※きんいろモザイク短編
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久世橋「ゴールデンウィークなので隣町まで買い物に来ました」
久世橋「受験生の担任というのは大変なもので、4月はてんてこ舞いでしたが……今日は仕事を忘れて羽を伸ばしましょう」
久世橋「まずは服でも見て回って……ん?」
「だからわたしはもう18歳なんですって!」
「どうみても小学生だろう……一人で歩くのは危ないよ? 親御さんはどこ?」
「イギリスですけど!」
「イギリスぅ?」
久世橋「聞き覚えのある声が……」
アリス「18歳が一人で街を歩いて何が悪いんですか!」
警官「いや、悪いわけじゃないよ? でも18っていうのは無理が……」
久世橋「カータレットさん!?」
アリス「クゼハシ先生!」
警官「あ、お知り合いの方ですか?」
久世橋「ええ、まあ……私の教え子ですが」
久世橋「はっ……!」
久世橋「もしかして、うちの生徒が何か問題行動を!? 万引きとか恐喝とか!」
アリス「恐喝!? 何もしてませんよ!」
警察「いえね、この子が一人でうろついていたのを巡回中に発見したので、迷子かと思って話しかけたんですよ」
警察「そうしたら『隣町から一人で来た』って言うものですから」
久世橋「えーと、何か悪いことをしでかしたわけではないのですね……?」
警察「ええ、まあ」
久世橋「よかった……」ホッ
警察「ですが、最近この辺りでは不審者の目撃が相次いでいるので……幼い子が一人で歩かないようにしてほしいんですが」
アリス「だから幼くないですって! もう18歳ですよ! じゅう、はっ、さい!」プクー
警察「や、やたらと18歳を押すね……」
久世橋「まあまあカータレットさん」
久世橋(確かに、改めて見ると高3とは信じがたいですね……)
久世橋(……とりあえず、『後はこちらでなんとかしますから』と言ってお巡りさんには帰っていただきました)
久世橋(残されたのは、私とカータレットさんの2人……)
アリス「……むー! 失礼しちゃうよ!」プンプン
アリス「しかも『ごめん』の一言もないんだから!」
久世橋「ま、お巡りさんも威厳を保たなくてはいけませんからね……簡単には謝りませんよ」
アリス「むー、せっかくイギリス人らしい切り返しを思いついたのに……」
久世橋「?」
*
警官『いやー、本当に18歳だったとは……ごめんね』
アリス『いえいえ、大丈夫ですよ』
アリス『ああ、でも……『ごめん』で済むから警察は要りませんねー』ニッコリ
*
久世橋「ぶ、ブラックですね……」
久世橋「それにしても、どうしてカータレットさんがここに?」
アリス「それは……」
アリス「その、買い物しにきただけですけど」モゴモゴ
久世橋(嘘ついてるのが丸わかり……)
久世橋(そういえば、この子はいつも大宮さんと行動しているイメージがあるけど)
久世橋「大宮さんと一緒ではないのと何か関係が?」
アリス「……! な、なんでそこでシノが出てくるんですか!」アセアセ
久世橋(分かりやすい……)
久世橋「よければ話、聞きますよ?」
アリス「……」
アリス「ケンカしたんです、シノと」
久世橋「……理由を聞いても?」
アリス「別に、大したことじゃないんですけど……」
久世橋「ケンカなんてきっかけは些細なものですよ」
アリス「……本当は、今日はシノと買い物する予定だったんです」
アリス「でも……」
~~~~
~ショッピングモール入口~
忍「今日はGWセールなので、いっぱい買い物しましょうね!」
アリス「かわいい小物があればいいなー」
忍「ふふふ、アリスより美しい小物なんてこの世には存在しませんよ……」キリッ
アリス「褒められてるのに小物扱いだなんて……新感覚!」
店員「いらっしゃいませー! こちらどうぞー」スッ
アリス「……風船?」
店員「ただいまキャンペーン中でして、ご来場いただいた小学生の方には風船をプレゼントしているんですよー」
アリス「しょっ……!?」
忍「わあ、よかったですねーアリス!」
アリス「よ、よくないよ?」
忍「よく似合ってますよ! 本物の小学生みたいでかわいいです!」ニコ
アリス「」カッチーン
~~~~
久世橋「は、はあ……」
久世橋(本当に些細なことですね……)
アリス「わ、わかってますよ……ちょっとしたことだって」
アリス「でも、本当に頻繁に間違われるので、いいかげんイライラがたまってたんです!」
アリス「シノはシノでずっとわたしを子どもあつかいしてくるし……」
アリス「そもそも『小学生』が褒め言葉になると思っているところからしてもう分かり合えないというか……」
久世橋「そ、そうですね」
アリス「それで、最初はちょっとした言い合いだったんですが……だんだんとエスカレートしていって……」
~~~~
アリス「もう! なんでシノはいつもそうなの! わたしだってもう子どもじゃないんだから!」
忍「子どもじゃない……? アリス、うそつきは泥棒の始まりですよ!」メッ
アリス「うそ扱い!? その返しはナナメ上だよ!」
忍「うそをつく子は悪い子です!」メッ
アリス「シノだって何度も嘘ついてるじゃん! イギリスでは雪と一緒に愛が降るとか! 萌えの語源はもへーとか!」
忍「『人がやってるから自分もやっていい』という論理を振りかざすつもりですか? それはまさに子どもの論理ですよ!」メッ
アリス「そ、それは正論だけど……この場合シノが言っていいセリフじゃないよ!」
忍「正論は誰が言っても正論なんです!」メッ
アリス「し、シノの分からず屋ー!」
~~~~
アリス「それで、そのまま電車に乗って隣町へ……」
久世橋「なぜ!?」
アリス「ものの勢いで……」
久世橋「そうですか……」
アリス「そりゃ、ここは日本だから一応18歳は未成年かもしれませんよ」
アリス「でもイギリスでは立派な成人ですし、それ以前に『子どもじゃない』というのは一つの表現であって、うそ認定するのはいくらなんでもあんまりじゃないかと……大体いつもいつもシノは」クドクド
久世橋「ま、まあ……いずれにしても女の子一人ですし、早めに帰った方がいいのでは?」
アリス「……まだ帰りたくないです」
久世橋「気持ちはわかりますが……お巡りさんも仰ってたでしょう? このあたりは最近物騒だって」
アリス「……先生はいいんですか?」
久世橋「私は大人ですし」
久世橋(まあ、一緒に買い物に行くような仲の人もいないわけですが……)
アリス「じゃあ、わたしも着いていったらダメですか?」
久世橋「へ?」
アリス「見たところ、先生も買い物中ですよね?」
アリス「わたしも一緒についていけば帰らずに済んで、生徒の安全が確保できるので先生も安心、win-winですよ!」
久世橋「全然win-winじゃないです。第一、大宮さんが心配してますよ!」
アリス「シノが心配してるのは、金髪だけですよ……」
アリス「どうせわたしなんて、シノの中では『金髪の苗床』くらいの扱いなんです」
久世橋「自虐的すぎ!」
久世橋「そんなことないですから、早く帰りなさい!」
アリス「う……でも」
久世橋「なんですか?」
アリス「帰ろうにも、道が……」
久世橋「え?」
アリス「道が分からなくて……」ボソボソ
久世橋「……もしかして、迷子になってたのは本当だったんですか?」
アリス「ま、迷子じゃないです! 道に迷ってただけで!」
アリス「隣町についてもヒートアップしたままだったので、怒りに任せて適当に歩き回っていたら、その……」
久世橋(思いっきりまだ子どもじゃないの……)
久世橋「最近はケータイで調べられるんじゃないですか?」
アリス「わたしはケータイの類は持ってないので……」
久世橋「こ、このご時世に珍しいですね」
久世橋「わかりました、じゃあ簡単に地図を描いてあげますからそれで……」サラサラ
久世橋「はい、これで帰れるでしょう?」
アリス「わざわざどうも……」
アリス「えーと、このクラゲの絵は水族館ですか?」
久世橋「……それはお花屋さんですが」
アリス「……アレですね、『達筆すぎて読めない』ってやつでした」
久世橋「お気遣いどうも。でもそれは文字にしか適用できない表現ですよ、カータレットさん」プルプル
久世橋「仕方ないので口で説明しますよ……まずまっすぐ右に進んでから……」
アリス「あ、あの!」
久世橋「何ですか?」
アリス「どうしても、一緒に行ったらダメですか……?」
久世橋「ダメです」
アリス「なんでですか!」
久世橋「教師と生徒がプライベートで一緒に買い物をするのは色々まずいです」
久世橋「部活動で特別なつながりがあるとか、何らかの事情があるならともかく……私とカータレットさんの間柄で『街中で2人で歩く』なんてことをするのは、例えば誰かに見られたときにあらぬ疑いをかけられてしまいますから」
アリス「じゃあ、先生がわたしたちの顧問になればいいじゃないですか!」
久世橋「顧問? カータレットさんは帰宅部では?」
アリス「シノ部です!」
久世橋「……」
アリス「それに、隣町だったら誰かに見られる心配もないですよ!」
久世橋「ありますよ、隣町くらいなら全然」
アリス「うぅ……」
アリス「先生、お願いします!」
久世橋「いくら言ってもダメなものはダメです」
アリス「……」ウルウル
久世橋「!」
アリス「先生、わたし……ちゃんとした大人の女性になりたいんです」
アリス「でも、18歳になったのに今でも小学生に間違われてばかりで……そんな自分を変えたいんです!」
アリス「クゼハシ先生はすごく大人っぽいので……先生から『大人らしさ』を勉強したいんです!」
アリス「ダメですか……?」ウルウル
久世橋「うっ……」キュン
久世橋(うぅ、カータレットさんの涙にはどうにも弱い……!)
久世橋(だ、ダメよ私……気を確かに持たないと!)
久世橋「そ……それなら学校での私の姿から勉強してください! プライベートから勉強するのは少し違いますよ!」クラクラ
アリス「プライベートでこそ、その人の本質が表れると思うんです!」
アリス「わたしはその本質を学びたいの!」
久世橋「し、しかし……」
アリス「それに……いいんですか先生?」
アリス「ここでわたしを一人で帰らせて、万一その途中で事件に巻き込まれたら……」
アリス「『不審者が出るかも』というお巡りさんの警告もあり、『後はこちらで何とかしますので』という言質もとられた上なので……」
アリス「先生の責任問題は必至ですよ……?」
久世橋「その思考は大人並なんですが!」
久世橋「はぁ……」
久世橋「分かりました、分かりましたよ」
アリス「……!」
久世橋「ですが、あまりはしゃぎすぎないようにしてくださいね」
アリス「わーい!」
久世橋(……かわいい)キュンキュン
アリス「まずはどこに行きましょう?」
久世橋「そうですね……カータレットさんはどこへ行きたいですか?」
アリス「わたしは……」
「買って買って~!」
久世橋・アリス「?」
親「カードはこの前パックで買ったでしょ!」
子ども「いいカード出なかったんだよ! いいじゃん買ってよ~!」ジタバタ
親「騒がないの! 周りの人に迷惑でしょ!」
子ども「買って買って~!」ジタバタ
親「こら! あの子を見てみなさい! あんなちっちゃいのに行儀よくして! 見習いなさい!」
アリス「……」
アリス「わ、わたしのこと……?」ビキビキ
久世橋「か、カータレットさん! 抑えて!」
子ども「……」ジー
アリス「……」
アリス「……ね」
アリス「ねぇお母さん、見た? あれだから男子ってコドモだよねー!」プルプル
久世橋「お、お母さん?」
子ども「……」
子ども「……ちっ、もういいよ」スゴスゴ
親「ごめんね、ありがとね」
アリス「イインデスヨ」ニッコリ
久世橋(カータレットさん……優しい)ホロリ
アリス「はぁ……」
久世橋「さっきの件といい……本当によく間違われるんですね」
アリス「いっそ背中に『高校生です』って張り紙つけたいくらいです……」
久世橋(か、悲しい……)
久世橋「ま、まあ気を取り直して買い物を楽しみましょう……」
「いらっしゃーい! そこのお嬢ちゃんもいかが?」
アリス「?」
『GWキャンペーン! キャンディーつかみどり無料(むりょう)! (※小学生以下(しょうがくせいいか)のおともだち限定(げんてい)だよ!)』
店員「どーぞやってってよー!」
アリス「……」ビキビキ
久世橋「か、カータレットさん……抑えて」
アリス「……や」
アリス「やります……」
店員「はいどーぞー!」
久世橋(やるんだ……)
久世橋「……いつもこんなに間違われるんですか?」
アリス「……今日は多いですね」コロコロ
アリス「……いつもなら月2ペースなんですけど」
久世橋(月2……)ホロリ
久世橋「ちょっと、そこの公園で休憩していきましょうか」
アリス「はい!」
アリス「わたし、何か飲み物買ってきますね!」タタタ
久世橋「あら……どうも」
久世橋(気が利くなぁ……さすがカータレットさん)
「こら、何してるの!」
久世橋「……?」
子どもA「東小のやつがウチの公園使ってんじゃねーよ!」バシバシ
子どもB「ここは南小のナワバリなんだけど~?」バシバシ
子どもC「そ、そんなの……知らないよ~」ズビズビ
アリス「何やってるの! やめなよ!」
子どもA「は? 何お前見ない顔だな~」
子どもB「コイツ何か低学年っぽくね?」
子どもA「低学年が高学年さまに口出しする気か? あ?」
アリス「」カッチーン
久世橋(か、カータレットさん!)
アリス「『公 園 は み ん な の も の で す 』 っ て あ の 看 板 に 書 い て あ る よ ね ぇ ?」ゴゴゴゴ
子どもA「ヒッ」
アリス「日 本 語 だ か ら 読 め る よ ね ぇ ?」ドドドドド
子どもB「う、うぅ……」
子どもAB「に、逃げろ~!」ダダダ
アリス「まったく……」
子どもC「あ、ありがとう……」
アリス「ううん、大丈夫?」
子どもC「うん……でも、低学年なのに強いんだね! すごいよ!」
アリス「」ピキピキ
アリス「……」スー…ハー…
アリス「……学年なんて関係ないよ!」
アリス「例え相手が年上でも、勇気を出してぶつかっていけばいいんだよ!」
アリス「だって、正論は誰が言っても正論だから」
アリス「ね?」ニコ
子どもC「……うん! 何だかボクでもやれそうな気がしてきた!」
アリス「じゃあね……牛乳はしっかり飲むんだよ」
子どもC「じゃーねー!」
久世橋「……おかえりなさい」
アリス「……お茶でよかったですか?」ニコ
久世橋「ええ……どうも」
アリス「……ハァー」
久世橋(明日はいいことありますよ、きっと……)ホロリ
アリス「……」
カシュ
久世橋「それ……ブラックコーヒーですか?」
アリス「ええ……」
久世橋「飲めるんですね」
アリス「……どういう意味です?」
久世橋「い、いえ!」
アリス「……初めてなんですけど、今日はなんだかブラックを飲みたくなって」
久世橋「心中お察しします……」ホロリ
アリス「……」ゴクゴク
アリス「……クゼハシ先生」
久世橋「はい?」
アリス「……」
アリス「……こ、交換してもらってもいいですか? コーヒーとお茶」
久世橋(気持ちに舌がついて行かないのが、また悲しい……)
『 ゴ ー ギ ャ ン 展 』
久世橋(ゴーギャン……)
アリス「美術館……興味あるんですか、先生?」
久世橋「うーん……」
***
カレン『私、分からないことがあって……』
カレン『Where do we come from? What are we? Where are we going?(われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか)』
久世橋『え、えーと……?』
カレン『分かったら教えてクダサーイ!』ニヤニヤ
久世橋『わっと……どぅ……うぃー?』
***
久世橋「うぎぎ……九条さんには辛酸をなめされられましたからね……」ギリギリ
アリス「い、一体カレンは何をやらかしたんですか……」
久世橋「い、いえ……何でもないです」
アリス「どうせなら入りましょうよ! 美術館なんてまさに大人の施設ですよ!」グイ
久世橋「あ……ちょっと!」
アリス「すみませーん! 入場券ください!」
受付「いらっしゃいませ、大人1300円と……小学生は500円です」
アリス「……」ビキビキ
久世橋「か、カータレットさん……!」
久世橋「あの、高校生はおいくらで……?」
受付「え……し、失礼しました! 高校生1000円と、小学生500円です!」
アリス「」
久世橋「そ、そっちじゃなくて!」
久世橋(でも嬉しい!)ニヨニヨ
アリス「……」イライラ
アリス「楽しかったですねー! ゴーギャン展!」
久世橋「ええ」
アリス「やっぱり美術こそ大人のたしなみですよね!」
久世橋「えー、あー、そうですね」
久世橋(正直よくわからなかったけど)
久世橋(まあ、ちょっとはカータレットさんの元気も戻ってきてくれたかな?)
セールスマン「こんにちは~、少々お時間よろしいでしょうか?」
久世橋「?」
セールスマン「私ども、小学生の方に向けた教材を販売しておりまして~」
アリス「」ピキ
セールスマン「えーと、ちょうど小学生のお子様がいらっしゃるものとお見受けしたものですから……」
久世橋「お、お子様……」
アリス「」ピキピキ
セールスマン「最近はですね、小学生のうちからしっかり勉強しておくことが中学で成績を保つためにも重要でして~」
セールスマン「中学からは算数が数学に変わって難しくなりますし~、新しく英語も始まるので……」
アリス「数学は微分積分までできますけど? 英語もペラッペラですけど?」ニコッ
セールスマン「えっ」
アリス「証拠に披露してあげましょうか? GET OUT OF MY FACE!(失せろ!)」カッ
セールスマン「し、失礼しました……」
久世橋「か、カータレットさん!」
アリス「……あぁ」フルフル
アリス「つ、つい……」
アリス「つい、汚い言葉を使ってしまった……イギリス人失格だよ……!」ズーン
久世橋「仕方ありません、仕方ありませんよ……人間ですもの!」ホロリ
久世橋「さあ、駅に着きましたよ」
久世橋「そろそろいい時間ですし、帰りましょうか」
アリス「……ええ」
久世橋「とりあえず、その……」
久世橋「悩みが深刻なのは分かりました」
アリス「……いえ、今日は先生と一緒に過ごせて、楽しかったです」
久世橋「そう言っていただけると何よりです」
アリス「夕焼けがきれいですね……」
久世橋「そうですね」
アリス「あの雄大な夕日を見ていると……自分の悩みなんてちっぽけなんだって思えてきますよ」
久世橋「カータレットさん……」
アリス「……まあ、それ以上に身体はちっぽけなんですけどね」
久世橋「か、カータレットさん……」ホロリ
アリス「先生……」
久世橋「何でしょう?」
アリス「『大人』って、何なんでしょうね?」
アリス「どうやったらなれるものなんでしょう?」
久世橋(小学生と間違われ過ぎて、ついに哲学的な疑問にまで……!?)
久世橋「……えーと」
久世橋「見た目についてはまあ、仕方ないところもあると思います」
久世橋「ですが、その分中身が大人であればいいんですよ」
久世橋「つまり……積極的に色々なことを経験すれば、自然と中身は大人になっていくものかと……」
アリス「……そうですか」
久世橋「ええ、だからその……」
久世橋「カータレットさんはちゃんと、大人に近づいていると思いますよ!」ニコ
アリス「……そうであればいいのですが」
久世橋「そ、そうですよ!」
アリス「…………」
久世橋(……うぅ、我ながら平凡すぎるアドバイス)
久世橋(あんまりカータレットさんの心には響かなかった気がする……はぁ)
久世橋「では、私はこちらなので」
アリス「……あの」
久世橋「はい?」
アリス「先生のお宅ってこの近くですか?」
久世橋「そうですが、何か?」
アリス「ちょっと……お手洗いを貸していただいても?」モジモジ
久世橋「駅で行かなかったんですか?」
アリス「急に催してきちゃいまして……」モジモジ
久世橋「……まあ、生理現象は仕方ありませんね」
久世橋(もじもじするカータレットさん……かわいい)キュン
アリス「…………」
~久世橋のアパート~
ジャー
アリス「どうもありがとうございました」
久世橋「いえいえ……」
アリス「せっかくの休日にわがままを聞いていただいて、すみません」
久世橋「いいんですよ……大宮さんとはちゃんと仲直りしてくださいね」
アリス「ええ、大丈夫です。シノとなら何度だってよりは戻せますから……わたしに金髪が生えてる間は、ですけど」
久世橋「ま、また微妙に自虐的な」
久世橋「えー、まあ、ではまた学校で……」
アリス「……」
アリス「……先生、最後に一つ、お願いがあるんですけど」
久世橋「何でしょう?」
アリス「…………」
久世橋「……?」
アリス「いえ、やっぱりやめます……ありがとうございました」
久世橋「ちょ……!」
久世橋「カータレットさん、物怖じしなくていいんですよ?」
久世橋「頼りないかもしれませんが、私はあなたの担任なのですから……」
久世橋「教師として、私にできることなら何でもしますよ!」
アリス「……」
アリス「……それなら」
久世橋「はい」
アリス「それなら……」
アリス「わたしと、『寝て』ください」
久世橋「へ?」
ドンッ
久世橋(…………)
久世橋(……あれ、どうして私、仰向けになってるの?)
アリス「失礼します、先生」
久世橋(私のおなかにカータレットさんがまたがって……)
久世橋(……ああ)
久世橋(私、カータレットさんに押し倒されたんだ……)
久世橋(…………)
久世橋「ちょ、ええっ!?」
アリス「……」
アリス「クゼハシ先生……」
アリス「色々と『経験』をこなせば大人になるって、さっき言いましたよね?」
アリス「中でも一番大人に近づける経験って……『こういうこと』だと思うんです」
久世橋「こういうことって……ちょっと、ふざけないでください!」
アリス「わたしは真剣ですよ、先生」
久世橋「……!」
アリス「わたしはもう18歳なんです」
アリス「イギリスに帰れば、その瞬間からもう『一人の大人』なんです」
アリス「見た目が子どもっぽいのは仕方がありません、だから……」
アリス「せめて内面は年相応でありたいんです……」
アリス「日本にいる残りわずかな期間で、本当の『大人』になりたいんです」
久世橋「だからって、こんな……!」
アリス「……教えてください」
アリス「『大人』の味を……」スッ
久世橋「いやいや、意味わかりませんから!」
久世橋「カータレットさん……ちょっと待っ……!」
チュッ
アリス「……!」
久世橋(とっさに顔を反らして……なんとか唇は奪われずにすんだ)
久世橋(それにしても、まさかこの子がこんな一面を持っていたとは……)
久世橋(なんとか落ち着かせないと……!)
久世橋「ちょ、ちょっと冷静になっ……」
アリス「……」
ハムッ チュパ
久世橋「ひぅ……!」
久世橋(耳が温かい……まさか、カータレットさんが咥えて……?)
チュプチュプ レロ クチュ
久世橋(吐息と舌遣いで……う、あ、気持ちいい……!)
アリス「せんせー……」
久世橋「~~~っ!」ゾクゾクッ
久世橋(何て甘い声……脳が融けそう……)ボー
アリス「……」
チュパ……クチュ……レロ
久世橋「やっ……あっ」ビク
久世橋(ま、まずい……抵抗しなきゃ……!)
アリス「服の中、手入れますね……」
久世橋「だ、ダメ……っ!」
久世橋(今、直に触られたら……!)
ススス…
久世橋「んぅ……っ///」ビクビク
アリス「ボタンも、外しますよ」
久世橋「ま……待って……!」
プチプチ
久世橋(身体に力が入らない……全身が熱い……)
アリス「わあ……」
アリス「やっぱり、下着もオシャレですね……オトナって感じで」
久世橋「っ///」
アリス「わたし、ブラジャーつけたことないので……外し方がよく分からないです」
アリス「ずらして触りますね」
フニフニ クリッ
久世橋「くぅ……! あぁ……!」
久世橋「や、やめて……カータレットさん!」
久世橋「はぁ……はぁ……」
アリス「先生今、とってもオトナな顔してます……」
久世橋「~~~っ///」
アリス「キス、しますよ……」
アリス「初めてのキスですが……先生にさしあげますから」スッ
久世橋「カータレットさん、本当に……!」
アリス「先生……」
久世橋「~~~だからダメですって!!」
ドンッ
アリス「ひゃっ!?」
久世橋「はぁ……はぁ……」
久世橋「何をするんですかカータレットさん!!」ゴゴゴゴ
アリス「良いじゃないですか! 『なんでもする』って言ってくれたでしょう!」
久世橋「そ、それは……!」
久世橋「『教師として』とも言ったでしょう! 生徒に手を出すなんて教師にはできません!」
アリス「先生、違いますよ……」
アリス「これは同意の上で行われる、『指導』なんです……」
アリス「誰にも言ったりしませんし、あとでご迷惑になるようなことは絶対しません」
アリス「だから、問題なんか何もないよ……」ジリジリ
久世橋「う……」
久世橋(カータレットさんの身体が密着してくる……)
久世橋(なんて柔らかい感触……)
久世橋(心臓の動く音が、私にまで伝わってきて……)
久世橋「か、カータレットさん、それでも私は……!」
アリス「……先生」
久世橋「ダメですって……」
アリス「お願い」
久世橋「」キュン
久世橋(私を見つめる碧い瞳)
久世橋(その視線の、なんと真っ直ぐなことでしょうか)
久世橋(この子はこの子なりに本気で、『大人』というものになりたがっていて)
久世橋(その相手として私を選んでくれている)
久世橋(あぁ……)
久世橋(生徒にここまで真剣に求められるのは、ある意味教師としての一つの理想なのかもしれません……)
久世橋(このような歪な形ではありますが、その想いを受け止めてあげるのもまた教育なのかな……)
アリス「先生……」
久世橋「カータレットさん……」
アリス「……」スッ
久世橋「……!」
久世橋「っ! や、やっぱりダメですっ!!」
アリス「!」
アリス「ど、どうして……?」
久世橋「カータレットさん、いいですか!?」
久世橋「年相応な大人になりたい、という気持ちは理解できます!」
久世橋「確かに、小学生に間違われるのは深刻な悩みだって、分かりましたよ!」
アリス「だったら……!」
久世橋「でも、だからって軽々しく『こういう行為』に走るのは間違ってますって!」
アリス「軽々しくないです!」
久世橋「いいえ軽率です! 完全に流れでシようとしてるじゃないですか!」
アリス「だから……! クゼハシ先生だからこそお願いしてるんです!」
久世橋「教師にお願いすること自体色々おかしいですから! 私の首飛んじゃいますよ!」
アリス「誰にも言わないしこれっきりにしますよ! それでいいでしょう!?」
久世橋「ほ、ほら! そういう一度限りの関係で初体験をすませようとするその姿勢が軽率なんですよ!」
アリス「ああもう! なんでそんなに頑ななんですか!」
久世橋「頑ななのはあなたでしょう!」
アリス「~~~っ!」ワナワナ
アリス「もしかしてアレですか!? 先生もまだ『未体験』なんじゃないですか!?」
久世橋「!」
アリス「自分も経験がないから、『教えない』んじゃなくてそもそも『教えられない』んじゃないんですか!?」
久世橋「な……っ!」
久世橋(お、落ち着け私……! これは見え見えの挑発……! し、しかし……!)
久世橋「しょしょしょしょ処女じゃないわ!//」キョドキョド
アリス「……えっ」
久世橋「」
アリス「え……本当に、未体験?」
久世橋「ちちちがいますよっ!」
アリス「処女なのに、初体験の姿勢の軽率さどうこう言うだなんて……」
久世橋「うぐ……処女だからこそでしょう、そこは!」
アリス「済ませたこともない初体験についてさも分かったかのように言うのはおかしいよ!」
久世橋「他人の経験談は色々と耳にしてきたんですよ!」
アリス「悲しくならないんですかそんな人生!」
久世橋「よ、余計なお世話です! もう、私はあなたのためを思って……!」
アリス「わたしのためを思うなら、今ここでわたしと……!」
久世橋「それがあなたのためにならないって言ってるんです!」
アリス「いつまでも処女を抱える辛さは誰より先生がよく知ってるんじゃないんですか!?」
久世橋「あのね! 処女を捨てたくらいで大人になれると思ったら大間違いですよ!」
アリス「捨ててない先生がそれを言いますか! へそで茶を沸かしますよ!」
久世橋「」ビキビキ
久世橋「じゃあ聞きますけど、処女を捨てれば子どもっぽさが消えてなくなるとでも?」
久世橋「その場の勢いで知らない街に繰り出して迷子になるようなことがなくなるとでも?」
久世橋「自分の内面の幼さを棚に上げて、性行為さえ経験すれば大人になれると勘違いするその精神がまさに子どもなんですよ!」
久世橋「そうやって焦って処女を捨てようとして、痛い目に遭う愚かな人は何人もいるんですよ! あなたもその一人ですか!?」
アリス「」ビキビキ
アリス「先生はそろそろ焦ったほうがいいんじゃないですかね! 今がチャンスですよほらほら!」
久世橋「そんな安い挑発に乗るとでも!」
アリス「さっきは乗りかけてたじゃないですか!」
久世橋「何を……!」
ギャーギャー ギャーギャー
アリス「はぁ……はぁ……」
久世橋「はぁ……はぁ……」
アリス「……」
アリス「もう、いいですよ……」
久世橋「カータレットさん……」
アリス「確かに、『そういうこと』を経験すれば、何かが大きく変わるんじゃないかって思ってました」
アリス「焦る気持ちも、確かにありました……」
アリス「でもやっぱり、大人っていうのはそう簡単にはなれないものですよね……」
久世橋「……」
久世橋「……外見は、時間が経てば嫌でも年を取っていきますよ」
アリス「……内面の話もです」
アリス「……」
アリス「先生は……カレンが、昔は泣き虫で、わたしの後ろばっかりついてくるような子だったって、イメージできます?」
久世橋「え……あの九条さんが?」
アリス「ええ。背だって、昔はわたしの方が高かったんです」
久世橋「そ、そうだったんですか……」
アリス「でも、歳が経つにつれて、カレンはどんどん社交的で、行動的になっていって……背も大きくなって……」
アリス「それに比べてわたしは、なんだか小学生のころから成長できないままでした」
アリス「このまま周りにおいていかれちゃうのかな……って、不安でした」
アリス「でも、それを変えようと行動する勇気もなくて……ずるずると歳だけをとっていってたんです」
久世橋「……」
アリス「そんなときに出会ったのが、シノでした」
アリス「わたしと同い年なのに、たった一人で日本からイギリスまで来て……」
アリス「しかも、英語は『ハロー』の一言しか話せないんですよ? よくそれで来る気になったねって、笑っちゃいますよね」
アリス「でも、そんなシノとの出会いは、わたしにとっては本当に衝撃でした」
アリス「家族と、幼馴染のカレンと、少しばかりの友だちと……狭い世界の中で、その中でさえも身を縮こまらせて生きていたわたしの……壁を、壊してくれた」
アリス「想像もしなかった、自分とは縁のない世界だと思っていた外の世界を……そうじゃないんだよって、教えてくれたんです」
アリス「だからわたしは、日本に行こうと決めたんです」
アリス「イギリスを離れて日本で暮らすこと……シノと一緒に生活することが、自分を大きく変えてくれるんだと思って……」
久世橋「……」
アリス「でも、高校生活があと1年間を切って、歳も18になって……そのときに思ったんです」
アリス「自分は思ったより成長できてないんじゃないかって」
アリス「いつもシノにべったりで、まわりからは相変わらず子ども扱いで……そんな自分に気づいたら、なんだかだんだん焦ってきて」
アリス「高校を卒業するまでに、何とかして大人にならなきゃって……そう思ったんです」
久世橋「……」
久世橋「そう、だったのですか……」
久世橋「だから、さっきはあんなことを……」
アリス「まあ、その場の勢いもありましたけど」
久世橋「そうなの!?」
アリス「でも、色々と言いあって、何だか頭が冷えました」
アリス「ごめんなさい、今日は色々とご迷惑を……というか失礼なことを……」
久世橋「失礼どころの騒ぎじゃありませんよ……一周回って怒る気にもなりません」
アリス「うぅ……」
久世橋「……まあ、いいですよ。私も本音で生徒とぶつかり合えて、いっそ清々しいです」
アリス「先生……」
久世橋「それにしても、外国語は『口げんかができて一人前』とは言いますが」
久世橋「カータレットさんは、もう日本語一人前ですね。大したものです」
アリス「……ありがとうございます」
久世橋「心配しなくても、カータレットさんはちゃんと成長できていますよ」
久世橋「一歩一歩確実に、大人の階段を上がればいいんです」
アリス「一歩一歩……」
久世橋「ええ」
アリス「でも、わたしには時間が……!」
久世橋「高校生なら、まだ間に合いますよ」
アリス「そんなの、大人に言われたって信じられません……」
久世橋「……」
久世橋「……大人への成長はしばしば階段に例えられますが」
久世橋「その階段は一段一段、意味のあるものだと私は思います」
久世橋「人によっては2段飛ばし、3段飛ばしで駆け上っていく場合もあるでしょうが……しかし、それは途中で素敵な経験を取りこぼしかねない、もったいない行為だと思うのです」
アリス「でも……」
久世橋「カータレットさんは真っ直ぐで、一生懸命で……」
久世橋(そしてかわいらしくて)プルプル
アリス「?」
久世橋「そんなカータレットさんが日本に来てくれて、感謝している人は大宮さんだけではないはずです」
久世橋「……私も、その一人です」
アリス「……」
久世橋「でも、だからこそ……大人への階段一段一段に込められた、出会いと感動を……この地で味わい尽くしてほしいのです」
久世橋「それが、カータレットさんの貴重な青春時代に、教師として関わることになった私の……一番の願いです」
アリス「……」
アリス「……わかりました」
久世橋「……!」
アリス「とりあえず、『そういうこと』に関してはまだ焦らずに行きたいと思います」
久世橋「ええ、『初めて』は、本当に好きな人ができたときに経験してください」
久世橋「それなら私もどうこう言いません」
アリス「……じゃあ」
アリス「もしわたしが本当に先生を好きになったら、そのときは受け入れてくれますか?」
久世橋「え」
久世橋「そ、それは……」
アリス「……」
アリス「……冗談ですよ」クス
久世橋「か、からかわないでください!」
アリス「……でも、早く大人っぽい身体になりたいなぁ」
久世橋「家庭科教師として一言アドバイスするなら、タンパク質はしっかり取りましょうね」
久世橋「ああ、だからと言ってお肉ばかり食べるのではなく、動物性と植物性を組み合わせたうえで、他の栄養素もバランスよく……」クドクド
アリス「わ、分かりましたよ大丈夫です!」
久世橋「こういうアドバイスならいくらでもしてあげるんですがね……」
アリス「……やっぱり先生は先生ですね」
久世橋「それはだって、先生ですから」
アリス「……」
アリス「まずは、小学生じゃなくて中学生に間違われるのを目標にしてみようかな……」
久世橋「ふふ、それくらいでいいんですよ」
久世橋「相談なら、またいつでも乗りますからね」
アリス「実技の方は?」
久世橋「懲りてないならゲンコツをあげましょうか?」
アリス「い、いえ! 失礼します!」
~翌日・GW合間の登校日~
久世橋(昨日は色々とありました)
久世橋(なんだか休日なのに余計に疲れがたまってしまった気がします)
久世橋(まあ、それで生徒のためになるのなら喜ばしいことですが)
久世橋(しかし、カータレットさんはあれから上手くやれたんでしょうか……)
久世橋(……ん?)
陽子「えー、明日はアリスと2人で出かけるの?」
忍「昨日はアリスと遊べなかったので、その分明日は存分に金髪成分を堪能します!」
忍「ね、アリス!」
アリス「……」コクン
久世橋「カータレットさん!」
久世橋「よかった、大宮さんと仲直りできたんですね」
アリス「…………」
アリス「フン、その程度のこと……我には他愛もないこと」
久世橋「……え?」
忍「朝からなんだかアリスが変なんです……」
陽子「まあかわいいけどね」ナデナデ
アリス「子ども扱いするな……! 肉体年齢は18で停止しているが、我は3000年を超える歳月を経験している……ッ!」ビシッ
久世橋「……」
『まずは、小学生じゃなくて中学生と間違われるのを目標にしてみようかな……』
久世橋「なんか違う!!」
END
きんモザss、書いて?
君たちのかわいいきんモザss、見たいんだ
嫌って言っても書くんだよきんモザssを
きんモザssっていうのは、まだ完全に終了してるわけじゃないから、需要があるんだ
このSSまとめへのコメント
アリスがブラックになっている。