女「幼馴染みは負けフラグ・・・?」(85)

私には好きな人がいる。いわゆる幼馴染みと言うやつだ。古今東西、幼馴染みと結ばれる話は多かった筈だ。しかし、私はある言葉を見つけてしまった・・・

「幼馴染みは負けフラグ」

衝撃的だった。
その言葉を見つけた日の夜には、枕を涙と鼻水でぐちょぐちょにしてしまった。次の日の朝、泣き腫らしている私の顔を見て、心配してくれた。またちょっと泣いた。

こんな泣き虫じゃ駄目だ、私は決意した。幼馴染みに相応しい女になってやると・・・

女友「女、おはよう!あれ、どうしたのその顔!?幼に泣かされちゃった?」

女「え、いや・・・違う」

女友「ま、なんか悩み事があるんなら相談してよ?」

女「えっと・・・ありがとう」

女友は、人付き合いが苦手な私の数少ない友達の一人だ。高校に進学して、中学までの友達の殆どと離れてしまった今、学校で心を許せるのは彼女と幼馴染みくらいなものだ。

予鈴がなって、教室に駆け込んでくる生徒が増える。
入学式から時間がたつにつれて、その人数も増えているようだ。

担任「ホームルーム始めるぞー」

女友「はぁ、じゃあ女、また後でね」

女「うん、後で」

田中「セーフ!先生、俺ギリギリセーフですよね!」

担任「残念だったなぁ、チャイムは鳴り終わってたから、アウトだ。職員室行ってこい」

田中「うぇぇぇぇ!」

教室がクスクス笑いで溢れる。私はそれどころではなかったのだけれど。

4限のチャイムが鳴り、お昼休みの訪れを告げる。
いつもの通り、女友がこちらに向かって来るのが見えた。

女友「女、学食行こっか」

女「うん」

女友「まーた今日もあの行列に並ぶのか~。あのクソハゲめ、授業長引かせやがって・・・」

女「お腹空いた・・・」

学食に着くと、券売機の前には既に相当の列がつくられていた。この分だと、食べられるのは10分後以降だ・・・

女友「うわぁ・・・並ぶか、しょうがない」

女「お腹空いた(うん)」

やっとのことで食券を唐揚げ定食にかえ、女友と席を探す。

女友「ちょうど良い席無いわね~」

???「おーい!女~!」

女「ん?」

女友「あら、あんたの想い人が呼んでるわよ」

女「え///あ、あ・・・あ///」

幼「お前ら座る席無いんだったら、ここ座れば?いいよね、幼友?」

幼友「いいよ!こいよ!隣に来て、隣に!」

女友「相変わらず気持ち悪いわね・・・・幼友」

幼馴染みと高校でお昼を食べたのは初めての事だった。正直自分でも、なんでこんなに緊張しているかはわからなかったけど、大好きな筈の唐揚げは無味だった。

幼「なぁ女~、今日部活休みだしさ、放課後どこか遊びに行かない?」

女「え・・・どこに?」

女友「女、幼君どこかって言ってるじゃない・・・・」

幼「ははは!通常営業っぽいな!どこでもいいけど、大宮駅とかかな」

幼友「大宮か、俺も行こっかな~」

幼「女友も行こうよ!」

女友「うん、じゃあ行こうかな」

朝から降る雨は既に止み、今日初めての太陽が5月の空気を暖めていた。

女友「お~、晴れたわね!朝は雨だったから、電車なんでしょ?」

女「うん、電車で来た」

女友「それにしても、自転車部の幼馴染みと、毎日よく自転車で来れるわね~」

女「む・・・私も自転車部員」

女友「マネージャーでしょ~」

女「むむう・・・」

昇降口の前で駄弁っていると、幼馴染みと幼友が急いでる風もなくやって来た。

幼友「ごっめーん!待った~♪」

女友「気持ち悪い・・・」

女「3分ぐらい待った」

幼「すまんな~、こいつのキモさに免じて許してくれ!」

幼友「俺の繊細なハートをそんなに犯したいのか、そこの2人は!」

女「い、言い回しが気持ち悪いかも・・・・」

妙にキメ顔なのも気持ち悪い気がする。

幼友「女ちゃんまで!?」

高校の最寄り駅から目的地の大宮駅までは20分程だ。4人で特に話すこともなく、つり革に捕まっていた。ふと幼馴染みの方を見る。目があった・・・・

女「っ////」

幼馴染みはいつもの笑顔を私に向ける

幼「カラオケ!」

女「カラオケ行くの?」

幼「うん、カラオケ行きたくない?」

女友「カラオケ良いと思うわよ」

幼「女、カラオケでいい?」

女「うん」

正直、皆で遊べるならどこでもよかった。みんなの前で歌うのはちょっと恥ずかしいけど。

幼友「俺の声で孕ましてやんよ!・・・いってぇ!」

女友「電車内で変なこと言わないで?」

最近女友は幼友に厳しい。

やっぱりスマフォからだと改行が上手くいかないな・・・

ID変わっていますが、PCにしただけです。

幼「予約していた幼馴染みですけど~」

店員「はい、幼馴染み様ですね、少々お待ちください」

女友「あれ?いつ予約なんてしてたの?」

幼友「ああ、昼飯食った後に俺たちで電話しといたんだよ」

女友「その時点で行く気満々だったのね・・・、まあ良いけど」

店員「4名様でご予約ですね、お部屋は302号室にです。ドリンクバーはエレベーターすぐに
ございますので、ご利用ください」

部屋に入るなり、幼友がデンモクに飛びつく。

幼友「じゃあ一番はいただきだぜ!送信っとな」

女友「行動速いわね~」

女友も呆れ顔だ。
日本の有名ロックバンドの曲が大音量で流れ始める。思わず身体を固めてしまった。
こういう大音量は昔からあまり得意ではない。

幼「女、音量下げようか?」

女「ううん、慣れると思うから大丈夫」

幼友「~~~~~~~~~♪~~~~♪」

上手い、素直にその感想が出てきた。
女友の方を見ると、少しびっくりしたような顔で、幼友の方を見ていた。

幼「じゃあ俺も入れちゃおうかな、これでいいや」

幼馴染みは特に驚く様子もなく、自分の曲を入れる。

女「幼友君、歌上手いんだね」

幼「ん、ああ、幼友は上手いよ~。最初に来たときはびっくりしたわ」

女友「意外な特技を持ってるのね・・・・」

4人でカラオケに来たら、曲は順番に入れていく訳で・・・・。
私の番が来た。
うん、歌い終わったら、なんか3人が優しい顔をしてる。
顔があつい、身体もあつい、でもなんか楽しいかも。

楽しい3時間はあっという間だ。カラオケ屋を出ると、空にはお月様、は無かったけど
普通に夜になっていた。

女友「じゃ、私と幼友はこっちだから、女、幼また明日~」

幼友「じゃあな~」

幼「おう、バイバイ」

私も手を振る。夜はこれからとでも言うような人ごみに消えていく2人。

幼「帰るか、女」

ここで今日は帰りたくないとか、言ってみたらどうなるのだろう。

女「うん・・・」

ぬるめのお風呂に浸かりながら、今日の事を思い出す。
幼馴染みとカラオケ行ったのって初めてだっけ。多分初めてだろう。
あれ・・・そういえば、昨日決意した事をすっかり忘れていた。
今日の行動は幼馴染みに相応しかっただろうか?よくわからない。

女「ふうぅぅぅぅ・・・・。幼馴染みってどんな女の子が好きなのかなぁ」

極楽空間から這い出ると、PCに向かう。

「男 好み 女」

結果から言って、大ダメージを受けただけだった。男の子はどうやら大きい胸が好みらしい。
いや、知っては、いた。アニメとか漫画を見たり読んだりしてると、何となくわかる。
しかし、これをリアルな事ととして受け止めるには、私の薄い胸ではレベルが足りないらしい。

女「寝よ・・・・ぐす・・・・」

女「う、だ、ダメ・・・、そこは触っちゃダメなの」

幼「ははは、そんなこと言いながら、すっごく期待した目をしてるよ?」

女「そんな事、あぁっ・・・」

幼「ほら、こっち向いて?」

女「あ・・・・」

幼馴染みの唇と、私の唇が繋がっている。これは、キスだろうな。
そのまま幼馴染みは、私の大切な・・・・・・・。

ジリリリリリリリリ!!

女「え・・・?あれ、夢?」

今まで私は幼馴染みと・・・・。
どんどんと顔に血が上っていくのがわかった。私は何と言う夢を見てしまったのか。
そのままベッドの上で悶える。恥ずかしい、どんな顔して幼馴染みと会えば良いのか。

姉「おい、なに朝から変な事してんの?私1限ないからもうちょっと寝たかったのに・・・・」

不機嫌そうな姉がドアから顔を覗かしていた。

女「ご、ごめんなさい。ちょっと朝の体操を」

なんか変な事を口走ってる気がするが、とりあえず朝ご飯を食べに1階へ降りる。

母「おはよう、あれ?なんか顔赤いわよ、熱でもあるの?」

女「ううん、大丈夫、何でも無い・・・」

そんなに顔が赤いのだろうか、確かに顔は非常にあつい。あとで顔を洗うついでにめちゃくちゃ
冷やしておこう。

母「じゃあ私も仕事に行っちゃうから、ご飯食べたら洗濯物干しておいてくれる?」

女「うん、わかった」

焼けたトーストをかじりながら答える。
正直朝ご飯はあまり食べたくないのだけれど、母が食べないと許してくれないので、
毎日頑張ってトーストをかじっている訳だ。すこし感謝。

幼「おはよ~女!行こうぜ」

家を出ると、幼馴染みが玄関の前でスタンバっていた。う、顔に血が上る・・・・。

女「お、おはようございます・・・」

幼「なんで他人行儀なんだよ~、あはっはは」

私の気も知らないで、幼馴染みは朝から絶好調なようだ。

昨日のような雨の日以外は、30分ほどの道のりを幼馴染みと自転車で通学する。
幼馴染みはロードバイク、私は入学祝いに買ってもらったクロスバイク。かごは付いていない。
まあ一緒に通学すると言っても、幼馴染みの後ろに必死に食らいついていくだけであるが・・・。

女「はぁはぁ・・・」

女友には強がりを言っていたが、正直結構ハードだと思う。幼馴染みはペダルと足くっついてるし・・・。
ただ、最初の頃よりはいくぶん余裕を持って通学出来るようになったかな。

幼「おはようございます!」
女「おはようございます・・・」

部員の自転車は、特別に部室に置いて良い事になっている。私もマネージャーと言う事で、
ありがたく部室に置かしてもらっている。駐輪場に置いたら、いたずらされるかも知れないらしい。

女「外で待ってるね」

幼「おう、すぐ行くな」

幼馴染みは自転車専用の格好をしているので、部室で毎朝制服に着替えている。
自転車を置くときに、部員の着替え姿が見えてしまう事もあるが、もう、慣れた。

幼「おまたせー、行こうぜ!」

自転車部の平日練習は、基本的にロードワークだ。決められたコースを、走って帰って来るだけ。
マネージャーの仕事は特にない。ただ、コーチが車で部員達に随伴するから、私はいつも助手席
に乗せてもらっている。やることと言ったら、写真を撮るか、うたた寝するかぐらいだ。

部長「よーし、じゃあ今日は60km練習だ、くれぐれも事故るな、行くぞ!」

部員達が出るのを見届けると、車に乗り込み出発する。
田舎道を駆け抜ける部員達、スピードはかなり速い。1年生達は次々と遅れていく。
それでも幼馴染みは先輩達から遅れなかった。

コーチ「幼馴染みか、あいつは強いなぁ。上半身見てみろよ、全然ブレて無いぞ?今年の県大会は
先輩達も油断してたらボロ負けかもな」

幼馴染みを褒められると、むず痒いような何とも言えない感覚になる。ただ、幼馴染みが強い
のは私でもわかる。3年終わりの暇な時期に、頑張って練習していたのを知っているから。

女「幼馴染み、おつかれさま」

幼「おう、じゃあ帰ろうか~」

ふと今朝の夢を思い出し、幼馴染みの顔を直視出来なくなる。

幼「女待ってよ、アタックか~?ははは」

すぐに追いつかれるだろうけど、早く顔の熱よ冷めてくれ。

女友「で、どうしたの?そんなに真剣な顔して」

ある日昼休み、私はすこし眠たそうな女友と向かい合っていた。

女「幼馴染みは負けフラグ・・・・」

女友「は?負け、ふらぐ?何の事なの?」

女「幼馴染みは恋敵に負けるらしい」

女友「あー、幼馴染み君が他の女の子に取られないか心配なのね」

女「う、まあ・・・そうかもしれない」

女友「で?どうしたいの」

女「胸を大きくしたい・・・」

女友「へえ、幼馴染み君って大きい方が好きなんだ」

女「いや、わからないけど、ネットではそう書いてあったから・・・」

直接は見た事無いが、女友の胸は中々大きいと思う。ブレザーを着ていても、結構な隆起
を確認出来る。この双実には何か隠された秘訣があるに違いないと、私は踏んでいた。

女友「まあ確かに、男は大きい方が好きかもねぇ・・・:

女「ぜひ、豊胸方をご教授願いたい」

女友「う~ん、そうは言われても、特に何かをした事は無いのよね」

そんな馬鹿な、何もしなくてこの差とは・・・・。

女友「そんなに落ち込んだ顔しないでよ~。幼馴染み君がおっぱい好きとは決まって無いでしょ?」

私はその可能性に掛けて、幼馴染みの部屋を捜索する事を決定した。
ネットによると、男の子の部屋にはエッチな本が沢山隠されているらしい。
その本の傾向を調べて、幼馴染みがお、おっぱい好きかどうかを確かめよう。

幼妹「おねーちゃん、お兄ちゃんは居ないけど本当に良いの?」

女「うん、部屋で待ってるから」

幼妹「ふーん、じゃあ私は遊びにいくからじゃあね!」

女「気をつけてね」

さて、幼馴染みの部屋には侵入した。まずはどこを探そうかな。
安価下

1.机周辺
2.ベッド辺り
3.本棚

2
誰も見てないと思うから急な安価はやめた方がいいぞ

>>24同感
安価取るSSだと思われないだろこの内容じゃ

>>24
>>25
そうですね・・・
安価はこれきりにします、ご指摘ありがたいです。

女「うん、ベッドがやっぱり怪しい」

幼馴染みのベッド・・・・。とてもゴロゴロしたくなったが、一先ず我慢して
エッチな本の捜索に取りかかる。
あるとすれば、ベッドとマットレスの間か、ベッド下収納の中だろう。
自分のやっている事にかなりの罪悪感を覚えつつ、本を探す。


女「エッチな本が一冊も出てこない・・・・」

30分近く捜索していたが、段々と堂々巡りになってきたため手を一回止める。

女「はぁ、疲れた・・・ちょっと休憩」

ふっと存外に心地のいいベッドに寝転がる。
ここで毎晩幼馴染みは寝てるのか・・・。これは幼馴染みの匂いだ、な・・・

「・・・・・・おーい、起きろー、おーい」

女「ん、ううん?あれ・・・?」

幼「おはよう、なんで俺のベッドで寝てんの?」

醒めきらない目でポケーっと幼馴染みを見つめる。えーと、あれ?

女「あっ!エッチ本・・・・」

幼「えっちぼん??」

これはいわゆる大ピンチと言うものでは無いだろうか。勝手に人の部屋に入って、
勝手に人のベッドで寝てて、しかもその理由が家捜しときた・・・。顔から血の気が引いていく。

女「あ、ぅあ・・・、こ、これはね」

幼「もしかして、俺が帰って来るの待っててくれたり・・・?」

女「え?あ、ああぁ、うん!そうだよ、待ってたら寝ちゃったみたいで」

幼「えーと、じゃあ、ただいま~ってことで良いかな?」

幼馴染みは少し照れくさそうに笑った。
やめて、そんな笑顔を向けられるような権利は私にはない・・・・。
胸がなぜかズキズキと痛む。

女「お、おかえりなさい・・・・」

その夜は色々な考えが頭を巡って、ほとんど眠る事が出来なかった。

女友「なんか女、ぼんやりしてない?1限から体育だけど大丈夫?」

女「うん、ちょっと寝不足なだけ」

寝不足のせいなのかはわからないが、胸もむかむかして気持ち悪い。
体育は適当に流して終わらせたいところだ。

体先生「じゃあ準備運動と校庭2周!体育委員前出て指示」

私はこの準備運動が昔からあまり好きではない。好きではないな・・・・。
頭が重く、よくわからない思考で頭がグルグルと回る。
いつの間にか準備運動が終わり、ランニングをし始めていた。

女「あ、あれ・・・・」

世界はこんなに白かったのだろうか、ふと思った瞬間、視界から色がすべて抜け落ちた。

大した事は無い、ただの貧血だ。
ただ、倒れた後に嘔吐していたらしく、何事かと騒然となったらしい。

女友「いや~、びっくりしたわよ。女ったらいきなり倒れたかと思ったら、気絶しながらゲロゲロ
してるんだもん」

女「う~・・・、なんかちょっと髪の毛が臭うかも」

女友「しかも騒然としてるところに、幼馴染み君が汗だくで登場するんだもんね。あの時の
幼馴染み君の顔見せてあげたいわよ」

しかも世界史の授業を受けていたはずの、幼馴染みが教室を飛び出して校庭に来てしまったらしい。
私はさっきまで寝てたから、どんな騒ぎだったのかわからないけど。

女「はぁ・・・、幼馴染みにゲロ吐いてるところ見られちゃった」

女友「そんな事気にしないと思うけどねぇ」

保先生「女さん目が覚めたみたいね、今日は念のために帰りなさい?」

女友「はい、これが荷物ね」

女「あ、ありがとう。」

正直すでに体調はほとんど回復していたのだけど、ちょっとあの後だと教室に行く勇気が出ない。
今日はありがたく帰らせてもらおう。

保先生「あ、自転車で帰っちゃダメだからね?電車で帰りなさいね」

女「お腹空いた...」

家に着いたのがお昼前ぐらい。朝食べたものを全て吐き出し、空になった胃は食べ物を求めてキュルキュルと鳴っていた。

女「カップ麺とかあったかな」

今から何かを作る気にもなれず、カップ麺でお昼を済ますことにする。

母「女~、幼馴染みちゃんが来てるわよ~」

いつもよりも少し早い夕飯を終え、部屋で英単語帳とにらめっこしていると、一階から良く通る母の声がした。

幼「もう顔色も普通だな!いや~良かった良かった」

女「迷惑かけてごめんなさい」

幼「ん~、心配はしたけど、迷惑はかけられてないよ。あ、そう言えば、女の部屋に入ったのって久々かも」

幼馴染みは相変わらず笑顔だ。そんな無邪気な笑顔を見つめてると、幼馴染みに吸い込まれていくような感覚にもなる。

幼「そ、そんなに見つめるなって、なんか恥ずかしいだろ」

照れたように幼馴染みは鼻をかく。私も恥ずかしくなり、思わず立ち上がってしまう。

女「ふわっ...」

幼「お、おい大丈夫か!」

倒れ込んだところを、幼馴染みが受け止める。立ち眩みだ。

女「ご、ごめん。いきなり立ち上がったから、立ち眩みが・・・」

幼馴染みの顔が近い。受け止められたから、幼馴染みに抱えられてる形になっているのだろう。

姉「幼馴染みの奴来てるんだって~?」

相変わらず、姉はノックと言う行為を知らないようだ、無遠慮にドアが開く。

姉「って、ああ・・・なんか、大事な場面だったっぽいな!お邪魔しました~」

幼「え!あ、姉さん!これは、違っ」

女「~~///////」

笑い事ではないような勘違いをされた気がする。後で誤解を解いておかないとならない。

女「もう大丈夫だから・・・ありがとう」

幼「お、おう、なんか姉さんに勘違いされちゃったかもな、ははは」

女「大丈夫、後で言っておくから」

幼「ま、まぁ、うん、そうだね」


幼馴染みの様子が少し変な気がする。私が何か臭ったのだろうか・・・。お風呂には入ったのだけど。

幼「女も大丈夫そうだし、俺はもう帰るよ!ま、また明日」

女「うん、バイバイ」

玄関まで幼馴染みを見送り、手を振って別れる。

姉「あんた達、いつの間にかくっついてたのね」

女「くっつ・・・///ううん、あれには訳があってね・・・・・・」

この後めちゃくちゃ説明した。

県大会、新入生にとっては初めての公式戦だ。基本的には何かしらの種目に全員出場し、上位の成績を残したら選手が関東大会に駒を進める。
自転車競技と言ったら、競輪だと思っていたのだが、競技場でやる種目にも短距離、中長距離とあるらしい。また、別日程でロードレース(公道やサーキットでの)もあると言うことだ。
今日は競技場の日程1日目だ


幼友「おい幼馴染み!お前
タイム速すぎだろ!」

幼「そうか?マッチョ先輩には全然敵わないぞ?」

1日目には全員参加の1kmTTが朝2番目に行われるのが常だそうだ。

幼馴染みは1分12秒だったか。どうやら速い方らしい。

女「幼馴染み、お疲れさま」

格好良かった。

恥ずかしくて口には出せないけど、幼馴染みが全力で走ってる姿は、どうしようもなく格好良い。

ガリ先輩「マネージャー、水持ってきてー」

女「はい、今いきます」

私は上手くやれているだろうか、上手くやれるだろうか。頑張ろう。

幼「はぁぁ~、疲れたなぁ。女、お疲れ!」

女「お疲れさま」

1日目の競技は無事に終了した。幼馴染みは1kmTTの後はサポートに回って私と一緒に走り回っていた。きっと本当に疲れているのだろう。

幼「でも、大会って楽しいな!他校の奴等とも喋れるし」

本当に幼馴染みはいつでも笑顔だ。私の疲労も胸の高鳴りでどこかに飛んで行きそうだ。

女「幼馴染み、明日のレース頑張って」

幼「おう!絶対入賞して、関東大会に行くからな、応援頼むよ!」

女「うん、任せて」

幼「お、心強いな、ははは!」

笑いながらも、どこか遠く、高みを見据えているような眼は、ずっと大人びて見えた。

「これで、第67回県予選大会を終了します」

マネージャーとしての初めての大会が終わった。新しい経験ばかりだったし、知り合いも増えた。なにより・・・・。

女「幼馴染み、ポイントレース3位入賞おめでとう」

幼「ありがとう!たださ、ちょっと優勝出来るかも・・・とか思っちゃったから、悔しいわ」

マッチョ先輩「くそっ幼馴染み!入賞したらハーゲンダッツ奢ってやるって言っちまったからな、後でコンビニ寄って買ってやる!女ちゃんも奢ってやるよ」

女「いえ、悪いです・・・」

幼「先輩太っ腹ですね!女、男が奢るって言ってるんだから、素直に奢られないと駄目だよ!」

マッチョ先輩「そ、そうだな!任せろ・・・」

幼友「先輩!ゴチになります!!」

マッチョ先輩「お前は予選落ちしてただろうが、練習して出直してこい!」

幼友「ひ、ひえぇ・・・・。せ、先輩の余裕な優勝格好良かったっすよ、マジでリスペクトっす!」

マッチョ先輩「そ、そうか?まあ今日は機嫌が良いし、奢ってやるか!だっはっはっはっ!」

女「乗せられてる・・・・」

女「ただいま」

母「おかえりなさい、幼馴染み君どうだったの?」

女「3位入賞で、関東大会いけるって」

母「ふふっ、女ったら凄く嬉しそうね~。顔がゆるんでるわよ」

思わずバッと手で顔を被う。そんなに、にやけていたのだろうか・・・。こんな顔は幼馴染みには見せられない、顔を引き締める練習しなくてはならないだろうか。

コーチ「全員乗ったか~、居ない奴はそのまま置いていくからな」

数日後、県大会ロードレース前日の放課後、私たちは学校所有のマイクロバスに
乗り込んでいた。明日のロードレースは県外のクローズドサーキットで行われるため、
前日宿泊するのだ。

部長「コーチ、全員乗ってます!お願いします」

私の隣には、女マネ先輩が座ってる。私と1つしか年齢が変わらないとは思えない
ほどに大人っぽい雰囲気を纏っている。まつげ長・・・・。

女マネ先「女ちゃんは私の隣で良かったの?」

突然の質問に言葉が出てこない。女マネ先輩はフッと柔らかに笑顔をつくり、
私の耳元で囁いた。

女マネ先「幼馴染み君の隣じゃなくて良かったの?」

女「い、いえ!あの、ぅ/////」

女マネ先「女ちゃんは無表情っぽいけど、感情豊かだね」

女マネ先輩から目を逸らす。

幼「!!」

幼馴染みと目が合ってしまう。珍しく幼馴染みも驚いていた。しかし、すぐに
ニコッと笑顔になる。どこを向けと言うのだ、下を向いた。

部長「では、部屋はお座敷の4人部屋が4つと、コーチと顧問先生の部屋、マネージャーの部屋で分かれていますので、鍵を取っていって下さい。あと、夕食はこの後すぐなので、荷物を置いたらすぐに食堂までお願いします。」

女マネ先「女ちゃん、行こうか」

女「はい」

どうやらここの宿は、温泉が一つの売りなようだ。別に、混浴イベントが発生したり、お見合い風呂
がある訳ではない。言うならば、そんなに大きくもない男女別の大浴場があるだけだ。ただ、やはり
温泉はうれしい。

女「ふう・・・・」

3人入ったら窮屈そうな浴槽にゆっくりと肩まで体を沈める。バス移動で凝ったからだがほぐれていく。

女マネ先「これやっぱり大浴場ではないよね~、良くて中浴場ぐらい?あはは」

女「女湯は私たち2人なので十分ではありますが・・・」

関係ない事だが、胸と言うのは脂肪だと言う事を今まさに思い知らされている。浮かぶのですね、はい。自分の胸に目を落とすのは、なぜか少し悔しい気がしたので、女マネ先輩の顔を見る。

女マネ先「どうしたの?」

不思議そうな顔をする女マネ先輩、キョトンとした顔がまた綺麗だ。見てられなくなり、曇りガラスになっている窓をガラッと開けた。

幼「うわ!びっくりし・・・・・?おい!閉めろ!!早く!!!」

窓を開けたら幼馴染みがいた、幼馴染みがいた。幼馴染み・・・・・。
幼「だから早く閉めないと!!」
いつの間に近くまで来ていたのだろう、幼馴染みは目を逸らしながら、窓を、閉めた。

女マネ先「もう!いつまでいじいじしてるの?下までは見られてないんだからセーフだよ」

女「セーフじゃないです・・・貧乳だとバレました」

女マネ先「え、それは元々・・・・はぁ、もう寝ましょう」

女「ぅぅぅぅ・・・・・////」

女マネ先輩が電気を消す。静かになった部屋には、外から微かに聴こえる虫の音だけが響いていた。

県大会ロードレースの参加人数は90人ほどだ。私達の部では全員参加を強制しているが、他の学校では、短距離選手は参加してなかったりするそうだ。

女マネ先輩「そろそろスタートね。女ちゃん、幼馴染み君に声かけてこなくて良いの?」

女「は、はい、大丈夫です・・・」

本当は色々と掛けたい言葉はあるが、まだまともに顔を見れる気がしない。今できるのは、幼馴染みの背中に向かって、無言で応援することだけだ。
幼馴染みは幼友と笑いあっていたが、その横顔は緊張で強張っているように見えた。

県大会ロードレースの行われている、このクローズドサーキットは一周6km。今日はここを10周回、60kmの距離で争われる。私達マネージャーの仕事は、選手がスタートしてしまうと、特に無くなってしまう。ホームストレートに戻ってくる度に、応援をするぐらいだ。

女マネ先「皆頑張れ~!!あと9周回!」

女「が、頑張ってください!」

早速凄いスピードで大集団が通りすぎていく。女マネ先輩はテンション高く跳び跳ね、胸は揺れていた。集団の何人かが振り向いて凝視していた・・・・・。まだまだ余裕なようだ。

その後もホームストレートに来る度に、集団は人数を減らしながらも一つだった。

女マネ先「次回ってきたら、あと3周ね」

女「はい、でも大分リタイアしてる人がいますね」

女マネ先「そうね~、まあ短距離選手は元々やる気も無いしね、あはは」

ホームストレートの向こうから集団がやって来るのが見えた。あっという間に私達の前を通過する。

女「幼馴染みがいない・・・!?」

女マネ先「確かにいなかったわね、さっきの周回は結構余裕そうに見えたのだけど、落車かしら・・・・」

女「ら、落車!?」

女マネ先「も、もしかしたらの話よ、そんなに慌てないで?」

女「・・・はい・・・・・」

女マネ先「あ、幼馴染み君!」

女マネ先輩の見ている方向に顔を向けると、単独で走っている幼馴染みが見えた。

女「お、幼馴染み!!頑張って!!」

女マネ先「幼馴染み君!集団はすぐそこだよ!」

集団よりも速いスピードで私達の前を通過する幼馴染み。今まで見たこともないような、必死な表情だった。

女「幼馴染みー!!!追い付けー!!!!」

言い切って、少しふらっとする。今までで一番の声量を出したかもしれない。


女マネ先「さっきの周回でパンクしたみたいね」

女「パ、パンクですか」

女マネ先「うん、出走の時とホイールが変わってからね。怪我は見えなかったから、落車はしていないと思うよ」

女「幼馴染みは追い付くと思いますか?」

女マネ先「わからないけど、信じてあげなさい」

女「はい・・・・」

すぅっと大きく息を吸う。

次の周回、幼馴染みと集団の差は、10秒ほどまで縮まっていた。

マッチョ先輩「あいつ、すげえド根性だな!がっはっはっ」

女マネ先「この分ならそろそろ追い付くわね」

女「良かった...」

最終周回を告げる鐘がなる。最初に最終周回に突入していったのは、部長を含む6人の小集団だ。20秒ほど遅れて、幼馴染みを含む20人ほどの集団がホームストレートを通過していった。

女マネ先「後ろの集団は少し牽制気味ね...」

マッチョ先輩「こりゃあ、前のグループが逃げきるかもしれんな」

さっき見えた幼馴染みの表情は、苦悶に満ちていた。当たり前だ、1人でスピードの上がっている集団に追い付いたのだから。

女「幼馴染み・・・・」

『ゴールスプリント』
名前の通り、ロードレースのクライマックス。疲労で萎える脚を奮いたたせ、ゴールラインだけを目指す。

女マネ先「部長!ラストーです!!部長ー!!」

ゴールライン上で、部長が雄叫びを上げる。見せ付けるかのようなガッツポーズをすると、暫く走って倒れ込んだ。マッチョ先輩が部長に駆け寄っていく。

マッチョ先輩「部長、やりましたね!」

部長「うわぁ...もう限界だぁ!あはははは!!」

女「あ、幼馴染みだ!」

さっきの周回は後続集団にいた幼馴染みが、トップ集団より少し遅れたくらいでゴールしてきた。

女マネ先「へぇぇ、幼馴染み君やるわね、あの後集団から飛び出して来ちゃったんだ」

私はゴールラインの向こうで立ちすくむ幼馴染みに駆け寄っていた。

女「幼馴染み、お疲れさま」

幼「あ、ああ、お疲れ」

女「幼馴染みは7位かな、関東大会出れるね」

幼「うん、そうだね...」

疲れているのだろうか、いつもの明るい幼馴染みではなかった。

幼「女...俺、勝てなかった。あの時アタックに反応出来てれば...」

女「幼馴染み...」

幼馴染みは悔しいのだ、勝てなかったことが、最後にトップ集団に入れなかったことが。

女「で、でも、パンクしちゃったから...」

幼「いや、あの時...死ぬ気で着いていくべきだったんだ...」

部長「おーい、幼馴染み。お前は関東大会の出場権を持っている、さあ、その悔しさはどこにぶつける?」

幼「部長...」

部長は幼馴染みの顔を両手で挟み込むと、ムニムニとしながら言った。

部長「やれるよな?」

幼「...はい!」

女友「で、女子力がどうしたって?」

まだ眠そうな声で聞き返してくる。

女「うん、女子力を上げれば、幼馴染みは私にメロメロになるはず」

女友「あー、幼馴染み君!昨日は惜しかったらしいね~、お疲れさま!」

女「へっ!?幼馴染み?」

幼「女友ちゃん、ありがとう。なぁ女~、なんかクラスの奴が、line教えてくれって煩いんだけど、教えて上げてもいい?」

女「え、あ、うん...」

女友「へぇ、誰なの?」

幼「えっとな、チャラ男って奴なんだけど...」

何となく、幼馴染みの顔が曇る。チャラ男君か、全く知らない人だ。

女友「チャラ男ねぇ...、私もあんまり知らないわね~」

女「私は大丈夫だよ。あ、そろそろ授業始まる...」

幼「ん、ありがとうね...また後で」

女友「で、女子力を上げるって、具体的には何をするの?」

菓子パンを小さく千切りながら女友が聞いてくる。

女「それが良くわからない、だから女友に相談している」

女友「う~ん、と言ってもねぇ...」

女友を持ってしても、女子力と言うのは難しいものなのか。

女「ネットによると、女子力が高くなるにつれて、男が群がってくるらしい」

女友「はぁ...あんたは男子に群がられたいの?」

しまった...知らない男の子に群がられても、正直怖いだけだ。

女「いや、私は幼馴染みをメロメロに...」

女友「メロメロって、今でも使う人いたんだね...」

女友はさっきから呆れ顔だ。私は仕入れた知識の上で話しているだけだと言うのに。

女友「手料理とか振る舞ってみたら~?胃袋つかめばなんとやらって言うし」

女「手料理...」

女友「そう言えば、女って料理は出来るの?」

出来ると言えば出来る気がする。たまに夕飯を母さんの代わりに作ったりするし、少なくともお姉ちゃんよりは出来るはずだ。

女「...うん、多少は」

女友「なんだ今の間は...」

女友「あとは私服を大人っぽく、尚且つ可愛くするとかかな」

女「し、私服...」

女友「そう言えば、女の私服って...」

そうなのだ、中学校の途中から背が伸びていないから、ここ2年ぐらいは服を買った覚えが無い。持ってる服もお下がりばかりだし...

女友「確か、随分子どもっぽかったわよね」

女「うぐ...」

女友「今度買いにいこっか!」

何故か女友の目が輝いている気がする。やっぱり女子力の高い女子は、服の話をするだけでテンションが上がらなくてはならないのだろうか...

女友「女~、これなんか似合いそう!」

女友が目をキラキラさせながら何かの上着を持っている。

女友「じゃあ、さっき選んできたの全部あわせて試着してきて!」

女「う、うん」

女友が選んでくれた服を持って試着室に入る。

女「着たよ」

女友「うんうん、やっぱり似合ってる。太ももがいい感じ!」

女「女友、これ太もも露出しすぎな気がする」

ショートパンツからは太ももの7割ぐらいが出ている気が。

女友「大丈夫よ、そのぐらい普通普通」

女「これが普通...」

これで幼馴染みの前に出るのは結構恥ずかしい気がする。
まあ上裸を見られた事からすれば、このぐらいなんて事無い。
と思う事にした。

その後もいくつかお店を見て、また何着か服を買った。

女友「それにしても、あんた金持ちね~」

女「別にお金持ちな訳ではない。ただ、お小遣いの使い道が無かっただけ」

実際、中学生ぐらいからお小遣いを貰ってはいるが、ほとんど出番が無かった。

女友「ふーん、あ、そろそろ帰ろうか!」

女「そうだね、そろそろ夕飯の時間だ」

女友「帰ったらさ、今日買った服着て幼馴染み君に会ってみたら?」

女友がニヤニヤとしながら、私の目を覗き込んでくる。

女友「ま、いいや、じゃあまた来週ね~」

返事の代わりに黙って手を振る。
もしも着て見せたら、幼馴染みはなんて言うのだろう。
優しい幼馴染みの事だ、とりあえずは褒めてくれる気がする。

女「幼馴染み.....」

???「お!女ちゃんじゃん」

女「え、と、?」

チャラ男「あれ、俺の事知らない?幼馴染みのやつと同じクラスのチャラ男だよ
この前連絡先教えてもらった!」

女「あ、チャラ男君て、君のことなのか」

チャラ男「いや~偶然だね、良かったら飯でも食べに行かない?」

女「それは出来ない、家でご飯が用意されている」

チャラ男「そっか~、残念!じゃあさ、今夜LINE送ってもいい?」

女「それは別にかまわないけど」

チャラ男「じゃ、またね、気をつけて帰りな~」

チャラ男君はニコニコと私に向かって手を振る。私もとりあえず振り返す。
今日初対面のはずなのに、随分とフレンドリーな人だ。
幼馴染みの友達と言う事は、あまり無下には出来ないな。

その日の夜は、中身の無い話題を適当にLINEして、寝ると言って強制終了した。

チャラ男「女ちゃんって結構私服可愛いんだね~」

女「そう?」

日曜の昼下がり、なぜか私はチャラ男君とショッピングモールを歩いていた。
なぜかと言えば、ただ単に誘われたからだ。予定が入ってなかったから、断る事が出来なかった。

チャラ男「お、この店おしゃれじゃね~?」

チャラ男君は上機嫌に色々なお店を見て回っている。
私はと言えば、ずっと仏頂面でチャラ男君について行っているだけ。

女店員「お客様、カップルでペアルックなんて素敵ですよ?」

チャラ男「いや~参ったな、はははは!」

女「結構です、私たちはカップルではないので」

チャラ男「そ、そうなんすよ、は、ははは」

チャラ男「女ちゃん、ちょっとあそこで休憩しない?」

チャラ男君が指差す先には街中でよく見かけるコーヒーチェーン店があった。
足も少しくたびれて始めていたし、異論は無かった。

女「うん、いいよ」

少し注文で並んだが、そこまでストレス無く座席に着く。
私はチャラ男君が奢ってくれた何かクリームがてんこ盛りの飲み物、
チャラ男君はこれまた甘そうな名前の難しい飲み物をお盆にのせていた。

女「本当にごちそうして貰っていいの?お金だすけど」

チャラ男「このぐらい気にしない気にしない、さあ飲んで」

私がちょんちょんと手を出し始めると、チャラ男君もニコニコしながら飲み始めた。

チャラ男「少し聞いてもいいかな?」

相変わらず調子よく、嫌みも無くチャラ男君が話しかけてくる。

女「何?」

チャラ男「女ちゃんってさ、幼馴染みの事どう思ってるの?」

女「っ!!?」

ニコニコした顔からとんでもないキラーボールが飛んできた。

女「ど、どうって、ど、どういうこと?」

チャラ男「そのままの意味だよ、好きか好きじゃないか、だよ」

相変わらずチャラ男君はニコニコしながら、ずしんと言葉の豪速球。

チャラ男「っぷ.....く、ははははは!」

私が沈黙してうつむいていると、突然チャラ男君が耐えられないと言った風に笑い始めた。
何がおかしいのか、少し頭に来る。

チャラ男「やっぱり幼馴染みの事が好きなんだね、それもかなり」

女「悪い.....?」

チャラ男「ごめんね笑っちゃって、でも、幼馴染みの名前が
出たとたんに真っ赤になる女ちゃんが可愛面白くてついね」

褒められているのか馬鹿にされているのか、どちらにせよ、いい気分ではない。

チャラ男「幼馴染みがよく女ちゃんの事を話題に出すからさ、
どんな女の子かと気になってたんだよね。
いや~期待通りの女の子だったわ」

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...................
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...
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インターハイに出場するためには、各地方大会で決められた成績を残さなければならない。
幼馴染みが関東大会で出場するポイントレースとロードレースの場合、
ポイントレースでは8位入賞、ロードレースでは25位までの成績が必要だ。
さらに、ポイントレースは各校1人まで、ロードレースは各校3人までと学校内での争いもある。

お世辞にも晴天とは言いがたい、重く雲が垂れ下がった梅雨の始まり。
厳しい3日間が始まる予感がした。

女マネ先「あ~、降ってきちゃったわね。これから競技が始まるって言うのに」

女「中止とかにはならないんですよね?」

女マネ先「このぐらいの雨じゃ中止になんてならないわね、もっと雷とか落ちたりしないと」

ゴリ先輩「くっそ~、俺はギリギリ濡れずにすむと思ったのに!」

マッチョ先輩「ゴリ先輩、スプリント予選の1番時計期待してますよ」

ゴリ先輩「おう!任せとけ!!雨になんて負けねーぞ」

レースの一番最初は、スプリント予選。やる事は簡単だ、200mのタイム計測をするだけ。
上位8人が本戦に進む事が出来る。
ちなみに、ゴリ先輩は今年で最後の関東大会と言う事もあって、かなり気合いが入っている。

幼「お、ゴリ先輩が走るな!ゴリ先輩頑張って下さい!!」

女マネ先「タイムは・・・11秒3ね、1番時計更新!」

大粒の雨が走路を遠慮なく叩き付ける中、ゴリ先輩はベストタイムを更新していた。
ゴリ先輩の後に走る選手は2人、彼らがタイムを抜かなければ、1番時計で本戦に進める。

幼「次のタイム・・・11秒5か、よし後一人!」

マッチョ先輩「最終走者は、あいつか・・・・」

マッチョ先輩の表情が少し曇る。確か次走る選手は、栃木の強豪校の3年生だったはず。
目で走路内の選手を追う。
速い、明らかに他の選手とスピードが違う。

女「10秒8・・・?」

ゴリ先輩「いや~、速いわ。インターハイまでには抜いてやるけどな!」

いつの間にかピットまで戻ってきていたゴリ先輩の目は、
すぐそこの本戦ではなく、インターハイに向かっているようだった。

1日目の競技も終わりに近づいてきた頃、幼馴染みが出場するポイントレースが始まった。
雨は止みかけていたが、上着を忘れてきていた私には少し寒く感じる気温になってきていた。

女マネ先「じゃあ、私がポイントの集計はしちゃうから、女ちゃんはしっかりと応援ね!」

女「わかりました」

走路内を見る。
真剣な眼差しで審判の説明を聞いている幼馴染みがいた。
幼馴染みが私を見る、目が合う、ニコッと笑う。
何か私も合図を送りたくなった。とりあえずサムズアップしてみた。
幼馴染みはそれを確認すると、気合いを入れ直すように両頬を叩き、向き直った。

レースが始まると、流石関東大会と言うようなスピードでレースが展開する。
幼馴染みは序盤のポイントでは動かず、中盤以降に温存しているようだ。

4回目ぐらいのポイント周回、ついに幼馴染みが動いた。
ポイントを取りに行く選手について行き、ゴールラインを越えた後もペダルを強く回し続ける。

マッチョ「あいつ、ラップを狙いに行くつもりだな」

女「頑張って、幼馴染み・・・」

気づくと、幼馴染みともう1人の逃げが集団を半周程引き離していた。

女「幼馴染み!頑張って!!」

少し声がかすれてしまったが、ちゃんと聞こえたようだ。
通りすがりにこちらに笑顔を向けてくる。

マッチョ「あいつはまだまだ余裕そうだな、もう1人の奴は大分苦しそうだが・・・」

ブザーが鳴らされた、次の周回が逃げ始めてから最初のポイント周回となる。
2人で逃げている場合は、消耗を避けるために争わないのが得策ではあるが、
幼馴染みはどうするつもりだろう。

マッチョ「もう1人の奴が幼馴染みに譲ったな。まあ、あんだけ前をひいてもらって
てるのに差し込んだら、紳士協定に背くからな」

一方集団のペースは、ポイント周回で一時的には上がったものの、あまり速いとは言えなかった。

マッチョ「幼馴染み!!ポイントを積み重ねたあとにラップしろ!!」

ちなみに、集団を周回遅れにするとラップ認定され、一気に20点が追加される。
しかし、余裕がある場合は、逃げている間に多くのポイントを追加してからラップした方が戦略的だ。

その後も順調に幼馴染みは逃げて得点を追加していく。
ポイント周回も残すところあと2回、幼馴染みの勝利はほぼ確定していた。

マッチョ「もしかしたらそろそろラップしに行くかもな」

女「勝ちがほとんど決まっているのにですか?」

マッチョ「余裕があるときは、とことんやりたくなる。それが男さ」

マッチョ先輩の言う通り、もう1人の選手が先頭交代するタイミングで幼馴染みが一気にペースアップする。
これまでの逃げで疲弊していただろう逃げのパートナーは、すぐに諦めて力なく後退していった。

女「すごい・・・、本当にあっという間に追いついた」

ペースアップからすぐに、牽制状態の集団に幼馴染みが追いついた。
そこからすぐに、ポイントのブザーが鳴らされる。

マッチョ「流石にここからはポイントに絡まないか。まあ懸命な判断だな」

ポイント周回が終わると、集団はまた牽制状態になった。
おそらくどの選手も頭の中で計算して、どうしたら自分が上位に食い込めるのかを考えているのだろう。

マッチョ「ポイントの最後のスプリントはクレイジーだぜ。しかも結構な人数が生き残ってるしな」

最終周回の鐘が鳴らされる。
後ろから一気に仕掛けてくる選手に、他の選手が反応する。
ほぼ全員のゴールスプリント。

マッチョ「うわ!危ねえ!!よけろ!!!」

女「っっっ!!」

幼馴染み前方の選手同士が接触し、バランスを崩し走路に叩き付けられる。
すぐ後ろを走っていた幼馴染みはよけられる訳も無く、倒れた身体に引っかかりバランスを崩した。

幼馴染みの身体が宙を舞い、折れたフレームに落ちて行く。
凄まじい運動エネルギーをもって落ちた身体は、いとも容易く折れたフレームを受け入れてしまった。

女「あ、あ、あ、あ、ああああああああああああああぁぁぁぁ」

女「ああああ!!っは!?はぁはぁはぁ・・・・」

目が覚める、汗に濡れた体が気持ち悪い。

女「またこの夢・・・」

長い夢、何日かに一度は確実に見てしまう、長い夢。
自分が持っていた全てを、一瞬で失ってしまった、現実。

その夢

女「ん、またチャラ男くんからLINEきてる・・・」

男の通夜で泣いていたチャラ男くん。
私と幼馴染みの仲を進展させようと、計画を立ててくれていたらしい。
随分前の話だけど。

コンコンっとドアがノックされる。

姉「女、大丈夫?また悲鳴が聞こえたけど・・・」

女「大丈夫・・・、落ち着いた」

姉「そっか、うん・・・・。辛かったらいつでも言っていいからね」

女「うん、ありがとう」

女「行かなきゃ」

まだ靄がかかったような頭で一つの結論にたどり着く。

どうやってここまで来たのかも、よくわからない。
気がつくと、幼馴染みが死んだ走路に立っていた。

冷たい雨をざあざあと降らせる空を見上げる。
月は無く、あるのは薄く白ずむ雲だけだった。

走路から降りて、ぬかるみかけている芝生に立つ。
リュックに入れてきた鈍く光る刃の柄を芝生に差し込むと、息が漏れた。

女「幼馴染み、今からそっちに行くからね・・・?」

女「遅くなってごめんなさい、私、臆病だったから」

女「でも、今は不思議と怖くないんだ・・・」

女「幼馴染み、そこにいるんだったら、私が死ぬところは恥ずかしいから目を瞑っていてほしいな」

女「いまいくよ

終わり

いつか自分が成功した日には、ハッピーエンドで終わらせられるようにスレを立て直したいと思います。
いつか似たようなスレを見たら、生暖かく見守っていただけるとうれしいです。

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