高峯のあ「和風牛丼並……あっあとから揚げ」 (331)


●注意●
・短編形式
・のあさんのキャラ、口調、クールなイメージが『著しく』崩壊します
・非シリアス
・独自解釈している点が多々ありますので、ご了承下さい
★にゃん・にゃん・にゃん要素は8%くらいです



●登場人物●
高峯のあ、他
http://i.imgur.com/DrmvR7j.jpg


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1448875583


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【なか卯】


のあ「(………)」ソワソワ

のあ「(ふ、ふふふっ。な、『なか卯』かぁ……!)」ドキドキ

のあ「(た、たまには吉野家以外の牛丼屋に入るのも、い、良いものね…)」ドキドキ

のあ「(こ…、この極度の緊張感と昂ぶる期待感、そして未知とも言える新鮮な店の空気が何とも言えない。は、早く店員さん、こ、来ないかな……?)」ソワソワ

のあ「(私がアイドルになってもう一ヶ月経ったけど、やはり牛丼だけは捨てがたいわ)」

のあ「(………)」ソワソワ

のあ「(アイドル……。最初は、想像も出来ない世界だった)」


のあ「(20代半ばで、無情に過ぎていく茫漠な時間をただ眺めて、社会の不条理と言う荒波に翻弄されて……)」

のあ「(己の無力さに打ちのめされて、くすんだ色しか持たない私だったけど)」

のあ「(……ひょんな切っ掛けで扉を開いて、志を同じとする仲間が出来て、自分の知らない側面を切り拓いて……)」

のあ「(こうしてアイドルとして舞台に立って、日々新しい輝きを帯びている)」

のあ「(自分を変えるには、何事も踏み出す勇気と挑戦が大事なの。の…、ノミの心臓の私が今こうして勇気を出して、あ、新たな牛丼屋を開拓しているようにっ……!)」ドキドキ

のあ「……フッ」ニヤリ

店員「お待たせしました。お客様」スッ

のあ「ぁっ…」

のあ「和風牛丼並……あっあとから揚げ」

店員「………………」

店員「申し訳ありません。お客様……」

のあ「(ッ!?)」

店員「なか卯店舗では、まずアチラにある券売機で食券をお求めになってから、注文を承っていますので……」スッ

のあ「(!!!)」カァーッ

のあ「………っ」プルプル







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【なか卯 券売機前】


券売機『───いらっしゃいませっ! 和風牛丼とご一緒に、小うどんのお得なセットは如何ですかっ!』

のあ「……」ピッ

券売機『───先にお金を入れてから、ご注文ボタンを押してくださいっ!』

のあ「ぁっ」ビクッ!

のあ「………………」シャコンシャコン

のあ「(……やっぱり、吉野家が一番だわ……)」ピッ


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【事務所 応接室】


伊吹「ん~……」ゴロゴロ

奏「……」ペラッ

伊吹「はぁー……。ねえ、奏ー?」ゴロゴロ

奏「……なぁに?」

伊吹「たいくつー。なーんか面白い映画の話とかない?」ゴロゴロ

奏「この前貸したじゃない」ペラッ

伊吹「んー…、確かに面白いというか、色々考えさせられたね。『イヴの時間』」

奏「ああいう不思議で優しい空気の作品、私は好きよ?」

伊吹「ロボットやアンドロイドと心を通わせるって、なんだか非現実だけど何処となく…………………………あっ?」

奏「うん?」

伊吹「いやぁ、そうそう。アンドロイド繋がりで思い出したんだけどね?」

奏「……?」


伊吹「ウチの事務所で、『正体はアンドロイドでは?』と密かに囁かれる人物がいるのですよ」

奏「あ……アンドロイド?」

伊吹「キツぅいレッスンでも呼吸ひとつ乱さず、それどころか汗一滴流さず、その人間味を感じさせない無表情は常に崩れず……」

伊吹「無駄を削ぎ落とした端的な物言い、落ち着き払った振る舞いと氷のように冷たい瞳」

伊吹「最っ高にCOOL!! 寧ろクール過ぎて、血潮は冷却水、ボディは流体多結晶合金の、未来から送られてきたアイドル型アンドロイドなのでは? ……と」

奏「………」ペラッ

奏「その荒唐無稽なお話の、渦中の人はだぁれ?」

伊吹「高峯のあさん」

奏「……あぁ。…………なんか、不思議と納得しちゃうわね」

伊吹「でしょ?」

伊吹「凄い人だと思うんだけど、アタシ達とは住む世界が違うカンジっていうの?」

伊吹「馴染みにくいっていうのかな……ううん、ちょっと分からないや」

奏「まさに偶像ね。でも、ひょっとしたら……」

伊吹「んー?」

奏「ロボットでもアンドロイドでも、人知れない何処かでひっそりと、人間味溢れるコミュニティを形成してるかもしれないわよ?」

奏「あの映画みたいに、隠れ家的な喫茶店でコーヒーを楽しく優雅に飲んでたり。なあんて……」

伊吹「あー、でも、高峯さんからは気品みたいなオーラをひしひしと感じるからね。分かるかも!」






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【スターバックス】


のあ「あ…………あの………っ」プルプル

店員「お次のお客様、ご注文はお決まりでしょうか?」

のあ「あ………、す、スモール……じゃなくて、ショート…………の、く、クラッシュマロンパイふ、フラペチーノっ……!!」プルプル

店員「お好みのアレンジやカスタマイズは如何なさいますか?」

のあ「」

のあ「か……、カスタま…?…、ヒ、控えめなカンジのやつで、ぉ、ぉねがぃしマス……………」モゴモゴ

店員「は、はぁ……」

のあ「(消えたい……)」プルプル


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速水奏
http://i.imgur.com/AIrkNl8.jpg
小松伊吹
http://i.imgur.com/XusFBQ0.jpg

※オマケ『イヴの時間』
http://i.imgur.com/5HpWkG6.jpg


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【朝 事務所】


ガチャ

蘭子「闇に飲まれよっ!」(訳:お疲れ様です!)

モバP(以下、P表記)「おう、おはよう蘭子」

菜々「おはようございます、蘭子ちゃん♪」

蘭子「フフフ、煩わしい太陽ね。我が朋友、異星の最終戦士……!」(訳:おはようございます、プロデューサーと菜々さん!)

蘭子「……そ、それと……」チラッ

蘭子「怠惰【ツォルン】の黒鉄宮で、悠然と赤の書を手に取りたるは……」(訳:向こうのソファで雑誌を読んでいる、あの……)チラッチラッ






のあ「(…………!)」チラッ

のあ「(き、来たわね蘭子ちゃん…。私がこの事務所でいち早く仲良くなりたい子の一人……!)」

のあ「(以前は無愛想な表情で驚かせちゃったけど、今日はしっかりと挨拶を完遂するわ)」

のあ「(ふふふっ……! 自分から行くのは怖いから、早くコッチに来てくれないかなぁ)」ドキドキ

のあ「(…………)」

のあ「(……貴女が日常的に使用するその奇異な言葉の法則性は大体掴めた。蘭子ちゃんに内包された独自の世界観を紐解くと……)」

のあ「(神話や伝承、それを元にしたゲームや小説等の娯楽作品の類から連想される単語とイメージを結び付け、幻想的なフィルターで物事を捉える、お年頃故の素晴らしい感性を垣間見たわ!)」

のあ「(中世ファンタジーやダークホラー、魔術や錬金術を所縁とするものが特に顕著。感性だけでなく、理知的な一面も秘めている)」

のあ「(本当に素敵だわ。偶像崇拝、貴女はまさに生粋のアイドルよ。その稀有な個性をコミュニケーションの難や欠如と切って捨てる訳にはいかない…!)」

のあ「(ふ、ふふふ……!)」ドキドキ


蘭子「(今日こそは……ち、ちゃんとお話、出来ればいいな……!)」

蘭子「(そ、それに言わなきゃ! 『明日のライブ、頑張って下さい』って)」グッ

トコトコトコ


のあ「(…………ッ!!!)」バサッ!

蘭子「っ!?」ビクッ!

蘭子「う、飢えた蛇のような眼光で私を眺めて…………の、呑まれるッ!? )」ビクビク

のあ「(朝の挨拶……。即ち『太陽』や『光』を連想させるような…………、よしっ!)」ジロジロ

蘭子「り……!」

蘭子「…流麗なる孤高の主、深淵の魔力【マナ】に満ち───」(訳:た、高峯さ───)

のあ「たっ……」




のあ「『太陽のジェラシー』ッッ!!」(意訳:おはよう)」



蘭子「ヒッ!?」ビクッ!

のあ「っ!!」ビクッ!

のあ「(す、少し違ったかしら? じゃあ……!)」

蘭子「タ……、タカミ…………」ガクガク

のあ「わ……、『我は放つ、光の白刃』ッ!!」(意訳:おはよう)」

蘭子「ア…………ア…、アァ…」ビクビク

のあ「ら、『国士無双十三面待ち(ライジングサン)』ッッッ!!!」(意訳:おはよう)

蘭子「」ガクガク

のあ「…て、『天光満つる処に我はあり』ッ!!」(意訳:おはよう)」

蘭子「」カタカタカタ

のあ「(な…、何が正解なの!? どうしたら『おはよう』が成立するの……っ?)」

のあ「……、だ、『ダークネス フィン────』

蘭子「ウッ…………!」

蘭子「ぅぅうわあぁぁーーーーーーーーーーーん!!!」ダッ!

ピューーーン!



のあ「あっ……」

P「お、おーい蘭子ー? 家に忘れ物でもしたかー??」

菜々「た、高峯さん……」

のあ「……」

P「……気に病むことはありません、高峯さん。彼女は根は良い子ですから、すぐ心を開いてくれると思います」

P「ま、まあ……ちょっと声を張り過ぎましたかね? 多分吃驚したんじゃないでしょうか?」

菜々「ち…、着想は良かったと思いますよ高峯さんっ! ニッチな所を攻めるのもアリですけど、もっとメジャーな作品をバンバン押していきましょうっ!」

のあ「(泣きたぃ……)」シュン


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安部菜々
http://i.imgur.com/leKtprh.jpg
神崎蘭子
http://i.imgur.com/yYBCQCN.jpg

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【ライブハウス 控室】


のあ「(…で……、デビューライブ本番っ!)」ドッドッ!

のあ「(練習は積んだけど、や、やっぱり本番の空気はまるで違うわね。こ、この高鳴り過ぎる胸の鼓動……!)」ドッドッドッ!

のあ「(プロデューサーは『練習と違うのは当たり前です。舞台では、アイドルとして楽しむことを忘れずに』って言ってたけど……ッ!)」ドッドッドッ!

のあ「(ち、違うの……。この脅迫的ともいえるこの緊張を、ど、どうやって抑えればい、イイのっ…!?)」ドッドドッドッ!

のあ「(ろ、ロケ弁も全部吐いちゃったし……だ、ダメっ……)」

のあ「(ハァー、ハァー……。あ、あと1時間……っ!)」ドッドドッ!


ガチャ



智絵里「た、高峯さん……?」ヒョコッ


のあ「ッッ!!」ジロッ!

智絵里「ひッ!?」ビクッ!

のあ「(……!)」

のあ「(お、緒方智絵里ちゃん……! 事務所の中でも屈指の愛らしさを振りまく天使…)」

のあ「チ…………智絵里、どうしたの?」

のあ「貴女の出番は、まだ先の筈……」

智絵里「あ、あのっ……高峯さん、今日はいよいよデビューですね」

智絵里「高峯さんは、その、緊張とかしないのかな、って……」

のあ「シ…………新境地に臨む際、誰しも多少は緊張するわ。ただそれ以上に私は、新しい世界を待ち望み、高揚していくもう一人の自分を確かに感じるの」

のあ「(ハァー、ハァー……っ!)」ドッドッドッ!

智絵里「……高峯さんは、やっぱり強い人、ですね」

智絵里「わ、私なんて、いつもすごく緊張しちゃって……。え、えへへっ」ニコッ

のあ「(か、可愛いなぁ……。ケド、今の私はその可愛さを頭の中で反芻し楽しむ余裕は無いの……)」ドッドッ!

智絵里「でも私……、そんな時に、いつも『おなじない』をしてるんです」

のあ「おまじない……?」


智絵里「…(“人”という字をてのひらに書いて飲みこむ要領で……っ)」

智絵里「こういう風に、まず……(てのひらに…)」スッ

智絵里「四葉のクローバーを…………(書いて…)、っと」カキカキ

智絵里「そして…………(口の中に…)、あむっ!」ゴクン

のあ「(……!?)」

智絵里「え、えへへ……。お仕事の前とかこうすると、緊張が和らいで、自然に力が湧いてくるんです♪」

智絵里「お、おかしくて笑われるかもしれませんけど……。あ、あはは……」

のあ「(………)」

のあ「いいえ、何も可笑しくなんて無いわ、智絵里。素敵なおまじないよ」

のあ「様々な舞台で活躍する一流と呼ばれる人間は皆、独自の方法を試案し集中力を高め、質の高いパフォーマンスを引き出すの。貴女の行動は、プロのそれと何ら変わらない」

智絵里「そ、そうですか……?」

のあ「良い事を聞いたわ。私も貴女を見習って、少し外の風に当たって慢心し緩んだ気を引き締めてくるわ」スタスタ

のあ「………あと、今日のライブ…、お互い全力を尽くしましょう?」ガチャ

智絵里「は…、はいっ!」

バタン


智絵里「(高峯さん……。格好良くて、良い人だなぁ……)」ドキドキ








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【ライブハウスの外 近くの公園の芝生】


真奈美「はあ、ふう……」ガサガサ

真奈美「それにしてもどうしたんだい? 今すぐに四葉のクローバーが必要だなんて……」ガサガサ

のあ「お願い。今は何も聞かず、力を貸して頂戴」ガサガサ

のあ「(ハァ、ハァ…………ち、智絵里ちゃん……!)」ガサガサ

のあ「(親切に教えてくれたその優しさ、無駄にしないわ。絶対にライブを成功させてみせる……!)」ガサガサ

真奈美「な、何だかよく分からないが……、君からの頼みだ。無碍にはすまい」ガサガサ

のあ「(ハァー、ハァー……!)」ガサガサ


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緒方智絵里
http://i.imgur.com/X8LWudY.jpg
木場真奈美
http://i.imgur.com/xqVy4VG.jpg


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【ライブハウス 控室】


のあ「(ハァ……何とか無事に終わった。頭が真っ白で何も覚えてないわ……)」スッ

ガチャ


アーニャ「あ……。ハラショー スィディエラーリ、のあ」

のあ「……!」

のあ「バ……バリショーェスパシーバ、アナスタシア」

のあ「(彼女は……確かアーニャちゃんね。ロシアと日本のハーフ、異国の辨天、色白の天使……!)」

のあ「(こうして直に話しかけられたのは初めて。日本語で大丈夫なのかしら? というか、私は元よりロシア語の教養なんて皆無だし選択肢は無いのだけど…)」

のあ「(いえ、でも…………とりあえず、テキトーに……。異文化コミュニケーションで大切なのは、フィーリングってやつよ)」

のあ「(んー……)」

のあ「アー……」(それで…)

のあ「ス、スカジーチェパジャールスタ ヴァーシェ ペヴォエテ カトールィ チャース? エートゥ ペウォゼァ ヴィージェ?」(貴方達の出番はいつ? もう終わったの?)

アーニャ「!」

アーニャ「……、ニェート、イッショー」(いえ、まだです)

アーニャ「チアートル ペルゥーチェヴィ エタ ピィェルヴィイ ドゥリャ ミィェニャー。ムイ カニェーツ ターク ナプリガーッツァ」(初めて、私達が舞台のトリを任されました。最後ですので、とても緊張しています)」

のあ「ヌ、ダー……」(そう……)

アーニャ「ふふふっ。のあ……、貴女は、優しい人、ですね」ニコッ

のあ「(っ!?)」

アーニャ「大丈夫、ですよ。気を遣って頂いて、ありがとうございます。私、日本語も話せるので、問題、ありません」

のあ「……そう」

のあ「(か、会話が成立したのかしら!? わ、私……結局何を言ったんだろう……?)」

のあ「(というか……)」

のあ「(この子、意外にフレンドリーだわ。流石はアグレッシブさに定評がある外国人。お友達になりたい…)」ドキドキ


のあ「貴女、届いてたお弁当は食べた? 聞くところによると、ハンバーグの老舗らしいわね」

のあ「私は頂いたけど、噂に違わず美味しかったわよ。体の奥底から、力が滾るようだったわ」

アーニャ「ニェート……。緊張で、何も、喉を通らないのです」

アーニャ「恥ずかしい話、ですが……」

のあ「(可哀想に……)」

のあ「……アナスタシア。自己を追い込むような緊張……それは、決して良い要素とは言い難いわ」

アーニャ「……はい」

のあ「勿論、物事に臨む際は適度な緊張は必要よ。集中力を高め、最大限のパフォーマンスを発揮するためには」

のあ「……緊張のストレスを感じない人間など、この世の何処にも存在しない。例え数多の修羅場を潜り抜けた手練でも、経験を積んだプロでも……」

アーニャ「それは、のあ。貴女も……同じ、ですか?」

のあ「当然……私も、同じ」

のあ「大切なのは…、緊張を"楽しむ"事。自分を追い込むのような物では無い。………分かる?」

アーニャ「"楽しむ"……、ですか?」

のあ「(ふ、ふふふ………)」ドキドキ

のあ「(後輩の分際で、私は何をエラそうに説法しているのかしら。本当は楽しくお喋りしたいのに………死にたい…)」ドキドキ

のあ「(人見知り故の極度の緊張からか、子供染みた虚栄心からか、心にも無い言葉がポンポン口を衝いて出てきちゃうわ……)」ドキドキ


のあ「緊張と上手に付き合うの。自分の望む像を思い描き、拒絶するのではなく、受容する」

のあ「(…………まあ、私は四葉のクローバーを3本食べて緊張を解したけれどね。ふふふっ、これも智絵里ちゃんという天使のお告げの賜物よ)」

のあ「……アナスタシア。賢い貴女なら理解出来る筈」

のあ「本来は、気を張る必要などない。何故なら……、貴女が観衆を楽しませるのではない。観衆が、楽しんで歌い踊る貴女を見に来ているのよ」

のあ「練習と違うのは当たり前。されど舞台では、アイドルとして楽しむことを忘れずにね、アナスタシア」

アーニャ「……のあ…」

アーニャ「…………ヴィ オーチン リュベズニー。スパシープキ エスエィヴァ ブラガダリュー ヴァース」(貴女は本当に親切ですね。お言葉、感謝します)」

のあ「(……???)」

アーニャ「楽しむ事……。確かに、私は一番大切な事、忘れていました」

アーニャ「この緊張も受け入れ、自分の糧にする……。まだ難しいかもしれませんが、やってみます」

のあ「……」

アーニャ「ふふっ…、少し、気が楽になった気がします。不思議と、お腹が空いてきた気も……」

のあ「なら、折角美味しいお弁当があるのだから、少量でも胃に入れておくといいわ」

アーニャ「はい。では、頂きます」スッ

のあ「(……あら?)」

のあ「(お弁当……、一つ余っているみたいだし、私も頂こうかしら)」

のあ「(さっき食べたけど、極度の緊張で吐いちゃったし、ライブで動いたから少しお腹が空いたもの)」

アーニャ「…ん……!」パクッ

アーニャ「オーチン フクースナ! 本当に、美味しいですね……♪」モグモグ


のあ「……」スッ

アーニャ「……♪」モグモグ

のあ「……」パクッ

アーニャ「……?」モグモグ

アーニャ「(あれっ?)」モグモグ

アーニャ「(彼女は、既にもう食べたと言っていましたが……???)」モグモグ

のあ「(あぁ、美味しい。やっぱりハンバーグも良いわね……)」モグモグ


ガチャ



みく「おっつかれにゃ~っ♪」バッ!


みく「あっ! あーにゃん!」

みく「…………と…、の、のあにゃん……」ギクッ

アーニャ「お疲れ様です、みく」

のあ「(前川みくちゃん……!)」モグモグ

アーニャ「カーグ ジュラー みく。調子は、どうですか? このあと、みくの出番だと聞いていますが」

みく「モチロン、絶好調にゃ! この後はみくがバッチシ会場を盛り上げてくるにゃあ♪」

みく「のあにゃん、初ライブお疲れにゃっ! お客さんすっごい沸いてたし、のあにゃんもカッコよかったよ♪」

のあ「(……!!)」モグモグ

のあ「(ふふふ……、貴女にそう言われると、悪い気はしないわね。本当に嬉しい……)」モグモグ

みく「さーってと……、お昼抜いてたからお腹ペッコペコにゃ。この後みくの出番だから、なおさらスタミナ補給をしないとね」ゴソゴソ

みく「みくのお弁当は……っと……」ゴソゴソ

アーニャ「……」モグモグ

のあ「……」モグモグ

みく「………………」キョロキョロ

みく「………………」ゴソゴソ

みく「あ……、アレ?」

みく「こ、ここに置いといた、みくのロケ弁…………アレっ?」

アーニャ「……あ」

のあ「……えっ?」モグモグ


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アナスタシア
http://i.imgur.com/i003HTt.jpg
前川みく
http://i.imgur.com/GpDtqwK.jpg


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【事務所 給湯室】


雪美「……」ズズー

のあ「……」

のあ「(ふふっ。今日のお昼ご飯は、自宅の台所に眠っていた賞味期限が一ヶ月過ぎたぺヤング……)」

のあ「(懐かしい。もうこの蓋のタイプは売ってないのよね。勿体無いけど、まあ折角だし)」

雪美「……」ズズー

のあ「(……あっ。かやく入れ忘れた。まあ、固いキャベツも好きだから問題ないかな)」


ピピピピピピピピ!


のあ「……」ピッ

のあ「(……後ろの椅子でカップ麺を啜ってる子、確か佐城雪美ちゃんだったかしら。お人形さんみたいで愛くるしい……)」スッ

のあ「(口数が少ないとは思ってたけど、何で給湯室で一人寂しくご飯を食べているのかしら?)」ジャー

のあ「(ひょっとして、事務所に友達がいないとか……? 何だか可哀想ね。まだあまり馴染めてない私も人のことは言えないけど……)」ジャー

雪美「……」ズズー

のあ「(……不思議な子。でもひょっとし──────)」ジャー




ツルッ パカッ

のあ「 ぁ゛っ゛」




ダバァ ボテっ!

のあ「(な、中身がっ、あ、ああッ! 熱ッ! アっ、あああぁーーーー!!)」ガタッ!




ゴポゴポッ!
ゴポッ、ベコンッ!

のあ「(…………あ……。……あ……ぁ……)」




シーン……
……


のあ「(あ……)」

のあ「(あ゛ぁ゛ぁ゛~~~う゛あ゛あ゛ぁ゛~~~~っ……!!)」ガクン




シーン……
……



雪美「(…………)」ジー


のあ「(まさか…、この歳になってペヤングを流しにダバァするなんて……っ!)」プルプル

のあ「(…不覚っ…、うぐ……う゛っ……ぅぅ……!)」グスッ

トントン


のあ「……っ!?」バッ!

雪美「……」

のあ「ユ…………雪美??」

のあ「どうしたの……?」

雪美「…………」チョイチョイ

のあ「……え?」





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雪美「……」ズズー

のあ「……」ズルズル

雪美「……」ズズー

のあ「雪美…。分けてくれて、本当に感謝するわ」ズルズル

雪美「のあ……美味しい?」

のあ「ええ。こんなに美味しいカップ麺は生まれて初めて……」ズルズル

雪美「……そう。良かった……」ズズー

のあ「……♪」ズルズル












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【事務所 応接室】


美波「ハァっ、ハァっ………く、ぐッ……!」フラフラ

アーニャ「み、美波ッ!?」ガタッ!

アーニャ「シ、シュトー、スヴァミィー!? さ、さっき、給湯室までお湯を貰いに、行ったのでは……?」

アーニャ「な、何故血を流しているのですか!?」アセアセ

美波「(と……、尊いっ! いえ、尊いなんて生っちょろいレベルじゃあないわ…………二人で一つの小さなカップ麺を一緒に食べるなんてっ……!)」プルプル

美波「(あ、あの光景を見た途端、給湯室に足を踏み入れる事はおろか、眩しすぎて視界に入れる事すら躊躇してしまった……。『聖域』、あの給湯室は今や不浄を禊ぐ聖域だわ…!)」プルプル

アーニャ「な、何かよく分かりませんが……取り敢えず、鼻血を吹いて下さい……」スッ

美波「う、うん…。ありがとうアーニャちゃん。今日は暑いよね……」

アーニャ「今日は……今季一番の、冷え込みと、ニュースで言っていました」

美波「……」ゴシゴシ


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佐城雪美
http://i.imgur.com/1AsBudh.jpg
新田美波
http://i.imgur.com/wYNKNjO.jpg


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【吉野家】


店員「お待たせいたしました、ご注文はお決まりでしょうか?」コトッ

のあ「あっ、はぃ。牛丼並とごぼうサラダ…」

店員「はい、少々お待ちください」

のあ「(……)」グビッ

のあ「(少しずつアイドル業界にも慣れて、仕事をこなせるようになって来たけど……)」

のあ「(……でも、一人寂しく牛丼をつつく女が、雑誌で噂の『女王』なんてちょっとお笑いね)」

のあ「(『女王』…………ハァ。なんて分不相応なネーミング……)」

のあ「(もしアイドルとして名前が売れてきたら、その『女王』のイメージを守るために、こうして大手を振って牛丼を食べる事も出来なくなるのかなぁ……)」

のあ「…………」

のあ「(いえ、物は考えようかしら? ひょっとすると……)」


のあ「(牛丼と女王。『牛』と『女王』のイメージって、意外にマッチしてるんじゃあ……。なら特に差し支えは……)」

のあ「(…………いいえ、やっぱり牛は流石に合わないわね。せめて『豚』と『女王』とかなら無きにしも非ずってところかな)」

のあ「(でもそれだと、女王の持つ意味合いもまた違ってくる気がする。気高さというより、加虐的な印象にシフトしてしまう…)」

のあ「(イメージ……)」

のあ「(ならいっそ『孤高』なんてどうかしら? 馴れ合いを好まず孤独を愛し、凛として毅然と振る舞うその姿はまさしく『孤高の女王』!)」

のあ「(それなら私が一人で堂々と牛丼を食べていても、何ら違和感は無いハズ。『孤高の女王、趣味は一人グルメ』……っ!)」

のあ「(い、イケるかもしれないわっ。手段と目的がゴチャゴチャになったけど、このネーミング案をプロデューサーに打診してみようかしら!)」

のあ「(ふふふふ……)」

店員「お待たせしました、こちら牛丼特盛とごぼうサラダになります」

店員「ご注文は全て御揃いでしょうか?」

のあ「あっ、はぃ」

店員「ごゆっくりドウゾー」

のあ「(……)」カチャ

のあ「(ふ、ふふっ……。寡黙の女王、孤高の女王、孤独の女王……)」モグモグ

のあ「(イケるわね。これなら一人ぼっちで行動しても大義名分として角が立たないわ)」

のあ「(まあ、友達は裏でこっそり作って行けばいいのよ。今のところアドレスを聞いたのは4人…)」モグモグ

のあ「(何事も前向きに捉えることが大事ね。これならどんなイメージでも受け入れられそうな気がするわ)」モグモグ

のあ「(ふふふふ……)」モグモグ


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──
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──────
【高峯宅】


のあ「フッ……!」ニヤニヤ

のあ「世界の支配者になった気分……♪ 遂に……っ、遂に、給料が振り込まれたわっ!」

のあ「ふふふっ……。ああ何しよう、何に使おうかなー♪」

のあ「新しいゲームでも買おうか? いや、でも積みゲー消化が先ね」モゾモゾ

のあ「オシャレなインテリアを入れようか? いや、でも動かすのが面倒臭いわ」モゾモゾ

のあ「アイドルっぽく、綺麗な服を揃える? いや、でもユニクロで大抵は間に合ってるし」モゾモゾ

のあ「…………」

のあ「あぁ……力を持て余すとは、なんとこう、うだつの上がらないことか……」ゴロン

のあ「……!」ピーン

のあ「そうだ、そうだわっ」ガバッ!

のあ「月に一度くらい、リッチなご飯を食べに行きましょう!」パン!

のあ「どこぞの探偵みたいに、月に一度、豪華なディナーを誰にも邪魔されず堪能する……!」

のあ「カッコイイ……自由な生き様、憧れるわっ!」

のあ「吉野家や丸亀製麺ではなく、今日くらい豪勢にぱぁーっと、贅を尽くし舌鼓を打つとしましょう! ふふふふふ♪」


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【外】


のあ「……」

のあ「(さぁて、何を食べようかなぁ。ううん、無計画で街に飛び出してきちゃったけど……)」

のあ「(魚料理。長嶋茂雄のように、お刺身を大皿で頼んで、箸でいっぺんに掬う長嶋食いも悪くないわね)」

のあ「(肉料理。ジャック・ハンマーのように、極厚ステーキをフォークで一突きにして、一気に口内に捻じ込むのもやってみたいわ)」

のあ「(うーーん…………)」

のあ「…………」スタスタ









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【びっくりドンキー】


店員「ご注文がお決まりになりましたら、ボタンでお呼び下さい」

のあ「ぁっはぃ」

のあ「(ふ、ふふふ……。たまには豪快に、大好きなハンバーグをガッツリ頂こうかしら)」

のあ「(あぁ……こういう贅沢を、独身貴族の格調高雅な娯しみというのね。感無量だわ)」ニヤリ

ピンポーン


店員「お待たせしました。ご注文をお伺い致します」

のあ「あ……」

のあ「…ち、チーズバーグディッシュ………150、いえ、300っ! 300gで!」

のあ「あっあと、イカげそ唐揚げっ!」

店員「はい。以上でよろしいでしょうか?」

のあ「あっあと……!」

のあ「お、オーガニックビールっ! サイズは……」

のあ「大! 大でっ!」

店員「はい。それではご注文を確認致します。チーズパケットディッシュと、フライド────」

のあ「(ふ、ふふふ……!)」ポワポワ

のあ「(高峯のあ、豪遊っ! ど、独身貴族の贅と悦っ…!!)」ポワポワ

店員「────小。以上でお間違えないでしょうか?」

のあ「はいっ!」ドンッ!

のあ「(ふふ、ふふふ…。酒池肉林の極み……♪)」


──────
────
──


──
────
──────
【高峯宅】


のあ「……!」モゾモゾ



*『今日の牡羊座の運勢は超ハッピー♪ 素敵な出会いに恵まれるかもねっ! お出かけして、気分のリフレッシュを図りましょう!』

*『ラッキーナンバーは『7』! この数字を見かけたら、きっと何でもウマくいくと思います! アグレッシヴにアタックしてみてはいかが?』



のあ「今の子……」

のあ「以前事務所で見かけた事があるわ。そうか、ウチの所属だったのね」

のあ「朝の顔役を任せられるなんて、大活躍ね。やっぱり若い子って凄いなぁ……」

のあ「ラッキーナンバーが『7』……。じゃあパチンコかジャグラーでも打ちに行こうかしら。なーんて。パチンコ屋なんて行ったことないけど…」

のあ「……」ピラッ

のあ「今日は7日……、スーパーのお客様感謝デー。70円均一の特売もやってるわ」

のあ「(アグレッシヴ……お出かけ……『7』……)」

のあ「まあ…、何かあるかもしれないわ。天気も良いし、気晴らしに買い物に行こうかしら」


━━━━━━━━━━
【スーパー】


店員「それでは、お会計が1333円になります」

のあ「(1333円。じゃあ2000円で……)」スッ

のあ「……!!」

のあ「(待って。コレ……つまりお釣りが『777』になるんじゃないかしら?)」

のあ「(偶然にしても、ちょっと嬉しい気分。そのレシートを取っとけば今後も良い事があるかも!)」

のあ「(ふふふっ。今日の占いのラッキーナンバー通り、小さな幸せってやつね。パチンコ屋に行ってないのに当たった気分)」カサッ

店員「では、2000円からお預かりいたします」ガシャン

のあ「(~~~♪)」

店員「……」ジャラジャラ ピッ

店員「……こちら、お釣りとレシートになります」スッ

のあ「はぃ」スッ

店員「ありがとうございマシター」

のあ「……」ピタッ

のあ「(っ…………!?)」

店員「……?」

のあ「ぁ……、ぇ?」クルッ

のあ「あの、こ、コレ……お釣り……、間違っテ…………」

のあ「!!」

のあ「…あっ。ぁぁ…………」モジモジ

店員「はい、どうしました?」

のあ「ぁ……ぃえ、なんでも………………」スッ

のあ「…………」トボトボ


──────
────
──


──
────
──────
【スーパー】


のあ「(ろ、『667』円のお釣りのレシート……。微妙に不吉だわ)」トボトボ

のあ「……」

のあ「(……あっ! しまった……洗剤と柔軟剤を忘れた)」

のあ「(仕方ない。もう一度売り場に戻ろう)」






━━━━━━━━━━
【売り場】


のあ「(洗剤……っと)」ガサッ

のあ「(…………んっ?)」






菜々「…………」コソコソ






のあ「(あれは……安部菜々ちゃん?)」

のあ「(変装でマスクをしてるけど、あの主張しているリボンと服の上からでも見て取れるトランジスタグラマーボディは間違いない……!)」

のあ「(……)」

のあ「(いや、まさかね。朝のアレ……、『7』って…………)」

のあ「…………」

のあ「(まあ……でも勇気を出して声を掛けてみようかしら……?)」ドキドキ


今日はここまで。また次回(多分来週)

にゃん・にゃん・にゃん要素は8%くらいです。
今回は前作より長めになってしまうかもしれません。
ただ、体力が尽きればそこでスレを締めます。
では




あと誤字修正
>>42
×吹く→○拭く

因みに前作(?)↓
前作との関連性は3%位しかないので、読まなくても大丈夫です。
のあさんが何か変って部分だけおさえて貰えば。

高峯のあ「牛丼並……あっ大盛りで」
高峯のあ「牛丼並……あっ大盛りで」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447664976/)


全然来れないどころか、書き溜めすら全く無い状態ですが、
今日ちょっとずつ投下していきます


━━━━━━━━━━


のあ「……」ポン

菜々「っ!!」ビクッ!

菜々「あっ……、た、高峯さん!」

のあ「挙動不審よ、菜々。一体……何を畏れているの?」

菜々「こ、これでも一応アイドルですし、余所の目は多少は気にしないと」ヒソヒソ

のあ「(…………言われてみれば、そうかも)」

のあ「(菜々ちゃん程の知名度になれば、プライベートは変装して姿を隠さなければ周囲に迷惑が掛かるもの。若いのに苦労してるわね)」

のあ「(有名人のジレンマってやつね。大変そうだし窮屈だけれど……、ちょっと憧れるわ)」

菜々「(……ッ!!)」ギクッ!

菜々「(や、ヤバイッ……!!)」ソワソワ

のあ「……親のおつかい?」

菜々「えっ!?」ビクッ!

菜々「あ、あぁ……か、買い足しです。な、ナナ、一人暮らしですから…」ソワソワ

のあ「一人暮らし………………?」

のあ「(……菜々ちゃん、17歳で地元を離れて一人暮らしかぁ。寮に入ってる若い子達もそうだけど、多感な時期に親元を離れるって、相当意志が強くないと出来ないわよね)」

のあ「(本当に立派だわ。17歳くらいの年齢なら、自分を押し出したいお年頃なのに……。菜々ちゃんはそれをせず滅私で自分の意思を押し殺し、あまつさえ仕事ではニーズに応じてウサミン星人という独特でニッチなキャラに扮し頑張っている……)」

のあ「(ユーモラスで明朗快活、でも状況に応じて一歩引くシャープな判断力も持ち合わせ、周囲への気配りも出来る母性……)」

のあ「(齢17歳にして、どのような家庭環境で育てばこれほど大人びた人格に行き着くことが出来るのかしら。本当に尊敬するわ)」

菜々「あ、あの……た、高峯さん?」ソワソワ

のあ「……なに?」

菜々「な、ナナ……、き、今日は早めに帰りたいので、し、失礼しますね?」ソワソワ

のあ「そうね。じゃあ………ここで出会ったのも何かの縁。会計を共に済ませましょう?」

菜々「……………………エ゛ッ!?」ビクッ!

のあ「遠慮はいらないわ。籠を貸して」スッ

菜々「あ、い、いえっ! おお、お気持ちだけで十分……!!!」ギュッ!

のあ「(いいのよ菜々ちゃん。少しくらい、人生の先輩として余裕があるところを私も見せた──────)」グイッ!

のあ「……!」ピタッ!

菜々「っ!!!」ビクッ!









 【キリンビール のどごし〈生〉】



のあ「(……えっ!?)」

菜々「」


のあ「……………………」

菜々「あ、ああ、ああのぉ、こ、これはっ…………!」プルプル


ガシッ!

菜々「(ひぃっ!)」ビクッ!

のあ「………………」ジー

菜々「ご、ごめんなさい! た、高峯さん……な、ナナ……」

のあ「菜々……、こっちに来なさい……!」グイッ

菜々「えっ!? え、え……?」






━━━━━━━━━━
(レジ)


菜々「…………」

のあ「…………」

菜々「あの……、本当に良いんですか? こんなにいっぱい生活用品を買って貰っちゃって」

のあ「……気にしないでいいわ。単なる善意の押しつけと捉えて頂戴」

のあ「じゃあ、また事務所でね」スタスタ

菜々「あっ、はい……お疲れ様でした……」

菜々「(…………よく分からないけど、今度会った時にお金返そう)」






のあ「(……)」スタスタ

のあ「(………)」スタスタ

のあ「(菜々ちゃん……)」スタスタ

のあ「(………そうよ、今時珍しくもないわ。未成年にアルコールを買わせるなんて、酷い親)」

のあ「(弱冠17歳にしてアイドルとして働き家庭にお金を落とし、あまつさえ買い物や家事を一人で切り盛りしている。恐らくは片親家庭、あるいは、ネグレクトに近い環境で育ったのかもしれない)」

のあ「(あの屈託のない笑顔は、彼女の強さそのものなのかも。家庭の辛い事情を悟らせないために……)」

のあ「(……)」

のあ「(ひょっとして、ウサミン星出身というのは…………彼女の深層心理にある別家庭への憧れや現状への逃避が、無意識的に表出化した精神的な防衛本能……!?)」

のあ「(!! ……か、彼女が肌の露出を拒むのは、まさかDVの爪痕を隠すため!? 俗に言う『顔はやばいよ、ボディやんな、ボディを』ってやつかしら……)」

のあ「(あ…、あぁ……っ!)」

のあ「(私はなんて無力なのかしら……。今もDVで苦しんでいるかもしれない菜々ちゃんに対して、私はあの程度の金銭的な施ししか出来ないなんて……!)」

のあ「(市役所や家庭相談所に相談…………、いえ、取り敢えず今日の事をプロデューサーか誰かに…………)」スタスタ


──────
────
──


安部菜々
http://i.imgur.com/X473dQW.jpg


──
────
──────
【事務所】


藍子「地方でのお仕事、ですか?」

のあ「……ええ、来週。映画のエキストラと聞いたわ」

藍子「(へえぇー……。高峯さんみたいな綺麗な人がエキストラ……どんな映画なんだろう?)」

藍子「地方に行くのだったら、それなりに準備は必要ですね」

のあ「準備……?」

藍子「あっ、そんな重く構えることでは無くてですね? 言うなれば旅の持ち物です」

藍子「私だったら、そうですね……」

藍子「仕事の合間やフリーの時間に、街並みや景色を撮るためにトイデジを持っていったり、あとは小さめの地図とか」

のあ「へえ……」

のあ「必需品と言うよりは、普段においては備えあれば憂いなし程度の必要性かしら」

藍子「え、えへへ……そうですね。どちらかと言えば、『無くても良いけど、あったら便利な物』……かな?」

藍子「勿論、日用品や洗面用具や衣類は必須ですけど、それ以外に、旅を快適に楽しめるワンポイントもあれば、お仕事もきっとリラックス出来ると思うんです♪」

のあ「(…………)」








━━━━━━━━━━
【高峯宅】


のあ「持ち物ね……。手ぶらで臨もうとした私が間違っていたわ」モゾモゾ

のあ「出来る事なら、藍子ちゃん一人をまるまる連れて行きたい。あの温かく柔らかいオーラで包まれたまま安穏と旅したいくらい……」

のあ「……」

のあ「『無くても良いけど、あったら便利な物』……」スタッ

のあ「そうね、今回は初めてだし、無難に役立ちそうなものを選んでみようかしら?」

のあ「トイデジ……確かこの部屋にもあったかな……」ゴソゴソ


━━━━━━━━━━
【翌日 事務所】


藍子「!」

藍子「高峯さん。手に持っているそのカメラ、どうしたんですか?」

のあ「昨日……藍子の話を聞いて、私も見繕ったのよ。旅の準備とやらを」カチャカチャ

藍子「良いですね、結構レトロな一眼レフですけど、味わいがあって素敵です♪」

のあ「(……)」

のあ「他にも、地図と……」

藍子「あっ、この携帯用地図、私の家にもありますよ!」

のあ「(……!)」

のあ「…そう?」

藍子「はい。今はスマホのアプリで代用出来ますけど、スマホに慣れていない人は結構使っていると聞きますし、あって損は無いと思います」

のあ「………………そう」

藍子「あと……、テーブルの上にある、コレは………??」カチャ

のあ「MDプレーヤーよ」

藍子「あぁ、音楽が聴ける機械ですね。私の世代はあまり馴染みは無いですけど、やっぱり暇潰しに音楽鑑賞は定番ですよね♪」

のあ「………………………そうね」

のあ「旅は、準備する段階が一番楽しめるとも言うわね」

藍子「分かります♪ 前日に色々と旅先での出来事や行程の想像を膨らませるのって、すっごくイイですよねっ♪」

藍子「あと、他には何を揃えたんですか?」

のあ「そこのソファの上の鞄にあるから、好きに広げて見ていいわ」

藍子「はい。じゃあ、お言葉に甘えて……」スッ

藍子「……」ゴソゴソ



【酔い止め】

【アイマスク】

【携帯地図】

【フィルムカメラ】

【前川みくの写真】

【ブレスケア】

【MDプレーヤー】



のあ「……仕事をする立場で、楽しむという表現も本来は些か可笑しなもの。けれど、昨日の貴女が言っていた通り余所でも平静を保つには、柔軟に捉える思考も肝要ね」

藍子「うんうん♪ いいですね、色々と旅のお供に楽しめたり、便利な物を上手に選んだカンジで──────」

藍子「(……)」

藍子「(………………ッ!?)」

のあ「……」カチャカチャ


──────
────
──


高森藍子
http://i.imgur.com/o6bVkIL.jpg


──
────
──────
【夕方 事務所】


美優「うぅん……」

のあ「……どうしたの、美優?」

美優「実は……、地方のテーマパークのイベントで欠員が出て、私がヘルプで出演する事になったんですよ」

のあ「……それは、頭を抱える程の事?」

美優「それが急遽、明日のプログラムの出演枠でして……。ヘルプは全然構わないんですけど、準備をする時間があまり無いんですよね」

美優「遠出ですし、出来れば気持ち的にも多少の余裕を持って行きたかったんですが……」

のあ「(……!)」

のあ「なら……」

美優「?」

のあ「私が地方ロケのために備えた荷物があるわ」

のあ「(あの後………圧縮袋、すっぱいガム、トランプ、レーション、ピッキングツール、マジックザギャザリング、etc)」

のあ「(あらゆるワクワクグッズをコンパクトに詰め込んだわ。世代は違えど、これなら藍子ちゃんをはじめその多大勢の子の心を惹きつける事も出来る筈……っ!)」

のあ「……内服薬や季節別の対策用品、手持無沙汰な時を遊興で埋めるような玩具も中にはあるけれど、如何かしら?」

のあ「小さく纏めてあるから、決して邪魔にはならない筈……」

美優「そうですね……。じゃあ折角だし、少しの間お借りしても良いですか?」

のあ「ええ」

━━━━━━━━━━
【翌日 電車内】

美優「(……!)」ゴソゴソ

美優「(これは、アイマスクね。丁度良いわ、朝も早くて移動時間も長いし、これで少し休憩させて貰おうかしら)」スッ

美優「(よっ、っと……)」グッ

美優「………………」

美優「(あぁ……。案外落ち着くかも……)」

美玲「……?」

美玲「(…………なあ紗南? なんで美優は、目が付いたアイマスクをしてるんだ?)」

紗南「(し、シーーっ! きっとアレだよ、目が疲れてたんだよ……)」



━━━━━━━━━━
【イベント会場】

美玲「う、うぅ……」ブルブル

美優「(東北地方は、少し寒いわね。軽装の二人は大丈夫かしら……)」

美優「(! そうだわ、確か……)」ゴソゴソ

美優「二人とも、寒くないかしら? このカイロを良かったら使って?」スッ

紗南「ん……!」ブルブル

紗南「美優さん、準備いいね」

美玲「やっぱり美優はしっかりしてるなー、ウン。ありがたく使わせて貰おうかな?」



━━━━━━━━━━
【控え室】

美優「(……?)」ゴソゴソ

紗南「!!」ガタッ!

紗南「美優さん、それって……!」

美優「えっ?」

紗南「ゲームボーイアドバンスじゃないか! 何のソフト入ってるんだ!?」

美優「え!? え、えっと…………」

紗南「ちょっとあたしにやらせてくれないか? どれどれ……?」パチン

紗南「……ッ!」

紗南「が…、画面暗っ…! こ、これは反射型の液晶……、ということは初期GBAかッ!」

紗南「く、くっそー! 透過型の液晶ゲームに慣れてると、こんなに見ヅライものだとは……。で、でもあたしは負けないぞ!」ピコピコ

美優「(よ……、よく分からない……)」



━━━━━━━━━━
【ホテル】



美優「(……)」

美優「(…………)」

美優「(……………………)」

美優「(結局、この……)」

美優「(この…、みくちゃんの写真は、何処で何に使えばいいのかしら…………)」ピラッ

──────
────
──


三船美優
http://i.imgur.com/o5fH8KU.jpg
三好紗南
http://i.imgur.com/W15B7ge.jpg
早坂美玲
http://i.imgur.com/PVMTbqn.jpg

今日はここまでです
書き溜めとかないし、体力が続かないので、そろそろ締めるかもしれないです
では


ホントだ……後半、紗南ちゃんが何故か光ちゃんの喋り方になってる
これはちょっと許されんミスですね、一応修正します……

━━━━━━━━━━
【翌日 電車内】

美優「(……!)」ゴソゴソ

美優「(これは、アイマスクね。丁度良いわ、朝も早くて移動時間も長いし、これで少し休憩させて貰おうかしら)」スッ

美優「(よっ、っと……)」グッ

美優「………………」

美優「(あぁ……。案外落ち着くかも……)」

美玲「……?」

美玲「(…………なあ紗南? なんで美優は、目が付いたアイマスクをしてるんだ?)」

紗南「(し、シーーっ! きっとアレだよ、目が疲れてたんだよ……)」



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【イベント会場】

美玲「う、うぅ……」ブルブル

美優「(東北地方は、少し寒いわね。軽装の二人は大丈夫かしら……)」

美優「(! そうだわ、確か……)」ゴソゴソ

美優「二人とも、寒くないかしら? このカイロを良かったら使って?」スッ

紗南「ん……!」ブルブル

紗南「美優さん、準備いいね」

美玲「やっぱり美優はしっかりしてるなー、ウン。ありがたく使わせて貰おうかな?」



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【控え室】

美優「(……?)」ゴソゴソ

紗南「!!」ガタッ!

紗南「美優さん、それって……!」

美優「えっ?」

紗南「ゲームボーイアドバンスでしょ! なんのソフト入ってるの!?」

美優「え! え、えっと…………」

紗南「ちょっとあたしにやらせてよ♪ どれどれ……?」パチン

紗南「…………ッ!」

紗南「が、画面暗っ……。こ、これは反射型の液晶……ということは初期GBA……!」

紗南「く、くっそー! 透過型の液晶ゲームに慣れてると、こんなに見ヅライものだとは……。で、でもあたしは負けないよっ!」ピコピコ

美優「(よ、よく分からない…………)」



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【ホテル】



美優「(……)」

美優「(…………)」

美優「(……………………)」

美優「(結局、この……)」

美優「(この…、みくちゃんの写真は、何処で何に使えばいいのかしら…………)」ピラッ

──────
────
──


恥ずかしい限りですけど、1レス分修正しました……
少し勉強不足の点がありました。本当にごめんなさい
不快に思われた方、申し訳ありません。どんな批難でも受けます
でもゆるしてくださいなんでもしますから……


──
────
──────
【事務所 応接室】


のあ「……」ペラッ

奏「……」

奏「…………」ペラッ

のあ「(…………)」

のあ「(向かいに座ってファッション誌を読んでいるコ……確か、速水奏ちゃんだったかしら)」

のあ「(不思議な空気感を帯びた子ね。高校生とは思えないくらい大人びて落ち着いた仕草に、何処となく妖艶……、いえ、セクシー……いえ、官能的……?)」

のあ「(何だろう。美波ちゃんに通じるアレを感じるわ)」

のあ「(…………)」ジー

奏「……!」ピクッ

のあ「(……っ!)」ビクッ!

奏「そう言えば……」

奏「高峯さんとお話をするのは、これが初めてかしら?」ニコッ

のあ「……」

のあ「…………イ…」

のあ「…………いいえ?」

奏「えっ」

奏「(え……そ、そうだったかしら。記憶に無いけど……??)」

のあ「(な、何をテキトーに言っているのかしら私は……)」ドキドキ

奏「……」

のあ「……」

奏「先日のデビューライブ、大成功だったみたいですね。おめでとうございます」

奏「何でも、出演陣の中で最も会場を湧かせたのがアナタの歌だったとか。みんな褒めてましたよ?」

のあ「……皆で彩り築く一つの舞台では……、戯曲の優劣など無意味な比較よ……」

のあ「(嬉しい)」


のあ「若い貴方達に力添えが出来たのなら、それだけで私は十分満たされたわ」

奏「フフっ、案外控えめなんですね」

のあ「……己の役目を全うした。それだけよ」

奏「じゃあ仮に前座じゃなくて、主演なら?」

のあ「……勿論、その時は全力を尽くすわ」

のあ「(……陶酔なんかして、私のガラじゃないわ)」

のあ「(ハァ……。24のおばさんが大トリなんて任せられるワケ無いけど、もしそうなったら極度の緊張のあまり、多分過呼吸になるわね……。最悪ステージ上で吐くか漏らすか)」

奏「(……………………)」

奏「高峯さん……」

のあ「……何?」

奏「フフフ……、そんなに気になります?」

のあ「(……??)」

奏「私の、くちびる」

奏「話してる時、ずぅっと熱い視線を送ってましたよね、ココに?」スッ

のあ「(ッッ!?)」ギクッ!

のあ「(…………っ)」ドキドキ

奏「チャームポイント、かな? 私にとって」

奏「『目は口ほどに物を言う』ってことわざで言いますよね。それが、今のアナタ」

奏「でも……、私はその逆で在りたい」

奏「誰もが見惚れ惹き込まれる、眩惑な艶を漂わせて…………僅かな変化でさえ、何よりも雄弁に速水奏という偶像の語り部となるような……」

のあ「(………)」

のあ「(…………??)」

奏「恋愛映画は趣味じゃないけれど、その仕草だけで誰かと心を通わせるのって、素敵だと思いませんか? ふふっ……」

奏「歌に想いを乗せるのと同じ。偉そうに言ってますが……自分を繊細に表現できる技倆は、私には無い。でも、何か一つでも、少しでも自信を持てるものがあるとするなら……」

のあ「(……!)」

のあ「………………」







のあ「……えぇ。本当に……、魅力的だと思うわ…」

のあ「蠱惑的で……、私の目も奪われてしまった…。貴女の、その…………綺麗なくちびるに……、ね?」チラッ



奏「(……ッッ!?)」ゾクッ!


奏「……っ!」バッ!

のあ「(……?)」

奏「(ぐッ……うっ……!)」ドキドキ

奏「(な、なにっ、今のはっ……! ただの彼女からの一瞥……、それだけなのに……っ!)」

奏「(視線がぶつかった瞬間、刺すような目線に思わず萎縮しちゃった)」ドキドキ

奏「(ほ、ほんの一瞬だったけど、時間が止まって全てが透明になったような感覚だった……。あのまま目を合わせ続けていたら、きっと私は自分を抑えられなかったかもしれない)」

奏「(『目は口ほどに物を言う』……。からかい気味に安易に喩えた私が、愚かだったわ……! あんなに意志が籠った瞳を見たのは、初めて…)」ドキドキ

のあ「(…………)」

奏「(目で語りかける、なんて優しい代物じゃあない。まるでたくさんの感情を否応なくいっぺんに流し込まれて、こっちの意識をあっさり絡め取るみたいに……)」

奏「(私の芯を全てを見透かされたような、けどほんのりと温かくて包み込まれるような……。まるで全てを赦す慈母の眼差し…………いや、違う)」

奏「(……禁忌に身を沈めても良いと思える程に……、甘く誘うような、冷たく嘲笑うような、悪戯っぽく好奇心に満ちた……)」

奏「(ハ……、はぁっ、はぁ……。こ、これが、『寡黙の女王』……!)」ドキドキ

のあ「(…………)」

奏「(ふっ……うぅっ……!)」ガタガタ

奏「(胸のどこかを小突かれたように、得体の知れない感情が張り詰めてくる……、こ、心が掻き乱される……っ!)」

奏「チ…………!」

奏「ちょっと用事を、思い出したわ……。し、失礼します……っ」ガタッ

のあ「…………」

奏「(…………)」スタスタスタ







のあ「(……)」

のあ「(…………)」

のあ「(何だかよく飲みこめなかったけど、取り敢えずテキトーにリップの魅力に話を合わせて良かったかしら?)」ドキドキ

のあ「(…………)」ドキドキ

のあ「(奏ちゃん、恐ろしい子ね。まさか見破られるなんて思わなかったわ)」ドキドキ

のあ「(…………私が………っ)」

のあ「(…………私が……、人と目を合わせる事がすごく苦手だから、誰かと会話する時はその人の口元に焦点を合わせて喋っている事を……!)」

のあ「(中学校の面接練習で教わったわ。そうすれば、相手からは目を見て話しているように装えるから問題無い、と)」

のあ「(最後の一瞬、頑張って目を合わせたけど……何だろう……やっぱり恥ずかしい)」

のあ「(ちょっと怖いわ、奏ちゃん。良いコだとは思うけど、何を考えていたのかな?)」


──────
────
──


──
────
──────
【朝 事務所 応接室】


真奈美「……」

のあ「……おはよう、真奈美」

真奈美「ん。おはよう、のあ」

真奈美「(…………)」

真奈美「(…………んん?)」チラッ

真奈美「(…………っ!!)」

のあ「今日は……冷えるわね」

真奈美「……そうだな」

のあ「そう言えば、昨日ここで奏と話したのだけれど……」

真奈美「うん?」

のあ「『目は口ほどに物を言う』……。情が籠められた瞳や視線は言葉で表現する以上に、巧みに物事を語るという諺だけれども……」

のあ「一挙一動か、あるいは自己の魅力的な要素で、想いを乗せ相手に伝える技倆……と彼女は言っていたわ」

真奈美「……俗に言う、ノンバーバルコミュニケーションだな」

のあ「本当に尊敬に値するわ。明確な向上意識も持ち、更にあの歳で自己を客観視出来るなんて……、容易なことではないもの」

真奈美「うん、そうだね」

真奈美「この事務所に所属する子達は、強い個性もさることながら、しっかりと視野を広げて周りが見えているよ」

真奈美「ただ若いだけじゃない。それを健やかに伸ばして、皆と共に純粋で楽しく歩む姿勢でいる」

真奈美「ただ……、アレだな……ううん……」

のあ「(……?)」


真奈美「言葉にせずとも伝える……、か」

真奈美「ううん……実は私も、表情や機微や仕草から情報を読み取るのが得意でね」

のあ「…………へえ」

真奈美「そうだな……、例えば……」チラッ

真奈美「(……)」

真奈美「のあ。君は今日はスタジオでレッスンのようだが……」

のあ「……ええ」

真奈美「確かに、今日は身が引き締まるような冷え込みだ。布団から出たくない気持ちも分かるが……」

真奈美「ひょっとして……少し寝坊して、慌てて家を出たんじゃあないのかな?」

のあ「(…………えっ!!)」ビクッ!

真奈美「あとは……切迫した時間のせいもあってか、今日君は歯を磨いていない。というか多分、身支度をする際に鏡を見る暇もなかった……。どうだろう?」

のあ「(…………っ!!)」

真奈美「だがそのくせ、朝食は欠かさなかったようだ。白米を食べただろう?」

のあ「………」

のあ「…サ……さあ…。でも、何故かしら?」

真奈美「(ま……、マジか……)」

真奈美「その…………アレだ」

真奈美「一度、化粧室で鏡を覗いてくると良いよ。頭頂部と、口元に注視してみると……」

真奈美「それが、如何に君の朝の慌ただしい様子を雄弁に物語っているか、理解できるだろう」

のあ「…………分かったわ」

のあ「(…………??)」スタスタ


──────
────
──


──
────
──────
【事務所 応接室】


伊吹「高峯さんっ!」

のあ「(……!)」

のあ「(彼女は……、小松伊吹ちゃんね。とてもアクティブでカジュアル、人当たりも良くて可愛らしい女子だけど……)」ジー

のあ「(出る部分はしっかり出てるわね、イイわ。おまけにダンスも得意で、アイドルとして非の打ち所がないじゃない)」

伊吹「この間のライブ、滅茶苦茶カッコ良かったですよ! 踊りもキレがあって、歌声も力強くて……!」

のあ「……明媚な世界観を内包した楽曲と、巧みな演出の賜物よ。何も、私が全てを生み出した訳では無いわ」

伊吹「いやいや、そんな謙遜することないですよ、ホント」

伊吹「うーん……そういえば……!」

伊吹「高峯さんって、普段は何してるんですか?」

のあ「(……ッ!!)」

のあ「ト…………唐突ね。何故かしら?」

伊吹「んー、失礼かもしれないケド、高峯さんって寡黙でクールでお高い人のイメージが強くて……」

伊吹「あんまり日常の情景が想像出来ないんですよね。事務所の人達からも関わったとか話を聞かないし……」

のあ「(ッッ!?)」グサッ!

伊吹「あっ♪ でもこの前プロデューサーから、高峯さんの趣味とか聞いたんですけど……!」

のあ「(ッッッ!!!)」ビクッ!

のあ「(し…………趣味っ!? プロデューサー……、履歴書! しまったッ!)」

のあ「(あ、あんな地味庶民の無難な記入例をただ模写したかの如く、話のネタにもならないツマラナイものが……っ!!)」

のあ「(し……、しかも中にはスペースを埋めるために全く興味ない事とかテキトーに書いたし……! ふ、深く追及されたら、ま、マズイわ……)」

のあ「(~~~~~っ……!)」





【高峯のあ】

【趣味・特技】
【趣味は読書、映画鑑賞、天体観測、料理、楽器演奏、ネットサーフィン。
 特技は体を動かす事全般、速読、射的、裁縫、声帯模写、産地銘柄牛を舌で当てる、利き酒、他】




のあ「(お願い伊吹ちゃん……! せめて事実の部分を聞いて頂戴……っ!)」

伊吹「映画……」

伊吹「映画っ、お好きなんですか??」ズイッ!

のあ「」


のあ「…………」

のあ「エ…………ええ」

伊吹「ホントっ! じゃあ……、ジャンルは何を?」

のあ「(じ……じゃんる……。あまり観ないから知らない……)」

のあ「特にこだわりは無いわ。取分け……流行の物を追う訳でも無く、少し触れてみて己の琴線に響いた時のみ……初めてその作品を享受すると決めているの」

のあ「(な、何を言っているのかしら、私は……。あぁぁ……またドツボに嵌っていく……)」

伊吹「へえぇー……」ジー

のあ「(……っ!)」

のあ「(伊吹ちゃんの反応が芳しくない……。なら、もうヤマを張るしか……!)」

伊吹「(コアな映画を観るタイプかなー? 高峯さん、恋愛モノとかはあんま観なさそうだなー)」

のあ「ケ……けれど、最近は趣向を変えて、視野を広げようとも考えたわ……」

伊吹「?」

のあ「この仕事を始めて、多種多様な価値観に触れる重要性を悟ったの」

伊吹「広く浅くとかじゃなく、今まで興味がなかった物も観るようになったってコトですか?」

のあ「ト……特に……、若い年齢層の…………恋愛観、とか」

伊吹「!!」ガタッ!

のあ「(!!!!)」


伊吹「ほ、ホントウですか!? 高峯さんが恋愛映画……!!」

のあ「(伊吹ちゃん、急に喰いついてきたわ。どことなく先程より、表情に明るい色も帯びて……)」

伊吹「ちょっと意外っ! でもでも、アタシも実は結構好んでみるんですよっ! 甘酸っぱいベタベタな恋愛映画から、見ていて歯痒い距離間を描いた物とか、ひと夏の淡い恋模様を感じさせてくれる青春映画とか……!」

のあ「(……)」

伊吹「洋画だと、そこにアクションや小難しい設定も加わってより人間ドラマが垣間見れる作品も良いですよ♪ 二転三転してハラハラする展開だったり、より親密で強固な絆で添い遂げるような────────」






━━━━━━━━━━
【翌日 事務所 応接室】


伊吹「ねえー、奏ー?」

奏「…………なぁに?」ペラッ

伊吹「昨日、高峯さんとお話ししたんだけど、あの人映画観るんだってさー。しかも、価値観がどうとかで今は恋愛映画に興味があるとかっ!」

奏「……ッ!?」バサッ!

伊吹「ほんっと変わってる人だよねぇ♪ こーいう映画鑑賞とかも、高峯さんなら芸術作品として捉えて人物の心情理解やら演技の勉強の一環とか思ってそうだけど……」

伊吹「ふふん♪ 今度色々貸してあげる約束とかしちゃったしさ。ひょっとして、アタシってこの事務所で一番あの人と会話────」

ギュゥッ!


伊吹「ふぎゅっ!?」

奏「……」ギュウゥゥ…

伊吹「いっ、いたいいはいっ! にゃ、にゃにすんのっ!?」グイグイ

奏「……別に悔しくなんてないわ……。というか、何でアナタはそういう余計な事をするのっ!」グググ…

伊吹「ふぐっ……。ふぅっ、な、何が??」ヒリヒリ

奏「あの人は孤高にして崇高で至高で唯一無二……。彼女の儚くも美しい悲哀の様相と憐憫の瞳は、朽ち逝く世界の終焉を憂う女神の如く、内に秘めた想いを言葉無くとも深く感じさせる……!」

伊吹「な、なに言ってんすか…、奏さん……??」

奏「とにかく……、そういう人なの。私達とは住む世界が違うのよ。恋愛映画とか品位に欠ける、俗っぽい物に触れさせないで」

伊吹「ぞ、俗っぽいだとぉ!?」

奏「……ごめんなさい。言い過ぎたわ」

奏「(………)」

奏「…………伊吹。あの人に貸す予定の作品、まず私に貸して頂戴。一晩で全部観るから」

伊吹「えっ? 恋愛映画だよ?」

伊吹「奏、苦手だったでしょ?」

奏「いいの。色々と情報を共有しておきたいのよ」

伊吹「は、はぁ……さいですか……」


──────
────
──


──
────
──────
【???】


────はぁ、はぁっ、くっっ

高峯さん。こんな場所で誘惑した貴女が悪いんですから────



────俺だって、健全な男ですから。そういう欲が無いワケじゃあないんです

そんな方法で誘惑されたら、そりゃあもう我慢なんて出来ませんよ────



────でも、嬉しいです

今まで高嶺の花だった貴女ですから。少し親近感が湧きました────



────は、はははっ。思わず垂涎がっ

俺、昨日の夜からヌイてるんですよ─────



────ああ、高峯さん

もう俺の視界には貴女しか入らくて、色々と限界なんです────







────でも、何故ですか────



────この状況で、どうして貴女は平静でいられるんですか。その氷のような瞳で、高峯さんは何処を見据えているんですか────

────どうして、ソレじゃなければいけなかったんですか────


────貴女は、どうして────




のあ「……」モグモグ

ブゥゥゥゥゥン…











P「(どうして……っ)」

P「(どうして、こんな狭い車中の空間で牛丼なんてチョイスしたんですか……ッ!?)」グウゥー



のあ「……」モグモグ

P「(仕事終わりの送迎の途中、唐突に『運転中申し訳ないのだけれど、ご飯を食べても良いかしら?』なんて控えめに言ってくれたから……)」

P「(断わる理由も当然無いし、『ええ構いませんよ。お仕事お疲れ様です』と二つ返事をしたら、そしたらなんと小さなバッグからとんでもねェブツが飛び出してきやがった……!)」グゥゥ

のあ「……」ゴクン

P「(せめてパンやオニギリ等軽食の類と思ったら、とんだガッツリ系…。め、飯テロなんてレベルじゃない……。もう立派な化学テロですよ、匂いの……!)」

P「(あ、あぁ……腹減った。昨日の夜から飯ヌイてるから、この牛丼の匂いを嗅いだだけで、空腹が激しく誘引される……)」グウゥゥ

P「(く、くそっ……。俺が許可した事だし、この車内に充満した美味しそうな匂いを逃がすのに窓を開けてしまうのも、相手に気を遣わせるようで返って気が引ける……)」

のあ「……」モグモグ

P「(無表情なのに、時折垣間見える満足したように唇の端を上げる仕草が……もう、とにかく俺の食指を刺激する……)」

P「(も、もうダメだ……。このままだと運転に集中出来ず事故ってしまう。なにより、俺の腹減りがクライシス……!)」

P「た…………っ!」

P「高峯さんっ! ちょ、ちょっと寄り道します!!」

のあ「……どこに?」モキュモキュ

P「こ、この先にある吉野家ですっ! すみません……」

のあ「……」ゴクン

のあ「……いいわ。私も行く」

P「(ッ!?)」ゾクッ

P「(ま、まだ食べるのか、この人……!?)」

のあ「(……)」モグモグ


──────
────
──


──
────
──────
【事務所 応接室】


のあ「……」

菜々「あ、あのぅ……た、高峯さん……?」

のあ「(…………)」ジー

菜々「(な、何でずっとナナの事を凝視してくるんでしょうか……)」

のあ「……」

のあ「…………菜々」

菜々「は、ハイっ!」ビクッ!

のあ「……貴女、確か一人暮らしと以前言っていたわね?」

菜々「は……、はい。う、ウサミン星から出稼ぎに……」

のあ「……本当に、一人暮らしなの?」

菜々「え?」

のあ「……辛い現実から目を背けて、いつの間にか自分を見失ってしまった……」

のあ「……貴女は、何かを偽っているわね」

菜々「ッ!?」

菜々「なっなな、な、何もいいい偽ってないですよッ!? な、何ですかイキナリ……!!」プルプル

のあ「…………」

のあ「…………今度、貴女の家に遊びに行きたいの」

菜々「(…………!?)」


菜々「い、いや……そ、それは……ちょっと……」

のあ「(やっぱり……)」

菜々「う…、ウサミン星人の生活様式は誰にも明かすことが出来ないんです。申し訳ないんですが……その、トップシークレットで……」

のあ「……」

菜々「と、というかっ! ナナ、高峯さんの生活のほうが気になります!」

のあ「………………え?」

菜々「そのその……、アレですよ、高峯さんって不思議な雰囲気を醸し出していて、普段の様子がどんなカンジなのかなぁって……!」




奏「私も興味があります」スッ

美波「わ、私も……」スッ




菜々「!?」

のあ「(!?)」

美波「高峯さんは、とある有名芸能プロダクションに所属しているミステリアスなアイドルと雰囲気や容姿が色々とそっくりなんですよ」

奏「えぇ。ひょっとすると、苦難に耐える故郷の民に希望を与えるために活動を続ける、月のお姫様という疑惑も最近は耳にして……」

菜々「な……、ナナの事、ですか?」

美波「違います」

菜々「アッハイ」

奏「古風とまで言わずとも、少し厳格な物言いとクールで面妖なオーラ……銀髪の美しい髪に、見る物を虜にするような流麗な容姿……」

美波「トップシークレット……と言うより、聞く事すらもはや畏れ多い気がするんですが、高峯さんの私生活はとても気になるんです」

美波「まだ他の事もあまり親しくない様子ですし、同じ事務所の仲間として少しずつ打ち解けられたいいなって思って」

のあ「……ワ…」

のあ「私の…………何が知りたいの?」

美波「!!」

奏「!!」

美波「そ……っ!」

美波「その……別に変な意味じゃないんですっ! 高峯さんの全てを露わにするとか、私生活を覗き込むとか、触れ合うとかそういう意味合いじゃなくて……!」

奏「か……、簡単に、その…………趣味とか、好きな物とか……、好みのタイプとか……、部屋の内装とか、どのあたりに住んでいるとか」

菜々「……」

のあ「…………」

のあ「…………」

のあ「ウ…………」

のあ「うるとら、とっぷしーくれっとで…………」

奏「(くっ……!)」

美波「(残念……っ)」

菜々「(今日の晩ご飯、何作ろうかな……)」


──────
────
──


──
────
──────
【高峯宅】


のあ「はぁ、はぁっ……」モゾモゾ

のあ「(…………な、情けない。普通に風邪を拗らせるなんて)」

のあ「(体調管理もろくに出来ないなんて、社会人として失格だわ。ハァ……)」

のあ「(今まで38.5℃以下なら平静を装って事務所に出向いて仕事をしたりしてたけど……)」

のあ「(さ、流石に39.3℃は限界かな………。こたつが壊れたのが最たる原因かも……)」

のあ「(イメージを壊したくないから、プロデューサーには皆に内緒にしてくれと強がりを言っちゃったけど……)」

のあ「…はぁっ、はぁ…っ!」

のあ「(…………)」

のあ「(……ふ、フツーに辛いっ! 本当ならみんなにちやほやして貰いたいのにっ)」ゼエゼエ

のあ「(あ、ああ……でも…………)」

のあ「(こ、この部屋の惨状を衆目に晒すわけにはいかないわ。机には大技林とか置いてあるし、窓には可愛らしいリキュールのボトルとか飾ってあるし、台所には今まで飲んだ栄養ドリンクの空瓶を効力の強さ順に並べているし……)」

のあ「(とにかく…、雑然としてゴチャゴチャと汚い。美優さんの部屋の300倍くらい汚い……)」ゼエゼエ

のあ「(でも、誰かに看病して貰いたい…。りんごとか剥いて貰いたい……、でも部屋が汚い………っ)」

のあ「ハ、はぁっ、ふぅぅっ…」


ピンポーン♪


のあ「!」







 『高峯さん、Pです』

 『調子は如何ですか? 他の子の送迎がてら、お見舞いに来ました』




のあ「(……ッッ!?)」バサッ!


━━━━━━━━━━
【高峯宅 玄関外】


P「インスタントの食べやすい食品とかゼリーとか、ポカリとかカットフルーツとか買ってきたんで…………」

P「(……!)」

P「(……し、しまった! 慌てて飛び出てきたが、女性、ましてやアイドルの家にずかずかと入るワケにはいかないな…)」

P「(何より、あの高峯さんの部屋に上がり込むなんぞ恐れ多くて俺には出来ん。とにかく……)」

P「…玄関に置いておくので、後で食べて下さい。もし何かあれば、次からはア──────」

ドンッ!


P「っ!?」ビクッ!

 『ア…………貴方、そこにいるのね……?』ゼエゼエ

P「は、はい! 高峯さん、扉のすぐそばに居るんですか??」

 『(………………)』

P「だっ、大丈夫ですか!? 無理なさらず……!」

 『折角……、足を運んでくれたんですもの……』

P「えっ……?」







 『待っていて…………5分……いえ、15分だけ時間を頂戴……』




P「(……!?)」

P「アッ! ま、まさか高峯さ………」


キュル! キュルルル!

カチッ!
シュゴオオオォォォ!!


P「(あ…、あああッ!!)」

P「(やっぱりだ! この人……!!)」アセアセ

P「た、高峯さん!? 俺も同じ一人暮らしだから事情は察せますが、無理しないで下さいッ!」

P「体に鞭打って掃除機掛けて清掃してまで、部屋に招いて下さらなくても……!! お、お気持ちは嬉しいですけど、ホントにもう帰りますからっ!!」アセアセ


シュゴォォォォォ! ガタガタッ!


──────
────
──


──
────
──────
【続 高峯宅】


シュゴオオオオォォ!

のあ「(くっ……!)」ガタガタ

のあ「(せ、せめて……最低限の清潔感を出さなきゃ……。女の品格として求められる最低ラインまで片付けないと……!!)」ガタガタ

のあ「けほっ、こほっ……ふぅっ、ふぅっ……」フラフラ






 『ミァデリネーシュ、プロデューサー?? のあに、何か、あったのですか?』





のあ「(~~~~~っ!?)」ガタッ!

のあ「ア…………アナスタシア…?」

 『あっ、はい。彼女の仕事の送迎がてらに、貴女の家に寄ったんですよ』

のあ「」

のあ「(い……家が、バレた……っ! よりによってアーニャちゃんだなんて……)」

のあ「(くっ、ぐくッ……し、死にたい……)」

のあ「こほっ、こほっ……!!」

のあ「(つ、通称『寡黙の女王』が、こんな安普請なアパート住まいなんて知ったら……皆に馬鹿にされちゃう……)」


のあ「(うっ、うううっ。恥ずかしいぃ……、近々引っ越そう……もっとオシャレで新築でオートロックで鉄筋コンクリートで耐震偽装もしてない立派なマンションに……)」

のあ「(頑張ろう…、ビッグになろう……。どうやったら稼げるのかしら……)」

のあ「けほっ……!」

のあ「(もう、形振り構わずキャラを売っていくしかないわ……。体当たり芸路線でも大食いでも、とにかく何でも……っ!)」


『じゃあ……高峯さん。ここに置いておきますから、後で食べて下さいね』


のあ「(……!!)」

のあ「マ…………待って、プロデュ──────」






 『スパシーバ ハロシューエ、プロデューサー。また明日、宜しく、お願いします』

 『おう、最近寒いから、体調管理はしっかりな。じゃ』




のあ「(…………ッ!?)」

のあ「げほッ! ……グっ……!! ッッ……!??」


のあ「(な、何……。ど、どういう事……!?)」プルプル




 『のあ? 辛かったら、すぐに連絡、私にしてくださいね?』

 『私、ここの「隣」なので。いつでも、駆けつけますから、遠慮なさらず。ジェラーユ ヴァム パプラーヴィッツア、お大事に……』




のあ「(……!!!)」


コツ、コツ、コツ、コツ…



のあ「………………………」

のあ「………………………………………………………」







━━━━━━━━━━
【後日 高峯宅】


のあ「……」カチカチカチ

のあ「…………」

のあ「ぁっ、もしもし……。はい…、あの、部屋の契約更新の件で、はい…………高峯のあです。はい、本人です……」

のあ「……はい、3月25日です……はい……」

のあ「はい、確か今年で契約が………………、はい……そうですよね。はい……はい……、また同じ部屋で、はい、2年間…………はい、構いません」

のあ「後日、書類、郵送…………はい、分かりました。はい…………宜しくお願いします」

のあ「はい……、失礼……失礼します、はい」ピッ

のあ「…………」

のあ「………………」

のあ「……ふ、ふふふ……っ♪」

のあ「(隣の部屋が、まさかアーニャちゃんだったなんて……。何という偶然、僥倖、天啓……。世の中狭いわ)」

のあ「(安普請なんてとんでもない。まさに最高の掘り出し物件ね。夢が広がるわ…、ふふふふふっ……♪)」


──────
────
──

今日はここまでです、また次回
ボツネタ除いて、あと残りは1/4ほど。また来週くらいに更新します

──
────
──────
【事務所の廊下】


のあ「……」スタスタ

♪~~~~……♪


のあ「(……電話…)」ガサガサ

のあ「(あっ。母親から…………どうしようかな)」

のあ「(…………)」キョロキョロ

のあ「…………」タタタタタタ




━━━━━━━━━━
【女子トイレ】


のあ「……」ピッ

のあ「………」

のあ「もしもし、おかん?」

のあ「うん……うん、あ、この前の雑誌?」

のあ「あー、あぁー。うん、ちーとばかし気恥ずかしかったねんけど、まあ周りは褒めてくれてたし、こないなのもええなって」

のあ「うん…………うん? あっ?」

のあ「いやっ、いやだ……! そういうのホンマやめて……、うん、あかんわ、よそに触れ回らなくてええから……!」

のあ「もうー、ホンマにやめて欲しいわぁ。恥ずかしいことせんでよ……うん」

のあ「あー……、せやねー、うん。まあ今年は厳しいかな、うん、ごめんな。あー……、苺? うん、いつもええのに」

のあ「うん……大丈夫。なんとかやってるから。うん、友達も出来てるし、大丈夫。今度の仕事?」

のあ「映画の撮影って聞いた。エキストラやから、そないなに出番は無いけど……うん」

のあ「うん。そっちもな。ほな、ほなね………」

のあ「……」ピッ

のあ「(…まったく、雑誌の切り抜きを近所に配るのはやめてよね。あぁ恥ずかしい……)」

のあ「(ハァ…)」

のあ「…………………………」

のあ「………………………………っ!!」

のあ「(あ、危ないっ! つい癖で、無意識に地元訛りで会話してたっ……!)」カアァー

のあ「(普段は標準語で務めていたし、関西弁なんてキャラじゃないのに…………。こんなトコロ誰かに聞かれたら、もう舌噛み切って自殺どころの醜態じゃない…。恥ずかしすぎて狂ってしまう)」


キィ…

のあ「(ッッ!?)」バッ!












蘭子「…………ぁっ…」ガクガク

のあ「」ピシィッ


蘭子「ゆ、悠久の刻を越え異世界より来訪せし、無慈悲なる断罪者【ジャッジメント】………(訳:た、高峯さん……)」ガクガク

のあ「…………」

蘭子「ソの、そそ其の方の、い、異郷の徒が普く放つ詠唱は…………」ガクガク

のあ「…………」

蘭子「ひ…、ひ、ひょっとして、た、高峯さんって……、か、か、関西…………」ガクガク

のあ「………」

のあ「…………ヒ…」




のあ「………人違いや…」




蘭子「ヒッ!」ビクゥ!

蘭子「アヒッ……、す、すみま………ぁぅうわあああァァーーーーーっっっ!!」ダッ!

ガチャ! バァン!

タタタタタタタタ!


のあ「………………」

のあ「……………………」

のあ「…………………………」






━━━━━━━━━━
【廊下】


P「~~~♪」スタスタ

バンッ!


P「っ!」ビクッ!

蘭子「ア………アァ…………!」プルプル

P「!?」

P「ど、どうした蘭子!? この世の終わりのような表情してるぞ!!」

蘭子「い……」プルプル

蘭子「い、いっちゃすまんばってん、わ、わけくちゃわからんん……。ぅうわああぁーーーーーーーーんっ!!」バッ!

ダダダダダダダダダダダ! ドテッ!

P「ら、蘭子!?」

P「ど、どうしたんだ蘭子!! 蘭子ォーーーーーーー!!」


──────
────
──

──
────
──────
【2月13日】
【事務所】


P「(……)」ジー

のあ「(ふ、ふふふっ♪ ひとつ、ふたつ……♪)」ゴソゴソ

のあ「(嬉しい。ゴディバにロイズ、モロゾフ、ブルガリ……こんなに、たくさん……♪)」ゴソゴソ

P「(……)」

のあ「(ふふふ……、バレンタインとは言え、まさかこんなにファンの人達からチョコレートを貰えると思わなかった……♪ 食べきるのにどのくらい掛かるのかな?)」

のあ「(冷凍して、ちょっとずつ消費するのも悪くないわ♪ ふふっ、これでお昼代がかなり浮くし……♪)」

P「(……)」

P「(…………)」

P「(事務所に届いた、トラック1台分の大量のダンボール。アイドルになってまだ数か月の新人にしては異例ともいえる数のそれを目の当たりにして……)」

P「(……顔を確認せずともその後姿の様子で、ハッキリ分かる。こうやってずっと一個一個しっかりと手に取って、ファンとの繋がりを噛みしめ感謝しているに違いない)」

P「(誰だって、大勢のファンから想われている事は嬉しくない筈はない。それが物と量を伴って目に見える形となって現れたのだから)」

P「(……しかし…)」

P「(俺は、喜ぶ彼女に対し残酷な事実を告げなければならない)」

P「(これはアイドルが誰もが通る道だ。仕方ない…、仕方のない事なんだ……)」

のあ「(~~~~♪)」

P「………………高峯さん」

のあ「……何かしら」

P「高峯さん宛てに事務所に届いた大量のチョコレート等、お菓子の数々ですが……」

P「…………貴女が口にすることは一切出来ません。高峯さんに限らず、全アイドルに言える事ですが」

のあ「っ!?」ガタッ!

P「!!」ビクッ!


のあ「(う…、うそっ……!)」

のあ「何故……ッ!」ガバッ

P「食中毒や衛生上の観点もありますし、なにより最近はイタズラも多く、中に異物や危険物が混入されている場合もあります」

P「勿論、全部が全部悪い物では無いと思いますが……、それを検査する時間も手間も掛けられないのが現状の体制です」

P「申し訳ありません……。これは規則でして、貴方達アイドルの安全を考慮しての対策です」

のあ「……!」

P「手紙やファンレター等は一応こちらで預かりますが、それ以外の贈り物は返送処理をし、腐敗や劣化が想定される食べ物は………………」

P「……全て、廃棄処理となります」

のあ「処分っ…!」

P「焼却処分です」

のあ「焼きチョコっ……!」

P「ま、まあ見た目はそうなりますね。捨てちゃいますケド」

のあ「(そ、そんな……)」

のあ「ミ……」

のあ「店で販売している、既製品でも……?」

P「……手作りは勿論、販売されている物も廃棄対象です」

のあ「ロイズも……?」

P「ロイズもです」

のあ「マサールも、イシヤも、モロゾフも……?」

P「はい」

のあ「ゴディバ………、あのゴディバも…!?」

P「全て焼却します」

のあ「(……っ!)」ガーン!

のあ「……」

P「……」

のあ「………………」

のあ「……………………」チラッ

P「そ…、そんな上目遣いされても、こればかりは会社の規則です」オロオロ

のあ「……」

のあ「…………」

のあ「………………っ」スーッ

P「(なっ!! 涙ッッ!)」ビクッ!

P「た、高峯さんっ!?」

のあ「……いいえ、仕方のない事よ。貴方の責任ではないわ……」グスッ



のあ「儚い声…………純粋な想いも願いも、届かない。ただ一つの悪意によって全てが歪め、憚られる」

のあ「けれどもせめて、ひと欠片でも……物に籠めた気持ちを汲んであげたかった……」

のあ「…………ごめんなさい」

P「(……ッ!!)」

P「(あ……あの高峯さんに、涙を流させてしまった……!)」オロオロ

P「(こんなにもファンを大切に考えているなんて、流石は高峯さん………、というより、罪悪感が半端無いッ!)」

のあ「……」グスッ

P「(グッ……、ぐうぅっ……!!)」ズキズキ

P「…………わ…、分かりましたッ! 高峯さんッ!」バンッ!

P「この際、もう規則なんてクソ喰らえです! 折角ファンが真心を込めて貴女のために贈ってくれたチョコを全て処分するなんて非道で畏れ多い事、俺には出来ませんッ!」

のあ「……! じゃあ……」






P「俺が食べますッ!」



のあ「……………………」

のあ「えっ??」

P「俺が全て食します!! 安全面を考慮し、高峯さんに食べさせてあげることはどうしても出来ませんが……」

P「アイドルとプロデューサーは一心同体! 貴女に送られた声援や貴女の喜びも、俺が共有します! つまり…………!」

P「この大量に贈られたチョコという千差万別のファンの心を、俺が残さず受け止め、高峯のあというアイドルの気持ちになって感想、感謝の言葉を全て一人一人に返してあげたいと思います!!」

P「安心して下さい高峯さん……! これで貴女が涙を流す必要は無くなります」

P「貴方が大切にしているファンを救えるのなら、この身など惜しくはありません。仕事に殉じ、貴女に尽くしたいと思います」

P「だって俺は、高峯さんのプロデューサーであり、ファンの一人でもあるのだから……!」

のあ「………………」










━━━━━━━━━━
【翌日 2月14日】
【事務所】


真奈美「……ハァ?」

真奈美「プロデューサー君が、高血糖で倒れた?」

美優「はい……。今ICU(集中治療室)で治療を……」

真奈美「何をやっているんだ彼は……。アイドルからチョコを貰いすぎて、少々浮かれたか?」

美優「うぅん。よく分かりませんが……」

美優「なにやら自宅に『異物混入等イタズラ無し』という血だらけの書置きと、一般人宛ての大量の封筒があったそうで……」

真奈美「……???」

のあ「(…ゴディバ……モロゾフ…………)」シュン


──────
────
──

──
────
──────
【2月14日】
【事務所 給湯室】


のあ「(ゴディバ……、ゴディバ…………)」トボトボ

のあ「(ハァ……まぁ、仕方のないのかな)」トボトボ

ガチャ


のあ「!」

雪美「…………!」

のあ「おはよう……雪美」

雪美「おはよう……。のあ?」

のあ「何?」

雪美「これ………………あげる」スッ

のあ「(…………!!)」







 【チロルチョコ】




のあ「(こ…、これは……!!)」

のあ「(ち、チロルチョコ! 1個20円の……)」

のあ「(…………)」

雪美「もっと良いの…………本当は、あげたかった。けど……」

雪美「作るの…………下手で………私……失敗…………して」

雪美「…………………………」

のあ「……!」



のあ「……嬉しいわ、雪美」

雪美「……いいの?」

のあ「ええ……、勿論。この小さな一欠片の贈り物に、貴女の純真な気持ちが込められているのなら……」

のあ「無機質に外形だけ繕った高価な代物でさえ、足元に及ばぬ程の価値がある。尊い心が溢れているもの」

のあ「ありがとう。必ず、お返しするから……」ナデナデ

雪美「…………うん」

のあ「(雪美ちゃん、本当に良い子)」ジーン

のあ「(嬉しい…、本当に。大切に食べよう)」

雪美「のあ………きっと、お腹空いてると思って…………」

のあ「ええ…………ありがとう……」ナデナデ

のあ「(………………??)」
















━━━━━━━━━━
【事務所 応接室】


美波「ふぐっ…………うぅっ………!」フラフラ

アーニャ「み、美波ッ!?」ガタッ

アーニャ「シ、シュトー、スヴァミィー!? さっき、大事な用があると出て行ったのに……」

アーニャ「何故、涙を……」

美波「……」グスッ

美波「アーニャちゃん……。今日はバレンタインだし、これ、プレゼント……」スッ

アーニャ「!」

アーニャ「チョコレート、ですね! スパシーバ、美波っ♪」

アーニャ「でも……これで美波から貰ったのは、今日で2つ目ですが……、良いのですか?」

美波「うん。ゴディバ。チロルチョコの700倍くらい高いやつ……」

アーニャ「ちろる、ちょこ?」

美波「私が……私が間違っていたの……。本当に大事なのは、値段や銘柄じゃない。その人へ向ける純粋な想いの大きさ、気持ち……」

美波「うぅ……。自分が、心底情けない」ガクッ

アーニャ「み、美波……?」


──────
────
──

──
────
──────
【車内】


のあ「……」

P「高峯さんも、アイドルとして活動を始めてそろそろ数ヶ月経ちますね」

P「仕事の方は勿論ですが……、どうですか? 他の子と馴染めてますか?」

のあ「(ッ…!)」

のあ「………さあ、どうかしら」

のあ「いずれも……同じ地平に立てば、言葉はいらない。自ずと心を通わせられる筈」

のあ「……心を開くかは、彼女達次第よ」

のあ「(……まだ、プロデューサーを含め4人しかアドレスを聞いていない…。数ヶ月でこれはヤバイのかな……)」

P「ははは、成程……」

P「好奇心旺盛ですからね、ウチのアイドル達は。癖のある奴らもいますが、みんな根は真面目で優しい子ばかりだ」

P「俺より一回りも二回りも年下なのに、俺の何倍も思慮深いのもいます。きっと口には出さずとも、貴女の良さを理解してると思います」

のあ「……そう」

P「(…………)」

P「(高峯さん……。事務所に一人でいることが多いから、少し心配だ)」

P「(魅力も十分だしカリスマ性もあるから本人自体に好かれる要素はあるんだが、やはりネックは寡黙さによる距離感の図り方と周知の弊害か)」

P「(なにか……、輪に入るキッカケがあれば……)」

P「(事務所の中でも、交友が広くて人当たりの良い女子とでも仲良くなれさえすれば、周囲にいる他の子も恐れず興味を持ってくれて連鎖的に人脈が広がると思うんだが……)」


P「高峯さん。誰か、気になる子とか仲良くなりたい子とかいますか?」

のあ「……!」

のあ「(い、イキナリ何……?)

のあ「(べ…、便宜でも図ってくれるのかな? アドレスを教えてくれるとか……?)」

のあ「(仲良くなりたい子……)」

のあ「……」

のあ「…………みくが、気になるわ。彼女の仕事意識の高さは……見習うべき点だと思うの」

P「!」

P「(みく……、みくか。確かに人寄せには持って来いだが……キャラ性が対極で正直絡ませにくい……)」

P「(いや、待てよ?)」

P「(確か……ギリギリ共演出来そうな仕事が……!)」


━━━━━━━━━━
【後日 事務所】


P「という事で……」

みく「……」

P「アナスタシア、高峯さん、みく。3人には再来週、札幌雪祭りのイベントに出演して貰う事になった」

アーニャ「ダー。北海道、ですか!」

のあ「(北海道……)」

みく「ハァ。寒いトコは嫌にゃぁ……」

アーニャ「ところで、プロデューサー? スコーリカ エモシェ スペェロスィテェベ?」

P「何だ?」

アーニャ「私達、3人……あまり、お互いを、よく知らないのですが……」

アーニャ「今回は何故、一緒の仕事を?」

みく「ん、みくも同じく質問にゃ。別に不満があるワケじゃないから、気を悪くしないで貰いたいんだけど……」

みく「そもそも、何で組ませようと思ったの……?」

みく「のあにゃんの方向性を模索しかねて、適当にくっつけようってコト?」

P「ハッ!」ガタッ!

P「ソ……そんな事はありません。相性の良い3人だと思います……」

みく「(な、何でイキナリ声色低くして、敬語に……。誰かの真似?)」

のあ「(……)」


P「優先基準は勿論仕事の方向性と適正だが、それに際してはモチベーションやマーケティング戦略諸々も視野に入れて、メンバーの相性も当然加味する。その上で今回はこの3人だ」

P「ムードメーカーで賑やか担当のお前に、真面目でひたむきなアナスタシア。そして一歩引いて頼りになる高峯さん」

P「別に他意はないさ。案外、良いバランスに仕上がってたから声を掛けてみただけの事だ」

のあ「(『頼りになる』……。ふ、ふふふっ……♪)」

P「それにお互いを知らないなら、これを機に仲を深める好機じゃないか」

みく「む、むぅ……」

アーニャ「ダー、なるほど……!」

のあ「……」

P「アナスタシアと高峯さん。二人は特に、容姿やクールな雰囲気は雪国のイメージにピッタリだ」

P「ミニイベントの枠に出演させて貰えるから、自信を持って存分に自分達をアピールして欲しい。勿論、会場を盛り上げる事も忘れずに」

P「それは、みくの役目でもあるが……」

みく「うん。盛り上げるのは得意だし、トークも頑張るにゃあ!」

P「あぁ。期待しているし、みくなら安心して任せられる」

P「…………と、みくにはもう一つ大事な役割があるんだ」

みく「??」

P「折角だ。お前も雪国の色に染まって貰う」

P「衣装が届いてるから、今ちょっと合わせてみてくれるか? あと、ウィッグも……」






━━━━━━━━━━
【衣装室】


ミク「…………」

アーニャ「エータ クラシーヴァ!」パァァ

アーニャ「ダヴァーイ、みく、写真撮ってくださいっ♪ 一緒に!」

P「おー、似合ってる似合ってる」

ミク「……ねぇ、Pチャン。これ……」

ミク「……『初音ミク』のコスプレ?」

P「違う、札幌雪まつりの大人気キャラクター、『雪ミク』だ。シンパシーを感じるだろ?」

P「一応……みくは終日、それで参加して貰う形になる。そういう打ち合わせだ」

ミク「(な、なんという安直な…!)」

ミク「似通ってるのは名前だけにゃ! というか、みくの原型を留めてないんだけど……」

のあ「……心配ないわ、みく」

のあ「このネコミミを貴女に付ければ……」カポッ

みく「……」

のあ「貴女の個性は失われず、その煌めきはより美しさを増すわ」

アーニャ「みく、とっても可愛いですよ♪」パシャ

みく「そ、そーかにゃぁ……?」

みく「(なんか…、上手く乗せられてる気が……)」


☆つづく
──────
────
──



今日はここまで。
次回、のあさん奮闘記in北海道
次回で最後です

──
────
──────
【空港】



P「もしもし、Pです」

P「えっ? はい、今は三人を連れて空港に…………」

P「……えっ!?」

P「わ、分かりました、はい。今は何処に? …………はい、すぐ向かいます」

P「……っ」ピッ





アーニャ「(……?)」

みく「Pチャン、どうしたの? そんな深刻な顔して」

P「……スマン。ちょっと別の現場で他の子がトラブって、すぐにそっちの対応に行かなきゃならなくなった」

P「申し訳ないが、代わりの引率を手配するには出発まで時間がない。取り敢えず3人だけで向かって貰う事になるが……」

アーニャ「わ、私達だけで、ですか……?」

みく「う、嘘っ!? み…、みく達、本番の打ち合わせとか段取りとか、よく分からないよ? ただでさえアウェーなのに……」

P「……っ」

P「だ……、大丈夫さ! 遅くなるが後から俺も合流するし、向こうには話を通しておく。もし無理そうなら、俺以外の誰かを後から向かわせるからっ……!」

のあ「…………」

のあ「……怪我、でもしたの?」

P「っ!!」

アーニャ「!!」

みく「えっ! 怪我、って……」

のあ「貴方の世話抜きでも……、大抵の煩雑ならば、持ち前の明るい笑顔と臨機応変さ…………不撓不屈の魂で立ち向かい、そして乗り越える」

のあ「強い子達だもの。事務所の子達は」

のあ「しかし、貴方が血相を変えて出向かなければならない程の困難。…………工夫や説服では対処出来ない問題。そう思っただけよ」

P「……貴女には、隠し事は出来ませんね」


みく「だ、大丈夫なの? 一体誰が……」

アーニャ「アクシデント……、心配です」

のあ「(……)」

のあ「……プロデューサー」

P「は、はい」

のあ「コ……今回は、私が指揮を執るから、心配はいらないわ」

P「!!」

みく「の、のあにゃん??」

のあ「貴方は早く、その子の元に行ってあげなさい。きっと、不安に駆られている筈だから」

のあ「……貴方の務めは、私達を導き照らす光……。けれど真に大切なのは常に寄り添い、励まし、理解する事よ」

P「……高峯さん」

のあ「シ…………信用して。期待に応えて見せるわ…………でしょう、二人とも?」

アーニャ「ダー、私も、頑張ります! 地元ですし、出来る事は色々、あると思いますっ」

みく「み、みくもにゃあ! Pチャンはみく達を信頼して送り出してくればいいにゃ!」

みく「不安はあるけど……、でも、きっとやり遂げて見せるからっ!」

P「……」

P「……分かった。3人共、ありがとう」

P「高峯さん。二人の事をよろしく頼みます。後で仕事の段取りと宿泊先、関係者の連絡先を伝えますので……」

のあ「ええ」

のあ「(…………)」

のあ「(ふ、ふふふ……!)」

のあ「(確かに怪我は心配だけど……、でも、こっちも集中しなきゃね)」

のあ「(ふふふ……。『頼りになる』ってトコロ、見せてあげるわ)」

のあ「(……で、でも、一段落したらプロデューサーが合流して欲しいのが本音だけれども)」

のあ「…………」

のあ「(……未開の地で唯一の大人が私しかいない今、高峯のあという女の真価が発揮される時よ)」

アーニャ「のあ、頑張りましょうね?」

みく「のあにゃん、頼りにしてるにゃ!」

のあ「(ふふ、ふふふっ……!)」

のあ「(ヤバイ……。二人に頼られてるわ、私……!)」ドキドキ



☆つづく
──────
────
──

──
────
──────
【飛行機内】


アーニャ「……」

のあ「(……)」

みく「(もうすぐ新千歳空港に着くにゃ。さて……)」

みく「……」チラッ

アーニャ「…………」

アーニャ「………………」

アーニャ「………………ぐぅー……」カクン

みく「あーにゃん、起きて。もう着くよ?」ポンポン

アーニャ「ゥッ!!」ビクン!

アーニャ「ど、ドーブルイ ヴィエーチル……みく。こ、ここは??」

みく「随分と気持ちよさそうに寝てたから起こさなかったけど、そんなに良い夢でも見てたの?」

アーニャ「そうですね……、良い夢か分かりませんが、私達3人が、猫耳を付けて、ライブをしている、夢を……」

みく「(変な夢)」

アーニャ「あとは、みくがラーメンやお寿司を、美味しそうに頬張っている夢、ですね♪」

みく「(こ、後者は絶対有り得ない)」

アーニャ「二人はずっと、起きていたのですか??」

みく「うん。のあにゃんなんて、上空で激しく揺れている時も眉一つ動かさずに無表情で座ってたよ」

みく「まるで待機モードに入って身動き一つしないロボットのようだったにゃ。事務所で誰かが噂してたけど、のあにゃんは本当にアンドロイドか何かなんじゃないかにゃ??」

のあ「(……)」

みく「……のあにゃん?」

のあ「(…………)」

のあ「(がッ…………ぐぅっ……!!)」プルプル

のあ「(み、耳が、異常に痛いッ……っ!!)」ズキズキズキ


のあ「(ふ、ふぐぅ……!)」プルプル

のあ「(い、痛い、痛い! ど、どうしたらいいのかしら……。でも、ここで助けを乞うのも沽券が……)」

アーニャ「んっ!」

アーニャ「うっ……。耳が、痛い……」

のあ「(……!!)」ピクッ

みく「あっ、航空性中耳炎かにゃ? 気圧の関係で飛行機が降下する時に痛みがするらしいけど……」

みく「たしか治すには……、食べ物を噛むように大きく顎を上下したりすると治るって聞いたことがあるにゃ」

アーニャ「アー……、あまり、変わりません」モゾモゾ

のあ「(…………)」モゾモゾ

みく「じゃあ、鼻をしっかり摘んだままゆっくり鼻に空気を送ってみて?」

アーニャ「はい。では………………むぅ」クイッ

のあ「(……)」クイッ

アーニャ「…………」スー

のあ「(…………)」スー

アーニャ「ウッ! んん……!」

みく「どう?」

アーニャ「…………ダー、治ったみたい、です。スパシーバ、みく」

アーニャ「耳の中で、パキンという小気味良い音がして、その後、きゅーっと、耳へ空気の流れる感覚が……」

みく「あー、分かるにゃ! ちょっと気持ちいいよね」

のあ「(…………)」

アーニャ「物知りですね、助かりました」

みく「ふふふっ。みくは何度かお仕事で飛行機に乗ったりしてるからね。経験の差ってヤツにゃ♪」

のあ「……そろそろ着くわ」

みく「うん。みくも北国は初めてだから、緊張するにゃ……」

アーニャ「ふふっ。一面銀世界ですから、驚くかもしれませんね」

みく「はー……寒いのは嫌だから、テンション下がりそうにゃ」

アーニャ「そんなこと、ありませんよ。きっと雪景色を見たら、楽しい気分になると思います」

みく「まさか……。流石にもう、雪見てハシャぐって歳じゃあないよ」

のあ「(…………♪)」



☆つづく
──────
────
──

──
────
──────
【北海道 札幌駅】


みく「わ、わあぁ……!」

のあ「……」

のあ「……雪ね」

みく「ゆきっ! 雪にゃあ!!」ウズウズ

みく「雪が積もってる! 雪が灰色の街並みの一部として景色に溶け込んでる……!」

みく「ハーっ、ふぅっ……! さむっ!」ブルッ

みく「寒いっ! 肺に流れてくる空気がすっごい冷たいっ! なんだか大きな冷蔵庫の中にいるみたいにゃ!」

のあ「どことなく日差しも弱々しく……、希薄で澄んでいるわ」

のあ「……街に横たわる雪が柔らかい日差しに包まれて………、方々できらきらと美しい輝きを放っている……」

のあ「(…………綺麗)」

みく「(そ、想像よりスゴい!!)」ウズウズ

アーニャ「(……♪)」


アーニャ「この、肌を刺すような冷たい空気も、懐かしい感覚です。エステェリェ ティ ヴォースドゥフ」

のあ「イベント会場は近くのようね……。今日はすぐそこにあるホテルに向かうのみだけど……」

アーニャ「少し、会場を覗いてみましょう♪ 確か、雪まつりは昨日から開催されている筈、ですし」

みく「この大きい駅も、結構立派な複合商業施設みたいにゃ。駅ナカの店も充実してるし……ホテルが近くなら空いた時間にちょっと覗いてみてもいいかもしれないにゃあ」

のあ「じゃあ……まずはチェックインを済ませたら、会場に向かいましょう」

みく&アーニャ「はーい♪」

みく「はー……! それにしても本当に一面銀せ──────」

ツルッ!


みく「にゃっ!?」

ガシッ!


アーニャ「みくっ、大丈夫ですか!」ググッ

みく「あ、ありがとう………」プルプル

みく「(…………っ!)」

アーニャ「………???」キョトン

みく「(い、今気づいた……!)」

みく「あーにゃん……。道が、スケートリンクみたいにツルッツルなんだけど……」

アーニャ「アー……、確かにみくのそのスニーカーでは、滑って危険かもしれません」

アーニャ「ダー、エータ ターク。ピソーク パァクマースィク。北海道の冬は、どこも、こんなカンジですね」

アーニャ「広い通りなどは、滑り止めに、砂が撒かれている所も、あるのですが……」

アーニャ「雪の降りたてや、水分を多く含んだ雪が降ると、街往く人に踏み固められて、凍結し滑りやすく、歩道ですらアイスバーンのようになっていますから」


みく「うえぇ。じゃあどうやって歩けばいいのかにゃ??」

みく「何か……よくよく見渡せば、高いヒール履いてる女の人も悠々と歩いてるんだけど」

アーニャ「問題ありません。雪国に住んでいる者は、皆、氷の上を歩き慣れてますから……」

アーニャ「体の重心を前気味に、爪先に力を入れて、小幅で歩くと、上手に進めますよ?」

みく「そ、そうなの?? 流石は試される大地、北海道……」

みく「……ふ、ふっ……よっ……!」トトト…

みく「ちょ、ちょっと疲れるけど、確かに歩きやすいかも」トトトト…

アーニャ「イスクースヌィ、みく。その調子です!」

アーニャ「夏場は、肩を怒らせて闊歩する狂犬のような不良も、雪道ではチワワのように生まれ変わるのです……!」

みく「よ、よく分からん例え……。というか普通に靴屋さんで、冬靴か着脱式の滑り止めを買ってきた方が早い気がするにゃ」

みく「ね? のあにゃんもどこかで歩きやすい靴を探して……」

みく「(…………ッ!?)」



のあ「私は……、心配には及ばないわ」ガキーン!



みく「す……スパイク!?」

みく「なにその禍々しいトゲトゲの靴!? それ陸上競技用のスパイクにゃあ!」

みく「危なっ! …………と、というかいつの間に……!」
 
のあ「……雪国に赴くと耳にして、鞄に潜ませていたのだけれど……、早速役に立つとはね」

アーニャ「流石はのあですね。軽やかな見た目も、機能性も……なにを取っても雪国ならではの、最適の装備です」

みく「ど、どこを見渡してもそんな機能性極振りのスポーティな武装をしてる道民はいないよ! モビルスーツか!」

のあ「さあ、行きましょう」ガシンガシン

アーニャ「ダー」スタスタ

みく「ちょ……、ちょっと待って!」ツルツル

みく「(くっ…! のあにゃんはあの異常な靴だから当たり前だけど、あーにゃんなんて冬靴でもないのにフツーに歩けてる……!)」ツルツル

みく「お、お願いにゃ! ど、どっちか肩貸し……ちょ、待っ、あっ、あぁっ……!」ツルツルツル



☆つづく
──────
────
──

──
────
──────
【雪まつり会場】


アーニャ「……」

アーニャ「ブッチェ ドーブルィ……(ちょっとすみません)」

店員「はい?」

アーニャ「あの……」

みく「…………」

店員「……?」

アーニャ「………………芋餅、とっ…!」

アーニャ「ジャンボほたてバーガー……と……、ずわいがにの甲羅盛り、くださいっ!」

店員「ハイ、ありがとうございますー」

みく「(……のあにゃんが迷子なのに、あーにゃんは呑気だにゃぁ……)」

みく「あっ、白いココアも追加で下さい」




━━━━━━━━━━
【別場所】


のあ「…………」

のあ「…………………………」

のあ「…………………………………………」





のあ「(は……、はぐれてしまった……っ!!)」プルプル



のあ「(ど、どうしよう……。予想以上に人が多すぎて、人の波に流されて二人を見失ってしまった!)」オロオロ

のあ「(ふ、二人の連絡先知らないし……ちゃんと聞いておけばよかった!!)」

のあ「(ま、マズイ、『頼りになる』大人としての沽券が……!!)」オロオロ

のあ「(ぐ、ぐぅぅっ。早く合流しないと二人も不安になってるだろうし、ど、どうすればイイの!?)」

のあ「(うっ……、うぅっ…………)」オロオロ

のあ「(…………)」

のあ「(………………)」

のあ「(ど、どうしよう………)」ガシンガシン

━━━━━━━━━━


アーニャ「ニヴァルヌー イチェシ ナルマリーナ、みく」モグモグ

アーニャ「落ち着きましょう。闇雲に動くより、まずは周囲を見渡して、情報を集めましょう」モグモグモグ

みく「うん、そうだね。のあにゃんの容姿は目立つから、多分人目を引く筈だし……」ズズズ

アーニャ「……」モグモグモグモグ

ピンポーン


  『────お客様のお呼び出しを致します』


みく「……でも、のあにゃんも案外ウッカリさんだね」

アーニャ「?」

みく「厳格で物堅いイメージがあるのに……、人のハンバーグ弁当盗んだり、変な靴履いて来たり、イベント会場に入って5分ではぐれたり」



  『────茶色のキャッスケットに、赤縁の眼鏡、グレーのコートを着た』


みく「フフフっ。ちょっと抜けてる所もあるんだねー」ズズズ

アーニャ「ギャップ、というもの、ですね。達観した物言いや、神秘的な風貌と裏腹に……、ふふっ」モグモグ

アーニャ「彼女も…………やはりどこか、私達と一緒なんですね」

みく「安心というか、意外な親しみやすさというか……」





  『────栗色の髪と八重歯が愛らしい、東京都からお越しの』

  『──────前川みくちゃん』




みく「(!!?)」

アーニャ「!」モグモグ


  『────お母様の、高峯様がお探しになっています』

  『────どなたかお見掛けになりましたら、近くのスタッフかインフォメーションセンターまでお伝え下さい』


みく「」

アーニャ「……」モグモグ

みく「(にゃあああーーーー!! の……、のあにゃあああぁーーーーんっっ!!)」

ザワザワザワザワ…
ヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソ


みく「(ハッッッ!)」ギクッ!

みく「あああ、あーにゃん! ホラ、早く迷子センターに迎えに行くにゃあ!!」バッ!

アーニャ「み……みく、貴女は……っ!」

アーニャ「のあと……、親子、だったのですかっ…!!」モグモグ

みく「っ!?」

みく「な、何を真に受けてるの!? あーにゃん、しっかりするにゃあ!!」


☆つづく
──────
────
──

──
────
──────
【出番当日】



 『すみませーん! 高峯さん、コッチに目線くださーい!』

 『綺麗な女の子だなぁ……。外国人かな?』

 『アーニャちゃん! おかえりーっ!』



ミク「(…………)」

アーニャ「……」

のあ「……」

パシャパシャ


ミク「(あーにゃんものあにゃんも、サマになってるにゃ。二人とも肌は色白で白系の髪色だし、雪国の景色にはすごい映える)」

ミク「(ファンのみんな、二人にばっか注目して……。これじゃあミクがまるっきりピエロに……)」

ミク「(み、みくも……こんな『初音ミク』、『雪ミク』なんてイロモノ衣装でなければ……っ!)」



 『あっ! あの人、ボカロのみたいなカンジの?』

 『本当だ。本物みたいな再現度……!』



ミク「(……っ!)」ピクッ!

ミク「(みくの事っ……! や、やっと日の目が……!)」バッ!

ミク「こ、こんにち──────」パァッ




 『綺麗な銀髪……。手足もすらっとしてて、格好イイ……!』

 『なんか現実離れした幻想的な容姿だね。「たかみね、のあ」??』

 『とりあえず写真撮っとこ。あの二人』



アーニャ「……」

のあ「……」

パシャパシャパシャ


ミク「(────な、何でっ!?)」ズルッ!


ミク「(そ、そりゃあ……のあにゃんに似たボカロは実際いるけど、でもみくもッ……!!)」



アーニャ「……」

のあ「……」



ミク「(…………)」

ミク「(………………)」

ミク「(いや………………、やめよう)」

ミク「(この二人が纏うオーラには、勝てない気がする)」

ミク「(ハァ……。みくとはちょっと土俵が違うのにゃ)」

ミク「(確かにモデルとしての被写体なら、この二人には敵わない。形容出来ない圧倒的な雰囲気がこの二人にはあるにゃ)」

ミク「(うぅーん。こりゃ見惚れちゃうなぁ)」ジー



アーニャ「……」

のあ「……」



ミク「(きれいに整った日本人離れした顔立ち、すらっと伸びた手足……)」

ミク「(凛とした表情のなか、どこか愁いを帯びたような瞳で、寂しそうに雪が舞う虚空をじっと見つめて……)」

ミク「(彼女達は一体、この空にどんな思いを馳せているのだろう? 何を考えたら、こんな魅力的な表情が出せるのだろう?)」

ミク「(…………)」ボー

ミク「(……ハッ! ほ、本当に見惚れてどうするにゃ!! 今は仕事中なのにっ)」

ミク「(モデルみたいに振る舞えなくても、みくにしか出来ない事だってあるのにゃあ! 頑張ろう……!)」








アーニャ「(……)」

のあ「(……)」



アーニャ「(はぁっ…。北海道の冬といったらやっぱり、薄着で暖房をガンガン焚いた室内で食べるアイスですね……)」

アーニャ「(後で、アイスを買いましょう……)」

のあ「(みくちゃん、可愛い……。あとで写真撮って貰おう)」

のあ「(そうだ……! 本物の雪ミク像は何処にあるのかしら??)」


☆つづく
──────
────
──

キリが良いかはわかりませんが、今日中に一応終わらせます
もう体力が限界です

──
────
──────
【ラーメン共和国】


みく「お仕事、無事に終わってよかったにゃあ!」

アーニャ「ダー、お疲れ様でした、二人とも♪」

のあ「(……)」

アーニャ「みく、本当に、ここで良かったのですか? ラーメンが食べたいと聞いて、ここに案内しましたが……」

みく「いやいや、全然OKにゃ! 寧ろ二人とも仕事の打ち上げがラーメンで良かったの??」

アーニャ「私は、構いませんよ?」

のあ「……丁度良かったわ。札幌と言えば、有名だもの」

みく「ウン♪ みく、一度食べてみたかったんだよね♪」

のあ「……明日なのだけれど……」

のあ「返る前に、是非にとも覗きたい店があるの。いいかしら?」

みく「うん、いいよ! ここに付き合ってくれたんだし、みくも色々回ってみたいし……♪」



店員「お待たせしましたー」

店員「コチラ塩と、醤油、シビレ味噌になります」ゴトッ



アーニャ「(……?)」

みく「えっ……、アレ?」

のあ「(…………)」パキン

みく「の、のあにゃん?」

みく「何か頼んだのと違うのが来たけれど…、いいの……?」

みく「スミマセンっ。あの……この人のだけ、注文したのと違うんですけれど……」バッ

のあ「(……!!)」

店員「し、失礼しました。すぐにお取替えしますっ!」カタッ

のあ「…………」

のあ「………………」

のあ「……………………」

のあ「……………………みく」

みく「??」

のあ「…………私は、今日と言う日を忘れないわ」

みく「えっ、え……? そ、そう?」

アーニャ「……♪」ズルズル


━━━━━━━━━━
【翌日 寿司屋】


みく「(ハー、ハァー……!)」ブルブル

アーニャ「のあ……本当に、大丈夫ですか?」

アーニャ「こういうお店は入ったことはありませんが……支払いが高いトコロなのでは?」

のあ「……構わないわ。私が無理を言って貴女達を連れて来たのだから……」

のあ「北の国と言えば海鮮……。『本物』の価値を一度味わってみたかったの」

アーニャ「では、お言葉に甘えて……」

のあ「…………」

みく「(グッ! フゥー、フゥー……)」ブルブル

みく「(オ……、オエェ……。魚独特の生臭さ………、は、吐きそう……)」

みく「…………っ」チラッ




のあ「…………」ワクワク




みく「」

みく「(み、みくも昨日二人を付き合わせちゃったし、何より……)」

みく「(……何より、まさか回らない寿司屋をのあにゃんがあらかじめ予約してただなんて、完全に予想外っ……)」

みく「(た、耐えねば……っ。こ、厚意を無駄にするワケには……!)」ゼエゼエ




のあ「(…………)」

のあ「(ふふふっ……。本場北国の海鮮なら、さぞやみくちゃんも喜ぶでしょう)」

のあ「(猫キャラなのだから、当然魚介類は好物よね。ふふふっ)」

のあ「(ホットペッパーで探した甲斐があったかな。ああ、彼女の喜ぶ顔が楽しみだわ……♪)」

のあ「…………サーモン一つ」

アーニャ「大トロ、お願いします♪」

みく「す、スミマセン……。たまご下さい……」




☆北海道編、終わり
──────
────
──

──
────
──────
【ロケ現場】


のあ「……ふう」

のあ「(B級ホラー映画のエキストラ、何とかこなせた。怖かった……)」

のあ「(力なく水槽に浮かぶ死体A……。主人公達に顔を確認された後に足蹴にされるとは思わなかったけど……。まあそれはそれで貴重な体験だったかな)」

チョンチョン


のあ「……!」クルッ

小梅「た……、高峯、のあさん?」

のあ「…………貴女は……」

小梅「し、白坂小梅です……。お疲れ様、でした……」

のあ「(……!! 白坂小梅ちゃん!)」

のあ「(メインキャストの子だ。面識はなかったけど、確かウチの事務所でもトップクラスの人気を誇るアイドルで……、とにかく愛くるしい子)」

のあ「(ふ、ふふふ……。こういう出会いがあっただけでも、この仕事を選んだ甲斐はあったかな。まさに役得かな。お母さんに自慢しよう)」ドキドキ


小梅「高峯さん……、あの……」

のあ「……なに?」

小梅「この前、伊吹さんに聞いたんですけど…………、その……」

小梅「え、映画……、お好きなんですか??」

のあ「(うっ。映画…)」

のあ「エ…………ええ。暇を持て余した時に、よく鑑賞するわ」

小梅「あ、あの……あのぅ…………」モジモジ

小梅「こ、今度、伊吹さんと奏さんと涼さんと、伊吹さんの家で夜通し、映画鑑賞会、するんですけど……」

小梅「良ければ…………一緒に、どうです、か?」

小梅「その……、伊吹さんにも、アナタを誘ってみてと言われて……。私も、是非……」

のあ「(……!!)」

のあ「(え、映画を家で観ながら……、じょ、『女子会』!!)」

のあ「(どうしよう。一人だけ年が離れすぎて気が引けるけど、魅力的なお誘い……)」

のあ「(映画の名前は詳しくは無いけれど、まあ語るのではなく観るだけだから、多分大丈夫かな?)」

のあ「(……)」

のあ「……私のような大人が、邪魔でなければ」

小梅「!」

小梅「はっ、はい……、是非♪」パアァ

のあ「(ふ、ふふっ……ヤバイ。ちょっと楽しみ……)」


━━━━━━━━━━
【女子寮】


♪~~~~~♪

涼「ん……メール」カチッ


【★from白坂小梅】
『撮影全部終わったよ。高峯さんと一緒で、今度の鑑賞会に誘っちゃった♪』


涼「へぇー。またレアい人誘ったな……、小梅のヤツ」

涼「クランクアップおめ、と。アイツって結構度胸あるよなぁ。アタシも上手く話せるか分からないのに」カチカチ

涼「高峯サン、か。本当に映画好きなのか、あの人……?」






━━━━━━━━━━
【小松宅】


♪~~~~~♪

伊吹「おっ?」カチッ


【★from松永涼】
『土曜の鑑賞会、テーマはホラー! あと高峯さんも来るって。だから高いケーキでも買っとけよー』


伊吹「えっ!? 何で高峯さんが……!?」

伊吹「あっ! そうか、アタシが小梅ちゃんに話してたんだっけ!」

伊吹「いやぁ、まさか本当に誘ってくれるとは……。ていうか涼、これ自分が食べたいだけじゃん、アイツ……!」






━━━━━━━━━━
【イベント会場 控室】


♪~~~~~♪

奏「……」カチッ


【★from小松伊吹】
『今度の鑑賞会、今週末土曜だって! 都合はどう? テーマは小梅ちゃんの好きなやつ!』
『追伸:お仕事お疲れ♪』


奏「…………」

奏「本文と追伸の書くべき内容が逆じゃないのかしら……。まあいいケド」

奏「土曜……。確か別の友達から遊びに誘われてたわね、どうしようかな…?」

奏「……うぅん、今回は見送ろう。まあ、割と機会はあるし、一度くらいは、ね…」

奏「…………」カチカチ


 【★to速水奏】
『ごめんなさい、今回はちょっと別の予定があって参加出来ないわ』
『追伸:ありがとう』


白坂小梅
http://i.imgur.com/Q9TYpgo.jpg
松永涼
http://i.imgur.com/0iLo8Fe.jpg


━━━━━━━━━━
【土曜 デパート】


小梅「あっ、あとポップコーンと……」ガサガサ

涼「オイ小梅……買いすぎじゃないか?」

小梅「え、えへへ。つい……♪」

のあ「(…………)」

涼「ワルいね、高峯サン。買い出しに付き合わせて」

のあ「構わないわ。物事に集中すると、娯楽であっても体力を消耗するもの」

のあ「何事も、備えは大切よ」

小梅「うん、うん……♪ 映画鑑賞にお菓子は必要、だよね♪」

のあ「小梅……、これはどうかしら?」スッ

小梅「コーラ……、は、必須。うん、2ℓで買おう……♪」

涼「(うーん……)」

涼「(お高いイメージで近寄りにくかったけど、案外フツーなカンジ……なのか?)」

涼「あっ、アタシはスプライトで」

のあ「(…………)」

のあ「(ふ、ふふ……!)」ワクワク

のあ「(あぁ、若い子に混じって女子会……。童心に帰るまではいかないけど、青春時代を謳歌してるみたい)」

のあ「(楽しい……。この流れで、伊吹ちゃんの家でたこ焼きパーティとか暴露トークとかしたい……)」ワクワク


━━━━━━━━━━
【夜 小松宅】


のあ「(……)」ドキドキ

のあ「(ここが伊吹ちゃんの家……。一人暮らしなのね…)」

のあ「(すごく可愛い小物とか、シャレオツなインテリアが並べられてる)」

のあ「(玄関にあった割り箸みたいな芳香剤、何処かで見た気がするけど……。あれはひょっとして女子力が高いアイテムなのかしら?)」

のあ「(というか………、壁に蔓や動物を象ったシールを貼ってる……。あれ、大家さんに怒られないのかな?)」

のあ「(そして何だろう。電気の紐の先についてる、丸い小さな木枠に蜘蛛の巣みたいなのを張り巡らせて、鳥の羽根をたくさん付けた不思議な小物は……?)」

のあ「(素敵だわ……。素敵だけど、何故か悔しい。今度インテリア買おう)」ドキドキ



伊吹「高峯さん、お待たせーっ!」スッ!

のあ「(……!)」

小梅「お、お菓子盛り合わせ、お待たせしました……」

涼「今日、奏はちょっと別の予定で来れないみたいだけど、まあ4人で楽しもうかっ!」


伊吹「じゃ、早速始めますかぁ♪」

涼「お互い持ち寄った物出して、まず観る順番決めよう」

小梅「うん……」ゴソゴソ

のあ「(あっ、そうだわ)」

のあ「私は無いのだけれど……、本当に良かったかしら?」

涼「ん、大丈夫ですよ。参加してくれただけでもアタシ達は嬉しいし…」

のあ「(優しい……。惚れそう)」

のあ「(伊吹ちゃんは……前に恋愛映画が好きと言ってたから、やっぱり今回もそういう青春映画の鑑賞会なのかな?)」

のあ「(小梅ちゃんもまだ中学生だし、案外アニメ映画かもしれない)」

のあ「(松永涼ちゃんは……、そう言えば今日が初めての対面だわ)」

のあ「(ロックで今風な格好してるからチャラい子かと思ったら、意外に礼儀正しかったし、荷物も持ってくれたし。根は凄く優しくて良い子なんだわ)」

のあ「(好感が持てそう……。でもやっぱり派手なアクション映画とか好きそうね)」

涼「この家の近くにレンタルショップがあるから、今すぐ借りてくるってのも一つの手だけど」

のあ「そうね……。今日の鑑賞会で刺激があれば、帰りにでも覗いてみようかしら……」

のあ「(レンタルショップ……)」

涼「刺激、ねえ。高峯サンってあまり動じなさそうだから、まあ今回は瀬踏みというか、小手調べってトコか。高みの見物くらいに構えててくれよ」

のあ「……楽しみだわ」


小梅「わ、私は…………今日は、コレ」ゴソゴソ


  【ミッドナイトミートトレイン】
http://i.imgur.com/HM7jllc.jpg





涼「アタシは知り合いから聞いたことあったけど、まだ見たことないヤツを今回は………っと!」ゴソゴソ


  【エスター】
http://i.imgur.com/ZyYJyON.jpg





伊吹「アタシはこのジャンルは専門外だから、今回はテキトーに探したら出てきたヤツだけど……」ゴソゴソ


  【シャイニング】
http://i.imgur.com/DnvEGxK.jpg


















のあ「」



のあ「(う…、うわあああああぁァーーーーーーッッ!!)」

のあ「(あ、あああっ……あ、あぁ…………!!!)」ガタッ!

小梅「……?」

伊吹「どーかな? ホラーっちゃホラーでしょ、多分コレ?」

のあ「(ホホホ、ホラー!! ホラー映画鑑賞会だわココ!!)」

のあ「(ムリムリムリ!! ホラーとか絶対ムリ!!)」タジタジ

のあ「(エキストラはまだ何とかなったけど……、流石に観るほうは、無理っ……!)」」

涼「なんだよ伊吹。それメチャクチャ有名で古いヤツじゃん」

伊吹「んー? そうなの?」

小梅「うん。でも…………アメリカンホラーの金字塔的な、傑作、だよ?」

涼「確かに、ジリジリと湧き上がる恐怖感や演出は堪らないケドさ…………アタシも小梅も前に観たんだよ」

伊吹「そか。んー、じゃあパパッと今すぐ店に行って別なの借りてくるかな」

涼「じゃあ……、その間に3人で他のでも観てるか?」

のあ「!!!」

のあ「ワ……」

のあ「…………私も、何か借りてこようかしら」

小梅「! うん、じゃあ……、涼さんと二人で観るのも、いつものカンジだし……」

小梅「わ、私達も一緒に……、いこっか?」

涼「なーんだよ小梅、アタシと一緒に観るのはもう飽きたのか?」

小梅「ち、違うよ、涼さん。その……折角高峯さんも来てくれたし……、みんなで揃って、楽しみたいし、ね?」

涼「冗談だって。じゃ、4人で行こうか」

のあ「(か、帰りたい…………)」


━━━━━━━━━━
【某レンタルショップ】


のあ「(伊吹ちゃんと涼ちゃん……、忘れ物とか言って一旦伊吹ちゃんの家に戻っちゃったわ……)」

小梅「あっ、そうだ……」

のあ「……?」

小梅「ち、ちょっと私、電話かけてくる、き、きますから……、先に、選んでて下さい」

のあ「えっ」

タタタタタタ…


のあ「……」

のあ「…………」ポツーン

のあ「(う、嘘。一人でホラー映画のエリアに行けって事……!?)」プルプル

のあ「(苦しい……けど、情けない姿を見せる訳にはいかない)」

のあ「(ほ、ホラー系ってどこに置いてあるのかな……。正直近づきたくない……、やっぱり小梅ちゃんが戻るまで何処かで時間を潰そうか……)」

のあ「………………」ドキドキ

のあ「(い、行くしかない。大人としての沽券がっ……)」ドキドキドキ






━━━━━━━━━━
【5分後】

涼「小梅と高峯サン、何処にいるんだ?」

伊吹「さあ……。ひょっとして行き違いってことは無いよね?」

涼「流石に、それなら連絡寄こすは────────」ピタッ

涼「(──────!?)」



のあ「(…………)」キョロキョロ

のあ「…………」スッ



涼「」

伊吹「うん? どしたの涼?」

涼「ぉい……、伊吹……。高峯サン、あそこ入ってったから、ちょっと呼んで来てよ」スッ

伊吹「!? え、ええッ!?」

伊吹「な、何で!? 18禁エリアじゃん!!」オロオロ

涼「あそこにホラー系って置いてたっけ?」

伊吹「ないない!! まぁ、ある種ホラーだけれども……!!」オロオロ

伊吹「て、ていうか、何でアタシが!? 涼も18でしょ!」

涼「そりゃ……、伊吹の方が年上だし……」

伊吹「都合の良い時だけそうやって利用してッ!! だったら普段から敬語を使いなさいっっ!」ビシッ!


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【5分後 貸出カウンター】


のあ「(あぁ恥ずかしい……。ビデオ屋なんて滅多に来ないから、勝手がよく分からない)」

のあ「(とりあえず一本選んだけど……、ああ、もう帰りたい……)」

店員A「カードはお持ちでしょうか?」

のあ「!」

のあ「ぁっはい……」ゴソゴソ

のあ「……」スッ

店員A「ありがとうございます」ピッ

店員A「…………」

店員A「……」ピッ

のあ「(……?)」

店員A「お客様、コチラですね……有効期限が切れていまして……」

のあ「(!?)」

店員A「再発行の手続きをしますが、少々お時間宜しいでしょうか?」

のあ「(……!)」

のあ「ぁ……、はい」





伊吹「よし、じゃあ借りたし戻ろっか?」

小梅「あ、あれ………? 高峯さん、は……?」

涼「アレ……、何処行ったかな。さっきレジに並んでる姿を見たんだケド……」

伊吹「んん。まだ店の中を見て回ってるのかも」

小梅「じゃあ……、探そう……」









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【10分後 カウンター】


店員A「…………」

客A「……」

客B「……」

客C「……」

客D「……」

客E「……」

のあ「(ふぐぅ……、うぅっ……!)」オロオロ

のあ「(わ、私の後ろ、す、すごい行列になってる……、早く、か、書かないとっ……!)」オロオロ

店員B「お待ちのお客様、こちらにドウゾー」

のあ「(っ!!!)」

のあ「(ぐく……くぅっ、……)」カキカキ


━━━━━━━━━━
【小松宅】


のあ「(ハァ……)」

のあ「(DVD一本借りるのがこんなに大変だとは…。未踏のエリアで恥を掻くし、渋滞して晒し者になるし……)」

のあ「(オマケにこの後は、精神休まらぬホラー映画鑑賞。もう帰りたぃ……)」

涼「じゃあ、改めて始めようか。誰のから観る?」

小梅「た、高峯さん……何、借りたんですか?」

のあ「(……!)」

伊吹「あっ。アタシも気になるナー♪ どんなチョイスか興味がありますっ」

のあ「(ホラーと言ったら、これくらいしか頭に浮かばなかったわ……)」ゴソゴソ

のあ「(多分、これも一種のホラーの金字塔だし、ミスチョイスではない………ハズ…)」ゴソゴソ

のあ「……これよ」スッ

小梅「……」ワクワク





  【BIOHAZARD】
http://i.imgur.com/j0QCkgE.jpg





涼「(…………)」

伊吹「(…………)」

涼「(た、確かに……ホラーっちゃあホラーだけれども……)」

伊吹「(何て言うんだろ、スタイリッシュホラー? アクションホラー?)」

涼「(映画公開時、確か年齢制限も付いてなかった気がしたぞ)」

伊吹「(単なる主演女優の2時間PVとも名高いこの映画……)」

涼「(…………)」

小梅「私……」

小梅「それ、まだ見たことないや……。た、確か、ゾンビ映画、でしたよね?」

のあ「……ええ」

小梅「え、えへへっ……うん、うん♪」ソワソワ

小梅「じ、じゃあ、コレ、先に観よう、ね? いい?」ソワソワ

涼「ん……! んっ。いいぜ」

伊吹「オッケー! じゃ、始めますかっ!」ガサガサ

涼「(…………まあ…)」

伊吹「(小梅ちゃん、嬉しそうだし……別にいいか。アタシも初めてだし)」

のあ「(…………っ)」ドッドッドッドッ



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【鑑賞中】


涼「そーそー。この作品のシリーズって、1と2までは案外原作ゲームの設定とか色々使ってて面白いんだけどなー……」

伊吹「へー、そうなの?」

涼「ああ。3からは完全に独立した世界観にシフトしてく。アクションは凄いキマってて良いと思うぞ」



 「ヒッ!……………フゥー…」



小梅「涼さん……、ホラーゲームも好きだったっけ……?」

涼「いや、それ程でも無いよ。知り合いのバンドメンバーから聞いたり貸して貰った事もあったけど」

小梅「そうなんだ……。ゲームも、いいかもね」



 「……ヒッ……ヒッ…………フゥー……」

 「フグッ!………………」



伊吹「…………」ポリポリ

涼「…………」モグモグ

小梅「あっ、あの人…………あぁ……」

伊吹「ありゃあ、後で絶対死ぬね」

涼「完全にフラグ立ったよな」



 「ヒッ!…、ヒッ…………」

 「フゥー………………」



小梅「……」ゴクゴク

涼「…………」

伊吹「…………」



 「ヒッ……ヒッ…………フゥー!……」

 「…………ヒッ…ヒッ………フ、フゥゥー…」



涼「…………」パリッ

伊吹「…………」ゴクゴク

小梅「……♪」モグモグ


━━━━━━━━━━
【翌週 事務所】



ゴゴゴゴゴゴ…


奏「…………」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


伊吹「」



奏「…………で?」ジロッ

伊吹「は、ハイ……?」オロオロ

奏「何か申し開きはある? 言い訳でも構わないけれど」

伊吹「な、何でアタシが奏に怒られなきゃいけないの……」

奏「…………情報の伝達が、貴女のメールで止まってるのよ」

伊吹「な、何の情報さ??」

奏「ハァ……。まあ、いいわ」

奏「(メンツで決めるのは良くないけれど、私も行けば良かった……)」

奏「…………で、どうだったの? 先日の鑑賞会」

伊吹「うん。結構良かったよ」

伊吹「ホラーはあまり観ないケド、やっぱりスリルがあって惹き込まれるね♪」

伊吹「なんっていうのかな。観終わった後も、あの尾を引くような後味の悪さが────」

奏「違うわ。そっちじゃなくて……」

伊吹「うん?」

奏「高峯さん」

伊吹「あ、高峯さん?」


伊吹「いつも通りだったかな? 体育座りでクッション抱きしめて、寡黙で画面をじーってカンジ?」

伊吹「小梅ちゃんも高峯さんが借りた映画気に入っちゃってさ、何だかんだ盛り上がったよ!」

奏「(……)」

伊吹「あっ、でも……」

伊吹「2本目の途中で突然、高峯さんがドサッ、て倒れてさ! いやぁもう焦った焦った!」

奏「!!」

奏「え……、だ、大丈夫だったの?」

伊吹「あー、うん。まるで糸がプツリと切れたみたいに倒れたから、気絶か失神かと思ったけど、ただ疲れて寝ちゃっただけ…………みたいだったから、さ? たぶん」

伊吹「起こすのも忍びなかったし、私のベッドで寝かせてあげた」

奏「(……っ!?)」

奏「い、伊吹の……べ、ベッドで……!?」プルプル

伊吹「ウン。いやぁ、高峯さんって目を開けたまま寝る機械的なイメージがあったから、寝顔を見るのは新鮮だったよ♪」

奏「…………」プルプル

伊吹「で、結局4本中3本見て、その後ちょっと寝て終了。朝はみんなで近くのマックでわいわいとご飯食べ────」

伊吹「────ぐむぅッ!?」ガタッ!

奏「…………」ギュウゥゥ

伊吹「いっ、いたいいはい! ほ……、頬っぺたつ、つねらあいえ…………」

奏「…………」ギュウウゥゥゥー

奏「…………幾らで売る?」

伊吹「にゃ、にゃにが……?!」

奏「ベッド」

伊吹「は、ハァ?」


━━━━━━━━━━
【夕方 高峯宅】


ガチャ

バタン


のあ「(ふふふ……♪)」ガサガサ

のあ「(カードも更新して、レンタルショップにも慣れた事だし、早速また借りてきちゃった♪)」ジャーン!

のあ「(『アオハライド』……。よく知らないけど、この前に伊吹ちゃんから薦められたこの映画、確か去年くらいに巷で話題になった甘い恋愛映画よね?)」

のあ「(ふふっ……、ま、まだホラーは慣れないけど、せめて恋愛映画なら、私も……!)」

のあ「(……♪)」ガサガサ


ピッ






 ────ひょんな事から同棲が始まり、芽生える甘い恋の意識────


  『青春は、甘くて、眩しくて……。青春は、脆く、切なく、儚い』

  『手探りみたいな恋だった。呆れるくらいにぎこちなくて、あやふやで……』

  『だけど…………、私はきっと、恋をしていた』


 ─────アオハライド──────






 ─────今夜9時、放送─────






のあ「……」


──────
────
──

──
────
──────
【オマケ①】
【吉野家】


のあ「牛丼並……あっあと卵」

店員「はい、お待ち下さい」スタスタ

のあ「……」

のあ「……」カチカチ

のあ「(…………)」



【★アドレス帳 事務所★】

『木場真奈美』
『小松伊吹』
『白坂小梅』
『青木明(トレーナー)』
『P(プロデューサー)』
『松永涼』
『三船美優』



のあ「(ふふっ……♪)」

のあ「(順調にお友達が増えてる。北海道のイベントで一緒だった二人から聞く機会を逃したのは残念だったけど……)」

のあ「(まだこれからよ。ようやくお仕事も増えてきたし、今後は何を目指すのか分からないケド、今は幅広く活動するのも悪くないわ)」

のあ「(ソロのお仕事も良いけど、やっぱり誰かと組んで活動もしてみたいわ……。色々不安や緊張も和らぐし、何より楽しく和気藹々としたい)」

のあ「(……となると、やっぱり同じくらいの歳の人と組まされるのかしら? あるいは活動の方向性やキャラや雰囲気……?)」

のあ「(…………となると……)」

のあ「(………………一番有力候補が、時子ちゃんか、ヘレンさんかしら?)」



店員「お待たせしましたー」

のあ「(……!)」ピクッ

店員「こちら牛丼並と半熟卵になります」

店員「ごゆっくりドウゾー」スッ

のあ「……」カチャ

バァン!!

バキッ!!


店員「っ!?」ビクッ!

のあ「(っ!?)」ビクッ!


客A「オイお前ッ! そこの冴えないツラした店員ッ!!」バンッ!

店員「は、ハイっ!!」

客A「高み……その女の人の注文間違ってんだろうが、アァン!? 10円高い半熟卵に変わってるだろッ!!」

店員「エッ!!」ビクビク

のあ「(……!!)」

客B「君さ……、頻繁というか、毎回間違えてるよね? 嫌がらせなのか、それとも職務怠慢なの?」

客C「貴方、多分バイトでしょ? こういう注文ミスのような小さな問題も積み重なると店の信頼とかに関わってくる事案だと思わないの? 危機管理と言うか、責任感が感じられないんだよねえ」

客B「店長さんかエリアマネージャーさんに報告させて欲しいんだけど。それか、早いところ元の注文の品を出してあげなよ」

店員「……ア、……あぁ、ッ……」ガクガクガク

客C「ほら、まず貴方はこの女の人に謝るべきじゃ──────]

客C「────って、アレ!?」

客A「い、いなくなった!?」ガタッ!

客B「な、何ィ!?」

店員「」ガクガクガク












━━━━━━━━━━
【翌日 事務所】


P「……?」カタカタ

P「……」



【★芸能ニュース】

『生放送にて、星井美希からチョコを貰ったファンのtwitterが炎上。転売が問題に』
『人気アイドル前川みく、札幌雪まつりで迷子としてアナウンスされる』
『牛丼チェーン店で謝罪を強要、恐喝容疑。アイドルの追っかけの犯行か?』



P「……」

P「あ、アイドルの追っかけで牛丼屋? 何だコレ…」

P「珍妙なニュースだな。ウチと関係無ければいいんだが…」

奏「マナーの悪いファンがいたものね…」

美波「……うん」

P「ふぅん……。…………うん?」



──────
────
──

──
────
──────
【オマケ②】



http://i.imgur.com/WxAhcte.jpg



──────
────
──

──
────
──────
【オマケ③】
【if:のあさんが北海道にスパイクを持参しなかった場合】


みく「……ふ、ふっ……よっ……!」トトト…

みく「ちょ、ちょっと疲れるけど、確かに歩きやすいかも」トトトト…

アーニャ「イスクースヌィ、みく。その調子です!」

アーニャ「夏場は、朝早く競歩で会社に向かうサラリーマンも、冬の雪道ではペンギンのような歩き方になるのです……!」

みく「よ、よく分からん例え……。というか普通に靴屋さんで、冬靴か着脱式の滑り止めを買ってきた方が早い気がするにゃ」

みく「ね? のあにゃんもどこかで歩きやすい靴を探して……」

みく「(…………ッ!?)」




のあ「……………………」プルプルプル




みく「(いつのもように直立不動で涼しい顔で悠然と──────、いや違うっ!)」

みく「(脚ッ! 脚にキテるッ!! 小刻みに震えてる……ッ!!!)」

みく「(恐らく彼女はあの場から一歩も動けない。立っているのもやっとな筈なのに……、あの不敵なポーカーフェイスは一体!?)」


のあ「(ぅっ…………ふっ、ふぐぅっ……!)」プルプルプル

みく「(!!)」

みく「(ふっ、フフフ! ちょっと悪戯しちゃおう)」トトトト…

みく「の、のあにゃん……。ふ、フフ……!」トトトト…

ツンツンツン


のあ「……ッ!」ビクゥ!



みく「フフフ……♪」ツンツン

のあ「ぐっ!!」フラッ

ガシィ!


みく「!?」ガクン!

みく「ふ、ふにゃあっ!?」グラッ!

ツルッ!

ビターン!


みく「うげっ! い、いったぁ~……!」

アーニャ「み、みく! 大丈夫ですか!?」

みく「うっ、ぐ……。お、おしり痛いし、精神的にクるものがあるにゃ…」

アーニャ「き、気を付けて下さい。転んで骨折するのも、大袈裟な話では、ありませんから……」

みく「そ、そうだね。ちょっと反省するよ……」

アーニャ「このままでは危険ですし、まず、駅の中で滑り止めを買ってきましょう」

みく「賛成……。こんな状態で歩ける気がしないのにゃ」スリスリ

のあ「(ハー……、ハァー……!)」プルプルプル



──────
────
──

──
────
──────
【オマケ④】
【高峯宅】


のあ「~~~♪」

グツグツグツ


のあ「アーニャちゃんがお隣と分かったことだし、折角だから料理の御裾わけでもしてあげよう」

のあ「ふ、ふふふっ……。『女を落とすには胃から』と言うものね。確か」

のあ「私の迸る女子力を見せつけて懐柔しようとしたり、あわよくば部屋にあがり込んで遊びたいとか、決して他意はないわ」

のあ「一人暮らし同士、助け合いの精神が必要なのよ。義理が廃ればこの世は闇とも言うし」

のあ「よし……!」





━━━━━━━━━━
【隣の部屋の前】


のあ「(……)」ドキドキ

のあ「(何て言って渡そうかな? このおでん…)」

のあ「(『作り過ぎて余ったから』? いや、でも土鍋丸々渡して作り過ぎたとか、じゃあ一体どれだけ大量に作ったって話に……)」

のあ「(『ほんの気持ちです』? 別に改まって挨拶する仲でもないけど。何か借りがあったわけでもあるまいし……)」

のあ「(『一緒に食べましょう』? ……これだわ、シンプルイズベスト。率直に気持ちを伝えればいいのよ!)」

のあ「(……)」ドキドキ

ピンポーン


のあ「(…………っ)」ドキドキドキ


ガチャ

のあ「!」















楓「………………」



のあ「………………」



楓「…………えっ?」

のあ「…………え?」


楓「(…………)」

のあ「」

楓「…………」

のあ「…………」

のあ「コ…………これ……」スッ

楓「(ど、土鍋?)」

のあ「おでん」

楓「ハ……、はい」

のあ「…………おすそわけ」

楓「あっ………、え? あっ……??」

のあ「隣に、ス…………住んでるの」

楓「アッ……、そ、そうなんですか? ヨ……宜しく、お願いします…」

のあ「………………」

楓「………………」


キィ

バタン




楓「」

楓「……」

楓「(……良い匂いだけど……あ、怪しい。毒?)」

楓「(でも、お腹空いてたしありがたいわ。けど一応遺書残しておこう)」

楓「……」クンクン

楓「(ふふっ……。扉を開けたら、おでんのお出ん迎え……)」

楓「(ふふふ……♪)」クンクン












★終わる


高垣楓
http://i.imgur.com/NnNL821.jpg


以上です。
キリが良いかは分かりませんが、この辺りで締めておきます。

長々と続けてしまったことや、分かりにくいオチや弱いオチがあって申し訳ありません。
HTML化依頼を出してきます。
未熟な内容でしたが、読んで頂いて本当にありがとうございました。


以下お蔵入りネタ集

風邪を引いた時にニュージェネに助けを求める話
高級フレンチに挑戦しようとする話
自動車免許を取りに行く話
アイドル非公式物販サイトを漁る話
思い切ってエステに行こうとする話
時子と料理をする話
誕生日プレゼントを貰う話
ツイッターを始める話
美嘉やつかさに憧れる話
外で動物もどきと戯れる話
事務所で愛海と戯れる話
事務所で乃々と戯れる話
家具を買いに行く話
マックを注文しようとする話
文香と気まずくなる話
蘭子に怖がられる話
長編、年下組とアホらしい正月の話
長編、年上組と気まずすぎる忘年会の話
ファンに危機を救われる話
吉野家の話



どんな話かは皆さんのご想像にお任せします。
では、よいお年を

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