男「街にゾンビが溢れてから三年経った」安価 (16)


 花見の季節だと言うのに川原には人など一人もいない。

「あぁ……うぅ……」

 いや、正確には「自我を持った人」は一人もいない、か。
 がしゃん――シャッターに何かがぶつかった。

「おっと、花見が過ぎたか」

 スコープを下にずらすと、二十体以上のゾンビがシャッターに身体を打ちつけている。
 三年も経てば身体も腐るかと思っていたが、何故か殆ど生前と変わらない肉を保っていた。

「塞鵬(そくほう)町も随分と変わったなぁ」

 イオンを意識して作られた巨大ショッピング施設「塞鵬モール」。
 ここには男女合わせて百人近くの生き残りが暮らしている。

 俺は元々どこにでもいるサラリーマンだったが、たまたま眼鏡を変えようとモールを訪れた際にパンデミックに巻き込まれた。
 以来、一度も家に帰る事無く屋上から外を眺める日々が続いている。

 幸運だったのは親戚などおらず、常に孤独と生きていたから精神的に苦しむ事がなかった事だ。

 屋上裏で美島家の奥さんが男達に犯されているが、僕にも愛する人がいたらと思うとぞっとする。

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