上条「今日はヤケに静かな朝だけど」 (51)
― ○月○日 学園都市 上条当麻自宅 ―
ヤケに静かな朝だった。
上条「……んん」
いつものように、風呂場で目覚めた上条は、目覚まし時計を見て驚愕する。
上条「遅刻じゃねーか!? ……っと、何でだ?」
そう。”いつもなら”こんな寝坊はしない。その理由は、騒がしい同居人にある。
上条「おーい、インデックスー? オティヌスー?」
彼女達による騒音劇があるがために、問答無用で早朝に起こされていたのだ。スフィンクスに追いかけられて風呂場に逃げ込んでくるオティヌス、小さな魔神を追いかけて部屋中の物を破壊しまくるスフィンクス、朝から冷蔵庫の中身を抹消しにかかるインデックス。
彼女達の声で、上条は目覚める。
だが、それが今日はどうしたことか、一切声がしないのである。
上条「……イン、デックス?」
風呂場のドアを開き、毎晩純白のシスターに占拠されているベッドを見るが、大食いシスターの姿は無い。どころか、スフィンクスの姿も、オティヌスの姿も無い。
上条「………どうなってんだ? アイツ等、とうとう飯を捜しに三千里の旅にでも出かけたか?」
どちらにせよ、今彼女達を捜している時間は無い。悠長に考えを巡らせる時間も。
勢いよく棚を開き、ボロッちい制服を手に取り、着込む。何故だか埃のついた学生鞄も手に取り、硬いドアノブを回して外に出た。
上条当麻。彼は気付いていなかった。
既にこの時、異変は起こっていたのだということに。
科学と魔術が複雑に交差した物語が、スタートしている事に。
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上条「……えっと、あれ? 迷ったか?」
登校中。不良から逃げる際にもよく使う為に、細かい要所までしっかりと暗記した道で、迷ってしまったようだ。
上条「おっかしいな。たしかこの道を真っ直ぐ行けば最短ルートのはずなんだけど」
○○「ちょっとアンタぁ!!!」
すると、後方からまるで怒号のような叫び声が聞こえてきた。
上条「ん?」
振り返った先には、見覚えのある栗色の髪の女性が立っていた。
肩先まで伸びた鮮やかな栗色の短髪、強気な目つき。何故だか制服がいつもの常盤台のものではなく、白いリボンのついたセーラー服であるという事を除けば、彼女は何処からどう見ても、
上条「御坂……か?」
だが、身長は上条に迫る程に伸びていて、まな板のようだった双丘も膨らみを見せているので、上条は疑問混じりに言葉を口にした。
御坂「……あれ? あ、すみません。人違いでした」
上条「?」
御坂「いやー、他人の空似ってあるもんですねー。そもそも、アイツはもうとっくに大学生になってるはずだし……あ、本当にすみません! では」
ぺこぺこと頭を下げた彼女は、そのまま走って上条の向かおうとしていた方向へ早足に駆けて行った。
上条「……何だアイツ? でも、御坂……だよな?」
何とも言えない違和感を感じつつも、上条は自身の高校へと再び足を向けた。ちなみに遅刻は確定だった。
― 学園都市 上条の高校 ―
警備の人「はいはい、駄目だよ部外者は入っちゃ~」
上条「ちょ、待ってくださいって!! 俺ここの生徒なんですって!!」
警備の人「……って言われてもねぇ。確かに制服はここのものだけど、君の学生証はとっくに期限が切れているんだよ」
上条「!?」
予想外の事を言われ、上条は驚愕しながら己の学生証を見る。
いや、そんなはずはない。今年どころか、来年も余裕で有効圏内に入っている。
上条「……いや、でも……」
警備の人「あんまり抵抗すると、警備員(アンチスキル)を呼ぶ事になるけど?」
上条「…………」
その言葉に、とうとう上条は折れた。
とぼとぼと、来た道を帰り始める。
上条「………どうなってんだ?」
学校からだいぶ離れた位置で、再び学生証を見る。間違ってはいない。
携帯は既に壊れていて使えない。
○○「何だァオマエ。どっかで見た事ある面だと思ったらヒーローじゃねェか。何してンだ?」
上条「!!」
一方通行「……あァ? オマエ、どっかで逆成長するお薬でも飲んだかァ? 幼稚化してんじゃねェかァ」
上条「……一方、通行……?」
白髪、やる気の無い瞳、線の細い体。何処をとっても一方通行だ。あの、御坂と同じように。
すると、彼の背中からひょこんと顔を見せる少女がいた。
○○「当麻さんって久しぶりかも、って私は私は幼い頃の思い出を振り返ってみたり」
御坂美琴?
いや、違う。
彼の近くにいる御坂に似た少女と言えば、一人しか存在しない。
だが、上条の記憶の中にこんな少女は存在しない。
一方通行と同じVラインの入った白のTシャツ、黒いパンツ、そしてその上に羽織った地面に付きそうなくらいに長い白衣。
白衣?
上条「………お前、まさか……打ち止めか!?」
上条はとうとうその名を口にした。
信じられなくても、そうする事しかできなかった。
徐々に事態を理解しつつある自分を、敢えて無視していた。
上条「一方通行」
上条は、改めて一方通行の姿に目をやる。
目元をカーテンのように覆う白髪、森羅万象の全てに一切興味が無さそうな瞳、男にしては痩せた細い肉体。
一見、何も変わっていないように見える。だが、どこか……どこかおかしい気がする。
一方通行「あァ?」
打ち止め「もう! 久しぶりに会ったっていうのにその態度は何なんじゃん? って私は私は黄泉川さんの物まねをしてみたり~」
上条「………”私”?」
打ち止め「あ、もしかして私の口調に戸惑っているの? って私は私は当麻さんの顔に顔を近づけてニコリと笑顔を見せてみたり」
上条「うわっ!?」
ボシュシュ、と赤面した顔を逸らし、手で顔を覆いながら上条は一方通行と打ち止めに目をやる。
上条「………今、何年だ?」
一方通行「はァ?」
打ち止め「もう!! だからそ――― 一方通行「うるせェ。……オマエ、どっかで頭でも打ったかァ?」
一方通行は怪訝どころか何か変なモノを見るかのような顔でこちらを見てきた。優しい目を向けてくれる隣の打ち止めの顔にも疑問の色が見て取れる。
上条(……今は、二〇二二年……だったはずだ。頼むぞ……!!)
だが。
そんな儚い幻想は、あっさりと打ち捨てられた。
一方通行「今は二〇二五年だろォが」
上条「―――――――」
打ち止め「あれ? そういえば当麻さんは二年前にイギリスで失踪したって聞いたけど……って私は私は過去の情報を思い返して今目の前にいる人に疑問を投げかけてみたり?」
上条「失踪? 俺がか?」
一方通行「記憶喪失でもしたかァ? まァ、オマエの詳しい過去が知りたかったらオレなンかじゃなく、オリジナルの方にでも行くンだな」
上条「……………………………おい、一方通行」
異変に気付いてしまった。
未来に飛んだなどという大きな、上条には理解出来ない程に巨大な異変では無く、もっと小さな、夏になると蚊が増えるといった風に極々僅かな異変に。
上条「首元の、チョーカーはどうした?」
二〇二二年 は自分のオリジナルです。作中では何年かが分からなかったので。
カプは基本的に原作準拠のつもりで、無い人は無いしある人はそれなりにある。
上条はインデックスがやや強い。一方通行は完全に打ち止め。
一方通行「一体何年前の話をしてンだァ?」
上条の問いに、一方通行は両手を広げて答える。
轟!! と、一方通行の左右のビル壁がペットボトルのようにベコリと凹む。
上条「な、お前!!」
制止にかかる上条と、口角を上げる一方通行。
一方通行「これはオマエが”いなくなってからの話”だが、”あの化け物”が俺の所に来てなァ? アイツは、俺の知らねェチカラで傷を完治させやがった」
上条(……あの化け物?)
一方通行「理由が理由だったモンだから甘ンじたがァ、まァその必要は無くなったみてェだな」
上条「どういう事だ一方通行!? その化け物ってのは一体何なんだ!? 理由って――――俺がいなくなったってどういう事だ!?」
打ち止め「当麻さんは女の子を追って、ある時急にいなくなったんだよ? って、私は私は過去の事実を述べてみる」
パリッィ!! と、打ち止めの体から微量の電撃が発生する。
打ち止め「それから間もなくしてやってきた”あの人”の名前は私も知らない。って、私は私は真剣な顔で告げてみる。そして、年月は私をお姉様とは違う一人の人間に成長させ、一方通行はあの頃の能力を取り戻した。私達だけじゃない。具体的に言えば、他の超能力者も、”あの人”のチカラで本来の実力を取り戻した。って、私は私は結論を述べてみたり」
上条「………あの人、か。………分かった。じゃあ、他にコンタクトが取れる奴の所も尋ねてみる。ありがとう、打ち止め。それと」
一方通行「……チッ」
上条「一方通行も」
― イギリス ―
ステイル「やれやれ。必要悪の教会に久しぶりに来た仕事がこれかい」
必要悪の教会の魔術師ステイルは、上から渡された指令書の文面に目を通しながらその内容にうんざりした顔を見せる。
神裂「しかし、”彼”が復活したという情報が確かなら、もう一度始末せねばなりません」
ステイル「……まったく、良く言うよ。”一回目”はどうにかして彼を生かそうとしていたクセに」
神裂「……………そう、ですね。ですが、あの子が覚悟を決めているのに私が戸惑うわけにはいきませんよ」
ステイル「その通りだね。さて、じゃあ行こうか。学園都市に―――」
― 学園都市 -
上条「……はぁ」
見慣れた街並みを眺めながら、上条は静かに溜息をつく。
思えば目が覚めた時からおかしかった。いつもうるさいインデックスはいないし、スフィンクスと格闘するオティヌスの姿も同様に。中学生でしかもエリートであるはずの御坂美琴はうちの制服を着ているし、一方通行は何やら能力の枷の様なものが外れている。
上条(……どうなってんだ?)
無言で空に視線を変えていると、カツン、とブーツで地面を踏みつける音が後ろから。
上条「?」
何故だか、後ろを確認しなければならない気がした。思慮や作戦などではないタダの勘。
と、上条が後ろを振り返ると―――――音速の蹴撃が上条の頭に向かって薙ぎ払われた。
上条「な――――ッ!?」
ガゴォッ!!! という凄まじい衝撃が上条の頭を揺さぶり、体を前方のビル壁に叩き付ける。
上条「……な、ん……」
なんなんだよ。と、そう言わずにはいられなかった。コツン、コツン、と、だがその足音は更に接近してくる。
上条「一体誰が………!!」
鼻血どころか額から血を流しながら、上条は再度振り返る。もう容赦のない蹴りは襲ってこなかった。おそるおそるその顔を見て、上条は沈黙する。
上条「……………」
その青年は、煌びやかな金髪を風になびかせながら、冷たい目で上条を見下していた。
トール「何やってんだ上条ちゃん」
更新遅れて申し訳ないです。
えっと、そうですね。違和感は私にもあったのですが、お答えの通り、打ち止めは成長を分かりやすく再現するために「私は私は~」と「当麻さん」という喋り方にしました。
喋り方自体を変えればいいかなともたしかに思ったのですが、そうなるとSSでは打ち止めを打ち止めと認識しづらくなるとの考えから、この結論に至りました。
上条「………お前、トールか……ッ!?」
トール「他に誰がいるってんだよ。それとも、俺の顔と強さを再現出来る能力者が学園都市にいるのかな?」
上条「……い、や、っていうか何でお前がここにいるんだ??」
トール。雷神トール。科学と魔術の融合組織『グレムリン』の中でも特に直接的な戦闘行為を担当し、純粋な個人の力でもって戦争という状況を実現する、破格の力を持つ生粋の戦争代理人。
かつて上条と三度戦い、上条はその度に苦戦を強いられ、時には圧倒的な差をつけられて敗北もした。
上条の身体能力がただの一般人レベルである事もそうだが、目の前にいる人間はそもそも規格が違う。
バーナーのような超高熱の魔術を使用し、学園都市のビル群を一刀のもとに両断するチカラ。そして、その奥に秘められた全能の魔術。
そんな規格外の怪物は、上条を憐れむように瞳を細める。
トール「……やれやれ。これじゃ死んだオティヌスもガッカリだぜ。なぁ上条ちゃんよ、お前、一体”いつの”上条ちゃんだ?」
上条「……”いつ”? オティヌスが死んだ……? おい、どういう事だトール」
トール「この世界の上条ちゃん……まぁ、端的に言えば大学生の上条ちゃんは死んだわけだがよ。じゃあ高校生の格好、俺達と争った時の格好の上条ちゃんは一体いつの時代からここに飛んできた?」
上条「ちょ、ちょっと待てトール――― トール「的外れな質問じゃないはずだぜ。この時代の上条ちゃんはとうに死んでるんだからな」
上条「――――――――――――」
トール「さて、俺も知っている事を喋ろう。だから上条ちゃんも置かれた状況を余す事なく話してくれよ?」
トール知らない方……っていうか、原作読んでない方には申し訳ないのですが、このSSはオティヌスの全能と魔神の圧倒的な力があっての物語です。
ですが、魔神は言葉の中に出てくるだけで実際に出てくる事は無いですので、それを潰した最新刊メンバーはご存知なくても大丈夫です。
最低限、オティヌスとトール、その他アニメに未登場の学園都市最強の超能力者達を知っていればOKです。
トール「さて。全部話すとは言ったものの、どこから話せばいいんだ? そもそも、アンタが”いつ”の上条ちゃんなのかを知っておきたい」
上条「……この時代がいつ頃なのかがまだはっきりしてないけど、俺のいた世界で最近起こった重大な事と言えば、上里勢力との勝負が終わった事だな」
トール「上里勢力……? ああ、あの変人集団か。そうか、じゃあ俺の知る最後の上条ちゃんとそう遠くない過去からやってきたってわけだ。それと、後で新聞でも読めよライバル」
と、言い終えるとトールは指を真上に向け、話し始める。
トール「良いぜ。一からだ。本当に一から。けど、俺が知る歴史も断片的だ。なんせ、俺があの騒動に参加したのはオティヌスの奴に救援を頼まれてからだからな」
トール「さて、どこから話すべきか」
上条「どこからでもいい。とりあえず大元が知りたいんだ。お前程の奴が、学園都市にいる理由がそこにあるんだろ?」
○○「その通りだよ。彼は僕等の作戦において尤も厄介かつイレギュラーな存在でね。君を”[ピーーー]”事には随分と苦労したものさ」
上条「!? ―――この声……お前、ステイルか!?」
ふぅ、と突如上条達の前に現れた赤髪の神父は息を吐く。
ステイル「いやはや、君を侮っていたよ。やはり君はあの時殺しておくべきだった」
トール「………お前」
上条「トール? 知ってるのか、こいつを?」
ステイル「知ってるも何も」
トール「こいつが学園都市を攻撃した主犯格だぜ。上条ちゃん」
上条「……は?」
トール「今更用無しの場所にのこのこ現れた理由なんざ明快だな。下がってろ上条ちゃん。コイツは俺が殺してやるぜ」
なるほど! 初めて知りました。ありがとうございます!!
上条「……ステイ、ル?」
上条は彼の名前しか言葉に出せなかった。困惑と驚愕、二つの感情がぐるぐるに絡み合い、最早まともな思考回路など保てない。
上条「おいトール、どういう事だ!? ステイル、お前も何の冗談だよ!? だってお前が学園都市を狙う理由なんて……むしろお前は学園都市を守る方じゃ――――――」
言い始めて、気付く。
ステイル「……」
上条「……そうか、インデックスがいないってのはそういう理由か。テメェ、いやイギリス清教はインデックスに何をしやがった!?」
思えば、ステイルには学園都市を守る明確な理由が無い。たまたまイギリス清教が学園都市と友好関係で、ステイル自身にはインデックスという庇護対象があるためにこの関係が続いていただけだ。
朝、目覚めたときインデックスはいなかった。また第三次世界大戦の時のようにインデックスを操ったのか、それとも言葉巧みに連れ去ったのか、それは分からないが、どちらにせよ。
上条「見損なったぞステイル!!」
ステイル「………君が何をそこまで苛立っているのかは想像がつくが、彼女は元々こちら側だ。それに、言ったはずだよ上条当麻。なんとしてでも彼女を守れ、ってね」
上条「!?」
ボッ!! と、ステイルの腕元で業炎が芽吹く。
ステイル「我が名が最強である理由をここに証明する(Fortis931)」
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