長門「おまんまん」 (14)
長門「おまんまん」
キョン「・・・は?」
何かの聞き違いであってほしい、と思ったが、長門の宇宙人らしくしっかりした口調には、聞き間違えそうなあやふやさはなかった。
長門「おまんまん」
一文字ずつ区切るようにひねり出された言葉に、こっちが今度は頭をひねるしかなかった。
キョン「すまん、長門。おまん、なんだ?」
長門「おまんまん」
キョン「ちょっと待ってくれ。うんと、長門。いま何を言っているか、自分でわかるか?」
長門「おまんまんまんまんまん」
キョン「わかってない、っていうことか。」
長門「・・・・・」
キョン「お前はいま、おまんまん、と言っているんだ」
長門「・・・・・」
恥じらうではなく、わずかに揺らぐ程度だが驚きが見て取れた。
長門「おまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんま」
キョン「ちょ、ちょっと待て。」
放っておけばいつまでもいうんじゃないか。
キョン「ちょっと、いったん口を閉じとけ。なんつうか、あんまりだからな。婦女として」
長門「おまんまん」
***
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この長門とコミュニケーションをとること、30分に及んだ。
団のほうは今日は体調を崩したこいつに付き添っている、ということにしておいた。(間違ってはいまい)
一つ分かった。
おまんまんという言葉の長さは発話したい言葉の文字数によるようだ。
ひとつ、長門の口癖といえる言葉がある。
『そう』
そんな涼やかな言葉がおまんまんになってしまうとは、なんという皮肉か。
細かい質問をすればするほど長大なまんまんが待ち受けている、というところからそれだけはわかったが、それ以上のことはさっぱりだ。
キョン「こいつはひょっとすれば天蓋領域とやらの仕業か?」
長門「おまんまんまんまんまん」
キョン「そうか・・・」
イエスは「そう」 ノーは「違う」 わからないはそのまま。
つまり、おまんまんとおまんまんまんとおまんまんまんまんまん、の3種類だけ、受け答えを決めた。
どうやら、この異変により、指による指示や・筆記でものごとを伝えることもできなくなっているようで、大いに長門との今後の付き合いが不安になる状況である。
***
キョン『・・・ということで、長門が卑猥な言葉しか話せないようになってしまっているんだ。どうなっていると思う?』
古泉『心当たりがありますね』
お前のせいか。
古泉『いえ、違いますよ。昨日、涼宮さんの周りで、谷口さん他、何人か。猥談していたようじゃないですか』
キョン「ああ、あれか。まったく、谷口に慎みって心がけはないからな。困ったもんだ」
古泉『あれを聞いて、涼宮さんは憤っていましたよ。きっと、そのような抑圧された心情が長門さんに影響しているのではないか、と洞察できます。気づかなかったんですか?』
キョン「なるほどな・・・子供っぽいが、怒るのはわかる・・・が、なんだって長門がそんなことになるんだ」
古泉『それが深層心理の面白いところなんじゃないでしょうか』
まったく下らんことになったが、仕方がないか。
長門にいつまでも恥をさらさせるわけにもいくまい。
古泉『まあ、神人の発生は幸いにも増えていないどころか、不思議とおとなしくなっているくらいです。僕のほうはあまり気にしないでください』
キョン「いつ、気にしていると言った」
古泉『まあ、いいじゃないですか・・・すみません、せっかくお電話いただいてもう少し親交を深めたいところなのですが・・・切っても大丈夫でしょうか?』
キョン「ああ、忙しいところすまんな。助かった」
古泉『いえいえ。では、また明日』
キョン「古泉が言うには、ハルヒってセンもないわけじゃないみたいだ」
長門「おまんまん」
キョン「まったく、今回ばかりは付き合いきれないな、ハルヒのやつには」
長門「おまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまん。おまんまんまんまんまんまん」
キョン「お、おう」
長門「おまんまんまんまんまんまん」
キョン「うん・・・」
長門「おまんまんまんまんまんまん」
キョン「早く解決しようぜ、長門。あと、学校は休んだほうがいいと思うし、ちょっと黙っててくれ」
***
古泉「おまんまん、ですか・・・」
キョン「ああ。昨日は長門の尊厳を考えて言わなかったが、おまんまん、なんだ」
古泉「あなたの言う、その長門さんのおまんまんが宇宙的なメッセージである可能性はありませんか?」
キョン「宇宙からのメッセージだろうと、スーパーアイドルの直筆サインだろうと、おまんまんなんて書くことがあるか?」
古泉「わかりませんよ。そうですね・・・OMANMAN。何かのアナグラムってことはありませんか? MANOMAN、MONAMAN・・・」
キョン「それ以上言ってみろ、今すぐハルヒの前で全裸になって腹踊りしてやる」
古泉「んっふ、見てみたいですが、そんな理由で世界滅亡なんていうのは、僕もごめんですね」
古泉は俺をあやすように手を広げ、やるかたなし、という風だ。
キョン「そもそも、お前のなんだったか・・・猥談おまんまん理論だって、胡散臭いことこの上ないんだ」
古泉「そうですか・・・? では、谷口さんはなんと連呼していたのですか?」
キョン「ああ、『おちんちん』、そうずうっと連呼していたと思ったら、ハルヒに蹴倒されて早退したらしい」
古泉「聞いて、なおさら。・・・まったく、それ以外にあり得ないだろう、と僕は思いましたよ」
キョン「おちんちん、とおまんまん、は全然違うだろう」
古泉「・・・意見の相違、でしょうか」
まったく、なんなんだ。
キョン「ところで、どうすればこの状況を何とかできると思う?」
古泉「そうですね・・・」
とぼけちゃいたが、谷口のおちんちん事件が長門、ひいてはハルヒのおまんまんにつながっていることなど、当然承知していた。
しかし、そんな子供じみたつながりがあると思うと頭が痛いもので、古泉をからかって現実逃避がしたいというのも、仕方ないだろう。
古泉「涼宮さんの男性的なあけっぴろげさに対する女性としての劣等感によって、もたらされているのではないかと、僕は考えます。」
古泉「涼宮さんは、型にはまらないところのある人物でもあります。そんな彼女も、谷口さんのくだらない言動の前では不快になるうえ、同じようなことを堂々と行うことはできない。これには少なからず女性というもののジェンダーが作用していると思います。そのジェンダーによる抑圧に対するストレスが形をなしているのではないでしょうか」
キョン「つまり、あいつにおまんまんと言わせればいいっていうことか?」
古泉「いちばん手近な手段としては、それもあるでしょうね」
キョン「そんなことをした日には、それこそ神人が古民家のシロアリみたいに湧いて、お終いだろう」
古泉「機関としてもこのおまんまんの一件に対しては、静観をするようです。それはもちろん、TEFI端末の言語異常くらいでは、機関にはなんの影響もありませんから。機能障害がきちんと起こっているのなら、良好な関係を保つためになにか手を考えるかもしれませんが」
お前には協力してもらうつもりだったんだがな。
古泉「ええ、僕個人としては、何なりと。あなたと、長門さんの友人として、手を尽くさせていただきましょう」
長門「おまんまんまんまんまんまん」
キョン「おかえりなさい、か?」
長門「おまんまん」
文字数がおかしい。文頭の「お」は、おまんまんのおとくっつくのかもしれない。
そんな深遠な宇宙的おまんまん文法に考えを巡らせていると、長門から一つ小さなカプセルのようなものを渡された。
長門「おまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまん」
キョン「いつものお助けグッズか?」
長門「おまんまん」
キョン「なるほどな」
長門「・・・」
長門も、もう今何十文字も話しても結局通じないっていうことを悟ったらしく、説明はいっそしなくなった。
キョン「未来の朝比奈さんにでも聞けばわかるか?」
長門「おまんまんまん」
キョン「うーむ」
長門「おまんまんまんまん」
キョン「ん?」
長門「おまんまんまんまん」
キョン「古泉・・・か?」
長門「おまんまん」
なるほど。超能力関係グッズってわけか。
長門「おまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまんまん」
キョン「せめて文字が書ければな・・・ん?」
長門はおまんまん、おまんまんと言いながら、台所へと向かっていった。
おまんまん・・・おまんまん・・・
ぼんやり、そらんじると、俺の前に湯気を上げるものが置かれた。
キョン「おまんまん・・・お茶か!」
長門「おまんまん」
なるほどな、いろんなおまんまんがあるってことか。
キョン「ありがとな・・・いや、おまんまんまんまんまん」
長門「おまんまんまんまんまんまん」
キョン「はっは」
いかん、ゲームとして楽しみつつあるぞ。
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