過去作

兄「俺が死んだらどう思う？」妹「死なないじゃん」
兄「俺が死んだらどう思う？」妹「死なないじゃん」 - SSまとめ速報
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兄『俺ｼﾞｼﾞｯ死んだら、どう思う？』妹「死なないから」
兄『俺ｼﾞｼﾞｯ死んだら、どう思う？』妹「死なないから」 - SSまとめ速報
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学校　教室


兄「……」ﾌﾞｯｽｰ

兄（あんだよー全く、結局、あの後学校遅れて担任に叱られるし、
　　俺を撥ねた運転手が心不全っていうから担いて病院まで運べばさ）

兄「俺が車で撥ねたってことになっちまうし…こっちは未成年だっつーのッ！」


ｼｨｰﾝ


兄「ん…」ｷｮﾛ


ﾎﾞｿﾎﾞｿ　ｻﾞﾜｻﾞﾜ


兄（はいはい、ごめんなさいね。軽く声だして愚痴こぼして、怖かったよねー化物が声だしてー）

兄「……」ぽけー

兄（──なんだろ、最近は突然現れた女の人に外国に連れ回されることなくってさ）

兄（すごい暇。いや、全然平和で良いけどね。争いno、ウエルカム平和、ゴウトゥー我が家）

ﾁｭﾝﾁｭﾝ

兄「……、放課後に嬢ちゃんの城でも行ってみるかぁ」ﾁﾗ


わいわい　がやがや


兄（みんな放課後とかなにやってんだろー…）ぼぉー

兄（いつもの風景、いつもの教室、クラスメイトは普段どんなふうに過ごしてんだか）

放課後　下駄箱


兄（途中でケーキでも買っていくか。なんか嬢ちゃん仕事で忙しいとかで学校も来てないし）ぴたり

兄（あんだ？　嫌な予感する、下駄箱の中に何か──）ｽｯ


ﾁｯﾁｯﾁｯﾁｯﾁｯ…　ｶﾁﾝ　…ﾁｯﾁｯﾁｯﾁｯﾁｯ…


兄「………」

兄「今日は逆立ちして帰るかー」ｸﾙ


「──あいや待てれぃ！　鬼ぃ殿ッ！！　そのような異出立はまさに字の如く異様な出立ち姿ァ！」

「してこの新聞部部長である拙者、クラスメイトの奇行を見事収めるでござるよおおお！！」


兄「…やっぱりお前の仕業か、エセ忍者」


「はて？」

クラスメイト「──仕業とはなんのことでござるか？　拙者、チョウイミワカンナイ」


兄「無理してゴザル言わなくていいから。つか毎度毎度よくやるよ暗殺ごっこ」

兄「前回は毒殺で、ちょっと前はブービートラップの絞殺か。今回はなんだ、爆殺か？」ｺﾝｺﾝ

クラ「うーん、拙者忍者で暗殺できるけどそんなことしないでござる」ﾆﾝﾆﾝ

兄「ひとまず忍者という部分に突っ込ませろ。金髪じゃん、なんなの？　ハリウッドリメイク失敗した主人公なの？」

クラ「拙者、ハワイ出身なので…」

兄「うん知ってる。今じゃ珍しい血統書付きの純ハワイ民ね、そこ誇れよ。なんで忍者だよ」

クラ「ニンニン！　キャラ立ちは大切でござるよ、鬼ぃ殿！　よくテレビジョンで言ってたでござる！」

兄「俺、テレビ見ないからわかないもん」

クラ「カァー！　我が一族の里にもテレビジョンあるというのに！」ﾊﾟﾝｯ

兄「…、それで？　面倒くさいから聞くけど、下駄箱の蓋開けていい系なのコレ？」

クラ「良いも悪いも鬼ぃ殿の下駄箱でござろう？　ならば言うことなし、いざオープンでござる！」

兄「…………」じっ

クラ「なんでござるか？」ｷｮﾄﾝ


兄「お前が開けろ」

クラ「いやですけど？」


兄「ござるはどうしたござるわー！」がしっ

クラ「ぎゃああ！！！　丹田に練った気が一切敵わない腕力で抑えられるでござるぅー！！」ﾒｷﾒｷﾒｷｯ

兄「良いから、あ・け・ろ」ｺﾞｷｺﾞｷｺﾞｷｨｯ

クラ「うぶぶ…なんたる剛力、まさしく世に生まれた鬼の化身でござる…」ぐりぐり


クラ「しかァーーしッ！！」ｺﾞｿｺﾞｿｯ　ビュッ！


ぽわわわわんっ！

もわもわ　もくもく


兄「むっ」

クラ「そら特性煙玉でござる！　拙者はラッパスッパと違いモノホン忍者故にネ！」ﾊﾞﾊﾞｯ

クラ「このまま身を翻すでゴザルよォ！　いざさらば雪見にころぶ所まで！」

クラ（幾ら鬼ぃ殿でも目眩ましは効果抜群、このうちに安全なところまで…）ｲｿｲｿ


「──宴会場はここだぞジライヤ」


クラ「ふぇ？」ｶﾞｼｨ　ぐるん！　ﾄﾞｺﾞｫ！

クラ「ぷげぇっ！？」

兄「白色に変わりねえ、いっちょこのまま火花見物と洒落込もうぜ…」ｹﾞﾍﾍ

クラ「いつになく本気の鬼ぃ殿に戦々恐々の拙者ッ！」

兄「何時もなら適当にあしらうが、今日は何かと暇なんでね。最後まで付き合いなさい、えいっ」ﾒｷｭｯ

クラ「けひゅっ」カクン

兄「別に校舎に被害出るほど爆薬盛ってないんだろ？　あって花火ぐらいの演出とみた」ｽｯ

クラ「まっ…まっふぇ…」ﾌﾞﾙﾌﾞﾙ

兄「そーれ、いっちょかましたれー」


がぱぁ

ﾁｯﾁｯﾁｯﾁｯﾁｯ　ｶﾁﾝ！

どぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんんんん！！！！！



兄「」ｷｨｲｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰﾝﾝﾝﾝ…



ﾌﾞﾜｧｯ！　ｶﾞﾀｶﾞﾀｶﾞﾀ　ﾋﾟｼｨｯ　パァンッ！



兄「…　──ﾊ　こりゃ　　おま　　え」

兄（爆弾でもなく、火花でもなく、大音量の爆発音とか）

クラ「あ。やっぱり鬼ぃ殿には音撃は効くでござるかー？」

兄「…い　　今までで　　　一番　　だな　　てか　　おまえ、　　は　　？」

クラ「そりゃ仕掛け人故に対策済みでござるよ。聴力失いたくないでござるし」

クラ「というか何故に、爆音を受け数秒で拙者の声が聞こえてるでござるか…？」

兄（そりゃ俺自身がよく音程差の見破りとかやるからね…）ｷﾞｭｯ

兄「っはぁー、耳に詰まった感じが腹立つ…」ﾎｼﾞﾎｼﾞ

クラ「あら～もう完治でござるか～、聴覚破壊術、ここに敗れたり」ﾆﾝ…

兄「スピーカー使っておいて術を語るな、エセ忍者野郎」

クラ「現代に生まれし忍者はなんでも使うので。えへへーほめてほめてー」

兄「だぁーひっつくな暑苦しい！　ったく、なんでお前は俺を[ﾋﾟｰｰｰ]技術を見せびらかせたがるんだ…？」

クラ「無論、拙者が鬼ぃ殿に認められたいからでござる！　──我が父の仇、鹿野園郡太夫を撃退し！」

クラ「しかも鬼ぃ殿が散歩中の出来事だったというからこりゃ南無三！」

兄「…言っても勝手にあっちが墓穴ほっただけだぞ」

クラ「不死身と相成った輩をワンパンでのした鬼ぃ殿はまさに豪傑無欠！」

兄「聞いてないよコイツ…」

クラ「拙者は心に決めたでござるよ…復讐だけに囚われ世界を見ずして忍道は語れぬと…」

クラ「ならば！　この一生をかけて、最強たる鬼ぃ殿を見事殺め参じてみせようと！」

兄「そこだ、そこ。なんで俺の命に手をかけることになるんだよ、意味わからん」

クラ「…鬼ぃ殿倒せば、既に最強の名は我が物では？」

兄「勝手に語っとけ」ｽﾀｽﾀ

クラ「なんとご無体な！　拙者は鬼ぃ殿に認められるだけで良いのに…っ！」

兄「はいはいはい、わかった君が最強だよかっこいいね、じゃ帰る。割れた窓ガラス弁償しとけよ」

クラ「やだでござるぅー！　そんなテキトーなの拙者やだやだー！」

兄「やだじゃない。自尊心を守る行為が命のやり取りな時点で、お前は頭がやばいの、付き合いたくないの」

クラ「…鬼ぃ殿も簡単に人を殺められるクセに…」ﾎﾞｿﾘ

兄「うっさい！　だぁもう下駄箱もちゃんと直しておけよ！？　ゴタゴタ装置つけやがって！」

クラ「はいでござる…」ｼｭﾝ

兄「……、一般人として生きるなら無茶なコトやめろ。浮いちまうぞ、…俺みたいにな」

クラ「？？？　鬼ぃ殿は望み、孤独と相成ってるのでは？」

兄「なワケねーだろ」

クラ「そうでござったか…拙者、生まれて忍者故に一般人として生きるのは【それ自体異質】なので」

クラ「拙者から見れば一般人の中で異質な鬼ぃ殿は、折り合いをつけれたと思ってたでござる」

兄「そりゃ単に俺が忍者でも、ヴァンパイアでもゴーレムでも、巫女さんていうカテゴリじゃないからだろ」

兄「…俺は普通なやつだけど、でもやれることは普通じゃない。ただ、それだけだ」

クラ「仲間いなくて寂しいんでござるか？」

兄「……端的にいうんじゃないよ……」

クラ「では何か始めたらいいでござるよ！　拙者も部活で勤労を費やす日々！」

兄「そういやお前、新聞部だったな。しかも部長とか」

クラ「いやは！　鬼ぃ殿に拙者の私生活を覚えていただけるとは嬉しい限り！」

兄「前口上で言ってただろ…つかやっていけてるのか？　確かに忍者なら情報収集はお手のものだろうけど」

クラ「モチのロンでござるよ。西口玄関掲示板にて毎週金曜日刊行でござる、是非に読んでね！」

クラ「見どころは『全国制覇、なんと六冠！　謎の六英雄について調査結果！』でござる！」

兄「まあ気が向いたら。…そっか、上手く部員とやっていけてんだな」ﾎﾞｿﾘ

クラ「拙者も大いに驚いてるでござる。この学校、些か一般的と言えぬ常識はずれな【裏】が伺える故に」

クラ「歴代新聞部部長殿達も、己の退学危機を見事躱しつつ手に入れた情報もこれまた僅か、拙者の忍者スキル役に立ちまくりでござる」

兄「無駄に身体張ってんなお前の部活…」

クラ「そこでござるよ、鬼ぃ殿」ﾆｯ

クラ「学生ならではの日常的肉薄感、命のやり取りとは異なった『笑える危機』が楽しいのでござる」

兄「笑える危機…」

クラ「拙者、何気に全力なのでござるよ。皆と企て、裏道練り歩き、時にはあんぱん牛乳で３日を過ごす」

クラ「背後に怯える夜も乙なものでござるが、くくく、ジュース片手に浮ついた夜もまたイケるのでござる」

兄「…ああ…」

兄（なんか、良いな。お前、本当に楽しそうじゃんか）

クラ「鬼ぃ殿も背負われた宿命に追われ気苦労絶えないでござろうが、時に寄り道などして見ては如何か？」

兄「別にたいそれた命題なんぞ抱えちゃいねーよ。敢えて言うなら普通に生きて普通に死ぬ、それだけだ」ﾌﾘ

クラ「カァー！　痺れるでゴザルゥ！　その気にも留めない傾き具合、拙者の腎臓一個鷲掴み！」

兄「本当に取られても大丈夫な内蔵を上げるな。取らねえよ馬鹿」

兄「ん、音を聞きつけて生徒が集まり始めたな。俺はもう帰る、あとジライヤ最後に一つだけ」

クラ「にん？　新聞部の壁掲示以外の発行は月一度だけとなっておるでござるよ？」

兄「余念なく告知しやがるな、そうじゃない。…ただ俺個人としてもやりたいことがない、のは思うところがある」

クラ「ほほぅ。鬼ぃ殿が拙者に弱音を吐かれるとは、もしや拙者に首を取らせるご覚悟が決まったでござる？」

兄「決まったでござるぅ？　じゃねーっつの、だから、もしやりたいこと見つけたい時に…頼りにさせろってこと」ﾃﾚ

クラ「せ、拙者に鬼の化身と言わしめる貴方へ助言を…？」

兄「まー駄目なら良いよ。一人でなんとかどうにかして探してみるから、人が死なない程度で」

クラ「待つでござるー！　不用意に不吉な単語を残して去ろうとするなでござるよォ！」

兄「じょ、冗談だっつの！　ただえさえ普段から命やり取りしてんだ、日常ぐらい普通に過ごしたいわッ！」

クラ「本当でござるか…？　ならば拙者一晩必死に熟考して鬼ぃ殿に提案するでござるよ、誰も死なない奴を」

兄「あのなぁ…？　お前のオヤジの仇やっつけたとき、命までとってねえだろ？　何をそこまで怯えるんだよ…」

クラ「でも完全に再起不能にした…病院のベッドの上で『あびゃー』しか呟けなくなるまで…」

兄「そりゃアッチが勝手に怯えて、最後の手段だとか言って法螺貝を吹いたからだろ。自分の弱点だったのに…」

クラ「人を五体重ね圧し折る猛者が、日本を牛耳る一歩手前の最高潮時を拳一つで叩き折ったからでは？」

兄「うっ…確かに相手さんは人生の中で一番最高に輝く顔してた気がするけど…」

クラ「こっちも驚きでござった。無敵不敗の宿敵が「うるさい」の一言で地に沈む姿は…」

兄「だァー！　もうっ、なんだっていい！　馬鹿の話はもう金輪際するな、とにかく任せて良いんだな？」

クラ「わ、わかったでござるよ。鬼ぃ殿の日常を裕福とさせるものを探す、…あれコレ超難解でござらんか…？」

兄「適当で良いよ適当で。じゃ、何度目かのもう帰るだ。いい暇つぶしになったよ、じゃあなジライヤ」

クラ「さらばでござる…」ﾄﾞﾝﾖﾘ


ヴァンパイア城　門前


兄「やーゾンビさん、久しぶり。今日はいい天気でしたね、何か変わったことありませんでした？」

黒服「いえ、なにも」

兄「そうなんですか。実は俺も何ですよ、まったく厄介事に巻き込まれなくて普通に登校できたっていうか」

黒服「左様ですか」

兄「…うん…」

黒服「なにか？」

兄「えっと、あはは、そのーあんまり黒服さんたちと普段から会話してないなってふと思いまして…」

黒服「我々一同、黒服は全て空気だとお思いになってください。生きる柱、生きる壁、生きる屋根、床だと」

兄「最後の二つらへんどう受け取ればいいんですかね…？」

黒服「好きな通りに」

兄「えっと、俺的にはちゃんとゾンビさん達と会話したいんですけど、駄目っすかね？」

黒服「…………………………」ｶﾁﾘ

兄（ん？　今なにかスイッチを切ったか？）

黒服「…少し、本音を言わせてもらうとですね…」コソ

兄「え、うん、はい…？」

黒服「我々、黒服たちの一部では不満が急増しておるのです…」ｺｿｺｿ

兄「ゾンビさんたちの不満が？　一体なんの、もしや給料が少ないとかですか？」

黒服「いえ、貴方のことなのです兄様」

兄「お、俺？　俺がなんの関係があって皆の不満に…あ、俺がその…化物だからですか…」ｼｭﾝ

黒服「滅相もない！　──貴方は我々の希望、如何なる苦悩を背負って日常を歩んでいるのかと思うだけで…っ」ぎゅっ

兄「そ、そうなんですか？　それは初耳でした…なんかこっ恥ずかしいっすね、てへへ…」

黒服「だからこそなのです！」

兄「へっ？　だからこそ？」

黒服「我々は貴方と会話したい、そう望む声が日に日に膨れ上がっています」

黒服「日々、経験する日常が如何なるものなのか是非貴方から直々に聞き届けたい、と…」

兄「お、おお、そこまで望まれてたとは。じゃあ何故に話しかけてこない感じで？」

黒服「……そ、それは」ﾋﾞｸｯ

兄（？　なんで怯えるんだそこで？）

キョロキョロ


黒服「きょ、今日は確かお嬢様の仕事に付き添っておられたはず…」ｶﾞｸｶﾞｸｶﾞｸ

兄「だから何をそんなに怯えてるんですか！？　黒服さん大丈夫！？」

黒服「くッ…我々黒服の悲願であり【願い】…私一人の犠牲でどうにかなるのであれば…っ」ｷﾞｭｯ

黒服「──心してお聞きください、兄様。私共は『とあるメイド』に強制的に会話することを、」



メイド「とは？」



黒服「はぅあッッ！！？！？！」ﾋﾞｯｸｩｰｰｰﾝ

兄「あ。マミー姉ちゃん、また人の死角から現れやがってびっくりするだろ」

メイド「これは、これは。申し訳ありません、そしてお兄様よくぞいらっしゃいました、我が主の城へ」ｽｯ

メイド「お待ちしておりましたよ。今日は何用でございますです？」ﾆｺ

黒服「………………………」ﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗ

兄「特に用事があるわけじゃなく、嬢ちゃんに差し入れでもと。あと黒服さんから大事なお話が──」


メイド「大事なお話、」ｽｯ

メイド「とは？」ﾆｯ…


黒服「滅相もございませんッ！　我々は耳で聞き、口を閉ざし、瞼を切り捨て、命のまま蠢く生きる屍也ッ！」ｼｭｯﾊﾟｧｧｱ！

メイド「してその脳は如何なる価値でしょう」

黒服「はッ…がッ…ヴァンパイア家に捧げる、我々唯一無二の価値であります…ッ」ｶﾞｸｶﾞｸｶﾞｸ

メイド「宜しいですよ。まさか我が主の直属である、私の命が脳に行き届いていなかったのなら」ｽﾀ

ｽﾀｽﾀ　ﾋﾟﾀﾘ

メイド「──貴方に、私の線を刻む所でしたわ。脳へ直接」ﾆｯｺﾘ

黒服「……、はい…」ﾄﾞﾊﾞﾄﾞﾊﾞﾄﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞ

兄「く、黒服さん？　なんかすげぇ額から、というか顔全体から汗がやべーぐらい出てるんだけど…」

黒服「わ、私は全然平気で大丈夫なので、どうかメイド長と共に城へ…」ｽｯ

兄「でもさっきの続きが…」

黒服「どうかッ！　お嬢様がお待ちになっておりますからッ！」

兄「う、うん。じゃあお言葉に甘えて…行こうかマミー姉ちゃん、嬢ちゃんはまだ仕事中なの？」

メイド「ええ、そのとおりで御座います。ヴァンパイア頭首たるもの日々、多忙な限りなのですよ」


ｽﾀｽﾀ


黒服「…、…、…」ﾁﾗ

兄「……」ﾁﾗ

黒服「……？」

兄（あ・と・で・ま・た・は・な・そ・う）ﾊﾟｸﾊﾟｸﾊﾟｸ

黒服「っ…！」ﾊﾟｧｧｱｱｱ

メイド「……」じっ

黒服「右良し！　左よーしッ！　今日も我が主の城は安全無欠ッ！」ﾋﾟｯｼｨｲｲｲｲ！


城内　研究室


女「──む、化物か。よくぞ来た、しかし相手はしておれんぞ」ぽちぽち

兄「学校もこないで何やってんだと思えば、ゲームかよ。吸血鬼のお仕事はサボり中か？」ﾄﾞｻﾘ

女「ええい黙っておれ。集中しておる、上手く行けばこのまま──」


ﾀﾞﾀﾞｧｰン！


女「──ッ…ッ……！！　……！！」ﾌﾟﾙﾌﾟﾙﾌﾟﾙﾌﾟﾙ

兄「ゲームごときで本気になるなよ。そういやウチでやったゲームもマジ気味だったな」

女「だァアアアア！！　ワタシも好きでやっとらんわッ！　低レア鯖でどうSSRレアボスに挑めと！？」

女「もういや…ワタシもう現当主やめたい…」ｼｮﾎﾞﾝ

兄「良く分からんがお疲れなら甘いもんでもどうぞ」ｶﾞｻﾘ

女「……チョコあるか？　ヴァンパイアのワタシ、ちょこたべたい」ﾁﾗ

兄「何でもござれだぜ。こちとら趣味が甘味物、抹茶にココアとクリーム系全種、おまけに野菜入りだ」

女「野菜入りはいらん、オマエが食え。チョコだけでいい」

兄「野菜も食べろよ…吸血鬼だからって、だからって？　そういや鬼は何食べるの？　人肉？」

女「あほいえ。ちゃんと飯食べるわ、伝承の本元もワインにパンきちんと食べるぞ。吸血は欠乏症が起こす興奮抑制だ」

兄「そういや吸血鬼は自分で血を作れないんだっけ。大変だモンスターは」

女「ぶっちゃければ酒だ。飲まなきゃ苦しい、飲んでも後に苦しい。依存症となんら変わらん」ﾎﾟﾁﾎﾟﾁ

兄「身近で例えられたらしょうもねぇな…おい嬢ちゃん、せめてこっちみて会話しろよ」

女「むりだっちゅーの。今週中に今あるメインストーリーをこなす、出来なければ死ぬ」ぽちぽち

兄「ゲームで死ぬなんて大層だなヴァンパイア。自分の仕事をこなすより趣味が優先なのか」

女「なにいってる、これがワタシの【仕事】だ」

兄「ゲームやることが仕事…？　どういこった、そりゃ」

女「あーん」

兄「…………」

女「あーーん」

兄「はいはい…やりゃ良いんだろやりゃ…」ｽｯ

女「もぐもぐ、こりゅは【ヴァンパイア７つ仕事】の一つであり、ごくん、先日に急遽調整を任されたのだ」ぽちぽち

兄「へ？　ゲームでも作ったのか嬢ちゃん？」

女「なにそれ楽しそう。今度エメトと一緒にRPGツクールやってみるか…そうじゃない、ゲームだけでなく【コレ】もよ」ｽｯ

兄「……？　よく見るとコントローラじゃないな、それ、アイフォンか？」


女「───【Deus ex machina】」

兄「え、なにっ？　でうす…？」

女「デウス・エクス・マキナ、意味は『機械仕掛けの神』。
　　不条理な現象、運命、災いに救済の手を差し伸べる【だけ】の神々の通称だ」

女「古代ギリシアの演劇で使われた手法でな。急激に場面が切り替わる際に使用した舞台装置、それが名前の由来だという」

兄「はあ…そうなんだ…で、なんでそんな仰々しい名前をアイフォンにつけたんだ…？」

女「このアイフォン自体は問題ない。ただ、【アイフォンでやるこのソーシャルゲームに神が宿りおった】」


つんつん


女「──先日、とある某国と某国の諜報機関たちがヘマしおってな。互いの機密情報を垂れ流し合い合戦が始まった」

女「二国は念願果たしたにも関わらず愛国へ泥を塗った為、現場と機関は大混乱、三桁ぐらいの首が跳ね飛んだらしい」

兄（やだ、なんか凄い怖いこと言ってる！）

女「しかし異様なことに両国の情報漏洩が【同時刻】だった。調査を開始した機関はとある興味深い原因へと辿り着いた」

女「…それが人類観測集計装置、人口AI『DEM』──まあデウス・エクス・マキナだったというワケだ」

兄「うん…言ってることほぼ意味分かんないけど、これはまた大仰なこって…」

女「そうでもないぞ。化物、持ってるのはケータイとアイフォンどっちだ？」

兄「ケータイだけど？　ガラケーってタフなんだよ、俺が暴れても全然壊れない。超不思議、日本に生まれてよかった」

女「それはよかったな。買い替える時はワタシの所に一回持ってこいよ、内蔵チップ抜き取るから」

兄「ん？　内蔵チップ？」

女「市販製品は軒並み機関の情報収集の為に、いらぬ装置がさり気なく入り込んでる。無論、もろもろ出費はタダ」

女「それに政府ギフトだから節税できてうはうはだ。将来は入社していいとこポストで鼻高々に人生全うするが良い」

兄「なにその陰謀論がマジでしたみたいなの！　怖い！　世界って怖い！」

女「ちなみにガラケーは製造装置が日本独自開発でチップ混入は一定層免れてる。素晴らしきかな我が故郷、いやマジでな」

兄「んで、そのチップが盗んだ情報を…そのデウスなんとかが集計してるってワケ…？」

女「化物にしては察しが良いではないか。そうでありそして、その人口AIは両国にとって要であった」

兄「ん……？　待てよ、争ってる二国が同じロボを共同利用してたってこと……？」

女「ロボてオマエ。まあその見解であってる、そりゃだってワタシの父上が作ったヴァンパイア印の一品だもの」

兄「で、出たァーーー！！　なんでもありのヴァンパイアァーーー！！！」

女「褒めろ褒めろ。あーーーん」

兄「ほら、あーーん」

女「もぐもぐ…おいひぃ…ごくん、んで今回だ」

女「詳細資料は渡されんかったので独自に調べ上げてみたところ、どうやら『DEM』にクラッキングした馬鹿が居るらしい」

女「何も掴めぬ日々に業を煮やしたのだろう。共同利用は両国とも既知であったしな、そして浅はかにも人は神へと手を出した」

兄「あぁ、何となく展開読めちゃったよ…それでロボさんが怒っちゃって情報を流したってことなんだな…」

女「………………………」ぽちぽち

兄「…嬢ちゃん？」

女「違う、違うのだ化け物。『DEM』はなにもしておらん、過ちを犯し己に自身に災いをもたらしたのは人間たちなのだ」

兄「人間たちって…」

女「確かに『DEM』はクラッキングを受けエラーコードを発した。記録にも残っておる、しかし【実際には警告をしなかった】」

兄「え、なに、じゃあロボは情報を盗み取ろうとした奴のことを許したってことか？」

女「それも違う。許す許される問題じゃあない、『DEM』は独自の思考パターンで陥った現状を解析、分析、解決を行う」

女「導き出されたコードは『偽情報の排出』だった。『DEM』はおろかな人間に天罰として試練を与えたという訳だな」


女「───ただし、それは【一回限りのみ】」


兄「へ…？　て、ことは…？」

女「ああ。つまり、クラッキングは【二回行われた】。しかも同日時で、さらに【両国】がだ」

三日後に　ﾉｼ

兄「うわぁーお…」

女「敵対した二国が同タイミングでクラッキング──して得た偽物の情報を元に、濁った我欲で次なる欲へ手を伸ばしたというワケだな」

女「『DEM』に残ったデータは凄いものだったよ。良心的回路、悪心的回路、俯瞰的回路、全てがフル活用だったわ」

女「繰り返し繰り返し…何度も何度も…一秒にも満たない刹那に、何億年という年月をパーソナルエリアで熟考し…そして…」

ｶﾂﾝ

女「怒り、狂った」

女「お望み通り、全知全能のカミサマとして人間へ全てをさらけ出した」

女「つまり同時機密情報漏洩の原因は、両国のクラッキングを受け【『DEM』がすべての機密情報をただ排出した】だけ」

女「そも『DEM』の役割とは情報集計だけではない。人工ＡＩなんぞ省いて低コストで然るべきだろう？」

女「コイツの仕事とは損得を加味した人類調和。嘘誠の情報を切り張りしそれっぽくみせ、ここぞというタイミングで世に解放させる」

女「【転機を欲する者に救済の手を差し伸べるだけ】」

女「それが本来のデウス・エクス・マキナの在り方だった」

兄「…じゃあ今回は本当にロボさんはなにもしてないんだな。いや、【しなかったが正しいか】」

女「人間という生き物は生まれながらにして欲が深い。
　　父上が敢えて『DEM』を一体だけ作った意味も、今なら分かる。そして人工知能を付けた意味もな」

女「例え欠陥品と呼ばれようが、結果こうなる可能性を引き起こすのが人間。愚かな限りだよ、まったくな」

兄「それで結局どうするんだ？　責任問題なら吸血鬼当主の嬢ちゃんが背負わねえとだろ？」

女「だから今やってる。これがワタシなりの責任の取り方だ」ｽｯ

兄「あ。それでゲームに繋がるわけか、…ん？　じゃあなんでゲーム？」

女「…端的に言うと『DEM』はスネた」ﾑｽｯ

女「人間の欲深さに呆れかえって仕事を放棄。一国に対して大規模な情報整理を放り投げたからさあ大変だとよ」

女「まあそこまではいい、許容範囲内だし、問題は次だ」ぽちぽち

女「スネた『DEM』が今度はクラッキングを行った奴のアイフォンを乗っ取り、自ら人間たちの欲を理解し始めようとしたワケだ」ﾂﾝﾂﾝ

兄「えぇー…それが、もしかしてソーシャルゲームだったってワケ…？」

女「馬鹿が日本のサブカルチャーに精通しておったらしく、これまた綺麗にサーバを乗っ取りゲームシステムに干渉しおったわ」

女「そして我々人間共に要求した」


女「【課金武装、課金鯖無しにワレに勝ち給え、人間共】とな」ﾊｧ

兄「……。ソシャゲはやったことないから分からんが、神サンが目を付けるほど欲深いモンなのかよ」

女「つけたのならそうなのだろうよ。やってみてわかったが、
　　確かに我欲が懐事情に直結するシステムは呆れかえる程精巧に出来ておる」

女「天晴れだ、世は既にアイを金で購入できる時代なのかもな」ｸｯｸ

兄「いやな時代だな。そんで要求されたことを嬢ちゃんがこなしてるってことか……チェスならまだ様になりそうだぜ」

女「色々と言いはしたが、ゲームとしては良くできてるぞ。ストーリーも実に原作ファンが小躍りする要素が盛りだくさんだからな」

女「見てみろ、化け物」

兄「あん？」

女「今、フィールドに三匹の鯖がいるだろう？」

兄「…うん、本当に読んで時のごとく鯖だな。魚の」

女「一匹目が『セイバー』というクラスだ。攻撃翌力、防御力、ＨＰともにバランスが良く使い勝手の良い魚だろうな」

女「二匹目が『アーチャー』クラスだ」

女「攻撃は低いがクリティカルが出やすい性能で戦況がひっくり返ることがままある、面白い魚だ」

兄「俺はなんだかこの説明が面白く思えてきたよ、嬢ちゃん」

女「そして最後のクラス、『バーサーカー』。これはまぁ…なんていうか…オマエだな、うん」

兄「ゲームキャラを俺で例えるなよ…」

女「なんだ？　幼い頃にそうやってイジられたのか？　…まあとにかく、このクラスに属した鯖で攻略していく」

女「また３クラスごとに三竦みになっており、
　　鯖の一体一体ごとに特殊なスキルがあるから、上手く活用し円滑に進めていくのだ」


ぽちぽち


女「…そうであっても限界はある…課金、課金だよ化け物…ソシャゲは課金させしてしまえば余程運が無い限り支障ない…」

女「だが、要求は無課金で攻略だ。しかも全ストーリークリア、一週間以内にだぞ」

兄「…出来なければ？」

女「想像しろ、二国のみ使用とはいえ『DEM』が扱っていた情報はほぼ世界規模なのだ」

女「それが手当たり次第に流出するとなれば…起こるぞ、核戦争が」

兄「うーーーん…やばい、やばいんだろうけどなんか実感沸きにくい話だなオイ…」

女「ん？　まあそれでいい。理解が及ばんことを無理して自分の型に納めようとするな、オマエはオマエでいいのだ」

女「それに出来ないワケじゃない、天才的頭脳を持つワタシにこと頭脳と幸運を使用するゲームは天地無双だ」

ドーン！

女「っ…ま、まぁストレスは貯まるがやれることはやる、安心しろ。別に世界を危機に陥れるつもりなどさらさらないわ」

兄（やはり当主だよな、良いカオしてる）

兄（仕事に関しては本気で、しかもやりがいをもって突き進んでる。かっけぇな、嬢ちゃんは）

兄「……。俺に出来ることはないか？」

兄「俺は嬢ちゃんの味方だ。それに俺は化け物、人のために動きたい人間。世界の危機だっつーなら俺だって役に立てるはずだし」

兄「いっちょ俺に頼んでみろよ嬢ちゃん」

女「……………」じー

兄「なっ？」ﾆｺ




女「別に必要ないけど？」




兄「えぇっ！？　そんなばっさり言っちゃうの！？」

女「必要になるわけなかろう、なにいってんだオマエは」

女「今回ばっかりは力任せに解決できる話じゃない。むしろ繊細かつ誰も傷つけない方向に持って行かなければな」

兄「そうかもだけど…なんかこうあるじゃん、ぶん殴ればはいオッケーみたいな活躍どころとか…？」

女「無い。断言する、絶対にあり得ない。大人しくワタシの口にケーキを運べ」ｱｰﾝ

兄「あーん、…なんだよじゃあさっきまでの説明は。さっぱり聞き損じゃねえか俺、すげえショックだよ…」

女「単なるグチだよワタシの。頭首たるもの部下においそれと弱音を吐けんのでな、不安を煽る必要などない」ﾓｸﾞﾓｸﾞ

兄「…じゃあ一応は役に立ったってコトか？　今の嬢ちゃんの気持ち的には」

女「もぐっ！」ﾄﾞｷ

女「…ま、まあな…そういったところは…腕力以外で役に立つ、稀有な人材と言うべきかなぁと…」

兄「もぐもぐ、なんで顔を赤くするんだそこで？」

女「う、うるさいぞ化物！　もういい、オマエは甘い菓子だけ持ってくればいいのだ！」ｶﾞｰｯ！

兄「ん？　それもいいかもな。一週間学校来れないんじゃ顔合わせないだろうし。時々見に来るよ、嬢ちゃん」

女「っ～～～…オマエはどうなのだ、今日はちゃんと登校できたのか」

兄「そうそう。これがまた出来たんだ、久しぶりだぜ普通に授業受けて帰ってきたの」

女「ふん。ならば久しい普遍的な日常、めいいっぱい謳歌するがいい。ワタシのこと気にせずな」ぽちぽち

兄「そう言われてもなぁ…よくわかんねえんだよ、普通の学生生活ってやつが。一体なにすりゃ良いのか…」

女「暇なら人狼娘と戯れてくればいいだろうに。あのケモノ、最近は部活で全国制覇したらしいぞ」

兄「……だから最近は学校で見かけなかったのか、部活は何やってんだ？」

女「知らん。興味ない」

兄「ひでぇな嬢ちゃん…一応は人狼と吸血鬼ってライバル的な立ち位置なんだろ…？」

女「ワーウルフの生体には興味あるな。だが、あの一族は血が薄まり過ぎた、焦ってワタシを攫おうとするぐらいだし」

女「昔はどうであれ今でも同立場だと思われては些か心外だ、これ、現当主の本音な」

兄「まあ、嬢ちゃん家に人狼家が迷惑かけたのは知ってるし。ボロクソ言っても特に何も思わんが…」

兄（すこし可哀想に思えてきた。決闘決闘やかましい娘だったが、今度機会があればお相手してやろうかな）

ボーン　ボーン


兄「お。もうこんな時間か、結構長居しちまったぜ。そろそろ帰るよ嬢ちゃん、身体には気をつけろよ」ｽｯ

女「飯は食ってかんのか？　マミーが嬉しそうに献立を考えてる姿が思い浮かぶぞ」

兄「こっちは家族団らんが大切なの。妹ちゃんとの飯、欠かしたら生死に関わる」

女「オマエが言うと冗談に聞こえんよな。ならば帰る前にエメトと門番に会っていけ、中庭で稽古中だ」

兄「ほほぅ、そりゃいい事聞いた。ちっとは扱えるようになったかね。自分の力ってやつを」ﾆｯ

女「……………」ぽちぽち

兄「…絶対に今、自分がきちんと扱えるようになってから言え化物、とか思っただろ嬢ちゃん」

女「はて？　なんのことやらー？」

兄「誤魔化す気もさらさらない態度！　だぁらァーー！！　気に障ったので嬢ちゃん肩車して中庭にゴー！！」ｽﾞﾎﾞｧｯ

女「あんまり揺らすなよ、集中途切れるから」ぽちぽち

兄「なんら問題なさそう！　…にしても軽いなぁ嬢ちゃんは、飯くってんのか」ｽﾀｽﾀ

女「食ってるよ。みんなでカレーライスをな」

兄「…おう、そっか」ｸｽ


中庭


門番「ん？　この尋常じゃない気配が二つ、やはり吸血鬼野郎様と兄か！！」ﾊﾟｧｱｱ

女「……」ぽちぽち

兄「よう、元気にしてたか門番」

門番「元気元気！　すげー元気だ、兄は元気してた？　あと聞いてくれよ兄、オレなオレな！」ﾋﾟｮﾝﾋﾟｮﾝ

兄「おう。どしたどした、いっぱしにワンパンで悪の親玉ぶっ倒せるぐらいは成長しちまったか？」なでなで

門番「へへー！　どうだろなー？　そこんところはなー？　えへへー！」

女「……化物、揺れる、一回下ろせ」ぽちぽち

兄「おっとすまん、よっこらせ。そういやエメトさんは？　姿見えないけど気配消しでもやってんのか？」ｽﾄﾝ

門番「うんこだってさ、最近便秘気味らしい」

兄「トイレか厠に行ったと言えコラ、女の子がはしたねーだろ」

門番「ん…そっか、わかった。今度からは気をつける、じゃ、撫でてくれ頭」ｽｯ

兄「えらい素直だな、戦う者に品格必要なしとか言うと思った。…好きだな撫でられるの」なでなで

門番「えへへ…うん、すき…」ﾆﾖﾆﾖ

兄「ふーん、しかしよく挫けず修行やれてるよお前は。一人里を出て見知らぬ場所でよく頑張ってる」

門番「おうとも、だってオレは龍頭宗の門番。強くならなきゃ、敵から仲間を守るぐらいにはな」ﾆｯ

兄「…いい言葉だ、忘れるんじゃないぞ。その気持ちを」

女「……………」ずい

兄「？　どうした嬢ちゃん？」

女「ワタシもがんばってるぞ。世界、救うためがんばってるぞ。なぜ褒めんのだ」ぽちぽち

兄「…………」ﾎﾟﾝ　なでなで

女「うむ」

門番「……」じぃー

兄「…………」ﾎﾟﾝ　なでなで

門番「えへへー」

兄（みんな撫でられるの好きだな。そんな求めるほどにイイもんなのか、これ）ﾁﾗ


メイド「……」ずいっ


兄「おぉわぁッ！？　びっくりした！？　マミーお姉ちゃん何時からそこに！？」

メイド「やはり、ここは私も撫でられるべきかと。ずるいですよね、私は貴方様のお姉ちゃんなのに」ｽﾞｲｽﾞｲ

兄「お、弟分に撫でられるのは気分いいもんなのそれ…」

メイド「むしろ年下の男性に撫でられることこそ、お姉ちゃん属性に味が出るのですお兄様」ﾎﾟｯ

兄「意味がわからないけど…まあ減るもんじゃ無いし、じゃあどうぞ…」なでなで

メイド「───ふわぁ…日頃の勤労が許されていく開放感に思わず、このマミー…あふぇ…」ｿﾞｸｿﾞｸｿﾞｸ…

兄「すげーいい顔してる…」

メイド「頑張ってるね、凄いねマミーお姉ちゃん、この世で一番好きだよ。ハイ、どうぞ」

兄「セリフまで要求すんの！？　や、やだよ冗談でも気恥ずかしいっていうか…」ﾎﾟﾘﾎﾟﾘ

メイド「何を恥ずかしがることがありますか。思う存分、わたくしの身も心も指先ひとつで弄んで下さいまし」

兄「言葉通りなのに妙ないやらしさを含めた言い方すんのやめて…」

女「おい、マミーだけじゃなくこっちも撫でろ化物」ぽちぽち

兄「ちょ、待てって！　そう言われても俺腕は２本しかないっての…！」

門番「兄ぐらいになれば腕の一、二本増やせるだろ？」

兄「なんだその俺に対するお手軽化物印象は！？　頑張っても増えませんからッ！」

メイド「フフフ。では、私は此方の三本目のほうで撫でられるのも宜しいですよ♪」ｽｽｽ

兄「ドストレートシモネタ過ぎやしませんかねそれ！？」

女「？　どういう意味だ？　教えろ化物」

門番「三本目…？」

兄「だァー！　無い無いそんなの無いですッ、ハイ終わり！　もうおしまいしゅうりょー！」ﾊﾞｯ

執事「──バハァ～、デカイの出たわい。ム！　小僧、来とったのか。何故か通信に連絡が無かったぞ」

メイド「あん、お兄様ったら恥ずかしがらずとも。…エメト、通信は今予期せぬ謎電波で不通ですよ」

執事「門前警備担当の黒服を最後に切れおったな。後で確認しに行くかの…それと小童よ」ｽｯ

門番「どした、師匠？」

執事「個室に本を置きっ放しにしておったぞ。ほれ、持ってきてやったわい」

門番「あ…」

兄「ん？　読書すんのか門番、というか文字読めんの？」

門番「文字ぐらい読めるっつの！　あ、ありがと師匠…！」ﾊﾞﾊﾞｯ

メイド「おや。その表紙は何処かで見覚えがあるような…あぁ、確か巷で流行の恋愛小説では？」

門番「ッ…ち、違ッ…！？」かぁあああ

メイド「成る程。ここ最近、私の買い物に付き添ってくれたのはそれを購入するためでしたか」ｸｽｸｽ

門番「うっ…うう…っ」

女「ハン、門番よ。キサマその年で色づき始めたか、して見られ恥ずかしい物なら便所で読むなバカモノ」

兄「でも気持わかるよ？　俺も誰かに見られた無くない雑誌とかトイレでじっくり読みたいし」

メイド「もしかして今のエロトークですか？」

兄「馬鹿なッ！」

執事「しかしお嬢の言う通りだ。本質に関わる大切な書物ならばきちんと管理せい、安易に人目のつく場所に放置するな」

執事「時に、己の心一部を表す趣味趣向は付け入れられれば仇と成す。使い手となれば容易く傀儡と様変わりだろう」

門番「気をつけます…ハイ…」ｼｭﾝ

兄「……。なんか師匠ってより親父みたいだよなエメトさん」ﾋｿﾋｿ

女「戦闘以外は単なるおせっかい爺だしな」ぽちぽち

執事「聞こえとるぞぉ」

兄「──…でも読書か」

兄（暇つぶしに本を読むってのもアリか。帰りに本屋に寄ってみようかな）

メイド「お兄様。もうお帰りになられるのでしょうか」

兄「あ、うん。妹ちゃんやお袋待ってるだろうし、そろそろ帰るよ。また今度に遊び来るから」

メイド「それは残念でございます。──それともう一つ、なるべく黒服共にお気を付けくださいまし」ﾍﾟｺﾘ

兄「…そういやなんで、黒服さん達に変な命令してんのマミー姉ちゃん…」

メイド「お気づきでしたか。それは我ら『世に認められぬチカラ』を背負った宿命でございますよ」


メイド「──【安易な救済は、時に、本当の救いにはならない】」


兄「え…？」

メイド「貴方様にはご兄妹が居られます。ですから我々が陥る先は想像しにくいでしょう、なので多くは語りません」

メイド「しかし、ご安心下さい。血の繋がりよりも堅く強固な我が一族に隙などございません」

兄「よく分かんないけど、でも話しかけるぐらいはどうってことないんじゃないの？」

メイド「お優しいお言葉、誠に感謝いたします。…そうですね、まあそれぐらいは彼らも多くは望まない…」

メイド「…既にお兄様ファンクラブが結成されている点については、No.001の私も見逃さなくては…」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ

兄（なにやら怖い名称が聞こえたが聴かなかったことにしよう。忘れてしまおう）

兄「じゃ、じゃあ俺は帰るよ。嬢ちゃん頑張って世界救ってくれ、門番も修行頑張れよ」

門番「お、おう！　頑張るとも…！」ｸﾞｯ

女「よっし２章クリア、任せろ任せろ。これぐらいどうってことないわ」ぽちぽち

兄「おうおう。頼もしい返事だぜ、まったく」ﾆｶ


～～～


兄「……」ﾄﾎﾞﾄﾎﾞ

兄（みんなやることあって良いなぁ。俺みたいに巻き込まれて仕方なく、とかじゃないんだよな）

兄（したいことがあって、それを達成するため日々を過ごす。意味なさそうで確実に充実した日常…）

兄「羨ましい…んだろうか、わかんないけど。でも、今の俺になにも無いのは確かだ…」


ｷﾞｭｯ


兄「…ハァ、妹ちゃんに会いたい…いや、すぐに帰って妹ちゃんに相談だッ！」ﾀﾞﾀﾞｯ


～～～


『友達が生花とかなんとかで全国優勝したから泊まってお祝いしてきます』ﾍﾟﾗﾘ


兄「…ｿｳﾃﾞｽｶ…」ずーん


『あとお母さんも友達とカラオケオールらしいので晩ごはんは一人でどうぞ、らしいです』

兄（なにやってんだお袋は…これなら嬢ちゃん所で食べたほうがマシだったぜ…）ｸﾞｼｬｯ

兄「もういいや。一人で騒いでやる、晩ごはんは何だろうな。シチューか、すげぇ美味そう」


ｶﾁﾝ　ﾁｯﾁｯﾁｯ　ﾎﾞｫｵ…


兄「………」ｸﾞﾙﾙﾙｷﾞｭｳｳｳ

兄「…お兄ちゃん、超寂しいよう…」しくしく



次の日　土曜日　『生徒会専用会議室』



「──休日にわざわざ登校してもらい誠に感謝する。本題の前にまず君らの【全国制覇】について言わせてもらおう」

「既知だろうが敢えて言葉にして説明させてもらう。我が校は、多くの部活動で目出度く優勝杯を手に入れた」

「実に記念すべき今日という日、生徒会長である私からおめでとうの言葉を贈ろう」


ﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁ…


会長「さて、ここから本題だ」

会長「今回君らに集まってもらったのは我が校の最優秀生徒を決めなければならない、という議題だ」ﾋﾟｯ

会長「最優秀生徒部活部門。これは毎年【優秀生徒】が集い、この中で誰が【最優秀生徒】であるかを定める行事である」

会長「見事選ばれた一番の優秀生徒には、その先一年の優待遇に部費の増量、そしてこの───」


会長「【部活動部門・最優秀杯】が贈呈されるというワケだ」

会長「しかし、此度は近年稀に見ぬ優秀な生徒が出揃った。ならばどのようにして──」

「ガハハ！　んだらァその最優秀生徒はオイの陸上部が貰ったも当然じゃのォ！」

「──槍投げ、砲丸投げ、ハンマー投げ、短距離走、多くの【他種目を抱え優勝杯持ってきたのは陸上部だけじゃい！】」


陸上「こないな面倒な会議せんでもオイが一番ちゅーことは当然じゃろォ？　ガハハ！」


「フン。待ち給え一般庶民、杯の数など個人の価値を表すとは限らないんだよ。実に美しくないセンスだ」

「優秀者とは強さの証明より、まずは【気高さ】の一点に絞られるべき。君の雑多な杯に気高き飢えは宿っているかい？」


金髪「我がフェンシング部こそ、誰よりも気高き誇りを保有している。わざわざ語らなくともわかると思うけどね」


ｷｬｰ　ｷﾝﾊﾟｻﾏｰ　ﾜｰﾜｰ


陸上「…なんじゃいやかましい。取り巻き連れよってからに」

金髪「当然のことを言ったまで。君が掲げる杯に美しさを感じない、単なるメッキにしか見えないよ」

陸上「なんじゃてェッ！？　おんどれは、おなごにちやほやされんと意味ないと言うんか！？」

金髪「僻みか？　確かに君のような木偶は応援の一つももらえなさそうだね…実に哀れだよ…」ｸｽｸｽ

陸上「おんどれェ…！？」ｶﾞﾀｧｯ

会長「──静粛に、ここが神聖な生徒会であることを忘れないよう願う」

陸上「ッ…言うてもオイが一番やろうてッ！　オイは誰よりも優勝杯を持ってきたっぞ…！？」

会長「『最優秀生徒』の選定は優勝杯の多さではなく【皆の総意】だ。議論の一つになっても決定項目ではない」

陸上「ぐっ…なんじゃいそりゃあ…ッ！」

金髪「落ち着き給えよ、品がない」

会長「そして、杯の数が意味が成さなければ価値もまた、そうであるだろうな」

金髪「ッ…なん、だと？」

会長「此度は近年稀に見ぬ生徒が揃った、と言っただろう。つまり君の優秀さに引けをとらない者も居る」

会長「──それが『文化部』だ。君ら二人とは異なり、技を深め知を高め、全国制覇を勝ち取った者達だよ」

金髪「はっ…なにを世迷い言を…頭でっかちに僕と一体何を張り合おうなんて…っ」


「ｷﾝﾊﾟさま偉そうだけど馬鹿だもんね…」「中間下から数えたほうが早いしね…」「そこもかわいいけど…」


陸上「ﾌﾞﾎｫｯ」ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ

金髪「わらうなぁ！！　あと君たちも静かにしたまえ！！」ﾊﾞﾊﾞｯ

会長「更に、だ。今年から【新設部も優秀な記録】を叩き出し、優勝を勝ち取っている」

会長「つまり、このような才能あふれる生徒のなかで価値などでは『最優秀生徒』は決定づけられない」

ｽｯ…


会長「む。ここで質問か、君は確か───」


「別に俺様のこと覚えてなくて良い」

「俺様が言いたいのは、さっさとテメェが言いたいこと言いやがれってことだ」


会長「──唐突に端的なことを言われても困る、女子相撲部長【アセナ君】」

三白眼「ちっ、覚えてやがったよ…まあ覚えてそうな『匂い』してやがったけどさ…」

会長「無論、君の名前を知らぬわけがない。今年新設したがばかりの部で見事、優勝杯を手にした君をね」

三白眼「そうかい、別にどうでもイイケド。それより持ってんだろ、今回のめんどうなことを解決する方法って奴を」

三白眼「【プンプン匂いやがるんだよ、きなくせーな】。トップならトップらしく無駄に煽らず即座に解決させろ」

陸上「なんじゃて…？」

金髪「そのような便利な方法があるのか…？」

会長「……。そのとおりだ、今回の『最優秀生徒』を選別する方法が存在する」


会長「それは今から【二十年前にも行われた儀式】、【優秀生徒同士が競い合い】、【勝ち残った先にある杯を手に入れる】」



会長「『最優秀生徒杯戦争』──【優杯戦争】と呼ばれた伝説の学校行事だッ！！」



学校　教室


クラ「ど、どうしたのでござるか？　拙者を学校にまで呼び出して…」

兄「わざわざ休日にすまんな。俺の家、今は親父とお袋が壮絶な喧嘩して滅茶苦茶なんだよ」

クラ「鬼ぃ殿の親御で喧嘩でござるか…地球大丈夫？」

兄「別に俺より化物じゃないから平気。多分、家が壊れるぐらい…かな…？」

クラ「心中お察し申し上げるでござる。それで何故呼ばれたのでござるか、鬼ぃ殿呼ばずとも拙者から訪れようと…」

兄「おお？　その感じだと考えててくれたみたいだな、日常の暮らし方ってやつを」

クラ「勿論でござる。やるといったからにはやる、どの手を使ってでも。これぞ我が忍道なり」ﾆﾝﾆﾝ

兄「まあそのことについてだ。昨日、やっぱ早めにやりたいこと決めておきたいなって思ってさ」

クラ「いい心がけでござるよ、鬼ぃ殿は速攻先決に長があるようでござるな。して、拙者の答えを？」

兄「是非に聞きたい。どうにも俺一人じゃ思いつかなかったんだ、読書とかー世界救ったり修行とかー…色々と考えたけど」

クラ「後半二つが意味不明でござるなぁ…まあ鬼ぃ殿なら有り得そうで逆に怖いでござるが…」

クラ「コホン。頼られれば叶えたいのが拙者の本音、ならば心置きなく助言者と相成ってみせるでござるよ」


クラ「──実は我が校は、部活動がすごいのは知ってるでござるか？」ﾆｯ


兄「うん？　あーそういや、色々と耳にした気がする。壁新聞にも書いてなかったか？」

クラ「読んでくれたでござるかー！？　拙者超うれぴーでござる！」

兄「本当に十代かお前…うれぴーって、確か今年は全国制覇した生徒が沢山居るとかなんとか」

三日後に　ﾉｼ

クラ「そのとおりでござる。全国制覇、という定義は【色々】なのでござるが優秀な生徒ばかり」

クラ「ならば鬼の化身である鬼ぃ殿であっても身体面では負けじ劣らずといった充実感を味わえると思うでござるのよい！」

兄「………」

クラ「？　微妙そうな顔してるでござるね、何か不満でも？」

兄「一年前の事を思い出してた。まぁ部活動って大体、他人の噂から入部に至るケースが多いと思うわけよ」

兄「アイツは足が速い。球技大会で活躍してた。昔野球をやってた、とかさ」

兄「俺も鬼級スタミナと馬鹿力で有名だったし、入学当初は噂を聞きつけた運動部に引く手あまたに引っ張りだこ」


兄「──んで結局言いたのは、俺はその時、のきなみ運動部エースの心ブチ折っちまった」


クラ「知ってるでござるよ？」

兄「だから部活動はあんまりいい印象が──ぇ知ってんの！？」

クラ「超有名でござる。一年前、謎の一年が運動部を荒らし回り各優秀生徒が記録不振に陥った氷河期時代と…」

兄「うぐっ！　多分そんな感じ、当時のこと殆ど覚えてないけど。じゃあ何で部活を勧めるんだお前は」


クラ「【その過去があるからこそ】、【今がある】と言ったらどう思うでござるか？」


兄「どういう意味だそりゃ…？　前にエース共の記録塗り替えたのが、なんかの為になったとでも…？」

クラ「言わば改革、我が校は非常にフィジカルに恵まれた生徒ばかり。悪いことではござらん、しかし」

クラ「──環境と人間関係に恵まれず、本来の真価を発揮できぬ者たちが多く隠れていたのでござるよ」

兄「……つまり？」

クラ「簡単に言えば、
　　　高慢ちきエースの鼻っ面を鬼ぃ殿がブチ折ったので、影に潜んでた才持ちが日の出を見た」

兄「ということでござるの？　そんなん絶対嘘だろ…まったく信じられんわ…」

クラ「だいたい、学生間での年齢差は歪ながらも縦社会」

クラ「鬼ぃ殿が一年時点で改革を起こしたのであれば……」ｽｯ

クラ「当時の一、二年生が、一年という時を経て今年に開花するのも頷ける話ではござらんか？」パッ！

兄「……本来の実力が発揮できる、その環境破壊を担ったのが俺だったということか」

クラ「各部活等で差異はござろうが、
　　　鬼ぃ殿、今年は全国制覇を多くの部活が叩きだした…それは素晴らしいことでござる」

兄「まるで俺のお陰だと言わせたいみたいだな、ジライヤ」ｼﾞﾄｰ

クラ「誰もがそう感謝してござらんよ。鬼ぃ殿はしたことしただけ、そこに意味など宿らんでござろう？」

兄「あぁ全くな。どっちかというと俺は当時のエースに謝りたいよ、殆どが三年生で卒業しちまったけど……む」ﾋﾟｸｯ

クラ「くくく」

兄「……いやな誘導しやがるな、さすが忍者…」

クラ「真偽はどうであれ鬼ぃ殿、今はまたその刈り入れ時とは思わないでござるか？」

兄「は、はあ？　お前なに言ってんのか分かってんのか？　茶々入れに来るとかウザすぎるだろ…」

クラ「それがそうでもござらんのよ、ほれコレを見てくだされ。我が新聞部部員たちがかき集めたネタでござる」ﾊﾞｻｧﾘ

兄「おっ？　これ、もしかして来週の壁掲示新聞？」

クラ「【北校舎掃除用具入れ掲示板】のみ掲示される新聞でござる。マルヒなので一部でしか広まってござらんよ」ﾆﾝﾆﾝ

兄「色々と突っ込みたいけど無視する。…これまた物騒な文字単語が並んでるように見えるんだが」


クラ「気のせいではござらん。優秀であっても裏の顔、人の口に戸は立てられぬばかりか好んで聴きたがる人の性」

クラ「──集めに集めた六英雄、妬み、嫉み、恨み、ありとあらゆる六つの我欲。これぞ人の有り立ち育ち方、とな」


兄「ドス黒い…真っ黒で胸焼けしてきそうだ…お前、正気じゃないのは知ってたが本気だすんじゃないよマジで…」ﾄﾞﾝﾋﾞｷ

クラ「おっとと鬼ぃ殿、勘違いされては困る。このネタは新聞部が好み集めたネタではなく【勝手に集まったネタでござる】」

兄「勝手に集まったって、新聞部が実際に新聞として形にしてるんだから無関係とは言わねーだろ」

クラ「そりゃゴシップに新鮮さは大切でござるしなぁ…巷で噂の六英雄は格好のネタでござるしぃ…」

クラ「して民衆に求められれば探すのも仕事であり人間の性。価値ある情報は人に伝えてこそ真価を発揮するのでござる」

兄「人間って本当に馬鹿だよな、そうやって神様怒らせて自分から世界壊そうとするんだし」ﾎﾞｿﾘ

クラ「…なんか怖い単語聞こえた気がするのでスルーで。拙者も好き好んでこんなんネタ集めたかないでーござるよ」ﾊｧ

兄「もういいよ、それ仕舞ってくれ。見てるだけで吐き気がしてくるから」しっしっ

クラ「そうもいかないでござる」ﾋﾞｯ！

兄「何…？　ぶん殴られたいのかよ、ジライヤ」

クラ「怖ッ！　拙者、今っ、人生の中で一番の恐怖を心底感じたでござるよ…！？」ｿﾞｸｿﾞｸｿﾞｸｿﾞｸ

兄「クナイを懐から出すな、咄嗟に戦闘態勢に入るな、何もしないから。んで？　俺に一体何をさせたいんだ、お前は」

クラ「も、もぉ～冗談はほどほどに～…つまり、でござる。鬼ぃ殿に【もう一度だけ改革を起こして欲しいのでござる】」


クラ「──さすれば、このゴシップに終止符を打つ可能性が見えてくるのでござるよ！」


～～～


会長「『優杯戦争』とは、各部活動の優秀者が己の【技術】と【願い】と【歴史】を競い合う正統な学校行事だ」

会長「今から二十年前も、生徒たちのみで開催し見事一人が勝ち残った」

三白眼「生徒たちのみ？　じゃあセンコーやオトナは関わってこねェのか？」

会長「無論だ。時代は違えど、その点だけは常に守られ続けなければならない。故に極秘裏に行われる」

会長「隠匿もまた優秀さの証明。日常の片隅で競い合うことは絶対的な実力の証明だといえよう」

陸上「ちょい待たんかい。そりゃ聞こえが良いかも知れんが、んだら誰が証明するんじゃ、【誰が一番かを】」

会長「詳細は追って説明する、幾つか項目が分かれているのでな。口頭より文面で確認願いたい」

ピッ

会長「──我が校に集いし、優秀な生徒諸君。君たちは非常に素晴らしく貴重な【財産】だ」

会長「互いに尊重し合い、競い、自己を高め合うのが学生の本分であるならば、どうだろう、君たちに問いたい」


会長「【この学校で誰が一番か知りたくないだろうか？】」



ざわざわ…　ざわ…

会長「私は、知りたい。実に知りたい。優秀な生徒が己の願いを掛け競い合う姿──そして答えを」

会長「時に人は実力を人々に証明させたいと願う」

陸上「…！」

会長「時に人は、己の価値を高めたいと願う」

金髪「…っ…」

会長「時に人は【未来に駆けるため突き進みたいと願う】」

三白眼「………」ﾁｯ

会長「そして、時に人は【この杯こそが最優秀の証明】と想う」


　　「……」

　　　　　　「ｸｽｸｽ」

　　　「えと…その…」


会長「選ばれし諸君、ならば立ち上がれ。今こそが、到底この先証明できぬ真価を発揮する時だ！」


～～～


兄「あぁ、つまり俺が各部活で暴れちまえば【現エース共の価値が薄まっちまう】ってコト？」

クラ「ならば噂の価値もまた薄まるでござる。凄くない奴の噂してもつまらんでござろう？」

兄「わからんでもない。けど、嫌だ。なんでわざわざ俺が悪者買って出なきゃいかんのだ！」

クラ「そこで拙者の出番でござるよ鬼ぃ殿！　我が新聞部にて、決して鬼ぃ殿の悪い噂は流さないでござる！」

兄「…どれほど影響力があるってんだ、それに」

クラ「か・な・り、でござる。
　　　乗りに乗って『謎の実力者』を一面記事にのせるでござる！　こりゃ売れるでござるよぉ！」

兄「信じられんなぁ…特にお前が言ってると半分以下だよ…」ｼﾞﾄｰ

クラ「ダハァッ！　ではでは、新聞にしないでござる。むしろもみ消し方向性ならば…？」

兄「んなこと出来るのか」ﾁﾗ



会長「──『優杯戦争』の告知と経過は生徒間のみで交わされるよう新聞部にて極秘裏に行う」

会長「どのような【理由があろうと必ず優杯戦争での経過は詳細に記載されるだろう】」

会長「ルールは共通ルームSNSにて【アプリ】を掲載する。参加者資格を求める者は、ダウンロードし給え」ﾊﾞｯ




クラ「案外乗り気っぽいでござるか？」

兄「……………」ﾌﾟｲｯ

クラ「顔に出てるでござるよ？　やはや鬼ぃ殿もまた人間、【楽しそうなコトに理由探しは大変でござるなぁ～】」ﾆﾖﾆﾖ

兄「クソ…本当にイキイキしてやがるな、お前…！」ｸﾞｸﾞｸﾞ

クラ「何も鬼ぃ殿が背負う必要ないでござる。ただ単に部活動で日々を過ごすだけ、アフターケアばっちり」ﾊﾟﾝ

クラ「生まれる噂も揉み消し、更に相手方の実力面も文句なし。ならばやることは一つではござらんか？」

兄「……………………………」

クラ「鬼ぃ殿？ｗｗｗｗｗｗ」



陸上「参加資格じゃ言うてもよォ会長サン、こりゃあ【荒れるんちゃうんかい】」

三白眼「そこまで含めて優杯戦争だっつーコトか。色々まだ匂いそうな戦いだな、まったく」

金髪（え？　どゆこと…？）きょとん

「ｷﾝﾊﾟさまが状況について行けず困ってるわ…」「戸惑う姿もあぁんかわいい…」

会長「私は多くは語らない。君たちが望み、結果求めた先に何を得ようとも一切干渉しないだろう」

会長「ただ調律する。規律を守り、ただ整理する。安心し給え、私がこの立場の限り【最優秀者選別は決定事項だ】」


兄「…それなら別に、ある意味人の為に行動するって部分は惹かれるし」

クラ「その通りでござる。言わば変革、極まり過ぎて混沌とした状況下に兆しの一手を！」


会長「改革、変革、大番狂わせは決して許さない」


クラ「出来るのは鬼ぃ殿のみでござる！　これで願いも叶えられ鬼ぃ殿も幸せ！」


会長「願いは優秀な生徒諸君らが勝ち取るのだ。私はそれを守りきろうではないか」


クラ「へーきへーき！　どんな輩が馳せ参じても拙者が守り切るでござるよぉ！　ニニニン！」

兄「うぅ～俺を乗せるの上手えじゃねえか…！　もうもう、どうしようかなぁ…！」ﾋﾟｮﾝﾋﾟｮﾝ

ﾋﾟﾀﾘ

兄「──うん、決めた。じゃあやる、やってやる。どーせ俺が好きにやってりゃ良いだけだろ？」

兄「難しいことは考えなくていい。ただ学生らしく部活やって、結果誰かをもし傷つけちゃっても…」

クラ「大丈夫でござるよ。人はそこまで弱くないでござる、決して」

兄「まぁな…でも、あんまり派手なことはしないぜ？　ある程度手を抜いてやるからな、妹ちゃんに怒られそうだし」

クラ「了解でござる。ではでは、鬼ぃ殿に了解を得られたというわけで！」

クラ「──早速ながら、明日にでも部活動参加と参ろうではござらんか！」


新聞部　部室


クラ「……………………………………え？」

「大ニュースです！　各部活のエースたちが優秀さ競う行事を始めるそうで…！」

「しかも注目真っ最中の『六英雄』も参加予定らしいっすよ！？　こりゃ絶対に一面記事にせねば…！？」

クラ「まっ、待つでござるよ？　いつの間にそんな重大会議が行われて…？」

「ほんの数十分前です！　部長ったら『命の恩人に呼ばれたから行ってくるござる！』なんて冗談抜かすから…」

クラ「えと、その、あははーそちらこそ面白い冗談でござろぉ？　誰がその重大な責任を担うと…」

「だって生徒会長様が直々に告知したんですよ！？　だったら責任はあの人持ちでしょう！？」

「既に各部活動では動いている人が居るみたいです！　それにほら、これが参加資格──」ﾋﾟﾛｰﾝ

クラ「──『まんとらアプリ』？」


「なになに…このアプリは部活動エース【じゃなく、もう一人の責任者が所有する】ことで権利を得る…？」

「つまり一人だけじゃ優杯戦争参加できない？　他にも沢山条件と項目があるぞ…メモをするんだメモを！」


クラ（忍者の勘が訴えてくるでござる。嫌な予感がマックハイスピードでござる）ﾀﾗﾘ

クラ「な、なるほど。では拙者は皆に情報整理を任せ、違うところに担当を…」

「駄目っすよ部長！　生徒会長から新聞部部長を優杯戦争経過整理、頼まれてるんですから！」

「今までも無茶な取材を見逃してもらってたんですから！　逃げられませんって！」


クラ「……………………………………………」ﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗ


「ちなみに嘘書いたら停学どころか退学の流れもなきにしもあらず、らしいっす」

クラ「…ちょっと用事思い出した、ので、ここでさらば…あいやぁ…さらば皆の者…」

ﾌﾗﾌﾗ　ｶﾞﾗﾗ　ﾊﾟﾀﾝ

クラ「…………」ｼｰｰﾝ


ﾀﾞｧﾝｯ！

ｼｭﾀﾀﾀﾀﾀﾀﾀ！


クラ（やばやばやばやばいでござる！　何故こんな急展開！？　拙者思わずボロ泣きしそう！）

クラ「つまり拙者は優杯戦争とやらの責任一旦背負わされ、嘘やもみ消し行えば退学…」

クラ「して、問題が起これば必ず報告せねばならぬ立場───」


クラ（──鬼ぃ殿に誓ったやつ全部やぶっちゃいますやん！！）ﾀﾞﾊﾞｰ


クラ（と、止めねばならぬ！　ああまで入れ知恵したものの状況を知れば流石に鬼ぃ殿も命までは…！）ガラララー！

クラ「鬼ぃ殿まだ居るでござるかァ！？　些か状況が芳しくないこととなったで……！？」ｷｮﾛｷｮﾛ

クラ「居ない、…ッ！？　もう帰宅されて、否ッ！　まずは陰ながら気になる部活を見学すると申してたような…！？」


ﾊﾞﾊﾞｯ


クラ（窓から外を伺い居られれば、ここから飛び出し呼び止めて参じ──）ｷｮﾛ

兄「………」ｽﾀｽﾀ


クラ「──居たでござる！　鬼ぃ殿ぉおおおおおおお！！　こっち、こっちでござるぅううう！！」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝﾌﾞﾝ

クラ（声が届いてござらん！
　　　あの魔の聴覚でそのはずは、もしやワクワクしすぎて聞こえてござらんのん！？）ｶﾞﾋﾞｰﾝ

クラ「しかも向かった場所は──『陸上部部室』…そんなん嘘ですよね…？」ｻｧｰ

クラ「鬼ぃ殿ぉおおおおおおあああああああああああああああ！！！」ｽﾞｯﾀﾞｧｱｱﾝｯｯ！！


ﾋｭｳｳｳｳｳｳ　ｸﾙｸﾙ　ｽﾀﾝ


クラ「止めにいかねばっ───」ﾊﾞｯｯ！

会長「此処に居たか、ジライヤ君」


クラ「へェイッッ！！？？」ﾋﾞｯｸｰｰﾝ

会長「何故、重要な会議で席を外していた。…まあいい、君には元より口頭で伝えるつもりだった」

クラ「会長殿…ッ…その、詳細はまだでござるが優杯戦争なる催しを開催するのは聞きました…！」ﾁﾗﾁﾗ

会長「その通りだ。そこで君に現場情報整理と掲示を頼みたい、各優秀生徒を【独自に密着取材した君なら適役だ】」

クラ（くぉぉ…独断で強引な取材したのバレバレでござる…ッ！　普通に脅されてるでござるッ！）

会長「なにか質問はあるかね。早めに申告した方が君自身の為にもなるぞ」ｼﾞｯ

クラ「今はっ！　…今は特にござらんんん…っ…！」ﾁﾗﾁﾗｯ

会長「そうか。ならば了承と受け取らせてもらう、おって君の立場兼仕事内容をメールしよう」

クラ「…っ…わかったでござる…」ｸﾞｸﾞｯ

クラ（もう鬼ぃ殿には諦めてもらうしかない！　ならば状況悪化を防ぐ為にすぐ駆け付けねば…！）ﾊﾞｯ

会長「君に一つ、個人的な質問がある。今、三階から飛び降りてきたが身体能力はどう───」



バッシャアアアアアアアアアアアアンンンンッッ！！！



会長「む、今のはガラスが割れた音か…？」

クラ「…っ…っ…っ…っ」ﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗ

会長「方向は、陸上部の部室の方だな。…ジライヤ君は優杯戦争に向け準備を整えておくように」ｽﾀｽﾀ

クラ「待たれよ！　せッ、拙者もそっち行くでござるよぉ！？　新聞部として逃せぬスクープ気配故に！」

会長「そうか、ならば一緒に確認しに行こう」ｺｸ

クラ（マズイマズイマズイマズイでござるぅッッ！！）ﾄﾞｯﾄﾞｯﾄﾞｯﾄﾞｯﾄﾞｯ


【現在から数分前】


兄（この辺りが運動部の部室だよな。改めて見るとちょいといい感じの施設だよな、でかいし）ｷｮﾛｷｮﾛ

兄（む。室内に誰かいるな）ｺｿﾘ　ｿｰｯ

兄（中には女子生徒に、…デケェな、俺より頭二つ分ある男子生徒。コイツ六英雄の一人か…？）

陸上「よぅけわかった、こりゃやはり【参加者に枠制限】がありよるわ」ﾋﾟｯ

「部長、すると六英雄の一人である貴方が選ばれるのも当然ですね！」

陸上「アホぅそない簡単にいくか。枠数は七席、立候は自由、そして『メイト』と呼ばれる──」

陸上「──【優秀者】とは別の【相棒】がアプリを落とし、ソイツがエントリーせにゃならん」ﾊｧ

「アプリですか。では副部長の私がメイトという立場になり部長を最優秀賞へと！」

陸上「平気なんか？」

「勿論です！　どんなことがあろうとも、私は…」


陸上「【もしやすると罠に嵌められ退学の恐れもあっけど、平気なんか？】」


「…は？」

陸上「七枠制限で言わば先取り、結果なんぞ見んでもわかる。【確実に蹴落とし合い】が始まるちゅーことじゃ」

陸上「そもそも『優杯戦争』自体が正式に開始せん可能性も捨てきれんなぁこりゃ、くわばらくわばら」

「で、では参加の意思を伝える手段は…？」

陸上「明朝七時に生徒会室にてダウンロードしたアプリに表示されるQRを提示する、と」

陸上「…枠が埋まり次第、すぐさまおっ始めろ言うことじゃろ」

「な、七席を先取りとなるなら…まずは有力候補の部長、またはメイト枠の人物が狙われると…！？」

「あ、あはは、そんなの馬鹿げてる、流石に生徒同士で退学まで追い詰め合うなんて…」ﾁﾗ


陸上「………………」


「………、ほ、本当起こるんですか？　そんな、こと」ｺﾞｸ

陸上「何をしても、何が何でも杯が欲しい。そう心から願うアホはオイ以外に必ずおる、証拠は【オイ自身】」


陸上「アイツやアイツ、そしてアイツ。ガハハハッ！　ガハハハハハッ！　力比べしたくて仕方ないッ！」


「…っ…」ﾋﾞｸｯ

陸上「せやから言うとるんじゃ、平気なんかと。頭イカれてるのはオイだけじゃなく沢山おるぞ」

陸上「本戦前、この段階こそが【ルール無用のバトルロワイヤル】。血の気多い奴がはしゃいどるやろな」

陸上「今は六英雄と担ぎあげられとるが、単なる格好の的じゃ。出る杭は打たれ、弱者は喰われる」


ｽﾀｽﾀ　ｽｯ　ｶﾁｬ


陸上「───じゃけぇんのぅ、オイは心震えるほど嬉しいんじゃあッッッッ！！！」ブォオオンッ


バッシャアアアアアアアアアアアアンンンンッッ！！！

「きゃあああっ！？　急になにを…！？」

陸上「期限が明朝七時、時間は短い、うんならリスクを掛けて情報収集に出向く輩が居るはずじゃろ」


ﾊﾟﾗﾊﾟﾗ　ﾊﾟｷｯ…　ﾊﾞﾗﾗ…


陸上「なぁコソコソ隠れとる奴、知りたい情報は得られたかのぅ？　ガハハ！」

兄「──……ビビったァー、急に窓を割るんじゃないよ、弁償できんのかアンタ。高いんだぞ意外と」

陸上「陸上部は今年から、多額の部費を貰っとる。そもそも校内の修理費は生徒会が請け負っとるわ」

兄「ふーん、そりゃ知らなかった」ﾊﾟｯﾊﾟｯ

陸上「で？」

兄「ん？　…あぁ、ごめん盗み見しちゃってて。別に悪気はなく、単に俺はこの部活に──」

陸上「──喧嘩を売りに来たと、そういうことか？」

兄「興味があって来、………はい？　今なんて？」

陸上「脅しに逃げん時点でそうやろ」

陸上「しらばっくれんでも見逃したりせんから安心せい。快く受けて立つ、して【部活】は？」

兄「……………………、今は帰宅部だけど」

陸上「ガハハハ！　まァ馬鹿正直に語るあほは居らんわなァ！　良い、良いぞ、骨がある根性モンじゃ！」

兄（何を言ってるんだこの老け顔、にしても良くない雰囲気。勘がさっさと逃げろと訴えてるなぁ）

兄「えっと、取り敢えず出なおして良い？　窓割れて、ほら人集まるかもだし…」ｿﾛｰﾘ

陸上「釣れないこと言うな。オイに喧嘩ふっかけ部活も口を割らず呑気に帰るつもりかい」

兄「ちょ、ちょっと待て！　そのさっきから言ってる喧嘩ってなんだっ？　盗み見しただけで…！」

陸上「………、叩きのめされる覚悟あんのかと思ってりゃ、単なるアホか？」ｷｮﾄﾝ

兄「はぁっ？　意味わからんことまくし立てて困らせてるそっちがアホだろ、…あ」

兄（馬鹿馬鹿！　挑発に乗るなっての、みっともない。単なる学生相手に熱くなるなよ）ﾌﾞﾝﾌﾞﾝ

陸上「……」ｼﾞｨｰ

兄（お。相手さんも落ち着き始めてる…、
　　そうだ当初の目的を思い出せ。俺は陸上部に興味ある、と素直に伝えればいいだけじゃんっ）

兄「待って、話を聞いてくれ。俺は陸上部の部長…だよな？　アンタに伝えに来ただけなんだ！」

陸上「……」


兄「──アンタの陸上部の技術や【どうして陸上を続けてるか】とか！　色々と知りたいワケ！」


陸上「……」ﾋﾟｸｯ

兄「う、嘘じゃないぞ？　変な言い方になったけど、
　　ありのままの本音を言ったまで！　俺は昔から運動の楽しみが分から───」


ヒュイン！　バァアﾁｨｲｲｲｲイイイイ………ﾋﾞｨｲｲｲﾝ…


兄「ぇ？」

陸上「…恐れいった、何処まで知ってオイの所に来たんじゃお前」ﾌﾞﾙﾌﾞﾙﾌﾞﾙ

「ひぃッ…壁に刺さって…ぶ、部長…！？　人に向かって投げたら怪我ですみませんって…！」

兄（見え、なかった？　こりゃ【槍投げ】か…？　この図体でなんつう瞬発力してやがんだ）ﾁﾗ

陸上「アホでも喧嘩売りでも根性アリでもない、お前は全部を知っててオイの所に来たと、」


ｽﾀｽﾀ　ｽﾞｩﾝｯ　ｽﾞｩﾝｯ　ｽﾞｼｨｯ…


陸上「オイはもう誰にも負けん、言いたきゃ言えばいい。この優杯戦争で証明するんじゃ」ｽﾞｫｵｵｵ

兄（で、でっか…高校生でこれとか、もはや見た目が暴力だろこんなん…）

陸上「逃げも隠れもせん。真っ向勝負、立ちはだかる敵はすべて打ち壊し突き進む」

兄「ちょ、ちょっと！？　そんな見下ろしながら睨まなくてもッ、ていうか何故に怒ってる感じなの！？」

陸上「──…最後まで煽りよる………ッッッ！！！」ガシィイッ！

兄「待ッ…！」ふわっ



ｷｭｯ　ｷｭｯ　…ﾙﾝﾙﾝｸﾞﾙﾝｸﾞﾙﾝグルングルングルン　 グ ル ゥ ウ ウ ン！！！

～～～


会長「ここか、…陸上部部室の窓が割れているな」ｽﾀ

クラ「やっぱりでござる！」

会長「今、なんと？」

クラ「なんでないでござるッ！　あわわわわっ、もうもう関わってしまったでござるかァ…！？」ｶﾞｸｶﾞｸｶﾞｸ

会長「……。しかし豪快に割れているな、これでは経費がかさむ。また妹君に叱られ、」



ドッ！！　バッシャアアアアアアアアアアアアンンンン！！



クラ「ひゃいいいいっ！？！？」

会長「叱られるのは決定事項か…」ﾊｧ


ｺﾞﾛｺﾞﾛｺﾞﾛ　ドシャッ！


兄「──チッ、舐めてた。こう見えて俺って体重百キロ以上あるワケ、容易く真横に投げるかフツー」ｽｯ


ﾊﾟｷ　ﾊﾞｷﾊﾞｷﾊﾞｷｯ　ｶﾞｼｬｧｱﾝｯ…！


陸上「──驚いた。そこまでの記録しか伸びんとはオイの腕が鈍ったかいの」ｽﾞﾝ　ｽﾞﾝ　ｽﾞﾝ

兄「安心しろ先輩、アンタは間違いなくエリートだ。単に俺の存在が規格外だっただけ」ﾆｨｲｲｲ

陸上「ぬかせ帰宅部。なんの実績もない単なる一般人がオイを評価するな、反吐が出る」

クラ「なっ…なにやってるでござるかぁ！　鬼ぃ殿ぉおおおぉおおお！！」

兄「ハッ！？　ジライヤッ！？　嘘っ、ごめん！　俺めっちゃヤる気になってたッ！」ﾊｯ

クラ「やる気とやらが漢字じゃないのを願うだけでござるッ！　して何を争い始めて…！？」

兄「俺悪くないよ！？
　　だ、だってアチラさんが勝手に熱くなって投げ飛ばしたり槍飛ばしたりするから…！」

陸上「何よそ見しとるんじゃ」ｶﾞｼｯ

兄「ほら掴まれた！　これこれ！　…ま、また投げ飛ばすつもりかッ？　そう何度もやらせるわけ、」


ｷﾞｭﾙﾙﾙﾙ！


兄「…えっ…」ふわっ

陸上「今ぉん度は、大会用の本気で投げっから、のッ、うッッッッ！！！」ﾎﾞｯ！！！

兄「──わああああああ！！！！」ﾋｭｰﾝ！


クラ「ぉぉぉ…」

会長「ほぅ……」


ドッッ！　ガッ！　ザザザッ！　ｽﾞｻｧｱｱｱｱー…

兄「はっ…はっ…、なんだこれ…グラウンドまで投げ飛ばされた…！？」ﾄﾞｸﾝﾄﾞｸﾝ


「──こんなら見晴らしよく、公開処刑にピッタリじゃろうて」ｽﾞﾝｽﾞﾝ


兄「く…ッ！」ﾊﾞﾊﾞｯ

陸上「会議が行われて数十分、未だ教室やら部室に残っとる『優秀者』共はおるやろ」

陸上「まずは見せしめにお前を叩きのめす」

陸上「六英雄とは何か、最優秀者とは何か、…格の違いとは何かを教えこむ」

兄（何を言ってるのかさっぱりわからん！！！！）

陸上「…覚悟せい、お前は喧嘩を売る相手を間違った」


クラ「な、何故止めぬ会長殿！？　もはやこれではただの暴力沙汰ではござらぬか…！」

会長「……。いまだ誰も騒ぎ始めてないが？」

クラ「なに、を言って…」

会長「見た限り何の支障もない、校内の風紀を乱すと思うならば【何故君の存在を容認する？】」

会長「私の調律は絶対だ、私の観点で是か非かを判断する」

会長「──既に『優秀者』以外の生徒、または教師は校内に一人も居ない。それが私がする最大限の調律だ」

クラ（ッ…窓に幾つもの人影、これら全員が優杯戦争に関わりある生徒…！？）ﾊﾞｯ

クラ「…元より、この状況すら予想通りでござったか…ッ」

会長「些か出来過ぎてるがな、しかし大事にならないよう新聞部の君に現場管理を一任したい」

会長「『鎮圧用閃光弾』、『鎮圧用電気スタンガン』、『暴徒用催涙弾』、『過激派用【麻酔銃】』」

会長「考えられる限りの道具は軒並み揃えた。扱い方もおって説明する」

クラ「会長殿は本当に一般ピーポーでござるか…？」

会長「ははは。面白いことをいう、まるで自分は異物だと言いたいように聞こえるが？」

クラ「……、なんにせよ、どうしてここまで本気なのでござるか」

クラ「単なる学校行事に【暴力】を容認し促すことに、なんの意味が…リスクを負う必要が…」

会長「見たいんだ」

クラ「えっ？」

会長「見たい、誰が一番強いのか。私は見たくて見たくてしょうがない、そしてそれを証明したい」

会長「全てが揃ったんだ。望んだ願いがカタチとなって目の前にある、ならば突き進むだけだろう」ｽｯ


兄「……」ｺｷｯ　ﾊﾟｷｯ

陸上「……」ｽｯ　ｸﾞｸﾞｸﾞ


会長「これから始まるのは『人の欲望の罪』が起こす、大戦争だ」

二日後にﾉｼ

会長「行き場のない欲に答えを与え、そして意味を見いだそう」

会長「私が皆に公平な調律を───」



兄「……」ｺｷｯ

陸上（流石にやる気なったか、今更逃げられせんのは互い一緒や。
見せ物なのはオイも同じ、そいなら全力全開、全てを全壊させる気負いで挑む）ｸﾞｸﾞｸﾞ

陸上「──やることは、部活とおんなじやろ」ｸﾞｸﾞｩ

兄（状況は全くアレだが、まあ何となく掴めてきたかも。今更逃げられん感じもするし）ﾁﾗ

兄「あん？　…なんだそりゃ？」

陸上「ハッ！　オイはテレビで短距離走も見らんのか？」

陸上「…これは【クラウチングスタート】、代表的なスタートダッシュの形や」

兄「へぇ、そうなんだ。ふーん、なんだかそりゃ不便だな」

陸上「ほう？　この理想的な形に文句あんのか？」

兄「だって次に何するか丸見えなんだもん。前傾姿勢、身体を支えた両手、目を塞いでたって対処できる」

陸上「そりゃそうじゃろ。前方のゴールへ駆け抜けるため特化した姿勢、行動に濁りが生じん完璧の形じゃ」

兄「陸上向きかもだけど、今は悪手だろ？」ﾆｯ

陸上「抜かしおる。しかしオイは最善だと思うけんのぉ、すなわちこりゃ───」

ｸﾞｸﾞｸﾞｸﾞｸﾞｸﾞ　グ　グ　グ　グ　グ　　グ　グ


陸上「貴様の命、確実にはね飛ばすに不都合無いッッ！！！」ﾎﾞｯｯｯ！！！

兄（！！　巨体でなんつー瞬発力──）ﾋﾞｸｯ

陸上「──もう足元じゃボケェ！！」ｽﾞｫｵｵッッ！！



兄「うおッ！？　ぐッ、ぎぃッ！！」ｽﾞｯｯﾄﾞｫｵﾝｯｯｯ！！

陸上「………ッ！」ﾒｷﾒｷｯ！！！

ズッッ！！　サァアアア…

兄（クソ痛ェッ！？　アホか交通事故かよッ！　おまっ、俺じゃなきゃ肋骨全部が一瞬でイッてるッ）ﾒｷﾒｷｯ

陸上（！？　なんちゅー重さじゃ…ッ！　地に栄えた大木に当たったかと勘違いするわッ！）ﾋﾞｷﾋﾞｷｯ


…ｷﾒｷﾒｷメキメキメキメキメキッ！！


兄「ぐぉおぉぉぉおお…ッ」ｸﾞｸﾞｸﾞ

陸上（嘘じゃろ、まさか圧されよるッ、細腕で盛り返しおってどんな理屈じゃあいッ…！！）ﾊﾞｯｯ

兄「うぉっとと…」ﾖﾛﾛ

ガシッ　ｷﾞｭｯｯ！！

兄（あっ捕まれ、やべっ！　また投げられ）ふわぁ

タッ　タッ　ｷﾞｭﾙﾙ…ｯ！！

陸上「──フゥゥゥゥゥ兄「ふぅううううううんんんんんんッッ！！！」


ズッッッッどぉおおおおおおんんっっっ！

陸上「……………、は？」ﾁﾗ

兄「カカッ！　耐えたぜ先輩、そう何度も投げ飛ばされちゃ心折れていったエース達に顔向け出来ねえからな」ﾆｯ

陸上（コイツ、地面に足を突き刺して止め──つかなんじゃいその足首まで埋まってる威力はッ！！？）

兄「そろそろ良いか。じゃ、次は俺の番ね」ｽﾞﾎﾞｧｯ

兄「やっとこの状況掴めてきたし、えーと俺が知ってる陸上競技はっと…」ｳｰﾝ

陸上（何がどうなって、何者じゃいコイツは。一体オイは何を見ている？）ﾄﾞｯﾄﾞｯﾄﾞｯ

兄「あんま知らない…ごめん部長さん、取りあえずその屈強そうな二の腕を殴れば良いかな？」ｽｯ

陸上「……え……」ﾋﾞｸｯ

兄「だってこれっていわゆる【登竜門】って奴だろ？」

兄「力の見せ合いっていうか、部活にはいるための入部試練っていうか？」ﾓｼﾞﾓｼﾞ

陸上（は…？　何を言って……）

兄「いやーまさかうちの学校がここまで肉体言語でやり合うなんて、
　　時代錯誤って妹ちゃんが怒りそうだけど俺は好きだな～そういうの～」ﾉﾎﾎﾝ

兄「じゃ、そういうことで──」ｽｯ

兄「──まずは一発、お邪魔します」


ｽﾞｽﾞｽﾞ　ﾒｷｯ　ｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞ…


陸上（あ。なんかオイ今死んだような気が、）ｿﾞｸｯ

兄「フッ──」ﾎﾞｯｯ！


ピリリリリ！

兄「──ハァイ！　もっしもし妹ちゃーーん！？」ｷﾞｭﾙｯｽﾞﾎﾞｫｶﾞﾊﾟｧ！

陸上「………」ﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗ

兄「妹ちゃんから電話してくれるなんてお兄ちゃんうれしくって鼻血で、あ、うん、ちょっと待ってて」

兄「すんません先輩、ちょっとラブリキュートな妹から電話来ちゃったんで少し待っててくれたら感謝っす」

陸上「………」

兄「マジすんません、えっとあはは！　やめてよーもーないないないって暴力沙汰なんてこれっぽっちも」

兄「うん？　ああ今日の晩ご飯、無し？　お袋が切れてボイコット…マジかよ…」

陸上（この状況下で電話──ハッ！？　隙あり、なのかコレは、一度も此方を確認しない、だったら、）



会長「ふむ。暢気だな、この状況で電話とは」

クラ「…………。え、あっ、」ﾋﾟｸｯ

会長「まずいな。出来れば候補生徒を減らしたくはないが、このままでは…」

クラ「不味いでござる！　早く、早くッ！　何でも良いから持ってる鎮圧用道具出すでござるよぉ！」

会長「何？　確かに状況的に兄くんの立場はマズイと思うが」

クラ「鬼ぃ殿は学校だと【幾分か穏便】でござる！　今も笑えない勘違いで平気でござろうが、しかしあの【電話】は…ッ」

会長「電話？」

クラ「まずは陸上部の部長を止めるでござる！　間に合え拙者の俊敏駆けあ───」


ドォンッ！　──ﾋｭﾝｯ

クラ「──ぇ…」ﾋﾟｯｯ


ｽﾞﾄﾞｶﾞｧｱｱｱｱﾝﾝﾝｯｯ！！！


兄「チッ、妹ちゃんの電話邪魔すんじゃ──あーーーっっ！！？」

会長「………………………」ﾁﾗ


陸上「」ﾁｰﾝ


会長（彼が単に部長を片手で突き飛ばした、だけで、私の遙か後方の校舎に…）

クラ「………鬼ぃ殿…」だらだらだらだら

兄「…ジライヤ、殺っちゃった…？」だらだらだら

クラ「だからアレほど漢字はやめてといったのにぃーーーーーーー！！！」

兄「わあああああごっめええええええ！！」

『ちょっと兄貴なにを騒いでるの？　ちょっと？』

兄「ごめん切るぅうーーーー！！」ぴっ　だだっ

クラ「もうダメでござるよｫ！？　拙者なーんにも責任取れないご自責でお願いするござるからね！？」

兄「ばっか、まだ死んだとは決まってねーだろ！
　　きっとタフだよタフ！　俺に拳で試してきたんだ、ちっと化け物要素入ってるよ多分！」

クラ「陸上部部長は今年に転校してきた特待生でござるよ！　単に鬼ぃ殿の噂知らず挑んで来たんじゃ…！？」

兄「…ごめん、それはちょっとヤバいかも…」ﾎﾞｿﾘ

クラ「もおもおもおーーッ！すぐさま保健室に運んで、いや救急車でござる！　重い！　鬼ぃ殿手伝って！」ｸﾞｸﾞｸﾞ

兄「お、おお！」ひょい

クラ「そんな馬鹿力で突き飛ばしたらそりゃ死ぬでござるよ！」

兄「うっさい！　まだ心臓動いてるし平気だって！」

兄「お前もほら…なんか忍者的な…ナンデモあり丸薬みたいなの飲ませてやってくれよ…！」

クラ「拙者、出身ハワイなのにそんな無茶ぶりしないで！」

兄「ああーッ！　ぼろ出しやがったなエセ忍者ァッ！？
　　テメー覚えとけよ、俺の忍者感ぶち壊してくれた今までの責任問らせるからな…！？」


ずんだかずんだか　ほいさほいさ


会長「………。」


校舎内


「あー、うん」

「まぁそうなるよな…あの陸上部のアホ、終始見ててヒヤヒヤしたわ…」

「んで見たまんまの結果を統合するなら、あの不死身が優杯戦争に参加ってことでOK？」

「アプリにも別に誰でも良いって書いてるし、帰宅部って枠もアリなんだろうよ」

「やば…私やめよ参加…勝てないよ絶対…」

「死にたくないよね…単なる学校行事で…」

「うん、やめよう！　というかグラウンドにある大穴、あれ不死身がやったんでしょ？」

「何人かの生徒が空から落っこちてくるの見たらしいぞ。報復が怖くて報告しなかったとさ」


がやがや　ざわざわ

「──カカッ！　そーかそーか、あの化け物も参加すんのかよ！」

三白眼「なら黙ってられねェ！　俺様との決闘からは逃げるクセして優杯戦争に乗り気とはなァ！」ｸﾞｯ

ｷﾞｭｸﾞｸﾞ　ﾊﾞｷｨｲｲッ！

三白眼「今度は喰らい付いて離さねぇぞゴラァ…！　我が一族の恨み、必ず晴らさしてもらうぜ…！」


「ふふふ。お兄さんったら、あんなに筋肉を酷使して…ここまで筋繊維の悲鳴が聞こえそう…」

妹友「あぁ～…良い、良い、もっと聞きたい、見たい、感じたい…」

妹友「制服越しから伺える三角筋から上腕二頭筋にかけてのライン撫で撫でしたぁい…」

妹友「優杯に興味ないけど──参加すれば、もっと身近に感じれるかな？」ｿﾞｸｿﾞｸｿﾞｸ


「きゃはは！　面白いね。アレを主役に一本書けば超売れるんじゃない？　お姉ちゃん」

「それはどうかな妹よ、暴力特化の主人公に読者は感情移入できると思うか」


ギャル「あん？　テキトーにトラウマ植え付けてー糞弱い家族人質作れば簡単じゃんか」

眼鏡「【もう見破ったのか】イヤな女だな。だから彼氏が出来ずに下僕ばかりなんだ」

ギャル「うっさい、下僕も立派なモン持ってるよ？　今度お姉ちゃんに貸そっか？」ﾆﾔｧｱ

眼鏡「黙れクソビッチ、私は一人で十分だ」ｸｲｯ

ギャル「一人ってそれ…本当に独りじゃん…」


「どうするキンパ様に報告する？」「でもキンパ様ってばポンポン痛いからトイレに…」

金髪「ただいま。そろそろ帰りたいんだが、まだ会長はここに残れと？」

金髪「む？　なんだみんな帰り始めてるじゃないか、じゃ帰ろう可愛い僕の女の子たち」ｼｭﾋﾟｯ

「きゃー！　キンパ様ってばぜんぜん空気よめてなーい！」「それこそ私たちのキンパさまー！」

金髪「あっはっは！　やめたまえ、照れるじゃあないか、あっはっはっはっ」


～～～


『ツーツー』

妹（切れちゃった。凄い嫌な予感しまくりだけど、まあいいや）ﾋﾟｯ

妹「そこまで大事になってないと思うし、最近は普通に家に帰ってくるしね」


「本当に宜しいのですかっ？　私の耳にも張り手音というか、電話越しに爆音が…」


妹「別に。あっちは勝手に一人で食べちゃうと思う、だから私達はディナーと洒落込もう」

妹「ね？　梓さん」ﾌﾝｽｽ

巫女「先程の質問は、お食事の件でなく兄様の安否の心配なのですが！？」

妹「まだ兄貴に対して遠慮があるみたいだね、違うよそれは」

妹「──兄貴の命の心配は、美味しいご飯が食べれるかどうかと同じなんだ」

巫女「おおぅ…なんというか…微妙に納得できてしまうのが申し訳ない…」ｽﾞｰﾝ

妹「ウチの常識は、一般的から程遠いので覚えなくて平気。だって夫婦喧嘩で家が半壊する家族だよ？」

巫女「えぇと…な、なんにせよです妹様！　まずはまた会え嬉しい限りです！」

妹「うん、本当に良かった。もう住む家は決まった感じ？」

巫女「はい。この街でアパートを借りることが出来ました」ﾆｺ

巫女「昔と比べれば随分と小じんまりとした住処と成りましたが、存外、満足しております」

妹「アパートか。女さんの話じゃ龍頭宗の昔ながらのツテで、良い物件選べるとか聞いてたけど」

巫女「その、それは、えと…」ﾓｼﾞ

妹「？」

巫女「『勿論、貴方様のご自宅近くに住みたいからですわ。けらけら、言わせるなよ恥ずかしい』」

巫女「お、お姉ちゃんっ！？」ﾊﾞﾊﾞｯ

巫女「『口を塞いでも無駄でしょうに。既にミズメとアズサの主導権は曖昧にして同類』」ｽｯ


ｶﾁｬｯ　ｺｸｺｸ…


巫女「『ぷはぁー、キャハハ！　あぁ下界の濁った水が美味しい、なんですのこれ？』」

妹「片手で口塞いで、もう片手でコーヒーを…凄いですね、一種のパントマイムみたい」

巫女「無理やり口の端から入れないでよお姉ちゃん…！　にがっ、やだそれ苦いからやだ！」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝ

妹（理由はともかく、見てる分では面白い光景）

妹「でも、そっか。私の近くに住みたかったんだ、梓さんってば」

巫女「ふァい！？　しょれはしょのッ！」

妹「やっぱり一人じゃ不安だもんね。知らない土地で生きるより、知人が多く居たほうが住みやすい」

巫女「………………ﾌｧｲ？」ﾊﾟﾁｸﾘ

巫女「（この子冴えるくせしてこーいうの疎いんですのね…）（だだだまっててお姉ちゃんッッ！）」ﾜﾁｬﾜﾁｬ

妹「？　とにかく何か頼んで女子トークに花を咲かそう。ファミレスも初めてなんだよね？」

巫女「もっち！　コホン、勿論でございます！　是非、ご教授願いたいばかりです！」

妹「よっしゃ、早速ながらオススメ三神器メニューを進呈してみせよう」ﾋﾟﾝﾎﾟｰﾝ

巫女「……？　いま何をされたのですか？　その丸い灰色のモノは一体───」


「ご注文でしょうか？」ｻｯ！


巫女「──何奴ｯッ……！？」ｶﾞﾀｧｰﾝｯ！　ﾋﾞｼｨｯ！

妹「落ち着いて梓さん、敵じゃない。だからその何かしらの武芸っぽい構えを解いて」

巫女「えっはいッ！？　それはそれは申し訳ございませんッ！」ﾊﾞｯﾊﾞｯ

妹（前途多難だなこれは。まあでも、この今はきっと幸せ。うん、きっとそう）ﾆｺ


～～～


兄「ずるる～っはぁー、ラーメン美味しい」

クラ「あ。鬼ぃ殿、おにぎり何食べるでござるか？　拙者、うめきらい」ｽｯ

兄「しかし夜の公園て肌寒いんだな。ん？　好きなの食べろ、俺の奢りだ」ｽﾞﾙﾙ

クラ「では鮭を拝借、して聞き捨てならぬ独り言でござるな。鬼ぃ殿はきっと北極南極行ってるでござろう？」

兄「うん、多分行ったことある、ような、うん、ありゃ中学の頃だったかなぁ～」

クラ「そんな過去に行った旅行先の記憶みたいな語り口されても…」

兄「あぁ思い出した。いや実際、旅行だと思う。親父がある日突然立ち上がってな、生白熊会いに行くって」

クラ「そ、それで？」

兄「当然、北極行きの手段なんて限られてくるし持ち合わせも無し。
　　だからデケェ船の荷物積んだコンテナ忍び込んで無理やり北極に行った」ｽﾞﾙﾙ

クラ「普通そんな無茶しても北極つかないでござるよね？　絶対道中ヤバイことあったでござるよねェ！？」

兄「そんなの一々覚えてないって。オーロラきれいだなぁぐらい、んで帰宅したのは一ヶ月後で…」

兄「お袋や妹ちゃんに一週間ぐらい無視されるというね、ありゃ絶望的だった」

クラ「…自信無くすでござる、拙者、これでも忍者故に非凡な日常歩んだつもりだったのに…」ｼｭﾝ

クラ「しかして、拙者が聞きたいのはお手軽で訪れた北極。…その寒さは【非凡】でござろう？」

兄「まあな。鼻水が鼻水と呼ばれる前にゼロコンマで氷結するし」

クラ「こわ！　ならば夜風程度に何を仰るのやら、鬼ぃ殿にはむしろ心地良のでは？」

兄「…………」ｽﾞﾙﾙﾙ

クラ「…鬼ぃ殿？」

兄「別にそうでもねえよ。【寒いのは寒い】、【そう初めに思ったなら寒い】んだ」

クラ「………。つまり、どういう」ﾓｸﾞ

兄「あ。お前それ梅だぞ」

クラ「ふぇ？　キョオオオエエエエエエエエエエｪﾝｯ！！！」ｽｯﾊﾟｧｰ！

兄「何やってんだ気ぃ抜きやがって。ほら茶だ茶。マジに聞き過ぎだろ俺の話、ばかだなー」

クラ「ｺﾞﾌｪｸﾍｪ！　お、鬼ぃ殿に言われたかないでござる！　人一人殺めて！」

兄「失敬なッ！　死んじゃいなかっただろ！　無事だったろ！　言ったとおり結構なタフだったし！」

クラ「いや確実にスポーツマンとしての人間を一人、心から圧し折り殺めたと思われ」

兄「それは！　それは…申し訳ないと思っておりますよ、俺も馬鹿だった。少し気を抜いてたよ」

クラ「陸上部部長が、病院のベッドから起き上がったとき、まず鬼ぃ殿の場所を確認してござったね」

兄「んで顔出しゃ怯えてたなァー…もうああいった態度見慣れてるつもりだったのに…」ﾄﾞﾝﾖﾘ

クラ「してああまで心折れれば無理でござろう。彼の『優杯戦争』に参加する意思は潰えたと見て正しい」

兄「その『優杯戦争』だったか、本当に大丈夫なのか？」

クラ「部長殿の安否が確認できれば問題なしでござる。鬼ぃ殿にかの学校行事は関係なし」

クラ「──もとより参加者資格は自由、立候制度、七枠となれば関わらなくて結構でござる」

兄「んだか面倒クセェことやってんなうちの学校は」

クラ「過去、その優杯戦争とやらが行われたと会長殿が仰ってたでござる」

クラ「優秀な生徒が集いしとき、彼の者の歴史、能力、運命を手にして競い合う」


クラ「さすれば手に入れよう。欲を叶える願望杯、その未知なる奇蹟を───」


兄「大それたコト語る割に単なる学校行事で測れる願望か。空気感違いすぎて笑えてくるわ」ﾑｼｬﾑｼｬ

クラ「実は拙者も気になってた。行事が戦争などと呼ばれる時点で不可解、…少し調べてみるでござる」

兄「新聞部部長としてのポリシーか？」

クラ「格好のネタでしろ、しかし今の拙者には【まだ何かありそうで恐い】が本音の所」

クラ（なにせ再度問わなくとも誰もが既に【納得している】、【この学校で最強は誰か】とは）ﾁﾗﾘ

兄「ふーん、勘に準じて行動は忍者っぽいな。ぶぇっくしィッ！？」

クラ（故に思う、だからこそ考える、何故だ？　何故ああまで人払いを完遂させる敏腕で───）


クラ（──鬼ぃ殿を優杯戦争から遠ざけない？）

クラ（──彼の欲する答えは理不尽な存在に蹴散らされると言うのに）


クラ（何か会長殿には秘密がござろう。ににん、盗んで暴いてさらし首、これぞ忍道極めし者也）

兄「ジライヤ」ｽｯ

クラ「？　どうしたでござるか鬼ぃ殿？」

兄「…。お前本当に一般生活が身に沁みてるんだな、オイって感じねえの？」

クラ「突然何を言い出すでござるか。こんな夜更けにもしや誰か潜んでるとで──」ﾋﾟｸ

クラ「──二名程こっち見てるでござるな、あいやこれは割腹モノで」

兄「俺は殿じゃねえから使命的なの果たさんでいい。一つ言うが、【今から俺はなにもしない】」

クラ「どういう…？」

兄「そりゃ知ってる匂いだから。けど完全にお前、ジライヤに大して敵意を向けてやがるし…」ﾎﾟﾘﾎﾟﾘ

兄「まあ戦ってくれた方が良い息抜き、というよりも自分のレベル知れるいい機会だろうってな」

兄「とりまお前も俺にとっちゃ知り合いだ。ここはイーブン、公平といこう」


兄「今度は気ぃ抜くな、下手すりゃ一発であの世行きだぜ？」


クラ「……───」


　　　　　　　　　　　　ﾌﾟﾜｧﾝｯ！


クラ（ッ！　遠投ッ、しかし弾が極小──指弾でござるかッ！）ﾋﾞｼｨｯ！

クラ（なんと古臭い使い手か。…着弾点と斜線から場所は南西、闇夜に溶けるなら感じ取るまで）ｽｯ

クラ（──ほほう、動く動く大した健脚、木々を飛び回るは常人離れ、地を駆ける姿は風の如し）

クラ（しかし拙者は何処も行かぬさ。ここだ、ここ、忍が気配消しとは所見のみよ）ﾊﾟﾁ

クラ（故に真正面から向かい打ってくれる。幾千数多の経験が生んだ忍術、とくと味わえ）ｽｯ


「──間抜け、上だよ」ｶﾞｻｧｯ！


クラ「…！」ﾊﾞｯ


「って言ったら上向く馬鹿」ｽﾞｻｻｯ


クラ「…──」ﾋﾟｸｯ

クラ（声がほぼ同時、上は落葉で姿が見えず──下方は声のみ認知し──して本命はどちらに、）ｸﾞｸﾞｸﾞ



門番「実は真後ろからきたぜー！　うぉおｨりゃああッッ！！」ｽﾞｯｯ　ﾄﾞｫｵﾝﾝｯ！！



クラ「なんっ、ガハァッ！？」ｶﾞｸﾝ　ｽﾞｻｻｰ…

門番「フゥー…今のは良い。良い氣の巡った打撃だった、師匠にも褒められそう」

門番「ということでありがとうございました！　勉強になりました！」ﾍﾟｺﾘｯ

兄「…騙し討は戦いに必須だろうけど、清々しいほどにやりきったな門番ちゃん」

門番「エメト師匠もヤるときはヤれと仰ってた。ならヤる切るだけだ、その人も滅茶苦茶強いんだろ？」

兄「ああ強いよ。比べるならそうだなぁ、戦闘開始状態ならきっと…うん！」ﾎﾟﾝ

兄「俺でも負けるな」ﾆｯ

門番「………。冗談は休み休み言え」

兄「冗談じゃねえよ。お前も敵意向ける相手のレベルぐらい測れるようにならんとな、うんうん」

門番「ハッ！　なにを抜かすんだ、我が里の龍頭宗を軒並みのした兄が負け──」ｷﾞｬﾙｯ


クラ「……」ﾕﾗﾘ


門番（──……殺気ッ…！）ｷﾞｬﾘｷﾞｬﾘｷﾞｬﾘｼｭﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ！！

クラ「…」ﾄﾞｻﾘ

門番「はぁっ、はぁ…っ、ふぅー…今のはちょっとビビった…まさか立ち上がるなんて、」

クラ「なにがでござるか？」ﾆｺ

門番「ぇ…」

クラ「甘い、甘いでｺﾞｻﾞﾙ。何処からだって？　【忍者っぽい幻術始まったのは？】　と？」

門番「くっ！　なんだオマエ不死身なのか！？」ｷﾞｭﾊﾞｧｯ！

クラ「…」ｽﾞﾄﾞｺﾞｯ！　ﾄﾞｻﾘ

門番「一体なにがどうなってやが……これ、もしかしてリアル変わり身の……」

クラ「一ノ手、二ノ手、三ノ手、この時点で十四回ほど首掻き切れたなァ襲撃者殿？」

ぽん

門番「後ろッ！？　いつの間──おわぁッ！？」ｸﾞｨｲｨｲﾝｯ！　…ﾌﾟﾗﾝﾌﾟﾗﾝ…

クラ「これにて不埓者を生捕と、ニンニン」

兄「やるなぁ流石は忍者語ってるだけはある。いつの間にブービートラップ仕掛けたんだ？」

クラ「そこは任務機密故に」

兄「忍者にネタバレはご法度だったな。おーい門番ちゃん、気分はどうよ気分は？」

門番「……最悪だあにぃー…オレは超つよいんじゃなかったのかぁー……」ﾌﾞﾗﾝﾌﾞﾗﾝ

兄「そりゃ腕っ節だけで勝てりゃ世の中楽勝だろ。でも、世界には沢山の勝利する為の技術ってもんがある」

兄「スキル極めた奴らに、俺だって正面から立ち向かえば勝てねぇよ。エメトさんがいい例だぜ」

門番「ッ…ちくしょー！　まだまだかオレはぁー！」

兄「はっはっはっ！　俺には技術センスが無いから頑張って周りの人から教えてもらえよー！」

クラ「……。そいで鬼ぃ殿」

兄「おう。すまんな、知り合いが力試ししたくてウズウズしてるのどうにかしたくてな。ありがとよ」

クラ「それは良いでござる。青い空気の上澄み、初撃で感じ取れたで候」


ｿﾞｸｯ…


クラ「っ…そう、ではなく……【あそこにいる少女は一体何者なのでござるか】…っ！」ｿﾞｸｿﾞｸ

兄「あん？　誰って名前は忘れちまったのか？　──同じ学校で、同じクラスだろ俺とお前の」

兄「なあ嬢ちゃん？」ｸﾙ


「だろうて忍者。そう怯えるな」


クラ「ッッ…！？　冗談、でござろうっ？　これが、あの転校生だとでも…！？」


女「──カカッ、何か不都合でも？」ｽﾀｽﾀ


クラ（あの瞳、見透かされる。心も身体も歴史もすべて意味もないと言わんばかりに、全て全て、全て）

クラ「赤い瞳…ッ！？」ﾁｬｷｨｯ！

女「ククク…学校での姿は仮初よ、人間、これぞ吸血鬼頭首の本来の姿…！」

女「その身をもって知るが良いッ！　身体に流るる血の一滴残さず平らげみせ、」


兄「こらっ」ポカン

女「どぁいたァーーーーいッッ！！！？」ｽﾞﾄﾞｶﾞｧﾝｯ！


兄「気づけば何、殺気出してんだ嬢ちゃん。なんなの？　嬢ちゃんまで腕試ししたくなったの？」

女「ばっっ、バカモノかバケモノォーーー！！？　おまっ、頭悪くなったらどう責任取るつもりだぁ！？」

クラ「お、鬼ぃ殿…！　その方は一体、というかどのようなご関係で…？」

兄「ちょっとな。しかしなんだ、お前でも嬢ちゃんの凄さってわからなかったのか？　今の今まで？」

クラ「そんなんこっちが一番驚いてるでござる…！！　存在消しをしてたでござるか…っ？」

兄「ん？　なんだそりゃ存在消し…？」

女「己の過去、技術、立場、が醸し出す隠しきれぬ存在感…オーラを意図的に消し去るのだ」ｲﾃﾃ…

女「──認知されながら他人以下の印象を与えるスキルだな。ワタシはそれしか使えんが」

兄「なに、嬢ちゃんってモノ治す以外にもそんなの持ってたんだ？」

女「オーラ消しは仕草と動作でどうにかなる、しかしその先にある気配消しは完全な極地だ。ワタシには出来ん」

兄「へぇー。マミーお姉ちゃんの『死角のデッドサイド』もそんな感じ？」

女「アレは亜種だな。一つの極地とも呼べるが気配消しとは到底呼べん。固有スキルと言うべきか」

クラ「まっ、待つでござるおふた方！　まずは、そのっ！　何故に此処に参られたか理由を…！」

兄「ん？　おっと、そういやそうだ。なにやってんの夜分遅くに、気分転換に散歩？」

門番「そぉーじゃないぞぉーーー、いきなり吸血鬼様野郎が兄に会いにいきたいってなー」

兄「俺に会いに？　なんでまた」

女「……それがのぉ」ﾁﾗﾘ

クラ「？」ﾋﾞｸ

女「オマエ等になんちゅーか、その、ものすごーく言い難い【世界平和活動】を申込みにな…」ﾎﾟﾘﾎﾟﾘ

兄「へ、平和活動？　なんだ、まさか、あのデウスエクスマキナで問題起こっちまったのか…！？」

女「………」

女「……なんか学校で、七人が競い合って願いが叶える戦争みたいなの、してない？」ｵｽﾞｵｽﾞ

クラ「え、ま、まあ確かにそのような学校行事が明日から…」

女「その参加資格がアイフォンのアプリで登録式みたいな？」

兄「そう、だったよな確か？　さっきジライヤと二人で確認したし…」

女「そうか、うん、そっか」ﾌｩｰ


女「ごめん。『DEM』がそれ興味持っちゃった」ﾀﾞﾊﾞｰ


兄＆クラ（いきなり号泣…！？）

女「ミスったのよ…っ…ちょっとプログラム弄ったのバレっちゃったのだぁ～…」ﾎﾞﾛﾎﾞﾛ

女「二日目で半分過ぎた辺りで、完全に終わりまで見通せたら…欲が出ちゃってぇ～」

兄「……もしかして、引いたのガチャ？」

女「何百種類のアイフォンを介して、何十カ国の携帯会社サーバを経由して偽造したコード読まれた…」

兄「バカだろ…そりゃDEM怒らせた二カ国と変わらねーじゃねえかそれ…」

女「あほいえっ！　ワタシだって好きでやってない、完全に【仕組まれて】おったんだ！」ｶﾞｰｯ

女「──詳しい説明は省くが、最初から無理なよう『DEM』が改ざんしてたらしい…っ」

兄「え、じゃあ、無茶振りされてたってコトかっ？」

女「そ、そうなのだが、そうじゃなく一人プレイは無理だったという話だ…ぐす…」

女「『DEM』が望んでいたのは全世界、全人口がこのゲームをプレイしてクリアすることだった…っ」

女「そんな欲望一週間でかなえられるか…！？　無理だろう！？　だからワタシが直接介入したんだ！」

女「それは望みではなく欲望だッ！　自分の価値のみで個でなく多を操ろうなんぞ罪でしかないとな…ッ！」

兄「おおぅ…本当にある意味凄い無茶振りされてたんだ嬢ちゃん…」

女「そうともよッ！　んで喧嘩よ喧嘩、人工知能と醜く言い争った結果がアレだッ！」

クラ「…話が掴めないでござるが、つまり、良からぬ何かが『優杯戦争』に目をつけたと？」

女「うん…言い負かしたらそっち逃げた…」ｸﾞｽ

兄「人工知能に勝っちゃったんだ…」

女「はぁーあ…想像以上の失敗に誰に相談できず、門番が化物の気配を感知できるからと連れてきてもらった…」

門番「そろそろおろしてくれー…」ﾌﾞﾗｧﾝﾌﾞﾗﾝ

兄「えぇと、何となく状況は掴めた気がする。つまり『DEM』が無茶振りしてたから嬢ちゃんが糾弾したら、」

兄「喧嘩になって、互いに意地になって反撃しあってたら──」

クラ「優杯戦争に目をつけられヤバイ事情になったと、うむ、全く意味がわからぬでござる」

門番「とりあえずオレをおろしてくれェーッ！！」


～～～

翌日　日曜日　明朝


会長「──、そうか君も参加資格を求めきたか」


兄「ん？　なんだ、俺が来ること予想してたの？」

女「オイ、先輩だろコイツ。一応は敬語使ったほうが良いんじゃないか？」


会長「……。参加資格を求めるものに優秀だから、という括りは必要ない」

会長「君の参加もあり得た話の一つだと考えていただけだ。それで結構かな？」

兄「んー？　まあなんとなく、俺みたいな奴を視野に入れてただけでも大したタマだよアンタ」ｽﾀｽﾀ

女「んだから敬語使えっちゅーに。ともあれ会長とやら、我々の枠は残っておるだろうか？」

兄（嬢ちゃんも敬語使ってないじゃん…）

会長「無論だ。後残り一枠、まるで君らが参加することが前提のようなシチュエーションだろう？」

女「むりくり褒めんでいい。どーせ優勝はコイツに決まってる、煽らんでも勝ちは決まってるぞ」

会長「ほう、大した自信だ。すると君には他を押しのけ叶えたい欲があると？」

兄「え？　俺？　別に無いけど、特には」

会長「成る程。では参加すること自体が君たちの欲なのか、実に素晴らしい」

兄「いや待って！　…妹ちゃんから好きだよってセリフを言われたい、これって叶えられたり？」ﾜｸﾜｸ

会長「………………」

女「このバカは放っておけ。さっさと登録を済ませるぞ、早くセンサー機器をだせ」ﾋﾟﾛｰﾝ

女「はてさて。ときに聞くが、他の参加者の詳細を問うことは可能か？」

会長「そのアプリに参加者同士が反応し、場所を特定する機能が備わっている。詳細は音だけだがな」ｶﾀｶﾀ…

女「つまり地道に探せと。ふん、つまらん手だが手痛い過去を探られるよりマシか」ｽｯ


ぴろろーん


女「これで優杯戦争に無事に参加だな。さて、今日はいらぬ喧嘩ふっかけられる前に帰るぞ化物」ｸﾙｯ

兄「おう。んじゃまた、会長さん。妹ちゃんにもよろしく」ﾋﾟｯ

会長「………」

会長「君が果たすべき欲望の開放。それは【ここ】にあるずだ、兄君」

会長「どうか諦めること無く突き進み、先にある答えを見つけにあがき、抗い、歩んでくれ」

兄「おう！　んな面倒なこと考えなくても、俺がやるべきことはやりきるって！」ﾆｯ


ガララ　ﾋﾟｼｬｯ


会長「…やるべきことは、やりきるか」ﾌｯ

会長（ともあれ兄君の参加したという事実、果たして妹くんはどう受け取るだろうか）

学校　校門前


女「…きな臭い奴だったな、アイツ」

兄「でも絶対にいい人だろ？　俺、ほとんど毎日ぐらい学校備品ブチ壊してるけど絶対に怒らないもん」

女「社会を学ぶ学生として反省しろ」

兄「わ、わかってるって。…そういや陸上部部長が言ってたな、そういう弁償代は生徒会が払ってるって。ほんっとすげーよな」

女「化物が妙に生徒課長に対し気さくなのが合点がいった…」

兄「ん？　まあ後、妹ちゃんの直属の上司だしな」

女「なるほどな。詳細は知らんが察するに、一見デメリットとでしか思えんでも生徒会にとってウマい話があるのだろーよ」

兄「そういうモンなの？」

女「無償、善意、タダ、この世においてイチバン信用ならん行動原理がそれだ。化物、オマエにだって他人を救う理由が必要だろう？」

女「しかし、オマエの話を聞いて更にきな臭くなった。優杯戦争とやらの学校行事、一筋縄でいかんかもしれんな」

兄「いや、単なる学生本分として頑張ってくれてるだけだと思う…すっごく考えすぎだと思う…」

女「バカタレ！　私生活とハチャメチャ事件とのギャップを感じてる暇はないぞ！　今はもう既に非凡なのだ！　心して掛かれ！」

兄「わーってるよ…頑張ります、頑張って【『DEM』が肩入れする参加者を見つけ出しますって】……」

女「そーともだ、七人中一人だけ世界規模の情報処理を行える人工知能が味方に付いたのだ！　なんとしてもそいつを暴き、阻止せねばならん！」

女「しかも『DEM』を満足させつつ我々が生き残らなければならぬハードモード！」

女「単純に勝ち残ったり、負けてしまえば『DEM』がまた異なるモノに逃げる可能性がある──それだけは何としても阻止せねばッ」

兄（ブッ叩いてハイ終わり、で済まない展開は苦手だっつーのに…）

女「まずは一人一人探りを入れる。化け物、情報戦が今回のキモなのだぞ。」

女「むやみやたらな戦闘はせず、有益な情報を得るだけ得る。これが課せられた制約だ…」

兄「ほんっと無茶ぶりにもほどがあるよな…全員を推し量ってシロかクロか判別付くまで戦うな争うな勝つなってさぁ…」ﾄﾞﾝﾖﾘ

兄「もし途中でクロの参加者にぶち当たったらどうすんの？　背中見せて逃げろってか？」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ…

女「無論だ。そしてソイツがワタシ達と二組と残るまでバックアップする、んで最後に化け物が一発で倒せばよいぞ」

兄「わーい、俺、凄い期待されてるけどほんっとむちゃくちゃ～」

女「それで結構！　世界が救えればなんら問題なしッ！」

兄（全部は嬢ちゃんの責任だろうに…責めたら泣きそうだし黙ってるけど。まあでも本来の目的である、暇つぶしって感じはしてるかも…）

兄（学校行事、みんなで競い合って一番きめる。裏の裏が色々複雑だけど、一見すりゃ単なる日常…だよな？　うん、うん）

女「学校行事そのものを滅茶苦茶にする気は毛頭ない。裏を掻けば『DEM』の感に障って怒り出す可能性もある」

女「我々が突き通すべきことは【参加者として陰ながら優杯戦争を操作する】、【そのためには無駄な争いは決してしない】だ」

びりりりりりりりりりん！！


兄「ん？　なんの音コレ？」

女「──うそ、だろ」

女「ば、ばかな…始まったばかりの段階で、校門前に参加者が一人いる……！？」prrr

女「戦闘凶かはたまた余程の自信家か──逃げろ化け物！　こ、このままじゃなんの前情報も無しに戦闘が始まってしまうぞ！！？」ﾊﾞｯ


「──ほほう、敵前逃亡とは優秀者として無様だね、帰宅部の君」


兄「むっ？」

女「ばっ！　いちいち構うな！　無視して裏門から帰るんだッ！」ｸﾞｲｸﾞｲ

ｽﾀｽﾀ

金髪「──フン、生徒会長の彼は口だけは偉そうだが見る目がない。このような一般庶民を気高き戦争に加えるなど、笑止千万」

金髪「価値あるべき戦いには、価値あるべき者が必要だ。君のような凡俗がボクと同じフィールドにいることが実に不快だよ」

兄「…言ってくれるじゃねえか、オイ」

金髪「事実を言ったまでだよ、ねえ【不死身くん】？」

兄「……」ﾋﾟｸ

女「おい化け物…！　聞いておるのかワタシの言葉を…！」

兄（少し、落ち着け嬢ちゃん。いつもらしくないっての、冷静になって相手さんが言ったことくみ取ってみろ）ﾋｿﾋｿ

女（なんだとっ？）

兄（俺が不死身だと知ってて喧嘩ふっかけてる。俺がやべぇこと知ってる奴だ。なのにこの自信、おかしいだろ？）

女（──む、確かに言われてみれば…）ﾁﾗ

金髪「………」ﾌｯ

女（単純に勝てる見越しがあるのか、化け物相手でも確実に勝てるバックボーンがある可能性が…？）

兄（こりゃいきなりクロを引き当てちまったかもなァ？　幸先が良い、ちょい無理して情報引き出すには言い機会じゃねえか？）

女（か、考えてるではないか化け物…流石だな、この状況になれてるだけはある…）

兄（ああ全く不本意な慣れだけどね！　死線潜った数は一般レベルとうに越えてるぜッ！　……うん…）ﾎﾛﾘ

金髪「おいおい、なにやら秘密の算段をつけているようだが、フフフ、ボクは何処にも逃げないし有りの儘のボクでここにいる」

金髪「──今この場で、すぐさま初めても良いんだよ？　君とボクの優劣の差を定めることを」

兄「へっ！　…えらく自信があるみてーじゃねえか、しかしなんだ、見るからにヒョロヒョロ体型だが勝てる見込みあんのか？」

金髪「君も短絡的だね。この優杯戦争は腕っ節だけで計れない、単純な力業では勝ち残ることは無理なよう──ルールとゲームが定められている」


金髪「すなわち、君がどれほど無敵であろうとボクは一人の優秀者だ。決して適わぬ通りは無いと思うのだけれども」

女「…対戦が始まったとき、生徒会からアプリを通して競い合う【ゲーム】が提示されることはしっておる」

女「数百種類から適したゲームが選出されると聞くが、どのゲームだとしてもオマエには勝つ自信があるとでも？」

兄（い、良い質問だ嬢ちゃん…！　情報操作がお手の物のDEMなら、ゲーム選出の善し悪しを不正に操ることも可能…！）

金髪「くくく…」

女「…！」

金髪「──無論だ、このボクに敗戦という二文字は存在しないッ！」

兄（…半分ぐらい、確定だ…！　こいつはグレー…！　あまりにもあまりに自信が満ちすぎてる…っ！）

女「ゴクリ、な、ならば…どうだここは互いに引いて後日とはいかないか…？　あまり事を急かせばどう決着つこうが互いに禍根が残る可能性が…」

金髪「抜かせ、敵に背中を見せろとッ？」ｼｬﾘﾝｯ！

兄「うおっ！？　剣を抜きやがった！？」

女「試合用サーベルか、…未だアプリのゲーム開始の告知は無い。まだ間に合う、発展する前に剣を収めろ…っ」

金髪「では君たちが開始の鐘を鳴らし給え。生徒会メンバー認証、または互いの総意でアプリの機能を使えば戦闘は始まる」

金髪「…すでにボクは押してある。さあ、後は君たちのみだッ！」

兄（ど、どうするよ嬢ちゃん！？　クロか、クロだと断定しちゃっていいモンなのか！？　滅茶苦茶怪しいぐらい乗り気だけどさ！）

女「…………」

兄（じょ、嬢ちゃん…？　どうしたんだよ？　早く決めねーと騒ぎ聞きつけた会長さんが戦闘認めちまうかもだぞ…！？）

金髪「どうした？　なぜ戦いに身を投じない？　ボクのほうは準備万端だぞ！」



女「………うん」Pon

女「いや、ダメだぞ？　今から戦闘は無理だぞオマエ？」ｺﾃﾝ

金髪「……」
兄「……」


金髪＆兄「えっ？」

女「そもそもコレは学校行事、校内でのみ認証又は総意での開始だ。オマエ立ってる所自分で見て見ろ、おもくそ校門出てるし」ピッ

金髪「何をバカなことを──あ」ﾁﾗ

女「それに総意戦闘開始では、個人のみでアプリ認証ボタン押すのは違反だ」

女「必ず五分以内で『メイト』と呼ばれる参加者がボタンを押さねば負け確定になる」

女「──つまり総意は二人だけじゃなく四人必要ということだ。オマエ個人で選べない」


金髪「…え、え、え…？」ｷｮﾛ


女「見たところ一人だな。結構話し込んだし、めちゃタイムリミットせまってるかもな、うん、今から早くメイトに連絡した方がいい」


金髪「っ…っ…っ……」ﾊﾟｸﾊﾟｸ


女「あと死体蹴りするようで悪いが、校外で認証ボタン押すのは即刻失格だから既に負け確定だ」


金髪「嘘ッ！？」ズガーンッ！


女「おい、オマエ、本当にアプリに掲載されたルール読んだのか…？　まさか自分が得する部分しか読んでたりしてないよな…？」


金髪「」ちーん


女「うん、わかった。コイツただのバカだ」ﾋﾞｯ

兄「うん…自信満々のバカでしたねコイツ…凄く、なんていうか…うん…うん………うん…」

女「まあふがいなさ故にDEMが荷担する可能性も否めないが」

女「ともかく。おいそこのバカ、はやく今から生徒会長に謝って許しをもらってきたらどうだ？」

兄「そうだよ…？　始まったばっかしだし、今ならルール読んで無かったんでとか言えば、許してもらえるかもだよ…？」

金髪「くッ…なぜボクが敵から施しを受けねばならぬのだ…！？」

兄「言ってる場合かバカ！　おいバカ！　さっさと行けっての！　失格で敗戦とか超恥ずかしくてどうしようもねーだろ！」

金髪「いッ…それは──凄く、いや…だ…くっ！！」バッ

金髪「うわぁーーーーんっ！！！　おぼえてろよぉおーーーーー！！！」

ダダダダッ

兄「…妙に鬼気迫る顔だったから騙されちまった、ああもう無駄な労力使ったよまったく…」ﾄﾎﾎ

女「うーむ、これは容疑者減ったと喜ぶべきか？　それともDEMが入れ知恵しワタシ達を欺く為の罠…？」

兄「だァー考えすぎだ嬢ちゃん、あれはシロ。マジ泣きだったし、あんなお馬鹿に荷担するわけがねえよ」

女「ゆーてもオマエもルール把握してなかっただろ」

兄「……、俺には嬢ちゃんいるしー？　ねー？　平気だモンねー？」

女「おおそうとも存分にワタシを頼れ。ふむ、ここはアイツがバカだと情報を得られたと喜ぶべきだろう」

女「さて、今日は帰ろうか。別行動しておる忍者が集めた情報が欲しいのでな、これから忙しくなるぞバケモノ」

兄「へへい。がんばらせていただきやす！」ﾍﾍｰ

公園


クラ「ああ、金髪殿でござるか。有名なバカでござるよ」

女「有名なバカとは一体、如何なる問いかけだそれは…？」

兄「難しく考えるな嬢ちゃん、バカはバカだ。それ以上でもそれ以下でもない」

クラ「ただし実力は六英雄と呼ばれるだけあり折り紙付き。いざ対戦となれば制約アリの鬼ぃ殿でも苦戦を強いられるかも」

兄「そういやサーベル使ってたな…武器使用許可ならちっと面倒に感じるかも…」

クラ「おつむは残念でござろうが、
　　　短絡的な思考だからこそなのか驚異の【反射神経】を持つと、拙者が得た情報でござる」

女「うむ。フェンシング──思考を絡めず、己の身体に染み込ませた経験と実績のみで互いを瞬時に穿つ、素早さのみ極めた競技…」

女「確かに、私生活すら危うそうな頭であれば土壇場でさえ暢気に立ち向かえるだろうな」

兄「…まさか、それが俺に喧嘩ふっかけた理由とか言わないよね？」

クラ「勝てると思ってんだでござろうよ」

兄「なんて命知らずッ！　自分で言うのもなんだけど！」

女「最低限のルールは把握しておったし、一応は勝つ算段はあったのだろう。まあ致命的なミスおかしておったけど…」

兄「…とにかく金髪くんはほうっておいて。ジライヤは他の参加者は探れたのか」

クラ「まずは参加者の詳細でござるね。まあ改めて言わぬとも鬼ぃ殿を除いて六枠は【当たり前のように六英雄が埋めたでござる】」

クラ「フェンシング部部長。金髪殿」

女「何も考えず見たまんま『セイバー』だな」

クラ「華道部副部長。妹友君」

女「…ふむ、予想するに『キャスター』か。それとも『アーチャー』か」

兄（何を言ってるんだろう嬢ちゃん…つかこの名前、そういや妹ちゃんの友達だったな…）

クラ「女子相撲部部長、アセナ君」

兄「あれ？」

女「む？　あの人狼参加しておったのか？」

兄「マジかよ…絶対に速攻こっち喧嘩ふっかけてくる展開だろコレ…」

クラ「そして同人誌部、眼鏡君とギャル君。こちら姉妹で参加でござるね」

兄「姉妹で二枠か、勝手に潰しあいされたら厄介だな…」

女「もし単なる姉妹喧嘩での参加なら、どちらかが荷担者だった場合DEMの機嫌損なわれたらたまったもんじゃないしな」

クラ「最後に、陸上部部長さんでござるね」

兄「おっ？　それが一番驚いたかも、マジかあの人」

女「なんだなんだ？　どうしたのだ？」ｷｮﾄﾝ

兄「実は優杯戦争始まる前に喧嘩したんだよ、その人と。…ある意味コテンパンにしちゃったから、参加しないとばっかり」

クラ「影ながら伺ってみたところ、気合い十分な気迫でござった。鬼ぃ殿の張り手一発が、どうやら陸上殿の琴線に触れたのやも」

兄「…俺の顔にびびってたクセに？　昨日の今日で？」

クラ「わからんでござるよー？　敗北がどの結果を生み出すかなど、人それぞれの過去が関わってくるでござるし」

クラ「実際、鬼ぃ殿は過去に一度、その類まれぬ暴力で部活動の一新を担ったではござらんか」

兄「む、むぅ…」

女「その陸上部部長とやら少し気になるな。他は良い、まずはソイツの情報をよこせニンジャ」

クラ「あ、あのー？　一応は拙者、優杯戦争の管理者の一人なワケであってぇー…露骨な情報提供は些かやりすぎではないかとぉー…？」

女「ここまで吐露して何を怯える、オマエは既に立派な反逆人。世界を救うためだ、保身より世界の為うごけ」むんっ

クラ「ご無体な…なんという板挟み、会長殿の脅しを受けつつ情報整理、そして詳細記載、はたまた暗躍めいた情報漏洩…」ﾎﾛﾘ

兄「な、なんかすまんな…俺が頼んじまったばっかりに、色々と迷惑かけてるようで…」

クラ「いや、いいのでござる。約束は約束でござったし、一応は鬼ぃ殿の暇つぶしを達せられる展開なのは違いなし…」

兄「…そっか、意外と人情に熱いよなジライヤ」

クラ「忍者故にね。なんか二重スパイが忍者っぽくてステキでござるし」

兄「本音か？　もしやそれがテメーの本音かオイ？」

女「しかしニンジャの立場と情報収集能力はワタシ達に必要不可欠だ。きちんと後に褒美も出す、今はどうにか頑張ってくれ」

クラ「ニンニン、でござるよ。お任せあれ」ｼｭﾋﾟｯ

女「では早速ながら、その陸上部部長の情報をくれ。あと化け物、オマエは聞かなくて良い」

兄「あんで？」

女「無駄に相手を知りすぎて対戦に支障が出たら目も当てられないからな。感情論での状況把握は…ワタシも苦手だが」

女「実際に戦うオマエより適任なのは間違いない。
　　人の裏を知る重みはワタシが背負おう、オマエは可能な限り純粋に戦いに身を投じればいい」

兄「…嬢ちゃん…」

女「い、一応だな！　ワタシも…オマエの願いとやらを叶えてやりたいと思わんでもない」

女「迷惑かけてるのわかってるし…あまりオマエばかり負担押しつけたらワタシ、イヤだなって…」

兄「──うん、そっか。そりゃ素直にうれしいよ嬢ちゃん」ﾆｯ

女「う、うむ。そうか、ならいいが…」ﾃﾚ

クラ（なにこの甘酸っぱい雰囲気。会話内容物騒なのに…）

クラ「えーごほん、話がまとまったのなら早速提供するでござるが。何故に陸上部部長なので？」

女「う、うむ。それは聞いた限りで一番『DEM』が肩入れしそうな立場だからだ、機械仕掛けの神は、適当に人間を選出はしない」


女「そもこの神の役目は【理不尽な不幸な目に遭う人間に手を差し伸べる】ことだ」


女「伝承通りならばまさに陸上部部長こそ適任者。疑う余地は余りに余る、もはやこの時点で一番怪しいだろう」

クラ「………。そう吸血鬼殿が仰るのならば喜んで提示するでござる」

女「よろしく頼む」

兄（…俺はそこらへん散歩してこようかな、十分間ぐらい）ｽﾀｽﾀ


～～～

兄（しかし優杯戦争か、一体誰がこんな迷惑行事始めにおっぱじめやがったんだか）

兄「単純にじゃんけんで決めればいいだろうに。無駄な争い起こしてなにが生まれるっていうんだよ…」こつん

ころころ…

兄「──ん、もしかして決まらなかったのか？」

兄（単純に優劣断定できなかったから、戦争なんて呼ばれるぐらい過激な手段を取らざるを得なかった…？）

兄「…余程の頑固者が出揃ったか、実力が均衡しすぎていたのか」

兄「なんにせよ。争いで決着は、妹ちゃんが一番嫌いそうな展開だなぁー……」ｽｯ

兄「……………あれ…？」ﾋﾟｸｯ

兄（俺の参加バレたら、お兄ちゃん滅茶苦茶怒られるんじゃねコレ？）

兄（──不味いッ！　非常に自分の立場が危ういことを今気づいたッ！　妹が生徒会役員の時点で時間の問題なのか、もしや…！？）ﾊﾞｯｯ

兄「っぐぉおおおおッ…今さらやめたい言える立場じゃねぇしッ…嬢ちゃん悲しむだろうし…ッ」ｸﾞｸﾞｸﾞ

「きゃっ」ぽすっ

兄「んおっ？　ああ、すまん──えっと、大丈夫ですか…？」


「あっ、ああ…大丈夫だ、平気なので心配は無用…」

眼鏡「私も読書しながら歩いてたのが悪い。気にしないでくれ」

兄「あ、そうっすか」ﾍﾟｺ

眼鏡「む…？　…あ、君は」

兄「？」

眼鏡（無し）「驚いたな凄い顔だな君。パーツが滅茶苦茶すぎる。それで良く今まで生きてこられたな、称賛に値するよ」

兄（え、なに、嘘……イキナリ顔を罵倒されたの俺……？）


数分後


眼鏡「畳みかけるように迷惑をかけ済まない…生まれながら異常な近眼体質でな、まさか眼鏡かけ忘れてるとは」

兄「え、ええ、まあ、それなら眼鏡かけてくださいって…つうかむしろ、よくここまで来れましたね…しかも読書しながら…」

眼鏡「散歩はいつも決まったルートなので既に身体で覚えた。それに本も顔面にここまで近づければ問題はない」ｸﾞｸﾞｸﾞｸﾞｸﾞ

兄（ある…！　見た目が凄く不審者な時点で問題はある…！）

兄「なんか天然系っすね、いろんな意味で」

眼鏡「そうだろうか？　特にどの辺が？」

兄「…その辺が」

眼鏡「なるほど、後に君の意見を吟味し考慮しよう。貴重な私に対する客観的指摘、実に興味深い」ﾌﾑﾌﾑ

兄（だめだ話が続かない奴だコレ。変な人と付き合っちまったな、だからといって放っておくのも忍びないし…）

兄「あの、本当にここまで姉妹の方が迎えにくると？」

眼鏡「ああ。事の顛末を電話で語ったら妹の奴が怒っていたよ、そしてすぐに迎えにくると」

三日後にﾉｼ

兄「そ、そうっすか…あんま妹さんに迷惑かけない方がいいっすよ、喧嘩でもしたら面倒ですし」

眼鏡「だな。妹は怒ると手が着けられない、…しかし優しい青年よ、君まで何故私と一緒にベンチに腰掛ける？」

兄「……。そんな優しい青年なんで、このまま迎えが来るまで一緒に待ってようかなと」

眼鏡「合理的だな。今日は休日、
　　　公園の真ん中でぼうっと突っ立ってるだけなら都合のいい暇つぶし相手を捜していたのだろう」

眼鏡「ならば誘いに乗ってみせようか」

眼鏡「私も明日に控えた行事まで暇を持て余す身、ここはひとつ互いに相談事でもしてみようか」

兄（不都合なく会話が続いてるようでかなりの強引さ…正直嫌いじゃない！　けど面倒くさいなこの娘！）ﾀﾞﾗﾀﾞﾗ

兄「えっと、まあ話したいことがあるならどうぞ…？　黙って待ってるより会話してた方が気楽なのはわかるし」

眼鏡「そうか、では私から始める」

眼鏡「実は最近、一人で過ごす夜が寂しいと感じるようになった」


眼鏡「どうだろう、君的に私の恋人になる予定は？」


兄「ぶっっほぉッッッ！！？？」

眼鏡「風邪か？」

兄「びっ、くりしたぁー…！　ちょ、ちょっと冗談にしてはタチが悪すぎますって…！？」

眼鏡「私のような身体の起伏が少ない女子は好みではない？　むしろ君には需要があると自負しているのだが？」

兄「なにやら俺の好みが看破されつつある！　…待て待て待て…アンタ本当にびっくりするよ、なんだ急にっ」

眼鏡「男性と会話するのは久しくてな」

眼鏡「それに手放しに優しくもされた。少し、一目惚れだ」

兄「…顔も見えてないのに？」

眼鏡「君がどんな醜悪な顔面でも私は愛そう」

兄「眼鏡かけろ眼鏡を」

眼鏡「では論点を変える。…そうだ、思い返せばあの時の衝撃──君とぶつかった際君に【屈強な身体】を私は感じた」

兄（あの衝突した一瞬で？　なんにせよ洞察力は凄いな…）

眼鏡「きっと君に激しく求められたら、私の柔な身体は数分と持たないだろう」

眼鏡「私はそんな不条理な蹂躙をされてみたい、君の悪魔の如き身体に」ｷﾗﾘﾝ

兄「ひでぇ印象だなまったくッ！　なにひとつ共感できやしねえ！」

眼鏡「すまない。これでもオブラートに包んだ言い方だったんだが、むしろストレートに求めた方がよかったのだろうか？」

兄「い、良いです！　それで結構…！」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝﾌﾞﾝッ

兄（なんだかもう帰りたい…！　この人の側から即刻立ち退きたいよお…！）

眼鏡「…ああ」

眼鏡「何を戸惑っているのだろう。私らしくもない」ｽｯ

兄「へっ？」

眼鏡「先ほども零したが、男性と会話するのは久しくてな。君と並んでベンチに腰掛ける、このシチュすら不用意に浮かれてしまう」

眼鏡「どうにも勘違いされてそうだが、普段はもっと人間らしいしゃべり方をしているつもりだ。こう…生真面目な風ではなく…」

兄「…妹さんとは結構気さくにしゃべったり？」

眼鏡「その通りだ、もしや君にも妹が？」

兄「まあ、うん、俺にとって一番大切な家族だな」

眼鏡「えらく断言するな。それは自分よりもか？」

兄「自分よりも？　あー…えっとー───違うと思う、この地球上で誰よりもかな」

眼鏡「……。少し驚いた、どう見ても君が嘘を付いてる節が見当たらない」

兄「まぁ嘘つく必要がないし」ﾃﾚ

眼鏡「今、私は完全に驚いた。君はもしやシスコンと呼ばれる類の輩か？」

兄「はい、そうです」ｷｯﾊﾟﾘ

眼鏡「なるほど。同じ妹を持つ立場として、実に興味深い…さらに君という存在に興味を持ってしまったよ…」ｼﾞﾛｼﾞﾛ

兄「でへへ」

眼鏡「妹に関しての話題は不必要なほど素直に受け取るのだな…」

眼鏡「……」

眼鏡「ならば君にひとつ助言を送ろう」ｽｯ

兄「え、なに助言？」

眼鏡「同じく暇を持て余し、こうやって巡り会ったのも運命の一つ。最後に君へ私の存在を植え付けておきたいと思ってな」ｸﾙ

眼鏡「うん、ツバを付けとくと言い替えても良い」ｷﾗﾘﾝ

兄「早く本題を…」

眼鏡「せっかちだな。ならば言うが──秘密は守り抜け、君が関わる事柄を絶対に妹に察せられるな」

眼鏡「君にとって少し【不幸な展開が待ってると面白いと思った】。悪い意味でも良い意味でも」

兄「思った…？　急に主観が入り交じった言い方して…」

眼鏡「私の特技の一つだ。人間が織りなす人生模様、描く軌跡は時折、物語より現実が勝るときがある」ｽﾀｽﾀ…

眼鏡「…そろそろ場面転換の兆しが見えた」

眼鏡「私の妹がくる予兆だろう、君が誰かはわからないが──きっと私にとって【悪か善】に違いない」

兄「………」

眼鏡「ふふ、世界がつまらん私にとって君がどうであれヒーローだ。存分に期待しているよ、私の未来の恋人よ」

兄「──……待てちょっとぉー！？　最後のひと台詞が一番聞き捨てならぬモンだったんだがー！？」

眼鏡「ふ・ふ・ふ。では、また会おう見知らぬ優しい人よ」

ｽﾀｽﾀ

兄「な、なんだったんだあの人は……」ぽつーん


～～～

女「遅いぞ！　まったく、どこをほっつき歩いておった！」ｶﾞｰｯ

兄「いやっ…まあスマン、ちょっと出歩くつもりが案外遠くに…」

兄（別にわざわざ報告しなくてもいいか。名前すら聞きそびれてたし、…また会おうって言葉が気になるっちゃ気になるが）

兄「それでそっちの話は済んだのか？　ターゲットは変わりなく陸上部部長サン？」

女「ああ。ワタシの推測通りならば八十パーセント【クロ】だろうな、忍者から聞いた過去話もまた、拍車をかけてくれた」

クラ「気持ちのいい話じゃないことは、鬼ぃ殿、あの『北校舎掃除用具入れ掲示板』ネタで察することができるでござろう？」

兄「ああ…あの新聞ネタか…確かにアレ知ってちゃ戦えるような気分にならんわな…」

女「うむ。では、デウス・エクス・マキナが肩入れする参加者を『陸上部部長』仮定し、明日から行動をしていくぞ」

女「──覚悟は良いな？　これは改革であり世直しであり【世界平和修復】だ」

女「そして、我々は一心同体となり必ずや石頭のDEMをかち割ってやるのだッ！」

兄「…かち割っていいの？」

女「言葉の綾！　ではっ！　えいえいおーっ！」

クラ「おーでござる！」

兄「…お～…！」

兄（どうか、どうか妹ちゃんにバレる前に終わりますように！　どうかオナシャス！）

次の日　通学路


兄「ふわあああああ…」

女「眠そうだな化物。昨日は緊張でろくに寝られなかったのか？」

兄「んんっ？　いやあ～睡眠の大切は十分に知ってるし」

兄「以前にアフガニスタンの敵地本部で、酒樽の中で爆睡した俺にんなヤワな感性はねえよ…」ｺﾞｼｺﾞｼ

女「状況がどうまとめてもまったく意味不明ッ！」

兄「寝不足なのは昨日はお袋ｖｓ親父の、第十五ランドのゴングが鳴っちまってな。まあ妹ちゃんも俺も無視して部屋にこもってたけど…」ｸﾞﾃｰ

兄「…あとは単に個人的な悩み事かな」

兄「今回に関わりあるにはあるが嬢ちゃんに関係ねえよ。やるべきことはきちんとやる、絶対だ」ﾉﾋﾞｰ

女「頼んだぞ…？　オマエの戦力だけが解決の手段なのだからな…っ？」

兄「まかせんしゃい。ぱぱっとやって、ぴょぴょっと終わらせてやるよ」

女「そう単純に事が進まんから厄介なのだが…オマエがやる気ならそれでいい、気を抜くなとは言わんが現在は登校中…」ｷｮﾛｷｮﾛ

女「六名の参加者も白昼堂々と宣戦布告などはせんだろうし、むしろルールで一般生徒にある程度バレては駄目だと書いてあるしな」

兄「【ある程度】ね…」ﾊｧ

女「『優杯戦争』、誰が初めに規定したか知らんが──良く出来てるようでガバガバなのだ、戦闘ルールは突き詰めておいて【危険度】が全く考慮されない」

女「ある程度バレルな、他人に迷惑かけるな、その程度よ。まるで陰湿に攻めろと催促すら感じさせる」

兄「んー…」ｷｮﾛ

女「闇討ち、仇討ち、騙し討、…つまり、ぎりぎりバレなければなんでもござれだ」

女「まったく。今回で開催二回目だと聞くが…」

兄「……」ﾁﾗ

女「こうまで煽り昇華された事態が推奨される一回目は一体如何様なバイオレンスバトルロワイヤルだったのだ…？」ｿﾞｿﾞｫ

兄「ちょい嬢ちゃん、お話ストップ」ぐいっ

女「おわっぷ！？　ちょ、ちょっとなんだイキナリ？！　だ、だだ抱きしめるなんて…！」ｷﾞｭｳｳｳ

兄「──んなオーラ出しておいて、学生気取りは笑えない冗談だなアンタ」

女「なにっ？」ﾁﾗ


陸上「………」ズオオオオッ


女（なん、だっ…この巨体、いやっ、そうではなく──なんだ此奴が醸し出す雰囲気…！？）

兄「いつの間にやら一角の戦士みたいな風貌だな。少し見ないうちに生死の境でも彷徨ったりしたの？」

二日後にﾉｼ

陸上「……」

兄（そりゃ俺のせいだろ！　なんてツッコミ期待したのが野暮だったか…何になせよ、こんな所でおっ始められたら面倒だな）

陸上「オイは決めちょる」

陸上「お前を必ず倒す。選手生命ありとあらゆるモノを賭け、絶対にや」ｷﾞﾛ

兄「…そうっすか」ｺｷｯ

女「むーっ！」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝ

兄「そっちが良いなら今からでも？　都合がつかねーのは単なる怠慢だ、つーのが俺の持論でしてね」

陸上「阿呆ぅ。乗せられんわい、放課後まで首を洗って待っとれ」ｽﾞﾝｽﾞﾝ…

兄「……どう思うアレ？」ﾌｩ

女「ぷはぁ！　余計な煽りをいれるなバカタレ！　ったく、というかあんな老け顔で体格が単なる高校生なのか…！？」

兄「出してるオーラも似合ってきてたな、くっく」

女「嬉しがるな嬉しがるな。…変わらず作戦通り奴がターゲットで良い、むしろ此方を標的なのは都合が良いだろう」

兄「だろーな。ん～～ちっとばかし楽しみになってきたぜ」

女「…何度も言うが、良いか？　もし本当にクロならば、初戦で勝ってはならんのだぞ？」

兄「ああ。今日、放課後では引き分け、または時間切れを狙うってことだろ？」

女「そう【時間切れ＆引き分け】、【それこそが我々が唯一出せるカード】だ」

兄「──でも俺は違うと思う、部長サンはきっとクロじゃない」ﾆｯ

女「なにを根拠に…」

兄「あの顔は誰かに唆れたとか、応援されたとかじゃない。男が一人、己のプライドのため立ち上がった『漢の顔』だった」

兄「──俺も覚悟して挑まねーとな、じゃなきゃやられちまうぜ」


放課後　体育館裏


女「わざわざ呼び出しとは恐れ入った。陸上部部長よ」

陸上「…倒さなならん奴を、他の奴らに手を出されたら敵わんからのう」

女「その覚悟、しかと受け取った。では早速ながら始めるとするか──優杯戦争とやらを」

「部長、私は今回副部長としてではなく、一人の人間として応援してますから…！」

陸上「黙っとれ。静かに課せられた責務を果たせばいいんじゃ」

「は、はい…っ」

陸上「おい帰宅部」

兄「あん？」

陸上「病院に運ばれた恩、感謝こそすれ一切手は抜かんぞ。以前のようにはいかんと思え」

兄「…上等、本気じゃなねーならヤる意味ねーよ」

陸上「ならば誓う。──オイは[ﾋﾟｰｰｰ]気でお前に喰らいつくと」

女「……化物」

兄「わかってる。でも、期待はすんなよ…」

兄「頭で分かってても身体が動いちまったら嬢ちゃん任せだ、そんときゃいち早くクロシロ判断してくれ」

女「了解した。ではアプリを起動する、そっちの準備はいいな？」ｶﾁｬｯ

「…はい」ｶﾁｬ

女（──七名の優秀者が己の歴史、技術、立場を賭けたバトルロワイヤル）ｽｯ

兄（各自おいそれ吐けねー事情があろうがなかろうが）ﾊﾟｷｯ

陸上（全ては今、この戦いで判決がくだされる）ｺｷｯ


「──優杯戦争、スタートします！」ピｯ


ピロローン！


『参加者、メイトの認証ボタンを承認しました。プライベート位置情報データにより両者『体育館』と断定』

『時刻、現場、両者の技量を考慮しゲームを選出中───』

『──【校舎一周、障害物外壁ラン】が選ばれました』ﾋﾟﾛｰﾝ


～～～

女「──なるほど、つまり校舎一体を囲う【外壁の上】を走り、一周せよと」ﾋﾟｯ

女（そして違反は一つ【地表に足をつける】のみ）

女（なんとも無茶な。外壁など人気少ない部分ならばいざ知れず、）

女（グランドに面した多くの生徒の視線に触れられる箇所もあるぞ）

女（ここでガバ具合が発揮されたな。…いやこれが狙い？　やってみるまでわからんか）

陸上「スタートはここでいいんじゃろうな」

兄「そういうの書かれてないの？」ﾉﾋﾞｰ

「明確には…始まった地点をスタート、ゴールとみなすなら何処でも良いのでは？」

陸上「ならばここで異論はない。お前はどうじゃ」

兄「右に同じく」

女「両者納得の上ならば問題なし、早速始めるぞ」

兄「よっし！　んじゃ外壁つーと──ここでいいのか、よいしょっと」ｽﾄﾝ

兄（ただの障害物ランなんて朝飯前だ。寝てても勝てる、けど…）ﾄﾝﾄﾝ

兄（やっぱ案外狭いな足場…踵揃えてぎり両足が乗るぐらいか？）

兄「そういや並んでスタート出来ないけど、部長サン、アンタは後ろでいいの？」

陸上「かまわん」ｸﾞｸﾞｸﾞ

兄「おっ？　そりゃ昨日使ってたクラウチングスタート？」

女「無駄話せんでさっさと準備！　アプリが勝手にカウントダウンを始めとるぞ！」ﾋﾟｯﾋﾟｯ

兄「お、おおう！？」ﾊﾞｯ

陸上「……ﾌｩ…」ﾋﾟｷｨｯ

陸上（このゲーム。些か出来過ぎじゃ、まるでオイの為に優先して作られたかのように感じる程）


ピッ　ピッ　ピッ　───ピーーーーーッ！！！


女「はじめぇえーーーーーーーーーーーーーいいいっ！！！」

兄「応ッ！！」ﾄﾞｯ

陸上（なんの難しい話は無い、オイはただ…一心に前を見据え…心を決めただまっすぐに…）ｽｯ


ﾄﾞﾝﾝﾝッッッッ！！！


陸上「──駆け抜けるだけじゃ、己の足でのうッッ！！」ｷﾞｭｵｵｵｯ

兄「…ぇ、おぶッ」ドッ！！　ゴシャアアアアッ！！！

兄「──ぷげらぁっ！！？」ｸﾞﾙﾝｸﾞﾙﾝｸﾞﾙﾝｸﾞﾙﾝ！！

女「よしそのま、ッ！？　はっ、撥ねられたァーーーーー！！！！？？？？　おまーーーーっ！！？？」

「く、クラウチングスタイルは限りなく前方に体重を【落とし】、効率よく前へと進む重心移動スキル──」

「──部長ほどの体重を食らったならひとたまりもない！　いいですよ部長そのまま走り抜けて！！」

陸上「ッ…！！」ダダダダダダッ

兄「おわぁあぁあぁあぁあぁあぁあッ！？」ぐるぅんぐるぅん

女「初っ端からバカモノぉーーー！！？　そんまま落下したら失格だぞ、持ちこたえろーっ！」

兄「ぐっ──わーってるよって！！」バッ！　がしぃい！！

兄（っぶねー！　なんとか外壁にしがみつくこと出来た、奇跡だよ奇跡！）ﾀﾞﾗﾀﾞﾗ

兄「ッ…しかし、だから後ろを取りたかったってね、やるじゃねェかオイ…！」ｸﾞｸﾞｸﾞ

兄（相変わらず俺をふっ飛ばすのは手慣れ放題だが、そろそろ飽きたよ部長サン！）ﾒｷｨ

兄「──追ってくる俺に対して、今度はどう対処してくれんのかねーッ！」ﾀﾞｧﾝｯ


～～～


部長（──このスピードで走れるのは後十メートルほど、校門の【足場無し】を通り抜けて次にあるのは【金網地帯】じゃ）

部長（無論、足場など無い。登ればいいかも知れんがはるか上空、時間の無駄に過ぎん）


ﾀｯﾀｯﾀｯ


兄「──んお？　アレは校門か、足場ねーけど飛び越えろってか？」ﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞ

兄（だったらチャンスだな。飛び越えるには助走と覚悟が必要！　落下即失格なら即決は無理！）

兄（しかァーしこの俺は問題なく飛び、超えッ、るッ！）


ダン！　ダァン！　ダァアアンッ！


兄「おるぅあああッ！！」ピョイーン！

陸上「…！」ﾊﾞｯ

兄「ハァーﾊﾊﾊｯ！　部長さんごと跳び越えてやったぜザマーミロ！」ｸﾙｸﾙ　ｽﾀﾝ

兄「フムフゥー！　アンタが躊躇してるのが悪い、んじゃ俺は先に行かせてもらうぜー！」ﾀﾞﾀﾞｯ

陸上「…」ｷｮﾛｷｮﾛ

兄「…って足場が無え！？　金網ってオイ！？　どうすんだこりゃ──」ｽﾀ…


──ｷﾞｭｫｵｵｵ


兄「ん？」ｽｯ


ギュッバァアアアッッッ！！　ズドンッ！　…ﾋﾞｨｲｲｲﾝｯ…


兄「……、え？」

陸上「外れたか、チッ」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝ

兄「ちょっとォー！？　今、一体なにを投げて…木の棒…！？」

陸上「武器使用とやらは厳密に禁止されんかっただろ、無論、当てるつもりなど毛頭ない」ﾊﾞｷｯ

兄「おもくそ舌打ちしてましたよねー！？」

陸上「オイは槍投げでも杯を持ち帰った。十分な助走と正式な槍がなくとも──」ｸﾞｸﾞｸﾞ

陸上「──キサマを穿ける、道理も無しッ！！」ｽﾞﾊﾞｧｱｱｱｯ！！

兄「あぶぶぶッ！？」ﾋｮｲ

陸上「フン、足止めにはなったか」ｽｯ　ｶﾞｧﾝｯ！


ガラララーッ！


兄「…っ？　ああ！？　校門の門扉を…なるほど～…！」

陸上「呑気に感心しとる場合か」ﾊﾞｷｯ　ﾊﾞｷｯ　ﾎﾞｷｯ


ｽﾀｽﾀｽﾀ


陸上「行く手なしの前方、迫り来る後方、手詰まりかいのう帰宅部？」

兄「っ……！」

陸上「ならば覚悟せい

陸上「端から誓ったとおりオイを必ず仕留めると宣言した。命乞いなどしてくれるな、怒りがそがれる」ｸﾙｸﾙｸﾙ…


ﾋﾟﾀﾘ


陸上「──次は足を狙う、走れなく成ればこっちのモンじゃ」

兄（なんつーご覚悟！　既に学生としての度量を超えてるぜ！）ﾜｸﾜｸﾜ

兄「だが甘い！　おるぅあ！」ｶﾞｧﾝｯ！

ｶﾞﾗﾗｰｯ

兄「呑気に構えて門扉渡ってんじゃねーよ！　そのまま戻っちまえ！　つか転けなさい！」ﾋﾞｯ

兄（って、あれ！？　既に門扉の上にいなくね──）ﾁﾗ



「──【棒高跳び】」ﾌﾜｧ…



兄「…嘘…」ﾊﾞｯ

「オイは──男子棒高跳びでも、優勝杯を持ち帰った、手頃な棒が見つからんかったが身長のぐらいの棒であれば十分な高さを伸ばせる」

　スタン

陸上「──どうじゃコレが優秀差の違いよ、帰宅部」ｽｯ

兄（あんな棒きれで…そもそもあの巨体が何の着地音がねえってどういう運動神経──これはもはや…）ｿﾞｸ

陸上「なにを黙っとる。貴様が相手する人間は既に一歩ッ！　…リードしとると言っとんじゃ…」


ﾐｼｨｯ！


陸上「なんとか言ったらどうなんかいッッ！！！！」

兄「…ッ！」ﾋﾞｸｯ

兄「……はっ」

兄「ハハッ！！　…いいよアンタ、マジで良いと思う」ｽﾀ


スタスタ…


兄「手を、手をまだ少し抜いてた。抜かねーと俺は駄目な類の化物でさ」

兄「でも、ほんのちょっぴり気を抜いたら──昨日、アンタをふっ飛ばしたみたいになる」

陸上「……」

兄「それは駄目なんだよ。裏でどうこう事情があるからじゃなく、それじゃあ何も──」

ｷﾞｭｯ

兄「──何も【楽しめない】から…」

兄「なあ頼む、どうか教えてくれよ部長さん、アンタがそこまで陸上で頑張る信条ってやつを、部活の楽しみ方を知らない…」

兄「こんなちっぽけな一般人に、どうか、どうか教えてくれよ。アンタの凄さをさ…」

陸上「…言われんでも」ｽｯ

陸上「オイは端から貴様を殺める覚悟で挑むんじゃ、勝手に独り、都合を抜かすな帰宅部」ﾋﾟﾀ


陸上「存分に謳歌しろ、今の瞬間を」ｷﾞﾛ


兄「……上等ッ」ぶるるっ

兄「お望み通り、そして望む限り──存分に楽しませてもらおーじゃねぇかッッ！！」ﾄﾞｯｯ！！

陸上「ムゥウウウンンンッ！！」ゴバァッ！

兄「ハァーハハハハハハッッ！！」ドォンッ！


屋上


女「はぁ…はぁ…ふぅ…器用に戦うよな、あんな不安定な足場でのう」ﾁﾗ

女（してなんといい笑顔か化物、エメトと戦った以来だろうなありゃ…今回は妹も関わって居らんしそこまでやる気にはならんと思うが…）

女「──しかし、舐めてかかるなよ化物よ…」ｷﾞｼｯ

女（ニンジャから聞いた陸上部部長の【裏ネタ】、抱える闇と欲望、これら拳一つで一重に跳ね除けられるほど容易くはない）

女（そこにもし『DEM』が関わるとなれば、必ずやオマエでも遅れをとる。…なんとしてでもやり遂げろ）

ｶﾁｬｯ

女「ワタシも『メイト』として、この役割を存分に果たすまでだ…！」


～～～

兄「フゥンッ！！」ゴパァッ！

陸上（なんのリスクも顧みない力技の裏拳なんぞ、【危険を顧みない】という選択の時点で先が知れとる）ｽｯ

兄「…むぉっ！？」ぶぉんっ

陸上「常に塗り替えられる記録に追われ、自己ベストを伸ばし続けるオイ等は…」ｽｯ　ﾄﾝｯ

兄「どぅあッ！？　テメっ、足を引っ掛けやがっ──おわーっ！？　っととと！」ぐらり

陸上「まず本来の実力を引き出すため【没入】を行う。強敵、立場、大会、これら重力は精神から薄く、薄く薄く、薄く薄く薄く薄く…」

陸上「──０．２５％になるまで、そんな境遇不穏を取り除くんじゃ」ｸﾞｸﾞｸﾞｯ

ｷﾞｭﾙｯ！

陸上「【無の世界】、没入し没頭し、【訪れた実力という自分】は【期待を裏切らない】」ギュパァアアッ！

兄「あぐっ！？」ﾄﾞｺﾞｫﾝ！

陸上「【こうであってほしい】という期待から何も残せん。このまま落ちろ。オイは先に行く」ｽﾀ

兄「───そう、なんども落とされかかってたまるかってェーのよォ！！」ｶﾞｼｲｲｲｲ

陸上「勝手にやっとれ」バッッ

兄（くそっ！　なんだあの足場でスゲー安定した裏拳放ちやがって！）

兄（しかもわざと俺に合わせて裏拳使っただろアンタ！　なめ、くくっ、この俺がなめられてる…！）ﾄﾞｷﾄﾞｷ

兄「だがその金網地帯！　アンタはどうやって進むつもりだ…！」ｽﾀﾝ

陸上「無論【よじ登って】進むまで」

ガシャァアンッ！

兄「おッほ！　怖くねーのかっ？　そんな目立つ行動、いつ他の生徒や校舎に居る奴らに見られるかも知れないのに！」

陸上「オイには出来て、貴様には出来ん。──それが【運動部】としての実力の差」ｶﾞｼ　ｶﾞｼｯ

兄「片手でふっ飛ばされておいて言ってくれるなァ！　俺にも出来るっつーの！」ガシャァアン！


ガシャンッ！　ガシャッン！


兄（くっ…移動するたびに音が響く、焦って追い越そうとすりゃ派手に鳴って生徒を呼び寄せちまうかも…）ﾁﾗ

陸上「……」ｶﾞｼｬﾝｯ　ｶﾞｼｬﾝｯ

兄（なんにしても──タックル含め、俺を投げ飛ばす筋力と体重、そして棒切れを飛ばす腕の瞬発力に棒高跳びの技量…）

兄（今も己の体重を指先とつま先で支えるピンチ力と器用さ、何なんだこの人、パロメータ一体どうなってやがる…！？）



女（───【Type IIa『Intermediate muscle fibers』】）


女（…それは【限りなく理想の筋肉】と呼ばれ、スポーツマンにとって最高のパフォーマンスを生む）

女（槍を放り投げる『速筋』、自重を支え続ける『遅筋』）

女（これらタイプの違う筋種は、同じ筋肉でありながら機能や糖の分解速度に異なりが出てしまう）

女（どちらかを鍛えれば、どちらかが本来のパフォーマンスを発揮できん。比重は一対ではなく、効率よく鍛えてもバランスを保つのは至難の技）

女（──しかし、この両方の利点を兼ね揃えた『中間筋繊維』…通称【ピンク色筋肉】が存在する）

女「槍を打ち出すスピード、人一人を跳ね飛ばすパワー、巨体を支え続けるスタミナ」

女「この数分間だけで酷使した筋肉が生んだエネルギー──その乳酸への変換率は驚異的な数値であろう、しかし、」



「ええ、我が陸上部の部長は中間筋を鍛えることにより、その乳酸を『遅筋』の特徴である『ミトコンドリア』で再びエネルギーに変化している…！」



女（なんか加わってきた！）ビビクゥッ！

「瞬発力が要の『速筋』は一瞬でパワーを生み出す代償に、疲労原因である【乳酸】を大量に放出してしまう──」

「──しかしッ！　部長はピンク筋肉を鍛え、鍛え、鍛え込むことよにって、同時に変換し運動量を跳ね上げた！　そして全て解決したッ！」

女「う、うん…そうだね…凄いよね、それ…」ｿﾜｿﾜ…

「今まで、速筋と遅筋の割合は持って生まれた体質だと考えられていた…しかし、中間筋繊維はトレーニングにより増えることが証明されている…！」

「まさにッ！　あの人は人間にして英雄たる身体を保有した──完璧超人なんですッ！」

女「す、すごいぞー！　かっこいいぞー！」

「でしょう！」ﾑﾌｩﾝ

女（ま、まあ概ねその通りだ。──しかし、あの巨体はそれだけでは説明できんだろう）ｷｨｲｲﾝ…

女（どうやら飽き足らず、ピンク筋を下地に【陸上種目に特化するよう、赤白の筋肉を効率よく、まるで鎧のように装着しておる】）ｷｭｩﾝ…

女「まさに陸上競技のみ特化した恐ろしい身体よ…一度検査してみたいものだ、あくまで人間としてだがな」

「………」ｼﾞｨｰ

女「って、てねー！　すごいぞ筋肉ぅー！　キレてるぞー！」

女（な、なんなのだこの女は…）

女（まったく、言うても人間の括りじゃ凄いだけだ、こっちは上記の説明全て意味なしのマジモン化物だぞ…）ﾊｧ

女（──つまり、知りたいのは鍛え込まれた身体ではない、その【効率的なトレーニング方法】だ）ﾁﾗ


兄「ふぬぅふぅーーー！！」ｶﾞｼｬﾝｶﾞｼｬﾝ

陸上「………」ｶﾞｼｬﾝｶﾞｼｬﾝ


女（あれほどまでピンク筋に、鎧のような筋肉を鍛えるのに、どれほどの労力と時間を使い果たした？）

女（…それが陸上部部長。オマエの【闇】につながる程ならば、尚更だよ）



兄（もうすぐ！　もうすぐだ、金網地帯がなんとか終わる！　次は普通に外壁だし足場は安定してるし騒音も鳴り響かないし！）ｶﾞｼｬﾝｯ

陸上「…」ｶﾞｼｬﾝ…

兄（最後まで追い抜けなかったがここでッ！　ここでチャンスを掴み取る…！）

兄（着地の準備にタイムロス、幾ら凄いアンタでも飛び降りるのに躊躇うはず…！）

陸上「……」

兄（俺なら無造作に飛び移れる、校門でのミスはもうやらねぇぞ！　追撃翌来る前に走り去ってくれるわッ！！）ｸﾞｸﾞｸﾞｸﾞｸﾞｯ

兄「───今ッ！！」



「ねー、この後どうするー？」ｽｯ

「そうだねー部活終わってから、駅前にあるクレープ屋でも～」ｽｯ



兄「……ッッ！！！！！？？？？」ビクゥウウウンンン

陸上「むっ」

兄（しまっ──校内残った一般生徒ッ、まずいッ！　こんな目立った状態じゃバレてちま──）ｷｮﾛｷｮﾛ


「…ん？　なんだろ、変な音が…きゃあ！？」

「えっ、なにっ！？　どうしたの──あ…！？」


（──セーフ…ッ！　近くに手頃に茂った木があってよかったァ～…なんとかバレる前に隠れられたぜ、しかし、オイオイオイ…？）

兄（良いのか部長さーんッ？　そんままじゃ思いっきり一般生徒にバレちゃってますけどー！？）

陸上「……」


「あ、あの…」

「えと…」


兄（って、待て待て待て！？　このまま騒がれたら部長さん失格なんじゃ…まずい、あの人一体どうするつもり───）

「ばかものぉー！！　のんきに隠れとらんで走り出させ化物ォーーーーー！！！」


兄（っ！？　な、なんだ…俺にだけ聞こえる超聴覚で嬢ちゃんの怒号が…何故、だって部長さんが…）ﾁﾗﾘ


陸上「部活ご苦労じゃ、女子運動部のマラソンは終わったんかい」ｽﾀﾝ

「はい！　部長も【いつものトレーニング】お疲れ様です！」

「今日は一段と上のほうに登ってましたね…？　教師にバレた怒られちゃいますよ？」

陸上「かまわん。既に脅して許可は取っとる」

「ひぇ～…相変わらずトレーニングに関しては容赦ないですね部長…」

「男子部かわいそう…」

陸上「オイはトレーニングを続ける。…怪我には気をつけろ、絶対じゃ」ﾀﾞｯ


兄（なァにィーーーーーー！？　え、そんなん！？　うそ！？　いつもこんなルートでトレーニングとかヤバイ過ぎない！？　つか、え、どういうこと！？）

兄「あ…そういや…！」ﾊｯ


『オイには出来て、貴様には出来ん。──それが【運動部】としての実力の差』


兄（そう、いうっ…ことかよ…！　アンタの姿は【運動部連中】では常識で、俺はいつもやってねーから認識の差がでるってね…ッ）ｷﾞﾘﾘﾘｨｯｯｯ

兄「…ああ、本当に、やってくれるよ」ﾌｯ


ｸﾞｸﾞｸﾞｸﾞｯ　ｷﾞｼ…ｷﾞｼｷﾞｼｯ…


兄「──嬢ちゃん、やっぱアレ頼んだぜ！！」ﾊﾞｯ！　ｷﾞｯｼｨｲｯ！

女「……！」

「このアドバンテージは大きい。難なくグランド周囲を走れる部長が先手を──なんですって！？」

「地面に向かって──飛んだ！？　あのままじゃ違反で失格──」


女「あのバカ──メイトによる『コマンド・マントラ』の一画を使用ッ！！」ﾋﾟｯ

女「───【優秀者が三分間、地面を走っていい権利】を取得するッッ！！」


『音声切り替えにより令呪の使用を承認』

『──一画使用により【優秀者が一分間着地また走行】許可を受理します』


～～

兄「…っ…っ…っっ…っ…っ」ﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗ


『──一画使用により【優秀者が一分間着地また走行】許可を受理します』ﾋﾟﾛﾛｰﾝ


兄「ッハァーーーー！！　ごめん嬢ちゃんありがたいっ！！」ﾀﾞﾀﾞｯ

～～


女「一分…まあ高く見積もったかいがあったな…」ｽｯ

「なんて…メイトに配布されたコマンドマントラの三画中一画をここで使用するなんて…っ」

女「【ゲームルールへ強力な干渉コマンド】、使い所は難しいが、気にしとったら何時までたっても使わんだろ」

女「ほら…あのエメトがやってるゲームの…エリクサーみたいな？」

「しかし三画使用すれば優杯戦争失格ですよ【メイトの貴女が！】」

女「だぁー一々やかましい！　使わなかったらここでおしまいだったろうて！」

女「──こっちには負けられん事情がある、冗談や興味本位で、この優杯戦争に挑んでるとでも思ったか？」

「っ…」

女「これでグランドでの目立つというデメリットは解消された、ルールは外壁をルートにした一周なのだ、こっからショートカットは望めん」

女（しかし次は裏通りではなくグラウンド、派手な行動は禁じられた区間でるのは違いない──）

女（ますます化物の行動規制が高まっていく、頼む、…なんとか窮地に追い込んでくれ）

女（そして差し出せ『ＤＥＭ』よ。その救済の兆しを───）

～～

陸上「…む」ﾁﾗ

兄「うぉーーーーー！！！！」ﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞｯ

陸上（地面を走行、奴のメイトがコマンドを使用したんか。強力な干渉権というても三十秒から二分までじゃろ）

陸上（オイのメイトの副部長には【絶対に使うな】ときつく言いつけておいた。…確かに有効な使用かも知れんが、阿呆じゃのう）

陸上「──今やこの外壁より、地面が崖っぷちだと分からんとは」ｽｯ

兄（！　走りながら、なにかの予備動作！　今度はどういった競技が来る！？）ｼﾞｯ

陸上「…あほう、警戒しすぎじゃ」

兄「え──だはァッッ！！？」ズリィ！　ｽﾞｯｻｧｱｱｱｱｯ！

陸上（上方に視線を向けたまま走れば、足元が疎かになるのは目に見える）ﾀﾞﾀﾞﾀﾞｯ

兄「くそっ！　誰だよこんな所にボール転がしてたのは！？　って、イイもんあんじゃん！」ﾋﾟｺｰﾝ

二日後にﾉｼ

ﾋｮｲ

兄「せーのっ──ぶち当たれオラァッ！！」ﾎﾞｯｯ！　


ｷﾞｭｩｳｳｳｳｳｳｳｵｵｵｵｵｵｵｵ！！


陸上（ん？　なにか近づいてきてる？　一体なんの音じゃ─）

陸上「──…ハッッ？！」バッ　ｶﾂﾝ！

兄「あぁーっ！　掠っただけかよ、物を投げんの下手くそだな相変わらずぅー！」ｶﾞｼｶﾞｼ

陸上「…っ」がくぅん

ドサリ

兄「って、あれれ？」ﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞ

陸上（た、たまったモンじゃないわ…ッ！　脳が、意識が揺れるッ、没頭が一発で弾けおった…ッ！）ｶﾞｸｶﾞｸｶﾞｸ

兄「おほっほー、脳みそまでは鍛えられなかったようだな部長さんよぉ！」ｽｯ　ダァンッ！

兄「──地道に、文字通り地を道に走ってきたぜ。ほれ、どうした？」ｽﾀﾝ

兄「ちんたらオネンネするのは可愛いウサギさんの役目だ、どーみたってアンタは似合わねーよ」ﾆｯ

陸上「っ…舐めおって…！　悠長にオイに構っとる場合か貴様…ッ！」ｸﾞｸﾞｸﾞ

兄「言われなくても行くっての」くるっ

兄「………。ま、俺は先に行ってるから」ﾀﾞﾀﾞﾀﾞ

陸上「…ッ！」ﾀﾞｧﾝｯ！！

陸上（──糞が、糞糞糞、このオイに敵の背中を見せおって腸煮えくり返るわッ！）

陸上（アスリートはいつだって孤独、目の前には誰もいない、そう、居ては首を掻き切らんばかりに排他すべき光景なんじゃ）

陸上（必ずゴールテープを切るまで、一切の人影を排除するのがアスリートの役目ッ！）

陸上（たった一個の野球ボールで、たったひとつの障害で走るべき道に膝をつく今ッ！　己の不甲斐なさで怒りが胸を焦がす…ッ）


陸上「──オイは誰よりも最高の優秀者ッ！
　　　陸上種目を体一つで総なめし多くの杯を持ち帰り、理想的で完璧な身体を追い求めた六英雄の一人…ッ！！」ｽｯ


だぁあああんんっっ！！


陸上「───………」ﾌｩ

陸上「オイの勝ちは、端から決まっとる」ｺｷｯ


兄（地面走れる時間も残り少ないハズ、このままリードして先を──…っ…！）ｿﾞｿﾞｸ

兄（やばい、何か来る、後ろから尋常じゃない殺気ッ！　光景が日常過ぎるのに後ろからの気配が非日常すぎるっ！）ﾁﾗ…

兄「…見るなッ！　ここは突っ走るッ！」ﾀﾞﾀﾞｧﾝｯ！

兄（槍でも砲丸でも打ち出してこい！　当たっても全力やせ我慢で足は止めやしない！）

兄「…ん？」ﾁﾗ


しゅるるるるるるるるるるるる…


兄「ぇ」ﾋﾞｸﾝｯ

兄（なに、これ、フリスビー…？　銀色の？　どうして、つぅか何よりも【どうして俺と同速に並んで飛んでるんだコレ…？】）

しゅるるる…　ｶアﾝッ！


兄（？　壁に当たっ、）ドゴォオッ！

兄「ぐっ、ごッぽぉ！？　は、跳ねて鳩尾に…ッ！？）

カランカラン　ｼｭﾙ…　ラァンラァン…

兄（不意打ち過ぎて息が漏れちまったッ、しかし偶然かまたは──…もう一個きてるッ！？　）ﾊﾞｯ


ｼｭﾙﾙﾙﾙﾙﾙッ！！

カァンッ！　カァンッ！　カァン！


兄（流石に三個同時は想像してなかッ）ｽﾞﾄﾞｫﾝ！

兄「ぐぎぃッ！？　い、一個は受けるが残り叩き落としてくれるわッ！！」ぶぉんっ


ギュオオオッ──カカカカカカカッ！　カァンッ！


兄（また跳ねやがった！　──あ、顔面だコ、）ｽﾞﾄﾞｫﾒﾁｨｲｲｲｲｲ！！

兄「……、あ、やば…オチる…系のやつ──」くらぁ


　　　　　　　　　　　　　　　　　ﾊﾟﾀﾝ…


「阿呆、倒れても容赦せんわ。追い打ちじゃ、追い打ちィイイイ！！」

陸上「フゥんッ！　フゥんッ！　フンフンフンフンフぅーーーンンッッ！！」ﾎﾞｯﾎﾞｯﾎﾞｯ！


ギュオ！　ギュオオ！　ギュウウウウウウウウッ！！

陸上「──【円盤投げ】、ここは既にグラウンドじゃ。であれば、陸上部部室もまた近い」

陸上（陸上部がランニングを終え、各種目練習で競技用を出しとるのは予測しとった）ﾒｷｨ

陸上（棒で引っ掛け、手繰り寄せるのに何ら支障なし。飛ばすだけでなく精密な距離と速度で射出する円盤からは逃れられん）


ギュルルルルルウウウ──


陸上（これで勝ったも当然、オイの優秀者は証明される。これで！　これで…）

陸上「……──」


～～


「これで決まったのでは…」

女「……」

「しかし、本当に部長は容赦がない。しかし優秀者だからこそ徹底した攻勢を見せるのでしょうね」

女「そうだなあ、奴にも思うところがあるのだろうよ。置いてかれるとは、まさに【己の信じた道】を否定されたも同意義、怒り狂うのは理解できようが…」

女「そうまで己を信じきる【傲慢さ】は、既に人間としての域を超えとるな」

女「まあ他人のワタシがとやかく言うつもりもないがな。じゃろ？　陸上部副部長よ」

「……貴女は、」

女「しかし、くっく…あはははっ…！」

「…？　何を笑っているのですか…？」

女「いや、なに、本当に男という人間は素直じゃない。不思議に思わなかったか？」

女「──なぜ挑む、なぜ陸上競技で敵に挑むと？」

「……」

女「あの円盤投げで納得がいった。今の今まで感じていた違和感…」

女「そう、関わる必要など無い。手慣れたルートならば【端から置いて去るべきだ】、わざわざこっちにケンカを得る必要など皆無」

女「既に六英雄や陸上での優秀者としての【プライド】なんぞ張り手一発で壊されておるだろうに」

女「つまり、奴が望むのは優秀の差ではなく…」

「……」ｷﾞｭｯ

女「──そう、ただ単純に、ただ…」


～～


陸上「──……」ﾌｩｳｳｳｰ…

陸上「…それでも」ﾊﾞｯ　ﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞ


ルルウウウウウ──

──ズガコォーーーン！


兄「……」ﾌﾘﾌﾘ

陸上「じゃろうてッ！　貴様にはまったく意味が無いッッ！」ﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞ

陸上（さあ、オイは向かうぞ。貴様に向かって【駆けて行く】、必ず追い越す、必ず抜き去る、必ずオイはもう貴様の背中を眺めんッ！）

陸上（オイにはもう掲げるプライドなど残っておらんわ！　貴様の背中、見下された己、怯えた心、全て全てがオイの全てを壊しおった！）

兄「……」むくり

陸上（──このオイを兎と言うほどの人間が見る【景色】…）

陸上（ああ…知ってるとも…オイも死ぬほど見慣れた景色じゃ…孤独の孤独、誰もいないただ一人だけの無音の世界…！）

陸上（胸を張り、鼻高々に誇っていい自分だけの世界ッ！！　）ｷﾞｭｯ

陸上（──しかしその世界で、貴様はオイの前に居るッ!!）

陸上（孤独の世界を…あの平手一撃で…またあの世界を…ッ！）


兄「…………」ｼﾞｯ


陸上（──乗るんじゃろう！？　貴様ならきっとこの勝負、乗るはずじゃ帰宅部ゥ！！）ﾄﾞﾝｯ！！


カラァンカラァン…


兄「…よいしょっと」ﾋｮｲ

兄「んんッ！　ゴホン、せーの──痛えーよ馬鹿」ﾌﾞﾝ



ｷﾞｮルパァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア！！！



陸上（死──精神統一唯我独尊ッ！！　無駄のない助走と歩幅が生み出す【跳躍限界突破の軌跡】ッ！）

ﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞ　──ドンッ！　…フワァ…


陸上（【走り高跳び】ッ！！　極限まで高く、極限まで真横に、空中へ固定するッ技術ッ！！）

ｷﾞｭﾙﾙｳ！　ヂリッ！

陸上（ッ！　臆するな！　次が来る駆けろッ！）ﾀﾞｧﾝ　ﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞｯ

兄「えいっ、とりゃ、ほいさっ」ﾋｮｲ　ﾋｮｲ　ﾋｮｲ


ゴッッッッッパァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！！

ズッッッッパァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！！

ｷﾞｬﾙｯ！　ギャルギャルギャルゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウ！！


陸上（三本の死神の鎌──どう避ける、どう避ける、信じろ信じろ己の実力を疑うなッ！）

ダダダダダ！！

陸上（──最高速度をキープ、求められるのは【激しい動作】で【一切揺れぬフォーム】）ｽｯ

ギュオオオオ！！

陸上「…【例え数十の障害があろうと、誰もが挑み続ける四秒の壁】…」

ﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞ　スラァリ　ﾀﾞﾀﾞﾀﾞ　ｽﾗｧﾘ　ﾀﾞﾀﾞｯ　ｼｭﾊﾟｧｯ！

陸上「【障害物走】ッ！　身体に染みこんだフォームは決してスピードを落とさんわッ！！」ｽﾀﾝ

陸上（よしッ！　今度は掠ることなく避けきっ、）ぐらり　ｶﾞｸﾝｯ！

陸上（──！　踏み外し、落ち…！）

ギャルギャルギャルゥゥウウウウウウウウウウウウ！！


陸上（はっ…ははは、ここで更に追い打ちとは。容赦無いのう、本当に）

陸上（本当に──）

ﾄﾞﾝｯ！

陸上「──むぅううううううううううんんんんんっ！！！」ﾌﾞｩｳﾝﾝ！！



シュパァアアアア！ギャルルルルウ！　ｷﾞｬキィイイﾝﾝﾝｯ！！！！



兄「…！」

陸上「──【走り幅跳び】、【円盤投げ】」ｽﾀﾝ

陸上「計算されたフォームが生む空中移動距離は、後の着地も含め、全てが理想形じゃ」

陸上「ッップ…！　ゴポッ…っ…っは…はぁ…追いついたぞ、帰宅部…！」ｺﾞｼｺﾞｼ

兄「はっ！　本当になぁ、なんなんだアンタは」

兄「正直、かなり驚いてる。あの体制から円盤を撃ち落としたのは、単純に運動神経が良いって話じゃ済まねーだろうし」

兄「…それに落ちた２つの円盤の上に乗って、ルール違反を凌いだってね」

陸上「余計な言葉は吐くな、気色悪い。しかも褒め言葉なんぞ昔に聞き飽きたわ」

兄「ちぇっ、俺が手放しに褒めるのめずらしーんだぞ」

陸上「未だ舐め腐っとるな。オイが欲しい言葉はただひとつ、【負けた】という言葉のみ」

兄「言ってくれるね、俺は誰よりも負けず嫌いを自負してるつもりだ。…まあ、でも、負けていい勝負はごまんとあれど」

陸上「……」

兄「──挑まれた勝負は、きちんとケリつけるぜ？」ﾆｯ

陸上「…言うわい、貴様もオイの言葉に感謝しとるくせになァ」ｸｯ

兄「そりゃもう最高に感謝してますとも。…日常でこれだけ満足できる勝負なんてめったに無いからね」

陸上「ふん。そろそろタイムリミットじゃ、残るルートは後方の【縄網地帯】と体育館裏までのフェンスのみ」

兄「金網の時みたいに引っ付くだけだろ？　今度は音も鳴らねえ、全力で行くよ俺は」

陸上「…忘れるな、他の生徒は既に【異分子の雰囲気】を感じ取っとるぞ」

陸上「最後の最後に来て失格なんぞつまらん終幕にしてくれるな」

兄「ん？　あ、それはもう大丈夫。他の生徒にバレても良い理由思いついたから」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝ

陸上「何？」

兄「円盤投げ返してる時に思ったんだ。つか、実際にその時、そうだったし」だばーっ

陸上（なぜ号泣する）ﾋﾞｸ



女「あぁ…なるほど…バケモノ、そういやオマエってば【あえて存在を無視されて居ったな】…」ﾎﾛﾘ

「…えーと…」ﾀﾞﾗﾀﾞﾗﾀﾞﾗ

女「今更狼狽えんでもいいだろ、事実だし。部長は知らなかったらしいが、あいつのバケモノ具合は学校内で超有名だしな…」

女（思い付きもしなかったわ。まさか暴れれば暴れるほど──バケモノの存在が周りから認知されなくなっていくとは…）



陸上「詳しい事情はわからんが、ともかく行けるんじゃろーな」ﾌﾝ

兄「ぐすっ、うん、大丈夫…平気だから本気でかかって来い、俺も本気でアンタに挑むからさ」

陸上「そうかい。なら早よぉ決着つけようや、帰宅部」ｸﾞｸﾞｸﾞｸﾞ

兄「ああ、それがいい。じゃあ互いに納得行く決着を」ｸﾞｸﾞｸﾞｸﾞ


「「いざ、尋常にッ！！」」


兄「意地の、」

陸上「張り合いをなァッ！」


ドォオオンッ！

ガッシイイイイイイ！


兄「よしッ！　人外ジャンプ力で先に掴ま、うぉおぉおぉおおおおおーーーッ！？」ぐぃーん

兄（掴んだのに落ちていくッ、そうか金網みたいに強度が無いから弛んじまうのかッ！？　やばい！　このままじゃ足が地に──）

兄「──ついてたまるかァアアア！！！」ボッ！　ｷﾞｭﾙﾙﾙｯ！！！

陸上（！　拳を突っ込み回転し絡ませ、弛んだ部分をピンと張りおった！）ﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞ

兄「ふぃーあぶねぇー…」

陸上「しかしッ！　雁字搦めじゃどこへも駆けれんぞ帰宅部ゥ！」


ﾀﾞｧﾝｯ


兄「ちょ、ちょっと部長さんッ！？　今飛び移るのは待…！！」

陸上「承知の上じゃ、──無様に独楽のように回れ」ｶﾞｯｼｨｲｲ

ぐぃいいい！

兄「あ──」ｷﾞｭﾙ


兄「おっわぁあああああああああああああッ！！！！」ｷﾞｬﾙﾙﾙﾙﾙﾙﾙﾙｯｯ！！


陸上（オイの重みで、絡めた回転分が引っ張られた。よし、このまま上部に登り安定した道を進む…）よじよじ

陸上（言うても、流石にグラウンド真ん中を位置するここで登る練習はしたことがない）

陸上（野球部が仕切るここら一体ではオイの姿は既に異物…）

ﾄﾞｸﾝ…

陸上「勝ってみせるんじゃ必ず、──やっと見つけたんじゃ、やっと【あの時の答え】を…！」

ぐわんぐわん！

陸上「おうッ！？！」

兄「そう簡単に行かせるか、ゴラァ！！　」ｼｬｶｼｬｶｼｬｶｼｬｶ

陸上「ゴキブリか貴様は！？」ｹﾞｼｹﾞｼ

兄「なんとでも言いやがれ！　よくも何度も何度も回転させてくれやがったなこの…ッ！」ｸﾞｸﾞｸﾞ

陸上「やかましいッ！　無駄口叩かんで集中しろ集中ッ！」ｶﾞﾝｶﾞﾝ！

兄「これが俺のやり方なんですぅー！　テメーも落ちやがれッ！」

ゆっさゆっさ！！

陸上「絶対に落ちんッッ！！　オイのタフネスさを思い知れッ！」ｷﾞｭｳｳｳｳ

兄「オラオラオラオラッ！！」

陸上「ダラァアアアアアッッ！！」ﾌﾞﾗｧﾝﾌﾞﾗｧﾝ



クラ「──いやはやなんとも、両者とも既に人外の域でござるなァ」

クラ（なんかもう猿が二匹叫び散らかしてる光景になってるでござる。それもボス猿級の）

クラ「……しかし、これでいいのでござるか？」ﾎﾞｿﾘ

クラ（状況は佳境。幾ら共々鬼スタミナであれ限界はある。迫り来るタイムリミットに、困るのは【『DEM』を未だ判別してない我々のほう】）


～～

『では、吸血鬼殿が思うDEMが行う有益な手助けとは如何様なもので？』

『情報操作がお手の物のDEMは、簡単に人すらも操るだろう』

『監視カメラ、携帯機器等から現場情報を取得し、肩入れする者の危機を脱する兆しを創りだす』

『──特に危険なのは、携帯が鳴った者が、参加優秀者に近づいた時だ』

『オマエも警戒しておけ、どのような有利状況でも覆す神の一手は侮れんぞ』

～～

クラ「拙者には部長殿はシロだと見えるが、しかし…」

クラ（裏切り者でも現場監督を任された身性。
　　　油断せず現場を見届けよう。必ずや転機は訪れる、明確で明白な、均衡した両者を分つ瞬間が）


ﾌﾞﾁﾞｨｲｯ！！


陸上「…！　なんだ、今の音は──」ﾊﾞｯ

ブチブチブチッ

陸上（縄網が千切れ始めちょる！？　いかん、こんままじゃ諸共地面へ真っ逆さまじゃい！）

兄「オラオラァ！！　落ちろ落ちろォ！」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝﾌﾞﾝ

陸上（コイツはまだ気づいておらん、抵抗するフリしてタイミングを図り、ちぎれた瞬間、無事な部分へ飛び移るしかないッ！）

ブチ…ブチブチッ…

陸上「…っ…っ…」ﾄﾞｯﾄﾞｯﾄﾞｯﾄﾞｯ



「そういやグランウドに球入ったカゴ置きっぱなしじゃね？」

「しまった、誰かに蹴っ飛ばされて散らかされる前に持ってこねーと！」prrr

「電話なってんよー」

「え、本当だ。もしもしー？　あ、うん？　そうそう外にカゴを出しっぱなしでさ──」ｽﾀｽﾀ



クラ（あれは？！　野球部部室から携帯をもった部員が一人、やってきた…！？）ﾊﾞﾊﾞｯ

女（──上方では争う二人ッ！　なんというご都合主義なッ！　どう考えてもDEMが好みそうな展開だ…！）

クラ（黒、黒なのか！？　今にしてDEMが救済の兆しを彼に差し出した！？）

女（黒ならばバケモノに助言をせねばならん！　しかし、だとしても、単なる偶然だった場合は──）ｸﾞｸﾞｯ

クラ（どうするのでござる吸血鬼殿！？　拙者どーすることもできぬでござるッ！）

女「ぐっ…おおおッ…！！」ｷﾞｭｸﾞｸﾞｸﾞｸﾞ


ブヂィイイイッッ！


陸上（今じゃい！　無事に飛び移ってみせるわッ！）ﾊﾞﾊﾞｯ


　　　　　　　　　　　　　　　　　　ｽｶｯ

陸上「…え…？」ﾋｧ

陸上（無、い？　手繰り寄せるべき先が、走り去るべき道が、何故──）


「…気づいてないと思ってのか？」ﾎﾞｿﾘ


兄「俺の聴覚、既に縄網の限界は聞き届けていたァ！　だから無理やり引っ張って…ッ！」ｷﾞｭｵｵｵｵ

陸上（ここで、ここで敢えて全力で引っ張りあげて身体を上空へ…！？）


ﾌﾞﾁﾌﾞﾁブチブチブチバリバリバリィッ！


陸上（オイの手が届く範囲全てを引きちぎり持って行きよった…ッ！！）

兄「よっと、ギリギリセーフ」ｶﾞｼｯ

兄（カカッ！　どーだ部長さん！？　このままじゃアンタは真っ逆さまに落ちて──）ﾊﾞｯ

陸上「……」ﾋｭｳｳｳ…


兄「…ぁ…」

陸上（──終わりじゃ、ここまでかオイは。伸ばしても伸ばしても届かぬゴール、あっ晴れじゃ、もう全て出し尽くしたわい）ﾌｯ

陸上（そーかそーか、これが終わりか。己の限界がここ、いつか訪れると思ってた崖が今目の前にあるわけか）


『…先にいっとけ、オレは後で向かうから』


陸上（やっと、やっと【アンタ】に顔向け出来るわけか。ああ、なんて不幸せか。前だけを駆け抜ける日々に幸せはあれど──）ｽｯ

陸上（──自分の罪を認めるのは、辛いなぁ…）



『なあこれを見てくれよ。どうだ凄いだろ、オレが考えた練習法だぜ？』ﾊﾞｻﾘ

『…アンタ、関東に入学した妹さん様子見に行ったんじゃ無いんかい』ﾊﾟｻﾘ　ﾊﾟｻﾘ

『うっ！？　なんじゃこの気持ち悪いぐらい詳細に書かれた文字…！？』

『思わず筆が乗ってな。それと妹の方は大丈夫、陸上部の雰囲気が居心地悪いからと心配で見に行ったが──』

『──確かにありゃ凄惨だった、くっく、スカッとしたよ胸がさ』

『？　心配ないなら良いんじゃが、にしてもこのノートはなんじゃ？』

『オレが妹の学校で見た【英雄の姿】の作り方だ！』

『英雄…？』

『ああ。限界まで身体を絞り、効率のいい筋肉を鍛える練習方法──ピンク色筋肉を生み出す、魔の練習法だっ！』

陸上「……」ﾋｭｳｳｳ…


兄「…ぁ…」

陸上（──終わりじゃ、ここまでかオイは。伸ばしても伸ばしても届かぬゴール、あっ晴れじゃ、もう全て出し尽くしたわい）ﾌｯ

陸上（そーかそーか、これが終わりか。己の限界がここ、いつか訪れると思ってた崖が今目の前にあるわけか）


『…先にいっとけ、オレは後で向かうから』


陸上（やっと、やっと【アンタ】に顔向け出来るわけか。ああ、なんて不幸せか。前だけを駆け抜ける日々に幸せはあれど──）ｽｯ

陸上（──自分の罪を認めるのは、辛いなぁ…）



『なあこれを見てくれよ。どうだ凄いだろ、オレが考えた練習法だぜ？』ﾊﾞｻﾘ

『…アンタ、関東に入学した妹さん様子見に行ったんじゃ無いんかい』ﾊﾟｻﾘ　ﾊﾟｻﾘ

『うっ！？　なんじゃこの気持ち悪いぐらい詳細に書かれた文字…！？』

『思わず筆が乗ってな。それと妹の方は大丈夫、陸上部の雰囲気が居心地悪いからと心配で見に行ったが──』

『──確かにありゃ凄惨だった、くっく、スカッとしたよ胸がさ』

『？　心配ないなら良いんじゃが、にしてもこのノートはなんじゃ？』

『オレが妹の学校で見た【英雄の姿】の作り方だ！』

『英雄…？』

『ああ。限界まで身体を絞り、効率のいい筋肉を鍛える練習方法──ピンク色筋肉を生み出す、魔の練習法だっ！』

『……。よく読むととんでもないのコレ、人死でるぞ』

『しかし得られるッ！　あの細い身体で鬼のようなスタミナ、瞬発力、そして運動性能…！』ｸﾞｯ

『オレは欲しい…あの姿は確かに心折られるが、それと同時に心が激しく燃え滾ったのだ…！』

『どうだお前、オレと一緒にやってみないか？』ﾆｯ

『それより部員増やさんと今度こそ廃部じゃて…』

『……』ﾆｺﾆｺ

『はぁ～…アンタは陸上の楽しみを教えてくれたし、少しだけなら…』

～～

『ハンマー投げ種目、優勝。おめでとう』ｽｯ

『は、はいっ！』ﾊﾞｯ

ﾜｰﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁ！

『（嘘じゃろ、あんな弱小校だったオイらが優勝杯を手にしとる…これで来年は部員が増えるはず、これも全て…！）』ﾁﾗ

『…！　頑張ったなァー！　よくやったぞー！！』ﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁ

『…っ…おう…！！』ｸﾞｽｯ

～～

『（障害物走、円盤投げ、短距離、長距離──筋肉のつき方がまるで違うが、この練習をハードにすりゃ時間短縮に繋がるかもしれん）』

『もっとじゃ…もっと力を得て、オイは先へと進む…行けるぞ、行けるんじゃオイ等たちは…』ｸﾞｸﾞｸﾞ

ﾌｩｯ　チラリ

『なにしとる。置いていくぞ、さっさとせい』

『カハァッ…！　はぁ…はぁ…いやぁ速いなお前は、本当に…』ﾀﾞｯﾀﾞｯﾀﾞｯ

『アンタが考えた練習じゃろうて。なにいっとるんじゃ』

『そう、だな…でもいつの間にここまで…ふぅ…』ｺﾞｼｺﾞｼ

『今止まると後が辛いんや、しっとるだろアンタなら』

『うん…けど無理は駄目だぞ、無理は…他の部員たちがお前の横暴っぷりに不満を漏らしてた…』

『ハン！　オイ達の栄光に惹かれ集った蝿虫どもじゃ、根本的な根性が足りん根性が』

『…だな、お前はいつだって前を向いてる』ﾆｯ

『そりゃそうだともよ。前を向かなゴールテープは切れん、オイはずっと走り続けるんじゃ』

『……。先に行っとけ、オレは少し休みたい』ｽﾄﾝ

『なんじゃいそりゃっ？　休むって、本番じゃ一度足りとも足は止めれんのに──』ﾊﾞｯ

『（──なんじゃその顔は、）』

『は、はは…すまんな、実は喋り続けるのも辛いんだ…っ』

『（どうしてそんな顔をする、アンタは、オイが追いかけたアンタは、そんな…っ）』

『（一緒に進むべき道はもっと先やのに──何故、ここで立ち止まる！？）』

『…勝手にせい、先に行っとるわ』ｸﾙ

『…すまんな』

『謝んなやッ！！　…あ、いや…もういい！　筋肉が傷んでも知らんからなッ！』

『……おう』


『はぁ…はぁ…なんじゃ、お前らどうしてここにいる…？』ﾀﾞｯﾀﾞｯ…

『あ…えっと…あはは…』

『実はちょっと、怪我が怖くて…まさか塀の上を走るなんて思ってもなくて…』

『ちょっとあり得ないかなぁとか思ったり…』

『──んじゃとゴラァ？』ｸﾞｨﾝｯ

『うわぁっ！？　や、やめてくださいよ…！？　暴力とか反対っす…！』

『ナメとんのか？　おッ？　半端な志で杯を手にできると思っとんのかッ！？　お前らには根性、気迫、努力が一切足りんッ！』

『練習じゃ、もっとハードに追い込まれる程の練習を──』


『出たよ…いつものやつ…誰か止めろよ…』ﾋｿﾋｿ

『ちっと優秀だからって人のやり方に上から目線…傲慢野郎すぎて…』

『陸上部の部長も、どうしてこの人に優しいんだろうな。付き合わされて可哀想だよ…』


『貴様ァ！？　今なんて言ったんじゃゴラァアアア！！』ｶﾞｼｨｯ

『ひぃいぃいぃいぃッ！？』

『何をわかったような口を利かしとんじゃあい…ッ！　お前の喉と口、握りつぶすぞ…！？』

『や、やめ──』


『──オイ早く救急車を呼んでくれッ！　人が、人が倒れてる！』

『…何？』ﾄﾞｻﾘ

『アンタ陸上部人だろっ？　あの人、部長さんだろうけど──』

『──階段から落ちたみたいで…ッ…しかも足が…変な方向に曲がってて…っ』

『ッ！？　そこをどけェい！　オイが行くッ！　どけ！　どけェーーーー！！！』

～～

『もう走れないんですって、後遺症でむしろ日常生活に支障がでるぐらいで』

『無理な練習を強要されてたらしいぜ？　あので巨体の陸上部のやつにさ』

『かわいそお…部員の人たちも前から言ってたのに、全然聞いてくれなかったらしくて…』

陸上『………』ｷﾞｭｸﾞｸﾞ

『ちょっといいか、少し話があるんだが』

陸上『なんじゃい先生。話ならここでかまわんじゃろ…』

『良いから』ｽｯ


陸上『──面会謝絶！？　なんでじゃ、なぜオイだけが…っ』

『あちらの親御さんからの言葉だ。君には来て欲しくないと』

陸上『そ、それじゃあ一言もあの人に…！』

『何を言うつもりだ？　謝罪か？　それとも恨み辛みか？』

陸上『それは…っ』

『部活も退部だ。君の部への貢献は非常に素晴らしいものだったよ、でもね』

『──どうして、聞いてあげなかったんだい？　無理をしてないかと、彼に』

陸上（無理をしてないか、じゃと…ッ？）ﾋﾟｷｨ

聞けるかのか、努力を重ね前へと進むことだけを考えていた、あの人に向かって──

そんな壁を突きつける悪魔のような言葉を、何故、問いかけなければならない。


陸上『何も…』

陸上『何もわかっとらんわ、あの世界は一緒に行くところや。一人じゃ意味ない、一人だけじゃ絶対にたどり着けんゴールやった…っ』

『そうか』


『でも君は気づいてたんじゃないか？　もうひとりで進んだほうが楽なんじゃ無いかと』


陸上『…え…』ﾋﾞｸｯ

『だから彼を置いて先に行った。違うかい、それは君のエゴだったんじゃないかい？』

陸上『ち、違っ』

『ううん、違わないさ。だから彼が怪我をした、これが事実なんだよ』

陸上『──……』


何故じゃ、何故、一言も言わんかった。言ってくれれば、オイだって言えた。

それが独りよがりの結果論だったとしても、アンタが陸上をやめる今にはならなかった。


陸上（どうして、どうして、どうして──どうしてじゃ…）

陸上（もっと先へと進む、だけを二人で考えてた。ずっと二人で先へ先へ先へ…なのに、どうしてオイは今…っ）


この世界で、独りぼっちなんじゃ。

『…ほら、あれが噂の』

『よくのうのうと学校これるよな。人一人、殺しかけておいてさ』

『あの練習に付き合わされた彼、本当に…かわいそうでしかたないよ…』

『誰もが強いわけじゃねーのに、脳筋馬鹿はひとりでやってろよ』


陸上『……』ﾋﾟﾀﾘ

陸上『──……ッッッ～～～～～～～！！！！！』ﾌﾞﾁﾌﾞﾁﾌﾞﾁﾌﾞｨ

陸上『黙っとれェい弱者共がァッ！　人並み以上に実力残せん輩がわかったような口言っとるんじゃないわい！』

陸上『弱いッ、弱いから怪我をするッ！　生まれ持って引き出せんかった奴らが、オイのような優秀者に向かって文句を垂らすな！！』


先へと進む。だれよりも、先へ。先へ。

この練習方法は間違ってなかった。ついてこれなかった下等な人間たちが悪い。


陸上（証明し続ける…ッ！　このオイが一番じゃと、永遠に先へと走り続ける…ッ！）ﾀﾞｧﾝｯ


もう二度と、後ろなんぞ振り返らん。

振り返っても何一つとして『未来』に繋がる道なんぞ──


～～


陸上（──ここで、お終いか）ﾌｯ

陸上（負けたら終わりじゃ、この世界。ああ、最後まで意地を貼った。終わりならきっと見えるはずじゃろ…？）

アンタが見た景色が、きっと、ここに。


陸上（その敗北の景色を見ればきっと、アンタに会いにいけることも…）


「捕まれ部長さんッ！！！」バッ


陸上「……？」ｶﾞｼｨｲｲ

「…ッ…重ッ、耐え切れるかどうかよりも縄が持つかどうか…！？」ｷﾞﾘｷﾞﾘｷﾞﾘ

陸上（は、お人好しだな帰宅部。最後にまだ秘策があるとおもったか？　すまんなぁ、ここまでなんじゃ）

陸上（少し、疲れた。オイはもう休みたい──）ﾁﾗ


兄「……っ」ｷﾞｭｸﾞｸﾞｸﾞ


陸上（──なんじゃい、その顔は）

陸上（まるでオイよりも、まるで誰よりも一番に【悲しい顔】しとってからに。ああそりゃ何処かで見覚えがあるようで…）

陸上（…ないような【独りぼっちの顔】か、あぁ…あぁッ…あああああっ…！）ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ


そうか、そうだよな。

置いてかないで欲しいよな、ずっとこっち側に居て欲しいと願うよな。

そうか、そうだったよな。


陸上（アンタが見てた景色は…あの時、この【オイの顔】だったんか…っ）ﾎﾞﾛﾎﾞﾛ

陸上（オイは願ってた、どうして付いてこれないんだと。一緒にゴールすると誓った人間が、なんで着いてこれないかと嘆いてた）

陸上「その…オイの顔を見てたんじゃな…アンタは…」


言えるわけがない、もう辞めたいと期待してくれる相手に言えるわけがない。

一緒に着いていたい。心からどこまでもいつまでも、ずっとずっと未だ見えぬ未来へ。

この人を裏切りたくない、そう望んでしまったから。


陸上「…すまん、すまんなぁ帰宅部…っ」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

兄「な、なぁーに謝んなって…こんなの慣れっこだからさ…！」

陸上「阿呆、こんなん慣れてたまるか…っ」

兄「……うん、だな」

陸上（まだ、まだ付いて行きたい。まだやれることがあるんだと、証明したい…ッ！）


どうかオイに奇跡とよべるような、神様のような一手をどうか…


ピロローン


陸上＆兄「……！？」

「──部長ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお！！！！」

陸上（この声、屋上から響いて、…まさか）ﾊﾞｯ


「私はきっとぉおおおおおおお！！　貴方の勝ちを絶対にっ、絶対に信じてますからぁあああああああああああああああ！！」


陸上「…なに、を…」

『メイトによる令呪二画使用が承認されました』ﾋﾟﾛｰﾝ

『【三十秒の地面着地また走行】、【部室内から得意種目の武器取得】を受理します』


陸上「これ、は」

兄「──ああ、アンタは『シロ』だ」

陸上「え…？」

兄「ここぞという場面でアンタを救うのは神じゃない、慕ってついてきた【人間がアンタを救う】！」

パッ！

兄「──待ってるぜ、先の道でな」ﾆｯ

陸上「っ…」ｽﾀﾝ

陸上（オイを慕う者たちが、オイを救う？　何を、この学校に越してきてなお横暴っぷりは鳴りを潜めるどころか増すばかりで…）

ｼﾞﾝｼﾞﾝ…

陸上（…しかし、地に落ちたオイは、未だ失格じゃない）ぶるるっ

陸上（まだ終わってない、まだ前へ進める、道がある）ばっ


過去に培ってきたものは、今、この瞬間の為に───


陸上「ウッ──ウッッオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ！！」ﾄﾞｫﾝｯ！



女「思い切ったな女子副部長よ」ｸｯｸ

「はあ…はぁ…あの人は、決して負けてはダメな人なんだ…！」

女「そうか。それは一体、誰が望み言葉にしたものだ？」

「……。やはり知ってるんですね、貴女は」

女「多くは語らんよ。でもオマエが数年前、とあるバケモノが大暴れしてくれたお陰で、今のポストがあるのは知って居った」

「……」

女「ふぃー、しかし疲れた。これで安心して決着が見届けられる」

女（バケモノも陸上部部長がシロだとわかっただろう。あの野球部は何も起こさなかった、ただ一人のオマエに立ち向かう人間だ）

「舐めてもらっては困りますよ、我が部長の実力を」

女「なんと？」

「確かに部長では、あの不死身に敵わないかもしれない。でも、彼の実力は本物です」


バタン！


陸上「……」のそり

陸上（奴は既に縄網地帯を抜け、最後の直線、フェンス地帯へと行っとるな）ﾁﾗ

陸上「…ここからでは…射線上じゃない、オイも登って…効率のいい足運びは…」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂﾌﾞﾂ


女「…！？　まさか【アレを使う】つもりか…ッ！？」ﾊﾞﾊﾞｯ

「不可能でないはず！　部長が信じ、突き通した練習方法は誰よりも信頼した人が考えた道…！」

「──絶対にやってくれるはず、彼なら！　きっとっ！」

兄「……」ﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞｯ

ﾁﾗ

兄（来たか、上等だ。でも俺はもうゴール直前で止まってやる優しさは見せんぞ部長さん）

陸上「……」ｶﾞｼｬﾝ　ｶﾞｼｬﾝ　ｽﾀﾝ

兄（最後の最後、アンタは一体俺になにをしてくれる！？　期待するよ、心からッ！）ﾀﾞｧﾝｯ



「【ハンマー投げ】」ﾁｬﾘ…

「身体を軸に回転させ、両手に持ったハンマーを投げる、オイにとって一番得意種目…」ｸﾞﾙ

ｸﾞﾙ…　ｸﾞﾙ…


「その精密なフォームは陸上競技の中でトップクラスの難易度を誇る──」

「──足運びが二ミリずれるだけで最高のコストパフォーマンスは生まれない」

ｸﾞﾙｸﾞﾙｸﾞﾙ…

（ああ、なんという【確かすぎる足場】か、【片足が乗るだけでも十分過ぎる──】）


グォンッ！　グォオオンッ！


女「ばっ…馬鹿なっ！　数センチにもみたないフェンスの上で、ハンマー投げのフォームなど自殺願望でもあるのか奴は…！？」

「できますッ！　練習では割り箸ぐらいの幅で一切ブレることなく回転し、渡ることも出来るのが部長なんです！」

「きっと飛ばせる…！　今まで最高の威力で…！

（──死ぬ、怪我をする、とんでもないのぅ。これが学生がやることか）グォンッ！

（しかしそうまでせんと貴様には追いつけん。そう、アンタの時と一緒のことをせんとな）

ﾆｯ…

陸上「今、そっちに行く。楽しみにしとけよい帰宅部ぅううううううう！！！」ｷﾞｭﾙｧｱｱｯ！！


陸上（一歩ッ！）ﾀﾝｯ！

陸上（──二歩ッ！）ﾀｧﾝｯ！

タンタン　タン　タァン　タアン　　タ　ア　ン　ッ　　！　！



陸上「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッ！！！！」　



ギルュッッ！　ボッッッ！！

ギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ！！


兄「──…！」ﾀｯﾀｯ…

陸上（当た…ッ！）

兄「……」ｽｯ


兄「よいしょっとぉー！」ﾊﾞﾁﾞｨｲｲｲｲｯ！

兄「…うぉっとと！」ぎゅるぎゅるぎゅるぎゅる

しゅるるるる…

兄「…ふぅー…そいでもってそォいッッ！」ﾌﾞｫﾝ！


ギュルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ！！


兄「どっこいしょッッ！！」ぱっ


…ﾋｭﾝ


陸上「──ハッ、ハハッ…」ﾁﾞﾘｯ


ｽﾞﾄﾞｶﾞｧｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱﾝ！！


陸上（なんという、投げたハンマーの取っ手を掴んで止めたどころか、オイの威力よりも──）

陸上「──負けじゃ、清々しいほどの完敗じゃ、どうだった？　オイの実力は…」ｸｯ


兄「……」ﾊﾞｯ

兄「死ぬかと思った、心からそう思うッ！！」


陸上「くくっ、そりゃ上出来じゃなああ！」



『──プライベート位置情報により、帰宅部兄の勝者が断定』

『【校内一周、外壁障害物ラン】はこれにて終了してください』


ピロロローン！

三日後にﾉｼ

～～

陸上「やるだけやってこの結果、最後の最後まで足掻いて完敗じゃ」

「はい…」

陸上「はよぉ振り返らんとな。もう二度と同じ間違いをせんように…」

陸上「もう二度と誰かを置いていかないように、…ゴールしたらまずは確認やろ」

ｸﾙ

「部長…！」

陸上「──お疲れさん、もうオイを監視する役目は終わりじゃ。もう前へと走らず──今まで置き去ってきたもんに会いに行く」

陸上「やっとわかった。オイの罪は、ただ弱いやつの気持ちを知れんかったこと」

陸上「…アホらし、なんで今になってわかるんやろか」

陸上「もっと、もっと前に──あの人と走っていた日々の中で、一緒に居れば…」ｸﾞｸﾞｸﾞ

「部長ッ！　それは違います！　貴方は最初から分かってましたよ…！」

陸上「慰めは要らんぞ。オイは暴君として陸上部でのさばっておっただけの、」

「私はそうは思いませんッ！　貴方は今、自分の過去を後悔しているかもしれません！」

「けれど、私達は感謝しています！　貴方が思っている以上に…！　過去は罪じゃないっ！」

「我々陸上部は一度だってその過去に、後悔はしてなかった…！」

陸上「……」

「──誰よりも、怪我に対して口煩かった貴方を【私】は知っています」

陸上「単なるアピールじゃ、アンタの顔を見るたびにチラつくからのう。あの人の顔が、いい抑止力やったわ」

陸上「もういい。いいんじゃ、これで」

「…逃げるん、ですか」

陸上「…何？」

「逃げるんですか、また。前に逃げるだけじゃ飽き足らず、今度は後ろに逃げるんですかっ」

「──貴方は何度逃げれば気が済むんですか…っ！　一度でもやり切らず、最後の最後までどうして足掻かないんですか…！？」

「弱い人を知って、それがどうだったんですか！？　それは貴方が弱くならなければならない理由になるんですか！？」

「貴方は強い人だ！　なのに、なのにっ…今度は兄の期待を裏切るんですか…っ」

陸上「…ッ…」

「絶対に、今更謝りになんて行かないで下さい…貴方はもう逃げちゃだめだ、二度と、どちらに逃げても許されない…っ」

陸上「……」ｷﾞｭｯ

「兄はずっと、毎年送られてくる…貴方の優勝杯、楽しみにしてますよ…」

「…だから、逃げないで」

陸上「っ…っ…」ﾎﾟﾛ



女「……。うむ、これでオワリだな」

兄「うぇぇええっ…ひぐっ…ﾌﾞｼﾞｭﾙﾙﾙﾙﾙｯ」

女「う、うん、なんにせよ泣きすぎだろオマエ…」

兄「じ、事情なんてまったく知らないよっ？　でもねっ、ズンッと来るものがあるよねっ？」ﾀﾞﾊﾞﾊﾞｰ

女「敗者に同情せんのも強者の示しだ、バカモノ」ﾌｩｰ

女「…なんにせよ陸上部部長はシロだった、この点は大きな手柄だ。残り五枠、滞りもなく順調に進めば問題なし」

兄「ぐすっ、そういやさ？　個人的に気になってる所があるんだけど…」

女「オマエもそう思うか？　実はワタシもだったりする、だがなぁ」ﾁﾗﾘ


陸上「……」ｷﾞｭｯ

「……」ｷﾞｭｯ


女＆兄（うわーー聞きづらい雰囲気～～～！）ﾄﾞﾝﾖﾘ

女「…ほれオマエがいけ化物」ﾂﾝﾂﾝ

兄「やめっ、ちょっと聞けるわけないよね！？　あんなの！？」

女「重要な案件だ、今日を逃しただけで後の妨げなる可能性が否めんぞ！」ｸﾞｲｸﾞｲ

兄「いやぁーーーー！！　押さないで！　やめてやめてッ！」ｽﾞﾘｽﾞﾘ

陸上「…やかましいの、おんどれら」

兄「どゅひぃっ！？　え、えへへ～すんませェんほんっとぉ～」ｽﾘｽﾘ

陸上（本当にコイツに負けたんか、オイは）

女「陸上部部長、オマエに確認しときたいことがある。答えてくれるか」

陸上「…他の参加者の情報はやれんぞ」

女「いい判断だ。しかしワタシ達には参加者より重要視しなければならぬ問題があるのでな」


女「──何故、昨日今日で、オマエは化物に立ち向かおうと決心した？」


陸上「……」

女「ぶっちゃけるが、オマエが抱える過去と罪は知っていた」

女「しかし、そんなオマエが即復帰には疑問が残る。これに理由があるはずだと踏んでおる」

陸上「…そうかい」ﾌｩ　ちらり

兄「…？　ん？」

陸上「そいつがアレじゃろ、一年前に【各運動部で暴れまわってエース共の鼻っ面叩き折った】奴ってのは」

女「！　確かにそのとおりだが…？」

陸上「そいつを教えてくれた奴がおった」

陸上「昨日病院に来たんじゃ。オイは全てを納得して、そんなやつならば弱者の立場を知る勝負を出来ると思い…」

兄（もう一度、全力を出してまた勝負しようとした、と）

女「誰だ？　名前を知らなくても顔の特徴を言ってくれるだけでいい、その人物は…」

陸上「いいや、知っとる。現にここに来る前に会ったやつじゃ」


陸上「──生徒会役員の一人、会計担当【妹】という奴じゃったわ」


～～～

会長（ああ、なんとか一戦目が無事に終了したな）ﾋﾟｯ

会長（他の参加者たちは様子見に徹底していたが、少しは状況把握と共に、更なる戦いへの一歩と相成ればいいが）ｶﾁ

ピピッ！

会長「しかし、なんとも彼は──凄いものだな」

会長（まさに猛者の体現者。現代の学生において、彼ほど暴力というものを明確に表現できるのはそういまい）


「失礼します。会長、予定される学校行事の計算等が終了しました」ｶﾞﾗﾗ


会長「ああ、ご苦労様。任せっきりにして済まなかった」ﾋﾟｯ

「…今、スクリーンに写っていたのは？」

会長「今人的なものだ。それよりも書類に目を通させてくれ」

「そう、ですか」ｽｯ

「…ひとつ、私も個人的な質問があるのですが」

会長「なにかね？」ﾍﾟﾗﾘ


妹「──陸上部部長、彼に、どうして兄のことを告げなければ為らなかったんですか？」


会長「納得した上で行ってくれたとばかりに思っていたが？」ﾊﾟｻﾘ

妹「…無駄な争いが生まれる原因じゃないかと思いまして」

会長「ふむ。彼のような兄を持つキミでも、強い人間がどう受け取るか想像しなかったのか。不思議なものだな」

会長「正直、困るんだ。これ以上に優秀な生徒の参加者が減ってしまえば学校行事は立ち行かない」

妹「だから煽る原因を探し出して、陸上部部長に叩きつけたと？」

会長「どう受け取るかは彼個人の問題で、私には賭けだった」

妹「……上手く使われましたね、私」

会長「今更辞めたいと願うかね？」ｼﾞｯ

会長「──【君は優杯戦争で存分に働いてもらう約束だったが？】」

妹「…………」

妹「…はい、約束は約束ですから。最後まで突き通させて頂きます」

会長「いい返事だ。ならば私も君への約束も必ず果たそう」ﾄﾝﾄﾝ


会長「──必ずや、君のお兄さんを【優杯戦争に参加させない】だろうと」



妹「ええ、幾らだって兄をダシに参加者を増やしてもいい。けれど、決して兄は参加させないで下さい」

会長「無論だ。では君には引き続き、優杯戦争での優勝者に配られる部費等の計算を頼みたい」ｽｯ

妹「……。約束は守ってもらいますよ、必ず」ｽﾀｽﾀ

パタン

会長「──すまない、妹君。君との約束は果たされない、既に破ってしまっているのだから」ﾊﾟｶﾘ

会長（…私はもう止められないのだよ。この欲望は、きっと必ずや成就させねばならない）

公園


兄「……」ぼぉー

兄（妹ちゃん、いったい何を考えてるんだろう。お兄ちゃんわかんないや…）

～～

兄『──どう、いうことだよ嬢ちゃん…？』

女『イモウトには引き続き、このまま暗躍させとけ。状況はワタシとニンジャで探っておく』

女『オマエは下手に手を出すな。敢えて、化物に何も言わずして動く理由は【一人じゃない】可能性がある』

兄『誰か妹ちゃんと共謀してるってことかっ？』

女『おおかたの所、まあ生徒会長が怪しいのだが──藪蛇なら放っておけ、無駄に噛みつかれたらＤＥＭ捜索に支障が出るぞ』

女『しかし、解せんな。陸上部部長を煽りに行くイモウトの思考が分からん、アイツは無駄な争いを嫌ってるだろう？』

兄『う、うん…出来れば俺の参加だって知られたくないんだけど…』ｿﾜｿﾜ

女『なにやら裏で色々思惑があるやもしれん。いかんいかん、ただえさえ面倒なＤＥＭ捜索に、余計な展開なんぞいらないというのに…』

女『【化物の参加に何も言わない】、しかし【陸上部部長との戦いを煽りに行った】』

女『この矛盾がもし【誰かの要望だった】と考えた場合──』


女『──確実にバケモノ、お前が標的になっとる可能性が否めんぞ。だから、大人しくしとけ』