ミーン……ミンミン……ミーン……
ピリリリリッ! ピリリリリッ!
男「うぅ……」カチッ
男「……ふぁあああ…………朝か……」 ムクッ
男「……」
男「暑い……」パタパタ
男「窓と全裸を開放してもこの暑さか……」 パタパタ
男「くそっ……このままじゃ夏が終わる前に干物になっちまう……」スタッ
テクテクテクテク
・リビング
男「おはよー、母ちゃん」ガチャ
母「あら、おはよう」トントントントン……
男「──げっ!?」ムワァアア
男「なんで冷房が効いてないんだよ……」
男「リモコンは……っと」スッ
ポチッ
男「ふぅ……」ドサッ
男「……」
男「……あれ?」ポチッ
男「おいおい……電源が入らないぞ!?」 ポチッ ポチッ
母「あぁ、そうそう! そのエアコン壊れちゃってるみたいなのよ……」ジュウ ジュウ……
母「昨日の夜までは普通に動いてたんだけどねぇ……今度の休みにでも業者さんに修理をお願いしておくわ」 トントントントン……
男「ぐわぁあああマジかよぉおおお!」 ジタバタ
母「今年の異常な暑さにエアコンも夏バテしちゃったのかもね」クスッ
男「俺にとって唯一のオアシスであるリビングまで砂漠化しやがって……」
男「……いや、待てよ?」
男「家にはもう一つのオアシスがあるじゃないか!」ニヤッ
男「早速、向かうとしよう」 スタッ
男「──おっと! その前に、まずは朝一番恒例のアレを……」テクテク
ガチャッ トクトクトクトク
男「んぐ……」ゴグゴク
男「ぷはぁ! やっぱり夏といえばキンキンに冷えた麦茶だよなぁ!」
男「……」
ミーン……ミンミン……ミーン……
男「夏……か……」ゴトッ
男(もう世間の学生達は夏休みに入っているんだろうな……羨ましいよ……)
男(ま、かく言う俺も、かれこれ三年ほど夏休みを継続しているわけだが)クスッ
男(……いや、笑い事じゃないな。 いい加減に就職して働かないと……)
男(……)
母「男?」ユサユサ
男「わっ!?」ビクッ
母「どうしたの? ボーっとして」クスッ
男「いや……別に、何でも……」
母「お弁当作ったからお昼にでも食べてね?」スッ
男「あっ、ありがとう」
男「……」
母「妹の分もあるから、後で伝えててちょうだい」
男「あぁ」
母「それじゃ、私は仕事に行ってくるからね」ニコッ
男「うん、行ってらっしゃい」
母「それと……もしお客さんが来た時や外出する時はちゃんと服を着ていかなきゃダメよ?」クスッ
男「わ、わかってるよそんな事! 当たり前だろ!?」ドキッ
母ちゃん「ふふ、じゃあね」ガチャン
男「ったく……」
男「……」
男(いつもごめんな、母ちゃん……)
男「……さて、と」テクテク
・妹部屋
妹「ふんふーん♪」
ガチャッ
妹「!?」ビクッ
男「うっひょおおお! やっぱりお前の部屋は冷房が効いてんなぁ」テクテク
妹「きゃあああああああああ!!!」
男「うおっ!?」ビクッ
妹「勝手に入らないでよっ!」ブンッ
男「いてっ!」ボフッ
男「この野郎…… いきなり兄の顔面に枕を投げつけるとは一体、何様──」
妹「うるさい! つーか服を着ろ変態っ!」 ブンッ
男「がっ!?」バキッ
男「……おい……目覚まし時計はシャレにならんぞ……?」ヨロッ
妹「いいから出ていけっ! 出 て い けっ!!!」 ゲシッ ゲシッ
ガチャン!
男「いてて……締め出された……」 トボトボ
男「今さら家族の裸体が何だってんだよ……!」スルスル
テクテク
男「おーい! ちゃんと服を着てきたから部屋に入れてくれ!」コンコン
妹「やだっ!」
男「なにっ!?」
妹「お兄みたいなダメ人間が入ってきたら私の部屋が腐っちゃうもん!」
男「お前にとっての俺は悪性の菌かよ……」
妹「よくわかってるじゃない」
男「……」
妹「お兄はノックも禁止! 部屋に近寄るのも禁止っ!」
男「……」
男(……軽く泣きそうだ……)トボトボ
・リビング
ミーン……ミンミン……ミーン……
男「あああ……暑い……」
男「ちくしょう……俺の部屋には何もないのに、 なんで妹の部屋だけ空調設備が万全なんだよ……」ブツブツ
男「いや……それを除いても、あいつはいつも家庭内でVIP扱いだった!」 ブツブツ
男「特に、親父の妹贔屓っぷりは半端じゃなかったな……」
男「……」
男「まぁ、当然っちゃ当然か……」
男「妹は……俺のようなダメ人間のクズとは違う……」
男「小中高の成績は常にナンバーワン、部活でやってたテニスの実力は全国大会優勝レベル……そして現在は一流の大学へ通う将来有望な完璧超人……」
男「あいつはきちんと周りの期待に応えながら生きてきたんだ……持て囃されて当然じゃないか……」
男「……」
男「それに比べて……俺は……」
ミーン……ミンミン……ミーン……
男「俺は……!」ポロポロ
ガチャッ
男「!」ビクッ
妹「──わっ!?」ムワァアア
妹「あっつぅ……何で冷房つけてないの!? 」
男「……壊れてんだよ」グシグシ
妹「えっ!?」
男「だから俺はお前の部屋に足を踏み入れたってワケよ」
妹「はぁ……もう最悪っ!」
妹「きっと、エアコンはお兄のダメ人間ウイルスに犯されてダメになっちゃったんだよ!?」ガミガミ
男「……俺の心をこれ以上エグるようなこじつけはやめろ……」
妹「私も感染する前にとっとと外出しなきゃ! ……と、その前にっ!」テクテク
男「そういやお前、夏休みなんだよな。 これからどっか行くのか?」
妹「バイト」ガチャッ トクトクトクトク
男「そっか……」
妹「んぐ、んぐ……」ゴグゴク
妹「ぷはぁ! やっぱり夏といえばキンキンに冷えた麦茶に限るっ♪」ゴトッ
男「……ぷっ」クスクス
妹「は? 何で笑ってるの?」
男「いや、なんだかんだ言っても俺達って兄妹だな……って」クスクス
妹「お兄……」
男「昔はよく一緒に遊んだりしたよな。 夏休みなんか特にさ」クスクス
妹「キモいんだけど……」 ゾワゾワ
男「……」
妹「さってと!」スタッ
男「母ちゃんが弁当作ってくれてるぞ。 忘れずに持っていけよ?」
妹「やったぁ♪ ……って、二つ置いてあるけど、どっちが私の?」
男「あぁ? どっちも一緒だろ。 好きなほう持って行けよ」
妹「うーん……じゃあ、こっちの大きめなお弁当持って行こっと♪」スッ
妹「それじゃ、行ってきます」テクテク
男「気をつけてな」
妹「……あ、お兄っ!」ピタッ
男「ん?」
妹「絶っ……対に私の部屋には入らないでよね!?」
男「なっ!?」ギクッ
男「待てっ! そしたら俺は、この蒸し風呂のようなリビングかマイルームで過ごせっていうのか!?」
妹「うん」
男「ふざけんな! いくらお前の部屋と言えども、同じ家族なら──」
妹「ふざけてるのはお兄の方だよ」
男「!?」
妹「さっさと働きなよ」
男「う……」
妹「それから給料を貯めて自室にエアコンを付ければいいじゃん」
男「……」
妹「言っとくけど……私の部屋にあるエアコンは、昔からずっと貯金してたバイト代を使って購入したんだからね。 それなりの光熱費だってちゃんとママに支払ってる」
男「……マジで?」
妹「お兄に文句を言われる筋合いなんて、これっぽっちも無いよ」
男「……」
男「それは悪かった。 ごめんな」
妹「……」
妹「……私ね……今のカッコ悪いお兄は大っ嫌い」
男「え?」
妹「働きもせず毎日グダグダ生活してるだけのお兄は大っ嫌い!!!」
男「……」
男「妹……」
妹「ねぇ……小さい頃の夏休みの時みたいなお兄はどこに行ったの?」
男「!」
妹「あの頃のお兄は目がキラキラ輝いていて……毎日、活き活きとしてた……」
妹「戦隊モノのヒーローなんか目じゃないくらい……最高にカッコ良かった……」
妹「大好きだったよ……」
男「……」
妹「……じゃあね」ガチャン
男「……」
ミーン……ミーン……
男「……」
男「う……」ガクッ
男「うぅ……ううう……」ポロポロ
男「うわぁあああ……」ポロポロ
ミーン……ミンミン……ミーン………
俺は何故か号泣してしまった
自分の不甲斐なさが悔しかったのか……
妹に嫌われている事が悲しかったのか……
それとも……
もう二度と戻る事の無い、遠い夏の日の自分が恋しくなったのか……
ミーン……ミーン……
男「……」ポロポロ
昔から変わらず鳴り響くセミの声が……まるで俺を慰めているかのように聞こえた
ミーン……ミンミン……ミーン……
男「……」ヒグッ ヒグッ
男「ダサ過ぎだろ……俺……」ヒグッ ヒグッ
男「……」ヒグッヒグッ
男「久し振りだな……」ヒグッ ヒグッ
男「こんなに……泣いたのは……」 ヒグッ ヒグッ
男「ははは……」ヒグッ ヒグッ
男「少しだけ……子供の頃に戻れた気分だ……」クスッ
ミーン……ミンミン……ミン……
男「しっかし……暑いなぁ……」 ジワジワ
男「汗と涙を流し過ぎて喉もカラカラだ」ムクッ
男「こんな時には……」テクテク
男「麦茶(こいつ)が全て潤してくれる」ガチャ トクトクトクトク
男「んぐ……」ゴクゴク
ツルッ
男「あっ──」スポンッ
パリーンッ!
男「しまった……コップが……!」
男「くそっ……汗で手が滑りやすくなってる事を意識してなかったな……」
男「えーっと、タオルは……」スッ
フキフキ フキフキ
男「……なんか……物凄く惨めだ……」 フキフキ
男「割れたコップは新聞紙で包んでおくか」カサッ カサッ
ヒラッ
男「おっと……折込チラシが……」
男「……ん?」スッ
男「これは……家電量販店のチラシ……」
男「……」ジーッ
男「うーん……こうして見ると、エアコンって恐ろしく値段が高いよなぁ」
男「あいつ……よっぽど節約して貯金したんだな……偉いよ、ホントに」
男「それに比べて……」ジーッ
男「扇風機の安さと言ったら……」 ジーッ
男「ま、無一文の俺には高いも安いも関係無いんだけどな」クスッ
男「はぁ……」カチャ カチャ
男「これで良し……っと」ガサガサ
男「チクショウ……余計に汗をかいちまったじゃねーか……」ダラダラ
男「暑い……」
男「せめて俺の部屋に扇風機でもあれば……」
男「ん? ……扇風機?」
男「あっ!!!」ピコーン!
男「そうだっ! 扇風機!」
男「エアコンに魅了され過ぎてて、すっかり存在を忘れてしまっていた!」
男「まだ家のどこかにあるはずだ……あの扇風機が!」 ダッ
ミーン……ミンミン……ミーン……
男「はぁ……はぁ……」ガラガラ ゴソゴソ
男「おっかしいなぁ……押し入れの中にあると思ったんだけど……」ゴソゴソ
男「くそぉおおお! 頼むから出てこいよ!」ゴソゴソ
ミーン……ミンミン……ミーン……
男「はぁ……ダメだ……見つからねぇ……」 ドサッ
男「もう……捨てられたってのか?」ハァ ハァ
男「いや、押し入れに無いとすれば……」 ハァ ハァ
男「……もしかして、外の親父の農具倉庫の中に……」ハァ ハァ
男「一応、行ってみるか……」ムクッ
ガチャンッ テクテクテクテク……
・農具倉庫
男「久し振りだな……ここを開くのも……」
男「よっ、と!」ガラガラガラガラ
モワァアアアン……
男「げほっ! ごほっ!」パタパタ
男「なんつう埃の舞いっぷりだよ……」 ゲホゲホッ
男「くぅ……」ゴソゴソ
男「……!」ゴソッ
男「あった……これだっ!」ガシッ
男「うひょおおおっ! 懐かしいなぁ!」 スリスリ
男「早速、マイルームへご招待っと……」 ガラガラガラガラ
男「……」
男「……いい加減にこの倉庫の中も掃除してあげなきゃな……」
男「もう少し待っててくれ……親父……」テクテク
・男部屋
男「よいしょ!」スッ
男「いやぁ、ホンっト懐かしいな!」
男「確か、小学生の頃に使っていたから……十数年ぶりになるのか!?」
男「…………まだ動くかな?」タラッ
ミーン……ミンミン……ミン……
男「まずは埃と汚れを落として」 フキフキ
男「コンセントにぶち込み……!」カチッ
男「スイッチ……オンっ!」ポチッ
扇風機「」パチッ パチパチッ
ブォオオオ
男「動いた!?」
男「うぉおおお! 動いた……動いたぁああああっ!」バッ
ブォオオオ
男「なんて心地良い風だ……」
男「優しさが……体中に染み渡る……」
男「扇風機とは……こんなにも素晴らしいものだったのか……」ポロポロ
男「生きてて……良かった……」 ポロポロ
扇風機「……」パチッ パチパチッ
男「あっ……!」ピコーン
男「ふふふ、懐かしい事を思い出したぞ」ニヤッ
男「扇風機といえば……『宇宙人の声真似』だっ!」バッ
ガシッ
扇風機「……」ピクッ
男「あ"あああああ」
扇風機「……!」
男「あっはっはっ! 懐かしーっ!」 ゲラゲラ
男「あ"ああああああ」
扇風機「クサッ……」ボソッ
男「あ"ああああああ」
扇風機「クサい……」イライラ
男「あ"ああああああ」
扇風機「」ブチッ
扇風機「クサいって言ってるでしょーがッ!!!」クワッ
男「うおっ!?」ビクッ
男「……」
男「なんだ……!? 今の声……」
扇風機「あんた毎日歯ぁ磨いてんの!? 息が臭過ぎなのよっ!!!」
男「……」ポカーン
男「……お前が喋ってるのか?」
扇風機「他に誰がいるのよ! このバカッ!」
男「……」ポカーン
男「これは……夢だよな……」ギュッ
男「もしくは、暑さに頭をやられてしまったのか……?」
扇風機「ったく……」ブォオオオ
ミーン……ミンミン……ミーン……
扇風機「ねぇ」
男「……」ポカーン
扇風機「ねぇってばっ!」
男「は……はい」ビクッ
扇風機「一回、止めて!」
男「……」ポチッ
ブォオオ……ン……
扇風機「……私を見て何か気が付かない!?」
男「え?」
扇風機「羽よ、羽っ! まだ少しシミが付いてるでしょっ!? さっさと拭き取りなさいっ!」
男「シミ? ……って、おいおい! それ以上綺麗になんか出来ないって!」
扇風機「あっそ……じゃあ、もうあんたに風なんて送らないからっ!」プイッ
男「なっ!?」
男「冗談じゃないっ!」ポチッ
男「……」ポチッ ポチッ
男「この野郎……!」ポチッ ポチッ ポチッ
扇風機「ふんっ!」シーン……
男「……」ジワジワジワジワ
男「くそ……やればいいんだろ!? やれば!」ガシッ
扇風機「ちょ、ちょっと! 乱暴に分解しないでよっ!」カシャン カシャン
男(何なんだよ一体……こんな摩訶不思議な扇風機じゃなかったハズだが……)カシャン カシャン
扇風機「爪を立てないでっ! 傷が入っちゃうじゃない!」カシャン カシャン
男(それにしても……なんて態度のデカい扇風機だ……)イライラ
男「よし! 取れた!」カラン
男「……食器用の洗剤を使って洗ってみるか」スッ
扇風機「さっさと行ってきなさい! このままじゃ私の見栄えが悪いでしょ」
男「はいはい(俺以外誰も見てねーだろ……)」 トボトボ
ミーン……ミンミン……ミーン……
男「フッフッフ……」テクテク
扇風機「ちゃんと綺麗に洗ってきたんでしょーね?」
男「俺を誰だと思ってやがる」ニヤッ
スッ
男「……どうだっ!?」キランッ
扇風機「あ……」
男「へへっ! 凄いだろ!?」ニコッ
扇風機「や、やれば出来るじゃないっ!」///
男「少し強めに擦ってしまったけど勘弁してくれな」カチャ カチャ
扇風機「……」/// カチャ カチャ
男「さ、完成だ!」カチャン
扇風機「……は、早く押しなさいよ」/// ボソッ
男「ん?」
扇風機「スイッチ……」///
男「お、おう」ポチッ
ブォオオオ
男「ふぉおおお! 気持ちいいい!」ニコニコ
扇風機「ふふふ……」クスッ
扇風機(大きくなったわね……男)
扇風機「……」
妹(小学生時代)『うぇえええん! カブトムシほしいよぉ!』
父『ごめんな妹……父ちゃん今、仕事で忙しいから、また今度探しに行こうな?』
扇風機『……』ブォオオオ
妹(小)『今すぐほしいの! 今すぐほしいのぉおお!』ジタバタ ジタバタ
父『参ったな……』ポリポリ
男(小)『おーい! 妹ーっ!』タッタッタッ
妹(小)『あ……お兄……』グスッ
男(小)『これ……なーんだ!?』スッ
妹(小)『わぁっ! カブトムシっ! クワガタさんも一緒だぁっ!』ニパァ
男(小)『へへっ! 凄いだろ!? 裏山で捕って来たんだ! お前にやるよ!』 ニコッ
父『おぉ! やったな妹! お兄ちゃんにお礼を言いなさい』ニコッ
妹(小)『ありがとう、お兄っ! 』ニコニコ
扇風機『……』クスッ
扇風機「……」
扇風機「大きくなったけど……」
扇風機「笑顔は全然変わってないわね」クスッ
男「ん? 何の話だ?」
扇風機「あんたの話よ」クスクス
また明日以降に更新しようと思います
レスありがとうございます
ミーン……ミンミン……ミーン……
扇風機「最後に私を使ってから、もう何年ぐらい経ったのかしら?」
男「余裕で十年を超えてるよ。 小学生の時以来なんだから 」クスクスッ
扇風機「そっか……あんたも随分と大人になってしまってるもんね」
男「……」
扇風機「もう働いてる年頃でしょ? どんな仕事やってるの?」
男「……お前、それだけは聞くな」 グサッ
扇風機「ふーん……やっぱり無職なんだ」
男「うっ!」ドキッ
男「な……なんでわかるんだよ」
扇風機「私の声が聞こえているから」
男「は? どういう事だ?」
扇風機「さぁね。 いいから、さっさと仕事でも探しに行きなさい」
ブォオオオ……ン……
男「げっ!? なに勝手に止めてんだよ!?」
扇風機「仕事を探しに行けっつってんでしょ!?」カラカラ……
扇風機「グダグダしてるだけのダメ人間に風なんか送りたくないもの」
男「お前までダメ人間って言うなよチクショウ」
扇風機「頑張ってる姿を見せてくれるダメ人間なら話は別だけど」
男「……」ググッ
扇風機「……」
男「わかってる……」
妹『……私ね……今のカッコ悪いお兄は大っ嫌い』
男「わかっているんだ……」
妹『働きもせず毎日グダグダ生活してるだけのお兄は大っ嫌い!』
男「わかっているんだよッ! さっさと働かなきゃいけないってッ!!!」
男「はぁ……はぁ……」
男「……」ギリッ
扇風機「……」
男「俺は……妹とは違う……」
男「勉強も出来ない、運動も出来ない」
男「周りの期待を裏切る事しか出来ない」
男「周りに迷惑をかける事しか出来ない」
男「そんなクズが……社会で通用すると思うか?」
扇風機「……」
男「何も持たないクズに生きている価値なんてあると思うか?」
扇風機「……」
扇風機「あんたって、そんな面倒臭い性格だったっけ?」
男「!」
扇風機「妹とは違う? 当たり前でしょ」
扇風機「どこ見て歩いてんのよバカ」
扇風機「あんたはあんたらしく……前だけ見て歩いてりゃいいのよ」
男「扇風機……」
扇風機「どんなに怒られようが物怖じせず全力でふざけていたあんたが……」
扇風機「どんなに強烈な台風が迫っていようとも外へ遊びに行こうと必死だったあんたが……」
扇風機「こんな所でビビってんじゃないわよっ!」
男「……」プルプル
扇風機「夏にくすぶるあんたなんて見たくない」
男「……」ポロポロ
扇風機「……泣いてるの?」
男「!」ゴシゴシ
男「ば、バカっ! 汗だよ、汗!」 ゴシゴシ
男「……ありがとうな、扇風機」
男「少しだけ気が楽になったよ」
扇風機「べ、べつに私は思った事を言っただけよっ!」///
男「俺……行ってくるよ……職安に」
扇風機「!」
グゥウウウ……
男「……飯食ってから、な」クスッ
・妹のバイト先
先輩「お疲れ、妹ちゃん!」
妹「あ、お疲れ様です先輩っ!」
先輩「昼ご飯食べてきなよ。 オレが交代してやっとくからさ」
妹「ありがとうございますっ! それじゃ、行ってきまーす!」タッタッ
・休憩室
妹「お弁当っ♪ お弁当っ♪」ゴトッ
友「ひゃあ、ずいぶん大きなお弁当持ってきたわね」
妹「まぁね!」
妹(ホントはこっちのお弁当がお兄のだったんだろうけど……)
妹「働かざるもの食うべからずっ!」
友「?」
妹「いっただっきまーすっ♪」パカッ
友「……あれ?」チラッ
友「あんたの弁当袋の中……なんか手紙が入ってるよ?」
妹「え? あ、ホントだ」
妹「なんだろ? この手紙」カサカサッ
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