理樹「学校をサボりたくなる瞬間」 (55)
理樹(今日は雨の音で目が覚めた)
真人「スゥ……ハァ…」
理樹「……………………」
理樹(まだ朝の6時、朝練の生徒もいないので静かな朝だった)
理樹「ううん……」
理樹(どんよりとした雲が空を憂鬱な色に染めげている。涼しくなっているのだけはありがたいけど)
理樹(薄暗い部屋だったが、真人が珍しくまだ起きてないので電気を点けるのはやめておいた)
理樹「……………………」
理樹(ポリポリと頭をかいた。最近授業はテスト勉強の自習だけで面白くない。雨なので野球の練習もないだろう)
理樹(…………金はある。よし)
理樹「今日はサボるか」
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ドロケイスレも立ててなかった?
理樹(上の真人が起きないようになるべく音を出さないよう支度をした)
理樹(持ち物は傘と財布と携帯とイヤホンだけ。服はいつものパリパリしてて動きづらい制服なんかじゃなく、一番動きやすいラフな私服だ)
理樹「ええっと……『今日は用事があるから出かけます。直枝』……」
理樹(最後に、真人が心配しないように置き手紙を書くと部屋を出た)
外
理樹(男子寮を出ると一気に胸が高鳴った。これから行動する事は全て先生に怒られることだ。私服のところなんて見られただけで風紀委員にも怒られる)
理樹(しかし、今回はそんな運の悪いこともなく無事学校の外に出られた。校内でこんな朝からうろついてる人はいなかったし、門の人だって堂々と出て行けば僕のことを疑う事はなかった)
理樹「ふっ……ふふふっ」
理樹(恭介の冒険癖が感染ったのかもしれない。普通の人ならまずしないような事をやってしまった!友達と何処かライブに行くためにサボるのなら分かる。でも、たった1人で、特に理由もなく学校に行かないなんて……こんなに興奮する事はない!)
>>2
立ててないな
そして俺はドロケイって呼んでた
違う、ケイドロだ!
とにかく再開
電車内
アナウンス『ドアが開きます。ご注意ください』
理樹「…………………」
理樹(電車の座席で頬杖を付きながらドアの方をチラリと見た)
「「……………………」」
理樹(都会に近づくにつれ、人がどんどん入ってきた。もう座る席は一つも空いてない)
シャカシャカ……
理樹(誰もかれもが視線を下におろしている。だいたいは携帯を見ていて、他の人は眠たそうにするか本を読んでいる。この時間はサラリーマンや学生が多いのでとてもつまらなさそうな顔の人ばかりだった)
理樹(そんな中で行くあてもなく座席に座っていると、なんだか例えようのない優越感が湧いてきた。ここにいる理由はこの中で最もくだらないけど)
アナウンス『次は~○○、○○です…』
理樹(次は街に着く。そろそろ出ようか)
いっつもリトバススレたててる人?
街
理樹(街に着くと天気は小雨となっていて、髪をワックスで整えていない限り傘はもう必要なくなっていた。そして街はこんな日でも人がいた。ほぼ貸切状態であることを期待したのにがっかりした気分だ。きっと今日は休みだったり、僕みたいにサボっている人たちなんだろうな)
理樹「さて、どこに行こうかな?」
理樹(デパートで買い物をする事もないし、商店街で鈴のためにモンペチを買うとしても帰りでいい)
キュー……
理樹(そういえば朝ご飯を食べていなかった。もう7時を過ぎている。たまには静かな場所で朝ご飯を食べてみたい。カフェにでも行こう)
「エッヘヘ!マジで!?」
「いやいや、気にしないとダメでしょっ」
「エグい!それか俺のに入る?」
理樹「………………」
理樹(せっかくの特別な気分がぶち壊された。いや、別に騒ぐのはいい。賑やかなのは良いことだし、みんなが笑顔なのは好きだ。だけど僕が珍しく、まるで音一つしない美術館で絵を楽しんでいる文化人かのごとく非日常を楽しんでいるところに笑い声をあげるのは如何なるものか)
理樹(そして特に何も考えずその楽しそうな会話をする人たちの方を向くとみんな傘をさしていた。だけど1人だけ僕と同じく濡れたままの人がいた。それは、金色の髪の少女だった)
理樹「ワオ…」
理樹(腰まである髪を後ろで束ねていて後ろ姿を見るだけでもとても活発そうな子だった。今では珍しい、正統派のポニーテールだったので思わずまじまじと見てしまう。どれ、顔も見てみよう。周りの人達がちやほやするくらいなんだからさぞかし……)
「大丈夫だって!これくらいの雨なら傘なんかあってもなくても一緒だからっ」
理樹「……………っ」
理樹(とても綺麗だった。そして、とても、あまりにも、似ていた。彼女に)
理樹「沙耶………!」
理樹(一瞬すべての景色がスローになった。彼女の揺れる髪も口も目も)
理樹(そしてその時だけは精神的に無敵になってしまった)
理樹「沙耶!」
「へっ?」
男子A「あれっ、知り合い?」
理樹(僕が沙耶にあんまりにも馴れ馴れしく近寄るもんで周りの人達は僕を警戒した)
理樹「沙耶!嘘だろ!また会えるなんて!」
「さ、さや?あの……」
男子B「あー、君、誰?多分人間違いだと思うけど。彼女はサヤって名前じゃないよ」
理樹(さりげなく彼女と僕の間に割って入ろうとする男。うるさいな)
理樹「なにがさ。ほら、沙耶。僕を覚えていないの?」
理樹(にっこり笑って僕の顔を示した。しかし、沙耶は困惑するだけだった)
「あーー………あはは…」
男子C「彼女の名前はアヤだ。おしかったな。それじゃ…」
沙耶「…………………」
理樹(途端に全員から頭の狂った人扱いされて僕のことを通り過ぎようとする。沙耶は他の男の人にまるでSPのように中心に囲まれてしまった)
理樹「あ………」
理樹(そこまでされて本当に人間違いだったのかも考え直した。そりゃそうだ。もう彼女とは会えないんだから。髪型も違うしチラッと会話を聴いただけだけど性格もあんなに飄々としてなかった気がするし……)
「あ、待って!私も思い出したわ!」
理樹(いい夢から醒めた失望に似た気分を味わっていると、彼女が他の人のガードをくぐって僕の方に来た。……やっぱり似ている)
「あなたー……ほら、2週間前に駅で話し合った人よね!覚えているわっ」
男子C「なんだ…」
理樹(周りの人が落胆した。しかし今度は僕が困惑する方だった)
理樹「えっ、会ったっけ……?」
理樹(馬鹿な質問だ。彼女とはそもそも『会ったこと』なんて一度もないのに。夢の彼女が現実で会いに来るわけが……)
「シッ!合わせなさい……っ!」
理樹「え、ええっ?」
「あー!そうね!またその話が聞きたかったところなの!オーケー、それじゃまだ時間があるしあっちで話し合いましょう!ごめん、みんな!そういう事でー!」
男子A「あっ、ちょっと!」
理樹(早口でそうまくし立てると、沙…謎の存在は僕の手を引っ張り、商店街の方まで走った)
ダダダッ
理樹(さっきまで静かだった心臓がハイペースになっていく。彼女は誰で、僕らはどこへ向かっているんだろう)
理樹(そんなことを考えてしばらく連れられるままでいると遂に止まってくれた)
「……ふう。ここら辺でいいでしょ」
理樹「あ、あの……ごめん。君はいったい…」
「あ、うん。それよりお腹空かない?実はまだ食べてないのよ私」
理樹「…………僕もだ」
喫茶店
理樹(もうわけが分からない。昔の好きな女の子に似たさっき会った女の子が僕を朝食に誘うなんて。これもまた夢なんだろうか)
「ふぅ。ようやく落ち着いたわね。とりあえず初めまして」
理樹「は、初めまして…」
理樹(まだ夢だという方が現実味があった)
>>7
そうだよ
おやすみ
理樹「それで君は……」
アヤ「アヤよ。あなたは?」
理樹(あちらが下の名前しか名乗らないものだからこちらもついついそれに乗せられてしまった)
理樹「理樹って言うんだ。あっ、えっと直枝理樹」
アヤ「理樹君ね。さっきはどうもありがとう」
理樹「えっ?」
アヤ「だから、あいつらから抜け出すきっかけをくれたお礼よ。いやぁ、やんなっちゃうわもう!あの男共とくりゃ私の言う事にYESとしか言わないもの。本気で聞いてるのか分からないわ」
理樹「それはアヤ…さんに嫌われたくないからだよ。多分」
アヤ「でしょうね!でも私はそうやって気を使われてる間は絶対に心を許してあげたりなんかしないんだから」
理樹「人間関係って難しいね」
アヤ「そういう事。だからあなたも私をナンパしようなんて考えないでよ?」
理樹「な、ナンパ!僕がっ!?」
アヤ「えっ、違うの?」
理樹「違うよ!」
アヤ「ふーん…じゃあなんで声をかけたの?」
理樹「それは………」
アヤ「確かさっきサヤとか言ってたわね。お知り合い?」
理樹「知り合いっていうか…恋人だったんだ。少し前までね」
理樹(そういうとアヤさんがクスクスと笑いだした)
アヤ「ふふふっ……やっぱりナンパじゃない!古い手ね。今時『君が昔の別れた恋人と似ているんだ!』って言うつもりなんでしょ?」
理樹「で、でも本当に似てるんだよ!君と沙耶は……」
アヤ「じゃあ写真を見せてくれたら信用してあげるわ。付き合ってたなら一枚か二枚はあるでしょう」
理樹「無いよ。彼女と居たのはほんの短い間だったからね」
アヤ「……そう。ま、なんでもいいけどね。男なら人間違いして話しかける程の女の子を捕まえたんならもう一度よりを戻すなりなんなりしなさいよ。未練があるなら最後まで突き通しなさい」
理樹「………もう逢えないよ」
理樹(僕が力なく視線を向けると、彼女ははっと気付いて真剣な表情になった)
アヤ「………ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの」
理樹「いいんだ。もう昔の話だから」
理樹(それから気まずくなってお互い沈黙しているとウェイトレスが注文を聞きにきた)
ウェイトレス「ご注文は?」
理樹「僕はコーヒーとサンドウィッチを」
アヤ「私は……一緒のを」
理樹(ウェイトレスが去るとアヤさんが口を開いた)
アヤ「良かったら、お話を聞かせてくれる?」
理樹「…………そして沙耶は僕の眼の前で……事故で亡くなった」
アヤ「そうだったの……辛かったわね」
理樹(話し終えた頃にはもうコーヒーもサンドウィッチも空になっていた。話に夢中になりすぎていつすませたかも覚えていない)
理樹「いや、君に全部話してしまうと少し気が楽になったよ。ありがとう」
アヤ「いいえ。私もあなたと会えてよかったわ。それにしても私に似た子とズル休みした日に出会うなんてちょっとした偶然ね」
理樹「もしかしたらこの話も君の気を惹くための作り話かもね」
アヤ「…………それなら、そんなに泣きそうな顔にはなれないわ」
理樹(アヤさんが優しく指摘した)
理樹「えっ、そんな風に見えてた?」
アヤ「今もよ。気づいてなかったの?あははっ」
理樹「自分の事は気付きにくいね。なんとも」
アヤ「理樹君、これから用事は?」
理樹「えーっと……次の時間は数学だね。まあ、行ったところで自習さ」
アヤ「私もよ」
理樹「ええと、それは、つまり…」
アヤ「うふふっ」
ゲームセンター
BANG!BANG!
アヤ「意外ね!あなたこういうゲームとかやりそうにないのにとても上手だわ!」
理樹「まあ特訓したからねっ!アヤさんも凄いじゃないか!」
アヤ「アヤでいいわ!……それっ!」
ハンバーガー屋
理樹(ゲームに疲れた後はハンバーガーで休憩をとることにした。なんとも不良少年的な生活だ)
アヤ「雨が止んで良かったわね。まるで私の心の天気の移り変わりだわ」
理樹「アヤも朝は元気じゃなかったの?会った時はあんなに楽しそうだったのに…」
アヤ「あんなの本心な訳ないでしょ。私がサボるって言ったらみんな着いてきただけ」
理樹「いいねぇ。僕が休むって周りに言おうものなら止められるのがオチだよ」
アヤ「それはあなたの事を考えて言っているのよ。はぁーあ…いつから私の周りは悪友だらけになっちゃったのかしら。その癖ちっとも気は抜けないし」
理樹「大変なんだね」
アヤ「そう。もうめちゃくちゃ大変よ!いい理樹君?本当の友人って言うのはね、お互いが気を使わないような…そう、ある意味相手のことを考えてないような存在のことを言うのよ!決して片っぽが言ったギャグを必ず笑うようではまだまだダメなんだからっ」
理樹「そっか」
理樹(それにしてもこのアヤの制服の校章…全然ここらじゃ見かけないな。どこか遠い所から来たのか?)
アヤ「ん?………う、うわっ!理樹君のエッチ!さっきからずっもボーッとしてると思ったらあなたおっぱい見てたわねぇ!?このムッツリスケベ!」
理樹(何故か急にアヤが騒ぎ出した)
理樹「えっ?」
アヤ「エッチ馬鹿変態!信じらんない!」
理樹「い、いったいなんの話?」
アヤ「えっ?」
理樹「僕、紋章を見てたんだ。ここらじゃ珍しいからね。どの辺りの高校なの?」
アヤ「…………う……うぁ…っ」
理樹(そして一瞬黙ったかと思うと口をわなわなと震わせた)
理樹「うあ?」
アヤ「うぁぁああーーっ!!」
アヤ「え、ええそうよ!私の恥ずかしい勘違いよ!自意識過剰よ!理樹君がずっと真剣な顔してこちらを見てるから私てっきり自分が性的な目でみられていると勘違いしてたのよ!笑いたければ笑うがいいわ!笑いなさいよ、あーっはっはっは!ってね!」
アヤ「あーっはっはっは!」
理樹「なっ…………」
理樹(こ、ここまで似ているとは……)
理樹「別に今のも言わなきゃ気付かなかったけどね…」
アヤ「じ、自爆した!?……ごほん!ま、まあ、理樹君が知らないのも仕方がないわ。私達の高校は本来逆方向なんだけど私が遊びたいと言ったからここまで来ただけなんだもの」
理樹「そうなんだ。…というかさっきのあの人達は放っておいて大丈夫なのかな……」
アヤ「どうせ勝手についてきただけなんだし気にしなくていいわよ」
理樹(なんとも人使いの荒い人だ)
映画館
理樹(そして成り行きで映画にも見に行くことになった。確かに時間は余りまくってるこれじゃまるでデートというか……)
アヤ「ねえ、こっち見ましょ!」
理樹「あ…うん」
スクリーン内
『あなたに恋してればよかった』
『まあ 物事は成り行きだからね』
アヤ「うぅ……ひぐっ……!」
理樹「……………………………」
理樹(映画館は貸切状態だった。僕とアヤだけがスクリーンの光を眺めている。アヤは、泣いている姿を僕に見られても平気なのか。はたまたそんな余裕すらないのか……とにかくいい映画だ)
アヤ「ぐすん……………」
理樹(それにしても本当に似ている…ただ沙耶が別の制服を借りて髪型を変えたかのようだ。なんの因果か僕はそんな彼女の隣にいる)
理樹(…………………………)
アヤ「ううーん……疲れた!」
理樹(僕らが映画館を出るともう夕方になっていた。昼に比べて少し涼しい)
理樹「次はどこに行こうか?」
アヤ「………………………」
理樹「アヤ?」
理樹(アヤがじっと同じ所を凝視したまま動かない。その視線の先は今日行った先とはまた別のゲームセンターだった)
アヤ「アレ……欲しいわ」
理樹(そう言って指差したのはゲームセンターの外に置かれてある……UFOキャッチャーの中のぬいぐるみだった)
アヤ「あんっ!おしい!」
理樹「そ、そろそろ終わりにしなくちゃもうお金が…」
アヤ「ええい黙らっしゃい!」
理樹(今の時点でアヤのペンギンに対する消費は2野口を超えていた)
アヤ「後ちょっと…後ちょっとで……」
理樹「じゃあ僕も一回だけやらせてよ」
アヤ「えっ?ま、まあいいけど…」
理樹(最初から上手くやる自信はないが物は試しだ。確か沙耶はクレーンのアームで人形を押すようにして……)
ググ……
アヤ「あっ、あっ…!」
理樹(ぬいぐるみは良いところまで前進した。あと一回同じことをすれば陥落するだろう)
理樹「アヤ、やる?」
理樹(ここまでつぎ込んだんだし最後は自分の手で取りたいだろうと気を使ったが、アヤは首を横に振った)
アヤ「過程や方法はなんだっていいの。それに初対面の男の人からもらう最初のプレゼントがぬいぐるみって、なんだかロマンチックじゃない?」
理樹(と、そこまで言ってから慌てて訂正した)
アヤ「あっ、いや!別にこれからも何か貰おうってつもりとかじゃないしこのぬいぐるみだってあなたが欲しかったらもちろんあなたの物にしてもいいし!」
理樹「はははっ。僕にぬいぐるみ集めなんてキュートな趣味があると思う?」
アヤ「あなたもキュートだしその可能性は否定出来ないわね…」
理樹(出来ればそれは否定してほしい)
………………………………………
………………………
……
理樹(辺りが暗くなり始めた。もう夜の7時だ)
理樹「アヤ、今日はありがとう」
理樹(しばらくぬいぐるみに夢中になっていたアヤがこちらを向いた)
アヤ「えっ、もう帰るの?」
理樹「うん。夜ご飯まで帰ってこなかったらみんなが心配するだろうしね」
アヤ「そう……羨ましいわね。そういう人がいて」
理樹「アヤは?」
アヤ「親は遠い場所にいて今は一人暮らしよ」
理樹「悪いこと聞いたかな」
アヤ「いいえ。いるだけマシよ。月に一度は必ず会う時間を作ってくれるし……とても忙しいはずなのに」
理樹(それから気の利いた返事を返せずにいるとアヤが手を叩いていつもの笑顔に戻った)
アヤ「さて!去り際が湿っぽい話なのは後味が悪いわ!とにかくぬいぐるみもありがとう。これでも抱いて夜の寂しさを乗り切るわっ」
理樹「ぬいぐるみの冥利につきるね」
アヤ「それじゃね理樹君。私はついでに晩御飯も済ませるからここでお別れにしましょう」
理樹「うん。じゃあ、また」
理樹(彼女と別れるのはとてもおしかった。だけどそろそろ僕も戻らないと。非日常への逃避行はもう終わりだ)
理樹部屋
理樹「ただいま」
理樹(ドアを開けるといつもの4人が部屋にいた。そして一斉にこちらを向いた)
真人「り、理樹……」
謙吾「おい、恭介…」
恭介「分かってるっ」
理樹(コソコソと内緒話をしている。いったいなんだろう)
恭介「この度は誠に……」
「「「ごめんなさいでしたぁーーっっ!!」」」
理樹「……えっ?」
恭介「いつも無茶なことに付き合わせてごめんな…今度からはもっと安全な遊びにするからさ…」
謙吾「いつもツッコミ役をお前だけに任せて悪かった……これからは俺も出来る限り加勢する。だから許してくれ」
鈴「いつもモンペチ持たせてごめん。今度から半分は持つからな」
真人「いつもこの筋肉を見せつけて悪かった…今度からずっと長袖長ズボンでいるよ…」
理樹「………な、なんの話?」
恭介「えっ…いや、だから……なぁ?」
謙吾「ああ……ずっと気付けずにいて悪かった。まさかいつものようにストレスを抱いているとは……」
真人「この筋肉が理樹にとっては嫌味になっていたなんて……」
理樹「本当になんの話なのさ!?」
理樹(話を一から聞くと結構単純だった。ようは勘違いをしていたのだ)
理樹「ええーっと…つまり、僕がみんなからの期待やストレスで学校を出て行ったと思っていた……という事だよね?」
恭介「よ、よがっだぁぁあ……っ!!お、俺!てっきり理樹がもう俺たちに愛想を尽かしたのかとっ!!」
理樹(高校三年生がぼろ泣きしてる……)
謙吾「理樹がいなくなっても心配はない……なんて言える訳がないだろう!!ずっとずっと気にかかってたんだぞ!もう少しで警察に届けを出そうかと!」
理樹(過保護すぎる……)
真人「なんだよ…てっきり理樹が日々俺の筋肉を見せつけられて嫉妬したあまりに山籠もりの修行へ出たのかと……」
理樹(動機が真人すぎる……)
鈴「まーあたしはどうせ晩御飯には帰ってくると思ってたけどな」
理樹(これはこれでちょっと心配してほしい)
理樹「あれ?そう言えばテーブルに置手紙してなかったっけ?今日は出かけるって」
真人「えっ?……あっ、もしかしてコレか?」
理樹(といってゴミ箱からものすごくトンカツ臭のする紙を取り出した。……めちゃくちゃ茶色に染まっている)
真人「いやぁ、今朝に寝起きのエクササイザーでもとキャップ開けたらテーブルにぶちまけちまってよ!学校からのプリントだと思って適当にゴミ箱に捨てといたんだが……」
鈴「お前の所為か!!」
ドゴォッッ!!
理樹(鈴のローキックが炸裂した)
謙吾「というか学校のプリントだったとしても捨てるなっ!」
恭介「やれやれ、なんだか安心したら眠たくなってきたぜ……じゃ、解散」
理樹「あっ、待って恭介!」
恭介「ん?」
理樹「あ………いや…なんでも」
恭介「フッ…変な理樹だな」
理樹(沙耶にそっくりな女の子を見つけたって恭介に言ったところでどうしてもらいたいんだ僕は。一応今日の事は誤魔化しておいたけど僕の中で秘密にしておこう。そう、それがいい)
1週間後
朝
理樹(電話番号を聞いておけばよかったと今更後悔した。彼女とはもっと仲良くなれそうだったのに……)
理樹「……真人?」
真人「むにゃ………」
理樹「……………」
理樹(今日も雨か……よし)
アナウンス『○○駅、○○駅です』
理樹「仏の顔も三度まで……」
理樹(自分になんとかそう言い聞かせた。大丈夫。今度はドアにちゃんと『役所に用がある』と書いてきたから)
理樹「…………うーん」
理樹(かと言ってここに来たところでする事なんか思いつかない。ただ藁にすがる気持ちで来ただけだ。確かアヤと会ったのはこのあたりだったっけな……はは、馬鹿馬鹿しい)
「…………………あら、理樹君?」
理樹「……嘘だろ」
理樹(なんとその藁が僕を彼女の元まで連れて行ってくれた。今だけ聖書を買ってもいい気持ちになった)
アヤ「偶然ね。またサボり?」
理樹「あー……そんなところ」
理樹「アヤはどうしたの?」
アヤ「私も同じよ。安心なさい、今度は1人で来てるから」
理樹「ははは…こんなところ見られようものならなにされるか分かったもんじゃないね」
アヤ「根は良い奴らなんだけどね」
理樹(それから僕らはまた街を歩いた。カフェで近況を話し合ったり、デパートで買い物をしたり。とても楽しかった)
夕方
駅前
アヤ「………それじゃ、そろそろ帰らなきゃね。またその真人君や謙吾君達が待ってるんでしょう?」
理樹「ドアにまで何かをこぼさない限りはね」
アヤ「ふふふっ」
理樹「それじゃまたねアヤ。今度会う時はメールか電話を寄越してよ」
アヤ「うん。絶対連絡するわ」
理樹「……………………」
アヤ「……………………」
理樹(そう別れの言葉を言ったものの、直ぐに離れたくはなかった。……そしてそれは彼女も同じようだった)
理樹「アヤ………」
アヤ「理樹君っ」
理樹(そして、ずっと見つめているうちに居てもたってもいられなくなり、お互いに身体を寄せ合った。そしてキスをした)
アヤ「……………私達、付き合ってるのかしら?」
理樹「僕はそうであってほしいな」
アヤ「私も」
理樹(人目も気にせず、しばらく抱きしめてから身体を離した。でも、いつかはこうなってしまうんじゃないかと思っていた。予感はあったんだ)
後日
恭介部屋
理樹「恭介に報告しておきたいことがあるんだ」
恭介「急に改まってどうした。彼女が出来たとかか?」
理樹「えっ」
恭介「えっ」
恭介「ま、まさか……本当に?」
理樹「う、うん……」
恭介「よっしゃぁ!今日は赤飯だなっ!!それで相手は!?」
理樹「恭介の知らない人だと思う」
恭介「なに、他校の……ってことか?」
理樹「そうなんだ。でも、一応報告だけしておこうかと」
恭介「………そうか。ま、なんであれ俺はその子が変な宗教にハマってない限り応援するぜ。末長くな」
理樹「ありがとう恭介。そう言ってくれると嬉しいよ」
恭介「ああ。ところで写真とかはあるか?」
理樹「!」
理樹(ここがずっと気になっていた所だった。恐る恐るポケットの2人で撮ったプリクラを差し出す)
理樹「これなんだけど……」
恭介「……………!」
理樹(少しの沈黙があったあと、恭介から口を開いた)
恭介「一応聞いておくが本人ではないな?」
理樹「うん。偶然会ったんだ」
恭介「そうか……理樹。”その子”のことが好きなんだな?」
理樹「うん」
恭介「……分かった。それじゃ特に俺も反対はない」
理樹「うん……」
恭介「ただ…その子を人形と勘違いするなよ」
理樹「ど、どういう意味?」
恭介「分からなくていい。………またな理樹」
理樹「うん。またね恭介」
おやすみ
日曜日
夜
駅前
アヤ「今日は色々と面白い話が聞けたわ。はあ、私もそのリトルバスターズってのに入りたかったなー!住む土地を間違えたかしら」
理樹「全寮制だからいっその事、アヤも学校に転校しなよ」
アヤ「今の時期に?アハハッ!それじゃ待たね!」
理樹「うん。また…」
理樹「……………………」
理樹(それからアヤの姿が駅から消えて、僕はようやくそれまでずっと頭の端でモヤモヤしていた違和感について考えることにした)
理樹(なにかおかしい。アヤとずっと一緒にいる間ずっとその感覚はついて回った)
理樹(別にアヤのこれまでが最初と変わった訳でも、僕に体調面で変化はあったとは思えない。ただ、その違和感は溯ろうと思えば最初の最初まで遡れるような……アヤと会った時から、”それ”は初めからあった?)
理樹(その正体が分かったのは次にアヤと会った時だった)
喫茶店
アヤ「どう?」
理樹「……最高だ」
理樹(しばらく唾を飲み込む余裕がなかった。今のアヤはほとんど沙耶のような魅力を秘めていた)
アヤ「ふふっ、大袈裟すぎよ。でもありがと」
アヤ「それにしても理樹君って案外ヘアスタイルのセンスがあったのね。メールで急に明日はこの髪型にしてきてって来たもんだからどうしたものかと思ったけど」
理樹「友達が女性の髪型についての記事を見つけたんだ。アヤも気分転換になるかなって思ってさ」
アヤ「確かに今までは悩まなくて済むって理由で後ろで括ってるだけだったけどたまにはこんなのも良いわね。明日の学校のみんなの反応が楽しみだわ」
理樹(実際苦労したものだ。思い出だけで髪型を再現するなんてとてもじゃないが僕には出来ない。ただ、葉留佳さんに特徴を言うと非常にそれに近いものを探し当ててくれたのが幸いだった)
理樹(しかし、まだあと少し何かが足りない)
アクセサリーショップ
店員「こちらはなどはいかがでしょうか?」
アヤ「あっ、それいいかも!」
理樹「うーん…これもちょっと違うな……」
アヤ「ええーっ。気に入ったのに!」
理樹「アヤにはもっと似合うものがあるよ」
アヤ「うーん……ねえ理樹君、これで3軒目よ?今日ずっと私の髪飾りを探してるわ」
理樹「他の物はないですか?」
アヤ「はーあ。女性の買い物に親切なのはいいけど、私は彼氏とのおしゃべりも楽しみたいんだけどなぁー?」
店員「こちらなんかはどうでしょう?」
理樹「そうだな、これのもう少し先が細くてヒラヒラしたものはありますか?」
アヤ「……ふーんだ」
店員「明確なイメージがあるんですね。分かりました。少々お待ちください」
店員「お待たせしました。これはどうでしょう?少し古い物ですが…」
理樹(!)
理樹「これの白色はありますか?」
店員「はい。ありますよ」
理樹「じゃあそれをお願いします。あとそこの黒い奴も」
店員「分かりました。ではレジにてお待ちください」
アヤ「ふーん。こんなのがいいの?」
理樹「アヤは嫌?」
アヤ「あなたが選ぶものなら余程のものじゃない限りノーとは言えないわ。それに彼女が着飾るのは彼氏に良く魅せる為なんだしね」
理樹「それを聞いて安心したよ」
店員「お待たせしました。お包みしましょうか?」
理樹「いや、この場で着けてもらいます」
アヤ「がっつくわね!」
理樹「僕が着けてあげるよ。君にはそのゴムは似合わない」
アヤ「あー!言ったわね!これだってお気に入りなのに!」
理樹「ハハハッ!ごめん沙耶」
アヤ「………えっ?」
理樹「なに?」
アヤ「あ……いや、なんでもないわ。多分聞き間違い」
理樹「そっか。……これでよし、更に可愛くなったよアヤ」
アヤ「………うん」
理樹(店を出るともう空が赤かった。時の流れは速い)
アヤ「さーて!誰かさんのお陰で凄くお腹空いたわ!ご飯食べに行きましょっ」
理樹「……いや、今日はもう帰らなきゃならないんだ」
アヤ「………はぁーーっ!?」
理樹「今日中に学校で手続きしなきゃいけないんだ。ごめん」
アヤ「あ、あなたねぇ……!本当に申し訳ないって思ってるの!?ずーっとずーっと私か理樹君のか分からないような買い物に付き合ったのにっ」
理樹(アヤがわなわなと拳を震わせた。まずい)
理樹「本当にごめん!埋め合わせはまた今度するからさ。ほら、前に行列が出来るケーキ屋さんに行きたいって言ってたでしょ?そこのメニューなんでも奢るよ」
アヤ「知らないわよ!ふんっだ!」
理樹「困ったな。そんなこと言わずに…」
アヤ「早く行きなさいよ。急ぎの用なんでしょ?」
理樹「う、うん…」
理樹(流石に怒らせちゃったかな。でも、出来るだけ早くやらなきゃ次のデートに間に合わないだろうし仕方がない。あとはケーキでどこまで機嫌が直るかだ)
夜
来ヶ谷『なに、制服を?』
理樹「うん。来ヶ谷さん名義でなんとか出来ないかな?」
来ヶ谷『別に構わないが……何に使うんだ?とうとう理樹君もそっちに目覚めたか?』
理樹「僕用じゃないよっ!」
来ヶ谷『はっはっはっ!まあ、いいだろう。サイズは?』
理樹「身長は155くらいでスリーサイズは多分来ヶ谷さんくらいかな?」
来ヶ谷『随分とスタイルが良いんだな。了解した。出来るだけ早く用意するが一週間はかかるぞ』
理樹「十分だよ。あとでお金は渡すね」
来ヶ谷『うむ。何を始める気かは知らんが犯罪は犯すなよ』
理樹「おやすみ」
ピッ
理樹(これで密かに貯めていたお小遣いもごっそり減ってしまった。しかし、それに見合うだけの価値はあるだろう。きっとアヤも喜んでくれるはずだ)
日曜日
ケーキ屋
アヤ「凄い行列ね…こんな所がこの街にもあったなんて」
理樹「友達に詳しい人がいてね。すんなり入れる時間帯があるらしいんだ」
アヤ「あなたって割と人脈広いのね」
理樹「付き合ってる人たちが各方面に特化しすぎてるだけだよ」
店員「お待たせしました」
理樹(コーヒーに、マロンケーキとイチゴがたくさん載ったパフェが運ばれてきた。とても甘い匂いがする)
アヤ「こ、これでこの間のはチャラにしてあげるわ……」
理樹「よだれが垂れてるよ」
アヤ「えっ、嘘!」
理樹「ふふふ…」
アヤ「あー!もう!」
理樹(幸せだ。好きな人と何も悩むこともなく一緒にいれるなんて。僕はきっと今日本で一番恵まれている男だろう)
………………………………………
………………………
……
理樹「満足した?」
アヤ「まあね。そろそろ出ないと並んでいる人に悪いわ。熱中症になられたらせっかく甘い物食べた後でも後味が悪いもの」
理樹「そうだ。店を出る前にアヤに渡したいものがあるんだ」
アヤ「さっきからずっと持ってるその紙袋のこと?」
理樹「うん」
アヤ「あ、あんまり高いものはやめてよ?なんだかプレゼントばかり貰ってたら私が嫌な女みたいじゃない」
理樹「きっと気に入ると思う」
理樹(そう言って僕は紙袋の中身を取り出してアヤに見せた)
アヤ「……これって制服…?」
理樹「うん、僕らの学校の物だ。サイズはアヤに合わせたよ。目分量だから少し合わなかったらまた仕立て直すけど」
アヤ「…………………」
理樹「アヤ?」
アヤ「理樹君……その、昔の彼女は……沙耶さんはあなたと同じ学校だったの?」
理樹「そうだよ。それが?」
アヤ「……っ!」
パシンッ
理樹(乾いた音が響いた。突然のことだったのでまったく受け身すら取れなくて、無様にバランスを崩して転がり落ちた)
理樹「ア、アヤ…?」
理樹(頬がヒリヒリする。周りの人達は固まったまま僕らの方を向いていた。しかし、アヤはそんなこと気にもとめていない様子だった)
アヤ「ふざけないで……た、確かに変だなとは思っていたのよ…あなたが髪飾りや髪型にこだわるような人とは思わなかったもの……!」
理樹(アヤは目に小さな涙を浮かべていた。僕はどうしていいのか分からなかった。何故彼女は怒っているんだろう)
理樹「アヤ……」
アヤ「違うんでしょ!?あなたが呼びたい名前はアヤじゃない!沙耶よ!」
理樹「!!」
アヤ「沙耶の写真があったら見てみたいわ!そりゃ今の私と瓜二つなんでしょうね?『服装』以外は」
理樹「あ……あ……」
アヤ「聞き間違いじゃなかったのね……あの時、髪飾りを付けた時、私を沙耶と間違えて呼んだの…あなた気付かなかった?」
理樹「………………」
アヤ「あなたにはまだ彼女のことが頭から離れ切っていない。いいえ、私を彼女と思い込んでいるのよ!」
アヤ「私はあなたの人形じゃないわ」
理樹(その言葉を聞いた瞬間、恭介のいつかの忠告を思い出した。そして今、その意味がやっと分かった。きっと恭介はこの意味を僕に理解してほしくなかったはずだ)
理樹「僕は……僕は……!」
アヤ「…………………………」
理樹部屋
理樹「………………………」
理樹(気付いたら僕は自分の部屋に戻っていた。帰ってくるまでの記憶がない。きっとこれからも似たような日が続くかもしれない)
理樹(携帯を開いてもアヤからのメールは届いていない。当たり前だ)
ガチャッ
真人「ただいまー……おっ、珍しいな理樹。今日は日曜日なのにえらく早いじゃねえか」
理樹「真人…………」
真人「最近ずっとつれねえからなぁ!とりあえず飯食いに行こうぜ!」
理樹「………………………」
真人「………………………」
真人「……なんか買ってくるよ。とりあえず腹になんか入れなきゃな」
理樹「ありがとう」
真人「いいって事よ。さーて今日は久々に謙吾っちの部屋で寝ようかなーっと……」
理樹(真人が静かにドアを閉めた。僕はベッドに倒れて激しく後悔した。これまでの僕はあまりにも異常過ぎた)
理樹「アヤ……僕はなんてことを……」
理樹(今、彼女は泣いているんだろうか?それとも愛想尽きて友達に怒りをぶつけてる?どちらにしろ、もう二度と会うことはないかもしれない。二度と同じ問題は出ないであろう勉強代はとても高くついた)
続く
>>1作品で久々の長編シリアススレ期待
余談、この人の作品を一括して名前つけたい
コンコン
理樹「開いてるよ」
恭介「……真人からパンをもらってきたぜ。あいつはもう寝るから代わりに渡してくれってよ」
理樹「そう」
恭介「やれやれ、嫌な予感はしてたんだけどなぁ…」
理樹(恭介は怒る訳でもなく、ただ頭を掻いた。次に出す言葉を頭の中で探っているような顔だった)
理樹「恭介…」
恭介「大体の察しはつく」
理樹「最低な奴だよ。僕は」
恭介「今回だけだ。そう自分を蔑むな」
理樹「これから立ち直る自信がないよ」
恭介「ああ、それは腹が減ってるからそう思うだけだ。絶望した人間はみんな腹が減ってる」
理樹(恭介は僕にパンを投げて自分も椅子に座って食べだした)
恭介「ま、成るように成る。もし、もう一度その子と出会うような時は謝ればいい。中途半端にメールで伝えるよりそっちの方が良いぜ」
理樹「……次があればね」
恭介「黙って食えよ」
理樹(恭介の言う通り、あれからお腹いっぱいになる度に少しずつ気持ちは紛れていった。もちろん元気になった訳ではない)
朝
理樹「…………」
理樹(部屋の前でずっと悩んでいた。画面の上を見るに、かれこれ2時間ほど)
『アヤ、悪かった。もう二度とあんな真似はしない。直接謝らせてほしい。暇な日があればまた返信してくれないかな?』
理樹(メールの文はもう出来ている。あとはこの中央のボタンを押すだけだ。しかし、それにはとても覚悟が必要だった。もしも返ってこなかったらどうする)
理樹「……今はやめよう」
理樹(朝のローテンションで送ってもダメだ。きっとアヤは朝からこんな話をしたくないはずだ。夜に送ろう。その方がきっと……)
ピロンッ
理樹「!」
理樹(メールが届いた。何故か送り主は確信を持てた)
『今日、もしもあなたにその気があるのなら、私達が最初に会った喫茶店で会いましょう』
理樹「……………」
喫茶店
理樹(喫茶店にはまだアヤは来ていなかった。他に客は1人もいない。席の指定はなかったので一番見やすい場所を選んだ)
理樹「……………………」
「……………………」
理樹「……………!」
理樹(もし、彼女に最初から来る気がなくても夜まで待つつもりだった。しかし、彼女は来た。僕の贈り物を身に纏って)
アヤ「……来てくれたのね」
理樹「アヤ」
理樹(彼女は、正真正銘の沙耶となってしまっていた。きっと彼女を知る恭介が見ても頷いたに違いない。それは生き写しだった。涙を浮かべてあることを除けば)
アヤ「や、やっぱりあなたの事、どうしても忘れられない……」
アヤ「い……いけないって分かっててもあなたが好きなの……っ!」
理樹「アヤ!バカなことを……!」
理樹(思わず叫んでしまった。そして後ろへ回り、彼女のしている髪飾りを解き、抱きしめた)
理樹「こんな物、君には似合わないよ……後ろで括っているだけの方が何倍も魅力的さ」
アヤ「……うんっ…」
理樹(とても静かに泣くアヤに手櫛で髪を整えた。髪が解かれた瞬間は好きだけど、ボサボサのままじゃ他の人に格好がつかない。僕のアヤにそんな思いはさせたくない)
理樹「本当に悪かった……ごめんアヤ」
アヤ「いいのよ。理樹君」
理樹(店員は来なかった。幸い誰も店に来ていない。次に来客のベルが鳴るまで、僕らはずっとそうしたままでいた)
…………………………………………………………
…………………………………
……
理樹「ずっと話してなかったね沙耶……実はアヤの事だけど、また付き合うことにしたよ。今度は本当の意味で彼女が好きだ」
理樹「ずっと続けていきたい。だから、沙耶には伝えておこうと思って……」
理樹「だから、ええと…凄く言いにくいけど……浮気するよ。ごめん」
理樹「……君とはずっと一緒だ。心の中で」
理樹(焼却炉の前で僕は目の前の一斗缶に火をつけた。中の布や服が達がぼうっと燃えていく。どれも僕の弱かった心を象徴するもの達だ)
理樹「…………………」
理樹「………」
理樹(火が燃え尽きてしばらくすると、パラパラと雨が降ってきた)
理樹(まだ、ほとんどの人が起きていない月曜日の朝。どんよりとした雲が空を憂鬱な色に染めげている。こんな日が来るたびに、学校をサボりたく瞬間は訪れるのだ)
終わり
みんな応援ありがとう
また何か思いついたらここに次回作のタイトルを書きに来る
>>43
好きに呼んでくれたまえ
>>50
どれも最高のssだが、この辺りなんかどうだ(∵)
佳奈多「今日こんなことがあったのよ」理樹「ふーん」
恭介「そうだな。猥談をしよう」理樹「ええっ?」
恭介『理樹、今会ってるそいつは俺じゃない。今すぐ離れろ』理樹「えっ?」
恭介「なあ、このパンの袋を挟むアレを有効活用する方法を考えてくれ」理樹「えっ?」
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