【ラブライブ】お姉ちゃんと私 (88)
・・・3日に間に合いませんでした。
orz
でもせっかくなので投げていきます。
過去作
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まだ午前10時だと言うのに、ジリジリと焼けるような暑さは、お店の前に撒いた水をあっという間に乾かしてしまう。
「おはよう、雪穂ちゃん。今日もあっつぃなー!」
散歩中の近所のおじいちゃんに挨拶をされて、私もいつも通りに言葉を返す。
「あ、おはようございます。これから、まだ暑くなるんだから嫌になっちゃいますよー。」
「そうそう。家の中にいても暑ぃから、思い切って外出たが、余計に暑ぃわ。あっははは!」
「それなら、ちょっと休憩して、冷たいお菓子なんてどうです?ツルンといけますよ!」
「ぉぉぅ、雪穂ちゃんに言われちゃぁ寄ってかない訳にはいかんなぁ。一つ貰おうか!」
おじいちゃんを店の小上がりに通して、麦茶をお出しする。
あとはお母さんが相手をするから、私はまた店の前に出てきた。
どうしよっか、もう一回水を撒こうかな…。
そんな事を考えていると、不意に声をかけられた。
「店のお手伝いですか?精が出ますね。」
声の主は、今年春の卒業式以来、久しぶりに顔を合わせた海未さん。
「あ、海未さん!お久しぶりです。今日はこれから大学ですか?」
音ノ木坂を卒業して、お姉ちゃん達は初めて別々の生活を送ることになった。
海未さんは、都内の某有名大学。
ことりさんは、海外のデザイン学校。
そして、お姉ちゃんは・・・。
「いいえ。今日は母に頼まれて、お茶菓子を買いに来ました。」
「あ、そうだったんですか!それじゃあ、どうぞー。」
海未さんを店内へと案内する。
「そうですね、この水まんじゅうを20個ください。」
「はい。少々お待ちください。」
紙袋に水ようかんを詰めると、会計をする。
その時、海未さんの腕に小さな袋が下げられているのに気が付いた。
商品を渡すと、海未さんは一呼吸を置いてこちらを見る。
「今日は穂乃果の誕生日、ですよね。」
「そうですね。」
「まだ戻っては来ませんか?」
「はい。」
「それでは、これを置いていきますが、穂乃果が帰ってきたら渡してあげてください。」
「すみません。折角持ってきてもらったのに。」
「良いんですよ。私が好きでやってる事ですから。」
そういうと、海未さんは静かに踵を返す。
「あの穂乃果の事です。心配するだけ損ですよ。」
表情を読まれたのか、海未さんはそう言い残して出て行った。
流石、生まれる前からの幼馴染は訓練されてるなぁと、しみじみ感心する。
ふと気が付くと、私が海未さんの相手をしている間に、おじいちゃんはもう帰ったみたい。
再び静まり返る店内で風鈴がチリンと鳴った。
そろそろお昼かな?
そんな事を思っていると、元気な声が店内に響いた。
「ゆーきほっ!遊びに来たよ~!」
「亜里沙、遊びに来たんじゃないんだから。雪穂ちゃんのお店番を邪魔したらダメよ。」
「えへ。いつも通りに来ちゃった!」
お姉ちゃんの先輩の絢瀬絵里さんと、その妹で私の親友の亜里沙だ。
「兄弟そろってなんて珍しいですね。今日はどうしました?」
おおよそ見当は付くけど、一応聞いてみる。
「大した用事じゃないんだけど、穂乃果はもういるかしら?」
ん?
何か引っかかる。
そういえば、お姉ちゃんがいない事を知っているのは海未さんくらいだっけ。
あんまり大事にしたくなかったし、お姉ちゃんも卒業した身だからってアイドル研究部の人にも伝えてなかったんだ。
「あー…、お姉ちゃんはお店の用事で出かけてて。」
「あら、そうなの?久しぶりだから、ちょっと顔でも見たかったんだけど、まだ帰ってこないのかしら?」
「そうですねー。ちょっと遠くに出てるので。」
本当は隠す事もないような気がするんだけど、つい隠してしまう。
「それは残念ね。じゃあ、雪穂ちゃん。これを穂乃果が帰ってきたら渡しておいてほしいの。」
「プレゼント、ですか?」
「雪穂するどーい!私もね、ちょっと手伝ったんだよ!穂乃果さんが喜んでくれたらいいな!」
「そういえば、私達の他にも誰か来た?」
「あ、はい。朝に海未さんが。」
「そう、さすが海未ね。それじゃあ雪穂ちゃん、穂乃果にその内お茶しましょって伝えておいて。」
「はい。ありがとうございます。」
「じゃーねーゆきほー!また明日学校でね。」
「うん。またねー。」
これはもしかして、μ's全員が来る流れなのかな。
チリンチリンと鳴る風鈴の音が、優しく響いている。
ウチの店の中には冷房機器がない。
窓を開け放ち、風通しは良くしていても、風そのものが暑い。
こう暑くちゃ、お客さんも来ないよ。
団扇で扇ぎながらダレていると、外から声をかけられる。
「おや~?店員さんがそんなにダレてて良いのかな?」
「あ、いらっしゃいませ!」
今度は希さんとにこさんかぁ・・・。これはもう、μ'sコンプリート待ったなしだね。
「久しぶりね、雪穂ちゃん。穂乃果はいる?」
「あースミマセン。今お店の用事でちょっと出てまして…。」
「あらそう。まあ、用事なら仕方ないわね。」
なんとなく、にこさんは寂しそうにしてる。
「にこっちぃ~、そんなに寂しそうな顔しなくっても良いやん?」
「なっ、してないわよ!」
『ぎゃーぎゃー。』
お店の中で騒がないでください・・・とはちょっと言えない。
「あ、そういえば。雪穂ちゃん、最近穂乃果ちゃんと連絡が取れないんよ。何かあった?」
え゛え゛?
「あ゛~どうなんでしょう?携帯の調子が悪いとか、じゃないかなぁ?」
まずい、これ以上突っ込まれたら、もう流せないよ~。
あれ?
私なんでこんなに必死に隠してるんだろう?
「今日は穂乃果の誕生日でしょ?帰りが遅いならプレゼント置いていくから、渡して頂戴。」
にこさんから、プレゼントを受け取ると、希さんからも同じくプレゼントを受け取った。
「それじゃ、その内にまた来るわ。雪穂ちゃん、ラブライブ頑張りなさいよ!」
「は、はい!ありがとうございます!」
去り際に、希さんが何かウィンクしていったけど、何なんだろう?
小さな風鈴の音と共に、2人は去っていきました。
それにしても、お姉ちゃんは何で携帯置いて出て行ったんだろう。
誰にも言わずに行っても、遠からずバレちゃうような気がするんだけどな。
こっちが余計な気を遣わされちゃうよ、もう。
午後3時を過ぎ、そろそろおやつでも食べようかという時に、郵便屋さんが来た。
小包?
なにこれ、国際郵便?
あ、ことりさんからだ!
今日辺り届くって事は、きっとプレゼントなんだろうなぁ。
これであと来てない人は・・・。
思いを馳せていると、聞き覚えのある優しい声が聞こえた。
「こんにちはあ。」
そう言って入ってきたのは、予想通りの3人組。
「雪穂ちゃんは今日お店番なんだね、お疲れ様です。」
「雪穂っちゃーん!ちゃんと働いているかにゃ?!」
「穂乃果じゃないんだから真面目にやってるに決まってるじゃない!」
花陽さんはともかく、凛さんも真姫さんも微妙に酷いこと言ってるよ…。
「なにぉー!」
「何よ!」
『シャー!』
「ふ、2人とも・・・、ここは学校じゃないから、そのくらいに・・・。」
ここはやっぱり助け舟を出した方が良いのかな…?
「あ、あのぉ。今日はお姉ちゃんに用事ですか?」
「あ、そ、そうでした。雪穂ちゃん。穂乃果ちゃんはもういるかな?」
ん?
さっきから何か違和感を感じるけど、なんだろう。
それはそうと、今日何度目の問答だよ。
「お、お姉ちゃんは今日お店の用事で出かけてまして。」
そっかぁ、と残念そうな顔をする花陽さん。
「いないんじゃしょうがないわね。プレゼント、持ってきたんだけど置いていくわ。」
そう言って真姫さんは綺麗にラッピングされた小さな箱を差し出す。
「じゃあ、凛もっ。雪穂ちゃん、お願いね。」
「わ、私からもこれをお願いします。」
3人からプレゼントを受け取って、奥の部屋に並べる。
これでμ's全員からのプレゼントが揃ったことになるのか…。
お姉ちゃんは愛されてるなぁ。
花陽さんたちが帰ったあと、夕日の差し込むカウンターでボーっと座っている。
暑さは幾分和らいだけど、それでも涼しいなんてほど遠い。
お姉ちゃんはどうして、1人で旅に出るなんてことしたんだろう。
まあ正直、大学に行くにはちょっと勉強サボリ過ぎた気はするけど…。
もし、今も家にいたら、私は何をプレゼントしたかなぁ。
無難にアクセサリーとかかな。
μ'sのみんなが置いていったプレゼントが少し気になる。
・・・これ何時までこのままにしておけばいいんだろう。
不意に、チリンチリンという風鈴の音が聞こえてきて、我に返る。
そのとき、夕日に照らされて、入り口に人が立っていることに気付き、慌てて立ち上がる。
「いらっしゃ・・・。」
「えっへへ~、ただいまぁ・・・なんちゃって・・・。」
そこにいたのは、散々みんなを待たせて、散々心配させた、けど私が知ってる頃より少しだけ大人びた、お姉ちゃんでした。
思わず込み上げてくるものをギリギリ押さえて、照れ隠しの様に私は調理場へ走って行く。
「お、おかあさーーーん!おねーちゃんが、おねーちゃんが帰ってきたよー!」
何だかんだで、5ヶ月ぶりの再会。
の、はずなのに、お父さんはお姉ちゃんを一目見ると、すぐに調理場へ去ってしまった。
「少しはマシな面構えになったみたいね。どうするの?今日は泊まってく?」
「うん、そうする。」
お母さんまで、あっさりと引っ込んでしまった。
え?
なに?
何なのこれ?
5ヶ月も行方不明になってた娘が帰ってきたっていうのに、反応薄っ!
そんな私の心配も他所に、お姉ちゃんが絡んでくる。
「ゆーきーほっ!ねぇねぇ、お姉ちゃんがいなくって寂しかった~?」
う…。
「今まで、私が何をしてたか知りたい?聞きたい?」
うわーうざっ!
勝手に出てった人が勝手に帰ってきただけでしょ!
なんか無性にイラっとする。
「ハイハイ。大変だったね。お風呂でも入ってきたら?」
「えぇーーー!もうちょっとなんか言う事ないの!」
「手伝いで忙しいの、あっち行ってて!」
「ゆきほのいけずぅ・・・。」
ショボンとしながらお姉ちゃんが奥へ行く。
こういう所はあんまり変わってないんだ。
本当は忙しいほどの手伝いなんてない。
聞きたい事なんて山ほどあるけど、心の準備が必要だよ。
外へ出て、暖簾を外そうと手を伸ばしたとき、2階のお姉ちゃんの部屋の窓から、物凄い叫び声が響いてきた。
帰って早々、何やってんだか…。
一応もしもの為にと、部屋へ確認に行く。
「お姉ちゃん!近所めいわく・・・。」
「ゆ゛、ゆ゛き゛ほ゛ぉぉぉ…タスケテェ・・・。」
そこには、いつの間に部屋に入り込んだのか、μ'sのみんな+亜里沙に揉みくちゃにされてる、お姉ちゃんの姿が・・・。
「あぁ、雪穂。ちょっとお邪魔させてもらっていましたよ。」
お姉ちゃんの腕にしがみ付きながら、海未さんがキリッと挨拶をする。
「みなさん、何やってるんですか…。」
「雪穂ちゃん、ごめんねぇ。もうちょっとホノカちゃんをおやつにさせてね。」
しかも、ことりさんまでいるし…。
海外に行ってたんじゃないんですか…。
「ま、まあ、近所迷惑なので程々にお願いします・・・。」
色々見なかったことにして、片付けに戻る。
背後から、私の名前を呼ぶお姉ちゃんの声が聞こえた気がするけど、気のせいだよね、気のせい。
晩ご飯はものすごい騒ぎでした。
そんなに広くない、ウチの居間に10数人が蠢いているんだから…。
お姉ちゃんはボロ雑巾みたいになってたけど、これも愛の証なんだね。
いつ作ったのか、大量の食べ物が並べられたテーブルをみんなで囲んでいる。
「そういえば、みなさん、どうして一度帰ったのに、また集まってたんですか?」
今日一番の疑問を投げかける。
「あぁ、それはね。穂乃果ちゃんのせいなんよ。」
お姉ちゃん?
希さんの一言にハテナマークを浮かべていると、絵里さんが補足する。
「このあいだね、花陽が穂乃果の事を書いた記事をネットで見つけたの。その記事の中でね、もうすぐ誕生日だから、帰って一杯祝ってもらうんだって言ってたのよ。」
なんか、少し頭が痛い・・・。
「それで、みんなで急きょ話し合って、ドッキリをしようって、あ、ちゃんとご両親には事前に伝えて協力してもらってたから。」
にこさんの話を聞いて、お父さんたちの反応が何か薄いと思ってた理由が分かった。
始めから知ってたんだ。
「ごめんね雪穂ちゃん、ずっと黙ってて。」
「そんな!花陽さん謝らないでください。元はと言えばお姉ちゃんが原因なんですから。」
そう、卒業式を終えて少しした3月、お姉ちゃんは旅に出るとだけ言い残して出て行ったんだ。
じゃあ、お父さんもお母さんも、理由くらいは知ってたのかな。
「まったく、ちゃんと穂乃果が帰ってきたから良いようなものの、もし帰ってこなかったら、とんだピエロだったわよ。」
「そんなこと言って、真姫ちゃんノリノリだったにゃ!」
「べっ別にノリノリなんかじゃないわよ!」
「まあまあ、とりあえず、目的は達成できたから良いのよ。作戦大成功!」
絵里さんが子供のように喜んでいる・・・。
「さあ、一区切りついた所で、ご飯にしましょうか!」
お母さんの一言で、みんなが待ってましたと言わんばかりに、食事を始める。
何だろう。
騒がしい食卓を前に、不思議な感覚がした。
「雪穂、どうしたの?」
亜里沙が覗き込んでくる。
「ううん、何でもないよ。こんなに大勢でご飯食べるの久しぶりでさ。」
騒々しくて、鬱陶しくて、でもすっごい楽しくて。
お姉ちゃんが出て行ってから、食卓はとても静かなものになったから。
「ねぇ、亜里沙。」
「なあに?」
「お姉ちゃんって凄いね。」
「うん。お姉ちゃんは凄いよ!」
どんなに楽しい宴も、いつか終わりはやってくる。
みんなが帰って、お風呂に入ると、私は自分の部屋で窓から空を眺めていた。
この静けさが、まるでさっきまでの楽しい時間が幻だったって言ってるような気がする。
やっぱり、お姉ちゃんは帰ってきていないんじゃないかって。
チリンと遠くで風鈴の音がした。
「雪穂、そこにいる?」
隣からお姉ちゃんの声がした。
「いるよ。」
「えへへ。楽しかったね。」
「そりゃ、何よりで。」
「むぅ、まだ怒ってる?」
「怒ってなんかないよ。」
「ごめんね。」
「なんで謝るのさ。」
「えへへ、何かね。」
チリンチリン。
風鈴の音が静かに響く。
「お姉ちゃん、何してたの?」
「うん…。色んな所でね、歌ってたの。」
「路上シンガー?」
「まあ、そんな感じかな。」
「それなら別に家出て行かなくたって・・・。」
「うん、何て言うか、自分の気持ちを確かめたかったの。」
「気持ち?」
「私が何をしたいのか、どこへ行きたいのか。そして、自分を追い込んでみたかった。」
「お姉ちゃんにとって、必要だったんだよね。」
「うん。だから、まだもうちょっと時間がいるかな。」
「そっか・・・。・・・私はね、すごく寂しかったよ。」
「えへへ・・・。そんなに素直に言われると困っちゃうな。」
「でも、もう大丈夫だよ。お姉ちゃんは、お姉ちゃんのやりたい事を一生懸命やってれば良いよ。それがお姉ちゃんらしいから。」
「ありがと。雪穂。」
「でも、家族にぐらいたまには連絡してよね。」
「うん、そうするよ。」
昼間の暑さをかすかに残した風が吹き込む。
「結構、聴いてもらえてるの?」
「うーん、案外有名人みたいだから、そこそこ聴いてもらえるかな。」
「そっかあ、μ'sの高坂穂乃果だもんね。」
「路上ライブって結構いいんだよ!お客さんとの距離が近いっていうのも良いし、みんなとの一体感が凄いんだ!」
「みんなと叶える物語、だもんね。」
「うん。こうして歌っていると、やっぱり私は歌が好き、歌う事が好き、みんなと歌うのが大好きなんだ。」
「そういうの、才能の無駄遣いっていうんだよ。」
「ひっどぉーい!いいもん。私が好きでやってるんだもん。」
当たり前だった姉妹のやり取りが、本当に懐かしい。
チリン。
1つ風鈴の音が聞こえてきた。
「いつか戻ってくるんだよね?」
「・・・そうだね。きっと、そうなると思う。」
「今年のラブライブ見に来てよね。」
「行くよ。雪穂の最高の舞台。絶対に見に行くから。」
なんか、もっと言いたいことも聞きたいこともあるはずなのに、中々出てこない。
「・・・それじゃ、そろそろ寝るよ。雪穂、おやすみ。」
「・・・、うん。おやすみ。」
もっとお姉ちゃんと話していたかったな。
まあ、明日で良いか。
おやすみなさい、お姉ちゃん。
リーン、リーン。
風鈴の音が私達の代わりに受け答えをするように鳴っている。
ピピピ、ピピピ!
目覚ましの音に気が付く。
そうだ、今日は部活の日だった。
眠気眼をこすりながら、下へ降りる。
「おはよーお母さん。」
「おはよう。雪穂。」
いつもの朝、いつもの日常。
あ、でも今日はお姉ちゃんがいるんだ。
それだけで、ちょっと頬が緩む。
そうだ!
久しぶりに、寝坊助のお姉ちゃんを起こしに行こう。
どんなかっこで寝てるのかな。
起こしたらどんな顔をするのかな。
色んな状況をシュミレートしながら、そぉっと部屋の扉を開ける。
チリン。
部屋はもぬけの殻だった。
一瞬、頭が真っ白になるけど、すぐに状況を把握する。
「お母さん!お姉ちゃんは?!」
ドタドタと階段を駆け下りて、台所のお母さんに詰め寄る。
「穂乃果?朝早く出てったわよ。」
何でお母さんは、そんなに普通にしていられるの?
「どうして教えてくれなかったの!」
「穂乃果が、その方が良いって。」
「何よそれ!」
「あの子がね、言ってたの。あなたに行ってきますと言うのは辛いって。」
そんな…。
「まだ私、プレゼントも何も渡してないんだよ…。折角の誕生日だったのに…。」
「それなら、きっと大丈夫よ。穂乃果はあなたから色んなものを受け取ってるわ。」
そういうと、お母さんは一枚の紙きれを渡した。
そこに書いてあったのは、確かにお姉ちゃんの文字。
チリン。
誕生日にだけ戻るなんて、すっごい自分勝手だなって思った。
でも、穂乃果だって結構我慢したんだよ。
みんなに会いたくて、お父さんお母さんに会いたくて、雪穂に会いたくて。
今やってる事は、すっごく楽しい。やりがいがある。
でもふと思うんだ。
私の幸せを考えた時、浮かんでくるのはμ'sのみんなと過ごしているとき、そしても一つ。
家族で何気ない日々を過ごしているとき。
1人になって、そのことがすごく良く分かるの。
お父さんと、お母さんは穂乃果の事を信頼してくれる。
自分たちの娘だもんね。
だから穂乃果も大丈夫。
でも、雪穂とは別れるのが辛い。
いつも軽口を叩き合う仲だけど、私は雪穂の事が大好き。
気持ちが大きいほど、離れるのは辛い。
だから、雪穂には会わないで出ていくよ。
ごめんね、雪穂。
次に雪穂と会うのは、お互いにもっと成長してから。
お互いに成長した姿を自慢し合おう。
それを目標に、私はまた頑張れるから。
また会う日を楽しみに。
---親愛なる妹へ、どうしようもない姉より
なんだよ。
お姉ちゃんは本当にズルいよ。
こんなこと言われたら、待つしかないじゃん。
・・・良いよ。
お姉ちゃんがビックリするくらいの私になってやるから。
あっと言わせてやるんだから、覚悟しててよね。
きっとそれが、私からの一番のプレゼント。
そして、またみんなでご飯食べよう。
私の大好きなお姉ちゃん。
朝の陽ざしが、今日も暑くなるって言ってる。
支度を整えて家を出ると、太陽の光に目がくらむ。
私のアイドル活動にまた一つ目標ができた。
お姉ちゃんが立った所と、同じ舞台で、私が輝いている所を見せつけるんだ!
誕生日プレゼントは渡せなかったけど、その時までお預けにするから。
「行ってきまーす!」
そう言ったのは、太陽に向けてなのか、家に向けてなのか。
約束の日まで、私はいつも通りの非日常を過ごす。
チリン、チリン。
風鈴の音が、今日も静かに私を送り出してくれる。
以上になります。
もうちょっと甘いほのゆきにしたかったんですが・・・。
なんか甘くできませんでしたスミマセン。
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