岡崎泰葉「愛集まって、集真藍の花」 (31)
―――事務所
加蓮「父の日でーす。お父さんに感謝した人っ」
李衣菜「はーい」
加蓮「はい李衣菜さん。なんかプレゼントした?」
李衣菜「うん、無難に腕時計。でも渡すとき照れ臭くなっちゃってさ、まともに顔見れなかったんだよねー」
加蓮「あー分かるー。私も絶対照れちゃうなーって思ってね」
李衣菜「思って?」
加蓮「全力で泣かせにかかってみた」ムフー
李衣菜「なにしてんの……」
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加蓮「まずBGMから凝ってみました」
李衣菜「BGMいる?」
加蓮「演出には必須でしょ、映画もドラマもね」
李衣菜「撮影じゃないんだから」
加蓮「それで、なにがいいかなーと探したわけ」
李衣菜「まぁ……うん。ピッタリな曲見つかったの?」
加蓮「『薄荷』のインスト」
李衣菜「えぐいね」
加蓮「もうね、これだ! って感じ? いいものって身近に転がってるもんだねー」
李衣菜「ピンポイントで泣かせにかかってるじゃん。加蓮パパ脱水症状で死んじゃうよ」
加蓮「まぁ曲かけた瞬間お母さんが泣き出したんだけど」
李衣菜「巻き込んじゃったし! 母の日にやってあげなよ!」
加蓮「お母さんにはぺーってカーネーション渡したしいいかなって。こう、ぺーって」ペー
李衣菜「よく分かんないけど加蓮ママも大事にしてあげてよ……」
加蓮「まぁお母さんのことはどーでもよくてね。なんかずっと抱きついてきて鬱陶しかったけど」
李衣菜「よくないよ、構ってあげて」
加蓮「構ってられないよ、ラスボスはお父さんだもん」
李衣菜「父の日ってお父さんと戦う日だったっけ……」
加蓮「正座で対面する私&お父さん。真剣な表情で見つめ合うふたり……!」
李衣菜「なんでそんな緊張感が」
加蓮「切なく流れる『薄荷』さん。すすり泣きしなだれかかってくるお母さんほんと邪魔」
李衣菜「加蓮ママの扱い」
加蓮「お互いの目に映る自分の姿に、私たちは……!」
李衣菜「……ごくり」
加蓮「結論言うと私が根負けして目を背けたら撫でられた。悔しい」
李衣菜「負けたんだ!? 泣かしたってのはなんだったの!」
加蓮「『薄荷』さん諸刃の剣だった……。私が先にうるっときて、そしたらやっと泣いてくれたんだよね。勝った」グッ
李衣菜「勝ってないし……あれ、いつの間にか勝負になってる」
加蓮「以上、家族3人ぐすぐすしながらお互いありがとうありがとう言い合う間抜けな絵面でしたー」
李衣菜「……けっこう微笑ましいなぁ」
加蓮「うあー、もうあんな恥ずかしい思いしたくない~」
李衣菜「あはは。でもそういう話をわざわざ私にしてくれたってことは、加蓮も嬉しかったんでしょ?」
加蓮「……………………まーね」ボソ
P「良かったな加蓮。ご両親大事にしろよ」カタカタ…
加蓮「あっPさんもいるの忘れてた!?」
李衣菜「あはははっ♪」
P「ふふ、泰葉が来たらまた話してやりな」
加蓮「あー、やっぱり話さなきゃ良かったかなぁ……」
李衣菜「もう私が聞いちゃったもんね~♪ 加蓮が話さないんじゃ適当に話盛って……」
加蓮「やめてよそういうのー!」
李衣菜「またまたー、恥ずかしがっちゃってー」ニヤニヤ
加蓮「恥ずかしいからやめてって言ってるの!」
P(話したくてうずうずしてたんだろうなぁ加蓮)ニコニコ
李衣菜「早く来ないかなぁ泰葉っ」ソワソワ
加蓮「追い返すのも辞さない」
P「おいおいレッスンあるんだから……」
加蓮「うぅ~……!」
P「お、俺を睨むなよ……」
がちゃり
泰葉「おはようございま――」
李衣菜「来たーっ!」ダッ
加蓮「止まれーっ!」グイッ!
李衣菜「首ィーっ!?」
泰葉「えっ、な、なに?」ビクッ
P「おはよう泰葉。ちょっと漫才してただけだ。父の日だからな」
泰葉「あぁ……なるほど。……ふふ、なんとなく分かりました」
泰葉(……あとでこっそり教えてくださいね。ふふふ♪)ボソ
P(ああ、もちろん)クス
李衣菜「げほ、ごほっ! く、首締まったよ今……!」
加蓮「泰葉! 泰葉はお父さんにプレゼントしたっ!?」
李衣菜「無視!?」
泰葉「私? うーん……私は母の日に一度連絡してるから、今回はいいかなって」
加蓮「へ? 連絡、しないの?」
泰葉「うん。電話したとき、お父さんとも少しお話したの。元気にやってるならそれでいいって」
李衣菜「泰葉パパがそう言ったの?」
泰葉「ええ、テレビ越しでも分かるから大丈夫、って」
李衣菜「そっか……。泰葉が納得してるならいいけど」
泰葉「ふふっ、便りが無いのは元気の証拠、って言うし――」
加蓮「ダメ。……電話した方がいいよ。今すぐ」
泰葉「え、ダメって……」
李衣菜「加蓮、泰葉がいいって言ってるんだしそんな」
加蓮「分かるから大丈夫って、そんなの照れ隠しだから。泰葉の声、絶対聞きたがってるよ」
李衣菜(あ、マジなやつだこれ)
泰葉「そ、そうかな……。いきなり電話したら迷惑じゃ」
加蓮「んなわけないでしょ。家族とお話するのに迷惑かかるとかある?」
泰葉「それは……」
加蓮「それとも泰葉、お父さんとお話したくない?」
泰葉「……!」
加蓮「あ、今すごく話したいって顔した」クスッ
泰葉「……話したいけど……でも」
加蓮「恥ずかしい?」
泰葉「……うん。なにを話せばいいか分からないし」
李衣菜「……なんでもいいんじゃないかな。家族なら、自然と会話も弾むでしょ? 私も加蓮に賛成かな」
泰葉「そう、かな……」
加蓮「うんっ、李衣菜の言うとおり! きっと大丈夫だから!」
泰葉「……ふふっ。ありがとう、それじゃあ――」
P「ほい、あと通話押せばかかるぞ」
加蓮「Pさんやること早ーい、さすがー♪」
泰葉「早すぎますPさんっ!?」
李衣菜「へへ。もう逃げ場ないね泰葉。ここで逃げたらロックじゃないよ?」
泰葉「わ、分かってます。……すー、はー……」
加蓮「……ていっ♪」
prrrr……
泰葉「えっちょっ、まっまだ心の準備が……!?」アタフタ
李衣菜「うわー強引……」
加蓮「頑張れ泰葉~♪」
『――はい、岡崎です。どちらさまでしょう?』
泰葉「あっ……う、え……と」
加蓮「ほーら、早くっ」ヒソヒソ
泰葉「う、うんっ……!」
『もしもし? ……悪戯かしら――』
泰葉「も、もしもし。……お母さん……ですか」
『! あら、泰葉……また電話してくれたの。ふふ、嬉しい』
泰葉「うん……また、ね。……元気?」
『ええ、こっちは変わらず。珍しいわね、こんな頻繁に……前は母の日だったかしら。ふふふ』
泰葉「うん。えと、なにも贈り物できなくてごめんなさい。電話くらいしかできなくて……」
『ああ、いいのよいいのよ。あなたの声が聞けただけで……私もお父さんもとても嬉しいから』
泰葉「……ふふ、良かった。私も……、お母さんの声が聞けて嬉しい」
李衣菜(……普通に会話できてるね)ヒソ
加蓮(とーぜん。だって家族だもん♪)ヒソ…
P「……ふふ」カタカタ…
泰葉「もう少ししたら、お盆には帰るつもりだから……」
『そう? あまり無理しないで……それこそこうして、お話するだけでもいいんだから』
泰葉「ううん、お母さんのお料理食べたい」
『あら……ふふ。じゃあ待ってるわね』
泰葉「うん……♪」
『またお友だち連れてきてもいいのよ。李衣菜さんと加蓮さん』
泰葉「え、ええっ? 年始に連れてってあんなに疲れたのに……!?」
『ふふ、賑やかで良かったじゃない……あなたも楽しそうだった。あんなにはしゃいでいるのは見たことなかったもの』
泰葉「そ、それは……!」
『あの笑顔……小さな頃と同じだったわ。……良かった、本当に……』
泰葉「お母、さん……」
『……一生、大切にしなさい。決して手放さないこと。……お母さんと約束できますか?』
泰葉「……はい。ずっと……ずっと親友でいます。ふたりと、ずーっと……!」
李衣菜「~~~っ」ジタジタ
加蓮「~~~っ」バタバタ
P(声にならない叫びが)
泰葉「――じゃあ、そろそろ……」
『あら、もう? もっとお話しても……』
泰葉「こ、このあとレッスンがあって……っきゃ」
加蓮(なにしてんの、本題!)ボソ
李衣菜(お父さんいるでしょきっと、ほら頑張れ!)ボソ
泰葉「……う、ぅぅ~……!」
泰葉(も、もうヤケよ岡崎泰葉……!)
『泰葉?』
泰葉「あ、えっと……あの、その」
『?』
泰葉「お、……お父さん、いる……? お父さんとも……お話、できたら……」
『ええ、いるわ。少し待っててね――』
泰葉「う、うん……」ドキドキ…
李衣菜「……やったね。第一段階突破♪」
加蓮「もー、なに勝手に切ろうとしてるの? せっかくいい流れなのに」
泰葉「あのね……! こんな公開処刑じみたこと、ほんとに心臓に悪い――」
『――泰葉? また電話してきたのか』
泰葉「ひゃいっ、お、お父さん……うん、また電話しました……!」
『はは、珍しいこともある。……いつもテレビを観ているぞ。ラジオも聴いている』
泰葉「あ、あまり観ても聴いてもほしくは……」
『なにを言う、お前は私たちの誇りだ。お前の笑顔や楽しげな声が私の力なんだ』
泰葉「そ、そう……。お父さんも元気そうでなにより」
『ああ、泰葉もな。ただ、この前も連絡を寄越しただろう? またどうして……』
泰葉「…………えっ、と……」
『泰葉?』
泰葉「……その……」
泰葉「ち、父の日、だから……」ポソッ
『……! あ、ああ……そういうことか』
泰葉「うん……そういうこと」
『……そうか……』
泰葉「…………」
『…………』
泰葉「……あの」
『……ああ』
『「ありがとう」』
泰葉「……ふふっ」
『…………ふ。ははは』
泰葉「――それだけ。それだけ伝えたかったの」
『そうか。私もだ』
泰葉「お父さん」
『なんだ、泰葉』
泰葉「お父さんが、私のお父さんで良かった」
『……ああ。私も……お父さんも、泰葉が娘で良かったよ』
泰葉「うん……♪」
『………………ぐす』
泰葉「あ、泣いてる……ふふっ、……すんっ。……ふふふっ♪」
『今、鼻を啜っただろう……お前も泣いてるじゃないか。は、ははは……!』
泰葉「ふふ、あはは♪ そんなことないもん……♪」
泰葉「――ね、また今度長崎に帰るから――」
『ふ、では心待ちに――』
李衣菜「……へへ。もうずっとお喋りしてる」
P「ふふ……やっぱり家族だからな。離れて暮らしていたら積もる話もあるさ」
李衣菜「Pさんもたまにはお家に電話したらどうですか?」
P「そうだな、久しぶりに連絡してみるかぁ」
李衣菜「そしたら私たちのことも紹介してくださいねっ」
P「はは、暇があったらなー」ワシャ
李衣菜「へへー♪」
加蓮「ふえ……よかったねやすはぁ~……!」メソメソ…
李衣菜「もらい泣きしてる……」
P「加蓮が泣いてどうするんだよ……」ナデナデ
加蓮「ぐしゅ、だってぇ……!」
泰葉「――♪」
『――――』
P(それからレッスンの時間まで、泰葉は終始笑顔のまま電話を放すことはなかったとさ)
―――
――
―
―――長崎、泰葉の実家
「――あなた。泰葉からハガキが届きましたよ。絵ハガキ」
「ほう、絵ハガキ? どれ――」
『私は元気にやっています。私のことを愛してくれる人たちに囲まれて――』
『こうして笑顔で頑張っています!』
「……アジサイか。綺麗な色だな」
「ええ、泰葉もこんなに笑って……ふふ、李衣菜さんに加蓮さんも」
「ふ……かわいらしい笑顔だ」
「…………待て。この男は誰だ?」
「え? プロデューサーさんじゃないかしら。母の日に電話くれたときに話してくれましたよ」
「私は知らんぞ」
「あら」
「……よし。東亰に乗り込むぞ。手土産は……カステラで良かろう」
「え、ええ?」
「待っていろ泰葉……!」ドドドドド…!
P「――ぶえっくしゅ! ん、んん?」
泰葉「大丈夫ですかPさん?」
P「ああ……誰かにウワサでもされたかな?」
泰葉「ふふ、そうですか」
泰葉(みんなと撮ったアジサイの写真……届いたかな?)
泰葉(伝わったかな……花言葉。『家族の結びつき』……♪)
おわり
というお話だったのさ
小さな藍色の花が集まっているので集真藍(あづさあい)、アジサイだそうで
やっちまった
東亰→東京で……
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