■プロローグ
「え? あの禁呪が知りたいんですか?」
「はい! その禁呪を使えば私は一生爆裂魔法を撃つことができるのです!」
「でも、あれは……」
「お願いします! こんな事を頼めるのはウィズしかいないんですよ!」
ウィズが困ったように言う。
「めぐみんさん……。そういう問題ではありませんよ。あの禁呪なら確かに一生毎日爆裂魔法を使えると思います。でも、それは辛い人生の始まりでもあるんですよ」
わかっている、あの禁呪を使うという事がどういう事なのか。
たぶん大変かもしれない。
たぶん苦しいのかもしれない。
たぶん泣きたくなる日が来るかもしれない。
たぶん……もしかしたら、後悔する日が来るのかもしれない。
それでも私は------爆裂魔法を一生撃ちたいのだ。
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「お願いします! 土下座でも何でもしますから!」
床は汚いので机の上で土下座をしようと準備していると、仮面の男……バニルが現れ、ウィズがバニルに助けを求める。
「バニルさんからも言ってやってください。どんなに大変な事かを」
「よいではないか。そこまで言うのなら、そこの脳みそ爆裂娘に教えてやるといい。才能があればなれるであろうし、なれなければそれまでという事だ」
「なっ」
ウィズが固まってしまった。
まさかバニルが私の味方をするとは思っていなかったのだろう。
そんなウィズをおいて置いて、バニルは真面目な声で私に語り掛けてくる。
「ネタ種族からさえもネタ魔法使いと言われる娘。汝に問う----」
「もうわかりましたから、長いセリフはやめてください。なんでもしますから早く教えてください!」
「……そ、そうか」
「バニルさんバニルさん、珍しいですね。バニルさんが飽きれたような顔をしていますよ」
「我輩を呆れさせる事に関してだけはアクセル随一店主よ、変な事で喜ぶでない」
「え!? バニルさんが私を褒めた!? アクセル随一店主だなんて!?」
と、ウィズが驚きながらも嬉しそうな声で言う。
その反応を見た、バニルが疲れたかのように、
「耳まで遠くなったか初老店主よ……」
「へ、へぇ~。今なんと言いましたか? ちょっと聞き取れませんでしたので」
ゴゴゴゴゴゴゴと背景に文字がでるような強烈な魔力を解き放つウィズ、それを見たバニルは。
「まさか本当に耳が遠くなったとは……。年は取りたくないものだな」
戦争が起きた。
商品を壊さないようにするため、殺人光線やら一点破壊の魔法が飛び交う。
はぁ……、どうしてこうなったのやら。
私はただ禁呪を教えてほしいだけなのに。
仕方ない、ここで油を売っている暇はないし、二人を止める事にしよう。
「めぐみんさん!? なんで爆裂魔法の詠唱をしているんですか!?」
とウィズが私の口を塞いで詠唱の邪魔をしてくる。
私はジタバタ暴れ、ウィズの手を振り払う。
「私はさっき『なんでもするから教えてくれ』と言いました。私は有言実行するタイプです。今から禁呪を教えて貰うために『なんでも』を実行する事にします」
私は別に『教えてくれたらなんでもする』と言ったわけではない。
あくまでも『何かをした後に教えてくれ』と言う意味なだけで。
「っ!?」
私が本気だという事がわかったのか、バニルは呆れた顔を、そしてウィズは青ざめる。
「わかりました! わかりました! 教えますから!」
「ふっ、ようやく観念しましたか。ほら教えてくれるなら、すぐに教えて損はないと思いますよ」
「はぁ……」
ウィズが心底疲れた顔をして。
「では、リッチーになる方法ですが----」
■1 この昔話に祝杯を!
「おはよう。めぐみん」
「おはようございます。ゆんゆん……って、もうお昼ですよ!」
「だって、寒いじゃない。それに冬のお布団って気持ちよすぎて」
ゆんゆんがダメな人発言をする。
私は半ばあきれた顔をすると、それを見たゆんゆんが嬉しそうにクスリと笑う。
「あなたってそういうキャラでしたっけ? 私の中ではもっとこう優等生キャラだった覚えがありますが……」
「そうだったかな?」
ゆんゆんが不思議そうな顔で首を傾げる。
ほ、本当にこのライバルは……。
「もしかして、ダストの影響を受けたのですか? これだから旦那持ちは……」
「だから違うって! それに旦那って……ま、まさか……あんなチンピラが、だ、だ、だ、だ、旦那!? 考えただけで死んじゃうわよ! ちょっとめぐみん聞いているの!?」
「冗談ですよ。そんなに慌てないでください」
「冗談……本当に悪い冗談ね……」
ゆんゆんとダストはお似合いだと思うのは私だけだろうか…………いや、やはり私の知り合いをあんなチンピラに渡すのは納得がいかない。
まぁ、そもそもダストは……。
「旦那っていえば、めぐみんはカズマさんの事、本当によかったの?」
私が一人で考えているとゆんゆんが真剣な声で聞いて来た。
私は何度も聞かれた質問に呆れたように答える。
「またその話ですか。……ええ、よかったんですよ。……私は後悔していません」
カズマの件。
それは魔王を討伐した後、カズマからプロポーズを受けた話。
正直嬉しかった。すごく嬉しかった。
でも------
「私はリッチー。カズマと一緒に生きていく事は出来ません。単純な話です。私はカズマより爆裂道を選んだだけの事」
「そう……。私はめぐみんならてっきり『カズマも爆裂も全部手に入れて見せましょう!』って言うと思っていたんだけど」
そんな事が可能なのだろうか?
普通の人間とリッチーが一緒に生きていく……。
もしかしたら、予想の斜め上を行くカズマなら何か思いついたのかもしれない。
「まぁ、もしかしたら、そういう並行世界があったのかもしれませんね」
「並行世界かぁ~。ねえねえ、並行世界があったとしたら、どんな私がいると思う?」
「きっと、ぼっちは変わらないでしょうね」
「ひどい!」
* * *
魔王討伐後、ゆんゆんは屋敷に住むことになった。
当初、カズマ、アクア、ダクネスと暮らしていたのだが、あれから色々あってゆんゆんと二人暮らしになっている。
この広い屋敷に二人は少し寂しい。
昔は騒がしかった為か、余計に寂しく感じる気がする。
「そういえば、魔王討伐後、トイレとお風呂が怖かったよね」
ゆんゆんが懐かしいそうに昔話を始める。
懐かしい話題で私も口元が緩む。
「ふふっ、そんな事もありましたね」
「でも、カズマさんがあんな方法で魔王を討伐するなんて……今でも考えられないなー」
「ですね。最初、作戦を聞いた時は私もびっくりでしたよ」
「潜伏スキルと消毒ポーション、千里眼、姿隠しの巻物を使って、魔王城のトイレの個室に引きこもって、魔王がトイレに入ってズボンを脱いだ瞬間、お尻にダガーを突き刺すなんて……」
「ええ、それでトイレが怖くなった魔王やモンスターはトイレに行けなくなり……その後、膀胱が破裂して死んでしまったんですよね」
「そうそう。それで親が『悪い子にしてると、トイレにカズマさんがやってくるよー』と言って、子供達を恐怖のどん底に陥れたのね」
「ええ、まぁ、恐怖したのは私達もですが……」
「うん……。あれ以来、お風呂とトイレに入るときは、本当に誰もいないのか? チェックするようになっちゃったし……」
「ええ、本当に怖いですね。カズマは」
怖いと言いながら私達は笑っている。
まぁ、今となってはいい思い出だ。
……まぁ、当時は本当に怖かったけど。
ちなみに潜伏スキルが通用しないアンデッド系は、トイレに行かないだろうという考えの元、カズマはこの作戦を行ったのだが……。
アンデッドの王、リッチーになった今だから言える! リッチーはトイレ行きます!
それにしても、カズマが潜伏していたトイレにアンデッド系が来なくて本当に良かった……。
もし、来ていたらと思うと……本当にカズマは運が良い。
「その後も大変だったよね……」
「ああ、魔王を討伐したお陰で大金持ちになった話ですか?」
「う、うん……」
やり方はどうあれ、魔王を討伐した報酬を私達は受け取った。
魔王城を守っていた幹部討伐も含め100億エリス近くあったのだが…………。
「まさかお金を預けていた銀行が倒産……店長がお金を持って逃げるだなんて……」
まさかの展開だった。
これから預金の金利だけで行きていこうと思っていたら……。
もちろん鬼になったカズマとアクアの活躍で店長を捕まえたが、もうすでに手遅れでお金はほとんど使い込まれた後だった。
「いえ、あれはあれでよかったのです。カズマとアクアはお金を持てば持つほどダメになっていくのですから」
「でも、まさかその後レストランを経営するなんて……」
「ああ、カズマが手元にあった10億エリスを元手に、毎月安定した収入が欲しいという事で始めたんでしたね」
「そうそう、でも大変だったよね。……あれ? えーと、カズマさん何を言ったんだっけ?」
「『働きたくないでござる。働きたくないでござる』ですよ」
「ああ、そうそう。『働きたくないでござる』っていいながらガッツポーズするカズマさんが、もう可笑しくって、つい声を出して笑っちゃった」
ゆんゆんが当時を思い出して、笑顔になる。
私も当時を思い出しながらお喋りに集中する。
「まったく、営業時間がお昼の3:00~5:00の2時間だけとかダメでしょう」
「カズマさんってお昼まで寝てるし、夜は遊びに行っちゃうしね」
「そうです!まったくカズマは……」
「それで私とめぐみんとダクネスさんの3人で朝~夕方まで。なんとか説得したカズマさんとアクアさんが夜から働いてたんだよね」
私達が働く時間帯は、レストランというより簡単な食堂という感じだった。
そもそも私とゆんゆんは家庭料理しか作れないし、ダクネスも簡単なレシピ通りの料理しかできない。
夜はカズマが取得した料理スキルを活用し、アクアがウエイトレスをやっていた。
「それでそれで------」
「まったく、カズマは----」
私とゆんゆんは飽きもせず、昔話に花を咲かせた。
■2 この紅魔の娘に経験値を!
それはとある昼下がり。
「ねえ、お願いがあるんだけど」
「ゆんゆんが私を頼るなんて珍しいですね」
「う、うん……どうしてもやりたい事があって」
ゆんゆんはぼっちをこじらせているせいか、基本的に何でも一人でやってしまう。
だから今回みたいに私を頼る事は珍しい。
「その……レベルを上げたいから手伝ってほしいんだけど」
おかしいの一言につきる。
ゆんゆんは紅魔の里を出た後は、ずっと一人でレベル上げをしてきたのだ。
それをなぜ、今更私を頼るんだろう?
「おかしな事を言いますね。アクセルの街周辺のモンスターならゆんゆん一人の方がレベル上げの効率はいいでしょう。それをなぜ私なんですか? そもそも私の出る幕はないと思いますが……」
そもそも経験値という物は、モンスターを討伐した人の経験値しか増えない。
私が痛めつけて、ゆんゆんが止めを刺す……というやり方が理想なのだが、それは絶対にできない。
だって私は爆裂魔法しか使えないのだから。
私は、リッチーのスキルを覚える事も出来たのだが、そんな事をせずに全て爆裂魔法の威力強化等にポイントを割り振ったのだ。
「付いて来てくれるだけでいいから、もしも私の魔力が切れたら、めぐみんに手伝って貰えれば。そ、それにね、お弁当を用意したの、その天気もいいから……レベル上げのついでに、お弁当でも……あっ、ううん。あくまでもレベル上げが目的で」
なるほど、このコミュ障は一緒にお弁当を食べたいと……まぁ、そういう事なら大歓迎なのでゆんゆんに二つ返事し、ピクニックに出かける事にした。
* * *
「『ライトニング』----ッ!」
ゆんゆんはモンスターをたおした!
「『ブレード・オブ・ウインド』-!」
ゆんゆんはモンスターをたおした!
「『ファイアーボール』-ッッッッ!」
ゆんゆんはモンスターをたおした!
「ふぅ」
周辺に見えるモンスターを倒し、ゆんゆんが一息つく。
ゆんゆんが使ったのは全部中級魔法。
ゆんゆんの中級魔法でその辺の魔法使いの上級魔法クラスの威力がある。
さすがは私のライバル。
「というか、今レベルいくつくらいなんですか?」
中級魔法で上級魔法くらいの威力があるゆんゆんはかなり高レベルのはず、一体これ以上レベルを上げて何をしたくなったのか? 気になった。
「今レベル89。せっかくだから90まで上げたくて」
「なっ!? 90!?」
た、たしかに区切りのいい数字だが…………90!?
90なんて聞いたことがない。
「そ、そうなんですか。ま、まぁ、私のライバルですし、それくらいして貰わないと……」
少し……本当に少し動揺していると、ゆんゆんがクスリと笑って。
「ちょっと疲れちゃった。早いけどお昼ご飯にしない?」
* * *
「……ふう。ごちそうさまでした。今日も美味しかったですよ」
「うう……。私の分まで食べちゃうなんて……」
「私は永遠の14歳。永遠の育ち盛りなんですから、仕方ありません」
「……一生育たないのかぁ……」
「今私の事を可愛そうな目で見ましたね。おい、何が育たなくて可愛そうなのか詳しく聞こうじゃないか」
私がゆんゆんに飛びかかるとゆんゆんが涙目になり。
「え!? 聞こえてたの!? ごめんなさい! ごめんなさい!」
「ほら何が育たないのか白状しなさい!」
「違う! 違う! 胸の話じゃなくて! ダイエットが必要ないからいいなぁーって思っただけで!」
「胸と言いましたね! 私は別に胸なんて一言も言ってませんよ! ずっと私の事を胸の育たない可愛そうな娘だなーと思っていましたね!」
「ごめんなさい! ごめんなさい! 痛いっ! 痛いから胸を引っ張らないで!!!」
* * *
「ふぅー。今日はこれくらいかな……」
そろそろ夕方になる。
ずっとモンスターを討伐していたゆんゆんに疲れが見えてきた。
「かなり倒しましたね。どうです、レベルは上がりそうですか?」
「うーん。まだかかるかも……」
それもそうだ。
そもそも駆け出し冒険者の街アクセルで、レベル89の高レベル冒険者がレベル上げをする事自体が間違っているのだ。
「明日にしましょうか。もうゆんゆんも疲れているようですし」
「ううん。もうちょっと頑張る。できれば今日のうちにレベル90になっておきたいの」
「区切りがいいから90になりたいのでしょう? だったらそんなに焦らなくても」
「そ、そうなんだけど…………あっ!」
ゆんゆんが私の後ろの方を見て声を上げる。
つられて私も同じ方向を見るとそこには、テクテクと可愛らしい姿で歩いてくるカモネギがいた。
「レアモンスターで高経験値のカモネギがいますね。そういえば、もともと私が爆裂魔法を覚える事ができたのも、あのモンスターのお陰と言えばお陰でしたね。せっかくですし、一匹うちで飼いますか?」
懐かしいモンスターだ。
このモンスターのお陰で爆裂魔法を覚える事ができたのだ。
もし、このモンスターと出会っていなければ、私は普通に上級魔法を覚えていただろう。
と、私が感慨にふけっていると。
「キュッ!」
ゆんゆんの手で絞ったカモネギが、小さな悲鳴を上げて動かなくなっていた。
「え?めぐみん何か言った? あっ、それよりレベル! レベルが上がったわ! これで90! ついに90になったわよ!」
あの可愛いカモネギを躊躇なく討伐するゆんゆんに、時の流れって恐ろしいですねと言いながら拍手を送る。
「ありがとう! ありがとうめぐみん! これでようやく90だわ!」
ぴょんぴょんジャンプをしながら喜ぶゆんゆん……。
そんなに90が嬉しいのだろうか?
そもそも魔王を討伐した時ですら、レベル40だったのに、なんでここまでレベルを上げたのだろうか?
私の頭には疑問ばかりだったが、あまりにも無邪気に喜ぶゆんゆんを見て、どうでもよくなってしまった。
「では、日も落ちますし、街に帰りましょう。今晩はカモネギを料理しましょうか」
「うん♪」
■3 この幸薄そうな娘にお祝いを!
とある夕暮れ。
相変わらず全然売れていない、ある有名な店の前。
「ねえねえ、本当にいいのかな。用もないのに訪ねたりして……。も、もし忙しかったりしたら……。その、迷惑なんじゃ……。もし、嫌われたりしたら……。ねえ、やっぱりやめようよ、めぐみん」
おどおどするゆんゆんに呆れ顔で私は言う。
「そんな事ばかり言うから、ウィズの店に行く事もできないんですよ」
「そ、そうだ。買い物を口実にすれば」
「ウィズやバニルとは友人なんでしょう? でしたら口実なんていりません! ほら行きますよ!」
「ゆ、友人……。うん、友人なんだけど……。って、友人だからこそ急に訪ねるなんて失礼だと思わない?」
「いいから、入りますよ!」
店の前まで来て、頑なに店に入ろうとしないゆんゆんの背中を押しながら、店のドアを開けると、陽気で優しい声と陽気でやかましい声が耳に入ってくる。
「ゆんゆんさん。お誕生日おめでとうございます」
「フハハハハハハハハハハ。独りが得意な寂しんぼ娘よ。今宵は我輩たちが全力で祝ってやろう。どれくらい全力かというと、もうこれからは人に関わるよりぼっちの方が気楽でいいや、と思いたくなるくらいの全力パーティーを披露しよう!」
「え?え?え?」
突如の事でゆんゆんが目をパチパチさせながら困惑を見せる。
「お誕生日おめでとうございます、ゆんゆん。バニルの言葉を借りるわけでありませんが、今日は全力で祝ってあげますよ」
「っ」
ゆんゆんの顔がみるみる赤くなり、恥ずかしそうに俯き、もじもじしながら。
「ふ、不束者ですがよろしくお願いします。そ、その私も全力で頑張るから!」
嬉し恥ずかし過ぎて訳の分からないことを言うゆんゆんを私達は全力で祝福した!
* * *
カズマから貰っていたお金も減ってきており、安い物しか食べていなかったので、今日のご馳走にケーキは本当に美味しい。
私は14歳で育ち盛りだから、どれだけ食べてもたりない。
今思えば、ウィズのように20歳くらいのナイスバディになった状態でリッチーになるべきだった。
私が真剣に料理を食べている間、ゆんゆんはウィズ、バニルと紅茶を片手に雑談をしていた。
「ごめんなさい。本当はもっと遊びに来たかったのですが……」
「いえいえ、いいんですよ。バニルさんから事情は聞いてますし」
ゆんゆんがペコペコと頭を下げる。
事情というのは、どうせ『用事もないのに訪ねたら迷惑だろう』という事だろう。
「それにしても、ゆんゆんさんがお元気で本当によかったです」
ウィズがお姿もお変わりないようでと言葉を続ける。
「それはそうであろう。この本日我輩たちが全力で祝っている娘は、光の屈折魔法を応用して他人から、14歳の頃の姿が見えるようにしているのだからな」
そう、ゆんゆんはやはり天才だった、私の次に。
その私の次に天才のゆんゆんはオリジナルの魔法を開発してしまったのだ。
そのオリジナルの魔法というのは、自分の周り……自分の素肌に結界を張り、結界外から見ると、ゆんゆんが指定する姿を見せる事ができる。
もちろん、結界内……ゆんゆんと顔が当たるくらいの近さなら、ゆんゆんの本当の姿を見る事ができるのだが、こんな魔法を作るくらいだ、きっとその姿を見られたくない理由があるのだろう。
だから、私は無理に見ようと考えたことはない。
他に見たくない……見たら何かあるような気がするが……今はよくわからない。
一瞬こちらを見たバニルがニヤリと口元を歪ませ。
「汝よ「バニルさんバニルさん。ちなみにこの魔法を売りに出したら、いくらくらいになるんですか?」
とウィズが話を遮り、バニルがまぁよかろうとウィズの方を向く。
「姿を変えたように見せる魔法か……。日夜熟れた身体の性欲を持て余し、夜な夜な愛しい者の事を想い焦がれ、寂しい行為をしている男女。さらには姑に罪を被せる為、姑に姿を変え犯罪行為をする者など、犯罪者予備軍が欲しがるであろう。それを考えるとお客様のプライバシー保護の料金も含め100億エリス以上の売り上げは見込めるであろうな」
ひゃ、100億!? さっそく売りましょうと私が言い出す前に。
「犯罪。それはダメですね。売ったりはできませんね」
と、ウィズがきっぱり言った。
「うむ。この魔法が人間界に出回った場合、犯罪が多発し、人間どもは目の前の人物が本当の親や友達なのかわからなくなり引きこもりが増える。そうなれば、いくらお金が手に入ろうが我輩にとっても不都合であるため、我輩も悪魔ながら反対しよう」
…………。
「ゆんゆんさん。これも人類の為、お金は欲しいでしょうが、その魔法は他の人に教えないようにお願いします。めぐみんさんもそう思いますよね?」
「え? ええ! もちろんですとも! さっそく売りましょうとか言う輩には、我が爆裂魔法をくらわせてあげますよ!!」
私が慌てて答えるとゆんゆんがクスリと笑い、ウィズの方を向いて真剣な声で。
「はい。この魔法は他の人には伝えるつもりはありません。……それにこの事を知っているのは今はめぐみん、ウィズさん、バニルさんの3人だけですし……」
ゆんゆんが暗い顔をする。
それもそのはずだ。
「そうでしたね。ゆんゆん……酷な事を言ってすいませんでした。そもそも天涯ぼっちのゆんゆんには話せる相手が私達しか……うぅっ」
「めぐみん! なんで肩をプルプル震わせながら、手で口を押さえているの!? まさか笑ってるの!?」
「い、いえ、食べ過ぎて吐きそうで……」
「育ち盛りだからってバクバク食べるから! って、めぐみん!? なんでニコッとして私を見るの? い、いや、近寄らないで! トイレに連れて行ってあげるからこっち来ないでーーーー!!!」
* * *
うぅ……。まだ気分が悪い……。
私がトイレから出て、ゆんゆん達がいる部屋のドアを開けようとするとバニルの声が聞こえてくる。
「……ほうほう、汝のやろうとしている事は上手くいくであろう。そのまま汝の思うがままにやるが吉。しかしながら、あの娘の事を考え、よくここまで実行に移したな。ゆんゆんよ、そなたは我輩が認めた二人目の人間だ。もし何か困ったことがあれば、この街でも有名なウィズ魔道具店という所に相談するがいい。さすれば、貧乏で腹ペコ店主と、ご近所の評判も良くとても頼りになるバイトが全力で協力しよう!」
「ゆんゆんさん、あなたは私の……いえ、私達の素敵な友達です。何かあったらいつでも頼ってくださいね」
「っ……。ありがとうございます。私がんばります!」
「まったく泣くものがあるか。そんな感情、我輩の腹の足しにもならん」
「だ、だってぇ……。バニルさんたちが……私嬉しくて……」
私はドアの前からなぜか動けなかった。
少し時間がたち、ようやくゆんゆんが静かになり、ウィズが空気を変えるように陽気な声で。
「バニルさんバニルさん。ちなみにバニルさんが認めた一人目の人間とは誰の事ですか?」
「実を言うとこの世にはもう存在せんのだ。その人間はキリッとしながら常に真っ直ぐ前を向いていた凄腕魔導士でな……。確か……そう『氷の魔女』と言う名で」
「それって私の事ですよね!? 失礼ですよ! 私ちゃんと存在してますよ!? ってバニルさん!? なんで遠い目で明後日の方を向いているんですか!? バニルさん!?」
「ええい! バニルさんバニルさん、うるさいぞ! このポンコツ店主が!」
「--------」
「----」
なんとなくゆんゆんの嬉しそうな笑顔が見えた気がした。
私が関わらない、ゆんゆんの交友関係。
その事実がなんとなく嬉しくて……そしてやっぱり少し寂しくて。
私はドアを開けようと手をやったが……もう一度トイレに行くことにした。
なんとなくこんなふうに……ゆんゆんがウィズやバニルと話せるのも最後のような気がしたから。
本当になんとなくそんな気がしたから----。
■4 この爆裂娘と最後の夜を!
「ねえ、結婚とかしないの?」
最近、寝てばかりで、ようやく夕方に起きてきたと思ったら……。
「前も言いましたが、絶対にしません。そもそも私はリッチー。一緒に生きていく事が無理なのです」
「……そうだよね。一緒に……一緒に生きていくなんか出来ないよね」
「というか、ゆんゆんはどうなのですか? 結婚とか……」
「……」
ゆんゆんが黙り込む。
そういえば、ゆんゆんには旦那候補以前に、男友達が……。
「すいませんでした。ゆんゆんにはハードルが高すぎましたね」
「めぐみん!? なんで憐れんだ目で私を見ているの!?」
「今晩はゆんゆんが好きな食べ物にしましょう。ご馳走しますよ」
「ちょっと可愛そうだねこの子、みたいな扱いやめて! って、えぇ!? あ、あのめぐみんがご馳走してくれる!?」
「え? ご馳走するのはあなたですよ?」
「今の話の流れで何でそうなるのよ!」
* * *
「ねえ、めぐみん。聞きたい事があるんだけど」
また質問ですか……と言おうとしたが、ゆんゆんが真剣な顔で聞いてきたので、こちらも真剣に返す。
「いいですよ。話してください」
「めぐみんは将来どうするつもり?」
「爆裂魔法を撃ち続ける……という事を聞きたいのではないのですよね?」
「えーとね、その……お金とかどうするの? リッチーでも食事を取る必要があるでしょう?」
本来リッチーは食事を取る必要はない。
なぜなら餓死することがないから。
……でも、お腹が減ったら精神的に疲れるし、やっぱり食事という習慣が身に付いているから、食事をとりたくなる。
というか、食事がとれない生活なんて嫌だ。
「食事以外にも服とか光熱費とか、生活するのにお金は必要不可欠だと思うんだけど……」
と、ゆんゆんが続ける。
確かにずっと生き続ければ、服だって劣化するし、住むところも必要だ。
この屋敷だって持ち主は私ではなく不動産屋だ。
一応、魔王討伐のお礼という事で、ある程度長く住ませてくれるようだが、将来住めなくなる可能性もある。
「お金ですか……。まぁ、最悪ウィズのお店でバイトしますよ。簡単な魔道具なら作れますし」
「バイト……バイトかぁ……。でもウィズさんのお店でバイトは……」
ゆんゆんが微妙な声を上げる。
言いたい事はわかっている。
ウィズ魔道具店は儲かっていない。
バイト一人雇う余裕すらないだろう。
「そうだ!そうですよ。そもそも私は冒険者。依頼をこなせばいいだけじゃないですか」
「爆裂魔法を使ったら動けなくなるのに?」
「ふふふふ。今はレベルが上がったおかげで、一発撃っても歩いて帰るぐらいはできるんですよ」
私が胸を大きく張って得意げに言う。
それに----。
「それにゆんゆんがいますしね。雑魚はゆんゆん、ボスは私が討伐すれば楽勝ですよ。ええ、そうです。今後はずっと一緒に稼げばいいんですよ。なんて簡単な事に今まで気づかなかったのでしょうか」
今後はずっと一緒に稼げばいいと私は言った。
私は今まであえて言わなかった事をついに言ってしまった----。
あ、あれ? 私はなぜ今まであえて言わなかったのだろう?
私の言葉に対し、ゆんゆんが悲しそうな表情をする。
「ねえ、めぐみん。私……私ね」
ゆんゆんが目を閉じ、深く深呼吸をする。
一瞬、時が止まる。
告白されるのかと思えるぐらいの緊張感。
その緊張感の中、ゆんゆんが私をじっと見る。
見つめる。
----そして。
私が一番聞きたくない事を言い出した。
「明日、紅魔の里に帰ろうと思うの」
「…………え? な、なんで?」
ゆんゆんは私から決して視線をそらさない。
私は悪いことをしたかのように慌てて視線をそらしてしまった。
そんな私にゆんゆんは優しく諭すように言う。
「私、族長なんだよ。最後の最後までここにいる訳にはいけないの。族長として最後は紅魔の里に帰らないと……。それに次の族長の決定もあるし」
だからずっと一緒にいる事はできないよ、とゆんゆんが続ける。
「そ、そうですよね。でも次の族長を決めれば、またゆんゆんは帰ってきてくれますよね?」
私が視線をゆんゆんに戻し----。
「……ねえ、めぐみん」
ゆんゆんの目には涙が溜まっていた。
あぁ……私はなんてバカな質問をしたのだろう。
本当はわかっていた。
今の質問に意味がない事。
バカみたいな事を言っている事。
帰ってくる事がない事。
でも……でも、いつの間にか、ゆんゆんがいない生活を考えられない私がいる。
ゆんゆんがいなくなるのは嫌だ。
お願いだから帰ってきてほしい。
でもそんな願いも叶わず、ゆんゆんは続ける。
「めぐみんの事だから……頭のいいめぐみんの事だから気付いてると思うんだけど……言うね」
やめて。
それ以上、話を続けるのをやめて。
これ以上、話を続けるとゆんゆんが……ゆんゆんと会えなくなってしまう気がする。
お願いだから……お願いだからやめて!!
「私ね、もう80歳なんだよ」
……。
…………。
……………………あ。
あ…あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ!!!!!!!
「歩くのも大変だし、上級魔法だって使うの……大変なんだよ」
聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。
「最近、なんとなくわかってきたんだ。そろそろ私も最後が近いんだって」
…………。
魔王が討伐され、少し平和になったこの国の平均寿命はだいたい60歳くらい……。
………。
もう誰もいない。
カズマとダクネス、お父さん、お母さん、こめっこはもういない。
………。
カズマとダクネスはテクノブレイクとかいう謎の病気で、40歳くらいでいなくなってしまった。
アクアはカズマの葬式が終わった後、この世界から消えてしまった。
そういう契約だったらしい……。
ゆんゆんが言葉を続ける。
「だからもう一度言うね。私、族長として最後は紅魔の里に帰らないといけないの」
…………。
わかっていた。
最近、ゆんゆんの寝る時間が長い事に。体調が悪い事に。
わかっていた。
最近、ゆんゆんが中級魔法ばかりを使う事に。
わかっていた。
ゆんゆんの姿が変わらないのは、魔法のおかげだと。
わかっていた。
ゆんゆんがそのうちいなくなる事に。
わかっていた。
わかっていた。
わかっていた。
わかっていた。
わかっていた。
わかっていた。
わかっていた。
わかっていた。
覚悟していた。
そのはずだったのに……。
ゆんゆんならずっと一緒にいてくれると……勝手に思っていた。
わかっていたのに。
私はなにもわかろうとしてなかった。
私は全て忘れたふりをしていた。
「めぐみん、泣かないで」
ゆんゆんが私に抱きついて……いや、私を抱きしめてくれた。
私の頭を撫でながら優しく抱きしめてくれる。
「めぐみん。ごめんね。ごめんね。ごめんね」
謝るのは私の方なのに……ゆんゆんはごめんねと続ける。
「ごめんね。本当はもっともっと一緒にいたかった。孤独が辛いって、誰よりも知っているのに……独りにさせちゃってごめんね」
いや、私には爆裂魔法があるから孤独ではない……と言いたくてゆんゆんを見ると……。
「ごめんね。ずっと一緒にいたかったのに、ごめんね」
ゆんゆんは声を震わせながら、ボロボロと涙をこぼしていた。
あ
あああああ
ああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!
私はなんてことをしてしまったのだろう!
「私だって……。ごめんなさい。ゆんゆん、ごめんなさい」
私はごめんなさいと何度も言いながら。
「わかっていたのです。ゆんゆんが……ゆんゆんが……近い将来いなくなること……。で、でも、私は最後までわからないふりをして、ゆんゆんを困らせてゆんゆんに甘えて……。覚悟していたはずなのに、爆裂魔法の為に、独りになる事くらい覚悟していたはずなのに! あぁ……私は弱い……なんと弱いのでしょう。こんな弱い私だから、ゆんゆんはいつまでも私を心配して……」
「違う! それは違うよめぐみん! 私は……私がめぐみんといたかったから! 一緒にいたかったからいるの。私がめぐみんから卒業できないから……本当は爆裂道を歩むはずだっためぐみんに変な気を使わせちゃって」
「いえ、違います。悪いのは私----」
「ううん。私の方が悪いの----」
「それは違います。私が----」
「ううん。私の方が----」
「いや、私が----
私達はお互い『私が悪い』『ごめんね』と言いながら、強く強く抱きしめた。
* * *
楽しかった----
ゆんゆんとの日々は本当に楽しかったなぁ----
でも、それももう終わり。
ゆんゆんは明日帰る。
だから、明日で終わり。
----私は最後は……最後の最後は泣いて終わるのは嫌で。
ゆんゆんの胸で泣いていた私は、ゆんゆんの腕を振りほどき距離をとった。
「ふぅ……、まったくゆんゆんは泣き過ぎですよ。もう80歳というのに、いつまでも子供なんですから……」
「う、うん。ごめんね。 って、あれ!? なんで私が子供扱いされているの!? 子供はめぐみんの方でしょう!? あんなに泣いてたんだから!」
「あっ、言いましたね! 最初に泣いたのは、ゆんゆんでしょう!? それに私には爆裂魔法があるのです! 悲しくなんかありません!」
「最初に泣いたのはめぐみんじゃない! って、痛い痛い! 髪を引っ張らないで!」
「……ぷっ、あははははは」
それはどっちだったのだろう。
気付いたら私達はお互いに笑っていた。
いつも通り、いつも通りの日常。
これが----この日常がなんとなく嬉しい……愛おしい。
笑うだけ笑った私は、『今晩は何が食べたいですか?』を聞くかのような軽い口調で。
「どうせならゆんゆんもリッチーになりませんか? 友人であるウィズやバニルと一生遊べますよ?」
私はわざわざ言わなくても答えがわかる質問をする。
「ううん。私は最後は人間として……紅魔族の長として終わりたいから」
ゆんゆんは即答する。
やっぱり無理だった。
実はちょっとだけ期待していたのだが。
「めぐみん。最後にお願いがあるの」
「なんでしょう?」
「明日も一日一爆裂に行くんでしょう? それでね、私も最後にめぐみんの爆裂魔法を見たいんだ。だからいつもみたいに私がお弁当を作って、めぐみんの爆裂魔法を見て、そして紅魔の里に帰ろうかなって」
ゆんゆんが微笑んで優しく言ってくる。
一日一爆裂か……。
明日だけはそんな気分ではなかったのだが……。
でも、それがゆんゆんの頼みなら。私の大切な友人の頼みなら!
「わかりました。ええ、明日は最高の爆裂魔法を披露してあげますよ」
私は胸を張って強く答えた。
■5 この素晴らしい世界に爆焔を!
昨夜、昔話に花を咲かせた。
本当は寝たくなかったのだが、ゆんゆんが辛そうだったので、そんなに夜更かしせずに寝た。
今朝、ゆんゆんはウィズ、バニル達に挨拶に行った。
そして、お弁当を持って私達は出かけた。
ゆんゆんの最後のお弁当を私は味わって食べ、ゆんゆんのお弁当も平らげた。
ゆんゆんは涙目だったが、嬉しそうだった。
十分な睡眠、食事、体調は最高!
さあ、爆裂魔法の……最後の時間だ!
「さあ、私の最高の爆裂魔法をゆんゆんの為に披露しますよ!!」
「ねえ、標的はどれにするの?」
「そうですね。あの大きい岩などどうでしょう?」
私が提案をすると、ゆんゆんが。
「うーん。ちょっと遠いかな? めぐみんの爆裂魔法をもっと間近で感じたいから……。あっ、あの岩にしようよ。めぐみん」
「間近で感じたい! いいですね! いいですね! わかりました! ゆんゆんを感じさせてあげましょう!」
「ちょ、ちょっと、その言い方は……」
ゆんゆんが頬を染める。
「我が爆裂魔法の前に色ボケは禁止です! ほらしっかり見ていてください! 行きますよ! 我が究極で最高の爆裂魔法を!」
「うん!」
私は左目の眼帯をむしり取り、杖を構えて詠唱する。
「黒より黒く闇より昏き漆黒に」
そして、ゆんゆんが----。
「我が真紅の混淆を望み給う」
え? ゆんゆんがなぜ爆裂魔法の詠唱を?
さらにゆんゆんが続ける。
「覚醒の刻来たれり」
ゆんゆんの周りの空気が震え、バチバチと静電気のようなものが起きる。
知っている。
私は知っている。
この状況を私は知っている。
ゆんゆんは爆裂魔法を撃つ気だ!
でも、ゆんゆんは爆裂魔法を覚えていなかったはず……。
…………
『その……レベルを上げたいから手伝ってほしいんだけど』
あぁ……そうか。
あのレベル上げは……レベルを上げれば、爆裂魔法習得に必要なスキルポイントが足りるから……。
まったく本当にこのぼっちは、本当に本当に……最後の最後で……なんというプレゼントを。
私はそこで考えるのをやめ、今この瞬間を楽しむ事にした。
「無謬の境界に落ちし理」
そして、ゆんゆんが----。
「無行の歪みとなりて」
そして、私が----。
「現出せよ!」
そして、私達が----。
「「『ダブル・エクスプロージョン』----ッッッッ!」」
轟音と共に魔王戦でもなかった程の、すさまじい爆風が吹き荒れた。
爆裂魔法に慣れているアクセルの街でも騒ぎになっているかもしれない、そんなかつてない規模の大魔法。
そう! 大魔法だ!
爆裂魔法を極めた最強の大魔法使いの私と、紅魔の里で随一の魔法使いのゆんゆん、この二人の魔法なのだ、これ以上の魔法が存在していいはずがない!
爆煙がようやく晴れ、ゆんゆんが心底疲れたように。
「なんてデタラメなの……。こんな魔法初めて……。気を抜くとすぐに暴発しそうだし……」
でも、とゆんゆんが言葉を繋ぐ。
「最高だったかも。なんていうか、心地よい爽快感。 うん。最後の最後でめぐみんがこの魔法に生涯をかけたのも納得できちゃった」
一人で納得したゆんゆんが優しい表情で私を見てくる。
「ねえ、めぐみん。今の爆裂魔法どうだったかな? やっぱり私なんてまだまだだよね?」
「いいえ。過去……いや、未来においても最高の爆裂魔法でした。ありがとう--本当にありがとう----」
ありがとう最高の親友。という言葉と共に、とびきりの笑顔をゆんゆんに送った。
■エピローグ1 ウィズ
それは凄まじい爆裂魔法だった。
爆裂魔法を極めためぐみんさん、人間で最強の魔法使いのゆんゆんさん、この二人の爆裂魔法。
過去、デストロイヤー戦での私とめぐみんさんが撃った爆裂魔法以上の爆裂魔法。
遠くから遠視の魔法を使って、ゆんゆんさん達の様子を見ていたのだが……。
本当にすごかった。
「どうだ? 満足したか?」
私の友人が問いかけてくる。
「私は……正直後悔していました。めぐみんさんに本当にリッチーになる方法を教えてよかったのかと……彼女を不幸にさせてしまったのではないかと……」
「……」
私の友人は静かに聞いてくれる。
「でも、今日の爆裂魔法を見て……少しだけ、少しだけ救われた気がします」
私は一人納得する。
では帰りましょうと、帰路に就こうとすると。
「汝は後悔しているのか? リッチーになった事を……」
私の友人がびっくりするくらい意外な事を聞いてきた。
しかも、少し申し訳なさそうに。
そんな友人に私は微笑み。
「おかげさまで素敵な日々を過ごしてますよ」
私は短く楽しげに答えた。
私の友人にはこれでいい。これだけで全部伝わってくれるはずだ。
「そうか」
私の友人も短く答えてくれた。
そう、私達はこれでいいのだ。
「フハハハハハハハハハハ! 閃いた! 我輩、素晴らしい案を閃いたぞ!」
突如、私の友人が陽気に声を上げる。
「ウィズよ! 素晴らしい案を閃いた! 新たな儲け話だ! さあ帰り次第、着手するぞ!」
「はい。バニルさん」
私達はいつもの日常に帰って行った。
■エピローグ2 めぐみん
「行ってしまうのですね」
「うん……」
ゆんゆんはマナタイトを使用して、テレポートで紅魔族の里に行くのだという。
「ねえ、めぐみん!」
「はい?」
「わ、私、絶対この世界で転生するから! 絶対するから!」
「……」
転生なんて簡単に出来るはずがない、でも、ゆんゆんのそのやさしさが嬉しくて、また涙が溜まってしまった。
おかしいな、最後くらい泣かないって決めたのに。
「だから、これでお別れじゃなくて……」
「わかりました」
私は精一杯の穏やかな表情で。
「行ってらっしゃい、ゆんゆん。必ず転生して帰ってきてくださいね」
「またね、めぐみん。絶対に帰ってくるからね」
私達はとても大切な約束をした。
■エピローグ3 バニル
それは少し前。
爆裂娘とゆんゆんが爆裂魔法を撃った日の朝、ゆんゆんが最後の挨拶をしてきた日の事だ。
「成程、今になってあの脳みそ爆裂娘が恋しくなったのか? なるほどなるほど! 同性ながらも恋に目覚めたというわけか! よかろうよかろう」
「そうじゃありません!!!」
と、我輩達に相談しに来たゆんゆんが全力で否定する。
「なんだ違うのか」
「バニルさん。ゆんゆんさんは、めぐみんさんを独りにしておくのが可愛そうと言ってるんですよ。なにか名案はありませんか?」
そんな事は言われなくてもわかっているのだが……。
そもそも、この店主はなぜ我輩に丸投げをしてくるのだろう?
「人任せ店主よ。なぜ我輩に丸投げをする? 我輩をなんでも解決する便利屋と勘違いしているのではないか?」
ウィズは微笑み。
「ええ。バニルさんなら解決してくれますよね?」
…………。
……まぁ、方法はなくはないのだが。
しかし、それは忌々しくも考えただけで恐ろしい内容で----。
我輩が沈黙していると。
「ごめんなさい。私、最後の最後で決意が鈍っちゃって。もう大丈夫です。一人でなんとかしますから!」
「本来なら寿命間近の残りカスとはこういう事はしないが。我輩はこう言った。『もし何か困ったことがあれば、この街でも有名なウィズ魔道具店という所に相談するがいい。さすれば、貧乏で腹ペコ店主と、ご近所の評判も良くとても頼りになるバイトが全力で協力しよう!』と。ゆんゆんよ、これは契約だ。我が庇護下になるというのであれば、地獄の侯爵の名において、忌々しくも考えただけで恐怖する素敵なアドバイスを汝にプレゼントしよう。……さあ、どうするか選ぶがよい」
「忌々しい……恐怖する……アドバイス」
ゆんゆんが緊張し唾をのむ。
「わかりました。アドバイスをお願いします」
我輩は考えただけで吐き気がする言葉を、ゆんゆんに送る。
「それでは神頼みをしようではないか」
「「え?」」
ゆんゆんだけではなく、ウィズまでもが変な声を上げる中、我輩はニヤリと口元を歪めた。
■エピローグ4 エリス
「ゆんゆんさん、ようこそ死後の世界へ。あなたはつい先ほど、不幸にも亡くなりました。とても濃い人生でしたが、あなたの生は終わったのです」
私はハラハラドキドキと先輩を見守る。
私の知り合いが来た時には教えて!と先輩に言われていたので、教えはしたのだが……
「さて、あなたには二つの選択肢があります」
先輩が凛々しく告げる。
「一つは人間として生まれ変わり、新たな人生を歩むか。もう一つは天国で暮らすか」
「あ、あの……ちょっと聞いていいですか?」
ここでようやくゆんゆんさんが、顔を上げて発言する。
そこには、優しそうなおばあちゃんの顔があった。
童話などで出てきそうな優しそうなおばあちゃん。
私も歳をとったら、こんな感じになりたいなと思えるくらい素敵なおばあちゃん。
「素晴らしいおばあちゃんになったのね、ゆんゆん。……で、なに?」
「先輩!? なんでもう砕けた感じになってるんですか!?」
「いいの。知らない仲じゃないんだし。それにあまり畏まってると肩が凝るというか」
先輩が肩をストレッチするように両手を伸ばしたりする。
いや、絶対胸のせいでしょう…………女神ってもう成長しないのかな……。
「で、ゆんゆん。なに?」
「その……とある人から聞いたのですが、魔王を討伐したら願い事を叶えてもらえると……。その私も一応魔王討伐メンバーだったので……」
なるほど、凶悪で残忍な悪魔に何か吹き込まれたのだろう。
「ゆんゆんさん、残念ながら。それは異世界から来た人専用で……」
「いいわ。ここに帰ってきた本来の女神パワーを取り戻した私が、可能な範囲内で叶えてあげるわ」
「先輩!!!!?」
先輩が光と共に輝き出し、背中に白い光で翼のような物を作る。
あぁ……。そういえば先輩ってこういう演出をするのが好きだったなぁ……。
「さあ、願いは何? 使い切れないお金と理想の配偶者を得るという条件の元、赤子からやり直す? それとも異世界のぼっちに優しくない日本という国で転生するっていうのも可能よ。さあ、なんでも願いなさい」
う、うわぁ……。さすがの先輩でも絶対に叶える事ができない願いだ……。
これ絶対に、私と先輩の二人の女神パワーで願いを叶えるパターンですね。わかります。
そして、先輩を抑止できなかった私は上に怒られると……はぁ……。
「私を待っている人がいるんです。だから今の世界で赤ちゃんからやり直し……転生させてください。記憶だけ引き継ぎたいんです」
「「え?」」
え? 記憶だけ? 普通だったらお金とか理想の恋人とか、チートアイテムとか……。
「ね、ねえ、ゆんゆん。もうちょっと何とかできるんだけど……」
「いいえ、先ほどの願いで大丈夫です」
「…………」
先輩が何かを考え、そして。
「ゆんゆん。あなたの願い確かに聞き届けたわ。さあ、そこの魔法陣の上に乗りなさい」
「ありがとうございます!」
ゆんゆんさんがよろよろしながら、魔法陣の上に乗る。
「転生後も成長後は同じ姿になるように、そして永遠に同じ条件で転生できるように、ちょっぴりサービスしてあげるわ。あとスキルも引き継ぐようにね。さあ、行くわよ。エリス」
それちょっぴりじゃないです。
あっ、そうだった、転生する前に伝えたいことが。
「ゆんゆんさん。あの悪魔との契約はあくまで前回の命までです。転生した後は契約無効なので注意してくださいね」
永遠の労働力をゲットである。と笑っていた悪魔に少しでも仕返ししておかないと。
「あの姑息な雑魚悪魔の事なんて聞いたらダメよ? もし何かあったらすぐにアクシズ教徒に言いなさい。私からゆんゆんが救いを求めたら手伝うように言っておくから」
「はい。アクアさん……エリス様。本当にありがとうございます」
ゆんゆんさんが笑顔を見せた。
……。
今回はゆんゆんさんの為に頑張ろうと、私は観念して先輩に力を貸す。
すると先輩が、ゆんゆんさんが行ってしまう前に。
「私の大切な仲間をよろしくね」
アクア先輩は笑顔でゆんゆんさんを見送った。
■ラストエピローグ ゆんゆん
探すのに苦労した。
彼女は屋敷を追い出されたようで、馬小屋で生活をしていた。
「ひもじい……。はぁ……草はいいですね。水さえあれば生きていけるんですから。……しかし、この馬小屋の周りにはいつも向日葵が咲いてますね。種を食べても食べても新しい向日葵が……。ま、まさか、この向日葵は、ゆんゆんの生まれ変わり!? ゆんゆん……いつもありがとうございます。では、いただきます」
「ちょっと待って! それは私じゃないわよ!?」
「え?」
しまった。
ついツッコんでしまった……。
本当は感動的な対面をする予定だったのに……。
今の私は14歳。
本当はもう少し早くめぐみんと会えたのだが、やっぱりめぐみんと会うならこの姿で会いたかった。
「ゆ、ゆんゆんなのですか? お腹が減りすぎて幻覚を……? い、いえ、そんな……でも……。ま、まさか本当に転生を?」
私は、こちらを驚きの表情で見ているめぐみんに、マントをバサッとひるがえし----!!
「--我が名はゆんゆん! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者。そして、ぼっちリッチーの親友となる者……!」
決まった……。と私が感動していると。
「……ぷっ、あははははははは」
「めぐみん! なんで笑うの!? わざわざ会いに来たのに!」
「ゆ、ゆんゆんが、顔真っ赤で……あははははは」
「わ、笑うことないじゃない! せっかく……やっと会えたのに! ってめぐみんが涙!? 泣くほど可笑しかったの!?」
「いえ、これはゆんゆんに会えたのが嬉しくて」
「えっ!?」
え? え? めぐみんがデレた!? あのめぐみんがデレた!?
私が困惑していると、めぐみんは懐かしそうな……穏やかな表情になり。
「おかえりなさい。親友。約束を守ってくれてありがとうございます」
「ただいま。親友。これからもよろしくね」
私達はお互いに祝福をした----!
「では、さっそくご飯を奢ってください」
「せっかく感動の再会を果たした親友と最初にする事がそれなの!?」
終わり
これにて終わりになります。
読んでいただいてありがとうございました!
また機会があればよろしくお願いします!
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