【ミリマス】765学園物語HED √PG (986)
「…兄さん」
声が聞こえる
「兄さん、起きてください」
小さく身体を揺さぶられるが、起きるには至らない
「…兄さん、まだ寝てますよね?」
何かを確認するかのような声がかけられる
「………一回だけなら、良いかな」
何かの気配が近付いてくる
その気配に目を覚ますと…
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目を開ける
見慣れた天井が映るが、今日はベッドの傍に誰かの気配を感じた
そちらに顔を向けると
「お、おはようございます、兄さん」
何故か少し顔を赤くした従妹、北沢志保がいた
P「ん…おはよう志保」
志保「朝食の準備が出来てますから、着替えたら降りてきてください」
P「わかった」
かけてある制服を手に取り、寝間着に手をかけると
P「…ところで志保」
志保「はい」
P「凝視されると着替えにくいんだけど」
志保「私のことは気にしないでください」
P「いや無理だろ…」
志保と二人で朝食を済ませ、家を出る
P「なあ志保」
志保「はい」
P「なんか近くない?」
志保は俺と肩が触れそうなくらいの距離を歩いていた
志保「気のせいです」
P「肩がぶつかりそうなんだけど」
志保「気のせいです」
そのまましばらく歩いていると
「…志保?」
志保が誰かから声をかけられた
志保「………」
しかし志保は聞こえていないのか、そのまま歩き続ける
心なしか早足になった気がする
「ちょ、ちょっと志保!」
後ろから声をかけてきた人物が駆け寄ってくる
志保が面倒くさそうだ振り返る
俺もそれに釣られ振り返ると
P「君は…」
「あなたは…」
去年出会った、最上静香がいた
志保「何の用?しず…うどん」
静香「なんで言い直したの?ねえ」
静香「別に、クラスメイトに挨拶するのに理由は要らないでしょ?」
志保「そう、それじゃあ…兄さん、行きましょう」
志保が会話を打ち切ろうと歩き出す
静香「P先輩、おはようございます」
P「ん、おはよう最上さん」
最上さんと挨拶する
それを聞いた志保は少し歩いた後、そのまま後ろ歩きで戻ってきた
静香「P先輩、志保と知り合いだったんですね」
P「まあ知り合いというか」
静香「?」
P「実は俺と志保は親戚でさ」
静香「そうだったんですね」
静香「仲が良さそうだったので最初は志保に恋人が出来たのかと思いました」
志保「おはよう静香、今日は良い天気ね」
静香「ええ…」
志保が突然最上さんに友好的になった
その後、二人の話を聞きながら通学路を歩く
話を聞く限り何だかんだでこの二人は面倒見が良いようだ
志保の琴葉よく知らないが、最上さんは翼の時も世話を焼いていたからなんとなくわかってはいたが
やがて学園に到着し、二人と別れた俺は、自分のクラスへ向かった
一旦ここまで
コメディよりの可愛い路線でいきやす
パンダもがみんが可愛かったから仕方ない
P「おはよう」
エレナ「おはようだヨ-!」
クラスメイトの島原エレナと挨拶を交わす
エレナ「♪」
P「ん?エレナ、妙に上機嫌だな」
エレナ「実は昨日コトハとメグミと町に行ったら美味しいうどん屋さんがあったノ!」
P「うどん屋?」
ジュリア「そのうどん屋ならあたしも行ったぜ」
P「ジュリア」
エレナ「すっごく美味しくて思わずおかわりしちゃったヨ!」
ジュリア「あれは確かに美味かったな」
エレナ「コトハが思わずおかわりしたくらいだシ!」
P「へー、そんなに美味いのか」
近いうちに冬馬と翔太を誘って行ってみるかな
美奈子「朝からおうどんの話をしていると言うことは皆さんお腹が空いてますね!?そんな時は」
P「間に合ってます」
脅威の排除を優先した
放課後になり、一人下駄箱で靴を履き替える
昼休みにうどん屋に誘ってみたのだが羅刹と翔太は用事があるそうで、今回はお流れとなった
P「仕方ない、今日は帰るか」
家に帰ったら志保にうどんでも作って貰おう
そんなことを考えていると
「P!セン!パ~イ!」
その声と共に脇腹に何かが突き刺さった
P「ごふあ」
バランスが崩れるが何とか立て直す
脇腹に飛び付いてきた金色の何かを確認し
P「はあ…」
溜息をついた俺はその金色の何かに対し
P「翼、危ないでしょうが」
でこぴんをした
「あう!」
額を抑えた金髪の女の子、伊吹翼から少し距離を取る
P「いきなり飛び付くんじゃない、不意打ちされたら俺だって吹っ飛ぶんだから」
翼「え~?ちゃんと声かけましたよ?」
P「飛び付く瞬間にかけても意味ないっつーの」
翼「あ、それよりもP先輩!一緒におうどん食べに行きましょ~!」
P「聞けよ…ってうどん?」
翼「はい!最近出来たうどん屋さんがあって美味しいって評判なんです!」
P「ほう」
翼「それで今から静香ちゃんと一緒に行くところだったんですけど、一緒に行きませんか?」
P「邪魔じゃないなら」
翼「やった~!P先輩とデートデート!」
P「いや、最上さんもいるから」
翼「静香ちゃんとわたしで両手に華ですよ、P先輩♪」
P「それじゃあそういうことにしておくよ」
静香「翼、待たせてごめんなさい…あら、P先輩?」
P「やあ」
翼「P先輩も一緒に行ってくれるんだって!」
静香「あ、そうなんですね」
P「お邪魔させてもらうよ」
静香「ふふ、よろしくお願いします」
P「っと、その前に少し電話をさせてくれ」
志保の携帯に電話をかける
P「もしもし?」
志保『はい、どうしました兄さん?』
P「今日の夕飯なんだけど」
志保『それなら兄さんの好きなものを用意しますけど』
P「凄く魅力的なんだけど悪い、今日は夕飯は要らないんだ」
志保『…そうですか』
P「ああ、ちょっとうどんを食べに行く事になってさ」
志保『…行く事になった?』
P「ああ、新しく出来たうどん屋あるだろ?そこにな」
志保『…兄さん、誰と行くんですか?』
P「え?」
志保『いいから、教えてください』
P「翼と最上さんだけど」
プツ
P「ん、あれ?志保?」
答えた瞬間、通話が途切れた
電波が悪くなったのか?
その後かけ直しても志保には繋がらなかった
一旦ここまで
うどんを食べてこよう
P「ごめんお待たせ」
志保への電話を諦め、二人の所に戻る
翼「早く行きましょ~わたしもうお腹ぺこぺこ」
静香「そうね、私もお腹空いてるから」
P「じゃあ行こう」
P「…結構並んでるな」
うどん屋には行列が出来ていた
それだけ人気があるということか
翼「え~、並ぶの?」
P「どうする?また次の機会にする?」
静香「…」
どうしようか悩んでいると
志保「兄さん」
何故か志保に声をかけられた
静香「志保?」
P「あれ、志保?なんでここに」
志保「私もうどんが食べたくなったので」
P「そっか、じゃあ一緒に並ぶか?」
志保「それには及びません」
P「え?」
志保「予約を取ってありますから」
そういって少し胸を張る志保
P「おお!ありがとう志保」
志保「いえ、このくらいは当然です」
志保「では兄さん、二人で食べましょう」
俺達はうどん屋に入っていった
4人で
志保「…こんな筈じゃ」
志保は顔を隠して絶望していた
どうやら俺と二人だけで食べたかったらしく
店に入った志保は、二人予約と言ったのだが
席が足りないから知り合いならまとめて欲しいという店側の要望で四人卓となった
卓についた俺達は、注文したうどんが来るのを待っていた
翼「にっくうどん~にっくうどん~♪」
翼は鼻歌を歌い
静香「…凄いわ、あの手さばき」
最上さんは職人の作業を凝視していた
翼「そういえば静香ちゃん、未来は?」
静香「春休みの宿題」
翼「あっ」
静香「翼はよく大丈夫だったわね?」
翼「だって家族にやってもら…ちゃーんとやってきたもん!」
静香「今明らかに不正を告白しかけてたわよね?」
二人のそんな話を聞いていると
うどんが運ばれてきた
俺にはカレーうどん、翼には肉うどん、志保はきつねうどんで最上さんが釜揚げうどんだった
静香「太さは一般的な讃岐うどんね、志保のきつねうどんのつゆを見る限り関西風みたいだけど」
最上さんが突然語りだす
P「詳しいな、最上さんはうどんが好きなのか?」
何気なく聞いてみた
志保「ちょっ」
翼「せ、先輩それは」
突然二人が慌て出す
静香「はい、実は私うどんが大好きで」
P「そうなのか」
静香「はい、うどんは良いですよねまずうどんの歴史から説明すると遡ること」
志保「…始まった」
P「えっ?」
突然最上さんが早口になりうどんの歴史と進化を語り出した
翼「こうなった静香ちゃん長いんです」
P「そ、そうか」
どうやら余計なことをしたらしい
翼「まあ静香ちゃんの話は聞き流して~…P先輩、わたしもカレーうどん食べたいなぁ…だめぇ?」
P「駄目ではないけど」
翼「代わりにわたしの肉うどんも少しあげますね!はい、あ~ん」
志保「…」
俺の隣に座っていた志保が翼の差し出したうどんに食らい付く
翼「あ、ずるい!」
志保「ずるいのは翼の方だから」
P「喧嘩しない」
最上さんの解説をBGMに俺はうどんを堪能した
P「美味かった」
評判通り非常に美味い上にするするっと入っていったのでついおかわりしてしまった
静香「はい、来て良かったです」
心なしかつやつやしている最上さんが応える
最上さんは語りながら俺達よりも早くうどんを10玉食べた
かつて貴音が学食のラーメンをあっという間に平らげた時と同じ畏怖を抱いたが、顔には出さない
静香「かなり上質な食材も使ってましたし職人さんの腕も素晴らしかったです」
静香「このうどん屋さんは町の誇りですね」
最上さんが誇らしげに言う
P「最上さんは本当にうどんが好きなんだな」
静香「はい」
最上さんが空を見上げる
静香「最高のうどんを作るのが、私の夢ですから」
一旦ここまで
アイドルなんてなかった
静香「うどんって凄いですよね」
P「うん?」
静香「麺類自体が日本人に人気があるのを考慮しても」
静香「パスタのように用途ごとに麺が別れている訳じゃないのに地方によって違う種類のうどんが愛されている…」
静香「つまり沢山の人に親しまれる食べ物なんです」
P「ふむ」
確かに言われてみればそうか…
静香「私もうどんを愛する一人です、だからこそ」
静香「うどんでみんなを笑顔にしたい」
静香「それが私の夢で、約束だから」
P「…そっか」
P「最上さんなら、きっと良いうどん屋になれると思う」
P「もし何か手伝えることがあったら言ってくれ、出来る限り力になる」
静香「そうですね…ならその時は試食をお願いしますね」
P「なんか役得っぽいな、それ」
P「まあ、その時を楽しみにしてるよ」
静香「はい」
P「それじゃあ最上さん、また」
静香「はい、失礼します」
最上さんは翼と一緒に帰って行った
志保「…兄さん、うどんと何を話していたんですか?」
P「ん?うどん美味かったなって話だよ」
志保「そうですか…」
P「それじゃあ、俺達も帰ろうか」
志保「はい、兄さん」
腹を満たした満足感を噛みしめながら、俺達は帰路についた
滅茶苦茶短くて申し訳ないが一旦ここまで
二日連続で寝落ちかますところだった
翌日
帰る支度をしていると、電話が掛かってきた
エレナ「P、携帯鳴ってるヨー」
P「ほんとだ」
確認すると、志保からだった
P「もしもし、志保?」
志保『兄さん、今どちらに?』
P「今?自分のクラスだけど」
志保『すぐに行きますから少し待っていてください、B組でしたよね』
P「別に構わないが…俺、志保に自分のクラス伝えてなかったような」
志保『細かいことは気にしないでください、それでは』
帰り支度を中断し、席に着く
エレナ「あれ、P帰らないノ?」
P「ああ、志保が来るらしい」
エレナ「シホ?」
P「従妹だよ」
エレナ「ワオ!P従妹いたんだネ!」
P「まあな」
そのままエレナと話していると
志保「失礼します」
志保がやってきた
P「お、来たな」
志保が教室に入ってくる、そして
P「…あれ、最上さん?」
志保の後ろから最上さんが入ってきた
志保「しず…うどんからある相談を受けたんですが、私では手に余るので兄さんにアドバイスを受けたくて」
P「なるほど」
志保「…ところで兄さん、その人は?」
志保が俺の隣にいるエレナについて聞いてくる
エレナ「ワタシは島原エレナだヨ-!Pの友達!」
志保「…北沢志保です」
エレナ「よろしくだヨ、シホ!」
志保「よ、よろしくお願いします」
ぐいぐい来るエレナに志保は少し驚いたようだ
P「それで、相談って?」
志保「そうでした…うどん」
静香「うどん呼びはやめなさいよ…」
静香「…実は昨日、父と喧嘩をして家出をしたんです」
P「いきなり重いな」
静香「昨日先輩と一緒にうどんを食べに行きましたよね?」
志保「私もいたけど」
静香「あのうどん屋は…父の店だったんです」
志保「私も、『兄さん』と一緒にいたけど」
静香「帰ってから父が言ってきたんです」
静香「私じゃ父のうどんは越えられないと」
静香「でも私は反論しました、やってもいないのになぜ決めつけるのかと」
静香「すると父は言いました、自分は私の祖父からも、曾祖父からもうどん作りの手解きを受けた、私が父を越えるのは無理だから諦めろと」
静香「…確かに曾祖父のことはわからないのでともかく、祖父はとても凄いうどん職人でした」
静香「昔うなばらさん?という有名な食通の方に日本一だと讃えられたこともあったそうです」
静香「でも、例えそんな名人に手解きを受けていても、父が正しいとは思えません」
P「それはどうして?」
静香「父の店は、チェーン店です」
静香「私はチェーン店を批判する気はまったくないんです、だけど」
静香「…生前、祖父が良く言っていました、うどんは食べてくれる人を思いながら打つ物だと」
静香「だけど父は今は現場に立たず、打つものはうどんではなくキーボードです」
静香「父は人を思いながらうどんを打つことを忘れてしまった…だからこそ、私はうどんで父を越えたいんです」
P「…最上さんの話はわかったけど」
俺は振り返ってエレナに俺の事を根掘り葉掘り聞いている志保に話しかける
P「これ、俺はどうすれば良いんだ?」
正直何も出来ない気がする
志保「話は聞きましたし帰っても良いと思います、むしろ帰りましょう」
静香「ちょ、ちょっと志保!話はまだ終わってないから!」
志保が心底面倒臭そうな顔をしているが、俺は続きを聞いてみることにした
静香「それで、私は家出してしまったので今帰るところがないんです」
静香「だからそれを志保に相談しようと思って…」
志保「嫌よ」
静香「まだ何も言ってないじゃない」
志保「家に泊めてくれって言うんでしょ?生憎部屋は空いてないから」
P「いや空き部屋ならいくつか」
志保「兄さんは黙っていてください」
P「はい」
静香「志保、お願い」
志保「…」
P「一応、このみ姉さんに聞いてみるよ」
静香「本当ですか!?」
志保「兄さん…」
P「流石に放っとけないだろ?」
志保「…まあ、兄さんがそう言うのなら」
静香「もしお世話になることになったら、毎日うどんを作りますから」
志保「やめなさいよ、兄さんを太らせる気?」
ガラッ
美奈子「今太らせるって聞こえましたけど!」
P「間に合ってます」
一旦ここまで
グルメ漫画って基本的にコメディっぽい感じがするから割と参考にはしてたり
ラーメン三銃士とかね
結局許可が降りたので、最上さんを連れて帰る
このみ姉さんには既に説明してあるが、改めて最上さんの事情を説明する
桃子「ま、また女が増えた…」
桃子が何やら複雑な顔をしていた、何故だろう
このみ「静香ちゃん、自分の家だと思ってくれて構わないからね」
静香「はい、ありがとうございます」
静香「ではお世話になるので」
最上さんがハンドバッグから大きな板と麺棒、こねられた生地を取り出す
静香「さっそくうどんを打って夕飯を作りますね」
そういってテーブルの上に板を敷き、小麦粉を板と麺棒に馴染ませてから生地を置いた
麺棒で生地を広げていく最上さん
俺達はその光景をただ見ている
ある程度伸ばす毎に生地を45度回転させる
P「それの意味は?」
静香「こうすることで生地がだんだん四角くなってくるんです」
そう言いながら生地を回転させる
静香「生地を四角くすると畳んで切るときに切りやすくなりますし、麺の長さや太さも揃えることが出来るんです」
P「なるほど」
生地が整ったところで、最上さんは生地に小麦粉を撒いてから畳み始める
そして用意してあった麺切り包丁と別の板を手にし、切り始めた
包丁が動く毎に生地だったものが、どんどんうどんになっていく
P「こうなるのか」
やがて包丁が端まで到達した
最上さんは包丁を置いた後うどんを一掴みし、粉を払う
湯切り道具にうどんを入れ、あらかじめ用意してあった鍋にうどんを入れると今度は魔法瓶を取り出して鍋にかけた
静香「生のうどんは茹で上がるのに10分から15分ほどかかるので今のうちに具を作りますね」
そういって葱を刻み、油揚げを用意する最上さん
志保「きつねうどん…女狐うどん」
P「しかしあれだな」
制服の女の子がエプロンをして料理している姿は良い物だ
P「なんかこういうの良いな」
志保「…兄さんは、エプロンが好きですか?」
P「好きか嫌いかで言うと大好きかな」
志保「わかりました」
P「?」
静香「…良し!」
最上さんが湯切りをし、人数分のどんぶりにうどんを入れていく
そしてかまぼこ、油揚げを乗せ…
静香「お待たせしました、きつねうどんです!」
このみ「美味しそうね」
桃子「ふーん…ま、悪くないかな?」
P「それ聞いたことあるぞ」
桃子「前にちょっとね」
志保「…」
P「じゃあ早速」
「いただきます!」
一口啜る
静香「どうですか?」
P「!」
志保「…っ」
桃子「美味しい…」
このみ「うん、美味しいわ、静香ちゃん」
静香「ありがとうございます」
静香「P先輩と志保はどう?」
P「うん、昨日のうどんともまた違う味で…かなり美味いよこれ」
静香「ありがとうございます!…志保は?」
志保「…………………まあ、美味しいと思うわ」
静香「今の間が気になるけど…ありがとう」
一旦ここまで
なんでうどん作るの実況してたんだ俺は
静香「でも、これじゃあまだ駄目なんです」
静香「父のうどんには敵わない」
静香「うどんのコシも足りないし、喉越しも劣ります」
静香「出汁も店で使用しているものと同じです、だけど風味や他にも沢山の物が足りていない…」
P「他にも色んな意見が聞けたら良いんだけどな」
静香「確かにそれが一番なんですが、だからと言って店を出すようなお金も許可もありませんし…」
P「どうしたもんか…」
早速行き詰まる
桃子「おかわり」
静香「はい」
志保「諦めて家に帰るっていう選択肢があるけど」
静香「嫌よ」
志保「…」
このみ「静香ちゃんは、お店を出したいのかしら?」
静香「そうですね、将来的には一件持ちたいと思います」
このみ「ならちょうど良い物があるわよ」
静香「え?」
P「え?」
このみ「着いてきて」
このみ姉さんが地下に向かう
P「地下に何かあったっけ…?」
このみ姉さんに着いて地下に向かうと…
このみ「確かこの辺りに…」
長年放置していた物置にこのみ姉さんが入っていく
P「ここに来るのも久しぶりだ」
桃子「桃子は初めて」
志保「…兄さん、暗くて足下が不安なので手を握っても良いですか?」
静香「ここに電気のスイッチが」
志保「…」
このみ「あらありがと…あったあった!ほら、こっち来て」
このみ姉さんが手招きする
このみ姉さんの指示に従い、そっちを見ると…
P「こ、これは…」
静香「屋台…?」
ラーメンでお馴染みの屋台車がそこにあった
このみ「放置されてたから多少修繕の必要はあるけど、これならすぐにでも店が持てるわ」
静香「凄い…ありがとうございます、このみ先生!」
このみ「ふふ、可愛い教え子のためだもの」
P「けど屋台とかって許可が要るんじゃないの?」
このみ「それについては問題ないわ、私の飲み友に警察で働いてる子がいるから」
P「あ、うん」
静香「屋台を出してお客さんの意見を取り入れることで私のうどんはきっと完成に近づく…!」
P「そうだな」
静香「P先輩は男性ですから屋台を引いて貰ったり一緒にいてもらうことになりますけど…」
P「そのくらいなら構わないよ、どうせ部活もないし、それに屋台に興味もあるし」
静香「ありがとうございます」
志保「…私も手伝ってあげるわ」
静香「え?」
志保「大した理由じゃないから気にしないで」
静香「志保…ありがとう」
一旦ここまで
今日はなしで
ごめんね
明日には、明日には必ず
その様子では4th落ちたな?安心しろ。私もだ
>>94
日曜日当選してますん
ちょっと引っ越しの準備が
まあ次は慰霊碑に名前を刻む作業がありますが…2日目当たれば良いなぁ
P「よし、それじゃあ最高のうどん作り、頑張ろう!」
静香「はい!よろしくお願いします!」
このみ「私も莉緒ちゃんや風花ちゃん、楓ちゃんを誘って食べに行くから」
P「えっ、楓さんはちょっと」
桃子「なんでも良いけど、屋台直さないと使えないと思うよ」
志保「確かに、結構ボロボロね」
P「それについては問題ない」
翌日
冬馬「で、だ」
P「ん?」
冬馬「なんで俺は休日の朝っぱらから屋台の修理をさせられてるんだ?」
P「さあな」
冬馬「お前が呼んだんだろうが…!」
P「良いじゃないか、タダ だし」
冬馬「良くねえよ!」
冬馬がトンカチを握りながら吠える
静香「手伝っていただきありがとうございます、あまとう先輩」
冬馬「誰があまとうだ!俺は天ヶ瀬冬馬だ!」
静香「えっ!?し、失礼しました、天ヶ瀬先輩」
冬馬「…」ブワッ
突然冬馬の目から涙が溢れた
P「おいおいどうしたんだ冬馬、女子に話し掛けられて感極まったか」
冬馬「違えよ…久しぶりに…久しぶりにちゃんと名前を呼ばれたからよ…」
静香「ええ…」
翔太「寸胴買ってきたよ~」
P「お、サンキュー翔太」
海美「洗っちゃうから貸して~」
P「おう」
俺から寸胴鍋を受け取った海美は、中々の手際で鍋を洗っていく
P「あれ、海美って家事できたっけ?」
海美「修業してるからね!」
P「修業?」
海美「うん!だから期待しててね!」
静香「志保、寸胴鍋を貸してくれる?」
志保「静香、随分綺麗になったわね?あらごめんなさい、寸胴鍋と間違えたわ」
静香「どこに間違える要素があるのよ!?」
志保「…ふっ」
静香「」ブチッ
桃子「お兄ちゃん、ここ押さえてれば良いの?」
P「ああ、頼む」
作業を続けること数時間
冬馬「うっし、終わったぞ!」
冬馬が最後の板を打ち終わった
P「お疲れ」
冬馬に水のペットボトルを投げる
冬馬「さんきゅ」
静香「お疲れ様です、お昼ごはんにうどんを打ちましたから是非食べてください」
冬馬「おお、腹減ってたんだ、早く食わせてくれ」
冬馬「美味え!」
海美「うん、すっごく美味しい!」
翔太「うん、お店で食べるのと謙遜ないと思うよ」
三人とも最上さんのうどんを絶賛する
静香「ありがとうございます」
冬馬「これを屋台で出すのか?」
静香「はい、そのつもりです」
翔太「もし開店したら教えてよ、食べに行くから」
静香「はい、お願いします」
P「明日は日曜日だし…どうする、今日からもう屋台で出る?」
静香「そうですね、早いほうが良いですし…今日から出ましょう」
P「わかった」
冬馬「そういや屋台の名前はあるのか?」
P「名前?」
静香「考えていませんでしたが、確かに名前は必要ですね」
海美「うどん屋もがみんとか!」
静香「それはちょっと…」
P「ま、名前はおいおい考えるとして」
P「とりあえず屋台を引いてみるか」
冬馬「手伝うぜ」
P「助かる」
最上さん達と屋台の最終調整をした
一旦ここまで
マオウで始まるミリオンのコミカライズに海美がメイン格で出るようで興奮している
765学園物語はマオウ掲載予定のアイドルマスターミリオンライブと稲山覚也先生を応援しています
静香「この辺りが良いですね」
P「了解」
思ったよりも重かった屋台車を固定する
志保「兄さんお疲れ様です、汗を拭くのでジッとしていてください」
P「いや、自分で拭けるから…」
静香「志保、遊んでないで手伝って」
志保「私は真剣よ」
翔太「せっかくだし僕達も手伝うよ」
P「ありがとな、翔太」
冬馬「最上、お品書きはこれで良いのか」
静香「はい、ありがとうございます」
P「それ、手書きか?」
冬馬「時間がなかったからな」
P「へえ…」
中々に綺麗な文字で書かれていた
相変わらずなんでもこなせる奴だ
テーブルを置き、ようやく準備が完了した
P「後は客が来るのを待つだけだな」
静香「…私のうどん、本当に食べてくれるでしょうか」
P「大丈夫だって最上さん、自分とうどんを信じるんだ」
志保「兄さんの言う通りよ、うどん」
静香「志保…」
志保「正直悔しいけど、うどんの作るうどんは間違いなく一流だから、自信を持った方が良いわ」
P「お?」
少し離れた所に何人かの人影が見える
もしかしたら立ち寄ってくれるかも知れない
P「いらっしゃいませー」
静香「いらっしゃいませー」
志保「ませー」
俺達は声を上げて客引きを始めた
このみ「あら、ここでやってたのね」
近付いてきた人影は、良く見知った人達だった
P「このみ姉さん」
このみ「今は客よ」
P「失礼しました」
莉緒「姉さん、ここが今朝言ってたうどん屋?」
このみ「そうそう、結構美味しいのよ」
「宅飲みのつもりでしたが、屋台で一杯というのも良いですね」
P「げっ」
風花「静香ちゃんのおうどんは去年の学園祭で食べたけど、とっても美味しかったな」
静香「ありがとうございます、風花先生」
あずさ「あらあら、それは楽しみね~」
P「注文は?」
このみ「とりあえずビール」
P「未成年しかいない屋台がビールなんか出せるか!」
このみ「冗談よ、持参してるから」
そういってビールや酒が大量に入った袋を見せる
このみ「普通に皆きつねで良いわよ」
P「はいよ、きつね5入ります」
静香「はい!」
最上さんが真剣な表情でうどんを茹で始める
それを尻目にテーブル席では酒盛りをしており、莉緒さんと楓さんが既に2本目に突入していた
静香「…」
最上さんが慣れた手付きで湯切りをする
俺はその間にどんぶりを並べていった
「キリッと湯切り…ふふ」
…どうやら既に出来上がっているようだ
一旦ここまで
P「お待たせしました」
莉緒「Pくんおーそーい!」
P「はいはいお客さん揺らさないでくださいね~
零れますからね~」
このみ「莉緒ちゃん、大人しくしなさい」
風花「すごく美味しそう」
P「風花先生が隠してる二つのフルーツも美味しそうですよ」
風花「え?」
P「何でも無いです」
あずさ「うふふ、私誰かと屋台でご飯を食べるって密かに憧れだったのよ~」
「ビール以外にも熱燗や日本酒が欲しい…」
P「や、そんな目で見られても無理なもんは無理ですからね?」
このみ「さ、のびる前に食べましょう?それじゃあ」
「いただきます」
「乾杯!」
大人達が好き勝手に喋りながら飲み食いを始めた
莉緒「ちょっと何これ!すごく美味しいんだけど!」
風花「お汁も美味しい、町のおうどんとも違う感じで」
P「評判良さそうだな」
静香「はい、皆さん喜んでくれてるみたいです」
しばらく大人組の飲み食いを見ていると
「む、こんなところに屋台があるではないか」
「おお、本当だ、珍しいじゃないか」
「高木、貴様まだまだいけるな?」
「私は明日も仕事があるのだが…ま、せっかくの君のお誘いだからね」
そういって暖簾を潜ってきたのは
P「高木先生、黒井先生」
黒井「む、貴様か」
高木「おおPくん、奇遇だね」
俺の元担任と現担任だった
黒井「貴様、ここでアルバイトをしているのか?」
P「いえ、そう言うわけでは」
高木「とりあえずメニューを見せてくれるかな」
静香「あ、はい、どうぞ」
二人がメニューを見る
黒井「…ふむ、うどんの屋台とは珍しい」
高木「私はたぬきうどんにしようかな」
黒井「ふん、たぬき親父らしい貴様にはぴったりな選択だな。私は月見うどんだ」
P「かしこまりました、たぬき1月見1」
静香「はい!」
最上さんが調理に入る
高木「この屋台は、静香くんが?」
P「はい、ある目的があるみたいで」
高木「そうかそうか、目標があるのは良いことだ」
高木「彼女は去年、目標が見つからなくてとても悩んでいたからね」
P「そうなんですか?」
高木「うむ、だから何か目標を見つけて、そのために努力している姿を見るのは嬉しいねぇ」
P「ですね」
何かのために努力をする人間はとても輝いて見える
最上さんは、その輝きを見せていた
静香「お待たせしました」
たぬきうどんと月見うどんが二人の前に出される
高木「美味しそうだねぇ」
黒井「ほう、関西風の出汁か」
静香「わかりますか」
黒井「私はセレブだからな、鼻も舌も肥えているのだよ」
箸を取り、うどんを啜る二人
黒井「むっ」
高木「美味しいねぇ」
黒井「ふむ、中々のコシだ、それに出汁も良い」
黒井「私が食べるのに不足はない」
静香「ありがとうございます」
P「素直に美味いって言えば良いのに」
黒井「何か言ったか」
P「いえ何も」
二人が食べ終わり、立ち上がる
高木「美味しかったよ静香くん、ご馳走様」
静香「ありがとうございます、高木先生」
黒井「普段はここに出しているのか」
静香「いえ、今日が初出店で…でも、ここを拠点にしたいとは思っています」
黒井「そうか」
黒井先生は一万円札をカウンターに置くと
黒井「釣りは要らん」
黒井「…また気が向いたら食べに来てやろう」
そのまま歩いて行った
静香「あ、ありがとうございます、黒井先生!」
高木「お、おい黒井、置いていくなよ」
P「黒井先生、笑ってたな」
静香「はい、ああいう顔もするんですね」
P「俺も初めて知ったよ」
とても優しい笑みだった
きっと最上さんのうどんで心が解されたのだろう
最上さんのうどんは人を笑顔に出来る
もっと沢山の人にこの味を知って貰えればきっと…
志保「兄さん」
P「ん、どうした志保?」
志保「あれ、どうするんですか?」
P「あれ?」
志保の指差した方向を見る
莉緒「ぐー…」
このみ「ちょっと冬馬くん!私のお酒が飲めないって言うの!?」
冬馬「未成年なのに飲めるわけ無いだろ!」
このみ「細かいことは良いのよ!」
冬馬「細かくない!誰か何とかしてくれ!」
「お猪口でちょこっと…ふふ…ふふふ」
あずさ「にゃーんにゃんにゃんにゃーん♪」
風花「いっつも私ばっかりセクハラされて…ぐすっぐすっ」
P「…」
志保「…」
P「店仕舞いするか~」
静香「ですね」
見て見ぬ振りをすることにした
一旦ここまで
今までの√より多くのキャラが出て来るかも
莉緒さんのねごとから放たれたわざでとくせいの消えた冬馬に咄嗟にねっとうを使い、やけどにした後俺達は屋台を押しながら帰路についた
P「今日は成功…だったかな」
静香「はい、先生方も美味しいと言ってくれました」
志保「たった7人だけど」
静香「それでも、お金を払って食べてくれて、美味しいと言ってくれたことに価値があるのよ」
志保「…」
P「しかし問題は知名度だな」
静香「そうですね…いくら美味しいものを作っても誰も食べてくれなければ広まりませんし」
志保「チラシでも配ったら?」
静香「チラシね…悪くはないけど」
P「それなら俺にアテがある」
静香「アテ?」
P「そういうのが得意な知り合いがいてな、週明けちょっと聞いてみるよ」
静香「ありがとうございます、P先輩」
P「気にしないでくれ」
週明けの放課後
俺はある人物を呼び出していた
食堂で待つこと数分
目的の人物がやってきた
P「お、来たな」
「珍しいですね、Pさんが呼び出すなんて」
P「いや、ちょっと依頼をしようと思ってさ」
「それは私個人に?それとも新聞部に?」
P「それは俺の話を聞いてからそらが判断してくれ」
「わかりました、話を聞きましょう」
P「ありがと、何か飲むか?」
「コーヒーで」
P「あいよ」
P「…と言うわけでな」
「…」
俺の目の前で腕を組んで考え込んでいる女生徒…早坂そらの反応を窺う
そら「面白そうですし、私個人としては協力しても良いとは思いますが…」
P「何か引っ掛かるのか?」
そら「メインが学外の活動である以上、学内の活動を記事にする新聞部を動かしにくいのがまず一つ」
そら「もう一つは実際にその最上さんの屋台とうどんを見ないことにはなんとも言えない…といったところですね」
P「ふむ」
もっともな意見だ
そら「ただまあうどんの屋台を出しているというのはインパクトとしては十分ですから、近いうちに食べに行こうとは思ってます」
P「それなら丁度良い、今日も出店するからさ、そらも来いよ」
そら「あ、今日出すんですね、それならお邪魔します」
そらとの約束を取り付けた
一旦ここまで
いつか出したかったそらさんがようやく登場
その日の夜
黒井「ふむ、ではニーズに応えるために小鉢を出してみたらどうだ」
静香「小鉢ですか、確かにうどんが出来るまでの小腹を満たすには良いかもしれません」
黒井「屋台であることを考えるとそんなに手のかからない枝豆の盛り合わせや冷や奴が良いかもしれんな」
静香「なるほど…」
開店してすぐにやってきた黒井先生のアドバイスを受けながら最上さんがメモを取る
冬馬「悪いな北斗、わざわざ来てもらってよ」
北斗「気にするなよ冬馬、それにエンジェルちゃんの美味しいうどんが食べられてこっちが感謝したいくらいだ」
可奈「志保ちゃん、エプロン凄く似合ってるよ!」
志保「そうかしら」
可奈「うん!」
志保「そう、それなら兄さんが私にメロメロになるのは時間の問題ね」
未来「ねえ志保~おうどんまだ~?」
翼「まだ~?」
志保「知らないわよ」
それぞれが友達を誘ったのか、一昨日よりもお客さんが増えていた
当然のようにアルコールを持参した大人組はテーブルごと隔離している
今日は千鶴先生も参加しているが、さすがは常識人の千鶴先生
既に出来上がった大人組を相手に頭を抱えていた
黒井「店に来るのは若い客ばかりではないだろう、子供や年配もくるはずだ」
黒井「そういった客が食べやすいうどんの生地を用意しておくのも良いかもしれん」
静香「なるほど、それは考え付きませんでした」
最上さんと黒井先生の話を聞いていると、ようやく待ち人が現れた
そら「こんばんは、Pさん」
P「待ってたよ、そら」
そら「ここがその静香ちゃんの屋台ですね?」
P「ああ、ちょうどカウンターも空いてるし、食べてみてくれ」
静香「あ、いらっしゃいませ」
そら「私の注文は…おすすめで」
静香「おすすめ?」
そら「あなたが美味しいと自信を持って出せるうどんを食べさせてください」
静香「…わかりました」
最上さんの顔が引き締まる
そら「あっ、その表情いいですね、1枚撮らせてください!フラッシュは焚きませんから」
そういってシャッターを連続で切るそら
黒井「…ふん」
黒井先生はそれを少し楽しそうに見ていた
静香「お待たせしました、私が自信を持って出せるうどん…」
静香「素うどんです」
一旦ここまで
ちなみにこの黒ちゃんは生徒と努力が大好きだけどプライドが高いから表には出さないよ
生徒にはバレバレだけどね!
そら「いただきます」
静香「…」
そらがうどんを食べるのを固唾を飲んで見守る
そら「…」
うどんに息を吹きかけ、口元に運んだそらがそこで動きを止めた
P「…?」
そら「あの、そんなにジッと見られてると恥ずかしいんですが」
顔を赤くしたそらに咎められた
P「あ、悪い」
そら「コホン、それでは改めて…いただきます」
そらがうどんを啜る
そら「!」
汁を飲み、またうどんを啜る
具が入っていない素うどんは、あっという間にそらのナカに収まった
そら「ご馳走様でした」
ちゃんと手を合わせるそら
静香「どうでしょうか…?」
そら「…」
そらは少し考えた後
そら「少し待っていてください」
そういって席を立った
どうやら電話をしているようだ
P「どこに電話してるんだろうな」
静香「わかりません、ただ…」
P「ただ?」
静香「あの人、とても美味しそうに食べてくれました」
P「確かに」
俺の知る限り彼女は食が細かったはずだ
静香「やっぱり自分の作った物を美味しそうに食べてくれると嬉しくなりますね」
P「ああ」
最上さんの気持ちはとても良くわかる気がした
黒井「いいか志保ちゃん、湯切りはこうやるのだ」
志保「こうでしょうか」
黒井「熱い!」
静香「ちょっと志保!そんなやり方じゃ火傷するわよ!」
最上さんが志保に湯切りをレクチャーしに行く
露骨に嫌な顔をしている志保とそれに気付かず湯切りを教えている最上さんを見ていると、そらが戻ってきた
そら「お待たせしました」
P「おかえり」
そら「正直想像以上でした」
P「美味かったってことか?」
そら「はい、想像以上の美味しさで思わず夢中になってしまいましたよ」
P「そりゃ良かった」
そら「それでですね、私は今回手は出しません」
P「え?でも今美味かったって…」
そら「美味しかったからですよ」
P「どういうことだ?」
そら「一つの店として十分やっていけるレベルのものを学内新聞だけで取り扱うわけにはいきませんから」
そら「だからちょっと私の知り合いの敏腕記者さんに依頼したんです」
そら「ある屋台を取材して欲しいって」
一旦ここまで
P「どういうことだ?」
そら「私の知り合い…というよりも新聞部のOBに雑誌の記者がいまして、今でもたまに新聞部の様子を見に来てくれるんです」
そら「その先輩に今回の件を依頼しました」
P「ということは…」
そら「近いうちに取材が来ると思います」
P「ありがたい」
雑誌で取り上げてくれるならかなりの宣伝効果になるはずだ
P「ありがとうな、そら」
そら「私も興味がありましたし」
P「それでも、頼って良かったよ」
そら「Pさんにはなんだかんだでネタを提供してもらってますから、お相子ですよ」
そういって踵を返すそら
そら「ご馳走様でした、またちょくちょく食べに来ますね」
P「ああ、いつでも来てくれ」
そらを見送り、最上さんのところに戻る
P「最上さん」
静香「P先輩、どうでしたか?」
P「雑誌の取材が来る」
静香「え?」
P「この屋台に雑誌の取材が来るって!」
静香「ほ、本当ですか!」
P「ああ!雑誌に取り上げてもらえたらたくさんお客さんが来るぞ!」
静香「たくさんの人に私のうどんを食べて貰えるんですね…」
P「忙しくなるかもしれないけど、頑張ろう」
静香「はい!私の全身全霊をかけて!」
静香「志保!志保も手伝ってくれる?」
最上さんが期待を込めた眼差しで志保の方を見る
可奈「志保ちゃん、なんで私ばっかり攻撃するの!?」
志保「可奈の手持ちは弱点突きやすいもの」
未来「翼~!私のポ○モンが~!」
翼「未来のポ○モンじばくかだいばくはつしかしないから仕方ないよ~」
静香「…」
P「楽しそうだな」
出鼻を挫かれた最上さんは微妙な表情をしていたが、それでも少し楽しそうだった
静香「時間も時間ですしそろそろ店仕舞いしましょうか」
P「ん、良いのか?」
静香「はい」
以前よりも早い時間だ
黒井「へっぽこ」
P「まだその呼び名なんですね…」
黒井「代金はここに置いておく」
P「ありがとうございます」
黒井「…一つ忠告してやろう、雑誌に取り上げられるのは戦略としては良い」
黒井「しかしメリットだけとは限らん、それを覚えておくがいい」
P「どういうことです?」
黒井「自分で考えることだ、誰かに言われるだけでは成長出来まい」
そういって黒井先生は立ち去った
P「ま、なんにせよ」
夜空を見上げる
P「色々とありそうだな」
騒ぎながら対戦する四人を移動させながら店仕舞いをする最上さんを見ながらそう思う
この数日、楽しそうにうどんを作る最上さんを見て抱いたのは
夢に向かって一直線に走る彼女の行く先を、隣で見ていたい
そんな気持ちだった
一旦ここまで
まだGWにすら入っていない…
未来ちゃのフィギュアが非常に可愛くて満足
いつの日か√YM、√HDと共に√SKを形に出来たら良いな
今日は無しで
翌日の昼休み
恵美「そいやさ」
P「うん?」
恵美「P屋台やってるんだって?」
P「誰から聞いたんだそれ」
恵美「海美」
P「あー」
琴葉「屋台?」
エレナ「なんの?」
P「実はうどんの屋台の手伝いをちょっとな」
恵美「なんでそんな面白そうなこと隠してたのさ~」
P「別に隠してたわけじゃないんだよ、ただ」
恵美「ただ?」
P「言ったら恵美達は間違いなく手伝うって言いそうだったからさ」
恵美「うっ、否定できない」
P「だから言わなかったんだよ」
恵美「ま、まあ手伝う云々は置いといてさ、どこに出してんの?」
P「○○○○○の前だよ」
恵美「○○○○○の前?あそこあんまり人来なくない?」
琴葉「確かにあの辺りは人通りが少なかったと思うけど…」
P「初めは少なくしないとみんな慣れてないから捌ききれないんだよ」
恵美「あー、なるほどね」
恵美「…ねえ、P」
P「駄目だ」
恵美「まだ何も言ってないじゃん」
P「恵美の言いそうな事くらいわかってるっての、なんだかんだで三年の付き合いだぞ」
恵美「そ、そう?」
エレナ「メグミ赤くなってるヨ~!」
恵美「え、エレナ!」
琴葉「ふふ」
一旦ここまで
P「ま、手伝いじゃなくてお客さんとして来てくれよ、俺もその方が嬉しい」
恵美「そっか…うん、わかった」
エレナ「ちゃんと食べに行くヨー」
琴葉「ふふ、今から楽しみにしてるね」
P「ああ、期待しててくれ」
三人と昼休みを過ごした
夜
開店してすぐに来た黒井先生と早速意見を出し合う最上さん
俺はそれにはあまり関われないので志保と話をしていた
P「志保、家には慣れたか?」
志保「はい、兄さんがいますから」
P「そっか」
志保「ただ…」
P「ただ?」
志保「しず…うどんがいるのは未だ慣れません」
P「志保は最上さんが苦手なのか?」
志保「苦手、というよりは何というか…上手く言葉に出来ませんけど、敢えて言うなら敵です」
P「て、敵?」
志保「はい」
P「なんでまた」
志保「それは…その…に、兄さんには関係あるけど関係ありません!」
P「ええ…」
P「よくわからないけど、出来たら仲良くしてほしいな」
志保「…兄さんがそういうのなら、考えておきます」
P「頼むよ」
志保との会話が途切れたタイミングで
高木「やあPくん、食べに来たよ!」
高木先生がやってきた
P「高木先生、いらっしゃいませ」
高木「今日は私の友人を連れてきたんだよ、ちょうどこの屋台を探していたらしくてね」
一旦ここまで
短くてすまない
高木「紹介しよう、私の友人の善澤くんだ」
善澤「善澤です、よろしく」
P「あ、よろしくお願いします」
善澤さんと握手をする
穏やかで優しそうな人だ
善澤「それじゃあ早速食べさせて貰おうかな」
高木「君は相変わらずせっかちだな」
善澤「せっかちじゃないとこの仕事はやってられないからね」
黒井「む、高木に…貴様か」
高木「やあ黒井、ご一緒させてもらうよ」
黒井「好きにしろ」
善澤「珍しいね」
黒井「…ふん」
静香「ご注文は?」
高木「私はきつねにしようかな」
善澤「化かすのが得意なお前らしい選択だ」
高木「ははは、黒井にも似たようなことを言われたよ」
善澤「じゃあ僕はわかめうどんにしようかな」
静香「はい」
最上さんが注文を受け調理に入る
善澤「こうやって作るところを直に見られるのは屋台の醍醐味だね」
高木「ああ、出来上がる物への期待が高まるよ」
最上さんが調理を始めて数分後
静香「お待たせしました」
二つのうどんが二人の前に出された
善澤「おお、美味しそうだ」
高木「いただきます」
うどんを食べる二人
善澤「うん、聞いていた通り良い味だ」
高木「だろう?」
黒井「当然だ」
静香「ありがとうございます」
善澤「うん、これなら良い記事が書けそうだ」
P「記事ですか?」
善澤「そらくんから話を聞いてね」
P「あ、じゃあ善澤さんが」
善澤「そう、新聞部のOBで今はある雑誌の記者なんかをやらせて貰ってるよ」
善澤「しかしここのうどんは話しに聞いていた以上だったね、かなり美味しかったよ」
静香「ありがとうございます」
善澤「しかし調理者は君しかいないようだが…記事を書いても大丈夫なのかな?」
一旦ここまで
そろそろ一気に更新したいところ
私事だけど初めてリリイベが当たった上に整理番号一桁という素晴らしいものだった
静香「た、確かに…」
最上さんは腕を組んで考え込んでいる
元々店を出すための予行演習として始めたのがこの屋台だ
まだ接客にも慣れていない今の状態で大量に客が来たとしたらどうなるか、容易に想像出来る
P「最上さん…」
志保「…取材はお断りします」
P「志保?」
静香「志保!?勝手に決めないで!」
最上さんが志保に食って掛かる
志保「…」
しかし志保はそんな最上さんを睨みつけた
志保「静香、あなたが自分の夢を追い掛けるのは勝手よ」
志保「そのために周りの手を借りるのも構わないし私も手を貸すのは吝かじゃない」
志保「だけど分不相応のことに手を出して、それに兄さんを巻き込むことだけは許さない」
静香「わ、私はそんなつもりは」
志保「なら聞くけど、仮に雑誌に載って大量のお客さんが来たとして、この設備でどう捌くつもり?」
静香「それは…」
志保「それに屋台ではそんなに大量のストックも出来ない」
志保「並んで待たされた挙げ句売り切れましたなんてなった日には怒って帰るのは明白」
志保「当然悪評も広まるわ、そうなったら私達はバッシングを受けるでしょうね」
志保「私は別に構わないわ、慣れてるから。静香も自業自得、だけど兄さんは?」
志保「善意で手伝ってくれている兄さんがバッシングを受けるなんて私には耐えられない」
一旦ここまで
明日休みだけど、今日は寝かせてくだしい
静香「…私は」
志保の言葉を受けて項垂れる最上さん
それを見て俺は、何も言えずにいた
志保「…時間がなくて焦る気持ちはわかるわ」
志保「だけど、だからこそ失敗しないようにしないと駄目」
志保が最上さんに手を差し伸べる
志保「私も手伝ってあげるから、早く目標を達成して1秒でも早く兄さんの家を出て」
静香「志保…」
最上さんが志保の手を掴んだ
静香「わかったわ、志保」
静香「私は…急ぐけど焦らずに私の道を行くわ」
志保「そうね、そうしてくれると助かるわ」
志保「もし立ち止まりそうになったら、背中は押してあげるから」
静香「ありがとう、志保」
志保「気にしなくて良いわ、脇見せずに前だけ見てて」
静香「善澤さん」
善澤「ん、決まったかい?」
静香「はい、申し訳ないのですが…」
善澤「わかった、記事にはしないでおくよ」
静香「はい、ありがとうございます」
善澤「それじゃあ僕は帰らせて貰おうかな」
高木「ん、もう帰るのか?」
善澤「高木、さっきの僕達の話を聞いていなかったのか?」
善澤「あんまり居座ると他のお客が入って来れないだろう」
高木「はは、それもそうだね」
P「はい、本当に」
テーブル席で酒盛りしている大人組を見遣る
…最初は諫める側だった千鶴先生はいつの間にか音頭を取る側になっていた
善澤「また来るよ」
静香「ありがとうございました」
高木「ごちそうさま」
善澤「黒井も、あんまり居座ってると迷惑になるかもしれないぞ?」
黒井「…ふん、私の勝手だ」
そう言いながらも立ち上がり、代金を出す黒井先生
P「ありがとうございました」
三人が帰るのを見送り、屋台に戻る
志保「兄さん」
P「ん、どうした?」
志保「もう間もなくゴールデンウィークですが、兄さんは何か予定などはありますか?」
P「特にないけど…」
志保「でしたら私と…」
静香「志保!P先輩!」
P「おっと」
志保「…ちっ」
最上さんに突然呼ばれ、話が途切れる
静香「もうすぐゴールデンウィークですが、うどんの研究をしたいと思います」
P「ほう」
「れん」
志保「そう」
P「楓さんあっち行っててください」
志保「熱心ね、頑張れば良いんじゃない?」
静香「もちろん志保も手伝ってくれるでしょ?」
志保「は?なんで私が」
静香「さっき志保は私も手伝ってあげるからって言ったじゃない」
志保「確かに言ったけど…」
静香「だから、手伝ってくれるでしょ?」
志保「悪いけど、私はゴールデンウィークは兄さんと一緒に過ごすって決めてるの、だから」
P「俺は手伝ってても構わないよ」
静香「ありがとうございます、P先輩!」
志保「他を………」
静香「それで、志保」
志保「…何よ」
静香「手伝ってくれるでしょ?」
志保「…はあ」
P「まあ良いじゃないか、楽しそうだし」
志保「…兄さんがそう言うのなら」
静香「ありがとう、志保、先輩」
恵美「おーい」
P「おっとお客さんだ」
静香「すぐに準備します」
志保が接客し、最上さんがうどんを茹でる
その風景を見ながら俺は、ゴールデンウィークへの期待に胸を膨らませていた
一旦ここまで
志保さんの脳内比率は
90%:P
7%:桃子このみを含めた家族
2%:静香以外の14歳組や友達
1%:その他
となっております
志保が積極的な理由としてヒロインズは自分達の√で起きた出来事を夢として見ている設定
√FWや√BMCの冒頭で良い夢云々と言っていたのはそのため
志保の場合√LRの結末を見て最初から甘えたらPを落とせるんじゃと考え実行中
なおそのせいで√は外れた模様
というわけで今から帰るので更新は日付またぐかも
あれから数日が経ち、世間はゴールデンウィークに入った
そんな中俺達は周防家の地下にいた
静香「というわけで」
最上さんが無い胸を張る
静香「今からうどん作りをします!」
俺達の前には生地を練るための鉢、麺棒、名前の知らない切るときに使う板があった
静香「善澤さんの言った通り私一人が調理するのでは捌ける量に限りがあります」
静香「そこで2人にはうどんを打ち、茹でることが出来るようになって貰おうと思います」
P「それは構わないけど、そんなにすぐに身に付くものなのか?」
静香「もちろん一朝一夕で身に付くものではありません」
静香「しかし少しでも知っているのと全く知らないのでは天と地ほどの差があります」
P「まあね」
静香「ですから少しでも慣れて貰おうかと…志保、聞いてる!?」
志保「…」
最上さんが心底興味なさそうにスマホを弄っている志保に怒鳴る
静香「志保!真面目な話をしているんだからちゃんと聞いて!」
志保「まったく、うどんが四人もいるとうるささも4倍ね…あらごめんなさい、うどんだと思ったらまな板だったわ」
静香「」ビキッ
最上さんが額に青筋を立てるが、なんとか堪えたようだ
静香「と、とにかく、志保もうどんを打てるようになって損はないはずよ」
志保「損はないかも知れないけど特もないわね」
>>251
特 ×
得 ○
志保「大体私がうどんを打ってどうするのよ」
静香「それは、調理場が増えたりすると必要になるかもしれないし」
志保「ばかばかしい」
P「うーん、俺は志保が打ったうどん、食べてみたいけどなぁ」
志保「静香何やってるの早く私が最高に美味しいうどんが作れるように指導しなさいよ」
静香「ええ…」
静香「まずは鉢に入れた粉に、塩水を少しずつ加えます」
最上さんのやる手順通りに粉に水を加えていく
静香「生地への浸透を確認しながら水を加え、粘りけが出て来たらこね始めます」
静香「周囲の粉を粘りけのある生地にかけるように練り、大きくしていきます」
P「む、中々難しいな」
志保「…」
上手く形にならない
静香「最初は難しいかもしれませんがそのうち慣れますから頑張ってください」
時間をかけ、なんとか生地として形となった
静香「形になったなら次はその生地をビニール袋なりガーゼなりで包みます、この時、引っ付かないように粉を生地に馴染ませておきます」
そう言いながらブルーシートを敷く最上さん
静香「今敷いたブルーシートの真ん中に生地を置き、これを足で踏みながら広げていきます」
P「あ、これは見たことあるな」
志保「…兄さんが私の踏んだうどんを…これは私の足を舐めるのと同義ということになるのかしら」
静香「ならないわよ」
一旦ここまで
エンディング時点のヒロインズの脳内比率
海美
90%:P
9%:仲間や友達
1%:その他
恵美
60%:P
25%:琴葉、エレナ
10%:友達
5%:その他
琴葉
50%:P
25%:恵美、エレナ
23%:海美
2%:その他
√UU琴葉
60%:P
39%:エレナ、恵美、海美
1%:その他
翼
75%:P
20%:友達、美希
5%:その他
ジュリア
45%:P
35%:バンド仲間
15%:自分のライブを見に来てくれるファン
5%:その他
静香
50%:父親(対抗心)
25%:志保を含む友達
20%:P、このみ、桃子
5%:その他
百合子の太股すりすりしたい
誤爆
私とて普通の男だ
百合子の太股をすりすりしたくなることもある
相違ない
√PGの次は√TPだから我慢しなさい
その後、生地を寝かせる間志保に頼まれマッサージをしながら時間を潰した
その間、最上さんはざる饂飩のつゆを作っていた
静香「熟成はこのくらいですね」
最上さんが生地の具合を確かめながら言う
静香「それでは、いよいよ麺棒を使います」
静香「まずはよくみていてください」
そういってまな板に打ち粉をし、よく馴染ませる
打ち粉をしたまな板に生地を置き、手のひらである程度伸ばした後麺棒で生地を整えていく
ある程度転がすと45°回転させ、それを繰り返すことで生地が四角くなっていった
P「麺棒で伸ばすと丸くなるんじゃ?」
静香「麺棒で伸ばすときにこうやって45°ずつ動かすことで生地の形を四角くするんです」
静香「四角くすると生地が畳みやすくなりますし、切るときに長さや幅が均等になるのでムラが出なくなります」
P「なるほど」
生地を屏風畳みにし、板を当てながら素早く切っていく最上さん
依然見たときも思ったが、実に鮮やかな作業だ
静香「切ったうどんにも打ち粉をしておくと生地が引っ付かなくなります」
そういってうどんにも打ち粉をする
静香「では先輩、志保、やってみてください」
俺達は麺棒を取り、生地と向きあった
P「…うーん、不格好だ」
麺棒で生地を伸ばし、見様見真似でやってみたがうまく生地が四角くならず、結局長さや幅がばらばらになった
志保「………………」
一方志保は伸ばしすぎたのか生地が千切れ、再び纏めたりをしながらも何とか切ったのだが、やはり不格好だった
静香「初めてだから仕方ありません、志保も、初めてにしては良く出来てるから」
志保「…うるさい」
うどんを茹で、盛り付ける
自分が作った物は店や最上さんが作るようなうどんではなく、白くて長いうどんのような何かという表現がぴったりだった
静香「では、食べてみましょう」
P「いただきます」
志保「…いただきます」
自分のうどんに手をつける
P「…うん」
コシはなく喉越しも悪い、完全な失敗作だ
志保「…」
志保も微妙な顔をしていた
一旦ここまで
百合子はね、Pを膝枕しながら本を読んでるんだけど太股をすりすりされて顔が赤くなってるんだよ
静香「大丈夫です、私も最初は上手くいきませんでしたから」
静香「練習を重ねれば必ずちゃんとしたうどんが作れるようになりますから、頑張りましょう」
P「わかったよ」
志保「…早く次の粉、用意しなさいよ」
静香「志保!」
最上さんが嬉しそうに志保を見る
静香「ありがとう志保、私のために…」
志保「は?」
静香「え?」
志保「何を勘違いしているのか知らないけど、私は兄さんのために努力するの」
志保「こんなものを兄さんに食べさせられるわけ無いじゃ無い」
志保「私には兄さんに最高のうどんを作る義務があるのよ」
志保「だからこんなことで立ち止まっていられないの」
志保「さあ早く次の用意をしなさいよ、こうなったらとことんやってやるわ」
静香「理由はともかくやる気になってくれて嬉しいわ」
最上さんが嬉しそうに次の生地の準備をする
志保はやる気に満ちあふれた顔で生地を練り始めたのだった
志保「あっ…兄さん…そこ、凄く気持ちいいです…もっとしてください」
P「ここか?」
志保「んん…気持ちいい…」
桃子「…地下でなにやってるの?」
P「肩揉みだけど」
志保「兄さんの手…最高です」
あれから10回ほどうどんを作った志保はかなり疲れたようでぐったりしていた
だから俺はせっかくなので肩を揉んでやることにした
静香「けど流石は志保ね、飲み込みが早いわ」
志保が作ったうどんを食べながら最上さんが言う
志保「兄さんのためだもの、当然よ」
P「楽しみにしてるよ」
静香「…やっぱり、誰かのために作るから美味しく出来るのね」
最上さんが目を閉じて呟く
志保「それならうどんも誰かのためを思って作れば良いじゃない」
静香「私にはそんな人いないから」
志保「ならそういう人を見つけてその人のために作れるように努力することね」
静香「そうね…せっかくだからこのみ先生や桃子、先輩のことを思いながら作ってみようかしら」
志保「兄さんは駄目」
静香「あら、どうして?」
志保「理由はないわ、でも兄さんだけは駄目、絶対に許さない」
静香「先輩は別に志保のものじゃないでしょ?」
一旦ここまで
虎視眈々と寝取る準備をします
先に言っておこう
√UUみたいなものがある可能性があると
正直√名は決めてない
√ifになるか√SSになるか
√CmRかな
ふむ…ふむ、良い
志保「確かに兄さんは私のものじゃない、私は兄さんのものだけど」
静香「結局何が言いたいのよ、志保」
志保「…兄さんは、絶対に渡さない」
静香「…ふう、そんなに警戒しなくても、私は別にそんなこと考えてないわよ」
志保「…」
静香「今はそんな余裕もない、だから心配しないで」
志保「…変な動きを見せたら承知しないから」
静香「わかってるわ、さ、うどん作りの続きをしましょう」
うどん作りに戻った2人を見て、そっと息を吐く
P「あの2人、もう少し仲良くして欲しいな」
桃子「誰のせいだと」
桃子にジト目で睨まれるが、理由がわからない
桃子「それよりも、もうすぐ夕飯だからそろそろ切り上げてね」
P「あいよ」
階段を昇る桃子を見送る
道具を片付け、俺は2人を呼びに行くのだった
翌日
突然の来客があった
P「ん?チャイムが」
このみ「P、今ちょっと手が離せないから出てくれない?」
志保「あ、それなら私が」
P「良いよ、俺が行くから」
P「志保は上で寝てる海美を起こしてやってくれ」
志保「はい」
P「はい、どちら様?」
黒井「私だ」
P「く、黒井先生!?」
何故黒井先生が家に…?
P「あ、このみ姉さ…馬場先生に御用ですか?」
黒井「違う、私が用があるのはP、貴様と静香ちゃんだ」
P「俺と最上さんに?」
一体何だろうか
P「あ、それなら最上さんも呼んできます」
黒井「ウィ、スマートに、そして」
P「迅速に、ですよね」
黒井「…ふん、小生意気な」
P「最上さーん、ちょっと来てくれー」
呼び掛けてすぐに最上さんがやってきた
静香「先輩、どうかしましたか?」
P「黒井先生が俺と君に用があるらしい」
静香「あ、黒井先生、おはようございます」
黒井「うむ、早速だが用件を言おう」
黒井先生が指を鳴らすと
業者が何かを運んできた
P「これは…」
黒井先生が持ってきたもの、それは…
静香「…屋台?」
俺達が使っている屋台よりも二回りほど大きな屋台だった
一旦ここまで
P「あの黒井先生、これは?」
黒井「貴様は頭だけではなく目までへっぽこか?どう見ても屋台だ」
P「いえ、それはわかりますけど」
黒井「ならば問題ないだろう」
…ま、いっか
静香「黒井先生、どうして屋台が?」
黒井「これはセレブな私からのプレゼントだ」
静香「プレゼント?」
黒井「この私が食事をする屋台が見窄らしいなど以ての外だ」
黒井「だから私が食事をするのに相応しい屋台を用意したのだ」
黒井「この屋台は静香ちゃんの使っている屋台よりも二回りほど大きく作ってある」
黒井「機能として食器洗浄機、ビールサーバー、冷蔵庫を備え」
黒井「大型化したコンロも取り付けてある」
黒井「このコンロはエンジン直結だからかなりの火力が出せるだろう」
黒井「多機能化した弊害として重量はかなりのものだが…」
黒井「搭載されている反重力エンジンによって羽根のような軽さで屋台を引けるはずだ」
黒井「この反重力エンジンのおかげで美城に借りを作ってしまったが…」
黒井「性能は保障しよう」
静香「黒井先生…ありがとうございます」
黒井「ふん、勘違いしないでもらおう」
黒井「私はただ見窄らしい屋台で食事をしたくないだけだ」
P「素直に言えば良いのに」
黒井「何か言ったか」
P「いえ、何も」
黒井「私の用件はそれだけだ、せいぜいうどん作りに励むが良い」
そういって笑いながら立ち去る黒井先生
環「いく!へんなおじさんが笑ってるぞ!」
育「環ちゃん!見ちゃダメだよ!」
…通報されないと良いけど
静香「P先輩、これ凄いです」
最上さんが屋台の機能を確認しながら言う
静香「普通のうどん屋さんで使われてるようなコンロよりもはるかに強力で…父の店にもこれほどの一品があるかどうか」
静香「それに冷蔵庫も、食器洗浄機もかなりの高性能みたいです」
P「良くわからないけど、とにかく凄いっていうのは伝わってきたよ」
静香「早速コンロの性能を試してみたいんですが…」
P「その前にさ」
静香「はい」
P「朝食にしようか」
海美も交えた朝食を楽しんだあと、俺達は地下室に来ていた
冬馬「こりゃすげえな」
P「わかるか」
冬馬「ああ、こんなものどこに売ってたんだよ」
P「黒井先生がくれたんだ」
冬馬「あのおっさんが?」
P「ああ」
冬馬「珍しいことも…いや、そんなに珍しくはないか」
冬馬「けどよ、これを使うなら前の屋台はどうすんだ?」
P「前の屋台か…」
志保「簡単です」
P「志保」
さっきまでうどんを作っていたはずの志保がいつの間にか隣に立っていた
P「あれ、うどん作りは?」
志保「うどんは今は海美さんに作り方を教えてますから」
ちらりと最上さんの方を見ると
海美「分量?大丈夫!そんなに変わらないって!」
静香「変わりますよ!ってそれ塩じゃなくて砂糖です!」
何やら騒がしそうに海美とうどんを作っていた
P「それで、簡単とは?」
視線を志保に戻す
志保「私と兄さんが新しい屋台を使ってうどんに前の屋台を使わせれば良いんです」
志保「そうすれば私達は夫婦屋台で幸せですしうどんはうどん作りに専念出来る…完璧じゃないですか」
冬馬「夫婦屋台ってお前な…」
P「それなら志保と最上さんで新しい屋台を使ってさ、俺がうどんを作れるようになったら俺が前の屋台を使うってのはどうだろう」
志保「えっ」
P「だって志保はもううどんを作れるだろ?それなら最上さんと一緒に厨房に入った方が良い」
志保「…………そうですね」
志保は何やら肩を落としていた
良いアイディアだと思うんだけどなぁ
一旦ここまで
>黒井「機能として食器洗浄機、ビールサーバー、冷蔵庫を備え」
おう!
>黒井「大型化したコンロも取り付けてある」
すげぇ!
>黒井「このコンロはエンジン直結だからかなりの火力が出せるだろう」
エンジン…?
>黒井「搭載されている反重力エンジンによって羽根のような軽さで屋台を引けるはずだ」
なん…だと…
海美の感想を口にするのも辛いうどんを食べた後、俺達はうどん作りの練習を再開した
海美「私、頑張るね!」
妙に気合いの入った海美と、それに当てられたのか同じく気合いの入った志保が生地をこねていた
静香「P先輩、料理は?」
P「簡単なものなら出来るよ、レシピさえあればだけど」
静香「ならP先輩は麺作りより先にうどんのつゆを作って貰おうと思います」
P「つゆか…」
静香「まずは私が作りますから、その通りに作ってください」
P「わかった」
最上さんが鰹節や昆布、干し椎茸や薄口醤油を使い、お湯に味をつけていく
P「良い香りだ」
最上さんが火を止め、小皿につゆを取り口をつけた
静香「…うん、良い感じ」
そして小皿を俺の方へ差し出す
俺はそれを受け取ると、同じように口をつけた
静香「それが基本の味になります」
P「なるほど」
静香「この味を覚えて頂いて、再現出来るようになって欲しいです」
P「努力するよ」
俺が小皿を最上さんに返そうとしたとき
最上さんの手首が志保に掴まれていた
志保「…」
静香「え」
P「え?」
志保「…………」
ギリギリギリギリと音が聞こえてきそうなくらい最上さんの手首を強く握る志保
静香「し、志保!痛い!痛い痛い!」
志保「…………」
P「し、志保やめろ、一体どうしたんだ!?」
尚も最上さんの手首を握り続ける志保
志保「…油断したわ、まさかうどんがこんな手を使ってくるなんて」
志保「そうね、どうして思い付かなかったのかしら、少し前の自分を殺してやりたい」
静香「い、意味が分からない痛い!」
P「志保!手を離せ!」
志保「大丈夫ですよ兄さん、手加減はしていますから…今のところは」
志保「まさか私のやる気を利用して兄さんから引き離し、自分は兄さんと間接キスをするなんて…褒めてあげるわ、そんなこと、私は考え付かなかった」
静香「か、間接キス!?」
最上さんの顔が少し赤くなる
志保「何を盛っているのよ、いやらしい」
静香「わ、私はそんなつもりは!」
志保「本来ならその口、縫い合わせてやるところだけど…」
志保が最上さんの手を解放する
志保「兄さんが口をつけた後に口をつけた訳じゃ無いから今回は見逃してあげるわ」
冬馬「しっかり制裁してるじゃねえか…」
志保「何か言いましたか」
冬馬「いえ、何も」
P「志保、どんな理由があっても暴力はダメだ」
P「俺は志保が誰かを傷付けるところは見たくない」
志保「…わかりました、反省します」
そういって志保は生地の方へ戻っていった
P「最上さん、大丈夫か?」
静香「は、はい、もう痛みはありません」
志保に握られていた手首を見る
あれだけ強く握られていたにも関わらず、手形も痣もついていなかった
最上さんの手首を確認していると、最上さんがジッと俺の顔を見ていた
P「?どうかした?」
静香「い、いえ、何でも無いです」
P「そうか?」
静香「は、はい」
そういって俯く最上さん
その顔は少し赤くなっていた
一旦ここまで
静香の手首を優しく包み込んでいた時の志保さんはオルフェンズのスイッチ入った三日月みたいな優しい表情でした
鈍感系主人公なんてこんなもん
海美「良いなー私もPと間接キスしたいなー」
今度は同じく向こうでうどんを作っていた海美がそう言いながらやってきた
静香「か、間接キス…」
ますます顔が赤くなる最上さん
P「何言ってんだよ」
海美「あ、間接キスが嫌ならキスでも良いよ!キスが良い!」
P「お前は何を言っているんだ」
海美「私以外にも同じようなこと考えてる子いるよ!めぐみーとか!」
P「恵美が?ははっ、ないない」
恵美は友達だしな
海美「むう…鈍感」
海美の戯れ言から最上さんへ意識を戻す
P「っと、悪いな最上さん、騒がしくて」
静香「ひゃ、ひゃい!大丈夫です!」
何故か声が上擦っていた
P「…ほんとに?」
静香「は、はい、大丈夫です、落ち着きました」
P「それなら良いんだけど」
最上さんが大丈夫だと言うなら気にしないでおこう
静香「そ、それでは調理を再開します」
P「ああ」
最上さんがやった通りに調理を進める
P「…」
小皿につゆを取り、味を見る
P「うん、こんな感じだったな」
俺は最上さんに味を見てもらおうと小皿を差し出した
調理をしている先輩を眺めながら考えにふける
よく未来や翼が間接キスだね!って言って笑っているけど、今回の相手は異性であるP先輩だ
意識するととてもドキドキして顔が赤くなってしまうのがわかる
別に私は志保と違ってそういう感情は抱いていないのに
確かに泊まるところを提供してもらって、そのうえ私の夢のために親身になって協力してくれているけど、先輩はそういう対象ではない気がする
私にはいないから良くわからないけれど、例えるならまるで兄のような…
先輩のような兄がいたなら、私も家出しなかったのだろうか?
考えてみても答えは出ないけど
志保や桃子が少しだけ、羨ましくなる
P「うん、こんな感じだったな」
先輩が味見をし、そのまま小皿をこちらに差し出した
私は咄嗟に手を伸ばしたが
静香「」ゾクッ
後ろから途轍もないプレッシャーを感じ、手を引っ込めた
静香「あ、新しい小皿でお願いします」
P「あ、そうだったな、ごめん」
さっきあんなことがあったばかりなのに失念していた
新しい小皿につゆを取り、味を見て貰う
静香「少し濃いめですが…大体こんな感じですね」
どうやら合格ラインのようだ
P「よし」
静香「これなら今日の出汁は先輩に任せても大丈夫です」
P「いきなり?」
静香「先輩なら出来るって信じてますから」
冬馬「味の調整くらいなら手伝ってやるからよ」
P「助かる」
引くときに動かしやすいように変形する屋台に冬馬と2人でおかしなテンションになりつつもいつも屋台を出している場所に到着した
冬馬「すげぇなあこれ!」
P「ああ!なんか無意味に変形させたくなるな!」
静香「お二人ともテンション高いですね…」
海美「Pもあまとうも昔からこういうの大好きだからねー」
志保「無邪気にはしゃぐ兄さん…可愛い」
静香「それじゃあ準備しましょう」
再び変形する屋台に冬馬と2人でテンションを爆上げしながら準備を進める
カウンターを拭き、大人組用隔離テーブルを用意する
最上さん達はコンロの加減を確かめたり、具材のチェックをしていた
準備が終わり、知らない間に増設されていたドリンクバーのジュースを飲みながらお客さんを待った
最初に来たお客さんは
ジュリア「よっ」
ジュリアだった
P「お、ジュリア」
ジュリア「学校で噂になってたからさ、ちょっと見に来たんだよ」
P「噂に?」
ジュリア「最近うどんの屋台が出てるらしいってな」
P「そうか」
恵美辺りが広めたのだろうか
もしそうなら近いうちにドリンクバーにでも連れて行ってやろう
「へえ~うどんの屋台ってなんだかロックじゃん」
ジュリア「だろ?」
P「注文は?」
ジュリア「任せるよ」
P「あいよ」
注文を受け、最上さんが調理に入る
その間、ジュリア達の他愛のない話を聞きながら出汁の用意をしていた
ジュリア「ん?Pは料理出来るのか?」
P「レシピさえあればな…というかレシピさえあれば誰でも出来るだろ」
ジュリア「そ、そうだな…はは、ははは…」
P「お待たせ」
ジュリア「お、美味そうだな」
「いただきまーす」
ジュリア「!美味いな!」
「うん!」
そのまま2人はうどんを食べ始めた
P「どうやら上手く作れたみたいだ」
味見はしていたが、出汁の調理が失敗しなかったことに俺は胸をなで下ろしたのだった
一旦ここまで
海美の悪魔の誘惑に勝てません
髪の躍動感も挑発的な眼差しも、大っきな双丘も片足だけの網タイツも最高です
可憐「この出汁は…利尻の最高級昆布と焼津の鰹節、兵庫の薄口醤油で基礎を作りそこに…」
静香「ど、どうしてそこまでわかるんですか!?」
可憐「に、匂いで…」
静香「篠宮先輩…凄いですね」
百合子「はい志保ちゃん、頼まれてた本」
志保「ありがとうございます、百合子先輩」
百合子「ううん、このくらいはね?でも、どうして従兄に関する本を?」
志保「必要だからです」
P「ありがとな、琴葉、いっぱい連れてきてくれて」
琴葉「気にしないで、前に食べたときもすごく美味しくてまた来たくなっただけだから」
P「ん、わかった」
伊織「このスーパーセレブ水瀬伊織ちゃんの口に合うかどうか試してあげるわ!」
亜利沙「し、静香ちゃんのうどん…はあ、はあ、はあ!」
朋花「ふふ、噂だったり琴葉さんから聞いてますから楽しみですね~」
茜「あっかねちゃんだよー!」
茜「あっかねちゃんだよー!」
茜「あっかねちゃんだよー!」
茜「ちくわ大明神」
冬馬「ぐあー!うぜえから分身すんな!」
ジュリア「ごちそうさん」
P「ん、もう帰るのか?」
ジュリア「客が増えてくるならあんまりいても迷惑だろ?」
静香「私は気にしませんが…」
ジュリア「ま、ちょっとやりたいこともあるしね」
P「そっか」
ジュリア「なあ」
静香「はい」
ジュリア「あんたのうどん、あたしの心に響くくらい美味かったぜ」
そういって拳を胸に当てウインクするジュリア
静香「あ、ありがとうございます!」
P「あらやだジュリアちゃんイケメン…抱いて欲しいわ」
ジュリア「き、気色悪いこと言うなって」
志保「兄さん、抱いて欲しいなら私が」
わいわい言いながらジュリア達を見送る
P「良かったな、最上さん」
静香「はい、ああやって喜んで貰えると私も嬉しくなります」
P「ああ、俺もだ」
自分の作った物を美味しいと言って喜んでくれること
それはとても尊いものだというのがわかる
俺もいつかは最初から最後まで自分が作ったもので誰かを笑顔にしてみたいな
響「貴音!きっとここが噂の屋台だ!」
貴音「ええ、とても良い香りが…」
P「入店お断りでーす」
楽だったのはゴールデンウィーク初日だけだった
静香「きつね3あがりました!」
P「了解!」
翔太「注文入るよ!きつね1わかめ1たぬき1月見2!」
静香「はい!」
志保「静香!そっちより先にカウンターのうどんでしょ!」
静香「わかってるわよ!」
冬馬「もう一つの屋台も持ってきて置いて良かったぜ…」
海美「あまとう!口より手!」
冬馬「わかってるよ!」
一昨日から噂を聞いた生徒が屋台に来ていた
あるものは興味本位で、またあるものは冷やかしで、またあるものは美味しいものを求めて
様々な考えの客が屋台に来ていた
一旦ここまで
明日は>>405から
P「お待たせ」
琴葉達にうどんを提供する
琴葉「ありがとう」
伊織「へえ…中々美味しそうじゃない」
朋花「ふふ、これは期待できますね~」
亜利沙「やぁ~んっ!すごく美味しそうでありさ、Up!10sionしそうです!」
茜「ほほーう、これが噂のうどんだね!どれ、神の舌を持つ琴葉ちゃんを満足させられるか試してみようじゃないの!」
琴葉「いただきます」
伊織「!ふ、ふん、あんたにしては上出来じゃない」
P「そりゃどーも」
朋花「このお出汁、美味しいですね~」
P「ありがとう天空橋さん」
亜利沙「…」
亜利沙はただ無心にうどんを啜っている
茜「あつ、熱いよPちゃん!茜ちゃんは猫舌だからふーふーしてほしいな!」
志保「それには及びません」
茜「誰!?」
志保が茜のうどんに氷を大量に投下していた
琴葉「…うん、美味しい」
P「ありがとう」
琴葉「うどんを打ったのは静香ちゃんで、お出汁を作ったのはPくん…かな?」
P「何でわかったんだ?」
琴葉「なんて言ったら良いのかわからないけど…前に食べた時と違う感じがするから」
P「あ、やっぱり最上さんが作るよりは味が落ちるか…」
琴葉「あ、ごめんなさい、そうじゃないの」
琴葉「なんというか…うどんと出汁の相性かな?なんだか前より噛み合ってた気がする」
P「…?」
琴葉「もしかしたらPくんと静香ちゃんは相性が良いのかも」
P「相性か…」
琴葉「…ちょっと羨ましいな」
P「え?」
琴葉「ううん、なんでもない」
P「そうか?あ、おかわりもあるからいつでも言ってくれ」
琴葉「うん、ありがとう」
相性…か
琴葉の言ったその言葉が、何故か引っ掛かった
一旦ここまで
そろそろ巻きで行かないと1000までに終わらなさそうな気がしてきた
突然だけど看病するのとされるの
どっちが良い?
感謝感謝
聞いといてなんだけど風邪の移し移されで両方やればいいという結論に至った
P「うーむ」
静香「今回もダメですね」
ゴールデンウィークから数日が経った
もはや日課となりつつあるうどん作りをしているのだが…
志保「兄さん…もしかして麺作りのセンスが無いのでは?」
P「うっ、や、やっぱりか?」
何度やってもコツが掴めず、未だまともなうどんが作れていなかった
静香「筋は悪くないと思うんですが…」
志保「ならうどんの教え方が悪いのね、兄さんに誠心誠意謝罪しなさい」
静香「ええ…」
静香「このままだと先輩は麺作りの方は戦力外ですね…」
志保「兄さん、心配しなくても大丈夫です、私が兄さんの分までうどんを打ちます」
志保「だから兄さんは私のうどんと相性の良い出汁を作ってください、そうすればきっと美味しいうどんが出来ます」
P「相性ね…」
確かにうどんと出汁の相性はあるだろうが、あの日琴葉が言った俺と最上さんの相性が良いからという言葉
それがどうにも気になる
P「っと、もうこんな時間か」
気が付けばもうすぐ日を跨ごうかという時間だ
うどん作りに夢中になりすぎたようだ
P「今日はこの辺にしておくか」
静香「そうですね」
志保「はい」
P「明日は球技大会だからよく体を休めておかないとな」
静香「ふふ、少し楽しみです」
志保「私は別に」
静香「もう、明日は頼むわよ?」
志保「嫌よ、ダブルスなんて面倒くさい…」
P「俺も暇になったら2人のテニス、見に行っても良いかな?」
志保「静香、全抜きするわよ」
静香「その意気よ」
翌日
冬馬と翔太に徹底的にマークされ何も出来ずにサッカーを終えた俺は、冬馬にバックドロップをした後中等部の方へ向かった
昨日言っていた通り、志保と最上さんはテニスでエントリーしているようだ
ちょうど決着がついたのか、2人がコートから出て来る
静香「志保お疲れさま、良い感じだったわ」
志保「…私がサーブが出来なくて相手に1ゲームをプレゼントしたことへの嫌味のつもり?」
静香「ち、違うわよ!」
一旦ここまで
ちなみに志保は静香以外には基本無害
茜ちゃんは調子こいてたから例外
あの様子だとまた喧嘩でもしているのだろうか
もう少し仲良くしてほしいところだが…
そんなことを考えながら少し離れて見ていると
突然志保がこちらを振り返った
反射的に物陰に隠れてしまう
志保「…」
静香「どうしたの?」
志保「兄さんの視線を感じたわ」
静香「先輩?どこにもいないけど…」
志保「兄さんが見ている以上無様な試合は出来ない、気合いを入れ直すわよ」
静香「気合いを入れ直すのもいいけど、志保はサーブを打つときに力を入れすぎてるからもう少し力を抜いた方がやりやすくなるわよ」
志保「…一応参考にするわ」
2人がコートに戻る
P「…問題なさげかな?」
始まったゲームを見る限り2人の息は合っているように見えた
この様子なら大丈夫だろう
そのゲームは完封試合だった
P「2人ともお疲れさま、いい試合だったぞ」
志保「兄さん!」
静香「先輩」
コートから出て来た2人に声をかける
静香「いつから見てらっしゃったんですか?」
P「今の試合の少し前くらいからかな」
志保「ほら、私の言った通り」
静香「素直に凄いわね…」
P「何の話だ?」
静香「さっき志保が先輩の視線を感じるとか言って後ろを振り返ったんです」
P「ああ、だからか…いきなりこっちを向いたから驚いたよ」
志保「兄さんの視線ならすぐに気付けますから」
静香「それはちょっと怖いわよ」
そんな話をしていると
未来「静香ちゃーん!」
静香「未来」
最上さんの友達だろうか、以前屋台にも来ていた女の子が駆け寄ってきた
未来「静香ちゃん、さっきのテニス格好良かったよ!志保も!」
静香「ふふ、ありがとう」
未来「はい2人とも、これタオルとドリンク!」
志保「ありがとう」
静香「これ、未来が作ったの?」
未来「うん、そうだよ」
静香「へえー」
最上さんがストローに口をつける
未来「えっとね、ミキサーにかけたニンニクとと鷹の爪と生姜を一緒に煮込んで砂糖を混ぜた特製スタミナジュースだよ!」
静香「ぶはっ」
最上さんが口に含んだ謎の液体を吹き出す
吐き出された謎の液体は、俺の顔面を直撃した
とりあえず昨日進む予定だったところまで
P「!?!?!?!?」
目や鼻、口に入ったそれは辛い…いや、痛かった
P「~~~~!!」
俺は声にならない叫びを上げた
志保「に、兄さん!?」
静香「げほっ、ごほっ、み、みらい…!」
未来「あわわわ…な、なにか拭く物!」
志保「ふ、拭く物!早く汚いうどん汁を拭かないと!」
志保があたふたしているのが伝わってくる
静香「じほ、ごのダオル」
志保「でかしたわ静香!」
顔がタオルで拭われているのがわかる
未来「志保、こっちに水道!」
志保「わかったわ!兄さん、私が手を引きますから」
俺は頷き、手を引かれ水場へ向かった
目と口を洗い、ようやく一息つく
目を開けると最上さんがとても申し訳なさそうに立っていた
静香「P先輩…その」
俺に毒物を噴きかけたことを気にしているのだろうか
P「気にしなくて良いよ」
静香「え?」
P「杏奈ものを口に入れたら吐き出して当然だ、多分同じ立場なら俺もああなってたと思うし」
>>462
杏奈もの ×
あんなもの ○
P「だから気にしなくて良い、むしろ喉や鼻は大丈夫?」
少量の摂取でもあんなに酷いことになったのだ、最上さんもかなりダメージを受けたはずだ
静香「実は…その、喉が少し」
P「やっぱりか」
当然といえば当然だ
P「今日の出店は無しにしておこう、俺も鼻が効かないし」
静香「はい…その」
P「さっきも言ったけど本当に気にしなくて良い、それよりも自分の体調を心配してくれ」
静香「…わかりました、でも一つだけ」
P「ん?」
静香「顔めがけて吐き出してしまい申し訳ありませんでした」
P「…ん、わかった」
その後、最上さんと志保の試合を最後まで観戦し、球技大会は終わった
一旦ここまで
ごめんやっぱりもうちょっとだけ
歩いていく先輩の背中を見ながら自分の失態を恥じる
ただでさえお世話になっている身なのに余計な迷惑をかけてしまった
けど、先輩は笑って許してくれた
もっと怒っても良いはずなのに
それどころか私の体の心配までしてくれて…
その優しさに思わず甘えたくなる
だけどそれは出来ない
静香「…」
正直、志保が羨ましい
志保は家族だから、遠慮なく先輩に甘えることが出来る
だけど私は今家出をしていて、家族に甘えることは出来ない
先輩やこのみ先生は本当の家族のように私を扱ってくれても、私は本当の家族じゃない
本当の家族じゃない私が、甘えて良い相手じゃない
頭を振って頬を張って気合いを入れる
今は悩んでいる場面じゃない、進むしかない
前に進まないと、私の道は閉ざされたままなのだから
甘えを振り払って私は歩き出した
…振り払えきれなかった先輩の顔を思い出さないようにしながら
球技大会からしばらく経ち、夏が近付いてきたある日のこと
P「お、最上さんも今帰りか」
静香「はい、今日は掃除当番だったので」
P「そっか、ちょうど良いし一緒に帰る?」
静香「はい、ご一緒します」
P「どう?家には慣れた?」
静香「はい、このみ先生も桃子も、先輩も良くしてくれますし」
P「それなら良かった」
最近は志保との喧嘩も少なくなっているようだし、少し距離が縮まったかな?
最上さんと話しながら歩いていると
P「ん?」
静香「これは…」
ぽつぽつと水滴が落ちてきたと思った次の瞬間
P「うわっ!」
静香「きゃっ!」
ゲリラ豪雨に襲われた
P「走ろう!」
静香「は、はい!」
P「あそこで雨宿りしよう!」
通学路の途中にある公園の東屋に駆け込む
P「いきなり降られるとはな」
静香「全身びしょ濡れです」
その言葉に最上さんのほうを見ると
P「!」
雨に濡れた制服が透け、可愛らしいピンクの下着が浮かび上がっていた
そしてそのラインはなだらかであった
P「すぐに止んでくれると良いんだが」
静香「少し待って止まないようなら走って帰りましょう」
P「そうだな」
P「…」
静香「…」
それから数十分経ったが、雨は一向に止む気配はない
このままここにいても風邪を引くだけだ
P「…仕方ない」
静香「はい」
P「いくぞ!」
走り続け、ようやく家に辿り着く
P「はあ…はあ…」
静香「ふう…ふう…」
かなり体が冷えてしまった、早く暖まりたい
志保「兄さん!良かった、電話が通じなかったので何かあったのかと」
家に戻ると志保が駆け寄ってきた
P「悪い、走ってて気が付かなかった」
志保「兄さん、これ、タオルとカイロです、まずは体を拭いてください…ほら、静香も」
志保「今お風呂を沸かしていますから、体を拭いたらすぐに入ってください」
P「いや、俺よりも最上さんが先だ」
志保「兄さん!」
静香「先輩、私は後で良いですから」
P「駄目だ、さあ入った入った」
最上さんを脱衣所に追い立てる
志保「…静香、さっさと入って」
静香「志保」
志保「兄さんの行為を無碍にしないで」
静香「…わかったわ、先輩、ありがとうございます」
P「気にしないでくれ」
最上さんが脱衣所に入ったのを確認し、服を脱ぐ
志保「兄さん、着替えです」
P「ありがとう」
服を着替え、温かい飲み物を入れて貰うことでようやく一息ついた
P「いやー急に降られるとはな」
志保「災難でしたね」
P「思い切り濡れたし、最上さん風邪引いてないと良いけど」
志保「うどんの心配より兄さんは自分の心配をしてください」
静香「…ふう」
お湯に浸かりながら溜息をつく
…なるべく早めに出ないと
下着までびしょ濡れになるようなゲリラ豪雨だ、先輩もずぶ濡れだったし早く変わらないと風邪を引いてしまうだろう
湯船から上がり、さっと体と髪を流す
そのまま脱衣所に出た私は用意された服に着替え、リビングに向かった
リビングから話し声が聞こえてくる
志保と先輩だ
楽しそうに話している
志保は学校では絶対に見せないような優しい顔で
先輩は楽しそうな顔で
その光景を見て、私はリビングに入るのを躊躇した
ここは私が踏み行って良い場所じゃない
そんな気がして
だけど私はお風呂を出た報告をする必要がある
だから私はリビングに入る
この時の私は
頭も、体も…そして何より
心が重かった
一旦ここまで
翌日
P「おはよう」
志保「おはようございます、兄さん」
桃子「おはよう」
P「ん?あれ、最上さんは?」
普段ならばいち早く起きているはずなんだが
志保「さあ…まだ寝てるんじゃないでしょうか」
P「珍しいな、寝坊かな?ちょっとノックだけしてくるよ」
志保「兄さん、それなら私が」
P「良いよ、志保は朝食を用意してくれてるし、これくらいはさ」
最上さんの部屋へ行こうとした時、最上さんが廊下からやってきた
静香「おはよう…ございます」
壁に手をつき、少し調子が悪そうだ
何より明らかに顔色が悪い
P「最上さん、体調が悪そうだが…」
静香「だ、大丈夫です…このくらいは…」
そう言いながらも足元はふらついており、今にも倒れそうだ
P「体調が悪いなら休んだ方が」
静香「本当に…大丈夫ですから」
最上さんが一歩踏み出す
しかし
静香「っ」
バランスを崩し、前のめりに倒れ込む
P「最上さん!」
咄嗟に体を支える
P「最上さん、この体温は…」
触れている部分がかなり熱い、間違いなく高熱だ
志保「うどん!朝から兄さんに…!」
志保が何かを言いかけるが、言葉を切りリビングに戻っていった
P「最上さん、しっかりしろ!」
静香「…」
意識が朦朧としているのか、荒い息を吐くだけで反応がない
志保「兄さん、体温計と氷枕です!」
P「助かる!最上さん、ジッとしててくれよ…!」
意識のない最上さんを抱き抱え部屋へ運ぶ
着替えを志保に任せ、その間に俺はこのみ姉さんに連絡をした
P「最上さんが熱を出して倒れた」
このみ『容態は?』
P「まだ熱は測ってないけどかなりの高熱で意識が朦朧としてる」
このみ『一人にするのは危険ね…わかったわ、私から連絡しておくから、あんたは静香ちゃんの看病をお願いね』
P「わかった」
志保「兄さん、着替えが終わりました」
P「わかった」
部屋に入り最上さんをベッドに寝かせる
さっと体温を測ると
P「39.6℃…」
志保「かなりの高熱ですね」
桃子「一応解熱剤持ってきたけど」
P「まずは何か食べさせないとだが…」
最上さんは目を覚まさない
P「とりあえず目を覚ますまで待つしか無いな」
桃子「桃子は学校行くから、後は任せるね」
P「ああ」
志保「本来なら性別的に私が看病しないといけないんですが…私が看病をすると何をしてしまうかわかりません」
志保「なので非常に心苦しいですが、兄さんに看病をお任せします」
P「わかった」
二人が学園へ行くのを見送った後、最上さんの部屋に戻る
荒い息を吐き、とても辛そうだ
俺は用意した濡れタオルを絞り、最上さんの額に乗せる
熱のためかすぐに温くなるタオルを何度も取り替える
それを繰り返していると、最上さんの容態が少しだけ和らいだ
昼を少し回った頃
静香「ん…」
最上さんが目を覚ました
P「目が覚めた?」
静香「…どうして先輩が私の部屋に…?それに私は…」
P「最上さんは熱を出して倒れたんだ、だからベッドまで運んだんだ」
静香「そうだったんですね…ありがとうございます」
P「とりあえず解熱剤を飲まないとな…食欲は?」
静香「あまりありません…」
P「何か軽い物を作ってくるから、待っててくれ」
台所で冷蔵庫の中身を確認するが
P「うーん…」
病人が食べられそうなものは見当たらない
非常用の食料もこのみ姉さんの酒のつまみばかりで、とてもじゃないが使えた物ではない
P「お粥でもあればと思ったが」
もう一度冷蔵庫を確認する
P「ん?これは…」
俺はあるものを取り出した
P「…よし、やってみるか」
あることを思いついた俺は、鍋にお湯を沸かし始めた
P「お待たせ、これなら食べられるかな?」
静香「これは…」
俺は最上さんにどんぶりを渡す
俺が最上さんのために作ったもの、それはうどんだった
P「上手く出来たかはわからないけど、消化に良い物をと思ってさ」
静香「ありがとうございます、いただきます」
最上さんがうどんに手をつける
静香「…」
P「どうかな?」
静香「…麺は長さも太さも不揃いですし、ゆで時間が足りなかったのかちょっと固いです」
静香「それに捏ね方が悪かったのか生地がダマになってる所もありますし、これがお店の商品なら返金ものです」
P「ふぐぅ…」
遠慮なしに感想を言われ、わかってはいたが少しヘコむ
静香「でも…」
P「?」
静香「先輩が私のことを思って作ってくれた…それがとてもよく伝わってきます」
静香「人によってはこのうどんは不味いと思うかも知れません、でも私はこの心のこもったうどん、好きです」
P「そっか…」
静香「ごちそうさまでした」
いつの間にか最上さんがうどんを食べきっていた
P「綺麗に食べられたな」
静香「はい」
P「それじゃあ薬、持ってくるから」
静香「ありがとうございます」
解熱剤を飲み、ようやくひと段落ついたころ
静香「先輩…その、一つお願いが」
P「ん?」
静香「汗をかいて体が気持ち悪いので…その、体を拭きたくて」
P「ああ、わかった、タオルを持ってくるよ」
静香「それで…その…」
最上さんが何やら言いにくそうに口篭もる?
P「?」
静香「背中を…拭いてくれませんか?」
P「えっ」
一旦ここまで
P「そ、それじゃあ背中を拭くけど…」
静香「は、はい、お願いします」
熱のせいか別の要因か、最上さんは後ろを向いていてもわかるくらい耳まで真っ赤だった
静香「ん…」
温めたタオルを背中に当てると、最上さんが声を上げる
P「っ」
静香「ん…ふう…」
熱っぽい声を上げる最上さん、熱が出ているので当然と言えば当然なのだが少し心臓に悪い
P「力加減はどう?」
静香「は、はい、大丈夫です」
P「…」
火照って少し赤くなった肌
拭きやすいように髪を纏めて前に持っていったため露わになっているうなじ
この状況で目の前の女の子を意識するなという方が無理だ
しかし最上さんは恐らく俺を信用してくれているからこそ体を拭くことを頼んできたんだ
それを裏切るわけにはいかない
P「…」
迫り来る邪念と必死に戦いながら、俺は最上さんの背中を拭いた
なんとか耐えきって背中を拭いた後、最上さんが体を拭くのを外で待つ
P「………ふう」
あんなことをされては異性として意識せざるを得ない
P「…」
しかし綺麗な肌だった…
P「はっ、いかんいかん」
忘れなければ
静香「先輩、もう大丈夫です」
P「わ、わかった」
最上さんに呼ばれ、俺は部屋に戻った
体拭きセットを片付け、もう一度熱を測る
P「37.9℃か…」
朝よりは下がっているがやはり高い
P「そろそろ薬も効いてくるだろうし、もう少し眠った方が良いかな」
静香「そうですね…もう少し眠りたいです」
P「なら俺は自分の部屋にいるからさ、何かあったら携帯を鳴らしてくれ」
静香「はい」
そういって立ち上がろうとしたところ
P「ん?」
静香「あっ…」
最上さんが俺の袖を指で掴んでいた
P「最上さん?」
静香「その…もう少しだけ、一緒にいてください」
P「…ん、わかったよ」
もう一度椅子に腰をかける
静香「ごめんなさい、わがままを言ってしまって」
P「気にしなくて良いよ、こういう時は誰かに甘えたくなるもんだ」
静香「私も…」
P「ん?」
静香「私も、家族でもないのに…甘えても良いんでしょうか」
P「もちろん」
最上さんの頭をそっと撫でる
P「家族だとか関係ない、最上さんが甘えたいときに甘えれば良い」
P「それに俺個人としては甘えて貰った方が頼られてるみたいで嬉しいからさ」
静香「先輩…」
P「ま、俺なんかで良ければいつでも甘えて構わないからさ」
静香「はい、ありがとうございます、先輩」
それから少しだけ他愛ない話をして
静香「すー…すー…」
P「寝ちゃったか」
額に浮いた汗を拭ってやる
P「…」
良く考えてみれば15歳の女の子が親元を離れ、一切頼らずに学園に行きながら屋台を引いてるんだ
もしかしたら思っていた以上にストレスを感じていたのかも知れない
そんな時に本来なら頼りたい両親に頼れず、俺達にも遠慮して心細かっただろう
汗を拭った後、もう一度頭を撫でる
もっと頼って欲しい、そんな気持ちが湧いてくる
この子が楽しそうに屋台をやっているのを見るのが好きだ
だから俺は、少しでもそのストレスを解消してあげたかった
最上さんが甘えたければ、甘えられる場所になってあげたい
俺に出来るのはそんなことくらいだから
これからも屋台を引いて沢山のことを抱え込むかも知れない
だけど今だけは
安らかな顔で眠っている今だけは
何にも邪魔をさせずに休ませてあげたい
P「…今はおやすみ、静香」
俺は椅子に座りながら意識を手放した
意識が途切れる瞬間、手が何かに包まれた気がした
静香「ん…」
額の冷たさに目が覚める
窓からは夕日が差し込んでおり、かなり寝ていたということがわかる
静香「あ…」
左手に温かさを感じ、そちらに意識を向けると
P「…」
ベッドに突っ伏すように眠っているP先輩が、私の手を握っていた
静香「ずっといてくれたんですね…」
私が眠っている間も傍でみていてくれたようだ
私の手を握っている先輩の手に右手を重ねる
その時、扉が開き志保が入ってきた
志保「目が覚めたみたいね」
静香「志保…」
志保の視線は私を見ておらず、握られている私の手に向いていた
志保の視線に気付いた私は咄嗟に手を引こうとするが、先輩を起こしてしまいそうで実行出来なかった
静香「ち、違うの志保!これは」
思わず言い訳しそうになるが
志保「別に、今日くらいは良いわよ」
帰ってきたのは意外な返事だった
静香「え?」
志保「ほら体温計、早く計りなさいよ」
静香「え、ええ…」
志保「何を意外そうな顔をしてるのよ」
静香「だって…」
普段先輩に近付いただけで射殺しそうなくらい鋭い視線を向けてくる志保が…
どうして今日だけ?
志保「そうね、普段の私なら今の状況を見たら思いっきり塩を叩き付けてるけど」
志保「今の静香は病人だから」
志保「病人は甘えてれば良いのよ」
静香「志保…ありがとう」
志保「別に、お礼を言われるようなことじゃないわ」
静香「それでも、ありがとう」
志保「…」
志保がそっぽを向く
だけど私は、何故かとても嬉しくて
風邪を引いて良かった
そう思った
一旦ここまで
P「ん…?」
先輩がゆっくりと体を起こす
P「ごめん、寝ちゃってたか」
静香「気にしないでください」
P「体調はどうだ?静香」
静香「はい、おかげさまでかなり良く…え?」
今…
志保「…」
P「どうした?」
静香「いえ、あの…今静香って…」
P「え?…あっ」
P「あ、いや、これはだな!その」
先輩が慌てて弁明しようとするが中々言葉が出て来ないようだ
静香「そ、その!私は呼び捨てでも構いませんから」
P「え?」
静香「先輩は甘えさせてくれるって言いました、だから私もわがままを言います」
静香「呼び捨てで、お願いします」
P「…わかったよ、静香」
静香「ありがとうございます、先輩」
P「…はは」
静香「ふふ」
なんだかおかしくなって笑ってしまう
ただ名前を呼んで貰うだけなのに
P「改めてよろしく、静香」
静香「はい、お世話になります」
志保「…前言撤回」
いつの間にか志保が塩の入った袋を持って立っていた
志保「病原菌ごと跡形も残さず消してあげるわ」
静香「し、志保!ストップ!ストップ!」
志保が塩を掴んで振りかぶる
先輩はそれを楽しそうに見ていた
今日はこっちは無しで
Pが風邪を引くのは付き合ってからのお楽しみに
屋台、出禁にしますよ
翌日
P「おはよう」
志保「おはようございます、兄さん」
静香「おはようございます、先輩」
P「静香、体はもう良いのか?」
静香「はい、先輩の看病のおかげで」
志保「塩が効いたみたいね」
静香「あれ、髪についたの洗い流すの大変だったんだけど?」
志保「兄さんに看病して貰ったんだからいいでしょ別に」
どうやら本当に大丈夫そうだ
P「ただまあ、病み上がりだからあまり無理はしないようにな」
P「何かあったらすぐに保健室に行くんだぞ」
静香「はい」
P「志保、静香の体調を見ていてやってくれ」
志保「わかりました」
P「よし、それじゃあ桃子が来たら食べようか」
静香「はい」
起きてきた桃子も含めて4人で朝食を取る
たった2ヶ月程しか経っていないのに、もはやこの景色が当たり前になっていた
P「はい上がり」
茹で上がったうどんの入ったどんぶりに出汁を張る
星梨花「静香さん、すっごく美味しいです!」
静香「ありがとう、星梨花」
星梨花「昔家族で福岡に旅行に行ったときに食べたおうどんがあって、私はそれが一番好きだったんですけど…同じくらい好きになっちゃいました!」
静香「ふふ、喜んでくれて嬉しいわ」
ミス
>>538はなしで
夏休みの出来事募集
感謝
ネタ提供はいつでもwelcomeなので何かあったら提供してくれると嬉しい
ちょっと目を離したらみんなが団結してる…
何これ…
何だろうね、静香との海水浴が全く思い付かない
海水浴飛ばしても良いかな
765学園では毎年一回、近所の砂浜を貸し切って学園全体での海水浴を実施している
この時持ってくる水着は特に指定されておらず、学園指定のセーラー水着でも自前の水着でも構わない
もっとも、毎年何人かは過激な水着を持ってくる生徒がいて、問題になっているらしい
そんか海水浴の日、俺達は
P「はい上がったよ」
志保「はい」
静香「ざる3入ります!」
屋台でうどんを作っていた
志保「…どうしてこんなことに」
P「まあ良いじゃないか」
静香「志保!口より手を動かして!」
志保「…うるさいわね」
海水浴の1週間前、佐竹さんがある話を持ってきた
それは海水浴の日、屋台を出してみないかというものだ
なんでも海の家の主人が倒れたらしく、海の家が開けないそうだ
しかし何も食べ物がないというのも味気ないので、屋台をやっている俺達に声をかけたらしい
メニューを冷やしうどん系に絞ったからか、かなりの盛況だ
恵美「はいはーい三人ねー」
海美「はい、ざるうどんお待たせ!」
流石に手が足りなかったので恵美や海美、エレナにも手伝って貰っている
冬馬「P!そっち頼む!」
P「おう」
料理の出来る冬馬はいち早く厨房に立ってくれている
その甲斐もあってか、なんとか持ち堪えられていた
恵美「ひ~!忙しい~!」
恵美が汗を拭いながら戻ってくる
P「悪いな」
恵美「気にしなくて良いって!それにPはアタシのこと、わかってるんでしょ?」
P「ああ」
恵美「じゃあ今度お願いね」
P「ああ、ドリンクバーだな?」
恵美「にゃはは!さっすが」
客に呼ばれた恵美がテーブルに戻っていく
…みんなが水着で接客しているのも忙しい原因な気がしてきた
盛況でうどん玉が切れ、屋台は店仕舞いとなった
手伝ってくれた皆には後日礼をすると言うことで、解散となった
静香「…ふう」
P「お疲れさま」
汗を拭いている静香に水を差し出す
静香「ありがとうございます」
水を受け取った静香は一口飲むと、深い息を吐いた
P「大変だったな」
静香「はい、でも…」
静香は目を閉じ、少し間を開ける
静香「楽しかったです」
静香「たくさんのお客さんに食べて貰って、美味しかったって言って貰えて」
静香「確かに大変でしたけど、とても充実していました」
P「…そっか」
静香の顔はとても活き活きしていて
なんだか少し眩しかった
静香「先輩、少しだけ遊びませんか?」
P「今から?」
太陽は既に傾きつつあり、もうすぐ集合の時間になるだろう
静香「はい、まだ少しだけ時間がありますから」
静香「せっかくの海水浴の日に丸一日拘束してしまいましたから」
静香「残りの僅かな時間でも、楽しんで欲しいです」
P「…そうだな、じゃあお言葉に甘えるよ」
静香「はい」
それから時間が来るまで、静香と遊んだ
一旦ここまで
次回から勝負編開始
夏休みを目前にしたある日、それは起こった
P「いらっしゃいませ」
きっちりとしたスーツの男性が一人、屋台に来た
冷蔵庫を整理していた静香が顔を上げその男性を見た瞬間、驚愕の表情になった
静香「お父さん…!?」
P「えっ!?」
志保「…」
この人が静香の父親…
静香の父親が素うどんを注文する
しかし静香は魂でも抜かれたかのように立ち竦んでいた
P「静香、調理を」
静香「え?あ、は、はい」
静香の肩を叩き正気に戻す
うどん玉を取り出し、調理を開始する静香
静香父はそれをゲンドウスタイルでジッと見ていた
静香「お待たせしました」
静香が父親に素うどんを出す
静香父は箸を取ると、少し匂いを嗅いでから食べ始めた
麺を食べ、つゆを飲む
一通りの動作をこなした静香父は、どんぶりを置いて一言呟いた
…この程度か、と
立ち上がった静香父は静香に向かってこう言った
屋台ごっこはここまでだ、と
静香「屋台ごっこ!?」
あんまりな言い方に静香が吼える
静香「私は真剣にやってる!お父さんに何がわかるの!?」
静香父は言う、うどんの出来だと
静香「うっ、た、確かに私のうどんはまだお父さんには及ばないかもしれないけど、それでも!」
しかし静香父は首を振った
お前は家出したときからまるで成長していない、これ以上は無駄だ
そう言って彼は静香に手を伸ばす
P「ちょっと待ってください」
静香との間に割って入る
少し驚いたような顔をするが、どうやら向こうは俺のことを知っていたらしく、今まで静香を預かっていたことを感謝された
P「あ、いえ、当然のことをしただけですから」
しかしそれとこれとは話が別、家族の話に首を突っ込まないで頂きたい、と最もなことを言う
P「確かにあなたからしたら俺は赤の他人でしょう」
P「だけど、静香は今俺達の家族なんです」
P「だからこれは俺達の問題でもある!」
静香「先輩…」
静香父は少し考える素振りを見せた後、ある条件を出してきた
それは、もう少し猶予を与えるので765学園の文化祭で実力を見せつけること
そこでの評価によって静香の自由が決まる…というものだ
ただし評価内容は向こうが決め、直前までは通達されないらしい
静香「…わかりました」
静香がその条件を飲む
静香「必ず、あなたに勝ってみせる」
静香は決意に満ちた瞳で、父親へ宣戦布告をした
父親が去った後、静香は気が抜けたかのようにふらついたので後ろから支えてやる
P「大丈夫か?」
静香「はい…でも」
あんなことがあった直後だ、こうなるのも仕方ない
静香「今のままでは、父には勝てません」
静香「だから父に勝つためにも、新しいメニューを考えないと」
P「そうだな…親父さんに目に物見せてやろうな」
静香「…はい!」
志保「…何時まで引っ付いてるのよ、さっさと離れないと千切るわよ」
静香「あ、ご、ごめんなさい先輩!」
P「い、いや、気にしなくて良いよ」
志保「…」
P「しかし文化祭までか…」
静香「後三ヶ月しかありませんね」
P「新メニュー…なんとか形にしような」
静香「はい!あ、それともう一つ」
P「ん?」
静香「これを機に材料も見直してみようかと」
P「ふむ?」
静香「夏休みを利用して色々と試してみたいですね」
P「そうだな…」
新メニューに材料調達、やることは沢山あるけど…
静香のために、今はやるべきことをやろう
そんな決意を胸に、夏休みを迎えた
一旦ここまで
今年のクリスマス果たし状の海美が可愛すぎて悶え死にそう
いよいよ夏休みだ、しかし今年は今までと違いのんびり満喫と言うわけにはいかない
静香「新メニュー…どうしましょうか」
P「材料の方も考えないとな」
課題は山積みだ
静香の父親を納得させるためにも、全力で取り掛からなければ
P「あれ、そういえば志保は?」
静香「今日は朝から見ていませんが…」
P「出掛けたのかな」
俺が家にいるときは大抵志保も近くにいたからいないというのは少し新鮮だ
静香「志保にも新メニューを考えて貰おうと思ったんですが…いないなら仕方ないですね」
P「だな」
静香「とりあえず先に材料から考えましょう」
P「材料を見てると何かを思い付くかもしれないしな」
静香「はい、では最初に注目する材料は…」
P「材料は?」
静香「…小麦です」
数時間後、俺達は木下農場の一角で畑を耕していた
クラスメイトの伝手で静香が木下さんに依頼したところ、快諾してくれたらしい
静香「やはり小麦は自分で作ってこそ善し悪しがわかるもの」
P「だから自分たちで作るわけだな」
静香「はい、それに自給自足が出来るに越したことはありませんから」
P「確かにな」
二人で畑を耕していく
静香「ふう…」
P「いい汗掻いたな」
時間はかかったが畑を耕し、種をまいた
これで後1年もすれば立派な小麦が出来るだろう
…1年?
P「…」
静香「小麦が育つの、楽しみですね」
P「…なあ、静香」
静香「はい、なんでしょう?」
P「小麦が育つのってさ…年単位なんじゃ」
静香「…あっ」
短いけどここまで
感想はモチベ維持に繋がるから貰えると嬉しかったり
だから気持ちは嬉しいけど気にしないで良いよ
杏奈に拐かされたい
誤
静香「ど、どうすれば!?」
P「落ち着くんだ静香、今は小麦のことは忘れよう」
静香「は、はい」
P「塩の方は?」
静香「そっちは志保が最近塩に凝ってるようで、色々と持っているみたいですから聞いてみます」
P「よし、なら塩は問題ないな…となると次は出汁のほうか…」
静香「私達が出汁に使っているのは鰹節、昆布、薄口醤油といった基本的なものですね」
P「一応今は高級品を使ってたよな?」
静香「はい、ですがこうなった以上は自分の目、舌で最高の物を選びたいと思います」
P「じゃあ昆布から行くか」
静香「はい、昆布ならやはり北海道ですね」
P「北海道か」
財布を取り出し、中身を見る
P「…」
野口さんが三人に樋口さんが一人いるだけだった
P「…」
P「し、静香、北海道に行くのは良いんだけど資金はあるのか?」
静香「え?」
静香も同じように財布を確認した後、携帯を取り出して操作する
静香「…」
操作するうちに静香の表情が曇った
静香「困りましたね…」
P「うーん…」
材料集めも新メニューもいきなり躓いてしまった
そんな時だった
黒井「私に良い考えがある」
そういって黒井先生が茂みから出て来た
P「黒井先生」
茂みで引っ付いたのか引っ付き虫がスーツについている
静香「良い考えとは?」
黒井「貴様達に資金提供をしてやろう」
P「え!?」
黒井「勘違いするな、無論タダではない」
黒井「私が提示する条件はただ一つ」
黒井「必ず勝利することだ」
黒井「私は敗者のうどんなど口にしたくはないのでな」
P「黒井先生…」
静香「…はい!必ず勝ちます!」
P「でも、どうして資金提供を?」
黒井「…特に理由は無い」
黒井「ただ、帰り道に屋台に寄るのも悪くない…それだけだ」
そういって封筒を渡す黒井先生
静香「ありがとうございます、黒井先生!」
黒井「…ふん、各地に旅立つ前に屋台を私に預けるが良い」
黒井「貴様達のことだ、まともにメンテナンス出来ていないだろうからこちらで受け持ってやる」
P「ありがとうございます」
黒井「貴様達のうどん、楽しみにしているぞ」
黒井先生は背中を向け、歩いて行った
P「ほんと、いい人だよ」
静香「ですね」
黒井先生から貰った封筒を鞄にしまい、畑を後にする
木下さんに事情を説明し、感謝の言葉を述べた
ひなた「気にしなくて良いよぉ、あたしも静香さんの美味しいおうどん、楽しみにしてるべさ」
静香「ありがとう、ひなた」
ひなた「静香さん達の小麦はあたしが見ておくから、二人は自分の成すべきことをして欲しいねぇ」
静香は周りの人に恵まれている
そう思えた
P「という訳で、俺達はしばらく日本を回ることにした」
このみ「へー」
このみ姉さんが興味なさそうに柿ピーを食べる
P「反応薄いな…」
このみ「自分たちで決めたんでしょ?だったら私がとやかく言っても仕方ないじゃない」
P「それはそうだけど…」
このみ「ま、やれるところまでやってみなさい」
P「もちろん、そのつもりだ」
静香「志保も一緒についてきてくれると嬉しいんだけど…」
志保「私は夏休みは予定があるから…兄さんと二人きりでの旅行なら話は別だけど」
静香「遊びに行くわけじゃないから」
志保「わかってるわよ、とにかく、私は予定があるから」
どうやら志保は予定があるらしく、静香の頼みを断っていた
志保「…」
一旦ここまで
夏休み中は志保さん別行動のためほとんど出て来ない
志保「先に言っておくけど」
静香「?」
志保「兄さんに手を出したら…生まれてきたことを後悔させてやるから」
静香「っ」
志保「逆に万が一…いや、地球が滅んでもあり得ないけど、兄さんに手を出されたら…」
静香「出されたら…?」
志保「生まれてきたことを後悔させてやるから」
静香「結局一緒じゃないそれ!?」
志保が私から離れる
その目には窺い知れない闇があって
私は志保が少し怖くなった
志保が先輩のことを男性として愛しているのはわかる
むしろ先輩が何故気付かないのかわからないくらいだ
志保が私を嫌うのも、あの出来事もそうだろうけど、それ以上に私が先輩の傍にいるのが気に食わないのだろう
静香「…」
志保には悪いと思っている
だけど今は、先輩が手を貸してくれている今だけは
私は引くわけにはいかない
自分の描いた夢が消えていくのを眺めているだけなんて嫌だから
私は、自分の意志で未来を掴み取る
家を出たときにそう決めたんだから
翌日
P「ここが北海道か…」
静香「流石は飛行機、到着が早いですね」
俺達は今、自分達の生まれ育った町から遠く離れた北の地に来ていた
P「涼しい」
静香「そうですね、過ごしやすそう」
P「夏は北海道、冬は沖縄に住みたいよなぁ」
静香「ふふ、その気持ちわかります」
一旦ここまで
P「さて、まずは今日泊まるところを探さないとな」
静香「黒井先生からお金を頂いたとはいえ無駄遣いは出来ませんし、どこか安いところを探しましょう」
P「安いとなると民宿か」
静香「そうですね…利尻の周辺で民宿を探しましょう」
P「了解」
俺達は再び飛行機に乗り、利尻へ向かった
P「お疲れさま」
静香「いえ、このくらいは」
ネットで民宿を見つけ、部屋を借りる
本当は二部屋取りたいところだったが無駄遣いをする必要はないという静香の要望により同じ部屋に泊まることになった
P「そろそろ夕飯みたいだし、俺達も降りようか」
静香「はい」
二人で食堂に向かう
そこで出されたのは所謂うどん定食だった
P「タイムリーだな」
静香「ですね」
さっそく一口食べてみる
すると…
P「!?」
静香「こ、これは!?」
自分達が使っている出汁とは比べものにならない
淡泊そうなのにしっかりとした芯があり、力強い味だ
だけどもくどくなく、いくらでも飲めそうな、そんな出汁だった
具のわかめやかまぼこも段違いの旨さだ
今まで食べていたものは何だったのか
そんな気になるほど圧倒的な違いがあった
二人して夢中になり、気が付くと食事が終わっていた
静香「…あっ、ご、ごちそうさまでした」
我に返った静香が言う
俺達は部屋に戻ると先程のうどんのことを話し合う
静香「私が間違っていました」
静香が突然そんなことを言い始める
静香「出汁とうどんさえしっかりしていれば大丈夫だと、あまり具に力を入れていませんでした」
静香「しかしさっきのうどんを食べて、そんな考えは吹き飛びました」
P「確かにあれは凄かった」
具と出汁とうどんが一切喧嘩をせず、むしろお互いに良さを引き出し合い、一つの塊となっていた
もはや具だとか、出汁だとか、そういった区分すら必要ない「うどん」がそこにあった
静香「私のうどんも、いつかはさっきのうどんのように完成されたものにしたいですね」
P「そのためにも、今は親父さんに勝たないとな」
静香「はい!」
その後、民宿の人が布団を敷くから温泉に入ってきて欲しいと言ってきたため、温泉に向かった
P「…」
静香「…」
P「…」
静香「…」
混浴なんて聞いてないよ…
一旦ここまで
P「はあ…」
お互い離れきって湯船に浸かる
しかし温泉と言ってもそんなに広くはないので、気休め程度の効果しかない
P「静香、本当に良かったのか?」
静香「な、何がですか!?」
P「いや、一緒に温泉に入って」
静香「い、意識しないようにしてるんだから意識させないでください!」
P「あー、悪い」
意識するなというほうが無理があるけど
静香「…少し前は」
P「ん?」
静香「少し前まではうどんの屋台を引いたり、こうやって北海道に来たりするなんて夢にも思いませんでした」
P「後悔してる?」
静香「いえ、むしろ逆です」
P「逆?」
静香「あのまま父の…狭い世界で満足せず、外に出て良かった」
静香「そう思います」
P「静香は自分から一歩踏み出したんだ、それはとても勇気のいる行動だったと思う」
静香「はい、ですが踏み出した後私が折れなかったのは志保や未来達、そして先輩方が力を貸してくれたからです」
静香「だから、みんなには本当に感謝しています」
先輩「あ、もちろん先輩にも感謝してますよ?」
そういって静香が微笑む
その微笑みは、今まで見てきた誰のものよりも綺麗に見えた
P「あ、ああ」
P「お、俺は先に上がるよ、静香はゆっくり浸かっててくれ」
そういって立ち上がる
その瞬間、巻き方が悪かったのか腰に巻いていたタオルがほどけ
P「あっ」
静香「えっ」
お湯を吸って重くなったタオルは湯船に沈んだ
残ったのは丸出しのまま動けない俺と、凝視している静香だけだった
性格に急所を狙ってくる静香のたらいからなんとか逃げ切り、部屋に戻ると布団が敷いてあった
…一枚だけ
もちろんもう一枚を敷いてくれるようお願いしに行ったのだが、団体客が来ているらしくそちらに布団を持っていかれて余ってないとのこと
風呂だけでなく布団まで一緒だと流石に不味いので静香に代替え案を出したのだが…
静香「正直一緒の布団で寝るより一緒にお風呂に入る方が恥ずかしかったので気にしません」
そう言いきられ、結局一緒の布団で寝ることになった
こんな状態で寝るなんて…出来るわけ無いじゃないですか!
いつか夢で見た志保の言い方を心の中で真似てみる
静香「すー…すー…」
静香はと言うと布団に入ると即眠ってしまった
緊張とかしていないんだろうか
P「…全く、人の気も知らずに」
俺だって年頃の男だ、こんな可愛い子と一緒の布団に入れば色々と考えてしまう
もしかすると俺は静香に男として見られていないのかも知れない
そう思うと少し腹が立ってきた
P「…こいつめ」
静香の頬を人差し指で押し込む
P「…ふふ」
変な顔になった静香を見ているとなんだかおかしな気分になってきた
静香「んー…」
P「おっと」
危うく起こしてしまうところだった
P「…寝よ」
目を瞑っていればいつか眠れるだろう
静香「…」
静香「……」
静香「~~~!!」
先輩の寝息が聞こえてきたのをトリガーに私は目を開けた
人差し指で突かれた感覚がまだ頬に残っている
なんで!?なんで先輩はあんなことを!?
考えても答えは出ないどころか謎は深まるばかりだ
先輩がどうしてあんな悪戯をしてきたのか理解出来ない
これではただでさえ先輩が隣で寝ていて寝付けないのにさらに寝付けなくなってしまう
静香「と、とりあえず」
やられたことをやり返した
静香「わ…私の顔と固さが全然違う」
やっぱり男の人なんだな
そう思いながら、私は違いを楽しむかのように頬を突き続ける
静香「…」
普段はなんだかんだで頼りになる人だが、眠っているときはまるで子供のようだ
静香「これはこれで…」
有りかも…
そう思った時、志保の言葉を思い出す
静香「…」
私は突くのをやめ、先輩に背を向けた
そのまま目を瞑り、意識を落とす努力をする
今の変なテンションでいたら間違いなく手を出してしまいそうだから
私の抱いている気持ちはただの憧れ
存在しない架空の兄に対する感情を先輩に抱いている、それ以上でもそれ以下でもない
そう思わないと、駄目な気がした
一旦ここまで
翌日、民宿で教えて貰った海草の業者を訪ねる
静香「これは…どれも凄いですね」
P「そうなのか?」
静香「はい、町で売られている昆布とは比べものになりません」
静香「見てください、この色、艶、吹いている粉の量」
P「…」
静香に言われて見てみるが正直良くわからない
静香「今が旬だというのを加味してもこれは極上の品です、是非手に入れたいところですね」
静香「P先輩!このわかめも凄いです!」
俺には正直良くわからないけど
静香「ほら、早く見に行きましょう!」
静香が俺の手を掴んで歩いて行く
楽しそうにしている静香を見ているとなんだかほっこりする
P「よし、今日はとことん付き合うぞ」
静香「そうですね、この際先輩にも食材の目利きが出来るように私が手取り足取り教えてあげますね」
そのまま昼過ぎまで海草の目利きをした
静香「♪」
最高級の昆布とわかめを手に入れたからか、静香は鼻歌を歌うくらい上機嫌だ
荷物をまとめ、帰る準備をする
しかし
P「なあ静香、ちょっと行きたいところがあるんだけど、良いかな?」
静香「私は別に構いませんが…一体どこに?」
P「それは行ってからのお楽しみってことで」
P「とりあえず旭川に行こう」
静香「はい」
旭川に到着した俺達は、バスターミナルからバスに乗り目的地へ向かう
静香「これはどこに向かっているんですか?」
P「利尻でも言ったろ?着いてからのお楽しみだよ」
静香「…」
静香は見知らぬ土地で行き先も全くわからない状態に不安になっているようだ
だけど俺は、それでも見てみたい、見せたい景色があった
約二時間ほどで目的地へと到着する
P「さ、着いたぞ」
静香「ここは…」
辺り一面に咲き乱れるひまわりに息を飲む静香
写真で見たことはあったが実際に見るとその光景に圧倒される
俺の目的地、それは
北竜町 ひまわりの里だ
一旦ここまで
志保「静香、掃除は終わったの」
一時は険悪になった志保とも和解でき、普通に名前を呼んでくれるようになった
静香「もちろん」
志保「じゃあ確認しましょうか」
そう言って志保は部屋を確認する
志保「…」
窓の縁に指を滑らせ
志保「埃は…ないわね」
テレビの画面を確認し
志保「指紋も…ないわね」
静香「ちゃんと掃除したもの」
志保「…」
志保が顎に手を当て目を瞑る
そして目を開いたかと思うと突然自分の髪を1本抜いて、床に落とした
志保「静香、髪の毛が落ちてるから失格ね」
静香「今志保が落としたわよね!?」
志保「はあ?冗談は胸とうどんだけにしたら?」
静香「お生憎様、あの人は私の胸が好きだって言ってくれたから」
ミス
恥ずかしいから今日はこっちは無しで
静香「凄い…」
見渡す限りのひまわりに感嘆の声を漏らす静香
P「民宿の人に教えて貰ってさ」
彼女を連れて行ってあげると喜ぶと思うと言われた
彼女ではないけど、静香に喜んで欲しくて連れて来たのだ
P「何となく」
静香「?」
P「何となくだけど、静香が気負いすぎてるんじゃ無いかと思ってさ」
静香「…」
P「だから一度うどんとか、勝負の話を忘れて欲しかったんだ」
P「余計なお世話だったかも知れない、だけど俺は」
静香「先輩」
俺の言葉を静香が遮る
静香「ありがとうございます」
そして頭を下げた
P「し、静香?」
静香「私のわがままに付き合って貰うだけじゃなく、私のことを考えてサプライズも用意してくれて…」
静香「私は…とても嬉しいです」
そういって微笑む静香の笑顔に
俺は胸が締め付けられるような感情を抱くのだった
P「なんか、凄く映えるな」
静香「そうですか?」
ワンピースに麦わら帽子、黒のロングストレートという最強の組み合わせの静香がひまわりを触る
P「そうだ、写真撮って良いか?」
静香「写真ですか?」
P「ああ、ひまわり畑にとてもよく似合ってるからさ」
静香「別に構いませんけど…」
P「よし、それじゃあ撮るぞ」
静香「…ん」
帰りの飛行機の中、疲れたのか俺の肩に頭を乗せて静香が眠っている
とても無邪気な顔で、安心しきっていた
P「…」
機内モードのスマホを取り出す
そこにはひまわりを背に少し照れ臭そうな顔で笑う静香の写真があった
…俺はこの笑顔を守りたい
静香が安心して笑っていられる場所でありたい
そう決意する
そのためには静香の父親に勝たなくてはならない
静香の笑顔を曇らせないためにも
俺は俺に出来る全てをやるんだ
例え自己満足だったとしても
静香が勝てるように
P「…」
ギュッと拳を握る
家に帰ったらまた新メニュー作りをしないとな
P「…けほっ」
北海道から帰還した翌日
何時ものように地下室でうどんの試作をしていたのだが…
P「ごほっ、ごほっ」
静香「先輩、風邪ですか?」
P「みたいだ…体調管理はしてた筈なんだが…」
静香に移さないようにマスクをする
静香「慣れない旅で疲れてしまったのかも知れませんね」
P「とは言うが北海道に行ったくらいで…」
静香「人間何がきっかけになるかわかりません、だから今日はゆっくり休んでください」
P「悪いな…」
静香「いえ、こちらこそ先輩にはいつもお世話になっていますから、気にしないでください」
静香の言葉に甘えて階段を昇る
…身体の節々が痛む
普段の風邪ではこんな風にはならないんだが…
おまけに熱もあるのかあまり意識がはっきりしない
そんな状態で階段を昇ったからだろうか
俺は階段の途中で躓き、膝をついた
ガタンと大きな音がした
その音に驚いて振り返ると
静香「先輩!」
先輩が階段の途中で膝をついていた
駆け寄って様子を見る
肩で息をしていてとても苦しそうだ
静香「先輩、大丈夫ですか!?」
声をかけるが反応がない
顔色が凄く悪い
とにかく身体を安定させないと
静香「先輩、失礼します!」
先輩の腕を首にかけ、身体を支える
静香「熱い…!?」
服の上からでもわかるくらいに先輩の身体は熱かった
かなりの高熱のようだ
何度も躓きながらも先輩を部屋に連れて行く
意識のない先輩をベッドに寝かせ、私は体温計を取りに行った
静香「…39.8℃…!?」
先輩から体温計を回収し、表示された体温を見て驚愕する
ただの夏風邪にしては高熱すぎる
静香「こ、こういう時は…」
私が熱を出したときのように、私が先輩を看病するしかない
一旦ここまで
全員分のウエディングシナリオを書けと?
すぐには無理だからちょっと時間くれるとありがたい
誤爆
氷枕を用意して先輩の額に冷えピタを貼る
額に浮く汗を拭きながら私はこのみ先生に連絡を取った
すぐに帰るので病院に行く準備をしてほしいと返ってきたので、すぐに出る準備を始めた
準備をしていると
志保「兄さん!!」
志保が部屋に転がり込んでくる
静香「志保!先輩は眠ってるから」
小声でそう伝える
志保「兄さん…駄目です、私を一人にしないで…」
志保は先輩の手を握り、祈るように手を合わせていた
出発準備が完了したころ、ちょうどこのみ先生がタクシーで帰ってきた
このみ「二人とも、Pを動かせる?」
静香「はい!志保、手伝って!」
志保「兄さん…すぐ治りますから、だから、しっかりしてください…!」
二人で先輩を支えながらタクシーに乗せる
このみ「双海病院まで、大至急!」
病院に到着し、先輩が検査室に運ばれた
このみ先生は診察室へ、私達は待合室で待つことになった
志保「…兄さん」
志保が呟くように先輩を呼ぶ
その姿はいつも私に見せる姿と違いとても弱々しくて
何だか落ち着けなかった
しばらくしてからこのみ先生が診察室から出て来た
静香「このみ先生」
志保「兄さん…兄さんは!?」
このみ「落ち着いて志保ちゃん」
このみ先生が志保を制止する
このみ「お医者さんの話だと…」
静香「…インフルエンザ?夏なのにですか?」
このみ「最近は夏でも発病するみたいね」
このみ「日本にはないウイルスだけど、外国人の感染者や外国で感染して帰ってきた日本人が観光地や自分の住む町に広めるケースが増えているみたい」
静香「観光地…」
もしかして、ひまわり畑で?
このみ「ま、命に別状はないしもうすぐ目を覚ますでしょ」
静香「良かったぁ…」
命に別状は無いと聞き、胸をなで下ろす
だけど次の瞬間
私は胸倉を掴まれ壁に叩きつけられた
静香「げほっ」
背中に走った衝撃で咳き込む
目を開けると
志保「………」
志保が殺意に満ちた目で私を見ていた
静香「し、志保」
志保「何が良かったのか、もう一度言ってみなさいよ」
静香「な、何が…」
志保「兄さんをあんなに苦しめて、何が良かったのか言ってみなさいよ」
そういって更に強く締め上げる
静香「く、苦し…」
志保「兄さんは高熱でもっと苦しんでる…味わう必要のない高熱で」
志保「お前が兄さんを北海道なんかに連れて行かなければ、こんな苦しみを味わう事なんて無かった」
静香「違っ…私は…!」
志保「お前が兄さんを苦しませている」
志保「…お前さえいなければ…!」
更に締め上げる力が強くなる
静香「ぐっ…!」
志保「よくも兄さんをこんな目に…」
静香「私は…!」
志保「…兄さんの為にも、今ここで…!」
このみ「いい加減にしなさい」
私を締め上げていた力が抜け、解放された
静香「げほっ、げほっ」
壁を背にしてその場に座り込む
志保「…このみさん、邪魔をしないでください」
このみ「落ち着きなさい志保ちゃん、静香ちゃんのせいではないんだから」
志保「違います、この女が兄さんを北海道に連れて行ったから兄さんはインフルエンザにかかったんです」
このみ「Pは自分で決めて静香ちゃんと北海道に行ったの、だから誰が悪いかというならそれはP自身が悪い」
志保「そんなこと…!」
このみ「それに私達の町にも感染者がいた可能性もあるんだから、誰かのせいにするのはやめなさい」
志保「…」
静香「し、志保…」
志保「…」
志保が私を睨みつける
その目は怒りと憎悪に満ちていた
志保「…お前は兄さんの前から消す」
志保「例え兄さんに否定されようとも、お前だけは、絶対に」
そういって、志保は少し離れた椅子に座った
一旦ここまで
コメディ路線とはなんだったのか
志保の名誉のために言っておくとこの√だけ特別なんですよ
普段はPさえ絡まなければ良い子なんですよ
いや本当に、言い訳にしかならないけど志保大好きなんです
だけどちょっと√LRで出せなかった病みを足したら暴走したというかなんというか
結局何が言いたいかというと
これを読んでも志保のことは嫌いにならないで欲しい
お願いします
このみ「静香ちゃん」
静香「は、はい」
このみ「Pの看病、静香ちゃんに任せて良いかしら?」
静香「え?」
志保「このみさん!」
このみ「病院で大きな声出さない」
志保「…っ!なんでソレに兄さんを任せるんですか」
このみ「仮にPがインフルエンザになったのが北海道に行ったから…なら静香ちゃんのせいって言うのが志保ちゃんの考えよね?」
志保「そうです、ソレのせいで兄さんはならなくても良いインフルエンザにかかって」
このみ「だったら静香ちゃんはお詫びの代わりに看病すれば良いのよ」
静香「!」
志保「それは…!」
このみ「これはもう決めたことよ」
志保「…っ!」
志保が拳を握って俯く
静香「志保…私は…」
静香「先輩をちゃんと看病するから、だから」
志保が顔を上げて私を睨む
志保「兄さんに何かあったら…殺してやるから」
志保の全身から滲み出るどす黒い殺気に怯みそうになる
だけど
静香「…わかったわ」
怯むわけにはいかない
志保「…」
静香「…」
そのまましばらく睨まれていたけど…
志保「…私が手を下す機会が来ないことを願ってるわ」
そう言って志保は再び椅子に座った
目を覚ました先輩をタクシーに乗せ、帰宅する
P「ごめんな、看病させちゃって」
静香「気にしないでください、私が北海道に連れて行ったのが原因かもしれませんから」
P「本当ならインフルエンザである以上は放っといて貰うのが一番なんだろうけどな」
静香「そういう訳にはいきません」
命もかかってますし
静香「今、何か欲しい物はありませんか?」
P「そうだな…とりあえず水がほしいな」
静香「わかりました」
先輩が水を飲むために身体を起こそうとするが力が入らないのか、上手く起き上がれないようだ
だから私は先輩の身体を支えて起きる手助けをする
水を飲んで息を吐いた先輩を再び寝かし、私は紙コップをビニールに入れて処分した
P「…体が思うように動かせないのはは不便だな」
静香「ですね」
以前高熱を出したとき、私も同じ事を思った
静香「お薬はどうしますか?」
P「…飲まなきゃ駄目か?」
静香「はい?」
P「いやだってさ…薬って苦いじゃん」
静香「何を子供みたいなことを言ってるんですか」
P「昔から薬は苦手でさ…」
静香「飲まないと良くなるのに時間がかかるだけですよ?」
P「わかってはいるんだが…」
静香「粉薬じゃなくて錠剤ですから、味はしませんよ」
P「錠剤か…錠剤ならなんとか」
P「っと、そうだ、薬を飲む前に何か食べないといけないんだっけ?」
静香「そうですね、胃に何か入れた方が良いと言われています」
P「けど食欲はあまり無いんだよな…」
静香「何か消化がよくて簡単なもの、作ります」
P「あ、それなら」
P「静香のうどんが食べたい」
一旦ここまで
ここからまたしばらくは志保さん離脱
ついでに少し告知を
√PGか√TP完結次第Pixivに√RRRのプロデュース()部分だけをまとめた試作品を書きます
静香「お待たせしました」
先輩に希望されたうどんを作り、持ってくる
P「ありがとう…あちっ」
静香「大丈夫ですか?」
P「ああ」
と言いつつも力が入らないのか、お箸を持つ手が不安定で少し危なっかしい
実際にお箸で掴んだうどんを持ち上げようとして出汁に落としているし…
となると
静香「先輩、どんぶりを貸してください」
P「あ、ああ」
少し恥ずかしいけど
私は持ち上げたうどんに息を吹きかけ
静香「く、口を開けてください」
先輩の方へ差し出した
P「え!?」
当然のように驚く先輩
静香「わ、私も恥ずかしいですけど、今の先輩じゃ上手く食べられないですし仕方ないんです!」
P「確かにそうだけど…」
静香「早くしないとうどんが乾いてしまいますから」
P「わ、わかった」
先輩が少しずつうどんを啜る
静香「どうですか?」
P「…うん、柔らかくて食べやすい」
レンゲで出汁を掬い、同じように口元へ運ぶ
P「あ、美味い」
静香「北海道で手に入れた昆布を早速使ってみたんです」
P「良い味だ…これなら間違いなく人気出ると思う」
静香「北海道に行った甲斐がありました」
静香「…でも」
この味と引き換えに…
静香「私が北海道に先輩を連れて行ったから、先輩はインフルエンザに…」
P「それは違うぞ静香」
先輩の言葉に顔を上げる
先輩はまっすぐに私の目を見ていて
体調は悪いはずなのに、力強いその瞳に思わずドキッとする
P「俺は俺自身の遺志で静香に着いていったんだ」
P「だから静香のせいじゃない」
静香「先輩…」
この人はどうしてこんなに私に優しくしてくれるのだろう
本来なら怒りをぶつけられてもおかしくないのに
そんなことを考えていたからか、思わず思ったことが口から出てしまった
静香「先輩は、どうして私に優しくしてくれるんですか?」
P「どうして…か」
先輩は腕組みをして目を瞑る
P「前にも言ったと思うけど…俺はさ、静香に頼りにされたいんだ」
P「静香はしっかりしてるけど、どこか危なっかしくて」
P「周りに甘えないように頑張ってる、だから俺は」
P「俺だけは、静香を支えたい」
静香「あ…う…」
まっすぐ見つめられたまま告白に近いことを言われて顔が熱くなる
もしかしたら先輩にそんなつもりじゃないのかも知れないけど
それでも顔が赤くなるのを止める術は私にはなかった
赤くなった顔とうるさい音を立てている心臓を誤魔化すように、私は薬を飲むのを渋る先輩に薬を飲ませた
しばらくして、薬が効いてきたのか先輩が寝息を立て始める
静香「…はあ」
先輩が眠ったのを確認し、私は溜め息を吐いた
眠る先輩の顔を見ると再び顔が赤くなるのがわかる
今でも十分過ぎるくらいに甘えているのに、これ以上踏み込んだら間違いなく引き返せなくなる
だけど
頭では解っていても、心は更に踏み込もうとしている
こんな気持ち、今まで感じたことがない
どうして私は、この人に更に甘えようとしているのだろう
そして気付いた
私はきっと、誰かに見て欲しかったのだろう
父は私を見てくれなかったから
だから私は、私を見てくれる人を求めていたのかも知れない
先輩は私を見てくれている
私の側で、私を見てくれている
だから私はこの人に甘えたくなるのだろう
この人なら受け止めてくれるから
静香「…」
踏み込むな
何かが私に警告する
だけど私は、その警告に従う気は微塵もなかった
…北海道に行く前に志保に言われた
先輩に手を出したら生まれてきたことを後悔させてやる…と
…上等よ
もっと先輩に私を見ていて欲しい
もっとこの人に甘えたい
先輩と出会ってからの思い出が頭を駆け巡る
認めよう
この人が好きだ
私だけを見ていて欲しい
この人に甘えるのは私だけでありたい
そんな想いが溢れてくる
だから私は…もうつまらない意地を張るのをやめよう
私の側にいてほしいから
…もちろん志保の気持ちは知っている
だけど
志保にだって譲る気はなかった
一旦ここまで
ようやく後半突入
ここ数日ウエディングドレスだったり生クリームだったりと海美の可愛さが暴力的すぎて死にそう
>>770
デレデレの理由は√LRを読もう!
>>772
いや、読みはしたんだがパラレルでしょ?
√開始時から前回の終盤クラスにデレデレだからちょっと気になって
だから教えて欲しいんだよ
あ、ちなみにこの酉なんだけど
GAP#765学園物語
これで出るから
前も酉バレしたのにそれにちょっと足しただけとかアホだね
>>776
ご苦労さん
(○・▽・○)モチョダヨー
>>787
やり方教えて
>>789
HTML化依頼スレってのがあるじゃろ
そこで依頼すれば格納されるぞ
自分で埋めた方が速そうだな
梅原
小梅
梅田優
支援
埋めてあげよう
--・-- ・・・ --・-・ -・-・ ・・-・- ・---・ ・-・・ -・-- ・-・-- ・・-・・ --・ --・-- -・--- ---・- ・・ ---- --- ・--- ・--・ ・-・・ ・- -・・- ---・- -・-- ・・-・・ ・・・ --- -・ ・・・ ---・- ・- -・・- ・---・ ・-・-・
早く埋めろよ
作者の言うことが聞けねえのか
--・-- ・・・ --・-・ -・-・ ・・-・- ・---・ ・-・・ -・-- ・-・-- ・・-・・ --・ --・-- -・--- ---・- ・・ ---- --- ・--- ・--・ ・-・・ ・- -・・- ---・- -・-- ・・-・・ ・・・ --- -・ ・・・ ---・- ・- -・・- ・---・ ・-・-・
-・-- ・- ---- ・・・- ---- ・・-- ---・- --- -・・・ -・- -・ --・-・ -・-・ -- ・-・-- --・-- ・・・ -・-・- --- ・-・-- ・- -・--・
htmlまだなのかよ
-・-- ・- ---- ・・・- ---- ・・-- ---・- --- -・・・ -・- -・ --・-・ -・-・ -- ・-・-- --・-- ・・・ -・-・- --- ・-・-- ・- -・--・
-・-- ・- ---- ・・・- ---- ・・-- ---・- --- -・・・ -・- -・ --・-・ -・-・ -- ・-・-- --・-- ・・・ -・-・- --- ・-・-- ・- -・--・
-・-- ・- ---- ・・・- ---- ・・-- ---・- --- -・・・ -・- -・ --・-・ -・-・ -- ・-・-- --・-- ・・・ -・-・- --- ・-・-- ・- -・--・
-・-- ・- ---- ・・・- ---- ・・-- ---・- --- -・・・ -・- -・ --・-・ -・-・ -- ・-・-- --・-- ・・・ -・-・- --- ・-・-- ・- -・--・
-・-- ・- ---- ・・・- ---- ・・-- ---・- --- -・・・ -・- -・ --・-・ -・-・ -- ・-・-- --・-- ・・・ -・-・- --- ・-・-- ・- -・--・
-・-- ・- ---- ・・・- ---- ・・-- ---・- --- -・・・ -・- -・ --・-・ -・-・ -- ・-・-- --・-- ・・・ -・-・- --- ・-・-- ・- -・--・
-・-- ・- ---- ・・・- ---- ・・-- ---・- --- -・・・ -・- -・ --・-・ -・-・ -- ・-・-- --・-- ・・・ -・-・- --- ・-・-- ・- -・--・
--・・- ・-・ ・-・-・ --・-・ ・・ -・・・ ---- ・・-・ ・・・
--・-- ・--・- -・--・ -・・・ ・・ ・-・-・ ・-・-- ・・ ---・- ---- ・・-- ---・- --- --・・- ・・・ ・・・- ・ ・・ ・-・・ ・・・ ---・- ・・ ・-・・・ ・・-・ ---・ ・・- -・ ・・ -・ ・・・ ---- ・・-・ ・・・ ・
--・・- ・-・ ・-・-・ --・-・ ・・ -・・・ ---- ・・-・ ・・・
--・-- ・--・- -・--・ -・・・ ・・ ・-・-・ ・-・-- ・・ ---・- ---- ・・-- ---・- --- --・・- ・・・ ・・・- ・ ・・ ・-・・ ・・・ ---・- ・・ ・-・・・ ・・-・ ---・ ・・- -・ ・・ -・ ・・・ ---- ・・-・ ・・・ ・
--・・- ・-・ ・-・-・ --・-・ ・・ -・・・ ---- ・・-・ ・・・
--・-- ・--・- -・--・ -・・・ ・・ ・-・-・ ・-・-- ・・ ---・- ---- ・・-- ---・- --- --・・- ・・・ ・・・- ・ ・・ ・-・・ ・・・ ---・- ・・ ・-・・・ ・・-・ ---・ ・・- -・ ・・ -・ ・・・ ---- ・・-・ ・・・ ・
この√で終わりだからもう読まなくて良いよ
何やってんだよ…(呆れ)
--・・- ・-・ ・-・-・ --・-・ ・・ -・・・ ---- ・・-・ ・・・
--・-- ・--・- -・--・ -・・・ ・・ ・-・-・ ・-・-- ・・ ---・- ---- ・・-- ---・- --- --・・- ・・・ ・・・- ・ ・・ ・-・・ ・・・ ---・- ・・ ・-・・・ ・・-・ ---・ ・・- -・ ・・ -・ ・・・ ---- ・・-・ ・・・ ・
>>825
ごみは捨てて埋めないとな?
--・・- ・-・ ・-・-・ --・-・ ・・ -・・・ ---- ・・-・ ・・・
--・-- ・--・- -・--・ -・・・ ・・ ・-・-・ ・-・-- ・・ ---・- ---- ・・-- ---・- --- --・・- ・・・ ・・・- ・ ・・ ・-・・ ・・・ ---・- ・・ ・-・・・ ・・-・ ---・ ・・- -・ ・・ -・ ・・・ ---- ・・-・ ・・・ ・
--・・- ・-・ ・-・-・ --・-・ ・・ -・・・ ---- ・・-・ ・・・
--・-- ・--・- -・--・ -・・・ ・・ ・-・-・ ・-・-- ・・ ---・- ---- ・・-- ---・- --- --・・- ・・・ ・・・- ・ ・・ ・-・・ ・・・ ---・- ・・ ・-・・・ ・・-・ ---・ ・・- -・ ・・ -・ ・・・ ---- ・・-・ ・・・ ・
【ミリマス】765学園物語HED √PG
【ミリマス】765学園物語HED √PG - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1478784771/)
埋め支援よろ
俺が埋めろって言ってんのになんで埋めねーんだ
埋めろ
埋めろ
埋め埋め埋め埋め
埋めろや
埋めろ
いい加減にしてもらおうか
言って分かるようなバカじゃないぞそいつ
ぶっちゃけスレタイから推察できるような酉用意する方もする方や
うっせーバーカ
>>839
正直反省してる
翌日
P「…」
静香「先輩、調子はどうですか?」
P「薬が効いたんだな、昨日みたいな怠さはないよ」
静香「それなら良かったです」
P「ただまあ…どのみちうどん作りはしばらくお休みだな」
静香「そうですね、流石にインフルエンザでは…」
P「そういえば静香の方はインフルエンザ、大丈夫なのか?」
静香「はい、部屋の湿度を上げていますしこの気温なら大丈夫かと」
P「それならちょっとは安心出来るな…俺のせいで静香がインフルエンザになったら申し訳ない気持ちでいっぱいになる」
静香「もし私がインフルエンザになったら私の看病、してくれますか?」
P「それはもちろん」
静香「ふふ、でしたらインフルエンザになるのも悪くないかも」
P「そうか…?」
静香の考えることは良くわからないな
静香「ところで朝のお薬のために、うどんを作ってきました」
P「ありがとう」
どんぶりを持つ静香に手を差し出すが、何故か座ったまま動かない
静香は昨日のようにうどんに息を吹きかけると
静香「どうぞ」
俺の方へ箸を差し出した
P「あ、あの、静香?」
静香「はい、なんでしょうか」
P「自分で食べられるんだけど…」
静香「駄目です、熱が下がったとはいえまだ安静にしていないと」
P「いや、安静とは言ってもだな」
静香「大丈夫です、私がちゃんとお世話しますから」
静香「さ、うどんが乾いてしまいますよ」
P「む…」
確かに無駄な問答をして美味しいうどんを駄目にするのはもったいない
ここは静香の言葉に甘えるとしよう
P「わかった、じゃあ食べさせてくれる?」
静香「はい」
うどんを食べ、薬を飲んだ俺は再び横になる
P「しかしあれだけ寝たから寝付けないな」
静香「それでも、寝ないと回復しませんよ?」
P「一応努力はするけど」
静香「それなら、子守唄を歌いましょうか?」
P「や、それは恥ずかしいんだが」
静香「大丈夫です、今は私と先輩しか家にいませんから」
P「そうなのか」
ということは今は二人っきり?
P「…」
二人っきりだと意識すると尚更恥ずかしくなってくる
静香「先輩、顔が赤くなってる見たいですが…まさかまた熱がぶり返したんじゃ!?」
P「い、いや、大丈夫だ」
なんとか誤魔化して目を閉じる
このまま眠ればこの恥ずかしさも消えるかもしれない
静香「…真っ暗な空光る、小さなお星様と」
静香が何かを歌い出す
その歌はすっと耳に入ってきて
P「…」
俺は簡単に意識を手放せた
静香「…おやすみなさい」
一旦ここまで
静香「…あふ」
先輩が眠ったのを確認すると気が緩んだのか、欠伸が出た
昨日あまり眠れなかったからか、眠気を自覚すると一気に眠たくなる
静香「…少しだけ」
先輩のベッドにもたれ掛かって目を閉じる
私の意識はあっという間に沈んでいった
「…」
Pと静香の眠る部屋に、誰かが入ってきた
その誰かは眠る静香を見て一目でわかるくらいに不機嫌になるが、椅子の下に落ちていたタオルケットを持ち上げるとそっと静香にかけた
「…」
そしてPの汗をサッと拭いた後、新しい水やタオルを用意する
「…早く良くなってくださいね」
そう呟き扉に向かう誰かは、部屋からでる直前に振り返ると
「…今だけは、良い思いをさせてあげるわ」
それだけを告げ、部屋から出て行った
P「よし」
完全に熱も下がり体の調子も悪くない
熱が下がって1週間経っているしもう大丈夫だろう
静香「おはようございます先輩、調子はいかがですか?」
P「おはよう静香、ご覧の通り快調だ」
静香「良かったです」
P「静香のうどんのおかげかな」
実際問題あのうどんの美味しさが回復に一役買っていた気がする
美味しいものは身体に活力を与えると貴音が以前言っていたけど、本当だったな
…もっと昔にも誰かが言っていたっけ
静香「そ、そうですか?ありがとうございます」
静香が照れくさそうにはにかむ
その微笑みに思わずドキッとする
ここ数日弱っているときにずっと側にいてくれて、看病してくれていたからか今まで以上に静香を意識するようになっていた
我ながらなんとわかりやすい
俺は頭を振って意識を切り替える
P「潜伏期間的にももう大丈夫だろうし、早速うどんの研究を再開しよう」
静香「そうですね、手に入れた材料も合わせて最高のうどんを作りましょう」
P「ああ、静香の親父さんに静香の本気を解らせてやろう」
静香「はい!」
俺達は気合いを入れ直して地下へ降りていった
一旦
なーんかいまいち上手く進まない
志保は静香に対して
自分の夢のために踏み出してることは認めてるし尊敬もしている
けど父親との確執があるのを判っているにも関わらずPを巻き込んでいるから気に入らない、やるなら一人でやれと思っている
後Pが構ってくれなくて寂しい
だからPの方から構って貰っている静香が死ぬほど気に入らない
こんな感じ
P「…ふむ」
静香「これも駄目ですね…」
新メニュー開発を再開してから三週間が経った
しかしこれといったものは中々出来ず、俺達は完全に行き詰まっていた
静香「…っ、文化祭まであと二月しかないのに…」
P「いくつか良さそうな物は出来てるんだけどな」
静香「『良さそう』じゃ駄目なんです、良い物を作らないと…」
P「静香、焦る気持ちはわかるけど一旦休憩しよう」
静香「休憩ですか?ですが…」
P「こういう時は一度新メニューの事を完全に忘れてリラックスするんだ」
P「じゃないと考えが凝り固まって出るアイディアも出なくなる」
静香「…わかりました」
焦りが顔に出ている静香を宥め、休憩させる
静香「…はあ」
中々上手くいかないからか、静香がため息を漏らした
P「何か気分転換しようか、静香の趣味とかは?」
静香「趣味ですか?私はテニスが趣味です」
P「テニスか」
そういえば球技大会の時もテニスに出場してたっけ
P「よし、じゃあ今からテニスしに行くか!」
静香「え?」
P「ほらほら、用意する用意する」
静香「も、もう、強引ですね」
そう言いつつも静香はどこか嬉しそうに出掛ける準備を始めた
静香「先輩はテニスのルールなどは?」
P「問題ないよ」
静香「わかりました」
町のスポーツクラブへ来た俺達は、テニスウェアに着替えコートに立っていた
静香のテニスウェアはとても良く似合っており、普段と違いポニーテールなのも相まって新鮮で可愛かった
静香「それでは、サーブは私からいきます」
P「わかった」
ラケットを構え真剣な表情で俺を見る静香
そしてボールを投げると
静香「ふっ!」
鋭いサーブがコートに突き刺さった
P「っ!」
サーブをするために跳ねた際に見えた太股に目を奪われていたとはいえ反応が遅れる程の打球に、俺は驚いた
静香「ふふ、どうですか?」
静香が少し得意げな顔で言ってくる
P「良いサーブだ」
静香「このゲームは私が完封してしまうかもしれませんね」
P「さて、そう簡単に行くかな」
静香「次、いきますよ」
P「来い」
…楽しい
静香「あっ!」
私の横をボールが通り過ぎる
先輩のスマッシュが炸裂したからだ
P「よしっ!」
嬉しそうにガッツポーズをする先輩
大人気ないけど、先輩が楽しそうだから私も楽しくなってくる
静香「やりますね、先輩」
P「まあな」
静香「なら私も手加減しませんよ!」
先輩は私が行き詰まっていたから、連れ出してくれたんだろう
実際上手くいかなくてストレスが溜まっていたのは間違いなくて
あのままだときっと何かに八つ当たりしていたと思う
もしかしたら先輩に当たっていた可能性だってある
だから今日、先輩が連れ出してくれて良かった
やっぱりこの人は、私を…最上静香を見てくれてるんだ
そのことが堪らなく嬉しかった
一旦ここまで
P「いい汗掻いたな」
静香「はい」
コートのベンチに座って水分補給をする
試合は結局静香が勝った
良いところまでは行ったのだが凡ミスから一気に勝負を決められてしまった
P「強いな」
静香「ふふ、昔からやっていますから」
P「また勝負してくれるか?」
静香「はい、挑戦ならいつでも」
P「次は勝つからな」
静香「いいえ、次も私が勝ちます」
P「はは」
静香「ふふ」
なんだか可笑しくなって思わず笑ってしまう
それは静香も同じだったようだ
P「そろそろ帰ろうか」
静香「そうですね」
日も傾き始めているし、あまり遅くなると桃子が不機嫌になるからな
P「また来よう」
静香「はい」
俺達はテニスコートを後にした
先輩の家に戻りうどん作りを再開した
出かける前と違い、とても機嫌良くうどんが打てる
その時に気付いた
父のやり方…食べてくれる人のことを考えもしないうどんが嫌で家を出たのに
私は父への対抗心だけでうどんを打っていた
そんな私が打つうどんが上手くいかないのも当然だ
だから私は
私のうどんを食べてくれる人、食べて欲しい人のことを想い、うどんを打つ
出来上がったうどんを、あの人は喜んでくれるだろうか?
そんな期待を胸に、私はうどんを打った
P「…」
出かける前後で、明らかに静香の雰囲気が変わった
今まではどこか焦った風な印象を受けたが、今は何というか…
そう
とても楽しそうに見える
静香の中で何が変わったのかはわからない
だけど今の静香なら大丈夫
そう思えるくらい、静香は活き活きとしていた
静香「お待たせしました」
静香がうどんの入ったどんぶりを置く
具はかまぼことわかめだけのシンプルなうどん
何度も見た、俺達が屋台で出しているかけうどんだ
しかし今俺の前にあるうどんは、明らかに今までと存在感が違った
P「いただきます」
うどんを一口啜り、出汁を飲む
…気が付くとどんぶりは空になっていた
P「…はっ!これは…」
静香「とても良い食べっぷりでした」
P「あっという間に食べてしまった」
静香「凄い勢いでしたよ」
P「ああ…凄く、美味かった」
P「今までで一番の出来だよ」
静香「ありがとうございます」
P「けど一体何があったんだ?いつもと作り方は変わってなかったけど…」
静香「特別な調味料を使いましたから」
P「特別な調味料?それって…」
静香「ふふ、秘密です」
P「それは残念だ」
P「でもこのうどんなら…」
静香「はい、きっと父も認めてくれるはずです」
P「認めさせよう、絶対に」
静香「はい…!」
先輩が私の手を取る
それだけなのに凄くどきどきして顔が赤くなるけど
嫌な感じはまったくしなくて、それどころかその温かさを嬉しく思う
この温かさを離したくない
父に反抗するためじゃなくて
この人と歩いて行きたいから
私は父と戦う
先輩の手に自分の手を重ね、そう誓った
一旦ここまで
長い間放置して申し訳ない
もうじき夏休みが終わる…といった頃
私たちの町では夏祭りがある
私はせっかくなので先輩と夏祭りに行きたくなり、誘ってみることにした
静香「先輩」
P「ん?」
静香「今日、夏祭りですね」
P「そうだな…夏祭りだな」
静香「…」
P「…」
会話が終わってしまった
静香「こほん、先輩、一緒に夏祭りに行きませんか?」
P「ん、良いよ」
あっさり受け入れられる
私は誘うのに結構勇気を出したのに…
静香「それでは夕方から準備をして、行きましょう」
P「わかった」
P「静香」
静香「…?はい、どうしました?」
P「夏祭り、楽しみだな」
静香「…!はい!」
そして夏祭りの時間がやってくる
浴衣を着て、先輩と二人で屋台を回って花火を見るつもりだったけど…
志保「兄さん、これをどうぞ」
P「ん、ありがとう志保」
いつの間にか帰ってきていた志保が先輩にぴったりとくっついていた
志保「…兄さんとこうやって夏祭りに行くのも久しぶりですね」
志保「迷子にならないように手を握ったりしてくれてました」
P「そうだったっけ?」
志保「…はい、そうだったんです」
静香「…?」
どこか寂しそうな志保の表情が、少し気になった
あまり先輩と喋れないまま時間が過ぎていく
あと一時間もすれば花火が上がり始めるだろう
それまでには何としてでも二人になりたい
しかし志保がそう簡単に私と先輩を二人にするとは思えない
どうすれば良いんだろうか…
志保「…兄さん、少し待っていてください」
P「ん?ああ」
志保「…こっちに来なさい」
志保が私の腕を掴み、歩き出した
静香「え?ちょ、ちょっと志保!」
少し離れた人気の無い場所で、志保は止まった
静香「志保、一体…」
志保「…お前、兄さんに何をしたの」
静香「何をいって…」
志保「私にはわかる、兄さんがお前に惹かれているってことが」
静香「せ、先輩が?」
先輩が私に好意を抱いてるってこと?
もし本当なら凄く嬉しい
志保「…前に言ったわよね、兄さんに手を出すなら生まれてきたことを後悔させてやるって」
あの時の志保の目は本気だった
…だけど
静香「…そうね、言われたわね」
静香「だからどうしたの?」
私だって退く気は微塵もない!
志保「…何ですって?」
静香「後悔、させられるものならさせてみなさいよ」
静香「私はもう退かないって決めた」
静香「私は先輩が好きよ、あの人の温かさを私だけに向けて欲しいと思ってる」
志保「父親との衝突に巻き込んで兄さんを苦しめながらよくもそんなことを」
静香「そうね、だけど私はわがままだから」
静香「自分の未来も、先輩も、必ずこの手で掴み取る」
静香「それを邪魔するなら、例え志保だって」
志保「…」
静香「…」
私達はお互いに睨み合う
志保の目に渦巻く黒い感情
嫉妬、怒り、憎しみといった私への悪感情が見える
だけど今の私にはそんなものに怯みはしない
認めた自分の感情が力をくれる
あの人がくれた温かさが私を奮い立たせる
だから私は、志保と真っ正面からぶつかれる
志保「…例え兄さんに恨まれようと、憎まれようと」
志保「お前だけは必ず、私がこの手で兄さんの前から消してやる」
静香「やってみなさい」
静香「何度だって言うわ」
静香「私はどれだけ志保に恨まれようと、憎まれようと」
静香「必ずこの手で先輩との未来を掴み取る」
志保に拳を突き出す
志保は私の拳を睨んだ後
志保「…覚悟していなさい」
そういって背を向け、歩いて行った
静香「ただいま戻りました」
P「ん、おかえり静香…あれ、志保は?」
静香「用事があるみたいで…先に帰ったみたいです」
P「そうなのか」
声くらいかけてくれたら良かったのに
静香「…先輩」
P「ん?」
静香「手を…繋いでも良いでしょうか」
P「ど、どうして急に?」
静香「い、いえその…人ごみの中ではぐれないようにと!」
P「あ、ああ、そうだな、はぐれたら大変だ」
すこしひやりとした静香の手を握る
静香は静香で顔を伏せてはいるものの耳まで真っ赤になっていた
P「…花火見れるところ、行こうか」
静香「…はい」
ぎこちないながらも二人で歩き出す
途中の屋台を見ながら、俺は我が家の花火スポットへ向かった
P「着いた」
静香「ここは…凄く良い場所ですね」
P「だろ?昔から花火はここで見てたんだ」
ちょうど良い時間に到着できたようで、すぐに花火があがり始めた
静香「わあ…」
静香が声を上げる
静香「私が今まで見てきた花火よりも近くて、とてもよく見えますね…」
P「花火は良いよな」
静香「はい、凄く綺麗です」
こうやって誰かと二人だけで花火を見るというのは初めてかもしれない
…その相手が静香で本当に良かった
心からそう思う
繋いだ手に力が入った気がして、俺は握り返す
花火が終わるまで、俺達は手を繋いでいた
P「終わったな」
静香「そうですね…」
花火の余韻に浸りながら来た道を戻る
とても充実した気分だ
静香「今日の夏祭りは、今まで一番楽しかったです」
P「それなら光栄だよ」
静香「きっと先輩が一緒だったからですね」
P「…」
静香「私、家を出て正解でした」
静香「今まで知らなかったことや見えなかったもの」
静香「たくさんの事を知ることが出来て…」
静香「そんな時、先輩は何時も傍にいてくれました」
静香「私がたくさんの事を経験出来たのは貴方のおかげなんです」
P「…俺は背中を押しただけだよ」
P「静香がたくさんの事を知ることが出来たのは静香自身が努力したからだ」
静香「そうかもしれませんね、でも…」
P「でも?」
静香「私のうどんが完成したのは、先輩のおかげなんですよ?」
P「それは、一緒に北海道に行ったから?」
静香「それだけじゃないです」
P「俺、他に何かやったっけ?」
静香「あの日、私は家を出た本当の理由を思い出しました」
静香「食べてくれる人の事を考えない父のうどんが嫌で家を出たのに」
静香「私はずっと父への対抗意識だけでうどんを打っていたんです」
静香「父と同じく、食べてくれる人の事を考えないうどんを作っていたんです」
静香「だけどあなたが、その気持ちを思い出させてくれた…」
静香「だから私は、食べてくれる人…大切なあなたを想ってうどんを打ったんです」
P「…」
静香「私は…私はこれからもあなたと一緒にいたい」
静香「あなたと一緒にうどんを作って、あなたと一緒に笑って、泣いて、また笑って」
静香「同じ時間を歩きたいんです」
静香「先輩」
静香「好きです」
静香「私の時間をあなたのものに…してくれませんか…?」
一旦ここまで
P「…静香の時間を、俺のものには出来ない」
P「…同じように、俺の時間を静香にあげることも出来ない」
静香「…っ、そう…ですか」
静香が顔を伏せる
P「だけど」
静香「嫌です」
静香「聞きたく…ない」
肩を震わせ、涙声で話す静香
P「…静香」
静香「わた、私は…嫌です…聞きたくない…!」
耳を塞いでいやいやと首を振る
P「静香、ちゃんと最後まで聞いてくれ」
静香の手を掴み、落ち着かせる
P「俺達の時間は、自分だけのものだ」
P「誰かにあげたり出来るものじゃ無い」
静香「だけど…!」
P「ええいこの分からず屋め…!」
俺は静香を抱き寄せる
最初は抵抗していたものの、次第に大人しくなった
P「俺達の時間は自分自身のものだ、だけどな」
P「二人で新しい時間を紡いでいくことは出来るんだ」
静香「新しい…時間…?」
P「そうだ」
抱き締めた静香の頭を撫でる
P「俺と静香が紡ぐ新しい時間、それは俺達だけのものなんだ」
P「俺達だけがその時間を共有できる、だから」
P「俺は静香と一緒に、新しい時間を紡いでいきたい」
静香「せん…ぱい…」
P「どんなに辛くても、二人で共有出来れば苦しさは半分になる」
P「どんなに悲しくても、二人でいれば分かち合える」
P「だから静香」
P「俺と一緒に、新しい時間を紡いでくれないか」
俺の告白を聞き、静香が俺の身体を抱き締めてきた
静香「私は、あなたが好きです」
静香「あなたとの未来を、私も紡ぎたい」
静香「だから先輩、私からもお願いします」
静香「私と一緒に…同じ未来を歩いてくれますか…?」
P「ああ、もちろんだ」
P「俺も、静香との未来を望む」
P「だから歩いて行こう、二人で一緒に」
静香「…はい!」
静香「でも先輩」
P「ん?」
静香「私、まだ先輩の口から聞いてません」
P「何を?」
静香「好きだって、まだ聞いてないです」
P「あー…」
頬を掻いて目を逸らす
P「…恥ずかしいから今度で良いかな?」
静香「駄目です、ちゃんと言ってください」
P「…わかった」
P「俺は静香が好きだ」
P「ずっと一緒に歩いて行きたい」
P「だから、その…これからも、よろしくな」
静香「…はい!」
静香「…もう少し、このままで良いですか?」
P「俺は構わないけど…」
静香「けど?」
P「いや、さっきから蚊がさ」
静香「…」
P「…」
静香「…帰りましょうか」
P「…うん」
一旦ここまで
P「…」
さて、困った
静香「んー…」
家に帰った俺達は静香の希望により今、俺の部屋にいた
そこまでは良かったのだが…
静香が俺の腕にコアラのように引っ付いているのだ
おかげで身動きが取れない
P「静香、そろそろ」
静香「もう少しだけ…」
P「…」
前回のもう少しだけから一時間は経ってるんだが…
もうすぐ日付も変わる時間なのでもしかしたら眠いのかも知れない
P「静香、寝るならベッドで寝た方が良いぞ」
静香「…わかりました、寝ます」
そういってコアラモードを解除した静香は
俺のベッドの上に転がった
P「静香、静香、そこは静香のベッドじゃないぞ?」
静香「知ってます、でも先輩は寝るならベッドでとは言いましたけど、どのベッドかは言いませんでした」
P「屁理屈を…」
静香「…離れたくないんです」
静香「時間はまだまだありますけど、この瞬間は今しか無い」
静香「焦らないって決めたけど、だからと言って勿体ない使い方はしたくないんです」
静香「だからあなたと過ごす時間を、私は1秒だって無駄にしたくない」
静香「一緒にいられる間は一緒にいたいし、甘えたいんです」
P「静香…」
静香「もちろん先輩が迷惑だって言うなら私は」
P「迷惑なんかじゃないよ」
静香の頭に手を置く
P「そこまで想って貰えて、迷惑だなんて言うわけないじゃないか」
静香「先輩…」
P「前も言ったけど、静香はどんどん甘えて良いんだ」
P「俺はこれからも、静香が甘えられる場所で居続けたい」
静香「…はい!思う存分、甘えちゃいますね」
P「ああ、何でも来い」
静香「では手始めに…今日は一緒に寝てください」
P「任せろ!…今、なんて?」
静香「今日は一緒に寝てください」
P「…ほ?」
結局この日は静香と一緒に寝ることになった
P「…」
静香「こうやって一緒に布団に入っていると北海道を思い出します」
P「北海道か…」
そういえば同じ布団で寝たっけな
静香「あの時あなたに頬を突かれて本当にビックリしたんですよ?」
P「お、起きてたのか…」
恥ずかしいな
静香「まあ…私も頬を突いたのでお相子ですけど」
P「そっか…」
何故すぐに寝た、あの時の俺!
静香「…また、行きたいですね」
P「北海道に?」
静香「北海道もそうですけど…あなたと一緒に、色んな世界を見てみたいですね」
P「ん、そうだな…」
静香「香川や秋田にも行きましょう、愛知県でも良いですし」
P「はは、静香は本当にうどんが好きだな」
行きたいところ全部うどんが有名なところだ
静香「はい、大好きです」
静香「でも今はそれ以上に、あなたが好きです」
P「…不意打ちはずるいぞ、照れるじゃないか」
静香「ふふ、イタズラ成功ですね」
P「やるじゃないか」
静香「あ、背中向けないでください」
P「はいさいやめやめ、もう寝るぞ」
静香「…そうですね、日付も変わっちゃいましたし」
P「明日から屋台も再開するんだし、ゆっくり休もう」
静香「そうですね、では寝る前に一つお願いが」
P「なんだ?」
静香「ぎゅっと、抱き締めてください」
静香「力強く、ぎゅっと」
P「…わかった」
俺はもう一度静香の方を向き、抱き締めた
静香「あなたの温もりが、私を強くしてくれる」
静香「あなたの心臓の音が、私に勇気をくれる」
静香「あなたの眼差しが、私を奮い立たせてくれる」
静香「あなたが、私を、最上静香を見てくれている」
静香「だから私は前に進めるんです」
P「静香」
静香「あなたからもらった沢山のものを、私は一つ一つ大事にしていきたい」
静香「だからこれからも、私を見ていてくださいね」
P「ああ、誰よりも近くで、ずっと傍にいるから」
静香「…はい!」
静香は最高の笑顔を見せた後、目を瞑り俺にキスをした
一旦ここまで
次の更新辺りで新スレ建てて移行しようかなと
後765学園とは別に新シリーズ「二人」っていうのを書き始めました
完成したらこっちにも建てるのでお楽しみに
翌日
黒井「…というわけだ」
P「はあ」
黒井先生のところに屋台を取りに来た俺達
しかしそこにあったのはもはや屋台というには違和感バリバリ、魔改造されすぎた屋台車があった
黒井「さて、この屋台だが」
P「これはもはや車じゃないですかね」
黒井「ええい話の途中に口を挟むな」
P「すいません」
静香「あの黒井先生、私達はまだ学生なので車の運転は…」
黒井「問題ない、これは車では無く屋台車だ」
黒井「確かにエンジンはついているがこれは屋台車なのだ」
まるで自分に言い聞かせるかのようにこれは車では無く屋台車だと繰り返す黒井先生
P「ところでこの車ですが」
黒井「屋台車だ」
P「…この屋台車ですが、どうやって動かすんですか?」
黒井「運転席…ごほん、屋台車前方の部屋にボタンが配置されている」
黒井「その中の一つを押せばカーナビが起動し、行きたい場所を選択すれば自動で目的地へ向かってくれる」
静香「便利ですね」
P「中の調理台、凄いですねこれ」
黒井「当然だ、最高のものを揃えたからな」
黒井「しかしうどん作りに関する器具は整えてはいない」
黒井「これに関しては貴様達が自分の力で作った方が間違いなく良いものが出来るからな」
静香「黒井先生…」
P「期待に応えられるように精進します」
黒井「…ふん」
照れ臭そうにそっぽを向く黒井先生
静香と運転席に乗り込む
P「では黒井先生、ありがとうございました」
黒井「…ふん、うどんの玉は常に一つは取っておけ」
P「わかってます」
静香「ありがとうございました」
カーナビを起動し、行き先を入力をする
黒井「静香ちゃん」
静香「?はい」
黒井「君の父親が何か企んでいるようだ、学園側に何か働きかけている」
静香「…父は、一体何を」
黒井「私にも分からん、あの狸学園長はそう言う情報は下には流さんからな」
静香「…ありがとうございます、黒井先生」
静香「でも大丈夫です、父が何をしてこようと私はそれを越えてみせます」
黒井「随分と自信があるようだな」
静香「はい、私にはこの人がついていますから」
黒井「…ふん、なら大丈夫だな」
静香「はい!」
P「そろそろ行きます」
黒井「ウィ」
黒井「貴様達の健闘を祈る、アデュー」
再開した屋台のうどんは中々に好評で、忙しい日が続く
忙しさに追われているといつの間にやら夏休みが明け、文化祭が近付いていた
P「時間が経つのは早いな」
静香「はい、ですがあなたと一緒だととても濃厚な時間でした」
P「そう思ってくれるなら嬉しいよ」
静香「…後三日ですね」
P「ああ…どうなるかはわからない、けど」
静香「私達なら、絶対に勝てます」
P「だな、絶対に勝てる!」
P『料理勝負…ですか?』
高木『うむ』
文化祭直前のある日、俺達は高木学園長に呼び出されていた
高木『最上くんの父上は料理勝負を所望しているようでね』
静香『私の方は問題ありません』
高木『そうかい?別に勝負を受ける必要はないと思うのだが』
静香『いつまでも逃げているだけじゃ先へは進めません』
静香『私は自分の未来のために進むって、決めたんです』
高木『…そうか』
高木『では私の方から彼に連絡しておこう』
P『ありがとうございます』
高木『君たちの活躍を、そして最上くんの言った未来を、見せて貰うよ』
静香「何故でしょうね、なんだかわくわくしています」
P「それはきっと、静香のお父さんにうどんを食べて貰える機会だからじゃないかな」
P「勝負である以上は必ず審査員がいるだろう」
P「勝負には参加してこなくても、審査員として参加してくるはずだ」
P「だからそこで、食べて貰おう」
P「静香の…俺達のうどんを」
静香「そうですね、勝負とか関係なしにお父さんには美味しいうどんを食べて欲しいです」
P「明明後日、頑張ろう」
静香「はい!」
そしていよいよ、運命の日を迎えた
P「いよいよ今日だな」
静香「はい」
地下室でどんなうどんを出すか打ち合わせをする
志保にも参加して欲しかったのだが、昨日の夜友達の家に泊まったらしく朝から姿を見ていない
静香「やはり奇をてらわず基本のうどんで行くべきですね」
P「そうだな、俺もそう思う」
静香「準備、出来ました、行きましょう先輩」
静香が手を差し出してくる
P「ああ、行こう」
差し出された静香の手を握り、俺達は歩き出した
亜利沙『えーごほん!あーあーマイクテスマイクテスアイドルちゃん可愛いなあいうえお!』
亜利沙『えー本日は765学園文化祭にご来場いただきまことにありがとうございます!』
亜利沙『本日はお昼過ぎより中等部のグラウンドにてなんとなんと料理勝負を行っちゃいます!』
亜利沙『入場出来る人数には限りがありますので入手はお早めにお願いします!あ、関係者席は邪道ですからね!』
亜利沙が料理勝負の宣伝をしていた
このまま司会進行もやるのだろう
俺達は控室で待機していた
P「緊張、してるか?」
静香「してないと言えば嘘になります…でも」
P「でも?」
静香「あなたがこうやって手を握ってくれるから」
静香が握り合った手を持ち上げる
静香「私は怖いなんて思わない」
P「静香…」
静香「でもちょっとだけ、勇気をください」
P「どうすれば良い?」
静香「…ん」
答えを聞く前に、静香の方からキスをしてくる
静香「これで、大丈夫です」
P「勝手に徴収されちゃったか」
静香「ふふ、凄く勇気が貰えました」
亜利沙『さあいよいよ入場開始ですよ~!』
P「そろそろ始まるみたいだな」
静香「…行きます」
P「ああ、頑張ろう」
静香「はい!」
亜利沙『急遽決まったこの料理勝負!これが受ければ来年以降も定番化するかもしれませんね!』
亜利沙『あ、私司会を務めさせていただく松田亜利沙です~!正直ありさにこの話が来たときはどうしようか悩んだんですけど伊織ちゃんがありさを指名してくれたとのことでありさは二つ返事でOKを出して』
伊織『亜利沙!時間押してるんだからパッパと進めなさい!』
亜利沙『は、はい!それでは選手を紹介しますね!』
亜利沙『えーっと、挑戦者は中等部三年、最上静香ちゃんです~!』
静香「…」
俺と静香が壇上に上がる
亜利沙『うどんを作るのが得意な子ですね!ちなみにありさノートによるとつい最近ステキな人が…』
伊織『亜利沙』
亜利沙『はい!真面目にやります!アシスタントとして高等部三年の周防Pさんがついてます!』
P「…」
亜利沙『挑戦者のお二人は一体どのような料理を見せてくれるのでしょうか?楽しみですね~!』
亜利沙『続いては審査員の方達の紹介です!左から順に高木先生、四条貴音さん、そして特別ゲスト!全国に店を構える大型うどんチェーン店のオーナー!最上さんです!』
静香「…」
P「やっぱり出て来たな」
静香「先輩の予想通りですね」
亜利沙『では審査員の方々の紹介が終わりましたところで!挑戦者の静香ちゃんを倒すために待ち受ける四人を紹介しましょう!』
亜利沙『まずは一人目!お菓子作りが趣味でその甘ーいお菓子は体重を気にする我々の意志を容易く打ち砕く!天海春香さんです!』
…
亜利沙『…あれ?春香さーん?』
亜利沙の元に百合子が何やら紙を渡しに行く
亜利沙『…あー、今入った情報によりますと春香さんは佐竹飯店でタロイモを食べ過ぎてお腹を壊し棄権したそうです』
亜利沙『というわけで一試合目は静香ちゃんの不戦勝!』
会場からブーイングが飛ぶ
亜利沙『つ、次!次に待ち受けるのは佐竹美奈子ちゃん!』
亜利沙が次の相手の名前を読み上げる
P「佐竹さんか…」
静香「強敵ですね…」
佐竹飯店の看板娘なだけあり料理の腕は相当なものだ
亜利沙『佐竹美奈子ちゃんは佐竹飯店の看板娘ですね!料理が上手でとても優しい美奈子ちゃん!ありさの調べによるとお嫁さんにしたいランキング上位の常連さんです!』
亜利沙『さあ美奈子ちゃん!どうぞフィールドへ!』
…
亜利沙『…あれ?美奈子ちゃーん?』
再び百合子が何やら紙を渡しに行く
亜利沙『…えー美奈子ちゃんは佐竹飯店文化祭支店が大忙しで来られず、棄権したそうです』
亜利沙『よって静香ちゃんの不戦勝!』
再び会場がブーイングに包まれた
亜利沙『あ、ありさのせいじゃないんです!』
亜利沙『こ、今度こそ!三人目の刺客は一人暮らしだけど家族はいっぱい!家族のご飯はみんな手作りな元気な沖縄っ子!我那覇響ちゃんです!』
亜利沙『響ちゃんもお嫁さんにしたいランキング上位の常連さんですね!ありさも響ちゃんの家族になってご飯を作って貰いたいです!』
P「それ、ペット扱いなんじゃ…」
しかし会場を見渡すと男子生徒達はみんな頷いていた
響、人気あるんだな
亜利沙『さあそれでは響ちゃん!入場してください!』
…
亜利沙『…』
P「…」
静香「…」
亜利沙『百合子ちゃん、響ちゃんは…』
亜利沙が百合子に理由を聞こうとした時、遠くから響の声が聞こえてきた
響「ハム蔵-!いぬ美-!みんなー!自分が悪かったさー!」
…どうやらまたペット達に逃げられたらしい
亜利沙『…というわけで響ちゃん不戦敗です!』
もはやブーイングすらなかった
亜利沙『あー、お客さん減っちゃいましたが続けます』
微妙にテンションの下がった亜利沙が司会を続ける
…今度労ってやろう
亜利沙『静香ちゃんを待ち受ける最後の一人は』
「紹介は必要ありません」
P「その声は…」
静香「…志保」
志保「…」
静香の前に、志保が立ち塞がった
一旦ここまで
明日は新スレ建てます
誘導
【ミリマス】765学園物語HED √PG 後編
【ミリマス】765学園物語HED √PG 後編 - SSまとめ速報
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