【安価コンマ】平穏世界のファンタジーライフ【オリジナル】 (1000)


とある世界のとある時代。
カダスティア、と呼ばれる陸地があった。

広大なる湖には、人の形をした水達が都市を築き。
恵みに彩られた深い森の中で、木々の精達が命を育み。
火を噴く山脈では、赤き鱗の竜人達が雄叫びを上げ。
侵す者無き大空を、鳥と人との相の子達が翼を以って翔け巡る。

戦火を知らず。
飢餓を知らず。

慈悲深き神に祝された、奇跡の中ですら奇跡と呼べる、最たる平和を湛える地。



そこに、あなたはこれより生まれ落ちる。

善を求めるか、悪に沈むか。
孤独を尊ぶか、仲間を愛するか。
何を残すか、あるいは残さないのか。

全ては、あなたの自由である。





//////////////////////////////////


ありふれたファンタジー世界を安価とコンマで生きるスレです。
傾向的には真面目な部類。


■ 注意事項

1)R-18行為は描写がスキップされます。

2)登場人物が死亡したり、重度の障害を負う場合があります。

3)胸糞、鬱展開が発生する場合があります。

4)このスレは複数回の周回を前提として組み立てられています。

5)主人公の死亡によるゲームオーバーは起こりません、コンティニュー回数は無制限です。

6)連取制限は安価コンマ共に有りません。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1467814723


白い輝きに覆われた世界であった。

天も無く、地も無く、ただ白のみが埋め尽くす無限の空間。

そこに【あなた】は亡羊と存在していた。



『――ようこそ、輪廻を巡る魂よ。
 ここは私の胎の内、あなたの全てを定める運命の出発点です』



ふと、どこからか声が響く。

未だ幼さを残す、少女の声だ。
しかし、その音に含まれる気配は決して幼くなど無い。

連想されるべきは母親の抱擁だろう。
優しく、暖かく、声は静かに【あなた】へと語りかける。



『私の名はリィン。
 北の果てに眠るもの、原初の揺り籠、魂の観測者。
 様々な呼び名が有りますが、最も馴染み深いものは……そうですね。
 輪廻の神、というものでしょう。

 ……とはいえ、定命の者はここより出れば、全てを忘れるが定め。
 私の事を語る意味はありませんが』



神を名乗る声は、どこか寂しげに言葉を締め【あなた】を促す。

見れば、白のみであった世界には、幾つかの色が生まれていた。
様々な色の淡い光を纏う、小さな鏡だ。
鏡面にどこか見覚えのある風景を写しながら、鏡達は【あなた】の周囲を廻る。



『それでは、運命をこれより整えてまいりましょう。
 さぁ、あなたが求める物を、選び取るのです』


【キャラクターメイキングを開始します】


■ 性別の決定

この世界において性別による大きな差異はありません。
あなたは自由に選択する事が出来ます。


>>↓1  性別を決定して下さい (男女のみ)


あなたは 【女性】 です。



■ 種族の決定

次に、あなたの種族を決定します。
この大陸には八つの種族が存在し、それぞれ能力や特徴に大きな差異があります。

一覧を表示します。



■ ミーニア

平均的な能力を持つ種族。
現実世界の人間に良く似る。
取り立てて優れた能力は無いが、劣る部分も存在しない。

能力値補正無し

◆ 種族能力

【始祖】

あらゆる人種はミーニアを始祖とすると、カダスティアの神は語る。
対人友好判定に有利な補正を得る。

◆ その他の情報

平均身長 170cm
平均寿命 60年



■ ジャイアント

巨大な肉体を持つ種族。
体の大きさ以外はミーニアと良く似る。
膂力、体力に優れるが、のろまかつ不器用で鈍感。

筋力+4 耐久+4 器用-2 感覚-3 敏捷-3

◆ 種族能力

【頑健】

強靭な彼らの肉体は、刃はおろか病毒すらも跳ね除ける。
物理的ダメージを軽減し、毒や病気に対する高い耐性を獲得する。

◆ その他の情報

平均身長 270cm
平均寿命 80年



■ リリパット

小さな体を持つ種族。
体躯に比して大きな足を持つが、それ以外はミーニアに良く似る。
器用さ、感覚、素早さに優れるが、膂力と体力に劣る。

器用+2 感覚+3 敏捷+3 筋力-4 耐久-4

◆ 種族能力

【直感】

小さな物事が生命の危機に直結する彼らは、己に迫る異変を敏感に察知する。
危機感知判定に有利な補正を得る。

◆ その他の情報

平均身長 90cm
平均寿命 40年


■ ドライアド

森の中に隠れ潜む種族。
樹皮に似た皮膚と、葉のような髪が特徴的。
魔力との親和性や精神力に優れるが、鈍感で、体力に劣る。

魔力+3 意思+2 感覚-3 耐久-2

◆ 種族能力

【森の隣人】

人よりも精霊に近い彼らは、最も親しい隣人たる植物達とも言葉を交わす。
植物との対話が可能になる。

◆ その他の情報

平均身長 190cm
平均寿命 100年



■ サラマンドラ

好んで火山に棲む、トカゲに良く似た人型種族。
強固な赤い鱗に覆われた頑強な体を持つ。
身体的能力全般に優れるが、細かい事を考えるのが苦手。

筋力+2 耐久+2 敏捷+2 知識-4 意思-2

◆ 種族能力

【炎の隣人】

火精霊の寵愛を一身に受ける彼らは、強力な炎の加護を持つ。
火属性ダメージによって回復し、自身の操る炎を強化する。
ただし、寒冷地におけるデメリットが倍化する。

◆ その他の情報

平均身長 150cm
平均寿命 50年



■ ハーピー

大空を舞う種族。
猛禽の翼と爪を持ち、大空を舞う能力を持つ。
敏捷性に極めて優れるが、翼を得た代償に腕を失っているため、極めて不器用。

敏捷+5 器用-5

◆ 種族能力

【風の隣人】

翼を持つ彼らは当然の能力として、自由自在に空を翔る。
翼に損傷が無い限り飛翔が可能となり、空中での姿勢制御に有利な補正を得る。

◆ その他の情報

平均身長 150cm
平均寿命 60年


■ ヒュドール

水の体を持つ種族。
知性ある水とも言える彼らは他種族と大きく異なる生態を持つ。
精神的能力と魔力の親和性に優れるが、身体的能力に乏しい。

意思+4 魔力+3 筋力-2 耐久-5

◆ 種族能力

【水の隣人】

定まった形を持たない彼らは自身の姿を自在に変更出来る。
外見の変更を自由に行える。
また、物理的ダメージを軽減する。
代償として、水の少ない地域では、継続的にダメージを受け続ける。

◆ その他の情報

平均身長 可変
平均寿命 150年



■ セリアンスロープ

獣の特徴を持つ種族。
狼、猫、羊、牛など様々な動物の能力を扱える。
肉体的能力に優れるが、魔力との親和性が殆ど無い。

筋力+2 感覚+2 敏捷+2 魔力-6

◆ 種族能力

【獣の血脈】

獣の特徴を持つ彼らは、外見だけで無く能力も併せ持つ。
選択した獣の種類に応じて、様々な判定に補正を得る。

◆ その他の情報

平均身長 100~190cm(獣の種類によりまちまち)
平均寿命 20~80年(獣の種類によりまちまち)


種族を一つ選択して下さい。


>>↓  【23:32】 以降の書き込みが有効


■ オミットしたはずの 【知識】 が残っていた不具合



■ サラマンドラ

好んで火山に棲む、トカゲに良く似た人型種族。
強固な赤い鱗に覆われた頑強な体を持つ。
身体的能力全般に優れるが、細かい事を考えるのが苦手。

筋力+2 耐久+2 敏捷+2 意思-6


あなたは 【ドライアド】 です。


■ 能力値の決定

あなたの様々な能力を示す基礎能力値を決定します。
これはコンマによって判定されます。

0は10として扱われ、1に近い程低く、10に近い程高い能力になります。



>>↓1 十の位 【筋力】 物理的攻撃の威力、重量物の運搬、などに影響
>>↓1 一の位 【耐久】 物理的被害の大きさ、病気や毒物への耐性、などに影響

>>↓2 十の位 【器用】 物品の加工、細かい作業の成功率、などに影響
>>↓2 一の位 【敏捷】 走行速度、軽業の成功率、などに影響

>>↓3 十の位 【感覚】 芸術的センス、直感による危険の予知、五感の鋭さ、などに影響
>>↓3 一の位 【意思】 恐怖や逆境への耐性、一般的に忌避される行為の実行、などに影響

>>↓4 十の位 【魔力】 魔法行使による反動の軽減、使用出来る魔法の数や規模、などに影響
>>↓4 一の位 【幸運】 様々な被害の軽減、不運な出来事の回避、などに影響


あなたの能力値が決定されました。
種族補正は既に適用されています。
また、種族内における評価も付記されています。


【筋力】 3  // 劣等
【耐久】 7  // 天才的
【器用】 10  // 怪物
【敏捷】 7  // 熟練
【感覚】 2  // 平均的
【意思】 8  // 平均的
【魔力】 4  // 蔑視
【幸運】 4  // 評価無し


■ 年齢の決定

次に、あなたの年齢を決定します。
年齢が高すぎる、もしくは低すぎる場合、行動に制限が発生する場合があります。

ドライアドの平均寿命は 【100年】
ドライアドの成人年齢は 【20歳】

以上の情報を参考に、決定して下さい。


>>↓1


あなたは 【95歳】 です。

年齢が高すぎるため、一部の行動に支障が発生する場合があります。



■ 初期位置の決定


次に、あなたの現在地を決定します。

http://light.dotup.org/uploda/light.dotup.org347976.png

ドライアドであるあなたの 【故郷】 は、自動的に 【クラッカ】 に決定されています。
地図情報と下記の国家情報を参考に、初期位置を選択して下さい。


■《クピア》

特徴が無い事が特徴、と言われる国。
取り立てて言うべき特産物も無く、交易路からも外れている。
穏やかな環境こそが人生において最も尊い物なのだと、国民達は拗ねたような顔で語る。

主要人種 : ミーニア リリパット ジャイアント セリアンスロープ ハーピー ドライアド


■《スラフカスタ》

二大湖の中に存在する聖地を求めながらも、水上生活に適応出来ない者達が暮らす国。
宗教色が強く、敬虔な輪廻教徒が大半を占める。
また、大陸における宗教画や神々の彫刻の多くはこの国において生み出されている。

主要人種 : ジャイアント リリパット セリアンスロープ ミーニア ドライアド


■《シアラ・ミニア》

輪廻教の聖地を擁する水上国家。
湖上には都市が築かれ、多くの人々が信仰と共に暮らしている。
東の湖には輪廻の神が、西の湖には輪廻の神を産んだ母神が、それぞれ降臨したとされている。

主要人種 : ヒュドール ミーニア セリアンスロープ


■《クァレヴァレ》

安定した気候と、実り豊かな大地に守られる国。
大陸最大の食料生産量を誇る。
更に、スラフカスタやシアラ・ミニアと、大陸南部を繋ぐ交易により栄えている。

主要人種 : ミーニア ジャイアント リリパット セリアンスロープ


■《ヴァタス》

古い言葉で「荒野」を意味する名を持つ、大半を岩と砂に覆われる地域。
かつてクァレヴァレから追放された罪人達をそのルーツとする。
今では通常の国家として扱われ、交易も行われているが、やや治安が不安定。

主要人種 : ミーニア リリパット セリアンスロープ ハーピー


■《クラッカ》

大陸最大の大森林を国土とする、ドライアド達の国。
必要以上の木々の伐採は禁忌とされ、街道すらろくに存在しない。

主要人種 : ドライアド セリアンスロープ ミーニア ヒュドール


■《ハルピュイア》

連なる岩山を国土とする、ハーピー達の国。
ハーピー以外には過酷な環境ではあるが、標高の低い地域には鉱物を求める人々が都市を築いている。
また、大陸の南北を繋ぐ交易路が存在するが、危険性が高いために利用する者は少ない。

主要人種 : ハーピー ミーニア


■《火竜山脈》

頻繁に噴火を繰り返す火山が連なる地域。
生存に影響を及ぼす程の高温により、サラマンドラ以外の人種の定住は極めて困難。
また、名の通り火口付近には炎を纏うドラゴンの群れが生息する。

主要人種 : サラマンドラ ミーニア


■《グレアモール》

大陸において最も降雨量が多い国。
植生が独特で、他の地域とは全く異なる風景が広がる。

主要人種 : ミーニア ヒュドール ドライアド


■《ディスリス》

ネレンシアと並び、最も気温の低い地域。
南部の荒野に生息する動物に特殊な生態を持つ物が多く、その毛皮や加工品を特産とする。

主要人種 : ミーニア ジャイアント セリアンスロープ ハーピー


■《ネレンシア》

大森林と山脈によって分断される大陸の南北を繋ぐ、最大の交易路により栄える国。
極めて裕福な国家ではあるが、大地の実りは少なく、寒冷で過ごしにくい。

主要人種 : ミーニア


>>↓ 【23:54】 以降の書き込みが有効です。


あなたは現在 【クァレヴァレ】 に滞在しています。


■ 性格や来歴の決定

あなたがどのような人間か、これまでどのように生きてきたかを、自由に設定出来ます。
この内容により、保有する知識や得意とする技術が自動決定されます。


※ 注意事項 ※

【内容が長すぎる場合】
【この世界では有り得ない内容である場合】
【年齢や性別から考えて異常な内容である場合】
などは、こちらの判断で一部が無効化される場合があります。

また、安価範囲内で矛盾が生じた場合、早い者勝ちになります。



>>↓1-3  【00:02】 以降の書き込みが有効

倫理観皆無のマッドサイエンティスト
違法な実験を繰り返して国際指名手配を受けて整形を繰り返してる

実は不死

心穏やかな性格であるが若い頃は裏の仕事に従事していた
その償いのために後進の指導にあたる


ごめんなさい、シアラ・ミニアでした(白目)


あなたの来歴及び性格が決定されました。

>>35 不死については、この世界で永遠を生きる手段は 【検閲削除】 のため、無効化。
>>36 >>33の内容との矛盾により、一部無効化


【倫理観皆無】
【マッドサイエンティスト】
【国際指名手配】
【孤独】
【後進の指導】


これにより、以下の能力が付与されます。


【倫理観による意思判定に有利な補正】
【禁じられた魔法に関する知識】
【長期の孤独により、対人有効判定に不利な補正】
【プロローグにおける弟子の自動獲得】


■ 習得魔法の決定

最後に、あなたが行使出来る魔法を決定します。


※ 魔法とは ※

大気中に浮遊する 【魔力】 と呼ばれる元素の操作技術。
操作は主に神代の言語である 【力ある言葉】 と 【明確なイメージ】 によって行われます。
本来人間には許されていない能力のため、行使の度に 【一時的な身体的障害】 が発生します。
障害の度合いは 【起こす現象の規模】 【魔力との親和性(魔力の能力値)】 によって変動します。

魔法によって行える物事に制限は有りません。
ただし、あなたの能力値によっては想定された規模の魔法とはならない場合があります。

例)
魔力の能力値が 【1】 のキャラクターが 【雪崩】 を使用しても、鼠一匹を埋めるのが限度、といった具合。



また、以下の魔法は能力値に関わらず、自動的に習得しています。


【種火】
掌に収まる程度の小さな炎を発生させる。

【清水】
両手で作った器に収まる程度の少量の水を召喚する。

【微風】
頬を優しく撫でる程度の僅かな風を発生させる。

【土塊】
拳程度の大きさを限度とする少量の土を召喚する。



あなたの魔力は 【4】 のため、魔法を 【2つ】 習得できます。
魔法に必要となる 【力ある言葉】 を指定して下さい。

>>↓1-2  【00:25】 以降の書き込みが有効です。


【キャラクターメイキングを終了します】



■ あなたのステータス


ドライアド 95歳 女性

【筋力】 3
【耐久】 7
【器用】 10
【敏捷】 7
【感覚】 2
【意思】 8
【魔力】 4
【幸運】 4

出身地 : クラッカ

現在地 : シアラ・ミニア


◆ 習得魔法

【種火】
掌に収まる程度の小さな炎を発生させる。

【清水】
両手で作った器に収まる程度の少量の水を召喚する。

【微風】
頬を優しく撫でる程度の僅かな風を発生させる。

【土塊】
拳程度の大きさを限度とする少量の土を召喚する。

【放浪】
自身の管理下に置いた魔力、魔法、物品、などを意思ある生物のように振舞わせる。
対象は自由意志の下、無軌道に放浪する。
魔力の能力値が不足しているため、生物には使用出来ない。
効果時間はおよそ半日。

【反発】
反発力を発生させる。
通常は魔力、魔法、物品などに作用するが、あなたの精神性との合致により、僅かながら精神にも作用する。
生物に使用した場合、対象への接触に忌避感が生じる。
効果時間はおよそ半日。


◆ キーワード

【倫理観皆無】
【マッドサイエンティスト】
【国際指名手配】
【孤独】
【後進の指導】


キャラメイクが終わった所で、今日はお開きで。
プロローグ及びゲーム開始は明日以降にとなります。
お付き合いありがとうございました。


一人目から濃いの来たけど、むしろ書きやすそうでちょっと助かります。

これって前スレあるん


>>51
同一世界の別大陸を舞台としたダンジョン攻略安価スレがありました。
が、話的に特に繋がりがある訳でも無く、運営しやすいように設定を変えている部分が多々あります。
読んでいる必要は全く有りません。

//////

これからメモ帳に書き始める感じです。
投下まで暫くかかると思われます。


【プロローグ / 円環歴612年 春】



「―――そうして、ミニア様は伴侶たる男神との邂逅を果たしたのです」


薄曇りの空の下。
穢れ無き湖を進む、大人が五人も乗れるかどうかといった小舟では、男の言葉が響いていた。
この男は渡し舟の主である。


シアラ・ミニア。
現代の言葉に訳したならば【聖母ミニア】となる名を持つこの国は、二つの巨大湖の上に築かれている。

生命を持つ水である種族、ヒュドール達であれば自らの足で進む事も出来るだろう。
しかし、地に足を付けて生きる他の種族ではそうも行かない。
必然的に、シアラ・ミニアの都市を目指す者は、湖畔の村から船に乗り進む事になる。

この国においては極有り触れた、どこにでもある風景である。
そして、湖上の道程を彩る神話の語りについても、また同じ事だ。

二柱の神が降臨したとされるシアラ・ミニアは熱狂的な宗教国家であり、当たり前のように船頭の男も熱心な信徒であるのだ。
男の言葉は話が進むにつれて熱が篭り、やがて歌い上げるような抑揚が見え始め、声量は増しに増して行く。


「人々の愚かさ、地に満ちる死、空を覆う怨嗟の嘆き!
 神の慈悲すら曇る穢れた世に絶望するミニア様にとって、それがどれ程の救いであった事か!」


だが、その熱狂を不意に止める者があった。


『……やかましい男だね。
 いい加減その口を閉じな』


しわがれた、という表現は適切では無い。
罅割れた、と言うべきその声は、灰色のローブを纏った老婆の物だ。
まるで巨木のウロを吹き抜ける風のような不吉さを伴って、老婆の言葉は紡がれる。


『あたしが払った金は渡し賃だよ。
 断じて、あんたのその下らないお喋りが聞きたいからじゃあ無い』


それは、余りにも常識という物が欠如していた。

男が語っていたのは、この大陸において最大の勢力を持つ【輪廻教】の聖典の一場面である。
それを「下らない」などと評するのは、どれ程学の無い人間でも有り得る事では無い。
ましてや、ここは聖地を擁する信仰の中心地なのだ。
万一狂信的な者の耳にでも入ったならば命の危険すらある、そういった発言だった。

男の反応も、その常識に沿った。

まず初めに驚愕と共に老婆へ振り返る。
次いで、意味が脳髄に染み渡ったのだろう、怒りに顔を赤く染めた。

だが、老婆はそれも意に介さない。
座り込んでいた体を億劫そうに立ち上がらせると、小舟の縁に足を向ける。
そうしてそのまま、湖へと踏み出した。


船頭の男は怒りも忘れ、慌てて手を伸ばす。
だが、それは僅かに届きそうに無い。

渡し舟を使う以上、老婆はヒュドールでは有り得ない。
ならば必然、その身は水中に没する事となる。

おかしな雰囲気の客であったがよもや初めから身投げ目当てだったのかと、男が顔を青くした、その時だ。


『否定せよ。
 拒絶せよ。
 孤立せよ。

 汝は世にただ独り、何者も汝に触れえず、何者も汝を揺らさない』


罅割れた声が朗々と聖句を歌い上げた。

それは魔法の詠唱。
神々が世界を作り上げた奇跡の残滓を操る、【力ある言葉】である。

その最後の一句が、老婆の足と共に静かに下ろされる。


『汝の名を《反発 / スルズ》と定義する』


かくして、男の予想を裏切り、老婆は湖に沈まない。

見れば、老婆の足は水面よりもほんの僅か高い位置を踏み締めている。
魔法の名を考えるにそういう効果なのだろう。


『輪廻教の聖典なんざ、何千回読み返したと思ってんだい。
 あんたのはとても聞けたもんじゃないよ。
 馬の糞にも劣るもんを耳に突っ込まれる、こっちの気にもなりな』


吐き捨てるような罵倒と共に、老婆は矍鑠たる歩みで去っていく。

船頭の男は、それを苦い顔で見遣る他無かった。
男には、自分が熱心な信徒であるという自覚はある。
それでも、聖典を千を超えるような回数読んだ経験など無い。
老婆は聖典を侮辱した訳では無く、自身の語りが未熟であったために先達の信徒から怒りを買ったのだと、納得したのだ。


思えば、最後に叱責を受けたのは最早十年以上も前の事だ。
どこかに慢心があったのではないか。
これを教訓にして今後は一層励まねばならない。

幸い、目指していた都市はもう目と鼻の先である。
老婆の足でも問題無く辿り着けるだろう。

男はそう自身に言い聞かせ、溜め息を一つ零すのだった。



老婆が歩を進める先。
そこには既に、湖上の大瀑布がその雄姿を見せ付けていた。


都市に辿り着いた老婆―――あなたは、その街壁を見上げて鼻を鳴らした。

ここは湖上。
石材を運んで城壁を築く、などといった事は困難を極める。
水に浮く木材ならば容易だろうが、それでは今度は強度に劣る。

ならばどうするべきかと考えた古の人々は、常識外れの代物を生み出したのだ。
それが今あなたの目の前にある、人呼んで【瀑布城壁】である。

決して狭くは無い街をぐるりと囲む滝は、魔法によって作られた物だ。
莫大な量の湖水を天高く吸い上げ、落とす。
落ちた水は再び天を目指し、グルグルと廻り続ける。
仕組みとしてはただそれだけのその壁は、決して破られず、登る事も出来ない。
大陸において最も堅牢な守りとしてその名を知られている。


(……名前だけは大層だけどねぇ。
 ひたすら煩いのはどうにかならん物かね)


だが、万人を圧倒し、感嘆させてきたそれも、あなたの心を動かす事は無い。
騒音の源。
あるいは、無駄な水飛沫が鬱陶しい。
そうとしか、あなたは感じない。


結局、あなたは一度も足を止める事無く街門へと入った。

街門では、当然ながら衛兵達が警備を行っている。
その内の一人の手には、羊皮紙の束が握られている。
あなたは、それらを良く良く知っていた。
国を跨いで犯罪を繰り返すような、重罪人の手配書である。

ローブのフードを取り払って顔を見せれば、衛兵は鋭く息を呑んだ。
そうして、すぐさま束の中から一枚を抜き取ってあなたと見比べ始める。
同時に、他の衛兵達は素早く後退し、魔法の詠唱を開始した。
発動までを唱え切る事は無いようだが、何かあれば即座に彼らの刃は放たれるだろう。


あなたがどういった種族であるかは、一目見てそうと知れる。
樹皮の肌に、木の葉の髪。
余りに明確過ぎる、隠しようの無いドライアドの特徴だ。
また、髪の大半が暗褐色に染まり枯れ果てているのを見れば、年齢の推測も容易。

そして、ドライアドの老婆と言えば、数多の民にも知れた狂人が一人、この世には存在する。


曰く、百を超える人々の腹を裂いて血を啜り、頭蓋を割って脳髄を貪った。
曰く、老婆の手によって殺された死体は動き出し、不死の尖兵と化して人々を襲った。
曰く、十の槍に貫かれてなお嗤い、襲撃者の喉を食い破った。

最早人間では無く魔物、あるいは伝承に語られる悪鬼の類とまで認定された怪物である。

発見次第、いかなる犠牲を伴ってでも討伐せよ。
かの老婆の手配書は、その一文で締められている。


「……大丈夫だ、特徴は合致しない」


一時緊張に包まれた街門は、しかしすぐに解放された。

手配書を睨んでいた衛兵が安堵の声を上げると同時に、掻き集められていた魔力が霧散していく。
あなたに対して向けられていた魔法の槍先が下げられたのだ。


「怖がらせてすまんな、婆さん。
 だが、これも仕事なのだ」


人の形に固まった水が、僅かに頭を下げる。
湖上の街の衛兵は、当然のようにその殆どがヒュドールだ。
肉を持つ種族にとって見れば、彼らはいかにも異形じみている。
それらが並んで謝罪する様は、あなたにとっても奇妙な光景ではあったかも知れない。


あなたを見送る衛兵は、手配書を仕舞いながら首を傾げた。
どう考えても怪しむ要素は無く、僅か一時とは言え疑いを持ち全身を緊張させた事が腑に落ちないのだろう。
彼は毎朝、門に立つ前に全ての手配書を確認する。
当然人食いの老婆の姿など、時には悪夢に見る程に記憶していた。


―――衛兵の手に未だ握られる手配書。

そこには、怪老の特徴が絵として描き込まれている。
文に起こし列記したならば、以下のようになるだろう。


細く鋭いスギの髪。
所々が浮き剥がれたシラカバの肌。
かつて槍に貫かれ眼球を失った左の眼孔は暗い虚穴となり。
長く伸びた鼻はいかにも魔女を思わせる。


あなたの特徴とは一つも合致しない。

大きく広がったイチョウの髪、罅割れたようなマツの肌。
眼球は共に健在であり、また鼻の長さもドライアドとしては極一般的な程度。
そんなあなたと、手配書の老婆は、似ても似つかない容姿であるのだ。

にも関わらず、衛兵は心身を凍らせた。
経験の浅い新兵であるならば話も分かるが、手配書の確認を任される者が未熟である筈も無い。


(……やれやれ、疲れているのかな)


その違和感は、しかし疲労を理由に忘れ去られる。

当然の事である。
世において、姿を自在に変えられる種はヒュドールのみ。
それが、幼子でも知る真っ当な常識である。

常識を疑うなど、いかにも馬鹿らしい。


……ただし。
世には常々、常識を足蹴にする例外という物がある。

それは例えば、十の槍を物ともしない化生であり。
または、死したはずの生命を手足とする怪異であり。

そして、或いは。


『はん、ちょろいもんだね。
 自分達だけの専売特許だなんて、何の保証も無く驕ってんじゃないよ、無能共』


ほんの二月前とは、髪の形も、肌の質も、瞳も鼻も何もかもを。
ただ単純に、物理的に取り替える、などという狂気の沙汰を行った老婆である。


【プロローグを終了し、シナリオを開始します】




■ あなたのステータス


【95歳 女性】


【種族 : ドライアド】

森の中に隠れ潜む種族。
樹皮に似た皮膚と、葉のような髪が特徴的。
魔力との親和性や精神力に優れるが、鈍感で、体力に劣る。

【種族能力 : 森の隣人】

人よりも精霊に近い彼らは、最も親しい隣人たる植物達とも言葉を交わす。
植物との対話が可能になる。


【筋力】 3
【耐久】 7
【器用】 10
【敏捷】 7
【感覚】 2
【意思】 8
【魔力】 4
【幸運】 4


【出身地 : クラッカ】

【現在地 : シアラ・ミニア】



◆ 習得魔法

【種火】
掌に収まる程度の小さな炎を発生させる。

【清水】
両手で作った器に収まる程度の少量の水を召喚する。

【微風】
頬を優しく撫でる程度の僅かな風を発生させる。

【土塊】
拳程度の大きさを限度とする少量の土を召喚する。

【放浪】
自身の管理下に置いた魔力、魔法、物品、などを意思ある生物のように振舞わせる。
対象は自由意志の下、無軌道に放浪する。
魔力の能力値が不足しているため、生物には使用出来ない。
効果時間はおよそ半日。

【反発】
反発力を発生させる。
通常は魔力、魔法、物品などに作用するが、あなたの精神性との合致により、僅かながら精神にも作用する。
生物に使用した場合、対象への接触に忌避感が生じる。
効果時間はおよそ半日。


◆ キーワード

【倫理観皆無】
【マッドサイエンティスト】
【国際指名手配】
【孤独】
【後進の指導】


ちょっと時間かかりすぎました。
実際の開始は明日からで。
申し訳ないです。

あと、弟子の獲得はプロローグ後に回されました。


今晩は20時位から開始予定です。
よろしくお願いします。

前作はあれでもう打ちきりかな?


>>68
安価スレとしてはそうなります。
このスレと平行して、一つの形にする作業は行っていますが、いつになるかは未定です。
申し訳ありません。


水上国家シアラ・ミニアの都市。
その内部の構造は、陸上の国家のそれとは全く異なる。
端的に、あなたが抱いた感想をもって説明するならば『まるで港だ』という物になる。

木製の桟橋を長く長く伸ばし、枝分かれさせ、街中に蜘蛛の巣状に張り巡らせたそれは道である。
道に沿うように並ぶのは、船のように浮いた家々や店舗だ。
太く頑丈な何本ものロープで道と固定されてはいるが、陸で生まれ育った者には抵抗も強い事だろう。
信仰を胸に定住を誓ったものの、一月と経たずに肩を落として去るという例は後を絶たないという。


さて、そんな街を歩きながら、あなたは現状を整理した。

まず絶対に失念してはならない事がある。
あなたは、様々な国家から賞金が懸けられている、最上級の賞金首だ。

賞金総額は、共通交易通貨において最大の価値を持つ晶銀貨、それが七十八枚。
これがどれ程の物かと言うと、子、親、祖父母まで揃った一家族が人生を四度遊び呆けてなお余る。
更に悪い事に、もしあなたの身柄を生国たるクラッカに引き渡したならば、もう一つ特典まで付いて来る。
大森林の秘宝たる、万病を退け、失った手足すら取り戻すという、黄金の果実が与えられるというのだ。

これだけでも、あなたを追う者達の数は分かろう。
一つの油断、爪先ほどの慢心が何を生むかは、あえて語るまでも無い。


現に、あなたがこの国を訪れた……いや、逃げ込んだ事も、それが理由だ。

完全に行き詰まり、既に先の見えない研究。
にも関わらず、醜く老いさらばえ、寿命の見え始めた己。

生まれた焦燥は幾重もの綻びを生み、あなたに牙を剥いたのだ。


(……流石に、アレは痛かったねぇ)


無意識に、あなたは自身の脇腹を撫でている。
二月と少々前、そこには大穴が穿たれていた。

十の槍を受けてすら笑い、追っ手を退け逃げ遂せた。

風の噂に語られるそれは、全くの事実である。


あなたが長い生涯を費やした研究。
それは、命に関する物だった。

何故人は生き、何故人は死ぬのか。

一見して哲学的な問いのようであるが、決してそうでは無い。

臓器の一つ一つが、果たしてどのような機能を持つのか。
体液を失った人体は、何故機能不全を起こすのか。
人間が毒で弱る理由は? 薬で活きるのは何故だ?

そういった物事をひたすらに突き詰め、暴き続けたのが、あなただ。


その結実として、あなたは幾つかの成果を手にしている。

他者の肉体から剥ぎ取った臓器や骨、あるいは皮膚。
それらを何の問題も無く自身の物とする、移植術。

あらゆる苦痛を無視させる。
失われた体液の完全な代用となる。
果ては服用した者の精神を粉砕して人形へと作り変える。
などといった異常な効果を持つ薬品を生み出す、調合術。

十の槍に貫かれても、全速で逃走した後に治療を済ませるまで命を保つ。
そんな化物じみた肉体へと人体を作り変える、改造術。


成果を活用し、あなたはこうして追っ手を完全に振り切った。

だが勿論、その代償は大きい。
研究の拠点は炎によって焼け落ち、専用の道具も、予備まで揃えた薬品も、尽く失われた。

今や、あなたが持つ物は、かろうじて持ち出せた荷袋一つのみ。

その中身は……。



>>↓1 コンマ判定 【初期所持品の決定】

幸運 4

逃走 -2

目標値 2



//////////////////

※ チュートリアル ※

コンマ判定は、コンマ下一桁を用いた 【下方ロール】 で行われます。
基礎能力値を基準とし、状況や技能などで補正をかけて算出される 【目標値】 以下の数値が出れば成功です。
(以下、であるため、同値の場合も問題無く成功します)

また、目標値に関わらず 【 1 】 が出た場合は 【クリティカル】 となり、あなたにとって極めて有利な結果となります。
反対に、【 0 】 が出た場合は 【ファンブル】 となり、あなたにとって極めて不利な結果となってしまいます。
ただし、ファンブルは目標値が10以上の場合は発生しません。


【補正値の参考】

±1 あやふやな状況、かじった程度の技能
±2 天秤が傾き始めた状況、慣れ始めた程度の技能
±3 天秤が完全に傾いた状況、一人前の技能
±4 決定的な状況、一流の技能
±5 奇跡的な状況、他に類を見ない程の超技能

±6以上 異常値、マイナスならば根本的に問題があるか前提条件を満たして居ない、プラスならば運命


【初期所持品の決定】

目標値 2

出目 9

失敗……


■ 4000 Casa

共通交易通貨。
カダスティア大陸において、使用出来ない都市はほぼ存在しない。
あなたの現在の所持金は、一般的な成人男性がやや贅沢に一月を過ごせる程度。


■ ギアススクロール x1

使い捨てのマジックスクロール。
《宣誓》の魔法が封じられている。
証文に書き込んだ内容を、他者と己に遵守させる事が出来る。


■ ペインキラー x2

あなたが生み出した、痛覚を完全に麻痺させる薬品。
痛覚以外には一切の効果が無く、後遺症や依存症も起こらない。
効果時間はおよそ半日。





荷袋の中身は、僅か一枚のスクロールと、苦痛を殺す薬品が二瓶。
他は最低限の野営道具と、幾らかの金銭。

たったこれだけか、とあなたは嘆息した。

うんざりする程の現状である。
今にして思えば、焼け落ちた拠点は天上の楽園にも等しかったとさえ言えるだろう。
今のあなたは、羽と足をむしられて水溜りに投げ捨てられた羽虫に等しい。


だからと言って、研究を諦めてただの老婆として生きる事など、あなたには最早出来ない。


あなたの研究の原点は、死に対する恐怖であった。

未だ幼い時分に、それは植え付けられた。
重い病に冒され、苦しみ抜いた末に枯れるように死んだ両親の姿を、あなたは明確に覚えている。
そして、現実を受け入れられずに暴いた墓の底で、原型が分からない程に腐り果てていた姿も。


(冗談じゃあない。
 あたしだけは、死んでなどやるものか)


あなたの妄執は留まる所を知らない。
あらゆる手段を用いてでも、何百何千の命を踏み台にしてでも、永遠を手に入れねばならないと、淀んだ瞳の底に暗い光を灯らせる。


ともかく、研究再開のため、何としても環境を整える必要がある。

必要な物は、幾つかある。

腰を据えられる拠点。
調合や実験に必要な器具。
それらを維持し続けるための、継続的な金銭確保の伝手。

また、あなたは既に老齢であり、残された時間は少ない。
一人で全てを進めていては、先に寿命が尽きる事は明白だ。

協力者……可能であれば、助手として扱える弟子を探すべきだろう。
最低限の知識と技術を短期間で叩き込めば、例え教授に時間を取られたとしても採算は合うはずだ。


やるべき事は多く、先など全く見えていない。
それでもあなたは、最初の一手をどうすべきかと考える。



>>↓1  どうする?


(ともかく金だね。
 先立つもんが無いんじゃあ、何もできやしない)


あなたはそう結論を出すと、適当な通行人に声をかけて道を尋ねた。

この世において、手っ取り早く稼ぐ方法は幾つか存在する。
その内、取り分け分かりやすい物として上げられるのは【賞金稼ぎ】である。
あなたに懸けられているような莫大な物は早々無いが、一つ首を狩れば家が建つ、などという話はそれなりに存在するのだ。

そして、賞金首の情報を求めるならば定番の施設というものも、大抵の街には当たり前にあるのである。


【冒険者の宿 : 不機嫌な黒猫亭】


あなたが辿り着いたのは、宿屋であった。

といっても、真っ当な宿では無い。
常軌を逸した安値で部屋を貸し、殆ど無料と言っても良いような額で飯を出す。
その代償として、魔獣の討伐や危険な土地からの物品の調達を行わせる、という形態なのだ。

根無し草のゴロツキには、これ程ありがたい物は無い。
暖かい寝台と上質の食事に、街を走り回って探さなくとも仕事が見つかるのだから、当然だろう。

扉を潜ったそこも、やはり大半の席が埋まっていた。
酒場のようになっている一階部分には、酒気交じりの熱気に支配されている。
吐息の主達は誰もが皆武装し、下品な言葉を投げ合う。
ごくごく有り触れた、冒険者の宿の風景だ。

そんな、小娘ならば竦み上がって逃げ出すような空気の中を、あなたは全く頓着せずにカウンターまでを進んだ。


カウンターの中で酒瓶の並びを整えているミーニアの男が、店主なのだろう。
丸太のような腕も、重厚な筋肉に覆われた胴も、十分過ぎる貫禄を持っている。

また、上背も随分とあり、小柄なジャイアントだと主張すれば通らなくも無い。
ドライアドとしては平均的な、ひょろ長い体躯のあなたですら少々見上げる程だ。
その上に一切の毛髪が存在しない頭部と、浅黒い肌の中に輝く金の瞳と来れば、これはもう子供が見れば泣き叫ぶに違いない。


『おい、あんた。
 賞金首の手配書、あるんだろう?
 纏めて出しな』


だが勿論、あなたにはどうでも良い事だ。
人間など臓器の入れ物でしかない。
それがあなたにとっての常識である。
容器がどれほど厳めしかろうと、あなたの心を揺らすなど有り得ない。


「…………」


愛想の無いあなたに、店主もまた無愛想に応えた。

カウンターの中から、羊皮紙の束を取り出し、無言であなたの眼前に放り出す。
小さくは無い音と共に現れたそれは、街門で見た物と同様の手配書だ。

ただ、違いも一つある。
束の中には人間だけでなく、この街の周囲に生息する、特に厄介な魔獣に関する情報も存在する。

小賢しく逃げ回る人間と、そうそう移動せず縄張りを張る獣。
狩るに容易いのはどちらかなど言うまでも無く、賞金稼ぎとは一般的に魔獣狩りの事を指すのだ。


あなたも、首を上げて賞金を狙うならば、魔獣を標的とすべきだろう。
同じ重罪人として繋がりでもあれば話は別だったのだろうが、あなたは孤独に生きてきた。
罪を重ね続ける生の中で他者の協力を仰いだ事は殆ど存在しない。
数少ない例外も、脅迫や薬物に頼っていたのは実情だ。
賞金首がどこに潜伏しているかなど、全く心当たりが無い。


束の内、あなたの目に留まったのは、三体の魔獣だった。


街より程近い浮島を塒と定めた、蛇の魔獣。
一般的な家屋をぐるりと囲える程の長い体を持ち、その側面に生えたヒレを器用に用いて水中を泳ぐという。
牙から射出される強力な腐食毒と、見た目からは想像し難い俊敏性が脅威であるらしい。
懸けられた賞金は【50000 Casa】

湖畔の村とこの街を繋ぐ直線を遮る位置に居を構える、鯨に似た魔獣。
縄張りへの侵入者を発見すれば、十人乗りの船をペロリと平らげる大口で襲い掛かるという。
過去には専用に作られた巨大な銛を数十本その身に受けて掠り傷を負うだけだったらしい。
懸けられた賞金は【100000 Casa】

時折湖上の空を飛び回り獲物を探す、猛禽の魔獣。
風を操る魔法を用いて獲物を宙に舞い上げ、抵抗の出来ない所を爪で引き裂くという。
また、魔獣としては極めて狡猾かつ臆病であり、集団には決して近寄らず、一度で殺せなかった相手には二度と姿を見せないらしい。
懸けられた賞金は【65000 Casa】


いずれも人間が対峙するには荷が重い相手ではあるが、賞金の額も相当な物だ。
もし討伐に成功したならば、最も賞金が低い蛇であろうとも十分な資金となる。



>>↓1  どうする?


あなたは、蛇の魔獣を選んだ。


(まったく、まったく。
 何て都合の良い魔獣だい、こいつは)


思わず、心中で笑みが零れる。
狩れば莫大な賞金が得られる上に、貴重な素材であろう毒までが手に入るのだ。
皮算用と分かっては居る物の、このような格好の獲物が近場を縄張りとしてくれた気紛れに、あなたは感謝した。

魔獣の特徴や塒の場所を数度読み返し完全に記憶したあなたは、店主へと羊皮紙の束を突き返した。
やはり無言で束を仕舞いこむ巨漢を尻目に、踵を返す。


店を出る間際。
入り口の脇に、入る時は気付かなかった、真っ黒なデブ猫がのたりと横たわっているのを発見する。

真横を通る際に、いかにも不機嫌だという目付きであなたを睨んだそれが、恐らく屋号の由来だったのだろう。
厳めしい店主には似合わない宿の名にようやく得心がいったあなたは、分厚い扉を開けて曇り空の下へと戻った。



>>↓1  討伐準備に1ターンが与えられます、自由に行動して下さい (行動しなくとも構いません)


不機嫌な黒猫亭を出たあなたは、再び話を聞き回った。

集める情報は、この街の富豪についてだ。
討伐に成功した暁には、毒以外にも様々な素材が手に入るだろう。
蛇の皮や肉、あるいは頭を落として剥製にしてみても良い。
それらを商人の手に任せてしまうよりも、自ら売り込んだ方が得られる利益は多いはずだ。

また、何かしらの薬品を精製して、盛ってしまうのも良い。
蛇の売却から伝手を作る事が出来たならば、酒の一杯も酌み交わす機会を引き寄せる事は難しくない。
そうして傀儡を作り上げる手管は、あなたの得意とする所である。


「この街でいったら、やっぱり【バスク】様だろうね。
 富豪たる者かくあるべし!
 まさに我が街の誇りだよ」


桟橋の道に小舟を隣接させて串焼きを売る屋台商人は、そう語った。

険しい山を越える危険な行商から財をなしたミーニアの男は、終の棲家をここに定め、街の中央部に居を構えたそうだ。
老いてなお冴え渡る商機を見抜く嗅覚を生かし、数多の商会の首を抑える元締めに収まっている。
また、若い頃の経験からか冒険を愛し、首を狩った者を屋敷に招いて酒宴を行う事も少なくないという。

理想的な相手と、そう呼んで良いだろう。


「何より素晴らしいのはさ、私らを助けてくれるとこだよ。
 自分の贅沢だけを考える業突く張りとは根っこが違う!
 商人を志す若者には援助を惜しまないし、それにアレだよアレ。

 えーと、なんてったっけ……そうそう、【サナトリウム】だ!」


サナトリウム。
それは最早助かる見込みが無く、死を待つだけの者達に現世での最後の安らぎを与える施設だという。


この大陸において、そして取り分けこの国においては、輪廻の神を主と仰ぐ輪廻教が台頭している。
生と死に関する研究を続けてきたあなたも、その教義には当然知っている。
むしろ、大抵の神官よりも遥かに詳しいだろう。
拠点と共に焼けた聖典を、幾度もの補修を必要とする程に読み込んでいたのだ。

生まれ来る者に祝福を。
死に行く者に約束を。
あらゆる者は死後天に昇り、神の威光で浄化され、再び生を受けて地に還る。
死は終着では無く、新たな始まりなのだと聖典には記される。


その神の教えをもって、死に向かう人々の心を救う。
そういう施設がバスクという男によって運営されているらしい。
一切の金銭を求めず、莫大だろう負担を善意だけで引き受けて、だ。

……これもまた、あなたにとっては重要な情報である。
恐らくは並ぶ物が無い程の。


【湖上 : 蛇の浮島】


そうして、街での用を終えたあなたは、再び湖上を歩んでいた。


空は変わらずの曇天。
晴天と比べれば多少は薄暗いものの、未だ日は高く行動に支障は無い。
また、正面に見える浮島以外に視界を遮る物も、また存在しない。

あなたの状態はと言えば、こちらも十全と言って良い。
《反発》を再び使用した際に指先に若干の痺れが生じたが、ここまでの道程でそれは取り払われている。

あなたの精神性と完全に合致したこの魔法は、酷く扱い慣れた物だ。
本来ならば、魔力の扱いに長けたドライアドにも関わらず素養に乏しいあなたでは、水面を歩む程の魔法規模は期待できない。
にも関わらずこうして足が僅かに沈む気配すらない現状が、あなたと《反発》との相性を物語る。
そしてその相性は魔法行使の反動にも及び、長時間の障害などまず起こり得ない事だ。


総身に気力を漲らせて、あなたは前方を睨む。

このまま歩き続けて数分といった距離には、緑の浮島が姿を見せている。
規模はそれなりに大きいようだ。
家屋の五、六軒ならば楽に建てられるだろう程の、十分な面積がある。



>>↓1  どうする?


……ここで、ふとあなたは冷静になった。

今、魔獣に挑む意味はあるのだろうか?

魔獣を狙った理由は、単純に金銭である。
しかし、あなたは既に決定的な情報を獲得している。
街一番の富豪が運営するサナトリウムは、その全てがあなたにとってはこの上無い獲物だ。

食らうならば、魔獣では無くサナトリウムにすべきだろう。
成功の見込みも、見返りも、とてもでは無いが比べ物にならない。


全く、とんだ無駄足であった。
あなたは深々と溜め息を吐き―――。



>>↓1 コンマ判定 【危機感知】

感覚 2

戦意 -2
曇天 -1
?? -4

目標値 -5


【危機感知】

目標値 -5

出目 6

失敗……


―――その油断を、捕食者は見逃さなかった。


突如、湖面を割り、飛び出すものがあった。

それは太く、長い、灰色の鱗を纏った脅威。
浮島の主たる大蛇である。

彼はとうの昔に、あなたを察知していたのだ。
音も波も立てず水中に潜み、今この時を待っていたのだ。

ろくな武具も持たず接近し不用意に気を抜く。
賞金すら懸けられるような魔獣の中でも飛びぬけた危険性を持つ存在に対し、愚かという言葉すら不足に過ぎる。
その報いが何であるかは、最早言うまでも無いだろう。


昆虫めいた異常速度で迫るその顎に対処する術を、あなたは持たない。





【ダメージ軽減判定】

※ クリティカルを考慮しても生存の見込みが無いため、判定は省略されます ※





あなたが事態に気付いた時には、何もかもが遅かった。


恐るべき膂力で引き込まれ没した水中で、あなたが目にした物。

それは、大蛇の口からはみ出したドライアドの老婆の足と。

それを咥えたまま再び迫る、無機質な光を宿した、黄色い蛇眼であった。





DEAD END


蛇くんのオヤツになった所で、時間も丁度良いのでお開きで。
お付き合いありがとうございました。
また明日。


雰囲気強キャラなのに普通に弱くないかこの婆さん

なんかみんな落ち着いてるけど前スレでもこれくらい死にまくってたのか?


>>99
RPGで言えば『錬金術師』や『アイテム士』に分類されるキャラです。
そんなあなたが手ぶらで賞金首(ボス)討伐に挑めば、なんというかこうなります。

>>102
大体こんな感じで死んでました。
大陸の情勢は極めて平穏ですが、殺意は高めです。



20時~20時30分位の開始になります。
よろしくお願いします。


■ あなたのステータス


【95歳 女性】


【種族 : ドライアド】

森の中に隠れ潜む種族。
樹皮に似た皮膚と、葉のような髪が特徴的。
魔力との親和性や精神力に優れるが、鈍感で、体力に劣る。

【種族能力 : 森の隣人】

人よりも精霊に近い彼らは、最も親しい隣人たる植物達とも言葉を交わす。
植物との対話が可能になる。


【筋力】 3
【耐久】 7
【器用】 10
【敏捷】 7
【感覚】 2
【意思】 8
【魔力】 4
【幸運】 4


【出身地 : クラッカ】

【現在地 : シアラ・ミニア】



◆ 習得魔法

【種火】
掌に収まる程度の小さな炎を発生させる。

【清水】
両手で作った器に収まる程度の少量の水を召喚する。

【微風】
頬を優しく撫でる程度の僅かな風を発生させる。

【土塊】
拳程度の大きさを限度とする少量の土を召喚する。

【放浪】
自身の管理下に置いた魔力、魔法、物品、などを意思ある生物のように振舞わせる。
対象は自由意志の下、無軌道に放浪する。
魔力の能力値が不足しているため、生物には使用出来ない。
効果時間はおよそ半日。

【反発】
反発力を発生させる。
通常は魔力、魔法、物品などに作用するが、あなたの精神性との合致により、僅かながら精神にも作用する。
生物に使用した場合、対象への接触に忌避感が生じる。
効果時間はおよそ半日。


◆ キーワード

【倫理観皆無】
【マッドサイエンティスト】
【国際指名手配】
【孤独】
【後進の指導】


■ 所持品一覧


◆ 4000 Casa

共通交易通貨。
カダスティア大陸において、使用出来ない都市はほぼ存在しない。


◆ 《宣誓》のスクロール x1

使い捨てのマジックスクロール。
《宣誓》の魔法が封じられている。
証文に書き込んだ内容を、他者と己に遵守させる事が出来る。


◆ ペインキラー x2

あなたが生み出した、痛覚を完全に麻痺させる薬品。
痛覚以外には一切の効果が無く、副作用や中毒性などは存在しない。
効果時間はおよそ半日。


//////////////////////////////////////

>>92 から再開されます。

※ 戦闘に勝利出来る可能性が全く存在しないため、自動進行します ※

//////////////////////////////////////



総身に気力を漲らせて、あなたは前方を睨む。

このまま歩き続けて数分といった距離には、緑の浮島が姿を見せている。
規模はそれなりに大きいようだ。
家屋の五、六軒ならば楽に建てられるだろう程の、十分な面積がある。


が、どうにも魔獣の気配は感じられない。
どうやら、縄張りの主は現在留守のようだ。
魔獣の姿を探して周辺を探って回るべきだろうか。


……そこまで考えて、ふとあなたは冷静になった。

今、魔獣に挑む意味はあるのだろうか?

魔獣を狙った理由は、単純に金銭である。
しかし、あなたは既に決定的な情報を獲得している。
街一番の富豪が運営するサナトリウムは、その全てがあなたにとってはこの上無い獲物だ。

食らうならば、魔獣では無くサナトリウムにすべきだろう。
成功の見込みも、見返りも、とてもでは無いが比べ物にならない。


全く、とんだ無駄足であった。
あなたはそう深々と溜め息を吐き、街へと踵を返した。


港のような風景が広がる街に、あなたは再び踏み入った。

浮島までの往復でそれなりに時間が経過している。
曇天の空は明るさを一段落とし、西側は僅かに赤みを帯びている。


さて、あなたは既にサナトリウムの場所を知っている。
街の中央、輪廻の神を祀る神殿のすぐ近くにその施設はあるようだ。
相当な大きさを持つ建物であり、初見であっても気付かない事は無いと聞いている。

あなたはすぐにでもサナトリウムを訪れる事が出来る。
勿論、他にやるべき事があるならば、そちらを優先するのも自由だ。



>>↓1  どうする?


サナトリウムは、話の通り見事な物であった。

神の威光を損なわないようにとの配慮だろう、屋根の高さこそ然程でも無い。
しかし、単純な面積だけならばむしろ神殿を上回っている。
百の患者を受け入れてもまだ余裕があるかも知れない。

また、大きく開かれた入り口からは、内部を忙しなく動き回る幾人もの女性が見える。
大半はヒュドールのようであるが、時折混じるミーニアの白衣姿を見るに、看護役だろう。
纏った白衣の清潔さや彼女達の肌艶を観察し、十分以上の質をあなたは感じ取った。


バスクという男の力はやはり桁外れの物である。
これだけの施設を万民に開放し、無償で受け入れ続けるなど、並大抵の財では到底不可能だ。
恐らく、そこらの木っ端貴族など容易く見下せるに違いない。

内心に笑みが浮かぶのを、あなたは抑えきれなかった。


「お待ち下さい。
 本日はもう日が暮れます。
 これからの面会は、どうかご遠慮頂きたいのですが……」


サナトリウムへ踏み入ると、一人のヒュドールがあなたを止めた。

水で作られた体のために少々分かりにくいが、胸の辺りを膨らませている事と声質から、どうやら女性で間違いない。
彼女の言によれば、既に面会時間は終わっているようだ。
患者の静かな眠りを妨げないために、それなりの事情が無ければ通す事は出来ないと言う。


だが勿論、あなたは十分な大義名分を用意する事が出来る。
あなたは生と死について誰よりも深く踏み入った、人体のスペシャリストだ。
また、薬学にも同程度精通している。
つまり、あなたは大陸において恐らくは最上の医師でもあるのだ。


『あたしは流れの医者だよ。
 街の屋台で、ここの話を聞いてね。
 少しぐらいは力になれると思うけど、どうだい?』


努めて穏やかな顔を作り、口を開く。
当然心にも無い虚飾であるが、それはヒュドールの女を感激させるには十分であったようだ。


施設の内部は、あなたの予想よりも随分と静かな物であった。

ここに収容されている病人は、あらゆる医師が匙を投げた患者ばかりである。
既に目前に死を控え、苦痛と恐怖に支配されているのが当たり前であるはずだ。

にも関わらず、嘆きの類は殆ど聞き取れない。
自分も瀕死であるというのに他者を気遣い励ます者や、看護役へ笑顔を浮かべて礼を言う者も多い。
信仰と言う物は随分力があるらしいと、あなたは感嘆したかも知れない。


そんな中をゆっくりと歩き、あなたは患者達の様子を観察する。
先導するのは、中年のミーニアの男だ。
サナトリウム専属の医師であるという彼は、あなたに説明を行いながら、患者の苦しみを取り除くための処置を看護役に指示していく。


(……なんだい、こいつは。
 頭が痛くなる程のヤブじゃないか)


だが、それはあなたから言わせれば余りにも稚拙であった。
診察の内容は半分近くが的外れ。
処方される薬の質も悪く、中には病状を悪化させかねない物まであった。

バスクとやらも医師を見る目は無かったのだろうか。
そんな感想が浮かぶも、すぐに自身で否定する。

この男の腕が悪い訳では無い。
大陸中の医師を並べて比べてみれば、むしろ平均をやや上回る位置に居るはずだ。
あなたが馬鹿馬鹿しい程の規格外であるだけで、一般的な医療水準はこの程度の物なのである。


ともあれ、これはあなたにとって有利な状況だ。

あなたならば、サナトリウムの半死人達の内、多くを救えるだろう。
根治が不可能な病であっても、体の構造が余りにも異なるヒュドールを除けば、年単位での延命も可能だ。

また、苦痛を取り除くだけならば更に容易い。
あなたの荷の中には、自身で調合した痛覚を騙す薬がある。
これを薄めて用いる事で、苦痛に苛まれる者達に一晩の安眠を提供する程度は出来る。

医師として、もしくは薬師として、信頼を勝ち取る方法は幾らでもあるはずだ。



>>↓1  どうする?


いっそ治せるだけ治してやろうか。

男の手際のもどかしさから浮かんだそんな考えを、あなたは首を振って打ち捨てた。
どう考えても、それはやりすぎだろう。
自身が高額の賞金首であり、今も追っ手がかけられているという事実を忘れてはならない。
真っ当な医学では有り得ないはずの治療など、己の心臓に刃を突き立てるような物だ。


あなたが選んだのは、薬の提供とごく軽い治療のみだ。

苦痛を殺す薬はあなたが生み出した薬品の中では、随分と穏当な部類に入る。
また、治療についても一般的な水準における『一流の医師』として問題の無い範囲に見事に抑えきった。

恐らく、今回のあなたの行動で起きる問題は存在しない。


「本当に、ありがとうございます。
 ……皆さんがあんなに安らいだ顔で眠られるなんて、まるで奇跡のようです」


深々と頭を下げて感謝を贈ったのは、入り口で出会ったヒュドールの女だ。
彼女の言葉によれば、患者達の寝顔は常に苦しげに歪んでいたのだという。
しかし今、そのような者は一人も見当たらない。
あなたが齎した薬がどれ程の救いであったかは、一目で分かろう。

当然の事として、女の態度と言葉には深い敬意が見て取れる。
神に祈りを捧げる神官を思わせる程にだ。

そんな女の次の言葉を、あなたは実に簡単に予測できた。


「もし良ければ、この薬を定期的に購入させて頂けないでしょうか?
 バスク様からは十分な予算を頂いておりますので、ご満足の行く額をお支払い出来ると思います」


最高の展開。
そう言い切って良いだろうと、あなたは確信した。
ここまで来れば、後は如何様にも持っていける。

薬の提供には喜んで応じたい所だが、残念ながら素材も設備もここには無い。

無念を装って返したその一言が、決定的であった。
あなたの薬は、人生の最期に安らぎを与える、というサナトリウムの理念にとって何物にも代え難い宝である。
一度使って患者に知られてしまい、素材があれば精製可能という情報も渡した。
ならば、あなたを逃してしまえば失われる物が出来た、という事だ。

バスクには最早選択肢は無い。
あなたのための拠点を用意し、素材の調達を請け負い、また考え得る限りの便宜を図るだろう。
例えどれだけの金銭と手間が必要となろうが、そうしなければバスクの名には決して拭えない穢れが生じる事となる。


(あぁ、本当に……都合の良い物を作ってくれて感謝するよ)


すべき事を終え、あなたはサナトリウムを後にした。

事前に見繕っておいた宿へ向かう道中。
あなたは今日出会った内の、二人を思い返していた。


一人は、【肺を病に侵されたミーニアの少女】。
死を目前にした者のみを受け入れるという性質から、サナトリウムの住人は殆どが高齢。
その中で、十を越えたかどうかという幼い姿は随分と印象的であった。


(まだまだ生きたいだろう小娘だ。
 もし奇跡的に助かったとでもなれば、救った人間の言う事は何でも聞くだろう。
 スクロールを使うよう仕向けても良い。

 あれだけ若けりゃ、物覚えだって恐らく悪くない。
 少なくとも、頭の固まったヤブ連中よりは幾らかマシだ)


もう一人は、入り口で出会い、薬に関する交渉を持ちかけてきた【ヒュドールの女看護士】。
サナトリウムの人間はその全てがあなたに敬意を向けていたが、その中でも彼女は飛び切りだ。
もしもあなたが自身を神の遣いと称したならば、すぐさま信じて跪いてもおかしくは無い。


(こっちは、やる気だけは誰よりあるだろうね。
 間違った知識さえ駆逐すりゃ、あっさりと使い物になるはずだ。
 バスクから重用されてそうな所も、使い様を考えれば利点に違いない。

 ……問題は、信仰と正義感で頭が埋まってそうな所かね。
 一つ下手を打てば敵を強めるだけに終わりかねんか)


サナトリウムは、あなたにとっての楽園に違いない。

拠点、素材、設備。
求めていた内の三つは容易く揃い、最後の一つたる弟子も候補としてではあるが見つかった。
ただ足の向かうまま逃げ込んだ街であったが、これはどうやら最良の選択であったらしい。

深く被ったローブの下で、罅割れた口元がゆるりと三日月を描く。
あなたはそれを止める気は無く、そして止められる気もしなかった。


【円環暦612年 春 1/3】


僅かに残されていた冬の名残も消え、寝台に縋り付きたくなるような寒さが朝を覆う事も無くなった。
頬が自然と綻ぶような穏やかさで、春の朝は訪れる。

それが返って眠りを長引かせる、というのが巷の悩みであるようだが、あなたには全く関係が無い。

自ら構造を組み替え改良を重ねたあなたの体は、そもそも多くの睡眠を必要とはしない。
今日も当たり前のように夜通し調合を行い、気が付けば朝陽が昇っていたという始末だ。


あなたが現在居るのは、バスクによって用意された専用の住居である。

サナトリウムを初めて訪ねた翌日。
即座に招かれた屋敷での交渉は実にスムーズに進んだ。
薬の効能はヒュドールの女看護士が熱心に伝えたらしく、バスクは諸手を挙げてあなたを歓迎したのだ。
そこに追加で必要となる金銭や手間に関する忌避感など微塵も無く、さながら聖人のような善良さであった。
勿論、相手が名うての商人である以上、それが仮面である可能性も考慮すべきだろうが。


ともあれ、あなたは手に入れた拠点で薬を作り、サナトリウムへと納入する日々を送っている。

今や半死人達の巣窟であるそこに苦痛の呻きは存在しない。
その事実はあなたの評価を揺ぎ無い物とし、一角の人物として関係者には知られている。



///////////////////////////

※ チュートリアル ※


このスレにおいてシナリオは、

【固定イベント】 → 【自由行動 x3】 → 【固定イベント】

という流れで進行して行きます。
現在、612年春の固定イベントが終了し、自由行動に入りました。

自由行動パートでは、固定イベントと違い、発生するイベントには判定によるランダム性が付加されます。

///////////////////////////


(さて、そろそろ良い頃合かね)


あなたが考えた通り、土台は十分に積み上げられた。
もう一段階手を進めても問題は無いはずだ。

サナトリウムの弟子候補達と接触するも良し。
街を巡って他に見繕うのも良し。
また、バスクの財を頼って痛覚殺し以外の薬に目を向けるのも有りだろう。

勿論、他にやるべき事があるならば、そちらを優先するのもあなたの自由だ。



>>↓1  どうする?


といった所で日付が変わったので、今日はお開きで。
お付き合いありがとうございました。
また明日。

チュートリアルメッセージの挿入忘れててここまで放置してしまいました。
申し訳ないです。


■ あなたのステータス


【95歳 女性】


【種族 : ドライアド】

森の中に隠れ潜む種族。
樹皮に似た皮膚と、葉のような髪が特徴的。
魔力との親和性や精神力に優れるが、鈍感で、体力に劣る。

【種族能力 : 森の隣人】

人よりも精霊に近い彼らは、最も親しい隣人たる植物達とも言葉を交わす。
植物との対話が可能になる。


【筋力】 3
【耐久】 7
【器用】 10
【敏捷】 7
【感覚】 2
【意思】 8
【魔力】 4
【幸運】 4


【出身地 : クラッカ】

【現在地 : シアラ・ミニア】



◆ 習得魔法

【種火】
掌に収まる程度の小さな炎を発生させる。

【清水】
両手で作った器に収まる程度の少量の水を召喚する。

【微風】
頬を優しく撫でる程度の僅かな風を発生させる。

【土塊】
拳程度の大きさを限度とする少量の土を召喚する。

【放浪】
自身の管理下に置いた魔力、魔法、物品、などを意思ある生物のように振舞わせる。
対象は自由意志の下、無軌道に放浪する。
魔力の能力値が不足しているため、生物には使用出来ない。
効果時間はおよそ半日。

【反発】
反発力を発生させる。
通常は魔力、魔法、物品などに作用するが、あなたの精神性との合致により、僅かながら精神にも作用する。
生物に使用した場合、対象への接触に忌避感が生じる。
効果時間はおよそ半日。


◆ キーワード

【倫理観皆無】
【マッドサイエンティスト】
【国際指名手配】
【孤独】
【後進の指導】


■ 所持品一覧


◆ 4000 Casa

共通交易通貨。
カダスティア大陸において、使用出来ない都市はほぼ存在しない。


◆ 《宣誓》のスクロール x1

使い捨てのマジックスクロール。
《宣誓》の魔法が封じられている。
証文に書き込んだ内容を、他者と己に遵守させる事が出来る。


◆ ペインキラー x0 ← USED

あなたが生み出した、痛覚を完全に麻痺させる薬品。
痛覚以外には一切の効果が無く、副作用や中毒性などは存在しない。
効果時間はおよそ半日。

※ バスクが用意した素材を用いて、制限無く精製可能 ※


今晩も20時~20時30分位の開始になります。
よろしくお願いします。


あなたはサナトリウムへ向かう事とした。

十分な拠点を獲得した今、必要とされるのはともかく人手だ。
あなたの知識と技術は十分に優れているが、一人で行える事には限度がある。
まして、百を超える半死人達に薬を用意せねばならない現状では、とても研究にまでは手が回らない。


『汝の名を《放浪 / ハスハ》と定義する』


火にかけたままの鍋に棒切れを放り入れ、魔法を付与する。
物体を擬似的な生命へと変化させ、気侭に動き回らせる、という物だ。
中々使い所に困る代物なのだが、調合の補助には悪くない。

棒が逃げ出さないように蓋を乗せてやれば、あなたが何もしなくとも、焦げつかぬよう勝手に攪拌される事となる。
単純作業程度のみではあるが、手を一本増やすも同然のこの魔法をあなたはそれなりに気に入っている。

ただ、生憎と《放浪》の魔法は《反発》ほどあなたと相性が良い訳では無い。
代償として支払われたのは片目の視力である。
降りかかる障害は、こうして重くなりがちだ。

とはいえ、緊急時でも無ければそう大きな問題とはならない。
ゆっくりと歩いたならば、サナトリウムに辿り着く頃には回復している事だろう。
最後に時間経過で火が消えるよう調整し、あなたは出立した。


何事も無く到着したサナトリウムでは、屋上に白い物がはためいていた。

恐らくシーツだろう。
晴天に恵まれた今日は、洗濯には丁度良い日和だ。
水上に浮く、という性質から庭などの空間が殆ど存在しないこの街において、屋上は当たり前に物干し場として使われる。

白の間には、時折動き回る人影も見える。
良く観察したならば、その人物は水で構成されている事に気付けるはずだ。
また、わざわざ体の形を変えて白衣を着たような姿を模している事にも。


どうやら、あなたの探し人の一人は屋上での作業中らしい。
彼女と接触するならば、そちらに向かえば良いだろう。

勿論、候補はヒュドールの看護士だけでは無く、肺を患った少女もそうだ。
そちらの様子を見舞い、事情などを探るのも良い。



>>↓1  どうする?


『こんにちは、お嬢ちゃん。
 調子はどうだい?』


過去にあなたが脅迫し、良い様に利用した者がもしこの場に居たとしよう。
幾人も居る内の誰であっても、目を剥いて驚愕した後、己の正気を疑って慄く事は疑い無い。
それほどまでに、今のあなたは人の良いただの老婆にしか見えなかった。

勿論、人生経験に乏しい少女にあなたの擬態を見抜く力など有る訳も無い。
病人らしいやつれ果てた白い頬を僅かに綻ばせ、あなたを歓迎した。

あなたの問いかけに対し、言葉での返事は無い。
ただ首肯を返し、悪くは無い、という意思を示すのみだ。
色褪せた金の髪が力尽きるように流れ、決して拭えない死の香りを漂わせる。


少女が患っているのは、重度の肺病である。
あなたの見立てでは彼女の肺はその大部分が変異を起こしている。
組織が人間の物では無くなっているのだ。
必然、真っ当に呼吸は行えず、今こうしている間も溺れ続けているに等しい。

魔力との親和性に乏しい人間が、稀に罹る病だ。
大気中に漂う魔力を受け入れる素養が無いにも関わらず、日常的に大量の魔力を吸い込む環境に居たのだろう。
無理矢理に肺の中に押し込められた魔力を排出する事が出来ず、肉体が負けて蝕まれている。


程度が軽ければどうという事は無い。
単純に魔力が少ない環境へと居を移せばそれで終わりだ。

だが、この少女程に進んでしまえば治療は不可能。
変異した状態を正常と認識してしまった体は、既に不可逆なのだ。
死が訪れるまでの数ヶ月を、碌に眠る事も出来ない苦しみの中で過ごす他無い。
医師によっては毒による安楽死を推奨する事も、ままある。

そして勿論、このサナトリウムでも出来る事は無い。
手を握り、少女の恐怖と悲嘆を僅かに和らげる程度が精々だ。


ただし、あなたにとっては話は別。
この程度の病を取り除き、少女を生き長らえさせる事は難しくない。

薬を用いて、変異した肺でも呼吸が出来るよう肉体を変異させるか。
体を裂いて、少女の灰を健康な物と交換するか。
考えるまでも無く二つの手段があっさりと挙げられ、そしてどちらも失敗の可能性など微塵も無いだろう。


(……年を考えれば良く持っている方だが、もう長くないね。
 恐らく、夏を迎える事は出来んか)


少女の余命は【夏まで】。

彼女を救い手駒とするか、それとも見捨てるのか。
それまでに決断するべきである。



>>↓1  少女と自由に対話が行えます


サナトリウムの水準に合わせた程度の低い診察を行いながら、あなたは問いかけた。

内容は少女の両親についてである。
彼女の家族の状況によっては、取り得る手段に制限が生じる恐れもあるだろう。
確認を怠ってはならないと、あなたは判断した。

勿論、繊細な事情を抱えている可能性もある。
努めて優しく、善良な名医の仮面を念入りに被りながら、だ。



>>↓1 コンマ判定 【意思対抗判定 : 家族の事情】

基準値 5

意思 8 (あなた)

意思 -2 (肺病の少女)
孤独 -3

目標値 8



///////////////////

※ チュートリアル ※


判定内容に対象の能力値が深く関わってくる場合、対抗判定が発生します。
対抗判定では 【基準値 : 5】 が設定され、あなたの能力値がプラス、対象の能力値がマイナスの補正として与えられます。

///////////////////


【意思対抗判定 : 家族の事情】

目標値 8

出目 5

成功!


両親について聞くと、少女は明確に顔を曇らせた。

どうやら、あなたの懸念は的を射ていた。
彼女と家族の間には、立ち入り難い事情があるらしい。


あなたは、俯いた少女を心配し、手を握って気遣った。
無論、演技である。
既に限界まで弱りきった心に、偽りの優しさは良く沁みたのだろう。

少女は発せない声の代わりに、あなたの掌を指先でなぞり、文字で言葉を伝える。


【私が悪い】

【魔術の名門】

【期待を裏切った】


あなたに伝えられたのは、短い三つの文であった。
それだけで、十分に事情は理解出来た事だろう。


あなたは同情するよう振る舞いながら、ほくそ笑んだ。

実に都合の良い事だ。
少女は最期の平穏を願われてここに送られたのでは無い。
不要な物、廃棄物としてサナトリウムへ打ち捨てられたのだ。

彼女がどうなったとして、家族がその行方を追う事など有り得まい。


また、少女の抱く感情の中に怨嗟が含まれていない事も、あなたは読み取った。

どうやら、多分に自罰的な傾向がある。
付け込むには容易い。
傀儡としては、理想的な精神に違いない。


>>↓1 コンマ判定 【少女の体調】

耐久 6 (肺病の少女)
医術 5 (あなた)

重病 -5
偽装 -3 (あなた / サナトリウムの医療水準)

目標値 3


【少女の体調】

目標値 3

出目 3

成功!


感情の高ぶりから零れた涙も止まり、少女は落ち着いた。

呼吸の乱れから体調もやや悪化したようだが、そう深刻では無い。
後少しぐらいならば、話を続けても良いだろう。



>>↓1  少女と自由に対話が行えます


『……なぁ、嬢ちゃん。
 あたしはね、今弟子を探してるのさ。

 ほら、見ての通り頭の葉も枯れ果てたババアだろう?
 一人じゃあ何をやるにも不自由なんだ。
 それに、折角の医術を誰にも教えずにあの世に持っていっちまうなんて、こんな勿体無い話は無い!』


暗い感情に沈んだ少女を励ますように、あなたは口を開いた。

身振りはやや大仰に。
場末の酒場にしか居場所が無いような三流の道化のごとく、あなたは振舞う。

少女はそれを、間抜けさすら感じさせる、きょとんとした顔で見詰めた。

突然、この人は何を言っているのだろう。
もし彼女が肺を侵されていなければ、そういった意味の呟きも漏れたかも知れない。


だが、あなたはそれを無視する。
既に筋道は立て終えた。
少女は既に蜘蛛の巣にかかった羽虫も同じ。
後は一気呵成に糸を吐き、ぐるぐると巻いてしまうだけ。

手を止める必要など、どこにも無い。


『あたしはこう見えても一流の医者なんだよ。
 他の先生方もそう言っていただろう?
 そんなあたしの弟子なら、そいつもきっと一流の医者になるんだろうねぇ。

 そして、もう碌に出歩けないあたしと違って、若い弟子はあちこちの街を廻るんだ。
 行く先々でどんな病人も救ってね。
 大陸中にその名前が響き渡るに違いない!』


あなたの話はそれで終わりだ。
後は少女が、どのような反応をするかだけ。

そしてそれは無論、あなたの予想通り。


「…………わたし、にも……できる?」


酷く掠れた、縋るようなか細い声。
後僅か顔が離れていれば、恐らくは聞き取れなかっただろう。

それこそが、あなたの成功を如実に語る、決定的な返答だった。


『勿論さ。
 いいかい? 医者に才能なんかいらないんだよ。
 こんなもんはただの技術だからね。
 覚えの早い遅いはあるだろうが、必死で頑張れば誰にだって出来る事なんだ』


コピペミスりました。
>>152は一旦忘れて下さい。


そこで、あなたは道化の身振りを止めた。

あなたを強く印象付けるため。
弱り切って無防備に曝け出された皹だらけの心に、深く楔を打つために。


『……そうしたら、そうしたらさ。
 噂を聞き付けた弟子の家族が、会いに来るんだ。

 こんな素晴らしい人間に、私達はなんて仕打ちをしてしまったんだ。
 どうか許して欲しい。
 もう一度、家族としてやり直して欲しい。

 ……ってさ』


あなたの話はそれで終わりだ。
後は少女が、どのような反応をするかだけ。

そしてそれは無論、あなたの予想通り。


「…………わたし、にも……できる?」


酷く掠れた、縋るようなか細い声。
後僅か顔が離れていれば、恐らくは聞き取れなかっただろう。

それこそが、あなたの成功を如実に語る、決定的な返答だった。


『勿論さ。
 いいかい? 医者に才能なんかいらないんだよ。
 こんなもんはただの技術だからね。
 覚えの早い遅いはあるだろうが、必死で頑張れば誰にだって出来る事なんだ』


「…………」


少女は再び、深く俯いた。

当然の事だ。
あなたが語った物は、希望である。
少女が求めて止まないだろう、明日への希望、未来の夢だ。

眩く輝くそれは、彼女が病に侵されて以来、手を伸ばす事は無かっただろう。
久方ぶりに感じた熱は、余りにも鮮烈だったに違いない。


だからこそ、少女の絶望はより深まる。

少女の病は治らない。
明日など来ない。
未来は永遠に遠いまま、決して訪れる事は無い。



少女の目の前にある、飛び切りの例外が何もしない限り。


「……そう、なったら」


少女が再び、苦痛と共に声を上げる。

その顔は酷く歪んでいた。
絶望と憎悪。
それらをない交ぜに、何故こんな話を聞かせたのだと。
それでも必死に瞳の奥に感情を隠して。


「とても、すてきだと思います」





……少女は、この出来事を決して忘れないだろう。

故に、もしも奇跡のような救いが彼女に齎されたならば。
その瞬間は、御伽話のごとく、酷く劇的な物になるに違いない。


与えられた住居に戻ったあなたは、芝居の出来栄えを自画自賛した。

少女が抱いた感情は、救済の後には同じだけの重みを持ったまま反転するだろう。
あなたに深く依存し、あらゆる指示に盲目的に従う理想の弟子が生まれる事となる。


ただ、そのためには用意すべき物が幾つかある。

薬を用いるにしろ、体に刃を入れるにしろ、現在の状況では不足だ。
素材と設備、共に追加が必要となる。
【バスクとの交渉】 を行わねばならないだろう。

勿論、あなたにとって少女は絶対に救わねばならない対象では決して無い。
少なくない労力を支払ったとして、得られる物は弟子一人だ。
見捨ててしまうという選択肢も、あなたには許されている。


【円環暦612年 春 2/3】


その日も、春らしい淡い青が空には広がっていた。

気分良く目覚めたあなたは、少しの間窓際で休息を取る。
ドライアドの頭の葉は、決して飾りでは無い。
十分な日光を受ける事で、多少ではあるが体調を整える事が出来るのだ。

無論、そもそもあなたが体調を崩すなどまず有り得ない。
単なる気分の問題、あるいは数少ない趣味のような物である。



>>↓1  どうする?


といった所でキリが良いので、今日はこの辺で。
前作で行動が間延びしまくってた件の対策でこういった形にしましたが、割合機能しそうで安堵中。
お付き合いありがとうございました。
また明日。


■ あなたのステータス


【95歳 女性】


【種族 : ドライアド】

森の中に隠れ潜む種族。
樹皮に似た皮膚と、葉のような髪が特徴的。
魔力との親和性や精神力に優れるが、鈍感で、体力に劣る。

【種族能力 : 森の隣人】

人よりも精霊に近い彼らは、最も親しい隣人たる植物達とも言葉を交わす。
植物との対話が可能になる。


【筋力】 3
【耐久】 7
【器用】 10
【敏捷】 7
【感覚】 2
【意思】 8
【魔力】 4
【幸運】 4


【出身地 : クラッカ】

【現在地 : シアラ・ミニア】



◆ 習得魔法

【種火】
掌に収まる程度の小さな炎を発生させる。

【清水】
両手で作った器に収まる程度の少量の水を召喚する。

【微風】
頬を優しく撫でる程度の僅かな風を発生させる。

【土塊】
拳程度の大きさを限度とする少量の土を召喚する。

【放浪】
自身の管理下に置いた魔力、魔法、物品、などを意思ある生物のように振舞わせる。
対象は自由意志の下、無軌道に放浪する。
魔力の能力値が不足しているため、生物には使用出来ない。
効果時間はおよそ半日。

【反発】
反発力を発生させる。
通常は魔力、魔法、物品などに作用するが、あなたの精神性との合致により、僅かながら精神にも作用する。
生物に使用した場合、対象への接触に忌避感が生じる。
効果時間はおよそ半日。


◆ キーワード

【倫理観皆無】
【マッドサイエンティスト】
【国際指名手配】
【孤独】
【後進の指導】


■ 所持品一覧


◆ 4000 Casa

共通交易通貨。
カダスティア大陸において、使用出来ない都市はほぼ存在しない。


◆ 《宣誓》のスクロール x1

使い捨てのマジックスクロール。
《宣誓》の魔法が封じられている。
証文に書き込んだ内容を、他者と己に遵守させる事が出来る。


◆ ペインキラー x0 ← USED

あなたが生み出した、痛覚を完全に麻痺させる薬品。
痛覚以外には一切の効果が無く、副作用や中毒性などは存在しない。
効果時間はおよそ半日。

※ バスクが用意した素材を用いて、制限無く精製可能 ※


今晩も20時~20時30分位の開始になります。
よろしくお願いします。


戸締りを何度も確認し、あなたは家を後にする。

向かう先はバスクの屋敷だ。
設備の更新と素材の追加に関する交渉のためである。

これに成功すれば弟子候補たる肺病の少女を治療する事が出来るだろう。
また、サナトリウムを隠れ蓑に要求出来る素材で、異常な効果を持つ薬品を幾つか作成出来るようになる。
これはあなたの研究を進める上で役立つ上に、万一の場合には逃走手段として極めて有用だ。


【円環暦612年 春 2/3 : バスクの屋敷】


が、残念ながらバスクは現在、屋敷には居ないらしい。
あなたを出迎えた家令が申し訳無さそうに頭を下げ、彼は現在街外れの生簀へ視察に向かっていると告げる。
何時でも訪ねてくれて構わない、との言質をあなたは既に得ていたが、考えてみれば常に屋敷に居るという訳では無いだろう。


家令は、バスクは夕刻までには戻るはずだ、と続けた。

あなたには幾つか選択肢がある。
視察を終えて戻るまで、数時間を屋敷で待たせて貰うか。
バスクを追って生簀へ向かうか。
あるいは、他の用事で時間を潰し、夕刻に再度訪問するという手もある。



>>↓1  どうする?


出直そうというのが、あなたの選択だった。

生簀に向かったとして入れ違いにでもなれば面倒だ。
応接室で待たせてもらうにしても、暇で仕方が無いだろう。
使用人の目を盗んで家探しをする機会でもあったが、別にそうせねばならない理由も無い。

ここは大人しく、他の用事を済ませてしまうのが無難という物だろう。


【竜魚の逆飛び亭】


家令に礼を告げてあなたが向かったのは、一軒の飯屋であった。
屋号の通り、勇ましい容姿の魚が頭を地に向けた姿勢で跳び上がる姿が看板に描かれている。
何でも、この竜魚なる魚の姿焼きがこの店の名物であるらしい。

今バスクが視察しているらしい生簀でも養殖されている。
ここの店主が本来異国の山中にしか生息していなかった竜魚を生かしたまま持ち帰り、バスクが養殖法を発見したのだ。
……と、頭に水牛の角と耳を生やした若いウェイトレスが何故か誇らしげに、店中に響き渡る大声で語っている。
彼女の大きすぎる胸が言葉と共に跳ね回る様を追う若い男達の視線に、あなたは若干の呆れを抱いたかも知れない。


その竜魚であるが、実際注文して摘んでみれば、確かに言うだけの味はある。
口に含んだ途端に解れて広がる白身からは、僅かな塩に引き立てられた甘みが広がり、舌を楽しませる。
横に添えられた根菜の細切りとの相性も抜群だ。
単体ではツンと鼻に抜ける辛味が強すぎるそれも、竜魚からたっぷりと溢れる油に中和され、独特の爽やかな風味を楽しめるようになっている。
竜魚の油の多さがそれによって全く気にならないようになっている点も含めて、熟年の夫婦の如き調和である。


(こりゃあ、この店は当たりだね。
 ……店員が煩いのにさえ目を瞑れば、だけどね)


あなたはそう考え、上の下という評価を下したが、街の住民達の間ではもう一段二段上に扱われる。
特に男性からの評価が抜群に高いのだが、その理由はわざわざ語るまでも無いだろう。


さて、あなたが竜魚の逆飛び亭を訪れたのは、食事が理由では無い。

この店では、最近の出来事を簡単に知る事が出来るのだ。
行商人や吟遊詩人から集められた情報や、国や街が出した触れを纏めた木板が店の隅には置かれている。
客であれば誰でも、自由にこれを手にとって読んで良いとなっている。
客を一人でも集めるため、あるいは一人でも多くに触れを読んでもらうための、割合どこの街にでもある物だ。


それらを読み漁り、あなたは幾つかの気になる記事を発見した。



>>↓1 コンマ判定 【気になる記事の内容】

幸運 4

目標値 4


【気になる記事の内容】

目標値 4

出目 5

失敗……


まず一つ目は、賞金首の史上最高額が更新された、という物だ。

とは言っても、新たな賞金首が登場した、という話では無い。
隣国であるクピアの王が、あなたに対する賞金を追加したらしい。
追加された額は晶銀貨二十枚。
これで、あなたの首には晶銀貨九十八枚という馬鹿馬鹿しい額が懸けられた事になる。


(…………やっぱり、これはアレかね。
 第三王子を攫って解剖しちまったせいかねぇ。

 結局王族も平民も体に違いなんぞ無かったし、とんだ無駄骨だったよ)


温厚で誠実、積極的に平民と接する事で知られた人格者は、今やあなたの体内に一部が残るのみだ。
他の部分は、焼却されたか薬品の素材となってしまっている。


この情報はあなたの気分を若干害したが、それだけだ。
元々の額が額である。
今更、この情報に触発されて新たな賞金稼ぎがあなたに狙いを定める、などという事はあるまい。


二つ目も、あなたに関する記事だ。

サナトリウムに突如現れた名医について、いかにも煌びやかな美談として描かれている。
情報を提供したのは、弟子候補であるヒュドールの女看護士のようだ。
彼女と交わした会話について、少々触れられている事から間違いない。

こちらは未発見の薬に関して賞賛されているのみ。
名医という紹介ではあるが、常識的な範囲に留まる。
あなたのカモフラージュは、おおよそ狙った通りに作用していると考えて良さそうだ。

ただし勿論、今後サナトリウムであなたの本来の腕を振るったとするならば、ここに 【載せられる可能性】 について考慮すべきだろう。


三つ目は、バスクについて。

どうやら、彼は 【芸術にも造詣が深い】 ようだ。
今までは絵画や彫刻を購入し、屋敷に飾るのみであったらしい。
それが、これからは芸術家への援助を始めるとの事だ。

昔からその考えはあったのだが、街の発展やサナトリウムの運営を優先するために諦めていた。
晩年になってようやく、私の個人的な夢が叶う事となる。
芸術を志す若者達よ、これまで待たせてすまなかった。

などというバスクの言葉によって、記事は締められている。



……あなたの目に留まった記事は、この程度だ。

読み終えた木板を元の位置に戻したあなたは、店の外が若干薄暗くなっている事に気付く。
どうやら、そろそろ良い時間だ。
西の空は今頃、赤く染まっているのだろう。

味の割には安くついた代金を支払い、あなたは再度バスクの屋敷へと向かう。


【バスクの屋敷】


「いやぁ、申し訳無い。
 昼にも来てもらっていたんだろう?
 分かっていれば早々に切り上げてきたのだが、全く気の利かない家令で困る。
 あなたは今や最も重要な客の一人であるというのに!」


あなたの対面に座ったミーニアの男は、そう切り出した。

壮年を過ぎ、老年に足を踏み入れた年齢だというのに、その身には覇気が満ち満ちている。
細身ながらも標準以上の筋肉が全身を覆い、黒髪には白髪の一本も混じっていない。
顔に刻まれた皺も最低限であり、老いを全く感じさせない堂々たる男振りであった。

また、内面も街の評判通りの物を感じさせる。
今の言葉が良い例だろう。
表面上は無能な家令を責めるような物だが、おどけた口調がそうとは受け取らせない。
チラリと一度だけ家令に向けられた視線からは、会話の出汁にして申し訳無い、という労りが読み取れた。
頭を下げた家令の口元に浮かんだ小さな笑みからも、主従の信頼関係は十分に伝わろう。


そんなバスクへと、あなたは早速自身の希望を伝えた。
今のままでは作れない薬がある事を告げ、設備の更新と素材の追加を要求する。

返答は……。


「おぉ、そんな事か。
 勿論構わないとも!

 あなたが生み出す薬の有用性は実証されている。
 その程度の便宜は喜んで図ろう」


なんともアッサリとした承諾であった。
詳細を聞くまでも無く要望が通った事に、あなたは僅かに驚いたかも知れない。

ともあれ、交渉はこうして成功した。
あなたが利用出来る設備と素材は、一段階質を上げる事となる。

勿論、明日からすぐにとは行かない。
現在の設備は既に逝去した薬師の物をそのまま流用したために即座に手に入ったが、本来は手配の時間がかかるのだ。
あなたが自由に扱えるのは 【夏から】 だろう。

それでも弟子候補である肺病の少女の治療には、何とか間に合うとあなたは踏んだ。
十分な成果と言って良い。


交渉を終えて、バスクは立ち上がりあなたに握手を求めた。
断る理由も無く、あなたは 【手袋をはめたままのバスクの手】 を握る。



>>↓1 コンマ判定 【??????】

感覚 2
医術 5

?? -2

目標値 5


【??????】

目標値 5

出目 1

クリティカル!!


……握った手の感触に、あなたは酷い違和感を覚えた。

とてもでは無いが、これは人間の手とは呼べない。
凡百の人間ならば騙しきれたかも知れないが、人体の専門家たるあなたにはそう感じられた。


(こりゃあ……義手だね。
 それも普通の物じゃあ無い。
 相当な質の魔術が関わってる)


表面上は何事も無いように振舞いながら、あなたは手袋の下にある物を完全に看破した。
バスクの手は、生身では無いのだ。
そうと知れて注意してみれば、逆の手もその動きに若干のぎこちなさがある。

長袖の服を纏っている以上、どこからが人工物であるかまでは分からないが、彼は両腕が義手であるらしい。


ともあれ、これで今日の用件は終わりだ。
あなたはバスクに礼を告げ、屋敷を後にする。

ただ、その帰り際にそうとは分かりにくいように釘を刺されもした。
今回は簡単に終わった交渉だが、次はそうも行かないようだ。

次回の交渉に挑むならば、サナトリウムにおいて 【十分な成果】 を出す必要がある。
これを忘れて更なる要求を重ねたならば、バスクからの評価を落とすだけに終わるだろう。


【円環暦612年 春 3/3】


湖上を照らす太陽の熱は、日に日に強まってきた。
そろそろ晩春と呼んで良いだろう。
夏はもう目の前にまで迫っている。

必然、寝苦しさを覚える夜も増えた。
立地的にどう足掻いても逃れられない湿気と共に、あなたの眠りを妨げる。


この日も、あなたは不快な眠りを切り上げ、うんざりとした心持ちで活動を開始した。



>>↓1  どうする?


あなたは今日一日を薬作りに充てる事とした。

逃走の際に持ち出した痛覚殺しは、既に消費されてしまっている。
普段作る分も、サナトリウムの消費量を超えられてはいない。
私用で自由に使おうと考えるならば、こうして余暇を用いて働く他手段は無い。
尤も、弟子が十分に育った暁には話は別だろうが。


あなたは作業場に向かい、素材を手に取った。
瓶に詰まった液状の素材の名は【鮮血蜥蜴の劇毒】と言う。

シアラ・ミニアから見て南に位置する山脈に生息する、名の通り鮮血のような赤い皮膚を持ったトカゲの毒だ。
鉄を豊富に含んだ山肌は赤みを帯びる。
そこに溶け込むように潜むこのトカゲは発見が難しく、気付けば噛み付かれていて毒によって命を落とす、という例は幾らでも転がっている。

毒の種類は、極めて強力な神経毒。
全身のあらゆる神経が寸断され、身動きどころか呼吸すらままならない被害者は瞬く間に死に至る。
そもそも、ただの一噛みで即座に心臓が機能を停止する事もある。


山を往く行商人達から恐れられるそれは、面白い事に三十を超える毒素の集合体である。
何をどうすればここまで凝縮されるのかと、あなたも初見では驚愕させられた。

その内のたった一つ、痛覚を麻痺させる効果のみに狙いを定め、他の毒素を完全に無害化する手法はあなただけの物だ。
手間がかかる薬ではあるが、それに値する効果は実証されている。
十の槍に貫かれたあなたが十全の反撃を行えたのも、この薬品を服用していたからに他ならない。


手馴れた動作で鍋を用意し、極一般的な薬草と共に毒を火にかける。
ここから先には頭が痛くなるような数の手順があるが、それを詳細に語る意味も無いだろう。

重要なのは、いつも通りにあなたの調合は成功し、余剰の痛覚殺しを入手したという一点のみだ。



>>↓1 コンマ判定 【薬品精製数】

器用 10
技能 5

難度 -3

目標値 12

※ この判定は、目標値と出目の差によって結果が変動します。



////////////////////////////

※ チュートリアル ※


判定の中には、目標値と出目の差によって成功の度合いが変動する物が有ります。
今回の場合、通常の成功時に得られる薬品数に、成功度合いに応じた倍率が掛けられます。

同様の判定には 【被るダメージの軽減判定】【与えるダメージの増加判定】 などが挙げられます。

////////////////////////////


【薬品精製数】

目標値 12

出目 4

差 8


夜を越え朝陽が昇り始める頃に、あなたの作業は終了した。

最後に残った粉状の薬品を小瓶に詰め、しっかりと栓をする。
専用の調合台の上には、同様の小瓶が二つ並んでいた。

合計三個。
それが今回のあなたの成果である。



////////////////////////////

【ペインキラー x3】 を入手しました。

////////////////////////////



長時間の作業で僅かに固まった体を解し、あなたは立ち上がる。
上々の結果と言って良いだろう。
少なくとも、あなたの口元に弧を描かせる程度には。


といった所で、キリが良いので今日はお開きで。
お付き合いありがとうございました。
また明日。

次回は 【円環暦612年 夏】 の固定イベントになります。


■ あなたのステータス


【95歳 女性】


【種族 : ドライアド】

森の中に隠れ潜む種族。
樹皮に似た皮膚と、葉のような髪が特徴的。
魔力との親和性や精神力に優れるが、鈍感で、体力に劣る。

【種族能力 : 森の隣人】

人よりも精霊に近い彼らは、最も親しい隣人たる植物達とも言葉を交わす。
植物との対話が可能になる。


【筋力】 3
【耐久】 7
【器用】 10
【敏捷】 7
【感覚】 2
【意思】 8
【魔力】 4
【幸運】 4


【出身地 : クラッカ】

【現在地 : シアラ・ミニア】



◆ 習得魔法

【種火】
掌に収まる程度の小さな炎を発生させる。

【清水】
両手で作った器に収まる程度の少量の水を召喚する。

【微風】
頬を優しく撫でる程度の僅かな風を発生させる。

【土塊】
拳程度の大きさを限度とする少量の土を召喚する。

【放浪】
自身の管理下に置いた魔力、魔法、物品、などを意思ある生物のように振舞わせる。
対象は自由意志の下、無軌道に放浪する。
魔力の能力値が不足しているため、生物には使用出来ない。
効果時間はおよそ半日。

【反発】
反発力を発生させる。
通常は魔力、魔法、物品などに作用するが、あなたの精神性との合致により、僅かながら精神にも作用する。
生物に使用した場合、対象への接触に忌避感が生じる。
効果時間はおよそ半日。


◆ キーワード

【倫理観皆無】
【マッドサイエンティスト】
【国際指名手配】
【孤独】
【後進の指導】


■ 所持品一覧


◆ 4000 Casa

共通交易通貨。
カダスティア大陸において、使用出来ない都市はほぼ存在しない。


◆ 《宣誓》のスクロール x1

使い捨てのマジックスクロール。
《宣誓》の魔法が封じられている。
証文に書き込んだ内容を、他者と己に遵守させる事が出来る。


◆ ペインキラー x3 ← NEW

あなたが生み出した、痛覚を完全に麻痺させる薬品。
痛覚以外には一切の効果が無く、副作用や中毒性などは存在しない。
効果時間はおよそ半日。

※ バスクが用意した素材を用いて、制限無く精製可能 ※


今晩も20時~20時30分位の開始になります。
よろしくお願いします。


【円環暦612年 夏】


その日、あなたは夜通しの調合を終え、朝陽を受けて黙考していた。

手元には、飴玉に偽装された薬。
眼前に鎮座する新たな設備によって生み出された、余人が知れば禁忌と断言するだろう、狂気の逸品である。
魔力による変異に侵された少女を救う、あなた以外の誰も知らない秘奥の一つ。
その効果は、酷く単純かつ悍ましい。


人間という種は、決して魔力の扱いに長けているとは言えない。
最たる適性を持つヒュドールやドライアドであっても、人間の魔法は魔獣の魔法よりも劣るのだ。
無論、優れた人間と下位の魔獣を比べれば、後者に軍配が上がる事も多かろう。
しかし、最上位の魔獣を天秤に乗せたならば、決して人間の側に傾く事は無い。

何故か、という問いに明確に答えられた者は未だ居ない。

"宙を漂う魔力という物は創世の神が世界を作り出した奇跡の残滓であり。
 故に、より原始の姿に近い獣こそが強力に扱える。"

そんな仮説が語られるのみ。


ともあれ、真実がどうであれ、あなたは一つの事実を研究の最中に理解している。

魔獣とは 【大量の魔力によって変異した獣】 なのである。

脳、臓器、骨に肉、果ては毛の一本に至るまで、魔獣の体は大量の魔力を含有している。
一箇所ならば、構造の齟齬から発生する機能不全によって死は避けられまい。
それこそ、肺病の少女と同様の症状を起こし、最上の苦しみの中でだ。

しかし、あらゆる部位が同時に変異したならば?

その答えこそが、今も人の手による大陸の開拓を妨げる魔獣達の正体だ。


つまり、あなたが持つ薬は、その現象を人為的に引き起こす物に他ならない。
服用者の肉体に魔力変異を強制させ、人型の魔獣を生み出す事が可能となる。


……無論、変異後の人間は既存の生物の枠からはみ出した存在となる。

構造が異常化した肉体は 【筋力の強化や魔力適性の上昇】 の代償に常に疼痛に苛まれ、当然精神にも悪影響を及ぼすだろう。
過去に使用した際は、過剰な攻撃性の発露が最も多く見られた。
これを抑えるには 【定期的なペインキラーの摂取】 が必要となろう。

また、全身を作り変えるという事は、子宮や卵巣の変異も避けられない。
肺病の少女は、これを服用した瞬間、齢十二・三の若さにして、我が子を抱く権利を永遠に剥奪される事となる。

そして最後に、もし魔獣化の事実が暴かれたならば、彼女は詰みに入る。
討伐されるならば、まだ良いだろう。
最悪の場合……つまり、あなたのような人間に捕獲された時こそが、死すら生温いと断言できる地獄の始まりだ。


そこまで考えて、あなたは視線を横へずらす。

調合台の脇に存在する扉の先には、新たに作られた部屋がある。
人体を切り開き、あるいは繋げる、人体改造を行える手術室だ。
魔獣化を行わずに少女を生存させる手段が、そこにある。

少女を連れ込みさえすれば、肺を取り替える程度は容易く行える。
あなたにとっては手馴れた作業だ。
失敗の可能性は、万に一つも無い。

問題となるのは肺の提供者の確保だが、そちらも手段は用意出来ている。
他者の精神を粉砕し、あなたの命令に従う人形を作り出す薬品がそれだ。
ゾンビパウダーと命名したそれを適当な人間に飲ませ、泥酔した振りをして夜の湖に身投げさせれば良い。
湖上に浮く街において、そのような死者はそう珍しい物でも無い。


こちらは魔獣化とは異なり、能力強化は発生しない。
健常な人体に戻すだけなのだから、当然の事だ。
ただし、あなたの技術による 【人体改造】 が可能となる。

全身に刃を浴び複数の臓器を抉られても数時間を生き延びる、異常な生存能力。
魔獣を除くあらゆる生命の部品を自身に適合させる、有り得ざる汎用性。
そういった物が、あなたの技術の真骨頂だ。

残念ながら、この技術は魔獣に対しては適用出来ない。
変異した肉体は構造が独特に過ぎ、針の上に岩を乗せるような奇跡的なバランスで存在している。
そこに手を加える事は、いかにあなたであっても危険性が高すぎる。


熟考の末、あなたは結論を出した。

攻撃性を重視した、魔獣化か。
生存性を重視した、人体改造か。
あるいは、少女を放置し、別の者を探すか。

あなたの結論は―――。



>>↓1  どうする?


あなたの視線は―――調合台の上の薬へと向けられた。

人道という物に正面から唾を吐きかける禁忌。
そのような物、あなたには躊躇すべき理由とは決してならない。
世にある尊いとされる数多の命は、永遠の存在へと至るための踏み台でしか有り得ない。

とうの昔に、魂は悪魔に売り払われた。
いや、あなたこそが真実、この地上に存在する悪魔なのだ。


薬を手に取り、あなたは家を出る。

幼気な少女に、悪魔の取引を持ちかける時間である。


死と隣り合いながらも、信仰が齎す平穏に包まれるサナトリウムを、あなたはゆっくりと歩く。

通路を形作る木製の壁には、所々に絵画が並んでいる。
どれもこれもが宗教画だ。

聖母ミニアが伴侶たる男神と出会った瞬間。
ミニアの苦悩を知った男神が、彼女の胎に新たな神を宿した一幕。
そして、聖母の心臓を引き裂き、その命を糧として輪廻の神が生れ落ちた、旧世界の終わりにして、円環の始まり。

……描かれた神々は、あなたを止めようともしない。

当たり前だ。
これはただの絵の具の集合に過ぎない。
聖性など、一欠けらも宿らず、地上の悪魔を裁く術を持ち得ない。


『やぁ、嬢ちゃん。
 今日の気分は、どうだい?』


そうして、あなたはサナトリウムの最奥部に辿り着いた。

あなたの声に、返事は返らない。
そこは、サナトリウムの半死人の中でも最も重篤な者が収容される一室だ。
今日明日にでも死ぬ。
そう確信された者のみが存在する、死の気配に満ちた部屋である。

一つきりの寝台の上には、少女が一人。

もう何日も眠る事すら出来ていないのだろう。
黒く落ち窪んだ亡者の瞳が、あなたを見詰めている。
口から漏れる音は、正しく溺死寸前の者が溢すそれと大差無い。


『……持って今夜までだね。
 嬢ちゃんが次の朝陽を見る事は、きっと無いだろう』


そんな無慈悲な言葉にも、少女の反応は無い。

当然、彼女にも分かっているのだ。
彼女は今晩、その命を終える。
両親が訪れる事も無く、見捨てられた存在のまま、何も残せず。
サナトリウムの看護士達が最期に付き添ったとして、それがどれ程の救いになるものか。
狂おしい程に求めただろう家族の愛は、結局与えられはしない。

少女の瞳に宿るのは、最早諦観のみ。
何もかもを諦め、己は無価値だったのだと受け入れている。

……だからこそ、あなたの一言が、彼女には許せなかった。





『前にも言ったね。
 あたしは弟子を探してるんだ。

 嬢ちゃん、あんた、あたしの弟子にならないかい?』


赤熱を帯びた感情と共に、瞳があなたに向けられる。
相変わらず言葉は無い。
ただ、視線が力を帯びていたならば、あなたは今頃全身を爛れさせて焼け死んでいた事だろう。


『医術には才能なんざいらない。
 ただの技術だ。
 誰にだって、学ぶ気さえあれば出来る事だ』


跳ねるように伸ばされた手を、あなたは掴み止める。
今日にも死ぬ重病人とは思えない程の力が、そこには籠められていた。
僅かに伸びた爪が樹皮の肌に突き立てられる。
だが、あなたはそれを気にも留めない。


『嬢ちゃんは、人を救う事が出来るんだ。
 あたしの下で学びさえすればね』


片手だけでは足りない。
そう判断した少女がもう片方を伸ばすが、それも無駄。

聞いてはいけない。
深く重過ぎる直感に苛まれる少女は、しかし何も出来ない。


『それはつまり、どういう事か分かるかい?』


聞いてはいけない。
言わせてはいけない。
死よりも暗い終わりの予感の通りに、最後の一撃が放たれる。


『あんたは、無価値じゃないって事さ』


……それは正しく、少女の息の根を止める致命の劇毒であった。


見開かれた瞳から、涙が零れ落ちる。

歓喜の涙―――などでは、有り得ない。
感情の方向はまるで真逆を向いている。

両親から、そして己から下された無価値の烙印。
これ程簡単に覆されるなど、彼女にとっては許容出来る訳も無い。


心の底から求めた言葉。
欲しくて欲しくてたまらなくて、病に侵されても足掻き続けて目指した場所。

それを、目の前に置かれたまま、手を伸ばすための明日は来ない。


『…………答えを聞くのは、また今度にしよう。
 こいつは、あたしからの贈り物だよ』


全身を絶望に犯された少女の口に、あなたは細かく砕いた飴玉を放り込んだ。
抵抗は無い。
凝縮された禁忌は、柔らかな舌の上で甘く溶けていく。


それを見た者は、誰も居ない。
ただ一つ、天上に彫刻として描かれた、死者を迎えるように腕を広げる輪廻の女神以外には。


―――それから、数週間が経った。


その日、あなたはいつも通りに調合を行っていた。

新たな素材と設備を得た今、あなたに求められる物は多い。
元々提供していた痛覚殺しは当然として、他にも二つ。

精神を殺す薬を加工して生み出される、心に平穏を齎す鎮静剤。
人体改造の際には必須となる万能血液の製法を少々変えて作られる、増血剤。
これらが加わっているのだ。
あなたに課せられた作業量は増すばかりである。


だから、遠慮がちに響いたノックの音は、あなたにとって福音に他ならなかった。


「……えっと、あの」


扉を開けたあなたに投げかけられたのは、か細い声だった。
未だ声を発する事に慣れていないのか。
あるいは、元々の性格か。
聞き取るには少々の集中を必要とするような声量だ。

何も言わず、ただ優しい老婆を装うあなたを見て、訪問者は意を決したように続ける。


「あの日の話は、本当……ですか?」


あなたの薬は、完全に効果を発揮した。

投与した後、およそ半日が経過して陽光がその姿を消した頃、少女の容態は急変した。

異常な発汗。
異常な痙攣。
異常な絶叫。

正常の死に様など欠片も無い、有り得ざる事態を前に、サナトリウムは一時混乱に包まれた。
何をどうして良いか分かる者など誰も居ない。
ただ必死に少女の体を寝台に抑え付ける事が、看護士達に出来た精一杯だ。


……その混乱は、半刻程で治まる事となる。

無論、少女の死によってでは無い。
始まった時と同じく唐突に、何もかもが終わったのだ。
少女の口から漏れる者は溺死者の吐息では無く、正常の呼吸音。

あなただけが理解できる、変異の完遂である。


少女の変容と回復、その正体は誰にも暴く事が出来なかった。

肉体と完全に同化した魔力は、発見は極めて困難なのだ。
凡百の医師ごときに見抜ける理由は存在しない。
それこそ、百を超える人体を解体した経験を必要とするだろう。


だが、少女は朧げに理解していた。

きっと、絶望と共に嚥下した魔法の飴玉が鍵だったのだと。


そうして、少女は今あなたの眼前に居る。

魔獣の肉体をもってしても、数週間での完全な回復は叶わなかったのだろう。
手足は細く、頬も未だ僅かにこけたままだ。
だが、少女を半死人と呼ぶような者は存在するまい。
確かな生の鼓動が、そこにはある。


『当たり前だよ。
 最近は随分忙しくてね。
 仕事を手伝ってくれる弟子は、あたしにとっちゃ黄金より価値があるんだ。

 ……そら、一応聞かせてくれるかい。
 あんた、あたしの弟子になる気はあるかね?』


少女があなたの手を振り払える理由は、この世に存在しない。

両親に見捨てられ、どこにも行く場所が無い彼女にとって、あなただけが唯一縋れる物だ。
ましてや、あなたは御伽話の魔女そのもの。
疎まれ、虐げられる可哀想なヒロインを不思議な魔法で救い上げる、老婆の姿をした天の使い。


その真実。
罠を張り、可憐な蝶を捕らえて貪る毒蜘蛛こそがあなたであると見抜ける奇跡は。


「……っ!
 はい、どうか、私を弟子にして下さい。
 私、なんだって、どんな辛い仕事だってやってみせます!」


……起こり得る筈も無い。


あなたは早速、少女を家へと招き入れた。

見た事も無いのだろう不可思議な素材や設備の群れに、少女は目を輝かせる。
今の彼女にとって、それらはまさしくお姫様を助ける良き魔女の秘密に触れたような物だ。

そんな少女へ呼びかけようとして、あなたは一つの不便に気付く。
あなたは少女の名前を、未だ知らない。
今までは接する時間も限られ、適当に呼ぶだけで良かったが、今後はそうもいかないだろう。

そういえば、お前の名前は何と言うのか。

そんな今更の問いに返された言葉に、あなたは失笑を禁じ得なかった。

勿論、表に出す事は無い。
だが、彼女の境遇を考えれば余りにも惨い名である。
両親の悪辣さに、今にも腹を抱えて大笑いしたいとさえ、あなたは思っただろう。


それは、この大陸において有り触れた名であった。

我が子に名付けるには最も適した意味を持ち。
また、眩く輝く聖性を併せ持つその名の女は、およそどこの街にも居るだろう。
石を投げればその名に当たる、などという言葉さえ有る程だ。


「私は 【ミニア】 と言います。
 これから、よろしくお願いします!」


始祖たる聖母と同じ響きの名前。
それは古の言葉において…… 【愛されるべき娘】 という意味を持っていた。




【円環暦612年 夏 固定イベント 『絡め取る蜘蛛の糸』 完了】


このお婆ちゃん凄い書きやすい。
というか書いてて凄い楽しい。


イベント終わった所でキリが良いので、今日はこの辺で。
お付き合いありがとうございました。
また明日。


せ、世界情勢は平穏なので(震え声)


今晩は20時30分~21時位の開始になります。
よろしくお願いします。


■ あなたのステータス


【95歳 女性】


【種族 : ドライアド】

森の中に隠れ潜む種族。
樹皮に似た皮膚と、葉のような髪が特徴的。
魔力との親和性や精神力に優れるが、鈍感で、体力に劣る。

【種族能力 : 森の隣人】

人よりも精霊に近い彼らは、最も親しい隣人たる植物達とも言葉を交わす。
植物との対話が可能になる。


【筋力】 3
【耐久】 7
【器用】 10
【敏捷】 7
【感覚】 2
【意思】 8
【魔力】 4
【幸運】 4


【出身地 : クラッカ】

【現在地 : シアラ・ミニア】



◆ 習得魔法

【種火】
掌に収まる程度の小さな炎を発生させる。

【清水】
両手で作った器に収まる程度の少量の水を召喚する。

【微風】
頬を優しく撫でる程度の僅かな風を発生させる。

【土塊】
拳程度の大きさを限度とする少量の土を召喚する。

【放浪】
自身の管理下に置いた魔力、魔法、物品、などを意思ある生物のように振舞わせる。
対象は自由意志の下、無軌道に放浪する。
魔力の能力値が不足しているため、生物には使用出来ない。
効果時間はおよそ半日。

【反発】
反発力を発生させる。
通常は魔力、魔法、物品などに作用するが、あなたの精神性との合致により、僅かながら精神にも作用する。
生物に使用した場合、対象への接触に忌避感が生じる。
効果時間はおよそ半日。


◆ キーワード

【倫理観皆無】
【マッドサイエンティスト】
【国際指名手配】
【孤独】
【後進の指導】


■ 所持品一覧


◆ 19000 Casa ← NEW

共通交易通貨。
カダスティア大陸において、使用出来ない都市はほぼ存在しない。

※ 一季に一度、サナトリウムでの活動に応じた額を自動獲得する。


◆ 《宣誓》のスクロール x1

使い捨てのマジックスクロール。
《宣誓》の魔法が封じられている。
証文に書き込んだ内容を、他者と己に遵守させる事が出来る。


◆ ペインキラー x3

あなたが生み出した、痛覚を完全に麻痺させる薬品。
痛覚以外には一切の効果が無く、副作用や中毒性などは存在しない。
効果時間はおよそ半日。

※ バスクが用意した素材を用いて、制限無く精製可能 ※


◆ ゾンビパウダー x0 ← NEW

あなたが生み出した、人間の精神を粉砕する薬品。
服用者は他者の命令に従うだけの人形となる。
魔術との併用により、あなた以外の命令をある程度弾く事も可能。
一度服用すると二度と回復させられない。

※ バスクが用意した素材を用いて、制限無く精製可能 ※


◆ トゥルーブラッド x0 ← NEW

あなたが生み出した、万人に適合する万能血液。
人体改造を行う場合、このアイテムが不足していると対象が死亡する場合がある。

※ バスクが用意した素材を用いて、制限無く精製可能 ※


バスクより与えられたあなたの家。
その居間、家具を一時的に排除したスペースの中央に、息を荒くしたミニアが蹲っていた。
頬は赤く、幾筋もの汗が流れ、疲労困憊である事が一目で分かる。

何をしていたかと言えば、身体能力の測定である。
今や、彼女は真っ当な人間では無い。
全身を高濃度の魔力によって侵された、人型の魔獣なのだ。

道具の性能を把握する意味でも、またミニア自身に変容を自覚させるためにも、これは急務と言えた。


『うん、悪くないね。
 規格外って程じゃあないが、これだけ動けりゃ十分だ』


結果として、筋力は人間の平均を上回った物であった。
ミニアがまだ幼い少女である事を踏まえれば、異常の一言である。
今後十分に体が成長したならば、途方も無い怪物に変貌するだろう事は疑い無い。

部屋の中央に陣取っていた分厚い木製のテーブルは彼女が移動させたのだが、その感触の軽さにバランスを崩していた。
一般的なミーニアの青年が二人がかりで息を合わせて動かすような代物を片手で持ち上げる程である。
己の腕をまじまじと見詰めて表情に恐怖を混じらせたのも、致し方無い事だろう。


「わ、私、どうなってるんですか?
 もしかして、また何か変な病気じゃ……」


そんな言葉を漏らしたミニアの懸念は、実に的を射ている。
彼女の肺の変異を病と呼ぶ以上、同様の現象である筋力の強化は病とされて然るべきだ。

だが勿論、あなたがわざわざそう教えてやる理由は無い。


『なぁに、気にする事は無いよ。
 ちょっとしたオマケさ。
 あの甘ぁい飴玉の、ね』


そう誤魔化してやれば、少女はあっさりと恐怖を掻き消したようだ。
むしろ瞳をキラキラと輝かせて、嬉しそうに両手を見詰めている。

良き魔女の素敵な魔法。
彼女がそう信じている物が、実感できる形で肉体に宿っている事が、嬉しくてたまらないらしい。
それを見遣るあなたの顔にも、つられるように笑みが浮かぶ。
尤も、あなたの場合は少女とは対極の、邪な理由から来る物であるが。


また、あなたは身体能力の前に確認した魔術行使について思い返す。

そちらも、実に良好な結果であった。
彼女が発現させた、つまりは閃きから生まれた【力ある言葉】は三つ。
内一つはどうにも理解したがい物だったが、残る二つは常軌を逸していた。

攻撃に扱えば防御も回避も不可能に近いだろう、空間自体に亀裂を生じさせる《断絶》。
あなたが行使した《反発》をいとも容易く掻き消してみせた《無為》。

どちらも他に類を見ない程の強力な魔法だ。
恐らく、彼女を超える魔術の使い手など、大陸全土を見渡しても多くはあるまい。

残る一つ、何故か行使の度に違う効果が発生した《犠牲》も、検証を重ねる必要があるだろう。
唐突に家の中に竜魚が現れる、空中に光の粒が舞う、テーブルの上に置かれた砂糖壺が踊り出す。
そんな意味不明の現象ばかりを起こした謎の魔法だが、法則を理解すれば意外な有用性があるかも知れない。


ただ、喜ぶあなたとは裏腹に、本人は酷く落ち込んでいた。
天から降るように閃く【力ある言葉】は、本人の精神性や生き様に大きな影響を受けるとされている。
そこから考えてみれば、これらの魔法を得た彼女がどう思ったかは想像に難くない。


『さて、疲れたろう?
 座って休んでおきな。
 折角だし、こいつを焼いて昼飯としよう』


強かに頭を殴られ動きを止めたままだった、抱えるような大物の竜魚を、あなたは持ち上げる。
春に逆飛び亭で食した竜魚は大変な美味であった。
それを真似た焼き魚が、今日のあなた達の糧となるようだ。

サナトリウムの薬品に関する報酬をバスクから受け取り、財布には随分と余裕がある。
少々高価な香辛料を用いて、ピリリと辛い味付けも良いかと、あなたは舌の上に空想を描くのだった。


■ ミニア(弟子)のステータス


【12歳 女性】


【種族 : 魔獣 / 無自覚】

ミーニアから変異した人造の魔獣。
魔力と融合した影響により、筋力と魔力に大幅なボーナスが与えられる。


【種族能力 : 忍び寄る狂気】

魔獣の体は、常に狂気を育む疼痛に苛まれている。
季節毎に発狂抵抗判定を行い、失敗すると狂気レベルが上昇し、意思の能力値を幾らか失う。
狂気レベルが一定以上になるか、意思が1未満になると通常の魔獣と同様の行動を取るようになる。
発狂抵抗判定は、回数を重ねる度に難度が上昇していく。

この能力は、痛みを軽減、あるいは無効化する事で抑制する事が出来る。


【筋力】 8
【耐久】 6
【器用】 4
【敏捷】 3
【感覚】 5
【意思】 2
【魔力】 8
【幸運】 1


【出身地 : クァレヴァレ】

【現在地 : シアラ・ミニア】



◆ 習得魔法

【種火】
掌に収まる程度の小さな炎を発生させる。

【清水】
両手で作った器に収まる程度の少量の水を召喚する。

【微風】
頬を優しく撫でる程度の僅かな風を発生させる。

【土塊】
拳程度の大きさを限度とする少量の土を召喚する。

【断絶】
任意の位置に、空間の切れ目を設置する。
接触した対象は【基礎攻撃力 : 4】の斬撃属性のダメージを負う。
また、任意の対象に接触して行使する事で、以降の積極的接触を忌避させる精神誘導が可能。

【無為】
発生した後の魔法を強制的に無力化する。
ただし、自身と対象の魔力の能力値を用いた対抗判定に成功する必要がある。
また、物体に対し使用する事で、対象の物体が持つ影響力を極限まで低減させる事が出来る。。
こちらの効果はおよそ一日で効果を失う。

【犠牲】
詳細不明。
現状、使用する度に違った効果が現れている。

忍び寄る狂気は季節始めにペインキラーを飲むだけでいいのかな?


>>245
そんな感じになります。
具体的にはペインキラーに余剰がある場合、固定イベントのタイミングで自動消費されます。


【円環暦612年 夏 1/3】


竜魚料理は中々の成功だった。
あなたの舌は十分に満足し、対面に座るミニアも顔を綻ばせて膨らんだ腹を撫でている。


さて、ミニアの確認を済ませ、昼食も終え、あなたは自由な時間を得た。

あなたの当初の予定は、おおよそ達成されたと言って良いだろう。
拠点、設備、素材、弟子。
その全てが揃い、後はこれを活用していくだけだ。
無論、弟子に関しては育成を行わなければ完全な働きは難しい事を忘れてはいけないが。

人体に関する研究についても、新たに作成可能となったゾンビパウダーを用いれば、献体の確保は容易だ。
ミニアは抵抗を示すかも知れないが、言いくるめる算段はある。
いざとなれば《宣誓》のスクロールを用いて行動を縛っても良い。


何をすべきかと、あなたは頭を働かせる。

弟子の育成、薬品の製造、サナトリウムでの診療。
簡単に思い当たるのはこの辺りだが、他にも有益な行動は多い。

例えば、弟子の心酔をより深い物にするために、共に街を歩いてみるのも良い。
また、仕事以外での信頼関係を構築すべくバスクと対話を試みる手もある。
あるいは、特に目的を持たない気分転換に出かけてみても、意外な収穫が齎される可能性もあるだろう。



>>↓1  どうする?

現在の世界情勢は平穏みたいだけど主人公の行動次第で戦争とか起きて平穏じゃなくなることとかあるの?


>>250
可能ですが、難易度はアホみたいに高くなると思います。
とある事情により、この大陸の人々は戦争を強く忌避していますので。

ただ、キャラメイクで戦争関連が設定された場合、生まれる年代が戦争が起こり得る時代になる事もあります。


『腹も膨れた事だ。
 早速だけど、最初の授業を始めようか』


あなたがそう切り出すと、ミニアは慌てて背筋を伸ばし、姿勢を整えた。
表情はすぐさま引き締まり、両目には赤々と燃える熱意が灯る。

つい数週間前に見た熱量とほぼ同量と言って良い。
あなたの目論見通り、彼女が胸に抱く感情は完全に反転している。
海底に穴を穿つ程の絶望は天を突き抜ける希望となり、汚泥に塗れた憎悪は眩い程の崇敬となった。

これならば、覚えも早まる事だろう。
あなたの手足と呼べるようになるまで、そう長い時間はかかるまい。

なるほど
ということはこの世界には、国家公認の奴隷制度みたいな理不尽なものは存在しないし、大規模のテロ組織など厄介で物騒な連中も存在しないということでOK?


食器を片付けたテーブルの上に、あなたは四つの小瓶を並べた。

黒々とした液体。
縁がギザギザとした形が特徴的な葉。
指先程の大きさの、大きな傘を持つ白い茸。
天日に干され小さく固まった動物の肝臓。

それらを示し、あなたはミニアに語りかける。


『あたしの薬に使う素材だよ。
 もっと色々と種類はあるけど、代表的なのはこの辺りだね』


予想はついていたのだろう。
ミニアは大きく頷き、目に焼き付けんとばかりに必死に素材を見詰める。


『あたしの弟子になった以上、あんたにもこいつらを扱ってもらう。
 ただし、十分に注意しなきゃあいけないよ。
 薬の材料っていうのはね、実は毒だって事も多いのさ。

 この中にも、毒を持っている物がある。
 ミニア、分かるかい?』


>>253
大体OKです。
ただ、奴隷制度に関しては犯罪者が奴隷身分に落ちるケースは稀に有ります。
また、テロ組織的な物は希少ですが山賊や海賊は時折現れます。


その問いに、ミニアは顔を青くして考え込んだ。
素材に向けられた視線は細かく震え、不安を如実に物語る。
彼女の内心を推し量るのは容易い。

答えを間違えれば、また捨てられる。

そんな考えに心臓を握り潰されようとしているのだ。
魔術の名門であるという彼女の実家と、変異前の凡庸さを考えれば、どのような扱いを受けていたかは明白だ。
それは十年以上の時を掛けて癒すべき傷跡であり、当然この場でどうにかなる類の物では無い。


(……ま、だからこそ依存はさせやすい。
 こいつの両親は、本当に良い教育をしてくれたもんだよ)


『そんなに深く考える事は無いよ。
 教えてもいない事を間違えたって、怒りゃしないさ』


あなたがやるべき事は単純だ。
温厚で優しい老婆と偽り、羽毛で包むように接してやれば良い。
過去が辛ければ辛い程、甘い今からは逃れられなくなる。
それを深めに深めてやれば、あなたが邪悪な手段で人を殺めたとしても、自ずと目を逸らし許容するまでにさえなるだろう。


「えっと……これ、ですか?」


しばしの熟考の末、ミニアは答えを出した。

彼女が選んだ物は、黒い液体。
素人ならばまず選ぶだろう。
何せいかにも怪しい。

そして、それは確かに毒を持っていた。


正解だと伝えてやれば、ミニアはほっと息を吐いて力を抜いた。

だが、それも長くは続かない。
あなたが毒の詳細について解説を始めたためである。
ミニアの顔は再び青くなり、更に青を通り越して白へと変化する。

毒の正体は、痛覚殺しの原料である『鮮血蜥蜴の劇毒』なのだ。
摂取した者がどのように苦しんで死ぬか。
眼前に描き出せる程に詳らかに語られれば、年端も行かぬ少女では致し方無い。

また、ギザギザの葉は、触れただけで大の男が自殺を決意するような激痛を齎す『自害草』、
白い茸は、一枚食べるだけで人間を発狂させる『狂い茸』、
干した肝臓は、全身を凝固させて無数の梗塞を引き起こす猛毒を持つ『石化鳥の肝』であると知るに至れば、いよいよ気絶でもしそうな具合だ。

どれが毒か、という問いにも関わらず全てが毒という意地の悪い問題だったが、それに対する言及の余裕も無い。


『まぁ、この通り揃いも揃って危険物ばっかりさ。
 一つ間違えば、いつ命を失くしたっておかしくない。
 だから、あんたにはまず、最大限の慎重な取り扱いを覚えてもらわなくちゃいけないよ』


一言も発せずに震えるミニアへと、あなたは手本を示していく。

小瓶を開ける際は布で口と鼻を塞ぐ事。
決して素手では触れぬ事。
そういった、極当たり前の説明と共に、指導が開始された。



>>↓1 コンマ判定 【指導の成果】

器用 4 (ミニア)
熱意 4 (ミニア)

目標値 8


【指導の成果】

目標値 8

出目 5

成功!


「こ、これで大丈夫でしょうか?」


不安げにあなたを見上げるミニアの手元には、細かく刻まれた葉があった。
また、近くの容器の中には適切な処理がなされた毒物達の成れの果てが納まっている。
どれもこれも、すぐさま調合に取り掛かっても大きな問題は無いだろう状態だ。

扱いが悪く処分された物も幾らかあるが、最終的には準備できたのだから構いはしない。
今まで何の経験も無い素人である事を考えれば上々と言えた。


『あぁ、良く出来たね。
 中々筋が良いじゃないか。
 この分なら、近い内に仕事を手伝って貰う事もあるだろうさ』


褪せた金の髪を撫でてやれば、たちまちミニアは頬を紅潮させる。
目元も僅かに潤んでいる程だ。
彼女があなたの評価にどれ程喜んでいるかは、一目瞭然だろう。

予想通りの覚えの早さと扱いやすさに、あなたはにっこりと微笑んだ。



/////////////////////////////////

ミニアが 【素材の処理方法】 を覚えました。

以降、薬品の製造効率が僅かに上昇します。

/////////////////////////////////


【円環暦612年 夏 2/3】



「あ、先生。
 おはようございます」


あなたが寝室から出ると、食卓には既に料理が並べられていた。
子供でも準備出来るような簡単な物ばかりだが、寝起きにはむしろ丁度良い。

ミニアは、家柄の割に家事も行えると、あなたは既に聞いていた。
両親に見放された彼女には真っ当な待遇は与えられず、また使用人への命令権も無かったと言う。
本邸では無く離れに放置されてからは、おおよその事を自分で賄ってきたようだ。

これもまた、あなたには都合の良い事である。
数多の雑事から解放されるとなれば、得られる時間は馬鹿にならないのだ。



>>↓1  今日はどうする?


あなたはふと思い立って、家を出る事とした。
食器を洗うミニアに声を掛け、外出を伝える。

暇だったならば洗濯でもしておいて欲しい。
その一言に、ミニアは満面の笑みで応えた。
どうやら、あなたのために何かが出来るというだけで幸福を感じる性質のようだ。

戻る頃には、綺麗に皺を伸ばされた衣類が屋根の上に並んでいる事だろう。


あなたが向かったのは、春にも訪れた事がある不機嫌な黒猫亭だ。
店のど真ん中で贅肉だらけの体を伸ばす目つきの悪い猫を跨ぎ、厳しい店主へと手配書を要求する。


「…………前にも来た婆さんだな。
 料理の一つも頼んだらどうだ、うちは慈善事業じゃないぞ」


黒猫同様、いかにも不機嫌そうな店主を、あなたは無視する。
朝食を終えたばかりの腹に、酒場料理は重過ぎる。
空腹時ならば一考の余地はあっただろうが、今は茹でた豆も欲しくないというのがあなたの感想だ。

しばしの睨み合いの末、根負けした店主が手配書をカウンターに叩き付ける。
一つ鳴らされた鼻に店主の頬が引き攣るのが見えたが、あなたにはどうでも良い事だった。


ここを定宿とする冒険者達は、今は出ているのだろう。
黒猫の寝息さえ聞こえる静かな店内に、手配書を捲る音が響いている。



>>↓1 コンマ判定 【気になる犯罪者】

感覚 2
?? 1

目標値 3


【気になる犯罪者】

目標値 3

出目 3

成功!


手配書の束。
その一枚目こそ晶銀貨98枚の大物……つまりはあなたであったが、それ以降は小物ばかりが続いている。

多数の貴族を騙し財を奪い去った、名画の贋作者。
湖畔の森を拠点としていたが騎士団の投入を嗅ぎつけて行方を晦ました、野盗の長。
己が生み出す刀剣の輝きに魅入られたか通り魔を繰り返してどこぞへ消えた、人斬り鍛冶師。

どれもこれも、あなたと比較すれば凡庸と断じて良いだろう。


半ばうんざりとしながらも読み進めるあなたの前に、ようやく大物と呼んで良さそうな者が現れるも……。


「そいつらは、南の山向こうやら東の荒野やらの連中だ。
 そっちに向かうならともかく、ここで読んでも無駄だろう」


無慈悲な店主の言葉が切って落とした。


それでも一応、あなたは目を通す。
主だった大物は、二人だ。

一人目は、凄まじい多幸感と引き換えに強力な中毒性を持つ薬品を荒野に蔓延させた【麻薬王カルヴォダ】
二つ名に相応しいだけの、それこそ一国の王に匹敵する財を為したという。
この男一人の所業で、荒野の国ヴァタスは荒れに荒れているそうだ。
その首には晶銀貨30枚が掛けられているが、碌に情報すら無く似顔絵すら曖昧だ。
間違いなく大きな組織を作って己を守り、また顧客には権力者も存在するのだろう。

二人目は、平民の出ながら凄まじい美貌を武器に王に取り入り、王家の秘宝を盗み出した【傾国姫ラウラ】
秘宝の詳細は明らかにされていないが、晶銀貨35枚という賞金額を考えれば相当な物だろう。
後から付け足されたようだが、隠居していた先王が急逝した理由はこの事件による心労、という説まであるようだ。
少なくとも、何の魔法も篭らない置物などという事はあるまい。
この女が手に入れた力で何を為すのか、あなたには少々気になる所ではあった。


……それで、大物は終わりだ。
その後にも数枚続いては居るが、既に月日の経過によって賞金が失効している者達であり―――


―――しかし、あなたはその内の一枚が酷く気にかかった。


あなたの目が細まり、纏う気配は鋭さを増す。

そこに描かれていたのは、何の変哲も無いミーニアの男だ。
凡庸な顔付きに、凡庸な体格。
賞金は金貨止まりで、罪状も三人の男女の殺害だけ。


ただし、殺し方が尋常では無い。
被害者達は、生きたまま胸部を切り開かれ心臓を抉り出されたと、手配書は語っている。

迂遠に過ぎる方法だ。
人体の専門家たるあなたは、その面倒さを良く良く理解出来る。
肉を裂き、肋骨を割り開き、心臓を抜き取る。
途方も無い労力に違いない。

そんな事をせずとも、首の一つも掻き切れば人は死ぬというのに。


この男がそんな手法を選んだのは何故か。

信仰か。
狂気か。

あるいは。


『…………』


あなたの同類。

そんな事も、あるのかも知れなかった。


【円環暦612年 夏 3/3】


あなたの寝覚めは、悪かった。

どうにも、上手く眠れた気がしない。
黒猫亭で手配書を見て以来、そんな日々が続いている。

一体何がここまで気にかかるのかと考えても答えは出ず、ただ不機嫌が降り積もっていくだけだ。


「先生、朝ごはんが出来ましたよー」


……だが、それを表に出す訳にも行かない。
今は重要な時期だ。
ささくれた内心のままミニアに接すれば、打ち込んだ楔に緩みが生じる可能性も、僅かではあるが存在する。

いつも通りの仮面を厳重に被り直し、あなたはミニアの待つ食卓へ向かった。



>>↓1  今日はどうする?


安価が取れた所で、今日はこの辺で。
お付き合いありがとうございました。
また明日。


すみません、寝過ごしました。
これから書く感じですが、可能な限りやっていきます。
よろしくお願いします。


朝食の間、あなたは一つの事に気が付いた。

ミニアの服装が、どうにも代わり映えしていないのである。
毎日完全に同じ服という訳では無いが、あなたの記憶が正しければ三着程を着回しているように思える。
また、そのどれもが随分と草臥れていた。


「あ、はい……三着しか、持ってないです。
 後は死ぬだけだって思われてたから、服なんか持たせてくれなかったので」


サナトリウムでは病衣で良かったが、退院した以上そうも行かない。
看護士の一人が同情からお下がりの三着を与えたようだが、それで全てだと言う。


ならば、今日の予定は決まったような物だ。
ミニアに服を買い与えてやるべきだろう。

そのついでに街を回るのも良い。
今日は抜けるような晴天だ。
最近の不機嫌を解消する、丁度良い気分転換となるかも知れない。


夏の街中、水上に蜘蛛の巣のように張り巡らされる桟橋の道を歩く。

桟橋、と言ってもそう狭い物では無い。
むしろ馬車ならば二台が擦れ違ってもまだ余裕があるだろう。
あなた達が並んで歩く程度には、何の問題も無い。

大通りの脇に並ぶのは、夏用にと屋根を改装した屋台達だ。
小舟の上に展開されるそれは、布製の広い屋根を大きく広げて客に日陰を提供している。
桟橋に腰掛けて足を湖に差し込む客達は、立っているだけで汗ばむ暑さの中でも随分と快適そうだ。

それらの光景を、ミニアはチラチラと眺めていた。
服という目的を理解しているために完全に意識が向く事は無いが、興味はそれなりにあるらしい。

飴は幾つあっても困るまい。
そう考えたあなたは、帰りに寄るのも良いかと、頭の片隅に書き置いた。


さて、あなた達は一軒の服飾店に到着した。

屋号を『湖上の糖花』と言うそこは、女性の服を専門に取り扱っている。

糖花のように甘く可愛らしい物しか扱いたくない。
そんな店主の我侭を全力で押し通している事で、それなりに名を知られている。
少なくとも、ミニアは服を譲られた看護士からそう聞かされているそうだ。


解放されたままの扉を潜ったそこは、何と言うか花園のようであった。

装飾過多の上に色彩過剰。
余りにもヒラヒラゴテゴテとしたそれらは、似合う人間などまず居ないだろう。
例外となるのは精々が年齢が一桁の幼児程度。
あなたは思わず頬をひくつかせ、ミニアも無意識に一歩退く、まさしく異空間だ。


「いらっしゃいませ。

 ……ご安心下さい、奥にはちゃんとした服もありますよ。
 店長の趣味でして、入り口近くだけは変えさせてくれないんです」


入る店を誤ったかと顔を見合わせるあなた達を止めたのは、落ち着いた女性の声だった。

山のようなフリルの群れから、いつの間にか顔が突き出されている。
位置は低く、顔付きも幼い。
どうやら、この国では珍しいが服飾店では有り触れた小人、リリパットのようだ。
手先の器用さに定評がある彼女達が職人としてこういった店に勤める事は多い。


「さ、どうぞこちらへ。
 道は狭いですが、服を引っ掛けても弁償なんて言いませんので」


果たして、リリパットの言の通り、店の奥には落ち着いた服が並んでいた。

一般的な服よりも若干装飾が多いが、見苦しい程では無いと言えるだろう。
色使いはおおよそ真っ当な物で、刺激的に過ぎる原色は見当たらない。
街を歩いていても違和感は無さそうだ。

そんな服達をミニアの体に合わせながら、小さな店員はああでもないこうでもないと忙しく動き回っている。
ミニアは次々に現れる服に目を白黒させてされるがままだ。
一応本人の希望を聞きもしているのかも知れない。
が、それよりも何よりも、小人の店員の『客に似合う服を見つけたい欲』という物があからさまに前面に押し出されている。

あなたと言えば、店内に用意された椅子に座り、難を逃れていた。
時折助けを求めるような視線を寄越されても、にっこりと微笑んで返すだけ。
小人の声だけは落ち着いてはいたが、やはり変人に雇われるのは変人という事なのだろう。
出来る限り関わりたくない。
それがあなたの正直な感想だ。


それにしても、とあなたは不思議に思う。

妙な形式の店である。
一般的な服屋と言えば、雑多な古着を適当に積み上げておく物だ。
質の良い店であれば、今度は生地や糸と共に数着の見本を並べ、オーダーメイドで仕立てる形になる。
このような、どう見ても新品だろう衣服をやたらと飾り立てるなど、少なくともあなたは初見だ。


それから暫し。
おかしな店の変人店主とはどんな人物かと、意味の無い空想をしていたあなたの前に、ミニアがやってきた。

手には五着ほどの地味な色合いの服が、遠慮がちに抱えられている。
どれもこれも似たような形で、どうやらこの店における最低額付近であるらしい。
恐らく気を使ったのだろう。
自分に似合うかどうかよりも、とにかく値の安さで選んだに違いない。

そして、ミニアの後ろには小人の店員が拗ねたような目付きで立っている。
そちらの手にも、やはり服。
どうやらミニアは断る事に成功したらしいが、未練がましく付いてきたようだ。
大人しく抑えられた色合いの、しかし職人の工夫が凝らされた高品質の七着を、未だ懸命に勧めている。
彼女の服選びの目は確からしく、ミニアに良く似合うだろう事はあなたにもハッキリと分かる。


顎に手をやりながら比べ眺めて、あなたは考えた。



◆ 現在の所持金 【19000 Casa】

1)ミニアが選んだ服を買う (500 Casa)
2)小人が選んだ服を買う (3500 Casa)
3)その他


>>↓1  選択して下さい。

タートルネックエプロンこそが至高


あなたの財布には、随分と余裕がある。
サナトリウムの報酬は伊達では無いのだ。
あなたの収入は一流の職人に相応しいだけの物であり、節約を考える必要は有り得ない。


「そんな、だめです、私なんかに……」


ミニアは顔を青くして慌てたが、あなたは聞かずに店員に銀貨を手渡した。
いかにも良質の店らしく、専用の箱に詰めてくれるようだ。
服を抱えて気分良く歩き去る店員を、ミニアはおろおろと見送る他無い。


『地味な方が好きだ、って言葉なら考えてやったけどね。
 私なんかって言ってる間は意見なんか聞いちゃやらないよ。

 いいかい?
 もう何度か言っているけど、あんたは人を救う人間になるんだ。
 それが価値の無い人間だなんて、そんな話があるものかい』


「お待たせしましたー。
 ……あれ、どうかしましたか?」

『いや、何でも無いさ。
 ちょっと自分を馬鹿にしすぎてる子に説教くれてやっただけだよ』


店員が戻ってくる頃、ミニアはあなたの背に隠れるように縮こまっていた。
ミニアは未だ不安定だ。
琴線に触れる言葉を少しくれてやれば、容易く感情は波を打つ。

今回は、少し予定よりも大きく振れたようだ。
いい加減もう慣れても良い。
そう何度も涙腺を緩ませるような事でも無かろうにと、あなたはそっと息を吐く。


さて、これで服の購入は終わった。
日はまだ高く、他の場所を訪れる余裕もあるだろう。
荷物となる服は一旦この店に置いておき、後で取りに来ても良い。

勿論、早々に外出を切り上げるのも自由だ。
残りの時間を調合や育成に当てるのも、そう悪い選択では無い。



>>↓1  どうする?


いや、とあなたは頭を振る。

今日の所はこれで切り上げるのが無難だろう。
外出などいつでも出来る。
今は弟子の育成を優先すべきだと、あなたは判断した。

思いの他立派な装飾が施された衣装箱を持ち、あなた達は家路についた。



……その途中。
ミニアが大通りの屋台へと数度振り向いたのを、全く気付かぬ振りをして。


『じゃあ、今日はそこで見ていて貰うよ。
 素材の処理はもう覚えたろうが、危険は調合中の方が余程大きい。
 何せ、剥き出しの毒を直接扱うんだからね』


家に戻ったあなたは、早速指導を開始した。

勿論、素材の下処理を覚えた程度の素人に手を出させる事は無い。
毒の中には様々な性質を持つ物がある。
放置すれば揮発する、水との接触で大きく変質する、間違った器具を触れさせれば使い物にならなくなる、などなど。
あなたの言葉通り、厄介さは下処理の比では無い。
覚えさせるべき事柄は山のように存在する。

ミニアの真剣な眼差しを手元に受けながら、あなたは説明を交えて調合を進めていく。



>>↓1 コンマ判定 【指導の成果】

意思 2 (ミニア)
熱意 4 (ミニア)

目標値 6


【指導の成果】

目標値 6

出目 5

成功!


「―――それから、骨粉を混ぜて、最後に真水……の順番、だったはずです。
 ……えっと、合ってますか?」


夕食の合間に、あなたは今日の調合における流れを暗唱させていたあなたは、僅かではあるが感嘆を禁じ得なかった。
自信無さげに俯きながら上目遣いで答えたミニアの回答は、一切の瑕疵無く正解である。
まさか一度で覚えきるとは、あなたも予想外だ。

今日覚えさせるのは、絶対に違えてはならない注意点だけ。
おおまかな流れは見せるだけで、次の機会に手伝わせながら実際に叩き込む。
そういったあなたの予定は良い方向に狂った事となる。
にぃ、とあなたの口元は自然と歪んだ。
一から十まで、この弟子は都合の良い事ばかりしか無い。

過去に、あなたは弟子を持った事は無い。
ずっと一人きり、他者など不要と孤独に研究の道を歩んできたのだ。
そんなあなたをして、過去のその判断は過ちだったかという考えが過ぎる程に、ミニアの出来は良い。


自身の感情と一致し、ミニアの飴となる以上、言葉を抑える必要は存在しない。
あなたとしては珍しく心のままの、素直な言葉で一頻り褒めそやす。

ほっと息を吐き、顔を赤らめて頬を緩めたミニアは、まるで花開くようですらあった。



/////////////////////////////////

ミニアが 【調合の注意点 および 調合手順】 を覚えました。

以降、薬品の製造効率が上昇します。

/////////////////////////////////


ではキリが良いのでこの辺で。
お付き合いありがとうございました。
また明日。

次回は秋の固定イベントとなります。
……あと、凄い勢いで忘れてたメッセージを下に置いておきますね(土下座)



///////////////////////////

※ チュートリアル ※


固定イベントの内容は、自由行動に影響を受けます。
自由行動で接触した人物、調査した物事、選択した行動により内容をある程度操作可能です。

ただし、あなたが抱える事情により、時限的に発生するイベントも存在します。

///////////////////////////


■ あなたのステータス


【95歳 女性】


【種族 : ドライアド】

森の中に隠れ潜む種族。
樹皮に似た皮膚と、葉のような髪が特徴的。
魔力との親和性や精神力に優れるが、鈍感で、体力に劣る。

【種族能力 : 森の隣人】

人よりも精霊に近い彼らは、最も親しい隣人たる植物達とも言葉を交わす。
植物との対話が可能になる。


【筋力】 3
【耐久】 7
【器用】 10
【敏捷】 7
【感覚】 2
【意思】 8
【魔力】 4
【幸運】 4


【出身地 : クラッカ】

【現在地 : シアラ・ミニア】



◆ 習得魔法

【種火】
掌に収まる程度の小さな炎を発生させる。

【清水】
両手で作った器に収まる程度の少量の水を召喚する。

【微風】
頬を優しく撫でる程度の僅かな風を発生させる。

【土塊】
拳程度の大きさを限度とする少量の土を召喚する。

【放浪】
自身の管理下に置いた魔力、魔法、物品、などを意思ある生物のように振舞わせる。
対象は自由意志の下、無軌道に放浪する。
魔力の能力値が不足しているため、生物には使用出来ない。
効果時間はおよそ半日。

【反発】
反発力を発生させる。
通常は魔力、魔法、物品などに作用するが、あなたの精神性との合致により、僅かながら精神にも作用する。
生物に使用した場合、対象への接触に忌避感が生じる。
効果時間はおよそ半日。


◆ キーワード

【倫理観皆無】
【マッドサイエンティスト】
【国際指名手配】
【孤独】
【後進の指導】


■ ミニア(弟子)のステータス


【12歳 女性】


【種族 : 魔獣 / 無自覚】

ミーニアから変異した人造の魔獣。
魔力と融合した影響により、筋力と魔力に大幅なボーナスが与えられる。


【種族能力 : 忍び寄る狂気】

魔獣の体は、常に狂気を育む疼痛に苛まれている。
季節毎に発狂抵抗判定を行い、失敗すると狂気レベルが上昇し、意思の能力値を幾らか失う。
狂気レベルが一定以上になるか、意思が1未満になると通常の魔獣と同様の行動を取るようになる。
発狂抵抗判定は、回数を重ねる度に難度が上昇していく。

この能力は、痛みを軽減、あるいは無効化する事で抑制する事が出来る。


【筋力】 8
【耐久】 6
【器用】 4
【敏捷】 3
【感覚】 5
【意思】 2
【魔力】 8
【幸運】 1


【出身地 : クァレヴァレ】

【現在地 : シアラ・ミニア】



◆ 習得魔法

【種火】
掌に収まる程度の小さな炎を発生させる。

【清水】
両手で作った器に収まる程度の少量の水を召喚する。

【微風】
頬を優しく撫でる程度の僅かな風を発生させる。

【土塊】
拳程度の大きさを限度とする少量の土を召喚する。

【断絶】
任意の位置に、空間の切れ目を設置する。
接触した対象は【基礎攻撃力 : 4】の斬撃属性のダメージを負う。
また、任意の対象に接触して行使する事で、以降の積極的接触を忌避させる精神誘導が可能。

【無為】
発生した後の魔法を強制的に無力化する。
ただし、自身と対象の魔力の能力値を用いた対抗判定に成功する必要がある。
また、物体に対し使用する事で、対象の物体が持つ影響力を極限まで低減させる事が出来る。
こちらの効果はおよそ一日で効果を失う。

【犠牲】
詳細不明。
現状、使用する度に違った効果が現れている。


■ 所持品一覧


◆ 15500 Casa ← USED

共通交易通貨。
カダスティア大陸において、使用出来ない都市はほぼ存在しない。


◆ 《宣誓》のスクロール x1

使い捨てのマジックスクロール。
《宣誓》の魔法が封じられている。
証文に書き込んだ内容を、他者と己に遵守させる事が出来る。


◆ ペインキラー x3

あなたが生み出した、痛覚を完全に麻痺させる薬品。
痛覚以外には一切の効果が無く、副作用や中毒性などは存在しない。
効果時間はおよそ半日。

※ バスクが用意した素材を用いて、制限無く精製可能 ※


◆ ゾンビパウダー x0 ← NEW

あなたが生み出した、人間の精神を粉砕する薬品。
服用者は他者の命令に従うだけの人形となる。
魔術との併用により、あなた以外の命令をある程度弾く事も可能。
一度服用すると二度と回復させられない。

※ バスクが用意した素材を用いて、制限無く精製可能 ※


◆ トゥルーブラッド x0 ← NEW

あなたが生み出した、万人に適合する万能血液。
人体改造を行う場合、このアイテムが不足していると対象が死亡する場合がある。

※ バスクが用意した素材を用いて、制限無く精製可能 ※


今晩は20時~20時30分位の開始予定です。
よろしくお願いします。


「ただいま戻りました、先生。
 遅くなってすみません」


大きな肩掛け鞄を提げたミニアが、そう言って扉を開けた。
扉の向こうの風景は、すっかり赤く染まっている。
夏の盛りと比べれば随分と早くなった日没が訪れていた。

行きには膨らんでいた革製の鞄は、今はぺたりと潰れて情けない姿となっている。
今やミニアの仕事となった、サナトリウムへの納品帰りだ。


『あぁ、おかえり。
 何か変わった事は無かったかい?』


穏やかな笑顔を作りながらミニアを迎え、あなたはそう聞いた。
単なる定型文。
特に理由がある訳でも無いそれに、ミニアは何やら考え込む様子を見せる。


「えぇと……サナトリウムでは何も無かったんですけど。
 街の中が、何だか人が多かったような気がします」

『ん?
 あぁ、そうか。
 そういえばもうそんな時期だったね』


はて、と考えてすぐに思い至る。
シアラ・ミニアが最も旅人で溢れる時期が訪れようとしているのだ。


「何かあるんですか?」

『おや、知らないのかい。
 ……まぁ、あんたの事情を考えれば仕方ないかも知れないね。
 なぁに、悪い事じゃあ無い。
 むしろ楽しい楽しいお祝い事だよ』


不思議そうに小首を傾げるミニア。
一つの季節を共に過ごし、彼女も大分慣れてきたのだろう。
最近では言葉がつっかえる事も減り、仕草も真っ当な物に近付いている。

そんな彼女へと、あなたは茶目っ気を含んだ笑みで、たっぷりと焦らしてから告げた。


『そんなボロじゃなくて、余所行きの服を用意しておきな。
 仕事は二、三日の間休みにするとしよう。

 何せ、折角のお祭なんだからね』


【円環暦612年 秋 街の大通り】


その翌々日。
ミニアはあなたに連れられて訪れた街の中央、特に道の広い大通りで顔を輝かせていた。


桟橋が一点に集まる広場には、陽気な音楽が響く。
祭り目掛けてやってきた吟遊詩人達だろう。
幾つもの楽器が調和した音色を重ねている。

それに合わせて即興劇を演じる者も居る。
現在の演目は、姉妹神の諍いらしい。
食を司る女神が、旅を司る女神の旅糧を奪い取った事から始まる、神話の中でも飛び切り間抜けな一幕だ。
普段は冷静な旅の女神が我侭放題の妹に振り回されて怒り狂う喜劇は、語り尽くされているにも関わらず未だ高い人気を誇る。

そこへ更に、広場に店を出していた者が飛び入った。
芸など齧った事も無いようで酷い大根振りだが、そこは祭りの空気が補う。

旅の女神を哀れんだ商人となって串焼きを差し出し、役者はすぐさまそれに合わせた。
五つが連なった肉の頭一つだけを齧り、神としての体裁を完璧に整えて商人へ感謝と加護を贈る。
そしてすぐさま、こそこそと背後から忍び寄る食の女神に残りの四つを平らげられた。
頬を一杯に膨らませた妹神の胸倉を神性を放り出して掴み上げるに至れば、観客達は大きな笑いに包まれる。
その脇で勇気ある店主が神の加護を授かった串焼きの宣伝を始めた事も、一因と数えて良いだろう。


秋。
それはこの大陸において、一般的に祭の季節として知られている。
一年の収穫を終えて手が空いたならば、民達は歌い踊り、浮かれ回って騒ぐのだ。

シアラ・ミニアにおいてもそれは変わらない。

ただ、他国とは少々趣が異なる。
シアラ・ミニアは湖上の国だ。
通常ならば収穫祭との名目になるが、畑の無いここではそうも行かない。
水上栽培が行われている作物もあるにはあるが、決して多くは無い。

それに、宗教国家としてはもっと相応しい折でもある。
国教である輪廻教の主神を産んだ始祖たる女神は、秋に地上に降りたとされているのだ。
故に、降臨祭。
正確には始祖神降臨祭となる。


この祭は酷く賑やかな物である。

始祖神は天上において、多くの兄弟姉妹達と楽しく暮らしていた。
それが、興味の引かれるままに地上に降り、無数の争いを積み重ねる人間達の愚かさを目の当たりにしてしまった。
民を見捨てる事が出来ず地上に留まった彼女から朗らかな笑みは失われ、ただ涙を零す日々が続いたという。

苦悩に沈んだ神の心を民の活気によって慰める。
そういった題目で、贅沢と乱痴気騒ぎが推奨されているのだ。

秋の大陸を覆う祭の中でも、最大の規模を誇る一大行事。
必然的に観光の人出も増え、街中のそれこそ全域が広場と同等の喧騒に包まれている。


シアラ・ミニアが滅ぶ時は、人の重みに耐えかねて秋の湖に沈むに違いない。


そんな冗談も酒場では良く聞かれる。


仕事を休みとしたあなたとミニアも、神を慰撫する一員となっていた。

ミニアがその身を包むのは、夏に購入したワンピースだ。
淡い青に染められた、一流職人の手によるリボンも愛らしいそれは、ミニアのために仕立てたかのように似合っていた。
普段は褪せてみすぼらしく見える金の髪も、今日は天から注ぐ陽光のように輝いている。


さて、今日ばかりは、あなたは完全な自由だ。
何をするにも咎める者など誰も居ない。

数多の屋台をミニアと共に巡るのも良い。
街の人間達もあちこちを出歩いている。
彼らと親交を深めるには良い選択であるし、当然ミニアは喜ぶに違いない。

普段は居ない余所者達と一時の交流を持つのも悪くない。
余所の国の状況を探るには持って来いだ。
常に首を狙われるあなたにとって、追っ手達の状況を知れる可能性はそれなりに魅力的と言えるはずだ。

……また、祭に浮かれる者達は手頃な獲物でもある。
普段は居ない人間達。
しかも、どこを見渡しても頭しか見えない程の人数。
幾らか居なくなった所で、多少の不自然さは祭の空気が誤魔化してくれるだろう。

勿論、他に思いつくならばそちらを優先しても構わない。
例えば、祭の最中でも懸命に働いているだろうサナトリウムに顔を出すという手もある。


あなたはミニアの手を引いて歩きながら、考えた。

祭は夜中まで続く。
時間を取られすぎる行動を取らない限り、数度の行動は可能だろう。



>>↓1  どうする?

広場には、宗教に対する侮辱行為及び軽犯罪を繰り返して全く反省しないミーニアの少女がいた
その少女は奴隷扱いされて宗教家の男共によって嬲られていた(今は単なる殴る蹴るの暴力だが、さっきまでは性的な意味でも嬲られていたようだ。ロリコンがいないから1周すると飽きて終わった)
それは祭りの一部であり見せしめとして認められているため手が出せない

その祭りが行われている広場に行く

まずはミニアちゃんと屋台回るか


>>333
そんな文化は有りません。

注意文漏れでしたね。
不可能行動を禁止する物が有りませんでした。
申し訳ありません。

以下の一文を注意事項に追加し、安価↓の>>334採用で進行します。



7) 起こり得ない状況や不可能な行動などが指定された場合は、安価を無効化して下にずらします。


あなたは無難に、ミニアと共に屋台を回る事とした。

魚や肉、あるいは果実などがそこかしこで炙られ、香ばしい香りを撒き散らしている。
また、その大半で酒も振舞われているようだ。

シアラ・ミニアの特産の一つには、聖地付近の湖水を用いた酒類がある。
神の加護を受けた酒、という訳だ。
特別味に大差が出ているとも言い難いが、有り難がる人間は大陸中に存在する。
恐らく、屋台の酒達もそういった物を使っているだろう。


そんな屋台の中で、あなたは少々珍しい物を発見した。
水飴を売る屋台である。
一年で最も酒が消費されると言われるこの日に、酒に合わない菓子類の店は然程多くない。

半透明の褐色を見るに、良質な物のようだ。
店主の腕も実に見事。
狸顔の男が二本の棒を器用に扱い飴を伸ばして捏ねる様は、大道芸のようですらある。


「わぁ……」


必然、あなたの隣からは感嘆の声が上がった。
食べ終えた串を大事に携えたままのミニアが、必死になって飴の行方を追っている。

それに目敏く気付くのは、商売人として必須の能力だろう。
にやりと口元を歪めた狸顔は、手元の動きをより激しい物へと変えた。
より長く、より細く。
時に千切れて落ちかける物をサッと掬い、また高々と放り上げまでしてみせる。


「わ、わ。
 あぁっ! うわぁ……」


ミニアは完全に狸顔の手腕に翻弄されていた。
はらはらとした内心を隠す事も思いつかないようだ。
店主の思惑のままに、屋台の前に釘付けられている。

こうなっては買ってやる他無いかと、あなたは苦笑した。


二人分の水飴を購入し、あなた達は近場に設けられた休憩所へ向かった。

水飴は持って歩くにはどう考えても向かない。
何かの拍子に落としてしまうかも知れないし、他人の服にべっとりと付けてしまっては面倒だ。

そういう訳であなた達は二人、長椅子に並んで座って飴を舐めている。
ミニアは時折、店主の動きを思い出すように飴を伸ばしているが、どうにも上手くない。
飛び抜けた熱意により調合では器用に動き回る彼女だが、普段はそうでも無いのだ。

対して、あなたの指先は他に類を見ない正確性を誇る。
未だ死を迎えていない蠢く臓腑を、完全な直線で割り開く事も容易い程度には。
狸顔の真似をする程度は当然造作も無く、あなたはまた一つミニアの尊敬を勝ち取る事に成功する。


と、そんなあなた達へと、近寄ってくる者がある。


「……悪夢でも見た気分だ。
 あんたも子供には優しいのか?」


褐色肌の大男。
冒険者の宿、不機嫌な黒猫亭の主である。


『何だい、その物言いは。
 あたしが優しかったら悪いのかい?』

「いや、悪いとは言わんが……。
 すまんな、意外だったもんで驚いただけだ」


禿頭金眼の強面に怯えるミニアを後ろに庇い、あなたはジロリと大男を睨み付けた。

それに気圧された、という風でも無いが、男は素直に頭を下げる。
良く良く観察すれば、その顔からは少々の悲哀を感じ取る事も出来るだろう。
僅かだけミニアへと向けられた視線からは、申し訳無さが滲んでいる。
見た目にそぐわず、存外子供好きであるのかも知れない。

もしそうだとすれば、男の図体は余りにも哀れだ。
腕に抱えた丸々とした黒猫を合わせて考えても、幼子に好かれるなどとは口が裂けても言えまい。


「あー、まぁ、何だ。
 ここで会えて丁度良かった。
 人から聞いたが、あんた、何でも医者だか薬師だかをやっているんだろう?」


そこから始まったのは、宿の売り込みであった。

薬品を作るには、当然素材が必要となる。
その素材の調達を請け負わせて貰えないか、という物だ。

あなたにはバスクという強力な伝手がある。
十分な素材をそちらから受け取っているが、それは代償を伴う。
サナトリウムへの薬の納品がそれだ。
バスクだけに頼り切る事は、つまりあなたが日々を忙殺される事と同義と言える。

その点、こちらは必要となるのは冒険者達に支払う金銭のみだ。
随分と気楽であるのは言うまでも無い。

悪くない話だと、あなたには感じられた。
ただし勿論、バスク程の安定供給などは望めない事に注意しなければならないが。


「話はそれだけだ。
 依頼する気になったなら、店の方に来てくれ」


用件を終えると、男はさっさと立ち上がった。

そして、いつの間にか腕を離れていた黒猫を呼ぶ。
どこに居るのかと探せば、呆れる他無い光景があなたの背後にある。


「……水飴、取られちゃいました」


立派に突き出した腹をべったりと地に着けた猫は、最早完全に食べ尽くした水飴の棒に未練たらしく齧り付いていた。
厚かましく、ぶみゃあと汚い声で催促までする始末だ。
ふさふさとした尻尾は何度もミニアの足に叩きつけられ、さっさとしろと言わんばかり。

なるほど、これではぶくぶくと太るはずだ。

そう納得したあなたの顔は不吉な笑みを浮かべて、大男へと向けられるのだった。


大男が自発的に買ってきた代わりの水飴を食べ終え、あなた達は休憩所を後にした。

日は中天を過ぎた頃合だろう。
街の活気は、僅かもその熱を減じてはいない。



>>↓1  どうする?


さて、祭の屋台であるが、何も酒のつまみが並ぶような食事処ばかりでは無い。
シアラ・ミニアの降臨祭には、周辺の国々から無数の人々が訪れる。
それらの客を相手に、余所から持ち込んだ特産品を売り捌こうとする行商達もまた店を並べるのだ。

ある程度腹を満たしたあなた達も、そちらを眺めてみるかと足を運んだのだが。


「全然進めないですね、先生。
 凄い人だかり……」


人だかり、というよりも人の壁だろう。
異常な人数が桟橋の道を塞ぎ、一歩も進む事が出来ない。

耳を澄ませれば、壁の向こうでは粗野な言葉遣いの大声が響いているのが分かる。
喧嘩か何かだろうか。
あなたはミニアとそんな言葉を交わす。


「捕り物だよ。
 頭の粗末な輩が紛れ込んでいたようでね。

 おぉい! すまないがちょっと通して貰えるか!」


あなた達の疑問に答えたのは、覇気を伴った明朗な声だ。
振り向けばそこには見慣れた顔がある。

この街の商人達の元締めである、バスクだ。

バスクは相変わらず年に見合わぬ若々しさと力強さで人壁に叫ぶ。
彼の顔はほぼ全ての住民に知られていると言って良い。
道を塞いでいた者の内、地元の人間が率先して近場の小舟へと避けて、道を開いた。


「あぁ、そうそう。
 話があったのを思い出したよ。
 そう長くはかからないと思うから、少し待っていて貰えるかね」


それから少しして、顔を青黒く腫れ上がらせた小男が連行されていった。
遠目に見ただけでも、相当な暴力を受けた事が良く分かる。

事前の言の通りすぐに戻ったバスクによると、茶葉に偽装した違法薬物を販売しようとしたらしい。
何と言う馬鹿だと、あなたも思わず嘆息を禁じえない。
荒野の麻薬王に影響を受けでもしたのだろうが、余りにも考えが足りていない。

屋台の品々は必ず出店直前に審査を受ける。
無用なトラブルを避けたい運営側としては、その程度は当然の措置である。
そのような事にも思い当たらないとは、いっそ頭の異常を疑うべき愚かさだ。


小男を連れていったのは神殿の人間だ。

人間の愚かさを嘆いた始祖神。
その苦悩を取り払おうという祭に、よりにもよって麻薬を持ち込む。
それはまさしく神に唾吐く所業であり、裁判の余地すら無く神敵と認定される事は疑い無い。

……とても生きては帰れまい。
精神の根底が粉砕されるまで、死んだ方がマシと断言出来る責め苦に漬け込まれるのだろう。


「いや、待たせて済まなかったね。
 最近は静かな物だったのだが、揺り返しでも来たのだろうか。
 まさか麻薬が出てくるとは予想外だよ」


そう切り出したバスクは、早速本題に入った。

あなたとバスクの繋がりは、サナトリウムを介した物だ。
今回も当然、それに関する話だ。


どうやら、少々長くなりそうだ。
彼と話していれば、土産物屋を見ている時間は消えて無くなるだろう。
また、小難しい話でもあり、子供にはどう考えても退屈だ。

暴力を強く匂わせる捕り物を目撃した事も有り、ミニアの顔色は悪い。
あなたが望むならば、気分転換に小遣いを持たせて一人で回らせる事も出来る。

ただ、ミニアはあなたの弟子である。
同席させておくのも、良い経験かも知れない。



>>↓1  どうする?


「む……そうかね。
 いや、致し方無い所だな。
 何せ今日は降臨祭だ。
 つまらない話など、またの機会にしておこうか」


あなたが断ると、バスクは残念そうな声を漏らす。
だが、無理に引き留める事は無い。
あなた達を快く送り出し、人々と挨拶を交わしながらどこかへ立ち去っていった。

さて、今日は断ったが、彼との対話も重要な事だ。


【秋の内に一度、彼の屋敷を訪れるべきかも知れない。】


訪ねなかったとしても僅かに信用を損なう程度ではあるだろうが、心に留め置くと良いだろう。


//////////////////////////

基本的に、状況指定は叶えられる事は無いと考えてください。
(今回は筆が乗った+バスクを出すのに丁度良かったので利用してしまいましたが、次は多分無いです)
安価は特に指定が無い場合、あなたが何をするかのみ選択出来ます。

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「先生、良かったんですか?」

『構やしないさ。
 今日ばかりは祭を楽しむ方が先決だよ。
 それに、仕事は休みだって決めただろう?』


遠慮がちに見上げるミニアに、あなたは微笑んでそう返した。

恐らく、彼女は自分のせいだと考えている事だろう。
そこに付け込むように優しさを流せば、罪悪感と共に、自分は大切にされていると感じるはずだ。
楔は十分に打ち込まれ長い根まで伸ばしているが、多い分には困りはしない。
清清しいまでの打算だが、勿論ミニアに見抜ける理由は無かった。


気を取り直し、あなた達は土産物屋を見て回る。
土産物、と一言に言ってもその種類は様々だ。

北方のスラフカスタから持ち込まれた、両手に収まる程度だが見事な腕前の宗教画。
東方のクァレヴァレの、こちらは本物の良質茶葉。
大陸最南端から遠路はるばる辿り着いた最上級の生地までも見受けられる。

また、南方の山脈から文字通り飛んできたというハーピーは、七色に姿を変える不思議なアクセサリーを並べていた。
ミニアは楽しそうに角度を変えて眺めていたが、すぐにガックリと肩を落とす事となる。
山脈では有り触れた価値の無い鉱石で作られており、一月も経てば黒く濁ってしまうとあなたが教えたためだ。

決して小さく無い声であったからだろう、店主は両腕の羽根を振り回して一月も楽しめれば良いじゃないかと周囲に弁解している。
どう考えても墓穴であるが、あなたは自分が損をしない分には構いはしなかった。


結局、ミニアはそのアクセサリーを購入した。

一月も楽しめれば良い、という店主の言葉は間違っていない。
粗悪な素材に相応しく値も安かった。
すぐに駄目になると分かった上でならば、悪い買い物とも言い難い。


七色の変化を楽しむミニアを尻目に、あなたは空を見上げる。

日は大分傾いてきた。
そろそろ夕刻。
あと一つ行動したならば、そろそろ家に戻る時間だろう。



>>↓1  どうする?

ついでに質問
さっきの売人みたいな大罪人なら人体実験しても許されるの?
もちろんこの国ぐるみで


>>364
死後の安寧を約束する神を主神とする以上、死体の損壊自体が大逆に当たります。
交渉を持ちかけた時点で裁判無しの断罪コースだと、あなたは知っていて構いません。


あ、しまった、生前の人体実験ですね。
そちらならば交渉の余地が有る可能性は存在します。。
持ちかけた事は無いはずなので、結果がどうなるかはあなたには分かりません。


あなた達の最後の買い物は、食料であった。

勿論、目当ては珍しい異国の食材だ。
シアラ・ミニアにおいて、食材の種類というのは豊富とは言えない。

特に乏しいのは肉だ。
酪農や狩猟など望むべくも無い立地であるのだから、致し方無い。
街に食料を運ぶ商人達も、優先するのは麦である。


それが、今日ばかりは無数に並んでいる。
当然割高ではあるが、普段食べられない物とあって人気は高い。
恐らく、祭の後の数週間は大半の家庭で献立がガラリと変わる事だろう。

あなた達もそれに倣う事としたのだ。


数多の屋台が並ぶ中、ミニアが一つの物に目を付けた。

黒々とした塊であった。
一つ一つが大人の握り拳よりもやや大きい。
それが山と積まれ、食材ばかりが並ぶ一角では異様に浮いている。


「先生、あれって何なんでしょうか?
 とても食べ物とは思えないんですけど……」


ミニアの言う通り、それは一見して意味不明な物体だ。
どう見ても鉱石。
あるいは炭とも取れるかも知れないが、やはりここにあるのは妙だろう。


その塊について、あなたは知り得ていた。

時に薬の素材ともなる物なのだ。
効能は体温の上昇。
発汗を促して毒素排出に用いたり、単純に体温を失った者に与える事もある。


正体は……火竜の糞である。

見た目通り鉱石じみた硬度のそれは強烈な辛味を持ち、一部の食通の間では珍味とされている。
スパイスの一種として、削って用いるのが主だ。


さて、あなたはここで一つ考えた。
ミニアに正体を知らせず、胃に収めた後に告げて驚かせるのも面白いかも知れない。
勿論、優しさを第一に考えるならば今ここで教えて通り過ぎるのが良いだろう。

だが、少々の茶目っ気は日々の潤いとなる事も、あなたはミニアと暮らす内に学んでもいる。



>>↓1  どうする?


『ちょっとしたスパイスだよ。
 正体は食べてからのお楽しみさ』


あなたはそうとだけ教え、塊を一つ購入した。
ずしりと重い糞は持ち運びやすいよう紐がついた麻の袋に詰めて手渡される。

あなたの目利きでは、間違いなく火竜山脈産の天然物だ。
最も辛味が強いとされるそれは、きっとミニアの口から火を吹かせるはずだ。
更にその後には衝撃の強すぎるネタバラシも待っている。
楽しみは二度訪れるに違いない。


袋を渡されたミニアは臭いを嗅いだりつついて見たりとしているが、その程度でバレる心配は無い。
ギッチリと固まった火竜の糞は、無臭であるのだ。


そうして、とうとう日が暮れた。

太陽は湖の向こうへと消え、天上は闇に包まれる。
街の光源は所々のかがり火が残るのみ。
酔客は未だ残って騒ぐのだろうが、子連れのあなたは家に戻るのが良いだろう。


その道中。
朝には即興劇が展開されていた広場に、人が集まっていた。

役者達に代わって中央に立つのは神官である。

今日の祭の主役たる始祖の女神に関する説法が行われているようだ。
ここシアラ・ミニアは、言わずと知れた信仰の中心地。
神官達はその全てが上位の地位にあり、彼らの話には価値があると信じられている。
信心深い者の中には、これを目当てに祭に訪れる者もある。


話は、丁度終わり際らしい。
女神の死が、今まさに語られている。


始祖の女神は、輪廻の神を産む。
しかし、それは胎からでは無い。
輪廻の神は、心臓を裂いて生れ落ちたのだ。
始祖の命を生誕の贄として。

他の神に、そのような伝承は存在しない。

これは、輪廻の神が魂に深く関係する神であるためと、現在の神学では考えられている。



魂を司る者は魂から生まれた。
つまり、遍く生命が持つとされる魂は、心臓に宿るのだと。



それで、話は終わりだ。

立ち去る神官と背中合わせに、あなた達は足を進める。


家路は、酷く侘しい。

祭は夜も続くが、それは広場だけでの話。
大きな通りから外れた桟橋には、人影はまばらな物となる。
遠くに響く笑い声が、かえって終わりを強調し足を鈍らせる。

あなたにすらそう感じさせるのだ。
初めての経験だっただろうミニアにとって、心を抉る物であるとは想像に容易い。


「…………」


現に、ミニアの足は止まってしまった。
一日中輝いていた顔は曇り、今にも泣きそうに俯いている。


『なぁミニア。
 一つ、あたしと約束しようか』


あなたは口を開いた。

いつまでも立ち止まる事は出来ない。
求め続けている永遠には、未だ手は届いていない。
休養はこれで終え、明日からはまたいつもの日々を再開せねばならないのだ。

だから、これは仕方の無い事だ。
祭の中の子守で少々疲れてはいるが、もう一つ機嫌を取る必要がある。


『今年の祭はこれで終わり。
 それはもうどうしようも無い事だよ。

 だけどね、次の秋にはまた祭がある。
 今のあんたには未来があるんだ。
 一つが終わっても、次に手を伸ばすのは簡単なんだよ』


『だから、来年の祭も、また一緒に回ろうじゃないか』


優しく頭を撫でて紡いだその約束。

ミニアの涙を拭ったその言葉が、真となるか偽となるか。

それは、きっとあなただけが知る事だ。





【円環暦612年 秋 固定イベント 『降臨祭 / Side-A』 完了】


凄い平穏なイベントでした。
何この違和感。

といった所でキリが良いのでこの辺で。
お付き合いありがとうございました。
また明日。


世界樹5のキャラメイク体験版来たかと思ってテンション爆上げ。

……からの壮絶な「これじゃない感」で死亡。


今晩は多分21時位の開始です。


数日後。
あなたのちょっとした悪戯は、見事に失敗に終わった。


「これ、ピリッとして美味しいですね」


本日の献立は、麺料理である。
茹でた麺を植物油と香辛料で炒めた、シンプルなパスタ。
そこに火竜糞をたっぷりとトッピングし刺激的に仕上げた逸品だ。

付け合せのスープとサラダが甘めの味付けなのは、慈悲という物だろう。
驚くべき事に、あなたにも僅かな良心があったのだ。

もっとも、特に意味も無かったのだが。

あなたの眼前で、ミニアは何の抵抗も無くパスタを平らげていく。
汗をかいてはいるが、苦しむ様子は一切見受けられない。


(迂闊だったねぇ。
 考えてみりゃ、当たり前の事じゃないか)


魔獣の体は常に狂気を育む疼痛に苛まれている。
その痛みを受け続ければやがて理性は砕け、まさしく獣と化してしまうと、あなたは実験の結果として理解している。
出来の良い弟子……つまりは使い勝手の良い道具をわざわざ捨てる意味も無い。
あなたは薄めた痛覚殺しを定期的にミニアへ投与し、痛覚を鈍らせていた。


そして辛味とは、痛覚の一種なのだ。
舌を焼くという表現がまさに相応しい刺激であっても、今のミニアにとっては丁度良いとしか感じられまい。


その後、食した物の正体を教えてみても、あなたが望んだ反応は終ぞ返らなかった。

僅かばかり目を剥いたのが精々。
それすらも、糞を口に入れた事にでは無く、火竜の糞が美味という事実に対する驚愕のようだ。
ドラゴンって不思議な生き物ですね、などと暢気さすら漂わせている。

聞けば、実家で冷遇されていた頃、与えられた食材が尽きた時にゲテモノには慣れてしまったという。
仲良くなった猫から譲られたネズミや、窓辺で捕まえた芋虫の味なども既に知っていると、ミニアは語る。


あなたが得た物は何も無い。

強いて言うならば、あなたの前に置かれた激辛料理が成果ではある。
こめかみを冷や汗が伝い、視線は細かく震えて表面をまばらに覆う黒い粒の直視を拒む。

悶えるミニアを楽しんでから一言謝り、自分の分も合わせて作り直せば良い。
そんな目論見は、ここに儚く潰えた。


……これは、天罰という物だろう。

あなたの舌と胃腑はこれから焼ける事となるのだ―――。



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ペインキラー x1 をミニアの維持のために消費しました。

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■ あなたのステータス


【95歳 女性】


【種族 : ドライアド】

森の中に隠れ潜む種族。
樹皮に似た皮膚と、葉のような髪が特徴的。
魔力との親和性や精神力に優れるが、鈍感で、体力に劣る。

【種族能力 : 森の隣人】

人よりも精霊に近い彼らは、最も親しい隣人たる植物達とも言葉を交わす。
植物との対話が可能になる。


【筋力】 3
【耐久】 7
【器用】 10
【敏捷】 7
【感覚】 2
【意思】 8
【魔力】 4
【幸運】 4


【出身地 : クラッカ】

【現在地 : シアラ・ミニア】



◆ 習得魔法

【種火】
掌に収まる程度の小さな炎を発生させる。

【清水】
両手で作った器に収まる程度の少量の水を召喚する。

【微風】
頬を優しく撫でる程度の僅かな風を発生させる。

【土塊】
拳程度の大きさを限度とする少量の土を召喚する。

【放浪】
自身の管理下に置いた魔力、魔法、物品、などを意思ある生物のように振舞わせる。
対象は自由意志の下、無軌道に放浪する。
魔力の能力値が不足しているため、生物には使用出来ない。
効果時間はおよそ半日。

【反発】
反発力を発生させる。
通常は魔力、魔法、物品などに作用するが、あなたの精神性との合致により、僅かながら精神にも作用する。
生物に使用した場合、対象への接触に忌避感が生じる。
効果時間はおよそ半日。


◆ キーワード

【倫理観皆無】
【マッドサイエンティスト】
【国際指名手配】
【孤独】
【後進の指導】


■ ミニア(弟子)のステータス


【12歳 女性】


【種族 : 魔獣 / 無自覚】

ミーニアから変異した人造の魔獣。
魔力と融合した影響により、筋力と魔力に大幅なボーナスが与えられる。


【種族能力 : 忍び寄る狂気】

魔獣の体は、常に狂気を育む疼痛に苛まれている。
季節毎に発狂抵抗判定を行い、失敗すると狂気レベルが上昇し、意思の能力値を幾らか失う。
狂気レベルが一定以上になるか、意思が1未満になると通常の魔獣と同様の行動を取るようになる。
発狂抵抗判定は、回数を重ねる度に難度が上昇していく。

この能力は、痛みを軽減、あるいは無効化する事で抑制する事が出来る。


【筋力】 8
【耐久】 6
【器用】 4
【敏捷】 3
【感覚】 5
【意思】 2
【魔力】 8
【幸運】 1


【出身地 : クァレヴァレ】

【現在地 : シアラ・ミニア】



◆ 習得魔法

【種火】
掌に収まる程度の小さな炎を発生させる。

【清水】
両手で作った器に収まる程度の少量の水を召喚する。

【微風】
頬を優しく撫でる程度の僅かな風を発生させる。

【土塊】
拳程度の大きさを限度とする少量の土を召喚する。

【断絶】
任意の位置に、空間の切れ目を設置する。
接触した対象は【基礎攻撃力 : 4】の斬撃属性のダメージを負う。
また、任意の対象に接触して行使する事で、以降の積極的接触を忌避させる精神誘導が可能。

【無為】
発生した後の魔法を強制的に無力化する。
ただし、自身と対象の魔力の能力値を用いた対抗判定に成功する必要がある。
また、物体に対し使用する事で、対象の物体が持つ影響力を極限まで低減させる事が出来る。
こちらの効果はおよそ一日で効果を失う。

【犠牲】
詳細不明。
現状、使用する度に違った効果が現れている。


■ 所持品一覧


◆ 25500 Casa ← NEW

共通交易通貨。
カダスティア大陸において、使用出来ない都市はほぼ存在しない。

※ バスクからの報酬を受け取りました。


◆ 《宣誓》のスクロール x1

使い捨てのマジックスクロール。
《宣誓》の魔法が封じられている。
証文に書き込んだ内容を、他者と己に遵守させる事が出来る。


◆ ペインキラー x2 ← USED

あなたが生み出した、痛覚を完全に麻痺させる薬品。
痛覚以外には一切の効果が無く、副作用や中毒性などは存在しない。
効果時間はおよそ半日。

※ バスクが用意した素材を用いて、制限無く精製可能 ※


◆ ゾンビパウダー x0

あなたが生み出した、人間の精神を粉砕する薬品。
服用者は他者の命令に従うだけの人形となる。
魔術との併用により、あなた以外の命令をある程度弾く事も可能。
一度服用すると二度と回復させられない。

※ バスクが用意した素材を用いて、制限無く精製可能 ※


◆ トゥルーブラッド x0

あなたが生み出した、万人に適合する万能血液。
人体改造を行う場合、このアイテムが不足していると対象が死亡する場合がある。

※ バスクが用意した素材を用いて、制限無く精製可能 ※


【円環暦612年 秋 1/3】


秋の空は泣いていた。
まばらな雨が桟橋や屋根、あるいは水面を叩き、小さな音楽を奏でている。

……が、それを静かに楽しむ事が出来ないのがこの街だ。

湖上の都市において、外壁を形作っているのは魔法で作られた滝である。
悪天候のために出歩く者がまばらになると、その分だけ失われた音を滝が埋めてしまう。
この国で生まれ育ったならば別の感想も抱けたのだろう。
しかし、あなたは風情も何も無いと嘆息する他無かった。


さて、生憎の天気ではあるが、あなたの手は空いている。
弟子もそれなりに育ち、サナトリウムへの納品も今や然程の負担では無い。
何をするにしても、十分な余裕があるはずだ。



>>↓1  今日はどうする?

どのくらいのスピードで時間過ぎるの?
あんまりハイスピードでやるとすぐに寿命来るぞ


>>398
固定イベントが発生する毎に季節が経過します。
四季が一回りすると一年です。
この周回は春スタートの現在秋なので、半年を越えた所になりますね。

寿命が来る前に十分終われるよう固定イベントで調整を行っていますので、老衰による死は心配要りません。


あなたは一日を製薬に費やす事とした。

今は鎮静薬や増血剤へと加工してサナトリウムへ持ち込むのみだが、これらは本来別の薬品である。
命令に忠実に従う人形を生み出す精神を侵す毒。
人体改造の補助として用いる万能血液。
それらが元々の姿なのだ。

素材はバスクより与えられた十分な量がある。
自分で使う分を確保しておくのは悪くない選択だろう。


あなたは早速ミニアを呼び付け、下準備を命じた。

厳重に鍵を掛けられた素材庫から必要な分を持ち出すその手際は、もう随分と慣れた物だ。
やはり若さと熱意なのだなと、あなたは満足げに頷いた。



>>↓1 コンマ判定 【ゾンビパウダーの生産数】

器用 10
技能 5

難度 -3

目標値 12

※ この判定は、目標値と出目の差によって結果が変動します。


>>↓2 コンマ判定 【トゥルーブラッドの生産数】

器用 10
技能 5

難度 -2

目標値 13

※ この判定は、目標値と出目の差によって結果が変動します。


【ゾンビパウダーの生産数】

目標値 12

出目 9

差 3


【トゥルーブラッドの生産数】

目標値 13

出目 4

差 9


世の中には、スライムと呼ばれる生物が存在する。

見た目はヒュドールに大分近い。
ヒュドールを指してスライムもどきと呼ぶ蔑称もある程にはそっくりだ。
違いは人の形を取らない事と、知性を持たない事ぐらいだろう。

蠢く液体、這い回る水溜り。
そう表現してほぼ差し支え無い。

この生物は極めて無害な物として知られている。
地面をのんびりと這って移動し、草や苔、虫の死骸などを長い時間をかけて溶かし食べて生きるだけ。
人間をどうこうする力などある訳も無く、時折野宿中に足元を這われて驚く程度の例が精々だ。

さて、そんなスライムだが、特筆すべき能力を持っている。

驚異的と言う他無い、他に類を見ない環境適応能力である。


スライムはどこにでも居る。
岩山に、森林に、荒野に、草原に、火山に。
また、恐らくはあなたの足のずっと下、湖底を這う種類もあるかも知れない。

そこに目を付けたあなたは、一時期スライムを飼育し観察した事がある。
結果、あなたは適応力の根幹を理解するに至る。

スライムは周囲の環境に応じて自身の構成を組み替えていたのだ。
見た目は同じ。
しかしその組織に厳密に視線を向けたならば、構成変化の前後では全く別の生命とすら言える。


この万能性を人為的に操作し変化させた物が万能血液である。
既にスライムとしては死を迎えてはいるが、その体を素材とした人工体液に性質を残している。
周囲に溢れる血液に反応し同化する事で、人種や個体差を物ともせずに適合してしまうのだ。


対して、ゾンビパウダーの方は単純だ。

人間を発狂に追い込む茸を中心に、精神や脳に作用する多種の毒が素材となる。
それらを不都合な物を取り除きつつ組み合わせるだけだ。

心を壊すだけならば、実に容易い。
しかし、壊しすぎず残しすぎず、命令を聞くだけの能力を保持したままの人形化にはあなたも随分と梃子摺った。
最良の配合を導き出すために犠牲になった人間の数は、最早数えるだけ馬鹿らしい。



////////////////////////////////

ゾンビパウダー x2

トゥルーブラッド x4

を獲得しました。


※ ミニアの補助により生産数にボーナスが付与されています ※

////////////////////////////////


さて、新たに出来上がった薬を前に、ミニアが質問を投げかけた。

今まで、ミニアは真っ当な薬品の精製にしか立ち会った事は無い。
鎮静剤や増血剤に酷似した製法で生み出されたそれらに興味を持つのは、当然の事だろう。
尊敬する魔女が作り上げた薬の効果を、彼女は知りたがっている。


あなたは僅かに考えた。

万能血液については何の問題も無い。
しかし、ゾンビパウダーの詳細を知らせる事は、小さくない影響をミニアの心に及ぼすに違いない。



>>↓1  どうする?


万能血液の効果と性質について教えながら、あなたは考えを纏めた。
やはり、まだ少々早いかも知れない。

あなたは無難に、誤魔化しておこうと決めた。


『こっちは、人の精神に作用する、極上の薬だよ。
 鎮静剤の効果をより強めた物さ。
 恐らくだけど、こいつより質の高い薬は無いだろうね。

 ただ、薬も強すぎると危険なんだ。
 使う相手を選ばなけりゃ、それは大変な事になるんだよ』


だから、こいつは他と混ぜずにあたしが管理するよ。
そう言葉を締めて、あなたは隠し棚へと薬瓶を仕舞いこむ。

それを見詰めるミニアの顔は、真剣その物であった。
薬の素材となった数多の毒について、その危険性はしつこい程に教え込んでいる。
使い方を誤れば毒となるという言葉の重みは十分に受け取れただろう。

あなたの許可無く薬に触れる事は、決して有り得ないはずだ。


【円環暦612年 秋 2/3】


数日降り続いている雨は、未だ止む気配を見せない。
時折消える雨音に窓の鎧戸を開けてみても、霧状の雨に顔を濡らされて辟易するのみ。

洗濯物も随分と溜まってしまっている。
必要な分だけは室内干しで対応しているが、乾きが遅い上に若干の悪臭が漂うのが困り物だ。

早く屋上が使えるようにならないものかと、ミニアとあなたは並んで溜め息を吐いた。



>>↓1  今日はどうする?


こんな雨続きでは外出の気も起きない。
起きない……のだが、生憎とそうもいかない事情があった。

降臨祭で、あなたはバスクとの対話を断っている。
その埋め合わせをしなければならないのだ。
雨程度を理由に先延ばしし続ければ、信用を損なう事となるだろう。


あなたは外出の準備を整え、ミニアを見た。

今回の話は、勿論仕事に関する物であるはずだ。
バスクとあなたの間に個人的な交友関係が無い以上、それ以外の用件は有り得ない。

だとするならば、正式に弟子として扱っているミニアを伴う事も、当然可能ではある。



>>↓1  ミニアを連れていきますか?



///////////////////////////////

※ チュートリアル ※


仲間や弟子など、友好的なNPCを伴っている際に判定が発生した場合、状況次第で判定回数が増加する場合があります。
例えば、危機感知判定などは全員が感覚判定を行い、一人でも成功すれば全員が発見したとして扱えます。

ただし、不利な判定の場合も回数が増え、一人の失敗が全員の失敗となる事もあります。

///////////////////////////////


いや、とあなたは小さく頭を振った。

相手はこの街の重鎮たるバスクである。
弟子に経験を積ませる事も重要だが、もし粗相などされてしまえば目も当てられない。
バスクの人格を考えれば大きな問題とはされない気もするが、ここは大事を取るべきだ。


「はい、いってらっしゃい、先生。
 留守は任せて下さい」


小さく胸を張りミニアはあなたを見送った。


雨に滲む街中を進み、屋敷を目指す。
この天気に、面倒な用事。
気分が少しずつ沈んでいくのを、あなたは自覚していた。


キリが悪いんですが、時間も遅い上に筆の乗りがイマイチなのでこの辺で。
申し訳ないです。

お付き合いありがとうございました。
また明日。


今晩は20時位の開始になります、多分。
よろしくお願いします。


バスクの屋敷に辿り着いたあなたは、その光景に思わず立ち止まった。

屋根から流れた雨が雨樋を伝い、等間隔に幾筋かのか細い滝を作り出している。
効率の良い排水のためでは、断じて無い。
証拠として滝の下には、水瓶を持つ乙女や、長い髪を洗う女性などの像が佇んでいる。
どう考えても、これらの芸術品を映えさせるための設計としか思えない。

また、滝と滝の間の壁には、壁を流れる雨水が蔓植物のような模様を描き出す。
近付いて見れば、それも計算された壁の凹凸による物だと分かるだろう。
こちらは一風変わった絵画と考えるべきか。


バスクは芸術にも造詣が深い。
そんな情報をあなたは竜魚の逆飛び亭で目にしていたが、自宅の壁や屋根を用いる程とは想像していない。
それも、雨の日にのみ見る事が出来るような代物である。
一般的な愛好家よりも一段深いのでは無いだろうか。

ただ、あなたが足を止めた理由は感嘆では無い。
他の者ならばともかく、芸術に価値を見出せないあなたである。

何を考えてバスクはこんな物を作ったのかと、多大な呆れを感じたのだ。


「おや? おやおや?
 もしやあなたも援助を求めに来たのでしょうか?」


バスクの芸術嗜好を感じさせる出来事は、屋敷の中でも起こった。

あなたの前に居るのは、本人の言う通り若いミーニアの男である。
年の頃はミニアよりも僅かに上、といった程度だろう。
見るからに自尊心の塊といった具合で、明確にあなたを見下している。


「うぅん、全く芸術的センスが感じられませんねぇ。
 何ですか、その服装は。
 野暮ったい事この上無い!

 きっと、そのお年で未だに売れていないんでしょう?
 この若さでかの御方に目をかけられている僕とは違って……ねぇ?

 もう諦めた方が、くふっ、よろしいかと思いますよぉ」


さて、この男であるが、あなたを案内する家令によればどうやら芸術家であるらしい。
バスクが支援する内の一人であり、絵を依頼する頻度も多いようだ。

確かに、その年で一都市の顔役から重用されれば増長も致し方無いだろう。
だが、これは余りにも酷い。
絵の腕はどうだか知らないが、小物という言葉すら彼には勿体無い。

何せ、ここはバスクの屋敷であり、あなたは家令を伴ってもいるのだ。
バスクの耳に入らないという楽観は正気を疑うべきであるし、耳に入っても良いと考えるならばそれはそれで問題だ。
そもそもとして、来客が芸術家以外に居ないと思い込める想像力の欠如も致命的。

恐らく、彼は遠からず排除されるだろう。
結論に至れば、最早哀れみしか抱けない。


「ルミール様、その辺りにされた方がよろしいかと。
 こちらの御方は、サナトリウムに関する重要なお客様で御座います。
 あなたと同じ道を歩む方では御座いません」


相手にするのも馬鹿らしい。
そう考え無視を決め込んだあなたに代わり、家令が男を窘める。

ルミールと呼ばれた男は、途端に顔を赤く染めた。
羞恥だろう。
己の勘違いを直視し、恥をかかされたと思い込んだ彼の憤りは、当たり前のように他者へとぶつけられた。


「……な、何ですか紛らわしい!
 あぁもう、僕は気分が悪くなりました!
 これで失礼しますよ!」


「大変失礼いたしました。
 ルミール様も、以前は礼儀正しく、また努力家であられたのですが……」


沈鬱な表情で、家令はあなたへと謝罪した。
視線が一度だけ、大股で去っていくルミールの背中にちらりと向けられる。
そこに篭った感情を見るに、どうやら家令はその以前のルミールとやらを高く評価していたと思える。

だが、勿論あなたには何の関わりも無い事だ。
ルミールごときのどうでも良い男に時間を取られるなど、無駄極まりない。

応接室へ繋がる数多の絵画が飾られた廊下を、あなた達は進む。



>>↓1 コンマ判定 【??????】

?? ?

目標値 ?



//////////////////////////

※ チュートリアル ※


判定内容自体が重大な情報となる場合、判定に用いる能力値・補正・目標値などが隠蔽されます。
隠蔽された内容は、判定が成功した場合にのみ開示される可能性があります。

//////////////////////////


※ 判定内容が開示されます。


【廊下の違和感】

魔力 4

目標値 4

出目 4

成功!


その途中、あなたは一つの違和感を抱いた。

この廊下には、余りにも魔力が少ない。
大気を漂っているはずの力が殆ど感じられないのだ。

火種を呼ぶ程度の、極簡単な魔法ならば問題無く扱えるだろう。
だが、あなたならば放浪の行使はまず不可能。
極めて相性の良い反発ですら、相当な集中を以って限定的な発動が限度に違いない。

その理由は……。


(こいつらか。
 大半は何の細工も無いようだけど、所々魔道具が混じってるね。
 ……上手い事隠したもんだよ。
 気付けたのは運以外の何物でも無さそうだ)


壁にかけられた絵画。
その内の幾らかが魔道具であると、あなたは看破した。


魔道具とは、魔法の力が籠められた物品の事である。
力ある言葉を中心に、魔力が流れる回路を組み込んだそれは、自動的に魔法を発動する。

通常の魔法とは異なり術者の力量が関係せず、負担をかけない事が利点。
一つにつき一つの魔法しか扱えず、具体的な製法が厳重に秘匿されているために極めて高価である事が欠点となる。

この極めて高価という言葉は、一切の誇張が含まれない。
たった一つの魔道具で屋敷の一つ二つは容易に建つだろう。
それを多数、それも壁にかけるだけという無防備さで置いておくなど、到底まともでは無い。


それほどまでの財力を保有しているか。
職人を手の内に抱え込んでいるか。
あるいは本人が製法を知っているか。

このどれかで無い限り、有り得ない光景である。
無論、どれであっても貴族の枠組みからすら外れた異常と言える。


絵画に偽装された魔道具については気になる所だが、今どうこうする事はとても出来ない。

突然客が絵にかじりついて調査を始めたとなれば、当然家令が気付かない訳が無い。
すぐさまバスクが呼ばれ、面倒な事になるだろう。

誰にも気付かれず、バスクが所有する絵画を調べる。
そういった機会が無い限り、あなたが詳細を知る事は難しそうだ。


あなたは一度魔道具については頭の隅に追いやり、バスクとの会談に意識を向けた。

既に部屋で待っていたバスクがあなたを歓迎し、時折雑談を交えながら話は進んでいく。
内容は、当然サナトリウムに関する物だ。

薬の納品数をもう少し増やせないか。
素材に不足は無いか。
人手が足りていなければ派遣する事も可能だが、どうか。
そんな話だ。

それらにあなたは無難に対応していく。
数は増やさず、素材は十分で、助手の追加は不要。

助手に関しては特に残念そうな顔をしていたが、製法の流出を考えれば受けられる話では有り得ない。
派遣される者は、どう考えてもそれを狙ってくるであろう。
善意の仮面を被せた利益の追求は商人が当たり前に用いる手段である。
あなたが気付けない理由は無い。


「さて、それではそろそろ本題だ。
 あなたの弟子……確かミニア君と言ったか。
 彼女についてなのだがね」


話が一段落ついて、バスクがそう切り出した。
老齢を感じさせない覇気が満ちる顔を更に引き締め、いかにも重要だと無言で語る。


「彼女の急激な回復について調べたいのだ。
 医師の話によれば、あれ程深く肺を病んでいながら生き残った例は無いというじゃないか。
 回復の理由、その一端でも分かれば、この国の医療は大きく進歩するはずだ。
 肺病に苦しむ者達がどれ程救われる事か。

 定期的に……そうだな、季節毎に一度で構わない。
 サナトリウムで診察をさせて貰えないだろうか」


あなたは緩く腕を組み、考え込んだ。

季節毎に一度。
その程度であれば、助手としての働きには何の影響もあるまい。

また、あなたが施した魔獣化は凡百の医師ごときに見抜ける変異では無い。
ミニアが元々患っていた肺の変異も、何故か回復しない異常な炎症が起きているとの誤診をしていたのだ。
あなたが持つ禁忌の技術に辿り着く可能性は、いっそ皆無と言って良い程、限り無く低い。

技術流出に関しても心配は不要だ。
ミニアのあなたに対する依存は十分に深い。
あなたを裏切る行為など、彼女にとっては殺人よりも忌避する物のはずだ。



>>↓1  どうする?


その話を、あなたは受ける事とした。

ただし、条件を付けてである。
診察の頻度を二季に一度、あるいは三季に一度に出来ないかと打診した。

ミニアは若く、熱意がある。
今の彼女はまさしく赤く熱された鉄であり、打つならば今で無ければならない。
僅かの時間すら惜しいのだと、説得を試みる。


「おぉ、その位は構わないとも。
 受けてくれるというだけで十分に有難い」


バスクは鷹揚に頷き、あなたの提案を受け入れた。
緊張した空気は霧散し、朗らかに笑みを浮かべたバスクがあなたの手を握る。
相変わらず違和感しか感じない手だと、あなたは内心で零す。

こうして、ミニアは冬と夏に診察を受ける事となった。
これに関してあなたがすべき事は特に無い。
ミニアに言いつけておけば、自分で暇を見てサナトリウムを訪れるだろう。


「では、話はこれで終わりだ。
 長雨の中、わざわざすまないね。

 あぁ、そうだ。
 ミニア君だが、あなたの弟子としてサナトリウムで診療を行わせても構わんよ。
 実地は何にも勝る経験だろう。
 患者達も、若い熱意に触れる事は心の慰めになるかも知れない」


会談は終わった。
去り際のそんな言葉を背に、あなたは扉を潜る。



屋敷を出ても、未だ雨は続いていた。
空は黒く重い雲が立ち込め、今日中に止む様子は無い。

溜め息を一つ漏らし、あなたは人気の無い街を、家を目指してのんびりと歩いた。


【円環暦612年 秋 3/3】


長く続いた雨は、週を一つ半跨いだ所でようやく終わった。

天には久方振りに見る太陽が輝き、地を照らしている。
だが、その様を見上げて笑う余裕のある者は少ない。


「先生、追加洗い終わりました」


屋上で忙しく動くあなたの元へ、ミニアが白い山を抱えて上って来る。

洗濯物だ。
溜まりに溜まったそれは、決して狭くは無い屋上の隅から隅までを占拠する勢いだ。
今日はどこの家庭でも似たような光景が見られるはずだ。

ただ、ついでに言えばあなた達は稼業が稼業である。
一度作業に用いた衣服や手袋を洗わずにおくなど有り得ない。
恐らく、サナトリウムと並んで最も忙しい者達の一つだろう。


「大分減りました……。
 これで、あと二回分だけです」


ミニアは笑みを浮かべるが、あなたの顔が明るくなる事は無い。

まだ二回もあるのか。
あなたが抱いた感想は、ミニアとは逆に憂鬱な物だった。



>>↓1  今日はどうする?


面倒な洗濯を終えミニアに休憩を与えたあなたは、調合室の隠し棚の前に立っていた。

眼前には、不吉な青白さを持つ粉が入った小瓶がある。
服用者の精神を破壊し絶対服従の人形を作り出す、禁断の薬である。


ミニアは期待を超えて成長している。
今では助手として、薬品の調合ならばあなたの十分な助けとなっている。

だが、本当の意味で助手となるには、邪魔な物がある。
常識、善性、倫理観。
そういった物を除かない限り、あなたの秘奥を見せる事は出来ない。

あるいは、宣誓のスクロールを用いて行動を縛るのでも良かったが、より確実性を求めるならば根底を崩すべきだろう。


いかにしてミニアを壊すか。
その筋道を立て終わったあなたは、歪んだ笑みと共に小瓶へと手を伸ばした。


街を出歩き、あなたは獲物を探す。

あなたの狙い通りならば、対象は幼い子供が良いだろう。
最低でもミニアと同年代。
最良は二つ程下か。

かつ、居なくなっても不自然では無い状況か、境遇。
貧しいとは口が裂けても言えないこの国でそういった者が見つかる可能性は低いが……。



>>↓1 コンマ判定 【幸運な出来事】

幸運 4

目標値 4


【幸運な出来事】

目標値 4

出目 3

成功!


何が起きるか、ではなく、何をするか、が確かに指定されています。
ルールに違反しないため、回避できません。
あなたの説得内容は不自然なので改変しますが、それ以外は採用です。
申し訳ありません。


ほう、とあなたは吐息を零した。

そんな都合の良い者はそうそう見つかるまい。
そう思っていたあなたの目に、まさに誂えたような状況が飛び込んできたのだ。


「この馬鹿野郎が!
 てめぇ、何度言えば分かるんだ!」


人目も憚らず叫んだミーニアの男が、幼子の顔を殴りつける。
手加減など僅かにも見られない。
ろくな抵抗も出来ずに吹き飛んだ少年は、桟橋の道に転がる。

聞くに堪えない男の言葉を聞き取れば、少年は男の命令に逆らったらしい。
ありったけの酒を買って来いという指示に対し、極普通の食料を買って来たという。


男の暴力はなおも止まらない。

誰のお陰で生きていられると思っているのか。
そんな言葉と共に何度も足を振り上げ、執拗に少年を蹴り付ける。

実に、愚かな男だ。
彼自身、己が誰のお陰で生きているか分かっていない。
男の様は実に典型的な酒びたりの中毒者のそれだ。
少年が暴力を覚悟してまで食料を買ってこなければ、とうの昔に倒れていただろう事は想像に易い。


勿論、往来でそのような事をしていれば人が集まる。
やがて、男は数人がかりで取り押さえられ、家へと戻された。
少年もまた助け起こされ手当てを受けている。

その目はに宿るのは、深い諦観のみ。
感謝を口にしてはいるが、その実心などまともに動いていないに違いない。


境遇。
状況。
年齢。
性別。

全てが揃い切っている。
完璧な獲物だと、あなたは暗い笑みを浮かべた。


数日後。
街では一つの事件が話題に上っていた。

街一番のろくでなし。
そう噂される酒浸りの男が、斬殺されたという。
自宅の寝台の上で、十とも二十ともされる刺し傷を作り、血に沈んでいたというのだ。

下手人は明白である。
その日の内に姿を消した、彼の息子が最有力だ。

日頃から男から虐待されていた息子が耐えかね、刃物を持ち出したのだろう。
顔に痣の無い日は無かった。
そう言われる程の苛烈な暴力では致し方無い。

殺人に義憤を覚える者は全くと言って良い程無く、少年には同情ばかりが集まった。
取り締まるはずの衛兵達も、少年を追う気は見受けられない。
行方を探す僅かな者も、保護を目当てとしているようだ。


『その事件の犯人が、この子だよ。
 全く、哀れな子さ。

 ……どんな親でも、親は親だったんだろうね。
 手にかけた事で、心を病んじまったらしい』


話を聞き、涙を流しながら少年を抱き締めるミニアに、あなたはそう語った。
ミニアの腕の中には、痣だらけのミーニアが居る。
虐待に耐えかねて実の親を殺した、件の少年だ。


……無論、事実は噂とは異なる。
彼が親を殺したのは、暴力の恨みでは無い。

同情した様子の老婆が渡した、一つの飴玉。
そんな有り触れた物が、惨劇の引き金である。


『この子を、衛兵に引き渡す事は出来ない。
 もしまかり間違って裁かれるような事になれば、夜も眠れやしないよ。

 だから、ここで匿う。
 壊れた心が元通りに治るまでね。

 あんたも、それでいいね?』


ミニアは頬を伝う涙を散らしながら、何度も頷いた。

当然の事だ。
彼女が反対出来る理由は何一つ存在しない。

親に愛されなかった、不幸な子供。
それはつまりミニア自身だ。
ミニアは今、腕の中の少年を自分も同然と考えているだろう。


だが、それは今だけの事だ。

あなたが用いた薬は、回復を許すような生温い物では有り得ない。
もう二度と、少年が己の意思を取り戻す事は無い。
彼の介護は、それこそ延々と続くのだ。

彼は最早、何も出来ない。
食事も、排泄も、全てに他者の補助を必要とする。
命令すれば自分で動きもするだろうが、そちらも禁じる事は容易い。
定期的にあなたが魔法をかけるだけで、あなた以外の命令は弾ける。


自分より幼く。
何も出来ず。
この年頃では異質な生物と呼んでも良い、異性。

手間ばかりがかかる置物に対し、優しさを持ち続けられる者など居ない。


さて、ミニアが心の均衡を崩すまでどれ程かかるか。
あなたはそう心に浮かべ、同情の仮面を被ったまま、正しい答えを返したミニアの頭を撫でた。


その日、ミニアは少年を自分の部屋へと連れていった。

とても一人で放っては置けない。
人の温もりを、僅かでも与えたい。
そう言うミニアを止める理由はあなたには無い。


絶対の自負を持つ薬。
二度と覆されないと確信する、完全なる崩壊。

そして、ミニアの精神性に関する十分な理解。

これらを元に、何の問題も無いという判断を、あなたは下した。


だからこそ、あなたは気にも留めなかった。

ミニアの部屋の中で、その日一体何が行われたのか。

あなたには、知る事が出来ない。


キリが良いので、今日はこの辺で。
お付き合いありがとうございました。
また明日。


■ あなたのステータス


【95歳 女性】


【種族 : ドライアド】

森の中に隠れ潜む種族。
樹皮に似た皮膚と、葉のような髪が特徴的。
魔力との親和性や精神力に優れるが、鈍感で、体力に劣る。

【種族能力 : 森の隣人】

人よりも精霊に近い彼らは、最も親しい隣人たる植物達とも言葉を交わす。
植物との対話が可能になる。


【筋力】 3
【耐久】 7
【器用】 10
【敏捷】 7
【感覚】 2
【意思】 8
【魔力】 4
【幸運】 4


【出身地 : クラッカ】

【現在地 : シアラ・ミニア】



◆ 習得魔法

【種火】
掌に収まる程度の小さな炎を発生させる。

【清水】
両手で作った器に収まる程度の少量の水を召喚する。

【微風】
頬を優しく撫でる程度の僅かな風を発生させる。

【土塊】
拳程度の大きさを限度とする少量の土を召喚する。

【放浪】
自身の管理下に置いた魔力、魔法、物品、などを意思ある生物のように振舞わせる。
対象は自由意志の下、無軌道に放浪する。
魔力の能力値が不足しているため、生物には使用出来ない。
効果時間はおよそ半日。

【反発】
反発力を発生させる。
通常は魔力、魔法、物品などに作用するが、あなたの精神性との合致により、僅かながら精神にも作用する。
生物に使用した場合、対象への接触に忌避感が生じる。
効果時間はおよそ半日。


■ ミニア(弟子)のステータス


【12歳 女性】


【種族 : 魔獣 / 無自覚】

ミーニアから変異した人造の魔獣。
魔力と融合した影響により、筋力と魔力に大幅なボーナスが与えられる。


【種族能力 : 忍び寄る狂気】

魔獣の体は、常に狂気を育む疼痛に苛まれている。
季節毎に発狂抵抗判定を行い、失敗すると狂気レベルが上昇し、意思の能力値を幾らか失う。
狂気レベルが一定以上になるか、意思が1未満になると通常の魔獣と同様の行動を取るようになる。
発狂抵抗判定は、回数を重ねる度に難度が上昇していく。

この能力は、痛みを軽減、あるいは無効化する事で抑制する事が出来る。


【筋力】 8
【耐久】 6
【器用】 4
【敏捷】 3
【感覚】 5
【意思】 2
【魔力】 8
【幸運】 1


【出身地 : クァレヴァレ】

【現在地 : シアラ・ミニア】



◆ 習得魔法

【種火】
掌に収まる程度の小さな炎を発生させる。

【清水】
両手で作った器に収まる程度の少量の水を召喚する。

【微風】
頬を優しく撫でる程度の僅かな風を発生させる。

【土塊】
拳程度の大きさを限度とする少量の土を召喚する。

【断絶】
任意の位置に、空間の切れ目を設置する。
接触した対象は【基礎攻撃力 : 4】の斬撃属性のダメージを負う。
また、任意の対象に接触して行使する事で、以降の積極的接触を忌避させる精神誘導が可能。

【無為】
発生した後の魔法を強制的に無力化する。
ただし、自身と対象の魔力の能力値を用いた対抗判定に成功する必要がある。
また、物体に対し使用する事で、対象の物体が持つ影響力を極限まで低減させる事が出来る。
こちらの効果はおよそ一日で効果を失う。

【犠牲】
詳細不明。
現状、使用する度に違った効果が現れている。


■ 所持品一覧


◆ 25500 Casa

共通交易通貨。
カダスティア大陸において、使用出来ない都市はほぼ存在しない。


◆ 《宣誓》のスクロール x1

使い捨てのマジックスクロール。
《宣誓》の魔法が封じられている。
証文に書き込んだ内容を、他者と己に遵守させる事が出来る。


◆ ペインキラー x2

あなたが生み出した、痛覚を完全に麻痺させる薬品。
痛覚以外には一切の効果が無く、副作用や中毒性などは存在しない。
効果時間はおよそ半日。

※ バスクが用意した素材を用いて、制限無く精製可能 ※


◆ ゾンビパウダー x1 ←NEW / USED

あなたが生み出した、人間の精神を粉砕する薬品。
服用者は他者の命令に従うだけの人形となる。
魔術との併用により、あなた以外の命令をある程度弾く事も可能。
一度服用すると二度と回復させられない。

※ バスクが用意した素材を用いて、制限無く精製可能 ※


◆ トゥルーブラッド x4 ←NEW

あなたが生み出した、万人に適合する万能血液。
人体改造を行う場合、このアイテムが不足していると対象が死亡する場合がある。

※ バスクが用意した素材を用いて、制限無く精製可能 ※


今晩は20時30分~21時位の開始になります。
よろしくお願いします。


【円環暦612年 冬】


雨の多かった秋も去り、風が肌を刺す季節となった。

とは言え、シアラ・ミニアの冬はそう厳しい物でも無い。
寒いと断言出来る日は多くなく、涼しいという言葉で収まる場合が大半だ。
湖面に氷が張るなど有り得ず、暮らし振りは他の時期と変化は見られない。

ただ、その程度であっても体調を崩す者は増える。
隣の旦那が風邪で寝込んだ。
そんな話は、最近街のあちらこちらで聞かれている。

そしてまた、あなたの家においても病床から起き上がれない者が居た。
ミニアが、高熱を出して倒れたのだ。


「ぅ……あぁ……」


あなたの眼前、ミニア用の寝台に彼女は寝かされている。

口から漏れるうわ言は意味を為さず、両目は苦しげに閉ざされている。
全身を濡らすのは夥しい汗だ。
時折無理にでも起こして水分を補給させているが、それでも脱水が懸念される程に酷い。
また、ミニアを苛む熱も異常に高く、額に触れた手が焼けるかとすら、あなたには思えた。


(……まずいね、これは。
 性質の悪い病でも貰ってきたか?)


既に通常の治療は試した。
だが、そのいずれもが効果を発揮していない。
人体の専門家たるあなたをして、有効な治療法に全く検討が付かなかった。

そもそも、原因すら見つからない。
今のミニアは、単に全身が異常な高熱に包まれているという、ただそれだけなのだ。
他の症状を一切伴わず、ただ体を焼くだけの病に、あなたは心当たりが無い。
そして、体から熱を奪う薬も今の彼女には無駄。


こうなっては仕事や研究どころでは無い。

ここでミニアに死なれてしまっては、これまでの手間が全て無駄となる。
もう一度弟子を探して育てるなど、とてもでは無いが御免だった。

しかし、あなたに出来る事は少ない。
薬品ではどうにもならなかった。
体を切り開いて調べようにも、今のミニアは魔獣である。
万が一肉体のバランスを崩壊させれば回復どころでは無く、肉体自身がミニアの命を蝕むだろう。


(……せめて、水分と栄養をどうにかするか。
 朦朧とした意識じゃ咀嚼もろくに出来なさそうだ。
 面倒だけど、液状の栄養剤を作るかね)


ちらりと、あなたは部屋の隅へ目を向ける。
そこに蹲るのは、砕けた精神を抱える少年だ。
何の命令も受けていない今は、ただ静かに座り込むのみ。

鈴はこいつで良いだろう。
そう判断したあなたは、ミニアの様子が変われば大きな音を立てろと命じ、調合のために部屋を出た。


結局、音を聞く事は無く、栄養剤は無事に完成した。

カップに一杯飲むだけで豪勢な食事以上の栄養を補給出来る一品だ。
滋養のみを重視したために味は壊滅的だが、問題にはならないだろう。
満足に味を認識出来るかどうかすら、今のミニアでは怪しい物だ。

無論、いかに優れた食品であろうと、高熱に対する特効薬とは成り得ない。
だが、何もやらないよりは遥かにマシである。
十分な栄養を用いて、ミニアの体自身が病を克服する可能性に賭ける他、今は無い。


再び戻った部屋では、やはりミニアに変化は無い。
寝返りを打ってもいないようだ。
シーツの形はあなたが部屋を出た時のまま。
一度も目を覚ましていないだろう事は明確に見て取れる。


『―――』


だからこそ、それは異常だった。

ミニアの汗を拭うために用意した、何枚もの布。
寝台近くに置かれたサイドテーブルに乗せられたそれが、酷く乱れている。

近くとは言え、決してミニアの手が届く位置では無い。
起き上がって手を伸ばしたというならば、シーツは乱れていなければならないはずだ。
しかし、そんな様子は無く、ただ布だけが乱雑に床に散らばっている。


それは、酷く不吉な予感だった。

まさか。
馬鹿な。
有り得ない。

心中を掻き回す言葉を必死に抑え、あなたの視線が動き。


『…………なんだ、これは』


顔を上げて座り込んだ、少年を捉えた。
その手には、濡れた布。

彼が、ミニアの汗を拭っただろう事は、一目瞭然だった。


それは明らかな異常だ。

あなたはそんな命令は出していない。
ただ様子が変われば知らせろと伝えただけだ。
決して、看病せよなどとは言っていない。

震えようとする手をこらえ確認するも、あなたの魔法は有効と結果が出る。
つまり、ミニアが命じたという可能性も消えた。

残ったのは、ただ一つ。
少年が自発的に判断し、ミニアのために動いた。
最早それしか有り得ない。


完全と自負するあなたの毒を打ち破り、砕け散ったはずの精神に火を灯して、である。


(なんだこれは。
 どういう事だ。
 一体……一体何が起こっている!?)


あなたの平静は、完全に打ち崩された。

まるで理解が出来なかった。
胸中には黒い泥が溢れ、心臓を握り潰さんと悪魔の手を形作る。

過去に、他者に追い詰められた事は、幾度かある。
十の槍に貫かれ、拠点を焼き払われ、逃走する他無かった窮地もある。
しかし、そのどれであっても、あなたの毒を克するなど有り得なかった。

だというのに、何故少年は動いたのか。

呼吸が乱れ、酷く冷たい汗が頬を伝う。
あなたの根幹が今、脅かされようとしていた。



>>↓1  どうする?


(何が起こった。
 何が原因だ。
 考えろ、思考を止めるのは一番の悪手だ)


自身に必死に言い聞かせ、あなたは頭を無理矢理に回転させる。

手始めに調合を振り返り、手順と素材に瑕疵が無かった事を確かめた。
薬は完璧だったと、あなたは確かに記憶している。
投与量も問題無い。
少年と同年代の者に投与した経験は少なく無く、また拉致後の確認でも完全な精神破壊は確信出来た。

だとすれば、何か起こったのはその後だ。
この家で生活を始めた後、つまりはミニアに少年を与えた後に、毒を打ち破る何かがあったのだ。


あなたはサイドテーブルへとカップを乱暴に置き、寝台のミニアを抱え起こした。

その動作に、一切の余裕は無い。
衛兵に追い詰められた罪人同然の様で、ミニアの頬を叩く。


『ミニア! ミニア!
 目を開けな!
 ……このっ、さっさと起きるんだよ!』


だが、それは何の成果も上げられない。

ミニアの目は、確かに開いた。
しかし光を宿さず、ただ朦朧としたままの瞳は虚空を見つめている。

眼前に居るのがあなただとすら気付けていない。
そもそも、言葉も届いていないだろう。
今の彼女は、体を襲った衝撃に対し生理的な反応を返したに過ぎない。


あなたは思わず自らの指に、噛み千切らんばかりの力を籠めて噛み付いた。

これでは駄目だ。
まともな会話など、成立させようが無い。

ミニアに宣誓のスクロールを用いていなかった事を、心底悔やむ。
もし宣誓の魔法の影響下にあったならば、無理にでも言葉を搾り出させる事も出来ただろう。
誓約を強制的に遵守させる力が、ミニアの状態を無視して行動を強要したはずだ。

しかし、今はどうしようも無い。
ミニアから情報を得る事は、諦めるしかない。



>>↓1  どうする?


ミニアでは無理。
ならば、もう一人の当事者はどうか。

素早く判断を切り替え、あなたは倒れる少年へと駆け寄った。

本来、精神を砕かれた者は複雑な行動は行えない。
簡単な命令に従うだけが限度であり、過去を振り返り他者へ伝えるなど不可能だ。
だが、今ならば可能性は有る。
何故か心を修復しつつある今ならば、その時の光景を描き出す程度は起こし得るかも知れない。

あなたは少年を無理矢理立たせ、ついてくるようにと命令する。
それに、少年は静かに従った。
どこも見て居ない瞳であなたの背を負い、部屋を出る。

ただ、その間際。
彼が寝台を一度振り返った事を、あなたは確かに知覚していた。


果たして、あなたの目論見は功を奏した。

複雑な動作など望めないはずの少年は、見事に一枚の絵を描き上げた。
無論、それはまさしく子供の落書きそのものだ。
まともな技量など欠片も無く、酷く読み取り難い物ではある。
それでも、あなたにとっては重要な手がかりと言えた。

稚拙な絵には、二人の人物が描かれている。

一人、椅子に座るのは少年だろう。
手足を投げ出し、力無く項垂れている。
異常の無い、当たり前の姿だ。

だがもう一人。
少年の手を握り跪くミニアは、一体何をしているのか。

何をするでも無く、ただ祈るような姿。
治療とはとても言えない。
祈るだけで砕けた物が戻るなど、有り得るはずも無い。


『これが、何だと言うんだ。
 何があったんだ……?』


だから、あなたの口から言葉が漏れたのも仕方が無い事だろう。

未だ乱れる心のまま、困惑が零れ落ちる。
それは何かを意図しての事では無い。
たが、それこそがあなたに福音を齎した。


「…………あなたの、こえに、こたえます」


ひゅっ、と。
あなたの喉が異常な音を立てた。

声の主は、少年。
彼はついに言葉までも取り戻し、あなたの疑問に答えるに至った。


凍り付こうとする心身を、あなたは懸命に動かした。

言葉を発した。
異常に過ぎるが、しかしそれだけだ。
心を砕いた報復に動いた訳では無く、また例え彼が刃物を振り上げたとしてもあなたに痛痒を与える事も出来まい。

落ち着け。
落ち着いて、聞き出せば良い。
言語を操る事が可能だというなら、それは好材料でしか有り得ない。
あなたは自身に言い聞かせ、少年に言葉の先を促す。


「…………あなたの、こえに、こたえます。
 なげき、ならば、このむねに。
 ともに、いだいて……きえましょう」


そうして始まったのは……魔法の詠唱、そのものであった。


それは、聞き覚えの無い詠唱だった。

だが、詠唱の主は分かる。
絵の中の人物は二人、少年とミニアのみ。
必然的に、ミニアの魔法となる事は疑い無い。

その考えは、更に続いた詠唱の文言によって肯定される。

詠唱は、魔法が持つ力を何よりも明確に物語る。
組み替える程度ならば可能だが、完全に偽る事は不可能だ。
だから、あなたはその魔法の名と効果を、最後まで聞かずとも理解できた。


名は《犠牲》
その効果は、己が身を犠牲とした、願いの成就。


それはきっと、他に類を見ない程に強力な魔法なのだろう。
未だかつて、薬を生み出した本人ですら回復不能と断じた、精神破壊を癒す程に。


『……は、はは』


言葉が漏れる。
溢れる感情の制御など、まるで不可能。
あなたの喉はひたすらに、掠れた音を奏で続ける。


『はは、ははは!
 くは、はははははははは!!』


それは哄笑。
最早何もかもがたまらなかった。
止める手段は無く、そもそも止める気が微塵も沸かない。


ミニアの犠牲は、少年を癒した。
不可逆のはずの心を、確かにこうして修復した。

ならば、同じく不可逆の現象を覆す事も、きっと可能に違いない。


そう、例えば―――老いによる死を迎えようとする老婆の、延命であっても。


(あぁ、最高だ!
 最高の弟子だよ、あんたは!
 なんて、なんて都合の良い女なんだい!)


犠牲の詠唱は、以前の実験の際とは異なっていた。
以前の物は、もっと曖昧で無難な、どうとも取れる文言であった。
それはつまり、ミニアが魔法の正体を隠そうとした可能性を意味する。

だが、それがどうしたというのか。

たかが小娘一人の浅知恵である。
あなたにとって暴く事は容易だろう。
如何様にも調理は可能に違いない。


(ミニア、死ね。
 あたしのために、死ね!
 永遠を目指す礎に、まさしく犠牲になるがいい!!)


あなたの笑みは、長く長く続く。

その様を。
この世のあらゆる悪意を煮詰めたような老婆を。
壊れかけの少年だけが見詰めていた。





【円環暦612年 冬 固定イベント 『犠牲の羊』 完了】

それにしてもこの>>1、ノリノリである


ちょっと早いですが、キリ良く終わってしまったのでこの辺で。
ミニアはこの後あなたが全力で看病して持ち直します。
お付き合いありがとうございました。
また明日。


>>511
実を言うと愉悦が最大化するルートがほぼ潰えてしまっているので、むしろションボリしています。


今晩は20時30分~21時位の開始になります。
よろしくお願いします。


【円環暦612年 冬】


「あの……ただいま、戻りました」

『あぁ、おかえり。
 ……じゃあ、そこに座りな。
 何の話かは分かるだろう』


数日後、あなたの献身的な看護の末に、ミニアは回復した。

あなたが治した、という訳では勿論無い。
肉体の異常たる病ならばともかく、魔法を用いた際の正常な代償をどうこうするなど、誰にも出来ない。
犠牲の魔法が満足するだけの責め苦が続く間、ミニアに水分と栄養を与えただけの事だ。

ともあれ、回復の後、一日様子を見てからミニアはサナトリウムへ向かった。
バスクとの約定の件である。
肺病の予後検査を行い、今ちょうど帰ってきた所だ。

結果は聞く必要も無いだろう。
あなたと同じ位階にある医師など、少なくともこの国には存在しない。

露見の可能性は無く、それよりも重要な案件があった。


あなたの怒り……表面上そう装っている物を、ミニアは敏感に読み取っていた。
おずおずと、それこそ弟子に来たばかりの頃のような態度で、あなたの対面へと座る。
そんな彼女へ、あなたは厳しい声色で言葉を投げかける。


『あの子から聞いたよ。
 たどたどしい言葉だったけど、あんたが何をしたかは良く分かってる』


これより始まるのは説教である。

ミニアが操る犠牲の魔法。
これは寿命が迫るあなたにとって最上の救いであり、決して逃せない蜘蛛の糸だ。
故に、無駄な使用は禁じなければならない。
あなたを救う前に万一ミニアが死ぬような事があれば、後悔と絶望は計り知れない物になるだろう。


『あんたの魔法が、あれほどとんでもない代物だなんてね。
 しかもそれを隠して勝手に使うか。
 ……何を考えているんだい、ミニア』


また、同時にこれは布石でもある。

魔法に必要な要素は、三つ。
大気中を漂う魔力。
魔力へと命令を伝える詠唱。
詠唱に明確な意味を乗せる確かな意思。

この内、意思こそが魔法の根幹を為す。
起こす現象の結果を正確に描けなければ、魔法は効果の大半を失ってしまう。

つまり、延命を確実に行うには、ミニアが心からあなたの救済を願う必要がある。
強制してはならない。
自発的に命を捧げても良いと決意するだけの物をミニアに刻み込むための、一手だ。


顔を青褪めて俯くミニアを、あなたは更に責める。


『あの子を救いたかった、あんたの気持ちは分かる。
 だがね、それは魔法に頼る必要があったのか、良く考えな。
 あの子の治療は、ゆっくりと時間を掛けても良かったはずだ。
 代償に支払った物と、果たして釣り合っているのかどうか、あんたは自信をもって言えるかい?』


無論、少年を癒すにはミニアの魔法以外では不可能だったろう。
しかし、ミニアはそれを知る由も無い。


『あんたは、これから幾つもの命を救うだろう。
 あたしが、あんたをそういう者にする。
 誰に対しても尊いと胸を張れる、価値ある人間にする。

 ……だがね。
 あんた、その目で、救う命に漏れが出ないと誓えるか?』


あなたは静かに手を上げ、ミニアの右眼を示す。
そこには、白い包帯が顔の三分の一ほど覆い隠していた。


ミニアの高熱は、最終的に右眼へと収束した。
肉体の大半は平熱のまま、焼けるような熱がそこだけに集中したのだ。

焼けるような、という言葉は決して比喩では無い。
ミニアの顔は正しく内側から焼かれ、醜く爛れてしまっている。
中心たる眼球は完全に白濁化し、一切の機能を残していない。

左眼は無事に残っているが、視覚に与える影響は甚大に過ぎる。


ミニアは何の反論も出来ない。
唇を固く結んで、涙を零す寸前の表情で震えるのみ。

そこにあなたは、確かに後悔と自責を見て取った。

ならば良し。
新たな楔が確かに根を張った事さえ分かれば、これ以上続ける意味は無い。


「あっ……」


立ち上がったあなたに抱き締められ、ミニアは声を上げた。
焼け爛れた右眼にあなたの手が添えられる。

最後の仕上げ。
そこに、ミニアが求めて止まない物を注ぎ込む。


『それにね、ミニア。
 あたしがどれだけ心配したと思うんだい。

 あんたは、あたしの初めての弟子だ。
 これまでずっと、あたしは一人で過ごしてきたんだよ。
 ……もう、そんな暮らしには戻りたくない。

 あたしには、あんたが必要なんだ』


その劇毒に、ミニアが抗える理由は無い。


「……っ。
 ごめん、なさい。

 ごめんなさい、先生……!」


ついに堰は崩れ、左眼からは涙が零れ落ちる。
あなたに縋り付く両腕は、まるで万力のようだった。



こうして、布石は打たれた。
最早、ミニアがあなたから逃れる術は無い。

胸にミニアを抱いたまま、あなたの口元は醜く歪められた。



////////////////////////////

※ システムメッセージ ※

エンディングフラグが設置されました。
最短で次回固定イベント後、エンディングに入ります。

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【円環暦612年 冬 1/3】


最後の楔を打ち込んだ日より、幾らか経った。

ミニアは分かりやすくあなたへの依存を深めている。
止むを得ない事情さえ無ければ常に共に居ようとし、あなたのための家事にも一層熱が入っている。

あなたがすべき事は、もう何も無い。
このままの日常を維持し、来たるべき日を迎えれば良い。
強いて言うならば、日常の崩壊を招きかねない物の排除さえ行えば十分だ。

分かりやすい物で言うならば……。


「…………」


あなたの元へ茶を運んできた、壊れた少年が良い例だろう。

彼の回復は日毎に進んでいる。
こうして家事の手伝い程度ならば自発的に行い、時には意味ある言葉を漏らす事もある。

もし、元通りの精神を取り戻し、かつあなたの所業に気付いていたならば。
彼が崩壊の引き金となる可能性は、確かにある。


とはいえ、それは確実に起こると言う程の脅威でも無い。
壊れきった精神で全てを記憶するなど考え難い事であるし、一人の少年の言葉ごときで今のミニアが揺れるかと言うと少々怪しい。

また、修復が終わるにはまだ時間もかかるだろう。
あなたの見立てでは一季節、春までの時を必要とするはずだ。
十分な猶予は残されている。

詰まる所、今日何をするかはあなたの自由だ。



>>↓1  今日はどうする?


セリアンスロープ……あっ(白目)


あ、大した事じゃないです。
余裕で生き残れると思ってた子が死ぬかも知れないだけなので。


ミニアの元へ帰る少年の背を眺めながら、あなたは考えた。

別に、無理に排除する必要は無いのではなかろうか。
折角手元に置く事に成功した個体だ。
このまま手駒としてしまうのも、一つの手である。

ミニアのように篭絡しても良い。
いっそ、再び壊しても構わないのだ。
魔法が不完全だったのかも知れないと説けば、ミニアも疑うまい。


(とすれば、今のままじゃ使いにくいね。
 少し手を加えてやるか。

 第一候補は、やはりセリアンスロープ。
 連中の体なら不足は無い。
 ミーニア混ざりを選べば、外見にも違和感は出ないだろう。

 ……あぁ、そういえば、丁度良いのが居たね)


「はーい、お待たせしましたー!
 逆飛び亭名物、竜魚の姿焼きでーす!
 じゃ、ゆっくりしてってねお婆ちゃん!」


騒がしい給仕があなたのテーブルへと皿を置き、元気良く去っていく。

丁度昼時、店は一番忙しい頃合だ。
給仕の少女に暇は僅かも無く、忙しく店内を走り回っている。

その姿を、料理を口に運びながらも目で追う者が居る。
……正確には、者達が居る、となる。
店内の男性客のおよそ九割だ。

目当ては彼女の大きすぎる胸である。
しっかりと締め付けておらず、動きに合わせて跳ね回るそれは余りにも目を引くのだろう。

竜魚の逆飛び亭における日常風景であった。


あなたは、以前より彼女を苦々しく思っていた。

声が大きく馴れ馴れしい。
動きに無駄が多く雑。
店に充満する劣情が鬱陶しい。

竜魚の味は控えめに言っても極上だというのに、彼女だけが邪魔であると。

故に、あなたは彼女に目を付けた。
頭に角と耳が生えているが、それ以外の外見は相当混血が進んでいるらしくミーニアと殆ど変わりない。
体格も胸と釣り合わず小柄で、少年のために使える部位は多そうだ。

何より、角と耳が水牛と言うのが良い。
牛交じりのセリアンスロープは総じて力と体力に優れる。
まさしく少年に不足している物だ。

彼女を捕らえる事が出来れば、大きな収穫だろう。
そして何より、以降のこの店での食事が快適となるというのが捨て難い。


(さて、とすれば必要な条件があるね。
 こいつが消えても不自然じゃあ無い状況を、どうにか作ってやらないといけない。

 運に任せても良いけど、さてどうするか)



>>↓1  どうする?


……店ごと潰す。
あなたの脳裡に浮かんだのは、そんなアイデアだった。

何らかの事故に見せかけて建物を崩壊させ、湖に沈めるのだ。
この店舗は他の例に漏れず、船のような構造をしている。
入り口を崩して塞いでおき、床に大穴でも開ければ沈没させる事も可能だろう。

女は別に、店に残しておく必要は無い。
事前に殺しておいて、店に居たと思わせれば良い。


(やたら大味だが、かえって良いかも知れないね。
 女一人のために店を壊すなんて、誰も考えないだろう。
 やるだけやってみるかい)


手段は決まった。

竜魚を平らげたあなたは店を出る。
やる事がやる事だけに、大仕事となるだろう。
準備は十分に、そして慎重に整えねばならない。


すみません。
やっぱり>>548は無かった事にして下さい。


……店ごと潰す。
あなたの脳裡に浮かんだのは、そんなアイデアだった。

何らかの事故に見せかけて建物を崩壊させ、湖に沈めるのだ。
この店舗は他の例に漏れず、船のような構造をしている。
建物の大部分を損傷させれば、沈没させる事も可能だろう。


(やたら大味だが、かえって良いかも知れないね。
 女一人のために店を壊すなんて、誰も考えないだろう。
 やるだけやってみるかい。

 使うのは……火が良いか)


あなたの目が、隣のテーブルへと向けられる。
置かれているのは、こんがりと揚げられた竜魚だった。
この店では焼くばかりでは無く、このように大量の油を用いた料理もある。
勿論、油壺の備蓄は決して少なくない。
カウンターの内側、調理場となっている付近には、確かにそれらしき物がいくつか見て取れる。

更に、掃除も担当しているのだろう給仕は、仕事が雑だ。
テーブルへと指を這わせれば、ほんの僅かだがぬめりがある事には当然気付けるだろう。
大衆食堂ではありがちだが、幾らかの油が残り、染み込んでいるのだ。

条件は整っている。
後はあなたが何度か通い、仕込みを済ませれば良い。
周囲は水だらけだが、それを上回るだけの勢いを持たせてやれば問題にはならない。


飲食店の不慮の最期とは、古今東西火事と相場が決まっている。
怪しまれる事は、そうそうあるまい。


「いらっしゃーい!
 あ、お婆ちゃん今日も来たんだ!
 どうどう?
 店長の味、盗めそう?」


相も変わらず騒がしい給仕に案内され、あなたはカウンターへと座った。

この数週間、あなたは数日に一度店へと通っていた。
その何度目かに、カウンターへ優先的に座らせて欲しいと頼み込んでいる。

同居している孫同然の弟子に美味しい料理を振舞いたい。
教えてくれとは言わない。
ただ、是非近くで見せて欲しい。
そう言えば、ニヤリと笑った店主は盗めるならいかようにも、と快諾してくれたのだ。

その自信が、自負が、まさしく命取りであるとも気付かずに。


これまで、あなたは幾つもの種を仕込んできた。
芽吹くのは今日。
苦労させられたが、収穫を終えれば良い仕事であったと振り返る事も出来るだろう。

なお、苦労の内最大の物は、日々の献立である。
己の言葉と行動に齟齬があっては、万一の際に疑いが向けられる事も有り得る。
致し方無く食卓に魚を上げる頻度は増えに増え、今では少々飽きが来てすら居る。


よって、注文の品が届くまでを待つつもりは、あなたには無い。
衣服の袖口より取り出した物を、あなたは手中に隠し持つ。

重要なのはタイミングだ。
もし現場を目撃されれば、事の後には疑いの目はあなたに向く。
ミニアの収穫までは後少しなのだ。
このような些事から瑕疵が生まれるなど、あってはならない。

……ただ、この店においてそれは実に容易である。

何せ、人目を惹き付ける物が店内を動き回っている。
わざわざただの老婆に注目する者など無く、給仕の胸を追わない者も大半が手元の料理に夢中だ。


好機はあっさりと見つかり。
そしてあなたは手中のそれを、指先で強く弾き飛ばした。



>>↓1 コンマ判定 【指弾の命中】

器用 10

目標値 10


※ 確定成功 / クリティカルでのみ結果変動


【指弾の命中】

目標値 10

出目 10

通常成功


あなたが打ち放った物は、狙い違わず炎の中へ飛び込んだ。

店主の手元。
注文した揚げ物を熱する浅く丸い鍋の下へである。

打ち込んだのは、粉状にした鉱石を丸め固めた物だ。
今は黒く濁ったそれは、元は七色に姿を変える奇妙な石であった。
南の山脈地帯では有り触れすぎ、脆く、容易く変色して美しさを失うために、全く価値を持っていない。

秋の降臨祭にてミニアに買い与えたアクセサリーから僅かに削った、そんな鉱石には一つの性質がある。


「うぉっ!?」


店主が突如悲鳴を上げる。

一部始終を見ていたあなたには、勿論良く分かっている。
炎を纏った鉱石が鋭く弾け、周囲に火をばら撒いたのだ。
単体では人を痛みと熱で驚かせるだけが精々だが、この場合はそれで十分。

彼の手にある鍋が、驚愕によって僅かに動いたと取れれば、それだけで全ては終わる。


悲鳴に続いたのは、火柱だ。
鍋を熱していた炎が周囲に飛び火したように広がり、凄まじい勢いで延焼を始める。

種は二つ。
鉱石粉と共に仕込んでおいた少量の油。
そして、通う毎に僅かずつ、鉱石を弾いたと同様の手法で撒いた火竜の糞。
火竜の糞は、良く燃えるのだ。
専用に精製された物には遥かに劣るが、即席の火薬として扱う事も出来なくは無い。

鉱石粉は、油を纏って燃えたまま弾けた。
それが火竜の糞に燃え移り、あっさりと消えるはずの火種を災禍へと変えていく。


事実を知らない者から見れば、この光景がどう見えるか。

店主が油を零し、それに炎が移り、燃え広がった。
そうとしか見えないはずである。


調理場は瞬く間に炎上した。

店主が水だの何だのと喚いているが、そんな物でどうにかなるような事態では既に無い。
炎は勢いを止めず、店内を舐めるように広がる。
当然の事だ。
調理場内に火薬を敷き詰めたあなたが、他の場所に撒いていない訳が無い。

美味い食事と美人の給仕に緩んでいた空気は、粉微塵に吹き飛んだ。
迫り来る炎によって、店内は完全なパニック状態へと変貌する。

店一杯に居た客は、誰もが先を争って逃げ始める。
狭い入り口へと殺到し、他者を押し退けてでも己は助かろうと拳さえ振るわれる始末だ。
実に都合の良い混乱振りだ。
あなたが事を為すに、これ程整った環境もそうそう無い。


逃げ惑う客の一人が、集団に紛れていたあなたの背を押す。
それが好機である。

位置取りは既に良し。
手が届く距離に、標的の女は存在する。



>>↓1 コンマ判定 【組み付き】

基準値 5

敏捷 7 (あなた)
混乱 2 (給仕)

敏捷 -5 (給仕)

目標値 9


【組み付き】

目標値 9

出目 7

成功!


背を押された老婆が体勢を崩し、給仕の女と幾つかの椅子を巻き込んで倒れた。
それを助ける者は無く、立ち上がろうともがく間に……ついに入り口までの道も燃え上がった。

あなたと標的をぐるりと囲むように炎は円を描いている。
……詰みである。
最早、給仕が助かる術は無い。


(というか、まぁ何だ。
 もう半分死んでるんだけどねぇ)


老婆に押し倒されただけ。
ただそれだけで、水牛のセリアンスロープが動けなくなる訳が無い。
とっくに逃げ出していて良いはずの彼女が、未だここに居る理由は単純だ。


彼女の瞳は大きく見開かれ、大粒の涙を零していた。
半開きとなった口元を覗いたならば、だらりと伸びる舌が見えるだろう。
手足はと言えばあらゆる力が失われ、無様に投げ出されるのみ。

大きな肉をぶら下げる胸部だけは僅かに震え、呼吸を試みようという努力を感じさせる。
それが実を結ぶ可能性など、どこにも有り得ないのだが。

そんな彼女の様は、いつかあなたがミニアへ語った、蜥蜴の毒を投与された者の死に様と、まさしく瓜二つであった。


その後、あなたは崩れる店と共に水中に没した。

無事だった理由は魔法である。
《反発》で炎や煙を弾き、沈んだ後は魔法を微調整し『水中に立つ』事で、何の問題も無く徒歩での帰宅を遂げたのだ。

全ての処理を済ませてから、幾らか水を飲んだ状態で店の近くを水死体のように漂えば、発見救助されたあなたは無事に被害者の一人と扱われた。



こうして、あなたはセリアンスロープの肉体を手に入れた。
保存のための術もあり、しばらくは使えるだろう。
十分な成果だと、あなたは笑おうとして。


(いや、待て待て。
 良く考えたら、こりゃ最悪じゃあないかい。
 ……あの店主がもう一度店を開く保証なんて、どこにも無いじゃないか!)


後悔から頭を抱えた。

なんという事だろうか。
給仕を排除出来たとしても、あの料理が無くなったのでは収支は大きくマイナスである。

未だ瑞々しい死体を前に、あなたの深い深い溜め息は、随分と長く零された。


\スゴイ=ナンザン!/


寝ます。
おやすみなさい。
また明日。


人体改造部分は別の日に再指定して下さい。
拉致と改造は別々の行動になるので、一行動に両方詰め込むのは不可という事にしておきます。


■ あなたのステータス


【95歳 女性】


【種族 : ドライアド】

森の中に隠れ潜む種族。
樹皮に似た皮膚と、葉のような髪が特徴的。
魔力との親和性や精神力に優れるが、鈍感で、体力に劣る。

【種族能力 : 森の隣人】

人よりも精霊に近い彼らは、最も親しい隣人たる植物達とも言葉を交わす。
植物との対話が可能になる。


【筋力】 3
【耐久】 7
【器用】 10
【敏捷】 7
【感覚】 2
【意思】 8
【魔力】 4
【幸運】 4


【出身地 : クラッカ】

【現在地 : シアラ・ミニア】



◆ 習得魔法

【種火】
掌に収まる程度の小さな炎を発生させる。

【清水】
両手で作った器に収まる程度の少量の水を召喚する。

【微風】
頬を優しく撫でる程度の僅かな風を発生させる。

【土塊】
拳程度の大きさを限度とする少量の土を召喚する。

【放浪】
自身の管理下に置いた魔力、魔法、物品、などを意思ある生物のように振舞わせる。
対象は自由意志の下、無軌道に放浪する。
魔力の能力値が不足しているため、生物には使用出来ない。
効果時間はおよそ半日。

【反発】
反発力を発生させる。
通常は魔力、魔法、物品などに作用するが、あなたの精神性との合致により、僅かながら精神にも作用する。
生物に使用した場合、対象への接触に忌避感が生じる。
効果時間はおよそ半日。


◆ キーワード

【倫理観皆無】
【マッドサイエンティスト】
【国際指名手配】
【孤独】
【後進の指導】


■ ミニア(弟子)のステータス


【12歳 女性】


【種族 : 魔獣 / 無自覚】

ミーニアから変異した人造の魔獣。
魔力と融合した影響により、筋力と魔力に大幅なボーナスが与えられる。


【種族能力 : 忍び寄る狂気】

魔獣の体は、常に狂気を育む疼痛に苛まれている。
季節毎に発狂抵抗判定を行い、失敗すると狂気レベルが上昇し、意思の能力値を幾らか失う。
狂気レベルが一定以上になるか、意思が1未満になると通常の魔獣と同様の行動を取るようになる。
発狂抵抗判定は、回数を重ねる度に難度が上昇していく。

この能力は、痛みを軽減、あるいは無効化する事で抑制する事が出来る。


【筋力】 8
【耐久】 6
【器用】 4
【敏捷】 3
【感覚】 5
【意思】 2
【魔力】 8
【幸運】 1


【出身地 : クァレヴァレ】

【現在地 : シアラ・ミニア】



◆ 習得魔法

【種火】
掌に収まる程度の小さな炎を発生させる。

【清水】
両手で作った器に収まる程度の少量の水を召喚する。

【微風】
頬を優しく撫でる程度の僅かな風を発生させる。

【土塊】
拳程度の大きさを限度とする少量の土を召喚する。

【断絶】
任意の位置に、空間の切れ目を設置する。
接触した対象は【基礎攻撃力 : 4】の斬撃属性のダメージを負う。
また、任意の対象に接触して行使する事で、以降の積極的接触を忌避させる精神誘導が可能。

【無為】
発生した後の魔法を強制的に無力化する。
ただし、自身と対象の魔力の能力値を用いた対抗判定に成功する必要がある。
また、物体に対し使用する事で、対象の物体が持つ影響力を極限まで低減させる事が出来る。
こちらの効果はおよそ一日で効果を失う。

【犠牲】
己の身を犠牲として願いを叶える規格外の魔法。
願いの規模に応じた代償が自動選定され、犠牲となった物は永久に失われる。


◆ その他の情報

【右眼球白濁化】
右眼の視力が失われている。
視覚を用いた感覚判定に不利な補正。


■ 所持品一覧


◆ 35500 Casa ←NEW(AUTO)

共通交易通貨。
カダスティア大陸において、使用出来ない都市はほぼ存在しない。


◆ 《宣誓》のスクロール x1

使い捨てのマジックスクロール。
《宣誓》の魔法が封じられている。
証文に書き込んだ内容を、他者と己に遵守させる事が出来る。


◆ ペインキラー x1 ←USED(AUTO)

あなたが生み出した、痛覚を完全に麻痺させる薬品。
痛覚以外には一切の効果が無く、副作用や中毒性などは存在しない。
効果時間はおよそ半日。

※ バスクが用意した素材を用いて、制限無く精製可能 ※


◆ ゾンビパウダー x1

あなたが生み出した、人間の精神を粉砕する薬品。
服用者は他者の命令に従うだけの人形となる。
魔術との併用により、あなた以外の命令をある程度弾く事も可能。
一度服用すると二度と回復させられない。

※ バスクが用意した素材を用いて、制限無く精製可能 ※


◆ トゥルーブラッド x4

あなたが生み出した、万人に適合する万能血液。
人体改造を行う場合、このアイテムが不足していると対象が死亡する場合がある。

※ バスクが用意した素材を用いて、制限無く精製可能 ※


今晩は20時30分~21時位の開始になります。
よろしくお願いします。


数日後、あなたの後悔は既に消え失せていた。

時間の経過が主たる理由だが、大きな物がもう一つある。
店主が死んだのである。
獄中の壁に頭を打ち付けての、自殺であったそうだ。

話によれば、彼は給仕の女と恋仲であったという。
店主は中年の男であり、女はまだ年若い娘。
やっかみや嫉妬から来るトラブルも多かったらしいが、それでも随分と上手く行っていたようだ。

しかし、今回の火事で彼女は帰らぬ人となった。

店主にとってはまさしく心を引き裂く程だったはずだ。
誰よりも愛しい恋人を、己の不注意で殺したのだ。
それも、焼死という苦痛を伴う死に様で。

勿論真相は異なり、彼女の死はあなたの悪意による物だが、店主が知り得る理由は無い。


(なんて心の弱い男だい。
 女の一人死んだ程度でくだばるなんてねぇ。
 ま、巡り合わせか。
 あたしがコイツに目を付けた時点で、手段どうこう関係無く、店主の死も決まってたって事だね)


『あんたもそう思うだろう?』


そんな言葉と共に、あなたは大壺の中を覗き込む。

そこには……分解されきった元セリアンスロープが、液体の中を泳いでいた。

海蛇のように、ゆらゆらとうねる腸。
昆虫の脚を思わせる動作で指を蠢かせ、壺の底を這い回る腕。
二つセットで寄り添って、身を摺り合わせているのはどうやら肺だ。

あなたの魔法、《放浪》によって擬似的な命を与えられた、人体のパーツ達である。


《放浪》は、生命に対しては何の効果も持たない。
だが、既にただの物体と化した元生命には、こうして通常の効果を発揮するのだ。

命を与えられた物達は、魔法の続く限り一個の生命として己の維持を行う。
専用の保存液で満たした壺に生きたパーツを保管する事は、あなたが慣れ親しんだ常套の手段だった。


ただ、この方法には二つの制限がある。

パーツ達は己の維持を行うが、それは完全な物では無い。
液から栄養を取り込むにも、効率的な摂取は望めないのだ。
今この時も、彼らは僅かずつ劣化を起こしている。
季節を跨いでしまえば、最早使い物になるまい。

もう一つは、単純に魔法を掛け続ける代償が重過ぎる事。
毎日の朝晩、彼らの《放浪》を更新する度に、あなたの体は何箇所もの麻痺を起こしている。
運が悪ければ、半日程は歩行が困難になる事も、ままある。
女を殺してからの数日は、実に不便な生活を強いられていた。
勿論、他の魔法を扱う余裕は殆ど無い。


【円環暦612年 冬 2/3】


あなたは壺に蓋をし、隠し棚の裏にある、ミニアも知らない隠し部屋を出た。
今日も今日とてしっかりと麻痺を起こした足を引き摺りながらだ。


魔法の連続使用による不都合を解消したいならば、早々に少年の改造を執り行えば良いだろう。
保存しているパーツさえ無くなれば、あなたを苛む物は何も無くなる。

勿論、少年への改造を考え直して廃棄しても良い。
その場合、女が死んだ意味は無くなるが、その程度の無駄は過去にも経験しているはずだ。
人間一人程度の命の重みが、あなたに影響を与える訳が無い。

また、今日の判断を保留し、別の行動を優先するのも、あなたの自由だ。



>>↓1  今日はどうする?


やはり、ここは使ってしまうのが無難だろう。
そう判断したあなたは、早速準備に取り掛かった。


『ミニア、ちょっといいかい?
 悪いけれど、少しお使いを頼みたいんだ』


まず初めに、あなたはミニアの排除を行う。

これからの作業は、あなたの深淵に触れる物である。
ミニアに立ち会わせるべきでは、断じて無い。


輪廻教において、死体の損壊は何よりも罪深い禁忌とされている。
死後の安寧を約束する神の意思に、真っ向から反する物であるのだから当然だ。

もし、余人が大壺の中身を知り、神殿の関係者に話が伝わったならば、その日の内に神殿の私兵が総出で押し寄せるだろう。
無論、あなたの首をその場で落とすためだ。
裁判に掛けるなど有り得ない。
尋問、あるいは拷問ならば可能性はあるが、それも人道を投げ捨てた物になるだろう。


ミニアにそれを見せる理由は、あなたには最早無い。

あなたが《犠牲》の魔法を知らなかったならば、立ち会わせる選択肢もあった。
しかし、ミニアの用途は既に弟子や助手では無く、生贄と定められている。

どうせ殺す物に成長を促すのは無駄であり、それが危険を伴うなら害悪とすら言えるだろう。


そうして次。
大壺のある隠し部屋へ、幾つかの物品を持ち込み、整理する。

肉を切り開くための極小の刃。
骨を寸断するための鋸。
時間経過により肉体に吸収される、縫合用の糸。
失われる血液の代用たる万能血液と、それを体に注ぎ込むための器具もだ。

勿論、他にも細々とした道具類はそれこそ無数に存在する。
それらを慣れ親しんだ配置に並べ終え、半刻程で態勢が整う。


時間は十分にある。
あなたがミニアで頼んだ用事は、相当に時間のかかる物だ。
早くとも夕刻、下手をすれば帰りは日が沈みきった後になる。

今はまだ昼にもなっていない。
全てを終えるには、十分な猶予だ。


最後に運び込まれた道具。
つまりは少年自身を横たわらせ、薬をもって深い深い眠りへ落とす。
そこに《反発》を付与し、余計な雑菌を退ければ、準備の完成である。


■ 名称不明(心を砕かれた少年)のステータス


【10歳 男性】


【種族 : ミーニア】

平均的な能力を持つ種族。
現実世界の人間に良く似る。
取り立てて優れた能力は無いが、劣る部分も存在しない。


【種族能力 : 始祖】

あらゆる人種はミーニアを始祖とすると、カダスティアの神は語る。
対人友好判定に有利な補正を得る。


【筋力】  2
【耐久】  3
【器用】 不明(精神崩壊により、情報取得不能)
【敏捷】 不明(精神崩壊により、情報取得不能)
【感覚】 不明(精神崩壊により、情報取得不能)
【意思】  -
【魔力】 不明(精神崩壊により、情報取得不能)
【幸運】  -


眠る少年を前に、あなたは考えた。
今回の改造では何を重視するべきだろうか。

改造の対象は、未だ十を数えたばかりの少年である。
幾ら小柄とは言え、年が離れた給仕の女では、各パーツの大きさにはそれなりの差が存在する。
全てを置き換えてしまえば、出来の悪い人形じみた異形になりかねない。
当然、少年を目にしたミニアは異常を察知するだろう。
素材を残さず取り込ませる事は、避けなければならない。


材料となる女は、水牛のセリアンスロープだ。
優れるのは、三つ。

単純な筋力。
肉体の頑強さ。
無尽蔵の体力。

考えた末、あなたの判断は……。



>>↓1  どれを重視しますか?


重視するのは筋力で良いだろう。
あなたはそう決めた。

少年は余りにも非力だ。
年齢を考えれば致し方無いのだが、不満を覚える事も多い。
ミニアの怪力程は望めなくとも、日々の雑用に不自由しない程度にはしたい所である。


あなたは早速、壺の中からビチビチと暴れる手足を取り出した。
また、部位毎に細かく分けられた胴体部の筋肉も引き摺り上げる。

セリアンスロープの筋肉は、ミーニアのそれよりも密度が高い。
外見を留めたままの置換であっても十分な効果があるだろう。



>>↓1 コンマ判定 【改造の結果】

器用 10
技能 5

難度 -5

目標値 10

※ この判定は、目標値と出目の差によって結果が変動します。


【改造の結果】

目標値 10

出目 1

クリティカル!!


(こりゃあ最高の出来だ。
 昔作った奴だって、ここまでの手応えは無かった。
 やっぱり精神状態が良いと指まで上手く動くのかねぇ)


あなたの頬は、作業の中程からこちら、延々と緩み通しであった。

かつてない程滑らかに動く指先は、一切のミス……どころか僅かの遅延すら起こさない。
切り開き、抉り出し、置き換え、閉じる。
その全てが完璧以上の出来栄えで進んでいく。


そうして、人体の組み換えは何の問題も無く終了を迎えた。
ミーニアとセリアンスロープを混ぜたのみの初歩的なキメラとしては、驚異的な性能であろう。
平均を大きく上回り、三種混合、あるいは四種混合に迫る勢いだ。

雑用に不便しないどころでは無い。
蘇りかけている精神も併せて考えれば、武器の一つも与えるだけで戦闘用としても機能する可能性がある。


己の業に十分に満足したあなたは、歪んだ喜悦の衝動のまま、眠る少年の頭を撫でた。


■ 名称不明(心を砕かれた少年)のステータス


【10歳 男性】


【種族 : キメラ】

NPC専用種族。
あなたによって改造を受けた、自然界には有り得ない異常個体。
その性質から、同等の能力を持つ同種が存在しない。


【種族能力 : 始祖 / ミーニア】

あらゆる人種はミーニアを始祖とすると、カダスティアの神は語る。
対人友好判定に有利な補正を得る。


【種族能力 : 水牛の血脈 / 劣化 / セリアンスロープ】

獣の特徴を持つ彼らは、外見だけで無く能力も併せ持つ。
筋力および耐久を用いた判定に有利な補正を得、更にスタミナを要求される判定には追加補正を獲得する。
生まれ持った能力では無いための劣化により、補正値が減少している。


【筋力】  7
【耐久】  5
【器用】 不明(精神崩壊により、情報取得不能)
【敏捷】 不明(精神崩壊により、情報取得不能)
【感覚】 不明(精神崩壊により、情報取得不能)
【意思】  -
【魔力】 不明(精神崩壊により、情報取得不能)
【幸運】  -


ここ最近、具合が悪かったのはどうやら感染性の病気であったようだ。
帰ってきたミーニアにそう告げると、彼女は驚いた様子だった。

無論、嘘である。

あなたの不調は魔法の過剰行使が原因であり、病とは一切関係無い。
単に都合が良いからと利用しただけの事だ。


少年は、全身を切り開かれての改造を受けた。
体には生々しい傷が残り、今接触されてはあなたの行いは容易く露呈するだろう。
早急な回復のため、スライム素材から作った薬品で治癒を早めてはいるが、それでも数日は会わせられない。

その間、ミニアと引き離すための理由が必要だったのだ。


『そういう訳だ。
 しばらくはあたしの部屋に置いておくよ。
 治りきるまで、一切の接触を禁じる。
 いいね?』

「は、はい。
 分かりました……。
 ……あの、大丈夫、なんですよね?」

『あぁ、勿論。
 痛みを伴うようなもんじゃ無かったし、命の危険なんざ一つも感じなかったよ。
 患者本人が言うんだから間違いないさ』


不安そうにあなたの部屋の方向を見つめるミニアに、あなたは微笑みかける。
この言葉には何の嘘も含まれていない。
故に、ミニアが確認するようにあなたを見上げても、真実を知る事は決して無い。


『さて、お使いご苦労だったね。
 御褒美、という訳でも無いが、今日はあたしの得意料理を振舞ってやろう。

 ……ちょいと珍しい牛の肉が手に入ったんだ。
 内臓の煮込みなんて、あんた食べた事あるかい?』


だから、何事も無く、その日の夜も平穏に過ぎる。

久しぶりの二人きりの食卓に上った料理の素材が何であるかなど。

少なくとも、あなたにとっては瑣末な事であった。


【円環暦612年 冬 3/3】


それから幾らかの時間が過ぎた。

少年の体は、傷跡すら無く回復した。
取り替えた肉も骨もしっかりと適合し、生まれつきそうであったかのように十全に機能中。

見れば今まさに、増強された筋力でスライムが詰まった甕を抱え上げ、ミニアの調合準備を手伝っている。
突然の強化に関する誤魔化しも、心が回復してきた証拠だろうとの一言で問題無い。


全てが順調。
この世の何もかもが、あなたの背を押している。
そう確信出来る、冬の日だ。


ただ、あなたの心は日毎に苛つきを増して行く。。
もう間も無く、降臨祭以上に輪廻教にとって重要な、とある祭があるのだ。

名を転生祭。
主神たる輪廻の神の御力が民へと降り注ぐ日である。
万民にとって最大の救いに他ならないそれは、しかし唯一あなたにとっては憂鬱事だった。


とはいえ、大した事では無い。
ただ単にあなたの機嫌を損なう出来事が待っているだけ。
気分以外への悪影響は一切無く、ミニアに関する計画が僅かにも揺れる事は有り得ない。
気分転換でもして無視すれば良い、それだけの話。


つまる所、今日のあなたの行動は、自由である。



>>↓1  今日はどうする?


あなたは、この日をいつも通りに過ごす事とした。

ミニアと共に調合に励む。
この家における、当たり前の日常だ。
特別な事など一つも無い。

何度も何度も繰り返したその日々を、今日もまた繰り返す。

それこそが肝要なのだと、あなたは理解している故に。


『いいかい?
 もう一度良ぉく見ておきな。
 こいつの調合にはね、ここのタイミングが肝心なんだよ』


あなたの指導も、普段同様に丁寧な物だ。

お前を大事に育てたいのだ。
後継たるお前に、積み上げた全てを継がせたいのだ。

言葉にせず、しかし態度で雄弁にあなたは語る。


明日は来る。
未来はある。
言葉として発する事すら飽きる程に、あなたが繰り返した当たり前。
その体現に他ならない。


そう、それこそが最後の要。

特別な日。
特別な出来事。

それらを成功させるために必要なのは、そんなちっぽけな日常。





転生祭の夜にミニアを殺すと、今この瞬間誓っていても。

あなたが取るべき行動は、何の変哲も無い平穏の再現なのだ。


///////////////////////////

※ システムメッセージ ※

エンディングを回避、もしくは延期する手段が無くなりました。
次回固定イベントにてエンディング処理が開始されます。

///////////////////////////

まさかの日常コミュが最後のフラグか


キリが良いのでこの辺で。
薬品の獲得判定は、獲得に意味が生じないためスキップされます。
お付き合いありがとうございました。
また明日。


>>614
そういう訳では無いです。
詳細はエンディング後に垂れ流します。

>>1に質問
キャラメイクの際に実はキメラって設定することはできる?


世界樹体験版に夢中になりすぎました。
これから必死こいて書きます。

>>622
可能とします。
ただし、複数の種族能力を獲得する事は出来ません。


【円環暦612年】


動と静。
降臨祭と転生祭を比較するならば、そう一言で表す事が出来る。

前者、降臨祭はあなたも秋に体験した通り、騒がしい祭である。
溢れる程の人々が街を歩き、料理や酒に酔い痴れた。

対して後者。
転生祭は、酷く静かだ。
この日の夜、天より神の救いが降り注ぐ。
それを心穏やかに、愛する者と共に待てと、聖典は教えている。

そのため、昼を過ぎれば街を出歩く者は殆ど居ない。
店舗も早々に店を閉め、街は静寂に包まれるのだ。


「先生、焼き加減はこの位でいいですか?」


あなた達もその例に漏れず、家の中で過ごしていた。

ミニアと二人で竃に向かい、料理を作る。
今晩のメインとなるのは、簡素なパンだ。

小麦を練って焼いただけのそれは、聖母ミニアが生前最後に食べた物だという。
神殿が推奨する転生祭の過ごし方には、夕餉はこれのみとせよとある。
もっとも、余りに味気ないためにある程度は見逃されている。
ただ、熱心な信徒に知られれば眉を顰められるだけだ。


『あぁ、いい具合だ。
 あんたも大分上手くなったね』


あなた達はどうかといえば、模範的と呼んで良い。
三人分のパンを焼き、それだけで竃の火を落とす。

消えていく火を眺め、ミニアは申し訳無さそうに口を開いた。


「ごめんなさい、先生。
 私の我侭で……」


本日の食卓がパンのみとなったのは、ミニアの希望である。
信仰に熱心な様子は見受けられないのだが、何せ始祖の女神と同じ名なのだ。
何かしら思う所があったという事だろう。


『別に構やしないよ。
 食事なんて、極論腹が膨れればそれで良いんだ。
 さ、あったかい内に食べよう。
 もうそんなに時間も無いからね』


食事を終えれば、ちょうど良い時間となった。

向かうのは屋上。
今日ばかりは洗濯物など一つも無いそこに、あなたとミニアは並んで座る。


少年は家の中で留守番となる。
人目につかせる訳には行かない以上、致し方無い。

それをあなたとミニアは残念がったが、理由はそれぞれ異なる。
ミニアは単純に、奇跡を目にさせてやれない事に。
あなたは、自分用の椅子を少年に運ばせられない事にだ。


周囲の家々でも、やはり似たような光景が広がっている。

既に日が沈んでいるために詳しくは見て取れないが、誰もが寄り添い、一言も漏らさず時を待っている。



そうして、奇跡は始まった。


真夜中の空に、太陽が昇る。
それは北の地平から突如生まれ、闇を裂くように尾を引いて天を目指す。

世界は一瞬で照らし出された。
眩い光が地を白く染め、夜という夜は欠片も残さず排除される。
今や影さえ掻き消えた。
地面に目を向けたとして、足の裏ですら白に支配されている事だろう。


その中心たる白光を、誰もが涙を流して見詰めている。

彼らが見ているのは、ただの光では無い。
彼らは記憶を辿っているのだ。
魂に刻まれた記録を遡り、己が前世を垣間見ている。

ある者は記憶の中で空を飛んだ。
別の者は木々と対話し、また火の山を駆け回る日々を見た者も居るだろう。

全ては真実なのだと確信出来る確かさで、民の心を郷愁で満たす。


人は生まれ、死に、生まれ、輪廻を巡り続ける。
北天より注ぐ神の奇跡は、万民にその事実をこうして教えている。


……その様を、あなただけが一人、白けた瞳で眺める。

誰もが酔い、涙を零し、神に祈る中。
唯一何の影響も受けられないあなたは、明確な異物としてそこにある。


あなたは、己の前世を知らない。
神の奇跡が注ぐ夜も、あなたには一切の救いを齎さない。
転生祭の知識も、あくまで聞いた物や読んだ物。
輪廻の実感などそこに伴う訳が無い。


一時期、あなたも救われぬ理由を調べてみた事がある。

勿論、何の手がかりも無く暴ければ苦労などしない。
そもそも前例すら無い事だ。
何も分からないと理解できただけ。
残る手段は神に問い質す位だろうと、あなたは既に諦めている。


(まぁ、そんな事はどうでもいい。
 今はやるべき事をやれば、それで良いんだ)


あなたはそっと、懐から取り出した物を口に含んだ。

仕込みはそれで最後。
誰も彼もが奇跡に魅入る今、見咎める者は誰も居ない。


「……先生。
 私、前は家族がいっぱい居たみたいです。
 凄く、凄く、賑やかな家が見えました」


階段を下りながら、ミニアは語る。

あなたと違い、彼女もどうやら奇跡を与えられたようだ。
寂しげに、けれどどこか楽しげに、垣間見た記憶を振り返る。


「その時の私は、愛されていました。
 家族と衝突したり、傷付けあったりもしてたけど。
 でもそれよりも沢山、笑顔だってあったんです。

 ……あぁ、やだな。
 もう、上手く思い出せないです」


奇跡の力が途絶え、記憶は郷愁だけを残して去る。

だからその前に、と、ミニアは振り返る。


「先生は―――」


どうでしたか。
そう口に出しかけて。





「―――せん、せい?」


階段の半ばに蹲り、口元から血を零す老婆の姿に、その心を殺された。

なんてことだー(棒)


【円環暦613年 春】


奇跡の夜は終わり、日が変わる。
暦は一つ年を増やし、今日この時より新たな円環を描き始めた。

郷愁を抱いた民達は、恐らく今頃ささやかな祝いに興じているのだろう。
垣間見た記憶を語り合い、侘しかった夕食を取り返すように食卓を彩らせるのは、よくある転生祭の風景だ。


……だが勿論、あなた達の元にその平穏は無い。


『もう少し……持つと、思ったんだけどねぇ』


医師を呼びに走らんとするミニアを、あなたは止めた。

この街で最たる腕を持つ医師とは、当然あなたに他ならない。
その自身の見立てで、一つ確かな事がある。
全ては手遅れ。
ただの寿命であり、誰にも救う術は無いと、そう告げて。


何もしなくて良い。
ただ、お前に最期まで傍に居てほしい。

そう乞われたミニアが、どうして抗えるというのか。


『いいかい、ミニア。
 良く聞きな。
 一言だって、聞き漏らすんじゃあないよ』


ミニアが両手で握る己の右手を、あなたは優しく動かす。
力無く、撫でるように震えたそれに、ミニアは顔を上げた。

酷い顔だ。
肺病を患い、明日は来ないとされていた半死人の頃。
その時分の方がまだ生者に近いだろう。


『あんたはもう、一人でだってやっていける。
 バスクに頼って、今まで通りに薬を売るんだ。
 あれは気前の良い男だ。
 暮らしに困るような事には、決してならない』


どうかそうしてくれ。
そう懇願する声色を、しかしミニアは拒否した。

注視してようやく分かる程度に、首を横に振る。


「いや、です」


それはミニアの、最初の反抗だった。
あなたを絶対の師と仰ぎ、無二の母と慕った少女が、血を吐くように声を上げた。


「私は、助手です!
 そんな事出来ません!
 私に出来るのは、先生のお手伝いだけです!」


その声は涙に満ちていた。
掠れ、歪み、聞き取る事さえ難しい。
それでも必死に、願いを伝えるべく叫ぶ。


「先生が居ないと嫌です!
 先生と一緒じゃないと、駄目なんです!

 また……また、一人なんて、生きていられ、ない」


見捨てないで。
一人にしないでと、少女は嘆く。


当たり前の事だ。
少女は孤独に生きてきた。

彼女に寄り添う者は、何も無かった。
虐げられ、見下され、打ち捨てられた。
サナトリウムでの看護など、何の救いにも成り得ない。

それでも、知らなかったから耐えられた。
この世の全てに失望し、もう良いのだと達観出来た。


しかし今。
人の温もりを知った彼女が、そこに帰る術は無い。
凍えるような風の中に、立ち戻るための道は無い。

そう、彼女の救いの始まり。
死を目前にして明日の希望を囁かれたあの日と同じ崖に、彼女は立っている。

なんて感動的な場面なんだ(震え)


『…………あの子は、きっともうすぐ自分を取り戻す。
 そうなったら、良く相談しな。
 親殺しは重い罪だ。
 自分自身をどう裁くか、決して一人で決めさせちゃあいけないよ』


しかし、あなたは続ける。
ミニアが何度首を振っても、あなたの言葉は止まらない。


『服を買う時、安さで選ぶのはやめな。
 自分に似合うかどうか、ちゃんと考えるんだ。

 それから、もう少し気を強く持つんだよ。
 猫なんかに飴を取られて、頭の一つも叩いてやれないようじゃあ駄目だ。

 あんたの舌が辛さに鈍いのも、忘れちゃいけない。
 辛い料理を作る時は、加減しないと誰も食えない代物になるからね』


少女の否定は、最早言葉にならない。

ただあなたに縋り付き、嗚咽を漏らすのみ。


『それから……。
 あぁ、それから、最後に』


震えながら、あなたの手が持ち上げられる。


『……ごめんな、ミニア』


涙に濡れる頬を拭い、消えかけの、最期の温もりを、ミニアに伝えて。


『約束……守れなかった、ねぇ……』


そうして、老婆の力は尽きた。

頬を撫でる手が落ちる。
最早二度と動く事は無いと、そう確信させる儚さで。


それでも、少女は信じていた。

少女は魔女の奇跡に救われた。
ならばきっと、魔女だって奇跡に救われて良いはずだと。
死、などというつまらない終わりは、魔女の手管にかかればなんて事も無いのだと。


「…………どう、して」


しかし、老婆は目覚めない。

温もりは消え、鼓動は止まる。
冷たい死は老婆を覆い隠さんばかり。

奇跡など、決して起こりはしない。


つまり、それは奇跡などでは無い、ただの必然。

少女の確信は違う形で正答となる。

魔女の手管は、死をも退ける。
確かに、その通りだ。


「……あぁ、そうか。
 逆なんだ。

 私が、助けないといけないんだ」


こうして、少女を一つの結論に導いたのだから。


【あなたの声に応えます。
 嘆きならばこの腕に。
 共に抱いて消えましょう】


全てはこの日のためにあったのだ。

少女は、そう確信した。
あらゆる別離も、あらゆる涙も、あらゆる嘆きも。
今日この日、この瞬間に恩師を救うためにこそ与えられた。

故に、少女は全てを認めた。
仕方無い。
これが運命ならば、それで良かったのだ。

そこに、諦めは無い。
ただ、何にも勝る納得と安堵だけに満ちている。


【あなたの心に応えます。
 絶望ならばこの胎に。
 希望を遺して去りましょう】


それは、彼女の最期の魔法。
疎まれ、虐げられ、打ち捨てられた絶望から生れ落ちた、一滴の希望。

等しいだけの代償を以って、あらゆる願いを叶える神の奇跡のその一端。

その力を、少女は初めから理解していた。
理解した上で、恩師にすら隠し通す事を決意した。
きっと、使用を禁じられる。
優しく温かい恩師ならば、絶対に許さないはずだから、と。

たった一度の過ちで、そして最悪の形で、暴かれてはしまったが。


【あなたの願いに応えます。
 渇きならばこの胸に。
 確かに刻んで絶えましょう】


少女は、夢見るようであった一年を振り返る。

何もかもが満たされ続けた日々だった。
求め続けた全てを、与えられ続けた日々だった。


だから、もう良い。
十分な幸福は、涙が零れる程に受け取った。

救われなかったはずの命には、最上の救いが与えられた。
ならば、ここに等しいだけの物を返さなければならない。


【救いはここに、未来はここに、私を糧に芽を伸ばす】


最後の一節を前に、あぁ、と吐息を零す。

そうして、最早顔も思い出せない両親へと、初めての感謝を贈る。

この世へと産み落としてくれた事に。
サナトリウムへ導いてくれた事に。
恩師と出会わせてくれた事に。

そして、その名を贈ってくれた事に。

止めなきゃ(使命感)


【故に、此の名を―――】


それは、古の言葉において、重く深い意味を持つ。

愛されるべき娘。
水底に眠る者。
始祖たる女神。

己が命を代償に、万の民を等しく救う、原初の羊。





【―――《犠牲 / ミニア》と定めます】

(ババアにとっての)感動シーンだぞ

主人公(婆)的にはグッド√だけど物語としてはバッドENDなのがキツい


―――火が爆ぜるような音に、あなたは目を開いた。


目覚めは、控え目に言って天上の如くであった。

これ程の体の軽さは恐らく数十年振りだろう。
あなたは確信し、試しにぐるりと腕を回す。
余りに軽々と風を切ったそれは、勢い余ってあなたの姿勢を崩す程だ。


ただ、そんな最高の気分に水を差す物もある。

音の根源。
寝台の横に崩れ落ち、黒く体を縮めた、とある少女の成れの果て。

うわぁ……(ドン引き)

ひょっとしてこのバーさんグランド√のラスボスじゃねーの


その様に、あなたは目を不快の形へと歪めた。


少年の心を救うために、少女は右眼を支払った。
たかが心一つ。
そのためだけに顔の三分の一を焼いたのだ。

ならば、死を迎えた者を救う代償は如何程か。
それが、今見て通りの有様である。

命を救うならば命を支払え。

それが《犠牲》の魔法が下した決定であったらしい。

ババア(若)


勿論、あなたがその献身を汲む理由など無い。
薬による仮死の不快感から解放された今、あなたには優先すべき事が他にある。

無様に、そして当たり前に命を捧げた少女は、既に使い終えた道具。
つまりは廃棄物に他ならない。
興味など、抱く理由は無いはずだ。


あなたは早々に身支度を整え、人体が焼ける悪臭が満ちる部屋を出る。





ただ、その間際。
あなたは一度だけ振り返り、弟子だった塊を、ほんの僅かに眺めるという気紛れを起こした。


もし、だ。

仮に後世の者があなたの人生を知ったとしよう。
その行いも、内心も、あらゆる全てを理解したとしよう。
そのような者が居るとすれば、彼はきっとこう言うだろう。


"ここが分水嶺であった。
 ここで、気付くべきであったのだ"


あなたは、孤独を友とし生きてきた。

常に一人。
隣に立つ者は、居なかった。
他者の協力を得たとしても、それは脅迫を用いた物。

だから、齟齬を見落とした。
この余りにも大きすぎる陥穽を、想像すらしなかった。


あなたは孤独だった。

孤独だったのだ。


故に、あなたが知る由も無い。

懐に抱いた者へ向けられるべき、当たり前の感情を持ち得る可能性に。


結局、あなたはとうとう気付かなかった。





【円環暦613年 春 固定イベント『盲目の死、盲目の愛』 完了】


【エピローグ】


聖地を擁する湖の国、シアラ・ミニア。
交易に栄える平地の国、クァレヴァレ。

二国の境の関所において、一人の男が暇を持て余していた。
くぁ、と開いた大口から零れるのは、大あくびである。
もう何度目かすら分からない。
彼に分かるのは、今日も今日とて酷く暇という、毎日変わらぬ事実だけ。

関所は、主要な街道からは少々外れた位置にあった。
過去にはそここそが主要路であった時代もあったのだが、諸々の事情から交易路がズレたのだ。
残されたまま、さしたる意味も無く警備が行われているのは、その時代の延長。
もしくは、国家上層部の怠慢と呼び換えても問題は無い。

かくして、男は暇な日々を強制されていた。


しかし、今日この日だけは違った運命があったようだ。

関所の門に凭れ掛かる彼の目に、目を疑う物が飛び込んでくる。
大きな荷を背負い、フードを目深に被った旅人である。

今や廃れ、ろくに使う者の居ない街道に人が現れるなど、そう多くは無い。
月に三度あるかどうか。
先週に二人の連れ立った商人を通したばかりの男にしてみれば、まさに驚くべき事態だ。


とはいえ、歓迎すべき事だと男は背筋を伸ばした。

配属当初は仕事の少なさに喜んだ彼だが、今では真逆。
やる事が無さすぎると、人は仕事でさえ娯楽と感じる物らしい。


彼は旅人を呼び止め、フードを取るように促し。



―――そして、緩みきった心を一瞬で凍り付かせた。


フードの下から現れた顔で、旅人がどういった種族であるかは、一目見てそうと知れる。
樹皮の肌に、木の葉の髪。
余りに明確過ぎる、隠しようの無い特徴だ。
また、髪の大半が瑞々しい新緑を纏っているのを見れば、年齢の推測も容易。

成人前だろう年齢の、目が覚める程に美しい、ドライアドの少女。


そんな彼女を見て、男は何故か一枚の手配書を思い出したのだ。


曰く、百を超える人々の腹を裂いて血を啜り、頭蓋を割って脳髄を貪った。
曰く、老婆の手によって殺された死体は動き出し、不死の尖兵と化して人々を襲った。
曰く、十の槍に貫かれてなお嗤い、襲撃者の喉を食い破った。

最早人間では無く魔物、あるいは伝承に語られる悪鬼の類とまで認定された怪物である。

発見次第、いかなる犠牲を伴ってでも討伐せよ。
かの老婆の手配書は、その一文で締められている。


だが勿論、一切の特徴は合致しない。

葉の形も樹皮の質も違い、年齢など祖母と孫以上の開きがあるだろう。
これを同一人物などと考えるなど、精神の異常を疑われて然るべきだ。

また、検めた荷の中身も異常は無い。
薬師を名乗った少女の言の通り、何の変哲も無い痛み止めなどが見つかっただけ。
入国税もしっかりと払ったとなれば、留める事は出来ない。


門を超え、都市を目指す少女を、男は見送った。

そして、何かに追われるように関所へ駆け込む。
居眠りを決め込んでいた相棒を叩き起こし、文句を言われながらも取り出させた、一枚の手配書。
ドライアドの老婆が描かれたそれを、彼は震えて眺める。


何一つ、合致しない。
似ても似つかないという言葉は、まさに今この時のためにあるのだろう。

だというのに、男の胸には何故か予感があった。

己は今、取り返しの付かない事をした。
決して見落としてはならない物を見落としたのだ、と。


『えぇ、そういう理解で構いません。
 何の価値も無い凡才が、ただの一晩で天才的な魔法使いへと変貌する。
 まさしく奇跡と呼ぶべき、そんな薬なのですよ』


国境を越えたドライアドの少女は数週間後、とある屋敷にて高らかに語っていた。
手には一つの丸薬。
一見何の変哲も無い腹痛止めと見えるそれを、奇跡の薬だと彼女は言う。

一粒飲み込んだ後、一晩の苦しみを耐え抜けば、魔法の才が与えられる。
そんな夢の薬であると、顔中を自尊心に塗れさせて謳い上げる。


『もっとも、話だけでは信用いただけないでしょう。
 何せ前例など有り得ないのですからね。
 この世で私のみが辿り着いた秘奥です。
 余人に暴く事など不可能に違いない。

 一粒だけ、ここに残していきましょう。
 実際の取引はその後、効果を確かに理解されてからで構いませんよ』


そこまで一息で終えて、少女は立ち上がった。
対面に座る屋敷の主が見せる、いかにもつまらなそうな顔などまるで無視して。


屋敷の主。
クァレヴァレきっての魔術の名門、その当主たる男は、疲れたように眉間を揉んだ。

この上ない、無駄な時間であった。
致し方無い事であったとはいえ、何としても追い返すべきであった。
出先で不慮の事故に遭ったそれなりに出来の良い息子の一人を助けた薬師。
その求めに応じて通しはしたが、まさかこれ程に分かりやすい詐欺を働く者であったか、と。

馬鹿馬鹿しいと、当主は首を振った。
薬などと言ってはいたが、丸薬は毒なのだろうと彼は考えた。
飲んでしまえば最後、薬師が調合した解毒剤を飲み続ける必要に迫られる、という手口だ。

これは余りにも愚かな手法だろう。
百度やれば九十九は失敗し、一の成功を引き寄せても先は無い。

解毒剤を真似られれば終わり。
真似られなくとも監禁されれば詰み。
解放しなければ薬を作らないなどと騒いでみても、自発的に作りたくさせる手段は幾らでもある。


ただ、彼は一つの気紛れを起こす。

そういえば屋敷の離れに出来損ないが居たと、息子の内の一人を思い出した。
魔法の才を持たない、ただ居るだけで目障りな廃棄物。
それにこの毒を飲ませるのはどうだろうか、と。

また、貴族を騙し子を殺したとなれば、処刑には十分過ぎる理由となる。

己を舐めた詐欺師と、不用品。
両方を一度に処分するには悪くない選択だ。

詐欺師にはめられたとなれば名に傷が付くだろうが、そこは適当な使用人を見繕えば良い。
息子の非才に同情した愚か者が無断で与えたと偽れば、一切の問題は消えて無くなる。


当主の口元が、ゆるりと歪んだ。


……だが、彼の喜悦は長く続かない。

毒を飲んだはずの非才の子が翌日、魔法を操ってみせたのだ。
それも異常な規模、異常な精度、異常な効果のそれをだ。
恐らくは、当主を僅かに凌駕する領域で。


幾ら否定しようとしても、無駄だった。

薬は本物。
ドライアドの少女は真なる天才であり。
今や魔法は人工的に習得出来る物に引き落とされた。

そこに至れば、彼が出す結論は一つしか無い。


魔術の名門とは、扱う魔法が優れているからこそ名乗る事が許される。
並ぶ者を量産する薬など、決して認められる物では無いのだ。


「……あのドライアドを捕えよ。
 口と頭さえ残れば、他がどうなっていようと構わん。
 捕縛が不可能ならば、確実に殺せ」


素早く子飼いの兵、闇働き専門の者達へ命じた。

いかに天才的な薬師であろうと、精神は余りに愚か。
未成熟な心のままに欲をかいた結果は死であると、当主は断じる。


「所詮は小娘の浅知恵か。
 腕と違い、短慮であってくれた事を感謝すべきなのだろうな」


その日の夜。
とある宿の一室で、奇しくも当主と似た言葉を、少女は発した。


『ま、所詮は若造の浅知恵か。
 地位にそぐわない愚物で、本当に助かるよ』


屋敷での振舞いは演技だったらしく、纏う雰囲気も言葉の色も、まるで一変している。
若々しさに満ちていたはずが、今はまるで枯れ落ちる寸前の老木だ。

室内には、他に五つの人影。
そのいずれもが床に崩れ落ち、血反吐を撒き散らしている。


『しかし、たった五人か。
 あたしも舐められたもんだ。
 ……せめて十人は欲しかったけど、贅沢を言っても始まらない。
 手持ちの札でもまぁ、まだ余裕はありそうだ』


少女は、倒れた者達へと一人一人、粉状の薬を飲ませていく。

それが何かなど、きっと言うまでも無い。
魔女の薬が心を砕くなど、当然の事。
古今東西、どこのお話にも有り触れている。


『さぁて、折角優秀な手駒を持ってきてくれたんだ。
 早速使わせて貰うとしようじゃないか。

 まずはそうだね、御家騒動と行こう。
 虐げられていた出来損ないが、隠し育てた力で反旗を翻す、なんて。
 面白い筋書きだとは思わないかい?』


こうして、毒は放たれる。

最早止める者はどこにも居ない。
唯一の希望は、既に灰となって水底に沈んだ。


戦火を知らず。
飢餓を知らず。
慈悲深き神に祝された、奇跡の中ですら奇跡と呼べる、最たる平和を湛える地。

……そこに今、深く暗い闇が根を張った。

民にも神にも、その侵食を止める術は無い。


出来る事などただ一つ。
闇がいつか死を迎えてくれるよう、頭を垂れて祈る他、何も無いに違いない。





NORMAL END

ババァ黒幕の魔王になったじゃねーか!


■ 使われなかった情報やフラグの供養


◆ あなたを狙う賞金稼ぎ

自由行動時、特定の行動で隠しステータス疑惑値が上昇する。
今回の場合、疑惑値が十分に上がり切らなかったため、彼らは登場出来なかった。


◆ 《宣誓》のスクロール

重要アイテム。
これをどう使うかが鍵……となるはずだった。
多分誰も気に留めてすらない風味。


◆ 不機嫌な黒猫亭

冒険者の中にも、薬学医学を修めた者は少数ながら存在する。
序盤の自由行動で訪問していれば、彼らを弟子とする選択肢も有り得た。
その場合、あなた程では無いものの倫理観に欠け、そこそこの初期能力を持つ、使い勝手の良い弟子となる。
また、バスクとの敵対を選んだ場合、冒険者を通して入手した毒があるかどうかで難度が変わる。


◆ ヒュドールの女看護士

あなたの弟子候補。
初期能力が候補中最高であり、ミニアと並ぶか下手をすれば凌駕する熱意も併せ持つ。
ただし代わりに倫理観も最高。
また、バスクに心酔しているためバスクの情報を多く持つが、彼と敵対すると離反の恐れもある。


◆ 屋敷の家令

特にフラグは無い、ただの一般人。
交友を深めればバスク関連の情報を齎してくれるだけの人。


◆ 竜魚の逆飛び亭

犠牲者ハウス。
ミニアの治療法で人体改造を選んでいれば、水牛ちゃんがさっさと殺されていた。
助かったと思っていたら丸ごと潰されて店主涙目。


◆ クピアの王族

疑惑値が極めて高くなった場合、この国の騎士団が投入されていた。
投入後は真っ当なエンディングルートが丸々潰れ、逃走エンドを目指す他無くなる。
なお、逃走に成功しても寿命によるバッドエンド。
犠牲を使えるミニアが生存さえしていれば、好感度次第ではワンチャンある。


◆ 湖上の糖花(服飾店)

特に大きなフラグは無い。
自由行動でミニアとの外出を選択すれば、行き先の選択肢に上がる。
服を購入する毎にミニアの好感度が上がる上、購入した服を着用する機会が訪れる度に追加好感度を獲得する。


◆ 大通りの屋台

特に大きなフラグは無い。
自由行動でミニアとの外出を選択すれば、行き先の選択肢に上がる。
ミニアが喜び、あなたがミニアに若干絆される程度のイベントが発生する。


◆ 降臨祭

情報収集および好感度稼ぎポイント。
常にミニアと行動したため、ミニア好感度がえらい事になった。
また、このイベントで犠牲者を見繕えば、無判定で複数人を確保出来た。
ただし勿論疑惑値は人数分増加する。


◆ ルミール君

見た通りの小者。
自分を希代の天才画家と錯覚した14歳。
ちょっと拉致って尋問すれば絵画に関する情報をボロボロ零すボーナスアイテム。


◆ バスク

最重要人物。
今周回におけるラスボス……のはずだった。


正体はあなたと並ぶ巨悪。
同じく不死を目的として人々の命を弄んでいる。
輪廻教に対する敵対具合ではあなた以上。

バスクは、あなたと対になる人物としてデザインされている。
人々から隠れ潜み孤独を選んだあなたと、人々に溶け込み支配に走ったバスク。
肉体の側面から不死を目指したあなたと、魂の側面から不滅を目指したバスク、といった具合。


時効となった賞金首とは、バスクの事。
最初の犠牲者である三人の心臓を抉り出し魂の観測に成功したバスクは、他者の魂を用いて老化を停止させる手段に辿り着く。
以降、財と地位を築いた後、効率的かつ秘密裏に魂を収集するサナトリウムを作り、餌場とした。

サナトリウムで命を落とした者は、魔道具である絵画や彫刻を通してバスクに魂を奪われ、転生も叶わず貪り食われる事となる。
(これを踏まえれば、一応あなたはミニアの魂だけは救ったとも言える)


ただし、老化は停止したが不死では無く、更に長すぎる生の時間に敗北した肉体が限界を迎えている。
現在、末端部から体の崩壊が進行しており、肘および膝の先は義肢。
魂を貪り続けても、およそ十年程で死亡すると本人は予測している。
このため、不死に関する研究を行いながら、崩壊を食い止められる者を探していた。

もしあなたの持つ技術に勘付かれた場合、バスクは全能力を用いてあなたを取り込みにかかる。

実の所、ミニアを治療したのはあなたでは無いかと小さな疑惑を持ってはいた。
しかしながら定期検査を承諾したために疑惑が育ちきらず、消極的にあなたを探るに留めてしまった。
結果、今回のエンディングのようにあなたを逃がしてしまう事となる。


なお、バスクと敵対状態に陥った場合、酷い無理ゲー状態になる。
大量の私兵を率いる上に、築き上げた信用信頼を全力運用した冤罪逮捕などの手段も利用する。。
更に本人は魔獣化ミニアをあっさり上回る大陸最高峰の魔法使いでもあり、単独であっても打倒は容易では無い。
実戦経験に乏しい点に上手く付け込めるかどうかが鍵となる。

また、彼は貪った魂から知識を簒奪する手段を確立しているため、取り込みの手応えが悪いと積極的に敵対を選ぶ。
(魔道具の製法もこれにより獲得した)
互いに技術を補いあって二人で不死を目指すルートも有るが、綱渡りを強要される。

>>1に質問
これらのフラグは次の主人公がシアラ・ミニアに来た時に再利用可?

うーむ、こうして見るともっと色々やれる事がいっぱいあって惜しく感じる

バスクが酷いまでに極悪人してた


という訳でノーマルエンドでした。

必要な情報は全部出揃っていたのですが、お婆ちゃんがバスクに全く興味が無かったため利用されず。
そのためにイベントフラグがミニア以外全く進行しないまま終わった感じです。


>>687
わざわざ612年とか書いてたのは、この後何十年か飛ばしたりしたいためです。
次の主人公の時には、今周回のNPCは皆老衰で死んでます。
よって再利用は出来ません。

裏設定の数々すっごい……バスクはやっぱり黒だったかー
関わらない方が正解だったんだな…

>>693
積極的に関わってバスクの全てを奪いさっても良かったんですよ(震え)

この婆さんにおけるトゥルーエンドってなんなのさ>>1

今日はここまで?

それともキャラメイクまでいきますか?

質問っす
改造少年って結局どうなりましたか?

どう見ても真っ黒だったバスク君はやっぱり共存の道があったのね
婆さんと手を組んでたらさらにヤバイのが誕生してたわけだ

ところでNPCは出てこないと言うけどこの婆さんもとい、ロリババアは出てくる余地あるの?


>>696
・あなたがミニア(もしくは他の弟子でも良い)に絆される
・あなたがミニアに絆された状態でバスク戦で死亡する
・バスクを打倒し研究成果を奪う

このどれかでトゥルーに入ります。
上二つは改心ルート。
一番下は体が滅びないバスク二号がどっかの街で生まれて酷い事になります。


>>699
フラグ不足です。
多分どっかの戦闘で捨て駒にされて死んでます。


>>700
少なくとも直接の対面は無い予定です。
関わった瞬間バッドエンドフラグが確定するような子はしまっておきます。


では遅くなっちゃってますけどキャラメイクしようかなと思うのですが、おk?


白い輝きに覆われた世界であった。

天も無く、地も無く、ただ白のみが埋め尽くす無限の空間。

そこに 【あなた】 は亡羊と存在していた。



『――ようこそ、輪廻を巡る魂よ。
 ここは私の胎の内、あなたの全てを定める運命の出発点です』



ふと、どこからか声が響く。

未だ幼さを残す、少女の声だ。
しかし、その音に含まれる気配は決して幼くなど無い。

連想されるべきは母親の抱擁だろう。
優しく、暖かく、声は静かに 【あなた】 へと語りかける。



『私の名はリィン。
 北の果てに眠るもの、原初の揺り籠、魂の観測者。
 様々な呼び名が有りますが、最も馴染み深いものは……そうですね。
 輪廻の神、というものでしょう。

 ……とはいえ、定命の者はここより出れば、全てを忘れるが定め。
 私の事を語る意味はありませんが』



神を名乗る声は、どこか寂しげに言葉を締め 【あなた】 を促す。

見れば、白のみであった世界には、幾つかの色が生まれていた。
様々な色の淡い光を纏う、小さな鏡だ。
鏡面にどこか見覚えのある風景を写しながら、鏡達は 【あなた】 の周囲を廻る。



『それでは、運命をこれより整えてまいりましょう。
 さぁ、あなたが求める物を、選び取るのです』

人が増えてきましたね

やろうぜ


【キャラクターメイキングを開始します】


■ 性別の決定

この世界において性別による大きな差異はありません。
あなたは自由に選択する事が出来ます。


>>↓1  性別を決定して下さい (男女のみ)


あなたは 【男性】 です。



■ 種族の決定

次に、あなたの種族を決定します。
この大陸には八つの種族が存在し、それぞれ能力や特徴に大きな差異があります。

一覧を表示します。



■ ミーニア

平均的な能力を持つ種族。
現実世界の人間に良く似る。
取り立てて優れた能力は無いが、劣る部分も存在しない。

能力値補正無し

◆ 種族能力

【始祖】

あらゆる人種はミーニアを始祖とすると、カダスティアの神は語る。
対人友好判定に有利な補正を得る。

◆ その他の情報

平均身長 170cm
平均寿命 60年



■ ジャイアント

巨大な肉体を持つ種族。
体の大きさ以外はミーニアと良く似る。
膂力、体力に優れるが、のろまかつ不器用で鈍感。

筋力+4 耐久+4 器用-2 感覚-3 敏捷-3

◆ 種族能力

【頑健】

強靭な彼らの肉体は、刃はおろか病毒すらも跳ね除ける。
物理的ダメージを軽減し、毒や病気に対する高い耐性を獲得する。

◆ その他の情報

平均身長 270cm
平均寿命 80年



■ リリパット

小さな体を持つ種族。
体躯に比して大きな足を持つが、それ以外はミーニアに良く似る。
器用さ、感覚、素早さに優れるが、膂力と体力に劣る。

器用+2 感覚+3 敏捷+3 筋力-4 耐久-4

◆ 種族能力

【直感】

小さな物事が生命の危機に直結する彼らは、己に迫る異変を敏感に察知する。
危機感知判定に有利な補正を得る。

◆ その他の情報

平均身長 90cm
平均寿命 40年


■ ドライアド

森の中に隠れ潜む種族。
樹皮に似た皮膚と、葉のような髪が特徴的。
魔力との親和性や精神力に優れるが、鈍感で、体力に劣る。

魔力+3 意思+2 感覚-3 耐久-2

◆ 種族能力

【森の隣人】

人よりも精霊に近い彼らは、最も親しい隣人たる植物達とも言葉を交わす。
植物との対話が可能になる。

◆ その他の情報

平均身長 190cm
平均寿命 100年



■ サラマンドラ

好んで火山に棲む、トカゲに良く似た人型種族。
強固な赤い鱗に覆われた頑強な体を持つ。
身体的能力全般に優れるが、細かい事を考えるのが苦手。

筋力+2 耐久+2 敏捷+2 魔力-3 意思-3

◆ 種族能力

【炎の隣人】

火精霊の寵愛を一身に受ける彼らは、強力な炎の加護を持つ。
火属性ダメージによって回復し、自身の操る炎を強化する。
ただし、寒冷地におけるデメリットが倍化する。

◆ その他の情報

平均身長 150cm
平均寿命 50年



■ ハーピー

大空を舞う種族。
猛禽の翼と爪を持ち、大空を舞う能力を持つ。
敏捷性に極めて優れるが、翼を得た代償に腕を失っているため、極めて不器用。

敏捷+5 器用-5

◆ 種族能力

【風の隣人】

翼を持つ彼らは当然の能力として、自由自在に空を翔る。
翼に損傷が無い限り飛翔が可能となり、空中での姿勢制御に有利な補正を得る。

◆ その他の情報

平均身長 150cm
平均寿命 60年


■ ヒュドール

水の体を持つ種族。
知性ある水とも言える彼らは他種族と大きく異なる生態を持つ。
精神的能力と魔力の親和性に優れるが、身体的能力に乏しい。

意思+4 魔力+3 筋力-2 耐久-5

◆ 種族能力

【水の隣人】

定まった形を持たない彼らは自身の姿を自在に変更出来る。
外見の変更を自由に行える。
また、物理的ダメージを軽減する。
代償として、水の少ない地域では、継続的にダメージを受け続ける。

◆ その他の情報

平均身長 可変
平均寿命 150年



■ セリアンスロープ

獣の特徴を持つ種族。
狼、猫、羊、牛など様々な動物の能力を扱える。
肉体的能力に優れるが、魔力との親和性が殆ど無い。

筋力+2 感覚+2 敏捷+2 魔力-6

◆ 種族能力

【獣の血脈】

獣の特徴を持つ彼らは、外見だけで無く能力も併せ持つ。
選択した獣の種類に応じて、様々な判定に補正を得る。

◆ その他の情報

平均身長 100~190cm(獣の種類によりまちまち)
平均寿命 20~80年(獣の種類によりまちまち)


種族を一つ選択して下さい。


>>↓  【00:28】 以降の書き込みが有効

サラマンドラ


あなたは 【リリパット】 です。



■ 能力値の決定

あなたの様々な能力を示す基礎能力値を決定します。
これはコンマによって判定されます。

0は10として扱われ、1に近い程低く、10に近い程高い能力になります。



>>↓1 十の位 【筋力】 物理的攻撃の威力、重量物の運搬、などに影響
>>↓1 一の位 【耐久】 物理的被害の大きさ、病気や毒物への耐性、などに影響

>>↓2 十の位 【器用】 物品の加工、細かい作業の成功率、などに影響
>>↓2 一の位 【敏捷】 走行速度、軽業の成功率、などに影響

>>↓3 十の位 【感覚】 芸術的センス、直感による危険の予知、五感の鋭さ、などに影響
>>↓3 一の位 【意思】 恐怖や逆境への耐性、一般的に忌避される行為の実行、などに影響

>>↓4 十の位 【魔力】 魔法行使による反動の軽減、使用出来る魔法の数や規模、などに影響
>>↓4 一の位 【幸運】 様々な被害の軽減、不運な出来事の回避、などに影響


あなたの能力値が決定されました。
種族補正は既に適用されています。


【筋力】 1
【耐久】 2
【器用】 3
【敏捷】 10
【感覚】 12
【意思】 5
【魔力】 1
【幸運】 7


■ 年齢の決定

次に、あなたの年齢を決定します。
年齢が高すぎる、もしくは低すぎる場合、行動に制限が発生する場合があります。

リリパットの平均寿命は 【40年】
リリパットの成人年齢は 【10歳】

以上の情報を参考に、決定して下さい。


>>↓1

スピード+感覚特化型

アスリートかな?

器用が種族補正だけの最低値なのか

>>747
ババァも魔翌力は種族補正抜きなら最低値だったし多少はね

箱入りかな

>>750
あれか、屋敷から脱走(物理)を企てる好奇心旺盛なお坊ちゃんか


あなたは 【5歳】 です。
年齢は一桁ですが、リリパットであれば大きな問題は発生しません。
現実世界の人間における14歳程度と考えて結構です。



■ 初期位置の決定


次に、あなたの現在地を決定します。

http://light.dotup.org/uploda/light.dotup.org354192.png

地図情報と>>26-27の国家情報を参考に、初期位置を選択して下さい。


また、リリパットであるあなたは特に制限無く出身地を決定する事が出来ます。
出身地は指定しなくとも構いません(来歴を元に自動決定されます)


>>↓ 【00:40】 以降の書き込みが有効です。


あなたは現在 【クァレヴァレ】 に滞在しています。


■ 性格や来歴の決定

あなたがどのような人間か、これまでどのように生きてきたかを、自由に設定出来ます。
この内容により、保有する知識や得意とする技術が自動決定されます。


※ 注意事項 ※

【内容が長すぎる場合】
【この世界では有り得ない内容である場合】
【年齢や性別から考えて異常な内容である場合】
【能力値との整合性が取れない場合】

などは、こちらの判断で一部が無効化される場合があります。

また、安価範囲内で矛盾が生じた場合、早い者勝ちになります。



>>↓1-3  【00:43】 以降の書き込みが有効

英雄願望


あなたの来歴及び性格が決定されました。


【風になりたい】
【大富豪一族】
【カルト教団のアイドル】
【絶世の美少年】
【布教キャラバン】


(白目)

風になりたい(意味深)


■ 習得魔法の決定

最後に、あなたが行使出来る魔法を決定します。


※ 魔法とは ※

大気中に浮遊する 【魔力】 と呼ばれる元素の操作技術。
操作は主に神代の言語である 【力ある言葉】 と 【明確なイメージ】 によって行われます。
本来人間には許されていない能力のため、行使の度に 【一時的な身体的障害】 が発生します。
障害の度合いは 【起こす現象の規模】 【魔力との親和性(魔力の能力値)】 によって変動します。

魔法によって行える物事に制限は有りません。
ただし、あなたの能力値によっては想定された規模の魔法とはならない場合があります。

例)
魔力の能力値が 【1】 のキャラクターが 【雪崩】 を使用しても、鼠一匹を埋めるのが限度、といった具合。



また、以下の魔法は能力値に関わらず、自動的に習得しています。


【種火】
掌に収まる程度の小さな炎を発生させる。

【清水】
両手で作った器に収まる程度の少量の水を召喚する。

【微風】
頬を優しく撫でる程度の僅かな風を発生させる。

【土塊】
拳程度の大きさを限度とする少量の土を召喚する。



あなたの魔力は 【1】 のため、魔法を 【1つ】 習得できます。
魔法に必要となる 【力ある言葉】 を指定して下さい。

>>↓1  【00:49】 以降の書き込みが有効です。

加速


■ あなたのステータス


リリパット 5歳 男性

【筋力】 1
【耐久】 2
【器用】 3
【敏捷】 10
【感覚】 12
【意思】 5
【魔力】 1
【幸運】 7

出身地 : 調整中

現在地 : クァレヴァレ


◆ 習得魔法

【種火】
掌に収まる程度の小さな炎を発生させる。

【清水】
両手で作った器に収まる程度の少量の水を召喚する。

【微風】
頬を優しく撫でる程度の僅かな風を発生させる。

【土塊】
拳程度の大きさを限度とする少量の土を召喚する。

【掌握】
あなたのハートを鷲掴み☆
一度心を掴んだ対象に行使する事で、一時的に好意を持ちやすく、悪意を抱きにくい状態を作る事が出来る。
あなたに対する好感度が高い程、効果と持続時間が延長される。
一般的な友人レベルの場合、三日程が限界。


◆ キーワード

【風になりたい】
【大富豪一族】
【カルト教団のアイドル】
【絶世の美少年】
【布教キャラバン】


酷いネタキャラの予感。

キャラが出来上がった所で、今日はお開きで。
お付き合いありがとうございました。


世界樹体験版が楽しい+シナリオ構築難度高めにつき、開始まで何日か貰うかも知れません。

質問っす
【傾国姫ラウラ】【麻薬王カルヴォダ】【心臓えぐり出し男】も老衰で死んでるの?


大体方向性は固まったのですが、プロローグ完成まではもう少しかかりそうです。
今晩は更新無しになります。
申し訳ありません。


>>798
心臓抉り出し男は過去のバスクです。
円環暦622年位に死んでると思われます。

他二人については、元々接触出来るNPCではありません。
というかこの二人は死んでからが本番です。
今後関わりが生じるかどうかはプレイング次第になります。

この世界って人型種族が多数存在してるけど異種間での繁殖能力はありますかね?


今晩中にはプロローグ投下が出来そうです。
具体的な投下時間は未定とさせて下さい。


>>803
あります。
異種間交配で生まれてくる子供は、殆どの場合母親と同じ種族になります。

セリアンスロープとして生まれる場合のみ、ミーニアとの血の混ざり具合で外見が変化します。
二足歩行の獣から、猫耳が生えただけの人間まで、様々あります。
セリアンスロープ×ミーニア以外の組み合わせならば、通常通り親に準じます。
ケモ度に幅を持たせたいだけの設定なので、特に何かのフラグでは無い事も付記しておきます。

なお、一部身体的差異から交配困難な組み合わせもあります。
例えば、ジャイアント×リリパットでは、体のサイズが違い過ぎるために色々と問題が起こるでしょう。

この大陸の人間が反戦思考の理由は明らかになります?


>>808
そういえば描写し忘れてました。
申し訳ありません。
ちょうど布教キャラバンで旅をしますので、作中のどこかで紛れ込ませます。


カダスティア大陸東部。

肥沃な平原と、豊かな漁場たる湾。
更には大陸南北を繋ぐ巨大交易路すら擁する地。
一切の飢餓を知らず、明日の糧を得られぬ民など一人も居ない。

それこそがクァレヴァレ。
大陸において最も豊かとされる、最富国である。


その地方都市においても、やはり民は笑顔だった。

勿論、個々が抱える小さな悩みは山ほどあろう。
だがそれが心を蝕む事は多くなく、平穏という言葉こそがこの都市には相応しい。


……そんな中に、今日は一つの不穏が紛れ込んでいた。

都市中央、巨大な噴水を囲む広場に、それは居た。
全身を、それこそ頭から爪先までを灰色の布で包み隠した、小柄な人間である。
背丈から察するに、幼い子供か、あるいは小人たるリリパットだろう。

それは噴水の縁に立ち、周囲をじっと窺っていた。
目元の辺りの僅かな隙間から、その気配だけが濃密に感じられる。


あからさまに不審。
広場で歓談や買い食いに興じていた民達は、一体何事かと遠巻きにそれを見詰めている。


と、その時。
灰色の不審者が俄かに動き始めた。
噴水の縁を歩き回り、何やら丁度良い場所を探しているように見える。

どうするべきか。
念のために衛兵を呼んでおいた方が良いのでは。

そんな声が僅かに漏れ。


『―――あぁ、どうか、どうか。
 皆様、いと高き神の祝福に浴す皆様。
 どうかその耳をお傾け下さい』


その声に、一瞬でかき消された。


天上の美声。
世にそう称される声は数あれど、この声に勝る者など有り得まい。

広場の民衆全てにそう確信させる、いっそ恐ろしいまでの美しさである。

僅かでも良い。
もっとこの声を聞いていたいと、民の誰もが口を閉ざす。


そうして静まり返った街の只中に、声の持ち主の姿が晒された。

ほう、と吐息が漏れる。
布の内より現れた顔は、声に違わぬ絶世の美。

その幼さと、僅かに尖った木の葉型の耳を見れば、リリパットであると分かる。
リリパットは、他の種族から見れば誰もが幼いと映る。

幼さからの中性、男とも女とも判じ切れない不確かさは、名工の手による彫刻のように整ったその顔に魔性すらも加えていた。

故に、民の全てが魅了された。
男女の区別は一切無く、あらゆる視線が向けられる。


『どうぞひと時、我が声をお聞き下さい。
 これより詠うは神の威光。
 大地に救いを、人の心に安寧を齎す、我が女神よりの神託に御座います』


にこりと微笑み、そして歌が始まった。


それはどうやら、神話の一節のようであった。

遥か昔、神々が民の隣をすら歩んだ、遠い時代の物語。
伸びやかに響く歌声は、そんな言葉から紡がれる。


だが、聴衆はそれに聞き覚えが無かった。
そもそも、輪廻の神が人の隣を歩んだ記録など存在しない。
かの女神は地上において生まれたが、北の果てに眠る者との異名の通り、時を置かずに大地を離れたのだ。

始祖神、聖母ミニアにしても同様。
聖母は民の暮らしを眺め、その愚かさに涙した。
聖典に記されるのはそういった文言のみであり、民と直接触れ合ったという伝承は無い。


広場には困惑が広がったが、それを止めたのはとある老人の言葉だ。

これはどうやら旧世界の神の歌だ、と。


聖母ミニアは、始祖神と呼ばれている。
時折誤解をされているが、これは神々の祖である事を意味しない。
聖母には数多の兄弟姉妹が居たとされ、聖典には明確には描かれていないが父も母も存在するとされる。

旧世界の苦鳴を排し、己が身を礎に新たな世界を作り上げた。
そういった意味での、始祖の称号である。


そして当然、世界があるならば神も居る。
比較的名の知れた者では、災禍を司る炎の神が代表格だろう。
今や火の精霊に身を落とし、火山に住まう竜人達に崇められるのみの彼も、旧世界では特に力の強い神であったとされている。

古き世界の古き神。
それが今、語り部が歌っている神話の正体なのだ。


納得した彼らは、再び歌に聞き入った。

旧世界の神々については、そう知られては居ない。
年の替わりと同時に確かな救いを齎す輪廻の神と、それを産んだ聖母。
この二柱と比べれば酷く地味であり、また明確に存在を確信出来る訳でも無いためだ。

吟遊詩人達も、神官達も、彼らを語る事は余りに少ない。

そのために、これは中々悪くない趣向だと聴衆は期待した。
輪廻の神は確かに素晴らしいが、しかしもう十分に見聞きした。
いかに信仰篤くとも、幼い時分より浸っていれば飽きも来る。

未だ耳にした事の無い新たな話には、当然興味も沸くという物。
歌い手の声と容姿が抜群に優れているとなれば尚更だ。



―――しかし。


鎮まったはずの困惑が、再び顔を出す。
聴衆は互いに顔を見合わせ、小声で意見を交わす。

何だこれは、こんな物が本当に神話なのか。
おおよそ平均的な声を拾えば、こういった物になるだろう。
それ程に、その歌の内容はおかしかった。


歌の主役は、一柱の女神である。

天上で暮らしていた女神は、ある日ふと雲の狭間より垣間見える大地が気になった。
具体的には、丘の上の大樹に生る果実に興味を持ったのだ。

はて、あの実はどのような味がするのだろう。
酸いのか、甘いのか、はたまた舌を溶かす程苦いのか。
いてもたってもいられなくなった女神は大地に降り、果実を口にした。
幸運にも甘く美味であったそれを、女神は気に入りついには食べつくしてしまう。


そこに現れたのは、大樹の持ち主たる人間の男であった。
果実を一つ残らず奪われ、泣き崩れる彼に女神は問う。

あぁ、可愛い可愛い我らの子よ。
なぜそのように泣いているのか。

返された言葉には、悲壮が詰まっていた。
彼の父母は重い病に倒れ、高価な薬を必要としている。
代価とするはずだった果実が消えた今、父母は最早助からない、と。

それを知った女神は、男を哀れみ、救う事とした。


ここまでは、まぁ良い。

己で奪って己で哀れむという姿に思う事はあれど、まだ理解は出来る。
問題はこの後である。


なんと女神は都市へ赴き、自身の体を売ったのだ。
無論、切り取った肉を売り歩いたなどという話では無い。
明確に、ただの売春行為である。

そうして得た富を男に与え、父母は薬によって救われた。


余りに酷い展開に、初心な者は狼狽し、粗野な者は野次を飛ばす。
そこは神の奇跡でどうにかすべきでは無いのか。
そんな声は幾つも聞き取れる。


……だが、本当に酷いのはここからだった。


大樹の美味を知った女神は、今度は都市の営みに興味を持った。

美食、芸術、酒に宝に賭博にと。
その全てを貪り尽くすとばかりに贅沢三昧。
放蕩の元手となる物は、先と同様己の性によって稼ぎ出して、である。


広場はあっという間に混沌に包まれた。


そこに、更なる一撃が振り下ろされる。


『十分な満足を得た女神は、考えたのです。
 この享楽は、一人で甘受するには余りに惜しい。
 万民に等しく分け与え、皆で楽しむべきではないかと』


いつの間にか歌は終わり、厳かな神官の風情を纏って語り部は言う。
同時に、身を隠していた灰色の布は完全に取り払われた。

広場に、悲鳴と歓声が轟く。

語り部は、ほんの僅かな紗しか纏っていなかった。
軽く、薄く、目の荒いそれは、通常の衣服としての機能を全く残していない。
隠すべき箇所は見事に曝け出され、全ての観衆の目にする所となった。


そうして、今や少年であると誰もが分かる彼が、最後の言葉で締めくくる。


『そう、我が神は、こう仰せられました。

 ―――フリーセックスって素敵じゃない?

 と!』



さぁどうぞ、この身を貪って下さい。

そう言わんばかりに腕を広げる彼を、数人の衛兵が叩きのめすのは、ほんの一瞬後の事である。


【円環暦697年 春 衛兵詰所取調室】


『おかしい。
 こんな事は許されない』

「ど、こ、が、だ!!」


狭い部屋に、衛兵の怒声が響いた。
余りの大声にリリパットの少年―――あなたは咄嗟に耳を塞ごうとするも、叶わない。
細いながらも頑丈な縄によって、後ろ手に拘束されているためだ。
腕だけで無く、足も椅子に縛り付けられ、ろくに身動きも出来ない状態である。


『どこがって、全部ですよ。
 僕は神様の教えに忠実に、市民の皆さんに救いを齎そうとしただけなのに。
 信仰を妨げるなんて、一体どんな権限があっての事ですか。
 厳重に抗議します!』

「この国の、この都市の法の下の権限だ!
 信仰だからと何でもやって良い訳があるかぁ!!」


正論であった。
往来のど真ん中で裸体を晒して良いなどと、法で許可されている訳が無い。
あなたの行いは、一分の隙も無い犯罪である。


しかし、あなたが正論受け入れられるかどうかというと、話は別だ。

都市の法ごときが何だと言うのか。
優先されるべきは神の法。
そしてそこには、禁じる、などという文言はたった一つしか存在しない。


「そもそも、お前は何なんだ。
 あんな布教活動など聞いた事も無い!」


心なしか疲れたように零す衛兵。

無論、聞かれたならば答える以外に無い。
あなたは己の神を心から崇拝し、その教えを絶対の規範としている。
胸を張って、そして至上の喜びを以って、その問いに答えられるのだ。


『よくぞ聞いてくれました。

 我ら総勢四十三名、大欲の使徒!
 あらゆる欲望を肯定する 【欲望の神イスナ様】 の忠実なる僕なのです!』


汝、思うままに振舞うべし。
神の名において、一切の自制を禁ずる。

実に簡潔な、そんな言葉を神意の全てとする―――極めつけの異端であった。


その後、あなたはアッサリと解放された。

許された、という訳では勿論無い。
犯罪は犯罪であり、あなたの名と容姿は間違い無く記録された事だろう。


早期釈放の理由は二つ有る。

一つは、単純にそう重い罪では無いという事。
往来で裸体を晒し、人々に乱交の誘いをかけた。
公序良俗に真っ向から喧嘩を売る行いだが、人々に行為を強要した事実は一切無い。
少なくとも、長期に渡って牢に入れておくような罪人では無かった。


だが、それだけでは即日釈放など有り得ない。
一般的な前例に従えば、数日間は獄中で反省を促されるはずだ。
そこに、もう一つの理由が関わってくる。


あらゆる欲を肯定する、イスナ教。
この宗教には、輪廻教関係者にはそれなりに有名な逸話がある。

その昔、とある司祭がイスナ教の存在を知り、彼らを捕らえたという。
輪廻神の教えを蔑ろにし我欲のままに振舞う異端者達を煩わしく思い、裁判にかけて処刑しようとしたのだ。
しかし、それは失敗に終わる。

裁判の前日、司祭に夢を通して神託が下ったのだ。


「彼らを解放しなさい。
 彼らは、あなたが思う程に害ある存在では無く、死して償う程の罪も有りません。

 というか、私の信徒が大欲の使徒を、それも罪と釣り合わぬ罰を以って害したとなれば、凄く面倒な事になるんです。
 私の神域にかの女神が殴りこんで来る事は全く疑いありません。
 彼女とは出来る限り関わりたくないのです。

 ……いいですね?」


万民に救いを齎す、大陸最大宗教の主神とは思えない、極めて情けない神託であった。


偉大なる神ですら手を余す、性質の悪い神の狂信者。

そんな物に数日をかけて関わるなど、冗談では無い。
厳重注意だけで済ませて、さっさとどこかへ消えて貰おう。

衛兵隊長の判断は、つまりそういう事である。


仲間の下へ帰ったあなたを待っていたのは、歓声の大波であった。

官憲の世話になるというのは、イスナ教において洗礼にも等しい。
誰もが一度は通った道。
これでまた一人仲間が一人前になったのだという、歓喜の出迎えだ。


「おう坊主! ついにやりやがったなぁ!」

「それでこそ我らが神の子だ!」

「衛兵の拳の味はどうだった? たんまり食らってきたんでしょう?」


あなたの仲間達は瞬く間に周囲を取り囲み、頭を撫で、背中を叩き、頬にキスを贈る。
一切の例外無く彼らは笑顔であり、当然あなたの顔にも同じ物が浮かんでいる。


『あはは、ありがとうございます。
 いやぁ参りましたよ。
 皆さんはああいう物を求めていると思ったのに、あっという間に捕まっちゃうんですもん』


欲望を肯定する。
この欲望というのは、一つの物を指しているのでは当然無い。
人間が抱く全ての欲を、それで良いのだと認める物だ。

だというのに、世間では余りそうとは捉えない。
一般的な人間がイスナ教に抱くイメージとは、性欲に溺れる日々を送る、爛れた物。
イスナは、決して性愛だけの神という訳では無いというのに。


これを、あなたは逆向きに考えたのだ。

欲と聞いて性欲と考えるという事は、それだけ性に飢えているという裏付けなのでは無いか。
万民が求め、しかし何らかの理由により無理矢理抑え付けているのでは無かろうか。

ならばつまり、神の使徒たる自分がすべき事は!

と。


「聞いたかおい、たまんねぇな!」

「常識ってもんが欠片も無ぇ!」


二人のミーニアがゲラゲラと下品に笑う。
そうして感情の勢いのまま、あなたを高らかに持ち上げた。

僅かだけ驚いたあなただが、戸惑いはいくらも続かない。
彼らの感情が喜びのみに染まっているのは、一目瞭然である。
仲間の喜びとはつまりあなたの喜びでもあり、一際幼い新たな歓声はすぐさま上げられた。


「よぉし、今日は祝いだ!
 飛びっきり豪勢に行くぞ!

 【メルヴィ】と、他に二、三人!
 ちょっくら買出しだ、俺についてこい!」


それを見ていた別の男が、大声を上げて人手を募る。

今日は……というより、今日も、あなた達は祝宴を上げるらしい。
たっぷりの酒とたっぷりの馳走。
局所的な乱痴気騒ぎを巻き起こすために、彼らは率先して雑用に出向くようだ。


その内の一人、唯一名指しで指名された者が、のっそりと腰を上げる。


異様な巨体であった。
全身鎧を思わせるような重厚過ぎる筋肉で構成されたそれは、ミーニアの肩に乗るあなたの頭ですら、臍のやや上でしか無い。

大陸の人種の中でも一際大きな体躯を誇る、ジャイアントである。
その中でも恐らく最大級だろう。
ただ歩くだけで猛獣すら怯むに違いない、圧倒的な脅威だ。

それがゆらりと膝を折り、伝承に伝わる人食いの悪鬼のような恐ろしい顔をあなたに近付け。


「おめでとう。
 私も誇らしいよ。
 流石は神に愛された、私の主だ」


巨体に似合わぬ穏やかな女性の声で、あなたを祝す。


『うん。
 メルヴィも、練習に付き合ってくれてありがとう。
 結果はちょっと残念だったけどね』


あなたにとっては、姿と声の間の大きな溝も慣れた物だ。
下げられた頭に手を伸ばし、鋼の糸のような髪を撫でる。
下手に触れれば痛みすら伴う髪質だが、あなたの手付きには微塵の躊躇も含まれない。

その感触に、巨人の女性は目を細める。
あなた達以外の者なら十人中百人が威嚇と断じるだろう笑顔を浮かべる彼女は、あなたと最も親しい信徒である。
姉と弟、といった距離感が最も近いと、あなたは思っている。

もっとも、何故か彼女はあなたを主君と仰いでいるのだが。
少々不思議ではあるが、わざわざ訂正させる理由は無い。

心のままに振舞った結果がそれならば、全力で肯定するのがあなたの性だ。


メルヴィという名の巨人は、見た目通りの怪力を誇る。
たった一人で農耕馬二頭分の働きは軽くするのだ。
力仕事には打って付けであり、大量の買出しには殆ど毎回参加している。

今日もその例に漏れず、あなたの頬を指先で撫で、市場へと繰り出していった。


それを見送り、あなたも仲間達と共に駆け回る。

夜は長いが、欲の虜たるあなた達にとっては少しの時も惜しい。
僅かでも多くの喜びに浸るために、喧騒と共に慌しく準備が始まるのだ。


そして勿論、それすらも享楽へと変えるのが、あなた達である。

街壁の外、草原の一角を占領した馬車の群れに、今日も歓声は絶える事を知らない。



【プロローグ 了】

このキャラバンには、あなた以外ジャイアント女一人とミーニア男性しかいないのか?


これは酷い。

絶世の美少年で、掌握とかいう魔法が使えて、アイドル。
という条件を満たすカルトがこれしか有りませんでした。
もっとまともなカルトが良かった(白目)

今日はプロローグだけで疲れ果てたので、動かすのは明日からになります。
お付き合いありがとうございました。
また明日。


>>838
他にも色々、あなたを抜いて総勢42名居ますが、全部書いてると大変なので一旦メルヴィ出して終わりです。
自由行動前に主要キャラ何人か出します。
残りは汎用キャラ的な扱いになりそうです。

イスナ教キャラバンにはメルヴィ以外の女性いる?
というか男女比どうなってんだろ

1章から85年も経過していることだし、国際情勢大きく変わってたりするのかな?例えばクピアが専制君主制から共和制に変わっているみたいな


>>848
その辺もこれから自由行動前に描写されます。
しばらくお待ち下さい。

>>849
今の所大きな変化はありません。
今後更に年月を重ねるか、あなたが何か事を起こせば、大規模な情勢変化も起こり得ます。
何かあった時は、キャラメイク前に 【ワールドトピック】 として通知します。

イスナ教ってこのキャラバンの人間しかいないんですか?
それとも、どっかの国に総本部があって総本部には大量の信者がいる感じですかね? トップや幹部も総本部に?


>>851
初回固定イベントに描写を紛れ込ませておきました。
後ほどご確認下さい。



ちょっと早いですけど、人居ますか?


では開始していきます。
よろしくお願いします。


【円環暦697年 春】


薄暗い明け方。
日が未だ顔を出さない頃に、あなたは目を覚ました。

瞼を開いてまず目に入ったのは、少女の顔である。
鼻が触れそうな程の至近距離にあるそれは、あなたも見慣れたネズミのセリアンスロープの物だ。
といってもミーニアの血が濃く、灰色の耳と尾に獣の要素を残すのみだが。

あなたよりも頭一つ高い程度の彼女は、体格や年齢の近さから、キャラバンでは比較的相性が良い部類に入る。
女性陣の中で特にあなたを気に入っている一人であり、昨晩も白熱した賭博の末に勝ち取った権利を使い、あなたを同衾させたのだ。


人懐っこい愛嬌を感じさせる寝顔をしばし堪能してから、寝台という名の藁を詰めた巨大な袋から静かに起き上がる。
今日はやるべき事があり、二度寝を決め込む事は出来ない。

惰眠を貪りたいという欲は確かにある。
しかし、この後の約束もまたあなたの大きな喜悦だ。
悩ましい所だが、あなたは約束の優先を選択した。


「ん……あれ、行っちゃうの?」


出来る限り音を立てずに服を探していたあなたの耳に、寝惚けた声がかけられる。
起こさないようにと気を付けてはいたが、彼女は感覚に優れた種族なのだ。
やっぱり無理だったかと、あなたは苦笑する。

振り返れば、彼女は体を起こしてぼんやりとあなたを見詰めていた。
シーツで胸元から下は隠しているが、そこに起伏に乏しい滑らかな肌がある事を、当然のようにあなたは知っている。
旅を経ても白さを失わないそれが、どれ程の努力の元に維持されているかも含めて。


『おはよう 【サーシャ】
 うん、ごめんね。
 今日は 【ニム】 と約束があるんだ』

「あー……ニムならしょうがないねー。
 じゃあいつもので許してあげる」


寝台から身を乗り出して、サーシャは目を閉じた。
緩やかに笑みを描いた唇にあなたは近付き、啄ばむ。
ほんの小さな音を残して、二つの顔は離れる。


『ネズミだけに?』

「うん、ネズミだけにね」


いつも通りの下らないジョークを確認しあい、ちゅうと一鳴きしてサーシャは二度目の眠りへ。
あなたは今度こそ服を着込んで、そっと寝所を後にした。


二人だけの寝所となっていた小型の馬車を出ると、やはり外はまだ暗かった。

約束を交わしているニム―――ハーピーの女性は、闇に弱い。
といっても別段鳥目という訳では無い。
単純に、暗くなると眠くなるという体質なのだ。
せめて太陽の光が地平線近くを染めるまでは待っているべきだろう。

それまでどうしようかと考えて、二つの人影が目に入った。
輪を描くように停められた二十台の馬車群の中央、昨晩の宴の跡地で、何やら細々と動いている。
それが誰かというのは、あなたには深く考えるまでも無く分かるだろう。


『おはよう、【ブルーノさん】、【テオさん】
 こんな早くから後片付けですか?』


あなたの声に、二人が振り向いた。
ミーニアとドライアドの組み合わせ、どちらも男性だ。


「お前も早いな。
 何だ、サーシャに蹴り出されでもしたか?」


その内ミーニアの方、粗野な雰囲気の中年であるブルーノがからかうように言う。
白い物が混じり始めた髭に覆われた顔が面白そうに歪んでいる。
彼が言ったトラブルは、このキャラバンでは良く見られる日常の光景だ。
朝っぱらから始まる喧嘩と、それに付随するどちらが勝つかという賭けは、あなたも度々楽しんでいる。


「それはあなたでしょうに。
 今日のレティの形相は見物でしたねぇ。
 確か他の女の名前を呼んだんでしたか?」


あなたをからかったブルーノを更にからかったのが、テオだ。
ドライアド達の中で最も縁起が良いとされる、珍しいパキラの髪を持つ青年である。
ブルーノと最も関係が深いミーニアの少女の名を出して、恐ろしい形相とやらを真似ている。

見れば、ブルーノの頬は、髭に隠れているが片方だけが僅かに赤い。
勘気のままに強かに打たれた事は明白だった。


現在のキャラバンのまとめ役が、この二人だ。

ミーニア、ジャイアント、リリパット、セリアンスロープにドライアドにハーピー。
全く性質が異なる種族を掻き集めた上に、その誰もが一筋縄ではいかない個性の持ち主。

男性24人、女性19人、総勢43名のキャラバンを一つの生物として機能させるために、二人の力は欠かせない。

雰囲気にそぐわぬ面倒見の良さで雑用を喜んで引き受け、トラブルを片っ端から丸く治めるブルーノ。
いつの間にかするりと心に潜り込み、キャラバンの財源たる交易の商談を有利に運ぶテオ。
このどちらかでも欠ければ、一月もしない内に仲間は好き勝手に大陸中に散らばるだろう。


あなたはキャラバンに参加して半年程だが、十年で七度も分裂した後に今の形に落ち着いたと聞いている。
過去のメンバーがどこに居るかなど、既に誰も知らない。
合流は困難と言い切って良いはずだ。

イスナ教には合流に使えるような、信仰の中心地らしき物は無い。
何せ、イスナの教えを初めに広めたとされる旧世界の教祖ですら、こんな言葉を残している。


「総本山なんて作って何になるんだ、下らない。
 そんな事よりさっさと旅に出るぞ。
 世界中の美味を舌に乗せると、私は神に命を賭して誓ったのだ」


けだし名言。
これこそが、イスナ教徒の有るべき姿である。


さて、パートナーに蹴り出されたブルーノと、その物音で目が覚めたテオ。
手持ち無沙汰の二人は、宴の後片付けで暇を潰していたようだ。

同じく時間を持て余しているあなたは、彼らの手伝いをしても良いだろう。
キャラバンの中核たる二人と親交を深める事は、あなたがより旅を楽しむためには重要な事だ。
二人とも気持ちの良い男であり、ただの片付けであっても良い気分で時を過ごせることは疑い無い。

また、あなたはこの時間、最も親しい巨人がどこに居るかを知っている。
眠りが浅いメルヴィは、趣味である武術の鍛錬を行っているに違いない。
そちらに顔を出してみるのも、悪くない選択だ。
彼女の巨体から繰り出される拳撃が空を裂く様は、いっそ観客から金を取ってもおかしくない領域に有る。



>>↓1  どうする?


あなたは二人の手伝いを買って出た。
長袖の服を肘上まで捲り、散乱している木製の食器を拾い集めていく。
一人一人の分はそう多くは無いのだが、人数が人数だ。

43人分ともなれば大変な量であり、酔った勢いに任せて遠くまで投げられた皿もある。
薄暗い中でも遠くまで見通せる優れた視力を持つあなたは絶好の戦力であった。


『ブルーノさん、集めました。
 多分これで全部だと思います』

「おう、ご苦労さん。
 数も……うし、合ってるな。
 テオ、もういいぞ、やっちまってくれ」


あなたとブルーノが距離を取った事を確認し、テオが細い両腕を広げた。
同時に、彼の口から言葉が漏れる。
低く静かに、しかし明確過ぎる熱量を伴ってだ。


「熱く、熱く、熱く。
 我が心のままに荒れ狂え。
 一切の呵責を放棄せよ。
 遮る全てを打ち破り、猛き調を詠うが良い。

 汝、災いの魁にして、紅き舌持つ真紅の竜よ。

 ここにその名を《業火 / オルテ》と定める!」


詠唱の通り、現れ出でたのは赤々とした業火であった。
テオが手を振るのに合わせて踊る炎は、馬車に囲まれた広場の地面を舐めるように焼き尽くしていく。

操る暴威は優れた魔術師のそれだが、やっている事の規模は小さすぎる。
広場に散らばった食べこぼしを焼却処分しているだけなのだ。
以前はわざわざ穴を掘って埋めていたというが、焼いた方が早いと気付いてからはこうなったらしい。
既に数日間滞在しているために、草原のこの一画のみ焼けた土が丸出しになっている。


「おうおう今日も派手な事で。
 さて、あいつはほっといてこっちも仕事するぞ」


低く押し殺した哄笑を背に、あなたとブルーノは食器の洗浄に取り掛かる。

テオは、こうなってしまえば長いのだ。
全てが炭化するまで延々と炎に魅入られている事は全く疑い無い。


欲望の信徒によって作られるキャラバン。
そこに集まるのは、大半が己の欲望と一般常識との間に乖離を抱える者達である。

その中でも、テオは飛び切り分かりやすい。
一歩間違えば放火魔になりかねない程に炎を愛するドライアド。
無論の事、故郷の森に居場所など無かった事だろう。


「しっかしお前もやるなぁ。
 正直、あそこまでの事をやるとは思ってなかったぞ」


誰でも使える初歩の魔法で水を呼び出し、食器を洗いながらブルーノが口を開いた。
話題は、既に昨晩散々語り尽くされたあなたの逮捕に関する物だ。

街の広場で裸体を晒し、人々を乱交に誘う。
真っ当な者ならば聞くだけで頭を痛める行為は、キャラバンの仲間にとってはただの娯楽に過ぎない。
それも、特上の、と頭に付くそれだ。
昨晩は誰もがあなたの勇気と信仰を称えていた程だ。


『ありがとうございます。
 でも、昨日から褒められすぎてむず痒いですよ。
 そこまでの事とも思えないんですけど……』

「いやいや、よく考えろって。
 失敗したから良いようなもんだぞ。
 もしまかり間違って成功してたら、相手は綺麗な姉ちゃんだけじゃねぇんだ。
 脂ぎったジジイに掘られでもしたらどうする気だったんだよ。
 お前の顔じゃ、下手すりゃ持ち帰られて監禁まで有り得るぞ」


あなたを覗き込むブルーノは、おどけた態度で訪ねる。
想像するだけでおぞましいとばかりに大袈裟に身を震わせている。

ただ、その瞳の奥にあるのは気遣いだ。
心からあなたを案じ、己の無茶を気付かせようという考えを、他者の機微に敏い者ならば読み取れるだろう。
欲望のままに振舞い、全く望まない結果を引き寄せる事は決して少なくない。
そうならないよう手段を選べと、彼は言葉にせずにそう言っている。

しかし。


『え、いいんじゃないですか?
 それでその人の欲が満たされるなら最高だと思いますけど』


あなたには通じない。

あなたの胸にあるのは、何があろうと微塵も揺らがない信仰だ。
大地を享楽で満たせと神は言う。
ならば、己の身が無残に汚される程度が何だというのか。

それよりも大事なのは、相手が満足するかどうかだと、あなたは狂信している。


あなたの返答に、ブルーノは顔を顰めて頬を掻いた。
それから深い溜め息まで追加して、あなたの頭に手を伸ばす。


「……やっぱり、お前は神の子だよ。
 イスナ様がここに居たら、真っ先に攫っていくに違いない」


グシャグシャと乱暴に髪を掻き回す手は、あなたにとって心地良い物だ。
信仰心を認める言葉も同時に贈られているのだから、もう言う事は無い。
あなたの心はたちまちの内に喜びに染められる。


「ただ、お前、アレだ。
 しばらくは一人で歩くんじゃないぞ。
 な?」


話はブルーノの忠告で一区切りが付いた。
後は取り止めも無い日常の会話と共に作業が続く。

全ての食器が十分に綺麗になった頃、ちょうど東の空は白み始めていた。


あなたの探し人、先日約束を取り付けたハーピーは、一台の馬車の上に居た。

屋根から伸ばされた細い丸太を止まり木に、体を小さく縮めて眠り込んでいる。
長大な両腕の翼で体を包み込んだ姿は、羽根の色のせいで根菜の一種にそっくりだ。
薄茶と濃茶の斑模様のそれは、遠目には掘り出したばかりの芋でしかない。

その芋へと、あなたは呼びかける。


『ニム、ニム!
 朝が来たよ、そろそろ起きない?』

「……んぁ?
 ぁー……なにぃ?」


返ってきたのは寝惚けた声だ。
あなたの言葉をまるで理解していない事が十分に分かる。
ただ単に、大きな音に反応しただけのようだ。


『だから、朝だよニム。
 今日は狩りに行こうって、ニムが言い出したんだよ?』

「んー……。
 あぁ、うん、そうだったそうだった。
 ……ころっと忘れてたわ」


根気強く呼びかけ続ければ、何度目かでようやく羽根が開いた。

芋の中から現れたのは、成熟した美女であった。
冷酷さを感じる細い瞳に灯る青い光は、熟練の名工が鍛えた刃のようだ。
彼女が剣を振るったならば、斬り付けられた者は悦びの中で息絶えるかも知れないとさえ思える鋭さがある。
また、視線を僅かに下ろしたならば、ハーピーが好む簡素な貫頭衣を押し上げる豊かな胸に、あらゆる男が目を奪われるだろう。

そんな彼女は、しかし口を開けば男の幻想をぶち壊しにする存在だと、あなたは勿論知っている。


「よーしよーし、よしよし。
 うぃ、目ぇ醒めたぁ!
 よっしゃ、それじゃ早速いっとく?」


玲瓏な美女は、たちまち勝気な少年の風情に変貌した。
派手に音を立てて止まり木を蹴り、俊敏に飛び上がった彼女はあなたの頭上を飛び回る。
そこに落ち着きなどまるで無い。
早く早くとあなたを急かしている。

彼女は間違いなく、成人をとうに迎えた女性である。
早熟な少女などでは全く無く、年は二十を過ぎている。
ただ、精神だけが若々しさを余りにも色濃く残しているだけ。


苦笑したあなたは、専用の革鎧を着込み、彼女の翼に身を任せた。


「イィィィィィヤァッハァー!!」

『ヒャァッホォー!!』


明るさを増した空に、嬌声が響く。
正気など微塵も感じられないそれは、あなた達の歓喜の現れに他ならない。

あなた達が居るのは、遥か上空。
馬車の群れが石ころのように見える程の高みから、半ば落下するように滑空している。
独力では飛べないあなたを支えるのは、勿論ニムだ。
胴を包む革鎧に強靭な爪をガッシリと食い込ませ、横向きに掴んでいる。

キャラバンの生活において、最も楽しい事は何か。
そう問われた時に何か一つを選ぶ事は難しいが、候補として真っ先に浮かぶのはこの空中散歩だろう。
天を流れる風と一体化する時間は、決して捨てられない悦楽だ。

あなただけで無く、ニムにとってもそうである。
幼い精神性から本来の仲間と相容れず、孤独に飛ぶしか無かった彼女に齎された最初の隣人が、あなたなのだ。
その喜びがどれ程大きいかは想像に容易い。


そして同時に、これは実益も兼ねている。
心躍る飛行の快感の中でも、あなたは完璧に己の務めを果たした。


『ニム、居たよ!
 太陽の反対側、草の深い所に鹿三頭!』

「さっすがぁ!
 そんじゃ、ちょっくら狩ってくるー!」


言うやいなや、ニムはあなたを上方へ放り出した。
支えを失ったあなたの体は一瞬の浮遊の後、当たり前の法則に従う。

轟音を伴って大気を裂き、あなたは落ちる。
その最中、あなたが追うのはニムの姿だ。
羽根を畳み高速で落下した彼女が向かう先は、ピタリと鹿の真上に定められている。


これこそが、あなた達の狩りだ。
上空からあなたの目を用いて獲物を探し、重りを外したニムが急降下して一撃で仕留めるのだ。
初めの数度はいちいちあなたを降ろしてからの襲撃であったが、すぐに今の形に変わっている。

単純に、あなたにとって落下が心地良すぎたためだ。
自分の前世は風であったのかも知れないと錯覚するほどに。


息も吐けない程、大気の壁を突き抜けながら、あなたの心は躍り続ける。
空は、何もかもが素晴らしい。
ここにはあらゆる束縛は存在せず、ただ世界と己のみが有る。
空こそが真の楽園なのだと、あなたはいつも通りに確信した。

ただ、残念ながら楽園を永遠に楽しむ事など出来はしない。

大地は瞬く間に近付いてくる。
言うまでも無く、そこに叩きつけられればあなたの原型など残るまい。
真っ赤な残骸となって辺りに散らばるだろう。

最早、激突までは数秒。
そのタイミングで。


「おっまたせぇー!」


鹿を仕留めて戻ったニムが、あなたの体を捉えた。
鋭利な猛禽の爪が再び食い込み、強烈な横向きの衝撃をもって救い上げる。


「……おわっと!?」


しかし、今回は少しばかり助けが遅かったようだ。
激突は避けられたが、余りに地面が近過ぎる。

空へ舞い上がるまでは間に合わずあなたの体が地を擦り、そのまま二人まとめて絡み合い、転がる羽目になったのだった。


その後、あなたとニムは血抜きした鹿を引き摺って帰った。
一頭は逃がしたようだが、十分な収穫である。
料理の得意な者に渡せば、最高のご馳走になるだろう。

鍋になるか、焼かれるか。
さてどちらになるだろうとあなた達は笑い合う。
多少痛い目を見たが、別に死んだ訳でも無いのだから構わないのだ。
少なくとも、あなたの心には恐怖など欠片も存在しない。

また狩りに出よう。
じゃあ次は明後日ね。

だからそんな次の約束も、何の躊躇いも無くあっさりと取り付けられた。


やがて、あなた達と鹿を発見した仲間が歓声を上げる。
そこからは昨晩の再現だ。
朝も早くから今晩の宴が決定し、一日丸ごとを用いた準備という名の遊興が開始される。


絶対の自由。
何をやっても良く、快楽だけを追求し、共有する友はほんの隣を歩く。

これこそが、あなた達の日常だ。




【円環暦697年 春 固定イベント『キャラバンの面々』 完了】


■ あなたのステータス


【5歳 男性 / 現実世界の人間換算で14歳相当】


【種族 : リリパット】

小さな体を持つ種族。
体躯に比して大きな足と、木の葉の形の尖った耳を持つが、それ以外はミーニアに良く似る。
器用さ、感覚、素早さに優れるが、膂力と体力に劣る。

【種族能力 : 直感】

小さな物事が生命の危機に直結する彼らは、己に迫る異変を敏感に察知する。
危機感知判定に有利な補正を得る。


【筋力】 1
【耐久】 2
【器用】 3
【敏捷】 10
【感覚】 12
【意思】 5
【魔力】 1
【幸運】 7


【出身地 : ネレンシア】

【現在地 : クァレヴァレ】



◆ 習得魔法

【種火】
掌に収まる程度の小さな炎を発生させる。

【清水】
両手で作った器に収まる程度の少量の水を召喚する。

【微風】
頬を優しく撫でる程度の僅かな風を発生させる。

【土塊】
拳程度の大きさを限度とする少量の土を召喚する。

【掌握】
『あなたのハートを鷲掴み☆』
一度心を掴んだ対象に行使する事で、一時的に好意を持ちやすく、敵意を抱きにくい状態を作る事が出来る。
あなたに対する好感度が高い程、効果と持続時間が強化される。
一般的な友人レベルの場合、三日間、おねだりに無性に応えたくなる程度が限界。


◆ キーワード

【風になりたい】
【大富豪一族】
【カルト教団のアイドル】
【絶世の美少年】
【布教キャラバン】


■ 所持品一覧


◆ 700 Casa

共通交易通貨。
カダスティア大陸において、使用出来ない都市はほぼ存在しない。

※ 注意事項 ※

イスナの熱烈な教徒たるあなたは、宵越しの金を持てません。
特殊な事情が無い限り、季節が変動する毎に自動的に所持金の全てを享楽に費やします。


◆ 《欲望》の聖印

あなたが首から提げている、聖印を象った木製の首飾り。
特に効果は無いが、見せ付ける事で輪廻教徒をドン引きさせる事が可能。


◆ ダガーLv1

基礎攻撃力 : 2

加工補正 : 2

肘から手首までの長さの刃を持つ、護身用の短剣。
戦闘用としては心許ないが、無いよりはマシ。
木材や動物素材などの物品加工にも適している。


■ キャラバン主要メンバー


◆ メルヴィ

【19歳 女性】

【種族 : ジャイアント】

巨体を誇るジャイアントの中でも一際大きな体躯の、穏やかな女性。
全身を重厚な筋肉で覆われ、見た目通りの怪力と体力を持つ、キャラバンにおける武力の代表格。
あなたを主君と仰いでいる。



◆ サーシャ

【6歳 女性 / 現実世界の人間換算で16歳相当】

【種族 : セリアンスロープ / 鼠】

キャラバンで最も体格や年齢があなたと近い、人懐っこい愛嬌がある女性。
ミーニアの血が濃く、耳と尾以外に獣の要素は無い。
気配察知や隠密行動に優れ、それを生かした悪戯に定評がある。



◆ ニム

【21歳 女性 / 現実世界の人間換算で27歳相当】

【種族 : ハーピー】

キャラバン唯一のハーピーであり、飛翔能力を用いた索敵で道中の安全に一役買っている。
魅力的な女性の姿態を持つが、本人の精神が幼く、それを武器と思っていない。
物事を深く考えるのが苦手で、感性のみで生きている。



◆ ブルーノ

【37歳 男性】

【種族 : ミーニア】

大酒飲みの粗野な男性。
面倒見が良く、様々な雑用や仲間の悩みの解決に喜びを見出している。
キャラバンの頼れる兄貴分。



◆ テオ

【28歳 男性】

【種族 : ドライアド】

ドライアドにおいて最も縁起が良いとされる、パキラの髪を持つ朗らかな男性。
他者の心に滑り込むのが上手く、キャラバンの財源たる交易で商談を一手に任されている。
優秀な魔法使いでもあるが、一歩間違えば放火魔になりかねない炎狂い。


【円環暦697年 春 1/3】


「よーし、それじゃこっからは勝手にやってくれ!
 季節が変わるまでな!
 ほれ、解散!」


ブルーノの声を合図に、キャラバンの仲間達は散っていく。

キャラバンの移動は、ブルーノとテオに決定権がある。
仲間達は揃いも揃って熟考という物を苦手としている。
そして、苦手な物はやりたくないというのが、当たり前のイスナ教徒の思考だ。

結果として、細かい調整は二人に任せ、他のメンバーは勝手気ままに放牧されるのだ。
中には一時完全にキャラバンを離れ、付近の街や村に溶け込んで過ごす者も居る。
移動の時期が近付けばまた集合し、大騒ぎしながら準備を整えるという寸法である。

当然、あなたにも大きな仕事は無い。
強いて言えば、信仰の徒として布教活動に励む程度だろうが、それも義務とは言えない。
欲望の女神は怠惰も良いよねと教えている。


あなたはいつも通り自由だ。

仲間の誰かと親交を深めるも良し。
たった二人で今後の調整を行うブルーノ達を手伝うも良し。
今度こそ布教を成功させるべく取り組んでも良し。

一時己の役目を忘れて街で遊興に耽るのも悪くない。
あなたが裸体を晒した街は、地方都市ではあるがそれなりに大きな規模を誇る。
賭場の三つ四つはあるだろうし、他の遊び場に関しても事欠かないに違いない。

また、それこそ心の赴くまま、余人の思いも寄らない行動を取るのも問題など存在しない。
あなたはイスナ教徒であり、常識など道端の石ころよりも無価値なのだ。



>>↓1  どうする?


こうして自由を得ると、真っ先にあなたの元へ駆けて来る者が居る。
今日も例に漏れず、庶民の基準では上等な部類に入る紺色の上下を纏ったセリアンスロープがあなたに声を掛けた。
何が良いのかこの上無くあなたを気に入っている、サーシャである。


「ね、ね、一緒に遊びにいかない?
 私、街でデートしたいな」


上も下も服の裾は半ばで切られた、活発さを感じされる意匠だ。
袖も短く、白い腕と脚、それに可愛らしい臍までもが露わになっている。

寝台の上ではしっとりとした彼女は、外に出れば一転お転婆な少女に早代わりする。
獣人としての能力を生かした悪戯の数々はキャラバンでも一目置かれる程だ。
そんな彼女に相応しい快活な服装である。

その様で飛びつくように腕を取り、両腕で抱き締めてねだるのだから、大概の男にとってはたまらないに違いない。


さて、彼女の提案は渡りに船であった。
ちょうどあなたもサーシャを探そうと視線を巡らせていた所だったのだ。


『うん、勿論。
 ただ、僕にはちょっと考えがあってね―――』


ざわり、と。
音すら伴って街に困惑が広がった。

交易で栄えるその街は、およそ時期に関係無く人が多い。
通りには人が溢れ、一度逸れれば合流は困難だ。
瞬く間に人波に流され、自分がどこに居るかも判別できなくなりかねない。

……だが、今日この時ばかりは話が違う。
ぽっかりと、とある二人の周囲には広い空間が出来てしまっていた。


「あ、あのお菓子可愛い……。
 ちょっと見ていかない?
 買ってなんて言わないから」


無論、あなたとサーシャである。

サーシャに指差された菓子売りは分かりやすく狼狽し、助けを求めるように顔を彷徨わせた。
付近にはあっという間に同情的な空気が漂うが、しかし、目が合う者は全て目を逸らす。


あなたとサーシャは、傍目にはただの恋人達に見えるだろう。
どう考えても、このような事態を巻き起こす組み合わせでは無い。

その胸元に堂々と提げられた、悪名高い女神の聖印さえ無ければ。


「い、いらっしゃい……」


あなた達を迎えた菓子売りの男性は、震える声だった。

致し方無い事だろう。
欲望の聖印は一度話に聞いただけで覚えられる、単純な物だ。

全てを受け入れるよう両腕を広げ立つ、女神の偶像。
それを簡略化した聖印は、円の中に十字があるだけなのだ。
どう足掻いても見間違えようが無い。

また、サーシャの服装も悪い。
彼女に相応しい快活な服。
あなたはそう感じたが、それはイスナ教徒による感想である事を忘れてはならない。

この国の一般的な感性で言えば、肌をこれ程露出するなど破廉恥と後ろ指を差されてしかるべきだ。
聖印と合わせて考えれば、幼い容姿の癖に男を誘う毒婦か何かに見えても何らおかしくは無い。


男の売っていた菓子は、飴細工のようだ。
着色した三種の飴を混ぜ合わせ、動物の形に整えている。
実に見事な出来栄えで、材料さえ二段程上等な物に代えて色を増やせば、裕福な商家の子息にも自信を持って勧められるだろう。

現に、あなたも南方の国、まさしく大商家たる実家において何度か見ている。
余りに繊細な細工に、食べるのが惜しくなり棚に飾っておいたものだ。
どこからか紛れ込んだネズミに持ち去られた時は、随分と泣いた思い出がある。

奇しくも、飴細工を前にして隣に居るのはネズミのセリアンスロープだ。
何だかおかしくなり、あなたはつい小さな笑みを零す。

それを、サーシャはどうやら飴の可愛らしさに漏れた物と思ったらしい。


「ね、やっぱり可愛いよね。
 いいなぁ、一個買おうかなぁ……」


組んでいた腕を僅かだけ強く引き寄せ、しっかりと胸に抱きながらサーシャは言う。
彼女の目は飴製の猫にまっすぐ向けられている。


ちらりと目を横に向ければ、一律【10 Casa】との札が立てられている。
菓子としては少々高いが、手間の分を考えれば妥当と考えて良いだろう。

サーシャは本格的に購入を考え出したようだ。
腰に提げた袋から財布を取り出し、中身と相談を始めている。



>>↓1  どうする?


あなたは気前良く、二人分の猫を購入した。

サーシャは僅かに遠慮する様子を見せたが、それに紛れるように早々に財布を仕舞ってもいた。
買ってなんて言わない、と言いながらも期待していただろう事は十分に分かる。
あなたの腕を強く抱いたのも、彼女なりの手管の一つだ。
少々あからさまに過ぎるが、そこが逆に可愛らしいという者も居るだろう。


『それにしても、猫で良かったの?』

「うん、猫好きなの。
 ネズミなのにね」

『ネズミなのにねぇ』


少なくとも、あなたにとって隣人が朗らかに笑ってくれるならこの程度の出費はタダにも等しい。

サーシャは機嫌良く微笑んだまま、飴細工を袋に仕舞った。
食べるのでは無く、飾って楽しもうというつもりらしい。

恐らく過去のあなたの二の舞になると思われたが、それもまた後々に笑い話に出来るはずだ。
感謝のキスを頬に受けながら、あなたはそう考え、その日を心待ちにする事とした。


『あ、ところで店主さん。
 イスナ様の教えに興味はありませんか?
 自制を放り捨てて心のままに生きる事こそ、生命の本懐だと思うのですが、いかがでしょう』


じっと気配を殺していた男は、慌てて首を振った。
残念ながら、彼への布教は難しそうである。


その後、あなた達はのんびりと散策を楽しんだ。

道端で業を披露する大道芸人に冷や汗をかかせ。
立ち寄った飲食店で震える給仕から料理を受け取り。

涼やかな噴水広場では二人で神の教えを高らかに唱え、人々を困惑の渦に陥れもした。
今度は脱いでいないのに酷いと愚痴を零し合ったのも、まぁ楽しかったと言えるだろう。


さて、その結果だが……。



>>↓1 コンマ判定 【幸運な出来事】

幸運 7

目標値 7


【幸運な出来事】

目標値 7

出目 5

成功!


「これ、ついてきてるよね。
 噴水からずっと?」

『そうだね、間違いないと思う。
 …………この音だと、ミーニアの男の人かな』

「私は女の人にするね。
 多分、セリアンスロープの馬辺り。
 力強く聞こえるのはそのせいだと思う」


小声で交わしたあなた達は、合図も無く路地裏に駆け込んだ。
同時に、後方からは慌てたような足音が迫ってくる。
それをじっと息を殺して待ち……。


『「わっ!」』


足音の主が現れると同時に、大声を上げる。
驚いた相手は足を滑らせて体勢を崩し、尻餅をついた。


「あー、負けたぁ……。
 今回は自信あったのになー」


サーシャはがっくりと肩を落とし、残念がった。
目を白黒させて地面に座り込んでいるのは、ミーニアの男性である。
追跡者の正体当ては、あなたに軍配が上がったようだ。
これであなたの夕食は少しだけ量を増し、逆にサーシャは減らす事となる。


それはともかく、彼はあなたの話に興味を持った者のようだ。
がっしりとした体格で、いかにも力自慢という風情。
冷静さを少しばかり取り戻した顔は真面目そうな物だ。

ただ、その真面目さは少々危ういようにあなたには思えた。
心の底から湧き出る渇望を延々押し殺し続けてきた者特有の、一見真っ当にしか見えない固さがある。


そんな彼へ、あなたは神官としての責務をもって語りかけた。
座り込む男と目線を合わせるため地面に膝をつき、僅かでも安心を与えるために手を握る。

心のままに。
己の魂が命じるままに。
人生を心地良く過ごすための支えこそが我が女神だと、あなたは説く。

しかし、男の顔は未だ固い。
自信の渇望は認めている。
後はそれを吐き出し、その通りに生きれば良いというのに、後一歩の踏ん切りがついていない。
恐らく、その欲は恥じ入るべき物、あるいはおぞましい物と感じているのだろう。
あなたが心を溶かすように促せば、実際にそうと認めた。


「だ、だめだ。
 とてもじゃないが、口に出せやしない。
 こんな馬鹿げた願いは、人間としておかしいんだ。

 ……すまない。
 わざわざ話を聞かせて貰ったのに、やっぱり無理だ」


それを聞いて、あなたは安心した。
ここまで来れば、後は魔法の言葉がある。


『死ねばいいんですよ』

「―――え?」


男が口をあんぐりと開けて、何を言われたか信じられないという顔をする。

当たり前だ。
誠実な神官として振舞っていたあなたが、突如死ねなどと言い出せばそうもなる。

混乱する彼へと、あなたは更に言葉を続けた。


『認めて、話して、実行して。
 それでも誰も受け入れてくれないなら、死ねばいいんです。

 ほら、死後の救いは輪廻の神が確約してくれているじゃないですか。
 死んで生まれ変われば、そこには恥も何も残りません。
 だから、今生でどれだけ恥を掻いても良いのです。

 自分を偽って生きていく方がよっぽど駄目です。
 そんなのただ苦しいだけで、何も楽しくないじゃないですか』


『でも、きっとそんな事にはなりません。
 イスナ様は全てを認めて下さいます。
 勿論、イスナ様に仕える僕達も、何もかもを認め、受け入れます。

 ……大丈夫。
 僕は、あなたの仲間なんです』


そうして、男の堤には小さな傷が付いた。

ならば後は簡単だ。
渇望という物は、何より大きな力を持っている。
針先ほどの穴が開けば、心の壁など容易く破壊する奔流となるだろう。


「お、俺は……。
 俺は……っ!」


あなたとサーシャが頷く。
そこが、男の限界だった。



弾かれるように動いた男が、サーシャへと膝立ちで抱き付いた。
今にも押し倒さんばかりの勢いだ。
剥き出しの腹に顔を押し付け、滂沱の涙を零して縋り。








「お、俺はっ―――私は!
 あなたみたいになりたいのよっ!!」

「……あぁ、女の人かと思ったのって、そういう!」



こうして、キャラバンにはまた一人、仲間が増えた。
外見は一部の隙も無く男性だが、まぁ、この場合女性として数えるべきなのだろう。


【円環暦697年 春 2/3】


あなたが勧誘した男は、瞬く間にキャラバンに溶け込んだ。

今日も筋骨隆々の体を愛らしい意匠の服に包んで、甲斐甲斐しく仲間達の世話を焼いている。
一般的には吐き気を催しかねない光景であるかも知れないが、あなた達には些細な事だ。
ブルーノとテオの二人など、奉仕に喜びを感じ、熟考に耐えられる真面目さも持つ彼……彼女の登場に諸手を挙げて真っ先に歓迎していた。
良く連れてきてくれたと、あなたとサーシャを抱き上げまでした程だ。

今や、彼女の顔に明るい。
本当の女性らしい肉体を得られない事に悔しさを浮かべる事はあれど、追い詰められた者のそれでは無い。


良い仕事をしたと、あなたは胸を張った。



>>↓1  今日はどうする?


といった所で今日はお開きで。
お付き合いありがとうございました。
また明日。


■ あなたのステータス


【5歳 男性 / 現実世界の人間換算で14歳相当】


【種族 : リリパット】

小さな体を持つ種族。
体躯に比して大きな足と、木の葉の形の尖った耳を持つが、それ以外はミーニアに良く似る。
器用さ、感覚、素早さに優れるが、膂力と体力に劣る。

【種族能力 : 直感】

小さな物事が生命の危機に直結する彼らは、己に迫る異変を敏感に察知する。
危機感知判定に有利な補正を得る。


【筋力】 1
【耐久】 2
【器用】 3
【敏捷】 10
【感覚】 12
【意思】 5
【魔力】 1
【幸運】 7


【出身地 : ネレンシア / サルタン】

【現在地 : クァレヴァレ / イーリェ】

http://light.dotup.org/uploda/light.dotup.org356607.jpg



◆ 習得魔法

【種火】
掌に収まる程度の小さな炎を発生させる。

【清水】
両手で作った器に収まる程度の少量の水を召喚する。

【微風】
頬を優しく撫でる程度の僅かな風を発生させる。

【土塊】
拳程度の大きさを限度とする少量の土を召喚する。

【掌握】
『あなたのハートを鷲掴み☆』
一度心を掴んだ対象に行使する事で、一時的に好意を持ちやすく、敵意を抱きにくい状態を作る事が出来る。
あなたに対する好感度が高い程、効果と持続時間が強化される。
一般的な友人レベルの場合、三日間、おねだりに無性に応えたくなる程度が限界。


■ 所持品一覧


◆ 680 Casa ←USED

共通交易通貨。
カダスティア大陸において、使用出来ない都市はほぼ存在しない。

※ 注意事項 ※

イスナの熱烈な教徒たるあなたは、宵越しの金を持てません。
特殊な事情が無い限り、季節が変動する毎に自動的に所持金の全てを享楽に費やします。


◆ 《欲望》の聖印

あなたが首から提げている、聖印を象った木製の首飾り。
特に効果は無いが、見せ付ける事で輪廻教徒をドン引きさせる事が可能。


◆ ダガーLv1

基礎攻撃力 : 2

加工補正 : 2

肘から手首までの長さの刃を持つ、護身用の短剣。
戦闘用としては心許ないが、無いよりはマシ。
木材や動物素材などの物品加工にも適している。


■ キャラバン主要メンバー


◆ メルヴィ

【19歳 女性】

【種族 : ジャイアント】

巨体を誇るジャイアントの中でも一際大きな体躯の、穏やかな女性。
全身を重厚な筋肉で覆われ、見た目通りの怪力と体力を持つ、キャラバンにおける武力の代表格。
あなたを主君と仰いでいる。



◆ サーシャ

【6歳 女性 / 現実世界の人間換算で16歳相当】

【種族 : セリアンスロープ / 鼠】

キャラバンで最も体格や年齢があなたと近い、人懐っこい愛嬌がある女性。
ミーニアの血が濃く、耳と尾以外に獣の要素は無い。
気配察知や隠密行動に優れ、それを生かした悪戯に定評がある。



◆ ニム

【21歳 女性 / 現実世界の人間換算で27歳相当】

【種族 : ハーピー】

キャラバン唯一のハーピーであり、飛翔能力を用いた索敵で道中の安全に一役買っている。
魅力的な女性の姿態を持つが、本人の精神が幼く、それを武器と思っていない。
物事を深く考えるのが苦手で、感性のみで生きている。



◆ ブルーノ

【37歳 男性】

【種族 : ミーニア】

大酒飲みの粗野な男性。
面倒見が良く、様々な雑用や仲間の悩みの解決に喜びを見出している。
キャラバンの頼れる兄貴分。



◆ テオ

【28歳 男性】

【種族 : ドライアド】

ドライアドにおいて最も縁起が良いとされる、パキラの髪を持つ朗らかな男性。
他者の心に滑り込むのが上手く、キャラバンの財源たる交易で商談を一手に任されている。
優秀な魔法使いでもあるが、一歩間違えば放火魔になりかねない炎狂い。


今回は都市間移動がそれなりに多そうなので地図付けておきました。
場所を意識する必要は余り無いんですが、一応。

今晩は20時30分~21時位の開始予定です。
よろしくお願いします。

イスナ教の愉快な仲間たちは季節変わったら違う国に行くんですよね?


>>926
別の国に行くかも知れませんし、国内移動の可能性もあります。
その辺りの予定はブルーノとテオの管轄です。


あなたの良い仕事の結果、生まれ変わったかのような彼、では無く彼女から目を離す。
いい加減、後ろで起こっている恐ろしい事態を直視しようかと考えて、だ。


「わ、悪かった!
 あやま、謝るからおわぁああぁああ!!?!」


また一人、男が飛んだ。
強制的に地面から引き剥がされた虎顔のセリアンスロープが、綺麗な放物線を描いて馬車の輪の外へと消えていく。
恐らく、これで三人目だ

何が原因かと言えば一目瞭然だ。
騒動の中心で憤怒を撒き散らしているのはメルヴィである。
巨岩のような筋肉が熱を持っているのだろうか、周囲には陽炎さえ見える気がした。
口から漏れるのは意味の篭らない唸り声……どう聞いても威嚇音だ。

あなたが今まで見た事も無い程に怒り狂った彼女は、まさに狂戦士と呼ぶに相応しい。


『うわぁ、どうしたんだろアレ。
 メルヴィがあんなになるなんて、よっぽどだよね……』


思わず、呆然とした声が零れる。
メルヴィは巨体の代償に素早さに欠けるのだが、今だけはその欠点を怒りで克服していると見える。
未だ逃げ惑う残り二人もそう時を置かずに捕まるだろう。

仲裁に入るべきかどうか。
あなたが考えていると、独り言への返答が頭上から降りてきた。


「あれねー。
 追われてる方が悪いよ、自業自得。
 流石にアレは無いわ」


ニムである。
事情を知っているらしい彼女は、直近の馬車の屋根に留まり、説明する。

どうやら、新入りの彼女絡みの話らしい。
自分の性癖が本当に受け入れられるのかと若干不安を見せた彼女に、五人の男達がメルヴィを引き合いに出したという。

曰く。


「安心しろって。
 うちにはもう一人同じようなのが居るからよ。
 筋肉ムキムキで鬼みてぇな顔のジャイアントなんだが、そいつも女の格好して暮らしてるぜ」


そしてそれを、馬車の陰に居たメルヴィに聞かれた、という事だった。


「ね、馬鹿でしょ?
 メルが皆殺しにするまでほっといてもいいんじゃない」

『それは止められないね。
 いっそ僕も混じりたいぐらいだ』


まぁ今のメルヴィに近付くのは無理なんだけど。
と言葉を締め、男達の来世の幸福を祈る。

メルヴィは見た目にそぐわず女性らしい趣味を幾つか持つ事を、あなたは知っている。
先日サーシャに買ったような飴細工を渡せば、巨体を震わせて喜ぶだろう。
刺繍や裁縫は今すぐ嫁入りしても十分な程度には嗜むし、家庭料理の腕も上々だ。
総じて不器用なジャイアントの基準で考えれば、と但し書きは付くが。

外見は子供どころか大人も泣き出すような凶悪さ。
しかしメルヴィの内面は、むしろ大陸の男達の大半が妻に望むような理想的な物だ。

そんな彼女を真っ向から貶す言葉を吐けば、メルヴィが本当の鬼になっても責められる訳が無い。
最近は少し落ち着いていたようだが、以前は体と心の溝にコンプレックスを抱いていた節もあるのだから尚更だ。


あなた達は、そっと惨状に背を向けた。
メルヴィの気が済むまでやらせるのが一番良いと判断したのだ。
ただし勿論、イスナ教徒としての嗜みは欠かさない。


「二人死んで三人再起不能に夕飯半分」

『そこまではしないんじゃないかな。
 全員重傷にしておくよ』

「えー、甘いってそんなの!
 あたしなら全殺しだよ、絶対」


ぶー、と頬を膨らませるニム。
彼女がそう言うなら安心だと、あなたは微笑んだ。

ニムは感性だけで生きているが、だからといって勘が鋭い訳でも無い。
頭を使わず勘も足りない彼女は、賭け事にはとことん弱い。
きっと今回も予想は大外れに終わるに違いない。


さて、どうやらニムは特に予定も無いようだ。
そしてまた、あなたも用事は無い。

折角会ったのだから、彼女と交遊を深めるのが良いだろう。

いつものように狩りに出かけても良いし、ただの空中散歩と洒落込んでも良い。
サーシャと出かけたように街へ向かうのも悪くないだろう。
あるいは、賭け事に弱い彼女をカモにして財布を潤わせるという手もある。
勿論、心に浮かぶまま、その他の行動を取っても問題など有り得ない。



>>↓1  どうする?


「街?
 いーよいーよ、勿論行くって!
 あ、でも昨日有り金殆どスッっちゃってさ。
 お金はそっちで出してね!」


全く遠慮無しにたかりにかかるニムに、あなたは苦笑した。
どうやら、ここ数日は女性に奢る運勢にあるらしい。


(ブルーノさん辺りなら、女に幾ら金を使えるかが男の価値だ、なんて言うのかな)


益体も無い事を考えつつ、あなた達は早速街へと足を向けた。
勿論正確には、飛び立った、であるが。


男と女。
それも二人きり。
となれば甘い雰囲気となるのが一般的である。

しかし、そんな常識はハーピーの爪がさっさと蹴破った。
外見だけは見惚れるような美女だというのに、ニムの精神は殆ど少年のような物。
賑やかな表通りを恋人のように歩くなど天地が返っても起こり得ない。


「やっぱ探検だよね。
 こう、なんていうかさ、路地裏って素敵じゃない?
 秘密が隠れてそうっていうのかなー」


現に、今日の散策は裏通りを舞台とする事となった。
昼間だというのに薄暗く、どことなく不安を誘う細い道を、あなた達は歩く。

ニムの視線は落ち着きをまるで知らない。
建物の隙間が現れる度に覗き込み、何か面白い物が転がってはいないかと目を光らせる。

それも、擬音にするならばチラチラというレベルでは無い。
ずずい、という音が最も適切だろう、顔ごと突っ込んでいる有様だ。
そのために通りの左右へフラフラと動き続けていて、時には通行の邪魔にまでなっている。
既に聞こえた舌打ちの数は十を越えそうである。


「何も無いねー……。
 怪しい取引でもしてればいいのに、つまんない。
 それか魔獣の一匹くらい住み着いてるとかさ」

『まぁ、ただの裏道だからね。
 この街は治安も良いって聞くし、仕方ないよ』


しかしニムの努力は実を結ばない。

大陸の南北を繋ぐ主要交易路の只中にあるのがここ、イーリェだ。
人が多く集まる分トラブルの芽は増えるのが常識なのだが、治安維持に全力を注ぐ領主のお陰でむしろ犯罪は驚く程に少ない。
先日、あなたが裸体を晒した瞬間即座に捕らえられたのが良い例だろう。
他の街であれば、あのような速度の逮捕はそうそう無い。


また、路地裏にあるような店は軒並み閉まっている。
恐らく夜にだけ営業をしている類だろう。
結果として、今の路地裏はただ暗いだけの小路であった。


これでは楽しめるような物は見つかるまい。

あなたはそう思い、予定を少し組み替えようかと考えた。
表通りに出るか、夜に出直すか。
あるいは何も無いなら楽しめそうな事件を自ら起こすか。


その時だ。



>>↓1 コンマ判定 【危機感知 / あなた】

感覚 12
直感 3

?? -3

目標値 12


>>↓2 コンマ判定 【危機感知 / ニム】

感覚 5

?? -3

目標値 2


【危機感知 / あなた】

目標値 12

出目 7

通常成功


【危機感知 / ニム】

目標値 2

出目 1

クリティカル!!


あなたの木の葉型の耳が、ピクリと動いた。

無防備に道を歩くあなた達のやや後方。
路地の片隅に置かれた箱の陰に、何かの気配を察知したのだ。
それは静かに位置を移し、道に出て……。

そこで、あなたの鋭い直感が肌を粟立たせた。
僅かな危険が命に直結するリリパット特有の警鐘に従い、素早く振り向く。


視界の中央には気配の主。
薄汚い襤褸切れを纏った小柄な人間が、前傾姿勢で足音も無く駆けてきている。
こちらが気付いた事に驚いたように僅かに身を固めたが、しかし躊躇は一瞬で消え失せたのが見て取れる。

襲撃か物取りか。
どちらにしても脅威だとあなたは断じた。
相手の速度はあなたよりもやや劣るが、野獣の域には十分に踏み込んでいる。

狙いは……ニム。
未だ襲撃者に背を向ける彼女に手が伸びるまで、たった数歩。
最早僅かの猶予も無い。


と、そこであなたは気付いた。
同時にさっさとその場を飛び退き、ニムから距離を取る。


(何だ、心配する必要無かった)


視界の隅に見えた彼女の目は、爛々と輝いていたのだ。
あなたが何も言わずとも襲撃を理解し、ようやく起きた異変に心を躍らせているに違いない。
だとすれば、襲撃者の哀れな末路は想像に易い。


風を裂く、どころでは無い。
大気を砕く音が、あなたの耳に届いた。


目にも留まらぬ、という言葉がまさに相応しい。
あなたの目をして捉え切る事が出来なかった振り向き様の一撃は、完全な形で襲撃者の胴を捉えていた。

頻繁にニムと狩りに出かけるあなたは、当然知っている。
彼女の蹴りは、爪の鋭利さも相俟って野生の獣を容易く仕留められる威力を持つ。
獣よりも脆いだろう人間が受けて良い物では、決して無い。

最早死んだも同然。
そんな襲撃者を、更なる悲劇が襲う。


「待ってた待ってた!
 こういうの待ってたんだよ気が利くじゃん!」


上機嫌のニムが、翼をはためかせて舞い上がる。
その脚の先には襲撃者が鷲掴みにされている。
何とか逃れようと必死にもがいているが、見ているだけで痛みを覚える程に食い込んだ爪がどうにかなる訳も無い。

狭い路地から上空に抜けるまでの間。
ニム待望の犠牲者は、幾度と無く壁に叩き付けられ、その意識を失う事となったのだった。


そして、その後。
笑顔で舞い戻ったニムと共に襲撃者の襤褸切れを剥ぎ取ったあなたは……。


『……何これ。
 ニム、こんなの知ってる?』

「え、全然知らない。
 ミーニア……じゃないよねぇ。
 リリパット……にしては耳が変だし」


酷く困惑していた。
襲撃者の種族が、未知のそれであったのだ。


特徴を挙げれば、以下の通りになる。

人間としては限界に近いだろう、白すぎる肌。
頬がこけている訳でも無いのに肉付きが悪く、細すぎる体。
耳の先が尖っているのはリリパットと似ているが、耳全体の細長さは個人差を踏まえても異常だ。

このような種族は、この大陸において全く知られてはいない。


そんな未知の生き物は、今や死に掛けていた。

体中の骨が何本も折れているだろう事はちらりと見るだけで誰にも分かるだろう。
片方の脚など、綺麗に捩れて爪先が真後ろを向いていた。
目は虚ろに開かれ、口の端からは血の泡さえ見える。

放置すれば、いくらも経たぬ内に命を落とすのは明白だった。


どうすれば良いかと、あなたは考える。
キャラバンにこっそりと連れ帰り、仲間に治療を頼むか。
適当な医者の元へ叩き込むか。

勿論、最も単純な解決策は目撃者でも探して共に衛兵の詰所へ行く事だろう。
強盗を返り討ちにして命を奪う事は、犯罪でも何でも無いのだ。



>>↓1  どうする?


【倫理観】

意思 5
信仰 5

目標値 10

※ クリティカルを考慮しても結果が変動しないため、判定は省略されます。





まぁ良いか。
このまま放っておこう。

あなたが出した結論は、そんな物だった。
未知の種族ではあるが大した問題では無い。

あなたが信仰する女神は、全てを容認する。
この文言に一切の誇張は無い。
殺人、強盗、拉致、強姦、あらゆる行いを良しとする。

そして勿論の事、それらに対する反撃も認めている。
やりたいようにやって、思うままに生きて死ね。
そういう教えなのだ。

ニムが気に入らない者を殺した所で、あなたの信仰が傷付く理由は無い。


「ま、それでいいよね。
 あ、でも楽しませてくれたのはお礼言っとかなきゃ。
 ありがとねー」


ニコニコと笑うニムを伴って、あなたは路地を去る。





「…………ねぇ、さん」


その間際。
そんな言葉が聞こえた気もしたが、優先すべきはニムとの日常であると、あなたは切り捨てた。


【円環暦697年 春 3/3】


「あいだだだ!
 お、おい! もうちょっと優しくやってくれって!」


男の大袈裟な悲鳴をハイハイと無視して、あなたは布を更にきつく巻いた。
折れた腕に強烈過ぎる締め付けを受けた彼は、更に一段階悲鳴の音量を上げる。

彼はメルヴィの報復によって重傷を負った者である。
結局、いつも通りにニムの予想は外れ、全員が骨折程度で済んでいた。
それも、随分と綺麗な折れ方をしている。
骨折としては最短の期間で、何の障害も残らず治るだろう。

メルヴィは激怒に身を焦がしながらも手心を加える事は忘れなかったらしい。
彼らは命があって良かったと、心から安堵の息を吐いていた。


そんな彼らだが、姉のように慕う女性の心を傷付けた者をあなたがどう思うかは想像の範疇に無かったようだ。
包帯の取替えを買って出れば、あっさりと追加の報復を与える機会をくれたのだから、笑顔が溢れて止まらない。

身を寄せ合って震える残りの四人を横目に、今日は何て良い日なのかと、あなたは神に感謝した。



>>↓1  今日はどうする?

テオと交流


といった所で今日はお開きで。
お付き合いありがとうございました。
また明日。


仕事中ですが大変な事に気付いたので急ぎ報告。

昨晩の街での行動において、シナリオの根幹部に抵触しかねない重大なミスがありました。
一部を無かった事にして、少し巻き戻すかも知れません。
申し訳ないです。
>>957の安価については問題無く採用される形に留めます。


追記。

フラグ的な問題では無く、主人公の性質に関するミスです。
そのため結果は変えず、描写が変更されるに留まります。
紛らわしくて申し訳ありません。


そして、その後。
笑顔で舞い戻ったニムと共に襲撃者の襤褸切れを剥ぎ取ったあなたは……。


『……何これ。
 ニム、こんなの知ってる?』

「え、全然知らない。
 ミーニア……じゃないよねぇ。
 リリパット……にしては耳が変だし」


酷く困惑していた。
襲撃者の種族が、未知のそれであったのだ。

特徴を挙げれば、以下の通りになる。

人間としては限界に近いだろう、白すぎる肌。
頬がこけている訳でも無いのに肉付きが悪く、細すぎる体。
耳の先が尖っているのはリリパットと似ているが、耳全体の細長さは個人差を踏まえても異常だ。

このような種族は、この大陸において全く知られてはいない。


そんな未知の生き物は、今や死に掛けていた。

体中の骨が何本も折れているだろう事はちらりと見るだけで誰にも分かるだろう。
片方の脚など、綺麗に捩れて爪先が真後ろを向いていた。
目は虚ろに開かれ、口の端からは血の泡さえ見える。

放置すれば、いくらも経たぬ内に命を落とすのは明白だった。


それはいけない、と。
あなたは一切の思考を経ずに断じた。
助けなければならない。
助けて、その願いを聞かなければならない、と。

ここは治安の良い都市だ。
物取りか、殺しか、襲撃者の目的が何だとしても、覚悟あっての事だろう。
ならばそれはつまり、あなたが信仰を以って受け入れるべき渇望だ。


奪いたいならば、差し出そう。
暴力を愛するならば、打たれよう。
流石に命までは差し出せないけれど、死の寸前程度までは構わない。

この身を使って満たされるならば、これに勝る至福は無い。


異形の思考が、あなたの魂を満たしていく。


どうすれば良いかと、あなたは考える。
キャラバンにこっそりと連れ帰り、仲間に治療を頼むか。
適当な医者の元へ叩き込むか。

……しかし。


「またいつもの病気?
 正直言って、それ気持ち悪いよ。
 あたし、その訳分かんない趣味だけは好きになれないなー」


あなたが行動を決定する前に、鈍い音が路地に響いた。
襲撃者の首には、猛禽の脚。
ニムが止めを刺したのだ。
細く白い体は一度だけビクリと跳ね、瞬く間に死の気配が濃密さを増して行く。


『そっか、ごめんねニム。
 折角気分良かったのに、邪魔しちゃったかな』

「ん、別にいいよ、未遂だしね」


助けたかったけれど、死んでしまったならば仕方ない。
襲撃者の渇望は気にかかるが、仲間であるニムが殺したいと望むなら、あなたにとって優先されるべきはそちらである。


あなたが信仰する女神は、全てを容認する。
この文言に一切の誇張は無い。
殺人、強盗、拉致、強姦、あらゆる行いを良しとする。

そして勿論の事、それらに対する反撃も認めている。
やりたいようにやって、思うままに生きて死ね。
そういう教えなのだ。

ニムが襲撃者を殺した所で、あなたの信仰も、良心も、毛程にも傷付く理由は無い。


「それに、十分楽しかったし。
 じゃあバイバイ、何か変な生き物くん」


ニコニコと笑うニムを伴って、あなたは路地を去る。


「…………ねぇ、さん」


その間際。
そんな言葉が聞こえた気もしたが、優先すべきはニムとの日常であると、あなたは切り捨てた。


以上、変更点でした。

この後は>>957からの再開です。
今晩は20時位の開始になると思います。
よろしくお願いします。


■ 次スレ上がりました。

【安価コンマ】平穏世界のファンタジーライフ-02【オリジナル】

【安価コンマ】平穏世界のファンタジーライフ-02【オリジナル】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1469531135/)



ちょっと遅れました。
申し訳ありません。

使い切るまではこちらで進行します。
よろしくお願いします。


五人の男達にたっぷりと悲鳴を上げさせた後、あなたはキャラバンの周りを歩いていた。
特に目的あっての事では無い。
ただ手持ち無沙汰であったための、暇潰しの散歩である。

サーシャもニムも見当たらず、メルヴィは今回の大暴れについてブルーノの下へ謝罪に行ってしまった。
本来、殴りたいと思ったなら何も考えずに殴るのがイスナ教徒の正しい姿だ。
謝罪など別段不要なのだが、メルヴィの場合は若干事情が異なる。
彼女はイスナの教えに従いながらも、己の行動を常識と良識で縛る事を望んでいる。
いっそ異端と呼んでも良いかも知れない程の、珍しい信徒だ。
そんな彼女にとって、今回の暴力沙汰は不覚の至りであったらしい。


そういう訳で、共に時間を過ごす相手に欠いているのだ。
せめて何か楽しめる物が転がっていないかと、先日のニムのように視線を巡らせ、辺りをうろつく。


「おや、どうしたんです?
 一人とは珍しいですね。
 いつもは取り合いになる位の人気でしょうに」


どうやら、その甲斐はあったようだ。
一台の馬車付近を通りがかった時、ちょうどタイミング良く扉が開いてテオが顔を出したのだ。

彼の言うとおり、普段ならばメルヴィ達が居なくとも仲間達があなたを放ってはおかない。
あなたの声と容貌は、まさしく絶世の美と呼ぶべき物だ。
鑑賞するだけでも価値有る上に、あなたは何かを求められれば断るという選択肢を持たない。
好き勝手に着せ替えて楽しむ者も多く、馬車の中へと引き込む者もそれなりに居る。

また、歌わせれば酒の肴にもなり、男性陣にも引っ張りだこだ。
そういった誘いすら無いのは確かに珍しい事である。


『こんにちは、テオさん。
 今日は皆さん用事があるみたいでして。

 テオさんは……あぁ、次の予定ですか?』


片手には、丸められた羊皮紙を握っている。
僅かに見える内側には大陸の端が見て取れ、地図であると分かる。
恐らく、今後のキャラバンの道程について考えていた所だったのだろう。

そう予想し問いかければ、テオは頷いた。


「えぇ、そうなんです。
 ちょっと迷っていましてね。

 そうだ、君の意見も聞いてみますか。
 北へ向かう事は決定しているんですが、どちらにするかは定まっていないんです」


地図を広げてあなたに示し、テオは続ける。
初めに現在地イーリェに指が置かれ、僅かに上へと滑りアトランドへ。
そこで動きが止まり、トントンと軽快に地図を叩く。

http://light.dotup.org/uploda/light.dotup.org356607.jpg


「北上の目的地は、首都クァレヴァレです。
 そこまでの道がどうにも決められないんですよ。
 川を下ってクリーウェルからシーズリーカに至る、海沿いを行くか。
 山沿いに進んでカラデナを経由するか」


テオは更に、それぞれの道の特色を語る。

前者、海沿いの道ならばまず上げられるのは海の幸だ。
豊かな漁場である湾に隣接する都市では、魚介の美味が楽しめるだろう。
特に、夏のクリーウェルでは絶品の貝が取れるという。
あれは実に素晴らしい物でしたと、テオは顔を綻ばせる。
勿論、海沿いであるのだから海に入って遊ぶ事も出来るに違いない。

対する後者、山沿いの道は火竜山脈の裾野を通る事となる。
こちらでは火山の熱に温められた湯が湧き出ているという話だ。
温泉で人を集め土産物や食事で金を取るという形式らしく、温まるだけなら多くの金も必要無く、旅人に大人気だそうだ。。
旅の疲れが吹き飛ぶ程の心地良さに、ブルーノなどは一時定住すら考えたらしい。
また、食で言えば焼けた石を用いる鍋料理が名物のようだ。


「道の安全性でいえば、どちらも大差ありません。
 利益の面でも、まぁ同程度ですね。
 あなたの意見だけで決める訳でも無いですし、気楽に考えてくれて構いませんよ」


テオはそこで言葉を止めた。
何かを探るようにあなたの目を見詰め、意見を待っている。



>>↓1 自由に意見を述べる事が出来ます。


『温泉、いいですね。
 テオさん、是非山沿いを行きましょう』


あなたが明るく返事をすると、テオは意外そうに目を開いた。
まさかそういった言葉が返ってくるとは思っていなかったと、まさに顔に書いてある。


「……なるほど。
 えぇ、君の意見は分かりました。
 ブルーノと相談する時には、心に留めておきましょう」


そうして地図を仕舞い、空いた手をあなたへ伸ばす。
ドライアドとしては色の薄い、黄土色の樹皮の掌が、あなたの頭を優しく撫でた。
見れば、テオの目は強い優しさを感じさせる色を纏っている。


「君も、ちゃんとした自分の意見を持てるようになったんですね。
 ここに来た頃は、本当に人間であるかどうかも怪しい位だったのに」


テオの言の通り、ほんの半年前のあなたは人間の精神を持っているとは全く言い難かった。

ただ只管に他者に従い、何も命じられなければ馬車の中で延々と座り込んでいた。
人の形をしたカラクリ人形と言われれば、大半の人間は信じただろう。
生命として余りにも欠落が多すぎると、キャラバンの誰もが感じたはずだ。

その欠落が、今では随分と埋められた。
サーシャを街へ誘い、ニムと空を楽しみ、メルヴィのために怒る。
どれもこれも過去のあなたからは想像も出来ない事であり、今回の意見もその一つだろう。


「とはいえ、まだ足りない部分は多そうですが。

 いいですか?
 あなたは誰の欲をも受け止める器、神の子である事に誇りを持っているようですが、それだけではいけません。
 自分自身の心からの渇望を持つ時を、イスナ様はきっと待っているはずです」


この言葉も真実だ。

あなたは自信の欲を、ほんの僅かにしか持っていない。
美味しい物は食べたいし、楽しい事には興じたい。
その程度はあるが、たったそれだけ。
キャラバンの仲間が持つような魂の底から湧き出るような大欲は、あなたには今の所、存在しないのだ。


あなたはテオへと頷いた。
確約出来るような類の物では無いが、努力する事は出来るだろう。
他でも無いイスナが待っているというならば応えたいと、あなたは思ったはずだ。


テオの話は、それで終わりのようだ。
地図を馬車の中へ放り込み、体を解すように伸びをしている。

この後の予定は、どうやらテオには無いらしい。
あなたは彼に何らかの誘いをかけても良いし、また一人ぶらつくのも自由だ。



>>↓1  どうする?


あなたはテオに別れを告げ、散策に戻る。

テオは、己の欲を持てと言った。
ならば早速、それを探してみようかという考えだ。

手本となる物は多くある。
何せここは欲望の集積地だ。
歩いてみるだけで、誰かの剥き出しの欲望に出会えるだろう。



>>↓1 コンマ判定

1-2 サーシャ
3-4 ニム
5-6 ブルーノ
7-8 メルヴィ
9-0 他の仲間

※ 並びは現在までに自由行動で稼いだ好感度順です。


■ 結果

3 = ニム



輪を描く馬車の列に沿って、あなたは歩く。
ただそれだけで、数多の欲が奏でる音が耳に入ってくる。

真昼から酒に興じ騒ぐ大声。
山のような肉が焼ける音。
どこかで喧嘩でも起こっているのだろう、怒声とそれを囃す声も僅かに聞こえる。

その中に、特に耳慣れた音が混ざった。
力強い羽ばたきである。
咄嗟に頭上を見上げれば、斑の羽根を持つハーピー、ニムがそこに居た。


「やっほう!
 ちょっと見てよコレ!
 すっごい綺麗な石見つけちゃった!」


滞空する彼女の足を見れば、そこには数個の石。
僅かに黄色がかった白色のそれは、どうやら瑪瑙だ。
河原にでも飛んで行って探していたのだろう。

彼女の欲望は単純だ。
好きなだけ食べ、好きなだけ寝て、好きなだけ遊び、彼女の基準で美しいと思えた宝を集める。
生物の基礎を煮詰めただけのシンプルさ。
酷く分かりやすく、そして共感しやすい。

抜け落ちているのは性欲ぐらいの物だろう。
子供じみた精神のためか、肉の交わりを彼女は必要としていない。
十分に成熟した魅力的な体目当てに寄り付く男は多いが、毎度毎度蹴り飛ばされて終わっている。


『へぇ、山の方から流れてきたのかな。
 ニム、これもっとあった?』

「だから探しに来たんだよ。
 あたしじゃ持って帰れなくてさー」


そう言って残念そうに、石を持たない方の脚を振る。
ハーピーの腕は翼であり、足は猛禽の爪だ。
どうしても器用さには大きく欠け、多くの物を運ぶには向かない。


『じゃあ一緒に行こうか。
 袋一杯に探してみようよ。
 僕も少し欲しくなっちゃった』

「さっすが話が分かるぅ!
 ほらほら早く!
 モタモタしてたら日が暮れちゃうよ!」


あなた達は空を飛び、河原を目指す。
子供らしい遊びというのは、以前のあなたとは縁が無かった。

取るに足りない時間だが、心の底に降り積もる物は確かにあったはずだ。


この辺りで次スレに移動しておきます。
次は固定イベント。
ちょっと時間が足りない気もしますが、まぁ何とかなる……と思いたいです。

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