理樹部屋
理樹(ちょうど野球盤に飽き飽きしていた頃、真人がふと思い出したかのように言った)
恭介「なんだそいつは?」
真人「ちょうどここに5人いるだろ?まず一人一人に紙とペンを用意してもらう」
真人「そして5人は配られた紙に『いつ』『どこで』『誰が』『何を』『どうした』というお題に合った言葉を自由に書き込む。1人で全部書くんじゃなく、あくまで5つのうち割り当てられた物だけだ」
謙吾「つまり、例えば俺は『いつ』だけ書き込み、真人は『どこで』だけを書くということだな」
鈴「面白そうだ」
理樹(真人にしては珍しく、鈴も乗るようなまともな提案だった)
真人「で、完成したのを誰が実行する」
理樹(やっぱりまともじゃなかった!)
理樹「いやいやいや!!それ結構リスキーだよ!?誰かが変なこと書いたらどんな恐ろしいことが……!」
恭介「安心しろ。この面子ならそんな無茶なことは書かねえよ」
理樹「そ、そうかな……でもそれのどこに筋肉要素があるの?」
真人「誰かが実行している間、他の全員はそれを見守りながら筋トレする」
理樹「肝心の筋肉の部分雑過ぎない?」
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5分後
真人「じゃあ全員書けたな?さっそく発表していくぜ!」
理樹(嫌な予感がする……)
謙吾「まず俺の『いつ』だな。俺が書いた内容は【今から】だ。まあ、無難にな」
理樹「確かに明後日、とか書かれても暇つぶしにならないしね」
理樹(ちゃんとしてる時の謙吾らしい無難な答えだ)
恭介「じゃあ次の『どこで』だな。俺はこう書いた」
恭介「【来ヶ谷の部屋で】」
理樹「いやいやいやいやーーーーっっ!?」
恭介「アハハハハッ!!!」
理樹「絶対おかしいでしょ!!さっき恭介、自分で無茶なことは書かないって言ってたよね!?」
恭介「フフフフッ!!」
理樹「いつまで笑ってるんだよ!!」
理樹(この人は自分が『誰』になる可能性はこれっぽっちも考えていないらしい)
謙吾「まあ落ち着け理樹。確かに俺たちの難易度は上がったかもしれないがもし鈴がやるとすれば何てことはない。ただ友人の家に遊びに行くだけだ」
理樹「だといいんだけどね……」
真人「じゃあ次は俺の『誰』だな!」
理樹(僕は嫌だ僕は嫌だ僕は嫌だ……)
真人「もちろん理樹だぜ!」
理樹「ほらもう!!」
恭介「アッハッハ!」
理樹「はぁ………」
理樹(もうこの時点でほぼ終わりだ……何が悲しくて来ヶ谷の部屋に行かなきゃならないんだろう……)
恭介「ほら、次は理樹の番だろ?諦めて言っちまいな」
理樹(かつてなくニヤついた恭介がおだててきた)
理樹「あとで覚えておいてよね恭介……」
恭介「俺は別に理樹にこうさせたくて書いた訳じゃない」
理樹(そうは言うものの恭介の事だからある程度は予想してやった気がする)
理樹「分かったよ……それじゃ僕の『何を』は【辺りのものを】だよ」
鈴「じゃー次はあたしだな!」
理樹(とてもワクワクした鈴が言った)
鈴「【手当たり次第に匂いを嗅ぐ】だ!」
理樹「~~~~~~~ッッ!?」
理樹(さらなる地獄がそこに待っていた)
真人「えーと、合わせるとつまり……」
謙吾「『今から来ヶ谷の部屋で理樹が辺りの物を手当たり次第に匂いを嗅ぐ』……だな……」
理樹(さっきはフォローしていた謙吾も凄く哀れな眼差しを向けてきた)
理樹「鈴!ど、どうしてそんなこと書いちゃったのさ!」
鈴「猫の事になればいいなーって思った」
理樹「おかげでとんだ変態だよ……」
恭介「ふっ、こんな事もあろうかと片耳だけで使えるイヤホンを持ってきたぜ。これで女子寮にいようと俺たちはここで会話可能だ!」
理樹「なんだろう。思い出せないけどそれに凄く見覚えがある気がする」
理樹(ともあれ、僕の必死の抵抗も却下されて遂に来ヶ谷さんのアジトに行く羽目になってしまった。ああ、無情……)
女子寮
理樹「ササッ!」
理樹「サササッ!」
理樹(来ヶ谷さんはみんなのいる今の場所ではなく、1人だけ少し離れた旧女子寮に住んでいる。そのため、一度近くに来てしまえば他の誰かに見つかる可能性はほとんどなかった。……本人を除いて)
理樹「……来ヶ谷さんの部屋の前に着いたよ……」
恭介『ふっ…ふっ…!よし、もしも部屋に来ヶ谷がいたとしても通報されることはないはずだ。いた時は訳を言って嗅がせてもらえ!ふっ…ふっ!』
理樹「正直に言ったところでやらせくれるとは思わないけどね……」
理樹(だけどここまで来たら引き返せない。ええい、ままよ!)
ガチャッ
来ヶ谷部屋
シーン……
理樹「……………………」
謙吾『どうだ……フン!いたか?……ハァッ!』
理樹「いや、いないよ。誰もいない…」
理樹(なんだか拍子抜けした気分だ。いや、いなくてとても助かるんだけど……)
鈴『っふぅ……部屋に何がある?……んしょっ』
理樹(来ヶ谷さんの部屋はとても整頓されていて、ホテルのような感じだった。必要な物以外は特に置いていなく、生活感はまったく感じられない。強いて言うなら机に並べられた本だけだ。どれも難しそうな物ばかりだけど……)
理樹「あまり目立ったものはないね…嗅げるような物は本と机だけかも」
理樹(でもそれは逆に幸運だった。本だけなら特に変態扱いは……)
恭介『おいおい、何を言っている?』
理樹「へっ?」
恭介『奴がいくら何も置いていないにしてもそこに生活している限り必ずあるものがあるだろ』
理樹「え、えーと……つまり?」
恭介『ベッドと服入れだ』
理樹「それはアウトだよ!」
恭介『えっ、なにが?』
理樹「そこまで行ったらもう戻れなくなるよ!ただのど変態だよ!」
鈴『やっても特に評価は下がらないから安心しろ』
理樹「暗に元から変態だって言いたいの!?」
謙吾『理樹。残念だがルールはルールだ。ちゃちゃっと嗅いでその場から離れろ。来ヶ谷が帰ってきたらそれこそ変態呼ばわりは必至だぞ』
理樹「いいよねみんなは筋トレだけしてればいいから……」
恭介『いや、もうみんな飽きてる。律儀にこなしているのは真人だけだ』
理樹「なんなんだよもう」
理樹(こうなったら謙吾の言う通りさっさと嗅いで終わりにしよう)
理樹(やや黒っぽい木目調の床板に真っ白なシーツのベッドの前に立った。一応扉の方を確認してからゆっくりと枕に顔を近づける)
理樹「ごめんなさい……」
理樹「スゥ……」
理樹(…………………………)
恭介『ど、どうだ?』
謙吾『ど、どんな匂いがした?』
鈴『お前らも変態だな』
理樹「凄く……いい匂いです」
理樹(それはとても懐かしい匂いがした。例えるなら昔、旅先で嗅いだ風呂場の石鹸のような……それでいて気高さを感じさせる上品な香りだった)
理樹「スンスン……」
恭介『どうやら理樹は来ヶ谷の香りが気に入ったようだな』
理樹(そう囁かれてやっと我に帰った)
理樹「ハッ!ダ、ダメダメ…もう終わり!さっさと帰らないと!」
恭介『おいおい、まだ色々あるだろっ。………ま、いいや。理樹にしては頑張った方だもんな』
理樹「う、うん!」
理樹(部屋を見渡して自分の痕跡が残っていないか確認して部屋を出ると、そそくさと扉を閉めた)
廊下
理樹「ハッ…ハッ……!」
理樹(焦ってはいけないと分かっていても足が勝手に僕を急がせた。そしてそれは正解だったようだ)
コツ…コツ……
理樹「!」
理樹(前の方から誰かの足音が聞こえた。慌てて非常怪談へ避難する)
理樹「……………!」
コツ…コツ…
来ヶ谷「………………」
理樹(やはり足音の主は来ヶ谷さんだった。後ろ姿しか見えなかったが、少し湿った髪を見るにお風呂に入っていたんだろう。とても幸運だった)
………………………………
………………
…
理樹部屋
ガチャッ
理樹「はぁぁ……どうなることかと思ったよ……」
恭介「ヒューヒュー!」
真人「よくやったぞ理樹っ!」
謙吾「ああ、まさか来ヶ谷の部屋に入って無事に帰ってくるとは……大した奴だ」
理樹(部屋に着くとまるで凱旋のような扱いだった)
鈴「……そんなに来ヶ谷のは良かったのか?」
理樹「ま、まあ……真人の汗臭い匂いをいつも嗅いでるからね…」
理樹(照れ隠しに真人を使ったら本人の地雷を踏んだ)
真人「なんだよ!まるで『いつも上から臭う男の筋肉フェロモンに鼻を日々麻痺され続けた所為で僕の嗅覚は既に筋肉色に染まりまくりました。もう今度からベランダで寝てください』とでも言いたげだなあっ!」
理樹(久々に真人の神がかった言いがかりが出た。そろそろ総集編が欲しい)
鈴「そーか……」
恭介「まあ結果的に理樹が良い思いを出来たってことでいいじゃねーか」
謙吾「そうだな。だからそう怒るな」
理樹(特に羨ましいとも思わなさそうな人に言われてもな……)
キーンコーン
恭介「おっと。もうそろそろ消灯の時間だ。そろそろ出るか」
謙吾「そうだな。おやすみ2人とも」
鈴「おやすみ」
真人「おう、また明日な!」
理樹「おやすみなさい」
理樹(いろいろと騒がしかったがそんな今日も夜は更けていく……)
キリがいいので今日はここまで(∵)
そういえばそんなのもあったな…
再開
次の日
教室
理樹「……それにしてもあの香り。良かったな……」
理樹(1日経っても来ヶ谷さんの枕の香りが頭から離れなかった。いったいなんのシャンプーを使っているんだろう?失礼な事とは分かっていてもつい考えてしまう)
真人「おう理樹、元気かよ?」
理樹「うん、ああ、大丈夫。元気さ」
真人「本当か?心、筋肉にあらずって感じだったぜ」
理樹「別に普段筋肉のことを考えてる訳じゃないけどね」
理樹(いかんいかん、真人は結構鋭いんだからそれを勘付かれるほど考え込んでちゃそのうち本当に何かしでか……)
フワッ
理樹「あっ………」
来ヶ谷「やあ2人とも。おはよう」
真人「おーおー現れやがったなぁ来ヶ谷!」
理樹「お、おはよう……!」
来ヶ谷「……うん?どうした、そんな面食らった顔をして」
真人「ああ、聞いてくれよ。よく分からねえんだが理樹のやつ教室入ってからずっとこの調子なんだよ」
来ヶ谷「ほう。それは良くないな。なんだ、便秘か?」
理樹「ち、違うよ!本当に大丈夫だからっ」
来ヶ谷「そうか。まあ、本人がそう言うなら引くしかあるまい」
理樹(今、またあの香りがした。普段は匂いなんて意識していないから何も感じないが、今は少しそういうのに敏感なんだろうか?とにかく良い匂いだった)
授業中
教師「であるからして~」
「うお、今の台詞マジで言う人いるんだ……」
理樹「………………」
来ヶ谷「………………」
理樹(気が付けばずっと来ヶ谷さんの方向を見ていた。窓から風がなびいて彼女の髪が大きく揺れる時、少しでもこちらにその成分が来ないかと小さな期待をしてしまうのだ)
教師「ではこの問題を……」
理樹「………………」
教師「直枝に読んでもらおうか」
理樹「………………」
教師「直枝?今は起きてるんだろ?」
理樹「………………」
教師「おいおい、目を開けたまま寝たふりなんて流石に騙されないぞっ」
「「ははは……」」
来ヶ谷「……………?」
理樹「……………!」
理樹(その時、やっと先生の言葉が耳に入った。しかし、同時に来ヶ谷さんも不思議に思ってこちらを振り返ったので一瞬だけ目が合ってしまった)
理樹「あっ、はい!」
教師「ぼうっとしていたな。27ページの3つ目だ。10秒以内に答えれば許してやるっ」
理樹「あっ、えっと……」
謙吾「……(3だ!)……」
理樹「3番目です」
教師「運がいいな。正解だ!」
理樹(良い友のお陰でその場は切り抜けたが来ヶ谷さんの方はというと……)
来ヶ谷「…………………」
理樹(いつも通りブックカバーをつけた本を眺めていた。気付かなかったのだろうか?)
…………………………………………
来ヶ谷「理樹君。さっきからいったい何事だ?」
理樹「あっ、やっぱり気付いてた……?」
来ヶ谷「真面目な君が授業中、私に妨害される以外で集中力に欠くなんてよっぽどの事だからな」
理樹「えっ……?」
理樹(ということは目が合ったというのは勘違いだったか。なんだ、あせって損した……)
来ヶ谷「まあ、なにか悩みがあるなら相談してくるといい。お姉さんが必ず力になろう」
理樹「あ、うん……分かった。気持ちは受け取っておくよ」
理樹(まさかもっと匂いを嗅がせて。なんて言える訳ないしなぁ………って何を考えているんだ僕は!?)
………………………………………………
………………………
…
グラウンド
小毬「お疲れ様~!それじゃ先に帰りますね~」
謙吾「ああ、また」
真人「またなー」
恭介「よし。これで女子は全員出たな」
理樹(練習の終わり。まずは女子が先に着替える。そしてその後、僕らがその更衣室を使う。あんまり意識してなかったけどよく考えたらこれって他の部活の人からしたらかなりツッコまれそうだな……)
更衣室
理樹「……………」
理樹(更衣室自体は消臭スプレーがかけられたりしてるからあまり匂いはしない)
謙吾「……どうした?早く着替えないと晩飯が混むぞ」
理樹「あ、うん……先に行っておいていいよ」
恭介「じゃあ一応席は取っておくからな」
理樹「うん……」
理樹(でも、来ヶ谷さんのロッカーなら……?)
ガチャガチャ…
理樹(ロッカーは僕の鍵じゃ開かなかった。当たり前だ)
食堂
鈴「隣の家に囲いが出来た」
鈴「かっこいー」
葉留佳「うわぁ、これなんてリアクションすれば分かんないっすネ……」
小毬「あははっ、鈴ちゃん面白ーい」
葉留佳「なぬ!?」
真人「で、言ってやったんだ。おいおい、それじゃ俺の筋肉3個分にもなりゃしねえぜ……ってな!」
謙吾「ほう…なかなか上手いな」
理樹(食堂では既に和気藹々と会話が弾んでいた)
理樹「ごめん遅れちゃった」
恭介「大丈夫だ、こっちの席は空いてるぜ」
真人「おっと、こっちも空いてるぜ?」
謙吾「俺の隣もいないぞ」
理樹「微妙に気まずくなる選択肢はやめてよ!」
理樹(結局一番近い恭介の席に座ることにした)
理樹(晩御飯を終えた後、クドがこちらにやってきた)
クド「リキリキー」
理樹「どうしたの?」
クド「あのー実は今日、また女の子のみんなでお泊まり会があるんですっ」
理樹「そっか、楽しそうだね。じゃあまた明日」
クド「まっ、待ってくださーい!」
理樹(もうアレは二度とごめんだ。確かに普通なら女の子がいっぱいいるのは嬉しいかもしれない。だが最終的に僕まで女の子にされるのは目に見えている。たとえチキンと言われようが絶対に前回の二の舞は…)
クド「だ、大丈夫です!来ヶ谷さんの部屋でやるから他の人には見つかりません!」
理樹「そういう問題じゃ………えっ?」
クド「?」
理樹「も、もう一度言って……」
クド「来ヶ谷さんの部屋でやります」
理樹「ムヒョッス最高だぜ」
クド「は……え?」
理樹「ああ、いや、なんでもない!分かった。せっかくのお誘いだしね。行くよ」
クド「わふー!やりましたー!」
続く
理樹(今週二度目の女子寮潜入となった。しかし、今回はクドと小毬さんに荷物運びの助けを求められた男という設定なので堂々と進むことが出来た。どのみちあまり人には出会わなかったけど)
小毬「そろそろだよ~」
理樹「……へえ、来ヶ谷さんってみんなとは離れた部屋に住んでるんだね」
クド「はい。なんでも来ヶ谷さん的にはそっちの方が良いと自分で残ったそうです」
理樹「ふーん……」
理樹(前回と同じ道も今や見つかる恐れがない。そのギャップのお陰か麻痺していた羞恥心の方の緊張感を取り戻した。なんだかんだで女の子だけの集団に身一つで飛び込むのは照れる)
クド「ここです!」
理樹「も、もうみんないるの?」
小毬「うんっ。お菓子とかいっぱい用意したから遠慮なく食べてね~」
理樹「あ…うん……」
理樹(お菓子の匂いで元の匂いが上書きされるのは困るんだけどな。まあここは割り切ろう)
来ヶ谷部屋
ガチャッ
来ヶ谷「ようこそ理樹君。歓迎するよ」
葉留佳「おっ、来た来たー!」
理樹(部屋の雰囲気は以前と打って変わって女子って感じのオーラに包まれていた。テーブルの上に置かれたお菓子と色んな柄の枕がそうさせるんだろうか)
西園「飛んで火に入る夏の虫……いえ、なんでも」
理樹(不安な声も聞こえたがとにかくみんな楽しそうで良かった)
鈴「また来たのか」
理樹「うん。来ちゃった」
鈴「………………」
理樹(鈴が何か察した風にこちらを睨んできた)
理樹「な、なに?」
鈴「知らん」
理樹「えぇ……」
来ヶ谷「さて、ご苦労だった2人とも。まずはシャワーでも浴びてはどうだ?」
理樹(そういえばみんなはもうパジャマを着ていた。全員既に済ませたということか)
理樹「………………ハッ!」
理樹(そうだ……僕が”ここ”で風呂に入るということは……!)
葉留佳「フッフッフッ…やっと思い出したかね理樹君!そう、キミが女子会に参加するのはこれが初めてではない!こことは違うもう一つの世界で体験しているのだ!」
西園「おぼろげではありますが……こういう催しがあった事は覚えています。楽しかったですね」
小毬「うんっ。一粒で二度美味しいっていう物ですよ」
来ヶ谷「ま、実際には一度もやっていないんだ。そろそろやり直しをしておかないとな」
理樹(このまま行くと不幸にも来ヶ谷さんの服を着させてもらえる事になってしまうかもしれないのか!)
理樹「うわー!今になって思い出したー!」
クド「それでは入ってくるのです!」
小毬「理樹君お先に失礼しまーすっ」
来ヶ谷「さあ、2人が帰ってくるまで何をして時間を潰そうか」
葉留佳「そーですナー…」
コンコンッ
理樹(ノックの音がした)
来ヶ谷「誰だ?」
『二木です』
理樹・葉留佳「「!?」」
理樹(なん……だって……!?)
来ヶ谷「……しまった、まだ理樹君に装備させていない……」
西園「隠れてください直枝さん」
理樹「あ、うんっ!でもどこへ……」
来ヶ谷「私のベッドに潜り込め」
理樹「えええぇ……!!いや、それは……」
葉留佳「つべこべ言わずに早く……!!」
理樹(流石に僕でも抵抗はあったが、みんなにに押されてそこへ隠れる事になった。ここで見つかれば僕がどうなるかなんて火を見るよりも明らかだった)
佳奈多「どうしたんですか?」
来ヶ谷「いや、今開けるよ」
ガチャッ
シーン
佳奈多「………………………………」
葉留佳「あわわわ………」
西園「………………」
来ヶ谷「………………」
鈴「…………ゴクリ」
理樹「すぅ……はぁ……」
理樹(やはり何度嗅いでも最高だ。このフローラルな香りが僕のすべての不安感を優しく取り除いてくれる。来ヶ谷さんのミステリアスな雰囲気をふんだんに織り込んだこのシーツ。少しだけでいいから財布に取っておきたい)
佳奈多「……奥で誰かシャワーを浴びていますね」
来ヶ谷「小毬君とクドリャフカ君だ」
『あははっ、クーちゃんこそばいよ~っ』
『あっ、ごめんなさいですっ!』
佳奈多「そのようですね」
来ヶ谷「今日は女子会を開いているんだ。こんな所まで何の用かな?」
佳奈多「実はさっき、旧女子寮の方へ男が入っていったという通報を受けました。身長は低く、髪は少し茶が入った黒髪で、女生徒2人を連れていたと」
来ヶ谷「ああ、それならきっと理樹君の事だろう」
佳奈多「というと…直枝理樹ですか?」
来ヶ谷「ああ。彼は別になんでもない。私の部屋にある荷物を運び出してもらっていたんだ。女性には手に余る大荷物でね。本当にそれだけだ」
理樹(ああ、来ヶ谷さんが僕を包んでいる!僕は決して人の匂いに興奮を覚えるような事はしないが、これは癖になる。濃厚で、それでいて飽きが来ない。これは何杯でもいけるソレだ)
佳奈多「なるほど。もう帰ったのですか?」
来ヶ谷「ああ。そうだ」
佳奈多「分かりました。あなたがそう言うなら……む?」
佳奈多「………そのベッド、誰が寝ているんですか?」
理樹「!」
理樹(しまった。あまりに夢中すぎて気配を消しきれなかったか!)
葉留佳「あーーー……え、ええっとそれは……!」
鈴「ネコだ!」
佳奈多「ネコ?」
鈴「さっき外で、少し弱っているネコがいたんだ。だから来ヶ谷のベッドで寝かせている」
佳奈多「ふぅん…ネコにしては大きいわね……」
理樹(せっかく鈴がくれたチャンスだ!無駄には出来ない!)
理樹「に……ニャーニャー!」
葉留佳「ブッ」
佳奈多「………………」
理樹「ニャニャニャ!」
佳奈多「………………」
理樹「……ナ、ナーオ……」
佳奈多「……………まあいいでしょう。お楽しみの途中を失礼しました」
来ヶ谷「君も一緒にどうだ?」
佳奈多「結っ構っですっ!」
理樹(少し強めにドアが閉まる音が聞こえた。危機は去った)
来ヶ谷「……もういいぞ」
理樹「う、うん……」
葉留佳「アハハハハーーーッッ!に、ニャーニャーだって……プククッ…」
理樹「もうすごく恥ずかしかったんだから!!」
西園「あれはレアでしたね…」
鈴「まだまだなってなかったけどな」
来ヶ谷「ほう。じゃあ君が代わりに手本を見せてもらえないか?」
鈴「い、嫌じゃー!!」
小毬「はーいあがりましたよ~っ」
クド「良い湯加減でしたー」
理樹(ちょうど2人が帰ってきた)
葉留佳「あはは!2人も聞いてよ!」
小毬「どしたのはるちゃん?」
クド「なんでしょーか?」
理樹「ぼ、僕もう入ってくるから!」
理樹(逃げるように着替えを抱えて行った)
風呂場
ジャーッ
理樹(熱いシャワーを浴びて冷静になる事にした。さっきのは無しにしても最近の僕はどうかしている。たかが女の子の匂い一つで意識し過ぎている。これはいけない。このまま抑えないでいたら暴走してしまうかもしれない)
理樹(どうにかして忘れなくては!でもこの部屋にいる限りあまりにも誘惑が多過ぎる……)
理樹「………………………………」
理樹(例えば目の前に置かれてある制服とか)
理樹(いや、これについてはもうだいたい予想はついていたんだ。来る前からもうこうなると分かっていたはずなんだ。だけど僕はとても恐ろしい。来ヶ谷さんの罠にではなく、これを受け入れている僕自身に……)
ガチャッ
理樹「……………………」
理樹(風呂上がりの僕の股はとてもスースーした)
来ヶ谷「ヒュー!」
葉留佳「ゲヘヘ、嬢ちゃん今日は1人かーい!?」
小毬「うんっ。すっごく似合ってますよ~!」
鈴「………!」
西園「………パシャリ」
理樹「……………………」
理樹(ただただ恥ずかしかった。でも、それ以上に来ヶ谷さんが僕を抱きしめているような感じがしてとても心地よかった。まるで僕が僕でなくなるような……)
理樹(そして、消灯時間になるまで僕はずっとこんな調子で上の空だった。この後、何をやったかなんて覚えていなかった)
…………………………………………………
……………………………
…
深夜
来ヶ谷部屋
理樹「ふぅ……」
理樹(水を流す音で誰も起きなくて良かった。みんな静かに寝ている)
来ヶ谷「……………………」
理樹(あの来ヶ谷さんもトイレを借りた事に気付いていないようだ)
理樹「……………………」
理樹(もしも、もしも来ヶ谷さんと添い寝したらどんな匂いがするんだろうか)
理樹(ベッドの匂いはあくまで来ヶ谷さんの残り香だ。僕はまだ来ヶ谷さんの匂いを、本物を嗅いだことはない。実際、どんなものが待ち受けているんだろう)
悪魔理樹『へへっ!今なら隣で寝てもバレやしねえぜ!自分に正直になっちまいな!さあ欲望に身を任せろ!』
天使理樹『ダメだよ!そんなことしちゃ立派なセクハラじゃないか!それに来ヶ谷さんがそんな隙を見せるとは思えない!』
理樹「う、うぅ……」
悪魔理樹『道端に転がる石ころなんて誰も気にしない。だけど、一旦気にしてしまったらその石ころはありふれたものではなく、唯一となる。だったら最後で突き通すしかない!』
理樹(……………………)
シャララララウーワー
理樹(僕はみんなを踏んづけたり、余計な物音を立てないよう細心の注意を払って来ヶ谷さんのベッドに近づいた)
理樹(幸い来ヶ谷さんは僕が寝られるだけのスペースを空けていた。ベッドに辿り着くと、5分ほどかけて両手に体重をかけ、バネが軋まないように片足を乗せた。もう一度同じくらい時間を使って見事にベッドへ上がりこむことへ成功した)
エクスタシーエクスタシーシャーラーラーエークスタシー
来ヶ谷「……………………」
理樹(来ヶ谷さんの顔はこっちを向いていた。僕の手との間の距離はとても短い。ほんの少しでもズレると触れてしまうくらいに……)
理樹「ハァ……ハァ……」
理樹(次にさっきの倍の時間をかけて胴体を寝かせた。とうとう来ヶ谷さんのベッドで、来ヶ谷さんと一緒に寝ることに成功した)
理樹(成し遂げだのだ!)
理樹(だが、この体勢だといまいち来ヶ谷さんの匂いは嗅ぎ辛かった。せめて後ろを向いていれば髪の毛を直接やれたものを……)
理樹(とにかく愚痴を言っていたって仕方がない。少しずつ近づいていこう。慌てず、理性を保って)
グイグイ
理樹「……………」
理樹(海老のように身体を反らしながら近づいた。いける。この調子なら来ヶ谷さんのパジャマに鼻が……)
グイグイ
ピトッ
理樹「あっ……」
来ヶ谷「………………っ」
理樹(つい、勢い余って人差し指が来ヶ谷さんの右肘に当たってしまった。そして、来ヶ谷さんのまぶたが開いた)
理樹「あ……あ……」
来ヶ谷「…………………」
理樹(来ヶ谷さんは姿勢を変えず、僕を黙ったまま見つめていた。対する僕もどうすればいいのか分からないのでずっとそのまま固まってしまった)
理樹(ずっと見つめ合ったまま1分は経ったんじゃないだろうか。そろそろ僕の脳内会議室で来ヶ谷さんは目を開いたまま寝てるんじゃないかという説を提唱しようとした頃、彼女が口を開いた)
来ヶ谷「……………そうか」
理樹「……………っ?」
理樹(どう答えていいのか分からなかった。しかし、来ヶ谷さんの方ではもう何かの結論は出たらしい)
来ヶ谷「昨日のは、やはり君だったんだな」
理樹(見事だった)
理樹「………なんで、分かったの?」
来ヶ谷「出る時に私のドアに挟んでおいた髪の毛が帰りに落ちていたんでな。あとは今日の君の態度と今の状況だ」
理樹「なんでそこまでしておいて鍵を閉めてなかったのさ……」
来ヶ谷「それが私という人間だ」
理樹(僕らはまだ身体を一度も動かさなかった。僕は動かせないだけだけど)
来ヶ谷「ところで君は何が目的なんだ?」
理樹「そ、それは……」
来ヶ谷「怒らないから言ってみたまえ」
理樹(ちょうど先生が生徒を諭すような口調だった。来ヶ谷さんは本気でそのつもりらしい)
理樹「えと…………」
来ヶ谷「………………」
理樹「く、く、く………」
理樹「来ヶ谷さんの匂いが嗅ぎたかった……から」
来ヶ谷「…………………」
「こういった事を女の子にする意味を分かっているな?」
「はい……」
「私以外の子にやるとどうなるかも理解している?」
「はい……」
「君は嫌いじゃない。君と鈴君には感謝しても仕切れない恩がある」
「………………」
「……5秒だけ許してやる」
「……………!」
「…………好きにしろ」
「スゥ、ハァ……」
「………………ッ」
「フゥ………フゥ…」
「んっ…」
「……ハァ……ハァ!」
「……………終わりだ」
理樹「………………」
理樹(不思議ともう来ヶ谷さんの匂いを嗅ごうなんて気持ちにはならなかった。興味を失くしたわけではないが、執着心が消えたのは確かだった。満足したということだろうか)
来ヶ谷「もうそろそろ帰った方がいい。彼女は早起きだぞ」
理樹「ああ、来ヶ谷さん。僕はとんだ変態だ……!」
来ヶ谷「ふふっ…さっきは確かにそうだったな」
理樹「本当にごめん。どうかしてたんだ」
来ヶ谷「ああ。でももう大丈夫だ。これは2人だけの秘密……だろう?」
理樹「うん……」
来ヶ谷「おやすみ。理樹君」
理樹「おやすみ」
理樹(なにはともあれ、とても頭がスッキリした。アルコールが頭から抜け切った時はきっとこんな感じに違いない)
次の日
教室
教師「つまりここは~」
理樹(昨日はああ言ってもついつい来ヶ谷さんの方を意識してしまう。しかし来ヶ谷さんはそうでもなさそうだった。たまに目が合うと微笑むくらいで昨日のことを思い出させるような仕草はなかった)
真人「ん?どうした理樹。さっきから来ヶ谷の方をずっとチラ見して………もしかしてバトルか!?」
理樹「あはは…ま、まあそんな所」
理樹(でもそれくらいでいいんだ。昨日のことは夏の夜の夢とでも思えばいい。きっと来ヶ谷さんはそう伝えたかったんだろう)
キーンコーンカーンコーン
「起立!礼!」
理樹(ふっ…そうさ。やっと正気に戻ったんだ。またいつものまともな僕に戻ってまともな生活を……!)
鈴「なあ、理樹」
理樹「あっ鈴。どうしたの?」
鈴「えっとなー……」
理樹(鈴が僕の耳に手を当てて、超至近距離で相談してきた)
鈴「……今日は練習だろ?だけど夕方まで商店街でモンペチが半額セールなんだ。だから一緒に抜け出して……」
理樹(あれ……おかしいな……鈴の吐息と透き通った声にかつてない心地よさを感じるぞ!)
理樹「ハァ……ハァ…」
鈴「………理樹、聴いてるのか?」
理樹「うん……」
理樹(凄く……いい声です)
終わり
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