モバP「ここが風都か……いい風だな……」(179)
南条光(14)
光「うん、気持ちいいなぁ! 門出を祝ってるみたいじゃないか!」
P「しかし、まぁ……本当に大丈夫か?」
光「うん? 心配いらないっていっただろ? アタシは平気さ!」
P「レギュラーもらえたのはいいけど、一時的に転校までして……」
光「さすらうのもなんだかヒーローっぽいじゃないか。親戚のおじさんおばさんもいるしね」
P「まぁ、そうだが……」
光「それに、前からここは気になってたんだ!」
P「それって……この間いってた仮面ライナーってやつのことか?」
光「ライナーじゃなくてライダー! 仮面ライダー! この街には二色の半分こ怪人……正義の味方がいるんだぞ!」
P「正義の味方か……会えるといいな」
光「うん! サインもらいたいなぁ」
P「さて、とりあえずおじさんおばさんに挨拶しなくちゃ」
光「プロデューサーは暮らすとこは決まってるの?」
P「あぁ、ちひろさんがこっちにとってくれたみたいだから……先輩たちみたいになれるようがんばらなきゃな!」
光「そっか、よかった。うん……凛さんたちみたいになったらきっとヒーローの仕事も来るよね!」
※※※※
俺の名は左翔太郎。この街を守る仮面ライダー。
ハードボイルドな俺はいつものようにコーヒーを淹れると新聞を開く。
翔太郎「……風都タワーか」
どうやら、前の事件で壊された風都タワーの再建は順調らしい。
照井が退院してくるまでには完成するだろう……街のシンボルでもあるしこれはいいニュースだ。
最近はいいニュースもなかったしな、とため息をつく。
……園崎若菜の失踪などもあったし、結局消息はつかめないまま。
まったく、これじゃあ相棒に顔向けできないな。
そう思いつつもう一口コーヒーをすすった。
相棒。俺の半分、相乗りしていた悪魔。
あいつが消えてから、仮面ライダーの出番はない。
実際、ここひと月ほどは平和な依頼がほとんどだ。
猫を探してくれ、人を探してくれ、浮気調査……ハードボイルドとは程遠い。
亜樹子「翔太郎くん、また黄昏てるの?」
翔太郎「ん? あぁ……なに、こういう時間もまた男には必要なんだよ」
亜樹子が心配そうに見つめてくるので問題ないと手を振ってやる。
……相棒、安心しろ。俺は――
亜樹子「もうお昼なんだから調査にいってこーいっ!」
翔太郎「いってぇっ!?」
翔太郎「おい亜樹子ォ! なにしやがんだ!」
亜樹子「翔太郎くん、君は依頼をなんだと思ってるのかな?」
翔太郎「……別にサボってるわけじゃねぇ。ただまぁ、少し思うところがあってだな」
亜樹子「そうやって昨日も一昨日も事務所にいただけでしょ! 事務所の中に迷い猫は来ないの!」
翔太郎「う……」
亜樹子「ほらっ、外にでてガンガン調査してこいっ! ファイトーっ!」
翔太郎「あーもうわかったっての! いってくる!」
亜樹子「あっ、帽子!」
翔太郎「……ああ。じゃあな」
亜樹子「よしっ、いってらっしゃい!」
ガチャッ バタン
亜樹子「……やっぱり暗いなぁ。ひきこもってばっかじゃダメだけど……うーん……」
――――
P「うん……いい人なんだな、おじさん」
光「あぁ! 昔はよくヒーローごっこに付き合ってもらったんだ!」
P「ヒーローね……それじゃあ、それに向けてさっそく収録だ! 大丈夫か?」
光「もちろん! いくぜっ!」
P「よし、いい気合いだ!」
光「確かラジオだったよな! どんなこと話そうかな」
P「最初だしきちんと自己紹介ができればそれが一番だなぁ……」
光「じゃあ好きなヒーローについてとか」
P「光のことを知ってもらうのが先だろう、おいおい……」
光「うーん、そこはまぁ……仕方ないな」
P「じゃあ、自己紹介から……」
光「南条光、14歳! ヒーローみならいだぜ!」ビシッ
P「……あんまり大きく動くとたぶんディレクターさんに苦い顔されるだろうなぁ」
光「な、なんだって!?」
P「衣擦れの音って意外と大きいしなぁ……そこは気を付けて、あとは……」
光「うーん、ヒーローも楽じゃないな……」
P「ははは、特訓しなきゃだな?」
光「ああ!」
―――――
―――
光「こちら、FM WIND WAVEから。新番組の司会の南条光です!」
光「えっと……この番組は街の中での小さないいこと、かっこいいこと。ヒーローを探して応援します!」
光「……あっ、番組タイトルは『リトルヒーロー!』みんな、身近にいる、あるヒーローについてドシドシメールしてくれよな!」
光「アタシもヒーローが好きだし、全力で応援するぜっ!」
光「それじゃあ最初のおたよりから。近所の公園で、何も言わずにゴミ拾いをしているおじいさんがいました……」
光「……身近だけど、大切なことだよな。目立たないかもしれない、でも街を大切にできるってすごいことだと思う!」
光「世界のために自分を変えるんじゃなく、自分が変われば世界が変わる……ってことだね」
光「みんなもポイ捨てはやめような! アタシもゴミはちゃんと分別して捨てるから!」
光「そうそう、ゴミ捨てといえば少し話がそれるんだけど――」
――
――――
光「以上、WIND WAVEより。南条光がお送りしました!」
光「エンディングを流しながらお別れだ……また聞いてくれよな!」
P「よし、お疲れ様。光!」
光「あぁ、どうだったかな?」
D「うんうん、いい感じだったね……光ちゃん、小さいのにえらいねぇ」
光「ち、ちいさ……小さくないぞ! アタシ、中学二年生だし!」
D「あぁ、ごめんごめん……プロデューサーさんも、お疲れ様でした。今回は投稿が少な目でしたけど反響が大きくなれば読むのも一苦労になっちゃいますよ」
P「えぇ、ありがとうございます……望むところです。なぁ光?」
光「あぁ! なんだかアタシにピッタリだしがんばるぜ!」
D「えぇ、応援してますよ……ではまた」
P「はい、ありがとうございました!」
光「レギュラーかぁ、初めてだな!」
P「あぁ。事務所に打診が来たらしくてさ……企画を聞いたときに絶対に他のプロデューサーに渡さないって決めたんだ」
光「プロデューサー……」
P「ネームバリューはないかもしれない。でも光が一番むいてる! そう思ったらから先輩も押しのけちゃったよ」
光「ありがとう。アタシがんばるから!」
P「うん……まぁ、引っ越しすることになるとは思ってなかったんだけどさ……」
光「割と長期の予定だし、アタシも学校にいかなきゃだからね……プロデューサーはドジだなぁ」
P「……すまん」
光「いや、気にしなくていいさ! ありがとう、プロデューサー!」
P「おう、ありがとう。光……」
※※※※
翔太郎「さて……どうすっかなぁ」
翔太郎「………」
翔太郎「……そういや、あんまり外に出てなかったっけなぁ」
翔太郎「とりあえず情報収集か……」
グゥゥゥ…
翔太郎「………やれやれ。腹が減っては戦はできぬってか?」
翔太郎「ハードボイルドな男でも腹は減るし、鳴るもんだ」
翔太郎「とりあえず風麺でもいくか」
翔太郎「マスター、いつもの」
マスター「あいよっ」
行きつけの店があるというのはいいことだ。
自分にとって帰る場所、行くべき場所……そんな、故郷のような場所を求めてしまう。
男は旅に出るものだが、安心する場所も欲しい。そんな矛盾を抱いているのもまた、男という生き物のサガなんだろう。
いつもの巨大なナルトがのったラーメンが目の前に運ばれる。
いいにおいだ。自分自身の空腹を改めて強く感じた。
翔太郎「いただきます」
礼儀は忘れない。それもまた、ハードボイルドというものだ。
……たぶん。
――――
光「プロデューサー、お腹減った……」
P「あー、確かに……何か食べてくか?」
光「いいのかな?」
P「少し中途半端な時間だしな……成長期だし、おなかを減らしたままじゃあ体にも悪いだろう」
光「そ、そっか。じゃあどこが……あれ?」
P「ん? ……屋台……?」
光「ラーメンだって! あれ食べたい!」
P「よし、いいぞ……っと、先客だ」
光「……あの恰好は……」
P「どうした、光?」
ラーメンのスープをすすると、昔ながらのダシの聞いた味の中にスゥとさわやかな香りが広がる。
風麺。この街に来てこれを食わないなんて損をしてると言える味だ。
ゆっくり食べていては伸びてしまうからそれなりにかっこむ形にはなってはいるが、不思議と穏やかな気分にさせてくれるのもこの麺の魅力だろう。
翔太郎「……ん?」
ふと視線を感じて振り返るとそこには子供が立っていた。
年齢はだいたい小学校高学年ぐらいだろうか……腹でも減っているのかと思っていると、その子供が口を開く。
光「な、なぁ! お兄さんってひょっとして探偵なのかっ!?」
翔太郎「……」
ちゅるん。すすりかけだった麺を口の中へ吸い込む。
なるほど、どうやらこの子供は俺のあまりのハードボイルドな雰囲気に声をかけずにはいられなかったってことらしい。
やれやれ、ハードボイルドも罪なもんだ……もう少し、大人になってから声をかけるんだな、お嬢ちゃん。
翔太郎「……あー」
P「こらっ、光! お前なに言ってるんだ!?」
答えようとしたところ、今度は保護者らしき男がその子供の頭を軽くはたいた。
……タイミングを逃したが、ハードボイルドはゆるがない。
光「ち、ちがうんだ! だってほら、こんなにビシっとしてたらきっと探偵なんだ! 犯罪捜査とかして、悪の組織を壊滅させたりする!」
P「あ、憧れるのはいいけど急に声をかけたりするのはだな……すみません、変なことを言って……」
翔太郎「いや、かまわねぇ」
努めて冷静にふるまう。
あながち間違ってもいないし、な。
どうやらこの少女と男は観光客か何かのようだ。
それで風麺に目を付けるとはなかなかいいセンスをしている。
翔太郎「俺は左翔太郎……探偵だ。よくわかったな、お嬢ちゃん」
光「ほらっ、やっぱり! あぁ、だってかっこいいし! 帽子とかシブいよなー」
P「は、はは……すみません、お騒がせしちゃって……」
翔太郎「いや……あんたたちも食うんだろ? いいぜ」
P「あ、どうも」
光「探偵のお兄さんのオススメは?」
翔太郎「ん? ……まぁ、風麺といえば風都ラーメンだな。こいつを食わずに風都は語れねぇ」
光「じゃあそれください!」
マスター「あいよー」
P「光、お前なぁ……」
光「ごめんなさい! でも、ほら……探偵だったらさ、この街にはやっぱり詳しいの?」
翔太郎「それは当然だな。この街は俺の庭……違うな。この街は俺にとっての大切な場所だ」
光「わぁ……かっこいいなぁ……」
P「あの……探偵って……」
翔太郎「困ったことがあれば頼りな。ほら、名刺だ」
P「あ、どうも……それじゃあこちらも、なんですが」
翔太郎「あぁ……ん? プロデューサー?」
P「はい。俺、この子のプロデューサーなんです」
光「アイドル、南条光だぜ!」ビシッ
翔太郎「はぁー……アイドル、ねぇ」
光「今度、こっちでレギュラーの放送がもらえたんだ!」
翔太郎「そうか……頑張りな、お嬢ちゃん。応援しとくぜ」
光「ああ! ……あっ、そうだ!」
翔太郎「なんだ? 依頼だったら事務所のほうでじっくり聞くけどよ」
光「違うんだ、聞きたいんだけど……」
翔太郎「……この街についてか?」
光「観光名所とか、美味しいものとか! これからいるわけだしな!」
翔太郎「フッ……仕方ねぇ。いいぜ? きっちり覚えるんだぞ」
光「うん!」
P「あぁ、もう……いいんですか?」
翔太郎「あぁ。この街を愛してくれる人が増えるのは俺にとっても嬉しいことだしな」
――――
――
翔太郎「――ま、こんな感じか」
光「すごいなぁ! 流石探偵だ!」
翔太郎「褒めても何もでねぇよ……」
P「いろいろありがとうございます。困ったことがあったら頼らせてもらいますね」
翔太郎「あぁ、いいぜ。この街で……泣いてる人は見たくねぇからな」
光「か、かっこいい……そうだ、最後にひとつだけいいかな?」
翔太郎「ん? あぁ、なんだ?」
光「お兄さんは、仮面ライダーって知ってる?」
翔太郎「―――っ」
光「お兄さん……?」
翔太郎「あ、あぁ……そうだな。いろいろあったが、この街を守った……英雄、みたいなもんだ」
光「や、やっぱりいるんだ!」
翔太郎「……この街のほとんどの人が知ってると思うぜ」
光「そっか! じゃあさ、そのライダーについてもいろいろ――」
翔太郎「おっと! ……いっけねぇ、そろそろ依頼のタイムリミットが近づいてやがる」
光「えっ?」
翔太郎「悪いなお嬢ちゃん。今回のおしゃべりはここまでだ……あばよ」
光「あ、うん……またね!」
翔太郎「おう」
P「ありがとうございました、あの……」
翔太郎「いや、かまわねぇ。久々に息抜きになったし……機会があったらラジオも聴かせてもらう」
P「……はい。よろしくおねがいします」
翔太郎「あぁ、依頼があるならいつでも来てくれ。じゃあな」
P「……」
光「ほら! 仮面ライダーは本当にいるんだよ、プロデューサー!」
P「ん? あぁ……すごいな」
光「もう、しっかりしてくれ! なんだかぼーっとしてないか?」
P「すまんすまん、あのラーメンがうまかったなぁって思ってさ」
光「食いしん坊だなぁ、まったく! でも確かにすごかったけど……でっかいナルトがのってたし、変わってたね!」
P「そうそう。グルメロケみたいな仕事も来るかもしれないし語彙を増やすのも考えないといけないかもしれないしな?」
光「ご、ごい……?」
P「こう、味についていろいろ語ったりできると強かったりするんだよ。光向けではないかもしれないかな」
光「うーん、でもかな子さんは『おいしい!』って言ってるだけですっごくおいしそうなんだよなぁ」
P「あれもある種の才能だな……さ、おじさんが心配するし帰ろう」
光「よっし、じゃあ晩御飯だな!」
P「ま、まだ食べられるのか?」
光「成長期だぜ、プロデューサー!」ビシッ
P(なんだか……仮面ライダーについての話になったら急に態度が変わった気がしたが……)
P(気のせいだよなぁ。きっと話を合わせるのに疲れたんだろう、うん)
――――
――
光「南条光の、リトルヒーロー! 2回目だぜ!」
光「前回の放送、結構反響があったみたいで嬉しいな!」
光「えっと、前回の放送のあとに街を歩いてたんだ。そしたら探偵の人に会えた!」
光「かっこいいよなぁ、ヒーローっぽいし、すごいと思う! それで、この街についてもいろいろ教えてもらったぜ!」
光「この1週間でいろいろあったんだけど、その経験もその人に名所を教えてもらえたおかげだと思う!」
光「だからあのお兄さんにアタシからの応援と、お礼! ありがとうっ!」
光「……へへへ、それじゃあおたよりを読ませてもらうぜ!」
――
――――
光「というわけで、今回の放送はここまで!」
光「身近ないいこと、悪いこと。それを考えるって大事だよな!」
光「アタシもできる範囲でいいこと、していきたいな! それじゃあまた来週!」
P「お疲れ様、光!」
光「うん、ありがとう!」
P「次はテレビのほうで、撮影だ。大丈夫か?」
光「平気へいき、へっちゃらだぜ!」
P「ゲストだけど、地元密着型の番組だし結構いい地盤になりそうかな」
光「地元かぁ……この街、本当にいいところだよなぁ」
P「風が強いから、花粉症だと気を付けないといけないけどな」
光「大丈夫?」
P「うん、季節は外れてるし平気だ」
光「そっか……気を付けてよね。いろいろ大変だろうしさ」
P「あぁ。ありがとう……さ、いこう」
光「おうっ!」
※※※※
ラジオから流れる音声は、ついこの前知り合った少女のものだった。
どうやら……アイドルっていうのは本当だったらしい。
コーヒーをすすりつつそんなことを考える。
どうも人生の苦味や渋みがそのまま出てしまっているような、雑味……いや、深味だ。深みのある味わいだ。
……照井が淹れたコーヒーのほうがうまかったのは否めない。
だがいい。このほうが、雑味すらも味として受け止めてしまえるほうが男らしさを感じる。
翔太郎「ふぅ……依頼も片付いたしな……」
溜まっていた依頼はある程度片付き、今はしばしの休息を楽しんでいるというわけだ。
まったく、亜樹子もひと使いが荒い……もし誰かと結婚なんかした日には相手を尻にひいてのしいかみたいにしちまいそうだ。
翔太郎「………」
ふと、本棚に収めてあった本を手に取る。
一見他の本と同じように見えて、持ってみるとずっしりと明らかに紙ではない重みのあるそれを開くと中からは相棒からの最後の贈り物が出てきた。
ロストドライバー。ダブルドライバーから左側の欠けた、1人用のベルト。
ミュージアムを倒し、財団Xがガイアメモリから手を引いたらしい今、ドーパント犯罪はほとんど起きていない。
喜ばしいことだ。この街で泣く人が少なくて済む……ある意味、探偵の仕事がないっていうのは平和のあかしだ。
だが……それでも、このベルトで変身するときに相棒に呼びかけてしまう自分がいるのも事実だ。
……どうもハードボイルド、とはいかない。
こんなんだから、笑われちまうんだろうな……
誰に聞こえるわけでもないが、深いため息をついてしまう。
翔太郎「やれやれ、こういう時はちょっと風を浴びるとする……か、なっと」
大きく伸びをすると鍵を持ち、ハードボイルダーに向かう。
こんな時は街に慰めてもらう。センチな気分も、風を浴びながら街を回るだけでよくなっていくからだ。
……なぁ、フィリップ。
風の中に、アイツがいるような気すらしてくる……やれやれ、どうやら本当に参ってるらしいな。
エンジンをかけると、アクセルをふかす。
どうせだ、照井の見舞いでも行ってやるのも悪くない。
車いすでもでかけられたのが不思議なぐらいの大やけどを負っていたし、事実今は入院中だ。
翔太郎「さて……いくか」
ちょっとご飯
ありがとう再開
翔太郎「よぉ、てる……い」
照井「………」
亜樹子「あっ、翔太郎くん」
翔太郎「……なにやってんだ亜樹子」
亜樹子「お世話だけど?」
翔太郎「そ、そうか……」
照井「……所長」
亜樹子「なーに竜くん? あーんする?」
照井「いや、いい……大丈夫か?」
翔太郎「見舞いに来てるのは俺だぜ? お前こそ大丈夫かよ」
照井「俺は心配いらない。入院しないと所長がうるさいんでな」
翔太郎「……」
照井「どうした?」
翔太郎「いや、なんか……邪魔したな」
照井「邪魔? そんなことはない」
翔太郎「お前がいいならいいけどよ……なぁ?」
亜樹子「?」
翔太郎「……いや、俺の考えすぎか? そうだな、おう……」
真倉「課長、大丈夫ですか~ってうわ!」
翔太郎「あ? あぁ、マッキー」
真倉「おうしょうちゃーんってアホか! なんでお前がここにいるんだ!」
翔太郎「いや、見舞いにな……帰るとこだから心配しなくて結構、だ」
刃野「課長、お話が……おっ?」
翔太郎「刃さんも……」
刃野「ちょうどよかった、話があるんだが……」
翔太郎「……照井にも関係がある話ですか」
刃野「まぁ~、そんなとこだな。当然お前にもだ」
照井「……ドーパントか?」
刃野「いやぁ、それなんですがねぇ……白いからだに緑の目の怪人が……」
翔太郎「……」
刃野「ゴミ拾いをしてた、っていうんですよねぇ……」
照井「……」
翔太郎「……」
亜樹子「なにそれ……」
刃野「だからまぁ、怪しいかなーって思うんですが……正直ちょっと奇抜な恰好した変人だと思います。はい、お見舞い」
照井「そうか……まぁ、それならいい……か」
翔太郎「……怪人、ね。ありがとな、刃さん」
刃野「いいってことよ。んじゃ、気を付けて帰れよ?」
翔太郎「あぁ。亜樹子もあんまりフラフラしてんじゃねぇぞ?」
亜樹子「わかってるってば! でもほら、竜くんだって寂しいかな~って思って……」
照井「所長、心配するな。俺は特に問題ない」
亜樹子「……竜くんのばかぁ! 乙女心わかってない!」
照井「な、なに……!?」
翔太郎「あー、はいはい……はぁ」
――――
光「よしっ、お仕事完了だぜ!」
P「お疲れ様……結構遅くなったなぁ」
光「うーん、まぁ大丈夫だ。アタシがついてるからな」
P「……そこは俺に言わせてくれよ」
光「あはは、でも大丈夫さ!」
P「まぁ、車だしなぁ……」
光「さ、帰ろうぜプロデューサー!」
P「おう。いこうか」
P「小さな仕事だけど、結構いろいろと見つけられたし……忙しくなるなぁ」
光「いいじゃないか、アタシがヒーローになるためにもいろんな人に知ってもらわなきゃ! テレビだって楽しかったしね!」
P「元気いっぱいで、別の企画ででもぜひって言われたぞ」
光「えへへ……よしっ、まだまだヒーローとしてやっていくためには精進しなきゃだ! 鍛えるぞっ!」
P「あぁ。レッスンもあるし……オフが減っていっちゃいそうだけど……」
光「それは大丈夫! 仕事だって楽しいしさ!」
P「すまないな。それじゃあ……ついたぞ」
光「え? あ……それじゃあまた明日。プロデューサー!」
P「あぁ、お疲れ様。ちゃんと寝ろよー」
光「ああ! おやすみ!」
―― 翌日 放課後
P「おはよう、光」
光「あっ、プロデューサー……迎えに来てくれたのか」
P「ちょっと話があってな……いいか?」
光「うん? 大丈夫だけど……うーん、そっか」
P「あぁ、大事な用事があるならそっちを優先してくれていいんだ」
光「いや。友達との予定ってわけでもないからいいや! いこうか」
P「そうか? わかった。それじゃあ乗ってくれ」
光「うん!」
P「それでだな? テレビ風都のほうの番組でまた出番がもらえたんだ!」
光「そっか、それなら……あっ」
P「どうした?」
光「車を止めてくれ!」
P「お、おうっ……!?」
キキーッ…
P「いったいなにを……」
光「こらーっ! やめろっ!」
P「!?」
チンピラ「あー?」
P「ちょっ……光……」
光「弱いものいじめはよくない! カツアゲなんてみっともないことはやめるんだ!」
チンピラ「んだてめぇ……おー?」
P「……ま、まぁまぁ! 落ち着きましょう! ね!」
チンピラ「なんだこらぁ!」
光「悪いことに悪いって言って何が悪いんだ! そっちの人を殴ってただろ!」
チンピラ「こいつは友達だよぉー、なぁ?」
男「……」
P(どうしたもんか……首を突っ込むべきじゃなかったと思うけど、光が……)
P「いや……ね。ほら、おさえて……やめましょう、人が来ますよ?」
チンピラ「あ? チッ……」
光「なんでそんなことするんだ! お天道様は見てるんだぞ!」
チンピラ「うっせーなぁ……クソガキ!」
P「ま、まぁまぁ! やめましょう。光も、いいから!」
光「でもっ……」
チンピラ「っぜー。ったく、ガキはしつけとけよな……」
P「は、はい。すみませんでした……」
光「……」
P「……あなたも、大丈夫ですか?」
男「……ありがとうございました。大丈夫ですから」
光「あの、ケガ……」
男「病院ぐらい自分でいけますから……それじゃあ……」
光「……」
P「光、ああいうのは通報してだな……」
光「……」
P「危ないし、首を突っ込むのはやめたほうが……光?」
光「ううん、大丈夫……少し考え事してただけなんだ。ごめんなさい」
P「そうか……あのな、確かに正しかったけど……危ないことはしてほしくない。ああいうのは見て見ぬふりをしろとは言わないが、もう少し考えてくれ」
光「………わかった」
P「ごめんな……いこうか」
光「うん、いこう」
――
――――
P「どうも、ディレクターさん……どうしたんですか?」
D「いやね、結構な反響が来てるんですけど……この系統のおたよりが結構増えてるんですよ」
P「この系統……って、なんですかこれ? 変な人に助けられた……って」
D「ある意味、変質者の応援になってしまうわけですから番組で取り上げるのはどうかなって意見もあるんですよ」
P「うーん……でもほら、逆に考えたらヒーローっぽくていいんじゃないでしょうか?」
D「ヒーロー? ヒーローねぇ……」
P「そういうのも、ある意味ウケると思います。真似をする人が出てくれば……いつかの伊達直人のランドセルみたいな感じで」
D「あぁ、面白いねぇ! じゃあ次から光ちゃんが読むおたよりに、入れてもいいかな?」
P「はい。光も面白がると思いますし!」
――――
――
光「南条光の、リトルヒーロー! 放送回数もだいぶ増えてきて、週2回収録ってことになって……応援、ありがとう!」
光「悪いことをしているのを注意する……って大変だよな。いいことをするのも大切だけど、悪いことをしないのも大切かもしれない」
光「今回はちょっと変わったおたよりがいっぱい来てるみたいだぞ!」
光「えーっと……HN.あわてんぼうさんから。全身白い、怪物みたいな人がいっしょに落し物を探してくれました」
光「驚きましたが、とても親切で名前を聞いても無言で立ち去ってしまいました……」
光「人は見かけによらないっていうよな。あわてんぼうさんもよかった!」
光「怪物みたいな人って……怪人かな。名前も言わずにどこかへいっちゃったのかー。不思議な話だね」
光「……でも、そんなおたよりがいっぱい来てるんだ。不思議な白い怪人のお話」
光「実は結構前から来てはいたみたいだけど、今回から解禁なんだって! 噂話にもなってたりするかな?」
光「こっちのおたよりは、白い怪人がゴミ拾いをしてたってお話……」
光「こっちは、ゴミをポイ捨てしている人に注意してたって話……」
光「……へへへ、いやぁ……いっぱい、来てるね」
光「きちんと悪いことは悪い、いいことはいいって言えるようになったらいいな!」
光「アタシも、そういう風にしていたいなって思うから……さて、普通のおたよりを読もう!」
光「もちろん、白い怪人についてのお話も少しずつするけどね!」
光「えっと、おたよりは――」
――
――――
P「お疲れ様」
光「あぁ、ありがとうプロデューサー!」
P「この街にも……結構慣れてきた、かなぁ」
光「うん! 収録回数も増えてきたしね……あ、それからさ」
P「うん? ……あぁ、『白い怪人』のことか?」
光「それそれ……結構おたより、来てるの?」
P「あぁ、そうみたいだな」
光「そっかぁ……ヒーローっぽいよな、白い怪人!」
P「まぁ、確かにそうだな……」
光「みんなもさ、いいことしてる人を応援して……悪いことしちゃだめだって思えるようになったらいいよね」
P「うーん、確かにそうだけど……簡単には言えないなぁ」
光「そう?」
P「うん。まぁ……ね」
光「そっか……なら、ヒーローにはもっと頑張ってもらわなきゃいけないかな……」
P「え?」
光「ううん。ほら、だったら……悪いやつは痛い目にあうぞーって思ったら、悪い人も減るかなって思っただけ!」
P「それは……ちょいと物騒だな……」
光「あはは、ジョークジョーク! さぁ、次のお仕事にいこうぜ。プロデューサー!」
P「ちょ、ちょっと待て! そんなに走らなくても時間はあるって!」
P「…………」
光「それで、その時にかな子さんが――」
司会「それは……すごいね……」
P(仕事ぶりは普通、だが……なんだか最近様子がおかしい気がするんだよなぁ……)
P(気にしすぎかな……仕事自体はそんなに多くない……)
P(と、思ってるけど。オフに何かやってるみたいだしなぁ……光に限って悪い付き合いがあるとは思えないし)
P(ボランティアか何かなのか、って聞いたらごまかされたし……)
P(うーん……今度、少し……気にしてみるか……?)
P「とは言っても……なぁ……」
光「どうしたんだ、プロデューサー?」
P「お、おう? 収録終わったのか」
光「うん、もういいんだってさ! へへっ、最近調子がいいんだ!」
P「そっか……しまったなぁ、見逃した……」
光「しっかりしてくれなきゃ困るぜ、プロデューサー?」
P「うん、気を付ける……あのさ、光」
光「うん?」
P「今度のオフって空いてるか? よかったらさ、飯でも食いにいこうかって思ってるんだが」
光「……ご飯か」
P「あぁ、こっちに来てから仕事も順調だろ? おいしい店もあるから息抜きみたいにさ」
光「ごほうびってやつかな? なるほど……」
P「最近は調子がいいんだろ? ならモチベーションを保つ意味でもいいじゃないか」
光「うーん……いいなぁ、美味しいご飯……」
P「おぉ、奢ってやるぞ? たまにはわがままだってありだ!」
光「でも、ごめん」
P「……」
光「ちょっとした用事があるんだ。本当にごめんなさい!」
P「そう、か……用事があるなら仕方ないかな。ほかの日はどうだ?」
光「ううん、それもだめなんだ。ごめん」
P「……なにか、大変な用事があるなら手伝うぞ?」
光「それも平気だよ……大丈夫」
P(……やっぱり、おかしい気がする)
P(悩みがあるなら相談してほしい。だけど……)
P(俺にも話せないことだとしたら……どうするのがいいんだ……?)
P(プライベートにあまり干渉するのもよくないけどここまで二人三脚でやってきたのにな……)
P「たんなる気にしすぎ、で終わればいいんだが……」
P「……あっ」
P(そういえば、初めてこの街に来た時にもらった名刺がどこかにあったはずだ……)
P(えっと、これじゃなくて、これでもなくて……)
※※※※
ラジオから小さなヒーローのお話が流れてくる。
彼女がこの街に初めて来たときに会った縁もあるし、それ以降のラジオは毎回聞くことにしていた。
……どうやら今回は白い怪人についての話らしい。
ウォッチャマンやサンタちゃんに聞くと、やはり目撃情報は多いのだがどれもこれも小さな善行といったレベルで目立った事件を起こす気配がない。
そもそも、ガイアメモリはほとんどが破棄されたはずだ……気にしすぎだろうか。
それでもざわざわと嫌な予感がする。
事件の詳細について、これがガイアメモリと関係しているのかどうか……
それを調べようにも、名乗らず消える白い怪人について決定的なものは手に入らなかった。
キーワードはある程度しぼれてはいるんだ。あとは、それを――
ガチャッ
P「あの、こちらが鳴海探偵事務所……ですよね?」
翔太郎「ん……? あんたは確か……」
P「あぁ、この前の探偵さん!」
翔太郎「プロデューサーさんだっけか。どうしたんだ?」
P「いえ……うちの光について、少し調べてほしいことがあるんです……」
翔太郎「あのお嬢ちゃんについて、だって? ……今ラジオをやってるみたいだが、いいのか?」
P「あぁ、局内で別番組があるんです。その移動については大丈夫ですから」
翔太郎「……最近は白い怪人についての話を取り上げる割合が増えてるみたいだな」
P「ははは……謎のヒーローってことで反響も大きくなってきましたから」
翔太郎「まぁいい、それで……アイドルについて調べてくれってのはどういう意味だ?」
P「最近、なにか様子が変なんです。あいつに限って悪い付き合いがあるとは思えませんけれど……」
翔太郎「ふぅん……だがよ、プロデューサーさん。アイドルにだってプライベートはあるんだぜ?」
P「わかってます。だから、何もないならそれでいい……だけど、何か、大変なことがあって抱え込んじゃってるなら……力になりたいんです」
翔太郎「………」
P「お願いします。なんとなくですけれど……信頼できる気がするんです、あなたなら……」
翔太郎「仕方ねぇ……そこまでいうなら、考えてもいい」
P「は、はい!」
翔太郎「だけどな、力になってやりたいならあんた自身はどうするんだ? ただ俺に聞くだけでいいのか?」
P「……」
翔太郎「……」
P「俺は……探偵じゃなく、プロデューサーです。あの子が輝ける舞台を作ってやるためには、あの子のことを知らないといけませんから」
P「何の問題もなかったのなら、それでいいんです。俺自身があいつにそのことを言って、謝ります。そのあとどうされたって構わない」
P「だけど、少しでも。あいつが、俺に言えないような悩みを抱えているなら……それを、どうにかしてやるのも俺の仕事だと思っています」
翔太郎「……わかった。餅は餅屋だ、任せときな」
P「ありがとうございます!」
ガチャッ
亜樹子「ただいま翔太郎くん……ってどちらさま?」
P「あ、はじめまして。アイドルプロデューサーの……」
亜樹子「あ、アイドル!? はっ、まさかあたしが……いやぁー、困っちゃう! あたし聞いてなーい!」
P「いえ、その……」
翔太郎「……いや、大丈夫だ。ほっといていい」
亜樹子「はー、翔太郎くんの今度のお仕事はちっちゃい子のストーカーね……」
翔太郎「なんっでそんな人聞きの悪い言い方になるんだ亜樹子ォ!」
亜樹子「気を付けてね? 白い怪人とか赤いおまわりさんとかいるから……」
翔太郎「照井は身内だろうが! ……ってアイツはもう退院したのか?」
亜樹子「うーん、そろそろ退院できるとは思うけどお医者さんがダメっていうのよねー」
翔太郎「まぁ、少なくとも全治半年はかかるはずのケガだからな……」
P「えっと……大丈夫ですか?」
亜樹子「あぁ、いえいえおかまいなく~」
P「それじゃあ……お願いします」
翔太郎「あぁ、じゃあな」
翔太郎「……」
亜樹子「でも、珍しいね? 浮気調査とかぜんぜんやってくれないのに……」
翔太郎「いや、本心から心配してたみてぇだからな……何もないなら、調べたことについても謝るつもりらしい」
亜樹子「……それは、気持ち悪がられるだろうなぁ」
翔太郎「そこまで覚悟してるんなら、俺から言えることはないだろ? ……パートナーを心配するのは悪いことじゃねぇよ」
亜樹子「翔太郎くん……」
翔太郎「ま、白い怪人についての噂も気になることだし。よく取り上げてるラジオのことを知るのも悪くねぇ」
亜樹子「そう……だね! うん、ファイトー!」
翔太郎「よし、ちょっといってくる」
亜樹子「いってらっしゃーい!」
翔太郎「とは言ったものの……どうすっかな……」
ウォッチャマン「あっ、翔ちゃん!」
翔太郎「おぉ、ウォッチャマン……どうしたんだ?」
ウォッチャマン「いやね、最近噂の白い怪人がさ……若干、アレなのよね」
翔太郎「アレ……?」
ウォッチャマン「ほら、最初はゴミ拾いとか、小さな注意とか、落し物を探したりとかだったでしょ?」
翔太郎「あぁ、それで微妙に人気もあるとか……それがどうしたんだ?」
ウォッチャマン「最近は……すこーし、エスカレートしてるって噂があってね……」
翔太郎「エスカレート?」
ウォッチャマン「うん。探しものとかのお手伝いは変わらないんだけど……」
翔太郎「……」
ウォッチャマン「なんだか……たとえばポイ捨てみたいな小さいことでも、えらく怒るっていうんだ」
翔太郎「……なるほどな」
ウォッチャマン「謝ればいいけど、そうじゃなかったらどうなるか……みたいなすごい剣幕でね」
翔太郎「ありがとよ、参考にするぜ」
ウォッチャマン「そう? 結局謎の人のままなんだけどさぁ」
翔太郎「そこはまぁ、俺だって探偵だからな。なんとかするさ」
ウォッチャマン「翔ちゃんが?」
翔太郎「……どういう意味だ、おい!」
―――
チンピラ「ほら、今月の友達料だよ……早く出せよ、オイ!」
男「う……うぅ……」
チンピラ「出さねぇなら……」
??「待てっ!」
チンピラ「あ? ……んだてめー」
白い怪人「名乗るほどのものじゃない……でも、悪は許さない! バカなことはやめるんだ」
チンピラ「……バカはてめーだろ? コスプレか?」
白い怪人「いや……正義の味方だ。正義の……」
チンピラ「なめんなコラ!」ブンッ
白い怪人「……」ガシッ
チンピラ「いっ!? イ、デデデデ! は、はなせっ……!」
白い怪人「そっちの君は逃げるんだ」
男「は、はひ……」
白い怪人「なんで……なんでなんだ……」
チンピラ「て、てめぇっ……ふざけやがって……!」
白い怪人「正義の味方がいるんだ。悪いことをしちゃいけないって思わないのか?」
チンピラ「あ、あぁ? なにいってんだ? ゴミ拾いの変態野郎が!」
白い怪人「……いいことをしているだけじゃ、正義の味方として認めてもらえないのか?」
チンピラ「正義正義ってうるせぇな! くそ、どきやがれ!」ブンッ
白い怪人「…………」ガシッ
チンピラ「ぎっ……い、ぐ………!」
白い怪人「なんでだ……? なら、悪を……悪いやつを、倒さないといけないのか……?」ギリギリ…
チンピラ「かっ…………は、し…………っ……」
白い怪人「……正義の、味方は――」
※※※※
翔太郎「うおおぉぉッ!」
わざと大きな声を出しつつ、白い怪人へと蹴りかかる。
驚いた怪人は手を離し、掴まれていた男はそのまま倒れた。
翔太郎「ちっ……調査開始直後に遭遇たぁな」
路地裏から飛び出してきた男に話を聞くと、金をとられそうになったところで白い怪人に助けられたといった。
すぐに飛び込んでみればこのとおり……下手をすれば、こいつは人を殺すところだった。
みたところ、この怪人はドーパントで間違いなさそうだ。
白いボディに緑の目。大きなベルトを巻いているその姿は、どこまでも純真なイメージを抱かせる。
しかし、何のメモリでどんな能力を持っているかは見当がつかない。
翔太郎「おい……お前、なんのメモリだ?」
白い怪人「……なんで、邪魔するんだ……悪いやつ、だから? 邪魔するやつは……悪い、やつ……」
……どうやら、話し合いとはいかないらしい。
相棒の遺したドライバーを腰に当てると、ガチャリとベルトがしまる。
懐に入っているメモリを取り出すと、見せつけるように手首をひねり、ポーズをとる。
翔太郎「……変身」
≪Joker!≫
ガイアウィスパーが込められた記憶の名を叫ぶと、メモリをベルトに挿し横へ倒す。
ドライバーを通して純化された力が体を覆い、変質させていく。
ジョーカー「……さぁ、お前の罪を数えろ」
白い怪人「……!!」
指をさし、決める。……なにやら動揺しているらしい。どういうことだ?
俺の知り合いじゃなく、仮面ライダーを知っているってことか……
白い怪人「……罪、わるい、こと……そんなこと、してないッ!」
ジョーカー「お前は……取り返しのつかないことをしでかす寸前だったんだぞ」
白い怪人「うる、さい……うるさい! うああああぁぁぁぁ!」
白い怪人が叫ぶと同時にとびかかってくる。
すさまじい速度とパワーだ。まともにぶつかれば力負けするのは間違いない。
だが――
ジョーカー「フッ……ハァッ!」
白い怪人「ッ……グ、うぅ……!」
寸前で身を躱し、拳を打ち込む。
仮面ライダージョーカーは、ダブルほどのパワーもスピードもない。
ただ、これまでの経験とメモリに込められた技を純粋に増幅させているだけだ。
だから、単純な動きで突っ込んでくるだけの相手ならば相手をするのは簡単だ。
カウンターとしてかなり大きなダメージを与えたらしく、ドーパントはたたらを踏んで後ずさる。
白い怪人「う……なん、で………なんで……!」
ジョーカー「……お前がなんなのかはわからねぇが、やりすぎちまいそうになったのはメモリの毒のせいだ。そんなもんに頼るのはやめろ」
白い怪人「毒……? そんなの、聞いて……う、ぐ……」
……聞いてない、ってことはこいつにメモリを売った人間がいるってことか?
つまり、この街にはまだ……街を、人々を泣かせるようなやつがいるってことになる。
だとすれば、このドーパントも被害者だ。今ならメモリブレイクしなくとも更生できる可能性が多分にある。
ジョーカー「……大丈夫だ。まだ」
白い怪人「いや、だ……やだ……ヒーローに……正義の、味方に……正義に……!」
ジョーカー「ッ……! やめろ!」
急にドーパントの体からあふれるエネルギーの量が大きくなる。
メモリの力に飲まれかけている……! 早くメモリブレイクしねぇとまずい!
≪Joker!MAXIMUM DRIVE!≫
腰のマキシマムスロットへとメモリを移動させ叩くと、エネルギーが爆発的に増加して足へと集中する。
ジョーカー「ライダーキック……!」
飛び上がり、エネルギーの集中した足でドーパントを貫こうとしたその時。
ドーパントの身体の色が白から銀へと変わり、手には赤く輝く剣が握られていた。
真正面からその剣にぶつかることになるが、おかしい。
マキシマムドライブのエネルギーがまるで、吸い取られるみたいに……!
白い怪人「……あぁぁっ!」
ジョーカー「ぐっ……!」
白い……いや、銀の怪人が剣をふるうと、弾き飛ばされる。
急激にパワーアップしやがって……こいつ……!
銀の怪人「……フォームチェンジ」
ジョーカー「なにっ!?」
ベルトへ手をやったかと思うと、今度は銀の怪人が水色の水晶のような質感へと変わる。
剣は消えたが、こんどは速度が爆発的に上がっていて目で追うのがやっとだ。
ジョーカー「野郎ッ……!」
銀の怪人「ぐぅっ……ぅ、ぅぅ……ま、負けちゃ、だめだ……あきらめない……アタシ、は……!」
ギリギリのところでカウンターを入れるが、浅い。
怪人は再びベルトに手をかけている。銀の時の剣はまずい……まともに打ち合うのは骨が折れそうだ。
止めようとするが、すさまじい速度で後退していく。
なら今度こそカウンターを決めようと身構えたが様子がおかしい。
銀の怪人「うぅ……ち、がう……ヒーローは、正義の味方は、こんなっ……!」
ジョーカー「お前、まだ……」
銀の怪人「――――ッ!」
何かを叫んだかと思うと、高く飛び上がり銀の怪人はどこかへと逃げていった。
追いかけることも考えたが……
ジョーカー「……怪我人がいるんだったな。病院に運ぶか」
ベルトを元に戻し、メモリを抜く。
纏っていたエネルギーが解放され、元の体へと戻っていく。
翔太郎「あいつは……なんだったんだ……?」
――――
P「……おかしいな。光が遅刻なんて……?」
光「………ご、めん。プロデューサー。遅くなった」
P「おぉ、遅かったじゃ……お前、どうした?」
光「遅刻した理由なら……ちょっと、困ってる人を助けててさ……」
P「そうじゃない、顔色も悪いし……熱でもあるんじゃないか?」
光「平気だ。安心してよ……大丈夫、だから」
P「……光」
光「ほらっ、この通り! ぜんぜ、んっ……」
P「……こんな調子でいっても周りに迷惑をかけるだけだ。今日はもう休め」
光「なっ……」
P「あのな、無理をすること自体は悪くない……それで、他のみんなも、自分自身にもプラスになるなら、だ」
P「だけど……今の光が無理をしても、周りにも、光にもいい結果にはならない。俺はまだまだ半人前だろうけど、それはわかる」
光「……でもっ、そうしたら、休んだら困る人もたくさんいるじゃないか!」
P「それは俺の責任だ。……監督責任は俺にある」
光「平気だよ、ぜんぜん……ピンピンしてる。だから!」
P「ダメだ。きちんと休むこと……これはプロデューサーとしての命令だ」
光「……なんで……アタシは、ただ」
P「いいから、ほら」
光「……」
ブロロロ…
光「ん……すぅ……」
P「……寝ちゃったのか?」
光「……………」
P「……やっぱり、ひどく疲れてたみたいだな」
P「だけどいったいどうしたっていうんだ……? また、休憩時間か……」
P「………」
P「探偵さんを信じて、俺は俺ができることをしなくちゃな」
―― 数日後
光「うん、もう大丈夫だ!」
P「そうか? 無理は……」
光「してない。それより今は外で体が動かしたい!」
P「……元気だなぁ」
光「あぁ、正義の味方は体も強くなくちゃな!」
P「それで無理を押して何かするっていうのはだめだぞ?」
光「うん、気を付ける」
P「よし。今日はリトルヒーローの収録もあるしきっちり決めてこい!」
光「ああ!」
――――
――
光「南条光の、リトルヒーロー! おたよりもいっぱいだな」
光「小さないいことを重ねるって、とっても大切だと思う。アタシは、このおたよりや、誰にも知られていないような小さな親切をすごいことだなって思ってる」
光「……いいことって、なんだろう。悪いことをしないのと、いいことをするのって別のことなのかな」
光「なんて……あんまり、アタシらしくないか。それじゃあおたよりを読んでいくぜっ!」
光「PN.あじさいプリンスさんから。最近、白の怪人に助けられました……」
光「あ。また白の怪人だね……結構、いろんな人を助けてるみたいだしすごい、よな」
光「すごい、のかな……難しいね」
光「……うん。だけど、感謝の気持ちがあるっていうことはすごいことだよな!」
光「アタシもちゃんとありがとうって言えるようがんばるぜ!」
光「――それじゃあ今日はここまで! また聞いてくれよな!」
P「お疲れ様、光……何か悩みでもあるのか?」
光「ううん、大丈夫……だけど、プロデューサー。このあとって空いてるよね?」
P「そうだな……もう家に送っていくつもりだったけど、どこか行きたい場所でもあるのか?」
光「………」
P「送っていくぞ? 昼間とはいえ心配だし」
光「いや……大丈夫だよ。アタシなら、平気だ」
P「でもほら、歩くと疲れたりとか――」
光「いいから!」
P「ひ、かる?」
光「あっ……いや、本当に平気なんだ! だから、ねっ!」
P「光……」
光「それに、ほら、あれだよ! アタシだって女子なんだからプライバシーは気にしてくれなきゃさ!」
P「……そうだな。ごめん」
光「ううん、大丈夫だから」
P「でも気を付けろよ?」
光「平気だよ。正義の味方だって、いるからさ……」
P「光……?」
光「あ、あはは。それじゃあ、いってきます」
光「………」
光「昨日の……真っ黒のは、仮面ライダー、なのかな」
光「でも噂だと二色だって聞いてたのにな……本当は、悪いやつが成りすましてた、とか……」
光「そう、だ。アタシが、正義が、間違ってるわけないし、あれは仮面ライダーじゃないんだ」
光「だったら、正義の味方はやっぱりアタシが……」
光「……ち、がう……そうじゃない、たぶん、アタシ、悪い、こと………」
光「うぅぅぅ………聞かなきゃ……あの、人に……」
光「メモリ、毒って……いってた……」
光「毒……あれ? あの人、どこかで……みたっけ……」
光「確か、えっと……あれ、は……」
翔太郎「……あの人ってのは、誰のことだ?」
光「っ……!」
光「……あ……昨日、の……じゃなくて、えっと……」
翔太郎「……嬢ちゃん、お前が白い怪人の正体だな?」
光「う……ぅぅ……」
翔太郎「ラジオの時は……少し、普通に聞こえたがもう限界だろ? メモリを渡せ。ゆっくり療養すればまだ間に合う」
光「………」
翔太郎「安心しろ。パートナーは……だいぶ、お嬢ちゃんのことを思ってる。誰も責めない」
光「あぁ……そっか、思い出した……」
翔太郎「照井にも話さねぇといけねぇから、どこでメモリを手に入れたのかは聞かせてもらうが――」
光「探偵のお兄さんだ……初めて、会った時の……」
翔太郎「……?」
光「……嬉しかった。いろんな名所を教えてくれて、親切にしてくれて、助かった」
翔太郎「おい……嬢ちゃん……?」
光「でも……アタシは……正義の味方だから……」
翔太郎「やめろ……使うな! そいつを渡せ!」
光「悪いやつはやっつけないといけないんだ……正義の力を、奪うなんて……」
翔太郎「ッ……ちっくしょう!」
光「悪いやつ、だもんな」
≪Justice≫
※※※※
目の前でガイアメモリの力が解放された。
少し大げさに腕を振り上げたかと思うと、もう片方の手で服をヘソまでまくりあげた。
そのまま切腹するようにみぞおちの下あたりにある生体コネクタへとメモリを飲み込ませる。
少女の体が変質していき、力強い白の怪人へと変身した。
そのまま静かに構えるとベルトが低くうなりを上げる。
ジャスティス「……不意打ちは正義の行いじゃない。悪いやつでも、まっすぐ倒してやる」
翔太郎「……やるしか、ねぇのか」
ロストドライバーを取り出して腰に装着する。
力に飲み込まれて、このままでは本人の命すら危ない。
だったら――間違いをした子供を叩いてやるのも、大人の仕事だ。
依頼人は嬢ちゃんのことを心底心配していた。力になると約束をした。
翔太郎「……いくぜ」
目の前にいる相手に向けて。今はいない、相棒に向けて。
迷いが生まれそうな自分自身に向けて。
誰に向けたものでもないが、呼びかけるようにつぶやいた。
メモリを取り出し、構えをとる。
メモリの力を解放したことを表すガイアウィスパーが鳴り響くと同時に腕をひねり、ベルトへと挿しこんだ。
翔太郎「変身!」
≪Joker!≫
ジョーカー「……」
ジャスティス「……いくぞ。悪党!」
白い体の正義の味方が襲い掛かってくる。
前回よりもさらに速く、力強い。
だがやはり単純で、まっすぐな拳は避けやすい。
ひきつけて躱し、カウンターを打ち込んだ。
……しかし、確かに入ったカウンターのダメージがないかのようにその腕をつかまれてしまう。
ジョーカー「なに……!?」
ジャスティス「こんなのじゃ……負けない……! 正義の味方は、負けない……!」
ジョーカー「ぐっ……まずい……!」
腕をつかまれて逃げ場がなく、力を逃がすこともできない。
その状態で、相手のパンチをもろに受ける。
すさまじい衝撃に一瞬意識がとびかけるがどうにか持ち直した。
ジョーカー「んにゃ……ろっ!」
ジャスティス「ッ……」
掴まれていた腕を逆に押し込み、相手の体制を崩すと同時に蹴りをいれる。
今度は効いたらしく、相手との距離をとることに成功した。
だが、まだだ。浅いダメージしか与えていない。
追撃のために接近しようとするが、既に構えなおされてしまっている。
ジョーカー「ちっ……」
ジャスティス「……フォーム、チェンジ!」
ドーパントがベルトに手をやると、身体が銀に輝いていく。
そして腕には赤く妖しく光る剣が握られていた。
ジャスティス「うおおぉぉぉぉッ!」
ジョーカー「ぐっ……!」
すさまじい斬撃の嵐をどうにか紙一重でかわし続ける。
リーチも、速度も相手の方が上だ。このままだとジリ貧になっていくだけだろう。
大きく一歩飛び下がり、地面を砕くように強く踏みつける。
そのまま、砕いたコンクリートを蹴りつけるが剣で一閃されてしまう。
しかし、その振りぬいたタイミングに合わせて踏み込み、左の拳を撃ちこむとドーパントがひるむ。
その隙を逃さず、身体をひねるようにして剣を持った腕を蹴り上げた。
がら空きになった体へと何発も拳を叩きこむとドーパントが大きくよろめいた。
一気にメモリブレイクしようとするが、またベルトへ手をやって体の色が変化したかと思うと大きな距離を取られてしまう。
ジャスティス「……はぁ……はぁ……!」
ジョーカー「やめとけ……もう、わかっただろ? これ以上したら、下手すりゃ死ぬぞ!」
ジャスティス「うるさい……正義は、諦めないんだ!」
水晶に変わった体で、これまでとは比べ物にならないほどの速度でドーパントが突っ込んでくる。
しかし、速度が上がった分制御が甘くなっているため見ることに集中さえできれば躱すことは可能だった。
突進は躱すことに成功したが、続いて拳の撃ちあいになる。
すさまじい速度の連撃のすべてを避けることはできない。
だが、致命傷になるような大きな一撃は避け、残りはギリギリのダメージで受け続けることでどうにか均衡を保つことはできている状態だ。
相手が焦れたように大きく振りかぶったタイミングを逃さず、小さなパンチを当てることで力をそらす。
撃っている数も、当たっている数もドーパントの攻撃の方が多いが、先によろめいたのもまたドーパントのほうだった。
ジャスティス「くっ……なん、で……」
ジョーカー「……心配してるやつのことを、忘れちまって。自分勝手にやって。何が正義だ」
ジャスティス「……」
ジョーカー「嬢ちゃんと、プロデューサーはパートナーなんだろ? だったら……そのメモリのことも、教えてやるべきだったんじゃねぇのか」
ジャスティス「ちがう……アタシは、みんなが喜ぶような……かっこいい、ヒーローに、なりたくて……」
ジョーカー「そんなメモリなんかの力で! ヒーローになるのがお前とプロデューサーの夢だったのか!?」
ジャスティス「そ……それでも、それでも、アタシはッ……!」
どうやら、まだ立ち上がる気らしい。
そろそろこちらのダメージも大きいし、完全に回復しないうちにメモリブレイクしようとベルトへ手を伸ばす。
その時、聞き覚えのある声がした。
P「――待ってくれ!」
ジャスティス「……プロ、デューサー?」
ジョーカー「……あんたは」
P「すみません、どうしても、気になって……追いかけてきちゃったんですよ……」
ジャスティス「あ………あぁぁぁ……」
P「光……」
……依頼をした、プロデューサー本人だ。
嬢ちゃんも目に見えて慌てているのがよくわかる。
しかしいったい、こんなタイミングで出てくるなんてどういうつもりだ?
ジャスティス「違うんだ、アタシ……だって、正義の味方に、なりたくて……それで……」
P「……大丈夫だ。怒ってるわけじゃないんだ、ただ……光が、本当に……」
ジャスティス「う、うあぁぁぁっ!」
プロデューサーが近づこうとするが、嬢ちゃんが拒絶するように腕を薙いだ。
ドーパントのパワーはすさまじく、大きな風が起こる。
小石や、先ほど砕いたコンクリートのかけらがあたってプロデューサーの額からは血が流れた。
P「っ……ひ、かる……!」
ジョーカー「おいあんた、生身でそれ以上は……」
P「だ、いじょう、ぶです……おれ、プロデューサー、ですから……!」
ジャスティス「ち、ちがう……アタシ、違う……正義の、味方が……まちがう、わけ……」
P「光!」
P「この、バカ野郎!」
プロデューサーが思いっきり振りかぶると、グーで嬢ちゃんの頭を殴った。
……当然、ドーパントにはダメ―ジはなく、殴ったプロデューサーのほうが手を痛そうにさすっている。
だが、また錯乱してドーパントとしての意思に飲み込まれる直前だった嬢ちゃんが正気に戻ったらしい。
ジャスティス「……プロデューサー?」
P「……すっごい痛い。なぁ、光」
ジャスティス「………」
P「秘密の戦士として、やっていくために。その……変身できるアイテムを使って正体を隠してたんだろ?」
P「……正義の味方ってさ、ヒミツだもんな。ほかの人に言えなくて、内緒にしようとしたのはいい」
P「だけど……だけどさ、ヒーローだってふるさとが、あるだろ……?」
P「俺がそうなれる、なんて言わない。だけど、光はおじさんにも、お父さんにも、お母さんにも話をしてなかった」
P「正義の味方はさ、正義に味方するけど……じゃあ、その正義の味方を助ける……正義の味方の味方がいないと、寂しいよ」
P「……俺は、情けないやつだ。悪いやつをやっつけたりできない。だけど、お前の味方はできる」
P「……怒ってるんじゃないんだ。ただ……もう、無理しなくていい。だから、やめてくれ」
ジャスティス「あ……あたし、は……あたし……」
ジャスティス「……ごめん、なさい。ごめんなさい……ぅぁあああん……!」
プロデューサーが切々と話をした。そのままドーパントになっている嬢ちゃんの頭を撫でてやっている。
嬢ちゃんはしばらく固まっていたかと思うと、大きな声で泣き出した。
普通の成人男性よりも一回りほど大きいドーパントの体なのに、不思議と小さく見えた。
P「……すみません。任せますって言ったのに……」
ジョーカー「いや……いい。俺だったら、取り返しのつかないことになっていたかもしれねぇしな……」
プロデューサーと、アイドルか……不思議なパートナーなんだな。
彼女自身は、大きく誰かを傷つけることはしていない。
あの時の男だって、気絶をしていただけで大きな外傷はなく、その前にカツアゲをしていたという証言まである。
十分情状酌量の余地ってやつはあるし、メモリの毒を抜くことさえできたら……
ジョーカー「……ん? そういえばだれがメモリを――」
ベルトからメモリをひきぬく直前にふと思い出す。
そうだ、この事件での悪役がいるとすればそれはこの嬢ちゃんにメモリを売りつけたやつの存在だ。
いったいどこで……そう思って振り返ったとき、水晶の体へと変質した状態の嬢ちゃんが突っ込んできていた。
ろくに構えることもできず思いっきりくらい吹き飛ぶ。いったいどうして、と思う前に今度は嬢ちゃんが吹っ飛んだ。
ジョーカー「なっ……!?」
P「え……あ……っ」
嬢ちゃんが吹っ飛ばされたのと反対側、光が飛んできた方向へと目をやると見たことのないドーパントがそこに立っている。
エナジー「チッ……仮面ライダーの始末とはいかなかったか……!」
P「ひ、か……!」
ジャスティス「ご、ごめん……あた、し……」
ジョーカー「……大丈夫だ。すぐに病院に連れてってやる」
不意打ちで背後から撃たれそうだったのを、嬢ちゃんがかばってくれたようだ。
ギリ、と拳を強く握る。怒りに身体が震える。
ジョーカー「……てめぇ、なんのつもりだ」
エナジー「なにって……ふん、教えてやるよ! 俺はなぁ、この街に……もういちどガイアメモリをもたらすカリスマだ!」
ジョーカー「カリスマ……? いや……」
こいつ、今なんて言った?
『この街にガイアメモリをもたらす』……だと?
つまり、この嬢ちゃんにメモリを渡したのは……
エナジー「俺だよ……ケッ、レアなメモリだったけど使えねぇし流したはいいけど……まさかお涙ちょうだいで負けるとはなぁ」
ジョーカー「……」
エナジー「まぁ、いい! 俺の軍団EXEを完成させるために仮面ライダーは邪魔だ!」
エナジー「本当は今の一撃で決めてやるつもりだったけど……でもこのレールガンは最強だぜ! 避けられるわけがねぇ!」
ジョーカー「もういい、しゃべるな」
エナジー「見せてやる! 俺の本当の力はなぁ、仮面ライダーごとき相手にならないぐらい……」
ジョーカー「絶対にゆるさねぇ……!」
ジョーカーメモリを素早くひきぬくとマキシマムスロットへとセットする。
強くたたくと、全身のエネルギーが増大して、次第に1部分へと集まっていく。
≪Joker!MAXIMUM DRIVE!≫
ジョーカー「ライダーパンチ……!」
強く地面を蹴って飛びかかると、腕へと集中させたエネルギーを叩きこむ。
ドーパントはもんどりうって転がっていくがメモリブレイクにはいたっていない。
エナジー「ぐへぁっ!? て、てめぇひとのはなしは――」
そのまま再びマキシマムスロットを叩く。
またエネルギーが増大し、今度は足へとエネルギーが集中していく。
≪Joker!MAXIMUM DRIVE!≫
ジョーカー「ライダーキック……!」
立ち上がろうとしていたドーパントの胸へと飛び蹴りを放つ。
大きく吹っ飛ぶと、メモリが排出されて破壊される。
……メモリブレイクだ。
エナジー「そん……な……!」
ジョーカー「……照井に連絡しとくとして、問題は……」
P「光……光っ……」
ジャスティス「………」
ジョーカー「嬢ちゃんの……メモリが出てない、のか……」
このままだと、非常にまずい。
これまではメモリの毒素に侵されていたのを、精神力で持ちこたえてどうにか安定させることができていた。
しかし使用者がが気絶してしまえば話は別だ。
毒素は体に回って、精神か肉体……あるいは両方に異常をきたす可能性が非常に高い。
だからといって、さっきの攻撃のダメージも残っているのに無理にメモリブレイクをしようとすれば……
ジョーカー「くそっ……!」
こんな時。あいつが……フィリップが、いたら。
エクストリームの力でなら正確にメモリだけをブレイクすることができたかもしれない。
このままじゃあ、助けられない……!
P「……このまま、病院に」
ジョーカー「いや、ダメだ……この状態じゃ治療もできねぇ……俺は……!」
??「……困ってるみたいだね、翔太郎?」
ジョーカー「フィリップ!? 」
後ろから声をかけられ、驚き振り返る。
しかしそこに立っていたのはよく知った相棒ではなく……
若菜「……やぁ。翔太郎」
P「え? あ……わ、若菜姫!」
ジョーカー「……え?」
若菜姫だった。先日、失踪して以来誰にも見つけられなかった園崎家の生き残りだ。
だが、そのしゃべり方や雰囲気はまるで、あの園崎若菜でも、若菜姫でもなく俺の相棒、フィリップそのものだ。
若菜「今は……説明している時間が惜しい。いいかい、一時的に……この子へクレイドールの力を使って干渉する」
ジョーカー「あ、あぁ」
若菜「再生のエネルギーが体外を循環するのは一瞬だ。タイミングを外せば彼女の体が耐えられないだろう」
ジョーカー「……わかった。その一瞬でメモリを砕くんだな?」
若菜「できるかい?」
ジョーカー「当然だろ……だけどな、プロデューサーさんよ」
P「俺、ですか?」
ジョーカー「あんたはどうだ? ……悪魔に賭けられるか?」
P「俺は……光が助かるのなら。その可能性があがるのならなんだってします!」
ジョーカー「オッケー。そこまで言われちゃ……決めなきゃなぁ!」
若菜「あぁ、いくよ翔太郎」
ジョーカー「ああ……」
≪Joker!MAXIMUM DRIVE!≫
若菜「はぁぁぁっ!」
ジョーカー「おりゃあっ!」
ジョーカー「……」
若菜「……ふぅ」
P「あ……あぁ……」
光「……う……うう……」
翔太郎「成功だ。どうやら……うまくいったみてぇだな」
若菜「あぁ、さすがだね……相棒」
翔太郎「……お前、やっぱりフィリップだよな?」
若菜「少し、いろいろあってね……まだ、この体は僕のものじゃない。だけど姉さんが……この体を、僕にくれたんだ」
翔太郎「なん……だよ、それ……」
若菜「もうしばらく、この体を作り直す必要がある……このままじゃあ、いろいろと不便だしね」
翔太郎「ってことは……お前……」
若菜「約束するよ。もうしばらくしたら帰るってね……今回の、件で。だいぶエネルギーを使ってしまったから……」
翔太郎「あ……お、おい、フィリップ!」
若菜「気長に待っててくれ。君がハードボイルドになるよりは早く帰ってくるからさ……」
翔太郎「……消えちまった」
P「あの。あの人は……若菜姫、じゃないですよね」
翔太郎「あぁ、あいつは……俺の、相棒だ」
P「……」
翔太郎「ったく……あんにゃろう、かっこつけやがって……」
P「……よかった、ですね」
翔太郎「ああ……いけねぇなぁ。急に雨が降ってきたみてぇだ……」
P「救急車……きたみたいですよ」
翔太郎「こっちの男のためのパトカー付きでな」
P「ははは……」
翔太郎「とりあえず、一件落着だな……」
houkokusho
(報告書)
konnkai no jikenn wa seigikan toiu junnsuina mono wo riyou suru hiretsu na jikenn datta.
(今回 の 事件 は 正義感 という 純粋な もの を 利用 する 卑劣 な 事件 だった)
anoato joutyann wa joujousyakuryou no yoti ga aru toiu kotode taiho dewanaku hogo toiu atsukai ni naru rasii
(あの後 嬢ちゃんは 情状酌量の 余地が あるということで 逮捕ではなく 保護という 扱いになったらしい)
eguze toiu atarasii soshiki wa nakaba kotoba dake datta rashiku tairyou no memori to tomoni jishou karisuma no taiho de maku wo oroshita
(エグゼ という 新しい 組織は 半ば 言葉 だけ だったらしく 大量 の メモリ と ともに 自称 カリスマ の 逮捕 で 幕 を おろした)
kitto purodhusa to isshoni ano joutyann mo yarinaoseru hazuda nazenara...
(きっと プロデューサーといっしょにあの嬢ちゃんもやり直せるはずだ。なぜなら……)
亜樹子「翔太郎くん、どうしたの?」
翔太郎「ん? いや、なんでもねぇ……あの嬢ちゃんは元気にしてるかなーって思っただけだ」
亜樹子「あの……嬢ちゃん……?」
翔太郎「そういえば亜樹子は見てねぇのか……将来有望なアイドルさ」
亜樹子「あぁ、翔太郎くんがストーカーしてた!」
翔太郎「おいこら亜樹子ォ!」
亜樹子「でも、アイドルってことは可愛いんでしょ? あー、あたしも直接会ったりすればよかったかも……ラジオは聞いたことあるんだけどね?」
翔太郎「そのうち、嫌でも見ることになるだろ」
亜樹子「え?」
翔太郎「有名アイドルになっちまうだろ、ってことだ。さ、今日も依頼をこなすとすっか!」
亜樹子「そ、それならなおさら会いたかったー! くぅーっ……」
きっとプロデューサーといっしょにあの嬢ちゃんもやり直せるはずだ。
なぜなら――最高の相棒がそばについているのだから。
光「プロデューサー、また迷惑かけちゃうかもしれないけど……よろしく」
P「あぁ、いくらでも付き合うさ! 頼むぞ、相棒?」
終わり
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