服部瞳子「彼に連れられたバーで過ごす十月十一日」 (18)


カランコロンカラン

マスター「いらっしゃいませ」

P「ども」

瞳子「Pさん……ここって」

P「ああ、俺と瞳子が初めて会ったバーだよ」

マスター「ああ、どなたかと思えば瞳子さんにPさんじゃないですか。お久しぶりですね」

P「ええ、お久しぶりです。とりあえず、瞳子が良く飲んでたの二つ下さい」

マスター「かしこまりました」

P「ほら、瞳子隣座れよ」

瞳子「え、ええ……」

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P「瞳子」

瞳子「何かしら?」

P「誕生日、おめでとう」

瞳子「えっ……」

P「悪いな。ロマンチックとかそういうの、苦手でさ。いいシチュエーションとか作れなかった」

瞳子「……気にしないで。祝ってくれるだけで嬉しいから」

P「そうか。……もう一つ、謝る事がある」

瞳子「もう一つ……?」

P「ああ。…………悪い。あの時の約束、まだ果たせなくて」

瞳子「…………」

――――

P『こんばんはー』

マスター『おや、Pさんいらっしゃいませ。何にしましょう』

P『あはは、懐寒いんで一番安いヤツで』

マスター『ふふ、かしこまりました』

P『…………お』

瞳子『…………』

P『……あの人、いつも来てるな』

マスター『……惚れましたかな?』

P『間違っちゃいないかな。ちょっと声かけてみます』

マスター『ご武運を』

P『隣、いいかな』

瞳子『……どうぞ』

P『……名前、聞いても?』

瞳子『……服部瞳子よ』

P『瞳子、か。どこかで聞いたような……まあいいか。俺、こういう者なんだけど』

瞳子『……CGプロダクション……?』

P『あんたさえ良かったら……ウチでアイドル目指してみないか?』

瞳子『……名前を聞いておきながら、私をアイドルに誘うなんて、何かの皮肉?』

P『へ……?』

瞳子『いえ、ごめんなさい。少し自意識過剰だったみたい。知らなくても当然よね』

P『……服部、瞳子…………そうだ、思い出した。七、八年前だったか、そんな名前のアイドルが……』

瞳子『ええ、それが私よ。結局、夢を掴むことなく、リタイアしてしまったけどね』

P『…………』

瞳子『悪いけど、私はもうあの舞台に立つことは出来ないわ』

P『…………何があったかは、聞かない。多分、言いたくないだろうしな』

瞳子『そうしてもらえると、嬉しいわ』

P『でもな、そのカバンの中……』ガサガサッ

瞳子『あ、ちょっと……』

P『アイドル雑誌だ。最近の号なのに、何度も何度も読み返したようにボロボロ……』

瞳子『…………』

P『まだ、未練があるんじゃないのか?』

瞳子『……全く無い、といえば嘘になるわ』

P『なら……』

瞳子『でもね、一歩踏み出せないのよ。あの時の事を思い出すと』

P『…………』

瞳子『思い出す度に、肩も脚も震えだして……結局こうしてお酒に逃げる。もう何度もね』

P『…………』

瞳子『もう私は、あのスポットライトを浴びられないのよ。分かるでしょ?』

P『…………いや、そうは思わないな』

瞳子『え……?』

P『本当にその気が無いなら、名刺を見た時点でさっさと帰ったっておかしくない』

瞳子『…………』

P『もう舞台には立てない、もうスポットライトは浴びられない。でも……』

瞳子『…………』

P『まだ《立ちたい》んじゃないか? まだ《浴びたい》んじゃないか?』

瞳子『! ……』

P『瞳子にその気があるのなら、俺にサポートさせてくれ。必ずお前を、大きなステージに上がらせてやる』

瞳子『…………いいの? トラウマを抱えた女って、面倒よ?』

P『面倒なら、とっくに何人も抱えてるよ。今更一人増えたってどうってことないさ』

瞳子『……ふふっ、面白い人ね……』

マスター『またお越し下さい』

P『明日、空いてるか?』

瞳子『ええ』

P『そうか、なら十時にプロに顔出してほしい。形式的にオーディションを受けてもらう』

瞳子『分かったわ。……ねえ、Pさん』

P『どうした?』

瞳子『私を大きなステージに、って……約束よ?』

P『……ああ、もちろん。お前を不死鳥みたいに舞い戻らせてやる』

瞳子『ふふ、頼もしいわね。じゃあ、また明日』

P『ああ、またな』

――――

P「まだ、お前に大きな仕事を回してやれてない。……約束は、まだ果たせてない」

瞳子「そんな…………」

P「俺の腕が悪いからだな。瞳子、本当にすまん」

瞳子「……気にしないで、Pさん。だって……」

P「だって……?」

瞳子「私はPさんのお陰で、またアイドルをやろう、って思えたんだから。それだけでも充分よ」

P「瞳子……」

瞳子「それに、期限は決まってないわ。まだまだチャンスはあるってことよ」

P「……ありがとな」

瞳子「ええ」

P「まさか、瞳子から励まされるとはな」

瞳子「あら、それはどういう意味かしら?」

P「ああ、悪い悪い。……っと、そうだ。プレゼントがあるんだ」

瞳子「私に? 何かしら……」

P「ほら、これ」

瞳子「……イヤリング……?」

P「オパールだよ、十月の誕生石。石言葉は真実・友情、あと……」

瞳子「……希望、ね」

P「何だ、知ってたのか」

瞳子「……ふふ、ありがとうPさん。最高の誕生日プレゼントよ」

マスター「…………」スッ

P「ん?」

瞳子「あら……このお酒、頼んでいないけど?」

マスター「お気になさらず。私からのバースデープレゼントです」

瞳子「そういうことなら、ありがたくいただくわ」

P「こういう所に連れて来ておいてなんだけど、あんまり飲みすぎるなよ?」

瞳子「大丈夫よ、こう見えて心がけてるから」

P「……まあ、いいか。マスター、俺ももう一杯お願いします」

マスター「はい、Pさんの分はしっかり料金いただきますがね」

P「……手厳しいことで」

マスター「またお越し下さい」

P「……うっぷ」

瞳子「人に飲みすぎるなと言っておいて、それじゃあ格好つかないわね」

P「面目ない……」

瞳子「それで明日大丈夫なの?」

P「あ、ああ……俺明日オフだから……」

瞳子「ああ、そうだったわね。……じゃあ明日みんなにこのイヤリング自慢してまわろうかしら」

P「ぶっ!? そ、それだけはやめてくれ……留美さんに吊るし上げを食らう……」

瞳子「ふふ、冗談よ」

P「冗談に聞こえなかったぞ……」

瞳子「……ねえ、Pさん」

P「ん?」

瞳子「正直に言うと私、あなたにスカウトされてからもまだ迷ってた」

P「…………」

瞳子「またダメなんじゃないか、なんて、最初のころはずっと考えてた」

P「…………」

瞳子「でも、今は…………」


瞳子「…………お仕事、とても楽しいわ」


おわり

おわりです
誕生日おめでとう瞳子さんのSRまだかよぉ!(白目)
最近自覚した、三重士で瞳子さんが一番好き
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