美城常務「……ウサミンロボ?」 (71)
【モバマスSS】です
武内P「……ウサミンロボ?」
武内P「……ウサミンロボ?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1435759540/)
の後日談です
天才アイドル池袋晶葉によって開発されたウサミンバックダンサー、ウサちゃんロボ。
そしてさらにウサミン科学によって強化改造されたロボを、人々はウサミンロボと呼んだ!
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1462802904
常務室の鍵を閉め、地下駐車場へ向かう。
「ご自宅でよろしいですか?」
待っていた運転手の問いに美城常務は頷いた。
「ああ、出してくれ」
それ以上は何も言わない。運転手のほうも慣れたもので、世間話の一つも口にはしなかった。
お喋りで楽しませるために雇われているわけではない。わけではないが、ここまで徹底しているのはこのアメリカ帰りの常務だけだ。
そのまま指定されたマンションまで車を動かし、翌朝の時間を確認して、事務所に戻る。
いつものやり取りだった。
部屋の鍵を開け、中に入る。
「今帰った」
うさ!
きゅらきゅらとキャタピラ音を響かせて、ロボが姿を見せた。
うさうさ
「すまないな、予定よりも一時間ほど遅くなってしまった」
うさ
「無論、食事は済ませていない。君を待たせて勝手に食事を終える無礼など、考えたこともないな」
うさうさ
「そうか、それは楽しみだ。……いや、辛味は嫌いではない」
「そうか、それは楽しみだ。……いや、辛味は嫌いではない」
うさ
「ああ、先にシャワーを浴びてくる」
彼女の脱いだ上着を受け取り、いそいそとハンガーにかけるロボ。
埃をはたいてブラシをかけて、手入れに余念はない。
浴室に入った彼女はギリギリの熱い湯を浴びて一日の疲れを洗い流しながら考えていた。
(うさ! か……)
(一体何者なんだ、あの子は……)
アメリカから帰国して数日後、マンションに運び込まれた荷物の中にそれはいた。
四角い頭に二本の耳、ピンク色の円錐台の身体に二本の腕、そしてキャタピラ。
ファンシーな玩具のロボットだ、と最初の印象。
そして次に思ったのは、向こうの誰がこんな悪戯をしたのか。
「君は少し固すぎるよ。肩の力を抜いて笑ってごらん」
そんなことを言われたのも一度や二度ではないし、言ってきたのも一人や二人ではない。
ましてや相手はジョーク大好きを国民性といって憚らない連中だ。引っ越し荷物に玩具一つを紛れ込ませるくらいは朝飯前だろう。
第一、ロボットの胸には大きく「USA」と書かれているではないか。どう見てもアメリカ製だ。
ロボをよく観察しようとして、思わずつぶやいていた。
「もう少し前に出てくれば見やすいのだが」
うさ!
きゅらきゅらとキャタピラが回り、前進するロボ。
「何? ……音声認識できるのか。しかも自走するだと」
テクノロジーに関しては日本がそれほど劣っているとも思わないが、流石にアメリカの底力は違うな、と彼女は感心した。
玩具にすらこれほどの技術を惜しみなくつぎ込んでいるのだ。やはりエンターテインメントの本場は侮れない。顧客を喜ばせることに特化しきっている。
「では、そのままこちらまで来てくれ。ああ、キャタピラ音は抑えてもらえると助かる。日本の住宅事情はそちらほど恵まれてはいないからな」
うさうさ
ベッドサイド、幼い子ならばちょうどお気に入りのぬいぐるみを置くであろう位置にロボを誘導した。
「うむ。しばらくはそこにいてもらおうか」
うさ
おとなしく佇むピンク色のロボ。
「日本語の音声認識か」
ふと、心中に悪戯心が湧いた。
(英語)『右手を上げなさい』
(仏語)『左手を上げなさい』
ロボが両手を上げた。
(広東語)『両手を下ろしなさい』
即座に両手を下げるロボ。
「……世界レベルだな」
うさ~
ロボが褒められて喜ぶように身を震わせた。
彼女は、いつの間にか微笑んでいる自分に気づいていなかった。
そしてしばらくの間、彼女はロボのことを忘れていた。
いや、忘れていたというよりも、ロボに割く時間がなかったのだ。
思うように進まない改革、プロジェクト。後に思えば急すぎた常務のやり方には周囲への求心力はなかった。
社員レベルは別として、肝心のアイドルたちの反応は芳しくなかったのだ。
当たり前だ、と彼女にもわかってはいた。
ある意味では、武内の作り上げたものを後から掠め取ると見られても仕方ないと。
あるいは、武内の築いたものを破壊するか。
どちらにしろ、武内とともに歩んできたアイドルたちがそれを黙って受け入れるのか。
それでも成果は求められる。美城の名を持つ者の、それは業病といっても良いだろう。
「いやいや、流石は美城のお嬢ちゃんじゃないかね」
だからこそ、こんな酒席にも顔を出す。
彼女自身の力量ではなく、「美城の血筋の女」の評価しかしない、できない男たちの群がる饐えた臭いの末席に。
「こんな美人じゃあアイドルも霞むんじゃないかい」
貴様たちの毒でアイドルを霞ませないためにここにいる。そう怒鳴りつけたい気を抑え、いつの間にか貼りつけるようになっていた笑いで答えを返した。
「お世辞は困りますわ」
嫌な酔い方になりそうだ。
心の中で独りごちながら、翌日のスケジュールを頭の中で確認していた。
そして目を覚ます。
案の定のひどい気分。
ベッドの上で半身を起こしたまま、なにをする気も生まれない。
午後出勤の予定であるだけ少しはましだが、それでも起きだして朝食くらいはなんとかする時間だ。
「ああ……」
われながらひどい声だと思いながら、声を出し続ける。
くだらない哀れさとみっともなさが妙に心地よく、三分ほど声を出し続けてみた。
うーさー
予想外の声に、とっさに毛布を胸元まで引きずりあげた。
うさうさ
ロボがキッチンから現れた。両手をまっすぐ伸ばし、お盆を持って。
お盆の上には湯気を立てた深皿が。
「なんだ……」
彼女の鼻は美味しそうな出汁の匂いに気づいた。
近づいてきた盆に乗っているのは温かいにゅうめんだ。
うさ
「にゅうめん、なのか? 君が作ったのか」
うさ!
その答えが「イエス」だと、彼女は確信した。
だとしても、
「材料は一体……」
思い出す。
酒席の最後に行われたビンゴ大会で、明らかに季節の進物の余り物を押し付けられたこと。あれは、そうめんと出汁のセットだったか。
そして、自分がほとんど自炊しないこと。にゅうめんには似つかわしくない深皿だが、他に食器はなかったのだろう。
……食器?
自分はこの食器をいつ、梱包から取り出したのか?
アメリカからの引っ越し荷物は、仕事にかまけてほぼ手つかずのはず。
あることに気づき、彼女はベッドから抜け出した。
台所、居間、浴室、洗面所、すべてがきれいに掃除され、整理整頓されている。
さらに、着替えの準備まで。スーツにはアイロンも掛けられている。
「まさか、君なのか」
うさ!
差し出されるにゅうめん。
そんなことより飲みすぎにはこれが一番だ、と言われたような気がして、彼女は箸をとった。
にゅうめんは温かくて、美味しくて、優しかった。
三日後、クッキーと牛乳を買ってきた。
クッキーを皿に並べ、牛乳をコップに入れてロボの前に置く。
うさ?
クッキーも牛乳も減らず、ロボの正体は西洋妖精の類ではないと、彼女は思った。
夜中に起きだして油をなめたりおにぎりを食べたりもしない。
日本の妖怪でもないらしい。
一週間後、適当な材料だけを買って、冷蔵庫に入れながら言った。
「明日は八時に帰る。夕食を作っておいてくれないか」
帰ってみると中華風野菜炒めと玉子スープ、海老炒飯が待っていた。
デザートには作り立てとしか思えないお団子が。
さらに翌日、いくらかの入った財布をロボの前に置いた。
「これは三日分だ」
帰ると、トイレットペーパーの買い置きが増えていた。
そしてビールも冷えていた。さらになぜか落花生が買い置きされていた。
「君は何者なんだ」
うさうさ
ウサミンロボはいつものように、秘密基地にある宝物倉庫のお掃除をしていました。
色々な世界で色々なアイドルにもらったり、大冒険で手に入れたりした、自慢の宝物です。
真空パックされたバゲット、Ⅳ号戦車のプラモデル、露伴先生のサイン、ウサミン星人のレンジャーキー、
間宮食堂の食券、日清キャノーラ油、ジャッジメントの腕章、グリーフシード、バッタラン、ケミカルX、
輝くトラペゾヘドロン、夢品商店の香石鹸、ジェットサンダーラーメン、アリシアのレンズなどなどです。
ウサミンロボはある宝物の異変に気づきました。
パラレルワールドのプロデューサー、武内Pからもらった名刺がぼんやりと光っているのです。
うさ?
近づくとセンサーが反応します。
これは空間の歪みです。
まさか、また、武内Pのいる世界と繋がったのでしょうか。
うさ!
うさ?
放っておくわけにはいきません。空間の歪みは危険です。
ウサミンロボは、一緒にお掃除をしていた別のウサミンロボに後を託すと、歪みへと飛び込みます。
ウサミンロボはいつもにっこり微笑んで、危険の中へ駆けていくのです。命、それより大切なアイドルがロボにはあるからです。
うさーーーーーーーー!!
気がつくとウサミンロボは、真っ暗な部屋にいました。
うさ?
ライト点灯。周りを見渡すと知らない部屋です。
ウサミンロボは困ってしまいました。誰か、知らない人の部屋なのです。
知らない人の部屋に勝手に入ったら、怒られてしまいます。
周りにはたくさんの荷物。ほとんどが荷解きされていません。倉庫でもないようなので、これはきっと引っ越してきたばかりの人の部屋です。
物音。ウサミンロボはとっさにライトを消します。
うさうさ
静かにします。
扉が開き、入ってきたのは綺麗なお姉さんです。
ちょっと怖そうなお姉さんです。
お姉さんは部屋の中を一通り眺めると、ウサミンロボに目を留めました。
「なんだ、これは……」
ウサミンロボは黙っています。
正体不明の人に異星の超科学、ウサミン科学を見せてはならないのです。
何も言えない、話しちゃいけない、ウサミンロボの正体を。なのです。
「U,S,A……アメリカ製か」
うさー
正体はばれないような気がしてきました。
これなら少しくらいは、ウサミン科学を見られても大丈夫かもしれません。
お姉さんはロボの観察を続けています。
「もう少し前に出てくれば見やすいのだが」
お安い御用です。
うさ!
ウサミンロボは素直に前進します。
お姉さんの驚く顔に、ウサミンロボは少し得意に思いました。
「何? ……音声認識できるのか。しかも自走するだと」
「では、そのままこちらまで来てくれ。ああ、キャタピラ音は抑えてもらえると助かる。日本の住宅事情はそちらほど恵まれてはいないからな」
うさうさ
静音モード、オン
キャタピラ静音モードは、深夜のパトロールのために役立つ機能です。
さらに昼間でも、あまり音がうるさいと双葉杏が事務所のソファでお昼寝できません。そうなると諸星きらりが実力行使に出るのでウサミンロボ大ピンチです。
静音モードは必要不可欠なのです。
お姉さんの指示に従って進むと、寝室に案内されました。
うさうさ
ベッドサイドに誘導されます。
地方巡業中のアイドルと一緒にお泊りするときと同じ位置です。
目覚まし時計代わりになり、万が一の時のボディガードにもなるからです。
一度、悪辣なテレビ局プロデューサーが、本当にアポなしの寝起きドッキリを新田美波とアナスタシアに仕掛けてきたことがあります。
ウサミンロボは全力でこれを撃退したものです。侵入者たちは泣きながら逃げました。
ウサミンロボは、泣いて逃げ去る背中に向かって落ちる夕陽を投げてやりました。われら最強ウサミンロボです。
その後、業界でそのプロデューサーを見た人はいません。
「しばらくはそこにいてもらおうか」
うさ
お姉さんは何事か考えているようです。
「右手を上げなさい」
うさ?
何故かお姉さんは英語で話しています。
ウサミンロボは英語もわかるので平気です。
素直に右手を上げました。
「左手を上げなさい」
今度は仏語です。
ウサミンロボは仏語もわかります。
なんでしょう? お姉さんはウサミンロボを試しているのでしょうか?
ウサミンロボは素直に左手を上げました。これで両手を上げたことになります。
ウサミンロボは招き猫ではないので両手を上げても平気です。
猫アイドル前川みくによると「両手を上げるのはデンジャーにゃ」らしいですけれど、ウサミンロボは平気です。
「両手を下ろしなさい」
なんと今度は広東語です。
このお姉さんはとても頭のいい人に違いありません。
きっとこのお姉さんなら、神崎蘭子の熊本弁だってわかるに違いありません。
ウサミンロボは感心しながら両手を下ろしました。
「……世界レベルだな」
ウサミンロボは驚きました。このお姉さんはヘレンさんだったようです。
でも次の瞬間、ロボのウサミニアックブレインに搭載されている副脳が言います。
(「ぴにゃあ、世界レベルという言葉を使うのはヘレンさんだけじゃないぴにゃ」)
ウサミンロボは深く反省しました。
するとつまり、今のお姉さんの言葉は純粋にウサミンロボを褒めたものだということです。
うさ~
ウサミンロボは照れてしまいます。
お姉さんは優しく笑っていました。
それを見たウサミンロボは確信しました。このお姉さんはいい人だと。
ウサミンロボは、しばらくお姉さんの家にいることにしました。
はじめてお姉さんとあった翌日、ウサミンロボはテーブルの上に置かれている名刺に気づきました。
そこには、この世界の武内Pにもらったものと同じプロダクション名が書かれていたのです。
偶然とは思えません。
お姉さんは毎日朝早く出かけて、夜遅く帰ってきます。
とても忙しいお姉さんの代わりにウサミンロボは、毎日お掃除をすることにしました。ついでに引っ越し荷物らしい梱包もほどいて、整理整頓します。
ご飯も作ろうと思いましたが、材料がありません。冷蔵庫の中にあるのはミネラルウオーターと冷えピタと栄養ドリンクだけです。
どうやら普段のご飯は外や会社で食べているようです。
出来るのはお掃除だけのようです。
お掃除をした後ウサミンロボは、部屋につながっていたインターネット回線からこの世界の情報を入手します。
やはりこの世界は、武内Pのいる、一度来たことのある世界のようでした。
つまり、ウサミン星人が地球に来ていなくて、モバPもいなくて、シンデレラプロの存在しない世界です。
ウサミンロボは自力では戻れませんが、心配はしていませんでした。
一度来た場所で、一度戻ることの出来た場所です。しかも空間の歪みはウサミンロボ秘密基地の中で発生したのです。
池袋博士とウサミン科学を持ってすれば、追跡など時間の問題なのです。
ウサミンロボは、安心して博士からの連絡を待っていました。
そして……
ある夜のことでした。
「うう……」
お姉さんが泥酔した状態で帰ってきました。
辛うじて一人で帰ってくることはできたようですが、足下がふらふらです。
うさ……
連絡さえあれば迎えに行ったウサ……とウサミンロボも残念がってばかりはいられません。
すぐにベッドを整えて、寝る準備です。
ミネラルウォーターを渡すと、お姉さんは美味しそうに飲み干してしまいます。ウサミンロボが渡したことにも気づいていないようです。
お姉さんはふらふらとしながらもウサミンロボの用意した子猫柄パジャマに着替えると、ベッドにバタンキューしてしまいました。
うさ~
ウサミンロボは心配です、お姉さんはとても酔っ払っています。
でも酔っ払いの世話ならば経験があります。ウサミンロボはメモリから過去の経験を呼び出しました。
姫川友紀、高垣楓、片桐早苗です。他にもいますが、ベストスリーはこの三人です。菜々ママは17歳だからお酒は飲めません。飲めません。
寝ている間に、明日の準備をしなければなりません。
着替えはちゃんとあります。お姉さんはクリーニング屋と契約しているようで、いつも洗濯物を持って出かけます。
そんなことをしなくてもロボに一言言えば洗濯ぐらいは出来るのですが。
ウサミンロボは着替えを出して、ついでにアイロンを掛けて皺を伸ばします。そして、出かける準備を全て終えたところであるものに気づきました。
玄関に置かれた箱です、どうやら、お姉さんが持って帰ってきたもののようです。
メカニックスイッチオン、センサーライト
どうやら中身は乾麺のようです。固形出汁も入っています。これだけで数食食べられる優れもののようです。
台所に鍋はあります。麺料理を入れるような丼はありませんが、代わりになりそうな深皿があります。
にゅうめんを作ろう、とウサミンロボは思いました。
酔い覚ましには温かい汁。そしてお腹が空いているだろうからお腹に溜まるモノ。
酔って寝た後にはこれが良い、とウサミンロボは佐藤心に教えてもらったことがあります。
うさうさ
そうと決まれば、お姉さんの起きる時間までは待機です。
目覚ましが鳴りました。
うさーーーー
むくり、とお姉さんが起き上がります。いつもの朝ならばもっと軽快に起きてくるのですが、流石に大儀そうです。
「ああ……」
酷い声です。普段のハスキーボイスとは違います。酔っぱらいの声です。
早苗さんも時々こんな声を出しています。
うーさー
ウサミンロボはしばらく見ていましたが、思い切って声をかけました。
驚いたお姉さんが、毛布を胸元まで引きずりあげます。
即座にウサミンロボはも出来たてのにゅうめんをお盆に乗せて運びます。
熱々の出来たてにゅうめんです、ちょっと危険です。デンジャラスヌードルです。
うさうさ
「なんだ……」
うさ
「にゅうめん、なのか? 君が作ったのか」
うさ!
「材料は一体……」
突然、お姉さんはベッドから出ると、今までウサミンロボの片付けた引っ越し荷物やお掃除した部屋を確認します、
最後に、アイロンの掛かったスーツを驚いたような顔で眺めていました。
「まさか、君なのか」
そんなことより、早くにゅうめんを食べた方が良いウサ。
冷めるウサ。
ウサミンロボは、にゅうめんを差し出します。
「……ああ、いただこう」
お姉さんは熱々のにゅうめんを啜ります。
「美味しいな、ありがとう」
うさ!
ウサミンロボはとても嬉しくなって、くるくると回ってしまいました。
「しかし……君は一体何なのだ」
お姉さんはウサミンロボをじっと見つめます。
「……少なくとも君の瞳からは、黒い意思は感じないな」
うさぁ?
そしてお姉さんは仕事へ出かけます。
その後ろ姿を見送りながら、お姉さんも少しだけ熊本弁を使うんだなぁ、とウサミンロボは思いました。
するとまた、ロボのウサミニアックブレインに搭載されている副脳が言います。
(「ぴにゃあ、どちらかというと二宮飛鳥ぴにゃ」)
ウサミンロボは深く反省しました。
そして数日が過ぎる中、お姉さんはいろいろなアプローチをかけてきます。
まず、クッキーと牛乳が準備されました。
うさ?
よくわからないので、ウサミンロボはクッキーを砕いて牛乳やバターと混ぜ、ふんわり焼き直して翌朝の朝食にしました。
「妖精の類ではないというのか……」
「……それにしても美味しいな、これは」
うさぁ?
次に、お姉さんはたくさんの食材を買ってきました。
それを冷蔵庫に片付けながら言います。
「明日は八時に帰る。夕食を作っておいてくれないか」
うさっ!!
実力を認められたと思ったウサミンロボは、張り切って夕食を作ります。
中華は火力です。マンションのシステムキッチンで足りない火力は、ウサミン科学でカバーします。
今だ出すんだウサミンファイヤー。
ウサミンファイヤーは、プラスとマイナスの配線を逆にすると冷凍光線にもなる優れものです。
ちゃんと帰宅時間を計算して、中華風野菜炒めと玉子スープ、海老炒飯を作ります。
さらに、銘菓ウサミン団子のサービスもつけます。
「これは……」
お姉さんは驚いたようでした。
「……美味しい」
お姉さんはウサミンロボをじっと見つめると、財布を取り出しました。
そしていくらかを取り出すと別の財布の中に入れます。
「これは君専用の財布だ」
ウサミンロボは素直に受け取ります。生活費を預かることなど、これまでもよくやっていたことです。
お酒を買いすぎてしまうアイドル、ドーナツを買いすぎてしまうアイドル、たくさん居ます。
「これは三日分だ」
うさぁ
お姉さんはお金持ちのようです。
お姉さんが仕事へ行った後、ウサミンロボは買い物に出かけることにしました。
「なんだあれ」
「ペッ○ー君の仲間かな」
「連装砲ちゃんじゃね?」
町行く人たちが色々言っていますが、ウサミンロボは慣れっこです。
いくつかの買い物をして部屋に戻り、冷蔵庫の中身やその他消耗品を補充します。
ビールも冷やしておくことを忘れません。そして、落花生。これはウサミン星人のソウルフードです。
ウサミン星には落花生そっくりの豆があるのですから。
「君は何者なんだ」
きちんと家の中をまとめているウサミンロボに、ある日お姉さんは言いました。
うさうさ
「今となっては、どうでも良いことかも知れないな」
うさ?
ウサミンロボはお姉さんのご飯を作りました。
お掃除もします。時々、お姉さんの車に乗せられてドライブにも出かけます。
「ペットとはこういう……いや、失言だな、君はペットなんかではない」
うさ
「家族とはこういうモノなのか。私には縁遠かったモノだ。昔も、今も……」
ウサミンロボは思いました。
初めてご飯を作った日から、お姉さんは少しずつ笑顔が増えていると。
きっと、会社でも良いことが増えたに違いありません。
ある夜、お姉さんは上機嫌で大きな買い物袋と共に帰ってきました。
「祝ってくれないか。私は専務になった」
うさっ!?
うさぁ!! うさっうさっ!!
ウサミンロボは腕によりをかけて御馳走を作りました。
「ありがとう」
御馳走を食べて落ち着いて、お姉さんはしみじみと言います。
「君のおかげで、我が家が……落ち着く場所ができた」
「出迎えてくれる人が居るというのは、良いものだな」
「ああ、君は本当に何者なんだ」
どうやらお姉さんは、ウサミンロボの正体がまだわからないようです。
ウサミンロボの前身となったウサちゃんロボはこの世界にもいるはずだから、それを見たことがあるならわかるはずです。
ウサミンロボはウサちゃんロボをウサミン科学によって改修したロボなので、外見はそっくりなのです。
もしかするとこの世界の池袋晶葉は、ウサちゃんロボをまだ公にしていないのかも知れません。
そういえば以前来たとき、この世界の池袋晶葉と安部菜々はまだデビューしていませんでした。
お姉さんは、ウサちゃんロボを見たことがないのかも知れません。
うさ
ウサミンロボはこの世界に来ることになったきっかけの名刺を、お姉さんに見せます。
「……これは、武内Pの名刺。何故これを君が……」
「知っているのか、彼を」
うさ
「そうか、わかった。待っていてくれ」
三日後……
お姉さんはお客さんを二人連れてきました。
「」
「」
うさっうさっ
「どうした、二人とも、そんなところで惚けていないで入ったらどうだ」
「え、あの……どうして」
「……ロボちゃん?」
うさぁ~
「やはり、知っていたか」
お姉さんの後ろで立ち止まっているのは、武内Pとちひろさんです。
「どうして、専務の御宅にその子が」
「アメリカからの引っ越し荷物に紛れていた。しばらく同居していたのだが、君の名刺を持っていたのでな」
「先に言ってくだされば……」
「私とて、たまに君たちを良い意味で驚かせたいと思うこともある」
ウサミンロボは久しぶりに会った二人にきゅらきゅらと駆け寄ります。
「お久しぶりです。ウサミンロボさん」
うさ
「お久しぶりですね、ロボちゃん」
うさ
「ウサミンロボさんがいると知っていれば、池袋さんと安部さんにも声を掛けられたのですが」
「……池袋晶葉と安部菜々。その二人がどうしたというのだ?」
「ご存じなかったのですか、専務」
武内Pは、説明します。
以前、ウサミンロボが空間の歪みに巻き込まれて346プロを訪れたときのことを。
平行宇宙の池袋晶葉と安部菜々によって作られたロボットであること。
平行宇宙にはウサミン星があって、本当にウサミン星人がいること。
「その話を知っているのは?」
「我々二人と安部さん、池袋さんだけです」
「ならば、他言無用だな」
ちひろさんが頷いていました。
「そうですね、宇宙人だなんてこの世界には……」
「そうではない」
お姉さんは続けます。
「向こうの世界の安部菜々はウサミン星人である。それは我々の関与することではない」
「だからといって、この世界の安部菜々がウサミン星人ではないと言い切る必要は無い」
「それを信じるファンが居るかぎり、その想いは大切にしたまえ。こちらから否を突きつける必要は無い」
「専務……」
「それが、その有り方こそが、君たちのシンデレラではなかったのか?」
「専務にそういっていただけるなら、幸いです」
「さあ、いつまでも玄関で立ち話でもあるまい。ウサミンロボの料理を堪能したまえ」
「料理、ですか?」
「え、ロボちゃんがお料理を」
「なんだ、知らなかったのか」
「団子を作るのは知っていましたが」
「ふふ、そうか、知らなかったか」
お姉さんは何故か、嬉しそうでした。
美味しいご飯を食べ終わると、銘菓ウサミン団子とお茶の出番です。
「こんな時に済まないが、少し君に尋ねたいことがある」
「なんでしょうか?」
「君が今手がけているプロジェクトのことなんだが……」
お姉さんと武内Pが難しい話を始めました。
すると、ちひろさんがウサミンロボをベランダに連れ出しました。
「ロボちゃん、お話を聞いてくれる?」
うさっ!
「私は専務と……あの人と年の離れた幼馴染みだったの」
うさ
「お姉ちゃんお姉ちゃんって、まとわりついていたの」
「とても、笑顔の素敵な人だった。それが、いつの頃から笑わなくなってしまった」
「美城の家の事情なんて、その頃の私にはわからなかった。だけど、今ならわかるの」
「あの人が笑えなくなっていた背景が」
「それでも、アメリカから帰ってきたと聞いて、私は喜んだのよ。昔のお姉ちゃんに戻っているかも知れないって」
「でも、あの人はより頑なになっていた」
「私はあの人に、笑顔を取り戻して欲しかった」
「プロデューサーの良いところ、アイドルたちの姿を見て欲しかった」
「それは、私の力ではどうにもならなかったけれど」
うさあ
ウサミンロボはちひろさんが悲しそうなので心配になりました。
ちひろさんは、ウサミンロボにとってはいつもモバPにドリンクを分けてくれる優しい人です。
だから、いい人なのです。
うさうさ
「だけどね、ロボちゃん」
「今のあの人は違うの」
うさ?
「仕事への厳しさや有能さは変わらない、いいえ、より有能で厳しくなったかも知れない」
「だけど、その裏の優しさが見えるの」
「そして、笑顔も見えるの」
「きっとこれは、ロボちゃんのおかげ。ロボちゃんを見ている専務の目はとても優しいから」
そう言うとちひろさんは、ウサミンロボの頭に向けて手を伸ばします。
「私には、それが出来なかったから」
「だからね、ロボちゃん」
「私は、君に少し嫉妬してます」
軽いデコピン。痛くはありませんが、ウサミンロボは少しだけビックリしました。
うさー
「ふふっ、ごめんね、ロボちゃん」
うさうさ
スキンシップなので、ウサミンロボは気にしないのです。
「それじゃあ、戻ろうか。放っておくと、あの二人はずっとお仕事の話しかしないから」
うさ~
きゅらきゅらと、ウサミンロボはちひろさんと一緒に部屋へと戻ります。
「だが、それはリスクをあまりにも小さく見積もってはいないか?」
「その懸念はあります。しかし、これまでの実績から考えれば充分に耐えられるリスクかと」
「ふん、アイドルの個性偏重は相変わらずだな」
「私は彼女たちを、いえ、彼女たちの力を信じています」
「いいだろう。ゴーサインは私の名で出す。進めたまえ、君の新しいシンデレラを」
やっぱり、二人はお仕事の話をしていました。
うさうさ
ウサミンロボはぬるくなったお茶を入れ替えようとしました。
その時でした。
〝久しぶりだな、武内プロデューサー〟
ロボの中から声がします。それは、以前346プロにロボが迷い込んだときと同じでした。
そうです、ウサミンロボが元いた世界の池袋晶葉の声です。
お姉さんが驚いているので、ウサミンロボは手を振って大丈夫だと伝えようとします。
すると、武内Pが言ってくれました。
「専務。これは以前と同じです。向こうの……ウサミンロボさんが元々居た世界の池袋さんです」
「……先ほどの話に出てきた、平行世界の池袋晶葉か」
〝連絡が遅れて済まない。自然発生の歪みの余波を捕らえるのは難しくてな〟
「いえ。池袋さん、現状は伝わっていますか?」
〝済まないが、ロボのメモリーをこちらから走査させてもらった〟
〝美城専務、でいいのかな。ロボが世話になった。礼を言わせてもらう〟
お姉さんは、見えない世界に向かって軽く頭を下げていました。
「いや、世話というのなら、お互い様だ。こちらこそ、家事万端を担当してもらっていた。礼を言う」
〝はじめまして〟
菜々ママの声です。ウサミンロボは久しぶりに聞く声が嬉しくて、くるくる回り始めます。
「……安部菜々、か……本当に同じ声だな」
〝ロボがお世話になりました。ありがとうございます〟
「先ほどの繰り返しになるが、世話をされたのはこちらだ。気にしないでくれると助かる」
〝急ぎの用件があるので、晶葉ちゃんと換わりますね〟
〝池袋晶葉だ。ウサミンロボをそろそろこちらの世界に戻したい〟
「急ぐのか?」
〝前とは条件が違う。自然現象による歪みは再現にも限度があるんだ〟
〝今戻らなければ、次はいつになるかわからない〟
「そうか」
お姉さんは静かに言うと、ゆっくりとウサミンロボに向き直りました。
「お別れか」
うさ
「専務」
近づこうとした武内Pをお姉さんは身振りで止めました。
「この日が来るとわかっていたつもりだった」
「君の世界には、君のシンデレラが待っているのだと」
「だが……」
「シンデレラは私だったんだな……君は私にとってのカボチャの馬車であり、ネズミの御者であり、きらびやかなドレスだった」
「しかし、私には置き忘れたガラスの靴はない。ましてや王子様なんていない」
「私は明日から、一人の会社員だ。ただの美城専務だ」
「君は君の世界で、君のシンデレラを守り、慈しむがいい。それでいい。それが二つの世界の正しい有り方だ」
「私は私として、この世界を受け入れよう」
「さあ、ロボを元の世界に戻してくれ。池袋晶葉」
「さようなら、ウサミンロボ」
うさ!
ウサミンロボにはわかりません。
だって、お姉さんは泣いています。涙は流していなくても、お姉さんは泣いています。
ウサミンロボは涙を流しません、ロボットだから、マシンだから。だけどわかります、お姉さんの涙。
だから、ウサミンロボはお姉さんに向かってキャタピラを回します。
ウサミンロボはお姉さんに向かって手を伸ばします。
「やめたまえ、それは未練だ」
お姉さんが制止しました。
「君に一つ教えよう」
「別れが綺麗でこそ、思い出もまた輝く」
「君と、君のシンデレラに幸運を祈る」
うさ……
ウサミンロボの身体が薄く輝き、姿はぼやけていきました。
そして、ウサミンロボは元の世界に戻ったのでした。
今年もまた、ガラスの靴を脱ぎ捨てたシンデレラは自分の足で歩きだす。
私は何度それを見送ったのか。そしてこれから何度見送るのか。
私は覚えている。彼女たちとは違う意味で、私もかつてシンデレラだったことを。
あれから何年経っただろうか。
あの二人も覚えているだろうか?
私が初めて、そして唯一、人目を気にもせずに泣いたことを。
いや、違う。初めてではあるが、唯一ではない。
私はこれから、人生二度目の人前での涙を流すからだ。
今、私の部屋の中央に懐かしい輝きが生まれている。
そして、かわいらしいシルエットがその中に見えている。
周囲の部下たちは驚いている。知ったことか。
そうだ、武内と千川を呼べ。
そうだ、専務と専務秘書の二人だ。
ああ、池袋晶葉博士は天才なのだ。
ウサミン科学に不可能はないのだ。
私は言うだろう。泣きながら。微笑みながら。
「お帰り、ウサミンロボ」
うさ!
以上、お粗末さまでした
SSの内容とは別に一つ言い忘れたこと
「ウサミンロボ」をグーグル検索【地図】すると、首相官邸が出るんだが……いるのか、官邸に
乙です
つかぬこと聞きますがウサミンロボ世界での武内氏のスカウトはしないのでしょうか?
在野だったらモバPの負担が減るかと
>>67
その発想は無かった
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