ネリー「ああ・・・・・・それにしても金が欲しいっ・・・・・・・」 (50)


Roof-top 東京支店

ネリー「ツモ!6000、3000の1本付け!」

ダヴァン「オーマイガッ!またネリーのトップでスか」

ネリー「おつかれさんさんサンコロリ~ゴキブリコロリにキンチョール~」

咲「チッ……」

久「強いわね~その捨て牌でその形に持ってくって」

ネリー「サキは親っかぶりご苦労様ネリ~はい、精算精算、とっとと精算」

久「はいはい」札束ドサドサ

咲「……」ドサドサ

ダヴァン「……」ドサドサ

ネリー「ユキチさん10人組が~うわわっ!こ~んなに!」


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ネリー「じゃあ次の半荘行くよ~サイコロはトップの私が廻してぇ~」

ダヴァン「ネリーストーップ!」

ネリー「流れを止めるなメガン・ダヴァン」

ダヴァン「そうは言ってもでスネ……そろそろバッグが寂しくなって来まシタ、私も」

ダヴァン「ここはレートでも下げてクールダウンと洒落込みませンカ?そもそもの目的が親善でスシ」

久「私も賛成。正直こんな勝負するつもりでもなかったし、手持ちが少ないのよねえ」

ネリー「ええ~?ねえ、サキはどうなの?」

咲「……」

ネリー「一番負けてる人が決めていいよ」

ダヴァン「ネリー!」

咲「……じゃあレート、上げますか」ゴッ

ネリー「お?」

久「私はパス。やってられないわよぉ」

ダヴァン「右に同じ。英語で言えばMe tooデス!」

ネリー「じゃあレートは下げて差し馬、握っちゃう?2本?3本?」

咲「3本で満足できるなら」


久(遊びのつもりがやけに真剣ねえ。これまでの手抜きはこの布石とすれば、これは面白い勝負に立ち会えそうね♪あの夏の大将戦のリターンマッチってところかしら)

ダヴァン「ワォ、これは流石にネリーも震えるレートでスネ!」

ネリー「別にいいけどお金あるの?サキ?もうそのバック、大分萎んでるけど」

咲「うん。そろそろ来るから」

ガチャ

一「どーも、咲ちゃん、頼まれたモノ持ってきたよ」ドカッ

咲「タイミングバッチリだよ、ありがとう一ちゃん」

久「あら?これまた随分と重そうなアタッシュケースねえ」

ダヴァン(宮永咲は元々狩る気マンマンって訳でスカ……わざと負けてレートの釣り上げ……流石は清澄の嶺上使い)

ネリー「ゾクッ」

久(この時、私はネリーがこの日初めて震えたのを見逃さなかった)

久(咲は顔を俯きながら不敵に微笑み、対面のネリー・ヴィルサラーゼという人間を見つめていた)


咲「差し馬3本から。連続トップで倍掛けでどうかな?ネリーちゃん?」

ダヴァン「ネリー。慎重に考えるべきデス!あなたは知らない。知らないのデス……宮永咲の強さの底を。あの夏とはもう違……」

ダヴァン(そこで私は口を閉じた。宮永咲は私よりも、ネリーという人間の事を知っている。)

ダヴァン(もうネリーは机の上に置かれたぎっちり金の詰まったあのアタッシュケースしか見ていない)

ネリー「い、いいんだね、サキ……」

咲「うん」

ダヴァン(事実上の青天井。連続トップが続けば3本、6本、12本、24本……私はふと、サトハの顔が浮かびました。このレートはもう遊びじゃない。殺し合いでスネ)

久「何半荘やるつもり?面白そうだし、私は何時まででも付き合うけど」

ネリー「そんなの決まってるじゃんヒサ!」

ネリー「勝ったほうが許すまでだよ」


~~~~~

一(夜が明けて、陽が南に昇る頃……勝敗は決した)

一(ボクの仕事は咲ちゃんのお金を運ぶだけだ)

久「ふああ~~」

一(竹井さんの生欠伸が試合終了の合図だったのかもしれない)

一(付き合ってずっと打っていた2人は気だるそうに目を擦っていたけど)

一(咲ちゃんもネリーちゃんも、目が血走っていた)

ネリー「もうないの、サキ」

咲「……」

一(でも咲ちゃんの顔は真っ青になっていた。死人みたいに)

一(ボクだって信じられない。咲ちゃんは、今までこの手の勝負に勝ち続けてきた。それにあの衣にだって勝ったんだ。)


ネリー「もう、ないの?サキィ?」

一(宮永咲の器の底までしゃぶりつくし、それでもなお、彼女は目を皿にしてまだ搾り取ろうとする」

咲「あ、あああっ……」

一(最初は咲ちゃんが優勢だった。2連続トップでネリーちゃんのそれまでの勝ち金を全て吐き出させて、彼女に迫った)

一(お金をもっと持って来い、と。自分は止めるつもりはない、と。)

咲「ぶ、ぶちょ、お金……か、かして……」

久「無理よ。私にだって生活、あるし」

一(その時ネリーちゃんは言った。もうここから負けるつもりはない、と。1本につき指一本落としてやる、と)

一(咲ちゃんはその提案を受けた。そしてまだネリーちゃんの指は全部くっついている)


ダヴァン「足りない分は、指、でしタカ?」

久「そーねぇ……20本プラス何本かしら?……でも、そんなことするより咲に稼がせた方が得よ?一応女の子なんだし」

咲「いやっ……部長……」

ネリー「もうないの?ふーん……でもいいよ!トップの私がサイコロ廻すね!」

久「ひゃー……そんなのありかしら?もう払うモノ、ないのよ?」

ダヴァン「でもやめの決めは勝者が決める……この勝者というのは、この半荘の収支が上回った方ということでいいのでスカ?」

咲「あっ」

一(咲ちゃんは何かを察したように固まった)

一(トップを取るまで下りることすら許されないということ。ここから負債も青天井に膨らまされる)

久「咲、頑張ってトップとってよ……もう私、眠いんだから……」

ダヴァン「右に同じデス!」


一(それから何半荘か廻して、咲ちゃんの本気の泣きが入ってネリーちゃんが眠たいとあくびをしてその長い一日は終わったんだ)

一(咲ちゃんのその後?さあ?ボクはただお金を運んだだけだからね……)


ダヴァン「それじゃあラーメン、ゴチになりマス!オヤジ!チャーシュー大盛り、煮玉子トッピングで!」

ネリー「ダバン!誰も奢るとは言ってないよ!」

ダヴァン「Why?でもワタシの協力がなければアナタ、宮永咲に勝てまシタか?」

ネリー「協力?そんなの誰も頼んでないよ。私は醤油ラーメンね」

ラーメン屋のオヤジ「あいよ!」

ダヴァン「Oh~そういうの、日本だと親の心子知らずと、言うのでスよね?デュエルも仕掛けず中立に徹したんでスから、この私が」

ネリー「それを言うならありがた迷惑。ネリーは別にダヴァンとヒサがサキに肩入れしていても勝ってたよ!」


ダヴァン「言いますネ……相変わらずこのクソガキは……まあいいでス!面白いモノ、見れましたから」

ネリー「ああいうの、金にならないから興味ないんだけど」

ダヴァン「いいじゃないでスカ!宮永咲は間違いなく強者でした……レートを釣り上げるときのあの自信に満ちた眼差し。ワクワクとしまシタよ」

ダヴァン「ひょっとしてコイツなら、ネリーをヤっちゃってくれるんじゃないかって」

ダヴァン「正直、見たかったのはネリーの敗北だったんでスけど、まあ次点で満足しまショウ」

ネリー「で、サキからお金は回収できそうなの?」

ダヴァン「それはディフィカルティックデース!人生100周させてお風呂で働かせてビデオに出してもムリな額まで辞めないアナタが悪い!」

ネリー「はあ……やっぱり無駄な時間だったね……最後の半荘は」

ダヴァン「でもモーマンタイでス!宮永咲のお姉さんはあの宮永照ですし、三親等内の御家族はもちろん、小学校時代同じクラスだった人まで挨拶回りさせてお金、集めてみせまス!」

ネリー「ダヴァン大好きだよ!!」キラキラ

ダヴァン「明日から忙しくなりまスよ、咲も私も」

ラーメン屋のオヤジ「ラーメン二丁、お待たせ!」ドカッ

ダヴァン「だから食べましょう、ネリー! お腹一杯になるまで」

~~~


ネリー α1/3

ネリー(ダヴァンは馬鹿みたいに美味しそうに麺を啜っている)

ネリー(半分ほど食べて、私は箸を置いた)

ダヴァン「もうお腹一杯ですか?ネリー?そんなんだから育たないんですよ」

ネリー「ダヴァンだって胸にも尻にも脂肪いってないじゃん」

ダヴァン「スタイリッシュと言って下サイ。この体型維持するのに気を使ってるんでスヨ!」

ネリー「まああれだけ食べて太らないのは凄いよ……」

ネリー(でもホントはお腹、ペコペコ)


ネリー(ダヴァンが自宅までお金を運ぶのを手伝ってくれた)

ネリー(有価証券だの、土地の権利書だの、薄っぺらい紙は色々あるけど)

ネリー(現金はずっしり)

ネリー「キョロキョロ」

ネリー「誰も……見ていないよね……」

オイルの臭いが香る。たまらない、金の香り。

食べても、食べても収まらないこの空腹も。

これだけ稼げば少しは満たされるかなあ?

~~


ネリー α 2/3 へ 続く


鉄と火薬の味がした。

ネリーはサカルトヴェロの故郷をふと思い出した。

撃鉄が起きた拳銃をずっぽり口に咥え、トリガーを落とす。

六分の一だ。それはサカルトヴェロで産まれた子供がネリーの年まで生きるのと大体同じ確率だ。

ざ、ざざ……ざざざ……


ば、ば、ばばばばばばば……ばば……

ネリー「こんな早く次の勝負が出来るなんて思っていなかったよ」

ダヴァン「ええ、まあ……ネリーがいいのでしたら、私は紹介するだけでス」

ネリー「ところでサキのお金は?」

ダヴァン「この勝負がつくまでお預けという決めになっていマス……咲も運がいい。原村和と友人で」

ネリー「原村」ピクッ

ダヴァン「私が闘(デュエル)った相手の中でも五指に入る決闘者でスネ」

ネリー「ダヴァンより強い?」

ダヴァン「you’re kidding!」

ネリー「弱点!教えてよ!闘った事あるならさあ」

ダヴァン「教えまセーン、自分で考えなさい」

ネリー「ちぇ、ケチ」

ダヴァン「そろそろ付きますよ、ほら、見えてきまシタ」

2人が乗るヘリコプターは太平洋沖の公海上に浮かぶ船を照らした。

ネリーは慣れている。この手の勝負は海の上……何せ後処理がとっても楽だから。


船は古い軍艦を改装したモノらしかった。船内へのドアーのプレートに彫られたキリル文字でネリーは、この船がロシアの払下げの旧式巡洋艦であるとわかった。

船内は馬鹿に静かだ。船の一番奥の貴賓室に通されると、先に相手が待っていた。

ネリー「おヒキのあれ誰?」

ダヴァン「アコ・アタラシ。アマチュアですが、中々の打ち手らしいデス!ハラムラとは幼馴染で、親友とのコトでス!」

ネリー「ふーん、じゃあ1対2?」

ダヴァン「That’s right!でも今回のルールはおヒキはリーチ禁止。どうやらワタシのデュエルを警戒してアタラシが提案してきまシタ!」


和「原村和です。よろしく。」

ネリー「よろしくーサキの友達だって?」

和「はい」

憧「ルールは前の決めたでいいのよね?」

ダヴァン「イエス!Good jobでシタ、ミス・アタラシ」



ネリー「で、お金は?」キョロキョロ

ハラムラが指でトントンとテーブルを叩くと、後ろの扉が開き、札束の山が台車で運ばれてきた。

和「咲さんが負けた分だけ用意しました」

ネリー「ゴクッ」

生唾を飲む音が、部屋に響いた。なんて下品なんだ!そういいたげにダヴァンはネリーを小突いた。

ネリー「足りるの?」

憧「は?」

ネリー「あのレートだったら6半荘で溶けちゃうよ?」

ネリー「もっと、もっと用意できなかったの?ねえ?」

ダヴァン「すみまセン、こいつ育ちが悪いモンで!こら、ネリー、謝りなサイ!ハラムラが自分の身を担保に用意したお金でスヨ!」

ネリー「担保?」


ダヴァン「ハラムラはこの勝負が終わった後に、お金を返すことができなけレバ……Ah……」

ダヴァン「この船の行き先は……マラッカ海峡の向こう側デス……普通の人が一生汗水垂らして働いてようやく稼げるお金の何倍もを一晩で用意スるにはソレしかなかったのでス」

ダヴァン「中東の富豪に渡りを付けたのはそう、ワタシ……罪深い事をしてシマッタ……負けたら奴隷デス」

ダヴァン「でもこれだけのお金を用意できるのは普通じゃあない……貧相なネリーじゃこの一万分の一が関の山でショウ……」

ダヴァン「やはりハラムラ・ノドカという商品価値に見合った額……ではいいですか、ハラムラ。お金が尽きる前に勝負を決めテ下さい……さもなくば奴隷……己の存在を全て奉仕に尽くすだけの人生が待っていマスよ?」

和「咲さんが受けた屈辱を晴らす事が出来るのであれば……些末なリスクです」

憧「この勝負、普通にやったら和の勝ちだしね。いいの?そっちは……その小道具のリスクについてはさ」

赤い拳銃と黒い拳銃。回転式の芝居がかった小道具がネリーの机の上に置いてあった。

憧「満貫振込毎に黒い拳銃、一半荘精算で、和が上を行けば赤い拳銃で……ロシアンルーレットって」

憧「正気の沙汰じゃあないわ」

憧「[ピーーー]ば勝ち分はなし。和は金が尽きる前にアンタを殺せば勝ち」

和「殺さずに済むならそうします。でも、それは咲さんたっての希望でもありますから……すみません」

ダヴァン「ネリ~?あの赤い拳銃はマズイですよ!あれは流石のワタシも引きたくナイ」

ネリー「振り込まなければどうという事はないよ。さあ、卓について。始めよう」



原村はお澄まし顔で対面についた。ネリーはその背に積み上げられた札束を見つめる。

頭が、クラクラする。お腹がぐ~っと鳴った。もう、我慢できそうにない。

あの金が自分のモノになった時の事を想像すると……

ダヴァン「ネリー!ネリー!」

ネリー「?」

和「ロンです。聞こえませんでしたか?ロンです。親の40符4翻は12000。」

ネリー「えっ?」キョトン

憧「東発から親満振込とか豪気だね~心、ここに在らずだったけど大丈夫?緊張しているじゃあないでしょうね、まさか」

ダヴァン「Oh~My GOD!!さあ、拳銃を取りなサイ、ネリー。実弾はたった六分の一デース!」

ネリー「う、うん……」カチャッ

ダヴァン「ネリ……」

憧「うおっ」

ガチャンと撃鉄が落ちて、時間が少しだけ止まった。

皆、絶句していた。

ダヴァン「WHAT!?WHY!?ネリー、ソレは赤……!?」

憧(ただのイカレ野郎じゃない!黒じゃなくて赤をいきなり手にとって、こめかみに当てて引き金を引くなんてっ!赤は黒の逆!実弾は五発……)

ネリー「えっ!?あっ、赤……」カタカタ

助かった後に、這い回るような震えがネリーを襲った。お金の香気にやられて、意識が飛んでいたんだ。

ダヴァン「オーノー……完全に上の空……金しか見ていないからこーなるんでス……ネリー、アナタ死んでましタよ?」


4半荘廻してわかった事がある。

原村和は決して、ぶれない、曲げられない。

ネリーの経験上、己の分を超えた額で打つ場合、人は震えるもの。それが麻雀に僅かな歪みを産む。それが食い時なのだ。

原村は変わらない。すでに己の元のも言えない金が半分を切った時でも、まるで興味がないという風に打ち続ける。

雀力と能力で勝るネリーに負けはない。すでに勝利のための代償は払った。

ダヴァン(ネリーの能力の引き金はヤハリ……)

和「ツモ。1000-500」

ダヴァン(ハラムラ?その手なら手替わりを待ってネリー直撃を狙いマスよ、ワタシなら……マンガン振込でとっとと殺すのが最善手)

ダヴァン(アコ・アタラシも……訝しんでマス)


和(恐怖とは何か)

和(何かを失うことである)

和(6回戦。ここを凌げなければ私は負ける。これまで何度か和了はありますが、相手を殺すに至っていません)

和(赤土先生。私は間違っていませんよね?常に最善手、期待値を最大に高める私の打法)

和(麻雀とはかくあるべき。これが私の人生)

和(不運にも今日、この時私は裏目というものを引き続けている。期待値が低い方へ低い方へ)

和(1000半荘打ってばこういう事はままあります)

和(だから取り立てて不運を嘆くべきではない)

和(憧。そんな顔、しないで下さい。私だって分っていますよ。この世は決して確率で割り切れぬということくらい)

和(例えばこの手。役無しドラ3。7巡目。先制リーチです。ですが、今日はそれで何度も振り込んでいる)

和(この時、例えば今日はついていないからリーチは止めるか、と判断する)

和(その結果、上手く行くこともある。当然です。ですが、その確率より、リーチをして和了を目指すほうが期待値は高いんです。この点差ならそれがデジタル)

和(それを一時の感情だとか、予感だとかで曲げてしまったら……それはもう私じゃあない)

和(理解して下さい、憧。その結果負けようが……私に後悔はありません)

和「リーチ」


ダヴァン(Oh-My-GOD!なんというセンスのなさ!ネリーの流れを全く読まず、見えているものだけを追い求める)

ダヴァン(死んで当然、そんな鴨は)チラッ

ダヴァン(ハラムラの打ち方は1万半荘打てば確かに強いのかも知れナイ。ですが勝負は1回こっきり。命を賭ける勝負に期待値など)

ネリー「ふーん。怖くないんだ、原村は」

和「何がですか?」

ネリー「首の皮一枚になったってのにまたリーチ?またネリーに振り込むよ?新子も言ってやりなよ」

憧「私は和を信じるだけ。それが仕事だから」

ネリー「ふーん。じゃあネリーもリーチかけよっかな。予言するよ。原村は一発でネリーの当たり牌を引く」

ネリーには運命が見える。だから怖くない。原村は怖くないの?何も見えないのに。



和「ロン」

和「12000」

和(恐怖がないはずありません。暗闇の中の道を手探りで進むんですから。あなたや……咲さんと違って)

和(でもだからこそ麻雀は面白い。私はそう考えます)

憧「いよっしゃあッ!」

ネリーは言葉を失った。人は予想を超えてくる。この国で一番強い奴が昔言っていた言葉をふと思い出した。

和「ふゥ」

ダヴァン「ネリー。ワタシにもわかりマス。流れは変わりまシタね?」

和(ようやく和了れましたか)

憧「さあてお待ちかねのロシアンルーレット……死ねッ!死ねッ!死ねッ!」

運命はこのままネリーの勝ちだったのに。曲げない強い心が未来を変えた。

拳銃を手に取りネリーはそれを静かに咥えた。死ぬ時は死ぬ。この運命だけはネリーに見えない。


ざ……ざざざ……


ネリー「ふひゃっ!」ビクッ

ネリー「んっんっあ~~~っ」スリスリ

ネリー「ししはらぁ~もっとぉ~~」スリスリ

爽「ぐちょ濡れじゃん」クチュクチュ

爽「なんか嫌なことあったの?」

ネリー「んっ……はうっ」ビビクン

爽「んー…ここかな」キュッキュ

ネリー「うっ……イクっイクから……そこでもっとぉ!」


勝負の後、気持ちが昂ぶってしょうがない時は獅子原のところを訪ねる。

一晩で何度も何度も絶頂させられて、次の日の朝には声が枯れてしまうほど。

獅子原のアレは相当ヤバイ。

爽「30回くらいは飛ばしたかな。数えるのも面倒くさいけど」

ネリー「いやぁ……今日のは凄かったよ。ネリー途中で記憶ないもん」

爽「今年のパウチは10年に1度の出来栄えだから」

ネリー「全部予約するよ!次いつ入荷?」

爽「来週帰省するからそこで……って、他のお客さんにも人気なんだよね」ポリポリ

爽「結構太客も掴めてきたし、ネリーだけって訳には」

ネリー「ねえ獅子原。ネリーそんな駆け引き求めてないよ。とりあえずいくら欲しいの?」

爽「これだけ」電卓パチパチ

ネリー「ええっ!ボッタクリだよ!ぼったくり!いくらなんでもそんなに払ってたらネリー毎日一食もやしだけの生活になるよ」

爽「とはいってもね、お客さん。パウチ探すの結構大変なんだぞー他に宛があるならいいけどさあ」

ネリー「チッ……ふひゃっ!ちょっと、ちょっと、獅子原!今使うなっ……!」

爽「ベッドの中でゆっくり答え聞かせてちょ~だい」

ネリー「ああっ~~やめろっ!ん~~」


ネリー「結局、獅子原の言い値で契約させられちゃったよ……はあぁ……せっかく沢山勝ったのに」

ダヴァン「どうしたんでスカ?ネリー、珍しく元気がナイ」

ネリー「ネリーだってアンニュイな事あるよ。お財布が寂しいときとか」

ダヴァン「あれだけ勝ってまだ足りないトハ……何に使ってるんでス?」

ネリー「秘密だよ。それはそうとダヴァン、咲から金、回収できた?」

ダヴァン「それが……なんという友人の少なさ!小中高の名簿に片っ端から電話かけさせマシタが、誰もまともに取り合いまセーン!」

ダヴァン「でも縛って蚯蚓の刑にしたら何と、男の名前、吐きまシタ!」

ダヴァン「金髪の中々のイケメンだったノデとりあえず貯金全部吐き出させて、今は風俗で働かせてマス。結構ハードなとこでスから月50くらい見込めマスよ。そしてこれが一時金です」

ネリー「ひい、ふう、みい、こんなに!?ダヴァン、大好き!」ギュッ

ダヴァン「ホーリーシット」


ネリー「ねー、でも男の風俗って何やるの?」

ダヴァン「男の穴が好きな殊勝な男もいるのデス!」

ネリー「へ~。でもその咲の男ってのも変わってるね。普通トンズラこいて終わりじゃん。別に結婚してる訳でもないのに」

ダヴァン「まあ色々脅しまシタし。咲も泣きながら頼み込んでまシタ。でも咲は幸せ者。あの男が咲を見捨てたら咲はもう五体満足ではいられません。流石に温厚なワタシもプッツンしマス。」

ネリー「でもたった50じゃ雀の涙だよ。頼みの綱の宮永照は?他の家族は?」

ダヴァン「チャンピオンは今外国にいるノデ連絡取れまセン!母親とは縁切り、父親は蒸発。ひどい家庭デスよ」

言うほどひどいかな?という言葉をネリーはグッとこらえた。

ここはサカルトヴェロじゃあない。幸せは相対評価だ。回りが家庭に恵まれていたら、サキはきっと不幸だったんだろう。

戦災孤児はそれが当たり前だから別にネリーは不幸じゃあなかったんだ。

本当の不幸は多分、ネリーが誰よりも麻雀が強かった、ということだ。


100ドル札束の風呂に使って、身体を油まみれにしたい。

東京の夜景を一番高いビルの天辺から見下ろしたい。

たくさんの使用人に囲まれて、何不自由ない生活をしたい。

道行く人が振り返るような真っ赤な外車を乗り回して、優越感に酔いしれたい

大人が汗水垂らして、叱られて怒鳴られて色々すり減らして1年間で稼ぐお金と同じ値段のワインを空けてベロベロになるまで飲みたい。


お金だ。お金、お金、お金……もっともっと……金が欲しい……


すこやん「今、幸せですか?」

ネリー「まあ、ね」モグモグ

すこやん「はー……ホント幸せそう。好きな事やってるって感じ?でもネリーちゃんは若いからいいんだよ。年取るとそうも言ってられないよ。親も老けちゃうし、時折孫の顔が見たかったねぇ、なんてぼやかれた日には……!」

すこやん「昔の友だちも皆結婚して、私に憐れみの眼差しを向けてくるわけ」

すこやん「ああ、もう駄目だな、と思ったのは、昔仲良かった女子アナさんから年齢と独身ネタで弄られなくなった時~」

すこやん「完全に逃しちゃったよ……幸せ。店員さ~ん、ビールもう一杯!」

すこやん「ネリーちゃん?聞いてる?ここ、私のおごりなんだからね、あ、グラス空いてるよ?ビールでいい?」

ネリー(ネリーはタダ飯タダ酒大好き。でも世の中にはタダほど高い酒はない、という諺もある)


すこやん「私だってさ!結婚しようと思えば出来た訳。でも、20代の時は忙しかったからな~女を磨く時間がなかったの。わかる?」

ネリー「うん、わかるよ」パクパク

すこやん「ネリーちゃんにはそうなって欲しくないよ……麻雀ばっかやってると男寄ってこないよ?」

ネリー「うん、うん」パクパクグビグビ

すこやん「今、お付き合いしている相手いるの?」

ネリー「いるいる」

すこやん「はい嘘頂きましたーいるわけないでしょ」

ネリー「決めつけるのはよくないと思うよ」サラダモグモグ

すこやん「だってネリーちゃんから男の香りがしないよ」

ネリー「うーん」

すこやん「幸せになれないよ、そんなんじゃ……はぁ……店員さん、ビール追加~」


すこやん「はぁ……同世代のプロで独りなの私だけになっちゃった……」

ネリー「瑞原は?」

すこやん「はやりちゃん?ああ、そんなのもいたね。でもあの子、牌のお姉さん辞めたらどっかの小金持ちとつがいになったよ。まだ籍は入れてないと思うけど。結局、牌のお姉さんなんてステータスだよ。男を寄せるための、ね」

ネリー「金持ち!?さっすが瑞原。ネリーも牌のお姉さんになるべきだったか」

すこやん「ムリムリ!色々と無理でしょ!」

ネリー「でもネリー、今の牌のお姉さんより多分麻雀強いよ?」

すこやん「カァー!分ってないなあ、今の若いのは……牌のお姉さんなんてインハイくらい出りゃ誰でもなれるんだよ、麻雀の実力で言えばね」

すこやん「確かにはやりちゃんはそこそこ打てたけどさあ、所詮腕はBクラスでしょ?」

ネリー「バストはKクラス?Lクラス?」

すこやん「そうそう!やっぱそこでしょ?私やネリーちゃんみたいなのには土台無理な話だよ」

ネリー「一括りにしないでほしいな。ネリーはまだ愛嬌があるよ……」

すこやん「はぁ……ホント幸せってなんだろ」

ネリー「ねえすこやん」

すこやん「なあに?」

ネリー「お金どれくらい稼いだの?今まで?」

すこやん「さあ?親孝行出来て生活は不自由してないけど」

ネリー「結局幸せなんだよ」


ダヴァン「ネリー?大分お疲れでスネ」

ネリー「は~結局4時過ぎまで付き合っちゃったよ」ヘロヘロ

ダヴァン「で?どうするんデス?ついにやっちゃううんでスカ?日本最強プロと……!」

ダヴァン「これは間違いなく血が滾る勝負にナル……!スラム街の守銭奴と、麻雀界の生ける伝説の世紀の一戦……!是非ワタシに立ち会わせて下サイ!」

ネリー「バーカ。誰がやるか!」

ダヴァン「Why?」

ネリー「金の臭い全然しなかったよ。別の人種だった。」

ダヴァン「そうでスカ。残念。所詮は表のプロでスカ」

ネリー(ずっと後ろに髑髏が視えたよ……あんなのとほぼノーギャラで闘り合うのはコスパ悪すぎ!)

ネリー「で?龍門渕とのマッチは?」

ダヴァン「Oh、そっちが本命でシタ!中々コネクション作りに苦労しまシタが……何とか足掛かりはつかみまシタ!」

ダヴァン「もう少しで朗報を。でもその前にサキの件を片つけまスカ?」


サトハの組が持つマンションの一室でサキは飼われているらしい。

勝負の後、彼女に合うのは初めてだった。

立ち会う前は私たちは対等な立場。学生の頃、熱い勝負をした仲もあり、どこか同じ臭いがするサキに親近感すら持っていた。

でも、サキは負けた。実力は拮抗していたけど、あの日はネリーの日だ。2ヶ月近くかけて、あの卓で最大の波が来るよう念入りに準備していたネリーに無策で挑んだサキが負けた。

ポロポロ涙を零し、牌を握る手は震え、勝負師としての矜持をすっかり失っている彼女にネリーはかける言葉を見つけられなかった。

だから勝負が決して、サキが払いきれない負債を背負った後もネリーは勝負を止めようと言えなかった。

そのサキが突然席を立って、床に頭を擦り付け、もう勘弁して下さいと懇願した時も。ネリーは止める気はなかった。


サキはあの場で死ぬべきだった。ネリーならそうする。

しばらくの沈黙の後、ヒサがサキに助け舟を出した。自分が逆の立場ならどうしたら許すか考えるべき、と。そう言ってヒサは懐から短刀を出して卓の上に置いたんだ。

それを一瞥したサキは震えながら、ネリーの足元に寄ってきて、靴を舐め始めた。

「なんでもします、もう勝負を終わらせて下さい。一生かけてお金は返します」

ヒサもダヴァンも、ギャラリーも皆声を失っていた。

宮永咲はそこまでするのか。

ネリーが憮然とした顔をしていると、サキは何を思ったか、服を脱ぎ始めた。

裸でまた床に頭を擦り付けて、先程の口上を述べた。

ヒサはそこで爆笑した。サキがいつも敗者にやらせている事、らしかった。

そこでダヴァンが、サキの全てを金に変えるための方法を幾つか提示して、ネリーはそこで勝負を止めた。


咲「ひっ」

ダヴァンと一緒にサキの部屋を訪れると、彼女は小動物のように震えていた。

ダヴァン「あなたの債務者でスヨ。返済は未だ3合目。返済の期限は?」

咲「あ、あぅ」

ネリー「たしか半年だよね?もう結構たってるよ。それにさあ、サキ。原村とこの前勝負したけど」

咲「……」ギュッ

サキの顔が歪んだ。

ネリー「サキはネリーの事を殺したかったんだって?だから原村はあんな勝負提案してきたんだよね?」

咲「あ・・・知らないです・・・知らない!知らないよ!」

ネリー「陰でネリーは沢山お金稼げたし。素直に原村が自分の全財産と身体で借金返済の手伝いだけにとどめておけばさあ、もう半分以上は返済できてたんだしね、残念だったね」


ダヴァン「サキ……理解していまスカ……?サキの殺生与奪の権はネリーに握られているというコトを」

ダヴァン「ネリーが面倒だから殺せと言えば、ワタシは……今すぐアナタの心の蔵を穿り出しマス……」

ダヴァン「苦しみの末、殺せと言えば、1週間かけて小さくしながら虎の餌にスル」

ダヴァン「地獄のような責め苦をと言えば、5年は嬲り乾かせほじくってその姿をネリーの酒の肴にさせマス。死にたい、苦しい、悔しい……とのたうち回りながら恨むハメにナル」

ダヴァン「だから気をつけるべきなのデス。嘘は付かないコトが一番大事デスが……それでいて面接を受ける就活生のように、誠実で気に入られるよう取り繕うことデス」

ダヴァンは凄みながら顔をサキの鼻に付くくらい寄せてそんな事を言った。

ただの脅しだと一笑に付すべきだけど、サキは尋常じゃないくらい震えていた。

ダヴァンは言っていた。この部屋に連れてきてある程度の自由を与える前に徹底的に教育したと。


ネリー「で、結局さあ。サキのせいで原村は地獄に落ちた訳だけど。ソレについてはどう思うの?サキが原村にしたネリーを殺してっておねだりは本当なの?」

サキは金魚のように口をパクパクさせて必死に声を出そうとしていたが、何も言葉が出ていなかった。

咲「あっ、あうっ、の、の、のど……」

咲「のど、ちゃ、いっ、の…ちがくて、わわ、わたしは、あ」

ダヴァン「腹から声、出さんかいッ!」

咲「あ」

サキが情けない声を出したと思うと、饐えた臭いが鼻をついた。

サキはズボンの股間に染みを作り、腰が抜けたようで座り込みながら垂れ流していた。

ダヴァン「シット!すみまセン、教育が足りなクテ。仕方ナイ……束子壺でもう一度」

ネリー「たわしつぼ?」

咲「いやっ!やめて!それだけは……勘弁してっ……」ブルブル

ダヴァン「じゃあそのしょんべん臭いのを何とかして下サイ!」


結局、サキはその場でズボンを脱がされ、タオルで股を拭いた後にダヴァンにそのまま正座させられていた。

ダヴァン「で。返済の話しをしまショウ!まず家族に連絡させマシタが、電話が繋がらない、と。ホーリーシット!それから一番の親友の原村にお願い……それでネリーと大勝負……この後デス、サキの本当の地獄は。」

ダヴァン「消費者金融や闇金から借りれるだけ借りさせまシタ。全然足りナイ!」

ダヴァン「次は友人デス!カタオカは結構な額を出しまシタ……サキは嘘をついたのデス……父親がニーマン病に侵されて治療費がいると……カタオカは何も追求せず、自らの貯金のほとんどを出しマシタ!」

ダヴァン「あの下手くそな演技!ほら、サキ、ネリーの前で見せて見なサイ!」

咲「うぅ……ゆーきちゃん、ひ、久し振り……突然ご、ごめん、お、お金、かして……お父さんが、病気で入院、し、して…急にお金が必要で……う、うん、とりあえず100……やっぱ、300……」

咲「ニーマン病だよ……お金が、いるんだよ……ごめん…絶対返すから……うん、ありがと……でも嬉しいよ」

ネリー「で、いくら借りれたのさ?」

ダヴァン「なんと、カタオカ、ゆうちょに50万しかない貯金を全部!何も言わずにその場で下ろしてサキに渡シタ!素晴らしい!これは期待大!サキの人望の賜物!」

ネリー「たった50万円?ドルじゃないよね?」

ダヴァン「イエース、ですがほぼ全財産でスヨ?値段は問題じゃあナイ。大事なのは心意気デス!」

ダヴァン「しかしサキ、露骨に残念そうな顔をしてまシタ…なんという貧乏人と!」

咲「そんな顔してないよ!」


ダヴァン「シ~ット!ですが、そこからサキの苦労が始まる……」

ダヴァン「ソメヤに連絡取れず、タケイヒサも音信不通、小中高のクラスメイトはほぼ門前払い……中には顔を覚えていない者も多かったデス」

ダヴァン「仕方がないから風呂とビデオ、どっちにするか選ばせようとしたら泣く始末」

ダヴァン「泣き虫は甘えデス……泣けば許される?そんなのおむつが外れるまででスヨ」

ダヴァン「だから吊るして」

ネリー「蚯蚓かあ」

咲はそこで俯いた。歯を食いしばって、何かが壊れてしまわないようにしっかり踏ん張っていた。

ダヴァン「キョウちゃん!キョウちゃん!そう叫びマシタ」

ネリー「写真ないの?」

ダヴァン「これです」

ネリー「へー、これがサキの男かあ」


ダヴァン「何でも話を聞くと中学校時代からの友人で……健全なお付き合いを」

ダヴァン「サキは裏の顔を隠してイタ。だから連絡を取りたくなかった。でも耐えきれず……サキがとんでもない額の借金をこさえたと知ると男は」

ネリー「男は?」

ダヴァン「ほら、サキ。あなたの口からドウゾ」

咲「……」

ダヴァン「サキ~?」ギュッ…

ダヴァンはサキの耳をつねった。優しく、軽く引っ張った。

咲「言う!言うから!」

咲「あっ……えっ、あうっ……さ、さきの借金は…お、俺が、は、払う……何をして…でも」

ダヴァン「マーベラス!その言葉が聞きたかった!」


ダヴァン「貯金を全部降ろさせ、金をあらゆるところから借りさせマシタ。コイツはサキと違って沢山友人、いまシタ!そして新しい仕事を……サキの代わりに身体を売る仕事を」

咲「えっ」

ダヴァン「Oh!そう言えば言っていなかッタ!結構な額で売れマシタ!10年契約、契約金はナカナカのモノでシタ!」

ダヴァン「もっとも、2年で糞は垂れ流し、5年で病気で頭はパーらしいデスけど」

咲「聞いてないよ!わ、わたしは……京ちゃんにそこまで頼んでない!そ、そこまでは……私は……なら私が働くよ!だから京ちゃんは…」

ダヴァン「白々シイ!それにアナタじゃ彼の半分の値段でも売れまセン!」

サキの体を売るのはネリーもまず考えた。しかし、それはまだ早いと思う。全て搾り取った後でも十分。


ネリー「建設的な話をしよう。サキ。体を売るのは最後だよ。それにどんなきっつい職場でも二束三文にしかなりやしないんだ」

ネリー「期限までに返せなかったら止むを得ないと思っている。ネリーも一応、人の心はあるからあまりしたくないんだけど」

だから、最初から売り飛ばすような真似はしなかった。これは本心。ネリーはサキの事は別に嫌いじゃあない。

ネリー「大陸の大国が欲しがってるんだよ。強い遺伝子を。いい取引になると、思う」

ダヴァン「あれはキツイ……とてもとても…悲しくなりマス」

サキは察している。外国に売られてしまうこと、そしてその結末がどういうものであるか。

ネリー「サキは祈るしかないんだよ。早くお姉ちゃんが帰ってくることを」

サキは俯いていた。ネリーはこの時気が付かなかった。

振り返るとこの時、サキは笑っていたんだ。

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