黒子「体の芯まで温まりますの~」 (731)
上条「ただいまー、っと」
黒子「あら、おかえりなさいまし」
上条「おう……って、おまっ、不法侵入だろ!」
黒子「んまっ、それは一大事ですの。今すぐ風紀委員に通報すべきですの」
上条「ええっと、警備員の番号は……と」
黒子「もう、上条さんったら。お茶目な冗談ですのに」
上条「……はぁ、こっちにだって客を迎えるときは色々準備ってもんが」
黒子「あら? それ、何のチケットですの?」スッ
上条「人の話を聞けよ!」
黒子「……ふむ、温泉旅行。……一泊二日……ふむ」ペラッ
上条「……俺の母さんが結構クジ運いい人でさ。当たったはいいけど日程が都合つかないからって送ってきて」
黒子「……ペア券、ですわね」
上条「そうですの」
黒子「…………」ジー
上条「……な、なんだよ」タジ
黒子「……あなた、さてはこれでお姉様をお誘いになろうと」
上条「……は? なんでいきなり御坂が出てくるんだ?」
黒子「お黙りなさい。私の目が黒いうちはそんなことはさせませんの」
上条「そ、そんなことって、どんなことだよ」
黒子「んまー、白々しい。どうせ旅行にかこつけてお姉様の貞操を」
上条「ばっ、早とちりすんな! そもそも、まだ誰を誘おうとか具体的なこたぁ考えてねえ!」
黒子「……本当かしら?」
上条「ああ、天地神明に誓って、本当だ」
黒子「なるほど……そこまでおっしゃるんでしたら」
上条「……うん?」
黒子「私が一緒に参りましょう。早々に使ってしまえば無用な心配をせずに済みますの」
上条「どういう理屈だ!」
――当日
上条「結局押し切られちまった……」
上条「俺って、引っ張っていくタイプの女の子に弱いのかなあ」
上条「大体、白井は中学一年生だぞ? 高校生の俺が下手に出てどうすんだって」
???「なーにを、ぶつぶつ言ってますの?」
上条「うぉっ!? …………え」
黒子「さっきから通行人に注目されてますわよ。お気をつけあそばせ」キラキラキラ
上条「…………」ポー
黒子「正直申し上げて、私より先に着いていたというのは予想外でしたの。殊勝な心がけですわね」ニコ
上条「…………」ポー
黒子「……ちょっと、何をぼーっとしてますの? 夜更かしでもしたんですの?」
上条「あ、いやっ、なんか、見違えたっつうか」アタフタ
黒子「はあ、それはどうも」シレ
上条「……褒めてるんだから少しくらい照れやがれ。可愛くねえ」
黒子「可愛くなくて結構。仮にもお嬢様校の女子が気合を入れればこれくらいの着こなしは当然ですし」
上条「……そいつはつまり、気合を入れてくれたってことか?」
黒子「べ、別に特別気を遣ったわけではありませんの!」
上条「あ、そ、そうなんだ」
黒子「普段学生服ばかりでお洒落に凝る機会が滅多になくて時間がかかったのは事実ですがしかしそれは」
上条「わかったわかった。切符は先に買っておいたから、行こうぜ」スタスタ
黒子「ああっ、ちょ、ちょっと、お待ちなさいな!」
上条「慌てなくても置いていきゃしねえよ」ニヘラ
黒子「そういうことではなくて……はぁ、もういいですの」ブスッ
上条「ほい、お前の切符。なくさないようにな」スッ
黒子「あなたにその類の心配されるのって結構屈辱ですわねえ」ヒュッ
上条「……ぬぐ、ほんと口の減らねえ」
黒子「ですけど、普段が普段ですし?」
上条「それは俺が悪いんじゃない、不幸が悪いんだっ!」
黒子「しかし、何をもって不幸というか、微妙なところだと思いませんこと?」
上条「あん……?」
黒子「文武両道にして容姿端麗なるこの白井黒子が親しい友人ですのよ? 一般的に言ってこれは幸福なことではありませんの?」
上条「……な、なるほど、言われてみれば」
黒子「……あ、あのう」モジ
上条「どうした?」
黒子「いえ、今のはあくまで慰めのつもりであって、まともに受け取られると、その///」
上条「だったらもっとわかりやすく慰めろっ!」
上条「グリーン車なんて久しぶりだなー」テクテク
黒子「席は当然一緒ですわよね?」
上条「ああ、奥から三番目の窓際……うわっ!?」ドン
女の子「oh、sorry!」ペコ
上条「あ、い、いや、ええっと……」ワタワタ
黒子「That'all right.But don't run in the train」ニコ
上条「ド、ドントウォーリー……って」
女の子「I'll be careful not to say that again」ペコペコ
黒子「Okay,Now you go.Your mother is calling you.」チラ
女の子「thanks!」ニッ
上条「…………」
黒子「……ん? 何を落ち込んでますの?」キョトン
黒子「あの程度で優越感などとんでもない。お姉様など科学者と専門的な会話が可能ですのに」チュルルル
上条「マジか、頭がいいのは知ってたけど」
黒子「英語どころかロシア語まで話せるんですのよ? 比較だなんておこがましいですの」コト
上条「……けどよ、習っているとはいえお前、咄嗟によくスラスラ出てくるもんだな」
黒子「学園都市では外国人の見学者もひっきりなしですし、道案内などでそうした方たちと関わる機会も多いですから」
上条「へえ、風紀委員も大変だな」
黒子「むしろそういう任務が本分だと理想的なのですけどね。なかなかそうもいかず」
上条「トラブル待ったなしってわけだ」
黒子「ですわねえ。特にここのところはハードな出動の連続でしたし」
上条「怪我だけはすんなよ。いくら強いったって女の子なんだから」
黒子「……入退院を繰り返している方に言われたらおしまいですわね」プイ
上条「くっ、何も言い返せない!」
黒子「ま、せっかくの機会ですから、今日は羽根を伸ばさせていただきますわ」
――〇〇中温泉
上条「二時間か。結構あっという間だったな」
黒子「お互い波乱万丈な日々を送っていますし、話すネタには事欠きませんわね」
上条「上条さんとしては毎日平穏に暮らしたいんですけどねえ」
黒子「叶わぬ願いほど残酷なものもないですわねえ」
上条「……ごもっとも」
黒子「それはそうと、迎えのバスはどちらに?」
上条「ええっと……あ、多分あれじゃないかな。今入ってきたやつ」
黒子「了解ですの。さ、行きましょう」
上条「待った。荷物、半分持とうか?」
黒子「お気遣いなく。一日分の荷物なんてたかが知れてますわ」
上条「そっか。よし、行こうぜ」スクッ
――バス内
乗客「へえ、お二人さん、東京から来たんだ」
上条「東京とはいっても、端っこの方ですけど」
乗客「いいねえ、彼女と二人きりで旅行だなんて」
上条「へっ? い、いや、彼女って、俺たちそういう関係じゃ」
黒子「確かに、私を首ったけにするにはまだまだ至らないところだらけですわね」
上条「……あ、あのなあ黒子」
乗客「はははっ、付き合う前から尻に敷かれるんじゃ敵わんなあ」
上条「……敵わない部分が多すぎてへこむのは事実ですけど」
黒子「あら、それは初耳でしたの」
上条「うかつに弱音なんぞ吐いたらぐいぐい攻めてくるだろが、お前」
黒子「それはまあ、女々しい上条さんに需要があるとも思えませんし?」
上条「と、こんな調子で」シクシク
乗客「あははは、息ぴったりじゃないか」
――温泉宿前
女の子「パパー、早く行こうよー」
男の子「そうだよー、滑る時間なくなっちゃうよー」
乗客「はいはい。じゃあお二人さん。頑張って」
上条「ども。おじさんもお気をつけて」
上条(ん、頑張って? 何を? 温泉に浸かりにきただけだぞ?)ハテ
黒子「山の尾根まで雪が積もってますの。滑るには絶好の環境ですわね」
上条「黒子は、ウィンタースポーツは得意なのか?」クルッ
黒子「得意というほどでは。小学生のときにスキー教室に入った以来ですの。上条さんは?」
上条「いや、わかんね。体が覚えてくれているといいんだけど」
黒子「……わからないのに体が覚えているって、あり得ないんじゃ」
上条「ああ、いや、その、何だ」
黒子「…………」ジトー
上条「そう、物心がつく前は北海道にいてさ」
黒子「あら、北海道出身でしたの?」
上条「うんそう。で、あんまり覚えてないけど、上手かったみたいで」
黒子「なるほど、それなら納得ですわね」
上条「はは、だろー?」
上条(……危なかった)ホッ
黒子(――などと思っている顔ですわね、これは)チラ
上条「……二人部屋とか」
黒子「……二人部屋ですわね」
上条「どうする? もう一部屋別払いで借りるか?」
黒子「このシーズンのしかも休日にそんな融通利くわけないでしょう。ネットの予約でも満室ですのに」
上条「じゃ、じゃあ」
黒子「今さら帰りませんわよ。ペアチケットという時点で覚悟はしていましたし」ドサッ
上条「だけどお前、抵抗ないのかよ。一応俺だって思春期真っ盛りの男子学生なんだぞ」
黒子「ご心配なく。万が一襲われたら」ニコ
上条「お、襲われたら……?」ゴク
黒子「もぎますの」マジ
上条「」ゾワ
黒子「信用していますわよ、上条さん」ニコ
上条「……お、おう。是非そうしてくれ」
黒子「何はともあれ温泉ですのー」テキパキ
上条「え、まだ暗くなってもいないうちから入るのか?」
黒子「シーズン真っ盛りですのよ? 混み合う時間帯に入ったら全然寛げませんの」チッチッチ
上条「……一理あるな。なら俺もそうするか」
黒子「お風呂から上がったらメール入れますの。十中八九、あなたの方が先に出ると思いますし」
上条「わかった。それまでは適当にブラついてる」
黒子「湯冷めしないように気をつけてくださいな。では後ほど」ガチャ
上条「おう、ゆっくりしてこい」
――バタン
上条「さて……俺も行くか」
上条(パンフレット見る限りでは、露天は混浴なんだよな。でも、絶対景色いいだろうし)
上条「……昼間だし人も少ないだろ。遠路はるばる来たんだし、そっちにするか」
――露天風呂
黒子「んー! 絶景ですのー!」ノビッ
黒子「案の定、がらがらですわね。ゆっくりたっぷりのんびりですのー」ホエー
黒子(にしても、最近の温泉はバスタオル着用もおっけーなんですのねえ)
黒子(一応、殿方が入ってきた時のためにつけて入りましたけど)
黒子(やっぱり入浴中は違和感がありますわね、外しておきましょう)チャポン
黒子「ふぅ、体の芯まで温まりますの~」
黒子(……ん? 湯気の向こうに、人影が)
黒子(……い、一応タオルを)ヨジ
???「気持ちいーい。教皇代理もみんなも早めに入ればいいのに」
黒子(……よかった、女性でしたのね)ホッ
黒子「ははあ、強化合宿で雪山に」チャポン
五和「ええ、恥ずかしながら魔じゅ……じゃなかった、古武術をやっていまして」チャポン
黒子「古武術……ですか」チラ
黒子(……しかし、この胸は……固法先輩にも匹敵するのでは)ゴク
黒子(締まった体でバランスはそれ以上にも見えますの。世の中上には上がいるんですのねえ)ムゥ
五和「あ、あの?」
黒子「あぁ、申し訳ありません。つい見入ってしまいまして」
五和「い、いえいえ。それで、白井さんは普通にご旅行ですか?」
黒子「ええ、連れ合いが一人いますけれど」
五和「あら? その言い方からすると、彼氏さんか何か?」
黒子「いいえ、気心の知れた友人といったところですの」
五和「そうなんだぁ。でもいいなぁ」
黒子「と、仰いますと?」
五和「私もそうやって気兼ねなく誘ったり誘われたりしたいなー、なんて」ポッ
黒子(……なんだか、妙にデジャヴを感じますわね)
五和「というわけで、みんな宿はバラバラなんです。申し込みが遅かったので」クター
黒子「それは残念でしたわねえ」クター
五和「まあ、これはこれで気楽ですけど――しっ」
黒子「……い、いきなりどうしましたの?」ボソボソ
五和「……声、聞こえませんか? まだ遠いですけど」ボソボソ
黒子「……どれどれ」
???「へえ、こっち側、こんな奥行きがあったんだなー」
黒子(…………て)
五和「あれ? この声、どこかで……」
上条「って、やべ、仕切りの向こうって女湯か」
黒子(……微妙にエコーがかかってますけど、間違いないですの。これ以上近づかないように――)チラ
???「」ゴソゴソ
黒子「ちょっ……下着ドロですのっ!!」ザバッ
五和「えっ、嘘ぉっ!!?」ザバッ
泥棒「……!!」ダッ
五和「あっ、待ちなさい!」グッ
黒子「五和さんはここに! 私からは逃がれられませんわよ!」ヒュンッ
五和「――って、白井さんが消えた!?」
???「おいっ、無事か!? 変質者はどこだっ!!」バッ
五和「あ、いえっ! やつは更衣室に――」ピキン
上条「……って」ドドーン
五和「……か、か、かみ……じょ」パクパク
上条「も、もしかして、五和か? どうしてここに」
五和「か、かかか隠してくださいっ! 前っ! 早くっ!!///」バッ
上条「あっ、うわっ!? ご、ごめんっ!///」バッ
黒子「申し訳ないですの。結局取り逃がしてしまって」ショボン
五和「しょ、しょうがないです。わ、私もうっかりしてましたし」
黒子「しかし、偉そうなことを言った手前」
五和「一緒に追っていても浴衣ごと持っていかれては、どのみち廊下には出られませんでした」
黒子「そう言っていただければ救われます。……その、貴重品とかは」
五和「こ、小銭入れだけです。鍵は手首につけているから無事ですし」
黒子「ですか。被害がその程度で収まったのは幸いでした」
五和「そ、そうですね……」ブクブク
黒子「……顔が赤いようですが、大丈夫ですか? 長湯でのぼせたとか」
五和「い、いえっ、平気です! ちょっとテンパっただけですから! それより」
黒子「着替えのことでしたら、もう伝えました。すぐに替えの浴衣を二人分用意していただけるそうです」
五和「あ、ありがとうございます」ペコ
黒子「お待ちどうさまですの」
上条「お、おう///」
黒子「あら、真っ赤ですわね。湯あたりしたんですの?」
上条「そ、そうかもな。お湯意外と熱かったし」
黒子「……そういえば、上条さん。さっき露天風呂に入って」
上条「……あー。お前の声が聞こえたけど、その、タオル中に置いてきちまってさ」
黒子「ふむ、それでは追ってこれるはずもありませんわね」
上条「そ、そんなことより、怪我とか大丈夫だったか?」
黒子「ご覧の通りですの」
上条「じゃあ、犯人は……」
黒子「残念ながら逃げられました。浴衣と下着を持っていかれては、追跡しようも」
上条「く、黒子の下着が盗まれたのか!?」
黒子「こ、声が大きいですのっ!///」
上条「くそっ、絶対に許せねえ。いったいどういうつもりで」ガッ
黒子「目的なんて考えたくもありませんの。両方ともお気に入りのやつでしたのに」ギリ
上条「あ、そっか。脱衣所には今日穿いてた下着も……」
黒子「ええ……新しいのと一緒に」
上条(……あれ。ということは、今の黒子って)チラ
黒子「ごほん!」
上条「……!」ビクッ
黒子「はっきり申し上げて今の私、激おこですの。些細なことで八つ当たりしかねませんから、くれぐれも言動には」
上条「わ、わかった、気をつける。と、とにかく一度部屋に戻ろう。予備のはあるんだろ?」
黒子「なければ旅行中ずっとノーパンで過ごすところでしたわ。本当、業腹ですの」
――二人部屋
黒子「やれやれですの」
上条「早いとこ警察が捕まえてくれるといいんだけどな。そうすりゃ」
黒子「それは、まず無理ですの。被害届は本日中には受理されないそうですし」
上条「え……、それって、どう考えても問題あるだろ」
黒子「ありますけど、凍結による車の事故が多くて、とても手が回らないそうです」
上条「……じゃあ、取り戻すのも難しいな」
黒子「ご冗談を。犯罪者の手に渡った下着を穿けとでも? 何に使われたかもわかりませんのに?」
上条「へ? 何にって…………っ……」バッ
黒子「……今想像していることを口にしてごらんなさい。即刻死刑ですわよ」ギラ
上条「ら、らじゃー」ガクガク
黒子「……実際、鳥肌ものですけれどね」ブル
上条「……あー、……何つうか、ごめん」
黒子「あなたが謝る謂れはないですの。さ、腹ごしらえといきましょう」
――大衆食堂
上条「飯はあまり期待してなかったんだけど、この蕎麦いけるな」ズルズル
黒子「野草の掻き揚げとキノコ汁もなかなか。この店、当たりですわね」サクサク
上条「今後の予定はどうする? もう一回温泉か?」パクッ
黒子「いえいえ、お湯の入れ替え時間になるまでは見送りですの」ハムッ
上条「そんなとこまでチェックしてたのか。さすがに抜け目ねえなあ」
黒子「せっかくさっぱりしたのに濁り湯で汚しては台無しでしょう」
上条「濁りって、食事中……」
黒子「それは失礼。で、ものは相談なんですけれども」チラ
上条「お、何かあるのか?」
黒子「近場のゲレンデでナイトスキーが楽しめるそうなのですが」
上条「いや、いや、俺ら板とか持ってきてねえじゃん」
黒子「ウェアとスキー板なら、宿で貸し出しているそうですわよ」
上条「本当か? んー、だったら行かない手はねえよな」
黒子「さすが上条さん。そうこなくては」ニコ
――着脱場
黒子「やはり最初は慣れませんわねぇ。このストッパーの圧迫感が」
上条「あー、駄目だ。履き方とか完璧に忘れてる」
黒子「この分だと滑る方も怪しそうですわね」クスクス
上条「ま、ぼちぼちやってみるさ。黒子はそこそこ滑れるんだろ? 先に滑っていても」
黒子「勘を取り戻すまでにはどのみち時間が要りますわ。お付き合いします」
上条「そっか。さんきゅな」
黒子「お礼には及びませんの。初心者コースでも長い距離を滑れれば楽しいですし、何より」
上条「……ん?」
黒子「私には、スキーに打ってつけの切り札がございますから」キラーン
――リフト乗り場
係員「はい、次の方どうぞー」
上条「ど、どうぞと言われても」オドオド
黒子「……上条さん。少し腰を落としていただけるかしら」
上条「えっ……と、こんな感じか?」スッ
黒子「はい、いってらっしゃい」ドンッ
上条「てっ、うわわわわわっ!」ツツー
係員「はい、止まってくださいね」ガシッ
上条「おっ、と、ふぅ、止まって――うわっ!?」ガタ
黒子「あ、乗るときはきちんと両脚を持ち上げないと、板が壊れますわよー」
上条「さ、先に説明しといてくれよ!」
係員「あの、彼、もしかしなくても初心者ですよね?」チラ
黒子「ええ、本日中に脱の字をつけて差し上げますの」ニシシ
係員「あはは、無理させすぎないでくださいね」
――二合目
上条「…………高」ボーゼン
黒子「さて、まずはざっと100メートル下ってみましょうか」
上条「す、少しばかり、傾斜が急すぎやしないか?」
黒子「ご心配なく。ちゃんと初心者中級者用のコースを選びましたの」
上条「で、でもさ。初心者って確か、ボーゲンとかからやるんじゃないか」
黒子「マニュアル通りにやるのも一つの手ですが……あちらをご覧なさいな」
上条「え……あ、本当だ。あんな小さい子もいるんだ」
黒子「だから上条さんも滑れるというわけではなく、ここは転んでも怪我しにくいので」
上条「……転ぶのは前提って聞こえるんですが」
黒子「大丈夫。殴られるよりは全然マシですわよ」ニコ
黒子「そうそう、外側の足の爪先を内に巻き込むように、内側の足から力を抜く感じで」
上条「とりゃっ……おっ、自然に曲がった!」スー
黒子「あっ、今のは良かったですわね! 後はその繰り返し…………って、あら」
上条「おおっ、何これ! すっげえ曲がるっ! 雪削んの気っ持ちいいー!」シャッ
黒子「ふむ、早くもコツを飲み込まれましたか。これなら転ばずに行けるやも」シャッ
上条「……不思議なもんだな。体が覚えていたのか、それとも才能ってやつか?」シャッ
黒子「人が大勢いる昼間だと全く勝手が違いますわよ。あまり調子に乗らないように」シャッ
上条「き、厳しいなあ」
黒子(ん、上からかなり降りてきましたわね。……速度的にかち合うかも)チラ
黒子「……リフトの支柱の左側を通って、下の売店を目指しますの。しっかりついてきてくださいな」グンッ
上条「わ、わかった」グッ
上条「あー、疲れたー! でもすっげー楽しかったーっ!」
黒子「初日でずいぶん上達しましたわねえ」
上条「教え方がうまいんだよ。お前、意外と教師とか向いてるかもな」
黒子「あー無理、無理ですの。目くじらがデフォルトになりそうですの」
上条「だな、言われてみれば」
黒子「ちょっと上条さん、そこはフォローを入れるところではなくて?」
上条「知らん。昼間に散々いじられたお返しだ」
黒子「んまー、男のくせにせせこましいですわね。……と、雪が」
上条「風も出てきたな。いい切り上げのタイミングだったかも」
黒子「ですわね。あっ、帰りにコンビニに寄ってシップを買っていきましょう」
上条「シップ? 打撲なら大したことねえぞ?」
黒子「まあまあ、経験者の忠告には耳を傾けるものですわよ」
――二人部屋
上条「ふぅ、さっぱりした」ホカホカ
黒子「一日をこんなに満喫できたのは久しぶりですのー」
上条「何だかんだ言って、来てよかったな」ニッ
黒子「ですわね」ニッ
上条「…………」フゥ
黒子「…………」フゥ
上条「……布団、いくらなんでもくっつけすぎだよな///」
黒子「で、ですわよね。必要以上に離すのも、逆に意識過剰とか勘繰られそうですけど///」
上条「あー、でも俺、くったくただから速攻寝れそう」クター
黒子「上条さんは、寝相は悪くありませんの?」
上条「超いいですの。もとい、どんな狭い所でも寝る自信がある」
黒子「……羨ましいような、羨ましくないような特技ですの」
上条「くー……くー……」
黒子「照明消す間もなく、布団に入った途端に落ちやがりましたの」ジト
上条「……ん……んん」
黒子「こちとら出発前にあんなこと言われたせいで、変に意識する羽目になりましたのに」ギュ
上条「んぐ! ……くー」
黒子「ぷっ……変な顔ですのー……」クスクス
上条「んがっ……んんー……」パサッ
黒子「……はぁ、バカやってないで私も寝るとしますか」パチン
黒子(……しかし、意外な面を垣間見ることができましたわね)
黒子(あんな子供みたいにはしゃぐなんて。もしお姉様が見たら、どんな反応を)
黒子(…………)
黒子(……ごめんなさい、お姉様。私は、私の心が今だにわからないんですの)
黒子「……せめて……が、はっきり……まで…………」スゥ
黒子「……ん、んむ」ギュウ
上条「…………」
黒子「……なんか、枕が変に固いですのー」ホケー
黒子「……まだ薄暗いですわねー、もう一寝入り」ギュム
上条「…………」
黒子「…………うおっ!?」バッ
上条「…………」
黒子「なっ、どど、どういうことですのっ! なんで枕が上条さんに置き代わってますの!///」
上条「…………」
黒子「あっ、羽布団の中に……、え、でも、私寝相はそれほど」
上条「…………」
黒子「ま、まさか起きてないですわよね」チラ
上条「……くー……くー」
黒子「…………」ジー
上条「………くー……っ……くー」ダラダラ
._人人人人人人人人人人人人人 _ / .ト、| : l/Ⅳ-|イ{: :/`トリ ミ: : i: |
.'> さすがの私たちもこれは引くわ < {: :lヽ|:! :!ィア行 ∨ ィ行ト }: :!:|V
,. ''"´ ̄`フ三三} /:.:  ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄ .'; :V八_{ 弋)ソ 弋.ソ ハ:.N
/: : : :,.-‐ァ゙三=/ /:.:/ : /: /: : /´^`|: : :.:.:.|: : : : ∨ } :( ∧ ' , )!
/: : : :/: : : 厶三=} : j: ∧-A、ハ: :/ |:.:.ノ:.:ノ: : :.:.:.卜、 / : : ーヘ t‐一ァ 厶i:│
.: : : :/ : : :ィ: !: :.`T´: :.:∧!,.ムL_{ヽ!_{, !:イ/}: : :.: : :|: : ヽ /イ :! : V 个 、 ー イ.:/|八
{ : : : :.://: :|: : :.:j: : :.:.| 〃ん:ハヽ `フフ⌒メリ:.:.j:.:.:/: : : :.', |八 : :{ : !:.:r}>‐ 'l∨L{_リ }}ヽ
∧: :.:l/ /: :.ノ : : イ⌒ヾ! 弋:ツ だヌ^V/:.:/:.:/:.:.:r 、: | -, ∨ \{⌒{  ̄>rく } 「 }\
./ : ',: :{ {:/: /八 い ^¨ 弋ツ 厶イ/!: : :| |: ! / / _ / ∨ {_/ 孑 ∨ Ⅵ ヽ
{: : ∧: :ヾ´:.:/|: :| ` ー:、 u ′ ^¨ ./:): : : j\:.| l:// / / ノ .{ |i rく \ 〉 / |i ,/゙ハ
: :.レ} : : Y: :./!:.:j ト i^>- /イハ::_:./ l:j ゞ゜.//./ 〉 (\ ヽ\ Y゙i _, ||/ //)
. 〉: :く!: : :.ノ: //: / 厂フ \ ヽ、 .ン イ 八 ヽ// (_,.'´ ノ∧ __ヽ`ー ∨/ ( ヽ/ `∠-っ
. { iヽノ: /∠⌒^冖¬{ \ 、__,.. <{: : | /: ∧ V ヽ、 ,. ´ { ‘ー‐ュ `/ } } \ (工_
. 〉'´:xく / \ | ), / \_ 八 : l//: : 〉 `ヽ / レ个ー-、 _ノ 人_ _x-r┬ '
./::/\: | {:. ヽ | / ノ^i ヽ  ゙̄V: :/{:.: : /∧ ./ \| /`ー / / ∧ \∨
黒子「……あー……ンヴォイ!(低声)」
上条「……くっ……くー……くー」ビクビク
黒子「……ふむ、気のせいでしたか」スクッ
上条(……い、今のはちょっとやばかったが、なんとか誤魔化し)チラ
黒子「あよいしょ」ゲシ
上条「い゛っ……、だぁ~~~~~~~ッ!!」ガバッ
黒子「……やっぱり狸寝入りでしたの」ジト
上条「ばっ、馬鹿ヤロ! 筋肉痛の脹脛踏まれたら、誰だって」アタタタ
黒子「その反応からして、寝ていた者のそれではありませんわね」
上条「くっそ、足攣った。いて、ててて」ピクピク
黒子「大袈裟ですわねー。湿布を貼っておいたんですから、多少は炎症も鎮まっているでしょうに」ドスン
上条「ちょ、黒子!?」ジタバタ
黒子「ほらほら動かないでくださいな。軽ーくマッサージして差し上げますから」
黒子「ふっ……んっ……ふぅっ」ギュッギュ
上条(足だけとはいえ、女の子に乗っかられるとか。……と、いかんいかん、意識するな)ブンブン
黒子「ん、強すぎましたかしら?」チラ
上条「あ……いや、ちょっとずつ楽になってきてる……」
黒子「では、もう少しだけ続けましょうか」グイ
上条「ああ、助かる」
黒子「しかし、足の鍛え方が、半端じゃないですわね」ググ
上条「年がら年中走りまくってるからなあ。あー、そこ、そこ気持ちいい」
黒子「はいはい。……早くに下半身が安定したのも、この足のおかげですわね」モミモミ
上条「スキーか。昨日は慣熟するだけで精一杯だったなー」
黒子「大分早起きしてしまいましたし、午前中なら問題なく滑れますわ……よっと!」グリ
上条「あだっ! ……そ、そうだな、ひとっ風呂浴びたら行ってみるか」
放送『甲信越地方では、午前中から午後にかけて、天候が崩れやすく――』
上条「露天使えなくて残念だったな」ザッザッ
黒子「檜風呂も悪くはありませんでしたわ。お肌もこの通りつやつやですの」ザッザッ
上条「ほう、どれどれ?」プニ
黒子「ひょっ、ひょっと、ふぁみじょうさん?」ジロ
上条「ははっ、悪い悪い。しっかし、なかなか前に進まねえな」
黒子「うーん……」
行列「がやがや」ズラー
黒子(どこも朝一は混んでますわねー、一人なら上まであっという間ですが)チラ
上条「何だか悪いな。幻想殺しが邪魔しなければすぐ上に行けたのに」
黒子「い、いえ、こちらこそ」
黒子(顔に出ていましたか。不覚でしたの)
上条「何だったらお前だけ先に、ん」ピト
黒子「それは言いっこなしですの。雰囲気を楽しむのも旅行の醍醐味ですわよ、上条さん」
上条「……そっか、へへ、さんきゅ」ニカ
上条「くそっ、おかしいだろ!」
黒子「何がですのー?」
上条「俺のほうが体重あるのになんで追いつけないんだよっ!」シャッ
黒子「一口に経験の差ですわねぇ!」ジャッ
上条「ターン入れるたびに距離が……、まだ突込みが甘いのかなー」シュー
黒子「突っ込むだけで速く滑れるなら苦労しませんわよー」ギュン
上条「……駄目だ、離されるばっかりだ」
黒子「残念ながら、当分の間は私のお尻を拝みながら滑ることになりそうですわねー」ホッホッホ
上条「……にゃろう」カチン
黒子「あぁほらほら、余所見してると危ないですわよ?」ジャッ
上条「へ? ……うわっ、とと」ズザー
男の子「ごめんなさーい!」カッカッ
上条「こっちこそ! ……うっはー、あんな小さいのにすっげえ飛ばしてるなあ」
黒子「姿勢ももちろん大切ですけどね。速度を稼ぐにはコース取りも重要ですの」
上条「そういやお前のコースをなぞるばかりで、雪面の状態とかろくに見てなかったな」
黒子「まあ、私に関して言えば――」ヒュン
上条「あっ!」
黒子「このように瞬間移動を繰り返して、半永久にオイシイ場所を滑れますからお気遣いなく」シャッシャッ
上条「それずりーってか羨ましー! 練習し放題じゃねえか!」
黒子「うふふふ、って、あら?」グラッ
――ドシャ!
黒子「……あ、あははは。油断大敵ですわね」
上条「大丈夫か黒子! 怪我は!?」
黒子「問題ありませんわ。ただ、板が片方そちらに」
上条「……あれか。ちょっと待ってろ!」パキン、パキン
黒子「あ、いえ、能力で飛べばすぐに……」
上条「よっ、ほっ」ズボッズボッ
黒子「…………」ムク
黒子(ま、たまには花を持たせないと、ですわね)パッパッ
上条「うへぇ、一気に混んできたな」
黒子「駐車場から一番近いコースですからね。一つ奥のリフトに移動しましょうか」
上条「その辺はさっぱり勝手がわかんねーから、お前に任せるわ」
黒子「了解ですの」
上条「……お、あの人すごいな」
黒子「ん、どなたですの?」
上条「ほら、上の方から来てるピンクのウェアの人。サングラスかけてる」
黒子「……なるほど、綺麗なターンですの。二日目の上条さんにもわかるくらいに」
上条「一言多いぞ。……それより、こっちのほうに向かってないか?」
黒子「それはリフト乗り場が近いからでは……って、手振ってますわね。お知り合いですの?」
上条「……あ、もしかして」
五和「か、上条さん。き、奇遇ですね!」バッ
黒子(……あれ、この方)
上条「やっぱり五和だったのか。サングラスしてっから気づかなかったぜ」
黒子(そう、五和さんと仰いましたわね)
上条「何つうか、その、昨日は悪かったな///」ポリポリ
五和「い、いえ、あんなこと全然! 気にしてませんから!///」ブンブン
上条「そ、そっか。ならいいんだけどさ」
五和「そ、それより、私の方も、その、あの……」
上条「い、いや、湯気でほとんど見えなかったし///」
五和「ええと、ほとんどってことは、つまり、少しは?///」カァァ
上条「あっ、違っ! い、いやあ、何言ってんだかな、あははは」
黒子「ずいぶんと仲がおよろしそうですけれども」
上条&五和「」ビクッ
黒子「お二人は、どのようなお知り合いですの?」ニコ
五和「えっ、ええ? ……もしかして、昨日の子?」
黒子「改めまして、白井黒子と申しますの」
上条「えっと、二人とも、もう顔見知りなのか?」
五和「は、はい。じゃあ、あなたが言ってた連れって……まさか」
黒子「連れというか、上条さんとはお友達同士ですの。ですわよね?」
上条「そ、そう。学園都市の後輩なんだ。何だかんだ世話になっててさ。今回こうして旅行に」ギクシャク
五和「そ、そうだったんだー。へえー」ギクシャク
黒子「初めの質問に戻りますけど。五和さんとはどのようなご関係で?」ジト
上条「あ、えっと、元は俺の仲間のお弟子さんで、今は」
五和「ちょ、上条さんストップッ!」グイッ
上条「うわっ!? な、なんだ、引っ張るなよ」ザッザッ
黒子「…………?」
上条「お、おい、五和、いきなりなんだよ」ゴニョゴニョ
五和「お願いです。口裏を合わせてください」ゴニョゴニョ
上条「あん? いきなり何の話だ?」
五和「あの子とは既に顔を合わせてまして、魔術ではなく古武術をやってるって設定になってるんです」ヒソヒソ
上条「古武術ぅ? あー、そっかそっか。一般人と魔術を関わらせるわけにはいかないから」ヒソヒソ
五和「ですです。教皇に知れたら雷落とされてしまいますので、ここはどうか穏便に」
黒子「なーにを、コソコソ話してますの」
上条&五和「」ギク
黒子「……はぁ、取り込んでるならそうと仰ってくださいな。お邪魔虫はすぐに退散しますから」フン
上条「ちょ、待てよ黒子! お前が邪魔なわけ」
黒子「それではどうぞ、ごゆっくり」ヒュン
携帯「pipipipipi――」
黒子(……まぁた着信ですの)
黒子「フンッ!」ピッ
黒子(まったく、あの類人猿ときたらっ!)プンプン
黒子(旅行先でまでおっぱい娘とイチャコラしてんじゃねーってんですのよ)イライラ
黒子(えーそうですとも。どーせ私はまな板ですの。需要なんて皆無ですのっ)
黒子(殿方ならボンキュッボンの方がお好みでしょうよ。私だって、あの方くらいの年ごろになれば)
黒子「~~~~っ」ギリ
黒子「だぁもう! 何でこんなにむしゃくしゃするんですのぉ……って!」
スノーボーダー「……うぉっ!?」ビクッ
――ドシャアアアアッ!
――ヒュン
スノーボーダー「……あれ、ぶつかって、ねえ?」ググ
黒子(や、やばかった。間一髪間に合いましたの)フゥ
スノーボーダー「おいこらテメエ! ふらふら滑ってんな! 危ねえだろうがっ!!」
黒子「す、すみません!」
スノーボーダー「んだよガキかよ。せめてマナーくらい覚えてからきやがれってんだ」チッ
黒子「んなっ……!」
黒子(…………い、言い方はともあれ、今の非はこちらにありますわね)ヒクヒク
黒子(周りには子供も大勢いますし、ちゃんと集中しなくては……)チラ
――カタカタ
黒子「……リフト、揺れてる? 錯覚……じゃありませんわよね」
上条「ダメだ、何べんコールしても繋がらねえ。何だってあんなに怒ってたんだ?」
五和(……それがわからないからだと思いますけど)
上条「ごめん五和。俺、ちょっとその辺探してくるわ」
五和「探すって、ここのスキー場相当広いですよ?」
上条「わかってるけど、何もやらないよりはマシだろ」
五和「だったら、リフトの発着所を回ったほうがいいですよ。私も手伝いますから」
上条「……素直にリフト使ってくれてればいいんだけど……ん、五和、どうした?」
五和「……いえ。…………足元、揺れてませんか?」
上条「えっ……あ、マジだ、地震か」ユラユラ
――グラグラグラグラ
上条「……とと、外でこれだけ感じるってことは、それなりにでかいのか?」
五和「……! すぐ下に行きましょう!」グイ
上条「お、おい、何焦ってるんだよ」
五和「いいから急いで! この揺れの強さ、場所によっては雪崩が起きるかもしれません!」
黒子「……ふぅ、揺れは収まりましたか」
黒子「…………」チラ
黒子(やはりリフトが緊急停止していますわね。まずは乗っている人を降ろさないと)ヒュン
――ズシン
黒子(……地響き? 上のほうから?)チラ
――ザアアアアアアア
黒子(嘘、雪崩ですの!? ……はっ!)
男の子「お父さーん! お母さーん!」メソメソ
女の子「た、助けて! 落ちちゃう、誰か助けてー!」ヒックヒック
黒子(まずい! あそこはもろに直撃コースですのっ!)ヒュン
まだ残ってる(´・ω・`)
――待合室
上条「……呑、まれた? 雪崩に、あいつが?」フラ
パトロール隊「いや、どうも目撃者の話が要領を得ないんだ」
上条「ど、どういうことすか」
パトロール隊2「それが、女の子が突然そこに現れたり消えたりしていたなどと言ってたものでね」
パトロール隊1「雪崩を間近に見て錯乱していた可能性も十分にある。どこまで信じていいものか」
上条「……間違いない、か」ボソ
上条(ここは学園都市じゃない。瞬間移動だなんて誰に言ったって信じねえよな)
上条「……あの、リフトに乗っていたという二人は、無事なんですか?」
パトロール隊「ああ、彼らなら無事保護された。リフトから少し離れた場所にいて、雪崩もやり過ごせたようだ」
上条「そう、ですか。なら、良かった」
パトロール隊「君も、気を強く持ってくれ。まだ諦めるのは早いからな」ガシ
上条「……はい。ありがとうございます」
――外
五和「すみません。電波が悪くて時間かかってしまって」タッタ
上条「こっちこそ、巻き込んじまって悪かった。……で、どうだった?」
五和「全員に連絡がつきました。天草式総出で協力します」
上条「ありがとう。頼りにしてる」
五和「……でも、すごい女の子ですね。一瞬の判断で、自分の身の安全より誰かを救う方を選べるなんて」
上条「度が過ぎればそれも良し悪しだ。助け出したら説教してやらなきゃ気が収まらねえ」
五和「それだけ元気があるなら大丈夫そうですね」ニコ
上条(……しかし、どうしてだ?)
上条(子供二人くらいなら黒子の能力の限界重量には達しないはずじゃ……)
上条(……いや、違う。三人分のウェアとスキー板の重量を計算に入れてなかったな)
上条(ぎりぎり越えちまった可能性も、なくはないか。少なく見積もっても20キロ近いし)
上条(時間がぎりぎりだったから、間に合う可能性に賭けて二人を飛ばして、それで)
上条(……無茶しやがって、テメエ、無事でいなきゃ承知しねえからな!)キッ
――雪中
黒子「……はぁ、……ふぅ」
黒子(咄嗟に口を塞いでいなければ、窒息していましたわね)
黒子(おかげで、呼吸する穴くらいは作れましたの)
黒子(しかし、雪も嵩張ると、重いんですのねぇ。手も足も出ないとはこのことですの)ググ
黒子(……これ以上は、体力を消耗するだけですわね。大人しく救助を待つしか)
黒子「…………」ブル
黒子(……雪の中は温かいと聞き及んでいましたが)
黒子(こうも密着していると、普通に冷えてきますわね)
黒子(……弱りましたわねえ。身を丸めるのすらままなりませんし)ブル
黒子(……上条さん、きっと心配しているでしょうね。あの方のお人好しは、筋金入りですもの)
黒子(会ったら、謝らなきゃ。……出来れば)
黒子「生きているうちに会えたら……よろしいんですけど」ポツリ
――二時間後
黒子「…………はぁ、…………はぁ」
黒子「……さ、……寒い」ブルブル
黒子(……そういえば、午後から天候が、崩れるんでしたわね)
黒子「…………ホント、どうにか、なり、ませんの?」ガチガチ
黒子(……手足の感覚が……もう、ほとんど)
黒子(……冗談抜きに……このままじゃ)
黒子(……助からない、ですわね)
黒子「……はぁ……こんなことならいっそ、意識を取り戻さないまま」
黒子(…………いけない。……弱気は禁物、ですのに)フフ
黒子「……けふんっ」
黒子「…………さ、寒……いぃ」ガチガチ
黒子「…………はぁ、……………………はぁ」グッタリ
黒子(…………目蓋が、……重い)ボー
黒子(…………お姉様、……初春、……佐天さん)
黒子(…………上条、さん)ジワ
黒子(…………黒子は……黒子、はっ……)ヒック
黒子「………い……嫌、ですの。……心残り、……あるまま、なんて」
黒子「…………し、死に……く、ない……」グスグス
――ズズズズ
黒子(…………振動、…………余、震?)
???『~~~~!!』
黒子(………………はぁ)
黒子(……都合のいい空耳も、大概にしやがれ、です……の)スゥ
――ド、ド、ド、ド
建宮「この下で間違いないのよな、浦上?」
浦上「はい、微かにですが反応がありました」
上条「い、生きてるのか!」
建宮「……モービルを下がらせろ。上条も、少しばかり離れてるのよな」スッ
――ズズンッ!
上条「うわっ!?」グラグラ
五和「ちょっ、教皇代理! そんな荒っぽいやり方じゃまた雪崩が起きますって!」
建宮「微かな反応ということは、つまり予断は許さんということなの、よっ!」シュバッ
――ズゴゴゴゴゴッ!
上条「くっ!」ガタガタ
五和「……あっ、いましたっ! あそこっ!」
上条「……黒子っ!! 待ってろ、すぐに助け出すからなっ!!」ザッ
黒子「………………」
上条「黒子っ! おい、黒子っ!!」ペチペチ
五和「重しになってる雪を砕きます! 上条さんは緩んだところを引っ張り出してください!」
上条「わ、わかった!」
五和「いきますよ。3……2……1……はぁっ!」ビュン
――ゴスッ!
上条「く、ぬっ!」グイ
建宮「よしっ、完全に出た! 二人とも早く上がれ! 急がないと崩落するのよな!」
五和「あっ、上条さん、その子は私が!」
上条「これくらいはやらせてくれ! ここで格好つけられなきゃ男じゃねえ!」ザッザ
五和「わ、わかりましたっ! あまり無理しないでくださいねっ!」バッ
五和(……こんな時に、不謹慎だとはわかっているけれど)チラ
五和(……いいなぁ、上条さんのお姫様抱っこ)ウー
――車内
黒子「…………」パチ
上条「……黒子、気がついたか」
黒子「…………か、み」ググ
上条「喋らなくていい」
黒子「…………ぁ」
黒子(……救急車両、あれ、記憶が飛んで)
上条「寒くないか?」ギュ
黒子「…………」コクン
上条「もう少しで病院につくから。雪道で揺れるけど、それまで辛抱してくれな」
黒子「…………」コクン
上条「……それから、次に目が覚めたら説教半日コースだから」
黒子「…………」ピタ
上条「……そこは一応うなずいとこうぜ。ホント、胸が潰れるかと思ったんだからさ」
黒子「…………ぅ」コクン
黒子「…………」クイックイッ
上条「ん、どうした?」
黒子「…………」パクパク
上条「……何か言いたいことがある?」
黒子「…………」コクン
上条「わかった、何でも言ってみ?」スッ
黒子「…………」ゴニョ
上条「……うん?」
黒子「…………」ゴニョゴニョ
上条(……ぎゅってして、いただけませんか、……って///)
黒子「…………」ジー
上条(まさか、雪崩に巻き込まれたとき頭でも打ったんじゃ……)
黒子「…………」ジトー
上条「…………」チラ
救急隊員「」ニヤニヤ
救急隊員2「」ニヤニヤ
上条(くっ、穴があったら入りたい!///)ギュム
黒子「……すぅ……すぅ」
上条「……言い出した本人はすぐに寝入っちまったし」
上条(つか、布越しとはいえ女の子と密着ですよ? 健全な男子高校生であるところの上条さんにどこまで自制しろと!?)ウガァ
上条(……はぁ。黒子のやつ、いったいどういうつもりで)チラ
黒子「……ん、……うん」ギュウ
上条(~~だからッ! こっちの忍耐試すような真似はやめろってのッ!///)プルプル
救急隊員「」ニヤニヤ
救急隊員2「」ニヤニヤ
――第七学区
黒子「……さすがに予想外でしたの。目覚めた先が学園都市とは」
上条「そんだけお前の凍傷がひどかったんだよ。並の病院じゃ後遺症の心配がって」シュルシュル
黒子「……なるほど。それはお手間を取らせました。ですが」
上条「……うん?」
黒子「雪山からいきなりこの場面転換は、現実に帰ってきた感がぱねぇですの」ドヨーン
上条「ご愁傷様だな」シュルシュル
黒子(……う、さすがに怒っているようですわね)
黒子「帰りの新幹線のチケット、少しもったいなかったですの」
上条「十分楽しめたからいいさ。んなことより、さっさと体治してくれ」サクッ
黒子「はいな、全力で承りましたの」
上条「ならいい。ほい、リンゴ剥けたぞ」
黒子「……あのぅ、わたくし見ての通り手足が」
上条「わかってるよ。はい、あーん」スッ
黒子「ちょっ///」ボッ
上条「なんだよ?」
黒子「な、なんだもへったくれもありませんの! 公共の施設でこのような///」
上条「病人が病院で何言ってんだか。もう切っちまったんだから」スッ
黒子「……し、しかし」
上条「つべこべ言わない口開ける。はいあーん」
黒子「……あ、……あーん」ハム
上条「」ドキ
黒子「んー! 甘いですの!」シャリシャリ
上条「み、蜜入りだからな。はい、もう一口」
黒子「……あーん」ハム
上条「……」フイ
黒子「あの、私一人で一個はさすがに食べきれませんわ。上条さんも」
上条「あ、ああ、そうだな。いただくよ」ワタワタ
上条「お前が助けた二人とも無事だったって。ご両親から後でお礼に伺いたいって連絡があった」
黒子「それは何よりでした。思えば、もう少しうまく立ち回る方法もあったのですが、実践できませんでしたわね」
上条「刹那的に最善の方法を選択しろなんて無理は言わねえけど」
上条「それとこうなったこととは、話が別だよな」ジロ
黒子「う゛、ついに説教の開演ですのね」
上条「もうあんな無茶すんな、とは言わない。咄嗟にそう動いちまうのが白井黒子だもんな」
黒子「…………」
上条「ただ、これだけは覚えておいてくれよ。お前にもしものことがあったら」
上条「俺、絶対泣く自信があるから」
黒子「……上条、さん」
上条「……くれぐれも、よろしく頼んだかんな」プイ
黒子「……はい。今のお言葉、決して忘れませんわ」
上条「ところでお前さ。変なこと言ってたの、覚えてるか?」
黒子「変なこと、とは?」フキフキ
上条「その、車の中で」
黒子「……あぁ、思い当たりましたの」
上条「あれは、その、どういう意図で」
黒子「深い意味はありませんの。夢じゃないってことをただ確かめたかっただけですわ」
上条「……それだけ、か。んで、実感はできたのか?」
黒子「それはまあ、温もりは伝わりましたし、生きててよかったとは思え……」
黒子「って、何言わせますのよ!///」ガチン
上条「い、いや、そんなつもりは、だな///」フルフル
美琴「黒子ー、お見舞いに来てやったわよー!」バタン
上条「よ、よーう! 御坂も来たのかー!」スチャ
黒子「ま、まぁまぁお姉様ー! わざわざご足労いただきまして!」バッ
美琴(……な、何? 何なの? この妙な空気は?)
――常盤台中学
美琴「どうよ? その後、体の調子は」
黒子「完全に復調致しましたの。すみませんでした、お見舞いにも来ていただきまして」
美琴「ああ、いいっていいって。わたしとアンタの仲じゃない?」
黒子「……お姉様」
美琴「それより何? 改まって話とか」
黒子「はい、お姉様は、……その」
美琴「うん? 珍しく歯切れ悪いわね」
黒子「……ええと、上条さんに恋愛感情がありますのよね」
美琴「は…………///」
黒子「その想いの深さがどれほどのものなのか、……改めて確認したいと」
美琴「ちょ、ちょおっと待った! いきなり何それ! わたしがアイツ好きなの前提か!?///」
黒子「別に、しらばっくれる必要はないでしょう。年頃の、ごく自然な感情ですし」
美琴「……だ、大丈夫? ア、アンタに限ってそんな……、熱でもあるんじゃないの?」
黒子「そう、かもしれませんわね。想うだけで、胸の奥が妙にぽかぽかとしますし」
美琴「……いや、いやいやいやっ! そういうことじゃなくって!」ブンブン
黒子「私は」クルッ
美琴「……う゛」ドキン
黒子「……私は、尊敬するお姉様に対して真摯でありたいと思っていますし」
黒子「目下のところはそちらを優先する理性も働いています。ですが」
黒子「この先どう想いが募るのか、転じるのか、予想がつかない程度には、その」
黒子「か、上条さんに、ひ、惹かれているようですので///」カァァ
美琴「……ふぁっ!?」
黒子「で、ですのでっ! 諦めさせるならくれぐれもお早めにお願いしますの。隣の芝は青いと申しますし」クルッ
黒子「いつまでも優良物件を前に手を拱いていたら、横から掻っ攫われても文句は言えませんわよ?」ヒラヒラ
美琴「……え、…………えええッッ!!?」
上条「ただいまー、っと」
黒子「あら、お帰りなさいまし」
上条「おう……って、またお前!」
黒子「お夕飯、もう少しで出来上がりますの。お疲れならお風呂が先でも構いませんけれど」
上条「夕飯で」
黒子「ふふ、そのノリの良さは嫌いじゃありませんわ」
上条「……はぁ、もういっそ合鍵渡しとくか。あんま意味ねえけど」
黒子「いえいえ、意味はありますわ。少なくとも私にとっては」
上条「そうかぁ?」
黒子「ええ、あなたとの『友情』を測る指標にはなりますから」ニコ
上条「友情、ねぇ」
黒子「さぁさぁ、突っ立ってないで、手洗いとうがいをしてきてくださいな」パンパン
上条「お、おう」
上条「うま。この里芋の煮っ転がし」パクパク
黒子「お褒めに預かり恐縮ですの」モグモグ
上条「黒子はいい嫁さんになれるな。面倒見良いし。あ、醤油とって」
黒子「はいどうぞ。だといいんですけれどね」シレ
上条「……お前って、衒いとか滅多に見せないよなー」パシッ
黒子「だからこそ、ギャップに萌えられるでしょう?」クス
上条「……そういう返しとか、つくづく感心するよ」ズズ
黒子「あっ、今夜泊めてくださいません?」
上条「ぶふっ! ……げほっ!」
黒子「なるほど、上条さんはまだまだ修行が足りなそうですわね。はい、タオル」スッ
上条「純真な男心をもてあそぶな!」フキフキ
黒子「それこそ、無意識か意識かの違いではありませんの?」
上条「……何の話だ?」
黒子「にぶちんは罪悪、というお話ですの」ンベー ――end
一日で書き逃げするつもりでしたがどうしてもこれだけ
支援保守感謝でした!ゞ
._人人人人人人人人人人人人人 _ / .ト、| : l/Ⅳ-|イ{: :/`トリ ミ: : i: |
.'> さすがの私たちもこれは引くわ < {: :lヽ|:! :!ィア行 ∨ ィ行ト }: :!:|V
,. ''"´ ̄`フ三三} /:.:  ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄ .'; :V八_{ 弋)ソ 弋.ソ ハ:.N
/: : : :,.-‐ァ゙三=/ /:.:/ : /: /: : /´^`|: : :.:.:.|: : : : ∨ } :( ∧ ' , )!
/: : : :/: : : 厶三=} : j: ∧-A、ハ: :/ |:.:.ノ:.:ノ: : :.:.:.卜、 / : : ーヘ t‐一ァ 厶i:│
.: : : :/ : : :ィ: !: :.`T´: :.:∧!,.ムL_{ヽ!_{, !:イ/}: : :.: : :|: : ヽ /イ :! : V 个 、 ー イ.:/|八
{ : : : :.://: :|: : :.:j: : :.:.| 〃ん:ハヽ `フフ⌒メリ:.:.j:.:.:/: : : :.', |八 : :{ : !:.:r}>‐ 'l∨L{_リ }}ヽ
∧: :.:l/ /: :.ノ : : イ⌒ヾ! 弋:ツ だヌ^V/:.:/:.:/:.:.:r 、: | -, ∨ \{⌒{  ̄>rく } 「 }\
./ : ',: :{ {:/: /八 い ^¨ 弋ツ 厶イ/!: : :| |: ! / / _ / ∨ {_/ 孑 ∨ Ⅵ ヽ
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: :.レ} : : Y: :./!:.:j ト i^>- /イハ::_:./ l:j ゞ゜.//./ 〉 (\ ヽ\ Y゙i _, ||/ //)
. 〉: :く!: : :.ノ: //: / 厂フ \ ヽ、 .ン イ 八 ヽ// (_,.'´ ノ∧ __ヽ`ー ∨/ ( ヽ/ `∠-っ
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. 〉'´:xく / \ | ), / \_ 八 : l//: : 〉 `ヽ / レ个ー-、 _ノ 人_ _x-r┬ '
./::/\: | {:. ヽ | / ノ^i ヽ  ゙̄V: :/{:.: : /∧ ./ \| /`ー / / ∧ \∨.
あ
黒子「それで、今夜は泊めてくださいますの?」
上条「……冗談だろ!?」アセ
黒子「乙女はこのような冗談を言ったりはしませんのよ?」スッ
上条「!?」
黒子「着替えもちゃんともってきてますの」
黒子「少々汗をかいてしまったのでシャワーをお借りしますわよ…?」
上条「ちょっとまて!なんで泊まる方向で話しが進んでるんだよ!」
俺禁書読んだことねぇや
このSSまとめへのコメント
続編じゃなくてもいいので、新作お待ちしてます
禁書読まないでここまで書けるのかよwすご