高峯のあ「牛丼並……4つでいいかしら?」 (545)
●注意●
・短編形式
・日常系SS
・のあさんのキャラ、口調、クールなイメージが『著しく』崩壊します
・独自解釈している点が多々ありますので、ご了承下さい
・雑談はご自由に
●登場人物●
高峯のあ、他
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SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1479041217
━━━━━━━━━━
【吉野家・テーブル席】
時子「………………」
のあ「……」
楓「」
泰葉「(な、な、なっ……!)」
泰葉「(何でですか!?)」
泰葉「(なんであの時子さんが相席にいるんですか!! 高峯さん、聞いてませんよ私達!?)」アセアセ
楓「(メールで急に『奢るから、吉野家に泰葉と二人で来て頂戴』と連絡があったと思ったら……)」
楓「(い、一体何があったんですか、のあさん? この緊迫した状況は)」
のあ「(………………)」
楓&泰葉「……」
のあ「(……………………)」
泰葉「(喋って下さい。本当に帰りますよ私達)」スッ
のあ「(ゴ……、ごめんなさい。放心してたわ)」
のあ「(いつも通りに帰りに吉野家に出向こうとしたら……)」
のあ「(吉野家の扉の前で時子が張っていた。果たし状を送りつけ、今か今かと宿敵を待つヤンキーの如く)」
楓「(な、何故時子ちゃんが吉野家に……)」
のあ「(それで、目が合ったら物凄い剣幕で接近されて……、その……)」
~~~~~~~~~~
時子『……お腹空いてないかしら、貴女』
のあ『ハヒッ……す、空いてまスッ……!!』
~~~~~~~~~~
のあ「(……って)」
楓「(完全に委縮してる……)」
泰葉「(し、仕方ないですよ。時子さんが相手だったら誰だってそうなります、私だってそうなります)」
泰葉「(しかも、時子さんは事務所での言動からして女王気質というか、唯我独尊、利己的。部類的にはかなり難しい性格の方)」
泰葉「(特に今回のようなケースだと、その真意を測りかねるというか、私達もどう動いて良いのやら)」
時子「………ちょっと」
のあ「ヒッ……!」ビクッ
楓「ヒッ……!」ビクッ
泰葉「ヒッ……!」ビクッ
楓「(と、とにかく! 普通に接しましょう!)」
楓「(彼女の機嫌を損なわせるそれ即ち、全人類に長期戦を覚悟させる事態になります)」
のあ「(……慎重に行きましょう。一つの選択肢のミスが死を招くわ、凄惨な終焉を)」
泰葉「(アナタ達は時子さんをむき出しの核兵器か何かと勘違いしてませんか!?)」
時子「………ねえったら」
泰葉「は……、ハイハイっ。なんですか時子さん?」
時子「………注文は?」
泰葉「ッ! (注文か。良かった、至極当然の要求)」フー
泰葉「(……高峯さん)」チラッ
のあ「(……ええ。任せて)」チラッ
のあ「ス……、すみません。注文を」
店員「あっはい。お伺い致します」
のあ「牛丼並……4つでいいかしら?」
泰葉「あ、ハイ。私も同じ物で」
楓「私も同じでお願いします」
時子「………私もそれでいいわ」
店員「はい、少々お待ちください」スッ
のあ「………」
泰葉「………」
楓「………」
時子「………」
のあ「………………」
泰葉「………………」
楓「………………」
時子「………………」
のあ「(…………)」
のあ「(…………帰りたい)」
楓「(ヤ、泰葉ちゃん……何か喋って、盛り上げてさしあげて)」
泰葉「(や、やめてください! ………………本当にやめてください)」
時子「(………)」
━━━15分後━━━
泰葉「(……というか、注文すこし遅くないですか?)」
楓「(緊張で胃袋が口からボロンと出そうです……)」
店員「お待たせいたしましたー」
泰葉「(あっ、来た)」
店員「コチラ、ご注文の───」
店員「牛丼並、16杯になります」
店員B「お待たせいたしましたー」
───ゴトッ!
泰葉「(───ッッ!?)」
店員「ご注文は全てお揃いでしょうか?」
のあ「ハ……はい」
泰葉「!?」
店員B「ごゆっくりどうぞー」スタスタ
のあ「……………………」
時子「……」
のあ「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………やすは………っ」チラッ
泰葉「(な、涙目っ!!)」
時子「………泰葉?」
泰葉「ハ、ハヒッ……!?」ビクゥ!
泰葉「わ……、分りましたっ……私が、何とかしますから」
時子「…………」
泰葉「(な、何故16杯分も頼んだことになっているかは、ほとほと疑問ですが……)」
泰葉「(というか、こういう場合って店員は一度復唱するべきでは? 普通では有り得ないでしょう、4人で16杯なんて。俗な観察番組でもあるまいし)」
泰葉「(まあ、過ぎたことをあれこれ考えても仕方ない。オーダーミスとしてこのまま食べずに返品すれば良いだけの話……そもそも店員の取り違いなんだし。非は向こうに───)」
泰葉「(───えっ!?)」ギクッ
泰葉「と、時子さん!? 何で箸を付けてるんですか!?」ガタッ!
泰葉「しかも4つの器から少しずつ摘まんでる!? いや、牛臭いとか言ってる場合じゃなくて……!!」
泰葉「ッッ!?」
泰葉「ちょ、ちょっと二人とも!! いただきますのポーズ取ってる場合じゃないですよ!! ちょっと!!」
泰葉「いや、いやいやいや!! 私が何とかするっていうのは、『私が全部食べる』とかそういう意味じゃなくて!!」
泰葉「ちょっ……!!」
モグモグモグ
───カチャカチャ、パクッ
泰葉「ア……、アァ…………」
──────
────
──
──
────
──────
【事務所】
のあ「『LIVEバトル』?」
P「ええ、そうです。初耳でしたか?」
のあ「(……)」
P「ソロ、またはユニットが複数単位で競合する形式のライブイベントですね」
P「足並みを揃える一般のライブとは違い、全面的に個性と個性のぶつかり合いです」
のあ「(……)」ボー
P「歌唱や踊りは勿論、演出家と相談して仕掛けや装置などの特殊効果で華を添えてもOKです」
P「とにかく相手より観客を魅了することを目標にして、磨き上げたパフォーマンスを披露します」
のあ「(……)」ボー
P「ですが安心してください。なにも『バトル』といっても、実際に得点や優劣を競ったりするわけではありません」
P「今では他事務所との合同イベントや、同事務所内でのバーターや、真剣勝負と銘打って実はあらかじめ掛け合いやプログラムが組まれてるなんて事も多々あります。3番目が特に多いですね」
P「形だけでも『競い合い』を念頭に置いているので、分かりやすい指標を明確にし努力の方向性も定まりますし、創意工夫のパフォーマンスで新たな一面を発掘できることもあります」
のあ「(……)」ボー
P「……LIVEバトルの相手は同じ事務所の木村夏樹・多田李衣菜のデュオです。ランクは遥かに上の相手……ですが」
P「ですが今回は、貴女の可能性に賭けて挑戦していきたいと思います」
のあ「(……)」ボー
P「……高峯さん? ここまでは良いですか?」
のあ「(───ハッ!?)」ビクッ
のあ「キ……聞いているわ」
のあ「世の縮図……美しく実る花も、剪定の元に成り立つ悲しき宿命」
のあ「弱肉強食……『たたかわなければ生き残れない』、という事ね」
1(二) どうみても俺たちがライブで見た泣き顔だよ
2(遊) ダカーポと喘ぎ声が違う。エロゲは演技だったのか。
3(一) 大体、細胞の入れ替わりでもう5年以上経つんだし別人だろ
4(左) アルバム3800円もすんのにハメ撮り780円かよ
5(三) よくこんな乳首で声優やろうと思ったな
6(右) 本当のファンなら抜くのが礼儀
7(中) えみつんが気持ち良さそうで良かった
8(捕) これを考えるとfinalのBDでも抜けそう
先発 全身の力が抜けて何も意欲が湧かないのにチンコだけ勃起した精子が止まらないもうだめだ
中継 目をつぶれば高坂穂乃果、目を開ければ新田恵海。こんな素晴らしいAV初めてだよ。
抑え えみつんと限りなく同化してた穂乃果のイメージが分離して宙に浮いてる感覚
何が言いたいのかわからんが不思議な気分だ
穂乃果、お前は誰なんだ
代走 日本武道館、横浜アリーナ、さいたまスーパーアリーナ、紅白、東京ドームと数々のステージを渡り歩いて
最後のステージがプレステージって何だよこのオチは
一塁コーチ 金玉こんなに丁寧に舐めるなら声優の仕事も同じくらい丁寧にやれや
三塁コーチ つまり過去を消したかったらホクロ全部取って歯全部抜いて耳両方切り落とせばええねんな
監督 やっぱなぁ声優とキャラは切り離して見るべきだったんだよ
俺が好きなのは穂乃果なんだって再認識したわ
新田恵海というのは穂乃果のものまね芸人
オーナー 俺はもうアニメをみてもどの曲を聴いてもAVと関連付ける事しか出来なくなった
ドゥーン!なんて挿入した時の擬音にしか思えない
というかμ's←これがもう精子が飛び散った形にしかみえない
俺はもうだめだお前らあとは頼んだ
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【吉野家・テーブル席】
>>1-10
時子「………………」
のあ「……」
楓「」
泰葉「(な、な、なっ……!)」
泰葉「(何でですか!?)」
泰葉「(なんであの時子さんが相席にいるんですか!! 高峯さん、聞いてませんよ私達!?)」アセアセ
楓「(メールで急に『奢るから、吉野家に泰葉と二人で来て頂戴』と連絡があったと思ったら……)」
楓「(い、一体何があったんですか、のあさん? この緊迫した状況は)」
のあ「(………………)」
楓&泰葉「……」
のあ「(……………………)」
泰葉「(喋って下さい。本当に帰りますよ私達)」スッ
のあ「(ゴ……、ごめんなさい。放心してたわ)」
のあ「(いつも通りに帰りに吉野家に出向こうとしたら……)」
のあ「(吉野家の扉の前で時子が張っていた。果たし状を送りつけ、今か今かと宿敵を待つヤンキーの如く)」
楓「(な、何故時子ちゃんが吉野家に……)」
のあ「(それで、目が合ったら物凄い剣幕で接近されて……、その……)」
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時子『……お腹空いてないかしら、貴女』
のあ『ハヒッ……す、空いてまスッ……!!』
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のあ「(……って)」
楓「(完全に委縮してる……)」
泰葉「(し、仕方ないですよ。時子さんが相手だったら誰だってそうなります、私だってそうなります)」
泰葉「(しかも、時子さんは事務所での言動からして女王気質というか、唯我独尊、利己的。部類的にはかなり難しい性格の方)」
泰葉「(特に今回のようなケースだと、その真意を測りかねるというか、私達もどう動いて良いのやら)」
時子「………ちょっと」
のあ「ヒッ……!」ビクッ
楓「ヒッ……!」ビクッ
泰葉「ヒッ……!」ビクッ
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【吉野家・テーブル席】
>>1-10
時子「………………」
のあ「……」
楓「」
泰葉「(な、な、なっ……!)」
泰葉「(何でですか!?)」
泰葉「(なんであの時子さんが相席にいるんですか!! 高峯さん、聞いてませんよ私達!?)」アセアセ
楓「(メールで急に『奢るから、吉野家に泰葉と二人で来て頂戴』と連絡があったと思ったら……)」
楓「(い、一体何があったんですか、のあさん? この緊迫した状況は)」
のあ「(………………)」
楓&泰葉「……」
のあ「(……………………)」
泰葉「(喋って下さい。本当に帰りますよ私達)」スッ
のあ「(ゴ……、ごめんなさい。放心してたわ)」
のあ「(いつも通りに帰りに吉野家に出向こうとしたら……)」
のあ「(吉野家の扉の前で時子が張っていた。果たし状を送りつけ、今か今かと宿敵を待つヤンキーの如く)」
楓「(な、何故時子ちゃんが吉野家に……)」
のあ「(それで、目が合ったら物凄い剣幕で接近されて……、その……)」
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時子『……お腹空いてないかしら、貴女』
のあ『ハヒッ……す、空いてまスッ……!!』
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のあ「(……って)」
楓「(完全に委縮してる……)」
泰葉「(し、仕方ないですよ。時子さんが相手だったら誰だってそうなります、私だってそうなります)」
泰葉「(しかも、時子さんは事務所での言動からして女王気質というか、唯我独尊、利己的。部類的にはかなり難しい性格の方)」
泰葉「(特に今回のようなケースだと、その真意を測りかねるというか、私達もどう動いて良いのやら)」
時子「………ちょっと」
のあ「ヒッ……!」ビクッ
楓「ヒッ……!」ビクッ
泰葉「ヒッ……!」ビクッ
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>>1-10
時子「………………」
のあ「……」
楓「」
泰葉「(な、な、なっ……!)」
泰葉「(何でですか!?)」
泰葉「(なんであの時子さんが相席にいるんですか!! 高峯さん、聞いてませんよ私達!?)」アセアセ
楓「(メールで急に『奢るから、吉野家に泰葉と二人で来て頂戴』と連絡があったと思ったら……)」
楓「(い、一体何があったんですか、のあさん? この緊迫した状況は)」
のあ「(………………)」
楓&泰葉「……」
のあ「(……………………)」
泰葉「(喋って下さい。本当に帰りますよ私達)」スッ
のあ「(ゴ……、ごめんなさい。放心してたわ)」
のあ「(いつも通りに帰りに吉野家に出向こうとしたら……)」
のあ「(吉野家の扉の前で時子が張っていた。果たし状を送りつけ、今か今かと宿敵を待つヤンキーの如く)」
楓「(な、何故時子ちゃんが吉野家に……)」
のあ「(それで、目が合ったら物凄い剣幕で接近されて……、その……)」
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時子『……お腹空いてないかしら、貴女』
のあ『ハヒッ……す、空いてまスッ……!!』
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のあ「(……って)」
楓「(完全に委縮してる……)」
泰葉「(し、仕方ないですよ。時子さんが相手だったら誰だってそうなります、私だってそうなります)」
泰葉「(しかも、時子さんは事務所での言動からして女王気質というか、唯我独尊、利己的。部類的にはかなり難しい性格の方)」
泰葉「(特に今回のようなケースだと、その真意を測りかねるというか、私達もどう動いて良いのやら)」
時子「………ちょっと」
のあ「ヒッ……!」ビクッ
楓「ヒッ……!」ビクッ
泰葉「ヒッ……!」ビクッ
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【吉野家・テーブル席】
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時子「………………」
のあ「……」
楓「」
泰葉「(な、な、なっ……!)」
泰葉「(何でですか!?)」
泰葉「(なんであの時子さんが相席にいるんですか!! 高峯さん、聞いてませんよ私達!?)」アセアセ
楓「(メールで急に『奢るから、吉野家に泰葉と二人で来て頂戴』と連絡があったと思ったら……)」
楓「(い、一体何があったんですか、のあさん? この緊迫した状況は)」
のあ「(………………)」
楓&泰葉「……」
のあ「(……………………)」
泰葉「(喋って下さい。本当に帰りますよ私達)」スッ
のあ「(ゴ……、ごめんなさい。放心してたわ)」
のあ「(いつも通りに帰りに吉野家に出向こうとしたら……)」
のあ「(吉野家の扉の前で時子が張っていた。果たし状を送りつけ、今か今かと宿敵を待つヤンキーの如く)」
楓「(な、何故時子ちゃんが吉野家に……)」
のあ「(それで、目が合ったら物凄い剣幕で接近されて……、その……)」
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時子『……お腹空いてないかしら、貴女』
のあ『ハヒッ……す、空いてまスッ……!!』
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のあ「(……って)」
楓「(完全に委縮してる……)」
泰葉「(し、仕方ないですよ。時子さんが相手だったら誰だってそうなります、私だってそうなります)」
泰葉「(しかも、時子さんは事務所での言動からして女王気質というか、唯我独尊、利己的。部類的にはかなり難しい性格の方)」
泰葉「(特に今回のようなケースだと、その真意を測りかねるというか、私達もどう動いて良いのやら)」
時子「………ちょっと」
のあ「ヒッ……!」ビクッ
楓「ヒッ……!」ビクッ
泰葉「ヒッ……!」ビクッ
──
────
──────
【事務所】
のあ「『LIVEバトル』?」
P「ええ、そうです。初耳でしたか?」
のあ「(……)」
P「ソロ、またはユニットが複数単位で競合する形式のライブイベントですね」
P「足並みを揃える一般のライブとは違い、全面的に個性と個性のぶつかり合いです」
のあ「(……)」ボー
P「歌唱や踊りは勿論、演出家と相談して仕掛けや装置などの特殊効果で華を添えてもOKです」
P「とにかく相手より観客を魅了することを目標にして、磨き上げたパフォーマンスを披露します」
のあ「(……)」ボー
P「ですが安心してください。なにも『バトル』といっても、実際に得点や優劣を競ったりするわけではありません」
P「今では他事務所との合同イベントや、同事務所内でのバーターや、真剣勝負と銘打って実はあらかじめ掛け合いやプログラムが組まれてるなんて事も多々あります。3番目が特に多いですね」
P「形だけでも『競い合い』を念頭に置いているので、分かりやすい指標を明確にし努力の方向性も定まりますし、創意工夫のパフォーマンスで新たな一面を発掘できることもあります」
のあ「(……)」ボー
P「……LIVEバトルの相手は同じ事務所の木村夏樹・多田李衣菜のデュオです。ランクは遥かに上の相手……ですが」
P「ですが今回は、貴女の可能性に賭けて挑戦していきたいと思います」
のあ「(……)」ボー
P「……高峯さん? ここまでは良いですか?」
のあ「(───ハッ!?)」ビクッ
>>1
のあ「キ……聞いているわ」
のあ「世の縮図……美しく実る花も、剪定の元に成り立つ悲しき宿命」
のあ「弱肉強食……『たたかわなければ生き残れない』、という事ね」
──
────
──────
【事務所】
のあ「『LIVEバトル』?」
P「ええ、そうです。初耳でしたか?」
のあ「(……)」
P「ソロ、またはユニットが複数単位で競合する形式のライブイベントですね」
P「足並みを揃える一般のライブとは違い、全面的に個性と個性のぶつかり合いです」
のあ「(……)」ボー
P「歌唱や踊りは勿論、演出家と相談して仕掛けや装置などの特殊効果で華を添えてもOKです」
P「とにかく相手より観客を魅了することを目標にして、磨き上げたパフォーマンスを披露します」
のあ「(……)」ボー
P「ですが安心してください。なにも『バトル』といっても、実際に得点や優劣を競ったりするわけではありません」
P「今では他事務所との合同イベントや、同事務所内でのバーターや、真剣勝負と銘打って実はあらかじめ掛け合いやプログラムが組まれてるなんて事も多々あります。3番目が特に多いですね」
P「形だけでも『競い合い』を念頭に置いているので、分かりやすい指標を明確にし努力の方向性も定まりますし、創意工夫のパフォーマンスで新たな一面を発掘できることもあります」
のあ「(……)」ボー
P「……LIVEバトルの相手は同じ事務所の木村夏樹・多田李衣菜のデュオです。ランクは遥かに上の相手……ですが」
P「ですが今回は、貴女の可能性に賭けて挑戦していきたいと思います」
のあ「(……)」ボー
P「……高峯さん? ここまでは良いですか?」
のあ「(───ハッ!?)」ビクッ
>>1
のあ「キ……聞いているわ」
のあ「世の縮図……美しく実る花も、剪定の元に成り立つ悲しき宿命」
のあ「弱肉強食……『たたかわなければ生き残れない』、という事ね」
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【事務所】
のあ「『LIVEバトル』?」
P「ええ、そうです。初耳でしたか?」
のあ「(……)」
P「ソロ、またはユニットが複数単位で競合する形式のライブイベントですね」
P「足並みを揃える一般のライブとは違い、全面的に個性と個性のぶつかり合いです」
のあ「(……)」ボー
P「歌唱や踊りは勿論、演出家と相談して仕掛けや装置などの特殊効果で華を添えてもOKです」
P「とにかく相手より観客を魅了することを目標にして、磨き上げたパフォーマンスを披露します」
のあ「(……)」ボー
P「ですが安心してください。なにも『バトル』といっても、実際に得点や優劣を競ったりするわけではありません」
P「今では他事務所との合同イベントや、同事務所内でのバーターや、真剣勝負と銘打って実はあらかじめ掛け合いやプログラムが組まれてるなんて事も多々あります。3番目が特に多いですね」
P「形だけでも『競い合い』を念頭に置いているので、分かりやすい指標を明確にし努力の方向性も定まりますし、創意工夫のパフォーマンスで新たな一面を発掘できることもあります」
のあ「(……)」ボー
P「……LIVEバトルの相手は同じ事務所の木村夏樹・多田李衣菜のデュオです。ランクは遥かに上の相手……ですが」
P「ですが今回は、貴女の可能性に賭けて挑戦していきたいと思います」
のあ「(……)」ボー
P「……高峯さん? ここまでは良いですか?」
のあ「(───ハッ!?)」ビクッ
>>1
のあ「キ……聞いているわ」
のあ「世の縮図……美しく実る花も、剪定の元に成り立つ悲しき宿命」
のあ「弱肉強食……『たたかわなければ生き残れない』、という事ね」
飛鳥「実はこの前、同じ学校に通う男子生徒の先輩から告白されてね」
P「マジか!?」
飛鳥「ああ」
男子生徒『付き合って欲しい。返事はいつでも待ってるから』
飛鳥「――などと一方的に言われたよ」
P「はぇ~………そりゃ何とまぁ直球なことで………」
飛鳥「最近、この手のことが多くて困るよ」
飛鳥「キミにスカウトされ、アイドルになってからというもの、ボクをとりまくセカイが変わると同時に、周囲のボクを見る目も変わってしまった」
飛鳥「ボクをイタイ奴だと認識していたはずの男子生徒達から、熱の籠った視線を送られるようになっていった気がしてね」
P「まぁ、同級生に現役アイドルがいたらそうなるわな。お前は売れっ子だし、モテモテになるのはしょうがないよ」
飛鳥「………」
飛鳥「ちなみに。ボクに告白してきた先輩だけど、顔はアイドルもやれそうなぐらいに甘いマスクを持っていてね」
P「ほうほう」
飛鳥「それでいて、成績優秀。スポーツ万能、おまけに生徒会長もこなすなど、かなりハイスペック持ちでね」
P「そいつは確かにすごい完璧超人だな」
飛鳥「……そんな学園カーストのトップに告白されたんだ。まぁ、正直………悪い気はしなかったよ?」ニヤリ
P「ふむ、聞いた限りじゃいい感じの男子に見えるな」
P「よかったじゃないか、そんな完璧先輩に告白されて」
飛鳥「………」
飛鳥「」イラッ
飛鳥「そうそう、そういえば告白された時―――」
男子生徒『それでよかったら、今度一緒に遊びに行かないか? 二人きりで』
飛鳥「―――とも言われたよ」
P「つまり、デートに誘われたのか?」
飛鳥「そうだね。どうやらカレはボクがアイドルだというのを忘れたいるらしい。或いはアイドルは異性との恋愛を禁止されていること自体を知らなかったのかな?」
P「まぁ、中学生だしな」
飛鳥「でも、これも悪い気はしなかったよ。異性とのデートだなんて、ボクにはまだ未体験のセカイさ」
飛鳥「だから、正直興味深いとは思ったよ」
P「飛鳥はしたいのか? その先輩とのデートを?」
飛鳥「………プロデューサーはどう思う? ボクはデートしてもいいかい?」
P「う~ん………そうだな………」
飛鳥「………」
P「お前がどうしても、その学校の先輩とデートしたいって言うのなら、協力しないでもないぞ?」
飛鳥「!?」
P「本当ならアイドルがデートなんて厳禁だけど。お前ぐらいの歳の子じゃどうしても興味を持っちゃうよなぁ~」
P「それにこれは俺には縁遠かった、ほろ甘い青春ってやつだ」
P「中学の時にしか味わうことのできない貴重な経験なわけだし。だからできれば協力して――」
飛鳥「ッ!!」
飛鳥「もういい!!!!!」バンッ
P「!?」ビクッ
飛鳥「もういいよ………キミは本当に―――いや、なんでもない!」
飛鳥「フンッ!!」プイ
スタスタッスタッスタッ
P「えっ? えっ? えっ?」
P「なんで急にキレたんだ飛鳥のやつ………?」
P「俺何か言ったか!? むしろ理解のいい事を言ったはずなのに?」
P「一体どうして―――」
ちひろ「やれやれ、本当朴念仁ですねプロデューサーさんは」
P「あっ、ちひろさん」
ちひろ「わかってないみたいなので、教えてあげましょう」
ちひろ「飛鳥ちゃんはプロデューサーさんに嫉妬して欲しかったんですよ」
P「はぁ!?」
━━━━夜━━━━
【岡崎家】
楓「(……♪)」パクッ
泰葉「LIVEバトルですか」
泰葉「へえー。それにまあまあな規模のハコですね」
のあ「……」
泰葉「どの方と一緒に歌うんですか? つまり、お相手は?」
のあ「……言ってなかったわ」
泰葉「(ふつう言わない筈はないと思うんだけど……ううん)」
楓「(泰葉ちゃん、天つゆ取って下さい)」サクサク
泰葉「(あ、ハイ)」
のあ「……」
泰葉「あのLIVEって、すごいですよね。パフォーマンス」
泰葉「特殊効果と演出が、もう派手なんですよ」
のあ「……そうなの?」
泰葉「はい。例えば……、そうですね」
泰葉「割と無茶な要望も叶っちゃうんです。幸子ちゃんは野外ライブでスカイダイビングを行い上空から登場。小梅ちゃんはスリラーさながらのゾンビダンサーを大勢率いてカオスなライブを」
のあ「(……)」
泰葉「アナスタシアさんはインスタントスノーを使った煌びやかな演出を。あとニューウェーブの3人は泉さんの立案でプロジェクションマッピングを披露したりもしてましたね」
泰葉「美世さんが車をステージ最上部から落下させたときなんて、ただの事故でしたよ」
のあ「……」
泰葉「まあ、無難に演出家さんに任せている人も大勢いますけど。というかそっちが普通です」
楓「(泰葉ちゃん、ソース取って下さい)」サクサク
泰葉「(あ、ハイ)」
泰葉「のあさんは、何か要望とかはあるんですか?」
のあ「……」
のあ「……今のところは見当も付かない」
のあ「詳しく、他の子の話を聞かせて頂戴。参考にするわ」
泰葉「ええ、いいですよ」
のあ「………蘭子は?」
泰葉「蘭子ちゃん? あー、蘭子ちゃんは……」
泰葉「確か、ワイヤーアクションですね。イントロと同時に会場が暗転して、スポットが当たったと思ったら天から堕天───」
のあ「決まったわ」
泰葉「───えっ?」
のあ「私の、演出が」
泰葉「……!?」
楓「(泰葉ちゃん、抹茶塩取って下さい)」サクサク
──────
────
──
──
────
──────
【事務所】
───ガチャ
蘭子「闇に飲まれよっ!」(訳:おつかれさまですっ!)
蘭子「フフ……万代不易の理は環(マワ)り、降臨(キ)たるインフェルノの鉄の火は煉獄の如く、凄烈に我が身を焦がさん」
(●訳:今日はとてもいい天気で、暖かいですね! もうすっかり春の陽気です♪)」
蘭子「桃園の空の下、時代(トキ)の反乱(ウネリ)に御旗を掲げ、奸雄達は夢を馳せん。手に盃を、口に蜜を、腹に剣を、舞う花弁は近き日の戦火の……」
(●訳:お花見の季節ですね! そう言えば大人の皆さんがお花見の計画を……)」
シーン…
蘭子「……むぅ?」
蘭子「我が朋友(トモ)、いずこに……?」(訳:あれ、プロデューサー? いないんですか??)」
蘭子「……」キョロキョロ
のあ「……」ジー
蘭子「(っ!?)」ビクッ
蘭子「ヒッ、ハ………た、高峯サンっ……!」
蘭子「ぃ、いい居たンデスネっ……」プルプル
のあ「(……)」
蘭子「(ハァー、ハァー……)」ガクガク
蘭子「(あ、相変わらず格好良いっ、けど、怖いぃっ! い、意識が……)」ガクガク
のあ「……」
蘭子「…………」プルプル
のあ「……蘭子」
蘭子「ヒッ!」
蘭子「ハヒッ……は、はいッ!!」ビシッ!
のあ「闇に、飲まれよう」(●訳:お疲れさま)」
蘭子「(!!!)」
のあ「(……)」
蘭子「あっ………」
蘭子「ぉぉぉ……、オッ、おおっ、おおおおつかれさ───」
のあ【───花風紊れて花神啼き……】
のあ【天風紊れて天魔嗤う───】
のあ【───花天狂骨───】
蘭子「(───!?)」
P「嫉妬って………どういう事ですか?」
ちひろ「つまりですね―――」
P『ダニィ!? 俺の可愛い飛鳥が中学生のガキとデートじゃとぉ―――ッッ!!??』
P『ゆ゛る゛さ゛ん゛!!』
P『早速、そのガキを征伐しに出かける! 後に続け! ちひロット!!』
P『飛鳥の俺の物だ―――ッッ!!! 誰も手を出すな―――ッッ!!!』
ちひろ「――ってな感じの事を言って欲しかったんですよ」
P「えぇ~………」
のあ「……」
───スタスタ
蘭子「ヒ、ひっ……」ビクッ!
のあ【───届かぬ牙に 火を灯す───】スタスタ
のあ【───あの星を見ずに済むように この吭を裂いて しまわぬように───】スタスタ
蘭子「ヘ……あ、アェ……?」プルプル
のあ【───黒白の羅 二十二の橋梁 六十六の冠帯 足跡・遠雷・尖峰・回地・夜伏・雲海・蒼い隊列 太円に満ちて天を挺れ───】スタスタ
蘭子「ナ、ニ、ヲ……イ、言ッテ……???」ガクガク
───スタスタ
のあ【───滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧き上がり 否定し 痺れ 瞬き 眠りを妨げる】
のあ【───爬行する鉄の女王 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ───】スタスタ
のあ【───破道の九十 『黒棺』───】
蘭子「」
───スタスタ
のあ【───君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ……】
───ズイッ!
蘭子「ウ、ア……ち、近………」
のあ「……」ジー
蘭子「タ、タカミ……ネ、サ…………」ガクガク
のあ「……」ジー
蘭子「ン」
蘭子「……きゅう」グラッ
───ドサッ!
のあ「っ!!!」
のあ「(ら、蘭子ちゃん!?)」バッ!
のあ「(……!?)」
のあ「(口から泡を吹いて気を失うなんて……な、何故!?)」ユサユサ
のあ「(せ、せっかく……)」
のあ「(せっかく頑張って、通じると思って……)」
のあ「(漫画で……それっぽい漫画で、いっぱい勉強したのに……っ)」グスッ
蘭子「」
──────
────
──
P「嫉妬っておい………俺、プロデューサーなんですけど………」
ちひろ「さっきのプロデューサーさんの言動だと、まるで飛鳥ちゃんのことなんてどうでもいいみたいに解釈できますし」
P「そんなわけありませんよ! 飛鳥は俺にとって大事な担当アイドルです!!」
ちひろ「だったらここは、飛鳥ちゃんの希望通りに嫉妬してあげたらどうですか?」
P「………ちひろさん、一つ聞きますけど」
P「14歳の女の子の事で、嫉妬してしまう20代後半の男を見たらどう思いますか?」
ちひろ「滅茶苦茶キモイと思います」
P「ほら!!」
ちひろ「プロデューサーさん、貴方は自分の担当アイドルのためなら、この命、惜しくはないと言いましたよね?」
P「うっ………」
P(そんなこと一言も言った記憶はないが、何故か否定できない!?)
P(これはプロデューサーとしての本能なのか!?)
ちひろ「ほら、キモくても飛鳥ちゃんのためにやってあげてください。ほらほら!」ゲシゲシゲシッ
P「い、いてて! わかりましたよ、もう! だから蹴らないでください!!」
──
────
──────
【事務所 エントランス】
夏樹「……!」
夏樹「(ん)」
夏樹「(あっちから向かってくるのは、確か……)」
のあ「……」スタスタ
夏樹「……んんっ」
夏樹「お疲れさまです、高峯サン」
のあ「(!!!)」ピタッ
夏樹「っと……。そういえばアタシ、自己紹介してなかったか」
のあ「……」
夏樹「木村夏樹です。ヨロシクおねがいします」
夏樹「相棒と一緒にロックでクールに決めて、最高にアツいステージ目指してやってます」
夏樹「今度のライブも、お手柔らかに」
のあ「……」
夏樹「(……)」
のあ「……」
夏樹「あー……、そうだ、これ要ります? エナジードリンク」
のあ「……」
夏樹「今ウチら、このCMに起用されてて、事務所にノベルティ? 試供品? みたいのが余るほど置いてるんだよね」
夏樹「鞄の中にもさ、ホラ」ガシャッ
のあ「……」
夏樹「(……)」
のあ「………頂くわ」
夏樹「あ、ハイ」スッ
のあ「……ありがとう」
夏樹「……あ、ハイ」
───スタスタ
夏樹「(……)」
夏樹「(クールだなー。無口、無表情、無愛想? ていうか……)」
夏樹「(掴みづりー……)」
のあ「(……)」
のあ「(部外者のチーマーかと思った)」
のあ「(………殺られるかと思った)」ドキドキ
――――――――――――
――――――――
P「ええと飛鳥はどこに………ああ、いたいた」
P「おーい、飛鳥――!」
飛鳥「………なんだい?」ギロッ
P「うっ! え、え~と、その………」
飛鳥「………………」
P(やはりまだ機嫌が悪いみたいだな………)
P「さ、さっきの話なんだけどさ。ほら、あの上級生とのデートの件だけど………」
P「やっぱり行かないでくれないかなって………」
飛鳥「えっ」
のあ「(大胆に上げた前髪が特徴的なあの子は、木村夏樹ちゃんかな)」
のあ「(事務所きってのロックアイドルだと涼ちゃんが言ってたわ)」
のあ「(あぁ……初対面にも厭わず挨拶してくるなんて、ロックだわ。伊達にギターは弾いてないってカンジね。是非ともお友達になりたい)」ドキドキ
のあ「(ちょっと怖かったけど。でも根はやさしい子ね、たぶん)」
のあ「……」
のあ「(私のライブバトルのお相手って、夏樹ちゃんとその相棒? だったかしら)」
のあ「(あとで調べとこ。ふふふっ……緊張してきた)」
のあ「……」チラッ
のあ「(ジュース、3本も貰っちゃった。近年稀に見る本当にいい子)」
───カシュ
ゴクゴクゴク
のあ「(あ……美味し)」
のあ「(もう一本)」カシュッ
のあ「(……ふふふっ♪)」ゴクゴク
━━━数十分後━━━
【事務所 トイレ】
のあ「カッ、かはッ!!」プルプル
のあ「ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー」ガクガク
のあ「おぇええっ!!」
のあ「うぐっっ、ウッ、う、フゥー、フゥー……!!」プルプル
のあ「ンフッ、ふー、ふー……はぁー、はぁー……っ」
のあ「(ど、動機が!)」ドクンドクン!
のあ「(は、激しくて、気持ち悪いっ! あのジュースを飲んでから、異常にっ)」
のあ「(……ッ!!)」
のあ「(毒!! 毒を盛られたッ……!!)」プルプル
のあ「ハァー、ふぅー、ん……ふー、…………グスッ」
のあ「…………」
のあ「(ロック……ロック過ぎるわ。こんな大胆な先手を取ってくるなんて……)」
のあ「(バトルは……戦いはもう既に始まっているのね)」
のあ「(これが、業界の闇………上下関係というものを、ダイレクトに……っ)」
のあ「(夏樹、ちゃん…………)」グスッ
──────
────
──
P「その、何て言うか………飛鳥が他の男といるのが嫌な感じがしてさ………」
飛鳥「………」
P「だ、だからその~……しないでくれると俺が嬉しいというか何というか――」
飛鳥「もしかして、キミは嫉妬しているの?」
P「え~と、どうだろう?」
飛鳥「しているよ。間違いなくキミは嫉妬している。ボクに告白した先輩にね」
飛鳥「………そうか、そういうことか」
飛鳥「フフフ、クククク………ハハハハハッ!」
P「あ、飛鳥?」
飛鳥「あぁ、可笑しい………実に滑稽だ♪」
飛鳥「そうかそうか♪ キミがねぇ~♪」ニヤリ
P(うわ、凄く嬉しそうな顔してる)
飛鳥「でもまぁ、安心してくれていいよ。どっちにしろボクはデートに応じる気はなかったしね」
飛鳥「キミの言う甘酸っぱい青春になんてものに興味がないのでね。元々断る気ではいたのさ」
P「そ、そうか………」
飛鳥「それにしても………ボクの事でそんなに嫉妬しちゃって………しょうがない奴だなぁキミは♪
飛鳥「嫉妬深い男は嫌われるよ? だからもう、ボク以外にはその醜態を見せない方がいいと忠告しておくよ」
飛鳥「しかし、ただ告白されただけで嫉妬するなんてねぇ………まるで子供のような行動原理だ」
飛鳥「痛いね………フフフっ、本当、キミは痛いヤツだ♪」
飛鳥「アーハハハハッ♪」
P「………………」
P「なんか滅茶苦茶俺の株が下がったような気がする………」
P「ま、まぁいいか………飛鳥の奴、凄く喜んでるし」
P「あはははははは………」
P「はぁ~………」
──
────
──────
【事務所 応接室】
卯月「皆さん、LIVEバトルの話でもちきりですね」
凛「ユニットで掛け合いとか考えるの、楽しいしね。一緒にネタやったり、乱入したり」
未央「基本、何やっても自由だからねぇ。いやー、私達も出たかったなぁ」
凛「まぁ、今回は割と大きな仕事被ったから……」
凛「手伝いには参加するけど、そう言えば2人も行くの?」
卯月「はい、私は昼上がりなので、その後すぐ行く予定です」
未央「私達も最初はガッチガチに緊張してたよねー」
未央「『フライド、チキーン↑』なんて掛け声まで考えてさ♪」
凛「懐かしいね、フライドチキン。今思うと……ちょっと変な掛け声だよね、ふふっ」
未央「しぶりんがソレ言う? 少なくとも『アルティザン・デュ・ショコラ』よりはテンポ良いと思うけど」
凛「えっ。誰、その案出したの」キョトン
未央「自分だよ!! なんかあと10個くらい蒼魔法の詠唱みたいな案も出してたよ!?」
───ガヤガヤガヤ
のあ「(……)」ジー
のあ「(年度の初めだとお仕事やライブも増えるのね。それにしてもいいなぁ、あの3人)」
のあ「(ニュー……なんだっけ。ジェネ……、…………?)」
のあ「(でも、和気藹々と楽しそう。私もあの子達のようにユニットを組んでみたい)」
のあ「(いいなぁ)」ジー
グゥゥ…
のあ「(……)」スリスリ
のあ「(フライドチキンかぁ。最近そういうの食べてないわ)」
のあ「(ちょうどお昼前だし、お腹もすいたし、ローソンに行こう。ファミチキ買ってこよ)」スッ
のあ「……」スタスタ
凛「(……)」チラッ
凛「(高峯さん、ずーっと俯いて何考えてたんだろう?)」
凛「(哲学的に宇宙の真理を思考してたのかな?)」
凛「(あるいはサイボーグやアンドロイドみたいに、ずっと待機モードでじっとしてたとか?)」
未央「(いや、案外……ご飯の献立でも考えてたりして)」
卯月「(……?)」
――――――――
――――
―――
☆翌日★
P「飛鳥、ちょっといいか? 実はお前に水着写真集のオファーが来てるのだが」
飛鳥「水着の? もしかして、前に仕事したエデンでの………」
P「そうだ。前のハワイでの仕事ぶりが好評でな。それで水着の写真集はどうだって話になったんだ」
飛鳥「水着か………」
P「もちろんそんなに過激な奴にはしないよ。だからどうかな? やってみる?」
飛鳥「そうだね………ふむ………」
P「嫌なら遠慮なくそう言ってくれ。水着の写真集だしな。やりたくないと思うのなら俺の方から断っておくよ」
飛鳥「………キミはどう思う?」
P「えっ、俺か?」
飛鳥「キミの考えも聞いておきたくてね」
P「う~ん………そうだな――」
飛鳥「………………」
━━━10分後━━━
【ローソン】
のあ「ふぁ、ファミチキください……っ!」
ローソン店員(以下、店員)「………………」
店員「……は、ハイ?」
のあ「(───ッ!?)」ビクッ!
店員「えーっと……当店に『ファミチキ』は置いてませんが……」
のあ「えっ……、ヘ……ッ!?」
のあ「あっ!! ぁ、アー……アァー」
店員「え、『Lチキ』でしょうか?」
のあ「ア……は、ハィ」モゴモゴ
店員「お一つでよろしいでしょうか?」
のあ「ハ、ヘャい」
店員「……あ」
のあ「(ッ!?)」ビクッ!
店員「も、申し訳ありません。ただいま品切れ中でして、5分ほどお待ちいただければお作り致しますが……」
のあ「ぁ、え……ア……いや、ア、いいデス………そンな、申し訳ナイコト……」モゴモゴ
店員「えっ?」
のあ「エ、えっと……ぁ、じ、じゃあ……」プルプル
━━━10分後━━━
【事務所 応接室】
のあ「……」カサカサ
のあ「(……)」
【つくね棒】
のあ「……」モキュモキュ
未央「(こ、今度は真顔でローソンのつくね棒食べてる……)」
凛「(両手で丁寧に食べてる……なんか可愛い。ビーバーみたい)」
卯月「(……)」
──────
────
──
のあ「……」
───スタスタ
蘭子「ヒ、ひっ……」ビクッ!
のあ【───届かぬ牙に 火を灯す───】スタスタ
のあ【───あの星を見ずに済むように この吭を裂いて しまわぬように───】スタスタ
蘭子「ヘ……あ、アェ……?」プルプル
のあ【───黒白の羅 二十二の橋梁 六十六の冠帯 足跡・遠雷・尖峰・回地・夜伏・雲海・蒼い隊列 太円に満ちて天を挺れ───】スタスタ
蘭子「ナ、ニ、ヲ……イ、言ッテ……???」ガクガク
───スタスタ
のあ【───滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧き上がり 否定し 痺れ 瞬き 眠りを妨げる】
のあ【───爬行する鉄の女王 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ───】スタスタ
のあ【───破道の九十 『黒棺』───】
蘭子「」
───スタスタ
のあ【───君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ……】
───ズイッ!
蘭子「ウ、ア……ち、近………」
のあ「……」ジー
蘭子「タ、タカミ……ネ、サ…………」ガクガク
のあ「……」ジー
蘭子「ン」
蘭子「……きゅう」グラッ
───ドサッ!
のあ「っ!!!」
のあ「(ら、蘭子ちゃん!?)」バッ!
のあ「(……!?)」
のあ「(口から泡を吹いて気を失うなんて……な、何故!?)」ユサユサ
のあ「(せ、せっかく……)」
のあ「(せっかく頑張って、通じると思って……)」
のあ「(漫画で……それっぽい漫画で、いっぱい勉強したのに……っ)」グスッ
蘭子「」
──────
────
──
P「俺としてはやってくれたら嬉しいかな」
飛鳥「!?」
──
────
──────
【事務所】
のあ「『LIVEバトル』?」
P「ええ、そうです。初耳でしたか?」
のあ「(……)」
P「ソロ、またはユニットが複数単位で競合する形式のライブイベントですね」
P「足並みを揃える一般のライブとは違い、全面的に個性と個性のぶつかり合いです」
のあ「(……)」ボー
P「歌唱や踊りは勿論、演出家と相談して仕掛けや装置などの特殊効果で華を添えてもOKです」
P「とにかく相手より観客を魅了することを目標にして、磨き上げたパフォーマンスを披露します」
のあ「(……)」ボー
P「ですが安心してください。なにも『バトル』といっても、実際に得点や優劣を競ったりするわけではありません」
P「今では他事務所との合同イベントや、同事務所内でのバーターや、真剣勝負と銘打って実はあらかじめ掛け合いやプログラムが組まれてるなんて事も多々あります。3番目が特に多いですね」
P「形だけでも『競い合い』を念頭に置いているので、分かりやすい指標を明確にし努力の方向性も定まりますし、創意工夫のパフォーマンスで新たな一面を発掘できることもあります」
のあ「(……)」ボー
P「……LIVEバトルの相手は同じ事務所の木村夏樹・多田李衣菜のデュオです。ランクは遥かに上の相手……ですが」
P「ですが今回は、貴女の可能性に賭けて挑戦していきたいと思います」
のあ「(……)」ボー
P「……高峯さん? ここまでは良いですか?」
のあ「(───ハッ!?)」ビクッ
のあ「キ……聞いているわ」
のあ「世の縮図……美しく実る花も、剪定の元に成り立つ悲しき宿命」
のあ「弱肉強食……『たたかわなければ生き残れない』、という事ね」
P「ハワイでのお前の水着姿はとってもよかったしな。実際に写真集が出たらファンも大喜びしてくれるだろうし」
P「だからこれ結構いいオファーだと思うんだよ。出版すれば確実に売れるだろうから、お前のアイドルとしての評判も上が―――」
飛鳥「ああ、そうか。キミは何でも仕事仕事で物差しを図るのか」
P「えっ?」
飛鳥「そうかそうか。キミはそういうヤツなんだな。仕事が何よりも大事なんだな」
P「えっ? いや、あの………」
飛鳥「キミのセカイは仕事のみで構築されてるようだ。実にくだらない」
飛鳥「キミがこんなにもつまらないオトナだったとはね。失望したよ」
飛鳥「フンッ!」
スタッスタッ
P「えっ? あれ? ええええぇぇッッ!!??」
──
────
──────
【事務所 応接室】
卯月「皆さん、LIVEバトルの話でもちきりですね」
凛「ユニットで掛け合いとか考えるの、楽しいしね。一緒にネタやったり、乱入したり」
未央「基本、何やっても自由だからねぇ。いやー、私達も出たかったなぁ」
凛「まぁ、今回は割と大きな仕事被ったから……」
凛「手伝いには参加するけど、そう言えば2人も行くの?」
卯月「はい、私は昼上がりなので、その後すぐ行く予定です」
未央「私達も最初はガッチガチに緊張してたよねー」
未央「『フライド、チキーン↑』なんて掛け声まで考えてさ♪」
凛「懐かしいね、フライドチキン。今思うと……ちょっと変な掛け声だよね、ふふっ」
未央「しぶりんがソレ言う? 少なくとも『アルティザン・デュ・ショコラ』よりはテンポ良いと思うけど」
凛「えっ。誰、その案出したの」キョトン
未央「自分だよ!! なんかあと10個くらい蒼魔法の詠唱みたいな案も出してたよ!?」
───ガヤガヤガヤ
のあ「(……)」ジー
のあ「(年度の初めだとお仕事やライブも増えるのね。それにしてもいいなぁ、あの3人)」
のあ「(ニュー……なんだっけ。ジェネ……、…………?)」
のあ「(でも、和気藹々と楽しそう。私もあの子達のようにユニットを組んでみたい)」
のあ「(いいなぁ)」ジー
グゥゥ…
のあ「(……)」スリスリ
のあ「(フライドチキンかぁ。最近そういうの食べてないわ)」
のあ「(ちょうどお昼前だし、お腹もすいたし、ローソンに行こう。ファミチキ買ってこよ)」スッ
のあ「……」スタスタ
凛「(……)」チラッ
凛「(高峯さん、ずーっと俯いて何考えてたんだろう?)」
凛「(哲学的に宇宙の真理を思考してたのかな?)」
凛「(あるいはサイボーグやアンドロイドみたいに、ずっと待機モードでじっとしてたとか?)」
未央「(いや、案外……ご飯の献立でも考えてたりして)」
卯月「(……?)」
P「何でまた飛鳥は怒りだしたんだ?」
P「俺なんか言った!?」
ちひろ「なーにやってんですかねぇ、まったく」
P「うわっ、ちひろさん!? いつの間に………」
ちひろ「なにまた怒らせてるんですか。貴方はどこぞのワ○サマーや○条楽ですか?」
P「そんなこと言われても………」
ちひろ「しょうがないからまた教えてあげますよ」
ちひろ「つまり飛鳥ちゃんはですねぇ―――」
P『ダニィ!? 飛鳥の水着写真じゃとぉ――ッッ!!』
P『ふざけるなッ!! 飛鳥の水着姿は俺だけのモノなんだど――ッッ!!』
P『誰がファンなんぞに見せてなるものか!! てめぇらには豚のケツの写真集で十分ダルルオッ!!』
ちひろ「―――こう言って欲しかったわけですよ」
P「えぇぇ~………」
━━━10分後━━━
【ローソン】
のあ「ふぁ、ファミチキください……っ!」
ローソン店員(以下、店員)「………………」
店員「……は、ハイ?」
のあ「(───ッ!?)」ビクッ!
店員「えーっと……当店に『ファミチキ』は置いてませんが……」
のあ「えっ……、ヘ……ッ!?」
のあ「あっ!! ぁ、アー……アァー」
店員「え、『Lチキ』でしょうか?」
のあ「ア……は、ハィ」モゴモゴ
店員「お一つでよろしいでしょうか?」
のあ「ハ、ヘャい」
店員「……あ」
のあ「(ッ!?)」ビクッ!
店員「も、申し訳ありません。ただいま品切れ中でして、5分ほどお待ちいただければお作り致しますが……」
のあ「ぁ、え……ア……いや、ア、いいデス………そンな、申し訳ナイコト……」モゴモゴ
店員「えっ?」
のあ「エ、えっと……ぁ、じ、じゃあ……」プルプル
━━━10分後━━━
【事務所 応接室】
のあ「……」カサカサ
のあ「(……)」
【つくね棒】
のあ「……」モキュモキュ
未央「(こ、今度は真顔でローソンのつくね棒食べてる……)」
凛「(両手で丁寧に食べてる……なんか可愛い。ビーバーみたい)」
卯月「(……)」
──────
────
──
P「貴方の中の俺はどんだけ変態なのですか」
P「というかそんな個人的な理由で有望なオファー蹴ったりしたら、会社的に俺は戦犯なんですが………」
ちひろ「でも飛鳥ちゃんはそう望んでますよ?」
P「いや、ですけど」
ちひろ「そういうわけですから、ほらプロデューサーさん、行ってきてくださいな」
P「行って来いって、アンタ………」
のあ「……」
───スタスタ
蘭子「ヒ、ひっ……」ビクッ!
のあ【───届かぬ牙に 火を灯す───】スタスタ
のあ【───あの星を見ずに済むように この吭を裂いて しまわぬように───】スタスタ
蘭子「ヘ……あ、アェ……?」プルプル
のあ【───黒白の羅 二十二の橋梁 六十六の冠帯 足跡・遠雷・尖峰・回地・夜伏・雲海・蒼い隊列 太円に満ちて天を挺れ───】スタスタ
蘭子「ナ、ニ、ヲ……イ、言ッテ……???」ガクガク
───スタスタ
のあ【───滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧き上がり 否定し 痺れ 瞬き 眠りを妨げる】
のあ【───爬行する鉄の女王 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ───】スタスタ
のあ【───破道の九十 『黒棺』───】
蘭子「」
───スタスタ
のあ【───君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ……】
───ズイッ!
蘭子「ウ、ア……ち、近………」
のあ「……」ジー
蘭子「タ、タカミ……ネ、サ…………」ガクガク
のあ「……」ジー
蘭子「ン」
蘭子「……きゅう」グラッ
───ドサッ!
のあ「っ!!!」
のあ「(ら、蘭子ちゃん!?)」バッ!
のあ「(……!?)」
のあ「(口から泡を吹いて気を失うなんて……な、何故!?)」ユサユサ
のあ「(せ、せっかく……)」
のあ「(せっかく頑張って、通じると思って……)」
のあ「(漫画で……それっぽい漫画で、いっぱい勉強したのに……っ)」グスッ
蘭子「」
──────
────
──
ちひろ「簡単な話ですよ。飛鳥ちゃんにお前の水着姿は俺だけのモノにしたいから仕事断っておくぜ!って言うだけでいいんですから」
P「それが凄い難しいのですが」
ちひろ「ただプロデューサーさんが鼻の下伸ばせばいい簡単な仕事です」
P「俺のプロデューサーとしての立場が危ぶまれます!!」
ちひろ「ウダウダ言ってないで早く行ってくださいよ。ホラホラ!」ドゴドゴドゴッ!!
P「いて、いてて! だから蹴らないでくださいよ!! ぐはっ!!」
──
────
──────
【事務所 エントランス】
夏樹「……!」
夏樹「(ん)」
夏樹「(あっちから向かってくるのは、確か……)」
のあ「……」スタスタ
夏樹「……んんっ」
夏樹「お疲れさまです、高峯サン」
のあ「(!!!)」ピタッ
夏樹「っと……。そういえばアタシ、自己紹介してなかったか」
のあ「……」
夏樹「木村夏樹です。ヨロシクおねがいします」
夏樹「相棒と一緒にロックでクールに決めて、最高にアツいステージ目指してやってます」
夏樹「今度のライブも、お手柔らかに」
のあ「……」
夏樹「(……)」
のあ「……」
夏樹「あー……、そうだ、これ要ります? エナジードリンク」
のあ「……」
夏樹「今ウチら、このCMに起用されてて、事務所にノベルティ? 試供品? みたいのが余るほど置いてるんだよね」
夏樹「鞄の中にもさ、ホラ」ガシャッ
のあ「……」
夏樹「(……)」
のあ「………頂くわ」
夏樹「あ、ハイ」スッ
のあ「……ありがとう」
夏樹「……あ、ハイ」
───スタスタ
夏樹「(……)」
夏樹「(クールだなー。無口、無表情、無愛想? ていうか……)」
夏樹「(掴みづりー……)」
のあ「(……)」
のあ「(部外者のチーマーかと思った)」
のあ「(………殺られるかと思った)」ドキドキ
P「ほらその、飛鳥にはまだこの手の仕事は早いかなってね」
飛鳥「………確実に売れるとか言ってたのに?」
P「まぁ、お前はまだ中学生だし。多少はね?」
飛鳥「ボクは別に構わなかったんだよ?」
P「そ、そうか? でも、まぁ、その………」
P「お前の水着姿を、他の奴に見せるのは何か嫌だな~って思ったからさ………」
飛鳥「!!」
のあ「……」
───スタスタ
蘭子「ヒ、ひっ……」ビクッ!
のあ【───届かぬ牙に 火を灯す───】スタスタ
のあ【───あの星を見ずに済むように この吭を裂いて しまわぬように───】スタスタ
蘭子「ヘ……あ、アェ……?」プルプル
のあ【───黒白の羅 二十二の橋梁 六十六の冠帯 足跡・遠雷・尖峰・回地・夜伏・雲海・蒼い隊列 太円に満ちて天を挺れ───】スタスタ
蘭子「ナ、ニ、ヲ……イ、言ッテ……???」ガクガク
───スタスタ
のあ【───滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧き上がり 否定し 痺れ 瞬き 眠りを妨げる】
のあ【───爬行する鉄の女王 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ───】スタスタ
のあ【───破道の九十 『黒棺』───】
蘭子「」
───スタスタ
のあ【───君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ……】
───ズイッ!
蘭子「ウ、ア……ち、近………」
のあ「……」ジー
蘭子「タ、タカミ……ネ、サ…………」ガクガク
のあ「……」ジー
蘭子「ン」
蘭子「……きゅう」グラッ
───ドサッ!
のあ「っ!!!」
のあ「(ら、蘭子ちゃん!?)」バッ!
のあ「(……!?)」
のあ「(口から泡を吹いて気を失うなんて……な、何故!?)」ユサユサ
のあ「(せ、せっかく……)」
のあ「(せっかく頑張って、通じると思って……)」
のあ「(漫画で……それっぽい漫画で、いっぱい勉強したのに……っ)」グスッ
蘭子「」
──────
────
──
P「そ、そういうわけだから………」
飛鳥「………………」
飛鳥「つまり、キミは個人的な願望で仕事を断るというわけか」
P「そ、そういうこと………かも?」
飛鳥「………」
飛鳥「フフッ、この変態め♪///」
P「うぐっ!?」
━━━10分後━━━
【ローソン】
のあ「ふぁ、ファミチキください……っ!」
ローソン店員(以下、店員)「………………」
店員「……は、ハイ?」
のあ「(───ッ!?)」ビクッ!
店員「えーっと……当店に『ファミチキ』は置いてませんが……」
のあ「えっ……、ヘ……ッ!?」
のあ「あっ!! ぁ、アー……アァー」
店員「え、『Lチキ』でしょうか?」
のあ「ア……は、ハィ」モゴモゴ
店員「お一つでよろしいでしょうか?」
のあ「ハ、ヘャい」
店員「……あ」
のあ「(ッ!?)」ビクッ!
店員「も、申し訳ありません。ただいま品切れ中でして、5分ほどお待ちいただければお作り致しますが……」
のあ「ぁ、え……ア……いや、ア、いいデス………そンな、申し訳ナイコト……」モゴモゴ
店員「えっ?」
のあ「エ、えっと……ぁ、じ、じゃあ……」プルプル
━━━10分後━━━
【事務所 応接室】
のあ「……」カサカサ
のあ「(……)」
【つくね棒】
のあ「……」モキュモキュ
未央「(こ、今度は真顔でローソンのつくね棒食べてる……)」
凛「(両手で丁寧に食べてる……なんか可愛い。ビーバーみたい)」
卯月「(……)」
──────
────
──
飛鳥「やれやれ、キミみたいな変態がいるから、このセカイから歪みは生まれ続けるのだろうね」
飛鳥「ボクの水着姿を他の男に見られたくないだって? ククク、実に滑稽だ!」
飛鳥「プロデューサーたる者が、そんな私的な理由で仕事を断っていいのかい? フフフ、実にあり得ないムーブメントさ♪」
飛鳥「本当、キミはボク以上に痛いヤツだよ。痛い上に変態だ」
飛鳥「この変態め………キミはとんでもなく痛い奴で変態だ♪」
飛鳥「ハハハハハッ♪」
P(何とも嬉しそうな顔で俺を罵倒してきやがって………)
飛鳥「まぁいい。元々、ボクには興味のないオファーだった。だから別に断っても文句はないよ」
飛鳥「しかし………キミはそうまでしてボクの事を独占したかったの?」
P「え、えっとまぁ………」
飛鳥「フフフ、バカだなぁ♪」
飛鳥「生憎、ボクは誰の物にもなる気はないからね。ボクはボクだけのモノさ」
飛鳥「だからまだキミのモノなんかにはなる気はないよ。フフフ、残念だったね」
P「そ、そうだよな………あはははっ………」
P(ん? 『まだ』………?)
飛鳥「フフフ///」
のあ「(大胆に上げた前髪が特徴的なあの子は、木村夏樹ちゃんかな)」
のあ「(事務所きってのロックアイドルだと涼ちゃんが言ってたわ)」
のあ「(あぁ……初対面にも厭わず挨拶してくるなんて、ロックだわ。伊達にギターは弾いてないってカンジね。是非ともお友達になりたい)」ドキドキ
のあ「(ちょっと怖かったけど。でも根はやさしい子ね、たぶん)」
のあ「……」
のあ「(私のライブバトルのお相手って、夏樹ちゃんとその相棒? だったかしら)」
のあ「(あとで調べとこ。ふふふっ……緊張してきた)」
のあ「……」チラッ
のあ「(ジュース、3本も貰っちゃった。近年稀に見る本当にいい子)」
───カシュ
ゴクゴクゴク
のあ「(あ……美味し)」
のあ「(もう一本)」カシュッ
のあ「(……ふふふっ♪)」ゴクゴク
━━━数十分後━━━
【事務所 トイレ】
のあ「カッ、かはッ!!」プルプル
のあ「ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー」ガクガク
のあ「おぇええっ!!」
のあ「うぐっっ、ウッ、う、フゥー、フゥー……!!」プルプル
のあ「ンフッ、ふー、ふー……はぁー、はぁー……っ」
のあ「(ど、動機が!)」ドクンドクン!
のあ「(は、激しくて、気持ち悪いっ! あのジュースを飲んでから、異常にっ)」
のあ「(……ッ!!)」
のあ「(毒!! 毒を盛られたッ……!!)」プルプル
のあ「ハァー、ふぅー、ん……ふー、…………グスッ」
のあ「…………」
のあ「(ロック……ロック過ぎるわ。こんな大胆な先手を取ってくるなんて……)」
のあ「(バトルは……戦いはもう既に始まっているのね)」
のあ「(これが、業界の闇………上下関係というものを、ダイレクトに……っ)」
のあ「(夏樹、ちゃん…………)」グスッ
──────
────
──
飛鳥「でも、そう悲観することはないよ。確かにボクは『まだ』キミのモノにはなれないけれど」
飛鳥「あの時の………あのエデンでの思い出は………ボク達二人だけのモノなのだからね///」
ムギュ
P「ちょ、飛鳥!? 何お前俺の手を胸に押し付け――」
飛鳥「フフフ、あの楽園での時と同じような鼓動を………感じているかい?///」ムチュウッ
P「わー! わー! やめい――ッ!!」
ちひろ「うわ、これは事案物ですね」
P「げっ、ちひろさん!?」
ちひろ「見てて何かムカつくし、美城専務にチクロット」
P「やめロットォォォォォッッッ!!!!」
──
────
──────
【事務所 応接室】
卯月「皆さん、LIVEバトルの話でもちきりですね」
凛「ユニットで掛け合いとか考えるの、楽しいしね。一緒にネタやったり、乱入したり」
未央「基本、何やっても自由だからねぇ。いやー、私達も出たかったなぁ」
凛「まぁ、今回は割と大きな仕事被ったから……」
凛「手伝いには参加するけど、そう言えば2人も行くの?」
卯月「はい、私は昼上がりなので、その後すぐ行く予定です」
未央「私達も最初はガッチガチに緊張してたよねー」
未央「『フライド、チキーン↑』なんて掛け声まで考えてさ♪」
凛「懐かしいね、フライドチキン。今思うと……ちょっと変な掛け声だよね、ふふっ」
未央「しぶりんがソレ言う? 少なくとも『アルティザン・デュ・ショコラ』よりはテンポ良いと思うけど」
凛「えっ。誰、その案出したの」キョトン
未央「自分だよ!! なんかあと10個くらい蒼魔法の詠唱みたいな案も出してたよ!?」
───ガヤガヤガヤ
のあ「(……)」ジー
のあ「(年度の初めだとお仕事やライブも増えるのね。それにしてもいいなぁ、あの3人)」
のあ「(ニュー……なんだっけ。ジェネ……、…………?)」
のあ「(でも、和気藹々と楽しそう。私もあの子達のようにユニットを組んでみたい)」
のあ「(いいなぁ)」ジー
グゥゥ…
のあ「(……)」スリスリ
のあ「(フライドチキンかぁ。最近そういうの食べてないわ)」
のあ「(ちょうどお昼前だし、お腹もすいたし、ローソンに行こう。ファミチキ買ってこよ)」スッ
のあ「……」スタスタ
凛「(……)」チラッ
凛「(高峯さん、ずーっと俯いて何考えてたんだろう?)」
凛「(哲学的に宇宙の真理を思考してたのかな?)」
凛「(あるいはサイボーグやアンドロイドみたいに、ずっと待機モードでじっとしてたとか?)」
未央「(いや、案外……ご飯の献立でも考えてたりして)」
卯月「(……?)」
――――――――――
―――――
―――
☆更に後日★
P「お疲れ様飛鳥、いい仕事ぶりだったな」
飛鳥「ありがとう。でも、ボクはボクの役割を果たしたまでさ」
飛鳥「誰かさんとは違って、ボクは仕事に私情をはさんだりする独占欲の強いヤツじゃないのでね♪」ニヤッ
P「ま、まだ言うかそれ………」
飛鳥「フフッ、ごめんごめん。ククク♪」ニマァ~
P(まったく、ここ最近俺をこのネタでいじりまくるんだから)
P(人の気も知らないで………ハァ~………)
──
────
──────
【事務所 廊下】
───スタスタ
のあ「……♪」テクテク
のあ「(あぁ、楽しい)」
のあ「(『ポケモンGO』、これはいま私の精神の支えと言っても過言ではないわ)」スタスタ
のあ「(こうやってリアルに反映されるなんて、やっぱり世代としては感慨深───)」テクテク
ドンッ!!
のあ「ッ!!!」
*「あっ……ご、ごめんなさいっ…………ふ、フフフっ……♪」ヨロッ
のあ「ァ……いいえ……」
*「……」
*「(ああ………っ! 高峯さんの匂い、感触、体温っ……!)」ドキドキ
タタタタタッ
のあ「(……)」ジー
━━━━夜━━━━
【高峯家】
のあ「んー……」
のあ「歩きスマホ、やっぱり危ないかな」
のあ「事務所があまりにも便利にプレイできる環境なのだけれど………流石に控えるべき?」
のあ「以前、真奈美さんと美優さんに教えてもらって……」
のあ「楓さんと泰葉ちゃんと一緒にスマホを買いに行って……」
のあ「更に、紗南ちゃんと美玲ちゃんが事務所でやっているところを見かけたから……」
のあ「私も便乗して、あわよくばお近づきになろうとしたのだけれど……」
のあ「…………そういえば、最近めっきり見かけない」
のあ「……」
のあ「歩きスマホ……。これはある種の社会問題でもあるし」
のあ「事務所の子に怪我でもさせちゃったら、大ゴトだわ」
のあ「今日なんて、同じくスマホを弄っていたであろう………あれは確か……」
のあ「紗枝ちゃんに2回、美波ちゃんに5回、奏ちゃんとは23回も偶然ぶつかったり、ぶつかりそうになったりしたし……」
のあ「まさに前後不覚になるほど熱中するというヤツかな。ポケモンに罪はないのに」
のあ「……でもやりたい、ポケモンGO。けどぶつかるのも怖いし」
のあ「………でも、ピカチュウさん欲しいし」
のあ「…………」
のあ「視線が下に向くからダメなんだ。どうにかして、注意を喚起すれば」
のあ「(…………)」
のあ「(……!)」ピーン!
のあ「そう、だっ。アレ、確か、アレを身に付ければ……っ」ガサガサ
のあ「前に、教習所で……!!」ガサガサ
━━━━翌日━━━━
【事務所 エントランス】
のあ「……」テクテク
のあ「…………」スタスタ
李衣菜「……」ジー
夏樹「(…………)」ジー
【E. 初心者マーク】
夏樹「(だりー。なぁだりー)」
夏樹「(アレ、何だか分かるか?)」
李衣菜「(…………)」
李衣菜「(……ちょっと意味がわかんない)」
夏樹「(……アタシもさ)」
──────
────
──
※E(Equipの略)……装備中という意味
P「さ、さて、そろそろお昼時になるし。事務所に帰る前にどこかで飯でも食いに行くか」
飛鳥「そうだね。でも、ここら辺に飲食店なんてあったかな?」
P「近くに俺のお気に入りの喫茶店があるけど、そこでいいか?」
飛鳥「喫茶店か………確かにいいかもね。よし、キミの誘いに乗るとしよう」
P「じゃあ、行こうか。付いて来てくれ」
──
────
──────
【事務所 廊下】
───スタスタ
のあ「……♪」テクテク
のあ「(あぁ、楽しい)」
のあ「(『ポケモンGO』、これはいま私の精神の支えと言っても過言ではないわ)」スタスタ
のあ「(こうやってリアルに反映されるなんて、やっぱり世代としては感慨深───)」テクテク
ドンッ!!
のあ「ッ!!!」
*「あっ……ご、ごめんなさいっ…………ふ、フフフっ……♪」ヨロッ
のあ「ァ……いいえ……」
*「……」
*「(ああ………っ! 高峯さんの匂い、感触、体温っ……!)」ドキドキ
タタタタタッ
のあ「(……)」ジー
━━━━夜━━━━
【高峯家】
のあ「んー……」
のあ「歩きスマホ、やっぱり危ないかな」
のあ「事務所があまりにも便利にプレイできる環境なのだけれど………流石に控えるべき?」
のあ「以前、真奈美さんと美優さんに教えてもらって……」
のあ「楓さんと泰葉ちゃんと一緒にスマホを買いに行って……」
のあ「更に、紗南ちゃんと美玲ちゃんが事務所でやっているところを見かけたから……」
のあ「私も便乗して、あわよくばお近づきになろうとしたのだけれど……」
のあ「…………そういえば、最近めっきり見かけない」
のあ「……」
──
────
──────
【続 エントランス】
のあ「……」テクテク
のあ「…………」スタスタ
李衣菜「(……)」ジー
夏樹「(…………)」ジー
李衣菜「(あれは、高峯のあさん? 私たちのLIVEバトルのお相手の)」
夏樹「(ああ、そうだ。この事務所に所属してまだ半年ちょっとの、新人の)」
李衣菜「(エントランスをグルグル歩き回って……何してるんだろ? 何かに没頭してるようだけど)」
夏樹「(ああ。けど見て欲しいのはそこじゃあない)」
夏樹「(彼女の腹と背中。まるで奇抜なデザインシャツのロゴのように我が物顔で張り付いている、2色のステッカーだ)」
李衣菜「(……初心者マーク)」
夏樹「(そう、初心者マーク。正式名称は、初心運転者標識)」
李衣菜「(ど、どういう事……!?)」オロオロ
夏樹「(初心者マーク。あのステッカーやシールは本来自動車に付けるべき標識さ)」
夏樹「(間違っても人体に装備する代物じゃない。ここまではOKかい?)」
李衣菜「(う、うん)」
夏樹「(通常、アレを付ける意味は知ってるか?)」
李衣菜「(そりゃあね。運転初心者だから、周りの車に注意して貰うように分かりやすく───……)」
李衣菜「(───ハッ!!)」
夏樹「(……気付いたか、だりー)」
夏樹「(そう。あの標識を提示する車両を保護するよう、周囲の車両に注意を喚起するための物)」
夏樹「(運転手のプレッシャーになる幅寄せや割り込みを周りから行われないようにな。事故を未然に防ぐためさ)」
夏樹「(端的に、『自分は危険だ。近寄るな』という意味合いだ)」
李衣菜「(つ、つまりッ!!)」
李衣菜「(………ろ、ロック!!!)」
夏樹「(あぁ。しかも生半可じゃねえ)」
夏樹「(スティーヴィー・ニックス、レッド・ツェッペリン、キース・ムーン、ジム・モリソン………)」
夏樹「(エキセントリックでクレイジーにぶっとんだ伝説を残した奴らなら数多くいるが……)」
夏樹「(ロック界広しと言えど、かつて存在したか? あれほどダイレクトに、かつソフトに自らの危険性を誇示する奴は)」
李衣菜「(……っ!!)」
夏樹「(時代が時代なら、スターダムにのし上がり、この天下を5回くらいかるく統一出来ただろうぜ、彼女)」
夏樹「(……アタシ達ひょっとすると、トンデモないロックな人と一緒の事務所にいるのかもしれないぜ、だりー)」
李衣菜「(な、なんということだ……、なんということだ……)」ガクガク
のあ「(……あっ! ぴ、ピカチュウさんっっ!!)」ビクッ
のあ「歩きスマホ……。これはある種の社会問題でもあるし」
のあ「事務所の子に怪我でもさせちゃったら、大ゴトだわ」
のあ「今日なんて、同じくスマホを弄っていたであろう………あれは確か……」
のあ「紗枝ちゃんに2回、美波ちゃんに5回、奏ちゃんとは23回も偶然ぶつかったり、ぶつかりそうになったりしたし……」
のあ「まさに前後不覚になるほど熱中するというヤツかな。ポケモンに罪はないのに」
のあ「……でもやりたい、ポケモンGO。けどぶつかるのも怖いし」
のあ「………でも、ピカチュウさん欲しいし」
のあ「…………」
のあ「視線が下に向くからダメなんだ。どうにかして、注意を喚起すれば」
のあ「(…………)」
のあ「(……!)」ピーン!
のあ「そう、だっ。アレ、確か、アレを身に付ければ……っ」ガサガサ
のあ「前に、教習所で……!!」ガサガサ
━━━━翌日━━━━
【事務所 エントランス】
のあ「……」テクテク
のあ「…………」スタスタ
李衣菜「……」ジー
夏樹「(…………)」ジー
【E. 初心者マーク】
夏樹「(だりー。なぁだりー)」
夏樹「(アレ、何だか分かるか?)」
李衣菜「(…………)」
李衣菜「(……ちょっと意味がわかんない)」
夏樹「(……アタシもさ)」
──────
────
──
※E(Equipの略)……装備中という意味
李衣菜「(私達は、ただ……っ)」プルプル
李衣菜「(ただ、高峯さんがウロウロしてるエントランスの奥のエレベーターに乗りたいだけなのに………どうすればいいの、なつきち?)」
李衣菜「(このまま息を潜めていても、そのうち高峯さんに見つかって追い詰められて……っ)」
李衣菜「(……SATSUGAIされちゃうの?)」
夏樹「(落ち着け、落ち着くんだだりー。SATSUGAIはされない)」
夏樹「(だが、アタシも流石に対抗できないな。言動の予測ができない)」
夏樹「(というか……、フツーに気まずい)」
李衣菜「(ッ!! な、なつきちでも対抗できないの!? パッションなのに!?)」
夏樹「(パッションに過度なコミュ力を要求するもんじゃないぜ、だりー。ホント、損な役回りだ)」
夏樹「(……助っ人が必要だ)」
夏樹「(幸い時刻は早朝。まだ人も少ない。今ならまだ被害は最小限に抑えられる)」
李衣菜「(うん、そうだね。この事務所を血の海にするわけにはいかない)」
李衣菜「(まだ朝だけど、これからどんどん人が出社してくる。当然、小さい子も)」
李衣菜「(……私達が事務所を救わなきゃ。荒ぶるロックの化身から)」
夏樹「(この切迫した状況を打開できる助っ人を呼んでくるんだ。だりー、頼んだぜ)」
李衣菜「(うん!)」スタッ
夏樹「(あ、ちょっと待て)」
李衣菜「??」
夏樹「(アー……そうだな………、ンー…………)」
夏樹「(……出来ればプロデューサー、あるいは、その……、何事もなく自然に諭してくれそうな優しい大人ならグッドだ)」
夏樹「(とにかく、空気が読める人だ。空気が読める人。空気が読める人を連れてくるんだ。空気が読める人だぞ。任せたぜ、相棒)」グッ
李衣菜「(わかった! 待っててなつきち!!)」ダッ!
夏樹「(…………)」ジー
夏樹「(………………………)」ジー
夏樹「(……あの人、一体何なんだ?)」
夏樹「(何者だ? …………ホント何やってんだ、朝っぱらから。宇宙と交信でもしてんのか?)」
夏樹「(……ひょっとして、マジで凄い人なんじゃ───)」
李衣菜「なつきちーー!!」バタバタ
夏樹「(───!)」
夏樹「(思ったより早かったな、だりー)」クルッ
蘭子『フフフ……』
蘭子『我が魂を深淵から解き放つ者よ。血の契約のもと、汝の祈りに応えよう!!』
(●訳:夏樹さん、何かあったんですか? 私でよければ力になりますよっ!)」
李衣菜「とりあえず、近くを歩いてた闇の眷属を連れて来たよっ!!」ドタドタ
夏樹「(!?)」
夏樹「(バッ……!!)」ガタッ!
のあ「(………逃げられた)」シュン
──────
────
──
──
────
──────
【レッスンルーム】
ベテトレ「今日は基礎のビジュアルレッスンだ」
卯月「はいっ」
のあ「……」
ベテトレ「カメラを意識し、役を演じ、感情を表現する。歌に踊り、撮影に舞台……君達アイドルの根幹を成す技倆とも言える」
ベテトレ「二人でペアを組み、お互いを観察しあい今日は励んで欲しい。私から言う事は以上だ」
のあ「……」
ベテトレ「(……)」
ベテトレ「……島村。ちょっといいかな? 話がある」
卯月「はい、なんでしょう?」
━━━━━━━━━━
ベテトレ「話は手短に済ませたい」
ベテトレ「高峯のことだが……今日はお前が先導して、彼女のビジュアルレッスンを付けて欲しいんだ」
卯月「わ、私が……ですか?」
ベテトレ「クールと言えば耳当たりは良いが……微笑ひとつ浮かべず、凍った仮面のように表情が乏しい高峯を、だ」
ベテトレ「高峯より経歴が長いお前の指導で、変化の兆しを見出して欲しい。今後の活動の為にも」
卯月「たしかに、無表情な人だとは思いますけど……」
ベテトレ「そうだ。お前と高峯はある種、対極の存在とも言える」
卯月「でも……私なんかに、優秀な彼女のような人の指導なんて出来るんでしょうか?」
ベテトレ「……島村。笑顔に定評のある島村」
ベテトレ「うちでは、笑顔No1はお前だ」
卯月「(……!!)」
ベテトレ「高峯を任せていいな?」
卯月「……や、やりますっ。わたし頑張りますっ!」
ベテトレ「そうか。よく言ってくれた」ポン
ベテトレ「じゃあ私はデイトレードで気になる銘柄の値動きを見張っているから、あとはお前に任せるぞ。何かあれば自己の判断で対処してくれ」スタスタ
───ガチャ、バタン
卯月「よ……、よぉし!」
卯月「頑張ろう! 高峯さんを、笑顔に……」
李衣菜「(私達は、ただ……っ)」プルプル
李衣菜「(ただ、高峯さんがウロウロしてるエントランスの奥のエレベーターに乗りたいだけなのに………どうすればいいの、なつきち?)」
李衣菜「(このまま息を潜めていても、そのうち高峯さんに見つかって追い詰められて……っ)」
李衣菜「(……SATSUGAIされちゃうの?)」
夏樹「(落ち着け、落ち着くんだだりー。SATSUGAIはされない)」
夏樹「(だが、アタシも流石に対抗できないな。言動の予測ができない)」
夏樹「(というか……、フツーに気まずい)」
李衣菜「(ッ!! な、なつきちでも対抗できないの!? パッションなのに!?)」
夏樹「(パッションに過度なコミュ力を要求するもんじゃないぜ、だりー。ホント、損な役回りだ)」
夏樹「(……助っ人が必要だ)」
夏樹「(幸い時刻は早朝。まだ人も少ない。今ならまだ被害は最小限に抑えられる)」
李衣菜「(うん、そうだね。この事務所を血の海にするわけにはいかない)」
李衣菜「(まだ朝だけど、これからどんどん人が出社してくる。当然、小さい子も)」
李衣菜「(……私達が事務所を救わなきゃ。荒ぶるロックの化身から)」
夏樹「(この切迫した状況を打開できる助っ人を呼んでくるんだ。だりー、頼んだぜ)」
李衣菜「(うん!)」スタッ
夏樹「(あ、ちょっと待て)」
李衣菜「??」
夏樹「(アー……そうだな………、ンー…………)」
夏樹「(……出来ればプロデューサー、あるいは、その……、何事もなく自然に諭してくれそうな優しい大人ならグッドだ)」
夏樹「(とにかく、空気が読める人だ。空気が読める人。空気が読める人を連れてくるんだ。空気が読める人だぞ。任せたぜ、相棒)」グッ
李衣菜「(わかった! 待っててなつきち!!)」ダッ!
夏樹「(…………)」ジー
夏樹「(………………………)」ジー
夏樹「(……あの人、一体何なんだ?)」
夏樹「(何者だ? …………ホント何やってんだ、朝っぱらから。宇宙と交信でもしてんのか?)」
夏樹「(……ひょっとして、マジで凄い人なんじゃ───)」
李衣菜「なつきちーー!!」バタバタ
夏樹「(───!)」
夏樹「(思ったより早かったな、だりー)」クルッ
蘭子『フフフ……』
蘭子『我が魂を深淵から解き放つ者よ。血の契約のもと、汝の祈りに応えよう!!』
(●訳:夏樹さん、何かあったんですか? 私でよければ力になりますよっ!)」
李衣菜「とりあえず、近くを歩いてた闇の眷属を連れて来たよっ!!」ドタドタ
夏樹「(!?)」
夏樹「(バッ……!!)」ガタッ!
のあ「(………逃げられた)」シュン
──────
────
──
李衣菜「(私達は、ただ……っ)」プルプル
李衣菜「(ただ、高峯さんがウロウロしてるエントランスの奥のエレベーターに乗りたいだけなのに………どうすればいいの、なつきち?)」
李衣菜「(このまま息を潜めていても、そのうち高峯さんに見つかって追い詰められて……っ)」
李衣菜「(……SATSUGAIされちゃうの?)」
夏樹「(落ち着け、落ち着くんだだりー。SATSUGAIはされない)」
夏樹「(だが、アタシも流石に対抗できないな。言動の予測ができない)」
夏樹「(というか……、フツーに気まずい)」
李衣菜「(ッ!! な、なつきちでも対抗できないの!? パッションなのに!?)」
夏樹「(パッションに過度なコミュ力を要求するもんじゃないぜ、だりー。ホント、損な役回りだ)」
夏樹「(……助っ人が必要だ)」
夏樹「(幸い時刻は早朝。まだ人も少ない。今ならまだ被害は最小限に抑えられる)」
李衣菜「(うん、そうだね。この事務所を血の海にするわけにはいかない)」
李衣菜「(まだ朝だけど、これからどんどん人が出社してくる。当然、小さい子も)」
李衣菜「(……私達が事務所を救わなきゃ。荒ぶるロックの化身から)」
夏樹「(この切迫した状況を打開できる助っ人を呼んでくるんだ。だりー、頼んだぜ)」
李衣菜「(うん!)」スタッ
夏樹「(あ、ちょっと待て)」
李衣菜「??」
夏樹「(アー……そうだな………、ンー…………)」
夏樹「(……出来ればプロデューサー、あるいは、その……、何事もなく自然に諭してくれそうな優しい大人ならグッドだ)」
夏樹「(とにかく、空気が読める人だ。空気が読める人。空気が読める人を連れてくるんだ。空気が読める人だぞ。任せたぜ、相棒)」グッ
李衣菜「(わかった! 待っててなつきち!!)」ダッ!
夏樹「(…………)」ジー
夏樹「(………………………)」ジー
夏樹「(……あの人、一体何なんだ?)」
夏樹「(何者だ? …………ホント何やってんだ、朝っぱらから。宇宙と交信でもしてんのか?)」
夏樹「(……ひょっとして、マジで凄い人なんじゃ───)」
李衣菜「なつきちーー!!」バタバタ
夏樹「(───!)」
夏樹「(思ったより早かったな、だりー)」クルッ
蘭子『フフフ……』
蘭子『我が魂を深淵から解き放つ者よ。血の契約のもと、汝の祈りに応えよう!!』
(●訳:夏樹さん、何かあったんですか? 私でよければ力になりますよっ!)」
李衣菜「とりあえず、近くを歩いてた闇の眷属を連れて来たよっ!!」ドタドタ
夏樹「(!?)」
夏樹「(バッ……!!)」ガタッ!
のあ「(………逃げられた)」シュン
──────
────
──
━━━5分後━━━
【レッスンルーム】
卯月「……と、いうわけで」
卯月「せ、僭越ながら今日は私が高峯さんのお手本になって、笑顔のレッスンをしたいと思います!」ドキドキ
のあ「……」
のあ「(あぁ……島村卯月ちゃん、可愛らしいわ。明るい笑顔がチャーミングで、穢れを知らないってカンジで本当に素敵)」ドキドキ
のあ「(是非ともお友達になりたい。しかも二人でレッスンなんて……っ)」ドキドキ
のあ「(ヤバい、緊張してきた。緊張と興奮で心臓が痛い……)」ドクンドクン!
のあ「ヨ……よろしく頼むわ。卯月」
卯月「は、ハイっ! 頑張りましょうっ!」
卯月「(う、うぅ。緊張します……)」ドキドキ
卯月「じゃあ……えっと、まずは一度、自然な形の笑顔を作ってみてください♪」
のあ「(……)」
のあ「……っ」ググッ
のあ「…………っっ」ギリギリ
卯月「(っ!?)」ビクッ
卯月「お、怒ってます? 何か私、癇に障るようなことでも……」
のあ「……え?」
卯月「(ま、まさか……)」
卯月「(コレが、高峯さんのナチュラルな笑顔ッ!?)」
卯月「(歯をギラつかせて、眉間にしわを寄せて……テンションがハイになったアントニオ猪木みたいな顔してる……)」
卯月「あ、あのっ! 口角を上げるときに───」
のあ「……」ギリッ!
卯月「ヒッ!」ビクッ!
卯月「ソ……、その、口角を上げるときに、目を細めたり眉間にしわを寄せたり首を曲げたりせずに……ですね?」
卯月「もっと柔らかく、朗らかな感じで。リラックスして……」
のあ「……っ」ニタァ
のあ「…………ヘッ」パカッ
卯月「」
卯月「(じ、邪悪な笑みッ!! て、体のいいオモチャという名の弱者を見つけた金持ちのヤンキーみたいな見下す眼光をしてる……っ!)」
卯月「(目をカッと見開いて爛々と輝かせて……正直怖い……こんなの笑顔じゃ───…)」
のあ「……」カチカチカチ!
卯月「フ、ヒッ……!」ビクッ!
卯月「う、うそ……」
卯月「(わ、私が挫けちゃダメですっ! 笑顔なら……笑顔なら誰にも負けないっ!)」
卯月「よ、よーしっ! じゃあ私の真似をしてみて下さい、一緒にやりますよ!!」
卯月「イエイっ♪」ニコッ
のあ「イ……いえーい」ニヤリ
卯月「ぴ、ピースっ♪」ブイッ
のあ「ぴーす……」ゴゴゴゴゴ…
卯月「にょわーっ☆」ビシッ!
のあ「のあー……」グググッ…
卯月「……」
のあ「……」
卯月「………………」
のあ「………」
━━━1時間後━━━
卯月「はは……、はっ…………っ」ポロポロ
のあ「……」
卯月「た、たかみねさん……うぅっ……、グスッ……」ポロポロ
のあ「……」
卯月「笑顔なんてぇ……!」
卯月「笑うなんてぇっ……!」
卯月「誰でもっ!」
卯月「出来るもんっっ!!」ダッ!
卯月「うわあぁぁーーーーーーーーーーーん!!」ダダダダッ!
ガチャ!
───バタン!!
のあ「…」
──────
────
──
──
────
──────
【岡崎家】
のあ「……」
楓「(……♪)」ズルルー
泰葉「……」
のあ「……笑顔とは」
のあ「………なんぞや」ハー
泰葉「な、なんですかいきなり」
楓「(泰葉ちゃん、わさび取って下さい)」ズズズー
泰葉「(あ、ハイ)」
のあ「……この事務所に所属した当初から、悩んでいる事よ。これは」
のあ「………ハァ」
泰葉「表情、ですか」
泰葉「失礼かもしれないですけど、確かに高峯さんは硬いですものね」
泰葉「でも、プロデューサーさんも言ってましたけど、そこも貴女の魅力だと思いますよ」
のあ「…………」
のあ「……事務所の子達と、友達になりたい」
泰葉「……エッ。あれ、今そんな話でしたっけ?」
楓「(泰葉ちゃん、辛味大根おろし取って下さい)」ズルズル
泰葉「(あ、ハイ)」
のあ「なりたい……なりたい……」
泰葉「な、なればいいじゃないですか」
のあ「私のような、コミュ───……」
のあ「……ひきこ───……」
のあ「……」
のあ「………とにかく難しいのよ。世代が違うし」
泰葉「いま何を言いかけました?」
のあ「……寡黙の女王は、孤高の運命。馴れ合いをよしとせず、ただ無情に過ぎ行く悠久の刻と歩むだけ」
泰葉「そのキャラを理由にしたらダメですよ。貴女が『寡黙の女王』キャラで通して頑張っているのはなんとなく察して来ましたけど……」
のあ「……………………」
のあ「…………………………………………」
のあ「…………………………………………だって……っ」グスッ
泰葉「ご、ごごごめんなさい!! 言い過ぎました……つらいですよね、ごめんなさい」
楓「(泰葉ちゃん、自然薯おろし取って下さい)」ズズー
泰葉「(あ、ハイ)」
楓「……♪」ズズー
楓「泰葉ちゃん。ホラ、なにか快刀乱麻を断つアドバイスを」ズズー
泰葉「うぅん、そうですね」
泰葉「月並みですけど、会話から始めましょうよ」
のあ「……私の方から?」
泰葉「難しいのであれば、相手の出方を伺いましょう。むしろ誘うのなんてどうですか?」
泰葉「趣味が合えば一番ですけど……会話のきっかけって、ほんとうに何気ない些細なものなんです」
泰葉「化粧とか、服装とか。年下狙いなら、付けている小物とか。変化を観察するのも大事ですね」
泰葉「ナンパじゃないですけど、そういう部分を褒められると、女の人って結構嬉しいんですよ?」
のあ「……小物」
泰葉「小物でいえば、ブランドの物だとか、版権物だとか、ご当地のゆるキャラだとか」
泰葉「堅い印象の高峯さんだと、そういうギャップで興味が湧く子もいるんじゃないですか?」
のあ「(そういえば……前には伊吹ちゃんとか奈緒ちゃんがそんなカンジだったかしら)」
泰葉「ああ、そうそう。事務所で最近流行っているんですけど、『ぴにゃこら太』っていう───」
のあ「(……小物……アクセサリー……)」
のあ「(版権物……ゆるキャラ……。なにかウチにあったかな……)」
のあ「(年下の興味を引くような……)」
のあ「(…………)」ボー
泰葉「……高峯さん、聞いてました?」
楓「(泰葉ちゃん、刻みネギ取って下さい)」ズズー
泰葉「(あ、ハイ)」
━━━━翌日━━━━
【事務所 応接室】
卯月「……」ジー
凛「……」ジー
未央「……」ジー
のあ「(……)」
http://i.imgur.com/NwdhQKV.jpg
のあ「(……)」チラッ
未央「ゥッ!!!」ビクッ!
未央「(ちょ、ちょっ……!! なにアレ!? なにアレ!!!)」ヒソヒソ
凛「(し、知らないよ。何でテーブルに……というか高峯さんの目の前にあんなのが置いてあるの?)」ヒソヒソ
未央「(あれ、明らかに高峯さんの私物だよね?)」
凛「(なにあのキモチ悪いキャラクターの……フィギュア?)」
凛「(いやでも、あのサイズでキーホルダーっぽいけど)」
未央「(さっきから横目でチラチラこっちの様子をうかがってるんだけど……。なに、どうすればいいの?)」ヒソヒソ
凛「(いや……無理。近寄りづらいよ、いつにも増して。私達が部屋から出る以外無いよ選択肢は)」ヒソヒソ
未央「(うーん……でもあのキャラクター、どっかで見たことあるような……)」
未央「(弟がこの前見てた漫画で………あれ、キン肉マン? 違う、バッファローマン?)」
凛「(なんだ、知ってんじゃん。ほら話しかけてきてよ)」
凛「(ボーリング一緒に行った時も、前々から高峯さんとゆっくり話してみたいって言ってたじゃん。夢が叶うよやったね未央)」
未央「(無理無理無理だよ!! バッファローマンで話が広げられる気がしないよ!!!)」
凛「(死ぬ気で行けば大丈夫だって。未央、パッションでしょ)」
未央「(死なす気!? パッションだからって過度なコミュ力を期待しないで!! )」
未央「(ホント無理だって!! ヤクザの会合の余興で“純情Midnight伝説”を歌わせるような暴挙だよ!?)」
凛「(イケるって未央なら。ちゃんとツーショット撮ってあげるよ。写真のタイトルは“SCPとの邂逅”で良い?」
未央「(ハァ!?)」
卯月「(高峯さん……っ)」グスッ
のあ「……」チラッ
のあ「……」ドキドキ
──────
────
──
──
────
──────
【高峯家】
のあ「……会話。会話ね」
のあ「思い返せば、自発的に事務所の人達に話しかけるって機会は少なかったかも」
のあ「でも、私みたいに話題の引き出しが少ないと、続かないのよね。会話って」
のあ「あぁ……難しい。でもLIVEバトルする多田李衣菜ちゃんと木村夏樹ちゃんとは仲良くなっておきたい、せめて」
のあ「うーん」ペラッ
のあ「この写真の子が多田李衣菜ちゃんね」
のあ「派手なプリントTシャツ。服装やアクセサリーをカジュアルに合わせて、クールな雰囲気を醸し出して……でも、どこか幼く可愛い印象」
のあ「ああ、彼女もロックなアイドルね。なんか少し前の裏原とかを窪塚洋介と一緒に気取って歩いてそうなカンジ」
のあ「ヘッドホンを肩にかけて更に耳に付けてるけど……なんだろう。これが今の流行りなのかな」
のあ「ロックな話題…………」
のあ「無理だわ。そっち系の音楽はあまり馴染みがないし」
のあ「……!」
のあ「でも、伊吹ちゃんや小梅ちゃん達と関わったように、映画の話題の時みたいに……」
のあ「……『フリ』をすれば……」
━━━翌日・早朝━━━
【事務所 応接室】
李衣菜「~~~……♪」シャカシャカ
李衣菜「~~~~~……♪♪」シャカシャカ
ガチャ!
───バァン!!!
李衣菜「うひゃっ……!?」ビクッ!
李衣菜「な、なにっ!? だ、誰………扉を蹴破って……」
のあ「………………」
李衣菜「あ、アナタは……!!」
李衣菜「ろ、ロックの化身……、高峯のあさん!!」
のあ「(……)」
李衣菜「っ!?」
李衣菜「そ、その肩に担いだラジカセは!?」
のあ「ヨ……ヨー……チェケラー……」
李衣菜「ら、ラッパー!?」
のあ「リ……李衣菜、ヨー李衣菜……、イイカンジの曲リッスンしてんじゃーん……」
李衣菜「えっ!? この距離で漏れた音聞こえてました!?」
のあ「オ……おぉ、そりゃあもう、ハート震えてビート刻むほどかなりキてたぜ……」
李衣菜「あっ!! そ、そうだ!! サイン……じゃなくて、えっと……!!」
李衣菜「あ、あのっ! どうしたら、高峯さんのようにロックになれますか!?」
のあ「わ、私みたいにロックに……? そ、そりゃ……なん、なんつーか、私はロックで、ロックは私みたいなトコあるし……ソノ……」
のあ「言葉じゃなくて……ソノ……、要は、ノリ?」
李衣菜「ノリ……!!」
のあ「も、もうちょっとロックな格好した方がいいかも……その……ほら、もっとシルバー巻くとか……」
李衣菜「シルバー……!?」
のあ「ホ、ホラ……その、シルバー……鎖? 鎖とか、その……束縛的なイメージで……何にも縛られることない自由へのアンチテーゼ……みたいな……?」
李衣菜「アンチテーゼ……!!」
のあ「ジ、じゃあ……ほら、もう私、そろそろ行くから……ちょ、ちょっとどいてネ……」スタスタ
李衣菜「えっ、いま来たばかりなのに!? ってアレっ!? ちょ、えっ……ど、何処に行くんですか!!」
李衣菜「それ、非常用梯子ですよ!?」
のあ「エッ……イヤ……その……私レベルのロックとなると……その、クセになってんの。非常用梯子から出入りすんの」
のあ「シ、新聞の一面に取り上げられてこそ、その……私の中では、ロックみたいなトコがあるから」
李衣菜「!! そ、そうか、高峯さんは存在そのものが非常事態のような人だから……」
のあ「あ……アディオス李衣菜……私達、もうソウルメイトだから……次からは言葉はいらないから……」
のあ「ぁっ」ツルッ
───ヒュンッ!!
李衣菜「……!!」
───ガチャ
夏樹「おーっす。だりー?」スッ
夏樹「…………………………………………………………だ、だりー?」
李衣菜「ひぐっ……うぅっ………、……な、なつきちぃ……」ポロポロ
李衣菜「ロックだあぁ……、なんっていうか、ロックのよくばりセットみたいな人だぁ……」
夏樹「……?」
━━━━━━━━━━
【吉野家】
のあ「……アー」グスッ
のあ「…足挫いた……なにやってんだろ……私…」
──────
────
──
──
────
──────
【レッスンルーム】
マストレ「……おほんっ」
マストレ「じゃあ今日の予定分を始めようか」
卯月「(……あの青木麗さんが直々に指導してくれるなんて……き、緊張しますっ)」ドキドキ
のあ「(……この人があのトレーナー4姉妹の長女、青木麗さんかぁ……か、格好良いなぁ)」ドキドキ
マストレ「……まず、島村に高峯。先日は妹が申し訳ない事をした」
卯月「え? (青木)聖さんがですか?」
マストレ「ああ。勤務中に抜け出してデイトレードに興じるなど言語道断」
マストレ「私が直に灸を据えて今後はあのような事が無いように絞っておいたから、それで手打ちにして欲しい。本当に済まなかった」ペコッ
卯月「あっ、い、いいえ」
マストレ「だが、妹の言う事も一理ある」
のあ「?」
卯月「笑顔のことですか?」
マストレ「ああ」
マストレ「君達アイドルにとって笑顔をはじめとした表情は必要不可欠な要素だ」
マストレ「高峯。人との関わりにおいて、最も多く視界に入る部分は何処かな?」
のあ「(……)」
のあ「ク……くちびる」
マストレ「そう顔、つまり表情だ」
のあ「……」
マストレ「機微・顔色・面貌。初対面の時、コミュニケーションを図る時、否が応でも目に映る」
マストレ「妹も言っていただろうが、ことアイドルという職業は色々な意味で顔を売る仕事だ」
マストレ「人並み以上に表情を使う場に直面し、そしてそれを自在に操り印象付ける技術が求められる」
マストレ「話は少し逸れるが、それはある種、ライブにおけるパフォーマンスであっても同じことだ」
マストレ「高峯は近いうちに、LIVEバトルを控えているらしいな?」
のあ「……ええ」
マストレ「(……)」
マストレ「高峯。妹達からも評価は聞いているが、君は歌と踊りに関して、必要な基礎は勿論、技術ですら高いレベルで習得している」
マストレ「脱帽だよ。新人にしては上出来……いや、むしろ新人であるのが不思議なくらいだ」
卯月「(さ、流石は高峯さん……!)」
のあ「(ふ、フフ……嬉しい、卯月ちゃんもコッチみてる……♪)」ドキドキ
マストレ「……だが、ハッキリ言わせて貰おう」
マストレ「君の歌も踊りも『感情』が全く無い。表情の変化が乏しい、という意味も当然兼ねてだが」
マストレ「全てが単調。まるで命令されたプログラム通りに動くロボットのように、そこに感情を見出すことは出来なかった」
のあ「(ッ!?)」グサッ!
マストレ「……島村。君達アイドルにとって最も大切なものは何かな?」
卯月「え、え~っと……」
のあ「(ろ、ろぼッ……!?)」プルプル
卯月「……ファンの皆さん、ですか?」
マストレ「そうだ。無論これは『ファンのために身を投げ打ち尽くせ』、という非情な意味ではない」
マストレ「ファンとの意思疎通……。そのために君達は自分の意図・感情を歌や踊りにのせて表現する」
マストレ「躍動感や悲壮感を、仕草や声色や拍子で形作る。謂わば、歌と踊りも全て君達の『感情』なのだ」
マストレ「ファンを想い、感情を籠め、親近感を醸し出し、一体感を生み出し、一個のアイドルとしての完成形に近づいていく」
マストレ「……高峯のあ、君は非凡で稀有な存在だ。しかしそれだけじゃあ足りない、ダメなんだ」
のあ「(ぉ……ぉぉ……っ)」プルプル
卯月「(高峯さん? け、血色が……)」
マストレ「高い技術は当然必要だ。だが、ただ魅せるだけでなく伝わらなければ意味がない」
のあ「(ぁ、あふっ……うくっ……)」プルプル
のあ「(フゥー、ふぅー…………ウッ、ぐっ……!)」プルプル
のあ「(ふぅー、ふぅー……フッ、ふぅー……っ!)」プルプル
マストレ「高みに上れば上るほど、自然と変容し遠退いていくものもある」
マストレ「憧憬の心は畏怖の念に。羨望の眼差しは嫉妬の視線に。孤高の歌姫は……いつしか孤独の存在に」
マストレ「皆は口を揃えて言う。『アイドルとは星が煌めくように美しく眩いが、手の届かない存在』『アイドルとは偶像であり、住む世界が違う』、と」
マストレ「……だがそれらは、『アイドルとファンの心の乖離』を正当化する言葉では断じてない」
マストレ「アイドルとは、常にファンと共に在らなければその存在価値を失ってしまう」
マストレ「ファンとの意思疎通を図る君達の表情は、いつでも重い意味を持つということを心に留めておきなさい」
卯月「は、はいっ!」
卯月「(麗さん、かっこいい……)」
マストレ「それで、だ……。話を戻そうか、表現についてだ」
マストレ「歌や踊りに感情を籠める為には、その起伏を絶妙に表現することだ」
マストレ「振り付けの流れや動き、歌唱法による音程や声量の抑揚、拍節の変化もだが……、それこそ初歩として、『顔の表情』を伴うことが重要になってくる」
マストレ「喜怒哀楽の表情、機微の基礎を習得する。それがビジュアルレッスンだ」
卯月「なるほど……!」
マストレ「最初にも言ったが、君達アイドルにとっては歌と踊り以外にも、ドラマ・CM・モデル撮影・オーディション・スポンサーやクライエントに対しての挨拶……」
マストレ「様々な仕事の場で表情を使い分ける技術が求められる」
マストレ「太陽のように屈託のない笑顔とまで言わずとも、せめて営業スマイルくらいは身に付けておいて損は無いだろう」
マストレ「基本形は笑顔だ」
マストレ「島村は笑顔に関しては満点だな。あとは状況に応じた感情の表出と、欲を言えば歌と踊りの技術も向上させれば、より洗練されたパフォーマンスが出来るだろう」
卯月「は、はいっ!」
卯月「……っ!!」チラッ
マストレ「……?」
マストレ「(なんだ……? 島村が高峯を前のめりで凝視している……)」
━━━2時間後━━━
マストレ「?」
マストレ「どうした高峯。そんなトコロに突っ立って」
マストレ「島村はもう戻ったぞ…………ん?」
マストレ「なんだ? 何か用か?」
「フっ……ク……グスッ……」ポロポロ
マストレ「あぁ。レッスンの続きか」
マストレ「うん。なかなか真に迫ってるぞ、哀哭と垂泣の調子を崩さず、台詞でもつけてみろ」
「カ……っ」グスッ
「ガ……感情移入ぅ、親近感っ……ヒグッ」
「……ゾ、ぞれら、それらはぁっ、ぎ、技術の低さを……ズズッ、ごッ、ごまがじでいるだけに、ズ、ずぎ、すぎな、いィィィっ……」ポロポロ
「ヒッ表情、作りばァーっ、フッ……、じ、じゅ、純然たるデグっ…デクニッグぅ……。じ、自身のっ、ないベッ、内面をっ、ォォォ……!」ポロポロ
「すっ、ストレートに、曝け、出すスタイルも、あ、あァァ、る、ケドぉ……グスン……、ゾ、そーいうのはァ、わ、わだっ、わだじの趣味ではっ、な、無いィィィッ……!」
「……グスッ! ぅ、ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥウウ!!」ズズッ
マストレ「……うん、いいぞ。だいぶ良くなった」
マストレ「少しオーバーすぎる部分も否めないが、そこは追々慣らしてくことにしよう」
マストレ「……いや、なんだ。最初は私も少し言い過ぎたかと思ったよ。別に高峯の人格を否定しようというワケではないんだ」
マストレ「無機質な表情もお前の持ち味の一つだ。それを貫くのも良しだが……」
「ウ゛ウ゛……! ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ゥ……、ヒグッ、!、グスッ……!」
マストレ「高峯。そろそろ演技はストップだ」
マストレ「2時間ぶっ続けで疲れただろう。今日はそのくらいで……」
マストレ「………………」
マストレ「……高峯? ほら、もういいから。早くしないと…………」
マストレ「…………た、高峯………………?」
マストレ「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
マストレ「ぁっ」
マストレ「ァ……ちょ、ちょっと、ちょっとここで待っていてくれ」
マストレ「い、いま私が島村を連れてくるから……い、いいな? わ、分かったか? 絶対外に出るんじゃないぞ? 絶ッ対外に出るんじゃないぞ??」
マストレ「すす、すぐ戻ってくるから。あ、あと何か飲みたいものとかあるか? ……その、なんか奢るから、ウン……いま島村に助けを請……いや、連れ戻してくるから……、し、島村、ちょ、ちょっと待てッ……」ダッ!
ダダダダッ!!
ガチャ!
───バタァン!!
「…」グスッ
────
──
──
────
──────
【事務所 応接室】
夏樹「……で?」
李衣菜「まー、話題に事欠かない人だからねえ。高峯さん」
夏樹「あの容姿と風格だしな。クセの多いこの事務所でも、(色々と)頭一つ飛び抜けてるだろ」
夏樹「デビューも早いし、アタシらもあっという間に追い抜かれるかもなぁ……」
李衣菜「真奈美さんと美優さんは『意外に普通なカンジ』って言ってたかな?」
夏樹「へえ……。理由が気になる」
李衣菜「一緒にゴハン食べて世間話でもしてたりしてね」
夏樹「(あの人何食うんだろーかな………電気で動いてそうな人だけど)」
李衣菜「アーニャちゃんは、『似たものを感じる』ってさ」
夏樹「似たもの、ね。趣味とか?」
李衣菜「高峯さんのシュミって何だろ? 意外にロマンチックな趣味とかだったりして」
夏樹「さあ」
李衣菜「みくはねー。なんか『ノーコメント』だって」
夏樹「なんだソレ……、あの二人って接点あったっけ?」
李衣菜「一緒に地方イベントまわったって」
夏樹「ふぅん。でも聞いた所、そんなに大きな仕事はまだしてない感じだったな。まだ半年弱だから当然か」
李衣菜「恐ろしいほどになんでもカンペキにこなせそうな人なのにね」
李衣菜「案外不器用だったり……なーんて」
夏樹「まさか」
李衣菜「………でさ?」
李衣菜「この間、あの4人も高峯さんのコトを話してたんだけどね?」
夏樹「?」
李衣菜「映画鑑賞部」
夏樹「涼、小梅、あと伊吹に奏か。ああ、たしか一緒に映画鑑賞したんだっけか、高峯さんと」
李衣菜「高峯さんに対してのコメントが三者三様でオモシロかったよ。あ、四者四様か」
夏樹「へえ。涼はなんて?」
~~~~~~~~~~
『高峯サン?』
『んー……噂に聞くほどは堅いカンジはしなかったぜ。取っ付き難い性格かと思ったんだけど』
『ただやっぱり一緒にワイワイ騒いでつれそうってタイプでもないかな。んんー……年の差もあんのかなぁ』
~~~~~~~~~~
夏樹「あの面倒見が良い涼が、珍しく距離を測りかねてるな」
李衣菜「まあ、私だったら初対面でもフィーリングでバーン! ってイっちゃうけどね」
夏樹「奏は?」
~~~~~~~~~~
『……高峯さん?』
『あの人はね………「世界」なの』
『退屈ではないけれど満たされない、踏み出す勇気は無いけれどもどかしい………晴れ晴れとせず微睡んでいた私のメランコリーな世界を、あの人は一瞬で、見たことのない色に染め上げた……。まるで、雲に抱かれ、朧気な漆黒の夜を切り取るように姿を見せた、眩惑する月のよ───
~~~~~~~~~
夏樹「小梅は?」
李衣菜「んん? 小梅ちゃんは……」
~~~~~~~~~~
『えっ……? た、高峯、さん??』
『また映画、一緒に見たいな……♪ あと、あの子も言ってたけど……』
『色々とすっごく面白い人、だって。見えないはずなのに見られているようなフシギなカンジだって……』
『ふふふっ、うん……良い人、だと思う。あの子も気に入ってたし……』
~~~~~~~~~~
夏樹「………なんつーか、やっぱあの人、なんか持ってるよな。いろいろ引き寄せるっつーか」
夏樹「カリスマ? いや、なんかそれ以上に人を惹きつける不可抗力の…………重力?」
李衣菜「でさ、でさ? 伊吹さんが言ってたんだけどね?」
夏樹「ん?」
~~~~~~~~~~
『あー、高峯さん?』
『そだねー……うーん……』
『映画の人物で表すと、【T-X】みたいな人だよね!』
~~~~~~~~~~
夏樹「グッ! むふっ……!」プルプル
李衣菜「ねえねえ、そのT-Xって何さ?」
夏樹「ふぅ………あー、T-X? じゃあまず『ターミネーター』って映画知ってるか?」
李衣菜「うん、シュワちゃんのでしょ? それくらい乳児でも知ってるよ」
夏樹「T-Xってのは、その第3作に出てくる、女型の───」
━━━━その頃━━━━
【岡崎家】
のあ「…………」
楓「ロボットですって、のあさん」
泰葉「(…………)」
──────
────
──
──
────
──────
【続 岡崎家】
のあ「……」
楓「ま、まあ落ち着いてくださいのあさん。所詮は噂ですよ」
楓「みんなも、冗談で言ってるに決まってます」
のあ「……」
泰葉「(完全に消沈してる)」
泰葉「(机に突っ伏して、微動だにしない。死んでるみたい)」
のあ「……」
泰葉「麗さんも言ってたんですか?」
のあ「……」ズリズリ
泰葉「そ、そうですか。でも悪い意味じゃないですよ、多分」
泰葉「その、うーん……」
泰葉「………………」
のあ「……」
泰葉「(か、楓さん。上手いアドバイスが見つからないです、タッチで)」
楓「(フフフ。安心してください泰葉ちゃん)」
楓「(ここはこの年上の高垣楓に……高垣楓と書いてデキる大人に任せてください)」
泰葉「(不安しかない)」
楓「……のあさん」ポン
のあ「……」
泰葉「(……)」
楓「………………」
楓「一杯、やりにいきましょう」
泰葉「(やっぱり……)」
━━━30分後━━━
【居酒屋】
泰葉「あの……いいんですか? 私も入って」
楓「大丈夫ですよ。ホラ、泰葉ちゃんは『未成年』のシール張ってますから」ペタッ
泰葉「(居酒屋……こういう大衆的なところに入るのは、初めてかも)」
のあ「……」
のあ「……私」
のあ「無機質な目とか、画一的な顔とか幼い頃からよく言われてはいたけど」
のあ「……まさか無機物に例えられるとは、夢にも思わなかった」
のあ「……つらい」
泰葉「…………」
泰葉「(楓さん……。高峯さん、珍しく本当に落ち込んでますよ)」
楓「すみませーんっ、ビールもういっぱいっ!」
泰葉「って、アレェ!?」
泰葉「ちょっと!! なに普通に飲んでるんですか!!」
楓「泰葉ちゃん。大人になれば、たくさんの悩みを抱え込んでしまいます。たくさん考え込んで、たくさんストレスを溜め込んでしまいます」
楓「なら、その悩みを吐き出し、考え込む時間を奪い、ストレスを発散させてあげましょう!」
楓「これこそ私の知りうる最大限のアドバイス!! デキる大人の処世術というヤツですっ!」
泰葉「ソレ根本的な解決には結びついてないですよね!?」
楓「さあ、のあさん! ビールをあびーるほど飲んで、明日への活力にしましょう!」
のあ「……ええ」グビッ
泰葉「(ああダメだ! やっぱりこの人に頼ったのが間違いだった!!)」
泰葉「(でも……、でもここはもう大人の独壇場っ、私の出来ることは何も……っ!)」
のあ「……のんだ」ケフッ
楓「スミマセンっ! ビールもう一杯!!」
泰葉「すみません! ラーメンサラダ下さい!!」
━━━━翌日━━━━
【岡崎家】
泰葉「……」
楓「……」
泰葉「……高峯さんは?」
楓「二日酔いで寝込んでます」
泰葉「(大人って、一体……)」
──────
────
──
──
────
──────
【岡崎家】
楓「……まあ」
楓「全てが完璧な人なんていませんよ」
楓「どこかしら欠点があるからこそ、愛嬌も生まれるというものですよ」
のあ「……」
泰葉「楓さんもあるんですか? なにか苦手なこと」
楓「アイドルの活動で限らせて言わせていただけば、歌と踊りと人間関係ですね」
泰葉「(それって致命的では……)」
泰葉「……あ」
泰葉「得意不得意と言えば……お二人は確認しましたか? 『成績表』」
のあ「……?」
楓「成績表?」
泰葉「あれ、ご存じないですか?」
泰葉「麗さんと聖さんの指導を受けているアイドルに半期毎で渡される、いわば習熟度評価のような形で点数とアドバイスを記した紙ですね」
泰葉「以前までは中学生までの子を対象に、通信簿のような形で渡していたんですけど……」
泰葉「一部大人の要望もあり、結局全員に渡されるようになったんですよ。ホラ、こういうの」ピラッ
のあ「……そういえば……この間……」
楓「……渡された気がしないでも……」
のあ「……探してくるわ」スッ
楓「同じく」スッ
泰葉「(そういえば私も詳しくは目を通してなかった)」カサッ
━━━━5分後━━━━
楓「無駄に凝ってますね。ここの装丁とか特に」
泰葉「無駄とか言ったらダメですよ。これを百人分以上も製作してくれているんですよ?」
のあ「……じゃあ、見せあいっこしましょうか」
楓「何だか、小学生の終業式を思い出しますね♪ HRに渡されて、皆で比べて……」
泰葉「そうですね、ふふふっ」
のあ「フフ……」
楓「(あっ)」
泰葉「(少し、笑った……)」
~~~~~~~~~~
★Vo(ヴォーカル)
岡崎:7
高垣:5
高峯:8
~~~~~~~~~~
楓「の、のあさん良いじゃないですか!!」
泰葉「(わ、私より高い……!)」
のあ「(……)」ニヤ
楓「む~……、私はやっぱり低めですね。総評にも『声量や音程など、基礎からしっかり』と頂いてます」
泰葉「点数はたしか『3』が最低ですね。小さい子もいるので、1と2は意図的に付けてなかった気がします」
楓「病院の病室番号に、不吉な4や9を付けないのと同じですね」
泰葉「何故あえて不吉な例えをするんですか」
~~~~~~~~~~
★Da(ダンス)
岡崎:7
高垣:4
高峯:9
~~~~~~~~~~
楓「のあさん、すごい……!」
のあ「(…………)」ニヤニヤニヤ
泰葉「(ぐ、くっ……)」
泰葉「マ……まあ、全アイドル対象ですから明確な基準は無く曖昧で、あくまであの二人の目線の評価ですから」
泰葉「年齢層によって多少の誤差はありますよね」
楓「総評……『枯れ枝のような細腕細足は正視に耐えず。最低限筋肉・体力を付けるべし』……んー、太くなりすぎずですよね私の場合……」
のあ「総評……『体力・筋力共に問題なし、あとは柔軟性。技術の習得もめざましく、今後も邁進するように』
泰葉「楓さんは本当に、歌と踊りが苦手なんですね」
楓「うぅっ……、もう所属して1年……これでも結構頑張ってるつもりですが……」
~~~~~~~~~~
★Vi(ビジュアル)
岡崎:10
高垣:10
~~~~~~~~~~
楓「や、泰葉ちゃん!」
泰葉「か、楓さんっ!」
楓&泰葉「すごいじゃないですかっ!!」
泰葉「やっぱり楓さん、モデル経験者なだけありますね。流石と言いますか」
楓「いやぁ。ただカメラの映りやすい角度とか表情の出し方とかメリハリとか、付け焼刃の知識がたまたま功を奏しただけですよぉ♪」
楓「泰葉ちゃんこそ、子役モデルの経歴は伊達じゃないですね」
泰葉「いえいえ。演技力には多少の自信はありますが、それが歌や踊りにも活きるとは思いませんでしたよ」
楓「またまたぁ♪ 謙遜しちゃって♪」
泰葉「楓さんこそっ。ふ、ふふふっ……♪」
のあ「…………」
楓「…………のあさん?」
泰葉「ど、どうしたんですか? まんじりともせず固まって」
泰葉「あまり良くなかったですか?」
楓「最低の3………いいえ、もしくは存在しない2、1……」
泰葉「言い過ぎですよ!? あ、あの……」
泰葉「辛いなら、見せなくても大丈夫ですよ。ご飯の用意し───」
のあ「……」スッ
楓&泰葉「!」
【 高峯:○ 】
楓「」
泰葉「ま、マル……?」
のあ「……これは、なに?」
のあ「空欄? 測定不能?」
のあ「それとも、好評価の意味の○?」
のあ「……総評がないけど」
泰葉「え、ええっとぉ…………」
のあ「もしくは…………」
のあ「………… 0?」
楓「…」
泰葉「…に、睨まないで下さい」
のあ「……睨んでないけど」
──────
────
──
──
────
──────
【事務所 応接室】
卯月「あっ!」
卯月「未央ちゃん、そのキーホルダーって『ぴにゃこら太』ですか?」
未央「へへへーっ♪ この前、近くのゲームセンターで見つけちゃってさ?」
未央「弟が欲しいってせがんできたから、まあついでに2個取っちゃって」
卯月「わっ、ブニブニしてます」ブニブニ
卯月「可愛いなぁ……♪ これ、最近色々なグッズでてますよね?」
未央「ねー。正直私にはよくコイツの可愛さが分らないんだけど」
卯月「え、えぇぇっ! 可愛いですよっ!」
卯月「まあ確かに好みは分れるデザインだと思いますけど、綾瀬ちゃんとか、柚ちゃんとかも───」
のあ「(…………)」
━━━━夜━━━━
【岡崎家】
http://i.imgur.com/NwdhQKV.jpg
のあ「……」
楓「(……♪)」パクパク
泰葉「な……何ですか、この不気味なオブジェは」
泰葉「バッファローマン……!?」
泰葉「だ、ダメですよコレは………いくら寛容な皆さんでも、流石にドン引きされますよ」
のあ「……良い意味で?」
泰葉「どういう意味ですか!?」
泰葉「どれだけポジティブなんですか貴女は!?」
楓「(泰葉ちゃん、かつおぶし取って下さい)」
泰葉「(あ、ハイ)」
のあ「……ゆるキャラ」
泰葉「コレは違いますね、少なくとも」
のあ「……ぴにゃこら太」
泰葉「ええ。それは先日私が言いました」
のあ「……聞いてない」
泰葉「あれ……ご、ごめんなさい。事務所で流行ってるんですよ、俗にいう『ブサカワ系』ってやつですね」
のあ「……持ってない」
泰葉「うーん……こういうグッズってどこに売っているんだろ」
泰葉「キャラクター雑貨のお店を覗いてみたりとか、あとは……」
のあ「……ゲームセンター」
泰葉「(……!)」
楓「(泰葉ちゃん、おたふくソースとマヨネーズ取って下さい)」モグモグ
泰葉「(あ、ハイ)」
━━━━翌日━━━━
【ゲームセンター in クレーンゲーム】
のあ「……」
カチャコン
ウィィィン…
のあ「……っ」ドキドキ
───スカッ
のあ「…………」
のあ「……」ゴソゴソ
のあ「……」
カチャコン
ウィィィン…
のあ「……♪」
───スカッ
のあ「………………………………」
━━━1時間後━━━
店員「お客様、あの……困ります」
のあ「チ……ちがいまス……、そのっ、ワ、私は何も……っ」ビクビク
店員「ゲーム機の筐体を揺らしたら、先程のように警報が鳴るので」
のあ「アゥ……」
店員「手で押したり、叩いたりするのはお止め下さい。マナー違反ですので」
のあ「…………ハィ」
のあ「……」シュン
────
──
──
────
──────
━━━━早朝━━━━
【事務所 応接室】
───ガチャ
夏樹「おはようございまーす………ん?」
のあ「……!」
夏樹「あ……おはようございます」
のあ「……」チラッ
夏樹「…………」
のあ「…………」
夏樹「……っしょ、と」ドサッ
のあ「……」
のあ「…………」スススッ
夏樹「(遠ざかった)」
夏樹「(アタシ嫌われてんのかな。まあ、無言でいきなり隣に座るのもアレだったかな……)」
のあ「……」
夏樹「……」ペラッ
のあ「……」
のあ「……夏樹」ボソッ
夏樹「うわッ!!!」ビクッ
のあ「えっ?」
夏樹「あっ!! いや何でも……な、なんすか、高峯さん」
のあ「……この前のジュース、実に美味だったわ。魂を揺るがすほどに」
のあ「これ、お礼」スッ
夏樹「えっ、あ、あぁ……別にそんな…………あ、あざす」
のあ「プリン」
夏樹「(プリン……)」
───ドスン!
夏樹「(…………)」
夏樹「(えっ、デカッ!? これプリンなのか!?)」ズシッ!
夏樹「(お、重ェ……なにコレ……大仏のイラスト? 奈良?)」
のあ「……」
夏樹「……」
のあ「…………」
のあ「………食べないの?」
夏樹「えっ!?」
夏樹「や、その……この大きさだし、帰ってから堪能しようかなぁと」
のあ「……そう」
夏樹「は、はい。ありがとうゴザイマス」
のあ「…………」
夏樹「(……お、落ちこんだ?)」
のあ「……」スッ
夏樹「あれ、どうしたんすか?」
のあ「? もう帰るのだけれど」
夏樹「(まだ早朝なのに!? この人、まさかオフなのか………なんのために!?)」
夏樹「あっ。じゃあ、その……」ゴソゴソ
のあ「??」
夏樹「これ、要ります? ミンティア」
夏樹「今ウチら、このCMに起用されてて、事務所にノベルティ……タダで貰ったソレが余るほど置いてるんだよね」
のあ「……」
夏樹「お礼の、お礼………ってことで」
のあ「お礼のお礼?」
夏樹「うん。お礼のお礼」
のあ「じゃあ私も……今度お礼するわ」
夏樹「ハハハ……期待しないで待ってます」
のあ「……ふふ」
夏樹「!!」
夏樹「(この人の笑う声、初めて聴いたな)」
のあ「………頂くわ」
のあ「……ありがとう。早速賞味するわ」ガチャ
夏樹「はい。お疲れサマです」
───スタスタ
のあ「(夏樹ちゃん……)」
のあ「(……やっぱり、良い子だわ♪)」カサカサカサカサッ
のあ「(……♪)」パクッ
のあ「(………)」バリバリバリッ、ボリボリボリッボリボリッッ!!!
━━━1分後━━━
【事務所 トイレ】
のあ「カッ、かはッ……あっ、ぁ゛っ……、ヴッ! ガフッ、ふっ、ひっ……」ガクガク
のあ「えっ、え、……おぇええっ!!」
のあ「うぐっっ、ウッ、あぅ、う、は、ハウウゥ……!!」プルプル
のあ「(こ、呼吸が、出来ないっ……!)」ヒュー
のあ「(気持ち悪い……、く、口の中に湿布を投げ込まれたかのよう……!!)」ヒューヒュー
のあ「ウ、ウウゥ……っ」
のあ「ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ゥゥゥゥゥゥゥ…………!!」
のあ「ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ~~~~~~…………っっっっっ(慟哭)」
──────
────
──
──
────
──────
【楽屋】
夏樹「フー……」
李衣菜「あと30分っ!」
夏樹「さぁ、今日もクールに、アツく盛り上げてこーぜ。だりー」
夏樹「ひっさびさのLIVEバトル。もちろん、初っ端から全開だろ?」
李衣菜「おうっ! 今日の私は一味違うんだから!」
李衣菜「なんたって、LIVEバトルの相手があのロック is ロック……!」
李衣菜「高峯のあさんだからね!」
夏樹「お。気圧されてると思ったら……」
李衣菜「まさかぁ。一回吐いたら緊張も吹っ飛んだよ」
夏樹「(吐いたのかよ……)」
李衣菜「私たちの方が、ランクもキャリアもなにもかも上なんだよ? 確かに、あの人は本当にカッコイイし、すごい人だと思うけど」
夏樹「……」
李衣菜「感情の読み取りにくい美貌と、鮮やかな銀の髪をなびかせる、類まれなる容姿の持ち主。その端麗な容姿を活かして広告媒体・雑誌モデルでの仕事を中心に、いわゆるモデルアイドル方面での活動を行う人物で……」
李衣菜「悠然として、その刺すように冷たい視線はやはり寡黙の女王の通り名に恥じぬ気品と凄味があって、でも時折覗かせる悲しい表情はどこか慈愛を漂わせ私達の心を擽りつつ優しく包むような……」
李衣菜「かと思えばロックの魂もちゃっかり持ち合わせる、才色兼備というか多芸多才というか、ケーパビリティ溢れる人で……」
李衣菜「なんかもう、こっちがバントのサインだしてるのに気付かないであっさりホームラン打っちゃいそうな、予測不能のユーモラスさとロックな行動力がもう堪らなく最っ高に……」ドキドキ
夏樹「だ、だりーさん?」
李衣菜「つまりとてつもないLoooooooooock!!! な、人なんだよなつきちィ!!」
夏樹「(Lock……?)」
夏樹「わ、分かった分かった。分かったから涎拭けよ」スッ
李衣菜「ウン」
夏樹「じゃあ、まだ少し時間もあるし」
夏樹「よし。高峯さんの演出の補助の復習でもしとくか」
李衣菜「うん、わかった!」ゴシゴシ
李衣菜「えっと……私達のパフォーマンスが終わったら、一通り繋ぎの口上を言ったあと、会場のスポットが落ちて……」
夏樹「で、その後は私達がステージ後方に下がって────」
━━━━その頃━━━━
【楽屋】
P「───では、確認しておきましょうか」
のあ「……ええ」
P「高峯さんの出番は、『ロック・ザ・ビート』夏樹と李衣菜の直後です」
P「今回のLIVEバトルで、高峯さんはワイヤーアクションでパフォーマンスを行います。フライングとも呼ばれていますね」
P「実はこの事務所でも、最近何度か同じ演出を行ったことがあります。『自称・天使』輿水幸子、『みんなの太陽』上田鈴帆、あと……」
のあ「…………」
P「ああ、そうだ。確か『深黒の堕天使』蘭子もそうでした」
のあ「ええ。早速会話のネタにするわ」
P「えっ?」
のあ「イ……いえ、何でも」
P「……あっ、そうだ。あとですね?」
P「ステージ上部の吹き抜けでスタッフが待機しているので、直前にそこへ移動して貰います」
P「今回はそこに手伝いとして、事務所の───」
━━━20分後━━━
【上部スペース】
のあ「……!」
凛「ん……!」
卯月「あっ」
未央「おぉ!」
のあ「手伝い………あの人が言っていたのは、貴女達の事かしら」
未央「お疲れ様です、高峯さんっ!」
卯月「高峯さん、お疲れ様です。いよいよ本番ですねっ!」
未央「はーっ……! なんだか神秘的な衣装ですね、うわーっ……!」キラキラ
凛「うん、確かに」
凛「なんか高峯さんがハーネス付けると、SFの戦闘サイボーグみたいな───」
グリッ!
凛「(───いッ……?!)」
凛「(………えっ? ちょっと未央、足踏んでるよ、私の)」
未央「(しぶりん、余計なこと言わないでいいから)」
凛「(あ、うん。分かった)」
のあ「……?」
未央「でも、2回目のライブでいきなりワイヤーアクションって……」
凛「派手でいいと思う。うん、高峯さんらしい」
のあ「……私、らしい?」
凛「ん、……うん」
凛「(……?)」
のあ「……続けて」
凛「う、うん」
凛「大胆不敵ってカンジで、似合ってます」
凛「こういう時って普通はみんな、もっと控えめに行くんだけど……」
凛「あえて派手な演出で対抗するところが、高峯さんらしいというか」
のあ「……そうかしら」
のあ「……詳しく、聞かせて頂戴」
凛「あ、う……えっと……」
未央「(ウッ……)」
凛「高峯さん。お、怒ってますか?」
のあ「? ………いいえ」
未央「(そうなのか……)」
凛「えーっと……」
凛「……芸能界とかって、よく段階や場数を踏めとか、序列や順序を弁えろとか言われるでしょ」
のあ「……そうね」
凛「実際、こういうLIVEバトルも、ランクやレベルがあまりに違いすぎると高い方は勝手に批判されたり、逆に低い方はややこしい変なウワサが流れたりする」
凛「だから、普通は『新人は控えて、先輩を立てる』ってのが自然の形。暗黙の了解になってる」
のあ「……」
凛「でも私は……実力がある人には、それ相応の場が用意されて然るべきだと思うんだ。機会に恵まれず大成出来ない子だっているわけだし」
凛「………言い方が悪かったら、すみません」
凛「高峯さんって実際、私達三人と比べたらランクが5も6も下なワケだけど」
凛「でも、みんな噂してる」
卯月「(……)」
凛「高峯のあは、すごい人だって。歌も踊りも完璧で……容姿も顔立ちも、そこらのモデルなんて安っぽく思えてしまうほどに整ってる」
凛「これは直感だけど………私も、どれをとっても貴女には勝てる気がしない。正直」
のあ「…………」
凛「今回のLIVEバトルの相手は夏樹と李衣菜の二人」
凛「この二人も最近いろんなCMとかに出て、実力は確かだしセンスもある、コンビネーションも抜群。高峯さんよりもランクが上だけど……」
凛「貴女なら……高峯さんなら、すごい演技で圧倒できそうな気がするよ」
凛「だから、まだ2回目のライブにしては浮くくらい派手な演出だけど、貴女なら納得できる。それと確信できる」
凛「無名の新人が、ややこしい序列や暗黙の了解なんて有無を言わさないぐらい鮮烈なパフォーマンスで、会場を一気に貴女の色に染め上げる結果が」
のあ「………」
のあ「…………凛」
のあ「……優劣や数値化は、無意味な詮索よ」
のあ「人間の可能性や価値は、表層の虚飾のみでは測れない」
のあ「………私に掴むことは、まだ到底不可能だわ。感性豊かに煌めき揺れ動く、星のような人々の心を」
凛「…………」
凛「(……未央、未央! やっぱり高峯さんってアンドロイドっぽくない? 物言いが!!)」キラキラ
未央「(しぶりん静かに!!!)」バチーン!
卯月「(……)」
スタッフ「10分前でーす、各自周囲のチェックお願いしまーす」
未央「お、そろそろだねぇ」
のあ「……」
凛「高峯さん。緊張してたりとか………は無用な心配、か」
のあ「してるわ」
未央「えっ」
凛「えっ」
卯月「えっ」
のあ「……えっ?」
未央「いや、その……高峯さんでも、こういう舞台だと緊張するんですね」
凛「……もしかして、人間?」
ギュッ!
凛「(ぁ痛ッ!!)」
未央「じ、じゃあアレですよ! 掛け声っ!」
未央「気合を入れる時って、やっぱり掛け声が基本ですよねっ! 好きな食べ物なんてどうですか?」
のあ「……好きな、食べ物?」
凛「そ、そうだね。じゃあ私達がよく使ってる『フライド、チキーン↓』なんてどうですか?」
未央「なんで『↓』!? 抑揚は↑に上げようよ!!!」
凛「いやだって、今回はワイヤーで下に降りるわけだし」
未央「いやそうだけども!! それ運動の方向なの!?」
のあ「……フフッ」
未央&凛「!?」
のあ「……良いものね。ユニットとは」
卯月「高峯さん……?」
のあ「私も貴女達、ニュージェネレーターズのように同じ目線で感覚を共有できる、信頼に足る『仲間』が欲しかった」
凛「ジェネ」
グリッ!
凛「高峯さん……」グリッ!
未央「(痛ァッ!?)」
卯月「……」
のあ「フライドチキン」
のあ「『飛べ、臆病者』………私に相応しい掛け声だわ」
凛「あ。いや……その」
未央「べ、別に高峯さんが緊張してるから臆病だとか、そういう皮肉じゃ……」
卯月「高峯さん………お、怒ってます?」
のあ「いいえ」
のあ「怒っているように見えるかしら」
卯月「!!」
卯月「い、いえ、そのっ……!」
のあ「……いいわ」
卯月「…………っ」
のあ「……貴女達が羨ましい」
凛「羨ましい?」
のあ「……私は、笑顔は得意ではないわ」
卯月「(!!)」
のあ「周囲に、明るい笑顔で応じられない。堅い表情で語り掛ける事しか出来ない偶像」
のあ「麗の言うように、歌や踊りに感情を添える技術もない」
のあ「ファンとの距離はもとより……」
のあ「……事務所の皆から『機械』と揶揄されても、それは受け入れるべき評価」
凛「あっ……」
のあ「畏怖されるのも必然。疎まれ、嘲笑れても仕方ないかもしれない」
のあ「けれど」
のあ「………けれど、私も貴女達と同じ“人間”であり、“アイドル”よ」
のあ「常に葛藤し、自らを問い続ける」
のあ「魂の、心の、意志の生き物なの」
のあ「……」
凛「…………」
未央「……高峯さん」
のあ「未央」
未央「えっ!? は、ハイ!!」
のあ「貴女の爛漫で元気な振る舞いに、太陽のように眩く輝きを放つ魂に……、いつも惹かれていた」
のあ「羽のように軽やかで鮮やかな踊りは、私の舞には無い自由さが有った」
未央「い、いやぁ……そんなそんな……え、えへへ」
未央「(な、なんだろ。この人に言われると、すごい嬉しい……)」
のあ「凛」
のあ「貴女の真っ直ぐな姿勢に、冷たさの中に熱い意志が灯るその瞳に……、いつも魅了されていた」
のあ「凛として毅然とした歌唱には、私の声には無い心揺さぶる芯が有った」
凛「……そんな風に、初めて言われたよ」
凛「(まあ、悪い気はしないけど)」
のあ「卯月」
卯月「……はい」
のあ「……貴女の笑顔に、いつも憧れていた」
のあ「明るくて可愛らしくて、周囲に幸せを分け与えるような……」
のあ「優しい貴女の人柄を余すことなく描いたその微笑みが」
のあ「………本当に、羨ましかった」
卯月「…………」
のあ「凛。貴女は先程、私に勝てないと言っていたけれど」
のあ「……そんなことは断じてないわ」
のあ「貴女達3人は私と違う」
卯月「(……)」
のあ「共に支えあい、笑いあい、協力できる仲間がいる」
のあ「その団結が何者にも勝るかけがえのない力になる。3人が一緒ならば、どこまでも羽ばたける」
のあ「貴女達は既に、私という存在を遥かに凌駕している。ただ自分の可能性に気づいていないだけ」
のあ「自信を持ち、胸を張りなさい。眼に視える事象だけが、この世の全てではないわ」
のあ「…………」
未央「……」
凛「……」
卯月「………………」
のあ「…………」
のあ「そろそろ、時間よ」
スタッフ「5分前です。高峯さん、確認お願いします」
未央「……あッ!」
凛「忘れてたっ………、た、高峯さん、ワイヤー絡まってないですか?」
卯月「……っ」
卯月「た、高峯さんっっ!!」
未央「しまむー?」
のあ「……?」
のあ「……なに?」
卯月「あのっ……こ、このライブが終わったら……」
卯月「無事に終わったら……っ!」
のあ「…………」
卯月「……もっと、もっと笑顔の練習をしましょう!」
のあ「(……!)」
卯月「高峯さんっ、私、頑張ります!」
卯月「貴女がにっこりと優しく、自然な笑顔が作れるようになるまで……!」
のあ「…………」
卯月「私……貴女の事を、本気で応援したくなりました。でもまだ、貴女の事を良く知りません」
卯月「完璧と称されて、機械のように無機質な表情だから内心も掴めず……」
卯月「ただただ、遠い存在とばかり思っていました。だから、いつも事務所で見かけても話しかけず、少し距離を置いてしまっていたかもしれません」
未央「(……)」
凛「(……)」
卯月「他の人だって、きっとそう。貴女の事を、もしかすると勘違いしている人もいるかもしれない」
卯月「……そんな高峯さんが、私たちは同じアイドルだと言ってくれて、私たちの事を褒めてくれた」
卯月「高峯さん………私たち、なにも違いませんよ?」
卯月「私たち、仲間じゃないですか!」
のあ「……」
卯月「楽しいときは幸せな気持ちを一緒に味わうことが出来て、苦しいときは辛い気持ちを分かち合うことも出来る」
卯月「私たち、同じ事務所の仲間じゃないですかっ………だから、その…………っ!」
卯月「これから、一緒に頑張りましょう!!」
のあ「…………」
のあ「……………………」
のあ「……ええ」
のあ「楽しみにしているわ」
のあ「すごく」
卯月「!!」
卯月「は、ハイっ!!」パアァ
未央「あっ、しまむーだけずるい!!」
未央「じゃあ今度またみんなでボウリングに行きましょうよ、高峯さん!」
未央「打ち上げも兼ねて。前の約束、覚えてくれてますか?」
のあ「……当然よ。今度こそパーフェクトを獲って見せる」
のあ「また、楓も共に……」
未央「ハイッ、是非♪ 今度こそ、いろいろお話聞かせてくださいっ♪」
のあ「……」
のあ「……今はまだ私では力が及ばないかもしれない。頂には手が届かないかもしれない」
のあ「でも必ず、いつか貴女達と同じ地平に立って、共に歩み、笑いあえる日を目指して……」
のあ「まず、私に為すべき使命は……、今日というライブを全力で臨む事」
のあ「……応援、任せるわ」
卯月「はいっ!!」
未央「モチロンっ! まずは観客に『高峯のあ、降臨』ってトコ、ばばっと見せてやっちゃって下さいっ!」
卯月「高峯さん、頑張って下さいっ!!」
のあ「ええ」
のあ「…………フフッ」
凛「だ、だから高峯さんッ!! ワイヤー絡まってないですか、って!?」
凛「貴女の足元と首に、すっごい絡まってますって!!!」
スタッフ「高峯さん、一端バックしてください!! 安全装置を確認します!!!」
のあ「えっ?」
───ツルッ
のあ「 ぁ゛ っ゛ 」
未央&卯月「!!!?」
───ヨロヨロ…
のあ「ぁっ、ぇっ、ああっ」
ヨロッ…
ヒュン!!
のあ「うわああああぁーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!」
卯月「た、高峯さあああぁぁぁんっっ!!!」
凛「高峯さん、ホラあれっ!!」
のあ「あああぁっ! よ、吉野家ぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!!」
凛「よし、掛け声バッチリ……」フー
未央「バッチリじゃないよ!!! 高峯さーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!」
スタッフ「あ、あぁぁ………お、落ちた……っ」
━━━━その頃━━━━
【メインステージ】
ワアアアァァァァァァ……!!
───パチパチパチパチパチパチ……
夏樹&李衣菜『ありがとうございましたーーーーーーっっ!!』
李衣菜『いやぁー、どうでしたか!? 私たちのこのド派手でロックな演出はぁ!?』
李衣菜『花火がブワーって、パイロがボバーッと、煙がじゃんじゃん出て、もう最ッ高にロックなカンジで……!』
李衣菜『もう圧巻だったよね!!! こりゃあ客席から観てみたいよ』
夏樹『あーもう……余韻もへったくれもねえな、だりー』
夏樹『まあアタシ達は割とホットな演出だったけど、次の人はクールに決めてくれるぜ!』
李衣菜『おおっ! じゃあ早速……!』
夏樹『驚・天・動・地ッ!』
李衣菜『超・絶・冷・凍ッ!!』
夏樹『さあっ、お次は高峯のあのお出ましだっ!!』
李衣菜『噂の新人、その美声と美技に酔いしれろーーっ!!』
ワァァァァァ……!!
……!!
…!?
シーン…
…
ざわ…
夏樹「(……?)」
李衣菜「(……あれ?)」
李衣菜「(会場真っ暗で、スポットライトが当たってるのに……高峯さん?)」
夏樹「(オカシイな、そろそろ歌い始め…………)」
夏樹「 ぁ っ 」
李衣菜「あ……、あぁぁ………………っ」
ざわ……
ざわ…… ざわ……
ざわ…… ざわ…… ざわ……
のあ「」
のあ「」プラーン…
のあ「」ギギギギ…
夏樹「」
李衣菜「」
観客1「し、死んでる!?」
観客2「た……、高峯のあがワイヤーで首を吊って死んでいる!!!」
観客3「あ、あぁぁ……!!」
ザワザワザワザワ…
李衣菜「あ、あぁっ……ひいっ……!」プルプル
李衣菜「こ、コナン君呼んでこなきゃ……」プルプル
夏樹「ま、マズイ!! 下せ!!! 早く下せ!!!!」
夏樹「こ、こりゃあ───」
観客K「待って!! みんな落ち着いて、アレは違うわ!!!」
観客1「!!!」
夏樹「(───!?)」
観客K「あれこそ……神聖すら醸し出す高峯さんの、究極のパフォーマンスに他ならないわ!!」
観客3「な、なにィ……!?」
観客S「……」パシャパシャ
観客M「あぁ、なんて神々しいっ………、さながら、人々の罪を一身に受け入れる、キリストの磔刑のよう……!」
観客M「やめましょう……。彼女は訴えているの、こんな争いは無益だと……怨嗟と悲歎の螺旋は、自分の犠牲を最後に全て断ち切ると……」
観客1「やはり……!」
観客2「そ、そうだったのか……!」
観客3「美しい……美しすぎる!!」
オオオオオオオオォォォ…………!!
───パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ……
パチパチパチパチパチパチパチパチパチ……!!
夏樹「ば、馬鹿……! そ、そんなわけ…………!」
李衣菜「うぅぅ……っ、ぐすっ…………」
李衣菜「ろ、ろっく……、首吊って登場とか、し、信じられないくらい、ロックだぁ……っ」
李衣菜「神だよぉなつきちぃぃ……、今まさに、ロックの神が舞い降りようとしているよぉっ……」ポロポロ
夏樹「だ、だりー、そんなワケ…………」
夏樹「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………そ、そーなのか……??」
のあ「(た、たすけて…………、こ、こわい………………っ…………)」プラーン
━━━━━━━━━━
スタッフ「そうだったのか……」
凛「やっぱり、ただものじゃあないね」
未央「……そだね」
卯月「…………」
【ライブは夏樹のフォローで無事成功しました】
────
──
──
────
──────
【岡崎家】
楓「(……♪)」モグモグ
泰葉「仕事の誘いを、蹴った?」
のあ「……」
泰葉「高峯さんにしては珍しいですね。どんな仕事ですか?」
のあ「『鋼鉄公演』」
のあ「の、準主役」
泰葉「(今後開催のLIVEツアーかな?)」
のあ「心もたぬ、機械の役を」
泰葉「(あっ)」
泰葉「…………その、あの……」
泰葉「やっぱり、まだ気にしてたんですね」
のあ「……あの人の驚嘆の表情が、まだ焼き付いている」
のあ「……本当に、悪いことをしたわ」
泰葉「……」
楓「(泰葉ちゃん、福神漬取って下さい)」
泰葉「(あ、ハイ)」
のあ「…………」
泰葉「……」
のあ「……でも」
のあ「最近、感じた。機械と揶揄されても……」
のあ「それは恥ずべきことでも、中傷でもない」
のあ「……個性として、受け入れる宿命ではないのかしら」
泰葉「高峯さん……」
のあ「機械でも、サイボーグでも、ボーカロイドでも……」
のあ「ターミネーターでも、ロボコップでも、モビルスーツでも、人造人間でも、レプリロイドでも、スナッチャーでも、メタルギアでも、可変戦闘機でも、アクエリオンでも、武装神姫でも、グレンラガンでも、アーマードトルーパーでも、霊子甲冑でも、アナライザーでも、キングジョーでも、ドロイドでも、オーラバトラーでも、草薙素子でも、iDOLでも、ゴエモンインパクトでも……」
泰葉「そんなに言われてるんですか!?」
のあ「……盛った。1割」
泰葉「ですよね! ……いっ……!?」
楓「(泰葉ちゃん、おかわり下さい)」
泰葉「(あ、ハイ)」
のあ「……囁かれている間は、まだ私にも華があるということ」
泰葉「……!」
のあ「受け入れるわ」
泰葉「でも、嫌なんですよね?」
のあ「いいえ。抵抗はあったけれど……」
のあ「皆が、それは私の魅力というのならば、私も変わるべきだと考える」
のあ「変化を受容していくことも、一つの強さではないかしら」
泰葉「高峯さん。貴女は……」
泰葉「……とても、優しい人なんですね」
のあ「そうかしら」
泰葉「はい。私はそう思います」
pppppp……!!
のあ&泰葉「!!」
楓「(……!)」モグモグ
泰葉「電話、ですね。こんな時間に珍しい」
のあ「あの人からだわ」
泰葉「プロデューサーさんから?」
泰葉「ひょっとして、その断った仕事に関してじゃないですか?」
のあ「……」
泰葉「出ても良いですよ。聞かれたくないのなら、席を外しましょうか」
楓「電話が鳴っているなら、電話急げと言いますしね」
泰葉「言いません」
のあ「…………」
pppppppppppppp……!!!
泰葉「あれ、出ないんですか?」
のあ「………………」
のあ「………………泰葉が出て」
泰葉「い、いやいやいや!!」
楓「(泰葉ちゃん、ラッキョウ取って下さい)」
泰葉「(あ、ハイ)」
のあ「……」ピッ
のあ「……」
P『もしもし、高峯さんですか?』
のあ「……ええ」
P『遅くにすみません。今大丈夫ですか?』
のあ「……鋼鉄公演の話」
のあ「………悪かったわ」
P『!!』
P『……高峯さん、謝らないで下さい。アイドルがプロデューサーに対して謝ることなんてないですから』
P『むしろ悪いのは俺の方です。LIVEバトルの件も、少し活動を急いでしまって、貴女に負担をかけたかもしれないと』
P『……すみません』
のあ「いいえ。平気よ」
のあ「……でも、少し戸惑った」
P『……』
のあ「誉望の喝采を浴びるのは、無機質な私では不相応」
のあ「光で満ち溢れた舞台の上で、私より強く輝ける適任者がいる………そう思った」
のあ「プロとしての意識が、欠けていたのかもしれない」
P『そんなこと……!』
のあ「そんなことはない、と貴方は考えているのね」
P『……っ!』
のあ「私が知らない答えを貴方が示すというのなら、私が知らない世界に貴方が導くというのなら」
のあ「……信じるわ」
のあ「………だって、貴方の言葉だから」
P『高峯さん……』
泰葉「(……うん)」
楓「(……)」モグモグ
P『……ありがとうございます。その、俺……』
のあ「切るわ」
P『えっ?』
泰葉「えっ?」
ピッ!
のあ「オエエエエェェェっ……!!」ビチャビチャ
泰葉「何でですか!?」ガタッ!
のあ「イ、いや……、フグッ…、その、オ、男の人から急に電話とか……っ」
のあ「もう、き、緊張して……ウッ」
泰葉「思春期の女子中学生ですか貴女は!? 今何歳ですか!?」
のあ「に、24……」
楓「オエエエエェェ……」ダバー
泰葉「だから何でですか!!?」
楓「ソ、その……ゲロ食べてる時にカレーはキツいです……ぅっ」
泰葉「逆ですよ逆!! もぉー……」
のあ&楓「ご、ゴメンナサイ……」
──────
────
──
☆前半、おわり
今日はここまで。また次回。前半、全体の1/3終了です。
書き溜めあります。後半からシリアス要素なんて皆無です。
でもキリがいいので、ある事情も考慮して正直ここでいったん終わりにするか悩んでいます。
HTMK化依頼はまだ出しませんが、出してたら後半に続くと思っていただいて結構です。
その場合はここで報告します。
登場人物・後半
http://i.imgur.com/Vgm5ez1.jpg
1レス抜けてやがる……信じられない
>>104と>>105の間に1レス分、演出説明があったんですが、抜けてました……
遅いですが、修正・訂正。以下、その抜けたレスです
●修正・訂正
(>>104と>>105の間に実はあったモノ)
━━━━━━━━━━
P「会場が暗転したあと、李衣菜の口上の合図で……」
P「闇を切り取る月明かりのように、スポットに照らされた高峯さんが荘厳に歌いだしながら、メインステージにゆっくり降りてくる感じですね」
P「演出としては単調なパターンですが、分かりやすく注目され、盛り上がる」
のあ「……」ボー
P「設備の関係で、今回は2本吊りのワイヤーを使用します」
P「リハーサルで体験したのでご存じだと思いますが、あまり激しい動きはできません」
P「しかし安全面も保証されていますのでご安心を。滞空時間は20秒程ですので。今回は天井もそれほど高くはありませんし」
のあ「……」ボー
P「ですので……、まあ……、万が一にも有り得ませんが」
P「……高強度のポリエチレン繊維のワイヤーがいきなりばつんと切れたり、または高峯さんが空中で逆上がりとかを始めたりしない限り、怪我や事故はまず起こらないでしょう」
P「無論、こちらも万全を期して最終チェックは念入りに行いますので」
のあ「……」ボー
P「上半身をハーネスで固めているので、ロープが空中で絡むということもほぼありません。もし絡んだ場合は、担当責任者の判断で予定より早めに下すかウィンチで引き上げます」
P「さらに、仮にワイヤーが首や体に絡まったとしても、以前説明したように締め付けられない特殊な構造になっています。窒息などの心配はないので、ご安心ください」
のあ「……」ボー
P「ステージには夏樹と李衣菜が後方に下がっています。着地位置はこっそりバミってるので、床に付いたら高峯さんはそのままライブを続けてください」
P「あとはその二人が高峯さんのハーネスを外して、舞台袖にフェードアウトします」
のあ「……」ボー
P「高峯さん、ここまでは大丈夫ですか?」
のあ「……っ! エ、ええ」
P「まあ、リハーサル通りにやれば問題ないです」
のあ「リハーサル通りね」
━━━━━━━━━━
──
────
──────
【漫画喫茶】
時子「………………」
のあ「……」
楓「」
泰葉「(だ……、だから何でですか!?)」
泰葉「(何で時子さんがいるんですか!?)」オロオロ
楓「(メールで急に『泰葉と二人で漫画喫茶に来て頂戴』と連絡があったと思ったら……)」
楓「(い、一体何があったんですか、のあさん? この緊迫した状況は)」
のあ「(その……)」
~~~~~~~~~~
時子『この辺りに……漫画喫茶という設備があると聞いたのだけど』
のあ『ゴ、ご案内しまッス………!!!』
~~~~~~~~~~
楓「(完全に恭順してる……)」
泰葉「(というか何で自ら死地へ……)」
のあ「(……)」
時子「………ちょっと」
のあ「ヒッ……!」ビクッ
楓「ヒッ……!」ビクッ
泰葉「ヒッ……!」ビクッ
時子「ホラ、何か言ってるけど」
店員「個室はご利用なさいますか?」
泰葉「!!!」
泰葉「(そ、そうだっ! 個室という手がありましたよ!)」
楓「(個室?)」
のあ「(……??)」
泰葉「(あれ、まさか二人とも初めてですか?)」
泰葉「(……高峯さん)」チラッ
のあ「(……分かったわ)」チラッ
のあ「個室を、4つ」
店員「はい、4部屋ですね。ただいまお調べします」
楓「(……なるほど、個室利用ですか)」
泰葉「(漫画喫茶と言えば個室での休憩です。漫画を読んだり、ネットをしたり、休眠したり)」
泰葉「(流石にあの時子さんと一緒にダーツやビリヤード、卓球やカラオケを興じるのは荷が重すぎます。不可能です)」
泰葉「(時子さんは初見の興味本位で訪れたようなので、漫画喫茶の設備まではご存じない様子)」
泰葉「(個室利用であれば、利用時間いっぱい時子さんと…………その、距離を置けるかなと)」
楓「(ひどい……)」
泰葉「(あれ、じゃあ)」
楓「(ごめんなさい。ナイス采配です)」
泰葉「(……いいえ、こちらこそ語弊がありました)」
泰葉「(個室利用であれば、時子さんにゆっくり漫画喫茶をスタンダードにご堪能いただけるかと)」
時子「ねえ」
泰葉&楓「!?」ビクゥ!
泰葉「は……、ハイハイっ。なんですか時子さん?」
時子「………あそこにダーツとビリヤードがあるけど」
泰葉「ッ!!」
楓「(や、泰葉ちゃん……!!)」
楓「(ま、まさか時子ちゃんは、な、ななな何かを御所望であらせられるのでは!?)」ビクビク
泰葉「あ、あれは…………」
時子「……………………」
泰葉「ソ、その…………あ、アレはっ……!」
泰葉「有料……べ、別箇で高い料金が掛かるんですよ………たぶん」
泰葉「あるいは……い、インテリア……じゃないですか? ビリヤード台が、テ、テーブル代わりとか……」
泰葉「は、ハハ……オシャレですね……」
時子「………………」ジー
時子「………そう」クルッ
楓「(ホントですか?)」
泰葉「(嘘です……全部…………)」
楓「(泰葉ちゃん……)」
泰葉「(なんだろ……胸の奥が痛い)」ズキズキ
泰葉「(私は一体……)」
のあ「待たせたわ」
のあ「これ、部屋番号の伝票。私は142番、楓が143番。それぞれ普通の個室」スッ
楓「あっ、どうも♪」スッ
のあ「ト、時子は……144番。大きめの個室」
時子「ふぅん……」ジー
のあ「………さて」クルッ
泰葉「えっ?」
泰葉「あの……あれっ、高峯さん、私の個室は……」
のあ「……えっ?」
泰葉「えっ???」
のあ「………個室を、3つ」
泰葉「えっ?????」
のあ「………………………『大きめの個室』」
泰葉「えっ」
━━━10分後━━━
【ドリンクバーカウンター】
楓「(わぁーっ♪ これが全部飲み放題なんですね)」
楓「(ソフトドリンクにコーンスープ、かき氷に………味噌汁もある)」
楓「(ふふっ、ぜいたく♪ 欲を言えばビールサーバーも欲しかったところですが……♪♪)」カチャカチャ
楓「~~~……♪」
━━━━142━━━━
【普通の個室】
のあ「……っ」ガサガサ
のあ「…………っっ」ドタンバタン
のあ「………………」
のあ「(か、監視カメラっ…………ど、どこに…………!? み、見られてる……!?)」ガタンガタン!
━━━━144━━━━
【大きめの個室】
時子「…………」ペラッ
時子「……そこ、置いておいて」
泰葉「は、はい……」ズシッ
泰葉「(何冊読む気なんだろう)」
時子「………」ペラッ
泰葉「(………相部屋、気まずい)」
泰葉「(…………帰りたい)」
──────
────
──
──
────
──────
【岡崎家】
泰葉「LIVEバトル、お疲れ様でした」
のあ「……ええ」
泰葉「どうでした?」
のあ「可も無く……、といった手応えね」モゾモゾ
泰葉「も、もちろん不可も無かったんですよね?」
楓「事務所では『すごかった』って噂ですよ」
のあ「……しばらくは普通で安全な仕事が欲しいわ」ゴロン
泰葉「……そういえば」
泰葉「お二人とも、お腹の空き具合はどうですか?」
のあ「いい塩梅よ」
楓「ええ。それなりに」
泰葉「じゃあ、そろそろ出ますか」スッ
━━━━30分後━━━━
【中華料理店】
泰葉「予約した『高垣』ですが……」
泰葉「これ『名刺』です」スッ
店員「ハイ、高垣様ですね。奥へどうぞ」
楓「わぁー……♪」
楓「すごい、すごいっ! これくるくるするやつじゃないですか!」
楓「お皿とか料理を回せる、くるくるするテーブルじゃないですか! うわーっ!」
泰葉「なんかもったいない気分ですね、3人なのに」
楓「イイじゃないですかイイじゃないですか、さあ座りましょう♪」
泰葉「私、ちょっとお手洗いに行ってきます」
泰葉「コースなので早めに運ばれると思いますが…………その、折角なので待ってて下さいね。お願いします」ペコリ
楓「はぁい、ごゆっくり♪」
のあ「……」
楓「……では、のあさん。改めてライブお疲れ様でした」
のあ「……ありがとう」
のあ「会食の席まで用意してくれるとは、想定していなかったわ」
のあ「……本当に、嬉しい」
楓「いえいえ、以前お仕事をした時に教えて頂いたんですよ、このお店。結構偉い人に」
楓「その人の名刺を出すと割引までしてくれるなんて、羽振りがいいですねぇ♪」
のあ「(楓さん、ひょっとしてかなり人脈があるんじゃ……)」
楓「気にしないで下さい、私のおかげじゃありませんから。今日はいっぱい紹興酒飲みましょう♪」
のあ「……ええ」
楓「それより」
楓「これ、コレですよ! うわぁー♪♪」ガシッ
のあ「……『中華テーブル』」
楓「それがコレの名前なんですか? いやぁ、これでくるくるするの楽しみにしてましたよ!」
のあ「料理の取り分けを容易く行うための妙案。考案したのは日本人という話も」
楓「へー、へえぇー♪♪」
のあ「これでロシアンルーレットとか出来そう」
楓「出来そうですねー、盛り上がりそうですねー♪ 中華でもキワモノ料理をいくつか並べて……」
楓「テーブルを回して目の前に止まった料理は必ず完食する、みたいなバラエティのノリで♪♪」
のあ「泰葉に喰らわせたい」
楓「プロ根性でどんなリアクションしてくれるのか、楽しみですねー。昆虫食とか」
のあ「……やってみる?」
楓「そうですね! こう……狙ったポジションにその皿をピタッと……みたいなカンジで!」
のあ「……いっせーの」グッ
楓「せっ!!」バッ!!
ガシャァン!!
パリン! パリン!
パリン!
━━━━3分後━━━━
泰葉「………」
泰葉「……………」
店員「お、お客様よろしいですよ。破片など危険ですから、我々が片付けますので」
楓「ス、スミマセン……」
楓「その、皿とか箸置きとか、こ、固定されてるかと……」ヒョイ
楓「くるくる出来るし……、サ、皿を動かす必要は、な、ない…………かと…………」ヒョイ
泰葉「(何でですか)」
のあ「ゴ……ごめんなさぃ……」ヒョイヒョイ
楓&のあ「…………」シュン
──────
────
──
──
────
──────
【吉野家】
店員「ご注文お決まりになりましたら、お呼び下さい」
のあ「あ、ス、すみません」
店員「はい、お伺いします」
のあ「こ、この……!」
のあ「松茸牛丼ってまだ………ありますか?」
店員「松茸ですね。はい、ございます」
のあ「!!!!!!!!」
のあ「……ッ!」
のあ「も! もも、もちッゲホッ!! ゴホっ、ぐっ……!」
のあ「も、持ち帰りで!!!!!」
店員「かしこまりました」
のあ「あと、並一つも」
店員「はい」スッ
のあ「……♪」
のあ「(へへ……えへへ♪)」
のあ「……」ズズッ
のあ「(ふふふふ……♪)」
のあ「…………」
のあ「……」ズズッ
のあ「(~~~……♪)」
店員「お待たせ致しました、こちら並弁当おふたつで、700円になります」
のあ「は、ハイ!!!」
店員「ありがとうございましたー」
のあ「(さて……)」スッ
━━━━夜━━━━
【岡崎家】
のあ「……かんこれ?」モグモグ
泰葉「はい、『艦これ』」
泰葉「最近、なか卯がコラボしたんですよ。知りませんか?」
のあ「……知らないわ。缶コーヒーレディの略?」モグモグ
泰葉「な、何ですかそれ」
泰葉「まあ、私も名前だけしか知らないのですが。クラスの男子が毎朝カードカードと騒いでて、パックを教室で開けてましたよ」
泰葉「……この前、楓さんも実は『かもしか出ない』ってむせび泣いてました」
のあ「……楓が、集めている」
泰葉「はい」
のあ「かもしか、氈鹿………、動物?」
泰葉「さあ、知りません。以前は『すき家』ともコラボしたみたいで」
のあ「フ……」モグモグ
のあ「艦これなど、恐れるに足りない」モグモグ
のあ「ゼンショーは、コアな客層に媚を売ることしか出来ないのね。底が知れたわ」
のあ「こっちは、『松茸』よ?」モグモグ
のあ「『松茸』とコラボしたのよ?」
泰葉「(こ、コラボ?)」
のあ「鼻腔を擽る、この圧倒的に濃厚で芳ばしいな香り」
のあ「まるで干したての畳に寝転び身を委ね、い草の感触と心落ち着く優しい匂いに抱擁されているような感覚……」
泰葉「それ単なる畳の香りでは?」
のあ「貴女も感じるでしょう、土の宝珠と讃えられるこの筆舌に尽くしがたい香りを」
泰葉「いえ、あんまり。普通の牛丼の香りがします」
泰葉「あと最近気付いたんですが、高峯さんって牛丼の話を振ると生き生きしますよね。もしかして……」
のあ「…………」モグモグ
のあ「……これ、貴女の分」スッ
泰葉「あ。ありがとうございます」
━━━翌日━━━
【なか卯】
のあ「……」モグモグ
のあ「……」
のあ「……」ピリッ
のあ「……」カサカサ
のあ「……」
のあ「…………」
のあ「(かわいい……)」
──────
────
──
──
────
──────
【事務所 会議室】
のあ「(ハァ……、またエキストラの仕事)」
のあ「(別に選り好みするわけじゃないし不満でもないけど……)」
~~~~~~~~~~
楓『───さあ、今日は吉呑みしましょう♪』
楓『───「吉野家」』
楓『…………でも、呑みすぎはよしなや? ……ふふっ♪』
~~~~~~~~~~
のあ「(……)」
のあ「(いいなぁ、楓さん。私も吉野家のCMとか出たいなぁ……)」
のあ「(こう、食欲をそそる食べっぷりを撮ってほしい。絶対に自信があるのに)」ペラッ
のあ「……」
のあ「…………」
のあ「…………………」
のあ「!!!!!」ガタッ!!
~~~~~~~~~~
【某携帯キャリア、クーポンキャンペーン】
・○月毎週金曜、吉野家にて並盛1杯プレゼントのクーポン宣伝
・吉野家店舗にて撮影
・エキストラは関係事務所から募集、不都合時はスタッフを配役
・エキストラ配置、2カット
・Aカット:メインキャスト背景
・Bカット:店員・客
・店員は作業従事、客は食事風景
~~~~~~~~~~
のあ「(…………)」
~~~~~~~~~~
────客は食事風景
~~~~~~~~~~
───ガチャ
P「あっ、高峯さん。目を通していただきましたか?」
P「同じ事務所からエキストラを募れないかと要望が有ったのですが、どうです? 明後日のスケジュールですが」
P「なんでも、ただ牛丼を掻き込んでいるだけで良いらしいですよ。ハハハ、ふざけ過ぎてますか?」
のあ「だ……」
のあ「だ、大好き……」プルプル
P「(───!?)」
P「……あっ、そうだ。あとですね?」
P「ステージ上部の吹き抜けでスタッフが待機しているので、直前にそこへ移動して貰います」
P「今回はそこに手伝いとして、事務所の───」
━━━20分後━━━
【上部スペース】
のあ「……!」
凛「ん……!」
卯月「あっ」
未央「おぉ!」
のあ「手伝い………あの人が言っていたのは、貴女達の事かしら」
未央「お疲れ様です、高峯さんっ!」
卯月「高峯さん、お疲れ様です。いよいよ本番ですねっ!」
未央「はーっ……! なんだか神秘的な衣装ですね、うわーっ……!」キラキラ
凛「うん、確かに」
凛「なんか高峯さんがハーネス付けると、SFの戦闘サイボーグみたいな───」
グリッ!
凛「(───いッ……?!)」
凛「(………えっ? ちょっと未央、足踏んでるよ、私の)」
未央「(しぶりん、余計なこと言わないでいいから)」
凛「(あ、うん。分かった)」
のあ「……?」
夏樹「じゃあ、まだ少し時間もあるし」
夏樹「よし。高峯さんの演出の補助の復習でもしとくか」
李衣菜「うん、わかった!」ゴシゴシ
李衣菜「えっと……私達のパフォーマンスが終わったら、一通り繋ぎの口上を言ったあと、会場のスポットが落ちて……」
夏樹「で、その後は私達がステージ後方に下がって────」
━━━━その頃━━━━
【楽屋】
P「───では、確認しておきましょうか」
のあ「……ええ」
P「高峯さんの出番は、『ロック・ザ・ビート』夏樹と李衣菜の直後です」
P「今回のLIVEバトルで、高峯さんはワイヤーアクションでパフォーマンスを行います。フライングとも呼ばれていますね」
P「実はこの事務所でも、最近何度か同じ演出を行ったことがあります。『自称・天使』輿水幸子、『みんなの太陽』上田鈴帆、あと……」
のあ「…………」
P「ああ、そうだ。確か『深黒の堕天使』蘭子もそうでした」
のあ「ええ。早速会話のネタにするわ」
P「えっ?」
のあ「イ……いえ、何でも」
──
────
──────
【楽屋】
夏樹「フー……」
李衣菜「あと30分っ!」
夏樹「さぁ、今日もクールに、アツく盛り上げてこーぜ。だりー」
夏樹「ひっさびさのLIVEバトル。もちろん、初っ端から全開だろ?」
李衣菜「おうっ! 今日の私は一味違うんだから!」
李衣菜「なんたって、LIVEバトルの相手があのロック is ロック……!」
李衣菜「高峯のあさんだからね!」
夏樹「お。気圧されてると思ったら……」
李衣菜「まさかぁ。一回吐いたら緊張も吹っ飛んだよ」
夏樹「(吐いたのかよ……)」
李衣菜「私たちの方が、ランクもキャリアもなにもかも上なんだよ? 確かに、あの人は本当にカッコイイし、すごい人だと思うけど」
夏樹「……」
李衣菜「感情の読み取りにくい美貌と、鮮やかな銀の髪をなびかせる、類まれなる容姿の持ち主。その端麗な容姿を活かして広告媒体・雑誌モデルでの仕事を中心に、いわゆるモデルアイドル方面での活動を行う人物で……」
李衣菜「悠然として、その刺すように冷たい視線はやはり寡黙の女王の通り名に恥じぬ気品と凄味があって、でも時折覗かせる悲しい表情はどこか慈愛を漂わせ私達の心を擽りつつ優しく包むような……」
李衣菜「かと思えばロックの魂もちゃっかり持ち合わせる、才色兼備というか多芸多才というか、ケーパビリティ溢れる人で……」
李衣菜「なんかもう、こっちがバントのサインだしてるのに気付かないであっさりホームラン打っちゃいそうな、予測不能のユーモラスさとロックな行動力がもう堪らなく最っ高に……」ドキドキ
夏樹「だ、だりーさん?」
李衣菜「つまりとてつもないLoooooooooock!!! な、人なんだよなつきちィ!!」
夏樹「(Lock……?)」
夏樹「わ、分かった分かった。分かったから涎拭けよ」スッ
李衣菜「ウン」
──
────
──────
【漫画喫茶】
時子「………………」
のあ「……」
楓「」
泰葉「(だ……、だから何でですか!?)」
泰葉「(何で時子さんがいるんですか!?)」オロオロ
楓「(メールで急に『泰葉と二人で漫画喫茶に来て頂戴』と連絡があったと思ったら……)」
楓「(い、一体何があったんですか、のあさん? この緊迫した状況は)」
のあ「(その……)」
~~~~~~~~~~
時子『この辺りに……漫画喫茶という設備があると聞いたのだけど』
のあ『ゴ、ご案内しまッス………!!!』
~~~~~~~~~~
楓「(完全に恭順してる……)」
泰葉「(というか何で自ら死地へ……)」
のあ「(……)」
時子「………ちょっと」
のあ「ヒッ……!」ビクッ
楓「ヒッ……!」ビクッ
泰葉「ヒッ……!」ビクッ
時子「ホラ、何か言ってるけど」
店員「個室はご利用なさいますか?」
泰葉「!!!」
泰葉「(そ、そうだっ! 個室という手がありましたよ!)」
楓「(個室?)」
のあ「(……??)」
泰葉「(あれ、まさか二人とも初めてですか?)」
泰葉「(……高峯さん)」チラッ
のあ「(……分かったわ)」チラッ
のあ「個室を、4つ」
店員「はい、4部屋ですね。ただいまお調べします」
楓「(……なるほど、個室利用ですか)」
泰葉「(漫画喫茶と言えば個室での休憩です。漫画を読んだり、ネットをしたり、休眠したり)」
泰葉「(流石にあの時子さんと一緒にダーツやビリヤード、卓球やカラオケを興じるのは荷が重すぎます。不可能です)」
泰葉「(時子さんは初見の興味本位で訪れたようなので、漫画喫茶の設備まではご存じない様子)」
泰葉「(個室利用であれば、利用時間いっぱい時子さんと…………その、距離を置けるかなと)」
楓「(ひどい……)」
泰葉「(あれ、じゃあ)」
楓「(ごめんなさい。ナイス采配です)」
泰葉「(……いいえ、こちらこそ語弊がありました)」
泰葉「(個室利用であれば、時子さんにゆっくり漫画喫茶をスタンダードにご堪能いただけるかと)」
時子「ねえ」
泰葉&楓「!?」ビクゥ!
泰葉「は……、ハイハイっ。なんですか時子さん?」
時子「………あそこにダーツとビリヤードがあるけど」
泰葉「ッ!!」
楓「(や、泰葉ちゃん……!!)」
楓「(ま、まさか時子ちゃんは、な、ななな何かを御所望であらせられるのでは!?)」ビクビク
泰葉「あ、あれは…………」
時子「……………………」
泰葉「ソ、その…………あ、アレはっ……!」
泰葉「有料……べ、別箇で高い料金が掛かるんですよ………たぶん」
泰葉「あるいは……い、インテリア……じゃないですか? ビリヤード台が、テ、テーブル代わりとか……」
泰葉「は、ハハ……オシャレですね……」
時子「………………」ジー
時子「………そう」クルッ
楓「(ホントですか?)」
泰葉「(嘘です……全部…………)」
楓「(泰葉ちゃん……)」
泰葉「(なんだろ……胸の奥が痛い)」ズキズキ
泰葉「(私は一体……)」
━━━━2日後━━━━
【撮影スタジオ】
のあ「(あぁ……ついに私、吉野家のCMに出られるんだ。しかもタダで牛丼を食べるだけの役)」
のあ「(感無量だなぁ……計り知れないほど、嬉しい。もうこれが終わったら、アイドルやめてもいいんじゃないかってくらい、満ち足りてる気持ち)」
スタッフ「本番1時間前でーす。エキストラさんは、配置確認お願いします」
のあ「ぁ、はい」
のあ「(ふふふっ♪ せめていっぱい食べて帰ろう。ふふ……♪)」
のあ「(~~~……♪)」スタスタ
━━━━本番━━━━
『はぁー、吉野家最っ高……』
泰葉『うんうん……♪』モグモグ
泰葉『……』
泰葉『……?』チラッ
店員N「…………」ジー
泰葉「ぶほッ!!!」
監督『ストップストップ! 泰葉ちゃん、大丈夫?』
泰葉「ハ、はい……す、すみません。もう一回お願いします」
店員N「……」カチャカチャ
━━━━夜━━━━
【岡崎家】
泰葉「エキストラで出演してたんですね……」
のあ「……後姿だけ」
のあ「……」
のあ「せっかく吉野家のCMだったのに……出れたのに……」
のあ「まさか、店員の役だとは……。いっぱい食べられると思ったのに……」
泰葉「気持ちはわかります。でもアレ、そもそも吉野家のCMじゃないですからね?」
のあ「…………」シュン
──────
────
──
のあ「待たせたわ」
のあ「これ、部屋番号の伝票。私は142番、楓が143番。それぞれ普通の個室」スッ
楓「あっ、どうも♪」スッ
のあ「ト、時子は……144番。大きめの個室」
時子「ふぅん……」ジー
のあ「………さて」クルッ
泰葉「えっ?」
泰葉「あの……あれっ、高峯さん、私の個室は……」
のあ「……えっ?」
泰葉「えっ???」
のあ「………個室を、3つ」
泰葉「えっ?????」
のあ「………………………『大きめの個室』」
泰葉「えっ」
━━━10分後━━━
【ドリンクバーカウンター】
楓「(わぁーっ♪ これが全部飲み放題なんですね)」
楓「(ソフトドリンクにコーンスープ、かき氷に………味噌汁もある)」
楓「(ふふっ、ぜいたく♪ 欲を言えばビールサーバーも欲しかったところですが……♪♪)」カチャカチャ
楓「~~~……♪」
━━━━142━━━━
【普通の個室】
のあ「……っ」ガサガサ
のあ「…………っっ」ドタンバタン
のあ「………………」
のあ「(か、監視カメラっ…………ど、どこに…………!? み、見られてる……!?)」ガタンガタン!
━━━━144━━━━
【大きめの個室】
時子「…………」ペラッ
時子「……そこ、置いておいて」
泰葉「は、はい……」ズシッ
泰葉「(何冊読む気なんだろう)」
時子「………」ペラッ
泰葉「(………相部屋、気まずい)」
泰葉「(…………帰りたい)」
──────
────
──
のあ「待たせたわ」
のあ「これ、部屋番号の伝票。私は142番、楓が143番。それぞれ普通の個室」スッ
楓「あっ、どうも♪」スッ
のあ「ト、時子は……144番。大きめの個室」
時子「ふぅん……」ジー
のあ「………さて」クルッ
泰葉「えっ?」
泰葉「あの……あれっ、高峯さん、私の個室は……」
のあ「……えっ?」
泰葉「えっ???」
のあ「………個室を、3つ」
泰葉「えっ?????」
のあ「………………………『大きめの個室』」
泰葉「えっ」
━━━10分後━━━
【ドリンクバーカウンター】
楓「(わぁーっ♪ これが全部飲み放題なんですね)」
楓「(ソフトドリンクにコーンスープ、かき氷に………味噌汁もある)」
楓「(ふふっ、ぜいたく♪ 欲を言えばビールサーバーも欲しかったところですが……♪♪)」カチャカチャ
楓「~~~……♪」
━━━━142━━━━
【普通の個室】
のあ「……っ」ガサガサ
のあ「…………っっ」ドタンバタン
のあ「………………」
のあ「(か、監視カメラっ…………ど、どこに…………!? み、見られてる……!?)」ガタンガタン!
━━━━144━━━━
【大きめの個室】
時子「…………」ペラッ
時子「……そこ、置いておいて」
泰葉「は、はい……」ズシッ
泰葉「(何冊読む気なんだろう)」
時子「………」ペラッ
泰葉「(………相部屋、気まずい)」
泰葉「(…………帰りたい)」
──────
────
──
━━━━夜━━━━
【岡崎家】
のあ「……かんこれ?」モグモグ
泰葉「はい、『艦これ』」
泰葉「最近、なか卯がコラボしたんですよ。知りませんか?」
のあ「……知らないわ。缶コーヒーレディの略?」モグモグ
泰葉「な、何ですかそれ」
泰葉「まあ、私も名前だけしか知らないのですが。クラスの男子が毎朝カードカードと騒いでて、パックを教室で開けてましたよ」
泰葉「……この前、楓さんも実は『かもしか出ない』ってむせび泣いてました」
のあ「……楓が、集めている」
泰葉「はい」
のあ「かもしか、氈鹿………、動物?」
泰葉「さあ、知りません。以前は『すき家』ともコラボしたみたいで」
のあ「フ……」モグモグ
のあ「艦これなど、恐れるに足りない」モグモグ
のあ「ゼンショーは、コアな客層に媚を売ることしか出来ないのね。底が知れたわ」
のあ「こっちは、『松茸』よ?」モグモグ
のあ「『松茸』とコラボしたのよ?」
泰葉「(こ、コラボ?)」
のあ「鼻腔を擽る、この圧倒的に濃厚で芳ばしいな香り」
のあ「まるで干したての畳に寝転び身を委ね、い草の感触と心落ち着く優しい匂いに抱擁されているような感覚……」
泰葉「それ単なる畳の香りでは?」
のあ「貴女も感じるでしょう、土の宝珠と讃えられるこの筆舌に尽くしがたい香りを」
泰葉「いえ、あんまり。普通の牛丼の香りがします」
泰葉「あと最近気付いたんですが、高峯さんって牛丼の話を振ると生き生きしますよね。もしかして……」
のあ「…………」モグモグ
のあ「……これ、貴女の分」スッ
泰葉「あ。ありがとうございます」
━━━翌日━━━
【なか卯】
のあ「……」モグモグ
のあ「……」
のあ「……」ピリッ
のあ「……」カサカサ
のあ「……」
のあ「…………」
のあ「(かわいい……)」
──────
────
──
━━━━夜━━━━
【岡崎家】
のあ「……かんこれ?」モグモグ
泰葉「はい、『艦これ』」
泰葉「最近、なか卯がコラボしたんですよ。知りませんか?」
のあ「……知らないわ。缶コーヒーレディの略?」モグモグ
泰葉「な、何ですかそれ」
泰葉「まあ、私も名前だけしか知らないのですが。クラスの男子が毎朝カードカードと騒いでて、パックを教室で開けてましたよ」
泰葉「……この前、楓さんも実は『かもしか出ない』ってむせび泣いてました」
のあ「……楓が、集めている」
泰葉「はい」
のあ「かもしか、氈鹿………、動物?」
泰葉「さあ、知りません。以前は『すき家』ともコラボしたみたいで」
のあ「フ……」モグモグ
のあ「艦これなど、恐れるに足りない」モグモグ
のあ「ゼンショーは、コアな客層に媚を売ることしか出来ないのね。底が知れたわ」
のあ「こっちは、『松茸』よ?」モグモグ
のあ「『松茸』とコラボしたのよ?」
泰葉「(こ、コラボ?)」
のあ「鼻腔を擽る、この圧倒的に濃厚で芳ばしいな香り」
のあ「まるで干したての畳に寝転び身を委ね、い草の感触と心落ち着く優しい匂いに抱擁されているような感覚……」
泰葉「それ単なる畳の香りでは?」
のあ「貴女も感じるでしょう、土の宝珠と讃えられるこの筆舌に尽くしがたい香りを」
泰葉「いえ、あんまり。普通の牛丼の香りがします」
泰葉「あと最近気付いたんですが、高峯さんって牛丼の話を振ると生き生きしますよね。もしかして……」
のあ「…………」モグモグ
のあ「……これ、貴女の分」スッ
泰葉「あ。ありがとうございます」
━━━翌日━━━
【なか卯】
のあ「……」モグモグ
のあ「……」
のあ「……」ピリッ
のあ「……」カサカサ
のあ「……」
のあ「…………」
のあ「(かわいい……)」
──────
────
──
ザワザワザワザワ…
李衣菜「あ、あぁっ……ひいっ……!」プルプル
李衣菜「こ、コナン君呼んでこなきゃ……」プルプル
夏樹「ま、マズイ!! 下せ!!! 早く下せ!!!!」
夏樹「こ、こりゃあ───」
観客K「待って!! みんな落ち着いて、アレは違うわ!!!」
観客1「!!!」
夏樹「(───!?)」
観客K「あれこそ……神聖すら醸し出す高峯さんの、究極のパフォーマンスに他ならないわ!!」
観客3「な、なにィ……!?」
観客S「……」パシャパシャ
観客M「あぁ、なんて神々しいっ………、さながら、人々の罪を一身に受け入れる、キリストの磔刑のよう……!」
観客M「やめましょう……。彼女は訴えているの、こんな争いは無益だと……怨嗟と悲歎の螺旋は、自分の犠牲を最後に全て断ち切ると……」
観客1「やはり……!」
観客2「そ、そうだったのか……!」
観客3「美しい……美しすぎる!!」
オオオオオオオオォォォ…………!!
───パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ……
パチパチパチパチパチパチパチパチパチ……!!
夏樹「ば、馬鹿……! そ、そんなわけ…………!」
李衣菜「うぅぅ……っ、ぐすっ…………」
李衣菜「ろ、ろっく……、首吊って登場とか、し、信じられないくらい、ロックだぁ……っ」
李衣菜「神だよぉなつきちぃぃ……、今まさに、ロックの神が舞い降りようとしているよぉっ……」ポロポロ
夏樹「だ、だりー、そんなワケ…………」
夏樹「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………そ、そーなのか……??」
のあ「(た、たすけて…………、こ、こわい………………っ…………)」プラーン
━━━━━━━━━━
スタッフ「そうだったのか……」
凛「やっぱり、ただものじゃあないね」
未央「……そだね」
卯月「…………」
【ライブは夏樹のフォローで無事成功しました】
────
──
夏樹『驚・天・動・地ッ!』
李衣菜『超・絶・冷・凍ッ!!』
夏樹『さあっ、お次は高峯のあのお出ましだっ!!』
李衣菜『噂の新人、その美声と美技に酔いしれろーーっ!!』
ワァァァァァ……!!
……!!
…!?
シーン…
…
ざわ…
夏樹「(……?)」
李衣菜「(……あれ?)」
李衣菜「(会場真っ暗で、スポットライトが当たってるのに……高峯さん?)」
夏樹「(オカシイな、そろそろ歌い始め…………)」
夏樹「 ぁ っ 」
李衣菜「あ……、あぁぁ………………っ」
ざわ……
ざわ…… ざわ……
ざわ…… ざわ…… ざわ……
のあ「」
のあ「」プラーン…
のあ「」ギギギギ…
夏樹「」
李衣菜「」
観客1「し、死んでる!?」
観客2「た……、高峯のあがワイヤーで首を吊って死んでいる!!!」
観客3「あ、あぁぁ……!!」
夏樹『驚・天・動・地ッ!』
李衣菜『超・絶・冷・凍ッ!!』
夏樹『さあっ、お次は高峯のあのお出ましだっ!!』
李衣菜『噂の新人、その美声と美技に酔いしれろーーっ!!』
ワァァァァァ……!!
……!!
…!?
シーン…
…
ざわ…
夏樹「(……?)」
李衣菜「(……あれ?)」
李衣菜「(会場真っ暗で、スポットライトが当たってるのに……高峯さん?)」
夏樹「(オカシイな、そろそろ歌い始め…………)」
夏樹「 ぁ っ 」
李衣菜「あ……、あぁぁ………………っ」
ざわ……
ざわ…… ざわ……
ざわ…… ざわ…… ざわ……
のあ「」
のあ「」プラーン…
のあ「」ギギギギ…
夏樹「」
李衣菜「」
観客1「し、死んでる!?」
観客2「た……、高峯のあがワイヤーで首を吊って死んでいる!!!」
観客3「あ、あぁぁ……!!」
───ヨロヨロ…
のあ「ぁっ、ぇっ、ああっ」
ヨロッ…
ヒュン!!
のあ「うわああああぁーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!」
卯月「た、高峯さあああぁぁぁんっっ!!!」
凛「高峯さん、ホラあれっ!!」
のあ「あああぁっ! よ、吉野家ぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!!」
凛「よし、掛け声バッチリ……」フー
未央「バッチリじゃないよ!!! 高峯さーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!」
スタッフ「あ、あぁぁ………お、落ちた……っ」
━━━━その頃━━━━
【メインステージ】
ワアアアァァァァァァ……!!
───パチパチパチパチパチパチ……
夏樹&李衣菜『ありがとうございましたーーーーーーっっ!!』
李衣菜『いやぁー、どうでしたか!? 私たちのこのド派手でロックな演出はぁ!?』
李衣菜『花火がブワーって、パイロがボバーッと、煙がじゃんじゃん出て、もう最ッ高にロックなカンジで……!』
李衣菜『もう圧巻だったよね!!! こりゃあ客席から観てみたいよ』
夏樹『あーもう……余韻もへったくれもねえな、だりー』
夏樹『まあアタシ達は割とホットな演出だったけど、次の人はクールに決めてくれるぜ!』
李衣菜『おおっ! じゃあ早速……!』
──
────
──────
【事務所】
周子「……」ゴロゴロ
P「んー……」カタカタ
P「あっ」
P「……そうだ、なあ周子?」
周子「おなかすいたーん」
P「えっ、それ返事?」
周子「なにかね」
P「周子、近々高峯さんに合う予定あるか?」
周子「のあさんに?」
P「実は高峯さんに返したい物があるんだけどさ、明日から出張でなかなか渡す機会がないんだ」
周子「ふんふん」
P「もし良ければ、代わりに渡してくれないかと思ってさ」
P「ホラ、高峯さんと周子はアレだろ? 不都合が無ければ……」
周子「おなかすいたーん」
P「……分かったよ」
周子「察しがいいPさんは好きだよ、あたしは」
周子「で、ブツはなに?」
P「ん……、ちょっと待ってな」ゴソゴソ
P「んんっっ!」ガタンガタン!
周子「……?」
P「あぁよし、出せた。これだ」
───ゴトッ!
【ゲームギア】
周子「お……」
周子「おなかすいたーん……」
P「えっ、追加?」
━━━━2日後━━━━
【撮影スタジオ】
のあ「(あぁ……ついに私、吉野家のCMに出られるんだ。しかもタダで牛丼を食べるだけの役)」
のあ「(感無量だなぁ……計り知れないほど、嬉しい。もうこれが終わったら、アイドルやめてもいいんじゃないかってくらい、満ち足りてる気持ち)」
スタッフ「本番1時間前でーす。エキストラさんは、配置確認お願いします」
のあ「ぁ、はい」
のあ「(ふふふっ♪ せめていっぱい食べて帰ろう。ふふ……♪)」
のあ「(~~~……♪)」スタスタ
━━━━本番━━━━
『はぁー、吉野家最っ高……』
泰葉『うんうん……♪』モグモグ
泰葉『……』
泰葉『……?』チラッ
店員N「…………」ジー
泰葉「ぶほッ!!!」
監督『ストップストップ! 泰葉ちゃん、大丈夫?』
泰葉「ハ、はい……す、すみません。もう一回お願いします」
店員N「……」カチャカチャ
━━━━夜━━━━
【岡崎家】
泰葉「エキストラで出演してたんですね……」
のあ「……後姿だけ」
のあ「……」
のあ「せっかく吉野家のCMだったのに……出れたのに……」
のあ「まさか、店員の役だとは……。いっぱい食べられると思ったのに……」
泰葉「気持ちはわかります。でもアレ、そもそも吉野家のCMじゃないですからね?」
のあ「…………」シュン
──────
────
──
━━━━2日後━━━━
【撮影スタジオ】
のあ「(あぁ……ついに私、吉野家のCMに出られるんだ。しかもタダで牛丼を食べるだけの役)」
のあ「(感無量だなぁ……計り知れないほど、嬉しい。もうこれが終わったら、アイドルやめてもいいんじゃないかってくらい、満ち足りてる気持ち)」
スタッフ「本番1時間前でーす。エキストラさんは、配置確認お願いします」
のあ「ぁ、はい」
のあ「(ふふふっ♪ せめていっぱい食べて帰ろう。ふふ……♪)」
のあ「(~~~……♪)」スタスタ
━━━━本番━━━━
『はぁー、吉野家最っ高……』
泰葉『うんうん……♪』モグモグ
泰葉『……』
泰葉『……?』チラッ
店員N「…………」ジー
泰葉「ぶほッ!!!」
監督『ストップストップ! 泰葉ちゃん、大丈夫?』
泰葉「ハ、はい……す、すみません。もう一回お願いします」
店員N「……」カチャカチャ
━━━━夜━━━━
【岡崎家】
泰葉「エキストラで出演してたんですね……」
のあ「……後姿だけ」
のあ「……」
のあ「せっかく吉野家のCMだったのに……出れたのに……」
のあ「まさか、店員の役だとは……。いっぱい食べられると思ったのに……」
泰葉「気持ちはわかります。でもアレ、そもそも吉野家のCMじゃないですからね?」
のあ「…………」シュン
──────
────
──
のあ「……」スッ
夏樹「あれ、どうしたんすか?」
のあ「? もう帰るのだけれど」
夏樹「(まだ早朝なのに!? この人、まさかオフなのか………なんのために!?)」
夏樹「あっ。じゃあ、その……」ゴソゴソ
のあ「??」
夏樹「これ、要ります? ミンティア」
夏樹「今ウチら、このCMに起用されてて、事務所にノベルティ……タダで貰ったソレが余るほど置いてるんだよね」
のあ「……」
夏樹「お礼の、お礼………ってことで」
のあ「お礼のお礼?」
夏樹「うん。お礼のお礼」
のあ「じゃあ私も……今度お礼するわ」
夏樹「ハハハ……期待しないで待ってます」
のあ「……ふふ」
夏樹「!!」
夏樹「(この人の笑う声、初めて聴いたな)」
のあ「………頂くわ」
のあ「……ありがとう。早速賞味するわ」ガチャ
夏樹「はい。お疲れサマです」
───スタスタ
のあ「(夏樹ちゃん……)」
のあ「(……やっぱり、良い子だわ♪)」カサカサカサカサッ
のあ「(……♪)」パクッ
のあ「(………)」バリバリバリッ、ボリボリボリッボリボリッッ!!!
━━━1分後━━━
【事務所 トイレ】
のあ「カッ、かはッ……あっ、ぁ゛っ……、ヴッ! ガフッ、ふっ、ひっ……」ガクガク
のあ「えっ、え、……おぇええっ!!」
のあ「うぐっっ、ウッ、あぅ、う、は、ハウウゥ……!!」プルプル
のあ「(こ、呼吸が、出来ないっ……!)」ヒュー
のあ「(気持ち悪い……、く、口の中に湿布を投げ込まれたかのよう……!!)」ヒューヒュー
のあ「ウ、ウウゥ……っ」
のあ「ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ゥゥゥゥゥゥゥ…………!!」
のあ「ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ~~~~~~…………っっっっっ(慟哭)」
──────
────
──
李衣菜「高峯さんに対してのコメントが三者三様でオモシロかったよ。あ、四者四様か」
夏樹「へえ。涼はなんて?」
~~~~~~~~~~
『高峯サン?』
『んー……噂に聞くほどは堅いカンジはしなかったぜ。取っ付き難い性格かと思ったんだけど』
『ただやっぱり一緒にワイワイ騒いでつれそうってタイプでもないかな。んんー……年の差もあんのかなぁ』
~~~~~~~~~~
夏樹「あの面倒見が良い涼が、珍しく距離を測りかねてるな」
李衣菜「まあ、私だったら初対面でもフィーリングでバーン! ってイっちゃうけどね」
夏樹「奏は?」
~~~~~~~~~~
『……高峯さん?』
『あの人はね………「世界」なの』
『退屈ではないけれど満たされない、踏み出す勇気は無いけれどもどかしい………晴れ晴れとせず微睡んでいた私のメランコリーな世界を、あの人は一瞬で、見たことのない色に染め上げた……。まるで、雲に抱かれ、朧気な漆黒の夜を切り取るように姿を見せた、眩惑する月のよ───
~~~~~~~~~
夏樹「小梅は?」
李衣菜「んん? 小梅ちゃんは……」
~~~~~~~~~~
『えっ……? た、高峯、さん??』
『また映画、一緒に見たいな……♪ あと、あの子も言ってたけど……』
『色々とすっごく面白い人、だって。見えないはずなのに見られているようなフシギなカンジだって……』
『ふふふっ、うん……良い人、だと思う。あの子も気に入ってたし……』
~~~~~~~~~~
夏樹「………なんつーか、やっぱあの人、なんか持ってるよな。いろいろ引き寄せるっつーか」
夏樹「カリスマ? いや、なんかそれ以上に人を惹きつける不可抗力の…………重力?」
李衣菜「でさ、でさ? 伊吹さんが言ってたんだけどね?」
夏樹「ん?」
~~~~~~~~~~
『あー、高峯さん?』
『そだねー……うーん……』
『映画の人物で表すと、【T-X】みたいな人だよね!』
~~~~~~~~~~
夏樹「グッ! むふっ……!」プルプル
李衣菜「ねえねえ、そのT-Xって何さ?」
夏樹「ふぅ………あー、T-X? じゃあまず『ターミネーター』って映画知ってるか?」
李衣菜「うん、シュワちゃんのでしょ? それくらい乳児でも知ってるよ」
夏樹「T-Xってのは、その第3作に出てくる、女型の───」
━━━━その頃━━━━
【岡崎家】
のあ「…………」
楓「ロボットですって、のあさん」
泰葉「(…………)」
──────
────
──
マストレ「話は少し逸れるが、それはある種、ライブにおけるパフォーマンスであっても同じことだ」
マストレ「高峯は近いうちに、LIVEバトルを控えているらしいな?」
のあ「……ええ」
マストレ「(……)」
マストレ「高峯。妹達からも評価は聞いているが、君は歌と踊りに関して、必要な基礎は勿論、技術ですら高いレベルで習得している」
マストレ「脱帽だよ。新人にしては上出来……いや、むしろ新人であるのが不思議なくらいだ」
卯月「(さ、流石は高峯さん……!)」
のあ「(ふ、フフ……嬉しい、卯月ちゃんもコッチみてる……♪)」ドキドキ
マストレ「……だが、ハッキリ言わせて貰おう」
マストレ「君の歌も踊りも『感情』が全く無い。表情の変化が乏しい、という意味も当然兼ねてだが」
マストレ「全てが単調。まるで命令されたプログラム通りに動くロボットのように、そこに感情を見出すことは出来なかった」
のあ「(ッ!?)」グサッ!
マストレ「……島村。君達アイドルにとって最も大切なものは何かな?」
卯月「え、え~っと……」
のあ「(ろ、ろぼッ……!?)」プルプル
卯月「……ファンの皆さん、ですか?」
マストレ「そうだ。無論これは『ファンのために身を投げ打ち尽くせ』、という非情な意味ではない」
マストレ「ファンとの意思疎通……。そのために君達は自分の意図・感情を歌や踊りにのせて表現する」
マストレ「躍動感や悲壮感を、仕草や声色や拍子で形作る。謂わば、歌と踊りも全て君達の『感情』なのだ」
マストレ「ファンを想い、感情を籠め、親近感を醸し出し、一体感を生み出し、一個のアイドルとしての完成形に近づいていく」
マストレ「……高峯のあ、君は非凡で稀有な存在だ。しかしそれだけじゃあ足りない、ダメなんだ」
のあ「(ぉ……ぉぉ……っ)」プルプル
卯月「(高峯さん? け、血色が……)」
──
────
──────
━━━━早朝━━━━
【事務所 応接室】
───ガチャ
夏樹「おはようございまーす………ん?」
のあ「……!」
夏樹「あ……おはようございます」
のあ「……」チラッ
夏樹「…………」
のあ「…………」
夏樹「……っしょ、と」ドサッ
のあ「……」
のあ「…………」スススッ
夏樹「(遠ざかった)」
夏樹「(アタシ嫌われてんのかな。まあ、無言でいきなり隣に座るのもアレだったかな……)」
のあ「……」
夏樹「……」ペラッ
のあ「……」
のあ「……夏樹」ボソッ
夏樹「うわッ!!!」ビクッ
のあ「えっ?」
夏樹「あっ!! いや何でも……な、なんすか、高峯さん」
のあ「……この前のジュース、実に美味だったわ。魂を揺るがすほどに」
のあ「これ、お礼」スッ
夏樹「えっ、あ、あぁ……別にそんな…………あ、あざす」
のあ「プリン」
夏樹「(プリン……)」
───ドスン!
夏樹「(…………)」
夏樹「(えっ、デカッ!? これプリンなのか!?)」ズシッ!
夏樹「(お、重ェ……なにコレ……大仏のイラスト? 奈良?)」
のあ「……」
夏樹「……」
のあ「…………」
のあ「………食べないの?」
夏樹「えっ!?」
夏樹「や、その……この大きさだし、帰ってから堪能しようかなぁと」
のあ「……そう」
夏樹「は、はい。ありがとうゴザイマス」
のあ「…………」
夏樹「(……お、落ちこんだ?)」
周子「なにそれ? 鈍器?」
周子「カラオケにある曲入れる機械よりおっきいけど……」
P「これは一応、携帯ゲーム機だぞ。世代を感じるなぁ」
周子「携帯かぁ。これ持ち運び出来ちゃうのか」
周子「マジかぁ」
P「このまえ送迎の時に、後部座席で高峯さんがゴソゴソしててな?」
P「気になってふとバックミラーを目をやったら、彼女の鞄からいきなりこれが姿を現したんだよ」
P「動揺して事故るかと思った」
P「目の前の光景がにわかには受け入れ難いものだった……」
周子「なんか前も似たようなこと言ってたね」
P「いやでも実際懐かしくてな。話しかけたら、いきなり『興味ある?』って貸してくれたよ」
周子「(のあさん、頑張ってるなー)」
周子「……まぁ、いいよ。重そうだけど」
周子「今度会う約束してたし。その時にでも渡すかな」
P「へえ、そうなのか?」
周子「うん。今度家に遊びに来ていいって言われたし」
P「親戚……、『はとこ』とは聞いたけど、二人は昔から仲良かったのか?」
周子「んー……」
周子「そだね」
周子「面識もあったし、実家とかで会って遊んだりしたのは覚えてる」
周子「……でも正直、向こうがあたしの顔を覚えているとは思わなかったけど」
P「気持ちは分からなくもないな。昔の知り合いに突然会うのって、ビックリするよな。面食らうというか」
P「風貌とか変わってたら、本人かどうか疑心暗鬼で話しかけるのも少し躊躇しちゃうし」
周子「するねー。相手がこっちを覚えているのかも不安だし」
周子「………昔と変わらないようで、うれしかったよ」
P「昔の高峯さんか……」
P「彼女の性格は掴みどころがない……、というか誰にも掴ませないカンジだけど、昔もそうなのか?」
P「群れるのを嫌うというか、孤高というか」
周子「いやいや、むしろ群れさせてあげてよ」
P「えっ?」
周子「なんでもなーい」
━━━━━━━━━━
【レッスンルーム】
のあ「……」
ベテトレ「さてレッスンの前に、まずは柔軟からだ」
ベテトレ「よし、私は野暮用で少し席を外すから、その間に二人一組で準備をしておいてくれ」スッ
のあ「………」
のあ「………………」
夏樹「だりー、組もうぜー」
李衣菜「あっ……う、うん。おっけー」チラッ
奏「(美波……、そこをどいて手を放してくれると嬉しいわ)」
奏「(私は向こうにいる高峯さんと柔軟をしたいの………アナタとがっぷり四つ組んでいる場合じゃないの)」グググ…
美波「(待って奏ちゃん。話、きいて?)」
美波「(ほら、あそこの柱ならすごい柔軟しやすそうじゃないかな? 高峯さんとは私が組むから、あの柱は奏ちゃんに譲ってあげる、ねっ?)」グググググ…
のあ「(ア、あ、余ったっ……、一人余っちゃった……)」オロオロ
のあ「(いつもこうだ……あぁ、うぅぅ……っ)」グスッ
──────
────
──
短いですが、今日はここまで。
あと今回、ちょっと長いです。
周子「そだね」
周子「面識もあったし、実家とかで会って遊んだりしたのは覚えてる」
周子「……でも正直、向こうがあたしの顔を覚えているとは思わなかったけど」
P「気持ちは分からなくもないな。昔の知り合いに突然会うのって、ビックリするよな。面食らうというか」
P「風貌とか変わってたら、本人かどうか疑心暗鬼で話しかけるのも少し躊躇しちゃうし」
周子「するねー。相手がこっちを覚えているのかも不安だし」
周子「………昔と変わらないようで、うれしかったよ」
P「昔の高峯さんか……」
P「彼女の性格は掴みどころがない……、というか誰にも掴ませないカンジだけど、昔もそうなのか?」
P「群れるのを嫌うというか、孤高というか」
周子「いやいや、むしろ群れさせてあげてよ」
P「えっ?」
周子「なんでもなーい」
━━━━━━━━━━
【レッスンルーム】
のあ「……」
ベテトレ「さてレッスンの前に、まずは柔軟からだ」
ベテトレ「よし、私は野暮用で少し席を外すから、その間に二人一組で準備をしておいてくれ」スッ
のあ「………」
のあ「………………」
夏樹「だりー、組もうぜー」
李衣菜「あっ……う、うん。おっけー」チラッ
奏「(美波……、そこをどいて手を放してくれると嬉しいわ)」
奏「(私は向こうにいる高峯さんと柔軟をしたいの………アナタとがっぷり四つ組んでいる場合じゃないの)」グググ…
美波「(待って奏ちゃん。話、きいて?)」
美波「(ほら、あそこの柱ならすごい柔軟しやすそうじゃないかな? 高峯さんとは私が組むから、あの柱は奏ちゃんに譲ってあげる、ねっ?)」グググググ…
のあ「(ア、あ、余ったっ……、一人余っちゃった……)」オロオロ
のあ「(いつもこうだ……あぁ、うぅぅ……っ)」グスッ
──────
────
──
李衣菜「高峯さんに対してのコメントが三者三様でオモシロかったよ。あ、四者四様か」
夏樹「へえ。涼はなんて?」
~~~~~~~~~~
『高峯サン?』
『んー……噂に聞くほどは堅いカンジはしなかったぜ。取っ付き難い性格かと思ったんだけど』
『ただやっぱり一緒にワイワイ騒いでつれそうってタイプでもないかな。んんー……年の差もあんのかなぁ』
~~~~~~~~~~
夏樹「あの面倒見が良い涼が、珍しく距離を測りかねてるな」
李衣菜「まあ、私だったら初対面でもフィーリングでバーン! ってイっちゃうけどね」
夏樹「奏は?」
~~~~~~~~~~
『……高峯さん?』
『あの人はね………「世界」なの』
『退屈ではないけれど満たされない、踏み出す勇気は無いけれどもどかしい………晴れ晴れとせず微睡んでいた私のメランコリーな世界を、あの人は一瞬で、見たことのない色に染め上げた……。まるで、雲に抱かれ、朧気な漆黒の夜を切り取るように姿を見せた、眩惑する月のよ───
~~~~~~~~~
夏樹「小梅は?」
李衣菜「んん? 小梅ちゃんは……」
~~~~~~~~~~
『えっ……? た、高峯、さん??』
『また映画、一緒に見たいな……♪ あと、あの子も言ってたけど……』
『色々とすっごく面白い人、だって。見えないはずなのに見られているようなフシギなカンジだって……』
『ふふふっ、うん……良い人、だと思う。あの子も気に入ってたし……』
~~~~~~~~~~
夏樹「………なんつーか、やっぱあの人、なんか持ってるよな。いろいろ引き寄せるっつーか」
夏樹「カリスマ? いや、なんかそれ以上に人を惹きつける不可抗力の…………重力?」
李衣菜「でさ、でさ? 伊吹さんが言ってたんだけどね?」
夏樹「ん?」
~~~~~~~~~~
『あー、高峯さん?』
『そだねー……うーん……』
『映画の人物で表すと、【T-X】みたいな人だよね!』
~~~~~~~~~~
夏樹「グッ! むふっ……!」プルプル
李衣菜「ねえねえ、そのT-Xって何さ?」
夏樹「ふぅ………あー、T-X? じゃあまず『ターミネーター』って映画知ってるか?」
李衣菜「うん、シュワちゃんのでしょ? それくらい乳児でも知ってるよ」
夏樹「T-Xってのは、その第3作に出てくる、女型の───」
━━━━その頃━━━━
【岡崎家】
のあ「…………」
楓「ロボットですって、のあさん」
泰葉「(…………)」
──────
────
──
──
────
──────
【事務所 応接室】
夏樹「……で?」
李衣菜「まー、話題に事欠かない人だからねえ。高峯さん」
夏樹「あの容姿と風格だしな。クセの多いこの事務所でも、(色々と)頭一つ飛び抜けてるだろ」
夏樹「デビューも早いし、アタシらもあっという間に追い抜かれるかもなぁ……」
李衣菜「真奈美さんと美優さんは『意外に普通なカンジ』って言ってたかな?」
夏樹「へえ……。理由が気になる」
李衣菜「一緒にゴハン食べて世間話でもしてたりしてね」
夏樹「(あの人何食うんだろーかな………電気で動いてそうな人だけど)」
李衣菜「アーニャちゃんは、『似たものを感じる』ってさ」
夏樹「似たもの、ね。趣味とか?」
李衣菜「高峯さんのシュミって何だろ? 意外にロマンチックな趣味とかだったりして」
夏樹「さあ」
李衣菜「みくはねー。なんか『ノーコメント』だって」
夏樹「なんだソレ……、あの二人って接点あったっけ?」
李衣菜「一緒に地方イベントまわったって」
夏樹「ふぅん。でも聞いた所、そんなに大きな仕事はまだしてない感じだったな。まだ半年弱だから当然か」
李衣菜「恐ろしいほどになんでもカンペキにこなせそうな人なのにね」
李衣菜「案外不器用だったり……なーんて」
夏樹「まさか」
李衣菜「………でさ?」
李衣菜「この間、あの4人も高峯さんのコトを話してたんだけどね?」
夏樹「?」
李衣菜「映画鑑賞部」
夏樹「涼、小梅、あと伊吹に奏か。ああ、たしか一緒に映画鑑賞したんだっけか、高峯さんと」
未央「でも、2回目のライブでいきなりワイヤーアクションって……」
凛「派手でいいと思う。うん、高峯さんらしい」
のあ「……私、らしい?」
凛「ん、……うん」
凛「(……?)」
のあ「……続けて」
凛「う、うん」
凛「大胆不敵ってカンジで、似合ってます」
凛「こういう時って普通はみんな、もっと控えめに行くんだけど……」
凛「あえて派手な演出で対抗するところが、高峯さんらしいというか」
のあ「……そうかしら」
のあ「……詳しく、聞かせて頂戴」
凛「あ、う……えっと……」
未央「(ウッ……)」
凛「高峯さん。お、怒ってますか?」
のあ「? ………いいえ」
未央「(そうなのか……)」
凛「えーっと……」
凛「……芸能界とかって、よく段階や場数を踏めとか、序列や順序を弁えろとか言われるでしょ」
のあ「……そうね」
凛「実際、こういうLIVEバトルも、ランクやレベルがあまりに違いすぎると高い方は勝手に批判されたり、逆に低い方はややこしい変なウワサが流れたりする」
凛「だから、普通は『新人は控えて、先輩を立てる』ってのが自然の形。暗黙の了解になってる」
のあ「……」
ある男子と女子がバイクで出かけてると…
彼女が「スピードが速いよ。スピード落とし て!!」
彼氏が「なに、怖いの??」
彼女が「すごく怖いスピード落として」 彼氏が「OK、でも愛してるって言ったら ね!!」
彼女が「愛してる、愛してるだから今すぐス ピード 落として!!」
彼氏が「もちろん、でも強く抱きしめて、一 度も したことのない強さで抱きしめて…」
びっくりしてる彼女は言われたとうりにして 言っ た。
彼女が「お願い今すぐスピード落と して!!」
彼氏が「わかった、でも俺のヘルメットを 取って お前がかぶったらな」
彼女は彼氏のヘルメットをかぶった
彼女はまた言った 彼女が「スピード落として!!!」
次の朝のニュースで 昨日の夜に若い男女がバイクで事故に合いま した 。
二人うち一人が亡くなったこと
その前に彼のこと話そう 彼氏が「ただ彼女が助かって欲しかった…」
彼は気付いてた 彼女にスピード落として、と言われる前から バイクのブレーキがきかないことを…
それで彼は彼女に頼んだ 愛してるって言って そして抱きしめて欲しいことを
彼はこれが最後になることを知ってたから
そして彼女にヘルメットかぶらせて助けた かった 自分の命を犠牲にして 同じことをしますか?
大切な人がいなくなるのを待たないで そして自分にとってとても大切な人だと伝えなくなるまえに今日誰かを幸せにしてください
ここで終わりです 感動したら回してください
──
────
──────
【事務所 応接室】
のあ「……」
のあ「……」ペラッ
奏&美波「(……)」ジー
美波「(奏ちゃん、ほら見て。高峯さんの口元)」ヒソヒソ
美波「(……ご飯粒が付いてる)」
奏「(……)」
美波「(幼いカンジで、可愛らしいっ。母性本能が擽られるよね♪)」ヒソヒソ
美波「(普段は無表情で清楚な彼女なのに、どうしてああも不意打ちのギャップで心を揺さぶってくるのかな)」
美波「(ハァ、親密になりたいっ……)」
奏「(……違う)」
美波「(えっ?)」
奏「(違うわ、美波。あれは誘っているの)」ヒソヒソ
美波「(……えッ!?)」
奏「(例えるなら食虫植物…………いいえ、禁断の果実を唆すヘビの囁きのよう)」
奏「(さながら、ダイヤモンドのような高貴な輝きを放つあのご飯粒は禁断の果実………理性では抗えない魔性に魅了され、ついには手に取り、禁忌に身を堕としてしまう)
奏「(あぁ、高峯さん)」ギュッ
奏「(貴女が誘惑する悪魔のヘビであるならば、私はエデンの園の無垢なイヴになりましょう。その果実を口にすれば、一体どんな罪過がこの身を焼くのでしょう)」
奏「(私は……ッ)」ガタッ!
のあ「……?」ピクッ
美波「(ッ!? か、奏ちゃん! 隠れて!!)」ガタガタ!
奏「(ご、ごめんなさい……少し染まりかけていたわ)」
美波「(落ち着いて? あのね奏ちゃん、よく聞いて?)」ヒソヒソ
美波「(高峯さんはね? 貴女や紗枝ちゃんが思っているほど、高尚な人じゃないの。ちょっと語弊があるかもだけど……)」
美波「(みんなが言うほど、彼女は人間離れしてはいないの)」
美波「(もっと身近で温かくて、ちょっとドジなところもあるけど、でもそれを悟られまいと密かに頑張ってて、とても優しくて……見守りが必要な少し抜けてる長女のような人で……)」
奏「(それ以上は聞きたくないわ。またその話?)」ヒソヒソ
奏「(貴女は、高峯さんをどれだけ侮辱すれば気が済むの? 妹になりたいだの、家族になりたいだの………不敬よ)」
奏「(もういいわ。いずれにせよ、彼女を辱めるわけにはいかない。私は高峯さんに知らせに行く、あのご飯粒の存在を)」
美波「(か、奏ちゃん……)」
奏「(まっ、マウス・トゥ・マウスで)」
美波「(待って!? 無理しないで、二人で知らせに行こう!? だ、ダメ……っ!!)」ガタガタ!
───ガチャ
周子「おはよーございまーす」スッ
奏「(ま゙ッ!!!)」
美波「(???)」
のあ「……あっ!」
周子「あれ、のあさんだ。やっほー」ヒラヒラ
のあ「し、周子ちゃん……お、おはようっ」
周子「久しぶりやぁ。そないいえば、『事務所』で会うのはこれが初めてやねえ」
のあ「もー……、周子ちゃん、こないだ一緒にどっかむしやしないでも、甘いもんでもよばれよなあ言わはったんに……」
のあ「あのあと、めちゃくちゃ探したんよ?」
周子「いやぁかんにんな……、のあさんLIVEの時は流石にへたばらはったかと思おて。その後は、えらい忙しくてどうも頭からすっぽりぬけてたわー」
のあ「もぉー……よーいわんわぁ」
───ビチャビチャビチャ!!
のあ&周子「(???)」
周子「んん?」ジー
周子「……のあさんや、口元にご飯粒ついてるよ。ほーれ」スッ
のあ「えっ、あ、ほんとだ。ありがと」
周子「のあさん、昔からちょっと天然っぽいからなー……身嗜み、気を付けた方がいいよ」
のあ「う、うん」
周子「んー、この米粒は」ジー
周子「……よ、っと!」
ピーン!
のあ「ちょ、ちょっと鏡見てくる……じゃあ、またね?」トコトコ
周子「はいよー」
───スッ
美波「周子ちゃん、おはようっ」
奏「おはよう」
周子「あ、ソファの裏にいたんだ、おはよう。美波ちゃん、口から血が滅茶苦茶出てるけど大丈夫?」
───グルグル
美波「周子ちゃん、おはようっ」スタスタ
奏「おはよう」スタスタ
周子「えっ、うん。おはよ───」
───グルグルグル
美波「周子ちゃん、おはようっ」スタスタ
奏「おはよう」スタスタ
───グルグルグルグル
周子「(───ッ!?)」
周子「(か、囲まれた!? や、ヤバっ……)」
美波「周子ちゃん、おはようっ」スタスタ
奏「おはよう」スタスタ
──────
────
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【事務所 応接室】
のあ「……美優」
美優「はい?」
のあ「……そのネックレス、見たことがないわ」
美優「あっ、これは……!」
美優「撮影のお仕事の際に、頂いたんですよ。とても良く似合っていたからと」
美優「流石に勿体無いと遠慮はしたんですが、プロデューサーが、その……」
のあ「粋な計らいね。その意匠は大人向きとは言い難いけれど……、確かに普段より柔らかい雰囲気が出ているわ」
のあ「……とても似合ってる」
美優「ありがとうございます。ふふっ♪」
━━━━━━━━━━
【事務所 エントランス】
のあ「……伊吹」
伊吹「はい?」
のあ「……貴女の服装、普段と比べて大人しいわね」
のあ「至極上品に洗練されて……いつにも増して魅力的に感じる」
伊吹「あっ! わっ、ホントですか?」
伊吹「えへへ………春だし、ちょっと気分一新でオシャレしようと思って」
のあ「へえ……」
伊吹「でもでも、全っ然お金かかってないんですよコレ! 全部プチプラのブランドで固めて、安っぽく見えるか不安だったんだ~」
伊吹「でも高峯さんのお墨付きなら、問題ないよね! へへーっ♪」
のあ「ええ」
のあ「(…………)」
━━━━夜━━━━
【高峯家】
のあ「……」モゾモゾ
~~~~~~~~~
泰葉『趣味が合えば一番ですけど……会話のきっかけって、ほんとうに何気ない些細なものなんです』
泰葉『化粧とか、服装とか。年下狙いなら、付けている小物とか。変化を観察するのも大事ですね』
泰葉『ナンパじゃないですけど、そういう部分を褒められると、女の人って結構嬉しいんですよ?』
~~~~~~~~~~
のあ「…………」
のあ「ふ、フフフ……♪」
━━━━翌日━━━━
【事務所 応接室】
伊吹「わっ」
伊吹「奏、なんか今日はすごいね。合コンでもあるのかってくらい気合入った服装とメイク」
伊吹「でもレザーは合コンじゃあ男の子受けはしにくいぞ? んー……攻めてるねー」
奏「……別に合コンなんて無いけど。あんまり興味ないし」
伊吹「撮影じゃないなら、デート?」
奏「伊吹ちゃん……、もちろん違うけど、そういうコトは大声で言うものじゃないの」
伊吹「うーん、奏は動じないなぁ。でもいつもとファッションが違いすぎて、遠目からだと誰かわかんないくらいだよ」
伊吹「髪も切った? 眉毛も弄ってる……カラコンも付けてる」
伊吹「極めつけに、なにその禍々しいドクロのバングル。全身革コーデといい、いつから奏はパンクロックに目覚めたの?」
奏「ふふっ。伊吹ちゃんは何でも気が付くのね、そういうトコ、私は好きよ」
伊吹「いや、アタシじゃなくても気付くよ。200人いれば199人はきっと気付くよ」
伊吹「むしろガラリと変わりすぎて非行を心配するレベルの変貌だよ」
奏「そう……!」キラキラ
伊吹「な、何で目を輝かせたの?」
───ガチャ
のあ「……おはよう。伊吹、奏」
奏「おはようございます」
伊吹「あっ、おはよーございます」
のあ「……伊吹は今日も『ぷちぷら』のコーデなのね」
伊吹「はいっ。最近ハマっちゃって♪」
のあ「……そう」
奏「(………)」ソワソワ
のあ「…………」
奏「(……………っ)」ドキドキ
のあ「………………………………」
のあ「…………小腹が空いたから、ファミマに行ってくるわ」
のあ「最近気づいたけれど、変わった商品出始めたし……」
───ガチャ、バタン
奏「…………………………………………………」
伊吹「…………」
奏「…………………………………………………………………………………………」
奏「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ファミマに、負けた……?」
伊吹「(高峯さん、ファミマ通ってるんだ)」
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【事務所 応接室】
夏樹「(…………)」ペラッ
李衣菜「私もレッド・ホット・チリ・ペッパーズとか最初聴いたときは、もうビビっときましたね!」
李衣菜「これがロックなんだなぁ、って、もう居てもたってもいられないくらい興奮して!」
李衣菜「体がかぁーっと熱くなりましたよ!」
のあ「確か、有名な漫画実写化の主題歌に使われた………一時期聴いていたわ」
李衣菜「えっ!? ……そ、そうなんですか?」
のあ「キャッチーだけど、Scar Tissueとか好きよ」
のあ「音楽は、凡百な言葉や理屈で説明するより直に聞くのが最も伝わる方法ではあるけれど……」
のあ「敢えて表現するならば、彼らの音楽は甘い狂気が張り付いているわ」
のあ「彼らの型破りなスタイルは力に満ちている。ファンクロックを善しとする彼らだけど優しいメロウな音も時には奏で、その世界観にあっという間に惹き込まれたわ」
李衣菜「う、ウンウン。そうそう、ファンクロック」
のあ「(…………)」
のあ「(実は聴いたことないけど)」
のあ「(……さて。会話を合わせるために付け焼刃の知識を並べて来たけど……)」
のあ「(残弾が尽きたわ。どうしよ……)」ドクンドクン
李衣菜「ウンウン……」
のあ「あと……」
のあ「えっと……」
李衣菜「??」
のあ「ほ、『ホット・バタード・ラム・カウ』とか………よく聴く」
李衣菜「へえー……!」キラキラ
のあ「カ、彼らの甘い旋律は、一度聴いたら耳から離れないわ」
李衣菜「あー、良いですよね、良いですよねっ!!」キラキラ
のあ「(……???)」
のあ「ァ……、あとは『ボヘミアン・ドリーム』」
のあ「彼らはミクスチャーロックの先駆けともいえる存在で、アルバムごとにそのスタイルは変えながらも、ボーカルとリリックセンスからはラップロックの匂いを常に感じるわ」
李衣菜「ウンウンウン……!」コクコク
のあ「(……!?)」
夏樹「(…………)」
のあ「さ、『サザンカンフォート・スクリュー』も外せないわ」
のあ「政治的なメッセージを前面に出し、突き刺すようなラップスタイルで激しいロックを生み出す姿は……目に焼き付いて離れないわ」
李衣菜「ウンウン……分かります!」
のあ「『キッス・オブ・ファイア』……彼らが活動を休止した時は一晩中枕を濡らした」
のあ「ボーカルが逮捕された時は、私も逮捕されようかと血迷うほどショックだった……」
李衣菜「ウンウン……分かります!」
のあ「『テキーラ・サンライズ』。彼らは言わずもがな」
のあ「パラダイムに囚われずエキゾチックでアナーキーなコスチュームとパフォーマンス、エモーショナルなビートが最高にマーベラスだったわ」
李衣菜「ウンウン……分かります!」
李衣菜「いやぁ、話が合いますねっ。やっぱり高峯さんはまごうことなきロックだ!」
のあ「フフ……そうね」
のあ「……ちょっと、席を外すわ。また……あとで」
李衣菜「あ、ハーイ」
夏樹「…………」
李衣菜「ふぅー」
李衣菜「聞いてた? なつきち」
李衣菜「やっぱロックを愛する者は引かれ合うんだね。私、高峯さんとはウマがあう気がするよ」
夏樹「……ああ。聞いてたぜ」
夏樹「高峯さんに上手くあしらわれたな、だりー。遊ばれたと言うべきか」
李衣菜「うん?」
夏樹「あの人、後半は単なるカクテルの名前しかテキトーに言ってないぜ。気付いたか?」
李衣菜「えっ……?」
李衣菜「そ、そうなの……??」
夏樹「ん? んー…」
夏樹「…………うん」コクン
李衣菜「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
李衣菜「ち……」プルプル
李衣菜「ち、違うよ? なつきち………た、高峯さんは……っ」グスッ
夏樹「(な、涙ッ!?)」
李衣菜「高峯さんは、と、とてもロックで、私も、にわかではなくロックでっ……」グスン
李衣菜「わかる? ろ、ロックって、お酒のロックじゃないんだよ? なのに……」
李衣菜「な……なのに、なつきち……なんでそんなこと言うの……っ?」ポロポロ
夏樹「ご! ……ご、ごめんなだりー、アタシが悪かった」
夏樹「あの人はロックで……うん、だりーも超絶ロックだから」ナデナデ
李衣菜「うん……、ぐすっ」
夏樹「(…………)」
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【早朝 事務所】
───ガチャ
李衣菜「おはよーございまーっす!」
夏樹「おーっす」
美波「おはよう、李衣菜ちゃん、なつきちゃん」
奏「二人とも早いわね………あら? そのコーヒーは?」
夏樹「ああ、コレか? コンビニのカウンターコーヒーだよ」
夏樹「値段の割に味はイカしてるからよく買うんだ、アタシは」
李衣菜「そーそー。出勤する時にコレ持って颯爽と歩くと、何か『デキる大人』ってカンジでクールだよねー♪」
夏樹「だりー、そりゃ海外ドラマの見過ぎだって。どうせさ、そのためだけに買ったんだろ?」
李衣菜「へへ……、まあいーじゃん。よっと」カチャ
───パカッ
夏樹「……ハァ」
奏「ふふふっ」クスクス
李衣菜「?」ゴクゴク
夏樹「コーヒーをスポーツドリンクみたいに飲むよな、だりーは」
美波「李衣菜ちゃん? ちなみに……」
李衣菜「なに?」
美波「李衣菜ちゃんが今カップから外した、コンビニやスタバとかのコーヒーでよく見かけるそのプラスチックの蓋は『トラベラーリット』って名前なんだけどね?」
李衣菜「うん? ああコレ?」スッ
美波「実はそれ、外さないまま小さな穴から飲むのが一般的なんだよ?」
李衣菜「えっ……エエッ!?」
李衣菜「うそっ!? エイプリルフール!?」
奏「4月1日はもう過ぎたわ」
夏樹「『デキる大人』が聞いて呆れるよ……」
李衣菜「は、外してた。だって有り得ないじゃん!」
李衣菜「の……、飲みにくいし! 砂糖とか入れられないしっ!」
夏樹「そうか? アタシはブラック派だし慣れたら気にならないけど」
李衣菜「わ、私だってブ、ブラックくらいっ……くっ!」プルプル
李衣菜「それに香りッ! 香りを楽しめない!! この蓋に存在価値は絶対無いよっ!」
美波「ま、まあ……、認識は人それぞれあるだろうし、好きなように飲むのが正しいんだと思うよ」
李衣菜「で、でしょ! ホラぁ!」
夏樹「蓋をして飲む方が本場っぽくてカッコイイと思うけどなー?」チラッ
李衣菜「え、えぇー…」プルプル
夏樹「(正直どっちでも良いけど)」
奏「保温効果や持ち運びの利点から蓋を付けているそうよ」
奏「スタバのラテやカプチーノだと、蓋をしているとより一層美味しく飲めるっていう話もあるから、一概に意味は無いとは言えないけどね」
奏「ちなみに私も蓋をしたまま飲む派ね。運んでいる時にこぼれないし」
美波「私もどっちかと言うとそうかも。折角付いているんだし上手に活用したい気持ちはあるかな?」
李衣菜「ふ、フーン……べ、別にいーし……」プルプル
李衣菜「蓋のままチョロチョロ飲むより、蓋を外してグイっとあおった方がカッコイイし……ロックだし……」カポッ
奏「そ、そんな呑兵衛みたいに言われても」
夏樹「と言いつつ蓋を付け直したのは何故だい? だりー」
李衣菜「ま、まあさ、今日くらいは違う方法を試してみても良いかなー……って」
───ガチャ
のあ「……おはよう」スッ
李衣菜「あっ! おは……」
夏樹&李衣菜「(………あっ)」
奏&美波「───ッ!!!」
のあ「(フフフ……♪)」サッ
───パカッ
のあ「……」グビッ
李衣菜「た、高峯さん……、そのコーヒーは……っ!」
のあ「事務所に訪れる前、近くの店に寄ったのよ」
のあ「意図せず、近場で巡り合えるとは……。悪魔のように黒く地獄のように熱い、天使のように純粋で愛のように甘い味わいの一杯に」
夏樹「(シャルル=モーリスか。というか……)」
夏樹「(蓋が……)」
夏樹「た、高峯サン……?」
のあ「なに?」
夏樹「そ、その蓋って実は───むぐゥ!?」ガタッ!
夏樹「!?」バッ!
奏「た……、高峯さんおはようございます!」ググッ!
夏樹「か、かなえぇ……、な……ぁにを……!?」バタバタ!
奏「コンビニのカップコーヒーって美味しいですよね。私もよく買うんです」ググッ…
美波「おはようございます。その………高峯さんは、いつも蓋を外して?」
のあ「……? ……ええ」
美波「確かに、あの蓋って邪魔ですよね。私も飲む時は外すんですよ、デザインより機能性重視です」
美波「飲みにくいし、砂糖とか入れられないし、なにより一番大事な香りが楽しめない。その蓋に存在価値は絶対無いと思っています、私は」キッパリ
夏樹「(───!?)」
奏「アレ怖いですよね、蓋で隠したままだと熱い液体が口に届くタイミングが計れなくて。私の周りの友人もみんな外してましたよ。アレを付けて飲む意味なんて毛頭理解できないわ……」
奏「ほら、アナタのも外してあげる。こうすると飲むとき便利よ」グシャッ!
夏樹「」
李衣菜「ホラっ! ホラホラっ! なつきちほらぁー!!」
のあ「(……?)」ゴクゴク
──────
────
──
──
────
──────
【続 事務所】
のあ「(ふふふ……♪)」
のあ「(早速4人の子達に見せつけることが出来た。コーヒー持って出勤している、この私の姿を)」
のあ「(昨日、真奈美さんを見てアレは良いなと思ったわ。出勤する時にコレ持って颯爽と歩くと、何か『デキる大人』ってカンジで格好良い……♪)」
のあ「(……でも)」
のあ「(初めて頑張って買ったけど、この蓋って一体なんだろ……??)」ジー
のあ「(穴が付いてる。まさかここから飲むとか? いやまさか。そんな飲みにくい……)」ジー
のあ「(……??)」ジー
美波&奏「……」コソコソ
李衣菜「……」ドキドキ
夏樹「……」
美波「(……さっきはゴメンね? なつきちゃん)」
夏樹「(いや、別にいーけどさ)」
夏樹「(けど……何でアタシまで横目で高峯さんを観察しなきゃいけないんだ……)」
美波「(……)」チラッ
奏「(……)」チラッ
李衣菜「(……)」チラッ
夏樹「……」
夏樹「(なぁ……オイ)」
夏樹「(ソファに座ったままコーヒーとにらめっこして10分が過ぎたぞ、彼女)」
奏「(……高峯さんは今、真意を推し量ろうとしているのよ。あの蓋が持つ本来の機能を……)」
美波「(邪魔をしてはいけないわ。模倣するだけの形骸のようなシビリゼーションのご時勢、彼女はそれを啓発しようとしているの)」
美波「(はぁ……、黙して思考に耽る姿も知的で素敵。カメラ持ってくれば良かった)」
李衣菜「(アァー……カッコイイなー高峯さん……)」ドキドキ
夏樹「(アタシはお前らが何言ってるかサッパリ分かんねえよ)」
奏「(シッ! 高峯さんが動いたわ……)」
夏樹「(……?)」
のあ「……っ」
のあ「……ストロー……」キョロキョロ
夏樹「(……)」
夏樹「(…………)」チラッ
夏樹「(おい……今『ストロー』って言わなかったか?)」
夏樹「(あの小さい穴にストローを挿す気だぞ?)」
夏樹「(やる気だぞ、高峯さん。もっともダサイ飲み方を公然と)」
美波「(確かに、あの穴と位置を見たら導き出せるベストな解答かもしれない。流石は高峯さん……、なんという冷静で的確な判断力)」
奏「(待って。風味や焙煎方法に関して『ストロングコーヒー』と言及しかけただけかもしれないわ。旨味を極限まで探究する彼女の事だから、もう少し様子を見ましょう)」
李衣菜「(まってまって。ひょっとして『ストローク』かもしれない。まさか高峯さんもギターを……?)」ドキドキ
夏樹「(…………………………)」
──────
────
──
──
────
──────
【事務所 応接室前】
夏樹「(~~~……♪)」スタスタ
夏樹「……」スッ
夏樹「(…………!)」
───ピタッ!
夏樹「(ドアの向こうから聞こえるのは……)」
夏樹「(だりーの声と)」
夏樹「(………高峯さん?)」
夏樹「(だりーの奴、今日はオフって言ってたのに一体……?)」
夏樹「(…………)」ソロソロ
夏樹「(…………)」ピタッ
『あ、あの……!』
*『……なに?』
夏樹「(…………)」
『す、すみません。急に呼び止めちゃって。このあとレッスンでしたか?』
*『問題ないわ』
*『退屈な予定を始めるより、目の前の貴女の思惑に興味が湧き足を止めただけ』
*『全ては私の意図する行動。貴女が気に病むことは、何も無い』
『え、えへへ……名前呼び……♪』
夏樹「(…………??)」
『その、うまく言葉がまとまらなくって、えっと、なんて言えばいいのか』
*『……何か、私に言いたいことがあるのね?』
『は、はいっ』
夏樹「(ふーん……?)」
*『…………』
*『……知識は、思考を阻害する』
*『感じたままを、貴女の想いを………声を焦がして、私に叩き付けて』
*『遠慮はいらない。貴女の信条の“ロック”とは、飾らない言葉で語ることではなかったのかしら』
『……!!』
夏樹「(へぇ……)」
『……た、高峯さん』
『私、一目見たときから、すごいロックな人だなって……、かっこよくて、クールで……』
『………えっと』
『最近、頭の中でぐるぐるまわっている、モヤモヤとした自分の想いに気付いて……』
『今まで、ぴったりな言葉が思い浮かばなかったけど、最近それが分かって……』
『あの……私……、た、高峯さんのこと……』
『高峯さんのことが……、だ、だい……っ、……!』
夏樹「(……!?)」
夏樹「(う、ウソだろ!? まさか!!)」オロオロ
夏樹「(だ、だりー! ウソだろ、おいウソだろ!?)」ソワソワ
夏樹「(お前……、最近少しそんな気はしてたけど、高峯さんの事をそこまで……!!)」ドキドキ
夏樹「(止めるべきか!? いやでも、人の嗜好なんて人それぞれだし……)」
夏樹「(………っ!)」
夏樹「(お前は純粋でひたむきだけど………周囲に流されやすいところもあって、まだ自立するには早いかと思ってた)」
夏樹「(そんなお前が大胆にもこんな場所でそんなことを打ち明けようなんて………)」
夏樹「(きっと、一人でよっぽど悩んだんだろう。アタシにも頼らず、一人で頑張って決断したんだろう。だりー)」
夏樹「(アタシは……)」
夏樹「(…………)」
夏樹「(…………へへっ)」
夏樹「(木村夏樹は、クールに去るとするか)」クルッ
夏樹「(……)」スタスタ
『た、高峯さんのことが、だい…、だい……っ!』
*『……?』」
━━━━━━━━━━
【事務所 応接室】
李衣菜「た、高峯さんのことが、だい…、だい……っ!」
のあ「……?」
李衣菜「DAIGOみたいな人だと思ってますっ!!」
李衣菜「ロックでカッコイイけど、どことなく好感が持てて親近感があって……!!」
李衣菜「つ、つまりそのっ! 私!! そ、尊敬してますっ!!!」
李衣菜「ここ、今度! さ、サインください!! 色紙持ってきますからっ!!!」
李衣菜「い……、言いたいことはそれだけでした!!」
李衣菜「し、失礼しますッ!!!」バッ!
ガチャ!!
李衣菜「~~~っ♪」タタタッ
李衣菜「……おうっ?」
夏樹「……………………………………………………………………………………………」
李衣菜「おっはよーなつきち! これから出勤かな?」
李衣菜「……? どうしたの、そんな気の抜けたコーラみたいに疲れた顔して」
夏樹「……いや、別に」
李衣菜「?? ま、いいや」
タタタタタタタタ…
夏樹「………ハァ」
夏樹「……あッ!?」ビクッ!
夏樹「オ、おはよーございます……、高峯さん」
夏樹「ッ!? だ、大丈夫すか? 血色が悪くて、体震えてますケド………か、風邪っすか?」
夏樹「高峯さん……?」
━━━━夜━━━━
【居酒屋】
周子「……」
のあ「……DAIGOはムリ……」グッタリ
周子「DAIGOはムリかー」
──────
────
──
──
────
──────
【続 居酒屋】
周子「……のあさん。なんこつ唐揚げ頼んでいいー?」
のあ「……うん。いいよ」
周子「(急にのあさんに呼ばれたと思ったら……なんか重そうな話)」
周子「(のあさん、ずっと俯いちゃってる。負のオーラが出てるよ)」
のあ「……」ショボーン
周子「……で、話の続き」
周子「あたしには、あんまよく分かんないな」
のあ「……」
のあ「……“ミステリアス”は、まだいい」
のあ「それっぽく取り繕っておけばいいから」
周子「まあ、実際雰囲気は出てるよ」モグモグ
のあ「……“寡黙の女王”も、まだいい」
のあ「それっぽい喋り方で、ごまかせるから」
周子「のあさん、あたし以外と喋るとき全然口調違うもんね。キャラだよね」
のあ「私が……凡庸な存在であることと、特別な存在であることは、両立できる」
のあ「相互に認識し合う関係。干渉は……好きでも嫌いでもない。無意味なものでないならば」
周子「おー、ぽいぽい。それっぽい」パチパチ
周子「……のあさん。ぼんじり2本頼んでいいー?」
のあ「……うん。いいよ」
のあ「……でもこの口調、とても疲れる」ハァ
周子「そうなんだ」パクパク
のあ「……あと」
のあ「“ロボット”も、まだいい」
のあ「感情の表出と起伏が……恥ずかしくて苦手な私にはお似合いの言葉」
のあ「もちろん、みんなが悪口で言ってるつもりじゃないのも、分かってる」
周子「……」
のあ「でも」
のあ「“DAIGO”って……?」
のあ「私、どの角度から観たらあの人みたいに見えるの……?」
のあ「次は事務所でDAIGOを演じなければいけないの……?」
周子「(でも実際のあさん、あのレザーの指抜きグローブしたら中二っぽくて似合いそうだなー。今は言えないけど)」
周子「……のあさん。焦がし醤油風味油そば頼んでいいー?」
のあ「……うん。いいよ」
周子「でもさ?」
周子「のあさん。李衣菜ちゃんの目の前で変なことしてたんでしょ?」
のあ「し、した……。あと浅い知識でテキトーに会話してたら……」
のあ「……思いのほか、何故か弾んじゃった」
周子「のあさん、自分で自分の首を絞めてないかい?」
のあ「!! ち、ちが……っ!」
のあ「わ、私は、ただ……」
のあ「……ただ、みんなと仲良くなりだけなの……」
周子「……」
のあ「…………」
のあ「周子ちゃん。私みたいな臆病な人間はね……?」
のあ「話の引き出しが少ないから……、こと会話の場面においては、頑張らなきゃいけないの」
のあ「その人の興味に話題を合わせて、その人に興味を持ってもらいたくて、必死で取り繕うの」
のあ「今までだって、嫌いなホラー映画も、苦手なコーヒーも、関心がないロックミュージックも……」
のあ「『好きだ』って、『興味がある』って………みんなに嘘を言ってた」
周子「……」
のあ「ファンの人達や、事務所の仲間にもそう」
のあ「“ミステリアス”も、“寡黙の女王”も、“ロボット”だって」
のあ「……全部そう。みんなの思いに、期待に応じたいの」
のあ「でも、本当は違う。みんなのことなんて、きっと二の次」
のあ「自分の底を見せたくないだけ。見捨てられたくないの……」
周子「…………」
周子「……のあさん」
周子「あたしは、いまの貴女の活動や交友関係を否定して偉そうに、何かを諭すようなつもりはないよ?」
周子「ただ」
周子「ただもう一度、のあさんが普通に笑う姿を見たい」
周子「のあさん昔は、あたしの前ではいつも笑顔でいて………歌うのが本当に大好きだったよね」
のあ「……」
周子「昔、のあさんが放課後にあたしの学校に迎えに来たことあったよね」
周子「覚えてる? 正門で待ち構えててさ」
のあ「……」コクン
周子「もう学校中、滅茶苦茶噂になったよ。『外国人』とか『美人のハーフ』とか」
周子「虎の威を借る狐じゃないけど、しゅーこちゃんもその時は鼻が高かったよ。へへへ」
のあ「わ、私が………と、虎?」
周子「あっ、言葉の綾ね。そんな顔せんといて、悪い意味じゃないよ。じゃあ何がいい?」
のあ「……く、クラゲ」
周子「よし、それで行こう。可愛いもんね」パチン
周子「……のあさん。月見つくね2本頼んでいいー?」
のあ「……うん。いいよ」
周子「のあさんは昔からそうだったけど、ちょっと不器用なだけなんだよね。周りから勘違いされやすいというか」
周子「のあさんはね、外見のスペックが滅茶苦茶高いんだよ。つまり……」
周子「なんか『コイツ、デキる……ヤベェ!』ってオーラがむんむんに出てる」
のあ「そ、そうかな……」
周子「うん。きっとさ、その“寡黙の女王”のキャラもそうだけど」
周子「いつの間にか、引くに引けない状態になっちゃってるんだよね。のあさん」
のあ「……」コクン
周子「素の自分見せるって、そんなに怖いことかなあ」
周子「フラフラと生きてきたあたしには、よく分からんよ」
のあ「っ!」ブンブン!
周子「そっか。でもね、こんなのらりくらりで事なかれ主義のアタシだってアイドルやれてるんだよ?」
周子「のあさんだって、きっとだいじょーぶだよ」
のあ「……ふふっ」
のあ「ちょっと、気が楽になった」
周子「(今の例えでそう言われると若干複雑………まあいいや)」
周子「……のあさん。馬刺し頼んでいいー?」
のあ「……うん。いいよ」
周子「ま、気楽にいこーよ」
周子「のあさんはまだ、アイドルを初めて半年しか経ってないワケで」
周子「まだ色々と模索している段階だと思う。最初から上手くやれる器用な人間なんて絶対いないんだから」
周子「だからさ、深いことは考えず、ただ流れに身を任せるのもアリだと思うよ?」
周子「どこかの事務所の誰かも言ってたけど、意味や答えというのは後からついてくるもの……、なんだって」
のあ「…………」
周子「……将来がどうとか、先ずは後回しにしてさ」
周子「素の自分が出せる時が来るかもしれない。あるいは、今の振る舞いが楽しいと思える時がくるかもしれない」
周子「きっとその時がのあさんにとって、本当にアイドルをしている瞬間なんだと思う」
周子「軽いノリで過ごしてたあたしだって、そうだったからさ」
のあ「……周子ちゃん」
周子「少し偉そうだったかな?」
のあ「ううん」
のあ「周子ちゃんとお話できて、本当に良かった」
周子「……顔があっつい。の、のど乾いたなー」パタパタ
周子「ともかく。あたしが人間関係をとやかく語るなんてちゃんちゃらおかしな話だけどさ?」
周子「確かに、のあさんは事務所の人達から性格や出自を色々と勘違いされているかもしれない。意図してか、意図しないでかは知らないけど」
周子「……でもね。ちゃんと見てくれてる人も、絶対いると思う」
のあ「……そうかな」
周子「そーだよ。あたしが言うんだから」
周子「信じて?」
のあ「……うん」
周子「のあさん」
のあ「……うん?」
周子「コークハイ頼んでもいい?」
のあ「う───」
のあ「───だめ!! だめっ!!!」ムギュ!
周子「ありゃりゃ」
━━━━隣━━━━
早苗「…」
真奈美「(…………)」クイッ
美優「(…………)」ソワソワ
早苗「(あれ。あれ?)」
早苗「(ひょっとして、なに。あたし達、今の、聞いちゃいけないこと聞いちゃった系?)」
早苗「(ねえねえ…………、え、ちょっと………真奈美ちゃん、美優ちゃん? なんでだんまり?)」
早苗「(御簾で見えないけど、さっきまで隣にいたのって、のあちゃんだよね?)」
早苗「(だよね? のあちゃんじゃないの?)」
真奈美「(……人違いじゃないですか?)」
美優「(……ひ、人違いですね)」
早苗「(えっ? そうなのかなぁ?)」
真奈美「(そうですよ)」
美優「(の、呑みすぎたんじゃないですか、早苗さん?)」
早苗「(うぅん……うーーん……そうなのかぁ)」
真奈美&美優「(………………)」
━━━1時間後━━━
【岡崎家】
泰葉「さて、そろそろ寝る準備……」
泰葉「……ん?」
『ここ? この部屋?』
*『ウ…、ン………』
『あれ、鍵合わんよ? のあさんー?』
泰葉「(高峯さん、と………誰だろ)」
━━━━━━━━━━
【玄関】
泰葉「あれっ!?」
周子「おろ?」
のあ「うぷっ……」
泰葉「しゅ、周子さん? 何で……えっ?」
泰葉「何で、ぐでんぐでんに酔っ払った高峯さんを抱えてるんですか?」
周子「居酒屋でお話に付き合ってたんよ。というか……」
周子「……泰葉ちゃんが何でのあさんの家にいるの?」
のあ「で、でる………ウッ」
泰葉「出さないで下さい! 嘔吐は待ってください!?」
泰葉「周子さん、詳しい話は後にしますが……」
泰葉「とりあえず、高峯さんの部屋は隣です! さあ早く!!」
周子「おぉ、そかそか。ごめんね、邪魔しちゃった」
のあ「……い」
周子&泰葉「えっ??」
のあ「……ここで、いい……」
泰葉「いや普通によくないですよ!? 何でですか!?」
泰葉「ちょ、ちょっと周子さん! は、早く隣に持っていくか、あるいはもう少し我慢させてください!! いま洗面器もってきますから!!!」
───バタバタバタ……
周子「……」
周子「なぁんだ、のあさん? ………生きてる?」
のあ「…………」
周子「(私の知らないところで、楽しそうにやってそうで………まぁ、なによりかな)」
のあ「……………………ウッ」
──────
────
──
全体の1/2終了。
また次回
2chや目の肥えた年寄りオタゲーマーの中では評価悪いだけで
一般層はすげえ期待してるってことをいい加減分かれよ
こんな大作を楽しみにして「早く29日にならねえかな!」
発売後に「FFやりたい!会社(や学校)から早く帰りたい!」
そう思う奴の方が多い
お前らがまだ純粋無垢にゲームを楽しんでた時の事を思い出すんだ
お前らも開発がやったように一度初心に戻ることが大事だ
2chや目の肥えた年寄りオタゲーマーの中では評価悪いだけで
一般層はすげえ期待してるってことをいい加減分かれよ
こんな大作を楽しみにして「早く29日にならねえかな!」
発売後に「FFやりたい!会社(や学校)から早く帰りたい!」
そう思う奴の方が多い
お前らがまだ純粋無垢にゲームを楽しんでた時の事を思い出すんだ
お前らも開発がやったように一度初心に戻ることが大事だ
2chや目の肥えた年寄りオタゲーマーの中では評価悪いだけで
一般層はすげえ期待してるってことをいい加減分かれよ
こんな大作を楽しみにして「早く29日にならねえかな!」
発売後に「FFやりたい!会社(や学校)から早く帰りたい!」
そう思う奴の方が多い
お前らがまだ純粋無垢にゲームを楽しんでた時の事を思い出すんだ
お前らも開発がやったように一度初心に戻ることが大事だ
──
────
──────
【高峯家】
のあ「そろそろ、こたつ片付けなきゃなぁ……」
のあ「……面倒くさいなぁ。明日でいいや」
のあ「……」ゴロゴロ
のあ「…………」ゴロゴロ
のあ「だ、ダメだ。このままだと一日中ゴロゴロしちゃう」
のあ「何かしないと……」
━━━━その後━━━━
【街中】
のあ「……」フラフラ
のあ「(とりあえず目的も無しに外に出向いたけど………どーしよ)」
のあ「(……!!)」
のあ「(そうだ。ひょっとして、そろそろ私……)」
のあ「(少しは、有名人の域に割り込んでいるんじゃないかな?)」
のあ「(いや、きっとそうだわ! もうライブだって2回やってるし、CDも出してる!!)」
のあ「(プロデューサーさんも言っていたわ。半年の新人にしては大躍進だって)」
のあ「(ふ、フフッ……♪)」
のあ「(……っ)」キョロキョロ
通行人1「……」スタスタ
通行人2「……」スタスタ
のあ「(……ふむ)」
のあ「(しばらくしたら、道往く人々にいっぱい声を掛けられて……)」
のあ「(サインとか握手とかせがまれたり、技掛けてくださいとか闘魂注入してくださいとか頼まれるに決まってる♪)」
のあ「(あー、こんなことならメイクしてくれば良かった。ペンと色紙持参すれば良かった)」
のあ「……っ」ドキドキ
通行人1「……」スタスタ
のあ「……」チラッチラッ
通行人2「……」スタスタ
のあ「…………」
のあ「(……………)」
のあ「…………」
のあ「あ……、あぁー、肩が凝ったなー……?」チラッ
通行人3「……」スタスタ
のあ「(さ、流石に無理か)」
のあ「………………」
のあ「……え、えっとぉ……、ラ、来週の予定は米国大使館でライブ………っと」
通行人4「……」スタスタ
のあ「(な、難聴かな……?)」
のあ「…………………………………………」
のあ「あっ、も、もしもしぃ……、あっ、木村夏樹ちゃん? あ、そうなんだぁ、多田李衣菜ちゃん、いまCMの撮影中なんだぁ……城ヶ崎美嘉ちゃんも、へえー……、……渋谷凛ちゃん……岡崎泰葉ちゃん……緒方智絵里ちゃん……三村かな子ちゃん……双葉杏ちゃん……神崎蘭子ちゃん……関裕美ちゃん……藤居朋ちゃん……藤原肇ちゃん……白坂小梅ちゃん……五十嵐響子ちゃん……姫川友紀ちゃん……ヘレンさん……」ツーツーツー
通行人5「……」スタスタ
のあ「(スルー!? 事務所が誇る全国ネット地上波メンバーなのにっ!?)」ツーツーツー
のあ「………………………………………………………………………」
━━━1時間後━━━
通行人「……」スタスタ
───チョンチョン
通行人「! ……はい?」クルッ
のあ「………………」
通行人「なんすか?」
のあ「ぁ、あのっ……」
のあ「わた、私の名前……私のな、名前をぅぅ……」
のあ「い、い、言ってみてください……」
通行人「は、はい? し、知りませんよ」
のあ「ッ!!!」ビクッ!
のあ「ぁっ……」
のあ「わ、私の名前は………」
のあ「『高峯のあ』です………高峯のあ? ………私の名前っ……」
のあ「私の名前は、高峯のあです……っ」
通行人「へ、へぇ……」
通行人「お……、おもしろい名前っすね」
のあ「」
──────
────
──
──
────
──────
【とあるLINE:『ひとつ屋根の下』】
高峯【その日は暇を持て余し過ぎて、ポケモン100匹捕まえたわ】20:00
泰葉【変装しないで外出は危ないですよ】20:05
泰葉【でもそういう感覚、もう久しく無いですね。初めのうちは新鮮で嬉しいかもしれませんが】20:09
高峯【何故】20:10
泰葉【事務所に迷惑が掛かったら申し訳ないですし】20:13
泰葉【そう言えば、高峯さんってランクいくつですか?】20:15
高峯【面白い名前かしら】20:15
高峯【高峯のあ】20:16
高峯【Gランク】20:16
泰葉【良い名前だと思います。響きが】20:16
泰葉【Gランクってありましたっけ? まあいいか】20:20
泰葉【(´-ω-`)】20:21
▲『かえでさんがグループに参加しました』▲
かえで【v(´∀`*v)ピース】20:21
泰葉【あ、きた】20:21
かえで【すみません、LINEの入り方を忘れてました】20:22
かえで【ついに作ったんですね! 私達のLINEグループ!】20:23
かえで【ひとつ屋根の下! 名前もいいじゃないですか♪】20:24
泰葉【高峯さんがグループ作ってくれたんですよ。あと招待も】20:25
高峯【泰葉、それどうやるの】20:25
かえで【まさか高峯さんがこういうのを作るとは思いませんでしたけどね♪ 招待ありがとうございます♪】20:25
泰葉【でも作る意味あったんですか? 結局は隣にいるのに】20:26
泰葉【そして週2.3でウチに来るのに】20:27
高峯【楓、それどうやるの】20:27
かえで【いいじゃないですか♪ ほら、連絡が簡単に取れますし】20:27
かえで【必要な生活必需品とか食品とか書いてくれれば、買い足しときますよ】20:29
泰葉【(´-ω-`;)】20:29
泰葉【えっ、なんですか?】20:29
かえで【たまには皆で買い出しとか行きます? 買い出しは愉快だし】20:30
かえで【`;:゙;`;・(゚ε゚ )ブーッ!!】20:30
かえで【えっ、なんですか?】20:31
高峯【それ、どうやるの】20:31
泰葉【それ?】20:32
かえで【ダジャレ?】20:32
泰葉【あ、スタンプですね?】20:33
高峯【それ】20:33
泰葉【左下に顔のマークがありませんか?】20:35
泰葉【そこを押すとデフォルトで持っているスタンプが表示されるので、その中から好きなのを選ぶだけです】20:36
高峯【わかった】20:36
高峯【やってみる】20:36
高峯【待ってて】20:37
かえで【そう言えば以前、お金儲けの話がありましたが】20:40
かえで【LINEのスタンプを自作して設けるというのはどうでしょう?】20:42
かえで【噂に聞くと、1000万円稼いだ人もいるとか】20:43
泰葉【今は飽和しすぎて全然儲からないらしいですよ】20:43
かえで【ガ━━(;゚Д゚)━━ン!!】20:45
泰葉【(´・ω・`)ガッカリ…】20:46
かえで【人生オワタ\(^o^)/】20:47
泰葉【アイドル活動を地道に頑張りましょうよ】20:50
かえで【だって私、のあさんより半年長いのに、デビューはまだなんですよ】20:53
かえで【正直CM起用が奇跡的なレベルでした】20:54
泰葉【世の中にはデビューせずアイドルを辞めていく人もいるんです】20:55
泰葉【楓さん、頑張りましょう。既にモデル撮影は完璧にこなしているわけですし】20:58
泰葉【(´・ω・`)_且~~ イカガ?】20:58
かえで【すみません、チキンラーメン作ってきます】21:00
泰葉【(´-ω-`)】21:02
泰葉【そういえば、このグループって3人だけなんですか高峯さん?】21:06
泰葉【少し寂しい気もしますが、まあこういう名前のグループってことなら主旨として理解できますけど】21:08
泰葉【|壁]ゝ ̄)】21:09
▲『時子さんがグループに参加しました』▲
高峯【m9( ´,_ゝ`)プッ】21:09
時子【はい?】21:09
高峯【ぁっ】21:10
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────
──
──
────
──────
【事務所 応接室】
美優「ふふふっ……♪」クスクス
───ガチャ
奏「おはようございます」
伊吹「おはようございまぁす、美優さん」
美優「ええ、おはよう」
伊吹「? スマホで何かやってるんですか?」
奏「もしかして、テレビ電話ですか?」
伊吹「はえー……美優さんが珍しいですね」
美優「そうね……、最近は事務連絡以外には電話機能は使わないし、埃を被らせておくのも可哀想と思って」
美優「せっかく付いているんだし、良ければ使いませんか? ……って誘われて」
伊吹「奏さ、アタシ達もああいうの使ったことあったよね?」
奏「うん。いざ使ったら、お互いの顔を凝視しながらだと……少し気恥ずかしくなっちゃったわね。一回っきりで」
伊吹「ウンウン。疎遠な親戚とかならまだ懐かしい気分が勝って平気だけど、アタシ達は普段から嫌というほど顔を合わせてるしねぇ」
奏「電話やメールって、顔が見えないからこそ良いというか……」
奏「『会話をしたいのであって、顔を見たいわけではない』………ちょっと言い方が悪いかしら」
美優「まあ、気持ちは分からなくもないかしら? 見つめ続けながら会話をするのことには慣れてないというか、どうしても『見る』ことに気が向いてしまうかも」
伊吹「部屋の様子とかも見えちゃうわけだし、色々と神経使って疲れちゃう」
美優「そうね。でも、楽しいわよ?」
美優「相手の姿が見えるのとそうでないとでは、二人が言うように大きく違うと思うわ」
美優「表情が分かるからこそ、安心して話を進められたり、逆に気を遣うことも出来るから」
伊吹「……で」
伊吹「誰と話してるんですか??」ヒョイッ
美優「うん? はい、どうぞ」スッ
のあ『…………』ヒラヒラ
伊吹「わ!」
伊吹「高峯さんだっ! お疲れ様ですー♪」ヒラヒラ
バシィッ!!
美優&伊吹「(!?)」
奏「ぁ、あぁぁ……っ」プルプル
伊吹「ちょっと奏!! それ美優さんのスマホだから大切に扱って!!」
美優「奏ちゃん……?」
奏「ら、ラブプラス……ッ!?」ガタガタ
伊吹「テレビ電話だよ」
奏「お、お疲れ様で、ですっ……」
のあ『……そう言えば、面と向かって貴女と会話をするのは……、随分久しぶりね』
奏「よ、4ヵ月と19日ぶりです……」
のあ『……あれから、髪を切ったのかしら。眉毛も弄って……瞳の色も違うわ』
奏「はうっ!!!!」
のあ『……何かの役作り?』
奏「い、いいえっ!」
のあ『前のような、爽やかなイメージとは異なるけれど……』
のあ『そういう表現、嫌いじゃないわ。マニッシュで、とても端整な恰好ね』
伊吹「か、奏ッ!? 全身痙攣して鼻から血が出てるけど!?」
美優「奏ちゃん!?」
奏「ぁ、ぁりがと……、ご、ござぃ、ぁすっ……」ビクンッ!
のあ『……え?』
奏「て、テレビ電話……最高……ッ」ドキドキ
美優「(さっきまで否定派だったのに……)」
伊吹「高峯さん、今おうちですか??」
のあ『ええ』
伊吹「へえー、なんか意外に質素な感じですね。でも広そう……」
のあ『大掃除したのよ』
伊吹「へっ?」
のあ『ナ、何でもないわ』
美優「のあさん。都合が良ければまた、真奈美さんと一緒にご飯に行きましょうね?」
美優「もちろん、私の家でも構いませんし、今度ゆっくり貴女のお話を聞かせてください」
のあ『……ええ。楽しみにしてるわ』
美優「ふふっ、のあさんのお部屋でも良いですけどね♪」
のあ『…………』
美優「今日は来客のために、張り切ってお掃除されたんですって」
伊吹&奏「来客?」
のあ『……』
周子『やっほー』ヒョコッ
伊吹「あれーっ!? 周子ぉ!?」
伊吹「なんで? そこ高峯さんのお部屋でしょ?」
バチィィン!!!
奏「うわあああぁぁァーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!」ドゴッ!
奏「アァァァァッ!!! あうああうあぁぁぁぁーーーーーーーー!!!??」ドゴッ!
伊吹「奏!! それ美優さんのスマホだから叩かないで!!!」
美優「(こ、怖い……)」
奏「何故………なぜぇぇっ……!!!」プルプル
奏「周子!! 周子ォォォ~~……っ!!」グイグイ
周子『か、奏ちゃん、口からめっちゃ血が出てるけど………なにこれ、ホラー?』
奏「ううぅっ……、ウウウゥゥ~~~~…………!!」グイグイグイ!!
伊吹「落ち着いて奏!! 顔を液晶に押し付けてもそっちの空間には行けないから!!!」
奏「何故っ……、どうして周子が高峯さんの隣に……!?」
周子『実は偶然さっき、道でのあさんとばったり会っちゃって』
周子『奇遇ね、家近くだから、良ければお茶でもどう? なんて』
伊吹「……んん? アレッ、周子がその来客じゃないの?」
伊吹「じゃあ、高峯さんは誰に備えてお部屋を片付けたの? 話がちょっと合わないけど……」
周子『あ』
周子『………じゃあ、まあそーいう事で。そろそろ切るね、美優さん、ありがとねー』ヒラヒラ
美優「あっ、はーい。じゃあ、また機会があれば……のあさん」
のあ『ええ。また』
周子『ばいばーい』
奏「し、周子!! 待ちなさい、待ってッ!!! 待って下さい周子さん!!!!」
奏「せめて近隣の建物や目立つ風景を、少しでも映してから電話を切って!! 僅かでいいから!!! 部屋の構図でもいいから!!!!」
周子『え、えぇー………なんでや』
奏「お願いします何でもしますから!! じゃないと私、もうあなたの事を名前で呼ばないから……っ!!」
伊吹&美優「……」
奏「待って! 助けて!! 待ってくださいお願いします!!! 周子!!!! しゅ──────」
───プツッ
奏「ぁっ」
伊吹&美優「(………………)」
奏「ぁ……ア? ぁ…………っ」ガクン
伊吹「か、奏さん……?」
奏「……」プルプル
伊吹「ど、どうしたんですか……しゃがみ込んで、寒そうに体を震わせて……」
奏「……ぁっ……」プルプル
伊吹「……?」
奏「ま、ママぁ…………」ギュッ
伊吹「(で、出たッ! 最近頻発する謎の幼児退行!!)」ギュウゥゥゥ!!
美優「だ、大丈夫? 伊吹ちゃんに抱き着いて………ど、どうしたの?」
奏「ぁっ……………ぐ、グランマ……」
美優「グ、グラン……っ!?」
伊吹「美優さんごめんなさいホント!! 奏最近、悪霊に取りつかれてから情緒不安定なんですごめんなさい悪気はないんです!!!」ギュウゥゥゥ!!
奏「ぁぅ…………ぅっ……」グスッ
──────
────
──
──
────
──────
【続 高峯家】
周子「(あぶなーっ。伊吹ちゃんの誘導に引っかかるトコだった)」
周子「(ホントは偶然じゃなくて、その来客があたしなんだけど、まあPさんのお願いだし伏せた方がいよね)」
周子「(……今度から関係を聞かれたら、のあさんとはお友達ということにしておこう。うん)」
のあ「……周子ちゃん」
周子「うん?」
のあ「……ご飯が、そろそろ出来そうです」
周子「おっ、いいね。なになに?」
のあ「肉じゃが」
周子「おぉー。なんかごめんね、至れり尽くせりで」
のあ「ううん」
のあ「じゃあ、待っててね」スタッ
周子「……」
周子「(のあさん、料理が出来るようになったのかぁ。昔はからっきしだったのに)」
周子「(でも噂じゃあ最近、美波ちゃんとかみくちゃんにお弁当を作ったことがあるとか)」
周子「(努力してるんだなー……)」
のあ「……周子ちゃん」スッ
周子「……のあさんや」
周子「人の耳元まで気配無く接近してくるカンジ、相変わらずやね。あたしじゃなかったらちぃとばかし軽く声出してたよ」
周子「で、なぁに?」
のあ「……ご飯が、まだ出来なさそうです」
のあ「……あと2時間待って」プルプル
周子「……うん、あたしはかまへんよ」
周子「(…………)」
周子「(……ありゃ失敗したかな)」
【17:00】
━━━━━━━━━━
周子「(そう言えば、部屋片付けたんだ。部屋中ファブリーズの匂いしたし)」
周子「(もう一つの部屋には絶対入るなって言われたし。なんか……色々と察せられるものがあるね)」
周子「(んー……)」ゴロゴロ
周子「(……あかん。ほんまお腹空いてきた)」
周子「(ああもー……コンビニ行きたいなー)」ゴロゴロ
周子「(……あっ)」
周子「(のあさん、パソコンの電源付けっぱなし……)」
周子「(…………)」チラッ
周子「(………………)」
周子「(ちょっと覗いちゃおう。好奇心には勝てへんわぁ)」コソコソ
周子「(へへ……、普段何見てるんだろ、のあさん?)」
周子「(うわっ、想像できない、なんだろ、楽しみ♪)」コソコソ
周子「(ニコニコ動画かな? ファッションコラムかな? お取り寄せサイトかな?)」
周子「(他人のブログチェック? どれどれ───)」
周子「(───ん?)」
周子「(…………)」
周子「(これ、クックパッド?)」
周子「(ページ戻って…………んんっ?)」
【肉じゃが】
【肉じゃが 美味しい】
【肉じゃが 簡単】
【肉じゃが 基本】
【肉じゃが 家族】
【肉じゃが アレルギー】
【肉じゃが 道具】
【肉じゃが 5分】
【プリン 本格】
周子「(…………)」
周子「のあさーーん?」
『ナ……なに……?』
周子「いまどんなカンジーー?」
『……しょ、醤油が……そ、ソースを……』
周子「ああ……醤油じゃなくてソースを入れちゃったのね」
周子「よし。あたしも手伝うよ」スタッ
周子「最近、他の事務所の人に教えてもらったアレンジがあるんよ。ソースならちょうど洋風に出来そうだし」
【20:00】
──────
────
──
──
────
──────
【続 岡崎家】
楓「(……♪)」モグモグ
泰葉「親戚……!?」
周子「6親等くらい離れてた気がしたけど、紗枝ちゃん曰く“はとこ”だって」モグモグ
泰葉「すごい奇遇ですね。親戚が、同じ事務所で活動してるなんて」
泰葉「……というか周子さん? 高峯さんは今どこに?」
周子「お風呂入ってから来るって」
泰葉「(来るんだ)」
周子「そんな珍しいかね? だって他にもいるじゃん」
周子「律子ちゃんと涼ちゃんとか」
泰葉「まあ、その二人は……」
周子「留美さんとありすちゃんとか、瞳子さんと文香ちゃんとか、夕美ちゃんと礼子さんとか、春菜ちゃんと比奈ちゃんとか、心さんと麻理菜さんとか」
泰葉「え、え、えっ………」
泰葉「エエエエエェェッッ!?」
周子「ごめん、今のはテキトー。ホントにウソ」
泰葉「」
泰葉「は、ハァ……。もう、やめてくださいよ」
楓「周子ちゃん、コレ美味しいですね!」
楓「肉じゃが……のような、ビーフシチューのような、まさに筆舌に尽くしがたい一品です」
周子「おー。肉じゃがの途中で、サルサソースとチーズでリカバーしたんですよ。洋風肉じゃが」
周子「ま、何とかなったね。おすそわけと思ったんですが、善きかな善きかな♪」
周子「………で、さ?」
周子「奇遇ってのはコッチの台詞だよ泰葉ちゃんよ」
周子「なにこのアパート?」
泰葉「えっ?」
楓「……?」モグモグ
周子「女子寮かと思った。のあさんの隣が、楓さんと泰葉ちゃんなんて」
周子「珍しい偶然もあるもんやねー。ひょっとするとまだ居るとか?」
泰葉「………………………………………………」
楓「ゲホッ!! げほっ、えっほ!!」
周子「……えっ?」
━━━━━━━━━━
周子「時子さんが? この隣に?」
泰葉「……」コクン
楓「……」
周子「うわぁ、へえー、ふーん……」
周子「時子さんっていわゆる『いいとこ育ち』でしょ? なんでこんな庶民的な安普請のアパートに?」
泰葉「……さあ」
周子「んー……♪」
周子「気になるなー。物音とかなんかしないの?」
周子「時子さんってさ、ウチの事務所のメンツの中でも私生活とか素性が知れないうちの一人じゃん」
楓「…………」
周子「こうさ、壁に耳付けると……ひょっとするとクラシックとはかけ離れた、野球中継とか聴こえて来たりして……」スッ
泰葉「アッ!! し、周子さん、まずいですよ!!」
楓「そ、そうですよ周子ちゃん……、ぷ、プライベートですよ」
泰葉「そのセリフは私に部屋の合鍵を渡してくれてから言って貰ってもいいですか?」
周子「(…………)」コソコソ
ニャー
周子「……? ね───」
ドンッ!!!!!!
周子「ヒッ!」
楓&泰葉「……」
周子「ァッ……え……」
周子「…………………………えっ?」
楓&泰葉「…………」
──────
────
──
──
────
──────
【トレーニングルーム】
のあ「……」
卯月「高峯さん、お付き合いいただきありがとうございます」
卯月「10分だけ、お時間を頂きたいなと思いまして……」
のあ「……笑顔の、練習?」
卯月「そ、そうですっ! 今日はですね、今日はですね?」
卯月「なんと助っ人を呼んできました! 名付けて『笑顔三銃士』!」
卯月「この3人で、必ずあなたを笑顔にさせて見せますっ!!」
のあ「(……♪)」
卯月「では早速お越しいただきましょう、どうぞっ!」
*『フフフ……!』
*『笑顔とは、幸せになることと見つけたり!』
笑美『笑顔三銃士が一人、難波笑美、推参!!』
笑美「あっ、同じアイドル部門の難波笑美です高峯さん。おおきにー♪」
http://i.imgur.com/nV5P7Hv.jpg
**『ふっふっふ……!』
**『笑顔とは、笑わせることと見つけたり!』
鈴帆『笑顔三銃士が一人、上田鈴帆、見参!!』
鈴帆「上田鈴帆けん、高峯しゃん。以後よろしゅうね♪」
http://i.imgur.com/nuJdHZA.jpg
のあ「……っ!」
のあ「(魔女に、ドラゴン!? こ、コスプレ!?)」
のあ「(なに、これ……二人とも可愛いっ……、こ、こんな恰好する子達だったんだ!)」
のあ「(抱きしめたい可愛さ。ぎゅーってしたい、特にドラゴンの方、もふもふしたい)」
***『そ、そして……!』
***『笑顔とは、優しくあることと見つけたり!』
卯月『笑顔三銃士が一人、島村卯月………と、登場っ!!』
http://i.imgur.com/FVdjIpb.jpg
のあ「……」ジー
のあ「(卯月ちゃん、いつのまにか猫耳付けてっ………あ、愛くるしいっ)」
のあ「(み、みくちゃんより可愛いかもしれない……、やば、みんなの写メ撮りたい……撮らせてほしい……)」ジー
卯月「(た、高峯さん……ずっとこっちを睨んでる。ふ、ふざけてると思われたかな)」
卯月「(でもこの二人なら、笑いの伝道師たるこの二人ならきっと……!)」チラッ
鈴帆&笑美「(………………)」ジーー
卯月「二人ともどうしたんですか? 訝しげな表情で……」
鈴帆「……笑美しゃん。こりゃあ逸材かもしれんね」
笑美「やっぱし分かる? 鈴帆っち。もうボケのセンサーがビンッビンきとるわ」
卯月「えっ?」
笑美「噂には聞いてたねんけど、ほんっまにべっぴんな人やなぁ、高峯はん」
笑美「透明感のある肌に艶と輝きのある髪。全身から滲み出る品の良さ」
卯月「は、はい。事務所でも所属当初から話題に事欠かない、綺麗な人ですが……」
鈴帆「そうたい。けんど、そいがどがんね? 卯月しゃん」
鈴帆「見てみんしゃい、あの幾何学的なデザインの服を」
笑美「ギャップよ、ギャップ」
卯月「えっ、あ、あぁ……。一風変わってて素敵だと思いますけど……」
笑美「いやいやー、一風どころちゃうやろ? ド派手なコスモを感じるで」
笑美「中二的な漫画から飛び出してきよったキャラやで、アレ。ウチらより未来に生きとるわ」
卯月「そ、それは……」
笑美「例えば、みんな真面目ななりでオーディション受けとるとするやろ?」
笑美「そんな中いきなりあんなんに出くわしたら、もう絶対に笑うわ。ウチが面接官なら笑い転げて即採用する自信あるわ」
笑美「歩く地雷やで、あの人」
鈴帆「あげな人んことくさ、『シリアスな笑い』っち言うんやね」
笑美「ウンウン……!」
卯月「ば、馬鹿にしてませんか?」
笑美「うん? いや逆や逆」
鈴帆「高峯しゃんはウチらには無い、光るもんを持っとるばい」
卯月「……えっ?」
鈴帆「……高峯しゃん!」
鈴帆「いきなりですまんばい、高峯しゃん。これば着ちゃれんですか?」
卯月「……えっ」
のあ「(………………)」
━━━━5分後━━━━
http://i.imgur.com/Wx8Eujq.jpg
笑美「くッぅ! ぷくッ……!」プルプル
鈴帆「ふふっ、フ、ふ、むっ……!」プルプル
卯月「」
のあ「(……♪)」ドキドキ
笑美「あ……」
笑美「アハ、アハハハハハッ!! あ、あかん、いやコレあかんやつやろ!」
のあ「……どうかしら?」
鈴帆「いやぁ、実に似合っとーよ、高峯しゃん♪」
笑美「せやな! 美しさと、面白さが同居しとるわ! こんなん出来る人、そうおらんで!」キラキラ
笑美「高峯はん、高峯はん? なあなあ、ウチらと写メ撮ってや、写メ♪」カシャ
鈴帆「異様な親和性ばい……、どげんしたらこぎゃん風になれるんちゃろうか……?」
のあ「がおー……」
笑美「ええなあ、可愛いわぁ♪ 高峯はん、いますっごい良いキャラしとるで!」
のあ「……無愛想?」
笑美「いやいやいやいや! それがイイんです高峯はん、その無表情だからイイんです♪」
のあ「無表情、だから……?」
笑美「いや確かにな? 確かにいつもは少しけったいな美人やなぁと思うところもあんねんけど……」
鈴帆「そーやね、今はウチの着ぐるみ着とうけん、絶妙に親しみあっけんね。これなら絶対に小さい子にも人気が出るたい!」
笑美「なにより、ウチらのリクエストに嫌な顔せず応えてくれたことがほんまに嬉しいわ」
笑美「思おてたより全然良い人やなぁって、見直したで♪」
卯月「ちょ、ちょ、ちょっと二人とも!!」
卯月「いいんですか高峯さん!! オモチャにされてますよ!?」
のあ「……卯月はどう思う?」
卯月「えっ! いえ、私のことより……」
のあ「………………どう?」
卯月「…………………………………………………ちょ、ちょっとクスっときましたっ」
のあ「……そう」
のあ「卯月。私が自発的に口を綻ばせるのは、今後も努力が必要かもしれない」
のあ「……けれど、形に拘らず、他者を笑顔にさせることが出来た。例えそれが虚飾の偶像であろうとも、この高峯のあにとって……」
のあ「今日のこの時間は、深く心に刻まれた貴重な体験となったわ」
のあ「無表情だからいい……そう言われてから、とても不思議で、あたたかい気分で満たされている」
卯月「……高峯さん」
のあ「……一つ、お願いがあるの」
卯月「な、何ですか?」
のあ「……写メ、みんなと撮りたい」
卯月「……分かりました」
のあ「ありがとう」
卯月「いいえ、高峯さん。例え表情に浮かばなかったとしても、貴女に喜んでいただけたなら……」
卯月「それだけで、私も嬉しいです」
のあ「……また、よろしく頼むわ」
卯月「は、はいっ!」
笑美「ハイハーイ、じゃあ撮るでー。コレちょっと、みんな寄らな撮られへんわ………自撮り棒じゃ無理やな」
鈴帆「流石はウチの力作たい、臨場感重視の大迫力で、カメラにも収まりきらんけんね! はっはっは!」
のあ「がおー……」
卯月「(可愛い……)」
──────
────
──
※参考画像
デフォルト
http://i.imgur.com/MVME8Ko.png
差分
http://i.imgur.com/NFnc7rg.jpg
──
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──────
【女子トイレ】
のあ「ふふふっ……!」
のあ「可愛いなぁ、このドラゴンの着ぐるみ……無理言ってちょっと借りてきちゃった♪」
のあ「あぁ、こういう仕事がしたい。着ぐるみダンサーとか、ほのぼのとして癒される仕事が欲しい……コスプレでもいい」
のあ「うわぁ、うわー……いいなぁ、鈴帆ちゃんが羨ましいなぁ」
のあ「……」パシャ
のあ「………………」パシャ
のあ「フフッ。写メ撮っとこ。お母さんに送ってあげよ」
のあ「あと待ち受けにも」パシャ
のあ「ふふふふっ……♪」
のあ「私のような無表情だからこそ似合うとか、親近感が出て小さい子にも好かれそうとか……」
のあ「心地よいことを言ってくれるわ、あの子達。お世辞でも嬉しい」
のあ「アー……ほんとに良いわコレ。あぁ……」
のあ「今度笑美ちゃんに頑張って話しかけて頼んで、あの写メ送ってもらおう」
───ガチャ
蘭子「~~~……♪」スッ
http://i.imgur.com/bvAgpSr.jpg
蘭子「ッッッ!!?」
のあ「あっ」
蘭子「ヒッ、はッ、はひぇっ……!」ビクビク
のあ「……」
蘭子「し、終焉の残滓を喰らう黒蝕竜……」【訳:た、高峯さん……】
蘭子「な、な、なにゆえに……、ど、道化師の、きょ、虚飾を纏いて………」【訳:なんで、鈴帆ちゃんの衣装を着て……】
のあ「(…………)」
~~~~~~~~~~
鈴帆「そーやね、今はウチの着ぐるみ着とうけん、絶妙に親しみあっけんね。これなら絶対に小さい子にも人気が出るたい!」
~~~~~~~~~~
のあ「(……♪)」ドキドキ
蘭子「フ、ひ、ッヒグッ……、そ、その……っ!」
のあ「………」チラッ
蘭子「ウッ!」
のあ「が……がおー……っ」
蘭子「ヒッ!」ビクゥ!
蘭子「アヒッ……、す、すみま………ぁぅうわあああァァーーーーーっっっ!!」ダッ!
ガチャ! バァン!
タタタタタタタタ……
のあ「………………」
━━━━15分後━━━━
【休憩室】
美優「ぷ、プロデューサーさんっ!」バンッ!
P「ん……?」
P「どうしました、美優さん……そんなに慌てて?」
美優「はぁ、はぁっ……、ら、蘭子ちゃんがっ!」
美優「蘭子ちゃんが応接室の隅っこでうずくまって、素数を延々と数えているんです!」
美優「呼びかけても目も虚ろで反応せず、まるで何かに憑り付かれたかのように……!」
P「!?」
P「す、すぐ行きますッ! 一体何が……!?」バタバタ
──────
────
──
●訂正
>>242
×のあ「……ただ、みんなと仲良くなりだけなの……」
〇のあ「……ただ、みんなと仲良くなりたいだけなの……」
2/3終了。今日はここまで
また次回
──
────
──────
【事務所 応接室】
夏樹「おはようございます」
のあ「……ええ」
夏樹「アー、高峯さん」
夏樹「これ。この前のお礼です」
───スッ
のあ「………この袋は、何?」
夏樹「このまえ、やたらデカいプリンくれたの覚えてます? ほら、大仏のイラストの」
夏樹「奈良県の有名なお土産らしいですね」
のあ「……ああ、アレ」
夏樹「結構ウマかったです。ごちそうさまでした」
のあ「……そう」
夏樹「その袋は、そのお礼っす」
のあ「………」
のあ「……私は、貴女から貰ったドリンクのお礼にそのプリンを渡して……」【のあ→夏樹】
のあ「そのお礼として、貴女から次に錠菓を貰った」【のあ←夏樹】
のあ「私は、錠菓の対価を貴女に渡していないけれど」【のあ→夏樹】
夏樹「あぁ。まあミンティアは別に………、その袋が本命ってことで」
のあ「……開けていい?」
夏樹「あぁ、どうぞ」
のあ「……」カサカサ
夏樹「お菓子作りとか、正直ガラじゃないからさ……、まあ市販のヤツだけど」
夏樹「結構有名なトコのらしくて」
のあ「(………)」
のあ「(………………)」プルプル
夏樹「(ふ、震えてる……?)」
のあ「(うれしい……)」
のあ「(夏樹ちゃん……悪い子じゃないんだ。私を2回も殺そうとしたけど、あれは違うんだ……)」
のあ「(そう信じよう)」
のあ「……夏樹。貴女って」
のあ「………結構、律儀なのね」
夏樹「ハハハ、そうですか? そんなこと、人から初めて言われたな」
のあ「今度、またお礼するわ。必ず」
のあ「……期待して」
夏樹「(アタシもなんでこんな奥手な少女みてーなことしてんのか、よく分かんねー。………けど)」
夏樹「……まあ、LIVEバトルで一緒に盛り上げた仲間ってことで」
夏樹「序盤のハードな演出は流石に度肝を抜かれたけど、高峯さんの歌、カッコ良かったです」
のあ「……ありがとう」
夏樹「ハイ、本当に」
夏樹「高峯さん、よければ連絡先とか教えて頂ければと思って」
夏樹「今度、一緒にメシとか行きましょうよ」
【アドレス帳 事務所内】
『片桐早苗』
『木場真奈美』
『木村夏樹』←new!☆
『小松伊吹』
『佐城雪美』
『白坂小梅』
『青木明(トレーナー)』
『P(プロデューサー)』
『松永涼』
『三船美優』
───ガシッ!
夏樹「(ぉッ……!?)」ビクッ!
のあ「ぁ……ぁぁっ………」プルプル
のあ「10人……10人目……、二桁突入……大願成就……」プルプル
夏樹「(!?)」
のあ「い、行こう……ご飯……一緒に……ご飯……」カタカタ
のあ「お、奢る……私、奢る……貴女に、奢る……」カタカタ
夏樹「えっ!? あ、ぇ、あ、あぁ………ハイ……」
のあ「友達っ……友達……」プルプル
のあ「夏樹……友達……、私達……友達……」プルプル
のあ「フレンド………、夏樹ちゃん、マイフレンド……」プルプル
のあ「……」グスッ
夏樹「(な、涙っ!?)」
夏樹「(こ、この人は一体……)」
──────
────
──
──
────
──────
━━━━夕方━━━━
【岡崎家】
のあ「……楓は?」
泰葉「楓さんですか?」
泰葉「今日は、居酒屋で夕飯を済ますと連絡がありましたよ。メールで」
のあ「……今日のご飯は?」
泰葉「銀鱈のみりん漬けと、揚げ出し豆腐です」
のあ「……へえ」
泰葉「別に口を挟むことじゃないですけど……、前に私から、お二人に料理の腕前について尋ねたことがあったじゃないですか」
のあ「……楓は、からっきしと言っていたわね」
泰葉「なので、コンビニ弁当か居酒屋で一品を頼むとも言っていました」
泰葉「……御節介かもしれませんが、作った方がコスパが良いと思うんです」
泰葉「コンビニ弁当なんて、添加物だらけで体に悪いですし」
のあ「……」
のあ「一人居酒屋」
のあ「……私も、してみたい」
泰葉「えっ? なんですか?」
のあ「……楓は」
のあ「楓は、私と同じ人間だと思っていた」
のあ「でも……、楓は事務所に飲み友達が多くいるし」
のあ「……以前、年下の女の子にポーズの取り方を教えたとも言っていた」
のあ「余所では、事務所のLINEで集計したランキングの『お姉さんにしたい人部門』の頂点に輝いている」
のあ「おまけに、一人居酒屋なんて………リア充の極み」
のあ「それに比べて、私はまだ10人しかアドレス聞けていないし、蘭子ちゃんには怖がられるし、ラスボスとかロボットとか噂されるし、一人で吉野家にしか行けない……」ボソボソボソ
泰葉「えっ、えっ、えっ……?」
のあ「私と楓は……」
のあ「いつから道を違えてしまったの……?」
泰葉「(アレッ、いつのまにか話がどんどんあさっての方向に)」
━━━━夜━━━━
【居酒屋】
泰葉「(いや、だからって……)」
のあ「(…………)」コソコソ
泰葉「(楓さんのいきつけの居酒屋に、わざわざ変装までして張り込まなくてもいいじゃないですか)」
のあ「(問題ないわ。泰葉には18禁のシールを張ったから)」
泰葉「(だから何なんですかこのシール? 確かに未成年の立場ですけど、なんか、その………ニュアンスが違いませんか?)」
のあ「ス、すみません。カシスオレンジひとつ……」モゴモゴ
───カチャッ
楓「ス、すみませーん…」
泰葉「(アッ!!)」
泰葉「(高峯さん高峯さんっ! 楓さんが来ましたよ!)」
のあ「(……!)」
のあ「(楓さん……、やっぱり一人で来れるんだ)」
のあ「(すごいなぁ。羨ま───)」
楓「ア、あの~……ス、スミマセ~…ン……」
泰葉「(あれ……)」
泰葉「(店員さん居ませんね。楓さんに気付いてないのかな?)」
のあ「(居酒屋なのに、ホールスタッフが不在なんて珍しい……)」
のあ「(…………)」
楓「……」ポツーン
楓「ア、あのぅ………」
楓「ス、スミマセン……ま、間違えまシタ……エ、エヘヘ……」スッ
───カチャッ
泰葉「(帰った……)」
のあ「(楓さん……)」
──────
────
──
──
────
──────
【事務所 応接室】
夏樹「壁ドン?」
のあ「ええ」
のあ「(泰葉ちゃんが時子ちゃんに)最近されて、頭を抱えていたわ」
夏樹「へえ……、(高峯さんが知らない)隣人から壁ドンね」
夏樹「変態とか、不審者とかじゃないんすか?」
のあ「……紙一重で」
夏樹「アパート変えたほうが良いっすよ。後々悪化するかも知れないし」
のあ「いいえ、そこまで深刻な様相を呈している程ではないの」
夏樹「いや、でもさ……」
夏樹「アタシも、伊吹とかだりーにふざけてせがまれて、やったことあるけど……」
夏樹「見ず知らずの隣人にされたら、流石に事務所に報告してもいいレベルなんじゃねーかな」
のあ「!?」
のあ「ジ、事務所に報告するレベル……!?」
のあ「……というより」
夏樹「えっ?」
のあ「夏樹が、せがまれて……???」
夏樹「ああ、うん。壁ドンだろ?」
夏樹「事務所のLINEで勝手にさ? 色々なランキングが集計されてたのって知ってますか?」
夏樹「女子力部門とか、流行センシティブ部門とか、夫を甘やかしそうな人部門とか」
のあ「あぁ……。お姉さんにしたい人部門とか、ラスボスっぽい人部門とか」
夏樹「その中に『壁ドンされたい人部門』ってのがあって……」
夏樹「ハハハ……。1位だったんだよな、何故かアタシ」
のあ「(……?? ……っ???)」
のあ「(壁ドン、されたい?? い、意味が分からない……)」
のあ「壁ドンとは……世間一般ではされたい行動の位置づけなのかしら」
夏樹「いや、アタシもよく分からないですよ。一部の女子には流行ってるらしいですが」
のあ「!? は、流行ってる!?」
のあ「(そ、そうなんだ。泰葉ちゃんにも教えてあげないと……)」
のあ「(ひょっとして時子ちゃんは、悪意はないのかもしれない)」
のあ「……でも、不快は感じない?」
夏樹「される方は嬉しいみたいですけどね」
のあ「う、嬉しい……???」
夏樹「相手が特にツラがイケてる男だと」
のあ「力のあまり、壁を壊されたりは……」
夏樹「流石に加減はしますよ」
のあ「……じゃあ」
のあ「一度、ここでやって見せて」
夏樹「えっ? エー……」
のあ「……悪かったわ」
夏樹「あ、いや良いですよ。一回だけなら」
夏樹「ガラじゃないんだよなぁ、ホント。気取ったキザっぽい台詞なんてパっと出てこないしさ」
夏樹「ンンっ! ……じゃあ、敬称は略で行きますよ。心の準備が出来たら言ってください」
のあ「いつでもいいわ」
夏樹「…………すぅっ」
のあ「? 待って」
夏樹「はい?」
のあ「……えっ」
のあ「どちらかが、隣の部屋に移動しなくていいのかしら」
夏樹「……えっ」
夏樹「いや、移動しなくても出来るってか……、むしろ二人とも同じ部屋でしか出来ないっすよ」
のあ「???」
壁ドンッ!!
のあ「(ヒッ!!)」
夏樹「(……)」
夏樹『───俺、お前以外の女に興味ないから』
のあ「!?」
夏樹『───いい加減さ、お前が好きなの、気付けよな』
のあ「」
夏樹「(…………)」
のあ「…」
夏樹「…………ぷっ!!」
夏樹「ふははっ! ハーっ、あー……くさい、恥ずかし。罰ゲームでやらされて以来だ」
夏樹「いや、高峯さんも真顔だかあああででででででででででっ!!!??」ガタガタガタ!
李衣菜「コラァーーーーーーーッ!!!」ギュウゥゥゥ!!
李衣菜「コラァァァーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!」ギュウゥゥゥ!!
夏樹「いててててててて、痛い痛い痛いって!! 背中つねるなって!!!」
夏樹「いきなりなんだ!? どっから湧いて出ただりー!?」
のあ「……」
李衣菜「高峯さんを馬鹿にするなぁなつきちぃ!! ナチュラルに男役を演じちゃってさ~~~!!」
李衣菜「美波さんを呼ぶぞっ!? いいの!?」
夏樹「な、何がだよ! アタシは高峯さんに頼まれたから───」
李衣菜「高峯さんはなつきちを試したに過ぎないんだよォ! ホラ、高峯さんやっちまってくださいよ! やっちまってくださいよ!!」
李衣菜「見せてやってくださいよ高峯さん! 貴女の、その世界を制する壁ドンを!!!」
夏樹「(こ、コイツ……)」
李衣菜「へ~ん? ロックの権化である高峯さんに壁ドンされたら、きっともうなつきちなんてイチコロだよ?」
李衣菜「ロックの帝王である高峯さんのカベドンを恐れるホワイトハウスは、常にアメリカ全土に厳戒態勢を敷いているんだよ!?」
夏樹「テポドンみたいに言うなよ」
李衣菜「一説によると、高峯さんが壁ドンをしたらどんな女性も心身共にジェンガの如く陥落してしまうから……」
李衣菜「それを哀れに思った高峯さんは、常に自分が壁側を歩くように細心の注意を払っているんだっ!!」
李衣菜「その気になればなつきちなんて…………、ッ、ごめん、鼻血出てきた」
夏樹「お、落ち着けって」
李衣菜「さあっ! 見せてやって下さいよっ!」
李衣菜「最っ高にクールでシビレる、高峯さんの壁ドンを!!」
のあ「……」
ドンッ
のあ「……」
李衣菜「えっ……?」
夏樹「?」
のあ「……えっ」
李衣菜「ぁ……、あ、あぁっ……」プルプル
李衣菜「ぁっ…………か、壁に、パンチを………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」グスッ
李衣菜「……グスンッ……」
李衣菜「い、言わんこっちゃないよ゙ぉ……、た、だがみ゙ね゙さんが、お、怒ったぁ……」
李衣菜「……な、なつきち、ど、どうじよ~……っ」ポロポロ
李衣菜「…ヒグッ…、や、やばいよぉ…………、地球が、ノッキングされてるよぉ……っ」ガクン
李衣菜「だ……、第三次世界大戦勃発だぁ゙ぁ゙…………」グスン
夏樹「た、高峯さん……?」
のあ「(????)」
━━━━夜━━━━
【岡崎家】
のあ「泰葉」
のあ「ちょっと壁に背を付けて立って頂戴」
泰葉「はい、こうですか?」ピタッ
のあ「(…………)」
壁ドンッ!!
泰葉「わっ!!」ビクッ
のあ「フフフ……」
のあ『───ハイって言わないと、チューするわよ』
泰葉「ハ?」
泰葉「えっ、何ですか? 今の台詞、どこかで聞き覚えがありますけど……」
のあ「……これを世間一般では、壁ドンと呼んでいるらしいわ」
泰葉「あぁ、壁ドンですか? みたいですね」
泰葉「語源はネットスラングで、“アパートなどの集合住宅で、隣室の間の壁を叩いて、隣人への抗議や嫌がらせをする行為”を指す言葉みたいだったんですが……」
泰葉「“男性が女性を壁際まで追い込んで、「ドン」と腕を突いて腕と壁でその人を囲む行為”の意味合いの方が、今では世間に浸透しているらしいですね」
泰葉「特に恋愛系の少女漫画やアニメ・ドラマなどで見られるシチュエーションのひとつで、想い人に詰め寄るやや強引な手法として、女子中高生にウケたらしくて、一時期はメディアでも頻繁に取り上げられましたね」
のあ「……」
泰葉「な、何ですか? その訝しげな眼は……」
のあ「詳しいわね」
泰葉「いや、べつに───」
ドンッ!!!!
のあ&泰葉「ヒッ!!!」
のあ&泰葉「(……!!)」
泰葉「(た、高峯さんの馬鹿ぁ!! そういえばナチュラルに時子さんの部屋に壁ドンしちゃってましたよ私達!!)」
のあ「(こ、これは………後者の意味合い?)」
泰葉「(前者に決まってるじゃないですか!! 明確な殺意と交戦の意思を持って殴ってきますよきっと!!!)」
泰葉「(まずいですよ……、LINEで謝ったほうが良いんじゃないですか?)」
のあ「(スタンプで、謝っておくわ)」
泰葉「(わ、私が謝っておくのでいいです。高峯さんはとりあえず何もしないで下さい)」
泰葉「(ハァ……もう、心臓に悪いよぉ……)」
のあ「(損な役回りね)」
泰葉「(誰のせいですか!!)」
──────
────
──
【おまけ】
~~~~~~~~~~
【★壁ドンされたい人部門★】
☆1位:木村夏樹ちゃん
・歯の浮くような台詞が良い意味で最高に似合いそう
・人目もはばからず大胆にがっついてきそう
・既に李衣菜ちゃんにしてそう
☆2位:東郷あいさん
・じわじわと迫ってきそう
・全部見透かしてそうなくらい余裕な態度で淡々と
・そのあと冗談っぽくお茶を濁すけど密かに本気な想い
☆3位:高峯のあさん
・ジョン・コナーの所在を問われそう
・「おはよう」と実は些細な挨拶
・どないしたら迫ってくれはるか、妙案を募集します
~~~~~~~~~~
──
────
──────
【事務所 応接室前】
李衣菜「(~~~……♪)」
───スタスタ
李衣菜「(……!)」
───ピタッ!
李衣菜「(部屋の中から、楽しそうな声がする)」
李衣菜「(一人は……高垣楓さんかな? あの落ち着いた声は、ウン)」
李衣菜「(もう一人は……、この腹に響く心地よいボイスは………)」
楓『場所はどうするんですか?』
のあ『……もう目処は付けたわ』
李衣菜「(!!)」
李衣菜「(高峯さん! 高峯さんだっ!!)」
李衣菜「おは───」
のあ『やはり、生のほうがイイのかしら』
楓『個人的には、生で楽しくヤリたいですね♪』
のあ『……収入的にも、そのほうが良さそうだし』
楓『副業的な位置づけにはもってこいの活動ですね』
李衣菜「(───!?)」
李衣菜「(あっ……)」
楓『いったん泰葉ちゃんに相談ですかね?』
のあ『……そうね。経験が豊富だもの』
李衣菜「!!!!」
李衣菜「(や、泰葉ちゃん……!!?)」
のあ『……ビデオで撮るのよね』
のあ『……顔出しはNGかしら』
楓『顔出しの方がウケは良さそうですけど……』
楓『マニアックなお面でもつけますか? 覆面とかフェイスマスクとかで隠す人も多いらしいですよ』
李衣菜「(び、ビデオぉ、おぉ、ォ……!?)」
のあ『……』
楓『まあ、プロデューサーさんにも一応相談してみないと。もちろん直接は打ち明けませんが』
のあ『そうね』
のあ『罪の意識が無いわけではないけども、これもアイドル活動の一環……』
のあ『……かもしれない』
楓『楽しみですねぇ♪』
のあ『……ふふ』
楓『……フフフッ』
━━━━2分後━━━━
夏樹「おーっす」
夏樹「どうした? 入らないのか?」
夏樹「……だりー?」
李衣菜「……グスッ」
李衣菜「な、な゙づぎぢぃ………」ポロポロ
夏樹「(また泣いてるよ。耳まで顔真っ赤にして)」
李衣菜「わ、私……、ろ、ロ゙ックにな、な゙りたい、けどぉ~……」
李衣菜「グスっ……。ロックってお、ぉ、『大人』にな゙るってこと、なのがなぁ……っ」
李衣菜「た、確かに゙……ロックってそういう歌詞とか印象とか、事件とか、い゙、色々あるげど………ヒッグ……」
李衣菜「ゔ、ゔぅぅ~……」ポロポロ
李衣菜「た、たすけて……、ぐすっ……、た、高峯さんを助けてあげて……っ」
夏樹「と、とりあえず落ち着こうぜ? 最近だりー、ちょっと変だぞ?」
夏樹「何があった? ほら、話してみろ」
李衣菜「……」コクン
李衣菜「て、テイソウが……。その、高峯さんが更なるロックの階段を上ろうとして……」
夏樹「ハァ?」
━━━━5分後━━━━
【応接室】
───ガチャ
夏樹「おはようございます。高峯さん、楓さん」
のあ「おはよう」
楓「おはようございます」
李衣菜「……………………」
夏樹「オイだりー。アタシの後ろに隠れてないで、出てこいよ」
李衣菜「ウ、ううっ……」
のあ&楓「??」
夏樹「ハァ……」
夏樹「高峯さん。さっき『ビデオ』の話してました?」
のあ「ビデオ?」
のあ「……あぁ。してた」
夏樹「何か撮るんですか?」
李衣菜「な、なつきち……!!」
のあ「動画投稿サイトに」
のあ「何か、投稿してみようと思って」
李衣菜「(っ!?)」
夏樹「へえ! 良いですね、何を投稿するつもりですか?」
楓「……それが、まだ具体的に決まっていないんですよ」
楓「生放送も面白そうかなぁと考えているんですけど……、やっぱり私達もアイドルの端くれなので外目が気になると言いますか……」
夏樹「アタシも投稿したことあるぜ? 昔に」
夏樹「ギターの演奏動画とかですけど、今はもう目も当てられなくて見れないなぁ。まぁ全部削除したけどさ」
楓「ネットが普及して、地域や世代の垣根を越えて自由な形で簡単にコミュニケーションを取れるって、本当に便利な時代ですよね」
夏樹「アタシも昔は承認欲求とか自己顕示欲とか出して、共感してくれる人たちの、そういう繋がりが欲しかった時もあったんだなぁって……」
夏樹「……ガラにも無くすこし感傷に浸ったりさ。ふっ……」
のあ「……人の縁由とは、得てして奇怪な物ね」
のあ「多くの者の視線と声を渇望する私達にとって、最良の答えは、常に変化を続けていく」
のあ「……奥が深いわ」
李衣菜「……な、つきち」
夏樹「ん?」
李衣菜「……私」
李衣菜「………………………………………………………ハ、ハズカシイ」
夏樹「アー……、聞かなかったことにしてやるよ、廊下の事は」
夏樹「ドンマイ」
李衣菜「うぐぅ…」
──────
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──
──
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【★前作のあらすじ】
───色々な事情が重なり、約30万円を散財した高峯さん
───アイドルランクも低く、仕事もお世辞には多いと言えない彼女
───なんとか楽にお金を稼ごうと思考を巡らせる高峯さんは、動画投稿サイトにて活動を始めようと提案
───楓さんは快く賛同
───泰葉大先輩からは溜め息が漏れる
━━━━━━━━━━
【事務所】
P「動画サイトでの生配信……?」
泰葉「す、すみません! 変なことを聞きました、本当にすみません!」
泰葉「……プロデューサさん、忘れてください。別に私は───」
P「んー……」
P「……いや。生配信はともかく、現役アイドルや芸能人が動画投稿サイトに配信をするのは、珍しい話じゃないぞ」
泰葉「えっ!?」ガタッ
P「な、何でそんなに驚いてるんだ……」
泰葉「いや、えっ、その……」
泰葉「…………で、出来ちゃうんですか?」
P「出来るぞ、ウン。色々条件はあるが」
のあ「(…)」
乃々「(ヒ、ヒグッ…)」
楓「(…)」
P「世間でも、大志を抱く駆け出し役者から再起を試みる落ち目の芸人、はたまた超売れっ子のアイドル、大御所歌手まで、幅広い層が利用してるな」
P「それぞれ事務所の方針や許可にもよるだろうが、ウチとしては……」
泰葉「……」ゴクッ
P「基本的にOKだ」
P「契約にも規約にも特に制限はない。ただ、SNSやブログみたいな誰でも見れるコミュニティは全部事務所側で監視するという約束の元での利用になるけど」
P「不自由かもしれんが、これは泰葉達を守るための措置だ。もちろん、外部へのプライバシー抵触や内容の妥当性や情報倫理の配慮など、文章や中身の事前チェックもしっかりさせて貰う」
P「今SNSやブログを更新してるのは美嘉や莉嘉、つかさや比奈、唯や沙理奈や里奈、惠に芽衣子に美里、あと美紗希や瑞樹さん………まあ他にも大勢いるが」
P「あと、利用したい人には事前に情報セキュリティの講習を受けて貰うことになる。1時間くらいで終わるが、小さい子にとってはちょっと抑制的な内容かもしれん」
泰葉「いえ、厳重になるのは止む無しかと思います」
P「泰葉の言う『動画投稿』となると………そうだなぁ」
P「企業からのPRの一環としてオファーがあったり、ウチから紹介した例が結構ある。名前で内容を察してくれると嬉しいが、紗南、かな子、友紀、幸子、藍子、美波、肇、菜々」
P「あと、発信力や影響力が強い子にもジャンルは問わず宣伝や試供品のオファーは来る。美嘉やつかさや早耶、次いできらりや彩華やフレデリカ。当然、これは知名度にも依るが」
P「あと、自発的に投稿サイトに今も動画を上げているのはウチでは……ンー……、亜季に葵に桃華に優にフレデリカに………………あれっ、これくらいかな?」
泰葉「あれ。意外に少ないですね」
P「SNSやブログと同じく、動画投稿も宣伝の一種だが……」
P「芸能人やアイドルがそういうのを自発的に利用する場合………大半の理由が“趣味”だな」
泰葉「知名度や人気を得る名目ではない、と?」
P「そうだな。しかし中にはそれを念頭に置いて地道に活動し、見事花開いたり出世の活路が開けたり大成する人もいるらしいが……、それはあくまで稀な例だ」
P「亜季は趣味で仲間とのサバゲーを、葵は得意な調理の風景と美味そうな料理を、優は愛犬アッキーの様子を万遍なく」
泰葉「その3人はそれとなく察することが出来ますが……、桃華ちゃんとフレデリカさんは?」
P「フレデリカは日常生活風景とその他。桃華も事務所でのサークル活動の光景を上げていたような」
P「趣味の動画でも、周りは楽しんで観てくれたりして、それが結果的にファンの獲得に繋がるから、ある意味win-winではあるんだが」
泰葉「へぇ……」
P「だが」
P「録画の投稿や事務所のバックアップがあるならまだしも、あくまでプライベートでの『生配信』ってのは、未だ前例が無いかもな」
泰葉「そうなんですか?」
P「ああ。出来なくはないが……」
P「………いや、かなり厳しいかもなしれない。まずトラブルの危険性が高いし……、ちょっと上の人に聞いてみようか」
泰葉「!! い、いやそこまでして頂かなくても……」
P「えっ?」
泰葉「あ、いや、その……っ」
楓「(…)」
のあ「(この子、かわいい……)」チラッ
乃々「(ひ、ひぃっ……)」
━━━━夜━━━━
【岡崎家】
楓「んー……♪」モグモグ
楓「美味しいですね♪ この……なんでしょう、爽やかな酸味の味わいは」
泰葉「アボカドとトマトとカッテージチーズのサラダ、わさび醤油風味です」
楓「カッテージチーズですか。まさか家庭でィチーズを食べられるとは………ふふっ」パクパク
泰葉「……ところで二人とも」
泰葉「私とプロデューサーさんの話を、事務所のデスクの下で聞いてましたよね?」
のあ「ええ」
楓「はい。泰葉ちゃん、わざわざありがとうございました」
のあ「(乃々ちゃん、かわいかったなぁ。お肌がとても白かった)」
泰葉「結論から言うと……」
楓「出来るんですね!」
楓「生配信っ!」
のあ「撮影機材と、投稿内容と日時を考えましょう」
泰葉「プライベートの生配信は『かなり厳しい』って言ってましたよ!? ホントに話聞いてたんですか!!?」
のあ「臆することは無いわ。我に必勝の計あり……、よ」
☆つづく
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全体の3/4終了
今日はここまで。次回の投稿で最後の予定です。
余談:>>124の登場人物は、一部予定と異なる場合がございます。おもにみくにゃんが
過去作
第1作:高峯のあ「牛丼並……あっ大盛りで」
高峯のあ「牛丼並……あっ大盛りで」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447664976/)
第2作:高峯のあ「和風牛丼並……あっあとから揚げ」
高峯のあ「和風牛丼並……あっあとから揚げ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1448875583/)
第3作:高峯のあ「(プレミアム牛めし……あっあと焼のり)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1453369628
第4作:高峯のあ「牛丼大盛り……つぇ、つゆだケで……っ!」
高峯のあ「牛丼大盛り……つぇ、つゆだケで……っ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1466684201/)
年が明けてしましましたが、残りの投下はもう少々お待ちいただければと思います
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【大型家電量販店】
周子「お?」
泰葉「あっ、周子さん?」
周子「その声は泰葉ちゃんだ。奇遇だね」ヒラヒラ
泰葉「お疲れ様です」ペコリ
周子「サングラスまでして、厳重装備だねー。お買いもの?」
泰葉「え、えぇ。一応」
周子「あ、立ち止まると目に付くから、歩こーか」
泰葉「はい」
周子「わざわざ街中に出向いて、何をお求めで?」
泰葉「えっと……」
泰葉「……WEBカメラと、あと周辺機器を」
周子「WEBカメラ?」
泰葉「ちょっと物入りで。あ、そうだ」
泰葉「あの……、楓さんと高峯さんを見ませんでした?」
周子「ん? 見てないけど………ひょっとして、はぐれた?」
泰葉「……はい」
周子「連絡取れないの?」
泰葉「楓さんにはメールとラインを送りましたが、如何せん返信が無く……」
泰葉「高峯さんに至っては、アドレスすら知らず……。今度しっかり聞いておきます」
周子「あたしが連絡しといたげるよ。まあ、なんとかなるでしょー」
泰葉「すみません、本当に」
泰葉「あの二人って、奥手なのに無謀なチャレンジ精神を持ってるから、余計に心配なんですよ。私は通販で買おうって言ったのに……」
泰葉「人目もあるし………、高峯さんなんてこの前、街中で周囲から声をかけられようと躍起になっていたんですよ? アイドルという自身の立場を省みず」
泰葉「……誰にも気付かれなかったって、嘆いてましたけど」
周子「仮にも、泰葉ちゃんなんて全国民が知ってるレベルのアイドルだしねぇ」
周子「(………?)」チラッ
周子「ンー……?」ジー
周子「………ん、ん、んっ??」
泰葉「えっ、どうしました?」
━━━━━━━━━━
【マッサージチェア売り場】
中年男「ぐう……ぐー……」
爺「…グゴー………グゴー……」
女性「すぅ………」
楓「……………Zzz…」
婆「すかー……、きゅるる……」
泰葉&周子「……」
泰葉「な、何の違和感も無くまぎれてる……、異常なフィット感……」
周子「気持ち良さそうに寝てるねー。あたしも隣、行っていいかな?」
泰葉「あれでも彼女、アイドルなんですよ? 例え素顔でも……」
泰葉「ランクは一番下で、最近体力と歌唱力に悩んでて」
泰葉「必死に頑張ってる、立派なアイドルなんですよ?」プルプル
周子「泰葉ちゃん。とりあえず涙拭こ?」
━━━━5分後━━━━
泰葉「とりあえず楓さんはあのまま放置として……」
周子「のあさんは………うぅん、やっぱり連絡来ないね」
泰葉「あの人、何のためにスマホ買ったんでしょう」
周子「そりゃあ、遊ぶためでしょー。最近グラブってるって言ってたよ」
泰葉「へ、へえ……」
泰葉「高峯さんが行きそうな場所とか、心当たり有りませんか?」
周子「んー……そだね」
『───本日も○○日本総本店池袋にお越しいただき、誠にありがとうございます』
周子「のあさんはサバイバルとかで例えると、誰にも空腹を悟られずひっそりと死んでいくタイプの人だから……」
周子「ぶらぶら行動せず、一か所でじっとしている可能性が高いね」
泰葉「周子さん? なんでそんな陰惨な例えをするんですか?」
『───お客様に、迷子のお呼び出しを致します』
周子「あるいは、どこかに助けを求めるかも。ラインに気付いていないとしたら……」
周子「……ウン。他人には無関心に映りような人だけど、信用が出来る人には、案外もうベッタリな人だから」
泰葉「(そうなんだ……)」
『───ライトベージュのハンチング帽に、サングラス、白のスカーチョをお召しになった15、6歳くらいの女の子で』
泰葉「…………あの、周子さん」
周子「んー?」
泰葉「なんか……すごく嫌な予感が………」
『───ぱっつん前髪のショートボブがとても魅力的な、長崎県からお越しの』
『───岡崎泰葉ちゃん』
泰葉「」
周子「(あぁ……)」
『───お母様の、のあ様がお探しになっています』
『────どなたかお見掛けになりましたら、近くのスタッフかインフォメーションセンターまで、お伝え下さい』
泰葉「わ、私だってアイドルなんですよッ!?」
泰葉「しかもこういう事されたら、結構シャレにならない問題になるレベルの!!!」
周子「お……落ちつこ? とりあえず……」
───ざわざわざわ
───ヒソヒソヒソヒソ…
───あれ、岡崎泰葉じゃない? ホンモノ?
───なんかの企画? やばっ、可愛い……
周子「とりあえず、写メ撮ってる人達に囲まれる前に、早くスタッフを探そう。保護して貰おう、場合によってはあたし達を」
泰葉「お連れ様のお呼び出しとかもう少しマシなのがあるでしょう!! 何で迷子案内なんですか!? 迷子になっているのは高峯さんじゃないんですか!? 何でですか!?」
泰葉「もおおぉーーーっっ!! だから嫌だったんですよ!!! だから嫌だったんですよぉ!!!!!」
周子「や、泰葉ちゃん……落ち着いて……もう少しボリュームさげて……」
☆つづく
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──────
━━━━夜━━━━
【岡崎家】
のあ「さあ、始めましょうか」
のあ「動画の配信を」
泰葉「………あの」
泰葉「道具を購入してから申し上げるのも、かなり気が引けますが」
泰葉「……やめませんか?」
のあ「…………」
楓「(泰葉ちゃん、島ラー油取って下さい)」モグモグ
泰葉「(あ、ハイ)」
泰葉「高峯さん。えっと……」
のあ「なにかしら」
泰葉「私の空き部屋で行うのは別に構いません。ですが」
泰葉「プロデューサーさんも言ってましたが、録画の投稿ならまだしも、生配信というのは……些か危険すぎるかと」
泰葉「高峯さんが仰っていた、例の秘策。顔を隠すというのは、情報の秘匿に関して良い点を突いているとは思うのですが……」
のあ「……」
泰葉「せめて録画にしてはいかがですか?」
のあ「…………」
泰葉「…………」
楓「(泰葉ちゃん、きざみにんにく取って下さい)」パクパク
泰葉「(あ、ハイ)」
のあ「………生がいい」
泰葉「……本気ですね?」
楓「そうですよ。私も春巻きとビールは生が好きです」
泰葉「楓さんは静かにご飯食べてて下さい」
楓「はい」
泰葉「高峯さん、不快に感じたら申し訳ないです。ですが、これは貴女達が心配だから言わせていただきますが……」
泰葉「目的はお金稼ぎですか? 得られる報酬に比べて、リスクが大きすぎて見合ってない気もしますが」
のあ「……いいわ」
のあ「危険を孕むとしても、打算を超え、手を伸ばしたい物がある」
泰葉「……それは?」
のあ「経験よ」
のあ「岡崎泰葉………アイドルの完成形に近い貴女を形成する経験、根幹となる意志。それは他者に誘起されたものではなく……」
のあ「紆余曲折の歩みも、粒粒辛苦の努力も、貴女が貴女足り得る要素は全て、貴女自身が選び培った賜物」
のあ「失敗からの成功も、挫折からの躍進も」
のあ「非凡な才能では如何ともし難い、私と貴女の絶対的な差。それが経験」
泰葉「……」
のあ「結果を得るには、何をしたいか、そのために何をするか……、ということ」
のあ「……泰葉」
のあ「私はまだアイドルとしてマイナスなの。せめて、ゼロに向かい歩みたい」
楓「……」モグモグ
のあ「貴女でさえ……、巷ではトップアイドルに最も近いと称される岡崎泰葉でさえ、かつて力と名声を渇望し、形振り構わず焦がれていた時期が存在した筈」
泰葉「(…………)」
のあ「……」
泰葉「高峯さん」
のあ「……なに?」
泰葉「言いたいことは大体分りました。ただ……」
泰葉「私にも……、楓さんや周子さんと一緒にいる時と同じように」
泰葉「ミステリアスでも、サイバネティックビューティーでも、寡黙の女王でもなく」
泰葉「背伸びしないで、貴女の言葉で、普通に接してくれませんか」
泰葉「……お願いです」
のあ「(…………)」
のあ「………つまり、試せるうちに、色々挑戦しておきたいの」
楓「生配信も公開するくらいなら、公開しないようにやったほうが良いと言いますし。公開先に立たず、ですね」モグモグ
泰葉「それを言うなら後悔先に立たず、です」
泰葉「(この人達は、“やらずに後悔しないように、やってから、やったことを後悔する”タイプなんだよなぁ………うぅん)」
泰葉「(んんん~…………っ)」
泰葉「……………………………………………分かりました。協力しましょう」
のあ「泰葉……」
楓「泰葉ちゃん、ねぎなんばん取って下さい」
泰葉「あ、ハイ」
のあ「……ありがとう、泰葉」
泰葉「いいえ。けれど、見守る立場としていくつか条件があります」
のあ&楓「(───ッ!?)」
のあ「ミ……、見守る立場??」
楓「あ、あれ……泰葉ちゃんも一緒に撮りましょうよ?」
泰葉「私も生配信に映る体で進んでいた計画だったんですか!? じゃあこの話はナシですよ!!!」
のあ「ソ……そんなっ……!」
泰葉「そんなに目を見開くほどショックでした!?」
楓「私達二人で、生配信……!? む、無理に決まってるじゃないですか!!」
楓「この……今、私が食べてる冷奴の角で岩を砕くくらいに無理な話ですよ!!!」モグモグ
泰葉「清々しいほどに言い切りましたね!!」
楓「あるいは、街往く5000人に高垣楓の名前を尋ねて『これ誰か知ってますか?』と質問して正答者が出るくらいに………、む、む、無理な話ですよぉ……っ」グスッ
泰葉「な、泣かないで下さい………その、自分をあまり卑下しないで……」
泰葉「というか、貴女達のその無謀なチャレンジ精神の推進力は一体何なんですか?」
のあ「お金欲しいし……」
泰葉「さっきアイドルとして経験がどうのとか綺麗ごと言ってたくせに、結局浅ましい欲望じゃないですか!!」
のあ「ふ、副産物的な……」
泰葉「(副産物!?)」
のあ「ヤ、泰葉も…………、い、一緒に……!」オロオロ
泰葉「(ぐっ……、寡黙の女王から一転。怯える子犬に……)」
楓「うぅぅ~……。や、泰葉ちゃん~……っ」ポロポロ
泰葉「(~~~~~~~っっ…………!!)」
━━━━━━━━━━
①自分の素顔と本名は公開しない
②個人情報が特定されるような単語を言わない
③事務所の情報も曝け出さない
④泰葉は映らない所でサポートする
⑤やめたくなったら即申し出る
⑥有意義で生産的な活動を極力心がける
⑦泰葉が不在時は絶対に配信しない
⑧危険な事は絶対にしない
━━━━━━━━━━
泰葉「これが最低ラインです!! プライバシーを考慮した、最低の!!」
泰葉「いいですね? どれか一つでも破ったら……」
泰葉「……ほんとに、ちょっと叱りますから」
のあ「あ、あの……せめて①は……」オロオロ
のあ「だ、だって……この活動は、一種の宣伝だし……」
泰葉「それは、ある程度慣れてからにしましょう。勿論、事務所の許可が下りてからの話ですが」
楓「や、泰葉ちゃん………その、⑥はどうにかなりません?」オロオロ
楓「げ、ゲーム実況とかしたいなぁって……、その、ちょっぴり思ってたり………………む、無理ですよね、やっぱり」
のあ「……楓」ポン
楓「のあさん……っ」
のあ「乗り越えましょう、この苦境を。立ち向かいましょう、この困難に」
のあ「底なしの絶望を強いられる経験が、私達を更なる高みへと導く糧となるわ」
泰葉「いや私は別に絶望を強いてるわけじゃないですからね!? お二人の自由意思に任せますから!!!」
☆つづく
──────
────
──
──
────
──────
【岡崎家 空き部屋】
のあ「……」
楓「……」
泰葉『……』
楓「えっと……」
楓「これ、いつ配信始まるんですか?」
泰葉『もう始まってますよ』
のあ&楓「!?」
楓「えっ……、え、ええっ!?」
のあ「ソ、そうなの?」
泰葉『はい』
のあ「……こ、…ッ」
のあ「こんにちは……っ」ドキドキ
楓「こんにちは~♪」
のあ&楓「…………」
のあ&楓「……………………」
『★来場者数:0』
のあ&楓「………………………………………………………」
のあ「……エッ?」
楓「えっと、あの」
楓「でも……これ、“来場者数”がゼロですよ?」
泰葉『はい。まだ、誰も見ていない状態ですね』
のあ「…」
楓「…」
泰葉『お二人とも? これはあくまで例えですが』
泰葉『新人アイドルのお披露目、デビューライブ。場所は路上・地下街・専用劇場・ライブハウスなど様々ですが』
泰葉『……観客がゼロというのは、とりわけ珍しい話ではありません』
楓「そ、そうなんですか?」
泰葉『はい。頑張りましょう』
のあ「そうね」
楓「頑張りましょう♪」
泰葉「(私達、何やってるんだろう)」
楓「……ちなみに、お二人はどうだったんですか?」
泰葉『? どうとは……』
楓「あ、デビューです」
泰葉「偉そうに言った手前、非常に恐縮ですが……私は……」
泰葉「アイドルに転向する以前から子役として知名度があったので……、まあそれなりの会場で歌わせていただきました」
のあ「所属して数か月後にプロデューサーの肝いりで、人気のある子達のライブに割り込ませて貰ったわ」
楓「……っ!」
楓「わ、私は…………」
楓「アイドルとして活動を初め1年、まだデビューはしていませんが……」
楓「……ッ!?」
楓「ま、まさか……!」
のあ&泰葉「??」
楓「まさか、これが! この動画生配信が私のデビューライブっ!?」
泰葉「(!?)」
のあ「……しかも、全国ネット」
楓「全国ネット!! なのに、来場者ゼロ!?」
楓「コ、この異常事態は、一体……」ガクガク
楓「ハァー、ハァー、ハァー……!!」プルプル
泰葉『落ち着いてください! 気をしっかり!!』
泰葉『まずこの配信が楓さんのデビューライブではないですよ。歌うつもりですか?』
楓「ハァー、ハァー……っ!」プルプル
楓「キ、希望とあらば……っ」
泰葉「(そうなんだ……)」
のあ「落ち着いて。深呼吸を」
楓「は、はぁ~~っ……すうぅっ…………っ」
楓「はぁ~~~~~っ……」
楓「……ネットでデビューしねぇとダメだからねっ、と」
楓「…………、ふうっ」
楓「取り乱してすみません。落ち着きました」フー
泰葉『途中のダジャレも気を整えるルーティンの一部なんですか!?』
楓「はい」
泰葉『つ、つくづく大物ですね、貴女は……』
楓「ふふふっ。今はまだ歌も踊りも未熟で、写真撮影のお仕事でしか目立てませんが」
楓「いずれは、世紀末歌姫とでも名を轟かせて見せますよ」
のあ「……頑張りましょう、共に」←【Gランク】
楓「はいっ」←【Gランク】
泰葉「(いけるのかなぁ。この動画配信)」←【Bランク】
『★来場者数:0』
☆つづく
──────
────
──
──
────
──────
【岡崎家 空き部屋】
『★来場者数:0』
泰葉『ひょっとこのお面、少しずれてますよ』
楓「あ、ハイ」
泰葉『ネコのお面の向きも若干直してください』
のあ「……」クイッ
泰葉『あと、持って来ていただいたマカロン、すごく美味しいです。ありがとうございます』パクパク
楓「なんか、心なしか楽しそうじゃないですか?」
楓「いつもよりトーンが高いですよ?」
泰葉『いつも撮られる側なので、こういう裏方って………』
泰葉『なんか……良いですね。新鮮というか』
楓「普段は裏方のスタッフさん達の気持ちが分りますか?」
のあ「“目から鱗が落ちる”ね」
泰葉『そういう使い方なんですか? その慣用句』
泰葉『ともかく、私はカメラの死角でお菓子を食べているので、お二人は生配信に集中してください』
のあ「……私もマカロン食べたい」
泰葉『そのネコのお面の口部分から入りますかね? それとも一旦、フレームアウトします?』モグモグ
のあ「……頑張れば、入る」
━━━━━━━━━━
★放送タイトル:【初見歓迎】現役アイドル兼、デキる大人達による雑談【現役アイドル】
★内容:ひとつ屋根の下に住む、現役アイドルのデキる大人達による放送です。悩み相談歓迎。現役アイドルです。
★コミュニティ:ひとつ屋根の下放送局
━━━━━━━━━━
楓「……誰も来ませんねぇ」
のあ「そうね」モグモグ
楓「これでもかと“現役アイドル”というキャッチーな単語をプッシュしたのに」
泰葉「(撒き餌が胡散臭すぎる気もするけど……黙っておこう)」
泰葉「(まぁ、これだけアイドルアイドルと書いたら、興味本位で来る人はいるでしょう)」
泰葉『職業を公開したからには、素性は厳守ですよ』
泰葉『いいですね?』
楓「はぁい」
楓「(……!!)」
楓「アッ!!! えっ!!?」
泰葉『?』
楓「あ、あ、あっ……!!!」
『★来場者数:1』
のあ&泰葉「!!!」
楓「ぁ、あ、い、いっ………!!」
楓「い、いらっしゃいませっ!! よよよようこそおこしくださいました!!!」
のあ「…」
楓「あの、その、あ、アゥ、オゥ……!」オロオロ
泰葉『落ち着いてください! オープンしたてのレストランの従業員みたいになってますよ!』
のあ「…」
『来場者数:4』
楓「ヒ、ヒエッ……」
のあ「…」
*{ なにこれ}
*{ 現役アイドル?}
*{ こんにちは}
楓「」
泰葉『まずは自己紹介して、挨拶ですよ。今回の目的は雑談ですから、落ち着いてください』
のあ「…」
泰葉「(高峯さん、平静だなぁ。楓さんはあんなにオロオロしてるのに)」
楓「ア、あのぅ……、えっとぉ……」ソワソワ
泰葉『自己紹介ですよ、自己紹介』
*{ 画面外にもう一人いる?}
泰葉『っ!』
のあ「……あの」ボソッ
楓&泰葉「!!」
のあ「……自己紹介」
のあ「…………タ」
のあ「高峯、のあです……ハイ」
*{ たかみねのあ?}
*{ 日本人?}
*{ なんか聞いたことあるような……}
楓「」
泰葉「(ば、ばかぁーーーーっっ!!!)」
【×①自分の素顔と本名は公開しない】
のあ「(あっ!!!)」
泰葉「(ガチガチに緊張してるじゃないですか!!)」
のあ「ア、あぁ……」プルプル
のあ「た、たかッ、高峯の、あ、あっ…………」
のあ「た、高峯乃アーデスハイト……です」
泰葉「(高峯乃アーデスハイト!?)」
*{ ハーフさんっぽい}
*{ 納得}
*{ すげえ名前}
泰葉「(ごまかせた!?)」
のあ「よ、よろしく……」ドキドキ
*{ よろしくおねがいします}
*{ よろしくー}
*{ 銀髪綺麗だなぁ}
のあ「(……)」ポワポワ
のあ「……ま、満足したっ」
泰葉『名乗っただけでですか!?』
☆つづく
──────
────
──
──
────
──────
【岡崎家 空き部屋】
泰葉『この流れで、名乗っちゃいましょう』
楓「そ、そうですね」
楓「えっと、ネコのお面を付けた高峯乃さんの隣にいる、ひょっとこのお面を被ったのが……」
楓「……………………………………………………………………………………」
楓「……か、カエデです。芸名です…………」
泰葉『……』
*{ かえで? カエデ?}
*{ ありがちなハンドルネーム}
*{ †楓†}
*{ ていうか二人とも背でかくね?}
泰葉「(ごまかせた……本名なのに)」
楓「あ、は、ハイ。身長は171あります」
のあ「……私は168」
泰葉「(何だろう、尋問を受けてる人みたい。特に楓さん)」
泰葉『あの、お二人とも』
泰葉『そういうデータも正直に答えないで、少しぼかしましょう』
*{ で、画面外にいるのは誰ですか?}
*{ みんな本当にアイドルなの?}
泰葉「(ウッ……!)」
楓「そ、そうですね。正真正銘アイドルですよ」
のあ「……」
楓「私と高峯乃さんはほぼ同期ですが、カメラの後ろでお菓子を食べながら眺めているのは……その」
楓「……私達より年下なのに世渡り上手で、優しくて、面倒見の良い、とっても頼れる子なんです」
泰葉『……』
楓「今回の配信に関しては流石に厳しい意見も頂きましたが……」
楓「でもそれは私達の事を本気で案じてくれている裏返しだと気付いて、やっぱりいい子だなぁって、しみじみ思いました」
のあ「……私達の無理に何でも付き合ってくれて、料理も作ってくれる」
のあ「……迷子になった時に、迷子センターまで駆けつけてくれたし」
のあ「……隣人に迷惑を掛けたとき、代わりに謝ってくれた」
のあ「……部屋をゲr……、汚しても、嫌な顔せず掃除してくれた」
のあ「……隣人の接待を、代わりにこなしてくれたし」
のあ「……スマホ選びも結局手伝ってくれたし、マッサージもしてくれる」
のあ「……最近では、食べたいメニューを言えば作ってくれるようになった」
のあ「……正に、至れり尽くせり」
楓「絵に描いたような良い子ですねぇ。うんうん」
泰葉「(……ん???)」
*{ 使える子だ}
*{ 使える年下だ}
*{ で、誰なの?}
楓「いえいえ、確かに年下ですが芸歴は私達より遥かに上で、大先輩なんですよ? そうですよね? やす───」
泰葉『わ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ーーーーーーーーーっっっ!!!!!』ガタッ!
のあ&楓「ヒッ!!」
*{ やす?}
*{ 部下の刑事とか後輩設定でありそうな名前}
*{ よわそう}
*{ 湘北高校2年かな?}
*{ おいヤス、パン買って来いよ}
泰葉「」
楓「そ、そうです……、年下のヤスちゃんです……。じ、事情で画面には映りませんが……」
楓「ミ、みなさん、よろしくお願いします」
*{ 高峯乃さん、カエデさん、よろしく}
*{ ついでにヤス}
*{ おいヤス、ちょっとジャンプしてみろよ}
泰葉「(わ、私の扱いって一体………)」
☆つづく
──────
────
──
※高峯のあ……高峯乃(高峯乃アーデスハイト)、高垣楓……カエデ、岡崎泰葉……ヤス、視聴者……*(複数人)
※表記は特に変えませんが、呼び合う時に上記のハンドルネームを使用します
──
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──────
【岡崎家 空き部屋】
楓「……それで」
のあ「……」ドキドキ
楓「自己紹介も終わりましたし、これから何をしましょうか」
*{ そこから?}
*{ 雑談をしましょう}
楓「!! で、ですね! おはなし、おはなしを……」
のあ「…………」
楓「…………」
のあ「……イ、いい天気ね」
楓「ソ、そうですね」
楓「…………………」
のあ「…………………」
楓「……フ、フヘヘ……」プルプル
のあ「ヒ、フヒ………」プルプル
泰葉『……』
楓「…………………………」
のあ「…………………………」
楓「……………………………………………………………………………………………」
のあ「……………………………………………………………………………………………」
楓「ヤ、ヤスちゃん……」グスッ
泰葉『お二人だけで完結するのではなく、視聴している方も交えてみては如何でしょうか』
のあ「……成る程」
楓「……じ、じゃあ誰か、何か話したい事とかありますか?」
余談:実はここで、ちょっと安価を取ってみようと思っていた時期が私にもありました。
*{ お趣味は?}
楓「趣味」
のあ「趣味は……」
楓「………」
のあ「……色々」
楓「…………………」
のあ「…………………」
楓「……ヒ、ヒヘヘ……」プルプル
のあ「フ、フヘッ……」プルプル
泰葉「(会話の引き出しが乏しい……)」
のあ&楓「………………」
泰葉『お……、終わりですか? もう』
楓「…………………………………………」
のあ「…………………………………………」
のあ「……そうね」
楓「今日は、かなり皆さんとお喋りできた気がします」フー
泰葉『私の時間間隔がおかしいんですか? あれっ?』
泰葉『まだ10分しか経ってないですよ?』
のあ「10分……」
楓「いえ、じゅうぶんでしょう」
泰葉『不十分ですよ!!』
楓「……十分だけに。ふふっ」
泰葉『分かりづらいです』
*{ おつかれさまー}
*{ 今度は顔見せてください}
*{ おつです}
のあ「……疲れた」
のあ「泰葉。スムージーが飲みたい」ゴロン
泰葉「無理ですよ。売ってる店なんて知りませんし」
のあ「……コンビニ」
楓「あっ、この前みんなで池袋の家電量販店に行ったときに、5000円でハンディブレンダー買いましたよ♪」
楓「上の棚に置いておきました。えっへん」
のあ「……果物も色々買っておいた」
泰葉「そ、そうなんですか? いつの間に…………じゃあ、ちょっと待っていて下さい」
のあ&楓「はぁい」
☆つづく
──────
────
──
──
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──────
【岡崎家】
のあ「……」チュー
楓「このスムージー、チョコバナナ味ですか?」
泰葉「はい。レシピが同梱されていました。バナナとココアと牛乳で簡単に作れます」
のあ「……美味しい」チュー
楓「ほろ苦くて、でもバナナの甘みと香りがしっかり感じられて、すごい元気になりそうな味です♪」チュー
泰葉「ありがとうございます。さて、それで……」
泰葉「続けます? 今後の配信」
のあ「……続けるわ」
泰葉「そうですか」
泰葉「内容はどうします? 同じく雑談でいいですか?」
楓「今回の配信で、かなり要領が掴めましたね」
泰葉「そうですか?」
のあ「……簡単な物ね」
泰葉「(二人とも、お面で顔は見えなかったけど………結構あたふたしていたような)」
のあ「……ただ」
楓「??」
のあ「……私と楓だと些か、協調性という名の鮮やかさが不足しているわ」
泰葉「鮮やかさ?」
泰葉「つまり……?」
のあ「……」
のあ「不器用な私と楓と視聴者の間をフォローしてくれる、潤滑油のような助っ人が欲しい」
泰葉「潤滑油……助っ人」
泰葉「ホント、いつも突拍子もないことを言いますね」
楓「一番は、泰葉ちゃんが居てくれたらいいんですけど」チュー
泰葉「……すみません。楽しそうで何よりですが、私も自信がないので、私以外でお願いします」
━━━━後日━━━━
【岡崎家 空き部屋】
泰葉「さて、あと1時間後に放送予定ですが」
泰葉「結局今日もお二人で良いんですね?」
のあ「……ん」
楓「ああ、助っ人の件でしょうか?」
泰葉「提案ですが、しばらく二人で慣らした方が良いと思いますよ。まだ2回目なのに誰かに頼っていたら、今後の活動が危ぶまれるというか」
泰葉「方向性・地盤を固めた方が得策かと」
楓「一理あるかもしれませんね。そもそも、配信に映るという事は……」
楓「泰葉ちゃんの部屋に来るという事でもあり、ある程度親しい間柄で、私達の関係を知っている人に限られてきますし」
のあ「……そうなるわね」
泰葉「となると、当て嵌まる人選はプロデューサーさんくらいしか……」
楓「それは……」
のあ「ちょっと……」
泰葉「お面の上からでも露骨に嫌そうな表情が伝わってきました……」
のあ「……だって、男の人だし」
楓「そもそも、プロデューサーさんに秘密で配信してるわけですし……」
のあ「(……………………)」
http://i.imgur.com/uMqeAxM.jpg
のあ「(……♪)」
http://i.imgur.com/fvOwyE1.jpg
のあ「(……♪♪♪)」
http://i.imgur.com/fVrDmA1.jpg
のあ「!!!!!!!」
のあ「っ!!」ガタッ
泰葉「えっ?」
楓「のあさん? どうしました?」
のあ「ちょっ、あっ……!」ガタガタ
楓&泰葉「??」
のあ「ス、少し待っていて頂戴。既知の間柄で、かつ私達の関係と部屋を把握していて……」
のあ「助っ人として考え得る限りの、最大の適任者がいたわ」
のあ「あと1時間。配信までに連れてくる」バッ!
楓「あ、はーい……???」
泰葉「い、行ってらっしゃい。気を付けてくださいね」
のあ「(ふ、フフフ……♪)」ワクワク
のあ「(周子ちゃんが居たわ。私達のお部屋事情を知っていて、そして安心して喋れて、フォローが上手そうで……)」
のあ「(……信頼できる子が。ふふっ、今なら事務所にいるはず♪ 迎えに行こう)」
のあ「(く……、靴履きづらっ……!)」ガタガタ
のあ「(おろしたてだからかな? 微妙にサイズがあってないし土踏まずが痛い…………あ、焦っちゃダメ、高揚を抑えて……)」ガタガタガタ
のあ「(あ。先にメールを送ろうかな、この前アドレス分かったし)」ガタガタガタガタ
のあ「(よし、準備完了っ)」スタッ
のあ「(~~~♪♪)」ガチャ
のあ「(~~~~~…♪)」バタン
のあ「(……♪)」スタスタ
時子「…………」
のあ「ヒ、ヒエッ……」
━━━━5分後━━━━
【岡崎家 空き部屋】
のあ「…」
楓「…」
時子「……」
泰葉「(まずいですよ……)」
☆つづく
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──────
【岡崎家 空き部屋】
時子「珍妙な事をやっているわね」
のあ「イ、いえ……」
楓「ハ、はい……」
時子「動画配信? なに、コレ生放送なの?」
泰葉「そ、そうですね」
時子「目的は、浅ましい欲に塗れた小銭稼ぎってトコが関の山かしら」
のあ「ソノ、一応……、自分達の宣伝を名目で……っ」
楓「オ、お金は……、あくまで人気の指標として……」
時子「ふぅん」
のあ「(……ヤ、泰葉)」チラッ
泰葉「(は、はい?)」
楓「(ワ、私達……その、お肌のシンデレラタイムなので帰っていいですか?)」ビクビク
泰葉「(露骨に逃げないで下さい!!)」
泰葉「(お願いします!! 吉野家や漫画喫茶では置いて行かれましたが、もう私を一人にしないで下さいッ!!)」ギュウウゥ!
楓「(ア、アバラががががっ……!!)」ギュウゥゥ!
泰葉「(高峯さん……、何でですか? なんで時子さんが適任者なんですか?)」
楓「(適任者というより独裁者では……)」
のあ「(ヤ、止むを得ない事情があったのよ)」
~~~~10分前~~~~
【玄関先】
のあ『ヒ、ヒエッ……』
時子『奇遇ね』
のあ『ア、ハ、…………』オロオロ
時子『これから買い物かしら?』
のあ『イ、いいえ、アノ…………』ガクガク
時子『……ハァ? なに?』
のあ『ソノ、あの…………』プルプル
時子『……なに。何かやましいことでもあるのかしら?』
~~~~~~~~~~
泰葉「(愚直すぎませんか!?)」
楓「(ごまかせたのに……)」
のあ「(ス、すみまセン…)」
時子「動画配信、ね」
時子「ああ……、そう言えばそんな課題もあったかしら。些末な事過ぎて、脳の片隅に追いやられていたわ」
のあ&楓「……?」
泰葉「??」
時子「……で」
時子「この放送内容の……、なにコレ」
━━━━━━━━━━
★放送タイトル:【初見歓迎】現役アイドル兼、デキる大人達による雑談【現役アイドル】
★内容:ひとつ屋根の下に住む、現役アイドルのデキる大人達による放送です。悩み相談歓迎。現役アイドルです。
★コミュニティ:ひとつ屋根の下放送局
━━━━━━━━━━
時子「私の見間違いという事では無いとは思うわ」
時子「“デキる大人達”という謳い文句だけ…………些か解せないのだけれど」
時子「詳しく教えてくれるかしら」
楓「ソ、それは、ソノ……」モゴモゴ
のあ「私達……、二人の……」モゴモゴ
時子「なに?」
楓「アノ、そ、その……、す、少し盛ったカナー……と、お、思ったンデスが……」モゴモゴ
のあ「そ、ソウ………、わ、私達……」モゴモゴ
時子「なに? 貴女達が?」
時子「人間の耳で聞き取れる周波数で話しなさい。不快すぎて蚊の飛ぶ音と間違えて」
時子「……思わず、叩きそうになったわ」
のあ&楓「ヒッ!」
時子「……デキる、大人?」ジー
のあ「ハ…………ッ…………そ、ソノ………………」プルプル
楓「エ、アァ………………………………………………」プルプル
時子「…………」
のあ「ス、すみません……私達の事では、断じて無いです……っ」ポロポロ
楓「ごめんなさい………調子に乗りました……………もう殺してください……」グスン
時子「(……)」
泰葉「(頑張って下さい、二人とも頑張って下さい……っ)」グスッ
☆つづく
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──
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──────
【岡崎家 空き部屋】
泰葉『はいっ、始まりましたー。“ひとつ屋根の下放送局”っ」
のあ「ハンバーガーは潰してから食べる派」
のあ「高峯乃アーデスハイトです」
楓「ハンバーガーはピクルスを抜いてもらう派!」
楓「カエデでーす♪」パチパチ
泰葉『ハンバーガーよりシェイクが好き派』
泰葉『画面外のヤスです』
のあ&楓「わーい」パチパチパチ
時子「…………」
『★来場者:0』
のあ&楓「ゥグッ……」
泰葉『(厳しい)』
時子「ふぅん」
のあ「す、スミマセン……、スミマセン……」
楓「わ、私達が不甲斐無いばかりに………に、睨まないで下さい」
時子「睨んでないけど」
時子「ただ」
時子「何故私に宛がわれたのが鬼の仮面なのか、説明をお願いできるかしら?」
泰葉『!!!!』
泰葉『ス、スミマセン………節分の時のお面が偶然余ってて。というか、今はそれしか用意できず……』
泰葉『……も、申し訳ありません。に、睨まないで下さい』
時子「……睨んでないけど」
━━━━20分後━━━━
『★来場者:3』
*{ 一人増えてる}
*{ 女の子が3人。いいですねぇ}
時子「まあ、及第点じゃないかしら。貴女達にしてみれば」
泰葉『実は、先日もこのくらいの人数でした』
楓「あ、そうだ。自己紹介します? 鬼さんも」
時子「鬼さん?」ピクッ
楓「ヒッ! ご、ごめんなさい……」
泰葉『名前、どうしましょう?』
時子「さあ。観覧希望者ということにしておきなさい」
泰葉『ですが形式的に、一応お願いします』
時子「……仕方ないわね」
時子「財前時子よ。浅学菲才な豚でも、名前くらいは記憶できるでしょう」
時子「せいぜい覚えておきなさい」
*{ 財前時子?}
*{ 時子様?}
*{ 前に名古屋で一日署長やってたアイドル?}
*{ 不遜の女王、財前時子?}
*{ 待って、本物?}
【×①自分の素顔と本名は公開しない】
【×②個人情報が特定されるような単語を言わない】
泰葉『~~~……ッ!!』ブンブンブンブン!!
時子「アァ? なによ……不様に涙を流して」
のあ&楓「…」
泰葉『(実名はまずいですよ! 何か、何か別の名前を……お願いします、お願いします……っ!!)』
時子「………………」
時子「……同姓同名よ。悪いかしら」
時子「そのアイドルの物真似とか………やってる」
*{ 同姓同名かー}
*{ 声と口調が本物そっくり}
*{ よろしく}
泰葉「(ごまかせた!? なんで!?)」
のあ&楓「(いい人達だなぁ……)」ポワポワ
☆つづく
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──
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【岡崎家 空き部屋】
時子「で」
時子「配信内容としては、雑談と悩み相談だったかしら?」
泰葉『“悩み相談”?』
楓「“悩み相談”……ですか?」
時子「書いてあるじゃない」
時子「とうとう目も見えなくなったのかしら? その年にして老眼とは恐れ入るわ」
━━━━━━━━━━
★放送タイトル:【初見歓迎】現役アイドル兼、デキる大人達による雑談【現役アイドル】
★内容:ひとつ屋根の下に住む、現役アイドルのデキる大人達による放送です。悩み相談歓迎。現役アイドルです。
★コミュニティ:ひとつ屋根の下放送局
━━━━━━━━━━
泰葉『本当ですね』
楓「書いてありますね、確かに」
泰葉『あれ。この項目を考えたのって』チラッ
楓「あっ」チラッ
のあ「……」
のあ「……いいかな、と思って」
泰葉『相談に乗れるほど、人生経験が豊かなんですか?』
時子「一番年下のくせに随分と偉そうなクチ聞くわね、貴女」
泰葉『!!』
泰葉『確かに………すみません、少し傲慢でした』
*{ ヤス自重しろ}
*{ 震えて眠れ}
*{ 靴を舐めろ}
泰葉『ここまで言われる程でした!?』
時子「舐めないの?」
泰葉『舐めませんよ!!』
のあ「悩み相談……、出来る」
のあ「何故なら、私はデキる大人だから」
のあ「デキる大人は、後輩や周囲の人からの相談をよく受け持つもの」
のあ「……私も然り」
泰葉『が、頑張って下さい』
楓「ハイ、じゃあ1番の方~?」
*{ 彼女が出来ません}
*{ 就職先が決まりません}
*{ 嫌いな上司との関係について}
*{ 車が欲しいです}
*{ 知らない女性に認知を依頼されました}
*{ 悩みがないのが悩み……、かな}
楓「ぁっ、ちょ………ぁっ」アセアセ
楓「イ、1番の方…………み、皆いっぺんに言わないで……っ」オロオロ
泰葉『じゃあ最初に流れてきたコメントを拾いましょう。“彼女が出来ません”』
のあ「……代表的、かつ典型的な相談ね」
のあ「実は、私も……同じ悩みを持っているわ」
泰葉『そうなんですか?』
時子「なら、今のコメントを書いた相談依頼者と結婚すればいいじゃない」
時子「ハイ解決」パン
のあ「す、スピード解決……!」
楓「で、デキるッ……!」
泰葉『こういうのはデキるじゃなくて、なげやりって言うんです!』
楓「というより、ウチの事務所では滅多に聞かないですねぇ。アイドルやタレントの恋愛事情」
泰葉『むしろ聞こえたら大問題かと思いますが……、というか……』
泰葉『カエデさん。興味をお持ちなんですか?』
楓「ふふふっ、聞く分には♪」
泰葉『んー……』
泰葉『ウチの事務所は……、まあ、プロデューサーがアレですから』
のあ&楓&時子「アレ?」
泰葉『知りませんか? 今度本人に聞いてみると良いですよ』
時子「……ホモなのかしら」
楓「あー」
泰葉『本人の名誉と沽券のために言いますが、ソッチではないです!』
*{ 勿体付けんな}
*{ 早く言え、シメるぞ}
*{ おいヤス、マガジン買って来いよ}
泰葉『あ、あの………わ、私の扱い悪くないですか? 気のせいですか……?』プルプル
のあ「……とにかく」
のあ「私も興味があるわ」
楓「詳しく聞いてもいいですか?」
のあ「ええ。いぶ───……グッ!!」
のあ「………じ、事務所の知り合いの女の子に恋愛映画を勧められて、何本か拝見した」
のあ「青春って、感無量ね」
楓「なるほど、学園ラブコメですか」
のあ「もし仕事で、今後私が若さ迸る青春作品に出演できるのなら……」
のあ「自分はヒロインではなく………その脇役、主役の友人役」
のあ「全ての事情を察して俯瞰的で達観しているオーラを嫌というほど醸し出しながら、クドい言い回しで後押しする、いかにもピエロな役を演じたい」
泰葉『準主演、助演的な立ち位置の役ですね?』
楓「あぁ、アレですね。電話したら、とりあえず目当ての女子のデータを事細かに教えてくれる情報通のキャラ」
泰葉『いえ、それはよく分かりませんが……』
時子「目指すなら、主演でいいじゃない」
時子「何故、敢えて二番手に甘んずるのか理解に苦しむわ」
のあ「……理由は、様々」
のあ「まず、主演を全う出来る自信がない」
泰葉『それはみんな同じですよ』
のあ「あと、もう24だし」
時子「なら、四捨五入すれば二十じゃない」
時子「ちなみに私も二十」
泰葉『私も二十ですね』
楓「年齢は関係ありませんよ高峯乃さん♪ 私だって…………」
楓「(…………………………………)」
楓「……………………………さ、三十……ッ!?」
時子「ヤス。飲み物」
泰葉『あ、ハイ』
のあ「あと………恥ずかしいわ」
時子「何が?」
のあ「キスシーン」
時子「……ちょっと、笑わせないでよ。まさかとは思うけれど、その年で初心なのかしら?」
楓「(……)」
のあ「極薄のラップはあるにしろ、色情に耽る状況で平常心を保てる自信が無い」
楓&泰葉&時子「(ラップ……?)」
*{ ラップとは一体}
*{ そうか、ああいうシーンってラップしてたのか}
*{ 流石は高峯乃さん。お詳しい}
泰葉『現実でも恋愛経験は?』
のあ「…………」
のあ「な、ない……ですね」
*{ アイドルだ!}
*{ 高峯乃さんは本物のアイドルだ!}
*{ 穢れを知らずに純粋なままでいて}
のあ「青春には憧憬の念を抱けど、もはや叶わぬ望み」
のあ「……だから、巡り合わせを切に望むわ」
泰葉『まあ……、よく皆さん「社会人になるとそういう出逢いの機会が全然無い」と嘆いてますね』
楓「私この前、さな────……ゴホッ!」
楓「ふ、婦警さんと一緒に相席居酒屋に行きましたよ!」
のあ「えっ」
楓「フフフ……、相席の男の人に沢山奢ってもらいましたっ!」
時子「色気より食い気ね」
泰葉『花より団子とも言いますね』
のあ「か、楓……っ! こ、今度一緒に行きましょう?」
のあ「わ、私も、リア充っぽいことをしてみたい」
泰葉『!!!』
泰葉『だ、ダメですよ高峯乃さん! カエデさんの場合は婦警さんという強靭な味方が居ましたが……』
泰葉『貴女達の場合は、その……、あの…………』
時子「ハッキリ言いなさい」
*{ そうだそうだ}
*{ 何がいけないのかな? んー??}
*{ おいヤス、ちょっと金貸せよ}
泰葉『グッ……!』
泰葉『高峯乃さん! 男の人って、貴女が想像しているより遥かに怖いんですからね!』
のあ「……でも、合コンとかしてみたいわ」
時子「私も興味はあるわね。下卑た会合で、どんな面ぶら下げた豚がいるのか拝見したいものね」
泰葉『あぁ、まあ時子さんが一緒なら……安心ですね』
時子「どういう意味よ」
楓「あれっ……」
楓「これ、悩み相談になってますか?」
☆つづく
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──────
【岡崎家 空き部屋】
泰葉『先程は……』
泰葉『なんか、逆に高峯乃さんが相談者の立場でしたね、ウン』
のあ「さあ、どんどん行きましょう」
泰葉『待って下さい? どっちの立場で行くつもりですか?』
**{ むしろ皆さんはその業界にいて、例えばどんな悩み事とかあるんですか?}
楓「悩み事?」
泰葉『んー……』
時子「……」
のあ「あ」
のあ「はい、はい」
泰葉『ハイ高峯乃さん、どうぞ?』
のあ「……事務所の皆に、よく“ロボット”と噂されています」
*{ ろ、ロボット?}
*{ 機械的な受け答えとか、そういうこと?}
*{ 表情が硬いとか仕草が強張ってるとかそんな感じじゃない?}
*{ まるで意味が分からん}
泰葉『(し、視聴者も混乱してる)』
楓「(のあさん、まだ気にしてたんですね……)」
時子「あぁ。私も昔よく言われてたわ」
泰葉『そうなんですか?』
時子「ロボットではないけれど“顔面凶器”とか、かしら」
泰葉『そ、それは………………へ、へえ……』
楓「はい、私も昔あります。“親父ギャグの人”とか」
泰葉『それは確実に自己紹介が原因だと思います。第一印象がアレでしたものね、楓さんの場合(第4作参照)』
のあ「……貴女は?」
泰葉『そうですね……、私は……』
泰葉『うぅん………』
泰葉『ん~~~~っ…………………………』
楓「わ、わかめちゃん」
のあ「ブローノ・ブチャラティ」
時子「失敗前髪」
泰葉「(し、失敬な……ッ!!)」プルプル
**{ 高峯さん、それは決して悪口じゃないですよ}
のあ「……知っているわ」
のあ「好奇の関心で、皆は私を無機質な例えで称したと」
のあ「少し衝撃だったけれど……、今は慣れたわ」
**{ 痛みに慣れというのはありません。貴女がそれを負の印象としてとらえていたのなら}
**{ 事務所のみんなとの一方的な遺恨は、貴女の胸にしこりとして留まり続けます}
**{ 悪気はないにせよ、貴女がそれを厭わしく感じているのなら}
**{ 少しずつでも、それを正直に打ち明けるべきです}
のあ「……」
楓「(や、泰葉ちゃん? これは……?)」
泰葉「(悩み相談ですよ。高峯さんが相談者の)」
時子「ヤス。お腹空いたわ」
泰葉『あ、ハイ。じゃあ何か持ってきます』
のあ「……いいえ、負の印象ではない」
のあ「自分の事を客観的に捉える、好機と私は考えた」
**{ …………}
のあ「これからも、私は変わらず皆と接するわ」
のあ「けれど、それは………皆に媚び諂い、己を歪め、迎合するわけではない」
のあ「この事務所に所属するまで、私は、幾度となく似たような経験をしたことがある」
のあ「……今回は、変化を受け入れると決めただけ」
**{ 高峯さん}
**{ それが貴女の考えならば、尊重します}
**{ ただ、一人で抱え込むのはやはり良くないと思うので、事務所の仲間を頼ることも大事ですよ?}
**{ おそらく事務所では、きっと貴女の事を姉のように慕っている人がいると思います}
**{ そういう子の申告を快く受け入れて頂ければ、必ず力になってくれるはずです}
**{ 少しずつ、自分を出していきましょう}
泰葉『(………………???)』
のあ「ええ。覚えておくわ」
楓「では、次の悩み相談に行ってみましょうか」
時子「……」モグモグ
泰葉『(なんだろう、この謎の違和感は……)』
のあ「次の悩みは…………」
のあ「…………吉野家とその他牛丼チェーンの圧倒的な実力差について」
☆つづく
──────
────
──
──
────
──────
【アパート前】
楓「のあさーん♪」ヒラヒラ
楓「お待たせしました、では行きましょうか♪」
のあ「……急だったけれど、良かったかしら」
楓「いえいえ、構いませんよ」
楓「前々からのあさんと、二人きりで行ってみたいと思っていたんですよ」
楓「ご案内しますよ、小料理がとっても美味しい居酒屋を♪」
━━━━10分後━━━━
【居酒屋】
楓「それにしても、いかがですか? 生配信」
のあ「……少し慣れたら、録画した動画も投稿していきたい」
のあ「……コミュニティも人が増えると良いけど」
楓「安定した収入まで、まだ先は長そうですねー」
店員「お待たせいたしました、こちら生二つとお通しです」
楓「ぁっ、はーい」
のあ「(……♪)」
楓「では、乾杯しますか♪」
ppppppp……♪
のあ&楓「!」
のあ「メール……」
楓「ですね。二人同時に」
のあ「……泰葉からだわ」
のあ「さっきの、悩み相談の件かしら」
楓「あぁ……、吉野家以外の牛丼チェーンが好きな人を軒並み敵に回しそうな内容でしたからね」
のあ「……怒っているのかしら」
楓「どれどれ?」カチャ
【★差出人:岡崎泰葉】
【★件名:no title】
【2回目の配信、お疲れ様でした。
あの後、時子さんがこたつに籠って、帰ってくれません。
お二人とも、一度戻ってきてください。お願いします】
のあ「…」
楓「ミ、見てない…………私は何も見てない……っ」プルプル
━━━━その頃━━━━
【岡崎家】
泰葉「…」
時子「さっき、配信の時に出してくれたアレ」
時子「貴女が作ったのかしら」
泰葉「ハ、はい」
時子「パンプキンプディング」
泰葉「はい……たまたま作ったのが置いてあって……」
泰葉「その、はい。えっと……、その、私、料理ってあまり得意じゃなくて……」オロオロ
泰葉「その、あの、一度桃華ちゃんと薫ちゃんと三人で子供向け番組で料理を披露する企画で、その、自信が無く……」
泰葉「収録が終わった後も、練習を続けてる次第で……」オロオロ
時子「……」
時子「貴女」
時子「これから、夜はどうするつもりかしら」
泰葉「な、何か出来合いのものを作ります…」
時子「…………」
時子「なら、私の味覚で評価をしてあげるわ」
泰葉「(───!!!?)」
時子「のど乾いた」
時子「なにか出して」
泰葉「ァ、あ、は、ハイッ!!」
泰葉「(!? 、……??)」
━━━━一方━━━━
【居酒屋】
のあ「(…………)」ピッ
楓「の、のあさん……??」
のあ「……」スッ
のあ「乾杯」
楓「!!!!」
楓「か……っ!」
楓「かんぱーーいっ♪ わああああぁーーーーーーーーーっ!!!」カチャ!!
のあ「い、イエー……」
☆つづく
──────
────
──
──
────
──────
━━━━後日━━━━
【岡崎家】
のあ「はぁ…」
楓「ふぅ…」
泰葉「どうしましたか、深いため息なんて吐いて」
のあ&楓「…………」
のあ「生配信」
のあ「……やることが尽きたわ」
泰葉「はぁ、そのことですか」カチャ
のあ「ッ!?」
泰葉「ハイ、これ紅茶です。ドイツの老舗メーカー、ロンネフェルトのダージリンらしいですよ。時子さんから頂きました」
楓「り……リアクションが薄い!?」
泰葉「えっ?」
楓「き、緊急事態ですよ!? まだ2回しか生配信してないのに!!」
泰葉「想定の範囲内ですよ」
泰葉「そもそも発案から実行に移すまで短かったので、見切り発車の企画だとは察していましたが」
のあ「ち、違う。スランプなだけよ」
泰葉「絶好調の時がありましたか?」
楓「むぐぅ……」
泰葉「少し落ち着きましょう。焦っても何も始まらないですよ」
泰葉「むしろ、少し休止してみては如何ですか?」
のあ「お、お金が……、動画収入がっ」
泰葉「不安定な収益を当てにしなくても、地道にお仕事でやりくりしましょうよ。ね?」
泰葉「そんなに入用なんですか?」
のあ「が、ガスと電気が止まる……」
泰葉「けっこう深刻ですね!! 何故そこまで放置していたんですか!?」
━━━━1分後━━━━
楓「この紅茶、美味しいですね」ズズッ
のあ「……高貴な香りがする」ズズッ
泰葉「別に私は、配信を続けること自体に異議があるワケではないのですが……」
泰葉「あくまでお二人が主体なので、お二人に頑張っていただかないと」
のあ「ん……」
楓「知恵を絞りましょう。何かいい案がありますか?」
泰葉「そうですね……?」
━━━━━━━━━━
★放送タイトル:【初見歓迎】現役アイドル兼、デキる大人達による雑談【現役アイドル】
★内容:ひとつ屋根の下に住む、現役アイドルのデキる大人達による放送です。悩み相談歓迎。現役アイドルです。
★コミュニティ:ひとつ屋根の下放送局
━━━━━━━━━━
泰葉「第1回では、雑談をしましたね」
泰葉「第2回では、悩み相談を」
のあ「ええ」
楓「そうですね」
泰葉「あとは……」
泰葉「この、高峯さんが煽りを付けた“デキる”大人に目を向けてみては如何でしょう」
のあ「……つまり?」
泰葉「つまりは、その……理知的な一面や感心されるような女子力を披露するとか」
楓「デキる大人って、そういうものなんですかね?」
泰葉「わ、私に聞かれても。どうなんですか、高峯さん?」
のあ「……泰葉」
泰葉「はい?」
のあ「…………それだわ」
泰葉「えっ?」
━━━━後日━━━━
【岡崎家 空き部屋】
泰葉『というワケで……』
泰葉『今回は雑談でもなく悩み相談でもなく……』
泰葉『お三方に、デキる大人度チェックをして頂きます………ハイ』
時子「…………」
時子「……狂ったのかしら?」
泰葉『ク、狂ってないです………すみませんっ……』
のあ&楓「(……)」ドキドキ
☆つづく
──────
────
──
──
────
──────
【岡崎家 空き部屋】
『★来場者:8』
時子「……何かしら。この、打ち切り寸前のバラエティ番組が無駄な足掻きを見せているような不様なテコ入れは」
泰葉『ス、すみません…』
泰葉『今回の課題は全て公平性を期すため、私が考案させて頂きました』
時子「……別に良いけど」
時子「それより、何か甘い物ないかしら」
楓「は、ハイッ! ただいま持って参りますっ!」ガタッ
のあ「…」
泰葉『美しさやセンスや品の良さを醸し出す、凛とした所作』
泰葉『優しさや母性など、温かい包容力の一端を垣間見せる女子力』
泰葉『模範となる行動、一般常識、社交性』
泰葉『デキる大人であれば、皆さん当然備わっているかと思われます』
のあ「愚問ね」
楓「はいっ」
時子「……」サクサク
*{ カエデさんが凄いと予想}
*{ 楽しみ}
*{ 時子さん、物を食べてる時にちらっと見える唇がすごい綺麗}
*{ カエデさん頑張って}
泰葉『下馬評はカエデさんが一番ですね』
楓「えへへ……♪」
のあ「…」
時子「……」サクサク
*{ 時子さん、それ何食べてるんですか?}
時子「鳩サブレー」
泰葉『第一チェックは、“取り分け”です。ここにサラダとパスタを用意しました』
泰葉『これを上手に綺麗に、小皿で人数分取り分けてください』
泰葉『居酒屋や会食の場で、嫌というほどよく見る定番女子力アピールですね。ですがこれが意外と難しい』
泰葉『ちなみに、審査はご覧いただいている皆さんにお願いします。では、カエデさんから』
楓「はいっ! 居酒屋と言えば私ですっ!」
楓「では、いざっ……」スッ
泰葉『さあカエデさん、カトラリーから箸を選択して素早く盛り付けを行っていますが……』
楓「へ、ヘヘ……」ガタガタ
楓「………ァ。アァ……」プルプル
楓「フ、フヘ……、ちょ、ちょっとむ、難しい、ですね……っ」パラパラ
泰葉『カットレタスが枯葉のようにテーブルに舞い落ち、パスタがするすると箸から滑り抜けていきます』
泰葉『盛り付けも………、均等ではなくごちゃごちゃに混ざってしまって、もうレタスパスタのようになっています』
楓「み、ミニトマトはちゃんと一人ひとつで綺麗に分けられましたよ!」フフン
━━━━2分後━━━━
泰葉『元に戻しました。では次に時子さんお願いします』
時子「……」カチャ
泰葉『フォークとスプーンを器用に挟んで………、あ、もうこの時点でカエデさんより女子力高いですね』
楓「!?」
泰葉『トングのようにして綺麗に分けて、しかも手早い』
時子「……はい、終わり」
*{ 時子さんの圧勝}
*{ 時子さん家庭的}
*{ 時子様素敵です}
泰葉『つ、次は高峯乃アーデスハイトさんです……一応』
のあ「……」
のあ「……」カチャ
泰葉『さあ、高峯乃さんはフォークを手に取りました』
のあ「(……)」
のあ「(…………)」クルクル
楓「? パスタを巻き付けた?」
のあ「(…………)」
のあ「…………カエデ」
楓「は、はい?」
のあ「あーん」
楓「あ、あー……」パクッ
のあ「…………」
楓「……」モグモグ
のあ「……どうかしら」
楓「お、美味しいです」
のあ「…………そう」
*{ 高峯乃さん優勝で}
*{ 女子力関係ないけど、すごく良かったです}
**{ 私もあーんされたい}
時子「これ……、真面目にやらないほうがいいのかしら」
泰葉『ま、真面目にお願いします』
━━━━5分後━━━━
泰葉『第二チェック“食リポ”です』
楓「ま、また食べるんですか?」
泰葉『食べたのはカエデさんだけですね』
泰葉『食リポは芸能界で、誰もが一度は挑戦する道』
泰葉『グルメリポート、雑誌の紹介コラム、バラエティ企画などで多く経験する機会があるでしょう』
泰葉『その料理の味と魅力を、イメージを分かりやすく端的に伝えるのは実際かなりの技術と語彙力を要求されるでしょう』
泰葉『アイドルとして、皆さんも既に経験したことがあるのではないでしょうか?』
のあ「……ないわ」
楓「ないです」
時子「ええ」
泰葉『? 時子さんは意外ですね。割と多くの雑誌や海外ロケを行っていると耳にするので、そういった経験はお持ちかと思っていました』
時子「私のキャラで、ちまちまとした食リポは合わないわ」
泰葉『なるほど。言われてみれば』
楓「私、利き酒とかやってみたいです!」
のあ「……私も、利き肉とか興味あるわ」
泰葉『ああ、では高峯乃さんにちょうど良いものがあります』
のあ「えっ?」
泰葉『えっと……、ちょっと待っていて下さいね?』
━━━━1分後━━━━
ゴトッ!!
ゴトゴトッ!!
楓「……えっ」
時子「……」
のあ「!!」
楓「こ、これは何ですか? 冷凍の……」
泰葉『ご存じないですか?』
泰葉『3週間程前になりますか。とある4人組が、とある牛丼チェーンで16杯の牛丼を間違えて注文しました』
泰葉『1:1:1:13で割り当てられ、そのうち二人は自分の分を食べると猛ダッシュで帰宅』
泰葉『13杯分を食べることになった者も、3杯目の途中で断念し、店員にお願いし持ち帰ることに』
泰葉『そのうちもう一人は、その者に割り当てられた分の消化を手伝い、1時間ほど残ってくれました』
泰葉『その後、2日かけて7杯消費しましたが………まだ3杯残っているんですよ』
泰葉『今日廃棄しようと思っていたんですが、如何ですか?』
楓「(……ぁっ)」
時子「それ、大丈夫なの?」
泰葉『品質は落ちていますが、冷凍したので問題ないかと……恐らく』
のあ「や、ヤス……まさか、これ……」
泰葉『……』
のあ「あ、貴女もついに“吉ラー”になったのね……!」
泰葉『吉ラー!?』
泰葉『違いますよ! これは以前、私達4人で行った時の残りです!!』
のあ「……あ」
(※テイクアウト牛丼の長期保存は味を損ね、冷凍でも3週間の保存は品質の保障が出来ません。絶対に真似をしないで下さい)
━━━━10分後━━━━
泰葉『解凍しました。ではまず、時子さんから』
時子「……」
時子「……こんな牛臭い物、食すに値しないわ」
泰葉『牛臭いと言われても……、これ牛丼ですから』
泰葉『では次、カエデさん行きましょう』
楓「っ!」パクッ
楓「ん~っ!」モグモグ
楓「こ……、こんなに美味しいんですかぁっ!?」
泰葉「(わざとらしいリアクション)」
楓「えっとぉ、そうですねー……」
楓「あの……、え、あ、えー……」
楓「その…………、牛肉の臭みが主張するわけでも無く、油っぽさが主張するわけでも無く、タレの奥深いコクが主張するわけでも無く、ご飯の優しい甘みが特に主張するわけでも無く」
泰葉『じゃあ一体何が主張するんですか!?』
楓「え、えぐみが」
泰葉『さっき美味しいって言ってましたよね!?』
泰葉『次は、高峯乃さん』
のあ「……」パクッ
のあ「…………」モグモグ
楓&時子「(……)」
泰葉『いかがです?』
のあ「……当然、美味しいわ」モグモグモグ
のあ「厳選した素材は熟達の店員の腕を介し、丹念に煮込まれ柔らかくなった肉の旨味とタレの香りは、時を経過しても褪せることも無く……」
のあ「氷河期の凍土の如く、時代の至宝を遺すかのように保ち留めた泰葉の家の冷蔵庫は、驚愕の一言に尽きる」
泰葉『あ、ありがとうございます』
泰葉『……って何のリポートですか!? 冷蔵庫の性能!?』
*{ 頑張ってたカエデさんに一票}
*{ 冷凍でも三週間経ってるってヤバくない?}
*{ 3人とも、もう少しお面を上げてください}
のあ「……」モグモグ
━━━━10分後━━━━
泰葉『第三チェック“乾杯の音頭”』
泰葉『祝辞などと並び、こういった挨拶をスマートにこなしている大人を見ると』
泰葉『場数をこなしているなぁと、個人的には感心しちゃいます』
泰葉『去年の忘年会は留美さんが担当していましたね。実に簡潔で丁寧、かつ場の雰囲気に合わせた見事な挨拶でした』
のあ「忘年会?」
楓「あったんですか?」
時子「……」
泰葉『えっ?』
のあ&楓「呼ばれてない……」
泰葉「」
泰葉『ソ、その、今年は……私がしっかりお伝えしますよ』
のあ&楓「…」
泰葉『ではまず高峯乃さん、行ってみましょう』
のあ「ええ」
のあ「………」
のあ「…………………」
のあ「たッ」
のあ「堪え難きを耐え、忍び難きを忍び……、以て万世の為に……その、あの……」プルプル
泰葉『お、重い………その、もう少しマイルドに……』
泰葉『気を改めて二番手、時子さん。どうぞ』
時子「皆様、グラスをお持ちください」
泰葉「(じ、上品な優しい声色っ!! 違和感が……!)」
時子「皆様のお手元のグラスに注がれた赤ワインの量は今日この日、世界各国の紛争地帯で流されたと推定される血液と同量に調整されております。これの意味するところは、争いで失われた尊い犠牲を忘れてはならないというプロデューサーの配慮であると同時に、恒久の平和を───」
泰葉『小梅ちゃんがドン引きするくらいブラックすぎますよ!! 何の乾杯ですか!!!』
楓「では、次は私が行きますよ?」
泰葉『あ、ハイ。カエデさん、どうぞ?』
楓「さあ皆さんっ♪ 今日はビールをあびーるほど飲んで、飲んで、来年を楽しく迎えましょうっ♪」
楓「かんぱーいっ!」
*{ 楽しそうなので、カエデさん優勝}
*{ 学生のノリみたいだけど、むしろそれが良い}
*{ カエデさんダジャレ好きなんですか?}
泰葉「というより他二人が酷過ぎたので、相対的にカエデさんが良く見えたというべきでしょうか」
泰葉「では次に行ってみましょう」
楓「(……ッ?)」ギュルル…
━━━━10分後━━━━
泰葉『第四チェック“常識”クイズ』
泰葉『デキる社会人兼アイドルの皆さんなら完璧に備わっている、一般常識のクイズを出題します』
泰葉『早押しです。行きますよ?』
楓「はぁい♪」
時子「何を押すのよ」
泰葉『ス、すみません……、手上げでお願いします』
泰葉【問題。職場における基本的な行動『ホウ・レン・ソウ』、ホウは『報告』、レンは『連絡』、ではソウは?】
のあ「はい」
泰葉『高峯乃さん、どうぞ?』
のあ「騒動」
泰葉『ち、違います。ストライキでも起こす気ですか?』
楓「はいっ!」
泰葉『はい、カエデさん』
楓「騒然!」
泰葉『何が起こったんですか!?』
時子「……」スッ
泰葉『はい、時子さん』
時子「早期決着」
泰葉『だから何が起こったんですか!!?』
時子「相談」
泰葉「(ひ、ひょっとして時子さん………二人に乗ってくれてます?)」
泰葉『正解です、では次の問題に行きましょう。これも先程と似たような問題です』
泰葉【問題。職場における基本的な心構え『3S』とは、『整理』『整頓』、ではあと一つは?】
時子「はい」
泰葉『どうぞ』
時子「殺処分」
泰葉『どこの殺伐とした職場ですか!!』
楓「はいっ!」
泰葉『カエデさん』
楓「酒」
泰葉『一息ついたんですね?』
のあ「はい」
泰葉『…………はい、高峯乃さん』
のあ「さっぱりキレイ」
泰葉『ご長寿早押しクイズじゃないんですよコレ!?』
※その後、カエデが激しい腹痛を訴え、解散。原因は消費期限が切れた牛丼と判明。
ヤスが土下座し、時子はその様子を写真に収め、高峯乃アーデスハイトは外食に行きました
☆つづく
──────
────
──
まだ少し続きます。また次回。
すぐに更新します。
>>430
どうせ事務所の仲間しか見てないエンドの可能性
>>438
それだったら、泰葉どんだけ嫌われてるんだよ
──
────
──────
【岡崎家】
楓「クラス会?」
泰葉「はい。明日」
のあ「……」
泰葉「同じクラスの人から誘われて、その……、仕事の関係で今まで碌に参加していなかったので」
泰葉「ビュッフェのお店で食事と聞きました」
泰葉「明日の夜は生配信の4回目の予定でしたが………、すみません、延期という事でお願いできませんか?」
楓「いえいえ、そんな申し訳なさそうに謝らなくても……、ですよね、のあさん?」
のあ「ええ、勿論」
のあ「一期一会の時を大切に、その集会を優先するべきよ」
のあ「……精一杯、楽しんできなさい」
泰葉「は、はいっ!」
泰葉「……」
泰葉「(……?? 妙に聞き分けが良いなぁ……?)」
━━━1時間後━━━
【居酒屋】
楓「どうしましょう、明日」
のあ「……どうしようかしら」
店員「お待たせ致しました、こちらブリ刺しとたこわさです」
楓「ぁっ、はーい」
のあ「(……♪)」
楓「それで、配信ですが」
楓「泰葉ちゃんがいなければ、配信の進行はおろか、皆さんとの会話すらこなせる気がしません」
のあ「……確かに」
楓「あと、あの後に……」
~~~~~~~~~~
時子『いい暇潰しになったわ』
時子『個人的な用件も済ませたし、あとはこんな酔狂な事、勝手にやって頂戴』
時子『あと泰葉』
泰葉『は、はい?』
時子『たまに足を運ぶから。貴女の料理、少しだけ認めてあげるわ』
泰葉『はぁ……別に構いませ───』
泰葉『───ッ!?』
~~~~~~~~~~
楓「時子ちゃんも、もう配信者から卒業宣言してしまったし……」
のあ「んん……」
のあ「延期……、ではなく」
のあ「明日、私達ふたりだけでこなせないかしら」
楓「!!」
楓「だ、大丈夫ですか? だって泰葉ちゃんが、その……いない時には配信しないって約束を」
のあ「……大丈夫、問題ない」
のあ「大切なのは、歩もうとする勇気と意志よ」
のあ「人間という生物は知らない事象を畏怖し、畏れるからこそ想像を掻き立て、憧れを抱く」
のあ「そして畏れを振り払い、踏み出し、進化を続けてきた」
のあ「……楓」
のあ「私達にとって、今がその時ではないのかしら」
楓「のあさん……」
のあ「他者に頼らず、自立を目指し、経験を積み、力を呼び醒ます」
のあ「アイドルとしてまだまだ未熟な私達が殻を破り、光射す空へと飛び立つための………今が、その一歩ではないのかしら」
楓「……分かりました」
楓「トップへの道を踏み出しましょう、のあさん! 未知への挑戦ですね!」
楓「道だけに!」
【×④泰葉は映らない所でサポートする】
【×⑦泰葉が不在時は絶対に配信しない】
━━━翌日・夜━━━
【岡崎家 空き部屋】
のあ「……」
楓「……」
『★来場者:2』
楓「“ひとつ屋根の下放送局”、始まりました」
楓「お相手は、修学旅行で名も無い温泉の饅頭を買っちゃう派」
楓「カエデと?」
のあ「修学旅行でバスを間違えちゃう派」
のあ「高峯乃アーデスハイトです」
のあ&楓「イエー」
パチパチパチパチ
*{ お疲れ様です}
*{ あれ、今日は二人ですか?}
のあ「不服かしら」
楓「今日は、私達だけでお送りいたします。皆さん、ゆっくりしていって下さいね♪」
のあ&楓「イエー」
━━━━その頃━━━━
【クラス会】
生徒A「みんな飲み物持ってきたー?」
生徒B「誰か音頭とって、音頭!」
生徒A「じゃあ………折角だし、泰葉ちゃんいける?」
泰葉「私?」
生徒A「泰葉ちゃんならしっかりしてるし上手くできるかなぁって思ってさ、お願いだよ♪」
泰葉「え、えぇー……。こういうのはクラス委員の仕事じゃないの?」
生徒B「先輩、お願いしますっ! せんぱーいっ♪」
泰葉「馬鹿にしてない? もう……」
泰葉「えー……、おほんッ」
泰葉「……イ、いいの?」
生徒A「ウン。お願い」
泰葉「えー、今日はみんな、授業と部活お疲れさまでした」
泰葉「クラスの殆どの方が顔を見せていただいて、ありがとうございます。私も普段は参加できないことが多かったですが、今日は……、少しハメを外しても良いかなと思っています」
泰葉「時間は90分ですので、それまで思う存分楽しみましょう。でも、他のお客さんに迷惑をかけないようにね? じゃあコップを持ってー?」
泰葉「か、かんぱーい!」
───かんぱーい!!
泰葉「……」
泰葉「(えぇい、気にしていても仕方ないや。とりあえずあの二人の事は忘れて、楽しもう)」
━━━━一方━━━━
【岡崎家 空き部屋】
のあ&楓「かんぱーいっ!!」
カチン!
ゴクゴクゴク
楓「ふぅー」
のあ「……」
楓「美味しい芋焼酎ですねぇ」
のあ「そうね。カエデ、燻製出しましょう」
楓「良いんですかね? こんなフリーダムで」
*{ いいんです}
*{ これがデキる大人の飲酒実況なんです}
*{ ビール飲みたくなってきた}
のあ「……いつも、ヤスの前では飲んでいないから」
のあ「いない時くらい、良いでしょう」グビッ
楓「高峯乃さん、冷凍の磯部揚げも出しましょうか?」
のあ「そうね」クイッ
【×⑥有意義で生産的な活動を極力心がける】
*{ 酒飲んでる仕草が色っぽい}
*{ 猫とひょっとこのお面をつけていなければ相当な美人かもしれない}
*{ カオスな絵面}
のあ「……ふぅ」
のあ「お酒が入ると、会話もいける気がする」
楓「じゃ、じゃあ早速行きましょう! その……」
楓「な、なにを話しますか?」
*{ ずっと気になっていたけど、誰の部屋で撮影してるの}
楓「この部屋ですか?」
のあ「ヤスの部屋よ」
*{ ヤスのくせに滅茶苦茶整理してる}
*{ ヤスなら牢屋みたいに質素な部屋かと思ってた}
のあ「空気清浄機もあるし、おまけにいい匂いもする」
楓「私も部屋の掃除しようかな」
楓「ちなみに私の部屋はすぐ隣の隣、のあさんに至っては隣なんですよ?」
*{ 夢のようなアパートだ}
*{ 女子寮?}
*{ 近くに何か有名な建物とかありますか?}
のあ「都内のアパートよ」
楓「近くには……特に何もありませんね。行きつけの居酒屋と吉野家があります」
のあ「宇都宮線? 水戸線……?」
のあ「楓、分かる?」
楓「た、高崎線じゃなかったでしたっけ?」
楓「……ごめんなさい、全然分からないです」
のあ「おかわり頂戴」
楓「あ、ハイ」
【×①自分の素顔と本名は公開しない】
【×②個人情報が特定されるような単語を言わない】
━━━━その頃━━━━
【クラス会】
生徒B「ねえ、泰葉さん? なんか食リポとかやってよ」
泰葉「な、なんで?」
生徒B「イイじゃん♪ アイドルの仕事でそーいうのってやんないの?」
生徒C「輿水幸子とか姫川友紀とか小早川紗枝とかあの3人組、最近よくテレビでやってるよね」
生徒C「あと松本沙理奈と水木聖來の温泉巡りもこの前見たけど、食リポすっごい上手だったよ? ユルい雰囲気だったけど」
泰葉「私は……思い返すと、1回くらいしかないかも。食リポ体験って」
生徒B「マジで?」
泰葉「うん。他の人が言ってくれるというか……、私みたいなタイプはカメラに向けていい顔で美味しいって言っておけば周りはOKだから」
生徒B「うわー、ぶっちゃけるね」
泰葉「そ、そうかな。あの……オフレコでね?」
━━━━一方━━━━
【岡崎家 空き部屋】
のあ「ふぅ」
楓「もう一本開けちゃいますか、次は日本酒で♪」
*{ カエデさん、お酒強ぇ}
*{ 放送開始30分、すでに一升瓶が2本空いています}
*{ 本当にアイドルなのか?}
楓「アイドルですよ! しっけいなっ!」バンバン!
のあ「……暑くなってきたわ」
楓「あっ! その台詞の後に『脱いでいいですかぁ~??』って頻繁に口にする子が、ウチの事務所にいます!」
楓「これで証拠になりますか、ね??」
のあ「……脱いでいいかしら」
*{ 脱ぎたがりって有名なアイドルだと、とときん?}
*{ そこってかなり大手の芸能プロダクションじゃないか、ひょっとして}
*{ 脱ぐのはダメです}
のあ「……」グビグビ
楓「うぅん………他のアイドルの名前を出しても、私達自身がアイドルだという証拠には弱いですね」
楓「証明って難しい……」
【×③事務所の情報も曝け出さない】
のあ「カエデは酒が強いから、同じペースで飲むと参るわ」
楓「いえいえ、高峯乃さんも相当強いですよね。流石に機械と囁かれるだけあります」
のあ「私は……顔に出ないタイプだから」
のあ「取り繕えば外見からはあまり酔っていないかのように見えるけど、本当は頑張っているのよ」
楓「ああ、居ますよね。お酒の場で頑張っちゃうタイプ」
のあ「私は………サバイバルで例えると、誰にも空腹を悟られずひっそりと死んでいくタイプの人間だから……」
のあ「……だから、内心は酔いが回って凄いことになっているわ」
楓「どんな感じですか?」
のあ「……い、言わない」
のあ「……というより」
のあ「予ねてから気懸りだったのだけれど」
のあ「貴女は……、事務所に多く飲み友達がいるわね」
楓「ええ、そうですね」
のあ「……どうやって、その………作ったの?」
楓「のあさん……、高峯乃さん」
楓「確かに私は、貴女と同じく会話下手で、他人と接するのは得意ではありません」
楓「ですがお酒の場であれば別。お酒が入れば、もうこっちのものです」
のあ「……耳にしたことがある。楓は、お酒が入れば凄い楽しい人だと」
楓「委ねるんです。体をアルコールに」
楓「翌日になっていれば、何故か『私が居酒屋でフィーバーしていた』という身に覚えのない噂で持ち切りになっており……」
楓「周囲からは『また飲みに行きましょう』と勝手に誘われます。何故だかは、私もわかりません」
のあ「………」
楓「参考になりましたか?」
のあ「……今度、実践してみるわ」
*{ ところで、二人の後ろの棚にある巨大な箱は何ですか??}
楓「箱?」クルッ
のあ「これは……」
━━━━その頃━━━━
【クラス会】
生徒C「泰葉って一人暮らしだっけ?」
泰葉「うん、そうだよ?」
生徒C「じゃあ自炊だ?」
泰葉「そうだね……? 最近は複雑な事情で自炊を超えた事をやってる、かな」
生徒C「自炊を超えた?」
泰葉「複数人分のご飯を作ってるよ」
生徒C「え、何それ」
泰葉「(あっ……これマズイかなぁ)」
生徒B「なになに!? 泰葉さん、男でも連れ込んだの!?」
泰葉「な、なに言ってるのッ!? 違うよ……」
生徒C「でも、その複数人分ってどういう事?」
生徒B「泰葉さんって、彼氏とかいないの? 事務所的にNG?」
泰葉「あー、アー……うん、えっと……」
泰葉「……」
泰葉「(…………それにしても)」
泰葉「(あの二人、本当に大人しくしてるのかな……?)」
━━━━一方━━━━
【岡崎家 空き部屋】
楓「あっ! これってもしかして、泰葉ちゃんの誕生日用に高峯乃さんが買って贈った……」
楓「ウン十万した、特注ドールハウスですか?」
のあ「楓。ウン十万ではないわ」
楓「えっ……」
楓「ま、まさか………ウン百万?」
のあ「十ウン万よ」
楓「十ウン万……!」
のあ「特注ビクトリアンドールハウスのフルセット、ミニチュア制作キットおよび、有名キッチンウェア製品社限定コレクション付き……」
*{ やすはちゃん? ヤス?}
*{ ドールハウスでやすはで十時愛梨(仮)と同じ事務所って、まさか岡崎泰葉?}
*{ マジで? 本物だとしたらこの放送ヤバいんだけど}
**{ いえいえ、冷静に考えてください? 名前を出すだけなら、嘘でも私達だってアイドルって言い張れますからね?}
*{ やっぱり顔出さないと証明になんないね}
*{ ちょっと録画しとく}
のあ&楓「!!!!!!!」
楓「ァ……」
楓「ちちち、ち、ち、違いますよ!!! おおお岡崎泰葉じゃないですよ!!」
楓「その、あの、えっと………う、ウゥ……!」
のあ「この誕生日プレゼントは、(聞き間違えて)4月16日に渡したもの」
のあ「岡崎やしゅ、泰葉の誕生日は7月16日」
のあ「ここから導き出される結論は多分、全くの別人だという事。これが万物不変、世界の心理」
のあ「だから、録画もしないで欲しい」
*{ なぁんだ。別人か}
*{ 流石は高峯乃さん。アメリカ全土を平伏させるレベルの圧倒的な説得力}
*{ 紛らわしいなヤス}
*{ これだからヤスはどうしようもないな}
*{ 冷静に考えれば、あの準トップアイドルの岡崎泰葉がこんな放送をするわけが無かった}
のあ&楓「(ホッ……)」
楓「けれどヤスちゃん、これ開けたんでしょうか?」
のあ「……開けていないのなら、返金できるかしら」ボソッ
楓「えっ?」
のあ「ナ、何でもないわ」
*{ 見ちゃえ見ちゃえ}
*{ 十ウン万するドールハウス見てみたい}
*{ そもそも十ウン万ってそれ、伏せる意味ある?}
のあ「……」ガサゴソ
楓「あ。ヤスちゃん、これ既に開けてますね」
のあ「誘惑に勝てなかったのね」
のあ「(返金は無理かぁ……)」
━━━━その頃━━━━
【クラス会】
生徒A「泰葉ちゃんは、二次会に行くの? カラオケなんだけど」
泰葉「えっ、二次会? うーん……」
生徒B「聴きたい! 泰葉さんの生歌聴きたいっ!」
生徒B「東京ドームのチケットが一瞬で完売する泰葉さんのライブが観たいっ!」
泰葉「そ……その時のライブは他のみんなもいたし、私だけの力じゃないよ」
泰葉「く、クラスの人の前だと普通に恥ずかしいな。とりあえず、最後のデザート食べてから決めていい?」
生徒C「あ、話題逸らした。 絶対逃げる気だ」
泰葉「ここのデザート、本当においしいよ? 特にこのラズベリーのクレープが、ほら?」スッ
生徒B「あーん♪」
泰葉「ハイ、あーん」
生徒C「何その、自然な流れであーんに持っていく技」
生徒A「泰葉ちゃん、女子力高いね♪」
泰葉「これ女子力っていうのかな?」
生徒C「どちらかと言うと小悪魔では?」
泰葉「(カラオケ……、どうしよう。慣れてないから恥ずかしい)」
泰葉「……」
泰葉「(………それより心配になってきた。あとで電話しようかな……?)」
━━━━一方━━━━
【岡崎家 空き部屋】
楓「ぶはぁッ!」
楓「フゥー……!」トクトクトク
*{ 放送開始80分、遂に5本目の一升瓶に手を付ける}
*{ ぶはぁッ!}
*{ アイドルという肩書が危ぶまれる}
*{ これは自称アイドルの可能性が}
*{ むしろ女性の品性が失われつつある}
のあ「……へえ」
のあ「随分と精巧な意匠を凝らしてるわね」
楓「すごいですねー、今のミニチュアって」
楓「キッチンウェアのミニチュア、光沢や細部まで、いかにも本物っぽいですね」
のあ「リアルね」
のあ「ヤスが熱中するのも、頷けるわ」
楓「この扉とか、ホラっ! 開きますよ!」
のあ「扉は流石に開くでしょう」
楓「んー……、じゃあ……」
楓「高峯乃さん高峯乃さん? この電燈ってスイッチが付いてますけど、明かりがつくんですか?」
のあ「……」カチッ
のあ&楓「!!」ビクッ!
楓「うわっ! つ、付きました!!」
のあ「細部まで忠実に再現してるわね」
のあ「……」ドキドキ
のあ「これ、説明書によれば……」
のあ「このキッチンウェアのミニチュア。実際の料理が出来るとか」
楓「じ、実際の料理!?」
*{ 十ウン万しただけはある}
*{ 要らんとこ拘ってるな}
*{ かがくのちからってすげー!}
楓「!! ほ、本当だ。実際に図解まである」
のあ「本物の具材を細かく切り分け、調理する。鍋料理にローストターキー、ドーナツまで……」
楓「でもコレ、鍋とかフライパンとかの調理器具は角砂糖より一回り大きいくらいで……」
楓「竈(かまど)なんて、寸法が名刺くらいの大きさしかありませんよ? 器用な指先のスキルが要求されますね」
楓「ご丁寧に小さな蝋燭までありますよ」
のあ「全て、耐熱性ということかしら」
楓「!? べ、ベビースターラーメンくらいの太さしかない蛇口から水まで出ますよ!?」
のあ「時代は変わるわね……」
楓「昔はリカちゃん人形でドロップキックさせあう位しか出来なかったのに……」
のあ&楓「……………………………」
のあ「何か、作る?」
楓「……そうですね♪」
のあ「メニューは?」
*{ ベーコンエッグ}
*{ カレー}
*{ 野菜炒め}
*{ アップルパイ}
楓「ではリクエストの中で、簡単そうなベーコンエッグに挑戦してみましょうか♪」
のあ「早速取り掛かりましょう」ガサガサ
【×⑧危険な事は絶対にしない】
━━━━その頃━━━━
【クラス会】
泰葉「(はー、お腹いっぱい)」
泰葉「(やっぱり同年代と話すと、落ち着くな……。すごい楽しかった)」
泰葉「(確かにあの二人も気懸りだけど、流石にいい大人だし……大丈夫だよね?)」
~~~~~~~~~~
楓『いえいえ、そんな申し訳なさそうに謝らなくても……、ですよね、のあさん?』
のあ『ええ、勿論。一期一会の時を大切に、その集会を優先するべきよ』
のあ『……精一杯、楽しんできなさい』
~~~~~~~~~~
泰葉「(…………)」
生徒A「泰葉ちゃん」
生徒A「二次会は大半が行くって言ってて、部活で遅れていたメンバーも数人合流するみたい」
生徒A「カラオケ、どうする? 電話で予約しちゃうけど」
泰葉「あっ、そうだね。えっと……」
泰葉「(………………………………………………)」
━━━━一方━━━━
【岡崎家 空き部屋】
のあ「このフライパンの直径が2㎝だから、ベーコンは1.5×0.7くらいの面積で2枚」
のあ「……ハサミで」ジョキッ
楓「玉子は黄身を少量、白身も少量、実際の卵から採取」
楓「……スポイトを使用し、ミニ計量器に入れ、攪拌棒でそれぞれ混ぜる」プルプル
のあ「……」ジー
楓「……」ジー
楓「高峯乃さん。これ、私のほうがハードル高くないですか?」
のあ「ぁっ」
楓「……」ジー
のあ「……」ジー
楓「ぁうっ」
のあ「……」ジー
楓「……」ジー
のあ「ピンセットを器用に使って、極小の折り紙で折り鶴を折っている気分ね」
楓「極細の筆を巧みに使って、米粒に般若心経を書いてるみたいな気分です」
のあ「………………………………………………………………………………………………………………………………」ジー
楓「…………………………………………………………………………………………………………………………………」ジー
のあ「ふぅ」
のあ「できた」
楓「できましたね」
のあ&楓「(正直疲れた……)」ハァ
のあ&楓「(途中で投げ出したかったけど、向こうが真剣だから言うに言えず……)」
のあ「……」
のあ「あとは実際に調理する工程に倣い……」
楓「油をひいて焼くだけですね!」
楓「それくらい私にも出来ますよ、任せてくださいっ!」バッ!
のあ「待って。火を灯さないと」カチッ
のあ「備え付けの蠟燭を付けて、竈の下に挿入して……」
楓「フライパンをセットして、約4分!」カコッ
楓「楽勝ですねっ、これなら毎日できそうです!」
のあ「ふぅ、……ふぅ」
のあ「完成まで暇ね」
楓「そうですねー」グビッ
のあ「カエデ。先ほどから、一つ気になっていたのだけれど」
楓「はい?」
のあ「ドールハウスというのは、可愛らしい人形があってこそ成立する玩具のはず」
のあ「実際の生活空間を切り取り、忠実精巧に調度品や内装を表現するのは良いのだけれど……如何せん、寂しいと感じないかしら」
楓「言われてみれば、確かに」
楓「ヤスちゃん、お人形さんは集めていないんでしょうか?」
のあ「ん……」ガサッ
楓「?」
のあ「不透明の袋が、箱の底にある」ガサガサ
のあ「中に何か入っている。開けてみるわ」
楓「(………)」
楓「い、今思ったんですが……今更ですが……」
楓「私達ちょっと、好き勝手に物色し過ぎじゃないですかね?」
のあ「……確かに」ゴソゴソ
楓「今度、お互いの部屋の合鍵をヤスちゃんに渡しましょうか」
楓「元から、そういう約束でしたしね」
のあ「……そうね」ガサゴソ
のあ「怒るかしら。今更だと」
楓「思い返せばよく許してくれてますよね。同じ事務所といえ、あかの他人ですよ?」
楓「合鍵預けて、留守中に勝手に上がり込まれて、好き勝手に物色されて」
のあ「おまけに、料理も振舞ってくれる。嫌な顔一つせず」
楓「……内心、疎ましく思っていたりして」
のあ「……」
のあ「なんだか、心が痛むわ」ゴソゴソ
のあ「もう少し私達も甘えず、節度と遠慮を覚えましょう。迷惑に思われたら……、少し辛いわ」
のあ「あの子も、まだ16歳の子供なんだし」ガサゴソ
楓「そうですね。頑張りましょう!」
───ガサッ
のあ「ほどけた。………これは」
楓「あっ、お人形さんですね?」
のあ「そのようね、可愛らしい♪ 3体の───」ピタッ
のあ「………………」
楓「………………」
のあ「……………………………………………………」
楓「……………………………………………………」
のあ「………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
楓「………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
楓「これ、私達……ですか?」
楓「フェルトと細い毛糸で、素朴で分かりやすくて、小さくてとっても可愛らしい」
楓「今にも動き出しそうなくらい………まるで、心がこもっているような」
のあ「私と楓、あと泰葉ね」
のあ「髪の色も、服装もしっかり似せて」
のあ「あの子が自作したのかしら」
楓「………恐らく」
のあ「こんなもの、一体いつ……」
楓「まだ作り立てのような感じがします。毛玉も汚れも付いていないし、きっと……」
楓「のあさんに、プレゼントを買っていただいたすぐ後じゃないでしょうか」
のあ「…………」
楓「…………」
のあ「……私達、なにをやっているのかしら」
楓「……彼女に怒られるとか、疎まれているとか、迷惑に思われているとか……」
楓「私、泰葉ちゃんの事がようやく分かった気がします」
のあ「……ええ」
のあ「泰葉……、貴女は───」
*{ うわあああああああああああああああああ}
*{ 横を見てくれえええええええええええええええええ}
*{ 燃えてる!!!!! 燃えてるよおおおおおおおおおお!!!!}
のあ&楓「えっ??」クルッ
パチ、パチパチッ!
パキン、パキッ
───ボオオオオオオォォッ!!!
のあ&楓「(!!??)」
のあ「す、少し目を離した間に、や、焼けすぎたッ!?」
のあ「な、なにもしてないのにッ!!」
楓「うわ、わ、………と、とにかく消しましょうッ!!!!」
のあ「ま、まず換気を……ッ!!」ガタガタ
楓「~~~~~~ッッッ………!!」
楓「あ、扇いだほうが、いい、良いですかね!?」オロオロ
のあ「い、いえ、水を掛けた方が早いわッ!!」ガタガタ!
楓「ま、まずいですよッ!! ドールハウス全体に火が───」
ブシューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
のあ「アヴッ!?」
楓「ぶえっ!?」
のあ「ゲホッ!! ゲホッ……!?」
楓「ごっほ!! えっほ……!?」
時子「……」
のあ「───と、」
楓「時子ちゃん!!」
のあ「消火器……!!」
時子「なにやってんのよ」
時子「バカ」
ブシューーー!!!
楓「ト、時子ちゃ───ちょっ……ゲホゲホッッ!!」
のあ「モ、もう火は消え───ぶほっ! ごほっ!!」
時子「(…………)」カチッ
━━━━その頃━━━━
【クラス会】
生徒A「うん、分かったよ」
生徒B「えぇー!? 泰葉さんカラオケ行かないのぉ!?」
泰葉「うん。ごめんね?」
泰葉「……明日事務所で用事があって、今日は早めに帰らせて貰おうかな」
生徒C「忙しいんだ」
泰葉「折角の機会で、残念だけど………ごめんね」
生徒C「ううん。大変だね」
生徒B「泰葉さん! じゃ、じゃあ今度誘うから、遊びにいこ!? 暇な時あったら、いつでも言って?」
生徒A「ウン、今日はお話出来て私達も楽しかったよ。お仕事頑張って♪」
生徒C「また、色々話聞かせてね。私達、すごい興味あるから」
泰葉「う、うん。私も今度、練習してくるから」
生徒A&B&C「練習??」
泰葉「な、何でもないっ! じゃあまた今度……、約束ね?」
泰葉「(…………)」
ppppppp……!!!
pppppppp……!!!
泰葉「!」
泰葉「(電話?)」
泰葉「ンッ!!」
泰葉「も、もしもし?」
のあ『モ……もしもし……っ』
泰葉「高峯さん? どうしたんですか、電話なんて」
のあ『ウゥ……』
泰葉「珍しいですね」
のあ『ヤ、泰葉ちゃん………その……っ』
泰葉「(ちゃん付け……)」
のあ『オ、落ち着いて、聞いてね? アノ、その……』
泰葉「……??」
のあ『ごめんね、その…………は、配信しちゃって……』
泰葉「配信……? あ、配信しちゃったんですか?」
泰葉「もう……やっぱり。約束したのに」
のあ『!! ゴ、ごめん! ごめんね……その、それで……』
のあ『え、炎上した……』
泰葉「っ!?」
泰葉「炎上し、たッ!? な、なにしたんですか!?」
泰葉「顔出したり、誰かを特定されたとか……!?」
のあ『ち、違うの……アゥ、ソノ、その……っ』
のあ『エ、炎上したの……』
泰葉「ネットがですか!?」
のあ『泰葉ちゃんの、家が……』
泰葉「」
━━━━一方━━━━
【岡崎家】
ブツッ!!
のあ「ぁっ……」
時子「切られた?」
のあ「……」コクン
時子「あーあ」モグモグ
楓「お、落ちませんっ……テーブルの焼け焦げ……」ゴシゴシ
楓「時子ちゃんの家にあった、『激落ちパパ』で頑張って擦っても落ちない……」ゴシゴシ
時子「昔、百均で買ったのよ。そのメラミンスポンジ」モグモグ
時子「やっぱり、クソの役にも立たないわね。所詮100円じゃあ」パクパク
時子「ホラ。庶民らしく齷齪手を動かしなさい」
楓「うぅぅ……」ゴシゴシ
時子「ドールハウス半壊、テーブルには焦げ滲み、おまけに……」モグモグ
時子「ちょっとこの部屋………臭うわよ」
のあ「ウゥ……」
時子「絶対怒るわね、あの子」
時子「何故約束を破り強行したのかしら。躾けられた豚でさえ言いつけは守るというのに、理解に苦しむわ」
時子「おまけに、いい歳して火遊びで事故を起こすなんて、貴女達の親が見たら恥ずかしさのあまり顔から火が出るのではないかしら」
楓「ひ、火遊びだけに……?」
時子「黙って手を動かしなさい」モグモグ
楓「は、ハイ……」ゴシゴシ
のあ「怒られる……、折角信頼されてたのに……」グスッ
楓「人形まで作って貰ってたのに……っ」ゴシゴシ
時子「……なにそれ」
楓「? や、泰葉ちゃんのドールハウス用の人形……」
のあ「私と楓と泰葉ちゃんの3人に、似せた手製の人形が……」
時子「…………へえ」
楓「あの、もし良ければ時子ちゃんも手伝ってくれたらなぁって……」
時子「嫌よ」モグモグ
時子「とりあえず、泰葉の開口一番に土下座する練習でもしたらどうかしら?」
楓「靴を舐める準備もしておきます……」
時子「殊勝な心がけね」
のあ「服も脱いでおくわ……」
時子「へえ」
───ガチャ!!
のあ&楓「ヒッ!!」
時子「……」
ドタドタドタドタ!!
ガチャッ!
泰葉「ハァ、ハァ……!!」
のあ「ヤ、泰葉……」
楓「ア、あの、そのっ……」
泰葉「…………ッ!」
泰葉「だ、大丈夫ですか!? お二人とも……っ!!」
のあ&楓「えっ?」
時子「(……)」モグモグ
泰葉「楓さん! 生きてましたか!?」
楓「あ、えっ………あっ、ハイ……」
泰葉「よ、よかった……っ゙」グスッ
のあ「!! ……泰葉」
泰葉「ヴッ……、そのっ……!」
泰葉「た、高峯さんから電話で、い゙、家が、燃えたと聞いて……、あ、頭が真っ白にな゙って……っ」ポロポロ
泰葉「わ゙、私が前日に、も゙っと二人に強く釘を、刺しておけばと思って、も゙、も゙ゔダメだと思っ゙て……」
泰葉「楓さん゙の声が聞ごえなかったから、絶対に、や、焼け死んだと、お゙、思って……」グスン
楓「」
泰葉「でも………家に着いても、消防車がいないから、い、一体何が起きたかと思って……」
泰葉「ホント、じ、心配じだじゃないですかぁ゙…………、グズッ……」
楓「泰葉ちゃん……、その……」
のあ「ごめんなさい。心配を掛けて」
楓「約束破って、ごめんね? 泰葉ちゃん……」
泰葉「うぅっ……」
時子「……」モグモグ
時子「………ハァ」
時子「泰葉。このクッキー、貰っていくから」
泰葉「えっ?」
時子「とんだ茶番。二人の全裸土下座の写真でも収めようとしたのに」
時子「我ながら、無為な時間を過ごしたようね。失礼するわ」スッ
楓「あ、あの……、時子ちゃん」
楓「その…………ありがとうございました」
のあ「………時子」
時子「…………」
時子「燃えたら困るのよ」
時子「隣の、私の部屋が」
───ガチャ、バタン
のあ&楓「(ごもっとも……)」
━━━━10分後━━━━
のあ「ヤ、泰葉?」
楓「お、怒ってます?」
泰葉「……怒ってません」ムスッ
泰葉「ドールハウスが燃えたんですね……。『家』って、そういう事か」
泰葉「でもせめて、勝手に配信しないで一声かけてくれれば良かったのに」
のあ&楓「お、仰る通りです……」
泰葉「……あっ!!」
のあ&楓「ッ!?」ビクッ!
泰葉「あの……、見ました? 箱の中にあった人形」
のあ&楓「(!!!)」
楓「……………………」
のあ「……………………」
のあ「………………ニ、人形…………、知らないけれど……?」プルプル
楓「ソウデスネ……、ナ、ナンノコトヤラ……」プルプル
泰葉「そ、そうですか。良かった」
泰葉「ちょっと私的で恥ずかしい物なので。別に何でもないですけど」
のあ&楓「…………」
のあ「泰葉、今回は本当に申し訳のないことをしたわ」
楓「弁償もしますし、合鍵も返します……」
泰葉「? いえ、別に持って頂いていいですよ。弁償もそんな……」
泰葉「今回は、私もクラス会で浮かれていた面もありますし……」
のあ「!! か、監督不行き届きで……全面的に免じてくれるなんて……っ」グスッ
楓「おまけに、今後も美味しい料理を作ってくれるなんて……」ウルウル
泰葉「調子に乗らないで下さい。撤回しますよ」
のあ&楓「ス、スミマセン…」
泰葉「……年下の手前、偉そうな事は言えませんが……」
泰葉「その……貴女達は傍から見たら、無駄にアグレッシブなコミュ障なんですから、もう少し大人の自覚を持ってですね……」
のあ「む、無駄に!?」
楓「あ、アグレッシブな!?」
のあ&楓「コミュ障!?」
のあ「略してMAC(マック)!?」
泰葉「なんで略したんですか?(しかもDAIGOみたいに)」
楓「い、言い過ぎじゃないですか!?」
のあ「と、特にコミュ障だなんて……!!」
泰葉「す、すみません……。コミュ障は流石に言い過ぎました」
泰葉「でも、ちょっとは流石に反省してくださいね? こんなの、恥ずかしくて親に顔向けできませんよ」
のあ&楓「ウッ…………」
のあ&楓「……………す、すみません」
のあ「私達の部屋の合鍵、渡します……」
楓「何でもします……、一気飲みとか」
泰葉「ご褒美じゃないですか」
泰葉「……じゃあ弁償はいいですから、兼ねてから疑問に思っていた二人の部屋の合鍵と、あと……」
のあ&楓「?」
泰葉「あと、もし二人が良ければ……」
泰葉「……カラオケの練習、付き合ってくれませんか?」
泰葉「四六時中、二人が心配で仕方なかったですよ。なので二次会のカラオケを断って様子を見に帰ろうと決めたところで……」
泰葉「高峯さんから、電話が」
のあ「……」
泰葉「次の機会にクラスの皆の前でちゃんと歌えるように、練習したいなぁと………その、思いまして」
のあ&楓「…………」
泰葉「な、なんですか! その訝しげな目線は……っ」
のあ&楓「…………」
のあ「カラオケ……」
楓「行ったことないです……、その、私は常に体調不良で断り続けてきました……」
のあ「人前で歌うとか…………絶対に無理」
泰葉「ただのコミュ障じゃないですかッ!!!」
━━━━後日━━━━
【岡崎家】
泰葉「(あの事件から、2週間が経ちました)」
泰葉「(焼けたドールハウスは、もともと高峯さんから頂いたプレゼント)」
泰葉「(少し高額すぎて私も持て余し気味だったので、無くなって良かったとは言いませんが、弁償の申し出は断りました)」
泰葉「(その代わり、焦げたテーブルと芳ばしい臭いが染みついたカーテンの代替品を買ってくれるとのことだったので、それはお言葉に甘えておきました)」
泰葉「(ちなみに)」
泰葉「(今回のぼや騒ぎは、竈の中に入っていた緩衝材の紙を取り忘れて、それに引火したのが原因のようです)」
泰葉「(……その後、時子さんは『配信の約束を破っただけで、生命の危機に関する事態に発展するなんて、予測不可能ね。あの二人』とため息交じりにぼやいてましたが……)」
泰葉「(……本当に、大事にならなくて幸いでした)」
泰葉「(あと)」
泰葉「(二人とも流石に反省したようで、動画配信は凍結。それと……)」
泰葉「(あれから、めっきりウチに来ることが無くなりました)」
泰葉「(二人の部屋の合鍵は貰いましたが……、足を運ぶ理由も無く、持て余しています)」
泰葉「(週三で遊びに来ていた、子供のように騒ぐ二人の大人が居なくなって、少し寂しい気持ちもありますが………)」
泰葉「(ただ……、その代わりに…………)」
泰葉「……」チラッ
時子「……」モグモグ
泰葉「(どうしてこうなった……)」
時子「泰葉。お茶頂戴」
━━━━━━━━━━
【事務所 給湯室】
のあ「……ハァ」
のあ「火事は起こすし、動画収入は結局ゼロ」
のあ「お金は無いし……、今日の昼ごはん、うまい棒」サクサク
のあ「…………」
のあ「あれ……、なんだろう」
のあ「涙が……」
のあ「……っ」
のあ「私って……、ひょっとしてデキる女じゃ無いのかな……?」
のあ「…………」サクサク
のあ「……無駄に、アグレッシブな、コミュ障……」
のあ「……略してMAC」
のあ「……」サクサク
のあ「あれっ? カッコイイかも……」
───ガチャ
雪美「……」
のあ「オ、おはよう。雪美」
のあ「今日もカップ麺かしら」
雪美「……違う」フルフル
雪美「さっき……プロデューサーに買ってもらった…………、だぶるそーだ?」スッ
のあ「ダブルソーダ……、あぁ、二つに分かれるアイスね。ナルトと自来也が一緒に食べてた……」
雪美「??」
のあ「ゴ、ごめんなさい。なんでもないわ」
雪美「……」
───パキッ
雪美「……はい」スッ
のあ「えっ?」
雪美「のあ……、最近お昼に……、そのさくさくのしか、食べてないから……」
雪美「……これ、あげる」
雪美「はんぶんこ」
のあ「……………………………………………………………………………」
雪美「……どうぞ?」
のあ「……………………………………………………………………………」
雪美「のあ……?」
のあ「……雪美」
のあ「世の中………お金だけではないのね」
雪美「……のあ……泣かないで?」
のあ「……」グスッ
のあ「(……頑張ろ)」
★おわり
──────
────
──
以下、
1.おまけ①②③④⑤⑥
2.番外編A.B
3.番外編C
になります。もう少々お付き合いいただければ幸いです。
──
────
──────
【おまけ①】
【事務所 廊下】
のあ「(……♪)」スタスタ
のあ「(ようやく取れたわ、『ぴにゃこら太』のキーホルダーっ!)」
のあ「(泰葉ちゃんの情報によると、それはそれはもう大変な人気があって……)」
のあ「(この間、島村卯月ちゃんと本田未央ちゃんも事務所で話してた、話題沸騰中のブサカワキャラクター)」
のあ「(ふふっ……、結構愛嬌のある顔してるじゃない)」
のあ「(このまぬけ面で何を考えているのか読めない所が………どことなく私に似ているかも)」
のあ「(つまり私って、愛されキャラ?)」
のあ「(……♪)」ドキドキ
のあ「(……とにかく)」
のあ「(これさえあれば、皆との会話に入れる………または注目の的にっ♪)」
のあ「(~~~…♪)」スタスタ
のあ「お、おは───」ガチャ
卯月「あれ、未央ちゃん?」
卯月「この前の、ぴにゃこら太のキーホルダーはどうしたんですか?」
未央「うん? あぁ、アレ?」
未央「……どっか落としちゃった」
未央「というか、事務所の机に置いてたんだけど、いつの間にか無くなっててさー?」
未央「まあでも……、別に良いかなぁって。投資も100円だし」
未央「持て余してたから」
のあ「(───ッ!?)」
卯月「ウッ……」
卯月「うぅん。事務所の皆も『微妙』って言ってますし」
卯月「私も最近、疑問に感じてきました。私は普通だと思いますけど……」
未央「噂に流れるから気を引き締めないと、日本人は。分かるかね、島村君?」
未央「もっと本質をみたまえ、本質をっ! …………なぁんて」
卯月「うーん……、可愛く、ないですか?」
のあ「(……)」パタン
のあ「(…………………………っ)」
のあ「(……うっ)」
のあ「(嘘つき……。や、泰葉ちゃんの嘘つきぃ……っ)」グスッ
のあ「(流行ってるって言ったのに……、事務所で流行ってるって言ったのに……っ)」
のあ「(クレーンゲーム……、に、2万もかかったのに……っ)」グスン
のあ「(こ、こんなキャラ、ちっとも私になんて似てな───)」
ポンポン
のあ「───っ?」クルッ
凛「やっ」
凛「おはようございます、高峯さん」
のあ「リ……凛? お、おはよう」
凛「ん」チャリッ
のあ「!!! そ、それは……っ!」
凛「これ、ぴにゃこら太」
凛「の、キーホルダー。この前、偶然見つけたんだ」
凛「私は好きだよ。このキャラ」
のあ「!!」
凛「おお。高峯さんも持ってるんだ、奇遇」
凛「これで私と貴女はトモダチだね」
のあ「と、友達……」
凛「ハイ、高峯さん指出して? 人差し指」
凛「私の人差し指とくっつけて? よし、準備OK」
凛「トーモーダーチー」
凛「うん、完了。はい」
凛「……じゃあね♪」ヒラヒラ
スタスタスタ
───ガチャ、バタン
のあ「……………っ……??」
──────
────
──
【おまけ① 終】
※おまけ、番外編登場人物
http://i.imgur.com/oqmiB1H.jpg
──
────
──────
【おまけ②】
【とあるマンション】
マストレ「……むぅ」
ベテトレ「……ううむ」
トレーナー「どうしたの、お姉ちゃん達?? 難しい顔しちゃって」
ルキトレ「お姉ちゃん、お風呂沸いたよー!」トコトコ
トレーナー「??」
マストレ「……」
ベテトレ「……」
マストレ「ある一人のアイドルについて、思考を巡らせていた」ウーン
ベテトレ「……まさか、ヒラリーが負けるとは思っていなかったんだ」ハァ
マストレ「……」
ベテトレ「……」
トレーナー「……」
ルキトレ「……」
マストレ「……」ギシギシギシ!
ベテトレ「イ゙ァ…、ガッ…!!」ギュウウゥゥゥゥ
ルキトレ「麗お姉ちゃん!? それ以上やったら落ちちゃうよ!!!」
ベテトレ「ギ、ァ……首ッ…折レ…、ギ、ギブ、ッ、ギぅギぅ……!!」
トレーナー「白目向いて泡吹いてる!! やめてあげてッ!!」
マストレ「オイ。大統領選関連株にいくら投資した、いくらスッた?」ミシミシミシ!
マストレ「正直に言ってみろ、聖」
ベテトレ「ァ!! ……ぁぐっ…!!」
━━━━5分後━━━━
トレーナー「高峯のあさんっ!?」
マストレ「? なんだいきなり、素っ頓狂な声を出して」
トレーナー「あ、ううん。ただ……」
トレーナー「あの人……、か、格好いいよねっ♪」ポワポワ
ルキトレ「事務所でもみんな言ってるよねー。いいなぁ、私もお話ししてみたいなぁ」
マストレ「いや、詳しくは知らんが」
マストレ「……『寡黙の女王』高峯のあ」
マストレ「見目麗しいクールビューティーと囁かれてはいるが……なんだ、その……この間、彼女とビジュアルレッスンを行ったのだが」
トレーナー「高峯さんとビジュアルレッスンかぁ。ラブ・ロマンスな場面で演技指導とかしてみたい………むしろ───」
マストレ「張子の虎と言うか、外見とは裏腹と言うか、夢にも思わないというか……」
ルキトレ「ねえねえ、誰もお風呂入らないなら、私が一番最初に入っていいですかー?」
マストレ「……お前達、私の話、聞いてる?」
トレ&ルキ「聞いてる」
マストレ「本当に?」
マストレ「つまり、だ。彼女は表情の演技については、あまり慣れていないらしい」
トレーナー「じゃあ、今度私が高峯さんと───」
マストレ「慶。前に頼んだ成績表、出来てるか?」
マストレ「以前私が書こうとしたのだが……、気の利いた指南をやれなかった。慶に代理を頼んだのだが……」
ルキトレ「うん♪ じゃあ今回も私が高峯さんの成績表付けとくね♪」
ルキトレ「今度は、コメントも書いておくよ? 元気出してくれるといいケド」
━━━━後日━━━━
【岡崎家】
楓「……」
泰葉「……」
のあ「……」
~~~~~~~~~~
★Vi(ビジュアル)
高峯:D
・総評……高峯さん、こんな感じで笑って、元気出してください♪ 難しく考えず、頭空っぽにして気楽に行きましょう♪
~~~~~~~~~~
のあ「こ、今度は……『D』……っ!」
楓「のあさん……、めげずに前を向きましょう。ありもしない評価を出されたという事は、逆に考えるとこれはラッキーですよ」
泰葉「(以前の評価は『0』。今回は『D』)」
泰葉「(これ……まさか……、いや、でもこんな幼稚園児の先生みたいなイタズラ……)」
のあ「……グスッ」
──────
────
──
【おまけ② 終】
──
────
──────
【おまけ③】
【ライブ会場 関係者通路】
伊吹「んー……」
伊吹「奏、早く行こーよ? 挨拶するんでしょ?」
奏「ちょ……、ちょっとまって」
奏「……」
奏「(この先の楽屋に、本番を控え静々と瞑想し精神集中している高峯さんがいるのね……)」
奏「(はぁー、はぁー、ハァー……)」ドクンドクン
奏「(……っ、何を心乱しているのかしら。意中の人を校舎裏に呼び出して、その人の来訪を今か今かと待つ純情な乙女でもあるまいし)」
奏「(けれどこの、早鐘を打つような高揚と緊張は一体…………まさか、これが、いや……)」
奏「(相手はあの寡黙の女王。ランクは私の方が上だけど、多少気が張って息が詰まるのは自明の理)」
奏「ふっ……」
奏「ごめんね、今落ち着いたから。行きましょう、伊吹ちゃん」スッ
伊吹「それ首相のポスターだよ。舐めてんの?」
━━━━2分後━━━━
【楽屋前】
伊吹「さて…………、うんっ?」
奏「なに?」
伊吹「誰かの声がする。高峯さんと……」
奏「エッ?」スッ
伊吹「わっ……、なにその無駄に洗練された動き。ドアに耳当てて、盗み聞き?」
伊吹「自然な流れ過ぎて違和感なかったけど、盗み聞きはやめよーよ。ね?」
奏「(…………)」
伊吹「(うわっ、スルー)」
━━━━━━━━━━
【楽屋】
周子「やっほー」ヒラヒラ
のあ「!!」ガタッ
のあ「し、周子ちゃん? 久しぶり……」
周子「のあさんと会うのは、紗枝ちゃんと一緒に雨宿りしてた時以来かな?」
周子「どう、緊張してる?」
のあ「…………」コクン
周子「結構大きな会場だしね。しょうがないかー」
のあ「し、周子ちゃん……どうしてここに?」
周子「ん? んー………暇だったからかな。プロデューサーが融通を利かせてくれて、ここに入れて貰ったんだよね」
周子「エールに来たよ。のあさん、気張りや」グッ
周子「終わったらさ、どっか甘い物でも食べに行こーよ。シューコちゃんが奢ったげる」
のあ「お、奢ってくれるの!?」ガタッ
周子「喰い付きいいねぇ。うん、いいよ」
周子「近くに話題のシュークリームのお店があるんだ。一緒によばれようと思おて♪」
のあ「ウン……! し、周子ちゃん、約束だからね?」
周子「うんうん、その調子でLIVEバトルもぱぱっと乗り切っちゃおー」
のあ「ふふっ……♪」
周子「へへ……」
のあ「シュークリームかぁ……、そう言えば周子ちゃんって……」
周子「うん?」
のあ「『塩見周子』って名前、なんかシュークリームみたいで美味しそうだよね」
のあ「思わず、食べちゃいそうな名前してる」
周子「んー、確かに」
周子「初めて言われたよ。ふふふ……」
のあ「フフッ……♪」
のあ「気が緩んで、少し元気出てきた。頑張るね」
周子「おー、その調子その調子」
━━━━━━━━━━
奏「……」プルプル
伊吹「(震えだした)」
奏「い、伊吹ちゃん………わた、私……っ」クルッ
奏「……芸名付ける」
伊吹「げ、芸名??」
奏「美味しそうで、食べられちゃいそうな芸名を……っ」
奏「こ、これ以上、塩バニラシュー子に後れを取るわけにはいかないの……っ」プルプル
伊吹「塩バニラシュー子!? 誰それ!?」
奏「そ……、『爽』なんて、ど、どうかしら……?」プルプル
伊吹「爽!? 速水爽!? いや読み方しか同じじゃないよ!! ちょ、ちょっと字の形も似てるけど……」
爽「あ、甘くて、お、美味しそうじゃない……? おまけにアイスみたいに冷えてて、クールで……これ以上ないくらいに私にぴったりな……」プルプル
伊吹「まずは頭を冷やそうよ!! 奏どうしたのホント!?」
紗枝「ほ、ほんならウチは……『紗々』なんて、ど、どうやろ……?」プルプル
美波「わ、私、私は………………………お、思い浮かばない……悔しい……っ」プルプル
伊吹「(どっから湧いて出たコイツら!?)」
奏「もう、かえる……」グスッ
伊吹「ここまで来たのに!?」
──────
────
──
【おまけ③ 終】
──
────
──────
【事務所】
夏樹「最近さ」
伊吹「んー?」
夏樹「だりーの様子がおかしいんだ」
周子「なら平気じゃない?」
夏樹「や、違うって。多少おかしいのはブレの範囲内なんだけどよ、いつもは」
夏樹「今回は……、髪の色を抜こうとしたり、堅い中二病みたいな言葉で会話して来たり……」
夏樹「明らかに誰かを意識してるっていうか」
伊吹「髪の色を抜く? 周子みたいなカンジ?」
周子「はい、ご紹介に預かりましたー」
伊吹「周子さん周子さん、貴女はどなたかを意識してその髪色に?」
周子「いかにもー」
伊吹「それはどなたですか?」
周子「ふふっ、とっぷしーくれっとです」
伊吹「だそうな」
夏樹「へいへい」
伊吹「……実は、うちの奏も似たような事をしようとしてた」
周子「奇遇だね。うちの紗枝ちゃんもやわ」
伊吹「……」
周子「……」
夏樹「……あとさ」
夏樹「ある人の話題になると……」
夏樹「感極まって泣くか、あるいはちょっと否定すると泣いて猛反発してくる」
周子「大変やね」
伊吹「……実は、うちの奏も似たような事がある」
伊吹「ある人の話題? ってのはよく分かんないけど、本人にとってショックなことがあると……」
伊吹「幼児退行する」
夏樹「うわっ、それ見てえ」
周子「奇遇だね。うちの紗枝ちゃんもやわ」
周子「あたしが、ある人の話題を話そうとすると」
周子「記憶が吹っ飛ぶ」
伊吹「ソレ、いちばん重症じゃない?」
周子「あるいは、都合のいい記憶に入れ替わる」
夏樹「……」
夏樹「まあ、ぶっちゃけていうと高峯さんの事なんだけどな」
周子「やっぱり?」
伊吹「えっ、そうなの?」
夏樹「……とにかく」
夏樹「相棒が高峯さんにご執心みたいで………ハハ、ちょっと妬いちゃうぜ」
伊吹「ホントに思ってる?」
夏樹「悪ィ、正直に言うと……何が何だかよく分からねぇ」
周子「……ふぅ」
夏樹「高峯さんってさ、最近色んな奴の口からその名前を耳にするよな」
伊吹「良い人だよ? 映画も一緒に観たし」
夏樹「分かってる。アタシも何回か会話したけど、『女王』ってほど高飛車の印象も受けないし」
夏樹「『孤高』や『寡黙』ってほど、人との関わりを断とうとしていない気がする」
周子「(…………)」
夏樹「あの人はすげえよ。LIVEバトルでかち合ったけど、所属して半年の新人とは思えないパフォーマンスだ」
夏樹「観てて、まさに惹き込まれるって感覚に陥ったし、実際アタシの隣にいただりーは泣き崩れてたし」
夏樹「でも、最近思うんだ」
夏樹「確かにあの人は、底が見えない人だ。ただ同時に『底を覗いたらいけない人』でもあるんじゃねーかな……って」
伊吹「んー……よく分かんない」
夏樹「誰にだって、触れられたくない部分はある。そうだろ?」
周子「(……)」
周子「本人が望むのなら、普通に関わっていて問題はないんじゃないかな」
周子「夏樹ちゃんの言うとおり、みんな線引きはちゃんと出来てるでしょ」
周子「……良い人だよ、本当に」
夏樹「……だな」
伊吹「うんうん」
夏樹「………あっ、そうだ」スッ
夏樹「だりーに頼まれてたんだった。高峯さんのサイン、貰いにいかねーと」
周子「あたしが書いてあげよっか?」
夏樹「遠慮しとくよ」
伊吹「ねえ夏樹? 色紙3枚あるけど?」
夏樹「1枚はだりー用。もう1枚は、高峯さんがサインを失敗した時の予備用」
周子「しっかりしてるねー。多分予備は持ってて正解だよ」
周子「で、もう1枚は?」
夏樹「ん……、あぁ。ンー……これは……………」
夏樹「………アタシ用」
伊吹「え?」
周子「お?」
夏樹「ん?」
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────
──
【おまけ④ 終】
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────
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【おまけ⑤】
【事務所 正門】
泰葉「……」スタスタ
泰葉「あっ」
時子「…………」
泰葉「時子さん、お待たせしました」
時子「……フン」
時子「待ち合わせ時間5分前………及第点ね」
時子「悠長に話す暇はないわ。早く行きましょう」
泰葉「あ、ハイ」
━━━━10分前━━━━
【スーパー 日用品売り場】
時子「トイレットペーパーがお一人様1パック限りなんて……」ガサガサ
時子「卑しい品性だわ。厚顔甚だしい……これでよくもまあチラシに大きく特売と銘打てたものね」ガサガサ
泰葉「ハ、ははは……」
時子「ほら、持ちなさい。これで2パック買うことが出来る」
時子「そのために貴女を連れて来たのだから。突っ立ってないで役に立ちなさい」
泰葉「(案外ちゃっかりしてるなあ)」
━━━━5分後━━━━
【スーパー 生鮮売り場】
泰葉「あの、時子さん?」
時子「……」チラッ
時子「その問いかけは、私が豚バラの目利きを中断しなければならない程の必要性と期待度を持つのかしら」
泰葉「イ、いえ! その……値段を比べながらで結構です」
泰葉「……先日は、ありがとうございました」
泰葉「火事の件についてです」
時子「……あぁ」
泰葉「貴女が駆けつけなければ、被害は大きくなっていかもしれませんし、二人だって怪我をしたかもしれません」
時子「別に、礼を言われる筋合いは無いわ」
時子「何回も同じことを言わせる気? 大脳辺縁系の記憶神経が焼切れたのかしら?」
泰葉「いえ、その……」
時子「貴女の部屋が燃えたら、私が困るのよ」
時子「偶然配信の様子を伺ったら、偶然炎上していて、あの二人が鶏のように騒いでいた」
時子「それだけよ」
時子「まぁ、貴女が借りを感じている物言いで気が済まなさそうな顔してたから、今日ここに連れて来たわけだけど」
泰葉「偶然……」
時子「ええ」
泰葉「あ。あと一ついいですか?」
時子「手短に済ませなさい」
泰葉「あの………気に障ったら申し訳ないんですが、時子さん、その……」
時子「なによ」
泰葉「私の部屋から響く音……耳障りですか?」
時子「耳障り……?」
泰葉「は、ハイ」
時子「物音はするけれど、物騒がしいという程でないわ」
泰葉「えっ? じ、じゃあ、あの……」
泰葉「その、何故壁ドンを?」
時子「壁ドン? あぁ、そのこと」
時子「単なる挨拶よ」
泰葉「??」
時子「同事務所の仲間……知人、いえ雑用、奴隷……、下僕から聞いたのだけれど」
泰葉「ずいぶんランクが下がりましたね」
時子「壁ドンは……」
~~~~~~~~~~
?『時子さん、よろしくて? 今後一人暮らしをするならば、是非とも役立つ知識をわたくしが伝授致しましょう!』
?『庶民一般でいうところの集合住宅における、隣接する住民に対して、その住居を区切る壁を叩く行為は……」
?『希薄化するコミュニティや隣人との関係回復に一石を投じる、庶民の方々が考案した単純画期的な挨拶!! 独特に発展を遂げた、高度なコミュニケーションなのです!』
?『俗に庶民一般で、この行為を“壁ドン”と呼ぶようですわっ♪』
~~~~~~~~~~
泰葉「……エッ」
泰葉「ち、違いますよ。誰が言っていたんですか、そんなデマ……」
時子「………………………………………………………………………………」
時子「…………ハァ」
時子「悪かったわ、泰葉」
泰葉「い、いえいえ……知らなかったんですし、構いませんが」
時子「……あいつは、豚に格下げね。本当に使えない」
泰葉「(何の絡みだろう?)」
時子「ちなみに今日の、貴女の家の献立は何かしら」
泰葉「えっ? 今日はチキン南蛮でも作ろうかと……」
時子「……チッ。鳥か」
時子「早く言いなさいよ」スッ
泰葉「っ!? な、何故カゴに入れていた豚肉を戻すんですか!? 聞いたのは私の家の献立ですよね!?」
泰葉「ま、まさか……」
時子「……なによ」
泰葉「す、スミマセン…………に、睨まないで下さい……」ビクビク
時子「……睨んでないけど」
──────
────
──
【おまけ⑤ 終】
──
────
──────
【おまけ⑥】
【居酒屋 カウンター】
楓「ハァ……お酒がおいしい」
のあ「……」
楓「動画配信の件、散々でしたね」
のあ「……そうね」
楓「あんなに自己嫌悪に陥ったのは、久しぶりですよ。入社時、自己紹介の挨拶でダジャレをやって滑って以来」
のあ「……」
のあ「でも、奇跡ね」
のあ「普通動画配信で火事など起こしたら、晒し者の如く一瞬で拡散されると思ったけれど」
のあ「……特に音沙汰無く、皆無事を憂いてくれた」
楓「そうですねぇ。配信凍結は惜しまれますが、でも仕方ありませんね」
楓「おそらく、すぐに時子ちゃんが消火に来てくれたのも相まって、アレはヤラセに近い仕込みと思われたのではないでしょうか?」
のあ「……ありえるわね」
のあ「……」
楓「……」クイッ
のあ「楓は……」
のあ「泰葉に自分の部屋の合鍵、渡したの?」
楓「ええ。勿論、部屋にあった一升瓶と惣菜のプラスチックトレーの山を片付けてから」
のあ「……そう」
のあ「私も、部屋の掃除をしないと……」
楓「? この前に周子ちゃんが遊びに来る前、片付けたのでは?」
のあ「ええ。まあ……寄せたというのが正解かしら」
楓「なるほど……」
のあ「……はぁ」
のあ「……テキーラとライムでも貰おうかしら」
楓「あ、じゃあ私は日本酒を冷で」
のあ「……」
楓「……」
のあ「…………」
楓「…………」
のあ「………………………………………………」
楓「………………………………………………」
のあ「……カ、楓が呼ぶ? 店員を」
楓「……ジ、じゃんけんしましょうか」
のあ「チ、近くに通りかかるのを待ちましょう……」
楓「ソ、そうですね……」
楓「あと、気になったのが……」
のあ「?」
楓「時子ちゃんの事です。傲岸不遜でアクの強い性格と思っていた時子ちゃんでしたが……」
のあ「……イメージが変わってきた?」
楓「ええ。少しでしたが配信に付き合ってくれたり、助けに来てくれたり……」
のあ「血も涙も無い女王気質かと思えば、優しい一面もあるのね」
楓「ふふふっ。これは私の想像なんですが……」
楓「のあさんが事務所で『寡黙の女王』として多少のキャラ作りを頑張っているのと同じく……」
楓「時子ちゃんもひょっとして、あの高飛車な女王キャラは……」
楓「キャラ作りだったりして♪」
のあ「……素ではなさそうよね」
楓「そうですね。あるいは、普段はスイッチを切っているのではないでしょうか?」
のあ「スイッチ?」
楓「事務所の子でいうと、輝子ちゃんのハイテンションな性格や、杏ちゃんの仕事モードのように」
楓「仕事の時に、普段とは打って変わって本気を出すような……」
のあ「……つまり」
のあ「歯に衣着せぬ毒舌も、視線で人を殺しそうな眼光も、近寄りがたいオーラも……、私生活では40%ほどに抑えているのかしら」
楓「あくまで、推測ですよ?」
のあ「……いえ、確かに考えられるわ。だって普段から事務所の性格だったら、怖くて近くにいただけで失禁しちゃうもの」
楓「確かに!」
のあ「家では時子40%で……、仕事では時子100%」
楓「あはは! そんな幽遊白書の戸愚呂100%みたいに……!」
のあ「時子、100%中の100%……ッ!」
楓「あ、あははははっ!!」バンバン
───トントン
時子「…」
時子「……」グビッ
のあ「ヒエッ…」
楓「ト、時子ちゃんも……、の、飲んでたンデスネ…………キグウデスネ……」
時子「……」
※このあと滅茶苦茶奢らされた
──────
────
──
【おまけ⑥ 終】
──
────
──────
【番外編A】
【事務所】
P「……うぅむ」
留美「はい。コーヒーどうぞ」
留美「どうしたの? 朝から渋い顔して」
P「あっ、いただきます」
P「いえね? 留美さん……、また他プロダクションでトラブルが」
P「『プロデューサーと担当アイドルの熱愛発覚』ですよ。新聞の芸能面にも取り上げられていて……」
留美「可哀想に。あの事務所の子、すっぱ抜かれたの」
留美「今も昔も、男女の交情というのは歯止めがきかないわね」
P「ですねぇ。こういう同業者の不祥事が耳に入るたび、手綱を締めて真摯に向き合いたいものですよ」
留美「恋愛に?」
P「もちろん、仕事にです」
留美「噂には聞いていたけれど、Pくんって堅いわねぇ……」
P「男として当然ですよ!」
~~~~~~~~~~
楓『というより、ウチの事務所では滅多に聞かないですねぇ。アイドルやタレントの恋愛事情』
泰葉『むしろ聞こえたら大問題かと思いますが……、というか……』
泰葉『カエデさん。興味をお持ちなんですか?』
楓『ふふふっ、聞く分には♪』
泰葉『んー……ウチの事務所は……、まあ、プロデューサーがアレですから』
のあ&楓&時子『アレ?』
泰葉『知りませんか? 今度本人に聞いてみると良いですよ』
~~~~~~~~~~
のあ「(…)」
乃々「(ヒ、ヒグッ…)」
楓「…」
P「我々と担当アイドルは一心同体! 共に仕事に打ち込み、苦楽を共有し、お互い成長を続けていく」
P「その中で思いを寄せたり、愛情に近い感情が芽生える事もあるでしょう。それは否定はしません」
P「ですが私達は立場が違うのですよ……、留美さん。恋愛が許される関係ではありません。ましてや……、一心同体と言いましたが、それは対等という事でもない」
P「プロデューサーという立場に傘を着て……、誰もが羨み、憧れ、恋し、隣にいたいと考えたことがある人気アイドルと付き合うなど……、それは周囲のあらゆる人間に対する背信と言ってもいい」
P「俺はこの肩書を利用して、ただ浅ましい欲に塗れたいがために、担当アイドルに茨の道を歩ませることなどしませんよ」
留美「……ほんと、堅いわね」
P「仕事熱心と言ってください! HAHAHAHA!!」
留美「なら、しばらくは恋人を作る気はないのね?」
P「ハイッ! 作る気はないというか、作れないというか………、まぁ、当面は仕事が恋人ですかね?」
P「ですが不満など一欠片もありません! なぜなら、これは俺が自分で選んだ道ですから!!」
P「HAHAHAHAHAHA……!!」
留美「はぁ……、もう、人の気も知らないで」
P「えっ、何か言いました?」
留美「いいえ、何でもないわ」
楓「(なるほど、そういう事ですか……)」
のあ「(乃々ちゃん……♪)」チラッ
乃々「」ブクブク
━━━━夜━━━━
【岡崎家】
泰葉&楓「ごッ……!?」
泰葉&楓「合コンッ!!?」
のあ「ええ」
泰葉「高峯さんがですか!?」ガタッ!
のあ「そうよ」
泰葉「ッ……!」
楓「誘われた!?」ガタッ!
のあ「……高校時代の、友人に」
楓「ッ……!(居たんだ……)」
時子「のあ。醤油取って」
のあ「あ、ハイ」
時子「……」モグモグ
泰葉&楓「~~~ッ……!」
楓「のあさん………この間、相席居酒屋が羨ましいだの行きたいだの言っていたのに」
楓「そんなの、ズルいじゃないですかっ……、一人でリア充の階段を駆け上がろうなんて……」
のあ「私も、アイドルである前に一人の女なのよ。結婚願望くらい持ち合わせているわ」
時子「……」モグモグ
泰葉「だ……、ダメですよ高峯さんッ!!」
泰葉「前にも言いましたけど、男の人って、貴女が想像しているより遥かに怖いんですからね!!」
時子「今のを要約すると、男は人間の皮を被った品性下劣の変態性獣だって」パクパク
のあ&楓「ソ、そんなに……?」
泰葉「そこまで酷くは言ってませんよ!?」
時子「構うことは無いわ、泰葉。こう見えてもコイツは24歳……、辛うじて大人なんだから」
のあ「カ、辛うじて……?」
泰葉「けれど時子さん……、この前、その……私の部屋で何が起こったか覚えていますよね?」
時子「何事も社会勉強よ。そろそろ自己責任という言葉を身を以って知るといいわ」パクッ
のあ「問題ないわ、泰葉」
泰葉「えっ?」
のあ「今回私が誘われたのは恐らく数合わせだし……、隅っこで牛丼でもつついてるから」
泰葉「じ、自分で言ってて悲しくないですか?」
時子「それがいいわね。合コンなんて男に奢らせ飲み食いし、何食わぬ顔で帰宅すればいいのよ」
のあ「あと……」
のあ「その知人から、更に数合わせに私の知り合いも誘ってくれと頼まれた」
のあ「既に、連絡も済んで了承も得た」
泰葉「それは誰ですか?」
のあ「大丈夫。絶対に信頼できる適任者だから」
泰葉「うぅん……、高峯さんがそこまでいうのなら、私が口を挟む事では無いかもしれませんが」
泰葉「一つだけ。貴女だってアイドルの端くれなんですから、色々と、その………自覚は持って下さいね」
のあ「余裕よ」
泰葉「(大丈夫かなぁ……)」
時子「楓。ラー油取って」
楓「あ、ハイ」
━━━━当日━━━━
【居酒屋 店前】
友人「のあちゃん、久しぶりー♪」
のあ「……ええ」
友人「今モデルとか色々やってるんだって? 調べたよー、すごいねぇ!」
のあ「エ、ええ……問題ないわ」
友人「アハハ♪ そのヤバい口調、変わってないねー♪」
友人「急な連絡でごめんね? 近くに住んでるって聞いたから、びっくりしたでしょ」
女性「はじめまして、高峯さん。よろしくお願いします」
女性「今日は男子メンツも結構すごいのが来るって話だから、期待してて?」
のあ「ソ、その……、私、慣れてなくて……」
友人「あーあー、いいよいいよ♪ もし無理っぽかったら、隅っこで牛丼でもつついてて」
のあ「!! ま、任せて……っ!」
友人「でさ? のあちゃん」
友人「もう一人誘ってくれるって話、あれはどうなったっけ?」
のあ「ァ、あぁ……、そ、そろそろ……ク、来る、わ……」
「こんばんはー♪」
のあ「(!!!)」
女性「うん? あの子?」
周子「初めましてー、どーもー♪」
のあ「(し、周子ちゃん……!)」
周子「お待たせしましたー。高峯の知り合い、塩宮(塩見)周子です」
周子「こう見えても未成年だから、お酒はNGなので、よろしくお願いしまーす」
友人「か……、可愛いーーっ!!」
友人「これがのあちゃんの言ってた子?」
のあ「そうよ」フフン
友人「よろしくね、今日は楽しもうねぇ♪ 塩宮周子ちゃん」
周子「おなかすいたーん♪ はやいトコ、美味しいご飯がたべたいなー」
周子「今の私なら、和でも洋でも中華でも何でもござれだよ」
女性「ウンウン♪ きょうは男子の奢りだから、どんどん貢がせちゃおう?」
周子「わーい♪」
周子「(へっへっへ……、頑張ろうね? のあさんや)」チラッ
のあ「(周子ちゃん……。もう全面的に今日は依存するから)」
周子「(だいじょーぶだよ。もし無理そうなら、隅っこで牛丼でもつついてて)」
のあ「(任せて。得意だから)」
周子「(楽しく食べて、健全に帰ろっか! しっかりガードしてあげるよ)」
のあ「(うん……!)」
女性「男子は、なんとハイステータスな良質男子が揃ってるっぽいよ? 医者の息子、芸能関係者、個人経営、大手美容メーカー勤務…………選り取り見取り、フフフっ……♪」
周子「おー、いいねいいね」
のあ「(へえ……)」
友人「おっ! あの4人は……?」
女性「向こうからスタンドバイミーみたいに肩を揃えて歩いてくるのが、今日の獲物かな?」
周子「確かに。アルマゲドンみたい」
のあ「いえ、白い巨塔じゃないかしら」
友人「そうみたいだね。面子も揃ったし、今日は精一杯飲み食いして楽しもーっ♪」
周子「おー♪」
周子「っ」ピタッ
周子「…………………………………………………………………………」ジー
周子「……………………………………オォッ?」
のあ「??」
━━━━20分後━━━━
【店内】
周子「…………」
のあ「…………」
男性A「じゃあ乾杯も済んだし、自己紹介しましょうか」
男性A「27歳、職業は友人さんの先輩と同じ、歯科衛生士です。年収は600万、最近はお洒落なバーで飲むのにハマってます。いい店を知っていたら、後でこっそり教えてください。今日は楽しみましょう」
男性B「35歳、喫茶店経営。年収は……まあそれなり。よく怖そうとか目付きが悪いとか言われるけど、実は猫とか大好きだから。あと腹筋とうなじ。喫茶店で働いてみたいって子がいれば、即採用します」
男性C「24歳、男性Aさんの後輩です♪ 今は美容関連のメーカー勤務で、今日はとにかく楽しくお酒を飲んで、みんなと仲良くできればイイなーって思ってますので、よろしくおねがいしまっす♪」
男性P「ヒ、ふひっ……!」プルプル
周子「…………」
のあ「…………」
男性B「ちょ、ちょいちょい……どうした? 震えてるけど」
友人「やだ、緊張してる? かわいー♪」
男性B「いやいや、コイツいっつも『合コンとか超余裕っすよ』とか『場数踏んでるし』とか得意気に言ってるから」
男性P「う、嘘ではないんだけど、その、今日は……っ」ガクガク
周子「…………」チラッ
のあ「…………」チラッ
男性P「ヒィッ!! た、か……! ………よ、よりによって……な、ナンデ…………!!」
男性C「とりあえずパパッと名前と職業だけ言っちゃおって♪ お酒入ったら面白いタイプでしょ、お兄さん♪ ホラホラ」
周子「…………………………………」
のあ「…………………………………」
P「な、名前…、ソノ、ぴ、Pでシュ……ッ」
P「げ、芸能ぷ、プロデューサー…………デス、その、あの……ッ!」
P「ヨ、ヨロシクオネガイシマス……」
周子「(のあさん)」
のあ「(…………)」
周子「(今日は、とことんお腹いっぱいに食べれそうだねっ♪)」
のあ「(……そうね)」ワクワク
P「ヒ、ヒヘッ! ……な、ナンデ……!?」プルプル
☆つづく
──────
────
──
──
────
──────
【番外編B】
【居酒屋 トイレ前】
P「なッ!」
P「な」
P「な」
P「な」
P「な」
周子「…………」
周子「なんでいるの?」
P「それは俺の台詞だッッ!!!」
P「なんでいるんですか、高峯さん!? ついでに周子!!」
周子「あたしはついでかーい」
P「いや、周子は名前も偽名で一応変装はしてるし……! でも高峯さん、アナタ……!!」
のあ「……」
P「ノーガードじゃないですかっ!!」
周子「確かに」
のあ「……そうね」
P「アレェ!? なんでそこまで落ち着いていられるのお二方!?」
P「まともなのは俺だけか!? というかアイドルなんですから、こんな場所に来たら大問題……ッ!」
のあ「……婚活練習」
周子「付き添い」
周子「以上っ!」
P「オウッ……」
周子「で、次はあたしからの質問」
P「ぐっ……!」
周子「まぁ、Pさんが事務所ではストイックな恋愛観を徹底してたとか、仕事熱心すぎてワーカーホリック一歩手前とかは……」
周子「この場では、特に言及しませんよ。安心しなはれ?」
のあ「……『合コンとか超余裕っすよ』『場数踏んでるし』」
周子「『仕事が恋人』『作る気はない』」
P「」
周子「とんだ二律背反やね♪」
のあ「所詮、貴方も男なのね」
のあ「事務所で貴方の話を聞いて……、少し感心していたのに」
P「」
周子「のあさんのあさん。それくらいでもーええやんかいさ」
のあ「……」
周子「PさんPさん」チョンチョン
P「こ、コロシテ……」プルプル
P「こ……コツコツと積み上げてきた俺の誠実なイメージががが……ッ」
周子「……まぁ、アイドルに手を出したワケではないし、ある種はポリシーを貫いていることに間違いはないんだけどさ」
P「!!!」
P「で、ですよね!?」
周子「Pさん?」
周子「こーつと、なぁ、うぅん……」
P「?」
周子「いやぁPさん、格好いいヘビ柄のスーツですねぇ♪」ニコッ
P「」ピシィッ!
のあ「……確かに。派手ね」
P「ソ、ソウデスカ……?」プルプル
周子「こんな派手な恰好してるトコ、事務所で見たことないよ!」
周子「事務所どころか、任侠映画の俳優ですらも見たことないかも」
周子「いーや、スーツだけじゃないね? 財布も、靴も……!」ペタペタ
P「ア、アァ……」プルプル
のあ「(……)」
周子「それに、カッコイイ髪型やねぇ♪ 普段はいつもは落ち着いるのに、今日はビンッビン逆立ってる♪」
周子「木村夏樹ちゃんといい勝負が出来そうだね」
周子「くんくん……、ウン、香水も付けてるし」
P「ヒ、ヒィ……ッ」
周子「はーっ! 時計もネックレスも、ッ……」
周子「………ハ? えっ、ロレックス?」
のあ「?」
P「ソノ……、か、借り物ッ……」プルプル
周子「……」
周子「こないなナリしてはるPはん、事務所のみんなが知ったら、そらえらいびっくりするやろうね?」
P「し、周子……お前……ッ!!」
P「の、望みは何だ!!」
周子「いやいや、そないきーつこて貰わんかて、だいじおへんて」
周子「Pさんや? 前にした、事務所での約束覚えてる?」
P「や、約束?」
周子「ほら、忙しいPさんの代わりにあたしが、ゲームギアをのあさんに返すってやつ」
P「…………あっ」
のあ「(……?)」
周子「へへへ♪ 奢ってもらう約束ー♪」
周子「Pさん? あたし、高級金目鯛釜飯(\1,500)と御造り5種盛り(\2,100)と和栗のティラミス(\700)が食べたいなぁ♪」
周子「あとお仕事は……、地元の祇園祭にも出たいし、温泉街訪問なんてのもまったりしてて素敵だね♪」
P「ぐくっ……、クソッ!」
P「人の足元を見て一著前に脅しを使うとは、いい度胸だなぁ……」
周子「ほほう?」ニヤリ
P「ス、スミマセンでした……ッ!」
P「なんでも言うこと聞きますので……、どうか、事務所の皆には今日の俺の行動は内密に」ペコリ
周子「まーまー。この後の合コンはあたしとのあさんで、バッチリPさんに惚れ込んであげるから」
P「嬉しいような悲しいような……」
周子「のあさん! 折角だし、のあさんも何か好きな物頼んじゃおうよ♪」
のあ「……そうね」
のあ「メニューにあった、上カルビ丼(\700)をお願いしようかしら」
P「!!」
P「そ、その程度でよければ幾らでも!! 流石は高峯さん、貴女は周子とは違い慈悲深く、まさに捨てる神あれば拾う神ありだ!!」
のあ「……あと」
P「?」
のあ「(…………)」
━━━━━━━━━━
【岡崎家】
楓「泰葉ちゃん、醤油取って下さい♪」
泰葉「ッ……、ハ、はいっ……」スッ
楓「えっ?」
楓「これ……ソース? 刺身にソース? 泰葉ちゃん、聞いてます?」
泰葉「ウ、ウウウっ……!」プルプル
時子「……」モグモグ
泰葉「と、とと時子さんっ!! 高峯さん、やっぱり帰ってきませんよぉっ!!!」ガタッ!
泰葉「じ、自覚を持ってくれって言ったのにぃ……、周子さんまで一体何を……、あ、あぁっ……!」
楓「刺身にソース……、そんな奇抜な取り合わせ、いやでも逆転の発想………もしかすると……」カチッ
泰葉「こ、これ無許可動画配信とか火事とかより遥かにまずいですよ!! す、スキャンダルにでもなったら……、あ、あああ~~~っ……!!」ブンブン!
───ゲホッ!
ゴホッ、ゴホッ!! ミ、水ッ…
時子「……」パクッ
━━━━翌日━━━━
【事務所】
P「…」ゲッソリ
ちひろ「プロデューサーさん、昨日の合コンはどうでした?」
P「……そりゃ、もう…………えぇ」
P「上々でしたよ。二人の女性から熱烈な視線が」
P「まさに両手に花の状態で、モテモテって感じで」
ちひろ「収穫ですね、良かったじゃないですか」
P「二軒目はその子達と俺だけでご飯を……。その後、三軒目なんて…………グスッ」
P「おかげで、今日はもうスッカラカンで……っ」
ちひろ「え、ええぇっ……! ちょ、ちょっと詳しく教えてくださいよっ♪」
P「……イ、嫌です」ブルルッ
ちひろ「?」
P「ま、まあ合コンの話は置いておいて」
P「ちひろさん。京都祇園祭付近って、なにかお仕事とかありました?」
ちひろ「祇園祭ですか?」
ちひろ「山鉾巡行のお囃子に参加するとか、近辺をリポートするとか割とありますね。京都出身の子達なら土地勘もありそうですし」
P「了解です。あとで目星を付けておきます」
P「あと、そうだ……」
P「高峯さんについてですが」
ちひろ「? はい」
P「彼女がもし、ユニットを希望したら………どうします?」
ちひろ「へぇっ! いいじゃないですか!」
P「そうですか? 個人的には、彼女はやはり他を寄せ付けない孤高でクールなイメージが強いから、馴れ合わずにソロという印象付けの方がバッチリ決まるんですが」
ちひろ「いえいえ、ギャップや親近感という観点でファンの心を鷲づかみにするポテンシャルはあるかもしれませんよ?」
ちひろ「意外性の発掘にもつながりますし、方向性が固まる前に試してみるのもアリなのでは?」
P「では例えば、どの子と組ませます?」
ちひろ「うーん……」
ちひろ「では女王繋がりで、財前時子さんとか?」
P「近寄りがたくて親近感が微塵も感じられませんよ……」
ちひろ「じゃあこれはどうですか? 前川みくちゃんと組ませて、猫耳姿で───」
P「芳しくないですね………申し訳ないですが、高峯さんのイメージとかけ離れすぎるのは、あまり……」
ちひろ「でも、以前みくちゃんとアナスタシアちゃんと一緒に地方営業に行っていましたよね?」
P「それはそれ、これはこれです」
ちひろ「ん~~……、じゃあこんなのはどうですか?」
ちひろ「同じ年齢という事でヘレンさんと、チーム『24(トゥエンティフォー)』………なぁんて♪」
P「…………」
P「……………………………………アリですね」
ちひろ「(ウソでしょ……)」
P「そうだ。もう一つ尋ねたい事がありました」
P「(…………)」
P「俺が描いている方向性やイメージとしては真逆で、あまり本意では無いですが………本人の希望であれば、無碍には出来ません」
P「ましてや、思い返せば彼女が俺に意見をするのは非常に珍しい。尊重して然るべきだ」
P「ちひろさんも仰いましたが、方向性が定まる前にひとつの経験としてやってみるのも悪くないでしょう。本人も、そして俺も勉強させていただきます」
ちひろ「えっと……、話があまり見えませんが?」
───ガチャ
のあ「……お疲れ様」
ちひろ「あっ、お疲れ様です高峯さん!」ペコリ
P「……ちひろさん」
P「メイド服のコスプレ衣装、倉庫に有りますか?」
━━━2時間後━━━
【事務所 会議室】
卯月「わぁ……♪」
未央「うっわぁ! すっごい……!」
P「……」
ガチャッ!!!
美波「ぷ、プロデューサーさん!?」バッ!
奏「Pさんッ!!!」
P「!」
P「な、なんだ? 乱暴に入ってきて」
美波「凛ちゃんからラインで聞きましたよ! プロデューサーさんとちひろさんが、会議室で高峯さんにメイド服を着せて弄んでいるって!!!」
P「いや、弄んでは無いぞ? というか美波、大学は?」
奏「はぁ、はぁ……っ!」
奏「Pさん、今すぐにやめて頂戴。彼女を辱める気?」
P「奏、今日はオフじゃないっけ?」
未央「ちひろさん、あとは何かいるものありますかー??」
ちひろ『ううん、この裁縫道具だけで十分ですよ。ありがとうございます』
奏「これは……カーテンで仕切りを作って、何をしてるの?」
P「ン? ちょっとした着せ替えショーを───」
奏「……何をしてるの?」チリッ
P「(ッ!? な、なんだこの殺気……!!)」
奏「高峯さんにそんな俗趣な服が似合うと思っているの?」
奏「彼女が纏う非日常を思わせる俗界を離れた衣服は、私達が歩むはるか未来を先行く奇跡の超越的芸術表現よ」
奏「思わず目を奪われ恍惚を呼び覚ますほどの、謎めいた凄艶さ。調律するように、彼女の意識が全体に淡く広がって………そして気付くの。あぁ、この世界は、彼女を中心に回っているんだって……」
P「ッ!? ど、どうした奏!?」
美波「プロデューサーさん……。例えそれが高峯さんの希望であったとしても、涙を呑んでそれを止めるのが貴方の役割ではないんですか?」
美波「メイド服のように羞恥を覚える衣装を着て人前に晒せば、彼女自身が恥ずかしさのあまりどうなるか分からない程、彼女を知らないわけではないでしょう……」
美波「彼女は、本心と虚栄心の狭間で葛藤し悶える姿が堪らなく愛おしいんです。貴方にはそれがっ……わ、分からないんですか!?」
P「わ、分かりません……」
未央「まあまあ落ち着いて♪ 何言ってるか知らないけどさ、ほんとに可愛いよっ♪」
未央「あのカーテンの向こうで、いま服直してる最中だからさ? いっぺん見たら納得するって!」
卯月「ちひろさん? エプロンの丈はどうでしたか?」
ちひろ『ええ、いいですよー♪』
卯月「じゃあカーテン開けますねっ!」
卯月「それっ!」クイッ
美波&奏「(!!!!)」
P「おー……!」
http://i.imgur.com/iQC6dmt.jpg
卯月「どうですか? 美波さん、奏ちゃん?」
美波&奏「(………………)」
美波&奏「………REVOLUTION」
P「(……この二人、どうしたんだ?)」
未央「(さあ?)」
のあ「(……♪♪)」
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【番外編A.B 終わり】
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【番外編C】
【岡崎家】
楓&泰葉「自治会?」
のあ「……」コクン
のあ「ポストに会報が入っていたでしょう」
のあ「今週の土曜に、環境美化活動と相互の親睦活動を行うらしいわ」
のあ「……折角だし、参加してみようと思うの。二人も一緒に……」
楓&泰葉「(…………)」
のあ「二人とも?」
泰葉「……楓さん、知ってました?」
楓「……いいえ」
のあ「!?」
泰葉「高峯さんは、本当に行動力は高いですね。頑張って下さい、感想とかも良ければ聞かせて下さいね」
楓「都内の自治会って、そんな献身的に活動してるんですね……へえぇ……」
のあ「な、何を言っているの?」
泰葉「私……自治会に加入してないですし」
楓「同じく、ハイ」
のあ「えっ」
泰葉「義務でない上に、住民票も移してないですし……」
楓「加入しなくても生活上の支障はないですし、ですからわざわざ会費を払う意味も無いですし……」
のあ「……」
のあ「ジ……じゃあ、その、飛び入りで参加を……っ」プルプル
楓&泰葉「すみません、仕事がありまして」
のあ「」
━━━━土曜━━━━
【路地】
会員「え~……、今日はぁ、朝早くからお集まりいただいて、誠に、え~、ありがとう、ございます~……」プルプル
会員「あ~……、班長含め、数名がぁ、え~……、少し遅れるそうですがぁ……、えぇ」プルプル
会員「今日は、え~……、美化活動という事で、まずはぁ、ゴミ拾いをぅぅ……」プルプル
会員「こつこつ営々ぃ、励んでぇ、参りましょう…………」プルプル
のあ「…………」
のあ「(2人? 自治会員、これだけ?)」
のあ「(私とこのお爺さんだけ? ここ、東京よね? 限界集落……?)」
のあ「(め、メイクしないで良かった……)」
━━━10分後━━━
のあ「……」ヒョイ
会員「あ~……」プルプル
のあ「…………」ヒョイ
のあ「(……これが都会かぁ)」
のあ「(地元の自治会は、名所の見回りとか色々あったんだけどなぁ)」
のあ「(というか、このお爺さん何でゴミ拾わないの……?)」
会員「ぅ~……、腰がぁ、ぅ~……」トントン
のあ「(……なら仕方ないか)」ヒョイ
のあ「……」
会員「御嬢さんはぁ、ぁ~、何歳?」プルプル
のあ「二十四歳です」
会員「はぁ~、若いね~、そ~」プルプル
のあ「…………」
会員「そういえばねぇ、うちの自治会にも、そのくらいの若い子がねぇ、あ~……」プルプル
会員「もっと増えたらねぇ……」
のあ「…………」
のあ「(え………ちょっと待って?)」
のあ「(よくよく考えれば、今日ってゴミ拾いと……)」
のあ「(……そ、相互の親睦活動!?)」
のあ「(このお爺さんと!? お茶とおせんべいでも食べろっていうの!?)」
のあ「(ウソ……。タモリさん並のコミュ力があっても乗り切れる気がしないんだけど……)」
のあ「(ぁ、あぁ…)」
のあ「(なんか………来なければ良かった……)」ガクン
「アパズドゥィチ、みなさん、おはようございます♪」
のあ「(??)」
のあ「(…………ッ?)」キョロキョロ
アーニャ「ああっ! のあ、のあではないですか!?」
アーニャ「ダーヴィシトー! 貴女も参加、していたのですねっ♪」
のあ「(!?)」
会員「あぁ、あ~……」
会員「良く来ましたねぇ、おはようございます、那須田さん」プルプル
アーニャ「ドーヴラァウートラ、遅れて、もうしわけありません」ペコリ
会員「あぁ、いいんですいいんです、遅れたっていいんです、えぇ、えぇ」プルプル
アーニャ「スタリキー、この女性は、私と知り合いなんですよ?」
会員「あぁ、そうですねぇ、同じ会員同士ですからねぇ」プルプル
アーニャ「ふふっ……、のあ? これからよろしくお願いします♪」ニコニコ
のあ「」
アーニャ「?」
のあ「(ハッ!! き、気を失っていた……)」
のあ「(な、何故ここにアーニャちゃんが……何故!?)」
のあ「!!!」
のあ「(そ、そうかっ! 隣っ!! 隣ッ!?)」
のあ「(と……、とにかく近所に住んでいるんだ!! というか隣!!)」
のあ「(でなければここにいる説明が付かないもの!!)」
のあ「(ふ、フフッ……、汗かいてきた)」
のあ「(嬉しい、嬉しい……っ!! さ、参加して良かった……!!)」
のあ「(良かった、良かった……、とにかく、今日は楽しく───)」
アーニャ「ああ、そういえば……」
アーニャ「班長も、さきほど見ましたよ。そろそろ…………あっ!」
会員「あぁ、班長さん、ごくろうさまです」
のあ「?」クルッ
時子「……」
のあ「ァァッ…」
──────
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──
★おわり
以上です、ありがとうございました。
明けましておめでとうございます。
次回があれば今回の番外編に絡め、のあにゃん、あーにゃん、みくにゃんの3人+αでお送りする予定です。
余談:ネットで「高峯のあ」と調べたら検索候補の上か3番目くらいに「高峯のあ 牛丼」と出てくる事実を知り、ちょっと色々とまずいんじゃないかなと思いました。
このSSまとめへのコメント
明らさまに粘着されてるこれをまとめと呼んでいいのか
作者がせっかく酉つけてるんだし、それ以外は削除の方がいいけど、まあ叶わない望みだよね
粘着荒らしはホント氏ね