サローニャ「ロシアの殺し屋恐ろしあ」 (672)


・”if”の世界。…の、未来。

・伊坂幸太郎著の『グラスホッパー』を軸に『魔王』、漫画の『魔王ジュブナイルリミックス』『ワルツ』とか他の伊坂作品とかの要素とかそれっぽい感をぐっちゅぐちゅに混ぜて、たまにパクr、…オマージュしたモノ。

・カプ有り。未定。多分上条×サローニャ、上条×蜜蟻、上インとか…?

・なんでも許せる人向け。

・わりと短編。需要無視の完全なる自己満足SS。






・ぶっちゃけスレタイをサローニャに言わせたかっただけ











SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1473312605











戦争:ひとがいっぱいしぬこと。










酷く幼稚なその定義を是正されたのは私が10才だった頃。


現実の戦争はそう一言で言い表せるモノではなかった。


「ママぁああああああああ!!!!」「ひぎっ…!?」

「た、たずげっ…」

「う、ウワァアァアッッッ

アアっ

ぐちゃ。

ぐちゅ。

「や、やめろぉおおおおお!!!!」

「あひゅ…

「走れ!早く!はや、だっ

ドサ。ドサドサ。

ガシャン!!!ドガァァアンン!!!

バァン!タァン!タァンタァン!!







大事なモノも家も人も建物も名誉も友も家族も


燃え、消え、崩れ、折れ、壊れ、失くし、死に、抉られ、穴ができ、踏み潰されること。

それが、





”  ”。








ーーーーーそして数年後。15才。


恐らくその時に”人が死ぬ事”を身近に感じすぎて


        ジョ-シキ
【人として生きる上での大事なナニか】を失った私は。



私の祖国を踏み潰した国で、




「ひっ…なんで、ここは絶対安全なはずだろぉぉおおおおお!!!!」

「残念だったね。この世に『絶対』なんて事は絶対無いんだよ」






人を殺すお仕事ちゃんをしています。













         サロ
         ーニ
          ャ





「お前!新しい家庭教師だって言ったじゃないか!」

「そりゃ言ったよ?嘘だけど」

「なん、おまっ、」

「だってそうしないと開けてくれないでしょ?家に上がんなきゃお仕事ちゃんできないじゃん」

「インターフォン鳴らしてさ、『すみませーん!ちょっとナイフで刺しに来ましたー♪』とか言っても開けてなんてくれないでしょ?」

「んな…?」

「え、もしかして入れてくれた?」

「な訳ねーだろ」

「でしょ?だから上司から言われてるんだよね。『コイツ留学考えてて、ロシア語に興味あるらしいから家庭教師だって名乗れ』ってさ」

「…なんで、私を…誰が…?」

「さー?上条ちゃんは何にも教えてくれないし私にはそーいうの言わないんだよね」



「上条ちゃんって誰だよ」

「私の上司。でさ、私も気になって私なりに調べたんだけどー」

「君さ、多分、能力を上手く使ってあちこち火をつけて回ってたでしょ?」

「は…?」

「ほらー最近ここらで放火事件多発してたじゃん?」

「ち、違う!私じゃない!」

「でさ、唯一死者が出た時があったんだけどー」

「聞けよ!」



「その死んだ子、君に逆らった子だったんだ」

「…」



「ほら、アンタって能力至上主義なんでしょ?で、そういう派閥を作ってて普段からレベル0を見下してた」

「他にもけっこー悪い噂もチラホラ」

「関係ないだろ」

「で、その死んだ子は唯一アンタに対して反抗した」

「だから?殺った証拠あんのかよ」

「んーん。ないよ?キレーに消されてた。あり得ないレベルで。」

「だろ?大体、そういうのやる奴こそーー」

「でもね?それは関係ないんだってば」

「?」

「あなたは統括理事会のメンバーの子供なんでしょ?お父さんは子供の悪い事した証拠なんて残さない」

「でもね、逆にそれが証拠になるんだよね」

「『誰も消せないような証拠を消せる奴は誰だ?何故?誰のために?』ってコト」


「…だとしても、」

「そうだね。まぁ仮にこの推論が間違っていてもそうであってもあなたは絶対逮捕されない」

「もしも万が一逮捕されてもお金ちゃん払えば出てこれるし」

「ルールを作ってるのは偉い人で、あなたはその偉い人に依怙贔屓されてる」

「きっといつか『そういえばそんな事もしたっけなぁ』ってヘラヘラ笑えるんでしょーよ」

「でも依頼者ちゃんはそれを納得しなかったんだよね」

「そんでさ、やっつけて貰いたいんだよ。社会的にじゃなく、物理的に」

「きっと依頼者はその子の両親ちゃんじゃないのかな?」

「ちなみにどっち?やった?やってない?」

「……」



「ま、どっちでもいいんだけどね。どちらにせよ殺すんだから」

「?!」





「お、お前!私はまだ12才なんだぞ!?」

「はぁ、それで?」

「こ、子供を殺すとか…その、ダメだろ!」



壁際に追い詰めたターゲットは目で必死に逃げ場を探している。

逃げ場?あるわけないじゃん。時間稼ぎなんて無駄だってーの。



「しかも!私は女だ!!」

「はぁ。それで?」

「女で!!子供だ!!!」


どうだ突きつけてやったぞ、と言わんばかりにこちらへウザったい顔を向けてくる。


「…それで?」

「ダメダメダメ!ダメでーす!!女は殺すのダメだし、子供はもっとダメなんでーす!!」

「はぁ。だから、なんで?」

「は、ハァ!?お前、お前…、お前バカかよ!!!」


失敬な。口喧嘩に一回も勝った事無いようなあんたにだけは言われたく無いんですけど。





「大体なぁ!『どんなにクソムカつく奴であっても人を殺しちゃダメだ』、なんて!世の中のジョーシキじゃねぇかよ!!!」


それをあんたが言うかね。


「…バッカじゃないの?」

「あぁ!?」

「だったら。アジアの某国ちゃんとか、今まさに宗教と思想でたくさんの人ブッ殺しまくってる奴にも同じ事言って来なよ」

「…違う。ぜーんぜん違うんだって。」

「『人を殺しちゃダメ』が常識じゃなくって、『ムカつく奴をバレないようにブッ殺す』のが常識なんだよ」

「で、君はしくじった。非常識な事しちゃった。それだけ」

「…お前、イカれてる」

「そう?さっきのあなたの『女で子供は殺しちゃダメ』ってのもイカれた意見だと思いますけど?」




「大体さぁ、なんで子供ちゃんを殺しちゃダメかなぁ?」

「子供はいずれ大人になるし、ナマイキだし。結局大抵は大した価値もない大人ちゃんになるじゃん」

「それに、女も男も価値に大した差はないでしょーよ」

「というか、それ言うならおじいちゃんやおばあちゃんは?」

「社会貢献とかしないし、労働力にはならない上にただでさえ少ない若者が無駄に必死に支えなきゃならないよ?」

「更に言うなら。その理屈で言うならさ、大人で男は殺されてもいいのかよって」

「そーいうの、サベツでしょ」

「こ、この…理屈理屈でくどいんだよ!!」








「それにな!こんな事してみろ!!父さんがすぐに警備員や私兵を動かす!マスコミだって騒ぎ立てるぞ!」

「お前は終わりになるんだ!!」

「…『そんな事したらすぐ警察機関に捕まる』『マスコミだって騒ぎ立てる』」

「『捜査機関が必死に捜査するし、追跡技術が発達したその街では逃げられない』…」

「よくさ、学園都市の外の人もそう言うんだよね」

「は…?」

「ぷぷ。変わんないっての。外も、中も」

「ねぇ。この街で未解決のこういう事件がどれくらいあるか知ってる?」

「…?」



「『チャーリー・パーカーに道で白人を十人殺していいとて言えば、楽器を捨てて演奏なんてやめるさ』」



「ゴダールの映画ちゃんで言ってたんだけどね」

「…?突然、なんだよ、何が言いたい?」



「とどのつまり。チャーリー・パーカーは白人ちゃんをブッ殺したくて仕方なかったのをサックスを吹くことで誤魔化してたんじゃね?って事」



「でもって、今の時代はさ、その”チャーリー・パーカーにとってのサックス”を持ってない人間ちゃんが山程いるって事」



「そんな、常識は、……だって、おかしいだろ、…こんなの、」










「ハイハイちゃん。ま、でもさ?あなたの理屈とか常識は知らないけどさ、」



「私もプロなもんで。」



「お医者ちゃんだって『男は治しません』なんて言わないし、風俗嬢ちゃんだってどんな不恰好な男が来てもサービスするでしょ?」





















「私は殺すよ?平等に。男も女も、大人も子供も。」




















そして私は。

私の背後のドアへ縋った少女の背中へ花粉を投げつけた。



術式が発動して心筋梗塞が始まる。


そして少女は


悶え、苦しみ、





















そんで、ゆっくり動かなくなった。






トゥルルル。トゥルルル。









「はいはいちゃん。」

『終わったかよ、”綿”(わた)。』




「おういえーす。無事に終わりましたよん」

『だったらすぐに帰れよ?昔、インデックスってシスターは俺にこう言ったんだ』



『「とうま。お腹いっぱいになったんなら早く逃げよう?」ってな』

「それ食い逃げだよね?」



『しょーがないだろ?そんときの俺たちには貯金も覚悟もなかったんだから』

「じゃあ食うなよそして働けよ」

『ともかく。『もし悪い事しちゃったらさっさと逃げろ』って事だな』


…通信が傍受された時の事考えてって事でこんな遠回しな言い方してるらしいけど

本当にコレ意味あんの?上条ちゃんよぅ



「お土産ちゃんは何がいい?」



部屋を出て、街へ出て、人ゴミに紛れる。


あんまり駅にない物とか頼まないでくれると嬉しいんだけど。



『じゃあ、ひよこ饅頭。たまに食べたくなるんだよな、アレ』



…あるかなぁ?








           上
           条















復讐:被害者側から加害者側へ行く事。










そんで、善人から悪人にジョブチェンジするってことだ。


何せ、例えそれをやったそいつにやむにやまれぬ事情があっても、

そいつに『理解できないわけではない人間臭い理由』ってのがあっても、

そいつやそいつの周りの幸せをブチ壊してでも。


すり潰して、殴りつけて、蹴飛ばして、踏みつけて握り潰すんだから。


「…ひよこ饅頭…プラス、どら焼きでも良かったかな」


タッタッタッ、とスマホをいじる。




にしても。復讐ってのは本当に割に合わないよな。



だって、例えば誰か大事な人が殺されたから~とかなんだとかだったとして。

仮に復讐を成し遂げたところでたぶん殺された大事な人自身もきっと喜ばない。

…まぁ、死に際に「この軍用ナイフをあの野郎の眉間にブッ刺して私の仇をとってくれ!」とか言うようなワイルドすぎるヒロインじゃない限りは。

でも。

パッと思いついただけでもこれだけデメリットに塗れてるっていうのに


それでもそんなクレイジーな損得勘定ガン無視行為をしなければならないほどに。












人には、絶対的に許せない、赦しちゃいけない事ってのがある。









どっかのジョニーデップ似の偉人?は「右の頬を叩かれたら左の頬を差し出せ」なんて言ったらしいけど、


俺は「右の頬を叩かれたから、そいつの右目にパンチして、捻って転ばして蹴っ飛ばしたわ」


そんな教えを広めたい気分だね。


ああ、あともう一つ。

「ついでに、ブッ殺しといた」

コレも追加で。




「はぁ…コメもレスもつかねーなぁ…」


結構高級マンション。そんで、小洒落たオフィススペース。

その仕事机に足乗っけてサイト巡回しながらぼやく。


ばたむ。


「ただいまちゃーん」

「おかえり。風呂沸いてるぞー」


革張りの高い椅子を回転させ、背中から帰宅してきた部下に声をかける。

「ハイ。ひよこ饅頭…は無かったからどら焼きちゃんにした」

「…そう来たかー…」

「?」

「や、こっちの話。」




「で。今日は見つかったの?」

「何がー?…お、栗が入ってる奴もあるじゃん」

「恋人の仇」

「…インデックスは別に恋人じゃねぇよ」

「じゃあそれ。」

「見つかってない」

「あっそ。…って、また上条ちゃんSS書いて遊んでたでしょ」

「バレたか」

「あ、つってもアレだぞ!?ちゃんと仕事はしたし、その合間にやってんだ、文句言われる筋合いはねぇぞ!」

「ハァ。サローニャちゃんは別にぜーんぜん構いませんけどー、本当に探す気あんの?」

「あるある。ありまくり。ただ上条さんはちょっとやる気を第七学区学生寮の7階に置いてきちゃっただけ」



「じゃあ今すぐ取りに帰りなよ」

「うるせーいいからさっさと風呂入ってこい。」





「とゆーかせめてサローニャちゃんが帰ってきた時ぐらいは仕事ちゃんしてくれませんかね?」

「こっちばっか働かされてるのに上司は仕事中遊んでるって感じすっからさー?」

「まぁ待てよ。インデックスだってこう言ってたんだぞ」



「『私は修行中の身であるからして一切の嗜好品の摂取は禁じられているけども』」

「『しかしあくまで修行中の身なので完全なる聖人の振る舞いを見せる事はまだまだ難しかったり難しくなかったり!』」



「ってな!つまり、『ついつい遊んじゃうのはしょうがない』って事だな」

「意思弱っ」








「なんでそうなんだよ。可愛いだろ?」

「ハイハイ。じゃあサローニャちゃんはお風呂入るんで」


バタム。


「…」

「どら焼きどら焼きっと」


「むぐ。」


「……」



「…インデックスと会った時から10年。…もう俺も25かぁ…」







なんとなく左手のくすんで鈍く光る指輪を眺める。



「…買った時はあんなにピカピカだったのになぁ。やっぱ安モンはダメだなぁ」



そんなツルツルで無垢な少年もヒゲボーボーで擦れたおっさんになる程の年月が経って尚。










指輪を見るたび殺意の衝動が猛り狂う。










          蜜
          蟻











恋慕:結局のところ手に入らない物を貪欲に欲し続ける呪い。









「お願いします!その情報を売ってください!」

「そぉねえ…どうしようかしらあ?」



顎に手を置いて、考えるフリくらいはしてあげる。



「ねえ。ビル地下アダルトショップのカウンターの前で土下座をしてる人って中々シュールな光景だと思うのよ」

「シュール。わかる?」


チラと見ると土下座から更に頭を下げて「お願いします!」と続ける。


別にあなたに向けて言ったわけじゃないわあ。


さっさと察して、土下座をやめて欲しいんだけど。







「その辺りどう思う?」

髪を掬い、耳に当てたスマホを土下座さんにも見えるように誇張する仕草をしてみる。

「お願いします!!!」

「…はあ。」


私は目の前の彼に「今私がしてる電話の向こうの相手に言ったのよ」と伝えたかったのだけど。


『そうだな。ちょっと今からそっちに行って見物したいくらいだな』

「あらあ?じゃあ本当に来る?」


1割期待、9割冗談で。


『行かないって。で、なんか掴んだって本当なのか?』

『もしウソとか大した情報じゃなかったら俺の睡眠時間返せよな』

「安心して。あなたが長年探してた情報よお」

『…誰だ?!どこの誰がインデックスを!!!』

「そーねえ。…3と6ってとこかしらあ」

『…あの、高くない?もう少し安くしてもらえませんか蜜蟻さん』

「あらあ?長年追い求めた喉から手が出るほど欲しい情報でしょ?これくらいの価値はあるんじゃないかしらあ?」




『足元見るなよ…長い付き合いだろ?』

「ええーどーしよっかしらあー」

『頼むって!上条さんも部下養ったりアレコレ揉み消したりで結構金使ってんだって!』

「ふーん。まああなたの頼みだしい?してあげなくもないけどお?」

『お願いします!蜜蟻様!』

「じゃあ明後日とか会える?」

『デートね。ハイハイわかった。』

「後で日時と場所送るわあ」

『…ありがとな』

「それじゃ、楽しみにしてるから」

ピッ。


「…さて」

「…お願いします…」





「まだ居たの?他のお客様のご迷惑にもなるからやめてもらえないかしらあ?」

いえ、店内には私とこの人以外誰も居ないのだけれど。

「教えてください!あいつは、」

「…そうねえ。」

「…じゃーあ。さっき彼に提示した額。それを払ってくれたら売るわあ」

「…いくらですか?3と6って、」

「3億6千万円。」

「」


あら、面白いくらい表情が凍ったわ



「…冗談、」「じゃないわあ」


ニッコリと笑って付け加える。



「ちなみに。彼は本当にそれをポンと払えるぐらいは稼いでるわよ」

「へ…?」

「一流の…報酬額が億単位じゃなきゃ引き受けない殺し屋とか…そうね、”劇団”とか”押し屋”、”自殺屋”…”火事屋”も雇えるわねえ」

「…つまり、あなたはそのぐらい他人に人を殺させてるような男にこれから狙われるって事よお」



「シスター殺しの犯人さん」

「…」




「んー…ま、払えないなら情報は売れないけど。あなたが良ければ私のとこで匿ってあげようか?」

「!」


「…いいんですか?」

「だって、もしあなたが彼に殺されちゃったら…彼、もう私を頼らなくなっちゃうかもしれないじゃない?」

「彼はシスターさんに首ったけだしい?」

「彼が囲ってるロリに走られても嫌だしい?」

「このままビジネスパートナーで終わる…なんてなったらそれこそ最悪じゃない?」




そして、何より。












「もう誰かの踏み台にされるのはゴメンなのよねえ」







今回はここまで。


追記注意事項

・禁書でやる意味?っせーな伊坂好きなんだよ禁書好きなんだよ好きなもんと好きなもん混ぜたくなったんだよ自己満足以外にねーよヴゥアーカ!!!



わかる人には多分わかるが

上条さん→岩西、鈴木

サローニャ→蝉

蜜蟻さん→桃

インデックス→鈴木の妻、ジャック・クリスピン

ですの。

では

>>1が伊坂作品で一番好きなのはやっぱグラスホッパーだなぁとマリアビートル読み直して思ったり。

伊坂せんせー新作また書いてくんないかなぁ。






             ステ
             イル












灰:今の僕自身。学習性無力感による生ける屍。


















燃える。




燃える。




燃え盛っている。





別に金持ちそうだとか、家族用の大きめのマンションとかではないね。

どこまでも普通でパッとしない、平凡などこにでもありそうな学生寮マンションだ。


その一室から黒い煙がモクモクと空へ昇っていき、オレンジ色の揺らぐ炎があちこちを舐めている。


ぼんやりと死んだ魚の眼でダラリと見ながら口から零れそうになったタバコを咥え直す。

煌々と空へ立ち昇るオレンジ色、あちこちへと這わす炎の舌。

ギラついて、触れる物全てを焼き尽くす。




ああ…これは…たぶんかつての僕だ。



彼女が生きていて、それを見守っていた頃の。





必死に写メってSNS系サイトへアップロードしてる連中と燃える部屋をぼんやり眺めながら、僕は近くの公園のベンチに腰掛けている。


そういえばさっきコンビニで買ったサンドイッチがあった。


ガサガサビニール袋から取り出して、

ぼそぼそと咀嚼する。


まぐ。もさ、もさ…


………。


マズイな、コレ。





ところで御存知だろうか。

実はこの国の火事の原因トップ3は、


1位は放火で

2位がタバコの不始末、

3位はコンロによるものなんだ。


こんな所でも社会へ悪影響を及ぼすあたり”タバコ”という物は本当に百害あって一利なしなのだろうね

今度からはタバコの表記は

『喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなります。疫学的な推計によると、喫煙者は肺がんにより死亡する危険性が非喫煙者に比べて約2倍から4倍高くなります。』


みたいに皆大体読まないような文句じゃなくて、


『コレ吸ったら死にます』


とシンプルにわかりやすく書いた方がいいんじゃないか?


僕を含め、愛煙家はそれでも止めないだろうけどね。





閑話休題。ちなみになんだが、あの部屋が燃えた原因は、


1、僕が魔術で火をつけた

2、ついでに吸ってた燃えたままのタバコをあの部屋でポイ捨てした

3、そういえばあの部屋の住人も殺す予定だったし抵抗したからそいつの頭をコンロに縛り付けて焼いていた


からだ。


「…そりゃあの部屋も燃えるだろうね。何せ火事の原因トップ3が揃い踏みだ」




「おっと、」

咥えてたタバコを落としてしまった。

「…ああ、クソ」

新しいタバコを咥えて火をつける。


「フー…」


…僕は今、この街、この業界で”火事屋”と呼ばれている。


ほら、火っていうのは便利だ。不要な物を燃やし、不都合な物や人を跡形もなく消してくれる。

要は頼まれたらこうして何でも燃やすんだよ。建物だけではなくて人も、物も、イベントとかも。


あの女の下にいるのも疲れたんでね。こうして自営業を始めてみたんだ。




まぁこれが案外上手くいった。もう10年くらい続けてる。

何せホラ、僕は元々”必要悪の教会”の人間だ。殺しは慣れてるし。

それに食いっぱぐれる事もない。

この街の住人は肉体年齢も低いが精神年齢も低い。


『僕が気に入らない事するからあんな嫌いな奴殺しちゃえ』


要約するとこんな感じの幼いモラルレベルの思考で平気でクラスメイトや同僚、研究室や商売敵、恋敵や秘書も先輩後輩までもを殺すのだから。


大人ならそういう自分と馬が合わない人とも折り合いをつけて付き合っていくものだろうに。

あー…アレかな。

この街の人間は身の回りが科学の力で便利になったから、今度は心の回りも便利にしたいのかもしれない。


自分の心地がいいように。自分の好きな人しか周りにいて欲しくないからと



そういえば。最近頻繁に連絡してきていたあの12才の少女から急にお呼びがかかってこなくなった。

『まだまだ燃やしてもらう』って言っていたし前金までもらってたんだけど。


「殺られちゃったかな?」


ま。こんな事は往々にしてよくある事だ。方々に恨みを買う事をしている依頼人ほどね。


「…なんだろうね、この虚脱感」



この生活に、飽きてきた。



もっと言うと、生きるのに飽きてきた。



でもコレは何も最近というわけじゃない。

それこそ10年前のあの日、僕が『君のために生きて死ぬ』とまで誓った彼女があっさり殺されてしまった時からだね。

守る役目は僕ではない男に取られたが…それでも見守ろうとしていたのにり

彼女を守って死ぬと決めていたのに。

肝心の彼女は僕より早くさっさと死んでしまった。

魔術師の僕が危険を犯してこの科学の街で生きているのは自分でも不思議だが、

恐らくは彼女の遺体と墓が安置されているこの街で彼女の墓守紛いの事をしたいのだろう。

十年前に彼女を任せていた彼は心がどこか壊れてしまったし。

(あの時は僕も彼を責め立てたが、今思えば正直彼に責任はあまりないようにも思う。)


何はともあれ。僕は生きる理由を失くしてしまった。

アレから何度も新しく理由を作ろうとも努力はしたが…ダメなんだ。

何もする気が起きなかった。

それでも生きなきゃいけないから自分の一番得意な『燃やす事』で食べてきたが…



うん、もう、お終いにしよう。


そうだな…燃やしてしまおう。




火事屋の最後の仕事は自分自身を燃やす事にしようか。



さぁ、どうやって燃やそうか。最後くらい、ーーーーー








とぅるるるる。とぅるるるる。

「…」

とぅるるるる。とぅるるるる。

「…」

とぅるるるる。とぅるるるる。


「…ハイ」


『火事屋さんに依頼をしたい』

「…」






「どうしても、ですか?」

『どうしても、です。』

「…御依頼、ありがとうございます。」

『受けていただけますか?』

「依頼内容によります。どのような御要望でしょうか」










…拒否するのも可哀想だし、コレが最後にしておこう。











         サロ
         ーニ
          ャ






~上条事務所~




サローニャ「そういえば上条ちゃんってさ」

上条「ん?」

サローニャ「基本的に悪人ちゃんしか殺さないよねー」

上条「”悪人”の定義がわかんないんだけど」

サローニャ「じゃー、”非、合法的”な行為を行った人」

上条「ああ、それなら、まあ。そうだな」

サローニャ「なんで?」

サローニャ「『悪人なら殺していい』『俺は必殺仕置人!闇の狩人なのさ!』とかー、バカバカしー事を本気で思ってる?」

上条「思ってない。後半の厨二ロマンもな」

上条「つーか、それってそんなにバカバカしいか?」

サローニャ「えー?だってさぁ、世界的に見れば死刑制度存置国はかなり少ないでしょ」

サローニャ「つまりさ、多数決だよ。この国は基本的に多い意見に右に倣えが正しいんでしょ?」

サローニャ「じゃあ、少数派である死刑は正しく無いじゃん?」

サローニャ「もっと言えば。悪人だから殺す、のは間違ってんじゃない?」

サローニャ「誰かにとって不都合な良い人は殺しちゃダメで、悪い奴は殺していいなんてサベツだよ」




上条「何言ってんだ。多数決で多い意見が必ずしも正しいわけじゃないだろ」

上条「それにだな、死刑制度ってのはそもそも『悪い奴は要らないしムカつくから殺していい』じゃねーんだよ」


上条「すげー簡単に言えばさ、『悪い事した奴が死ねば、大体皆が納得するから』なんだって。」


上条「人殺しが死ねば死んだ奴の遺族の溜飲も下がる」

上条「政治家が判断ミスったら『全部秘書が勝手にやった』っつって、んで秘書が死んだらマスコミは叩かない」

上条「お国柄ってやつなんだろうが、『責任とって死ぬ』ってのは、それなりに効果があるんだよ」

上条「だから、だ。」

上条「ま、だから悪い事した奴は寿命より早く何かに殺されるんだよ」

上条「オトシマエつけろって奴」

サローニャ「ふーん…」







上条「ーーーーーーって言うと、なんか世の中の真実っぽいだろ?」

サローニャ「説明下手でよくわかんなかった、ってのが本音ですけど?」

上条「oh」




上条「ま、でも俺が悪人ばっか殺す依頼しか受けなくて、誰かにとって都合の悪い善人を殺さないのは」

サローニャ「殺さないのは?」

上条「多分…良い人を殺したらインデックスに怒られるからだなぁ…」

サローニャ「…ふーん」ムスッ

上条「…何むくれてんだよ」

サローニャ「べっつにぃ」プクゥ

サローニャ「上条ちゃんはほんとーにインデックスちゃんが好きなんだなーウザいなーってだけ」

上条「ウザいゆーな。人の『これが好き!』って気持ちってのはな、神様にだって止められねーモンなんだよ」



サローニャ「話変わるけどさ、この街って変だよね」

上条「何がだ」

サローニャ「この街は子供を預ける場所なのにさ」

サローニャ「殺し屋業界があって、業者は誰も食いっぱぐれなくて、殺し屋も標的もめちゃくちゃ人が毎日沢山死んでんのに」

サローニャ「どうしてこの街には人が居なくならないんだろうねー」

上条「そりゃあ、アレだろ。毎日人間が大量の牛さんを殺しまくってんのに焼肉が食べれなくなる事がないのと一緒の理由だな」

サローニャ「…どゆこと?」

上条「余ったり押し付けられた牛さんはストックするか育てて、業者が育てた牛は外から常に供給され続けるだろ?」

上条「で、学園都市って名前の焼肉店で。殺し屋とか研究者とか非合法な奴らがその牛さん達を焼いて食うって事さ」

サローニャ「あー…」






サローニャ「…っでー?今日はお仕事ちゃん無し?」ウダウダ

上条「そーだな。急な依頼が来ない限りは」

サローニャ「ふーん…」

上条「つまんなそうですね」

サローニャ「うん。ひまひまちゃんー」

上条「いいことじゃん。友達とでも会ってこいよ」

サローニャ「残念だけどーサローニャちゃんに友達はいません」

上条「マジかお前」

サローニャ「マジだ。何百人以上と殺してきてる殺人鬼ちゃんにお友達ちゃん出来ると思うのか」

上条「隠して付き合えばいいだろ?」

サローニャ「むりむり。むりーっ!」


上条「じゃーほら、同じ業界の…ほら、”蝉”っていたろ?あとはー、兄弟で殺ってたやつとか」

サローニャ「”蝉”は死んじゃったじゃん。その兄弟も」

上条「あ、そうだっけ?」

サローニャ「この業界ってさぁ、みーーんなすぐにいなくなっちゃうんだよねぇ」

上条「色々あるからな。標的被りとか、『あの業者信用できないから別で雇ったコイツで殺して口封じしとこ』とか」

サローニャ「でしょ。友達作るどころかサローニャちゃん自身いつ死ぬかわかったもんじゃないんだって」

上条「そうだなあ」

サローニャ「まぁその方がいいけどね。」

サローニャ「上条ちゃんみたいな仲介業者とは組まなきゃ仕事できないから最低限の付き合いっているけどさ」

サローニャ「それ以上の他の業者と仲良くなっていざという時その人を切れないとか裏切るとか引き金引けないとかなったら死ぬし」

上条「お前ドライだよなぁ」

サローニャ「そうでなきゃやってけないし」


上条「…そういやさ、前々から聞いてみたかったんだけど…一個すごいデリカシーない事聞いていい?」

サローニャ「にゃーに?」

上条「お前、いつも人を殺す時にさ、なんか思ったりすんの?」

サローニャ「?」

上条「ほら、例えば『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめry』とか」

上条「自分に死ぬほど言い訳したり、『生きるためだから』とか『しかたないから』とか」

上条「『てめーみてぇなゴミは死んじゃえー』とか?」

上条「なんか、そういうこれから殺す奴に対してさ、何か思うところとかあんのかなーって」

上条「ほら、俺はまだ人を殺した事ないんだけどさ。これから殺す事になった時に躊躇なくスムーズに殺せないと」

サローニャ「えー…?うーん…」

サローニャ「あ、一個思ってるかも」

上条「お、どんなん?」





サローニャ「『ちょっと悪いな』」




上条「…」

上条「え?そんだけ?」

サローニャ「うん。そんだけ。」

上条「へぇー…」

サローニャ「あ、ニュアンスとしてはアレに似てる」

上条「アレ?」



サローニャ「車ちゃん運転しててさ、大きい交差点でさ、渋滞しすぎてて信号を上手く渡れなかったとするじゃん」

上条「ほう」

サローニャ「で、交差点ちゃんのど真ん中あたりで他の車とも一緒に止まらざるを得なかったとする」

上条「他の奴からしたら死ぬほど迷惑で邪魔だろうな、その車」

サローニャ「当然、すんごーく交通の妨げになるじゃん?」

上条「そうだな」

サローニャ「で、思うじゃん。『あーゴメンゴメン。でも許してよ。そんなに言うほどめちゃくちゃたくさんの人達に迷惑はかけてないし、大した邪魔はしてないでしょ?』」

サローニャ『もうすぐ渋滞も解消だし?ね?すぐ渡るからさ。はいゴメンねー』」

サローニャ「みたいな?」

上条「…」

サローニャ「参考になりましたでしょーか?」

上条「そうだなぁ…」

上条「一個思ったのがさ」

サローニャ「はいはい?」






上条「今更だけど、やっぱお前は人殺しの才能があるよ」

サローニャ「そ?」





今回はここまで。まだ投下しきってないけど時間ない。では





           上
           条





「でもさ、才能ちゃん活かして生きていけるのって最高だよね。」


トトト。やけにニヤケた顔でサローニャがこっちに来る。

大体こういう時は甘えてくる時だ。


案の定、



「仕事によるだろ。…というか上条さんの膝に乗ってくるな抱きついてくるな」

「えーっ?いーいーじゃぁーん。」


椅子に座ってる俺の膝の上に座って向かい合う形で。





「煩わしいんだよ。俺の自由が一つ減る。」

「でもー悪くない不自由でしょ?美少女ちゃんに抱きつかれてんだぞー?」

「俺の守備範囲は酒飲める年になるくらいだから。」

「…あと3年かー」

「何さりげなく18で飲もうとしてやがる」

「だってロシアじゃお酒ちゃん解禁は18才からだもん」

「この国じゃ20からだ。」

「大丈夫だよ。ロシア人の死因の30%はアルコールちゃんが原因なんだよん」

「最早アル中は国民性ってくらい。そのくらいロシア人とお酒ちゃんは切っても切れないほどなのさ」

「全くもって『大丈夫』の要素がないんだけど」

「え?この国の人は『皆がやってるなら大丈夫!』なんじゃないの?」

「否定はしないけど。」

「でもさぁー日本人もアル中ちゃんの人は多いし?国民性結構似たようなもんだしぃ?律儀に20歳ちゃんまで飲まないって子の方が珍しいんじゃない?」

「知らないって。アンケートでもとったのかよ」

「とってないけど経験則かな。サローニャちゃんの周りは飲兵衛ばっかだったもんで」

「ロクな大人がいなかったんだな…」



「そもそも。大人ちゃんが格好良かったら子供ちゃんはグレないんだよ」





「あっでもでも」

「なんだよ」



「上条ちゃんは格好いい大人だって、私は思うよ」


サローニャはニッコリ!と満面の笑みを浮かべて。


「…そりゃどーも」


俺の首元に顔を埋めた。




そーいや俺とコイツは付き合いがそこそこ長い。

コイツを、

サローニャ・A・イリヴィカを拾ったのは…えー、確か4年程前…だったかな?

路地裏でチンピラを殺して回ってる女の子がいるって蜜蟻から聞いたんで、(買ったんで)スカウトしたらいきなり襲ってきたんだ。

んで、ボコボコに返り討ちにして説教して、泣き出した所を抱きしめてみたらあっさり死ぬほど懐いた。(ご覧の通りに。)

尚、当時の上条さんにはお金が本気でなかったから一人養う(社員的な意味で)のもキツかった。

え?そんな状況で何故そんなロシアからの戦争孤児を拾ったのか?

いや上条さん別にロリコンじゃねーし、善意だとか自己満足の類いではないですから!


アレだよ。当時の俺が『俺の代わりにキチンと人を殺してくれる部下』を探していたからです。



あ、おわかりいただけるだろうか?

『俺の代わりに』

『キチンと人を殺してくれる』

『部下』

だ。


『俺の代わりに』。

噛み砕いて言うなら、『俺一人じゃ恐いよ。君も直接手伝ってくれよ』とか言わない奴って事。

当たり前だろ?俺は直接手を下したくないんだよ。

だからわざわざ人を雇うなんて死ぬほど面倒くさい事してるんだよ。

だから、賃金は歩合だとか日給やら時給や固定給なんてシステムじゃないんだよ。

だから、バカ高い”報酬”なんてもんを払ってんだぞ?



俺の手を煩わせるのは違うだろ?

だって、それは”お前の仕事”なんだからさ。




『キチンと人を殺してくれる』。


『あ?うん殺した殺したー』とかスマホ弄りながら返事するようなテキトーな奴ではない事。

当たり前だろ?こっちは”仕事”を頼んでんだぞ?

しかも一歩間違えたら即人生終了のな。

・こちらの指示以外の事をしない。
・何があっても依頼者と俺に関する一切の情報を漏らさない。
・少なくとも依頼者や標的に嫌悪感を抱かれない清潔感のある人受けする見た目を持つ
・トラブル起きたらホウレンソウ。
・どんな標的でも状況でも依頼完遂のみを念頭に置き、標的を確実に殺し、その死をしっかり確認する。
・どんな所に標的がいても忍び込め、調査もできる
・証拠は残さない。
・捕まらない。
・私情は絶対挟まない。


これらを遵守出来る事。尊守じゃないぞ?遵守、だ。

要は社会人として当たり前な事くらい守れる能力がある人間かって事だな。



で、『部下』。


そいつと俺は友人じゃないし、恋人でも家族でも、盃交わした兄弟とかでもない。

俺が上で、そいつが下。俺がどんな事をオーダーしてもそれに必ず従う事。


そういう人間関係を構築できる事。


…ところが、こんなそこらのバイトですら守れそうな事を守れない奴が多すぎた。





一人目。実行段階で人殺しになる事にビビってトンズラこきやがった。(その後標的に逆に狙われてそいつは殺された)

二人目。女。殺せたが証拠を残したり友人に殺した事を漏らしてしまい、そこから辿られて逮捕された。(俺は早い内からそいつ切ってたから助かった)

三人目。標的が予想以上に強すぎて(そいつに戦闘技術が無さ過ぎて)殺せなかった。

四人目。不真面目すぎ。仕事も何もかもテキトーすぎ。コミュ障すぎ。無能すぎ。(俺が話してる間とかずっとゲームやってた)

五人目。下剋上しかけてきやがった。(安心してくれ。上条さんはしっかり殴り倒して業者に依頼して殺処分してもらいましたのことよ)

六人目。元研究者。遺体を『貴重な高レベル能力者をそのまま捨てるなんて勿体無いから』と知り合いの研究所に横流ししようとした。(最終的に知り合いの研究所の元にはその元研究者の遺体が届けられたが)


七人目。元暗部。有能だったが過去にやらかしすぎてたみたいで敵が多すぎて商売敵に狙われすぎた(初任務で10の組織に攻撃されて死んだ)

八人、九人…十人目…


中々見つからなかったんだ。まともに働く能力がある『殺し屋』が。



…まぁ納得はできる結果ではある。

何故って、確かにこの街にはチンピラとか非合法な研究所や軍用クローン作るような奴やら運び屋だとか暗部だのなんだのと根性腐ったゴミ野郎は非常に多い。


だけど、まともに生きようとする人間もかなり多い。


人の命なんてなんとも思わない研究者ですら

『確かに犠牲は出したが、それでもこの研究で将来誰かを幸せにできる。ただ人を殺す事なんて非合理的な事はしない』

なんてイカレた正義漢と(非)常識を、思想だとか…そういうのを持っている。

要はアレだよ。まともな奴(まとも度合いは別にして)は踏みとどまっちゃうんだ。

心のどっかでブレーキかけちゃうんだよなぁ。

『こんな事してまで金を稼ぐ事もない』

ってさ。

そりゃそうだ。

きょうびこの国には最低賃金スレスレ研修期間だの短期バイトやマグロ拾い、殺人現場清掃だのエロいお仕事だのなんだのと『少なくともギリギリ違法じゃないお仕事』が沢山ある。

某国じゃ一ヶ月働いても10万すら稼げない所だってあるが、日本ならやろうと思えば一週間働いて10万稼ぐのはそう難しいことじゃない。

そんな中で、『人殺しになる』っていう人類最大のタブーの内の一つをやるのは、

一度捕まれば人生と若さをかなり無駄に浪費する。出てきた時には社会に自分の居場所はどこにもない。


逆に『そこまでの事をしなければ金を稼げない』のは…

…まぁ、自ずと答えは見えてくる。

『そこまで堕ちるような、まともじゃない人間』だ。


ついでに。仮にまともな殺し屋がいてもそいつはわりとすぐに死ぬ。

あちこちから恨まれまくる仕事だからあちこちから逆に狙われるんだよな


だからこの業界で10年以上生きている奴は本当に珍しい。


実力と運、諸々がなければ文字通り死ぬんだから。





まぁそんなワケで。


外国人の見た目と(しかも客観的に見てかなり可愛い)国籍、年齢、能力、人格等の総合的合格ボーダーラインをクリアしていたサローニャを拾えたのはガチでラッキーだった。

普段から不幸な上条さんからしたら『オイ、まさか一生分の運使ったんじゃないだろうな?』と疑うくらいには。




サローニャは強かったし、俺の言うことはなんでも聞いた。(本当に『何でも』だ。一回ふざけて『抱かせろ』って言った時はこっちが非常に困った事になったほどに)


依頼も完遂率99%。通り名も業界に浸透してる。


有能だし、俺の中でも評価はかなり高い。






…なんだかんだでコイツとももう四年か。


仕事はもう慣れた。業界でもそれなりに名は売れている。商売も軌道に乗った。



そして、



そこに来て長年追い求めたインデックス殺しの犯人の情報が見つかる。




機は熟したのかもしれない。



ふと、頭の中でジョン・レノンの『イマジン』のワンフレーズが流れる。



…ああ、これ、神様も言ってるんじゃないだろうか。








『今が、その時。』


って。








          蜜
          蟻









「今日はどうしましょうか」

「そうねえ」



彼の好みの髪型はなんだったかしらあ?


脳内フォルダを開けて、彼に関する引き出しの三段目あたりを探ってみる。

…ああ、


『特になし。その子に似合っていれば』


そう、そうだったわあ。

彼って女泣かせよねえ。

好みに合わせようと思っても彼の好みって特にないのよねえ…

ショートにもロングにもセミロングにも反応無しだし。

彼の携帯に入ってる極めて個人的なブックマークやコレクションファイルの中の女優さん達も多種多様だものねえ


あ、ちなみに私の店の中で彼の携帯電話の画面を多角的かつ多面的にカメラで撮影した結果判明した事実よ?



昨今は本当に怖いわよねえ。

今は監視カメラなんて店内にも街中にもどこにでもあるんだから、どこからでも誰かが撮影できてしまうんだもの。

それを見れるどこかの誰かからしたら当人の『絶対誰にも見られていない』は誤用の意味でも正しい意味でも失笑ものでしょうね。

現代においては個人のプライバシーなんてあったものじゃないのにねえ?


まぁ中には自ら自分の位置情報とかプライベート情報を公開していく人もいるけど、その情報を誰がどう扱うかをもう少し考えるべきじゃないかしらあ?




例えば。

とぅるるるる。

「はい。蜜蟻です。」

『頼んでた件なのですが…彼が今どこにいるかわかりましたでしょうか?』

「ええ。彼は今第7学区の病院、305号室に。恐らくは15:00までいるかと思いますわあ」

『ありがとうございます。では報酬は確認が取れ次第』

「ええ。いつも通りにお支払いくださいね」

ピッ。


今の依頼者が探してる彼は借金をかなり抱えてるのよね。

だけど彼には娘がいて、その子は難病で入院中。だからその治療費のために借りたの。

あっ、でも別に私はこの情報を得るために何か特別なことしたわけじゃないわあ。





私が彼の位置を割り出せたのは彼の行動パターンを知ってたから。


彼ね、とあるSNS系サイトに登録してるの。それにかなり依存してるのよ。

だから二週間程彼の位置情報と発言内容から思考パターンが読めちゃうのよ。

発言内容から彼のスケジュールや、一つの行動から次の情報アップまでのタイムラグの予測…ログを見れば大体は予測できちゃうの。

生活サイクルや彼の会社の名前、その就業時間等がある程度固定されていれば更に精度はあがるわ?

後は病院に電話をかけて彼の身内のフリをして彼が今来ているか確認してもらうだけ。


誰でもできることよ?

ええ。無料で簡単にできるし、大したことじゃない。



・・・・・・・・・・・・・
本当に誰でもできちゃうのよ。こんな事ぐらい。



笑っちゃうわよねえ。これだけで30万円よ?





きっと15分以内には彼は捕まってどこかで体の中身と財布の中身を抜き取られてしまうのかもしれないけれど。


あら?でもね、これでも私自身が直接的にも間接的にも悪い事はした事ないわよ?

ただ、私は別に悪人ではないけれど、善人じゃないのよねえ。


私はあくまで誰かの道具。

私は誰にでも提供するだけ。それを使ってどうこうするのはその人のモラルに任せてるわ?

私というアイテムをどう使うか。それはその人次第ってだけ。


あの人には単なる道具としてじゃない付き合いをしてるけれどね?




「いかがいたしますか?」

「そうねえ…」


せっかく久しぶりに会うのだし…



じゃあ、私が中学生だった時。



彼と初めて会ったあの日と同じ髪型にしようかしら。













きっと彼は覚えてないし、気づかないでしょうけどね。












         サロ
         ーニ
          ャ





サローニャ(パンイチにキャミ)「…」

上条「どーしたー枕抱えてこっち睨みつけてー?」スマホタップタップ

サローニャ「…ねぇ、サローニャちゃんそろそろ寝るんで」

上条「んーオヤスミーお疲れ様ァー」タップタップ

サローニャ「…寝るんだけど?」

上条「寝りゃあいいだろ。誰も止めねーよ」

サローニャ「んんっもう!」






サローニャ「私が一人で寝られないって知ってるでしょ!?」

上条「…5歳児ですかお前は」ハァ-...





サローニャ「へーんだ!戦争帰りの人だって殺した時のショックとか襲われすぎるのに慣れちゃってとか!フラッシュバックして寝られない人多いもん!」

上条「あのさぁ…さすがにいい加減一人で寝られるようになってくんない?俺まだSS書きたいんだけど」

上条「今いいネタ思いついてさぁ、」

サローニャ「うるせー寝ろ!昼夜逆転とかしちゃったら健康に悪い!」

上条「コレ書いたらな、コレだけ」

サローニャ「もー!明日出かけるんでしょ?!」プンスカ!

上条「んー」



サローニャ「ハァッ…んもぅ…。…で?今度はどんなお話書いてんの」

上条「んー?こう、この作品のキャラクターで再構成ものとか、マイナーキャラとのカプをさ」

サローニャ「ふーん。なんかつまんなそーだしエタりそー」

上条「んだとコラ」

サローニャ「だってさ、このキャラそもそも全くと言っていいほど知名度無いし不人気じゃん」

上条「再構成はみんな見るだろ。ほのぼのさせとけば更に」

サローニャ「だってコレどこまで再構成すんの?一巻?」

上条「いや5巻ぐらいまでやりたいなーって」

サローニャ「持たない持たない。そんだけ書くのにどれだけかかると思ってんの?」

サローニャ「ついでにたぶんそのキャラじゃ精々2巻くらいまでしか盛り上がんないって」

上条「そんなのわかんないだろ」


サローニャ「…あのさ、レスが欲しけりゃ主人公とメジャーヒロインとの甘いカプとほのぼのだけを書いとけばいいんだって」

サローニャ「下手にシリアスにしたり何スレも何スレもやったりして面倒臭い書き方しちゃうと読む方も飽きちゃうんだってば」

サローニャ「ご新規さんとかだって途中参加とか流し読みし辛いし」

上条「シラネ」プイッ

サローニャ「そもそもキャラ崩壊は一番避けなきゃいけないのに。上条ちゃんのSSのキャラはいつも『誰だお前』じゃん」チロリ

上条「それはお前、アレだよ」

上条「ほら、人間の細胞ってのは一年周期で総入れ替えされるだろ」

サローニャ「で?」

上条「例えば。一年会わない友人と現実で再会したって、そいつは自分の知る人物と同一じゃないんだよ。」

上条「で、だ。ただでさえ人間ってのはそんなに変わっちまうのに原作と違う事が起きたり年月が経ってる設定だったらお前コレもう、」

上条「完全なる別人に成長しちまうんだ。」

上条「ま、俺は『こういう事とかがあったらこのキャラはこうなる』って逆算したのを書いてるけど、そういうのを考えないで読んでる奴からは誰だお前に見えなくもない奴になっちゃうわけですなーコレが」



サローニャ「…上条ちゃんのは原作の時間軸のもありますけど?」

上条「…」







サローニャ「黙るのは肯定とみなします」

上条「いいんだよ、SSなんだから」



サローニャ「てーかさー、メジャーなキャラだけで書いとけばあまりその作品を知らない人でも楽しめるし、客層が広くなるでしょ」

サローニャ「そーいうのもマーケティングなんだって」

サローニャ「中年~中高生ぐらいの人達を相手にして、全員にわかる物を書けばとりあえず全員からプラスなりマイナスなりの評価もらえるでしょ?」

サローニャ「なのに上条ちゃんは中高年の一部の人達にしかわかんない物書いちゃってんの」

サローニャ「つまり最初から読む人の絶対値の総量が違うんだって」

サローニャ「100人に対して言葉を期待するのと、20人相手に言葉を期待するの、どっちがより多く言葉をもらえると思う?」

上条「いやわかるよ?わかるけどな?」



上条「…でもさ、そんなのつまんねーじゃん」

上条「周りの雰囲気とか、世間体を気にして、やりたいことができないような自分はちょっといやだ」

上条「何のための人生なんだ、って思うよ」

上条「…いいんだよ。確かにレスやコメはほしいけどさ、自分が本当に言いたい事や書きたい事やらなきゃ、それを形にする意味なんてどこにもないだろ」

上条「そもそも誰かの為にやってるんじゃない。自分が気持ち良くなりたいからやってんだよ」

上条「よく言うだろ、SS書くのはオナニーと一緒なんだって」

上条「俺が気持ち良いのが最優先。そのついでに誰かを楽しませられたら良かったね、でいいんだよ」

上条「俺は、『俺が書きたいもん』を書いて、それに対してチヤホヤされて、認められて、評価されたいんだよ」

上条「それだけは誰にも動かせない。紛れもない真実だ」

サローニャ「その内容のじゃ無理だと思うけどー?」

上条「るせっ。いいんだよっ!俺の良さがわかる奴にだけわかればっ!」

サローニャ「ふーん…?」パタパタ



サローニャ「その良さがわかる人、何人いるかなー?」クスクス

上条「知るかよ。それでもやってみるしかないじゃないか」

上条「ドアがあったら開けてみる。食いモンが出たら食ってみる。まずは行動。結果云々気にすんのはそれから、だろ」

上条「インデックス曰く、『求めよ、さらば与えられん!って主も仰ってるんだよ!』だ」

上条「ま、『悩まずにとりあえず「コレが欲しいんだ!」って世界に対してオーダーしてみろ』って事だな」

上条「大体、大人はただでさえ周りに気を使って我慢しなきゃいけない事ばっかりなんだしこういうとこでくらい」

上条「…」ブツブツ



上条「…」タップタップ

サローニャ「…」









サローニャ「でもやっぱりそんな格好つけた事言っても、結局いっぱいちゃんとした感想レスや褒めコメが欲しいんでしょ?」

上条「欲ぉお↑じぃぃぃいいい↑いいいいッッッ!!!!!!!↑」ウァァアァアアアアアア!!!





サローニャ「…素直でよろしいですこと」






サローニャ「そんなに話を書きたいなら殺し屋じゃなくて小説家になればいいのに」

上条「バカ野郎。俺が殺し屋やってんのは理由があるし、小説家なんてなったら食い扶持考えなきゃいけないじゃないか」

サローニャ「そりゃそうだけど」

上条「小説家なんてなったらさ、基本的に儲からないし書きたいもん書いてもたくさんある本の一冊にしかならないし、読んだ奴からのダイレクトな感想がわかんないだろ」

上条「それに、『元々興味があるジャンル』っていうまず手にとってもらえる二次創作物の強みも消えるし」

上条「別にどうでもいい作品が売れちゃったら書きたくなくても飯食うために書かなきゃいけなくなるだろ」

サローニャ「…売れる事は前提なわけね」

上条「あくまで趣味。それだけなんだよ」

サローニャ「ふーん…」

上条「…クソ、コメもレスもほとんどねー…」

上条「『気持ち悪い』…死ねっ!」

サローニャ「それは仕方ないんじゃにゃいかね」

サローニャ「千人いたら千通りの人生と価値観と趣味嗜好があんだから」

サローニャ「千人が千人絶賛するなんてほとんどあり得ないでしょ」

上条「知らねーよ。俺は気持ち良くなりたくて書いてんだから気持ち良くない事されたら嫌なんだよ」

サローニャ「そりゃ無理でしょ。作家が何を書くのも自由だけど、それを読んで何がしかの感想を書くのも読んだ人の自由なんだから」




上条「…」

サローニャ「端的に言うと、面白いものを書けない上条ちゃんが悪い」

上条「…確かにな。」

上条「じゃあ肯定的意見じゃない事書いた奴に『お前なんか嫌いだっ』って思うのも書いた奴の自由だよな?」

サローニャ「子供かよ」



サローニャ「てゆーかー。もーどーでもいーじゃん。つまんないもんはつまんないんだよ」

上条「つまんない言うな」

サローニャ「…いーから寝よ?同衾しよ?」キュ

上条「後ろからハグするな。耳元で囁くな息がかかるんだよ」

サローニャ「…」

サローニャ「妖精ちゃんの吐息ー」フゥ-

上条「おひゃっ!?」

サローニャ「ぷふっ。反応カワイイー」クスクス

上条「にゃろう」

サローニャ「ねぇ…もういいでしょ?サローニャにちゃんも眠いのぉ…」

上条「…はぁ」



上条「何度も何度も言ってるけど。頼むから早く一人で寝れるようになってくれ」ガタッ

サローニャ「体質とか心的問題だからしょーがないって♪」

上条「お前なぁ…もう4年だぞ」

サローニャ「4年と半年だね。正確には」

上条「ったく…ほら」

サローニャ「はぁーい♪」

上条「嬉しそうにすんなってーの。上条さんはまだ夜更かししたいっつーのに」

上条「というか15歳とかってそういう父さんとか年上の人と~とかってめちゃ嫌がる頃なんじゃないのか?」

サローニャ「え?むしろバッチコイですけど」

上条「あのな、『誰かと一緒じゃないと寝れない』なんてな、15になってもそれとかな、あー、恥を知れよ恥を。恥ずかしがれよ」




サローニャ「大好きな上条ちゃんと一緒に寝るなんて…恥ずかしい♪///」テレテレ

上条「ちげーよ上条さんそんな恥ずかしみは求めてねーよ」


~寝室~


上条「ほら、さっさと寝ろ」

サローニャ「ちょっと、なんでいつもみたいに腕枕ちゃんしてくんないのさ」

上条「お前な、アレ結構痛いんだぞ?頭とかゴォリゴォリされるとかもうお前アレだからな?」

サローニャ「やーだー!してー!うでまくらー!」

上条「どんだけワガママだお前」

サローニャ「フーンだ。サローニャちゃんが居なかったら上条ちゃんだって何にもお仕事できないじゃん!」

上条「んな事ねーわ。社会においても『自分がいなきゃ回らない』なんてねーんだよ」

上条「代わりなんて幾らでも代用できるんだからな」



サローニャ「…」

上条「よし…いいか?今のは例え話だ。悪かった。俺が大人気なかった。すまん。ホントごめん。だから涙目になるのやめろ」


サローニャ「ふ、ふーんだ!ぐすっ、嘘泣きだもん!やーい騙されてやんのー」グズッ

上条「…ああ、わかったわかった。ほんとに例え話だからな?本気で言ってないから。別にお前の代わり幾らでもいるとか思ってないから」

サローニャ「…ほんと?」

上条「ああ本当だって。お前の代わりなんていないよ。俺にはお前だけだ」

サローニャ「ぜったい?」

上条「…ああ。絶対絶対」

サローニャ「嘘ついたら殺すから」グシグシ

上条「殺し屋に『殺す』って言われるとシャレにならないな」ハハ

サローニャ「もう。いいから腕枕して」

上条「へーへ」

今回はここまで。

>>1は結構随所随所でワンパですが、『それしかできない』じゃなくて『それが好きだからやる!』ですの



サローニャ「♪」コテン

上条(はー…マジで面倒くさいな)

サローニャ「ねぇ上条ちゃん」

上条「なんだよ」

サローニャ「…この世に”絶対”なんてないんじゃないかな」

上条「なんだよ急に」



サローニャ「上条ちゃん今も絶対って言ったけど」

上条「…」

サローニャ「この世は”人の心”なんて凄く移ろいやすくて、常に変化し続けていくような…とても曖昧模糊な、予測不可能な変数で溢れているから」

サローニャ「想定外の事も予定外の事もたくさんあるし」

サローニャ「現時点で100%正しいなんて考えられてる理論や理屈はあくまで暫定的な正解や正義でしかないじゃん」

サローニャ「歴史的に言えば地動説や天動説もそうだったし、心理学者が本当に人の心を理解しているなら彼らは皆人生を上手く生きたはずだし、モテモテだったはずじゃん」

サローニャ「でも、例えば心理学者三大巨頭のアドラーは?フロイトは?ユングは?皆人生を成功させた?何がしかやらかしてるじゃん」

サローニャ「それに人間って『こうする事が一番正しいと思われる』とか『こうしなければならない』ってわかっていても出来なかったりやらなかったりするわけで」

サローニャ「合理的な生き方が出来ない生き物なわけじゃん。そんな”人の心”なんてもので世の中の物事は構成されているから」


サローニャ「この世に”絶対”は、絶対ないんじゃないかなって」




上条「…その理屈で言うと、その『”絶対”は絶対ない』って理論も暫定的な理論なんだから正しいとは限らないんじゃないのか」

上条「将来、あるいは俺達が感知していないだけで既に『”絶対”が絶対ある』っていう理論があるかもしれないワケで」

サローニャ「そーかなぁ?」

上条「じゃあ…ホラ、人がいつか必ず死ぬ事は絶対不変の真理だろ」

サローニャ「それはわかんないんじゃないかな」

サローニャ「ほら、何をしても死なない虫っているでしょ?」

サローニャ「とゆーかこの街で既にそんな噂があるじゃん。」

サローニャ「何をされても死なない髪の長い女の子とか、白いカブトムシから人間になる能力者とか」

上条「…そういやいたな…」

サローニャ「ひょっとしたら、世界のどこかに死なない人間がいるかもしれない」

サローニャ「ひょっとしたら、科学技術が進歩して200年後とかには不老が当たり前になるかもしれない」

上条「…で?結局何が言いたいんだ?」

サローニャ「だから、…さっきの、上条ちゃんの絶対も…絶対じゃないわけで」

上条「…じゃあ、かなりの高確率って言えば納得するのか?」

サローニャ「どのくらい?」

上条「99.9%代わりを見つけようとは思わないって」

サローニャ「ほんとに?」ムムゥ

上条「疑り深い奴だな。いいからさっさと寝ろって。眠いんだろ?」

サローニャ「むーっ…面倒くさいからあしらわれた感」

上条「察しがいいな。その通りだよ」

サローニャ「むか。」



上条「ロシア人は議論好きで、自分を論破できるぐらい賢い人が好きってのは本当なのか?ったく」ブツブツ

サローニャ「…かぷ。」

上条「痛っ、おまっ!俺の指噛むな!咥えんな!」

サローニャ「かじかじかじ。」

上条「おいやめっ、…変な事するならもう一緒に寝ないぞー?」

サローニャ「ひゃやー」チュ-ルルルチムチム。

上条「しゃぶるなしゃぶるな」

サローニャ「…」パッ

サローニャ「…」

サローニャ「…」ギュ

上条「抱きついてくるな。首に手を回すな足を絡めるな」

サローニャ「やだ。…やだやだ……私を捨てないで。」

上条「だから、」

サローニャ「私もっと頑張るから。これからも何人でも殺すから。私の代わりなんて作らないで。私以外の人と一緒にやっていくのやめて…」ギュゥ

サローニャ「やだぁ…私が上条ちゃんといるぅ…」ウルウル

上条(情緒不安定かよ)

上条(インデックスは俺といた時でもこんな風じゃなかったと思うんだけどなぁ)








上条(そういや『女が面倒臭いのは、万事を他人ありきで成り立たせるから』ってどっかで聞いたような)











          蜜
          蟻










「ほら、キャラメルモカフラペチーノ」

「ありがとう。」




「それで彼女とは最近どうなの?上手くやってる?」

「そりゃ誰の事を指してるんだよ」

「そりゃサローニャちゃんの事よ」

「いつも通りにブッ壊れてるよ」

「そう。優しくしてあげてね」

「優しくしてるよ」

「ちなみにどんな感じで壊れてるの?」


「倫理観と世間一般で言われる常識の欠落、情緒不安定、幼児退行に近い甘え、あとは…最近、」

「…最近?」

「たまに会話がおかしくなる。」

「どんな風に?」

「あー…例えばさ、本来ならAという質問に対してA'という質問の内容に対応した答えを提示しなければならないのに」

「あいつの場合はAという質問に対してどこからかB'の答えを持ち出してきて、そのままAという質問の話題から強引にBの質問の話題に持って行ったりするんだよ」

「それは…自分の世界だけで生きてる人によくある事じゃないかしらあ?」

「たまにいるわよ?知的障害だとか精神を病んだ訳でもないのに会話がキチンと成立してない人とか」

「そういうのってなんでそうなるんだろうな」

「まぁ理由は次の二つの内のどちらか一つよね」

「1、論点をわざとズラして突かれたくない所を隠したい」

「2、そもそも論点を捉えられておらず、理解出来ていない」

「恐らくは後者だと思うわ?」

「…だといいんだけどな」

「他に何か懸念が?」


「…ひょっとしたらなんだけど」

「ええ」

「あいつ、戦争のトラウマとか人を殺しすぎた事による罪悪感とかでの…『精神崩壊の前兆なんじゃないのか?』って」

「ほら、人間を一人殺すだけでも精神的な負担はデカいだろ」

「けど、もうあいつは俺の指示で少なくとも千人近くは殺してる」

「数をこなせば慣れて平気になるわけじゃない。ただ麻痺していくってだけだ。」

「タバコや酒とか、ブラックコーヒーの味を美味しく感じるようになっていくみたいに」

「自分では自分がおかしくなってる事に気付かないんじゃないか?」

「『自分はまともだ』って思ってる奴ほど、客観的に見たら壊れてるとかなんてよくある事だろ?」

「……」

「? なんだよ」



『あなたもね』の言葉は言えないわねえ。



「あなたは大丈夫?あなたも大事な人を何人も失って、」

「俺は大丈夫だって。何人も友達とか大事な奴が目の前で死んだけど慣れたし、サローニャに何人殺させても精神的ストレスはもう感じないし」

「…そう」

数秒前のあなたの言葉を返してあげるべきなのかしらあ?


「復讐遂げる前に壊れられたら困るんだよな…」




もし10年前の正義漢だったあなたが、今のあなたを見たら何て言うのかしらね?






「…一度カウンセリングでもしてみる?紹介するわよ?」

「いやいいよ…もうじき殺し屋も廃業してこの業界からも足を洗う予定だしな」

「あら?今更サラリーマンにでもなる気?」

「それもいいかもな」

「ふふ…履歴書になんて書くの?『自営業で殺し屋派遣会社やっていましたので人事管理及び営業には自信があります』とか?」

「一発で落ちるわ」

「…よかったら」

「?」

「よかったら、私の所に転がり込む?」

「ヒモになれってか?」


「私の仕事を手伝ってくれればいいわよ。いっそ結婚して専業主夫になる、でもいいわよ?」

「ありがとな。考えとくよ。」

「あら、具体的に何を考えるの?他にアテもないんでしょう?」

「お前な…サローニャはどうするんだよ。」

「…」

「あいつ放置して俺だけ幸せになるわけにはいかないだろ」

あ、一応彼女に対して思いやる気持ちってあるのね。

「彼女も独り立ちさせればいいじゃない」

「アイツなら不可能じゃないかもしれないけど、それは酷すぎだろ。それにあいつを一人にしたらまず真っ当な道は歩けない」


「この街なら児童養護施設なんて山ほどあるじゃない」

「この街の児童養護施設の実態もよく知ってるお前がそれを言うのか?」






「優しいのねえ」

「『その子と一緒に来ればいい』って言えないお前は、優しくないな」





「サローニャちゃんも引き取ってあなたを寝取られたくないだけよ」

「それ本気で言ってんのか?仮にあいつが今の俺達と同い年になったって手は出す気ないって」

「あら?そんなのわかんないわよ?私はだんだん歳をとるし、あの子はこれからどんどん綺麗になるわよ?」

「そしたら性欲の捌け口にするに決まってるじゃない」

「そこまで鬼畜じゃねーよ俺は」

「あーほら、サローニャの事は追々考えるよ。今はとりあえず例の情報を売ってくれ。格安で。お友達価格で。俺達の仲だろ価格で」

「そうねえ。逆にどのくらいならいいの?」

「出来れば1で。」

「半分以下?随分値切るのねえ」

「お前な、いくらなんでも3と6なんていきなりポンと出せるわけねーだろ」

「あら?確かあなたのメイン預金口座だけでも18くらいはあるはずだけど?」



「何で知ってんだ」

「情報屋を舐めちゃダメよお?」


「つーかさ、お前わかって言ってるだろ。18なんてあってもこの業界で生き残ろうと思ったら全然足りねーって」

「そ?」

「ファーレレ…土御門が死んだ時なんてモロそうだったろ?」

「ああ、随分懐かしい話ね。あなたが起業したばかりの時でしょう?」

「ああ。新しい後ろ盾翌用意とかコネクションとか逃亡費用とか寝る場所とか武器とか情報とか抗争用の殺し屋雇ったりで死ぬほど金使った。そんな経験してれば」

「死ぬほど?5ぐらい…だったかしらあ?」

「20だよ。わざと言ってるだろ…土御門の溜め込んでた金を全額勝手に使わせてもらったんだ」

「何かあったらすぐに金払えないと死ぬなんて日常茶飯事だろ。だから金はいくらあっても足りない」

「そうねえ。仮に今私がテーブルの下で銃を構えて『死にたくなきゃ全財産払え』とか言われたら払うしかないものねえ。」

「本気でそうなりそうだからやめろその例え」

「そんな事しないわあ」

「わかってるけどもだ」






「本当に要求するなら、『死にたくなければ今すぐ私と結婚して』にするもの」

「どっちも死ぬようなもんじゃないか」








「で、どうしたら1にまで下げてくれるんだ?」

「『今すぐ私と結k」

「それは無しで」

「…そーねー」

「じゃあ、この依頼を受けて完遂できたらってのはどう?」

「ん?」

「はい。メール見て」

「はいよ」

「二件の依頼よ。一件は多分簡単ねえ」

「……、……だな。コイツただのパンピーだろ?経歴とか名前とか能力見ても別にヤバい奴と繋がりは無さそうだし」

「ええ。これはサービスだけど本当にその人は所謂一般人サイドの住人。殺して騒ぐ人も少ないわ」

「ふーん…わかった。殺ってやる」

「で、中々のクセ者案件がそちらになりまあす」

「おいおい…一体どんな、」



「…お前」

「そ。」




「4人以上の殺し屋の”標的被り”案件」






「噂じゃ少なくとも”押し屋”と”自殺屋”、”スズメバチ”、”火事屋”が狙うみたいね」

「うーわ、全員報酬金額が億クラスの殺し屋じゃねーか…しかもステイルもいんのかよ」

「それで、私からの依頼内容は『誰よりも早く標的を殺してちょうだい』よ」

「…?」

「どうしたの?」

「…解せないな。なんでお前がこいつらの邪魔をそんなにしたがる?」

「だってその人達が嫌いなんだもの」

「嘘つけ。お前とコイツらに接点なんてまるでないだろ」

「実際に接点なんてなくったって、テレビのアイドルとかでもこの人嫌いってあるじゃない?」

「それだけで大金積んで億クラスの連中を敵に回すって?」

「そーよお?実際は大金積んでないし、しばらくの間は直接敵に回すのはあなただけどねえ」

「皮肉りやがって…ハァ…まあ他に手もないし…わかった。この条件を飲むよ。どっちも殺ってやる」

「ありがとう。あなたならそう言ってくれると思ってたわあ」



「ハァ…お前はもう少し有意義な金と時間の使い方した方がいいんじゃないのか」

「そうかもね。じゃあそうしてみようかしら」

「この後一瞬に映画でも観に行かない?」

「…俺にスピード命の依頼しておいてそれ言うんでせうか」

「それくらいいいじゃない。貴方達コンビの実力なら1日くらい遅れても余裕でしょ?」

「いやそうは言ってもな」

「ね?」

「…」

「ダメ?私、今日はせっかくお店休んで来てるのよ?ビジネスの話だけで終わるなんて悲しいわあ」

「ハァー…」

「…ちょっとだけ待っててくれ。簡単な方だけ完遂するようにサローニャに指示出してくる」

「ありがと。あなたのそういう優しい所が好きよ」

「俺もお前のそういう小憎たらしい所は嫌いじゃない…あ、もしもし。今から送るメール内容の依頼をすぐ確認して取り掛かってくれ」


「…」






引き伸ばし作戦成功ねえ。


十中八九、難しい方は失敗するでしょうけど…そしたらまた条件つけるだけだしい?


…そういえば、あなたさっき『もう少し有意義な金と時間の使い方した方がいいんじゃないのか』って言ったけど


ちゃんと使ってるわよ?あなたと会うためだけに。


あなたと丸1日デートするために情報屋もアダルトショップも2日間お休みにして失った莫大な逸失利益だとか、

あなたと関係を終わらせない為の条件作りの為にあの二つの依頼を他の仲介業者から無理矢理買い取った時に使ったお金とか



そういうの全部足した金額をあなたに見せたらなんて言うかしらあ?




…やっぱり呆れた顔でもう一回『もう少し有意義な金と時間の使い方した方がいいんじゃないのか』って言うのかしらねえ?






「お待たせ。終わったぞ」

「そう。ねえ、何観よっか?」

「『グラスホッパー』なんてどうだ?ほら、殺し屋の」

「…もっとロマンチックなの観ましょうよ」








あ、でも殺し屋が殺し屋の映画観たらどんな感想を持つのかはちょっと興味はあるかも。












            サロ
            ーニ
             ャ








サイアク。


ひっじょーにサイアク。






その1、朝起きたら上条ちゃんご飯残していってくれなった。


その2、しかも情報屋の女と1日デートしに行った。


その3、いきなり依頼を受けて、しかも今日から調査開始(私が)


その4、上条ちゃん達がいる所は晴れてるらしいけど、こっちは土砂降り。

その5、ターゲットが








「ねぇ、どこに遊びに行こうか?サローニャ!」


やけにフレンドリーちゃんだ。




ヤバイ。


しくじった。正直コレめちゃくちゃしくじった。

まさかターゲットちゃんと直接接触してしまうとは。

いやね、コレ本当は調査時とか絶対ターゲットに接触しちゃダメなのね?

殺した後で『コイツ、最近被害者と一緒にいた怪しい奴です』とか言われて捜査線上に上がっちゃうような事は絶対タブーなんだよ

おまけに指示電話を一部聞かれてて上条ちゃんがうっかり私に『サローニャ』って呼んじゃったから本名を知られちゃってるわけで。





あー…上条ちゃんに怒られる…

多少の失敗なら上条ちゃんが業者に依頼してくれるけど…

余計なお金使わせちゃうとすごい怒るもんなぁー

あーもう。やんなっちゃう。

上条ちゃんに指示を仰ぎたくても今ここで変に逃げたらあとで『怪しい』って印象付けちゃうし…



とりあえずは調子を合わせておこう…


今回はここまで。


Q:あなたが『まともで一般的な常識がある人間である事』を証明してください。

コレ、どうやったら証明できるんでしょうかね。




A:>>1はまともじゃないし、一般的な常識がない人間なのでできません。

短め。トゥーカ。



「そ、そーだねーゲーセンちゃんとかどう?」

「いいね!じゃあ行こっか!」


『雨?そんなのすぐやむよ!ほら行こう?!』


なーんて言いだしそうな晴れやかな顔で彼女は笑う。


…そんな顔を見てると少し嫉妬する。



きっとこの子、『心を刻まれるような不幸』なんて味わったことないんだろうなー、いいなーって。




「…ところでさ、一個聞いていい?」

「え?何?」

「何で私にいきなり『一緒にお茶しない?』って声かけてきたの?」

「サローニャちゃんはあなたから結構離れた席に座ってベーグルちゃんとコーヒーちゃんをいただいてたんだぜ?」

「このカフェ、今は雨宿り目的の人もたくさんいるのに…」

「まぁあなたとのお喋りは楽しかったし、別に文句があるってわけじゃーないんだけども さ」


彼女は「ああそんなこと」と言って。


「いやーあたしも暇だったしさ、外人の女の子がずっと自分のことをずっとチラ見しながら電話してたら流石に気にはなるよ」

「…なるほど」




あーうん。コレはミスですわ。言い訳はしないよ。

サローニャちゃん一生の不覚だぜ…

幸いまだリカバリーは効く。

そこはミスしないようにしないとね。


「それに電話の人、声がちょっと大きかったし」

「あーうん。そーだね。そりゃそうか」


…大丈夫。上条ちゃんも私も依頼内容に関する直接的な事は電話口で言ってない。


「それにサローニャは電話しだす前からさ、私が入った時からずっとそこにいるし…本とか広げてて暇そうだったから」

「あーうん」

「ちなみに何を読んでたの?」

彼女はテーブルの上の四つ葉のクローバーの栞が挟まった文庫本を指差した。

「ドストエフスキーちゃんの『罪と罰』。」

「へ、へー…わかんないや」

「だろーね。」

中学二年生の方の御用達小説でもある超ベストセラーだから読んでるかな、とも思ったけど。

「あ、」

「?」

「それ、反対から読んだら『つばとみつ』になるよね」

「…あ、ホントだ」

だから何だとは思うけど。

こういうアナグラムは嫌いじゃないかな。



「どういう話なの?」

「んー…すごーくザックリ、かなり削って簡単に言うと」

「学費払えなくて大学を中途退学したラスコーリニコフって青年が主人公なんだけど」

「へー?なんか名前はカッコ良さそーだね」

「でもね、そいつはちょっとイカレてるのね」

「どんな感じに?」

「家賃とか滞納しっぱなしで働かない超貧乏なラスコーリニコフがある時、『そうだ!ウチの近くに住んでる性悪な金貸しの強欲ババアをブッ殺して金を奪おう!』って考えてるとこから物語はスタートして」

「こっわ!」

「金貸しのおばあちゃんを斧で殺しちゃうの。」

「うわぁ」

「で、金目のもの物色中にたまたま帰ってきたおばあちゃんの妹も目撃者だからってんで殺しちゃうの」

「ええー…」



「元々ラスコーリニコフはね、大学でも『悪い事したとしても沢山いい事をしたら許される』とか、『ナポレオンとかマホメットのような、一部の非凡な人間は場合によっては人を殺しても許される』」

「っていうイカレた犯罪理論を論文で発表した事もあるんだよ」

「いいー…なんか、悪趣味だね」

「まぁ選民思想ってやつだね。」

「で、彼はすごいラッキーさで捕まらなかった。その後ラスコーリニコフの妹を争って、毒舌家なスヴィドリガイロフって人とか色んな奴が取り合いしたりとか色々あって…」

「自分と同じぐらい貧乏だけど家族に献身的なソーニャって子と知り合って…自分の罪を告白するの」

「へぇ」



「その時に『何で殺したのか』って説明するの」

「『僕はナポレオンになりたかったんだ』」

「『僕は老婆を殺したのではなくて、永遠に、自分を殺したのだ』」

「『どんな非道なことでも平気でやってのける人間が、人間の上に立つ者となるのだ。より多くの人間を無視できる者が、立法者となるのだ』」

「『僕は金のために殺したのではない。他のモノが欲しくて殺したのだ。自分が常人ではなく、非常人であるという証明が欲しかった』」



「…きっと、その人は自分の理想と現状のギャップがありすぎて、プライドのために殺したのかも」

「かもね」




「でね、その後罪悪感が増したラスコーリニコフは精神も病んでいって…で、最後には自首するの。」

「ラストはラスコーリニコフがいる刑務所にソーニャが来てくれて…」

「あー…もういいよサローニャ。やめなよ。そんなの読まない方が精神衛生的にいいって。」

「かもね。だけど、すっごく面白いんだよ。」

「確かにある種悪魔的で、倫理とかなくて趣味も悪いかもしれない。誰かを不快に、精神を病ませるような内容なのかもしれない。」

 ・・・・・・・・・・・・・
「でも、やっぱり面白いんだよ。『読ませる文章』ってのを書くんだよ」

「ふーん…あたし本読まないからなー…」

「何でもいいから、『ちゃんと”中身”がある』本は読むべきだと思うよ」

「えー」


「読めば語彙が増えるし、人間の深みとか、知識とか、自分の知らない事が出来たりする」

「読解力もつく。感情や抽象的な概念ちゃんを言語化する力に繋がり、複雑な、客観的な思考を可能にする」

「ほら、食事と一緒だよ。食べ物は体の栄養でしょ。んでもって本は、」

「本は?」


「人格への栄養ちゃんなのさ」


ドャァ。あー今私、自分がすっごいドヤ顔してるってわかる。

「ふーん…」

「あ、今度何か貸そうか?」

「遠慮しとく。あたし結局読めないまんまで借りっぱなしになりそーだし」



「あら残念ちゃん」

「ごめんねー」


「あ、そーいえば。これからどこかに遊びに行くのはいーんだけどさ」

「?」

「誰か待ってたんじゃないの?ほら、あなたの席にカップちゃん二つあるし」

「ん?ああー大丈夫大丈夫。初春…ああ、私の友達なんだけど、その子が風紀委員で忙しくなったからって遊びにいく約束ブッチされてさー」

「あらまー。御愁傷様」

「だから大丈夫!」

にぱっ!と太陽のような笑顔。



…へぇ。友達、ちゃんといるんだね。


いやまぁ友達くらいいるのは当たり前なんだろーけど。


…ああ、本当に嫉妬しちゃうかな。





ーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ありがとうございましたー」



「へー…そのファー付きのビビットピンクなウサ耳レインコート可愛いね」

「ありがとちゃん。あなたの傘も…あー、すごく透明感あっていいんじゃない?」

「あはは。無理にコンビニの傘褒めなくていいよ?」

「あ、ゲーセンさー私の行きつけでもいい?」

「え?うんいいよー」


「…」

「?どうしたのサローニャ」

「…ううん。別に」












思っちゃダメだ。











「あっ、そういえばあたしが欲しいぬいぐるみ入荷してたんだっけ?急がなきゃなくなっちゃうかも!」

「はいはいちゃん。それじゃいそごっか!」











一緒にいると楽しいとか、仲良くしたい、とか。











これから殺さなきゃいけないターゲットと親密になるなんて御法度すぎ。


当たり前でしょ。そんなの言うまでもない事じゃん。


殺す時の手が鈍る。



『情に流されて』、そんな私情で依頼を完遂できなかった殺し屋なんて大笑いもいいとこだ。



感情の奔流に蓋をしろ。心を閉ざせ。



これは、遊びに行くわけじゃない。


ただのターゲットの行動と心理、身辺調査なんだから。





情を移すな。ダメ絶対。



私は、”プロ”なんだ。


ラスコーリニコフのような、ただの『人殺し』じゃない。





私は『殺し屋』だ。





『人殺し』はただの自己満足。

殺すのも殺さないのも、途中で放り出すのも自首するのも贖罪なんてオナニーをしだすのも自分の気分次第だ。



けど、



『殺し屋』は違う。

『標的』がいて、『報酬』を払う『依頼人』がいて、『業界のルール』と『業者』がいて。

ムカつく事や我慢しなきゃいけない事、理不尽が山程あって。

失敗したらオールナッシング。





私がやってるのは『遊び』じゃない。


『仕事』だ。



己の仕事にプライドを持て。



己の仕事に妥協をするな。



上司(好きな人)に見捨てられない価値ある人間でいたいなら。








私は、ラスコーリニコフのような中途半端じゃない!



私は、



私は、





私は、『殺し屋』だ。





































『そして、誰よりも自分を上手く騙せる者が、誰よりも楽しく暮らせるってわけですよ』



ーーーーーーーーードストエフスキー著:『罪と罰』よりスヴィドリガイロフの台詞




今回はここまで。



つーかぁ、おかしくね?>>1があちこちでサローニャ出して可愛さを目一杯伝えてるのに

誰もサローニャスレを立てて書かないとかおかしくね?影響とか感化されないとかおかしくね?



あり得んくね?異常じゃね?もはや超常現象じゃね?


短めな投下。








             ステ
             イル







やれやれ。全く我ながら面倒を引き受けたものだね。


これから死のうとしてる人間に荷物を増やさないで欲しいものだよ、全く。


雨が降りしきる中ダラダラと大通りを歩く。


バシャ。

うわ。最悪だ。

車にみずかけられた。


…クソ。ズブ濡れじゃないか。



正直すぐ乾かせる服はどうでもいいがタバコの火を消された事に腹が立つ。


ハァ。

新品のタバコに火をつける。

ふと、鏡を最近見る機会がなかった事を思い出した。


チラ、と顔を横に向けてブティックのショーウインドウに映る自分を見てみる。


…にしても。



これから死のうとしてるのだから当たり前なのだろうけど、


中々にくたびれていて…ああ、本当に今にでも死にそうな顔がそこにあった。


…はて、僕は前からこんな顔をしていただろうか?







…随分と酷い顔をしているな。


いや顔のパーツの整い具合についてじゃなくて(僕は幸いある程度整って生まれてるからね)、顔のケア具合についてだよ。


ヒゲが顎と口周り、モミアゲまで生い茂ってかなりモサモサしてる。


肌はボロボロカッサカサ。髪バッサバサ。唇パッサパサ。


目は生気がなくて焦点が合ってないし、ドローン…としている。


あ、ヨダレと鼻毛出てた。


…コレもし服装がキチンとしてなきゃホームレスと間違われても文句が言えないんじゃないだろうか。




とぅるるるる。とぅるるるる。


ハァ…また携帯が鳴ってる。


携帯電話なんて持つんじゃなかったな。通信霊装だけにしておけばよかった。

おかげでずっと縛られる。このコール音は閉塞感ばっかり感じさせる。

確かに携帯はなければ死ぬほど不便だ。


今はこれなきゃ仕事すらできない。


利便性が高いのは認める。けどほとほと不自由だ。



何処にいても呼び出されて、何処にいても誰かと繋がる事を強制されて。

応えなかったら『なんで応えてくれなかったの?』だ。

答えるのが面倒くさいから無視したなんて言えないのだから言い訳を考えなくてはならなくなる。


目の前で話しかけられた時と同じ対応をしなければならなくなる。


…時間的、場所的、他人と自分のパーソナルスペースまでの距離なんて現代においては無いに等しいのかもしれない。


まるで鎖だね。携帯に首輪つけられて大きな何かに飼われてるみたいだ。



…せめてこれが死んでる人にも繋がれば喜んで飼われたんだけどね。


とぅるるるる。とぅるるるる。


このコール音の連続は早く出ろよとせかされているような錯覚を覚える。



ああ、さすがにそろそろ出ないと。





画面の表示は


着信中:ジェーン


だった。



へぇ。よく僕の番号を消さなかったものだ。彼女達とはもう随分と会話すらしてなかったのに。


懐かしい。

僕をししょーと呼び慕う魔女三人娘、その1の子だ。

確かエンデュミオン事件当時は

緑のロングヘアー、猫耳帽子を被っていて、下着姿のような下半身。首元からヘソまで露出していた子だ。

扇を武器に風のエレメントを行使して…



…ひょっとして、彼女達はまだあの格好をしてるんだろうか。






だが今更何の用だ?

彼女達も元々、自身の術式に僕のルーンが組み込めないかと僕に絡んで来ていただけだし…

確かそれももう何年か前に諦めたのではなかったか。




「…ハイ、もしもし?」

『ししょー。今どこですか?さっきかけたのに出なかったから遂に死んでしまわれたのかと』



…さっきもかけてたのか。気づかなかったな。




「悪かったね。家に携帯を置いてあって」

『”携帯”電話なんですから、ちゃんと携帯してください。というか今時珍しいですよね?携帯を自分から離すって』



依存性高すぎだろ。

ある意味では麻薬やタバコよりタチが悪いんじゃないのか?携帯電話って。






『知ってますか?ししょー。最近の電話って持ち運べるんですよ?』

「知ってるよ。皮肉はよしてくれ…コンビニ行くだけだったんだ」

『おやそうですか』

「…というか君は未だに僕を『ししょー』と呼ぶんだな」

『ダメですか?ダメでも呼びますけど』

「僕は君…他の子もだが、正式に弟子にとった事はないだろ。君らが勝手に押しかけて、面白がって…僕をそう呼んでるだけで、」

『あ、本題なんですけど』

「自由か」



実はですね、と彼女は前置きをして。




『ししょーにお見合いの話が来てまして』




何故君がそんな話を持ってくるのかとか殺し屋の人間に持ってくる話としては非常識なのではとか。相手は誰だとか、


ああ、いや。色々と言いたい事はあるが答えは一つだね。




「断る」

『気持ちはわかりますがせめて話が終わるぐらいは辛抱して聞いてください』







「一応聞くが…相手は君じゃないだろうな」

『でしたら最初からそういいます』

「…他の」

『マリーベートやメアリエじゃないです』

「…僕は女性を幸せに出来るような男じゃないよ。仮に誰かと夫婦になったとしてもお互い不幸にしかならない」

『それには私もぶっちゃけ同意見ですが。…ししょーの旧いお知り合いの方なんですよ』

『会うだけどうですか』

「知らないね。どこの誰だか知らないが僕にも仕事があるんでね」

「そんなにどうしても僕と会合したければ学園都市まで来いって伝えてくれ」

『ええ。きっとそう言われると思いましたから少なくとも学園都市に出向かないと難しいと思いますよってお伝えしたんです』


なかなか有能じゃないか。マネージャーに欲しいくらいだ。



『そしたらですね、彼女、「喜んで行きます」って』

「…急ぎの仕事があるかr」

『聞きました。そしたら…「なんなら手伝いますし、ダメなら待ちます」との事です』

「……」

有能じゃないか。

『じゃ、断っておきますね』

「待った。……そいつの名前は?」

『あれ?受けるんですか?』

「NO。興味本位で聞くだけだよ。そこまで切羽詰まって僕を御指名する酔狂な旧い友人がどなたか知りたいんでね」

『えっとですね…イギリス清教…いえ、天草式十字凄教の』


…オイ、まさか







『神裂火織さんです。』










…まだ結婚してなかったのかい?神裂。

君、確か今年で…



『相当焦ってるんでしょうね。ああ、ちなみに私が仲介してるのは彼女がししょーの電話番号とか生活サイクルとか知らないからです』

「通信霊装…ああ、10年前の時に神裂とのは破棄したんだっけか」

『10年前?ああ、ししょーが手当たり次第やつあたりして迷惑千万なやさぐれマックスだった時ですか』

「皮肉るのはよしてくれ」

『で?どうします?』

「……」



面倒くさいな…正直勘弁して欲しいんだが。



「…いや、受けよう。彼女とはもう随分話してないし」

『お?ついにししょーも身を固めますか』

「固めないよ。話を受けるだけ、会って話すだけだ。…軽い同窓会みたいなものさ」


人生の最後に旧い友人に会うのも悪くはないだろう。

特に彼女とは同僚で、共通の大事な人が居た仲だし。


「さっきも言ったが一緒になってもお互い不幸にしかならないからね」

『まぁそう言わずに。本当に固めちゃってはいかがですか?ほら、イギリスの諺だって言ってるじゃないですかー』

「何を」

『「急いで結婚して、ゆっくり後悔しろ」』

「…それ、『急いで結婚すると後で後悔するぞ』って意味だろう?何か勘違いして使ってないか?」

『ええ。ですから神裂さんは逆に学んでしまったんじゃないですかね?って。』

『つまり、「じゃあ結婚焦らなくていいや!」って。で、焦らなすぎると今に至るって寸法です』




「…『ゆっくり結婚して、急いで後悔してる』になりそうってわけか」

『まだ結婚すら出来てないわけですから、その境地に至れるかも疑問ですけど』




ブブブ。ブブブ。


「…すまない、キャッチだ。後でかけ直す」

『承知しましたー。返事はさっきのを伝えておきますね』

「ああ。ありがとう。頼むよ」




着信相手は、

着信中:マリーベート


…魔女娘その2だな。茶髪でウェーブかかったショートで丸帽子かぶった子だった。

土のエレメントを使っていたっけ。


「…なんだい?」

『あ、お久でーすししょー』

「ああ。で?要件は」

『あっ、ひっどいなーししょー。もうちょっと私との会話を懐かしみましょうよ!』

「要件は?」

『ちえ。要件人間め』

「わかったから」


『はいはい…ししょー、今度受ける依頼の中で難しいとか、とんでもない内容のってあります?』

「何かに火をつけるって時点で、どれでも何でも難しくてとんでもない内容の依頼だ」

『あ、そういうんじゃなくて』

『例えばかなりの大物を殺す事になるとか』

「で?だとしたらなんだって言うんだい?」

『まあつまり。忙しくはないですか?って事です』

「…忙し、…いや、うん」

『暇ですね?割と』


繁忙期でないことは確かだね

『じゃあししょー、』

こほん。と可愛らしく咳をして。



『そろそろ借金返してください』

「僕は君に借りた覚えなんてない」


『いえ、確かに借りてるんですよ』

「へぇ?いつ?」

『ヒント!10年前、ししょーが酒に溺れてた時の酒代は誰が出してたでしょうか』

「僕が自分で」

『払ってないです。ししょー酔ってて『イギリス清教にツケといて』で出た時あったでしょ』

「…いや覚えてない」

『借用書、ちゃんと残ってますんで』


…そう言われるとそんな事もあったような気はしてくる。





「いくらだい?」

それなりに僕も貯め込んでいる。払えないほどじゃないだろう。

『2000£(約34万円)ですね』

まぁその程度なら…というかかなり飲んだな10年前の僕め。

「…じゃあ送金しておくから」

『あ、そういえば私近々学園都市行くんですよ』

「そうかい」

その頃に僕が生きているかはわからないが。

『どうせなんで、久しぶりに会いましょうよ』

「断る」

『じゃあ断る事を断ります』

「忙しいんだ」

『合わせますんで。それに借用書にも書いてあるんですよ?』

『「相手の要望する返し方する」って』

10年前の僕め…


『約束ぐらい守ってくださいよ。もう大人なんですから』

「わかったよ…」

こうなればさっさと終わらせるに限る。

『やった!じゃあししょー?また後で詳細について連絡しますんでー』

「…ああ」


ブツ。通話が終わる。


クソ、今すぐ学園都市はタイムマシンを発明してくれないだろうか。


そしたら10年前の己を思いっきりブン殴ってやるのに。










とぅるるるる。とぅるるるる。


…もうここまで来たら超能力なんてない僕ですら相手が誰かわかるよ。

案の定というか、コールしてきた相手は予想通りの人間だった。



着信中:メアリエ



魔女三人娘その3。

水のエレメントの箒を持って鍔広帽子を被っていたウェーブがかかった長い金髪の子だ。




『お久しぶりです。ししょー。』

「久しぶり。要件は?」


『…随分冷たくありませんこと?』

「愛想がないのは許してくれ。君の前に他二人と電話が連続で来ていてね」

『あらそうでしたの。』


コロコロと笑う声が電話の向こうから聞こえた。


『では短めに。』

「そうしてくれ」



『Index-Librorum-Prohibitorumの遺灰を狙っている人間がいます』


「…なんだって?」


思わず眉間に力が入る。



『あなたの大事な人がこの世にいた、最後の物証がなくなる可能性がある、と言いました』

「根拠は」

『イギリスのとあるパブで、そう漏らした人間が居ました。そして、その人間は学園都市に既に入ったとの事ですわ』

「…名前は?」

『あなたもよくご存知の人ですよ。名前はーーーーー』

「…」

…なるほど。

「…随分懐かしい名前だね」

『私もこれ以上の情報は残念ながら。ただお知らせしないとと』

「ああ、それは、…本当に必要な情報だったよ。ありがとう」


通話を切る。


「…ハァーッ……」





なんでこう、一つ一つ綺麗に身辺整理してから死んでいこうとした途端にこんな面倒ごとが今更顔を出すんだ。


もっと前に言ってくれたってよかったじゃないか。


そもそも殺し屋に見合い?昔のツケの金の支払い?今更10年前の死者の墓暴き?


最後を除いて随分俗っぽいイベントじゃないか。


殺し屋に到来するイベントは『自分の命を狙ってくる奴があらわれた!』とか『難しい仕事の依頼が来た』とか…


もっとそういうものばかりであるべきじゃないのか。


殺し屋なんて倫理やら人道に悖る事をしてる人間に何故友人との再会だの返済だの墓守だのをやることになるんだ。


ああ面倒臭い面倒臭い面倒臭い面倒臭い面倒臭い。



…ああ、そうだ。




この依頼が終わったら携帯電話なんてどこかへ投げ捨てよう。


今はまだ仕事と用事が終わってないから捨てられないが…


勿体無い?いいんだ。かまいやしない。


いかに現代人がトイレにまで電話を持ち込む時代と言えど、



どうせ地獄までは持ってけないのだし。






いっそ死ぬ前に。




最後くらい、不便でも不自由でも。












誰にも捕まらない自由が欲しい。






投下ストップ。

あ、魔女3人娘の口調とかその辺のはテキトーです。


あ、これはこれは。続きはもう少しばかりお待ち下さひ。

さて、皆様は私が続きを書くまでお暇でせうからこういった謎々をこしらへてみました。

宜しければ。次に私が投下するまでに。




問。


デトリアーノ・パラディーニという人は昔、

『ほら、昨日全裸で…おい、まさかここにいる全員が僕の名前を憶えちゃくれなかったのかい?僕はあんなに街中で華やかに踊り狂ったってのに!』

と言いましたよね。

ですがこの人が何故こんな事をしたのか、実は私にはわかりません。本当、なんでなんでしょうね?


※因みにネットでこの謎々の答えやデトリアーノさんの名前や名言を検索してどういう人だったかを調べてもオッケーです。



さて、>>1は解答者に何が言いたかったのでしょうか?




ヒントは魔王ジュブナイルリミックスのスピンオフ漫画『waltz』の1巻とか伊坂作品のどっかで言っていた言葉。

ヒント知りたきゃ読んで下さい(笑)


↑の本気で考えようとした、あるいは考えてくれた人間が居たかすら微妙な問い。


コレ、実は絶対解けません。多分答えを聞いても納得しません。

解説すると。

何故ならデトリアーノ・パラディーニなんて人はいやしないからです。テキトーに>>1が考えた空想の人物です。

つまり最初っから問いは問いとして破綻してます。

で、※の『答えを検索してもいい』。

検索してみると当然の事ながら一件たりともヒットしやしません。精々似たやつぐらいしか。

八方ふさがりになってヒントを見てみる。

でもヒントはワルツの一巻、伊坂作品のどっかなんていう超漠然としてます。

けど、一巻を読んでみるとこの状況に近いセリフ群が一つ。


蝉「アホらし、何がクリスピンだよ。ネットで検索しても何も引っかかんなかったぜ?!」

蝉「嘘つき野郎の言う事なんか誰が聞くか!」

岩西「ネットの情報が全部正しいとでも思ってんのか?」



岩西「何を信じるかは、自分で決めろよ。」



原作で言っていたのは蝉の『ジャック・クリスピンというミュージシャンがそもそも本当にいるのか?いるならどういう奴なんだ?』という疑問からのモノでしたが

上司とネット。

言い換えると『信頼できそうな人間とネット、どっちを信用して自分の知識にするか』。

(結論から言うとジャック・クリスピンは伊坂先生が考えた空想のバンドマンなので『どっちもウソ。信じちゃダメ』。)

こんな感じの話題を振ると


「んなモンわかってるわかってる。色々サイト見てみてから判断するし、参考程度にしか考えてないって!」

ってよく言われますが、一応言います。


wikiだって嘘やガセがある。元々の情報自体が少なかったら多面的、多数のサイトを見たって、偽がある。

プロだって間違える。勘違いする。プロのフリしてる素人店員だっている。



答えは、


『人の言う事とネットを鵜呑みにするな』

でした。


投下ー。








             蜜
             蟻










混濁していた意識が覚醒する。



気怠さが残る体が、眠ってしまう前まで感じていた温もりがない事に気付く。

…ホテルのベッドはふかふかで暖かいけど、人の暖かさほどはないのよね。

電気毛布…は嫌ね。アレは人工的な暖かさだから。

電気毛布じゃないけど人肌温度になる布団とかないかしら?

湯たんぽ…でもなくて。

どうでも良かったわね。彼はどこ行っちゃったのかしら。

…シャワーでも浴びに行ったのかしらあ?

バサ。

自分の体がある所から1mほど離れた所から物音がする。



目を開けてみたら彼が丁度ダークスーツの上着を羽織るところだった。



もう。3回戦目は無しって事よねえ。もうちょっとくらいゆっくりしていってくれればいいのに。


ベッドから裸身を起こして、その背中に声を投げかけてみる。


「…もう、帰るの?上条クン」


『まだ行かないで。』私の言葉に含まれてる副声音が彼に届いている事を祈る。


「ああ。悪いけどそろそろ依頼に着手しないと先越されちまうし」

「…そう」

「そう頬を膨らますなよ」


…自分が出した条件とはいえ、もう少しなんとかならないのかと思ってしまうわねえ。


「ねえ、最後にキス…」

「前にお前から情報買った時も、金なくて対価にカラダを払った時もそうだったけど」

「お前、上条さんがしてあげたらそのまま腕絡めてくるだろ」

「んで、なし崩しにもう一回戦に持ち込むだろ?」



「バレてた?」

「バレてるよ」





「そ。なら気をつけて帰ってちょうだい。あなたに何かあったら私、きっと死んじゃうわあ」

「へいへい…」

「あ」

「なんだよ」





「映画。グラスホッパー、面白かったわ」

「ああいう終わり方も嫌いじゃないだろ?」




手をヒラヒラさせて彼は部屋から出て行った。




「…」

もそ。

ベッドに横になる。

なんていうか…ドライよねえ?

ピロートークとかもそうだけどビジネスライク感半端ないというか。

彼との付き合いはそれなりに長いけど、心の壁とか距離が未だに縮められないのよね。

私の”心理穿孔”《メンタルスティンガー》では彼は一時的にしか思い通りに出来ないし。

前に一度だけやったら拳骨もらったものね。


…精神系能力者で一番この手のは得意なハズなのに。


あの人の心を惹きつけられないのはなんでかしらねえ?








やっぱり”インデックス”?

ずっと縛られ続けるのもどうかと思うし、引き摺らずに良い思い出にしていく方がずっといい。

彼にも何度も話をしてるけどねえ?



…よっぽど守りたかったのね。



妬けるわあ。羨ましい。


私にもあれぐらい心を砕いて欲しいわね。





…冷たくされてて、望みも絶望的なのに。


なんでこんなに執着するのかしらね



さて、と。


私も彼の妨害に勤しむとしましょうか。


鞄からスマートフォンを取り出して電話帳機能を起動させる。




スマートフォンって便利よね。


私の場合はコレさえあれば人の心だって操れる。










            サロ
            ーニ
             ャ







~4年前:ロシア:エカテリンブルクのとある街~





さろーにゃ(11)「…」






さろーにゃ「…なくなっちゃった」






さろーにゃ「おとーさんも、おかーさんも、好きな子も、街も、友達も、家も、おばーちゃんが大事にしてた『小さな森』も…」

さろーにゃ「…」




さろーにゃ「…ぜんぶ、なくなっちゃった…」




焦土と廃墟と化した自分の見知った街。


赤黒い肉塊になった知人。


骨すら残らなかった家族。


ああ。”攻め込まれる”って、こういう事なんだ。



あの悪夢のような総攻撃が終わって思ったのは、


『やっと終わったんだ!生きててよかった…!』


次に、『ああ、そういえばみんな死んじゃったんだったな』と思って。



最初は何も感じなかった。


実感なんかまるでなくって、『へぇー…そっか。死んじゃったんだ?ふーん』ぐらいにしか思わなくて。

しばらく歩いて。


私のおうちがなくなってるのと、たぶん私の家族の誰かの腕かなって物を見て




ようやく少しだけ理解が追いついた。













ああ。私、ひとりぼっちになったんだ。







さろーにゃ「…」ポロッ

さろーにゃ「…ぐすっ…これからどうしよう…」

さろーにゃ「…」

さろーにゃ「…どうして?」

さろーにゃ「なんで?」

さろーにゃ「…」

兵隊「…ん?どうしたんだ、君」

さろーにゃ「…」

さろーにゃ「おにいさん」

兵隊「ん?」




さろーにゃ「ねぇ、なんで私の街はなくなっちゃったの」

兵隊「…」




さろーにゃ「ねぇ、」

兵隊「…学園都市と戦争したからだよ」

さろーにゃ「…どうして?」

兵隊「ロシアが仕掛けたからさ。色々事情があって、仕掛けなきゃいけなかったからってのはあるけど」

さろーにゃ「そう…じゃあ、私達がわるかったの」

兵隊「…学園都市側も事情を知ってたとは思うけどね」

さろーにゃ「…ふーん…じゃあ、」

さろーにゃ「私のまちを、私にとっての世界をこわしたのは、」

さろーにゃ「しってた上でやったんだね」

兵隊「そりゃ学園都市だってやられっぱなしになる訳にはいかないだろうさ」

兵隊「そんな事より…嬢ちゃんはこれからどうするんだい」

さろーにゃ「わかんない。もうおうちないし」

兵隊「…良ければおじさんが避難所まで連れて行ってあげるけど」



さろーにゃ「…」

さろーにゃ「あっ。やっぱ行きたいとこある」

兵隊「?」

さろーにゃ「くーこう」

兵隊「?」

さろーにゃ「くーこうちゃんに連れて行って。」

兵隊「くーこうって、…空港か?嬢ちゃん、そんなとこ行ってどこの国に行く気だね」

さろーにゃ「学園都市」

兵隊「…学園都市行って、どうする気なんだ?」

さろーにゃ「聞くの。」

兵隊「何を」

さろーにゃ「ひみつ。」


兵隊「…行っても飛行機には乗れないよ。お金やパスポートが無いだろう?」

さろーにゃ「あるよ。ヒコーキ乗るくらいのお金とパスポートちゃんなら私のうえすとぽーちちゃんの中のおさいふちゃんに入ってるから」

兵隊「…」

さろーにゃ「いいでしょ。このうえすとぽーち。おばーちゃんが作ってくれたの。何でも入るの」

兵隊「ああ…うん。いいねぇ~可愛いね。」

さろーにゃ「私のやつ、ぜんぶ入ってるんだよ。おかーさんのとかは入ってないんだよ?」

兵隊「…そーかい。そりゃあ、…いい物だな」

さろーにゃ「おかーさんはもういないけど」

兵隊「…」


兵隊「…」

兵隊「わかった。連れて行ってやるよ」

さろーにゃ「ありがとう」

兵隊「…」

さろーにゃ「ねぇ、へータイのおにーさん」

兵隊「んー?」

さろーにゃ「へータイさんはロシアのへータイさん?ヨーヘイさん?」

兵隊「…」

さろーにゃ「それとも…学園都市のへータイさん?」

兵隊「…さあて。なんだと思う?」

さろーにゃ「わかんないから聞いてるんじゃん」

兵隊「………」

兵隊「…ナイショだ」

さろーにゃ「けちー」







兵隊(言えるかよ)






~飛行機~


さろーにゃ「…」

CA「フィッシュオアビーフ?」

さろーにゃ「キーマカレーちゃん」

CA「えっ」

さろーにゃ「なんか急に食べたくなったの」

CA「そっ、そっかー」

さろーにゃ「キーマカレーちゃんが食べたいです」

CA「キーマカレーはちょっと無いかなー」

さろーにゃ「じゃあサラダちゃん」

CA「えー…一応ビーフなら付け合わせでサラダ出るけど…」

さろーにゃ「じゃーそれ」

CA「畏まりました。」



さろーにゃ「あのねおねーさん」

CA「あらなぁに?」

さろーにゃ「私ね、今からね…」

さろーにゃ「あの学園都市に行くんだよ。すごいでしょ」

CA「へぇーそうなんだね。すごいねぇ(そりゃこの飛行機は学園都市に向かってるしね)」

CA「学園都市に何しに行くの?」

さろーにゃ「…」





さろーにゃ「ひみつ」マガオ

CA(こえーよ!!何しに行くんだよ!!)



~学園都市:とある路地裏~




スキルアウト(中2)「でよぉ」

スキルアウト(中1)「マジっすか!」

スキルアウト(小6)「へー!」


さろーにゃ「…」





さろーにゃ「…」ジ-

スキルアウト(中1)「あん?何見てんだよ」

スキルアウト(中2)「おっふ…きゃわわ…んだテメー犯してほしいのか?あーん?」

スキルアウト(小6)(センパイ、またイキッてる…)

さろーにゃ「ねぇ、ひとつ聞きたいんだけど」




さろーにゃ「『人にされて嫌な事はしてはいけない』」

さろーにゃ「『そういうルールが無ければ自分がそれをされるから』」

さろーにゃ「小さい頃に教わったよね。さろーにゃちゃんだって知ってるよ」

スキルアウト(中1)「ハァ?説教?テメー俺のこと舐めてんのか?コラァ?」

スキルアウト(中2)「自分が気持ち良ければそれでいいんだよ!他人なんて知らねーよ!関係ねーじゃん!」

スキルアウト(小6)「そうだそうだー(合わせておこう)」

さろーにゃ「ちがうちがう。聞きたいのはこっからなんだけどさ」

スキルアウト(中1)「あ…?」


さろーにゃ「私の住んでたとこね、なくなっちゃったんだ」

さろーにゃ「それでね、」

スキルアウト(中2)「なくなっちゃった?あーこの前の第7学区のヤツ?アレヤバかったよな。ドンマイドンマーイwww」ヘラヘラ

さろーにゃ「…」

さろーにゃ「その第7学区のやつじゃないけど、おにいちゃん達はそうやって笑えてしまうんだね」

スキルアウト(中1)「そりゃ慣れてるしな。この街じゃビルが燃えるのも人がたくさん死ぬのも事故も日常茶飯事だし」

スキルアウト(中2)「つーかさ、多分なんだけどよ」

スキルアウト(中2)「隣の学区が丸ごと吹き飛んだとしても俺はヘラヘラ笑ってると思うぜ?」

スキルアウト(中2)「だってさ、ホラ。自分に関係なかったら、自分は痛くないだろ?」

スキルアウト(中2)「ザマァwww俺は助かったぁwって笑ってる」

スキルアウト(中1)「他人の不幸で飯ウマイww」

「「ウェーイwwww」」

スキルアウト(小6)(幼稚だよなぁ…本当にそう思っていても黙っていれば人からの自分の評価は下がらないから楽なのに)

スキルアウト(小6)(僕みたいに)

さろーにゃ「…」



スキルアウト(中1)「で?用は済んだのかよ?」

さろーにゃ「あ、ごめん。まだ聞いてなかった」

さろーにゃ「あのさ、もっかい言うけど」

さろーにゃ「『人にされて嫌な事はしてはいけない』」

さろーにゃ「『そういうルールが無ければ自分がそれをされるから』」

さろーにゃ「じゃあ、『嫌な事を実際にされたら仕返ししてもいい』って思う?』

スキルアウト(中2)「んんー…?」



スキルアウト(中1)「いいんじゃねー?だってムカつくじゃん!」

スキルアウト(中2)「だよな。やられたらやり返さなきゃ。じゃなきゃやられっぱなしじゃん」

スキルアウト(小6)「っていうかさ、それをされる方にだって理由があるからそういう事が起きるんだよ」

スキルアウト(小6)「やられた方は文句言っちゃダメさ。そもそも普段から強い奴との距離感を持つとか、出る杭にならないとかしなかったのが悪いんだよ」

スキルアウト(中2)「あ、安心しろよお前ら。もしお前らが誰かになんかされたら、俺がボコってやるよ!」

スキルアウト(中1、小6)「「あざーす!」」

スキルアウト(中2)「俺サイキョーだし!水流操作のレベル2だから!どんな奴でもボコって俺の怖さ見せつけてやるし!」

スキルアウト(中2)「ま、お前の居た所?無くなったんだっけ?」

スキルアウト(中2)「いい機会だったんじゃね?無くなるような所は『価値がない』って周りから判断されたって事なんだよ。アレだな、オワコンって奴だな!」

さろーにゃ「…」

スキルアウト(中2)「なんでもそうだろ?気にすんなよ。世の常なんだって!」


スキルアウト(中2)「参考になったか?」


さろーにゃ「うん、わかった!ありがとう!」ニッコリ!

スキルアウト(中2)「おー。…ん?何だ?その変な植ぶ」






スキ/   /ウト(中2)「つ












               直後。









「ひっ、ぎぃいい「や、やめっ…ァアアアア!!!!」いい!!!!??」「う、うわぁぁあああぁあああがぁあっ!!?」

「いひゃ、いひゃい…!だ、誰、か、「助けないよ。だってほら、貴方もそうなんでしょ?」あああ「いだぁぁいいい!!!」ああ!!!!」

「ひ、ひぃ…!」


「ご、ごべんなざい!!悪かったって!な、なあ!何がそんなに気に食わなかっ、











               「ぜんぶ。」











               静
               寂









さろーにゃ「…」

さろーにゃ「…あんたたちになにがわかるっていうの」


さろーにゃ「…学園都市は、酷い人しか居ないんだ」



さろーにゃ「こんな奴らに、私の故郷は」




~数ヶ月後~



飛空挺『第7学区近辺で、強盗殺人が相次いでいます。該当地域の学生は…』


さろーにゃ「…」




さろーにゃ「…こーやって、警告を出されても危機感とか実感って中々生まれないんだ」

さろーにゃ「だって本当なら犯人捕まるまで学校とか行かずに家に鍵かけて引きこもるとか、大きな施設にみんなで閉じこもるかするでしょ」

さろーにゃ「なのに、そーいう策は弄さない。頭では危険ってわかっていてもね」

さろーにゃ「ほら、例えばさ、大きな台風ちゃんとかが来た時もさ、ニュースで外の様子は見れるじゃん」

さろーにゃ「でもさ、最近の建物はしっかりしてるから…音はあまり聞こえないし、窓から雨を見ても『こんなものか?』と思ってしまう事ってあるじゃん?」

さろーにゃ「でさ、『酷い状態』って情報は頭にあってもね、そんな時に人はどうするかっていうと」


さろーにゃ「ドアを開けちゃうんだよ。」


さろーにゃ「それで、何か物が飛んで来て当たるとか、何がしかの痛い目にあって初めて『こりゃ本当に酷い台風だ』って実感する」

さろーにゃ「そうやって実際に痛い目にあわないと誰だって認められないんだ」



さろーにゃ「…今のあなたみたいに」


研究者「わ、私が何をしたって言うんだ!私は、何も!」


さろーにゃ「…」つナイフ

研究者「やっ、…あやや…いや!わかった!違う!私は確かにあの実験に関わってる!」

研究者「だから殺さないでくれ!」

さろーにゃ「…」

研究者「だって!これは仕事なんだ!やらなきゃいけない!嫌だろうがなんだろうがやらなきゃ生きていけないからだ!」

研究者「なぁ!君はどこの暗部の」

さろーにゃ「…うるさい。」

研究者「んがっ…!?が、ああ…ああ?」

さろーにゃ「ナイフ?安心して。使わないよ?およーふくちゃんよごれちゃうし」

さろーにゃ「今はね、私のじゅつしきで絞めてあげてるの。…正確にはナイゾーとか体のどこかが機能停止するんだけど」


研究者「な、なぜ、私、を、誰から頼まれて、」

さろーにゃ「…」

さろーにゃ「別に?誰も?」

さろーにゃ「私の自己満足。理由はあなたが学園都市の人だからだよ」

さろーにゃ「学園都市人はみんな悪い人ばっかりなんでしょ?ひどいじっけんばっかりしてるって」

研究者「そ、そんなの偏見、」

さろーにゃ「でもあなたもしてるんでしょ?じゃあ、同じだよ」


さろーにゃ「あ、ほら、この国の人達もさ?ニュースとかでよくやってるからって」

研究者「…?」

さろーにゃ「れいぷとかゴートウだとか。そーいうのをやるのは日本にいる外国人ばっかりだって思ってるじゃん」

さろーにゃ「そんな事ないのにね。日本生まれの日本育ちな生粋の日本人だってやる人はやるよ」

さろーにゃ「でも、ニュースでやるから『大体そういう特に酷い事をやるのは外国人だ』ってぼんやりとイメージしてる人は多いでしょ?」

さろーにゃ「それと同じだよ」

研究者(じゃあ君は)

さろーにゃ「この街に数ヶ月いただけでも知ったもん」

さろーにゃ「この街は、りんりを無視したおおきな実験場なんだ、って」

さろーにゃ「おとーさんもむかしテレビ見て『学園都市があんなに進んだ技術を持てるのは人権無視した合理的実験がたくさんできるからだ』って」

さろーにゃ「そんなひどいことができちゃう人達の街なんでしょ」

さろーにゃ「だからね、さろーにゃちゃんが壊してあげるの」

さろーにゃ「特に悪そうな人がいたらこうやって殺して持ってたお金もらってご飯食べて、また殺すの」

さろーにゃ「わたしの故郷のカタキをとるの」

研究者「……」


研究者「い、カレ…て、ル…よ、きみ…」


さろーにゃ「…」

研究者「」ドサ


さろーにゃ「…そーしたのはお前らだよ」





・・・・・。



さろーにゃ「…」トコトコ



「ういはるー」「なんですかさてんさん」



さろーにゃ「…」ジ-



さろーにゃ「なまえ…」


さろーにゃ(そういえば…もうずーっと私のなまえ呼ばれてないや)


さろーにゃ(そりゃそうか。なまえバレたらやばいし、この国で私のことしってる人なんていないもんね)


さろーにゃ「…というか、もう今後一生…誰も私のなまえなんて呼ばないんじゃないかな?」



さろーにゃ(こんびにちゃんとネカフェちゃん、後は路地裏とかホテルへ行って悪者ちゃんタイジ)





さろーにゃ「…わたし、なにしてんだろ」






~夜の公園~



さろーにゃ「…」キィコ...キィコ...

さろーにゃ「…」

さろーにゃ(私、コレいつまでやればいいんだろ。)

さろーにゃ「…」

さろーにゃ「…なんか、もうわかんない…」

さろーにゃ(…そろそろネカフェちゃん行こ…)







「よう。いい夜だな」





さろーにゃ「!」バッ!


「…お前だろ?最近手当たり次第に悪人なら誰彼構わず殺しまくってるクソガキは」


さろーにゃ「…」スゥ...


「ああ、魔術だろ?知ってる知ってる。」

パキーーン!!!


さろーにゃ「…!?」


「ご覧の通り。お前に俺は殺せない」




「まぁ落ち着けって。別にお前をお仕置きしに来たわけじゃないし。」

「ほら、そこの自販機でジュースでも奢ってやるからさ?」

さろーにゃ「ナンパならまにあってます」

「いやナンパじゃねぇよ」

さろーにゃ「ロリコンちゃんもまにあってます」

「ロリコンでもねーから」

さろーにゃ「じゃあなんのごよーですか」

「ああ。ちょっとオニーサンとお話ししようぜ」

さろーにゃ「ユーカイだ!ユーカイ!」

「誘拐でもねぇよ」








さろーにゃ「むー」

「まぁホラ。何がいい?オレンジジュースか?」チャリンチャリン

さろーにゃ「こども扱いするのやめてもらえます?」

「じゃあ何がいいんだ?お嬢さん。」

さろーにゃ「…」

さろーにゃ「…」スッ 

「…オレンジジュースな、ハイハイ」ピッ

さろーにゃ「だって他に美味しそうなのないからだもん」

さろーにゃ「ちがうから。こどもだからオレンジジュースちゃん選んだんじゃないから。ちょーど飲みたくなったからだから」

「ハイハイ…」







・・・・・・・。




~ベンチ~



「お前さ、今そーやって生きてて楽しいか?」

さろーにゃ「…べつに。でも生きてるから。それで、ムカつくから」

さろーにゃ「嫌い。この街もこの街に住んでる人も」

さろーにゃ「他に…どうしたらいいかもわからないもの」

「…ああ、だよな。今のお前ってホントそんな感じだ」

さろーにゃ「…」

「『八つ当たりしながら生きてる』。」

さろーにゃ「ああん?」ムカチン!

「普段はネカフェで寝泊まりして、コンビニで飯買って、テキトーな悪人見つけちゃ殺して金を奪う」

さろーにゃ「…なんで、」

「何でお前のライフスタイルを知ってるかって?」

さろーにゃ「この、すとーかーちゃんめ!」ペチン!

「いてっ!違う違う。ストーカーでもねぇよ。裏で出回ってんだよ。お前の情報は」



さろーにゃ「じょーほーか社会って怖いね」

「ああ。今じゃ金で大抵のモンは買えるからな」

「個人情報も知識も武器も家も信用も仕事も名誉も」

「時には寿命とかな」

「んでよ、お前さ、狙われてんだよ。そろそろヤバイんだ。」

さろーにゃ「…ケーサツちゃん?」

「アンチスキルの事か?ちげーよあんな無能な素人集団じゃない。」

「もっと恐~い人達だよ。物騒な」

さろーにゃ「ええ…?誰?」

「お前は荒らしすぎたんだよ。裏稼業やってる奴らはある程度ナワバリだとか仕事の限定とか、いわゆる”住み分け”ってもんをやるけどそれをぐちゃぐちゃにしすぎた」

「だから、『このまま色々とやる気なら協力しあって始末しろ』って余計に色んな所に情報が出回ってんだ」

さろーにゃ「例えば誰に?」

「そりゃお前、色んな奴にだよ」

さろーにゃ「その中でも例えば?って言ってるの!バカジャナイノー?」

「…じゃあ俺がもし、『あの超有名な暗部組織の”浜面さん”だァアアアア!!!』とか言ってお前わかるのかよ」


さろーにゃ「わかんにゃい!」キリッ!

「だろ」


「で、な?別に殺すのは良いんだよ。この街では日常茶飯事だし、この街は悪人のが多いくらいなんだから少しは減った方が世の為だ」

「けどな、業界のルールとか裏稼業のモラルってのはあんだよ。悪党にだって秩序があるんだ」

「人間が密集して生きる生物である以上はどうしたってそういうのが必要になるんだ」



さろーにゃ「元々悪い事してる人達なのにモラルなんて変な話だね」

「そうしなきゃ上手く悪い事ができないからな」

ちょっと止める。>>1の他の更新止まり気味なスレは全部、エタッたわけじゃありません。

満を持っしているんだ。



ちなみに今でこそたくさんヒットしますが、原作の小説グラスホッパーが出た時から漫画の魔王の単行本が1巻2巻と出て暫くするまで『ジャック・クリスピン』でネット検索かけても一切何も情報は出ませんでした。

>>1は検索がヒットするようになるまでの間、時々検索をかけて0件画面を見てニヤついていました。


さろーにゃ「それで?結局私に何を言いたいの」

さろーにゃ「ダラダラ、ダラダラ…オハナシ長くてつまんないよ」プクゥ

さろーにゃ「もしコレがデートだったら私もう帰ってるよ」

「あーハイハイ。悪かったな。じゃあ言うけど」

さろーにゃ「あ、言っとくけど」

さろーにゃ「『殺しをやめろ』とか『祖国へ帰れ』とか『自首しろ』ってのなら聞く耳持たないから」

さろーにゃ「ついでに、『一晩いくら?』もね」

「安心しろ。どれもちがうから」




さろーにゃ「それで?結局私に何を言いたいの」

さろーにゃ「ダラダラ、ダラダラ…オハナシ長くてつまんないよ」プクゥ

さろーにゃ「もしコレがデートだったら私もう帰ってるよ」

「あーハイハイ。悪かったな。じゃあ言うけど」

さろーにゃ「あ、言っとくけど」

さろーにゃ「『殺しをやめろ』とか『祖国へ帰れ』とか『自首しろ』ってのなら聞く耳持たないから」

さろーにゃ「ついでに、『一晩いくら?』もね」

「安心しろ。どれもちげーよ」





「お前、俺と組まないか」

さろーにゃ「…」





「いい腕だ。殺人手段の凶器は花粉や種子。それでアナフィラキシーショックでも起こすような人間じゃない限り殺人の物的証拠にはならない。」

「対魔術を組まれなきゃ、お前は殆ど最強の暗殺者になれる」

「なぁ、憎いんだろ?この街の奴等が」

さろーにゃ「…」

「いいさ。殺せよ。ドンドンピシピシ殺しちまおう。」

「ただし今みたいに利益を生むわけでもなく何の意味もなくイタズラにポンポン殺すのはマズイんだよ。目をつけられる。」

「そんで目をつけられたらお前は集団で狙われて数の暴力に殺されてこれ以上殺す事ができなくなる」

「お前だって出来る限り、力の限りよりたくさん殺したいだろ?」

「だからお前は業界に詳しい誰かと組んで目をつけられないように上手く殺し回るべきなんだよ」

さろーにゃ「…」

「俺ならそれを教えてやれる。金も今よりたくさん入る。」

「悪い話じゃないだろ?」

さろーにゃ「…」





さろーにゃ「おことわり。」ブンッ!!!


「おっと」ヒョイッ


さろーにゃ「具体的にどんなお仕事ちゃんになるかは知らないけどー、さろーにゃちゃんはお前ら学園都市人の言う事なんか聞いてやらない」

「学園都市人ってなんだよ、そりゃ。なんとなく言いたい事はわかるけどさ」ケラケラ

さろーにゃ「日本とは違う独自の世界がこの街にはあるんでしょ。それならもうこの街は『学園都市』って名前の国じゃん」

さろーにゃ「私の街を踏み潰したのは日本人じゃない。日本の国土にあって違う人種。学園都市人なんだ」

さろーにゃ「ころしてやる。みんな、みんな!」

さろーにゃ「人間ちゃんは痛みを知らなきゃ本当の意味での理解をしないでしょ!」ブンッ!

さろーにゃ「お前にもわからせてやる!!!」ブンッブンッ!

さろーにゃ「私がどんな死に方しようが私の勝手だもん!」

「はー…」

「で、お前はまた勘違いするわけだ」

さろーにゃ「…?何をぶっ!?」



「今のコレと同じだよ。おんなじ。」バキャ!バキッ!


「”俺が”お前に何かしたか?」

さろーにゃ「うぐぅ、げほっ、」

「ジュース奢ってやったし、話をしただけ。それに金も生きる意味も無いお前にそれをもたらすビジネスチャンスを持って来た」

さろーにゃ「おぐぅっ…!」

「なのになーんで殺されそうにならなきゃいけないんだ?」

さろーにゃ「…お前が学園都市の、」

「そう。お前の故郷を潰したのは”学園都市”だ。”俺”じゃない。」バキャッ!!

「学園都市に住んでる奴が全員お前の街を踏み潰すのに関わったわけじゃない」ガッ!ガッ!

「こんなのちょっと考えれば…いや、考えるまでも無い事だろ」ゴスッゴスッ

「つうかさ、わかってたんだろ?お前も」



「だから言ったんだ。『八つ当たりだ』って」ベシッ


「手当たり次第じゃなく、悪い事してる奴ばっか狙ってた辺り『良い奴』を殺す事に心のどっかで抵抗があったんだろ?」バキャッ

「つまりさ、薄々お前もわかってたんだろ」グイッ

「『この街の奴等の殆どは私の街を潰した奴等と関係ない』ってな」

さろーにゃ「…」

「だから。罪悪感があったから…わざわざ悪人ばっかを狙った。」

「『悪い奴は殺していい。きっとこういう奴等が街を潰した奴等と繋がってる』」

「そんなことを考えてな。…でもよ、お前がそんな事したって何にもならない」

「そんで、それも薄々わかってたんだろ?」

さろーにゃ「…」

「例えもし仮にこの街の住人全員を皆殺しにしたってお前の街は返ってこないし、死んだ命は戻らない」

「それどころか自分の命まで寿命が来る前に失う結果になる」

「でも復讐ごっこをしなきゃ心が持たないから殺ってたんだ」

さろーにゃ「…」


さろーにゃ「…」

「なぁ、そろそろいいんじゃないか?」

さろーにゃ「…何が」

「リスタート、だよ」

「いい加減、今のつまんねぇ人生を変えようぜ」

「お前の家族だってさ、お前が幸せになることを望んでるんじゃねぇの。形はどうあれ」

さろーにゃ「…」

「でも、お前、自分の幸せがなんなのかわかんないんだろ」

さろーにゃ「…うん…」

「今のままでそれがわかると思うか?」

さろーにゃ「…おもわない……」

「俺ならきっとそれを一緒に見つけてやれる」

さろーにゃ「…」

「お前、勿体無ぇよ。殺しの腕も悪くない。むしろ優秀だ。」

「そんな奴がこのままその内どっかの組織に捕まってボコられて死ぬなんて悲しすぎるだろ」

さろーにゃ「…」


「お前、今のままじゃ”ただの人殺し”だぜ?」

「どうせ殺すなら”殺し屋”になれよ。」

さろーにゃ「…そんなのどっちも同じじゃん。どっちもただの犯罪者だよ」

「いーや。違うね。天と地ほども違うね。」

「そういうのも教えてやるよ。”プロ”と”道楽”は全く違うんだ」

さろーにゃ「…」

「ただの人殺しで人生終了…お前、そんなつまんねぇ結果でいいのか?」

「…なぁ」






「お前は何才まで生きて、どんな意気込みを持ってそこまで生きるつもりなんだ?」





「”生きる”って、ただ呼吸してメシくってクソを出す事じゃねーぞ?」




「お前、そんな死んでるみたいに生きてていいのかよ。」




「お前の家族だってきっとそんな風に生きて死ぬお前を見てたら天国で嘆くと思う」ギュッ...

さろーにゃ「…!」

「大人としてもこのまま見捨てたくないんだよ。」

さろーにゃ「…」

「俺と来いよ」


「変えよう。お前の未来を」


さろーにゃ「…」

「大丈夫。俺が側についててやるから。」

さろーにゃ「…」キュ



さろーにゃ「…うん……!」ポロポロ




「そういや名乗ってなかったな」


「俺は、上条。」 




上条「殺し屋仲介派遣会社【上条事務所】の社長だ」

さろーにゃ「しゃちょー!?」

上条「…今は社員いないから俺一人だけどな」

さろーにゃ「なんじゃそりゃ」プッ





上条「まぁ安心しろ。食うモンも寝る所も、収入についてももう困らない事は保証してやるよ」

さろーにゃ「へぇ?」



上条「俺がお前を稼げる”プロ”にしてやるよ」ニヤッ

さろーにゃ「おおー…かっこいいね?」



上条「全部ここから始めよう。」


上条「俺と…お前で。」

さろーにゃ「うん!」ニコッ!




上条(ちょれぇ。何でこう、アホとかガキってのはちょっと希望を持たされるとすぐに言い包められて騙されちゃうんだろうな?)

上条(本来ならバレてない今のうちにさっさと本国帰って保護してもらって少しでも真っ当な道を歩むのが正しいに決まってる)

上条(ま…こーやって。)

上条(『”悪いコト”がどうして悪いのか』、『何故してはいけないのか』)

上条(そういうのを理解せず、誰かに是正されないまま突き進んで。)

上条(悪い大人に丸め込まれて、子供は悪党へと自分の未来を誘導されていくんだな)ジ-



さろーにゃ「どうかした?」

上条「…なんでもないよ」












上条「『今時の若い奴は』って言う大人は多いけど、”今時の若くない奴”が今時の若い奴を作ったってのを忘れるべきじゃねーなって思っただけだ」

さろーにゃ「なにそれ?」




・・・・・・。


~上条宅~


さろーにゃ「ねぇねぇこれからどうするの?」

上条「身支度と下準備を整えた後に…コレらの3件仕事をしてもらう」つ

さろーにゃ「ふーん?」ヨイショ

上条「今渡したそれらが資料だ。」

上条「まぁ最初だし、手軽なのを選んどいた」

さろーにゃ「おおー…なんかオシゴトって感じ」

上条「それぞれファイル分けしてるから混ぜんなよ?」

さろーにゃ「んー」

さろーにゃ「…ねぇねぇ」

上条「ん?どっかわからないところがあったか?」

さろーにゃ「コレでさ、いくら儲かるの?」

上条「ん?まぁ必要経費差っ引いて…粗利…いや儲けって言った方がいいか。儲けは一件あたり300万円程だな」

さろーにゃ「さ、さんびゃくまん!?そんなに儲かるの!?」

さろーにゃ「さんびゃくまんもあったら…えーっと…オレオが幾つ買えると…」

上条(好きなのか?オレオ)

さろーにゃ「すっごいね!大金持ちちゃんじゃん!」ニヘ

上条「…」

さろーにゃ「?」

上条「…ハァー、あのな?”プロ”の殺し屋の依頼報酬金額が一件300万ってのはな、」

上条「むしろ大恥なんだ。お前、絶対他所で言うなよ?」

さろーにゃ「へ?」

上条「あー…まぁその辺りからだな…じゃあ教えてやる」



上条「実は俺のネームバリューがある程度あるからギリギリなんとか報酬額がこの位までになってるが、もしもお前が単独でこれらの依頼を受けたなら…」

上条「…まあ、相場からすると恐らく一件30万円ぐらいだな」

さろーにゃ「すっくなっ!?」

上条「ああ。むちゃくちゃ少ない。ところが…」

上条「”呼び名”がある奴。…要はプロとして名前が知られてる信頼と実力がある一人前の殺し屋の一件辺りの報酬額は」

上条「…ま、概算だしケースバイケースだが、」




上条「一件辺りの報酬額はゼロが7個つく」

さろーにゃ「」


さろーにゃ「え?えーっと、いち、じゅー…ひゃく、」

上条「…一千万クラスって事だ」

さろーにゃ「いっ、一千万?!一件が一千万!?」

上条「そーだ。素人とは文字通り『桁違い』なんだよ」

さろーにゃ「えー…なんでそこまでお金ちゃん払って…だって、私みたいなのなら30万で済むんでしょ?」

さろーにゃ「そこまでしてそんなに大金を払ってプロに頼まなくても…なんで?」

上条「『そこまでして』?『そこまでする事だから』だよ」

上条「依頼報酬金額が安い奴はな、例えば死体の後処理だとか、やった事の誤魔化し方だとか捕まらないための技術や知識、他業者とのコネが無かったり」

上条「しっかり殺せずにターゲットが生き延びちゃって依頼人まで報復に遭いやすかったり」

上条「…まぁ、単純に色々とハイリスク過ぎるんだよ」

さろーにゃ「へー…」




上条「バカに足りないのは、『自分が今とんでもなくリスキーな事してる』って自覚だ。」

上条「別に殺し屋とかだけの話じゃない」

上条「一般的な中小企業の何でもないような業務一つだって、細かく見て考えると『アレ?これ、誤魔化されてるけど実は結構ハイリスクじゃね?』って事は幾らでもある」

上条「営業マンが契約一つ取るのも、運送も、工場、警察機構だってどれも実はリスクがある」

上条「…自覚しろ。仕事ってのはそういうもんだ。危険や面倒を避けるために人や会社は金を払うんだから、金を手にしようと思ったらリスクを背負う事は当たり前なんだ」

さろーにゃ「ふーん…」

上条「…」

上条「いいか?わかっちゃいると思うが」


上条「『人を殺す』ってのは、世間一般の建前では絶対やっちゃいけない一番のタブーだ」

上条「何よりも罪深い。刑も重い。個人へのデメリットも半端ない。」







上条「…どんな理由があろうとも。”人殺し”ってのは重罪だ」




上条「強盗殺人の場合は…まあほぼ間違いなく無期懲役か死刑。」

上条「依頼人も殺し屋も自分が幸せになりたいからそいつを殺すのに、自分が不幸になったらバカだろ?」

さろーにゃ「…」コク

上条「『殺し屋をした場合』や『殺し屋に依頼した場合』で裁かれた判例もあるが」

上条「金銭等の報酬目的での殺人は裁判官の心証も兎角非常に悪い」

上条「例え未成年であったとしてもお前みたいに殺しまくってるようは奴には情状酌量もクソもない」

上条「依頼人も依頼人で殺人教唆…簡単に言うと犯罪を促した罪だが、それも本来の物よりずっと重くなるしそいつの社会的地位は木っ端微塵だ」

上条「…わかるか?仕事を失敗した時、そして、その後に依頼人と殺し屋に何が待ってるのか」

さろーにゃ「…」


上条「いいか?例えばもし仮にお前がミスったとして…お前の場合はどうなるか」

上条「普通は死刑か無期懲役。で、『運がめちゃくちゃ良くて』。何とか死刑を免れて最大限の量刑くらって、数十年後にムショから出てきた時」

上条「もう裏にも表にも自分の居場所はどこにもない。」

上条「裏社会ではミソがついた奴にまともなプロがやる仕事は回ってこないし、仮にあっても鉄砲玉みたいなモンばっかりだ」

上条「表では当然就職なんざまともに出来るわけねーし、バイトすら制限がつく」

上条「そんでまともに仕事ができないって事は、ある程度の金を得る手段もないって事だ」

上条「つまり、状況的にはさっきまでのお前に逆戻りなんだが…それにすら戻れないだろうな」

上条「何せ、数十年もムショに居ればもうそんな気力も体力も若さもない」

上条「しかもお前は外国国籍だから日本国籍の人間と結婚しない限りは生活保護も受けられない」

上条「つまりな…最終的に。失敗したお前の末路ってのはな、」

さろーにゃ「…」ゴクリ





上条「汚い格好で、年老いて、家も家族も金も無く。病気になっても治せずに…たった一人で路上で残飯漁りながら生きてくって事だ。」


上条「ーーーーー死ぬまで、ずーーーーっと…、な?」

さろーにゃ「」ゾッ






上条「お前、本当にそうなった時の自分を想像した事あるか?」

さろーにゃ「…」ブルブルブルブル

上条「だよな。けど、それがリアルにあり得てしまうんだよ」

上条「一回でも失敗したら依頼人の人生も180度変わっちまう。」

上条「実行犯のお前程じゃないにしろ、致命的なダメージを負う」

上条「…だから、依頼人は大金はたいてでも買うんだよ」

上条「”安心”を。」

上条「『この人なら確実に依頼を遂行して、誰にもバレないように捕まらないように殺してくれる』という”安心”。」

上条「その”安心”の度合い。それが殺し屋の報酬額なんだよ」

上条「依頼人や仲介業者が報酬額が低い殺し屋や素人に殺しを依頼するってのは様々なリスクが高いのを承知で雇うって事。」

上条「だから業界じゃあな、報酬額の高さがそのまま殺し屋のステータスになるんだ」

さろーにゃ「へー…」



上条「で?お前の報酬金額は幾らだったっけ?」ケケケ

さろーにゃ「うぐぅ!」



上条「でもさ、お前はとんでもなくラッキーだ。何せ俺っていうスーパーアイテムを手に入れた」

上条「現状と今までの危うさを痛みの教訓も無しにタダで教えてもらえた。」

上条「家と仕事と専属仲介業者を手に入れたし、今後の仕事でもよっぽどミスらない限りは俺が手を回すから捕まらない」

上条「報酬額も始めたばかりの駆け出しにしちゃ高い額」

上条「このチャンス、生かすも殺すもお前次第だ。」


上条「頑張ろうぜ」

さろーにゃ「…うん!」



・・・・。





~深夜~

上条「…」カタカタカタ

上条「?」

さろーにゃ「…」モジモジ

上条「どーした?明日は早くからお前の服とか買いに行くんだ。早く寝ろよ」

さろーにゃ「…」

さろーにゃ「…ねむれないの」

上条「明日が楽しみすぎてか?」ハハ

さろーにゃ「…」プルプル  
 
さろーにゃ「…ずーっと、寝れてないの。」


上条「?」



さろーにゃ「エカテリンブルクでの…私の故郷がなくなったあの時の、いまでも…怖くて」

さろーにゃ「ネカフェちゃんでも朝方になって数時間寝れるくらいで」

上条「はあ」

さろーにゃ「ちょっと、ちょっとだけでいいから!」

上条「…」

さろーにゃ「…その、一緒に…」チラッ

上条「…」

さろーにゃ「ネテクレタラウレシイナ-...///」ポソッ

上条「…」

上条「…」ハァ

上条「しょうがないな…」ヨイショッ

上条(今コイツとの関係にヒビ入れんのもマズイしな…)



上条(まぁ、コイツとも恐らく一年未満ぐらいの関係だろうしな。)



上条(何件か仕事をやらせてみて、上手くやれそうなら”呼び名”持ちの奴と争う『あの依頼』をやらせて…)

上条(そんで、最後に口封じにコイツを業者に処分してもらう。ま、コレもその依頼の依頼人の要求だからな)

上条(こーいう商売はトカゲの尻尾切りのがいい。…まぁ、もしコイツがこの先一年以上生き延びるとしたら)

上条(コイツが報復金額が億クラスの”プロ”になると確信するか…インデックスの復讐が済むか、)

上条(俺が死ぬか、俺がコイツをよっぽど気にいるか。)

上条(まぁ基本的にはどれもあり得ない。他の起こり得るリスクを考えてもコイツは間違いなく一年以内に死ぬだろうな)

上条(ま、それまでは精々ご機嫌取りしてやるか)






上条「…そういや、お前の名前聞いてなかったな」

さろーにゃ「え?私の情報は出回ってたんじゃ?」

上条「…本名、フルネームは出回ってなかったんだ。見た目と手口、出現場所ぐらいでな」

上条(本当は俺についてこさせるように言いくるめるための方便だったんだけどなアレ。『狙われてる』とか『情報が出回ってる』とか)

さろーにゃ「…サローニャ。」

さろーにゃ「サローニャ・A・イリヴィカ。」

上条「…そうか。じゃ、」




上条「おいで、サローニャ。腕枕してやるよ」ポフ

さろーにゃ「…うん///」タタッ

さろーにゃ「♪」ポスッ

上条「…」ポンポン

さろーにゃ「…」スリスリ

さろーにゃ「うにゅう…」

上条(また随分幸せそうな顔して)

さろーにゃ「おやすみ上条ちゃん」





さろーにゃ(ああ…)



さろーにゃ「あったかい…♪」モフ








ーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「どうしたの?サローニャ」

「はうっ!?」



おおっと。つい昔の事思い出してた

…懐かしいな。


さて、気を引き締めなきゃ。


そう。私は”プロ”だ。”呼び名”は綿(わた)。

真綿で絞め殺すように殺し、フワフワと捕らえられないようにと上条ちゃんがつけてくれた。


報酬金額は、億クラス。


主に殺すのが難しい非合法系の要人の暗殺と業界のやりすぎた人間、闇や暗部に関わりすぎた人間を始末する。


上条事務所唯一の、専属契約している殺し屋。


うむ。初心を忘れちゃダメダメちゃん。


でも今回はここまでなのよね。


「次、なんのゲームやろっか」

「そーだねーん」



…そんで、一つ疑問に思った事が。


「はー…今度中間テストなんだよなぁ」

「大変だよね」

「サローニャってどこの学校?」

「当ててみて?」

「えー?頭良さそうだし…霧ヶ丘とか?」

「残念ハズレ。でも私んとこももうすぐなんだよね」




ねぇ上条ちゃん。本当に殺すのはこの子で合ってるの?



「ですよね。でもさ、中間テストだの期末テストだの…本当にそんなのいると思う?」

「証明、としては必要だとおもうけど」

「なんの?」

「日本という国で、人間ちゃんとして生きていく上で」

「一番下のアンダーバー…本当にガチのミニマムな必要最低限の知恵があるかどうかの」

「…なんだかそれすっごくバカにされてる気分」

「そりゃそうだよ。なけりゃぶっちゃけバカにされちゃうもの」

「だってさ、本当に中学生のまま社会に出て戦っていかなきゃならなくなった時の事を考えてみなよ」

「周りは少なくとも高校、大学や大学院に行ってる人ばかりで、特殊なスキル持ちの人ばっか。」

「あーほら、スマホゲームちゃんとかで例えるとさ、」

「自分は完全に無課金なのに他ユーザーは廃課金しないと手に入らないSSR武器とか攻略知識とか強力なスキルといったアドバンテージ持ちなの」

「そんな中で課金無しで地道にレベル上げしても相当頑張らなければ勝てないし、レアアイテム掘りだので張り合おうとしても無駄でしょ?勝てるわけないもの」

「…今のうちに勉強しとこ。…多分モチベ保たないと思うけど」





だってさ、この子…どう見てもフッツーの子なんだよね。






さっきちょっと話した時も仕草だの業界の隠喩とかエージェントのコードネームの類いは出てこなかったし、闇とか暗部だとか裏稼業系の関係者とかの匂いもしなかったし。



本当にどこにでも居そうなただの中学生だ。



それを、『私が』殺す?

いやいやちょっと待ちましょーや。


先述の通り、私は権力者や要人やら裏稼業、闇に関わりすぎたヤツ、非合法な人達(たまにその家族ごとの皆殺しも含む)が専門。


上条ちゃんは基本的に『一番収入効率がいいから』とか『悪人なら殺してもインデックスは怒らないだろうから』ってんでそういう依頼しか受けない。

なのに一般ピーポーを?

専門外。畑違い。ほわーい?


いやまぁ…別に今までも一切こんな感じの依頼がなかったわけじゃないけど…

そんなのまだ私が100万クラスとかぐらいの時の話だし。



どう考えても億クラスの殺し屋ちゃんのやるような仕事じゃないんだよね。

後ろ盾も何も無い、たかがその辺の中学生殺すぐらいでもウチに頼むなら相場としてはどんだけ低くても…

まぁ、約一千万ぐらいかな?


腑に落ちない。


じゃあ実はこの子にはその辺の中学生じゃない側面が?

それなら何か凄いレア能力持ちだからか~とも思ったけど、メール添付の資料を見た限りは”風力使い”のレベル0ちゃん。

風力操作系能力ちゃんのカテゴリの中では下の下のランクの能力。

…まぁ、正直にはっきり言っちゃうと大して珍しくもない上に大した事も出来ない雑魚中の雑魚能力。

それでも出力があればまだマシだけどそれすらない。



つまり、レア能力の線はナシ。





じゃあ他に何か秀でたスキルがあるのか?と思いきやそーゆーのも特に無し。

強いて言うなら英語ちゃんを覚えるのがちょっとだけ早いぐらい。

でもそれだって日常生活レベルだし、スキルとしてはカウントされないぐらい。


じゃあ血縁者が悪党だとか?


うーむ。


うーむむむむむ。


謎。謎すぎ。


情報が足りないから考えることも判断も出来ないけど。



上条ちゃんは昔からそうだ。肝心な事はいつも言わない。


ーーーーーー
ーーーーーーーーー


『もしも都合よく誰かを動かしたいなら、そいつに余計なことを考える材料を与えちゃダメなんですよ』

『「私はあなたの味方です。あなたのためを想って言いますよ」と感じさせる話し方をして』

『動いて欲しい行動に必要な考えと行動、それから「もうこの件で生じるリスクについては全部考えたな」って思わせるんですよ』

『あとは、「これを手に入れれば現状打破できる」「希望」と「明るい未来」が待ってるって説明するだけです』

『そしたら客は、多少高くて要らなくても買っちゃうんですよ』


ーーーーーー
ーーーーーーーーー




…そういや前にそんなような事言ってたターゲットがいたっけ。


上条ちゃんも同じなんだろうか。


私を都合よく使えるだけの駒にするために。

……。


私は人形ちゃんじゃない。


…なんかワケもなくムカついてきた。


サローニャちゃんは都合がいい女じゃありませんから!


しょーがない。情報屋に依頼してこの件についての情報を…


あーでもでも。また上条ちゃんとの結婚資金貯金が減っちゃう。


イヤだなぁ…




……

もしお仕事ちゃんをするなら…二人きり→別れた後かな。その方がやり易い。

その時に相手が寝てたらなお良し。

食事して、お腹いっぱいにさせて帰宅させる。後は家へ理由つけて入って、それから花粉をぱふーっと。


うん、コレだね!


「ねぇサローニャ」

「ほぇ?にゃーに?」


「今日、私んちで泊まって勉強会とかしない?」



…へ?





「…えっ、と」

「ほら、あたしもサローニャも勉強しなきゃ。あたしはバカだから手を借りたいしさ?」

「あー、うん」

「あ、ゴメン何か用事があった?」

「いや…ないけどね」

「あたしの事嫌だった?」

「その聞き方はズルいよ。どう思っていても絶対『そんな事はない』って言わなきゃいけないじゃん」

「じゃあオッケー?」

「いいじゃんいいじゃん。あたし美味しい紅茶淹れるし、お菓子も買おうよ!」



お、おかし…!

友達と…お泊まり、勉強会…お茶…!






「あー、うん。オッケー」

「やった!」


ニコッ!!と擬音がつきそうな笑顔。

こんな事くらいでこんなに喜んでもらえるなら、


いやぁー憧れてたんだよねぇ。こーゆーの……

はうっ!?って!違う違う!ダメダメ!!今!仕事中!!

何ついつい流されてんだ私!!!

さっさと帰って報告と練り直ししなきゃ!

どーせ上条ちゃんもすぐ帰って……


……そういえば、上条ちゃんは今日デートなんだっけ。


…私に仕事押しつけて、業者に調査頼まずに私に直接こんな低ランクな仕事あてがって。

私以外のオンナと。



……むか。

むかむか!!むかむかぁー!!!





「…」

「どしたの、サローニャ」

「…電話しなきゃいけないとこがあるんだけど」

「え?うん。してこれば?」

「…私、今ちょーっと反抗期かも」

「反抗期」

「そ。」

『電話の声がうるさすぎてターゲットに感付かれたから電話かけられませんでした』って言い訳しよう。


「たまには仕事じゃなくて私のことで頭いっぱいになればいいんだよ」


ぷくーっと頬を膨らませる。


「あはっ!あははは!」

「なんだよぅ」

「ご、ごめ…っ、だってさ、」



「サローニャはよっぽどその人の事好きなんだって思ってさ」

「…そんなことないもん」



なんだか恥ずかしくて肯定できなかった。




「ぷくく。電話したら?」

「いいもん。しないもん。サローニャちゃんは都合のいい人形ちゃんなんかじゃないもん」


否定の意味も込めて、スマホの電源ボタンを長押しした。


「いこっ!今夜は思いっきり遊んでやる!」

「あははは!一応勉強会だよー?」


あーあ。仕事中にイレギュラーが起きたってのに。

ホウレンソウを怠るなんて”プロ”失格だ。


でも上条ちゃんが悪い。発端もそうだし、

私のことぞんざいにして構ってくれないし、ちゃんと教育してないのが悪い。

部下の失態は全部上司の責任だし!


フーンだ!













           上
           条










「…さってと。」



「えー…と。ヤバイ書類は処分した、生金はアタッシュケース。現行仕事の資料も入れた。拳銃も弾も持った、替えの服と財布、携帯」

「パソコンの中身は超マイクロUSBに移して携帯に。あとは…」

「サローニャの私物とかどうすっかな…」


チラッとあいつの部屋にかけられた洋服やらバッグ、化粧品…あとパンツ群を見る。

「…あんにゃろう。あんな布面積ワーオなのとかスケスケなのたくさん買いやがって」

恐らく俺に見せる気で買ったんだろうが。


「…オイ、クロッチオープンなんてどこで買った」

自然と苦虫を噛み潰したような顔になる。


個人の趣味に口は出したくない。

なんだけど…別に見たくなくてもそれを強制的に見せられる同居人としては出したくもなる。


十年前のインデックスとの同居時はそんな心配なかったんだけどなぁ。




(…つーか常日頃から引っ越す時に邪魔になるから私物を増やすなって言い聞かせて、)

あっ、そうか…俺の私物化してるこのソファーとかも…


「…チッ。今回のこの部屋と家具、結構気に入ってたのに」


諦めるしかない。

(この仕事やってて嫌な事の一つはコレクション趣味が持てないのと頻繁に住所と家具とクローゼットの中身が変わる事だな)


それにしてもサローニャからの定時連絡が来ない。


つーか電話を何度かけても繋がらない。

あんにゃろう…スマホの電源切ってやがる。


アイツどこで何やってんだ?まさか誰かに殺られたとか、襲われたか?攫われて拷問中とかか?


クソッ!オイまさかまた蜜蟻に金払わなきゃいけないってか?!

上条さんはこれでも貧乏なんだよ。

蜜蟻の奴、最近何かとつけて俺に軽い嫌がらせみたいな事してきやがるからイヤなんだよな…


「全く…もうすぐ”客”が来るってのに」


出来れば一緒に迎えたかった。どちらにせよ別れていくが、後で落ち合うのも楽になるからな。


ピピピ。ピピピピピピピピピピピピ。


携帯からアラームが鳴る。





「おっと。もう時間か」



「インデックス曰く、『不幸なとうまが時間通りに待ち合わせに来れるとは思えないんだよ』だ」


「早め早めに行動しないとな。不幸が起こる事前提で」


銀色のスタイリッシュなお気に入りアタッシュケースを引っ掴んで。

「よいしよっと」

事務所の窓を全開に開ける。


雨は上がっていた。珍しくラッキーだな。傘を持っていかなくて済む。


「忘れ物は…ないよな」



部屋をぐるぅり、と見回して確認。





窓の桟に足をかける。

下を覗けば遥か彼方にカターイかた~い地面が見える。


「逝くか」


断っておくが自殺するわけじゃない。


ちょっとマンションの11階から跳び降りるだけだ。



「よっこいせ」




窓から外へと身を踊らせる。







ゴンッ!!!



「ごがっ!?」


いったっ!!雨で濡れてたから滑って頭打った!



落ちる。


体に重力がかかって思うように動かなくなる。


物理法則に従って俺の体が遥か下の硬い地面へ向けて自由落下運動を始める。



ああ、仰向けで落ちたから空がよく見える。


居心地が悪い浮遊感。思わず顔をしかめる。


中々見る機会ってないよな。自殺者視点って。



奇妙な視点から見る貴重な風景を楽しむ。






直後、


俺の事務所があった階から轟音とともに爆炎が噴き出した。




「お”客”様一名御来店でーすってか」



「…派手にやりやがって」


あの炎の規模だと…こりゃ業務用フロア全部がやられたか。


…ステイルめ。


後でしっかり賠償請求してやる。





おっと、そろそろ到着かな。

































ドサ。










             ステ
             イル









まったく。




まさか最後の仕事の依頼人から追加依頼が来るとはね。

面倒ごとは増やしたく無いが…人生最後の仕事に手を抜くのもそれはイヤだ。


しかし依頼内容は『上条当麻の事務所を燃やしてくれ』とは。


恨みを買うからね。この仕事は。


悪く思うなよ?


一先ずアイツが借りてると思しき部屋の確認。


それから買った情報通りにアイツが不在である事を電機メーターの数値の変化量で確認した。


そしてその下の階でペタペタと防水防火防腐加工したルーンカードを貼る。


ああ…そういえばなんだかコレも懐かしい作業だね。


思えばアイツに初めて会ったあの日もこの作業をした。


あの時とは文字通り火力と、そしてターゲットが違うが。



今回はここまで。

ここまで書いて初めて気づいたけどコレ、ヴェスペリアでユーリじゃね?ユリ条さんじゃね?











           上
           条








会話の途中でじわりじわりと衣服に向かってやがった。

…あんま言う事聞く気がないならいっそ手足全体に満遍なく弾痕残してやろうかな


「最近は銃弾だって高いんだ。無駄遣いはしたくないんだよ」

「なら魔術を習ってみるのはどうだい?残弾関係なしに撃ちまくり攻撃しまくりの無尽蔵魔術だって存在してるよ」

「オートで右手が打ち消さなきゃ採用したかもな」


会話しながらも俺は銃の照準をステイルの足の付け根に固定し続けてる。

行動不能にするには一番効果的だからな


「さっきの話だが」

「ん」

「君こそ今回だけは諦めてくれないかな?」

「お前の都合は知らねぇよ」




「今回一回だけじゃないか。今までずっとガセだったんだろう?ならきっと今回もそうさ」

「だけど僕のチャンスは一回こっきり。チャンスの重さを客観的に比較衡量したら僕の方が優先されるべきじゃないかな」

「かもな」

「…」

「けど、悪いけどさ、俺はそんなに優しくないんだ。俺は俺の都合で、俺の欲望を叶えるためだけに行動するんだよ」

「なぁ…俺もこう見えて結構忙しいんだ」

「あと何秒お前に時間割いてやればいい?」

「いいか?ラストチャンスだ。 よく考えて 発言しろ」






「ステイル。今回お前が受けた最後の仕事を放棄して俺に協力してくれるよな?」

「断る」



「残念だな」







パスッ。





ばたん。






「ふー…」


ステイルの自宅(仮)から出て、これからやる事を整理する。


まずはサローニャの現状確認。

自宅兼事務所…つまりは拠点の確保。

標的の現状確認と調査。

それから依頼の完了までに邪魔な奴への妨害策と排除策を講じる。

後は業者と話して色んなもんの処理の話。


…クソッ今日はSS書けねぇな




スマホをいじってサローニャにかける。


『おかけになった電話は、電波の届かない所か、電源が…』

切る。

…まだ繋がらない?

いやちょっと待て。今までそんな事は一回も無かっただろ。

いつも4コール以内には必ず出てたし、この仕事を始めた時からずっと『何があっても絶対出ろ』って言いつけてあっただろ。

オイ、オイオイオイオイ。

まさか?いやまさかだとは思うけど、








……死んだか?




情報屋から標的被りの案件を請け負ったんだ、同業者にも『上条事務所もその依頼を受けた』って情報も出回っただろうからな

他の奴らが『潰しやすそうな奴から先に潰しとこう』とか思っても不思議じゃない。


「オイオイオイオイ…勘弁しろよ…?」


今、今ここでサローニャに死なれるのは非常に困る。


インデックス殺しの犯人情報の件についてもそうだが、今後しばらくの殺し屋稼業をどう回せってんだ。


しばらくフリーの殺し屋を雇う事になるが依頼金額はどう頑張っても億クラスにはいかなくなる。

専属契約じゃない奴は簡単に裏切るしなぁ…


そうなると収入がガッツリ減るのは勿論だし、体勢を早急に立て直さなきゃいけない時に金が無いのは厳しすぎる。


トゥルルル。

「はい、上条です」

『あ、”下の階”の者ですけど』


チッ、サローニャじゃないのか。



「ああ、さっきはどうも。ウチの二階下のアンタの部屋のベランダに緊急避難装置置かせてもらったお陰で色々と助かったよ」

『うちのベランダから半分外へ飛び出すように固定された学園都市製超衝撃吸収ベッドに落ちただけでしょうに』

「まあな。それで何の御用で?」

『ほんとにこれで僕は学校を卒業できた事になるのか?』

「ああ。”落第防止”《スチューデント・キーパー》にすら見限られた引きこもりのアンタでも俺なら救える」

「教師に”ちょっと不正をさせる”なんて簡単なんだ。特に『教師が持ってちゃいけない、人には言いづらい性癖』を持ってる奴とかなんてな」

『よかった。あとはこの間の名義を貸した事の報酬なんだけど』

「ああ、20万振り込んどく。また頼むぜ」

『もちろん。あんたのちょっとした頼みを引き受け続けるだけで僕は追い出された学生寮からいいマンションに住めて』

『働かなくてもそこそこの収入が貰える。こんないい取引はないよ』

「そうだな。今後ともヨロシク」

『あんたには感謝してる』

「俺もあんたには感謝してるよ。じゃあな」

ピッ。


…バカだな、アイツ。




仮に卒業した事にはなっても実際にその『卒業できる能力』がないなら意味なんてない。

というか延々と引きこもり続けるつもりの奴に学歴なんているのか?

使いもしない、活かしもしないなら意味なんてないだろうに。

それに俺とアイツとの取引は全部イリーガルなものだ。

バレたらソッコーで逮捕モノのも多い。

そういう”秘密を守る手段”ってのはそれなりに必要なモンが色々とあるんだが…持ってないよな?

どうなったって知らねーぞ?


オマケに名義。


『名義を貸す』ってのがどれだけ恐ろしい事か一ミリもわかってない。

とんでもないリスクを背負う事になりかねない事をまるで理解していない。

いやぁフツーどれだけのアホでもわかる事だと思うんだが。

なのにも関わらずそんなトンデモリスクの見返り、その取引の一回の対価は約10~20万ほど。

割りに合わなすぎる。

リスクを考えたらこんな取引なんてせずにそこらのコンビニでバイトして生きた方がまだマシだっての。

…ま、普通に生きる能力が無いから今ああなってるんだろうが。

名義屋に紹介されたヤツって大抵そんな奴ばっかだな。



ああはなりたくないもんだ。


それはともかくサローニャだ。



トゥルルル。トゥルルル。トゥルルル。トゥルルル。


トゥルルル。トゥルルル。トゥルルル。トゥルルル。トゥルルル。


幾度となくラブコールを繰り返す。

『おかけになった…ブチッを繰り返す。



あの野郎…未だに繋がらねぇって、ホントに殺られちまったのか?


…仕方ない。色々と確認するためにも蜜蟻から買うか。


ああクソ、また出費だ。





トゥルルル。トゥルルル。トゥルルル。トゥルルル。


トゥルルル。トゥルルル。トゥルルル。トゥルルル。トゥルルル。



蜜蟻…お前もかよ…



くそっ。不幸だ…!




ああクソ。

ちょっと落ち着こう。そこら辺のファミレスで本でも読むか。


『罪と罰』。いつも鞄に入れてるお気に入りなんだよな…って、あー…サローニャに貸したんだっけか。


”ミラーリング効果”だったっけ?親や好意を持つ人間の仕草や趣味なんかの真似をするってやつ。


えーっと…こっから一番近いファミレスは…っと。



「やめてください!」

「いやいや!別に何かするわけじゃないってぇ~」

「そうだよぉ?ちょーっとおクスリ打って気持ちよくしてあげるだけだからねぇ?」




ん?アイツら確か…スキルアウト上がりの弱小ヤク屋じゃん。




一回事業ミスって火消し作業の為に金借り過ぎて二人とも多重債務者になったって前に聞いた。

にしてもあいつらバカか?

ああいや失礼。バカか?じゃないな。



断言しよう。バカだ。明確に。



そういうのをやるならさ、天使の顔して近づかなきゃダメなんだ。


悪魔が人を騙す時は笑顔で近づいてくるもんだってのを知らないのか?


アホそうなターゲット見つけたら仲良くなって、ヤクをジュースに仕込むか「お菓子いる?」って仕込み入りの錠剤タイプのを食わしてスタート切らすんだよ。

そっから…まぁいいや。


首が回らない上にピンチで焦ってるからって雑な仕事すんのは首絞めるだけだと思うけど。




「…ッ!?」


…?なんだよ、お嬢さん。


『なんでこの人、私を助けようとしてくれないの?』

って顔してんな。


悪いけど、俺はもうそういうのはやらないんだ。



昔、そうやって知らない誰かを助けてたからインデックスは死んだ。



ホント悪いな。でもさ、それも食物連鎖ってヤツだぜ?








理不尽に命を奪われる、誰かに食い物にされる。利用される。



そんなの、地球が出来た時からのルールだろ。忘れてたのか?


人間に食い物にされ、搾取され、皮を剥がされて加工されて利用されて殺されていく動物さん達の事を思い出せよ。



お前も牛や鳥、豚や魚の死体を普段から食ってるだろ?



直接殺してなきゃオッケーなんて思ってないだろうな?


同じだよ。お前が命を消費してる事に変わりはない。















『誰でも日々、何かを”殺して”食って生きてる。』







弱いヤツから死ぬ。

運が悪かったヤツから死ぬ。

頭が悪いヤツから死ぬ。

一つの社会では生きる実力がないヤツから死ぬ。


死ぬだ殺されるだなんてただの日常だろ。


普段忘れがちなだけで。


おっと、「魚や動物と人間は違う」なんて言うなよ?


人間が定めた基準と常識なんかで語られたら魚だって憤慨するぜ?


人はいつか必ず死ぬ。死ぬ時は死ぬんだ。誰でもな。



生きてりゃ死ぬのは当たり前。



親も兄弟も友達も恋人も。


さほど驚く事でもない。そうだろ?


だのに人間はいつも死ぬ直前になると自分が死ぬ事を棚にあげる。



…ま、運が悪かったな。



ああ、もし死後の世界なんてもんがあったらインデックスによろしく言っといてくれ。



































『ダメだよ、とうま』

















…。


『助けてあげて。』


…知るかよ。


話しかけてくるなよインデックス。



『辛辣!?それはさすがに傷つくんだよ二重の意味で酷いかも!』

『助けたくならないの?ほら、あの子とうまが嫌いな非、合法的な事されちゃうんだよ?』



「…なんで人間が時々無性に誰かを助けたくなるか知ってるか。」

「普段良い事をしてない事への罪悪感と、後で自分が見捨てる罪悪感にかられるのがイヤなだけなんだぜ、アレ」



『だったら余計に助ければいいんじゃないかな』


『誰かの為にじゃなくて。「自分が後でイヤな思いをしたくないから」って』


『それに、私を殺した人への復讐と人助けしないのは関係ないと思うんだよ』



「…人を助けるのはトラウマなんだ。だから、もう、」






『だめ。そしたらまたとうまは後悔するんだよ』



「…うるさい。幻聴のクセに俺に意見するな。」



『幻聴?何を言ってるのかな』



「じゃあ、お前はなんだってんだ」

「死んだら口はきけない。インデックスはもう2度と俺と口をきいてくれない」

「インデックスのフリするお前はなんだ」




『とうまの”良心”ってヤツじゃないかな』




「…はは、笑えるな。散々誰かに人を殺させて来た悪党にそんなモンまだあったのか」



『でも、同時に散々世界を救ってきたヒーローでもあるんだよ』






「10年前、そのせいで自分が一番失いたくなかったモノを失ったのにか…?」



『人はそれをトラウマって言うのかも。でもトラウマがあったって人の本質はきっと変わらないよ』



「本質?そりゃ記憶を失う前の”上条当麻”の人助け思考も含まれんのか?」


「なら教えてやるが、俺や”上条当麻”は別に世間一般が思ってるようなヒーローみたいな人間じゃない」


「”俺”の場合、記憶をなくした”俺”がインデックスと会った時、自分がどういう人間だったかわからなくなった」


「だから、なぞっただけだったんだ。ステイルや周りから聞かされていた”上条当麻”を」


「演じただけだったんだ。記憶を失ってないフリを」


「『自分がどんな人間か』どう生きたいのか。」


「記憶や生き方の経験や知識がないから、それが全くわからなかったから、ひとまずのアイデンティティ確立のための指針として」


「やってく内にそうすれば自分がある程度は楽しく生きていけるって知ったしな」


「ああ…前の”上条当麻”の記録も見たが」


「”上条当麻”が人助けをしてきた心理的理由は、要は自己防衛と”存在意義の確立”のためだったって事だろ」


「幼い頃の不幸による迫害。強烈な心的外傷による強迫観念に近いものが根底にあったからだ」


「『異常な程不幸であっても良い事をし続ければ嫌われない』」


「『自分と他人が事件に巻き込まれても自分が解決すればその他人からも悪く思われない』」


「『本当に困った時に人は誰も助けてくれない』」


「けど、もうそんなのに縛られる必要はない」


「”上条当麻”は死んだし、俺は結局守れなかった」


「『たかが一人救えなかったぐらい』とか『他にも愛せる女性はいる』とか、割り切ることも薄情になる事もできない」





「…俺はもう誰も助けない」


『あっ、あの子捕まっちゃった』


「…」



『このまま放っておいたらどうなるか。闇社会で生きてきたとうまならわかるよね?』



…そりゃな。



『あとね、』


『色々と理屈こねてたけど』


『結局は「またインデックスを失った時みたいに何か悪い事が起きるの恐いから助けたくない」って事でしょ』



は?そんなことは、



『私、そんなとうまは嫌いかも』




「………………」








「………はぁ…」




「わかったよ…行けばいいんだろ、行けば。」



『うん!えらいえらい!』










「なんだあいつ?一人でブツブツ。」

「幻想の友達《イマジナリー・フレンド》って奴じゃないか?」

「知らね。」



「何にせよ、”見えない何か”と喋り始めたら心が本格的に壊れ始めた証拠だろ」











            サロ
            ーニ
             ャ






「へー?じゃあその上司の人とはもう4年半も?」

「うん!」


サクサク。お菓子ちゃん食べながら友達とお勉強ちゃん。


あー…なんだろ。今私すっごく幸せかも。



「サローニャ、さっきから凄い勢いでオレオ食べ過ぎじゃない?」

「美味しいんだもん」


ちょっと苦めのカフェオレちゃんに浸けて食べるのが実にハラショー。



「牛乳じゃなくて?」

「牛乳ちゃんだけじゃなくて。」



「あっ、そういえばさ、アイドルのミコミコいるじゃん?ほら”妹達”っていうグループの」

ああ、10年前の第3位だった人のクローンの?

よくアイドルなんて特にスキャンダルちゃんが恐い職に就いたよねぇ?

ぶっちゃけ避けなきゃヤバくない?

御自分の出自をお忘れじゃーありまーせんかー?

「可愛いよねーホントの七つ子なんでしょ?」

ああそういう設定なんだっけ。

七つ子…真実は2万つ子だし、ある意味全員同一人物なんだけど。

「そういえばサローニャちゃんは前に”妹達”と個人的に会ったことあるよ」

「えーウソウソ!ほんとに!?」

「ほんとほんと」


うん。私が”お仕事”しに行った時にその子達はちょーど枕営業させられそうになっててね。

言いませんけど。





ちなみにその時のターゲットは


立場利用して所属アイドルを変態盗撮してたプロデューサー、

枕営業率先してやらせようとしてたマネージャー、

枕営業先のセクハラパワハラやりまくり社長。


沢山の被害を受けたアイドル達とか社員がお金集めて上条事務所に依頼してきたんだよね。


『もう耐えられない。仇を討ってくれ』

って。


まぁなんか私が助けた形にはなったけど、たまたま殺しやすいタイミングがあの子達の番の時だったっていうか。




「どんなだった?!ねぇねぇやっぱ皆顔同じだった?」

「え?まぁねん」


んー。社長殺った時に同じ部屋に居ただけだったし?

皆顔くっしゃくしゃにして恐怖やらしなくて済んだ安堵やらで泣いてたからなぁ。

口止めは上条ちゃんに任せてたから顔なんてそこまで見てないってーか。


今回はここまで。今更ながらこのスレでは思いっきりダーティなのがやりたい。

保守保守。


「いやぁーでもいいよねぇアイドル。キラキラしてるし」

「そうだねー」


ドロドロもしてるけどね。売れなきゃただの可愛い子ってだけで終わっちゃうわけだし。


何でもそうだけどさ、人から認められなきゃお金や仕事は発生しないんだよ。

そんで悲しい事に世の中の大半は一定基準以上のそういう価値があるものにしか意味がない。


上条ちゃんの趣味もそうだよね。

結局は少人数を喜ばせることができるぐらい。

それはそれで価値がある事かもしれないけど

すぐ忘れられるぐらいの自己満足にしかならない。

自己肯定するための承認欲求と、くだらない自己顕示欲を満たすためだけに行われる自慰行為。



ちっぽけな人間にお似合いな、ちっぽけな救い。



どこかでそれをわかっていながらも『それでもいいから救いが欲しい』ってかなり重症な気がする。


それともどんな世界でもそんなものなのかな。


…上条ちゃん今何してんだろ。





…そろそろスマホちゃんの電源入れた方がいいかな。












           上
           条







「ぐぇっ…」

「がはっ、」


「弱っ。まぁ不意打ちされちゃあな。もし俺がお前らでもたぶんそうなったよ」

「て、テンメェ、上条事務所の?」

「ご名答。でも心配しなくていいぞ。これは仕事じゃないから」

「あっ、ちょっとお前に座るわ」

「がっ?!いだっ、テメ、」


座り心地悪いソファだ。


「ふー…あ、もう一人のお前。下手に動くなよ?俺のケツの下にいるコイツの下顎が吹き飛んじゃうからさ」


取り出した銃をケツの下に向け、そいつの腿に二発ほど撃ち込む。


「ぎっ、?!がぁああああ!!!!」




「ああ、あとそこのお嬢さん」

「ひ」

「えらいもん見ちまったよな。でも大丈夫大丈夫。あんたは帰っていいよ」

「…ぅ、」

「大丈夫大丈夫。ホントに何も心配しなくていいから」

「何も起きなかった事にすればいい。あー…あと、」

下の奴のケツポケットから財布を抜く。

「ほら、この金やるよ。3万ある」

「い、いりません!」

「いーっていーって。気にすんな。後で俺の財布からコイツに返すからさ。俺からのだよ」

「その代わりこの事全部黙っててね。いい話だろ?黙ってるだけで3万貰えるんだぜ?」

「いいいいいです!いいですいいです要らないです!!誰にも何も言いませんから!!」

「あっそう?じゃあ1つだけ。アンチスキルだのなんだのに喋るとかSNSだのネットだのに書き込むのはやめとけよ」

「…?」


「コレ、あんたの学生証。さっきあんたを助ける時にスッた」

「!?かえっ、」

「悪いがこれは返せない。俺は『絶対誰にも喋りません』は信じない事にしてんだ」

「まっ、用心棒代とでも思ってくれ。大丈夫大丈夫」

「この事を誰にも喋らなければあんたのところに”物騒な奴”は永遠に来ないからさ」

「…!」


はぁ。やっと居なくなってくれたか。


「なんで、…まさかあのガキはあんたの顧客か!?」

「いや?」

「なら、なん、で、」

「え?あー、ただの…あー…、」

「…?」

「ただの、んー…”ヒーローごっこ”、かな…」

「なんだそりゃ」


「ほら、たまに無性に良いことしたくなるだろ」

「アレってさ、『普段良い事してないからその言い訳』だとか」

「『良い事しなかった時の罪悪感から逃れるため』とか」

「あ、今思い出したけど『良い事したら褒めて貰えて承認欲求が満たされるから』とからしいぜ」

「善意だよ善意。善意もバラして細かく見てけばそんなもんだ」

「頼まれたんだよ。『あの子を助けてあげて』って」

「アレだよ。あんまりにも美少女な子の頼みだったから深く考えずについ助けただけなんだ。許してくれよ」

「ふざけてんのか?こっちは撃たれてんだぞ」

「大真面目だよ。それにな、昔インデックスってシスターは俺にこう言ったんだぜ」

「『許してあげるのは最初だけ』ってな」

「逆に言えば最初の過ちは許してもらえるべきって事だろ」

「お前やっぱふざけてるだろ」


さてどうしたもんかな。

サクッと殺せれば楽なんだけどな。


「要求はなんだよ。どうしたら見逃してくれるんだ」


おっ、もう一人の方が助け舟出してくれたな。

「俺に復讐を考えないなら何でもいいんだけど…『やめてね』『うんわかりました』なんてあり得ないだろ」


(やっぱ殺し屋か処分屋でも雇うべきかな)



『もう!とうまがやり過ぎたからでしょ!』




「…またお前かよ」


『まぁね!謝ってささっと逃げようよ!』


「いやだからさ、そんな事しても後で報復食らうだろって。上条さんはここでケリつけときたいんだよ」

「…?お前誰と会話してんだよ」

「そこにいる奴とだよ」

「は?」

『とうまとうま。私は他人には見えないっての忘れてない?』

「…そうだった」

『そうだよ』

「じゃあーー




ボグッ。






「ま、このように。人は『危険というのは段階を踏んで訪れる』と思い込んでるわけ。」




あ?なんだ?何が起きた?


何で俺は地べたに這いつくばってるんだ?



「ほら、どこぞで見た事ない?『安全は当たり前じゃない』、『世界は危険だらけが当たり前で、それが限りなく薄まってる”異常な状況”が”安全”なんだ』ーってさ」



誰だ?この女

なんの話を


「ほら、さっさとコイツ連れてって」


 フロイライン
「”令嬢”の拷問用ビルに」



「他の奴はどうします?」

「何もしなくていいわ」


フロイライン
”令嬢”?…ああ、確か少し前にその会社と利権でモメたデカイ業者が何社か潰されて行方不明者を山ほど出したな。

名前忘れたけどドラ息子を猫可愛がりしてるワンマン社長がやってるとか

かなり頭イかれた違法会社だってな。

”よく効く”ビタミン剤とか”学園都市製”兵器販売、”ちょっと命の保証がない”派遣労働斡旋とかやってるのは知ってる。

噂じゃ人間版の牧場みたいなの作ってて人畜産業やってるとか…

軟禁した女に次々子供産ませて臓器移植用に輸出販売してるんだっけ?


オイオイ…なんでそんな奴等が俺を?そんな大物怒らすような仕事はしてねぇぞ?


くそっ、このままじゃヤバイ!!連行されれば間違いなく死ぬ!




死ぬ気で足掻かなきゃまずい!!


「ちょっと!暴れさせないで!」


ああ、俺だって散々他の命を食って生きてきた。


次が俺の番になっただけなのかもしれない。


でも、死ぬとわかってて足掻かないのは自殺と同じだよな?


「いだっ!?コイツ拘束具を?!」

「!?まだ銃を隠し持って、がぁ!?」



俺は自殺する奴ってのが大嫌いなんだ。


人間だけだぜ、逃げるように死ぬのは。偉そうじゃねぇか。


どんなに酷い環境に置かれたって、動物は自分からは死のうとしねぇよ。


自分たちが生き残るために、他の動物がどれだけ犠牲になったか知ってるからだ。


今まで食い殺して、踏み潰して、利用してきた命の犠牲の上で“自分“の命が成立してる以上、必死に生きなきゃ今まで死んでったそいつらに『申し訳ない』ってなるだろ。



「何逃してんのよ!バカなの!?」




走る。走る走る走る走る走る。





考えろ。考えろ考えろ考えろ。


さっきの嬢ちゃんみたいに頭を使わないのも自殺と同じだ。


生き残りたきゃ頭を使え。


さっきの嬢ちゃん襲ってたあの二人が”令嬢”の傘下だって事はないはずだ。


”令嬢”みたいな大手企業は金を稼ぐ時にあんな雑な仕事はまずさせない。


仮にそうだとしても末端も末端。そんでそんな末端ごときの悶着に”令嬢”は一々動きはしない。



別件だな。…まさか、あの嬢ちゃんが何か関係があったか?

いやだったらそれこそ俺だけじゃなくあの襲ってた二人も連れてかれるはずだろ

でもそれはしなかった…完全放置だったもんな

拷問して聞き出したかった事…

…蜜蟻からの依頼の被り案件関連か?

そうだよな、それ以外に心当たりはない。


『手を引け』…か?それとも。







…いや、それはダメだ。

せっかくのインデックス殺しの犯人発見のチャンスだし、『上条事務所』としても一度引き受けた依頼を完遂出来なかったら今後の営業にも大きく響く!


だとすれば、今やるべき事は俺があいつらに捕まる前にサローニャに被り案件の標的をとにかく殺させる事!


もう少し準備だの業者手配だのをしておきたかったけど…


あーもう!!あいついつまで同じ仕事やってんだよ!!それでもプロか!?

何年この仕事やってんだよ!億クラスが聞いて呆れるわ!


お前なら俺がわざとあんな風に電話した意味ぐらい汲み取れるはずだろ!


ああクソッ!せめてサローニャに電話つながれば!



ああ全く人助けなんてするんじゃなかった!!これだから!



『ねぇとうま』



ああ!?こんな時に出てくんなよ!上条さんは今忙しいんだよインデックスさんや!


『ケータイ鳴ってるよ?』


え?



取り出した画面には。








着信:サローニャ




「もしもし!!!」


ちょっと乱暴に出てやる。

走ってるしイラついてるのもちょっとある。

本当はやらかした部下がコンタクト取ってきた時にこういう感じで対応するのは良くないんだが。



『…』

「…今は別に大丈夫だ。捕まって電話させてもらってるとかじゃない」

『…その、』


まだるっこいな



『お、怒ってる?』



おずおずとした消え入りそうな声が電話口から聞こえる。



…こういう時、まずは『申し訳ありません』が先だって教えとくべきだな。


『その、私ね、スマホちゃんの電源切っててね、何件も何件も着信あったって知らなく、てね?』

『上条ちゃん、なんかあった?ねぇ、ぶじ?電話出なくてごめんね?だいじょうぶ?』


…半泣きの声を聞いてたら怒る気も失せた。


「…なんで出なかった?」

『…その、ターゲットに勘付かれたから』

「トイレでもなんでもちょっと離れて電話するくらい出来たよな?それか最悪メールでもLINEでも良かっただろ」




『…怒らない?』

「理由による」


『かまってほしくて』

「…」

予想していた以上に幼稚な答えがきた。


『だって上条ちゃん情報屋ちゃんとデートしに行っちゃうし』

『業者雇わずに私に調査させるし』

『たまには私の事で頭いっぱいになって欲しかったの』


「…」


どうしよう殺意しかわかないぞ?


…この発言をしたのがサローニャで良かったな。


もしこれがどこぞの知らない奴なら「いっぺん死んでこいクソボケ」とでも言って殴ってたかも。



「…何で俺がお前と今まで組んで来たかわかるか?」

『…?』

「何で俺がお前の要望は出来る限り聞いてきたかわかるか?」

『私の事ちょっとは好きでいてくれてるから?』

「何で俺がお前に高い金を払って雇ってると思う?」

『…私が上条ちゃんにとって都合がいい人形ちゃんだから?』

「違う。」




「お前が”プロ”だからだ」




今回はここまで。

次回、上条さん指チョンパの巻










            サロ
            ーニ
             ャ









「なに!?なんなの!!?なんなわけ!!?」


思わず叫ぶ。

「ねぇ!!!!だって、もう、ちょっ、ほんとっ…!もう!!!」


想いに唇と言葉が付いてこれないほどの激情。


「なんだってぇえのさぁああ!!!」


感情に任せてトイレの壁を蹴りつける。


おっと、彼女の家のトイレだった。ダメダメヤバイヤバイ。


…怒りを鎮め…あ、ダメ。無理!!!


(あーもう!!信じらんない!!!私の気持ちなんてよく知ってるはずでしょ!!)


どーしてそーいう事言うかな!!?

意味わかんない!!!上条ちゃんのバーカ!!!

何年一緒に居たと思ってんの?どれだけ私が好き好きーってしてきたと思うの!?

ちょっとくらい情があったっていいんじゃないの!?


「もぉおおおお!!!」




あーもう!あったまきた!!もう辞める!殺し屋なんて辞めてやる!!

サローニャちゃんはフツーの女の子に戻ります!!


元々上条ちゃんと一緒に居たいから、上条ちゃんに好きになって欲しいから、上条ちゃんと結婚したいから殺し屋やってただけだし!

上条ちゃんが私のこと好きになってくれないならやる意味無いし!!


この依頼も途中でぶん投げてやる!!責任だとか迷惑とかプロ意識なんてもう知らない!!


だって私はもう殺し屋じゃなーーーーーー




『それで?辞めたあなたは”誰”になるの?』


…へ?



『あなたは上条ちゃんに拾われて”億クラスの殺し屋”になった』

『けど、そうなる前は?』

…は?別に、私は私でしょ。サローニャ・A・イリヴィカだっての。

『その名を、その経歴を、”あなた”を知ってる人間はもういなくなるんだよ?』

『もうきっと誰もあなたの名前を呼ばない。あなたという存在を知る人はあなたを取り巻く世界から消える。』


…この扉の向こうに私の元ターゲットの友達がいるじゃん。彼女が私の名前を呼んでくれるよ

なんなら知らない誰かにでも自分のことを話せば、


『話せるの?そして、受け入れもらえると思ってるの?殺人鬼を。』


…ねぇ。あんた、誰?

さっきから目の前にいる”顔のない”あんたは。




『私よ、私。あなたが殺し屋として初めて依頼を受けて殺した標的の”    ”よ。』




ふーん…何?化けてでてきたって?

悪いけどおぼえてない。今までどれだけ殺ってきたと思ってんの?



『そう。だからあなたには私の顔が見えない。』

『ああ…そうね、殺し屋モノの小説とか読んだ事ない?』

『たくさん殺してきた殺し屋の前に今まで殺してきた人間が順番に現れるってやつ』


はん。じゃあなんで今まで現れなかったワケ?


つまりはそういう抽象的なオカルトなんかじゃなくって、誰かから依頼されたそういう魔術師やそういう能力者の精神攻撃なんじゃないの。



『なんで今まで現れなかったか?』

『殺し屋小説でもそうだけど…”視える”ようになるキッカケは』






『罪悪感を思い出す事なんだって。』





…罪悪感?



『あなた、殺す事をなんとも思わなかったんでしょ?』


『「ちょっと悪いな」ぐらいにしか。』


『でも。今回のターゲットと関わってしまった』


『久しぶりの新しい人間関係。そして友情を感じたから』

『だから麻痺してた心も感じたんでしょ』

『「イヤだ、殺したくない」って』

「ち、ちがうもん!!私がそんなことを思うわけないじゃん!!」

「だって、そうなったら殺し屋は終わりじゃん!殺し屋の私がそんな、」


『だからそうやって必死にその気持ちを隠そうとしたんでしょ』

『殺し屋を辞めようと思ったのも。本当は殺し屋を辞めれば彼女を殺さなくて済むからじゃない?』


そ、そんな事ない!


『上条当麻から捨てられるような行動をしたのも。嫉妬は建前的な理由で。本当は辞める理由付けのためだったんじゃない?』


ちがう!ちがうちがう!ちがうもん!


『本当に?』



「…そうかも。」


「…うう。その通り…かも。私は、私は、あの子を殺したくない……できれば。」


『よね。まぁ仮にあなたが殺さなくても彼女は必ず死ぬんだけど』


「な、なんで?!」


『ハァ?あなた本当に億クラスの殺し屋?忘れたの?彼女は”殺しの依頼が出てる人間”なのよ?』

『あなたが殺さなかったら別の殺し屋にお鉢が回るだけでしょ』

『そしてあなたは独りになる。』


だったら、私が守るもん!命を賭けて!


『それでも永遠に守れるわけじゃないし、精々死ぬのがちょっと延びて二人とも死ぬのがオチでしょ』


それでも…私は、


『例え彼女に拒絶されても?』

「…」

『彼女は一般人でしょ?裏稼業に免疫も理解も無さそうな彼女にバレたらどうなるかな』


…受け入れてくれるかもしれないじゃん


『受け入れてくれなかったら?』


…適当に、生きるよ


『そう?だけどあなたは色んな理由から表の世界では生きられないでしょう?』

『そして裏の世界もね。一度仕事を放り出した殺し屋なんか誰も信用しない』

『それに。裏切ったあなたを上条ちゃんは許すかな?』

『あなたを殺すようにどこかに依頼だすんじゃないかな』


…そんな、こと、



『ねぇ…ところでさ、あなたは上条当麻と会う前の自分を思い出せる?』

…そりゃあ、

『あなたが、今のあなたになる前のあなたを』


今の私になる前の私?


『そ。殺し屋になる前の。』

『昔、初めて上条ちゃんと会った時にも言われたでしょ』

『お前はただの人殺しだって』


『誰からも名前を呼ばれない。誰からも必要とされない。』

『復讐とは名ばかりの八つ当たりだけで生きてる』



『クソみたいな人間。』

『”プロ”と”道楽”は全く違う。』


『それに…思い出したら?依頼をしくじった殺し屋の末路って』


 ・・・・・・・・
『どうなるんだっけ?』?




?上条『いいか?例えばもし仮にお前がミスったとして…お前の場合はどうなるか』??

上条『普通は死刑か無期懲役。で、『運がめちゃくちゃ良くて』。何とか死刑を免れて最大限の量刑くらって、数十年後にムショから出てきた時』

??上条『もう裏にも表にも自分の居場所はどこにもない。」』??

上条『裏社会ではミソがついた奴にまともなプロがやる仕事は回ってこないし、仮にあっても鉄砲玉みたいなモンばっかりだ』??

上条『表では当然就職なんざまともに出来るわけねーし、バイトすら制限がつく』

??上条『そんでまともに仕事ができないって事は、ある程度の金を得る手段もないって事だ』

??上条『つまり、状況的にはさっきまでのお前に逆戻りなんだが…それにすら戻れないだろうな』??

上条『何せ、数十年もムショに居ればもうそんな気力も体力も若さもない』??

上条『しかもお前は外国国籍だから日本国籍の人間と結婚しない限りは生活保護も受けられない』??

上条『つまりな…最終的に。失敗したお前の末路ってのはな、』????

上条『汚い格好で、年老いて、家も家族も金も無く。病気になっても治せずに…』




上条『たった一人で路上で残飯漁りながら生きてくって事だ。』



???上条「ーーーーー死ぬまで、ずーーーーっと…、な?」 ?





「あ、ああ…」

ぷすっ。

ざざ、ざざざざざざ。


小さな。

針で刺されたような穴が私の胸に開く。

そこから砂が流れ出し始める。


例えるなら、ダムの決壊の前兆のような。


そんな、感覚。


”私”の崩壊。”自分というアイデンティティ”の崩壊。


あれ?


あれ?


思い出せ、ない。


上条ちゃんに会う前の自分が思い出せない。



…あ、いや、思い出した。

そう。そうだ。私は、



何も無い、何者でもない、誰からも名前を呼ばれない…ただの殺人鬼。


    ・・
それに、戻る?


『そう。もし殺し屋でなくなったら。レゾンデートルがなくなったら、』



『上条当麻に捨てられたら。あなたは』




『あなたは、誰からも必要とされない』

『誰からも愛されない、誰からも名前を呼ばれない』



『誰の、なんの役にも立たない”何か”になる』




自然と涙がこぼれた。





…イヤ。

イヤイヤ。


………嫌。


やだ。やだやだやだやだ!!!


捨てられたくない!!



捨てられたら好きな人のそばにも居られない!自分の存在意義もなくなっちゃう!!


『だったらどうするの?』


…やらなきゃ。


『そうよね。やらなきゃ。』


『キチンと覚悟を持って。「私が気持ち良く生きるためだけに、あなたの命をいただきます」って殺さなきゃね?』


や、やだ…それも、やだ…


『あら?なら、もっといい方法があるわよ?』


……へ…?



『あなたが、死ねばいい。』

は…?意味わかんない。なんで私が死ななきゃいけないの


『億クラスの殺し屋が返り討ちになった、としたらどう?』

『ほら、そうしたら下手に手出しはできなくなる』

『だってそうでしょ?あんな平凡なプロフィールの彼女が億クラスを倒すなんてあり得ないでしょ?』

『「何かあるからか取り合えず保留」ってなるんじゃない?』


「…そう、かも…?」


『それじゃ、ほら。』


『ポケットの中にある毒。使おう?』

「…」

『楽になれるよ?』

「…」


指が、ポケットへ伸びる。










『愛してくれてなかった上条当麻だって、あなたが死んだら悼むくらいはしてくれるでしょうし』


「そう…だよ…ね?」


『そうよ。』




『ーーーーー人は、誰でも死にたがっているーー』


『死ねば全て認識できなくなる。つまり後悔もしない。無責任に問題から永久に逃げられる』


『人は誰でも死にたがっているーーーーー』


『清算しましょう?』


『ーーー死んだらもう、煩わしい事なんて何も考えなくて済むーーーーー』


『清算。清算清算清算清算清算清算』


『人は


『誰でも


『死にたが

っているーーーーー』


「…」












トゥルルルル。トゥルルルル。










電話…?

『ほっとこう。ほら、さあ』




ーーーーー
ーーーーーーー

ーーーーーーーーーーー




さろーにゃ『わぁ!けーたいだ!けーたい!しかもお揃い!』

上条『いいか、サローニャ。』

さろーにゃ『?』



上条『電話は、必ず出ろよ。』




ーーーーーーーーーー
ーーーーーー

ーー




突然部屋が明るくなったような錯覚を覚える。


握りしめている携帯からコール音が鳴り続けていた。


…電話に出ようと思えない。


目の前にいた名前も顔も忘れた人間はいなくなっていた。


ゴシゴシ。


いつの間にかびっしょりとかいた額の冷や汗を拭う。


出よう。もしかしたら上条ちゃんかもしれないし。



「…もしもし。」


『こんにちは。私よ』


「なんだ…情報屋ちゃんか」



『ごめんなさいね。彼と思った?』

「…何のごよーですか」

『いい情報をあげようと思って。』

「…おいくら?」

『無料よ。彼に関する事だから』

「…内容は?」

『まず一つ目。彼が捕まったわ』

「誰に」

『”令嬢”って御存知?』

「フロイライン?業界の人間が知らないワケないでしょあんなおっきい犯罪会社ちゃんをさ」

『その会社の所有する拷問用ビルに拉致されたわ』

「は!?なんで?!」



『それはまだ調査中。けど早くしないとマズイわあ』

「そのビルどこ!?」

『今から所在地のメール送るわあ。今彼を救えるのはあなただけだから急いでね』

「うん!ありがと!」


『ああそれと…ごめんなさいねえ。コレは私のミスなんだけど』

「…?」


嫌な予感。



『あなたに依頼した情報の中でとんでもない間違いがあったわ。巧妙に隠されてた情報があったの』


(はっ、『巧妙に隠されてた』?違うよね?)


便座ちゃんをコツコツ指で叩いてイラつきをごまかす。


(だってそれ、あなたの能力からしてもだけどあなた程の腕利きの情報屋なら売る前に気づいてるはずでしょ。)


(絶対故意だよね。その間違いに気づいていたか、あるいはあなたが偽造したか…だよね?)




『ターゲットはただの一般人の筈なのに、何故か億クラスの上条事務所に依頼された案件』

『たぶんあなたも訝しんだはずよね』

「ええ、まぁ」




『ごめんなさいね?彼女、本当は”令嬢”の専属殺し屋だったみたい』



…は?




『あなたと同じ、億クラスのね。』


え?


ちょっと待ってちょっと待って?


え?それってつまり、私と同じくらいか、あるいはそれ以上の実力の殺し屋で。


私に気づかせないぐらいの演技と殺しの技量を持っていて、


彼女の契約主は今まさに上条ちゃんを捕まえて拷問しようとしてる”令嬢”で。



とするなら。


…もしかしたら、最初にあのカフェで出会った時から彼女は私の正体に気づいていてたんじゃ?


なら、当然私の命か身柄の拘束を狙ってる…よね?


黙って殺されるはずがないし、上条ちゃんを捕らえたならその手駒を野放しにする理由もないし。



じゃあこの家に引き込んだのは…



殺し易いから?


イコール。




ひょっとして…私、今、殺し屋の”殺しの作業現場”にいるって事?


























キィ......



背後のトイレのドアが微かに軋む音がした。


次いでトイレ内の温度よりも寒い風が吹き込むのを感じる。



あ、やっば。ドア開けっぱだった?


……ん?


いやいや待て待て。待ちましょーや。



…あれ?私、ちゃんと閉めたよね?鍵かけて。



『彼女のコードネームは』



電話から聞こえる情報屋の声が唯一の救いに感じる。






その声から勇気をもらって、


おそるおそる、ギギギ…と頑張って錆びついた首を動かす。



回しきれない首の分、横目で背後へと視線を回す。




最悪じゃねぇか!!!蜜蟻の野郎ぉおお!!!

どういうつもりだ!!!

あのクソアマ、俺を嵌めやがった!!!


最初の依頼で暈しと嘘を混ぜて、”令嬢”にはわざと情報を時間差で送ってこの状況を作りあげやがった!!

仮にここで俺が「あいつに嵌められた」と言った所で、

青髪「じゃあ確認してみるか」

蜜蟻「なにそれ知らない。彼が嘘ついてるわ助かりたい一心で嘘ついてるのよ」

とでもなったら一貫の終わりだ!!


こんな、こんなの言い逃れ出来ない!!


クソ!クソクソ!!

こうなったらなんとか青髪の情に訴えかけて落とし所を決めて許してもらうしかない!!

情けない…でも、


こんな所で死ねるか!!






「悪かった青髪ピアス!事情があったんだ!けどこの埋め合わせと落とし前は必ずつける!」

「今度の大仕事の欠けた殺し屋の仕事分はウチがタダでやる!経費も全部ウチが持つ!」

「だから…俺と…”綿”の命は助けてくれ」

「フーッ…」

「頼む…!」

「…堕ちたもんやね、カミやんも」

「昔のカミやんはそんな命乞いする小物やなかったのに」

「…」

「なんや、つまらん男になったね」



「なあカミやん」

「『人生で最も贅沢な娯楽は、誰かを許す事だ』って知っとる?」

「…ノーバディ・グッドマンか」

「あ、知ってた?」

「アメリカで何人も何人も殺害した凶悪な殺人鬼が死刑判決くらう時に言った言葉だろ」

「せやで」

「そんで、思わへん?」

「何を」

「『「だから俺を許してくれ」って?そいつだけは許しちゃダメだよ』って」

「…まぁ、な」

「ボクがね、カミやんに対して思うのも同じなんや」



「とりあえずの”落とし前”。まずはつけよか」







机に手を置くくらいの気安さで。



俺の左手の上に設置されていた包丁が、下まで落ちきった。





「ぐぅ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ォ゛ア゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッッ!!!!!」








「青髪ピアス…!お前、こそ、そんな悪党じゃかったはずだろ…!」

「…カミやん。カミやんは知らんかったかも知れへんけど」

「ボクな、昔カミやんとつるんどった時からこーいう仕事しとったんやで」

「は…?」

「『ボクは善人です』なんて言うた覚えないよ?」

「まーほら、ボクも学園都市の人間やったって事やね」


「…ーーーー


「あー意識失った」

「…まだショック死しとらんよね?」

「ええ。していません。ただ気絶しーーーーー


ーーーーーー

ーーー


ーーーーーーーーーーー





扉。



この世には開けてはいけない扉ってのがある。


例えば、自分んちの玄関の扉とか。


まぁそんな事言ったら毎日家に帰れないんだけどさ。



でもさ、”中でとんでもない事が起きてる自分んちの玄関の扉”だったら別だろ?



その日はさ、もう冬だし寒かったからインデックスとも「今日は鍋にでもしようか」って話してて


「おにくおにくーっ!」とか、「お前なぁ、上条さんちのエンゲル係数はやばいんだよ!」だの


「スフィンクスにだってたまには御馳走を食べさせてあげたいんだよ!」とか「お前それ自分が食べたいだけだろーっ!?」って


…ほんとになんでもない日だったんだ。


何か突然悪い事が起きるとか、自分の人生の転換期がいきなり来るとか


そんな宝クジで一等を俺が当てるなんてあり得ない事が起きるような前兆なんて何もなかったんだ。



だから、開けちゃったんだ。

油断してたんだ。

いつまでも平和でいられるとか勘違いしてたんだ。

ああ、ひょっとしたら「そうだよな、たまには奮発して肉とか食わせてやろう」ってほんの少しだけ豪華にしたのがいけなかったのかも。

いつもと違う事したからバタフライ効果が起きたとか、似合わない事したから明日は雨が降るとか

何かそういう大きな力が働いたのかも。



ひょっとしたら、二週間前にインデックスに告白して



「これから一生お前の胃袋と心をいっぱいにするから、俺と」

「ちょっと胃袋ってなんなの!?」



みたいなやり取りして、


「俺達はお互いに出会ったあの日から半年以上の思い出話なんてできないけど」

「これからはたくさん作ろうな。誰かに話せる思い出話を」

「うん!十年後も二十年後…ううん、ずっとずーっと先の」

「おじいちゃんとおばあちゃんになった時に誰かに『もういいよ』って言われるくらいにね!」


未来のことを話して、


…同居から晴れて同棲って名前に関係が変わったのがいけなかったのかも。



ほら、いい事の後には悪い事が起きてバランスが取れるようになってるって言うだろ。


その数日後にお揃いの…安いけどさ、指輪買ったんだ。

「まだ学生だし、将来どうかるかわかんないけど…お揃いのペアリングみたいなのを」

「いいの?嬉しいんだよ!とうま!」

「でもね…私、ペアリングじゃなくて、婚約指輪が欲しいかも…///」

「し、しょーがないな…///」

「あーあ。もっと早く言えばよかった」

「俺が一番守りたかったのは、俺が一番この世で大事に思ってるのは最初から最後までお前だったし」



「俺がずっと一緒に居たかったのは」

「とうま。ありがとう…私も。私も同じなんだよ」



”俺”が一番最初に出会った人で、一番好きで、一緒にいると一番落ち着いて、一番良く知っていて、居なくなったら一番困る。


想いが繋がった後は今までで一番幸せで。


手を繋いでるだけでも、抱きしめあうのも…


…だからか?


それか上条さんは右手が神様の加護を打ち消し続けて不幸だから、一生分の幸運を使い切ったとか。




…………………。


…知らなかったんだ。その日だけはスーパーからの帰り道で路地裏に連れ込まれた女の子助けたりとかしちゃいけなかったなんて。



知らなかったんだ。その日、自分ちのドアを開けちゃいけなかったって。



知らなかったんだ。本当はその日はどこにも行っちゃいけなかったんだって。


知らなかったんだ。



その日からもうインデックスと一生会えなくなるなんて。




ガチャ。バタン。



      「ただいまー」

               「インデックス!喜べ!今日はお肉様がある鍋だぞ!」



「そんなには無いけどな!スフィンクスの分も食ったりすんなよー…」

           「…?」


  「…インデックス?」



                  (…なんだよ、寝てんのか?)

(まぁそれなら静かに)




      ガチャ。





            「  」







一生モツ鍋とか、何かそういう料理は二度と食えないだろうなって思ったよ。

おかしな感想だろ?

精神崩壊を防ぐために脳が現実逃避して、ズレたバカな考えで思考停止したのかも。

あっ人間一人分の血液って大体はその人の体重の8%なんだってさ。

8%って聞くとそんなにたくさんは無いように聞こえるけど、


それが全部部屋中に爆散して飛び散ったらそりゃあ壁とか床はすごい事になるもんだ。


なんだろうな。人間の身体の中に小規模の爆弾が入っていてさ、それが爆発したとしたらこんな赤い肉の花になるのかもな。


不思議な事に下半身のパーツは

            割と大きめに残って

                  いて


頭         の破片  が


                 あれ?おいこんなとこにスフィンクスの足








その後暫くは記憶がない。


貧血起こして倒れて、それから、



…いつもの病院で。


「起きたかい」

「せんせい」

「こわいゆめをみました」

「ゆめ?」


「ハイ。ゆめです」

「帰ったら、俺んちが俺んちじゃないんです」

「俺んちだったら、同居人がすぐにでてきて」

「あと、ネコも。ねこを抱えて」




「ねぇせんせい」「なんだい」

「おれかえらないと。」「……」

「おれ、インデックスとけっこんするんです。「だから

「はやくかえってやらないと。今日は鍋なんですよ」

「あ、せんせいも来ますか。具材持って来てくださいよ」

「…」


チューシャを打たれて。


ーーーーーーーーーーーー

ーーーーー


しばらくして土御門が来た。


「…落ち着いたか」

「…おちつかねぇよ」

「オレもカミやんをしばらくソッとしといてやりたかったんだが」

「なんだよ。笑いに来たのか」

「は?なんでそうなる」

「おかしいんだろ。面白いんだろ。ほら、嫉妬してんだろ?!俺とインデックスはお似合いだからな!!!」

「俺がインデックスとちょっと会えなくなったのが可笑しいんだろ!!!笑いに来たんだろ!!!」

「そんなワケないだろ。落ち着け。オレは味方だ」

「ったらよぉ…!」

「だったら!!!嘘だって!!!言ってくれよ!!!!」

「エイプリルフールでーすとか!!!幻覚でしたーー!!!とか!!!!どっかの性悪な魔術師の魔術だとか!!」


「意味わかんねぇんだよ!!!サッパリだ!!!!」




「なぁ土御門!!!教えろよ!!」

「アレか?スーパーからの帰り道で俺がさっさと帰らずに路地裏に連れ込まれた女の子助けてたからか!?」

「…カミや」「助けなきゃ良かった!!!!!」

「そうだよ!!!あんなクソみたいな女の子なんか助けなきゃ良かったんだ!!!」

「つーかおかしいだろ!!!どういう事だよ!!!」

「俺、今まで散々世界救ってきたよな!!!?」

「俺!!散々地獄へ落ちるヤツへ救いの手を差し伸べてきたよな!!!?」

「俺!!!悪い事なんて一回もやってない!!!!!」

「なのに!!!なんで!!!俺の一番大事なモンはアッサリ奪われてんだよ!!!!!!!!!」

「…」

「落ち着け。カミやん、今お前は心が疲弊し」


「カミサマってのはマジメな善人を救うんじゃねぇのかよ!!!!!」

「情けはひとのためじゃないんじゃねぇのかよ!!!!!」

「ふざけんなよ!!!!!」

「どこの誰だよ!!!!!」

「…」




「……」

「…土御門」

「…なんだ」

「手ェ貸せよ」

「何する気だ」

「決まってるだろ。探し出すんだよ」

「犯人をか」

「それ以外にあるのか」

「…正直、難しいと思う」

「はぁ!!!?」

「おまっ、ふざけ…!!!ころ、ブチころッッツ!!!」

「興奮するな。冷静に聞け。…いいな?ゆっくり深呼吸して数を数えろ。落ち着け。」

「…ッフー!…ッフー、ッフー…!」


「恐らくアレはプロのやり口か…カミやんの知り合いだ」

「あんな事する奴の心当たりなんてねぇよ…プロならなんのだよ」

「専門まではわからない。ただ、あまりにも手口が鮮やかすぎる」

「争った痕跡、ドアや窓を抉じ開けた形跡がない」

「幸せの絶頂にいたインデックスが自ら何がしかの爆弾を精製して自爆したとも考え辛い」

「あの現場からAIM拡散力場は検出されなかった。つまり能力者による犯行じゃない」

「だから二択なんだ。」

「インデックスが心を許していた人間が犯人か、痕跡一切を科学技術や魔術を使って消す心得がある”殺し屋”か」

「だが、もし殺し屋なら恐らくは学園都市の暗部の系統じゃない。」

「オレ達はもっと雑だったり異常に綺麗すぎたり、能力や科学兵器の残り香がある現場になるからな」

「じゃあ、誰が」

「…憶測だが」

「動機面から考えると直近のイベントからするに上条当麻がインデックスと身を固めようとした事による横恋慕からの犯行」

「もしくは”禁書目録”の価値と所在を知った魔術サイドの人間」

「じゃあ二つを合わせて…魔術師でインデックスに好意を持っていて、かつインデックスが心を許し、…ああいう形で人間を破壊する事が出来る人間とか?」

「…となると、オレの心当たりからすれば天草式の神裂か、五和か…イギリス清教のシスターか、となるが」

「急ぎ確認したが彼女らは事件当時学園都市にすら居なかった」

「そういった狙撃、ピンポイント攻撃が可能な術式が発動出来る状態でもなかった」

「…じゃあ、空間移動能力者とか」

「調べた。空間移動能力者はこういう事があると真っ先に疑う対象になる。数も少ないしな」

「だが結果はシロだ」


「…じゃあ、誰が」

「わからない」

「……」

「…そいつと同じ殺し屋業界の人間なら何か知ってるかもしれないが」




どうしてもわからなかった。


なぜ。


なぜあいつは死ななきゃいけなかったのか。

なぜあいつが殺されなきゃいけなかったのか。

許せなかった。

忘れる事も出来なかった。

俺からインデックスを奪った犯人が憎くて憎くてたまらなかった。


苦しくて、悔しくて、哀しくて


手首を何度も切って生きる事から逃げ出そうともした。


きっと、大人だったら、大人だったら”大事な人の理不尽な死”にも負けないのだろう。

許しはしなくともその手で物理的な報復まではしないとか。

社会的制裁を下すことに必死になるとか

忘れるとか、思い出にするとか…別の誰かを愛するとか。



…でも、俺はそんなに大人じゃなかった。



大人のフリをするのは簡単だけど、俺はどうしても大人にはなれなかった。







「…悪魔を殺すには人間のままじゃどうしても無理がある」

「悪魔を殺せるのは神か、」

「同じ悪魔だけだ」


「…なろう。なってやろうじゃねぇか」



          コロシヤ
「ーーーーーー同じ、”悪魔”に」






俺は学校を辞めて土御門に裏社会で生きるノウハウを教えてもらうようになった。


二人で事務所を立ち上げ、土御門のコネと自分の知り合いの多さを利用して殺し屋仲介業者を始めた。



数年後に土御門が俺のミスの尻拭いのために死ぬまで











以後、ツテとコネ、知り合いの能力を生かして書庫、滞空回線、監視カメラ、etc....

それらから推察し、少なくとも犯人は当時学園都市在住の人間である事が判明する。



同時期に情報屋である蜜蟻と知り合う。

彼女の情報屋としての腕は最高だった。


また、彼女の”心理穿孔”を使って客観的な情報ではない主観的な観点から…



『自分が殺した』と思っている人間を探し始めた。





途中、知り合いや友達が何人も死んだ。


俺はあの日から誰も救えなくなった。



それでも。続けた。犯人と同じ業界にいれば誰かに聞くよりも情報が入ってくる。


直接手を下す事を求めて。


きっと。もっといい方法があったのだろうけど。


俺はこの方法でないとダメだった。









本編投下はここまで。>>1自身も胃もたれする内容ばっかだったから清涼剤的なオマケを。



サローニャ「…」ダラダラ

上条「…」タップタップ

サローニャ「…」

サローニャ「…」タップタップ

ティロン♪

上条「…ん?」

上条(LINE?誰からだ?)



サロにゃん

かまちょ!∩^ω^∩


上条「…」

上条「…」チラ

サローニャ「じーっ///」ワクワクワクワク


上条「…」

上条「…」無視。タップタップ

サローニャ「!?」ガ-ン!?


サローニャ「…!」タップタップ


ティロン♪

上条「…」



サロにゃん

私にかまって。王子様ー??キスミーキスミー♪



上条「…ハァ」

上条「…」チラ?

サローニャ「…!…!」チラッ!チラッ!

上条「はあー…あのさぁ、目の前にいんだから直接声かけろよ」


サローニャ「だってさ、煩わしい事言われるってわかってるとしてもさ、『声をかけられる』よりも『スマホに出た表示』の方が気にしてもらえるもんでしょー?」

上条「んな事ねーよ。上条さん今お仕事中だからちょっと後にしてくんない?」

サローニャ「えー…」シュン...

上条「お前な…ほら、最近老人から小さい子供まで。現代人に流行ってるスマホゲームでもやったらどうだ?」

上条「地下鉄乗ってみろよ。乗ってきた他人にはもう誰も興味示さない。みーんな顔上げないのが普通になるくらい大人気コンテンツだぞ」

サローニャ「飽きたからいい。いずれ必ず飽きるコンテンツちゃんに毎月ドカドカお金ちゃん落とすのもどうかと思うし」

上条「それはそうして楽しむモノであってだな、…あー、じゃあSNSとか」

上条「今時アナログに『私にかまって』なんて言わねーだろ?今は皆SNSやゲームで会話すんだろ」

サローニャ「やらない。上条ちゃんもやってないし」

サローニャ「それともなぁに?『今お仕事中☆今日はちょっと重労働☆~(ゝ。∂)家族3人皆殺ししてまーす』とか書けと?」

上条「お前、それホントにやったらマジで殺すからな?」

サローニャ「殺し屋ちゃんがそれ言うとリアルで恐いねぇ」

上条「いいじゃねぇか。ほら、『皆やってるんだからさ』」

サローニャ「うわ、出た。日本人ちゃんは誰かに言うこと聞かせたい時とかいつも言うよね」

サローニャ「『皆やってる事なんだから』『皆我慢してるんだから』『君だけじゃないんだから』」

サローニャ「人なんてカンケーないじゃん」

上条「俺が言うのもなんだけど、お前も協調性とかないよなぁ…」

サローニャ「フーンだ」プイッ

上条「…もういいか?なんか趣味でもやれよ。本でも読むとかな。人生を豊かにするぞー」

サローニャ「じゃあ上条ちゃんに抱きついてていい?」

上条「なんでだ」

サローニャ「上条ちゃんにかまってもらいたいのっ」プクゥ-!


上条「彼氏か友達とかでも作ってそれ言ってこい」

サローニャ「じゃあ上条ちゃんなってよ」

上条「やだよ十代は上条さんの守備範囲じゃねぇ」

サローニャ「ええー?世の中は小学生とか、中学生に手を出していいって言ったら沢山お金払ったり何でもやってくれたりする人もいるくらいなのに?」

上条「俺はそういう紳士な方じゃない」

サローニャ「…もう」




サローニャ「おりゃぁー!かまえーっ!」

上条「んぁっんっ!?おま、俺の腹にダイブしてくんじゃねぇ…!」



サローニャ「オラ、サローニャちゃんを撫でくり回せよ。お腹でも頭でも」

上条「猫かよ」

サローニャ「とゆーかさ、サローニャちゃんは社長とかプロデューサーとかを殺してくるっていうそれなりに重労働をこなしてきてるんですど」

上条「で?」

サローニャ「もうちょい労いの言葉とか、おきゅーりょーに色つけてくれるとか、」

サローニャ「…いつもみたいに頭ナデナデして『偉いぞーサローニャー』っつって褒めてくれるとかしてくれてもいいんじゃないのー」

上条「…ハァー…ッ」

上条「はいはい…これでいーですかーサロにゃんさんー」ナデナデナデナデ

サローニャ「ん…」

上条「…まぁ、でも…」


ああ、ひょっとしたら。

上条「確かに今回のヤマは結構むずかったからな…良くやってくれたよな」

結局のところ、私はこうして上条ちゃんに褒められたいから。


上条「そこに関しては褒めてやる。偉いぞーサローニャ。よく頑張ってくれたな」


こうやって頭を撫でて欲しい一心から、私は嬉々として必死に人を殺してるのかもしれない。


だって、何も映ってないテレビに映り込んでる私はこんなにも頬が緩んでひどく締まりのない顔をしてる。


心地がいい。何をしている時よりも。


満たされる自己肯定感。充填されていくやる気。


キチンと言うことを聞いて。人を何人でも誰でも何回でも、上手く殺す。


それが…サローニャ・A・イリヴィカが上条ちゃんに関心を持ってもらえる、唯一の価値だから



サローニャ「上条ちゃんなんて嫌い嫌い嫌い。嫌いすぎ。だいっきらい」

上条「ああ?なんだよ。なんかしたか?」







サローニャ「……の!反対の反対の反対っ!///」ニヘ-

上条「…小学生かよ」


上条「しじみの味噌汁作るからサローニャちょっと買ってきてくれ」

サローニャ「かしこまりっ!」ビシッ!

上条「あー、ちゃんと魚屋に行けよ。スーパーとかじゃなくて」

サローニャ「え?なんで?」

上条「生きてるしじみが欲しいからだ」

サローニャ「どーして?」

上条「生きてる奴を砂抜きして、ちゃんと作るからウチの味噌汁は美味いんだよ」

上条「なんでも採れたて殺したてが美味いだろ?」」

サローニャ「おおー…我が家の味噌汁の美味しさにそんな秘密が隠されていたとは」

上条「だから魚屋なんだ。餅は餅屋。ゲームでもマルチに出来る奴より専門職のプロフェッショナルな奴のが一番強いだろ」

サローニャ「にゃるほどー」

上条「ほら、行ってこい」

サローニャ「はーい」


てくてく。てくてくてくてく。




・・・・・。


サローニャ「買ってきました!」ビシッ!

上条「さんきゅな」


・・・・・。

上条「ほら、水ん中でプクプク泡が出てるだろ?これが生きてる証拠だ。…俺たちはこいつら食っちまうけど」

サローニャ「生きてるのを殺して作る、か。さすが殺し屋。本格的だねぇ」

上条「本格“的“ってなんだよ。俺は、本格派だ。ちゃんと本物なんだよ」

サローニャ(どう違うんだろ)

上条「そら、出来たぞ」

サローニャ「わー!美味しそー!」


サローニャ「ん?」


しじみ(三匹)「ぷくぷく…」

サローニャ「ありゃ?何で三匹残したの?」

上条「入り切らなかった。明日朝飯にする」

サローニャ「ふーん…」

上条「なんだよ、飼いたいのか?」

サローニャ「いやそれは、」

サローニャ「…」

上条「どうした?」

サローニャ「しーちゃんとじーくんとみーちゃんでどうだろうか」

上条「何が」

サローニャ「名前だよ名前。しじみを飼った時の」


サローニャ「せっかく運良く生き延びたし、私達に食べられるまでは可愛がるのもいいかなーって」

上条「[ピーーー]時に手が鈍るぞ。生物の授業とかでやれよそういうのは」

サローニャ「学校ちゃんは行ってませんので」

上条「…明日ちゃんとした水槽買ってくるか…」

サローニャ「おおー…まさかの」


そんなわけで上条宅にはしじみが三匹飼われております。


上条「またしじみ見てるのか」

サローニャ「うん」

上条「…」

サローニャ「…」

サローニャ「泡をぷくぷくさせてるのを見るとさ、『ああ、コイツら生きてるんだなぁ』って感じるでしょ?」

上条「そうだなぁ」

サローニャ「なんかいいよねぇ」

上条「そうだな」

>>481ピーは殺す




その後。何故かなんやかんやと理由をつけて食べられる事がなかった三匹のシジミは彼らが寿命で死ぬまでその水槽でプカプカ泡を吐いていたそうな。




ちこちこチマチマ書いてた書き溜めが結構消費できてよかった。今回はここまで。


ターゲットは悪人しか狙わなかった。

どういう条件をもってして"悪人"と定義するかは毎度ブレていたかもしれないけど。


客観的に見るならば、リーガルマインドな考え方をすれば、『理不尽に殺されるほどの悪い事』をしたわけじゃない奴も何人かは居た。

けどまぁ俺も仕事しなきゃいけなかったし。

つうかさ、


『殺し屋に高い金払ってでも殺したい』って思われてるほどの人間なんて、基本的に死んだ方がいいだろ?


それにさ、

『民事で訴えれば勝てるかもしれないけど、そこまで時間と労力をかけたくない』

『みんなに迷惑をかける酷い嫌がらせだけど法的措置がギリギリとれない悪事』

とかしてる奴はどうやって排除したらいい?


答えは簡単だろ?

こっそりブチ殺せばいいんだよ。社会的に要らねぇだろそんな奴。

消した方が手っ取り早く世の中はよくなるじゃないか。



無論、復讐の正当化に過ぎない。

そんな事を公の場やら『それを正義とすべきか』みたいな論争の場で言えば100%負ける理屈だ。


ああ、それと。

それに、そういう奴を狙っていけばインデックスを殺した奴がターゲットになる事もあるかもしれない。

あるいは、そのターゲットの横のつながりから見つかるかもしれなかったしな。

ほら、類は友を呼ぶとか、『その人間の価値が知りたければそいつの友人を見ればいい』とか言うだろ?

そういう人間を専門にしていけば情報も集まりやすくなる。


あと…人を殺すのはどんな理由があろうとも悪い事にきまってる。

それでもそれをやらなきゃいけないなら。


せめて少しでもインデックスに非難されないようにしたかった。


インデックスが『悪人なら殺しても少しは許される』みたいな考え方をしてたかは知らないけれど。


死んだ奴の頭の中身なんてわかりっこないわけだし。


勝手な憶測と妄想、推測で捏造してみた。





きっと俺はもう頭がおかしいんだろうな。

自分じゃ認識ができないだけで。


世の中とズレている。


…そういえば、サローニャは

どう


し、












「ーーーーーーーーっ、」

「あ、起きた?」




薄目を開けて頭を軽く振る。

目の前には細目のニヤケ面。


…ああ、そういえばそうだった。


意識が再びクソッタレな現実へと引き戻される。

俺は今貧血でも起こしてるのか?力が入らない。

額には脂汗。

立ちくらみした時みたいな、体中の血流が逆流しているような、暴走しているような感覚。

「ええ夢でも見とった?残念やけど現実はコレやでー」

残念ながらええ夢ですらなかったな。

せめてええ夢見せて欲しかったよ。ああ。

左手に視線をやってみる。

止血は、されてる。包帯も巻かれてたが…


オイオイ…やっぱ俺の左手の指が根元から無ぇよ。

俺の指…インデックスとの指輪はどこいったんだ?



「ああ、カミやんの指?冷凍保存してあるで?」

「今から病院にダッシュしたらまだくっつけられるんとちゃうかな。」

「じゃあダッシュさせろよ。」

「したらええやん。どうぞ?ボクは止めへんよ?」

「ガッチガチに固定されてて動けるわけねぇだろ」

「うん知っとる」


ああ、目の前の旧友のムカつくニヨニヨ面を張り飛ばしたい。


「ほんまはカミやんの目の前でな?カミやんのとれた指から一枚一枚爪を剥がしてくとこ見てもらおうかなとも思ったんやけど」

「趣味悪いよな。お前」

「性格は悪くないやろ?それに、とれた指やったらカミやんも痛くないしとーっても人道的やとおもうで?」

「安心しろ。お前は性格も気持ちも人格も顔も口も見た目も臭いもやってる事も悪い」

「全否定は酷ない?」

「妥当だろ」

「で?今のご気分は?」

「おかげさまですこぶる最悪だっての」


目が覚めたら嫌なことも辛いことも怖い事もコイツも全部片付いてたらいいのにな。


「…大発見だ。今まで右手は千切れても元に戻ってきたってのに左手の指は元に戻らないらしい」

「やろ?ボクもそう思って右手じゃなくて左手にしたんや」


つくづく腹の立つヤツだ。死ねばいいのに。出来れば今すぐに。

「俺がお前でもそうしただろうけど腹立つな」

「いやーなんや嬉しくなってきたわ」

「どこに嬉しくなれる要素があるんだ」

「例えば、自分と相手が同じことを考えたり、同じことを口走ったりするのって、なんかこう、幸せやないか?」

「自分の指が切られてなけりゃ同調したかもな」



「さてと。はーいカミやんカミやん。こっち向ーいてっ」

「…どっから用意したんだよそのハンドビデオ。肖像権の侵害だ。勝手にビデオ回してんじゃねーよ」

「ええやん。今のカミやんの生殺与奪の権利はボクが握っとるんやで?」

「カミやんの心臓を握りしめとるような状態やったら何しても『死ぬよりはマシ』ってなるやろ?」

「趣味悪いな。…つーかお前はあの"令嬢"の社長なんだろ」

「”令嬢”と言えば学園都市内だけに限って言えば裏社会版トヨタみてぇなもんだろ」

「社長ってのはこんな事して遊んでられるほど暇なのかよ」

「それともこれが社長業務か?バイトでも出来そうだし『社長業務をするバイト』でも雇ったらいいんじゃねぇのか」

「やー別に遊んどるわけでもないよ?社長業務ちゃうけどね。これもお仕事や」

「…スナッフ映画でも撮って儲けるとかか?」

「おっ、近いね。あんな?『創作物や演技のリアル感を追求するために本当に人が拷問されて死ぬシーンが観たい』」

「世の中にはそんな人もおるんや」

「そいつらに見せるって?小銭稼ぎにも余念がねーな社長さんは」

「そらぁ、ボクはちょっとでもお金欲しいもん。」


「あんな、カミやん。ボクな、お金が大好きなんよ。めっちゃ欲しいんや」

「いっぱい。いっぱいいっぱい欲しいんや」

「お金あるってええやろ?カミやんも大分稼いでたみたいやし」

「美味しいもんは毎日食べれる。欲しい物は何でも買える。スマホゲームのガチャなんて何10連でも引ける」

「綺麗で近くにコンビニや駅、美味い料理屋があるカッコイイとこに住める。」

「病気にならんようにできるし、治すこともできる」

「面倒なことは誰かが全部自分の代わりにやってくれる」

「普段からお金バラまいとったら友達にも困らへん」

「そんな繋がりは友達じゃねぇだろ」

「最初は本当の友情じゃなかったとしてもや?誠意を見せながら長く付き合っとれば人間は情がわいてくるもんや」

「そのうち仲良うなれるで?」

「女の子にも困らへんやん?ギャルゲもええけど」

「優しくして、その子の一番して欲しい事をしてあげてな?」

「肩書きチラッと見せてバッグでもマンションでもその子の一番欲しいモンなーんでも買ったれば簡単や。」

「あとは…どんな技術の習得だって勉強できるから出来る楽しさも知れる」





「それから…夢の限界を見れたりとかな」

「なんだそりゃ」


「他人の夢に出資したるんよ。『映画監督したい!』『店を開きたい』『こういう企画がやりたい』『起業したい』」

「最近のやと…そうやね、何年か前に『漫画家になりたい』って奴おったんや」

「ボクな、そいつに全部出したったんや。画材も機械も勉強会の機会やら自費出版の金やら研究費とか生活費とか広告費とか何から何までな」

「『その代わり、キミが25歳になるまでに出資した額以上に黒字を出す作品を作れんかったら』」

「『今までの金、全額返してな?』って契約したんや」

「…そいつは、どうなったんだ?」

「別に?頑張っとった時もあったけど『試行錯誤すればするほど何が"面白い"なのかわからない』とか」

「ダレて現実逃避したりとかしてな?」

「自分の家がいっぱいになるほどに自分で買うた、返本されまくってちぃーっとも売れへんかった、自分の本の山の中で首吊って自殺したで?」

「…才能なかったんだな、そいつ」

「そらぁ…”自分の好きな事”と”自分に出来る事”ってのは一致せーへんもんやし、」

「高い所目指すんは自由やけど、落下すんのもよくある事や」

「『自分は違う!きっと成功する!』って自信と希望持っとるヤツほど高い所から落ちんのもな」

「そらぁ、初めのうちは失敗しても情熱を失わへんし、色々乗り切れる」

「やけど、年を重ねて、『やり続ければ夢は叶う』って騙し騙しやって、結果が出せへんとね?やっぱ色々擦り切れてくんやね」

「叶わなかった夢の為に費やした人生の時間が長ければ長いほどダメージはでかい。」

「同い年の奴は皆、人並みの幸せ掴んどるのに自分は…とかなってく」


「話、元に戻すけどな?ボク、そーいう他人の潰れてくリアルな人生を見るのもめっちゃ好きやねん」

「クズだな」

「けどな、やっぱそーいうんをやろうと思ったらな、お金要るやん?」

「けどな?」

「当たり前やけど、単純にマジメーに就職してチマチマ稼いだって効率悪いやろ?」

「それに訳分からん判断しよる上司やら仕事押し付ける同僚、使えん部下、」

「ワガママな顧客…危ないお仕事やらされたり、休みがほとんど無かったり…そんな面倒はできる限りしたないやろ?」

「まぁお金稼ご思ったら、例えどんな仕事であっても死ぬほど大変なのもリスク背負うんも当たり前や」

「なら、どうせリスク背負うんなら。大変なら。自分がやりたいようにやれて、大金が入ってスリルも楽しめるハイリスクハイリターンのがええやろ?」

「その目的を達成する、一番の近道がこーいう非合法な手段やったってだけや」

「罪悪感とか、倫理とかないのかよ」

「はぁ?善悪や倫理なんてくだらんモンについていちいち考えられるのは学生とかロクに世の中知らんヤツか、暇なヤツだけや。」

「カミやんホンマに社会人?いっぺんフツーの会社員として社会に出てみぃ?」

「健全な、表の”ほんまに普通の”会社ん中ですら。裏切りと嘘つきと気に入らん奴の排除、媚び売りと理不尽ばっかやで?」

「中には業務内容自体チェーン元とのコンプラ違反で、倫理も法律もクソもないような会社だってあんのやで?」

「そん中で善悪や『何が正義か?』なんて、価値観とか立場変わればいくらでも変わってまう。」

「『何が正義か?』ちゃうわ。」


「社会で生きていく上で一番考えなあかんことは『自分は、このカオスな泥沼の中でどう生きていくのが”適切”か?』やわ」


「大人やったらな、『どこまでだったら恨まれない程度に人を利用して、ズルが許されるか?』って考えなあかんのやで?」


「真面目に仕事をやればやるほど、そういう奴から利用されて食いモンにされてく。それが上司か部下か同僚かって違いがあるだけや」


「『あいつとはそれなりに上手く付き合って、上手に働かせておけば俺たちに得になる』って影でやられてな」

「カミやんは今まで自営業で同僚や上司おらんかったから知らんやろうけど」

「そーいうのがわからん奴は将来騙されてまうと思うわ」

「つーかな。今のカミやんだってそうやろ?」

「何がだ」

「なんでや?なんで真面目に仕事やってきただけのカミやんが今こうなっとるんやろうか?」

「たかだか付き合いがちょこっと長いだけのビジネスパートナーを信じ過ぎたからやろ?」

コイツ、やっぱ蜜蟻を知ってやがるのか。

「あかんで~?大人になったら友達や恋人だって信用しすぎたらあかんのや」

「大人になって再会したり急にコンタクトとってきた友達になんか商品とかイイ話を売られそうになった事とかあらへん?」

「あーいうのだって小さい事やけど『助けたろ』とか信じたりして金を出したら損しかせぇへん」

「カミやんは今回の一件の発端だって情報屋のあの子に一杯食らわせられたんちゃうか?」

「…あいつがどういう腹づもりなのかがわからないってだけだ」

「アホやね。まだ信じとるん?カミやんは売られたんやろ?」



「お前が俺とあいつの何を知ってる」

「そらーあの子がカミやんの事好きやとか付き合い長い、カラダの関係あるとか知っとるよ?」

「ただな?別にあの子が情報と依頼仲介を売るんはカミやんだけちゃうんやってだけや」


…まさか。


「カミやん。いくらその人が好きや言ってもな?本気で自分の命と引き換えにしてまでそいつ助けようってヤツは基本おらんのよ」

「ちょこっと脅して金出したらフツーにカミやんの情報くれたで?」


…蜜蟻の野郎。

もし次にあいつと会う機会があったらとりあえずブン殴ってやる。


「まー裏切りは女のアクセサリーみたいなモンやろ。女には何べん裏切られても許したり?」

「知った風な口だな」

「知らん?ルパン三世の名台詞なんやけど」

「しらねぇよ」



トゥルルル。トゥルルル。


「ハイハイ。あ、鞠亜ちゃん?お仕事終わったん?」

マリア?

「おー!あの”綿”を殺ったんやね!さすがやな!キミはやっぱ最高の殺し屋や!お給料に色つけといたるな!」



…そうか、サローニャ死んだのか。


マジかよクソッ。



あの電話の後くらいか?


ケンカ別れだったな。せめて最後くらい、もう少し優しくしてやれば良かったか?



そんで、この世で唯一の助けに来てくれそうな奴は消えたってわけだ。



いよいよをもって俺も年貢の納め時ってやつか。


まだ死ねないってのに。


「にしても。専属で殺し屋雇ってるわ人畜業やってるわ暴徒を雇ってるわと犯罪の見本市だな」

「いや、もう犯罪シンジケートの見本市、っつった方がいいのか。」

「知らなかったよ。とんでもない悪党だったんだな、お前は」

「悪党?確かに見方の一つならほうかもな」

「けどな、ほんまにボクは悪党やろうか?」

「どっからどう見ても悪党だろ」

「せやろか?ホンマの悪党ってのは世の中全体、”人間そのもの”ちゃうんか?ってボクおもうで」

「なんでだよ」



「ウチみたいな裏社会事業が『何でそんなに儲かるのか』ってのをちょーっと考えたらわかるやろ?」



「"めっちゃ需要があるから"や。」




「カミやんもわかるやろ?」

「『麻薬で最高に気持ち良くなりたい』、『自分の言う事を何でも聞いてくれる都合がいい人間が欲しい』『自分の悪い臓器と病気を何としても治したい』」

「『家族が欲しい』『絶対裏切らない友達が欲しい』『誰にも殺されない安全が欲しい』『強い武器が欲しい』『あの国に言う事を聞かせたい』『気に入らないヤツを消したい』」

「『性的欲求を満たすためだけの人間が欲しい』」

「『社会に適合出来ない自分でも生きていける場所が欲しい』」

「『自分や家族、友達の犯してしまった犯罪や経歴を消したい』『刑務所から友達を出してやりたい』」

「『人をしこたま殴りたい』『拷問してみたい』『倫理ガン無視実験をいっぱいしたい』」

「『悪食を堪能したい』あとは…中には『演技の向上のために人が死ぬトコを目の前で見せて欲しい』とかな」

「とまぁ、このように。世の中はどうしても暗い欲望を叶えたい人間が山ほどおんのやな」

「やからボクが供給したるんや」

「ボクがやるんは『効率良く稼ぐ方法がたまたま建前上は悪とされてる事』ってだけや。」

「けど、なんでそんなビジネスが成立してまうんやろね?ちょこっと考えたらわかるやろ?」



「まっ、ちゅーてもや」

「『悪い事したらあかん』のは、個人の範囲だけで言えば、悪い事しとったら捕まったり復讐されたり良くない事がふりかかるからや」

「国家的な枠組みで言えば『国の運営に邪魔だから』」

「けどカミやんも知っての通り、やり過ぎないようにしてお金を上手く使ったら『悪い事しても逮捕も罰も無し』って出来るやん?」

「むしろ警察機構から『お願いいたします。この犯罪を見逃させてください。関わると大変だから』ってウチに依頼くるぐらいやし?」

「やり過ぎなければ。大体のヤツは自分の人生に関わらない大きな事件や事故なんて、『それって私に関係するかしら?』やろ?」

「その場限りの正義漢くんもな?ちょっと脅して自分に不利益が生じるってわかったらだーれも文句言わんくなるんや。知らんヤツが何人死のうと苦しもうとな」

「誰も文句言わへん、国の運営の邪魔にならへんのやったら、それはもう『悪い事』でもなくなるんちゃう?」

「やったら、むしろボクめっちゃ良いことしとるやん?だって皆の『本当はやりたい』事を叶えとったるんやから。」

(…詭弁だし一部は論理破綻してるな。面倒クセェし批判するつもりは俺にはないけど。)

(結局は俺も同じような考えだからこんな仕事してたんだし)



「つーわけで、や。むしろボクは"慈善事業"と自分の幸せになるための素敵なお仕事をしとるっちゅーわけやね」


「…随分ペラペラと長く喋ったな。」

「言ったやろ?楽しくなってきてん」

「そーかよ」

「カミやん」

「なんだよ」



「カミやんが今まさに喉から手が出るほど欲しがっとるもんをボクもっとるんやけど欲しい?」


タダでくれって言ったらくれるのか?何かは知らないが



「自由とかか?」

「いやいや。自由なんてのはいつだって自分の手元にあるやろ?したい事が可能か不可能かは別ってだけで」

「そんな抽象的なもんやなしに」

「…仕事仲間に入れてくれるってか?」

「ちゃうって。カミやんみたいなタイプは絶対組織で動くのに向いてへんし、ぶっちゃけ使えんから要らんわ」

「チッ。じゃあなんだよ。勿体ぶるなよ」

「勿体ぶるのは秘密を知っとる人間の特権やで?」

「鬱陶しい。まだるっこい。早く言ってくれ」


「あんな、」


「今から十年前。インデックスって名前のシスターちゃんがいたやろ?」


自分の体に一時停止がかかる。


「泣ける話やんな。まだ幼いあの子は惨い殺し方されよった。」


「オマケに傷心のカミやんは復讐のために殺し屋仲介業者になってまって、心も人生も歪んでもうた」

「…わざわざ説明してくれなくてもよく知ってるよ」

「ヒーローの気質だとか、『事件に関われば必ず救う特性』とか。全部失ってもうた」

「カミやんの友達も知り合いも何人も死んだやんな?」

「ふっきーとか。先生とか。レベル5の子もほとんど。…ああ当時の第1位とかは名前を売るため、仕事のためにってカミやんとこが殺したんやったっけか」

「ああ。だから、お前に言われなくてもよく知ってるよ」



「その全ての元凶を起こしたんって、誰なんやろね?」

「もし俺が知ってたらそいつはもうこの世にいねぇよ」



と、まで言って。


「…まさか、まさか、とは、思うけど」


青髪ピアスのニヤニヤ笑いが加速する。



「お前、インデックスを殺したヤツを知ってるのか?」

「うん。知っとるよ?」


あっさりと。


長年渇望した情報。


…いや、ガセか?

信じるべきか?


胡散臭い。

けれどコイツの目や口元は『自信あります』って主張したくて仕方ない感が溢れんばかりだ。





「なんなら証拠も見せたるけど?」


「…誰だ」


「えー?どうしよっかなー」


「誰なんだよ!!!!!!」


ガシャン!!と音を立てて、腕を引きちぎらんばかりの勢いであいつに迫る。


「ははっ、おーこわ。」


その飄々とした姿勢に怒りが、殺意が、ドロっとした感情が沸き上がる。



「言え!!!言わねぇと[ピーーー]ぞ!!!?」

「ははははっ?おもろいなー今のカミやんに何ができんの?」

「ちーーっとも怖ないよ?」

「うるせぇ!!!いいから言えよ!!」

「ボクや」

「…は?」


「え?聞こえへんかった?」



「言え!!!言わねぇと殺すぞ!!!?」

「ははははっ?おもろいなー今のカミやんに何ができんの?」

「ちーーっとも怖ないよ?」

「うるせぇ!!!いいから言えよ!!」

「ボクや」

「…は?」


「え?聞こえへんかった?」


「じゃあ、もういっぺん。ゆーっくり、大きな、声で、ハッキリと、言ったるな?」


青髪ピアスはわざとらしく深く息を吸い込んで。


「十年前。インデックスちゃんに、小型の、カプセル型爆弾を、呑ませて、爆殺したんは」



「このボク。通称"青髪ピアス"と呼ばれるボクでーす」



「………は?」


何故か、思考が停止する。

再び体に一時停止がかかる。


「やから、ボクやって。インデックスちゃんと…ああ、あと猫を殺したんはボクや」


「…マジで言ってんのか?」

「せやで?」

いや、口だけの確認だ。

なんとなく。コイツが目の前に現れた時から薄々察していた気がする。




「あー、カミやんって十年間ずーっとガセばっか掴まされて来たんやったっけ?」

「逆に凄いわ。感心するほど無能やわぁ。」

「そんだけ時間あってアレだけのコネがあったんにボクまで辿り着けんかったなんてな」

「安心しぃ。正真正銘。ボクが犯人や」

「…証拠は」

「せやなぁ…」

「…まずは…爆弾の部品は全部手作りやったから、誰がどこで買ったかもわからんかったやろ?」

「…」

「どうやって仕込んだか?事件当時の一週間前にボクとつっちーでカミやんちにお邪魔したやろ?」

「あん時にな、インデックスちゃんにこっそりカプセル型の爆弾入りカップケーキ渡したんや」

「2人へのサプライズのお祝いを用意しとるんや、カミやんには内緒やで隠しといてなって言ってな?一週間後に一人の時に食べてねって言うてな」

「律儀に守ってくれたんやねぇ。首尾良くやってくれたわ」

「で、ドーン。や」


「…なんでだ?」

「何がや?」

「なんで、殺した」

「インデックスとお前に繋がりなんてほとんどなかったじゃないか」

「なんでだ?」

「…」

予想に反して、あんなに饒舌だった青髪ピアスが初めて黙った。

いや理由がないって事はないだろう。

やっぱり言いにくい理由なのか?

そりゃそうか。

わざわざ十年も隠し続けたぐらいなんだから。


「…なあ」

「…」



「なあ。おいって。なんでだ?」

少しづつ感情のボルテージが上がっていくのを感じる。


「メリットなんてなかったはずだろ。」

「…仕事や。インデックスちゃん殺したら金くれるゆわれたからや」

「いーや、嘘だな。」

「当時そういう依頼があったかどうかはとっくの昔に虱潰しに探した」

「結果はゼロだった。どこにもそんな依頼はなかった」

「個人的恨みってのはなんとなくわかってた」

「…わからんでー?カミやん探すの下手くそやし騙されやすいからなぁ?気づかんかっただけちゃう?」

「何せほら、十年もかかっとる間抜けなんやし」

「だったらなんで今まで余裕綽々だったお前がここに来て動揺する?」



「…案外、何かのコンプレックスから殺したとかか?」

「…『雉子も泣かずば撃たれまい』って知っとるか?」



ガツン!!と音と衝撃が俺の左目を貫通していった。

「殴るのはあんま好きちゃうんやけど」


…けっこう適当に言ったんだけどな。意外と当たったみたいだ。








「…激昂すんのは図星の証拠だろ」

ガツン!!!もう1発くらう。

「カミやんは動物と一緒やね。口で言ってもわからへん。」

「『こういう事をしたら痛いことされる』って体に教えこまれんとわからへんのやろ?」

「そりゃ人間も動物だしな。そして俺は人間だからな」

「つーか、本当にコンプレックスからだったんだな。」

「でもお前がインデックスにコンプレックス感じるなんてなかったはずだ」

「ということは…アレか、インデックスじゃなくて俺にコンプレックスでも感じてたのか?」

「…」

「ああ…そうかそうか」

「お前、俺への嫌がらせとか、腹いせにインデックスを殺したんだな?」

「…」

「沈黙は肯定だ。そうだろ?」





なんでだろうな、挑発したところで悪いことにしかならないのにな。

反抗する術なんて持たないのに。

サローニャはもう居ない。助けは来ない。

むしろ、平身低頭で媚びへつらわなきゃいけないのに。いつ殺されてもおかしくないんだから。

死にたくないならプライド捨てて大人にならなきゃいけないのにな。

だんだん楽しくなってきやがった。


昔、まだ俺がヒーロー属性持ってた頃はこんな気持ちだった気がする。


「意外だな。俺に人から羨まれるところなんてあったか?」

「せいぜい可愛い女の子が周りにいたとか味方になってくれる知り合いが多かった、ぐらいだろ」

「へっ、まさかとは思うけど『ロリに囲まれとるカミやんが羨ましすぎて殺ったんや~』とか言わないよな?」

「ハァ…ほな、今度は手首から先を切り落としたろかな」

「なんだよ、図星さされて口で負けて悔しいから暴力に訴えるって?」

「つまり、お前は暗に俺に負けたって認めたわけだ。」

「こんなふうに万力台に固定されて指を切り落とされて、身動き出来ない俺に!」

「『ロリに囲まれとるカミやんムカつくからあいつの大事なもの奪ったろ』ってか?ロリコンもここまで拗らせると大変だなぁ!」

「…」

あ、やばい。有頂天になりすぎた。




「『ロリに』やないよ」


青髪ピアスは力なく笑って、


「『ロリにも』や。」


昔の…俺が知ってる友人青髪ピアスの顔になった。

教室でよく俺を遠くから見てた時の。

羨ましそうな、でもそれを見るのが楽しい、というような。

「ああ…あとな、」

けれどそれは一瞬で。

次の瞬間には凶々しい笑顔の仮面を再び自分に貼り付けていた。

「それに…そやね、」


万力台の振り下ろされきった包丁を下から上に戻して俺の手首の上にセットし直す。


…オイオイまさか、わかった!俺が悪かった!


挑発した上条さんが悪かったよ。だからやめてくれ割とマジで。


勘弁してくれ。






「自分と同じフィールドにおって、自分は死力を尽くした努力しても、成したかった事は出来んかったのに」

「隣でホイホイそれを簡単に叶えられてヘラヘラ楽しそうにされよったらめっちゃムカつくやろ?」


ズ、ダン!



「いぎっ、いぎゃぁああああああ!!!」


おおおお…!?

痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!

めちゃくちゃ痛ェ!!!

…はは、知らなかった。また大発見だな。


左手首を切られるとこんな声が自分から出るのか。


昔は右腕なら何回もはねられたり千切られたり消し飛ばされたりはしたが、その時にもこんな声はあげなかったのに。

『たぶん、元通りになる』ってわかってて自分の体がバラされるのと『たぶん、コレ一生壊れたこのまま』ってバラされていくのとは痛みの感じ方が違うんだろうか。


無論、学園都市は義手や再生医療、代替技術に長けてはいる。


けど、俺のオリジナルである左手はもう二度返ってこない。


…”冥土帰し”のじいちゃんが生きていればな。



「…まぁええよ。教えたるわ。コレ誰にも言ったことないんやけどな」



是非とも聞いてやりたい。

けどな、どうしてもこんな痛みに耐えながらの状態にされないと拝聴できないほどの秘密なのかよ?



「ボクなぁ、」

「カミやんが羨ましくて羨ましくて羨ましくて」

「羨ましくて羨ましくて羨ましくて、ホンマに羨ましくて仕方なかったんや」


…そんな素振り見せた事あったか?


教室でよく言ってた『カミやんばっかり!』とか、そういう冗談の事か?


おいおいおい…アレが冗談じゃなかったと?


「ある意味では、やね」

…マジかよ。





「ボクな、ほんまは正義の味方になりたかったんやで?」


とってもどっかで聞いたようなセリフだな。

なりゃいいじゃねぇか。好きにしろよ。

俺は一切関係ないし、今のお前は真逆の存在で『ザ☆悪の組織』のボスだけど。


「うん。で、ほんまに、本気でなろうとしたんよ」


「テレビアニメとかゲームとか。それらの中で主人公達がやってる事をまんまやったんや」

「困ってる人いたらその問題を解決して」

「悪いことしとるヤツは気絶させて風紀委員か警備員に引渡し」

「非道な実験しとる所は壊滅させたった」

「暗部組織なんて何個潰したかわからへん」





「…けどな?」


「どれだけ親切をしても、どれだけ非道な実験を潰しても、どれだけ暗部組織を潰してもな?」



「ボクが思い描く、なりたかった理想のヒーローにはなれんかった」



「感謝される事はそらあるよ?けどなぁ、愛も過ぎれば権利となるっちゅーかな、いつしか親切は当たり前になるし」

「窮地を救ってもボクを好きになってくれる女の子なんて1人もおらへんかったし」


「クラスメイトに尊敬されるとか、親や教師に褒められるとか、お金もらえるわけでもない。」


「時々救出失敗したりもするし、問題解決が難し過ぎることばかりで、100点満点なハッピーエンドは一回も見られへんかった」



「むしろ罵られる事のが多かった。『なんでもっと上手く助けられないんだ?』ってな」






「まあある意味当たり前やわ。仕事と同じや」

「『すみません。ちょっと事情があってできませんでした』なんて通用せぇへん」

「注文した商品の納期守れへんとか、アイデア出ませんとか、注文の数揃っとらんかったとか」

「アホかっちゅう話やわ。出来んのやったら当然感謝も金も貰えへんし、信用は消滅や」

「正義の味方が『ごっめーん☆頑張ったけど皆を助けられなかった☆悪役強くて負けちゃった☆』なんて笑えへんわ」


「さらには色んな奴に付け狙われて家に帰れへん。襲撃されるから毎日三時間も寝られへん」


「学校にパン屋で住み込みで働いてます言うて存在しないパン屋に襲撃させたところをひたすら狩る毎日」

「心休まるんは学校とクラスメイトとおる時だけやった」


「けどな?別にそれでも良かったんや。結局は趣味みたいなモンやったし、ええ事するのは気持ち良かったし」

「『正義の味方はこういうもんやろう』って思っとったしな」


「ーーーーーーーーーーーーーーーーやのに。」

ギロリ。

青髪ピアスの開ききった瞳孔と目が合う。


「なぁ、なぁーーーーーーーーんでやろな?」


「なぁんでカミやんはボクが必死でなりたかった『理想の正義の味方』になっとるんや?」



「家や寝込みを襲われへん、ちゃんと日常は守られとって」

「助けた相手から惚れられるとか、クラスでも人気者とか」

「ハッピーエンドをしっかり迎えて事件を終わらせられとるんや?」

「大きな事件を幾つも幾つも解決して、…暗部の連中ですら1目置いとった」

「なんでや?」


「なぁーんで、必死に自発的にやってきたボクよりカミやんばっかり評価されとるんや?」





「ズルイやないか」



「どいつもこいつも…『上条当麻』『上条当麻』『上条当麻』」


「アレイスター=クロウリーも魔神達も、ローラ=スチュアートも」


「超能力者達も、他の名だたる権力者、実力者達も」


「『大したヤツだ』『普通あんな事出来ない』『見ていて面白いのだけど』」

「『大事な友人だ』『私の唯一の理解者だ』『すごいよねー』『ヒーローだ』」

「みーーーんな、『上条当麻』しか目に入っとらん」


「…なぁ、ボクは?」


「なんでや?脇っちょで努力しとるボクにはなんでスポットライトが当たらへんのや?」






「ほんでな、ボクな、ある時に自問自答したんや」




「『ボクはほんまに『正義の味方』になりたかったんやろうか?』」






「『ちゃうんやないか?ボクがなりたかったのは、『正義の味方』に付随する名誉が欲しかっただけちゃうか?』」


「『というか…そもそも。』」


「『ボクは”正義の味方”になって、ボクを取り巻くこの世界からどうして欲しかった?』」

「…その答えは、随分と俗っぽかった。」

「けっこう、自分でも自分に失望するくらいに。」


「……答えはこうやった。」







「『ボクだってチヤホヤされたい!!!!』」




「『めちゃくちゃ褒められたい!!!凄い奴やって言われて!!特別扱いされたい!!!』」





「『ボクをみくびってる奴等にボクの才能を見せつけて黙らせてやりたい!!!』」





「『ボクの実力で途方も無い金を稼ぎたい!!!』」





「『圧倒的にモテたい!!!!!!』」




「『「お前にしかできない事だ」って頼られるオンリーワンになりたい!!!』」




「『誰かの人生を大きく変えるほどの影響力のある存在になりたい!!!』」





「『カミやんに、勝ちたい…!』」



「…ほんでな?カミやんも知っての通り、才能あれへんクセに高みを目指す奴に待っとるのは錆びた人生だけや」


「ボクな、ボクには、」


「ボクには、”正義の味方”の才能はあれへんかった」


「ほんならどうしよか。」

「そんでまぁ、思ったワケや」


「『それでも尚、その欲望を叶えられる手段はなんやろか。』」


「『そや、それなら今までと真逆になろう』」


「『別に”悪”になるワケやない。正義の反対は”別の正義”になるんやから』」

「『もしくは、”生存競争”に勝った奴”こそが正義なんやから』」


「妥協したんや。ボクは」






「そんでな、まず何からやろかなって思ったんや」


「そしたらな?ええところにカミやんとインデックスちゃんが来たんや」

「しかもな?これまた都合がええ事にな?カミやんがインデックスちゃんとエエ仲になったゆーやないか」

「いやもうな?インスピレーションがピーンと来たで?」


「もうな?神様か、あるいは”サードマン”が言うとるんやないかと思ったわ」



「『今が、その時』ってな」



「そしてボクは、その時から”正義の組織”、”令嬢”を立ち上げて社長になったんや」







最悪の悪党の誕生ってワケ、か。


感想?


『随分キチガイ染みたイカレポンチな考え方だな。』だな。

もっと他にも手段は山ほどあっただろ。きっと。



…なんてこった。インデックスは、とばっちりで死んだようなもんじゃないか。




「それから十年。今この瞬間。ボクはカミやんに勝った。完全に。圧倒的に!」


「…どや?ものっっっすごい、くだらん理由やろ?」

「ただの嫉妬や。ただの八つ当たりや。ただのロクでもないアホな理由や」

「他人からしたら『そんな事で?』な、本人しかわからへん理由や」


「たかがそんな事。たかがそんな事で、インデックスちゃんはボクに殺されたんやで?」


「そんで、たかがそんな事で、かつてのヒーローはスケールのちっさ~い小悪党になってまった。」


「そして今。こんな所で指と手首切られて。」

「部下は死んで」


「目の前の仇になーんもできず。」


「惨めに死んでくんや」


青髪ピアスの気持ち悪いニヤニヤ笑いが最高潮を迎えてやがる。



「ごめんなぁカミやん。創作の世界の中にしか勧善懲悪なんてないんやで?」

「自分の欲望に素直な奴しか世の中にはおらへん。」

「実は本当の悪党がちゃんと痛い目みたり罰せられる事のが珍しいんやで?」

「勧善懲悪に見える出来事だってな?」

「正義の味方(笑)が『こいつの欲望と自由と正義を止めたりました!これでボクらの利益が守られます!』って広報しとるだけにすぎんのやで?」


「ねぇどんな気持ち?ねぇ今どんな気持ち?」


「…」




「『つまんねぇ奴だな。お前も』」

「…ああ?」

「お前のしょーもねぇ善悪理論は聞き飽きたって言ってるんだよ」

「お前、ようはイジケてるってだけじゃねぇか」

「…なんやて?」

「『挫折するのは普通の事、自分だけじゃない』」

「『ボクは悪くない』」

「『くだらん理由やろ?』…本当にくだらねぇよ」

「お前、自分の失敗と挫折を俺のせいにして逃げただけじゃねぇか」

「それともそうやって煽って、俺の取り乱す様が見たかったか?」

「残念だな。悪いけど俺もそこまでガキじゃない」

「…!…!!」


おーおー、口元がヒクついてるヒクついてる。






「あまりにもお前がカワイソーで、くだらなすぎて、復讐する気も失せたよ。」

「ある意味お前スゲーよ。十年間ずっと殺意抱いてた人間に幻滅されて復讐する気すらなくされるなんてな」

「お前、ホント大した事ない人間だよ。」

「いい年こいて、精神は幼稚なクソガキのままだ」

「はぁ?復讐する気すらなくされる?今の自分を鏡で見て言いや!?」

「だとしても、だよ。」

「もし仮に俺とお前の立場が逆だったとしても俺はお前を見逃してやっただろうって事だ」


「まだ己の立場わかっとらんらしいな!!?」


三度め。包丁が下から上にまた上がる。


ヤケクソ気味なんだろうか。俺は。

バカだな。


黙っておけば痛い思いなんてしないのに。


だけど俺は、とにかく一つでも言い返して、やり込めてやりたかった。






「カミやんがそんなに切り刻まれたいドMやったとは知らんかったわ!挑発すんのは構って欲しいからやろ?!」

「お望み通りや!!ほらほらほらホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラァァぁあああ!!!!!」



ズダン!!!ズダンズダンズダンズダンズダンズダンズダンズダンズダンズダンズダン!!!!!


いだい!!!いだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだだだ!!!!


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!




痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い



痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

痛、




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーー




























…あれ?痛みが少し収まった?


『とうま。』

…よう。なんか久しぶりな気がするよ。


『もう少しの辛抱だよ』


何が?


この痛みが終わるって?それか死ぬまでもう少しだってか?


『ううん。そうじゃないけど。』


えっ、痛み終わらないの?


…まぁいいや。じゃあなんの事だよ。


『それは後でのお楽しみなんだよ』


そうかよ。






…ごめんな。インデックス。


『え?何が?』


俺、仇をとってやれなかった。


『仇をとってってお願いした事はないかも』

そうだったな。

俺が勝手にやってたんだった。


『とうま。』

ん?




『お疲れ様。』

おう。



コレで死ぬのか。俺は。


死にたくねぇなぁ…


もうこれで、復讐も、笑うことも哀しむ事も怒ることも楽しい事も、


…感動することも、もう無いんだな。


もし、これで奇跡的に助けが来たとしたら、その時はもう一度感動できるんだろうけど。



「…もし、今から俺をとてつもなく感動させる奴がいたら、俺はそいつと結婚したいぐらいだな」



呟いてみる。










「えっホント?」


…ああ?


随分聞き慣れた高い声で、ここには居ないハズの声。


ひゃあ!と歓喜が頭の上から聞こえる。


「やったー!」


「…ああ?」


重い瞼をなんとかこじ開ける。





「おはよっ!上条ちゃんっ!」


満面の笑顔で覗き込んでるのは、サローニャだった。


俺はもう万力台に固定されていなかった。


部屋は変わってない。


「…死んだんじゃ、なかったのかよ」


「上条ちゃんと結婚するまでサローニャちゃんは死なないもんっ!」


更ににっこり笑って。


「そんな事よりさ!」


何かへの期待をたくさん詰め込んだ声色で。







「助けに来たぜ」


「感動した?」




…ああ、腕があれば抱きしめてキスしてたな。



結婚はしないけど。



今回はここまで。あともうちょっと。もうちょっとで終わる…!



「とりあえずここから出よっか」

「ああ。そうだな」


そうとも。一刻も早く。

出来ればもう2度とこの部屋に入るのはごめんだ。

よいしょ、と。つい、いつものように体を動かそうとして、ゴタンッと倒れて気づいた。


「…悪い。起こしてくれるか?さすがの上条さんも両腕ない状態ってのは初めてなんだよ」

「うん。わかった」


うんしょうんしょ!と可愛らしい掛け声でサローニャが俺の体を動かしてくれる。

…つーか、また止血されてるな。雑だけど。


優しいのか冷酷なのかどっちなんだ俺の旧友は。




「あっよーいっしょーっとぉー!!」


あがッッッッッ?!


イでててテテ!!サローニャてめぇ傷口には触んなよな!


「おわぁっ!?ごめんごめん!」


えっちらおっちらと部屋を出る。


…廊下、誰も居ないな。


「…つーか、お前、俺の両腕が無いことに何か思うところは無いのかよ」


普通は最初につっこむとか心配とかするよな?


「別に?腕が無くても足がもげても、上条ちゃんは上条ちゃんだし」

そーですか。

「”令嬢”の拷問用ビルに連れ込まれて五体満足無事で居られるとも思えませんでしたし?」


それもそうだな。



「こんなお仕事ちゃんしてるからね。生憎サローニャちゃんはそーゆーのは麻痺しちゃってんの。」


「命があっただけマシマシちゃんさ」



「私ね、上条ちゃんが生きててくれればそれでいいよ。」




「腕が無けりゃお前を撫でる事も仕事も出来ないのにか?」

「して欲しい事をしてくれない、最低限の仕事が出来ない無能に側ににいる資格なんてねぇだろ」

「して欲しいことをしてくれない、出来ないヤツは、邪魔になるだけだろ。」

「仕事だけの関係の人ならね。」

「けどさ、」

「自分にとって好意的に思える人なら。無能でも生きててもいい権利ぐらいはあるでしょ?」

「それに私が上条ちゃんを慕うのは『撫でてくれるから』とか『仕事できるから』とか』

「そーゆー直接的な理由じゃーござーやせんのでね。」

「上条ちゃんだから、上条ちゃんがしてくれるからその行為に価値が出るんでしょー」

「上条ちゃんだってさ、もしインデックスちゃんが生きてて、腕が取れちゃったとしても見捨てないでしょ?」

「…大丈夫だよ。心配しないで。」




「上条ちゃんがおじいちゃんになっても。これからずっと腕が取れちゃった上条ちゃんはサローニャちゃんが介護してあげるから」

「…それされるぐらいなら義手でもなんでも着けるっての」





ああ、そう言えば。

「ところで、青髪ピアスのヤツはどうした?」

「青髪ピアス?」

「…”令嬢”の社長の事だよ。青髪でピアスしてるヤツ。」

「あーあの人が?あの人なら部屋出てくとこは見たよ」

「なんかね、『かー…なんやねんアイツ…ほんまつっかえへんなーボクの仕事増やすなや』って言ってたから会社ちゃんに戻ったんじゃにゃい?」


ザマァ。どうぞそのまま苦しんでくれ。出来れば荒事に巻き込まれて両腕取れちゃってくれ。



「そういえばお前…どうやってここまで来たんだ?」

「見張りとか居なかったのかよ」

「蹴り倒した。」

「…強いな、お前。」

「これでも殺し屋ちゃんですから」


前から思ってたけど…そのドヤァ顔、クセなのか?



「あとさ、電話口で聞いただけだけどお前”スズメバチ”にやられたんじゃなかったのか?」

「あーアレ?」

「確かに襲われたけど、速攻で蹴り倒した」

「…強いな、お前」

「んでね、”スズメバチ”蹴り倒した後にね?雇い主とか関係とか計画とか吐かせてね、電話させて演技するように脅したの」

「そしたら敵側を油断させられるし、上条ちゃん捕まってるの知ってたから助けにいくチャンスも生まれるかなって」

「…有能だな。お前。」

「期待以上の仕事をしてくれる部下を持って幸せだよ上条さんは。」



「やーん。嬉しいからもっと誉めてー」


腕があったら撫でてやったんだけどな。


「唇は無事でしょ?ちゅーしてくれてもいーんだぜ?」


面倒くさいので遮るように話を変える。


「それにしても”スズメバチ”に狙われてよく無事だったな」

「確か毒で殺すヤツだろ、確か」

「うん。けっこー死ぬかと思った」

「しかもね、スズメバチの他にもう1人殺し屋が隠れて居てさ」

「マジかよ。誰だ?呼び名は?」

「”自殺屋”。コードネームは”鯨”。」

「クジラ?そいつも億クラスのヤツじゃねーか」

「むふー!すごいでしょ?すごいでしょ?褒めて褒めて?」

「”自殺屋”に直接戦闘力はなかったんじゃないのか?」

「精神系能力者で、能力使ってお偉いさんの政治を邪魔する記者とか秘書とか警察とかライバルの子供を自殺させるって奴だろ」

「そうそ。なんかね、戦闘前にその能力使われて。んでね、間一髪で情報屋ちゃんからの電話で正気に戻れて」

「そしたらスズメバチに襲われる寸前でさ、蹴り倒した」

「隠れてた”鯨”も蹴り倒した。」

「お前ホント強いな」

「ホント危なかったよ」



少し笑って、視界がグラついた。

…なんだ?


徐々に、徐々にではあるけど


どんどん体から力が抜けてってるのはなんでだ?


おかしいな、止血だって、してあ…




……ああ、そうか。



「そういや、お前怒ってたんじゃなかったのか?」

「別に。怒ってたんじゃなくて拗ねてただけだし」

「そりゃ良かった。お姫様の機嫌は治ったのか」

「そーゆー言い方はやめて。」

「本気で居なくなってやろうかなって思ったけど、上条ちゃん居なくなっちゃったら私生きていけないって気づいただけ」

「そうかよ」



…けど悪いな。


俺、たぶんもうすぐ死ぬんだよ。

どうする?俺本気で居なくなっちゃうらしいぜ。




人間の失血による致死量ってのは…確か2分の1で、3分の1で自力で立てなくなる危険域量だ。


それで、俺は今両腕とも無くなってる。


おまけに血が徐々に、徐々に滲みでてる。


サローニャは元々治癒術式を使えないし、この近くに病院は無いし、今すぐ延命措置できるとも思えん。


…ビルに戻ったら医療器具ぐらいあるか?


頭が、少しづつ動かなくなってきてる。


マズイ。いつ意識が消えるかもわからない。


ああ、俺、死ぬのか。


今まで散々、何度も何度もそんな思いしてきてなんとか生き延びてきたけど、たぶんもうこればっかりは。



死ぬな。ああ。

それくらいのことは分かる。

今までの本気で死ぬと思ってきたのは死ぬ死ぬ詐欺みたいなモンだったな。

ついに俺の番が来たってわけか。


でも、怖ぇな。今度、寝たら起きねぇんだぜ。


寝たらおしまいだ。


あれだよ、俺はもう『ああ、眠いな。二度寝したいな』なんて気持ちは味わえねぇんだぜ。切なくねぇか。


なのにな、なんでだろうな?


いざさぁ死ぬぜってなると不思議と悪い気はしない。


全てが透明な世界にいるような気分だ。



現実を見れば酷いモンなのにな。


十年越しにようやく仇がわかったってのにそいつは旧友で。


その旧友は俺の両腕を輪切りにしやがった。


そのせいで俺は死ぬ。


信頼してた仕事仲間には嵌められて。


仇のアイツはこれからものうのうと生き続けて。


たぶん仕事終わりには酒と女で自分を癒すんだろう。


いや、案外もう仕事ほっぽらかして女とベッドでテレビでも見てんのかも。


俺はこのまま死ぬってのにな。ちくしょう。




現実なんてこんなもんだ。



仇を殺せもせず、何一つ上手くはいかず。


もしここ数日の出来事をSSにしたっていつも以上にクソつまんねーモンしか出来ないんだろう。


カタルシスもなく、全体的に中途半端で、モヤモヤした物語。

しかも最後は死ネタかよ。


ああでも。かろうじて救いがあるとするなら…


最後に長年探し続けた犯人がわかって、そいつの、旧友の本心を聞けたのは良かったかもしれない。

少しスッキリした。


ああ、あともう一つ。


「上条ちゃん大丈夫?今すぐなるべく近い闇医師ちゃんとこに連れてってあげるからね?もうちょっと辛抱してね」


今際の際に、気の置けない信頼できる人間が隣に居てくれる事か。



「それで、これからどうする?」

これから?


「ほら、まずはお医者ちゃんだけど」

「犯人。わかったんでしょ。」


ああ。


「積年の恨みってヤツ。晴らしにいかないの?」

「あっ、でもその腕じゃ厳しいよね。サローニャちゃんが殺ってあげよっか?」


いいよ、もう。

なんか…どうでも良くなった。

あんな奴のために貴重な人生の残り時間を消費させるのもバカらしい。

サローニャに『俺が死んだ後は何があってもあいつをボコッて殺してくれ。復讐してくれ』なんて頼む気もしない。


将来有望な奴の時間が勿体無いわ。






「復讐してあげよっか?」

「要らねぇよ。インデックス殺しの復讐は、俺の人生の持ち物であって、お前のモンじゃねぇし」

「お前、俺がこのまま死んだ後に復讐なんてするなよ。しなくていいとかじゃねぇぞ。『するな』だ。」

「ええー…ホントにいいの?」

「インデックス曰く、『懺悔したら主は赦してくれるんだよ』だ」

「俺は神様じゃないから赦さないし憎むけどな」

「ぷっ。なにそれ」

「とにかく、復讐はしないってことだ」







コイツには俺みたいにならないで欲しい。


…これは何情なんだろうな。


25年生きてきても知らなかった感情だ。


ふと、思う。


俺とサローニャは親子でも義兄弟でも恋人でも、友人でもない。

俺達の関係を示す言葉は同僚、相棒、上司と部下だ。


最初出会った時だって、何をしたらいいかわからないアイツに生き方を提案して、産まれたばかりの雛鳥のような感情を利用しただけ。


4年と半年を一緒に居たと言っても、長い人生から見れば酷く刹那的なモノだ。




けれど。



それでも、曲がりなりにも共に4年と半年を共にいた。


共に生きて、共に仕事をし、共に寝た。


サローニャは俺によく尽くしてくれた。

よく、愛してくれた。

見て見ぬふりを貫いてきたけれど。


…けど、俺はサローニャに何かしてやれただろうか?


せいぜい生きる目的と仕事を斡旋してやったくらいだ。



復讐のために利用してきただけだ。


…こんなサイテーな俺でも、最後くらい、彼女に何かしてやれる事はないだろうか。



サローニャ・A・イリヴィカという少女と4年半関わり、愛情を寄せられた大人として、


最後くらい、恥ずかしくないことを、して、やりたい。


俺にとっては足掻いてみたものの何も変えられなかった4年半だけど、


サローニャにとっては、『これから人生を始めるための4年半』だった。


未来、そう思ってもらえるような。



…最後ぐらい、格好つけなきゃな。



大人が格好良かったらな、子供はグレねぇんだ。



そうだろ?





何がいいだろうか。コイツの好みってわかんねぇんだよな。

生憎何かあげられる物もないし。


じゃあ…物品じゃなくて、せめて心に残るような、贈り物のようなものをーーーーーーーー




「…なぁ…」

「なぁに?」

「お前さ…何かやりたい事あるか」

「へ?」

「近い将来でも、遠い将来、どっちでもいい。」

「お前のやりたい事って…なんだ?」

「急にどうしたの?」

「何か変だよ。それよりもまずは治療!それからおうち!あとはお仕事の完遂!でしょ?」

「いいから。妄想の域の話でも構わないから」

「えー…?うーん…」

サローニャが唇に人差し指を添えて考えだす。


「そりゃあ、やっぱり上条ちゃんと結婚したい。いっぱいちゅーしたい」


うん、これしかないよねと断言するように頷く。



「んでね、学校とかも行ってみたいかな。友達作るの」


「今回の件でね、私もお友達ちゃん欲しいなーって思ってさ」


「そうか…」

「あとね、あとね…」


思わず笑みが零れる。


なんだ、お前意外とけっこうあるんだな。やってみたい事。




ーーーーーーーーーーーーーーーーよし。贈り物が決まった。





悪いな。インデックス。



俺、お前との婚約、破棄するよ。


けど、『誰かの幸せのため』だったら、許してくれるよな?

きっと、『とうまはやっぱりとうまなんだね』ってため息ついてさ。


「わかった。」

「え?」



「結婚。しよう。サローニャ。こんな俺で良かったら結婚してくれよ」



「ホント!?」

「ああ」

「うわーぁあい!!やったー!!!」


ああ、バカおまっ耳元で叫ぶな叫ぶな。

ただでさえ満身創痍なんだ、余計に鼓膜までケガしたくねぇよ。


「あ、でもでもサローニャちゃんはまだ15才ちゃんなんで…」

「ああ。だからな、」






「1年後。お前が結婚出来るようになるまで俺の死を隠せ」

「死、ーーーーーーーーえ?」



「”劇団”。知ってるだろ?」

「大金積んで頼めばどんなイリーガルな事でも秘密は守るし、どんな人間でもどんな役でも演じてくれるグループ業者だ」

「俺の貯金を全部くれてやるから、お前さ、その金でそいつらに依頼しろよ。」

「『1年間、上条当麻が生存しているように見せかけてくれ』ってな」

「それで…1年後に、俺の書く所も偽造して婚姻届出してこい。」

「何、言ってるの?上条ちゃん」

「そうすりゃ、外国国籍のお前も日本国籍を取得出来る」

「そしたら、身分が証明できるから健康保険も加入できる。お前の印鑑が持てる。学校にも通える。」

「この街を出て、過去を隠せば真っ当に生きていける。」

「このドブ沼みたいな俺の人生から抜け出して、お前の人生を生きられる。」

「な、にを?」

「良かったじゃねぇか。やりたい事全部できるぞ。殺し屋辞めて友達いっぱい作れよ。」


「何言ってんの?イヤだよ。そこに上条ちゃんが居なかったら、ーーーーーーーーーーーーーーーー」


「ーーーーーーーーーーーーーーーーー、ーーーーーーーー。ーーーーーーーーー」



ああ…ヤバイ。もうサローニャの声すらまともに聞こえなくなってきた。






振り絞れ。





上条当麻の最後の言葉を。






「サローニャ」

『ーーーー』

「お前、生きろよ。」

『ーーーーーー!ーーーーーーーー!!』

「誰かに、殺されるな。自分から、死のうとはするな。もう、殺すな。」


『ーーーーーーーー!!』


「インデックスよりも、お前を愛している。」


『 』


「だから、生きろよお前。生きてるみたいに、生きろ。」


「これから先、めちゃくちゃ辛い事多いけど」


「前へ進め。何があっても、負けずに、」







「ーーーーーーーーーーーーーーーー生き残れ。」


『ーーーーーーーーーーーーーーーー!』












…だから、もう、何言ってるかわかんねぇんだって。






視界が回転する。




俺は倒れたらしい。







一瞬、最後に透明感のある空が見えた。






だめでせう


とまりませんな


がぶがぶ湧いてゐるですからな


ゆふべからねむらず

血も出つづけなもんですから

血がでてゐるにかゝはらず

こんなにのんきで

苦しくないのは


魂魄なかばからだを


はなれたのですかな





たゞどうも血のために


それを云へないがひどいです





あなたの方からみたら


ずゐぶんさんたんたるけしきでせうが


わたくしから見えるのは



やっぱりきれいな青ぞらと



すきとほった風ばかりです。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー宮沢賢治:詩『眼にて云ふ』


今回はここまで。あとエピローグ的なのとかおまけとかで終わり

乙です。刀夜パパと詩菜ママはさぞ悲しむでせうな

ところでサローニャちゃんはどうやって日本語を覚えたのですか


>>579
禁書世界では公式で『現実世界での英語以上に日本語が世界共通の公用語になっている』という設定があるのとアンジェレネちゃんやアニェーゼ、サーシャちゃん、クランスくん、リンディ・ブルーシェイクちゃんなんかの幼子ですらびっくりするぐらい日本語ペッラペラなのでたぶん学校とかご自宅で習ったんじゃねぇかなぁって思うまふでふハイ。


投下。






の前に訂正。

>>60
守る役目は僕ではない男に取られたが…それでも見守ろうとしていたのにり×
守る役目は僕ではない男に取られたが…それでも見守ろうとしていたのに。○

>>114
サローニャ「ねぇ…もういいでしょ?サローニャにちゃんも眠いのぉ…」×
サローニャ「ねぇ…もういいでしょ?サローニャちゃんも眠いのぉ…」 ○

>>136
「ああ。新しい後ろ盾翌用意とか×
「ああ。新しい後ろ盾用意とか○
>>269
重複。このレスは無し。

>>294
報復金額×
報酬○


投下。








          蜜
          蟻







ーーーーーーーー上条当麻の死から2年後。




ビル地下のアダルトショップの奥の部屋。


そう聞くと何かいやらしいエッチなモノがそこにあるのではと想像をする人は多いのだけど


「どうぞ。」


残念ながらそこにあるのは事務室兼応接室なのよねえ。


「ありがとさん」

「ごめんなさいね。あまり良いコーヒーじゃないのだけれど」

「ええてええて。ボク、コーヒーは飲めればなんでもええ派やから」


目の前にいるのは”令嬢”の社長。

今や学園都市統括理事会のメンバーの一人。

もっとも、統括理事長も彼の息がかかった人間にすげ替えられたのだから実質彼こそがこの街の支配者だ。


学園都市裏の王。






この街で彼に逆らえる人間は、彼が『どういう立場の人間か』というのを知らない人間だけでしょうね。

そして、彼に逆らった人間がどうなるかを知らない人間。


「お金はええねぇ。世の中の大半はコイツで買える。」

「”清き一票”も、宣伝する権利も、自分に都合がええルールを作る事も」

「気に入らんヤツはリアル、ネット問わずに排除できるしなんでも好きな事を好きなだけできる」

「今までボクはルールを作る人に依怙贔屓してもらう人間やったけど」

「今のボクにその必要はもうあらへん」

「藤原道長はきっとこういう気持ちやったんやねぇ?」


…世の中は全て”ルール”で動いている。


そのルールを作るのは偉い人で、



彼はそのルールを作る偉い人になった。





トゥルル。トゥルル。


「あ、ゴメンな?ちょっと出させて。…ハイハイどしたー?」

「…」

「はぁ?今日休む?理由は?…風邪?…ハイハイわかったわかった。よーあったくして寝とくんやでー」

「ほなね」

「…部下の方?」

「せやで。今年の新卒や」


普通、新卒が社長にかけるかしら?



「そいつな、ちょっと便利な能力持ちやからボクがそいつの直属の上司になっとるんよ」

「けど今の奴、別に鼻声やなかったし声質も辛そうやなかった」

「アレやね。社会人一年目とかでよくある『あ~寝坊した~遅刻してもうた~もう今から行ってもアレやし今日休んだろ!』パターンやと思うわ」

「よく御存知ね」

「そらぁ何度も何度も経験しとったらね。つーかね、そういう事しよる奴に言ったりたいけど」



「『どんだけ遅れても構わんから絶対ちゃんと会社来い』やわ」



…始まった。この手の会話の始まりはほぼ必ず愚痴になる。



「そいつが来ぉへん場合、そいつがやるはずやった仕事は誰かが代わりにやらなあかんくなるのは当然やし」

「繰り返せば社内でのお前自身の評価もガンガンに下がって将来出世にも響くし、その休みのために有給使うんやったら後で困るんはお前やぞ?って話やわ」

「…具体的にどう困るかは身をもって体験したらええと思うけどな」

「けど推測くらいはできるはずやろうに…わからへんのやろなぁ。今の子が考えるのは”今の自分”のことばっかや」

「未来の自分や会社そのもの、上司や同僚の事考えるとか…会社に属することの意味とか何一つわかっとらへん。」

「社会人になったっちゅーその実感がまだないんやろうからしゃーないんやろうけど」



「大変ね」

「大変やで?」



ぷひーとため息をついて彼は話を続ける。





「あとはコレも最近多いんやけど、『私、辞めます』って時な?若い子って変に法知識ばっか知っとるから権利ばっか主張してくるんや」

「『あんな?お前のその主張するちょっとした権利を守ったるために色んな奴が犠牲になっとるんやからな?その犠牲の上で作られとる事忘れんなや?』やわ」

「ええよ?そら認められとる、守らなあかん権利やもん。使えばええよ?」

「ただ、いずれ残る方の立場になればわかるで?」

「いやね?そらぁまぁもちろん『どう考えても理に叶わない頭がおかしい内部運用するバカ上司』とか、過酷過ぎる労働環境とか、『法律ガン無視社内規則』とか非合理的なイカレたアホ慣習やっとる会社は多いで?」



非合法会社の長が何か言ってるわあ。



「ほんまにそんな会社やったらささっと逃げなあかんよ?最悪失業手当出んくってもな」


「けどウチは義務内容は違法でガチ犯罪でギンギンのブラックでも社員に対しては超ホワイトやで?全部守っとるもん」




「まあ、一個しかない体や心を壊したらもうアカンのやからそうなる前に手を打って大事にするんは当たり前やけど」


「当たり前やけども、や。」


「単に『どんなにつまらなくてもその仕事をやり続ける』忍耐力がないだけとか、ガチで協調性ないだけとか、求められてる仕事をキッチリやらんくせに権利ばっか主張すんのは違うからな?」

「こっちは金払っとるんやで?最悪もらう金の分くらいの利益産む働きをしてから言ってくれや」

「もらえる金が少ない?『君がこの会社選んだんやで?』『そういう所にしかいけへん程度の人間が君なんやで?』『嫌なら君にもっと金払ってくれるとこに行けば?君の自由やで?』やわ」

「ついでに、『君らの親はそういう色んな耐え難い事を君らのために耐え抜いて、その金で君を育てたんやで?』とも言ったりたいわぁ」


「これは持論やけど、『どんな仕事でも”最初の一年間”は絶対めちゃくちゃ辛い』。」


「仕事をまだ覚えてへんし、やり始めたばっかの奴が世の中から求められとるハイクオリティな仕事を出来るわけあれへんし、怒られ続けて理不尽な事に塗れながら慣れてへん事を強いられ続けるんやから」




「それでも逃げたらあかんのよ。一度入ったんならな」







「2~3年以内ですぐ辞める奴に次の会社なんてあらへん。」

「あ、『まともで好条件の会社』な?労働条件クソなトコやちょっとキツイとこやまぁまぁ普通の会社とか変なトコやったらいっぱいあるから」

「ハロワのヤツでもネットの奴も『他の会社どんなんあるんかな』って色々見た事あるけど、条件とかよーく見ると『嘘じゃないけどほとんどウソ』みたいなのとか平気であるから」

「だから『仮に辞めるとしても次に活かすためにこの会社で身につけられるスキルを得るために3年は働かなあかん』って皆歯をくいしばるんやで?」

「けど、そーゆーんがわからへんのやろなぁ。ワガママと甘い考えと文句ばっかりや」


「こっちはお前が辞めた後の穴をなるべく周りに軋轢産まんように必死に埋めなあかんくなるのにな」

「こっちの事も考えてくれや」



まだ終わらないのかしら?




「蜜蟻さんはええなぁ。自営業やし精神系能力もあるからなんとでもできるし、部下の責任もとらんでええし、人心掌握のための付き合いとかいらへんやろ?」

「ええまぁ」



自営業は自営業で色々あるのだけどね。

主に『全てに於いて自己責任』という面で。

あらゆる面での会社が保証、負担、肩代わりしてくれるもの全部自分でやるんだもの。


「ボクなんてどんなに普通以上に尽くして許して、奢って優しくしてワガママ聞いたって気にかけたっても部下からは『そんなの当たり前』やし」

「挙げ句の果てには大体恩を仇で返しよるから部下ってキライやわ」

(それって単にあなたが付き合い方が下手くそなんじゃなくて?)

「あ、ちなみに仇で返されるってアレな?ボクにとって代わろうとするんよ。優秀な奴ほど比例してな」

「あとは…フランチャイズタイプでの独立とかな。なんであいつらはアホのくせにボクのケツの下で一生這いつくばってるぐらいの事ができへんのやろな?」


まず間違いなくあなたのそういうところが大きな要因だと思うけど


「いや別にボクに問題あるわけやないと思うで?」

(読まれた)

「恩は仇で返されるけど、辞めてく人間はほとんどおれへんからな」

「へぇ?それはすごいわね」


それだけは素直にそう思う。

今はどこも採用難だし、せっかく入社しても長く続かない人も多いもの。

『辞めていく人間が少ない』ってことは、

上司の人格に問題はあっても会社運営とか人心掌握、部下の労働環境を良好に保つ腕はいいって事だもの。


「まぁ、『勤めて数年で死ぬ奴も多いから”辞めて消えていける人間”が少ない』ってのもあるんやけどね」

「あと『このヤバイ会社から身を守って学園都市で生きていく一番の方法は社員で居続ける事と気づかせる』とかな」


でろっと舌を出してケタケタ笑う。


彼のこの笑い方は見てて気持ちのいいものではないわねえ。

キモい。キモすぎるわあ。トカゲとか、爬虫類を連想するもの。


「やから社員には困っとらん。」

「すごいわね」

「勝手に来るヤツも多いけど、スカウトで入る奴もおるしな」


ハイハイ。別に聞いてないわあ?




「どこの国でもどこの社会でもそうやけど」

「”落ちこぼれ”とかな、”はみ出し者”とか、”社会不適合者”」



「…って、『思いこんどる奴』はどこでもいっぱいおるんや」



「心が弱っとるとなぁ?だんだん自分の悪いとこや不安な未来とか、行動しない為の理由とか、”自分が持っとらん何か”をばっか見るようになるんや」

「アホやろー?『別に世の中”お前程度の人間”ばっかやって。お前は劣等感持ってええほどダメ人間ちゃうからな?悪いけどお前全然普通やから!寧ろいい方だから!』」

「とか思うわ。けど、そういうのは言ってくれる大人やそういうレベルの友達おらんと気づけんくなる」

「そこをな?ちょーっとつけこむんや。『大丈夫やで?君みたいな子がいっぱいおるとこ連れてったるな?』って言ってな?」


「『お前はダメなヤツや。でも、そういう奴でも生きなあかん。』」

「『で、キミみたいにな、生きたいのに生きられへん”生きたがり”はおっても”死にたがり”はあんまおらへんのや』」

「『ボクな?そういう可哀想な奴を拾って、生きていける場所を提供しとったるんや。どや?ボク、めっちゃええ奴やろ?ボクんとここーへん?』ってな?」


「非常に都合がええ事にこの街は親元離れが前提の、精神的に未熟な思春期真っ盛りな子供ばっかしかおれへん街や」


「真っ当な道歩いとる優秀な子は堕とすの超楽やでぇ?ドラッグでもセックス遊びでも酒タバコギャンブル…なんでもええ。直接的な”快楽”を教えたればすぐ転びよる」


「心理誘導するだけでもええし、ちょこっと周りをイジッたるだけでおもろいように悪い道に転がりよる」

「精神未熟なお子様ほど『もう後戻りできへん』って思わせるのはすごーく簡単や」


一拍おいて。



「…極端な話、とんでもない過ち犯してもな?」

「この国において生きていこうとする限りは、死なへん限りはなんぼでも人生やり直せるもんや」

「無論、失敗した分の埋め合わせとかはうまくやる必要はあるけども」

「高望みしすぎん限りはリカバリーなんて幾らでもできる。」

「けど、そーゆーんもわからへんのやなぁ。『1回失敗したらもう生きられない』って勘違いする。それを教えてくれる大人がおらへん」


「かつてアレイスターが『この実験場で非道な実験が効率よく、行い易いように』って主旨でこうしたんやけども」

「いやぁ助かるわぁ~ボクみたいなヤツにはパラダイスや。うまーく飯のタネになるモンとその運用サイクルがつくれる街にしてくれたんやから」

「そうね」


早く本題に入ってくれないかしら?

けど怒らせたら不味いわよねえ?




「ヒヒ。憎まれっ子世にはばかる。ボクを憎い、嫌い、『小悪党』だの『鬼畜』だの『ドクズ』だの…まぁ他にも色々言う奴は多いで?けどな?」


「『ほんなら、それ言う君はボクより成功しとるん?』って聞いたりたいわ」



「ええよ?別に。ボクより成功しとるんやったら。ボクより出来るんやったらな。」

「是非勉強させてもらいたいしどうぞ非難してください?や」

「せやけどおかしいよなぁ?そうやって非難する奴に限って何もできへんやらへん奴か、大抵大した事あらへん奴ばっかや」


「『何も出来へん君と、社長のボク。どっちが正しいんやろね?』ってな。」


「物事万事、勝った方とか最終的に生き残る奴の方が正しいんやで?」


「つまり、グチャグチャうるさい奴は自己肯定に必死で、嫉妬と『すっぱい葡萄』、負け犬の遠吠えってことや。周りからもそう思われるのに恥ずかしい思わへんのかねぇ?」


ひひひひ、と笑ってコーヒーに手をつけ始める。


「え?別にボク普通の事言っとるよね?」

「そうね」


早く終わらないかしら。

正直、話は半分も聞いてなかったしどうでもいいわあ。

高田順次さん曰く、歳とったら『自慢話』と『昔話』と『説教』はやっちゃいけないのよう?





「でな?この前ボクにケンカ売った身の程知らずのアホがおったから逆さ吊りにしてリンチして焼却炉で温めたったんや」

「酷いんやでそいつ。ボクんとこで『会社立て直すのに必要だから2億借して。』って言いよるから」


「『ええよ?てーか2億でも足りへんのやろ?他も貸してくれへんやろ?そしたらウチも回収できへんから5億貸したる。利子もつけへん。それで立て直しぃ?」

「その代わり、もし期日までに返せんかったらあんたを含めたお宅の家族全員の命はないでー』」


「で契約。んで、案の定『すみません、返せません』」

「『まさか本当に有言実行はしないだろう』って高を括っとったんやろうねぇ?」

「やるに決まっとるやん。契約はきちっと履行せなね?」

「ほら、最近まだ寒いやろ?あったくして寝てもらわんとな?」

「で、殺し屋と人体解体屋雇ってそいつんちの全財産の差し押さえ&臓器摘出御家族皆殺しパーリィや」

「いやぁー娘さん傑作やったわー」

「『なんで私たちが死ななきゃいけないんですか!?』ぁ!?」

「そんで言うたった。『報復だよ。彼は影で何百人も殺し、騙し、犯し、盗んだんだ。君の父親は最低のドクズだからだよ』」

「その子大泣きしとったわ。痛い痛い言いながら裏切られた気持ちいっぱいで死んでったわ」


「まっ、その子に言うたの全部ウッソやっけどー!!くかっ!くははははははハハハハハ!!!」


クズね。ここまでくるといっそ清々しいほどに。


「君のおとーさんはちょろっと金返さずに逃げようとしとっただけやって。あははははは!!!」

「いやーボクってほんまに優しいわぁー!この経営プランじゃ九分九厘返せへんやろうなーってわかってた上で、貸した金も全額回収は不可能ってわかってた上で、5億貸してんやから!」




「アホやなぁ~そもそも金は借りたらあかんねん。ただでさえ大人の借金は返せん事のが多いんやから」


「『金を借りなきゃそれはできへん』って時点でそれはもう諦めなあかんのに。自分の身分を弁えへんからそーなんねん」





彼の物言いは年頃の男の子とかによくある『悪い事する、言うのがかっこいい!』とか、自分を強く見せるための偽悪的な発言のようにも聞こえる。


…そうであったならどれだけ良かったのかしらね。


いきがってる少年の冗談にしか聞こえないわよねえ?


言葉だけなら小悪党で、三文小説とかに出てきそうなすぐ死ぬ中ボス級な悪役のセリフよねえ?



けど彼は”それを本当にやってる”し、心底そう思っている。


そして、残念な事にそんな頭がおかしい彼を止められる人間はどこにも居ない。



「きひっ…ひはひはひはひは。」


気味の悪い笑い声。


人前でこんな笑い声ができるとしたら、キャラを作ってるか…本気でイカレてるかのどちらかよねえ?






悪意の塊。邪悪そのもの。悪魔。…あるいは”木原”?



いえ、もっと相応しい言葉があるわね。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー”魔王”。







もし、彼という人間が作られる際にコンセプトがあったとしたら神様はそんな言葉のモノにしたんじゃないかしらあ?


その魔王を殺す勇者やヒーロー、その類は居ないのだけど。


逆らう事への恐怖だけじゃなくてそもそも倒そうとしない。

彼がいる事で経済が大きく回るから。


学園都市の悪党達にとっては非常に助かるもの。特に下請け業者とかね。


私?申し訳ないけど私もまだ死にたくないのよ。


「あ、ほんでな?ちょっと聞きたいんやけど」

「ええ。何かしら?」


「君、2年前にボクと手を組んだ時。カミやん死んだ言うたよね?」

「…ええ」



…やっと本題かしらあ?




ええ。亡くなったわあ。


あの日、わんわん大泣きして涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしたサローニャが私の所に彼の遺体を持ってきたんだもの。


よく覚えてるわよ。

私自ら確認したわ。

能力も使ってね。


…間違いなく脳死していた。



「そーやんな?絶対死んどるよな?」

「ええ。私が確認したんだもの」

「そーやんな」


彼はほぉー~っとため息をつく。






「ならなんでカミやんからこんなもん届いたんやと思う?」


パンッと音をさせてテーブルに叩きつけられたカードを見る。


『結婚しました。上条当麻・サローニャ』


御丁寧に前文のテンプレと最近の写真付きで。

差出人は


上条当麻で。


「…誰かが彼の名を騙ってるだけだと思うけれど」

「…まあな、現実的に言ったらそうやろうと思うよ?」


「けどなぁ、気になる事もあってん」

「2年前、カミやんの右手輪切りにした時は”竜”が出んかった」

「まさかとは思うけど”復活”とか何かそういうズルイ『その時不思議なことが起こった!』補正でもかかって生き返ったとか」


あり得ないわ。魔神でさえ死者の蘇生は色々と手順や儀式がいるんだもの。

右手は…”竜”が出現する何らかの条件が満たされてなかったからとか。




「じゃあもう一つや」

「ほんならその誰かさんは、なんでボクにだけ言ってきたんやろうな」


青髪にピアスの男は胸元から拳銃を取り出して私に突きつけ続ける。


「わかっとるやろ?今この街でボクにケンカ売るバカなんておらへん」


「もしそんな奴がいるとしたらボクを知らん人間か、何を失ってでもボクに復讐したい恨みがあるとか怒らせたいとか思っとって、」

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「かつ、ボクが昔からカミやんに心底ビビッとる事を知っとる奴だけや」


…そうね。

そういえばあなたはどれだけお金を払ってでも、どれだけ犠牲を出してでも死ぬ気でインデックス殺しの情報を潰してきてたわね。


10年も。


そして、2年前も。

当時、大物を次々暗殺して力と名前を見せつけてきていた上条クンを見て『次はボクの番になるんとちゃうんか』って恐れて。

私に『どうか上条当麻の情報をください』って土下座までするほどだったわね。




「それからボクにカミやんの名前を出す事がどういう事かをよく知っとる奴だけや」

「…ボクは結果的にとはいえ、2年前に君との契約を履行できずにカミやん死なせてしもうた」

「君、ボクを恨んどるやろ?」


ゼロではない事は確かね。


「『死ぬ寸前まで拷問はするが、最終的に蜜蟻の交渉によって”綿”と救出。上条当麻の命だけは助からせる』」

「『ボクが罪を告白して上条当麻の復讐対象をボクに。ダルマ状態の上条当麻を蜜蟻が引き取る』」

「『”綿”は後で何人もの業者で袋叩きにして始末』」

「『その後上条当麻へのボクに関する情報一切をシャットアウトした上で『ボクは死んだ』と聞かせる』」

「『その後、蜜蟻は晴れて復讐対象を失った上条当麻と結ばれる』」

「『ボクは上条当麻への憂さ晴らしとボクに突き立てるための牙を抜く事ができ、』」

「『蜜蟻はカミやんと結ばれる』」


「…これが2年前にボクと君で交わした契約内容。win-winや。ボクと君で作ったシナリオはこうなるはずやった」

「誤算だったのは”綿”が想定していた以上に強く、自殺屋と”スズメバチ”がこのシナリオの半分の情報を吐いてまった事」

「”綿”がボクの部下を蹴散らせるほどに強く、カミやんを救い出してしまった事や」

「おかげで延命措置ができずにカミやんは死んだ」



「これらの事全部を知っとって、かつボクに刃向かえる財力と理由がある人間は1人しか思い当たらへん」


「なあ、」


ガチャリ、と拳銃の撃鉄が唸る。



「テメェしかいねぇだろクソアマって言ってるんだけど」


「…」


本当は標準語で喋るのね。あなた。



「どういうつもりだ?」

「…信じてもらえないかもしれないけど、それ出したのは私じゃないわあ」

「ほぉ?」

「もし私が出すならせめてそのカードに書く新婦の名前欄はどれだけ危険でも私の名前にするもの」

「それにもしも私があなたに復讐をするならこんなバカみたいにケンカ売るような真似はしないわあ」

「最も気が緩むタイミングで奇襲をかけて殺すもの」

「…なるほど?」

ええ。だから銃を下ろしてくれないかしらあ?


「…一応保留にしといたるわ。」


銃口が下ろされる。

ほっ。

「ほな新しく取引しよか。この、新婦の名前欄のサローニャって奴の情報買うわ」


毎度あり。


恨まないでね?サローニャちゃん。


ごめんなさいねえ?仕事なのよ。




「で?誰やねんコイツ」

「…そうね、20万で構わないわ」

「ほーん。えらく安いんやね。ボクの財布ん中のだけで足りるわ」

ほい、これでええか?とテーブルに現金が出される。

「で?」

「本名、サローニャ・A・イリヴィカ。17才。」

「6年前~2年前、”綿”というコードネームで上条事務所専属の殺し屋をやっていたわ」

「写真はコレね」

スマホに入っている”過去から現在の全ての殺し屋の顔ファイル”から彼女の写真を見せる。


「へ?あの億クラスの殺し屋”綿”がこの子なん?」

「ええそうよ。もっともコレは15才当時の写真だけど」

「はぁー…カミやんとこの。まだ生きとったんやねぇ?」

「ええ。今彼女は殺し屋を廃業して学園都市から出たわあ」

「え?学園都市におらへんの?」

「ええ。今はこのカードに書いてある住所に住んでるわね」

「それから…」


サイコメトリーでカードの送り主を確認する。


「…コレ、送り主もまちがいなく彼女ね」

「…どういうつもりなん?この子」

「さあ?私にもサッパリ。」

…さて。どうしたものかしらねえ?

もちろんコレを出したのは本当に私じゃないわあ?

十中八九彼女だと思うわ?

けど…彼女はどういうつもりなのかしら?

宣戦布告でもしたつもり?

もう殺されたいと思ってるとしか。

だって、だって彼女は全部わかってるはずだもの。


当時彼女は”スズメバチ”から社長に関する情報をかなり吐かせたらしいから、社長が彼を恐れていた事も彼の名前で激昂するであろう事だって知ってるはず。


社長が彼の仇だという事も、社長が彼の復讐対象という事も。



現住所から。

上条当麻の名前で。

煽って自分の生存を伝えるような真似をするなんて。


…迎え撃つ自信があると?

そう言う事…よね?

どうやって?

権力も金も技術も人材も潤沢な彼に?

裏社会のボスを敵に回して勝てるとでも?

いかに彼女が元億クラスの要人暗殺請負をやっていた殺し屋だとしても分が悪すぎる。


「…まあええわ。腑に落ちへん事いっぱいあるけどとりま殺しとかんとね」

「この子の情報もっと買うわ。調べて欲しいんはこの子のリアルタイムの行動、言動」

「それからここ一週間の行動。…ええか?」

「ええ。承りました」

「ほな頼むわ」

「ああそれと」

「口止め料も払う。今日ここで話した事全ては他に売らんといてくれ」

「ええ。わかってるわあ」



「君のええところはそうやってプロの仕事をしてくれるトコやね」

「どうも」

「信頼しとるで。ボクはキチンと仕事してくれる奴は好きやし、そういう奴に敬意と金を払う」


「裏切らんといてな」


「…ええ」





・・・・・・・。


社長の携帯に調べ上げたサローニャの情報を送る。



「…結局、私はまた踏み台になってたってことねえ」


メンタルスティンガ-
”心理穿孔”でカードから読み取った映像。



『びっくりするかな』

『だろうな』


彼女だけじゃ、なかった。

どういうわけか、彼の姿があった。



…上条クンの姿が。



…じゃあ、

じゃあ、2年前に見た彼は、


『ぐずっ…!えぐっ、蜜蟻ちゃん…っ!上条ちゃ、がっ!』

『  』


あの時死んだのは



…偽物?


どうやって、いえ…


もしそうなら恐らくあのカードは私に向けてでもあったのね。


社長がアレを受け取れば私に直接確認しにくるだろうと見越して。


見せつけて、遠回しに『お前のやった事も全部知ってるからな』と言うために。


…直接私にカードを出さなかったのは『お前とは話したくもない』という事。


…そう。結婚も私への当てつけかしら?上条クン。

あんなにインデックスインデックスってうるさく言ってたくせに。

なんだかんだで私達はいいビジネスパートナーだったじゃない。

付き合いだって10年よ?

熱い夜だってそれなりにあったでしょう?

あなたが私のこと好きじゃないって分かってたけど。

酷いわあ。


「…何もそこまでする事ないじゃない」


彼をダルマにしてくれと頼んだ私が言える事ではないのだけど。


「…」

なんか…どうでも良くなっちゃったわあ


胸元から護身用の銃を取り出す。


拳銃を口に咥える。


…彼のモノにも幾度となくこういう事したわね。


あの時の彼の熱さを思い出して、舌で銃口を優しく舐ってみる。



死の先にあるものは何なのかしらね?




神父は『天国と地獄がある』と言っていた。

医者は『脳が働かないのだから何も知覚できないので、あるのはひたすら”無”だ』と言っていた。

霊能力者は『幽霊となって現世に留まる』と言っていた。


あの人は、『さあな。死んだらわかるだろ』と言っていた。


   
では、超能力者の私は何と言うのだろうか。



色々と憶測推測が伴うけれど、そうね…



煉獄かしら。



欲しても欲しても、何も手に入らない。



外道な私にお似合いの。



「…せめて、最後に一言くらい話したかったわ」



罵詈雑言でも構わないから。









パァン!!!


















破裂と熱が私の喉奥を貫いた。












             青
             髪
            















アダルトショップから街へ出る。

今日はこの後の仕事、全部部下に投げられるから直帰できそうやな。

車使うまでもないし…そこの茶店行ってのんびりしてから帰ろ。


にしても…




あーほんまに胸糞悪いわ。









なんだって今更カミやんが出てくんのや。


今の気分?


コンビニのバイトでせっかく綺麗にキチンと商品を並べたのにクソ客がグチャグチャにしていきよったみたいな気分やわ。


もう、その話は終わったやんか。


もうボクは怯えんでええと思っとったのに。

隠居すんのやったらすればええわ。


けどボクにわざわざ言わんでええやろ。





怖い。ボクはカミやんが怖い。認める。

10年前…いや、ボクがカミやんを知った時から。

到底勝ち目のない戦いに挑んで平気で生き残る。

死んだのに生き返る。

腕が千切れても致命傷に近い傷を何度負ってもまだ死なへん。

それどころか更に果敢に向かっていくキチガイさ。


そんな奴が裏社会に入った。


けど、正直なトコすぐ死ぬやろうと思っとった。



いくら土御門くんの力添えがあってもカミやんみたいなお人好しで根回しとか苦手でスキルもあらへん奴がそんな裏切りが常の世界で生き残れるはずがない。


やのに。

その恐ろしさは健在で、次々と難しい仕事をこなしていく。




統括理事長を潰した。

当時の超能力者は殆ど消された。

厳重に守られた要人達、統括理事会のメンバー、社長、重鎮、暗部…


魔神未満もその一味も、侵攻してきた魔術師や傭兵も。



全部カミやんトコがやり遂げた。





そらぁ”綿”が多少は強かったってのもあるんやろう。

けど限度がある。いくらなんでも一介の魔術師があーいう一線級の戦力や猛者達を潰せるわけあれへん。


…カミやんの実力や。認めたないけど。


指示、コネ、下準備。部下の管理とマネージメント。

個人経営で、たった2人で。


組織を作ってたくさんの業者や権力者、能力者、研究と関わって大事を成す事の大変さを知ってきたボクやからわかる。



カミやんは、バケモノや。



そんな奴が、ボクを殺そうと虎視眈々と探しとる。

10年、気が気やあらへんかった。

インデックスちゃん殺した事を何千回後悔したかもわからへん。


2年前にようやっと解決した思ったのに。

またか。


まだボクを追いかけよるんか。


最後に会った時に『もう復讐する気が失せた』とか言ってくれたやんか。


…ええ加減にせぇよ。




これ以上まだ関わる気ならボクも本気出すわ。


ボクが使える権力と金、できる事全部で押し潰したる。


まずはカミやんの親からやな。

仕事奪って殺したろ。


学園都市以下の技術しかない外でボクらの凶行は止められへん。


っと、


交差点や。




ハイ。ちゃんと点字ブロックの後ろまで下がって。

事故恐いもんなぁ。


…交通事故の原因No. 1は漫然運転なんやって。


要はボーッとしとるとか、同乗者とのおしゃべりとかナビの声聞いとって~とかで運転に集中してへんって事。

スマホ見ながらとか他ごとで~ってのは脇見運転に分類されて一位とはわけられとるんやけど。


恐ろしいトコはさ、


『それってフツーやないの?』なトコやね


考えてみぃ。同乗者と喋んのもハンズフリーもナビの音声聞くんも普通や。


『他ごとしとって』とかやないんやで?


『不注意だ』で済まされてしまうような理由で。



本当にその超絶『なんでもないような事』だけで死ぬんやで?



けど、そうは言うても集中力なんて人間そんなに持たへん。


精々長くて一時間程度やろ?


そんなんが運転しとるんやで?


そんな”油断”が一番交通事故で人を殺しとる。


どんなに権力持っとっても。どんなに賢くとも。どんなに人望があろうとも。



そんな油断一つで簡単に人は死ぬ。


…何それめっちゃ恐っ。













あー…もうすぐ赤なるな…


そや、茶店でホットケーキでも久しぶりに食べ













トン。
















あ?



視界いっぱいに大型トラック?


は?




いやなんで横断歩道に?ボクちゃんと点字ブロックよりも後ろに、








グシャ。









            サロ
            ーニ
             ャ








学園都市はキライ。



私の故郷も家族も大事な人も死なせた元凶の街だから。



大事な人と出会えた場所でもあるけれど。



…カミサマは意地悪だ。


奪うのならば何故与えたのか。


大事な人がいる事の尊さを教えるためだとでも言うんですかね?





上条ちゃん。上条ちゃん上条ちゃん。


ねぇ、上条ちゃん。


また私一人になっちゃったんだけど。


どうして?

置いてかないでよ。


知ってるでしょ。私は上条ちゃん居ないと寝れないんだよ?


知ってるでしょ?私があなたをどれだけ愛していたのかも。


知ってるでしょー私はまだまだ何にもできないお子ちゃま。


…居なくなるなんて、酷いよ。



なんかね、ぶっちゃけわりとけっこう上条ちゃんの『インデックスガー』は聞き流してたし、


『すっごい好きだったのはわかるけど、彼女を失った心の傷もいつか癒えるだろうし、情がわいて私を好きになってくれるだろう』


とかね、高を括ってたのね?


だってそうでしょ?


じゃなきゃこの世に『元カレ』とか『後妻さん』とか、『再婚』なんて言葉は存在しないもの。



けどさ、私も上条ちゃんを失ってみて初めてわかったよ。


本当に、真実、狂信的に、執着心を持つぐらいに、


死ぬほど愛してたって人が居なくなったら


心の傷は一生癒えないんだ。


次の恋?また新しい出会いがある?


クソ喰らえだよ。


上条ちゃん以上の人なんて居ないもん。

もし仮にそういう出会いがあったとしても痛みは消えないし、寂しさは拭われない。

風化もしなければ心の穴も埋まらない。


いつどんな時でも何をしていても『ひょっとしたらどこかその辺に隠れているんじゃないか』とその姿を探してしまう。



本当に、本当に心底愛していたならば。



「…ぅ」

涙が溢れる。



『あーあー。せっかく俺がやり直すチャンスやったってのに。』

『人の最後の贈り物を足蹴にするような真似すんなよな』

「…死んだ人と結婚なんて虚しいだけじゃん」

『しっかり言いつけ守って”劇団”使って婚姻届出して、ついでに結婚報告カードは出したのにな。』

『上条サローニャちゃんよ』

「…『上条ちゃん』、元気?」

『死んだ奴が元気なワケないだろ』

「それもそうだね」




『俺復讐するなって言っただろ。聞いてなかったのかよ』

「うるさいなぁ『上条ちゃん』は」

『何言ってんだ。こっちだって黙っていたいっての。けどお前が望む以上は永遠に喋らなきゃいけないんだからな』







『何せほら、俺はお前の妄想だからさ』


「…そーね」





『サローニャ、愛してる。インデックスよりも愛してる』

…是非とも生前に本心で聞きたかったお言葉ちゃんですな。

モウソウ
あなたからじゃなくて。


『オイオイ、だからな?これは俺の意思で言ってるわけじゃねぇんだってば』

『お前が心のどっかで望むから出るんだ』

ねぇ『上条ちゃん』

『なんだよ』

上条ちゃんは最後に私に『インデックスよりも愛してる』って言ってくれたけどさ

『ああ言ったな』

アレ絶対ウソでしょ。

『バレたか』


あの上条ちゃんがさ、天地がひっくり返っても、口が裂けても、

それこそ両腕をブッた切られても言うわけないんだよそんなこと。


『だよなぁ。』

『最後のお前へのプレゼントだったんだよ』


余計な気を回しちゃってさ。



…そりゃあ、


嬉しいけど。




『で?殺るのか?』

もち。

『まだ今なら止められるんじゃないのか?』


…上条ちゃんはさ、私に『復讐するな』って言ってたけど


無理。無理だよね。


『俺の遺志ってのは無視されて捨てられるってワケだ』


違うよ。ありがとうって受け止めて、そっと静かにしまっただけ。


『けどなぁ』


あのね?


自分に出来ないこととか自分がやらない事とか、自分がやってきた事を棚に上げてさ?


後輩とか子供とかに『だけどお前はこうしろ!』ってすっごい説得力ないと思うんだよね。


それがどんなに正論でもさ、少なくともその人に言う権利とか『じゃあコイツの言う事聞いとくか』ってのは無くなるんだよ。


他人に何か言いたきゃ『まず自分がそれを実践できてるかどうか』を思い出すべきじゃない?


『そうかもな。でも二の舞になるとか同じ轍を踏むってのもバカバカしいんじゃないか?』

「かもね。でもさ、」

「人間ちゃんは正論だけで動くわけじゃないから。機械ちゃんでも人形ちゃんでもないもの」

「サローニャちゃんはね、サローニャちゃんの意思で、サローニャちゃんの人生の持ち物として、」

「あのクソ野郎に復讐するの。」

「私がそうしたいからそうするの」

「正義とかじゃなくて。ただのエゴで。」

『はぁ…結局上条さんの遺志は無視かよ』




『泣くぞー?お前アレだからな?大人になって『もう年かなぁ?』な上条さんは涙腺緩くなってるからすぐ泣くぞ』

「いいの。上条ちゃんと同じ人生で。」


「ううん…むしろ同じ人生がいい。」

「上条ちゃんがいつでも一緒に居てくれる気がするもの」


「『上条ちゃんも昔こんな感じで、今の私と同じ気持ちだったのかなー』とかさ」

『そーかよ。つまりお前も最終的には両腕を大根みたいに切られて失血死がお望みってわけだな』


「…それでもいいかな。」

『イカレてるな。お前』


「クレイジー上等。これが私の幸せなの」


大人が格好よかったらね、子供はグレないの。


その格好よかった大人の背中をそのまま追うからさ。




『…』

「なぁに?まだ何かあるの?早く消えてよ」

『お前もエグい事するよな』


どの事かな?


彼女にカードが渡る事も見越して”劇団”の人が変装した上条ちゃんと一緒にカードを送った事?

『それも、だな。だが俺が言ったのは殺し屋を雇って”令嬢”の社長を殺した事だよ』

いやいや。それは別にけっこう妥当じゃない?

あんな奴、殺した方が世の中良くなるでしょ?

『さあ?学園都市の悪党事情は変わるんじゃないか?何せ統制と秩序を保って裏社会仕切ってたボスが居なくなるんだから』

「潰し合うでしょ。悪党同士で。だから結果的にも悪人は減るんだからいいじゃない』

『戦国時代に突入するだろって事だよ。いい奴も悪い奴も何人も消えるだろうって事だ』


『…』

…まだ何か?


『綿弓や 琵琶に慰む 竹の奥(わたゆみや びわになぐさむ たけのおく)。』

「何それ」

『松尾芭蕉の俳句。二上山のな、”当麻寺”って所で詠まれた句だ』

「へー」

『お前のコードネームもここからとった』

「…で?」

『”当麻寺”、”綿”。俺たちはなんだかんだでセットなんだなって事』


「こじつけ感ハンパない」

『そうか?』



「でも…ちょっと素敵だよね。」

『素敵、か』

「うん。素敵」




トゥルルル。トゥルルル。


「はい、サローニャちゃんです」

『私。終わった。仕事の証拠写真はメールで送る。』

「あっ、御苦労ちゃんです。”押し屋”さん」


”押し屋”。押して、殺す殺し屋。

電車とか車とか。人混みとかに紛れて標的の背中を押して、殺す。

何故か誰にもその犯行を見られない。誰も追えない。


…最近電車ちゃんの人身事故が不自然に多かったっけ。


押し屋の仕業かもね。


『…できれば。コードネームで呼んでほしい。』

「なんだっけ?」

『…”槿”。むくげと書いて。あさがおと読む。』

「そ。じゃー槿ちゃん。お疲れ様。報酬は指定口座に振り込んどくから」

『わかった。』

「バイバイちゃーん」



ぴっ。と。


ティロン♪

わあグロい。グログロちゃーん。ざまぁー




『で?これからどうするんだ』

「さぁねぇ」

うーん…

「とりあえず高校は卒業するよ。」

『その先は?』

「卒業したら?…学園都市で殺し屋仲介業者でも始めよっかな」

『お前、本気で俺の人生をなぞる気かよ』


それ以外に食べてく術も知らないんでね。


『生き方を作ったり選択肢を知るために学校があるんだぜ?活用しろよ』

「そう?私が学校ちゃん行って思うのは『生きていくのって大変だな』ってことだけど。」

「勉強やキョウチョーセイを教えてくれるでしょ?超メンドイ」

『しっかり勉強しろよ。大人になって高校レベルの問題解けないと将来自分の子供に笑われるぜ』

「そだね。私に子供なんてできるかわからないけど。」


空を見上げて風を仰ぐ。


風が気持ちいい。


そういえば宮沢賢治の詩にもこんなのあったなぁ。




『諸君はこの颯爽たる、諸君の未来圏から吹いて来る、』


「『透明な清潔な風を感じないのか」』





新たな詩人よ

雲から光から嵐から

透明なエネルギーを得て

人と地球によるべき形を暗示せよ
 
新しい時代のコペルニクスよ

余りに重苦しい重力の法則から

この銀河系を解き放て


新たな時代のマルクスよ

これらの盲目な衝動から動く世界を

素晴らしく美しい構成に変へよ


ああ諸君はいま

この颯爽たる諸君の未来圏から吹いて来る

透明な風を感じないのか



「…だいぶ途切れ途切れで抜粋だけど。こんな風だったよねアレ、フルで読むとけっこう長いし」

『宮沢賢治/詩【生徒諸君に寄せる】か。』



「賢治、良い事言うよね。」

『ああ、賢治は良い事言うぜ。何せ賢治だからな』






「未来圏って言葉とか、何か不思議な力を感じるよ」

『偉くてスゲー奴に「これからはお前の時代だ頑張れよ」って言われてるからだろ。』



『頑張れよ、若人』

「『上条ちゃん』だってわりと若人でしょうに」



「…さってと。行きますか」

『ああ、そろそろ屋上も閉まる。下の校門でフロリスとレイヴィニアちゃんが待ってるだろうしな』

「今日ねーカラオケちゃん行くの。」

『良かったな。楽しそうだ』

「何歌おっかな。」




「上条ちゃんは何がいいと思う?」


『…』


「どうしたの上条ちゃん」

『…いや。あー、ロシアの歌はほどほどにな。目新しいがアレ基本的にダウナー基調だから盛り上がらねーだろ』

だね。


『あのさ、』

何?


『知ってると思うけどさ』

「何?」












『お前、頭おかしいぜ。客観的に見たらさっきから誰も居ない所に向かって喋ってるって自分で気づいてるか?』

『上条ちゃんじゃなくて、『上条ちゃん』しか居ないんだからな?」


「何言ってるの?上条ちゃんがそこにいるじゃない」



おしまい。以下おまけ。

というかここまで書いといて言うのもなんだけど




伊坂作品ってこんな感じじゃねーから!!



グラスホッパーも魔王もワルツもその他作品も全然違うから!これの7億倍は爽やかで楽しくて謎と言い回しとキャラがユニークで面白いから是非読んで!


あ、ねーちんとかステイルの電話のくだりのあれこれとかは観測できそうな人間が皆死んだからやりません。

単にあのやり取りが書きたかっただけなので忘れましょう。


~上条事務所~

上条「…」モヘー


ガチャ、

さろーにゃ「おはよーちゃんー」ファ

上条「おはよう」バサッ

さろーにゃ「んー…」トコトコ

さろーにゃ「ぬー」モゾモゾ

さろーにゃ「んー…」チョコン

上条「…なんで新聞読んでる俺の膝の上に潜り込んでくるんだ」

さろーにゃ「新聞ちゃん、そんなに面白い?」

上条「面白くなくてもスマホに入ってくるニュースぐらいはお前も読むだろ。」

上条「ただ、それだけじゃ読み取れない情報も新聞にはあるって事だ」

上条「必要だから読むんだ。それだけだよ」

さろーにゃ「ふーん?例えば?」

上条「興味ない情報とか地域密着な情報とかな」バサッ

さろーにゃ「えー?興味ない情報ちゃんなんて要らなくない?」

上条「物事を多角的、多面的に見るためには様々な知識がいるだろ」

上条「興味ある知識だけで自分を固めちまった奴じゃ判断も人間性も言葉も偏る」

さろーにゃ「ふーん?例えば?」

上条「そうだなぁ」フム

上条「極端な話、漫画やアニメばっか見てるヤツとかモノを書く奴とかが友達と会話する時の口調や言葉がセリフチックになってたりとか」

さろーにゃ「?」

上条「素で『ガクッ!』とか、『~なのであしからず』『~なのだ』『~なのである』『~なのです』とか普通言わないだろ」

上条「でもそういう『おかしい』ってのがわからないんだ。本人には」

上条「そいつはそういう所で生きていて、そういう知識で固めちまったからだ」

上条「『それが異常だ』ってわかんねーんだよ」

さろーにゃ「ふーん?」


上条「あとは…『死んだ後に行くのはどんな所か?』という質問に対して『天国、極楽、黄泉の国のどれか好きな所に』と言える」

さろーにゃ「最後のだけよくわかんないんだけど」

上条「生前にどんな宗教を信仰していても善人は似たような所に行ける。『何々宗教を信仰するのは間違ってる!』って言われてものを知ってるって事だよ」

さろーにゃ「さろーにゃちゃん達みたいな悪人は?」

上条「…さあな。死んでからのお楽しみだ」

さろーにゃ「ふーん…?」

さろーにゃ「あのね上条ちゃん」

上条「んー?」バサッ

さろーにゃ「わたしたちが死んだ後にどこに行くかはわからないけどさ、」



さろーにゃ「わたし、そこでも上条ちゃんと一緒がいいな」

上条「…そうだな」バサッ


さろーにゃ「ほんとに服、買ってくれるの?」チョコチョコチョコ

上条「お前基本的に着たきり雀だからな。見てられんだけだ」スタスタ

さろーにゃ「でも大丈夫?ウチの事務所びんぼーちゃんだし」

上条「バカ。上条さんだって子供服ぐらいは買えらぁ」


~子供服専門店~

店員「いらっしゃいませー」

上条「…」チラッ

「あらかわいい小熊の靴ね」

「いいんじゃないか」

「ねぇこれとかどう思う」

「帽子とかどう?ラッキーとお揃いのにするの。子供がペットとお揃いって可愛いでしょう?」

上条「…」

上条(子供服売り場ってのは他の服屋と空気が違うよな。そんで、完全に場違いだな?俺は)

上条(商品がそもそも小さい上にカラフルな物が多いからか…クソっこういうのは何から見ればいいんだ?)

上条(学園都市で結婚して、学園都市で生きると決めて、学園都市で子供を産む家族ってのは最近多くなった)

上条(故にこういう0~12までくらいの子向けの『家族で来るお店』はかなり増えた)

上条(それに中学上がる前ぐらいの女児用の服はここで買った方がおしゃれで安い)

上条(ーーーーーーーーのはわかる。合理的に考えればここで買うべきだ。わかりますよ?)

上条(けどこの『幸せ家族臭』ってのは未婚男には辛いモンがあるな)

上条(…もしインデックスが生きてたなら俺とどんな会話したんだろうか)


さろーにゃ「ねー上条ちゃん」クイクイ

上条「ん?なんだよ」

さろーにゃ「上条ちゃんはどーいうのが好き?私にどういうの着せたい?」ニコッ

上条「俺はロリコンじゃない。お前が着たいもんを着ろよ」

上条「あ、あとな?お前下着類もロクにないだろ。拠点移動が多いから沢山は持てないけど最低替えパン4つは持っとけ」

上条「返り血とか大怪我隠さなきゃ不味い時とか、どこぞに暫く缶詰潜伏しなきゃいけない状況ってのもありえるからな」

さろーにゃ「…」プクー

上条「…何がご不満でせうか?お嬢さん」

さろーにゃ「およーふくちゃんはお仕事ちゃんの面でも確かに大事だけどさ、」

さろーにゃ「上条ちゃんが可愛いと思う服を着て、上条ちゃんに可愛いと思われたいってのはダメなの?」

上条(面倒くさいな)

さろーにゃ「さろーにゃちゃんは上条ちゃんに服選んでほしいナー?」チラッチラッ

上条「俺には女児の服とかオシャレなんてよくわからん」

上条「変なの選んだりとかお前の趣味に合わなかったらお前も嫌だろ?」

さろーにゃ「いい。それでも選んでほしい」

さろーにゃ「あっ!ねぇねぇ上条ちゃんはフリルのとか好き?」テテテ

上条「…、…ったく」ガシガシ

上条(シングルなパパってのはこういう気持ちなのか?)

さろーにゃ「…私の履くおぱんちゅちゃんも上条ちゃんの好きなのでいいよ?///」

上条「あざといぶりっ子して指咥えてカワイイポーズするな…尻も振るな」


結局、無難なのばっか選んだ。



上条「…」ボスッ

サローニャ「?」

上条「…」ブス-ッ

サローニャ「どしたの?ソファに座るなり仏頂面してさ」

上条「ちょっとな」

サローニャ「ふーん?」

上条「…」

ぎゅ。

サローニャ(?手を握ってきた?)

サローニャ「どしたの?上条ちゃん」

上条「…別に。ちょっとこうしてたいってだけ」

サローニャ「…そっか。」

上条「…」

サローニャ「いいよ。好きなだけサローニャちゃんと手を握ってよ?」ニコッ

上条「悪いな」

サローニャ「私は上条ちゃんに触れてるだけで嬉しいから」

上条「そうかよ」

サローニャ「ふみゅ!?///」トサ。

上条(あ、滑ってソファに押し倒しちまった)

サローニャ「か、上条ちゃん…?///」ドキドキドキドキドキドキ

サローニャ「…///」キュ...!

上条「…何決心した顔してんだ」

サローニャ「いーよ…?若い男女が一緒に暮らしててセックスちゃんの一つもしないなんておかしいもんね?///」

上条「しないって。大人と子供ならおかしくないだろ」

サローニャ「子供扱いしないで」プクゥ

上条「知ってるか?そのセリフが出るのは子供だけだって」

サローニャ「サローニャちゃんはもう子供じゃないんですけど?」

上条「知ってるか?自分の事を『もう子供じゃない』って言うのは子供の証拠だって事」

サローニャ「むー。なんか論拠でもあるの?」

上条「大人になるとな、どれだけ歳食ってもいつまで経っても自分が子供で青二才だって思い知らされ続けるからだ」


・・・・・・。




蜜蟻「それで?上条クンはなんてサローニャちゃんをフッたの?」クスクス

上条「…『上条さんに未成年に手を出す趣味はありません!』」

蜜蟻「そしたら?」

上条「『未成年じゃなかったらいいの?』」

上条「『じゃあ、待つよ。私が大人になるまでの7年間、ずっと上条ちゃんを本気で好きでい続けるから』」

上条「『人の気持ちは不変じゃないし、後々上条ちゃんが死んじゃうか、誰か違う人を好きになっちゃって私の好意と4年間が無意味になったとしても。』」


上条「『私は上条ちゃんの事が好き。愛してる。』」

蜜蟻「随分愛されてるのねえ」

蜜蟻「それで?もし5年経ったら本当に結婚でもするのかしらあ?」

上条「しねぇよ。」

蜜蟻「あら?それなら私とどうかしらあ?」

上条「しねぇよ。」

上条「後にも先にも、俺が愛してるのはインデックスだけだ」

蜜蟻「…そういうのって、愛じゃなくて神聖視とか盲信とか執心っていうんじゃないかしらあ」

上条「かもな」

上条「でも他の奴を好きにはなれなかったし、そういう目では見れなかった」

上条「もう、俺は『そういう生き物なんです』としか説明出来ないんだ」

蜜蟻「難儀な生き物ねえ?あなたって。」


「幻想御手《レベルアッパー》って、知ってる?」

「ああ、数年前にあった能力強度が上がるって奴」

「あたしね、それ使ったんだ」

「へぇ。どうだったの」

「…大した事は出来なかった」

「せいぜい手の中で小さな風が巻き起こるくらいの」

「?でもあなたはレベル0なんでしょ?だったらすごい進歩だと思うけど」

「違うの」

「あたしと同じレベル0や1とか2以上の人が使った場合、目視で観測できるだけでも能力強度が相当上がってた」

「コップを浮かすのが限界ぐらいの風力使い《エアロハンド》が人を一人分浮かせるだけの風を起こせるようになったり」

「量子変速《シンクロトロン》はレベル2から4まで上がった」

「それは…個人差があるってだけじゃ?もしくは、」


彼女が、遮るように振り向いた。

「もしくは、『幻想御手で上がる能力強度数は、元来その人が持っていた潜在的な能力強度の限界値までだったから』…とか?」

「…うん」

「…そう。それはほぼ正解だったんだ」

「幻想御手は脳波ネットワークを使って、音楽を聴いた人達の脳を繋ぎ、並列演算装置にして能力出力を上げる」

「つまり、レベル4~レベル5未満程度の演算能力が得られるという事」

「ただ…それは逆に言えば…それだけの後押しがあっても大した出力を出せない人間は」


「『人並みの才能すらもないクズ』…ってコト」

「そんな卑下しなくても。別に能力なんかで人の価値が決まるわけじゃないし」

「あなたにはわからないよ。能力強度の高さが人間の評価価値に直結するこの街でレベル0がどれだけ馬鹿にされるかなんて」

「それは…確かにわかんないよ。でも、この街の6割はレベル0なんでしょ?」

「だったらそれは普通ってコトじゃないの?」

「違うの…サローニャ。」


彼女の顔から狂気が滲み始めた。


「違ったんだよ。…”普通”って言うのはね、『別にお前じゃなくていい。お前が居てもいなくても変わらない』ってことなんだよ」

「無能の烙印。消耗されていく量産品。もっと出来る人間は沢山いる」

「あたしにはそれが耐えられない。」

「あたしね、友達がいるんだ」

「元レベル5の第三位、レベル4のテレポーター、レベル1のサーマルハンドが」

「ねぇ、そんな交友関係の中にいて劣等感を感じないわけないじゃん!!」

「『皆が出来てる事がどうして出来ないんだろうね』って空気の中に居続けたらわかるよ!!」

「なんであたしだけレベル0なんだよ!!なんであたしだけ!!」

「せめてレベル1になれていたら!せめて友達と同じレベルまでいけていたら!!!」

「でもダメだった!!」

「社会に出てる人間なら多分わかると思うけど!『無能でも生きてるだけでいい』なんて慰めは嘘っぱちだって!」

「無能は罪だよ!自分より仕事出来ない人間の後始末をしたらわかるよ!」

「自分が明らかに人より劣った仕事しか出来なくて、誰かに迷惑をかけ続けたらわかるよ!」

「無能が雇い主側や同僚から自分がどんな風に見られてるか知ったら死にたくなるよ!!!」


「…ああ、あたしも多分ラスコーリニコフと同じだったんだよ」



「あたしはきっと、たくさんの誰かを殺す事で”特別”になりたかったんだ」


「そんで、『ただの人殺し』」


「一つ聞いていい?」

「何?」

「それをやって、あなたは結局何がしたかったの?」

「さあ?ただ、」

「あたしもせめて『みんなとおなじ』になりたかったんだよ」

「…ふーん。」

「それは、不特定多数の人間を不幸にして、害する事になっても?」

「うん。だってさ、自分が幸せにならなきゃ自分の人生に意味なんてないじゃん?」

「他人を踏み台にしなきゃ幸せになれないなら迷わず踏むよ」

「皆そうでしょ?」

「ふーん…」

「まぁわりとけっこーその意見には同意しますけど」

「もし、さ」

「…もしも、あなたの全てが書いてある『あなた』って名前の本があったとして」

「私がそれを読む事ができたとしたらさ、」

「きっと『なんて中身がない本なんだろう』って感想を持つと思うな」


「あんたに何がわかるのよ」


「わかるわけないじゃん」

ナイフを突きつけるサローニャ。


「理解するべき内容が無い物をどうやって理解しろって言うの?」



「ごめんね。それでも私もあなたのこと嫌いじゃないな、好きだなって思うし、むしろ友誼だって感じてるんだけど」


「これも私のお仕事ちゃんなんだ。だから…ごめんね?」


携帯販売員


「私が何したって言うんですか」

「んー…わかんにゃい。でも殺してくれってさ」

「誰が」

「それ言ったらプロじゃないでしょ」

「…携帯売った人の誰かかな」

「命を狙われるような携帯の売り方って逆に気になるんだけど」

「…アレかな、まだこの仕事始めたばっかの時の」

「へー?心当たりあんの?」

「この会社、おかしいんですよ」

「何が?」

「ロクに教育をしないんですよ。携帯販売についての」

「はぁ?じゃあ今までどうやって売ってきたのさ?」

「自分で調べて、ですよ。同僚や先輩、キャリアの方に確認の電話したりネットで検索かけて」

「だから、販売知識とか契約についてとか、言わなきゃいけない事とか…至らないで売ったお客様からとか」

「…ふーん」


「それか…自分が営業マンだからかもしれません」

「営業マンだと何で殺される理由になるの?よっぽどの不良品を売りつけたとか?」

「似たようなものです」

「うわサイアク」

「仕方ないんですよ。売らなきゃいけないんです。」

「例えば、この携帯が死ぬ程ポンコツ携帯って知っていても、この人の使い方には合わない携帯であったとしても。」

「売ると一番会社に利益が出る商品なら売るんです」

「言いくるめて、おだてて、煽って、限定感だして、客と仲良くなって『コイツは信用できる人間だ』と誤認させて。」

「…で、この会社は『とにかく売れれば何しても何でもいい』って会社だから」

「クソみたいな保険とかコンテンツとかつけたり」

「…キャッシュバックも出来るけど、『あ、コイツにはキャッシュバックの話しなくても契約とれるな』って判断したら出さないし」

「そうやって、人に対して誠実でないから。そういうのを知った人が怒ったのかもしれません」

「ふーん」

「でもさ、そんな簡単に買って欲しいものを買わせられるの?」

「場合にはよりますがね。」

「もしも都合よく誰かを動かしたいなら、そいつに余計なことを考える材料を与えちゃダメなんですよ」

「『私はあなたの味方です。あなたのためを想って言いますよ』と感じさせる話し方をして」

「動いて欲しい行動に必要な考えと行動、それから『もうこの件で生じるリスクについては全部考えたな』って思わせるんですよ」

「あとは『これを手に入れれば現状打破できる』『希望』と『明るい未来』が待ってるって説明するだけです」

「そしたら客は、多少高くて要らなくても買っちゃうんですよ」

「ふーん…」


荒らしニート


がちゃ。


サローニャ「こんにちわー♪あなたの性奴隷になりに来ました♪」

ニート「えっ?!///」

ニート(なんだこのエロゲ的展開wwうはwwマジきたコレwww)

サローニャ「ンなわけないじゃん。バッカじゃないの?現実見なよ」

ニート「」

サローニャ「えーと?ゲームかネットかオナニーか。あなたがここ数年してるのはそれぐらいかな」

ニート「それの何が悪いんだよ。殺される程の理由なんてないだろ!」

ニート「…まさか、母ちゃん?」

サローニャ「んなワケないじゃん。私が親なら殺すけどね」

ニート「じゃあ、誰が」

サローニャ「そりゃあ…引きこもりのあなたが他人と関わったり摩擦を起こすなら」

サローニャ「”それ”じゃない?」

ニート「…パソコン?」

サローニャ「ネット。あなた多分掲示板とかで荒らしかなんかでもしたんじゃない?それでお金を持ってる誰かがキレた」

ニート「はぁ!?そんな面倒な事するくらいなら管理人に連絡して焼いてもらうか何かすればいいじゃないか!」

サローニャ「知らないよ。管理人にそういう能力が無いとか、システム的にできないとかあるんじゃないの?」

サローニャ「ま、世の中色んな価値観の人が居るから。で、ネットはそういうヤバい考えの誰かさんにも簡単に繋がっちゃうからさ」

サローニャ「運が悪かったって思うしかないんじゃない?それか己の行為を悔いるとか」

ニート「そんな!見逃してくれよ!あっ、えと…あの、君カワイイよね!」

サローニャ「…キモっ。」

ニート「う…」


サローニャ「あのさぁ、確かに女の子は皆『カワイイ』って言われたら嬉しいよ?」

サローニャ「でも言われる人とか言われるタイミングとかによるし、言われ慣れてる人にはさ、『で?』なんだって」

サローニャ「その『女の子にはとりあえずカワイイって言っとけば顔をあからめて都合良く動かせる』みたいなのやめてもらえます?吐き気がするから」

サローニャ「で?荒らしたの?」

ニート「…荒らしてる…」

サローニャ「ふーん。まぁ暇そうだもんね。もっと有意義な時間と若さを使ったらいいと思うけど」

サローニャ「ちなみになんでそんなバカな事してんの?」

ニート「…なんていうか、生きてるって感じられるから」

ニート「ほら、引きこもってるから…人と会わないし。誰かと話したくなっても、その、話す相手なんて母ちゃんぐらいだし」

ニート「だから、喧嘩相手っていうか。好敵手?みたいな?」

ニート「漫画とかアニメとかでもあるだろ?主人公のライバルとか喧嘩友達みたいな仲間とか…」

ニート「僕の好きな◯◯とか…。えへへ、コレね、 サローニャ「あ、うん興味ないし聞きたくないから黙ってくれる?」

ニート「…そういう奴等と、話せるから…」

サローニャ「…ふーん」

サローニャ「けどさ、」

サローニャ「こうして私が派遣されてきたって事は」

ニート「…?」

サローニャ「画面の向こうの人達はそう思ってなかったって事だよね」

ニート「…」


サローニャ「だってそうでしょ?ただただウザいって思ってたから管理人への連絡って行程をすっ飛ばして私を派遣させたわけだから」

ニート「そ、そうじゃないよ!だっ、だってさ!このサイトは管理人がロクに仕事しない状態だから、」

サローニャ「…自分で言っててわかんない?同じだよ」

サローニャ「まぁ認めてあげるよ。あなたは可哀想な人だって」

サローニャ「別に同情とかはしてあげないけど」

ニート「…」

サローニャ「まぁでもいいんじゃない?あなたが一人この世から消えたとして、悲しむのはせいぜいあなたのお母さん一人だもの」

サローニャ「そのお母さんだってある意味では厄介払いできて楽になったってなるんじゃない?」

サローニャ「老後の貯蓄や負担とか…世間体を考えたらあなたなんて要らないもの」

サローニャ「世の中からしたら社会の標準や一定の基準に満たないような総合的人間力が無いヤツなんてさ、さっさと死んで欲しいワケだし」

サローニャ「私さ、人に迷惑とか負担しかかけなくて、誰かに何とかしてもらえるって思ってて、誰にも何にもしてあげられない人間は」

サローニャ「生きてる意味なんてないんじゃない?って思うよ」

ニート「…」

サローニャ「…ははーん?君さ、今の私の話聞かなかったでしょ」

ニート「き、聞いて、やる価値ないし…」

サローニャ「…そうやって、嫌な事があるとすぐ逃げるから」

サローニャ「そうやって、見て見ぬふりして見るべき今を客観的に見なかったから」

サローニャ「そうやって、今も今までも大事な決断する時も保留、保留でずっと逃げてきたから」

サローニャ「…だから、こうやってまた貴重なチャンスを逃すんだ」

サローニャ「せめて死ぬ前の最後くらい抵抗するか遺書を書くとかさせてくれって頼むとかすれば良かったのに」

サローニャ「結局あなたは自分の最期の形すら決めなかったんだね」

サローニャ「…ほんと。可哀想だね。」

ニート「…なら、見逃し」



サローニャ「ごめんね。私のコレはあなたのような暇つぶしじゃなくてお仕事ちゃんだから」


サローニャ「容赦なく殺すし、同情はしない」



母「…」


母「…」


母「…ふう」



母「ごめんね。もうあなたを養えなくなったの。自分で生きられないあなたを遺して死ぬのは可哀想だから」

母「老いた私ではもう誰かに何でも頼まなきゃ出来ないから」

母「最後の愛情と思ってちょうだい」



医者


俺は漫画よく買うんだ。

今ってさ、ネットで検索かけたら何でも出るだろ。

無料で読めるし無料で観れるし無料で知れる。

でさ、漫画とか読んでるとたまーに思うんだよな。

『あー、スゲー書き込んである絵だな』とか、努力が窺い知れるってコマ。

実際の作業をしたことはないし、リアルは知らない素人の想像なんだけどさ

アレ見てるとさ、部屋ん中引きこもってずーっと磨いた技術とか脳から搾ったアイデアとかを一生懸命アウトプットしたんだろうなーって。

そしたら思うんだよ。『このプロの仕事になら金払っても良いな』って。

プロの仕事以外に俺は金を払いたくねーんだよ。

たまにいるだろ。やる気なくダラーッて突っ立ってるだけのコンビニ店員とか、明らかにマナーとか口調に問題ありすぎな態度悪過ぎる店員とかさ。



でも漫画描いてる作家さんとかアシスタントさんは魂かけて描いてるだろ。

売れる物を描かなきゃ作家は死ぬし、その作家に給料払ってもらってるアシスタントさんは仕事や技術盗むチャンスを失うわけだから。

その擦り減らした魂の分くらいは、金を払ってもらえる価値がある仕事をしたって認められるべきだろ。

だから俺は検索かけないんだよ。だから俺はわざわざ書店で品定めして、本を買うんだよ。



さろーにゃ「そんで、自分は臓器売買するプロだとでも?」

「医者だよ。プロのな」


さろーにゃ「んー?私の認識だとー、お医者ちゃんってのは本来死ぬはずだった運命から患者の命を救って、痛みを軽減してくれる人だったんだけど」

さろーにゃ「あなたはどっちかっていうと、解体屋ちゃんじゃないかな」

さろーにゃ「だってさ、あなたが私に殺される理由ってたぶん悪質な臓器売買屋も兼業してるからでしょ?」

さろーにゃ「死んでも騒ぐ遺族が居ない人はバラバラにして売り飛ばすって」

医者「立派な医療行為だろ」

さろーにゃ「初めて知ったよ。命奪うのって医療行為なんだね」

医者「ケースバイケースだ。だってよ、遺族が居ないって事は、そいつが死んだって悲しむ人間はほとんど居ないってことだろ。」

医者「だったら、『その人が死んだら悲しむ人がいっぱいいる』って人、つまりは価値がある人間達をその臓器で救った方が」

医者「より多くの人を救えるじゃないか」

医者「それで救える命があるならそれは医者だよ。正しい事だ」

さろーにゃ「誰にとって正しいか、ってのは置いといた方がいいのかな」


さろーにゃ「…ん?という事は」

さろーにゃ「あなたのその理屈で言えば、そうやって独り身を殺すあなたを殺してこれから失われるはずだった命を守る私は」


さろーにゃ「”殺し屋”じゃなくて”医者”になるのかな?」


上条「ちっ、何が『前書きが長い』だ」ブツブツ

上条「そんなクソどうでもいいとこつっこんでんじゃねーよハゲ」ブツブツ

上条「せめて『内容がクソ』とか言えよ。中身に言及しろっつーの」

上条「テメェは漫画開いたらカバーの作者の一言しか読まねーのかよバカ…って」ブツブツ

上条「あ?なんだよサローニャ」

上条「『なんでSSを書くようになったか?』」

上条「…この業界はさ、いつ死ぬかわかんねーだろ」

上条「誰かに何かを残しても、誰かを遺しても…全部消されちまう」

上条「無かったことにされちまう。俺の人生が、俺の生まれた意味が全部がなくなっちまう」

上条「いや、もしかしたら普通のサラリーマンであっても、学生であっても、フリーターであったとしても無かったことにされてしまうかもしれない」


上条「俺の言葉は、俺の人生は、俺の魂は、俺の無念は、」

上条「俺の、”言いたかった事”は」


上条「だから、遺すんだ。」


上条「人は死ぬ。もしもこの世に”絶対”っていうものがあるとするなら、それはどんな奴でもいつか必ず死ぬという事だろ」

上条「俺も、お前も。お前の親も祖父母も兄弟も恋人も友達も親戚も。」


上条「人は、死ぬ。必ず死ぬ。例外はなしだ」


上条「だから、俺が生きていた証を、俺が普段恥ずかしくて誰にも話せなかった、世界に向けて、『世界に対して言い足りない事』を遺すんだ」


上条「俺のSSはな、全部遺言なんだよ。不特定多数に向けた、俺の遺書なんだ」


上条「そしたらさ、そうやって残せば、きっと少しは俺の生きた証がこの世に残るだろ。」


上条「俺がその内死んでも、ネットに一度書き込んだ事は半永久的に消えない」

上条「俺の遺言を読んだ奴がまた新しく何かを、人を感動させられるような素晴らしい何かを創ってくれるかもしれない」

上条「絵でも小説でもSNSの書き込みでもブログでも」


上条「誰かの記憶に、誰かの人生に、誰かの心に、俺の言葉が残るだろ」


上条「虎は死して皮を残し、人は死して名を残す」

上条「だから、俺は残すんだよ」

上条「虎は死んだら皮を残して、人は死んだら名を残して、」


上条「俺は死してSSを残すんだよ」




犬養「巨乳ぅぅうううーー!!!大好きーーー!!!!」レロレロレロレロ!!

犬養「女子高生最高ォォオオォォオオ!!!!!」


オパーイオパーイオパーイオパーイ!!!


観衆「「「「   」」」」


       ・
       ・
       ・
       ・


上条「お?朝刊に載ってんな」

サローニャ「?」

上条「ほら、今スゲー人気の統括理事会員候補の、」ガサッ

サローニャ「犬養?」

上条「そう。選挙カーで演説中に突然脈絡なく『巨乳大好きー!』って叫んだんだってよ」

サローニャ「業者かな?それともイカレたか能力者ちゃんか魔術師ちゃんか」

上条「機械かもな。ま、何にせよあまりあいつのイメージダウンにはなってねーみたいだけど」

サローニャ「ええ?意外だねぇ」

上条「『逆に親しみ持てた』『犬養のキャラじゃないから誰か精神系能力者の仕業だな』だってよ」

サローニャ「日頃の行い、だねぇ」



上条「案外コイツ将来総理大臣とかになったりしてな」



おしまい。本編にどうしても組み込めなかった話でした。

依頼出してキマース

訂正

>>643
上条「生前にどんな宗教を信仰していても善人は似たような所に行ける。『何々宗教を信仰するのは間違ってる!』って言われてものを知ってるって事だよ」 ×

上条「生前にどんな宗教を信仰していても善人は似たような所に行ける。『何々宗教を信仰するのは間違ってる!』って言われても鼻で笑えるって事を知ってるって事だよ」

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