北条加蓮「藍子と」高森藍子「また同い年になって」 (34)

――おしゃれなカフェ――

<からんころーん

高森藍子「!」

藍子「加蓮ちゃーん! こっちですよ~っ」

北条加蓮「藍子。……あはは、テンション高いなぁ」テクテク

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――まえがき――

レンアイカフェテラスシリーズ第32話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・「北条加蓮と高森藍子が、静かなカフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「風鈴のあるカフェテラスで」
・北条加蓮「藍子さんと」高森藍子「7月25日のカフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「暑い日のカフェで」

加蓮「やほ、藍子」

藍子「加蓮ちゃんっ。誕生日、おめでとうございます!」

加蓮「ありがとー。いきなり来たね」

藍子「今日は何があっても最初に絶対にこれを言うって決めていたんです。メールで言うのも我慢していたんですからっ」

加蓮「メール?」

藍子「ほら、日付が変わった時にメールを送るとか……それもいいかな? って思ったんですけれど」

藍子「やっぱり私、加蓮ちゃんに直接言いたくて。電話でもなくて、メールでもなくて。このカフェで言いたかったんです。おめでとう、って!」

藍子「加蓮ちゃん。誕生日、おめでとうございますっ」

加蓮「そっか……ありがとっ。やっぱりくすぐったいねっ」

藍子「くすぐったいんですか?」

加蓮「うん、すごくくすぐったい。もう身体がムズムズしちゃう。もうこうして言われるのも何回目か分かんないくらいなのに、まだ慣れてないのかなぁ……ふふ。私も難儀だね」

藍子「…………♪」

加蓮「弱点見つけたーって顔しないの。こら」ベチ

藍子「あたっ」

藍子「加蓮ちゃん、こちょこちょとかに強そうだから」

加蓮「チャンスだって思った、と」

藍子「チャンスだって思っちゃいました」

加蓮「なら気合で克服しないとね」

藍子「……ふふ。加蓮ちゃんが気合で、ですか?」

加蓮「加蓮ちゃんが気合でです。キャラじゃない?」

藍子「色んなことに挑戦する加蓮ちゃんを見る方は、私は好きですよ。大好きですっ」

加蓮「そこ言い直す必要あった?」

藍子「ホントはここで、店員さんが誕生日のケーキを! ってできればよかったんですけれど……加蓮ちゃん、甘い物が苦手だから」

加蓮「気を遣わせちゃったかな」

藍子「ふふっ」

加蓮「ん? ……何その含み笑い。気になるなぁ、もう」

藍子「だって加蓮ちゃんですから」

加蓮「……何が?」

藍子「なんとなく、ですっ」

加蓮「ふーん。テンション上がってるんだね。私より藍子の方が楽しそうって、なんだか変」

藍子「だって……周りの人のお祝いをするのって、すっごく好きなんです」

加蓮「なんか分かるー」

藍子「加蓮ちゃんならなおさら!」

加蓮「そっか」

加蓮「……そっか」

藍子「?」

加蓮「ううん。私の周りにはうるさい人がいっぱいいすぎてさ。ついていくのも精一杯だし、ついていったら引っ張られるし。もう、大変だよ」

藍子「う、うるさい!?」ガーン

加蓮「うん。うるさい」

藍子「ええぇ……!」

加蓮「私の誕生日なのに、私よりテンションが高い人がいっぱいいてさ。変で変でしょうがないよ」

藍子「だって~……」

加蓮「あ、店員さんだ。……うん、私、今日が誕生日なんだ。藍子から聞いてた?」

藍子「私、教えていませんよ? 誕生日のこと」

加蓮「そーなの? ってことは……そっかぁ」

藍子「ね? ここにもおひとり、いるんですっ」

加蓮「はー……あははっ。それでこのプレーンワッフルの詰め合わせなんだね。もー、こんなにあったら食べられないよ」

藍子「ここで一緒に、ゆっくり食べましょ?」

加蓮「そうしよっか。藍子もいっぱい食べてよね」

藍子「あ……でも、加蓮ちゃん、もしかして今日は忙しかったり? 誕生日に引き止めちゃったら悪いのかな……」

加蓮「え? ああ、ぜーんぜん。今日はずっとオフだし、何なら日付が変わるまで――」

加蓮「って、ここは9時に閉店……なんだっけ? それまでならずーっとここでのんびりできるよ。何ならその後、藍子の家に行ってもいいし」

藍子「……そうなんですか?」

加蓮「うん」

藍子「……誕生日なのに?」

加蓮「うん」

藍子「バースデーライブとかは……」

加蓮「サボりました」

藍子「……えええええ!?」

加蓮「あははっ、さすがに冗談。サボってはないよ」

加蓮「ただ、モバP(以下「P」)さんと色々と相談してさ。やらないことになったの」

藍子「は、はあ。……ちょっと気が抜けちゃいました」

加蓮「ライブすることになってたらもっと前に藍子に言ってるって。招待状とか送るし。そういうのぜんぜん無かったでしょ?」

藍子「そういえば……いつ来るかな、って考えていたら、いつまで経っても来ないから、不思議に思っちゃってました」

藍子「Pさんにお聞きしても、なんだか誤魔化されちゃって」

藍子「あの……しない理由って?」

加蓮「たいしたことないんだけどね。Pさんとさ、々と話したんだ。最初はバースデーライブもやる気いっぱいでさ、何しよっかー、演出はー? みたいな感じで」

加蓮「それから誕生日の話になって……なんだったっけ。昔どんなプレゼントをもらった話? とかしたっけ」

加蓮「Pさんが学生の頃、友達にもらったプレゼントの話とか……ぷぷっ、今思い出しても笑っちゃうよ」

藍子「何だったんですか? も~、1人で笑ってないで教えてくださいよ~っ」

加蓮「Pさんに聞いてみたらー?」

藍子「いじわるっ!」

加蓮「でね。Pさんってほら……私の誕生日のこと、っていうか昔のことって知っちゃってるし。急に気まずくなっちゃったの」

加蓮「ふふっ。それまで色々喋ってたPさんが急に黙るんだよ? どしたの? って聞いたら、なんかすまん……なんて。縮こまっちゃって」

藍子「Pさんらしいですね……」

加蓮「いつもは勢いばっかりなのに、やらかしたーって思ったらすぐちっちゃくなるんだから」

加蓮「それから……何だったっけ。そうそう、今はどうなんだ? って聞かれたの。それなりに幸せだよーって答えたらさ、Pさんがなんかすっごいマジモードになっちゃって」

加蓮「それなりじゃ駄目だ! 思いっきり幸せになってこい! って」

藍子「……ふふ。またまたPさんらしいっ」

加蓮「あの人どこにスイッチついてるんだろうね。藍子、ちょっと調べてきてよ」

藍子「加蓮ちゃんが調べてきてくださいよ~」

加蓮「私より藍子の方が警戒されてないよ。ほら、全身いじくれるチャンスだと思ってっ」

藍子「全身……? …………!」ボフッ

加蓮「……うん?」

藍子「かかか加蓮ちゃん! も、もうっ、もうっ! そういう冗談はその、だめだと思いますっ!」

加蓮「はぁ?」

藍子「……はれ?」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「……藍子ってたまに変なことになるよねー。ねえ、ちょっと調べてみていい?」

藍子「だめです……」ツップセ

加蓮「はー。変なの」ツンツン

□ ■ □ ■ □


加蓮「もぐもぐ……ごくん。どこまで話したっけ?」

藍子「もぐ、もぐ……ごくんっ。ええと……Pさんと加蓮ちゃんが、誕生日のお話をしていた辺り……?」

加蓮「あ、そうそう、幸せになってこいって言われたところだっけ。もー、藍子が熱暴走を起こすから」

藍子「うぅ、ごめんなさい」

加蓮「もう夏も終わりだよ? また熱中症とかになったら怒るよ、私」

藍子「あれから気をつけてますっ……加蓮ちゃんに教えてもらった色々なこと、試したらあまり疲れなくなったんですよ」

加蓮「良かった。散歩して、色んな幸せを見つけてこそ藍子だもんね」

藍子「はいっ♪」

加蓮「何か面白い写真は撮れた? 最近あんまり聞いてないなー、そういう話」

藍子「そうでしたっけ?」

加蓮「教えてもらってないよ。私も付き合いたいんだけど時間とか体力とかあるもんね。はー……」

藍子「それならこの前、通りかかった公園のことを――って、」

藍子「今は加蓮ちゃんのお話ですっ」

加蓮「あ。……あはは。そうだったね。うん」

加蓮「幸せにー……幸せに、って、……うん」

藍子「……? 加蓮ちゃん?」

加蓮「や……改めて言われたらっていうか思い出したらっていうか……あの時のPさんさー、すごい真剣になってて、眼が真っ直ぐでさー」

加蓮「私のことをちゃんと見てくれてる、っていうか私のことしか見てない、そんな、大好きな顔――」

加蓮「って何を言わせんのっ」

藍子「えぇ……。加蓮ちゃんが自分で言ったことですよ」

加蓮「藍子がなんでも聞いてくれるからつい話しちゃうんだって。だから藍子が悪い!」

藍子「めちゃくちゃですっ。それに私、いつも言ってます! なんでも話してくださいって!」

加蓮「まーたそういう自分よがりなこと言うー。優しいフリして何狙ってるの?」

藍子「それも前にも言いましたっ。確かに私のやりたいことですけれど加蓮ちゃんのことだってちゃんと大好きだって!」

加蓮「…………」

藍子「……もうっ」

加蓮「……たまに言ってみたくなって、たまに叱ってほしくなるだけ。意味なんてないんだけどね」

藍子「もー……」

加蓮「ごめん」

藍子「……それで、Pさんが幸せになるようにって言ったんですよね。それからどうなったんですか?」

加蓮「うん。……ねえ、この話って続けないといけない?」

藍子「加蓮ちゃんがお話したくないなら、いいですけれど……」

加蓮「んー。……あの時って私もかなりマジモード入ってたからさ、何回も思い出すのって嫌なんだよね」

加蓮「……で、私言ったんだ。もう今が十分幸せだよ、って。その……アイドルになれたし、……Pさんも友達も、いつも側にいてくれるからって」

加蓮「そしたらPさんが急に怒っちゃって。知らない幸せを見つけてこい! なーんて言っちゃって」

藍子「知らない幸せ?」

加蓮「アイドルになってからの幸せはいっぱいもらったよ。だから、それ以外の幸せも見つけて来てほしいんだって」

加蓮「ってことで9月5日のお仕事はぜんぶ取り上げられちゃいました。横暴だよねー!」

加蓮「以上、加蓮ちゃんのちょっとしたお話」

藍子「あはっ。だから今日はオフなんですね」

加蓮「一応言ってみたんだ。バースデーライブとかっていいの? って」

加蓮「そしたらPさんがこう言うの。最近は色々と活躍してくれてるし、ライブ以外の公演にも出てたし、むしろ身を引っ込めてみた方が面白そうだ、って」

藍子「ふんふん」

加蓮「私のプロフィールとかはちゃんと公開してて、私の誕生日も知ってくれてる人がいる。ほら、さっきの店員さんがさ、藍子から聞いてないのに私の誕生日を知ってくれてたみたいに」

藍子「加蓮ちゃんの誕生日を知っているファンの方も、いっぱいいますよね」

加蓮「なのにバースデーライブはやらない。なんかそれが逆に火付けになるっていうか、話題になるんだってさ」

藍子「確かに……私も加蓮ちゃんが誕生日の日にライブをやらなかったら、心配しちゃうかも?」

加蓮「まーた私がネット上で死んでたりするんだろうなぁ……」

藍子「死!?」

加蓮「ちょっとライブに出なかっただけですぐ私が死んでる扱いっていうか、むしろあれ殺されてるって言うべきだよ」

加蓮「あのねー、私にもスケジュールとか都合とかあるの! ……そりゃあ、体調崩す時だってない訳じゃないけどさ」

藍子「あはは……なるほど……」

□ ■ □ ■ □


加蓮「死ぬって言えばさー」

藍子「はい。……………………え?」

加蓮「ん?」

藍子「あ、なんでもないです……ただそんなこと急に言われたらさすがにびっくりしちゃってっ」

加蓮「もしかしてマジで死ぬかもとか思っちゃった?」

藍子「…………こんなこと言ったら、加蓮ちゃん、怒るかもしれないけれど」

加蓮「うん」

藍子「一瞬だけ、体がすごく冷たくなっちゃいました」

加蓮「そっか」

藍子「……死ぬのは、公演の中だけにしてください。私……きっと、想像するだけで泣いちゃいます」

藍子「このカフェに一緒に来られなくなったり、一緒にアイドルができなくなったり」

藍子「お話できなくなったり、って、考えちゃうだけで……すごく、体も心も、冷たくなってしまいますから」

加蓮「……教えてくれたのは藍子だよ。1年後も10年後も私はここにいる。いられるんだって」

藍子「……私が信じてあげないと、加蓮ちゃんだって信じられなくなっちゃいますよね」

加蓮「そうそう。藍子がそんなこと言ったら私まで変に想像しちゃうよ。だからさ、やめよ?」

藍子「はいっ」

加蓮「……まあ、ほら、そういうのはナシにしてもさ」

加蓮「まさか来るとは思わなかったなぁ。幽霊役」

藍子「来ちゃいましたね。幽霊役」

藍子「……こんなこと言ったら加蓮ちゃん、やっぱり怒っちゃうかもしれないですけれど」

加蓮「うん、たぶん怒る」

藍子「加蓮ちゃん――って本当に怒るんですか!? じゃあやめます!」

加蓮「あははっ。なになに? 別に1回2回私が怒ってもいーじゃん」

藍子「怒るって分かってるのに言うのは嫌ですっ。加蓮ちゃん、何してくるか分かりませんから!」

加蓮「なにそれひどーい。私だってやっていいこととダメなことくらい区別ついてるって」

藍子「じ……じゃあ、言いますね?」

加蓮「うんうん。言っちゃえ言っちゃえ」

藍子「怒らないでくださいね……? 変なこと、しないでくださいね?」

加蓮「うーん、そう言われるとすっごくしたくなっちゃうんだけどなー……」

藍子「じゃあやめておき、」

加蓮「冗談っ。もう、誰でもそう思っちゃうよ! 今の藍子を見てたら! もー、とにかくキリないから早く言ってよ!」

藍子「…………」

加蓮「ほらほら!」グイグイ

藍子「……加蓮ちゃん」


藍子「幽霊役、似合いすぎです」


加蓮「よし」グニグニグニ

藍子「いひゃいいひゃいっ! やっぱりおこるんじゃないでふか! やめふぇ~~~~~!」

加蓮「うらうらうら」グニグニグニ

藍子「ふぁめっ、ほ、ほんとにいたいでふかふぁ!」

加蓮「よしっ」パッ

藍子「あたっ。……うう、ぜったい赤くなってる……」サスリサスリ

加蓮「で、何? 似合いすぎ?」

藍子「だって、死んじゃった後のことをすぐに考えるところとか……幽霊になったらどうしようか、なんて、まるでもう生きているうちから考えていたようなところが、すっごく加蓮ちゃんらしくて……」

加蓮「うん」

藍子「生き返ることとか、幽霊じゃなくなるやり方を探そうともしないところなんて、本当に加蓮ちゃんがやりそうなところで……」

加蓮「うんうん」

藍子「似合いすぎてて……」

加蓮「うんうん」ニコニコ

藍子「……そ、そんなの私じゃなくても思うと思います!」

加蓮「うんうん。別に私何も言ってないよ?」ニコニコニコニコ

藍子「顔が何か言ってるじゃないですかーっ!」

加蓮「いやー別に言いたいことなんて何もね?」

加蓮「まぁ、せいぜい?」

加蓮「ほとんどNGもないし監督さんからあまりに自然だからって少し引きつり笑顔もらって来てPさんまで軽く引いてて実はショックで?」

加蓮「ファンレターとかネットとかでは案の定の感想だったってこととか?」

加蓮「言いたいことがあるとしたらそれくらいかなぁ!?」バン!

藍子「ひゃああああああっ!!!」

加蓮「はー、はー……あ、ごめん。ちょっと興奮しすぎた」

藍子「あわわあわわっわわわわわわ……」ビクビク

加蓮「ご、ごめんってば……」

加蓮「……藍子が言ってた話、いくつかはマジなんだよね」

藍子「ふぇ……?」ビクビク

加蓮「もし死んだらどうなるのかなー、幽霊になったら自由になれるのかなー、とか。実際考えた頃あったし」

藍子「はあ……」スワリナオシ

加蓮「そしたら実際にそんな台本が来るんだもん。さすがにびっくりしちゃった。でも、その分だけ役に入るのは楽だったよ。演じる役にすごく共感できたし、たぶん私もこういう風に考えるんだろうなー、なんて」

加蓮「もしかしたら台本の方が私に少し合わせてくれたのかもね。……や、それならなんで私のことそこまで知ってんの? って、ちょっと不気味になるけど」

藍子「きっと監督さん……かな? も、加蓮ちゃんのことをいっぱい調べてくれてるんですよ」

加蓮「ちょっと調べたくらいじゃあんなにドンピシャな台本にならないと思うんだけどなぁ」

藍子「じゃあPさんがそういうお仕事を探してきたのかも。ほら、これなら加蓮ちゃんにピッタリだ! って。交渉したのかもしれませんよ?」

加蓮「そっちはまだありそうかも」

藍子「加蓮ちゃんを知っている人は、きっと加蓮ちゃんが思うより、」

藍子「…………」

加蓮「……? どしたの?」

藍子「あ、いえ……。加蓮ちゃんが思うよりも、加蓮ちゃんのことを知っていたり、ちゃんと見ている人は、きっといっぱいいるんです」

藍子「Pさんも、あとスタッフさんも! きっと監督さんだってそうです。だからあんなに似合う役が加蓮ちゃんに来たんですよ、きっと」

加蓮「そっかな。……そういうことにしとこっ」

藍子「はいっ。そういうことにしちゃいましょう!」

加蓮「幽霊役の時も変に前向きだったんだもん。生きてる私だって、もっと前向きでいいよね」

藍子「死んじゃって前向きになるんじゃなくて、生きているうちから前を向きましょう!」

加蓮「うんうんっ」



加蓮「……ところで公演って言えばさ、もう1人、ドンピシャな役がさー……」

藍子「え?」

加蓮「ほら、首謀者っていうか、黒幕?」

藍子「ええと、……あぁ」

藍子「あ……あはは……すっごくお似合いでしたよね」

加蓮「うん……あれってさ、マジなところ、」

藍子「い、いい子なんですよ! いつもはほら、事務所のお掃除とかやっててっ」

加蓮「知ってるけど……」

藍子「そう、スタッフさんからも一緒にお仕事したいって言われてるみたいなんです!」

加蓮「だろうけど、でもアレはさすがに」

藍子「え、演技のことだって一生懸命だからっ。似合ってるとかじゃなくて練習の成果なんです!」

加蓮「練習の成果、ねぇ。撮影の前に少し話したんだけど、色々忙しくてほとんど練習できてなくて不安とかってぼやいてたんだけど……?」

藍子「あ、あは、あははは……ほ、ほら、前にやった撮影の時の……経験、とか…………」

加蓮「…………こ、公演って言えば藍子の花屋役とかもすっごい似合ってたよ!」

藍子「そ、そうですか!? ありがとうございますっ」

加蓮「うんうん、適任っていうかピッタリっていうか!」

藍子「Pさんからもそう言われちゃいました! それに他の役の方もみんなピッタリって感じで、あまりNGもなかったみたいで――」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「…………まぁ、別に演じてた役がその人のすべてって訳でもないし……ピッタリな役って、個性があるってことだから……」

藍子「…………あはは……」

□ ■ □ ■ □


加蓮「もぐもぐ……ごくん。プレーンワッフルぜんぜん減らないー。持って帰っていいのかな、これ」

藍子「もぐ、もぐ……ごくんっ。いいと思いますよ。でも、後で店員さんに相談しましょうっ」

加蓮「だねー。でも、一気に食べてるのに飽きないのもすごいよね。なんかこれ、ちょっとずつ味が違うみたいだし」

藍子「1つ1つ、丁寧に作ってあるのが分かります。あの店員さん、加蓮ちゃんのことが大好きなんですね♪」

加蓮「やめてよー。痒くなっちゃうから」

藍子「ふふ」

藍子「……加蓮ちゃん、誕生日なんですよね」

加蓮「んー? そだけど? 何、改まって」

藍子「ううんっ。そういえば、またこれで同い年なんだなって」

加蓮「そういえばそうだね。ちぇ、もう藍子のこと藍子さんって呼べないじゃん」

藍子「加蓮ちゃんじゃないですけれど、そう呼ばれたらすっごくかゆくなっちゃうから……」

加蓮「ほら、1ヶ月半だけのロールプレイなんだしさ。たまにはそういうのもいいじゃん」

藍子「たまになら。でも、今日からはまた同い年です! だから、普通に呼んでくださいね?」

加蓮「はーい。藍子さんごっこはまた来年までお預けだね」

藍子「これでまた、同じ目線ですね。私たち」

加蓮「1歳差が同い年になっただけでしょ? そんなに違うものなの?」

藍子「ぜんぜん違いますよ。私、ずっと寂しかったんですから」

加蓮「そんなものなのかなー。別に歳が違ってても藍子は藍子だし、私は私なんだから」

藍子「寂しかったものは寂しかったんですっ」

加蓮「そう? じゃあ……久しぶり、藍子」

藍子「はいっ。お久しぶりです、加蓮ちゃん」

加蓮「……あははっ。お久しぶりって……変なのっ。事務所でもカフェでも会ってるじゃん。別に久々じゃないじゃん」

藍子「先に言ったのは加蓮ちゃんの方ですよ~。でも、なんとなくお久しぶりって感じがしたのは本当ですっ」

加蓮「藍子の誕生日の時、藍子、距離が空いたみたいなこと言ってたよね」

藍子「なんだか私が先を歩いてしまったみたいで……。ちょっとだけ、加蓮ちゃんが見えなくなっちゃいました」

加蓮「で、私は今日、ちゃんと藍子の隣に並びました!」

藍子「今日の加蓮ちゃんはいつも通りですっ」

加蓮「誕生日って言っても色々あるんだねー。そっかそっか」

加蓮「同じ目線、かぁ……。私と藍子は同じところにいるかもしれないけどさ、なんだか見てる物は違う気がするよ」

藍子「見ている物が違う、ですか……?」

加蓮「うん。なんていうかな。ほら、ステージとかでも。私は雰囲気とか声援とか、こう、全体が好きって感じだけど、藍子ってファンの顔を1人1人見るのが好きだって言ってたじゃん」

加蓮「ステージから見る景色、っていうのは同じかもしれないけどさ。見てる物は違うっていうか……そんな感じ?」

藍子「言われてみればそうかも……」

加蓮「今度は私が藍子みたいに見てみよっかなー。ファンを1人1人かぁ。ふふっ、応援してくれてる人を見ちゃったら、嬉しくなりすぎてミスっちゃうかも。ううん、逆に気合が入るかな?」

藍子「あはっ! なら私が加蓮ちゃんの真似をしちゃいますね。ええと……、……どうしたらいいんでしょう?」キョトン

加蓮「別に無理して真似なくていいよー」

加蓮「私と藍子、違う物を見ているんだから、こうしてここで盛り上がれるんだと思うし」

藍子「確かに、私と加蓮ちゃんが全く同じ物を見ていたら、同じお話しかできなくなっちゃいますね」

加蓮「藍子から時間を盗まれることもなくなる」

藍子「べ、別に盗んでいるつもりはありませんっ」

加蓮「あはは。私、けっこう好きなんだよ? 藍子とのんびりしてて、うわ、もう時間が! ってなるの」

加蓮「別に時間にうるさくしたい訳じゃないんだけど……時間を忘れられることって、逆にいいなって思えて」

加蓮「だからさ藍子。これからも、どんどん私の時間を盗んでよ。ねっ?」

藍子「はい――ってだから盗むって言い方はやめてください~~~っ!」

加蓮「あはははっ!」

藍子「もう! ……でも、加蓮ちゃん。ときどきでいいので、同じ場所から同じ物も見ましょうね?」

藍子「6月に見た、虹のように――」

藍子「おんなじ思い出を共有することも、きっと大切ですから」

加蓮「ん。せっかく同い年で同じ目線だもん。たまにはそういうことがあってもいいよね」

藍子「はいっ♪ それに、同じ物を見てもきっと、お話は盛り上がると思います!」

加蓮「んー、そうかも?」

藍子「ですっ」

加蓮「だね」

加蓮「ん~~~~~~!」ノビ

加蓮「あ、そーだ藍子。……ふふ♪」

藍子「加蓮ちゃんが悪巧みしてる顔になってる……」

加蓮「まだもらってないなー、誕生日プレゼント。ちょーだいっ」

藍子「あぁ。……あはは、実はそれが」

加蓮「ん? お前なんかにプレゼントなんてやるもんかーっ?」

藍子「……お、お前なんかにプレゼントなんてやるもんかーっ」

加蓮「はい失格」

藍子「うぅ。その、色々と悩んじゃって、最後まで決まらなくて」

藍子「加蓮ちゃん、きっと色々な人に色々な物をもらっているから……」

加蓮「そっか。私も藍子の誕生日の時はすっごく悩んだよ。風鈴のことを思い出さなかったら同じことになってたかもね」

藍子「……それで……誕生日プレゼント、一緒に探しませんか?」

加蓮「一緒に? 探すって、私が私のプレゼントを?」

加蓮「……イタくない?」

藍子「い、一緒にお買い物した方が楽しいと思ってっ。ううん、1人で悩むのも楽しいんですけれど……たまにはこういうのもいいじゃないですか!」

加蓮「ちぇ。まぁいいけど。今日は丸々オフだし、いーよ、藍子に付き合ってあげる」

藍子「!」パアァ

加蓮「ワッフルだけ包んでもらって出発しよっか。長くなりそうだもんね。ほら、どーせプレゼント選びで気が合うことなんてなさそうだし」

藍子「加蓮ちゃんがさっき言った、同じところから違う物を見る、ってことになっちゃいそうですね」

加蓮「それが楽しいんだけどね」

藍子「はいっ」



おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。

加蓮、誕生日おめでとう。

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