女子A「ねえ、光? 帰りにカラオケ寄ってかない?」
光「あ、ごめん……今日はレッスンがあるから」
女子B「じゃあ、しょうがないね~。頑張ってね! 応援してるから!!」
光「う、うん……」
クラスメイトの二人はそのまま別の女子を誘いに行った。特別仲が良いわけでもない二人。クラス全員に聞いてるみたいだ。
別にカラオケに行けなかったのが悲しいとか、そういうわけじゃない。レッスンや仕事で行事に出れないことなんてデビューしてから何度もあった。
まして、カラオケに行ってもあたしが歌いたい歌とみんなが聞きたい歌が同じとは思えない。
それなりに売れてはいるみたいだし、最近もよくコンビで仕事に出てる。もちろん、仲間たちに不満はない。それでも、時々悩むことがある。
私はアイドルを続けたいのだろうか。
デビューから3年。高校二年生になった私はそんなことばかり考えていた。
※注意。アイドル数名の成長妄想あり
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晶葉「で、私のところに来るのか……」
光「う……だ、だってレッスンまで時間あるし……晶葉なら何か答えてくれるかなって……」
晶葉「私はロボットの開発ができるが、他人の相談に乗れるほど器用じゃないぞ?」
そういって晶葉はこちらを振り返る。やや幼い顔立ちに大きめのメガネをかけ、いつもと変わらない白衣を着ている。
彼女は私と同じプロダクションに所属するアイドルであり、同い年の顔なじみだ。とはいっても、高校には通ってない。
去年、アメリカの大学に飛び級で合格し、ついこの間卒業してきたばかりだった。
そのままあっちで仕事をするのかと思っていたが「私はまだアイドルを極めてないからな! それにこっちのほうがひらめくんだ」とかなんだとか言ってアイドルをやっている。
光「……晶葉は変わらないな。部屋にこもってばかりだから背が伸びないんじゃないか?」
晶葉「余計なお世話だ。まったく……」
晶葉「光はヒーローになるのが夢だっただろう? 昔はよく変身グッズなんか作ったものだな」
光「や、やめてよ! そんな昔のこと……」
晶葉「戦隊ものや仮面ライダーだってまだ見てるんだろう?」
光「そうだけど……でも、周りじゃそんなの見てる奴なんてほとんどいないし……」
晶葉「私だってロボットの会話ができる奴なんていないさ。でも、何の問題もない」
光「それは……晶葉が特別なんだよ」
私だって昔はそんなことを夢見ていた。でも、それはかなわぬ夢だって気づいてる。私は普通の女の子だ。
そんなことは痛いほどわかっている。
晶葉「……はぁ、ちょっとついてこい」
ぴょんと椅子から降りると、ラボ(なぜか事務所の一角にある)の扉を開き出ていく。後を追っていくと晶葉は屋上への階段に足をかけた。
屋上は茜色に染まっていた。それほど高くないこの事務所からだと、周りの建物にさえぎられてしまい、夕日が完全に見えることはない。まるで森のようだ。うっそうと茂った灰色の樹海。
光「……昔はよくここで遊んだな」
晶葉「お、いたいた。おーい、飛鳥」
昌葉は屋上のフェンスに寄りかかる一人の少女に声をかける。その姿はとてもきれいな絵のようだ。
飛鳥「珍しいお客様だね。どうしたの? こんな寂れたとこに来たりして」
二宮 飛鳥。この事務所のアイドルで同級生の一人。とはいっても、横に並んでもそうは見えないとは思う。
背が高く、整った顔立ち。かわいい、というよりかっこいいって表現が似合う子だ。年齢なんかももっと上にみられる。
服もどちらかというとユニセックスな服を好んできている。そのために、私服の高校に通ってるって話だ。
晶葉「いや、光から相談に乗っているんだが、私だけではどうにもな。話を聞いてやってくれないか?」
飛鳥「僕にかい? 別に問題はないよ。僕も暇していたところだし」
光「え、でも……」
晶葉「いいから。こういうことはいろんな人に聞いてもらうのが一番だと思うぞ?」
光「う、うん……ありがとう飛鳥」
飛鳥「なに、これも一つの運命さ。で、いったいどういった相談なんだい?」
光「私が本当にやりたいことって何だろうって……このままアイドルを続けてくのに、もっとこう、目標みたいなの必要じゃないかなって」
光「私はさ、シンデレラガールズのみんなみたいにトップアイドルってわけじゃないし、流石にヒーローを夢見れるような年じゃないから……」
飛鳥「なるほど……わからなくはないさ。誰だってそう悩むときは来る」
晶葉「意外だな。飛鳥なら「僕らの世界はまだまだ未知の領域ばかりだろ」とかいうと思っていたがな」
飛鳥「ふふ、確かに、昔の僕ならそういったかもね。でも、もう3年だ。3年もたった」
飛鳥「大人から見ればたった3年かもしれない。でも、僕ら子供からしたら別だ」
飛鳥「プライベートじゃ蘭子も普通に話すようになったし、乃々も仕事に前向きになってる。まあ、いまだぐずってはいるけど」
飛鳥「裕美はよく笑うようになって、僕も昔の様に痛々しいことはあまり言わなくなった。……テレビでは少しは言ってるけどね。需要ってやつさ」
飛鳥「変わらないなんてことはない。それは光、キミもだろ?」
光「うん……そうなのかもしれないな」
飛鳥「だから、悩むことは全然おかしなことじゃないのさ。目標だって、探している途中なんだから」
晶葉「ただな、光。そういうことを相談してくれるのは嬉しいが、私たちより先に話す人がいるだろ?」
飛鳥「確かにそうだ。まあ、君は昔からこういう事には鈍感だったからな」
光「え?」
それって誰?と聞こうとした瞬間。けたたましい音を響かせながら見知った顔が扉を開いた。
キッとした悪戯好きな釣り目に、変わらないおでこ。最近は私が若干大きくなったからか、からかわれることも少なくなった。
ヒーローヴァーサス。それが私とこの小関麗奈が組むユニット名だ。
麗奈「ちょっと光! あんたこんなとこにいたのね!! もうすぐレッスンの時間よ、早くしなさい!」
光「え、あ、ごめん!」
腕時計に目を向けるとすでに6時5分前だ。気が付くと空はすっかり暗くなっていた。
麗奈「あんたたちも。暗くなるから戻るわよ。Pが探してたし」
晶葉「そうだな。ラボもそのままだし帰るとするか」
飛鳥「ああ、そうだね。それじゃあ光、レッスン頑張ってね」
光「う、うん。ありがとう」
私はそういうと、腕を引っ張る麗奈に連れられてレッスンルームへと向かった。
トレーナー「じゃあ、今日のレッスンはここまで。次回までに復習しておくこと」
光・麗奈「お疲れ様でした!!」
トレーナー「はい、お疲れさま」
そういうとトレーナーさんはレッスンルームを出て行った。私たちはその場でへたり込む。
麗奈「ひー、きっつ……今日はまた一段と厳しかったわね」
光「…………」
麗奈「……あー、アンタあのステップのとこ、どうしたのよ。珍しく間違えてたじゃない」
光「……ごめん」
麗奈「ヒーローヴァーサスの仕事だってたくさんもらってるんだし、頑張らないと……」
光「…………そう、だね」
麗奈「………」
はぁ、と大きなため息をつくと麗奈は立ち上がる。
麗奈「ほら、こーゆーときこそあんたの出番でしょ。入ってきていいわよP」
きぃっという音とともに、扉を開けて私たちのプロデューサー、Pが入ってきた。
麗奈「まったく、この麗奈さまが呼んだのにやってくるのが遅いのよ」
P「悪かったって、仕事があったんだよ。で、どうした? 光。元気ないな?」
光「そんなこと、ないよ」
私も立ち上がる。そのまま部屋を出ようとするがPに腕をつかまれる。
P「なぁ、光。帰る前に、ちょっと付き合ってくれないか?」
光「つきあうって……どこに」
ちらりと目で麗奈に助けを求める。けれど、麗奈は行ってきなさいと言う。
麗奈「そんな顔でこの麗奈様の隣に立たれたらたまったもんじゃないわ」
しっしっと手を振られる。私はそのままPに引っ張られレッスンルームを後にした。
プロデューサーに連れてこられたのは大きなスクリーンや機材のある視聴覚ルームだ。
ライブの映像やMVの完成品をみんなで見たりして使うことが多い。
昔はここでよく映画をみてちひろさんに怒られてたっけ。
光「で、ここで何見せてくれんの? P」
P「ま、それは見てのお楽しみかな。よし、できた」
Pは何やら機材にセットすると私の隣に座ってくる。少し離れる。
P「え、俺何かした……?」
光「いや、レッスン後だし汗臭いかなって思って……」
P「そんな! 光の汗の匂いが嫌なわけないじゃないか!!」
すごい剣幕で言われてしまった。こういうとこ変わらないなぁ……
P「さて、それじゃあ。見ますか」
ピッと手元のリモコンを操作する。すると目の前のスクリーンに映像が映し出された。
光『なあなあ、P。これってもう動いてんの?? OK?』
映像の中には、今よりももっと幼く、目をキラキラさせた、長い髪の、3年前の私がいた。
光『えーっと……未来のアタシへ』
光『アイドルは続けてますか? 戦隊ものに出演できましたか? 主題歌は歌えましたか?』
光『誰かのヒーローになれてますか?』
光『誰かがつらいとき、悲しいとき、そばにいて励ませるような。そんなヒーローになれてますか?』
光『アタシはいま、頑張ってます。そんなヒーローになりたいから!』
光『ダンスも歌のレッスンも! 勉強は……もうちょっとだけど』
光『あ、P! 笑うなよ、もう……』
そういえば、こんなものをとった覚えがある。うちの事務所に入って半年くらいたったある日だ。
誰だかわからないが、学校で「未来の自分へ」という題で手紙を書いたらしい。その話を聞いて、みんなでやりたいって言いだしたんだ。
光『あー……でも、最近分かったんだ。ヒーローも泣きたい時があるんだって』
光『つらくて苦しい時が、悩んで悲しい時があるんだって』
光『アタシずっと勘違いしてた。ヒーローはずっとかっこいいもんだって』
光『でも、そうじゃないんだよね。ファンには見えないとこで泣いてたんだよね』
光『だからさ、未来のアタシも泣きたいときとかあると思うんだ』
光『つらくて苦しくて、ずっと一人で抱え込むことがあるかもしれない』
光『そういう時は、思いっきり泣こう』
光『泣いて泣いて。そして笑顔になろう』
光『そうすればきっと、明日も誰かの希望になれるから』
光『それじゃあ、応援してるから。14歳のあたしより』
光『こんな感じで――って、うわ、P!? なんだよ。なに泣いてんのさ?』
光『あー、もう。カメラおいて。ほら……』
ビデオは止まった。いや、止めたんだ。Pが。だってもう、アタシにはもうちゃんと見えてなかったから。
光「う、うわあぁぁん……ぐ、ぐすっ……あああん……」
アタシは泣き出した。まるで大雨みたいに、うわん、うわああん、と。
その間、Pは何も言わなかった。何も言わず、ただ優しく抱きしめてくれた。その胸を借りてアタシは泣き続けた。
泣いて、泣いて、泣きつかれるまで。ずっと。
光「麗奈が?」
P「そう。レッスン中に光の様子がおかしいってメールが来てさ。どうやら屋上の話を聞いてたみたいだよ。おっと、これ言っちゃまずい奴だったっけ」
帰り道、Pの運転する車の助手席でことの顛末を聞いた。
あたしが泣き止んだのはもう11時を過ぎていた頃だった。さすがに一人で帰らせるのはまずいと、Pが寮まで送ってくれるという。
光「本当か……今度会ったときお礼言わないとな」
P「ははは、それは麗奈様的には恥ずかしがるだろうな」
光「麗奈だけじゃない。晶葉にも、飛鳥にも。それにPだって。本当に、ありがとうな」
P「何言ってんだ。担当アイドルの笑顔のためならこれくらいどうってことないさ」
光「ふふふ、Pらしいな。アタシも、悩まなくてよかったんだ。こんな身近に、目指す目標があったんだから……」
P「ついたぞ。ん? なんか言ったか?」
光「いや、何にも。それじゃあな、P! また明日!!」
P「ああ、おやすみ」
アタシは車から降りると、Pに大きく手を振る。振り替えした手と去っていく車のランプを最後まで見送ると、アタシは寮の玄関を開けた。
光「――ただいま!」
拝啓 未来のアタシへ
思いっきり笑っていますか。思いっきり泣いていますか。
たぶんこれから先いろんなことがあると思う。
今までなんかとは比べ物にならないようなことが。たくさん。たくさん。
そんな時、アタシの涙を見せられる仲間は近くにいますか。
全部吐き出せるパートナーはいますか。
いるんだったら、それはとっても素敵なことだなって。
もし、できれば、そのパートナーは……あ、やっぱなし。なんでもない。へへ。
いっぱい笑って、いっぱい泣いて、誰かの希望になれるような。
あの時、アタシを救ってくれたあの人みたいに。
そんなアイドルになれていたら幸いです。
それでは。17歳の南条光より
fin.
以上になります。デレステで踊る南条が可愛すぎて勢いで書きました。後悔はしていない。
これを機に、南条光について興味を持ってくれる人が増えたら幸いです。
では。依頼を出してきます。
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