪乃さん! それであのー、この電話ってアレですか? ウチの愚兄の件についてですか?」

『ええ、そうよ。今日の彼の行動を文で説明するよりは、直接話した方が時間もかからないと思って』

『小町さんは受験生なのだから、限られた時間を無駄には出来ないものね』

「いえいえそんな、お気遣いなさらず! 小町の今日のノルマはもう終わっているので、時間については気にする必要なんてないですよ!」

『……、……それは本当かしら?』

「はい、もちろんです♪」

『……そう。ならお構いなく話させてもらうわね』


『……まず、今朝の6時30分頃に比企谷くんから『始業前に話したいことがある。登校したら奉仕部の部室まで来てくれ』という呼び出しのメールを受け取ったの』


ふむふむ? なるほど、だからお兄ちゃん今朝は早く出かけたのかー。

……って、雪乃さんを呼び出した?

他人と待ち合わせすらロクに出来ないどころか、待ち合わせする相手すらいないお兄ちゃんが人を呼び出した? なにそれ不吉っ!?

お兄ちゃんの慣れない行動に戦慄を覚える小町をよそに、ケータイのスピーカーからは雪乃さんの澄んだ声が続く。


『私は呼び出された通りに部室へ向かうと比企谷くんは既に中で待っていて……』


おおっ、あの時間にルーズでずぼらなごみいちゃんがちゃんと待ち合わせを守るなんて成長したなぁ。

小町思わず目頭が熱くなってきちゃっ



『そこで彼から…………その、……こ、こく……告白……を、されたわ』




「――へ? ……あのー、すみません雪乃さん。今のもう一度言ってもらえませんか? ウチの兄が……なんですか?」

『……っ、……私が比企谷くんから……告白、された。と言ったのよ』

「…………ま、マジですか?」

『……ええ、本当よ』

「」


……な、なななななんですとぉぉぉっ!? 

あのヘタレでっ! どうしようもないクズでっ! 空気を読んでるのにあえてぶち壊すKYでっ! 清々しいくらいにクズでってこれ二回目だ――じゃなくてっ!! 

もう小町が一生養わないといけないかなーとか思ってたお兄ちゃんが雪乃さんへ告白っ!? 

……うん、お兄ちゃんならいつかやるとは思っていたよ。

でもあまりにも急すぎる! いや、遅すぎる気もするけど……。



「いやでもやっぱり急すぎる! なんで小町に黙って1人で突っ走っちゃうかなもうっ!」

『ッ!?』

「……小町、声デケェよ」

「はっ!? ……あ、す、すすすみません雪乃さんっ! 小町あまりの衝撃に取り乱しちゃいました!」

『……、』

「……あれ? ……雪乃さーん?」

『……小町さん、今そこに比企谷くんがいるのかしら?』

「え? あ、はいそうですね。いますけど……」

『そう。……な、なら――』

「あ、みなまで言わないで大丈夫です雪乃さん! 小町は気の利く女ですから、いま兄に携帯を」

「小町ー、俺メシ食い終わったからちょっと風呂入ってくるわー。話はまた後でなー」

「んー? なんか言ったお兄ちゃ――ってどこいくつもりなの!?」


リビングから出ていこうとするお兄ちゃんの首根っこを小町は慌てて掴まえる。

まったく油断も隙もないんだから……、逃げようったってそうは小町が許さないよ!


「……風呂っつっただろ。人の話はちゃんと聞いとけアホシスター」

「小町はそういう意味で言ったんじゃないよ! 彼女さんから電話がかかってきて逃げる彼氏がどこにいるの!?」

「……あのな小町、お前はアホだから仕方がない事かもしれんが、とりあえず人の話は最後までちゃんと聞いとけアホ」

「そ、そんな何回もアホアホ言わなくてもいいじゃん……」

「アホな子には何度アホって言っても構わねぇんだよ。アホだからな」

「理由になってない!」

「うるせぇ、細かいこと気にすんな。……てか、まず俺と雪乃は恋人とかでもなんでもねぇから」

「…………は?」

「おい真顔やめろ、怖えから。あと怖え」

「いやいやいや、だってお兄ちゃんが告白して雪乃さんが断る理由なんてな――……いや、むしろ……ありすぎる……?」


お兄ちゃんは目が腐ってるし、発言の大半がネガティブだし、猫背だし、ファッションセンスないし、休日は自宅でゴロゴロしてるし、脱いだ靴下で遊んじゃうような残念な発想してるし、これは――


「どうしようお兄ちゃん! お兄ちゃんの魅力は限りなくゼロで告白の成功確率はほぼゼロだよ!?」

「ほぼゼロってことはゼロじゃねぇだろ。近似値ならまだなんとかなんじゃね?」

「なんか対応が雑というかもはや人事!? お兄ちゃん本当に雪乃さんに告白したの!? 雪乃さんの妄想とかじゃなくて!?」

「おい小町、最後のは暴言だろ」

「マイクの部分は手で押さえてたから雪乃さんには聞こえてないから大丈夫!」

「俺の妹はいつからこんなに腹黒くなったんだ……っ」

今日は小町の誕生日

酉思い出したので再投稿
票数はリセットで



「小町は腹黒くなんかないよ! ほらちゃんと見てよお兄ちゃん! 小町のお腹は真っ白でしょ!?」

「後ろから首根っこ抑えられてんのにどうやってお前の腹を見ろっつーんだよ」

「小町が今着てる服は白っ! だからお腹は真っ白っ!」

「あーそうだな、ついでにお前は頭の中も真っ白だな」


とかなんとか言いながら小町が掴む手を無理やり解いて、お兄ちゃんはリビングから出て行ってしまった。

むぅ……お兄ちゃんのばかぁ。

お兄ちゃんが階段を登っていく音を聞きながら、小町は雪乃さんと通話中だったケータイを耳に当てて会話を再開する。


「あーっと、すみませんね雪乃さん。どうもウチの愚兄は恥ずかしがってるのか電話を代わりたがらなくて……」

『……そう。会話を避けられているのなら仕方ないわね』


はぁ…という小さな溜息が小町の耳に届く。

お兄ちゃんが捻くれ発言した時につく呆れた感じとは明らかに違う、溜息。

…………。


『……ごめんなさい小町さん、この話はまた日を改めてからでも構わないかしら』

「……へ? あっ、あー、ハイ、大丈夫ですよ! でも……」

『? ……小町さん?』

「……でも将来のお義姉ちゃんの事は妹としては早く知りたいかなー…………なんて」

『っ!?』


スピーカーからげほげほと咳き込む声が聞こえてくる。

うんうん、陽乃さんが雪乃さんにちょっかいを出す理由がなんとなくわかった気がしたね。


「それじゃあ小町はこれにて失礼します! おやすみなさい雪乃さん!」

『こ、小町さんっ、待ちな――』



呼び止める雪乃さんの声を無視して通話しゅーりょーっと。

……さーてと、とりあえず小町は――




小町はどうする? 以下より多数決

1 陽乃にメール

2 結衣にメール

3 大志からメール

4 寝る(八幡に視点が戻る)


4票集まった選択肢で先に進みます


陽乃さんとメールでもしようかなー。

陽乃さんのことだからおそらく雪乃さんとお兄ちゃんの件に一枚噛んでそうだしね。

……。

…………それにお兄ちゃんから陽乃さんが使ってた香水の匂いがしたことについて聞いておきたいし。


「……うん、そうと決まれば即行動っ! えーっと陽乃さんのアドレスは……っと」


アドレス帳から陽乃さんの連絡先を探してメール作成画面を開く。


FROM  陽乃さん
TITLE nontitle

陽乃さんこんばんは(*^_^*)
実は今日ウチの兄がお宅の妹さんに告白したそうなんですよ!(´゚д゚`)
その件で少しお話し出来たらなーって思ってるんですけど
いまお時間よろしいですか??



「――よし、それでこれを送信っと」


画面が送信中の画面に切り替わり、程なくして『送信完了』の文字が表示された。

これであとは陽乃さんの返信を待つだけなんだけど……、たぶんこの時間だとまだ返信来なそうだからご飯済ませちゃおうっと。

食べかけのオムライスをぺろりと平らげて空になった食器をシンクに運ぶ。

スポンジでちゃちゃっと洗ってタオルで水気を取って洗い物おーしまい☆

……。

…………暇になっちゃった。


小町はどうする? 以下より多数決

1 陽乃からの返信を待つ

2 大志からメールが来る

3 突然玄関の呼び鈴が鳴る

4票集まった選択肢で先に進みます


<ピンポーン


「……およ? こんな時間にお客さん?」


仕方がないからテレビでも見て時間を潰そうとした小町の耳に突然玄関の呼び鈴が聞こえました。

時刻はもう7時半過ぎくらいだから宅配便とかじゃなさそうだけど……、もしかして怪しい宗教団体とかの勧誘……?

いやでもそーゆーのは前にお兄ちゃんが聖書持った男の人に『あなたは神を信じますか?』って聞かれて、『俺が新世界の神だけど?(真顔)』って答えたら苦笑いしながら帰ってったし……うーん……。

まぁとりあえずインターホンで確認してみようっと。

リビングの入口近くにあるインターホンの画面を見るとそこには――



そこにいたのは? 以下より多数決

1 雪ノ下陽乃

2 由比ヶ浜結衣

3 平塚静

4票集まった選択肢で先に進みます


『小町ちゃ~ん、お義姉ちゃんが妹の件で話に来たよー♪』


にこやかな笑顔を浮かべている陽乃さんが映しだされていました。


「は、陽乃さん!?」


陽乃さんの手にコンビニの袋が握られていて、中身はポテトチップスとかポッキーとかいろんなお菓子がたくさん入ってる。

たぶん話が長丁場になるから、会話のお供に買ってきたのかなぁ……って、ん?

……その前になんで陽乃さんって小町の家知ってるんだろう? 

結衣さんは前にウチに来たことあるけど、雪乃さんや陽乃さんはウチに来たことはないはずなんだけど…………あれぇ~?


『おーい、小町ちゃーん? 居るのは分かってるんだぞー、出てこーい♪』


画面に映る陽乃さんはドンドンとドアを叩きながら開けるように要求してきました。

なんか借金の取り立てにあってるみたいで嫌だなぁ……。

将来のお兄ちゃんが借金まみれでこんな目にならないように、小町は貯金を続けないとダメだね、うん。


「はいはーい、いま行きますよー」


玄関に向かって鍵を解き、ドアを開ける。

そのドアの先にはニコニコと微笑む陽乃さんが立っていました。


「お、開いた開いた。ひゃっはろー♪ ごめんね小町ちゃん、こんな夜遅くに」

「いえいえ、そんなお気になさらず。ささっ、どうぞあがってください」

「ん、お邪魔しまーす♪」


陽乃さんがヒールを脱いであがるのを確認した小町は、ドアの鍵を閉めてリビングに戻りました。

そのあと冷蔵庫から麦茶を取ってコップに汲んでいると、ソファに腰掛けていた陽乃さんが突然立ち上がって――



陽乃はどうした? 以下より多数決

1 「小町ちゃん、少しお手洗い借りてもいいかな?」

2 「小町ちゃん、比企谷くんのお部屋ってどこかな?」

3 「小町ちゃん、比企谷くんって今どこにいるの?」

4票集まった選択肢で先に進みます


「小町ちゃん、比企谷くんって今どこにいるの?」


と、小町に話しかけてきました。


「兄ですか? それなら絶賛入浴中ですけど」

「へー、そっかー。……比企谷くん今お風呂かー」


小町の返答を聞いた陽乃さんは指を顎に当てて何やら考えてるみたいです。


「…………ふふっ」


……あ、なんだろう。小町の危険探知アンテナ(アホ毛)が警報を鳴らしてる気がする!


「小町ちゃん、わたし少し手が汚れてるみたいだからお手洗い借りるねー」

「うぇっ!? ちょ、ちょっと陽乃さん!? 小町的にいま陽乃さんが手を洗いにいくのは色々とマズいような気がー……」

「ん? マズい? どうして?」

「どうしてってそりゃあウチの兄がお風呂に入ってるわけですからそのー……なんと言いますか……」

「……おやおや? 小町ちゃんはわたしが比企谷くんの裸をうっかり見ちゃうかもしれない事を心配してくれてるのかな?」

「そ、そうなんですよ陽乃さん! 陽乃さんだって見たくもないものは出来れば見たくないですよね!?」 

「んー、……それもそうだね。誰だって醜いモノから目を背けたくなるよねー」


さらりと兄を貶すあたり、流石は陽乃さんだなぁ……。雪乃さんにそっくりだよ……。


↓4 このあとはどうする?

1 小町の制止を聞かずに陽乃が風呂場へ移動

2 小町の携帯に着信(選択後、人物指定安価)



「けどわたしはそういうのはあんまり気にしないから、うん。――なのでお風呂場へ突撃ぃ!」

「ほわいっ!? ちょ、えっと、陽乃さん!? なんでそうなるんですか!?」

「ふんふふ~ん♪」


ダメだこの人! 人の話を聞かないタイプだっ!?

陽乃さんは小町の制止を聞かずにリビングを鼻歌混じりに飛び出し、お兄ちゃんが入浴中のお風呂場へ突撃していきました。

お兄ちゃんごめん、小町じゃ陽乃さんを止めるのは無理だったよ……。

その数十秒後、お風呂場のある方向から声にならない叫び声が小町の耳に届きました。

なんかお風呂場の方で水が激しくバチャバチャ音立ててるけど、小町にはもうどうしようもないんだよねぇ……。


拝啓 お兄ちゃん 不出来な妹をどうかお許し下さい (・ω<)テヘペロ



そして数十分後、何故か妙に肌が艶々してる陽乃さんが風呂場から戻ってきました。


「じゃあ小町ちゃん、要件も済んだしわたしはそろそろ帰るね。おやすみー♪」

「え? あ、はい。お、おやすみなさい……?」


あまりの切り替えの早さに困惑を隠せない小町をよそに、陽乃さんはそう言ってそそくさと帰ってしまいました。


…………あれ? 小町まだ雪乃さんの話聞いてないよ?


<アザレアヲ-サカセテ-


「……って、ん? 着信?」



↓4 誰からの着信? 以下より選択

1 雪ノ下雪乃

2 雪ノ下陽乃

3 由比ヶ浜結衣


突然鳴り出した小町の携帯に表示された名前は雪乃さんでした。

もしかして話をする気になったのかな? それなら本人から直接聞いた方が早いね、うん。

そう考えた小町は通話ボタンを押して携帯を耳に当てて話しかけました。


「はいもしもし、小町ですけど。どうしたんですか雪乃さん?」

『こんばんは小町さん。突然で悪いのだけれど、小町さんの家に先程まで姉さんがいたというのは本当?』

「はい、陽乃さんならついさっきまでいましたよー。でもなんか用事が済んだとか言ってもう帰っちゃいましたけど」

『…………、』

「……あれ? ゆ、雪乃さーん?」

『……小町さん、比企谷くんは今どこにいるのかしら」

「兄ですか? 兄なら今」


『お風呂です』と言おうとした小町の背中に限りなくローテンションの声がかけられました。


「…………小町、俺もう寝るから。おやすみ」

「お風――って、お兄ちゃんストップ! まだ寝ないでッ!?」


その声に反応して振り返ると、そこには普段と比べて数倍の負のオーラを纏う兄の姿がありました。

……お、お風呂場で一体何があったんだろう……。陽乃さん恐るべし……。


「…………悪いな小町、今日の俺はもう活動出来る気力がないんだ。というか普段からそんなにない」

「くだらない話が出来る気力があるならそれ使って会話くらいしてよごみいちゃん! ほら雪乃さんから電話かかってきてるから!」


小町は携帯をお兄ちゃんに無理矢理握らせて会話をするように促しました。

それを受け取った兄は


八幡はどうした? 以下より多数決


1 携帯を耳に当てた(八幡に視点が変更します)

2 静かに通話終了ボタンを押した


4票集まった選択肢で先に進みます


「くだらない話が出来る気力があるならそれ使って会話くらいしてよごみいちゃん! ほら雪乃さんから電話かかってきてるから!」


そう言って小町は無理矢理俺に携帯を握らせてきた。まったくどうしてこうもウチの妹は強引なんですかねぇ……。

……まぁ雪乃には話すことが色々あるし、それに小町にも話さないといけないことがあるからこの場でまとめて言ってしまおう。


「……あー、もしもし」

『っ! 比企谷くん……でいいのよね?』

「ああ、俺だよ。つーかこの家に俺と親父以外の男がいるわけねぇだろ。んな不届き者がいたら俺の全身全霊をもって叩きのめしてるっての。小町に近づいていいのは女子供と俺だけだ」

『あなたの小町さんに対する感情って少し……いえ、かなり過剰だと思うのだけれど』

「妹のお前にはわからんとは思うが、兄や姉ってのは弟や妹が可愛くて仕方ねぇんだよ。たとえその好意を蔑ろにされていたとしてもな」

『……、』


スピーカーの向こうにいる雪乃が押し黙る。……まぁその言い分が世の中全ての兄弟姉妹に当てはまるとは言えないけどな。

しかし兄弟と姉妹ってのは下の子が生まれた時から同じ時間を過ごしてきた存在だ。特殊な事情がない限り、その時間の積み重ねは群を抜いて多い。

そして人が同じ時間を過ごすと、その過程では様々なことが起こる。

喧嘩、反発、衝突、口論、まぁ基本的に意見の対立だ。簡単な例で例えると『お兄ちゃんが妹のプリンを勝手に食べた』とかである。

その昔、俺が冷蔵庫にあるプリンを食べたら小町に滅茶苦茶怒られたことがあった。

どうやらそのプリンは小町のモノだったらしく、俺が勝手に食べた事に腹を立てていたようだ。

だがそのプリンは賞味期限が1日切れており、それを小町に説明しても「賞味期限切れてたとかじゃなくてなんで勝手に食べたの!?」と反論された。いやだって冷蔵庫に入ってて1日しか切れてないなら食わないと勿体無いし……。

そんな貧乏臭い事も考えつつ、俺も「早く食わないのが悪いんだろ」と言い返した。

そしてそれに対する小町のカウンターは「昨日食べるつもりだったの!」である。じゃあなんで昨日食わなかったんだよ。

それからはまぁ現実的な意見を述べる俺と感情的に不満を述べる小町の論争開始。まぁ俺が大人気なく論破して小町を泣かせてしまったわけだが。

そのあとはどうしたのかというと、小町が母親にチクってチェックメイト。

いやチェックメイトと言うより盤上外でのイカサマでペナルティ(小町にプリンを買い与える)を受ける羽目になる。俺は何も不正をしていないというのに……。

たかがプリンごときにムキになる妹に、あの時は理不尽過ぎんだろと胸の内で文句を垂れたが、プリンをあげた時の小町の「……小町もムキになって、その…………ご、……ごめんなさい」で全てを赦した。

つまり何が言いたいのかと言うと、小町は世界一可愛いということだ。……あれ、こんな話だったっけ? まぁいいか(適当)


「お兄ちゃんお兄ちゃん、小町もお兄ちゃんの事が世界で一番大好きだよ!」

「あー、そうだな。それ言っとけば小町的にポイント高いからなー」

「さっすがお兄ちゃん、小町のことよくわかってる~♪」

「伊達でお前の兄貴をやってるわけじゃねぇからな。俺に小町の知らぬことなどなにもない!」

「ごめんお兄ちゃん、流石にそれは気持ち悪い」

「おい小町やめろ、真顔で言うなよ傷つくだろ……」

「はいはい泣き言はあとで聞かないから、今は雪乃さんとの電話に集中してよねお兄ちゃん」

「……、」


最近、うちの妹の機嫌がころころ変わるのは秋が近いからですかねぇ……。


……まぁそんなことはどうでもいい。とにかく話の続きをしないとな。

俺はわけもなく頬を軽く掻きながら雪乃に話しかける。


「あー、悪いな。なんかどうでもいいこと話しちまった。そういえば用があるんだったよな、どうかしたのか?」

『……、』

「……おーい?」

『……あっ、……ごめんなさい、少し考え事をしていたわ』

「そうか」

『ええ』

「……、」

『……、』


………………お互い沈黙。

えー、なにこれどうすりゃいいの? 

とにかく話しかけないとダメなのは分かるんだがタイミングがわからん。助けろおしゃべりクソ野郎の戸部(命令)

『やっぱ男から話しかけなきゃダメっしょ! タイミングとかノリでよくね?』

役に立たねぇなこのおしゃべりクソ野郎。そのノリが出来たら苦労しねぇよ。てか自分から話しかけなきゃいけないことぐらいわかってるっての。

脳内に生み出した戸部を抹殺して俺は自分の髪を乱雑に掻き上げる。

そして意を決するように、口を開いて沈黙を破る。



「……あー、あのさ雪乃」

『……あの、比企谷くん』



「…………、」

『…………、』


今度は被るのかよぉぉぉ!

もうこれ直接会って話した方が早くね? 電話だと相手の顔が見えないからタイミング取りにくいんだよなぁ。

まぁ普通の会話の時に相手の顔なんて見ないけどな。そもそも顔を見ないどころか視線を向けないまである。もうどうしろってんだよ。


↓5 八幡はどうする?

1 無理矢理話題を切り出す

2 雪乃の話を聞く

3 直接会いに行く

4 小町にバトンタッチ

5 カマクラ! キミに決めた!(カマクラの鳴き声を雪乃へ聴かせる)


「……、」

『……、』

「ちょっとお兄ちゃん、黙ってないでほらなんか会話しなきゃダメでしょ!?『雪乃、俺今すぐお前に会いたい』とかほらなんかあるじゃん!」


軽く投げやりな気分になった所で我が家の妹様より妙案を承る。なるほど、やっぱ会えばいいのね。

だが死んでもそのセリフは言いたくないな。葉山辺りならいいかもしれんが、俺が言ってもなんか色々ダメだと思う。

…………え? 朝の出来事? なんのことかな?(すっとぼけ)

雪乃以外の誰かに見られたり聞かれていたりしたら悶絶死確実の出来事を必死に頭の中から追い出し、リビングの時計を確認すると時間は20時15分。

まだ条令に引っ掛かる時間でもないから外を出歩くのは問題ない。

海浜幕張駅を落ち合う場所にすれば21時前には着けるだろうか。


「……あーごほんっ。雪乃、ちょっと今から時間あるか?」

『? ええ、今日の予定はもう明日の準備と就寝だけだから時間はあるわよ」

「そうか。……なら21時くらいに海浜幕張駅まで来てくれないか? 話したいことがあるんだ」

『っ、……比企谷くん。それは、その……別に構わないのだけれど……』


スピーカーから聞こえる雪乃の声が戸惑いを含んでいる。

まぁいきなり会いたいとか言われても女子には色々準備する時間が必要だもんな、無理もない。

それによく考えたら高校生とはいえ、夜道を女子1人で歩かせるわけにもいかない。

まぁ合気道の達人である雪乃がそこら辺の暴漢に襲われても全てを返り討ちにしてしまいそうなものだが、万が一の場合もある。


「あー、やっぱり落ち合う場所変更。雪乃の住むマンションのエントランスでいいか?」

『…………、そうね、それなら問題ないわ』

「じゃあそれで頼む」

『了解。……くれぐれも事故には気をつけて頂戴』

「はいよ。……じゃあまた後でな」


携帯を耳元から離し、通話終了のボタンを押す。……さてと、さっさと出かける支度しねぇとな。


「小町、ちょっと俺出かけてくる――ってあれ? 小町? どこいった? 小町ー?」


携帯を返そうと小町の姿を探すもリビングには俺以外誰もいなかった。もしかして部屋に帰ったのかしらん?

小町の行方が気になったが、今は時間が惜しい。俺は急いで階段を登り自分の部屋へ戻った。


クローゼットから服を適当に引っ張り出して着替え、財布と自分のスマホを持って部屋を出る。

階段を降りて玄関で靴を履いていると、突然背中に何やら重い感触。


「……小町、どけ。靴が上手く履けねぇ」

「ぶっぶー! 残念でしたー! いまお兄ちゃんの背中に乗ってるのは小町じゃなくてカー君でーすっ!」

「……、」


俺は無言のまま背中に引っ付いたカマクラの首根っこを掴んで眼前に持ってくる。

――と、ここで違和感。


「……ん? あれ? カマクラ、お前そんなの付けてたっけ?」


違和感を感じる場所はカマクラの首周り。

首輪の他に見慣れない――いや、見覚えのあるネックレスがぶら下がっていた。


「小町、お前これって……」

「ああ、これ? 可愛いでしょ? 猫型のネックレスなんだー♪」


ニコニコと微笑む小町と俺にメンチを切るカマクラ。おうやんのかコラ……じゃなくてだな。


「いや、そうじゃなくてこのネックレス、どこで見つけた?」


確か俺の記憶が正しければこのネックレスは――


「2日くらい前に道端に落ちてたのを拾ったんだよ。正確にはお兄ちゃんと雪乃さんが走り去った後に見つけたんだけどね」

「雪乃の付けてたネックレス……か?」

「うーん、小町も落ちてたのを見つけただけだから断言は出来ないけど、雪乃さんの物である可能性は高いよね」

「だからお兄ちゃん、雪乃さんに会うついでに確かめてきてよ。このネックレスが雪乃さんの物なのかどうか」


小町は優しくカマクラを抱きかかえると、カマクラの首にかかったネックレスを丁寧に外した。

そしてカマクラを床に下ろすと、今度はポケットから白いケースを取り出してその中にネックレス収納する。


「はいこれ。箱に入れとけば壊れたりしないから」

「あ、……おう、サンキュー」


俺は小町から受け取った箱をポケットに仕舞い、靴を履いてドアノブに手を掛けた。


「お兄ちゃん」

背後からかけられる小町の不安そうな声。

夜に出歩く俺の身を案じているのか、雪乃と会って上手くいくかを心配しているのか、それともそうではない別の事を憂いているのか俺にはわからない。


「小町はいまだにお兄ちゃんと雪乃さんの関係が今どんな状況になってるのかよくわかんないけど、コレはきっかけに過ぎないからね! あとはお兄ちゃん自身の力で頑張るんだよっ!!」


だが今の俺には、わかっている事がひとつだけある。


「お前は俺の母ちゃんかよ……」

「小町は母ちゃんじゃなくて妹だよ。捻くれてぼっちだけどやる時はやる格好いいお兄ちゃんの妹、それが小町っ!!」


こんなに可愛い妹に応援されているのだから、その期待に応えなければいけないということ。


「……まったく、俺はお前みたいな可愛い妹がいて幸せ者だな」

「小町もお兄ちゃんの妹で幸せです! だから早く小町にお義姉ちゃんを紹介してよねっ!」

「気が早すぎるわバカシスター。まだスタートラインに立ったばかりだっての」

「棄権するとかそういうのナシだからねっ!?」

「んなこと言われなくてもわかってるっての。なんてったって俺の人生のゴールは専業主夫だからな」

「……はー、なんでこの場面でそういうこと言うかなこのごみいちゃんは……」

「仕方ねぇだろ、これが俺なんだからよ」

「…………、うん、そうだね。こういう場面でそういうこと言うのがお兄ちゃんだよね!」


そう言った小町は俺の背中を強く押した。その弾みでドアノブが下がって扉が開く。


「いってらっしゃい」

「……、いってきます」


愛している妹から背中を押され、愛しい人の元へと俺は急いだ。

さて、そろそろ終わりが見えてきた感じですかね。
このあとは安価ナシで進めていきます。
ゆきのんルートが終わったらとりあえずこの安価スレは落とします。
出来ればこのスレで完結までもっていきたいですね。
それでは今回はこの辺で失礼します。



はーちゃんとさーちゃんとけーちゃんが一緒に歩いてて夫婦と勘違いされてドギマギするSS誰か書いてくださいお願いします。

30分ほど自転車を漕いで辿り着いた高級マンションのエントランスで雪乃は待っていた。

格好は文化祭の時に雪乃を見舞いに来た時に着用していた目の詰まった白のニットに黒のスキニー、踝が隠れるショートブーツ。漆塗りのような黒髪は後ろで一束に纏められていた。


「悪い、少し遅くなった」


スマホの時計を見ると時刻は既に21時を回っていた。

本来ならもう少し早く到着できたのだが、来る途中で起きた交通事故による交通規制で迂回を余儀なくされたのだ。


「そうね。11分24秒の遅刻だけれど、別に気にしていないわ」


左手に付けた腕時計で時間を確認する雪乃。

気にしていないと言う割にはかなり時間に細かいのはツッコミ入れた方がいいのかしらん?

俺がツッコむべきかそうでないかで悩んでいると、雪乃は俺の目の前まで近づいて来る。

そして自分の右手を軽く左手で握りながら、雪乃は早速本題を切り出してきた。


「それで比企谷くん、……その、話って何かしら」

「あー、話な。……まぁ、なんだ。ここじゃちょっと人目につくから移動したいんだが」


これから話す事はマンションの住人が出入りするエントランスでは中々難易度が高い行為だ。

可能であればあまり人目がない場所が好ましい。


「人目がつかない場所……。……っ、そ、それは比企谷くん、暗に私の部屋で話がしたいということかしら?」

「え? あ、いや、それは……えっとだな……」


本音を言えば雪乃の部屋で話をするのが一番手っ取り早い。

他の誰かに見られる可能性も邪魔が入る可能性も低い安牌だ。

だが俺は男子で雪乃は女子。年頃の男女が夜二人っきりという状況は色々とまずい。

前回来た時は小町も一緒だったため理性で抑える事ができたが、俺も健全な男子高校生。

鋼の精神を持つプロのぼっちといえども、人間の三大欲求を完全に抑える自信はない。

むしろ抑えきれずに日々惰眠を貪るまである。なんで二度寝ってあんなに気持ちいいんだろうね、ふしぎ!


なんとかそういう話題から離れようとくだらないことを考えるも、一度意識してしまったことは中々頭の中から離れてくれないものである。

耳が不自然に熱くなっていくのを感じながら視線を彷徨わせていると、雪乃は弱々しく俺の裾を掴み


「……わ、私は別に構わないわ。…………比企谷くんが良ければだけれど」


顔を下に俯かせ、耳を真っ赤にしながらぼそぼそと蚊の鳴くような声で喋った。

街中だったら雑踏の波に飲まれて消えていたであろう声も、この静寂に包まれたエントランスでははっきりと耳に届いた。


「……お、おう。…………俺も別に嫌じゃねぇけど」


こんなセリフを好きな女子から言われて断れる男子がこの世にいるだろうか、いやいない!(反語)。

いたらそいつはおそらくホモかゲイだな。海老名さんのゲスい笑みが目に浮かぶなぁ……。


雪乃の誘いを承諾し、俺達はエレベーターに乗り込み雪乃の部屋がある15階へ向かう。

鋼鉄の箱に乗り込み暫し待つこと数分、目の前の扉が開いた。

家主である雪乃を先に降ろして俺はその背後を三歩離れて付いて行く。

そして表札も何もない扉の前で雪乃は立ち止まると、鍵を取り出し鍵穴に差し込み手首を捻る。

するとガチャガチャと何かが外れる様な音が鳴り、扉のロックが解除される。


「相変わらず何もない部屋だけれど、……どうぞ。あがって頂戴」

「ああ、お邪魔します」


俺は靴を脱いで廊下を進み、リビングへと向かう。

その時ふと背後を振り向くと雪乃は玄関の鍵を閉め、脱いだブーツをシューズボックスに片付けていた。


「……なにかしら?」

と、俺の視線に気が付いたのか、雪乃は前屈みになりながら俺に尋ねてくる。

ここで何故雪乃が前屈みになっているのかというと、それは下段のシューズボックスにブーツを片付けているからだ。


「え? あ、いや、べ、別に」


怪訝な目で問いかけられた俺はしどろもどろになりながら雪乃から視線を逸らした。

そうでもしないと俺も前屈みにならなければいけなくなるからである。

魅せつけるより偶然魅せられた方が破壊力は高い。やっぱ時代はチラリズムだぜ!(混乱)


「そう。特に用がないならソファで座って待っていて頂戴。いまお茶を淹れる準備をするから」


雪乃は不意打ちでドギマギする俺の横を通り過ぎてキッチンの方へ向かった。

とりあえず俺は雪乃の言われた通り、ソファに座って暫し待つ。

お茶が出来るまでのあいだ、今から雪乃に話すことを頭の中で纏めていると、鼻腔の奥を香ばしい匂いが刺激した。どうやら準備が出来たらしい。


「お待たせ」


トレイの上に2つのカップを乗せた雪乃がリビングへ戻ってきた。

雪乃はカップをガラス製の机へ静かに置くとソファへ腰を下ろす。


雪乃が座った位置は俺のすぐ隣で、肩が触れるか触れないかの程度の距離である。

…………へ、平常心平常心…………。


「……どうも」


あくまで冷静さを心掛け、動揺を紛らわす為に俺は卓上に置かれた陶器製のカップとソーサーを手に取り、湯気の立ち上る琥珀色の液体を口に含んだ――って


「…………おい、これかなり熱いんだけど?」


なんだこの熱さ。例えるなら真夏日にクーラーも扇風機も壊れて窓も閉め切って長袖長ズボン状態に加えて毛布で全身纏わりついてるぐらい熱いんだけど?

あ、この場合は熱いじゃなくて暑いか。いやどうでもいいな、うん。


「まだ熱いから火傷に注意して頂戴」


俺は抗議の目を向けるも、雪乃は何故かにこやかな笑みを浮かべて注意を促すだけだった。

なんで笑顔なんですかねぇこの人……。


「いやそれ言うのが遅ぇよ」

「だって聞かれなかったもの」

「確かに聞いてねぇけどさ……。てか俺が前に猫舌って言ったの覚えてねぇの?」

「そんなの覚えているに決まっているじゃない。私はあなたが猫舌なのは知っているわ。けれど紅茶は熱が高ければ高いほど味も香りも柔らかいものになるの。何かを得るためにはそれ相応の代価が必要なのよ」

「いや確かに香りとか風味はかなりいいとは思うけどいくらなんでも熱すぎるからな? いいから雪乃も飲んで確かめてみろっての」

「……、」


雪乃はなにか言いたそうに俺を見たが、渋々といった感じで自分のカップに唇を付けて傾ける。


「っ」


紅茶を啜った直後、雪乃の両肩が僅かに上下する。やっぱり熱かったか……。

雪乃は静かにカップをソーサーに置くと、軽く咳払いをしながら俺の方を向いてゆっくりと口を開いた。




「……ぜ、全然熱くないわね。これくりゃ――っ、…………これくらい平気よ」

「……、」

そうかー、これくりゃい平気なのか。

雪の名を冠する者にとってみればこれくりゃい平気なのかー、そうかー。

流石は雪ノ下雪乃さんですわー、氷の女王は伊達じゃないなー(棒読み)

なんだか可哀想な子を見るような目で雪乃を見ていたら、雪乃はわざとらしく咳をしてソファから立ち上がった。

……まずい、心の声が読まれたか?


「……けれど、比企谷くんにとってみればこの紅茶は熱過ぎるのよね?それなら仕方がないわね。出来ることなら味を劣化させるような真似はしたくはないのだけれど、ここはあくまで比企谷くんへの救済措置として特別に氷を用意してあげるわ」


反撃が来る――と思いきや、氷の女王こと雪乃は何やら早口で理論武装を展開。

どうやら紅茶が熱いから氷を入れて冷まそうという結論に至ったようだ。

しかも俺をダシにして、あくまで自分は熱くはないと主張するオプション付き。

どこまで負けず嫌いなんだお前は……。


「いや、そんなの別に冷めるまで待てばいいだ」

「冷めるまでに時間がかかると香りが台無しになるから駄目よ。いいから比企谷くんは大人しくここで待っていて頂戴。すぐに戻るから」

雪乃は無理矢理というか強引に俺の言葉を遮ると、カップとソーサーをトレイに乗せてキッチンの方へ行ってしまった。




ちゃっかり自分の分もトレイに乗せて。


……なんか最近の雪乃さんはポンコツ具合が増加傾向にあるように感じるのは気のせいですかね?

由比ヶ浜の及ぼす影響が大きいのだろうか……。

初めて雪乃と対面した時は凛然とした態度、冷徹かつ辛辣な発言で近寄りがたかった。

まぁ雪乃に限らず人に近寄るのは苦手なのだが、そういったこととは別にあの頃の雪乃は触れてはいけない存在、ただ遠くで眺めていることしか出来ない雲の上の存在だった。

当時の雪乃を表現するなら『高嶺の花』という言葉がしっくりくる。

しかし今はどうだろうか。

奉仕部というワケの分からない部活に無理矢理入部させられ、雪乃の側で過ごしていく内に時折見えた彼女の内面。

凛然とした彼女でも、動揺する時がある。

冷徹かつ辛辣な発言をする彼女でも、優しく微笑み感謝を告げる事がある。

完璧に見える彼女でも、欠点はあるし嘘もつく。

普段から見える側面を理解しただけで、その人間の全てを理解できるわけではないのだ。

過去の俺が感じた『高嶺の花』である雪ノ下雪乃は偶像であり、実像ではない。

偶像を求めた所で手に入ることなどなにもない。

虚構に手を伸ばした所で掴めるのはなく、ありもしない幻想を眺めるだけだ。

だから俺は実像に手を伸ばした。

本物が欲しかったから、かけがえのないものが欲しかったから、自分から手を差し伸べた。

受動的では何も変化は望めない。変わるためには能動的にならなければいけない。

そして、能動的に動いて俺達を変えてくれた由比ヶ浜。

やはり由比ヶ浜が及ぼす影響は大きかった。

由比ヶ浜がいたから、今の俺はここにいる。

そんな由比ヶ浜には感謝してもしきれない。

感謝しきれないから、俺は――



「比企谷くん、お待たせ」



「――――ッ、……おう、サンキュー」


思考に没頭していたせいか、雪乃が戻って来たことに対する反応が遅れる。

……くそっ、みっともなく両肩ビクつかせちまったぜ……。

恥ずかしさを紛らわすように頬を軽く掻き、雪乃からカップを受け取り一口啜る。

――うん、今度は適温だ。悪くない。


「……考え事?」


そんな俺の隣に腰を降ろした雪乃は静かに尋ねてくる。


「ああ、由比ヶ浜のことでちょっとな」

「そう」


俺の返事を聞くと雪乃は流麗な所作でカップを手に取り、唇をカップの縁に近づけて静かに喉を鳴らす。

それから雪乃はカップをソーサーの上に置き、両手を自分の太腿の上に乗せてゆっくりと口を開いた。


「そしてそれが、今からあなたが話したい事でいいのかしら」

「そういう事になるな」

「そう。確かにこの件は人目のつく場所で会話するものではないわね」

「ああ、俺は口が堅い男だからな。知人が不利益を被るような事は洩らさないよう徹底している」

「比企谷くん、あなたは口が堅い男ではなくただ話し相手がいないだけでしょう? 結果としてはそうなるかもしれないけれど、事実を捻じ曲げてはいけないわ」

「結果が同じなら始点や辿る過程は別にどうでもいいんだよ。『終わり良ければ全て良し』って素晴らしい諺知らないのかよ」

「――『終わり良ければ全て良し』。諺の意味は『物事は結末さえよければその過程でいざこざや失敗などがあってもまったく問題にならないの意』。シェークスピアの戯曲名『All's Well That Ends Well』を翻訳したものね」


出たなユキペディアさん。由来までは流石に知らなかったが、まぁつまるところそういうことにすればいいんだ。

俺が今から雪乃に話すことは、終わりさえ良ければそれでいい話だ。


「そうだな、その通りだ。ゴールが設定されているなら道は近道しようが遠回りしようが関係ない。本音を言えば最短距離で駆け抜けたいがそうは問屋がおろさない。抜け道を走るには色々と準備が必要だからな」

「比企谷くん、言葉の端々から何処か熟れた感じが滲み出ているのは私の気のせいかしら……?」

「……き、気のせいだ気のせい。俺は別に校外マラソンの時に予め裏道を調べておいてショートカットとかしたことねぇからな」

「前例があるのね……。頼もしいのか頼りないのか、流石の私でも判断に困るわ……」


「……、」

……し、仕方ねぇだろ、だって裏道使うのと使わないのじゃ500mくらい走る距離が変わるんだから。

仮病で休むよりよっぽどいいと思うけどダメだろうか?バイト中にトイレへ行くようなものだと思うんだけどなぁ……。


「……まぁ、サボり魔のひきこもりくんはこの際置いておくとして」

「おい待て、誰がサボり魔だ。あとひきこもり言うな」


まぁ将来の夢は専業主夫なんでひきこもりと大差ないんですけどね。両者の違いは家の中で働いているか働いてないかだけ。有機物製造機にはならないようにしねぇとなぁ……。

将来の不安に駆られていると、隣に座っていた雪乃は「少し席を外すわ」と言って立ち上がり、リビングから出ていってしまった。


突然のことで対応に遅れた俺はとりあえずそのまま待機していると、雪乃は手にノートとペンを持って戻ってきた。どうやら考えを纏める為の用意をしてくれたらしい。

雪乃は俺の対面に座り、テーブルにノートを開いてペンを走らせた。

真っ白な紙面には達筆で『私達の今後について』という文字が記される。

……、なんかこれ離婚調停中みたいで嫌だな。

いや、まず結婚どころか付き合ってすらいないんだけどさ……。

そんな俺の気持ちなど露知らず、雪乃はサラサラとペンを走らせていく。


「これから私とあなたが話し合わなければいけないことは、由比ヶ浜さんを含めた私達の今後について、それと『ゴール』の設定と『抜け道』の準備、でいいのかしら」

「そうだな。けど話し合う内容の大筋は既にある程度考えてある。今からやるのは骨格への肉付け作業だな。雪乃には細かい部分の修正や案の改善を頼みたい」

「了解。ではまずその大筋を教えて頂戴」

「ああ、まず――」


俺の考える大筋


・学校では普段通りに過ごす(すれ違っても挨拶程度)

・デートは卒業まで禁止(由比ヶ浜を含めた三人とかは許可)

・人前でイチャコラしない(腕組みは勿論、手を繋ぐこともNG、一緒の登下校もNG)

・雪乃とは高校卒業まで付き合わず、大学生になってから付き合う(俺、ぼっち継続)

・由比ヶ浜では入学の厳しい高学歴の大学へ進学し、距離が離れたことによる疎遠を図る(由比ヶ浜の千葉村での話を参考)


「――とまぁ、こんな具合なんだが……どうだ?」


落とし所としては無難な所だと俺は思う。

告白した直後に雪乃から即返事が貰えなかったことから鑑みるに、雪乃は親友である由比ヶ浜を気にかけている。

雪乃にとって由比ヶ浜は初めて出来た親友だから当然だ。

恋愛か友情、どちらかしか選べないと言われて即断出来る人間なんてそういない。

だから二択とも選べるように調整を施した。

その代償に一年半の時間を使うことになるが、終わり良ければ全て良しなのであるから問題ない。

世の中結果が全てなのである。過程なんぞ知らん。家庭は大事だけどな。

それに一年半あればぼっちだった俺も女子と交際一歩手前まで到達出来るのだ。

人生というのは何があるかわからない。もしかしたら由比ヶ浜が他に好きな男が出来るかもしれないし、その逆もまた然りだ。


「そうね……。由比ヶ浜さんとの関係を悪化させない為なら仕方のないことなのだろうけれど……」


俺の大筋を聞いて雪乃は腕を組んで思案する。どうやら不満な点があるご様子だが……。


「さっきも言ったがこれはあくまで大筋だから、これから修正や改善はする。気になる所があるなら遠慮なく言ってくれ」

「そう。ではこの3点目なのだけれど……」


そう言って雪乃が指先で示したのは『人前でイチャコラしない』の部分だった。

……いや、確かに俺も健全な男子高校生だから手つなぎで登下校とかしてみたいけど、それをやったら色々とアウトだからなぁ。

だって前に一緒に登校しただけで針の筵状態だったし、雪乃は知名度があり過ぎてプロのぼっちが備えるステルス迷彩すら容易く破壊してくるからもうお手上げ。これはどうしようもな


「…………この『イチャコラ』ってなにかしら? リュート型撥弦楽器?」

「……、」


…………………そ、そっちかー。『イチャコラ禁止』に対する方じゃなくて『イチャコラ』という単語に疑問を持っていただけかー。

え、てかリュート型撥弦楽器って何? そんなのあるの? 俺なんとかコラとか言われても雑コラとかイコライザーしか思い浮かばないんだけど。

雪乃さんの博識ぶりには毎度驚かされるぜ。ユキペディアの異名は伊達じゃねぇな(俺しか呼んでねぇけど)。


「あー『イチャコラ』についてはあんまり深く考えなくていい。単語の意味を大雑把に説明すると『男女が仲睦まじくする』だからな」


一昔前の漫画とかのセリフで「すたこらさっさ」とかあったけど、それの同族みたいなもんだな。

『イチャイチャ』という畳語の派生系でもあるんだが、本題からズレるだけだから説明しなくていいか。


「『男女が仲睦まじくする』……そう、それが『イチャコラ』という単語の意味なのね」

「まぁ『イチャコラ』は昔の俗語だから今はあんまり使われてねぇけどな。現代ではとっくに死語だ死語」

「その死語をなぜあなたが知っているのかは気になる所だけれど、今は置いておくわね。今は目の前の問題を一つずつ片付けていくことが最優先、時間は有限なのだから無駄には出来ないわ」

「……そうだな。それじゃあ地道に堅実に進めていくか」

「ええ」


それから俺と雪乃は綿密な話し合いを行い、それが完全に纏まった頃には日付はとっくに変わっていた。



「……よし、これなら大丈夫そうだな」

「そうね、これなら余程の想定外が起きない限り失敗することはないはずよ」

「あとはこの練り上げた計画通りに事を進めていくだけか」

「ええ。……とは言っても、物事が計画通りに進むかどうかは主に比企谷くんにかかっているのだけれどね」

「そりゃまぁ俺がこの状況における中心人物だからな。結末は俺の行動次第になるのも当然だろ」

「それもそうね。……しかし、人の輪から弾かれていた人間がいつの間にか中心に立ってしまっているのだから、世の中って本当に不思議ね」

「おーい雪乃さん? なんか言い方に刺があるんですけど?」


菩薩の様な笑みを浮かべて俺の過去のトラウマを的確に抉ってくる雪乃。

いやまぁ確かに弾かれてましたけどね? 小学生時代なんて授業中だろが休み時間だろうがバリア展開されてましたけどね?

まぁ俺の菌はそのバリアすら容易く貫通するんですけど。そんなへっぽこバリアなんて意味ねぇから(震え声)



「ああ、ごめんなさい。あなたは弾かれていたのではなく周囲から認識されていなかったのよね。私としたことがつい言い間違えてしまったわ」

「前より酷く言い換えたのにそっちの方が的確だとかもうどう反応したらいいのかわかんねぇよ……」


トラウマを穿り返して鋭い言葉のナイフで一刀両断、手際の良さに惚れ惚れしちまうな。

もうお前料理人になっちまえばいいのに。俺に毎日フルコースを作ってくださいお願いします(懇願)



「……どう反応したらいいのかわからないのなら、そのまま目を瞑りなさい」

「は?」

「どうやら誰からも認識されないと言語処理能力が鈍ってしまうようね。比企谷くん、私は目を瞑りなさいと言ったのよ」


雪乃は静かにソファから立ち上がると、淡々と冷静に俺を見下ろしながらそう告げた。

……なになにどしたのワサワサ? おこなの? 激おこなの? 俺が上手い切り返しをしなかったからご機嫌ナナメなの?

とりあえず見下される形が嫌なので、俺も立ち上がって雪乃を見つめ返して反論を試みる。


「え、いや、その言葉はちゃんと理解出来たがその指示があま(ry」

「御託はいいわ。それよりもあなたは大人しく迅速に私の命令に従いなさい」

「」


――はい、反論終了で弁解の余地なし。言葉の暴力とはまさにこの事で、有無を言わせる暇など一切ない。

もうこれ激おこぷんぷん丸じゃねぇか。なんか怒らせるようなこと言ったか俺?

先程までの話し合いを思い返してもその心当りがないんだが……、こうなりゃ直球で訊いてみるか……。


「指示じゃなくて命令なのかよ……。何か俺はお前を怒らせるようなことしたか?」

「いいえ、何もしてないわ。…………むしろ私が今からするのは、あなたが私に怒られないようにするための契約よ」

「……契約? ちょっと待て雪乃、お前一体何が言いたい――――ッ!?」



それは完全に不意打ちだった。

俺の視界が突如闇に覆われ、その直後甘く清涼な香りが鼻腔を刺激した。


「……、比企谷くん」


声が聞こえる。

視界を遮る手は雪乃の繊細な手だ。


「前にも言ったけれど、私は自己中心的にしか行動出来ないの。だからこれからもきっとあなたに何度も迷惑をかけると思うわ」

「今みたいに何の前触れもなくあなたの視界を遮ったり、遠くない未来で文化祭の時のような二の舞を踏むかもしれない」


触れた手から伝わる温もりが、雪乃の口から綴られる言葉と共に身体へ染みこんでいく。


「けれど、私はあなたが期待してくれているから、遠慮や気遣いはいらないって言ってくれたから、自分の道を歩んでいける」

「あなたがいたから、比企谷くんが背中を押してくれたから、私は前に進むことが出来た」


そうして伝わった温もりが、全身を包み込むような心地がした。


「だから私はあなたに誓って、変えてみせるわ。人ごと、この世界を」


その優しげな声音で、凍てついていた氷が融けていくのを感じた。


「これから私がするのは、その変革の第一歩」


ゆっくりと晴れていく視界の先にいたのは、陽春の候の如く暖かな微笑みを浮かべる少女。



「……それを踏み出す勇気、分けてもらえるかしら?」


「……ああ、俺でよければいくらでも分けてやるよ」



差し伸べられた両手をゆっくりとつないで、俺達は互いの唇を重ねた。




――それから先の事は、あまりよく覚えていない。





まぁ覚えていないのは嘘なんですけどね。



簡単に言えばあのあと滅茶苦茶【自主規制】した。

…………いやぁ、あれはまずかったわ。あの吸い付く感覚はヤバイ。なんか色々と搾り取られた錯覚すらしたぞ……。

それにあまりの吸引力に危うく白っぽいのが出そうになった……。天にも昇る心地とはこう言う事を言うんだな。


「…………」


そして俺を昇天させかけた雪乃はというと、俺の膝を枕にして静かな寝息を立てていた。

雪乃の呼吸と呼応するように動く胸元には、猫型のネックレスが室内の照明を浴びて輝いている。

このネックレスは家を出る時に小町から預かった物だが、どうやらこのネックレスは小町の予想通り雪乃の所有物だった。

なくしてしまった時に雪乃は「あまり思い入れのある品ではない」と言っていたが、今はそうではない。

このネックレスは所謂『誓いの証』になったのだ(というか、俺がそう決めた)。

分かりやすく言えばプロポーズリングみたいなものである。思い入れがないなら思いを込めればいい。

ただ惜しむらくはこのネックレスは元々雪乃が持っていたものなので、傍から見れば俺はただ落し物を返しただけなのだ。

だから次に雪乃へ贈る時は、ちゃんと自分で用意して渡さないとな。

まぁ社会人になるのは当分先だから、給料三ヶ月分とまではいかないがバイト代三ヶ月分のモノを購入して贈ろう。

想いを込めた正真正銘、嘘偽りのない本物の誓いの証を。

かけがえのない、愛する人へ贈ろう。

一目見るどころか触れる機会などないと思っていた高嶺の花は、今は俺の目と鼻の先で俺の膝を枕にして眠りについている。

人生というのは何が起きるか誰にもわからないものだ。

己の想像や予想を嘲笑うかのように、何の前触れもなく突拍子もない事象を直撃させてくる。

その事象は差別や批難、迫害や侮蔑といった不幸なこともあれば、その逆の事象もある。

人生山あり谷ありとはよく言ったものだ。どうやら俺はようやく険しい勾配を越える事が出来たらしい。

これで不安定な足場で何度も足を掬われたり、転がり落ちて襲い来る落石の被害も減っていくのだろう。

苦労して登頂した高原では、寄る辺もなく一輪の花が咲いている。

山の頂にいるときと谷間にいるときでは捉える景色は異なるが、その花の側で見下ろす下界は一体どんな景色なのだろうか。

まだ見ぬ世界に思いを馳せながら窓を見遣ると、東の空が白み始めていた。

闇に包まれた街に光が差していく。

ここにはもう闇は無く、視界には暖かな陽の光が広がっている。

その眩しさに目を逸らすことなく、前を見据えていこう。


――さぁ、夜明けだ。










おわり



終盤はかなり駆け足かつ伏線とかぶん投げてしまって申し訳ないです。

とりあえずこの安価SSは終了です。残りは雑談スレにでも使って下さい。

色々と伝えたいことはありますが、とりあえず何度も更新が途切れてしまったことを深くお詫びを申し上げます。

ただ、最後まで読んで頂いた方には感謝しております。本当にありがとうございました。

今夜は七夕かつはるのんの誕生日なので、彼女の生誕を祝って締めにします。


はるのんHappy Birthday!


ではまたどこかで。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年03月13日 (木) 08:04:56   ID: m5YLtOLG

そんな長々かかんでもね

2 :  SS好きの774さん   2014年05月20日 (火) 17:13:59   ID: 4-Z-4HcG

原作の流れをくんだssは原作の劣化にしかならない。
所詮は二次創作と言われたくないのなら、それを理解したほうがいい。

3 :  SS好きの774さん   2014年07月07日 (月) 15:31:02   ID: VqTaf6jJ

そんなコメここですんな馬鹿だろ。だったら読むなよ。気持ち悪い。気持ちが悪い。マジキモ。消えろよ。
自分じゃあなにもできない屑が

4 :  SS好きの774さん   2021年08月06日 (金) 04:36:02   ID: S:BNyhVG

つまんね

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