姫川友紀「言葉のキャッチボール」(33)
―事務所―
P「ただいま~っと」
友紀「おかえり~」
P「あれ、お前一人か?」
友紀「ん~…皆お仕事から帰ってきてないね。ちひろさんもさっき出ていったよ」
P「そうか…あー疲れた…」ガタッ
友紀「今日は何処に行ってきたの?」
P「○○局と△△局の番組打ち合わせ。あと新しいCMの企画会議と録り終わったCM企業に挨拶回りして…あ、友紀は今度ユニットでバラエティ番組な」
友紀「りょーかーい…相変わらず多忙だね、プロデューサー」
P「皆が頑張るためにはまず俺が頑張らなきゃな。この仕事も慣れると中々やりがいを感じるってもんさ」
友紀「ふ~ん…ん?プロデューサー、なに持ってるのそれ」
P「あぁ、そうだった。この間スポーツ用品店のCM出ただろ?」
友紀「先月撮ったあれ?」
P「そうそう。それで企業の方からお礼で友紀に渡してくれってさ」ガサガサ
友紀「お~!なんだろ?」ワクワク
P「ほれ」ヒョイ
友紀「…グローブだ!うわ、これ高くていいやつだよ!」
P「俺は詳しくないから分からんが…そうなのか?」
友紀「わーい!ありがとう!プロデューサー!」
P「俺じゃないんだけどな…先方に伝えとくよ。…このボトルも一緒に入ってたんだが」
友紀「すごい!オイルまで付いてる!」
P「あぁ!グローブ用のオイルか!…ほれ、これも持っとけ」
友紀「いいの?!」
P「良いも何もお前宛のプレゼントだよ。大切に使うんだぞ?」
友紀「うん!…早速お手入れしてこよー!」タタタ…
P「…友紀もアイドルとして立派になったって事だな…さて、書類でも片付けるか」
―しばらくして―
友紀「~♪」キュッキュッ
P「おう、やってるな。どうだ?使い心地は」
友紀「まだボールを受けてないからなんとも言えないかな~?」
P「ふむ…」
友紀「そうだ!キャッチボールしない?プロデューサー」
P「しかしグローブが一つしか…まてよ」
―物品倉庫―
P「あ…あるか~?」フラフラ
友紀「なーし!次は右の棚~!」ゴソゴソ
P「確か昔撮影で使ったグローブがあったと思うんだけどなぁ…ってかなんで俺が肩車してんだよ…!」フラフラ
友紀「だって脚立が見当たらないんだもん。椅子じゃ届かないし」ゴソゴソ
P「お、重いんだが…」
友紀「む?!し、失礼な事言うなー!…それよりプロデューサー、もっと右だって!右!」グイグイ
P「お、おいおい!絞まってる!グエッ!足を閉じるな馬鹿!」バシバシ!
友紀「きゃあ?!どこ触ってんのさプロデューサー!タッチアウトー!てかそこに触るのは、アウトー!」ジタバタ!
P「暴れんな!うぉぉぉ!?」グラグラ…
ドシーーーン! ドサドサドサ…
友紀「あててて…プロデューサー?」
P「」
友紀「ぷ、プロデューサーがアタシの下敷きになって死んじゃった…!」
P「勝手に殺すな…」ムクッ
友紀「うわ!生き返った!」
P「そもそも死んでねーよ!…ゲホッ、ゲホッ!それにしてもすごい埃だな」
友紀「懐かしいね~これ、あ!こんなのもあったな~!」ヒョイヒョイ
P「使ったきりずっと仕舞ってたからなぁ」ゴソゴソ
友紀「う~ん…お?!」ゴソゴソ
P「?」
友紀「じゃじゃーん!あったー♪」
P「おぉ、それだそれ…また随分くたびれてんなぁ」
友紀「このくらいなら大丈夫だって!お手入れして早速キャッチボールだ!」
P「その前にちゃんと片付けてからな」
友紀「…は~い」
―河川敷―
P「よ~し、ここならいいだろ」
友紀「ん~!風が気持ちいいね!」ノビー…
P「だいぶすごしやすくなってきたな…夏も終りか」
友紀「まだまだ今からお仕事は忙しくなるけどね~」
P「…そうだな。頑張ってくれよ?」
友紀「勿論!じゃあアタシから行くよ~!」ブンブン!
P「おーう!バッチコーイ!」
友紀「それ!」ビシュッ!
ギュィィィン!
P「おっと!」バシッ!
P「…キャッチボールだぞ?そんなマジで投げなくても良いじゃないか」ポーイ
友紀「いや~、久しぶりだから力加減が難しくてさ~」パシッ!
友紀「ほい!」ポーン
P「よし!そんな感じだ」パシッ!
P「そら!」ビシュッ!
友紀「おぉ!?プロデューサーこそ結構本気の球じゃん!」スパンッ!
P「…力加減って難しいもんだな」
―数十分後―
友紀「うーん!流石良いグローブだね!」ビシュッ!
P「ほう、やっぱ分かるもんなのか」スパンッ!
友紀「アタシの持ってたやつも結構良いと思ってたんだけどなぁ。やっぱりすごいね」
P「友紀のグローブ…って始球式で使ってたアレか」ビシュッ!
友紀「そうそう。…始球式か、懐かしいなぁ」スパンッ!
P「本気で投げるなって言うのに投げたよなお前」
友紀「…よく覚えてるね、プロデューサー」
P「大事なアイドルの晴れ舞台だぞ?当たり前だろ」
友紀「え?!だ、大事?!」スポーン!
ヒューン…
P「うわ!どこに投げてんだお前!」タタタ!
友紀「ご、ごめーん!…大事か…へへへ!」ニコニコ
P「あぶねー…川に飛び込むとこだった…なに笑ってんだ?」
友紀「なんでもな~い!…さぁバッチコーイ!」
―さらに数十分後―
友紀「~♪」シュッ!
P「…」バシッ!…シュッ!
友紀「…プロデューサー!」スパンッ!
P「ん?」
友紀「…アタシと初めて合った時のこと、覚えてる?」ビシュッ!
P「おう、勿論」スパンッ!
P「球場前でエラくノリノリだっただろお前」ビシュッ!
友紀「キャッツが大勝した後だったからね~。そりゃノリノリだよ!」スパンッ!
友紀「アタシがキャッツ!キャッツ!って歌ってた時プロデューサー何て言ったっけ?」
P「オー!オー!」フリフリ
友紀「…ブフッ!」
P「なんだよ、好印象かつ掴みバッチリだろ?」
友紀「最初危ない人かと思ったよ」ビシュ!
P「…」スパーン!
友紀「…アタシさ」
P「あん?」ピタッ!
友紀「あの時…ずっと迷ってたんだ」
P「迷ってた?」
友紀「宮崎からこっちに来て…学校を卒業したらどうしよう、とか」
P「…」
友紀「キャッツを生で観れるのは嬉しいけど、ココでのアタシって本当にそれだけだったんだ」
友紀「だから…卒業したら宮崎に帰っちゃおうかなって」
P「…そうは見えなかったけどな?」
友紀「キャッツの試合を観てたら元気になるし、その時だけは不安も忘れられたんだよね」
友紀「いつもの生活に戻って…進路とか考えてみるけど、でも全然思いつかなくて…結構辛かったよ。ハハハ…」
友紀「だからプロデューサーに声掛けられた時、ちょっと胡散臭かったけどこの人について行ってみようかなって思ったんだ」
P「胡散臭いは余計だ」
友紀「ははは、ゴメンゴメン!…でも今は信じてよかった、って思ってるよ!流石敏腕プロデューサーだね!」
P「俺の力じゃないさ」
友紀「?」
P「俺がお前をスカウトしたが…観客席のアイドルが日本中みんな知ってるアイドルになれたのは…お前の力だ」
友紀「プロデューサー…」
P「俺が友紀をプロデュースして、友紀の力でみんなを盛り上げる!…きっとそんなアイドルになってくれると思ってスカウトしたんだよ」
友紀「それじゃあアタシだけの力でもないよ」
P「ん?」
友紀「プロデューサーがいて、アタシもいて!それでアイドル姫川友紀って事だね!」
P「…そうだな!こういうの野球でなんて言うんだっけ?」
友紀「…は?野球?」
P「ちょっとまて…ここまで出てるんだ…えーっと、ピッチャーとキャッチャーの」
友紀(バッテリーの事かな?)
P「…夫婦?だっけ」
友紀「…うぇぇぇ?!///」
P「そうそう!確か夫婦!だよな友紀?」
友紀「た、確かにそうなんだけど…」
P「じゃあ俺が旦那でお前が女房ってことか…ふむふむ」
友紀「にょ、女房…」
P「なに恥ずかしがってんだ、お前と俺の仲じゃないか」
友紀「プロデューサーこそ何の恥ずかしげもなく言えたもんだね!!」
P「え…あ、あぁ!いや!そういう意味ではなくてだな…悪い気はしないが…」
友紀「い、今悪くないって…」
ピピピピピピ!
友紀「?!」ビクッ!
P「うわ?!…電話か」ピッ
P「はいPです」
ちひろ『プロデューサーさん!今どちらですか?』
P「えーっと…近所の河川敷に」
ちひろ『今LIVE会場から連絡があって…』
P「今日のLIVEにウチのアイドルの出演はなかったはずですけど…」
ちひろ『欠員が出てしまったので急遽代役を頼めないか、と』
P「えぇ?!そんな急に…今現場に出てる娘を向かわせましょうか?」
ちひろ『こちらで連絡を回したんですが…全員抜けられそうにないみたいで…一人で十分とは言われたのですが』
P「一人…」チラッ
友紀「…女房だって…うひゃぁ///」モジモジ
P「とっておきを連れてくるって伝えておいてください」
ちひろ『…わかりました!バッチリ売り込んでおきますからね!』
P「それじゃあ、一回事務所に戻りますので…」ピッ
P「友紀!」ポーイ…
友紀「え///な、なに?!」パシッ!
P「今からLIVE、行けるか?」
友紀「…今からぁ?!」
P「おう」
友紀「…よ~し!」ビシュッ!
ギュゥゥゥゥン!
P「…」スパァァン!
P「…いって~」
友紀「LIVEしようよっ、今のあたし、気合が全力マックスなんだっ!」
P「うっし!じゃあ時間も少ないから事務所に戻りながら打ち合わせだ」
友紀「おっけー!完全試合達成しちゃおう!」
おわり
終わりです。ありがとうございました
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