キエルヒトタチ(オリジナル百合) (63)

勢いで進むホラー百合
短いかも


とあるコンビニ

ぴろりろりーん

バイト「いらっしゃいま」

客「ね、ねえ!? 店員さん、今、そこに」

先輩「おい、バイト、やべえ、なんか落ちてきた!」

客「見ました?! 隕石ですかねっ!?」

先輩「っすかね!?」

バイト「なんかって何ですか」

先輩「ちょ、いいから来てみ」

バイト「先輩、あのレジ」

先輩「客、みんな外出たよっ」

バイト「ええ?」

コンビニの外


ざわ

バイト「なに……」

先輩「駐車場の真ん中見て見ろよ……」

バイト「人?」

先輩「あ、動いた」

バイト(子ども……?)

客「ピエロ……みたいだな」

バイト(人形かな…、それにしても駐車場がこんなにへこんでるのって)

先輩「やべーよ、写真撮っておいたら売れるんじゃね」

カシャっ
カシャっ

ピエロ「……」

シュンっ

先輩「あれ、消えた?」

バイト「マジック……?」


――笑って


バイト「え」


――楽しく


バイト「なに、この声」


――あーそぼ


先輩「どうしたよ」

バイト「え、声が」


――クスクスクスクス

バイト(頭が、痛いっ……)

ふらッ

先輩「うお!?」

バイト「……」

どさっ

先輩「バイトっ!?」

バイト(ピエロ……)


パチパチパチ――

病院


バイト「……」パチ

ノソ

バイト(どこ、ここ)

パタパタ

ナース「はーい、食器片づけますねー」

患者「すまんねえ」

ナース「いいえ。あら、バイトさん起きられたんですね」

バイト「あ、あの」

ナース「気分はどうですか?」

バイト「特に」

ナース「ここは、病院ですよー。コンビニの前で急に意識不明になったらしいですね。先生をお呼びしますから、そこで休んでいてくださいね。お手洗いは、あちらです」

バイト「はい……」

バイト(倒れたんだ、全然記憶にない)

女「お姉さん、起きたんだ」

バイト(誰?)

女「同世代の人が来るの初めてだから、嬉しかったのに。女子高生ってなかなか来ないんだね」

バイト「はあ」

女「あたしも、バイクで池ぽちゃしなかったらここにはいなかったんだけど、お姉さんはなんか悪い病気?」

バイト「さあ」

女「わかんないだ。へえ、まあなんでもいいけど」

コンコン

医者「失礼、バイトさん」

バイト「……」チラ

医者「悪い病気とかではないから安心して」

女「あ、会話を立ち聞きしたな。いけないんだ」

医者「偶然だよ」



女「そうやって、懐にいくつも隠しておくんでしょ」

医者「人聞き悪いなあ」

バイト「……」

医者「あ、ごめんごめん。特に体に異常は無くてね、むしろ倒れた時にぶつけた所が腫れてたくらいで、それ以外は大丈夫だよ」

バイト「そうですか……」

医者「まだ、起きたばかりで意識がはっきりしてないね。もう少し休んだら」

バイト「あの、いくらかかるんですか」

医者「え、あ、そうだね、1万もいかないと思うけど」

バイト「もう、帰ります」

医者「大丈夫なのかい?」

バイト「はい」

女「そんなに焦って出て行かなくてもいいじゃん」

バイト「……お金、そんなにないんで」

ゴソゴソ


―――
――

バイト「ありがとうございます」

受け付け「気をつけて」

バイト「……」ペコ

ウイーン

バイト(あつ……)

バイト(コンビニ、戻ろう)

テクテクテク

コンビニ


ウイーン

店長「あれ、バイトちゃん、体いいの!?」

バイト「はい、ご迷惑お掛けしてすいません」ペコ

店長「いいよ。先輩のやつも心配してたから、明日会ったらお礼言っておいて」

バイト「はい」

店長「それと、今日はもう帰っていいから」

バイト「え、でも」

店長「バイト代は払うから気にしなくていいよ」

バイト「そう言う訳には」

店長「こういう時は、お互い様なわけ。いいから、しっしっ」

バイト「私、犬じゃないです」

店長「あははっ」

商店街

バイト(夕飯の買い出ししないと)

ガン!

バイト「ん?」

ガンガン!

おばさん「ちょっと、買った鍋の取っ手すぐに取れちゃったんだけど!? どういうことよ!?」

店のおじさん「すんません、すぐ別のに取り換えれるんでっ」

おばさん「他にも、買ってるんだけどねえ」チラ

店のおじさん「あ、あっと、ちょっと安くさせてもらうんで」

おばさん「そりゃそうでしょっ。それくらいはしてくれないと」

店のおじさん「ちょ、ちょっとここでお待ちくださいよ」

トタタタ

おばさん「たく」

ガン!

バイト(……うるさ)ハー

ガン!
――ガランガラン

店のおじさん「お待たせしまし……あれ」キョロ

バイト(あれ……)

店のおじさん「お嬢ちゃん、今、ここにいたおばさんどこ行ったか知ってる?」

バイト「……」フルフル

店のおじさん「買い物袋も、置きっぱなしでどこ行ったんだか」ブツブツ

バイト「……」キョロ

バイト(つい、さっきまでいたよね)

バイト(まあ、どうでもいいか)

バイト「……」

店のおじさん「……しかし、あんなおばさんいるんだな。ああいうのはさっさと死んでくれないと」ボソっ

バイト「……」

シュン――

バイト「え」

バイト「……」ゴシゴシ

バイト(消えた?)

バイト(頭、どこかぶつけたのかもしれない……早く帰ろう)

トタトタ

バイト「……」


――パチパチパチ


バイト(拍手……が聞こえる)

キョロ

バイト「気のせい?」

バイトの住むアパート


ドサっ

バイト「ただいま、お母さん」

猫「にゃあ」

バイト「お母さん、今日はどこ行ってたの」

猫「にゃあ」

バイト「にゃあじゃ分からないよ」

猫「……」

スリスリ

バイト「待ってね」

ガキっ
ペリペリ

バイト「お腹空いたでしょ、どうぞ」

猫「はむ…はむっ」

バイト「今日無駄遣いしちゃってさ、ちょっと安い猫缶でごめんね」

猫「はむ……はぐっ」

バイト「……」

バイト「美味しそうに食べるね」

バイト(食欲、無いな)

スクっ
トタトタ

ピっ
――メッセージが一件あります

バイト(里親の件かな……お母さんならいるからいいのに)

バイト「……水飲んで、寝よ」

カチン
キュキュっ
ジャー
コポコポ

バイト「ごくっ…ごくっ」

バイト「ふー……」

コトンっ

バイト「……」

猫「はぐ……はぐっ」

ガシャン!

猫「……」びくっ

バイト「何か、倒れたかな」

猫「……」ジっ

バイト「なんだろ、ベランダの方だね」

トタトタ

バイト「……窓、閉まってる」

ガチャっ
カラカラカラ
ブワっ

バイト「風、ちょっと、強い」キョロ

ガサガサっ

バイト「ビニール袋が、植木鉢を倒したのか」

バイト「土しか入ってないからいいけど」

猫「にゃあ」

バイト「なんでも無かったよ」

猫「……」じっ

バイト「なに?」

猫「にゃあ……」ペロペロ

バイト「……」クル

バイト(何か虫でも見えるのかな)クル

バイト「お母さん?」

シン――

バイト「……え」

バイト「お母さん?」


バイト(外に出たのかな)

バイト「……疲れてるんだ」

フラっ

バイト「もう、寝よう」

トタトタ
バフンっ

バイト「……」スっ


―――パチパチパチ

ダンダン!
ダンダン!


バイト「ん……ッ」

モソ

大家「バイトさああん! いますか? バイトさぁああん!」

バイト「んあ……」

大家「大家ですけども! おたくの猫の糞、苦情来てますよ!」

ダンダン!
ダンダン!

バイト(……お母さんは、ちゃんと家のトイレを使ってるけど)ゴシゴシ

大家「ペットは内々でオッケーにしましたけども! こういうとこは、共同生活なんですから、ちゃんとしてくれないと!」

バイト「……」

大家「また、こういうことあったら追い出しますからね!」

バイト「……」

大家「返事!」

バイト「はい」

大家「では、失礼しますよ!」

カンカンカンっ

バイト(眠い……)

バイト「バイト……行かないと」

バイト「……」

ゴソゴソっ

――――
―――
――


踏切の前

カンカンカンっ

バイト「ふわあ……」

客「あ、あの」

バイト「え」

客「先日はどうも」

バイト(だれこのお兄さん)

客「怪しい者じゃないんですよっ、あなたがバイトしてる所のコンビニの常連客というか、自分で常連って言うのもあれですけど」

バイト「はあ」

客「いきなりで迷惑かもしれないでんすけど、実は、あなたのことずっと前から好きだったんです」

カンカンカンっ――ピタ
カツカツっ
テクテクっ

バイト「え」

ドンっ

バイト「いたっ」

男「んな所に突っ立ってんじゃねえよ! ボケが!」

客「ちょっとそんな言い方ないでしょうが!? 相手は女の子ですよ?」

男「知るかっ、つか、おまえなに?!」

客「僕は、僕は、この子の彼氏ですよ!」

バイト「え」

男「はいはい、どうでもいいけど、邪魔っ! こっちは急いでるんだっ」

客「あんたねえっ」

シュンっ――

バイト「……あれ」

女「え、今、消え……」

老人「ひいいっ?!」


ピエロ「……」

パチパチ――

女「……」パチパチ

老人「……」パチパチ

バイト「え」

ピエロ「……」ニコ

パクパクっ

バイト「なんて、言ってるの」

ピエロ「……」ニコ

ピンポーン
パンポーン


『ご町内の皆さまにお知らせします。おばさんが行方不明となっています。年齢は60代。服装は上は、白い半そでシャツに、下は紫色のジャージを着用。昨日、昼過ぎ頃から中央商店街の方へ出かけてから家に戻っておりません。お心あたりがある方は、公民館またはもよりの交番までお知らせください』

バイト「……」

バイト(そう言えば、昨日のおばさんもそんな感じだったような)

少女「お姉ちゃん、大丈夫?」

バイト「え」

カンカンカンっ

少女「もうすぐ、電車来ちゃうよ?」

バイト「あ、うん」

――――
――



とあるピザ屋

バイト「お疲れ様です」

後輩「バイトさん、お疲れ様です」

バイト「……」

後輩「あれ、腕、すりむいてますよ?」

バイト「ああ、昨日……色々合って入院してた」

後輩「そうだったんですか?! 端折り過ぎてよく分からないですけど、事故でもあったんですか?」

バイト「私も覚えてないんだけど、別のバイト先で急に意識失って倒れた」

後輩「ええ!?」

バイト「特に異常はないって」

後輩「バイトさんて体調崩したことないじゃないですか。そういうこともあるんですね」

バイト「みたいだね」

後輩「あー、それよりも、昨日のジャニーズの特集見ましたか?」

バイト「ううん」

後輩「えー、見るって言ったのに、じゃあ今日は一緒に見ましょうよ」

バイト「面白いの?」

後輩「もちろん!」

バイト「そう」

――――
―――

バイト「ピザはいいけど、お酒はどうやって持ってきたの?」

後輩「店長がくれたんです。二人で夜を明かしますーって言ったら」

バイト「夜は明かさないけど」

後輩「えー、私、先輩といちゃいちゃする気満々だったのに」

バイト「いちゃいちゃって」

後輩「あと、猫いたじゃないですか、うちの親、猫アレルギーだから飼えないんですよねー」

バイト「後輩は、前にお母さんをめちゃくちゃ撫でまわしてたから警戒されてるよ」

後輩「あんなに可愛がってやったというのに」

バイト「お母さんは違うみたい」

後輩「そうですか、でも、美味しい物でなら釣れるはずです」

ガサっ

後輩「ふふん」

バイト「それは、買いたくても買えない、猫缶」

後輩「これで、お母さんもイチコロですよ」ニヤニヤ

バイト「そこまでする?」

後輩「外堀から埋めていかないと」

バイト「外堀?」

後輩「城主が鈍感ですからね」

バイト「うん?」

バイトのアパート


ガチャ

バイト「ただいま、お母さん」

シーン

バイト「あれ」

後輩「まだ、帰宅されてないようですね。残念でーすっ」シュン

バイト「適当に座って」

後輩「はーい。でも、この時間帯っていつもご飯あげてるんですよね。お腹の時計で帰って来たリしないのかなあ」

バイト「……さあ」

ガサガサっ

後輩「先輩って」

バイト「うん?」

ガサガサっ

後輩「いえ……」

バイト「そう」

後輩「やっぱり聞きますね」

バイト「うん」

後輩「あの、私のことどうでもいいですか?」

バイト「……あれ、もうお酒飲んだの」

後輩「の、飲んでませんっ」

バイト「どういう意味かよく」

後輩「先輩、人に興味持ってますか? 猫もちゃんと興味持ってますか?」

バイト「興味持ってるって、ややこしい質問だね」

後輩「私、心配になるんです。先輩って、気を遣ってくれてるのか、それともそういう風にするのが普通だからそうしてるのかって」

バイト「そう言われると、何かを真似することはあるよ。こういう状況の時は、あの人がとった行動をしたらいいのかなって」

後輩「それじゃあ、私が付き合って欲しいって言ったら……誰かの真似をするんですか」

バイト「後輩?」

後輩「私、先輩のこといつの間にか目で追っちゃってて、放っておけなくて……迷惑かなって思ったんですけど、抑えきれなくて」

バイト「……」

ガタガタっ
カタンっ

バイト「あ、お母さん帰って来たのかも」

すくっ

後輩「先輩!」

ギュっ

バイト「離して」

後輩「私じゃ、ダメですか。支えになれませんか。先輩が、ここでずっと一人で暮らしてて、里親さんからの工面とバイトで生活してるって聞いて、私いても立ってもいられなくて」

バイト「一人じゃないよ、お母さんがいる」

後輩「猫じゃないですか!」

バイト「……お母さんだよ」

後輩「それは、猫の名前じゃないですか……」

プー!
シャンシャンシャン!

バイト「なに……」

後輩「え」

バイト「祭囃子みたいのが」

後輩「せ、先輩、天井に……」

バイト「天上?」グイ

後輩「ピエロが……」

シュルルっ

後輩「いやあ?!」

バイト「……ッ」

バイト(ピエロの腕が伸びて、後輩の身体に巻き付いていく……)

ドサっ

ずるずるずる

後輩「や、や、や、あ」

バイト「後輩!」

後輩「せんぱ」

シュンっ

バイト「……天井に、消えた」

ガタガタっ
カタンっ

バイト「え」クル

――パチ、パチパチ、パチパチパチ
ドオオオオン!

バイト「また、拍手……これは、太鼓の音……?」


『せんぱい、好き』


バイト「……後輩?」

――――
―――
――


チュン、チュン

バイト「……」ボー

バイト(眠れなかった)

バイト(私のせい……?)

バイト(私が消してるの?)

バイト(どうやって)

バイト(まさか、できるわけがない)

バイト「夢……」

バイト「夢かな」

――――
―――
――


病院


医者「脳波にも異常は見られませんね」

女「良かったね、お姉さん」

医者「君はなんで、この部屋にいるのかな」

女「なんででしょうね」

バイト「分かりました、ありがとうございます」ペコ

カタンっ

女「お姉さん、これ」

バイト「ジュース?」

女「もらいものだけど、どうぞ。私、水分の制限があって飲めないの」

バイト(水分の制限……)

バイト「ありがとう」

医者「女ちゃんは、病室に帰んなさい」

女「はーい」

―――
――

コンビニ


カシュっ

バイト「……ごく」

店長「バイト、何か最近あの常連客来なくなったな」

バイト「……けぷ。そうですね」

店長「なんか、知ってる?」

バイト「先日、告白されました」

店長「え、ええ!?」

バイト「それから見てません」

店長「……マジか。振られたショックで自殺とかないだろうな」

バイト「それは、ないと思います。私の目の前で消えたので」

店長「お前の冗談はおもろくないなあ」

バイト「すいません」

ウイーン

店長「あ、いらっしゃいませー」

バイト「……」

――――
―――


店長「いや、お客さん、だからね、何度も言うけどピエロとか知らないから」

スーツ「いや、ここに出たって聞いたんですよっ」

店長「はあ?」

スーツ「あんたのとこのバイトさんが、ツイッターに載せてたの見たんですからっ」

店長「バイトー? おまえ、携帯もパソコンもないのにツイッターしてんの?」

バイト「してません」

スーツ「ええっ」

バイト「それ、たぶん、先輩です。その写真撮ってました」

店長「先輩かよ。今日、あいついないですよ」

スーツ「君は、君は見たのか、ピエロ!?」

店長「あのねえ、あんた」

バイト「見ました」

店長「え」

スーツ「見たんだ……なあ、あいつはどこにいるのか知ってるか」

バイト「分かりません」

店長「あー、君達ちょっと奥で話してくれるかい」

バイト「はい」


――――
―――


スーツ「こんな話誰も信じてくれなかったんだけど、ピエロみたいな奴が人を攫ってるんだよ。無作為じゃない。彼らのサーカスに連れていって見世物になりそうな人間を捕まえてるんだ」

バイト「……」

スーツ「バカみたいな話だと思うだろ。なんで、そんなことをするのか、できるのか、僕にも分からないけれど。でも、僕は数年前に選ばれてしまったんだ。その集客者に」

バイト「集客者?」

スーツ「ピエロは僕を通じて、対象を探す。彼らが面白いと感じるのは、何かに執着する人間なんだ。きっと、ピエロにはそういう感情がないんだろう。人が消える時に、頭の中で拍手やファンファーレのようなものが鳴ったりしないかい?」

バイト「……」コク

スーツ「僕もそうだったんだ。彼らのステージを一度夢で見たことがあるんだ。これは、もしかしたら、僕の中にいたピエロの視点だったのかもしれない。彼らは連れてきた人間をステージに立たせて、泣き叫ぶ彼らを見て、笑っていた。それは、もう、おぞましい光景だったさ」

バイト「……」

スーツ「僕の話、信じてくれる?」

バイト「分かりません」

スーツ「そ、そうか」

バイト「この現象は終わるんですか」

スーツ「少なくとも僕は終わらせることができた……君は、今、一匹のピエロを飼っている。君の中にね。まずは、そう思って欲しい。そして、そのピエロは君の心の動きをよく見ている。ピエロを追い出すためには、ピエロが君の頭の中にいる理由を失くしてしまえばいい」

バイト「理由ですか?」

スーツ「そうだよ。僕は、君を助けるためにそれを伝えに来たんだ」

バイト「……」

スーツ「ピエロに、執着することは素晴らしいことだと分からせてやるんだ。それを学ばせることができれば、ピエロは君の中からいなくなる。なんて素敵なんだと思えたピエロは悪さをしなくなるんだ。それが、僕のたどり着いた答えだ」

バイト「あの」

スーツ「なんだい」

バイト「執着って具体的に何なんですか」

スーツ「例えば、勝ち負けだったり、良し悪しだったり、正義不正義、生と死なんかもそうだね。これは、自分にしかないものだから、僕のを参考にすることはできないけど、僕は人を愛する気持ちを知ってから、ピエロの拍手が聞こえなくなった」

バイト「愛する気持ち……」

スーツ「僕には、なかった。僕は僕のことが嫌いで、人も嫌いで……ピエロの良い宿主だったんだろう。だって、あの時の僕は人が消えようがどうでも良かったんだから。でも、今は違う。守るべきものができたから。その人が消えることだけは絶対嫌だって思えるから」

店長「お取込み中すいませんね。お客さん増えてきたんで、レジ入ってくれる?」

バイト「はい」

スーツ「これ、僕の電話番号。何かあったら呼んでくれよ」

カサっ

バイト「ありがとうございます」

スーツ「じゃあ」

バイト「……」ペコ

ゴソっ
カサっ

バイト(消えた人達のことを考えてもあまり悲しくない。びっくりしてはいるけど……それがいけないことだと言うのも分かってる。人から見たら、可笑しいことだと分かってる)

バイト「いっらしゃいませ」

ガヤガヤ

ピっ

バイト「いらっしゃいませ、お預かりいたします」

ピっ

バイト「ありがとうございます」

ピっ

バイト(消える人達がこれ以上増えないようにしなくちゃいけないのも分かった)

ピっ

バイト(……どうせなら、私を消してくれた方が手っ取り早いのに)

ピッ

女「あ」

バイト「え?」

女「お姉さーんじゃん! 偶然! すごい! 奇跡!」

バイト「そうでもない」

女「やーん、あたしってついてる! むしろ、お姉さんに憑いてるのかにゃあ?」

バイト「……」

女「値引きして」

バイト「……店長」

店長「ダメ」

バイト「です」

女「ですよね!」

バイト「その服、病院から来たの?」

女「そうでーす! でも、誰にも言っちゃダメだからね!」

バイト「どうして?」

女「内緒で来たから」

店長(おい、この子やばい子じゃないのか)ヒソ

バイト(そうかもしれません)ヒソ

女(ちょっと買い物に来ただけだよ)ヒソ

店長「うわ!?」

女「えへっ」

店長「バイト、おまえ、最近変なものを引き寄せ過ぎだろ」

バイト「私のせいですか」

店長「お嬢ちゃんはどこの病院から来たの?」

女「医療会のとこ」

店長「歩いて10分くらいか。バイト、ちょっと送ってあげなさい」

バイト「はい」

女「ドンマイ!」

バイト「……」

女「お前の方がドンマイだボケ! とかって言わないの?」

バイト「言わないよ」

女「できた人だねえ。そういう人、好きよっ」

バイト「どうも」


――――
―――
――

バイト「じゃ、行ってきます」

店長「おう」

女「お邪魔しました! また来ます!」

店長「それはいいが、今度はちゃんと退院してから来いな? 頼むから」

女「頑張る!!」ニコ

バイト「……」

テクテク

女「あ」

コケっ――ドベシャっ

女「いったああ!」

バイト「……大丈夫?」

テクテク

女「ええ?! 放っていくの!? ちょっと、待って!!」

ジャリっ

バイト「なんか、大丈夫そうに見えて」

女「痛いよ! すりむいたし! よくあるから慣れてはいるけどね!」

バイト「そうなんだ」

テクテク

バイト「手」

パシっ

女「ありがとう。ヨイショっ」

スクっ

女「わあ、手、すべすべ! スケベだね!」

バイト「そうですか」

女「ねえ、悪夢はあれからどう?」

バイト「あれからって、今朝の今でそうよくなるわけないでしょう」

女「なんで敬語なの?」

バイト「一応、お客さんですから」

女「同い年くらいだよね? 私、16なんだけど」

バイト「同じですね」

女「じゃあ、敬語なしね。それが嫌なら、姫とござるつけて」

バイト「……」

女「え、迷ってるの!?」

―――
――

医療会

女「とーちゃく!」

ピョン

女「送ってくれてありがとうね! 何か、お礼しなくちゃ!」

バイト「いいよ」

女「あ、そうだ。悪夢が怖くなったら、病室においでよ! 一緒に楽しい話してたら、そういうの吹っ飛ぶからね! 待ってるね!」

バイト「あの」

女「じゃあ、またね!」

タタタタっ

ウイーン

医者「くおら!! 女ちゃん!」デン!

女「うひょおわわ!?」

バイト「……」



――――
―――
――

バイトのアパート

シン―

バイト「……」

ガサッ
カシッ
ペリペリ

バイト「お母さん、いないの?」

バイト「いないの?」

バイト「いないのか……」

バイト「そっか」

ガサッ

バイト「後輩、いないの?」

バイト「いないの?」

バイト(最初からいなかった。いたけれど、そこまで深く理解してなかった。周りにいる何かの内の一つ)

バイト「……」

テクテクテク――ピタ

バイト「……」

テクテクテク――ピタ

バイト「ピエロ、いるの?」

キョロキョロ

バイト「……いるわけないか」

ストン
ゴロン

バイト「……」ウト

―――パチパチ

バイト「ッ……」パ

バイト「……」ウト

―――パチパチ

バイト「見える……ステージの中の檻に、入ってる。でも、みんなもう、動いてない」

バイト「……」ゾワ

バイト「おえッ……」

タタタタッ

―――
――


ジャー

バイト「はあッ……はあッ」

バイト「げほッ……」

バシャッ
バシャッ

バイト「……」

スクッ――トタトタ

バイト(そんなに、住み心地が良かったの?)

バイト(でも、私はもう周りに誰もいない。誰もいないから。一緒にいても意味ないよ。ねえ、聞こえてる?)

翌朝


ピンポーン

バイト「……ん」

大家「ごめんくださーい、いるんでしょ?」

ドンドンドン!

バイト(この起こし方は、大家さん)

大家「お客さん来てるわよ!」

バイト「はい…」

ノソノソ
ガチャ

バイト「なんでしょうか」

眼鏡「私、里親支援センターの者ですが」

バイト「はあ」

眼鏡「留守電の方聞かれましたか」

バイト「あ」フルフル

眼鏡「やはりそうですか。返事の方がなかったので、直接参りました」

バイト「すいません」

眼鏡「未成年者でありながら、保護者や保証人のいない状況でよくこのアパートが借りれましたね」

大家「細かいこと気にしてんじゃないよ」

眼鏡「あなたね」

大家「あんた、まさか借金取りかい?」

眼鏡「保護しに来たんですよ。施設を抜け出して、16歳の女の子が一人暮らしてるなんて非常事態です」

バイト「抜け出してません。許可をもらいました」

眼鏡「前の所長は、ルールを平気で破る人でしたからね。もう、クビになりましたよ。20歳になってからは居住も責任も自由ですが、未成年者は違います」

バイト「……」クル

ドンッ

眼鏡「いた!?」

タタタタッ

眼鏡「こらッ、待ちなさい!」

バイト「……すいません」

バイト(正義、不正義……それも執着だったっけ。そうなると、あの人も一緒にいたら消えちゃう)

――――
―――


ピザ屋

バイト「はあッ……」

店長「どうしたそんなに息荒げて」

バイト「なんでもないです」

店長「そうか。それよか、後輩、知らないか? 連絡がつかなくて」

バイト「……」

店長「家に行った方がいいのか。人手はあるからいいけど、病気かね。何か聞いてる?」

バイト「いいえ」

店長「若い連中は、何の申し出もなく突然来なくなったりするから恐ろしいよ」

バイト「すいません」

店長「お前は別に謝らなくていいんだぞ」

バイト「……」

ピザ屋営業終了


バイト「お疲れ様です」

店長「お前、家に帰るの?」

バイト「いえ、次のバイトあるので」

店長「体に気をつけろよ」

バイト「はい」ペコ

ピザ屋営業終了


バイト「お疲れ様です」

店長「お前、家に帰るの?」

バイト「いえ、次のバイトあるので」

店長「そうか」

バイト「はい」ペコ

店長「これ、ピザ持ってかえれ」

ガサッ

バイト「ありがとうございます」ペコ

店長「……お前は、そんなにお金貯めて何か買いたいものでもあるのか」

バイト「いえ」

バイト(……お母さんを養わないといけないと思っていたから、バイトを3つ入れていたけど、そうか、もうそんなに詰めなくてもいいのか)

店長「身体に気をつけろよ」

バイト「……はい」

とあるガールズバー

バイト「っくしゅん」

おっちゃん「どしたの、バイトちゃん」

バイト「いえ」

おっちゃん「頑張り過ぎてるんじゃないのー? たまには飲んで飲んで」

トポポッ

バイト「でも」

おっちゃん「ママには内緒にしておくから」

カチンッ

バイト「……」

おっちゃん「飲んでくれた方が、こっちも嬉しいのよ」

バイト「……」ゴク

おっちゃん「お、意外といける口?」

バイト「ぷはッ」

おっちゃん「俺もさ、寂しい時はこうやって飲んでさ、自分を慰めるんだけどねえ、でも、バイトちゃんと飲むと癒されるなあ」

バイト「それなら、いいんですが」

おっちゃん「バイトちゃんみたいに、ただ、ずっと話を聞いてくれるだけでいいだよ。俺のかみさんみたいに茶々入れないから。あー、あいつさ、最近冷たいんだよ。かまってやってないからかな」

バイト「そうなんですか」

おっちゃん「女心はわからんけどなあ、かまって欲しいってアピールしてくる時にやっておかないと、後でしようってのは間違いだ。そういうのは、後悔したりするんだよ。若い時にしかできないもんなんだよ。歳食ってから、好きだ愛だなんて、恥ずかしくて言えねえよ。逃げちゃうんだよ。昔はがんがん押してたけどなあ、今は防戦一方さあ」

バイト「……ごくッ」

おっちゃん「よし、歌おうッ」

バイト「……ごくッ、はい」

カランッ

―――
――

カランコロン

バイト「お気をつけて」

おっちゃん「うーい」

タクシーの運ちゃん「お客さん、車の中で吐かないでくださいね」

おっちゃん「ばかいえ、俺は上からは絶対に出さんッ、上からはな! ははははッ!!」

タクシーの運ちゃん「それ、下どうなの!?」

おっちゃん「ははははッ!」

タクシーの運ちゃん「ねえ?!」

バイト「……」ペコ

カツカツカツ

バイト(夜の人達は、昼の人達に比べて……なんだかあけっぴろげ)

バイト(消える人もいなかったし)

バイト(……消えなくて良かった)

カランコロンッ

ママ「はいはい、バイトちゃんお疲れ。もう帰んなさい、時間よ」

バイト「はい……」

ママ「あら、珍しい顔。どうしたの、人恋しくなったの?」

バイト「え」

ママ「そういう時は、会いたい人に会いに行ったり、電話をしたりするのよ。したことある?」

バイト「……したことないです。それに、これがそういうのなのか分からない」

ママ「そう。最初は、真似事でもいいの。いつか、本当になるから」

バイト「そうなんですか?」

ママ「ええ。こういうお店は、人との距離が近い。体も心もね、寂しくなりやすい。それに流される時もたまには必要なの」ニコ

バイト「……」

――――
―――


医療会


バイト「……」

バイト(来てしまった。でも、なんでここなんだろう)

バイト(確かに、行く所なんて他にないけど)

バイト(ここしか思い当たらなかった)

バイト(私を受け入れてくれる所)

バイト(もう、寝てるかな)

バイト(お酒のせいかもしれない)

バイト(顔が熱い)

バイト(こっそり行こう)

―――
――

とある病室の前

バイト(誘われたから、来た。それだけ)

テクテク

バイト(……他の患者さんは、寝てるのかな)チラ

バイト(あの子も、カーテンが閉まってる)

バイト(こっそり、覗くだけにしようか)

ピラッ

女「あ」

ドサッ

バイト(ベッドの上でブリッジをしてる女の子、初めて見た)

女「あああッムぐ?!」

バイト「しずかに」

女「むぐぐッ!?」コクコク

バイト「……」

パッ

女「けほッ」

バイト「大丈夫?」

女「び、びっくりした!? どうしたの!? え、どうしむぐ!?」

バイト「うるさい」

ぱッ

女「しゅ、しゅいましぇん」

バイト「女さんが来いって行ったんだよ」

女「言いましたけど、言いましたけども! わあ、嬉しい!!」

ガバッ
ぎゅッ

バイト「ちょ」

フワ

バイト(良い匂い)

女「ありがとうッ、嬉しいッ、ホントに来てくれたッ」

バイト(来るつもりは最初はなかったんだけどね)

女「ん? バイトちゃん、お酒臭い?」

バイト「あ、えと」

女「お酒の勢いを借りないと来れなかったか、そっかそっか。そこまでしてくれるなんて女冥利に尽きるね」

バイト(突っ込むのもめんどくさい)

バイト「何してたの」

女「ブリッジ。体、なまってたから」

バイト「また、怒られるんじゃ?」

女「そうかもね。でも、止まらないんだこれが。体がね、求めてるのッ」

バイト「……」

バイト(……あ、この子、やばい。分かる。連れていかれる)

女「もっと何かしたいって、いつ死ぬか分からないから、もっと生きたいって!」

プー!
ドン!ドン!ドン!
ワアアアア!

バイト(頭の中に、サーカスが広がってる……)

女「バイトちゃんと、友達になってから死にたい!」ニコ

バイト「……」ドクン

女「バイトちゃんのこと、もっと知りたいな! こんな、気持ち初めてッ……フフ」

バイト「……」ドクンドクン

女「あ、ねえ今日泊まって行けないの? ねえねえ」ニコニコ

バイト「あ、その、私」ドクンドクン

女「もう行っちゃうの?」

ギュウ

バイト「……」ゾク

女「寂しいよお」

バイト(耳に心地いいのはなんで)

――ミミニココチイイノハナンデ

バイト「え」

――ナンデ

バイト「ピエロ……?」

女「ピエロ?」

――カエリタクナイ

バイト「……え」

女「ちょっとちょっと? 誰と会話してるのかな?」

――サビシイナア

バイト「私だ……ピエロは、私だ」

女「おーい」

バイト「最初から、私の中には、私しかいなかった」

女「バイトちゃーん?」

バイト「……」

ギュウ

女「ふがッ」

バイト「……ごめん」

バイト(最初から、寂しいことに気が付いていれば良かったんだ)

女「寝るなら、ベッドに入りなよ?」

バイト「……女さん、少しこのままでもいい?」

女「……もちろん」ニコ










おわり

駆け足でしたが、妄想抽出できて満足です
ありがとう


続きはやらんの?

>>61
ピエロがいなくなる所まで書きたかったから燃え尽きちゃったよ
気力が沸いたら明日の夜か日曜に

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