理樹「杉並さんと付き合ったら皆から襲われた」 (101)

放課後

教室

理樹「…………………」

理樹(下駄箱には『放課後、教室に来てほしい』と、杉並さんからの手紙が入っていた。僕だってそこまで鈍感じゃない。もしも勘違いなら恥ずかしいだけで終わるけど、もし想像通りなら……)

ガラッ

理樹「!」

杉並「あっ……」

理樹「す、杉並さん……」

杉並「えと……その……」

理樹「ご、ごほん!……や、約束通り……」

杉並「あっ、うん………」

理樹「……………」

杉並「……………」

理樹(お互いに何も喋らない。そのため外のソフトボール部の声がよく聞こえた。とても気まずい)

理樹「杉並さん……あの手紙はどういう意味かな…?」

理樹(言った!)

杉並「……えっ?」

理樹(しかし、その勇気とは裏腹に本人の反応は妙だった)

理樹「えっ?」

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理樹「あー……つまり友達がイタズラで両方に呼び出しの手紙を?」

杉並「多分……」

理樹「み、見事に騙されたよ……てっきりそういう事かと……」

理樹(ある意味勘違いではなかったが、とても恥ずかしい)

理樹「じゃあまた明日……」

杉並「あ…合ってるから!」

理樹「えっ?」

杉並「………好きなのは……本当だから……」

杉並「私は直枝くんの事が好きだから……」

理樹「!!」

理樹(とても消え入るような声でそう続ける杉並さん。自分のスカートをクシャクシャになるくらい握っていた。顔も俯いていてどんな表情か分からない)

理樹「そ、そ、そ、それは……」

杉並「……………………」

理樹(もうそれ以上なにも喋ってくれなかった。ずっとそこに立って僕の返事を待っている)

理樹「……………っ」

理樹(正直に言うと、これまで杉並さんの事はあまり意識したことはなかった。でも、こうなってしまっては……)

理樹「あ………」

杉並「……!」

理樹(僕が一言話すだけでピクッと肩を震わせた。彼女は待っているんだ。こんな状態でとても返事を待たせるわけにはいかない。今、ここで決断しなくては!)

理樹「…………………」

理樹「…………………」

理樹「……ぼ、僕でよければ!お願いします!」

杉並「!!」

理樹(その時の杉並さんの表情はもう忘れられそうにない)

理樹(2人で一緒に教室を出た瞬間、廊下の奥の方から足音が聞こえた。多分さっき言ってた杉並さんの友達なんだろう)

杉並「な、直枝さん。連絡先、交換しませんか?」

理樹「あっ!うん!そうだね!」

理樹(さっきからどうも声が裏返ってしまう。冷静になれ直枝理樹)



杉並「………………じゃあ今日はこれで!」

理樹(交換した後、素早く女子寮の方向へ走って行った杉並さん。とても可愛い)

理樹「………………」

理樹「…………僕が杉並さんと……かぁ」

理樹(未だに信じられない)



理樹部屋

理樹「………………」

真人「どうした理樹?帰ったからずっとそんな調子だな」

理樹「ああ、うん……」

ピロンッ

理樹「!」

理樹(携帯が鳴った。メールの主は……!)

理樹「杉並さん…!」

真人「は?杉並?」

『今日は色々とごめんなさい!でも、返事をくれてとても嬉しかった。直枝くん、他の人が好きなんだと思ってたから。こんなこと聞くのもおかしいけど、どうして私と付き合ってくれたのかな……(._.)』

理樹「お、おぉぉ……!」

理樹(可愛い!!可愛い過ぎるよ!!)

ジタバタ

真人「だ、大丈夫か理樹!?まるで釣り上げられた魚みたいになってるぞっ!」

理樹(キュンキュンする興奮を抑えてメールを打った。5回書き直した)

『僕も杉並さんが好きだと言ってくれてとても嬉しかったし、そう意識してしまったら僕も杉並さんの事を普通の目で見れなくなったから……とかかな』




ピロンッ

理樹(返事が来た)

理樹「ボドドドゥドオー」

真人「ヒィ!?い、今のはなんだ?なんて言った!?」

理樹「ごめん真人、つい興奮し過ぎて魂の叫びが」

真人「そ、そうか……」

理樹(気を取り直してメールを読む)

『嬉しいです!そう言ってくれると私も安心したよ。それとごめんなさい。気が動転してて自分でも何言ってるか分からないカモ……!』

理樹「僕もです!!」

真人「!?」

理樹(そんなこんなで至福のメール交換は深夜まで続いた。ここまでメール機能を発明した人に感謝するとは思わなかった。ありがとう!)



食堂

理樹「えへへ」

謙吾「おい真人。あれはなんだ」

真人「すまねえ、昨日帰ってからずっとあんな調子で全く分からねえんだ……」

謙吾「お前がそんなものでどうするんだ!」

真人「うっせえ!じゃあお前が理樹に直接聞けよ!」

鈴「どっちも朝からうるさいんじゃー!!」

ゲシッ

ゲシッ

謙吾・真人「「ご、ごめんなさい……」」

来ヶ谷「……にしても今の理樹君の幸せオーラは凄いな。本当に何があったんだ」

美魚「少なくとも放課後まではそんな様子もありませんでしたね」

小毬「とにかく嬉しい事があったのは良いことだよぉ~」

恭介「…………………」

昼休み

キーンコーン

先生「じゃあここ明日までに終わらせておくようにー」

生徒「起立!礼!」

ガヤガヤ

「腹減った~」

「今日は食堂で食べようぜー」

理樹(授業が終わり、ふと杉並さんの方を見るとあちらもこっちを見つめていた)

杉並「あ……ふふっ」

理樹「ふへへ」

理樹(思わず不自然な笑みがこぼれた。今のは気持ち悪くなかったかな?表情1つにここまで気を使うのは初めてだ)

真人「よっしゃ理樹!食堂行くか!」

理樹(5秒ほど見つめていると杉並さんの方が誰かに呼ばれてフッと目を逸らされた。でもあれは『また後で』って感じの目配せだった。そうに違いない)

真人「理樹?」

理樹(まだみんなに杉並さんの付き合ったことは言っていない。別にあえて言う必要もないけど。いや、それでも真人や恭介達くらいには報告しておいたほうがいいのかな?色々アドバイスも聴けるかもしれない)

真人「お、おーい!」

理樹(今度は僕からメールを送ろう。そして今週の日曜にデートへ誘ってみよう。そうだ、せっかく行くなら小毬さんにオススメの店を聞いてみよう。確か昼休みはずっと屋上にいたはずだ)

理樹「あ、ごめん真人。ちょっと今日は小毬さんの所に行くよ」

真人「あっ……はい……」

小毬「街でオススメのお店?」

理樹「大雑把でごめん。例えば小毬さんがよく行く店でもいいんだけど」

小毬「そうですねぇ…やっぱり私は駅前のクレープ屋さんかなぁ。日曜の昼によくワゴンで来るんだけどあれはベリーグッド!だよっ」

理樹「なるほど、駅前のクレープワゴン……」




理樹(小毬さんから発せられる店の情報を何も聞き漏らさないように全てメモした。これで杉並さんがもんじゃ焼きが食べたいとか言いださない限りデートコースは素晴らしいものになるはずだ)

小毬「それにしてもどうして急にこんなこと聞くの?理樹君も甘党にジョブチェンジ?」

理樹「いや、なんというか……ほら!女の子と出かけることになって」

小毬「ほ、本当に~!?理樹君モテモテだねぇ」

理樹「いやいやハハハ……」

放課後

理樹(全ての授業が終わるとすかさずメールで杉並さんに聞いた。まだまだ流石に他の人がいる前で直接は聞けない)

『日曜日、予定は空いてませんか?よければ僕と街でお茶でもしませんか』

ピロンッ

理樹(返事はすぐに帰ってきた)

『ぜひ!』



裏庭

理樹(その後、腑抜けた顔で意味もなく散歩していると恭介にばったり会った)

理樹「あっ、恭介」

理樹(恭介は大樹に身を任せたままこちらをジロリと見つめてきた)

恭介「理樹……話がある」

理樹「えっ!?」

理樹(神妙な顔つきの恭介。まさかもうバレたのか?いや、隠すつもりでもなかったけど)

恭介「………とりあえずお前もそこに座りな」

理樹(そう言ってそのまま芝生に腰掛ける恭介。僕も靴を脱いで隣に座る)

恭介「………もうだいたい何が言いたいかお前も分かっているとは思うが」

理樹「うん……」

恭介「ちょっと前に鈴が3年の男に告白された。良い奴なんだが、少し強引だったんで恋というものを知らない鈴は意味の分からないまま押し切られそうになっていた。だから俺から代わりに断っておいた」

理樹「う、うん……?」

理樹(凄く得意げに話す恭介。いや待て、ここから本来の話に繋がるんだろう)

恭介「理樹、お前もその様子だと誰かに告白されたんじゃないのか?」

理樹「あっ、や、やっぱり分かってた!?」

恭介「俺には全てお見通しさ。……ま、流石に理樹もそう簡単には落ち着けないよな」

理樹「えへへ……まあ」

恭介「………そして、それが二転三転して……あいつと付き合った訳だ」

理樹(二転三転?いや、別にしていないけど……まあ付き合ったのは本当だ)

理樹「ま、まあね……」

恭介「そんな事だと思っていたよ。そうとも、俺はずっとそうなったらいいなと思ってたんだ」

理樹「えっ、本当に!?」

理樹(恭介は杉並さんと付き合う事をそんなに前から想定していたのか!もはや未来予知の域だ……)

恭介「本当だ。だから別にお前は俺を気にする必要はない。俺はお前らのことを応援するぞ」

理樹「ん?」

理樹(気にする必要…………あ、ああ…杉並さんと付き合う事で恭介達と遊ぶ時間が減ると思っているのか)

理樹「大丈夫。恭介達も同じくらい大切に思ってるからさ。今度また直接紹介するよ」

恭介「ハッハッハッ!今更紹介もなにもないだろ!」

理樹「ん、んん?」

恭介「どうした?」

理樹「えっ、いや……別に」

理樹(まあ、なにはともあれ恭介のお墨付きだ。デートが上手くいったらリトルバスターズのみんなに紹介しよう。そしてもしも杉並さんがよければそのまま入団なんかしたりして……)

恭介「じゃ、お前と鈴の恋。しかと見届けるぞ」

理樹「…………は?」

恭介「ん?」

理樹「えっ?」

恭介「おっ?」

続く

恭介「えっと……えっ?」

理樹「いや、別に鈴とは………付き合ってないけど…」

恭介「……待ってくれ」

理樹「うん……」

恭介「えーと、1つ確認させてくれ」

理樹「はい」

恭介「理樹は付き合っては………いるよな?」

理樹「そうだね」

恭介「それが………鈴?」

理樹「違うよ」

恭介「…………………」

理樹「…………………」

恭介「な、なんだとぉおおおおお!?」

理樹「さっきから鈴がどうとか何の話をしてるのさ……」

恭介「いやっ、だって!ホラ、お前ら色々世界の秘密の為に動いて…そっから杉並に告白されて……!」

理樹「えっ!なんで恭介があの紙のことを知ってるの!?」

恭介「げ、ゲホンゲホン!そこは一旦置いておいてくれ!えっ、じゃあ理樹は………!?」

理樹「だからその杉並さんだよ。てっきり知ってるものかと思ったけど……」

恭介「つ、付き合っちまったのかあ!?くそっ、途中で帰っちまったから最後の所まで見てなかったぜ……」

理樹(ということは僕らが教室を出た後の足音って実は恭介のものだったのか?)

恭介「…………分かった。ちょっと部屋に帰る。理樹はここでぶらぶらしててくれ」

理樹「いやいやいや!さっきから凄く恭介に聴きたいことが増えたんだけど!?」

恭介「ええーいうるさい!俺だっていつも完璧な訳じゃないやい!」

理樹「ええ………」

「あっ、直枝くん……」

理樹(後ろから声がした。最近になって何度も頭の中で再生していた声だ)

理樹「す、杉並さん!?」

恭介「ナイスタイミングだ。それじゃあばよ!」

理樹(そう言って一目散に男子寮へ逃げていく恭介。止める暇もなかった)

理樹「ああ……行っちゃった」

杉並「あ、ごめんなさい。お邪魔だったかな、私…」

理樹「ぜ、全然そんなことないよ!」

杉並「そ、そう?なら良かった……」

理樹(こんな些細なことでも心底ホッとしたような顔になる杉並さん。月並みな表現だけどとても守ってあげたくなる気持ちになった)

理樹「杉並さん、日曜日の事なんだけどさ、どこか行きたい場所ってある?」

杉並「行きたい場所かぁ……あっ!べ、別に直枝君の好きなところで大丈夫だよ!どこでもついて行くから……」

理樹「僕の方こそどこでもいいんだ。せっかくのお出かけだし2人が楽しめる場所にしたいしね」

理樹(さりげなく『杉並さんとならどこでも楽しい』というアピールを含めたこの返事、我ながら完璧だ。それにたとえ杉並さんがどんな所に行きたいと言ったところで大抵のデートスポットとは既に抑えている!)

杉並「本当にいいの?」

理樹「うん!」

杉並「じゃあ……その…今まで女友達とだけじゃ行きづらかったから直枝君と……もんじゃ焼き……食べたいなって……」

理樹「もんじゃ焼きっ!!」

杉並「えっ!?」

理樹「あ、いや……」

理樹(まさか本当にもんじゃ焼きが来るとは……いや、別に全然問題はない!もんじゃ焼きは美味しいもんね。うん……)

杉並「もしかして嫌?」

理樹「全然全然!僕凄くもんじゃ焼き好きなんだよ!校内では『もんじゃ焼き全一の直枝』って呼ばれてるとか呼ばれてないとか!この町のもんじゃなら任せてよ!」

杉並「そ、そうなの?」

理樹(どうやら土曜日に町のもんじゃ焼きをハシゴするしかないようだ)

杉並「ところで直枝君、さっきの人追っかけなくていいの?」

理樹「ああ恭介のこと?いや、どうせ後でまた会うだろうしね」

理樹「それに今は杉並さんと一緒にいる時間の方が大切だよ」

杉並「~~~っ!」

タッタッタッ

理樹「えぇ!?」

理樹(彼女は僕の言葉を聞いてから数秒固まったかと思うと一目散に逃げ出した)

理樹「ど、どうしたの!?」

杉並「お、追いかけないで!」

理樹「いやいやいやっ」

理樹(普段のイメージとは似つかないほど素早いスピードで逃げ切ろうとする杉並さん。しかしまだ追いつける範囲だった)

理樹「待ってよっ!どうしたの急に!?」

理樹(なんとか肩を掴むと、そこが限界だったのか息を切らせて立ち止まった。しかし相変わらず顔は見せてくれない)

理樹「はぁ…はぁ……な、なんでいきなり逃げてったの?」

杉並「だ、だって……直枝君が急にあんなこと言うから、凄く恥ずかしくて……」

理樹「えっ、そこまでの事なんか言ったっけ……?」

杉並「言ったよっ。と、とにかく今は近付かないで…」

理樹「なんで?」

杉並「直枝君のせいで変な顔になってると思うから……」

理樹「変な顔…」

理樹(そんな事を言われてはとても気になってしまう)

理樹「ね、ちょっと見せてよ」

杉並「えっ……や……」

理樹「ちょっとだけだから!お願い!」

杉並「や、やだ…っ」

理樹(ガードが固いので右側から回り込んで見る振りをして素早く左側から顔を覗いた)

理樹「ふふっ、フェイントさ……」

杉並「へっ………ぁ」

理樹「あっ……」

理樹(杉並さんの顔はとても真っ赤だった。そして目の方は泣きそうなのに下は口角が上がりまくってて、かなり緩んでいる。この状況が無ければ嬉しいのか悲しいのか分からないくらいだった)

理樹「………ご、ごめんなさい」

杉並「ううん……大丈夫……」

理樹(こっちまで顔が赤くなってお互い顔を背けてしまった。今の顔は凄かった)

理樹「そ、それじゃあ……ま、また明後日、正午に校門で待ってて…!」

杉並「分かった……」

理樹(ぎこちない別れ方だった)

理樹部屋

理樹「ただいまー!」

理樹「………ってあれ?」

理樹(いつもならこの時間、背筋をしてるはずの真人がいない。ランニングか?)

ガチャッ

真人「………理樹か」

理樹「ああ、真人。どこに行ってたの?」

真人「いや……ちょっと呼ばれてよ」

理樹「ふーん!」

真人「テンション高いな」

理樹「えへへ……いやぁ、そう見える?」

真人「ま、なんでもいいけどよ。時間は少ないぜ、理樹」

理樹「?」

真人「いや、なんでもない。………それじゃ飯食いに行こうぜ!」

理樹「うん!」





……………………………………


…………………




理樹部屋

ベッド

理樹「…………………」

カチカチカチ

『そう。そこで恭介達と出会ったんだ。真人や謙吾も同じ幼馴染だよ』

ピロンッ

『羨ましい!私はもう小さい頃に遊んでた友達とは連絡取ってないし……』

カチカチカチ

『それなら今度杉並さんにも紹介するよ!みんな良い人だからきっと気に入ると思うな』

ピロンッ

『本当?でも私、人見知りだからちょっと緊張しちゃうな……』


カチカチカチ


ピロンッ


カチカチカチ





ピロンッ

『それじゃあ、そろそろお休みなさい。明後日が楽しみですっ』

理樹「………ふふっ」

真人「…………………」

早朝


「………き……ろっ……」


理樹「………………」


「り………きろっ……!」


理樹「ううん……」

真人「起きろ理樹っ!!」

理樹「うわっ!?」

真人「シャワーなんか浴びてる時間はないぞ!早く支度をしろ!」

理樹(朝、真人に激しく肩を揺らされて強引に起床した)

理樹「ど、どうしたの…!?」

真人「頼む理樹。今すぐここを出る準備をしてくれ」

理樹「で、出る?なんで……」

真人「後で説明する!だからまずは杉並に連絡して校門で待っててもらえ!お前も服を着替えて2人で学校を出るんだ!」

理樹(真人の表情は本当に今まで見たこともないほど鬼気迫っており、今はとにかく真人の言う通りにするしかなかった)

プルルル……

ガチャッ

杉並『な、直枝君?こんな朝早くにどうしたの?』

理樹「ごめん杉並さん。今から外出られる?」

杉並『えっ……?』

理樹「訳は今は言えない。でも出来れば早く校門に来てほしい」

杉並『わ、分かった!』

真人「よし。財布は持ったな?じゃあ出来る限り遠くに逃げてくれ電車でもタクシーでもなんでもいい」

理樹「うん!」

真人「必ず俺の方からお前に電話する。いいか、絶対に俺を含めたリトルバスターズの仲間には連絡するなよ!」

理樹「な、なんで真人は一緒に来ないの……?」

真人「悪りぃ、今回は無理なんだ……」

理樹(そう言って部屋の扉を閉める真人。心なしか力のない音だった)

校門

理樹(杉並さんは最初から早起きしていたからか既に校門で待っていた。こんな時じゃなければその私服姿をじっくり見ていたんだけど)

杉並「な、直枝君、さっきの電話ってどういうこと?」

理樹「まだ僕にも分からないんだ……」

杉並「えっ?」

理樹「走ろう。なにか……確実に良くないことが起きてる………!」





理樹部屋

ガチャッ

恭介「…………いないな」

真人「………ふあぁ……んんっ。なんだ、恭介、こんな朝早くから」

恭介「理樹はどうした」

真人「理樹?……あれ、いないな……」

恭介「いないじゃ困る。さっきメールを送っといただろ。理樹”達”のことについて」

真人「えっ、もう決まったのか?すまねえ、今の今まで寝てたもんでよ……」

恭介「お前がこんな時間まで寝てるなんて珍しいな」

真人「そりゃ昨日のことであんまり眠れなかったもんでな」

恭介「…………まあいい。お前も理樹を見つけたら連絡してくれ。このままどこにも見つからなかったら全員で探してみる」

真人「そうかい。……で、結局どうするんだって?」

恭介「やはり時間を無駄には出来ない。予定通り『やり直す』」

真人「………了解」

理樹「駅まで出来る限り急いでお願いしますっ!」

運転手「分かりました」

ブロロロ………

理樹(財布には真人から借りたのも合わせて2万ほど入っている。行こうと思えば県外にすら出られる)

杉並「………直枝君、どこまで行くの?」

理樹「それも分からない。ただ、遠くへって言われたんだ」

杉並「誰に?」

理樹「昨日話したルームメイトの真人がさ。とにかく必死に言ってきたんだ。2人で逃げるようにって。真人はこういうことでふざけたりしないからね」

理樹(自分でも人に聞かれたらバカなことを言ってると思う。だけど杉並さんはやがて決心したようにこう言った)

杉並「分かった。直枝君が信じる人なら私も信じる」

理樹「……ありがとう」

プルルル……

理樹「!」

理樹(真人からだ)

真人「理樹か……っ」

理樹「そうだよ。どうしたのっ」

真人「要点だけ話す。お前は今リトルバスターズの全員に狙われている。俺はもう恭介から怪しまれているからもう学校を出られない。そして今駅にたどり着いてなかったらもう諦めろ。既にメンバーの誰かが張り付いているはずだ」

理樹「いつまで逃げれば!?」

真人「逃げられる限りだな……俺も出来る限りお前らが逃げずに済むように頑張ってみるが……」

理樹「……じ、じゃあ最後に……僕らはなんで狙われているの?」

真人「それは…………」

真人「……それは、お前が『間違えた』からだ。これまでもそうしてきた。……でも、今回はそうだと思いたくない。つまり、何が言いたいかって言うと…………すまん、時間切れだ。もう俺から電話が来ても出ようとするなよ」

ブツッ

理樹「真人!」

運転手「着きました」

理樹「…………」

理樹(真人はいったいどうなったんだろう?誰かに見つかった?もしくは見つかりそうになったから切った?想像が嫌な方向に向かっていく。しかし、そうやって僕まで不安になれば隣にいる杉並さんまで怯えさせてしまうかもしれないので考えるのは止めにした)

理樹「それじゃ、これで…」

運転手「ちょうどお預かりします」

ガチャッ

杉並「このまま駅に行くの?」

理樹「うん……でも様子を見てくる。杉並さんはここで待っていて」

理樹(真人の言う通り、もし見張っている誰かがいたらもう使えない。僕だけならともかく杉並さんを連れて振りほどく自信はない)

杉並「……戻ってくる?」

理樹「もちろんだよ」

理樹(最悪、戻らなければ杉並さんだけでも逃げてもらうしかない。だけど……なんでリトルバスターズのみんなが僕ら2人を捕まえる理由があるんだ?)



理樹(駅の出入り口は2つある。もし誰か居たとして逃げるなら実質、元の道を引き返す1つのルートしかない。そこを塞がれては終わりだ。しかし、今の所人影はない)

理樹「………………」

理樹(行き交う人はサラリーマンや学生ばかり。だが、もしも誰かがいるなら改札に……!)

謙吾「………………」

理樹(いた。切符売り場に、いつもの服装の謙吾が)

謙吾「………………?」

理樹「ッ!」

理樹(動揺して動かないでいると、逆にそれが不自然だったのか謙吾の目に止まってしまったらしい)

謙吾「………………」

理樹(辛そうな目でこちらを見る謙吾)

理樹「謙吾………」

理樹(ゆっくり、ゆっくり近づいてみる。真人はああ言ったが、実際に謙吾が僕らを襲うなんて想像が出来ない)

理樹「………ど、どうしてそんな所にいるのさ……学校始まっちゃうよ?」

謙吾「………………」

理樹(謙吾はそこをピクリとも動かない。しかし、その代わりにポケットから携帯を取り出した)

理樹「だ、誰にかけようとしているの?」

謙吾「~~~~~~。」

謙吾「………………」

理樹(短い会話だった。携帯をしまうと今度は僕と同じペースで近づいてきた)

理樹「なんで黙ったままなのさ……謙吾……」

謙吾「………………」

理樹(まだこの距離なら謙吾でも撒ける。そのギリギリのラインで謙吾が口を開いた)

謙吾「俺だって……俺だって味方でいられたらどれほど良かったか……これはお前たちのためなんだ」

理樹(そして悟った。真人の言っていたことは全て本当だったことを。そして、謙吾はそれをわざと僕が逃げ切れる紙一重の距離で言ったことも)

理樹「くっ……!」

理樹(僕は全力で引き返した。謙吾が走って追いかけてくる音が聞こえる。長い付き合いだから分かる。どれが謙吾の足音なのかが)

理樹(何度か迂回して無事最終的に戻ってこれた)

理樹「ハァッ……ハァッ……!」

杉並「直枝君!」

理樹「ふぅ……ふぅ……う、後ろに誰か追いかけてくる人……いないよね……!」

杉並「う……うん、いないと思う……どうしたの…?」

理樹「ま、真人の言ったことは本当だった。逃げなくては!……みんなから襲われることになってしまった……」






理樹部屋

恭介「………そうか。分かった。みんなを向かわせる」

ピッ

真人「………………」

恭介「お前の気持ちも分かる。俺だって好きでこうする訳じゃない」

真人「ああ」

恭介「とにかく事態が落ち着くまでお前をこの部屋から出られないようにしておく。いいな?」

真人「ああ」

恭介「俺たちは無限にいられる訳じゃない。限界もあるんだ」

真人「………だからこそじゃねえのか?」

恭介「言わせるなよ。俺たちとは違うんだ、あいつは……」

続く



理樹(常識的に考えると次に向かうべきはタクシーだった。しかし、僕が考えられるということは他のみんなもそう思うはずだ。特に僕らを狙う中に恭介もいるということは、その裏をかかなくてはならない)

杉並「も、もう一度タクシー乗る?」

理樹「いや。もう既に謙吾が先回りしていたんだ、恐らく……っ!」

理樹(そう言い終わらないうちに葉留佳さんが人混みの中から姿を現した)

葉留佳「見つけたよ……」

理樹「うっ!」

杉並「こ、この人は?」

理樹(今は質問に答えている暇はない。杉並の手を握って反対方向へ走った。街の中心に行くことにはなるが謙吾も来るであろう方向を考えるとそれしかない)

葉留佳「待って!」

理樹「………」

理樹(昨日まで仲の良かった人を無視するのは心が痛む。しかし、今だけは……)

タッタッタッ

葉留佳「………………」

葉留佳「ズルいよ……」




杉並「今の人もリトルバスターズの……?」

理樹「うん……」

杉並「…………そう」

理樹(杉並さんは僕の心情を察したのか、何も言ってこなかった。とてもありがたかった)

理樹「……とりあえずどこか建物の中に避難しよう。このまま道を歩いてても出くわしたらアウトだ」

杉並「そ、それじゃあ映画館は?あそこなら出口が2個あるし…」

理樹「それだ!」

映画館

理樹「学生チケット2枚下さい」

理樹(ここなら例えここまで探されたとしてもいくつものフロアを探さなくてはならないし、上映中は暗くて見つかりにくい。とてもいい考えだった)

理樹「どれを観ようかな……」

杉並「そ、そんな選んでる場合じゃないよっ!」

理樹「ご、ごめん。どうせ隠れるならと思って…」






理樹(しかし、どのみち何を選んでいても一緒だった)

『俺は19の時ラオスで1km先の敵を倒した。一発で。それしか自慢することがない』

理樹「…………………」

杉並「…………………」

理樹(上映中、ずっと左右の出口を2人で見張ることになるのだから映画なんて観ている暇がなかった。せいぜい爆発音が出てきたから今観ているのはアクション映画だってことが分かるくらいだった)

理樹「今度は静かな映画を選ぼうか……」

杉並「う、うん………あっ!」

理樹(杉並さんが声を出した。幸いピストルを撃つシーンと重なったので僕以外には聴こえなかったようだ)

理樹「どうしたの…?」

杉並「か、神北さんが……」

理樹(視線を辿ると、確かにいた。右側からゆっくりと歩いて観客席に近づいてきた)

小毬「…………………………」

理樹「出よう……!」

理樹(ここまで上がってくる前に左側から出ようとした。しかし、その左側の出口からも人が現れた。来ヶ谷さんだ)

来ヶ谷「………………」

理樹(来ヶ谷さんはゆっくり歩いて、何段か上がるごとに小毬さんの方を見た。来ヶ谷さんを見た瞬間、小毬さんの方から強行突破しようとも考えたが、もし実行しようものなら小毬さんの様子を見た来ヶ谷さんが結局、出口に素早く戻って僕らをここへ締め出し、恭介や謙吾が来るまで待つだろう。つまり、小毬さんに見つかるような動きをした時点でゲームオーバーなのだ)

理樹「うぅ………」

杉並「ど、どうしよう……!」

理樹「動いちゃダメだ……変な動きを見せたらすぐに見つかる……っ」

理樹(とは言えここで手をこまねいていても時間の問題。かくなる上は!)

理樹「ごめんっ!」

杉並「えっ?」





小毬「うーんとここは……ひゃっ!?」

「…………」

「~~~!!」

小毬「は、初めて見た……ほ、本当に映画館で………し、してる人……!」


理樹「…………」

杉並「~~~!!」

理樹(とても杉並さんの顔が近い。髪の匂いまで分かる)

杉並「あっ……えと……あぅ……!」

理樹「黙ってて、しばらく動かないで」

理樹(僕の方だってめちゃくちゃ恥ずかしい。だけど、こうするしかない。こうやって杉並さんの身体を抱擁して、限りなくお互いの後頭部で顔を隠し合うしか自然と忍べる方法はない。まだ一度もやった事はないが左右の2人にちゃんとキスしているように見えるだろうか?)


小毬「な、なるべく見ないように……うん!ここもおっけーっ」

来ヶ谷「ふむ…………どうやらここもハズレだな」



…………………………………


…………………






『~~~~♪』

理樹「……………」

理樹(エンドロールの曲が流れた。チラリと顔を出すと、もう小毬さんの姿は見当たらない。きっと反対側もそうだろう)

理樹「ご、ごめん……もう大丈夫だよ…!」

杉並「…………」

理樹「す、杉並さん……?」

杉並「へ、変態!」

理樹「変態!?」

杉並「き、急にあんな…!!もう直枝君なんか嫌い!」

理樹「えっ………」

杉並「次勝手にあんなことしたらいくら直枝君でも別れ……」

理樹(なっ………えっ……)

理樹(……………)

理樹(……………)

理樹「………………グスッ」

杉並「!?」

杉並「な、なーんて!ウソウソ、嘘だよっ!」

理樹「ウグッ………んぐっ…本当…?」

杉並「うんうん!絶対大丈夫!」

理樹「よ、よかった……本当に……!」

杉並「ほっ……」

理樹(やがてスクリーンが明るくなり、清掃員が掃除をしに来たので否が応でも出ていかなくてはならなくなった)

受付前

理樹(この映画作戦はチケットを買うまでが最大の隙となっていた)

理樹「杉並さん、チケットを買ってくるから僕らの制服を着ている人がいたら誰であっても言ってね」

杉並「うん……」

受付「どれをご覧になりますか?」

理樹「そうだな………」

理樹(また観ている間はずっと映画以外のことに集中しなきゃ行けないのは分かっているけど、やっぱりここはラブロマンスで………)

杉並「……ねえ直枝君……さっき学生服って言ってたけど………白いマントは大丈夫?」

理樹「えっ?」

杉並「あ、あそこに能美さんが……隠れてるつもりなんだと思う」

クド「……………………」

理樹(いた。エレベーターの横の柱に頭とマントの端だけ見せてこちらの様子を伺っていた)

理樹「に、西口の方から逃げよう!」

クド「!!」

杉並「うん!」

クド「わ、わふー!?待ってくださーい!」









商店街

理樹「ハァ……ハァ……!」

杉並「つ、疲れた……」

理樹(ここまで走れば流石のクドも追ってこれないはず……)

美魚「なるほど……恭介さんの言った通りですね」

理樹「えっ!?」

理樹(魚屋さんの中から今度は西園さんが現れた)

理樹「な、なんで!?」

美魚「逃げても構いませんよ。その方が楽です」

理樹「クッ……!」

理樹(体力を消耗したせいで走るスピードはかなり遅くなったが、西園さんは追ってくる気配を見せなかった。『その方が楽』?どういう意味だ……)






噴水前

理樹(もはや杉並さんも僕もすっかり疲れ果てて、走るというより、早歩きになっていた)

理樹「も、もうお昼か……」

杉並「朝から何も食べてないな……」

理樹(ちょうどたい焼きの屋台が近くで店を構えていた)

理樹「じゃあ、あれ食べていこっか」

杉並「うんっ」


理樹(噴水広場のベンチで2人座って食べた。どうせ今見つかったところで50メートルも走れない。それにこんな所で堂々とたい焼きを頬張ってるとは恭介達も思うまい)

杉並「………こうしてるとデートみたいだね」

理樹(杉並さんが突然言った。僕はむせた)

理樹「ゴフッ!ゲホッ!」

杉並「大丈夫!?」

理樹「だ、大丈夫……確かに、デートだね…映画にも行ったし、こうして街を巡ってるもんね」

理樹(ただ、普通のデートならこうも周りの視線に怯えないだろうけど)

杉並「私、今こんな状況だけど色んな直枝君が見られて楽しいかも」

理樹「えっ?」

杉並「ううん、なんでも。明日はきっとゆっくり街を回れるといいね」

理樹「ああ、そうだね……」

理樹(そのためにも今はここを生き残ろう。ここの地理はそこまで詳しくない。どこか抜け道がないか携帯でマップを表示した)

理樹「ええと……今はここだから…………ん?」

理樹「あ………っ!!」

杉並「どうしたの?」

理樹(しまった。こういうことだったのか!)

理樹「杉並さん……今すぐここを離れないと!”ここ”だけはダメだ!」

杉並「えっ、どういうこと?」

「もう遅い!」

理樹「ハッ!?」

恭介「よく気付いた……だが、少し遅かったな」

理樹「恭介………」

理樹(前方から恭介が歩いてきた。急いで逃げようと立ち上がったが、斜め後ろからまた別の声が聞こえた)

謙吾「理樹、もう諦めろ……」

理樹「謙吾……っ」

理樹(となると最後に残された道は……)

来ヶ谷「……………………」

理樹「ううっ………」

杉並「な、直枝君………!」

恭介「そう。俺達は駅でお前を見つけた時点でお前を捕まえやすくするために、下手に不意打ちで捕らえようとせず、あえて姿を見せることでお前たちを中心へ、中心へと追い込んだ」

恭介「最初はタクシー乗り場、次に映画館、商店街、そして最後は街のど真ん中である噴水の公園に」

恭介「もちろんどれも本気で捕まえるつもりだったが、逃げ切られる可能性の方が高いからな……だがもう次はない」

理樹(まるでキツネ狩りだ。どこへ逃げるか分からないはずの僕たちに対して、恭介は街全体でそれをやったんだ)

理樹「き、恭介……」

恭介「……………」

理樹「い、イタズラか何かでしょ……?どうしてみんな僕らを追い詰めるのさ!」

恭介「…………………」

理樹(恭介は何も答えてくれない)

理樹「………これからどうするつもりなのさ」

恭介「………恨まないでくれ。全て忘れくれ。今回だけだ、こういうやり直しの仕方は…」

理樹(そう言って恭介は懐から、さっき映画で観たような銃を取り出した)

理樹「恭介………」

パンッ

理樹(軽く、響く音がした)

恭介「……偽物じゃない。少なくともこの世界にとっては」

杉並「えっ……」

理樹(血が滴った。……恭介の腕から。自分で自分の腕を撃ったのだ)

理樹「な、なんで……!?」

理樹(何故恭介は本物を持っている?何故恭介は自分を撃った!)

恭介「理樹が下手に満足しちゃ困るんだ。そのままお前がこの世界から出て行ってしまうかもしれない。実際、他の奴らも我慢してもらった。願いが叶ったらそこで切り上げてもらった」

理樹「なにを言ってるの?訳が分からないよ……」

恭介「分からなくてもいい。ただ、こっちには事情がある」

恭介「他のみんなは自分から終わらせられるからいい。しかし、杉並だけは違う」

恭介「俺たちとは違うんだ、杉並は……」

理樹「す、杉並さんが……違うって?」

杉並「…………………」

理樹(すると恭介の後ろから誰かが走ってきた。あれは真人だ)

真人「恭介!!」

恭介「………真人?どうやって出た」

鈴「なっ、き、恭介!腕から血が出てるぞ!怪我したのか!?」

恭介「なるほど、鈴がドアを開けたのか……」

真人「なあ、恭介。ワガママ言ってんのは分かってるんだけどよぉ……」

恭介「分かってるならやめてくれ。最初に決めただろ、最低限でいくって」

真人「でも………」

謙吾「真人。相手はNPCだ」

真人「ッ!」

理樹(さっきから何を話しているのかまったく分からない。急にみんなが、僕の知っている幼馴染が別人に変わったような……)

鈴「な、なにを言ってるんだお前ら……?」

理樹(それは鈴も同じようだった。だけど2人はまったく説明しようとはしない)

真人「じゃあ二木はどうなんだよ……」

恭介「それも昨日言ったはずだ。あいつは最後に自分で気付いて自分で終わらせた。それだけのことだ」

真人「じゃあ……じゃあ……」

恭介「真人……例えば明日のデートを許したとしよう。すると明後日も一緒にいたくなる。そして次は一週間、1ヶ月、一年と一度許せばどんどん止めづらくなる。だから今のうちに、まだ始まっていないうちに終わらせるしかない」

真人「……………」

謙吾「行こう真人。もうこんな事もすぐに全てが終わる」

来ヶ谷「…………鈴君。あっちへ行こう」

鈴「来ヶ谷!は、離せ!」

恭介「…………………」

理樹(鈴の前では隠していた”それ”を再び取り出した。恭介はとても辛そうな顔をしていた)

理樹「恭介………っ」

杉並「待ってください!」

杉並「わ……分かりました……」

恭介「………………」

理樹「す、杉並さん……?」

杉並「いいんです。私も、薄々おかしいなと思ってました」

杉並「直枝君との恋が実ったのも、全部夢だったんです……それも私じゃない、他のみんなの夢……私は夢の中の登場人物に過ぎない……」

理樹「な、なに言ってるんだよ……」

杉並「直枝君。別れましょう。直枝君にはもっと良い人がいるよ」

理樹「い、嫌だ………」

恭介「すまない………本当にすまない」

杉並「みんな……我慢したんだから…私だけがズル出来ないよ……」

理樹「なっ……!」

理樹(気付くと周りに白いモヤがかかっていた。空が、ビルが、噴水が。全てが無くなっていく)

理樹「杉並さん!」

杉並「っ!」

理樹(思わず彼女を抱きしめた。君はここからいなくなってしまう。そんなの嫌だ!)

杉並「ありがとう……でもいいの。直枝君の幸せが私の幸せだから。そしてあの人を恨まないで」

理樹「うぅ……っ!分かった、分かったよ!だから!」

杉並「ふふ……泣き虫ね……直枝君は…」

理樹「ああ……!!」

理樹(そしてあたりは真っ白になった)






………………………………………………………



……………………………






謙吾「恭介」

恭介「ああ、どうした謙吾?」

謙吾「あいつはこれからどうするつもりなんだ」

恭介「そうだな。今度はタイミングを間違えないよ。そして今回のことは二度と思い出せないほど忘れてもらう」

謙吾「ここに来る前からずっとあいつは理樹が好きだったんだな」

恭介「何が言いたい?」

謙吾「いや、なんでもない」





ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

教室

キーンコーン

生徒「起立、礼!」

真人「んがーーっ……」

理樹「もう起きなよ真人!学校終わったよ!」

真人「むにゃむにゃ………」

謙吾「そっとしておけ。昨日あんなにはしゃいだんだ、並大抵のことで起きるはずがない」

理樹「いや、まあ確かに………」

理樹(昨日、リトルバスターズのメンバーで行った2度目の修学旅行は最後まで騒ぎ倒した。特に真人はエネルギーが有り余っていたからか、帰り道の終盤には走りで僕らの乗る車と競争していたくらいだ)

鈴「いつまで寝とるんじゃボケーーッ!!」

ドゴォッ!

真人「ぐはぁ!?」

理樹(そこで鈴のハイキックがかまされた。並大抵の事ではない)

理樹「ほら行こう真人」

真人「ふあぁ……ああ。やっと疲れが取れたぜ……」






下駄箱

理樹(これからまた騒がしい日常が始まる。そんなことを考えながら靴箱を開けると、何かがそこから落ちた)

理樹「んん?なんだこの紙……」

真人「おっ、どうした?」

理樹(紙にはこう書かれていた)


『放課後、誰もいなくなった教室で待っています。杉並睦実』




終わり

い、一応ハッピーエンドを示唆したつもりだ…(∵)





理樹「あー……つまり友達がイタズラで両方に呼び出しの手紙を?」

杉並「多分……」

理樹「み、見事に騙されたよ……てっきりそういう事かと……」

理樹(やはり僕の気のせいだ。こんな事が人生でそう2度3度もあってたまるものか。ある意味勘違いではなかったが、とても恥ずかしい……)

理樹「じゃあまた明日……」

杉並「あ…合ってるから!」

理樹「えっ?」

杉並「………好きなのは……本当だから……」

杉並「私は直枝くんの事が好きだから……」

理樹「!!」

理樹(とても消え入るような声でそう続ける杉並さん。自分のスカートをクシャクシャになるくらい握っていた。顔も俯いていてどんな表情か分からない)

理樹「そ、そ、そ、それは……」

杉並「……………………」

理樹(もうそれ以上なにも喋ってくれなかった。ずっとそこに立って僕の返事を待っている)

理樹「……………っ」

理樹(正直に言うと、僕の方も修学旅行が終わってから何故か彼女の事を目線で追うようになっていた。しかし、それは僕にも何故かよく分からないものだった)

理樹「あ………」

杉並「……!」

理樹(僕が一言話すだけでピクッと肩を震わせた。彼女は待っているんだ。こんな状態でとても返事を待たせるわけにはいかない。今、ここで決断しなくては!きっと無意識に僕はこの事を予感していたのかもしれない。案外返事は簡単に出た)

理樹「ぼ、僕でよければ!お願いします!」

杉並「!!」

理樹(その時の杉並さんがどんな顔をするのか。何故か予測出来た)

誤爆……(∵)

理樹「ど、どうしちゃったのさ恭介!?そんなところに顔を埋めたら汚いよ!」

恭介「いや……我慢出来なくて……」

理樹「いつもは我慢してるの!?」

恭介「いや……なんというかだな……説明するのは非常に難しいんだが…」

理樹「えっ?」







……………………………………………


………………………




理樹(恭介の話を要約すると、あちらの世界でいた時に、一度だけ杉並さんと僕が付き合った事があったらしい。しかしそこはNPCとの恋。鈴と僕を成長させるための時間が惜しいので恭介達は逃げる僕らを追って無理やり別れさせたらしい。だから今回、本当の意味で付き合う事になった僕らにようやく謝る事が出来たという)

恭介「本当にごめんな……お前らには申し訳ない事をしたと思っている……」

理樹「い、いや、恭介たちを責めることは出来ないよ!好きでやった訳ではないのも分かるし、そうして厳しくしてくれなかったら僕たちはそもそもここにいなかったかもしれないから……」

恭介「り、理樹……!!」

理樹「それにこうしてまた杉並さんと……こ、恋が出来たんだから……気にする事ないよ!」

理樹(今更ながら大真面目に恋だなんて言うのはとても恥ずかしい)

ギャァア!!また誤爆!!ここで文書コピーするからついついやっちまう!!





理樹(……とりあえずどこか建物の中に避難しよう。このまま道を歩いてても出くわしたらアウトだ)

理樹「ねえ杉並さん。どこか行きたい場所はある?出来れば建物の中で、長時間居座れて、いざという時の脱出ルートがある所がいいんだけど」

杉並「す、凄く具体的だね……それじゃあ映画館は?あそこなら出口が2個あるし…」

理樹「それだ!」






映画館

理樹「学生チケット2枚下さい」

理樹(ここなら例えここまで探されたとしてもいくつものフロアを探さなくてはならないし、上映中は暗くて見つかりにくい。とてもいい考えだった)

理樹「どれを観ようかな……」

杉並「ううん……直枝君みたいのある?」

理樹「僕?そうだなぁ……」

理樹(今から上映する映画は3つあった。1つはアクション。これはデートには論外だ。2つ目はラブコメ。なんだか意識してるみたいで選びづらい。となると残るもうのは………)

理樹「じゃあこの『ムール貝の悪夢』で」

杉並「!?」

受付「かしこまりました」

杉並「な、な、直枝君……ホラー観るの?」

理樹「えっ?うん」

杉並「……あ………うん……ゎかった……」

理樹(心なしか元気が無さそうだった)

もういい。ここはメモ帳だ!

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