黒子「じゃっじめんと、ですの」 (837)


 とあるのSSです

 黒子は正義のじゃっじめんと
 
 合言葉は、「黒子可愛いよ黒子」

 短い話をちょこちょこと投下します

 最初は、総合に投下した三短編と、短い掌編一つ。

 

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1327742202(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)


 
 ある冬の寒い日。
 特にこれといった用のない美琴は、部屋に籠もって図書館から借り出した本を読んでいた。
 せっかくの休日だけれども、とりあえず外出する用事はない。
 寒いし。
 部屋は暖かいし。

 んしょ、んしょ

 ふと気が付くと、黒子が外出の準備をしている。

「黒子、何処か行くの?」

 じゃっじめんと、ですの

「あー。巡回か。寒いのに大変ね。えらいえらい」

 ふんす、と黒子は胸を張る。
 誇らしそうなその姿に、美琴はクスクスと笑いながら頭を撫でる。

「そっか。それじゃあ風邪ひかないように、ちゃんと服着ないとね」

 はっ、と何かに気付いた黒子が素早く身を翻そうとしたところを、さらに素早く捕まえる美琴。

「こぉら、駄目駄目。面倒くさいとか動きづらいとかじゃなくて、ちゃんと厚着しなさい」

 美琴はてきぱきと黒子に上着を着せる。
 黒子は嫌々と抵抗するけれど、美琴は無視して服を着せていく。

「はい、コートは貸してあげる。それ、温かいのよ」

 着ぶくれた黒子は、真ん丸な姿になってすっくと立っている。

 もっこもこ、ですの

「んー。ちょろっと動きにくいかな? 歩いてみて?」

 
 黒子は言われたとおりに歩き出す。
 足を前に、というよりも、重心移動でえっちらおっちら、と。
 左右に揺れながら、えっちらおっちら。

「うん。歩けるわね。走るのは難しいけれど、テレポートできるからその辺りは大丈夫よね」

 黒子は頷いた。

 行ってまいります

「はい、いってらっしゃい。気をつけてね。なんかあったらすぐ連絡するのよ」

 黒子は立ち止まると首を振る。

 お姉さまは、ジャッジメントではありませんの
 ですから危ないことに近づいてはなりません

「何言ってんのよ。私はジャッジメントの手伝いなんてしないわよ」

 首を傾げる黒子に、美琴は続ける。

「私は、大事な可愛い後輩を助けに行くの。後輩を助けるのが先輩の努めでしょう?」

 てれてれ

「ほらほら、そんなところで照れてないで、早く行かないと、固法さんに怒られるわよ」

 今度こそ、行ってまいりますの

「はい、いってらっしゃい」

 もっこもこになった黒子は、寮を出ようと歩き出す。
 部屋を出て、玄関まで辿り着いたところで、

「どうした、白井、外出か?」

 寮監が玄関口に立っていた。
 どうやら、生徒の出入りを見守っている様子。

 じゃっじめんと、ですの

「そうか、この寒いのにご苦労だな。よし、行ってこい」

 
 行ってまいります

 とっとこ歩き出した黒子に、寮監は再び声をかける。

「あ、いや、待て。白井。いいか、そこで少し待っていろ」

 黒子が素直に待っていると、すぐに寮監が帰ってくる。
 その手には、シックな茶色のマフラー。

「今日は寒くなると天気予報で言っていたからな。これを貸してやろう。ほら、こっちに来い」

 黒子を引き寄せると、その首にマフラーをしゅるしゅると巻く。

「どうだ? 白井」

 もっこもこでぬっくぬく、ですの

「それは良かった。温かくして行ったほうがいいからな」

 行ってまいります

「あまり遅くならないようにな」

 はい、ですの

 寮を出たところで時計を見た黒子は、集合時間にやや遅れていることに気付く。
 仕方がないのでテレポート。
 何度目かのテレポートの結果、着いたところは黒子の所属するジャッジメント支部。
 かちゃりと戸を開けると、既にそこには固法先輩と初春の姿が。何故か佐天も。

 ごめんなさい
 遅れましたの

「ああ、白井さん、大丈夫。時間通りよ」

 固法が言い、初春が目を輝かせる。

「白井さん、随分温そうな格好ですね」

 
 もっこもこでぬっくぬく、ですの

「いいなぁ。それ、御坂さんのコートですよね。そのマフラーもですか?」

 満面の笑みで嬉しそうに頷く黒子。
 お借りしましたの
 マフラーは寮監さまからですの

「今日は寒いですからね。私も毛糸装備ですよ」

 手を挙げて、くるりと回って、

「ほら、毛糸の手袋に毛糸のマフラー」

 そこに佐天の手が伸びる。

「あと、毛糸のパンツ。そーれぇ!」

 ふわり、と初春のスカートがめくれた。
 慌ててスカートを押さえる初春。だけど黒子には、毛糸のパンツがハッキリ見えてしまった。

 おー、毛糸ですの

「佐天さん、なにするんですか!」

「いや初春、今のは明らかにネタ振ってたよね。捲ってくれって合図したよね?」

「ち、違いますよ」

「またまたぁ。見せたかった癖にぃ」

「違いますってば!」

「いい加減にしなさい。騒ぐようならここから叩き出すわよ」

 固法に言われて慌てて口を閉じる佐天と初春。
 
 それでは、私は巡回に行ってきますの


 
 黒子が一礼して出ようとすると、

「あ、待ってください、白井さん」

 ? と立ち止まる黒子。

「温かそうですけれど、頭だけがなんだか寒そうですよ、これ被ってください」

 差し出したのは毛糸の帽子。
 毛糸の色は手袋、マフラー、そしてパンツと三つお揃いだ。

 よろしいの? と首を傾げる黒子に初春は頷く。

「これ全部セットで佐天さんに貰ったんですけれど、私、帽子は駄目なんです」

 佐天も頷き、

「うん。初春のそれのこと、うっかり忘れてたんだよね。ショックだけど、勿体ないから良かったら白井さんが使ってください」

 初春が示しているのは頭の花飾り。
 確かに、花飾りを付けたままでは毛糸の帽子はかぶれない。
 黒子は、謹んで毛糸帽を受け取ることにした。
 初春が手を伸ばし、黒子に帽子を被せる。

「あはっ、ピッタリですね」

 ぬっくぬく、ですの

「白井さんも完全防寒装備ですよ」

 ぬっくぬくのもっこもこ、ですの
 では、巡回に行ってきますの

「はい、私はここでモニターしてますから。何かあったらすぐに連絡してくださいね」

 えっちらおっちらと、詰め所を出て行く黒子。


 
 詰め所を出てから十数分後、黒子は事件に遭遇することになる。

 それは、非常に些細な出来事から始まった。

 一人の青年が一万円札を一枚落としたのだ。
 財布に入っていたわけではない。何かの買い物をしたときに、一枚だけをポケットに入れていたのだろう。
 その札を、別の青年が拾う。
 拾った青年は、ネコババをするつもりなどなく、落とした青年に声をかける。
 落とした青年が礼を言って受け取れば、それで全てが終わるはずだった。
 しかし……
 落とした青年が、ホストとチンピラを足して二で割ったようなイケメン、
 拾った青年が、白髪の細い青年でなければ……
 
「おィ、落としもン……あァ?」

「あ、悪ぃ……ああ?」

 拾ったのは学園都市第一位一方通行。落としたのは同じく第二位垣根提督だった。

「あァ? 落としもンとは、垣根くンもいよいよ惚けてきたンですかねェ」

「はあ? 落とすわけねえだろ。モヤシみてえな貧相で惨めな男を見かけたから、あまりに哀れで恵んでやってんだよ」

「あァン? 誰が惨めだって?」

「こらてめぇ、誰が惚けたって?」

「おィおィ、今日から第二位が消えて第三位以下が全員繰り上げだァ、美琴も大喜びするンじゃなィですかねェ」

「はっ、第一位が死んで下位全員繰り上げか。御坂のやつも大喜びじゃねえか」

 麦野や食蜂を喜ばせるつもりは二人ともにないらしい。
 勿論、削板は論外だ。

「垣根くゥン、ちょっと息止めてくれるかなァ? 百年ほど」

「てめえが死ねっ!」

 じゃっじめんと、ですの

  
 二人の動きが止まった。
 二人の間に突然現れたのは、茶色のもっこもことした丸っこい物体。
 いや、おそらくは着膨れた人間。

「……なンなンですかァ、このもっこもこはァ!?」

「……温かそうだな」

 喧嘩の制止、ですの
 暴力は駄目、ですの
 じゃっじめんと、ですの

「……いや、だから誰だって」

 じゃっじめんと、ですの

「お、おい、一方通行、こいつは……」

「あァ?」

「着膨れのもっこもこでわかりにくいが、白井黒子じゃないのか?」

「ジャッジメントの?」

「ああ」

「美琴の後輩の?」

「御坂の後輩の」

「あ」

「どうした、一方通行」

「よく見たら、こいつの着てるの、常盤台……いや、美琴のコートじゃねェか」

「な……んだと……? つかお前、なんでわかるんだよ」 

「第一位なめンな」

 二人の鋭い視線を向けられても、黒子は動じない。


 
 じゃっじめんと、ですの
 喧嘩は駄目、ですの

「おい、そのコート、温いのか?」

 垣根の問いに頷き、

 ぬっくぬく、ですの

「着心地良ィのか?」

 一方通行の問いに胸を張る。

 フローラルな香り、ですの

「フローラル……だと?」

「くっ……さすがは第三位、超電磁砲御坂美琴ってわけか」

 つい先ほどまで殺気に満ちあふれていた二人の様子に黒子は当惑するけれど、それでもジャッジメントは負けない。

 じゃっじめんと、ですの
 喧嘩はおしまい?

 黒子の言葉で顔を見合わせる二人。
 そういえば、さっまで一触即発だったような気がする。

「おゥ、これ、落としただろ」

 一万円札を再び差し出す一方通行。
 垣根は汚いものでも見るように札を見下ろす。


 
「知るか。お前の触った札なんぞいるか。モヤシが伝染る」

「あ? 垣根菌のついた札なンか、まともに触ると思ってンですかァ? 反射して宙に浮かしてンですけどォ?」

「器用なことしてんじゃねえよ」

「いィからさっさと受け取ってくれませンかねェ、反射とはいえ手が腐りそォなンで」

「恵んでやるっつってんだろ、金拾うなんてだせえことしやがって。あれか、毎日下向いて金探しまわってんのか、世知辛いなぁ、第一位」

 黒子は二人のやりとりをきょろきょろと目で追っている。
 そして、理解した。
 これはお金のやりとりをしているのだと。
 一方通行が拾ったお金を、垣根提督が受け取り拒否しているのだと。
 お金は大切なものである。
 自らもレベル4であり、実家もそれなりの資産家である黒子はお金に困ったことはない。
 それでも、お金の大切さは幼少時よりしっかりと叩き込まれている。
 だから、垣根が受け取り拒否する理由がわからない。
 これが一方通行によるネコババであり、取り返そうとする垣根との争いならば理解できる。

 じゃっじめんと、ですの

 しかし、黒子は動いた。
 争いは止めなければならない。
 なぜなら、黒子は誇り高きジャッジメントなのだから。
 
 二人の動きは、黒子の行動によって再び止まる。
 二人の視線は黒子、いや、黒子の取りだしたものへと。
 
「なンだ、そりゃ」

「おい、わけわかんねえぞ、嬢ちゃん」

 そこには二枚の五千円札。
 黒子は一方通行の手から一万円札を奪うと、五千円札を一枚ずつ一方通行と垣根に渡す。

 はんぶんこ、ですの


 
「いや、そォいゥ問題じゃ……」

 はんぶんこ、ですの

「あのな、嬢ちゃん……」

 はんぶんこ、ですの

 黒子の意思は硬い。
 ジャッジメントは退かない媚びない顧みない。

「話は聞かせて貰った!」

 第三の男の乱入に、思わず身構える二人。

「……ちっ、三下ですかァ」

「なんだ、上条か」

「二人とも、くだらないことで争ってんじゃねえよ。周りの人がびびってるっての」

 二人の間に入る上条。

「それが第一位と第二位のやることか?」

 いつの間にやら上条の手には五千円札が二枚。

「というわけで、争いの元は上条さんが没収のことですよ」

「あ、てめェ」

 垣根が咄嗟に黒子に向き直る。

「おい、ジャッジメントの嬢ちゃん。あいつ、泥棒の現行犯だ」

 じゃっじめんと! ですのっ!

「え、ちょっと待て、白井! お……ぐっがふっ」

 
 必殺テレポドロップキック改め、もっこもこテレポドロップキックがツンツン頭に炸裂する。
 ノーバウンドと言うほどではないけれど、結構な仰け反り方でもんどり打って倒される上条。
 すかさず駆け寄った垣根は五千円札を回収。

「オッケー、取り返した、ありがとよ。ジャッジメント」

 垣根の賞賛に、ふんすっと胸を張る黒子。

 勝利、ですの

 一方通行は上条を助け起こしている。

「おォい、生きてるかァ?」

「な、なんとか……」

 上条を助け起こしたまま顔だけ振り向いて、

「で、その金は結局どうすンですかァ、垣根くン」

「あー、なんか、白けたというかケチがついたというか……」

 垣根が上条を見た。上条は垣根の視線に疑問符を飛ばす。

「よし、上条、この金で頼むわ」

「は?」

「鍋やろうぜ、鍋。寒いし。腹減った」

「いや待て、なンでそォなる」

「別に上条さんは構いませんが……というか、食費が浮くのは嬉しいけど……魚で良いか?」

「待て馬鹿、肉に決まってンだろ」

「てめ、やる気満々じゃねえか」

 仲が良いのか悪いのか、言い争いながらもまとまっていく三人を背景に、黒子はその場から去っていく。
 ジャッジメントは忙しいのだから。

 
 支部に戻って、報告を住ませると結構な時間になっていた。
 黒子は常盤台の寮へと帰っていく。
 もう、夕飯の時間が近い。

 お腹ぺっこぺこ、ですの

 働いた後のご飯は美味しい。
 だから、今日のご飯もきっと美味しい。
 お姉さまと一緒に食べるともっと美味しい。
 だから、黒子はご飯が楽しみだ。

「お帰り、黒子」

 お姉さま、ただいま戻りましたの

「あれ? その帽子とマフラーどうしたの?」

 黒子はそれぞれについて説明する。
 帽子は初春から。マフラーは寮監から借りたのだと。

「そっか。だったら、初春さんには明日お礼言わないとね」

 寮監さまにはこれから言いますの

「そうね。今からちょうど夕飯だし。一緒に行こうか、黒子」

 はい、お姉さま

「ところで黒子」

 はい

「今日の巡回はどうだった?」

 学園都市は、今日も平和でしたの 





 以上、「もっこもこですの」でした

 引き続き、二話目「おむかえですの」を投下します


 

  
「もしもし、黒子? うん、少し遅くなりそうだから。傘? え、雨降ってる? んー、なんとかするわよ。じゃあね」

 お姉さまに傘を届けますの

 黒子は耐寒完全装備。マフラーも毛糸の帽子も装備している。
 だから、もっこもこ。
 このマフラーは先日寮監に借りていたものだけど、ジャッジメントの活動のご褒美だ、と言って寮監がプレゼントしてくれた。
 毛糸の帽子は初春からのプレゼント。佐天から初春へのプレゼントだったけれども、頭に被れない初春が黒子に譲ってくれたのだ。
 今では二つとも、黒子のお気に入り。

 では、行ってまいりますの

「あれ? 黒子ちゃん、どこ行くの?」

 寮監に声をかけて寮を出ようとした黒子に声が掛かる。

 ……?
 
 きょろきょろと辺りを見回す黒子。
 周囲には誰もいない。

「こっちこっち」

 テレパシーですの!

「違う違う。そんなことしないから」

 玄関口の死角から姿を見せるのは、見知った姿。


 
 食蜂さま?
 かくれんぼですの?

「違うってば。今からお出かけ?」

 学園都市第五位心理掌握こと食蜂操祈だ。
 普段は学校以外、寮どころか部屋から出る事さえほとんど無いのに、こんな所にいるのは珍しい。

 はい、ですの

「ふーん。それじゃあ御坂さんは独りぼっちでお部屋かな? 操祈、遊びに行っちゃおうかな☆」

 お姉さまもお出かけ中、ですの

「むーっ、残念。たまには御坂さんと、って思ったんだけどぉ〜……ねえ、代わりに付き合わない?」

 黒子も今からお出かけですの

 ふるふると首を振る黒子。

「あーん。操祈、また黒子ちゃんに振られちゃったぁ、悲し〜なぁ、ぐすん☆」

 ごめんなさい、ですの

 深々と頭を下げる黒子に、慌てて手を振る食蜂。

「あれ、違うの、違うのよ? 私がわかってて無理言ってるだけだからね、いっつもいっつも黒子ちゃんの忙しそうなときばかりに声かけて、こっちこそごめんね?」

 黒子に頭を上げさせると、それじゃあ、今度こそ、御坂さんも入れて三人でケーキでも食べましょうね、と約束して食蜂は去っていく。
 その後ろ姿を見送った黒子は、マフラーを巻き直して玄関を出た。


 
 雨が降っている。
 黒子は傘を差す。
 ちゃぷちゃぷと水たまりを踏みながら歩いていくと、普段は通り過ぎるコンビニから小さな影が走り出してきた。
 驚く黒子は咄嗟に避けるが、小さな影はそれとは関係なく転んでしまう。

「あうっ」

 そっと近づくと、小さな女の子。
 金髪の、西洋人だろうか? とても可愛らしい子だ。

 大丈夫?

「あうう、大体平気。にゃあ」

 雨の中に走り出して、さらに転んだために泥だらけだ。

 平気じゃないですの

 黒子は女の子を屋根のある場所まで引っ張ると、横にしゃがみ込む。

 じっとしててくださいまし

 ひゅんひゅんと、テレポートで飛ばされる泥土や汚水。

「お姉ちゃんすごい。にゃあ」

 でも、テレポートで全ての汚れが消える訳じゃない。
 黒子がレベル5だったら、「人体以外を飛ばす」というやり方で考えれば出来るかも知れないけれど。
 レベル4の黒子では、それぞれ汚れを指定しなければならない。それでは、完璧に汚れを除去するのは無理だ。

 少し待っててくださいまし

 少女を置いてコンビニに入ると、黒子は包みを一つ。
 そこからタオルを出して、少女の足や手を拭き始める。これで、服の汚れ以外はおおかた取れてしまった。
 さらに、包みの中からもう一つ。


 
 召し上がれ

 ほかほかのアンマンが一つ。

「えっと、食べていいの?」

 召し上がれ

「いただきます」

 食べ始める少女に、黒子は名前を尋ね、自己紹介。
 少女の名前はフレメア・セイヴェルン。

「黒子お姉ちゃん、大体覚えた」

 急に走り出してきたこと、雨の日なのに傘も差していないことを合わせて注意しようとすると、

「温かくて甘いもの、ごちそうさま。にゃあ」

 再びフレメアが走り出そうとする。

 お待ちなさい

 テレポートでその正面に立つと、ビックリしてフレメアは立ち止まる。

「お姉ちゃん、能力者?」

 そうですの

「お兄ちゃんの敵?」

 敵?
 ……フレメアの敵ではありませんの

「……だったら、お兄ちゃんの味方?」


 
 はて、お兄ちゃんとは誰のことなのか。
 黒子にはわからない。
 そもそも敵味方といきなり言われても。
 黒子の敵は治安を乱す不逞の輩である。
 ではフレメアのお兄ちゃんは不逞の輩? そうは見えない。フレメアは良い子に見える。お兄ちゃんも悪人ではないだろう、多分。
 でも……

 少なくとも、フレメアの敵ではありませんわ

「にゃあ」

 フレメアが一枚のメモを差し出した。それは手書きの地図。
 簡略されすぎていて一見なんだかわからないけれど、ジャッジメントとして街の隅々まで目を凝らしている黒子にはわかる。

 ここにフレメアのお兄さまがいますの?

「大体、いる。にゃあ」

 では、参りましょう

 黒子はフレメアの手を引いて歩き出す。
 すると、くちゅん、とフレメアがクシャミ。
 黒子はマフラーを外すと、フレメアにしっかりと巻き付ける。

 マフラーぬっくぬく、ですの

「ぬっくぬく、にゃあ」

 そして二人は再び歩き始める。


 
 
 
「……駒場、遅いな」


「だったら、俺らも行くか?」

「行くかって……俺らはここ任されてるしなぁ」

「なに、心配ないだろう。あいつだったら、そこらの能力者程度じゃびくともしないからな」

「ああ、そっちの心配はしてねえよ」

「フレメアのほうか?」

「まさか迷子になるとはなぁ……うまいこと見つかりゃいいけど」

「お前が目を離すからだ、浜面」

「すまん、半蔵」

 ここですの?

「大体、あってる。にゃあ」

 未知の声と特徴ありすぎる既知の声が一つずつ。
 浜面と半蔵は咄嗟に銃を構えると声の主へ向ける。
 さっきまで確かに気配はなかった。
 二人とも、それについては断言できる。

「能力者か」

 じゃっじめんと、ですの

「浜面にゃあ」

「フレメア?」

「黒子のお姉ちゃんが連れてきてくれた。にゃあ」

「ジャッジメントは、迷子の案内もしてくれるってか?」

 走り寄るフレメアを半蔵に任せ、浜面は銃の照準を外さない。


 
「で、ここがどこだかわかってるんだよな?」

 黒子はきょろきょろと辺りを見回す。
 いつの間に合図したものか、周囲はチンピラ……いや、スキルアウトだらけだ。
 
「黒子のお姉ちゃんは……」

「フレメア、すまん。ちょっと黙ってろ」

 半蔵がフレメアをその場から離れるように連れて行く。浜面は動かない。

「あの子のことは感謝するが、それとこれとは話は別だ。この場所を知られたのはこっちのミスだが、むざむざ教えたままってのも、困るんでな」

 連れて行かれるフレメアの視線を向ける黒子。
 そして、そのまま浜面をじっと見る。

 迷子は届けましたの

「それで済むと……」

「……世話をかけた」

 ぬう、と浜面の反対側、出口のほうから巨体が姿を見せる。

「話は聞いた。知り合いが世話になった。礼を言う」

「いいのか、駒場」

「……その気なら、最初から大人数で乗り込んでくる」

 よほどの実力者でない限りな、と駒場は続けた。
 黒子は駒場を見上げる。そして浜面。いつの間にか戻ってきた半蔵を。
 そして、尋ねた。

 ロリコン、ですの?
 
「違えっ!」

 思わず叫ぶ浜面。
 何か色々なものが台無しになった瞬間だった。

 
「浜面、お前、女っ気がないと思ったら……」

「……フレメアに手を出すなよ」

「なんでアンタ達もそこでノって来るんだよっ! つか、俺に全部なすりつけるなぁっ!!」

 じゃっじめんと、ですの!

「あんたも、そこでジャッジメント言うなっ!!!」

 幼女の敵、ですの

「違えっ!」 

 ざわっ ざわっ とスキルアウトたちに動揺が広がる。

「お前らも本気で動揺するなーーーっ!」

 ざわっ ざわっ

「いい加減にしろ! 俺には、滝壺理后という歴とした……」

「なん……だと……」

「……浜面に女が?」

 ざわっ ざわっ ざわっ ざわっ

 
「なんで動揺が増えてんだよ!! ロリコンよりそっちのほうに納得できねえのかよっ!」

 虐められっ子、ですの

「誰のせいだーーーっ!」

「よし、今から浜面裁判だ、野郎ども、集まれ」

「え。なに、それ」

「……仕方あるまい」

「いや、待て。なんでそうなる、おい」

 ざわっ……もげろ ざわっ……もげろ もげろ もげろ 爆発しろ

「お前らどんだけ、女に縁がないのっ!?」

「そういうわけでジャッジメントの嬢ちゃん、これから立て込むんで、今日の所はこれで帰ってくれ」

「……フレメアのこと、重ねて礼を言う」

 失礼しますの

 黒子は身を翻すと、やや駆け足でその場を去る。
 やや経って、その背後から壮絶半分愉快半分の悲鳴が聞こえたかどうかは定かではない。


 
 
 
 黒子は急ぐ。

 お姉さまを迎えに行く予定が、迷子の相手をして随分遅れてしまっている。

「あれ? 黒子? 迎えに来てくれたの?」

 雨宿りをしているお姉さまがいた。

 傘、ですの

「ありがとう。……あれ?」

 美琴の視線が黒子の首筋で止まる。

 ???

「黒子、マフラーは?」

 そこでようやく黒子は気付く。
 マフラーをフレメアに渡したままであることに。

 お貸ししましたの

「マフラーを?」

 迷子がいましたの

 そして黒子はフレメアのことを美琴に話す。
 スキルアウトのことはオマケのようにちょっとだけ。

「そっか。ご苦労様。それじゃあ……」

 美琴は自分のマフラーを半分外して、黒子に回す。
 二人で一本のマフラー。

「これで、帰ろうか」

 ぬっくぬく、ですの

「うん。ぬっくぬく、ね」

 そして二人は、相合い傘で帰っていった。



  以上、「おむかえですの」でした

  引き続き、三話目「なかよしですの」を投下します

 
 今日は日曜日。
 常盤台はお休み。そしてジャッジメントも非番の日。

「黒子、一緒にお出かけしようか」

 はい、ですの

 そそくさと支度を済ませる黒子。
 お姉さまのお誘いを断るなんて、そんなの白井黒子じゃない。
 だから、二人で一緒にお出かけ。
 まずはお昼ごはん。
 お姉さまは、メニューを見て悩んでいる。

 黒子は、パスタセットにしますの

「じゃあ私は……うーん……」

 店員が注文を取りに来ても悩み続けている美琴。

 お姉さま?

 黒子は席を立って、美琴の持っているメニューを覗き込む。
 するとそこには、

 (お子様ランチ・ご注文のお客様にはもれなくゲコ太人形付)

 黒子納得。美琴まっしぐら。

「えーと、あの、これを……」

 さすがに「お子様ランチ」と口にするのは恥ずかしいのか、美琴はメニューを指さす。

 店員はニコっと笑い、

「お客様。申し訳ありませんが、お子様ランチは13歳までのお客様にのみ提供することになっておりまして」

 御坂美琴14歳。

  
「え、あの。私、実は……」

「失礼ですけれど、御坂美琴さんですよね?」

 常盤台のエース。
 学園都市第三位。ファミレス店員だって知っている。
 有名人は辛いのだ。

 そこで黒子が手を挙げる。

 お子様ランチは私ですの

「かしこまりました」

 お姉さまは、パスタセットですの

「……ゴメンね、黒子」

 違いますの

 美琴は少し考えて、そして微笑む。

「そうね。ゴメンじゃなくて、ありがとう」

 やがて運ばれてくるパスタセットとお子様ランチ。
 黒子の前にはお子様ランチ。美琴の前にはパスタセット。

「こちら、お子様ランチにオマケのサービスのゲコ太人形です」

 ぽつねん、とテーブルに置かれるゲコ太人形。
 人形の目は黒子に向いている。
 黒子も人形を見た。
 二人の視線が合う。

 ゲコ太人形はお姉さまのお気に入り。
 これはきっと今夜、お姉さまと一緒に眠るのだ。

 
 しゃああああっ

 黒子は思わず威嚇する。
 お姉さまと同衾予定のカエルなので容赦しない。

 ノートレランスですの
 カエルの分際で、僭越はなはだしいですの

「それじゃあ、ありがたくゲコ太人形は貰うわね」

 そのまま、お子様ランチも自分の側に持っていく美琴。パスタセットは黒子の前へ。

「いただきます」

 いただきますの

 お昼ごはんを食べ終わったらお茶を飲んで。
 ケーキを食べて。洋服を選んで。

 くるんくるん

 黒子のツインテールも楽しげに揺れている。
 その様子に美琴も微笑む。

「うん。私も。久しぶりよね、黒子と二人は」

 お姉さまとデートですの

「そうね。デートよね」

 黒子の手を引く美琴と、その顔を見上げて笑う黒子。
 どこからどう見ても、常盤台のベストパートナー。

「あら、美琴じゃない」

「あ、麦野さん」

  
 そんな二人がばったり出逢ったのは、学園都市第四位、原子崩しこと麦野沈利。
 そして、

「こんにちは。えーと……」

 麦野に寄り添う小柄な女の子。

「こんにちは。絹旗です」

 窒素装甲こと絹旗最愛だった。

「この子も、麦野さんのチームに?」

「そう。なかなかの能力持ちよ」

「えーと、麦野さんのチーム、アイレムだっけ」

「スペランカーは作ってねえよ」

「アイテル?」

「十時からなら、って、店やってんじゃねえから」

「なんだっけ?」

「アイテム。いい加減覚えなさいよ」

「ごめん」

 でも、チームって羨ましいな、と美琴。

「美琴だって、チームみたいなものじゃない。ほら、そのこと、あと二人。花飾りのジャッジメントと黒い長髪の子」

「あー、初春さんと佐天さんね」

「それなりのチームなんでしょう? いくつかの事件に立ち向かったって聞いてるわよ」

「まあ、たまたまね、たまたま」

 
 謙遜しつつも、満更でもなさそうな美琴。

「チーム名、ないんでしょ? 巷じゃ、『超電磁砲組(レールガンズ)』なんて言われているみたいだけど」

「それね……」

 美琴はその名前が気に入っていない、なぜなら、その名前ではあたかも美琴のワンマンチームのようだから。
 佐天、初春、黒子。この中の誰が欠けたって駄目なのだ。だから、自分一人のワンマンチームのような名前は好かない。

「案はあるんだけどね。佐天さん達に却下されちゃうから」

「どんなのよ」

 聞きつつも、麦野はなんとなく予想がついている。

「ゲコ太団、とか」

 正解、麦野さん正解です。

「うん、それは私でも断る」

「ゲコ太、可愛いのにね」

「どう考えても、ワンマンチームより酷い名前よ?」

 こくこく
 
 黒子が必死に頷いている。

「……アンタも結構苦労してるのね」

 麦野の手が黒子に伸びた。
 他意はない。頭を撫でようとしただけ。
 だが。

 
「駄目ですよ、麦野」

 絹旗が麦野の手を取った。

「ホクロの癖に超生意気です」

 そのまま黒子に向かって自分の手を伸ばす絹旗。
 黒子は頭を押されて、後ろによろけてしまう。

 きゃう

 ぽすん、と黒子の身体を受け止める美琴。

「大丈夫?」

 もあいが押しましたの

「モアイじゃありません! 最愛です」

 黒子だって、ホクロじゃありませんの

「絹旗。あんたが悪い」

 麦野が絹旗の頭を押さえた。

「だって!」

「だってじゃないでしょ。最初に手を出したのはあんた。わかってる?」

 ううう、と絹旗は唸る。
 だって、と続けて。

「でも」

「は?」

「でもでもでも」

「あのねー、あんたいい加減にしないと……」

 
 ああ、と美琴は頷いた。

「麦野さん、ちょっと」

「なに?」

「耳貸して」

 そして耳打ち。
 麦野は神妙な顔で聞いていたが、やがて難しい顔になり、そして頷いた。

「んー。そっか……」

 複雑な顔で、それでも半分笑いながら、麦野は絹旗の頭に手を伸ばす。

「あんた、ヤキモチしてたんだ」

「なっ」

「そう言えばそうよね。滝壺は浜面に取られたし」

「ち、超違います!」

「フレンダはフレメアばっかりだもんね」

 絹旗の頭を撫でる麦野の顔は、半笑いからニヤニヤに変わっている。

「それで、私まで黒子ちゃんを可愛がったらもう堪忍袋の緒が切れたって?」

「だから、超違いますって!」

 麦野の手から頭を引き離す絹旗。

「いいのいいの。そっか。絹旗、可愛いね」

 ううううう、と唸る絹旗の顔は真っ赤だ。
 その絹旗の肩を誰かが叩く。
 振り向くと、そこには黒子。

「……なんですか」


 
 黒子は手を伸ばしていた。
 その手が、絹旗の頭に触れる。
 ニッコリ笑って、

 おともだち、ですの

「!!」

 今日から、おともだち、ですの

 絹旗は何も言わず、黒子にされるがまま立っている。
 黒子は、絹旗の頭を撫でている。

「麦野さん、ちょっとお願い。コンビニに行って来るから」

 突然の美琴の言葉。二人をニヤニヤと眺めていた麦野は思わず聞き返す。

「コンビニ?」

「うん。コンビニ。麦野さんは肉まんとあんまん、どっちがいい?」

「……中華まん」

「わかった」

 ほんの数分で戻ってくる美琴。手には温かそうな包みを抱えている。

「はい、麦野さん、中華まん。絹旗さんと黒子はあんまんね」

 三人にそれぞれ渡すと、自分はピザまんを手に取った。

「何これ、美琴?」

「ん? 寒いから温かいものがいいかなって」

「いや、そうじゃなくて」

「黒子と絹旗さんの仲直り記念」

「……ま、いいけど」


 
 いただきますの

「あ、ありがとうございます」 

「熱いから、気をつけてね」

 ぽとり、と落下音。
 四人の目は黒子の足下へ。

「あ」

「あー」

「あら」

 落としましたの

 呆然と、黒子は自分の足下を見つめている。

 そこには落下したあんまん。
 地面に倒れ臥すあんまん。
 お姉さまから貰ったあんまん。
 ほっかほかのあんまん。
 温かいあんまん。
 美味しいあんまん。
 甘いあんまん。
 今はもう、食べられないこのあんまん。
 きっと明日はありさんのご飯。
 ありさんに黒子からのプレゼント。
 その名はあんまん。

ありさん「黒子さんありがとう。これでキリギリスさんと一緒に冬が越せます」

 どういたしまして、ですの
 大事に召し上がってくださいな


 
「しょうがないですね」

 予期せぬ言葉に、俯いていた黒子は顔を上げる。
 そこにはあんまん。
 きれいに半分に割られたあんまん。
 絹旗が黒子に向けて差し出している。

「仕方ないから、超半分個です」

 黒子はハーフあんまんを見、そして美琴を見る。
 美琴はニッコリ笑って頷いた。

 戴きますの 

 ハーフあんまんを受け取って、黒子は頭を下げる。

 もぎゅ

 おいしい、ですの

「超美味しいです」

 もちろん、ですの

 美琴と麦野は顔を見合わせ、満足そうに頷いた。




 数日後……

「あれ、黒子、おでかけ?」

 絹旗さんの所に行ってきますの

「行ってらっしゃい。門限は守りなさいよ」

 はい、ですの
 
 黒子と絹旗はお友達。



   以上、「なかよしですの」でした
 
   それでは、次が今回最後の投下、「かいしめですの」です

 
 今日も黒子は恒例パトロール。
 最近の学園都市は結構平穏だったりするのだけれど、それでも学生達は騒ぎを起こす。
 能力者達は無茶をする。
 スキルアウト達は暴れる。
 アンチスキルはやっぱりそれなりに忙しくて、ジャッジメントだって働いているのだ。

「あァ? 何言ってンですかァ!?」

 遠くから聞こえてくる怒鳴り声。
 遠いのにハッキリ聞こえる怒鳴り声。
 聞き覚えのある怒鳴り声。

 黒子は立ち止まり、声の聞こえてきた方向に目を向ける。
 そこにあるのは学園都市の何処でも見かけるコンビニエンスストア。
 店の入口で数人とやりとりしている声の主には見覚えがあった。

「自分の金で自分のもの買って、何が悪いンですかァ?」

「だって、買い占めじゃないですか」

「酷いですよ、俺らだってコーヒー欲しいのに」

「あァ?」

 ギロリ、と睨まれ、ヒィッと悲鳴を上げる青年。
 と、青年が黒子の存在に気付く。

「あ、そこのジャッジメントさん!」

 他の青年も同じく黒子に気付く。

「ジャッジメントさん、ここです!」
「ジャッジメント来た! これで勝つる!」

 じゃっじめんと、ですの
 何がありましたの?


 
「この人が、コンビニのコーヒーを買い占めたんです」

「他にもあるだろォが」

「ブラックコーヒーを買い占めたんです」

「在庫を切らした店が悪ィな、うン」

「金に物言わせて全部買ったんだぜ、こいつ」

「実験協力して得た自分の金ですゥ、言われる筋合いありません」

 独り占めはいけませんの

「俺の金で買ったンですけどねェ?」

 飲み過ぎですの

 一方通行の両手には、コンビニ袋にぱんぱんに詰め込まれた缶コーヒー。

「俺ァ、コーヒー飲まねェと死ぬンだよ」

 死にますの?

「あァ、死ぬな」

 病気ですの?

「そォかもなァ」

 黒子はポケットから携帯電話を取りだした。
 そして何処かに電話をする。

 自分の病気について何処かに聞くんだろうか、
 それにしても本気にするとは……と、一方通行は思う。

 もしもし
 冥土帰しさまの病院ですの?
 はい
 精神科お願いしますの

「そっちの病気じゃねェ!!」

 
 精神の病ではないらしい、と黒子は知った。

 ビョーキかと思いましたの

「……実はてめェ、無礼者だろ」

 じゃっじめんと、ですの

「それは知ってますゥ。白井黒子さンですゥ」

 てれてれ

「おい、そこで照れンな、勘違いする奴が出てくるだろォが」
 
 ふんす

「威張ってどうするンですかァ? 普通にしてくれませンかねェ」

 コーヒー、返すんですの

「……俺が普通に買ったンですけどォ?」

 コーヒー、好きですの?

「大好きですゥ」

 黒子は背後の青年達を示す。

 この人達も大好きですの
 独り占め、されますの?
 一人で全部、飲まれますの?

「……ちっ」

 一方通行は、一つの袋を地面に降ろした。

「わかったよ、これは譲ってやる」


 
 おいくらですの?

「あ? ケチくせェこと言わせないでくれませンかァ? タダでくれてやるって……お?」

 一方通行は自分の携帯電話の着信に気付く。

「あァ? はいィ? 新しい実験っ? レベル6? はァ? ああ、わかった、わかりましたァ、とにかく話だけは聞いてやる」

 携帯をポケットに戻し、黒子と青年達に顔を向ける一方通行。

「このコーヒーはくれてやる、好きにしろォ」

 ありがたくいただきますの

「じゃあな」

 一方通行が背を向け去っていくと、青年達はコーヒーに手を伸ばす。

「ジャッジメントさん、ありがとう」
「ありがとう」
「白井さんもコーヒー、飲んでくださいよ」

 いただきますの

 カコン、とプルトップを開けて、一口。

 ……

 ブフォッ

 苦くて吐き出した。

 この日黒子は、ブラックコーヒーの苦さを学んだ。



 以上、お粗末様でした。

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。

投下します。

今回のタイトルは「うわさですの」





 これは、とある二つの噂が流れ始めた頃のお話。


 以上、お粗末様でした。

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。

ちゅるやさん的な二頭身キャラな感じがする黒子かわいい

第六位「」


投下します


今回のタイトルは 「おこたですの」

  
 
 ……ざわ ざわ……

 

 常盤台の寮。黒子と美琴の部屋に、三人の姿が。
 
「黒子、急で悪いんだけどお客さんが……あれ? いない。出かけたのかしら?」

「なに? あの子いないの?」

「おっかしいなぁ。今日は一日部屋にいるって言ってたのに」

「ざーんねん、黒子ちゃんいないんだぁ。操祈しょんぼりしちゃう☆」

「はいはい。私たちしかいないところでまでカマトトぶるのはいい加減にしろっての」

「ぶー。麦のん恐〜い。助けて第三位〜、第四位が第五位を虐めるの。ひっどぉーい☆」

「うん、ホントにいい加減にしてくれないかな」

「あらやだ、二人とも本気で冷たいゾ♪」

「付き合いきれないって言ってんの。あんまりしつこいとビーム撃つよ?」

「いいわよね、物理的に強い人って〜、とぉってもぉ、わかりやすくて」

「おや珍しい。第五位ともあろう御方が自分の能力に不満?」

「いいじゃない、レベル5で精神系って食蜂さん一人なんだし。レアよ、レア。とんがり帽子ゲコ太並みにレアよ」

「操祈って、御坂さんの中ではカエルと一緒なんだ……ぐすん。とりあえず、褒め言葉として受け取っておくけどお」

「ま、とにかく入ってよ」

 麦野、食蜂を部屋に招き入れる美琴。
 常盤台の寮が珍しい麦野は周囲を見回すけれど、同じく常盤台の食蜂は特に感激もない。

「あれ?」

 それでも、食蜂の視線はある一カ所で止まった。

「こたつ?」

 二つのベッドに挟まれるようにしておかれているコタツがある。
 部屋の様子とはミスマッチなのだけれど、冬のコタツというものはそれ単体で得も言われぬ魅力がある。
 
 コタツは何処にあってもコタツ。薔薇がどんな名前で呼ばれようとも薔薇であるように。
 温かいものは温かい。ぬっくぬくはぬっくぬく。

「へえ、コタツいれたんだ」

 寮なので基本最低単位の家具は揃っているが、自前のテーブルや椅子を持ち込む生徒も当然いる。
 コタツだって、その気になれば持ち込み許可は出るだろう。

「しかも、掘り炬燵よ」

「へえ」

 麦野が早速座るけれど、食蜂は首を傾げている。

「掘り炬燵って……御坂さん、床に穴開けちゃったのお? 信じられなーい☆」

「さすがにそこまではしないわよ」

 美琴はコタツを指さす。

「この部屋の間取りだと、そこが床下収納の真上なのよ」

 普段使わないモノを片付けておくための床下収納。
 基本的に物持ちでない美琴と黒子の場合、床下収納は使っていなかったのだ。
 そこで、掘り炬燵の足を入れる場所に置き換えたわけだ。

「天板を高くしてハイタイプにしようかと思ったけれど、あれってあんまり温かくないし大きすぎるのよね」

「あー、アレだと寝ころべないしね。うーん、温かいねえ」
 
 既にコタツに入ってくつろぎながら、麦野がしみじみという。

「麦のん、おばさん臭ーい☆」

「よしわかった。死ね、リモコン女」

「麦野さん、部屋の中でビーム撃たないで!」


 
 それでも三人はそれぞれコタツに落ち着く。

「ねえねえ、ミカンないの? ちっちゃくてあまーいミカン♪ 操祈、おミカン食べた〜い☆」

「天井?」

「げっ、そんな変態科学者はいらない」

「やめて、思い出したくない……」

 御坂美琴のDNAサンプルを使い、クローンを作り出していた男。
 一方通行を陣営に引き込もうとしたところ断られ、あまつさえ反抗されて全てを失った男。

「あの馬鹿、第一位にレベル6になれるってフカしたんだって」

「クローンを殺せば、なんて言ってたんでしょお? うー、気持ち悪っ」

「ま、それは断られること織り込んでたみたいだけど」

 三人は思い出す……


 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
「……やはり、君はそう言うと思った」

「なンだと?」

「一方通行、君の言うとおり、実験は中止しよう。安心したまえ。御坂美琴のクローンはこれ以上一人も失われないと約束しよう!」

「はっ、用意が良すぎるンじゃないですかァ。本当の狙いを言えよ、天井くゥゥうン!」

「だが、既に作られたクローンは12体! そのまま世に放つわけにはいかないだろう。だからこそ私は提案するのだ!」

 一方通行が……六人のレベル5が見守る中、天井は宣言した。

「美琴ちゃんハーレムの爆誕をっ!」

「よし行け、削板」

 すごいパーーーーーンチ

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 
「……まさかあんな変態野郎だったとはね」

「思い出すだけで鳥肌立ってくるわよ!」

 訴えかける美琴を、食蜂は羨ましそうに眺めていた。

「でもねぇ。御坂さんよりも私の方が〜、可愛いしスタイルもいいと思うんだけど。どうして操祈ちゃんハーレムじゃなかったのお?」

「え、そこに文句?」

「天井自体はどうでもいいけどぉ、なんというかぁ、女としてのプライドが……」

「ま、その辺りは天井の趣味だろうからね。愚痴ってもしょうがない。別にあんたに魅力がないって訳じゃないから」

「でもぉ」



 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 通りすがりの皆さんに聞きました。
 おつき合いしたいレベル5女性は?

 匿名希望「あァ、まァ、強ィて言えば美琴かなァ」

 匿名希望「麦野、超麦野です」

 匿名希望「一人に絞るんは難しいなぁ、ボクの守備範囲は……(以下略)」

 匿名希望「えーと、御坂さんかなぁ」

 匿名希望「え? と言われてもビリビリくらいしか知らないから……あ、ああ、御坂美琴」

 匿名希望「私はむぎのを応援してる」

 匿名希望「御坂だろ、俺くらいのイケメンに釣り合うッてんなら、あいつくらいだ」

 匿名希望「そんなの、麦野に決まってるってわけよ」

 匿名希望 おね……御坂美琴、ですの

 匿名希望「どつきあい? うーん、一番腕力が強そうなのは第四位だろうな。よし、麦野だ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 
「っていう結果が出てるんだゾ☆」

「待て、最後おかしいだろ、あの根性馬鹿、今度ゼロ距離で撃つ」

「正直、高位能力者になればなるほど、操祈の人気が落ちていっちゃう」

「高位能力者ほど、他人の能力にも敏感だからね。食蜂さんの能力って、警戒されやすいタイプだから」

「誤解されやすいのね、私って可哀想なの、慰めて、麦のん」

「はいはい、よしよし」

 食蜂の頭を撫でる麦野。

「…………」

「食蜂?」

 食蜂は動かない。

「……」

「食蜂操祈?」

 食蜂はぴくりとも動かない。
 心なしか頬が赤い。

「……」

「おい、リモコン女」

「はっ!?」

「何やってんの」

「……気持ちよくて……これが、第四位の力? 恐るべし第四位」



 
 ミカンの皮をめくってゴミ箱へ。
 ミカンの皮をめくってゴミ箱へ。

 ミカンの白い筋を取ってゴミ箱へ。
 ミカンの白い筋を取ってゴミ箱へ。

 そして一房もぐと、てへっと微笑みつつ、

「麦のん、食べる?」

「自分で食え」

「……御坂さん、食べる?」

「ううん。自分で剥くからいいよ」

「二人とも冷たい……ぐすん」

「泣き真似ウザいって」

 言いながらコタツの中の食蜂の足を蹴ろうとした麦野の動きが止まる。

「ん? ……美琴? あんた、コタツの中にぬいぐるみでも入れてる?」

「え?」

 美琴は自分のベットに目を向ける。
 七つのゲコ太抱きぐるみ(美琴命名ゲコタセブン。なにかありそうなあの七匹)はしっかり揃っている。

「私のは全部あるけれど」

「なんか、足に当たってるのよね、柔らかいものが」

「え」

 まさか。
 美琴はいきなりコタツ布団をめくり上げる。
 
「きゃん☆ 御坂さんのエッチ〜♪」

 食蜂がスカートの前を押さえているのを無視して、美琴は上半身をコタツの中に入れる。

「あ」


 
 お留守番ですの
 お姉さまはお出かけですの

 黒子は一人でお留守番。
 おこたに入ってお留守番。

 ……ぬっくぬくですの
 ……ねむねむですの
 おこたは危険ですの……
 黒子は、大ピンチですの

 ……
 ……
 ……

「おーい、白井」

 ……

「黒子ちゃ〜ん☆」

 ……

「黒子、起きなさい」

 ……お姉さま?

「うわ、さすが美琴オ・ネ・エ・サ・マ」

「すっごい、御坂さん。操祈、妬いちゃうゾ♪」

「うっさい。……黒子、コタツの中で寝ちゃ駄目よ? 掘り炬燵の中まで転げ落ちてぐっすり寝てたんだから」

 てれてれ

「じゃ、そろそろ私らは帰るから」

「御坂さん、来週の頂上会議、忘れないでね」

「うん、わかってる」

「じゃあねぇ♪ 黒子ちゃ〜ん☆」

 さよなら、ですの
 絹旗さんによろしく、ですの



 
 その日から美琴は、やたらとコタツの中に転げ落ちていく黒子に手を焼くのだけれど。

 それはまた、別のお話。

 以上、お粗末様でした

 次回は
「黒子 in レベル5頂上会議」 心理定規さん、○○くん、登場(予定)
「黒子 with 常盤台の留学生」 インデックスさん、ステイル、神裂さん 登場(予定)

 のどちらかの予定です。
 

>>77

 お姉さまお姉さま、スモチはありますの?

「さっき食べたでしょ?」

 ですにょろ〜ん


>>80

 第六位は、謎の存在です。 



 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。



ところで常盤台は女子校だけど、ステイルさん2mあるのに女装すんの?

>>93
留学生として出てくるのはステイルではないです


匿名の上から4番目はR.Sさん?
K.Uさんだったら敬語になりそうだし、他に御坂さんって呼ぶ人いなさそうだし



にしてもほとんどの人が操祈の口癖を把握してないなww


投下します

前回の次回予告、アレは嘘だ。
……予定がずれただけです。後で書きます

>>98
そうです。彼女のつもりです。

>>99
難しいものです。
というわけで、超電磁砲の単行本を既刊全巻揃えました
これで、常盤台寮の部屋の間取りと女王の台詞が常時チェックできます
そして心理定規さんが出ていたのは嬉しい誤算
……どうしよう、布束さんと婚后さんと女王が可愛い


今回のタイトルは、「ゆきやこんこですの」

 
 …………

 ぱちり、と目を開ける黒子。
 壁に掛かっている時計を見ると夜明け直後の時間。

 静か、ですの

 今日は休日だけれども、なんだか静かすぎる。
 まるで誰もが寝静まっている深夜のように。

 それに、カーテンの向こうがいつもより明るいような気がする。
 何かに朝日が反射しているような……

 !!

 黒子は飛び上がるように身を起こす。
 
 しゅん、とテレポートして窓際へ。

 ……
 
 窓の外がよく見えないので机に登る。

 んしょ、んしょ

 窓の外に広がるのは雪景色。
 一晩にして積もった大雪である。

 おおー

 黒子は窓ガラスに顔を押し付けるようにして外を眺めている。
 窓を開けると寒いので開けない。

 雪、ですの

 以上、お粗末様でした

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。


黒子のお着替えシーンはどこですか?

                ___  _           
.         l\  /: : : : : : : : : : : : : : :`ヽ __    /\
         .|  〉// : : : : : : : : : : : : : : : : :l \ /   〉
         /|  // : : : : : : : : : : : : : : : : : : :ヽ  |7__   |
       /::ナ/: : : : : : : : : |: : : : : : : : :ヽ: : : : |  |\ヽ、.ナヽ

      // /::/: : : : |: : : ::ハ: : :仆: : : : : ヽ: : : :\l  \::ヽ_ゝ
     /: \/::/: : : :/ |/::/ |: : :| ヽ.:\: : ヽ: : : : :|:|_/: : ヽ

    /: : : :/: :l: : : //|: : / |: : :|  '、: : \ル: : : : |: : :|\: : : :}ヽ
    |: : : : {: :|: : ::/   l: :/  ヽ: :|  ヽ: ::/ |: : : : :|: : :|  |: : : |、::ヽ
.    |: : :从: !: :::/.   V    .N    V .|: : : : :|: : :|  |: : : | l: : l
     |: : :| v: : |   l||l       .l||l   |: : :/Vx: :|  |: : : | |: :|
     |: : :|  ヽ|_  l||l        l||l   レ'   }:::l  |: : :/. |: :|
     \::|   | ゝ//           О// _/\l ノ: ::/  l: :l
     lミ彡 /  ヽ 、 _ _ _l ̄ ヽ_ _ . ‐ ´      ミ三ミ/   レ
     \  \         久芥::卞、        〈  /:/
      _  丿       ,〈 | Vo .|、.>、        ゞ:し
    //OO       .し |    |`ヽ_!
   〈 〈    ∩      7::T::T:Tヽ 
    \\ l二二二l    厶::::{::::L::!冫 
       ̄  (○) .       | ハ |
          ∪ oo      とノ r_ぅ 


とりあえずここまでのまとめ

>>2 第一話「もっこもこですの」

>>15 第二話「おむかえですの」

>>26 第三話「なかよしですの」

>>37 第四話「かいしめですの」

>>59 第五話「うわさですの」

>>82 第六話「おこたですの」

>>101 第七話「ゆきやこんこですの」

感想いつもありがとうございます
全レスはしていませんが、自分の励みになっています

>>114
特別に公開します

 んしょんしょ
 んしょ……

以上、黒子の着替えシーンでした。


>>120
ふおおおっ
黒子可愛いよ黒子



それでは投下します

今回のタイトルは「えいがですの」
 

   
 お待たせですの

「超時間ピッタリです」

 学生達がよく待ち合わせに使う広場。
 そこに黒子はいた。
 待っているのは絹旗最愛。
 最近よく遊ぶようになったお友達。

「それじゃあ、早速行きましょうか」

 映画は久しぶりですの

「ええ。お待ちかねの超C級映画ですよ」

 C級は待ってませんの

 絹旗は超B級C級映画のマニアなのだ。
 それは黒子も知っている。それでも、映画は映画。
 何かしら面白い部分もあるに違いない、と黒子は思う。

「ない。あれはない」

 との麦野の忠告もあったのだけれど。
 だけど、黒子は頑張る。
 親友絹旗さんとの大事な時間なのだ。
 少々つまらない映画くらい……

「今日はホラー&スプラッタ特集ですよ」

 !!



 
「どうかしましたか? 白井さん」

 ……ほ、ほらー、ですの?

「はい。その上スプラッターです」

 ……すぷ……

「らったーです」
「脚本の粗と三流役者を、血糊の量だけで誤魔化そうとして誤魔化しきれないんですよ、超ワクワクしますね」

 おおぅ。と黒子は心の中で呻く。気分は「おおゥ」
 悪党相手ならば平気だけれど。
 なにしろ、泣く子も黙る勧善懲悪ジャッジメント白井黒子なのだ。
 だけど、ホラー映画……しかもスプラッター……

「私はポップコーンと飲み物を買ってきます。白井さんは何を飲みますか?」

 なんでもよろしいですの

 真っ赤な画面を見ながら何を飲めと。もう、なんでもいい。と黒子は思っていた。

「では、トマトジュースを」

 !?
 トマトジュース……赤いですの

 訂正しようとした黒子が見たのは、意気揚々と売店へと進む絹旗だった。


 
 黒子は困る。
 だけど、もう絹旗は売店で飲み物を買っている。

「しいたけレモンと遺伝子変換トマトジュース、お願いします」

 しいたけレモンって何だろう。
 学園都市独自飲食物のチャレンジャーっぷりには定評があるのだけれど。
 遺伝子に関しては気にならない。それを気にし始めると学園都市では何も食べられないから。

「あと、ポップコーン二つ、フレーバーはカラメルバターとハチミツサーモンで」
「ハチミツサーモンは麦野が超推薦してました」

 麦野さんは鮭があれば満足する人だ。LIFE IS SALMON

「超お待たせしました。はい、白井さんはトマトジュースとカラメルバターポップコーンです」

 はいですの

 黒子はハチミツサーモンを渡されなかったことにホッとしながら、ポップコーンの紙バケツと、トマトジュースのLサイズを受け取る。

「じゃあ早速席に行きましょうか」
 
 絹旗はハチミツサーモンポップコーンをひとつかみ自分の口の中に放り入れる。

 げほっげほっけぼっ

「ま、不味っ! 超不味ィンじゃなィですかァ! 麦野の嘘つきィ」

 喋り方がおかしくなったような気がしたけれど、きっと気のせいだと黒子は思った。



 
 人気の少ない、と言うより誰もいない館内。

「さすがです。超斜陽産業とは言え、ここまで人がいないとは。娯楽の名が超泣きますね」

 だが、それがいい。と続ける絹旗。

「貸し切り状態ですから、超心おきなく愉しむことが出来ます」

 座る二人。

「そろそろ始まりますよ」

 ドキドキ……
 ホラーですの
 
 黒子はごくり、と息を呑む。
 恐い。
 でも、これも特訓だ、と黒子は思うことにした。
 そうだ。これは特訓だ。映画一本くらい……

「なんと言っても、三本一気上映ですから」

 !!??



 
「『恐怖のテンジクネズミ1』『2』『3』の一挙上映です。これはテンションが超上がるってもんですね」
「ああ、そろそろ始まりますよ」

 ……
 ……
 びくっびくっ
 ……
 びくっ
 びくんびくん
 !!!!
 !!!!
 ぽすんっ(魂が抜けた音)
 
 ……

「ふぅ。なかなか見応えがありました。さすが、超C級といえど続編を無理繰りに作っただけはありますね」

 返事はない。

「白井さん?」

 絹旗が横を見ると、座っていたはずの黒子の姿はない。

「あれ? 白井さん?」

 よく見ると、足下にしゃがみ込んでいる人が一人。

「白井さん?」

 黒子が頭を抱えて震えていた。

 ぶるぶる

 恐くないですの
 あれは作り物ですの
 恐くないですの

「あ……なんというか……超ごめんなさい」



 
 怯えてませんの

「ごめんなさい」

 違いますの

「いや、あの……ごめんなさい」

 映画館から出ると、すたすたと歩く黒子の後を追うように絹旗が後をついていく。
 因みに黒子は、足下に落とした財布を拾っていたのだと言い張っている。
 勿論絹旗は信じていない。 

 ふらふら

 黒子の足取りは些か頼りない。

 もう、こんな時間ですの

「映画、長かったですからね」
「ご飯でも食べて帰りましょうか? 白井さん、寮のほうは大丈夫ですか?」

 夕食は寮で食べるようにしているのか、と絹旗は尋ねる。

 !!

「白井さん?」

 そこで黒子は思い出した。
 そうだ。今夜はお姉さまは帰ってこない。
 第一位からの実験協力依頼で泊まりがけになると、朝に言っていたではないか。
 つまり、今日の寮部屋は黒子一人。

 黒子一人で寝なければならないのだ。

 ぶるぶる

「白井さん? 震えてます?」

 違いますの



 
 ・・・・・・・・・・・・

「たまにはこういうところで食べるご飯もいいかもね」

 ゲコ太病院の大病室で、美琴は皆とお弁当を食べている。
 お弁当とは言っても高級懐石弁当で、そこらのコンビニのものとは違う。
 せめてもの、美琴の心づくしだ。

「すいません。とミサカは謝りつつも喜びを隠せません」

「いいわよ。一晩くらい付き合ってあげる。まあ、病院内だからあまり騒げないけれどね」

「しかし、本当に寮のほうはいいのですか? とミサカは噂に聞いた寮監の実力に怯えます」

「一方通行に頼んだわよ、第一位からの実験協力依頼って事にしてあるわ」

「ルームメイトの方にもご迷惑でなければいいのですが。とミサカは心配します」

「泊まりがけの実験が初めてって訳じゃないし、大丈夫よ」

「お姉さまにも我が侭を言って申し訳ないと、ミサカは……」

「妹がお姉ちゃんに我が侭言うのは当たり前でしょ。いつもって訳じゃないんだから、今日くらいはいいわよ」

 言いながら美琴は部屋内を見回した。
 大部屋一つ、元々は八人収容の部屋だが、ベッドを追加して今は十二人部屋。
 シスターズ十二人の、当面の住処だ。
 
「さて、早速」

 十三個の同じ顔がぐるりと円を描くように集まっている。

「まずは、名前からね」

「はい、お姉さま。とミサカはワクワクする気持ちを抑えられません」

「それじゃあ……」

 ・・・・・・・・・・・・・



  
 麦野が夕食の後かたづけを澄ませた頃に、絹旗が帰ってくる。
 
「超ただいまです」

「お帰り、絹旗」

「今日はフレンダは来てないんですか?」

「ああ、滝壺も今日は浜面の所だろうさ」

「じゃあ、ゲストルームは余ってますね」

 麦野と絹旗はルームシェアをしているから、それぞれの個室を持っている。
 しかし、ゲストルームは事実上、アイテムメンバー専用の泊まり部屋と言ってもいい状態だ。
 とはいっても、家主は麦野。麦野の意思であれば誰でも泊まることは出来る。 

「なに? 誰か客?」

 お邪魔しますの

「……白井?」
 
 お久しぶりですの

「まあ、あんたなら歓迎だけど、御坂はいいのかい?」

 美琴が第一位と一緒にいることを黒子は告げる。

 そういえば、今日は例のクローンの調整日で、美琴との生体差異を調べる日だった、と麦野は思い出す。
 妹達に関しては、今は関係者だけの極秘事項。美琴は黒子にすら内緒にしているはずだ。

「それにしても、よく急に外泊許可が取れたわね。常盤台って、その辺り厳しくなかった?」

 あ……

 黒子が何かに気付いたように目を開く。

「どうした?」

 あの……

「まさか、あんた……」

 ……忘れてましたの



 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「�はい、わたくし、霧ヶ丘女学院の麦野沈利と申します。御坂美琴さんと食蜂操祈さんにはお世話になっていますわ�」

 電話をかけている麦野の横で、絹旗はお腹を抱えて転がっている。
 痛いのではない。笑いを堪えているのだ。
 その絹旗をギロリ、と睨む麦野。目からビームが出るならとうに撃っているだろう。
 因みに原子崩しをここで撃つと、マンションごと吹き飛んでしまいそうなので撃てない。

「�はい、よろしくお願い致します。それでは失礼します�」

 電話先は常盤台。
 第四位の威光で、黒子の外泊を認めさせてしまったのだ。
 因みに名目は、美琴と同じようなもの。「第四位の実験補助である」
 レベル4でもトップクラス、くわえてレア能力の黒子だからこそ通る名目だ。伊達に第三位の片腕ではない。
 最悪の場合、垣根の名前を出そうとしていた麦野だけれど、そこまでは必要なかった。

「ふぎゃっ、むぎっ、そこば、超ひぐうっ……」

「で、外泊許可は貰ったし、私としては構わないんだけど」

 絹旗を捕まえてくすぐり拷問しながら、麦野は言う。

「どうして急に泊まりたいなんて言い出したのさ」

 美琴が寮にいないとは聞いたが、実験による外泊は初めてのことではないだろう。
 黒子が独り寝できないと言うことはないはずだ。

 悶え苦しみながら、絹旗が映画の半券を取り出す。

「ん?」

 そこに記されているのは今日見た映画のタイトル三つ。

「あ、そういうこと。ふふっ、白井って案外恐がりなんだ」

 てれてれ


 
「恐いから一人じゃ寝られないってことかにゃーん?」

「超お子様ですね」

 違いますの
 絹旗さんが怖がると思って仕方なくですの

「ふーん。そうなの? 絹旗」

「まあ、今日は映画に付き合わせてしまったので、そういうことにしといてあげましょう」フンス

「ご飯は食べたの?」

 いただきましたの
 絹旗さんのお薦めで

「ふーん。因みに何?」

 牛丼ですの

「……絹旗……あんたねえ」

「白井さんは超勘違いしてます。あれは牛丼じゃなくて牛めしです。あと、ちゃんとお味噌汁とサラダもつけました」

「いや、変わんないし。どっちにしろ女の子二人で食いに行く代物じゃないだろ」

「映画の後はジャンクフードと決まっているんです。それは超譲れないんです」

「……も、いいわよ。風呂の順番、どうする?」

 ここにフレンダがいれば、麦野と一緒に入ろうとして怒拳五連弾を受けるところだけれども。
 ここにいるのは黒子と絹旗。
 
 麦野、絹旗、黒子の順番にあっさり決まる。



 
 そして入浴も終わり夜も更けて…… 

 麦野の前にちょこんと立っている黒子。
 黒子は絹旗に借りたパジャマ姿である。小脇に抱えているのは枕。

「あー。えーと。白井?」

 はいですの

「ここは私の部屋」

 はいですの

「そしてこれは私のベッド」

 わかってますの

「今から私は寝る」

 おやすみなさいですの

「ゲストルームは二つ隣」

 ……

 黒子は期待溢れる目で麦野を見つめている。

「……一緒に寝たいの?」
  
 てれてれ

「映画、そんなに恐かったの?」

 違いますの
 違いますの、あれは絹旗さんが……

「わかった。わかった。で、なんで絹旗の部屋に行かないの?」

 麦野は、黒子は絹旗と一緒に寝ると思っていたのだ。
 因みに絹旗は今、台所で牛乳を飲んでいる。
 フルーツ牛乳を。



 
 麦野は黒子の返答を待つ。
 黒子は少し考えるように首を捻った。
 そして……

 強いですの

「……まあ、絹旗よりは強いけど」
 
 強いですの

「うん。そうか。わかった。ほら」

 ぽんぽん、とベッドのシーツの空いた部分を叩く麦野。

「ほら、ここ」

 失礼しますの

 枕を置いて、黒子はベッドに乗る。

 おやすみなさい、ですの

「ああ、おやすみ」

 軽く溜息をついて、麦野はベットサイドのランプを消そうとする。
 と、その時。

「超ずるいです」

 低い声がした。

「白井さん、超ずるいです」

 そういえば黒子が入ってきた部屋のドアが完全にしまってなかったな、と麦野は思った。

「超ずるいです。第三位に言いつけます。滝壺さんにもフレンダにも浜面にも言いつけます」

 絹旗が、涙目でじっと麦野を見ている。

「待て、なんで浜面」

「超チクリます」



 
 結局、麦野を挟んで三人で寝ることになった。

「ま、たまにはいいけどね」

 二人に一晩中しがみつかれることになった麦野は翌朝、話を聞いて迎えに来た御坂に、寝不足気味に苦笑してそう言ったのだった。




 後日、どこからかこの話を聞いた食蜂が、

「だったらぁー、黒子ちゃん、どうして私の部屋に来なかったのよぉ?」

 
 と血の涙を流したりしたのは余談である。 
 

 



 以上、お粗末様でした

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。



 今回は黒子と言うより、レベル5のお話ですねえ
 それでは投下します。

 今回のタイトルは「かいぎですの」


  
 商店街の外れにその洋菓子店はある。
 知らなければそこで営業しているなんて誰も気付かないような、シンプルこの上ないお店。
 店先に看板すら出ていない。
 それどころか、どう見てもタダの事務所か何かだ。洋菓子店には決して見えない。
 それでも黒子は、迷わず店に入っていく。
 
 お邪魔しますの

 黒子が告げるとすぐに店主が奥から顔を出す。

「へい、いらっしゃい。……おぅ、ジャッジメントの嬢ちゃんじゃねえか。今日は幾つだ?」

 十四個、ですの

「よぉし、わかった、十四個だな」

 黒子はこの店の常連なのだ。
 以前、ひょんな偶然でこの店を見かけ、興味本位で覗いてみたところ見事なプリンを発見。
 
 甘さ控えめのほろ苦旨プリンは、美琴、佐天、初春にも大好評だった。
 それ以来黒子は時折姿を見せる。
 今日はとっておきのスイーツが必要だと言われたので、この店まで足を運んだのだ。
 黒子にとっての秘蔵の逸品のお店である。
 だというのにそれなのに、店主はさらに美味くなったと豪語するではないか。
 これは黒子としても、驚くしかない。



  
 信じられませんの

「おいおい、俺の言うことが信じられねえってか? 傷つくぜぇ」

 既に旨旨ですの

「お? つまりなにかい? あれ以上美味くすることは、この俺にも不可能だって?」

 黒子はこくこくと首を振る。

「ふっ、ふふふふ、言ってくれるじゃねえか、お嬢ちゃん。この俺に不可能があるとでも言うのかよ」

 ありませんの?

「ねえとはいわねえけどな。現に、このプリンだってウチのガキが美味いと認めるかどうかはちぃっと疑問だ」

 だが、と店主は不遜な口調で続ける。

「嬢ちゃんがこの前買っていたのと比べるなら、これは確実に美味い。それは確かだ」

 おおー

「嘘だと思うなら、今ここで食ってみろ」

 結構ですの

「心配するな、一個おまけに付けてやる」

 信じますの

 ところで、と黒子は尋ねる。
 一体これほどのプリンを美味いと認めない子供とは何者なのか、と。
 もしかして、ただの親への反抗ではないのか、と。


  
「あいつはとんでもねえ、ヒネて反抗的で素直じゃねえうえ可愛気もねえガキだが、少なくとも嘘つきじゃあねえ」

 自慢のお子さんですの

「よせやい、馬鹿言ってんじゃねえよ」

 でも店主は嬉しそう。

「あいつは、俺のガキみてえなもんだが、実のガキじゃねえしな」

 わかりませんの

「でもよぉ、俺の作ったこいつで、あいつの口から素直に『美味い』って聞きてえんだよ……」

 応援しますの

「ありがとよ、嬢ちゃん」

 ふと、店主が壁の時計に目をやる。
 釣られて時計を見た黒子は、予定より遅れていることに気付いて慌てる。

 失礼しますの

「おう、良かったらまた来てくれ」



 
 店を出た黒子は、とっとこと歩く。
 目的地は寮ではない。ホテルの会議室である。
 今日は、学生自治会頂上会議の日。またの名を、レベル5会議の日。
 学園都市の超能力者が集まる会議なのだ。

 集まるレベル5は六人。
 第一位一方通行
 第二位垣根帝督
 第三位御坂美琴
 第四位麦野沈利
 第五位食蜂操祈
 第六位は現在留学中。
 第七位削板軍覇
 それぞれが、信頼できるパートナーを、可能な限り一人同行させることになっている。
 つまり合計で、十二人。

 そして、今回の会議のおやつ担当が美琴なのだ。
 そこで、黒子がプリンを買いに行ったというわけだ。

 因みに前回のおやつ担当は垣根帝督であり、全員が食用未元物質を食べさせられた。
 味は悪くなかったのだけれど、大不評だったことを黒子はよく覚えている。
 
「黒子、こっちよ」

 ホテルのロビーには美琴が先着していた。
 一緒にいるのは麦野と垣根、そしてそれぞれのパートナーである絹旗と心理定規である。

 お久しぶりですの



 
 パートナーは誰を連れてきてもいい。ただし、自分が信頼できる相手であること。
 レベル5ともあろう者が、そのようなパートナーの一人も持てないとは恥ずかしい。というのが多数決による見解である。
 尚、多数決の票は賛成が四、反対が二だった。
 賛成側のうち、
 垣根はいつも心理定規を連れてくる。
 美琴は黒子。
 麦野は絹旗、滝壺、フレンダから選んでいる。
 削板は、なにやら本人にしかわからない基準で色々と連れてくる。
 妙にガタイのいい傭兵上がりのようなスキルアウトだったり、上条当麻の先輩と名乗るカチューシャを付けた女性だったり。
 本人が「俺は信頼してるぞ」と言うので、誰も異論を挟めないのだけれど。

 問題は残る二人だった。
 一方通行は基本的に一人で来る。

「あァ? この俺にパートナーが必要と思ってンですかァ?」

「お前、友達いないだけだろ」

 そんな垣根を無視する一方通行。

「……おィ……心理定規だったなァ」

「なにかしら?」

「クソメルヘンに脅されて嫌々つきあってンなら、なンとかしてやるぜェ?」

「こら、てめぇ、どういう意味だ」

「第二位から第一位への乗り換え? そうね、考えておこうかしら」

「はぃいっ!? ちょ、おま……」

「冗談よ、帝督」

 上下関係が見えましたの

「いや、俺がリーダーだからね? その辺把握しろよ?」



 
 そして、心理掌握こと食蜂操祈もまた、決まったパートナーがいない。

「信用できる人なんて、そう簡単には見つからないものよぉ〜?」

「うん、そうよね。私も麦野さんも運が良かっただけだし」

「そうそう、操祈は無理しなくていいから」

 実は美琴と麦野はとても気を遣っていたりする。
 その力、人の心を操ることなど造作もないその力故に、食蜂には信用できる相手が作れないという皮肉。
 彼女が本当に信用出来るのは彼女の力が簡単に通用しないレベル5と、そのレベル5によって護られているパートナー達だけ。
 勿論、他人の心を無闇に操ったりはしていないのだけれども、それとこれとは話が別なのだ。

「……気を遣うんだったら、黒子ちゃんか最愛ちゃんを貸してよぉ〜」

「ゴメン、それはお断り」

「断固断る」

「ううっ。友達力のない人たちねぇ……」

 プリンが余りますの

「ボックスに入れておいて、佐天さんと初春さんにもわけてあげましょうよ」

 二人の分はもう買ってありますの

「……あー。じゃあ、麦野さん持っていく? フレンダさんと滝壺さんに」

「ありがたく持って帰るわ」

 八人揃ったところで、会議室へ向かう一同。
 削板とそのパートナーは、先に会議室に入ったとメールが来ている。


 
 会議室では……

「……」

 どっかと座り込んで腕を組む削板と、その背後をうろうろと落ち着きなく歩いている男がいた。

「落ち着け。根性が足りんぞ」

「いや、それ無理。無理ですから」

「モツは落ち着いてたぞ」

「あんたいい加減知り合いの名前覚えなさいよ!?」

「……原谷……だっけ?」

「俺じゃなくて……って、あんた俺の名前もうろ覚えかっ!?」

「細かいことだ」

「……レベル5って頭いいんだよな?」

「根性のある奴が揃ってるぞ」

「いや、だから、何でそんなところに俺が」

「俺のパートナーだ」

 有無を言わせずに、

「俺はお前を信用してるからな」

「だったら名前覚えてくださいって」


 
「何か騒がしいわね?」

 どやどやと入ってくる一同に、原谷の緊張はピークに達する。

「うわ。来た」

「なに、あんたまた、別のパートナー?」

「おう。モツも雲川のねーちゃんも今日は忙しいって言うからな」

「私も人のことは言えないけど、あんたの交友関係も大抵謎ね。どんな繋がりよ」

「根性繋がりだ」

「うん。聞いた私が間違ってた」
  
「ま、とにかく全員座ってくれませンかねェ、話が進まねェ」

 苛立たしげに一方通行が言い、それぞれが席に着く。
 大きな円卓に六つの席。そして衝立を置いて離れたところに一回り小さなテーブルと六つの席。
 大きな方がメイン席。小さな方がパートナー席。

 今回の議長は美琴である。
 とは言っても、特に追加議題はなく、定例の報告のみである。

 メインの会議が始まると、パートナー席では単なる近況報告会が始まる。
 こちらには特に議題はない。
 
「絹旗最愛です。麦野の超パートナーです」

 白井黒子ですの
 じゃっじめんと、ですの

「心理定規、でいいわ。一応、帝督のパートナーよ」

「原谷矢文です。削板さんの友人です」

 ほう。と心理定規が目を開く。



 
「友人って、パートナーよりレベル高くない?」

「え、そうなんですか?」

「単なるチームメンバー、損得関係の間柄よりいいものに聞こえるわ」

「そんなもんですかね」

「私はアイテムがなかったら、麦野に会えていたかどうか超疑問です」

「私もスクールがなければ帝督とは会っていなかったでしょうね。もしかすると今頃第一位の傍にいたかも知れないわ」

 お姉さまはお姉さまですの

「……そっか。そうですね。麦野だって超麦野です。アイテムがあろうが無かろうが超関係ありません」

 黒子と絹旗がガッツポーズで呼応する。

「ふーん、そうなんだ」

 うらやましいですの?

「え?」

 羨ましそうですの

「ちょっと、誤解は止めて。私と帝督はそんなのじゃないわ。ビジネスライクな関係よ」

「そんなのって何ですか?」

「お子様は黙ってなさい」

「超失礼です!」

 そして会話からハブられる原谷。女の中に男が一人は辛い。
 さらにこの場合、高レベルの中に低レベルが一人だったりもする。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
「黒子、そろそろお願い」

 はいですの

 おやつの時間になった。
 クーラーボックスからプリンを取り出す黒子。
 まずはメイン席の六人に。
 麦野にはお土産の二つを別のボックスに入れて余分に渡す。

 おやつですの

「悪ィな、甘ェのは苦手なンだわ」

 黒子の差し出したプリンを制止する一方通行。

「俺の分は、誰か二つ食えばいいンじゃねェか」

 一瞬だった。
 最初からそれと気付いて観察していなければ気付かないほどの一瞬、一方通行は逡巡した。

「いや、やっぱり折角用意してくれたンだ、自分で食う」

 どうぞですの

「ン……」



 
「珍しいな、お前がこの手のもん食うって」

 言いながら垣根は、プリンの容器に視線を落とす。

「……なるほど、そういや、そうだったな」

「ふン」

 一方通行はプリンを口に運ぶ。

「……ちっ……相変わらず美味ェじゃねェかよ」

「だからそれ、本人に言ってやれって」

「うるせェ」

 二人のやりとりを見ていた黒子は、首を傾げてプリンの容器を確かめる。

 そこにはただ「KIHARA」と書かれているだけだった。
 



 以上、お粗末様でした

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。

おっつんプリン

そうか、青ピは留学中か……
ていとくん、みこっちゃんと来れば……

麦野「次のおやつ係は私か」
一同「鮭はやめろよ」

黒子をかわいくさせたら>>1は日本一だな

打ち止めもしくは小萌先生と絡ませろください

やはり元が良いからどういじってもかわいいですの

 
>>168
 小萌先生に「白井ちゃんはいい子ですね」となでなでされる黒子を幻視した
 打ち止めはまだ出てきません。
 というか、この時間軸だとまだ一方さんとも会ってません。
 天井再登場までお待ち下さい

>>169
 超同意です

 
 それでは投下します。

 今回、とある原作キャラと同能力者が現れますが、
 彼が原作キャラ本人かどうかは、読んだ人の想像にお任せします。

 タイトルは「てれぽですの」



 

 
 変質者に注意!
 それが固法とのミーティングでの注意事項だった。

 へんたいさん、ですの

「変質者が出るそうです。皆さん、注意してください」

 いつもの超電磁組のお茶タイムに、真剣な顔で切り出す黒子と初春。

「初春、それだけじゃわからないよ。もっと具体的な情報がないと」

「そうですね……」

 初春は肌身離さず持ち歩いているノートパソコンを立ち上げた。
 そしてデータを確認する。

「人気のない道で、突然背後に現れて匂いを嗅いでいくそうです」

「は?」

 へんたいさんですの

「ちょっと待って」

 美琴はノーパソを片付けようとしている初春を制止する。

「それって、空間移動能力者じゃないの?」

 おおー
 さすがお姉さまですの



 確かにその可能性は高い、と初春は言う。
 しかし、

「確証がないんですよ」

 なにしろ目撃者がいないのだ。
 被害者は誰も皆、突然背後に気配を感じたという。
 気がついたときには既に背後で「くんかくんか」状態だったのだ。

 気持ち悪いですの

 しかし、空間移動能力者であるという確証はない。
 可能性は確かに高いが、それは確証とは違う。
 なにか、広く知られていないレアスキルかも知れないのだ。
 あるいは、能力者ですらないかも知れない。

「一応、空間移動能力者はチェックしていますが、そもそも自分を移動できる能力者なんて少ないですから」

 ふんす、と胸を張る黒子。

「ああ、そうか」

 美琴にしてみれば黒子が身近な存在なので、自分自身を自在に運ぶ能力者の存在がレアケースであることをつい忘れてしまう。

「そうよね」

 現在レベル5に限りなく近いと言われている一人ですら、自分自身を運ぶのは苦手だと噂されているのに。

「私の所に現れれぱいいのに」

 黒こげ間違い無しである

 ダメですの

 
 首を振って諫める黒子。

 危険ですの

「そうです」

 佐天が黒子の肩に手を置くと力強く拳を握った。

「御坂さんは、白井さんに心配をかけすぎです」

 頷く初春。

「佐天さんの言うとおりですよ。御坂さんはもっと自重した方がいいです」

「そ、そうかな……」

「御坂さんはいつも……」

 佐天は少し考えて、言葉を続ける。

「ニッコリ微笑んで危険の中に駆けていく。って感じですよ」

 激しく頷く黒子。

 お姉さま、自重、ですの

「んー。黒子に心配かけてるのは悪いと思うけど」

「だったら……」

「でもね? 私だって黒子が心配なのよ?」


 
 美琴の言葉に三人は口を閉じる。

「黒子が心配だから、一刻も早く解決したいの。大切な後輩に危ないことなんてさせたくないもの」

 てれてれ

 そう言われると三人……特に黒子には返す言葉がない。
 いや、それどころか、とても嬉しい。

 てれてれ

 凄く嬉しい。
 だけど。
 
 黒子もお姉さまが心配ですの

 レベル5といえども、不意を突かれればタダの中学生。
 能力がなければ、風紀委員として訓練を受けている黒子や初春より弱いかも知れない。

「ありがとうね、黒子」

 てれてれ

「……初春、どうしよう。私たち、空気だよ」

「仕方ありませんね、白井さんと御坂さんですから」

「そっか、仕方ないよね。白井さんと御坂さんだもんね」

「はい」


 
 そんなやりとりから一時間後、結局黒子はいつものように巡回を続けていた。

 迷子を見つけたり、ちょっとしたカツアゲを見つけたり。
 迷子は近くの詰所に送り届けて、カツアゲ犯はふん縛って。

 通りすがりのフレメアに再会して、付き添いの浜面達から飴を貰ったり。
 通りすがりの第七位にエクストリームな高い高い(地上五階立てのビルの屋上くらいまで飛ばされる)をされて喜んだり。
 通りすがりの白いシスターに道を聞かれたり。


 そして、そんな黒子を見つめる影が一つ……


 不穏な気配に首を傾げる黒子。
 ふと立ち止まり、振り向く。

 誰もいませんの

 勘違い?

 背後に気配。
 咄嗟に振り向いても誰もいない。

 ???

 背後の気配は消えない。
 正確には振り向くたびに消えて、消えてはすぐに現れる気配。

 ???

 ……「人気のない道で、突然背後に現れて匂いを嗅いでいくそうです」

 これは、まさか……

 黒子は短距離を跳んだ。
 しかし、そのテレポート先でもやはり背後に気配が。
 二度、三度。
 それでも背後の気配は消えない。どこまでも、気配はついてくる。


 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 背後へテレポート。
 というより、対象背後にしかテレポートできないのだけどそれはそれ。
 目をつけた少女の背後へテレポート。
 そして深呼吸。
 さらに深呼吸。
 ついでに深呼吸。
 駄目押しの深呼吸。

 つまり、【くんかくんか】×4。

 素晴らしい! と男は自らの能力を讃えた。
 これは不完全なテレポートなどではない。神が自らに与えたもうた贈り物。まさにギフト。
 男は神に感謝し、その能力を遺憾なく発揮する。
 少女の背後へ忍び、その匂いを思うさま【くんかくんか】することに。
 男は自由だった。自分の欲望に。その行為に。

 漢字二文字で表現すると『変態』である。

 今日の獲物はツインテールの小柄な少女。
 腕章を見る限り、風紀委員のようだ。
 おそらくは自分のような者を警戒しているのだろう。
 いや、既に自分自身が警戒対象とされていても何の不思議もない。
 なにしろ、これまでに【くんかくんか】した数は三十を下らないのだ。
 ならば、敢えて追跡者を【くんかくんか】するのも一興である。

 男は飛んだ。

 目前に見えるのはツインテール後頭部。
 小さな頭。癖のあるような髪質。
 そして何よりも、いい匂い。

 (素晴らしい!)

 男は望む。【くんか】を! 一心不乱の【くんか】を!!



 少女が振り向くと同時に、男は能力を発動する。

 振り向く少女。消える男。
 その行為を何度も繰り返し、少女の振り向きには焦りが加算される。
 さらにそこには恐怖が、諦観が、絶望が積み重なっていく。

 【くんかくんか】
 振り向く少女。
 テレポート。
 【くんかくんか】
 振り向く少女。
 テレポート。

 男の恭悦が極まろうとしたとき、

「!?」

 少女の姿が消えた。
 男は、目の前にいるはずの少女の姿が消えたことに驚く。
 
 ここですの

 声は背後から。

(俺の後ろに!?)

 男は跳ぶ。少女のAIM拡散力場を感知し、その背後へと。
 間違えるわけがない、いや、他人のAIM拡散力場を感知してその背後へ跳ぶのが自分の能力。
 間違えようがないのだ。それ以外のテレポートなどできないのだから。
 しかし、少女はいない。

 ここですの

 やはり、その声は背後から。

 
 男は跳ぶ。
 しかし少女はいない。
 声は背後から常に聞こえる。
 振り向けば、少女の姿は消える。
 そして背後から聞こえる声。

 ここですの

 あり得ない。逃げられてしまうならまだしも、常に背後へ回られるなど。
 仮に少女が男以上の能力を持った空間移動能力者だとしても、常に背後へ回るなど。
 それは自分だけの能力のはず。
 自分だけの現実のはず。

 跳んでも、
 跳び続けても、
 飛び逃げても、

 ここですの

 少女は背後にいる。

 どれほど跳べば、逃げられる?
 何処まで跳べば、逃げられる?
 いつまで跳べば、逃げられる?

 いや…………

 逃げられるのか?

 ここですの

 逃げられない。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 
 ?

 黒子は、立ちつくす男を不思議そうに眺めていた。

 数度のやりとりの後、焦りはじめた黒子の前で男は突然動きを止めたのだ。

 あの……どうしましたの?

 ようやくそう尋ねた黒子に、男は無言のまま答えない。

「…………」

 首を傾げる黒子。

「大丈夫? 黒子ちゃん。心配したんだゾ☆」

 食蜂さまですの

「まさかぁ、変質者騒ぎの犯人が、こんな外見力のない人だったなんてぇ、まぁ、予想通りだけどぉ〜」

 ニコニコと微笑みながら、食蜂は手にしていたリモコンをポシェットに戻す。

「ほらぁ、もう大丈夫だから、黒子ちゃん」

 黒子には優しく、そして男に向かっては厳しい表情で。

「貴方みたいな女の敵、人間のクズは、ずっと妄想の中で生きてなさいね♪」
 
 男は白目を剥いて、宙を凝視していた。

 助けてくださいましたの?

 食蜂はゆっくりと頷く。

「さあ、黒子ちゃん、こっちに……」


 
「黒子ーーーーーーーっ!!」

 男が吹っ飛んだ。
 それはもう、見事なまでに吹っ飛んだ。
 超電磁砲の余波で吹っ飛んだ。

 さすがにまともに命中させないほどの理性はあったけれど。
 とにかく美琴の超電磁砲で、変態男は吹っ飛んだ。

 ついでに衝撃で食蜂も転がった。
 黒子も転がった。

 ころころ、と。

「大丈夫!? 黒子!」

 お姉さま……

「様子がおかしいって、初春さんから連絡があったのよ」

 携帯のGPSで、黒子のおかしな行動(短距離テレポートの連続)に気付いたのだろう。

「あれが変態男ね」

 第五位の精神攻撃からの間髪入れぬ第三位の物理攻撃で、男はほぼ再起不能である。

「大丈夫? 何もされてない?」

 は、はいですの
 あの、しょ……

「念のため、病院に行きましょう。変態男の変態菌がついてたら消毒しないと!」

 あの、犯人を……

「すぐに固法さん達が来るから、それは大丈夫。さあ、行くわよ」


 
「……」

 無言で立ち上がる食蜂。
 ちょっと涙目。

「あれ? 食蜂さん?」

 ようやく気付く美琴。

「あ、もしかして、巻き込んじゃった?」

 食蜂さまが助けてくださいましたの

「ありがとう!」

 真正面からの感謝の言葉に、食蜂は一瞬たじろいだ。

「お礼は後からきちんと言うから。今は黒子を病院に連れ行くから、ゴメンね?」

「え、ええ……」

 有無を言わせず走り出す美琴。

「……」

 一人残されて、辺りを見回す食蜂。

「……ま、いっかぁ、って感じぃ?」

 黒子ちゃん助けたし。
 そう呟くと、食蜂は歩き出した。



 腹いせに、男にさらなる幻覚見せてから。



 頑張れみさきち。
 もっと頑張れ。

 そして次回こそ、ちゃんとインデックスを……

 
 以上、お粗末様でした

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。



 

禁書の質問スレで死角移動の事質問してたのは>>1かww


みさきちフェニックス幻魔拳打てるんだな

>>191
 Exactly(その通りでございます)


>>194
 本編でも、その気になれば出来るんじゃないだろうか、と思ってるんですけどねぇ
 本編みさきちは、よほどでない限りそこまでの手間をかけるとは思えませんが


 投下します
 タイトルは「たまゴですの」

 あと、なんかデンパが来てこんなの作ってみた


http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira078767.jpg

 
 おはようございますの、お姉さま

 健やかな目覚め。
 ベッドの上で上半身だけを起こした黒子は、隣のベッドの美琴に朝の挨拶。

「おはよう、黒子」

 朝のシャワー、先に浴びるね、と言い残して美琴はバスルームへと。
 黒子は着替えを準備すると、ベッドを整える。
 ついでにお姉さまのベッドも。

 せっせ、せっせ

 ベッドメイクですの

「黒子、シャワー空いたわよ」

 はい、ですの

「ベッド、いつもありがとうね」

 どういたしまして、ですの

 着替える二人。

 んしょ、んしょ

「黒子、襟が曲がってるわよ」

 美琴が手を伸ばし、黒子はすっくと立って襟元を突き出す。

「はい、これでよし。うん、今日も可愛いわよ」

 てれてれ

「それじゃあ、行ってくるわね」

 朝から美琴は研究所へ。
 今日は精密検査もあるので、朝食は抜いていかなければならない。
 朝一番の検査が終わってからゆっくり食べるのだ。

 お気をつけて、ですの

 
 美琴を見送ると、黒子は食堂へ。
 名門常盤台の学生寮。朝食といえども手は抜かれない。
 本日はバイキング形式の朝食日。食堂の一角では料理人が生徒達の注文に応じて次々とオムレツを焼いている。
 その隣に運ばれてくるのは焼きたての各種パン。

「どうされます?」

 黒子にオムレツ列の順番が回ってくる。
 壁に掛けられたメニューによると、今日のオムレツの具は「ツナ、ミートソース、ミックスベジタブル、チーズ」である。

 プレーン、戴きますの

「ソースは?」

 トマトソースをお願いしますの
 
「承りました」

 バイキング形式の日のオムレツは、黒子のお気に入りだ。
 一つで済まずに、二つ三つと食べてしまう。

「今日も、お代わりの準備はしておこうかな?」

 だから、料理人ももう覚えている。

 てれてれ
 食べ過ぎ、ですの

「作る側としては沢山美味しく食べて貰って嬉しいよ」

 だけど、と料理人は言う。

「もしかすると、もっと美味しくなるかも知れないよ」

 !!

 それは、黒子にとっての重大ニュースだった。


 朝食後、寮の裏庭に黒子はいた。
 
 ……ありますの

 料理人が言っていたとおり、そこには小屋が建てられている。
 養鶏小屋だ。
 此処でニワトリを飼うのである。それもタダのニワトリではない。学園都市の誇るスーパーニワトリである。
 一日に複数個の卵を産むスーパーニワトリなのである。
 常盤台の寮とて、毎日卵を食べたりはしない。
 この養鶏小屋で、寮で使う卵を賄おうという計画らしい。
 新鮮な卵を食べらて嬉しい。と言う意味では黒子は賛成だ。

 が、しかし。

 小屋の大きさからニワトリの数を考えると、どうも多すぎるような気がする。
 もしかして卵を産ませるだけではなくて、ブロイラーも扱うのだろうか。

 覗いてみると、小屋は空っぽ。まだ一羽たりともニワトリはいない。

 ニワトリさん、留守ですの

 留守というわけではない。まだニワトリが運ばれてきていないだけなのだ。
 だったら、空っぽの小屋だけを眺めていても仕方ない。
 背を向けて、黒子は室内に戻ろうとする。

 コーッコッコッ
 
 !?

 今のは、紛れもないニワトリの声。
 振り向いた黒子は見た。小屋の中にいる一羽のニワトリを。

 いつの間に? ですの

 さっきまでは確かにいなかったのに。
 見間違いだろうか、と考えて黒子は再び小屋に背を向ける。


 コーッコッコッ
 コーコッコッ

 !!??

 増えましたの

 小屋の中にはニワトリが二羽。

 コーッコッコッコッ
 ココッココッココッ
 コケッコココッ

 !!!???

 見る間に三匹に増えた。
 ニワトリが増殖していく。

 ニワトリさんが増えていきますの

 増殖ニワトリである。
 黒子は想像する。
 ニワトリがこのまま増殖し続けると、常盤台はニワトリに占拠されてしまうかも知れない。
 ニワトリまみれの学園生活の始まりである。

 ……それは嫌ですの

 黒子は小屋をじっと見る。そこから視線を外すと、壁の向こうへ。
 そして、しゅんとテレポート。
 壁の上に乗った黒子の前、寮裏手の道路に止められているのは大型トラック。
 そのトラックと小屋を繋ぐ感覚を、黒子は感じていた。

「あら」

 トラックの荷台に積まれた大量の養鶏ケージ。そしてそこに立つ姿。

「綺麗に跳ぶじゃない。察するところ、貴女が白井黒子かしら?」

 ですの

 
 ニワトリをテレポートさせていた係員は、結標淡希と名乗った。

「噂はかねがね聞いているわよ、常盤台のテレポーター、超電磁砲のパートナー、ジャッジメント白井黒子さん」

 てれてれ

「……いや、別に褒めてる訳じゃないんだけど……」

 呆れたように言いながらも、結標はさらに数羽のニワトリを小屋内へと転送する。

「私の能力は……」

 鶏肉移動(ムーブチキン)、ですの

「いや、違うから。そんなピンポイントな能力じゃないからね?」

 黒子は頷いた。

 失礼しましたの

「うん、わかってくれれば……」

 畜肉移動(ムーブミート)、ですの

「肉から離れなさい」

 家畜移動(ムーブキャトル)……

「座標移動(ムーブポイント)だからっ!!」

 失礼しましたの


「まあ、もっとも……」

 普段は動物しかテレポートさせられないレベル3がやっていることだから、間違えられても仕方ない。と結標は言う。
 畜産の方ですの? と黒子は尋ねる。
 結標はどう見ても高校生くらいの歳だ。この年で、学園都市にいて学生でないというのは非常に珍しいのだ。

「霧ヶ丘女学院、畜産部」

 ?? 黒子は首を傾げた。
 名門霧ヶ丘に何があった。 

「それ系統の能力者がたまたま集まったみたいでね、遺伝子弄りとか含めて色々やってるのよ。これもその一環」

 そして自分は、時々この能力で家畜移送を手伝っているのだと。
 結標なりの好意である。
 決して、家畜移送先に小学校があるとかそういう話ではない。多分。
 子供達が喜んで動物に群がりに来ると、その余録で自分も子供達に群がられる、という話ではない。多分。

 だけど黒子は知っている。
 この前の【くんかくんか】男といい、空間移動能力者には何故か変態が多いと言うことを。

「とりあえず、同系統の誼でよろしくね」

 よろしくお願いしますの、結標さん


 それにしても、と黒子は尋ねる。
 
 ニワトリさんが沢山ですの

「私は移送以外には直接タッチしてないけれど、クローンニワトリらしいわよ」
「ニワトリだけじゃなく、牛や豚もクローンがどんどん増えてるって」
「眉唾な噂だけど、どっかの馬鹿科学者がクローン人間作ろうとして失敗、不完全な装置だけが払い下げられたって話があるのよ」

 不完全だけど、家畜程度なら充分問題ないのだと。
 
「食べる分には、クローンだろうとなんだろうと構わないわよね」

 頷く黒子。

「ところで、超電磁砲はいるの?」

 お姉さまは能力測定精密検査でお出かけですの
 よろしければ、伝言はお預かりしますの

「大した話じゃないわよ。ちょっと噂を確かめたくてね」

 噂?

「常盤台のエースの男の噂」

 お姉さまは正真正銘の女性ですの

「エースが男、じゃなくて、エースの男、ね?」

 !!
 お姉さまにおつき合いなされている殿方がいらっしゃいますの?

「そういう噂ね」 

 
 黒子は少し考えて、言った。

 お兄さまですの

「は?」

 お姉さまがお付き合いなされている殿方でしたら、お兄さまですの

「お兄……さま?」

 ですの
 
 自分の言葉に自信があるのか、ふんすっ、と胸を張る黒子。

「まあ……そういう考え方もある……のかしら?」

 ですの

「うん。ま、いいか」

 ?

「愛しのお姉さまに男が出来て、慌てふためく姿が見たかったんだけどね」

 ??

「貴女、私の予想以上に可愛い子だったわ」

 てれてれ

「可愛い子は好きよ。男の子でも、女の子でも」

 それじゃあ、と言うと、合図でも決めてあったのかトラックが動き出す。
 手を振る黒子。それに応える結標。さらに応じる黒子。

 お仕事ご苦労様ですの

 結標を見送った黒子は時計に目をやると、慌てて学舎へと向かうのだった。



 以上、お粗末様でした。

 あわきんはもう少しあっさり退場のつもりだったのだけれど……
 何故か書いていたらこんなことに

 そのため、インデックス登場編のはずが、思ったより導入が長くなってしまいました。
 次回はこの日の続きで、インデックス登場、のはず!

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。


鶏小屋からのインデックスさんとか、危険な香りしかしないでぇ・・・

なんか常盤台の食堂でガツガツ食べまくって寮監に首コキャされるインデックスさんが視えたんだがまさかな…

最近色んな黒子SSを読むことで黒子株が上昇し続けている

この黒子は小さい黒子?

今週中に来るかッ!?


>>207
 ニワトリとインデックスの関係は(多分)次回にて明らかに……!

>>208
 さすがにそれは可哀想と思ったので、今回別の人が首を……

>>209
 色んなSSの色んな黒子は皆可愛いです。
 あわきんと心中未遂の黒子も、
 絹旗と一つ部屋で暮らす黒子も、
 ヲタ食蜂と一つ部屋で暮らす黒子も、
 次世代学園都市で結婚して子供作って離婚した黒子も、
 一方さんに初春と二股かけられてる黒子も、
 美琴と一緒に暗部へ挑む黒子も、
 美琴が行方不明の学園都市で、佐天さん、初春、上条とグループ作ってる黒子も、
 一方、垣根、麦野、木原の美琴LOVEっぷりにどん引きしつつも対抗意識を燃やす黒子も、
 上条さんゴゴゴゴに呆れる黒子も、
 佐天さん、初春、美琴と共に、上条一方コンビを撃破する黒子も、
 番外個体にトラウマ与えるくらいの変態で、上条さんにそげぶされて正気に戻った後にもう一度そげぶされて再変態化した黒子も、
 中2じゃなくて中1な黒子も。、
 お色気担当のアックア隊長と一緒に冒険している黒子も。
 
 勿論、ここで抜けてしまった他のSSも全て。


>>211-218
 黒子サイズはご想像にお任せです

>>219
 来たよッ!!

 それでは投下します
 タイトルは「たばこですの」

(「たまゴですの」の直接の続き)


 黒子が学舎へ向かおうとすると、寮の正面になにやら人だかりが。
 よく見ると、人だかりの中には見知った顔も。

 なにかありましたの?

 近づいて尋ねる。
 
「白井さん。あそこですわ」

 クラスメートの湾内さんと泡浮さん。二人が示した先には……

「……」

 明らかに苛ついた様子で立ちつくしている一人の男。
 真っ赤な長髪と二メートル越えの長身、そして毒々しいほどのピアスと顔面入れ墨は、此処が常盤台の寮であることを差し引いても目立っている。
 しかも、男はなにやらくわえている。
 あれは、煙草だ。

 禁煙ですの

「あ、あの、白井さん?」

 黒子は臆せず進む。
 相手が何者かは知らない。関係者かも知れない。
 だけど、そんなことは関係ない。
 寮を含めて常盤台の敷地内は完全禁煙である。それは間違いないのだ。
 ならば、黒子の進む道は一つ。



 じゃっじめんと、ですの

「ん?」

 男は自らへの呼び掛けに気付いたのか周囲を見回す。

「……誰もいないな」

 じゃっじめんと! ですの

「はて。声はすれども姿は見えず……ふん、これが科学とやらの成果か?」

 じゃっじめんとぉぉぉぉっ! ですの

「……まったく、よくわからない街だな」

 じゃっじめんとぉおおおおおおおおっ!!! ですの

「さっきから五月蠅いな、君は」

 ようやく視線を降ろす男。

「僕に何か用かい?」

 禁煙ですの

「知っているけれど?」

 男はくわえていた煙草を指に挟むと、唇から抜いて黒子の前に示す。

「火をつけている訳じゃあない。つまり、煙は出ていない。だったら禁煙は関係ないだろう」


 ぐぬぬ……

「どうかしたのかい? あー……ジャッジメントくん?」

 そういう問題ではありませんの

「ほほう、日本で『禁煙』と言うのは、煙草の所持も禁じるという意味だったのか」

 ぐぬぬ……

「そういう問題ではあるまい、未成年」

 男は背後からの声に振り向いた。

「……ステイル=マグヌス。ここに来る条件として、規則の遵守があったはずだな」

「それは……」

「寮則として、未成年の煙草所持は禁煙と同罪だ」

「いや、これは……」

 寮監の手がステイルの頭へと伸び、それを掴む。

「ま、待ってくれ、これは」

 すーっ、と寮監の身体が持ち上がった。

 おおーー

 黒子をはじめとしたギャラリーから上がるどよめき。
 寮監は、ステイルの頭を支点とするようにそのままくるりと回ったのだ。
 そしてステイルの首から嫌な音が、ぐきり、と。


 寮監に何処かへ引きずられていくステイルを見送る一同。

 ご愁傷様ですの

「いえ、白井さん。あの方にとっては幸運だったかも知れませんわ」

 近づいてきた湾内の言葉に首を傾げる黒子。

「もし寮監様がいらっしゃらなかったら……」

 そっと、湾内が示す先には……とある二人を宥める泡浮の姿。

「落ち着いてください、お二人とも」

「ええ、勿論ですわ。落ち着いていますとも。そうですわよね、食蜂さん」

「そうそう、婚后さんの言うとおりよぉ。あの常識力のない長身さんを精神破壊しちゃうゾ☆ なんて思ってないから〜」

「私だって、あの頭と身体を逆方向に噴射させて引き千切ろうなんて思っていませんから」

「あらぁ、婚后さん。あんまり加減力がないと、黒子ちゃんが困っちゃうんだけどぉ?」

「あらあら、申し訳ありません。御坂さんご不在の時には白井さんに気を配るようにと�直接�頼まれていますので、つい過保護になっ

てしまって」

「……直接?」

「なんでも、レベルの高さをいいことに、白井さんに不埒な接近を企む方がいらっしゃると聞いているもので……どなたかは存じません

が、困った方もいらっしゃるものですわ」

「ぐぬぬ……」

「あの……婚后さまも食蜂さまも落ち着いてください……」

 困っている泡浮の横を走り抜けた黒子が、二人の間に入る。

 喧嘩はいけませんの

「白井さんの言うとおりですわ」

「黒子ちゃんの言うとおりね♪」


 急速にクールダウンした二人は、運ばれていったステイルに話題を変える。

「結局、あの殿方はどなたですの?」

「知らないわぁ。だけど、さっきの言葉からすると、学校のゲストじゃないかしらぁ」

 未成年、と言ってましたの

「そうは見えませんが……何処かの高校か大学の方でしょうか?」

「おおかた、卒業生の進路関係じゃあなぁい?」

「ステイル!」

 また、別の声。

「ステイルは何処に行ったのですか」

 きちっとした正装の、スーツ姿の女性が寮監の去った別の方向から姿を見せる。
 女性は辺りに集まった人々に気付くと手近の……湾内に声をかけた。

「すいません。今此処に、赤い髪の長身の男性がいませんでしたか?」

「ああ、その方なら寮監さまに拿捕されました」

「……だ……ほ?」

「はい、此処は禁煙ですので。それを破られたようでしたから」

「それは失礼しました。ステ……彼に替わって非礼を詫びます。それで、何処へ連れて行かれたのですか?」

 湾内が「あちらへ」と示した方向へ、女性は早足で歩いていく。

 きれいな人ですの

「先ほどの方のお知り合いのようですわね」

「大人力ありそうねぇ」

 ……!!
 急がないと遅刻ですの

 黒子の指摘にざわめく野次馬一同。
 ある者は学舎へ、ある者はカバンを取りに自室へ。蜘蛛の子を散らすように別れていく。



 その頃……
 
「美味しいんだよ、これ! お代わり欲しいかも! ねぇ、そこの人、これと同じものをもう一つ欲しいんだよ」

 あるファミレスに食欲魔神がいた。
 そして、その魔神を溜息と共に見つめる二人。

「……なあ、一方通行」

「なンだ?」

「上条さんは、迷子のシスターを案内中のはずなんですが」

「奇遇だなァ、俺もそォ思ってたところだ」

 迷子のシスターを見つけたのはいい。
 常盤台へ行きたいというので案内しようと思ったのもいい。
 お腹が空いたというのでファミレスへ連れて行った。まあ、これもいいだろう。
 
 そこで、何故か始まるメニュー全制覇への道。

「まさか……暴飲暴食(ブラックホール・ストマック)レベル5とはなァ……」

「お前がいて良かったよ」

「なに、俺に払わす気ですかぁ!?」

「レベル0、ついでに昨日財布落とした上条さんにそんなお金があるとでも?」

「はァ、また落としたのかよっ」

 呆れながらも一方通行は、テーブルの向かい側で仲良く食事を続けている二人を睨む。

「いい食いッぷりだ! 俺も負けてられんっ! 姉ちゃん! 二人前追加だ!」

「なァンで第七位まで一緒なって飯食ってンですかァ!?」

「いつの間に現れたんだよ、お前」

「はっはっはっ、細かいことは気にするな上条。あと、一方通行は安心しろ、俺は自分の食った勘定は自分で払う!」

「金の心配なンざしてねェよ。って、俺がシスター分払うこたァ決定事項ですかァ!?」





 舞台は常盤台に戻り……

「今日来るはずの留学生が迷子になった」

 という噂が校内を駆けめぐっていた。
 朝方の寮での騒ぎで見かけた二人は、その留学生の保護者であったと。
 男の名はステイル=マグヌス。
 女の名は神裂火織。

「数日前から学園都市を歩き回っていたので、もう道に迷うことはないと判断したのが早計でした」
「申し訳ないが、捜索を手伝ってもらえないでしょうか。私たちは、未だ学園都市の地理に疎いのです」

 神裂より、ジャッジメントたる白井黒子に捜索補助の依頼が来たのである。
 この子です、と見せられた写真に黒子は見覚えがあった。
 数日前……正確には変態テレポーターと交戦した日、に道案内した迷子だ。
 学園都市では珍しいシスター服姿だったのでよく覚えている。
 なるほど、数日前から歩き回っていたのなら、それが彼女だったのだろう。

 わかりましたの

 ジャッジメントとして、そして本日ただいまからの同じ常盤台生として、彼女の捜索を断る理由はない。

 早速行きますの

 黒子と神裂が一歩を踏み出す。因みに、ステイルの意識はまだ戻っていない。
 二人による捜索が始まった。






 その二分後、削板から黒子に電話が掛かってきて解決するのだけれど。





 以上、お粗末様でした。


 インデックス登場はしたけれど……
 話にケリがつかなかった
 それ以前に名前が出てない

 次回こそ、インデックスIN常盤台編終了を目指す。


 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。

今、何処ぞの黒子が石化して大変な事になってる!

そういや魔術関係はどうなってるんだろ?
インさん能力開発したらいろいろまずいのでは?

乙なのよ

>>220
あんたどんだけ黒子好きなんだよww
そして3つくらいわかったよww

…コーヒー屋さンは読んでないのか?

くろこちゃんかわいいですの


>>231
 こんなポーズは嫌ですの、やり直しを要求しますの!

>>235
 一応今回の話で言及します

>>236
 !!
 何故かオルソラの印象が強すぎて……

>>242
 てれてれ


 インデックス登場編、何とか終了

 それでは投下します。
 タイトルは「気のせいですの」


 電話の後すぐに、上条、一方通行、削板がシスターを連れて常盤台に姿を見せた。
 三人とシスターを待ち受けていたのは、黒子と神裂だ。ステイルはまだ意識を取り戻していない。
 緊急事態ということで、黒子の本日の登校は免除となっている。

「来たようですね」

 神裂が四人を視認すると、黒子も頷く。

 お兄さまですの

「貴女の兄上だったのですか?」

 お姉さまの想い人ですの

「なるほど。故にお兄さま、ですか」

 微笑ましいものを見た。というように神裂は笑う。

「ならば、あの子は私の妹分でしょうか」

 ?

「年下の相棒の、大切な想い人ですから」

 ???

「……ああ、失礼」

 ???

「ステイルはああ見えて、こちらでいう中学生です」

 !!!!!!!!!
 イギリス凄いですの

「イギリスはあまり関係ないと思います」

 魔術師凄いですの

「それもあまり関係ないと思います」


 魔術師。
 そう、ステイルは魔術師である。
 そして神裂も同じ側の陣営である。

 学園都市統括理事長は科学と魔術の平和的融合を求めた。それに真っ先に応えたのがイギリスの魔術師たちだった。
 だからこそ、学園都市第六位はイギリスへ渡り、交換留学生として一人のシスターが常盤台へとやってきたのだ。
 シスターの名はインデックス。
 完全記憶能力と10万3000冊の魔道書を持つ少女。

 因みに、一年ごとに記憶が消えるとかそういったことはない。
 そういうのは、一方通行がクローンを虐殺したり、麦野がフレ/ンダを作ったり、上条が記憶失ったりする世界に任せた。
 この世界に、そんな理はない。
 ないったらない。

 そしてインデックスの学園都市への滞在が決定し、次に留学先が検討された。
 中学生。シスター。寮。
 この三つから考えれば、妥当なのは常盤台中学である。全ての条件をしっかりと満たしているのだ。
 魔術師に対する能力開発は危険だが、留学生であるインデックスは能力開発を受けずとも良いことになっている。

 しかし、イギリス清教と学園都市との友好を全ての人間が歓迎しているわけではない。
 だからこそ、インデックスのバックアップには万全の準備が取られていた。
 ルーン魔術の天才、ステイル=マグヌス。
 世界に二十人といない聖人の一人、神裂火織。
 インデックス自体に施された防御システム、自動書記と歩く教会。
 くわえ、二人のレベル5とレベル4のトップクラス数人を擁する常盤台
 この囲みをかいくぐりインデックスを手中に収めるのは困難この上ないだろう。

 因みにステイルと神裂は、一応それぞれ別の学校に籍を置くことになる。

 以上の話を、黒子は削板たちを待っている間に聞かされたのだ。


 そして今、満面の笑みをたたえて何かをくわえているインデックスを先頭に、男三人が雁首を揃えてやってきた。

「かおり、食べる?」モチャモチャ

 インデックスが差し出したのはだんごのようなもの。だんごのように見えるけれど、だんごとは少し違う。

「なんですか? それは」

「みたらしドーナツかも」

「初耳ですね」

「それはみたらしだんごとドーナツを組み合わせた全く新しいスウィーツなんだよ」

 ニコニコと説明するインデックスの横で、一方通行が吐き捨てるように愚痴っている。

「プリンだけに飽きたらず、こンなもンまで作るなンてェ、ったく、木原くンもヤキが回ったもンですねェ」

 言葉の内容とは裏腹に、妙に嬉しそうな様子。

「白い人が買ってくれたんだよっ!」

「はっ、さンざン飯食ったあげくにデザートは別腹って、その胃袋はなンなンですかァ?」

「ファミレス出た後、嬉しそうに木原さんの所に案内してたよなぁ、第一位」

「根性馬鹿は黙っててくれませんかねェ」

「馬鹿みたいに根性があるってか。それは褒め言葉だなっ!」

「マジ馬鹿ですかァ?」

「まあまあ、一方通行も抑えろって」

 二人の間に入る上条。
 その上条の横にインデックスが並ぶ。

「かおり、この人が最初に案内してくれたんだよ」

「うむ。相変わらず女受けはいいな、上条!」

「おいチビ、三下には気をつけろよォ、女泣かせの常習犯だからなァ」

「上条さんは人畜無害ですよ!?」



「インデックスがお世話になりました」

 頭を下げる神裂と、それに応える上条。

「いえいえ。上条さんは当たり前のことをしただけですから」

 さすが、お兄さまですの

 黒子が言う。
 お姉さまと付き合っているのならお兄さま。
 今朝方、結標に言われて決めたことだ。

 が、勿論、結標と黒子のやりとりなど他の誰も知るはすがない。

「なン……だと……? ……お兄さま?」

 結果、一方通行がその凶眼で上条を睨みつける。

「上条くゥゥうン? こりゃァ、一体どォいゥことなンでしょうねェ?」

「は? いや、白井? なんで、お兄さま? いや、上条さんは何も知りませんのことよ?」

「はっはっはっ、上条、いつの間にジャッジメントの嬢ちゃんにまで粉かけたんだ」

 笑いながら、黒子に向かってよぉ、と気軽に手を挙げる削板。

 第七位さまですの

 ニコニコと駆け寄る黒子。



「よしっ、いつものやつ、行くぜっ!」

 はい、ですの

 削板は黒子を抱き上げるようにしてその身体を持ち上げると、すぐさま上空へと放り投げる。

「ェえええええっ!?」

「何やってんのぉ!? 削板!!??」

「ん?」

 驚く一方通行と上条をよそに、削板は涼しい顔。

「よくぞ聞いてくれた」

 ババッ、とポーズを決める削板。

「これぞっ!」

 握り拳を天に突き上げる。

「根性&空間移動のコラボレーション&コンビネーション!」

 くわっと、決め顔。

「エクストリーム高い高い!」

 ドンッ、と何故か爆発する削板の背後。



 その直後、落ちてきた黒子は削板に受け止められる。

 新記録ですの

「そうか。今日は調子がいいみたいだな」

 ですの

「いや、だから何やってンだって」

 詰め寄る一方通行と上条に、削板は気軽に答える。

「見ての通りだ」

「いや、上条さんにはお前が白井を高く放り投げたとしか見えないんですけれど」

「その通りだが?」

「おい」

「安心しろ、加減はしている」

 スリルですの
 爽快ですの

 キャッキャッと笑って喜んでいる黒子を降ろす削板。

「この前、試しに本気でモツ鍋を投げたら、音速を突破してしまったからな。それ以来、俺なりに気をつけている」

「……で、モ……横須賀は?」

「そういえばあれから、姿を見てないな」

「おおおおおおいっ!?」


 騒ぎにこれ関せずと、削板は黒子のリクエストに応えて再投。
 キャッキャッと喜びながら、黒子の身体が宙を舞う。
 何やってんだこいつら、と、頬笑ましいなぁこの人達。その二つの混ざった表情で神裂が宙舞う黒子を眺めていると、

「……凄いんだよ」

 インデックスがずずいと削板に近づいていく。
 しゅん、と黒子が宙に消え、インデックスの目前に姿を見せる。

「わっ」

 テレポですの

「凄いんだよ、ぐんはと……」

 初めまして。白井黒子、ですの

「私はインデックス。それより、ぐんはとくろこは凄いんだよ」

 凄いのは第七位さまですの

「どうした、インデックス?」

「こんなことが出来るなんて教えてくれなかった、ぐんははずるいかも!」

「ん? お前もしたいのか?」

 とはいえ、削板も考え無しの馬鹿ではない。多分、おそらく。多少は。
 相手がいかなる状況からもテレポートという能力で生還できる黒子だからこその、エクストリーム高い高いなのだ。
 常人は下手すると死ぬ。ちなみに、削板の区分では横須賀は常人ではないのでセーフ。
 だから、無闇にインデックスにエクストリームは出来ない。




 削板は考える。

 エクストリームは出来ない。
 
 つまり、エクストリームでなければオッケー。

 三メートルくらいなら飛ばしてもいいだろう。

 待てよ? ここには白井がいるじゃないか。

 多少高く飛ばしてもテレポで回収できるのでは?

 いやいや、一方通行もいるじゃないか。

 かなり高く飛ばして落下しても、ベクトル操作で無傷で生還できるじゃないか。

 もしかして、問題なしじゃないだろうか?

 なんだ、それなら大丈夫だ。

 削板は考えた。






「インデックス、彼が困っていますよ」

 考え終えた削板が口を開く前に、神裂がインデックスを窘める。

「白井黒子は空間移動の能力がありますが、貴女は無能力者です。なにかあったらどうするのですか」

「そのための�歩く教会�なんだよ。これがあれば私は平気かも」

「それはそうですが、無闇に不要な危険を招くことはありません」

「かおりの意地悪」

「う……」

 上目づかいで、ちょっぴり涙目のインデックスが神裂にじりじりと接近する。

「私はちょっとだけ飛んでみたいだけなんだよ?」

「なァ、ちょっと口挟むが」

 たじたじの神裂の前に、一方通行が手を伸ばして注意を引く。

「こいつ、妙な防御してねェか?」

 こいつ、と言って示すのはインデックス。

「こいつ周辺の風が妙な具合なンだが」

「貴方は……学園都市第一位……ですか」

「はっ、俺も有名になったもンだなァ。ま、それなら話は早いだろォ」

 一方通行はインデックスの肩に手を置く。

「俺がちょいと力を入れたら弾きやがる。因みに、並みの男でも肩が砕けるぐれェの力だがな」

「な……」

 神裂が一歩前へ出ると一方通行は手を放した。


「これが魔術とやらの成果かどォかはしらねェが、俺の見たところ、多少ぶン投げられて落ちてきても、これなら平気だろォ」

 そもそも、テレポーターと自分のいる前で落下事故なんてあり得ない、と啖呵を切る一方通行。

「この根性馬鹿とテレポ屋が羨ましがらせたンだ、それくれェはサービスしてやってもいいンじゃねェか?」

「俺に異議はないぞ」

 削板が頷くと、

 フォローしますの

 黒子も頷く。

「上条さんもお手伝いを……」

「馬鹿ですかァ!? 俺らの能力打ち消してどォするつもりだァ、三下ァ!!」

 輪から放り出される上条。
 確かに能力必須のこの状況では、幻想殺しは役立たずどころか足を引っ張る以外の何者でもない。

 神裂は考える。
 確かに、�歩く教会�ならば落下どころか、至近距離からのミサイル攻撃すら無効だろう。
 落とされたところで十二分に洒落で済む。
 それに……

「ねぇ、かおり、私も飛びたいかもぉ……」

 上目づかい涙目おねだりの三コンボである。ステイル=マグヌスなら二秒で投了の場面だ。神裂火織はもう少し耐えて十三秒ほど。
 つまり、陥落。



 そして——

「きゃあああああああああああああああっ!!!」

 これは嬉しい悲鳴である。
 削板に飛ばされているインデックスの嬉しい、そして楽しそうな悲鳴である。

「凄いんだよ!」

「よぉしっ! この高さでもビビらねえとはいい根性だ!」

 くるくると回りながら、満面の笑みを浮かべながら飛んでいるインデックス。
 それを見送ってこちらもくるくる回りながら手を振っている黒子。
 喜んでいるのが嬉しくて投げ続ける削板。

「もっと、もっと飛ばすんだよ! ぐんは!」

「おおっ!!」

 第七位さま、凄いですの
 インデックスさん、凄いですの

 削板軍覇はちょっと調子に乗ってしまった。
 黒子は油断していた。
 一方通行も油断していた。
 頬笑ましく見守る神裂火織も油断していた。

「もっとだよ!」

 そしてインデックスは思いっきり調子に乗っていた。

「全然平気なんだよ! ナンバーセブンも大したこと無いかも」

 削板に火がついた。



「うぉおおおおおおおおっ!!!!」

 どん



 インデックスは音速を超えた。



「まだまだなんだよ!!」

 インデックスはハイになった。
 削板は意地になった。

「うぉおおおおおおおおっ!!!!」






 インデックスは大気圏脱出速度を確保した。
 





「このォ、ど馬鹿がァーーーーー!!!!!」

 一方通行が削板を怒鳴りつけた。
 



 そしてインデックスは……

「——警告、第三十五章第八節。本体の第一宇宙速度突破を感知しました。『自動書記』を強制起動します。
地球圏脱出防止のため、魔力放出による逆噴射制動を試みます。
特定魔術『聖ジョージの聖域』を発動、術式『竜王の殺息』を反動消失術式を除外して追加発動します」

 インデックスの顔が上を向き、二つの魔法陣が産まれ、その中央付近に亀裂が発生する。
 さらにそこから放たれる光。ニュアンスとしては直径一メートルほどのレーザー兵器。
 その射出の反動か、インデックスの上昇速度は急激に落とされ、その身体が宙に止まった。
 やがて、落下する。

 落下地点で待ち受ける一方通行。
 ベクトル操作でゆっくりとインデックスを地に戻す。

「……ビックリしたんだよ」

「アレがその一言で済むのかァ……すげェな、お前……」

「あの……」

 近づく神裂に頭を下げる一方通行。
 隣の削板を、地面に頭がめり込むほど土下座させる。
 その隣で一緒に頭を下げる黒子。
 さらにその隣で異常に土下座が絵になる上条。

「すまねェ、この俺がいながら……」

 ごめんなさいの

「インデックスは無事でしたから不問としましょう。しかし……」

「あ?」

「『竜王の殺息』が何かを撃墜したような気がしますが……」

「あァ?」



 空を見上げる一方通行と黒子。

「なンかあったか?」

 おりひめ、ですの

 言われてみれば、確かあの方向には、『樹形図の設計者』を納めたおりひめ1号があったような気がする。

「……」

 ……

「あの……」

「気のせいだァ」

「は?」

「うン。気のせい」

 そうですの
 気のせいですの

「そうですか、気のせいですか」

 そうですの



 こうしてインデックスは、常盤台の一員として寮生活を送ることになった。
 寮内でも色々な事件が起こるのだけれど、それはまた別のお話。


 以上、お粗末様でした。

 

 インデックスの常盤台での物語はこの後おいおい
 ……誰と同室になるか、とかはもう決めているんですけどね
 そこまで話が回らなかった。
 根性さんの暴走が悪い。そして黒子の影が薄い
 

 次回は、
「打ち止め誕生編」
「三沢塾繁盛編」
「ニワトリの丸焼き編」

 のどれかになる予定
 あくまで予定

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです

 では、また

後この話のインさんの護衛が
ねーちん
ステイル
美琴
食峰
寮監
黒子
婚后
その他レベル4トップレベル

そしてなにかあれば
一方
上条
削板
垣根
麦野
アイテムの面々
が来る可能性もあるのか

神の右席が全員で来ないと無理だなww
本人も自動書記発動したらかなり強いし

乙!

違ってたらすまないが
お勧めスレでペンデックスの口調がどうたら質問してたのは>>1

>>223
>「寮則として、未成年の煙草所持は禁煙と同罪だ」
?


 なんと、次回予告が守れた。


>>261
 平和な世界なので、本気の喧嘩はないですが……
 確かにインさん陣営が凄いことになりますね……


>>262
 それは自分じゃないです


>>263
 ……ごめんなさい。
 「喫煙」のミスです。もうしわけない。




 それでは投下します。
 タイトルは「あーんですの」


 昼間の日射しが、ようやく温かみを運び始めた頃。
 小さなディバッグを背負った黒子がとことこと、公園に向かって歩いている。
 公園の入口でピタリと止まり、顔を覗かせる。

「ここですよ」
 
 お待たせですの

 ベンチに座って手を振っているのは絹旗さん。

「超大丈夫です。私も今来たところですから」

 ポンポンとベンチの空いた側を叩きながら、ここに座れと促していた。
 黒子は素直に座ると、ディバックを背中から降ろして膝に乗せる。

 常盤台の玉子焼き、ですの

 ディバックから出てくるタッパに詰められたおかずの数々。

「これが超噂の、常盤台で飼っている鶏の卵から作った玉子焼きですか」
 
 他にも色々ありますの
 鶏の唐揚げとか

「もしかして、この鶏は……」

 特別に分けていただきましたの
 産地直送ですの


「それは超楽しみです」

 抱えていた包みを開く絹旗。

「では、私は、約束通りおにぎりです」

 プラスティック製の籠に入った、それぞれがラップにくるまれたおにぎり。

「麦野にお願いして超特別に分けて貰った鮭を入れてきました」

 鮭愛(サモフィリア)を能力パラメータに加えることが出来るならば、確実に学園都市第一位となるだけの実力を持った麦野の選んだ鮭だ。
 それを具にしたおにぎりの美味しさはいかほどのものか。
 おにぎりと一緒に水筒を取り出す絹旗。

「麦茶ですけれど、白井はいいですか?」

 大丈夫ですの

 学園都市の自販機で奇怪ジュースに毎日出逢っていれば、多少の飲み物には耐性がつくのだ。嫌だけど。

 お昼の準備は万全ですの

「では、早速いただき……」

「にゃあ」


 二人の視線が向いた先には闖入者。

「ジャッジメントのお姉ちゃん、大体久しぶり。にゃあ」

「フレメア?」

「絹旗にもご挨拶。にゃあ」

 にゃあが挨拶というわけではない。フレメアはきちんと頭を下げていた。

 お久しぶりですの

「白井はフレメアと知り合いだったんですか?」

 以前、迷子になったフレメアを浜面や駒場の所まで案内としたことがある、と黒子は説明する。

「ああ。それで浜面は白井を知っていたんですね。私は浜面がジャッジメントに捕まったことがあるんだと思ってました」

 違いますの

「私もお弁当持ってきた」

 フレメアが、引っ張ってきたキャリーバックを差し出す。

「フレンダお姉ちゃんが大体用意してくれたから」

「フレンダもちゃんとお姉ちゃんしているんですね」

 受け取って、中身を確かめる絹旗。
 黒子も同じようにバックの中を覗き込む。

 ……缶詰ですの

「超鯖缶ですね」


 ごろごろと転がる鯖缶を黒子は身体を張ってかき集めては、バックに向かってテレポする。
 
 缶詰ばかりですの

「おやつもある。にゃあ」

 よく見るとミカン、パイナップル、桃の缶詰も混ざっている。

 デザートですの

「わかりました。今日はフレメアも、一緒にお弁当食べましょう」

 賛成ですの

「別にデザートに超屈した訳じゃないですよ?」 

 桃缶美味しいですの

「あ、私は超パイナップルを予約します」

「缶詰はいっぱいある。にゃあ」

 たくさんありますの

「おにぎりもおかずもあるから、ちょっと多すぎですね」

「大体二人分あるから」 

 食いしんぼですの

「違う。友達の分」

「フレンダはお姉ちゃんですし……滝壺さんですか?」

「那由他の分」


 どなたですの?

「超初耳です」

 もっとも、絹旗はフレメアの友達関係に詳しい訳ではない。

「一緒にご飯食べられたら、嬉しい。にゃあ」

 黒子と絹旗は、ベンチから立ち上がる。
 瞬間、フレメアの表情が曇った。

 行きますの

「フレメア、行きますよ」

「え?」

 ここは狭いですの

「四人で座れるところに移動するんですよ」

 フレメアさんのお友達と四人でお食事ですの

「今日は特別です」

 だけど、本当は招かれないのに押しかけるのは失礼ですよ、と絹旗は言う。
 するとフレメアは、

「絹旗なら、一回だけは許してくれる。ってお姉ちゃんが言ってた」

 フレンダは見抜いていたらしい。

「むう」

 見抜かれてますの


「フレメアの友達はどんな子なんですか?」

「大体金髪でツインテール」

「白井とフレメアを合体させればいいんですね」

「大体合ってる」

 合ってますの?

「名前は那由他」

 さっき聞きましたの

「木原那由他」

 木原?

 その名前で黒子が思い出すのは、とても美味しいスイーツの数々。
 エクレアにうるさい食蜂操祈すら唸らせた絶品カスタードエクレア。
 甘い物が苦手だと豪語する一方通行すら受け入れたほろ苦旨プリン。
 舌の肥えた婚后光子を黙らせた究極のガトーショコラ。

 顔面入れ墨の凶悪な顔をしたパティシエ、木原数多。
 それが黒子の知る「木原」なのだ。
 そしてその店名は——

 スイーツ木原ですの?

「それ、那由他のお家。にゃあ」

 あらまあ、ですの


「おいおい、誰かと思ったらジャッジメントの嬢ちゃんじゃねえか」

 公園入口から掛かる男の声に、絹旗が咄嗟にフレメアを背後に庇った。

 絹旗さん?

「超怪しい入れ墨男です。白井も気をつけて」

 木原さんですの

「はい?」

 パティシエですの
 
「はい?」

 スイーツ木原のパティシエですの

「……あの人が? ですか?」

 そうですの

「浜面のスーツ姿並みに超似合わないです」

「浜面は大体格好いいよ?」

「フレメアには男性を見る目を教える必要が超あります。ついでに滝壺さんにも」

 木原が半笑いで絹旗を見ている。

「なに構えちゃってんだ? そこのちびっ子は」

「誰がチビてすか! 超失礼です!」

「はっ、ホントにこの場所で合ってんのか?」

 木原の影から呼び掛けに応えて、金髪の少女が姿を見せる。


 少女は数多を見上げて言った。
 
「はい。ここで合ってます。フレメアもいますし」

「そうか。まあ、ジャッジメントの嬢ちゃんはウチの常連さんだから信用できるな」

 絹旗さんはお友達ですの

「あー、嬢ちゃんがそう言うならいいだろ」

 言いながら、木原は抱えていた袋を置いた。

「ウチのプリンとモンブランだ。おやつにでもしてくれ」

 ありがとうございますの

「スイーツ木原の限定モンブランですか!? 麦野に超自慢できます!」

「そりゃあ、良かった。じゃあな、あんまり遅くなるなよ、なゆたん」

「なゆ……たん……?」

 あまりのギャップに絹旗が呟く横で、木原那由他は木原数多に手を振る。

「わかりました、おじさん」

「遅いと他の連中も心配するからな、テレスとか円周とか病理とか」

 照れながら手を振る数多を見送って四人は、公園隅のテーブルに陣取る。
 ようやく広げられるお弁当。

 絹旗のおにぎりとお茶。
 黒子の卵焼きと唐揚げとウィンナー。
 フレメアの鯖缶、フルーツ缶詰。
 那由他のプリンとモンブラン。


 特に豪華というわけではないけれど、一緒に食べることが目的だから。

「初めまして。木原那由他です」

「絹旗最愛です」

 白井黒子ですの

「……絹旗最愛……白井黒子……第四位と第三位の片腕と言われる人?」

「私たちも超有名ですね」

 フンスと胸を張る絹旗。
 てれてれ、と黒子。

 お姉さまと第四位さまのお陰ですの

「那由他那由他、フレメアも麦野の仲間。にゃあ」

「うん、そうだったね」

 フレメアのお友達は、黒子の友達ですの

 四つの紙皿と割り箸、紙コップを配り、真ん中にそれぞれのお弁当を置く。

「大体準備できた」

「超準備完了です」

 それでは、いただきますの

「いただきます」


「白井さん白井さん、おにぎりが美味しいですよ。ほら、超あーんしてください」

 一口サイズに作ってある俵おにぎりを割り箸で取って、白井の口元へ持っていく絹旗。

「あーんです」

 てれてれ
 あーん

 ぱくり、と食べて満面の笑顔

 むぐんぐぐ(鮭ですの)

「勿論、超鮭です」

 ご返杯、ですの

 今度は黒子が唐揚げを絹旗の口元へと運ぶ。

 あーん、ですの

「あーん」

 がぶり、と一口。もしゃもしゃと。

「ひゃふ、ひょお……超美味です。さすがは常盤台鶏です」

 そんな二人の様子を見ていたフレメアが、むーっと膨れた顔で間に入る。

「二人ともずるい。にゃあ」

 次はフレメアですの


「フレメア、玉子焼きですよ。あーん」

 鯖の水煮ですの
 汁に注意しますの

 左右から同時に箸を出され、フレメアは両方に目がいってしまう。

「あ、絹旗……白井……どっち?」

「それはフレメアの超自由です」

 そこでふと、黒子は那由他の様子に気付く。
 何も言わないけれど、その視線はちろちろと、フレメアの前に突き出された箸へと伸びている。

 あーん

「え?」

 あーん、ですの

「あ、あーん」

 那由他の口に、黒子は鯖の水煮を持っていく。

 フレメアのお姉さま特選ですの

「あ、白井、するい。にゃあ」

 フレメアがおにぎりを那由他の口元へと運ぶ。

「これは超負けてられません」

 さらに絹旗はウィンナーを。

「あ、あの、あれ?」

 いきなり注目を浴びて慌てる那由他だった。


 それぞれにあーんしながらお弁当を食べていると、

「誰かいる」

 フレメアが突然そう言って茂みを指さした。

「大体あの辺。にゃあ」

 ネコですの?

「にゃあ」

 黒子の言葉をまともに受け取ったのか、フレメアが走り出す。

「危ないよ、フレメア」

 後を追う那由他と絹旗。
 立ち止まったフレメアの視線の先に、汚れた白衣の男がいる。

「学園都市にホームレスは超珍しいです」

 スキルアウトならば珍しくもないけれど、年の頃を見れば違うことはすぐにわかる。
 黒子が男と三人の間にテレポした。

 じゃっじめんと、ですの

 黒子の言葉で、男がゆっくりと顔を上げた。

「なんでもない。気にするな……」

 這いずるようにしてその場を立ち去ろうとする男。
 その時——

 ぐぎゅるるるる

 とんでもない勢いで腹の音が。

「食べる?」

 那由他がおにぎりを差し出した。




  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 仲睦まじく食べさせあう四人から少し離れた茂みの中で、一人の男が呻いていた。

「……くっ……このままでは済まさんぞ……」
 
 汚れきった白衣に身を包んだこの男こそ、一方通行達にさんざん叩きのめされ追放されたはずの科学者、天井亜雄であった。
 いきなりクローン装置を全て破壊され、中にいた妹達を全員保護され、さらに研究所から着の身着のままで追い出されたのだ。
 立場的にも物理的にも。
 
「まだだ。まだ隠し施設はある。いくらなんでも一つや二つは……」

 復讐。それが今の天井の脳裏のほとんどを占めている思考だった。

「まだまだ、クローンは作れるんだ……待っていろ……一方通行……」

 復讐の手だてはある。
 現在稼働中の妹達全てに強制命令を出すことの出来る上位個体。完成には至らなかったが設計図は自分の頭の中にある。
 隠しているクローン培養基を見つけることが出来れば、作り上げた上位個体により下位個体を掌握できるのだ。
 しかし……

「腹が……減った……」

 無一文で放り出されて以来、まともな食事を摂った記憶がない。
 茂みの向こうには仲良くお弁当を食べている少女達の姿。正直、羨ましい。
 だがまさか、その中の一人が突然こちらに駆けてくるとは。
 そして……
 
 差し出されたおにぎりをがつがつと食べる。
 次いでお茶を飲み干す。

「ゆっくり食べていいよ」

 金髪のツインテール少女がそう言いながら、微笑んでいる。

 ああ……

 天井には少女が神々しくすら見えていた。
 だから、此処は大人しく立ち去ろう。施しを食らい終われば大人しく姿を消そう。
 この少女達には迷惑をかけてはならない。
 それほどまでに、天井は救われたのだ。
 素晴らしい。少女は素晴らしい。

 そうだ。上位個体が御坂美琴と同じ年齢である必要はあるのか?
 少女が素晴らしいことが今日わかったのなら、これから作る上位個体の年齢をこの少女に合わせようではないか。
 少女は素晴らしい! ビバ少女! 少女に栄光あれ!!! ロリ万歳!!
 俺は、俺は少女を作るぞぉおおおっ!!


 後の「打ち止め」である。



 以上、お粗末様でした。

 

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。

素晴らしい!!天井さんマジ紳士。
個人的には乱数さんが見たいです。

この世界の木原一族…想像出来ないww

な…んだと…  ここまで、原作通りだと…


>>282 
>>285
 この世界の木原一族はとっても平和
 お菓子やご飯作ってます
 常盤台のコックさんも多分木原一族

>>287
 ばれましたか……
 魔術サイドの話をどうするか悩み中
 最悪の場合、カット


 ちょっと今回、趣向を変えてみました。

 タイトルは「豆ですの」


 お豆さん、ですの

 自室の掃除をしていると、机の下からころころと転がってくるモノがある。
 どう見てもお豆さん。またの名を炒り豆。

「どうしたの、黒子?」

 自分の机の下に潜り込んでいた美琴が、制止している黒子に気付いて声をかける。
 その手には雑巾が一枚。

 お豆さん、ですの

「お豆さん? 最近食べたっけ?」

 黒子は豆を拾うと手のひらに載せ、美琴の前に突き出す。

「ああ、これか」

 豆を摘み、美琴は陽に翳すように頭上に掲げる。

「これ、節分の豆よね」

 黒子は首を傾げる。

 豆まきは、お外でしたの

「服の何処かに引っかかってたんじゃない?」 

 なるほど、ですの
 お掃除、続けますの


「そういえば」

 美琴がなにやら思い出したように再び手を止める。

「節分の豆まきは確かにしたけれど、黒子は参加してないわよね?」

 今度は黒子の手が止まる。

 はい、不参加でしたの

「ジャッジメントの用事だったっけ?」

 確か……

 黒子は首を傾げる。
 いや、違う。
 自分は節分行事が好きではない。
 どちらかと言えば嫌いなのだ。

「?」

 今度は美琴が首を傾げた。

「なんか、あるの?」

 ……よく、わかりませんの
 でも、なんとなく、節分が嫌ですの

「ふーん。なんなのかしらね」

 不思議ですの

 掃除を終えた二人は、それぞれお風呂に入って寝る準備を始める。

「おやすみなさい」

 おやすみなさいですの 




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 それは、黒子が学園都市へ来た頃の話。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 黒子には夢がありました。
 それは、風紀委員(ジャッジメント)になること。
 学園都市に来てばかりの頃、何かと世話を焼いてくれたお姉さんの腕にあった腕章を、黒子はよく覚えています。
 黒子は思いました。

 あのお姉さんのようになりますの

 今はまだ無理です。まだまだ、黒子は小さな子供です。
 だから、黒子は決めています。
 もう少し大きくなったら、せめて、高学年になったら、風紀委員の適性試験を受けよう、と。 
 そのために、自主訓練は欠かせません。
 黒子は今日も、ランニングです。

「鬼は外」
「福は内」

 そういえば今日は、節分でしたの

 寮に帰ってから豆まきがあるのかな、と考えながら黒子は走ります。

「鬼は外」
「福は内」

 学園都市でも節分は盛んですの
 鬼はいませんの

 学園都市は科学の粋を集めた都市。伝承にあるような鬼の類が生まれる余地はありません。
 伝承や言い伝えは、全て科学で解明してしまうのです。

「鬼は外」
「福は内」

 ……?

 黒子は何かに気付いて足を止めました。



 路地に誰かいます。
 それも、かなりの巨体、大きな人が。
 
 どなたか、いらっしゃいますの?

 蹲っているようにも見えたその姿に、黒子は話しかけます。
 怪我でもしているのでしょうか。もしそうなら、救急車を呼ばなければなりません。
 風紀委員を目指している黒子です、見て見ぬふりなんて出来ません。

 大丈夫ですの?

 おかしな格好をした人がいる。最初黒子はそう思いました。

 どうかなさいましたの?

 蹲る巨体が見えます。
 よく見ると、服というよりも何かの布切れを纏っているだけの姿のようです。
 スキルアウト?
 黒子は思わず身構えます。
 及び腰で、それでももう一歩近づくと……

「……お前、人間か?」

 はい?

「お前も、豆を投げるのか?」

 なんですの? 豆?

 さらに近づいた黒子は息を呑みました。
 そこにいるのは紛れもない……

 鬼ですの




 そこには、疲れ果てた様子で座り込む鬼がいました。

 鬼……さん、ですの?

「……他に、何に見える?」

 鬼の格好ですの?

 鬼は少し考えると、ニヤリと笑って言います。

「ああ、鬼の格好をしていると言うわけじゃない。鬼そのものなんだよ、儂は」

 鬼なんて、いませんの

「お前の目の前にいる儂はなんなんだ?」

 鬼の格好ですの

「なるほど、格好だけでは本物ではない、と」

 黒子が話をしているだけの様子に、鬼は安心したのか楽な姿勢に座り直します。

「だが、儂は正真正銘の鬼だ。とりあえず、そういうことで話を進めようじゃないか」

 わかりましたの
 お怪我をしていますの?
 救急車をお呼び致しましょうか?

「いや、必要ない。人間の医者では儂の身体はどうしようもないだろうよ」

 そもそも怪我ではない。と鬼は言います。


 どうなさいましたの?

「追い出されたのさ。厄や禍と一緒に」

 鬼は外、ですの

「そう、それだ。儂らは、まかり間違っても『福』ではないからなぁ」

 鬼は笑います。

 鬼なんておりませんの

「ふむ」

 頑固な黒子の言葉に、鬼も苦笑します。

「確かに、外にはおらんかもな」

 そうですの
 ここは学園都市ですの
 御伽話は余計にありませんの

「だが、力はある。儂のような者を望み、実体化させる力が」

 AIM拡散力場のことですの

「ここでどう呼ばれているかは知らん。儂にわかるのは、ここに力がある、それだけのことよ」
「鬼を望み、厄と禍を押し付けて追い出すことを望む力が」

 それが、鬼さんの物語ですの

「うむ。だから儂は、自分の役割を知っている。役割通りに存在する」

 とはいえ、いつまでもいられない。と鬼は言います。



「この街に作られた儂は、この街のことを知っている。だからわかる」
「儂を消すことの出来る力を持っている者が、この街にいると」
「儂のような�幻想�を�殺す�ことのできる者がいると」

 鬼はそこで、照れたように笑います。

「自然消滅を待つのは、さすがにちょっと辛いんでな」

 鬼は立ち上がります。

「では、そろそろ行くか」

 黒子は、鬼の前へと駆け寄りました。

 ごめんなさいですの

「ん?」

 ごめんなさいですの

「どうして、謝る?」

 勝手ですの
 勝手に生んで、勝手に押し付けて、ごめんなさいですの

「……それが、我らと人間の関係だ、気にするな」

 ごめんなさいの

「お前のような人間がいるなら、儂も喜んで厄と禍を連れて消えられるというものだ」
「だから、それ以上謝るな」



 また、来年もですの?

「また来年、私は生まれるのだろうな。そして厄と禍を連れて消え去るだろう」

 いつまでも、ですの?

 鬼は黒子を見下ろします。
 そして、安心しろと言うように黒子の頭を撫でました。

「こういう話を知っているか?」

 鬼は語ります。
 かつて都を荒らした鬼が調伏され、心を入れ替えた鬼が当時の皇に仕えたという伝説があると。

「その鬼は、いつしか風斬尊(かざきりのみこと)と呼ばれた」

 だから

「儂を産み出すこの街ならば、いずれは風斬尊が産まれるかもしれんな」

 探しますの
 その御方を、探しますの
 風紀委員になったら、必ずその御方を探しますの

 鬼は頷きました。
 だけど、鬼は知っていました。
 鬼が消えるとき、�幻想�が�殺される�とき、それに関わった記憶もまた消えてしまうのだと。
 それでも、鬼は黒子の言葉を嬉しく思いました。

「ありがとう」

 そして鬼は、まるで打ち上げられるかのように飛びました。

 黒子の前には、もう鬼はいません。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 それは、黒子の夢かも知れない話。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 黒子は何故か節分が嫌い。
 理由は自分でもわからないけれど。



 以上、お粗末様でした。
 

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。


風斬尊が実際にあるのかと検索してしまったww


幻生の爺さんは雄山みたいなんだろうか…

乙です
駒場が、フレメアと豆まきしてんのかと思ったw

はよう


 
>>303.305
 それはある意味、凄い褒め言葉です。ありがとうございます。

>>304
 どうしましょうかね。
 新刊のキハラーズは大体決めてますけれど。

>>306
 !! その発想はなかった。

>>308
 お待たせしました。
 年度末の歓送迎会が悪いんや。
 あと、アニマックスでやってた「プリ○ュアオールスターズ」と「フレッシュプリ○ュア」が悪いんや


 
 今回、とある原作キャラと似たような境遇、能力名の者が現れますが、
 彼が原作キャラ本人かどうかは、読んだ人の想像にお任せします。

 というわけで投下します
 タイトルは「復讐ですの」




 俺は帰ってきた。
 この場所に。この学区に。
 全ては、奴に再び出逢うために。

 あの日の屈辱を……俺は、忘れない。


 
 充分な下見を済ませて実行した強盗現場に奴はいた。

 ——チッ、何ガキにノされてんだ。クソがっ。

 ——オマエ、風紀委員か?

 ——あのバカみたいに俺もヤレると思ったのかよ?

 ——何のつもりだ?

 ——風紀委員が人質に助けを求めるってか?

 ——初春……無事……ですわね?

 ——事件をまだ解決してませんから

 やつは同僚を逃がし、たった一人で俺に捕らえられていた。
 俺は、やつを甘く見ていた。
 だから、脅せば思うとおりになると考えていた。

 ——残念だったな、思惑が外れて

 ——俺を手伝えば解放してやる

 ——絶〜〜〜〜っ対に、お断りですのーッ

 ——なら、ここで死ね

 そして、逆転された。

 ——あなたの鉄球とわたくしのテレポート、どっちが速いか勝負しますか?



 やつの名は、白井黒子。
 俺は絶対に奴の名前を忘れない。
 もう一度、やつの目の前に現れるまでは。

 調べはついている。
 この銀行がやつの巡回経路に面していると。
 閉店間際のタイミングを見計らって事件を起こせば、最初に姿を見せるのは奴に違いない。
 その時こそ、俺は……


「おい、手を挙げろ」

 スキルアウトに大枚を払って手に入れた拳銃を突きつける。

「動くなよ。いかなる意味での外への連絡も無しだ」

 窓口の行員も、僅かに残った客達も動かない。

「表のシャッターを下ろせ、ちょうど閉店時間だろう。それから、さっさと金を出して貰おうか」

 穴だらけの計画だが、俺の望みは金じゃない。
 要は、白井黒子をここに誘き出すことだ。
 そのために俺は、拳銃とは別のものも準備しているのだ。
 特殊な衣服。そして、AIM感知器、AIMの有無を感知する装置だ。ただし、研究者が使う代物にはほど遠い、極々鈍感な廉価品。
 普通ならこれはほとんど何の役にも立たない。開発を受けた人間がいるかいないか、それだけしかわからない。
 だが、相手がテレポーターなら話は別だ。
 何もなかった空間に突然現れるAIM拡散力場、それはテレポーター……即ち白井黒子が現れた証拠。

 さあ、来い。
 来るんだ、白井黒子!

 と、俺のポケットの中、感知器に連動させた携帯が振動する。

 来たか、白井黒子。

 俺は振り向く、そして目の前には、忘れもしない小柄な姿。
 あの時とは違い、常盤台の制服に身を包み、風紀委員の腕章をきちんと身につけた姿が。

「白井っ! 黒子ぉおおっ!!」

 来い。掛かってこい。
 知っているぞ。俺は知っているぞ。
 お前が鉄針を使い、犯罪者を拘束することを。
 だから、俺は予測する。
 お前が鉄針を投げる方向を。
 そして避ける。
 肉弾戦に持ち込むために。
 格闘戦に持ち込むために。
 近接戦闘でなければ、俺にチャンスはないのだから。

 白井黒子! 俺は! お前の!!


 
 銀行強盗の始まる少し前、黒子は麦野と絹旗に挨拶していた。

 こんにちは、ですの

「ん? ああ、白井か。巡回中かい?」

「こんにちは、白井さん」

 巡回中ですの

「超ご苦労様です」

 黒子に応じて頭を下げると、絹旗は麦野に尋ねた。

「白井さんと一緒に行っていいですか?」

「いいけど、白井は仕事中じゃないの? 遊びじゃないよ? 風紀委員は」

「う。それは……そうですけど」

「白井の邪魔になるだけだ、駄目」

「でも、レベル4の私と第四位の麦野です。超お得じゃないですか」

 駄目ですの

 そこで黒子がきっぱりと言う。

 お姉さまにもお断りしてますの

「ほら、第三位が駄目なのに、第四位の私やレベル4のあんたじゃ……」

 違いますの

 黒子は麦野の言葉を遮った。 

 第一位さまでも、垣根さまでも丁重にお断りしますの

 その言葉に、麦野は少し視線を宙に彷徨わせ、次いで軽く頭を下げた。


「そうだね。こいつは私が悪かった」

「どういうことですか? 麦野」
 
 事情がどうあれ、麦野が頭を下げたことで絹旗は少し怒っているのだ。
 それは、どうして麦野が謝るのか、ということ。

 絹旗さん

 黒子は絹旗をじっと見ている。

「なんですか?」

 黒子は、じゃっじめんとですの

「超知ってます」

 じゃっじめんとの本領は、力ではありませんの
 信念と想いを貫き通す意志ですの

「麦野や私、御坂美琴に超意志がないと言うんですか?」

 黒子は首を振る。

 じゃっじめんとでない人に迷惑はかけられませんの

「でも」

「絹旗」

 麦野が優しく、絹旗の肩に手を置いた。




「あんたは、自分より強い奴が出てきたら……それがフレンダでも滝壺でも浜面でもない奴だったら、はいそうですかって、私のパートナーを降りるの?」

「嫌です」

 間髪入れず答える絹旗。
 それがフレンダなら、滝壺さんなら、浜面ならわかる。
 でも、それ以外の誰が出てきたって、麦野の隣席は絶対に渡せない。

「そう。それがあんたの矜持でしょう? 白井にも、風紀委員としての矜持があるの。それはわかりなさい」

「……わかりました」

 そして絹旗は黒子へと向き直る。

「超失礼しました、白井さん」

 構いませんの

「立派ね、白井は」

 てれてれ
 
 では、失礼しますの

「超頑張ってくださいね」

「ああは言ったけれど、もしとんでもないことがあったらすぐに連絡しなさい。一民間人として協力は惜しまないから」

 ありがとうございますの




 そして歩き出す黒子、だけれども、その後ろを麦野と絹旗が歩いている。

 ???

「どうやら、同じ方向に用事があるみたいね」

 それは仕方ありませんの

「超偶然ですね」

 同じ方向に歩いていて互いに無視をするのも不自然なので、結局なにか話しながら歩くことになってしまった。
 とはいえ、そこから数分としない内に事件が起こってしまうのだけれど。

 銃声と悲鳴。
 そして下ろされるシャッター。

 事件ですの

 手短に麦野と絹旗に手出し無用と告げると黒子は飛んだ。シャッターが閉まる寸前、ガラス窓の向こうに見えていた空間へと。


 じゃっじめんと、ですの

 厳密に言えば、これは風紀委員の管轄ではなくアンチスキルの管轄なのだけれど、それでも、悪事を見逃すなんて黒子には出来ない。
 だから黒子は、立ち向かう。
 今はこの男に。銀行強盗の現行犯に。
 
「白井っ! 黒子ぉおおっ!!」

 名前を呼ばれて黒子は一瞬固まる。
 この男は何故自分の名前を?
 いや、言われてみれば見覚えが。
 そうだ、この男は。
 かつて、まだ新米だった自分が捕らえた郵便局強盗。

 お久しぶりですの

 挨拶はきちんとするけれど、再犯であれば許さない。
 それは黒子のケジメ。

「来いよ。鉄針なんか撃たずに、来いよ!」

 男はエキサイトしている。
 黒子は男の能力を思いだそうとしていた。
 確か…なんとかコール……なんだったか?

 ……コールスピ……

「そうだ、思い出せ、俺の呼び名を!」



 蒸留酒精(アルコールスピリッツ)ですの

「何処のロシア人だぁっ!!」

 ジンはロシアと言うより、イギリスですの

「その�ジン�じゃねえっ!!」

 失礼しましたの

 ぺこり、と頭を下げた黒子がそのままくるりと前へ回る。

「!?」

 虚を衝かれた男との距離を縮めるテレポート。
 そして、足の上がった体勢で男の頭上へと出現、回転と遠心力による運動量を保ったまま、黒子の踵が男の頭上に落とされる。

 必殺、テレポ踵落とし、ですの

「ごっ……!」

 男は蹴撃に怯むが、瞬時に体勢を戻し、黒子からやや距離を開くために後退する。
 しかし、そこはまだ近接攻撃の届く距離。
 間髪入れずに黒子の手が伸びる。

 大人しく、降参するんですの

 男の襟首を掴み引くと、片足で男の膝裏を折るように蹴る。
 崩れた体勢の男をさらに引きながら、下半身を押し、上半身を引く。
 自然と男の身体は跪くように折れ、その背中には黒子の膝が当てられる。
 さらに黒子の身体が、男の背中に乗った。


 因みに、今の黒子は常盤台の制服姿である。
 つまり、スカートである。
 つまり、生足である。
 そして男の背中に乗っているのである。
 御坂美琴と違って短パンなどは穿いていない。
 つまり、下着である。

(今だ!)

 男の神経が背中に集中した。
 背中に当たる黒子の肌に、男の全感覚が集中する。

(温かい!)

 黒子は気付いていない。
 このために、男は奇妙な服を着ていることに。
 背中だけが、極々薄い布地で構成された服なのだ。
 今、男は、黒子の体温を背中で感じていた!!

(これだっ!!! これなんだっ!!!)

 数年前、黒子に……女子小学生に完膚無きまで体術で打ち負かされたとき、男の中にはある性癖が芽生えた。
 芽生えてしまったのだから仕方ない。
 そう、これは実のところ、復讐劇ではない。
 これは男によって仕組まれた物語。
 すなわち!

 
 
 
 
 
       � 我 々 の 業 界 で は ご 褒 美 で す �

 
 
 
 
 



「おおおおおっ!!!」

 だから、男は立ち上がる。
 足りない。足りないのだ。
 ご褒美がこれでは足りないのだ。
 もっと! もっと! ご褒美を!!!
 全てと引き替えにご褒美を!!

 生足キックを!
 生手パンチを!
 望めるのなら、お尻パンチを! おしりパンチを!!
 あと関節技とか! ビンタとか!

 男は立ち上がる。
 殴られても、蹴られても、関節を極められても。
 だってそれはご褒美なのだから。

 男は立ち上がる。
 鉄針で服を縫いつけられても破りちぎるほどの迫力で。

 いい加減にしますの

 黒子の攻撃は苛烈を増すけれど、男にとっては褒美の倍増。
 ダメージはあってもそれを補って余りあるほどの心の法悦がある。



 これ以上は、命に関わりますの

 黒子は焦り始めていた。
 いくらなんでも、風紀委員による犯罪者制圧で死者は出せない。それは困る。
 固法先輩にとっても怒られてしまう。

「それで終わりかぁっ! 白井黒子おおおっ!!」

 男は吼える。吼えて吼えて、吼え抜いて。

 しつこいですの

「白井っっっっ!! 黒子おおおおっっっ!!!」

 進退窮まる黒子は、下がろうとして壁にぶつかる。
 
 下がれませんの

「おおおおおおっ!!!」

 男が雄叫びとともに突進する。
 瞬間、

 どぐしゃあっ

 と、耳を聾する音が響いた。
 貫かれ大穴の開いたシャッターから顔を出す二人組。

「いい加減にしてもらいましょうか、このど変態。浜面以上の超変態です」

「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」





 しばらくして、強盗が未遂に終わったため短い刑期で出所した男は、女性恐怖症になっていたという。

 尚、出所の頃にたまたま学園都市を訪れていた、某天草式の某少年がいた。
 彼が、女性恐怖症から少年愛に走った男の新しい標的となった騒動は、また別の物語である。
 



 以上、お粗末様でした。
 

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。

 

気の毒な某少年
>>1

匂いフェチの次はドMかよ

>>328
建/宮さんに次ぐ第五の主人公キタコレ

絶対等速ェ…
確かに黒子にボコされるのはご褒美かもしれんが…
それ以前に病院直行だぜ?

今回だけは黒子が通常サイズ再生だった

くろこちゃんに夜のサブミッション決められたい

>>337-338
その座は譲らない

ちょっと予定より遅れてるけど、
「ステイル・佐天・初春」で話が進んでます

少々お待ちを

サブミッションっていうと、どうしてもPSYRENの雨宮さんを思い出すな……。


>>329
本人による偽物乗っ取りというよくわからん展開となった某スレの影響と言っておく


>>331
一応もう一人準備してます
能力も本名も不明だけど……


>>335
それは「必要な損失」というものです


>>337-338、342-343
もう一度だけ言う。
「その座は譲らない」


>>346
自分は藤原組長を思い出します


 今回も、黒子話と言うよりも、「平和な学園都市」の話になってしまった。


 というわけで投下します
 タイトルは「人間違いですの」


 ある日の柵川中学校の放課後。

「ああ、ちょっとすまない」

 帰り支度をして教室を出ようとしている初春を呼び止める男がいた。
 身長2メートル越えの中学二年生、さらには顔面に入れ墨という赤髪男である。

「君に頼みたいことがあるんだが、次の日曜日にでも付き合ってもらえないだろうか」

 はい? と立ち止まる初春。
 見上げると、そこにいるのはステイル。つい最近転入してきた、イギリスからの留学生である。
 最初は新しい教師だと思っていた。まさか生徒だったとは。
 本人の談によると、常盤台に転入したインデックスという子の護衛のために来日したらしい。
 もっとも、女子校である常盤台に入学するわけにはいかないので、書類上では普通の中学に転入したことになっていると。
 日中は、そのインデックスやもう一人の護衛の薦めもあって学校に顔を出すのだ、と本人は言っている。
 そして今日、何を思ったか突然の初春への誘い。

「おおおおーーーっ!?」

 ステイルの味も素っ気もない事務的な口調を真っ向無視して、何故か盛り上がる第三者が一人。
 その第三者の名は佐天涙子。
 ところが、呼び止められた当人はただ慌てているだけ。


「え、えっと……ステイルさん、でしたっけ?」

「そうだ。君は、初春飾利で間違いないな」

「は、はい。そうですけれど……」

「凄いよ、初春。デートの誘いだよ?」

 ステイルの冷たい視線にも気付かず、佐天は一人で盛り上がっている。

「佐天さん、そういうことはあまり大声で……」

「すまないが……あー……」

「佐天涙子です」

「そうかい。では、佐天涙子、僕は初春飾利にデートを申し込んでいるわけではない。つまらない勘違いは止めて貰おう」

「えー」


 佐天はめげない。

「でも、休みの日に付き合うなんて、まるでデートの申し込みじゃないですか」

「何故そうなる」

「イギリスではどうか知りませんけれど、日本ではそうなんです」

「日本人の知り合いもいるけれど、初耳だね」

「きっとその人はあまりデートとかに縁がなかったんですよ」

 いきなり失礼な発言。
 でも、ステイルは頷いた。

「うん。確かに、彼女はそういうことには縁がないように見えるけどね」

「知り合いって女の人なんですか?」

「そうだけど?」

「ステイルさん、酷いです。女の人にそんなこと言うなんて」

「君に合わせただけだろうが」

「酷いです」

「だから、君の言い分に合わせただけだと言っている」

「酷いよね、初春。女の人に向かって、デートに縁がないだなんて」


 ステイルは悟った。
 こいつ話通じねえ。
 そこで取る手は一つ。
 無視、あるのみ。

「勿論デートなどではない。君の風紀委員としての能力に敬意を表して、頼みたいことがあるんだ」

「風紀委員ですか?」

 一転、初春の表情が生真面目なものになり、ステイルは内心で「ほおっ」と感心する。
 なるほど、風紀委員であるということに責任と自負を感じているのだろう。
 その性根が、ステイルも嫌いではない。
 逆に、目に見えてテンションの下がる佐天。

「なーんだ。風紀委員の話かぁ」

「君はなんだと思って……そうか、デートと勘違いしていたんだな」

「ステイルさん、私に遠慮せずに正直に言っていいですよ?」

「君は僕を焚きつけてどうしたいんだ」

「一度見てみたかったんですよね、人がフラれる現場」

「失敗前提か」

 あっはっはと笑う佐天を尻目に、ステイルは会話を元に戻す。


「白井黒子に話を聞いた。彼女のテレポートのナビを行うのが君だと」

 事件の起こった現場へ向かう黒子を学園都市マップの様々なデータを参照しながらナビゲートしているのは、確かに初春だ。

「そのナビとしての能力を貸して欲しい」

「何をするつもりなのか聞いてもいいですか? お話によっては協力どころの騒ぎじゃありませんから」

「なに、ちょっとした準備をしたいのさ。対象を護るためのね」

 機器の設置だ、とステイルは告げる。
 設置自体には学園都市の許可は得ている。ただ、その位置策定に都市の隅々まで見通せる初春の力を借りたいのだと。

「時間はそれなりにかかるので貴重な休日を潰してしまうことになるが、その代わりに謝礼は払おう」

 広い範囲を歩き回ることになる、とステイルが言えば、佐天のほうが興味を持ってしまった。

「いいじゃん、お弁当持ってピクニックだと思えば。きっと、私たちじゃ入れないような所にも入れるよ」

「佐天さんは気軽すぎますよ」

 初春はそう簡単には答えない。さすがは現役風紀委員。
 第一、機器と言われても一体どんなものなのか。


「語弊があったな、君たちにわかりやすいように機器とは言ったが……」

 ステイルが取りだしたのは一枚のカード。

「詳しい説明は省かせて貰うよ。魔術側にも機密事項はある」

 他ならぬ、イノケンティウス顕現のためのルーンの刻まれたカードだが、勿論初春たちがそれを知るわけもない。

「許可は取っているんですね?」

「そんな下らない嘘はつかないよ。今更学園都市との間に無駄な争いの種をまくつもりはない」

「わかりました。そのかわり……」

「ああ、何処でも君の好きな店のデザートを進呈しよう。お持ち帰りできるものだと、助かるけどね」



 そして、翌日。

 約束の場所に一番最初に現れたのは、お弁当を抱えた佐天だったりする。

「初春もステイルさんも遅いですよ」

 愛用のノートパソコンを抱えた初春とアタッシェケースを抱えたステイルは、佐天に遅れてほぼ同時に集合場所に到着する。

「……いや、どうして君がいるんだ」



「初春のパンツあるところ佐天有り、です」

「さ、佐天さん、ステイルさんの前でめくらないでくださいよ」

 初春の抗議に佐天は「当然でしょう」と言うように頷く。

「ステイルさん、少し後ろ向いててくれますか? その間にめくっちゃいますから」

「そういう問題じゃありませんよ!」

「そう? じゃあ二人とも、早速行きましょうよ」

「なんで君が仕切っているんだ……」

「まあまあ、堅いこと言わずに。お弁当持ってきましたし」

 イギリスに敬意を表して、「フィッシュ&チップス」も準備しましたよ、と佐天。

「初春飾利、君がそれでいいのなら、僕は諦めるが」

「別にいいですよ?」

 諦めるように一息ついて、ステイルは地面に置いていたアタッシェケースを持ち上げる。

「わかった。それじゃあ早速始めよう。まずは……」


 ステイルはカードの設置場所に最適な条件を伝え、初春はそれに従って適度な場所をピックアップする。
 そして、三人で実際にそこへ赴き、可能ならばステイルはカードを設置する。
 具体的には、通りすがりの人間からは死角になる位置にカードを貼り付けていくのだ。

「これ、剥がれたり破れたりしません?」

 佐天はカードを一枚翳す。

「なんだか不思議な手触りと光沢ですけれど」

「こちらで出来た知り合いに頼んだのだが、未元物質を混ぜ込んだと言っていたな」

 水に濡れてもインクが落ちない、一度つけるとなかなか剥がれない優れものである。
 
「それで、これを貼るとどうなるんですか?」

 何カ所かの作業を終え、佐天の持ってきたお弁当で一息ついていると、初春がこう尋ねた。

「そうだな、手伝ってくれた礼に説明くらいはしてもいいだろう。その前に、佐天涙子、それをもう一つもらえないかな?」


「なんですか?」

 尋ね返す佐天の手には「フィッシュ&チップス」が。

「それだ」

 集まった当初、佐天の勧めに従ってそれを口にしたステイルは言ったのだ。

「これは違う。本場のフィッシュ&チップスはもっと脂ぎっていて酸っぱいんだ」

「美味しくないですか?」

「……美味しい。だが、これはフィッシュ&チップスじゃない」

「美味しかったらいいじゃないですか」

「ああ、確かに美味しいとも。しかし、これはフィッシュ&チップスじゃない」

「面倒くさい人だなぁ……」

 そんなやりとりがあったから、ステイルの言いたいことは佐天にはわかっている。

「�それ�じゃわかりませんよ」

「君が手に持っているものだ」

「フィッシュ&チップスですよね?」

「違う。断じて違うが、美味しいものだ」

「はぁ……もういいですよ、はい、これ」



「すまないね」

 受け取ったそれをもしゃもしゃと食べ終えると、ステイルは意識をルーンカードに向ける。

「……」(詠唱略)

「顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ−−−−−−−−−−−−−ッ!」

 何かがステイルの胸元から飛び出した。
 ステイルの四半分ほどの大きさのドロドロとした塊のような炎は、見る間にずんぐりむっくりとした人の形を取り始める。
 炎を纏った泥人形のようにみえるそれは、やがて誇らしげにすっくと立った。

「魔女狩りの王(イノケンティウス)、小型軽量化に成功したものだ。プティ・イノケンティウスとでも名付けようか」

 ただ小さくなっただけではない。燃費も向上していて、あらかじめカードに篭められた魔力だけでも長時間活動できる。
 そして、魔力が尽きた場合も、その補充は難しくない。なにしろ、カードは到るところに貼られているのだから。
 さらに、他の魔術(ゴーレム使役など)からの応用で、学園都市風に言うならば超小型のAIが搭載されているような存在なのだ。

 その戦闘力を犠牲に、ある程度の自律性と独立性を付与され、機動力については高められたプティ・イノケンティウスである。

 略して、プチケンティウス。
 もっと略して、プチケン。

 インデックスを蔭から見守り、必要とあれば力を行使するために生み出された、ステイル渾身の作なのだ。

「なんだか可愛いロボットですね」

「ステイルさんが作ったんですか?」

 佐天と初春にはそう認識されていた。

「彼女の護衛のためだよ」

 しかし、目立つのは不本意だ、とステイルは言う。
 
「普段は清掃ロボットにカモフラージュさせておこう」

 そのために、街でよく見かける清掃ロボの外装だけを手に入れたのだと。

「……あの」

 佐天が手を挙げた。

「なにかな?」

「その外装はどこにあるんですか?」

「いい質問だ、佐天涙子」

「忘れてきたんですね」

「マンションに置いてあるだけだ」

「忘れたんですね」

「……」

「忘れたんですね」

「……忘れた」

「正直でよろしい」



 取るべき道は三つの内一つ
 1・一旦プチケンを消す
 2・このままプチケンをマンションまで連れ帰る
 3・その辺の清掃ロボを破壊して外装を剥ぎ取る

 3は論外である。
 1にしても、プチケンは維持魔力自体は少ないが、顕現にはそれなりの魔力消費が必要だ。
 ステイルとしては、出来ることなら2を選びたい。
 そのうえ、プチケンを自力でマンションまで帰すことが出来るのなら、それはそれで立派な訓練である。

「このまま帰るか」

「プチケンちゃん、帰りますよぉ」

 初春が手招きすると、プチケンは頷くような仕草を見せて駆け寄ってくる。
 感心する佐天。

「おお。プチケンちゃん、良い子だ。どっかの素直じゃないノッポさんとは違うね」

「黙れ、ゴン太くん」

 プチケンを従えた3人は、ステイルの借りたマンションへと向かうのだった。

 
 

 
 
 〜その頃の黒子〜



 いつもの見回り中。

 今日は誰も見かけませんの

 黒子の顔は広い。
 レベル5の皆さん。
 絹旗や結標などのニアリーレベル5たち。
 浜面や駒場などの、必要悪的スキルアウトたち。
 そして、ジャッジメント仲間や、アンチスキルの皆さん。
 佐天や上条、フレメアなどのレベル0たち。
 学園都市の食を担う木原一族。
 匂いを嗅ぐ人、殴られたがる人。
 最近では、何故かサブミッションをかけてもらいたがる見知らぬ人たち。

 それが今日に限って、誰も見かけないのだ。
 巡回中なのだから、それはそれでいいのだけれど。

 ……寂しいですの

 独りぼっちはやっぱり寂しい。
 誰かと顔を合わせて挨拶がしたい。通りすがりにハイタッチとかしたい。

 ……!?



 そんな黒子の視界に入る長い黒髪。

 佐天さんですの?

 そして、その黒髪の横にいるのは小柄なお子様体型。

 長い黒髪&お子様体型

 このコンビはどう考えても佐天&初春に違いない。
 しゅん、とテレポして二人の前へと飛ぶ。

 佐天さん、初春、こんなところで……

 黒子が硬直した。

「あらあら、違うのですよ」

「多分。人間違い。私たちは。�さてんさん�でも�ういはる�でもない」

 そこにいたのは、初春どころじゃないくらいに幼い子と、佐天さんよりも長い黒髪の純日本風少女。

 ごめんなさいの。間違えましたの。


「わかってくれればいいのですよ」

「大丈夫。私は。気にしない」

 とは言ってくれるものの、やっぱり恥ずかしい。
 そして二人は黒子を慰め続けるつもりか、去っていこうともしない。
 なんとなく、恥ずかしさが増幅しているような気もする。
 すると……

「あ。先生」

 黒髪少女が黒子から視線を外すと、幼い子もその視線を追う。
 そこには緑の髪をオールバックに整えた長身の、理知的な顔の男が。

「偶然、こんな所で会うとはな。何をしている?」

「お買い物。学校の先生と」

「まあまあ、初めましてなのですよ。この方が塾の先生なのですか?」

「塾の。名物先生」



 黒子は首を傾げる。
 聞こえてくる話からするとこの三人は、生徒と学校の先生、塾の先生らしい。
 しかし、塾の先生はまあいいとして、この幼子が学校の先生とは何事か。
 それとも、何らかの能力の弊害なのか。
 
 少し考えて結局、黒子はその場から離脱することにした。

 しゅんっ、とテレポート。

 ビックリしましたの

 充分に距離を離したところで再び歩き出す。

 黒子は内心諦めていた。もう、今日は独りぼっちのままパトロールを終えよう。
 仕方ない。たまにはこういう日もある。



 黒子がプチケンを見つけて大騒ぎになるまで、あと十二分。

 


 以上、お粗末様でした。
 

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。


乙です。
プチケンか……。絵心ある人がうpしてくれないかな(チラチラ


次までくろこちゃんのサブミッション堪能しながら舞ってる

ピザのコピペww

ステイルかっこいいね
老けてるが

髪の色で気付けよww

プチケンペロペ・・・アチッ


>>365
 (チラッ チラッ)

>>366
 そんな貴方にエカテリーナちゃんの素敵な絞め技を

>>367,370
 ハバネロコピペや、ツンデレイギリス人のコピペと迷いました

>>368
 彼は格好いいですよ。多分

>>369
 …………
 !!!!
 忘れてた……

>>371
 黒子サブミッション以上の猛者がいたーー!!?

 


 さて、連休? なにそれ美味しいの?

(前回の粗筋)
 佐天涙子の作ったフィッシュ&チップスの美味しさは予想を超えていた。
 はたして、ステイルはそれを超えるイギリス名物を繰り出すことが出来るのか。
 ウナギゼリーか、それともキドニーパイか。
 イギリスに旨い食い物はあるのか。(反語表現)

 行けステイル! スコーンと紅茶が君を待っている!!

(嘘です)


 というわけで投下します
 タイトルは「心に、ですの」



 以上、お粗末様でした。
 

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。



 間が空きすぎたので、今回の話が完結してませんけれど、前後編ということで投下します。


 タイトル「お姉さまがいっぱいですの(前)」


 月が眩しい夜だった。
 ミサカ07号は、夜の学園都市を歩いている。
 長く伸びる影。
 誰もいない裏路地。
 ただ、ミサカの足音だけが聞こえる静かな場所。

「……今夜は雲一つありません、とミサカは報告します」

 報告相手などいないけれど。

「それでは、散歩を続けます、とミサカは再び報告します」

 誰にも聞こえない報告を呟きながら、ミサカは歩き続ける。
 目的地など、無いけれど。

 ふと、ミサカの足が止まる。
 背後の気配がミサカの歩みを止めていた。

 ミサカは知らない。
 ミサカの夜中の散策には、既に目撃者がいたことを。

 それは噂となり、一人の風紀委員の耳にも入っていた。
 だから彼女は、その噂を確かめにやってくる。

 じゃっじめんと、ですの

 知っている声に、ミサカは振り向くことが出来なかった。


(ちィ……)

 一方通行は夜の学園都市を疾る。
 ベクトルを束ね、全てをスピードに替え、空気抵抗を無視し、通常の物理法則すら無視した速度で。

「なンかあったらァ、すぐに連絡してきやがれ」

 御坂美琴を筆頭に、天井の研究室とクローン設備を急襲したメンバーの連絡先を妹達に渡している。
 レベル5が六人もいるのだ。
 どんな時間でも誰か一人には……最悪の場合でも事情を知る関係者には連絡が付く。
 今回は、それが一方通行だった。

 あらかじめ取り決められていた連絡コード「107」
 それは、「事情を知らない関係者に発見された」の意味。
 時間が時間だ。こんな時間にうろうろしているのならば……

 スキルアウトでもある浜面仕上か、運の悪さには定評のある上条当麻か、あるいは、オールナイト映画をハシゴ中の絹旗最愛か。

 いや、それよりも。

 どうしてこんな時間に妹達の一人……コードによれば07号……が町中にいるのか。
 事情はわからない。わからないが……

(急ぐしかねェか……)

 そういうことだ。


 眠れない。
 
 それが十二人の妹達の悩み。正確には、十一人の妹の。
 01号だけが、不眠の悩みからは遠ざかっている。

 スペックに差はない。経験だって、特筆できる程の差はない。
 それなのに、一人だけがぐっすり眠っている。

「これはどういうことかと、ミサカ02号は01号を問いつめます」
「これはどういうことかと、ミサカ03号は01号を問いつめます」
「これはどういうことかと……」(以下04号から12号まで略)

「そう言われても、ミサカには思い当たる節が全くありません。と、ミサカ01号は当惑します」

「そんなわけがありません、と、ミサカ……」(以下、02号から12号まで略)

「しかし……」

「Well 02号たちの言うことにも一理あるわ」

 妹達の言い争いに口を挟んだのは、天井からの妹達奪取後、正式に美琴達からバックアップを依頼された才女、布束砥信である。

「Of course 経験も記憶も貴方達は同じはず。違う部分があるとすれば、産まれてからの経験の差異」

 それなら、その差異を徹底的に検証するしかないだろう、と布束は締めくくる。
 原因がそこにあるか無いかは不明だが、どちらにしろ一朝一夕で出来る作業でもない。


 結局、妹達の不眠は解消されていない。
 解決に近づいたということで安心したのか、それとも不眠という悩みを共有できて安心したのか、多少はマシになっているのだが。
 だからといって、夜に出歩いていいというわけではない。いや、むしろ昼間でも出歩くことは推奨されないだろう。
 それでも、

「夜ならば目撃される危険性は減少、とミサカは推測します」

 言い訳はあるのだ。
 単に、眠れない夜を持て余して彷徨っているだけだとしても。
 
 勝手のことをしているという自覚はあるから、せめてもの自制で、一夜に彷徨うミサカは一人だけ。
 順番を決めて11人は夜の学園都市を彷徨う。
 事情を知らない者からすれば、毎夜毎夜御坂美琴がふらふらと出歩いているように見えるだろうに。

 事実、そんな噂も流れた。

 事実を知るものはすぐに、妹達を諫めようとした。
 そして不眠を訴えられる。
 問題は不眠そのものではない、その原因となるべき何かだ。

 布束の調査を待たず、一方通行は食蜂操祈に依頼すればいいと考える。
 確かに、手っ取り早い解決方法だ。



「眠らせるだけならぁ〜、簡単なんだけどぉー」

 軽い言葉の中に幾ばくかの非難を混ぜて、操祈は一方通行に告げた。

「でもそれってぇ、私の力に限った話じゃなかったりするのよねぇ」

「おィおィ、精神操作に限りゃァ、ナンバー1だろォが、お前は」

「血流のベクトルを操ったりぃ☆ 未元物質に誘眠性を付与しちゃったりぃ♪ 神経パルスを弄っちゃったり♪」

「あン? 何が言いてェ?」

「眠らせちゃうだけなら、第一位から第三位まででも充分力持ってるでしょぉ?」

 原因の特定はいいのか? と操祈は尋ねていた。

「精神部門の第一位として言っちゃうけどぉ☆ 原因特定力を高めないと、ぶり返すんだからネ」

 操祈の目は言葉と裏腹に、笑っていない。
 面倒を見るなら最後まで見ろ、第一位。
 そう、焚きつけている。

「ちィ……」

「ヘルプは期待しちゃってもいいんだゾ?」

 そして、今に至る。

 
 じゃっじめんと、ですの

 ミサカは振り向けない。
 御坂美琴の親族を除けば、最も見つかっては行けない相手。それが白井黒子。 

 沈黙が二人を繋ぐ。
 ミサカは、背後に神経を集中していた。
 黒子が近づいてくる様子はない。かといって遠ざかる様子もない。ただ、視線だけは感じている。
 後ろ姿だけでも、御坂美琴との類似は確実に気付かれてしまうだろう。
 気付かれれば……
 
 噂はご存じですの?

 ミサカの葛藤をわかっているかのようなタイミングでの言葉。

 黒子のお姉さま……御坂美琴のそっくりさんが夜な夜な出現するという噂がありますの
 なにか、ご存じありません?

 あらかじめ答えの用意されている問いかけ。

「さあ……」

 意識的に声を替え、いつもの口癖を出さないように苦労して。

「わかりません」

 背後の気配は動かない。
 このとき、ミサカは忘れていた。


 次の瞬間、黒子はミサカの前にいた。

 空間移動。黒子の能力だ。

 やっぱりですの

 ミサカの前で、黒子が微笑んでいる。
 
 お姉さまのそっくりさん、ですの

「あ……」

 そっくりさんは、黒子とお話ししますの

「あ、あの……」

 初めまして、白井黒子ですの

「ミサカ07号です」

 思わず答えてしまった。

「あ!?」

 第三の声主に、二人の視線が向けられる。



(間に合わなかったァ!?)
(何のために急いできたンですかァ!?)

 問いつめたくなる自分を抑える一方通行。
 噂の存在は自分たちの耳にも入っていた。
 考えてみれば、その噂を聞いた白井黒子が調査に乗り出すのは当然すぎる展開だ。
 そして、不眠に悩む妹達を結果的に今まで放っておいたこと。
 後知恵と言えばそれまでだが、いくらでも対処は出来たのではないか。

 結果として今、ミサカ07号と白井黒子が対面している。
 しかも、07号はその名前を告げてしまった。

「腹ァ、括るか」

「え?」

「おィ、07号、お前の好きなよォにしろ、オリジナルや他の連中には俺が話つけてやる」

「一方通行……いいのですか? とミサカは喜びつつも心配します」

「面倒見るって決めたンだからな。こォなりゃ、最後まできっちり見てやるよ」

「……はい。とミサカはドキドキしながらも決意します」


 黒子は首を傾げていた。
 どうして、ここに第一位が現れたのか。
 しかも、お姉さまのそっくりさんとは既知の様子。
 さらに、「オリジナル」という謎の言葉。「ロディマス」並みに謎の言葉。

「白井黒子さん……」

 ミサカ07号の問いかけに黒子は頷いた。

 なんですの?

「ミサカは、クローンです」

 当然ですの

「!!」

「なン……だと……」

 驚くミサカ、そして一方通行。
 黒子はさらに言う。

 お姉さまのそっくりさんともあろう御方が、そうでなくては困りますの

「あァ……もしかして、『クリーン』と聞き違えてねェか?」

 !!
 ……
 てれてれ


                       後編に続く


 以上、お粗末様でした。

  
 後編で終わると思う
 


 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。
 

ロディマスとは?

�スレイヤーズに登場するキャラ

�トランスフォーマーシリーズに登場するサイバトロンのホットロディマス、及びその成長体であるロディマスコンボイの事

�「その言葉は○○○○○!」を改変したファンロードのネタ投稿


 何か色々書いてたらこんなことに……月日が経つのは早い


やぁ、>>406、レスありがとう。答えは�だ。今日はみんなに悲しいお知らせがあるんだ。
〜〜(中略)〜〜
その言葉とは『ロディマス』! みんなもこの言葉の意味を考えてくれ。あ、それから、レスする時は番号に気をつけてくれよな。
グレムリンに盗聴されるといけないからな。それじゃ。


今回のタイトル

 「お姉さまがいっぱいですの(後)」

 
 ふおおおおおおおおおっ!!!!

 黒子のテンションはクライマックスだった。
 まさに天元突破。最初からクライマックス。ブッチぎるぜぇ。である。

 ぴょこぴょこと跳ねるツインテール。
 ぱたぱたと羽ばたくように振られる両手。
 辛抱堪らないと言うように踏み鳴らされる足。
 真っ赤な顔。
 暗闇の子猫のように開いた目。
 ポカンと空いた口元。

 ここはゲコ太病院の地下室。妹達の秘密の隠れ家である。
 一方通行とミサカ07号、そして黒子を出迎えたのは十一人のミサカ達だった。

 お姉さまがいっぱいですの

 ここはまさに黒子の天国。
 クロコパラダイス、略してコパである。風水とは関係ない。

 ここは黒子の天国ですの


「そォか、良かったな」

 一方通行はほんのちょっとだけひいている。
 確かに超電磁砲が可愛いのは認めよう。
 これは一方通行だけではない。レベル5全体(第六位含む)の総意だ。
 麦野と食蜂も決して見劣りするものではないが、それでも御坂美琴は可愛い。
 しかし、いくら可愛くても同じ顔が十二人揃っているというのはちょっとアレだ。

 せめて、もう少し大人びているか。
 あるいはいっそ、幼いか。
 そのどちらかだといいのにな、と一方通行が密かに考えているのは内緒だ。

 尚、その密かな想いがとんでもないフラグとなっていることに後日、一方通行は驚くのだけれど……


「そんなに喜んでもらえると、連れてきた甲斐がありました。とミサカは喜びます」
 
 ここは黒子天国部屋ですの
 クロコパラダイスルームですの
 略してクロコダイルですの

「いいんですか、その略称で。とミサカは黒子の大らかさに驚きます」

 ワニですの

 がお、と両手を上げる黒子。

「ワニは『しゃあー』だと、ミサカは主張します」

 てれてれ

 おおう、とミサカは呻く。
 なんだ、この可愛い生物は。
 
「07号、グッジョブです、とミサカ04号は賞賛を惜しみません」

「白井黒子を招いたという多大な功績を鑑み、07号の抜け駆けを大目に見ることに、ミサカ08号は賛成します」


「ミサカ・ノーヴェもミサカ・クアットロと同じく、ミサカ・セッテの功績を認めます」

「ノーヴェ? 貴方はミサカ09号では?」

「09のナンバリングはノーヴェを、07のナンバリングはセッテを、04のナンバリングはクアットロを名乗るべきだと、ミサカ・ノーヴェは垣根帝督に教わりました」

「ミサカ・ディエチもミサカ・ノーヴェに賛成します」

 一方通行は呆れて思わず言う。

「お前ら……ちょっと頭冷やしませンかァ?」

「さすがはレベル5の白い悪魔だと、ミサカ・ノーヴェは怯えます」

 図らずもドンピシャリだったらしい。



 わいわいと、黒子を愛でる妹達。
 その中でふと、黒子は気付く。

 どうされましたの?

 何処か寂しそうに笑っている、一方通行。

「こいつら、こんなに笑えるンだなァ」

 黒子は首を傾げる。

 楽しいときは笑いますの

「俺たちじゃァ、出来なかったことだ」

 御坂美琴本人ですら、妹達をこれだけ温かく微笑ませることが出来たろうか。

「……済まなかったな」

 なんですの?

「こいつらンこと、もっと早く、教えてれば良かったかもな」

 失礼ですの


「あァ、その通りだ。お前を見くびって……」

 違いますの

「あン?」

 お姉さまに、第二位様に、第四位様に、食蜂さまに、削板さまに失礼ですの

「あいつら……に?」

 第一位さまが間違っていれば、皆様が止めてくださいますの
 ですから、間違ってませんの

「……」

 天井を仰ぎ、一方通行は今度こそ本当に笑った。

「違ェねェ。あァ、全くその通りで違ェねェよ。こりゃァ、第一位失格だな」

 お気をしっかりと
 間違いは誰にでもありますの

 カカカッ、と第一位の哄笑が部屋に響く。


 一方通行の突然の大笑に、何事かと視線を向ける妹達。

「む。第一位も抜け駆けをしているようですね。白井黒子を独り占めとは許せません。ミサカは義によって立ちます」

「それは義ではなく自欲だと思いますが、第一位を妨害することには賛成します」

「白井黒子を連れてきたのは私です。とミサカは自己主張します」

「07号はいい加減にするべきです」

「何を言いますか、そもそも最大の抜け駆けは01号ではありませんか」

 妹達の視線が一人に向けられる。
 そこにいるのは01号。
 夢うつつの黒子と最初に出会った個体である。
 それによって01号が人間の温もりを知り、自意識を芽生えさせたことで、レベル5達が一致団結して天井の野望を打ち砕いたのだ。
 因みに黒子は、その出会いをほとんど覚えていない。

「はっ、とミサカ11号は思い至ります」

「どうしました?」

「もしかして、ミサカ達の中で唯一不眠に悩まされていない01号の安眠要因とは……」

 今度は全員の視線が黒子へと注がれる。

 てれてれ


「白井黒子の温もりこそ、ミサカ安眠の秘密!?」

「確かに……ミサカ達の違いは産まれた後の経験のみ。01号と他個体の最大の違いは白井黒子との遭遇経験。と、ミサカ05号は分析します」

 会ったという記憶自体はMNWで共有されている。
 しかし、実体験とMNW共有体験はやはりどこか違うのだ。

「オッケーカモン、とミサカ11号はベッドインします」

 早くもベッドに横になり、黒子においでおいでと手招きしているミサカ11号がいる。

「そんなはしたない子は置いて、こちらへどうぞ。とミサカ02号が誘惑します」

「誘惑言うな」

 引く手あまたの状態に、きょろきょろと落ち着かない黒子。

 まあ、不眠自体は嘘じゃないからなぁ、と傍観を決め込む一方通行。



 結局、番号順に添い寝するということで落ち着いた。
 まずは、ミサカ02号から。

 すとん。そんな擬音が聞こえるように途端に眠りに落ちるミサカ。
 周りで見ているミサカ達が呆れる程に素直な睡眠だった。

「これは一体……」

「今までのミサカ達の苦労は?」

「恐るべし白井黒子、とミサカ06号は戦慄します」

「02号が眠ってしまいましたので、つぎは03番ですね」

 眠っているミサカと黒子を見下ろしつつ、どうしたものかと思案している03号。
 寝入りばなの黒子を起こすような残虐非道の振る舞いは、当然のようにNGなのだ。

「ちょっと退いてろォ」

 猫の子を掴むように、黒子の首元を掴む一方通行。
 ベクトルをどう加減したものか、黒子は何事もないかのようにすうすうと寝息を立てている。

「そのベッドでいィな」

 02号の隣にいたときと同じ体勢で眠っている黒子。

「ほら、寝ろォ」


 理屈は今ひとつよくわからないが、ミサカが安眠を得ているのは事実である。
 なんとなく面白くない、といった顔つきで、一方通行は次々と眠るミサカ達を見ている。

「いったい、なンなンですかァ?」

 見ていると、黒子に添い寝したミサカの表情が安らいでいるのがわかる。

 能力か? とも一瞬思ったが、黒子の能力は空間移動。精神には一切影響を与えることなど出来ない。

「わかンねェな……」

 それでも、一つだけは確かなのだ。
 ミサカ達が安らかな眠りに誘われていること。

 ならば、それでいいのではないか?

「……まァな……」

 誰にともなく呟くと、一方通行は手近の椅子に座り込み、缶コーヒーを手に取った。
 プルトップを引き、中身に口を付ける。
 
 妙に苦い、と思った。




 ……トク……ン
 ……トクン

 ミサカには聞こえています。
 これは……白井黒子の心臓の音。
 ミサカは心臓の音を知りません。
 他人の心臓の鼓動音なんて、聞いたことありません。
 リズミカルに、小さい音なのにダイナミックで。
 規則正しく、力強く、そして、温かく。
 これが他人の鼓動なんですね。

 なんでしょうか。
 どうして、ミサカは落ち着いているのですか?
 鼓動を聞きながら横になっていることがこれほど落ち着くなんて。

 ああ、これは。
 そうなのですか。
 これはミサカが知らなかった音。
 お姉さまの知っている音。
 一方通行も、白井黒子も……みんな知っている……だけど忘れている音。
 ミサカはようやく、この音を聞くことが出来たのですね。


 それは——
 胎内の音。
 母親の音。
 心臓の音。

 ミサカ達が聞くことの出来なかった音。
 万人が安らぎを得ることの出来る音。
 記憶の奥に誰もが持っている音。

 ミサカが、つい昨日までは知らなかった音。



 ………………
 …………
 ……?

「あ、黒子、起きた?」

 お姉さま?

 気がつくと黒子は、お姉さまの腕の中。
 お姉さまが、優しく黒子を抱きしめてくれている。
 この格好のままで眠っていたのだろう。

 他のお姉さま達は……

 もしかして、夢?

「あのね、黒子」

 いつもと同じように、いや、いつもよりも何処か優しく、お姉さまは言う。

「ありがとうね」

 黒子は知らない。
 妹達が皆眠った後、一方通行が黒子を常盤台の寮まで運んだことなど。
 でも。

 おやすい御用ですの、お姉さま

 お姉さまの微笑みと言葉が、全てを物語っていた。





以上、お粗末様でした。
ふと気が抜けると一週間なんてすぐ経つ恐ろしさ……

 
ちなみに……
今回の名前ネタがやりたかったためだけに、妹達を12人にしたのかもしれない……

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。

11028号が12人もいるのかな
http://www35.atwiki.jp/seisoku-index/pages/932.html


 今回は黒子の出番は殆どありません
 外伝のようなモノかと。

>>424-425
 黒子と妹達の関係は色々と刺激してくれますよね
 本編が上インになろうが、上琴になろうが、黒子と美琴がくっつくことはまず無いでしょうし。

 ウン年後いろんなことが解決して、学園都市から旅立つ美琴。
 学園都市に残された黒子と妹達のやりとり、なんて想像するだけでいい感じですよね


 今回のタイトルは「プチケンティウスのとある一日」


 コッケドゥルドゥ と鶏の声。

 プチケンティウスの朝は早い。
 常盤台学生寮に作られた養鶏場でのタマゴ集めが、プチケンの朝の日課となっている。
 
 プチケンはまず、あらかじめ準備してあった学園都市掃除ロボットの外殻を被る。ここでは異質な外見を隠すための処置だ。
 因みにこの外殻には、断熱性を付与した未元物質が内張されている。プチケンの通常駆動では、熱は殆ど外部には漏れない。
 そうでなければ通常の作業すら不可能なのだ。
 ただし、本物の掃除ロボとプチケン外殻ロボとはちょっと外見が違う。
 外殻ロボには、内部からプチケンが操るマニピュレーターがついている。
 マニピュレータがなければ、作業が一切出来ないのだから。

 タマゴを籠に集めたプチケンは、寮食堂の裏手にある調理場へそれを運ぶ。

「ご苦労様」

 調理場勝手口から顔を出すのは寮内調理長のベルシ(仮名)である。
 彼の本名を知るものは、常盤台には誰もいない。

「ふむ。いつものようにいいタマゴだ。さすがに、イギリスの肝いりだけはあるな」

 ベルシ(仮名)は、受け取った籠からタマゴを出すと、別のものを入れてプチケンに差し出した。

「これが先週分の礼だ、また明日からも頼む」

 頷くプチケン。
 そそくさと籠を受け取ると、ベルシに背を向けて帰っていく。

「あれが……魔術と科学の融合の形態なのか? それとも……」

 ベルシの呟きは、誰にも聞こえない。



 プチケンティウスの朝は忙しい。
 火曜日の朝は特に忙しい。

 火曜日はインデックスがチキンを食べる日なのだ。

 まず、一匹のニワトリを選ぶ。丸々と太って、健康的で美味しそうなニワトリを一匹。
 選んだニワトリを養鶏場前の広場に首だけ出して埋める。
 かぱっと口を開けて、ベルシに分けてもらった出汁と醤油を無理矢理飲ませる。加えて幾ばくかの酒。
 そして、プチケンは外殻を外して、ニワトリを抱きしめるように座り込む。

 コケコケ(熱っ! 熱っ!)と五月蠅いけれど、しばらく無視。

 すると、ニワトリは静かになる。だけどプチケンはその場を動かない。
 火力は調節する。
 
 しばらくすると、焼けた醤油の香ばしい匂いが辺りに漂い始める。
 その匂いを嗅ぎつけたのか、インデックスがふらふらと現れる。

「ん〜。いい匂いかも。いっつもいっつもご苦労様なんだよ、プチケンティウス」

 毎週火曜日は、インデックスが丸焼きチキンを一日がかりで食べ尽くす日。
 プチケンが、インデックスのために丸焼きチキンを作る日。

 しゅたっと手を挙げて、プチケンは最後の仕上げに取りかかる。
 ベルシに調合して貰ったマジックソルト&ペッパー&そのほか諸々香辛料の入った容器を置き、土中からニワトリを引っ張り出す。

 すちゃっと開く、外殻の一部。 
 そこから火炎放射。
 ぶすぶすと焦げながら落ちていく土塊、焦げた羽毛。
 食べられない部分だけを器用に焼き尽くし、できあがった丸焼きを鉄板に載せる。
 そして仕上げの香辛料。





 完成、プチケン風ワイルドチキン。



「美味しそうなんだよ」

 インデックスさん、おはようございますの

「おはようなんだよ、くろこ」

 しゅたっ

 プチケンティウスさんもおはようございますの

 インデックスを追うようなタイミングで姿を見せるのは白井黒子である。

 この香りは……チキンですの?

「くろこも食べる?」

 今から朝ご飯ですの

「あ、そうか。私も朝ご飯に行くんだよ」

 それではプチケンさん、後ほどですの

「後でチキンを受け取りに来るからね」

 しゅたっ

 食べ過ぎだろう、インデックス。
 などとプチケンは思わない。
 インデックスの食事量は、本人の食欲のせいばかりではないのだ。
 完全記憶能力によって包まれている十万三千冊の魔道書の維持に、それだけの魔力が必要となる。
 その魔力を発生させるのは並みの魔道師では不可能だ。だからインデックスは、摂取した食事をそのまま魔力に変換している。
 昔知り合った緑髪の錬金術師に、その術式を伝授されたのだ。
 その術式がなければ、インデックスは歩くこともままならないほどに体力を消耗しているだろう。


 作り終わったチキンを保存ボックスに入れると、プチケンは養鶏場の掃除を始める。
 常盤台にインデックスがいる限り、護衛に出向く必要はない。
 なにしろ、超電磁砲に心理掌握のレベル5だけでなく、トンデモ発射場に空間移動、レベル4トップクラス達も集結しているのだ。
 一体何の不安があるというのか。
 だからプチケンは、インデックスのために環境を整える作業に入る。
 具体的には、ニワトリの世話。
 ケージを掃除して、餌やり、水替え。
 小屋の破損はないか。野良猫が入り込んだりしていないか、病気のニワトリはいないか、怪我したニワトリはいないか、泣く子はいねが。

 因みに常盤台の生徒達は、プチケンのことを「オーダーメイドで作られ、高度に改変された掃除ロボの実験機」と思っている。
 真実を知っているの学生は黒子、美琴、食蜂の三人だけだ。

 他の用事もないので、養鶏場の掃除を終えると、プチケンはインデックスの帰りをひたすら待つ。

 じっとしていると、たまにお客さんがやってくる。

「……」

 メイド服を着た娘。
 寮に出入りして実習経験を積んでいるという繚乱家政女学校の生徒である。
 名は、土御門舞夏。
 以前、ここでプチケンを見かけて以来、何故かつきまとってくる、プチケンにとっては謎の娘である。

「やっぱり、何かおかしいんだなー」

 怪しまれている。

「学園都市内の掃除ロボタイプなら、私は皆把握しているつもりなんだけどなー」

 じりじりと近寄ってくる舞夏。
 と、その瞬間、舞夏のポケットから電子音。

「……? 呼び出しかー。今行くぞー」

 そのまま、待機させていた別の掃除ロボに飛び乗って去っていく。



 またしばらくすると、プチケンのセンサーに反応があった。
 インデックスが校舎を出て、街へ向かっているというのだ。
 午前中で授業が終わったらしい。

 プチケンは即座に走り出す。
 常盤台を一歩出れば、そこからはプチケンによる護衛任務が始まるのだ。

 プチケンは、インデックスを追う。


 プチケンは、離れたところからインデックスを観察していた。

 するとインデックスは、スーパーから出てきた削板と遭遇する。

「よぉ、インデックスじゃねえか」

「ぐんは、こんにちはなんだよ」

「何やってんだ?」

「今日はお昼で学校が終わったから、ご飯を食べようと思って」

「ちょうどいい、今から牛丼でも食いに行くんだが、一緒に行くか?」

「喜んでお呼ばれするんだよ」

 そして……

「根性盛り一丁!」

「こっちはメガ盛りの豚汁セットを頼むんだよ。豚汁も大盛りで」

 互いの食欲と食べっぷりを褒め称えながら完食する二人。

「じゃ、またな」

「またご飯奢って欲しいんだよ」

「いつでも来い!」


 削板と別れてしばらく行くと、今度は麦野と絹旗が。

「こんにちはなんだよ、しずり、さいあい」

「あらインデックス、どうしたの、こんなところで」

「今からお昼を食べに行くところなんだよ」

「一緒に行く?」

「喜んでご一緒するんだよ!」

「それじゃあ、少し張り込んで、シーフードバイキングに行きましょうか」

「超賛成です!」

「さすがなんだよ、しずり」


 麦野達と別れて……

「こんにちは、なんだよ。白い人」

「……一方通行だ。完全記憶能力はどォしたンですかァ?」

「えっと、ごめんなさい。あくせられーた」

「ちっ……まァ、いい。何してンだ、こンなところで」

「お昼ごはんだよ」

「あー、もうそンな時間かァ?」

「そうかも。あくせられーたはご飯食べないの?」

「俺は、食がほそいンでな」

「食べなきゃ身体に悪いよ」

「ちっ、ババァみてェなこと、言いやがる」

「一緒に行ってあげるんだよ」

「はァ?」

「ほら、一緒に行ってあげるから、ちゃんとお昼ごはんを食べるんだよ」

「おい」

「あと、奢ってくれると幸せかも」

「……てめ……はっ、わかった、奢ってやるから、そォ引っ張るンじゃねえ」

「パスタがいいかも」

「いや、俺はどうせなら肉が……あァ、ファミレスでいいか」


 そして……

「おやつが食べたいんだよ、ていとく」

「何で俺がお前に……」

「あくせられーたがお昼ごはんを奢ってくれたんだよ」

「なん……だと……」

「これが第一位と第二位の違いかも」

「ちょっと待て、よしわかった。おやつか、デザートだな? デザートが食いたいんだな」

「うん」

「ついてこい、この垣根帝督さまが常識の通じねえ美味さのデザートを食わせてやる。肉食偏食コーヒー狂いの第一位にはわからねぇ美味さだ」

「楽しみかも」


 プチケンの護衛は続く。

「あ、ステイル。アフタヌーンティーを一緒にしたいんだよ!」


「かおりー、久しぶりにかおりのご飯が食べたいかも」


「しあげは何してるのかな?」


「久しぶりなんだよ、フレメア。隣の大きい人は誰かな?」


「それじゃあね、かざり。そろそろ晩御飯の時間だから寮に戻るんだよ」

 プチケンを従えるようにして、ようやくインデックスは寮に戻った。

「ありがとうね、プチケンティウス」

 インデックスはちゃんと知っているのだ。護衛の存在を。

 しゅたっ、とプチケンは手を挙げる。

「それじゃあ私は晩御飯を食べてくるから……」

 少し考えるインデックス。

「チキンの丸焼きは、夜食のためにとって置いたんだよ」

 しゅたっ

 食べ過ぎだろ。なんてプチケンは考えない。

 そして今日もまた、プチケンの一日が終わるのだ。





 以上、お粗末様でした。

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。


 今回も黒子の出番、超少ない
 ごめん
 次回は黒子メインの予定だから


タイトル「パン食い競争ですの」


「何やってんだお前」

 学園都市7人しかいない超能力者(レベル5)の第二位、垣根帝督は尋ねる。
 それもそのはず。
 いつものように垣根が率いる「スクール」のアジトへ顔を出したところ、そこにいたのは心理定規とわっか君。

 因みにわっか君は本名不詳である。なんと本人にすらわからない。
 一方通行のように、自分ですら本名を知らない人間は学園都市では珍しいことではないので、垣根達もその辺りは追求しない。
 では、何故わっか君なのかというと、彼の能力に必要なアイテムのためである。

 彼は能力を発揮するときに、ゴーグルとバンダナのアイノコのようなものを額に巻いている。
 そこから伸びた無数のケーブルを、腰に付けた機械に繋いであるのだ。
 もっとも、普段から常に繋いでいるわけではなく、日常生活には全く必要ないものなのだけど。

 そのわっか君が、なぜか心理定規に土下座しているのだ。

「なんだそりゃ。なんか、新しい遊びか?」

「違うわよ」

 心理定規が答えた。

「よしんばそうだとしても、わっか君と二人だけで遊んでいるわけないでしょう?」

「まあ、てめえはまだしも、俺を除け者にするような根性がわっか君にあるとは思えねえけどな」

「あら」

「どうした?」

「貴方が『根性』なんて。第七位が伝染ったのかしら?」

「おいおい、そりゃあノーサンキューだ」

 そこまで話したところで、わっか君が顔を上げ、垣根の方に向いて姿勢を変える。
 そして再び土下座。


「ああ? なんだそりゃ」

「垣根さん! お願いがあるッス!」

「あん?」

 垣根がわっか君を見下ろした。

「因みに、わっか君が私に土下座していたのは、貴方に取りなして欲しいから。つまり、私をあらかじめ味方につけておきたかったという事

よ」

 そこまでして、そして土下座までして頼みたいことがあるのか。
 グループのリーダーとして、垣根はメンバーの面倒をそれなりに見てきたつもりだ。
 それでもわっか君は土下座を選択した。それだけのことを頼もうとしているのだ。

「言ってみろよ。聞くだけは聞いてやる」

「未元物質を分けてください」

「なに?」

「垣根さんの未元物質を分けてください」

「待て待て」

「お願いしますっ!」

 確かに、一旦作り出した未元物質は垣根から離れても存続できる。
 他人に渡すということは可能だ。
 現に、とある理由から相当量の未元物質が木原病理に譲られている。


「何に使うつもりだ」

「光学迷彩機能を持った未元物質で、俺の身体を包みたいんです」

「光学迷彩か……確かに、作れないことはない」

「垣根さん!」

「目的は何だ。何のためにそんなものを欲しがってる」

「それは……」

「それが言えないのなら、この話は無しだ」

「待ってください」

「だったら、素直に言うんだな」

 そして、垣根は心理定規に言う。

「おい。外してくれ。女の前じゃ言いにくい話もあるだろ」

 わかったわ、と心理定規は素直に部屋を出る。
 さあ、とわっか君に促す垣根。

「さて、これで少しは話しやすくなったか?」

「ありがとうございます」

「で、どうなんだ?」

「パン食い競争です」

「は?」

「常盤台で、パン食い競争の練習があるんです」

「はあ?」


 わっか君は、片手に持っていたディバックを開けると、沢山のパンを取りだした。

「アンパン、ジャムパン、クリームパン、チョコパンです。お一ついかがですか?」

「いや、いらねえ」

 わっか君は、頭から垂れ下がるコードに次々とパンを装備していく。
 ぶら下がるパン。立ち上がるわっか君。
 わっか君の顔周りには、パンが垂れ下がっている状態だ。
 
「この状態で、台の上に乗ります」

 適当な椅子の上に登るわっか君。

「想像してみてください。未元物質の光学迷彩によって、俺がパン食い競争のパンを吊すための土台に見えている姿を」

 そう言われても。
 いや、想像は出来る。出来るが。

「えーと。それで、何がどうなるってんだ?」

「垣根さん。常盤台ですよ? 常盤台!」

「あ、うん」

「超電磁砲御坂美琴、心理掌握食蜂操祈を擁する常盤台ですよ!?」

「あ、はい」

「それだけじゃありません!」

 ぐっと拳を握り、天井に向かって突き上げる謎の情熱。

「婚后光子! 湾内絹保! 泡浮万彬! そして白井黒子! さらにはニューフェイス、白人美少女インデックス!」



 わっか君の目は血走っていた。
 垣根は、心理定規を部屋から出したことを後悔していた。

「聞いてるんですか、垣根さん!」

「は、はい。聞いてます」

「それら、ツンデレ、ロリッ子、垂れ目、黒長髪、女王様と数々の属性を兼ね備えた美少女達が!!」

 帰りたいなぁ、と垣根は心から思った。
 常盤台が美少女だらけというのは認めるけれど。
 この情熱はどう見ても、何処かおかしな方向に流れているような気がする。

「パンに向かって走ってくるんですよ?」

「はい?」

「数々の美少女が、全力疾走でこのパンに向かって、ひいては俺に向かって走ってくるんです!」

「はあ」

「全力疾走で上気した顔で、パクパクと口を開いて俺の周囲に群がるんですよ!」

 なんで俺はこいつをスクールに入れたんだろうなぁ、と垣根は思う。

「想像してみてください! 自分の周囲に群がる、上気した顔で口をパクパクしている女子中学生を!」

「おい、バカ言うのもそろそろ……」


 レベル5の演算能力は伊達ではない。
 それが、間違いだった。
 ほんの一瞬。ほんの一瞬の気の迷いで、垣根は想像してしまった。
 レベル5の演算能力をフルに駆使した想像力で。

「……おい、その距離まで近づいたら……その……当たるんじゃねえか? ぽにゅっ、と」

「垣根さん」

「ああ、当たるな。間違いなく。超電磁砲と白井黒子以外は!」

「垣根さん!」

「未元物質、好きなだけくれてやる!」

「垣根さん!!!」

「ただし、条件がある」

「なんですか」

「その頭につけてるコード。スペアがあるなら俺にもくれ」

「ま、まさか……」

「パン食いの土台、二つあっても構わねえだろう?」

「垣根さん……俺、俺、スクールに参加できて良かったッス」

「おいおい、涙は成功するまで取っておけ」

「はいっ!」

 
 
 
 
 
 
 
「あ、もしもし、心理定規です。あ、白井黒子? 電話は久しぶりね。」

  (中略)
「うん。だから、パン食いの練習が始まったら、とりあえず土台を超電磁砲で吹き飛ばしちゃってね」
  (中略)
「第一位や第七位には私から連絡しておくから、あー、そうね、幻想殺しにも連絡しておくわ」
  (中略)
「ええ、もう、フルボッコで」

 
 
 
 
 



 以上、お粗末様でした

 次回はもうネタは決めているので大丈夫
 次は本当に黒子メインだから


 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。

ちょくちょく変態が登場するのはお決まりなのか?

>>458

 黒子が可愛すぎるのがいけないんです(悪いことする人の定番的台詞)



 予定変更して、思いついたネタを一つ。

「炎の転校生」北海道編を読み返していた思いついたネタです。

 タイトルは「囁きですの」


 プチケンも眠る丑三つ時……

 美琴と黒子の部屋で物音がしている。
 黒子のベッドの中からゆっくりと起きあがる小柄な影。
 
 ……起きましたの

 勿論、黒子である。
 黒子は、暗闇に目を慣らすようにゆっくりと辺りを見回すと、やがてベットから静かに滑り降りる。
 そして、そっと美琴の枕元へ。

 !?

 途中、お姉さまの携帯電話を手で叩きそうになって動きを止める。
 これは先週、お姉さまが上条当麻とお揃いでカップル携帯として買い換えたもの。
 カップルで携帯を新規登録するとゲコ太ストラップがもらえるというキャンペーンをやっていたのだ。
 ちなみに、今週は今週で、友達ペアで新規登録すると先週とは別のゲコ太ストラップがもらえるというキャンペーンをやっている。
 恐るべし、携帯ショップ。
 だからお姉さまは、複数の携帯を持とうとしているのだ。ちなみに、ペアで一緒に登録しようと誘われているのは他ならぬ黒子である。
 しかし黒子は、今の携帯で非常に満足しているので新規に登録するつもりは全くない。

 まあ、それは余談だ。

 枕元にこっそり近づいた黒子は、お姉さまの耳元に囁く。

 ……木原印のハイエクセレントシュークリームですの
 ……一セット三個入りで1200円ですの
 ……ショコラセット、カスタードセット、モンブランセット、ストロベリーセットがありますの


 
 ぴくり、と美琴が動き、黒子は慌てて自分のベッドに戻ると布団を被る。

 そろり
 そろーり

 布団からちょこんと頭を出すと、お姉さまが起きた気配はない。
 黒子はもう一度、そろそろとベッドから降り、お姉さまの枕元へと。

 そして囁き再開。

 ……モンブランとストロベリーは季節限定ですの
 ……人気がありすぎて、限定発売ですの
 ……毎週土曜日の朝八時から、各50セット限定発売ですの
 ……お一人様、各種一セット限定ですの

 ぴくり
 黒子はベッドへダッシュ。

 そろり
 そろーり

 囁き三度再開。

 ……木原印のハイエク(後略)
 ……一セット三個入りで(後略)
 ……ショコラセット、カスタード(後略)
 ……モンブランとストロベ(後略)
 ……人気がありすぎて、(後略)
 ……毎週土曜日の朝(後略)
 ……お一人様、各種一セ(後略)



 翌日、いつもの四人組が集まっている。
 やっぱりいつものようにしばらくファミレスでお喋りしていると、

「こういうときは、何か甘いものがいいですよね」

「佐天さん、いつもそればっかり。甘いものばかりだと太りますよ?」

「ぶー、初春に言われたくないよ?」

「えー、ひどいですよ、佐天さん。そんなに甘いものばっかり食べてませんよぉ」

「甘いものねぇ……」

「御坂さん?」

「いいわね、甘いもの」

 我が意を得たり、と頷く佐天を尻目に美琴の言葉は続く。

「木原印のハイエクセレントシュークリームってのがあってね、一セット三個入りで1200円なのよ
 ショコラセット、カスタードセット、モンブランセット、ストロベリーセットがあって、モンブランとストロベリーは季節限定なの
 だけど、人気がありすぎて、限定発売でね、毎週土曜日の朝八時から、各50セット限定発売なのよ
 しかも、お一人様、各種一セット限定なの」

 立て板に水、と言うように突然流暢に説明を始めた美琴に、呆気にとられる佐天と初春。黒子の目はキラーンと光っている。

「あ、あれ?」

「御坂……さん?」


「あれ、どうして私、こんなに木原のシュークリームに詳しいんだろ?」

「何処かで見たとか」

「うーん。覚えてないんだけど……ま、いいか」

 美琴はニッコリ笑って三人に言う。

「美味しいらしいから、食べてみましょうよ」

「え、でも、今の話だと、並ばないと……」

「木原さんに頼めばなんとかなるんじゃないかな」

「え、お知り合いなんですか?」

「うん、スイーツ木原のパティシエの木原数多って、一方通行の育ての親よ?」

「」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「あん? あー、もー、しょーがねえなぁ、みこっちゃんの頼みなら断れねえや。
おう、ところで、あの不幸野郎と別れてうちのモヤシと付き合う気は……あ、そう。ま、いいや」

 よっしゃ、持ってけ。と木原が差し出したのは、各種二セットずつのシュークリームセットである。
 勿論、お金はちゃんと払った。

 そして四人は、ハイエクセレントシュークリームを心ゆくまで堪能したのだった。

「ごちそうさまでした、御坂さん」

「ごちそうさまでした」

「いいのいいの、たまにはね。私だって先輩なんだし」

 ごちそうさまですの、お姉さま

「うん」

 黒子にも頷き、美琴は立ち上がって大きく伸びをする。

「でもちょっと、食べ過ぎちゃったかな」

 仕方ない。と美琴は思う。
 大事な可愛い後輩が、夜中に囁きに来るくらい食べたかったものだもの。
 耳元の囁きがくすぐったくて、それがなんとなく心地良くって、寝ているふりでやり過ごしたけれど。

 これくらいは……ね、黒子。

 
食蜂「アナタたち爆発しなさいよぉ!」みたいな感じで




 以上、お粗末様でした

 次回も黒子メインの予定


 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。


大覇星祭の選手宣誓って誰も引き受けなくて
結局軍覇と食蜂になっただよな
レベル5同士が仲良くしてるつーのが想像できない。

第3位は最初第1位と敵対して
次は第4位と
現在は第5位と敵対中だし

>>472-473
 こんな世界があってもいいよね。

>>474-476
 美琴孤立過ぎてワロタ



今回、予告していたものとは別のものなんだけど、色々とちょっとアレなので。
短くなった。


タイトル「モスキート倶楽部ですの」

短いよ?


 ここは絹旗が用意した会議室。

 一番奥に座っているのは黒子。
 そしてその正面には絹旗とフレメア。
 さらに少し離れたところには、包みを抱えた木原円周が座っている。

 黒子が、一同を見回しておもむろに頷いた。

 皆さん、集まりましたの

「そろそろですね」

 数は足りますの? 円周?

「うん。大丈夫。ちゃんと多めに持ってきているから。『木原』だから、そういうふうにしているよ」

 さすがは円周ですの
 
「それじゃあ、始めますか?」

 絹旗は、メンバーを指折り数え始める。

「白井さん、私、フレメア、円周で四人ですね」

 小さな円卓に座った四人。

 それでは円周、お願いしますの



「『木原』特製。レシピは数多おじさんと一緒だよ」

 包みを開く円周。ケースから取り出されるのは人数分+αのシュークリームである。
 ただしこのシュークリーム、何か様子がおかしい。
 形が歪だったり、焦げた色をしていたり。
 しかし、それは紛れもなく木原のシュークリーム。木原は木原でも、木原円周製だけれども。

「こんなとき、『木原数多』ならこう作るんだよね」

 そんなことを言いながら頑張って作った見習いシュークリーム。
 ハッキリ言って失敗作。
 だけど、コンビニスイーツに比べれば十二分に美味しい。見た目はちょっと、アレだけど。いや実際、ちょっとどころじゃないアレだけど。

 モスキート倶楽部、開催ですの

 黒子の力強い宣言。
 テーブルに着いた全員の前には、それぞれ小さなストローが。
 
 ぽすん、とストローがシュークリームの皮に刺さる。

 じゅるり


 はうっ

「ううう、超甘くてとろけそうです」

「美味しいにゃあ」

「『木原』だから当然だよね」

 皮は失敗したけれど。
 中身はレシピ通りだから大丈夫。

 お店には出せないけれど。
 美味しいから勿体なくて。

 だからみんなで、ストローでじゅるり。

 じゅるりじゅるり

 はうう

「超美味しいですゥ……」

「にゃあぁぁあぁあああ」

「『木原』だから……『木原』だから……」

 美味しさに全員トリップ中。

 幸せそうに弛緩しきったとろけた顔で、それでもくわえたストローは離さずに。

 シュークリームの皮にストローを差して、中身だけを吸い出すから、ここはモスキート倶楽部。
 命名、絹旗最愛。

 今日も四人は幸せだ。

 以上、お粗末様でした



 次回もこのメンバーの予定です

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。

ごめんなさい。今ちょっと、夏の祭典準備に掛かりっきりなので
来週か再来週には投下できるかと

もうそんな時期か、、、
黒子ちゃんはその間私が責任をもって保護しようhshs

>>498
一日目ですよ。
「とある」じゃないですけれど、「とある」の近くのジャンルでSS出してます。

>>490
だが断る


前回の予告とメンバー入れ替わった。
フレメア、那由他が佐天、初春に変更。
というか、この二人のほうが自然な展開だったわ……


タイトルは「講師ですの」


 常盤台のレベルの高さは並みではない。
 何しろ現役中学生が、高校生相手に家庭教師が出来る程なのだから。

「じゃあ次、因数分解の公式はどれくらい覚えているの?」

「あ、それはさすがに覚えているんですよ、さすがの上条さんも」

 とある高校の寮部屋では、美琴が上条に勉強を教えていた。

「言ってみて」

「x^2 + 2xy + y^2 = (x+y)^2」

「他には?」

「x^2 - y^2 = (x+y)(x-y)」ドヤッ

「うん。二次の公式はわかった。三次は?」

「三……次……だと?」

「x^3 + 3x^2y + 3xy^2 + y^3を因数分解すると?」

「……」

「因みに二次の因数分解は一般的に中学校レベル、三次の因数分解は高校一年生レベルね」

「ぐ……」

「さあ次よ、次」

「うー」

「あんたねぇ。やりようによってはレベル5をあっさり撃破できる『幻想殺し』の持ち主ともあろうものが、情けないと思わないの?」


「それとこれとは話が違うだろ。そもそも上条さんの能力には演算は必要ないのですよ?」

「その辺、削板さんと一緒よね」

「そうそう」

「でも削板さんは、バカだけど頭は悪くないわよ?」

「マジ?」

「単純計算の演算速度なら、一方通行、私、削板さんの順よ?」

「……垣根って、第二位じゃないのか?」

「あの人の演算能力って、未元物質生成制御のほうに特化され気味だから、純粋な四則演算にはソース割かれてないのよ」

 ふーん、と上条。

「ま、どっちにしろ、上条さんには縁のない話ですよ」

「ほらほら、諦めないで次の問題頑張る」

「そろそろ……休憩を……」

「まだ三時間しか経ってないじゃない。お昼ごはんだってまだよ?」

「昼飯まで休憩無し?」

「自分で言うのも何だけど、レベル5第三位が朝から家庭教師に来てるのよ? このチャンスを逃す手はないんじゃない?」

「うう……」

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 その頃……

 ……

 黒子は寮の自室に届けられた手紙を凝視していた。

 ついに……黒子にも来ましたの
 緊急事態ですの
 招集ですの


「絹旗、どうしたの?」

「あ、滝壺さん、超出かけてきます」

「何処行くの?」

「なんか、白井さんからメールが」

「ふーん。帰りにお醤油買ってきて」

「超了解です」

 常盤台の寮の手前で、絹旗は二人を発見した。
 黒子のメールの内容からすると、この二人も呼ばれているはずだ。

「佐天さん、初春さん」

「あ、絹旗さんだ」

「やっほー」

 三人は連れだって、白井の部屋へと向かう。


「超来ましたよ」

「白井さん、来ましたよ」

「こんにちわー」

 いらっしゃいませですの

 黒子は部屋を出ると、三人を別室へと案内する。

「教室?」

 そこは常盤台の特別教室だった。
 何故こんな所に? と不思議がる三人に、

 これを見てくださいの

 黒子は一枚の手紙を見せる。 
 
「なんですか、これ」


 初春が受け取り、読む。

「……つまり、白井さんが臨時の講師になると言うことですね」

 常盤台の生徒は、外部から講師として呼ばれる場合がある。今回は、黒子に白羽の矢が立ったと言うことなのだ。

「凄いことなんですか?」

 絹旗はイマイチぴんと来ていない。
 いつもそばにいるのがレベル5の麦野である。一見そうは見えない者もいるが……根性とか学ランとかハチマキとか……、
レベル5であれば外部の大学生の講義など片手で出来るような連中である。
 だから、麦野の片腕とも言える絹旗には今ひとつその凄さがわからない。

 でも、佐天と初春にはよくわかる。


「凄い事じゃないですか」

「うんうん。私もそう思う」

「……それで、白井はどうして私たちを呼んだんですか?」

 練習ですの

 教える内容自体に不安はない。黒子だって常盤台である。
 ただ、一クラスの人数を前に上手く話すことが出来るかどうか。不安はそこだ。

「つまり、私たちを生徒役に見立てて練習したいと」

「ということは、白井さんが行くのは中学校?」

 そうですの

「わかりましたけど、三人じゃあ超足りませんよ?」

 そこは人形を使いますの

「人形ですか」

 もうすぐ運ばれてきますの

 そこへやってくる、台車に乗せた大荷物を引っ張るプチケンティウス。

 ご苦労様ですの

 台車に手を伸ばし、人形を次々とテレポさせる黒子。

「うわ」

「ひゃあ、なに、これ」


「……人体模型ですね。学園都市製の細密人体模型。外部から来た人が本物の死体と間違えてアンチスキルに通報したっていう優れものですよ、佐天さん」

「何処のトムクルーズよ……」

「超リアルです」

 紹介致しますの
 人体模型1号さまですの

 次々と運び込まれる人体模型。

 人体模型2号さま、人体模型V3さま、人体模型マンさま……最後に、人体模型RXさま

「超不気味です!」

「これはちょっと……」

「うーん……」

 次に……

「まだあるんですか」

 白骨模型クウガさま、白骨模型アギトさま……最後に、白骨模型フォーゼさま

「あう……あう……あう……」

「初春、大丈夫?」

「初春さんがトラウマ超絶賛製造中です」

 困りましたの

「いや、そのシリーズやめましょう、と言うか、そんなものを常備している常盤台に超ドン引きです」

 数が揃えられるシリーズがこれだけですの


「ちょっと待ってください」

 携帯電話を取りだして何処かへ電話する絹旗

「……そうです……大至急……馬面はちゃんと従ってればいいんです!」

 数分後、一台のバンがやってくる。

「おい、絹旗、なんだかわかんねえけど、頼まれた荷物持って……」

「あ、もう帰って良いですよ」

「は?」

「荷物だけ置いたらとっとと帰ってださい。こんな所にいると捕まりますよ?」

「いや、待て」

「白井さん白井さん、あんなところに見るからに犯罪者なスキルアウトがいますよ」

 じゃっじめんとですの

「ちょ、おま……」

「えーと、私もジャッジメントです」

「初春ちゃんまで!?」

 這々の体で逃げ出した浜面を見送った一同は、絹旗の持ってきた荷物を広げる。

 ぬいぐるみですの

「くまさんがいっぱいいます」

「うさぎさんもたぬきさんもいますよ」


「あと、ばるたん」

 それは、お子様に大人気のぬいぐるみ一族、バルタニアファミリーである。
 ちなみに、シルバニ○ファミリーのバッタモンである。

「絹旗さん、これ……」

「バッタモンから溢れるC級感覚が超最高なんです」

 絹旗のC級好みは映画だけではないらしい。

「いいですけど。このぬいぐるみをどうするんですか?」

「このぬいぐるみを机の上に配置することによって、生徒が超沢山いるように思えるんです」

 早速ぬいぐるみを並べ始める一同。
 並べ終わると今度は三人それぞれの席に座る。

「白井先生、準備できました」

 はじめますの

 こてん

 うさぎがこけていた。

 こけましたの

 席へと駆け寄り、うさぎをきちんと座らせる黒子。
 そして教卓へ戻る。


 今度こそ始めますの

 こてん

 くまがこけた。

 席へと駆け寄り、くまをきちんと座らせる黒子。
 そして教卓へ戻る。

 今度こそ……

 こてん

 きつねがこけた。

 席へと……(中略)

 あらいぐまがこけた。りすがこけた。ばるたんがこけた。

「あああああ」

「安定悪いですね、バルタニアファミリー」

「所詮、バッタモノだからね」

「おい」

 ばたばたと倒れていく生徒達。
 教卓に立ったまま、自らの無力を噛みしめる教師白井黒子。

 無力……ですの……

 生徒達を机に大人しくさせていることすら出来ない。いくら講義が出来てもこれでは意味がない。


「白井さん! まだです!」

「諦めちゃ駄目です!」

「超頑張ってください!」

 初春が、佐天が、絹旗が走る。
 倒れるぬいぐるみ達を支え、補助し、座り直させる。

 こてん こてん こてん

「キリがありません」

「あーーー。こうなったら机に縫いつけます!」

「その必要はねェ!」
 
 ドン、と足下を踏みならす音。それと同時に直立し、きちんと座り直すぬいぐるみたち。

「こ、これは!?」

「足下を伝わるこの衝撃は、まごうことなくベクトル操作!?」

「あ、こんにちは。一方通行さん」

「よォ、面白そォなこと、やってンじゃねェか」


 一方通行を先頭に、入ってきたのは垣根、麦野、削板、浜面、滝壺、フレンダ、結標、そして最後に食蜂。

「こいつに話聞いて、ピンと来たんでな。ちょっと顔出させてもらった」

 浜面を示す垣根。

「ついでに、暇そうな連中集めて即席の講義でもしてやろうかってな」

「いや、俺は講義なんて無理だから、人数合わせで座ってるだけだから」

「それでも結局ぬいぐるみよりはマシって訳よ」

「ま、テレポーター仲間だしね」

「あのね、黒子ちゃ……」

 一番後ろにいた食蜂が前へ出ようとしたところで

「あ、ここですわ」

「白井さん、水臭いですわ。私たちにも声をかけてくださればいいのに」

 婚后、湾内、泡浮の三人である。

「あ、あら、こんなにお客様が……食蜂さんまで」

「へえ、黒子って結構人望あるのね」

 てれてれ

「私はそんなしらいを応援してる」

「いや、あの」


 再び背後に隠されてしまうけれど、頑張って前に出る食蜂。

「ところで黒子ちゃん、その講義依頼の手紙なんだけどぉ?」

 ひょいっと手を伸ばし、黒子の懐から手紙を抜き取る。

 なんですの?

「うん、ちょっと……」

 すぐに読み終え、首を傾げる食蜂。

「これ、御坂さん宛じゃなぁい?」

「へ」

「はい?」

 !?

「ほら、ここ」

 確かに、宛名は「御坂美琴」となっている。

「あらら」

「本当ですね」

「超ビックリしました」

 ……

「白井さん?」

 黒子は震えている。

「……恥ずかしがってる?」

「……まあね、これだけの人数の前で間違いでした、なんてね……」


「ま、勘違いは誰にでもある。そう、気にすることはない」

「そうそう、落ち着け落ち着け」

 しゅん

 黒子が手紙を掴むと、その姿が消える。

「あ、テレポしちゃった」

「何処行ったの?」

「恥ずかしがって逃げたのか?」

「……結標、追うぞ」

「え? ちょっ、ちょっと、そんなこと言われてもそもそも何処行ったかわからないのに」

「北北西から電波が……」

「でかした滝壺!」

「よし、全員飛ばせ、結標」

「いや、私、自分を飛ばすのはちょっと……」

「トラウマ力なんて、ちょちょいっと消しちゃうゾ」

「え? あ、心理掌握!?」

「よし、飛べ、結標」

「あのねぇ……はぁ、わかったわよ。滝壺さん、ナビお願い」

「北北西……」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 その頃、上条は苦しんでいた。
 日頃使い慣れない脳みそがオーバーヒートを起こしているのである。
 幻想殺しに演算は要らないのだ。

「美琴センセー、きゅ、休憩を……」

「情けないわね……」

 それじゃあ、昼食込みの休憩でも、と美琴が言いかけた瞬間、

 しゅんっ

 ドアも壁も一切無視して室内にいきなり現れる人物一人。

「黒子?」

 お姉さまっ

 黒子の手に握られているのは一枚の手紙。
 突きつけられたそれを受け取った美琴はざっと目を通して、それが講師依頼だと知る。

「講師依頼来てたんだ」

 間違いがあって、黒子が受け取ってしまいましたの

「ああ、そうなんだ。え、もしかしてそれに気付いて急いで届けに来たの?」

 お姉さまのお手紙ですの

「うん。まあ、それはそうなんだ……」

 言いかけた美琴は絶句する。


 ドアの向こうから聞こえる大音量。

「ここ? ここなの?」

「ここから、しらいのデンパが来てる」

「んー? なんか見覚えのある建物だね、初春」

「ドアの向こうに白井がいるはずだ!」

「ちょ、第七位さん! なんで構えてるのぉ!?」

「すごーいパーンチ!」

 ばこん、と吹っ飛ぶ上条家のドア。
 先頭で飛び込んでくるのは垣根と一方通行である。

「白井! いるのか?!」

 いますの

「突然消えるンじゃねェよ、驚くだろォが」

 失礼しましたの
 お姉さまに一刻も早くお手紙を……

「え、なに? なんなの?」

 事態についていけない美琴。

「あー、そういうことね」

 垣根たちの後ろから顔を出した麦野達はその姿に、面白いものを見つけた、というようにニヤリと笑いかける。


「みこっちゃん、こんな所でなにしてるのかにゃ〜ん?」

「こ、これは、もしかして超逢い引き、というやつですか?」

「ふふふ、超電磁砲も隅に置けないって訳よ」

「きぬはた、ふれんだ、馬に蹴られるよ?」

「ありゃりゃ、御坂さん、もしかしてお邪魔でしたか?」

「佐天さん、駄目ですよ、邪魔しちゃ」

「麦野さん? 絹旗さん? フレンダさん? 滝壺さん? 佐天さん、初春さん?」

 あわわわと、ニヤニヤ笑いの一同を見渡す美琴。

「私たちもいますのよ? 御坂さん?」

「婚后さんたちまで?! なんで?」

「白井さんを捜していたらここに辿り着いた。それだけのことですわ」

「べ、別に私は、ただ、その、勉強をこいつに……あ」

 指さした先には、削板の吹っ飛ばしたドアの直撃を受けて悶絶している家主が一人。

「ふ、不幸だ……」



 その後、立派に講師をやり遂げた美琴は、上条の看病に付きっきりとなり、それはそれで満更でもなかったらしい。

 
 


 以上、お粗末様でした



 

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。

いいスレを発見して寝る間を惜しんで可愛い黒子を一気読みして今追い付いた

黒子可愛いよ黒子ハァハァ

黒子と一緒に添い寝して髪の匂いをクンカクンカしたい

>>513
 
 死角移動乙



 夏祭り前最後の投下。さあ明日(今日)は設営だ



 今回はちょっとシリアス風味

 タイトルは「ネコですの」



 以上、お粗末様でした



 

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。




一レスだけ、オマケ的なものと疑問解消を

上条さんはこの世界では魔術師と戦っていないので、「幻想殺し」が魔術に通じるかどうかが不明です。
因みに皆は「幻想殺し」を「対能力者用能力」と認識しているので、「対魔術」という発想はありません。


ついでに、超能力者の皆さんと、レベル4お一人に聞いてみましょう。

貴方にとって上条当麻とは?

「ただの三下だ。……ま、第二位よりは使えるンじゃねェか?」

「レベル差関係無しに誰とでも付き合えるなかなかの好漢だな」

「」(何を聞き違えたか、真っ赤になって電撃を漏らし始めたためインタビュー断念)

「あー、浜面より毛が三本多いわね」

「お馬鹿さぁんよねぇ。まあ、正義力?はたっぷりありそうだけど」

「あー、勘弁。アイツに下手に触られたらこっちのボクは消えてまうからね。友達づきあいも苦労してるんよ?」

「ああ見えて根性のある奴だぞ」

 おにいさま、ですの


六位の能力って

「猿は人間より毛が三本少ない」って言い回しがあるので、
上条がどうのこうのよりも、浜面を猿扱いしてるだけかと

>>537

「多重存在」(コピーペースト)
分身を作り出す能力。
本体はインデックスと交換でイギリスへ留学中。
学園都市に残っているのは分身体なので、上条に下手に触られると消失してしまうと言う設定。

本編とは全く関係ないし、今後も出てこないはず。


>>539
その通りです


今回のタイトルは「パートナーですの」


 学園都市中枢部の一室で。

「あー、なにこれ、どうやったらこんな無茶な演算結果が出るのよ」

「麦野さんぼやかないで、そこのバグは仕方ないのよ」

 目を血走らせた麦野と美琴の前には、大型のディスプレイ。
 そこには無数の数値が表示されていた。

 常人ならば羅列を見ただけでギブアップだが、そこはさすがのレベル5。
 二人とも、その数列のなす意味をきちんと解釈して咀嚼している。
 が、しかし。

「かかかかっ、この程度でギブアップたァ、所詮三位四位ですかァ?」

「違いねえな、ツートップとその格下には決して越えられねぇ壁があるって事だ」

「ああ?」

 一方通行と垣根の挑発だらけの笑い声に即座に反発するのは、当然のように麦野である。


「ちょっとばかしそろばんが速いくらいで、粋がってんじゃねえぞ? 磨り潰すぞ、コラ」

「麦野さん、こっちに集中して!」

 麦野を窘める美琴の目は数列から離れず、その両手はキーボードをリズミカルに叩き続けている。
 
 四人が行っているのは試験、テストの類ではない。
 季節外れの集中豪雨と雷が学園都市を襲ったのは昨日のこと。
 予想を遙かに超えた被害を受け、学園都市内の中枢機能を司るメインシステムが一部停止してしまったのだ。
 そのうえ、復旧に必要な技術者達の詰め所までが被害を受け、死者こそないものの怪我人が出ているのだ。
 そこで、システム復旧に四人は駆り出されたわけである。
 因みに、削板はシステム周りの「物理的」被害の修復を、食蜂はシステム復旧に必要な怪我人のケアを、それぞれ

別処で手伝っている。

 本来学生のやるべき事ではないのかもしれないが、ここは学園都市、そして六人はレベル5である。それなりの、義

務というモノがあるのだ。
 
「あー、疲れた」

 そして、しばらくの作業が終わると、四人はそれぞれ順番に休憩に入る。



「……絹旗、なんか飲み物買ってきて……」

「あー、黒子。私もお願い」

「超了解です」

 わかりましたの

 部屋の隅で待機していた二人が、急に生き生きと立ち上がって走っていく。

「ちっ、使いっぱか、俺も誰か連れてくりゃよかった」

 垣根がぼやくと麦野が笑う。

「ははっ。わっか男は豚箱だし、心理定規とは冷戦中だって?」

「うるせー、ブタ箱じゃなくて入院だ。ありゃお前らのせいだろうが」

「いや垣根さん、どう考えてもわっか君が悪いと思うんだけど」



「恐ろしいところだぜ、常盤台……」

 (>>445-453「パン食い競争ですの」参照)

 因みに、常盤台突入直前で垣根は殺気を感じて引き返したため無事である。
 殺気を感じても突入したわっか君に栄光あれ。

「俺が死んでも、俺の魂は常盤台を永久に漂うんすよ、主に更衣室とか」

 それが垣根と交わした最後の言葉である。
 そしてその事件以来、垣根に対する心理定規の態度は冷たい。
 だから、今日も垣根は一人である。

「情けねェな、所詮第二位って事か?」

「うるせえ、お前だって一人だろうが。つか、お前は決まったパートナーそのものがいねえだろうが」

「……妹達、連れてきていいかなァ?」

「当面は無理だろな」

「くっ……」


 そこへ、飲み物を買って戻ってくる黒子と絹旗。

「はい、ご苦労さん」

「ありがと、黒子」

 二人は持ってきたジュースを殆ど一息で飲み干してしまう。

「う……あー、生き返る」

「あー、美味しい、気持ちいいっ」

 飲み終えると、美琴はやや強引に黒子を引き寄せると膝に乗せる。

「黒子分補給……んー、癒される」

 膝に抱えた黒子を抱きしめながら、美琴は頬を黒子の頭にスリスリと擦りつける。

「疲れが取れる……あー、疲れが消えていく……もふもふ」

 黒子は真っ赤になっているけれど、抵抗しない。

 てれてれ


「おいおい、一方通行、アレ見てみ、なんか第三位が凄いスキンシップを」

「……羨ましいなら、心理定規呼べば?」

「俺が心理定規にあんなことやったら間違いなくスキルアウト呼ばれる」

「あと、三下とか、削板とか、俺とか」

「俺フルボッコじゃねえか」
  
「お?」

「どうした」

「第四位が動いた」

「なんだと?」

 黒子と美琴をじっと見ていた麦野は、やおら絹旗を捕まえると、そのまま引きずり込むようにして膝の上に固定する。

「麦野?」

「嫌なら止めるけど?」


「え」

「最愛分補給〜〜」

「ひゃ」

「髪の毛すべすべして気持ちいい……」

「あう……む、麦野……?」 

「んー?」

 上から絹旗の頭を両手で挟み込んだ麦野は、絹旗の頭を上向かせると、その額に自分の鼻がくっつくように接近する。

「嫌なら、止めるけど?」

 うりうり、とこめかみを刺激しながら麦野は笑って尋ねている。

「うー、超意地悪です」

「うっふふ、だって可愛いもの」

 ニコニコと笑いながら、これ見よがしに美琴に横目を向ける麦野。

「レベル4で一番可愛いものねぇ、絹旗は」


 真っ赤になって、あうあうと呟く絹旗。
 麦野はそんな絹旗を全身で抱きしめている。

「ほぉ……」

 ぽそり、と美琴が呟いた。

「麦野さん、それはどういう意味かしら?」

「ん? 言葉通りだけど?」

 きゅっ、とさらに絹旗を抱きしめる。

「レベル4能力者で一番可愛いのは、ウチの絹旗最愛でしょ?」

「まあ、確かに、絹旗さんは可愛いわよね。麦野さんに横でちんまりとしている姿は可愛らしいわよ?」
「でもね、それはちょろ〜っと、違うんじゃないかな」
「レベル4で一番可愛いのは」

 美琴は黒子に背中から抱きついた。

「誰が見ても、黒子じゃないかな?」

 おねえさま
 てれてれ

以上、お粗末様でした

次回は多分、食蜂パートナー決定編か、打ち止め登場編……だと思う


書いてて、なんとなく「削板食蜂」も良いかなあと言う気がしてきた……

投下乙!

>>548は多分アンチスキルの間違いだと思うけど、スキルアウト呼んでも冷蔵庫無双になるだけだろうなぁと思った
関係ないがアンチスキルで警備員と変換できることに驚いた、Google日本語入力ぱねぇ

月日の経つのは早い。他の連載やってる方々偉すぎる

>>560
 うわ。ミスってた。申し訳ない。



 さて、今回、メインは黒子じゃないです。

 タイトルは「責任ですの」
 


「なんで俺がレベル5なんだ?」

 ある日、削板がそう尋ねた。

「俺は他のレベル5とは違うんだろ?」

 削板軍覇、彼は『原石』であり、通常の能力者とは一線を画している。

「『原石』が全員レベル5って訳じゃないんだろ?」

 削板の『原石』の中でも特別だと答えが返る。
 そして研究者は尋ね返した。

 レベル5が嫌になったか? と。

「いや」

 削板は答える。

「俺がもしレベル5じゃなかったなら、アイツの役に立つことができのかなと思ってな」


 お役に立ちたいんですの?

「ん、なんというか、アイツはアイツなりの根性で頑張って……っておい、いつの間に」

 削板の前には、何かワクワクした表情の黒子が。

 がんばりますの
 食蜂先輩のお力になりますの
 削板さん、がんばりますの

「根性出すか?」

 こんじょーですの

 しゅたっ、と片手を突き上げたポーズの黒子。

「よし。まずは、候補者を捜すぞ!」

 おー


「いいか、まず、パートナーってのは……」

 垣根帝督には心理定規
 御坂美琴には白井黒子
 麦野沈利には絹旗最愛
 
「この三組はほぼ確定だ」

 当然ですの

「そして、俺と一方通行は特に決まった奴はいないが、必要になったときの臨時パートナー候補は何人かいる」

 第六位はそれ自身が不在。
 食蜂操祈はパートナーが不在。

「パートナーってのは、それなりの格や能力がやっぱり必要だ」

 ……


「何が言いたい?」

 削板さまのパートナーは……

「モツ鍋はああ見えて、スキルアウト最強の一角だぞ?」

 ……

「原谷はまあ……気にするな」

 え

「雲川の姉ちゃんは、超能力じゃねえけど有能ってやつだしな」

 ですの……

「……いや、俺のパートナーはどうでもいい。今は食蜂のパートナーの話だ」

 二人は知る限りの能力者から候補を絞る。

 例えば婚后光子。

「レベルは申し分ない。常盤台というのも高ポイントだ」

 婚后さまは既にお友達ですの

「だが、こいつはどっちかというと、パートナーと言うより、常盤台第三の女、って感じだな」

 あるいは結標淡希。

 テレポ仲間ですの

「今一番レベル5に近いレベル4だからな。臨時ならまだしも、誰かのパートナーにずっと収まるつもりはないだろ」


 レベルは0だが、上条当麻。

「男は多分ダメだろう。それに、超電磁砲に怒られるだけじゃすまんだろうな」

 ダメですの

 ならば滝壺理后。

「アイテムの一員だからな」

 浜面さんや絹旗さんに怒られますの

「それなりの能力者で、他の連中と被って無くて……」

 頭を抱える削板。

「そんな奴いるのか?」

 あ
 いましたの

「マジか」

 マジですの



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 食蜂操祈は、削板からの急な呼び出しに戸惑っていた。
 
(なんなのよ、もう……)

 メールの内容は一言、「パートナー候補を見つけたぞ」

(パートナー……ねぇ……)

 精神操作系能力者には共通の悩みがある。それは精神系能力第一位の食蜂操祈であっても例外ではない。
 周囲の目、というやつだ。それが食蜂のパートナー選びにも影響している。
 極端な話、能力で洗脳すればパートナーはいくらでも作れる。
 それを周囲も知っている。

 さて、第三者は食蜂のパートナーを見てどう思うのか。

「ぴったりなパートナーを選んだな」
「洗脳してパートナーにしたのか?」

 事実が前者であっても、後者と思われてしまえば意味がない。
 食蜂には、「思い」がわかってしまうのだから。

 だから、食蜂は選ばなければならないのだ。
 自分の精神操作が及ばない相手を。
 決して、操っていると「思われない」相手を。

 
 食蜂に対抗しうるのは高レベル能力者、あるいは同系統の能力者。
 レベル5の食蜂にとって、高レベル能力者など六人しかいない。
 同系統……精神系能力者ナンバー2は心理定規である。彼女は既に垣根のパートナーだ。

(いないのよね……)

 一体削板はどんな人材を連れてきたというのか……
 半ば諦めながら、食蜂は伝えられた場所へと向かう。

(ん……?)
(ここは、常盤台だゾ?)

「おう、こっちだ」

 ごきげんようですの、食蜂さま

「……呼ばれたから来てあげたんだゾ☆ 感謝力を……あれ? 黒子ちゃんも?」

「白井がパートナーを見つけてくれてな。見事な根性だったぜ」

「え?」

 黒子の知り合いならば自分も知っているはず。
 その中にパートナーとして……

「え?」

 一人いた。


 言われてみれば一人いる。
 例外として脳裏からは抜けていたけれど、確かに相応しい人材が。

「もしかして……」

「こんにちわなんだよ。みさき」

 インデックスが手を振っていた。

「インデックスちゃん」

 レベル5第六位との交換留学生である。魔術側としてそれなりの能力を持っているはずの人材。
 そして、なによりも、食蜂にとって重要なこと……

 インデックスは可愛い。
 それはもう、とっても可愛いのだ。
 黒子、絹旗と並べても引けを取らない可愛らしさだ。

「だけどぉ、問題はインデックスちゃんの能力なのよぉ」

「私には、完全記憶能力があるんだよ」

 確かに凄いけれど、それは超能力でも魔術でもない。

「できれば、私の能力に対抗できるものがいいのだけれど?」


「それなら大丈夫だろう」

 そうですの

 二人の太鼓判に、食蜂は首を傾げる。

「私の歩く教会はあくせられーたや、ていとくの攻撃も防ぐんだよ」

「え。なにそれ怖い」

「みことの電撃も、しずりのビームも効かないんだよ」

「魔術力凄いわぁ」

「ああ、因みに、俺のすごいパンチも」

「……もしかして、幻想殺し?」 

 テレポで飛ばすことは出来ますの

「上条さんとは違うのね」

 攻撃は全部防ぐみたいなんですの

「防御力の特化力……面白そぉ☆」


 ん? と再び食蜂は首を傾げる。

「防ぐのは物理攻撃力だけって事かしらぁ?」

「試したことはないけれど、多分、精神系能力にも対抗できるかも」

 ふむ。と食蜂は考える。
 物理的攻撃防御は、ハッキリ言って望んでいない。戦闘に赴くなら別だけど、今求めているのは日常のパートナー。
 戦闘の必要があるのなら、一方通行や垣根に話を通した方が楽だ。
 どちらかというと欲しいのは精神攻撃に対する防御力。

「インデックスちゃん?」

「なぁに?」

「試してみていい?」

「何をかな?」

「簡単な精神攻撃なんだけど」

「無茶するなよ?」

 削板が一応釘を刺す。

「わかってるわよぉ。ちょっと記憶を覗いてみるくらいならいいでしょお?」


「……」

「そんなに信用力ないの? 操祈、悲しくなっちゃうゾ?」

 削板の胸元にぐいっと身体を寄せる食蜂。
 珍しく削板が慌てていた。

 そんな二人を余所にインデックスと黒子は、

「ちょっと心配かも」

 なにがですの?

「私の中には十万三千冊の魔道書と三千冊のコミックがあるんだよ」

 増えてますの!?

「日本のマンガはクールでエクセレントでエキサイティングなんだよ! 特にみことのお薦めのコミックは素晴らしいんだよ」
「完全記憶能力があっても二度読み三度読みしてしまうレベルかも!」

 お姉さま!?

「ほほぉ……」

 ピキッと、食蜂のこめかみから異音。


「御坂さぁん……インデックスちゃんまで手懐けてるのねぇ……ふっふっふっ……ぼっち力満開の癖にぃ……」

 プンプン
 いくら食蜂さまでもお姉さまの悪口は許しませんの

「あ、ゴメンねぇ〜、黒子ちゃん。操祈ったら悪い子ね☆ えーい」

 食蜂はこつんと自分の頭を叩く。

 わかっていただければよろしいですの

「えーと、もういいのかな?」

 二人のやりとりを眺めていたインデックスが言う。

「だから、私の中の魔道書を覗くと、みさきが大変なことになるかも知れないんだよ」

「ふふふっ、私を誰だと思ってるのかなぁ? カナァ?」

 ふふん、と胸を張る食蜂。
 横に並んで胸を張ってみる黒子。
 そして胸元を覗き込んでそっと涙する黒子。

 お姉さまに勝ち目はありませんの……


「学園都市レベル5第五位心理掌握こと食蜂操祈。私の能力を舐めてもらっちゃ困るんだけどぉ?」

「よくわからないんだよ」

「インデックスちゃんの記憶を無作為に覗く訳じゃないの。ちゃんと選択力があるんだからね」

「それじゃあ、魔道書は覗かないの?」

「今回は……そうね、コミックだけを覗くことにしちゃうゾ」

「凄いんだよ、みさき」

「ふふーん」

「じゃあ、私も頑張って抵抗するかも」

「頑張ってね」

「うん! 任せるんだよ!」

 ダンボール箱ガンダムのポーズで食蜂に向き直るインデックス。
 その背後で何故か荒ぶる鷹のポーズを取っている削板。

「インデックス! 根性だ!」

 応援のつもりらしい。

「それじゃあ、覗いちゃうゾ☆」

 この段階で、大きなミスが二つ。

 一つは、食蜂の記憶覗きは「歩く教会」には攻撃と認識されていなかったこと。
 
 そしてもう一つは……


 十万三千冊の魔道師の中には、「コミカライズ化」されていたものも混ざっていたこと。

 恐るべし、魔術サイド。

 そう。食蜂は魔道書だと気付かずに、コミックだと誤解してそれを覗いてしまったのだ。

 コミック版「屍食教典儀」
 コミック版「エイボンの書」
 「マンガでよくわかるネクロノミコン」
 「漫画:ナコト写本入門」
 「もし高校野球の女子マネージャーがルドウィク・プリンの『幼蛆の秘密』を読んだら」
 などなど

 繰り返す。恐るべし、魔術サイド。

「はうっ!」

 当然、無事で済むわけがない。
 凄まじいばかりの情報爆発がシナプスを焼き尽くさんと迸る。
 常人ならば瞬時に廃人、いや、生きるための最低限の活動すら休止するほどの精神衝撃。
 
 だが、しかし。

 食蜂操祈とて、幸か不幸か常人ではない。
 魔術サイドと双璧を為すべき科学サイドの申し子である。
 致命的な衝撃をシャットダウンするための操作を、ほぼ無意識で行っていた。

 冒涜の知識を和らげ、致命の情報を薄め、絶命即死を塗りつぶす。

 言い換えれば、コミックのヤバい部分を処理していた。
 墨塗り、トーン貼り、ホワイト消し、伏せ字、言い換え、発禁焚書である。

 一部は間に合わずに脳へと到達したけれど。

「ぎゃおんっ!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 気が付くと、病院のベットに寝ていた。

 横を向くと、黒子、インデックス、削板が心配そうにこちらを見ている。

 気付きましたの

「みさき、ごめんなさいなんだよ」

「すまん!」

 半泣きの黒子とインデックス。削板は土下座。

「……ここは……」

 冥土返し先生の病院ですの

「本当に済まなかった。俺に根性が無かったばかりに……もっとよく考えれば良かったんだ」

 食蜂は自分の姿を見下ろした。

「黒子ちゃんが着替えさせてくれたの?」

 インデックスさんと一緒でしたの

「そう、ありがとう……」

 涙目の二人。そして未だに後頭部を向けたままの削板。

「あの……削板さん……?」

「すまなかった!」


 なんでこの人はこんなに謝っているんだろう。
 問おうと黒子の顔を見ると、何故か視線を逸らす。
 インデックスを見ると、これまた逸らす。

 おい。何があった。

「黒子ちゃん、インデックスちゃん」

 黙る黒子、キョドるインデックス、ゲザる削板。

「黒子ちゃん……沈黙力はいらないのだけど」

 錯乱寸前で気絶してましたの

「うん、それは何となく想像が付くんだけどぉ?」

 色々と、出してはいけないものが……
 見せてはいけないものが……

「」

「垂れ流しだったんだよ……」

 インデックスの爆弾発言であった。

「」


 食蜂がゆっくりと視線を下げる。
 そこには削板の後頭部。

「……見ら……れ……ちゃった?」

「食蜂! すまなかったぁぁぁああっ!!!」

「え……え……あの……」

 食蜂の救いを求める眼差しは、黒子の気の毒そうな眼差しに反射された。

「垂れ……流……し?」

 (涙とか、呪詛とか、常盤台に相応しくない悪口雑言とかを)垂れ流してましたの……

「(出してはいけない、一部紳士に垂涎の的の液体とかを)垂れ流してたの……?」

 黒子はしっかりこっくり頷いた。

 黒子とインデックスさんでお着替えは済ませましたの
 でも、削板先輩には見られてしまいましたの

「」


 考えて欲しい。
 もし、これが削板と食蜂ではなく、上条と美琴だったらどうなっていただろうか。
 そう、美琴は能力フル暴走、辺りに電撃を撒き散らしていただろう。

 ここにいるのは食蜂操祈である。

 でもやっぱり暴走。

(削板さんにあんなのそんなのこんなの全部見られちゃった!!??)

 テレパシー暴走。

 そこにとどめを刺すインデックス。

「あ、ぐんはもみさきのお世話を手伝ってくれたんだよ」

「はいーーーっ!?」

「(涙で濡れた顔を)一緒に拭いてくれたんだよ」

「(出してはいけない、一部紳士に垂涎の的の液体とかで濡れた身体、具体的には射出口付近を)拭かれたのっ!?」

 食蜂操祈フル暴走。
 テレパシー大暴走。


「すまなかったぁぁぁああっ!!!」

 削板は、インデックスに対する食蜂の読心について、安全面を甘く見ていたことを謝り続けている。
 三人の話はいつもの事ながら全く聞いていない。

(削板さんのお世話力……拭かれた……大事なところを……拭かれた)

 小爆発でも起こしたような勢いで真っ赤になる食蜂。
 
 尚、現在のところ、食蜂の心の叫びはテレパシー大暴走によってだだ漏れである。

(そんな恥ずかしいこと……)

 因みに食蜂本人による詳細な想像図付きである。

(そんな恥ずかしいことされたなんて……)
(責任取ってもらうしかないっ!)
(責任……お嫁さん?)

 大爆発のように真っ赤になる食蜂。

(もう、削板さんのお嫁さんになるしか……削板操祈になるしかない!)

「削板さん……責任、取ってね」

 え? と削板が顔を上げた瞬間。

「何やってんのよぉぉおおっ!!!」

 病室へ飛び込む人影。
 即座に室内に展開される電磁バリヤー。


 お姉さま?

「みことなんだよ」

 何故かこちらも真っ赤な顔の美琴だった。

「え?」

 キョトン、と食蜂。

「あ、あ、あ、あんた、全部だだ漏れよ」

「え? え?」

「とりあえず電磁バリヤーでこれ以上の漏洩は防いだから、とっとと落ち着きなさいよね」

「だだ漏れって」

「アンタのテレパシー。再現映像付きで病院内絶賛放映中だったのよ」

「」

「黒子に話を聞いて、見舞いに駆けつけたのが私で良かったわ」

「」

「聞いてるの?」

 黒子が首を振った。

 食蜂さま、気絶してますの


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 治療中の錯乱である。
 錯乱だと言ったら錯乱なのだ。
 忘れろ。
 忘れない人は心理掌握が直々に忘れさせる。
 いいから忘れろ。
 忘れたくない奴はすごいパンチ×5な。

 要約するとそのような内容の文章が関係者一同に配られたのは翌日のことだった。

「もう、パートナーいらなぁい」

 念のため入院した病室内、乾いた笑いで呟く食蜂。

「操祈はもぉ、一人でいいのぉ」
 
 全てを知った彼女の視線は、宙にさまよってウフフと笑っている。

 そんなところに姿を見せた黒子とインデックス。そして削板。
 削板が見舞いの果物をベッドサイドに置くと、黒子とインデックスは飲み物を買ってくると言い出す。
 そして出て行く二人。残された二人。

「あのな、食蜂」

「……なによ」

「いや……」

「珍しいのね、ハッキリ言えば?」

「……いいぞ」

「何が?」



「責任取ってもいいぞ」 

「ちょっと……」

「俺、レベル5会議の時にモツ鍋や原谷連れて行くのやめる。勿論、雲川の姉ちゃんも」

「同情なんて……」

「間違えた」

「は?」

「間違えた。言い直す」

「何をよ」

「責任取ってもいいぞ、じゃねえんだ」

「?」

「責任取らせろ」 

「……」

「俺に、取らせてくれ」

「……お馬鹿さん」

 病室の外からそっと眺めていた黒子とインデックスは、二つの影が重なることを確認してから自販機へ向かうのだった。

以上、お粗末様でした


 某禁書通行SSでの、世界崩壊の一瞬で削板に惚れた雲川ってのが凄く印象に残ってるんですよね。
 某座標殺しSSでの、削板雲川組による学園都市治安維持ってのも好きだった。
 某電磁通行SSでの、未来の削板と神裂とか。
 小ネタだけど、根性定規ってのもあったなぁ。

 色々あるけれど、ここではこうなりました


 次回は、打ち止め登場の予定です

台風が来たけど更新します


タイトル「打ち止めですの」


 かつてとある研究所があった廃墟に一方通行は立っていた。
 時折周囲を見回し、人を待つ様子。

「こンなところまで呼び出しといてェ、なンの用なンですかねェ?」

 ようやく現れた人影に向かい、一方通行は敵意を隠そうともしない。

「まさか、復讐? なンて無駄なこと考えてンじゃねェだろォな?」

「それこそ、まさかだ」

 人影……天井亜雄はゆっくりと手を挙げた。

「今のこの私には、君を倒すどころか対抗する手段の持ち合わせもない」

「今の? はっ、過去万古から未来永劫まで、そンな手段は皆無だろ」

「そうだな、その通りだ」

「おい」

 一方通行の表情が変わる。
 敵意から当惑へと。

「何があった?」


 目の前にいる男は天井。その認識に間違いはない。一方通行は己の認識に絶対の自信を持っている。
 だが、発する雰囲気が明らかに以前とは異なっているのだ。

「なにかあったと言われれば、答えはYESだ」

「悪ィが、クイズは好きじゃない」

「そうか。なら単刀直入だ」

 突然、天井は地面に座り込む。

「おい?」

「一方通行、頼みがある」

「おい、何の真似だ?」

「二人をしばらく面倒見てやって欲しい」

「はァ?」

「頼む!」

「いや、わけわかンねェ。そもそも二人って」

「こいつらだ」

 天井が手を振ると、二つの人影が現れた。

「な……」

 珍しくも一方通行が絶句する。 


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 数日前、第五位食蜂操祈と第七位削板軍覇との交際が学園都市自治新聞によってすっぱ抜かれた。
 レベル5同士のカップルの前例はなく、学園都市内は非常に盛り上がったのだが……

「高レベル者同士のカップルは超お似合いですね」

 お似合いですの
 さすがは超能力者ですの
 食蜂さまですの
 削板さまですの

 絹旗と黒子もその話題で盛り上がっていた。
 なにしろ黒子は見届け人である。それを知った絹旗のテンションもメーターを振り切っている。

「超さすがですね、白井さんは」

 素敵なカップルですの

 手を繋いで喜び合う二人。

 あらあらうふふ、とそんな二人をほのぼのと眺めている周囲の人々。
 ここはオープンカフェテラス。
 甘くて冷たい氷菓系デザートとフレッシュな生ジュースが人気のお店。
 だけど絹旗の前には鉄板ナポリタン。
 黒子の前には小倉トースト。
 そう、ここは名古屋系喫茶店でもある。


「玉子焼き美味しいです」

 あんこ甘いですの

 ひとしきり堪能すると、食後のデザートを頼んで再びカップル談義。 

「超グッジョブです、白井さん」

 ふふん
 
「超偉い偉い」

 なでりなでりと絹旗の手が黒子の頭を這い回る。
 満更でもない黒子は絹旗の手の下でごろごろとご満悦。

 絹旗さんにお返しですの

「超ふふんです」

 偉いですの

 なでりなでりと、今度は黒子が絹旗を撫でる。
 ふにふにとご満悦の絹旗。

「何やってんだろねぇ」

「ねぇ」



 そんな二人を微笑ましく思いつつ、可愛さに悶えつつ、互いのパートナーに軽く嫉妬しつつ、麦野と美琴が別席から眺めている。
 二人の前にはそれぞれジュース。麦野のほうはあまり減っていないけれど、美琴のほうは殆ど飲み尽くされている。

「……あー、絹旗さん、ちょっと黒子撫ですぎじゃないかなぁ」

「白井も満更でもなさそうだけどねぇ」

「……黒子、撫でられるの好きだから」

「そうみたいだね」

「撫で足りないのかな? 普段からもっと撫でてあげた方がいいのかな?」

「ん? 美琴?」

「それとも、もしかして絹旗さんの撫で方がとっても上手いのかな?」

「おーい、美琴?」


「どうしよう……黒子が私に撫でられるの嫌がるようになったらどうしよう……」

「もしもし?」

「『お姉さまは下手ですの』なんて言われたら、私、立ち直れないかも」

「おーい、もしもーし」

「ごめんね、黒子……私が下手で……御免ね……」

「おーい、第三位さーん。超電磁砲さーん?」

 一人上手に落ち込んでいく美琴と、慌てる麦野。

「ゴメンね、黒子……駄目なお姉さまでゴメンね。駄目なレベル5、英訳するとFUCKIN' LEVEL FIVE。FLFでゴメンね……」

「ちょっとアンタ、まるで酔っ……ん?」

 美琴の前のグラスを手に取り鼻へと近づける麦野。中身に気付き、ウェイターを呼ぶ。

「なにこれ、何でアルコールなんて出すのよ!」


「え、あの、こちらのお客様が……」

 伝票を見ると確かにカクテルの名前。
 特に気にしていなかったけれど、どうやら美琴は知らずにカクテルを頼んでしまった様子。

「それにしたって、見た目で未成年かどうかくらいわかるでしょうに」

「申し訳ありません、こちらのお客様が飲まれるものだとは気付かずに……」

 ?

 何かに引っかかる麦野。

「んー。それはもしかして、あたしが飲むものだと思ったってことかにゃーん?」

「は、はい」

「あたしも未成年なんだけどねぇ?」

「なんですとっ?!」


 麦野さんは思いました。

 あー、このウェイター、命いらないのね。
 うふふふふふ、それならビームビームビーム、さらにビーム。

 その時、ボフッと謎の音。

 音の出た方向に視線を合わせ、笑いを堪える絹旗を見つける麦野。

「き〜ぬ〜は〜た〜? オ・シ・オ・キ・か・く・て・い・ね」

「!? 白井さん! テレポお願いします! 白井さん!!!」

 自業自得ですの

「ひぃいいい」

 そこへ、

「何やってンだ、おまえら」


「ああ? あー、第一位……か……」

 麦野絶句。
 隣で泣いていた美琴もギョッとした顔で一方通行を見ている。

「あー、お姉さまだ。はじめまして、ってミサカはミサカは頭を下げてみる」

「誰?」

「超誰ですか?」

 小さいお姉さまですの

「あァ、こいつは……」

「……どういうこと?」

 ゆらり、と目の据わった美琴が立ち上がる。

「この子……」

 美琴の問いに頷く一方通行。


「そォいうこった」

「……コン」

「はァ?」

「ロリコン」

「はい?」

「変態! あんた、小学校時代の私なんか連れてどうする気よ! この変態!!」

「待て、待て待て待て!! なンか誤解してるぞっ」

 頷く麦野。

「なるほど、浮いた話を聞かないと思ったらロリコンだったのかい。そりゃ納得だ」

「こら待て、おい、なに勝手に決めてやがるンですかァ?」

 美琴が黒子と絹旗に駆け寄った。


「黒子、絹旗さん、逃げて! 早く逃げなさい!!」

「おォい!? どういう意味!?」

「なんだ、第一位はロリコンだったんだ。そりゃあ、ミサカの魅力に靡かないはずだよねぇ」

 最初の一人、他の妹達に比べるといやに大人びた一人が姿を見せる。

「また増えた?」

「ハロー、お姉たまーん。ミサカは番外個体だよ、よろしくね。こっちのちみっこいのは打ち止め」

「ちみっこいって言わないでって、ミサカはミサカは抗議してみる」

「だから俺はロリコンなンかじゃねェっての」

「で、結局なんなのよ」

 黒子と絹旗を背後に庇って一方通行を睨みつけている酔っぱらールガンを宥めつつ、麦野は一瞬真面目な顔になる。

「天井、またなんかやった?」

「ま、天井絡みにゃ間違いねェが」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「この子は打ち止め。この子は番外個体だ」

「はじめまして一方通行、とミサカはミサカはご挨拶」

「やっほー、第一位。初めましてだね。ギャハハハ、話には聞いてたけれど、ホンットに白いんだねぇ」

 御坂美琴のクローンが二人。それも、一人はあからさまに若く、もう一人は大人びている。

「これはどういう事なんですかねェ? 天井くゥン?」

 クローンは作らないという約束。いや、作れなくなるように研究所は全て叩きつぶしたはず。
 仮に研究所の一つを隠蔽していたとしても、こうやってクローンを見せつければどうなるか。それがわからない相手ではないだろう。

 だから、一方通行は迷う。
 天井の真意を。

 地面に座り込んだままの天井は頭を下げた。いわゆる、土下座である。

「そのままでいい。頼む、せめて話を聞いてくれ」

「話だと?」

 次の瞬間、一方通行は愕然と目を見開く。


「パパ?」

「お父たま?」

 二人のクローンが口々にそう言いながら、天井に駆け寄るのだ。

「なン……だと……?」

「話を聞いてくれるか、一方通行?」

「……あァ。内容によっちゃあ、心理掌握呼び出すぜ?」

「そう思われても、仕方ないだろうな……」

 ……君たちにクローン設備を破壊されたとき、私は諦めたわけではなかった。
 ……あの時、私の手元には二人のクローンを作り出す術が残されていたんだ。
 ……そして当時の私は、ひょんな事からこう思っていた。

 ……小学生は最高だぜ!

「よし、血液逆流と全身粉砕骨折とどっちがいい?」


「待て落ち着け、話は最後まで聞いてくれ」

 ……私は「打ち止め」を生み出した。
 ……だが……だが、この子は私を「パパ」と呼んでくれたのだ。
 ……私はその瞬間悟った。己の罪深さを。
 ……これほど無垢な存在に私は何をしようとしていたのか……
 ……ああ……

 ……やっぱり小学生は最高だ。

「よし、全身皮剥に決定な」

「待て落ち着け、だから話は最後まで聞いてくれと」

 ……全てを失った私はクローン作成費用をひねり出すために働いていた。
 ……独りぼっちの打ち止めは、とても寂しがっていた。
 ……そして、クローン作成用の資材は一人分、いや、打ち止めに使わなかった分を入れるとやや多めに残っていた。
 ……そこで私は、予定外のクローンを産んだ。
 ……「番外個体」だ。
 ……しかし彼女も私を「お父さま」と……

「訂正するね。お父たまだよ」


 ……私は二人の娘を得た。
 ……だが私にその資格はあるのか。
 ……娘二人に父と呼ばれる資格はあるのか。

「パパはパパだよ?」

「お父たまはお父たまでしょ?」

「……一方通行、私は今度こそ心を入れ替えた。この二人のために、真っ当に生きたいと思ったんだ」

「……」

「だから私は今から当局に自首する。きれいな身体となって、もう一度やり直したいんだ」

「それで、どうして俺が面倒をみることになるンですかねェ?」

「妹達を護るためだ」

「だから、どうして俺なンだ? レベル5は俺だけじゃねェ。そもそも妹達を助けたのも俺一人じゃねェだろォが」

「垣根帝督に任せる気か? 女子中学生目当てに常盤台に侵入しようとした男だぞ?」


「なンで知ってンだよ」

「そして、御坂美琴は寮住まいだ。二人を引き取ることは出来ない」

「一緒に住むのが前提なのか?」

「これ以上冥土帰しの所に厄介になるわけにも行かないだろう」

「まァ、そりゃそうか……」

「麦野沈利の所には絹旗最愛やフレンダ・セイヴェルン、滝壺理后がいる」

「根性野郎はどうなンだ?」

「……食蜂操祈との新婚空間に二人を引きずり込む気か?」

「すまン」

「というわけで、残るは君だ」

「待て」

「番外個体はレベル4だ。君のパートナーとしても充分にやっていけると思うぞ」

 天井の再びの土下座。

「他に頼める者がいないんだ! 頼む! 私のためではない、二人のためだと思って!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「……っつゥ訳だ」

「それで、本気で引き取る気?」

「そうなりかねねェな」

「まさか、手ぇ出すつもりじゃないわよね?」

「誰が出すかボケ」

「まあ、打ち止めに手出す程鬼畜じゃないし、あの番外個体とやらは別の意味で安全か。あんた貧乳派だしね」

「!?」

「ん? まさか、気付かれてないと思ってた?」

「いや、待て、待て。いや、なンで……」

「そりゃね。私や結標、滝壺とかまるまる無視して、美琴や黒子ばっかり相手にしてるしねぇ……」

「……」

「冷や汗は反射できないの?」

「うるせェ」

「年下好きかと思ってたけど、食蜂や絹旗も眼中にないものねぇ」

「すいませン、お願いですからもォ黙っていただけませンか?」

「将来性のあるインデックスより、あのライン保ちそうな心理定規のほうが好みよね?」

「いやほンと、まじで勘弁してください」




 そして、レベル5会議当日。

「おはよーう」

 おはようございますの

「ふぁあ」

「超眠いです」

 美琴、黒子、麦野、絹旗がまず会する。

「よぉ」

「皆さんごきげんよう」

 そして垣根と心理定規。

「やーん、ちょっと遅れちゃったぁ♪」

「第一位がまだだからビリじゃねえ、気にするな、みさきん」

「うん、ぐんにぃ☆」

 誰よ、あれは。
 うわ、超キモ!
 あんた挨拶しなさいよ。
 やだ、アレに近寄りたくない。
 みさきん、てなんだよ。ぐんにぃ、てなんだよ、もしかして、軍覇お兄ちゃんなのか?
 なにこれ、心理距離ゼロじゃないかしら、キモ。


 おはようございますの

 普通に挨拶してやがる……くっ、これが常盤台のマナーってやつか……
 白井さん超凄いです。
 さすが黒子……
 ああいうのに慣れてるのね、ジャッジメント。

 そこへ、

「こんにちわーっ! ってミサカはミサカは初めましての人の前でも元気いっぱい!」

 全員の視線が集まった。

「よ、よォ……」

 打ち止めの後ろから、全てを諦めて開き直った男の顔で現れる一方通行。

「ちょっとアンタ、なんで打ち止めなのよ……」

「番外個体のやろー……『めんどい、寝る』って……」

「うわ」

「尻に敷かれてるじゃねえか……第一位」

「はっ、羨ましいンですかァ? ていとくゥン?!」

「馬鹿言ってんじゃねえ! 尻に敷かれ……あ、いや、……羨ましい……のか?」

「ごめん帝督、私帰る」

「あ、待て! 心理定規! 今のはジョークだ! ジョークだから!!」

「ねえねえあなた、みんないつもこんな楽しそうなの? ってミサカはミサカは羨ましさを隠さず言ってみる」

「まァな」



 今日も学園都市は平和です。

 以上お粗末様でした

 投下中に気付いたけれど、ラストのやりとりがなんか最終回っぽいな……

 いや、最後の話は決めてるからこれじゃないけどさ


 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。



あれ?貧乳好きならなんで絹旗にフレンダ無視してんだ?

>>620

……なんだろう。
アイテムには貧乳属性はいないという謎の勘違いが……

ハロウィンスペシャル


タイトル「ハロウィンですの」

以上、お粗末様でした


 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。


 今回短いです

 一応前回の続き。

 タイトル「枕ですの」

 
 麦野が目覚めると、身体中に違和感。
 だけど不快なものじゃない。
 どちらかというと心地良い、だけど違和感。

 身体が動かない。
 機能に問題がある訳じゃない。誰かに抑えつけられているのがわかる。

(……おいおい、夜這いじゃないだろうね)

 時々ベッドに潜り込んでくるフレンダなら、とにかくこの場でぶっ飛ばす。それから罰として朝ご飯。
 しかし、この重さはフレンダではない。フレンダならばもっと軽い。

(!?)

 まさか、と思う。
 いや、まさかそんなはずは。
 アイツには滝壺という歴とした彼女がいる。色々あっても、肝心の所で滝壺を裏切るような男じゃない。
 そうでなければ、アイテムに近づいた無能力者などとっくに排除している。

 でも、しかし。
 しかしだ。
 アイツの視線を時々感じるのは事実。
 ちょっと短めのスカートの裾がはだけたときや、ボディラインをハッキリさせすぎたとき。
 
 違うと思う。アイツは……浜面はそんな奴じゃない。
 でも。
 でも。



 もし万が一だったら?
 第一、身体に掛かるこの重みは女のものではない。確実に男一人分の重さだ。それも、ヒョロいもやし……例えば第一位……なんかじゃない。
 がっしりとした頼りがいのある……いや、暴力沙汰に適正のある身体つきの男のモノだ。

 だったらどうする?
 アイツは滝壺を裏切らない。それは信じている。
 でも、自分は?
 自分は滝壺を裏切らない?

 いや、待て。
 何を考えているんだ。

 麦野は寝起きとはいえ取り留めなく暴走する自分の思考に赤面していた。
 なんで浜面が夜這いに来たと決めつけているのだ。
 これではまるで……これではまるで……

 来て欲しいみたいではないか。

 違う、と危うく叫びかけ、麦野は完全に目を覚ます。

「ん?」

 思わず声に出してしまう違和感。
 確かに、身体に掛かっている重みは女一人分とは思えない。しかし……
 重みが四等分されているような気がする。


 胸元。
 腹。
 下腹部。
 太股。

 視線を下に向けると、どこか見覚えのあるツインテール。

 ゆっくりと首を上げ、重みの正体に目を向ける。

(ああ……)

 そこでようやく麦野は思い出した。
 昨夜、ハロウィンに出遅れた円周が涙目で絹旗を訪れたのだ。
 木原が持たせたと思しき円周のお土産が大量にあったため、絹旗の友達を呼び出して、ついでにお泊まり会になったというわけだ。

 胸元で寝ているのは黒子。
 腹の上にいるのはフレメア。
 下腹部が絹旗で太股が円周。

 四人に枕にされている、というわけか。

 動けない。
 四人は実にいい笑顔で絶賛爆睡中。さすがに起こすのは躊躇う

 どうしようかと視線を彷徨わせていると……


「」

 扉を少しだけ開けて覗き込む視線と目があった。

(滝壺?)

「……」

 まさしく滝壺だった。
 滝壺は手元のスケッチブックになにやら書き込むと、麦野に見える位置にそれを翳す。

【大丈夫。そんなむぎのを私は応援している】

(……何を応援するのよ、何を)

【ロリコン】

(……は?)

【幼女四人を侍らせて就寝。これはまぎれもなくロリコン】

(幼女って、二人は中学生だろうが)

【応援してる】

(おい)

 と、ここで麦野はスケッチブックの隅に書かれている小さな文字に気付いた。

【はまづらじゃないなら、どうでもいいよ】

(本音!?)


 もぞり、と黒子が動く。

 ん……お姉さま……

(寝ぼけてるのね……)

 このまましばらくいてもいいかな、と麦野が考えていると、

 !?

 黒子がぱちりと目を覚ました。

 ……

 何か信じられないものを見た、という顔で自分が枕にしていたもの……麦野の胸を見ている。

 ……
 どなたですの?

 そこで麦野と目が合う。
 麦野の顔と胸、そして絹旗たちに視線を向けると、ようやく理解したのか頷く。

 おはようございますの

「ん、おはよう……あ、どうでもいいんだけどさ」

 はい、ですの

「あんた今、『この胸のサイズは御坂美琴じゃない?』って慌てて目覚ましたんじゃない?」

 ……

「別にいいけどさ」

 お、お姉さまの名誉は命に替えても守りますの

「うん。それ、答え言ってるからね」


 
 以上、お粗末様でした


 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。


 またも短い話
 
タイトル「頭ぷぅですの」


 以上、お粗末様でした


 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。


 ごめんなさい。
 冬の祭典の準備をしてました

 では、

 タイトル「ゲコ太ですの」

 
 以上、お粗末様でした。

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。


 以下、ちょっとオマケで一レス
 (見てないと思うけど)元ネタ作者様、失礼いたします

 うん。ちょっとやってみたかったんだ。


 中二美琴は可愛過ぎて困る


 えー、今回は、特別編というかなんというか、ちょいと今までとは違うテイストで……


 タイトルは「ミカンですの」

麦のんのぱちゅん!

もつなべは倒れた!

佐天さんは無事だよな・・・?
ミカンといっしょにインさんの胃袋に収まったりしてないよな・・・?

佐天さんはヘヴンマスターだから食べる方

 前回はですね、じつは「アタック・オブ・ザ・キラートマト」みたくしようと思ったけどどうしてああなった



>>704
もつなべぇええええっ!!!


>>705
大丈夫ですよ、学園都市にはゲコ太先生がいます


>>707
やめてやめて、そのサークルは
スキルアウトががががががが
この冬新刊で馬場ががががががが

わからない良い子は「ヘヴンマスター」で検索しちゃ駄目ですよ

そして八巻の馬場退治読み返して思いついたのが今回の話です


今回のタイトルは「大掃除ですの」

   
 はぁー

 ごしごし

 はぁー

 ごしごし

 太陽の光をキラリと反射するガラスに、黒子はご満悦の表情で腰に手を当てて頷いた。

 完璧ですの
 ピカピカですの

「白井さーん」

 足下から聞こえる声に、黒子は視線を落とす。

「そろそろ終わりそうですかー?」

 黒子は立ち上がると、下に向かって大きく手を振る。

 終わりましたの
 
「それでは、ポイントチャーリーへと移動いたしましょう!」

 了解ですの

 
 婚后光子率いる常盤台水磨部隊【ザ・ウォッシャー】は、速やかに次の建物へと移動する。
 それに従い、黒子も次の建物へとテレポート。

 黒子が次の建物の天辺にとりついたのを確認し、光子は湾内絹保に合図する。

「湾内さん、お願いいたします」

「了解ですわ」

 湾内が腕を上げると、周囲の女生徒が両手で抱えていたバケツから水柱が上がり、建物の天辺へと波のように襲いかかる。
 勿論、それは黒子を狙うものではない。
 黒子の足下、建物外壁を水柱は水流と化し、渦巻きながら流れていく。

「さすがは湾内さんですわ」

「あら、 泡浮さんこそ」

「泡浮さんの力が無ければ、こんなに重いバケツを持ってられませんもの」

 湾内絹保の「水流操作」で洗われる建物。その洗浄に使われる水は、 泡浮万彬の「流体反発」によって重さを軽減されているのだ。
 そして黒子は、湾内の水流操作では届かない細かい部分、天窓の隅などを掃除しているのだ。
 因みに黒子がやってる理由は、万が一足を滑らせて落下しても、空間移動を利用してあっさり着地できるからである。

 はぁー

 ごしごし

 はぁー

 ごしごし

 
 黒子は一生懸命に天窓を磨く。
 今日は年末恒例、常盤台大清掃日なのだ。
 普段の清掃では寮内、校舎内に限られているのだけれど、そこは能力者を多数抱える常盤台。
 能力を活用して年に一度は自分たちだけで校舎全体の清掃を行っているのだ。

 因みに、美琴は別の場所で電撃による通電殺菌中である。

「おりゃああああ!!」

「さすがは御坂さま、これだけの量が一度に殺菌できるなんて」

「常盤台の誇るレベル5ですわ。ああ、素敵」

「……」

「どうかなされました? 食蜂さん」

「あれだけ踏ん張って叫んでてもぉ、『素敵』って言われるのが常盤台の乙女力よねぇ。時々怖いゾ☆」

「御坂さんと食蜂さんは別格ですもの」

「神と精霊と乙女の名の下に悪しき使いは去るんだよっ!」

 叫びながら殺虫剤を撒いているのはインデックスだ。
 その横ではプチケンティウスが時々発見したゴミを燃やしている。

 
「……あの子の妙な元気力も、別格かしらぁ?」

「別の意味で、まさに別格ですわ」

「はぁ……。操祈、肉体労働には向いてないのにぃ」

 見るから怠そうな食蜂に、縦ロールの女生徒はとある忠告を思い出した。

 御坂美琴曰く、今の食蜂操祈を働かせる方法はこれだ、と。

「根性ですわ、食蜂さん」

「根性?」

「はい。根性力です」

「根性力だったら仕方ないわぁ」

 シャキンと立ち上がる食蜂。
 恋する乙女は無敵なのだ。

 そして黒子達は、おおかたの建物を終えていた。

 おー

 黒子はやり遂げた顔ですっくと立ち、周囲を睥睨している。
 高いところは気持ちいい。
 掃除を終えた所なのでさらに気持ちいい。
 誇らしげに胸を張り、黒子は景色を眺めていた。

 
「……らいさん!」

 おー

「白井さん!」

 おー
 お?

「白井さん」

 なんですの?

 下からなにやら慌てて叫んでいるのは婚后さん。

「見えてます!」

 ???

「見えてますのよ!!」

 ???

「し・た・ぎ」

 慌ててスカートを抑えしゃがみ込む黒子。
 確かに言われてみれば、下からは丸見えだ。しかも、堂々と仁王立ちまでしていたのだから。

 見られましたの……
 てれてれ

  
 それでも黒子は降りない。
 景色に見惚れているのだ。

 高いところに吹く風は気持ちがいい。季節を考えるとちょっと寒いけれど。
 実はちょっとどころじゃないけれど。
 いや、実際の所かなり寒いのだけれど。

 ぶるぶる

 黒子は建物から降りた。

 寒いですの

「ご苦労様ですわ」

 庭では、掃除後の炊き出しが始まっている。
 これもまた、常盤台恒例である。
 大鍋一杯のお汁粉が順に振る舞われていく。

 今年は何故か鍋が一個多くて、その鍋の前にはシスター姿の子が一人しかいないようだけど、黒子は気にしないことにした。

 あっつあつですの

 ふーふー

 ずるずる

 あつあつですの

「お餅も焼いてるわよ」

 いつの間にか、お姉さまも戻ってきている。

 
「お餅を、汁粉に入れるとぜんざいになるのよ」

 本当は地方によって色々あるのだけれど、学園都市ではお餅が入ってないものがお汁粉、お餅が入っているとぜんざい。
 とってもわかりやすい。

「お餅を貰いましょう」

 はいですの

 汚くないゴミ(廃材、古紙など)を燃やしているドラム缶の上の鉄板でたくさんお餅が焼かれている。
 当番となった何人かの生徒が忙しくお餅をひっくり返していた。
 ぷくりぷくりと膨れるお餅。
 間に合わずに破裂してしまうお餅もいくつかある。

「御坂さま、白井さん。お餅を幾つ入れましょうか?」

 二つ下さいまし

 担当生徒にお餅を二つもらい、とぽん、とお汁粉に入れる。
 お餅のお焦げがぱりぱりといいながら甘い汁に浸っていく。

「じゃあ私も二つ」

 お姉さまも二つ。

 はふ。あつっ、あつっ。
 
 お姉さまがぜんざいを熱そうにしているから

 ふーふー

 黒子はお姉さまのぜんざいにふーふー。

 ふーふー

「ありがとね、黒子」

 てれてれ
 

 
 そして黒子は自分のお餅を……
 
 あつっあつっ

 やっぱり熱い。

「ふーふー」

 お姉さまが冷ましてくれる。

 はふっ はふっ
 ずるっ

 熱々の甘々ですの

「美味しいね」

 はいですの

 ふーふー
 ずるずる
 はふはふ
 はふっはふっ

 お餅が無くなりましたの

 お代わりですの


 
「白井さん、今度は幾つですか?」

 四つですの

「白井さん、二つで充分ですよ」

 いえ、四つですの。二と二で四つですの

「二つで充分ですって」

 お汁粉もいただきますの

「……わかりましたよ」
  
 いただきますの

 四つの香ばしい匂いを放つお餅が、所狭しとお椀に浮いている。

「黒子、さすがに食べ過ぎじゃない?」

 今日は黒子は、沢山働きましたの

「お腹痛くならないようにね?」

 はい、ですの

 はふっはふっ 




 空になった椀を隅のバケツに放り込んでぜんざいはおしまい。
 婚后さん達も食べ終えて、椀を所定の場所に集めている。
 椀は発泡スチロール製だから、このままゴミとして棄ててしまうのだ。

「お腹一杯になったね」

 ぽっかぽかですの

「黒子、暑くなったからって上着脱いだら駄目よ、風邪ひくわよ」

 お腹ぷっくぷくですの

「お餅食べ過ぎよ。部屋に戻ろうか」

 はい、ですの




 その夜黒子は、お腹がお餅のように膨れて破裂する夢を見ました。

 


 以上、お粗末様でした。

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。

……一月になってから一回書いたつもりだったんだけど、ここじゃなかった罠

ココやVIPで他のもの書いてたら遅れました、ごめん。

それにしてもスレ立てて一年経ったのか……感無量だなぁ
初スレ立ては一ヶ月で完結だったのに。

今回はいつも以上に中身無しです

タイトル「にゃあにゃあですの」

 
 以上お粗末様でした

 次回は、レベルアッパーか、カブトムシの予定


レベルアッハーネタを書いたつもりなのに、
よくわからないモノが出来ましたよ

今回は佐天さんがメインです
佐天さんが凄い能力を持つというネタです

タイトル「佐天無双ですの」

 
  
 静まりかえったメインストリートに立つ二人の少女。

 そこには普段のような通行人はいなかった。
 
 為す術もなく立ちつくすのは白井黒子。
 その前に立ちはだかるは、佐天涙子。

「白井さん。私はもう、昨日までの私じゃないんですよ」

 佐天さん……

「周りを見てください。もう、わかっているんでしょう?」

 言われるまでもない。
 黒子にはわかっている。いや、現実が見えている。あっけないほどの、完膚無き敗北の姿が。

 倒れ臥す一方通行、垣根帝督、上条当麻、浜面仕上。
 佐天から距離を取って様子を窺っているのは御坂美琴、麦野沈利、絹旗最愛、結標淡希。

「レベル5の人たちすら、こうなんですよ?」

 レベル4に過ぎない白井黒子に勝ち目はあるのかと、言外に佐天涙子は問うている。

 そう。レベル5第一位第二位、そしてレベル5を下す可能性を持つ二人。
 それらを全て退けた佐天に、黒子は勝利、いや、抗することができるのか。

 
 だが……
 いや、それだからこそ、黒子は言うのだ。

 じゃっじめんと、ですの

 ジャッジメントは退かない。退いてはならない。
 例え敗れることがあろうとも、退くことは決してない。それが黒子の誓い。それが風紀委員の誇り。

「そうですか、白井さんは、あくまでも私の邪魔をするんですね」

 佐天さん……今からでも

「遅くない、なんて言わないでくださいね」

 笑った佐天の表情は驚くほどに透き通っていて。
 それはまるで、全てを信ずる母親に託しきった赤子のように無防備で。 

「もう、何もかも手遅れなんです」

 力のない歪んだ笑いは自嘲か、それとも諦念か。

「私が、それに手を染めてしまった瞬間から」

 それでも黒子は言う。

 違いますの

 
 きっぱりと、一歩も退かずに黒子は言う。

 それは、違いますの

「遅いんです!」

 吐き捨てるように、佐天は叫ぶ。

「もう、遅いんです!」

 それは悲鳴だった。
 己の所行を悔いることによる、しかし自らの責任を逃げずに受け止める痛みへの悲鳴だった。

 違いますの

 それでも、黒子は退かない。
 退いてしまえば、一人の友を失うと知っているから。
 たとえそれが、どのような茨の道であろうと。

「私が……私が初春を……」

 誰に向ける言葉でもなかった。強いて言うならば、それは自分自身に向けられた言葉なのだろう。
 自らを責め、抉る言葉。

 
 違いますの

「同じ言葉ばかり……!」

 馬鹿にしているのか、と声を荒げようとして、佐天は気付く。
 それは黒子の決意なのだ。
 言葉を変えないのは、それが確固たるモノだから。
 他の言葉では表せないと、黒子自身が誰よりもよくわかっているから。

 違いますの

 ならば自分は、こう答えよう。

「違いませんよ」
 
 自分は既に手遅れだと言うことを証明しよう。
 救いの手を振り払おう。
 自らが、救うに値しない存在だと証明しよう。
 だから、自分を切り捨てて欲しいと訴えよう。

「白井さん……」

 名を呟いて、佐天は手を挙げる。
 いつの間に、こんなことになってしまったのだろう……

 そう、それが始まったのは……

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「最近の初春は、鉄壁だね」

「いつまでも佐天さんの思うままにはいきませんよ」

「むう、生意気な」

 このところ連続してスカートめくりに失敗している佐天の不満顔に、初春は胸を張る。

「修行が足りませんね」

「むぅ……どうしてやろうか」

 よし、スカートをめくろう。

「だから駄目ですって」

「ぬう……」

 佐天は考える。
 鉄壁防御の初春に弱点はないのか。スカートをめくる隙はないのか。

 そして行き着いた先は……

 
(無能力者は弱い、能力があれば捲れるんじゃないだろうか)
(力が欲しい。無能力者の私にはない力が)
(初春のスカートを捲れる力が!)

 何故か佐天は能力者を目指すことになった。
 とは言っても、目指したからと言ってなれるわけではない。目指すだけでなれるのなら、今頃学園都市は超能力者だらけだ。
 現実とは厳しいのである。
 だがしかし、抜け道というのは何処にでもあるわけで、能力育成についても例外ではなかった。

 幻想御手〜レベルアッパー〜 である。

 都市伝説もどきの噂として佐天もその存在は知っていた。
 服用者のレベルを飛躍的にアップさせ、無能力者であれば能力者にしてしまうと言う技術。
 それがいかなるモノなのかまではわからない。薬か、あるいは何らかの外科的手術か。

 いや、わからなかったのはついさっきまで。
 今の佐天は知っている。レベルアッパーを知っている。否、持っている。

 それはただの偶然か、あるいは彼女の執念が招いた必然か。

 そして佐天は……佐天涙子は、禁断の世界に足を踏み入れる。
 己の内に力を見出すために。
 あり得ざる能力を生み出すために。

 
「ごめんね、初春」

 佐天の腕が上がる。
 それは抗えぬ力。
 いかなる防御すら瞬時に無効化し、スカートが、まくれ上がる。

「そんな……」

 茫然自失の初春。それもそうだろう。鉄壁と信じた守りが、砂上の楼閣のように容易く、あまりにも容易く崩されたのだから。
 
「そんな……どうして……」

 佐天は己の力を知った。
 これが、己の力。
 鉄壁の防御などこの力の前には存在しない。
 いついかなる場合も、どのような場所であろうともスカートをめくり上げる力。

 下着露出(パンツアッパー)

 ちなみに、レベルアッパーと間違えて入手したことは内緒である。
 開発者は木山先生。そして共同研究者、布束�ギョロ目可愛いよギョロ目�砥信。
 いつもいつも痴女扱いされることにキレた木山先生が、「だったらみんな露出すりゃいいんじゃね?」との想いで開発した優れものである。
 あと、「ゴスロリが変な格好なんて言うんじゃねえ。そやったらみんな変な格好にしたらぁ」 との想いも込められている。

 
「この力で私は! 学園都市中のスカートを捲る!!」

 まくれ上がるスカート。次々と上がる少女の悲鳴。

「ちょ、なに、え、ぇえええ」
「きゃああああ、ってミサカはミサカは悲鳴を上げてみる」
「絶対等速さん! カメラ、カメラッスよ!!!」
「スカートがおかしいかも」
「捲れた。無様。」
「でかした、わっか君!」
「ふむ……突然足下から涼しくなったな」
「スカート捲れたまま平然と歩く美女だと……?」
「殿方がこちらを見ていますわ!」
「不埒な姦賊には相応の罰を!」
「ぶべっ!」

 誰かが婚后光子に吹き飛ばされる。

「はっはっー!! 見つからないように死角にテレポート! テレポート! テレポートぉっ」
「打ち止めのスカートを捲った奴がいるって聞いたンですけどォ?」
「……すんませんチョーシ乗ってましたごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 街の一角は混乱の極致である。
 そして駆けつける風紀委員。

 
 じゃっじめんとですの!

「駄目です! 白井さん! それ以上近づくと佐天さんの射程距離に!」

 初春の忠告より一瞬早く、佐天の手が動く。
 しかし、能力発動の瞬間も佐天の感覚は空を切る。それは、スカートを捲り上げるのではなく、空を掴む感触。

「……そっか。白井さんの能力は瞬間移動でしたね」

 黒子には通じませんの、黒子は逃げ切りますの

 距離を取った黒子の手が上がろうとしたとき、

「どけっ! 白井!」

「女の敵に超オシオキです!」

 麦野と絹旗が黒子の左右へと展開する。

「てめえっ!」

「行きますッ!」

 原子崩しの予兆の輝き、絹旗の突進。
 が、しかし!

 
「私の技は! 誰にもっ! 止めさせないっ!!」

 巻き上げられるように捲れる麦野のスカート。そして、捲れすぎて臍まで見えてしまう絹旗!

「なっ!」

「ぎゃうっ!?」

 思わずスカートを抑えた麦野の原子崩しが地面を貫き、臍まで見えた絹旗は真っ赤になって座り込む。
 
「原子崩しを撃つために私に腕を向けた瞬間、麦野さんのスカートは捲れ上がりますよ?」

「な……」

「そして、これがっ! 私の真力!!」

 そう。佐天の真の力はスカートめくりではない。それは、あくまでも真の能力への前奏曲(プレリュード)に過ぎない。
 彼女の能力の名は、下着露出(パンツアッパー)、その名を知れば容易に概要は想像できるだろう。
 いや、それどころではない。
 露出するのは下着ではない。
 繰り返して告げよう。露出するのは、下着では、ない!

「簡単なことですよ。作用と反作用。スカートを上へと捲る作用に対して生じる反作用、それは下への力!」

 
「……そんな、まさか……」

「下へと向かうのは! 下着!」

 スカートは捲り上がり、下着はずり落ちる。それが佐天涙子の真の能力であった!

「て、てめぇえええ!!!」

「にゃああああああああ!!!!」

 半泣き状態でスカートを抑えていた二人。その姿が突如として消えた。

「大丈夫?」

 結標淡希である。

「借りができたね」

「超感謝です」

「気にしないで、それより今はあの人、佐天涙子の暴走を止めること。このままだと、学園都市からスカート着用者は消えかねないわ」

 もともとスカートを穿くことの少ない者はいいだろう。
 例えば滝壺理后、あるいは黄泉川愛穂。
 だが、スカートを穿いている者はどうなる。そして、スカートから覗く生足をこよなく愛する紳士達は!


 
「許せねえ」

「ああ、てめえみてえなチンピラと同じ意見ってのは気にくわねえがな」

 浜面仕上、垣根帝督の二人が立ち上がった。

「女の子相手に乱暴はしたくないが、止めるぞ」

「はっ、そんな常識が俺に通用するとでも?」

 佐天涙子は慌てない。
 なぜなら、自分の力に絶対の自信を持っているから。

「スキルアウトと第二位さん?」

 だから佐天はただ、右腕を上げる。

 浜面と垣根は走る。
 佐天の能力はスカート特化、下着特化である。
 ズボンに対しては無力。ズボンを穿いている男にとっては恐れるべきものではない。
 もしかしたら、逆に脱がされるとかも知れないが、そこを恐れていては始まらない。
 第一、今周囲にいるのは麦野、絹旗、白井、結標、婚后達である。
 この場で例えズボンと下着を脱がされたとしても! それは一部の者にとってはご褒美に過ぎないのだから!!

 しかし、結論から言えば二人はもっと慎重に対処するべきだった。

 その能力はスカートに上向き、下着に下向きの力を与えるもの。そして、その力はズボンには無効。
 上向きの力は、ズボンをスルーして下着に掛かるのだ。
 つまり、男達の下着は上に向かって引っ張られる。

 
 それも、急激に、凄まじい力で。
 佐天の真の能力は必要ない。第一波の力だけで、男達は倒れ臥す。

 具体的には、タマを締め付けられて。

 倒れ、ビクンビクンと痙攣している浜面と垣根。

「浜面ーーーっ!!」

「垣根ーーーーーっ!!」

 ビクンビクン

「……くっ……こうなったら俺が……」

 上条当麻。幻想殺しを持つ男。
 確かに、佐天の力が如何に強大とは言え、上条の幻想殺しをクリアできるものではない。
 上条はただ、佐天の能力から股間をカバーすればいいのだ。

 具体的には、股間を押さえながら走ることになる。

 股間を押さえながら、女子中学生に向かって走る男。

 ただの変質者である。

 
「ちくしょおーーーーーっ!!!」

 それでも上条は走る。変質者にしか見えない姿で走る。
 誰かに動画を撮られていたら確実に捕まる姿で走る。
 そばで見ている美琴もちょっと引いているけれど、それでも走る。
「うわぁ」と麦野が呟いているけれど、それでも走る。
「超ないです……」と絹旗が呟いても、上条は走る。

 股間を押さえているため女走りになっているのが余計に変質者ムードを醸し出していても、それでも上条は走る!

「うおおおおおおおお!!!!」

 そして佐天に接近し、

「その幻想を!」

 幻想殺しの宿る腕を、つい癖で振り上げる。

「ぶち……」

 そして股間は無防備に。

「あ」

 美琴が呟いた次の瞬間、上条はもんどり打って倒れた。

 ビクンッビクンッ

 上条痙攣。

 
「何やってンですかァ? アホですかァ?」

 心底面倒くさそうな口調で一方通行が、さっきまで死角移動を始末していた一方通行がやってきた。

「どうやらあの力、ベクトル操作の下位互換と見た。俺なら確実にキャンセルできる」

「……私も行くわ」

 美琴が一方通行の前に立った。

「あァ?」

「あんた、手加減下手でしょ。佐天さんに大きな怪我させたくないの」

「スカート捲れてもいいのかぁ?」

 どこかでアステカ訛りの「よっしゃ」という声が聞こえたような気がした。

「短パン穿いてるし」

 なら最初から美琴が行けと言う意見もあるが、短パンまでずらされる可能性もあるのだ。
 いたいけな女子中学生が辱めを受けていい世界などない。

「やべェと思ったらすぐ逃げろよ」

「ええ、わかってる」

 二人は走った。

 
 ここで始めて、佐天の表情に焦りが生まれる。それもそのはず、一方通行には能力が通じないのだ。
 佐天の生み出す作用反作用をベクトル操作で打ち消しているのだ。

「くっ」

 佐天は考える。一方通行の演算を乱す方法を。
 そして、一つの手が。

「これでどうです!!」

 一方通行の視界に入った、全ての女性のスカートが捲れ、下着が下ろされそうになった。

「はっ、興味ねェ」

「ホモ!?」

「違ェ!!」

 ならば、と佐天は美琴に力を集中する。
 しかし、短パンは下着とは違い、腰の所での粘りが違う。簡単には下ろせない。
 逆にスカートは簡単に捲れ、美琴は抵抗すらしていないが、短パンが見えたところで恥ずかしいわけがないのだ。

「それならっ!」

 佐天は閃いた。短パンが脱がせないのならば、逆に吊ってしまえ、持ち上げてしまえ。
 そう、釣り上げて食い込ませ、超ハイレグにしてしまえ、と!

「え、ええええ?!」

 さすがに美琴の足が止まった。

 
「ちょ、ちょっと」

 慌てる美琴。

「な、なに、あ、駄目、ちょっと、これ」

 慌てる美琴。
 食い込む短パン!
 ガン見する一方通行!!

「おい」

 麦野のツッコミと共に、崩れ落ちる一方通行。

 ビクンッビクンッ
 一方痙攣。

 そして、その場から動けなくなっている美琴を回収する結標。
 着替えタイムを要求してその場を去る美琴。

「……スカートじゃない女も近づけないってことか……」

 麦野の呟きに、絹旗も頷く。

「男連中も超全滅です。というか、第一位第二位が駄目なら、誰が行くんですか?」

 行きますの

「白井?」

「超危険です。スカート捲れますよ? パンツ降りますよ?」

 じゃっじめんと、ですの

 
「白井……」

「それが……超風紀委員、ですか?」

 じゃっじめんと、ですの

 黒子は一歩、そして一歩と佐天へと近づく。

「白井さん。私はもう、昨日までの私じゃないんですよ」

 佐天の言葉に、黒子は頷いた。

「ちょっと待ったぁ!」

 !?

 黒子を押しのけるようにして立つのは、レベル5第七位、削板軍覇。

「嬢ちゃんの仕事の邪魔をするつもりはねえ。が、第一位と第二位、そして上条の無念。この俺が晴らす」

 第七位様…… 

「あと、名前忘れたけど、何かもう一人」

 浜面ですの

「無茶だ」

 止めに入ろうとした麦野を制止する一人。

 
「安心力たっぷりよぉ。レベル5第七位は無敵力なんだから」

「食蜂……」

「超心配です。いくらデタラメな第七位でも、男の弱点は……」

「だーいじょーぶ。心配要らないゾ☆」

 ほら、と食蜂が指さす方向、佐天の顔色に焦りが見える。

「……どういうことですか?」

 手応えはある。下着に力を注ぐ感覚はある。しかし、削板は顔色一つ変えていないのだ。

「どうした? 姉ちゃんの力、俺には通じないか?」

「なんで……」

「どういうことだ?」

 尋ねる麦野に食蜂は笑う。

「まさか、超ノーパン……」

 それならば、佐天は力の加減で気付いているだろう。
 削板は確実に下着をつけている。そして、力を注がれている。
 しかし、圧迫されていない。締め付けられていないのだ。

 
 何かがおかしい。
 下着はつけているのに、つけていない感覚。
 つけていないのにつけている感覚。
 
 下着にして下着に非ず。
 下着に非ずして下着。
 
 その矛盾の前に、佐天の演算は空転する。

「……簡単よ、軍にいは、ふんどしなのよ!」

「!!」

 佐天はふんどしを知らない。知らないものは演算できない。
 第一位一方通行すら、知らない物質〜未元物質〜を初見で演算することは出来ないのだ。
 佐天にとって未知の物体〜ふんどし〜は解析不可能だ。

「よし、食蜂、一つ聞いていいか?」

「何かしらぁ? 役に立たない第四位さぁん?」

「なんで、削板の下着をお前が知ってるんだ?」

「」

「あ、それ、私も超気になります。食蜂さん?」

「」

 
「あー、私も聞きたい。なんで?」

「え、どうして御坂さん、ここで復帰してくるの!?」

「私も気になるかも」
「まあ、殿方の下着に食蜂様がお詳しいとは……」
「ねえねえ何の話? ってミサカはミサカは興味津々」
「私も混ぜてくださいよぉ」
「え、食蜂さんが?」
「結局付き合ってるって訳よ」
「うそっ、第七位と?」
「五位と七位のカップルかぁ……」
「どうかなされたのですか?」
「大丈夫。そんなしょくほうを私は応援している」
「あ、 泡浮さん、湾内さん、こちらですわ」

 きゃいきゃいと集まる女性陣。

 いつの間にか話題は食蜂と削板の関係に。

「なになに、なにかあったの? 初春」

「あ、佐天さん、聞いてくださいよ。なんと、第五位と第七位のお泊まり愛ですよ」

「ええええ、マジ?」

「そうですよ、マジですよ」

 いつの間にか噂話に参入している佐天。
 スルーする初春。

 
 置いてけぼりの削板。

「えっと……もおいいのか? 姉ちゃん?」

 そんな削板の呟きも聞こえないように、女達は食蜂を喫茶店へと連行する。

「尋問開始ですね」

「たっぷり聞き出すわよ」

「あ、黒子、一番大きいVIPルーム予約してきてくれる?」

 承知しましたの
 しゅん、と消える黒子。

「おーい」

 かしましくも去っていく女達。

「……なんだったんだ?」

 ま、いいか。
 と削板もその場を去る。


 ビクンッビクンッビクンッビクンッ

 後には、痙攣を続ける男四人が残されていたという。


                                    終われ


 ……どうしてこうなった。

 以上、お粗末様でした。

 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。

レベルアッハー ………超ワロタ  乙

>>767
 自分も気付いた瞬間笑って、二秒後に頭抱えたorz


 今回ちょっと毛色が違います
 メインは垣根帝督です

 未元物質と心理定規について独自解釈有
 あと、キャラクターの過去とか捏造まみれ

 ……え、何を今更、ですか?



 タイトル「かぶとむしですの」

以上、お粗末様でした


 おー、ようやく800か


 感想などあれば、レス下さると嬉しいです。

 では、また。


さて、今回はサブタイトル無しで行こうと思います。

理由は最後に。

 
 後でお買い物に行きますの
 明日は、調理実習がありますの

 携帯電話から相手に話しかけているのは白井黒子。

 それでは、お買い物前に伺いますの
 今からですの

 電話相手に現在位置を告げた黒子は、ふと前方に目をやった。

 !

 黒子のはるか前方、歩道橋から荷物を抱えて降りてくるのは上条当麻。
 その手には同じくスーパーマーケットの買い物袋。スーパー玉○学園都市店の袋である。 
 因みに、黒子が行く予定なのは成○石井学園都市店。
 これが貧富の差。レベル0とレベル4の差。上条当麻と白井黒子の生活レベルの差なのだ。



 
 バーゲンセールに勝利でもしたのか、上条の足取りは軽い。
 両手に抱えた大きな荷物を軽々と持っている。
 と、その瞬間、上条は躓いた。
 荷物の一番上に置かれた缶詰が宙に浮く。
 缶詰はシーチキン。海鶏ことシーチキン。マグロorカツオの正体を隠匿しつつもチキンを名乗る謎の缶詰である。
 宙に浮いた缶詰を掴もうとした上条の手元が狂い、缶詰をさらに弾き飛ばしたような結果となってしまう。
 そして、シーチキンは飛んだ。
 クルクルと回転しながら飛んでいくシーチキン。銀色の輝きが目に眩しい。
 後を追って宙に舞う上条。買い物袋を左手一本で持ち直し、右手を伸ばして全力ジャンプで横っ飛びである。
 伸ばした腕がシーチキンをキャッチ。

「取った!」

 叫んだはいいけれど、上条の身体は空中に位置している。そして上条は無能力者。
 予想される落下点には、いつの間に現れたのか、女性が一人。
 ロングヘアに隙のないビジネススーツとハイヒール。いかにも仕事の出来る女性のスタイルだ。

……拙い!

 このまま女性にぶつかるのは危ない。無傷で済むとは思えない。自分は自業自得でいいとしても、女性を傷つけるわけにはいかない。
 それが上条クオリティ。
 不幸は自分のもの。他人に及ばすものではない!
 その上条の視界に入る街路樹の枝。枝を掴めば女性にぶつかることは避けられそうだ。しかし、両腕は買い物袋とシーチキンで塞がれている。
 

 
 上条の決断は早かった。

 再び宙に飛ぶシーチキン。さらばシーチキン。
 シーチキンを手放し、街路樹の枝を掴んだ……ら、買い物袋が限界突破して破けた。

「ふ、不幸だーーーーーっ!!!」

 どんな力学の成果か、車道側へと飛ばされた買い物袋はどさりと転がり、そしてあっけなく車に轢かれた。
 だがしかし。
 だがしかし!
 女性への激突は避けられた。女性一人を救うことは出来たのだ!
 上条は自分に言い聞かせると、女性の無事を確認しようと目を向ける。

 無事ですの

 声は上条の背後から。
 そこには、女性をテレポで避難させた黒子の姿。

「あれ?」

 上条は悟った。
 シーチキンと買い物袋の犠牲は全くの無駄であったと。
 上条が何もしなくても、黒子のテレポで逃げ切れたのだと。

 
「ふ……」

 不幸ですの

 黒子の言葉と同時に枝が折れて上条は落下する。

「おうっ」

 強く打った腰をさすりながら立ち上がり、未練がましく路上に散った食料品を眺める。

「ああ……一週間分の買いだめが……」

 ご愁傷様ですの

 実際、上条は不幸と言うよりは不運だ。
 少なくとも、今の学園都市では不幸ではない。
 上条の不運体質は、その幻想殺しと共に知る人ぞ知るレアスキルとして認識されているのだ。
 カテゴリーとしては無能力者だが、レベル5一同には半ば仲間として認められているのだから。

「また愉快なことやってんのか」

 だからこそ、こうやって気軽に声もかけられる。
 声をかけたのは垣根帝督。

「相変わらず、貧乏くせえな」

「ひでぇな、おい」

 
 知り合いの声に顔を向けた上条の動きが止まる。

「どうした? 変な顔して」

 変な顔と言われても。
 これは仕方ないだろ、と上条は思う。

「なに、それ」

「あ?」

 垣根は足元を見る。
 足下は白い。白いは甲殻。甲殻はカブトムシの表皮。

「なんでカブトムシに乗ってるんでせう?」

「ああ、上条は初めてだったか」

 カブトムシから降りると、胸を張ってカブトムシに手を伸ばす。

「紹介しよう、親父だ」

「」

 
「驚く気持ちはわかるが」

 お袋だともっとビックリするぞ、とは垣根も言わない。

「白井は知ってるんだよな」

 お久しぶりですの

 頭を下げる黒子、その頭上から、

「誰かと思えば、幻想殺しと未元物質か」

 黒子の脇の女性の言葉に、三人がギョッとした視線を向ける。
 一歩離れて身構える黒子。

 どなたですの?

「空間移動。私の声に聞き覚えは?」

「……てめぇ」

 垣根が未元物質展開の準備を整え、上条が拳を握った。

 
 あ

 黒子が突然頷いた。
 女性の声に気付いたのだ。
 機器を介していたので少し違って聞こえていたけれど、これは紛れもなく、ついさっきまで携帯電話で話していた相手ではないだろうか。

「気付いたかね、空間移動」

 アレイスター様ですの?

「うむ」

「はいぃぃっ!?」

 叫ぶ上条。
 アレイスターって。
 学園都市統括理事長のアレイスター?
 思わず垣根を見る上条。

「……アレイスターの名前を詐称するぶっ飛び馬鹿がいるとも思えねえが……」

 いや、それ以前に。
 

 
「……なんでOLの格好なんだよ!」

「性別など、些少な事象に過ぎないと言うことだ」

「趣味か? 趣味なのか?」

「……」

「シカトしやがった、むかつくな、こいつ」

 趣味ですの?

「うむ」

「白井には返事するのか」

「必要以上に男と語る舌などない」

「最低だ、こいつ」

 似合っているのが余計に腹立たしい。

 
「では、行こうか、空間移動」

 はい、ですの

「え?」

「白井? アレイスター、てめえ、何を」

 アレイスターが黒子になにやら耳打ちすると、二人の姿は消える。
 黒子のテレポートだが……

「……野郎、白井の力底上げしやがったな?」

 普段の黒子の限界距離ならば、垣根の未元物質で追えない距離ではないのだ。
 携帯電話を取り出す上条。

「垣根、御坂以外のレベル5に連絡頼む」

「ああ」

 
 
 
 
 




 
 
 
 
 
 その夜、普通に寮へと帰ってくる黒子。

 門限には十分間に合う時間なので、咎められる筋合いではない。

 ただいま帰りましたの

「黒子?」

「黒子ちゃん?」

「心配したかも」

 出迎えたのは美琴、食蜂、インデックスの三人だ。
 三人のただならぬ様子にキョトンとしている黒子。

 逆に三人は、普段と全く変わりない黒子の様子に気勢を削がれている。

 考えてみれば、別に黒子は連れ去られたわけでもない。

「いや、女装趣味の若作りなオッサンについていったって、十分アレだろ」

 その翌日、美琴をはじめとする主だった者の集まる席で、垣根は真顔でそう言った。
 頷く上条。
 そんなものかと首を傾げる美琴と食蜂。

 
「女装力とロリコン力の統括理事長さんねぇ……」

「ロリコン……」

「おィ、今俺を見ただろォ!?」

「話は変わるが打ち止め元気か?」

「よォし、戦争と行こォか、垣根くゥン」

 いつものような一方通行と垣根のじゃれ合いが始まったところで、麦野が美琴に尋ねる。

「白井に聞いてみれば? 美琴が聞けば素直に答えるでしょう、あの子」

「それが……」

「美琴?」

「内緒だって」

「え?」


 
「統括理事長にあったことは認めたけれど、何をしていたのか聞いたら、『お姉さまには内緒ですの』だって……」

 美琴は既に涙目である。

「あの子、私に内緒するようになっちゃた……どうしよう……麦野さん……」 

「……えーと……」

「黒子が……黒子が悪い子になっちゃった……」

 ついに泣き出す美琴。助けを求めるように辺りを見回す麦野。

「ショックよね。御坂さん」

 垣根についてきた心理定規が言うが、麦野にはピンと来ない話だった。

「だけど、白井だって隠し事の一つや二つ……」

「麦野さん、想像してみなさい」

「なにを?」


 
「……食蜂さん、お願い」

 心理定規に並ぶ食蜂。

「麦野さん、ちょっと想像力足りないかしらぁ? えいっ」

 構えたリモコンの先から迸る心理掌握の力。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ちょっとアンタ達、何やってんのよ」

「麦野には秘密って訳よ」

「むぎのには内緒」

「だいたい内緒、にゃあ」

「フレンダ? 滝壺? フレメア? アンタ達ねぇ……。あ、絹旗、アンタは……」

「麦野には超内緒です」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「絹旗が!! 絹旗が悪い子にぃ……」

「あ、麦野さん泣いちゃった……」

 
「何やってンだ……お前ら……」

「えいっ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あなたには内緒だって、ミサカはミサカはプライバシー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「打ち止めァああああっ!!!」

 レベル5の三人が大泣きしているという地獄絵図が爆誕した。

「これが学園都市の誇る超能力者かい……」

「ステイルの言うとおりです。もう少し自分というものをしっかりと……」

「えいっ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ステイルとかおりには内緒なんだよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「インデックスううう!!」

「う〜ううう、あんまりだ……HEEEEYYYY! あんまりだアアアア!」


 
 ルーンの天才と聖人も泣いた。聖人の泣き方は何かおかしい。
 阿鼻叫喚である。

 どうしよう、楽しくなってきちゃった。と食蜂は心の底から思う。

「えいっ」

 犠牲者がそこから二人増えたところで、さすがに削板が止めたという。
 そして泣き終わって、泣き腫らした顔をどうにか戻すまで一時間。
 翌日の作戦会議で一時間。
 結局は、三時間弱にわたる会議だった。

 そして、翌日。
 窓のないビルでは……

「いいのか? アレイスター」

「何のことかな?」

 カプセルの中に浮かんだアレイスターと話しているのは上条のクラスメート土御門元春である。
 いや、今の土御門は上条のクラスメートではない。
 アレイスター直轄の「グループ」のリーダーである。

 
「白井黒子のことだ。嗅ぎ回っているようだが?」

「構わん。あとしばらくの間の話だ」

「嗅ぎつけるより先にお役御免、というわけか」

「そういうことだ。白井黒子以外はどうだ?」

「布束砥信、雲川芹亜、木原那由他、枝先絆理、妹達、 姫神秋沙、ショチトル、トチトリ。そして、土御門舞夏」

 指を折りつつ名をあげる。

「今のところは皆、平穏無事だな」
 
「プラン通りだよ」

「なら、俺は現場に行かせて……」

 二人の間に突然現れる別の一人。
 結標淡希であった。

「どうした? 時間にはまだ早いが」

 窓も入口もないビルへの案内人として最近雇われるようになった結標である。ここへ土御門を運んだのも結標だ。

「それどころじゃないわ。嗅ぎつけられたみたいよ、あんたたちのやってること」

 
「なに?」

 アレイスターが手を動かすと、何もなかった壁面にモニターが現れる。そこに映されているのは外の様子。
 そこには、レベル5の面々と魔術師、聖人が集まっていた。

「なにこれ」

「ふむ。音声を拾ってみるか」

 アレイスターが再びなにやら操作すると、今度はスピーカーが現れる。

『ここに黒子が入ったの?』

『死角移動にストーカーさせたンだ、間違いねェよ』

『許すまじ理事長』

『黒子誘拐! 理事長はロリコンだった』

『どうやって中に入るべきか……』

「凄いことになってるにゃー」

「これ、デマよね?」

「君たちには私がロリコンに見えるのかね」

「……」

 
「よくわかった」

 因みに外では……

「まあ、とにかく、なんとかしてビルに入って」

 と絶句した麦野の視線を追う一同。
 そして同じく絶句する。

 いつの間にかビル周辺に等間隔で並んでいる、重機を人型に再構成したような機械たち。
 そのうち一台が集団に向き直る。

「なにあれ」

 食蜂がようやく呟いた瞬間。

 きゅいん
 音と高密度の衝撃が同時に走る。

「あァン!?」

 一方通行の手前で反射される砲撃。

 
「今のって……」

 美琴の呟きに、一方通行は頷いて続ける。

「おィおィ、超電磁砲ですかァ?」

 動き出す別の一台から放たれる一条の輝き。立ちはだかる垣根。
 展開される未元物質が、原子崩しの光条をせき止めていた。

「洒落んなってねえな、こいつは……」

 麦野がゆらりと動き、構える。

「猿まねかよっ!」

 真の原子崩しがまた別の一台を貫いたかのように見える。だが、それも一瞬の幻覚。
 機体表面で弾かれる原子崩しは、宙へと虚しく駆け上っていく。

「今の……」

「ベクトル反射ねぇ……」


「まさかこいつら」

 AI搭載駆動鎧�MODEL LEVEL5�

「なにあれ」

 ビル内部では、モニターを見ながら三人が会話を続けている。

「護衛用に作ってみたんだがね。どうやら暴走しているようだ」

「止めなくていいのか?」

「必要があるかね? 本物相手に」

「……高くつくと思うぞ」

「子供達の成長とは、心躍る情景じゃないか」

「言ってろ。俺は先に現場に行くぜよ」

「土御門」

「ん?」

「私はオムライスを頼む」

「んー」

 
 ——十分後


「Finally, お帰りなさいませ、ご主人様」

「ただいま満席。こちらにお名前を書いてほしい。空席が出来たら。呼ぶから」

 ビルに突入した一同は、地下にあるメイド喫茶の前で呆然と突っ立っていた。
 店内には、必死で笑いを堪えている土御門が見えている。

 先にメニューをご覧下さいまし

「……黒子?」

 違いますの

「白井?」

 違いますの
 謎のメイド喫茶店員ですの

「いや、どうみても黒子ちゃん」

 統括理事長直営会員制メイド喫茶の一店員ですの

「何やってンだ、あいつ」

 お仕事中ですの
 失礼しますの


 
「あ、御坂も来たのかー」

「舞夏? ここって」

「ん? 見ての通り、会員制メイド喫茶だぞ」

「会員制……」

「別にいかがわしい店じゃないからなー。普通のメイド喫茶だぞ。店員は各界選りすぐりだけどな」

「黒子が……」

「あー、あの子は、短期バイトしたお金でプレゼントを買いたいって言ってたぞ。奨学金じゃなくて、自分の働いたお金で買いたいって」

 舞夏の目が悪戯っぽく輝いた。

「そういえば、御坂の誕生日も近いなー」

 ぽん、と真っ赤になる美琴。

「あー、あんたはここにいなかった」

 麦野が美琴の肩に手を置いた。

「今日ここに来たのは私ら七人だけ。美琴はここには来なかった。それでどう?」

 
 
 三日後。

 美琴は黒子からの誕生日プレゼントを受け取りました。

 その後、黒子の誕生日の一ヶ月前、メイド喫茶は新人を短期で一人雇ったそうです。 

 

以上お粗末様でした


 今回のタイトルは
  「最終回ですの」

 というわけで一年以上もの間、お付き合いいただきましたが、これにて

 『黒子「じゃっじめんと、ですの」』

 終了とさせていただきます。

 また何か書くかも知れませんが、その時はよろしくお願いします。

因みに、禁書関係では

「インデックスの思い出」  

「ミサカとミカサ」

「ミサカの日々」

「ミサカの卵」 (以上、禁書総合スレ)

一方「俺にその資格があるとでも?」

なども書いてました。良かったら読んでやってください。

それでは、ありがとうございました。


html依頼は、3月最終日にします

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