女「あんたって休日何してるの?」 男「それはもう」(106)

男「バイトですよ」

女「ふーん」

女「で今から行くのは?」

男「それはもう」

女「バイト」

男「そう」

女「明日は?」

男「バイトですよ」

女「明後日は?」

男「バイトですよ?」

女「明々後日は?」

男「それはもうバイトですよ」

女「馬鹿にしてんの?」

男「ええ…」

男「じゃ、バイトだから」スタスタ

女「…あんたさ!」

男「はいー?」 クル

女「いっつもバイトしてんの?」

男「そうだよ!じゃね!」 スタスタ


女「何よ!愛想ないわね!」

後日 放課後


男「ぁぁー…」 グッタリ

女「バイト?」

男「!、そうだよ」

女「なんのバイトしてんのよ」


男「ええ? あー、色々」

女「何よそれ」

男「掛け持ちだよ、掛け持ち」

女「ふーん。友達と遊びに行く暇とか作らないわけ?」

男「あー。ほら、俺、人付き合い苦手だから」

女「ふーん。普通に話せてるじゃん」

男「話しかけてくれるから」

女「そんなもん?」

男「そんなもん。じゃ、また明日」ガタッ

後日 放課後

男「さてと…」

女「…」

女「あんたさ」

男「ん?」

女「バイト楽しい?」

男「んー…普通?」

女「そう」

男「うん!じゃ!」スタスタ


女「…少しは話し込んでくれても良いんじゃないの?」

後日 放課後

男「よしっ行くか…っと」

女「バイト?」

男「そうだよ…って、なんで道塞ぐの?」

女「そっけない」

男「ええ…そんな…」

女「そんなです」

男「あの、本当に時間が…」

女「…。じゃ質問に答えくれたら通してあげる」

男「よし来た」

女「どこでバイトしてんの?」

男「えーっと…今日は○○町4丁目のコンビニ」

女「掛け持ちなの?」

男「そういったよ…」

女「ふーん」

男「じゃ、これで!」 タッタッタッ

女「4丁目のコンビニねぇ…」



夜 コンビニ

男「いらっしゃいませー…あっ」


女「こんばんわ」

男「どうしたの」

女「へー。本当にバイトなんだ」

男「そらそうだよ」

店長「あれ男君。そんな可愛い彼女が!」

男「あ、いやいや、ただのクラスメイトですよ」

女「そうでーす」

店長「あら、そうなの。ま、ゆっくりしてってね!」


女「どうもー」

男「是非なんか買ってってよ」

女「おごり?」

男「NO」

女「えー」

男「328円のお返しです」チャリン

女「じゃ、バイト頑張ってね」

男「うん、どうもね」

アリガトウゴザイマシター

女「ふーん…バイトしてんだね…」ガサッ

女「ただのクラスメイトって…そりゃそうだよね」

カシュッ ゴクッ

女「うん。おいしっ」

後日 授業中

男「…zzz」

先生「これっ!」ポカッ

男「あいたっ!…ってー」

先生「最近居眠り多いぞ!」

男「ごめんなさい…。徹夜でゲームしてて…」

先生「ったく。そんなんじゃ進学できないぞ!次は258ページを開いて、えーパリ講和会議---」

男「ふぁーあ…」

女「 徹夜でゲームしてたの?」コショコショ

男「ん~…そんなとこ…」コショコショ

女「あんたも遊んだりすんだ」コショコショ

男「…」

後日 休み時間

女友「でさー」

女「…」

女友「…おいっ!」パン

女「むっ」

女友「むっ、じゃない。どうしたの、何見てんの?」

女「別に?」

女友「男でしょ。好きだよねー」

女「別に?」

女友「本当~?」

女「マジマジ」

女友「じゃ、なんでアプローチかけんの?」

女「アプローチっていうか、隣同士じゃん?そりゃ話すでしょ」

女友「ふーん。そっか」

女「そんな事より学校終わったらカラオケ行かない?」

女友「いいねー!」

放課後

女友「カッラッオッケ!カッラッオッケ!」

女「ちょ、恥ずかしい…」

男「いらっしゃいま…えっ」

女友&女「あっ」

男「いらっしゃいませー」

女「あんたここでもバイトしてんの?」

男「ご覧の通り」

カラオケルーム

女友「どおこでえ!!!!!こおわあれたのおおおおフレエエエエエエエンズ!!!!!!!」

女「ひゅー!!!!」

コンコンコン

男「お飲み物お持ちしました~」

女友「おお~様になってるねー」

男「そう?」ハハハ

女「なんか歌えば?てか歌ってよ」

男「えっ。バイト中だからそれはまずい」

女「えー。何時にバイト終わんの?」

男「今日は10時だね」

女「ふーん」

店員「ありがとうございましたー」

ウィーン

女友「ふー!歌った歌った!」

女「さーてと…」

女友「あれ?どこ行くの?」

女「ちょっとそこらへんブラブラしよっかなーって」

女友「あ~?もしかして、男?」

女「…いや?」

女友「素直じゃないなー!好きなんじゃん!よっ!肉食女子!」

女「ふん!」 ギャリギャリ

女友「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!痛い!!ギブギブ!」

女「別にそんなじゃないから。興味あるだけ!」

女友「あたたた…わかったわよー…」

男「じゃ、失礼しまーす…」

男「はぁ…ん?」

女「お疲れ様です」

男「あれ?なんで?」

女「10時に終わるって言ってたじゃん」

男「これはこれはどうも」

女「いえいえ。そしたら少しブラブラしない?」

男「えっ」

女「あんた普段から遊ばないんでしょ?」

男「まぁ」

女「あと聞きたい事もあるし」

ゲームセンター

男「ぬわああああ!!!!!」ガチャガチャ

女「真空…」

女「波動拳!!!!!」

ズバババ ケイォゥー

男「少しは手加減してくれよ!!4連敗だ!!」

女「へっへーん。女だからって甘く見るから…」

男「くそぉぉぉ…」

女「次いこ!次!」

男「プリクラぁ…?」

女「ほら!こっち!」

男「少し恥ずかしい…」

女「何照れてんのよ!ほら!」グイ

男「あらら…」

男「………ぅわぁ…」

女「何」

男「プリクラって目でっかくなんのな…見ろ女の目」

女「それは言わない」

男「うひぇー…」

女「ほら次行きましょ!次!」

男「え、まだ行くの?あーあーあー…」グイグイグイ

女「あー楽しかった!」

男「満足した?」

女「そういうあんたは楽しかった?」

男「楽しかったよ?」

女「そう、なら良かった…」

男「いや、本当に楽しかった。久々にこんな時間過ごせた。ありがとう」

女「…あのさ。家まで送ってくれる?」

男「うん?ああ、良いよ。そっか、もうこんな時間か」

女「まさか1人で帰らせるつもりだったの?うわ~紳士じゃない~~」

男「誘ったのはそっちだろ…」

女「…」

男「~♩」

女「聞きたいんだけどさ」

男「? うん」

女「もう何ヶ月も前だけどさ」

男「うん」

女「…あんた泣きながら歩いてたじゃん」

男「ああ…そんな事あったっけ」

女「うん…たまたま夜に会った時さ」

男『…』 ポロポロ

男『くそっ…くそがっ…』グスッ

・・・くん? ・・と・・くん?


女『男君?』

男『!? っ、ああ!えっと、女さんじゃん!』ゴシゴシ

女『ど、どうしたの?』

男『えっ!?ああ、いや、あー…』 ズズッ

男『ははは…』

女『…なんかあったの?』

男『何にもない!じゃあね!』 ダダッ

女『あっ』

男「恥ずかしかったぁ…」

女「何があったの?」

男「何もないさ」

女「うそ」

男「嘘じゃないよ」

女「嘘だって」

男「本当だよ」

女「…何か悩みがあったなら気軽に言いなよ。もしかしたら助けてあげられるかもしれないし」

男「あの時泣いてたから話しかけてくれるようになったの?」

女「別にそう言うわけじゃない。私たち友達では無いかもしれないけど、クラスメイトでしょ?知り合いでしょ?」

男「ふふ…。良い人だよ女さん。俺なんかに心配してくれてありがとう」

男「でも心配する事は何も無いよ。それに女さんには関係ない事だ」

女「関係無いって…」

男「そうだよ。でもありがとう。本当にありがとう。嬉しいよ」

女「…」

女「わ…わたしも何か探るみたいでごめんなさい。もう止めておく…」

男「うん、それがいい」

女「………じゃ私ここからすぐだから」

男「ああ。今日は楽しかった」

女「うん…じゃまた明日」

男「うん。じゃあね」

女「…」

女(…何!?心配してんのに!何も無いとか嘘ついて!)

女(まあ、私のただのお節介か…)

女(別に恋人とかじゃあるまいし…なんでこんなモヤモヤするんだろ…)

女「あーあ、馬鹿みたい私」

男「ただいま」

シーン

男「はぁー…」

男「気軽に相談してくれ…か」

男「ふふ。気軽にか」

プルルル プルルル

男「?、はいもしもし」

男「はい、ええ、ええ… !? ええ…」

男「…わかりました。すぐ行きます」

2週間後

女友「男来ないね」

女「そうだねー」

女友「あらあら?そんなそっけない態度取っちゃうー?」

女「私には関係無いし~?」

女友「え~?あんなに構ってた、というか構って構ってしてたのに~?」

女「言ったじゃん。ただ興味あるだけってさ。興味無くしただ・け」

女友「へー…そっか。 でも気になるよね」

女「そう?」

女友「そういう態度取るってことはめちゃくちゃ心配してんじゃん。私分かるよ」

女「そういうのお節介って言うのよ」

女友「…」

女(あの夜から1度も登校してこない)

女(私には関係ない。確かにそう)

女(でも何だかずーっと心に引っ掛かってる)

女(好き?とか恋愛感情とかじゃない。ただただ男の言葉が引っかかる)

関係無い事だ




先生「ん?女か。どうした?」

女「聞きたいんですけど」

先生「男が欠席した理由なんだが家庭の事情としか言われてないんだよ」

先生「うん~…。確かに三者面談の時には親御さんが来なくて、その時は父親は仕事が忙しいとしか聞いてなくてな」

先生「父子家庭としか男の事は知らんな。後はバイトに熱心な事くらいか?」

先生「その欠席の連絡も男自身からでな。詳しくは落ち着いてから知らせると言っていたからなぁ。先生も心配しているんだが」


女「そう…ですか…」

先生「ふーむ…」

女「ありがとうございました」

先生「はいよ!気をつけて帰れな」

コンビニ

店長「男くんねぇ…家庭の事情としか言われてないんだよねぇ…うん…」

店長「働き者でね、嫌な仕事でも引き受けてくれたりね。助かってるよ」




女(家庭の事情ね…。そっか…)


女(てかなんでこんな必死に聞いて回ってるんだろ)


女(あの時、必死に食いしばって泣いてるの見た時思わず話しかけちゃっただけなのに)

女(好奇心?彼を知りたいから?好きだから?同情?)

女「はーあ…私もわかんないや」

1ヶ月後
深夜

ガチャ

男「ただいま」

男「…」

男「…」


男「……………」

男「…とりあえず寝るか」

男「…っ、っぐ…ひっ…」ポロポロ

男「ッ!!」

男「夢か…」

男「……」 ゴシゴシ

男「嫌な夢だ…」

男「まだ4時か…」

ガチャ

男「ふぅー…今日は涼しいな…」

放課後 高校

女「友ー。かーえろっ」

女友「今日も来なかったね」

女「あいつ?知らない知らない」

女友「本当わかりやすい…」

女「だーから何回も言ってるじゃーん」

女友「はいはい。でも思ってみると男って影薄いよね」

女「…もう初めから居ない感じだもんね」

女友「このまま居なくなっちゃうかもね」

女「…そうかもね」

女友「またカラオケ行かない?久々に歌いたくなっちゃった」

女「久々って…先週行ったばっか…」

女友「いいじゃんいいじゃん。それに男が戻ってるかもしれないじゃん」

女「…まあ、いいでしょう!私も歌いまくる!」

カラオケ

女友「ふぅぅぅめぇつぅぅのフェイス!!!!!!せぇめてあなたのんぬわあかでぇはぁ!!!!!」


女(そのまま居なくなる)

女(居なくなっちゃうのか…)


女友「ふぅぅ!はい!女のばん!!)


女「! ああ、はいはい。 何を歌おうかな…」

店員「ではお会計が」

女「あの、男くんてそのあと何か連絡ありました?」

店員「えっ?ああー…チーフに聞いてきますね?」

女「すいません」


チーフ「…ああ、この前の」

女「どうも」

チーフ「男君からは何も連絡は来てないね。そろそろシフトが困ってくるから僕も困ってるんだけど連絡つかなくてね」

女「学校の方にも来てないんです」

チーフ「ふーむ…彼はあまり自分の事話さないタイプだったからなー…」

チーフ「そういえばよく考え事の為に公園でベンチに座ってるとか言ってたんだけど…まさかいるとは思わないけど…」

女(公園…)

女友「探す?」

女「まさか?ただ聞いてみただけ」

女友「…公園と行ったらここら辺だとあの池のある公園ぐらいしかなさそうだけど」

女「…」

女友「どうせ気になってるんでしょ?探しに行きなよ」

女友「まだまだ興味持ってるみたいなんだし」


女「……」

つづく

公園

女「…」

女(居ないか…。)

女「はーあ。何期待しちゃってんだろ馬鹿みたい」

女(こんな綺麗な公園あったんだ。池に夕日が反射して綺麗…)

女(ここで考え事してたんだ。確かに落ち着く…)

女「関係無いとかカッコつけてさ。隣同士よく喋るんだからちょっとは相談してくれたっていいじゃん」

女「はぁ…。帰ろう」

トボトボ

女「これで3日連続…。しかも今日は夜」

女「これで居なかったら、もう知らない」

女「…居てよね」




女「…!」

男「……」 フー

女「なに?あんた未成年の癖にタバコ吸ってんの?」


男「? …! 何してんだよ?」

女「あんたこそ学校にもバイトにも来ないで何してたのよ?」

男「…。まあ、色々ゴタゴタがあってさ」

女「隣座っていい?」

男「うん」

女「よいしょっ」

男「…」スパー

女「ここよく来るの?」

男「……。来る」

女「タバコはいつから?」

男「最近かな。2ヶ月前くらいかな?」

男「カッコつけだよ、カッコつけ。先生に言わないでくれよ?…」

女「ふふ。言わない言わない。そっかー、よく来るんだー」

男「女さんも?」

女「ううん。」

女「探してたんだよ?男の事」

男「…」

女「それも1ヶ月も前から。先生から事情は聞いたし、バイト先にも居場所を聞いて回ったし」

男「…」

女「ゴタゴタって家庭の事?」

男「…」

女「…なんで誰にも相談しないの?」


男「ふふっ。それはね…大した悩みじゃないからだよ」


女「うそ」

男「嘘じゃないさ」

男「気軽に言うのもはばかるような事さ」

女「それで1ヶ月も休んだの?」

男「そうだよ」

女「……男くんさ。本当の事言ってよ…」

男「……」



女「お節介かも知れないけどさ、ずっと気になって仕方がないの…。あの時、泣いて歩いてる男くん見た時からずっと。ずっとなの」

女「男は関係無いって言ったけどさ、関係なくないよ?もし私に出来る事があったら…」


男「女さんは俺の恋人か何かか?」

女「っ!…」

女「なんで…なんでそうやって突き放すの…?」

男「…ごめん。言い過ぎた」

男「女さんは、あの時からずっと俺に話しかけてくれた。嬉しかったよ。友達が出来たみたいで」

男「それにこんなに心配してくれる。ありがとう。でも、俺のk

女「私、あなたの事が好き」

男「…」

女「だからほっとけないの。関係なく無い…」


男「…。そうか…」

男「……。俺はね…」

男「父子家庭と学校には伝えてた。でも実は弟と二人暮らしだったんだ」

男「複雑な家でね。俺は母親の連れ子で弟は新しい親父との間の息子。弟の親父はどっかのお偉いさんで母親はその愛人だったらしい。俺の本当の父親は顔も知らない」

男「俺たち兄弟は望まれない子供だったんだ」


男「弟は5つ下でね。よく可愛がったよ」

男「母は愛人らしかったから母子家庭みたいなもんでね。家に親父がいた事は無くて、養育費だかなんだかを母親はその親父から貰って生活してたんだよ」

男「俺が…中学2年の時か、母親は通帳とカードと手紙を残して居なくなった」

男『ただいまー』

弟『…』 ピコピコ

男『あれ?お母さんは?』

弟『…変な男の人とお出かけしたよ』

男『はぁ?』

弟『これ置いてった…』

男『手紙?…』 ガサガサ

『通帳とカードを置いていきます。これに毎月20日あなた達が生活できる位のお金を振り込みます。家賃の分も入ってます。あなたたちのお父さんの連絡先を書いておきました。何かあったらこの人に連絡しなさい。私はもうあなた達の面倒は見切れません。』

男『暗証番号…電話番号…。弟…?』

弟『ぼ、僕泣いてないよ』ポロポロ

男『……。大丈夫。お母さん帰ってくるから』

弟『う、うん!知ってるよ?う、ぅうっ…』ポロポロ

男『大丈夫だよ。お兄ちゃんがついてる。な?』

弟『っひ、ぐひっ…』コクコク


男『……』 ギリリッ

女「…」

男「その時からだ。弟は絶対に守らなきゃいけない。だから俺は絶対に泣かないってね」

男「まぁ、色々あったよ。弟は母親恋しくてよく愚図るし、児童相談所も宛にならなくてさ。父親に連絡が取れると丸っ切り来なくなったよ」

男「弟は病弱でさ。これがよく風邪引いたんだ。何度も寝ないで看病したっけ…」

男「また母親からの仕送りもどんどん少なくなってってね。中3の時は歳誤魔化してアルバイトを始めたんだよ。はっはっはっ」

男「ただ俺は甘かった」

男「弟の為に…弟の為に俺は全てを投げ出してやるって思っていながらさ…俺は学校にそれでも行きたかった…」

男「勉強が好きでさ…。こんな生活しながら、どうしても学校にだけは行きたかったんだ…」

男「本当にその気なら…。本当に弟の為なら、中学を卒業したら働くべきだったんだ…。」

男「俺にはそこまでの覚悟を持てなかったんだよ」

男「まだ小学生だった弟を養いながら…。どうしても高校だけは行きたかった…」

男「俺は自分の事ばかり考えていたんだ…」

男「バイトしながら勉強は続けていて、都立高校に受かった。これで俺も学業だけは続けられる。金なら仕送りがあるし、なんとか生活できると思ってた」

男「そんな時弟が病気になった。脳腫瘍だった」

男「弟を見ているのが辛かった。頭痛と吐き気との戦いだ」

男「治療費がかさんでね。バイトを増やしても増やしてもどんどん金は消えて行く」

男「それでも俺は通学を辞めなかった。学校が俺の現実逃避の場になってたんだ…」

男「勉強してると嫌な事は忘れられる…。家に帰れば苦しむ弟の看病。そしてバイトをする日々…」

男「学校は俺の癒しだったんだよ…」

男「そしてとうとう弟が入院する事になった」

男「腫瘍が凄く悪い所にあってね。手がつけられないと言われた。できる事は化学療法のみ。しかも若ければ若いほど進行は速いんだと…」


男「まだ…まだ…小学生だった…」

男『…こんばんわ』

父『用は?』

男『…』

父『僕も忙しくてね、我が子をおおきくなったなという暇もないくらいだ。まあ、君は連れ子だからあまり感慨は無いと思うが』

男『…弟が。あなたの実の息子が病気になりました』

父『そうか。なら金か?どれくらいだ?』

男『…。少しは心配とか無いんですか?』

父『心配だと思うからこうして会ったんだろう。まあ、君達には多少の責任があるからね。まあいい、何万かくらいは毎月出そう。おい、行くぞ』

部下『は、はあ…』

男『おい!』


父『ったく、俺も遊びが過ぎたもんだ…』ボソ



男『っ…』

男「色々切羽詰まって、父親なら助けてくれると思って堪らず会ってね。ファミレスで会ったけど5分も居たかな?…」

男「その帰りはね…。涙がこみ上げてきてね…。父親は励ましの言葉すら掛けてくれない。ああ、俺はなんでこんなダメな男なんだって…。弟の為に自分を捨てきれず、そんな弟は苦しみながら俺を頼りにしていると思うとね」

女「それがあの時…」

男「そう。その時会ったのが君だった」

男「でも自分が情けなくて逃げちゃったんだ」

男「ある日弟の見舞いに行った時、弟と話をしていて、弟がね」



弟『お兄ちゃん…。ごめんね。僕が病気だから好きな事出来ないでいて…』

男『…そんな事ねえよ。俺は充分好きな事やってるよ…』



男「この言葉を聞いた時。俺は決心した。俺は高校を辞めて弟の為に働こうとさ」

つづく

男「その日を境に症状はどんどん悪化していった。食事を取る事さえままならなくなった」

男「記憶障害も起こし始めてね。虚空を見つめて母親を呼ぶんだ…」

男「頼む、頼むから弟を助けてくれと医者に泣きついたよ。どうしても弟だけは助けなきゃ行けない。金ならいくらでも払うと」

男「でも、ダメだった…」

男「とうとう弟は意識が戻らないようになっていった」

男「それから学校を休んでできるだけ弟の側にいる事にした」

女「それがあの日から…」

男「ああ、ゲームセンターで女さんと遊んだ日から」

男「俺は母親を弟に会わせようと決めた。最期までに…」

男「母親の連絡先は父親が知っていた。相変わらず冷たい態度だった」

男「例え俺たちを捨てた人でも血の繋がった肉親だ。こんな弟の事を聞いて黙ってはいないだろうと思った」

男「でも…違った…」

プルルルル プルルルル

母『…? もしもし?どなた様でしょうか?』

男『お、お母さん?…』


母『…お、男なの?』

男『あ、ああ!そうだよ!男だよ! ひ、久しぶ『 何が目的なの?』

男『え?…』


母『なんで…何で連絡を寄越したの!??』

母『まさかあんた…金が足らないとか言うんじゃないでしょうね?…』

男『違う…違う…』

母『あんたね…私がどんな思いをして来たか分かる…?可愛くも無いあなた達ガキに…自分の時間も投げ打って育ててやったのよ!!!!!!』

母『特にあなた…!! 好きでもないただ行きずりの男と寝ただけで生まれやがって…!!!!』

母『まだ私の人生の邪魔をするつもりなの!!??』

男『弟が病気なんだよ!!!!』

男『弟が…死にそうなんだよ…っ!!!!』

男『お母さんを…お母さんを呼んでるんだ!!!!』

男『あれからずっと!!弟は母親が恋しくて泣いていたんだよ!!!!』

母『だから…?なに…?』

男『だ、だからだと…? 』

母『何が不満なのよ!!!!金送ってやってるからあなた達こうして生きてられんでしょ!!!?それでも何か足らない!!???』

母『あなた達はいつとそう!!!!そうやって私から幸せを奪う!!あなた達を置いていってようやく私は幸せになれたのよ!!!!』

母『知らない…あなた達なんか知らない!!!!』

母『2度と連絡なんかするな!!2人とも居なくなれば良いのよ!!!!』

ブツッ プープープー

男「しばらく動けなかったよ」

男「何も考えられなかった」

男「…」

男「弟が死んだ事はアルバイト中に知った」

男「急いで病院に向かった」

男「霊安室は凄く静かでね。医師から最後の様子を聞いた」

男「最後まで意識は戻らず、苦しんだ様子は無かったみたいだった」

男「掛かってる布を取って弟の顔を見た。寝てる様にしか見えなかったよ」

男「それから、俺は意外と冷静でさ、弟を安置所に移したあと色々と手続きを済ませて火葬した」

男「どのくらい掛かったかな?とにかく骨上げまで見届けた」

男「こんなね、小さな箱だけになったよ」

男「金が無いから葬儀も無い」

男「それから父親に弟の事を知らせた」

男「そして会う事になった」

レストラン

男『…』

父『おい』

男『あっ』

父『これ』

ヒョイ トサッ

男「? これ

父『300万ある これで何とかしてくれ。あとお前もいい歳だ。働け』

父『これで俺の責任は終わった。君の弟君は認知してないからそこらへんは母親と相談してくれ。』

父『君達と私は無関係なんだ。私の親族の墓に入れる訳にはいかない』

男「これが事情だ」

女「……」


男「俺は。 俺は弟の為なら何でもすると決めたはずだった。」

男「でも、自分の事を捨てる事ができなかった」

男「父親が無く、母親も居ない孤独な弟だった」

男「それなのにこんな可哀想な最期だった」

男「俺は何もできなかった」

男「何も弟に与えられなかった」

女「それは違うよ…」

女「こんなに苦しんだじゃない…」

女「全部、全部自分1人で背負い込んで戦ったじゃない…」

女「自分と、境遇と…」

女「男君は何も悪くないじゃない…」

女「なんで…?」 ポロ

女「なんでそんな、そんな平気で居られるの?…」ポロポロ

男「ふふっ…。平気なんかじゃないさ…」

女「じゃ、なんで…何で泣かないの?」ポロポロ

男「…慣れた。慣れただけなんだ」

男「みんなそのはずなんだ。背負う必要の無い苦労を背負って…。傷つく必要の無いのに傷ついて…」

男「不幸なのは…。俺だけじゃないんだ…」

男「ただ、ただ欲を言えば…」

男「もう少し、普通に過ごせたらと思ってた」

男「家に帰れば父親と母親がどちらかが居て、明日の予習をして、弟と遊んで…晩御飯を家族で囲んで…」

男「そんな…生活がしてみたかったかな…?」

男「でも、俺にそんな資格は…」



女「もっと…もっと自分を許してあげたら…?」

女「もっと自分を許してあげないと…潰れちゃう…」

女「そんな、そんな重いもの背負って生きていく必要なんて無いよ…」ギュッ

男「っ…。 ふふっ…。そうかな…」

男「手、小さいね…」ポロ

男「…っ。 ぐひっ…。 う、ううっ…」ポロポロ

男「ど、どうすれば…っ。お、俺はどう…っ。どう生きればっ…!!」

男「どうやって…っ! 生きればいいんだ…」ポロポロ

女「………」 ギュッ





女「落ち着いた?」

男「………うん」

男「いやぁ…情けない所を見せちゃったね…」

女「ううん…」

女「男君…。好き」

男「ふ、ふふ…改めて言われると照れるな…」

女「私、ずっと男君のそばで助けて行くから!どんな事があっても…」


男「……。女さん。君はとても良い人だよ」

男「俺は…。俺はまだ女さんの気持ちには応えられない…」


女「!」


女「な、なんで…?」

男「まだね…。やっぱり俺は自分を許す事がまだ、できない」

男「この先、俺はどうやって生きていくべきか探してみる」

女「そんな…そんなの1人じゃなくても…」

男「…。自分を許す事ができたら初めて人を好きになれると思うんだ」

男「自分を許せて、自分を好きになれたら…女さんを愛せると思う」

男「だから…その日が来たら…また会おう」

女「……」

女「…本当に迎えにきてくれる?」

男「うん…約束だよ」

女「なんだ…結局1人で全部背負うんじゃん…」

男「ううん…女さんは俺の哀しみを背負おうとしてくれた…女さんは俺を救ってくれた」


男「ありがとう」

1ヶ月後

女友「男君高校やめちゃったねー」

女「ふーん」

女友「しかもフラれた…」

女「フラれるも何も…ねえ?」

女友「興味なくなったんだっけ?」

女「それそれ」

女友「ハァ~…。ま、そういう事にしときましょうか」


女(結局またいつもみたいにスカされちゃったな…)

女(早く…。早く自分を許せるといいね。男君)


fin

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