神谷奈緒「愛をこめて」 (14)

この日はやってくる。

アイドルになって、凛や加蓮、事務所の人たち、ファンの人たち
、今までとは考えられないほど多くの人から、その日を祝われる。

「おめでとう」

その言葉だけで十分すぎるほど、あたしは色々なものをみんなからもらっている。
あたしは幸せだと、本当にそう思う。


でも、きっとどこかにプレゼントが欲しいなと思う気持ちもある。


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プレゼントは素敵だ。
誰かの為に、あたしの為に選んでくれたという思いがこめられているから。

だからどんなものでもあたしは喜ぶと思う。
ちょろいなー、と凛や加蓮には笑われそうだけど、
でも、こんなあたしの為に選んでくれたものなら、それ以上の物は無い。

少し前からプロデューサーの様子がおかしい気がする。
上の空と言うか、何かを考えているような気がする。


それがあたしの事だったら、恥ずかしいけど…嬉しいなって思う。

凛と加蓮にそんなことを何となく話したら、
にやにやされてしまった。くそぅ…。

心配ないよって凛は言うし、加蓮はよく見てるねーって悪戯半分で言ってくるし、
結局両サイドからからかわれる始末。
相談するんじゃなかった。


結局もやもやしたまま誕生日当日まで来てしまった。

ライブに向けてのレッスンが終わり、
凛や加蓮、事務所のみんなに一通りお祝いされ、
ファンの人たちから届いたお祝いの手紙を読んでいたら夜も遅くなってしまった。

…いや、遅くなるのを待っていたというのが正解だろう。


勢いよく扉が開く。
ビクッ!として扉の方に視線を向けると、息を切らしたプロデューサーさんがいた。

「お、お疲れ、奈緒」

忙しく動き回った一日が終わったのだろう。

結局プロデューサーが来るまで待ってしまった自分が恥ずかしくて体をそらしてしまった。

少しの沈黙。

何か言った方がいいんだろうか。
こんな時間まで残ってしまっていて、
いかにもあなたにお祝いされたいから待っていたんですという魂胆が見え見えじゃないかー!
と、心の中のぷち奈緒が叫んでいる。

でもいつまでも沈黙を続けている訳にはいかない。
きっと赤い顔をしてると思う。でも、顔を上げて言う。


「あ…あのさ」

「あ…あの!」

言葉がかぶってしまった。

「…奈緒からどうぞ」

「プ…プロデューサーからどうぞ」

にゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

ここはもうプロデューサーさんからの言葉を待つことにする。

「遅いから送っていくよ」

「…ありがと」



他の言葉が欲しかった。

車の中は静寂に包まれていた。
何かを話そうと思っても上手く言葉が出てこなかった。

日付はまだ誕生日のままだけど、
もしかしたらあたしの誕生日なんてどうでもいいと思っているのかもしれない。

所詮アイドルとプロデューサー。ビジネスライクな付き合いなら、
誕生日をお祝いする必要なんてないのかもしれない。


車はゆっくりとスピードを落としていき、そして完全に停車する。

「ちょっと待っててくれ」

そう言ってプロデューサーさんは車の外にでる。

フロントガラスから見える景色は見たことの無い場所だった。
あたしの家についたわけではないようで。

言葉は凄い。たった一言、それだけで、その一言で全てが満たされるだけの力がある。
アイドルになってからは強く思うようになっている。


コンコンとドアを叩く音がする。
恐る恐るドアを開けて外に出る。


明日は満月だって誰かが言ってたけど、そのおかげか月の光で明るい夜。

誰もいない丘の上。本当にどこだここ?

月明かりが少し先にいるプロデューサーさんを照らしている。

あたしも月明かりを頼りに、プロデューサーさんの元まで歩いていく。


足元を見ながらゆっくりと歩く。
ふと顔を上げると、月明かりを背にしてプロデューサーさんがこっちを見ている。


少し、あと少し。そして…





もう、期待してもいいんだよな。

「誕生日おめでとう」

プロデューサーさんの手には大きな花束が。

色々な事を考えて、あたしの為だけに作ってくれただろう花束から、
プロデューサーさんの思いが伝わってくる。

こんな時、どういえばあたしの気持ちは伝わるのだろう。
素直に伝えられるだろうか。


花束が大きくてよかった。
真っ赤になった顔を隠せるから。


向き合うなんて出来ないから、そっと花束から顔を出して。


「あ…ぁりがとぅ」


精一杯のあたしの思い、溢れ出る思いは花束の陰に隠して。

奈緒ハピバアァァァァァァァァァ!!!!!


いつか奈緒が主人公の魔法少女物を書きたいと思います。

おやすみなさい。

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