チノ「色彩と温度」 (18)

パズルを心に例えてピースをはめていく。
思いや後悔をピースに変えて、心を作り上げていく。
このパズルは随分すぐに、簡単に出来上がった。
それはこのパズルが、心じゃないからかな。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1464697979

ココア「あの日の気持ちが雨に溶けるまで」
ココア「あの日の気持ちが雨に溶けるまで」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1464531417/)

の続きとなります。


穴があいています。心のどこかに。


母がいなくなって、私には世界がずっと冷たいものに見えています。
木組みの街は素敵な場所で、私はこの街が大好きです。
ですが、あの日から確かに街の色は変わって灰色のようでした。
視界や音もモヤモヤしていて、まるで全身の感覚に薄い膜をはったかのようです。


私の見ていた景色を、誰がわかるのでしょうか。
母が私にとってどれほど大きい存在だったのか、今は嫌という程わかってしまいます。
色が消えた今、記憶の街の景色は、ずっと綺麗に思えます。


私にはバリスタになるという夢があります。
立派なバリスタになって、お店を支えます。祖父や父、母と過ごしたラビットハウスを。その夢が、私の目を覆ってくれます。


友人と呼べる人はいません。
もう少しで中学に上がるようですが、私は人とお話しするのが苦手なので変わらず私は友人を作ろうとはしないでしょう。
父は心配すると思います。でも大丈夫です。夢がありますから。


あいた穴を埋めるためにコーヒーを淹れます。温かいコーヒーを。

そういえばアルバイトの方がラビットハウスにやってくるそうです。
私が春、中学に上がる時に高校生になる女の方です。お姉さんですね。少し不安です。うまく話せるでしょうか。


駅前で買ったキャンドルに火をつけます。冷たい光です。


少しうとうとしてきました。まどろみに落ちていきそうです。



夢の中で、逢えるかな



(……ちゃん…………ノちゃん!)

(………うるさい声ですね…)

夢の中くらい、静かでいたいものです

ココア「チノちゃん!!!」

チノ「はっ…!!私は!?」

ココア「もー!せっかくリゼちゃんから借りたDVDみようって言ってたのに~!!寝てるなんてひどいよー!」

チノ「ご、ごめんなさいつい…」

ココア「ふふっ、いーよ!お姉ちゃんゆるしたげる!そのかわり~!」

チノ「そのかわり…?」

ココア「もふもふさせろ~!!!」


ココアさんは私に飛びつきます。いつもの私なら、すぐに振りほどこうとしたでしょう。


ココア「もふもふもふもふ~!…あ、あれ?チノちゃんどうしたの?いつもならすぐ『離してくださいココアさん!』って抵抗するのに」


へたくそな私のモノマネにも問いかけには答えずに、彼女の胸に顔を埋めます。


ココア「あ、あれ??どうしたのかな??はっ…も、もしやついに私をお姉ちゃんと認めたんだねチノちゃん!?そうなんだね?!」


チノ「違います」


ココア「即答!?そこは即答なの!?」


彼女の匂いは…温かい香りがします。この胸の中も、体温も、声も。
今は、恥ずかしさを感じません。引きずってきた重い鎖のような何かが心を覆うからでしょうか。悲しみが、勝っているからでしょうか。

チノ「夢を見ました」


ココア「……怖い夢?」


私の声のトーンに合わせて、ココアさんの声もいつもより低く、優しい声になります。


チノ「…そうかもしれません」


ココア「そっかそっか」


そう言って頭を撫でてくれます。内容は聞き出そうとはしないようです。私が言葉を続けなかったからでしょう。

チノ「ココアさん…」


あの夢の正体はなんでしょうか。


ココア「ん?なにかななにかな」


今になって、また思い出させるようなあの夢の正体は。


チノ「私は、この街が好きです。みんなのいる…石畳に木組みの、鮮やかな色合いの街並みが好きです」


きっと私の世界に色が戻った理由を、


ココア「私もそうだよ。一緒だね」


あいた穴を埋めてくれるあなたに、


チノ「ココアさんがいてくれて、本当に良かったです」


伝えるために、思い出したんでしょう。


ココア「…!チノちゃん!」




ココアさんは、見たことのない、驚いたかのような表情をした後、にっこり笑いました。
その瞳に、まぶたの裏に、心の奥に、雨の色を隠して。

非常に短いのですが以上となります。
お目汚し失礼致しました。

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