男「メイドロボを購入したぞ!」 (22)


男はメイドが大好きだった。


マンガやアニメに登場するメイドはもちろん、メイド喫茶にもしょっちゅう足を運んだ。

図書館でメイドの歴史についても学んだし、「ハンドメイド」「冥土」といった単語を聞くと、
すぐさま女性のメイドを連想してしまう。


「俺、金が貯まったら、絶対家でメイドさん雇うんだ」


この手の与太話を、彼の同僚はいったい何度聞かされたことか。


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そんな彼が、ある電機メーカーから発売されることになった「メイドロボ」に目をつけることは必然といえた。


なにしろこのメイドロボ、外見が可愛らしいのはもちろん、彼女が一台あれば家事全てをこなすことができ、
ガードマンとしても優秀という万能ぶりとのこと。

しかもとても頑丈で、自分で自分を点検するため、ほぼメンテナンスフリー。

金額は決して安くはないが、長い目で見れば人間のメイドを雇うよりもよっぽど安上がりになるという。


発売日の翌日には、男は鼻息を荒くして同僚にこう報告していた。


「メイドロボを購入したぞ!」


ところが、メイドロボを購入してからというもの、男は浮かぬ顔をしていることが多くなった。

心配になった同僚が、男に様子を尋ねる。


「よっ、メイドロボの調子はどうだい」

「ああ、順調だよ」

「そのわりに元気がないみたいだが。いつもあれだけ熱く語ってた、メイドが自宅にいる生活が
 やっと実現したってのに」


「実はあのメイドロボ、俺が思ってたのとちょっと違ったんだ」

「え、どういうこと? 実はそこまで家事がこなせないとか? すぐ故障しちゃったとか?」

「いや、そんなんじゃないんだけど……」

「じゃあビジュアルがあんまり好みじゃなかったとか?」

「そんなこともないんだけど……」


これ以上のことは話したくないのか、どうにも要領を得ない。同僚は話題の方向を切り替える。


「気に入らないんなら、返品しちゃえば?」

「いや、あのメイドロボは明らかにメーカー側の過失による故障やトラブルが起きなきゃ、
 返品できないって契約だからそれはできない。でもまあ、すぐに慣れると思うよ」


一ヶ月も経つと、たしかに男の顔から憂鬱さがなくなっていた。
メイドロボの「思ってたのと違う点」に慣れてきたためかもしれない。

実はメイドロボがどんなものか一度見てみたかった同僚は、男にこう切り出した。


「お前んちのメイドロボ、よかったら一度見せてくれよ」

「いいとも。じゃあ今夜、俺の家に寄ってってくれ」


男は同僚を引き連れ、自分のマンションに帰宅する。

ドアを開けると、


「お帰りなさいませ、ご主人様。いらっしゃいませ、お客様」


メイド服を着た可愛らしいロボットが出迎えてくれた。

感心のあまり、同僚の口から思わずため息が漏れた。


メイドロボの仕草、肌や髪の質感、愛らしさ、どれをとってもとてもロボットとは思えない。
まるで人間、いや人間以上。

これなら仮にこのメイドロボが全くの役立たずだったとしても、
観賞用とするだけでも十分価値があるのでは、と同僚が考えるほどだった。

さっそく男がメイドロボに命じる。


「コーヒーを入れてくれないか。インスタントでかまわないから」

「かしこまりました、ご主人様」


リビングのソファに座る男と同僚。

メイドロボは彼らの横にあるテーブルにコーヒーカップを用意し始めた。


「なんだよ、どんなのが飛び出てくるかと思ったら、いいロボットじゃないか。
 俺も一台……いや失礼、一人欲しいかも、と思っちゃったよ」

「うん、慣れたらどうってことなかったよ」

「慣れたら、か……。いったいなんの問題があるってんだ」


同僚はこの直後、「慣れたら」の意味に気づくこととなる。


メイドロボはインスタントコーヒーの豆を二つのカップに入れると、鼻の穴から熱湯を出し、
それをカップにダイレクトに注ぐ。


「え!?」

「…………」

「どうぞ、コーヒーです」


メイドロボはそれをそのまま差し出してきた。


「……これ、飲むかい?」

「あ、いや、その……」

「分かってるよ。大丈夫、俺が二杯飲むから。今、他の飲み物持ってくる」

「ご、ごめん」

「いいんだよ。彼女はたえず自己洗浄を行ってるから衛生面では全く問題ないとはいえ、
 慣れるまでは俺もきつかったから」


男は続ける。


「ちなみに彼女、掃除する時は口からゴミを吸うし、料理する時は両手が調理器具になって、頭がコンロになる。
 右耳はエアコンになってて、左耳から冷たい水が出る。お腹は洗濯機に変形する。
 他にもまだまだ色んな機能があるよ」


同僚はこれらの光景を想像し苦笑いしつつも、どこか納得した表情を見せた。


「よくよく考えてみたら、一台あれば家事を全てまかなえるロボットってのがあるとしたら、
 このメイドロボみたいになるのが当然なのかもしれないな」





<終わり>

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