【艦これSS】仮面の秘書官江風 (151)



とても長いです。
独自の設定あります。
がんばってついてきてください。(謎の応援)


※キャラの性格や口調が異なるかもしれません。すいません





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江風「ここが鎮守府か…」

江風「大きいとこだねぇ」

江風「ちょいとボロいけど」


今朝方、アタシ、江風は海で発見された。
艦娘として生まれ変わって。


海風「何やってるの江風?はやく行くよ」スタスタ

江風「あ、まってくれよぉ姉貴」タッタッタ


そんで、今から提督に着任の挨拶ってわけ。


海風「もうしっかりしてよね」

江風「わりぃわりぃ」


海風の姉貴とは今朝再会したばっかだってのに
すっかりお姉さんされちまっている。


江風「ところでさぁ」

海風「なに?」

江風「てーとくってどんな人?」

海風「え…あぁ…うーん」

江風「んー?」

海風「見てもらった方が早いんじゃないかな」

江風「お楽しみってことだな!」

海風「………」

江風「?」


あれ、違うの?







建物に入り、二階へ。
執務室へと通じる廊下を歩いていると
スラリとした長身の女とすれ違う。


大淀「あら、海風さん」

海風「こんにちは」ペコリ

江風「こんにちは」ペコ

大淀「こんにちは」チラッ

江風「?」

大淀「新着の子?」

海風「はい、私の妹で江風っていいます」

大淀「あら、そうなの」

大淀「大変ね、こんな鎮守府に着任だなんて」

江風「え」

海風「………」

大淀「では」スタスタ

海風「はい…」

江風「んー…?」


さっきの姉貴といい、この人といい…
もしかしてここヤバい鎮守府なの?
どうしよう、いざとなったら異動とかできるのかねぇ?






コンコン――


そうこう考えているうちに執務室前に到着。
姉貴がさっさとノックした。
こっちは心の準備ができてないってのにさ。


海風「海風です。出撃の報告に参りました」

提督『入れ』

海風「失礼します」


ガチャ―――


江風「し、失礼しますっ」


さてさて、件のてーとくはどんなもんかねぇ


江風「っ!?」


いやービックリしたね…
思わず声を出しそうになったもんさ。


海風「敵艦隊は殲滅。こちらの被害は中破が二隻です。」


だって、提督は


提督(チ級の仮面)「そうか。よくやった」


不気味な仮面をつけていたんだから…



海風「そして、海域にて改白露型駆逐艦江風を発見」

江風「江風です。よ、よろしくお願いいます」ペコリ

提督(チ級の仮面)「あぁ、よろしく」


…え、そんだけ? 冷たっ!


海風「報告は以上です」

提督(チ級の仮面)「ご苦労。ゆっくり休むといい」

海風「はい。失礼します」クルッ

江風「し、失礼します」ササー


お堅い人なのかねぇ…
不気味だし…
極力関わりたくないねぇ…



提督(チ級の仮面)「待て」

海風「?…はい、なんでしょう」

提督(チ級の仮面)「いや、君じゃない」

海風「え」チラッ

江風「ん、あたし?」

提督(チ級の仮面)「明日から秘書官をしてもらう」

江風「ひ、しょ、か、ん?」


なにそれ?


海風「その提督…江風はまだ着任したてですよ?」

提督(チ級の仮面)「構わん」

提督(チ級の仮面)「明日マルハチマルマルよりここにくること以上」

海風「………」

江風「ん?明日ここに来りゃいいってことかいっじゃなかった。ですか?」

提督(チ級の仮面)「そうだ」

江風「はい…了解です!」


よく分からないけどここに来りゃいいのね。
やだねー


提督(チ級の仮面)「用件は以上だ。下がっていいぞ」

海風「失礼します」ささっ

江風「あ、失礼します」


バタン―――




江風「ふぅ…緊張したぁ…」

海風「………」スタスタ

江風「あ、姉貴待ってよぉ」タッタッタ

海風「………」

江風「どうしたのさ?」

海風「ここまで来れば聞こえないでしょう…」ボソッ

江風「ん?」

海風「はぁ…まさか江風を秘書官にするなんて何考えてるのでしょう…」

江風「その、ひしょかんってなんなのさ?」

海風「えーっとね、簡単に言うと提督につきっきりで補佐する役目ね」

江風「え」


あれと一日ともに過ごすの?
ムリムリ


海風「嫌そうね。まぁ、うれしい人のが少ないと思うけどね」

江風「ってか、あのてーとくなんで仮面つけてんのさ?」

海風「分からないわ。というか、知っている人なんていないと思う」

江風「えー、怖いよ、不気味だよ」

海風「江風はまだ見たことないだろうけどあの仮面、深海棲艦のものって言われてるわ」

江風「えぇ…」

海風「そのせいか、深海化した人間って噂まであるのよ」

江風「やめろよぉ…明日からそのてーとくと一緒だってのに…」

海風「ふふ、ごめんね」

海風「江風があんまり怖がるものだからつい」

江風「からかうなよぉ…」

海風「えへへ」

江風「もぉ…」

海風「さて、とりあえず今日出撃した艦隊の人々にお礼言って回ろうか」






海風「まずは、伊勢さんと筑摩さん」

江風「中破していた二人か…大丈夫かねぇ」

海風「大丈夫よ、中破ならまだ全然」

海風「ちなみに、ここは入渠するとこね」

江風「ほー、風呂場みたいだな」

海風「お風呂場は寮に別であるから間違ってもここを使わないように」

江風「ほいほーい」

伊勢『ん?誰かいるの?』

海風「すいません、海風です」

海風「江風と一緒にお礼を言って回ろうかと」

伊勢『あーそうなんだ』

伊勢『ちょっと待ってて今行く』バサァ

江風「え」


行くって…今裸なんじゃ…


伊勢『よっとっと』

江上「わわっ」


ガラガラ―――


伊勢「さっきぶりー……ってなにやってるの?」

江風「いやぁ…その…」


アタシは見ないように顔に手を当てた。
女同士といえど全裸はちょっと見れない。


海風「江風?」

伊勢「照れ屋さんなのかな?」

江風「いえ、そんなことは…」

海風「ほら、ちゃんとして!」ズイッ

江風「あ、ちょっと…!」


わわっ!見え―――


江風「…ない」

伊勢「?」


伊勢さんは服を着ていた。


江風「あれ…もしかして服着て入渠するの?」

伊勢「ふふっ、お風呂じゃないんだから」

伊勢「服ごと修復するのよ」

江風「へぇー、そうだったかー、ははは…」

海風「江風…」

伊勢「面白い妹さんね」

海風「そういってもらえると助かります…」


江風「あ、今朝方はありがとうございました!」ペコリ

伊勢「いえいえ」

伊勢「よかったね海風。念願の妹来たわね」

海風「えへへ、そうなんですよー」ニコニコ

伊勢「ふふ、ほんと良かったわね」

海風「ところで、筑摩さんは…?」

伊勢「あぁ、寝てるよ」

江風「え、寝ながら浸かるの危なくない?」

伊勢「溺れないようになってるから大丈夫」

江風「へぇー」

伊勢「起こそうか?」

海風「いえいえ、休んでるところ申訳ないです」

伊勢「こっちとしてはまだまだ時間あって退屈なんだから気を使わなくていいのに」

江風「そんなに時間かかるの?」

伊勢「あと7時間くらいかなぁ…」

江風「7時間!?」


そんなに長いのかよー
ひぇー


伊勢「戦艦ともなるとね、それぐらいかかるのよ」

江風「でもそんなに長いと詰まるんじゃ…」

伊勢「まぁ、高速修復剤ってのがあってね」

伊勢「瞬時に損傷を治すことができるの」

江風「はー、そりゃ凄いね」

海風「まぁ、提督はあんまり使いませんけどね」

伊勢「緊急事態に備えておきたいんじゃない?」

伊勢「よく分かんないけど」

江風「大破したときぐらい?」

伊勢「使わないわね」

江風「え」

海風「その日の出撃が無ければ大破しようが使わないですよね」

江風「絶対に被弾しないようにしよう…」

伊勢「あははっ、それがいいね」


それからしばらく三人で談笑した。
筑摩さんは起きて来なかったからまたの機会にお礼を言おう。
それにしても7時間ってすごいねぇ




江風「さて、お次は?」

海風「加賀さんよ」

江風「あのクールビューテーな人か」

海風「そうね」

海風「現秘書官の人でもあるよ」

江風「あれ、じゃあ加賀さんってアタシのせいでクビ?」

??「誰がクビなのかしら?」

江風「えっ……わわっ!」

海風「あ、加賀さん」

加賀「さっそく仲良くしているのね、微笑ましいわね」

江風「け、今朝方はありがとうございました!」ペコリ

加賀「いいわよ、そんな」

江風「あと秘書官奪ってしまってすいません!」

加賀「さっき提督から話は聞いたわ」

海風「…提督なんて言ってました?」

加賀「明日から江風に秘書官を頼む。今までありがとう、と」

海風「そうですか…」

加賀「ん?ありがとうなんていったかしら…脚色したみたいね」

海風「そこは嘘でも言ってたことにして欲しかったです…」

加賀「流石に冗談よ」

海風「真顔で冗談は止めてくださいよ!」



江風「あのー、てーとくってどんな人なんですか?」

加賀「優秀な方よ」

江風「そうなんですか?」

加賀「…明日から秘書官になるんでしょう?」

江風「はい」

加賀「なら、自分で確かめなさい」スタスタ

江風「あ」


そう言い残すと加賀さんは食堂へと急ぎ足で行ってしまった。


江風「ありゃ、なんか嫌われてる?」

海風「大丈夫じゃないかな」

江風「そうかなぁ…」

海風「食堂に行ったら分かるよ」


言われた通り食堂に行ってみると
そこには鬼のようにごはんおかわりをくりかえす加賀さんがいた。
海風が横でやっぱりお腹空いてただけだったねと言った。
新入りのアタシよりご飯ですかい…
アタシのなかで、加賀さんのクールビューテーは崩れ去った






江風「はぁー、食べたねぇ」

海風「食べ過ぎよ」

江風「いやぁ、おいしくてさぁ、ついつい」

江風「んで、次はどこに?」

海風「私の部屋に行きましょう」

江風「おぉー」



江風「そーいや、アタシの部屋ってどうなるのさ?」

海風「私と同室にしてもらうつもりだけど」

江風「勝手に決めていいの?」

海風「そこらへんは割と自由ね」

江風「へぇー」

海風「嫌なら空いてる部屋を使うこともできるけど…?」

江風「ヤなもんか!姉貴と一緒でいいよー、けへへ」

海風「えへへ、なら良かった」






寮は二階建て木造で四人部屋、二人部屋、一人部屋とあるようだ。
姉貴は二人部屋にひとりでいるらしい。


海風「ここよ」カチッ


ガチャ―――


江風「おぉー……おぉ…」


十畳ほどの畳部屋だった。
机と箪笥、本棚しかなく、その本棚もすかすかであった。


海風「寂しい部屋でしょ?」

江風「…片付いていて綺麗だと思う」

海風「ふふ、正直に言ってもいいよ」


世辞だって、バレちった


海風「寝るためだけにある部屋だったからね」

江風「みんなの部屋はどんな感じなの?」

海風「うーん、あんまり行ったことないから分からないけど」

海風「似たり寄ったりだと思うよ」

江風「そんなものなのねぇ」

海風「さてさて、着替え着替えー」ごそごそ

海風「はい、じゃ、お風呂に入ろっか」


着替えを渡される。
サイズは見た感じ問題なさそうだ。


江風「風呂って部屋ごとについてある?」

海風「あるように見える?」

江風「…ないねぇ」

海風「安心して大浴場があるよ!」


あちゃー、まじかー


海風「……なに?もしかして、恥ずかしいの?」

江風「………」

江風「いやー、そのぉ……見るのも見られるのも気になるといいますか…」

海風「それを恥ずかしいって言うのよ」

海風「大丈夫、すぐ慣れるから!行くよー」ガシッ

江風「あっ…せめて人が少ない時間帯とか!ねぇ!」ズルズル


手を捕まれズンズンと大浴場まで連れていかれる。
抵抗しようにも練度のないアタシでは無駄に終わった。





江風「来ちまった…」

海風「早く入るよ」ぬぎぬぎ


うわぁ、やっぱ結構人いるんじゃん…
って姉貴もう脱いでるし!


海風「っせーい」ガバッ

江風「なっ///」


不意に姉貴がスカートを下した。


海風「っそーい」ズバッ

江風「やっ///」


続いて上の服を脱がされる。
てか、脱がすの上手過ぎる…


海風「あとは下着のみ…」フンスッ

江風「分かった分かった!自分で脱ぐから」

海風「最初からそうしてよね」

江風「…うーっす」ぬぎぬぎ、ぽいっ

海風「あ、ちゃんと畳まないと」

江風「せやっ」タタッ


全裸になったアタシは人目につかないよう駆け足で浴場へと向かう。


海風「あ、ちょっと」




ガラガラ―――


入浴場は思ったより広く
大きい湯船が一つ、
蛇口と鏡、その前に石鹸、シャンプーのセットが二十ヵ所程あり、
古き良き銭湯の様だった。
アタシはいそいそと一番近い洗い場に座る。


海風「走ったら危ないよ?」


当然のように隣に座る姉貴。
いや、他空いてるんだし、隣じゃなくていいじゃん!
恥ずかしい言ってるじゃん!


江風「はぁ…」

海風「~♪」


姉貴は至福の時間とノリノリのようだが、
アタシは楽しむなんてことはしない。
最速で上がることを目標に体を洗う。


江風「………」わしゃわしゃっ


シャンプ―は終わっても流さない
体と一緒に洗い流す。
時短だよ時短!
ってか、髪長いなぁ…切ろうかな。


江風「………」ゴシゴシっ


洗っている間、いくつもの桶にお湯を張っておいて…


江風「………」ザパー、ザパー、ザパー


一気に洗い流して終わりっ!上がるぜっ!


海風「~♪」わしゃわしゃ


姉貴はまだのんきにシャンプー。
隙ありだぜ姉貴、アタシは部屋に戻るぜ!
アタシは浴場を飛び出し、ささっと着替えると逃げるようにその場を後にした。






江風「あちゃー…」がちゃがちゃ


部屋に鍵してあるんだったな…
どっかで時間潰そうにも当てがないしねぇ…



??「どうしたクマー?」ポン

江風「わぁ!?」ビクッ

球磨「クマァ!?」ビクッ


振り返ると驚きに驚いた球磨さんがいた。


江風「びっくりしたー」

球磨「びっくりしたのはこっちの方だクマ!」

江風「いきなり肩に置いたらびっくりするじゃん!」

球磨「それにしても驚き過ぎだクマ!」

江風「んじゃ、すいませんでした!」

球磨「こちらこそいきなりで悪かったクマ!」


とても早い仲直り。
良かったぜ。



江風「あ、そういや今朝方はありがとうございました!」

球磨「気にするなクマ」

球磨「球磨も仲間が増えてうれしいクマ」

江風「けへへ」

球磨「球磨たちにもまだ希望はある、か……」ボソッ

江風「ん、何かいいました?」

球磨「いーや、何でもないクマー」

江風「?」

球磨「それよりもどーしたクマ?鍵無いクマ?」

江風「あ、そーでした!」

江風「いや、海風の姉貴が持ってるんですけどねぇ」

江風「今お風呂で…」

球磨「アイツはお風呂大好きクマ」

球磨「きっと三十分は戻らないクマー」

江風「え!さ、三十分!?」


なげぇよ、なげぇよ姉貴…
あるんならスペアキーでも預かっておくんだったぜ…




球磨「どーするクマ?」

江風「んー」


浴場にはもう行きたくないし…

そういや、お礼してないのはあと二人だったか。
筑摩さんはいつ頃入渠から上がるか聞いてなかったし
となると…


江風「龍驤さんの部屋って分かります?」

球磨「クマぁ♪」ニコッ


………分かるってことでいいのか?


江風「…じゃあ、案内お願いします」

球磨「ふっふふー、いいクマよー」


分かってたみたい。
流石に同じ艦隊なわけだしね。
クマクマ言いながら歩く球磨さんの後をついて行く。


球磨「着いたクマー」

江風「ありがとうくまー」

球磨「クマぁ♪」


なんとなくだけどこの人とは仲良くできそう。


江風「さてと」こほん




コンコン―――


龍驤『はーい』

江風「すいません、江風です」

江風「今朝のお礼をしにきました」

球磨「クマー」


ガチャ―――


龍驤「クマーってなんやねん」

球磨「キャラだクマ」

龍驤「んなこと言うなや」

江風「あのー」

龍驤「おぉー今朝ぶりやね!」

江風「その、ありがとうございました!」

龍驤「あぁん、わざわざええのに」

球磨「はよ中に入れるクマ」

龍驤「ずうずうしいわ」

龍驤「江風ちゃん、立ち話もなんやし上がっていき」ニコッ

江風「あ、じゃあ、お邪魔します」

球磨「クマぁ♪」

龍驤「アンタはダメや」ガシッ

球磨「クマ…」しゅん

龍驤「もーそんな声出さんといて…」

龍驤「しゃーないな…今回だけやで?」

球磨「……!!」

球磨「クマぁ♪」ニコッ

江風「優しーい」

龍驤「せやろ」

球磨「今月だけでも五回はこのくだりしたクマ」

江風「え」

龍驤「なんでネタバレすんねん」

龍驤「まぁ、その、お約束っちゅーやつや」


仲良いんだな、この人達。




龍驤さんの部屋は畳ではなく床で
ベッド、カーペットの上に机が置いてあるだけだった。


龍驤「ちょっと狭いけどな三人ならぎりぎりくつろげるやろ」

球磨「ベッド借りるクマー」ボフッ

龍驤「アンタ、ホコリが舞うやろ」

江風「ははは…」

龍驤「ほら江風ちゃん困っとるやん」

江風「…いえ、にぎやかで楽しいですよ」

球磨「うそクマ」

龍驤「世辞やな」

江風「…すいません」


姉貴に続いて…
そんなに分かりやすいかねぇ…


龍驤「先輩やからって遠慮はいらん」

龍驤「ビシィッっと言ってくれや」

江風「うす」

球磨「クマー、しかしベッドはいいものだクマ」足ぱたぱた

龍驤「こいつなんて後輩のくせにこれや」

江風「わぁ…」

球磨「クマぁ♪」ニコニコ


あ、かわいい。




球磨「で?もう全員言って回ったクマ?」

江風「筑摩さんがまだですかねぇ」

龍驤「同じ入渠組の伊勢は行ったのに筑摩はまだなんや」

江風「寝ていたらしいくて」

龍驤「なるほどね」

球磨「重巡も入渠長いから大変だクマ」

龍驤「空母も長いで」

江風「でも、高速修復剤使ってあげれば治せるんでしょ?」

球磨「バケツクマ」

江風「ん?」

球磨「バケツで通じるクマ」

江風「へぇー」

龍驤「せやな。すぐ完治や」

球磨「でも、提督はバケツ大事にしてるクマ」

江風「やっぱそーなのか」

龍驤「バケツは貴重やからね」



江風「ってか、てーとく何であんな仮面つけて」

龍驤「あぁ、初めて見た時は確かにビックリしたわ」

球磨「ありゃ正気じゃ無いクマ」


やっぱみんな同じこと思うのね。


江風「明日から秘書官だってのに」

江風「てーとくが不気味でしょーがなくて」

球磨「クマぁ!?」

龍驤「ほぉーえらいこっちゃでぇ!」

江風「それで、加賀さんに聞いても自分で確かめろって言うし」

球磨「そうかもクマー」

江風「え」

龍驤「ウチらが提督について知っていることはほとんど無いんや」

江風「そうなの?」

球磨「提督は謎だらけなのクマー」

龍驤「知っていることは……」

龍驤「性別は、多分男やろ」

江風「それくらい分かってますよ」

龍驤「流石に冗談や」

龍驤「まぁ…提督は優秀なことは確かやで」

江風「はぁ」


みんな口を揃えるかのように優秀って言葉使うねぇ。
含みがあるのが気になるけど…




球磨「疑ってる顔クマ」

江風「え」

龍驤「先輩を疑うのは良くないなぁ?」

江風「あはは…」


ホント内心バレッバレだな…


球磨「確かに最初は不気味かもしれないクマ」

球磨「でも、提督は悪い人間とは思わないクマ」

江風「んー、なんでそんなこと?」

球磨「乙女の勘クマ」

龍驤「アンタの場合、野生の勘やろ」ボソッ

球磨「クマァ!」べしっ

龍驤「いったぁ!ど突くなや!窪むやろ!」

球磨「平らで無個性なよりは味が出るクマ」

龍驤「なんやと!」

球磨「やるかクマ!」

江風「………」


二人とも臨戦態勢に入る。
それはもうスムーズに…


龍驤「てやぁっ!」ダッ

球磨「クマァッ!」バッ


互いに右こぶしを振り上げ同時に突撃。
こっそり目くばせしてタイミングを合わせているのがポイント。


江風「わーやめてー」


二人が間合いに入る。
右ストレートが放たれ、それと同時に拳が開き…


龍驤球磨「「仲直りの握手!」」ガシッ

江風「知ってた」


龍驤「なんやバレてたんかい」

球磨「もっと自然にできるようにしないとクマ」


自然すぎて不自然になっているんだぜ…
てか、なに目指してるんだろうこの人たち…




龍驤「んで、なんの話やったっけ?」

球磨「提督のことクマ」

龍驤「あぁーそやったなぁ」

龍驤「まとめると見た目に惑わされんなや!っちゅーことやな」

江風「適当だぜ!」

龍驤「しゃーない、実際なーんも言えることもないしな」

球磨「クマー」

江風「そッスか」


龍驤「っと、すっかり話し込んでしまったけどアンタ明日早いんとちゃう?」

江風「あ」

球磨「それに海風ちゃんもいい加減お風呂から上がってるクマ」

江風「そうだったぜ」


すっかり姉貴のこと忘れていた。


龍驤「ん?なんのこっちゃ?」

球磨「話せば長くなるクマ」

龍驤「なら、ええわ」

江風「えっと、じゃあ、その」

龍驤「はよ帰りー、明日から頑張りやー」

球磨「クマぁ♪」

江風「ありがとう」

江風「自分なりに頑張ってみるぜ」





部屋に帰ると姉貴が布団を敷いてる最中だった。


江風「ただいまー」

海風「おかえりー」


海風「…置いて行ったでしょ?」

江風「わりぃ、姉貴長くなりそうだったから」

海風「まぁ、いいわ」

海風「どこに行ってたの?」

江風「龍驤さんのとこ」

海風「あら」

江風「廊下で球磨さんにあって三人で話してた」

海風「それならよかったわ」

海風「あ、そうだった」

海風「はい、スペアだけど部屋鍵渡しとくね」

江風「おぉ」


これで締め出し喰らうことは無くなったな。


海風「じゃあ、江風も布団敷くの手伝って」

江風「ほいほい」


川の字に布団を敷く。


海風「寝よっか」

江風「そだね」


姉貴が部屋の電気を全部消す。
真っ暗にして寝る人なのね。


海風「足踏んだらごめんね」

江風「えぇー」


そろりそろりと姉貴が布団に向かってくるのが分かる。


海風「ふぅ、無事に到着」

江風「良かったぜ」

海風「今日も疲れたなぁ」

江風「アタシも結構疲れていたみたいだ…」

江風「布団に入ったら急に眠く…おやすみ…」

海風「おやすみ」




海風「………」

江風「………」


海風「…………」

江風「…………」


海風「………寝た?」

江風「………寝…そう」

海風「ごめんね…ひとつお願いいい?」

江風「んー……?」

海風「手…繋いで寝たいかなって…えへへ」

江風「ん……いいよー」

海風「やった」


もぞもぞと布団の中に入ってきた手を握る。


海風「あったかい…」

海風「いつもひとりだったから…」

江風「ん…でも…これからは…いっしょ…だから…」

海風「そうだね…」

江風「ん……すぅ……すぅ」

海風「…ありがとう江風」

海風「きてくれて」

海風「おやすみ」






翌朝。


海風「ほらー起きてー」ゆさゆさ

江風「んー…」

海風「間に合わなくなるよ」ゆさゆさ

江風「んあ…」

海風「ほら起き上がって」

江風「あー……じゅる」むくり

海風「わっ、よだれよだれ!」

江風「ん」ふきふき

海風「あぁぁ…それ私のパジャマ…」

江風「あ、そだった…」

海風「もう…」

江風「ふぁ~あ…おはよ」

海風「おはよう」

海風「さぁ、急いで着替えて朝餉に行くよ」

江風「ほーい…」


まだ完全に開かない目をこすって無理やり開け、
いつの間にか置いてあった自分の服に着替える。
着替えてる間、姉貴が髪をセットしてくれた。
明日はしっかりしねぇとなぁ…


海風「さ、行こ」

江風「ほい」




食堂へ行き朝メシを食べ、
指定された時間の五分前に執務室前に着いた。


海風「じゃあ、頑張ってね」スタスタ

江風「おうよ」


ふぅ…緊張するなぁ。




コンコン―――


江風「江風です」

提督(チ級の仮面)『入れ』   ※以下、“仮面提督”と表記

江風「失礼しまーす…」


ガチャ―――


仮面提督「………」カキカキ

江風「おはようございます」

仮面提督「おはよう」

江風「………」


もっと無愛想だと思ってたけど、挨拶は流石に返してくれるか…


仮面提督「執務内容について簡単に説明しよう」

江風「お願いします」

仮面提督「まず君の席はあそこだ」


提督は部屋の端に置かれた机に指をさした。


仮面提督「本日中に行ってもらう任務、書類等はそこに置いておく」

江風「はぁ」

仮面提督「マニュアルも置いてある」

仮面提督「そこの仕事が終わり次第帰ってもらって結構」


仮面提督「質問は?」

江風「ありません」

仮面提督「では、頼んだ」


そう言うと提督は視線を落とし黙々と仕事を再開する。
優秀なんだろうけどもうちょっとさぁ…柔らかくというかなんというか…


江風「………」


抗議のつもりでしばらく提督を見ていたが
反応は一切なく、アタシは仕事に取り掛かることにした。







江風「………」テクテク


机まで行きマニュアルに目を通す。
簡素な内容できれいにまとめてある。


江風「んー…」


開発、近代化改修とあるなぁ
工廠の場所は……お、載ってる。
マニュアルちゃん優秀。


江風「………」ペラリ


書類の書き方もあるねぇ。
なるほど、こう書けば…ほーほー。

ってか、これ誰でもできるんじゃね?
なぁんだ、らくしょーじゃんか!
秘書官、恐るるに足らず!



んな訳も無く…


マニュアル片手に工廠施設や倉庫、寮など行き来し…
書類をまとめたり…
昼メシもそこそこに励み…


終わった頃には日が暮れていた。





江風「ぐぁ…」ぐったり


初めてとはいえ、こんなにかかるとは…
完全にナメてたぜ…


江風「………」

江風「………」チラッ

仮面提督「………」ペラリ


てーとくは資料を読んでいる。
ずっと執務室にいたんだろうか。
ホントに喋らないし、表情も仮面のせいで分かんねぇ。


仮面提督「………」パラリ


しっかし、不気味な仮面だなぁ。
片目しか空いてねぇし
実は空いてない方も見えてるのかねぇ……どれ


江風「……」ピース

仮面提督「………」ペラリ

江風「……」ウィンク

仮面提督「………」パラリ


無反応。
見えてない…よな?
ふぅー、ちょっとドキドキしたぜ。

…………。

帰ろ。


江風「本日の分すべて終わりました」

仮面提督「ご苦労」


ちゃんと、顔を向けて話してはくれるか。
まぁ、顔見えねぇんだけど。


江風「お疲れさまです」ぺこり

仮面提督「明日も同じ時間から頼んだ」

江風「はい。失礼します」

仮面提督「………」ペラリ


バタン―――




江風「ふぅ…」


いやーキツかったぜ…
提督は大方予想通りだったけど
肝心の執務がキツかったぁ…


江風「………」ぐぅー


腹減ったなぁ…
メシ食べに行くかぁ






食堂に行くと加賀さんが黙々とご飯を食べていた。
…いつから食べているんだろう?
対面に座ってみるかねぇ。


江風「こんばんは」

加賀「あら」

加賀「こんばんは」

江風「座っても?」

加賀「どうぞ」

江風「失礼します」


加賀「………」パクパク

江風「いっただっきまーす」

加賀「………」もぐもぐ

江風「………」もぐもぐ


んー!ウマい!
かつ丼は最高だぜ!


加賀「………」パクパク

江風「………」もぐもぐ


分かっちゃいたけど会話無いねぇ


加賀「自分から来たんだから話しかけなさい」


…心読まれやすいのかねぇアタシ


加賀「顔に出てるわよ」


さいですか…
んじゃ、話題はーっと




江風「秘書官って思ったよりも大変でした」

加賀「そう」

江風「はい」


加賀「………」

江風「………」


加賀「………」パク

江風「いやいや!ぱくっじゃないでしょ!」

加賀「食べました」

江風「見てりゃ分かりますよ!」

江風「もっとアタシに!興味を!加賀さん!」

加賀「おいしそなかつ丼ね。カツを一列くれないかしら?」

江風「それカツ全部じゃん!」

加賀「ちっ」

江風「えぇ…なんで舌打ち」

加賀「黙ってカツを寄越しなさい」

江風「ただのカツアゲじゃん!」

加賀「カツを?」

江風「カツアゲ」

加賀「10点」

江風「振っといてそりゃないぜ…」

加賀「安心なさい」

加賀「海風より点数は上よ」

江風「姉貴はなんて…?」

加賀「カツアゲしたカツ」

江風「似たもの姉妹かよ!!」

加賀「ちなみに7点」

江風「わーい勝った!でも基準分かんねぇ!」

加賀「カツのダジャレで勝つ」

加賀「ふふふ」

江風「5点」

加賀「え」

江風「5点」

加賀「ざけんな」

江風「えぇ…マジギレじゃんか…」




加賀「冗談よ」

江風「良かったぁ…」

加賀「で」

加賀「ホントの点数は?」

江風「5点」

加賀「絶対にころs…転がす!」

江風「今ちょっと物騒なワード言おうとしてたじゃん!?」

加賀「気のせいよ」

江風「ホントかねぇ…」


てか、転がすってのも大概意味不明なんだけど…





加賀「で、秘書官が大変だと」

江風「え」

江風「あ、はい」


ちゃんと聞いてるじゃん
さっきまでの茶番はなんだったのさ…


加賀「不真面目に答えるならそうねぇ」

加賀「さっきのツッコミ能力があれば大丈夫よ」

江風「真面目にお願いします」

加賀「わがままね」


この人意外とボケたがりなんかなぁ。


加賀「大丈夫、慣れるわ」

江風「慣れですか…結局回数をこなしていくしかないと?」

加賀「分かってるじゃない」

加賀「愚痴だったってわけ」

江風「ですね」

加賀「せい」ぽかっ

江風「あいてっ」


軽くげんこつされる。


加賀「こぼしたくなるのは分かるけど、ほどほどになさい」

江風「…はい」

加賀「ごちそうさまでした」

加賀「じゃ、楽しかったわ。また一緒に食べましょう」スタスタ


そう言い残して加賀さんは去っていった。

………。

いつのまにかカツが一つ無くなっている。

………。

あの女…絶対に転がす。







部屋に帰ると姉貴が布団でゴロゴロしていた。

海風「おかえりー」

江風「たーだいま」

海風「どうだった秘書官?」

江風「らくしょー」

海風「そう、まだ初日だし大丈夫だよ」


もう慣れたぜ。
顔に書いてあるんでしょ。



海風「先お風呂入ちゃったけど」

江風「ほいほい」

海風「着替えそこにだしといたから」

江風「サンキュー」

江風「そんじゃ、いってきー」

海風「いってらっしゃい」


遅めの入浴
昨日と違って流石に人は少なく
だからといってゆっくりと…とはせず最速で風呂を済ませる。






江風「ただいあー」

海風「早いね」

海風「ちゃんと洗ってる?」

江風「そりゃね」

海風「なら、いいんだけど」

江風「………」ゴロン

海風「明日も同じ時間?」

江風「そうそう」

海風「なら今日と同じ時間に起こすわね」

江風「お願いします」

海風「じゃあ、寝ましょう」

江風「電気消すよー」

海風「はーい」


立ち上がり入り口近くのスイッチを押す。
一瞬で真っ暗になった。


江風「よいよい」


足で探り探り布団へと戻る。


江風「よっこい」ごろん


横になり布団へ。


海風「…一緒に寝たいの?」

江風「ありゃ」


姉貴の布団だ。
自分のを通り過ぎたようだ。


江風「失礼」


いそいそと自分の布団へ戻る


江風「おやすみー」

海風「おやすみなさい」

江風「……今日は手はいいの?」

海風「毎日は流石に迷惑かなって…」

江風「気にしなくていいぜ」


アタシは姉貴へと手を伸ばす。


海風「…ありがと」ギュ

江風「これで起こしてもらえるなら安いもんよ」

海風「んもう」






翌朝。


海風「朝ですよー起きてー江風ー」ゆさゆさ

江風「んー……」


宣言通り起こしてもらい…

姉貴におんぶに抱っこで朝の支度を済ませた。
しっかりするとはなんだったのか…






江風「…よしっ」


そんで、今は執務室前。
さて今日も頑張るぜ!


コンコン―――


江風「江風です」

仮面提督『入れ』

江風「失礼しまーす」


ガチャ―――


仮面提督「………」ぱらり

江風「おはようございます」

仮面提督「おはよう」

仮面提督「本日も昨日と同様」

仮面提督「頼んだ」

江風「はい」


自分の机へと向かい書類に目を通す。
ササっと片づけてやるぜ!




でもまぁ、昨日の今日じゃそんなに変わるわけもなく…


あっという間にお昼になっちゃったぜ。
今日も日暮れまでかかりそうだなぁ。


どうせ遅くなるなら今日は昼メシちゃんと食べちゃおう!
アタシは食堂へと向かった。





人が多い、多い。
ピークの時間だったか…
しまったなぁ…


??「まぁ、多いわね」


後ろから声がする。


江風「あ、筑摩さん。こんにちは」

筑摩「あら、江風ちゃん。二日ぶり?」


居たのはセクシー衣装の筑摩さん。
こう言っちゃ悪いがこの服じゃなくて良かったぜ。


江風「その節はどうも」

江風「意外と秘書官が忙しくてお礼遅れちゃったぜ」

筑摩「ふふ、いいのよ」

筑摩「夜遅くまで頑張ってるって聞いたわよ」

江風「それでも時間つくって行けばよかったかなぁって」


ホントはすっかり忘れてたんだけどね!


筑摩「………」


あ、バレてる。


筑摩「ホントに顔に出やすいのね」

江風「素直なもんで…」

筑摩「ま、いいわ」

筑摩「お昼一緒にどう?」

江風「是非!」





筑摩「ふぅ、やっと座れた」

江風「ですねぇ」

筑摩「じゃあ、食べましょうか」

江風「はい」

筑摩江風「「いただきます」」


昨日はおにぎり一個だけだったけど
今日は焼き魚定食だ!けへへ


江風「んーウマい!」

筑摩「ほんと幸せそうに食べるわね」

江風「ウマいもん食えば誰だってこんなになりますよ」

筑摩「……そうね」ぱく

江風「?」


え、ならないの?


筑摩「ふふ、ごめんなさい」

筑摩「おいしそうにご飯食べてる人見たの久しぶりだったから」

江風「そんなことないでしょ」

江風「姉貴とか、加賀さんとか」

筑摩「海風ちゃんはそうね」


んー?
加賀さんは違うのかい?


筑摩「…ごめんなさい、意地悪言って」

筑摩「食べましょうか」

江風「………」


どういうことなんだ…


筑摩「………」ぱくぱく


顔見て気づいているだろうに無視ですかい


それから会話も無く食べ終わり




江風「…ごちそうさん」

筑摩「ごちそうさまでした」


江風「あの」

筑摩「なに?」

江風「どうして…他の人はおいしく食べれて無いって?」

筑摩「どうしてでしょう…ふふ」

筑摩「単純に幸せそうなアナタに意地悪言ってみたくなったのよ」

筑摩「嫌な思いしたならごめんなさいね」


ホントに?


筑摩「別に納得してくれなくていいわ」

筑摩「じゃあ、執務頑張ってね」スタスタ

江風「………」


なーんかヤな感じ
筑摩さんはちと苦手だねぇ…


でも…気になることを聞いちまったなぁ
おいしそうに飯を食えてるのはアタシと姉貴だけってどういうことだろ?

うーむ…

龍驤さんあたりに聞いてみようか…


まぁ、順調に仕事が片付いたらだけど…







江風「本日の分すべて終わりました」

仮面提督「ご苦労」

江風「お疲れさまです」ぺこり

仮面提督「明日も同じ時間から頼んだ」

江風「はい。失礼します」


バタン―――


江風「…ふぅ」


当たり前だけど昼メシの時間分昨日より遅くなってしまったねぇ…

しかし、提督は終わりさえすれば何にも言ってこないのね。
案外緩いぜ。


さて、急ぐか。




夜めし―――


江風「げ、加賀さん」

加賀「…頭にきました」

加賀「えい」ひょいぱくっ

江風「あ、アタシのおかず!!」

加賀「やりました」もぐもぐ




風呂―――


江風「流石にこの時間は人が少ないけど…」

江風「はぁ…ヤだねぇ、部屋にシャワーでもつけて欲しいぜ…」

ゴシゴシ、ばしゃばしゃ




自室―――


江風「ちょっと龍驤さんとこ行ってくる」

海風「そう、いってらっしゃい」

海風「眠いから先に寝てるかも」

江風「ほいほい、おやすみ」

海風「おやすみなさい」


龍驤さんの部屋へと向かう。






案外、時間遅くなってしまったな…


江風「まだ寝てないよねぇ」


コンコン―――


…………。


ありゃ?
返事が無い。
寝ちゃってたかー。

また明日にでも――――


球磨『…!』

龍驤『…!』


あれ、居るんじゃん。
もう一人声が…球磨さんも一緒かな?


球磨『…!!』

龍驤『…!』


でも何だろう…賑やかというより…荒れてる?

聞いてみっか…

ドアに耳を当ててみる。


球磨『もう耐えれない!』

球磨『これもそれも全部提督が悪い!』

球磨『あの提督も今の提督も!』


え…なに?
提督が…悪い?
それに…あの提督って誰さ?


龍驤『あんまり騒ぐなや!』

球磨『クマァ!』


実はノックが聞こえたからコント始めたってことは流石に無いよね?


球磨『なんで江風は来たのに…』

球磨『球磨たちには…ぐすっ』

龍驤『泣くなや…ウチまで悲しくなるやろう…』


アタシ…?

どーいうことだろ…

………。

考えても分かんないし、今入れそうもないねぇ…

また明日に出直そう…







部屋に帰ると姉貴は寝ていた。
明かりは豆電球だけつけて、アイマスクをしていた。

やっぱり明かりがあると寝れないのね。

電機は消さずそのまま横になる。


………。

今日は色々とあった…

思えばこの鎮守府のことをなにも知らない。
まぁ、来てまだ三日目なんだけどね。

筑摩さんが言っていたこと
球磨さんが言っていたこと

どいういことなんだろ…


…なんのこっちゃ分からない。
けど、なにか問題があることは流石のアタシでも分かる。


姉貴の手を取る。


最悪、姉貴と二人でここを異動かねぇ…へへ


でもまぁ、ここが嫌いな訳じゃない。

それなりに楽しくやっているし、
艦娘や提督も悪い人ではない……たぶん

まずは知ることからだねぇ…

うん…

………寝よ。

江風「おやすみ」






もう朝は姉貴無しではダメなんじゃないだろうか…


海風「起きてー江風―!朝よー!」ゆっさゆっさ

江風「んにゃ…」


明日こそは自分で起きたいなぁ…



そんなこんなで朝食を済ませ、執務室前。


江風「よっしゃ」


気合いで残った眠気をふっ飛ばし。




コンコン―――


江風「江風です」

仮面提督『入れ』

江風「失礼しまーす」


ガチャ―――


江風「おはようございます」

仮面提督「おはよう」

仮面提督「本日もよろしく」

江風「はい」



滞り無く執務に励み、あっという間にお昼時に



江風「腹減ったぁー…」

江風「今日はなに食べよっかなぁ」

球磨「どうしたクマー?」

江風「わぁ!」ビクッ

球磨「クマァ!?」ビクッ


振り返ると驚きに驚いた球磨さんがいた。


球磨「だから、驚き過ぎだクマ!」

江風「すいません!」

球磨「こちらこそ、驚かせてごめんクマ!」


とっても早い仲直り


球磨「さて何食べようかクマ~♪」


なんだ球磨さん全然いつも通りじゃん。
昨晩のことが嘘みたいに思えるけど…どうなんだろ


球磨「どうしたクマ?」

江風「いや、何食べよっかなぁって…」

球磨「ふーん…」

江風「なにかおススメあります?」

球磨「球磨ちゃんのおススメは焼きシャケ定食だクマ」

江風「やっぱ熊らしく鮭を食べておこうと」

球磨「キャラ作りは日常生活からだクマ」

江風「キャラ作りって…」


ホント、なに目指してるんだろこの人。


江風「じゃあ、球磨さんおススメの焼きシャケ定食にするぜ」

球磨「球磨は親子丼にするクマ」

江風「え?」

球磨「クマ?」


シャケじゃないんかーい!


球磨「熊は肉食だからキャラ的になんの問題も無いクマ」

江風「えぇ…」



楽しい球磨さんとのお昼を終え
執務室に戻りお仕事再開





江風「本日の分すべて終わりました」

仮面提督「ご苦労」

仮面提督「下がっていいぞ」

江風「はい、失礼します」


バタン―――


昨日と同様、夕めし、風呂をササっと済ませて



江風「ただいあー」

海風「おかえあー」


お、被せてきたな姉貴
でも…


江風「おかえあーってどうなのさ?」

海風「ただいあーってきたらそうなるでしょう」


ならんでしょ


江風「そんなバナナ」

海風「なんてココナッツ」


いや、姉貴のセンスがおかしいと思うぜ…


江風「まぁ、いいや」

江風「今朝も言ったけど今日も龍驤さんとこ行ってくるぜ」

海風「あー、言ってたね」

海風「あんまり遅くまでいたらダメよ」

江風「ほいほい」

江風「じゃあ、いってきー」

海風「いってらー」




昨日よりも早く来れたな。


コンコン―――


龍驤『はーい』

江風「江風です」


ガチャ―――


龍驤「おぉ、なにどうしたん?」

江風「ちょっと話が」

龍驤「なんやあらたまって」

龍驤「ま、ええわ。あがり」

江風「おじゃまします」


今日は龍驤さんひとりなんだな。




龍驤「どうや提督とうまくやっていけてるんか?」

江風「会話ないからなんとも」

龍驤「やっぱそうなんやな」



龍驤「んで、なんの話や?」


うーん、どこから話したものか…


龍驤「なんや深刻そうな顔して」

龍驤「言いにくいことなんか?」

江風「…どちらかといえば」

龍驤「んじゃ、ちゃちゃっと話してしまおうか」

龍驤「ずーっと抱えとくと重くなるで」

江風「じゃあ…」

江風「この鎮守府、なにか問題ありますよね?」

龍驤「………」

龍驤「…なんでこの鎮守府に問題があると?」

江風「ええっと…」

江風「筑摩さんに昨日言われて」

江風「おいしそうにご飯を食べているのはアナタと海風くらい」

江風「と」

龍驤「そんなんアイツの意地悪かもしれんやん」

龍驤「考え過ぎとちゃう?」


筑摩さんと似たようなことを…
やっぱなんか隠してることがある。




龍驤「納得は…してへん顔やね」

江風「もちろん、それだけなら」

江風「でも昨晩、龍驤さんの部屋の前で聞いてしまったんです」

龍驤「昨晩…部屋に…」

龍驤「そうか…せやったか…」


察した様子。


龍驤「やっぱ隠せんわなぁ…」


やっぱりなんかあるのか。


江風「龍驤さんが知っていることを聞かせてもらえませんか?」

江風「お願いします」

龍驤「………」

龍驤「せやな…」

龍驤「球磨と筑摩、そして伊勢はなぁ…ここに姉妹艦がいないんや」

江風「え」


そういえば確かに見たことないぜ。


龍驤「海風もアンタが来るまでそうやったし」

龍驤「そもそも元々姉妹艦が居た子以外はな、居ないんや」

江風「それで…筑摩さんは…」


姉妹艦のいるアタシと海風はメシがうまいだろうと…


龍驤「せやろうなぁ…」

江風「でも、なんで姉妹艦が来ないのさ?」

龍驤「………」

龍驤「そこで次は提督の問題や」


てーとくの問題…




龍驤「あくまで噂や」

龍驤「でも噂にしては信憑性が高すぎる」


噂…?


江風「その噂ってのは?」

龍驤「提督は同じ艦には二度と出会えない」

江風「え」

龍驤「呪いみたいなもんやろうか…」

龍驤「いままで同じ艦に出会ったっていう提督はいないらしい」

江風「そんな…」

龍驤「そんでや」

龍驤「仮面は建造もしなければ海域で艦娘も見つからへん」


そういや執務に建造のマニュアルは載っていなかった。


龍驤「事実、ここ二ヶ月アンタ以外誰も来んかった」

龍驤「ちなみにアンタの前が海風ちゃんや」

江風「姉貴が…」

龍驤「姉妹そろってレア艦やからなぁ、アンタらは」

龍驤「仮面が今まで会合できんかったのは分かる」

龍驤「でも他の子らは…」

龍驤「すでに建造してしまっていて、ここには居ないだけか」

龍驤「実はまだ会合してへんのか」

龍驤「でもな、そんなのはありえへん」

龍驤「こういっちゃあれやけど」

龍驤「確率は全鎮守府の統計でみても低いなんてことはない」

龍驤「つまりは……まぁ、そういうこっちゃな」


龍驤さんは言わなかったけど…
ここに居ないのなら、その艦娘は…
そういうことなのか…
球磨さんが昨晩言っていたのは…

あれ…でも?




江風「龍驤さんおかしくありません?」

龍驤「なにがや?」

江風「その…提督は…おそらく艦娘の大半を……」

龍驤「言わんでええ」

江風「………」

江風「その提督を…なんで優秀な人って?」

江風「それに昨晩球磨さんは今の提督がって言ってたじゃん」

江風「じゃあ、前には別の提督が?」


そう、昨晩の盗み聞きによると
ここに絡む提督は二人いる。


龍驤「………」

龍驤「その疑問は…もっともやなぁ」

龍驤「………はぁ」

龍驤「この話もせんといかんかぁ…」

江風「なんの話?」

龍驤「この鎮守府の話」

龍驤「仮面が来るきっかけになる話や」


提督のこと知ってたんじゃん…
初日のは嘘だったのか…


龍驤「そんな顔せんといて…」

龍驤「あんまり明るい話題でもないしな」

龍驤「黙っておくことにしたんや」

江風「それでも…」


話して欲しかったんだぜ…


龍驤「すまんな」

龍驤「どこから話そうか」

龍驤「そうやなぁ…」

龍驤「この鎮守府は一度、深海棲艦によって陥落されたんや」

江風「え」




龍驤「侵攻される前から話そうか…

この鎮守府は内海の入り口にあってなぁ、深海棲艦の侵入を防ぐ重要な拠点となっていたんや。

この鎮守府が機能していたころは平和なもんで、内海の奥の方では深海棲艦の脅威が無いから、
海水浴を楽しんだり、今や貴重となった漁業が盛んに行われていたんやで。

辺境の地ではあったんやが、そういった要因もあって大本営からの支援も手厚かった。
ここからさらに沖に行った離島に鎮守府が置かれたくらいや。」


江風「そこまでしてここを?」

龍驤「人にとって海っちゅうのはそんぐらい大事なもんなんやろうなぁ」

江風「なるほど」




龍驤「四年弱やった、ここの平和が続いたのは…
でも離島の、前線の鎮守府が頑張ってくれたおかげで四年も続いたんやで。
ここには大した敵はやって来んかったし、向こうにいた艦娘は軒並み高練度だったそうや。

でもなぁ、それが裏目になってしもうたんやなぁ。

ここにいた艦娘の練度はなかなか上がらん。
向こうの鎮守府は前線維持で忙しいから演習すらなかなかできん。
敵もあんまりまわって来ないから実戦経験も積めへん。

戦闘力という面で前線鎮守府に依存する形になってしもうたんやなぁ」


江風「んじゃあ普段は何を?」

龍驤「主に前線への資源輸送任務やね」

江風「なるほど」

江風「戦闘だけが戦争じゃないと」

龍驤「せやね」

龍驤「戦闘は向こうに任せてウチらは資源確保に徹したわけや」

龍驤「開発、建造は控え資源を備蓄したんやで」

江風「じゃあ、ここの鎮守府の艦は少なかったと?」

龍驤「せやね。駆逐がメインで四十隻も居なかったと思うで」


完全に輸送部隊の鎮守府だったってわけなのね。


江風「前衛が戦闘、後衛が支援していた…」

江風「それならそう簡単に陥落しなさそうな気もするぜ」




龍驤「せやね…

でもホンマ簡単に陥落したんやで…

きっかけはここら一帯を襲った嵐や」


江風「嵐…?」

江風「そんなもので?」

龍驤「せやな…」



龍驤「にわかに信じがたいのは分かるで?

でも、ホンマにひどい嵐やったんや。

ここらに子どもの時から住んでるという老人でさえ
こんなに荒れたのは初めてと言わしめるくらいやった…
荒れ狂った天候により、波、風が全く体験したことないものになった。

この海を航行するのは困難を極めた。
高練度ぞろいの前線鎮守府の艦娘でさえまともに陣形を組めなかったそうやで。
そのくらい荒れとった。

しかし、奴ら深海棲艦は違った。
奴らは何事もなくいつもと変わらず戦闘できたそうや。

結果…

艦娘たちは敗北し、鎮守府は崩壊。
そこの提督の指示により前線鎮守府を放棄。
後退し、ここ、この鎮守府にて立て直せと言い残したらしいで。
その提督は…数隻の艦とともに最期まで戦ったそうや…

ほんで最後の砦となったウチらは…恥ずかしながらあまりにも無力やった

そりゃそうや実戦経験はまるでなく戦力となる艦娘もほとんどが駆逐艦。

前線の艦娘が命からがら逃げ延びてきてはいたんやけど戦況を立て直すには遅くボロボロやった。

そして、1日を待たずしてここの鎮守府を放棄。
内海奥の簡易施設まで引くことになったんや…」


江風「………」

龍驤「…あんま話たくないっちゅのが分かったやろ?」

江風「…確かに」


江風「あと、その…ひとつ質問なんだけど」

龍驤「なんや?」

江風「簡易施設って?」

龍驤「簡単な入渠場と宿舎、資源の倉庫があるとこやね」

龍驤「さっきもいったけど大本営からの支援は結構あってな」

龍驤「内海に侵攻されたときのためにいくつか緊急用に設置されていたんや」

龍驤「ウチらはそこにも資源を蓄えていたから」

龍驤「どの施設にもそこそこの資源はあったと思うで」

江風「そんなものが」

龍驤「備えあれば憂い無しってな」

龍驤「まぁ、肝心の戦力が整ってなかったんやけどな…」

江風「…………」




龍驤「そんでや。

事態を聞きつけた大本営の奴らが施設に来たんや。
援助を期待したがその逆やった…
大本営はここの地域一帯を放棄。内陸に撤退せよとのことやった。
そもそも、大本営がこの辺境の地を大事にしてくれていたのは海があったからや。
それが…無くなってしまったら…

大本営としても無価値となったここを守るくらいならもっと重要な拠点に戦力を割きたかったんやろな。
それに住人のほとんどはすでに内陸に避難していて、かつての平和はもうここには無かったんや」


江風「…なんのための簡易施設だって話にならなかったんです?」

龍驤「4年前と今じゃ戦況が全然ちゃうかったんやろうなぁ」

龍驤「戦力を割く余裕がなかったんやろ…」

江風「あんまりですね…」

龍驤「せやな…」




龍驤「それで、止むを得ずウチらの提督はそれを受けることにした。

自分がこのまま戦っても変わらないと思ったんやろうなぁ。

承認を受けて大本営の奴らが帰ろうとしたとき、あの仮面がやってきたんや。

仮面は何をどうこうしたのか知らんが提督となることを認めてもらったみたいやね。
ここらはホント謎な部分でもあるな。

後から知ったんやけど大本営は仮面に二つの条件を出していたらしいで。
半年以内に内海を奪還すること。
高練度の艦娘はすべて差し出すこと。

無茶苦茶なもんやで。

それでも仮面は条件を飲み、提督となったんやな。

ウチらの中でも比較的高練度の子は連れて行かれ
前線鎮守府の子らは全員持っていかれた。
残ったのはホンマに微々たる戦力やった…」

江風「よくここに戻って来れましたね」

龍驤「そうやね」

龍驤「ここに戻って来れたことが今の仮面の評価に繋がってるんやで」

江風「そういうことか」




龍驤「異常な快進撃やったわ…ホンマに。

一か月を待たずして内海の半分を取り返したんやで?

仮面の的確な指示の元、敵を順調に撃破。
簡易施設を転々としながら徐々にここに近づいて来たんや。

やればウチらでもできるんやと思ったもんやで。

そして、半年を待たずしてこの鎮守府を奪還。
仮面はその優秀な指揮で見事この海を取り戻したっちゅわけや」


江風「ほー、そりゃ凄いぜ」

龍驤「ホンマ嘘みたいな話やで」


龍驤「それからやなぁ…

大本営は支援をホンマに少しずつではあるけどしてくれるようになった。
加賀を戦力として寄越すくらいや」


へぇ、加賀さんはここ出身じゃないんだ。




龍驤「どや、長々と話したけど」

龍驤「疑問は晴れたか?」

江風「確かにてーとくは優秀だと」

江風「それは分かったんだけど」

江風「てーとくの素性がまだ見えないなぁって」

龍驤「せやなぁ」

龍驤「そこらはホンマに知らん」

龍驤「あ…でも加賀とかに聞いてみるとええかもなぁ」

龍驤「一応、秘書官しとったくらいやし」

江風「加賀さんねぇ…」


あの人、意外と不真面目な感じなんだよねぇ


龍驤「なんや、加賀は苦手か?」

江風「いや全然」

龍驤「まぁ最初は絡みにくいかもしれへんけど」

龍驤「悪い奴ではないで」


こうも建前が通じない以上
素直に生きていくしかないのかねぇ…


江風「今度話してみるか」

龍驤「それがええ」




龍驤「おっと大分遅い時間になってなたな」

江風「わ、もうこんな時間」

龍驤「明日も早いんやろ?」

龍驤「ちゃちゃっと帰って寝なさい」

江風「えぇっと」

江風「今日はありがとうございました」

江風「おやすみなさい」

龍驤「おやすみ」

龍驤「あ」

江風「ん?」

龍驤「あんまり今日の話はみんなの前ではせんといてな?」

江風「はい」

龍驤「うん、そんだけや」

龍驤「じゃ、明日もがんばり」

江風「ありがとうございました」ぺこり






部屋に帰ると昨日と同じく
豆電気をつけアイマスク装着して姉貴が寝ていた。

枕元に置手紙がある。


―――――――――――――――――――――――――――――
明日も起こしてあげないといけないから先に寝ておくね♪

優しいお姉ちゃんより
―――――――――――――――――――――――――――――


そりゃどーも。

いい加減自分で起きないとなぁと思いつつ
明日も厄介になることをアタシは知っている。

横になる。


………。


姉妹艦か…

筑摩さんや球磨さんやが言ったことはこれで分かった。

分かったけど…

アタシがどうこうできる問題じゃなかったぜ…

厄介なのが提督の呪いさ。
どうしようもできない。

にしても、てーとくは謎が多い。

なんでここに来たんだろ?

どこでそんな艦娘を失ったんだろ?

なんで仮面を着けてるんだろ?


んー…


あー…ダメだ。
考えても分からない。


んなら寝よう。


江風「おやすみ」


姉貴の手を取って眠りについた。






ただいまなんとか執務室前。
例のごとく姉貴に頼りっぱなしの朝を迎えております、ハイ…すいません。


さてさて、今日もここに来ましたよーってね。
件のてーとくと一番接する機会が多いのは秘書官であるアタシ。


ま、おっかなくてまともに会話したことなんだけどね…




コンコン―――


江風「江風です」

仮面提督『入れ』

江風「失礼しまーす」


ガチャ―――


江風「おはようございます」

仮面提督「おはよう」

仮面提督「本日もよろしく頼んだ」

江風「はい」


流石謎の男!
今日も隙が無いぜ!


…まずはいつも通り仕事しておきますか。






順調に片付きお昼を迎える。


江風「ふぅ…」


ひとまずいい感じ。
おっけおっけ。


江風「腹減ったぜ」

食堂に向かおうと思ったそのときふと、疑問が浮かんだ。


そーいや、いつも昼過ぎるまで執務室に戻ったこと無かったけど、てーとくってなにしてんのかね。
めし食ってるとこ見たことねーし。
ちょっくら覗いてみよっか。





そんで、執務室前


コンコン―――


江風「江風です」


…………。


ありゃ?返事がない。
留守なのかな?


江風「しつれいしまーす…」


ガチャ―――


仮面提督「………」

江風「わ」


なんだ居るじゃん!
びっくりしたぜ、まったく!

江風「あの…」

仮面提督「………」

江風「?」


あれ?てーとく動かない。


ゆっくりと近づいてみる。


仮面提督「………」ゆらり

江風「んー?」


あ、寝てんだ!
仮面って便利だねー!
集中して資料読んでるかと思ったぜ。


仮面提督「………」こくり


そんなに船漕いじゃって…
優秀な提督が聞いて飽きれちゃうぜ?


江風「…へへ」


初めて、てーとくの人らしいとこ見れた気がするぜ。

んじゃ、起こしちゃわりぃし、昼めしに行ってくるぜ。


バタン―――






食堂に行くと案の定あの人がいた。


加賀「……」ぱくぱく

江風「こんにちは」

加賀「……んぐ」

加賀「あら、こんにちは」

加賀「どう秘書官はうまくいってる?」

加賀「…そう」

加賀「良かったわ」

加賀「……」ぱくぱく


この人は…


江風「ツッコミませんよ」

加賀「…そう」ぱく


江風「いただきます」

江風「…」もぐもぐ


加賀「で、なにか相談?」

江風「え」

加賀「そういう顔してるわよ」

江風「相談というか…」


てーとくについてって前にも聞いたしなぁ


加賀「提督については悪いけど話せないわよ」

江風「ですか」

加賀「…ええ」ぱく

江風「……」もぐもぐ


“話せない”ねぇ…。
何か知っている風な言い回しが気になるとこだぜ。


加賀「……」ぱくぱく


アタシと違って表情からじゃなにも読み取れやしない。





江風「ごちそうさん」

加賀「あら早いわね」

江風「午後も忙しいんだぜ」

江風「秘書官なんで!」

加賀「大変なのね」

加賀「代わってあげたいわ」ぱくぱく


嫌みに嫌みで反撃してくるとは…



加賀「あ」

江風「ん?」

加賀「これあげるわ」

江風「なにこれ?」


白紙で包装された小箱を掲げる。


加賀「さぁ」

江風「さぁって…」

江風「加賀さんからなんでしょ?」

加賀「私からじゃないわ」

江風「え」


じゃあ、誰よ?


加賀「大淀さんからよ」

江風「おおよどさん…?」


結局、誰だよ…


加賀「明日来るみたいだし」

加賀「お礼はその時いいなさい」

江風「はぁ…」


受け取ってみると、大きさの割に軽い。
中身なんだろ?


江風「じゃ、失礼しまーす」

加賀「ええ」





執務室に戻る。


コンコン―――


江風「江風です」

仮面提督『入れ』


おっ、起きてるじゃん。


江風「失礼しまーす」


ガチャ―――


江風「………」スタスタ


アタシは入るなり机に直行。
座り貰った小箱を引き出しにしまう。

ちらりと、てーとくを見る。


仮面提督「………」カキカキ


気軽に話しかけたいけど…
隙が無いねー。


さっき寝てたよね?
とか
お昼食べた?
とか


仮面提督「………」カリカリ


江風「…はぁ」



いつものように時間が過ぎて…




江風「本日の執務すべて終わりました」

仮面提督「ご苦労」

江風「………」

仮面提督「………」

仮面提督「どうした?」

江風「え」

江風「あ、いやぁ…」


これから一緒に夜メシどうかなぁ~なんてさ


仮面提督「……用が無いなら下がっていいぞ」

江風「え」

江風「…あ、はい。失礼します」


あれ、読まれて無い?


仮面提督「………」


仮面つけてて表情が分かんねぇから判断つかないねぇ…


バタン―――




とまぁ、てーとくとの会話計画は進展せず…

唯一の収穫はうたたねしていたとこを見れたことだけ。

うん、そんだけ。


アタシはとぼとぼと食堂へと向かう。






食堂に着くと姉貴と伊勢さんにばったり会った。

伊勢「あら、ご無沙汰じゃない?」

伊勢「入渠場以来ね」

江風「忙しいからねぇ」

海風「執務に慣れてなくて時間かけてるからでしょ?」

江風「言うなよぉ」

伊勢「あははっ、仲良くやってるのね」

海風「はい!それはもう」

伊勢「そっかそっか…」

江風「……」


これは確かに筑摩さんが言った通りだぜ…。
幸せそうな姉妹に見られても文句言えないねぇ…。


伊勢「…いいなぁ、私も妹欲しいなぁ」

海風「伊勢さんもすぐに来ますって!」

伊勢「そうかなぁ…?あはは…」


あれ?この感じ…姉貴は聞かされてないのかな?
提督の呪いについて。


伊勢「……」チラ

江風「……?」


伊勢さんと目が合う。


伊勢「……」ジィー


んー?
よく分かんねぇけど…姉貴には秘密ということ?


伊勢「…」ニコ


どうやらそうらしい。

ってか、表情で会話できるってアタシどうなんだろ…?




海風「ねぇ、江風どうしたの?」

海風「さっきから黙っているし…」

海風「あ…人見知りしてるの?もしかして?」

江風「え」

江風「いやぁ、そんなわけ」

海風「そっか、そうだよね」

海風「まだ二回しか会ってないもんね」


話聞いて!
無視しないで!


伊勢「えーまだ人見知りしてるの?」

伊勢「それってどうなのさ?」

海風「龍驤さんや加賀さんとは仲良くしてるみたいなんですけど…」

伊勢「空母と仲良くできて航空戦艦と仲良くできない訳ないよね?」

江風「ど、どうかなー」

海風「あ、そうだ!」


あ、嫌な予感!


海風「一緒にご飯、お風呂、お布団をすればすぐ仲良しよ!」


いやいや!


伊勢「なにそれ名案じゃない!」


おい、アンタ!




江風「ねぇ、ちょっと!」

海風「なに?」

江風「アタシの顔見てみ?」

江風「嫌がってんじゃん?」

海風「えー」

江風「伊勢さんも!」

伊勢「もう…」じぃー

海風「見るまでもないけどね…」じぃー


嫌だ嫌だ嫌だ!一緒に風呂だけは嫌だ!


海風伊勢「うん」

海風伊勢「嫌がってないわね」

江風「えぇ…」


こんなときだけ読めないのか…


海風「そういえばお風呂一緒に入るの着任以来ね」

伊勢「あ、そうなの?意外ね」

伊勢「私は一緒に入るの初めて」

海風「あ、そうなんですか?」

うふふきゃはは――


露骨に風呂の話しやがって!やっぱ読めてんじゃん!




江風「参ったよ、入りゃいいんでしょ入れば」


海風「なんか…嫌そうね」ズーン…

伊勢「無理しなくてもいいのよ…?」ズーン…

江風「え」

江風「あ、いやぁ…」


え、なにこの落ち込み様。


海風「やっぱり…お姉ちゃんと一緒には嫌よね…ごめんね」ジメジメ…

伊勢「私もほぼ初対面なのに調子に乗ってしまって…ごめん」ジメジメ…


ま、マズいぜ!


江風「あ、え、いや、ぜ、全然!」

江風「ぜーんぜん嫌じゃないよ!ヤだなーもう!」

江風「照れ臭かっただけだよーあは…あはは…」

海風「そっか!そうだよね!」パァア

伊勢「そうこなくっちゃ!」パァア


あれぇ…?


海風「じゃあ、さっさとご飯食べよっか」スタスタ

伊勢「そうしましょう」スタスタ


江風「………」


乗せられたって訳か…そんなのないぜ…



江風が仲間の白と青と一緒に怪しい新興宗教と戦う話かと思ったら違ったwwwwwwww



この後の地獄…
あえてダイジェストでお届けするぜ!



海風「ほら江風、あーん」スッ

江風「え、いやいy――ごぼっ」

伊勢「あら~」


――――――
―――――
――――
―――


江風「風呂だけは!風呂だけは!!」

海風「却下」腕バッテン

伊勢「ほら、行くよー」ガシッ

江風「いやぁあああ」引きずられー


――――――
―――――
――――
―――


海風「今日は姉ちゃんが背中流してあげるね♪」

江風「え」

伊勢「じゃ、私はシャンプーしてあげる」

江風「え」

江風「んなもん、遠慮するぜ…うおぉっ」

海風「まぁまぁ」ゴシゴシ

江風「や、やめっ!くすぐったい!ひゃひゃ!」

伊勢「遠慮するなって」ワシャワシャ

江風「ぎゃ!目に入ってる!雑!伊勢さん意外と雑!」


――――――
―――――
――――
―――


海風「はぁ~楽しかった」キラキラ

伊勢「そうねー」キラキラ

江風「………」ズーン…



海風「あとは寝るだけですね」

海風「布団どうします?」

伊勢「いや、もういいわ」

伊勢「十分楽しんだし」

海風「そうですか、わかりました」

伊勢「んじゃあ、またね」

海風「おやすみなさい」

伊勢「おやすみー」

海風「ほら、江風も」グイッ

江風「え、あ、おやすみなさい」

伊勢「また一緒に入ろうね!」

江風「ヤだよ!」


あ、声に出してしまった。


伊勢「ふふ、冗談を言えるくらいには仲良くなったかな」

海風「そうですね」


いや…冗談じゃないんだけど…


伊勢「じゃ、ほんとにばいばーい」スタスタ


やっと解放された…
散々な目にあったぜ…


海風「さ、部屋に帰ろっか」

江風「…ほいほーい」






部屋に戻ると、布団を敷き横になる。

海風「今日は楽しかったなぁ」ゴロゴロ

江風「姉貴たちは楽しめただろうよ…」ゴローン

海風「ごめんね、久しぶりに江風と一緒に過ごせたから」

江風「朝食とかいつも一緒じゃんか」

海風「そうなんだけどね」

江風「ま、いいんだけどさ…」


ほどほどにしてほしいぜ…

にしても、今日は特に色々あったな…
てーとくの居眠り目撃
加賀さんとの遭遇
おーよど?さんからのプレゼント

そういや中身ってなんなんだ?

空けてみるか。

ん?


江風「あ」

海風「?」




海風「どうしたの?」

江風「いや、今日ちょっとさ貰ったもんがあって」

江風「それを執務室に忘れて来ちまったぜ」

海風「あら」

江風「あーしまった」

海風「明日でもいいんじゃない?」

江風「そうなんだけど…」

江風「急に中身が気になりだして…」

海風「それは困ったわね」

江風「しょーがない、ちょっと出てくるよ」

海風「そう」

海風「気をつけてね」

江風「ほいほーい」






まだ時間的には遅くはない。
そーいや、てーとくっていつまで仕事してんだろ?

寮を出て、執務室のある建物を見るとまだ部屋に明かりが点いている。

お、まだいるんじゃーん。ラッキー

小走りで執務室へと向かう。





コンコン―――


江風「江風です」


…………。


ありゃ?返事がない。
また居眠りかな?


江風「しつれいしまーす…」


ガチャ―――


江風「ありゃ…?」


誰もいない。
のに、電気はつけっぱなし。

おや、いいのかい?優秀なてーとく様がそんなんで。


いやー、それにしても…


江風「てーとくのいない執務室初めて見たぜ」

江風「こんな広かったっけ?」

江風「なんかいつもより広く感じるぜ」


しばらく部屋をウロウロしてみる。

っと、てーとく戻ってくる前にささっと小箱回収して帰るとするか。

自分の机に行き、引き出しから小箱をとる。


江風「よし、じゃ、失礼しましたー」


バタン―――






部屋に戻ると姉貴は寝ずに待っていた。


江風「ただいあー」

海風「おかえあー」

江風「なに姉貴も気になってんの?」

海風「まぁね」

海風「そもそもそれ誰から?」

江風「えーっと、おーよどって人からだって」

海風「へぇ、大淀さんからねぇ…」

江風「それ誰だか分かんねぇんだけど」

海風「え、一回会ってるよ?」

江風「え」

海風「ほら、初めて提督のとこに挨拶行くとき廊下であった」

江風「んー…」

江風「あ」

海風「分かった?」

江風「あの細身メガネの人か!」

海風「言い方はともかく、その人ね」

江風「あー…あの人か…」




海風「ね、早く開けてみようよ」

江風「え、あぁ」


ベリベリッベリー


海風「雑ね」

江風「なにも考えて無かったぜ」


ぱかっ


江風「おぉ」


意外なものが…


海風「あ、かわいい」


もっとお堅いもの想像してたんだけど。


江風「カチューシャ?ってんだっけ」

海風「そうね」

海風「いいなー、私の時は何もなかったのに」

江風「なんか思ってたもんと違ったなぁ」

江風「良い意味で」

海風「たしかにね」


でも、なんでくれたんだろう?
まぁ、明日聞けば分かるか。





海風「さ、中身も分かったことだし寝よっか」

江風「そだね」

海風「電気消すよー」パチッ

江風「ほいほい」


海風「わー真っ暗」そろりそろり

江風「踏むなよ?」

海風「踏んだことないでしょ」そろり

海風「よし、ね?、大丈夫」ごろん

江風「そだね」

海風「はい、手」

江風「ん」ギュッ

海風「えへへ、おやすみなさい」

江風「おやすみ」





翌朝。

海風「起きろー江風!起きるんだ!江風!」ゆさゆっさ

江風「んー…ぅ………ハッ」ガバッ

海風「きゃっ」

江風「………」ボーっと

海風「いきなり起き上がらないでよ!」

江風「…ダメだ…勢いで…起きれるかと…思ったけど…ね…む…ぃ」ばたり

海風「江風?」

江風「んぐぅ…」ぐてー

海風「何二度寝してるの!起きるよ!ほら!」ゆさゆさ

海風「間に合わなくなるよ!」

江風「…そりゃ…よくないねぇ…」むくり


毎朝行われる戦いを終え


海風「ほら、さっさと着替えて!」

海風「朝餉行くよ」

江風「ほいほい…」もぞもぞ

海風「あ、そうだった」

海風「カチューシャつけないと」

海風「ほら、おいで」

江風「んー…」とことこ


昨日もらったカチューシャを姉貴につけてもらう。


海風「………よしっ」

海風「うん、かわいいわね」

江風「けへへ…そうかい?」

海風「似合ってるよ」

海風「じゃ、行こっか」

江風「ほーい」






朝食を終え、執務室へと向かう。
今日も姉貴のおかげで遅刻せずに済んだぜ。



コンコン―――


江風「江風です」

仮面提督『入れ』

江風「失礼しまーす」


ガチャ―――


仮面提督「………」ぱらり

江風「おはようございます」ぺこり


ここぞとばかりに頭のカチューシャを見せつける


仮面提督「おはよう」

仮面提督「本日もよろしく頼んだ」

江風「…はい」


知ってた。無反応ですかい。
なにか一言あってもいいじゃん?


仮面提督「…どうした?」

江風「いえ、なんでもありません」

仮面提督「そうか」



じゃ、さっさとやっちまうかねぇ。
いつものように執務室を出て外の仕事から片づける。




江風「ほぉー…」

江風「終わったぜ…ついに昼前に…」


大分仕事早くなったじゃん。


江風「さてさて」


今日もてーとくが居眠りしてないか見に行くかねぇ。

執務室へと向かう。



執務室前廊下を歩いていると、ちょうど部屋から誰か出てきた。

見覚えあるなー……あ。

大淀さんか!


江風「こんにちは」

大淀「こんにちは」

大淀「プレゼント気に入ってくれたんですね」

江風「はい」

江風「ありがとうございます」ぺこり

大淀「それは良かったです」

江風「でもなんでアタシにこれを?」

大淀「秘書官頑張ってると加賀さんから聞いたものですから」

江風「加賀さんが…」


そんなこと思ってたのか、あの人。


大淀「ふふ」

江風「?」

大淀「いえ、聞いていた通り顔に出やすいと」

江風「あー……」

大淀「正直なのは良いことですよ」

江風「ですかねぇ…」


内心バレッバレってのが良いとは思えないけどねぇ…




江風「そういえば、今日はなんでここに?」

大淀「そうですねぇ…」

大淀「ところで、お昼はもう食べられました?」

江風「え」

江風「いえ、まだです」

大淀「では一緒にお昼どうでしょう?」

大淀「実はお弁当があるんです」

大淀「加賀さんに持って来たんですけど」

大淀「先に食べてしまったみたいで」

江風「はぁ…そうなんですか」

江風「構わないですけど」


あの人なら食べた後でもいただきそうだけど。


大淀「では、せっかくのお弁当なので外で食べましょうか」

大淀「そこでゆっくりお話しましょう」

江風「……はい」


質問を無視していたわけじゃないんだな。


中庭に移動し、適当な木陰に座る。




大淀「先に言っておきますが手作りではないですよ」

江風「そうなんですか」

大淀「支給されたものです」

大淀「でも味は確かですよ」

江風「へぇー」

大淀「はい」スッ

江風「ありがとうございます」パッ

大淀「ではいただきましょう」

江風「いただきます」

大淀「いただきます」

江風「あむ」もぐもぐ

江風「あ、おいしい」

大淀「ふふ、でしょう?」


江風「それでなんですけど…」

大淀「さっきの質問ですね」

江風「はい」

大淀「あなたと同じです」

江風「え」

大淀「私も仮面提督について調べ回っているのです」

江風「そうなんですか」

大淀「ええ」

江風「なんでまた?」

大淀「疑惑があるんですよ」

江風「疑惑…?」

大淀「仮面提督がこの鎮守府に来た理由を知っていますか?」

江風「いえ…」

大淀「では、そこから話しましょうか」



大淀「仮面提督はここが放棄されると決定した時に突然現れました」

大淀「仮面提督はすでに退役し、ここで奥さんと二人で暮らしていたようです」

江風「え」


奥さんいたんだ…


大淀「ですが、ここの鎮守が陥落し深海棲艦が内海に侵攻したことにより港町は甚大な被害を受けました」

大淀「避難に間に合わなかった住人は次々と戦火に巻き込まれていきました」

大淀「その中には仮面提督の奥さんもいたようです」

江風「そんな…」

大淀「奥さんとの思い出がある町が捨てられるのが嫌だったのでしょうか」

大淀「仮面提督はここの奪還を申し出ました」

大淀「退役していた仮面提督でしたが現役時は数々の戦果をあげた敏腕です」

大淀「さらに元帥にも多少コネがあったみたいで半ば強引にここに着任しました」

江風「そうだったんですか…」

大淀「でも、話はここからです」

大淀「当初、私たちはここの奪還は不可能と考えていました」

大淀「ここに残った艦娘達はお世辞にも戦力として整っておらず、練度も低かったからです」

大淀「でも仮面提督はここを奪還した」

大淀「驚くべきは奪還できたことではなく、奪還までのスピード」

大淀「あまりにも早すぎる」


龍驤さんも言ってたな…
異常な進撃やったって。




大淀「いくら敏腕の元提督だからだといっても無敵ではない」

大淀「これが仮面提督を疑うきっかけですね」

大淀「そして、私たちは調査を開始するにしました」

大淀「すると不可解なことが分かってきました」

江風「どんなことが…?」

大淀「そうですね」

大淀「ここら一帯にある簡易施設についてはご存知ですね?」

江風「はい」


たしか、入渠場に資材庫がある簡易的な拠点だったっけ。


大淀「施設から資材が減っているんです」

江風「え」

大淀「奪還にあたって施設を利用したのは報告書にて確認しています」

大淀「ですが、利用してない施設の方も減っているんです」

江風「間違いないんですか?」

大淀「そうですね」

大淀「それに無くなったのは資材だけではないですよ」

大淀「高速修復剤にいたっては完全に無くなっていました」

江風「バケツが…」


今では一切使ってないのに…




大淀「仮面提督が使用したかどうかはまだ分かりませんが」

大淀「状況的に見て間違いないでしょう」

江風「…でもなにか問題なんですか?」

江風「もともと緊急用で使うものだったんでしょ?」

大淀「そうですね、使う分には問題ないと思います」

大淀「問題はなぜ隠していたのか?ということです」

江風「なぜって…」


…なんでだろう


大淀「なぜ隠したのでしょう?」

大淀「ここに私は奪還に関する謎があるんだと思っています」

江風「なるほど…」

大淀「それに、まだ終わりじゃないです」


まだあるのか…




大淀「先日さらなる調査結果が出たんです」

大淀「仮面提督の焼けた自宅から血痕が見つかりました」

江風「血痕…奥さんのじゃないんですか?」

大淀「奥さんのものと思しきものは焼死体周りで確認されています」

大淀「問題はもう一つ大きな血痕がそことは離れた場所で発見されたことです」

江風「それって…」

大淀「考えるまでもなく仮面提督のものでしょうね」

大淀「焼け焦げていて確実とは言えませんが致死量の流血だったと思われます」

江風「でも、それだとおかしいじゃんかさ…」

大淀「そうですね」

大淀「生きていたとしても、数日で治る傷じゃないでしょう」

江風「でも、生きていて」

江風「さらに、提督にまで申し出た」

大淀「とても重症の人間ができることではないでしょうね」

江風「じゃあ、てーとくは人間じゃないってこと?」

大淀「たしかにあの仮面ではそう見えなくもないですが」

大淀「現実的に考えてみましょう」

江風「現実的に…」


深海棲艦、艦娘という存在がいるんだから
人間じゃないものがいても不思議じゃないと思うんだけどねぇ…




大淀「答えは簡単です」

大淀「誰かが仮面提督に成り代わってしまえばいいんです」

江風「成り代わる…」

大淀「実際、現場に死体は残っていませんでしたし」

大淀「それだと辻褄が合うんです」

江風「でも一体誰が?」

大淀「そこまでは流石に分かりません」

大淀「分からないからこうして調査しに来ているのです」

江風「そうなんですね…」


大淀「っと、長く話してしまいましたね」

大淀「私の考えをまとめるとですね」

大淀「仮面提督は本人ではなく成りすまされた誰かであり」

大淀「なにか目的があってここに来たということになります」

江風「目的…」

大淀「わざわざ自分の正体を隠し、放棄されるはずの鎮守府に来た」

大淀「なにも無いわけがありません」

江風「たしかに…」

大淀「ですから、江風さんにも協力してほしいんですよ」

江風「協力?」

大淀「ええ」

大淀「どんな些細なことでも構わないので仮面提督の情報を教えてください」

江風「アタシが知っていることなんて…」

大淀「秘書官であるアナタが現状最も仮面提督に近い存在であるといえます」

大淀「なにか気づいたこととかありません?」

江風「うーん…」

なにかあったっけ…
思いつく限り話してみるか…





江風「役立つかは分かりませんが…」


そう前置きしてアタシはてーとくについて話した。


仕事中でも話しかけたら手を止めてくれること

仕事がいくら遅くなろうと文句を言わないこと

先日、昼寝していたこと

執務室以外で見たことがないこと

昨晩、執務室を留守にしていたこと


話していて思ったけど…
ホント何にもてーとくの事知らないねぇ…


大淀「協力感謝します」

大淀「ひとつ質問してもいいですか?」

江風「はい」

大淀「夜いつもは執務室にいるんですか?」

江風「いえ、分かりません」

江風「昨晩はたまたま行ってみたら居なかったので」

大淀「そうですか」

江風「それがどうかするんですか?」

大淀「いえ、ただ…」

大淀「いつも居ないのか、たまたま居なかったか」

江風「………」

大淀「まぁ、考えても分からないことはしょうがないですね」

大淀「では、これで失礼しますね」

江風「あ、はい」

江風「ごちそうさまでした」

大淀「いえいえ」

大淀「これからも秘書官、頑張ってくださいね」

江風「はい…」


大淀さんは一礼すると行ってしまった。


………。

これからもねぇ…。

今の話を聞いてこれからがあるようには思えないけどねぇ…。


にしても、いよいよ大変なことになってきたぜ。
てーとくの情報を得れば得るほど謎が深まっていく…

とりあえず、夜また行ってみるか…
大淀さんが言ってたことを確かめる意味でも。

なーんか、乗せられてるみたいで嫌なんだけどさ。

こんくらいしかできねぇもんなぁ。






執務室に戻るといつものように、てーとくは座ってなにか読んでいる。

相変わらず仮面の下でどんな表情をしているのか分からず
背丈が一緒なら誰でも成りすましが利きそうだなと思った。




江風「本日の分すべて終わりました」

仮面提督「ご苦労」

江風「お疲れさまです」ぺこり

仮面提督「明日も同じ時間から頼んだ」

江風「はい。失礼します」


バタン―――





さて、夜に備えてちゃちゃっと夜めし、風呂終わらせるかねぇ…




食堂に行くと加賀さんはいなかった。
珍しい。

代わりに…


筑摩「お久しぶり」

江風「…こんばんは」

筑摩「一緒に食べましょ」

江風「はぁ」


あの日以来極力避けてきてたんだけどねぇ
捕まっちまったぜ…


筑摩「……」

江風「あ」

筑摩「ふふ…いいのよ」

筑摩「あんなこと言ったんですもの」

筑摩「嫌われて当然です」

江風「いや…嫌いというか苦手というか…」


筑摩「ごめんなさいね」

江風「え」

筑摩「ただ謝っておきたかったの」

筑摩「あなた達への羨ましさからあんなこと言ってしまって」

筑摩「ごめんなさい」

江風「いや…その…」


筑摩「………」

江風「頭上げてくれよ」

江風「怒ってなんかないぜ」

筑摩「ホント?」

江風「もちろんさ」

筑摩「許してくれる?」

江風「許すもなにも怒っていたわけじゃないしね」

江風「まぁ、イヤな感じはしたけど」

江風「事情を知ってしまったら言いたくなるのもしょーがねーかなって」

筑摩「…ありがとう」

江風「けへへ、仲直りだね」

江風「んじゃ、食べよっか」

筑摩「そうね」


わだかまりがとれ、ぎこちないながらも楽しい食事となった。




自室に帰る。


江風「ただいあっあー」

海風「おかえあうぁっ」


うーむ、流石姉貴。
一周してハイセンスな気がしてきた。


海風「今日は早いわね」

江風「大分秘書官慣れてきたってことだな」

海風「じゃ、お風呂行こっか」

江風「え」


しまったそうなるのか…


海風「さぁさぁ」


ささっと姉貴はアタシの着替えを準備する。


江風「あ、そういえば」

海風「はいはい」

海風「行くよー」ガシッ

江風「いやぁああぁぁ」ズサー


問答無用!





そして、地獄の入浴タイムを終え…


海風「はぁーいい湯だったね」

江風「そだね」ぐったり…

海風「いい加減慣れなよ」

江風「そりゃ無理」

海風「なにがそんなに恥ずかしいのかしら…」


なんでそんなに恥ずかしくないのか…


海風「それにしても私も髪留め買おうかな」

海風「かわいいよね、それ」

江風「ね」

江風「アタシも結構気に入っているんだ」

海風「いいなー」

江風「明日貸そうか?」

海風「え、いいの?」

江風「いいよー」

海風「えへへ、じゃあ、そうしようかな」


江風「っと、ゆっくりしてる場合じゃない」

海風「?」

海風「なにかあるの?」

江風「まぁね」

海風「遅くなる?」

江風「かも」

海風「そう…」

江風「ごめんね、先寝てていいからさ」

海風「うん、分かった」

江風「じゃあ、いってきー」

海風「いってらー」



さて、さくっと確かめて来ますかねぇ…




寮を出て執務室のある窓を見る。
今日も明かりは着いているな。


小走りで執務室のある建物へと入る。


執務室前の廊下に差し掛かった時、ちょうど部屋の扉が開く。


江風「わ」


出てきた…てーとく…


近場の物陰に隠れ様子を伺う。


仮面提督「……」スタスタ


こっちの方に向かって歩いてくる。
てか、何気に歩くところ初めて見たぜ。


江風「………」

仮面提督「………」スタスタ


どうやら気づかなかったようだね。
素通りしていったぜ。


それから、てーとくはトイレ前を素通り。
階段を降り、建物の外へ。




仮面提督「………」スタスタ

江風「………」そろりそろり


どこに行くんだろう。
こっちの方にあるのは…工廠施設?


っと、曲がるんかーい。


仮面提督「………」スタスタ

江風「………」そろーりそろり


ここは…資材庫だね。


仮面提督「…」ピタリ

江風「…!」


止まったぜ。


仮面提督「…」キョロキョロ


明らかに何かしますって感じだな。


仮面提督「…」ガチャ


ギィィイイイ――――


仮面提督「…」スタスタ


中に入って行ったぜ。


………。

ありゃ、扉締めないのか。


江風「…」そろりそろーり

江風「…」そーっと




中を覗くと、てーとくがうずくまっているのが見える。


仮面提督「…」ゴソゴソ


パカッ


江風「え」


床が持ち上がった。


仮面提督「…」スッ


てーとくはその中に入って行く。


江風「……」


またもや開けっ放し。

不用心過ぎやしないかねぇ。

もしかして、わざと誘い込んでるとか?


江風「……」テクテク

江風「…うわ」


真っ暗で怖えぇ。


江風「はぁ…行くか」


ここまで来て、逃げは無い。

アタシはゆっくりと降りて行った。






4,5メートル程降りると、底に着いた。
見渡すと、通路が一本だけ通っている。


江風「…怖ぇ、暗ぇ」


壁に手を当て、沿って歩く。


江風「……」そろりそろり


コツン


江風「ん?」


突き当りまで進んだかな?


江風「…」ぺたぺた


ん…いや、ノブみたいなものがあるな…扉か?


江風「…よし」


意を決して開ける。


ギィィイイイイ――――


赤城「あら?」

江風「……だれ?」




木曾「どうかしたのか?」

江風「わ」


また知らない人…


利根「なんじゃあ!どうかしたのか!?」

江風「……」


うわ、ドスケベな服


日向「まぁ、そうなるな」


って、この人たち…
服装からして球磨さんたちの姉妹艦じゃないのか…?


赤城「これはまずいのではないでしょうか?」

木曾「確かに」

利根「なにがじゃ?」

日向「私たちの存在は極秘だからな」

利根「おぉ、そうであったな!」


極秘…?


江風「あの…」

赤城「どうしましょう?」

木曾「どうするって…」

利根「とりあえず、捕まえておくのはどうじゃ?」

日向「そうだな」

江風「え」

赤城「じゃ、失礼しますね」

江風「あ、いや、ちょっと!」





江風「………」


あっという間に縄で縛られ…


利根「グルグルじゃ」

木曾「グルグルだな」

赤城「初めてにしては上手くありません?」

日向「あの速さでできたなら十分だな」

赤城「ふふ、でしょう?」

江風「うぅ…」


妙な人たちだな…
とりあえずで捕まるアタシもアタシなんだけどさ…


古鷹「ふぁぁああ~よく寝たぁ……」

古鷹「ってなにしてるの?」

日向「起きたか、古鷹」

日向「実はここに初の侵入者が来た」

利根「だから捕まえたのじゃ」

江風「………」グルグル巻きー

古鷹「なんか、かわいそう…」

日向「たしかにな」

利根「グルグルじゃあ!」

木曾「赤城が巻いたんだ」

古鷹「ここまでしなくても…」

日向「そうだな」

利根「やりすぎじゃな」


赤城「え」


木曾「仕方ねぇ、ほどいてやるかぁ」

利根「うむ」

古鷹「そうしましょう」

日向「うん」


赤城「あれ…?あれれれ…?」


ふるたか?さんのおかげでアタシの縄はほどかれた。




日向「とりあえず、尋問するとしよう」

古鷹「机と椅子を用意して、警察のアレみたくしません?」

利根「おぉー、我知っておるぞ!かつ丼を食べるヤツじゃ!」

赤城「かつ丼…いいですねぇ」

木曾「はい、できたぜ」スッ


トン――


古鷹「どうして、かつ丼がすぐに準備できるの…?」

木曾「いやぁ、こんなこともあろうかなって」

赤城「……んぐ」

赤城「早いってレベルじゃないですね…ごちそうさま」

利根「お主も大概じゃ」

日向「机と椅子、準備したぞ」

古鷹「わーい」タタッ

江風「……」


変な人たちだ…




古鷹「はい、座って座って」トントン

江風「あ、はい」

古鷹「じゃあ、何を聞いてほしい?」

江風「えぇ…」


アタシにそれ聞くのか…


赤城「どうやってここに辿り着いたとか?」

古鷹「それいいですね」

古鷹「こほん…君、なんでかね?」


コントでもしたいのかなこの人。


江風「…えぇっと」

江風「てーとくの後を追いかけてきたらここに」

赤城「まぁ」ニヤリ

古鷹「なんてこと」ニヤニヤ

江風「え」


なにこの反応?




古鷹「ずばり、あなた、提督の事が好きですね?」

江風「え、いや」

古鷹「あれ?」

江風「?」

赤城「では、なぜ提督の後を追いかけてきたの?」

江風「なぜって…」

赤城「好きだからでしょう!?」

江風「いやいや」


なぜそうなる。


江風「てーとくを追っていた理由はですね―――」


――――――
―――――
――――
―――


江風「と、いう訳であって」

江風「個人的に気になったから調べていただけです」

古鷹「つまり」

赤城古鷹「好き?」

江風「おう、もう一回聞かせてやる」


もう一度、説明を重ねる。


赤城古鷹「…」ふむふむ


真剣に聞いているように見えるんだけどなぁ。


江風「てな訳さ」

江風「分かったかい?」

赤城「ふーん」ニヤリ

古鷹「へぇー」ニヤニヤ


あ、分かってねぇ




赤城「でも、意外ですね」

赤城「誰も提督の正体掴めてないなんて」

古鷹「分かりそうなものですけどね」

江風「そうなの?」

赤城「あくまで自分で思い至るのと」

赤城「私が雑に言ってしまうの、どちらがいいですか?」

江風「雑な方で」

古鷹「えぇ…」

赤城「では、ご希望に応えましょう」

赤城「提督は元前衛鎮守府の提督で」

赤城「私たちはそこの第一艦隊の艦娘です!」

赤城「奪還のスピードが速かったのは私たちが頑張ったからです!」

江風「はぁー…なるほど…」


ホントにざっくりだったけど、でも疑問のいくつかは解けたな。


江風「でも、てーとくはなんでここに戻って来たのさ?」

江風「わざわざ別の人物にまでなってまで」

赤城「それは自分で聞いてみるといいでしょう、ね、提督」

江風「え」くるっ

仮面提督「………」

江風「うわっ!」

江風「い、いつからいたのさ…?」

古鷹「二回目の理由を話していた時からですね」

江風「えぇ…」


結構聞いてたんじゃん…


赤城「じゃ、後は若い二人に任せましょうか」スタスタ

古鷹「えぇ、そうですね」スタスタ

江風「え、いや、そんなんじゃ」




仮面提督「………」ストン


向かいの椅子にてーとくが座る。


江風「………」

仮面提督「………」


江風「………」

仮面提督「………」



赤城『緊張しているのでしょうか?』

古鷹『好きな人を前に緊張しない人なんていませんよ』

利根『なにしておるのじゃ』

木曾『お見合いだな』

利根『なんと!提督は重婚するのか?』

赤城『しぃー、静かに聞こえるじゃないですか』



仮面提督「…場所を変えようか」

江風「賛成です」


日向『まぁ、そうなるな』





別の部屋に移動する。
何気に広いのね、ここ。


仮面提督「…座ってくれ」

江風「はい」


机を挟んで置いてあるソファーに腰掛ける。
同時にてーとくも座る。


仮面提督「………」

江風「……」


仮面提督「………」

仮面提督「艦娘は本能的に深海棲艦を敵であると認識する」

江風「え」


なに、突然。


仮面提督「さらに、艦娘は提督という存在に好意を寄せやすい」

仮面提督「嫌われることはまず無いといわれている」

江風「そうなのか」


仮面提督「では、深海棲艦の仮面を被った提督はどうなる?」

江風「どうなるって…」


え、なに、なんなのさ。


仮面提督「ここの艦娘は私に対してどう見える?」

江風「んー…」

仮面提督「答えは無関心だ」

仮面提督「好意を寄せて来なければ、特別嫌っている訳でもない」

江風「そう…かもしれない」


思い出してみると確かに…
てーとくはただいるだけの存在だった。


仮面提督「だから、私に興味を持つはずがない」

仮面提督「まぁ、お前さんみたいなのが居たが」

仮面提督「隠しごとをしたい私にとってこの仮面は」

仮面提督「とても都合のいいものだった」

江風「だから、仮面提督に成り代わったんですか」

仮面提督「………」

仮面提督「そうだな、それが全てではないが」

江風「そうだなって…!」





仮面提督「…陸上で轟沈すると艦娘はどうなると思う?」


また突然…


江風「そんなこと知るかよ」

仮面提督「答えは…」ピッ


てーとくがボタンを押すと
部屋奥にあった幕が上がっていく。


江風「なに…あれ」


カプセル?


江風「……」スタスタ

江風「え…」


人が入ってる…


江風「なんなのさ、これ…」

仮面提督「摩耶だ」

江風「まや…?」

仮面提督「陸上で轟沈した彼女は…」

仮面提督「魂が無くなった肉体だけの存在となってしまった」

江風「え」

仮面提督「毎日、高速修復剤を与えなければ肉体が朽ちてしまう」

江風「そんな…」


それでバケツを使わなかったし、集めたりしていたと…


仮面提督「………」

仮面提督「あの日について話そう…」

江風「あの日?」

仮面提督「あの大嵐の日」

江風「あぁ…」




仮面提督「荒れた波でまともに戦えなかった私たちは」

仮面提督「まだ安定して撃てる陸上で敵を迎え撃った」

仮面提督「残した第一艦隊以外をここに避難させるための時間稼ぎのため」

仮面提督「悪あがきをしていた」

仮面提督「それでも、半分もここに辿り着いていなかったが…」


仮面提督「しかし、逃げ場の無い陸上では良い的となり」

仮面提督「次々と損傷していった」

仮面提督「時間にして10分あっただろうか…」

仮面提督「そんな中、摩耶がついに大破した」

仮面提督「大破した者が出た時点で撤退を決めていたので」

仮面提督「私たちは撤退しようとした、その時」

仮面提督「鬼が現れた」

江風「鬼?」

仮面提督「深海棲艦の中でもずば抜けた性能を持つ者だな」

仮面提督「言葉を使え、見た目もほぼ人と変わらない」

江風「そんなのもいるのか…」


よくよく考えたらアタシ一度も出撃してないから
深海棲艦見たことないんだよね。


仮面提督「それでだ」

仮面提督「そいつは俺を見据えて攻撃してきた」

江風「てーとくを…?」

仮面提督「かなり知能も高いようでな」

仮面提督「提督という存在が一番邪魔だと判断したんだろう」

仮面提督「まったく…無防備だった」

仮面提督「ホント…」

仮面提督「馬鹿だった…!」

江風「…てーとく?」

仮面提督「摩耶は…私を庇った…!」

江風「………」


それで…この状態に




仮面提督「爆音の後…目を開けると…」

仮面提督「真っ赤になって倒れた摩耶がいた…」

仮面提督「左の腕、足が…無くなっていて…」

仮面提督「…それからは………あまり覚えてない…」

江風「…てーとく」


心なしか肩が震えている…
てーとく……もしかして泣いてる…?


仮面提督「………んん」


仮面提督「…気が付くと簡易施設で倒れていた」

仮面提督「傍らには摩耶がいた」

仮面提督「…手も足もある、夢だったのかと思った」


仮面提督「しかし、一向に摩耶は目を覚まさなかった…」

江風「………」


仮面提督「目を覚まさないと分かったとき、私の脳は急激に加速した」

仮面提督「摩耶を失わないためにどうすればいいか」

仮面提督「それのみに私の脳は没頭したのだろう」

仮面提督「摩耶の状態、自分の立場、深海棲艦の侵攻状況」

仮面提督「現状から、あらかた推測することができた」


それほど必死だったんだな…


仮面提督「そうだな」

仮面提督「あの時のほど自分を追い込んだことは無かった」


愛されてたんだな、摩耶さん




仮面提督「あの時の私は―――」

―――――――
――――――
―――――
――――

仮面提督「摩耶はまだ死んでいない、その場で魂が抜けただけ」

仮面提督「まだ助けられる、終わっていない」

仮面提督「前衛鎮守府にもどる必要がある」

仮面提督「そのために提督として着任し、戻らないと」

仮面提督「しかし、私は鎮守府を落とされてしまった身」

仮面提督「すぐに提督としての復帰はできないだろう」

仮面提督「それに、大本営は無価値となったここ一体を捨てる」

仮面提督「そういえば、引退した仮面の提督が近辺に居るときいた」

仮面提督「彼を利用すれば正体を隠したまま着任は…可能」

仮面提督「さらに、彼には元帥とのコネがあると聞いた」

仮面提督「理由は適当にでっち上げて強引に着任できなくはない」

仮面提督「ここが山場だな、許可が下りなければそこまで…」

仮面提督「……うぅっ」

仮面提督「頭痛が酷い…悲鳴を上げているようだ…」

仮面提督「あ…とは…着任した時のために奪還の作戦書を…作製」カキカキ

仮面提督「…書けるとこまで…まだ…もう少し…」カキカキ

仮面提督「………」カキカキ

――――
―――――
――――――
―――――――

仮面提督「そうして、行動した」

仮面提督「予想外だったのは仮面の提督が深海棲艦の侵攻で死んでいたことだ」

仮面提督「結果、成り代わりという手になってしまい余計なアシがついてしまった」


仮面の死体はてーとくが隠してしまっていたってことか。
それじゃ、見つからないのも訳ないね。




仮面提督「あとは知っての通り」

仮面提督「隠していた第一艦隊で強力な敵を撃破」

仮面提督「残ったここの戦力で打ち漏らしを掃除しつつ奪還へといたった」

江風「なるほど」


異常な進撃の裏には異常でもなんでもない訳があったと。


江風「んじゃ、てーとくは摩耶さんを助けるためだけに戻って来た」

仮面提督「そうだな」

仮面提督「私はそのためだけに、お前さんたちを利用している」

江風「そっか」


聞いてみればなんてことないぜ。
てーとくも結局ただの人だったってわけさ。


仮面提督「それでどうする?」

江風「どうするって?」

仮面提督「私を大本営につきだすか?」

江風「え」


考えてもみなかったな…そんなこと…


江風「んー…」


でも、答えは決まっていた。


江風「つきださない」

仮面提督「…そうか」




江風「でも、一つ条件がある」

仮面提督「なんだ?」

江風「みんなにちゃんとこのこと話してよ」

仮面提督「それは…できない」

江風「なんでさ?」

仮面提督「大本営の息のかかった艦娘がいるかもしれない」

江風「え」

仮面提督「そもそも、なぜお前さんを秘書官にしたと思う?」

仮面提督「会合したてで確実に安心できると判断したからだ」

江風「そうだったのか…」

仮面提督「特に大淀、加賀の二人は要注意だな」

江風「加賀さんも?秘書官にしてたのに?」

仮面提督「大本営から送られてきたからな」

仮面提督「秘書官は申し出てきたから任せた」

仮面提督「断る理由もなかったし、怪しまれるわけにもいかなかった」

仮面提督「実際、加賀は優秀だった」

江風「そーですかい」

仮面提督「お前さんもよくやってくれてると思ってる」

江風「そりゃ、どーも」


仮面提督「だから、黙っておいてくれないか?」

仮面提督「あと少しなんだ、頼む」


てーとくが頭を下げる。




江風「…わかったよ」

江風「で、あとどのくらいで行けそうなんだ?」

仮面提督「一か月だ」

江風「意外とすぐなんだね」

仮面提督「実際、ここの艦娘たちは頑張ってくれた」

仮面提督「練度はまだ十分とは言えないが」

仮面提督「第一艦隊と連携してうまくすればいけると踏んでいる」

江風「そうかい…ならいいさ」


あと一ヶ月、みんな頑張って…
そうすれば、姉妹艦と会えるから…


江風「んじゃ、注意すべきは大淀さんと加賀さん」

仮面提督「そうだな」

仮面提督「確実にこの二人は大本営側だ」

江風「他には誰かいねーのかな?」

仮面提督「分からない」

仮面提督「あの二人は優秀だ」

仮面提督「こちらに尻尾を掴ませるようなことをしないと思うが」

江風「そっか…」


加賀さんと大淀さんねぇ…


江風「………あっ」


ヤバい…




仮面提督「どうした?」

江風「あのさ…アタシが今カチューシャつけてんじゃん」

仮面提督「そういやそうだな、今気が付いた」


気づいて無かったか…


仮面提督「それがどう…ってまさか」

江風「うん…大淀さんから貰ったんだ」

仮面提督「それじゃ…」

仮面提督「すまない」バッ


てーとくが頭のカチューシャを取る。


仮面提督「…んっ」バキッ


江風「…ごめん」

仮面提督「…やっぱりか」


カチューシャには小型の盗聴器が仕掛けられていた。


仮面提督「これは明日にはしょっ引かれてしまうだろうな…」

江風「………」

仮面提督「………」

江風「…ごめん」


仮面提督「江風」

江風「え」


初めて名前呼んだな…


仮面提督「お前さんが悪い訳じゃない」

仮面提督「仕方ないとはいえカチューシャ壊してしまったな」

江風「いいよ…そんなの」

仮面提督「別のものいつか買ってやるから」

江風「え」

江風「…ホント?」

仮面提督「あぁ」

江風「約束だぜ?」

仮面提督「あぁ」

江風「けへへ、ありがと…」




仮面提督「しかし、さて、どうしようか…」

仮面提督「せっかくここまできたのにこのまま捕まるのは…」

江風「てーとく」

仮面提督「ん」

江風「出撃しよう」

仮面提督「第一艦隊だけでか?無理だ」

江風「いや」

江風「ここの艦隊も使うんだよ」

仮面提督「それは…できない」

江風「なぜ?」

仮面提督「…できない」

江風「はぁ…なにためらっているのさ」

江風「今までとことん利用してきたんだから」

江風「今更じゃんかさ」

仮面提督「………」

江風「てーとく!」

仮面提督「………」

仮面提督「…わかった」

仮面提督「江風、隣の奴らを呼んできてくれ」

江風「おう!そうこなくっちゃな!」









仮面提督「――というわけだ」

赤城「なるほど」

木曾「要は一か月早くなっただけだろ」

利根「そうじゃろうか?」

古鷹「ここの艦娘は協力してくれるでしょうか?」

木曾「なんだよ、予定通り黙って出撃させればいいじゃねぇか」

日向「そういう訳にはいかない」

古鷹「早まったことで練度が予定よりも低いですし」

赤城「連携していかないと突破は厳しいですね」

木曾「面倒だなぁ…」

江風「すいません…」

木曾「あ…いやぁ…責めてるわけじゃねぇんだ」

木曾「面倒な戦いになるなとワクワクしていたとこだ」

赤城「やっさしぃ~」

古鷹「そうですねぇ~」

木曾「…茶化すな」


仮面提督「…では、作戦は夜明けとともに開始」

仮面提督「江風」

江風「はい」

仮面提督「総員起こしをかけてもらえるか」

江風「はい」

仮面提督「食堂に集合してもらうように」

仮面提督「お前さんたちは準備が出来次第、港に集合だ」

一同「「「了解」」」


さぁ、いよいよクライマックスって感じだね。
気を引き締めていくぜ。





総員起こしを掛けると
三十分もしないうちにすべての艦娘が食堂に集まった。


仮面提督「夜中にすまない」

仮面提督「だが、お前さんたちに協力してほしいことがある」

仮面提督「―――――」


てーとくが今回の出撃について話し出した。
みんな、静かに聞き入っている。

ん?

あれは…加賀さんか。

加賀さんは…こちらに協力してくれるのだろうか。

話してみるか…


江風「加賀さん」

加賀「…なにかしら?聞き入っているのだけど」

江風「加賀さんは出撃するんですか?」

加賀「…どういう意味かしら?」

江風「加賀さんは大本営側の人なんでしょ?」

加賀「…そうね」

江風「じゃあ、出撃しない…と」

加賀「はぁ…どうしてそうなるのかしら?」

江風「え」

加賀「私は今、ここの艦隊に所属しているのよ」

加賀「もちろん、出撃するわ」

江風「加賀さん…」

加賀「私が居ないと戦力的に頼りないですし」

加賀「短い付き合いとはいえ、沈まれたら気分が悪いわ」

江風「へへ」

加賀「…なに笑っているのかしら?」

江風「いや、加賀さんは見かけによらないなって」

加賀「どういう意味かしら?」

江風「そのままの意味さ」

加賀「…そう」

加賀「分かったなら行きなさい」

加賀「せっかくの提督の話が聞けないわ」

江風「はい」





仮面提督「――という訳なんだ」

仮面提督「だから、皆の協力を得たい」

仮面提督「どうかよろしく頼む」


てーとくは深々と頭を下げている…

それに対してみんなは…


龍驤「…なんやそういうことやったんか」

球磨「じゃあ、さっさと出撃の準備をするクマ」

筑摩「えぇ、そしてこの鎮守府とおさらばしましょう」

伊勢「えー、私けっこうここ好きなんだけどなぁ」

海風「私も好きですよ」


わいわいがやがや―――


仮面提督「…ありがとう」


みんな、協力してくれるようだった。
良かったぜ…




そして、すぐさま作戦内容がてーとくから説明される。


アタシは元前衛の第一艦隊の方に組まれることになった。
ってか、何気に初出撃なんだけど。

出撃ないと思って油断してたぜ…



離島まで、元前衛とここの第一艦隊から第三艦隊で直進。
残った艦娘でここの防衛。
離島到着後、元前衛は前衛鎮守府正面、残る艦隊は退路のために鎮守府後方に展開
魂を回収後、速やかに撤退という流れらしい。

戦力的に厳しいため道中で損傷した者が出た場合
即時撤退とするそうだ。


仮面提督「では、作戦開始は夜明けと同時に」

仮面提督「それまで各自待機」

仮面提督「出撃に備えよ、解散」








龍驤「ちょっと、江風」

江風「ん?」

龍驤「元前衛の第一艦隊って誰がおるんや?」

江風「あー」


てーとくそこまでは話してないのね。


伊勢「たしかに気になるね」

江風「ふふ」


そういや、もう言っていいんだよな。


球磨「もったいぶってなくてさっさと教えるクマ」

江風「いや、きっと驚きますよ」

筑摩「私たちの姉妹艦がいるのね」

江風「………そうです」


表情でバレてしまった…


龍驤「江風はドッキリとか仕掛ける側には一生なれへんのやろうな」

江風「くぅ…」


あんまりだぜ…




球磨「それ…ホントの話クマ?」

江風「はい」

球磨「…くま」

球磨「クマァぁああ!!」ガシッ

江風「わ」


球磨さんが泣きながら両手を掴んできた。


球磨「やったぁ!クマぁ!」

球磨「もう一人じゃないクマぁ!」グールグル

江風「うぉっとっと」グルグール


スキップしながらアタシを中心にまわる球磨さん。
ホントうれしそうだね。


伊勢「そっかぁ…日向ここにいたんだぁ…」

筑摩「そうですね…」


江風「球磨さん…ちょっと…そろそろ…」グルグル


気分が…悪くなってきた…


球磨「クーマ♪クーマ♪」グールグル

江風「うっぷ…」ばたり

球磨「…あ」

龍驤「やりすぎやな…」

江風「うーん…」

球磨「ごめんねクマ♪」


あ、かわ、いい…




しばらくして…


江風「………」ふらふら


なんとか立てるようになり自室に戻る。


ガチャ―――


海風「あ、おかえりー」

江風「ただい、ま」

海風「どうしたの?」

江風「ちょっとね…」

海風「そう」


見かけないと思ったら、姉貴部屋に戻ってたのか。


江風「で、なにしてんの?」

海風「いや、ちょっとね」

江風「んー?」

海風「出撃前の願掛けみたいなものよ」

江風「へぇ」

海風「ただ部屋で黙とうをするだけなんだけどね」

海風「これをしておくと心が落ち着くの」

江風「そうなんだ」

海風「パニックになったときは静かに目を瞑って」

海風「深呼吸するといいんだよ」すぅー…はぁー…

江風「アタシもやっておくか」


姉貴の横に座り、黙とうをする。


海風「………」すぅー…はぁー…

江風「………」すぅー…はぁー…


確かに…落ち着く…


海風「………」すぅー…はぁー…

江風「………」すぅー…はぁー…







そして、時間が過ぎていき…作戦開始前


木曾「うぅ……」ふらふら

利根「くらくらするのじゃ…」ふらふら

日向「……そうだな」ふらふら

江風「どうしたの?」

赤城「ふふ、感動の再開があったみたいですよ?」

江風「あぁ…」


アタシと同じ目にあったと…


球磨「~♪」キラキラ

筑摩「~♪」キラキラ

伊勢「~♪」キラキラ


あっちはコンディション最高みたいだな。


仮面提督「揃ったな」

江風「はい」

仮面提督「では、出撃だ」


一同「「「はい!!」」」


こうしてこの鎮守府最後の出撃が始まった。







離島までの進行は順調の一言だ。

アタシも初出撃ながらよくついていけてると思う。
多分、みんながアタシに合わせてくれているんだろうけど…

いやー、しかし、流石は前衛で戦っていた人たち。

敵を補足するなり、即時撃破。
ホントこの人たちが突破されるなんて余程すごい嵐だったんだろうねぇ…





赤城『上々ね』


旗艦は赤城さん。
的確な指示で艦隊を統率している。


仮面提督『妙だな…』


てーとくは小型の高速艇で
龍驤さん率いる第一から第三艦隊に囲まれながらついてきている。


赤城『妙ですか?』

仮面提督『静かすぎる…』

赤城『誘いこまれていると?』

仮面提督『………』

龍驤『そうやったとしても行くしかないんやろ?』

仮面提督『…そうだな』

仮面提督『全艦隊に告ぐ、気を引き締めていけ』


一同「「「了解」」」






日が完全に登りきった頃、何事もなく離島にたどり着いた。


仮面提督「江風」

江風「はい」

仮面提督「行くぞ」

江風「はい」


アタシは戦力的にはほぼ役立たずってことで
ここからはてーとくと一緒に摩耶さんの魂探しをすることになった。


他の人らは予定通り、展開していく。


仮面提督「………」タッタッタ

江風「………」タッタッタ


てーとくの後を追う。


仮面提督「………」タッタッタ

江風「うわぁ……」タッタッタ


しばらくすると鎮守府の建物が見えてきた。
建物というより瓦礫の山といった感じだったけど…


仮面提督「酷いものだな…」タッタッタ

江風「…うん」タッタッタ


仮面提督「ここだな」はぁ、はぁ

江風「ここが…」


摩耶さんが…


仮面提督「急ごう」

江風「はい」

仮面提督「艤装のかけらなり、なんなり」

仮面提督「とにかく摩耶が入っていそうなものを」

江風「分かったぜ」


ドカーン―――




江風「わっ」

仮面提督『どうしたっ?』

赤城『敵です!』

赤城『数が多い…!』

仮面提督『やはり誘い込まれていたかっ!』

仮面提督『そっちはっ?』

龍驤『こっちも同じや』

龍驤『数は…ウチらより少し多いくらいやな』

仮面提督『そうか…』

仮面提督『中破が出た時点で撤退だ!』

仮面提督『いいなっ!』

赤城龍驤『『了解!』』


江風「てーとく…」

仮面提督「あまり時間が残されていないようだな…」

仮面提督「探すぞっ!」

江風「おぅ!」




地面を這って辺りを見渡す


江風「急がねぇと…」

仮面提督「くっ…」


ドォオン!ドーン!!


遠くで砲撃の音が絶えまなく響く。
それが一層アタシを焦らせた。


江風「あぁ…見つかんないよ…」

仮面提督「探すしかない!あきらめるな!」

江風「でもっ…」


見つからねぇんだよ…



赤城『提督!!』

仮面提督『どうした!?』

赤城『一隻突破されました!!』

赤城『それも…鬼です!!』

仮面提督『なんだと…!』


鬼ってあの言ってたやつか
ヤバいじゃんか…アタシじゃ太刀打ちなんてできない
はやく…はやく…見つけないと…





江風「………」スタスタ


近寄って見て見るとそれは指輪だった。


江風「…てーとく」

仮面提督「どうした」

江風「これじゃない?」


アタシは指輪を見せる。


仮面提督「…それだ」

仮面提督「それに違いない!」

仮面提督「よくやった江風!」

江風「けへへ」

江風「さ、早くここから撤退しよう」

仮面提督「そうだな」


仮面提督『全隊に告ぐ』

仮面提督『魂は回収した』

仮面提督『繰り返す、魂は―――』


ドドドーン!!


仮面提督「ぐぅあぁあっ!!」ドサッ




離島棲鬼「…ハズシタカ」

江風「え……て、てーとく?」

仮面提督「ぐぅ…ぁ…」


衝撃でふっ飛ばされただけのようだけど…
人間であるてーとくにはダメージが大きいのは見て明らかだ。


江風「あ…あぁ…」ガタガタ


だ、ダメだ…
震えて…駈け寄れない…


離島棲鬼「ツギハ…アテル…」

江風「ぅ…うあぁあ!」ガタガタ


ドーン!ドーン!


アタシは当てずっぽうに砲撃を連射した。


離島棲鬼「…チ」ヒョイッ

江風「ちくしょう!あたれよぉ!」ガタガタ


ドーン!ドーン!


離島棲鬼「ジャマダ…」スッ…


ドドーン!


江風「ぅあぁああっ!!」ドサッ


てーとくと同じ場所に吹っ飛ばされる。




江風「ぁあ…ぃてぇ…」


体が動かねぇ…
てーとくを…摩耶さんを…


仮面提督「………」

江風「…ぅ……くっ」


赤城『提督!?そんな!?提督!!』

龍驤『なんや!!どないしたんや!?おい!!』


江風「…みんな…ごめ…ん…」


アタシじゃ…守れなかったよ…

こんなことなら…秘書官じゃなくて…出撃しとくんだった…


離島棲鬼「マトメテ…」スッ


江風「け…へへ……」


さよならだ…姉貴…


指輪をしろ―――


江風「え」


はやく―――


離島棲鬼「キエナサイ…!」


ドドドーン!


離島棲鬼「………」

離島棲鬼「オワッタカ…」

離島棲鬼「コレデ…ココモ…シズカニ…」


ドーン!


離島棲鬼「キャァ…!?」


江風改二「………」




離島棲鬼「ナンデ…タシカニ…アテタハズ…!」

離島棲鬼「ソレニ…ナンダ…ソノスガタハ…!」


江風改二「……ぶっコロされてぇか!!」ジャキンッ


ドドドドドドーン!!


離島棲鬼「ソンナ…!!」

離島棲鬼「キャァアア…!!」


ドゴォオオオン!!


江風改二「はぁ…はぁ…」


江風改二「…てーとく」

仮面提督「………」

江風改二「てーとく!」ゆさゆさ

仮面提督「………ん」

江風改二「てーとく…」

仮面提督「江風…なのか…?」

江風改二「ごめん…てーとく…ごめん…」ポロポロ…

仮面提督「なんで…泣く…?」

江風改二「ごめん…摩耶さんは…アタシに…」ポロポロ…

仮面提督「…摩耶が…どうかしたのか…?」

江風改二「…指輪…はめろって…そしたら…」

仮面提督「………」

江風改二「…ごめん…ごめん…うぅ…」ポロポロ…

仮面提督「………」

仮面提督「………そうか」

仮面提督「…江風」

江風改二「…ぅう…ホント…ごめん…」

仮面提督「…よしよし」なでなで

江風改二「あ…」

仮面提督「大丈夫だから…」なでなで

江風改二「…ぅぁ……ぅうわぁああああぁん」

仮面提督「お前さんは…よくやったよ…うん…」なでなで

仮面提督「ホントに……よくやった…グスッ」なでなで

仮面提督「ぅ……ホント…ありがと…なぁ……」













海風「ほら、今日出発するんだよ」

海風「荷物ちゃんとまとめたの?」


あれから二ヶ月が経った…

あの後、みんな無事に帰還。
そして、鎮守府は解体され所属していた艦娘はそれぞれ別の鎮守府に配属されていった。


加賀「慌ただしいわね」

海風「あ、加賀さん」

海風「おはようございます」

加賀「おはようございます」


アタシと姉貴は大本営に所属。
加賀さんと同じく必要があるとこに期間的に派遣される。




海風「あ、そういえば挨拶していくんだよね」

加賀「あら、やっぱりあの提督にお熱だったのね」

海風「そうなんですよ、隙があれば会いに行ってるみたいで」


そんなんじゃないって…まぁ…挨拶はしていくんだけどさ


海風「しょうがないわね」

海風「荷物は私がしておくから行ってきなさい」


てーとくは…大本営の施設に投獄されている。
まぁ、色々やっちゃったわけだし、しょうがないね


海風「ほら、早く行ってきなさい」

加賀「行ってきますのチューぐらいしてもらえるといいわね」


バタンッ!!――――








提督「三日ぶりか」

提督「今日が出発だったな」


てーとくはあっさりと仮面を外してしまった。
個人的にはもっと渋って欲しかったんだけど…


提督「そうだ」

提督「約束覚えてるか?」

提督「カチューシャ壊した時にした」


そんなこともあったね…


提督「囚われの身だからろくなもの用意できなかったんだけどな」

提督「餞別だ、受け取れ」


え…なにこれ


提督「色を白に塗っただけどな」

提督「お前さんアレだからな…」

提督「うん、今まさにその状態がそれ」

提督「じゃあ、頑張ってこい」


信じられない!
カチューシャじゃないじゃん!

でも…まぁ…せっかくだし…つけてやるか…






ガチャ…――――


海風「あ、帰って来たわね江風」ゴソゴソ

海風「ちょうど今、荷造りが……って江風!?」

加賀「…流石にそこまでお熱だとは思いませんでした」


仮面江風「いや…だってさ…せっかくくれたんだし!」

仮面江風「いーじゃん!これで顔読まれないんだから!!」


海風「えぇ…でも、可愛くないよ?」

仮面江風「いいもん!」

加賀「気持ち悪い」

仮面江風「気持ち悪くない!」


大淀「皆さん出発の時間でs…うわぁ…」

仮面江風「引くなよ!」

大淀「恋は盲目と言いますがね…これはどうなんでしょう…」

仮面江風「恋してないって!」


海風「今からは海風さんって呼んでね」

仮面江風「なんでだよ!姉貴って呼ぶよ!」

海風「………」

仮面江風「反応してよ!」


加賀「さ、行きましょう」

海風「ですね」

大淀「もう車来てるんですよ」


仮面江風「えぇ…無視すんなよぉ」




仮面江風「………」スタスタ


鏡の前に立つ。


仮面江風「…うん、イケてる」

海風加賀大淀「「「ないわー」」」


仮面提督「…もう怒った」


海風「撤退です」タッ

加賀「流石に最高練度には敵いません」タタッ

大淀「そうですね」タッタ


仮面江風「待てぇ!!」スゥッ













おわり



乙ヤーデ。摩耶は駄目だったか…



以上です。
話の読みにくさや矛盾等、色々あると思いますが目を瞑って深呼吸してもらうと助かります。
長すぎですね。もっとスッキリできたのではないかと思います。
4万字超えてるの見た時、変な声が出ました。
ここまで読んでくださった方いましたらうれしい限りです。




この話とまったく関係のない過去作―――

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貴官でしたか。
乙であります!

ただ、江風の「ん」は「ン」ししといてほしかった、かな……(・・;)

長さはこんなもんじゃないかね、端折って説明不足になるよりいい
ンは気になったけどおもしろかったよ

134と135の間が抜け落ちていますねぇ…

すいません。ギリギリ違和感なく読めるかもしれませんが一応、補足しときます。



鬼ってあの言ってたやつか
ヤバいじゃんか…アタシじゃ太刀打ちなんてできない
はやく…はやく…見つけないと…


江風「どこだよ…どこに…」


焦りはピークに達した。


江風「ダメだ…見つからねぇ…」


辺りを見渡しても、しゃがんでも立っても見つからない。


江風「どこに…ある…」


落ち着いて――


あ、姉貴…?


教えたでしょ―――


江風「え」


心の落ち着け方―――


江風「…そうだったな」


まず目を瞑る。


江風「………」すぅー…はぁー…


次に深呼吸…


江風「………」


自然と焦りが消える…


江風「………」

仮面提督「どうした?江風?」

江風「………」パチッ


大丈夫…よく見える。


江風「………」じぃー


周りを見渡す。


江風「………あった」


瓦礫の間に光る粒を見つける。


江風「………」スタスタ


近寄って見て見るとそれは指輪だった。

                      っ

          / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄'\ っ
         /  ノ^ヽノノノノ^ヽ、ヽ     フェェァ―――――!?
         | / へ    へ  ヽ | っ  
         (|─[ ‐ ]ー[ ‐ ]─|ノ     マァァァ―――――??
         |    ,ノ(、_, )、    |    
         |   ;‐=‐ヽ  u |      ア゛ー落としたァ!!
         |   `ニニ'´   |    
         ヽ、  ,,_,,   / アメックスのゴールドカード落としちゃった!!!

         /``-ー――-"\

  < どうか、しましたか?

         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄'\

         /  ノ^ヽノノノノ^ヽ、ヽ
         | / へ 〃  へ  ヽ |
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          |   / .,r===ュ、 `  |    > 落としてしまったのですが!! <
          |  .! i.:::::::::::.! !  |     ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
         |   .゙===='   |  キリッ

          ヽ   ,,_,,  /
         /``-ー――-"\

おつ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年09月24日 (土) 19:51:43   ID: UOfqej7B

読みやすくて実に良かったです!

2 :  SS好きの774さん   2016年09月27日 (火) 07:27:27   ID: XKo0M_DL

これはいいにゃしい

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