【安価コンマ】平穏世界のファンタジーライフ-03【オリジナル】 (1000)


とある世界のとある時代。
カダスティア、と呼ばれる陸地があった。

広大なる湖には、人の形をした水達が都市を築き。
恵みに彩られた深い森の中で、木々の精達が命を育み。
火を噴く山脈では、赤き鱗の竜人達が雄叫びを上げ。
侵す者無き大空を、鳥と人との相の子達が翼を以って翔け巡る。

戦火を知らず。
飢餓を知らず。

慈悲深き神に祝された、奇跡の中ですら奇跡と呼べる、最たる平和を湛える地。



そこに、あなたはこれより生まれ落ちる。

善を求めるか、悪に沈むか。
孤独を尊ぶか、仲間を愛するか。
何を残すか、あるいは残さないのか。

全ては、あなたの自由である。





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ありふれたファンタジー世界を安価とコンマで生きるスレです。
傾向的には真面目な部類。


■ 注意事項

1)R-18行為は描写がスキップされます。

2)登場人物が死亡したり、重度の障害を負う場合があります。

3)胸糞、鬱展開が発生する場合があります。

4)このスレは複数回の周回を前提として組み立てられています。

5)主人公の死亡によるゲームオーバーは起こりません、コンティニュー回数は無制限です。

6)連取制限は安価コンマ共に有りません。

7)起こり得ない状況や不可能な行動などが指定された場合は、安価を無効化して下にずらします。


■ 前スレ

【安価コンマ】平穏世界のファンタジーライフ【オリジナル】

【安価コンマ】平穏世界のファンタジーライフ【オリジナル】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1467814723/)


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1471606469


■ スレの概要

このスレでは、AVG的な形式を採用しています。
シナリオの中で選択肢を選ぶようか感覚で、安価によって行動を決定し、あなたの人生を進めていきます。
フラグを立て、イベントを起こし、エンディングに向かっていきましょう。


■ スレの進行

シナリオは、以下の方式で進行されます。


プロローグ

固定イベント  ←┐
↓           | (フラグが十分に進行するまで繰り返し)
自由行動 x3 ―┘


最終固定イベント

エピローグ


◆ 固定イベント

現在発生しているフラグによって強制的に発生するイベントです。
シナリオに対する影響が大きく、ストーリーが進行しやすくなっています。
また、固定イベントが発生すると同時に季節が変わり、時間が経過します。


◆ 自由行動

名の通り自由に行動できるフェイズです。
ストーリー自体はそれほど進行しません。
フラグを発生、成長させるのは主にここになります。


■ 判定について

選んだ行動の内容によっては、成否をコンマ判定で決定する場合があります。

判定は、コンマ下一桁を用いた 【下方ロール】 で行われます。
基礎能力値を基準とし、状況や技能などで補正をかけて算出される 【目標値】 以下の数値が出れば成功です。
(以下、であるため、同値の場合も問題無く成功します)

また、目標値に関わらず 【 1 】 が出た場合は 【クリティカル】 となり、行動が大成功します。
反対に、【 0 】 が出た場合は 【ファンブル】 となり、あなたにとって極めて不利な結果となってしまいます。
ただし、ファンブルは目標値が10以上の場合は発生しません。


【補正値の参考】

±1 あやふやな状況、かじった程度の技能
±2 天秤が傾き始めた状況、慣れ始めた程度の技能
±3 天秤が完全に傾いた状況、一人前の技能
±4 決定的な状況、一流の技能
±5 奇跡的な状況、他に類を見ない程の超技能

±6以上 異常値、マイナスならば根本的に問題があるか前提条件を満たして居ない、プラスならば運命


■ 能力値について

判定に用いる能力値はキャラメイク時にコンマ判定を用いて決定し、以下の八種類があります。
全ての能力値は、高い程優れている事になります。


【筋力】 物理的攻撃の威力、重量物の運搬、などに影響
【耐久】 物理的被害の大きさ、病気や毒物への耐性、などに影響
【器用】 物品の加工、細かい作業の成功率、などに影響
【敏捷】 走行速度、軽業の成功率、などに影響
【感覚】 芸術的センス、直感による危険の予知、五感の鋭さ、などに影響
【意思】 恐怖や逆境への耐性、一般的に忌避される行為の実行、などに影響
【魔力】 魔法行使による反動の軽減、使用出来る魔法の数や規模、などに影響
【幸運】 様々な被害の軽減、不運な出来事の回避、などに影響


■ カダスティア大陸における国家

大陸地図
http://light.dotup.org/uploda/light.dotup.org367569.png



国境線はアバウトに引かれています。
また、この地図では都市などは省略されています。



◆ 《クピア》

特徴が無い事が特徴、と言われる国。
取り立てて言うべき特産物も無く、交易路からも外れている。
穏やかな環境こそが人生において最も尊い物なのだと、国民達は拗ねたような顔で語る。

主要人種 : ミーニア リリパット ジャイアント セリアンスロープ ハーピー ドライアド


◆ 《スラフカスタ》

二大湖の中に存在する聖地を求めながらも、水上生活に適応出来ない者達が暮らす国。
宗教色が強く、敬虔な輪廻教徒が大半を占める。
また、大陸における宗教画や神々の彫刻の多くはこの国において生み出されている。

主要人種 : ジャイアント リリパット セリアンスロープ ミーニア ドライアド


◆ 《シアラ・ミニア》

輪廻教の聖地を擁する水上国家。
湖上には都市が築かれ、多くの人々が信仰と共に暮らしている。
東の湖には輪廻の神が、西の湖には輪廻の神を産んだ母神が、それぞれ降臨したとされている。

主要人種 : ヒュドール ミーニア セリアンスロープ


◆ 《クァレヴァレ》

安定した気候と、実り豊かな大地に守られる国。
大陸最大の食料生産量を誇る。
更に、スラフカスタやシアラ・ミニアと、大陸南部を繋ぐ交易により栄えている。

主要人種 : ミーニア ジャイアント リリパット セリアンスロープ


◆ 《ヴァタス》

古い言葉で「荒野」を意味する名を持つ、大半を岩と砂に覆われる地域。
かつてクァレヴァレから追放された罪人達をそのルーツとする。
今では通常の国家として扱われ、交易も行われているが、やや治安が不安定。

主要人種 : ミーニア リリパット セリアンスロープ ハーピー


◆ 《クラッカ》

大陸最大の大森林を国土とする、ドライアド達の国。
必要以上の木々の伐採は禁忌とされ、街道すらろくに存在しない。

主要人種 : ドライアド セリアンスロープ ミーニア ヒュドール


◆ 《ハルピュイア》

連なる岩山を国土とする、ハーピー達の国。
ハーピー以外には過酷な環境ではあるが、標高の低い地域には鉱物を求める人々が都市を築いている。
また、大陸の南北を繋ぐ交易路が存在するが、危険性が高いために利用する者は少ない。

主要人種 : ハーピー ミーニア


◆ 《火竜山脈》

頻繁に噴火を繰り返す火山が連なる地域。
生存に影響を及ぼす程の高温により、サラマンドラ以外の人種の定住は極めて困難。
また、名の通り火口付近には炎を纏うドラゴンの群れが生息する。

主要人種 : サラマンドラ ミーニア


◆ 《グレアモール》

大陸において最も降雨量が多い地域。
植生が独特で、他の地域とは全く異なる風景が広がる。
千年近く続いた王家が断絶し、八つの小国に分裂した。

主要人種 : ミーニア ヒュドール ドライアド


◆ 《ディスリス》

ネレンシアと並び、最も気温の低い地域。
南部の荒野に生息する動物に特殊な生態を持つ物が多く、その毛皮や加工品を特産とする。

主要人種 : ミーニア ジャイアント セリアンスロープ ハーピー


◆ 《ネレンシア》

大森林と山脈によって分断される大陸の南北を繋ぐ、最大の交易路により栄える国。
極めて裕福な国家ではあるが、大地の実りは少なく、寒冷で過ごしにくい。

主要人種 : ミーニア


■ カダスティア大陸に生きる種族



■ ミーニア

平均的な能力を持つ種族。
現実世界の人間に良く似る。
取り立てて優れた能力は無いが、劣る部分も存在しない。

能力値補正無し

◆ 種族能力

【始祖】

あらゆる人種はミーニアを始祖とすると、カダスティアの神は語る。
対人友好判定に有利な補正を得る。

◆ その他の情報

平均身長 170cm
平均寿命 60年



■ ジャイアント

巨大な肉体を持つ種族。
体の大きさ以外はミーニアと良く似る。
膂力、体力に優れるが、のろまかつ不器用で鈍感。

筋力+4 耐久+4 器用-2 感覚-3 敏捷-3

◆ 種族能力

【頑健】

強靭な彼らの肉体は、刃はおろか病毒すらも跳ね除ける。
物理的ダメージを軽減し、毒や病気に対する高い耐性を獲得する。

◆ その他の情報

平均身長 270cm
平均寿命 80年



■ リリパット

小さな体を持つ種族。
体躯に比して大きな足を持つが、それ以外はミーニアに良く似る。
器用さ、感覚、素早さに優れるが、膂力と体力に劣る。

器用+2 感覚+3 敏捷+3 筋力-4 耐久-4

◆ 種族能力

【直感】

小さな物事が生命の危機に直結する彼らは、己に迫る異変を敏感に察知する。
危機感知判定に有利な補正を得る。

◆ その他の情報

平均身長 90cm
平均寿命 40年


■ ドライアド

森の中に隠れ潜む種族。
樹皮に似た皮膚と、葉のような髪が特徴的。
魔力との親和性や精神力に優れるが、鈍感で、体力に劣る。

魔力+3 意思+2 感覚-3 耐久-2

◆ 種族能力

【森の隣人】

人よりも精霊に近い彼らは、最も親しい隣人たる植物達とも言葉を交わす。
植物との対話が可能になる。

◆ その他の情報

平均身長 190cm
平均寿命 100年



■ サラマンドラ

好んで火山に棲む、トカゲに良く似た人型種族。
強固な赤い鱗に覆われた頑強な体を持つ。
身体的能力全般に優れるが、細かい事を考えるのが苦手。

筋力+2 耐久+2 敏捷+2 魔力-3 意思-3

◆ 種族能力

【炎の隣人】

火精霊の寵愛を一身に受ける彼らは、強力な炎の加護を持つ。
火属性ダメージによって回復し、自身の操る炎を強化する。
ただし、寒冷地におけるデメリットが倍化する。

◆ その他の情報

平均身長 150cm
平均寿命 50年



■ ハーピー

大空を舞う種族。
猛禽の翼と爪を持ち、大空を舞う能力を持つ。
敏捷性に極めて優れるが、翼を得た代償に腕を失っているため、極めて不器用。

敏捷+5 器用-5

◆ 種族能力

【風の隣人】

翼を持つ彼らは当然の能力として、自由自在に空を翔る。
翼に損傷が無い限り飛翔が可能となり、空中での姿勢制御に有利な補正を得る。

◆ その他の情報

平均身長 150cm
平均寿命 60年


■ ヒュドール

水の体を持つ種族。
知性ある水とも言える彼らは他種族と大きく異なる生態を持つ。
精神的能力と魔力の親和性に優れるが、身体的能力に乏しい。

意思+4 魔力+3 筋力-2 耐久-5

◆ 種族能力

【水の隣人】

定まった形を持たない彼らは自身の姿を自在に変更出来る。
外見の変更を自由に行える。
また、物理的ダメージを軽減する。
代償として、水の少ない地域では、継続的にダメージを受け続ける。

◆ その他の情報

平均身長 可変
平均寿命 150年



■ セリアンスロープ

獣の特徴を持つ種族。
狼、猫、羊、牛など様々な動物の能力を扱える。
肉体的能力に優れるが、魔力との親和性が殆ど無い。

筋力+2 感覚+2 敏捷+2 魔力-6

◆ 種族能力

【獣の血脈】

獣の特徴を持つ彼らは、外見だけで無く能力も併せ持つ。
選択した獣の種類に応じて、様々な判定に補正を得る。

◆ その他の情報

平均身長 100~190cm(獣の種類によりまちまち)
平均寿命 20~80年(獣の種類によりまちまち)


■ 現在のあなたのステータス


【難度 / NORMAL】

【14歳 女性 / 現実世界の人間換算で14歳相当】


【種族 : ヒュドール】

水の体を持つ種族。
知性ある水とも言える彼らは他種族と大きく異なる生態を持つ。
精神的能力と魔力の親和性に優れるが、身体的能力に乏しい。

【種族能力 : 水の隣人】

定まった形を持たない彼らは自身の姿を自在に変更出来る。
外見の変更を自由に行える。
また、物理的ダメージを軽減する。
代償として、水の少ない地域では、継続的にダメージを受け続ける。


【筋力】 2 (平均)
【耐久】 3 (優秀)
【器用】 8 (優秀)
【敏捷】 10 (怪物)
【感覚】 1 (蔑視)
【意思】 7 (劣等)
【魔力】 8 (平均)
【幸運】 9 (評価無し)


【出身地 : ディスリス / 川沿いの村】

【現在地 : グレアモール / ズラウナム】


◆ 習得魔法

【種火】
【清水】
【微風】
【土塊】

【恍惚】
魅了に類する精神系魔法。
他者の心をとろけさせ、言葉を潜り込みやすくさせる事が出来る。
また、自身に使用する事で極めて強力な自己暗示を行える。
一時的に虚偽を真実と完全に思い込む、自身を超人と認識し絶対的な自信を得る、など用途は多岐に渡る。
魔法の行使は意思に大きな影響を受けるため、ブーストとも成り得る。
効果時間は最大でおよそ半日。

【精練】
魔力や物体に対して使用する事で、対象の効果を強化する。
次回使用する魔法の規模拡大、治療薬の効果増大、香辛料の辛味倍化、など。
効果時間はおよそ一時間。

【生成】
魔力を素材とした物体を生成する。
水との関連性が高ければ高い程、生成量と生成速度が強化される。
生成物は30分を限度として消失する。
体内に取り込むなどした場合も同様。

【破綻】
物体や魔法の根幹部を乱し、その構成を破綻させる。
物体に対し用いれば軽度の衝撃を伴った崩壊、魔法に対し用いれば魔力の離散による効果低減、あるいは無効化が発生する。
破綻の度合いは自信の魔力と対象の強度による対抗判定の結果による。



◆ キーワード

【天涯孤独】
【秩序 / 善】
【富裕層への殺意】
【王家の末裔 / 自称】
【中二病】


■ 所持品一覧


◆ 7400 Casa

共通交易通貨。
カダスティア大陸において、使用出来ない都市はほぼ存在しない。


◆ 霊銀の儀礼剣

基礎攻撃力 : 2

魔術補正 : 2

希少鉱石である霊銀、別称ミスリルによって作られた儀礼用の短剣。
武器としての能力は最低限だが、周囲の魔力を引き寄せ魔法行使を容易にする特性を持つ。


◆ 白猫

感覚 : 7

街の片隅で見つけた適当な猫。
当初は精神支配によって連れ回していたが、十分に懐いた現在は普通のペット状態。
元々人から餌付けされていたのか野生らしさを全く失っており、能力値が低下している。
連れている限り、危機感知判定など感覚を用いる一部の判定を白猫の能力値で行える。
ただし、白猫を働かせるためには【恍惚】の魔法を行使する必要がある。


■ 前スレラスト


さて、あなたは今ザハールを前にしている。

彼は十分な寛容さを持ち合わせているように、あなたには思える。
民の暮らしを自身の目で見た事に満足感を感じているのか、機嫌も相当に良好そうだ。
多少の不敬ならば受け入れられると期待しても良いだろう。

出立前に彼と話しておきたい事があるならば、恐らくこれが最後の機会だ。
あなたとて、城内に立ち入る権利は流石に与えられていない。



■ 安価指定行動

対話 → 貴方にとって、正義とはどういったものか?


『ズラウナムを発つ前に、お聞きしたい事があります。
 陛下にとって、正義とはいかなる物なのでしょうか?』


あなたは咄嗟に、そう口にしていた。

今のあなたには、正義という言葉が妙に気にかかっている。
発端は明確だ。
森で見つけた少年の遺体を引き渡した時。
涙を零す父親を前にして、あなたは自身の心に僅かな違和感を抱いていた。

己は正しい。
あなたは確かにそう自身に言い聞かせていた。
裏を返せば、強く固めたはずのあなたの正義は揺れたのだ。


「……君も、この街で暮らしていたならば見ただろう。
 我が民は今や誰もが富み、何に苛まれる事も無く生きている。
 誰もが隣人と笑い合い、心身を満たす食事を取り、暖かな寝台に眠る事が出来ている」


それに対し、ザハールはやはり鷹揚に答えた。
皺だらけの手で真っ白な髭を撫で、視線は人々が暮らす街へと向けられる。

その横顔に、あなたはふと気付いた。
彼が民と近付き得た物は、きっと満足などでは無い。
安堵、だったのだろう。
あなたにそう思わせる程に、ザハールは穏やかだった。


「全てが私の功績などと驕るつもりは無い。
 だが、一助とでもなれているならば、これに勝る至福は無い。

 私の正義など、そんなちっぽけな物だよ」


……嘘は無い。
少なくとも、あなたは確信した。
ザハールはその心の底から民の幸福を第一としているのだろう。

もし演技だと言うのならば、彼は今すぐにでも大陸一の劇団に主役として迎え入れられるに違いない。

何故、とあなたは心中で呟いた。
これ程の清廉さを持つ者が何故簒奪者なのだと、嘆かずにはいられない。


そんなあなたへと、今度はザハールが問う。
当たり前の推移だ。
問うたならば、同じく問われるのは極自然の成り行きだろう。


「折角の機会だ。
 こちらも逆に聞かせて貰うとしよう。

 君は私に正義を聞いたが、では君の正義はどのような物なのかね?」



>>↓1 コンマ判定 【??????】

意思 7
?? 3
?? 2

?? -5(■■■■■による異常値 / 効果減衰)

目標値 7


【??????】

目標値 7

出目 3

成功!


あなたにとっての正義など、そんな物は決まっている。
改めて考えるまでも無い。

過ちを正す事。
正統なる王家へと牙を剥いた者達に、断罪の刃を振り下ろす。
そして、民に幸福を齎す―――。


(…………え?)


違う。
違うはずだと、あなたは感じた。

何故そのような思いを抱いたのかと、今のあなたならば気付く事が出来る。
グレアモールが八つに分かれて既に二十年。
古き秩序はとうに排され、新しい秩序が完全な形で敷かれている。

よりによって暗殺という手段で介入するなど、到底王の末裔が至るべき考えでは無い。
少なくとも、あなたが考える王の形とは異なっている。

ザハール達に異を唱えるならば、正面から挑むべきだ。
正統なる手段をもって彼らを糾弾しなければならないはずなのだ。
一切の不正無き輝かしい正義として、かつての戦神王はあったのだから。


『…………』

「どうかしたかね?
 そう難しい事でも無いと思うのだが」


沈黙したあなたへと言葉が降る。
当然、ザハールの物だ。
質問に答える事無く俯いたあなたはどう考えても不自然だったのだろう。

あなたはそれに、慌てて顔を上げた。
相手は一国の王である。
問われて答えず、などという不敬が許される状況では無い。
事実として、護衛の内数人はやや目付きを鋭くしてあなたを見詰めていた。



>>↓2  自由に返答できます。


状況はあなたの沈黙を許さない。
今すぐに何かを答えなければならない。

だというのに。


『…………』


あなたの口から言葉が漏れる事は無い。
意思を形作ろうと口を開き、しかし何も発せずに閉ざされる。
動揺はそれ程に重かった。

過ちを正す、などと今はとても言えない。
あなたを支える背骨だったはずの正義は、それその物が過ちと消え果てた。

では民に笑顔を、とすら選べない。
あなたはまた一つ気付いた。
民に幸福を贈るために必要な物が、あなたには欠けている。


あなたは何も知らない。

家族の愛など、人に囲まれながらも孤独に生きてきたあなたには想像も付かない。
それはつまり。

贈るべき幸福の形など、まるで分からない。
どうすれば人が幸せになるのか、あなたは知らない。

そもそもとして。
これまでの人生において、あなたが幸福であった時期など、どこにも有り得ないのだ。
ただ生まれ、ただ生き、ただ折れて縋っただけのあなたに積み重ねた物など存在しない。


『……分かり、ません』


故に、あなたが出来る回答はそれだけだった。


『正義という物の守護者たりたいと、そう思っています。
 しかし、私にはどうすれば良いのかが分かりません。

 確固たる正義の基準が……私には無いと、そう気付きました』


とんだ滑稽さだと、あなたは自嘲した。


「何、その年ではそんな物だ。
 落ち込む事など有るものかよ」


そんなあなたに対する王の言は、実に軽い物だった。

言葉の奥には微笑ましさすら垣間見える。
口調もやや砕け、街の老人のようにすら思える程だ。


「私が子供の時分など何も考えていなかったぞ。
 暢気かつ愚鈍に時を浪費する他にやった事など何一つ無い。
 それに比べれば君が抱く志は十分以上に立派では無いか。

 焦らずとも良い。
 君の悩みはきっと、民の中で日々を過ごす内に解決される類のはずだ」


ザハールの片手が上げられ、あなたの頭部に添えられる。
体表の膜をゆっくりと撫でるそれがあなたを慰めるためである事は、誰にでも読み取れるだろう。
勿論、あなたにもだ。

それだけであなたの心は僅かだが軽くなった。
不思議な物だ。
こんな心地は知らないと、あなたは困惑する。


「幸い、グレアモールはどこも平和だ。
 君の成長を妨げる物は恐らく無い。
 向かう先……クラッカの大森林もそう悪い話は流れてきていない。
 少々魔獣が増えているようだが、それも人里からは離れた場所だと聞いている。

 心を穏やかに、健やかに育ちなさい」


それで、今回の謁見は終わった。
ザハールはあなたの横を抜け、城へと入る。

周囲を固める護衛も当然続いた。
その途中、近い場所を通った者があなたの肩や背中を叩いていく。
害意は全く感じられない。

むしろ、同胞を励ますようだとあなたには思えた。


といった所で今日はここまでで。
お付き合いありがとうございました。
また明日。


朝のニュース 「降水確率100%です、気をつけてねー」



近所の山 「一部崩して道塞いでおきますねー」
最寄の川 「氾濫危険水域越えておきますねー」
役場の人 「避難勧告出しておきますねー」


隣町のネカフェに逃げます。
家族を親戚の家に置いてからの遠回りになるので、開始は遅れると思われます。
申し訳ありません。


知らない間にネカフェが潰れて靴屋になってました(白目)
大人しく避難してます。

川の水位は僅かに下がったようですが、未だ氾濫危険水位をぶっちぎっています。
その上今晩台風上陸とかいう絶望感。
申し訳ありませんが、また期間が開きます。
帰宅出来るようになったら書き込みます。


報告。
問題無く帰宅できましたが、溜まりに溜まった仕事のために本日は長時間の残業が確定しています。
明日の晩からの再開という事で、よろしくお願いします。


■ 現在のあなたのステータス


【難度 / NORMAL】

【14歳 女性 / 現実世界の人間換算で14歳相当】


【種族 : ヒュドール】

水の体を持つ種族。
知性ある水とも言える彼らは他種族と大きく異なる生態を持つ。
精神的能力と魔力の親和性に優れるが、身体的能力に乏しい。

【種族能力 : 水の隣人】

定まった形を持たない彼らは自身の姿を自在に変更出来る。
外見の変更を自由に行える。
また、物理的ダメージを軽減する。
代償として、水の少ない地域では、継続的にダメージを受け続ける。


【筋力】 2 (平均)
【耐久】 3 (優秀)
【器用】 8 (優秀)
【敏捷】 10 (怪物)
【感覚】 1 (蔑視)
【意思】 7 (劣等)
【魔力】 8 (平均)
【幸運】 9 (評価無し)


【出身地 : ディスリス / 川沿いの村】

【現在地 : グレアモール / ズラウナム】


◆ 習得魔法

【種火】
【清水】
【微風】
【土塊】

【恍惚】
魅了に類する精神系魔法。
他者の心をとろけさせ、言葉を潜り込みやすくさせる事が出来る。
また、自身に使用する事で極めて強力な自己暗示を行える。
一時的に虚偽を真実と完全に思い込む、自身を超人と認識し絶対的な自信を得る、など用途は多岐に渡る。
魔法の行使は意思に大きな影響を受けるため、ブーストとも成り得る。
効果時間は最大でおよそ半日。

【精練】
魔力や物体に対して使用する事で、対象の効果を強化する。
次回使用する魔法の規模拡大、治療薬の効果増大、香辛料の辛味倍化、など。
効果時間はおよそ一時間。

【生成】
魔力を素材とした物体を生成する。
水との関連性が高ければ高い程、生成量と生成速度が強化される。
生成物は30分を限度として消失する。
体内に取り込むなどした場合も同様。

【破綻】
物体や魔法の根幹部を乱し、その構成を破綻させる。
物体に対し用いれば軽度の衝撃を伴った崩壊、魔法に対し用いれば魔力の離散による効果低減、あるいは無効化が発生する。
破綻の度合いは自信の魔力と対象の強度による対抗判定の結果による。



◆ キーワード

【天涯孤独】
【秩序 / 善】
【富裕層への殺意】
【王家の末裔 / 自称】
【中二病】




■ 所持品一覧


◆ 6400 Casa ← USED(AUTO)

共通交易通貨。
カダスティア大陸において、使用出来ない都市はほぼ存在しない。


◆ 霊銀の儀礼剣

基礎攻撃力 : 2

魔術補正 : 2

希少鉱石である霊銀、別称ミスリルによって作られた儀礼用の短剣。
武器としての能力は最低限だが、周囲の魔力を引き寄せ魔法行使を容易にする特性を持つ。


◆ 白猫

感覚 : 7

街の片隅で見つけた適当な猫。
当初は精神支配によって懐かせていたが、現在は普通のペット状態。
人から餌付けされていたのか野生らしさを全く失っており、能力値が低下している。
連れている限り、危機感知判定など感覚を用いる一部の判定を白猫の能力値で行える。
ただし、白猫を働かせるためには【恍惚】の魔法を行使する必要がある。


■ 間が空いたのでここまでのあらすじ


とある小さな村で愛されず育ち、たまたま訪れた冒険者の話による影響で自身を正義の徒と定義したあなたは、グレアモールへと踏み入った。
あなたは己をかつて大陸に名を馳せた偉大な王の末裔と思い込んでいる。
その王に倣い、グレアモールを八つに割った過ちを正そうとしたのである。

しかし、調べる内にあなたはグレアモールの現状を過ちとは断言できなくなり、
その上、確かに掲げたはずの正義には中身が無かった事実にも気付いてしまう。
僭王を誅するなどと一体どの口が言えるのかとあなたは自嘲する。

失意を抱えながら、あなたはグレアモールの隣国、国土のほぼ全てを森林に覆われるクラッカへと足を向けた。


今晩は多分21時位の開始になります。
よろしくお願いします。


【円環暦733年 冬 ズラウナム・クラッカ間の街道】


旅路は実に順調だと、あなたは自身の幸運を噛み締めた。

グレアモールという国を外から見た時、果たしてどう見えるのか。
そんな疑問を抱いて街を離れたあなたは、街道上にて馬車に揺られていた。
中途の小さな町で補給を行っていた商人の物である。

運賃は無料、そしてあなたが負うべき義務も無い。
満載された荷と同じ扱いで、十分な数の護衛に護られる立場だ。

その理由はあなたが齎した情報にある。
当初は別の道を選ぼうとしていた商人へと、たまたま話が耳に入ったあなたは声をかけた。
ズラウナムの王ザハールが言うにはその道には最近魔獣が出るとの噂がある、と。

初めは半信半疑だった商人だが、街道の情報をまとめた紙が王家においてのみ使われる特別な物と気付くと態度は変わった。

王家によって保証された正確な情報。
そして、それを渡される程度には王からの評価を受けている旅人。
そんな人物が一人旅をしていて、偶然にも行き先が同じとなれば商人があなたを逃す訳も無い。

こうして、あなたは安全かつ疲労とは無縁な旅の足を手に入れていた。
一人、延々と歩き続ける覚悟を固めていたあなたにとってまさしく僥倖だった。


「不自由などはございませんか?
 それなりに良い馬車だとは自負しているのですが、やはり王家所有の物と比べれば随分と劣りますでしょう。
 何かあればどうぞ仰って下さい」

『いえ、そのような事は全く。
 むしろ私にも少し働かせて欲しい位なのですが……』

「そんな、とんでもない!
 ザハール王のお客人にそのような事をさせたとあっては、私は大旦那様に首を切られてしまいますよ」


唯一不満があるとすれば、これだろう。
商人はあなたを明らかに過剰に遇している。

実際の所、ザハールからは騎士団への勧誘を受けただけ。
だというのに幾ら説明を重ねても、彼は頑なに信じようとはしない。
商人が期待している程の繋がりは無いのだが、休憩の際の火熾しすらさせては貰えないのだ。
これではまるで箱入りのお嬢様だと、かつて村を訪れた冒険者に聞いた貴族令嬢の話を連想する。


正直な所辟易とするのだが、致し方無いとあなたは呑み込んだ。
商人には商人の立場がある。
あなたについて十分な理解が得られたとして、万一を考えれば商人にはこうする他無いだろう。

そもそもが望外の幸運なのだ。
多少の事は忍ぶべきである。


そうして退屈な数週間の後、あなたは国境を越えてクラッカへと踏み入った。
途端に道幅は狭まり、馬車の揺れが随分と大きくなる。

クラッカにおいて、街道の整備は殆ど行われていない。
主要種族であるドライアド達が自然に手を入れる事に抵抗感を抱いているのだ。
今はまだ草原の中であるために道らしい道もあるが、これが森林の中になれば最早獣道と変わりない。


閉鎖的な国なのだと、商人は語った。
深い森の中に集落を作り、ドライアド達は細々と暮らしている。
あなたが育った村のような規模のそれは、しかし安定性では比較にならない。

ドライアドという種はおよそ森の中では最強の人種である。
森林部で彼らに勝利を収め得る獣などまず存在せず、魔獣であっても他国におけるそれとは脅威の度合いが全く異なっている。

何せ、彼らは木々との会話を行えるのだ。
植物に一切触れずに活動できる獣など居ない。
必然、ただ耳を傾けるだけで森の全てを把握出来る彼らの目を逃れる術は無く、
常に先手を取り続けられるという事実はドライアドの勝利と生存を確約する物だ。
それこそズラウナムの森で見た少年のように、崖から落ちるなどといった不慮の事故でも起こらない限りは。


そうして、森の王として君臨し続ける彼らは、それだけで十分に満足している。

森の恵み無き外部には殆ど興味を持たないという。
当然の事として他国と交流を持つ機会は酷く少ない。

ドライアドの味覚を研究し、彼らが好む香辛料と引き換えに森の樹木を僅かだが伐採する権利を得るのには随分と苦労したものだ。
そんな風に商人は嘆息したが、良く良く見ればその顔には誇らしさが浮かんでいる。
苦労話に見せかけた自慢話なのだと、あなたにも分かる程度には胸を張っていた。


さて、馬車は今草原のただ中で休憩を取っていた。
ちょうど昼時であり、食事のためだ。
相変わらずあなたに仕事は振り分けられず、やるべき事は何も無い。

そこで、あなたは地図を広げて今後の事を考えた。


【円環暦733年 冬 クラッカ草原部】


http://light.dotup.org/uploda/light.dotup.org369554.jpg


現在地はクラッカの南部、大森林が途切れた草原である。
北上すればブラダナーク、南下すればイィリジィに入る。
それぞれ、規模の大きな集落だ。


商人はどうやらイィリジィに向かうようだが、あなたがそれに倣う必要は無い。
ここまで来れば後は徒歩でもどうにかなるだろう。
あなたの目的地は自由に選択出来る。


まず南のイィリジィは、商人が向かう事からも分かる通り、比較的閉鎖性の薄い地域だ。
住民達と親交を深めて十分な対価を用意すれば、ドライアドが嫌う樹木の伐採さえ許可される事もあると知られている。
余所者のあなたであっても溶け込む事は可能だろう。
勿論、他の国と比べれば面倒が多いには違いないが。

対して北のブラダナークは……酷く複雑な土地である。
この集落の名は世界的にも良く知られている。
数多の人々を残虐極まり無い方法で殺めた、とあるドライアドの出生地としてだ。
史上最高額の賞金首でもある彼女が主に活動していた区域など、本人が寿命で死んでいるだろう今でも絶対的な禁止区域となっている。
住人達は未だ根深い怒りと憎悪を抱え、クラッカの中でも特に警戒心が強いようだ。
また、ザハールから与えられた情報によるとここ数年、魔獣の発生数が若干ながら増えているとも聞いている。



あなたは森の暮らしに慣れているとは言い難い。
長距離を移動する前に森を学んでおくべきだ。
となれば候補はこれら二つに絞られる。

ブラダナークとイィリジィ、そのどちらにすべきかとあなたは考える。



>>↓2  どちらに向かいますか?


北上しようとあなたは決定した。

当初の目的、外から見たグレアモールを知る、という物とは反する選択だ。
だがそれがあなたの足を止める事は無い。

そもそもとして、それを知ろうと考えたのは僭王と決め付けていた者達の瑕疵を知りたいがためだ。
僅かな綻びを見つけ、彼らを突き崩し王家の正統を穢した企てを砕こうとあなたは考えていた。
しかし、そんな思考は既に明確な意味を持たない。

ザハール達の暗殺を考えるなどどうかしていたのだとあなたは自覚している。
空っぽの正義で他者を殺め、安定した国を傾けるなど、それこそ愚か以外の何者でも無い。
あなたが憎むべき罪人の行いでしか有り得ない。

故に、外に目を向けないであろうブラダナークを目指しても構わないのだ。


また、あなたには一つの考えがあった。
正確には無意識の裡の物であるが、ブラダナークにはあなたを引き寄せる事情がある。

住民の気性と魔獣の存在だ。
過去の怪老の影に心を苛まれ、数を増した魔獣に生活を脅かされている。
彼らは今まさしく苦悩を抱えているという事となる。

もし、それを取り除く、あるいは軽くする事が出来たならば。

あなたはそう、意識しないままに導き出した。

民を救う。
それは誰であっても正義の行いと言うに違いない。
あなたが信奉するかつてのディスリスの王とも重なる道だ。

己の正義に疑問を持つ今のあなたにとって、余りに分かりやすいそれは闇の中で見つけた光にも等しい。


食事の後、北上すると告げれば商人はあなたを止めた。
余所者が踏み入って快適に暮らせる土地では無い。
一緒にイィリジィに向かうべきだ、と。

しかし、あなたの決意は固く、意見は覆らない。
長く続いた説得の末、ついに諦めた彼は渋々と頷いた。


「そこまで仰るなら、もう何も言いますまい。
 ……ですが、せめてこれをお持ち下さい。
 イィリジィの友人に作ってもらったお守りです」



////////////////////////////////////////////////////////////////////

◆ 魔除けの鈴

魔除け補正 : 2

とあるドライアドが作った小さな木製の鈴。
涼しげながらもどこか物悲しい音色が特徴。
悪意を掻き消し災いを退けると、クラッカの一部の集落に伝わっている。

////////////////////////////////////////////////////////////////////



カラリカラリと優しく鳴く鈴を受け取り、あなたは礼を言った。
また、彼が所属する商会の名をしっかりと覚えておく、とも。

あなたの言葉に、彼は一瞬だけ顔を綻ばせた。


その後、あなたは商人とその護衛達と別れ、一人歩んだ。

草原を抜け、森に入り、道とは呼べない道を行く。
道中は拍子抜けする程に穏やかだった。
商人から聞き知った点在する集落を線で繋ぐように、あなたは順調に進む。

彼から渡されたお守りの鈴による恩恵だろうか。
一度や二度、森の獣に襲われる覚悟をしていたのだが、結局そんな機会は一度も無かった。
もし再びグレアモールに戻りザハールと対面する機会があれば、商会の名は無理にでも話題に出そうと、あなたは思ったかも知れない。


問題は、目的地にて起こった。

クラッカの大森林において、木々は驚く程に巨大だ。
見上げてみれば先端など霞んで見える。
登ってみようなどと考えるのは無謀だろう。
並の体力では半分を進んだ所で指の力を失い、落下して骨の数本も折るに違いない。

そんな森の中においても一際巨大な大樹が葉を広げ、結果傘の下に出来上がった広場に作られるのがドライアドの集落であり。
大樹が数本まとめて育った稀有な土地にあるのがイィリジィやブラダナークのような大集落である。


密集する木々の間を縫い、あなたはそこに踏み入った。
広場を生み出した大樹は距離感が狂ったようなサイズだ。
およそ千歩程の距離があるにも関わらず、近くで見る他の樹木よりも遥かに幹が太く見える。
恐らく、近付いて確認したならば一般的な屋敷に匹敵する面積を幹だけで占有していると分かるだろう。
これまでの道中で見た集落の物を容易く上回る、物言わぬ怪物だ。


必然、あなたも思わず威容に息を呑み、立ち尽くした。
……そこへ声が、いや、隔意が投げ掛けられる。


「……何の用だ、余所者。
 魔女を生んだ我らの土地を、嘲笑いにでも来たつもりか」


それは余りにも冷たく凝り固まった言葉だった。
声の主へと目をやれば、そこには一人のドライアドが立っていた。
細く鋭いスギの髪に、白く薄いシラカバの肌。
簡素な麻の服を纏った青年だ。
年の頃は二十の半ばを過ぎた程度だろうか。

他者の容姿、特に美醜に疎い傾向のあるヒュドールであっても美しいと感じるだろう、見事な美貌を持っている。
しかし、それは今まさに負の方向に働いている。
瞳の奥には明確な怒りが宿り、あなたを睨みつけているのだ。
容貌の秀麗さは翻って威圧としか感じられない。

理由はきっと分かりやすい物だろう。
彼の言葉にあった通りの目的で訪れる旅人もあったはずだ。
ブラダナークで生まれ育った者にとって、そういった者に向けるべき感情は決まりきっている。
あなたもその同類だと、彼は見做しているに違いない。


「お前達の街にも居るのだろう。
 私は門番の任を担っている。

 さっさと答えろ、私の気は長くない」


青年は瞳を一際鋭くし、重ねてあなたに問う。
彼の手には何も握られていないが、種族を考えれば魔法が最大の武器である事は疑いない。
沈黙を続ける、あるいは彼の怒りを買う答えを返せば、何が起こるかは想像に容易いはずだ。



>>↓2  自由に返答できます。


彼らが抱える事情の重さを、あなたは理解している。
ただ助けに来たなどと言っても彼らには届かないだろう。
正義など、そも信じているかどうか。

僅かに悩んだ末、結局無難な答えをあなたは選んだ。


『魔獣の数が増えていると、聞いて来ました。
 その調査のために訪れたに過ぎません。
 あなたが思うような事は、決して』


あなたは青年を真摯に見詰め、そう言葉にした。

そこに偽りは無い。
ブラダナークを嘲笑する理由は有り得ず、民を救うために魔獣の調査を行いたいというのも真実ではある。

あなたを睨み続ける青年も、どうやら理解したのだろう。
眼光は鋭いままだが、体からはやや力を抜いたようだ。


「……好きにすると良い。
 余所者が奴らの腹に収まった所で、こちらに損失は無い」


ただ、理解した所であなたを認めるかどうかと言えば話は別だ。
表情は皮肉に歪み、嘲笑が漏れている。
あなたの年若さで魔獣に相対して何が出来るというのかと、そんな内心が透けて見える。
早々に死んでくれれば面倒が無くてありがたいとさえ考えているかも知れない。


背を向け離れていく彼に、あなたは尋ねる。
ブラダナークに滞在する間、可能ならばどこか拠点があった方が良いだろう。
宿のような物はどこかに無いかと。


「あるとでも思うのか。
 余所者を家に上げる者など、ここには居ない。
 野宿でもする事だな」


今度こそ青年は去っていった。
集落の入り口に当たる獣道を逸れて木々の間に進み、それでもう彼がどこに居るかはわからなくなる。
ドライアドの容姿は、当然の事だが森の中では優れた擬態となる。
目視での発見は難しいのだ。


さて、こうしてあなたはブラダナークへの滞在が許された。

無論、幸先が良いなどとはとても言えない。
門番の青年との僅かな会話だけで、彼らの排他ぶりは容易に知れた。
集落内に点在する木製の住居の中からも、余り良くない感情が篭った視線が向けられているのが分かる。
こんな場所で、しかも疲労も溜まるだろう野宿をしながら生活するなど、相当に困難であるはずだ。

否応無く、あなたの心中には小さくない不安が湧き上がる。
商人の説得に頷いておくべきだったかも知れないという弱音さえも。


それらを噛み殺し、体内の儀礼剣を握り。
あなたはブラダナークにおける最初の一歩を踏み出した。

まずは最低限、住民達の邪魔にならず野宿が出来る場所を探して。



【円環暦733年 冬 固定イベント 『■■へ至る道』 了】


とりあえず今日はここまでで。
お付き合いありがとうございました。
また明日。


すみません、昨晩は仕事終わって早々に寝落ちてました。
今晩はこれからやります。


【円環暦733年 冬 クラッカ ブラダナーク大集落】


その日、目覚めたあなたは意外な程に体力を消耗していない事に気付いた。

今は冬であり、寝床は剥き出しの土。
更には一月以上を旅してきてもいるのだ。
本来ならば疲労困憊となっていてもおかしくは無い。

あなたが野宿でも十分に休養出来た理由は大森林の環境故だろう。

森の中というのは、気温の変化に乏しい。
夏でも涼しく、冬でも暖かい。
樹木の枝葉が層となって覆うためだ。
勿論限度はある。
カダスティアにおいては南に進む程寒く、北に進む程暖かい。
もしあなたが南下を選び、かつ今と同じように野宿をしたならば酷い目に遭っていたかも知れない。

また、床とした地面は十分に柔らかい。
日常的に住民が踏み固めている箇所はともかく、場所によってはフワフワという擬音が似合う。

これらの要因により、あなたの睡眠は快適な物となった。
足元を見れば、連れて来ていた白猫も心地良さそうに寝息を立てている。


とはいえ、延々とこうして過ごす事は良くないはずだ。
当面は体調を崩す可能性は少ないだろうが、野宿は野宿である。
長く続けてしまえば、いつか破綻に至る事は想像に易い。

ただ、障害となる物が明確に立ちはだかっている。
ブラダナーク大集落の住民達である。

彼らの排他的な性質は門番の男の一件だけでも十分に知れた。
宿を探すにしても、簡易的な寝床を作るにしても、多大な苦労を伴うだろう。
あなたは昨夜、野宿のために集落内を歩き回ったが、その間だけでも異質な物を忌避する視線をその全身に受けている。
声を掛けようと近付けば、それだけで逃げ出す者は何人も居た。

どうしたものかと、あなたは嘆息した。

住民の信頼を得るために何かを試みるか。
最近増えているという魔獣について探ってみるか。
あるいはクラッカについて、またはブラダナークについて尋ねるために会話が出来る相手を探す手もある。
他に何か思いつくならば、それも良いだろう。



>>↓2  今日はどうする?


魔獣に関して調べてみよう。
あなたはそう思い至った。

門番の男に対し、あなたは魔獣の調査に訪れたと告げている。
にも関わらず調べる様子を見せないようでは無用の疑心を招きかねない。
猜疑心、警戒心の強いブラダナークの住人では尚更だ。

早速あなたは立ち上がり、集落内を歩いて回る。
近辺の魔獣について、最も詳しいのはここで暮らしている者に違いない。
話を聞く事こそが近道であるはずだ。


……しかし。


「お話する事は何も有りません。
 ……ほら、来なさい」


子供を連れたドライアドの女性は、あなたと視線を合わせる事も無く足早に立ち去った。
その目は一目でそうと分かる程の嫌悪に塗れている。
また、手を引かれた子供も明らかに怯えていた。

同様の対応はこれで五人目。
ついでに言えば声を掛ける以前に逃走された回数は倍を超える。

まるで犯罪者か何かになったようだ。
話を聞くどころでは無い。
ブラダナークを覆う暗雲は想像以上に厚く重いらしい。


あなたは思わず頭を抱えた。
一体どうすれば良いと言うのか。
これでは全く埒が明かない。


だが、どこにでも救いの手という物はあるらしい。
成果の無さに俯くあなたへと声を掛ける者が現れたのだ。


「……何をしている。
 無駄に騒ぎを起こすな。
 進入を許可した私にも責が生まれるだろう」


門番たるドライアドの青年だ。
シラカバの肌に幾筋も怒りの皺を寄せて、あなたを睨み付けている。

彼はいかにも嫌味たらしく溜め息を吐き、続けた。


「聞きたい事があるならば私を探せ。
 お前のような余所者の監視と対応も仕事の内だ。
 他の者に迷惑をかけるならば、追い出さねばならん。

 ―――このように、実力を以てな」


「汝の名を 《反発 / スルズ》 と定義する」


瞬間、目にも止まらぬ速度で小石が打ち出された。
大気を貫く高音と共に走ったそれは地面に着弾し、土を盛大に舞い上げた。
離れた箇所であったためにあなたには一切被害は無い。
しかし、もし足元にでも撃たれれば土の塊はあなたの体表膜を突き破り体内にも侵入するだろう。


「ヒュドールの殺し方についても、私は学んでいる。
 無論、他の者もだ。
 我らの怒りを買って、生きて帰れるとは思わない方が良い」


彼の言の通り、この攻撃はあなたにとって致命と成り得る。
ヒュドールは物理的攻撃に強いが、他の要因では容易く命を落とす。
体を構成する水が汚れる事も、ヒュドールの有り触れた死因の一つだ。


完全に脅しである。
一つでも気に食わない事をすれば直ちに殺すと、彼はハッキリと口にした。

そっと周囲を探れば、集落の民が数人、あなた達を見詰めている。
彼らの視線には一つの疑問も乗っていない。
門番の言葉は当然の物と、彼らは思っているのだろう。

ここブラダナークでは、あなたの知る常識はどうやら通用しないようだ。



>>↓1 コンマ判定 【感情察知】

感覚 1

目標値 1

猫の感覚は足せませんか?こんな心細い状況なら唯一味方の猫も一緒に連れて来てるんじゃないかなーって思うんですが?(縋る目


【感情察知】

目標値 1

出目 3

失敗……



>>102
白猫ならば感情を察知出来ている可能性は有ります。
しかし、それをあなたに伝える手段を持ちません。
このため、今回の判定には白猫の感覚を利用出来ません。


ただ、あなたは僅かに違和感を感じた。
住民達の視線には他の感情も乗せられているように思えたのだ。

しかし、その正体にまで辿り着く事は出来ない。
一体何なのかと、もやもやとした思いが残っただけだ。


「それで、何の用だ。
 聞きたい事があるのなら早々に言え。
 こちらも暇では無い」


致し方無い、とあなたは諦めた。
より重要なのは魔獣の情報だ。
幸いにして彼は答える気があるようだ。
突然の攻撃もあり良い感情は抱けないが、ここは不満を飲み込んで尋ねておくべきだろう。


門番からの情報は、相当に密度の高い物だった。
彼ら自身、幾度か討伐を試みた事があるらしい。
実際に矛を交えた経験から語られる言葉は、確度も含めて十分に有益であると考えて良い。


その魔獣は……今まで見た事も無い生物であるという。
通常、魔獣というのは既存の獣や虫が変異して発生する物だ。
体の一部に肥大化や変化が見られる事はあっても、元が何であったかを類推する事は容易い。
にも関わらず、最近見られる魔獣の正体は暴かれていない。

見た目は、白く長い肉塊である。
蚯蚓、あるいは蛇とも取れる体は極めて大きく、太さは平均的なドライアドを丸呑みにしてもまだ余裕を残す。
長さに至っては、全貌の確認すら取れなかったようだ。
体の先端にポッカリと開いた口吻以外には何の器官も見当たらず、目や鼻も無い状態でどう外界を認識しているかは不明。

その体表は酷く強固だ。
鉄製の槍、魔法の一撃、十分以上の熱を持った炎、莫大な質量を持つ大岩の投擲。
様々な手段が試みられたが、未だ貫けた経験は無いらしい。

唯一の弱点は幾重にも乱杭歯が並ぶ口吻内部。
勇敢な若者が槍を突き出し傷を付けた瞬間、真っ赤な鮮血を噴出したそうだ。
残念ながら、どれ程流血しても弱る気配も無かったとの事だが。


この魔獣の奇妙な点は、ここからになる。

魔獣は、一切の攻撃を行わなかったのだという。
どれ程の魔法を受けても、口内に傷を負っても、ただ這い回るのみ。
樹木を巨体で押し倒して貪る以外に、何の行動も取らなかったというのだ。

通常、魔獣と言えば嬉々として他の生物を狩り回る物だ。
苦痛と恐怖に喘ぐ獲物に対し、はっきりと愉悦を見せる個体も多い。
にも関わらず反撃の様子も見せないなど、どう考えてもまともでは無い。

いや、そもそも普通の生物としても有り得ない。
これは明確な異常であると考えて良いだろう。


この攻撃性の低さにより、当初は脅威として取る者は少なかった。
頑強さから来る討伐の困難さも、対処を後回しにさせた要因だろう。
木々を食料としているらしい点も、それが自然の行いであるならばドライアドは何も思わない。

しかし、それが五匹六匹と増え、ついには集落の北部半分を囲むように棲家を作ったとなれば話は別になる。
万が一程度の事態ではあるが、もし集落の屋根を形作る大樹を食われでもすれば彼らは逃げる他無くなるだろう。
危機感を抱いたブラダナークの民は、今必死に対処法を確立させようとしているようだ。


「……このぐらいか。
 正直な所、奴らが一体何なのかは我らも知りたい物だ。
 何か分かった事があれば私に伝えろ。
 それが利益となったならば、幾らか便宜を図ってやっても良い」


青年はそう言葉を締めた。
今この場で分かる魔獣の情報はこれだけだろう。


彼は腕を組んだまま、あなたの正面に立っている。
他に何か聞きたい事はあるかと、そういった姿勢だ。

もし疑問などがあれば、あるいは魔獣と関係無くとも用件があれば、口を開くと良いだろう。



>>↓2  自由に発言できます。


あなたは、表皮に魔法すら効かないという点が気にかかった。

あなたには破綻の魔法がある。
構成の根本を乱し、直接の破壊を齎すこれは一級品の攻撃力を持つ。
幾ら頑強な防御であろうと、魔法さえ通ってしまえば何の障害にもならない。

だがもし、傷付かない理由が強固さで無く、無効化であったならば、どうか。
あなたの魔法が何の効果も発揮できない可能性についても考えなくてはならなくなるのだ。


それを言葉として投げかけてみれば、門番は僅かに目を見開いた。
口元に手を当ててしばし考え込み、そうして答える。


「その可能性は……あるな。
 討伐には毎回参加しているが、言われてみれば妙な所もあった。
 槍を全力で突き、弾かれたというのに、誰も手を傷めていない」


他にも、彼は投擲された岩が表皮に接触した瞬間、全ての勢いを失ったようにも見えたという。
魔法に関しては確証が持てないようだが、通常の物理法則に反する防御手段を持つ事は十分に考えられる。
相手が魔獣という事を考えれば、恐らく魔法による物なのだろう。


「感謝する。
 それと、謝罪しよう。
 単なる道楽か何かと考えていたが、どうやら素人では無いようだ。
 この情報は討伐の突破口となるかは分からんが、有益である事は間違いない」


残念ながら誤解である。
あなたは魔獣に関しては並の知識しか持たない素人だ。
だが、彼の中ではそうでは無くなった。
瞳からは嘲りの気配が薄れている。


「先程も言ったが、利益には便宜をもって返そう。
 集落内の水場を使う権利を与えられないか、長にかけあってやる。
 それと、屋根のある寝床を探すならば私を呼べ。
 納屋で良ければ貸してやっても良い」


一方的にまくし立て、門番の男は背を向けた。
最後に自身の名を名乗り、用があれば木々に声をかけるように告げる。

門番たる彼は常に木々の声を聞きながら職務に当たっている。
そのために、呼べば伝わる、という事のようだ。


話が終わり、男は足早に立ち去った。
向かう先は集落の中でも一際大きな家だ。
恐らく長の物であり、あなたが気付いた情報について話し合いでもするのだろう。

その姿を見送りながら、あなたは僅かに憤慨を覚えていた。
門番の男にでは無い。
彼の親に対してだ。


教えられた彼の名前は、随分と酷い物であった。
産んだ子に対し名付けて良い類では有り得ない。
赤子への愛を見せなかったあなたの村でも、そのような名を持つ者は一人も居ない。


(……オルテ、だなんて。
 一体何を考えているの)


その三音は古において、幾つかの意味を持つ。

苛烈なる炎。
侵し食らう者。
そして、最も知られた意として、災いの兆し。

オルテという言葉は、そういう物なのだ。


そこまで考えて、あなたはふと気付いた。
彼の容姿を思い浮かべ、怒りと共に理解を咀嚼する。

細く鋭いスギの髪。
白く薄いシラカバの肌。

これらの特徴を持つ一人の老婆は、この世の誰でも知るだろう。
更に考えてみれば、彼が用いた魔法にも共通点がある。
最悪の魔女が反発の魔法を使うという事実は、それなりに知られている。


同じ土地で生まれ。
同じ容姿を持ち。
同じ魔法を宿した。

それが彼にどのような境遇を与えたかは実に想像に容易い。


住民達の視線に感じた違和感を、あなたは十分に解読した。
彼らの嫌悪と警戒は、あなた一人に向けられた物では無い。

門番の青年、オルテにも同じだけの隔意が投げられていたのだ。


突然に攻撃を受けた事実も、その怒りも消えはしない。
だが同時に、心中に湧き上がるやるせなさも確かのあなた自身の物だ。

恐らく、危険を伴う門番の役割も志願した物では無いだろう。


残念ながら、あなたに出来る事は無い。
あなたは昨日唐突に現れた余所者以外の何でも無い。
彼の扱いについて集落の民を糾弾した所で、待つのは良くて追放だ。

当然の事として、オルテの状況も改善されまい。
むしろ悪化する可能性すら十分に有り得る。


あなたは俯いたまま移動し、一晩を過ごした寝床へと戻った。

魔獣に関する情報は入手出来た。
集落の利益となるだろう事実に気付いた事で、足場を多少固めもした。
十分な成果だろう。
今日はもう、何もしなくて良い。

いや、むしろ今は何もしたくない。
あなたはそうして座り込み、残りの時間を白猫を撫でて過ごす事とした。


【円環暦733年 冬 自由行動 2/3】


その後、オルテはあなたのために十分な働きを見せた。

夜になって訪れた彼は水場使用の許可が取れた事をあなたに教えた。
これはヒュドールたるあなたにとって極めて重要な事だ。
乾燥による被害は他の人種の比では無く、毎日定量の水を摂取しなければそれだけで急速に死に近付く。
その点を心配する必要が無くなっただけでも随分と楽になる。

また、約束通り納屋を使わせてもくれるようだ。
通された彼の納屋は小さく粗末ではあったが、物が少ないために空間は十分に有る。
宿とするには問題は無いだろう。
少なくとも雨風に悩まされる心配は全く無く、体調の悪化もそうそう起こるまい。


そうして数日を過ごす内に、あなたの気分も上向いた。
住民達の警戒には何の変化も見られないが、他にあなたの行動を阻害する物は無い。

今日も、自由に行動を選択出来るだろう。



>>↓2  今日はどうする?


あなたは一日を集落、及び周辺の森の探索に充てる事とした。

特に明確な理由は無い。
単に怪しい物でも見つからないかと考えての行動だ。
もしも何か異変が見受けられでもすれば、探っても良いだろう。
それが集落の利益となる可能性もある。

一つの利益だけで宿が手に入ったのだ。
もう幾らか提供出来れば、住民達の警戒が解ける事も有り得るに違いない。



>>↓1 コンマ判定 【探索成果】

感覚 7(白猫)

目標値 7


【探索成果】

目標値 7

出目 4

成功!


といった所で今日はここまでで。
お付き合いありがとうございました。
また明日。


■ 現在のあなたのステータス


【難度 / NORMAL】

【14歳 女性 / 現実世界の人間換算で14歳相当】


【種族 : ヒュドール】

水の体を持つ種族。
知性ある水とも言える彼らは他種族と大きく異なる生態を持つ。
精神的能力と魔力の親和性に優れるが、身体的能力に乏しい。

【種族能力 : 水の隣人】

定まった形を持たない彼らは自身の姿を自在に変更出来る。
外見の変更を自由に行える。
また、物理的ダメージを軽減する。
代償として、水の少ない地域では、継続的にダメージを受け続ける。


【筋力】 2 (平均)
【耐久】 3 (優秀)
【器用】 8 (優秀)
【敏捷】 10 (怪物)
【感覚】 1 (蔑視)
【意思】 7 (劣等)
【魔力】 8 (平均)
【幸運】 9 (評価無し)


【出身地 : ディスリス / 川沿いの村】

【現在地 : クラッカ / ブラダナーク大集落】


◆ 習得魔法

【種火】
【清水】
【微風】
【土塊】

【恍惚】
魅了に類する精神系魔法。
他者の心をとろけさせ、言葉を潜り込みやすくさせる事が出来る。
また、自身に使用する事で極めて強力な自己暗示を行える。
一時的に虚偽を真実と完全に思い込む、自身を超人と認識し絶対的な自信を得る、など用途は多岐に渡る。
魔法の行使は意思に大きな影響を受けるため、ブーストとも成り得る。
効果時間は最大でおよそ半日。

【精練】
魔力や物体に対して使用する事で、対象の効果を強化する。
次回使用する魔法の規模拡大、治療薬の効果増大、香辛料の辛味倍化、など。
効果時間はおよそ一時間。

【生成】
魔力を素材とした物体を生成する。
水との関連性が高ければ高い程、生成量と生成速度が強化される。
生成物は30分を限度として消失する。
体内に取り込むなどした場合も同様。

【破綻】
物体や魔法の根幹部を乱し、その構成を破綻させる。
物体に対し用いれば軽度の衝撃を伴った崩壊、魔法に対し用いれば魔力の離散による効果低減、あるいは無効化が発生する。
破綻の度合いは自信の魔力と対象の強度による対抗判定の結果による。



◆ キーワード

【天涯孤独】
【秩序 / 善】
【富裕層への殺意】
【王家の末裔 / 自称】
【中二病】


■ 所持品一覧


◆ 6400 Casa

共通交易通貨。
カダスティア大陸において、使用出来ない都市はほぼ存在しない。


◆ 霊銀の儀礼剣

基礎攻撃力 : 2

魔術補正 : 2

希少鉱石である霊銀、別称ミスリルによって作られた儀礼用の短剣。
武器としての能力は最低限だが、周囲の魔力を引き寄せ魔法行使を容易にする特性を持つ。


◆ 白猫

感覚 : 7

街の片隅で見つけた適当な猫。
当初は精神支配によって懐かせていたが、現在は普通のペット状態。
人から餌付けされていたのか野生らしさを全く失っており、能力値が低下している。
連れている限り、危機感知判定など感覚を用いる一部の判定を白猫の能力値で行える。
ただし、白猫を働かせるためには【恍惚】の魔法を行使する必要がある。


◆ 魔除けの鈴 ← NEW

魔除け補正 : 2

とあるドライアドが作った小さな木製の鈴。
涼しげながらもどこか物悲しい音色が特徴。
悪意を掻き消し災いを退けると、クラッカの一部の集落に伝わっている。


今晩は21時~21時30分位の開始予定です。
よろしくお願いします。


何か妙な物は無いか。
目を凝らしてあなたは歩いた。


ブラダナークは大集落と呼ばれているが、その言葉が連想させる程の規模は無い。
大樹は確かに規格外の巨大樹ではあり、枝葉によって作られたドーム状の空間は広い。
それでもズラウナムなどの都市と比べれば、当然の事として面積に大きく劣る。
村よりは大きいが、町には至らない、といった程度だ。

その中に最低限の機能のみを備えた家々が並んでいる。
恐らくは人口は五百を超えないだろう。
大集落とは結局、クラッカにおける集落の内では大きい、という程度でしか無い。

また、およそ店のような物は殆ど見当たらない。
精々が鍛冶場らしき物があるのみで、それも販売を行ってはいないようだ。
集落の財産という扱いなのだろう。
専門の職人が道具を作り、長あたりが適切に分配し、見返りとして食料等を多く受け取る、といった物だ。
村育ちのあなたにも慣れ親しんだ形態である。

あなたはそっと、体内に収納した袋に意識を向けた。
幾らかの銀貨が納められたそれは、この集落では何の意味も持たないと思われる。
住民達の様子を見る限り、商人が訪れる事も無さそうだ。


さて、そんな集落を歩く内に、あなたは意外な光景を発見した。
正確には、発見したのは白猫だ。
足元について回っていた猫は、唐突に立ち止まって中空を見上げた。
何かあるのかと疑問に思い目線の先を追えば、そこには見事な木登りを披露する少女が居た。

彼女が登っているのは集落の屋根を構成する大樹の一つだ。
体の半分程を隠す尾を見れば、リスのセリアンスロープだと一目で分かる。
リスと言えば樹上生活を営む動物だ。
その性質を受け継ぐ者であれば確かに木登り程度に問題は無いだろう。

するすると大樹を登る彼女は、すぐに見えない程の高みへと消えた。


一体何をしているのかは分からないが、彼女は大樹の上に用があるようだ。
また、視線を地面に戻せば数人のドライアドが根元に集まり天を見上げている。


距離がややあったお陰か、それともただ運による物か、彼らはあなたに気付いていないようだ。
どこかに身を潜めれば、このまま観察を続ける事も可能だろう。
あるいは、思い切って彼らに直接尋ねてみる手もある。



>>↓2  どうする?


住民達の警戒は未だ強い。
もし声を掛けたとして、ただ追い払われるだけだろう。
あなたはそう判断して周囲を見渡し、隠れ潜むに丁度良い場所を探した。

すると、幸運な事に程近い家の脇に空の樽を発見出来た。
人が潜むには少々小さいサイズだが、ヒュドールたるあなたには問題にならない。
己の形を変え、圧縮するように無理矢理押し込めばそれで事足りた。
蓋の隙間から眼球に相当する機能を持たせた部位を覗かせて、観察の姿勢は出来上がる。


根元のドライアド達は、あなたが見詰める前で魔法の詠唱らしきものを開始した。
詳細を聞き取る事は難しいが、漏れ聞こえる単語は一般的な会話に使われる類では無い。
然程時間もかからず展開は完了したようだ。

どのような効果を齎したかは目視では確認出来ない。
少なくとも火が吹き上がったり大地が隆起するといった分かりやすい事は起きていない。


一体何なのかと、その疑問への回答はすぐに与えられた。

セリアンスロープが登っていった樹上から、小さな塊が落ちてくる。
色は赤。
大きさは片手に収まる程度。
落下源が大樹である事を考えれば、その正体は果実だろうと予想がつく。

落下した果実の行方は当然地面。
そのまま何もしなければ墜落して砕けるだけとなるだろうが、そこにドライアド達の魔法が関わっていたようだ。

果実はある程度の高さまで落ちた後、唐突にその動きを変えた。
風に舞うように一瞬流れ、そして緩やかに、ふわふわという音が似合う様で落ちてくる。
ちょうど、羽毛か何かのようだ。

こうなれば捕まえる事は子供にも出来るだろう。
根元に居た者達は小走りで移動し、果実を受け止めた。


なるほど、収穫の時期だったのか、とあなたは納得した。
観察を続ければ、果実は二つ三つと続けて落ち、瞬く間に彼らの腕の中に溢れていく。


その光景を見詰めながら、あなたは一つの話を思い出していた。
クラッカの大森林における最大の秘宝、黄金の果実についてである。

曰く、万病を退け、失った手足すら取り戻す。

村を訪れた冒険者から聞かされ、地面に描かれた絵で見せられたそれは、今収穫されている果実に良く似ていた。
金粉か何かを塗して色を変えてしまえば、全く同じ姿になるだろう。
もしかすれば、黄金の果実とは集落を支える大樹に実を付ける物なのかも知れない。


とはいえ、今のあなたには確証を得る手段は無い。
考えが正しい物だとしても、大樹に登る事が許される訳も無く、聞いた所で答えが返るとも思えない。
ただ可能性として覚えておくのが良いだろう。


それからしばし、果実が全員の腕に溢れた所で、最後にリスの少女が飛び降りてきた。
手足を一杯に広げながら落ち、果実と同じようにふわりと浮いて、やがて地に足をつける。

そうして、彼らは連れ立って去っていった。

大樹を登ったセリアンスロープはまだ子供と呼んで良い年頃だった。
大人達は極めて排他的だが、子供達はそうでない可能性もある。
上手く機会があれば接触を試みようかとも思ったが、どうやらその隙は無さそうだ。


集落内で見つかった物は、この程度だった。
では次は外周部の森の中はどうかと、あなたはそっと樽から這い出した。



……果たして、集落外の異常は明白だった。

集落から見て北東に十数分。
その先に生える木々は……死んでいた。

恐らく、その表現は正確では無いのだろう。
確かに根を張り、幹を伸ばし、葉を付けている。
しかし、余りにも生命の気配を欠いている。

鳥の声も、虫の声も、何も聞こえない。
ただ表面だけを繕ったレプリカの森だと、あなたは思わず断じた。


「それ以上は踏み込むな。
 魔女の森への侵入は最大の禁忌となっている。
 破ろう物ならば、脅しでは無く即座に殺さねばならん」


森の持つ不吉さに身を凍らせるあなたへと、言葉が投げられる。
門番の青年、オルテの声だ。
あなたが北東部に近寄った事は、木々の声を常に聞く彼には手に取るように分かっていたのだろう。
どうやら、止めに来てくれたようだ。


「かつて、魔女の棲家が焼かれた事は知っているか?
 それが恐らく最大の失策だったようだ。

 煙と灰に混じり放たれた毒は、周囲の全てを侵し食らった。
 以来、禁忌の森は穢れた死に溢れている。
 持ち帰られる前に、あらゆる手段をもって食い止める必要があると、そういう事だ」


勿論、私が生まれる前の事だから聞いただけの知識に過ぎないが。
オルテはそう言い、こちらへ戻れとあなたに忠告した。


オルテの手には、既に幾つもの石が握られている。
あなたが忠告に逆らえばそれらは即座に命を穿つ弾丸と化すだろう。

彼の魔法の腕は、先日眼前で披露され十分に理解している。
最低でもあなたと同等と、そう考えておくべきだ。



>>↓2  自由に行動、あるいは発言を行えます。


あなたは一先ず、言葉に従った。
決して刺激しないよう慎重に歩を進め、小石の照準を定めるオルテへと近付く。
それを見て、オルテはほっと息を吐いた。


「……それで良い。
 全く、無駄な手間を」

『一つ、見て欲しい物があります』


しかし、あなたはそれを遮った。
眉を顰めるオルテの横を抜け、一本の枯れ枝を拾い上げる。
何の異常も感じられない、ただの枝だ。

それを示し、あなたは詠唱する。


『此処に、一つの理を示す―――』


現れた結果に、長い沈黙が返された。

枯れ枝は、この世のどこからも失われた。
砕け散った、などという生易しい結果では無い。
あなたの足元に降り積もった黒色の砂山。
それが枝の成れの果てだ。

破綻の魔法が齎す物は単純な破壊では有り得ない。
破滅。
終局。
崩壊。
そういった言葉こそが相応しい。

あるいは、死そのものと呼んでも良い。


「……お前は、何者だ。
 このような魔法は聞いた事すら無い。
 魔女の再来でも名乗るつもりか?」


オルテの手には酷く力が籠められていた。
握り締められた小石は今にも砕けんばかりの音を立てている。
無論、瞳と言葉には十分以上の殺気まで見て取れる。

しかし、当然ながらあなたにはそんな気は無い。
彼らに対し敵対する理由など有り得ない。

あなたがこの魔法を見せた理由は、たった一つだ。


『見ての通り、私の破綻は物の根本を崩します。
 十分な効果さえ発揮されれば、原型も、その機能の一切も残りません。

 これを、森を侵す毒に対してのみ用いればどうなるか。
 試す気は有りませんか?』


沈黙は再び訪れた。
見開かれたオルテの目をあなたは静かに見詰める。
小石が立てる音も途絶えた森に、じりじりと時が過ぎる。


「…………救える、とでも言うのか」

『分かりません。
 魔女の毒に対して使った事なんてありませんから。
 それでも、試す価値はあると思います』


搾り出すように呟かれた言葉に、あなたは返す。
オルテの顔は一層歪む。
苛立たしげに、あるいは悔しげに。

あなたはただ判断を待つ。
この森は、彼らブラダナークの民の物だ。
決定はあなたではなく、彼らが下すべきだろう。


「今日はもう、集落に戻れ。
 長には、私から伝えておく」


やがてあなたから目を逸らし、オルテは言った。

今はそれに従う以外に無い。
あなたは俯き佇むオルテに背を向け、集落へと足を向けた。





その途中。
オルテの姿が完全に見えなくなった所で。


『う、ぇぇ……っ』


あなたは蹲り、必死に声を押し殺した。

体の制御など微塵も効かない。
人の形を留める機能は瞬時に崩壊した。
体内は沸騰したかのように泡立ち、衝撃を受け止めきれない体表膜は今や異形と化している。


魔法の反動だ。

魔法とは、大気中を漂う魔力を操る技法を指す。
明確な想像と力有る言葉によって物理法則を覆すそれは、しかし本来人間に許された機能では無い。
許容量を超えた力の奔流が術者にも牙を剥くのだ。

反動の規模は魔法の持つ力と、力有る言葉と術者との相性により決定される。


破綻と、あなた。
二者の相性は最悪の中の最悪だ。

当然の事だ。
秩序と正義を重んじるあなたにとって、破綻とは最低最悪の言葉に他ならない。
反動の軽減などまるで不可能。
使用の度に死を垣間見る程に。

え、なに
性格にあったパワーワードじゃないときついの


だが、それを余人に告げる気は毛頭無かった。
何故かなど、わざわざ考えるまでも無い。
万一制止されてしまってはならないと、あなたは強く強く心を固めている。


(救える。
 私でも、救えるんだ)


命を賭して森を救う。
それはまさしく聖人の行いと言えるだろう。

国の正常化。
魔獣の討伐。
どちらも馬鹿馬鹿しい程の難事だ。

対して、森の浄化は時間を掛ければ確実に可能なはずだ。
それだけの自信を、あなたは破綻の魔法に抱いていた。


つまり、あなたは見つけてしまったのだ。
自身に確かな形を与える術を。
明確な何者かになる道を。


あなたは森の中、孤独に苦痛を受け入れ続ける。

誰が見ても痛々しさに目を背けるだろう様のあなたは、しかし。

その口元だけはハッキリと、悦びの形を描いていた。


とりあえず今日はここまでで。
お付き合いありがとうございました。
また明日。



>>163
あ、そういう訳では無いです。
相性が良ければ反動が軽減されやすくなるだけで、酷くなる事は有りません。
破綻は元々危険な魔法というだけです。


今晩は20時位の開始予定です。
よろしくお願いします。


【円環暦733年 冬 自由行動 3/3】


禁忌の森、その入り口での一件から、暫くの時が経った。
伴っていた白猫が森での生活に慣れ、納屋の一角にどこからか引きずり出してきた布切れで勝手に快適な寝床を作る程度の日数だ。

それだけをかけても、結局破綻の行使は許可されなかった。

当然だろうと、あなたにも冷静になれば理解出来た。
あなたにはまだ何の信用も無い。
魔獣が持つ能力について鋭い意見を出した事が唯一の実績だ。
その程度で彼らがあなたに禁忌を侵す権限を託す事は有り得ない。

それどころか、あの日以来どこで何をしていても視線を感じるようになった。
恐らく監視されているのだろう。
納屋の傍にも、いつの間にか一本の幼木が植えられていた。
ドライアドの持つ力を考えれば、これもその一環に違いない。


何の前触れも無く現れた余所者が。
偶然にも森を救う手段を持ち。
奇特な事に自分から助けになりたいと話を持ちかける。

そんな都合の良い話を信じる程、ブラダナークは呆けてはいない。


集落の中を歩きながら、あなたは頭頂部に瞳を形成して天を見上げた。
今日の視線は上方、集落の屋根となっている大樹の葉の向こうから感じられる。
以前果実の収穫を行っていたリスのセリアンスロープでも、そこに居るのかも知れない。
勿論、距離が有り過ぎるためにあなたからは確認のしようが無いのだが。

ともかく、下手な事はもう出来なくなったと、そう考えるべきだ。
先日の収穫の覗き見のような事を行えば、即座に看破され不信を強めるだけだ。


あなたは悔しさを噛み殺して俯いた。
救済すべき死した森は手の届く距離にあるというのに、何も出来ない。
その事実が酷く歯痒い。

そのまま沈み込んでいきそうな気分を無理に振り払うように、頭を振る。
腐っている場合では無い。
やるべき事をやろうと、あなたは自身を奮い立たせる。

今のあなたに足りない物は信頼だ。
唐突な余所者でしか無い状態ではどうしようも無い。
せめて、客人と呼ばれる程度に溶け込まなければならないだろう。



>>↓2  今日はどうする?

>>1に質問なんだけど、小枝に破綻使って反動が収まるまでにかかった時間を教えてもらえたりしますか?


>>181
歩行が可能になるまで15分。
走行がかろうじて可能になるまで120分。
完全に回復するまで一晩程度と考えてください。


住民の信頼を得るに当たって、必要な事と言えば当然交流となる。
しかし、残念ながらあなたが対話を行える相手は少ない。
というよりも、一人しか居ない。
あなたが宿を借りている納屋の持ち主であるオルテのみだ。

他の者はと言えば、あなたが声をかけてみても精々が一言二言を返すに留まる。
すぐさま顔を背けてどこかへ去っていくばかり。

そのオルテも、今や関係は微妙な物となっている。
未だ禁忌の森での一件が尾を引いているのだ。


だが、とあなたは顔を上げる。
オルテはあの日、あなたを撃つ事無く警告に留めた。
彼の立場から考えれば北東部に近付く者は即座に殺害してもおかしくは無い。
相手が余所者たるあなたなのだから、尚更だ。

そこに、あなたはオルテの良心を見出した。
誠意を尽くせば彼との距離を縮める事は可能だと、そうあなたは信じている。


本人に教えられた通り、あなたは集落外周部の樹木へと語りかけた。
無用な刺激を与えないよう、禁忌の森とは最も遠い南西部である。
あなたが初めてオルテと対面した場所とも近い。

呼びかけに応じて彼が姿を現すまでにかかった時間は、短かった。
腰を下ろして待とうか、などという考えが起こりさえしなかった程度だ。
すぐ近くに居たという事だろう。
彼も監視のために動いていたのかも知れない。


「何か用か、余所者。
 私も常に時間がある訳では無い。
 用件は手短に話せ」


オルテは無愛想に告げ、幹へと寄り掛かった。
双眸は鋭く細められ、あなたの動向を静かに観察しているようだ。



>>↓2  どうする?


この辺りにイスナ教徒が居るかどうかを知らないか。
ふと思い立ってそう聞くと、オルテは沈黙した。

悪い意味での、少なくとも負の感情を伴った沈黙では無い。
唐突に何を聞いているのかという、不思議そうなそれだ。
思わずといった風情で目からは一瞬鋭さが消え、僅かに首を傾げてもいた。


「イスナ教……とはあのイスナ教か?
 あらゆる欲望を全肯定するとかいう、異常者共の集まりの」


そうそれ、とあなたは頷く。

自分でも何故こんな事が気になるのかは分からない。
恐らく、自身の扱う魔法にイスナの名が付いている事からの連想か。
会話の取っ掛かりを掴むための、どうでも良い雑談のような物だろう。

その程度の事にも、オルテは顎を掻きながら記憶を探っている。
突き放すような冷たさを常に纏っている癖に、こういった部分で他者を無碍にする性質では無さそうだ。

やがて記憶を浚い終えたのか、彼は口を開く。



>>↓1 コンマ判定 【幸運な出来事】

幸運 9

地域 -3

目標値 6


彼には心当たりがあったようだ。
うろ覚えだが、と前置きをしてから言う。


「確か北方の川を越えた先の小集落に最近新しい住人が増えたという話だ。
 その中に一人、少々面倒な性質の者が居るらしい。
 話を聞いた限りでは、イスナ教徒の振る舞いと良く似ている。

 ただし、鵜呑みにはするな。
 他集落との交流は酷く少ない。
 実際、これ以上の事は分からんしな」


そういう事のようだ。

ブラダナークの北と言えば、例の魔獣の群れが陣取っている方角だ。
とはいえ、魔獣の攻撃性の低さを考えれば間を縫って行く事も可能だろう。


返答の後、当然オルテは疑問を口にした。
唐突に欲望の女神の名を出せば、何事かと気になるのは当然に違いない。

良く良く見れば、彼の体勢はやや後方に傾いている。

よもや、こいつはかの悪名高い女神の信徒なのか。
そんな疑惑を抱かれている可能性に、あなたは慌てた。


結局、誤解はすぐに解けた。

あなた自身が推測したように力有る言葉からの連想だと告げれば終わりだ。
自然と零れたこんな名の魔法を授けられたくなかった、という本心からの愚痴もそれを後押しした。

オルテ自身、望まぬ魔法を宿した身の上だ。
共感を覚えたのか、硬い雰囲気を僅かに和らげてなるほどと頷いている。


「それで、他には?
 まさか用件がそれだけとも思えん」


オルテの体勢は弁明の甲斐あって今や元通りだ。
未だあなたのために時間を費やしてくれるらしい。



>>↓2  どうする?


『では、本題ですが。
 魔獣の棲家、最初に出現した場所、魔獣増加の中心部。
 これらについて教えて下さい。
 可能ならば、案内も』


あなたがそう聞くと、オルテは再び不思議そうな顔をした。
ただ、それも一瞬の事だ。
疑問はすぐに納得に至ったらしい。


「そういえば、そうだったな。
 あの魔法の一件で忘れていたが、確かにお前の目的はそちらだったか」


そうしてしばし考え込み、頷いた。
どうやら案内までを含めて請け負ってくれるようだ。

現状、ブラダナークにとっての最大の問題は増殖する魔獣達だ。
これをどうにかする事が出来れば、いや、ほんの小さな発見でも信頼獲得に大きく前進するだろう。
何せ、絶対的な防御能力の根幹の仮説だけで宿と水場を得られたのだ。
影響の大きさは相当な物に違いない。


「ただ、今は時期が悪い。
 魔獣の生息域は広く、全てを回るだけの余裕が持てん。
 案内はしてやるがもう数日待て」


残念ながら今日これからという訳には行かないようだが、こうして約束は取り付けた。
今の所はこれで十分だろう。
オルテから聞いた限りの情報では、数日どころか季節を跨いでも危機的状況に陥るとは思えない。
調査の猶予はまだまだ残されているはずだ。


それから最後に、あなたは追加で尋ねた。
魔獣達に対して毒を用いた事はあるのだろうか、と。

魔獣の体内には護りが無いという情報。
そして禁忌の森を侵す毒について知った今ならば当然の閃きだ。
魔獣が食す木々に強力な毒でも塗布しておけば、労無く討伐する事も可能であるかも知れない。


「我らとて、その位は当然試している。

 結果は思わしくない物だった。
 どうやら奴らは毒には相当な警戒心を持っているらしい。
 毒を仕込んだ木は避け、上手く隠して食わせてもすぐさま吐き出していた。

 ……そもそも、奴らは凄まじい巨体だ。
 無力化するに足る毒など、尋常な類ではとても量が間に合わん」


オルテは憂鬱に首を振った。

だが、これは同時に良い材料でもあると言える。
吐き出した、という点からも分かる通り効果が無い訳では無いようだ。
投与手段さえ用意出来れば、命までは奪えなくとも弱らせる程度は可能だろう。


知りたい事は知れ、約束も取り付けられた。
今日の所はこれで良い。

あなたはそう判断し、オルテに礼を告げた。
受け取ったオルテは鷹揚に、余所者の世話は仕事の内だと、以前と同じように返す。
そうして、あなた達は別れた。





……その後、これでは話をしただけであり。
当初の目的であった交流とはやや違うのでは無いか、という思いに頭を抱えたあなたの行動については伏せるべきだろう。
無論、あなたとオルテの尊厳のためにだ。

一つ擁護するのであれば、責任はあなただけで無くズラウナムの宿屋の女将にも有るはずだ。
男は胃袋を掴めば良い、などと雑談に乗せた一言が悲劇の一因で無かったとは、決して言えない。

事実として、この言葉さえ無ければ、何も起こらなかったはずだ。
味覚の鈍いあなたが無謀にも他種族の口に合う料理を試み、それを差し入れるなどという事態だけは、決して。


といった所で今日はここまでで。
お付き合いありがとうございました。
また明日。

明日は固定イベントで、オルテによる魔獣ツアーになります。


遅くなりました、すみません。
寝落ちの危険もありますが、これから書きます。

寝落ちたかな



自分探し中二少女(飯マズ属性付き)に幸あれ


【円環暦733年 晩冬 クラッカ / ブラダナーク大集落】


「待て、塩をそんなに入れる奴があるか。
 一つまみで良いんだ、一つまみで。
 それでは一掴みだろうが」

『いや、でもですね。
 肉のある種族はしっかり塩分を取らないといけないと言うじゃないですか。
 下手をすると命に関わる事もあると良く聞きますよ』

「……あぁ、なるほど。
 そこが原因になるのだな……」


その日、ブラダナークの片隅、オルテの所有する家屋の中であなた達は鍋に向き合っていた。
何をしているか、と言えば、料理教室である。

先日、あなたは交友を深めるためと称し、オルテに料理を振舞った。
出来についてはわざわざ言葉にするまでも無い。
他種族の食事に関して知識の薄いあなたが如何なる代物を生み出したかは、塩に関する指導を垣間見るだけで知れるはずだ。

あなたは変幻自在の水の体を持つヒュドールである。
その食事は吸収と呼ぶべき物だ。
味を感じ取るかどうかすら任意で選択出来るあなたにとって、料理とは栄養素を混ぜ合わせる作業に過ぎない。
他種族は味や見た目に必要以上に拘ると理解してはいるものの、経験を伴わない知識だけでどうにかなりはしなかったようだ。

未熟なヒュドールがしばしば起こす問題の一つと言って良い。
特に周囲に同族が多い環境で育った者はおおよそこうなる。


「お前は当分、一人で調理はしない方が良いな。

 ……暇が出来た時は教えよう。
 このままでは、将来お前と所帯を持つ男が余りに哀れだ。
 早々に舌と臓器を破壊されるのが目に見えている」


オルテはこれ見よがしに溜め息を零し、そう吐き捨てた。
その様に若干の不満を感じはするが、あなたに反論は許されて居ない。
実際の所、舌が一時狂う程の食事を生み出してしまった実績で何を言えるというのか。


「今日の所はもう良い。
 ただ見ていろ。
 まずは一般的な調理がどういう物か、しっかりと観察して理解するように」


こうしてあなたの手伝いは拒否された。
落ち込みながらも、あなたは指示通りに彼の手元を注視する。


オルテの調理は手際良く進んでいく。
手付きに一切の淀みは無い。
一つ作業を行いつつ、流れるような同時進行で次の準備を整える。
十分以上の習熟は容易く窺えた。

彼の年齢は恐らくあなたの一回り程上だろう。
それだけの年月を一人で暮らしていたと考えれば納得の腕前だ。


作業を眺めつつ、あなたは僅かに微笑んだ。

なんだかんだと言って、彼は面倒見が良いようだ。
常に突き放すような空気を纏ってはいるのだが、それとは裏腹に他者を気遣わずにいられない。
そういった人間であるように、あなたには感じられる。


「そういえば、今日はあの猫は置いていけ。
 森の中で私に感知できない事態は無い。
 もし何かあった時に、足手纏いになるだけだ。

 それと、他の準備は整っているのか。
 奴らは確かに大人しいが、世に絶対という物は有り得ない」


やはりそうだと、あなたは内心頷いた。

死んだ所で損害は無い。
彼は初対面の時、確かにそう言っていた。
それが、実際魔獣の元へ向かうとなった途端にこれである。

どうしようも無い善人振りだ。
この分では、例えあなたが一人で向かっていたとしてもこっそり付いてきていた可能性すら有るに違いない。
余所者が魔獣を刺激して暴走を引き起こさないか監視する、などとそれらしい理由を作って。


そう、今日は先日に約束を交わした、魔獣観察の当日である。

森は広く、魔獣達は個々が距離を取って点在している。
当然、見て回るには長い時間が必要となる。
その間の食事を、今こうして用意しているのだ。


【円環暦733年 晩冬 魔獣の生息域】


数日分の荷を背負ったあなた達は、朝も早くから出立した。

未だ薄暗い森の中を、オルテは実に容易く歩む。
あなたとは段違いの軽快さだ。
幾度も背を見失いそうになり、その度に立ち止まったオルテから煩わしそうな顔を向けられる、という繰り返し。

ただ、それは初めの内だけだった。
以前、ズラウナムで行った形態変化と同様の手段をあなたが用いたためだ。

現在のあなたの脚は二本では無く、八本となっている。
蜘蛛めいた形状のそれは実に安定感がある。
多少早足にした所で全く問題が無い。

便利な物だな、とオルテは感心の言葉を零していた。


そうして十分な速度で進んだあなた達は、翌日の中天近くに最初の目的地に辿り着いた。

ブラダナークから見て真北。
境界線と呼ぶのが相応しい物があなたの眼前に現れていた。
木々が密集して立ち並ぶ森の中に、突如ぽっかりと空間が口を開けている。

無論、ブラダナークのような大樹がある訳では無い。
根元近くから割り折られ、無残な姿を晒す木々の成れの果てがそれを証明している。
また、地面を観察すれば枝や樹皮の欠片が散らばっている事も一目瞭然だ。

魔獣は木を食べるという。
ここは餌場であり、散らばる物は食べ残しなのだろう。


視線を足元から外し、正面の広場奥へと向ける。
大半が刈り取られぽつぽつと木が残るだけのそこは随分と広い。
ブラダナークが二つ三つは収まるのでは無いだろうか。


「最初に魔獣が確認された区域だ。
 奴らはここの木々を食い尽くし、餌を求めて周囲に散った。

 今はもう残ってはいないはずだが、脅威を知るには丁度良いだろう。
 中心部まで案内する。
 遅れずについてこい」


想像以上の惨状に立ち竦むあなたへとオルテは告げて歩を進めた。

背を追うあなたは、足を動かしつつ天を見上げた。
枝葉の覆いが取り払われたそこには、久しぶりに見る青空がある。
それがあなたの心を軽くする事は、決して無かったが。


案内された中心部は、一際酷い状態であった。

緩やかな丘のような地形のいたる所に、道のように長く陥没した跡がある。
幅にして大人の足で五歩といった所か。
くねるような形を考えれば魔獣が地を這った跡に違いない。

痕跡は幅だけでなく深さも相当だ。
巨体に相応しい重量はしっかりと備わっているらしい。
もし轢き潰されるような事態になれば、生き残る可能性は皆無と考えるべきだ。

また、ここは元々丘では無かったとオルテは言う。
指示されるままに足元の土を掬ってじっくりと観察すれば、悪臭や不潔さは感じられないが糞である事は分かるだろう。
量が莫大に過ぎるために、糞の山が丘のように見えてしまっているらしい。

馬鹿馬鹿しいにも程がある生物だ。
攻撃性の薄さを考慮しても、恐るべき暴威と断言出来る。


あなたは糞の丘の上で、周囲を見渡した。

中心部には一本の木も残されて居ない。
全てが腹に収められ、食べ残しも丘の下に埋もれてしまっているのだろう。


オルテは説明を終えた後、すぐに丘を降り始めた。
今日はここで一晩を過ごし、魔獣との接触は明日にするとの事だ。
何か調べたい事があれば、あなたは十分な時間を費やす事が出来る。



>>↓2  どうする?

読むの時間かかるんでタイムくれませんかねタイム


>>228
すみません、失念してました。
安価埋まってしまったので、次から気を付けるという事でどうか……。
本当に申し訳ないです。


あなたは丘を降りるオルテを追いかけ、声を掛けた。

周囲を探るならばドライアドの能力こそが有用である。
数を大きく減じているとは言え、丘以外には幾らか木も残っているのだ。


オルテの返答は、他には誰も居ないという物だった。
人間どころか獣も踏み入ってはいないという。
当然の事ではあるだろう。
警戒心の強い野生の獣が、この明らかな異常の中に立ち入るとは考え難い。


彼はそのまま野営の準備に取り掛かっている。
一つ尋ねただけであり、時間は殆ど経過していない。

やるべき事があれば自由に行動が可能である。



>>↓ 【0:40】以降が有効です。


安価出しておいて、ここまでで。
短くてすみません。
明日には何とかします。

乙(2回目)
来てた。嬉しい

そしてオルテ君と結婚しよう
それが良い
そーしよー

安価↓


今晩は21時位の開始予定です。
よろしくお願いします。


糞の丘の下、そこに何かが見つかりはしないかとあなたは思いついた。

ここは魔獣の発生源であるが、実際の中心は未だ目にしていない。
初めは糞の丘など存在していなかった以上、魔獣の元となった生物は糞が積もる前のここに暮らしていたはずである。
山をある程度除去して確認する事で何かが分かる可能性は十分あるだろう。

ただ、今や糞は地形の一部と化している。
これを手作業でどうにかするなど考えるだけ愚かしい。
となれば当然、取るべき手段は決まっている。


あなたは一先ず、オルテに相談した。
一人でやるには大仕事に過ぎる。
そもそも、まず出力が足りていない。
大量の水を生み出す事は出来ても、あなたに出来るのはそれを垂れ流す程度が精々だ。
人間相手ならば押し流すには容易だが、相手が地形ではどうしようも無い。


言われてみれば、そこは確認していない。
オルテは興味深げにそう言い、協力を快諾した。


「糞を調べた者は居たが、山の下を気にかけた者は居ない。
 やはり、専門家というのは目の付け所が違うらしいな」


同時に、何やら勘違いも深まったようだが訂正せずにおいても良いだろう。
この分では魔獣に関してならば少々奇抜な事を試みても見逃してくれるはずだ。
それはあなたにとって都合が良いに違いない。

そうして、曖昧に微笑むあなたが主導となり作業が開始される。
森のただ中、ぽかりと口を開けた空白地帯に、高らかに詠唱が響き渡る。


『我が声を聞け。
 正しき理を知るが良い。
 我は汝を導く者。
 今こそ、汝に生の意義を与えよう』


初手から、あなたは全ての力を奮った。
除くべき相手は尋常な質量では無い。
一本の道を穿つだけとは言え、手を抜くような余裕は存在しない。

故に、あなたが生み出し得る最大量の水が虚空より湧き出した。
広場に漂う魔力が集束し、その力が変換され物質へと変貌する。

生まれたのは巨大な水球だ。
一般的な平民の家の一軒程度は飲み込めるだろう大きさだ。
それはあなたが命じるままに球の形を保ち続けている。


これだけでも上等な魔法行使ではあるが、当然の事としてまるで不足。
山を貫けるかどうかはここから先の連携にかかっている。
あなたはちらりと振り向き、オルテと視線を交わした。
力強い頷きが返され、あなた達は同時に更なる魔法を紡ぐ。


『我が声を、ここに 《精練 / ザハク》 と定義する』


新たな魔法の完成によって、水球はその姿を変えた。
水が持つ流動性は維持したままに、二周り以上圧縮されたそれは最早岩にも等しい。

更に強化は止まらない。
次なる手、オルテによる魔法が降りかかる。


「往きて還り。
 墜ちて昇り。
 我らは屍より生れ落ちる。

 世に永遠を生きる者無く。
 遍く命は廻り巡る。

 汝の名を 《流転 / サナリ》 と定義する」


轟、と音を伴って水球が狂う。
オルテが呟いた力有る言葉に従い、岩の如き水は渦を巻いた。
今やそれは真っ当な有り方を完全に放棄した。
破城槌と、そう呼んだ所で異論を吐ける者は居まい。


最後に、オルテへと精練の魔法を用いてあなたの仕事は終わる。

残るは一撃だけだ。
兵器となった水を撃ち出せば、それで結果が出る。

ただ、それが最大の問題でもあった。
このような代物を至近距離に着弾させれば、術者に返る被害も小さくは無い。
そのためにあなた達は丘からある程度の距離を取っており、必然的に手元の僅かな誤差が無為の失敗へと直結するのだ。

本当に大丈夫かと、少々の不安が生まれる事は止められない。


「舐められた物だ。
 まぁ、お前は知らんのだから仕方の無い事だが」


それが顔に出ていたのだろう。
オルテは心底不服といった態で顔を歪めた。

反発の魔法を湛えた右手をゆるりと上げつつ、鼻を鳴らしてあなたを睨む。


「この一撃を証明として覚えておけ。

 慢心でも誇張でも無く、純然たる事実として。
 魔法の制御において、私に並ぶ者はブラダナークには存在しない」


爆発が起こった。
正確には違うのだろう。
しかし、あなたにはそうとしか感じられない程の衝撃であった。

螺旋を描き突き進んだ奔流が丘に到達した瞬間。
大地が微かに揺れると同時に、丘を構成する糞は天に届かんばかりの高さに巻き上げられた。
そして、それだけに留まらない。
着弾で勢いを大きく削がれながらも、水の槌は奥へ奥へと突き進む。

それは確かに丘の中心へと、オルテの宣言通りに。


「ふむ、上々だな。
 これで、お前にも十分理解出来た事だろう。

 …………む?」


自身の出した成果に満足するオルテは、どうやら胸を張っているようだ。
しかし、あなたにはそれを確認する余裕は無い。

あなたはヒュドールだ。
体を構成する水の穢れは、あっさりと死に繋がりかねない。


……糞は天高く舞い上げられた。
上がったならば、次は落ちるだけ。

糞に塗れた最期など絶対に御免だと、魔法行使に悲鳴を上げる体に鞭打って、あなたは近くの木陰へと走るのだった。


実際の調査はそれからしばし後となった。

全力を振り絞っての魔法行使を連続で三度。
それは魔力の扱いに長けたあなたにとっても決して軽い負担では無い。
すぐさま動くなどまるで考えられない程度には体が重くなるのは必然だ。


あなたは一人、夕暮れに赤く染まる丘へと近付く。
丘を穿つにあたり、被害が予想されたために野営道具は一旦片付けてしまった。
オルテはそれを再度準備するために残っている。
顔がやや不満そうだったのは、まぁ捨て置いて良い事だろう。

あなた達の試みは十分な成果を出していた。
糞の丘には谷のような道が生まれている。
しゃがみ込んで調べれば、その足元が通常の土である事は間違いなく分かる。
障害の除去は完全に成功したと考えて良い。


さて、肝要なのはここからだ。
丘の本当の中心、谷が最も深い箇所であなたは目を凝らした。

地面に這い蹲るような姿勢となり、舞い上がった後再び積もった僅かな糞を除け、僅かずつ土を掘り返す。
あなたは未だ魔獣の姿を直接目にしてはいないが、話には聞いている。
形状から考えれば、近いのはミミズなどの環形動物だろう。
となれば、元となって生物は地中に生きていた可能性も高い。


その考えと試みは、どうやら報われた。

地面を掘り進めたあなたは、指先に触れる柔らかい感触を感知した。
もしや、と慎重に土を払うと、現れたのは卵胞だ。
大きさは鶏の卵よりも一回り小さい程度。
透明な薄い膜の中に、白い紐状の生物がみっしりと詰め込まれている。

最低限の特徴はおおよそ一致する。
オルテの言葉にあった乱杭歯を持つようには見えないが、成長と共に獲得する可能性もあるだろう。


実際に、オルテの元へ戻り見せてみれば、魔獣と良く似ているとの事だった。
この生物が変異した物が、大森林を脅かす魔獣の正体に違いない。


ただ、あなたには一つの疑問もあった。

オルテは、このような生物を森で見た事が無いという。
元が良く似ている以上、オルテ以外のドライアドも一目見ればそうと理解するはずだ。
にも関わらず、誰一人として心当たりに挙げる者は無かったのだ。
つまり、元々これらはブラダナーク周辺には居なかった可能性が高い。


ならばこの白い生物はどこから来たのか。
あるいは、突然変異のようにある日唐突に生まれたのか。

そんな事が、何故だか少しばかり気にかかっていた。



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■ 未知の卵胞

詳細不明の環形動物の卵胞。
薄い膜の中に数十匹がひしめいている。
どうやら、未だ生きているようだ。

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輸入ペットの不法投棄によって環境が破壊される現代社会の闇の一旦
いや関係ないだろうけど

安価↓


明けて翌日。
あなた達は野営道具を仕舞い、次の目的地へと出立した。

オルテは卵胞の発見により、魔獣の数の理由は分かったと判断したようだ。
卵胞の中には数十匹の幼体が詰め込まれている。
一つの卵が変異を起こし、魔獣と化したのだろうと彼は言う。
増殖しているように見えたのは完全に変異するまでの時間に個体差があったためだろう、と。


発生源を離れた魔獣の行き先は、実に分かりやすい物だった。
広場からは、何本もの道が伸びている。
魔獣が移動を行いながら木々を食い荒らしたために作られた物だ。
深い森の中に、道の頭上だけが青々とした空を覗かせている。

そこを進むあなた達の間に、会話は無い。
隔意による物では、残念ながらない。

進む毎に、近付いている事が分かるのだ。
地の揺れ、大気の震えが明確にあなた達の元へと届いている。
未だ姿は見えないというのに、重苦しい存在感は既にあなたを押し潰さんばかりだ。


そうして、あなたはついにその威容と対面した。

白く、そしてデコボコとした肉の塊が、蠢いている。
表面は僅かに光沢を持ち、うねりくねる動きも併せて壮絶な生理的嫌悪感を引き立てる。

それは余りにも巨大だった。
体高はまさに見上げる程。
クラッカの木々は、いずれも高く太い。
最低でも一般的な森の倍は優に超える。
だというのに、魔獣を見ているとまるでここが小さな林であると錯覚を起こしそうになる。

体躯の長さもまた凄まじい。
今あなたに見えているのは、魔獣の尻部分だけだ。
頭がどこにあるかは想像すら付かない。
今木々を薙ぎ倒しているために響いているだろう音は遥か遠い。
全力で走ってみたとすれば、頭頂部に辿り着く頃には疲労困憊となっていてもおかしくは無いだろう。


「……あれが、我らを脅かす魔獣だ。
 幸い、潰されさえしなければ危険は少ない。
 調べたいというならば、好きにすると良い」


想像以上の怪物に絶句するあなたへと、オルテの声が掛かる。

彼の顔は冷たさすら感じさせる無表情だ。
しかし、瞳には違う感情も籠められているように見える。


もしここで怖気付き、何もせずに引き返す事を選んだとしても、彼はあなたを責めないに違いない。
むしろ、そうする事を望んですらいるかも知れないと、あなたは感じた。



>>↓2  どうする?


こんな物にどうすれば勝利出来るというのか。
あなたが抱いたのは、そんな考えだった。

魔獣の皮膚が持つ耐久性。
単純な巨体から生まれる規格外の暴力と生命力。
それらを貫き命を奪うなど、とても不可能事としか思えない。
しかも、これと同等の個体が複数存在するとなれば絶望という言葉すら生温い。

それでもやる他無い。
何もせずにいれば、魔獣達はやがて森を食い尽くすだろう。
そして、その被害がブラダナークだけで収まってくれると考えるのは余りに楽観的だ。


あなたは戦慄を抑え込み、頭を働かせる。
だが、手持ちの情報ではどうしようも無い。
魔獣の脅威だけが次々に浮かび、対処法などまるで浮かばない。


焦燥に駆られるあなたへと、オルテの言葉が投げられる。

そこには、力が籠められていない。
濃密な諦観を纏わせて、彼は語る。


「殺すだけならば、我らにも案は有る。

 奴らはあの巨体だ。
 維持のために必要な食事の量は莫大な物だろう

 森を焼き払って食料を奪い、奴らの移動を妨害出来さえすれば、可能性は無くは無い」


吐き捨てるような言葉であった。

ドライアドは森の民だ。
彼らは皆木々を愛し、その隣人として生きている。
森を焼くなど、家族を手に掛けるに等しい行いに当たる。

他に何の希望も無くなった時の、最後の手段なのだろう。


「手がある以上、お前が無理に働く必要は無い。
 余計な手出しが悲劇を引き寄せるという事も、世の中にはままある。

 調べないのならば、離れるべきだ。
 今の所例は無いが、奴が気紛れを起こさないとも限らん」


オルテはあなたから目を逸らし、そう促した。



>>↓2  どうする?


安価取れた所で寝ておきます。
お付き合いありがとうございました。
また明日。


今晩は21時30分位の開始予定です。
よろしくお願いします。


そんなオルテの気遣いを、あなたは振り切った。
あなたの心は立ち向かうべきだと告げている。

オルテが言うように、あなたが何もしなくとも最後には解決される事なのだろう。
ただし、大きな犠牲と民の涙を伴って、だ。
そんな結末を、何もしないままに受け入れられるかと言えば、当然のように否と答える。
民が苦悩を抱えているならば、除かねばならない。


意を決したあなたは、ゆっくりと魔獣へと近付いた。

ちょうど、今は落ち着いているようだ。
白い肉塊は大きく動く様子を見せていない。
構造の観察は容易い物だった。

魔獣の肛門は、長い体躯の後方先端部に存在した。
一定の太さを保つ胴が急速に細まった尻の中央に、確かに小さな穴が見える。
思いのほか狭い。
大人の腕が一本入るかどうかといった窄まりでしかない。
糞の排出時以外はこうして縮まっているのだろう。


ふと思い立ったあなたは、生成の魔法を行使した。
生み出す物は長い氷の棒。
先端を尖らせ、槍のように整えた物だ。

魔獣の外皮はどのような攻撃にも傷を負わなかったという。
だが、口内は刃が通ったとあなたは聞いている。
ならば、肛門からでも同様の成果を出せるのでは無いだろうか。

魔獣は攻撃を受けても反撃をしない事は確認出来ている。
振り返ってオルテと目を合わせても、制止する様子は無い。


反対は無く、あなたが思い留まる理由は消える。
一度大きく腕を引き、窄まりに狙いを定めて槍を勢い良く突き出した。


しかし、それは容易く弾かれた。

異様な感触であった。
あなたの手には何の手応えも返っていない。

渾身の力は完全に殺されている。
弾力で受け止められたようにも思えたが、しかしそれではやや違和感が残る具合であった。
命中の瞬間、唐突に力を奪われたようにすらあなたには思える。

オルテが言っていた異常はまさにこれの事だろう。
確かに、これでは怪我のしようも無い。


あなたはガックリと肩を落とした。
どうやら魔獣の肛門の浅い部分は、外皮と同等の護りが施されているらしい。
こちらを狙うならば、奥の奥まで届く手段か、あるいは糞の排出時を狙う他無さそうだ。


魔獣の肛門について、今分かる事はこの程度だろう。
あなたは槍を一旦消し、そっと距離を取って様子を見た。


>>↓1 コンマ判定 【不運の回避】

幸運 9

目標値 9


【不運の回避】

目標値 9

出目 1

クリティカル!!


この魔獣が一切の反撃を行わない事は既に知っている。
しかし、かといって危険が全く無い訳では当然有り得ない。
ほんの少しの身じろぎが生命を砕く暴虐と化す事は明白だ。

長時間の観察は多大な危険を伴う。
故に、肛門を調べ終えたあなたは警戒から距離を取ったのだが。


「音が止んだな。
 ……どうやら、食休みを決め込むつもりらしい。
 しばらくは安全だろう」


オルテが言う通り、木々を砕く音が消えていた。
だらりと力の抜けた魔獣の体は全く動く気配を見せない。
ミミズに似たこの生物が睡眠を取るかどうかはいまいち疑問ではあるが、昼寝に近い状態だと考えて良いだろう。

もう幾らか調べる事も可能であるようだ。
勿論、大事を取ってここまでで切り上げる事もあなたの自由だが。



>>↓2  どうする?


動かないというならば好都合だ。
あなたはそう断じ、続けて魔法を行使した。


初めに生み出す物は水球を一つ。
それを魔獣の尻へと投げ放り、ばしゃりとぶちまける。
魔獣は、何の反応も見せない。

次に、間を置いて同じ物を三つ。
これもまた、魔獣の尻へ放る。
魔獣は、何の反応も見せない。

更に、少し休んで同じ物を五つ。
しつこく魔獣の尻へと、リズミカルに放る。
魔獣は、何の反応も見せない。


そろそろ気付いても良いはずだがと、あなたは七つを生む。
魔獣の尻へ力強く放るために、あなたは腕を振り被り……。


「その、すまない。
 今お前が何をしているのか、私には全く分からん。
 せめて説明だけでも聞かせて貰えないだろうか」


そこでオルテの言葉がかかった。

だが、返答のために作業を止める事も出来ない。
これには連続性こそが重要であるためだ。
些か行儀が悪い行為だが、致し方無く投擲を続けつつあなたは口を開く。


『この魔獣に、知能はあると思いますか?』

「……?
 いや、見るからに本能だけの獣とか見えないが」

『では、その考えは一度捨てて下さい。
 魔獣とは規格外の生命です。
 どんな低位の生物を元としていても、変異の最中に知性を獲得している可能性は否定出来ません』


あなたの行動は、そんな閃きによる物だ。

この魔獣、白い肉塊に知性があるとしたら。
誰もが有り得ないと否定するだろう仮定である。

だがもし、真であったならば。
そこにあなたは都合の良い希望を見出した。


対話による解決。


馬鹿馬鹿しいと一蹴されるに違いなく。
しかし実現すれば絶対的な勝利と成り得る可能性だ。


あなたの水球は、扉に対するノックに等しい。

相手を高度な知性体として扱い、こちらに気付いてくれとメッセージを送っているのだ。
どうか興味を持って欲しい、と。


「なるほど、我らには全く存在しなかった観点だ。
 犬猫のように言い聞かせようというのか……この化物に」


オルテは神妙な顔で腕を組み、頷いた。
荒唐無稽な閃きであったが、あなたを馬鹿にするような気配は無い。
彼は真実、感心している様子だ。

しかし、表情はすぐに歪められる。
そうして酷く言いにくそうに、あなたへと告げた。


「……ただ、その、なんだ。
 私には水が表皮に届いているようには見えないのだが」


その言葉に、あなたは水球の行方を良く良く観察した。

投げられた水は緩やかに放物線を描いて飛び、魔獣の白い肌に到達し……。
そこで、不自然に動きが変化した。

確かに表皮に当たったように見えた水は、飛び散る事もせずに力無く垂れ零れる。
滑らかな体を伝い落ち、森の地面に水溜りとなって広がった。


あなたは思わず頭を抱えた。
良い閃きだと確信し行動に移した物の、魔獣の護りに阻まれ、無為と散った。
ノックなど届いていなかったのだ。
胸を張って解説をしたというのに、これでは居た堪れない。

収穫が一切無かった訳では無いのが不幸中の幸いだろう。
槍では完全な理解には至らなかったが、水を投げつけたために防御手段は暴く事が出来た。


やはり、何らかの魔法が働いていると考えて良さそうだ。
表皮付近に常に展開されているそれは、触れた物の力を掻き消すらしい。
どれ程強力な攻撃を受けようが、被弾の直前に威力をゼロにしてしまえば、被害など出る訳が無い。
そういう理屈の護りのようだ。

そう分かっただけでも十分だと、オルテはあなたを慰めた。


そこで、あなたの限界が来た。

水球は小さい物とは言え、繰り返し作り続けていれば反動も溜まる。
あなたの体は気付けば随分と動きにくくなっていた。
これ以上の調査は難しいだろう。
魔獣は未だ動きを見せていないが、鈍った状態で近くに残るべきでは無い。


あなた達は道を引き返した。

次に向かうべき所は、もう無い。
南へ下り、ブラダナークに戻るだけだ。





麻痺した体をオルテの背に預けながら、あなたは一度だけ振り返った。

……冷静になれば、あなた自身信じ難い閃きであった。
魔獣は巨大なだけの肉塊である。
知性などという言葉とは遥か縁遠い姿だと、間違いなく断言出来る。

だというのに何故、そんな可能性に思い至ったのか。
そこが全く理解出来ない。


やがて、あなたの視線の先に白い塔が立ち上がった。
実際は鎌首をもたげただけなのだろうが、そうとしか見えない規模だ。
どうやら昼寝は終わりらしい。



"―――アアァアァアアア―――"



あなたの元へ届いたのは、そんな音だ。

源は魔獣。
魔獣は巨大な円形の口を目一杯広げ、胴を波立たせている。
体内から押し出された大気が、どこか人間じみた音を作り出しているようだ。

おぞましい、と。
恐らくは誰もが言うだろう。


しかし、不思議な事に。
それは幼な子が愛らしく伸びをする光景のようにも、あなたには見えた。



【円環暦733年 晩冬 固定イベント 『接触』 了】


【円環暦734年 春 自由行動 1/3】


輪廻の神が齎す年替わりの奇跡は、大森林にも等しく注ぐ。
北の果てより昇った光は万民を照らし、その前世を映し出した。
この時、あなたにとっては意外な事が一つあった。

今年の奇跡は、あなたにも与えられたのだ。

あなたは今まで、輪廻の奇跡を体感した事が無かった。
誰もが光を見詰めて涙を零す中、常にただ一人現世に取り残され続けていた。
それがようやく、神の救済に浴する権利を与えられた事となる。


あなたが垣間見た前世の記憶は、既に明確には思い出せない。
正確な想起は奇跡の夜だけの事。

今や残る物は郷愁と、朧げな白亜の神殿の姿。
そして、そこであなたの手を引く誰かが居たという掠れた記憶のみ。


ともあれ、それは今は重要な事では無い。
前世は前世であり、現世を作り変えるような物では有り得ない。
あなたは思考を現在に戻す。


あの日発見した卵胞は、既にオルテから長の手へと渡っている。
生育に適しているだろう現場の土もいつの間にか採取していたらしく、木箱の中で孵化と飼育を試みるようだ。
育った物を観察・解剖などすれば、有益な情報を得られる可能性は高い。

これに関しては何もすべき事は無いだろう。
時間が経過すれば、あなたを専門家と思い込んでいるオルテ辺りが詳細を教えてくれるはずだ。


また、あなたは既に魔獣の生息域と、そこへ至る道程を把握している。
今後は特に障害無く調査が可能だろう。
一度間近で観察し危険性を理解した以上、あなたから声を掛けない限りオルテが付いて来る事も恐らく無い。


他には、オルテからあなたの貢献が伝わったのか、ブラダナークの民があなたに向ける警戒は僅かに薄れた。

今ならば会話程度ならば出来るかも知れない。
また、多少の奇抜な行動は顔を顰める程度で収めて貰える可能性も出てきたと言えるだろう。

あなたは、自由に行動が可能だ。



>>↓2  今日はどうする?


安価取れた所で、今日はここまでで。
お付き合いありがとうございました。
また明日。

質問
この魔獣の糞は食えるんですか?
ババアはドラゴンの糞を食ってたけど


遅くなりました。
22時位から開始します。
よろしくお願いします。


>>330
今の所は不明です。
魔獣の専門家(誤解)の立場を利用して、食糞を試みても構いません。


魔獣を観察した日以来、あなたは色々と考えていた。
一体どのようにすればあの怪物を討伐、あるいは無力化出来るのか。

正面から挑みかかるなど無謀にも程がある。
重要となるのはやはり搦め手。
内側から弱らせるか、オルテが言ったように餓死を狙うか。

その手段として二つの腹案を組み立てた。


一つは、糞の丘を崩した水の螺旋を用いての口腔破壊。
あなた達が協力して生み出した威力は、正しく地形を変えるだけの力を持っていた。
使用後にろくに動けなくなる事が問題だが、成功すれば確実に飢えさせる事が可能だろう。

二つ目に、氷の容器に毒を封じ、体内の奥深くへと流し込む事。
魔獣は毒を感知し避けるというが、厳重に閉じ込めてしまえば分かりはしないはずだ。
ただ、口内で噛み潰されてしまえば勿論発覚するに違いない。
そのため、こちらの方法でも水流によって体内へと送る必要があるだろう。


これらについて、あなたはオルテへと相談を持ちかけた。


「なるほど……悪くない手かも知れん。
 特に後者は希望が持てるように思える。
 以前に毒を吐き出した時は、そう深くまで呑み込んでいなかったはずだ。
 試す価値は十分にある」


オルテの反応は上々であった。
表情をきりと引き締め、真剣にあなたの案を検討している。

彼が強い興味を持ったのは毒の流し込みだ。
どうやら、ブラダナークには流動性を持つ魔法を操る者は居ないらしい。
そのため同様の手段を試す機会がこれまで無かったようだ。


「可能性があるならば、やるべきだ。
 準備を整えてくれ。
 急だが、明日より向かうぞ」


あなたは思わず目を丸くした。
興味を持ったは良いが、思いの外行動的である。

ともあれ、特に反対する理由は無い。
顔を突き合わせて机上で論を組み立てた所で、実際どうなるかは未知数だ。
実地でやってしまうのが最善だろう。


翌日。
あなた達は早速荷を負い、北へと向かっていた。
荷の中身も、歩む道も前回と同じ。

ただ、一つだけ違う点もあった。


「それにしてもその方法ってさ。
 本当はオルテが思いついたんじゃない?
 昔、ニカの実が食べれなくて団子の中に入れて無理矢理食べてたでしょ。
 そこから出た発想じゃないかなって思うんだよね」


そんな風に口を開く、一人の女性の同行である。

リィタと言う名の彼女は、以前あなたが覗き見たリスのセリアンスロープだ。
種族柄か体格は小さいが、年の頃はあなたよりやや上だ。
リスの獣人としては、丁度妙齢と呼ばれる頃合か。

ブラダナークにおいて毒物を管理する家の娘らしい。
今回、毒の投与を試みるにあたって彼女を連れる事が条件とされたのだ。


栄養は素晴らしいものの無闇に渋い事で知られる小さく赤いニカの実を指先で弄び、リィタは笑う。
ただし、それは表面だけでしかない。
言葉の中身から、彼女が抱く隔意を読み取るのは容易だ。

試みが失敗に終わった場合、魔法の反動であなた達の動きは鈍るだろう。
その際に逃走を補助する役割も任せているのだが、これでは少々の不安が残る。

仕事に私情だけは混ぜないでくれと、あなたは祈る他無い。


眉を顰めるオルテが遠回しに諌めるも、リィタの態度が改善される事は結局無かった。
むしろ、オルテがあなたに向ける申し訳無さそうな視線が気にかかるらしい。
あなたが庇われる度に、リィタの言葉は余計に棘を増して行く。


酷く居心地の悪い道中を必死に耐え凌ぎ、あなた達は集落から最も近い個体へと辿り着いた。
危険が無い距離でしばし時を潰し、木々を砕く音が絶えてから魔獣の眼前へと進む。

同じ魔獣であっても、後方と前方では迫力が違う。
先日に得た戦慄を、多少ながらも慣れたはずのあなたは再び感じていた。

まるで洞窟。
そんな感想が漏れる、巨大な口腔であった。
何層にも連なって生える杭のような牙は、さながら鍾乳石か。
密度は然程でも無く牙と牙の間に立つ事も可能だろうが、ほんの気紛れで咀嚼されよう物ならば即座に挽き肉へと加工されるに違いない。


そんな大口を開けて横たわる魔獣は、どうやら食休みの最中だ。
周囲を警戒する様子は無く、時折僅かに体表を振るわせる以外は何の動きも見せていない。
その気になれば押し潰せる位置に居るあなた達にも、気付いた気配すら無い。

今ならば、水流を流し込む事も出来るはずだ。


『それでは、手順を確認します。

 大量の麻痺毒を私の氷で包み、体内へと送り込む事が、今回の実験内容です。
 決して吐き出せないよう奥の奥まで運ぶ必要があります。
 そのために、先日に丘を崩した 《収斂流転 / 奔流穿孔》 を用いましょう。
 魔獣に過度の刺激を与えないよう、破壊力を持たせてはならない事に十分注意して下さい』

「…………」

「…………」


オルテとリィタの返事は無い。
それをあなたは真剣に聞いている物と理解した。
性懲りも無く飛び出した謎の文字列に対する感想のためだとは、全く想像もしていない。

これまでの道中、重い空気を振り払うためにあなたは混合魔法への命名を試みていた。

当初はリィタから嘲笑うような反応があったが、それを受けて改良を七つも重ねた珠玉の魔法名である。
すごくかっこいい。
リィタの意見も四度目からはほぼ消えていたのだから、同様の意見に達したはずだ。
そう確信するあなたは、十分に満足していた。


二人が纏う微妙な空気はともかく、準備は進められる。

今回使う麻痺毒は、森の茸から抽出された物だ。
そのまま食べるだけでも時に命を奪う事もある、強力な代物である。
それを大量に煮詰め凝縮したという。

過去に現れた他の魔獣は、半分以上がこの毒が直接の死因となったとオルテは語る。
ただし勿論、一般的な水準にある尋常の魔獣の話だ。
規格外の生命たる魔獣の中でも、更に一際規格外であると思われる今回の相手では命を奪うまでは困難だろう。

それでも動きを止めるか、最低でも鈍らせる程度にはなるはずだ。
上手く行けば、魔法の制御を失って表皮の護りが失われる可能性もある。


一抱えもある大量の毒薬をしっかりと氷で覆い、あなたはオルテ達を見た。
二人はしっかりと頷き、リィタはオルテに寄り添う。
魔法の反動が発生した場合、より重篤となるのはオルテだ。
あなたは不定形の体を持つ。
十全に動く部分の水を使い、今はもう慣れた多脚を展開すればある程度は補える。


そうして、あなた達の試みは始まる。

毒を封じた氷塊は水球の中に浮かぶ。
間を置かず回転を始めたそれは、丘を砕いた時と同様に放たれた。

目標となる口は広い。
オルテが狙いを誤る理由は無く、口腔内へと突き進んでいく。


対する、魔獣の反応は……。



【体内への衝撃】

耐久 84 (魔獣)
加減 9 (半減)

威力 -17
精練 -3
弱点 -5
感覚 -1 (魔獣)

目標値 67


(自動成功として扱い、判定を省略します)


いっそ全く無いと言って良い程、反応は乏しい。

突如流れ込んだ水流に一度ビクリと震えて、それだけであった。
あなた達の混合魔法を体内に受けて揺るぎもせず。
食休みを止めようという気配すら感じられない。

確かに、あなた達は加減をした。
無用な刺激を与えて暴走を引き起こすなどという間抜けを犯さないよう、殺傷力を限界まで削り切った。
それでも大概の生物から命を奪い去るには十分だったはずだ。

だというのに、魔獣が負った損傷は水の勢いによって傷付いたらしく、赤い血液を口から溢れさせている程度に過ぎない。
巨体から考えればごく軽い物だろう。


……あなた達の体は、強烈な反動を受けて碌に動かない。
そんな状態で全力での逃走を行う必要はどうやら無い。

しかし、その事実に対する安堵は、心のどこを探しても存在しなかった。


>>↓1 コンマ判定 【毒の効果】

基準値 5

強度 4
毒量 5

耐久 -84 (魔獣)

目標値 -70


【毒の効果】

目標値 -70

出目 5

通常失敗


やがて、魔獣は食休みを終えた。
以前見たのと同じように鎌首をもたげ……。


"―――アァァア、ァ……"


これもやはり以前と同じ声を上げようとし、しかしそれは途中で止まった。
欠伸するように広がった口の端がピクピクと震えている。
また、持ち上げられた頭は力無く下ろされた。

ここに至って、ようやく異変を感知したのだろう。
魔獣は長い体を困惑にくねらせている。

そこに常の力は篭って居ない。
薙ぎ倒される木々も最小限の範囲だ。
速度も鈍く、確かに毒の効果が現れている事は明白だろう。


だが、それが何だと言うのか。

逆に言えば、過去に幾つもの命を奪った毒を大量に飲ませた所で、この怪物は動く力を残しているという事だ。
僅かな身動ぎが精一杯のようだが、それでも近寄る生物を殺し尽くすだけの暴威を持つ事は間違いない。

今回用いた毒は茸を原料とした物であり、用意出来る量には限度がある。
新たに収穫する物と備蓄とを合わせたとして、五度も用いれば完全に底を付くとの事だ。
動きの鈍った所に全てを流し込んだ所で、一匹を仕留められれば神に感謝を贈らねばならないだろう。

この魔獣は複数体、最低でも六匹が確認されている。
どう足掻いても不足だ。


唯一の好材料は、この手段は有効であると分かった点だ。
無理矢理に体の奥へと入れられた毒は全く感知されず、嘔吐の前兆らしき動作も無かった。
同様の手法で何かを送り込む事は、今後も可能だろう。


最後に、あなたは未練たらしく極小の水球を生み出し、放り投げた。

表皮に命中した水は慣性を無視した動きで力を失い、地へと垂れる。
魔法の護りは未だ健在だ。
少なくとも、麻痺程度では破る事は出来ないらしい。



>>↓2  他にやるべき事があれば行動できます (引き返しても構いません)


あなた達は反動が消え去るまでを休憩に当て、その後に失意と共に道を引き返した。

あなた達と魔獣。
回復が早かったのは、後者であった。
しかし、その事実が命を脅かす事態を引き起こす事は無い。

麻痺から立ち直った魔獣は、最早困惑など忘れ去っているらしい。
何事も無かったという風情だ。
先程は失敗した欠伸を今度こそと行い、その場に糞をして去っていった。

敵対行動との認識すら持たれていない事に、あなた達の誰かから笑いさえ漏れた。



折角だと、あなたは新鮮な糞を一掴み程、袋に採取する。
何が魔獣攻略の糸口となるかは分からない。
僅かでも可能性があるならば試すべきだという判断である。

その様に対する文句は、さしものリィタでも口に出来ないようだった。


【円環暦734年 春 自由行動 2/3】


糞から分かった事は、特に無かった。

特殊な物質は見つからず、未知の性質も持っていない。
十分に消化され、土のような状態となった元樹木だと分かっただけだ。

行き詰まりから沸騰した頭で糞を食してみた所で、やはり何の成果も無い。
意外な美味であるという奇跡もまた、起こるはずが無かった。

専門家とはそこまでやらねばならないのかと、オルテが驚愕していた事だけが唯一の出来事だ。


あなたは集落の外れで木にもたれ、北を見詰めた。
今日も魔獣は、そこで暢気に森を侵しているのだろう。



>>↓2  今日はどうする?


安価取れた所で、今日はここまでで。
お付き合いありがとうございました。
また明日。


■ 現在のあなたのステータス


【難度 / NORMAL】

【14歳 女性 / 現実世界の人間換算で14歳相当】


【種族 : ヒュドール】

水の体を持つ種族。
知性ある水とも言える彼らは他種族と大きく異なる生態を持つ。
精神的能力と魔力の親和性に優れるが、身体的能力に乏しい。

【種族能力 : 水の隣人】

定まった形を持たない彼らは自身の姿を自在に変更出来る。
外見の変更を自由に行える。
また、物理的ダメージを軽減する。
代償として、水の少ない地域では、継続的にダメージを受け続ける。


【筋力】 2 (平均)
【耐久】 3 (優秀)
【器用】 8 (優秀)
【敏捷】 10 (怪物)
【感覚】 1 (蔑視)
【意思】 7 (劣等)
【魔力】 8 (平均)
【幸運】 9 (評価無し)


【出身地 : ディスリス / 川沿いの村】

【現在地 : クラッカ / ブラダナーク大集落】


◆ 習得魔法

【種火】
【清水】
【微風】
【土塊】

【恍惚】
魅了に類する精神系魔法。
他者の心をとろけさせ、言葉を潜り込みやすくさせる事が出来る。
また、自身に使用する事で極めて強力な自己暗示を行える。
一時的に虚偽を真実と完全に思い込む、自身を超人と認識し絶対的な自信を得る、など用途は多岐に渡る。
魔法の行使は意思に大きな影響を受けるため、ブーストとも成り得る。
効果時間は最大でおよそ半日。

【精練】
魔力や物体に対して使用する事で、対象の効果を強化する。
次回使用する魔法の規模拡大、治療薬の効果増大、香辛料の辛味倍化、など。
効果時間はおよそ一時間。

【生成】
魔力を素材とした物体を生成する。
水との関連性が高ければ高い程、生成量と生成速度が強化される。
生成物は30分を限度として消失する。
体内に取り込むなどした場合も同様。

【破綻】
物体や魔法の根幹部を乱し、その構成を破綻させる。
物体に対し用いれば軽度の衝撃を伴った崩壊、魔法に対し用いれば魔力の離散による効果低減、あるいは無効化が発生する。
破綻の度合いは自信の魔力と対象の強度による対抗判定の結果による。



◆ キーワード

【天涯孤独】
【秩序 / 善】
【富裕層への殺意】
【王家の末裔 / 自称】
【中二病】


■ 所持品一覧


◆ 6400 Casa

共通交易通貨。
カダスティア大陸において、使用出来ない都市はほぼ存在しない。


◆ 霊銀の儀礼剣

基礎攻撃力 : 2

魔術補正 : 2

希少鉱石である霊銀、別称ミスリルによって作られた儀礼用の短剣。
武器としての能力は最低限だが、周囲の魔力を引き寄せ魔法行使を容易にする特性を持つ。


◆ 白猫

感覚 : 7

街の片隅で見つけた適当な猫。
当初は精神支配によって懐かせていたが、現在は普通のペット状態。
人から餌付けされていたのか野生らしさを全く失っており、能力値が低下している。
連れている限り、危機感知判定など感覚を用いる一部の判定を白猫の能力値で行える。
ただし、白猫を働かせるためには【恍惚】の魔法を行使する必要がある。


◆ 魔除けの鈴

魔除け補正 : 2

とあるドライアドが作った小さな木製の鈴。
涼しげながらもどこか物悲しい音色が特徴。
悪意を掻き消し災いを退けると、クラッカの一部の集落に伝わっている。


◆ 未知の卵胞 ← NEW

詳細不明の環形動物の卵胞。
薄い膜の中に数十匹がひしめいている。

現在、ブラダナークの長によって管理飼育されている。


今晩は20時30分~21時位の開始予定です。
よろしくお願いします。


現状はどうにも行き詰っている。
魔獣の表皮を貫く手段は無く、毒を飲ませる事には成功したが決定打とはなり得ない。
卵胞は順調に育っているようだが、孵化まではもう少しかかるようだ。

どうした物かと悩むあなたは少し別の事をして意識を切り替える事とした。
僅かでも頭を柔らかくすべく、気分転換を図るのは悪くない選択だろう。

そのための手段として、あなたは一つ思い出した。

ブラダナークから北へ進み、魔獣の縄張りを越えた先の小集落。
そこには現在一人のイスナ教徒らしき人物が滞在しているという。
彼らと直接に接触した経験はあなたには無いが、大半が破天荒かつ厄介な人物であるという知識ならばある。
日々に求める刺激としては十分に違いない。


数日の短い旅となるだろうが、旅の糧を疎かにしてはならない。
森の恵みの中には食用に適さなかったり毒を含む物も少なくない。
揃えられるならば出発前に揃えるべきだと、あなたは多少の労働と引き換えに干したニカの実を入手した。

それなりに信頼を獲得したオルテの紹介である。
彼は大半の住民達から隔意を持たれているものの、幾らかは例から漏れる者も居るようだ。
特に若者達はオルテの善性と誠実さに惹かれる割合が多いように思える。
先日同行したリィタなどが代表だろう。
口利きで仕事を得るには特に問題は無かった。


さて、入手したニカの実であるが、これは酷い難物だ。

栄養価は抜群に高い。
山林で遭難した者がたまたま見つけたニカの実のお陰で死を免れた、という話はそれなりに有り触れている。
一粒一粒は指先で摘める程度には小さいが、数え切れない量が密集して生るために木さえ見つければ大量の採取も容易だ。
また、干して加工すると優に半年以上品質を保つ優秀な保存食となる。

ここまでは良い。
神が齎した果実とさえ言ってしまって良いだろう。
問題となるのは……凄まじいという言葉が適切な、味だ。


初めてニカを口にした者の行動は決まっている。
食品として有り得ないレベルの渋味に、思わず掌に吐き出すのだ。

甘みや酸味といった果実に良く有る楽しみなど欠片も無い。
ただただひたすらに渋く苦いだけの、まるで薬のような代物。
これは干そうが焼こうが煮ようが、決して消えない。
調味料をふんだんに用いて濃厚な味付けをしようとも、嚥下した後に胃の中から込み上げるように襲い掛かってくる。

これを常食と出来るのはヒュドールぐらいの物だろう。
味を感じる機能を一時的に体から無くせば良いだけだ。
勿論、逆に言えば味覚が鈍いあなたであっても、味わってしまっては盛大に顔を顰めざるを得ないという事でもある。


「私は、今ほどヒュドールを羨ましいと思った事は無い」


干しニカが詰まった袋を手渡すオルテは神妙な顔でそう言っていた。
リィタが言っていた通り、彼はこれが大の苦手らしい。
何とも微笑ましい話であった。


【円環暦734年 春 ブラダナーク北の小集落】


さて、そんな人気の無い保存食を消費しつつ、あなたは森を進んだ。
小集落までは然程の距離でも無かった。
途中必要とした野営は一夜だけ。
休憩の間に魔獣に潰されてはたまらないと急いだ結果でもあるだろうが。

森の中に現れた広場、一本だけの巨大樹の下の集落は小さい規模の物だ。
七つの大樹に抱かれるブラダナークとは比較にならない。
あなたが生まれ暮らした村と同等か、やや小さいぐらいか。
これ程の小集落ならば恐らくは住民全てが家族か親戚のような物に違いない。


そんな集落の入り口であなたはしばし待った。
ブラダナークと同様に、周囲の森を監視するドライアドの門番が居るはずだ。
既にあなたの到来は感知されていると考えるのが自然。
無断の進入は良くない結果を招きかねないと、あなたは当然に判断した。


『………………』


しかし、どれほど待っても門番は姿を現さない。
念のためとオルテを呼ぶ時のように木々に声をかけるも、やはり無反応だ。

この場から見える範囲には住人の姿は見当たらない。
だが、どこからか人々の声だけは届いている。
集落丸ごと留守にしている、などという訳でも無いようだが……。



>>↓2  どうする?


あなたは止むを得ず、木に登った。

どう考えても、門番はあなたに気付いていないようだ。
だからと言って無断で踏み入る事も憚られる。
まずは見つけて貰わなければどうしようも無い。

体の構成を変え、幹に抱きつくような形の脚を数本生み出し、わしゃわしゃと虫のように登る。
子供が見れば逃げ出しかねない光景であるが、効率を考えればこれが一番だ。


そうして高みに至ったあなたは、すぐさま生成の魔法を用いた。
生み出すのは大きな水球である。
それを振り被り、力一杯に地面へと投げ落とす。

地に激突した水球は当然のように弾け、盛大な音を立てる。
集落の者が気付くには十分だろう。
水であれば土地に対する被害も無く、生成で作った者は時間経過で消え去るので余計な物が残る事も無い。
そう悪くない手だ。


事を終えて木を降りながら、あなたは嘆息した。

生成は物を生み出すだけの魔法である。
残念ながら、生成物を運動させるような力は無い。
もしそうでは無かったならばわざわざ木を登らずとも良かった。
それこそ、水の花火でも打ち上げる事が出来ただろう。


「いや、申し訳ないね御客人。
 ちょっと取り込んでた物だから」


ややあって姿を現したドライアドの中年男性は、カエデの葉が茂る頭を掻き回して謝罪した。
表情と言葉に棘は無く、ブラダナークのような過度の排他性は持たないと窺える。

どうやら彼が門番らしい。
手には長い棒を持ち、やや息を切らしている。
走ってきた訳でも無いので、何か別の仕事で忙しくしていたのだろう。

ただ、門番の任を放ってまで取り組む物事とは何なのか。
疑問を持ったあなたは、早速尋ねてみる事とした。


『いえ、構いません。
 ところで、取り込んでいたというと何かあったんですか?』

「あぁ、まぁちょっとな。
 集落の恥を晒すようだが……盗人の捕り物だよ」


あなたが探していたイスナ教徒は、実に容易く見つかった。
門番までも動員させた盗人というのが、その本人だったのだ。


「あんたら皆クソだわ!
 私がくれてやった恩はどこに捨ててきたのよ!
 恥を知りなさいよこのチンカス野郎!!」


縄で縛られ、丈夫な枝に吊るされ、それでもその人物は元気良く罵声を吐いていた。
監視しているのだろう数人の若者も頭を抱えている。
彼らの誰もが顔を腫らしていたり、体のどこかを擦っている辺り、捕縛の際には相当に暴れたらしい。

それはミーニアの女性であった。
手入れのされていない伸ばし放題の黒髪。
怠惰な生活ぶりを予想させるだらしのない体つき。
衣服もまたいかにも適当な安物を見繕っただけとしか見えず、皺だらけだ。

街で見かけたならば誰もが顔を顰めるだろう有様だ。
森の中でもドレスを模る事を欠かさないあなたにとってはいかにも相容れないように思える。


「恩知らず! 恥知らず!
 ゲジの脚にも劣るクズ揃いの集落ね!
 私のお陰でどんだけ美味い物食えるようになったか思い出してみなさいよ!」

「……だからこれまでは見逃しただろうが。
 流石に十度目ともなれば長の堪忍袋も破裂するに決まっているだろう」

「あいつの酒が何だってのよ!
 クッソ不味い安酒で青筋立てるとかどんだけ器が小さいのかしら!
 あっ、ちょっとやめなさ……やめろっての! 痛い痛い!」


叫び続ける女性は長い棒の先で小突き回され始めた。

いい加減耳が痛くなりでもしたのだろう。
勿論、物理的に。


話を聞けば、彼女はある日唐突に集落を訪れ、美味を齎したという。

何でも無いと思っていた有り触れた森の恵み。
その旨みを最大に引き出す術を伝授したのだ。
日々の食事はその質を数段上げ、集落の人々は大変に喜んだ。
食を司る女神の使いとまで湛えられ、請われるように集落の一員となった。

……が、いざ生活を始めて見るとこれが問題続きであったらしい。

彼女の食への執着は真っ当な領域に収まる物では無かったのだ。
美味のためならば何でもする。
そう表現して全く正しい。

集落の備蓄。
隣家の夕飯。
長の酒蔵。
それらにやりたい放題に手を付け、美味の恩恵を盾にろくに謝りもしない。

その結果が、今目の前にある光景に繋がったようだ。


抵抗も出来ないままに小突かれるのは堪えたのか、やがて女性は静かになった。
とはいえ、罵倒を止めた訳では無さそうだ。
良く良く見れば口元が微かに動き、ぶつぶつと恨み言を漏らしているのが分かる。

……相当に性格が悪い。
あなたがそう確信し、無意識に一歩下がるには十分な難物のようだ。



>>↓2  どうする?


とりあえず、あなたは女性を庇いに入った。

盗人とは言うが、彼女が盗んだのは食料と酒だけのようだ。
食料の豊富なクラッカにおいてはそう重い罪では無いだろう。
吊るされている現状だけで十分な罰のはずだ。
小突くだけとはいえ、痛みまでを受けさせる事は無い。

本日二度目の生成によって、女性の周囲に水の壁を作る。
棒を持つ若者はそれに驚いたのか、慌てて数歩下がった。

流石に警戒したように睨まれもしたが、危害を加えた訳でも無い。
理を諭せば、彼らもすぐに引き下がった。
むしろ気まずそうに顔を見合わせている。

……ただ、それを見た女性の反応の方は問題があった。


「よっしゃ、そこのあんた良いわよ!
 そいつらに思い知らせるのよ!
 地面の上で溺死させてやって頂戴!」


ぐったりしていたのは何だったのか。
早速元気になった彼女は再度ヒートアップし、あなたをけしかけようと喚いている。


『……苦労、してそうですね』

「…………あぁ、それはもう」


勿論、あなたがそんな言葉に従う理由は存在しない。
あなたは若者を労い、肩を落とす彼に静かに同情した。


さて、あなたの目的の相手は目の前に居る。
女性に与えられた罰は一晩の拘束であるらしい。
今日はどこにも移動出来ない以上、暇潰しもままならないだろう。

初対面のあなたであっても、対話には快く応えてくれると思われる。



>>↓2  自由に対話が行えます。


今気付いたのですが、少し修正を。

ブラダナークから小集落までは、四日程をかけた事と変更します。
考えてみたら一日と少々で来れてはこっちの集落の方が魔獣に近くなってしまうためです。
大筋には影響を与えません。


あなたは女性に話しかけ、愚痴くらいなら聞こうと持ちかけた。

無論、若者達には了承を取ってからだ。
特に反対は無い。
小突かずとも静かになる手段があるならば、彼らにとっても有益だからだろう。
叫びさえしなければ多少口を開く程度を咎める事もあるまい。


「本当にここの長と来たら、ケツの穴が小さいったらないわ。
 大事にしてた酒もどんだけの物かと思ったらどこにでもある果実酒よ?
 私の方がよっぽど上等な奴作れるっての。

 むしろ罰を受けるべきはアイツよ。
 私に期待させるだけさせといて……縛り首に値する重罪じゃない?

 あぁもう思い出すだけで腹立ってきた。
 ちょっとそこのあんたら。
 あのカス野郎に伝えといてよ。
 ゴミみたいな酒で満足してる程度の馬鹿舌がデカい面して威張ってるんじゃない、ってさ」


女性の言葉は途切れる事無く吐き出される。

あなたは頬を引き攣らせ、曖昧に笑う事しか出来ない。
他人の酒を盗み呑んでおいてこの言い草である。
全く理解出来ない思考を持つ事は、既に嫌と言う程に把握出来た。


それでも、あなたは根気強く女性の愚痴に付き合った。
あなたは目的あって彼女に接触したのだ。
引き下がる訳にも行かない。

話の合間に僅かずつ口を挟む事で、軌道修正は進んでいく。
愚痴から始まった内容は、今や彼女の食の遍歴に関する物となった。

どれ程の美味を口にしてきたか。
その最中にどれ程の外れ、思い出すだけで眉間に皺が寄るゲテモノに出会ったか。
女性はどこか自慢げに語っていく。

丁度良い所だと、あなたは判断し問いかけた。


「虫?
 そうね、虫を食べる地域は結構あったわ。
 芋虫辺りは大体外れが無いから好きよ。
 あのクリーミーさは癖になるのよねぇ……」


どうやらあなたは当たりを引いた。
女性は虫食も嗜むらしい。
それならば、魔獣の元となったミミズに似た生物について何らかの知識を持つ可能性もある。


意気込んでおおよその姿を伝えてみた所、やはり心当たりがあるようだった。
その生物の更なる特徴について、彼女はあなたに尋ねる。


「白いミミズねぇ。
 それで卵胞で生まれて、植物を食べる。
 口の中は牙だらけ。

 ……多分アレかな。
 確認だけど、そいつって鳴く?」


確証は持てないが、とあなたは答えた。

あなたは既に魔獣の欠伸のような動作を目にしている。
その際に発せられた大音も記憶に新しい。
単に巨体から押し出された空気の流れによる物と考えていたが、確かに鳴き声と言えなくも無い。


あなたの返答によって、女性は確信に至ったようだ。


それは白腕虫と呼ばれる種であると、彼女は言う。
名の由来は体の白さと、成体がちょうど人の腕と同等の太さになるためであるそうだ。

生息域はディスリスの中心部。
他に少数ながらシアラ・ミニアの湖畔でも見る事が出来る。

虫と名に付いているが、実際の所これは虫では無いという。
肉の内側には蛇に似た骨を持ち、臓器は蛙などに近い。
皮膚では無く大口で呼吸を行っており、鳴き声を上げるミミズと言えばこれだと。

主に湿った土地を好み、湿地を泳ぐように這い、若木などを主食とする。
肉に対する興味は全く無い上に攻撃よりも逃走を選ぶ習性のため、襲われる危険性は少ない。
ただ、時折勘違いしたのかドライアドに噛み付く場合もあるようだ。
指や腕を引き千切られるという例は僅かだが存在するとの事だ。


また、彼女は白腕虫の味についても語った。
淡白な肉は臭みが少なく、味付け次第でどうとも転ぶ悪くない品だそうだ。
ただし弾力に富みすぎてナイフで切るにも噛み切るにも手間がかかる。
別にもう食べなくても良い、との感想であった。


「この辺では見ないはずだけど……誰かが持ち込んだのかしらね。

 ま、それはともかく知りたい事は大体分かったわ。
 どうせ駆除したいとかでしょ?
 見た目不気味だし、好きな奴ってあんまりいないのよね。

 苦手なのは臭いよ。
 あいつら、目が無いでしょう?
 代わりになってるのが嗅覚みたい。
 強烈な悪臭でも用意してやれば方向感覚まで失ってのた打ち回るしか出来なくなるの。
 逃げられなくなってる間に棒で叩いてやればその内死ぬわ。

 あぁ、一斉に駆除したいなら引き寄せるのも有りね。
 そっちの場合はニカの実を干して磨り潰した粉が効くわ。
 あいつらの好物なのよ」



味に関してはともかく、有益な情報は確かに得られた。

相手は虫では無く、脊椎動物であった。
見た目は環形動物そのものなのだが、本当の専門家である彼女が言うならば確かだろう。
卵胞の中身が育てば確証も得られるに違いない。


棒で叩けという言葉は魔獣と化した個体相手では無意味極まるが、他は十分である。
少なくとも、幼体が育つ前に知れたのは大きな成果だ。


また、あなたは他に毒物についても情報を得た。

が、こちらに関しては特に有益な物は見当たらない。
草木、茸、蛇を代表格とする動物。
毒を持つ種は多様に存在するのだが、魔獣に対抗するには不足する物ばかりだ。
強力な物はあっても、大量に用意する事は難しい。
前回利用した茸の麻痺毒より強い物は入手出来ないと考えて良いだろう。

それ以上となればそれこそ、毒に満たされている禁忌の森にでも踏み入れと彼女は言葉を締めた。


話は、そこで強制的に切り上げられた。
禁忌の森について言及した直後、監視の若者達が顔色を変えてあなた達を引き離しにかかったのだ。

ブラダナークでなくとも、どうやら魔女の遺恨は深い。
彼らの間では名を出す事すら禁忌に近いらしい。
まして踏み入れなどとは、間違っても口にしてはならないようだ。

あなたは若者達に素直に従った。
聞くべき事は聞けた。
抵抗してまで残る理由は無いだろう。


集落の隅を借りて一泊し、翌日にあなたは発った。
得られた情報は飼育の助けにもなるはずだ。
早々に伝えておくべきだと、あなたは帰路を急ぐ事とした。


といった所で、今日はここまでで。
お付き合いありがとうございました。
また明日。


なお、ミミズにしか見えない脊椎動物は実在します。
名前を失念してしまったのですが、両生類だったはずです。
興味のある方は是非どうぞ。
写真は中々のキモさでした。

(モデルという訳でも無いので、特に調べる必要はありません)

マジか首だけフルフルみたいな生き物なんて本当にいるのか


■ 現在のあなたのステータス


【難度 / NORMAL】

【14歳 女性 / 現実世界の人間換算で14歳相当】


【種族 : ヒュドール】

水の体を持つ種族。
知性ある水とも言える彼らは他種族と大きく異なる生態を持つ。
精神的能力と魔力の親和性に優れるが、身体的能力に乏しい。

【種族能力 : 水の隣人】

定まった形を持たない彼らは自身の姿を自在に変更出来る。
外見の変更を自由に行える。
また、物理的ダメージを軽減する。
代償として、水の少ない地域では、継続的にダメージを受け続ける。


【筋力】 2 (平均)
【耐久】 3 (優秀)
【器用】 8 (優秀)
【敏捷】 10 (怪物)
【感覚】 1 (蔑視)
【意思】 7 (劣等)
【魔力】 8 (平均)
【幸運】 9 (評価無し)


【出身地 : ディスリス / 川沿いの村】

【現在地 : クラッカ / ブラダナーク大集落】


◆ 習得魔法

【種火】
【清水】
【微風】
【土塊】

【恍惚】
魅了に類する精神系魔法。
他者の心をとろけさせ、言葉を潜り込みやすくさせる事が出来る。
また、自身に使用する事で極めて強力な自己暗示を行える。
一時的に虚偽を真実と完全に思い込む、自身を超人と認識し絶対的な自信を得る、など用途は多岐に渡る。
魔法の行使は意思に大きな影響を受けるため、ブーストとも成り得る。
効果時間は最大でおよそ半日。

【精練】
魔力や物体に対して使用する事で、対象の効果を強化する。
次回使用する魔法の規模拡大、治療薬の効果増大、香辛料の辛味倍化、など。
効果時間はおよそ一時間。

【生成】
魔力を素材とした物体を生成する。
水との関連性が高ければ高い程、生成量と生成速度が強化される。
生成物は30分を限度として消失する。
体内に取り込むなどした場合も同様。

【破綻】
物体や魔法の根幹部を乱し、その構成を破綻させる。
物体に対し用いれば軽度の衝撃を伴った崩壊、魔法に対し用いれば魔力の離散による効果低減、あるいは無効化が発生する。
破綻の度合いは自信の魔力と対象の強度による対抗判定の結果による。



◆ キーワード

【天涯孤独】
【秩序 / 善】
【富裕層への殺意】
【王家の末裔 / 自称】
【中二病】


■ 所持品一覧


◆ 6400 Casa

共通交易通貨。
カダスティア大陸において、使用出来ない都市はほぼ存在しない。


◆ 霊銀の儀礼剣

基礎攻撃力 : 2

魔術補正 : 2

希少鉱石である霊銀、別称ミスリルによって作られた儀礼用の短剣。
武器としての能力は最低限だが、周囲の魔力を引き寄せ魔法行使を容易にする特性を持つ。


◆ 白猫

感覚 : 7

街の片隅で見つけた適当な猫。
当初は精神支配によって懐かせていたが、現在は普通のペット状態。
人から餌付けされていたのか野生らしさを全く失っており、能力値が低下している。
連れている限り、危機感知判定など感覚を用いる一部の判定を白猫の能力値で行える。
ただし、白猫を働かせるためには【恍惚】の魔法を行使する必要がある。


◆ 魔除けの鈴

魔除け補正 : 2

とあるドライアドが作った小さな木製の鈴。
涼しげながらもどこか物悲しい音色が特徴。
悪意を掻き消し災いを退けると、クラッカの一部の集落に伝わっている。


◆ 未知の卵胞

詳細不明の環形動物の卵胞。
薄い膜の中に数十匹がひしめいている。

現在、ブラダナークの長によって管理飼育されている。


今晩は21時30分~22時位の開始予定です。
よろしくお願いします。


>>411
思い出しました。
アシナシイモリという両生類がそれです。
どこからどう見てもミミズ。
かろうじて口元が違うくらいです。


【円環暦734年 春 自由行動 3/3】


往路と同様、数日をかけてブラダナークへと戻ったあなたは、すぐに得られた情報をオルテに伝えた。

どうやら丁度良いタイミングであったようだ。
卵胞は孵化したのだが、動きが鈍く成長が心配されていたらしい。
解剖するにしても幾らか育ってからで無ければ検分に支障も出るだろう。
彼らは気が気では無かったはずだ。

すぐさま木箱の中に水を加え環境を整えるとオルテは言い、立ち去った。
当然同時に伝えた好物に関しても準備するとの事だ。

恐らく、これで問題無く育ってくれるに違いない。
あなたが何もせずとも成長出来ただろうが、その数は乏しい物となった可能性が高い。
これもまた、小さくない功績と考えて良さそうだ。


それから数日。
小集落への往復の疲労も癒え、あなたは納屋の中でさてどうすべきかと考えていた。

幼体についてはもう少し時間が必要だ。
環境を整え適切な食事の情報を伝えた以上、これに関してすべき事はもう無いだろう。
季節が変わる頃には何かしら分かるはずだ。

では他に、今やっておく事は何かあっただろうか?



>>↓2  今日はどうする?


すみません、始めておいて何ですがちょっと今日書けそうにありません。
いまいち頭が回らず文章にならない感じです。
申し訳ありませんが、明日に回させてください。


昨日は失礼しました。
21時に開始します。
よろしくお願いします。


「悪臭か……。
 手軽な物はやはり糞尿だろうな。
 普段は家毎に掘った穴に埋めているが、集落の外れにでも溜めておけないか検討しよう」


あなたは魔獣の鼻を潰す手段を求め、オルテがそれに回答した。
オルテの独断だけでは肥溜めの設置は出来ない。
だが、事が事だけに反対する者はいまい。

悪臭としてはこれで十分であるはずだ。
森を巡って悪臭を放つ植物や動物を探す事も出来るだろうが、量を用意するのは困難だろう。

勿論、それでも試みてみるのもあなたの自由だ。



>>↓2  どうする?


次に、悪臭に強い者と言えば誰かとあなたは尋ねた。
すると、オルテは曖昧な表情でしばし沈黙し、それから返す。


「思うに、私の目の前に居るのではないだろうか」


まさしくその通りだと頷く他無い。

味覚と同様、臭いを感じ取るかどうかを自身で選択できるあなたこそが最も悪臭に強い。
根本的に嗅覚を無くしてしまえるならば耐性がどうこうという話にすらならない。


ただ、悪臭に強い事と糞尿の取り扱いへの適性についてはまた別だ。

あなたは穢れに弱い。
他の種族ならば頭から汚物を被った所で笑い話で済むだろう。
だが、もしまかり間違ってあなたの体内にでも入ってしまえば死の危険すら有り得る。

魔獣との決戦において悪臭を利用するにしても、あなたが使う事だけは避けるべきである。


「あぁ、それは確かにそうだな。
 そんな理由で死なれてはこちらもどうすれば良いか分からん。
 特に考えた事も無かったが、臭いに強い者を探しておこう」


とはいえ、これは杞憂でもあるだろう。

実際に魔獣を討伐するとなれば、ブラダナーク全体での共同作戦となるはずだ。
あなた達だけが矢面に立つ事は有り得ない。
何もせずとも、糞尿の投擲に回されはしなかったと思われる。
無論、念には念を入れるのも悪い事では無い。


「他には、何かあるか?
 無ければ私は急ぎ長に伝えに走るが」


オルテは背を凭れさせていた幹から離し、集落の中央へと視線を向けた。
その先には長の住む家がある。

里の長としては珍しい事に、他の家とそう変わりない大きさの家屋に暮らしている。
あなたは未だ踏み込んだ事は無いが、恐らく内部も平凡なのだろう。
それが長の人柄による物か、あるいは別の理由が存在するのかまでは不明だが。



>>↓2  どうする?

自分で加速して取るようなん許してるんだから
↓2じゃなくて↓1でいいんじゃないの>>1


長の家へ向かおうとするオルテを、あなたは止めた。
最後にもう一つ知っておくべき事がある。

周辺の、特にドライアドの犯罪者についてである。

もしあなたが一人で居る時にドライアドに声を掛けられたとしよう。
その人物が近隣集落の者だと名乗れば、あなたに判別する方法は現状存在しない。

情報を知っておく事があなたを救うという可能性もあるだろう。


「話は分かった。
 ならば丁度良い、お前も共に来ると良い。
 その類は長が一括して管理している」


と、そういう事になった。

絵の形で記した物は長しか保管出来ない決まりらしい。
口頭で伝えるにも限度があるだろう。
あなたはオルテの言に従い、集落の中央へと足を向けた。


集落の長は、ガナという名の枯れ果てた老爺であった。

大きく広がったイチョウの髪、罅割れたようなマツの肌。
若い頃は力強さを感じさせただろうそれらは、今にも抜け落ち、あるいは砕けて消えるのではないかとすら思える。
実際に、ローブから伸びる細い手足には樹皮が失われ肉の層が顔を見せている部分もある。

恐らく、ドライアドとしての平均的な寿命を超えている。
下手をすればヒュドールの老人にも迫るだろう。

何故ここまで生きていられたかは、目を見ればおおよそ理解出来た。
暗く落ち窪んだ眼窩は亡者そのものでありながら、異常な生気に満ち満ちている。

ただ、それは良い物では無い。
名を付けるならば執念以外に有り得ない。
世に残り為すべき事があるのだと、緑色の眼光が無言で物語っていた。


ガナは、椅子に腰掛けたまま眼球だけをグルリと動かし、あなた達を睨みつけた。
まるで獣のようだ。
見られただけで猛烈な敵意を確信せざるを得ない鋭い視線に、あなたは体を締め付けられる感覚すら感じたかも知れない。


「…………貴様が、件の余所者か。
 忌々しい事だ。
 何故この里にばかり厄介事が持ち込まれるのか。
 魔獣に、忌み子に、余所者。
 あぁ……見ているだけで煩わしい」


異常なのは視線だけでは無い。
吐き出された声には明確な憎悪が篭っている。
それも、あなたがこれまでの人生で一度も直面した事の無い濃度である。
何故彼が刃物を手に立ち上がらないのか不思議な程だ。

あなたは確かに、ブラダナークにおいて隔意を向けられていた。
だが、流石にここまでとなると余りにおかしい。


「長、この者は確かに余所者です。
 しかし、魔獣に関し多数の貢献がある事も……」

「黙れ」


あなたをここへ連れてきたオルテが間に入ろうとするも、まるで無駄だ。
取り付く島も無いとはまさにこの事だ。
ガナはただ一言でオルテの行動を縛り付けた。

誰が貴様に発言権を与えたのか。

怒りに歪められた表情にはそんな言葉がありありと浮かんでいる。


俯き沈黙したオルテへと、ガナは言葉を続ける。


「そもそも、魔獣に関してもそやつの手が入っていないとどうして言える。

 突如出現した規格外の魔獣。
 そこに偶然現れた余所者が次々に情報を持ち込んでくるだと?

 ……なんと愚かしい。
 第一に疑い尋問にかけるが正道だろうに、よもや絆されるなど。
 やはり貴様は、ブラダナークの恥よ。

 まぁ良い。
 今日ここに来たのは好都合だ。
 いい加減、尾を探すにも疲れてきた所だ」


そうして詠唱が始まる。
どこまでも深く暗く沈み込んだ物理的な重圧すら感じさせるそれは、魔法の形を取らぬ段階で既に周囲の魔力を揺り動かしている。

じわりと動き始めた魔力は瞬く間にあなたを取り囲んでいく。
事前の言葉からも、あなたに対する魔法である事は明白だ。

だが、逃走や防御は遮られた。
身の危険を感じ咄嗟に行動しようとするあなたを、オルテが止めたのだ。
水の腕を強く掴む彼は、視線だけで動くなと告げている。

瞳に宿る誠実さは常と同様だ。
裏切りでは、どうやら無い。
あなたを直接害する物では無い事は、それで予想がついた。


「汝に 《宣誓 / クエリ》 と名を贈る」


そうして、ガナの魔法は完成した。

予想通り、あなたが傷を受ける事は無かった。
あなたの眼前には一つの文が光によって描かれている。
内容は、以下の通りだ。


"虚偽を死と同義とする"


魔法を形作る力有る言葉と併せて考えれば、強力な誓いを立てさせる類だろう。
あなたがこの魔法を認め、そして偽りを口にした時はまさしく死ぬに違いない。


「受け入れよ。
 文字に触れれば、それで魔法は完成する。

 否と言うならばそれでも良い。
 その時は、そこの忌み子が貴様を殺すだけだ」


ガナは力無く片腕を落としながら、そう告げた。
それきり口を閉ざし、あなたを睨んでいる。



>>↓2  どうする? (>>437を受け、今回より自力加速は不可とします)


あなたに断る理由は無い。
ガナが疑っているような事実はどこのも存在しない。
魔獣の調査も、ブラダナークでの滞在も、全ては善意による物である。

故に、あなたは迷わず文字に触れた。

途端、解けた光は連なって一本の紐となりあなたの胸の中央、ヒュドール特有の核へと絡みつく。
これであなたは一切の虚偽を口に出来なくなった。
もしこれ以降偽りを述べたならば、光はあなたの命を砕くだろう。


ガナは、それを見てハッキリと落胆していた。

あなたには余りにも躊躇が無かった。
何も聞かずとも、それだけであなたの潔白は明白だ。
それでも、念のためにと尋問は行われた。


何のためにブラダナークに来たのか。
魔獣の存在はどこで知ったか。
ブラダナークの民を害するつもりはあるか。
魔獣の出現に僅かでも関与しているか。

その全てにあなたは答え、そして真偽はあなたが未だ生存している事で完全に証明されている。


「……忌々しい。
 本当に、忌々しい事だ」


尋問を終えても、ガナの心証に変化は無いらしい。
あなたが犯人であれば良かったと、そう考えている事は誰にでも見て取れる。

だが、憎悪の視線はあなたから逸らされた。
瞳は僅かだけ横に流れ、オルテに向けられる。

どうやら、それが発言権を与える合図でもあったようだ。


その後は特筆すべき事も無い。
犯罪者の人相書きは無事あなたにも見る事が出来た。
これで、既存の罪人に騙される可能性は大きく減じた。
無論、犯罪歴の無い人間相手では無意味ではあるが。


「すまなかったな。
 だが、お前のためでもあった。
 これで、お前を疑える者はもう居なくなるはずだ」


その帰路、オルテはあなたに謝罪し、説明した。

長の使った宣誓の魔法は集落の誰もが知り、その効力の強さも十分に信頼されているそうだ。
それを用いてなお無事であるとなれば、あなたを疑う事はもう出来まい。
今後は住民達との接触も幾分やりやすくなると容易に想像できる。


また、あなたは少々のむず痒さも感じていた。
宣誓を受けさせようとする折、彼は普段通りの落ち着きを持っていた。
それはつまり、あなたが魔法を受けても何の問題も無いとオルテは確信していたという事だ。

オルテは恐らくあなたを監視する任を受けている。
その最中において、暗い思惑や害意が無いと認識出来たのだろう。
彼は今や、あなたの善性に関する十分な理解者と考えて良い。


あなたが思い出すのは昨年の事だ。
賞金首を討伐し数多の賞賛を浴びた日が、脳裏にふっと蘇る。

他者から認められる。
それはあなたのこれまでの生において無かった事だ。
故郷の村ではまるで与えられなかった物の重みと温かみに、あなたを形作る水が僅かに震えた。


あなたはそれなりに上手くやれていると自覚があった。
隣人との仲はこの通り良好だ。
魔獣の情報も確実に揃いつつある。
他の住人との間には溝が横たわっているが、それも今回の件で浅くなるに違いない。


ガナの様子には気になる所もあったが、十分な成果である。
その事実に気分を上向けるあなたは快くオルテを許し、変わらぬ歩みで家路にを進むのだった。


今日はここまでで。
お付き合いありがとうございました。
また明日。


何とか今晩中には始めます。
遅れに遅れてすみません。


【円環暦734年 夏 ブラダナーク大集落】


あなたがとある知らせを受け取ったのは、枝葉の天井を突き抜ける日差しが強さを増した頃だった。

季節は既に真夏を迎えている。
森の外では恐らく暑さに弱る者も多いだろう。
だが、クラッカの大森林には最小限の影響しか無い。
天を完全に覆い隠す葉により、一年を通して気温の変化は驚く程に少ない。

暮らしてみれば意外と過ごしやすいものだ。
あなたはそんな感想を抱いていた。


「そうだろう。
 余所から来た者は不便さを嘆くばかりだが、ここにも良い所は多い。
 ……もっとも、私は森の外など知らないのだがな」


あなたの感想を聞いたオルテは、そう誇らしげに胸を張る。
彼がブラダナークにどれ程の愛着を感じているかは、僅かそれだけで容易く知れた。

これもまた意外な事の一つではある。
オルテは若者の一部を除き、集落の者達に疎まれているはずだ。
にも関わらずそう言えるというのは、中々に想像し難い。


嬉しそうに口元を緩めたオルテは、言葉を続ける。
あなたが寝泊りする納屋へと踏み入ったのはそれが理由のようだ。


「本題なのだがな、白腕虫が順調に育っている。
 そろそろ解剖を試しても良い頃と長が判断した。

 卵胞を見つけたのも、情報を齎したのもお前の功績だ。
 希望するならば立ち会っても構わんとの許可が出ている」


ありがたい事と、そう言って良いだろう。
極めて閉鎖的なこの集落において、これ程の重要事に余所者が参加できるのはまさしく望外だ。
解剖結果を言葉で伝えられる程度だと考えていたあなたにとって、これを断る理由は無い。


「そうか。
 こちらとしても、お前の知見は頼りにしている。
 気になる事があれば存分に口を挟んでくれ。

 解剖は私が戻り次第始まる事となっている。
 ついてきてくれ」


木漏れ日に照らされる集落の中を、あなた達は歩く。
先導するオルテを先に、あなたが一歩後ろに位置する形だ。

オルテの背を眺めながら、あなたは考えた。

思えば、彼とは個人的な交流は殆ど重ねていない。
以前約束した通り、時折料理の手解きが行われるが、それだけ。
彼との会話はもっぱら魔獣に関する話ばかりだ。

必然、あなたがオルテに関して知る事は多くない。
彼が集落の大半から疎まれている事と、それでも集落を愛している事ぐらいである。


目的地まではもう少しかかる。
あなたが望むならば、オルテとの会話で移動中の暇を潰しても良い。



>>↓2  自由に対話を行えます(話さなくとも構いません)


オルテは日々熱心に働いている。
知る限り殆ど休みも無く毎日のように集落の護りとして立ち続けているのだ。

しかし、そんなオルテを労う者は少ない。
彼を集落において冷遇されている。
働きの大きさに反して、その評価は地を這うような物だ。

そこに、あなたは微かに憤りを感じる。

オルテは呆れる程の善人であり、そして誠実だ。
彼が集落の民に責められるような何かをしたとは到底考え難い。
魔女を思わせる姿と魔法。
たったそれだけで白眼視されて良い人物では無いはずだ。


『そういえば、いつもお疲れ様です。
 門番の役割も楽では無いのでしょう?』


オルテに投げられる声は、こういった物であるのが正しい形だ。
彼を冷遇する者は、皆愚かだ。
オルテは人々に囲まれ笑顔で迎えられるべきである。

そう確信するままにあなたはオルテを労う。


あるいは、それは願望であったのかも知れない。
あなたは善性を信じている。
善なる者は、その誰もが正しく評価されなければならない。
そういう世界であって欲しい、と。


「……何だ、急に。
 責務を全うするなど当然の事だ。
 疲れるような事では無い」


そう言うも、言葉の音程は柔らかい。
どうやら悪い気はしないようだ。
あなたの労わりは確かに届いたと考えて良いだろう。


「それに、労うならばこちらの方だ。
 お前の貢献には随分と助けられている。

 お前はブラダナークの者では無く、何の義務も負って居ない。
 にも関わらず死の危険すらある魔獣の調査を行い、対策にも参加するというのだからな」


返したオルテは笑みながらも、やや気遣わしげな雰囲気を纏っている。

今からでも魔獣の脅威から逃げ去っても構わない。
そうしたとして、私は決して責めはしない。

言外に語るそんな言葉が、あなたには明確に読み取れた。


「以前に口にした禁忌の森の浄化も、今思えば本気だったのだろう。

 そろそろ、私は聞いておくべきかも知れん。
 お前は、何故そうまでして我らのために働くのだ」



>>↓2  自由に返答できます。


何故かと問われれば、あなたはこう答える他に無い。


『私自身のため、でしょうか』


そう口にする事は少々の痛みを伴っていた。

世のため、人のため。
大地に蔓延る悪性を除く事が己の使命と、少し前のあなたならば胸を張れただろう。

無論、正しくありたいとは、今もあなたは思っている。
しかし、その正しさの規範がどこにも見当たらない。
あなたが知る正義は遥か過去の王の物である。
現実に拠って立つべき幹を、あなたは持たないのだ。


『私は正しく在りたい。
 正義を為すと私の血に誓っているんです。

 能力があるならば、戦う。
 そうしなければ私は私でいられない。

 これが、ブラダナークを助ける理由です』


故に、あなたに出来るのはそれだけだ。
己を騙した過去の自分が命じるままに正義を掲げる。
それ以外の術を持っていない。


「……そうか。
 お前は本当に、奇特な奴だ」


あなたの答えにしばし沈黙し、オルテは嘆息した。

あなたの生き方は難儀な物だ。
正しくあろうとする者であっても、あなた程の難物はそうは居ない。

魔獣と相対するぐらいならば逃走の選択こそが最も賢い。
それこそ、愛する故郷でも無ければ早々に見捨てるべきだ。
そんな当たり前を正義のみで抑え込むなど、馬鹿と呼ばれるのが正しい。


オルテもまた、馬鹿にはしないものの盛大に呆れているようだ。
答えを聞いた途端に顔に表れた渋味など、ニカの実でも食んだかのようである。

だからあなたも少々ムッとした顔で、問い返した。


『逆に聞きますけど。
 そういうあなたはどうして集落のためにそこまで働くんですか?』


あなたが異常だと言うならばオルテもそうだ。
余所者と同等の隔意を向けられ、長には忌み子と罵られ、それでもなお彼は命懸けで働いている。

彼こそ逃げて良いはずだ。
整った面貌と誠実な人柄に、門番の任に問題が生じない程度には優れた能力が揃っているのだ。
集落さえ抜けてしまえば、真っ当な人生は確約されていると言っても良い。


問われたオルテは苦笑した。

彼の冷遇にあなたが気付いている。
その事実にはとうの昔に気付いていたのだろう。
そもそも隠しておくような気も無かったと思われるが。


「まぁ、当たり前の疑問だろうな。

 私は大半の者に疎まれている。
 忌むべき物と追いやられ、危険な仕事を押し付けられ、意見を口にするにも面倒が付き纏う。
 誰からも愛されていない。

 ……そのように見えるのだろう」


オルテの返答にあなたは目を丸くした。
この言い様ではまるで、違うと言わんばかり。
そして実際に、彼はそう続ける。


「ちょうどお前ぐらいの年の頃だったか。
 私はふと気付いたのだ。

 私は何故生きているのか、と」


彼の幼少期は、里の者を恨む日々だったという。

当たり前の事だ。
睨まれ、疎まれ、常に誰かに監視され続ける。
そんな環境下に置かれた子供が真っ当に育つ理由は無い。

時折訪れる年齢の近い子供達と僅かな会話だけが僅かな彩り。
それ以外には何も許されない、ただ生きているだけの生の中に彼は居た。


他の幼子が英雄譚を寝物語に聞く頃に、彼は魔女の逸話ばかりを聞かされた。
どれ程におぞましい人物であったか。
どれ程に恐ろしい怪異であったか。
そして、それと似た容姿の者がどれ程に忌まわしい異物であるかを。

理不尽極まり無い話だ。
決して選ぶ事の出来ない生まれつきの容姿だけが迫害の理由。

受け入れろという方が馬鹿馬鹿しい。
オルテは何もしていない。
森を侵したのも、人を喰らったのも、全ては過去に存在した別人の所業だ。

何一つ、彼には関係の無い事である。


だが同時に、彼は理解してもいた。

魔女の故郷であるブラダナークには、若き日の魔女の姿を記した絵も存在する。
彼もまたそれを見知り、呆然の内に記憶しきってしまっていた。
故に、凪いだ泉の水を覗く度に彼は恐怖に震える事となる。
それ程に、魔女とは何もかもが似通う姿がそこには映っていた。

別人の所業。
そう信じる事は幼い彼には酷く難しい。

この世には生まれ変わりが実在する。
輪廻の神が齎す奇跡は万民に降る。
絶対の証明がある以上、誰にも否定など出来ない事実だ。


年替わりの白日夢にいつ人を喰らう自分が現れるかと考えた事も十や二十では済まない。

伝聞でしか魔女を知らない彼ですらそうだったのだ。
他の民がどれ程に慄いていたかなど、最早語るまでも無い。
だから仕方の無い事だと、絶望を伴う納得に彼は沈んだ。


だが、そうして自分を押し殺して生きていたある日。
彼はふと気付いた。

何故、自分は生きているのだろうか、と。

魔女の生まれ変わりと、自身ですら思い込みかねないのだ。
他者がそう断じるのは余りにも容易い。
ならば、魔女に脅かされていた者が取るべき手立ては別にある。



彼は、殺されていなければおかしいのだ。

それも、憎悪と恐怖により加速した最上の苦痛をその身に受けて。


「働くどころか家から出る事すら許されていなかった私は、施しのみで生きていた。
 そこに毒を混ぜる事は酷く容易い。
 ろくに動けもしなかった当時の私ならば、喉を掻き切るのも簡単だったろう。

 だが、そうはならなかった。

 私は飢えを感じた事は無い。
 夜の寒さに震えた事もだ。
 そうならないために必要な物は、全てが与えられていた。
 生かすだけならば、そこまでせずとも良いと言うのに。

 そこに、私は人の善性を垣間見たのだ」


彼は疎まれていた。
憎まれ、恐れられ、遠ざけられ。
しかし、それでもなお誰かの情により彼は生きていた。


「私も、お前と同じだ。

 正しく在りたい。
 彼らが私を生かした事は正しかったと、そうする事で証明したいだけだ」


振り返りあなたに微笑んだオルテの瞳には、僅かの曇りも無い。
ただ静かに、まっすぐな光だけがそこに灯っていた。


とりあえずここまでで。
お付き合いありがとうございました。
明日はちゃんとやります、多分。


今晩は20時~20時30分位の開始予定です。
よろしくお願いします。


「ようやく来たか。
 随分と待たせてくれたものだ。

 ……まぁ良い。
 ともかく始めるぞ」


あなた達が到着した途端、長は木箱から一匹の白腕虫を取り出した。
話が早いのも良し悪しだろう。
未だ木箱の中身も確認せず、それどころか挨拶すらもしていないというのに、長は全く御構い無しだ。

ただ、長を囲むように立つ十人程の内の半数以上は異論を持たないらしい。
二人程眉をしかめた者も居たが、だからといって長の行動に口を挟む訳でも無い。


仕方ない、とあなたはオルテと顔を見合わせた。
他の個体の確認は解剖の後でも出来るはずだ。

今は解体の様子を眺める他無さそうである。


取り出された白腕虫は十分に育っていた。
話に聞いた人の腕のような太さには達していないが、それでも指で二、三本程度はある。
体長に至っては成人男性よりやや上か。
長に持ち上げられていても尻の辺りは床を叩いている。
これだけの大きさがあれば臓器の位置を知る分には問題無いに違いない。

容姿はまさしく集落の北方に陣取る魔獣を小さくした物だ。
ポッカリと開いた円形の口には鋭い乱杭歯が並び、節が連なるデコボコとした体表は光沢のある白が覆っている。

長はそんな白腕虫の頭近くを掴み上げている。
当然たまった物では無いのだろう。
白腕虫は必死に抵抗し体を跳ねさせているが、意外にも力強い長の手を振り払うには全く足りていない。


その動きを見て、確かに骨を持った生き物のようだとあなたは確信した。
一見しただけでは巨大なミミズだが、跳ね方は蛇に近い。
顔料でも塗りたくり色と節を誤魔化してしまえば見間違える者も出るかも知れない。


長はそのまま白腕虫を木製の台に固定した。
頭と尻にはナイフが突き立てられ、溢れる鮮血が作業台を汚していく。

どうやら、魔獣化していない個体には表皮の護りは無い。
やはり魔法による物だったのだろう。
魔獣はその全てが高位の魔法を扱うが、変異以前の獣が魔法を操る例はそう多くは無いのだ。

ともあれ、獲物に最早逃れる術は無い。
異形は俎上にて解体を待つのみとなった。


「一人たりとも退室は認めん。
 こやつの体内の全てを、今日ここで目に焼き付けていけ」


長の宣言の下、初めの一刀が入れられる。
そうして白い鎧は剥ぎ取られ、その内部の構造をあなた達の前に晒す事となる。


白腕虫の臓器の配置は、大きく三つに分けられるようだ。

頭に最も近い部分に、心臓や肺。
その次に、長大な胃。
最後の尻付近に腸やその他の細々とした臓器。
それぞれがおよそ三分の一ずつを割り当てられている。
また、脳は当たり前に頭部に存在していた。

全ての臓器には特殊な防護は施されていない。
肋骨に似た形状の骨はあるが、それだけだ。
勿論、魔獣化に伴い変異している可能性もあるが、魔法の護りさえ貫けば臓器にまで刃を届かせる事は出来ると思われる。


魔獣の弱点の位置は確認出来た。

頭部付近ならば致命的かつ即効性の効果が期待出来る。
対して胴体中央部や尾部ならば栄養の吸収を大きく阻害出来るはずだ。



>>↓2  他に確認したい事があれば指摘できます(指摘しなくとも構いません)


体内の確認は、それで終わった。
綺麗に解体された個体は乱雑に袋に詰められ、捨て置かれる。
恐らく後で埋められるのだろう。
イスナ教徒の話では食用も可能という話だが、わざわざ異形を食す必要はブラダナークの民には存在しない。

そして次に始まったのは、生きた個体を用いた実験だ。
どのような感覚を持つのか、精度はいかほどか。
これらを調べていく事となる。


それが始まる前に、既にハッキリとしている事があった。
白腕虫が詰め込まれた木箱は今や大きな音を立てて揺れている。
同時に、どこか悲壮感すら感じさせるか細い鳴き声も漏れ聞こえる。

どうやら仲間の死を感知したようだ。
解体されたものは悲鳴も上げずに死んだ事から聴覚では無く、蓋が閉められた木箱の中では視覚も有り得ない。
やはり嗅覚が優れているという事だろう。


実際に、新たに取り出した個体で試せば一目瞭然であった。

白腕虫が外界を感知する手段は三つ。
触覚と聴覚、それと嗅覚のようだ。
視覚はどうやら存在しない。


特に優れているのは、やはり事前情報の通り嗅覚だ。
嗅覚器官は大口の縁を囲むように並んだ針先程の穴らしい。
目の前に置かれたニカの実を探るように口を近付け、穴を収縮させていた辺りほぼ間違いない。

また、その精度は驚くべき水準にある。
屋外に放置したニカの実を扉も開けぬままに察知した様子を見せていたのだ。
恐らく、嗅覚が生きたままの状態ではこの生物から隠れ潜む事は不可能に近い。

以前魔獣に接近した時も完全に発見されていたと考えて良さそうだ。
その上で、全く脅威と思われずに見逃されたのだろう。


意外であるのは聴覚の存在だ。
白腕虫の体をどれだけ調べてみても、耳らしき部位は見当たらない。
にも関わらず、人が手を叩けばそちらに注意を向けるような反応を取っている。

どうやって聞いているかは定かでは無いが、存在する事だけは確かである。
ただ、幸いにして随分と鈍いと思われる。
手を叩く音には反応しても、爪と軽く打ち合わせる音には無反応であった。
大きな音を立てない限り、感知は難しいらしい。


そこで、あなたが意見を述べた。

この生物が悪臭に弱い事は、既にあなた達は知り得ている。
だが同時に、嗅覚が潰されると苦しんで暴れるとも言う。
実際にどの程度なのかを確認しておくべきである。


あなたの要望は特に問題無く受け入れられた。
すぐに新たな白腕虫と、悪臭の素として溜められていた糞尿が用意される。

結果は、観察するまでも無かった。
どろどろとした汚物を鼻に塗ろうと近付けた瞬間、白腕虫は弾かれるように飛び跳ねたのだ。
そのまま僅かでも悪臭から距離を取ろうとしているようだが、まるで移動出来て居ない。
暴れ続ける白腕虫は真っ直ぐに動く事も出来ず、延々とのた打ち回っている。
話の通り、方向感覚すら完全に麻痺してしまったようだ。

動きは長に掴まれていた時よりも力強く、そして素早い。
何人かが捕えようと手を伸ばすも、その殆どが失敗していた。

ただ、捕えるのは難しくとも、確かに棒でもあれば仕留めるのも容易いだろう。
ただし、それは無論通常の個体であればの話だ。


魔獣の巨体でこのような様になってしまえば、一体どれ程の死人が出るかは分かった物では無い。


次に、また別の個体で実験が行われた。

同席していたリスのセリアンスロープ、毒を扱う家の娘であるリィタが薄めた麻痺毒を針に塗り、投与する。
以前の魔獣と同等の状態になるよう見極めるには少々の苦労があったようだが、そう時間もかからずに成功したようだ。


果たして、こちらは当然ながら暴れ方は大人しい物だった。
ただ残念ながら、頭部はそれでも苦悶からか激しく動いている。
円形の口を囲うように並んだ鼻を床に擦り付けるような動作が良く見られた。

魔獣の大きさに変換して考えれば、麻痺状態であっても頭部への接近は自殺に他ならない。
たちまちの内にひき潰されるのが落ちだ。
遠方から攻撃を行おうにも的は絞れず、大半が無為に終わるだろう。


対して、他の部位は頭部に引っ張られるように揺れる程度だ。
腹部や尾部には大きな問題無く接近が出来そうに、あなたには思える。


実験は、そこで切り上げられた。
おおよその情報は出揃ったと、長がそう判断したのだ。

長は各自考えを纏めるようにと告げ、一旦の休憩が与えられる。
集まっていた十人程、恐らくは集落の重鎮らしい者達は口々に対策を議論し始めた。
それを満足げに眺めた長は、死んだ白腕虫の袋を手に家の奥へと立ち去った。

毒を扱う可能性のためだけに呼ばれたのだろうリィタは、どうやら手持ち無沙汰らしい。
余ったニカの実を手に持って木箱の周囲を回り、残った群れをからかうのに夢中のようだ。


「……思ったよりも、真っ当な生物なのだな。
 いかんな、先入観が大きすぎたようだ」


あなたの隣に立つオルテはしみじみとそう述懐する。
見た目の不気味さ、魔獣の巨大さ、そういった点から異常な生物と映ってしまうのは、あなたにも分からなくも無かった。


同意して頷くあなたへと、オルテは続けて口を開く。


「それで、どうだろうか。
 お前は何か有効策は思いついたか?」


そう言う本人は余り良い閃きが無かったのだろう。
どこか祈るような気配が僅かにだが感じられた。



>>↓2  どうする?(返答以外の行動も可能です)


避難勧告なう。
もう今年は何なんですかっていう。
すみません逃げます。


濡れた芝生でスッ転んで尻を打った程度で無事でした。
これから書きます。


悪臭は確かに効果があるが、魔獣の暴れる様など想像するだけでも悪夢に近い。
ならば別の手段で弱らせる事は出来ないかと、あなたは考えた。


『そう、例えば……炭を焼く煙はどうでしょう。

 炭焼きの者が倒れる事故は良く聞きます。
 あれと同じ事が魔獣にも起こるのなら、肺の中に炭を入れれば……』


しかし、その意見に対し返った反応は思わしくない。
オルテは眉間に皺を寄せて黙考し、残念そうに口を開いた。


「考えるに、肺に穴を開けられたならば後はそれを広げれば良いのでは無いか?
 何かを放り入れるにしても、麻痺毒で呼吸を行えなくするか、他にも油と火で焼くという手もある。

 ……というか、だな。
 肺が破れた時点で大概の生物はもう死ぬしか無いと思うのだが。
 いかに魔獣と言えど、満足に呼吸も行えない状態で長く生きられるとは到底思えん。

 もし死なないとしても瀕死の重傷である事は間違いないだろう。
 後は弱るのを待ち、身動きもままならなくなってから討ち取れば良い」


あなたはガックリと肩を落とした。
言われてみればその通りである。

直接肺の内部に炭を投げ入れるのでは無く、煙だけを吸わせるにしても問題がある。
魔獣に影響を与え得る量の煙を用意するには一体どれ程の炭が必要となるのか。
また、例え用意出来たとして、魔獣が移動してしまえばそれで終わりだ。
更に、それだけの炭を焼けば森に火を移さずに焼くのは困難を極めるだろう。

森焼きは最終手段である。
現段階で取って良い手段では有り得ない。


結局、画期的な意見は出なかった。
頭を抱える時間は終わり、奥の部屋から戻った長が今後の方針を定める。

魔獣は日に日に森を貪りその生息域を広げている。
タイムリミットは冬。
それまでに討伐に成功できなかったならば、暴食の巨虫はブラダナークを支える大樹すらその腹に収めるだろう。

故に、決戦は秋。
それまでにあらゆる準備を整え、被害が致命の域に届かぬ内に魔獣を落とすと、長は宣言した。


作戦らしい作戦は、特に指示はされない。

長は正直に告白した。
あのような巨獣を前に何をどうすれば良いかなど、まるで見当が付かないと。

魔獣に対峙した時どうするかは、七つに分けられた部隊の纏め役へと一任された。


あなたが割り振られたのは、遊撃の役割を担う小部隊である。
オルテを頭に、あなたとリィタ、他に十名少々の若者だけが所属する。
恐らく、長から見て扱いに困る者の寄せ集めだろう。
リィタは有力な家の娘ではあるが、忌み子と疎まれるオルテに嫌悪を抱いていない様子を見れば長からの心象も予想はつく。


そうして、あなた達は解散した。

誰の顔にも余裕は無い。
当たり前の事だ。
討伐の失敗はブラダナークの崩壊を意味する。

ブラダナークは、魔女が生まれた地だ。
恐らく、他のどの土地よりも深く、悪意に蝕まれていたはずだ。
それでもなお、彼らはこの地に根を張り生きている。
何故か、など考えるまでも無い。

あなたは、オルテの言葉を思い出していた。

彼はブラダナークを愛している。
それと同じだけの思いを、きっと誰もが抱えているのだ。


……あなたには、上手く咀嚼できない。
故郷に対する愛という物を、あなたは持っていない。

いつ死ぬとも分からない幼子に注ぐ情など持つ余裕は、あなたの故郷たる村には存在しなかった。
人手を増やすための孕み袋。
そうなるべく育てられただけのあなたに、そんな感情は育ちようが無かったのだ。


だが、本当にそれだけだったのだろうか。

オルテは言った。

憎まれ、恐れられ、遠ざけられ。
それでもなお確かに情はあったのだ、と。


(…………)


あなたは静かに、体内に収めた儀礼剣に触れた。
短剣は何も語らない。
冷たく硬いそれは、何も為さず存在するだけだ。

ただ、一つだけ確かな事実がある。
この儀礼剣は希少な物だ。
素材となっているのは高価な霊銀である。
辺境の村には酷く不釣合いな、それこそ宝と呼ぶべき代物だ。


母が死に、急遽白羽の矢が立った予備。
果たして、その程度の者に渡すような物なのだろうか。


あなたは己の母を知っている。
だが、父が誰であるかは知らない。

あなたの兄弟達は大半がそうだ。
特定の誰かの子では無く、村の共有財産たる赤子として誰もが生まれた。

だからこれは、あなたの妄想に過ぎない。


それでも、あなたの心には僅かな希望が灯った。


あなたは愛されなかった。
誰にも見向きもされず、役割以上の価値は見出されず。
何者でも無いと断じられた。


……そんな思い込みは、もしかすれば誤りであったのかも知れない。


(魔獣の討伐が終わって、集落に平和が戻ったら……)


あなたは、一つの決心を固める。
瞳を閉ざし、短剣の柄を握り締め。

父であるかも知れない男に、きっと話を聞きに帰ろう、と。



【円環暦734年 夏 固定イベント 『兆し』 了】


■ 現在のあなたのステータス


【難度 / NORMAL】

【15歳 女性 / 現実世界の人間換算で15歳相当】


【種族 : ヒュドール】

水の体を持つ種族。
知性ある水とも言える彼らは他種族と大きく異なる生態を持つ。
精神的能力と魔力の親和性に優れるが、身体的能力に乏しい。

【種族能力 : 水の隣人】

定まった形を持たない彼らは自身の姿を自在に変更出来る。
外見の変更を自由に行える。
また、物理的ダメージを軽減する。
代償として、水の少ない地域では、継続的にダメージを受け続ける。


【筋力】 2 (平均)
【耐久】 3 (優秀)
【器用】 8 (優秀)
【敏捷】 10 (怪物)
【感覚】 1 (蔑視)
【意思】 7 (劣等)
【魔力】 8 (平均)
【幸運】 9 (評価無し)


【出身地 : ディスリス / 川沿いの村】

【現在地 : クラッカ / ブラダナーク大集落】


◆ 習得魔法

【種火】
【清水】
【微風】
【土塊】

【恍惚】
魅了に類する精神系魔法。
他者の心をとろけさせ、言葉を潜り込みやすくさせる事が出来る。
また、自身に使用する事で極めて強力な自己暗示を行える。
一時的に虚偽を真実と完全に思い込む、自身を超人と認識し絶対的な自信を得る、など用途は多岐に渡る。
魔法の行使は意思に大きな影響を受けるため、ブーストとも成り得る。
効果時間は最大でおよそ半日。

【精練】
魔力や物体に対して使用する事で、対象の効果を強化する。
次回使用する魔法の規模拡大、治療薬の効果増大、香辛料の辛味倍化、など。
効果時間はおよそ一時間。

【生成】
魔力を素材とした物体を生成する。
水との関連性が高ければ高い程、生成量と生成速度が強化される。
生成物は30分を限度として消失する。
体内に取り込むなどした場合も同様。

【破綻】
物体や魔法の根幹部を乱し、その構成を破綻させる。
物体に対し用いれば軽度の衝撃を伴った崩壊、魔法に対し用いれば魔力の離散による効果低減、あるいは無効化が発生する。
破綻の度合いは自信の魔力と対象の強度による対抗判定の結果による。



◆ キーワード

【天涯孤独】
【秩序 / 善】
【富裕層への殺意】
【王家の末裔 / 自称】
【中二病】


■ 所持品一覧


◆ 6400 Casa

共通交易通貨。
カダスティア大陸において、使用出来ない都市はほぼ存在しない。


◆ 霊銀の儀礼剣

基礎攻撃力 : 2

魔術補正 : 2

希少鉱石である霊銀、別称ミスリルによって作られた儀礼用の短剣。
武器としての能力は最低限だが、周囲の魔力を引き寄せ魔法行使を容易にする特性を持つ。


◆ 白猫

感覚 : 7

街の片隅で見つけた適当な猫。
当初は精神支配によって懐かせていたが、現在は普通のペット状態。
人から餌付けされていたのか野生らしさを全く失っており、能力値が低下している。
連れている限り、危機感知判定など感覚を用いる一部の判定を白猫の能力値で行える。
ただし、白猫を働かせるためには【恍惚】の魔法を行使する必要がある。


◆ 魔除けの鈴

魔除け補正 : 2

とあるドライアドが作った小さな木製の鈴。
涼しげながらもどこか物悲しい音色が特徴。
悪意を掻き消し災いを退けると、クラッカの一部の集落に伝わっている。


◆ 白腕虫の卵胞 ← USED

ミミズに似た異形の生物の卵胞。
薄い膜の中に数十匹がひしめいていた。

孵化した現在、ブラダナークの長によって管理飼育されている。
健康状態に特に異常は見られない。


【円環暦734年 夏 自由行動 1/3】


長の号令以来、集落は慌しさを増していた。

毒の材料となる茸や、魔獣の好物であるニカの実を探す者。
強力な弓や槍を作るべく働く者。
魔獣の様子を見ようと北へ向かう者。
試みは皆様々だが、誰もが懸命である事だけは共通だ。

人々の疲労は色濃い。
だが勿論、彼らが手を休める事は無い。
怠惰は死に直結していると理解出来ない愚物はどうやら存在しないようだ。


そんな中にあって、あなたに与えられる仕事は無い。

住民達による監視も、恐らく今は解けている。
長の魔法を用いた尋問で問題が出なかった以上、わざわざ人員をあなたに縛り付ける理由は無いはずだ。

あなたは自由に行動を決定出来る。

誰かの仕事を手伝っても良い。
魔獣の様子を探りに向かうのも悪くないだろう。
何か目的があるならば近隣の他集落に向かってみるという手もある。

勿論、他に思い当たる事があれば、何をしても構わない。



>>↓2  今日はどうする?

>>1
すみません>>536なんですが"念の為オルテとリィタを同行させる"が抜けていました。
可能なら一緒に連れて行ってもらえないでしょうか?


あなたは集落を出、森の中を北へと進んだ。
魔法で生み出した氷の台車の上に汚物が詰まった樽を乗せてだ。
一つの閃きがあなたの頭に降りたためである。

魔獣の表皮には魔法の護りが存在する。
外的な脅威から全ての力を奪い去る強固な鎧は、存在する限り一切の攻撃を無為に落とすだろう。
考え得る限り最上位の防御と考えて間違いない。

だがこれは、魔法なのだ。
魔獣の意識を一定以上乱してしまえば、維持出来なくなる可能性は十分に有る。

その手段として、あなたは悪臭に効果が有るのでは無いかと目を付けた。
白腕虫を用いた実験では凄まじい苦しみ様であった。
魔獣にも同等の効果を齎すと考える事は何ら不自然では無い。


この道行きに同行する者は……。



>>↓2  >>539を受けて、同行者を設定する事も出来ます(一人で向かっても構いません)


同行する者は、一人のドライアドの青年である。
いかにも鈍感そうなボンヤリとした顔付きの彼は、印象通りに感覚が鈍いらしい。
汚物を扱うにも忌避感は無いようで、普段から肥溜めの管理に携わっているとの事だ。

今回の実験において適格と言えるだろう。
また、彼は秋の決戦においてあなたと同じ部隊となる者でもある。
あなたが彼の手を借りられたのはそこが大きい。


「あー、そろそろ僕にも聞こえてきましたよ。
 ……いやぁ、なんというか、凄いですねこれ」


彼の言葉はやはり茫洋としていた。
魔獣の巨体が木々を破砕する轟音を耳にしても、まるで焦りを見せて居ない。

もしかすれば内心は違うのかも知れないが、少なくとも外から読み取る事は不可能だ。


魔獣までの距離は近い。
活動中にこれ以上を近付くのは危険だろう。
あなた達は一旦休憩し、魔獣が動きを止める時をじっと待った。

程なく好機は訪れる。
移動音は消え、咀嚼音がする訳でも無い。
いつもの食休みだろう。
間抜けにも見える大口を開けたまま横たわる姿が容易に想像できた。

あなた達は頷き合い、台車を引き走る。





"―――アアアァァアァァ―――"


予想通り、魔獣は暢気に体を横たえていた。
相手の嗅覚を考えればこちらには気付いているだろうに、警戒した様子は全く無い。
もし汚物の悪臭が漏れていればまた違っただろうが、樽は氷の容器で完全に密閉されている。
鼻を潰す危険物の存在は感知出来ていないようだ。

そういえば悪臭で暴れたやつはどのくらいで落ち着いたの?


>>546
見返してみたら抜けてました、すみません。
鼻に当たる器官をどこかに擦り付け、汚物を完全に拭い去るまでは回復しません。
汚物の量にもよりますが、最低五分以上、最大三十分程度は効果がある物とします。


魔獣に汚物を浴びせる手順は以下の通りだ。

同行する青年は、衝撃を発生させる魔法を扱えるという。
精度や威力はオルテよりも数段劣るようだが、精密な狙いは今回必要無く、打ち出すだけならば問題無い。

汚物を内包した氷を遠距離からこの魔法で投擲し、魔法の制御を手放して氷を崩壊させれば、
後は自然と糞尿が魔獣の周囲にばら撒かれるだろう。
表皮の護りが維持されているかどうかも、同様の手段が使えるはずだ。
氷で槍でも作ってやれば事足りるに違いない。


あなた達は今、魔獣の大口側、数十歩の距離を取った地点に居る。
体はあなた達の反対側に、途中でうねりながらも長く長く伸びている。

ここに至るまでに生成の魔法を維持し続けているが、影響はそう多くない。
精々が水の体の数箇所、動きが鈍っている程度だ。



>>↓2  自由に事前準備を行えます(行わなくとも構いません)


そういえば、とあなたは青年の名を尋ねた。
オルテから紹介されるままに連れて来はしたが、思えばそんな簡単な事すら聞いていない。
これは非礼だろう。
同時に謝罪も行うために、あなたは頭を下げた。

青年は特に気分を害した様子も無く、快くカイという名を名乗った。
改めてよろしくと、手を差し出しまでしている。


「気にしないで下さい。
 オルテさんが認めた方に悪い人なんてきっと居ません。
 そのくらいどうって事無いですよ」


その言葉にあなたも片手を差し出し、しっかりと握手を交わす。

へらり、と崩れたカイの顔は中々に人懐っこい物だ。
ブラダナークにおいては極めて稀有な資質だろう。
ただし勿論、長にはきっと睨まれているに違いない。


そうして、あなた達の試みは始まった。

実行には何の問題も無い。
作業自体には難しい点など存在しないのだ。


樽を収めた氷は、カイの魔法によって打ち出された。
それは高く、そして遠く飛び、魔獣の鼻先へと確かに届く。
無論、そこでしくじるあなたでは無い。

最適の位置、最良のタイミングで氷は失われ、蓋の無い樽からは勢いのままに汚物が飛び出し―――




"―――イイィィイイィイアアァァアアァアアァアア!!!"


世界が、砕けた。




あなたには、そうとしか感じ取れない。

突如出現した悪臭に、魔獣は咆哮で応えた。
悲鳴なのだろう。
魔獣は攻撃を行おうとした訳では決して無い。

しかし、相手は規格外の巨体である。
その歩みが全てを破砕する暴威となるように、ただの悲鳴が致命の暴虐となる事も在り得るという、ただそれだけの話だ。



>>↓1 コンマ判定 【被害軽減】

耐久 3

目標値 3


【被害軽減】

目標値 3

出目 5

失敗……


暴力的に過ぎる轟音はあなたの体を強かに打ち据えた。

例えるならば嵐の海。
体内は振動に荒れ狂い、体表膜が激しく波打つ。
強烈な不快感の前に肉体の維持すら困難だ。
あなたに出来る事はただ地面に広がり、スライムのごとき無様を晒す事だけ。

消え飛びそうな意識を繋ぎ止め隣を見れば、カイも似たような姿である。
両の耳を必死に押さえ、苦悶の表情で地を舐めている。

下手をすれば……いや、確実に鼓膜にも影響が出ているだろう。
無論、平衡感覚も一時的に失われているはずだ。
逃走すら最早困難極まりないのだと、あなたは否応なく理解する。



>>↓1 コンマ判定 【不運の回避 / 最大】

幸運 9

状況 -4

目標値 5


【不運の回避 / 最大】

目標値 5

出目 7

失敗……


何も出来ないあなた達へと、最大の不運は振り下ろされた。

ただし、一欠けらの幸運だけは残されていたと言える。
全ては一瞬で終わり、己の末路を理解する事は、最後まで無かったのだから。


それは神が下す鉄槌にも似ていた。
少なくとも、人ごときが抗えぬ、という点においては完全な一致を見るだろう。

天より降ったのは、魔獣の尾だ。

穢れを拭おうと地に頭を叩き付けた魔獣は、その勢いのままに体を持ち上げ、乱雑に振り回した。
行われたのはそれだけで、そして余りにも致命的過ぎた。
大地は割れ、土砂は天へと舞い上がり、そして爆心地の生命は悉くが死に絶える。


あなた達の痕跡など、例え百年をかけて探しても見つかるまい。
何もかもは木々と共に砕け散り、無へと帰ったのだ。





DEAD END


■ コンティニュー箇所を

>>533 (自由行動 1/3 開始時点)

から

>>548 (直前準備)

の間で自由に選択できます。



>>↓ 【0:42】 以降の書き込みが有効です。


【円環暦734年 夏 自由行動 1/3】


長の号令以来、集落は慌しさを増していた。

毒の材料となる茸や、魔獣の好物であるニカの実を探す者。
強力な弓や槍を作るべく働く者。
魔獣の様子を見ようと北へ向かう者。
試みは皆様々だが、誰もが懸命である事だけは共通だ。

人々の疲労は色濃い。
だが勿論、彼らが手を休める事は無い。
怠惰は死に直結していると理解出来ない愚物はどうやら存在しないようだ。


そんな中にあって、あなたに与えられる仕事は無い。

住民達による監視も、恐らく今は解けている。
長の魔法を用いた尋問で問題が出なかった以上、わざわざ人員をあなたに縛り付ける理由は無いはずだ。

あなたは自由に行動を決定出来る。

誰かの仕事を手伝っても良い。
魔獣の様子を探りに向かうのも悪くないだろう。
何か目的があるならば近隣の他集落に向かってみるという手もある。

勿論、他に思い当たる事があれば、何をしても構わない。



>>↓2  今日はどうする?


安価取れた所で今日はここまでで。
お付き合いありがとうございました。


最後の不運回避判定でファンブル出してカイ君だけがミンチルートを夢見るも儚く散りました。
切ない。


遅れました。
これから書きます。


【円環暦734年 夏 北の小集落】


「ふぅん、話が聞きたいのね。
 別に良いわよ。
 最近暇で仕方ないしね」


と。
そう口にしたのは以前盗み食いで吊るされていた女性である。

あなたはふと思い立ち、最新の世界情勢について調べ始めた。
が、残念ながらブラダナークでは何も分からない。
何せ彼らは酷く閉鎖的だ。
外部との接触を図ろうなどとは考えず、当然情報など仕入れている訳が無い。
また、魔女の故郷という事もあり、旅人が訪れるような土地でも有り得ない。

そこであなたが思い出したのが彼女だ。
このイスナ教徒は元々、森の外から来たという話だ。
ならば外部の情報を持っているというのはそれなりに期待できる可能性である。

そして、あなたの試みは実を結んだ。
彼女は確かにある程度の情報を持ち、かつブラダナークの民と比べれば協力的のようだ。
わざわざ数日をかけて北の集落に足を運んだ甲斐があったと言える。


「ま、タダとはいかないけど?
 情報が欲しいなら出す物出しなさいな。
 何か美味しい物か……無ければお金でも良いけど」


今回は同行させていた白猫の喉をくすぐりながら、女性は言う。

情報の対価は分かりやすい物だ。
美味に関する情報か、現金という事になる。
残念ながらあなたが知る美味は特に無い。
ここは手持ちの交易通貨を差し出すしかあるまい。

情報量は一律 【2000 Casa】
ここがクラッカの大森林である事を考えても、顎が外れる程の凄まじいぼったくり価格だ。
十人居れば二十人は常識外れと断言するに違いない。
が、他に世界情勢を知る者に心当たりが無い以上、涙を飲むべきだろう。



【所持金 : 6400 Casa】

>>↓2  自由に質問が行えます(いつでも切り上げて構いません)


「めぼしい動きねぇ……。
 幾つかあるわね、ちゃんと聞きなさいよ」


イスナ教徒の女性が語った内容は、以下の通りだ。


まずクラッカとも国境を接する大陸の北西端、とにかく地味である事で知られるクピアでは反乱の機運が高まっているようだ。
王に対する反逆にあなたは眉を顰めたが、それはすぐに取り払われる。
クピアの現王はまさしく愚王と呼ぶに相応しい人物であるという。
民には重税を課し、自身は不要な贅沢三昧。
側近にも甘く、今や王宮は汚職に塗れ、僅かにも正そうという姿勢を見せた忠臣と呼ぶべき者は次々に罷免されている。

それでは仕方ないと、あなたも頷く他無い。
反逆は重罪だが、法を律するべき王が誤っているならば止むを得ないだろう。
恐らく、遠からず王の首は落ちるに違いない。


ハルピュイアでは新鉱脈の周囲に新たな都市が築かれつつある。
鉱石類の貿易で財を為すミーニアの大商家が中心となって進められた一大事業は極めて順調であるようだ。
周囲の国から職を求める若者や腕に覚えのある職人、あるいは富の匂いを嗅ぎつけた商人達が次々に集まっている。

ハルピュイアにとってはまさにこの世の春というべきだ。
過去を見渡しても数える程の規模の好景気に、あらゆる民は沸き立っている。

更に、ここに燃料を注ぎ足す事実も見つかった。
新鉱脈を掘り進める内に、未知の遺跡に行き当たったというのだ。
しかも数百年程度の遺跡では無い。
とある考古学者はこれを旧世界の物、それも二千年近い過去の物だと断言している。

これ程古い遺跡は初めての発見となる。
最早ハルピュイアの熱狂を止める術はどこにも無い。


最後に、彼女は東の荒野、ヴァタスについても語った。
その表情は暗く、言葉の音域も一段下げられる。


「……あそこはもう駄目ね。
 麻薬がほんの小さな子供にまで行き渡ってる。
 多分、ほっといたらその内滅ぶんじゃないかしら」


笑顔で駆け回るのが当然。
そんな年頃の子供達が薬欲しさに痩せ細ったボロボロの体を売る。
それがヴァタスの日常であるという。
あくまで噂だけど、との前置きがついていたが、奴隷の売買まで横行しているそうだ。

当然ながら、あなたも怒りを感じざるを得ない。
今すぐにでも荒野に向かい、麻薬を広めている犯罪者達の首を落としたいとさえ頭に浮かぶ。

しかし、クラッカからヴァタスまでは酷く遠い。
ブラダナークに迫る魔獣の脅威もある。
荒野を目指すのは、およそ現実的では無いだろう。


その他には、大きな動きは無いようだ。
少なくとも彼女が探る事の出来る範囲では十分な安定を見せているとの事だ。

指名手配犯についても、国を跨ぐ程の大物は現れていない。


「それで、他には何かある?」



【所持金 : 4400 Casa】

>>↓2  自由に質問が行えます(いつでも切り上げて構いません)


あなたは次に、グレアモールに関して聞いた。

思えば、あなたがクラッカを目指したのは元々これを知るためだ。
外部から見たグレアモールはどのように映るのかをあなたは調べに来たのだ。
すっかり忘れてしまっていたが、今ここで聞いておくのも良いだろう。


http://light.dotup.org/uploda/light.dotup.org374019.jpg


まず彼女の中で評価が高かったのは、プラク・ディフだ。
火竜の糞は強烈な辛味を持つ珍味として知られているが、最近ではそれを使った料理が増えているらしい。
何でも火竜山脈に暮らすサラマンドラ達と親密な交流が始められたようだ。
グレアモール八国の内、山間の地域はやや閉鎖的と聞いていたが、ここでは改められつつあるのだろうか。


シーブラム、ミナス・グレア、ズラウナム、ポート・ボルン。
この四国は先程のハルピュイアとの関連が深い。
鉱脈から掘り出され加工された鉱石達は、河を下ってミナス・グレアに向かう。
そこから大陸の東西へと旅をしていくのだ。
必然的にこれらの国々は富を受け取る事となる。
以前よりも大幅に引き下げられた関税の事もあり、商人達からの評価は随分と高まっている。


ブルトリングにおいては、それまで蔓延っていた数多の魔獣が完全に駆逐された。
長い間、魔獣の多い土地とされていたが、今やそのような評価はどこにも存在しない。
大討伐の号令を発した王と、彼に従った騎士達の人気は鰻上りだ。
特に子供たちの憧れは大きく強い。
剣を模した棒切れを振るい鍛錬ごっこをする様子は、都市の至る所で見られるという。


他の国についても、彼女が話す言葉は実に平穏な物だ。
不穏の気配はどこにも無い。

グレアモールはかつてない安定の中に有り、あらゆる民は笑顔を溢れさせている。


……その、かつてないという言葉があなたには気にかかった。

今の王達には反逆の疑いがある。
正統なる王家に刃を向け、我欲のために権力の座についたという疑惑だ。

そのような者が敷く善政など、一体何の信用がおけよう。


「分裂前?
 昔の事だしそっちは良く知らないけど……まぁ普通でしょ。
 それなりに良かったって聞いてるわよ」


彼女の言の通りだ。
前王の治世は良き物であった。
重税を課し、民を虐げ、グレアモールを十分な平和の内に運営していた。

王に、玉座を追われるような瑕疵はどこにも存在しな―――


(―――待って。
 私は、何を言っているの?)


そこで、あなたの思考が止まった。
ガリガリと、明確な音を伴って分厚いヴェールが削り取られていく。

重税。
虐殺。
拉致。
これらはあなたが知る前王の所業だ。

何故それを真っ当な治世などと考えられたのか。
どこからどう見ても愚王の行いに他ならない。
それこそ、クピアの王と同じく首を落とされて然るべき水準の。


「ちょ、ちょっと!
 あんたそれ大丈夫なの!?」


訳の分からない思考に混乱するあなたへと、慌てた声が投げられる。
発言の主は当然、あなたの眼前に立つイスナ教徒だ。
彼女の顔色は蒼白となり、一目で分かる程ハッキリと取り乱している。

しかし、あなたには何の事か分からない。
あなたと彼女はただ話をしていただけだ。
周囲を見渡してみても、何の異変も起こっていない。

そんな、事態を理解できないあなたへと女性は駆け寄り、叫ぶ。


「あぁもう、見てらんない!
 動くんじゃないわよ! いいわね!」


ずぶり、と。
体表膜を突き破りあなたの体内に腕が入り込む。

何事かと手の進む先を見て、あなたはようやく理解した。


霊銀の儀礼剣。
その刃が、あなたの核に刀身を埋めている。
核を断ち切らんとするかのように、その半ばまで深々と。


あなたが意識を保てたのはそこまでだった。
異変を認識した瞬間、あなたに襲い掛かったのは想像を絶する激痛だ。
悲鳴を上げる事も、身悶える暇も有りはしない。

視界は瞬く間に真紅に染まり、あなたは静かに崩れ落ちた。


意識が戻った時、枝葉の天蓋を抜ける木漏れ日は既に消えていた。
夜になったのだと、朦朧としたあなたにも分かる。

一体どうなったのかと体内を探れば、核は異物に包まれている。
どうやら布の切れ端のようだ。
核に刻まれた傷が広がらないよう、固く縛られている。

自身の隣に目をやれば、白猫を抱いて眠りこける女性がそこに居た。
状況を考えれば彼女が介抱してくれたと考えるべきだろう。


意識を断絶させた激痛は存在しない。
通常、核の半ばまで刃を入れればヒュドールは死ぬ。
にも関わらずあなたは生きており、それどころか意識を失った以外に影響は無い。
体を動かしてみても、やはり異常は見られない。


あなたの視線は、女性の近くの地面へと向けられる。
そこには儀礼剣が、柄だけを残して突き立てられていた。
再び間違いが起こらないようにとそうされたのは想像に難くない。

あなたは以前、ズラウナムの船乗りに話を聞いた時の事を思い出す。

あの時も似た事が起こった。
前王の所業を正しい物と思い込み、ザハールを誅する必要があると思考が傾きかけたその時。
この短剣が核に触れ、その痛みであなたは正気を取り戻したのだ。


故郷から持ち出した儀礼剣の正体を、あなたは知らない。
何故、このような事態を引き起こせたかと考えるには何もかもが足りて居ない。

だが恐らく悪しき物では無いのだろう。
二度も痛みを与えられたが、過ちを切り裂いてくれたのだからむしろ感謝すべきだと、あなたは考えた。


思考から靄が取り払われた今のあなたには、十分に分かる。
前王は死んで然るべき男であった。
ザハール達が王家に刃を向けた所で、どこにも責められるべき咎は無い。

また、彼ら八王の統治はまさしく優れた物だ。
あなたが理想とする王に近いと、そう断言しても良い。

少なくとも、直接言葉を交わしたザハールは善性の人間だと確信出来る。


現在のグレアモールには、何の綻びも無い。
ザハール達を害するなどそれこそ悪鬼の行いだろう。
あなたがやるべき事は、現状では何も無い。
彼ら自身の手に任せておけば、全ては良い方向に向かうはずだ。

無論、目に見えない部分に何かが潜む可能性も有る。
しかし、あなたが現在知り得る情報ではそんな物は見つかる気配さえ感じられなかった。


念のためにと一晩休んだ翌日、あなたは北の集落を発った。

イスナ教徒の女性は心配そうであったが、結局あなたに異常は無い。
森を進む足取りも普段通りの物だ。
核の傷はそのままだが、目にさえしなければ気にならない。


「今は良くても油断するんじゃないわよ。
 何か変だと思ったらすぐに医者にかかんなさい」


やや苛立たしげに言う女性の姿をあなたは思い出す。
食欲まみれで自分勝手で盗みにも躊躇しない。
そんな人物であったが、根は悪い人間でも無いようだ。

望むならば友好を深め、親しい友人となる事も可能だろう。
今後も機会があれば彼女を訪ねるのもきっと悪くない選択だ。

あなたはそう考え、ワムカ、と名乗った女性の姿を心に留めた。


【円環暦734年 夏 自由行動 2/3】


ブラダナークに戻った後、あなたは少々苦労した。

オルテである。
大変な善人の彼は核の傷を見るや否や、大慌てで集落の薬師を連れてきたのだ。
集落の誰もが不調を感じれば真っ先に頼るという老婆は、オルテ曰く確かな腕を持つという。

その老婆の見立てでも、あなたは完全な健康体であった。
オルテも老婆も首を傾げていたが、当然ながら結論は出ない。
要観察というだけで解放される事となった。


さて、集落は相変わらず慌しい。
誰もが秋の魔獣討伐へ向けて準備に走り回っている。

見知った顔のリィタへと確認すれば、どうやら毒とニカの実は採取が順調のようだ。
恐らく秋までには十分な量が確保出来ると思われる。



>>↓2  今日はどうする?


安価取れた所で今日はここまでで。
お付き合いありがとうございました。


後、昔作ったElonaのカスタムゴッドを知ってる人向け情報。
ワムカさんはただのミーニアで、神ではありません。
前回ハスハ関連で混乱があったので一応。


■ 現在のあなたのステータス


【難度 / NORMAL】

【15歳 女性 / 現実世界の人間換算で15歳相当】


【種族 : ヒュドール】

水の体を持つ種族。
知性ある水とも言える彼らは他種族と大きく異なる生態を持つ。
精神的能力と魔力の親和性に優れるが、身体的能力に乏しい。

【種族能力 : 水の隣人】

定まった形を持たない彼らは自身の姿を自在に変更出来る。
外見の変更を自由に行える。
また、物理的ダメージを軽減する。
代償として、水の少ない地域では、継続的にダメージを受け続ける。


【筋力】 2 (平均)
【耐久】 3 (優秀)
【器用】 8 (優秀)
【敏捷】 10 (怪物)
【感覚】 1 (蔑視)
【意思】 7 (劣等)
【魔力】 8 (平均)
【幸運】 9 (評価無し)


【出身地 : ディスリス / 川沿いの村】

【現在地 : クラッカ / ブラダナーク大集落】


◆ 習得魔法

【種火】
【清水】
【微風】
【土塊】

【恍惚】
魅了に類する精神系魔法。
他者の心をとろけさせ、言葉を潜り込みやすくさせる事が出来る。
また、自身に使用する事で極めて強力な自己暗示を行える。
一時的に虚偽を真実と完全に思い込む、自身を超人と認識し絶対的な自信を得る、など用途は多岐に渡る。
魔法の行使は意思に大きな影響を受けるため、ブーストとも成り得る。
効果時間は最大でおよそ半日。

【精練】
魔力や物体に対して使用する事で、対象の効果を強化する。
次回使用する魔法の規模拡大、治療薬の効果増大、香辛料の辛味倍化、など。
効果時間はおよそ一時間。

【生成】
魔力を素材とした物体を生成する。
水との関連性が高ければ高い程、生成量と生成速度が強化される。
生成物は30分を限度として消失する。
体内に取り込むなどした場合も同様。

【破綻】
物体や魔法の根幹部を乱し、その構成を破綻させる。
物体に対し用いれば軽度の衝撃を伴った崩壊、魔法に対し用いれば魔力の離散による効果低減、あるいは無効化が発生する。
破綻の度合いは自信の魔力と対象の強度による対抗判定の結果による。



◆ キーワード

【天涯孤独】
【秩序 / 善】
【富裕層への殺意】
【王家の末裔 / 自称】
【中二病】


■ 所持品一覧


◆ 2400 Casa ← USED

共通交易通貨。
カダスティア大陸において、使用出来ない都市はほぼ存在しない。


◆ 霊銀の儀礼剣

基礎攻撃力 : 2

魔術補正 : 2

希少鉱石である霊銀、別称ミスリルによって作られた儀礼用の短剣。
武器としての能力は最低限だが、周囲の魔力を引き寄せ魔法行使を容易にする特性を持つ。


◆ 白猫

感覚 : 7

街の片隅で見つけた適当な猫。
当初は精神支配によって懐かせていたが、現在は普通のペット状態。
人から餌付けされていたのか野生らしさを全く失っており、能力値が低下している。
連れている限り、危機感知判定など感覚を用いる一部の判定を白猫の能力値で行える。
ただし、白猫を働かせるためには【恍惚】の魔法を行使する必要がある。


◆ 魔除けの鈴

魔除け補正 : 2

とあるドライアドが作った小さな木製の鈴。
涼しげながらもどこか物悲しい音色が特徴。
悪意を掻き消し災いを退けると、クラッカの一部の集落に伝わっている。


◆ 白腕虫の卵胞

ミミズに似た異形の生物の卵胞。
薄い膜の中に数十匹がひしめいていた。

孵化した現在、ブラダナークの長によって管理飼育されている。
健康状態に特に異常は見られない。


今晩は多分21時30分位の開始予定です。
よろしくお願いします。


魔獣討伐について、オルテと相談を行う。
それが本日の予定に関するあなたの決定だった。

現時点で最優先されるべき事柄である。
オルテがそれを断る訳も無く、あなた達は納屋の中で顔を突き合わせる事となった。
そうして、思いついた案を説明する。
あなたが考えたのは、オルテと協力して発動させる水流の螺旋を用いて心臓を狙い、一撃での決着を狙うという物だ。


「あぁ、無難な所だろう。
 確実に最大の攻撃を叩き込む、というのはそう悪くないように思う。
 口腔の内側からは、奴も血を流していた。
 効果は確かに見込めるはずだ。

 その場合、毒で鈍らせておくべきだな。
 狙いは付け易くなり、反撃の危険も減る」


オルテの反応は良好と言えた。
恐らく彼自身、この手段を考えていたのだろう。
既に十分な対応が出来るよう、手配は進めているようだ。


「これは、お前の手柄だ。
 あの卵胞が発見されていなければ、誰にも心臓の位置など知りようも無かった。
 決戦においてもただ闇雲に攻撃を繰り返すだけだったはずだ」


オルテはしみじみと零し、あなたに感謝の言葉を伝えた。

彼の言の通りになったとすれば、勝利の可能性など恐らく砂粒よりも小さい。
集落の未来は閉ざされていたに違いない。

ともあれ、あなたの意見は容れられた。
実行に際して混乱が起こるような可能性は全く無い。
十全の連携が期待出来るはずだ。


ただ、そこでオルテが声を上げた。
準備は進んでいるが、今の内に確認しておくべき点もある、と。

心臓を潰された魔獣がどれ程生きられるか、についてだ。

急所を完全に穿たれてなお、短時間ながら活動を続ける生物は少なくない。
有名な所では熊が代表になる。
心臓を刺し貫かれた後に数人を道連れにしたという話も存在する。

再度の実験を行う必要がある。
あなた達は連れ立ち、白腕虫の管理を一手に担う長の下へと向かった。


結果として、どうやら問題は無さそうだとの判断が下された。

一匹の白腕虫を取り出し心臓を正確に貫いた所、その個体は速やかに死亡した。
尾を一度二度と振り回し苦しむ様子を見せたのみだ。
それもすぐに落ち着き、力無く横たわり生を終えている。

魔獣へと変異しても同様か、という事までは保証出来ないが、少なくとも完全な急所である事は間違いない。
死に際の暴れ方も、即座に距離を取れば問題にはなるまい。
あなたは討伐においてオルテと行動を共にする。
彼の反発の魔法は逃走の補助にも高い効果を発揮するはずだ。


さて、安堵の息を吐くあなた達の前には、白腕虫の死骸がある。
また、作業台の隣に置かれているのは他の個体が収められた木箱も置かれていた。

これらを用いて何かを調べたいのならば、幾らかは許されるだろう。



>>↓2  どうする?


『我が声を、ここに 《生成 / サクリ》 と定義する』


死骸を前に、あなたは魔法を用いて一つの道具を作り出した。
水を素材としたレンズである。
それを更に精練の魔法で強化してやれば、即席の拡大鏡の完成だ。

あなたは、より細かく構造を調べようと考えた。
微に入り細に入り、一つの見落としも無いようにだ。
そのためには肉眼では不足と言えるだろう。


そうして、あなたは観察を始めた。

表皮を剥ぎ、肉を解し、内臓を裏返し、その全てを調べ上げる。



>>↓1 コンマ判定 【観察】

感覚 1
道具 5

目標値 6


>>↓1 コンマ判定 / 十の位 【観察 / オルテ】

感覚 3 (オルテ)
道具 5

目標値 8


【観察】

目標値 8 / 6

出目 5 / 2

成功!


(むしろ高い汎用性を付加して上手い事使って貰おうという魔法だったので平常です)


『…………?』


観察を行うあなたは、僅かな違和感を感知した。

体の中央部に位置する胃を分解していた時の事だ。
胃壁の断面から、何か砂粒のような物が転がり落ちたのだ。

当然、放置する理由は無い。
慎重に拾い上げたあなたは、拡大鏡でじっくりと観察した。


それは、明らかに自然の物とは思えなかった。
大きさはまさに砂粒と大差無く、形状は正八面体。
水晶のように透き通った極小の粒は、あなたの手の上で小さな光を発している。

また、明確な異常もあなた達には感じ取れる。
魔力の扱いに長けた者ならば、こうして手に取れば誰にも分かろう。

この結晶は魔力を発している。
肉の内に埋もれていれば分からない程度にだが、僅かずつ溶け出すように漏れているようだ。


あなたとオルテは一度顔を見合わせ、作業を続けた。
その結果、脳と心臓、尾部の腸や肝臓などからも同様の粒が発見された。
念のためと他の個体を取り出し解体してみても同じ結果となる。

正体不明の粒は、二体の解体で最終的に十を超えた。
風で飛ぶ事の無いようにと小瓶の中に入れられたそれらは、何をするでも無くただ輝いている。


恐らく全個体が同様の粒を体内に持つと考えて良いだろう。
何のための器官なのかは分からないが、新しい発見である事は間違いない。
詳細を調べるべく何かしら実験を行おうと、あなた達は小瓶を前に視線を交わした。


が、それはどうやら必要無い。
あなた達の手を止めたのは、老爺の声だ。


「……それを、見せろ。
 早く、今すぐにだ」


ブラダナークの長である。
その様子は余りにおかしい。
血走った目は見開かれ、手足は病でも発したかと思う程に震えている。
声色もまた異常だ。
もし声の主が見知った相手で無ければ、あなたは長を伝承から抜け出した悪鬼とさえ錯覚したに違いない。


異様な様子の長は、しばし小瓶を観察した。
粒の転がる様を眺め、放たれる光を睨む。
鬼気迫る、という表現が適切だろう。
余りに暗く深い感情が長の体から流れ出し、あなた達は言葉を発する事も出来ない。

そんな時間は長く続いた。
実際にどれ程の時が流れたかは定かでは無い。
だが、あなたにはそれが一刻にも及ぶと言われても信じられる程の重圧だった。


「―――は」


そうして、長は口を開く。
漏れ出した物は他でも無い。

高らかに、そして不吉に響き渡る、哄笑であった。


「はは、はははははは!
 そうか、そうかそうかそうか!」


最早、長に常の面影は存在しない。
狂気に満ちた歓喜だけが、あなたの眼前に展開される。
隣に立つオルテの様子を窺う余裕があなたにあれば、彼もまた慄いている事が理解できたに違いない。


「は―――あぁ、そうか。
 確かに、確かにそうだろう。
 こんな物は、分かりきった事だったろうに。

 ……丁度良い。
 共に来い。
 お前達に伝えなければならない事が、たった今出来たようだ」


狂気は、しかし長く続きはしなかった。
唐突に正気を取り戻した長は、普段通りの陰鬱さを宿す。
そのまま身を翻し、奥へと消えていく。

明確な躊躇をあなた達は感じたかも知れない。
だが、ここで長の指示を無視し逃げ帰るなどという選択は行えない。

新たに発見された粒に関し、長が何らかの情報を持っている事は明白だ。
それを知らずにおくなど、どう考えても有り得ない。


意を決したあなたとオルテは、慎重に長の後を追った。


長が歩を進める先にあったのは、床に開いた穴であった。
脇には取り外された床板が立てかけられ、普段は隠されている事が窺える。
穴を覗けば底が見えない程に深く、ただ階段状の狭い道が長く伸びているのが分かるだけだ。

長は老いを感じさせない動きで地下へと降りていく。
無論、あなた達も続く他無い。


「あれは……さて、何年前の事だったか。
 どれ程の時が流れたかは、最早定かでは無い。
 ただ、この目が何を映したかだけは、今もはっきりと覚えている」


地の底まで続くかと錯覚するような道を歩む中、長は語る。

昔語りだ。
それも、重く暗く、禁忌に彩られた惨劇である。


それは長が未だ成人を迎えぬ頃の話だ。

当時のブラダナークは未曾有の混乱の最中にあった。
今回の魔獣の件など、まるで比較にもならない。
民の尽くを恐怖の底へと叩き落す悪夢がこの土地には存在していた。

正体など、あえて語るまでも無い。
ブラダナークにおける最大の悪など、他に有り得る訳も無いのだ。


人食いの老婆。
災厄の魔女。
大陸の遍く土地にその名を轟かせる悪魔の魔手が、ここには伸ばされていた。


「ブラダナークに生まれ。
 数多の土地を旅し。
 見聞を広め、知識を深め、そうして戻ったあやつを、誰もが信頼していた。

 集落の誇り、神の遣いのごとき比類無き医師であると。
 ……今思えば、何とも愚かしい事だ」


信頼に寄生する妖魔は、立場を隠れ蓑におぞましい所業を繰り返していたという。


隣人は季節毎に消えた。
森の声は原因も分からぬ沈黙に沈んだ。
木々は日に日に死に近付き、天を支える大樹すら実を付けない。

老婆はあろう事か、異変に対し先頭に立ち対策に奔走していた。
誰にも疑える理由は無い。
広い外界を目にしてなお故郷に戻り、大いに貢献し、身を粉にして森の異常に立ち向かう姿にどうして異を唱えられよう。


そこに綻びが生まれたのは些細な偶然だ。

ある日、長の母と兄が揃って消えた。
当時のブラダナークにおいて有り触れた出来事である。
消えた後に戻った例はどこにも無く、彼らもまた発見を絶望視されていた。
もう二度と、帰ってくる事は無いのだろうと。


「覆されたのは、翌日の明け方の事だ。
 たった一晩で見る影も無く憔悴した兄は集落に姿を現した。

 そうして伝えてくれたのだ。
 異変の正体が知れたと。
 全ては、あの魔女の行いだったのだと。

 討伐隊が集落を発つまでに一刻もかからなかったはずだ。
 兄の脱走が伝わり魔女が逃げ果せる前に捕えねばならないと、誰もが必死だった」


長は、深く息を吐いた。

討伐の結末は今の世にも確かに伝わっている。
無論、あなたも知っている事だ。
十を超える槍に貫かれた老婆はしかし、鮮血を撒き散らしながらも笑い、全ての追っ手を退けた。


「我らに出来た事は、あやつが逃げた後にしか無かった。
 残された隠れ家に踏み入り、おぞましい研究を焼く他には、何もだ。

 笑うが良い。
 その結果すらもあの様だ。
 焼かれた毒は消えず禁忌の森は死に絶えた。
 全身の皮を失い、心臓の鼓動を止め、それでもなお地を這い蠢いていた母の弔いさえ、許されはしなかった」


そこで丁度、道は終わった。

辿り着いたのは小部屋である。
置かれているのは机と椅子、それに作業台と、棚が一つ。
たったそれだけの小さな空間にあなた達は踏み入った。

燭台に灯された火が頼りなく照らすそこは、酷く不吉だ。
部屋の隅に蟠る闇に何が潜んでいてもあなたは驚かないに違いない。
長く滞在すればそれだけで正気を削るだろう。


「……ここには魔女の下から持ち出した物品を幾つか保管している。
 焼き捨てる前に私が盗み出した物だ。
 魔女の所業を知り、その対策を立てるためにな」


そうして、あなた達の前にそれが晒された。

透き通り輝く正八面体。
大きさこそ異なり指先程も有るが、あなたが発見した粒と同様の物である事は疑い無い。


魔女の毒、その一つであると長は言った。

この結晶は生物を狂わせる。
魔獣への変異を強制的に発生させる、他に類を見ない最悪の秘薬こそがその正体だ。


全身を駆け抜ける悪寒を、あなた達は確かに感じた。

白腕虫の体内から見つかった。
この事実が意味する所はつまり、たった一つ。


「……生きていたという事だろう。

 もう諦めていたのだがな。
 よもや、こうも老いさらばえてから復讐の機会が訪れるとは」


長の顔は、再び歓喜を宿した。
落ち窪んだ瞳には澱み切った憎悪が灯り、小部屋の僅かな光を飲み込んでいく。


「オルテよ。
 お前に禁忌の森の進入を許可する。
 お前の魔法さえあれば、短時間ではあろうが活動は可能だろう。

 それと余所者、貴様もだ。
 以前、森の浄化を提案していただろう?
 喜ぶが良い。
 そのための下調べは存分にやって構わん。

 ……知り得た事は、その全てを報告せよ。
 あやつが潜伏しているとなれば、何人も立ち入らぬ禁忌の森をおいて他には無い」


地の底に、長の声が響く。
それはやがて変質し、哄笑へと変わり果てる。

あなた達に止める術は無い。
一体どのように制止すれば良いのかなど浮かびもしない。
百を優に超える年月を以て煮詰められた彼の感情に歯止めなどかからない。

故に、それは長く長く。
永遠すら感じさせる程に長く、狂気は響き渡った。


長のSAN値がマイナスに振り切った所で、今日はここまでで。
お付き合いありがとうございました。


今晩は21時位の開始予定です。
よろしくお願いします。


【円環暦734年 夏 自由行動 3/3】


地下室での一件より暫しの時が経った。

あなたもオルテも、未だ禁忌の森には踏み入っていない。
即座に判断が下せる程に森の毒は甘くは無く、長の狂気もまた浅くない。
率直に言って、あなたは迷っていた。

長は生き延びていた魔女が戻り魔獣を生んだと確信しているようだが、必ずしもそうとは言えない。
たまたま禁忌の森に流れ着いた白腕虫が、偶然から結晶を取り込んでしまった可能性もあるのだ。

魔女の実在には一切の保証が無い。
生きていたとして、禁忌の森に戻ってきているとは限らない。
結晶は真実偶然の産物であり、魔女の魔手は長の妄想に過ぎない可能性は十分にある。


そもそも、あなた達には他にやるべき事もある。
既に季節は晩夏に差し掛かろうとしている。
魔獣との決戦まではそう時間も無い。

これらを勘案した上で、あなたは行動を決定する。



>>↓2  今日はどうする?


保証は何も無い。
だがもし、本当に魔女が森に存在したならば。
そう仮定を置いた場合、何が起こるかはまるで計り知れない。

今に伝わる話では、魔女の手にかかって命を落とした者は百を優に超えるという。
それも、分かっているだけでその数だ。
人知れず奪われた命まで含めればどこまで膨れ上がるかは想像も付かない。

同じだけの規模の惨劇が起こらないと、一体誰が言えるだろう。


ただの杞憂であるかも知れない。
無為の徒労で終わるかも知れない。

そんな希望的観測で動く事を、結局あなたは良しとはし出来なかった。


あなたはオルテを伴い、北東へ向かう。
禁忌の森は毒に満ちているという。
あなた一人での探索などただの自殺と変わらない。
毒を僅かでも遠ざけるため、彼が扱う反発の魔法が必要となるはずだ。


久方振りに目にするそこは、やはり作り物めいていた。

森の中には明確な境界線が引かれている。
一線を越えた先は完全に死んでいた。
時が止まっていると、そう言い換えても良いだろう。

何の音も、匂いも、気配も、一切が感じられない。
この中に何者かが潜んでいるなど、とてもでは無いがあなたには信じられない。

人間が正気を保てる環境では有り得ない。
滅んだ世界の中、ただ一人生きている。
それは正しく悪夢に他ならない。


「……それで、どのように探索する?
 真っ直ぐに深部を目指すか、周辺部を回るか」


オルテはあなたに問いかける。

何の手がかりも無い現状、判断を下すための材料は乏しい。
一般的な感性で考えると、潜むならば奥の奥だろうという常識が存在するだけだ。
禁忌の森は魔女の隠れ家から広がったというのだから、同じく森の中心に拠点を構えている可能性も思いつけるだろう。

その他には脱出に要する時間が違うという程度だ。
当然ながら、踏み込めば踏み込むだけ撤退の労は大きくなる。



>>↓2  どうする?


虎穴に入らずんば虎子を得ず。
危険を承知の上で中心部を目指そうと、あなたは決定した。

オルテはあなたの意見に頷いた。
これはブラダナークの問題である。
本来は無関係の部外者であるあなたに重荷を負わせるのは忍びなく、せめて決定権は委ねるべきだ。
それが彼の考えのようだった。


「内部では何がどうなっているか、全くの不明だ。
 何せ、踏み入って帰った者は誰も居ない。

 念のため、例の蜘蛛のような形を取れ。
 地面にも極力触れない方が良い」


濡らした布で口と鼻を覆い、オルテはそう忠告する。
特に逆らう理由も無い。
あなたは素直に従い、そうして禁忌の森へと足を踏み入れた。


僅か数十分。
たったそれだけで、あなたは森の脅威を理解する事となる。

地面に足を付けるなとの言葉は、まさに適切だった。
オルテの魔法で膜のような防護を纏い更にあなたが強化を施しているというのに、時にそれを貫通して浸透する何かが存在する。
激しい痛みを齎す物、猛烈な熱を与える物、何の前触れも無く麻痺を引き起こす物。
時には精神に働きかけようとする気配も感じる。

効果は様々だが、禁忌とされるだけはある。
何の対策もせずに居たならばここまでの道程で十は死んでいるはずだ。
実際、既に何度も脚の先端を体から切り離し廃棄する羽目となっている。
今のあなたは普段よりも一回り小柄だ。

また、大気を侵す瘴気も深刻のようだ。
呼吸の必要が無いあなたには影響は無いが、オルテは確実に弱り続けている。
今はまだ行動に問題が生じない程度だが、引き際を誤れば事態は即座に致命の域に達するに違いない。


それだけの危険を孕む道で、しかし今の所何も見つからない。

事前の感想通り死んだ森だ。
生物の鼓動などまるで存在しない。
物音すらあなた達以外に立てる者は居ないのだ。
風ですら、ここでは息を潜めている。



>>↓1 コンマ判定 【不運の回避】

幸運 9
魔除 2

地域 -3

目標値 8


【不運の回避】

目標値 8

出目 9

失敗……


■ 追加判定が発生します。



>>↓1 コンマ判定 【先制発見判定】

基準値 5

感覚 1 (あなた)
感覚 3 (オルテ)

感覚 -5 (???)

目標値 4


【先制発見判定】

目標値 4

出目 6

失敗……


そこで、唐突に乾いた音があなたの胸元から発せられた。

グレアモールからクラッカへと至る道中、同行した商人から譲り受けた鈴である。
悪意を掻き消し災いを退ける。
一部のドライアド達の間でそう伝えられる品だ。

それが音を立てた事にあなたは言い知れない不吉さを感じた。
まるで警告のようだ。
身近に迫る危険を、音を以て知らせたようにあなたには思えてならない。


……その時だ。


「残った物は何も無い。
 亡くした物は亡くしたまま。
 あなたの手は届かない」


静寂の森に言葉が生まれた。
あなたの物では無く、オルテの声でも有り得ない。

高く澄んだ音色のそれは少女の気配を纏っている。


あなた達は咄嗟に背中を合わせ、周囲を警戒した。

まさか、本当に何者かが潜んでいるとは。
そんな驚愕を押し殺し、取るべき行動を即座に取る。

何かを語りかける声の主へ誰何し、その正体と居場所を探ろうとする。
そしてそのような事をしている余裕は無いと、すぐに気付けた。


「探し人は見つからない。
 途切れた心は途切れたまま。
 あなたの声は届かない」


これは詠唱だ。

何もかもが死した森の中。
誰かが今にも魔法を行使しようとしている。
その事実に、あなたの体表膜が緊張にわなないた。


声はあなた達の進行方向、禁忌の森の深部方面から届いている。

あなた達にとっては幸いな事に、詠唱は決して短い物では無いようだ。
魔法が完成する前に何らかの行動を取る事も可能だろう。

攻撃か、防御か、逃走か。
あるいは他に取るべき行動があればそれでも良い。

ともかく、あなたは瞬時に判断を下す必要がある。



>>↓2  どうする?


あなたの選択は逃走であった。

状況は最悪の一言に尽きる。
相手の姿は未だ見えず、詠唱は半ばまで進んでいる。
この状態で戦闘を開始するなど余りにも分が悪い。

あなた達は全くの同時に、弾かれるように駆け出す。
僅か一刻の猶予も無い。
今すぐに詠唱者から距離を取らねばならない。


それが正しい判断だったと、後頭部に生み出した瞳であなたは見、確信した。

破壊は音も無く突然に発生した。
禁忌の森の死んだ木々。
その根元付近が、不可視の斧で斬り飛ばされたかのように一瞬で消失したのだ。
それも、数本がまとめて。

クラッカの大森林を形作る木々はどれもが巨大だ。
細い物でも一般的な樹木の倍はある。
無論、禁忌の森であっても例外では無い。

およそ尋常の魔法では有り得ない。
規格外と、そう呼んで良いだろう。
それこそあなたに与えられた破綻と並ぶ程に。


広範囲に齎された破壊は、先程まであなた達が居た位置を中心としている。
もし暢気に希望的観測を抱き立ち止まっていれば致命の一撃となった事は全く疑い無い。

敵意は確実となったが、実に幸運な事に追撃の気配は無い。

相手の目的は殺害ではないようだ。
あなた達が森を去ればそれで良いと、そう判断したようにも思える。


逃走は問題無く成功するだろう。
追っ手がかかる事も無く、あなた達は森の入り口へと向かって走り続ける。

その最中。
あなたは遥か後方に確かに見た。


力尽きた老爺のように倒れ始めた木々の壁の向こう。
褪せた金の髪を持つミーニアの少女が、静かにあなたの背を見詰め続けていた。


これで、確実な物となってしまった。

禁忌の森には何者かが潜んでいる。
それが魔女であるかどうかは定かでは無いが、最早一切の楽観は出来ない。


……だが、今日出来る事はもう何も無い。

致し方無かった事とはいえ、逃走のためにあなた達は全力を振り絞って走った。
それで息が荒れたのが悪かったのだろう。
オルテの肺を侵す毒は危険な水準に至った。
すぐに森を抜けて体を清め、静養する必要がある。


不甲斐無いと歯噛みするオルテの肩を支え、集落へと歩む他、あなたに手立ては無かった。


今日はここまでで。
お付き合いありがとうございました。


すみません、今日はちょっと時間取れそうにありません。
また明日でお願いします。


すみません、遅れに遅れました。
今日はこれから書きます。


本当に申し訳ないです。
反省します。

今日こそはやります。
19時位から。


【円環暦734年 秋 ブラダナーク大集落】


その日、ブラダナークは低く垂れ込める緊張の中にあった。

集落の中心に位置する大樹の下には、隊列を組んだ者達が整然と並んでいる。
一つの集団がおよそ二十人。
それが六つ存在し、構成する者は誰もが一端の戦士の顔をしている。

彼らこそがブラダナークの牙。
今日、森を貪る魔獣との戦へ向かう、討伐隊である。


「良く集まってくれた。
 誰一人逃げ出す事も無く今日を迎えられた事を、嬉しく思う」


威風さえ感じさせる戦士の群れを前に、それでも長は尚一層堂々としている。
僅かにも臆する様子を見せずに確りと立ち、言葉を発する。


「思えば、ブラダナークは多々の災厄に見舞われる土地だ。

 かつて世に未だ戦が溢れていた頃には、クラッカの恵みを求める侵略者が。
 神の威光による安定が訪れた後も、大樹を付け狙う者の手が。
 魔獣の牙が我らの幹に突き立てられた事も、少なくは無い。

 そして、最も大きな災厄が何かは、お前達の誰もが知るだろう。
 かの万毒を操る魔女はまさしく他に類を見ない、史上においても並ぶ者無き巨悪であった。
 ブラダナークに残された爪痕は深く大きい。

 ……私は、今も夜毎に夢を見る。
 枯れた老婆の手が闇の内から伸ばされ、この首に手を掛ける様を。
 またある夜は、大樹が毒に侵され腐り落ち、民の全てが苦痛の内に息絶える様を」


長はその身を震わせていた。
魔女に対する恐怖による物と、そう思う者も居るかも知れない。

だが、あなたは違った。
あの暗く不吉な地下室を垣間見たならば幼子でも分かろう。
彼の体に満ちているのは、憤怒と憎悪だ。
復讐者のみが持ち合わせるべき漆黒のそれを、長は抱えている。


「だが、それでもブラダナークの営みは今日まで続いている。

 侵略者も、魔女の毒も、同胞達の迫害も。
 我らの魂までを殺し尽くすには足りていない。

 魔獣の牙など取るに足りない。
 明日を掴み取る剣はお前達の手に既に握られている。

 勝利するのは、我らだ。

 過去の災厄達と同じく、いかな魔獣であろうとブラダナークの護りは落とせない。
 お前達がそれだけの強者であると、私は信じている」


長の言葉が終わると共に、号砲が弾けた。
戦士達は手に持った剣や槍、あるいは杖を掲げ、総身に戦意を漲らせている。

彼らの全ては森に適応した種族で構成されている。
絶対的優位を約束されたドライアドを初めに、樹上を好む種のセリアンスロープなどだ。
森林内での戦闘を行ったならば、彼らは訓練された軍すら退けて見せるだろう。
総勢にして僅か百名とは言え、決して侮って良い戦力では有り得ない。

魔獣の脅威を知るあなたをして、いかにも頼もしいと思えたに違いない。


しかし、あなた達は彼らと行動を共にする事が出来ない。
北の森へと向かい進撃する討伐隊を見送り、あなたはオルテを顔を見合わせた。

あなた達は先日、禁忌の森に潜む何者かを発見した。
その正体は全く不明だが、幾らか予想の出来る事もある。

魔法を行使した少女は極普通の服装であった。
全身を覆うような特殊な装備が無かった事から、毒への対策は他の手段で補われていると考えられる。
それがオルテのように魔法であったならばまだ良い。
だがもし、毒を中和する薬剤によって禁忌の森での活動を可能としているならば、そこには魔女の存在が疑われる。

そもそもとして、魔獣の幼体から見つかった結晶だけでも十分な材料だ。
生物を人為的に魔獣へと変貌させるなど、まるで聞いた事も無い未知の技術である。
魔女と同等の存在がどこかに息を潜めているなど、最悪を通り越した悪夢に違いない。


魔女が今も生きているとは常識からすれば有り得ないが、余りにも頼りない楽観だろう。
常識などという物の尽くを踏み躙ったのが、かの怪物だ。
少なくとも、長は魔女の生存と再来を完全に確信している。

そのために、あなた達に即座の行動は許されなかった。
魔獣討伐の際にはどうしてもブラダナーク自体が手薄となる。
そこを突いて魔女の手が伸ばされる可能性は拭えなかったのだ。


だが、最終的な判断は現場に、あなたとオルテに任された。

魔女の懸念はついて回るが、あなた達は貴重な戦力でもある。
オルテの魔法の腕は集落でも高い評価を得ており、あなたと共に生み出される魔法は強力の一言に尽きる。
懸念のためだけに護りに縛り付けるには惜しい。

魔女は、来るかも知れない。
しかし同時に、来ないかも知れない。
魔女が生み出したと思われる魔獣の下へ合流し、更なる暴威を振るう可能性も捨てきれない。

判断のための材料は足りず、しかし討伐を後回しにも出来ない。
長にとっても苦渋の選択であったようだ。


あなた達は北の森へ向かい、魔獣の討伐に参加しても良い。
魔女を警戒し、ブラダナークの防衛に当たっても良い。

あなた達を含め、手勢は十名。
事前の準備は特に問題無く済んでいる。
茸の麻痺毒、磨り潰したニカの実、悪臭を放つ糞尿。
事前に考案された全ては自由に利用が出来る。


一時的にオルテの部下となった若者達は、静かに命を待っている。
あなたとの面識が無い者も多いが、オルテへの信頼は確かな物のようだ。
彼が信じるならばと、あなたに対しても評価は低くないだろう。
特に、カイという名の悪臭に強いらしい青年はその傾向が顕著に見て取れる。

余程奇抜な行動で無い限り、彼らは表立って反抗はしないはずだ。
あなたは自由に、部隊の行動を決定出来る。


今は昼。
枝葉の向こうに垣間見える空には高々と日が昇り、森の闇を晴らしている。



>>↓ 【19:00以降の書き込みが有効】  どうする?


待機はしない。
すぐにでも討伐に参加し、早々に事態を収める。
それがあなたの選択だった。

頷くオルテも異論は全く無いようだ。
誰もが戦に向かった今、あるかも分からない襲撃に備え続ける事は心理的にも抵抗がある。
魔女の脅威に対し警戒を抱きながらも、討伐への参加はむしろ熱望していたのだろう。

だが勿論、全員で向かうには問題もある。
本当に集落が襲撃を受けた場合、危険は大きい。
戦闘要員を欠いた今の集落では持ちこたえられる時間は僅かのはずだ。

よって、身軽さに定評のあるリィタがその場に残された。
彼女の素早さと身のこなしは集落でも上位に位置する。
果実収穫の際に見た軽々と大樹を登る姿からもそれは明らかだ。

また、木々の言葉を用いた伝達のためにもう一人、ドライアドも残る。

これで恐らくは磐石だろう。
何か事が起こればすぐさま木々がオルテに伝え、何らかの要因でそれが途切れたとしてもリィタが駆けつける事が出来る。


「大丈夫、こっちは任せておいて。
 それより自分達の心配しておくといいわ。

 ……下手を打ってオルテが食われでもしたら許さないから」


言葉の最後と共にリィタはあなたを睨み、そう低く囁いた。
オルテが信じるあなたを評価する者も居るが、当然そうで無い者も居る。
彼女はその筆頭だ。
交流もろくに行わなかったために、あなたとリィタの間に横たわる溝は未だ存在する。

彼女が残る事となったのは僥倖とも言えるかも知れない。
少なくとも、妙な隔意から足を引かれる事だけは起こらないだろう。


リィタと別れたあなた達は、北へと走った。

あなた達は話し合いの分だけ遅れているのだ。
のんびりとしている時間は無い。

確認されている六体の魔獣は、日に日に生息域を南へと広げている。
今や扇状にブラダナークを取り囲んでいる状態だ。


最も手近な個体の下へと辿り着いた時、既に戦闘は始まっていた。

魔獣に動きは無い、というよりも動けないらしい。
部隊の長が毒を用いる決定をしたのだろう。
あなたが実証した毒を呑ませる手段は集落に広められている。
彼らもまたそれを知り、こうして実践したようだ。

あなたの眼前で、年嵩の者達が槍を構え魔獣の口腔内へと突入しようとしている。
魔法に長けたドライアド達であっても、あなたとオルテが見せた魔法ほどの突破力や貫通性を備えた魔法を扱える者はそう居ない。
命を賭してでも確実な一撃を与えるために、体内から心臓への攻撃を試みるつもりに違いない。



>>↓2  どうする?


「む、お前達は……。
 ここで何をしている。
 集落の護りはどうしたのだ」


部隊長である壮年のドライアドへと近付けば、彼は振り返りそう言った。
目に宿るのは、僅かな不信だ。

あなたは集落の者達と最低限の交流しか行っていない。
話をするのは殆どオルテのみだった。
当然、信頼もまた最低限の物でしか無い。
オルテも一部の若者以外には魔女の面影を持つ忌み子として扱われている。

合成魔法による一撃のために一旦部隊を避難させろとの言葉にも、彼は明確に顔を顰めた。



>>↓1 コンマ判定 【説得 / 作戦変更】

基準値 5

意思 7 (あなた)

意思 -7 (部隊長)

目標値 5


【説得 / 作戦変更】

目標値 5

出目 7

失敗……

というか何でsage進行なん?


>>779
すみません、外し忘れてました…


「……出来ん。
 万一それで仕留め切れなければどうする。
 奴が痛みで暴れ始めればとても手が付けられん。

 体内への突入は決行する。
 それが終われば、お前達の好きにすれば良い」


部隊長は頑なであった。
あなたの言葉に耳を貸しはしたが、作戦の変更は断固として拒否している。

彼らを止める事はどうやら出来ない。
視線を横たわる魔獣へと戻した彼は、指示を待つ部下へと命を下す。


そうして、突入は開始された。
魔獣を刺激しないよう、七人の男達が無言で走る。
鍾乳石のような乱杭歯が立ち並ぶ口腔内を往き、確実に心臓を抉るためにだ。

魔法を強行しようにも、今放てば彼らも巻き添えになる事は明白だ。


あなた達の意見は跳ね除けられた。
今出来る事は静観か、あるいは彼らの補佐だけである。



>>↓2  どうする?


『我が身を 《恍惚 / イスナ》 と、ここに定義する』


詠唱の完了と同時に、あなたの意識は冴え渡った。

あなたが行ったのは、自身に対する強力な暗示だ。
今のあなたは注意力という一点においてかつてない領域に立っている。
僅か一つの見落としも無いよう魔獣を、そして周囲の全てを観察する。
耳目に届きさえすれば、異変は間違いなく察知出来るだろう。



【反動軽減】

魔力 8
霊銀 2

目標値 10 (自動成功として扱います)



また、あなたの体には最低限の反動しか返っていない。
行動には何の支障も無く、少々時間が経てばすぐに回復もするはずだ。


そうして、あなた達は結果を待った。

待機した時間は僅かな物だ。
少なくとも、何も出来ない事に焦れる必要はまるで無い。


魔獣は突如、その巨体を跳ねさせた。
大口を持つ頭部は天に高々と持ち上がり……そして、振り下ろされる。

轟音と共に大地は揺れる。
しかし、あなたの意識はそこには無い。
あなたは確かに見てしまった。

魔獣の口と、そして喉は収縮していたのだ。
痛みに耐えるように、強く強くだ。


あ、などと言葉を漏らす暇さえ無く、あなたは理解する。
体内に進んだ者達がどういった末路を迎えたのかを。


閉ざされた魔獣の口からは、大量の鮮血が漏れ出していた。
口に近い部分の地面は既に土が見えない。
池か川か、そういった有様だ。

魔獣は動く様子をまるで見せない。
流れ出た血量からも明白だ。
死んだのだと、そう確信出来た。


「……他の部隊と合流する。
 確実な効果があると知れたのだ。
 早急に伝えねばならん」


部隊の長は、即座に踵を返した。
彼らには動揺の気配は存在しない。
言葉の通りの行動に移すべく、残った者を纏め上げている。

ただ最後に、部隊長はあなたへと静かに言葉をかけた。


「もし、お前があの卵胞を見つけず、心臓の位置が分からなかったならば。
 犠牲は七人では済ませられなかっただろう。
 我らの全員が死に、それでもなお痛痒を与えられなかった可能性もある。

 これはお前の手柄だ、誇るが良い。
 それが彼らの供養にもなるはずだ」


そうして、その場にはあなた達と魔獣の死骸だけが残された。
血溜まりは止め処無く溢れ、今も広がり続けている。


実証はされた。
あなたは十分に魔獣の弱点を晒し上げている。
何もせずとも、討伐は完遂される事だろう。
無論、戦士達の命を糧としてだが。

脅威は既に、脅威とは呼べない位置へと引き摺り落とされた。
このまま集落に戻り、護りを担うのも一つの手ではあろう。



>>↓2  どうする?


戻ろうと、誰かが口にする事も無く決定された。
討伐において出来る事は多くない。
あなた達が何もせずとも、魔獣の討伐は為されるだろう。
魔女に備える事だけが、あなた達の使命となった。

あなたは一度だけ、魔獣の死骸へと振り返った。

白い巨体の中には勇敢な戦士達が取り残されたままだ。
恐らく、二度と戻る事はあるまい。

魔獣の口は閉ざされてしまっている。
無理矢理に開こうにも、莫大な質量が邪魔をする。
外皮から穴を穿つ暇も今は無い。
そもそもとして、彼らが今も人の形を残している可能性は絶望的に低い。
体内にも満たされているだろう血の海から肉片を探す作業は、行われる事は無いだろう。

陰鬱な空気が、引き返すあなた達の間に漂っていた。


集落で防衛に当たる中、あなたはオルテに一つの仕事を頼んだ。
禁忌の森近くに存在する木々に、過去に出入りしている者が居なかったか確認して貰うべきだと考えたのだ。

しかし、それはどうやら不可能だ。
オルテの言によれば、木々は長期の記憶を持たないという。
今現在の状況は知れても過去については探りようが無いようだ。

ただ、それでも意味が無い訳では無い。
禁忌の森から出てくる者が居れば即座に発見が可能であるはずだ。
監視に当たって貰う事は悪くない選択に違いない。


そうして、時はじりじりと流れる。
木々を伝って届く情報には大きな動きは無い。
魔獣の暴走が引き起こされる事も無く、粛々と討伐は進んでいく。
オルテからも異常は報告されない。


やがて日は傾き、木々を透かし差し込む光は赤みを帯びる。
夕刻の訪れだ。

……その赤に、あなたは何故か怖気を感じた。
大量の鮮血を見てしまったためだろうか。
森の全てが血に沈むかのような錯覚が、心の片隅を微かに蝕む。


魔獣の討伐はいよいよ佳境に入ったようだった。
六体の内五つは既に死に、残された五十名程の戦士達は最後の個体へと向かっている。
最も巨大な体躯を持つそれを討てば、一先ずの脅威は失われる事となるだろう。


余りにあっけないと、あなたは感じたかも知れない。

しかし、これは当たり前の事だ。
魔獣の脅威は巨体と食欲、この二点。
積極的に人を襲う獰猛さを持たず、ただのんびりと森を貪るだけが能である。

弱点を完全に暴き、知恵と勇気を振り絞った戦士達が勝利出来ない理由が無い。


―――そこで、あなたは違和感を感じた。


魔獣は、魔女によって生み出された可能性がある。
にも関わらず、こうも簡単に討伐されてしまって良いのだろうか。
何かに利用するにしても、まずは生きていなければならないだろうに。

逆に考えるべきかと、あなたは思考を巡らせる。
たまたま討伐に易い性質を持つのでは無く、大人しい魔獣で無ければならなかったのでは無いかと。

そうすると真っ先に浮かぶのは……処分、だ。
事が終わった後にまで魔獣を養うのは余りにも手間がかかるだろう。
不要となればいつでも殺せるよう、あえて凶暴性を排除した可能性が、そこには浮かび上がる。


ざわりと、あなたの体表膜は今度こそ戦慄に震えた。

用済みとなれば魔獣は殺される。
そして今、魔獣はまさに殺されている。
それはつまり、事態は取り返しの付かない段階へと進んでいる事を意味するのでは無いだろうか?


閃きを裏付ける報告は、丁度その時訪れた。
木々の声に耳を傾けていた青年が、青褪めた顔で叫ぶ


「……声が、声が途絶えていく!
 何が起こっているのか分からない!

 北の森が、死んでいく!」


ざわめく者達の中で、あなたの口から掠れた声が漏れた。
なるほど、それはそうだろう、と。

魔女が何かを殺そうとするならば、最も手堅い手段はそれだ。

禁忌の森は、魔女の毒を焼いたために生まれたという。
だとすればつまり、魔女は新たに生み出せるのだ。
用意した毒を焼き、二つ目の禁忌の森を、いつでも、好きな場所へと。


魔女の描いたシナリオは、最早明白だ。

確実にブラダナークを脅かす魔獣を作り、討伐に出向かせる。
当然、赴くのは熟練の戦士達だ。
脅威と成り得る彼らの命を奪うために、魔女の手はそこに伸びたのだろう。

魔獣が彼らを殺せるならば良し。
不可能だと判断したならば、次は毒だ。
禁忌の森に踏み入ったあなたには容易く分かる。
あの毒に満ちた世界は戦士達の命を百度奪って余りある。

生存者は、きっと誰一人存在しない。


そして、最後の最後。
最大にして最悪の暴威が現れる。


"―――イイィィイイィイアアァァアアァアアァアア!!!"


それは、大地を砕かんばかりの激震と共に響き渡った。

誰もが身動き一つも出来ない。
重すぎる絶望が、世界を支配していた。


戦士達は恐らく死んだ。
しかし、魔獣は未だ健在だ。
無事で済んでいるとは考え難いが、少なくとも即死はしていない。
それが今、怒りに満ちた咆哮によって強制的に理解させられた。

何が起こるかなど、考えるまでも無い。


―――魔獣の暴走だ。


咆哮は、確実にブラダナークへと迫っている。

どこまでも合理的な事だと、あなたは呆然と感心すら抱いた。
狂った魔獣を差し向けられれば、それがいかに弱っていようとも戦士達を欠いたブラダナークは歯が立たない。
集落を蹂躙し終えれば、恐らく魔獣は死ぬのだろう。
そうなるよう調整が為された毒によって。


最早、事態は最悪の底を突き抜けて奈落に堕ちた。

猶予などどこにも残されていない。
一刻も早くあなた達は準備を整えなければならない。
防衛のためか、逃走のためか、いずれにしようともだ。



>>↓2  どうする?


安価取れた所でここまでで。
お付き合いありがとうございました。


今晩は21時30分位の開始予定です。
よろしくお願いします。

sage進行になってます


【??】

目標値 9

出目 9

成功!



>>819
指摘ありがとうございます。
普段と違うPCなのでsageになってました。


―――しかし、何も掴めずに空を切った。

リィタとあなたは、同時に怪訝を顔に浮かべた。
手渡す直前、あなたは短剣を持つ手を引き、譲渡を回避した。
その理由が何なのか、全く検討が付かない。

ふざけている場面でも、儀礼剣を惜しむような状況でも無い。
だというのにあなたの直感はこれを渡してはならないと強烈に主張していた。


だが、葛藤はすぐに消えた。
この土壇場であなたの記憶は見事に冴え渡った。
証となる物は、何も短剣だけでは無い。
ズラウナムを発つ際、ザハールから渡された物が存在するのだ。

近隣に存在する魔獣の情報を纏めた一枚の羊皮紙である。
王家においてのみ使用される特殊な一品たるそれは、ある意味短剣よりも明確にあなたへと繋がるだろう。


直感の正体は不明なままだが、代替品が存在するのだ。
何が戦況を左右するかなど分からず、まして戦闘に役立つ実績も有る。
ここは手元に短剣を残しておくべきだと、あなたは咄嗟に判断を変更した。


そうして、リィタは走り去った。
何事も無く南方へ抜けられれば、ザハールへと情報が届く事は疑い無い。
そうなれば、ここであなた達が無惨な死を迎えたとして、討伐の手はきっと伸びる。

……ただし、それは魔女の悪意をすり抜けられればの話だ。
狡猾な手口は既にあなたも十分に思い知らされた。
逃げ道に伏兵が存在する可能性は、恐らく低くは無いだろう。

希望を抱えて走る彼女の無事を、あなたはそっと祈った。


無論、祈りの時間は長くは掛けられない。
死の危険はリィタだけの話では無い。
むしろ、迎撃に当たるあなた達こそが直面している。


「どうやら、随分と近付いてきたようだな」


背後からそう言葉を投げ掛けたのは、ブラダナークの長たるガナだ。

酷く、落ち着き払った声であった。
今にも死の具現が訪れようとしているにも関わらず、一切の抑揚が消え去っている。
押し殺しているのか。
それとも感情が振り切れ表に出ないだけなのか。
あなたには判断が付かない。

ともかく、ガナの言葉の通りではあった。
木々を砕く轟音と天を揺らす咆哮は刻一刻と迫っている。


「迎撃に当たり、お前達に一つの指示を下す。

 私と、そしてオルテを守れ。
 我らの死は、即座に敗北を意味する事となる」


長の発言に、場は僅かな困惑に包まれた。

オルテならば分かる。
彼は集落でも随一の魔法の使い手だ。
現状において最大の戦力の一角を担っている。
それが失われれば勝利の可能性は消えて失せるに違いない。

だが、長はただの老人だ。
特殊な魔法を扱いはするが特段戦闘に優れるという話は聞かない。
あなた以外の反応を見ても、それはどうやら事実だ。


にも関わらず己を守れと言うとなれば、可能性は二つだ。

単純に命が惜しくなったか。
あるいはもう一つ。
彼が何らかの武器を隠し持っているか。

そして、どうやら真実は後者である。


「私は、魔女の所業をこの目で見た。
 決して許されざる、悪鬼の行いをだ。

 奴を生かしてなどおけるものか。
 私が輪廻の輪に旅立つ前に再び現れたのは僥倖という物だろう。
 ここで、魔女を殺す。

 そのための手立ては、既に私の手の内に有るのだ」


ガナは言う。

必要な要素は、ガナとオルテが生存したまま、魔女の前に立つ事。
ただそれだけで勝利は手に出来ると。


困惑はたちまちに取り払われ、希望へと成り代わる。
残された最後の戦力、僅か九名の戦士達は一時絶望を忘れた。
萎えかけた心臓は力強い拍動を再開し、武器を握る手には力が篭る。

丁度そこへ、禁忌の森を見張っていたオルテが戻ったのだから尚更だ。
彼ら若者達はブラダナークにおいて数少ない、オルテを信奉する者達である。
この状況で最後の希望たる彼の帰還を喜ばない者は居ない。


かくして、戦闘の準備は整えられた。
手勢は心許ないが、戦意だけは十二分に満ちている。

あなたとオルテは肯き合い、配置へと付いた。
鍵を握るのはあなた達だ。
合成魔法による一撃をどう扱うかこそが、戦況を左右するだろう。


轟音と振動が支配する世界の中、あなた達は待った。
背には大樹。
集落に存在する幾本かの内、最も北に位置する物だ。
時に聖性すら感じさせるそれに縋るかのように、あなた達は自然と集まっていた。

そして、その時は来る。


"―――アァアァアァァァァァア!!"


集落の北端、森の木々が形作る境界が、一瞬にして弾け飛んだ。
巨体の突進による、醜悪極まる破壊だ。
破城槌など比較にもならない。
絶望という絶望を掻き集め濃縮したような、有り得ざる一撃だ。


だが、怒り狂う魔獣の姿を目の当たりにしてなお、あなた達の心は折れはしない。
何故ならば、余りにも明確だったのだ。
眼前の魔獣は間違い無く、瀕死である。

白く光沢を放っていた表皮は、その面影がまるで無い。
今や、魔獣は全身を赤く染めている。
爛れた皮膚は醜く剥がれ落ち、赤い体液が止め処無く流れ落ちる。

その様に、あなたは確信した。
魔獣の絶対的な防御能力、表皮を覆う魔法の護りはまるで機能していない。
今ならばただの槍でさえも傷を穿つ事が可能に違いない。


希望は更に一段強まった。

魔獣は時を置かずに死ぬだろう。
時間を稼ぎさえすれば、それだけで勝利し得る可能性も十分に有る。


そう沸き立つあなた達を、魔獣は標的と見定めたようだ。
家屋すら丸呑みにしかねない大口を開き、不気味に溶け崩れた牙をもって噛み殺さんと、突撃の構えを見せている。



>>↓2  どうする? (迎撃戦のため、先制判定に自動成功しています)


「こっちだ、デカブツ!」


魔獣の体が撓み今にも飛び掛かろうとした瞬間だ。
あなた達の中から、二人の青年が魔獣の側面へと駆け出した。

注意を引いてくれと、そう頼んだのはあなたである。
その方法を、あなたは指定しなかった。
だからだろう、彼らは智恵と勇気を振り絞り、その暴挙を決行した。

あろう事か、青年の片割れがニカの粉末を頭から被ったのだ。

何をしているのかと叫ぶ暇もあなたには無い。
詠唱を途中で止めるなど、考えすらしてはならない事だ。

その隙にも彼らの行動は続く。
残る一人は素早い詠唱を終え炎を薙ぎ払う。
魔獣の表皮に確かに届いた熱は、爛れた皮膚を炙り流れる体液を泡立たせる。

ニカの匂いと、明確な敵対行動。
この二つによって魔獣を確実に引き付けようと、彼らは決意したに違いない。


ここまでされては、魔獣の行動など決まっている。

長く響く苦鳴。
そして続くのは、強烈に過ぎる反撃だ。

魔獣の首は高く、塔のように掲げられた。
誰一人、声を漏らす暇も無い。
鞭のごとく振るわれた肉塊は真っ直ぐに振り下ろされ。


その音が、光景が、地を砕く轟音と巨体に隠されたのはきっと幸運だったのだろう。
人体が砕け破裂する様など、およそ常人が目の当たりにして良い物では無い。


だが彼らの献身は決して無駄では無い。
命を以って稼ぎ出された僅かな時間は、一振りの刃を生み出した。

現れたのは、水の剣だ。
薄く、鋭く、糸のように頼りなくすら見えるそれは、限界まで圧縮された強靭なる鋼である。


青年達は、己が役割を全うした。
彼らは魔獣の側面へと走り、怪物の頭はそこへ振り下ろされた。
つまり、魔獣は今あなたに横腹を見せているのだ。

輪切りにするための絶好の条件は、ここに整えられている。



>>↓1 コンマ判定 【威力強化判定】

魔力 8 (あなた)
魔力 9 (オルテ)
霊銀 2
恍惚 1
精練 3

目標値 23

※ この判定は、目標値と出目の差によって結果が変動します。


>>↓2 コンマ判定 【反動軽減】

魔力 8
霊銀 2

三重 -4

目標値 6


【威力強化判定】

目標値 23

出目 5

差 18



【反動軽減】

目標値 6

出目 6

成功!


深紅の瀑布が、逆巻きに天へと伸びた。

あなたが作り、オルテが打ち放った刃は、深々と魔獣の肉を切り裂いた。
ただの一撃で巨体の半ばまでを裂き、大量の鮮血を噴出させる事に成功した。
雨と錯覚せんばかりの血量を見ればどれ程の重傷かは一目で分かる。





―――だが、それだけだ。

重傷は、あくまで重傷に過ぎない。
魔獣を即死させるには至らない。


あなたはそこで、失敗を悟った。
魔獣は巨体を誇る。
その肉は分厚く、斬り進む最中に威力が失われるのは当たり前の事だ。
例え表皮の護りを失った所で、容易く輪切りに出来る訳も無い。

必要なのは鋭さでは無かった。
貫通力こそを重視すべき場面で、あなたは致命的な失策を犯したのだ。


そのツケは、即座に暴威となって降り掛かる。

魔獣の頭は再び天に昇った。
拳を握るかのように口を閉ざした姿はさながら大槌か。

必然、反撃の手は大槌の振り下ろしに良く似ていた。
違うのは馬鹿馬鹿しい程の攻撃範囲と、比較すべき物が見つからないその威力だ。


全身に薄く麻痺が広がり始めた体を抱えるあなたは、それを呆然と見上げている。



>>↓2  どうする?


安価取れた所で寝ておきます。
お付き合いありがとうございました。


遅くなりましたが、今晩もやります。
22時30分~23時開始予定です。
よろしくお願いします。

凄い鉄火場だけどオレは参加できそうに無いからお前ら任せたぞ!


あ、質問なんですけどヒュドールの体を構成する水って体から千切れたりしたら何かデメリットありますか?
ヒュドールの体の水が減った場合は新しく別の水を用意する事で補填出来ますか?
もし補填出来るのなら、貴女の場合は生成の魔法で作った水でも補填が可能ですか?


>>860
減りすぎると体のパーツが足りなくなって行動に制限がかかり、最終的には死にます。
別の水で補填は可能です。
生成での回復も出来ますが、30分を過ぎると霧散してしまうので応急処置に留まります。

>>861
ありがとうございます

最後にもう1つだけ、ヒュドールは他から水を用いれば通常時よりも体を大きくする事は可能ですか?


>>862
可能ですが、限度は有ります。
余り体積を増やしすぎると、自力で動けない極度の肥満患者と同様の状態になります。
(もっとも切り離せば良いだけなので減らすのは簡単ですが)
現実における力士ぐらいが限界と考えて良いでしょう。


その瞬間、あなたは自身の生存を諦めた。
魔法の反動による麻痺が始まった今、自力での回避は到底間に合わない。
ならばどうすべきか。

答えは、あなたの眼前で散った戦士達が教えてくれていた。

振り下ろされる魔獣の頭へと、あなたは手を伸ばす。
狙うは夥しい流血を続ける傷だ。
精練の魔法を用いて血液の流動性を高め出血を加速させる。

それだけが最期に行える唯一の反撃だと、あなたは信じた。



>>↓1 コンマ判定 【魔法威力強化判定】

魔力 8
霊銀 2

目標値 10

※ この判定は、目標値と出目の差によって結果が変動します。


>>↓2 コンマ判定 【オルテ自動行動】

魔力 9

反動 -2

目標値 7


【魔法威力強化判定】

目標値 10

出目 9

差 1


【オルテ自動行動】

目標値 7

出目 1

クリティカル!!


あなたの魔法は確かに届いた。
流血の勢いは激しさを増す。

しかし勿論、それで魔獣の攻撃が止まる訳が無い。
頭を振り上げて落とすだけの単純な一撃は、放たれればどうしようも無い類だ。
仮に魔獣が即死したとして、最早止められる段階は過ぎている。

大気を砕く轟音と共に、絶対の死を齎す顎門が迫る。
直撃すれば終わる、などという事実は完全に理解出来ている。

だが、仕方ない。
出来る事はしたはずだ。
後は他の者が魔獣を仕留められるよう、あなたは祈り。


「我が名を 《反発 / スルズ》 と定義する!」


その叫びと共に、絶死の危機を寸でに脱した。


急速に移動する視界に、あなたは混乱の中に叩き込まれる。

それを治めたのは胴を包み込む力強い熱だ。
オルテである。
彼は咄嗟に魔法による加速を用い、あなたごと自身を打ち出したのだ。


低空を飛翔するあなた達の背後で衝撃が大地を砕く。
それがあなたに痛痒を与える事も、誰かの命を奪う事も、まるで無かった。


どうやら、そこが魔獣の限界だったのだろう。

全身を猛毒に蝕まれ。
体を半ばまで切り裂かれ。
流した血量は川のようですらある。
いかに常識外の生物たる魔獣であろうと満足に行動が行える道理はどこにも無い。


"―――ア、ァァ、ァアァ"


大口から漏れる苦鳴も、酷く弱弱しい。
長い体を無様に波打たせ、身じろぎするのが精一杯という有様だ。

見れば、毒も随分と回っているらしい。
大暴れの代償でもあるのだろう。
痛々しく剥がれ落ちた肉の合間には骨が覗いている部分もある。

既に瀕死。
最早暴走も叶わず、然程の時を置かずに死に絶えるに違いない。


飛翔の後、しばし地面を転がってようやく起き上がったあなたにも、当然追撃は加えられない。
ゆっくりと体勢を整えるあなた達へと向けられた物は、ただ悔しげな吐息のみだ。



>>↓2  どうする?


放置すれば、それだけで死ぬ。

だからと言って油断する気はあなたには毛頭無かった。
力尽きる寸前に最後の力を振り絞る可能性は否定出来ない。
殺せる時に確実に殺しておくべきだと、あなたは判断した。

無論、誰からも異論は上がらない。
各々が自らの武器を手に、詠唱を開始する。
生き残った七人は誰もが魔法に長ける傾向のあるドライアドだ。
近寄らずにトドメを刺す手段には事欠かない。

炎弾、雷撃、風刃、土槍。
多種様々の魔法が乱れ飛び、僅かずつ魔獣の体を抉っていく。
威力の点で見ればあなたとオルテによる合成魔法には遠く及ばないが、逃げられない的相手には十分だろう。


苦悶に身を捩る魔獣は、回避や反撃の気配も見せない。
ただ、一つだけ明確な変化があった。


"―――アァ、ァ―――ぁ、あぁ、ぁ"


魔獣の声だ。
意味を成さないただの音は、ほんの僅かに色を帯びた。

似た物は、あなたも良く知っている。
魔獣の大口から漏れる悲鳴は、今や人間のそれに酷似していた。


酷く不気味であった。
人間とは余りにかけ離れた生命が人の声を模すなど、冒涜的に過ぎる。

間近で耳にするあなた達はどうしようも無く想像してしまう。
声は今にも更に人らしくなり、ついには言葉に変わるのでは無いかと。

そんな妄想が、攻撃の手を加速させた。
魔法の雨は激しさを増し、たちまちの内に肉と骨を砕き、最大の弱点が露出する。
一定のリズムで伸縮を繰り返す、心臓だ。

それが破られるのもまた、すぐの事だ。
見えたと理解した次の瞬間には打ち放たれた槍が突き刺さり、心室の壁に穴を穿つ。


魔獣は、そうしてついに絶命した。
結局口から言葉を零す事も、尾を振るいあなた達を道連れにする事も無く。


魔獣討伐はここに完了となる。
既に五体は北の森で死に、最後の大物も力無く地に沈んでいる。
残った魔獣はもう居ないはずだ。

だが、勿論終わりは未だ遠い。
疲弊したあなた達に、しかし休む事は許されない。


決まっている。
あなた達は魔法を幾度も行使した。
全身に重く圧し掛かる反動は、常の身軽さを誰からも奪い去っている。
魔獣の襲来による混乱も、あなた達の遥か後方、戦士では無い住民達には色濃いはずだ。

つまり、絶好の機であるのだ。





「もう少し減るかと思ったんだけどねぇ。
 まぁ、所詮即席だと考えれば上々と言えなくも無いかね」


その、一人の老婆にとっては。


その姿は、集落の北端にある。
魔獣が砕き作り上げた道を悠々と、何の気負いも無く歩み、現れた。
薄灰のローブを纏い顔を隠していても、この場に正体を理解出来ない者は居ない。

確信の材料は誰にも明白だ。
目に映る物では無い。
ただ老婆の纏った気配だけで全てが分かる。


それは、腐り果てていた。

まるで伝染性の病だ。
この世に存在する、ただその一点のみを以って世界を侵す異物である。


居ると理解はしていた。
襲撃を予想してもいた。
だが、目の当たりにした余りの異質さに誰一人声を漏らせない。

いや、正確には一人だけ例外も居る。
魔女に対する深すぎる憎悪を抱える長だ。

魔獣の攻撃による巻き添えを警戒した彼は遠く距離を取っていた。
それが今、魔女と同じく余裕すら感じさせる歩みであなた達の元へ向かっている。
全身からどす黒い殺意を滲ませ、言葉を成さない呻き声を吐きながら。


そんな様を遠目に見ても、魔女には微塵の揺らぎも無い。
泰然と、あるいは傲慢にあなた達を睥睨し、口を開いた。


「さぁて、お前たちはもうお終いだ。
 あたし自身がこうして出向いた意味は言わなくとも分かるだろう?
 とっくの昔に、もう詰んでいるんだよ。

 ……ただ、あたしにも一片の慈悲らしい物はある。
 聞きたい事があれば冥土の土産に答えてやっても、まぁ構わないよ」


僅かに垣間見える老婆の口元は、不吉にニヤリと歪んでいた。



>>↓2  どうする?


『ズラウナム、あるいはグレアモール。
 ……そこに常識を書き換える術を施したのは、あなたか?』


あなたは咄嗟に、そう問いかけていた。
何故今それが心に浮かんだのかはあなた自身理解出来ない。
強いて言えばその規格外振りが似通っていたからだろうか。

そんなあなたの質問に、老婆は深々と溜め息を吐いた。
何とも下らない事を聞かれたと、そう言わんばかりに。


「いいや、あれはあたしじゃないよ。
 つまらない話さ。
 確か、傾国姫とか呼ばれていた女が居ただろう。
 あいつが余計な真似をしたせいで捩れ狂っているのさ。

 全く嫌になるよ。
 王家の秘宝を盗み出しさえしなけりゃ、今も死人と病人で溢れた住みやすい国だったろうに」


やれやれと首を振る様は本心から惜しんでいるとしか見えない。

確かに、老婆にとってはそうなのだろう。
人を浚い弄ぶには、悪しき国である方が紛れやすいに違いないのだから。


老婆が一旦口を閉ざすとほぼ同時。
あなた達の元へ辿り着いた長が、オルテの隣へと並んだ。

長であるガナには、魔女を確実に殺すための術があるという。
必要な要素はガナとオルテが生きたまま魔女の前に立つ、ただ一点のみ。
つまり、今ここに殺害手段は形成された事となる。


「で、それだけで良いのかい?
 何でも聞いてくれて構わないよ。

 何せ、この年になると若者とのお喋りだけが楽しみでねぇ」


老婆は空虚な言葉を並べる。
彼女の言葉に沿うか逆らうかは、あなたの自由だ。



>>↓2  どうする?


といった所で寝ておきます。
お付き合いありがとうございました。


今日はちょっと無理でした。
明日になります、申し訳ありません。


今晩は22時30分位に開始します。
毎度遅くてすみません。
よろしくお願いします。


あなたは再び質問を投げかけた。
大陸史に刻まれている不可解についてだ。

最早、あなたは半ば疑心暗鬼であるのかも知れない。
世界で起こる異常は全てこのドライアドの老婆による物なのではないかという疑念が拭えない。
何もかも、彼女が原因なのではないかと。

それが真実であるか妄想であるかは現実的に考えれば歴然としている。
だが、今回に限って言えばあなたの考えは正しかったようだ。


「うん? また随分と古い話だね……。

 確かに、あれはあたしがやった事だよ。
 下準備には嫌に成る程時間を取られたもんさ。
 出来る事なら、もう二度とやりたくはないねぇ」


老婆はあっさりと自身の罪を認めた。
しかし、そこに悪事の自覚はまるで見て取れない。

夕飯の献立が手間のかかる物であり、今後は作りたくない。
そんな主婦が零す愚痴と同等の感情しか籠められていないのだ。


あなたは眩暈がする思いだった。

天地が返ったとして、この老婆とあなたは決して相容れない。
その確信だけが一層強くなる。
そして、同時に手配書に書かれた一文を思い起こし心の底から同意した事だろう。
あらゆる犠牲を払ってでも殺さねばならないとは、まさしく真実だ。


二度の言葉を交わし、あなたの戦意は怖気を上回った。

最早対話は不要だ。
老婆が生命として存在するだけで、世界にとっては無類の害毒に違いない。
一刻も早くその首を落とさねばならない。


……そんなあなたの決意は、しかし既に遅い。
事態は、あなたの行動を待たずに動き始めた。

始まりは二つの音だ。


「何を聞くかと思えば、実に下らん。
 所詮は余所者という事か。

 ……だが、まぁ良い。
 時間稼ぎになっただけでも上出来と考えるべきだろう」


それは、あなたを見下すような冷えた長の言葉と。





「…………お、さ?」


その隣に立っていたオルテの、その胸から零れ落ちる血液の落下音だった。


あなた達の誰もが、現状を理解出来なかった。

全ての視線がオルテへと、驚愕をもって向けられる。
彼の胸を貫き鈍く輝く先端を覗かせているのは、一本の短剣だ。
その持ち主は、決して魔女の手先などでは無い。


「忌まわしき姿のお前を、何故これまで生かしておいたか。
 一度ぐらいは考えた事もあろう。

 ……全ては、この時のためよ。
 災厄の魔女を確実に抉る、この一撃のために、私は耐え忍んだのだ。

 無駄に自惚れ増長する貴様を一体何度縊り殺したいと思った事か」


沈黙に沈む森の中でただ一人、長は饒舌に語る。
その顔を愉悦に歪めて。
言葉の調べを、隠し切れない狂喜に揺らして。


「あぁ、だが己を抑えた甲斐はあった。
 よもや、真実この日を迎えられるとは思いもせなんだ。
 故に、最後に労いはくれてやろう。

 良く生きた、オルテよ。
 貴様の名は英雄として刻んでやろう。
 心置きなく死ぬが良い」


そうして、長の切り札、一つの魔法が完成する。
短剣を捻り、オルテの心臓を引き裂いて。


「ここに、汝を 《鏡像 / エスカ》 と定める」


黒い繊手が伸ばされた。
源はオルテの胸に穿たれた穴。
目指す先は魔女。

破綻を操るあなたには分かる。
それは死だ。
影のごとき繊手はまさしく明確な死を宿し、引き込むべき者を探している。

魔法の持つ力は、力有る言葉と長の言から明らかだ。
これは酷似した二者に同調を強制する呪いなのだろう。

オルテは、魔女に似ている。
完全に瓜二つと、そう言ってしまっても良い。
ならば、彼は確かに触媒と成り得る。


「これで、これで貴様も終わりだ、魔女よ!
 我が呪詛より逃れる術は無い!」


長は高らかに哄笑を響かせる。
その足元に声も無く崩れ落ちたオルテになど、最早目もくれずに。


対する魔女は……逃走も防御もしていない。

正確には、少し違う。
する必要がどこにも無かった。

死を運ぶ魔手は、するりと魔女をすり抜けた。
心臓を掴む事などまるで出来ず、僅かに体を揺らす事さえ出来ず。
何の影響も与えられずに。


は、と。
間抜け極まりない、呆然とした声が長より漏れた。

そうして、哄笑の主は入れ替わる。


「はは、ははははははは!
 何やら企んでいそうだとは思ったが、こんな物かい!
 あぁ全く、年寄りをいじめないでおくれよ!
 あんた程度の道化を警戒するなんて、とんだ無駄をしちまったじゃあないか!」


笑いに身を捩る魔女の頭より、ローブのフードが剥がれ落ちた。

大きく広がったイチョウの髪、罅割れたようなマツの肌。
それが、彼女の持つ容姿であった。
スギとシラカバに彩られるオルテとは、一つたりとも合致しない。

むしろ、似るのは別の者だ。
同様の特徴を持った者は他に居る。


「そいつも哀れだねぇ!
 馬鹿馬鹿しい思い込みで味方に刺し殺されるなんて、どんな喜劇だい!

 抉るなら、自分の心臓にしておけば良かったろうに!
 何せ、今のあたしはあんたの母親から皮を貰ってるんだからさぁ!」


それはガナだ。
髪も肌も、魔女のそれと完全に同一の種、同一の質を持っている。

以前、長に聞いた話によりあなたは知っている。
ガナの母は、魔女の手により拉致されたという。
見つかった時、彼女は全身を剥ぎ取られ、死にながら蠢いていたとも。

魔女の所業はそれで、理解できてしまった。



>>↓1 コンマ判定 【危機感知】

感覚 1

目標値 1


【危機感知】

目標値 1

出目 6

失敗……


最悪は終わらない。
誰もが現実を理解出来ずに凍った世界は、次の瞬間に割れ砕けた。

ずるり、と。
あなたは自身の体が滑るのを理解した。
腰より上、上半身だけが突如移動を開始し、地面へと零れ落ちる。

まるで予期出来なかった異変に、あなたは対応も出来ずに転がった。


それが、全ての終わりだった。

狼狽しつつも上げた瞳で捉えた光景は、絶望という言葉すら生温い。


ブラダナークの最後の戦士達は、全員が死んでいた。
いや、もしかしたら生きている者も居るかも知れない。
しかし、それには「今は」という言葉を付け足す必要があるだろう。

何せ、半分になっているのだ。
腹部で綺麗に別たれた体は、ただの二つの部品となってしまっている。
誰一人、それこそ長たるガナも例外では無い。

禁忌の森で見たあの魔法だと、あなたはぼんやりと確信した。


更に、同時に響いたのは轟音だ。
小さくなった体で見渡せば、その音源など一目で分かる。

ブラダナークを支える大樹の幹が切り飛ばされていた。
天へと屹立していた威容は僅かずつ傾き、その生に幕を下ろそうとしている。


「あぁ、そうそう。
 謝罪だけはしておこうじゃあないか。

 すまないねぇ、全部嘘だよ。
 デカブツが思いの外手早く殺されたのはちょいと予想外でね。
 時間を稼がせて貰ったのさ。

 あの子らが仕事を終わらせるまでのね」


老婆が指した先を見て、あなたは完全に理解した。

何を捨ててでも逃げるべきだった。
勝利を夢見た事が間違いだった。
初めから、どうしようも無かったのだと。

それは一騎当千の集団だった。
禁忌の森で目にした、規格外の魔法を扱う褪せた金の少女。
それと全く同一の容姿を持つ者が十四人。
茫洋とした焦点の合わない瞳を老婆に固定したまま、のんびりとした歩みで現れた。


先頭を行く者が右手に提げる塊を見て、あなたの心はついに砕ける。

リスの特徴を持つ、セリアンスロープの女性の頭だ。
あなたが判断し逃がした、リィタの物である事は明白に過ぎる。


少女達の背後で、大樹は完全に折れ倒れた。
甚大な衝撃と共に土が舞い上がり、集落の姿を隠していく。
見えはしなくとも、その下敷きとなった家屋の末路は分かろう。
そこに隠れていたはずの住民達の最期もだ。

ここに、ブラダナークは壊滅した。
生き残りなど居る訳も無い。

例外は、斬撃が致命傷とならないあなただけだろう。


「おおよそ及第点といった所か。
 ここは環境が良い。
 邪魔な天井さえ無くせば、良い薬草園になるだろうねぇ。

 しかし、そういえばそうだった。
 ヒュドールの殺し方はまだ仕込んでいなかった。
 わたしとした事が、とんだ手落ちだね。

 ま、折角だ。
 あんたを使って教育させて貰うとするさ」


そうして、老婆の手があなたに伸ばされる。


守るべき者は、全てが死んだ。
集落は根幹を砕かれ、民は無惨に刈り取られた。
戦闘ですら無く、ただの除草作業のごとくにだ。

オルテも死んだ。
長の手にかかり、生の過半を捧げただろう信頼を裏切られて。


迫る掌を呆然と眺め、あなたは思考する。

理解出来ない。
認めたくない。


こんな現実は―――





1)許せない

2)もう何も考えたくない



>>↓【0:15】以降の書き込みが有効 二票先取


『……あは』


あなたの口から、声が漏れた。
何の意味も持たない、絶望が。

あなたの心は完全に砕け散った。
当たり前の事だ。
これだけの事態を前に正気を保てる存在など、そうは居ない。
あなたがその一握りでなかったとして、責める者など存在すまい。


そうして、あなたは人間から教材へと成り下がった。
あなたの命はこれより、少女達に殺し方を学ばせるためだけに消費される。

だが、嘆く事は無い。

既に、苦痛を感じるための機能はあなたには残されていないのだから。





DEAD END


なんかごめん。
やっぱ出すべきじゃなかったわこの人。


本当もうあかん。
ここまで難しいと思わんかった。
良く考えたら死んだら死んだで元PCがブチコロって問題有り過ぎだし。
というか今周回のあなた追い詰めたら破綻覚醒イベント発生して婆確殺されるしもうやだ。
死を恐れて不死を目指す魔女vs死を操る魔術師とか普通に考えてレート完勝。
ブラダナーク向かわれた時点でこっちが詰み。

全面的に謝罪します。
グダりすぎなので閉めます。
お付き合いありがとうございました。
さようなら。

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