花と虫 (9)
・禁書ss
・帝春
・時系列は新約15巻以降
・初投稿なので文は稚拙
・キャラ崩壊とめちゃくちゃなオリ設定、オリキャラ
・それでもOKならどうぞ??
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「……、なに……?」
足蹴にした少女の口が動く。自分の右足は彼女の左肩を捉え、確実にその関節を踏みにじって脱臼させたはずだ。路肩に面したオープンカフェの周りに人だかりができ、そして誰一人彼女を助けようとしない。その絶望の中で自分が垂らした一筋の糸。それに対して、今こいつは何といった?
「聞こえ、なかったんですか……」
頭に花飾りを掲げたその少女は、はっきりと聞こえる声で告げた。
「あの子は、あなたが絶対に見つけられない場所にいる、って言ったんですよ。嘘を言った覚えは……ありません!」
瞳に涙を浮かべ、駆け巡る激痛に全身を震わせながらも、彼女は目をつむり舌をべぇっと出し、自分を挑発する。
(……何だこいつ。どうして打ち止めの居場所を吐かねぇ。それだけ告げれば命は助けると、そう言ったんだぞ俺は)
自分の心は平静だ。そのはずだ。しかし、胸の奥に埋没した、見えない見えない精神の暗闇の底から理由のない疼きが走る。いや、理由がないと、思いたいだけで本当は分かっている。これは……。
(ッ?)
視界がくすみ、灰色に包まれた過去がフラッシュバックする。足元の花飾りの少女が、全く違う別の少女に見えた。ウェーブがかった白い長髪。涙ぐんだ灰色の瞳。白いレースのワンピース。胴に茶色の細いベルトを巻き、同じ色のヒールを履いた、14歳ほどの少女。
「……良いだろう」
再び足元の人物は現在の花飾りの少女に変わった。しかし、先ほどよぎった白い少女が、サブリミナル映像のように何度も視界に挟まれてくる。
「俺は一般人には手を出さないが、自分の敵には容赦をしないって言ったはずだせ。それを理解した上で、まだ協力を拒むって判断したのなら、それはもう仕方がねぇ」
肩から足を離し、照準を頭に定め今度は殺す勢いで彼女を踏みつけようとする。目の前の光景は、テレビのチャンネルを行き来するように、現在と過去を反復し続ける。その疚しさを今すぐにでも消し去るために、足に力を込める。
「だからここでお別れだ」
処刑の一撃が振り下ろされた。
最後に自分が見たのは、今か過去か、どちらの罪を映し出した顔なのか、もう自分でも分からない。
とある魔術の禁書目録SS 花と虫
ひとまず休憩
…………………………。
「カブトムシ??」
その一声で、垣根は目を覚ました。
途端に目に飛び込んだ、カーテンの隙間から差し込むぬるい光により、もう一度目をつむる。今の彼は窓際の勉強机の上で、羽毛付きの、小さな白いカブトムシのストラップとなっている。
また目を開けて周囲を見渡すと、赤いランドセルと、置き時計がある。時計の針は午後二時四〇分を指していた。
垣根は振り向いた。声の主、フレメア=セイヴェルンが部屋の真ん中に立っている。
「大体、お前今日用があるんじゃなかったのか? いつまで昼寝こいているつもりだ? にゃあ」
白やピンクを基調とした上着はフリルやレースでモコモコと膨らみ、スカートとワインレッドのタイツで下半身を覆っている。まるで着せ替え人形のようなファッションに身を包む彼女は腰に手を当てながら、垣根に忠告する。
『……ああいけない。そろそろ約束の時間だ』
垣根は思い立ったように背中の甲殻を開き、その中の薄い羽根を震わせて声を作り出す。そのまま空中に飛び上がり、フレメアの方へ向かう。
フレメアの左横を通過し、彼女の後ろ辺りを漂う。彼の全身が白く輝き出すと、そのままみるみるサイズを増していき、姿が人型になっていく。そして現れたのは、身長180cm近くある、清廉な顔立ちの長髪男だった。ただ、色は全身白いままだ。
「ありがとうフレメア。少し、悪夢に魘されてしまいまして」
垣根は振り向き、今や見下ろさなくてはならなくなったフレメアに話しかける。彼の緑の瞳をじっくり覗き返しながら彼女は訪ねる。
「どんな夢だったの?」
「いえ、大したものではありません。昔の、嫌なことを思い出したくらいのものです」
垣根は冷静に、余裕げに微笑みながらフレメアに告げた。
「ふーん。カブトムシでも夢って見るんだね」
「感覚のある生物なら、夢は誰でも見ますよ。犬猫でもね。ただ、その生物の捉える感覚の中の最も強いものが夢に現れるようなので、もちろん人間と同じような夢ではありませんけどね」
「カブトムシが見た夢は、人間的な夢?」
「ええ。とっても、嬉しいくらい人間的です」
フレメアの頭を撫で、垣根は言う。
「それでは行ってきます。留守番、お願いしますね」
「ふん?? アリ一匹通さないくらい、立派な留守番になってやる??」
垣根は笑い、そして玄関の方に歩いて行った。扉の開く音と閉まる音が聞こえた瞬間、フレメアはつまらなそうに左手のベッドに倒れ込み、口を歪めた。
「……羨ましいにゃあ」
これから垣根と遊ぶ相手に向け、届かない独り言を漏らした。彼女の目は寂しそうに潤んだが、それを否定するように勢いよく枕に顔面を突っ伏した。
佐天涙子と白井黒子はダイヤノイドにいた。
二人して一階のフロアにあるカフェ、「star books」のテラス席に座っている。中央の廊下を挟んだ周りの衣服、雑貨、食品のテナントは、日曜日のため人で溢れ、話し声が絶えない。しかし佐天は一言も発せず、ある一点を見つめていた。
「本当なんですの? 佐天」
相席している黒子も、視線を佐天と同じ方向へ向ける。黒子はいつもの学生服だが、佐天は黒のブルゾンの下にグレーのパーカーをまとい、ジーンズとスニーカーといった私服に身を包んでいる。
「間違いないよ。初春が待っているのは、十中八九彼氏??」
廊下の中心部。吹き抜けの広間になっているその真ん中に、イタリアを思わせる小さな白い噴水。いかにも集合場所らしいその手前の木製ベンチに座っていたのは佐天の親友。花飾りの少女、初春飾利だった。
「考え過ぎじゃありませんの? 普通にご学友を待っているだけじゃ……」
「ふっふっふっ。親友の目は誤魔化せんぞ初春。白井さんもちゃんと見てくださいよ。あれが女友達と遊ぶ前の女の子ですか??」
不敵な笑みを浮かべ佐天は指を指す。
そんなことも知らない初春はというと、制服に身を包み、少し頬を染めながら頭の花の様子を確認している。小さな人差し指で撫でられた白いコスモスが、色気ついたように静かに揺れた。初春は微笑みながら、前髪を人差しでくるくる巻き始める。
「………こっちにまで匂って来そうな甘~い仕草ですの。確かに最近浮かれ気味なニヤけ面が多いと思ってましたけど」
「そうでしょ白井さん? 私と話してる時もなんか上の空なんだもん。さぁ~て、お姉さんに隠し事をした罪は重いぞ初春ぅ。是非とも彼氏さんの姿、拝ませていただきます??」
手元にあったカップコーヒーを一気に啜りながら佐天は観察を続行した。が、勢いよく飲み過ぎたせいかむせてしまい、ゲホゲホと俯いて咳き込んでしまった。
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