とある魔法使いのおはなし (133)

【禁忌の森】

ざっ

冒険家「ここか…」地図ぴらっ

冒険家「かつて世界に暗雲をもたらさんとした悪逆非道の魔法使いが支配する古城、ねぇ」

冒険家「なるほど、趣はあるが……はたして禁忌とまでされる程のものか?」

冒険家「中には宝物庫があり、そこには古代の価値ある遺産や財宝が唸るほどあるそうじゃないか」

冒険家「もちろんそれも含めてデマかもしれないが…まことしやかに囁かれる迷信というのは俺たちの冒険心をそそらせる」

冒険家「俺のような自由人(無職)にしてみれば、ここはまさにうってつけな遊び場だ」

冒険家「さっそく入って確かめるとするか…」すたすた

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【古城】

冒険家「ふん…吹き抜け窓から穏やかな陽が射し込み、雄大な自然の景色を眺めに散歩できる回廊」

冒険家「なだらかな風の澄み渡る城内は埃一つ立たず実に心地好い」

冒険家「ふっ…さすがに魔法使いの城と称されるだけのことはある。とても繊細に行き届いた素晴らしい造りだ」

冒険家「てっきり野蛮な盗賊や野生の動植物に蝕まれ、荒廃してしまったがゆえに立ち入りを禁じられたのかと踏んでいたが……どうやらそういう訳でもないらしい」

冒険家「ともすれば何故ここを禁忌としたのか、だ」

冒険家「一見すると危険はなく何者かの干渉を受けるような害もない」

冒険家「………」

冒険家「ズバリ、だ」

冒険家「この城には未だ見ぬ宝が眠っており、それを誰も掴めないでいる」

冒険家「だからこそ国はここを禁忌と定め、不可侵を義務付けた」

冒険家「そう……全ては莫大な秘宝を独占する為」

冒険家「ククク!どうりでイヤに厳重な警備が敷かれていた訳だ」

冒険家「だが俺の目は誤魔化せん!関門など難なく突破したこの俺様!冒険家(無職)ヴェルザー様が秘宝の在処を暴いてやる!!!」

???「よく響く独り言だな」

冒険家「え?」くるっ

???「お前、五月蝿いよ。彼の目が覚めちゃうじゃないか」

冒険家「び、びっくりした!先客がいたのか」

???「………」

冒険家「ふん、見たとこまだ子供じゃないか。ダメだろ、こんなとこをうろついちゃ?」

???「なんでお前に指図されるのかな、ここはボクの城なのに」

冒険家「はぁ?なにを言い出すんだ」

???「何ってそのままだけど」

冒険家「やれやれ、どうやって入ったか知らないが秘密基地ごっこは町に戻ってやんなさい。ここは君のような子供の来る場所じゃない」

???「」いらっ

冒険家「それとも……まさか君も冒険家(無職)と言うんじゃないだろうな?」

???「冒険家?そんなの暇をもて余したろくでなしのやることだろ」

冒険家「ほう?言ってくれるな!じゃあ君は何者だというのか」

???「この城の主」

冒険家「まだそんなふざけた事を……」

???「お前、焼かれるのと引き裂かれるの、どっちが好き?」

冒険家「なに…?」

???「」キュイイイン

冒険家「(掌が光った…!?)」びくっ

???「ちなみにボクは爆破だけど」ひゅっ

冒険家「ま、まさかお前…!ま、まま魔法つか」

ボンッ!

ぱらぱらぱら

???(魔法使い)「あーあ、散らかっちゃった…。火炎魔法で焼却しとこ」ピッ

ボォォ………

魔法使い「朝食の支度しないと」すたすた

魔法使い「ふんふんふーん」かちゃかちゃ

男「おはよ…」ごしごし

魔法使い「おはよう!」ニコッ

男「ふあ~……ねみぃ」

魔法使い「はい、紅茶!寝覚めにいいよ」ことっ

男「ん、あんがと…」ごくごく

魔法使い「えへへ!おいしー?」でれでれ

男「ああ…ていうか、なんか機嫌いいな」

魔法使い「そう?」

男「朝っぱらからまぶしいくらい笑ってんから…」

魔法使い「キミといる時はいつもこんな感じだよ、ボク」ニコニコ

男「あ、ああそう…」

魔法使い「今朝はね!キミの大好きな木苺をたくさん摘んでジャムにしてみたよ!」

男「(別にそんな好きじゃないんだが…)」もぐもぐ

魔法使い「どうかな!どうかな!?」わくわく

男「ああ、うん。うまいよ」

魔法使い「よかったぁ!」

男「(とりあえずうまいって言っとけばいいし、変に感想求められないだけいいけどさ)」

魔法使い「はいコレ!」どっさり

男「ん?なんだ、この大量の瓶詰めは」

魔法使い「キミに喜んでもらいたくて1年分作ったんだ!お昼も夕飯も大好きなジャム尽くしだよ!」キラキラ

男「いや、それはちょっと」

魔法使い「安心して!飽きさせないように味は工夫してあるから!ほら、苺だけじゃなくて葡萄や蜜柑、餡もあるよ!」

男「や、やりすぎだろ」

魔法使い「へ?」

男「そんなジャムばっか食えねーよ」

魔法使い「………」

男「(あ、やば)」

魔法使い「そう…だよね。ごめん、キミの気持ちを考えてあげられなくて」しょぼん

男「だ、大丈夫だ!気持ちはちゃんと伝わったから」

魔法使い「ううん、無理しないで?この生ゴミはボクが責任持って滅しておくから」

男「(滅す…?)せっかく作ったんだし残しときゃいいじゃんか」

魔法使い「へ?キミの口に入らない食物なんて取っておく意味ないよ。全ての生命はキミの口に入るか入らないかに分けられてるんだから」

男「分けられてないわ、食物連鎖の頂点か、俺は」

魔法使い「そうだよ?」首かしげ

男「そうじゃねーよ、さも当然みてぇに言うな」

魔法使い「も、もしかして怒ってる?ごめんなさい、ボクが余計なことしたせいで……」おろおろ

男「怒ってないよ。ただ大げさだと言ってるんだ」

魔法使い「ごめんね…」しゅん

男「だから怒ってないっての」

魔法使い「ホント…?」

男「本当だよ。だから気にすんな」

魔法使い「えへへ、ならよかったぁ」ぱぁぁ

男「……」

魔法使い「食器洗っちゃうね。キミはゆっくりしてて!」

男「どーも…」

魔法使い「」キュイイイン

バシャッ ジャブジャブ

男「(また空中に浮かして洗ってら。水の魔法と風の魔法の応用とか言ってたけど便利だよな)」

魔法使い「すぐ終わるから今日もいっぱい遊ぼう?」ニコッ

男「ああ、そうだな」

魔法使い「~~♪」

男「(こんな無邪気なヤツが昔、世界を滅亡寸前まで追い込んだって言うんだから信じられない)」

男「(そもそも俺だって、なんでこんなとこにいるんだか)」

【回想】

ざっ

男「ここか」地図ぴらっ

男「世界を滅亡に追いやろうとした悪魔の住み処ってのは」

男「ふっ!トレジャーハンター(無職)の血が騒ぐぜ」

かつんかつん

男「物々しい噂と違って、ずいぶん凝った内装だな。観光名所にでもした方がいいんじゃないか」

男「しかしだだっ広いばかりで魔物や罠もなければお宝の類いもなさそうだ。やはり迷信だったか」

男「ま、そりゃそうか。魔物も魔法も大昔の言い伝えで実際は無かったとされてるしな」

男「この城に踏みいった冒険家が何人も行方知れずになってると聞いたから探ってみたが、きっとなにもないと知ってよそへ移ったんだろう」

男「俺も帰るとするか」くるっ

魔法使い「やあ」

男「うわあっ!?」ずさっ

魔法使い「なにしてんの」

男「な、なんだお前!?どっから出てきやがった!」

魔法使い「ボクは魔法使い。この城の主さ」

男「(ま、魔法使い…マジかよ、こんなガキが?)」

魔法使い「焼かれるのと引き裂かれるの、どっちが好き?」

男「え?や、焼く…?」

魔法使い「破裂でもいいかもね」ピッ

男「」ビクッ

どぱぁんっ!

男「はっ…はっ…はぁっ」汗だらだら

魔法使い「どう?自分の頭が卵の殻みたいにひしゃげる感覚は」

男「な、なな何を……」

魔法使い「今のは幻影魔法、簡単に言うとキミの想像力を強く働かせてあげたのさ」

男「ほ、本物…なのか」ごくり

魔法使い「さ、選びなよ。いつもなら一瞬で滅するんだけど今日はなんとなく遊びたい気分でね」

男「ま、待ってくれ!話をさせてくれないか」

魔法使い「勝手に話せばいいよ、聞いてあげるかは別として」

男「(ど、どうする…!まさかこんな平和ボケした時代に本物の魔法使いがいやがるとは…!)」

魔法使い「どうしたんだい?話をしたいんじゃなかったの?」

男「(こ、ここは一つ穏便に……って訳にもいかなそうだな。今まで来た奴らも全員こいつに殺されたっぽいし)」

魔法使い「……待てないなぁ」キュイイイン

男「わ、待て!落ち着けって!?」

魔法使い「水に溺れさせて息の根を止めてもいいし、土に包んで圧死させるのもいいな。キミはどれがお望み?」ニタァァ

男「(冗談じゃねーぞ!こうなったら一か八か!)」チャキッ

魔法使い「あはは、おもしろいね、そんなナイフ一本でなにができるんだろう」クスクス

男「ウオオオオ!!!」バッ

魔法使い「はい死んだ♪」ピッ

男「この短剣を差し上げます!!!」ミツギ

魔法使い「……はい?」ピタッ

男「こ、こここれは我が家に代々伝わる短剣でして!な、なんとルビーをあしらえた高価な一品となっております!」ドゲザ

魔法使い「……」

男「どうぞお受け取りくださいませ!」スッ

魔法使い「ふーん…」パシッ

男「い、いかがですか」

魔法使い「確かに…この赤く燃える輝きはルビーの特徴と一致してるな。といっても小粒だから大した価値はなさそうだけど」シゲシゲ

男「る、ルビーは太古より高貴な身分の方が身に付ける一流の宝石です!まさにあなた様にお似合いかと!」

魔法使い「そうだねぇ、でもこれじゃまだ赤みが足りないかな」

男「赤み…でございますか?」

魔法使い「キミの血を染み込ませたら、もっと情熱的に煌めくと思わない?」チャキッ

男「断じて思いません!」

魔法使い「あれ?逆らうの」

男「滅相もない!わたくしごとき劣悪種の血が掛かってしまってはせっかくの輝きが色褪せてしまうと憂いているのです!」

魔法使い「ああ、そうだろうね。キミはよく分かっててお利口さんだ」クスクス

男「(さっきから何言ってんだ、俺……)」

魔法使い「さて、気は済んだ?」

男「はい?」

魔法使い「ボクは人間が大嫌いなのさ。だからこんなゴミもいらない」ピッ

短剣「」パキンッ

男「そ、そんな御無体な」

魔法使い「」キュイイイン

男「わ、分かった!出てくよ!もう二度と入らないと誓う!」

魔法使い「うん、勝手に誓えば?」

男「な、なんでもする!いや、します!だからさせてください!」

魔法使い「キミに出来てボクに出来ないことはないよ」ジロッ

男「」ゾクッ

魔法使い「不要な品は足場を狭くするだけだ。手っ取り早く始末するに限る…」

男「お、俺は……おれ、は」

魔法使い「さぁ…あの世へお逝き」ピッ

男「だぁぁぁああ!!!!」

魔法使い「」ビクッ

男「はいはい!わーりました?死にゃいんでしょ?結局それでしょ?」ホジホジ

魔法使い「……!?」

男「いーよ、どーせ!俺なんかあれだもん。人間失格の烙印押されてとっくのとうに人間やめてますし」カァーペッ

魔法使い「人間を…やめる?」

男「そーですよ。就職も結婚もクソッ喰らえだ!親の財産食い潰してダラダラ過ごしてる遊び人、それが俺様ってわけ」

男「先に社会出た仲間に同窓会でトレジャーハンター(笑)やってますったらなんつったと思う?」

男「やれ人間失格だ、人間やめちまえと罵倒の嵐ですよ。もうね、アホかと、バカかと」

男「世の中、楽してなんぼでしょーよ。夢に費やしてこその人生でしょーよ。一回きりなのにサラリーもらってたってしゃーねーわ」

男「だから俺は親の遺産で旅して一攫千金狙いつつロマンを求めてるって話よ。ケツの毛も生えねーガキにはちと早かったか?」

魔法使い「」ぽかーん

男「あーあ、遺品もさっきの短剣で打ち止めだ。金目のモンも無くなったし、ここらが潮時だな」

魔法使い「……」

男「さ、やれよ。やりたくてしゃーなしだろ?はよはよ!」

魔法使い「一つ聞いていいかな」

男「あ?」

魔法使い「人間をやめたというのならキミは何者なんだい」

男「何者…?」

魔法使い「人間であることをやめたんだろう?」

男「知るかよ。テメーで考えろ」

魔法使い「……」ジー

男「な、なに見つめてんだよ、気持ちわりーな」

魔法使い「キミ…おもしろいね」ニコッ

男「は?」

魔法使い「喜べ、ボクの下僕にしてあげるよ」

男「げ、ゲボ?」


~~~~~~~~

【禁忌の森】

男「(とまぁいろいろあって)」すたすた

魔法使い「ねぇ見て!蓮の葉が水面に浮いてるよ!」キャッキャッ

男「(いつの間にか尋常じゃないくらい懐かれちまった)」

魔法使い「わー!カエルがぴょんと乗っかった!すごーい!」

男「(だからなんだよ。お前のが万倍スゲーだろうが)」

魔法使い「……」ジー

男「な、なんだよ」

魔法使い「ボクと歩くの……楽しくない?」シュン

男「い、いや…んなこたねーよ」

魔法使い「ホント…?」

男「お、俺が嘘つくとでも?」

魔法使い「え?ち、ちがうよ!そうじゃないんだ!ただ、あんまり言葉数が少ないから…」

男「はぁ…楽しいから安心しろ」

魔法使い「う、うん!それならよかった!」ぱぁぁ

男「(この道もかれこれ何回目だか…?この1年でもう森を十週はしてるぜ)」ゲンナリ

男「(それというのも、この忌まわしい腕輪のせいだ)」」

【回想】

魔法使い「ごはんは?お風呂は?掃除は?洗濯は?」

男「た、ただいま…!」

魔法使い「はぁ~…つっかえない!何時間待たせんだよ!」

男「申し訳ございません!なにぶん不慣れなもので!」

魔法使い「書斎の整理はやったんだろうな?」

男「そ、それもこれから!」

魔法使い「ふ・ざ・け・る・な!ふざけるなぁっ!!!」

男「ヒィすみません!!」

魔法使い「ボクが1秒で出来ることを半日かけても出来ないってどういうこと?」

男「よ、嫁入り前のわたくしには荷が重すぎるかと」

魔法使い「ナメてんの?ねぇナメてんの?」

男「ナメてございません」

魔法使い「チッ!もういいよ。後はやっとくからキミは自分の部屋をキレイにしておいで」

男「かたじけのうござる」

魔法使い「てめーナメてんな」

男「ナメてござらぬ」

男「くそ、くそ、あのクソわがままなクソガキめ。いつか肥溜めに沈めてやるからな」ブツブツ

がちゃっ

魔法使い「終わった?」

男「ま、まだ部屋に戻って間もないのですが」

魔法使い「は?きったないじゃん。豚小屋かよ」キョロキョロ

男「(てめーのこさえた部屋だろうが)」

魔法使い「たく!トロいなぁ」ピッ

キラキラ キラキラ

男「ウヒョッ!劇的ビフォアフ!」

魔法使い「はい、これで良し。夕飯にするよ」

男「(出来るんなら最初からやれよ)」

魔法使い「いただきまーす」

男「おっ!うまそう!」

魔法使い「なに座ってんの」

男「え?」

魔法使い「キミの餌は床に置いといただろ」

男「ご主人様、これは…」

魔法使い「ん?」

男「床にぶちまけられた鋭利な白い物体はなんですか」

魔法使い「鮫の歯だよ、見りゃ分かるじゃん」

男「ちょっとなに言ってるか分からないです」

魔法使い「テーブルマナーも知らない劣悪種には拾い食いがお似合いだろ?」

男「」イラッ

男「(食器どころか器もねぇ…。マジで床にばら蒔いただけだ)」

男「(だいたいこんなのどうやって食えと?俺の歯より固そうだぞ?口ん中、血まみれなるわ)」

魔法使い「」カチャッ モグモグ

男「(あのボケこれ見よがしにステーキなんか食いやがって!)」ピキィッ

魔法使い「なに?」ジロッ

男「い、いえ…」

魔法使い「残さず食えよ」

男「は、はい!」

男「(ダメだこいつはやくなんとかしないと)」

男「腹ん中がムカムカする…。あのガキとんでもねーモン食わせやがって」

男「冗談じゃねーぞ!こんなとこ、とっととおさらばしてやらぁ」すたすた

魔法使い「なにしてんの」

男「」ビクッ

魔法使い「おーい」

男「あ、いや!ちょっと用を足しに」

男「(いきなり背後に立つなよ!ドッキドキだろ、もー!?)」ドキドキ

魔法使い「主人の許しもなく夜中にこそこそ動き回るなんて…躾が足りないみたいだ」

男「は…!?」

魔法使い「」ピッ

男「な、なに…を……っ」ピキーン

男「(か、体が動かない)」カチコチ

魔法使い「また勝手に脱け出さないようにしないとね」カチャッ

男「(な、なんだ?なにか付けやがった)」

魔法使い「はい、おしまい」ピッ

男「お、おぉ…」フッ

男「(な、なんなんだ…ん?この腕輪は)」マジマジ

魔法使い「外すなよ。まぁボクの魔力が掛かってるから外れないけど」

男「これはいったい」

魔法使い「それは呪縛の腕輪。術者の魔力に反応して対象の動きを封じる優れものさ」

男「なんだと…!」

魔法使い「森の内外を隔てるように魔力の結界を張っておいたから」

男「そ、そんな!」

魔法使い「もう逃げようだなんて思わないでね。次はお仕置きするよ」すたすた

男「お、おい!」

魔法使い「おやみ~ん」シュンッ

男「(消えた!)」

男「ち、ち………」

チックショーーー!!!


~~~~~~~~

男「(こいつのおかげですっかり俺は囚われの身だ)」

男「(何が悲しくて、こんなカジノも酒も女もねぇ退屈な森で修行僧みてぇな禁欲生活しなきゃならんのだか)」

男「(あの城もいくら探ったとこで目当てのお宝一つありゃしねぇ。クソ喰らえだ、まったく)」

魔法使い「あ、蝶々!お花畑の方に行くよ?」

男「(どうでもいーよ蝶々なんか。蝶ネクタイの黒服とバタフライマスクの色っぽい姉ちゃんが目ぇ光らせるカジノならまだしも)」

魔法使い「そうだ!ボクたちもお花畑に行こ!あそこなら落ち着けるもんね」グイグイ

男「(袖引っ張るな、脳内花畑野郎が)」

魔法使い「でね!ボクは言ったんだ!パンが無いなら食い扶持を減らせばいいじゃないって」

男「(どんなシチュエーションだよ)」

魔法使い「ふふ!キミはいつも静かに聞いてくれるね。おかげで話しやすいよ」

男「(なんでもいいように取りやがる。こちとら何回お前に殺されかけたか)」

魔法使い「前にも話したっけ?ボクね、昔はすごい魔法使いだったんだ」

男「(聞いた。通算142回目)」

魔法使い「あの頃は辛かったなぁ。人間が魔法使いを恐れて魔女狩りなんかしだしてさ」

魔法使い「両親も姉さんも弟も友達も知ってる人たちみんな人間に捕まえられて火炙りにされたんだ」

男「(何百年前の話だよ。おとぎ話の世界かっての)」

魔法使い「でもね、捕まる前にみんなが持ってる魔力を全部ボクに注いでくれて」

魔法使い「溢れそうなくらい膨大な魔力を強引に閉じ込めたら肉体が成長を止めてしまってね」

魔法使い「そんなこんなで不老不死になっちゃったんだ。笑っちゃうでしょ?」

男「(笑えねーよ)」

魔法使い「最初は報復ばっかりしてたなぁ。3年で15の国を滅ぼして人類を半数以下にしてやったよ」

男「(武勇伝の域じゃねーよ)」

魔法使い「…だけど人間が一まとまりになって連合国とかいうのを立ち上げてからかな」

魔法使い「いつしかボクは魔王と呼ばれ、連合国は勇者っていう刺客を放ったんだ」

魔法使い「軍も兵器も通用しないって分かってるクセに馬鹿げてるよね。一人の人間に頼るなんてさ」

魔法使い「でも勇者はボクの城まで辿り着いた」

魔法使い「暇潰しに研究した禁術を使って量産した魔物も強力な結界も罠も全てくぐり抜けて」

魔法使い「ただの人間だった筈なのに…どうしてだと思う?」

男「…さぁな、そこんとこはまだ聞かされてないし」

魔法使い「……」

男「(スッと言えよ)」

魔法使い「やめておくよ」

男「は?」

魔法使い「散歩の続きしよっか」ニコッ

男「(マジなんだこいつ)」

魔法使い「また本読み?熱心だね」

男「(やることがねーんだよ)」ペラッ

魔法使い「読めない字があったら言ってね!」

男「おう」ペラッ

魔法使い「じゃあお湯沸かしてくる!」

男「はいはい」

魔法使い「~~♪」るんるん

男「(ここに来てから、とんと娯楽がねぇ)」ペラッ

男「(おかげさんで生まれてこの方、読書なんぞとは無縁だった俺でさえ本読みに耽る有り様だ)」ペラッ

【回想】

魔法使い「お前はホントなにをやらせてもダメダメだね。下僕としてボクに尽くそうっていう自覚はあるの?」

男「も、申し訳ない」セイザ

魔法使い「はぁ~…こんな簡単な雑用もこなせないなんてショック!これなら知恵のある魔物でも召喚した方がいくらかマシだよ」クドクド

男「(くっ!このガキゃ言わせとけば…!)」

魔法使い「やっぱりキミもただの人間ってことなのかな?」チラッ

男「う……あ、いや」タジッ

魔法使い「断っておくけどボクはいつでもキミを滅せるんだ」

男「は、はい!」

魔法使い「飼われていたかったら有能になるか、もしくは退屈させないことだ」

男「う、ういっす!」コクコク

魔法使い「そうだねぇ…キミは身も心もついでに顔も低レベルだから」

男「(顔は余計だ!)」

魔法使い「まずは知識を蓄えるといいよ、うん。それがいい」ウンウン

魔法使い「この書斎を好きに使っていいからさ、せめてまともに会話出来るくらいにはしてよ」

男「はぁ…!?ムチャ言うな!こちとら本どころか読み書きすら怪しいってのに」

魔法使い「」ピッ

男「」ビクッ

ズババババババッ!

魔法使い「細切れ肉っていうのも悪くないかも」

男「あ、あひゅ…ひやぁ……」ヘナヘナ

魔法使い「また口答えしたら、そのイメージをリアルにするよ」

男「す、すぐ読破してまいります!!!」ダッ

男「とは言ったものの」ペラッ

男「(古代文字じゃねーか、全部)」

男「こんなん一生掛かっても読める気がしねー!でも読まないとあいつに……」

魔法使い『まぁ~た言い付けを破ったの?キミもいい加減、肉という肉を引きちぎらないと分からないみたいだねぇ』

魔法使い『死んでどーぞ』ピッ

男『ヒィお情け~~~!!!』

男「(なんてことになりかねん)」

男「かといって教えてもらったら…」

魔法使い『は?気合いで読めよ情弱』

男「とか言われるに違いない。んなこと言われた日にゃ俺の1日はフンギィィ待ったなしだ」

男「さて、どうすっかな」

魔法使い「読み進んだ?」

男「アッヒョ!!」ぴょんっ

魔法使い「なに?人の顔見るなりヤな感じ?」ジトー

男「(急に出てくんなっつんだよ、えっち!(謎)」

魔法使い「どーせ字が読めないんだろ。それぐらい聞けばいいのに」

男「(お前に聞いたら俺のプライドメッタ打ちにされそうで怖いんだよ)」

魔法使い「え?こんなのも読めないの?童話レベルだよ、これ」

男「す、すみませんねぇ学が無くて」ヒクッヒクッ

魔法使い「うん、バカもここまでくるとゴミだね。始末に負えないよ」

男「(誰かこいつの口にクソ詰めてくんねーかな)」

魔法使い「はぁ~…!しょうがないなぁ?ボクが一から字の読み書きを教えてあげる」

男「あ、いえ、結構です」

魔法使い「は?なに拒否してんの?自分の立場分かってる?」キュイイイン

男「ははー!あなた様の下僕めにございます」ドゲザ

魔法使い「下僕が主人の好意を拒む理由は?」

男「ありません!!」

魔法使い「よいお返事!じゃあまずは単語の書き取りからしてみよっか」

男「へーい…」

魔法使い「課題もおまけしとくよ。今日中にさっきの本読めなかったら目えぐるから」

男「!?」


~~~~~~~~

男「(あいつの強引なスパルタ式でなんとか一端にはなったが…やっぱり所々は読めねぇな)」

男「(つっても今じゃ親切に現代語訳の単語帳を渡されて聞けば勝手にルビと解説までふってくれる献身っぷりなんだが)」

男「ん?」チラッ

魔法使い「」ジー

男「うおっ!急に出てくんなっていつも言ってんだろ!」

魔法使い「あ、ごめんね…お湯沸いたよ」ニコッ

男「だったらそう言えばいいだろ!じろじろと見やがって俺の顔がそんなにおもしれーか?」

魔法使い「あはは!とても素敵だから見とれちゃった」クスッ

男「お前、まさかそっちなんじゃ…」ドンビキ

魔法使い「そっちって?」キョトン

男「いや…知らない方がお互いの為だ」

魔法使い「変なの?」

男「さぁて…飯の前にひとっ風呂浴びるとするか」

魔法使い「ボクも入っていい?」

男「断じて許さん」

魔法使い「どうして?」

男「俺の体は俺の物だ。誰にも渡す気はない(迫真)」

魔法使い「(彼はなにを言ってるんだろう…)」

男「そういうこった、覗くなよ」

魔法使い「で、でも友達同士って裸の付き合いをするものなんでしょ!」

男「しねーよ。したとしても旅館の大浴場限定だよ」

魔法使い「……!」

男「…もういいだろ、先入るぞ」

魔法使い「うん…困らせてごめんなさい」ショボン

男「いいってことよ」すたすた

魔法使い「……」

魔法使い「大浴場かぁ…」

魔法使い「魔法で増築しよっと!」ウキウキ

【風呂場】

男「ふぅ~」ザブッ

男「ババンババンバンバン!ババンババンバンバン!あ~ビバのんのん!」

男「いぃい湯だな、アハハン!いぃい湯だな、アハハン!」

男「湯気が天井からポタリと背中に♪」

男「こ~こは悪魔の城!禁忌の湯!あ~ビバビバ♪」

男「(なんか落ち着くんだよな、この唄)」

男「旅してた頃にゃもっぱら行水だったが…やっぱこいつはたまんねーな。芯からあったまらぁ」チャプッ

男「…にしてもいろいろあったなぁ」

男「風呂だって最初は入らしてもらえなかったっけか」

【回想】

魔法使い「風呂?キミが?なんで?」

男「汗やら垢まみれで気持ち悪いもんで」

魔法使い「劣悪種なんだから我慢すりゃいいじゃん」

男「(はい出ました人種差別)」

魔法使い「でも実際かなり臭うね。なんでそんなクサイの?」

男「先ほど申し上げました通りです」

魔法使い「え?じゃあなに?ボクのせいって言いたいの?」

男「滅相もございます」

魔法使い「ござるんじゃん。ボクが風呂に入らせないのが悪いって言ってるんじゃん」

男「まぁぶっちゃけ」

魔法使い「お前、なんか最近態度がでかいね。自殺願望が強まったのかい」

男「いえいえ滅相も」

魔法使い「……まぁいいや。そんなに言うなら」

男「お?」

魔法使い「とびきりキレイにしてやるよ。ボクの魔法でね」ニタァァ

男「(オワタ)」

サバンザバンザバン

男「あばばばばば!!!」ブクブク

魔法使い「あはは!あはは!おもしろーい!濁流に呑まれてもがいてるみたい!」ケタケタ

男「(濁流に呑まれてもがいてんだよ!!!)」グルングルン

魔法使い「しっかしすっごい汚れだねぇ。水がまっ茶色だよ」

男「(コロス!ぜってぇコロス!)」グワングワン

魔法使い「うーん、水と風を応用して重力操作を試してみたけど意外と悪くない出来だ。今度はこれで……んふふ」ニヤニヤ

男「今日は一段とひどい目に遭った…あのガキぜってぇーたたじゃおかん」ゼェゼェ

男「ブェェックシ!!!びしょ濡れだ…あの野郎、濡れ鼠のまま放置しやがって」ブルッ

男「あ~…風邪引いちまうよ。さっさと寝よ」

男「その前になんかつまめるモンをくすね……ん?」

ゴソゴソ

男「おい」

盗賊「げっ!」ビクッ

男「げっ!じゃねーよ、今どき」

盗賊「何者でやんす!」

男「何者?俺様だよ(謎)」

盗賊「お、おいら以外にも盗賊(無職)が来てたでやんすか!」

男「一緒にすんな!俺はトレジャーハンター(無職)だ!」

盗賊「トレジャーハンター?ああ社会のゴミでやんすね」

男「お前ら害虫よかマシだ」

盗賊「へへ!まぁそう邪険にするなでやんす」

男「あ?」

盗賊「見たとこあんたも同業(無職)でやんしょ?ここは仲良く山分けするざんす!」

男「やめとけ。おっかねーぞ」

盗賊「ああ、魔法使いの話でやんすか?あんなの信じるなんてお子さまもいいとこ……」

魔法使い「お子さまで悪かったね」

盗賊「!?」ビクッ

男「(あ~あ、もう知らねーぞ)」

盗賊「げげっ!お仲間がいたでやんすね!」

男「仲間?とんでもない」

魔法使い「ただの主人と下僕だよ」

盗賊「ふん、ガキんちょと冴えない男二人であっしをどうするつもりでやんすか」

男「さぁな?ご主人様に聞いてくれ」

盗賊「うしし!こっちが一人だと思ったら間違いでやんすよ!手下たちが散り散りに城内を探ってるでやんす!」

男「(その口調で親玉かよ)」

盗賊「笛を鳴らせば一斉に集まってくるでやんす!謝るなら今でやんすよ!」

男「(今んとこ謝るようなこと何もしてないんだが)」

盗賊「さぁ!どうするでやんすか」

魔法使い「鳴らしてみな」

盗賊「はぁ?」

魔法使い「笛で手下が集まるんだろ?鳴らせばいいよ」

盗賊「グヒヒ…懺悔しても知らないでやんすよ」

男「(懺悔は後悔の後にすることだろ)」

盗賊「」ピピーッ

ゾロゾロ ゾロゾロ

盗賊「うしし!そらそら早速……」

男「……」

ピ〇ミン「フヤ?」クビカシゲ

盗賊「……な、なんでやんすか、こいつらは」ポケー

男「(これは触れちゃあかんヤツや)」

レッド・マンドラゴラは~火に強い♪

ブルー・マンドラゴラは~溺れない♪

イエローマンドラゴラは~高く飛ぶ♪

パープル・マンドラゴラは~力持ち♪

ホワイト・マンドラゴラ~には………毒がある♪

個性がいろいろ活きてぇいるよ~♪

魔法使い「分かった?」

盗賊「分からん」

男「(分からなすぎて語尾を忘れてるぞ)」

魔法使い「キミのお仲間はちょちょいと合成して可愛いマンドラゴラにしてあげたよ」クスッ

盗賊「え?じゃ、じゃあこいつらは……」

ランランランララランラン

盗賊「げっ!な、なにするでやんす!あっしはお前たちの親分でやんしょ!ちょっ!足持つな!離せ!やめろ!どこに運ぶ気だぁ!?」

わぁーわぁー!

魔法使い「いい被験体が手に入ったし、しばらくマンドラゴラの生体観察でもしよっかな」

男「大丈夫なのか」

魔法使い「ん?あいつ?養分になるんじゃない?」

男「いや、著作権的な意味で」

魔法使い「マンドラゴラに著作権なんかないよ。バッカじゃないの」

男「(一流企業が本気出した時の恐ろしさを知らんのか)」

魔法使い「はぁ~なんだか疲れちゃった。もう遅いし汗流して寝よ」すたすた

男「(ちっ!自分だけ入浴かよ!)」

男「一回くらいぎゃふんと……あ!」ピコーン

男「(そうだ…!まだ調べてねぇとこがいくつかあったなぁ?)」ニヤリ

男「へへ!脱ぎっぱなしにしてやがら」ゴソゴソ

男「どこを探しても金目のモン一つありゃしねぇが、あいつの服には指一本触れらんなかったからなぁ」バサッ

男「…きっと金庫の鍵やら宝の在処を記した地図やらその他貴重品諸々入れてるに違いねぇ」

男「さすがのあいつも入浴中は油断してんだろ」

~~♪

男「ん?風呂場から声が……気付かれたんじゃねーだろな!」あせあせ

ババンババンバンバン!ババンババンバンバン!あ~ビバのんのん!

いぃい湯だな、アハハン!いぃい湯だな、アハハン!

湯気が天井からポタリと背中に♪
こ~こは悪魔の城!禁忌の湯!あ~ビバビバ♪

男「………」

男「へ、へっ!気持ち良さそうに唄ってんだけか…。てか唄うんだな、あいつ」

男「にしても聴いたことがねぇ曲だ…。異国の民謡かなんかか?」

男「まぁいい。再開だ」ガサゴソ

男「しっかしごちゃごちゃした服だな?ローブやらマントやら暑苦しい…気取ってんじゃねーっての」バサッ

男「…よし!」

男「(何一つ掴めずか)」ポツーン

「なにがよしなの?」

男「(ヤバい)」ゾワッ

魔法使い「人が湯浴みしてる間にこそこそ服を漁って……なんのつもり?」ヒクッヒクッ

男「まぁそう怒らず?ハイリスクノーリターンなやつなんで」ドードー

魔法使い「へぇ~…キミの目当てが何かなんてどうでもいいけど勝手に主人の服を物色するような下僕には相応の罰を与えないとねぇ?」グッパッ

男「ババンババンバンバン」

魔法使い「!?」ギョギョッ

男「いぃい湯でしたか、ご主人様」

魔法使い「お、おまェ…!」カァァ

男「俺も入りたいッス。禁忌の湯」

魔法使い「くっ…グギギ」ピキッピキッ

男「服着ないんスか?バスタオル一枚じゃ風邪引くッスよ」

魔法使い「~~~!!!」ワナワナ

男「つーかなにゆえ胸隠してんスか?乳首見られて困ることでもあるんスか?」

魔法使い「あぁん…!?」ギロッ

男「あ、分かった。乳首に秘められた魔力を解放しないように封印してんだ!両乳首が立つと爆発的な魔力が……」

魔法使い「ほ、他に…言い残すことはある?」キュイイイン

男「特には。もともと一回死んでる身だし」

魔法使い「あっ……そ!!!」バッ

男「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!!!」ビリビリ

魔法使い「唸れ雷!!!もっとだ!!!焦がし尽くせェっ!!!」ババババッ

男「オ゛ッオ゛ッオ゛ッ!!!」バチバチ

魔法使い「はぁっはぁっ」ゼェゼェ

男「」ブクブク

魔法使い「…ふ、ふふ。死なせないよ」ピッ

男「」スゥゥゥ

魔法使い「お前にはまだまだうんと苦しんでもらうんだから…!」

男「」グースカピー

魔法使い「楽に死ねると思うなよ…。卑しい人間め」ギロッ

魔法使い「ふん!」すたすた

男「(けっ…その前に逃げ出してやるよ)」パチッ

男「(お宝と……その魔力の秘密をゲットしてな)」ニヤリ

~~~~~~~~

【ダイニング・ルーム】

男「(今にして思えばよく生き延びたよなぁ)」ボー

魔法使い「どうかしたの?」

男「あ?」

魔法使い「あ、考え事してた?邪魔してごめんね!」アワアワ

男「いや、別に…聞いてなかったけど、なんか言ってたか?」

魔法使い「えーと、ごはん食べないのかなーって…」もじもじ

男「ああ、そうか。食うよ…」カチャッ パクッ

魔法使い「ど、どうかな?今日は濃いめの味付けにしてみたんだけど…」

男「ん、うめーよ」モグモグ

魔法使い「よかったぁ!前に塩加減が薄いって言われたから、ちょっぴり足してみたんだ!」パァァ

男「(そんなん言ったっけか?)」モグモグ

魔法使い「あ、キミの好きなジャムもあるよ!」

男「ローストチキンにジャムは合わねーだろ」

魔法使い「あ…そ、そっか。そうだよね。そうだった」コトッ

男「……」

魔法使い「ごめんね…」

男「しょうがねーよ。気にすんな」

魔法使い「うん…ありがとう」

【自室】

男「(聞いたとこによるとあいつには味覚がないらしい)」

男「(それどころか食欲や睡眠欲も……不死になってから不要な感覚は捨てたんだとか)」

男「(全ての時間を復讐に費やす為に感覚から娯楽を遠ざけた、なんて言うが……)」

男「(目的を果たした後のことは何も考えてなかったんだな…)」

男「バカなヤツだ…ククッ」ニヤッ

男「(娯楽あっての人生だろうが……しかも復讐だとのたまっといて今となっちゃ地上の覇者は人類だ)」

男「(つーかあいつ……なにを望みに生きてるんだろうな)」

【森の湖畔】

魔法使い「ボクの望み?どうして?」キョトン

男「なんとなく聞いてみただけだ。別にイヤだったら答えなくていーぞ」

魔法使い「ううん!そんなことないよ!キミがボクに興味持ってくれて、すごく嬉しいもの!」ニコッ

男「あーそう」シラー

魔法使い「ボクの望みはね、キミといること!」

男「……は?」

魔法使い「それくらいかなぁ…。他にしたいこともないし」

男「…どうしちまったんだ、お前」

魔法使い「へ?」

男「最初はあんなに嫌ってただろ」

魔法使い「……うん。あの時はごめんね」シュン

男「いや、いいけどよ…」

魔法使い「ボクも戸惑ってるんだ。こんな風におだやかな気持ちでいられたのは久しぶりだったから」

男「……」

魔法使い「知ってるよね。昔のこと」

男「活字を通してだがな」

魔法使い「だいたい合ってるよ。あそこにある文献は全てその時代の物だから」

男「だからか、隅にボロキレ寸前のニュースペーパーが乱雑に押し込まれてたな」

魔法使い「うん、リアルタイムの記事の断片だよ。保存に手間が掛かって大変なんだ」

男「どうだったんだ。その時代の景色とやらは?」

魔法使い「うーん…そんなに変わらないかも」

男「変わらない?」

魔法使い「そう。変わらない」

男「……?」

魔法使い「どの時代もみんな何かに憩いを抱いてるし、何かしら苦痛を訴えてる」

魔法使い「現状に満足するのもいれば刺激を求めるのもいて……」

魔法使い「幸せを感じていたり不幸を嘆いていたり…それぞれだけど結局は同じ」

魔法使い「そういうのが依り集まって出来ている世界は時代になんか左右されない」

魔法使い「理由とか目的なんてなくて…みんな何かに依存してるだけなんだ」

魔法使い「語り尽くすことは決して出来ないけど…悲しくなるほど愚かな生き物なんだなぁって……ボクはそう感じた」

男「ふん…さすが長生きなだけあるな。ずいぶん達観してらっしゃる」

魔法使い「ボクも復讐に依存してた過去があるからね。分かるんだ」

男「で、今は俺に依存してると」

魔法使い「うん!」ニコッ

男「(けっ!馬鹿馬鹿しい…)」

魔法使い「見て!水鳥の群れが羽ばたいていくよ」キャッキャッ

男「そうだな…」

男「(だからどうしたんだよ)」

魔法使い「…キミがいてくれるようになってから毎日が楽しいや」

男「おい、やめろよ。愛の告白とか」

魔法使い「あはは…そんなんじゃないよ」

男「(昔と今の振り幅がスゴすぎてこえーんだよ)」ブルッ

魔法使い「ホントに今が楽しくて、それだけなんだ」

魔法使い「見るもの、聴くもの、感じるもの」

魔法使い「共有した一つ一つのものが空っ風の吹く虚しい心に雨や陽のぬくもりにも似た情感を芽生えさせて、とても恵まれてることを教えてくれる」

魔法使い「楽しくてしょうがないんだよ…。ボクは……異端だったから」ショボン

男「(…めんどくせぇ。付き合わされる身にもなれってんだよ)」

魔法使い「ねぇ?」

男「ん…?」

魔法使い「ずっと友達でいてくれる…よね?」

男「(お断りだ、と言いたいが)」

男「(性格が逆転したこいつでも根っこのとこは変わってねぇ…)」

男「(どうしたってこいつに振り回されるんだ、俺は……)」

【回想】

男「」ペラッ

魔法使い「今日も朝から本読みかい」

男「はぁ、おかげさんでいくらか目が肥えましたんで」ペラッ

魔法使い「ふーん、キミもだいぶ字が読めるようになったみたいだね。最初は挿し絵と字の区別も付かないド低脳だったのに」

男「他にすることもないもんでね。案外凝り性なのかもしれません」ペラッ

魔法使い「ハァ?することがない?ありますけど?」

男「(また始まったよ)」

魔法使い「掃除、洗濯、狩りに湯沸かし、特に水回りと地下の魔物たちの飼育小屋は隅々までピカピカにしろって命じなかった?」

男「今朝方やっておきましたよ」

魔法使い「あれで?キミの美的感覚おかしいんじゃない?」

男「(うるせぇな小姑が)」

魔法使い「ダイニングの角なんか埃が溜まってたし浴槽の排水口もカビてたよ。魔物たちのエサやりと身清めもろくにしてないだろ」

男「(テメーが退屈しのぎに会話力を向上させろっつって書斎に押し込めたんだろが…もう忘れちまったのか、クソガキが)」イライラ

魔法使い「ねぇ聞いてる?それと食事の支度!いつまでボクにやらせる気?ちゃんと主従関係わきまえて……」ガミガミ

男「アァァアうるっせぇなぁ!!!」だんっ

魔法使い「」ピタッ

男「ハイハイやりますよ、やりゃいーんでしょ!やってやりますよ!仰せのままに!」ブンッ

本「」バサッ

魔法使い「………」

男「あー忙しいや、じゃそーゆーあれなんで行ってきまーす」すたすた

魔法使い「」ピッ

男「ぐひっ!」カチンコチン

男「(か、体がピクリともしねー!この野郎、また金縛りしやがったな)」

魔法使い「あのさぁ…その態度はなんなの?」

男「……!」

魔法使い「ああ、口が動かせないのか。はい」ピッ

男「ぺっ!」

ビチャッ

魔法使い「…床、汚れたよ」チラッ

男「へいへい、舐めてキレイにしますよ」

魔法使い「悪くない発想だね。でも…」ピッ

男「ッ!!」ギュウウウ

魔法使い「気に喰わないなぁ、どれをとっても」

男「(ん…だ、ごぇ……い゛ぎが…でぎねぇ)」ギュウウウ

魔法使い「ふん」ピッ

男「う゛ぶっ!」パッ

男「ゲェボッ!!ウェホッウェホッ」ゲホゲホ

魔法使い「久しぶりだなぁ。こんなに怒りたくなったのって……」ギロッ

男「(ぐっ…ぞぉぉ!!!)」ブチィッ

魔法使い「なんの真似かな。どうもボクを馬鹿にしてるとしか思えないんだけど」

男「……!」キッ

魔法使い「あ、反抗的な目?殺しちゃおっかなぁ」

男「ころ……せよ」ボソッ

魔法使い「?」

男「殺したきゃ殺せってんだ!クソカスがぁっ!!!」

魔法使い「なに興奮してんの、キミ」

男「さんざん好き勝手振り回しやがって!?なにが下僕だクソッタレ!!」

男「テメーなんぞにコキ使われて嫌々ヘーコラご機嫌伺うのもたくさんだ!!」

魔法使い「……」

男「金目のモンはおろか女も酒も煙草も博打もねぇ!せいぜい娯楽といやぁ読書だけ!」

男「ツルッパゲの集まる聖堂みてぇな煩悩一つねぇ城で生意気なチビに生かされる毎日!!」

男「こんな廻りきるだけで三日は費やすデケー城の雑用押し付けられて現代じゃなんの役にも立たねぇ古代文学のお勉強させられて!」

男「風呂も入らしてもらえなきゃ飯もろくにありつけねぇで訳の分からん化け物(魔物)の世話して、かれこれ何十回死にかけたか!!」

男「なにもかもが不自由でままならない!旅の頃よりひもじい生活を強いられるのがどんだけストレスかお前に分かるか!?あぁ!?」

魔法使い「……」

男「耐えてりゃちったぁ旨味のあるモンが見つかると探って廻ったが……見事にガラクタ一つありゃしねぇ!」

男「こんな生き地獄を味わい続けなきゃならねーなら死んだ方がマシだ!」

魔法使い「……」

男「殺せよ!さっさと楽にしちまってくれ!テメーのツラなんか見たくもねぇ!!!」

魔法使い「……ん」ボソッ

男「あぁ?なんつったぁ!?」

魔法使い「っ……」ウルッ

男「なに黙りこくってんだ!!はよ殺れやクソボケがぁ!!!」

魔法使い「」ピッ

男「あ……」シュインッ

男「……う、あ」パチッ

男「ん…あぁ?」ムクッ

男「死んだ…のか?いや、ちげーな」サスサス

グルルルルル………

男「はっ?魔物の唸り声がするってこたぁ地下牢に閉じ込められたか…。とことん苦しめてぇらしいや」

男「体は動くが…実質、前よりずっと不自由になっちまったな」

男「ふざけやがって…よ!!!」ガンッ

パラパラ

男「げほっ!す、砂埃が舞いやがった!」ゴホゴホ

男「はぁ~あ、こんなことなら真面目に掃除しときゃよかったな。目が痒くてしゃーねぇ」ゴシゴシ

かつんかつん

男「!」ピクッ

男「よう、ご苦労さんだなぁ。主人自ら地下くんだりまで足をお運びくだすってよ?」

魔法使い「……」

男「で、へこたれて窶れ腐った下僕のお見舞いか?お優しいこって」

魔法使い「あ、あのさ……」

男「よかったな?お前の望みに叶って」

魔法使い「へ…?」

男「死なねぇ程度にいたぶってやりたかったんだろ?苦しみのどん底に堕ちた無様な俺が見たかったんだもんなぁ」

魔法使い「そ、れは……」

男「な!喜べよ。俺ぁ今、クソまみれの便器に突っ伏して上からションベンぶっかけれてるみてぇな……言ってみりゃ最高に最悪な気分だ!たまらなすぎて吐き気がするぜ!」

魔法使い「……!」ブルッ

男「好きなだけ見ろよ。指差して笑いこけりゃいいじゃねーか。惨めなペットが絶望に泣きじゃくるサマをとくと楽しめよ」

魔法使い「そ…じゃ、くて……ボクは……」

男「大嫌いな人間をここまで貶めてやったんだ。結構なことだなぁ」

魔法使い「ち、ちが…!」

男「おめでとさん。これがお前の望んだ結末だろ?」ニヤリ

魔法使い「ちがうっ!!!」カッ

バガガガガガン!!!

男「!?」ビクッ

ガラガラ パラパラ

男「(な、なんつー力だ…。地下全体がヒビ割れて……)」

魔法使い「おねがい…ボクの話を聞いて」

男「……勝手に話せよ。耳ふさいだとこで、どーせ体の自由を奪うんだろ」

魔法使い「もう…しない」

男「あ?」

魔法使い「そんなこと…しないよ」

男「(……なんか様子がおかしいな)」

魔法使い「……」

男「な、なんだよ!言うなら言えよ!」

魔法使い「…今までごめんね」

男「おぅ!?」ビクビクン

魔法使い「キミをそこまで追い詰めてたなんて…」

男「はぁ!?」ガシャンッ

魔法使い「わっ!?」ズササ

男「お、お前…自分の頭に変な魔法かけちまったのか!?」

魔法使い「……!?」ドキドキ

男「だってそーだろ!?お前、そんな……あれだよ、どうかしてんじゃないか!?」アセアセ

魔法使い「い、至って変わりなく…?」ビクビク

男「バカ!!お前やっぱなんかやっちゃったんだよ!さもなきゃ我が儘でヒステリーでひん曲がった根腐れサド野郎のお前が頭なんか下げる訳がねぇ!!」

魔法使い「そ、そんな風に……でもしょうがないよね」シュン

男「あぁそうか!演技だな?しおらしくして油断さしたとこでトドメの一撃を……」

魔法使い「安心して。企みなんてないよ」スクッ

男「う、嘘つけ!俺を騙そうったってそうはイカの金たまよ!!」

魔法使い「ボクはもうキミを傷付けたりしない。大事にしたいんだ」

男「な…なに都合のいいこと抜かして!」

魔法使い「」ピッ

バカンッ!

男「ギャアア柵が破裂してうんたらかんたら!?やっと本性を表しやがったな!?」ズササ

魔法使い「」すたすた

男「来るな!くるなるなるな!!やめろ、えっち(?)!!!」

魔法使い「」ピトッ

男「ヒィ手なんか握ってどうするつもり……」

魔法使い「っ……」ポロポロ

男「……え?」

魔法使い「ひぐっ…ふっ」グシグシ

男「あ、あの~ご主人様?」

魔法使い「やめて…!」ジッ

男「はい?」

魔法使い「主人なんて呼ばないで…!」

男「(自分から呼ばせといて何抜かしとんじゃこやつは)」

魔法使い「今さら遅いかもしれないけど……」グスッ

男「い、いえいえお互い様です(?)」

魔法使い「友達に…なってほしい」

男「んぅ~?」

魔法使い「あ、えっと、その……」アワアワ

男「(聞き間違いか)」

魔法使い「ぼ、ボクと…お友達になってほしい、です…」カァァ

男「(おれは あたまが こんらん している)」

魔法使い「ダメ…ですか?」ジー

男「あ、はい」

魔法使い「うわあああん!!!」ビエー

男「あ、ちゃうちゃう!今のなし!だから泣くな!俺の服なんかで擦ったら顔中土垢まみれんなるぞ!?」アセアセ

魔法使い「だ、だって…ボク……キミに取り返しの付かないこどぉぉあああん!!」ズリズリ

男「(なんだこの別人格は……運良く善良な霊が憑依したんじゃねーだろな?)」

魔法使い「ひっく…えふ……ごめ、なさい」グシグシ

男「……」

魔法使い「ホントは…嬉しかった。人間から見放されて…爪弾きにされた、ボクと同じ異端に巡り会えて……」

男「(そこまでは言ってない)」

魔法使い「でも…どうしていいか、分からなかったんだ。欲しい物は力で支配すればいいって…ずっと…こうしてきたから」

男「(暴君かよ)」

魔法使い「だからあんな風に苦しめる事でしか気持ちを伝えられなかった…」

男「(殺意しか伝わんねーよ)」

魔法使い「でもさっき…本気で怒られて、やっと気付いたんだ」

魔法使い「苦痛と恐怖で押さえつけてもキミは思い通りにならないんだって…」

男「(思想が怖い)」

魔法使い「でも…今度こそちゃんと伝えたい」グシグシ

男「……」

魔法使い「キミとの関係をやり直したいんだ!」キリッ

男「(はたから見たら復縁話にしか聞こえんわな)」

魔法使い「これからは意地悪しない!キミの為ならなんだってするよ!だからお願い!」

男「はー…分かった分かった」ポリポリ

魔法使い「え…!」パチクリ

男「友達でもなんでもなってなるよ。それでいーんだろ」

魔法使い「許してくれるの…?」

男「そりゃお前次第だろ。それともやっぱ下僕がいいか?」

魔法使い「う、ううん!やだ!友達がいい!絶対、絶対キミと友達になりたい!」ブンブン

男「じゃあそれでいいじゃねーか」ポンッ

魔法使い「!?」ドキュンッ

男「(どういう風の吹き回しだか知らんが気が済むまで付き合ってやるか。檻に入れられるよかマシだしな)」

魔法使い「(あ、頭ポンってされた!友達からの初スキンシップ!そうだ、記念日にしなきゃ!(使命感)」ドキドキ

~~~~~~~~

【地下牢】

男「(で、現在に至ると……まぁ1年ぐらい遡ってるが)」

魔法使い「こんな所で何してるの?」

男「……だから」

魔法使い「あ、ごめんなさい!急に出ない約束だったよね!」アセアセ

男「はぁ…なんかお前っていつも俺の居場所分かってるよな。それも魔法の力か?」

魔法使い「ふえっ!?あぁぁのなんのことかな!け、けけ決して監視と尾行を徹底してる訳じゃなくて!?」アワアワ

男「(してんだな)」

魔法使い「と、とにかく地下は寒いから上がったら?暖炉の火も足しといたからあったかいよ!」

男「俺がなにしてよーが俺の自由だろ。いちいち詮索すんな」

魔法使い「あう……ごめんなさい」ショボン

男「落ち込まなくていい。こっちまで気が滅入る」

魔法使い「はい…」ズーン

男「(倍落ち込んでんじゃねーか。クソうざってぇな…)」イラッ

魔法使い「じゃあせめてこれだけでも羽織って…?」ファサッ

男「うおっ!なんだよ」バサッ

魔法使い「えへへ!キミの為にポンチョを編んでみたんだ!」ニコニコ

男「ポンチョ!?」

魔法使い「うん!冷えて身体を壊したら大変だから!」

男「き、器用だな…。編み物なんか出来たのか」

魔法使い「半年前から始めたの。わりと力作だよ!」エヘン

男「お前……よく見たら指とか手のひら血豆だらけじゃんか」

魔法使い「あ、これ?ちょこっと失敗しちゃって……でもそのたびに縫い直したからキミのポンチョは汚してない筈だよ!」

男「そ、そうじゃなくてだな」

魔法使い「大事にし……あ、でも気を遣わなくていいよ。好きな時に使ってね!」

男「(気ぃ遣うわ)」

魔法使い「気に入らなかったら捨ててくれてもいいし必要だったら、また編み直すから!遠慮しないでね!」

男「(余計気ぃ遣うわ)」

男「(なんなのこいつめっちゃ重い…)」ズーン

魔法使い「着心地どう?丈合ってる?」

男「か、かなり良さげ…チョベリバ」

魔法使い「よかったぁ」パァァ

男「(こいつだんだん怖い方向に進化してく…)」ゾワッ

魔法使い「あー懐かしい!」

男「な、なにが?」

魔法使い「ほら、ここの牢屋にさ、ボクが産み出した魔物とか合成獣がたくさんいたじゃない」

男「ああ、そうだったな」

魔法使い「ふふ、あの頃は寂しさと暇をもて余してたから、いっぱい魔物を召喚してたけど……」

男「(そうそう、こいつがいきなり"ボクにはキミしかいないことを証明する"とか言い出して、まとめて消し炭にしたんだよな)」

魔法使い「賑やかだった地下もポッカリ空いちゃったけどキミがいるから寂しくないよ!」ニコッ

男「(うん、安定の怖さ)」

男「さて…そろそろ寝るか」

魔法使い「あ!ねぇねぇ」

男「(またか…)」

魔法使い「今日も一緒に寝ていい?」ワクワク

男「お前、睡眠欲ねーんだろ」

魔法使い「そ、そうだけど寝るには寝れるし……」シュン

男「甘えん坊もほどほどにしとけよ。見た目はガキでも中身はジジイだろ」

魔法使い「う……」ガーン

男「(今日もお疲れ、俺)」ファサッ

魔法使い「」ジー

男「枕元で両肘付いて覗き込むな、気が散る」

魔法使い「せめてキミの寝顔を見ながら寝息を聴いてよっかなぁと」

男「出てけ」

魔法使い「」シュポーン

男「(目ん玉飛んだ!?)」ビクッ

魔法使い「ふふふ、えへへへへ」ニヤニヤ

男「(結局こうなるのか)」

魔法使い「友達と一緒のベッドで添い寝出来るなんてボクって幸福者だなぁ」ギュッ

男「(お前の思う友達ってどうなってんだよ)」

魔法使い「あったかーい」スリスリ

男「(頬擦りやめろ!体温低いってか身体が冷たいんだよ、お前!)」ググッ

魔法使い「わぷっ…」ポフッ

男「あ、すまん。頭押さえつけすぎたな」パッ

魔法使い「え?撫でてくれたんじゃなかったの」キョトン

男「(やっぱこいつ危ない)」

男「(…以前からこいつの根底にある部分、それは独占欲だ)」

魔法使い「ふやぁ…」スヤスヤ

男「(一度気に入ったら絶対に手放さない。常に自分のそばに置きたがる)」

男「(こうして寝てる隙に逃げようにも睡眠を必要としないからか眠りがめちゃくちゃ浅い。物音一つで起きちまう)」

男「(この腕輪も何度か外そうと試みたが…ことごとく失敗した)」チャラッ

男「(宝はないのかと尋ねても"必要ないから置いてない"の一点張りだ。事実、こいつの生活には金銭を使う場がない)」

男「(魔法の秘密を探ろうとしても"魔族しか扱えない"と言い切られた。それも嘘じゃなさそうだしな)」

男「(外部との接触も一切なし。俺以外の侵入者には相変わらず容赦ない)」

男「(一度、荷物を取ってくるから町に戻りたいと言ったら……恐ろしい目に遭った)」ゾワゾワ

男「(ここには何一つ俺の求める物は無いとはっきりしてるのに外に出ることは叶わない)」

男「(もどかしい…。非常にもどかしい)」

男「(俺は一生このままガキのお守りをする羽目になるのか)」

男「(いつか溢れんばかりの黄金に埋もれる筈だったビッグ・ロマンスが……遠い過去になっちまった)」

男「はぁ……やれやれだな」

【回想】

魔法使い「外に…出たい?」

男「ああ」

魔法使い「……どうして」

男「い、一度…町に置いた荷物を取りに行きたいんだ」

魔法使い「そんなの無くたって生活はボクの魔法でやっていけるよ」

男「そ、それだけじゃない!友人たちにも別れの挨拶を済ませないと!」

魔法使い「なんで?挨拶なんかしなくてもどのみち二度と会わなくなるじゃない」

男「いや、やっぱり親友くらいには」

魔法使い「しん…ゆう?」

男「そうだ!あいつらとは折り合いを付けときたい!」

魔法使い「……」

男「そ、それに…えー…そう!フィアンセだ!将来を誓った恋人もいる!」

魔法使い「将来を……誓った…?」

男「だから頼む!この通りだ」ペコッ

魔法使い「………」

男「(ここまで言えばさすが……に…!?)」ハッ

魔法使い「~~~!!!」ゴゴゴゴゴ

男「(直感的なアレだがたぶん死んだ)」

魔法使い「親友だとか恋人だとか……なんでそんな奴らを気にかけるの……ボクより大事だって……そう言いたいの……」ブツブツ

男「あの~」

魔法使い「…るさない」ボソッ

男「え?」

魔法使い「許さないよ…。キミの友達はボクじゃないか」

男「う、うぅ~ん?」

魔法使い「他になにがいるの…?ボクじゃいけない理由があるの…?キミの為ならなんだってするって…そう言ったよね?」

男「だ、だってそれは…」

魔法使い「それは?なに?それがなんなの?」

男「(はい遮られました。矢継ぎ早です)」

魔法使い「そうだ…じゃあこうしようよ。ボクがお別れを済ませてあげる」

男「あ、いやぁ~俺の知人だから君には荷が重い………」

バゴォォッ!!!

男「(お見事!壁が吹き抜け穴に様変わりしました。すきま風が実に涼しげですねぇ)」パチパチ

魔法使い「ふぅ~…ふぅ~…」バチッバチッ

男「(全身から放電してる。スーパーサイヤなピカチュウみたいになってる)」

魔法使い「今みたいにさ…町ごと消し飛ばせばお別れ出来るよね」ニタァァ

男「(町になんの罪があるのか)」

魔法使い「じゃあ早速行ってくるね…。キミには灰色になった町の景色を幻影魔法で見させてあげるよ…」

男「分かった!行かない!ここにいるから!」アセアセ

魔法使い「もう遅いよ…。ボクの知らないキミを知ってるうらやま……じゃなくて罪深き有象無象共に死の洗礼を……」ユラァ

男「お、お前が行ったら俺がひとりぼっちになるだろ!」

魔法使い「……?」

男「い、一秒でもお前といたい。だから行かないでくれ」シブシブ

魔法使い「~~!」キュンッ

魔法使い「えへへ、んふふ、ん~!」スリスリ

男「(そして謎の腕枕。ちなみに何もしちゃいない)」

魔法使い「あのね、ボクね!あれからいろいろ考えてみたんだけど…」

男「なに」

魔法使い「ぼ、ボクも……なりたいなぁって?」

男「何に」

魔法使い「そ、それはキミの……し、しししん……」モジモジ

男「しししんが何か知らんがなりたきゃ勝手になれよ」

魔法使い「ちがうっ!親友!親友になりたいの!」ガバッ

男「馬乗りで言われてもな」

魔法使い「あ、ごめん!重かった?」ソソクサ

男「(いろいろ重い)」

魔法使い「でね!いきなり親友になってもキミを困らせちゃうかもしれないから」

男「(かもしれないじゃない。困る。てか困ってる)」

魔法使い「だから徐々に育んでいこうかな…と」カァァ

男「(もう少しポジティブなニュアンスなかったか)」

魔法使い「それと!」

男「(まだあんのか、こいつの要求はとどまるところを知らんな)」

魔法使い「こ、恋人も……」モジモジ

男「(危険信号発令中)」

魔法使い「欲しいよね?」

男「(セェーフ!!)」

魔法使い「ごめんね。ボクは友達だからキミの恋人にはなれないけど……」

男「(うん、ならない)」

魔法使い「こういうことも出来るからさ…」キュイイイン

男「(ちょ待て至近距離でぶっ放すな!)」ビクッ

魔法使い「ふぅ~」ポヨヨン

男「(あんれー?こんなところにモミモミの果実があるよー?)」ギョロッ

魔法使い「あんまり使わない魔術だから未完成だけど……一応、ボクの肉体年齢には合わせられるから」プリンッ

男「ペロッ……」

魔法使い「ひゃうんっ」ビクンッ

男「これは美乳!!」カッ

魔法使い「あ、あはっ…気に入ってくれた?」ヒクヒク

魔法使い「恋人にはなれなくてもその……いろいろシてあげられることも……あ、あったりしなくもないからさ」カァァ

男「(なんやただの美少女やんけ)」

魔法使い「もちろんキミがいいなら…だけど?」チラッ

男「(魔性爆誕)」

魔法使い「あっ…」ジッ

男「(そうだよ、勃ってるよ)」ギンギン

魔法使い「す、すごい…ね?」プイッ

男「(煽りすぎだろ。なんだこの淫魔)」

魔法使い「どうする…?キミの好きにしていいよ…?」ドキドキ

男「(初めてこいつを好きになったかもしれない)」ガバッ

魔法使い「わっ、まって!い、いきなりはこわ…あうっ」ビクンッ

男「(フィーバーしよ)」ムチュムチュアハン

魔法使い「ごめんね…?」オロオロ

男「(けっ…)」イジイジ

魔法使い「未完成だったからかな…。ホントにごめんなさい」ショボン

男「フルモデルじゃねーならチェンジだ」

魔法使い「う~…はい……」ズーン

男「(上半身だけ女で下半身が男とか萎えるわ、てか萎えたわ。くそっ!)」ムカムカ

魔法使い「ごめんね…?」オロオロ

男「(けっ…)」イジイジ

魔法使い「未完成だったからかな…。ホントにごめんなさい」ショボン

男「フルモデルじゃねーならチェンジだ」

魔法使い「う~…はい……」ズーン

男「(上半身だけ女で下半身が男とか萎えるわ、てか萎えたわ。くそっ!)」ムカムカ


~~~~~~~~

【屋上庭園】

男「ヤりてぇ~」ダラァー

男「ここに来てからあいつに付きまとわれて全然出してねぇ」

男「もう最近じゃ雌しべで興奮するわ。この庭の花むしったらズリネタとして事足りるわ」

男「またあいつに頼んでみっかなぁ。今度は完成してっといいなぁ」

魔法使い「よ、よよ呼んだ!?」ポヨヨン

男「なぜ女体化済みで現れた」

魔法使い「ち、ちがうもん!盗聴なんかしてないもん!」アワアワ

男「(このガキ…)」イラッ

魔法使い「な、なんだか今日は女の子の日みたいでさ!じゃあ女の子しよっかなぁって!」アセアセ

男「会話不成立だな」

魔法使い「まだ完全体には程遠いけどなんとか女性の……あ、あれは付けれたよ!あはは!あはははは!」プシュー

男「(自分で言って茹で上がってんじゃねーよ。男ならはっきり※※※って言えや)」

魔法使い「ほらっ見て!」ボロンッ

男「おい、昼飯前になに見せんだ」

魔法使い「ここ!ここだよ!お、ぉ……の裏!」ペロン

男「(魔法さえ使えなきゃ握り潰してやるのに)」

【ダイニング・ルーム】

魔法使い「ごめんね!食事前なのに汚かったよね?」アセアセ

男「おう、今日の飯は一段とまずいな」モグモグ

魔法使い「」ガーン

男「ソース取って」

魔法使い「は、はい」スッ

男「ジャムじゃねーよ、ソースだよ」

魔法使い「あ、間違っちゃった…どうぞ」スッ

男「おう」トプトプ

魔法使い「(早く性転換魔法を極めなくちゃ…!)」メラメラ

男「もうやるなよ」

魔法使い「えっ」

魔法使い「あ、あの…お風呂」

男「一人で入る」

魔法使い「」グサッ


魔法使い「い、一緒に…」

男「すまんな、このベッドはシングルなんだ」

魔法使い「」グサグサッ


魔法使い「きょ、今日のお夕飯なにがいい!」

男「さぁて、さっき狩ってきた鴨でも焼いて食うかな」

魔法使い「」グサグサグサッ

魔法使い「っ……っ……」シクシク

男「(やりすぎたとは思わん。自業自得だ)」

男「(大体いつもくっついてきて鬱陶しいんだよ。距離感もわかんねーのか)」

男「(これだから万年ぼっちは……)」チラッ

魔法使い「!」ウルウル

男「」プイッ

魔法使い「!!!」ブワァッ

男「(こちとら日頃の鬱憤が溜まってんだ。発散するにはいい機会だぜ)」

【自室】

コンコン コンコン

男「(ちっ…また来やがった)」イライラ

「入ってもいい…?」

男「怒らせたいならそうしろ」

「っ……おやすみ」

男「……」

タタタッ

男「(走らなくても瞬間移動出来んだろーが)」

コンコン

男「(あいつ…!)」ブチィッ

ガチャッ

男「あっ…おいテメーいい加減に……」ムクッ

女盗賊「」ニィィッ

男「え?おん…な……」

女盗賊「魔法使いの下僕ってのはあんただね?」

男「ど、どちらさんで?」

女盗賊「あたいは女盗賊メア。ここいらじゃそれなりに知れた名さ」

男「(女盗賊メアっていやぁ……国が厳重に管理する都の宝物庫を根こそぎ空にしたっていう凄腕じゃねーか!)」

女盗賊「ま、そんなこたぁいいんだよ。それよかあんたに一つ頼みたい事があってねぇ」

男「お、おい!すぐ出てけ!おっかないのが血相変えて来る前にな」

女盗賊「そいつは出来ない相談さね。こんなお宝の山を前にしておめおめ引き下がっちゃあたいの名が泣くってもんだ」

男「バカ!ここに宝なんかねーよ!あるのは古びた本だけだ!」

女盗賊「はぁ…?なに言ってんだい、あんた?」

男「いいから逃げろって!まだ間に合う!」

女盗賊「その本こそ何を隠そう……国が軍を差し向けてまで狙うお宝じゃないのさ」ニィィッ

男「は…?」

女盗賊「まさか知らなかったんじゃないだろうねぇ?」

男「」コクリ

女盗賊「やれやれ…見る目もないクセにこんな危なっかしいとこに入ってったのかい…あきれるよ」

男「マジなのか?」

女盗賊「ああ、あの書物は一冊に豪邸三軒分の値はつく超一級品のお宝さ」

男「だ、だってそんな話は聞いたことが……」

女盗賊「どーせ素人のこった。分かりやすい輝きでも想像してたんだろ」

男「ならあんたはどうやって!」

女盗賊「ハンッ?あんたらモグリと一緒にすんじゃないよ。あたいを誰だと思ってんだい」

女盗賊「女盗賊メア様の嗅覚は国境を跨いでもお宝の匂いを嗅ぎ付けるのさ?」クスクス

男「(この女……本物だ!)」ギリッ

男「だ、だがいくらあんたが一流の盗賊だとして、この城ばっかしは危ういぜ」

女盗賊「一筋縄じゃいかないのは承知の上さ。だから網を張っておいたんだ」

男「網……!?」

女盗賊「なんであんたみたいな素人や木偶の坊な盗人連中が忍び込めたと思う?」

男「そりゃ警備がザルだったから…」

女盗賊「そ!あそこの警備連中はあたいの息が掛かってんのさ」

男「なに…?」

女盗賊「万一にも失敗出来ないからねぇ。わざと出来損ないの盗賊や冒険家気取りを招き入れて攻略の糸口を掴ませようとしたんだよ」

男「なっ……」

女盗賊「まぁどれも役には立たなかったけど……その点あんたはなかなかイイ線いってくれたよ」ニィィッ

男「じゃ、じゃあ俺はお前に利用されて…!」

女盗賊「そゆこと。あたいは高みの見物と洒落こんであんたが本を持ち出したとこを横取りってぇ算段さね」

男「くっ…!お前のせいでこんな軟禁生活させられてたのかよ!」ムカァッ

女盗賊「フフン?まぁいいじゃないかさ。出られなくはなったが、あのガキの信頼は得たんだろう?」

男「だからどうした!こちとら何年もだなぁ!」

女盗賊「そういきり立つなってのよ。あたいはあんたを助け出してやろうってんで出向いてやったんだ」

男「あぁ!?」

女盗賊「分かるよぉ…?疲れんだろう、あんな馬鹿げた力を持った怪物に構いきりだなんて」

男「………!」

女盗賊「あたいだったら過労でくたばっちまうよ。いつ殺されるかと思うとビクビクしてたまらないしねぇ」

男「……」

女盗賊「ここいらで物騒な怪物とはおさらばしようじゃないの。そんで宝を山分けしてさ、好きなだけ面白おかしく暮らしてみたらいいのよ」

男「(あいつと……)」

『…今までごめんね』

男「……」

『ぼ、ボクと…お友達になってほしい、です…』

男「……」

『ボクの望みはね、キミといること!』

男「……」

『っ……おやすみ』

男「……!」グッ

女盗賊「どうすんだい。さっさと決めな」

男「仲間になります!」

女盗賊「即答だねぇ」

女盗賊「じゃあ早いとこ書物の在処に案内してもらおうかね」

男「こちらへ」すたすた

女盗賊「(フフン…書物さえ手に入れればあんたなんか用済みさ)」ニィィッ

【書斎】

女盗賊「へぇ…こいつはたまげた。一度じゃ持ちきれない程の量じゃないか」ニタニタ

男「仲間はいないんですか」

女盗賊「ああ、下手なのと組むよか効率がいいからね」

男「だがこれじゃ一人頭十冊程度しか運べませんぜ」

女盗賊「構わないさ、あんまり欲張ってもいいこたぁない。二、三冊もありゃ上出来だよ」スッ

男「意外ですね。てっきり全部持ち出すのかとばかり」

女盗賊「バカ言っちゃいけないよ。なんだって限度ってぇのがあんだ。そこらの尺度が雑なヤツほど簡単に足元掬われんのさ」

男「なるほど……あ」ハッ

魔法使い「」ジー

男「(まずい…!)」

女盗賊「おや、お出ましかい。さすが勘がいいねぇ」クスッ

魔法使い「なにしてるの…」

男「ち、違うんだ!これは」

魔法使い「そこにいるのはなに…」

男「か、彼女は俺の……」

魔法使い「………」ジー

男「うぐ……」タジッ

女盗賊「あぁ~ら、可愛らしいお坊ちゃんだこと?」

魔法使い「お坊ちゃん…?」ピクッ

女盗賊「教えたげましょーか。こいつとあたいのカ・ン・ケ・イ?」ウインク

男「(お、おい!なにを……)」

女盗賊「(いいからあたいに任しときな!)」

魔法使い「……?」

女盗賊「いいこと?その男とあたいはねぇ、長年のパートナーさ」

魔法使い「パートナー…?」

女盗賊「そう、古い馴染みでね。言ってみりゃあんたとは友達の友達……親戚みたいなもんだよ」

魔法使い「ふざけるなよ…。お前はボクの友達じゃないし、彼はお前なんかどうでもいいと思ってる」ジロッ

女盗賊「決めつけはよくないわよ。そんなのあんたの願望でしょ?ねぇ?」

男「……」

魔法使い「き、キミはその女と何をするつもりだったの…?」オロオロ

男「さぁな」

魔法使い「ボクを…置いていこうとしたの?」ウルッ

男「だとしたら?」

魔法使い「っ……」

魔法使い「きょ…今日のことは謝るよ!それに……いつも迷惑かけてごめんなさい!」ペコッ

魔法使い「でもキミが大好きだから……キミにだけは嫌われたくなくて!それだけなんだよ!」

男「それで監禁、尾行、監視、盗聴か」

魔法使い「そ、それもキミを思って……たまに変なのが侵入してくるし」

男「あのなぁ」

魔法使い「」ビクッ

男「お前のやってることは友情から来るそれじゃねーぞ。全部間違ってんだよ」

魔法使い「そ、それなら教えて!どうしたらいい?悪いところがあったら直すから!」

男「自分で考えろ、そんなもん」

魔法使い「……!?」

男「……この1年余りずっと付きまとわれてきたが、お前なんにも変わってねーよ」

魔法使い「かわって…ない?ボク……キミを傷つけ……」ブルッ

男「必死なのは分かる。好意も伝わった。だがお前には圧倒的に思いやりが足りてねぇ」

男「他人の気持ちなんざ考えもせず自己満足で突っ走るやり方は独善的で我が儘な当て付けがほとんどで」

男「こっちにしてみりゃ今までの鞭が飴になったかくらいの感覚しかねーよ。やってることは全く同じだ」

魔法使い「そん、な……」ガクッ

女盗賊「フフン?せっかく打ち解けたのにすっかり険悪になっちまったじゃないか。可哀想に」

魔法使い「……」ボー

女盗賊「だがねぇお坊ちゃん、あんたにだってまだこいつとよりを戻せるチャンスがあるんだよ」

女盗賊「そうするにはここにある書物を全て明け渡し、あたいらを無事に帰すんだ」

女盗賊「イヤとは言うまいね?」

魔法使い「……」

女盗賊「ハンッ?さっきから何ウジウジしてんだい!」カッカッ

男「おい!刺激すんな!こいつがキレたら一瞬で消されるぞ!」

女盗賊「……だとさ。聞こえたろ?」クイッ

男「は…?」

女盗賊「こいつ自身もあんたに対する恐怖感を強く持ってんだ。つまりあんたとこいつの立場は対等なんかじゃないんだよ!」

魔法使い「……!」ピクッ

女盗賊「それで友達?独りよがりも大概にしときな!あんたのそれはまるっきり主従さ!」

女盗賊「友達ごっこも本心じゃ苦痛で仕方なかったと語ってみせた。身勝手な怪物に振り回されて心底うんざりしてたらしいや!」

女盗賊「ま、そりゃね」

女盗賊「異端な怪物が人間様とお友達(笑)だなんて…誰に聞いたって無理な話と笑い飛ばすだろうさ!」

女盗賊「キャハハハハハ」ケラケラ

男「(や、やべぇ!キレるぞ…!)」チラッ

魔法使い「………」

男「お……?」

女盗賊「ま、そう気ぃ落とすんじゃないよ」ポンッ

魔法使い「……」

女盗賊「男は純情、女は一途ってのを知ってるかい?あんたらにピッタリな言葉さね」

男「……?」

女盗賊「純情と言えば聞こえはいいが実際は移り気なだけ。一途なんてのも縛り付けるばかりな独占欲の表れよ」ナデナデ

女盗賊「女々しい坊やと青臭い男にゃお似合いじゃないの。あんたらいいコンビだったわよ」ワシャワシャ

女盗賊「まぁ結果このザマじゃ目もあてらんないけど」クスッ

魔法使い「さわ、るな…」

女盗賊「バカがバカなりにまともなことしようとすんからこうなるのさ」

魔法使い「黙れ…!」

女盗賊「怪物は怪物らしく孤独に生きるか……あたいらのように利害を一致させないとねぇ?」

魔法使い「黙れよ…!」

女盗賊「でなきゃ仲間なんて一生作れっこないよ、お坊ちゃん…」クスクス

男「そ、その辺に……」

魔法使い「」キュイイイン

女盗賊「」ビクッ

男「やばっ……」

ブワァァァァ ギュルルルル!!!

女盗賊「な、なんだい、こりゃ!」

男「(渦を巻いたような深い闇の霧……こんなん見たことねーぞ!?)」

魔法使い「よくも汚い手で触ったな…。ボクを撫でていいのは彼だけだ…!」ゴゴゴゴゴ

女盗賊「は、ハンッ!そいつは悪かったねぇ!あんたの頭がちょうどいい位置にあったから寄っ掛かるにゃもってこいだったのさ!」アセアセ

男「メア!マジでやめとけ!」

女盗賊「ざっけんじゃないよ!怪物とはいえ、こんなガキにナメられたとあっちゃあたいの沽券に関わらぁね!」

男「バカ野郎!んなこと言ってる場合かよ!」

魔法使い「……」ギロッ

女盗賊「ひ、ヒヒ…!化けの皮剥がしやがったな!やっぱあんたは正真正銘の怪物さね!」

男「(万事休すか…!)」ギリッ

女盗賊「キャハハ!い、一端に怒ってんのかい!怪物に感情があるとは驚きだねぇ!」

魔法使い「ああ、ボクは怪物だよ…。お前らとは違う…」

女盗賊「そうさ!ちったぁ自覚があったんじゃないか!褒めてやるよ!」

魔法使い「それでもボクは……キミと友達になりたい」ジッ

男「!?」

魔法使い「キミとなら友達になれるって信じてる」

男「お、お前……」

女「ぺっ!こいつはとんだお涙ちょうだいだよ!化け物がいっちょ前に憐れみを求めてやがる!」

女盗賊「くだらないねぇ!あんただってそう思うだろう!?」

男「俺は……」

女盗賊「煮え切らない返事だこと……同情はよしな!また軟禁生活の二の舞を喰う気かい?」

男「くっ……」

女盗賊「こいつといて一時でも安らいだことがあるかい!?こんな化け物と過ごして心休まる日なんか無かったでしょうが!?」

男「……!」

女盗賊「気に喰わなきゃ得意の魔法でカタぁ着けておしまいだ!そりゃ~身震いするね!」

女盗賊「結局のところあんたは誰とも分かり合えやしないんだよ!強大な力と引き換えに孤独を宿命付けられた哀れな怪物だってんだ!!」

魔法使い「………」

女盗賊「もう分かっただろ!書物を寄越しな!さもないとあんたは独りから抜け出せない哀れな怪物のまんまだ!」

女盗賊「安心おしよ!謝礼分くらいは"友達"してくれるとさぁ!?」ニィィッ

魔法使い「おしゃべりなやつ……」

女盗賊「は?」

魔法使い「でも嬉しいよ。キミが憎たらしくなればなるほど、これから辿る末路を思うとゾクゾクする…♪」ニタァァ

女盗賊、男「……!?」ゾワッ

女盗賊「ちぃっ!」ガッ

男「うおっ!?」グンッ

女盗賊「下手な真似してみな!こいつの喉元かっさばくよ!」シャキンッ

男「い…!?」タラァー

魔法使い「見苦しい悪あがきだね」クスッ

女盗賊「冗談だとタカぁくくってんなら大間違いだよ!」グッ

魔法使い「」ピッ

女盗賊「!?」ピクッ

魔法使い「ふふ……」ニヤニヤ

女盗賊「……」

男「……!?」

女盗賊「」パッ

男「え……あだっ!」スルッ ドタッ

ナイフ「」カランカラン

女盗賊「」ボケー

男「メア…?どうした、おい、メア!!」ユサユサ

女盗賊「」ガクガク

男「……こ、こいつに何したんだ」チラッ

魔法使い「キミにも何度か掛けた幻影魔法の一種だよ」

男「い、いったい何を見せてんだ…」

魔法使い「なにも?」

男「はぁ…!?なんにも見てねーのに糸が切れた人形みたいに放心するかよ!」

魔法使い「はは、分かってないなぁ」

男「あぁ…!?」

魔法使い「体感のある出来事なんて可愛いものだよ。本当に恐ろしいのは……何も感じられないことさ」

男「い、意味が分からん…」

魔法使い「うーん、たとえば死について深く考えたことある?」

男「死…?」

魔法使い「目を瞑って真剣にじっくりと想像した経験ってない?」

男「……ま、まぁ」

魔法使い「何を思い浮かべた?」

男「……果てしない無だ」

魔法使い「それを想像したらどうなった?」

男「……ふ、震えた。ひたすら震えて……立ち上がって地団駄踏みながら必死に周囲を見回した……」ブルッ

魔法使い「そっか…。ごめんね。怖いこと思い出させちゃって」

男「まさかメアも…?」

魔法使い「そうだよ」

男「~~~!」ガタガタ

魔法使い「光も射さない。音もしない。触れもしない。何も感じない」

魔法使い「彼女の意識は今、そういう所にいる」

男「ざ……残酷にも程がある」ダラダラ

魔法使い「不老不死でもない限り、いずれはみんなそこへ逝くんだ。早いか遅いかは問題じゃないよ」

魔法使い「それに……ボクの前で命を粗末にするのが悪いんだ…」

男「(分かっちゃいたが、とことんイカれてやがる…!)」ゴクリ

女盗賊「」ポケー

魔法使い「十分かな」ピッ

女盗賊「」ハッ

男「あ……」

女盗賊「え、あ……うい、ん」ペタペタ

女盗賊「おあ……あぇ」キョロキョロ

男「だ、大丈夫か!」ガシッ

女盗賊「はひゃほへ!?」ギョギョッ

魔法使い「目は覚めたかい」

女盗賊「ッッッ!!!」パシンッ

男「いて…!?」ヒリヒリ

女盗賊「ぎやあああああああ!!!!」ガクッ

男「!?」

女盗賊「ひやあああああ!!!やあああああああ!!!!」ガタガタ

男「……!?」

魔法使い「さぁ逝こうか」スッ

モワアアアアアア………

女盗賊「へあっ!?ふひゅう!」ダッ

魔法使い「逃げても無駄だよ。これは運命なんだもの」

シュルシュルシュルシュル

女盗賊「だすげ!でぇっ!!やぁあだぁぁぁぁあ!!!」ジタバタ

男「(霧がメアの体を包み込んで……!?)」

魔法使い「いってらっしゃい」フリフリ

ヤァァァァァァァアアア!!!………

サァァァァァ………

男「(霧が晴れた…?)」

魔法使い「ふぅ」パッパッ

男「(平然としてやがる。やっぱりこいつは……)」ブルッ

魔法使い「なんだか疲れちゃったね?」ニコッ

男「か、怪物が……」ブルブル

魔法使い「!」ドクンッ

男「お、俺にも…あれよりむごい罰があるんだろ…?悪魔並みの頭脳を持ったお前のことだ……と、とびきりのを期待してるぜ」ガチガチ

魔法使い「……」フッ

男「なんだよ…。その乾いた笑みは……」ブルブル

魔法使い「ねぇ、最後のお願いがあるんだ」

男「(最後…!)」ゾワッ

魔法使い「ホントに最後だから…いいかな?」

男「す、きに…しろよ」ヒクヒク

魔法使い「……ありがとう」ニコッ

【自室】

魔法使い「ぎゅー!」ギュッ

男「(なにかと思ったら添い寝かよ)」シラー

魔法使い「えへへー!今夜だけはボクがキミを独り占めしちゃうからね!」

男「(緊張して損した……ってもこの調子じゃまた元の生活に逆戻りか)」

魔法使い「………」

男「(腹ん中じゃなに考えてんだろうな。なんたってあんな後で笑ってられる冷血なクソ野郎だ)」

魔法使い「…寝たままでいいから聞いて?」

男「(へっ…下手な芝居打ちやがって)」

魔法使い「夜が明けたらさ」

男「(夜明け…?やっぱり始末されるのか…?)」ゾクッ

魔法使い「城を出ていいよ」

男「(そうか。城から追い出して野垂れ死にさせる気だな。なんて恐ろし……い?)」ピクッ

魔法使い「ごめんね。ずっと無理させて」ギュッ

男「……!?」ジッ

魔法使い「……?急に見つめたりしてどうしたの?ボクは嬉しいけど」キョトン

男「城を出ていいって……自由の身になれるってんじゃねーだろな!?」

魔法使い「う、うん。もちろん?」オロオロ

男「正気か…!俺はお前を裏切ったんだぞ?あの女盗賊に伴って不満をぶちまけたんだぞ!?」

魔法使い「そうだね。キミの本心が聞けてよかったよ」クスッ

男「嘘だよな…?そうやって引っ掛かったとこを……」

魔法使い「」パシッ

男「」ビクッ

魔法使い「キミの手おっきいね?ボクの倍くらいある!」ギュッ

男「き、聞いてんのか…!俺は騙されねぇって!」アセアセ

魔法使い「なのに小心者だよね」

男「んなっ!?」

魔法使い「疑り深くて、欲張りで、ぶっきらぼうで、だけど誰より自分に正直なキミ……」スリスリ

男「(なんなんだよ…!)」

魔法使い「そのままでいてね。これからもボクの大好きなキミのまま……」

男「(や、やっぱり解放する気なんかねーんじゃ……)」

魔法使い「今はそばにいてね。夜明けまでの辛抱だから」

男「あ、ああ、そうだな…」

魔法使い「大丈夫。約束は守るよ」

男「分かった…。付き合ってやるよ」

魔法使い「そういうお人好しなとこも大好き!」ギュウウッ

男「う…!や、やめろ!抱き付くな!」

魔法使い「えぇ~最後なのに」ショボン

男「名残惜しくなって、やっぱり残れなんてのは勘弁だからな」

魔法使い「そんなこと言わないよ」

男「どうだか」

魔法使い「……」

魔法使い「あ!あの書物は好きなだけ持って帰っていいからね」

男「え?だ、だってあれはお前の……」

魔法使い「いいよ。最後くらいキミになにかしてあげたいんだ」

男「……まぁ盗み出そうとした訳だし、ありがたく頂いてくか」

魔法使い「うん、もらって」

男「先に断っとくが大事になんかしねーぞ。ソッコー換金だ」

魔法使い「キミの物なんだから好きにしていいよ」

男「バカなやつ……」

魔法使い「あとどれくらいで月が去るのかな」

男「俺に聞くな」

魔法使い「思い出話していい?」

男「したきゃしろよ」

魔法使い「じゃあする!」

男「……」

魔法使い「~~~だったよね!あの聖夜祭の夜は忘れられないなぁ」

男「(覚えてねぇよ)」

魔法使い「……寝ちゃった?」ツンツン

男「起きてるよ。頬つつくな」

魔法使い「今夜は寝かさないよ!なんてね?」

男「はいはい」

魔法使い「何百年も生きていろいろあったけど……こんなに楽しかったのは初めてかも」

男「ジジくせーな」

魔法使い「年寄り扱いはやめてよ!肉体は若いんだから!」

男「精神年齢は幼稚だけどな」

魔法使い「う~…いじわる」プクー

男「頬膨らますな。ジジイのクセに」

魔法使い「あーもう!ジジイなのか子供なのかどっちなのさ!?」

男「ふっ……」クスッ

魔法使い「あ、笑った」

男「……」キリッ

魔法使い「笑ったよね、今」

男「笑ってねーよ」

魔法使い「ウソだ!笑ったじゃない!」

男「うるせーな…」

魔法使い「ふふ、ちゃんとキミの笑顔見たの初めてかも!」

男「長生きなわりに初めて尽くしだな、お前の人生」

魔法使い「長生きしたって経験出来ないことなんてたくさんあるからね」

男「そいつはいい教訓になるな」

魔法使い「ねぇもう一回笑って!念写するから!」

男「念写は魔法ってよりエスパーだろ」

魔法使い「いいじゃん。似たようなもんだよ」

男「元も子もないこと言うな」

魔法使い「小窓から見える空が青みがかってる…あとちょっとかぁ」

男「ふあ~…ねみ」

魔法使い「ん?」

男「どした?」

魔法使い「外から足音がする…。それに金属の擦れる音も……」

男「なんにも聴こえねーけど」

魔法使い「窓から覗いてごらん」

男「かったりーな」ムクッ

ザッザッザッ

男「……!」

魔法使い「見える?」

男「なんだ、あの大軍勢は!森を埋め尽くしてやがるぞ!」

魔法使い「ああ、たまにあるよ。50年に一度くらい」

男「な、なんで……」ハッ

男「(そういやあの女盗賊が……)」

魔法使い「はぁ~…せっかく最後の時間だったのにタイミング悪すぎ」スクッ

男「なにしてんだ!」

魔法使い「パパッと片付けてくるよ。キミが出るまでには終わらせるから」

男「やめとけって!ありゃ国軍だぞ!」

魔法使い「だからなに?」キョトン

男「お前、昔、魔王とか呼ばれてた頃に国軍の連中に倒されたんだろ!?」

魔法使い「あー…」

男「過去の記事に魔王討伐の見出しがあったぞ!中身も読んだ!負けたんだろ、お前!?」

魔法使い「……まぁ見ててよ」

男「……!?」

【禁忌の森】

ズォォォオオン………

魔法使い「相変わらず懲りないやつら?」パッパッ

男「(ものの数分で大軍勢が死屍累々……)」アゼン

魔法使い「ま、いつもこんな感じかな」

男「じゃあ……あの記事は?」

魔法使い「捏造だよ」

男「捏造!?」

魔法使い「魔王討伐したのボクだもの」

男「はいぃ~?」パニック

男「ふざけんな。魔王はお前だろ」

魔法使い「うん」

男「じゃあ魔王倒したのは」

魔法使い「ボクです」

男「コノヤロウ」

魔法使い「からかってるんじゃないよ。ホントなんだ」

男「矛盾って知ってるか?」

魔法使い「聞き返すようだけど自作自演って知ってる?」

男「じさ……あ!?」

魔法使い「分かってくれた?」クスッ

男「く、kwsk」

魔法使い「疲れたんだ。魔王でいるのが」

男「疲れた…?」

魔法使い「その気になれば人類滅亡くらい簡単に成し遂げられたけど復讐心なんてそんなに続かないよね。ボクが飽きっぽいだけかもしれないけど」

魔法使い「ていうか戦って滅ぼしての繰り返しなんて退屈でたまらないよ、実際」

魔法使い「そうやって血も見飽きて悲鳴も聞き飽きた頃に考えてみたんだ」

魔法使い「ボクに足りないものはなんだろうって」

魔法使い「そこでようやく思い出したんだ。滅びた故郷や仲間を」

男「………」

魔法使い「どこまでも行き着いた先は孤独で……とっくに忘れてたよ。あの時のボクは確かに心から笑えてたんだ」

魔法使い「だから魔王をやめて仲間を作ろうって決めた」

男「自分らの種族を滅ぼした連中をよく許せたな…」

魔法使い「…それくらい感情に飢えてたんだよ。なにも感じられない毎日が苦しかったから」

男「まるでお前のかけた死の魔法みたいだな」

魔法使い「あの魔法はその過程で産まれたものだからね」

男「なるほど…」

男「で、魔王だったお前がどうやって人間に近付いたんだ」

魔法使い「単純だよ。連合国が勇者を募りだしたから、そこに名乗り出ただけ」

男「魔王はどうするんだよ」

魔法使い「城には結界を張って地上には魔物を大量に放って偽装した」

男「けっ…だがお前も勇者って柄じゃないだろ」

魔法使い「昔、お母さまが弟たちと一緒に読み聞かせてくれたおとぎ話を参考にしてなりきってみたんだ?」クスッ

男「伝説の始まりが絵本かよ…」

魔法使い「きっかけなんてそんなもんだよ。溶け込むだけなら別になんでもよかったしね」

男「そりゃそうだが…」

男「で、見事に魔王討伐を演じてみせたってわけか」

魔法使い「うん。凱旋のパレードでは破邪の勇者なんて呼ばれてちやほやされたよ」

男「ならどうして記事になってないんだ」

魔法使い「抹消されたんだ」

男「……?」

魔法使い「だって普通に考えてもごらんよ。何十万もの軍勢がどうにも出来なかったのにたった一人の人間が倒せたと思う?」

男「まぁ不自然だわな」

魔法使い「そうしたら今度は勇者が人類の的さ。いろんなやつに目を付けられた」

魔法使い「媚びへつらって利用しようとするやつ、危険を唱えて排除しようとするやつ、妄想膨らまして崇めるやつ、力の秘密を探って自分の物にしようとするやつ」

魔法使い「ボクの理想とはかけ離れたしがらみの渦に投げ出されたんだ」

男「結局どうしたんだよ」

魔法使い「耐えらんなくて城に戻った。ある時期は人間の顔見ただけで胸焼けしたもん」

男「お前でも繊細な部分があったんだな」

魔法使い「失礼しちゃうなぁ。これでもキミらと変わらないつもりだよ?」

男「(どこがだ)」

魔法使い「でも人間は諦めきれないみたいでさ、あれから何百年も経ってるのに未だにボクから魔力を掠め取ろうとしてくるよ」

魔法使い「本が狙われてたのは…たぶんそこに魔法の使い方が書いてあるとでも思ってたのかもね」

男「一応あるにはあったけどな」

魔法使い「出来そうだった?」

男「火炎魔法の使い方、念じて出します、以上みたいな感じだった。絶対無理だ」

魔法使い「あはは!だから言ったのに」

男「そんな適当だと思わねーだろ」

魔法使い「潜在魔力によるけどね。だいたいはイメージとセンスだよ」

男「国のお偉方にそう教えてやりゃいいじゃねーか」

魔法使い「信じないよ。あいつらの目は欲望に曇ってるから」

男「(まぁそうか。俺も解読出来るまではそうだったからな…)」

パァァァァァァ………

魔法使い「あ、お日さま」

男「………」

魔法使い「ふふ、まぶしいね」

男「そうだな」

魔法使い「はぁ~……夜が明けちゃった」

男「お前でもそればっかりはどうにもならないか」

魔法使い「永遠の命を持ってても時は流れ続けるからね」

男「そうか…」

魔法使い「お別れだね」

男「ああ…」

魔法使い「ありがとう。楽しかった」ニコッ

男「………」

魔法使い「」ピッ

男「あ、腕輪が……」パキンッ

魔法使い「これでキミは自由だよ」

男「おう……」

魔法使い「………」

男「………」

男「じゃあな」

魔法使い「あ、本は……」

男「いらねーよ」

魔法使い「え?でも……」

男「あれはお前のもんだ」

魔法使い「気なんて遣わなくていいよ!」

男「一冊一冊が歴史の断片で……大事に守ってきたお前の記憶なんだろ?」

魔法使い「へ…?」

男「何百年も覚えてられる訳がねーもんな。時代に取り残されても……世界の一部でありたかったんじゃないのか」

魔法使い「……!」

男「ほんと寂しいヤツだよな。仲間外れのクセして、いつも周囲を羨ましそうに眺めてやがる」

魔法使い「あ、あんなの……なんでもないよ」ショボン

男「いいから取っとけよ。年月を経ていくたびにプレミアが付くぜ?」

魔法使い「どうだっていいよ…。手元に置いたってしょうがないもん」

男「じゃあまたいつか価値が高まった時にでも取りに来てやるよ」

魔法使い「え…?」

男「俺はトレジャーハンターだからな。宝探しに目がないんだ」ニヤリ

魔法使い「~~~!」ドキンッ

男「それまで誰にも取られんなよ」

魔法使い「(か、かっこいい……)」ドキドキ

男「分かったな?」

魔法使い「…うん!絶対にやるもんか!誰が来たって骨まで残さず滅するよ!」ニコッ

男「(表現が物騒なんだよなぁ)」

魔法使い「ずっと待ってるよ。幾万、幾億の夜が明けても……キミが来る日を信じてる」

男「おう…」すたすた

魔法使い「っ……またねー!」フリフリ

男「ふっ…ああ、またな」ヒラヒラ

【街道】

男「長いようで短かったな……」すたすた

男「晴れて俺も自由の身……っても相変わらず無職なわけだが」

男「……ふっ!」ニヤリ

男「さぁて!また一からお宝探しといくか!」ダッ

ダダダッ………

~~~10年後~~~

【酒場】

男「」シュボッ

男「ふー……」スパスパ

マスター「あいよ、おまっとさん」コトッ

男「おう」ガッ トクトク

マスター「旦那、知ってるかい?」キュッキュッ

男「ん?」グビッ

マスター「とぼけなさんな。今時話題に挙がるとしたらアレしかねーでしょうが」

男「なんのことだ」

マスター「国の御触れですよ。勇者募集の張り紙が町中にあったでしょう!」

男「知らんな。最近、帰ってきたばかりなんだ」

マスター「ほう、そいつは運がいい時に来ましたね」

男「?」

マスター「なんとですよ!国の要請を果たした勇者には莫大な褒賞金が出るんだとか!」

男「なんだ、その要請ってのは」

マスター「この近隣にある禁忌の森ってとこの奥深くに古くから聳える城があるんですがね」

マスター「そこに眠る書物ってのがとても価値のある貴重な代物なんだとか」

マスター「要はそいつをうまいこと取ってこいと、それだけですわ」

男「ふん……ガキの使いかよ」

マスター「いやいや、実はそこいらは昔から不穏な噂がありましてね。いわゆる曰く付きってやつなんですよ」

マスター「なんでも城に忍んだ旅人はことごとく帰らぬ人となり、10年前に調査を開始した国軍の精鋭部隊もまとめて行方知れずになっちまったなんて言われてんです」

男「」ゴクゴク

マスター「一部じゃ祟りだとか禍々しい悪魔の仕業だとか囁かれてんですが真相は謎のまんま」

マスター「そこで手をこまねいたお偉方は腕の立つ冒険家や傭兵を募って、その秘密を探ろうとしてんですよ」

マスター「莫大な褒賞と勇者の称号をダシにしてね」

男「ぶはーっ!」

マスター「よっ!いい飲みっぷりだ?」パチパチ

男「ふん…なぜ俺にそんな話を聞かせるんだ?」

マスター「あんた有名な冒険家だろ?顔見て一目でピンときたよ」

男「そりゃどーも……」

マスター「もちろん行くんだろ?」

男「その褒賞金ってぇのはいくらだ?」

マスター「分かりません」

男「なに…?」

マスター「ただ一つ言えるのは……使命を果たした勇者には未来永劫、素晴らしい暮らしが約束されるという話で」

男「ククッ……ハッハハハハハ!!!」ゲラゲラ

マスター「だ、旦那?」オロオロ

男「そうか…あいつ……よくそこまで釣り上げたもんだなぁ」ニヤニヤ

マスター「あいつ…?」

男「ゴチんなった。取っといてくれ」ジャラァァ

マスター「うへっ…こんなに!?」ギョギョッ

男「待ってろよ…。長年寝かしたお宝、ようやくゲットしてやるからな」ニヤリ

【古城】

ざっ

男「ここも変わらねーなぁ」すたすた

男「よう、元気だったか」

魔法使い「うん。待ってたよ…」ニコッ

男「あん時の約束を果たしに来てやったぜ」ニヤリ

魔法使い「~~~!」バッ

男「おわっ!?」ドタッ

魔法使い「っ……おかえりなさい!!!」ギュウウ

男「い、いきなり飛びかかんじゃねーよ」アセアセ

魔法使い「ご、ごめんね。うれしくって、つい」パッ

男「たく……お前も変わってねーな」ムクッ

魔法使い「今日はずっといてくれる?」ジー

男「……お宝の為ならやぶさかじゃねーけど」

魔法使い「じゃあいーっぱい遊んでくれるまでご褒美はお預けだよ!」

男「はー…分かったよ、しゃーねぇな」ポリポリ

魔法使い「なにして遊ぼっか!」

男「勝手に決めろよ。付き合ってやるから」

魔法使い「えへへ!ありがとう…」テレテレ

男「(なんだかんだとまた元通りになっちまったな)」

魔法使い「ねぇ…」

男「あ?」

魔法使い「あ、あの魔法……極めたよ」カァァ

男「あの魔法…?」

魔法使い「せ、性転換の……」モジモジ

男「………」

魔法使い「………」

男「(ふっ…まぁそれも悪くねーか)」

魔法使い「……?」

男「またしばらくよろしくな」

魔法使い「~~~!う、うん!こちらこそっ!」パァァ


劇終

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年12月26日 (月) 22:30:54   ID: VGTTApA-

魔法使いかわいかった乙

2 :  SS好きの774さん   2019年04月06日 (土) 21:45:32   ID: eu07INRo

面白かった!続編希望!

3 :  SS好きの774さん   2021年09月28日 (火) 23:49:39   ID: S:WQogv2

性別転換好き

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