八幡「一色?」 いろは「……お久しぶりです」 (46)

八幡が高校3年生の設定です。
宜しくお願い致します。

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放課後 下駄箱
八幡「こんなところでなにしてんだ」

いろは「……待ってたんですよ」

八幡「……葉山のことか? あいつならまだ教室にいるぞ」

いろは「いえ、葉山先輩じゃなくて……」

八幡「じゃあ、奉仕部の二人か? あいつらは部室で喋ってる。あの様子だと、当分帰らないぞ」

いろは「……違います」

八幡「違うのか。となると……、戸部か?」

いろは「戸部? ……誰?」

八幡「冗談でもその反応はやめてやれ」

八幡「まぁ、誰を待ってるか知らんが、ここで待つより探しに行ったほうがいいぞ」

いろは「普通はそうでしょうね。こんな日に早く帰る人なんて先輩くらいですし」

八幡「むしろ、俺が普通だろ。あいつらみたいにダラダラとだべって、家に帰らないほうが間違ってる」

いろは「でも、明日は卒業式ですからね。最後に思い出とか語り合ったりしません?」

八幡「思い出ねぇ……」

いろは「先輩には楽しかった思い出とかないんですか?」

八幡「そうだな。戸塚と出会えたことが、俺の高校生活の中で最良の出来事だったな」

いろは「うっわ……」

八幡「本気で引いてんじゃねえよ」

八幡「んじゃ、そろそろ帰るわ」

いろは「そうですね。行きましょう」

八幡「……は?」

いろは「なんですか?」

八幡「お前、ここで誰かを待ってるんじゃないの?」

いろは「待ってましたよ。そしたら、先輩が来てくれたんじゃないですか」

八幡「まさか……」

いろは「そうです。先輩のことを待ってたんです」

八幡「なんだ、何が目的だ。生徒会の手伝いか?」

いろは「わたし、もう生徒会長じゃありませんよ」

八幡「ああ、そういえばそうか。じゃあ、俺に奢らせようとしてるのか? 残念だったな。俺にたかっても無駄だ。財布には500円しかないからな」

いろは「わたしのことをなんだと思ってるんですか……」

いろは「先輩にお話ししたいことがあるだけです」

八幡「話? ここでじゃダメなの?」

いろは「んー。ここでもいいんですけど、できれば場所を変えたいですね」

八幡「……ギャラリーには行かねえぞ」

いろは「大丈夫ですよ。誰も所持金500円の高校生に絵を売ろうなんて思いませんから」

八幡「自転車とってくるから、校門で待ってろ」

いろは「わたしも行きますよ。先輩、トンズラしそうだし」

八幡「どんだけ俺は信用ないんだよ……」

いろは「へー。今までの行いで信頼を得られてると思ってたんですか。先輩って、意外とポジティブなんですね」

八幡「……」

いろは「逃げたいなら逃げてもいいですけど、明日の卒業式は楽しみにしててくださいね、先輩」

いろは『そうだったんだ……』

小町『あ、あれー? いろはさん、聞いてなかったですか?』

いろは『うん……』

小町『いろはさんに話してないなんて、あの愚兄……』

いろは『仕方ないよ。最近、会う機会なんてなかったし』

小町『いろはさん……』

いろは『……先輩が卒業したら、もう会うことはないんだね』





八幡「おい」

いろは「……先輩?」

八幡「なにぼけっとしてんだよ。自転車とってきたから、行こうぜ」

いろは「せ、先輩、遅いです……よ……」

八幡「……お前、なんで泣いてんだよ?」

いろは「へ……? あれ、どうして私……」

公園
八幡「ほれ、これ飲んで落ち着け」

いろは「ありがとうございます……」

八幡「なんだその……、遅くなって悪かったな」

いろは「いえ、そのことで泣いたわけじゃないです」

八幡「そうなのか?」

いろは「……たぶん」

八幡「ずいぶん曖昧だな。自分の感情だろ?」

いろは「だってわからないんですもん。自分の気持ちが。どうして、こんな……」

八幡「……なんだよ?」

いろは「……なんでもない、です」

いろは「……先輩」

八幡「……」

いろは「あの……?」

八幡「……ん? ああ、悪い。聞いてなかった。なんの話だっけ? 戸塚が天使って話?」

いろは「過去に一度でもそんな会話を先輩としたことがありますかね」

いろは「まだなにも話してませんよ」

八幡「そうだっけ?」

いろは「本当にこの人は……。どうせ、通りすがりの女子高生に見惚れてたんでしょう」

八幡「なに言ってんの? 俺が見惚れるのは戸塚だけだから。なんなら、戸塚のことしか見てないまである」

いろは「あー、はいはい。それで本当はなにを見てたんですか?」

八幡「猫の鳴き声が聞こえるから、どこにいるのか探してたんだよ」

いろは「猫?」

「ニャー!」

いろは「……ほんとだ。どこにいるんですかね?」

八幡「聞こえる方角からすると、あの木の辺りだな」

いろは「ちょっと見てみます? 鳴きかたが尋常じゃないですし……」

八幡「まぁ、縄張り争いってとこだろうが、見てみるか」

「ニャー! ニャー!」

いろは「どこだろう? ここら辺から鳴き声が聞こえますけど……」

八幡「……あっ」

いろは「見つけました?」

八幡「ああ、そこにいる」

黒猫「ニャー!」

いろは「……どうしてこの猫、蝉みたいに木にへばりついてるんですか?」

八幡「さあ……?」

黒猫「ニャアアー!」

いろは「すごい鳴き声ですね。どうしたのかな?」

八幡「爪が引っかかって動けないとか?」

いろは「た、大変じゃないですか! 助けてあげないと!」

八幡「お、おい!」

いろは「ほら猫君、いま助けてあげるから……」スッ

黒猫「ニ、ニャアアアアア!」サササ

いろは「えっ」

八幡「……野良猫は人に慣れてないから、人が近づくと今みたいに逃げるんだよ」

いろは「ど、どうしよう……、もっと上に登っちゃった……」

八幡「そのうち下りてくるだろ」

いろは「そんな悠長な……」

八幡「猫ってそういうもんだしな」

いろは「でも、あんなに小さいんですよ……?」

八幡「大丈夫だって。猫はどんな高さから落ちても、回転してうまく着地すんだよ」

いろは「……先輩、助けてあげてくださいよ」

八幡「お前、人の話聞いてた? つーか、俺が登って、落ちたりしたらどうすんの?」

いろは「回転して、うまく着地すればいいじゃないですか」

八幡「俺は猫じゃねえんだよ」

いろは「……わかりました。ありがとうございます」

八幡「どうだった?」

いろは「野良猫の場合は人が近寄ると逃げるから、レスキューは出動しないらしいです」

八幡「……俺たちに指示はあったか?」

いろは「オペレーターの人は、離れた場所から見守っていればそのうち下りてくる、って言ってましたけど……」

八幡「なんだ。それなら解決じゃねえか」

いろは「あんな小さい子猫が、無事に下りてこれるんしょうか……?」

八幡「大丈夫だろ。さっきも言ったが……」

いろは「……」ウルウル

八幡「……安心しろ。あの猫があそこまで登ったのはお前のせいじゃねえよ」ポンポン

いろは「でも……」

八幡「仕方ねえよ。それが好意か悪意なのか区別できるほど人に慣れてないんだから」

いろは「……そんなの悲しすぎます」

いろは「確かに、人から逃げつづければ、傷つくことはないかもしれません。でも、それだといつまでも人の好意に触れることなんてできませんよ」

八幡「……そんな詭弁、悪意をぶつけられたことがないから言えるんだ」

いろは「……わたしがそんなに恵まれた環境にいるように見えますか?」

八幡「……」

いろは「人と接して、嫌な思いをしないなんてありえませんよ。それでも、人の優しさに救われることが必ずあります」

いろは「……少なくとも、わたしはありましたよ。人に救われたことが。すごく歪な優しさでしたけど」

八幡「一色……」

いろは「さて、これからどうしましょうか?」クルッ

八幡「えっ?」

いろは「先輩も考えてくださいよー」

八幡「……」

いろは「やっぱり、離れた場所から見守るしかないんですかね?」

八幡「……お前のことも、離れた場所から見守ってやろうか?」

いろは「……余計なお世話です」

今日はここまで。

いろは「……」

八幡「……」

いろは「下りてこないじゃないですか!」

八幡「そんなすぐ下りてくるかよ」

いろは「本当にこれで大丈夫なのかな……」

八幡「なんとかなるだろ」

いろは「無責任な!」

八幡「仕方ねえだろ、これが正攻法なんだから」

いろは「遠くから見てることがですか?」

八幡「近寄ると逃げるなら、黙って待つ。それでいいんだよ」

いろは「待っても来なかったら……?」

八幡「待って待って待ち続ける。そうすりゃ、向こうから寄ってくるだろ」

いろは「……どうでしょう。わたし、1年以上待ってますけど、未だに寄ってきませんよ」

八幡「え? なんの話?」

いろは「先輩には一生わかりませんよ」

「ニャー!」

八幡「ん? もう一匹いるみたいだぞ」

いろは「へっ?」

八幡「ほら、あの木の根のところ見てみろよ」

白猫「ニャー!」

いろは「ほんとだ……。兄弟猫ですかね?」

八幡「そうかもしれんな」

白猫「ニャアー!」

黒猫「ニャアアアアア!」

いろは「あの白猫は、木に登った黒猫を呼んでるんですかね……」

八幡「どうだろうな」

白猫「ニャ」

黒猫「……ニャー」ソロリ

いろは「う、動き出しました!」バンバン

八幡「わかったから、叩くな!」

黒猫「ニャー……」ソロソロ

いろは「頑張れ、あともう少しだよ……」

八幡「あの高さまでくれば、落ちても平気だな」

いろは「縁起でもないこと言わないでくださいよ!」

黒猫「ニャアアアアア!」

いろは「ほ、本当に落ちちゃったじゃないですか!」

八幡「いや、だから猫は……」

いろは「見てきてください!」

八幡「お前はいいのか?」

いろは「いいから早く行ってきてください!」

八幡「わかったよ……」

八幡「……あ」

いろは「ど、どうですか?」

八幡「無事だな」

いろは「よかった……。そっち行っても平気ですかね?」

八幡「距離とれば平気だろ」

白猫「ニャー」スリスリ

黒猫「……ニャー」

八幡「あの黒猫、白猫にすり寄られて嫌がってるな」

いろは「その割には逃げないんですね。捻くれ者だなー。誰かさんそっくり」

八幡「……なんで俺を見てんだよ」

いろは「……ねえ、先輩。どうして、あの黒猫は下りてきたと思います?」

八幡「どうだろうな。お腹を空かせただけかもしれんし、人が近くにいないと気配で察したからもしれない。もしくは……」

いろは「なんです?」

八幡「あの白猫の呼びかけに応えたのかもしれないな」

いろは「……」

八幡「……なんだよ」

いろは「先輩がそんなこと言うなんて意外だなって思って」

八幡「……悪いかよ」

いろは「別に悪くないですよ。……わたしも同じこと考えていましたから」

いろは「先輩、そろそろ帰りましょうか」

八幡「お前、話があるんじゃなかったのか?」

いろは「帰りながら話しますよ」

八幡「そうか。じゃあ行くか」

いろは「はい、行きましょう」

八幡「……なんで、人の自転車の荷台に乗ってんの?」

いろは「わたし、疲れてるじゃないですかー?」

八幡「知らねえよ……」

八幡「それで話ってなんだよ?」


いろは「先輩が地方の大学に進学するって話です」

八幡「……小町から聞いたのか?」

いろは「そうですよ。……できれば先輩から教えてほしかったですけど」

八幡「引っ越しの準備とかで忙しくてな。すまん」

いろは「もし、小町ちゃんから聞いてなかったら、もう会う機会がないことを知らないまま送り出すところでしたよ」

八幡「いや、そんなことねえだろ」

いろは「先輩のことだから、文化祭とかの学校の行事に顔出さないだろうし、千葉から引っ越すとなれば街中でばったり会うことなんてないでしょう」

八幡「……ほら、メールとかでさ」

いろは「わたしは先輩の連絡先を知りませんし、たとえメールをしても先輩は返信しないでしょう?」

八幡「小町……、そうだ、お前は小町と仲いいんだから、俺が帰省したときにでも家に来ればいいじゃねえか」

いろは「以前、わたしが小町ちゃんのお家にお邪魔しようとしたら、そのことを知った家族の人が一人逃げたんですよね」

八幡「……」

いろは「結局、先輩は人が近寄ろうとすれば、猫のように逃げるんですよ」

八幡「……そうかもな」

いろは「だから、わたしは待つことにします。いつか、先輩から会いに来てくれることを待ちます」

八幡「……いつになるかわからねえぞ」

いろは「いいですよ。10年後でも、20年後でも。ただ、そのときはわたしの話を逃げないで聞いてくださいね?」

八幡「……覚えてればな」

八幡「……なあ」

いろは「あそこの横断歩道を渡ったところにあるコンビニで下ろしてもらえますか?」

八幡「お前、人の話聞けよ……」

いろは「だって、あのコンビニに用事があるんですもん」

八幡「駅前にだってたくさんあるだろ」

いろは「ここからなら歩いて5分もかかりませんし、それに駅前には交番がありますから」

八幡「……わかったよ」

いろは「もー。先輩が遅いから信号につかまっちゃったじゃないですか」

八幡「悪い」

いろは「まぁ、別にいいですけどね」

八幡「……一色」

いろは「……なんですか?」

八幡「……」

いろは「先輩……?」

八幡「……ありがとう」

いろは「……ばか」ギュ

八幡「……信号変わったぞ」

いろは「もういいです。駅前まで送ってください」ギュウ

翌日 卒業式終了後
いろは「はい。撮れましたよー」

結衣「ありがとー! ……ヒッキー、最後なんだから愛想よくしてよ」

雪乃「由比ヶ浜さん、それは酷じゃないかしら。彼に笑えなんて無理よ。鳴くことは得意でしょうけど」

八幡「カエル扱いするのやめてくれない」

雪乃「そんなことしてないわよ、ヒキガエルくん」

八幡「思いっきりしてるじゃねえか」

結衣「二人は最後まで変わらないなあ……」

いろは「まあでも、先輩は泣くのも下手くそですよね」

八幡「……なんの話だよ」

いろは「さあ、なんでしょうね」

結衣「次はいろはちゃんも一緒に撮ろうよ」

いろは「いえ、わたしはカメラマンですし……」

八幡「じゃあ、俺が変わってやるよ」

結衣「……」

雪乃「……」

八幡「なんだよ、その人を蔑むような目は」

結衣「じゃあ、最初はヒッキーと2ショットでいいかな? 私が撮ってあげるよ」

いろは「でも……」

結衣「いいからいいから」

いろは「……本当にいいんですか?」

結衣「大丈夫だって」

いろは「……後で怒らないでくださいね」

結衣「う、うん……?」

いろは「わたしの携帯で撮ってもらえますか?」

結衣「うん。いいよ」

いろは「お願いします」

結衣「じゃあ、撮るね」

八幡「おー」

雪ノ下「由比ヶ浜さん、それビデオモードじゃないかしら?」

結衣「あ、あれー?」

いろは「……ねえ、先輩」

八幡「なんだ?」

いろは「覚えてたら、会いに来てくれるんですよね?」

八幡「ああ、覚えていればな」

いろは「約束ですよ」

結衣「待たせちゃってごめんね。もう大丈夫。じゃあ、いくよー」

いろは「……」ツンツン

八幡「ん?」

結衣「はい、ちーず」

いろは「……」チュ

八幡「な……!」

八幡「な、なにして……」

いろは「これで忘れませんよね? 写真まで残ってますし」

八幡「お前……!」

いろは「わたし、先輩のこと待ってますから」

いろは「約束守ってくださいね?」







END

以上です。
ありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2019年03月03日 (日) 19:33:00   ID: fnB0ywO-

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