女盗賊「急に何、お前」
剣士「隣いいか……疲れてるんだ」ガタッ
女盗賊「勝手に座んじゃねぇよ、誰だよお前」
剣士「……」
剣士「これ、あげる」ガシャッ
女盗賊「いらねーよ汚ねえ剣だな」
剣士「装飾含めて売れば半年は遊んで暮らせる、それをあげるから座らせてくれ」
女盗賊(なんだこいつ)
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剣士「……3年ほど前の話だ」
女盗賊「なんの話だよ」
剣士「俺は西の王国の騎士団にいてな……」
女盗賊「酔っ払ってんのかオッサン」
剣士「実力は無かった、それなりに領地のある家柄だったが……他の対立していた貴族に母親が騙され、それも失ってた」
剣士「弱小貴族にしては剣の自信はそれなりにあってな……周りの家や騎士団内の派閥争いにも上手く立ち回りつつ俺は俺の居場所を作った」
剣士「作ったつもりだったのさ」
女盗賊「……」
女盗賊「ちょいと面白そうだから聞いててやるよ、ほら飲みかけだけど酒もくれてやる」ゴトンッ
剣士「……すまない、こんな薄汚れた男に酒をくれて……」
剣士「そんな風に若い騎士の多い中で俺は若輩者なりに頑張ってたわけだ……」
剣士「けど、けど3年前だ……3年前に俺は女と出会って全て壊れたんだ」
剣士「その女は娼婦だった、何処の娼館に属する訳でもなく、男と話をする事に飢えた女だった」
剣士「ただの町娘だった」
剣士「ぐびっ……ぷはぁ」ゴトンッ
剣士「……騎士団の中で、その女の噂を俺は聞いた」
剣士「『気の触れた醜女がいる』、とな」
女盗賊「……ふぅん」
パチンッ
女盗賊「マスター! 酒をこっちのテーブルに二つ寄越しなぁ!」
剣士「……」
剣士「俺は特に興味も無かったが、騎士の誰かがその女と寝た事を聞いて気になった」
剣士「昼食を摂って腹も膨れていた俺は、その時はたまたま」
女盗賊「……?」
女盗賊「たまたま、なんだよ」
剣士「……ぐびっ」
ゴトンッ
剣士「誰でもいいから女が欲しかったんだ」
女盗賊(…あぁ、アタシが女だから言いにくかったのかよ)
女盗賊(真面目な騎士らしい話じゃねえか、こりゃこの剣も本物かね)チャキ……
剣士「話に聞けば、その女は腕に傷を自分で作ったり、頭のおかしい言葉を描き殴ったり、暗い詩を書いては人に見せているという」
剣士「……俺には」
女盗賊「そりゃーキチガイだわなぁ」
剣士「……」
剣士「何か、その女には悩みがあるのではないかと思ったんだ俺には……」
剣士「相談に乗ってやれば分かるのではないかと思い、俺はその女に会いに行った」
剣士「女は歌う事が好きだった……その女は、いつも小さな広場で様々なお伽話を歌っていた」
剣士「……他の者にとってはお世辞にも上手いとは言えぬ歌声だったが、俺はその声が好きだったよ」
剣士「女は俺の視線に気付くとこちらを見て微笑んで近寄ってきた」
剣士「髪は乱れたままで、衣服も薄汚れていた」
剣士「確かに顔も……美女とは言い難い、だが幼く見える肌の柔らかさと多少磨けば直ぐにでも露わになる可憐さに俺は気づいたんだ」
剣士「体つきも中々の……」
女盗賊「アタシの体を舐めるように見るのやめろ、殺すぞ」
剣士「……俺はその女と話をした」
剣士「女は、様々な歌を数枚の羊皮紙に書き記していた」
剣士「何処でそんな高価な物を手に入れたのかと聞いたら、親切な友人に貰ったと言っていたよ」
女盗賊(……あー、そりゃ……)
剣士「後で分かった事ではあったが、その友人とは女が寝た騎士の事だった」
剣士「……ぐびっ」
ゴトンッ
剣士「女は歌を収集し、大切そうにしまっていたんだ」
剣士「俺はその姿を見て気づいたよ」
剣士「ああ、この娘は『幼い』のだな……とな」
剣士「その女には父親がいない」
剣士「母親に飽きたか子を育てる事に苦痛を覚えたのか、早くに蒸発していたんだそうだ」
剣士「女の母親は娘を育てる為に、町の鍛冶工房で安い賃金を得て共に暮らしていた」
剣士「女には実質、マトモな親がいなかった」
女盗賊「珍しくもねぇだろそんなの」
剣士「だが目の前で楽しげにしている娘を見ながらその現状を知って何も思う所が無いと?」
女盗賊「……お前にはあったんだな」
剣士「傲慢にもな……ぐびっ、グビッ……」
剣士「ぷはぁ……っ、俺はその女を現状から抜け出す手助けをしてやりたいと思った」
剣士「傲慢にも、その女の人生の全てを俺は否定したくなったんだ」
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